マイクロファイナンスの議論からみた 農業政策金融の機能と組織

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マイクロファイナンスの議論からみた
農業政策金融の機能と組織
泉 田 洋 一*ῌ塚 田 和 也*
要約 : 本論文は῍ マイクロファイナンスの議論を援用しながら農業政策金融の機能と組織を捉える枠
組みについて議論したものであるῌ 中心論点は῍ 社会的資金の配分によって政策金融機関に特定の政
策を達成させようとする場合῍ デザインされた資金のもつ融資効果と同時に῍ 資金供与の費用を考慮
すべきだという点にあるῌ 資金供与の費用は資金配分機関の組織効率性とプロダクトῌデザインのあ
り方から決まってくるῌ そして῍ 総資金供与費用を融資額と比較して政策資金供与の平均社会費用と
すれば῍ 政策金融のもつ全体効果は῍ その資金のもつ融資効果と῍ 資金提供の平均社会費用をいわば
掛け合わせたものになるのであるῌ 平均社会費用は῍ ヤロンの考案した補助金依存指数を修正して求
めることができるが῍ 資金の低利性ῌ長期性といった資金の優遇度とその資金供給にかかる費用を反
映したものであるῌ
この枠組みのもとで政策金融の全体効果は῍ 融資効果῍ 融資プロダクトのデザイン῍ および社会的
資金を融資プロダクトに転換する組織の効率性に分解することができようῌ ただしこの - つの要素は
互いに依存しており῍ 他の , 項目を固定してひとつの項目だけを動かす場合には注意が必要であろ
うῌ
本稿では῍ 社会的資金供給の全体効果を以上のようなフレ῏ムワ῏クで捉えると同時に῍ その効果
を社会企業としての政策金融機関という視点から理論的に考察したῌ また政策金融組織の効率性を左
右するのはガバナンスのあり方という視点から῍ 政策金融機関の統治問題について考察を加えたῌ 競
争と選択によって利益を最大化しようという民間企業のケ῏スとは違って῍ 政策金融機関の場合の統
治には独自の方策が求められることになるῌ
キ῍ワ῍ド : マイクロファイナンス῍ 農業政策金融῍ 社会企業῍ ガバナンス῍ 補助金依存指数
῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍῍
ῌῌ は じ め に
り῍ そこでは慈善や補助から自由な金融活動が追
求されているῌ その方向が正当かどうかは別にし
いわゆるマイクロファイナンス ῐ以下 MF と略ῑ は
て῍ ここ数年 MF についての議論が活発になされ
理論的も実践的にも深化を遂げてきているῌ MF
ており+ῑ῍ この議論の行方は開発金融のみならず
という名を冠する本や論文も数多く出版されるよ
農村金融のあり方に大きな影響を与えるものとみ
うになったῌ またその内容を表現するタ῏ムも῍
られるῌ
当初のマイクロクレジットから MF へと変化し῍
MF の定義は著者によって様῎であるが῍ あえ
単に信用の供与だけではなく῍ 預金受け入れ῍ 送
て一言で表現すれば ῒ小規模金融ΐ῍ あるいは ῒ貧
金その他の金融サ῏ビス῍ さらには保険῍ 年金を
困削減とリンクさせた小規模金融ΐ ということに
包含するようになっているῌ また近年の ῒMF の
なる,ῑῌ もちろん ῒ小規模ΐ という形容詞は曖昧で
商業化ΐ の議論は῍ 従来の NGO のボランタリ῏
あり῍ 多義的でありうるῌ ただ῍ MF には一般銀
な慈善活動῍ あるいは政府の特別措置を基本にし
行の行う大企業融資との対比が含意されており῍
た小規模金融活動を超える方向性をもつものであ
一般には小農融資や消費者金融῍ 中小企業融資を
* 東京大学大学院農学生命科学研究科
含むものとみてよいῌ したがって῍ 定義における
農村研究 第 +*. 号 ῑ,**1ῒ
2
ΐ貧困削減の部分῔ を棚上げすることになるが῍ 日
も重なるῒ῍ そして前 , 者から規定される政策融資
本の農業 ῌ 農村金融のかなりの部分が MF に包
の機能という - 点を考慮する必要があるというこ
含されるとしても構わないことになるῌ MF の議
とに他ならないῌ 前 , 者は῍ 資金供与の社会費用
論は日本の農業ῌ農村金融の議論と共通するもの
の中に組み込まれるから῍ 政策金融のト῎タルな
が多いが῍ これは当然なのであるῌ
評価は῍ 政策融資供与の平均社会費用と融資効果
本稿では MF において近年議論されている諸
に分解して考えるべきということになるῌ 本稿
ポイントから῍ MF における補助金問題と社会企
は῍ こういった政策金融に関わる問題を MF の議
業論の二つを取り上げるῌ 前者の MF と補助金の
論を参考にしながら自分なりに検討してみるもの
関連は῍ 市場に介入して資金を社会的ないし政策
であるῌ
的使途に振り向けようとする場合に必ず登場する
考える際の素材は῍ Morduch ῑ+333ῒ῍ Armenda-
問題であり῍ 政策金融の機能ないし効果の問題と
ritz de Aghion and Morduch ῑ,**/ῒ῍ あるいは
重なるものであるῌ 後者の社会企業としての MF
Ledgerwood ῑ+332ῒ 等の MF に関係する諸文献
という問題は῍ 特定の社会目的に沿った融資活動
と῍ バングラデシュのグラミン銀行の創始者であ
-ῒ
を行う金融組織の規律付け ῑガバナンスῒ に関連
るユヌスの社会企業論であるῌ したがって῍ 本論
するものであるῌ 前者と後者が合わさって῍ 政策
文は既存文献のレビュ῎を基礎にする分析である
金融の総合効果が発揮されるということになろ
が῍ しかし単なる文献回顧のサ῎ベイ論文ではな
うῌ
いῌ むしろ῍ MF の諸文献を材料にして῍ 政策融
なお῍ 何故こういった議論をするのかという点
資の機能と組織のあり方を議論する時の枠組みを
について῍ あらかじめ説明を行っておいた方がよ
提示したものとみていただければ幸いであるῌ た
いであろうῌ ここでの課題設定は῍ もちろん῍ 現
だ社会企業の統治論を援用して政策金融機関の組
