ROAD TEST No 5069 PORSCHE BOXSTER ポルシェ・ボクスター 先にフルモデルチェンジを終えた911とのコンポーネンツ共有化をさらに強化し、 サイズアップした第3世代のボクスターは、それを利点として昇華できているのか? photo: Stan Papior (スタン・ペイピア) MODEL TESTED ◎テスト車輌概要 ●モデル名:S PDK●車両本体価格:774.0万円●日本発売時期:2012年6月1日 ●最高出力:315ps/6700rpm●最大トルク:36.7kgm/4500-5800rpm ●0-97km/h加速:4.7秒●113-0km/h制動距離:49.5m●最大求心加速度:0.93G ●テスト平均燃費:8.9km/ℓ●二酸化炭素排出量:188g/km WE LIKE 懐が広く運転が楽しいハンドリング、日常使用での実用性、素晴らしいエンジンとギヤボックス WE DON’T LIKE ウェットコンディションでのハンドリングの不満、貧弱な標準装備、ときどき発生するギヤボックスのギクシャク感 (5万3000円) や自動防眩ミラー ● ボクスターSは19インチホイールを標準装 ● 電動格納ミラー にも追加の費用が必要となる。 着する。 オプションの20インチホイールは写真 (8万7000円) のカレラS (25万3000円) とカレラクラシック (44万2000円) の2種類が用意されている。 さらにホイールペイントのオプションが加わる。 82 ●フィラーキャップは右側のフロントフェンダーに備わる。 ● 918スパイダーのようなベントがノーズに付く。 フロントアク 反対側にある給油機からのホースも届く。 スルからのオーバーハングは、 従来よりも27mmm短くなった。 AUTOCAR 09/2012 ACJ112_P082-089_roadtest_star.indd 82 12/07/17 0:59 PORSCHE BOXSTER ポ ルシェの信奉者にとっては、悩める 収益に大きく寄与し続けている。 日々が再び到来したといえるだろう。 ほとんど完璧なまでに磨き上げられたハンド 991 型とそれ以前の 911を、ようやく リングと本格的なパフォーマンス、そして魅力 ぱっと見分けられるようになってきたわれわれ 的なバリューをミックスさせたボクスターは、現 の目の前に、真新しいスポーツカーがもう一台、 在では完全に一人前のモデルに成長し、クラス 現れたからだ。981 型ボクスターである。 を率いる存在となった。だが、自動車メーカー これは偶然のタイミングではない。劇的な収 としてのポルシェは 1996 年以来、大きな変化 益改善をもたらした戦略的革新以来、ポルシェ を遂げてきた。今や最量販車種は SUVのカイ はコンポーネンツ共用化の重要性を肝に銘じて エンであり、もう一台の SUVも計画されている いる。そのコンセプトの価値を証明した革新の ほどなのだ。 最初の鏑矢が、1998 年の 996 型 911と多数の 果たして、この “手の届きやすい” スポーツカー コンポーネンツを共用する初代 986 型ボクスター は、ポルシェにとって今なお重要なモデルなの である。ボクスターは商業的に大成功を収め、 だろうか? そして、今もこのクラスにおける 以後、911と親密な関係を維持し、ポルシェの 傑出したドライバーズカーなのだろうか? ● 旧型のボクスターと同様、 スタンダードモデルは エグゾーストパイプが楕円形の1本出しであること で識別できる。Sモデルではそれよりシリアスなルッ クスの2本出しとなる。 ● 新しいリヤの造形処理とスポイラーが走行風をよりきれい に整え、 旧モデルよりもリフトを減らしている。空気抵抗係数は 0.30を達成している。 ROAD TEST HISTO RY ルーツは19年前のコンセプト 1993年のコンセプトカーは550スパイダーにオマージュを 捧げたものだ。 ボクスターのルーツは1993年に発表された、 当 時ポルシェのデザインチーフだったハーム・ラガーイ 作のコンセプトカーに遡る。550スパイダーの誕生 40周年を記念してデザインされたそのモデルは、 ポ ルシェ初のロードスター専用車だった。 その年のデ トロイト・ショーでセンセーションを巻き起こした一台 である。 “986” ボクスターの生産は1996年から、 ポル シェにほとんど利益をもたらさなかった928と同じ工 場で始まった。 “997” 世代の911をベースとした2 代目 “987” は、 2005年に生産を開始している。同 じ年に派生クーペのケイマンが生まれた。 ●ウィンドディフレクターは標準装備にすべきと思 えるアイテムだが、 4万8000円のオプションだ。 ● 過去のボクスターとは異なり、 左右のエアイン テークが両方とも飾りではなくなった。 これまでは片 方が飾りだった。 www.autocar.jp ACJ112_P082-089_roadtest_star.indd 83 83 12/07/17 0:59 ●“マニュアルポジションの+/−は、 逆向きのほう が直感的だとわれわれは思っている。前方に押す とシフトアップで、 手前に引くとシフトダウンだ。 ●“3つの大型で見やすいメーターは、 中央がレブカウンターになる。 デジタル式のスピードメーターも備わっているので、 左側のアナログ式 スピードメーターはあまり意味のない過剰装備になっている。 ●“スポーツクロノパッケージを選択したPDK装備車は、 ステア リングホイールの裏側にパドルが備わる。3時15分の位置にあ るポルシェ独自の使いにくいプッシュ/プル式ロッカーではない。 N AV IG ATIO N GPSナビゲーション ひとたび使い方を憶えてしまえば、 ナビゲー ションシステムはシンプルで、 メーターに追 加の地図が表示されるメリッ トを備えている (欧州仕様) 。 このシステムは郵便番号で 検索可能で、 分割画面のおかげでひとつ のディスプレイに2次元地図と3次元の俯 瞰地図を同時に表示できる。地図の詳細 度にも不満はない。 COMMUNICATION SYSTEM コミュニケーションシステム 84 コミュニケーションシステム用の電話接 続モジュールはオプション (欧州仕様)。 Bluetoothヘッドセットに比べると高額だ が、 機能は優れている。連絡先とコールリス トのダウンロードが素早く、 簡単にペアリン グできる。 ENTERTAINMENT SYSTEM エンターテインメント 標準のオーディオはテストしていないが、 10 万6000円のBOSEサラウンド・サウンドシ ステムは素晴らしい。 トップを開けた状態で 風切り音に対抗できるほどパワフルで、 Aピ ラーの根本の近くに低音用スピーカーを備 え、 大音量時の歪みを少なくしている。 AUTOCAR 09/2012 ACJ112_P082-089_roadtest_star.indd 84 12/07/17 0:59 PORSCHE BOXSTER ROAD TEST HOW BIG IS IT? サイズはどれくらい? 150 litres 995mm 130 litres 高さ:460-620mm 奥行き:470mm 2475mm 45% 1282mm min mm max 840 0mm 2 11 幅:700mm 870m 1000m m min m max 0.31 904mm ●“フロントの荷室はかなり狭い。 とくに前後方向が短いのだが、深さはある。 55% 4374mm VISIBILITY TEST 視認性テスト FRONT 1526mm 1801mm HEADLIGHTS Turning circle: 11.0m 前方視界は、 このクラスとしてはお おむね平均的である。斜め後方に ついては、 トップを閉じた状態では 視界に制約がある。 1540mm ●シートの電動調整機能はバックレスのみ標準で備えているが、 それ以外のア ジャストはすべて手動である。 ヒーテッドシートは7万4000円のオプション。 日本仕様では標準装備のバイキ セノンはクリアな照明を提供し、12 万4000円のダイナミックコーナリ ングライトはステアリングホイール の動きにスムーズに反応する。 幅:780-1220mm 100mm WHEEL AND PEDAL ALIGNMENT DESIGN&ENGINEERING 高さ:230-300mm 奥行き:480mm Centre ポルシェによれば、 このボクスターはホイールベー スの延長によってレッグルームが拡大していると いうが、基本的なエルゴノミクスに関してまだ完璧 と言えるほどにはなっていない。 ブレーキペダルは 若干右寄りなのがわれわれの好みである。 10mm ステアリングホイールとペダルの配置 ●リヤのラゲッジスペースはフロントよりも浅いが、幅は広い。 軽量化を果たしている) 、耐クラッシュ性能と構 そのほか、オプションとしてダイナミックトラ 意匠と技術 ★★★★★★★★★☆ 造的な剛性はむしろ高まっている。また、旧型 ンスミッションマウント、ポルシェ・トルクベクタ に比べ、ねじれ剛性が 40%高い。