再帰型フィルタ

Forcing 入門
2015 年 10 月 17 日 (05:33) 版
渕野 昌(神戸大学,[email protected])
本稿は,2007 年 9 月 4 日∼9 月 6 日 静岡大学にて開催された 2007 年数学基
礎論サマースクールでの講義の講義録の拡張版である.
著者は 2010 年度後期に神戸大学で集合論の(自主)講義を行なっているが,
本稿はこの講義の講義録の作成に向けての中間バージョンのようなものに
なっている.
このテキストの最新版(201?年中に最終的な講義録を(LATEX ファイルを新
しく書きおこして)作成するまでの期間,何度も補足拡張する可能性があ
る)は,
//http://fuchino.ddo.jp/shizuoka/forcing2010.pdf
としてダウンロードできる*1 .
*1
本文中の図式や絵などは主に WinTpic Ver.3.08 により作成した.
1
At the same time, always, overhead, there is the
eternal, negative radiance of snows. Beneath is
life, the hot jet of the blood playing elaborately.
But above is the radiance of changeless not-being.
And life passes away into this changeless radiance. · · ·
D.H.Lawrence:
Twilight in Italy (1930)
M [G]
G
M
P
OnM = OnM [G]
2
目次
前提知識の復習
........................................................
Posets と generic フィルター
...........................................
generic 拡大を用いた相対的無矛盾性証明のアウトライン
強制関係
12
..............................................................
14
M [G] での基数
........................................
22
........................................................
24
Posets の典型的な例のうちのいくつか
...............................
28
............................................................
30
ω1-スケールの存在
参考文献
6
............
M [G] は ZFC のモデルである
連続体仮説
4
....................................................
31
..............................................................
34
ここのテキストは,2015 年 10 月 17 日 (05:33) の時点での不完全なバージョンである.特に,
「強制関係」以降の節で
はアウトラインしか書かれていない部分が多い.更に拡張されたヴァージョンは,講義を行う時点には用意されてい
て,前ページに記した web ページからダウンロードできる予̇定̇である.
3
*2
前提知識の復習
集合論の公理系 ZFC. ZFC は要素記号 ∈ を唯一の非論理記号とする1階の
論理(L∈)の(無限個の)論理式(公理)の集まり(公理系)として導入
される.
ZFC の公理系は,外延性の公理,空集合の公理,対の公理,和集合の公理,
冪集合の公理,無限公理,分離公理,置換公理,基礎の公理,選択公理 か
らなる.— このうち,分離公理 と 置換公理 が無限個の論理式の集まりとし
て表現されている.
以下,ZFC の十分に大きな有限部分というときには,分離公理と置換公理
の論理式うちの(十分に沢山の)有限個と 残りの有限個の公理全部 を集め
たものとする.“十分に大きな” は,後で必要となる公理はすべて含まれて
いるというほどの意味である.
集合 X が 推移的 (transitive) とは,任意の x ∈ X と y ∈ x に対し,y ∈ X
が成り立つことである.
定理 1 T を ZFC の十分に大きな有限部分とするとき,可算で推移的な
集合 M で M |= T となるものが存在する*3 .
*2
必要な前提知識は,例えば,渕野 [4] に細説した内容でカヴァーできるはずである.自分で書いたものを引用するのも気がひ
けるが,[4] は,まさにこの講義のような,ほんの少しアドバンストな講義のベースとして使える,ということも視野に入れて書
いたものなので,以下の脚注の補足では,この本との対応がつくようにしている.
集合 X を構造としてとらえるときには,ここでは,何も言わないときには, 構造 hX, ∈i = hX, ∈ ∩ X 2 i を考えている.構
造 A とその言語上の論理式 ϕ に対し,A |= ϕ は「A で ϕ が成り立つ.
」をあらわす.“A |= ϕ” は論理式 ϕ の複雑さに関する帰
納法によって導入できる.A |= ϕ0 , . . . , ϕn−1 のとき,A は,ϕ0 , . . . , ϕn−1 のモデルである,という.
(一般には有限個とは限らな
い個数の)閉論理式からなる公理系 T に対する “A |= T ” “A は T のモデルである” 等も同様に定義する.
*3
定理 1 での “ZFC の十分に大きな有限部分” は,meta-mathematics での,この公理系の本当の有限部分のことである.つま
り,この定理は,“ZFC の十分に大きな有限部分” の各々に対して formulate された定理を束ねた metha theorem である.
“ZFC の十分に大きな有限部分” を ZFC の中で言っているものだとすると,このことから ZFC の無矛盾性が ZFC の中で証
明されてしまうことになり,不完全性定理に抵触する.一方,この定理で “ZFC の有限部分” を “ZFC から冪集合公理を除いた
もの” で置き換えたものは正しい(たとえば,H(ℵ2 ) から出発して定理 1 の証明の後半のように議論すればよい).