在政府で議論されている日本の政策金融改革を意
織効率性を論じるという点は῍ そのアプロ῎チの
識したものであるῌ 周知の通り῍ 小泉内閣の行政
新しさもあって῍ まだ十分にはなしえていないか
改革推進法案の最重点分野のひとつが政策金融改
もしれないがῌ
革であり῍ それは農業部門における政策金融の枠
組変更を含むものであるῌ 筆者は῍ 今回の改革は
ῌῌ
問題の設定῍社会企業としての政策金融
機関῍
日本経済の構造変化 ῑ当然ながら日本農業の構造変
化を含むῒ や金融の状況変化がもたらしたもので
まず῍ 政策金融の効果と政策金融供与の費用と
あると同時に῍ 政策金融の在り方に関する新思考
いう , 点をどういう枠組の中で捉えるかについ
法と関連する側面があるように感じているῌ 政策
て῍ ユヌスが強調する ῏社会企業としての MFῐ
金融に関する新思考法を ῑ誤解を恐れずにῒ 単純化
ῑYunus, ,**-ῒ という考え方を使って説明してお
していえば῍ 政策金融のト῎タルな評価は῍ 政策
きたいῌ ユヌスは図を使っているわけではない
融資のプロダクトῌデザイン῍ 政策金融を実行す
が῍ 氏の考え方をまとめる際には著者が作成した
る組織の効率性 ῑ規律付けないしガバナンスの問題と
図 + が役に立つῌ
図 + 社会企業としてのマイクロファイナンス
ῑ注ῒ 著者作成
マイクロファイナンスの議論からみた農業政策金融の機能と組織
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社会企業 ῏SE : Social Enterpriseῐ とは῍ 貧困削
さて政策目的を達成するために投入される社会
減や農村開発等の社会目的を達成するために組織
的コストを SC῍ その結果としての効果を E とし
された事業体であり῍ 通常は営利を目的としな
ようῌ 社会的コストは SE に対する補助金総額と
いῌ もちろん社会企業といえども効率的な運営が
考えるῌ この社会的コストが政策目的に対してど
求められることはいうまでもないが῍ 収益は最優
れだけ効果的かという判定が問題になるが῍ この
先されるものではないῌ この点は῍ 社会企業論で
判定は効果 E と社会的費用 SC の比較でもってな
説かれるダブルῌボトムῌラインという考え方か
されるのが通常であるῌ それは誤りではないが῍
.ῐ
らも明確であろう ῌ
新しい考え方のもとでは不十分であるῌ
社会企業としては῍ NGO や NPO が組織する事
新思考は῍ 効果 E と社会的費用の SC の中間
業体が典型であろうῌ 当然ながら῍ MF 機関῍ 政
に῍ 政策融資の供与費用を明示するべきだという
策金融機関῍ あるいは協同組合組織も῍ 程度の差
ことになるῌ つまり一定の社会的コストを使って
はあれ῍ 社会企業としての性格を有すると見なす
その社会企業が目的達成のためのサ῎ビス量を L
ことができようῌ
だけ供給したとすれば῍ 社会的費用 SC を L に変
さて社会企業がその活動を行うためには資金が
換する際の効率性 ῏平均社会費用の逆数ῐ と῍ L がも
必要となるが῍ その資金は社会投資家 ῏SI : Social
たらす政策金融機能がいわば掛け合わされて評価
Investorῐ が῍ 出資῍ 貸出῍ 直接贈与等を通じて提
されねばならないことになるῌ
供するῌ 社会投資家が自分の保有する資金を提供
社会的費用 SC は῍ 融資プロダクトの質とその
するのは῍ それを社会改善のために役立てたいか
融資をデザインし配分する費用から規定されるで
らであるῌ 例えば貧困に心を痛めている人はその
あろうῌ 融資プロダクトの質とは῍ 貸出利率の設
資金を貧困削減活動を行っている SE に投資す
定῍ 期間構成῍ タ῎ゲットとする顧客層の設定῍
るῌ それを受けて SE は貧困削減という社会目的
資金使途の特定など῍ 貸出の内容を規定するもろ
にむけてその資金を使うῌ もし SE が SI から受
もろのポイントを総称しているῌ 融資プロダクト
け取った資金を有効に使用できないのであれば῍
のあり方は῍ その特別にデザインされた資金の配
投資家として SE を統治 ῏ガバナンスῐ することで
分費用 ῏デザイン費用も含むῐ にも影響すると同時
SE の活動を是正することができるῌ もちろん῍
に῍ 融資の効果にも大きな影響を与えるであろ
ガバナンスにあたっては SE が受け取った資金を
うῌ
どう使い῍ そしてそれが最終的にどういう効果を
政策金融機関は SC をインプットとして利用
もたらしているかについての情報が正確に開示さ
し῍ これを政策金融サ῎ビスというアウトプット
れることが必要であるῌ 正確な情報こそは SI に
へと変換するような経済主体であるῌ 生み出され
よる SE の統治にとって決定的に重要であるῌ そ
た政策金融サ῎ビスはそれが実際に顧客に届くこ
の点は上の図からも容易に理解されるῌ
とによって一定の機能を実現するということにな
上に掲げた図における SE は῍ 形式からみれ
ば῍ 政策金融機関と類似しているとみなせようῌ
るῌ
まとめていえば῍ 社会的費用が社会目的を如何
社会投資家を国民に῍ 社会企業を政策金融機関
に達成しているかを議論する時には῍ その EῌSC
に῍ そして社会目的を政策目的に置き換えれば῍
という効果ῌ 費用比率を῍ ῏E ῌ Lῐ ῌ ῏L ῌ SCῐ と分
政策金融機関は図の社会企業の中に収まってしま
解することが必要だということになる/ῐῌ
うῌ 政策金融機関が営利を目的としない点も῍ 社
なお付言すれば῍ ここでは῍ 補助金総額が L に
会企業と共通する点であるῌ もちろん社会企業一
変換される効率性を LῌSC としており῍ 社会企業
般と政策金融機関については決定的な違いがあ
が社会投資家から受ける資金総額を問題としてい
り῍ その点はあとで検討するῌ
るわけではないῌ SE が SI から受ける資金には῍
農村研究 第 +*. 号 ,**1