そして旧型も リング(機械式 LSDも含む) 、PDKデュアルク 911のフルモデルチェンジを完了したポルシェ 決して剛性の低いクルマではなかった。 ラッチギヤボックスが用意されている。PDKは は、ボクスターのメカニカルなレシピに、驚異の ホイールベースは 60 mm 長くなり、トレッド 進化を遂げ、シフト動作の高速化と巡航時の経 済性向上が図られている。 とまでは言えないまでも、重要な変更を加えた。 はフロントが 40 mm、リヤが 18mm 広がった。 ドライビングの楽しさのさらなる増量にとどま 全長の増分は 32mmであり、全高は 13mm 低 らず、実用性の向上を目指したとポルシェは述 くなり、輪郭は明らかに流麗さを増している。 べているのである。 完全に一新されたフロントサスペンションシ INTERIOR しかしながら、基本的な部分は変わってい ステムは軽量なストラットとリンクで構成され、 室内 ★★★★★★★★☆☆ ない。パワーユニットはリヤアクスルのすぐ前 これまで以上に優れたホイールコントロールと 新世代のポルシェらしく、室内も新世代だ。 方に据えられた自然吸気の 6 気筒ボクサーエ シャシーのチューニングポテンシャルをもたら このボクスターは、パナメーラで確立され、以後、 ンジンで、それが後輪を駆動する。だが、車両 した。リヤはマルチリンクで、これは新型 911 カイエンと911にも導入されたキャビンデザイ のさまざまな部分において、多くのアップデート のそれの発展形だ。コンベンショナルなガス封 ンの恩恵を受けた、最新のポルシェである。こ が施されている。 入式パッシブダンパーが標準だが、今回のテ のボクスターのアーキテクチャはフロントエン モノコック構造は半分近くが今やアルミ製と スト車はアダプティブダンパーの PASMを装 ジンのモデルよりも911との共通部分が多いが、 なり、残りの部分はマグネシウムと高張力鋼の 備する。その PASMも、より高度なセンサー網 それはセンターコンソールの幅がフロントエン ミックスだ。重量は軽くなったが(モデルによっ を備えたアップデート版である。新型 911と同 ジンモデル用より狭いところからきている。補 ても異なるが、従来型に比べて最大で 35kg の 様、電動機械式パワステも装備する。 助装置のボタン類はギヤレバーの脇ではなく後 www.autocar.jp ACJ112_P082-089_roadtest_star.indd 85 85 12/07/17 0:59 TRACK NOTES 方に整然と並んでおり、これにより電磁式パー サーキットテスト キングブレーキと、ダッシュボードの助手席側 ■ドライサーキット ポルシェ・ボクスターS PDK ラップタイム:1分18秒3 から展開する配置のカップホルダーが可能と T3 なった。 T6 T2 T5 BMW Z4 sDrive35i 参考タイム:1分22秒7 Start/finish T7ではアペックスまでブレーキン グを残すことでターンインでのヨー を高め、 アンダーステアを和らげる ことができた。 ウェットコンディションがアンダー ステアをもたらし、 スロットルペダ ルを若干戻さずにはT4を処理で きなかった。 ■ウェットサーキット ポルシェ・ボクスターS PDK ラップタイム:1分18秒2 逆カントのT6ではアンダーステア からオーバーステアに転じたが、 そ れが起きたのはPSMをオフにして いたときだけである。 BMW Z4 sDrive35i 参考タイム:1分12秒4 伸ばされ、そのためリヤウィンドウは 120 mm T5 長い。また、フラットに折りたたんでボディ内に T6 T4 体をフリースで裏打ちして騒音吸収性能を高め アンチロックブレーキはしばしば、 T1を回れるか、回れずにエスケー プゾーンに突っ込むかの分かれ目 となった。 161km/h 177km/h 193km/h 1.8s 2.663.6s 4.71 .0s 7.5s 9.3s 1.4s 13.9s 17.0s 5s 10s BMW Z4 sDrive35i 97 2.2s 3.064.0s 5.1s 113 .5s 129 8.1s 5s 145 209km/h 21.1s 15s 依然としてペダルがやや左にオフセットしてい 225km/h 26.5s 20s た。