今日の臨床サポート - 破傷風

□ 薬剤の保険適⽤ ご確認のお願い
□ 「評価・治療例(詳細)」ページの薬剤に、保険適⽤表記を追記させていただきましたので、ご確認をお願いします。
□ 疾患に対して、記載されている薬剤処⽅は保険適⽤があるのかないのか、また、⽤量内なのかを読者が確認できるようにすることを⽬的としています。
□ この保険適⽤情報は、エルゼビアの責任として、レセプトチェックソフトなどを参考に案を作成しておりますが、先⽣のコンテンツに掲載することから、違和感がないかな
ど、公開前に先⽣に内容をご確認いただけたらと考えております。
□ 添付⽂書記載の保険適⽤の内容が査定の現場の内容と異なることがあります。例えば、筋緊張型頭痛は、厳密にはロキソニンの保険適⽤外です。しかし、慣習的に⽤いられて
おり査定対象にならないことがあります。このような場合には、“筋緊張型頭痛は厳密にはロキソニンの適⽤外だが、査定の対象とならないこともある”のような記載を付け加
えられたらと考えています。このような記載が必要かどうかについて、先⽣の現場の感覚にてご指導を御頂戴できたら幸いです。
注釈 「評価・治療例(詳細)」の下に、以下のような注釈を掲載
薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、編集部によって記載⽇時に添付⽂書・社会保険診療報酬⽀払基⾦レセプト請求計算事例・レセプトチェックソフ
トなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適⽤の査定において保険適⽤及び保険適⽤外と判断されることを保証するものではありませ
ん。また、症状のオーダーセットや検査薬、輸液、⾎液製剤、全⾝⿇酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適⽤の記載の⼀部を割愛しています。
例:⾚芽球癆
表現⼀覧
記載(〇〇には病名が⼊ります)
意味
[適⽤内/⽤量内/㊜××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名に適⽤と想定される。⽤量も範囲内
[適⽤内/⽤量適宜増減2倍以下㊜××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名に適⽤と想定される。⽤量は添付⽂書量を超えるが2倍以内である。添付⽂
書に適宜増減等の記載がある。
[適⽤内/⽤量適宜増減2倍超㊜××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名に適⽤と想定される。⽤量は添付⽂書量の2倍超である。添付⽂書に適宜増
減等の記載がある
[○○は適⽤外/他適⽤⽤量内/㊜××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名○○では適⽤外と査定される可能性がある。薬剤は病名××に対して適⽤と
想定され、病名××に対する⽤量として評価した場合範囲内である。
[○○は適⽤外/他適⽤⽤量適宜増
減2倍以下/㊜××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名○○では適⽤外と査定される可能性がある。薬剤は病名××に対して適⽤と
想定され、病名××に対する添付⽂書量を超えるが2倍以内である。添付⽂書に適宜増減等の記載がある。
[○○は適⽤外/他適⽤⽤量適宜増
減2倍超/㊜××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名○○では適⽤外と査定される可能性がある。薬剤は病名××に対して適⽤と
想定され、病名××に対する添付⽂書量の2倍超である。添付⽂書に適宜増減等の記載がある。
[適⽤内/⼩児⽤量内/㊜××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名に適⽤と想定される。⼩児⽤量も存在し、その範囲内である
[適⽤内/⼩児⽤量外/㊜××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名に適⽤と想定される。⼩児⽤量は存在するが、その範囲外である
[適⽤内/⼩児⽤量記載無/㊜××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名に適⽤と想定される。⼩児⽤量が存在せず、成⼈での⽤量範囲内である
[○○は適⽤外/他適⽤⼩児⽤量内/㊜
××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名○○では適⽤外と査定される可能性がある。薬剤は病名××に対して適⽤と
想定され、病名××に対する⼩児⽤量が存在し、その範囲内である
[○○は適⽤外/他適⽤⼩児⽤量外/㊜
××]
薬剤が、同じページ内に記載されている想定病名○○では適⽤外と査定される可能性がある。薬剤は病名××に対して適⽤と
想定され、病名××に対する⼩児⽤量が存在し、その範囲外である。
[薬価未収載]
海外の薬剤など
2016/01/18
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■評価・治療例(詳細)
#0163
破傷⾵
久保健児
⽇本⾚⼗字社和歌⼭医療センター 感染症内科部
初診時、フォローアップ時
対象患者・コメントを隠す/表⽰する
※下記は、⼀部を除き、執筆者が過去に診た20⼈の患者で2⼈以上に⾏った事を羅列して頂いています。実際の1⼈の患者に
⾏った内容は、下記の⼀部分であることを了解下さい。
評価⽅針
特異的な検査はなく、診断は基本的に臨床診断による。[ID0501]
約3割の症例で外傷がはっきりしない。[ID0502]
緊急対応
気道閉塞の有無のモニタリングと迅速な気道確保 [ID0505]
対象:
破傷⾵の疑いおよび診断例(推奨度1)
コメント:
喉頭けいれんや全⾝けいれんが起こると、上気道閉塞を来したり、全⾝けいれんの⼀部として横隔膜
もけいれんすることで、時には初回のけいれんで窒息し得る
検体検査
先⾏する外傷歴の確認 [ID0502]
対象:
破傷⾵を疑う患者(推奨度1)
コメント:
約3割の症例で外傷がはっきりしないため、外傷歴がなくても除外はしない
破傷⾵ワクチンの接種回数、接種時期 [ID0503]
対象:
破傷⾵を疑う患者(推奨度1)
CBC
対象:
破傷⾵を疑う患者
⽣化学(Na, K, Cl, BUN, Cr, Glu(⾎清), CK)
対象:
破傷⾵を疑う患者
肝機能(T-Bil, AST, ALT, γ-GTP)
対象:
破傷⾵を疑う患者
創部の培養 [ID0504]
対象:
破傷⾵を疑う患者(推奨度3)
コメント:
破傷⾵菌検出の感度は低い
投薬およびその中⽌歴(フェノチアジン系等抗精神病薬、抗パーキンソン病薬、制吐薬メトクロプラミド等
のドーパミン受容体遮断薬)
対象:
破傷⾵を疑う患者(推奨度1)
コメント:
薬剤性ジストニアは鑑別診断である[ID0301]
尿薬物検査(トライエージ)
対象:
破傷⾵を疑う患者(推奨度2)
コメント:
投薬歴が不明な場合に考慮
治療⽅針
⼗分な回数の破傷⾵ワクチンを受けていない者で、全⾝または局所の筋強直(開⼝障害、痙
笑、後⼸反張)があれば、治療を開始するべきである。[ID0501]
最優先事項は安定した気道確保であり、そのうえで、熟練した集中治療の受けられる施設へ
の搬送を考慮する。[ID0505][ID0506][ID0507]
治 療
その他
2016/01/18
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創部があれば創部のデブリードマン
対象:
創部があって適応があれば(推奨度1)
メトロニダゾール
アネメトロ点滴静注液 [500mg] 1回500mg 6時間ごと または 1,000mg 12時間ごと 10⽇間[適応
菌種:クロストリジウム属][ID0509] [破傷⾵は適⽤外/他適⽤⽤量内/㊜敗⾎症](破傷⾵は厳密にはアネメ
トロの適⽤として記載されていないが、クロストリジウムが適⽤菌種であり、査定の対象とならないことも
ある)(編集部注:本ページで想定する適⽤病名「破傷⾵」/2015年7⽉)
薬剤情報を⾒る
対象:
破傷⾵と診断した場合(推奨度1)
コメント:
メトロニダゾールはGABA受容体に作⽤しないためペニシリンよりも好ましい。アネメトロ、ペニシ
リンはいずれか1つを⽤いる。
抗菌薬(ペニシリン系)
注射⽤ペニシリンGカリウム [100万単位] 200万単位 4時間ごと(1,200万単位/⽇)点滴 10⽇間
[ID0509] [適⽤内/⽤量内/㊜破傷⾵]
薬剤情報を⾒る
対象:
破傷⾵と診断した場合(推奨度1)
コメント:
メトロニダゾールはGABA受容体に作⽤しないためペニシリンよりも好ましい。アネメトロ、ペニシ
リンはいずれか1つを⽤いる。
⾎漿分画製剤
テタノブリン筋注⽤[250国際単位] 3,000〜6,000単位 筋注 [ID0510]
薬剤情報を⾒る
対象:
破傷⾵と診断した場合(推奨度1)
コメント:
テタノブリンはいずれか1つを⽤いる。
テタノブリンIH静注[1,500国際単位] 3,000〜6,000単位 静注 [ID0510]
薬剤情報を⾒る
対象:
破傷⾵と診断した場合(推奨度1)
コメント:
テタノブリンはいずれか1つを⽤いる。
不活化ワクチン
沈降破傷⾵トキソイド“化⾎研”[0.5mL] 筋注(回数は過去のワクチン歴による) [ID0511]
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対象:
破傷⾵と診断した場合(推奨度1)
コメント:
破傷⾵は罹患しても抗体が作られないため
ベンゾジアゼピン系薬(⻑時間型)
ホリゾン注射液 [10mg] (例)5〜30mg静注から開始、3〜8mg/kg/⽇まで必要になることがある