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出資 貸付 経常補助 無償援助等のいろいろな
関の保有する借入金の平均利率 E : 資本金 平均
形態があるが ここでは そういった資金の社会
残高 P : 税引き前年間利益 K : 年間補給金 L :
的コストを問題としているのである
平均貸出残高 i : 貸出の平均利率 である
῍ῌ 組織の効率性と補助金依存指数 ῍SDI῎
当該金融機関は 政府出資を含む資本金と低利
借入金によって L という貸出 これは特定の政策目
さて MF と補助金の関係を考える際によく使
的に沿った貸出である を行っている その平均貸
われる指標として Yaron, Benjamin and Piprek
出利率は i であり 利益 P を獲得している この
+331 の補助金依存指数 SDI : Subsidy Dependence
状況下での社会的費用は 低利借入金に対する補
Index というものがある SDI は MF 機関の費用
助部分と 出資補助 及び年間の経常補給金であ
便益比率であり MF 機関なり融資プログラムが
る P を差し引いたのは 補助金を受けているに
どれだけ補助金に依存しているかに関する指標で
もかかわらず利益を計上している場合には その
ある この指標は上述の LῌSC と類似したものと
分を控除しておく必要があるからである 他方で
みなせるであろう ただ SDI の場合にはコスト
便益 はその機関が獲得した貸出利子収入とし
としての補助金 SC とみる は分子に位置し ア
ており その部分が分母になっているわけであ
ウトプットは利率 i と L を掛け合わせたもの 貸
る
出利子収入 になっている したがって SDI と Lῌ
すべての資金を外部から市場利率で調達し同時
SC は同一の指標というわけではないが 前者は
に補給金ゼロという場合に 金融機関の収益率が
後者を単純に含むものであり 社会的コスト SC
市場の資金調達利率よりも高くなれば 上述の
とそのアウトプット L との関連を分析する際に
SDI はマイナスとなる
は SDI を検討する必要がでてくるのである
補助金依存指数 SDI の計算方法についてまず
説明しておく いま借入金と出資によって貸出原
資を獲得している機関を想定する この機関は預
金の受入れは行っていない また当然ながら貸出
総額は借入金と資本金 出資額 の合計よりも少な
い また赤字の部分は 必ずしも全額ではない 経常
補助金によって補填されているとする これらは
貸出等のコストを F とすると 収益 P は P
LῌiAῌc
KF であるから これを上式に代
入すると
SDIAmc
EῌmLῌi
AῌcK
F
KῌLῌi
Aῌm
EῌmLῌi
FῌLῌi
A
EῌmῌLi
FῌLῌi
ῌ
議論を単純にするための想定であるが これらの
となる もし資本金と借入金の総額が貸出になる
仮定をはずしてもほぼ同様の議論ができる 日本
という仮定をすれば A E L この ῌ 式は
の農業政策金融に詳しい読者なら これらの想定
mi
FῌLῌi となる つまり 市場での資金調
は現実的なものであることが理解されるであろ
達利率貸出利率
平均貸出コストを計算した値
う
と貸出利率との比率が上述の想定の下での SDI
補助金依存指数 SDI は一般的な形で以下のよ
うに定義される
SDI受け取った補助金総額 陰伏的補助金
を含むῌ年間利子受取額
Amc
EῌmP
KῌLῌi
ただし A : 金融機関の借入金総額 平均残高
m : 市場から調達した場合の利率 c : 当該金融機
である ただし 貸出額が資本金と借入金の総額
より少ない場合が一般的であるし その差異の度
合いは組織としての非効率のひとつの要因にもな
る そのことを示すためにも ῌ の形で SDI を捉
えておいたほうがよいと思われる
SDI は 確かにひとつの機関が政策的ないし社
会的貸出を遂行する際にどの程度の社会的コスト
を必要としているかを示す概念である 同時に
マイクロファイナンスの議論からみた農業政策金融の機能と組織
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分子には貸出コストを含むため経営組織としての
回していると想定し その条件のもとで市場の貸
効率性を含むものである
出利率が 3῍ 政策金融機関の貸出平均利率が
上式についてもう少し検討してみよう まず A
0῍ 利益率ゼロとして平均貸出費用が差の -῍ で
EL という式が成立しない場合の非効率につ
あるとすれば SDI は 30-ῌ0 として + にな
いてである つまり資金をもっているにもかかわ
る つまり政策目的のための貸出を行っている機
らずその資金をすべては使いきれていないことか
関が + 円の貸出利息を獲得するために 同額の補
らくる非効率が存在する この部分を仮に S 非効
助が使われたということになる 次に 同じ想定
率 s とすると 上式は misFῌL となる
の下 市場の貸出利率が 0῍ で政策貸出利率が
つまりここは 利率の割安分S 非効率社会企
-῍ 平均貸出費用が前と同じ -῍ とすれば SDI
業の費用率と分解できるのである
は 0--ῌ- で , となる つまり補助の幅も貸
ただし 貸出原資として用意していたにもかか
わらず需要の不足等の理由で貸出に使われなかっ
た部分は 通常ならば 短期金融市場で運用して
出額も同じなのに貸出利率の違いによって SDI
の水準が大きく動くのである
ここに SDI のもつ問題点が如実に表れている
利鞘をかせぐことができるであろう そのため
SDI は金融機関の補助金依存度を費用と 便益
式にあてはめて計算した結果では S 非効率は数
の比率として捉えるのだが 便益
を貸出から得
字にはでてこないかもしれない したがって 上
られる利息分と捉えるために問題が生じているわ
式を使った評価を行うためには 最終的な数値と
けである この難点の故に 金利体系が異なる ,