4
証明. T = {ϕ0, . . . , ϕn−1} とする.論理式 ϕT ≡ ϕ0 ∧ · · · ∧ ϕn−1 は T と同
値になることに注意する.
反映の原理*4 により,α ∈ On で (Vα |= ϕT ) ↔ ϕT の成り立つようなものが
存在する.ZFC ` ϕT だから, Vα |= ϕT である.
Löwenheim-Skolem の定理*5 を使うと,Vα の可算な初等部分構造 M0 がと
れる.特に M0 |= ϕT である.
上の約束から T は外延性の公理を含む.したがって,M0 = (M0, ∈) は外
延的で,基礎の公理から ∈ ∩(M0)2 は整順的だから,Mostowski の 崩壊補
題 (Collapsing Lemma)*6 により,M0 と同型で推移的な M がとれる.特に
M |= ϕT だから,M は T のモデルである.
(定理 1)
L∈ 論理式が ∆0-論理式である,ということを以下のように再帰的に定義
する:
(ℵ1) ‘x ∈ y’, ‘x = y’ は ∆0-論理式である;
(ℵ2) ϕ, ψ が ∆0-論理式なら,¬ϕ, ϕ ∧ ψ, も ∆0-論理式である;
(ℵ3) ϕ が ∆0-論理式なら,(∃x ∈ y)ϕ も ∆0-論理式である*7 .
ある L∈-論理式 ϕ が ∆ZF
0 -論理式 であるとは,ある ∆0 -論理式 ψ が存在し
反映の原理 ([4] の定理 3.7)ϕ を L∈ -論理式として,ϕ0 ,. . . , ϕn−1 を ϕ の部分論理式の全体(ϕ 自身も含む)とする.こ
のとき,順序数のクラス Cϕ を Cϕ = {α ∈ On : すべての i < n に対し ϕi は Vα 上で絶対的となる } と定義すると,Cϕ は閉非
有界な部分クラスを含む.
*4
Löwenheim-Skolem の定理(のある程度一般化されたヴァージョン) A = hA, · · · i を可算な言語 L を持つ構造とする.任
意の無限集合 X ⊆ A に対し,X と濃度の等しい A の初等部分構造 B が存在する.
*5
B = hB, · · · i が A の初等部分構造である (記法: B ≺ A) とは,B は A の部分構造で,任意の L-論理式 ϕ(x0 , x1 , . . .) と B の
要素 b0 , b1 , . . . に対し,B |= ϕ(b0 , b1 , . . .) ⇔ A |= ϕ(b0 , b1 , . . .) が成り立つことである.
*6
Mostowski の崩壊補題 ([4] の定理 2.29) E を集合 X 上の外延的で整順的な関係とする.このとき,推移的な集合 M と
∼
=
写像 π : X → M で,π : hX, Ei → hM, ∈i となるものが一意に存在する.
ここで,X 上の二項関係 E が整順的とは,X の任意の部分集合に E に関して極小元となるような要素が存在すること.X 上の
二項関係 E が外延的とは,{u ∈ X : uEx} = {u ∈ X : uEy} → x = y がすべての x, y ∈ X に対し成り立つことである.ここ
での主張は,Mostowski の崩壊補題を (M0 , ∈) に適用することで得られる.M0 |= “ 外延性公理 ” により,∈ は M0 上外延的で
あることに注意する.
*7
(∃x ∈ y)ϕ は ∃x(x ∈ y ∧ ϕ) の略記である.
5
て,ZF ` ϕ ↔ ψ が成り立つこと,とする.ϕ が ∆ZF
0 -論理式で,上のよう
な ∆0-論理式 ψ に対し,ZF の有限部分 ZF0 に対し,ZF0 ` ϕ ↔ ψ が成り立
つとき,ZF0 を ϕ が ∆ZF
0 であることの witness とよぶことにする.
ZF
ある L∈-論理式 ϕ が ∆ZF
1 -論理式 であるとは,ある ∆0 -論理式 ψ と η が
存在して,ZF ` ϕ ↔ ∃x0 · · · ∃xm−1ψ と ZF ` ϕ ↔ ∀x0 · · · ∀xn−1 η が成り立
つこととする.ϕ が ∆ZF
1 -論理式であることの witness も上と同様に定義す
る.ただし,ϕ が ∆ZF
1 -論理式であることの witness は上のような ψ と η が
∆ZF
0 -論理式であることの witness を部分集合として含んでいるものとする.