[ID0512] [破傷⾵は適⽤外/他適⽤⽤量適宜増減2倍超/㊜てんかん]
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対象:
筋けいれんコントロール⽬的の鎮静薬(いずれかまたは複数)
コメント:
⼤量投与は乳酸アシドーシスを来す可能性あり、ドルミカムを考慮。ホリゾン、ドルミカム、ディプ
リバンはいずれか1つ、または複数を併⽤する。
ベンゾジアゼピン系薬(短時間型)
ドルミカム注射液 [10mg] (例)0.03mg/kg/時 静注から開始、0.03〜0.3mg/kg/時 持続静注
[ID0512]
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対象:
筋けいれんコントロール⽬的の鎮静薬(いずれかまたは複数)
コメント:
ホリゾン、ドルミカム、ディプリバンはいずれか1つ、または複数を併⽤する。
全⾝⿇酔薬
ディプリバン注 [500mg] (例)0.5〜3mg/kg/時 持続静注 [ID0512]
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対象:
2016/01/18
筋けいれんコントロール⽬的の鎮静薬(いずれかまたは複数)(推奨度1)
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コメント:
⼤量投与では乳酸アシドーシス、⾼脂⾎症、膵機能障害などに注意。ホリゾン、ドルミカム、ディプ
リバンはいずれか1つ、または複数を併⽤する。
⼦癇・⼦宮収縮抑制薬
静注⽤マグネゾール[2g20mL] (例)ローディング40mg/kgを30分以上かけて、その後体重45kg以上:
2g/時、45kg未満:1.5g/時 [ID0513] [破傷⾵は適⽤外/他適⽤⽤量内/㊜⼦癇]
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対象:
筋けいれんおよび⾃律神経異常を認める患者に初期から併⽤を考慮する
コメント:
⼈⼯呼吸の必要性を軽減するかもしれない。また⾃律神経障害にも効果があり、初期から併⽤を考慮
する。
(適応外使⽤。⼦癇による全⾝けいれんに適⽤あり) 末梢性筋弛緩薬
マスキュラックス静注⽤ [4mg] (例)0.05〜0.08mg/kg/時 持続静注 [ID0514]
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対象:
筋けいれんのコントロール不良時
コメント:
マスキュラックス、エスラックスはいずれか1つを⽤いる。
エスラックス静注[50mg] (例)0.6mg/kg/時 持続静注 [ID0514]
薬剤情報を⾒る
対象:
筋けいれんのコントロール不良時
コメント:
マスキュラックス、エスラックスはいずれか1つを⽤いる。
⿇薬性鎮痛・鎮咳薬
モルヒネ塩酸塩注射液10mg「シオノギ」 [1%1mL] (例)10mg静注 6時間ごとから開始し1〜50(平
均4)mg/時 持続投与 [ID0515] [破傷⾵は適⽤外/他適⽤⽤量内/㊜疼痛]
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対象:
⾃律神経異常のコントロールが必要な場合
弱オピオイド(⾮⿇薬)
ペンタジン注射液[15mg] 15mg静注 [破傷⾵は適⽤外/他適⽤⽤量内/㊜術後疼痛]
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対象:
気管挿管時
コメント:
ペンタジン、エスラックスは挿管時に⽤いる。
末梢性筋弛緩薬
エスラックス静注[50mg] 50mg静注
薬剤情報を⾒る
対象:
気管挿管時
コメント:
ペンタジン、エスラックスは挿管時に⽤いる。
合併症のコントロール
気管挿管
対象:
適応があれば迅速に(推奨度1)
経⽪的気管切開 [ID0508]
対象:
⼈⼯呼吸管理患者(推奨度1)
制酸薬
対象:
消化管出⾎を認める患者
弾性ストッキングまたはヘパリン
対象:
深部静脈⾎栓症予防の⽬的にて
コンサルト
保健所への届出 [ID0501]
対象:
破傷⾵と診断した場合(推奨度1)
2016/01/18
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コメント:
感染症法第5類疾患として診断から7⽇以内に届け出る義務がある
再診・⼊院の指⽰
⼊院
対象:
破傷⾵と診断した場合(推奨度1) ICU⼊院 [ID0506][ID0507]
対象:
⼈⼯呼吸が必要な患者またはその危険性が⾼い患者
コメント:
わが国では破傷⾵はまれであり⼀般医は精通していないので、可能であれば初期からすべての患者を
ICUでモニタリングできれば安全である
推奨度1:明らかに利益が害やコストよりも上回る。必ず⾏う必要があり得る⾏為。
推奨度2:害、コストよりも、利益が上回る可能性が⾼い。半数以上の状況で⾏われ得る⾏為。
推奨度3:利益よりも、害、コストが、上回る可能性が⾼い。半数以下の状況で⾏われ得る⾏為。
推奨度4:明らかに利益が害やコストよりも下回る。医学的に原則禁忌といわれている⾏為。
(詳細はこちら参照)
※薬剤中分類、⽤法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独⾃に作成した薬剤情報であり、
著者により作成された情報ではありません。
尚、⽤法は添付⽂書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、編集部によって記載⽇時に添付⽂書・社会保険診療報酬⽀払基⾦
レセプト請求計算事例・レセプトチェックソフトなどで確認し作成しています。ただし、これらの記載は、実際の保険
適⽤の査定において保険適⽤及び保険適⽤外と判断されることを保証するものではありません。また、症状のオーダー
セットや検査薬、輸液、⾎液製剤、全⾝⿇酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適⽤の記載の⼀部を割愛させていただいていま
す。
(詳細はこちらを参照)
最終更新⽇ : 2016年1⽉15⽇
<<ページ末尾:#situationDetails6.aspx?DiseaseID=0163&situationno=1>>
2016/01/18
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■トップページ
#0163
監修:⼭本舜悟 京都⼤学⼤学院
破傷⾵
久保健児
⽇本⾚⼗字社和歌⼭医療センター 感染症内科部
概要
疾患のポイント:
破傷⾵とは、Clostridium tetaniの感染と毒素により神経系が侵される感染症である。
先進国ではまれであるが、⼀度発症すると致死率が⾼いため、定期的な予防接種と外傷後の処
置が感染を防ぐ予防⼿段として重要となる。
外傷への曝露歴(約7割で認める)とその潜伏期間(中央値9.5⽇、1〜60⽇)、発症後からけ
いれん出現までの時間(period of onset);中央値48時間、0〜264⽇)が特徴である。
破傷⾵は感染症法5類感染症であり7⽇以内に届出をする必要がある。
診断:[ID0701][ID0011]
下記の3徴候の1徴候以上で積極的に疑う。
1. 筋硬直(rigidity;こわばり・開⼝障害・痙笑)
2. 有痛性の筋けいれん(spasm;後⼸反張;脳神経細胞の発⽕によるけいれんとは異なる)
3. ⾃律神経障害(autonomic instability)
特異的な検査はなく、診断は基本的に臨床診断による。[ID0501][ID0504]
特に、破傷⾵予防接種歴がない場合や、最終予防接種から10年以上経過している場合(有効な
防御抗体レベルを維持できていない可能性が⾼い)は、より強く疑う必要がある。
わが国の破傷⾵届出患者数と死亡数の推移[ID0662]
年齢別破傷⾵抗毒素保有状況[ID0663]
重症度・予後:[ID0013]
全⾝症状のある破傷⾵(全⾝性破傷⾵)は、初期には軽症にみえても、窒息の危険性と⾃律神
経障害の出現の恐れがあるため、原則として本疾患の治療に熟練した集中治療の施⾏できる救
命救急センターへ搬送すべきである。
治療:[ID0014]
最優先事項は、気道・呼吸のモニタリングおよび適切かつ迅速な気道確保である。[最初の1時
間]
そのうえで、抗破傷⾵ヒト免疫グロブリンの筋注または静注、抗菌薬投与、創部のデブリード
マン(必要時)、筋けいれんの治療(ベンゾジアゼピン系薬剤またはプロポフォール、硫酸マ
グネシウム、必要時筋弛緩薬)を開始する。[最初の24時間]
治療薬であるペニシリン系抗菌薬やメトロニダゾール、抗破傷⾵ヒト免疫グロブリンの副作⽤
の少なさを考えると、治療の遅れによる重症化を防ぐためには、破傷⾵に特徴的な症状がある
場合、治療の開始を遅らせないことが重要である。
専⾨医相談のタイミング:[ID0017]
破傷⾵は集中治療の適応を考慮する疾患である。
初期から集中治療医や感染症科医などの専⾨医に相談をすべきである。
臨床のポイント:
約3割の症例で外傷歴がはっきりしないので、外傷歴がないことを理由に本疾患を否定するべ
きではない。
筋硬直(開⼝障害、痙笑など)や有痛性の筋けいれんのある患者をみたら、破傷⾵の予防接種
歴を確認し、不⼗分な予防接種歴であれば、本疾患として治療開始を考慮する。
評価・治療の進め⽅
※選定されている評価・治療は⼀例です。症状・病態に応じて適宜変更してください。
■筋けいれんコントロールおよび気管挿管
初期対応として(最初の1時間以内に)最低限必要なもの。
○ 1)〜3)を投与し、RSI(rapid sequence intubation)を施⾏する。なお、1)〜3)は組み合わせの
⼀例。
1)ホリゾン注射液 [10mg] (例)0.2〜0.4mg/kg静注[ID0512] [破傷⾵は適⽤外/他適⽤