同時に 当該組織の資金調達ῌ運用の細部に入り
時点での補助金依存指標を計算しても 両者を直
込んで分析することが必要とされることになる
接比較し 評価することは難しいことになる
なお 貸出利率を市場利率よりも低く設定する
SDI の考え方の背後には 補助金の貸出額に対す
ことはあとにみる融資効果の部分に影響すること
る比率は同じでも 貸出利率が下がるとそれだけ
に留意しておくべきであろう また社会企業の費
政策金融の社会的価値が減じたと見る思考がある
用率も融資の効果に影響する したがって Eῌ
と思われる しかしこの思考は受け入れがたい
L ῌ L ῌ SC という式の規定要因を分析する際
多くの論者はそのことに無頓着に SDI を計算し
にはこの式を Emi, FῌLῌLῌLῌLm
タイの BAAC やグラミンの補助金依存の程度を
iLsFEa, bῌasb としておくこ
議論し 場合によっては比較を試みている しか
とが必要となるのではないだろうか 全体として
し そこには大きな問題があることに気づくべき
は政策変数 a つまり mi の設定と コストのか
であろう
け方 b FῌL が 全体効果を規定するということ
になるのである
したがって 政策金融の 便益
を貸出によっ
て稼得した収入と捉えるやり方には修正が必要と
SDI を示す式の分子は 日本の政策金融で使わ
なるかもしれない 政策金融機関のアウトプット
れる 政策コスト
と類似した概念である ただ
を貸出額 L と捉えておき その貸出に対して単位
政策コスト
の場合には 便益
の部分が qual-
あたりの補助金が ῌ 式の分子で示されるように
itative に表現されるが SDI では思い切った単
表現されるとみるアプロチもあろう0
純化のもとで 便益
を貸出から得られる利子収
もちろん ここに示した問題があるにせよ SDI
入としている この点から 我の LῌSC という
を計算する際に必要となる情報は補助金とその効
概念のもつ有効性と ヤロンの唱えた SDI という
果を考える際には貴重な第 + 次情報である 例え
概念のもつ問題点が浮かび上がってくる
ば 補助金の内容を 借入金の利率への補助 出
数値例を示しながらその問題点を掘り下げてみ
よう いま資本金と借入金の総額をすべて貸出に
資補助 経常的補助 補給金 に分けて論じること
には意味がある
農村研究 第 +*. 号 ῐ,**1ῑ
6
の効果を῍ 以下のように求めることができるῌ ま
ΐῌ 政策融資の効果
ず W を r について微分する ῐx῔Yῒyi と考えるとわ
続いて῍ 上述の EῌL で表現される政策融資の
効果をどう把握するかについて理論的に考察して
おきたいῌ これは政策金融の機能に関わる問題で
あるῌ もちろん῍ 補助の内容がシステムのセット
アップのためなのか῍ クロス補助か῍ 経常的経営
補助なのか等によって῍ 補助の効果も異なるのだ
が ῐArmendariz de Aghion and Morduch, ,**/ : ,..῔
かりやすいῌ ここで Y は定数とみておくῑῌ
dwi dx dri
dW
῔ῌai
dr
dx dri dr
dx は dyi であり῍ ῎ 式を勘案すればこの式は
dwi dri ddi dW
L
῔ῌai
ΐ
dyi dr idri +
dr
ῒ
,/+ῑ῍ ここでは῍ 補助を一括してとらえておき῍ そ
の補助金によって市場利率よりも低い信用を社会
の特定層へ供与した場合の効果 ῐEῑ を῍ 理論的に
考察する1ῑῌ
まず社会的効用関数 W を以下のように定義す
るῌ
ここで wi は i という社会構成員の効用であり῍
社会の全構成員 ῐn 人ῑ がここに含まれているῌ 単
純化のためにこの関数を additively separable
と仮定するῌ 社会的効用関数は῍ 社会の構成員の
効用の加重平均として表現できるとするわけであ
るῌ ai を階層 i の社会的ウェイト῍ wi をその効用
として῍ 先の仮定の下で W は以下のようになるῌ
W῔ῌai wi
dLi
ῐdiΐriῑ
dri
῍
ῑ
となるῌ
低利資金を政策的に供給することの効果 ῐdWῌ
drῑ は῍ この ῑ 式から以下のようにまとめること
ができるῌ つまり以下のような記号の設定のもと῍
dW
῔ῌGHJῐQῒSῑ
dr
W῔Wῐw+, w,, w-, w., ῏, wnῑ
ῐ
ῒ
となるῌ ここで
G : 低利資金供与の対象層の重要性 ῐ社会的ウェ
イト aiῑ
H : 利率低下によってもたらされた所得増加の
もつ限界効用 ῐ所得増加の厚生増大効果 dwiῌdyiῑ
J : 低利融資の供給がもたらす借入金平均利率
の低下効果 ῐこれは当該低利資金の供給と῍ それ
が他の資金の利率へもたらす効果を含むものであ
他方῍ Li を構成員 i のもつ借入金総額῍ di をそ
るῌ 後者は driῌdr であるῌ またすべての資金を補助
の平均収益率῍ ri を借入金の平均利率῍ r を補助付
付き信用にのみ依存している場合には r ῔ ri とな
き信用の利率とすれば῍ 借入金を市場利率で調達
り῍ driῌdr は + となるῑ
して投資を行った場合の純リタ῎ンは以下のよう
Q : 利率低下がもたらす投資収益へ効果
になるῌ
S : 借入金利率低下による借入金増加がもたら
yi῔Liῐdiΐriῑ
῎
ここで 家計の効用は῍ ベ῎ス所得 Y と῍ 借入
による投資利益 yi から生じるものとすれば῍ wi῔
wῐYῒyiῑ であり ῐw は関数ῑ῍ ῍ よりW῔ῌai wῐY
ῒyiῑ となるῌ
たらす所得増加効果であるῌ ここに H をかける
と所得増加のもたらす効用 ῐあるいは経済的厚生ῑ
の増加となるῌ 更に政策資金供与のタ῎ゲットと
なった階層の社会的重要度を乗じたものが G ここに ῎ を代入すれば῍
W῔ῌai wῐYῒLiῐdiΐriῑῑ
す効果
ῒ において JῐQῒSῑ は低利資金の供与がも
῏
であるῌ
ここで補助によって借入金利率が低下したこと
HJῐQῒSῑ であるῌ