M を集合として,L∈-論理式 ϕ = ϕ(x0, ..., xn−1) が M 上 absolute であると
は,すべての a0 ,..., an−1 ∈ M に対し,M |= ϕ(a0, ..., an−1) ↔ ϕ(a0, ..., an−1)
が成り立つこととする.
補題 ℵ 1 M を推移的な集合とするとき,
(a) ϕ が ∆0-論理式なら, ϕ は M 上 absolute である.
ZF
(b) ϕ が ∆ZF
0 -論理式で,ϕ が ∆0 -論理式であることの witness を M が満
たすなら,ϕ は M 上 absolute である.
ZF
(c) ϕ が ∆ZF
1 -論理式で,ϕ が ∆1 -論理式であることの witness を M が満
たすなら,ϕ は M 上 absolute である.
以下では,
「 M は十分に大きな ZFC の有限な部分体系のモデルである」と
いうステートメントを,M |≈ ZFC であらわすことにする.
Posets と generic フィルター*8
強制法の細部は,主に Kunen [9] に従っている.P-名称にドットをつける記法は(多分) Baumgartner [1] で導入されたも
のである.
*8
6
最大元を持つ擬順序集合*9 を poset とよぶ.P = (P, ≤P ) が poset のとき,
P の最大元を 1lP であらわす.
poset P に対し,クラス V P を次のような再帰により定義する.
(1)
x ∈ V P ⇔ すべての y ∈ x に対し,z ∈ V P と p ∈ P で,y = hz, pi
となるものがとれる*10 .
M を ZFC の(十分に大きな有限部分の)推移的なモデルとする.P ∈ M
で M |= “ P は poset である ” とする*11 .特に,ここでの「ZFC の十分に大
きな有限部分」は上のような V P の再帰的定義に必要な ZFC の公理をすべ
て含んでいるとする.このとき,(V P)M を*13 ,M P とあらわす.x ∈ V P が
P
P
∆ZF
1 -論理式であることから,M = V ∩ M である.
V P (M P)の要素を P-名称 (P-name)とよぶ.P-名称はドットつきの記
号 ȧ, ḃ, ẋ などであらわすことにする*14 .
P を poset とするとき, p, q ∈ P が 共存可能 (compatible) とは,r ∈ P
で r ≤P p, q となるものが存在すること.共存可能でないとき 共存不可能
(incompatible) であるという.
G ⊆ P が P (上の)フィルター (filter) であるとは,次の (2), (3) が成り
立つこととする:
P = (P, ≤P ) が擬順序 (preorder or quasi-order) とは, ≤P が反射律と推移律を満たすことである.つまり,すべての p, q,
r ∈ P に対し,p ≤P p, p ≤P q ∧ q ≤P r → p ≤P r が成立することである.
*9
このような V P を構成するには,たとえば,α ∈ On に対する帰納法で,V P ∩ Vα を定義してゆけばよい.On 上の(超限)
帰納的構成については,[4] の定理 2.23 とその前後を参照されたい.このような再帰的定義で導入されたクラス S について,そ
ZF
の定義に現れる性質が ∆ZF
1 -論理式で書けるなら,x ∈ S も ∆1 -論理式となる.
*10
実は,“P = (P, ≤P ) は poset” は ∆0 -論理式で表現できるので*12 ,この条件は,P が(V で本当に) poset である,という
ことと同値である.
*11
*12
∆0 -論理式と,その推移的なモデルでの絶対性については,[4] の補題 3.3 の前後を参照.
クラス S が(パラメタを含む) ∆ZF
1 -論理式 ϕ(x) により,S = {x : ϕ(x)} として導入されている,とする.このとき M を,
ϕ(x) のパラメタを含んでいる,
(ϕ が ∆ZF
1 -論理式であることの witness を部分集合として含むような ZFC の有限部分の)推移的
なデルとする.このとき 補題 1 により,S M = {x ∈ M : M |= ϕ(x)} である.
*13
*14
下つきティルデのついた記号 a , b, x などを P-名称に用いる(S. Shelah の)流儀もある.
∼
∼
∼
7
(2)
1lP ∈ G で,G は上方向に閉じている*15 .
(3)
p, q ∈ G なら,p と q は共存可能で,r ∈ G で,r ≤P p, q となるも
のが存在する.
1lP
p
q
P
r
G
P を poset とするとき,D ⊆ P が(P で)稠密(dense)とは,すべての
p ∈ P に対し,q ∈ D で q ≤P p となるものが存在することとする.
1lP
P
p
q
D
M を ZFC の(十分に大きな有限部分の)推移的なモデルとして*16 ,P ∈ M ,
M |= “ P は poset ” とする.このとき G が (M, P)-generic 集合 とは,
(4)
G の任意の 2 つの元は共存可能である.