⽤量適宜増減2倍超/㊜てんかん](編集部注:想定する適⽤病名「破傷⾵」/2015年7
⽉)
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2)ペンタジン注射液[15mg] 15mg静注 [破傷⾵は適⽤外/他適⽤⽤量内/㊜術後疼痛]
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3)エスラックス静注[50mg] 50mg静注
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4)気管挿管
■破傷⾵菌に対する薬物治療例
有効性における明確な使い分けはないが、投与経路や利便性を加味して選択する。
○ 1)〜3)を投与する。
1)アネメトロ点滴静注液 [500mg] 1回500mg 6時間ごと または 1,000mg 12時間ご
と 10⽇間[適応菌種:クロストリジウム属] [ID0509] [破傷⾵は適⽤外/他適⽤⽤量内/
㊜敗⾎症](編集部注:想定する適⽤病名「破傷⾵」/2015年7⽉)
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1)注射⽤ペニシリンGカリウム [100万単位] 200万単位 4時間ごと(1,200万単位/
⽇)点滴 10⽇間 [ID0509] [適⽤内/⽤量内/㊜破傷⾵]
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2)テタノブリン筋注⽤[250国際単位] 3,000〜6,000単位 筋注 [ID0510]
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2)テタノブリンIH静注[1,500国際単位] 3,000〜6,000単位 静注 [ID0510]
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3)沈降破傷⾵トキソイド“化⾎研”[0.5mL] 筋注(回数は過去のワクチン歴による)
[ID0511]
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追加情報ページへのリンク
破傷⾵に関する詳細情報
破傷⾵に関する評価・治療例(詳細) (1件)
初診時、フォローアップ時
破傷⾵に関するエビデンス・解説 (15件)
破傷⾵に関する画像 (6件)
※薬剤中分類、⽤法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独⾃に作成した薬剤情報であり、
著者により作成された情報ではありません。
尚、⽤法は添付⽂書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。
※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、編集部によって記載⽇時に添付⽂書・社会保険診療報酬⽀払基⾦
レセプト請求計算事例・レセプトチェックソフトなどで確認し作成しています。ただし、これらの記載は、実際の保険
適⽤の査定において保険適⽤及び保険適⽤外と判断されることを保証するものではありません。また、症状のオーダー
セットや検査薬、輸液、⾎液製剤、全⾝⿇酔薬、抗癌剤等の薬剤は保険適⽤の記載の⼀部を割愛させていただいていま
す。
(詳細はこちらを参照)
最終更新⽇ : 2016年1⽉15⽇
<<ページ末尾:#searchDetails4.aspx?DiseaseID=0163>>
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■詳細情報
#0163
破傷⾵
久保健児
⽇本⾚⼗字社和歌⼭医療センター 感染症内科部
病態・疫学・診察
疾患情報(疫学・病態) [ID0001]
破傷⾵の診断を確実に⾏える検査も除外できる検査も存在しない。[ID0501][ID0504]
治療薬であるペニシリン系抗菌薬やメトロニダゾール、抗破傷⾵ヒト免疫グロブリンの副作⽤
の少なさを考えると、治療の遅れによる重症化を防ぐためには、破傷⾵に特徴的な症状がある
場合、治療の開始を遅らせないことが重要である。
特に、破傷⾵予防接種歴がない場合や、最終予防接種から10年以上経過している場合(有効な
防御抗体レベルを維持できていない可能性が⾼い)は、より強く疑う必要がある。
病歴・診察のポイント [ID0002]
約3割の症例で外傷歴がはっきりしない。[ID0502]
わが国では、三種混合ワクチン(DTP)の定期予防接種が開始された1968年以前に⽣まれた
40歳代以上での発症が⼤半である。
破傷⾵のワクチン歴(基礎免疫3回接種、その後のブースター接種歴)を聴取し、ワクチンが
不⼗分で上記徴候があれば、治療を開始すべきである。[ID0503]
喉頭けいれんや全⾝けいれんに伴う横隔膜けいれんなどで、窒息し得るので、気道・呼吸状態
の安定化が最優先事項である。[ID0505]
診断⽅針
0:想起 [ID0010]
前駆症状は、創傷部周辺の筋⾁や、顎・項部のこわばり、寝汗などであり、不定愁訴や、肩凝
り、感冒、顎関節脱⾅などと誤診されやすい。
ときには原因不明の背部痛[1]や、他疾患に併発した⾃律神経障害[2]から診断されることもあ
る。
1:診断 [ID0011]
破傷⾵菌(Clostridium tetani)が産⽣する破傷⾵毒素(tetanospasmin)により、運動神経
終板、脊髄前⾓細胞、脳幹の抑制性の神経回路が遮断され、
① 筋硬直(rigidity;こわばり・開⼝障害・痙笑)
② 有痛性の筋けいれん(spasm;後⼸反張;脳神経細胞の発⽕によるけいれんとは異な
る)
③ ⾃律神経障害(autonomic instability)
の3徴候を呈する。1徴候以上で積極的に疑って臨床診断する。
感染症法では5類全数報告対象疾患で、その届出基準によれば、臨床的特徴として、「外傷部
位などで増殖した破傷⾵菌が産⽣する毒素により、運動神経終板、脊髄前⾓細胞、脳幹の抑制
性の神経回路が遮断され、感染巣近傍の筋⾁のこわばり、顎から頚部のこわばり、開⼝障害
(trismus)、四肢の強直性けいれん、呼吸困難(けいれん性)、刺激に対する興奮性の亢
進、反⼸緊張(opisthotonus)など」の症状が挙げられている。
破傷⾵には以下の4つのタイプがある。
全⾝性(generalized)
局所性(localized)
脳神経性(cephalic)
新⽣児性(neonatal)
⼤半は全⾝性であり上記症状を呈する。
cephalic tetanusでは、顔⾯神経⿇痺などの脱落症状が初期症状になることが多く注意を要す
る。
2:疾患の除外 [ID0012]
除外診断は、症状・徴候によって⾏うべきである。外傷歴の有無や創部の培養結果によって⾏
うべきではない。
破傷⾵の発症には、Clostridium tetaniの芽胞が接種され発育しやすいような外傷が先⾏する
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ことが多い。しかし、約30%は先⾏する外傷を認めないため、外傷歴がなくても破傷⾵を否定
してはならない。
メトクロプラミドなどドパミンD2受容体遮断作⽤のある薬剤によるジストニアなどと鑑別を要
するため、薬剤歴を聴取する。
治療⽅針
3:重症度・予後 [ID0013]
全⾝症状のある破傷⾵(全⾝性破傷⾵)は、初期には軽症にみえても窒息の危険性と、⾃律神
経障害の出現の恐れがあるため、原則として本疾患の治療に熟練した集中治療の施⾏できる救
命救急センターへ搬送すべきである。
4:治療 [ID0014]
最優先事項は、気道・呼吸のモニタリングおよび適切かつ迅速な気道確保である[3]。[最初の
1時間]
集中治療の適応と収容先を決定する[3]。
そのうえで、抗破傷⾵ヒト免疫グロブリンの筋注または静注、抗菌薬投与、創部のデブリード
マン(必要時)、筋けいれんの治療(ベンゾジアゼピン系薬剤またはプロポフォール、硫酸マ
グネシウム、必要時筋弛緩薬)を開始する[3]。[最初の24時間]
早期気管切開を考慮する[3]。
⾃律神経障害の出現があれば、マグネゾール、モルヒネなどを開始する[3]。[次の2〜3週間]
5:フォローアップ⽅針 [ID0015]
全⾝破傷⾵では、1か⽉前後にわたる⻑期の集中治療とその後の理学療法が必要となる。
破傷⾵罹患では抗体獲得ができないため、ワクチン接種が不⼗分と判断されれば、退院までに
トキソイド接種を⾏う。
6:難治症例の治療 [ID0019]
回復が遅れる症例では対症療法を⾏いながら待つしかない。
下肢深部静脈⾎栓症や廃⽤性症候群など⻑期⼊院に伴う合併症の予防をはかる。
7:治療の中⽌ [ID0016]
症状に応じて、鎮静薬、筋弛緩薬などを中⽌する。ベンゾジアゼピン系薬剤の中⽌は離脱症状
に注意して2週間以上かけて漸減する。また、⾮脱分極性筋弛緩薬はdrug holidaysを設けて遷
延に注意する。
8:⼊院適応 [ID0018]
原則として⼊院を要する。
9:専⾨医相談のタイミング [ID0017]
破傷⾵は集中治療の適応を考慮する疾患である。
初期から集中治療医や感染症科医などの専⾨医に相談をすべきである。
10:隔離・感染予防・公衆衛⽣⾯での注意点 [ID0024]
隔離等、感染予防・公衆衛⽣⾯での注意点(含む感染経路):
破傷⾵は、世界中の⼟壌にいる。2006年の⽇本の研究で、神奈川県相模原周辺と東京⽂京区
での調査で、路肩、⼤学構内の敷地、⼭麓などを調査した結果、22.9%でC. tetaniを検出し、
その87.5%は破傷⾵毒素産⽣能を有していた(感染症誌 80:690〜693,2006)。
また動物の⼝腔内・消化管にもいる。ヒトの便の1〜10%で検出されるという(Can J Surg.