Morduch ῐ+333ῑ が述べるように῍ 補助金によ
る政策資金供与の効果に関する判断は῍ 以上のよ
うに分解された各項目をどう評価するかによって
マイクロファイナンスの議論からみた農業政策金融の機能と組織
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異なるῌ 補助対象層の社会的ウェイトを他の階層
組織効率性を高く保持するには῍ いくつかの条
とフラットに考える場合には補助金による低利融
件が必要と思われるが῍ その議論をする前に῍ 政
資の効果を低く評価することになるῌ 資金需要の
策金融機関と社会企業としての MF 機関の差異
利子率への反応度を非弾力的とみる場合にも補助
について考察する必要があるῌ この場合῍ 政策金
金効果が低く評価されるῌ また投資の収益率の高
融機関としては῍ 政府出資を受け῍ 貸出資金の調
さをどう見るかもポイントとなろうῌ 補助金反対
達に対して政府から直接間接の補助を受けている
派は投資の収益性を低くみるし῍ 低利資金が金融
日本の政府系金融機関を念頭に置いておくῌ その
市場の利率へ与える外部効果もあまり評価しない
上で図 + に戻って政策金融機関と MF 機関の差
傾向にあるῌ 補助金を評価する場合には逆に῍ 社
異について考えると῍ 以下のような点に気づくで
会的ウェイトを高く῍ 利子率への投資反応度を高
あろうῌ
く῍ 投資収益性を高く῍ また外部効果を高く評価
する傾向にあることになるῌ
第 + に῍ 政府系金融機関の場合には資金提供者
と政府金融機関との関連が近すぎるという点であ
もちろん以上の議論は῍ 市場から金融サ῎ビス
るῌ 資金提供者を国民とおけば図 + の関係が成立
を受けている経済主体に低利で資金を供給する場
するようにみえるかもしれないが῍ 政策金融機関
合の効果であり῍ しかも効果は所得を量的に把握
へ実際に資金を提供するのは政府ῌ中央銀行であ
するという視点から分析されているῌ したがっ
り῍ その資金提供の内容を取り仕切るのは関係省
て῍ 質的効果は考慮されていないῌ またそもそも
庁であるῌ そして政府系金融機関は政策実行機関
金融サ῎ビスにアクセスできない顧客に信用を供
であるということから῍ 関連省庁と密接な関係を
与する場合の効果は῍ 上の定式化とは別の処理を
もたざるをえないῌ 人的にも資金的にも両者の距
すべきであろうῌ この点で῍ 投資の収益率は高い
離が近くなるのは当然ではあろうが῍ その際には
が信用の欠如等の理由で金融サ῎ビスを受けられ
ガバナンスの問題が浮上するῌ
ない者が新たに信用を受けることの効果はきわめ
2ῐ
て大きいことが含意されている ῌ
ῌῌ 社会企業の統治問題
ῌ
第 , に῍ 特定の政策目的に限定すれば政策実行
機関はもちろんひとつであるῌ これはほぼ自明の
ことであろうが῍ 特定の機能と関わる農業政策金
融機関が複数存在することはありえないῌ この点
MF 機関と比較してみた政策金融機関の特質
で῍ 政策金融機関はその担当領域 ῏つまり特定の政
さてこれまで῍ 政策金融を評価する際には῍ 政
策目標を達成されるために補助金を受ける組織としてῐ
策融資の供与費用と政策融資の効果とを分けて考
における完全独占企業という位置づけになるῌ こ
える必要性を述べ῍ そのふたつを捉える際の枠組
こには競争と選択を通じた改良という機能が作用
みを提示してきたῌ こういった政策金融の捉え方
しにくいῌ
は日本の農業政策金融の議論ではこれまでほとん
以上に関係するとみられることを῍ グラミン銀
どなかったように思われるῌ 特に῍ 供与費用の中
行に即して述べておきたいῌ ひとつはグラミンの
に含まれる組織効率性については議論をせず ῏あ
政治的位置についてであるῌ グラミン銀行はユヌ
るいは組織効率性は最大限に達成されるという暗黙の
ス総裁も含めて政治的中立 ῏ないし政治的調停者ῐ
想定をおきῐ῍ 主に後者の融資効果のみを取り上げ
の立場にあるῌ バングラデシュでは与党と野党の
てきたと考えられるῌ しかし組織効率性は常に最
政治的対立が激しく῍ 金融においても῍ 時に大衆
大限に達成されるわけではないことは῍ +31* 年代
迎合的な債務減免公約が選挙期間中に提示される
や 2* 年代での低所得国における政策金融の失敗
ことによる混乱もあるῌ ところがグラミンはそう
῏拙著῍ ,**-ῐ や近年における政策金融批判からも
いった政治的対立と無縁であるし῍ 各政党も政治
明らかであろうῌ
中立的なグラミンの位置を尊重しているようであ
農村研究 第 +*. 号 ῏,**1ῐ
8
るῌ この政治と一定の距離を置いている点は῍ グ
会投資家は῍ 自分が優先度の高いと考える社会目
ラミン銀行の強みを作り出している重要な要素の
的にとって有効な社会企業を選択することができ
ひとつと思えるῌ
る点であるῌ したがって多数の SI から多数の SE
もうひとつはバングラデシュにおける ῑMF 産
への線は一本ではなく多数となるし῍ 多数の SE
業ῒ の競争性という点であるῌ バングラデシュに
から多数の社会目的への線も単線ではありえな
おける MF 機関の数は多く῍ グラミンがシェアに
いῌ こういった状況下で῍ 複数の SE 同士の競争
おいて突出しているわけではないῌ 会員数でいえ
が生じ῍ 投資家は競争市場の場合と同じように῍
ば῍ グラミンは῍ BRDB῍ BRAC῍ Proshika よりも
自己の設定する社会的目的に即して金融活動を
規模が小さく῍ 実際の借入者数でも BRAC につ
もっとも効率的に行っている機関を選ぶことがで
ぐ第 , 位となっている ῏Charitonenko et al., ,**. :
きるのであるῌ もちろん SE を評価する基準は῍
+,ῐῌ バングラデシュでは῍ NGO や MF 金融機関
市場競争でみられるような金銭的リタ῎ンの高さ
は相互に熾烈な競争を強いられており῍ これが
ではありえないῌ 社会企業としての MF を唱える