(5)
D ∈ M で M |= “ D は P で稠密 ” なら,D ∩ G 6= ∅ である.
G が,(M, P)-generic 集合で,P で上方向に閉じているとき*17 ,G は (M, P)*15
つまり,q ∈ G で q ≤P p なら,常に p ∈ G となる.
*16
以下の議論では M と書いたときには,M は,常に ZFC の(十分に大きな有限部分の)推移的なモデルとなっているとする.
“十分に” は,文脈によって異なる意味を持つが,それについては,毎回は注意しない.
つまり,すべての p ∈ G に対し,q ∈ P ∩ M で p ≤P q なら,q ∈ G である,ということであるが,M は推移的なので,
“q ∈ P ∩ M ” という条件は,ここでは q ∈ P と同値である.
*17
8
generic フィルター であるという*18 .
補題 2 G が (M, P)-generic フィルターなら G はフィルターである.
証明. G を (M, P)-generic フィルターとする.G が (2) を満たすことは,
generic フィルターの定義によりよい.したがって,G が (3) を満たすこと
を確かめればよい.
x, y ∈ G として,M の中で,
D = {r ∈ P : r ≤P x, y であるか,または,
r は x か y のうちの少なくとも 1 つと共存不可能 }
とすると,D ∈ M で,M |= “ D は P の稠密部分集合である ” が成り立
つ*19 .
したがって,G が (M, P)-generic フィルターであることから, G ∩ D 6= ∅
となる.r ∈ G ∩ D とすると,(4) により,r は x とも y とも共存可能だか
ら,D の定義から r ≤P x, y である.
(補題 2)
補題 3 M が可算なら,任意の p ∈ P に対し,p を含む (M, P)-generic フィ
ルターが存在する.
証明. M を外からながめて議論する.
D = {D ∈ M : M |= “ D は稠密 ”} とすると,D ⊆ M だから(M の外か
ら見たとき)D は可算である.そこで D = {Dn : n ∈ ω} と枚挙する*20 .
各 Dn が P で稠密であることから,P の要素の下降列
定義から,G が (M, P)-generic set なら,G0 = {p ∈ P : ある q ∈ G に対し,
q ≤P p} は (M, P)-generic フィルターになるこ
とがわかる.
*18
M の中で議論する.u ∈ P を任意にとる,もし r ≤P u で,x か y のうちの少なくとも 1 つと共存不可能なものがとれるな
ら,r ∈ D である.そのようなものがなければ,特に u は x と共存可能だから,r0 ≤P u で r0 ≤P x となるものがとれる.仮定
から r0 は y と共存可能だから,r ≤P r0 で r ≤P y となるものがとれる.このとき,r ≤P x, y だから,r ∈ D である.
*19
*20
もちろん,この枚挙は,一般には M の外で行われている.
9
· · · ≤P pn+1 ≤P pn ≤P
· · · ≤P p2 ≤P p1 ≤P
p0 = p
で,すべての n ∈ ω に対し,pn+1 ∈ Dn となるようなものがとれる.この
とき G = {pn : n ∈ ω} は (M, P)-generic 集合である.
したがって,G0 = {p : ある q ∈ G に対し q ≤P p} は (M, P)-generic フィル
(補題 3)
ターとなる.
後に出てくる具体的な P に対する (M, P)-generic 集合 G の構成では, 常に
G 6∈ M となる.これは,以下の補題による:
補題 4 P が
(6) すべての p ∈ P に対し,互いに共存不可能な q, q 0 ≤P p が
存在する.
を満たすとき,任意の (M, P)-generic 集合 G は M の要素でない.
証明. G ∈ M と仮定して矛盾を示す.
G ∈ M とすると,D = P \ G も M の要素である*21 .
(6) により D は P の稠密な部分集合になる*22 .
したがって,G の generic 性から,D ∩ G 6= ∅ とならなくてはならない.
(補題 4)
これは矛盾である.
P ∈ M を poset として,G を P 上のフィルターとする.P-name ẋ ∈ V P に
対し,ẋ の G による解釈 ẋG を次のようにして再帰的に定義する*23 :
これは,M が ZFC の十分に大きな有限部分のモデルになっていること,と,M での意味の P \ G が(もし存在すれば) M
の外で見たときの P \ G と一致することによる.
*21
p ∈ P とすると,(6) により 互いに共存不可能な q, q 0 ≤P p が存在する.q と q 0 の両方が G に入ることはありえないから,
たとえば q 6∈ G とすれば,q ≤P p で, q ∈ D である.
