ダイレクトブラック38 C34H25N9Na207S2 [CAS No. 1937

153
産衛誌43巻, 2001
6) Bos
5. 職業性がんの疫学
RP. Groenen MA. Theuws JL. Leijdekkers CM.
Henderson PT. Metabolism of benzidine-based dyes and
調査例はない.
the appe訂ance of mutagenic metabolites in urine of rats
6. 変異原性
after oral or i:ö.traperitoneal administration. Toxicology
本物質の経口投与 を受けた ラット およびマウス の尿か
1984; 31: 271-282.
ら は経口投与量に対応してベンジジンおよびその代謝物
1)
が 検出されている
応して尿中ベンジジン濃度の上昇(1 1---- 112 ppb) が認
め られ た 3) ま た 類似 物質 で ある ダ イ レ ク ト ブ ラック
ダイレクトブラック38
C34H25N9Na207S2
[CAS No. 1937-37・7]
発がん物質分類 第2群A
38に対する 曝露 を受けた作業者の尿からもベンジジン
)
が 検出されている4
1. 別名: C.1 30235, CJ.ダイレクトブラック38二ナト
本物質を含むベンジジン染料に対する曝露を受けてい
る 作業者では, 吸入総粉塵濃度(5 ---- 17 mg/m3) と対
ラットに本物質を経口投与 した 場合には 尿中に変異原
が排出されるが,
リウム塩
‘ger m-fr e e' の ラットに経口投与した
場合には尿は変異原性 を示さず5), ベンジジン生成には
2;外観:灰黒色の粉末. 分子量783.7
腸内細菌の関与が大きい と推定される .
4. 実験動物における発がん性
しかし 肝
9,000 g上清と癖置する とベンジジンの生成を認めるの
で肝の関与も無視出来ない 6)
7. 発が ん性 分類 の提案
1) ラット およびマウス はいずれ も 生体内で分解され
3. 用途:繊維類, 紙, 皮革などに用いる染料
雌ddマウス の跨脱に本物質10%含有パラフィンワッ
ク ス ペ レ ット(対照群は無添加) 20 mg を挿入し て40
週間飼育した実験では, 投与群の1/21 (対照群は1/36;
p > 0. 10)に勝脱 がんが 発生 し た 1)
てベンジジンを生じ, 本物質を含むベンジジン染
Wistra ラットを本物質を添加(500ppm) した飲み水
料に曝露された労働者でも尿中ベンジジン濃度が
で60 週飼育した実験では, 3/13に勝脱がん, 2/13に腸
上昇している(ベンジジンは第I群に 分類されて
脱乳頭腫, 3/13 に 肝細胞がん, 2/ 13 に 結 腸 の 腺 がんが
いる).
2)ラットを用いた小規模の実験で発がん性を示唆す
る所見が得られている.
発生 した(対照群では全が んに つ い て 0 /9 ) 2).
ICRマウス(性別不明)を本物質を添加(3,000ppm)
した飲み水で56 ないし60 週飼育した実験では, 46/59
以上の理由から, 本物質はヒト でも体内で生じるべン
に 肝細胞が ん, 20/59に乳がん(うち9/59では両種 の
ジジンを介しての発がん性を示す可能 性が大きいと判断
がんが発生) の発生を認 めた(対照群では両種 のがんと
も 0/20) 3 ).
し, 第2群Aに分類することを提案する.
. %(ベ
雌雄のFischer 344ラヅトに本物質〔純度 871
文
献
ンジジン含有量0.004%以下) ;主な不純物は食塩8%,
1) National Cancer Institute. 13・week subchronic toxicity
水7%Jを飼料に添加(0, 190, 375, 750, 1.500,
studies of Direct Blue 6. Direct Black 38 and Direct
3.000 ppm)して経口投与し13週目に屠殺検索した実験
Brown 95 dyes (NCI-CG-TR-108. DHEW Publication No
(NIH) 78・1358). Bethesda. Mn 1978.'
2) Robens JF. Dill GS. Ward JM;]oiner JR. Grièsemer RA.