MF 機関の規律付けを迫る重要な要因となってい
Yunus は SI は通常の投資によってもたらされる
るῌ また先に述べた SI に選択される SE という
収益率より低い水準を甘受せよと主張しているῌ
ユヌスのアイデアはこういったバングラデシュの
収益性よりも社会性を重視する篤志家的投資家は
状況を反映したものと見なせるῌ
世界に多数存在するはずであり῍ そういった SI
もちろん政府金融機関とバングラデシュにおけ
はたとえ収益性が低くともそれを受け入れるであ
る MF とは同レベルでは論じられないῌ 政府と政
ろうとみるῌ Yunus はこういったフレ῎ムワ῎
策金融機関の距離の近さも῍ 競争性の欠如もいわ
クのもと῍ 社会問題に関心をもった人たちの運動
ば宿命的なものであり῍ その点に変更を加えるこ
とそれを支える善意が社会企業としての MF を
とは想像すらできないῌ しかし῍ それでもここで
基礎づけると見るのであるῌ
の議論は政策金融機関の規律付け問題に示唆を有
ともあれ金銭的リタ῎ン以外の点で SE の活動
するῌ その点を論じる前に῍ NPO の議論を援用し
を評価するとなれば῍ 具体的な評価指標は何かと
て῍ 社会企業が多数の場合について検討しておこ
いう問題が生じるῌ SE は抽象的にはその供給す
うῌ
るサ῎ビスの社会貢献度 ῏通常の場合のリタ῎ンの
ῌ 社会企業とインタῌメディアリῌ
高さではなくῐ とその組織効率性から評価されよう
複数の社会企業が存在するケ῎スには῍ 当然な
が῍ 評価の視点は質的なものも量的なものもあ
がら複数の社会目的と῍ 明示的に表示された複数
り῍ 簡単ではないであろうῌ そこで評価にかかわ
の社会投資家が登場することになるῌ その点は図
る専門的機関が登場する余地が生じるῌ これを田
, に示されるῌ ここで特徴的なことは῍ 複数の社
中 ῏,**/ῐ はインタ῎メディアリ῎と呼んでいるῌ
図 , 社会企業とインタ῎メディアリ῎
῏注ῐ 田中 ῏,**/ : ,*ῐ の図を修正して使用ῌ
マイクロファイナンスの議論からみた農業政策金融の機能と組織
9
この中間機関は῍ SE 自体とその活動のもたらす
金融の目的とするものは収益性ないし効率性では
効果を様῎な視点から評価し῍ その情報を SI に
ないから῍ 政策金融の組織の有効性と融資効果を
伝える機関であるが῍ 同時に SI の意向を SE に
測る指標としては῍ 第 - 者が納得するものを自ら
伝える情報媒介機関でもあるῌ 時には SE に対し
考案しなければなるまい+,ῑῌ
て組織効率性を高めるようなトレ῏ニング等を供
3ῑ
与することもある ῌ
第 - に῍ MF 機関もまた政策金融機関も民間営
利機関とは違った行動原理をもたらざるを得ず῍
ῌ 政策金融機関の組織効率性を高めるために
そこで働く職員の倫理 ῌ 規範も非常に重要にな
もちろん῍ バングラデシュにおける MF のあり
るῌ 教育ῌ訓練を通じて高い使命感を保持してお
方や῍ NPO 論における統治問題をそのまま日本
くことも大切であろうῌ MF の商業化という議論
の農業政策金融の議論に適用することはできない
の中でもっとも懸念されているのは ῒ使命感の喪
であろうῌ 政策金融機関のあり方とバングラデ
失 mission driftΐ であることを忘れてはなるま
シュにおける MF の位置やその産業組織論的な
いῌ
構造は῍ 政策金融機関の位置とは大きく異なって
第 . に῍ 政策金融機関の場合に῍ 競争と選択を
おり῍ 同列には論じきれないῌ しかし以上の考察
通じて規律付けを行うことはほぼ不可能である
は῍ 政策金融機関の組織的な効率性を高めるため
が῍ 民間金融機関を使った政策金融の場合には῍
の方策について示唆的であるῌ やや前後の脈絡を
選択と競争という統治方式をもつことは可能であ
欠いたブレ῏ンスト῏ム的記述になってしまう
るῌ 社会企業に付与されるような事業を民間金融
が῍ 箇条書き的に掲げてみるῌ
機関に委託することで ῐあるいは利子補給という形
第 + に῍ 社会企業としての政策金融機関と資金
で誘導することでῑ῍ 一定の政策目的を達成するこ
の提供者との間に距離を置くことがあげられよ
とに貢献させるという方法がありうるῌ その場合
うῌ 具体的には῍ 人的な関係の面で一定の距離を
には῍ 図 , におけるインタ῏メディアリ῏の役割
置き῍ とくに政策金融機関のマネイジメントにか
を政策金融機関が果たすことも可能であるῌ 著者
かわる部署に῍ 関係官庁の人事面での影響力を最
はかって政策金融機関と民間金融機関との垂直的
小限に留めておくῌ これはいわゆる実施主体と管
分業の度合いを強める方向もありうるという趣旨
理主体の分離ということに他ならないῌ 同時に῍
の小文を書いたことがあるが ῐ拙稿῍ ,**,ῑ῍ その
政策金融機関に経営上の裁量権を与え῍ 資金を効
方向は῍ 政策金融機関にインタ῏メディアリ῏的
率的に使用するためのインセンティブを政策機関
な役割を付与するということに他ならないῌ
に付与することも重要であろうῌ 補助のあり方に
ついても῍ 裁量的かつ経営丸抱え的なやり方では
ῌῌ 結論に代えて
なく῍ 一定の長期的取り決めのもとでの補助ル῏
実は MF を行っている金融機関や NGO の大半は
ルをインスト῏ルしておくべきかもしれないῌ 原
直接間接の補助に依存しているῌ Morduch ῐ+333ῑ
資調達面における自主性 ῐ債券発行等ῑ の保証とい
によれば῍ 貧困に焦点をあてた MF プログラムは῍
+*ῑ, ++ῑ
うことも考慮されてよいであろう
ῌ
それらのプログラムが持続性の達成を強調してい
第 , に῍ 最終的な資金の提供者への説明責任を
るにもかかわらず῍ 全体費用の 1 割しかカバ῏で
常に意識した組織のあり方とその評価システムを
きていないῌ また金融的に持続可能な MF は +῍
考えておくべきであろうῌ 組織効率性と融資効果
もないし῍ 将来このハ῏ドルを越えるのは /῍ 程
についての透明度の高い情報を伝達ῌ開示する方