著しくはないが、左足ブレーキを好む人が 25s 161km/h 177km/h 193km/h 209km/h 225km/h 12.3s 14.9s 18.2s 22.3s 27.9s 10.0s 10s 15s 20s 25s 48-0km/h 9.0m 80-0km/h 24.9m 10m WET トランクは 2カ所で、フロントに 150ℓ、エン ロントエンジン車がリヤに備える一般的なトラ 97-0km/h制動時間:2.88秒 0 積極的にそれを行使したくなるほどではある。 ジン後方に 130ℓの容量が確保されている。フ ■制動距離 DRY 優れた洗練度を提供してくれることを実際に確 ハンドルPDK仕様のドライビングポジションは、 145 0 に遭遇したわれわれが、ソフトトップとしては が若干ながら拡大したが、テストに使用した右 129 80 ている。これについては幸か不幸か激しい雨 ホイールベースの延長によってレッグルーム 湿潤路面/気温14℃ 13.2秒 (到達速度:173.2km/h) 24.1秒 (到達速度:219.4km/h) 113 48km/h 64 収納できるようになったおかげで、カバーパネ ルが不要になっている (12kg の減量)ほか、全 T8 Start/finish 97 0 とクラス上のレベルにまで達している。 プのリヤエンドはこれまでより車両後方側へと ポルシェ・ボクスターS PDK 88 クラスにおける標準的な水準にとどまらず、ひ 認済みだ。 ■発進加速 テストトラック条件: 0-402m発進加速: 0-1000m発進加速: 48km/h 64 上アップした。キャビンの雰囲気は、今やこの のために、完全に設計し直されたものだ。トッ T3 T1 合わせて、組み付けとフィニッシュ、マテリアル 電動トップも同様である。新しいボクスター T7 テスト車両が装着していた20インチホ イールとピレリ・タイヤは、 ウェットサーキット にうまく対処することができなかった。冠水 した路面でブレーキング性能が落ち、 また T2 ノーズが言うことを聞かなかったのだ。 ポルシェのほかの最新世代モデルの室内に の見た目、そして触感のクオリティは一段階以 T1 T4 ウェットコンディションにもかかわらず叩き 出したラップタイムの速さが、 このボクス ターが備えるダイナミクス性能の高さを物 語っている。だが、滑りやすい路面がハン ドリングバランスに悪影響を与えた。 T7 20m 9.1m 48-0km/h 113-0km/h 49.5m 30m 26.3m 80-0km/h 40m 50m 52.5m 113-0km/h ンクに比べると、どちらも広さでも実用性でも 劣っているが、ミドエンジン車ならではハンド リングの純粋性のための犠牲としては、これは やむを得まい。 ON THE LIMIT 限界時の挙動 英国の天候がボクスターSのテスト に大きな影響を与えた結果となった。 テストは激しい雨と冠水した路面と いう悪条件で行われた。 しかし、 そんな 最悪の状況下でも、 このミドエンジンパ フォーマンスカーはきわめて信頼できる、 そして安全なハンドリング特性を備えて 86 いて、 ドライバーを危険にさらすことなく、 トを装着したテスト車両は路面の水を そのパフォーマンスを十分に発揮できる 切り裂くのに苦労し、 また向きを変える ことがわかった。 のを嫌がった。 ドライではそんなことはな もしウェットとドライでバランスのとれ かったし、標準の19インチ、 あるいはほ たグリップを求めているなら、 われわれな かの標準タイヤを履いていたら、 ウェット らオプションの20インチホイールとピレ 路面でもさほど苦しむことはなかったかも リPゼロタイヤは選ばずにおく。 そのセッ しれない。 AUTOCAR 09/2012 ACJ112_P082-089_roadtest_star.indd 86 12/07/17 1:00 PORSCHE BOXSTER ペは、パワーとトルクとトラクションの点で優位 PERFORMANCE ROAD TEST クスのロジックに変速を任せるのも自在で、自 に立っていながら、0 -97 km/hと0 -161km/h 動変速にしてもノーマルモードでゆったりとし のいずれにおいても、このボクスターより速い たスケジュールにすることや、スポーツモード タイムを達成できていないほどだ。さらに言え で機敏に動作させることもできる。 5psのパワーアップの恩恵を感じ取れたと証 ば、3カ月ほど前にわれわれがテストした 911 批判する部分があるとすれば、惰性走行時 言すれば嘘になる。車重減を考慮すれば、車 カレラの 0 -97km/h 加速はこのクルマよりも0.1 にドライバーがパワートレインを楽しむ邪魔を 重 1t あたり9 psの増加という計算になるが、そ 秒遅く、追いつくためには 400 mの距離を要す するところだ。