*22
rank(x) = µα(x ∈ Vα+1 ) に関する(超限)帰納的定義により構成すればよい.このような帰納的構成法や rank に関する帰
納法を,以降 “∈-induction”, “∈ に関する帰納法” などとよぶことにする.
*23
10
(7)
ẋG = {u̇G : ある p ∈ G に対し, hu̇, pi ∈ ẋ}.
M を ZFC の十分に大きな有限部分の推移的なモデルとして,P ∈ M を
poset とし,G を (M, P)-generic フィルターとする.このとき,
M[G] = {ẋG : ẋ ∈ M P}
とする.M [G] は M の G による generic-拡大とよばれる.
以下の補題 5, 補題 6, 補題 7 で示される M [G] の基本性質は,p.2 にあるよ
うなポンチ絵に表現できる.
補題 5 M ⊆ M [G] で,G ∈ M [G] である.
証明. 各集合 x に対し,x の標準的な P-名称 x̌ を次のように再帰的に定義
する*24 : x̌ = {hǔ, 1lP i : u ∈ x}.
このとき,P 上の任意のフィルター G に対し,1lP ∈ G だから,
(8)
すべての P 上のフィルター G とすべての集合 x に対し,x̌G = x が
成り立つ.
が,∈ に関する帰納法により示せる.
x ∈ M なら,x̌ ∈ M だから*25 ,x = x̌G ∈ M [G] である.
P 上の generic-フィルターの標準的な P-名称 Γ を,Γ = {hp̌, pi : p ∈ P} と
定義する*26 と,P ∈ M だから,Γ ∈ M である*26 .
*24
∈-induction による.
このような Γ を Ġ と表すことも多い.“(M, P)-generic な G” が,たくさんあるそのような G の 1 つ,であるのに対し,Γ
(あるいは Ġ )は P ごとに 1 つに固定された P-名称であることに注意する.
*26
*26
ここでも M が ZFC の(十分に大きな有限部分の)推移的なモデルである,という仮定が用いられている.
11
(8) と P-名称の解釈の定義から,ΓG = G となることがわかるので,G =
ΓG ∈ M [G] である*26 .
(補題 5)
補題 6 M [G] は推移的で,OnM = OnM [G] である.
証明. M [G] が推移的であることを示すために,x ∈ M [G], y ∈ x とする.
x = ẋG となる ẋ ∈ M があるが,ẋG の定義から,ある,hẏ, pi ∈ ẋ で p ∈ G
となるものに対し,y = ẏ G となる.M は推移的だから,ẏ ∈ M である.し
たがって,y = ẏ G ∈ M [G] である.
M [G] が推移的で,補題 5 により M ⊆ M [G] であることから,OnM ⊆
OnM [G] がわかる.
すべての ẋ ∈ M P に対し,rank(ẋG ) ≤ rank(ẋ) となることが,∈ に関する
G
帰納法により示せる.x = rank(y) は ∆ZF
1 だから,rank(ẋ ) ≤ rank(ẋ) =
rank(ẋ)M ∈ M となる.したがって,OnM ⊇ OnM [G] である.
(補題 6)
補題 7 N を M ⊆ N で G ∈ N となるような,ZFC の(十分に大きな有
限部分の)推移的なモデルとするとき,M [G] ⊆ N である.
証明. ẋ ∈ M なら,ẋG = (ẋG )N ∈ N である.
(補題 7)
generic 拡大を用いた相対的無矛盾性証明のアウトライン
ある数学的命題 ϕ が ZFC 上で相対的無矛盾*27 であることを示すためには,
次の (9), (10) が確立できれば十分である:
*27
ある主張 ϕ が体系 ZFC 上で相対的無矛盾であるとは,“ZFC が無矛盾なら ZFC + ϕ も無矛盾である” という主張が(有限
の立場で)証明できることである.ただし,ZFC + ϕ は体系 ZFC の公理の全体に ϕ (に対応する閉論理式)を付け加えて得られ
る体系のことである.
12
(9) ∆ を任意の ZFC の有限部分とするとき,十分に大きな,有限な Γ ⊆
ZFC をとれば,Γ の可算な推移的モデル M の(任意の poset P ∈ M
による)generic 拡大 M [G] は ∆ のモデルとなる*28 .
(10) ある定義によって規定される poset P を (9) でのような M でとると
き,任意の (M, P)-generic フィルター G に対し,M [G] |= ϕ が常に成
り立つ.
(9) と (10) から ZFC + ϕ の ZFC 上の相対的無矛盾性が得られることは,次
のようにして見ることができる:
ZFC + ϕ が矛盾するとすると,ZFC の有限部分 ∆ で,∆ + ϕ が矛盾するよ
うなものがとれる.つまり,∆ ` ¬ϕ である.