度であろうとしている ῐMorduch +333 : +/21ῑ+-ῑῌ
策を常に考えておくῌ 同時に῍ 政策金融機関の組
このように多数の MF 機関は直接間接の補助
織効率性について議論ῌ監視する第 - 者機関 ῐ審
を受けながら活動しており῍ まずはこの点を前提
議会῍ 委員会ῑ 等も必要であろうῌ もちろん῍ 政策
にして議論を進めるべきであろうῌ もちろん補助
10
農村研究 第 +*. 号 ῏,**1ῐ
付き低利融資には厳しい批判がつきまとっている
いう議論を援用して῍ 規律付けという問題を検討
が ῏拙著῍ ,**- ; Adams, Graham and Von Pischke,
してきたῌ
+32. ; Meyer and Geetha, ,***ῐ῍ 実際には補助が全
くない MF はむしろ例外的なのであるῌ
Yunus の社会企業としての MF はバングラデ
シュの MF を取り囲む状況を反映したものであ
MF に対する補助の重要性という点は ῏程度に
り῍ その論理を日本の農業金融にそのまま適用す
差があるもののῐ῍ 日本の農業金融にもあてはまる
ることはできまいῌ 一般的にいえば制度的インセ
と思われるῌ 筆者は先に競争性を高めたほうがい
ンティブをできるだけうまく整備することで組織
いという示唆を行ったが῍ しかし日本農業の現状
の効率性を高める環境作りは重要であろうῌ 閉鎖
をみれば῍ 市場原理の徹底による農業金融の全面
的で非競争的といわれる日本の農業金融にある種
的商業化はありえないと判断しているῌ 農業金融
の競争性を付与していくことはそのインセンティ
には特有のリスクがあるし῍ 費用のかかる金融と
ブを制度的に作り出すことにつながるであろうῌ
ならざるをえないῌ いわゆる marketable assets
ただ῍ 政策的介入を政策金融に対する究極的出
の欠如という問題もあるῌ 農業部門が金融へのア
資者である国民῍ あるいは民間投資家に納得して
クセスを確保し῍ しかも金融が高コストになるの
もらうためには῍ 農業金融における政策的補助は
を避けるためには῍ 最小限の政策的補助はやむを
やむえないというだけでは不十分であり῍ その効
えないと考えるῌ Yunus が SE のパフォ῎マンス
果を具体的に示すことが必要となってくるῌ した
を収益性では判断していないところを汲み取るべ
がって῍ 融資効果分析 ῏インパクト分析ῐ は ῏本稿で
きではないだろうかῌ
は十分に論じることができなかったがῐ῍ 日本の農業
問題は῍ 補助金を使って社会的目的を如何に効
政策金融にとって今後の重要な研究課題となって
果的に達成するかという点を῍ 組織の問題と融資
くると思われる+.ῐῌ また社会企業が一定の補助を
の効果を合わせて考慮しなければならないという
受けるとしてもその社会企業に対するガバナンス
ことであるῌ 本稿はそういった問題意識のもと
のあり方はこれまで以上に注意が払われてくるも
で῍ 資金供与の効果の把握と῍ 組織効率の捉え方
のと思われるῌ このガバナンスの具体的なあり方
について原理的な検討をおこなったῌ また Yunus
については更に詰めた議論がなされるべきであろ
の社会企業論や NPO のインタ῎メディアリ῎と
うが῍ これについては他日を期したいῌ
注
+ῐ ,**/ 年は国連 MF 年であったῌ なお MF の商業
したものではないことに注意が必要であろうῌ SC
化については Charitonenko and others ῏,**.ῐ を
のあり方や῍ SC を L に変換するあり方が E/L に影
参照されたしῌ
響を与えることは十分に想定できるῌ
,ῐ あるいは Robinson ῏,**+ῐ での ῑ低所得層への金
融サ῎ビスῒ という定義もあるῌ
0ῐ 筆者は῍ ῌ 式の分母の Lῌi の利率の部分を分析
期間の平均あるいは῍ ラスパイレス型指数を応用し
-ῐ ガバナンスという言葉は通常 ῑ統治ῒ と訳される
て ῏つまり基準時点に固定してῐ 処理する方法もあ
が῍ ここでは原語の ῑ操縦するῒ あるいは ῑし向け
ると考えているῌ なおまだ試算の段階であるが῍ ヤ
るῒ という意味を考慮して῍ 一定の目的に向けて組
ロンの式にしたがって農林公庫の SDI を計算する
織を制御することと捉えておきたいῌ
と +3/* 年代後半のの *.0 の水準から低下し῍ +31*
.ῐ ダブルῌボトムラインとは῍ 社会企業の活動成果
年代初期には *.. 程度になっているῌ +33* 年代から
を表示する財務諸表においては収益という項目の下
は上昇に転じ῍ ,*** 年には *.0 に達しているが῍ 3*
に社会貢献というもうひとつの項目が明示されるべ
年代の SDI の上昇は貸出利率の低下を受けたもの
きだとするものであるῌ
ではないかと推測しているῌ
/ῐ あとで見るように E/L と L/SC とは相互に独立
1ῐ 本議論は Morduch ῏+333ῐ に依拠したものであ
マイクロファイナンスの議論からみた農業政策金融の機能と組織
るが 数式の展開には修正を加えている
2 いわゆる信用制限下では 政策的資金供与が大き
な効果をもつことが示唆される
3
MF の商業化の流れは社会企業としての MF に投
11
+, 最近の日経新聞の経済教室の記事を引用すれば
官の効率性は民とは異なる 小野 ,**/ のであ
る しかも 民間企業なら やるべきかやめるべき
かの判断には収益という明確な基準があり 失敗す
資仲介する機関を実際に生み出している ,**/ 年 -
れば倒産が待っている しかし公企業の基準は数値
月に開催された ADB の MF 会議では 高所得国の
化しにくい 小野 ,**/
資金を低所得国の MF 機関に仲介する投資会社 +- ここで依拠した Morduch +333 のデタῌソ
BlueOrchard Finance や ShoreCap International
スは MicroBanking Bulletin survey +332 であり