では, 3,000ppm群で、は雌雄全個体が, また1.500ppm
群でも多数の個体が実験途中で死亡した. 実験終了時に
Douglas JF. Thirteen�week subchroniç toxicity studies of
生存した1.500ppm群では雄で4/9に 肝細胞がん, 5/9
Direct Blue .6. Direct Black 3S. and Direct Brown 95
に肝腺腫を認 めた. 雄 の孟375 ppm群, 雌の孟 750
dyes. Toxicol Appl Pharrnacûl 1980; 54: 4317442.
3) Lowry . LK. Tolos WP. Boeniger MF. Nony CR. Bowman
MC. Chemical monitoring of urine from workers poten­
tially exposed to benzidine-derived azo dyes. Toxicol Lett
1980; 7: 29-36.
ppm群では好塩基性病巣や細胞変性病巣 を認めた. 非
腫蕩性病変 としては投与量に対応して 門脈線維症, 肝壌
死,
リ ンパ ・ー 造血系 の萎縮な どが 観察され た. B6C3F1
マウスにo ---- 12.500 ppm添加飼料を13週投与した実験
4) Cerniglia CE. Zhuo Z. Manning BW. Federle TW. Heflich
では腫蕩性の変化 を認めず, 瀬漫 性肝細胞変性, 細胆管
RH. Mutagenic activation of the benzidine-based dye
増生, 牌 と腎で、のヘモジデリン沈着等を認めたのみであ
. )
った45
Direct Black 38 by human intestinal microflora. Mutat
Res 1986; 175: 11-16.
5) Bos RP. van der Krieken W. Smeijsters L. et αl. Internal
exposure of rats to benzidine derived from orally adrriin­
istered benzidine-based dyes after intestinal azo reduc­
tion. Toxicology 1986; 40: 207-213.
5. 職業性がん の疫学
調査例はない.
6. 変異原性
本物質の経口投与を受けたラット およびマウスの尿か
154
産衛誌43巻, 2001
dye and pigment. J Anal Toxicol 1980; 4: 63-67.
らは経口投与量に対応してベンジジンおよびその代謝物
が検出されている4) ゴールデン ・ハムスターに本物質
7) Lowry LK, Tolos WP, Boeniger MF, Nony CR, Bowman
を10mg/kg体重一回投与した 実験では, 尿中に投与量
tially exposed to benzidine-derived azo dyes. Toxicol Lett
の約10%がベンジンおよびその代謝物として回収され
た 6)
MC. Chemical monitoring of urine from workers poten­
1 980; 7: 29-36.
8) Dewan A, Jani JP, Patel JS, Gandhi DN, Variya MR,
本物質を含むベンジジン 染料に対する曝露を受けている
作業者では, 吸入総粉塵濃度(5
�
し て尿中 ベンジジ ン濃 度の上昇 ( 11
られた 7)
17mg/m3) と対応
Ghodasara NB. Benzidine and its acetylated metabolites
in the urine of workers exposed to Direct Black 38. Arch
Environ Health 1988; 43: 269-272.
112 ppb)が認め
9) Cerniglia CE, Zhuo Z, Manning BW, Federle TW, He畳ich
本物質を合成している作業者の尿からはベンジジンお
Direct Black 38 by humaIi intestinal rrücro丑ora. Mutat
よびその代謝物が検出された 8)
�
さらに本物質とヒトの
大使とを培養した 試験管内実験ではベンジジンの生成が
確認された 9)
ラットに本物質を経口投与すると尿中に
変異原が排出されるが,
‘germ-rf èe' のラットに経口投
与 し た場合には尿は変異原性を示さず10), ベンジジン
RH. Mutagenic activation of the benzidine-ba.sed dye
Res 1986; 175: 11-16.
10) Bos RP, van der Krieken W, Smeijsters L, et al. Internal
exposure of rats to benzidine derived企om orally admin­
istered benzidine-based dyes after intestinal azo reduc­
tion. Toxicology 1986; 40: 207-213.