一方,この ∆ に対して,(9) でのような Γ をとり,Γ のモデルになっている
ような推移的な可算モデル M をとって,(10) でのような P ∈ M を用いて
generic 拡大 M [G] をとれば,M [G] |= ϕ となるが,(9) により,M [G] |= ∆
なので,M [G] |= ¬ϕ である.これは矛盾である.
ここでの議論により,
「ZFC + ϕ が矛盾するとすると,そのことを示す証明
P から,ZFC の矛盾を示す証明 P 0 が作れる」ことがわかる.つまり,
「ZFC
が矛盾しなければ ZFC + ϕ も矛盾しない」ことが示せたことになる*29 .
(9) と (10) の確立のためには,これらより若干すっきりとした形をしてい
る,次の (9’) と (10’) の証明が得られれば十分である*31 :
*28
(9) は ϕ に依存しない強制法の一般的な事実である.
ここで,(9) と (10) の証明が具体的に得られれば,P から P 0 への変形も(原理的には*30 )具体的な手続きとして与えるこ
とができる,したがって,ここでの相対的無矛盾性の証明は純粋に有限の立場でのそれである.
*29
*30
つまり,証明を実際に形式的な体系で (machine-readable な形で) 書きだすことをしたとすれば.
*31
(9’) と (10’) から (9) と (10) が導けることは,次の事実を思い出せば明らかである: ある理論 T から命題 ϕ が証明されてい
13
(9 ’ ) 任意の ZFC の可算な推移的モデル M の(任意の poset P ∈ M によ
る)generic 拡大 M [G] は ZFC のモデルとなる*32 .
(10 ’ ) ある定義によって規定される poset P を,ZFC の可算な推移的モデル
M でとるとき,任意の (M, P)-generic フィルター G に対し,M [G] |= ϕ
が常に成り立つ*33 .
(9’) と (10’) の証明には,強制関係(forcing relation; 記号: k– “ · · · ”)とよ
ばれる,以下で導入される ZFC で定義可能な関係(の族)が用いられる.
強制関係
L∈-論理式 ϕ = ϕ(x0, ..., xn−1) ごとに,poset P, p ∈ P と P-名称 ȧ0,. . . , ȧn−1
に対し,p k– P “ ϕ(ȧ0 , ..., ȧn−1) ” (が成り立つ*34 )という述語 ――
強制関係 (forcing relation) を(ϕ の構成に関する帰納法により*35 )以下
のようにして定義する.
ここで目標としているのは,· k– · “ ϕ(·, ..., ·) ” が各 ϕ ごとに実際に定義でき,
以下の定理 9, 定理 10 が成り立つことである*36 .
まず,ϕ が x0 = x1 の形をしている場合について,強制関係を再帰的に定
るとには,ϕ の T からの証明 P が具体的に与えられているわけだが,P は記号列の有限の集まりなので,T の公理のうち P に
あらわれるものは有限個しかない.それらを集めたものを T 0 とすれば P は ϕ の T 0 からの証明でもある.
(9’) は,ZFC の一つ一つの公理 ψ に対して “· · · M [G] は ψ のモデルとなる” を主張している定理を集めた meta theorem
である.
*32
ここでも,(10’) では, ϕ が与えられるごとに,
「ある定義」をうまく設定して,それを満たす P に対する対応する主張の証
明を,個別に見つける必要がある.
*33
*34
“p forces ϕ(ȧ0 , ..., ȧn−1 )” あるいは,“p は(が)ϕ(ȧ0 , ..., ȧn−1 ) を force する” などと読み下される.
*35
ここでの ϕ の構成に関する帰納法は集合論の体系の外側の(超数学 (meta-mathematics) の)レベルで行われていることに注
意する.
ここでは V P や V [G] の定義や · k– · “ ϕ(·, ..., ·) ” の定義は Kunen [9] に従っているが,定理 9 などの基本性質が成り立つ限
りにおいては,別の定義を採用してもかまわない.むしろ,V P や · k– · “ ϕ(·, ..., ·) ” の構成法は隠しておき,これらの満たすべき
性質から axiomatic に強制法を導入した方がエレガントとも言える.しかし,実際には,これらのか̇ら̇く̇り̇を 1 つ固定しておき,
それも活用して議論する,という “泥臭い” やり方の方が,小回りのきく議論ができる場合も多いように思える.
*36
14
義する.