の活動が紹介された
+* いわゆる PFI Private Finance Initiative 論を
援用すれば 政策機関に対するガバナンスにも 性
これは国際会計基準を採用している MF 機関しか
対象としていないためグラミンは含まれていない
Armendariz de Aghion and Morduch ,**/ では
能発注 的要素と 仕様発注 的要素の , 種類があ
MicroBanking Bulletin survey ,**- に依拠しなが
るといってよいであろう 政策金融機関に即してい
ら +,. の MF 機関のうち 00 が金融的に持続可能と
えば 前者はアウトプットして良質の融資が如何に
している ただし著者らが指摘するように ,**, 年
提供されているかを問題にするものであり 後者は
の MF summit には ,,/1, もの MF 機関が集まって
融資作業の諸段階における内容を細かく規定するも
おり MicroBanking Bulletin survey が対象とす
のといえるであろう ガバナンスにおいて後者のみ
るのは MF 機関のうちごく少数の優良なものだけ
を強調すると がんじがらめの規制のもとで性能自
ということになる
身が損なわれる恐れがある
+. 社会企業と社会投資家との関係ないし後者から前
++ 佐伯尚美は農林漁業金融公庫に関して 出資補助
者へのガバナンスを論じる際には NPO の評価とい
から経常補給金中心の補助政策への転換が政策金融
う近年の議論が参考になる 田中弥生 ,**/ ある
機関の体質についてかなり重要な意味をもつとして
いは斎藤槙 ,**. を参照されたし なお NPO の評
いる 前者によるばあいには 公庫は政策当局に対
価論は NPO の活動の成果なりインパクトをどう評
して一定の距離を保ち 相対的に金融機関として
価するかという点にもつながる したがって NPO
自主性 をもちうるの対して 後者によるばあいに
の事業評価論は政策金融の効果分析に対しても多く
はそうした 自主性 すら完全に失われざるをえな
の示唆を与えるものである
いからである 佐伯尚美 +32, : ,*,
引用ῌ参照文献
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斎藤槙 ῏,**.ῐ ΐ社会起業家῎社会責任ビジネスの新しい潮流῎῔ 岩波新書ῌ
田中弥生 ῏,**/ῐ ΐNPO と社会をつなぐ῎NPO を変える評価とインタ῍メディアリ῎῔ 東京大学出版会ῌ
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ῌ受付 ,**0 年 ++ 月 +. 日῎
῍受理 ,**1 年 + 月 ++ 日῏
Function and Organization of Agricultural Policy Loans with
Special Reference to the Discussion on Microfinance
Yoichi IZUMIDA (The University of Tokyo, College of Agriculture and Life Sciences)
Kazunari TSUKADA (The University of Tokyo, College of Agriculture and Life Sciences)
This paper discusses the framework for examining the functions and organization of agricultural
policy bank with special reference to the literature related to microfinance. Whena policy maker aims to
attain certain policy goals by using social funds, it is crucial to consider the credit impact as well as cost
of loan provision including loan product design and organizational e$ciency of the responsible institution. Total e#ect should be regarded as the credit impact multiplied by the cost of loan provision of the
due organization.
Concerning the average cost of loan provision, the ratio of amount of loan provided and the amount
of total social funds can be an approximation of the indicator. In addition, the theoretical framework for
credit impact is examined in the paper. In order to raise the level of organizational e$ciency, so-called
governance is crucially important. The ways of governing policy-oriented financial institutions are different from private enterprises, where the most important indicator is profit.
Key words : microfinance, agricultural directed finance, social enterprise, governance, subsidy dependence index