11) Bos RP, Groenen MA, Theuws JL, Leijdekkers CM,
生成には 腸 内細菌の関 与が 大 き い と 推定 さ れる. し か し
Henderson PT. Metabolism of benzidine-based dyes and
肝9,000 g上清と鮮置するとベンジジンの生成を認める
the appearance of mutagenic metabolites in urine of rats
ので肝の関与も無視出来ない11)
after oral or intraperitoneal administration. Toxicology
7 . 発が ん性分類の提案
1984; 31: 271-282.
1) ヒト, ラ ッ ト およびマ ウス で い ずれ も 生体内で分
ダイレクトブルー6
C32H20N9Na4014S4
[CAS No. 2602-46回2]
発がん物質分類 第2群A
解され て ベンジ ジ ン を 生 じ る ( ベン ジジ ン は 第 1
群 に 分類され ている) .
2) ラットを用 いた小規模の実験で、発がん'性を示唆す
る所見が得られて いる.
以上の理由から, 本物質はヒトでも体内で生じるベン
ジジンを介しての発がん性を示す可能性が大きいと判断
し, 第2群Aに分類することを提案する.
1. 別名: C.I. 22610, C.I.ダイレクト ブル�6四ナト リ
ウム塩
2. 外観:青紫色の粉末. 分子量936.8
文
献
1)新津和良. 食用および直接染料アゾ色素の代謝と発癌性に
関する研究(第2編)直接アゾ染料Direct Blué BBおよび
Black EXの代謝と発癌性に関する検討. 東京慈恵会医科
大学雑誌1973; 88: 467-471
2)岡島英五郎, 平松 侃,伊集院真澄,松島
3. 用途:繊維類, 紙, 皮革などに用 いる染料
4. 実験動物に お け る発が ん性
雌雄の F isc her 3 44 ラッ ト
に本物質 (純度59 9. % (ベ
ン ジジン含有量0 0
. 04%以下) ;主な不純物は食塩21%,
水9%Jを飼料に添加(0, 190, 375, 750, 1,500,
進, 山田 薫,
荒井昌之. ベンチヂン系染料Direct Deep. . Bláck EXの経
3,000 ppm) し て経口投与 し , 投与開始後13週日に屠殺
口投与によるラットの多発性腫蕩. 医学のあゆみ1975; 92:
検索した 実験では, 3,000 ppm群の雌雄全個体およぴ
291-292.
1,500ppm群の雄1/10 が実 験途中で死亡した .
3) Asada 1, Matsumoto Y, Tobe T, Yoshida 0, Miyakawa
M. Induction of hepatoma in mice by Direct Deep Black
Extra (DDB-EX) and occurrence of serum AFP. Arch
Jpn Chir 1981; 50: 45-55.
4) National Cancer Institute. 13-week subchronic toxicity
3,000 ppm群では雄の1/9, 雌の7/9に肝細胞腫蕩を認
め, うち雌で は 4/7 が肝細胞がんであった. また
1,500ppm群では雄の8/10に肝細胞腫蕩を認め, うち
2/8は肝細胞がんであった. 投与量に対応して, 肝細胞
studies of Direct Blue 6. Direct Black 38 and Direct
の変 性, 胆管線維症, 門脈線維症およびリンパ造血系の
Brown 95 dyes (NCI-CG-TR・108, DHEW Publication No
萎縮等を認めた. B6C3F1マウスにo
12,500 ppm 添加
飼料を13週投与した実験では腫蕩性の変化を認めず,
(NIH) 78-1358), Bethesda, MD. 1978.
5) Robens JF, Dill GS, Ward JM, Joiner JR, Griesemer RA,
Douglas JF. Thirteen-week subchronic toxicity studies of
Direct Blue 6, Direct Black 38, and Direct Brown 95
�
高濃度群で腎および、牌のヘモジデリン沈着等の非腫蕩性
変 化 を 認 めた のみであ った 1 )
雌ddマウスの跨脱に本物質10%含有パラフインワッ
dyes. Toxicol Appl Pharmacol 1980; 54: 431-442.
6) Nony CR, Bowman MC. Analysis, puri五cation . and sta­
クスペレット(対照群は無添加) 20mgを挿入して40
bility: Requirements for a metabolism stùdy of an azo
週間飼育した実験では, 投与群の3/21 (対照群は1/36)