(11) p k– P “ ȧ0 = ȧ1 ” ⇔
(α) すべての hḃ0, p0i ∈ ȧ0 に対し,
{q ≤P p : q 6≤P p0 ∨ ∃hḃ1, p1i ∈ ȧ1 (q ≤P p1 ∧ q k– P “ ḃ0 = ḃ1 ”)}
は p 以下で稠密となり,かつ,
(β) すべての hḃ1, p1i ∈ ȧ1 に対し,
{q ≤P p : q 6≤P p1 ∨ ∃hḃ0, p0i ∈ ȧ0 (q ≤P p0 ∧ q k– P “ ḃ0 = ḃ1 ”)}
も p 以下で稠密となる.
(11) は,
(P をパラメタとした) V P × V P 上の整順的な関係
(ℵ4) hḃ0, ḃ1i R hȧ0, ȧ1i ⇔
ある r ∈ P に対し hḃ0, ri ∈ ȧ0 かつ,ある s ∈ P に対し hḃ1, si ∈ ȧ1
に関する超限帰納法により定義できる. (11) の (ℵ4) による帰納的定義の
はじめは p k– P “ ∅ = ∅ ” に対するものであるが,∅ が要素を持たないことか
ら,これに対しては (α) も (β) も無内容的 (vacuously) に成り立つことに注
意する.
D ⊆ P が p ∈ P 以下で稠密とは,すべての q ≤P p に対し,r ∈ D で r ≤P q
となるものが存在することである.
P ↓ p = {s ∈ P : s ≤P p}
とすると,D ⊆ P が p ∈ P 以下で稠密とは,D ∩ (P ↓ p) が P ↓ p で(p.8
の意味で)稠密であること,ということもできる.
1lP
p
q
r
15
P
P↓p
また,D が(p.8 の意味で) P で稠密とは,D が 1lP 以下で稠密と言いなお
すこともできる.
“D が p 以下で稠密” という概念の,ここの文脈での意義は,次の補題が成
り立つことである:
補題 ℵ 2 M を ZFC の推移的モデルとして,P ∈ M を poset とする.G を
(M, P)-generic フィルターとして,p ∈ G で D ∈ M , D ⊆ P は p 以下で稠
密とする.このとき,G ∩ D 6= ∅ である.特に,q ≤P p で q ∈ G ∩ D とな
るものがとれる.
証明. M で,
D̃ = (D ∩ P ↓ p) ∪ {q ∈ P : q は p と共存不可能 }
とすると,D̃ は P で稠密となる.したがって,G の (M, P)-generic 性から,
q ∈ G ∩ D̃ がとれる.このとき p も q も G の元だから,これらは共存可能
となるので D̃ の定義から,q ∈ D ∩ P ↓ p となることがわかる.特に q ≤P p
で q ∈ G ∩ D である.
(補題 ℵ 2)
強制関係の ϕ の構成に関する帰納法による定義にもどる:
(12) p k– P “ ȧ0 ∈ ȧ1 ” ⇔
{q ∈ P : ∃hḃ, ri ∈ ȧ1 (q ≤P r ∧ q k– P “ ḃ = ȧ0 ”)} は p 以下で稠密.
(13) p k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ∧ ψ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” ⇔
p k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” かつ p k– P “ ψ(ȧ0, ..., ȧn−1) ”
(14) p k– P “ ¬ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” ⇔
どの q ≤P p に対しても q k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” とならない
16
(15) p k– P “ ∃x0ϕ(x0, ȧ1, ..., ȧn−1) ” ⇔
{r ∈ P : ∃ȧ0 ∈ V P(r k– P “ ϕ(ȧ0, ȧ1, ..., ȧn−1) ”)} は p 以下で稠密.
(11) と (12) の形から,強制関係は,原子論理式に対しては M 上絶対的であ
ることがわかる.同様に,(13)∼(15) を見ると,束縛された論理式 (bounded
formula) に対する強制関係も M 上絶対的であることがわかる.
次の補題は · k– · “ ϕ(·, ..., ·) ” の定義から容易に導ける:
補題 8 (Lemma 3.4 in Ch.VII of Kunen [9]) 次は同値である:
(a) p k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ”.
(b) ∀r ≤P p (r k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ”).
(c) {r ∈ P : r k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ”} は p 以下で稠密.
証明. (b) ⇒ (a), (b) ⇒ (c) は自明である.
(a) ⇒ (b): p k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” で r ≤P p なら,r k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” と
なることを,ϕ の構成に関する帰納法で証明する*37 :
ϕ が x0 = x1 の場合には,(11) と,
(ℵ5) D ⊆ P が p 以下で稠密で q ≤P p なら D は q 以下で稠密である.
より明らか.他の場合も同様である.
(c) ⇒ (a): {r ∈ P : r k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ”} が p 以下で稠密なら,
p k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” となることを, ϕ の構成に関する帰納法で証明する.
(ℵ6) D1, D2 ⊆ P で,D1 は p 以下で稠密,かつ,各 q ∈ D1 に対し D2 は
q 以下で稠密なら D2 は p 以下で稠密である.