2004; 47: 375)。
よって、破傷⾵菌を含むもの(⼟・唾液・便など)に汚染された外傷や、咬傷(動物咬傷・ヒ
ト咬傷)では、破傷⾵菌が増殖するリスクがある。
外傷では、汚染と創部の状況([ID0601])から、破傷⾵リスクを判断する。通常、ヒトヒト
感染はない。院内感染対策は、標準予防策でよい。
まれには、予定⼿術後に発症する例もある。これは、内因も外因もあり得る。1957年にはUK
で滅菌⼿袋が原因と考えられる5例の術後アウトブレイクの報告がある(Can J Surg. 2004;
47: 375)。
ワクチン・予防薬の適応・投与時の注意点、定期ワクチン接種の現状:
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創傷・咬傷に対する抗菌薬処⽅のみでは、破傷⾵の発症を予防できない。
嫌気環境にしないことが重要であり、創処置(洗浄、異物除去、デブリードマン)が重要であ
る。創部が感染した場合には要注意である。
破傷⾵は、破傷⾵菌が産⽣するトキシンによって発症する病気だが、曝露前にワクチン(破傷
⾵トキソイド)による基礎免疫があるかどうかで、曝露後の対応が変わる。⼩児期または成⼈
になってから破傷⾵トキソイドの3回以上の接種歴があって、免疫不全でなければ、「基礎免
疫がある」といえる。
⽇本においては、⼩児の予防接種として、1968年に三種混合ワクチン(DPT)として定期接
種に組み込まれ、2012年からは四種混合ワクチン(DPT-IPV)としても接種されている。
(T:破傷⾵トキソイド)
1968年以前⽣まれは、⼤部分が基礎免疫を持っておらずハイリスクである。
成⼈になってから基礎免疫をつける⽅法は、1シリーズ(破傷⾵トキソイド 0.5mL 筋注 3
回接種 [1回⽬と2回⽬は3〜8週間、2回⽬と3回⽬は6か⽉以上(標準12〜18カ⽉)あけ
て])である。
⺟⼦⼿帳で確認できない場合は、図を参考に判断する。1968年以降⽣まれの⼈は、9割以上で
最低限の発症防御レベルの抗体価を保有している。[ID0663]
「破傷⾵になりやすい創傷」や咬傷の際の、曝露後発症予防としては、
基礎免疫がない場合➡抗破傷⾵ヒト免疫グロブリン(テタノブリン、テタノセーラ、テガ
ダームなど)250単位筋注 + 破傷⾵トキソイド1シリーズ(3回接種)を開始 (注:
抗破傷⾵ヒト免疫グロブリンは⽣物学的製剤であり同意書が必要。破傷⾵トキソイド1回
⽬の接種は、抗破傷⾵ヒト免疫グロブリンとは別の部位に0.5mL筋注を同⽇投与。)
基礎免疫がある場合➡とくになし(リスクが⾼ければ破傷⾵トキソイド 0.5mL 筋注 1回追加接種) (注:この追加接種は、国によって推奨が異なる。⽶国では、10年毎の
追加接種が推奨されており、リスクによって直近の接種から5または10年以上経っていれ
ば推奨される。英国では、接種歴3回以上の基礎免疫があれば、追加接種は推奨されてい
ない。)
妊婦・免疫不全状態・医療従事者など特種な状態・職業に対する配慮:
免疫不全者では、接種歴の有無によらず基礎免疫なしと判断した⽅がいい。⽩⾎病や悪性リン
パ腫の化学療法後では約半数が破傷⾵の免疫がなくなる。
破傷⾵トキソイドは不活化ワクチンであり、免疫不全者にも使⽤できる。造⾎幹細胞移植後
は、曝露前の段階で、移植後(6〜)12カ⽉以降に3回接種が推奨されている。
感染症法・学校保健安全法・ガイドラインなどによる既定:
破傷⾵と診断したら7⽇以内に保健所へ届け出を⾏う(感染症法第5類疾患)。
イメージ
[ID0601]
American Colledge of Surgeons(ACS)による創分類
※破傷⾵の発症リスクがないという判断はきわめて難しい。⼩さくても「深い」傷は汚染度によっ
てリスクがある。例:無菌操作で刺した点滴の針はリスクはほぼないが、畑で刺さった古釘はリス
クが⾼い。
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アルゴリズム
[ID0701]
全⾝破傷⾵マネジメントプロトコル
マンデルの感染症テキストから引⽤・改変したもの。*は訳者追記または改変。
初期対応は、診断いかんにかかわらず、気道確保が最優先である。
1: Mandell: Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases,
7th ed. 244 Clostridium tetani (Tetanus).Churchill Livingstone. 2009.
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鑑別疾患
1. 頭頸部疾患(開⼝障害;trismusの鑑別)
⻭性膿瘍、喉頭蓋炎、深頚部感染症(扁桃周囲膿瘍など)、
2. 顎関節炎、⽿下腺炎中枢神経系
脳梗塞
てんかん
細菌性髄膜炎
狂⽝病
3. 薬物代謝
アルコール離脱症
薬剤性ジストニー(フェノチアジンやメトクロプラミドなどのドパミンD2受容体遮断作⽤
による。本症で認める眼球偏位は破傷⾵では認めない。ジフェンヒドラミン50mg静注が
有効であることで破傷⾵から鑑別できる。)
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悪性症候群(神経遮断性悪性症候群)
低カルシウム⾎症
ストリキニーネ中毒
4. ⽣物毒
Black widow spider (クロゴケグモ)
Red-back (widow) spider(セアカゴケグモ) envenomation
5. 他 肺塞栓・⼼不全など呼吸不全を来す他疾患との鑑別や急性腹症を来す疾患との鑑別を要す
ることもある。
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エビデンス/解説
1. 破傷⾵は先進国ではまれだが⾒逃すと致死的な感染症なので、早期診断が重要であ
る。診断確定できる特異的な検査はないので、臨床症状から診断できるようにすべき
である。
なお、破傷⾵と診断した場合には、感染症法に則って保健所へ届出る義務がある。
詳しく⾒る
2. 破傷⾵の発症には、Clostridium tetaniの芽胞が接種され発育しやすい条件に合致した
外傷が先⾏することが多いが、約30%は先⾏する外傷歴が明らかではない。そのた
め、外傷歴がないからといって破傷⾵を否定しないよう推奨される。
詳しく⾒る
3. わが国では、三種混合ワクチン(DTP)の定期予防接種が開始された1968年以前に⽣
まれた40歳代以上での発症が⼤半であり、破傷⾵を疑う例ではワクチン接種歴を聴取
するよう推奨される。
詳しく⾒る
4. 創部の細菌培養でC. tetaniが同定されなくても、破傷⾵は否定できない。したがっ
て、C. tetaniの検出を⽬的としたルーチンの創部培養は推奨されない。
詳しく⾒る
5. 破傷⾵の筋けいれんは窒息の危険性があるため、気道確保は最優先事項である。
詳しく⾒る
6. 破傷⾵は、初期には呼吸不全や循環不全がなく安定しているようにみえても、集中治
療室で治療すべき疾患である。集中治療により予後が改善するので破傷⾵の治療に熟
練した救命救急センターなどへ搬送するよう推奨される。搬送にあたっては、
No.5([ID0505])で⽰すように気道が確保されていることが前提である。
詳しく⾒る
7. 破傷⾵は⾼齢者に多いが、⾼齢であっても後遺症なく回復し得る疾患であり、積極的
な集中治療を考慮する。
詳しく⾒る
8. 破傷⾵における気道確保では、経⼝気管挿管の代替として、早期気管切開を考慮す
る。
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9. 破傷⾵では、ペニシリンGあるいはメトロニダゾールの7〜10⽇間投与が推奨される。
詳しく⾒る
10. 破傷⾵を疑ったら、抗破傷⾵ヒト免疫グロブリン500単位以上を筋注または静注する
よう推奨される。
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11. 破傷⾵から回復しても免疫の獲得はないため、トキソイドの接種が推奨される。
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12. 筋けいれんの管理として、ジアゼパムあるいはミダゾラム、プロポフォール、硫酸マ
グネシウムが選択肢として推奨される。フェノチアジン系抗精神病薬は推奨されな
い。
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13. 硫酸マグネシウムは、筋けいれんおよび⾃律神経障害に効果があり、筋弛緩薬やカル
シウム拮抗薬ベラパミルの使⽤量を減らした。ただし、⼈⼯呼吸の必要性を減らすこ
とは⽰されていない。
詳しく⾒る
14. 筋けいれんのコントロールにおいて、No.12([ID0512])のベンゾジアゼピン系など
の薬剤のみでは不⼗分な場合、⾮脱分極性筋弛緩薬(ベクロニウムなど)の持続静注
を併⽤する。この際、少なくとも毎⽇1回以上投与を中断し、症状の変化を観察するこ
とが推奨される。
詳しく⾒る
15. ⾃律神経障害のコントロールとしては、硫酸マグネシウム、モルヒネなどが推奨され
る。β遮断薬プロプラノロールの単独投与は推奨されない。
詳しく⾒る
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症例検索
[https://clinicalsup.jp/jpoc/SearchExternal.aspx?
s=%E7%A0%B4%E5%82%B7%E9%A2%A8 症例くん]での検索(破傷⾵)
(「症例くん」は⽇本内科学会地⽅会の症例報告の検索システムです。⽇本内科学会のID、パ
スワードにてアクセスしてください。)
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1: Back pain as the presenting symptom of generalised tetanus.
PMID 17183029 Emerg Med J. 2007 Jan;24(1):e5. doi: 10.1136/emj.2006.0・・・
2: 上村修⼆、丹野克俊、平⼭傑:⾼⾎糖性昏睡治療中に全⾝型破傷⾵と診断した1例.⽇救急医会誌2006;
17(9):645-650.
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3: Mandell: Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th
ed. 244 Clostridium tetani (Tetanus).Churchill Livingstone. 2009.