最新の 911と同様、巡航時にド れでもなお、無視できる程度のパフォーマンス るのだ。 ライバーがスロットルペダルを戻すと、PDKは アップである。なぜならトルクに変更はないか フレキシビリティ、 レスポンス、 そしてクリーミー ホイールとの接続を切り離す。これによりエン 動力性能 ★★★★★★★★★☆ ジンはアイドリング状態となり、燃焼消費が抑 えられるのだが、そこからスロットルを開けた とき、再接続によってドライブトレインに軽微だ がイヤなギクシャク感が生じるのだ。幸いなこ とに、スポーツモードでは、このコースティング 制御は働かない。 RIDE&HANDLING 乗り心地と操縦安定性 ★★★★★★★★★☆ ハンドリングの純粋さとドライビングの醍醐 味においては、この新型はこれまで同様、間違 いなくロードスタークラスのトップに位置する。 電気機械式パワーステアリングは、991 型の 911の場合ほど恐れる必要はない。そして、サ イズの拡大は、ボクスターが備えているバラン アダプティブダンパーを備え、 引き締まったボディコントロールとしなやかさを融合する。 スと敏捷性を一切損ねていない。 直接的なライバル関係にあるどのクルマと比 らだ。 なスムーズさが、新型ボクスター S のフラット6 べても、ボクスターはより強力にグリップし、よ だが、卓越した推進力が要求されるボクス の魅力である。この傑作は 7500 rpmまでまる りスムーズにコーナリングする。ダイナミクス特 ター Sは決して遅いクルマではなかったし、そ で不満なく回り、5000 rpm 以上では同クラス 性で何より際立っているのは、 ドライバーにハー れは新型でも変わっていない。電光石火のよう のすべてのエンジンを上回る能力を発揮する。 ドな仕事を求めない寛容さと、盤石な安定性 に素早い PDKギヤボックスと、驚くほど技巧派 そして、素晴らしい出来のパドルシフトトラン が労せずもたらされる気安さである。ボディコ なローンチコントロールシステムのおかげで、 スミッションが、そのエンジンがいい仕事を快 ントロールが問題となる場面は皆無であり、日 このクルマは発進加速がとても速い。われわ 調に続けられるようアシストする。マニュアルモー 常のなかで発生し得るたいていの状況におい れが 2010 年にテストしたアウディTT RSクー ドにしてギヤを一気に 2 段落とすのも、ギヤボッ て、ロードホールディングは一貫して強力だ。そ UNDER THE SKIN 新型ボクスターをお好みに整える このボクスターには、 ポルシェのなかで ブレーキをかけて、 敏捷性の高めるものだ もとくにハードコアなモデルにわれわれが (マクラーレンMP4-12Cのものとは異な 期待するとおりの、 多くのシャシーオプショ る) 。PTVにはリミテッドスリップディファレ ンが用意されている。 ンシャルも組み合わされ、 コーナーの立ち 標準では、 パッシブガス封入ダンパー 上がりでのトラクションを高めている。 とオープンリヤディファレンシャル、 電動ア もうひとつ、 スポーツクロノパッケージ シストのパワーステアリングを装備してい (35万8000円、 テスト車は装備) はシャ る。 オプションとしては、 PASM (ポルシェ・ シーのセットアップを個別に変更するタイ アクティブサスペンションマネジメント/25 プのものではないが、 ダイナミックエンジン 万3000円) が用意されている (今回のテ マウントを含まれている。 それがコーナリン スト車両に装備) が、 このPASMとは磁 グ時に硬さを増し、 ドライブトレインをよりタ 力で制御され、常時アジャストされるダン イトにシャシーへと結合して、正確で素直 パーである。 なハンドリングレスポンスを提供する。 さらに、PTV (ポルシェ・ トルクベクタリ サーボトロニック (4万7000円、 テスト ング/23万2000円、 テスト車は未装備) 車は未装備) はパワーステアリングのア を組み合わせることもできる。PTVはコー シスト力を低速時に高め、 主として低速で ナーへの進入時に内側のリヤホイールに の取り回しを楽にする。 ● テスト車両に装備されてい なかったのはサーボトロニック (4万7000円) で、 これは低 速時にパワーステアリングの アシスト力を高める。 ●ポルシェ・ トルクベクタリング (23万2000円) はコーナー進 入時に内側の後輪にブレーキ をかけて敏捷性を高める。 