最終更新⽇ : 2016年1⽉15⽇
<<ページ末尾:#actionDetails4.aspx?DiseaseID=0163>>
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■エビデンス・解説
#0163
破傷⾵
久保健児
⽇本⾚⼗字社和歌⼭医療センター 感染症内科部
1: エビデンス [ID0501]
1 / 15
破傷⾵は先進国ではまれだが⾒逃すと致死的な感染症なので、早期診断が重要である。診断確定
できる特異的な検査はないので、臨床症状から診断できるようにすべきである。
なお、破傷⾵と診断した場合には、感染症法に則って保健所へ届出る義務がある。
推奨度
1o
破傷⾵は、わが国では1950年には届け出患者数1,915⼈、死亡者数1,558⼈であり、致命率が⾼かった
(81%)[1]。
2000年代以降は、届出患者数毎年100⼈前後、死亡者数5〜10⼈と報告されている(2008年:届出124⼈、
死亡7例)[2]。
1994年発表のSchonらの研究にあるように、英国で1991年までの8年間に届けられた116例のうち情報が得
られた77例を検討した結果、発症⽇に⼊院:35%、発症から1〜4⽇後に⼊院:45%、発症から5〜7⽇後に
⼊院:6%であった[3]。
先進国でまれなゆえに早期診断が困難で、初期には感冒や顎関節脱⾅、脳卒中などと誤診されやすい。
[ID0301]
破傷⾵に特異的な検査はないので、臨床症状からの診断が重要である。
CT、MRIは診断に有⽤ではない。
感染症法では5類に分類されており、全数報告対象疾患である。
その届出基準によれば、臨床的特徴として、「外傷部位などで増殖した破傷⾵菌が産⽣する毒素により、運
動神経終板、脊髄前⾓細胞、脳幹の抑制性の神経回路が遮断され、感染巣近傍の筋⾁のこわばり、顎から頚
部のこわばり、開⼝障害(trismus)、四肢の強直性けいれん、呼吸困難(けいれん性)、刺激に対する興
奮性の亢進、反⼸緊張(opisthotonus)など」の症状が挙げられている。
これらの「筋硬直(rigidity;こわばり・開⼝障害)」、「有痛性の筋けいれん(spasm;脳神経細胞障害に
起因するけいれんではない)」に「⾃律神経障害(autonomic instability)」を加えて3徴候ということが
ある。
これらの特徴から臨床的に破傷⾵と診断(死亡例では検案)した医師は、法第12条第1項の規定による届出
を7⽇以内に⾏わなければならない[4]。
なお、破傷⾵には、全⾝性(generalized)、局所性(localized)、脳神経性(cephalic)、新⽣児性(neonatal)の4
つのタイプがある。
cephalic tetanusでは、顔⾯神経⿇痺など脱落症状が初期症状になることが多く注意を要する。
1: 国⽴感染症研究所感染症情報センター:IASR 病原微⽣物検出情報Vol.23 No.1 January 2002
2: 国⽴感染症研究所感染症情報センター:IASR 病原微⽣物検出情報Vol.30
No.3(No.349)March 2009
3: Tetanus: delay in diagnosis in England and Wales.
PMID 8057093 J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1994 Aug;57(8):1006-7.
4: 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 届出基準
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-12.html
[ID0661]
痙笑(risus sardonicus;⼝輪筋の硬直)
顔⾯筋のけいれんにより、ひきつった笑顔で眉が上がったままの特徴的表情が⽣じる。これを、RS(Risus
sardonicus)という。
[ID0662]
わが国の破傷⾵届出患者数と死亡数の推移
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1968年のDPT定期接種開始後、減少し、1980年代後半以降は横ばいである。
1: 国⽴感染症研究所感染症情報センター:IASR 病原微⽣物検出情報Vol.23 No.1 January
2002
2: エビデンス [ID0502]
2 / 15
破傷⾵の発症には、Clostridium tetaniの芽胞が接種され発育しやすい条件に合致した外傷が先
⾏することが多いが、約30%は先⾏する外傷歴が明らかではない。そのため、外傷歴がないから
といって破傷⾵を否定しないよう推奨される。
推奨度
1o
破傷⾵では先⾏する外傷歴が必ずしも明らかではないことを⽰した複数の疫学報告がある。
1987年発表の⽶国CDCのMMWRによると、1985〜1986年に⽶国へ報告された破傷⾵例147例中140例の症
例報告をまとめた結果、急性外傷の受傷歴を同定できたのは71%(99例)にすぎなかった。
外傷で多かったものは、刺創(38%)、裂創(37%)であった。また、48%は屋内での受傷で、1例は⼿術
関連、残りはガーデニング(⼟いじり)など屋外での受傷であった[1]。
2002年発表のわが国の感染症発⽣動向調査週報によれば、侵⼊部位が特定されなかった例は、1999〜2000
年では23.6%であった[2]。
なお、2002年発表のわが国国⽴感染症研究所感染症情報センターのIASRによると、特徴的な状況に関連し
た破傷⾵例が集められていて、⼩腸穿孔の⼿術後、糖尿病患者の⾜病変からの感染、溺⽔後の嚥下性肺炎、
ピアスによる感染、新⽣児の臍帯切断、ヒト咬傷、注射による薬物乱⽤者などで破傷⾵例が報告されていた
[3]。
これらの事例は、C. tetaniの発育メカニズムで説明できる。
つまり、C. tetaniは健常組織では発育しないが、
C. tetaniの芽胞が接種されるような刺創
他の細菌との混合感染
壊死組織
異物
局所の⾎流障害
などが2つ以上組み合わさると発育しやすくなる。
1: Tetanus--United States, 1985-1986.
PMID 3110578 MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 1987 Jul 31;36(29):477-81.
2: 国⽴感染症研究所感染症情報センター:IDWR感染症発⽣動向調査感染症週報 2002年第15週
3: 国⽴感染症研究所感染症情報センター:IASR 病原微⽣物検出情報Vol.23 No.1 January 2002
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3: エビデンス [ID0503]
3 / 15
わが国では、三種混合ワクチン(DTP)の定期予防接種が開始された
1968年以前に⽣まれた40歳代以上での発症が⼤半であり、破傷⾵を疑う例ではワクチン接種歴
を聴取するよう推奨される。
推奨度
1o
わが国での破傷⾵例は⼤半が40歳以上であることを⽰した疫学報告がある。
2009年発表のわが国国⽴感染症研究所感染症情報センターのIASRによると、2004〜2008年に報告された破
傷⾵962例のうち、40歳以上が94%、60歳以上が75%であった[1]。
わが国では、1952年に破傷⾵トキソイドが導⼊され、1968年に予防接種法によりジフテリア・百⽇咳・破
傷⾵混合(DPT)ワクチンの定期予防接種が開始された。
1995年の予防接種法改正ではDPTワクチンは従来の義務接種から勧奨接種となっており注意を要する。
わが国では、1968年以前の出⽣者は破傷⾵毒素抗体の保有率が低いことを⽰した疫学報告がある。
2008年度の感染症流⾏予測調査速報(検体数1,078)による破傷⾵の防御レベル下限の0.01IU/ml以上の抗
破傷⾵毒素抗体陽性率を年齢別にみると、0歳では92%、1〜4歳では99%で、35〜39歳までは92%以上と⾼
く維持されていた。40歳代以上の陽性率は低く、40歳代後半〜50歳代後半では平均25%前後で、60歳代以
降では約11%ときわめて低かった[1]。
なお、破傷⾵抗体は0.01IU/ml以上であっても発症する例はあり、注意を要する。
1: 国⽴感染症研究所感染症情報センター:IASR 病原微⽣物検出情報Vol.30
No.3(No.349)March 2009 http://idsc.nih.go.jp/iasr/30/349/tpc349-j.html
[ID0663]
年齢別破傷⾵抗毒素保有状況
本⽂に⽰した2008年度の調査である。なお、この報告者によると、この結果を2003年と⽐較すると、⼗分な防御レ
ベルとされる0.1IU/ml以上の抗体陽性率の⾼い年齢層が右⽅にそのままシフトしており、5年間減衰せずに保たれて
いたとされる。
1: 国⽴感染症研究所感染症情報センター:病原微⽣物検出情報,Vol.30,2009年3⽉号,P.65
〜66
4: エビデンス [ID0504]
4 / 15
創部の細菌培養でC. tetaniが同定されなくても、破傷⾵は否定できない。したがって、C.
tetaniの検出を⽬的としたルーチンの創部培養は推奨されない。
推奨度
3
嫌気培養を⾏っても陰性であることが多く、⼀⽅で陽性であっても破傷⾵毒素(tetanospasmin)産⽣株かどう
かは不明なため、診断には結びつかない[1]。
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1: Mandell: Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious
Diseases, 7th ed. 244 Clostridium tetani (Tetanus).Churchill Livingstone. 2009.
[ID0664]
破傷⾵菌C. tetani
太⿎のばち状をした芽胞を有するグラム陽性桿菌
1: ⼊江由美ほか:瘡蓋より菌の分離された破傷⾵の⼀例.国⽴感染症研究所感染症情報センター:
IASR 病原微⽣物検出情報 Vol.30 p.216-217: 2009年8⽉号
5: エビデンス [ID0505]
5 / 15
破傷⾵の筋けいれんは窒息の危険性があるため、気道確保は最優先事項である。
推奨度
1o
全⾝破傷⾵(generalized tetanus)では、開⼝障害などの筋強直(rigidity)に加えて、有痛性の筋けいれ
ん(spasm)を来し、全⾝けいれん(generalized spasm)では除⽪質肢位に似た後⼸反張を呈する。
けいれんが起こると、上気道閉塞を来したり、全⾝けいれんの⼀部として横隔膜もけいれんすることで、と
きには初回のけいれんで窒息し得る。
したがって、安定した気道の確保は、全⾝破傷⾵の管理の最優先事項である。たとえわが国のような先進国
であっても、適切な気道・呼吸管理がなされなければ、急性呼吸不全が最⼤の死因となることを忘れてはな
らない。
なお、開⼝障害(trismus)があり気管挿管が困難にみえても、⽂献的に破傷⾵の開⼝障害が挿管困難にな
るという報告はなく、⾮脱分極性筋弛緩薬を通常通り使⽤することで挿管可能である[1]。
1: The response of patients with neuromuscular disorders to muscle relaxants: a
review.
PMID 6087697 Anesthesiology. 1984 Aug;61(2):173-87.