www.autocar.jp ACJ112_P082-089_roadtest_star.indd 87 87 12/07/17 1:00 DATA LOG れでいて、アウディTT RS のように足まわりを 計測テストデータ ガチガチに硬めてはいない。ボクスターでは、 ほとんど尋常ではないくらいになんの労力もな ■メカニカルレイアウト く、スポーティな軽快さを楽しめるのである。 新型ボクスターはトレッドと ホイールベースが拡大され、 ウィンドスクリーンの下端が 旧モデルより100mm、前に 出されている。 ミドマウントされ たエンジンとギヤボックスは、 それぞれリヤアクスルの直前 と直後に配置されている。 フ ロントのマクファーソン・スト ラットは完全に新設計された が、 リヤのマルチリンクは旧 モデルのアップデート版だ。 オプションの新しい PASMアダプティブダン ピングシステムについては、その功績を認めて おく必要があろう。新たに 4 個の垂直方向の シャシーセンサーを得て、PASMは巡航時に ファミリーサルーンのようなしなやかさを発揮 64 litres する一方で、高速コーナーに飛び込んだときに は素早く反応し、クルマの慣性重量を忘れさせ てくれる。従来までのシステムでも十分に優れ ていたが、新型は明らかに能力が向上している。 スカットルシェイクやシャシーのたわみを心 配しているなら、それは杞憂だ。1 週間にわた 横置き後輪駆動 水平対向6気筒, 3436cc アルミ軽合金 φ97.0×77.5mm 12.5:1 4バルブDOHC 315ps/6700rpm 36.7kgm/ 4500-5800rpm 7800rpm 233ps/t 27.2kgm/t 91.7ps/ℓ ■燃料消費率 355 69 315ps/ 6700rpm 304 55 253 36.7kgm/ 4500-5800rpm 203 41 152 28 101 14 51 0 Engine (rpm) 0 2000 4000 6000 8000 10,000 0 ■サスペンション オートカー実測値 消費率 総平均 ツーリング 動力性能計測時 8.9km/ℓ 11.6km/ℓ 3.8km/ℓ メーカー公表値 消費率 市街地 郊外 混合 燃料タンク容量 現実的な航続距離 CO₂排出量 ■シャシー/ボディ Torque (kgm) 駆動方式: 形式: ブロック/ヘッド: ボア×ストローク: 圧縮比: バルブ配置: 最高出力: 最大トルク: 許容回転数: 馬力荷重比: トルク荷重比: 比出力: ■エンジン性能曲線 Power output (ps) ■エンジン 8.9km/ℓ 14.7km/ℓ 12.5km/ℓ 64ℓ 571km 188g/km 前: マクファーソン・ストラット/コイル+ スタビライザー 後: マルチリンク/コイル+スタビライザー ■ステアリング 形式: ラック&ピニオン (電動機械式アシスト) ロック・ トゥ・ロック: 2.6回転 最小回転半径: 5.55m 車両重量: 抗力係数: ホイール: タイヤ: スペアタイヤ: 1350/1420kg(実測) 0.31 前8.0J×20in, 後9.5J×20in 前235/35R20, 後265/35R20 なし (補修キット) ■変速機 形式:7段デュアルクラッチ ギヤ比/1000rpm時車速〈km/h〉 ①3.91/10.3②2.29/17.5 ③1.65/24.3④1.30/30.9 ⑤1.08/37.2⑥0.88/45.7 ⑦0.62/64.9 最終減速比:3.25 ■静粛性 アイドリング: 3速最高回転時: 3速48km/h走行時: 3速80km/h走行時: 3速113km/h走行時: 50dB 85dB 63dB 69dB 73dB ■安全装備 ABS, EBD, PSM Euro N CAP/ na 30 (48) 40 (64) 50 (80) 60 (97) 70 (113) 80 (129) 90 (145) 100 (161) 110 (177) 120 (193) 130 (209) 140 (225) 150 (241) 1.8 2.6 3.6 4.7 6.0 7.5 9.3 11.4 13.9 17.0 21.1 26.5 - mph(km/h) - 20-40 (32-64) 2.4 3.5 - - 2.3 3.4 4.3 5.7 8.4 - 40-60 (64-97) 2.3 3.4 4.4 5.3 7.2 - 50-70 (80-113) 2.5 3.2 4.5 5.5 7.0 14.2 60-80 (97-129) - 3.2 4.4 