6: エビデンス [ID0506]
6 / 15
破傷⾵は、初期には呼吸不全や循環不全がなく安定しているようにみえても、集中治療室で治療
すべき疾患である。集中治療により予後が改善するので破傷⾵の治療に熟練した救命救急セン
ターなどへ搬送するよう推奨される。搬送にあたっては、No.5([ID0505])で⽰すように気道
が確保されていることが前提である。
推奨度
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1o
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集中治療の進歩により破傷⾵の予後が改善することを⽰した前向き研究がある。
2002年のBraunerらの研究(ブラジル)にて、1981〜2001年の期間の重症破傷⾵の⼊院例について、集中
治療のプロトコールが整備される1993年までの126例と1993年以降の110例とで治療成績を⽐較した結果、
後者のほうで重症度が⾼くICU滞在期間が⻑かったにもかかわらず、死亡率は低かった(36.5% vs
18.0%、P = 0.002)。
このことより、破傷⾵例の経験がまれなわが国の医療環境のなかで、破傷⾵を疑う症例は、早期に熟練した
施設へ搬送するよう推奨される。
1: Changes in severe accidental tetanus mortality in the ICU during two decades in
Brazil.
PMID 12122532 Intensive Care Med. 2002 Jul;28(7):930-5. doi: 10.1007/s00134-0021332・・・
7: エビデンス [ID0507]
7 / 15
破傷⾵は⾼齢者に多いが、⾼齢であっても後遺症なく回復し得る疾患であり、積極的な集中治療
を考慮する。
推奨度
2o
破傷⾵の予後に関して、⾼齢(70歳以上)であっても予後が悪いわけではないことを⽰したretrospective
studyがある。
1990年発表のJollietらの研究にて、1968年から1989年までのスイスの⼤学病院での破傷⾵症例14例を検討
した結果、70歳以上の7⼈は、70歳未満の7⼈と⽐較して、退院時点で後遺症なく同様に回復した。
このことより、先進国の破傷⾵症例の⼤部分は⾼齢者だが、⾼齢であっても、積極的な集中治療の施⾏を考
慮する。
1: Aggressive intensive care treatment of very elderly patients with tetanus is
justified.
PMID 2306973 Chest. 1990 Mar;97(3):702-5.
8: エビデンス [ID0508]
8 / 15
破傷⾵における気道確保では、経⼝気管挿管の代替として、早期気管切開を考慮する。
推奨度
1M
⻑期⼈⼯呼吸が必要と予想される患者に対する気管切開のタイミングは、早期施⾏のほうがICU滞在期間が
短縮し死亡率も改善することを⽰したメタ分析がある[1]。
2010年発表のDurbinらの研究にて、早期気管切開(⼈⼯呼吸開始から5⽇以内)と晩期気管切開を⽐べた3
つのランダム化⽐較試験に限定して分析した結果、早期群では死亡率が低下(OR0.49;95% CI, 0.250.97)、ICU滞在期間が短縮した。
この研究で提唱されているアルゴリズムによれば、⻑期⼈⼯呼吸の必要性が⾼いのは、上気道閉塞、呼吸不
全を呈する神経筋疾患、重症頭部外傷、熱傷などであり、全⾝破傷⾵は前2者に該当し、早期気管切開を考慮
すべきと考えられる。
破傷⾵を対象としたランダム化⽐較試験ではないが、新⽣児破傷⾵において経⿐挿管と気管切開の合併症に
関する⽐較研究がある[2]。
1985年発表のPatherらの研究にて、52例の筋弛緩薬と⼈⼯呼吸を要した新⽣児破傷⾵患者に対し、気管切
開群に⽐較し経⿐挿管群では予定抜管に伴う合併症や⼆次的な感染症は少なかったが、事故抜管は有意に有
害であった。
破傷⾵のけいれんはさまざまな感覚刺激によって誘発されるが、挿管チューブによっても誘発され得るこ
と、気道のけいれん中の事故抜管は致死的であることなどを考慮すべきである。
これらのことより、破傷⾵における気道確保の⼿段として、早期気管切開を考慮すべきである。
1: Should tracheostomy be performed as early as 72 hours in patients requiring
prolonged mechanical ventilation?
PMID 20040126 Respir Care. 2010 Jan;55(1):76-87.
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2: Nasotracheal intubation versus tracheostomy for intermittent positive pressure
ventilation in neonatal tetanus.
PMID 3881495 Intensive Care Med. 1985;11(1):30-2.
9: エビデンス [ID0509]
9 / 15
破傷⾵では、ペニシリンGあるいはメトロニダゾールの7〜10⽇間投与が推奨される。
推奨度
1C
いったん発症した破傷⾵においては、毒素は不可逆的に神経系に結合するため、抗菌薬は破傷⾵の治療にお
いて主要なものではないが、有効性を⽰した報告もあり推奨される。
ペニシリンGよりもメトロニダゾールのほうが破傷⾵の予後を改善したという前向き研究がある。
1985年のAhmadsyahらの研究(インドネシア)にて、173例の中等症の破傷⾵患者を対象に、プロカイン
ペニシリン(150万単位8時間ごとの筋注;注:⽇本にはない剤型)群とメトロニダゾール(500mg 6時間ご
との経⼝または1g 8時間ごとの直腸内投与)群とをそれぞれ7〜10⽇間投与して⽐較した結果、メトロニダ
ゾール群のほうが、死亡率が低く(24% vs 7%;p<0.01)、⼊院期間が短かかった。
これは抗菌薬の活性の差というよりも、ペニシリンを含むβラクタム系の有するGABAアンタゴニストとして
の作⽤による悪影響が原因ではないかと推測されている。なお、両薬剤とも⾼⽤量では神経毒性(けいれん
など)の副作⽤がありえる。
⼀⽅で、追試ではこれら2者で死亡率に差はなかったと報告されている。
2004年のSaltogluらの研究(トルコ)にて、1994〜2000年の53例の破傷⾵例を対象に予後因⼦を検討した
結果、ペニシリンとメトロニダゾールとで有意差を認めなかった(p =0.15)。
これらのことから、破傷⾵では、ペニシリンGあるいはメトロニダゾールの7〜10⽇間投与が推奨される。
なお、メトロニダゾールは、アネメトロが承認された。また内服薬は保険適⽤外使⽤だったが、2012年8⽉
10⽇に嫌気性菌に対する適応が薬事承認された[3]。
1: Treatment of tetanus: an open study to compare the efficacy of procaine penicillin
and metronidazole.
PMID 3928066 Br Med J (Clin Res Ed). 1985 Sep 7;291(6496):648-50.
2: Prognostic factors affecting deaths from adult tetanus.
PMID 15008944 Clin Microbiol Infect. 2004 Mar;10(3):229-33.
3: 薬事・⾷品衛⽣審議会において公知申請に係る事前評価が終了し、その後、薬事承認された医薬品
(医薬品医療機器総合機構)(2012年11⽉28⽇アクセス)
4: http://www.info.pmda.go.jp/kouchishinsei/k201107_02.html
10: エビデンス [ID0510]
10 / 15
破傷⾵を疑ったら、抗破傷⾵ヒト免疫グロブリン500単位以上を筋注または静注するよう推奨さ
れる。
推奨度
1o
抗破傷⾵ヒト免疫グロブリンは、中和抗体として破傷⾵の経過を短縮し、重症度も軽減し得ることを⽰した
後向き研究がある。
1976年のBlakeらの研究にて、1965〜1971年にCDCに報告された545例の破傷⾵例で、抗毒素治療(抗破傷
⾵ヒト免疫グロブリン)を受けた群は受けなかった群に⽐較して死亡率が低く、この効果はウマおよびヒト
由来のいずれも同様であった。
抗破傷⾵ヒト免疫グロブリンは、3,000〜10,000単位と⽐較して500単位も同様に有効かもしれないという
結果であった[1]。
これらのことから、開⼝障害など臨床症状から破傷⾵を疑ったら、速やかに抗破傷⾵ヒト免疫グロブリンを
投与すべきである。
⽶国では1,500〜10,000単位(通常3,000〜6,000単位)筋注されるが、わが国では500単位以上を筋注また
は静注する。
なお、抗破傷⾵ヒト免疫グロブリンの創部への局所注射や、髄腔内投与は有⽤とするランダム化⽐較試験が
あっても、現時点では確⽴した治療にはなっていない。
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1: Serologic therapy of tetanus in the United States, 1965-1971.
PMID 946000 JAMA. 1976 Jan 5;235(1):42-4.
11: エビデンス [ID0511]
11 / 15
破傷⾵から回復しても免疫の獲得はないため、トキソイドの接種が推奨される。
推奨度
1o
破傷⾵に罹患し回復しても免疫の獲得はなく再感染があり得るため、ワクチン接種が不⼗分と判明した際に
は、能動免疫としてトキソイドの接種が推奨される。
実際に再感染した例が報告されており、2004年のLindley-Jonesらの報告によると、64歳⼥性がガーデニン
グで前腕をすりむいてから48時間後に破傷⾵を発症したが、17歳のときに破傷⾵の既往があった。この症例
のワクチン接種歴は、基礎免疫(3回)は受けておらず、33歳で1回接種のみであった[1]。
1: Recurrent tetanus.
PMID 15207956 Lancet. 2004 Jun 19;363(9426):2048. doi: 10.1016/S01406736(04)16455-6・・・
12: エビデンス [ID0512]
12 / 15
筋けいれんの管理として、ジアゼパムあるいはミダゾラム、プロポフォール、硫酸マグネシウム
が選択肢として推奨される。フェノチアジン系抗精神病薬は推奨されない。
推奨度
1CS
有痛性で全⾝消耗の原因になる全⾝けいれん(generalized spasm)の管理のために、鎮静薬および筋弛緩
薬が使⽤される。
従来からよく⽤いられるのはベンゾジアゼピン系である。破傷⾵毒素は上位ニューロンからのGABA放出を
抑制することにより、下位のα運動ニューロンの興奮性が⾼まって筋けいれんをひき起こすが、ベンゾジアゼ
ピンはGABA(A)アゴニストとして破傷⾵毒素の作⽤に拮抗する。ジアゼパムは安全域が広くよく使⽤される
が、筋けいれんのコントロールには、最⼤3〜8mg/kg/⽇(成⼈)を要することもしばしばあり、呼吸抑
制・昏睡となるため⼈⼯呼吸が必要になる[1]。
ジアゼパムはプロピレングリコールを含んでおり⼤量使⽤では乳酸アシドーシスを来すことがあるが、代替
薬であるミダゾラムはプロピレングリコールを含んでいない[2]。
ベンゾジアゼピン系の中⽌にあたっては、離脱症状に注意して2週間以上かけて漸減する[1]。
ジアゼパムはフェノチアジン系・バルビツレート系よりも有効であることを⽰したsystematic reviewがあ
る。
2004年のOkoromahらの研究にて、2つのランダム化および準ランダム化⽐較試験をレビューした結果、
134例の⼩児を対象にジアゼパム単独群、クロルプロマジン・フェノバルビタールの2者併⽤群、これらの3
者併⽤群と⽐較し、ジアゼパム単独群は2者併⽤群に⽐較して院内死亡率が低く(relative risk for death
0.36、95%CI 0.15~0.86)、ジアゼパム使⽤群(単独群、3者併⽤群)は2者併⽤群と⽐較して、重症化し
にくく⼊院期間が短かった[3]。
このことより、過去には使⽤されてきた神経遮断薬(フェノチアジン系)・バルビツレート系は推奨されな
い。
また、プロポフォールも筋けいれんに有効とする報告がある。
1991年のBorgeatらの研究で、重症破傷⾵の54歳男性で、プロポフォール50mgを4回静注し、15秒以内に
筋電図検査を施⾏した結果、静注後少なくとも10分間は筋電図活動が抑制され、プロポフォールの⾎中濃度
が2.90〜3.20μg/mlLで最も抑制された。なお、プロポフォールは、⼤量投与では⾼脂⾎症などに注意を要
する[4]。
マグネシウム静注は筋けいれんと⾃律神経障害の軽減に有効であり、No.13([ID0513])に⽰すように選択
肢になる。
これらのことより、筋けいれんのコントロールとして、ジアゼパムあるいはミダゾラム、プロポフォール、
硫酸マグネシウムが選択肢として推奨される。なお、これらの薬剤間で有⽤性を⽐較した研究はない。
1: Tetanus.
PMID 10945801 J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2000 Sep;69(3):292-301.
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2: Induction of lactic acidosis with intravenous diazepam in a patient with tetanus.
PMID 7235819 Arch Intern Med. 1981 Jun;141(7):944-5.
3: Diazepam for treating tetanus.
PMID 14974046 Cochrane Database Syst Rev. 2004;(1):CD003954. doi:
10.1002/14651858.C・・・
4: Sedation by propofol in tetanus--is it a muscular relaxant?
PMID 1774399 Intensive Care Med. 1991;17(7):427-9.
13: エビデンス [ID0513]
13 / 15
硫酸マグネシウムは、筋けいれんおよび⾃律神経障害に効果があり、筋弛緩薬やカルシウム拮抗
薬ベラパミルの使⽤量を減らした。ただし、⼈⼯呼吸の必要性を減らすことは⽰されていない。
推奨度
2R
硫酸マグネシウムの使⽤が、破傷⾵の筋けいれんおよび⾃律神経障害の治療に有⽤であるとする複数の報告
(ランダム化⽐較試験を含む)がある。
2002年発表のAttygalleらの前向き研究(スリランカ)にて、全⾝硬直のある破傷⾵例40例(重症度によら
ず全例気管切開を実施)に対し、硫酸マグネシウム(ローディング75-80mg/kgを30分で、その後60歳未
満:1g/時、60歳以下:2g/時)を投与した結果、40例中2例では筋弛緩薬の併⽤が必要だったが、38例は
Mg2+として2〜4mmol/Lの投与量により筋けいれんのコントロールが可能で、60歳以下の24例中7例、60
歳以上の6例では⼈⼯呼吸を要さず、また⾃律神経障害に起因する死亡はなかった[1]。
2006年発表のThwaitesらの研究(ベトナム)にて、15歳以上の重症破傷⾵例256例(気管切開の適応は喉
頭けいれん例、頻回の全⾝けいれんを来したものに限定。そのうえで気管切開を受けたが⼈⼯呼吸は必要と
していない例を対象とした)に、硫酸マグネシウム7⽇間群(ローディング40mg/kgを30分以上かけて、そ
の後体重45kg以上:2g/時、45kg未満:1.5g/時)とプラセボ群(5%ブドウ糖液)とに割付け⼆重盲検化⽐
較試験を⾏った結果、硫酸マグネシウム群では、⼈⼯呼吸の必要性は減少しなかったが、①鎮静薬および筋
弛緩薬の使⽤量、②⾃律神経障害に対するベラパミルの使⽤量、が有意に減少した[2]。
硫酸マグネシウムは、シナプス前神経筋ブロッカーで、交感神経終末および副腎からのカテコラミン放出を
抑制する作⽤があり、⼦癇では有⽤性が⽰されているが、このことから破傷⾵においての有⽤性も⽰され
た。
1: Magnesium as first line therapy in the management of tetanus: a prospective study
of 40 patients.
PMID 12133096 Anaesthesia. 2002 Aug;57(8):811-7.
2: Magnesium sulphate for treatment of severe tetanus: a randomised controlled
trial.
PMID 17055945 Lancet. 2006 Oct 21;368(9545):1436-43. doi: 10.1016/S01406736(06)6944・・・
14: エビデンス [ID0514]
14 / 15
筋けいれんのコントロールにおいて、No.12([ID0512])のベンゾジアゼピン系などの薬剤のみ
では不⼗分な場合、⾮脱分極性筋弛緩薬(ベクロニウムなど)の持続静注を併⽤する。この際、
少なくとも毎⽇1回以上投与を中断し、症状の変化を観察することが推奨される。
推奨度
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1o
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ベンゾジアゼピン系単独で筋けいれんを⼗分にコントロールできることはまれで、⾮脱分極性筋弛緩薬の併
⽤が必要になることが多い。
破傷⾵患者に関して筋弛緩薬間の⽐較試験の報告はないが、パンクロニウムは迷⾛神経遮断作⽤があるため
使⽤すべきではなく、ベクロニウム(0.8〜1.2μg/kg/分)あるいはロクロニウム(10~12μg/kg/分;ただ
し無効例の報告もある[1])の持続静注が選択肢となる。
使⽤の際には、
臨床的およびTOFモニタリングにより評価する
筋弛緩薬開始前に⼗分な鎮静・鎮痛を得ておく
drug holidaysを設ける(毎⽇1回以上投与を中断し症状の変化を観察する、など)
予防的な⽬のケア、理学療法、下肢静脈⾎栓症予防
増量を要するtachyphylaxisの場合には筋弛緩薬の種類を変更してみる
などの注意点が、集中治療領域のガイドラインで推奨されている[2]。
1: Tetanus and rocuronium in the intensive care unit.
PMID 8694180 Anaesthesia. 1996 May;51(5):505-6.
2: Clinical practice guidelines for sustained neuromuscular blockade in the adult
critically ill patient.
PMID 11902255 Crit Care Med. 2002 Jan;30(1):142-56.
15: エビデンス [ID0515]
15 / 15
⾃律神経障害のコントロールとしては、硫酸マグネシウム、モルヒネなどが推奨される。β遮断薬
プロプラノロールの単独投与は推奨されない。
推奨度
2o
⼈⼯呼吸管理が適切に⾏える環境では、破傷⾵における⾃律神経障害が、予後を規定する最⼤の因⼦となる
が、褐⾊細胞腫と類似した急激な循環動態の変動は、コントロールが難しい。
治療の選択肢として、硫酸マグネシウムやモルヒネ(1〜50[平均4]mg/時 持続静注)、その他(アトロピ
ン、クロニジン、硬膜外または脊髄内ブピバカイン投与、バクロフェン髄腔内投与)がある。
硫酸マグネシウムについては、No.13([ID0513])に⽰す。
⾮選択的β遮断薬であるプロプラノロールは、歴史的に有⽤とされてきたが、死亡例の報告もあり、現在は使
⽤を避けるべきとされる。
1978年発表のBuchananらの症例報告(南アフリカ)にて、ICUへ⼊院した7歳の破傷⾵例で、けいれんのコ
ントロールにもかかわらず⾎圧300/200mmHgとなったため、プロプラノロール10mgの経⿐投与がされ
た。その12時間後に再投与された後、⾎圧低下・肺⽔腫を来して蘇⽣し得ず、破傷⾵による⾃律神経障害が
影響したと推測されている[1]。
このことから、α・β遮断薬であるラベタロール静注が推奨されているが、わが国では内服薬しかない。
短時間作⽤型β1受容体遮断薬であるエスモロールが⾃律神経障害のコントロールに有⽤だったとする、1991
年発表のKingらの症例報告(アメリカ)がある[2]。わが国で開発されたランジオロール(エスモロールより
循環動態への影響が低く周術期の使⽤に適応がある)が破傷⾵に有⽤だったとする、2011年発表の⾼橋らの
症例報告がある[3]。
⾼⽤量モルヒネ硫酸塩が、鎮静に加えて⾃律神経障害の管理に有⽤であることを⽰した観察研究がある。
1986年発表のRockeらの研究(南アフリカ)にて、ICUへ⼊院後48時間以内に気管切開・⼈⼯呼吸を要した
10例の破傷⾵患者に、鎮静薬としてモルヒネ10mgを10分かけて6時間ごとに投与し、24時間経過した以降
は、交感神経の過活動(持続する120/分以上の頻脈または平均動脈圧120mmHg以上の⾼⾎圧と定義)の有
無により6時間毎にモルヒネの投与量を調節した。
その結果、投与量は、平均103±36mg/⽇、最⾼170±65mg/⽇で、全例で平均動脈圧(平均18%;
p<0.01)と脈拍(平均7%;p<0.01)を低下させた。7例での⼼拍出量の低下は最⼩限(平均7%;
p=0.07)だったが、8例での全⾝⾎管抵抗の低下は有意(平均12%;p<0.01)だった。オピオイドの中
毒・離脱症状を認めた例はなく、また、α・β遮断薬の併⽤は必要としなかった。9例は⽣存し、1例は腎不
全・敗⾎症で死亡した[4]。
その他、さまざまな薬剤が試みられているが、症例報告レベルであったり、侵襲性の⾼いものであったりと
ルーチン治療として推奨できるものはない。
これらのことより、わが国での破傷⾵における⾃律神経障害のコントロールとしては、硫酸マグネシウム、
モルヒネなどが推奨される。
1: Sympathetic overactivity in tetanus: fatality associated with propranolol.