5.9 7.4 14.1 70-90 (113-145) - 3.5 4.4 6.0 8.4 14.6 80-100 (129-161) - 4.0 4.6 5.8 9.3 16.7 90-110 (145-177) - - 5.0 6.0 9.4 - 100-120 (161-193) - - 5.8 6.7 9.3 - 110-130 (177-209) - - 7.6 7.8 - - 120-140 (193-225) - - - - - - 130-150 (209-241) - - - - - - 140-160 (193-257) - - - - - - 一部バックナンバーは www.autocar.jp に掲載されています。 注意事項:馬力荷重比とトルク荷重比の計算にはメーカー公称車両 重量を使用しています。 © Autocar 2012. テスト結果は権利者の 書面による承諾なしに転用することはできません。 ダイナミクス能力の欠点というよりも、テストし た個体が履いていた特定のホイールとタイヤに 起因する可能性が高いと思われるが、さらなる テストで確認する必要はあるだろう。 BUYING&OWNING 購入と維持 ★★★★★★★★☆☆ 初代ボクスター S、それも5 段しかないA/T 仕様が 770 万円だったことを憶えている人から 能力の魅力を考えればなおさらである。 7th 30-50 (40-80) ROAD TEST 88 - ルマの限界を知らせるアンダーステアが、われ われの好みよりも強めなのだ。これは本質的な クラストップのリセールバリューとダイナミクス ■最高速 2nd 3rd 4th 5th 6th バランスには、わずかな乱れが感じられた。ク ル車と比べてもはっきりと安価に感じられる。 ■中間加速〈秒〉 秒 だが、ウェットコンディションでのグリップの リストプライスは驚きでしかないだろう。ライバ 前: φ330mm通気冷却式ディスク 後: φ299mm通気冷却式ディスク 実測車速mph (km/h) ちらの気配も感じ取れなかった。 すれば、 ここでテストしたボクスター S PDKの ■ブレーキ ■発進加速 るテストで 1500kmほどの距離を走ったが、ど 1 2 3 4 5 6 7 80km/h 7800rpm 137km/h 7800rpm 190km/h 7800rpm 241km/h 7800rpm 277km/h 7435rpm 277km/h 6058rpm 277km/h* 4268rpm * claimed 準装備の内容は残念だ。774 万円のコンバー ティブルでウィンドディフレクター (4 万 8000 円) とヒーテッドシート (7 万4000 円)がオプション 扱いとは不当な利益追求に思える。また、電動 格納ミラー (5 万 3000 円) とパーキングセンサー (リヤのみで 9 万 1000 円)は、このレベルのク ルマなら無償オプションにすべきだ。 経済性とCO₂ 排出量は優秀だが、平均より ■今月の数字 55% 20ps ただ、バリューフォーマネー的に見るなら、標 これは前後重量配分のリヤ側の数値 だ。新世代ポルシェのサルーンは意外 にも、 その多くが前後50 : 50に近い 比率になっている。 馬力荷重比、 すなわち車重1tあたり の馬力は、991型の911カレラ3.4に 比べてこれだけ大きい。 も高めとなるディーラーでのメンテナンス費がマ イナス要素となり、ボクスターSは広い意味では、 総合的に見ればかなり高価なプレミアムブラン ドスポーツカーとなる。もっとも、それでもボク スターとポルシェ・ブランドの市場におけるポ ジションを考えれば、おそらく十分に安い。 AUTOCAR 09/2012 ACJ112_P082-089_roadtest_star.indd 88 12/07/17 1:00 PORSCHE BOXSTER ROAD TEST ROAD TEST No 5069 PORSCHE BOXSTER S PDK AUTOCAR VERDICT ●オートカーの結論 ★★★★★★★★★☆ 「上級なスポーツロードスターのあるべき姿を すべてにおいて実現している。 ただし価格は高い」 TESTERS’ NOTES ●テスターのひと言コメント テスト車両に装備されていたPDKを気 に入ったが、6段マニュアルも試した結 果、 フラット6を4500rpm以上に保って 走らせるには、 そちらのほうが都合がいい と感じた。 マット・ソーンダーズ ボクスターはたいていの場合、 オプション の20インチホイールを装着していたほう が格段にベターな振る舞いをする。 