PMID 678897 Br Med J. 1978 Jul 22;2(6132):254-5.
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2: Use of esmolol to control autonomic instability of tetanus.
PMID 1683152 Am J Med. 1991 Oct;91(4):425-8.
3: 循環管理にランジオロールが有効であった重症破傷⾵と⾮クロストリジウム性ガス壊疽症の1合併
例. ⽇本救急医学会雑誌.
4: Morphine in tetanus--the management of sympathetic nervous system overactivity.
PMID 3787380 S Afr Med J. 1986 Nov 22;70(11):666-8.
最終更新⽇ : 2016年1⽉15⽇
<<ページ末尾:#evidenceDetails4.aspx?DiseaseID=0163>>
2016/01/18
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■画像⼀覧
#0163
出典欄記述⽅法
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て、出典を割愛させていただいている場合があります。その点ご了承のほどお願いいたします。
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さい。
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
①ガイドライン
【編者名】編:【ガイドライン名】【策定年度】年版、p【掲載】or【図版番号】、【発⾏元】、【出版年】
②雑誌
著者名:表題. 雑誌名 発⾏年(⻄暦);巻(号):⾴-⾴.
〔例1〕⼭⽥⼀郎:中枢神経の構造的特徴.脳と神経 1998;45(7):12-15.
〔例2〕参考⽂献:Hauenstein EJ, Marvin RS, Snyder AL, et al.: Stress in parents of children with diabetes
mellitus. Diabetes Care 1989; 12(1): 18-23. PMID: 2714163
③単⾏本
著者名: 表題. 編者名. 書名. 発⾏所所在地(⽇本の出版社の場合は不要):発⾏所,発⾏年(⻄暦);掲載⾴.
〔例1〕⼭⽥⼀郎: 脳と脊髄への⾎液供給. 吉⽥次郎編. 神経科学.エルゼビア・ジャパン, 2003;125.
〔例2〕参考⽂献:Kettenmann H, Ranson BR: Neuroglia. New York: Oxford University Press,1955; 154.
④その他
「××⼤学●●先⽣よりご提供」等、明記してください。
破傷⾵
久保健児
⽇本⾚⼗字社和歌⼭医療センター 感染症内科部
[ID0601]【出典記載不要画像】
American Colledge of Surgeons(ACS)による創分類
※破傷⾵の発症リスクがないという判断はきわめて難しい。⼩さくても「深い」傷は汚染度によっ
てリスクがある。例:無菌操作で刺した点滴の針はリスクはほぼないが、畑で刺さった古釘はリス
クが⾼い。
[ID0661]【画像⼀覧⾮表⽰】
痙笑(risus sardonicus;⼝輪筋の硬直)
顔⾯筋のけいれんにより、ひきつった笑顔で眉が上がったままの特徴的表情が⽣じる。これを、
RS(Risus sardonicus)という。
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
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画像の
説明
□著者提供
出典
[ID0662]
わが国の破傷⾵届出患者数と死亡数の推移
1968年のDPT定期接種開始後、減少し、1980年代後半以降は横ばいである。
1: 国⽴感染症研究所感染症情報センター:IASR 病原微⽣物検出情報Vol.23 No.1 January 2002
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
画像の
説明
□著者提供
出典
[ID0663]
年齢別破傷⾵抗毒素保有状況
2016/01/18
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本⽂に⽰した2008年度の調査である。なお、この報告者によると、この結果を2003年と⽐較する
と、⼗分な防御レベルとされる0.1IU/ml以上の抗体陽性率の⾼い年齢層が右⽅にそのままシフト
しており、5年間減衰せずに保たれていたとされる。
1: 国⽴感染症研究所感染症情報センター:病原微⽣物検出情報,Vol.30,2009年3⽉号,P.65〜66
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
画像の
説明
□著者提供
出典
[ID0664]
破傷⾵菌C. tetani
太⿎のばち状をした芽胞を有するグラム陽性桿菌
1: ⼊江由美ほか:瘡蓋より菌の分離された破傷⾵の⼀例.国⽴感染症研究所感染症情報センター:
IASR 病原微⽣物検出情報 Vol.30 p.216-217: 2009年8⽉号
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
画像の
説明
□著者提供
2016/01/18
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出典
[ID0671]
痙笑(risus sardonicus;⼝輪筋の硬直)
顔⾯筋のけいれんにより、ひきつった笑顔で眉が上がったままの特徴的表情が⽣じる。これを、
RS(Risus sardonicus)という。
1: Recurrent tetanus.
PMID 15207956 Lancet. 2004 Jun 19;363(9426):2048. doi: 10.1016/S・・・
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
画像の
説明
□著者提供
出典
[ID0701]
全⾝破傷⾵マネジメントプロトコル
2016/01/18
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マンデルの感染症テキストから引⽤・改変したもの。*は訳者追記または改変。
初期対応は、診断いかんにかかわらず、気道確保が最優先である。
1: Mandell: Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious
Diseases, 7th ed. 244 Clostridium tetani (Tetanus).Churchill Livingstone. 2009.
※説明、出典のご記載を頂いている場合は空欄で結構です
画像の
説明
□著者提供
出典
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最終更新⽇ : 2016年1⽉15⽇
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破傷風
破傷風は、破傷風菌という土壌などに存在
する細菌が傷口から体内に侵入し、破傷風
菌が産生する毒素が神経系に吸着して、激
しい筋肉のけいれんやこわばりを起こす病
気です。
初期には、口がこわばる、顎の開け閉めが
できにくい、肩がこる、寝汗をかくなどの症
状がみられますが、これはこの病気に特徴
的な症状ではなく、診断をつけるのが難し
いことがあります。傷の細菌の培養検査を
行っても、その結果が必ずしも正しいとは限
らないからです。
発症すると、急なけいれんの発作から窒息
につながることがあり、救急車を手配するな
どして、早急に受診すべく、注意を要しま
す。また、いったん発症すると毒素の効果
が消えるまで、長期の集中治療が必要とな
ります。2000年に入ってからでも死亡例が
報告されています。
まれな病気ですが、発症すると「抗生物質で簡単に治る」ような病気ではなく重篤な病気なの
で、予防が大事です。予防接種は必ず受けましょう。日本では、小児期の定期予防接種に、破
傷風ワクチンを含む三種混合ワクチンが含まれています。3回の接種で基礎免疫を獲得できま
す。その後成人になってからも、下記のような破傷風になる危険性がある外傷を受けた場合に
は、1回、追加接種を受けましょう。
土いじり中の傷や、ピアスによる些細な傷、糖尿病患者さんの足の潰瘍の傷などに細菌が感染
し、発症することがあります。ケガした後に、顎が開きにくい、ケガの周囲の筋肉がこわばるな
ど、破傷風を疑うような症状があるときは、すぐに病院を受診しましょう。
2016/01/18
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執筆者ご紹介
久保健児
⽇本⾚⼗字社和歌⼭医療センター 感染症内科部
2016/01/18
執筆者
久保健児
専⾨分野
救急および臨床感染症
専⾨医
⽇本内科学会認定内科医(2006年)、⽇本救急医学会救急科専⾨医(2010
年)、⽇本感染症学会感染症専⾨医(2011年)、⽇本内科学会総合内科専⾨
医(2014年)
所属学会
⽇本内科学会、⽇本救急医学会、⽇本感染症学会など
経歴
京都⼤学医学部を卒業後、同附属病院で初期研修。⽇本⾚⼗字社和歌⼭
医療センターで後期研修。その後、⽇本⾚⼗字社和歌⼭医療センター救
急科部・集中治療部兼任、2011年度から感染症内科部を開設、感染症コ
ンサルテーションを開始。
治療アドバイス
破傷⾵は、検査偏重の先進国では⾒逃されやすい疾患です。
ピットフォールとして、患者背景:外傷歴は3割では認めません。
「⼝が開かない」「肩が凝る」「⾜がつる」などの症状が有名ですが、
⽇常診療ではコモンな症候ではないために、看護師チャートにはずっと
記録され問題視されていたにもかかわらず、主治医はこれらの症候を問
題と捉えきれず診断が遅れたケースがあります。
メッセージ
破傷⾵は、意識していないと⾒逃しやすいし、実際訴訟にもなっていま
す。
CRPに頼った診療や「とりあえず培養を採取して結果を待つ」といった不
適切な感染症診療をしていると、⾒逃しやすくなります。
訴訟に合わないためにも、「感染症診療のロジック」を⽇頃から意識し
ておくとよいと思います。
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