けれ ど、標準の19インチは乗り心地を改善し てくれる。 ニック・キャケット SPEC ADVICE ●購入にあたっての助言 ハードに走らせるつもりなら、 シャシー関 連のオプションを惜しみなく投入すべき である。 そうでない場合、 サーボトロニック はあきらめ、 リセールバリューを高めるよう な、 標準でしかるべき装備 (たとえばウィン ドディフレクター) を選ぶべきだ。 JOBS FOR THE FACELIFT ●マイナーチェンジ時に望むこと 9 81型ボクスターは、1990年代のポルシェの経営陣 致命的な弱点があるとすれば、唯一、小さいながらも、結果 では造り得なかったであろうクルマである。第一に、 こ として導き出される結論、 わかりやすく言えば新型に込められ のモデルはもはや、 ポルシェの利益の要石ではない。第二に、 たポルシェの意志によって、 このボクスターはもっとも手が届き モアパワーとさらに魅力的なルックス、 よりシャープなハンドリン やすいポルシェの入門車としての評判が、従来ほどには傑出 グ、改善された快適性、 そして追加された実用性を備えたこの していないことである。 とはいえ、予算が十分な人にとっては、 ボクスターは、 ブランドのベストセラーでちょっとした傑作だった それは購入の障害とはならない。エントリーレベルは20万円ほ モデルの商品力をさらに向上させるために、金に糸目を付けず ど価格が引き上げられてしまったが、 このボクスターの能力の A 幅は大きく膨れ上がった。● に開発されたクルマに感じられるからだ。 TOP FIVE 1st PORSCHE 2nd 3rd コースティング制御 (省燃費のためにギ ヤボックスとホイールの連結を切り離す 制御) から通常状態への移行をスムー ズにしてほしい。 4th 5th LOTUS BMW MERCEDES-BENZ AUDI ポルシェ・ボクスターS PDK ロータス・エリーゼS BMW Z4 sDrive35is メルセデス・ベンツSLK350 AMGスポーツ アウディTT RS ロードスター 車両価格 最高出力 最大トルク 0-97km/h加速 最高速度 燃料消費率 (混合) 車輌重量 (公称値) CO₂排出量 774.0万円 315ps/6700rpm 36.7kgm/4500-5800rpm 4.7秒 277km/h 12.5km/ℓ 1350kg 188g/km 邦貨換算約650万円 220ps/6800rpm 25.5kgm/4600rpm 4.2秒 (公称) 234km/h 13.3km/ℓ 924kg 175g/km 815.0万円 340ps/5900rpm 45.9kgm/1500rpm 4.8秒 (0-100km/h公称) 250km/h (リミッター) 11.1km/ℓ 1600kg 210g/km 805.0万円 306ps/6500rpm 37.7kgm/3500-5250rpm 5.6秒 (0-100km/h公称) 250km/h (リミッター) 14.1km/ℓ 1560kg 167g/km 邦貨換算約900万円 340ps/5400-6500rpm 45.9kgm/1600-5300rpm 4.4秒 (0-100km/h公称) 250km/h (リミッター) 11.6km/ℓ 1535kg 199g/km われわれは こう考える 閃光のように輝き、 それと同時に 合理的でもある、類い希なクルマ のひとつ。 万人好みではないが、 ライバルに は決してなし得ないやり方で、エ リーゼは素晴らしい。 乗り心地の悪さを別にすれば、魅 力的な室内とパワートレインを持つ Z4は、間違いなくタイトルコンテン ダーの一台だ。 ハードエッジであることが定義とさ れるクラスにおいては、やや活気 に欠ける。 エンジンは素晴らしい。 速さとグリップは潤沢だが、TT RS はエレガンスが求められるときに洗 練されていない。 結論 ★★★★★★★★★☆ ★★★★★★★★☆☆ ★★★★★★★★☆☆ ★★★★★★★☆☆☆ ★★★★★★★☆☆☆ Boxster S PDK Elise S Z4 sDrive35is SLK350 AMG Sport TT RS Roadster S-tronic www.autocar.jp ACJ112_P082-089_roadtest_star.indd 89 89 12/07/17 1:00
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