*37
ここでの帰納法も,ZFC の中でのものではなく,ZFC の(証明の形式的)体系を外側から見たときの帰納法である.
17
に留意すると,(11) と (12) から ϕ が x0 = x1 または x0 ∈ x1 の場合につい
ての証明が得られる.他の場合についてはほとんど自明である.
(補題 8)
定理 9 (Theorem 3.5 in Ch.VII of Kunen [9]) ϕ = ϕ(x0, ..., xn−1 ) を L∈-論
理式として,M を推移的な ZFC のモデルとし(可算でなくてもよい),
P を poset で P ∈ M となるものとし,ȧ0,..., ȧn−1 ∈ M P とする.G を
(M, P)-generic フィルターとするとき,次が成り立つ:
(i) p ∈ G で M |= “ p k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” ” なら,
M [G] |= ϕ((ȧ0)G, ..., (ȧn−1)G) である.
(ii) M [G] |= ϕ((ȧ0)G, ..., (ȧn−1)G) なら,
p ∈ G で M |= “ p k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” ” となるものが存在する.
証明. ϕ の構成に関する帰納法で証明する.
以下では,おおむね M の中で議論する*38 .
(a) まず ϕ が x0 = x1 の形をしている場合について,(i) と (ii) を (ℵ4) の R
に関する帰納法で(同時に)示す.
このために,ȧ0, ȧ1 を P-名称として, hḃ0, ḃ1i R hȧ0, ȧ1i となる P-名称 ḃ0 , ḃ1
に対しては (i) と (ii) が成り立つと仮定するとき,ȧ0, ȧ1 に対しても (i) と
(ii) が成り立つことが示せればよい.
(i): G を (M, P)-generic フィルターとして,p ∈ G で p k– P “ ȧ0 = ȧ1 ” とす
る.b ∈ (ȧ0)G とすると,hḃ0, p0 i ∈ ȧ0 で,p0 ∈ G, (ḃ0)G = b となるものが存
在する.p00 ∈ G で p00 ≤P p, p0 となるものがとれる.
“M の中で議論する”,とは,“M |= · · · ” を “· · · ” と略記する,ということである.特に,以下のほとんどすべての箇所で,
“M |= “ · k– · “ · · · ” ”” は,“· k– · “ · · · ”” と略記されていることに注意されたい.V での “· k– · “ · · · ”” は M でのそれと一般に
は異なるので,この略記は厳密には正しくないのだが,“M の中で議論する” という註釈と,そこでの文脈から何が意味されてい
るのかが明らかな場合には,この間違った略記が積極的に用いられることが多い.
また,G は M の元でないので M の中で G について言及することはできないのであるが,各 p ∈ G は M の元なので,これ
については M の中で考察することができることにも注意する.
*38
18
D = {q ≤P p00 : ∃hḃ1, p1i ∈ ȧ1 (q ≤P p1 ∧ q k– P “ ḃ0 = ḃ1 ”)}
とすると,(11), (α) により,D は p00 以下で稠密だから,補題 ℵ 2 により,
q ∈ G ∩ D で q ≤P p00 となるものがとれる.このとき D の定義により,
hḃ1, p1i ∈ ȧ1 で,q ≤P p1 ∧ q k– P “ ḃ0 = ḃ1 ” となるものがとれる.q ≤P p1
により,p1 ∈ G だから,帰納法の仮定から,(ḃ0)G = (ḃ1)G である.した
がって b = (ḃ0)G = (ḃ1)G ∈ (ȧ1)G である.以上で,(ȧ0)G ⊆ (ȧ1)G が示せた
が,同様の議論を (11), (β) を用いて行うと,(ȧ0)G ⊇ (ȧ1)G も示せるから,
(ȧ0)G = (ȧ1)G である*39 .
(ii): 対偶を示す.すべての p ∈ G に対し, pk–
/ P “ ȧ0 = ȧ1 ” として,(ȧ0)G 6=
(ȧ1)G を示す.
D = {p ∈ P : p k– P “ ȧ0 = ȧ1 ” または,
(α∗) ある hb0, p0i ∈ ȧ0 が存在して, p ≤P p0 で,
すべての hḃ1, p1i ∈ ȧ1 と q ≤P p に対し,
q ≤P p1 なら q k–
/ P “ ḃ0 = ḃ1 ” または,
(β ∗) ある hb1, p1i ∈ ȧ1 が存在して, p ≤P p1 で,
すべての hḃ0, p0 i ∈ ȧ0 と q ≤P p に対し,
q ≤P p0 なら q k–
/ P “ ḃ0 = ḃ1 ”}
とすれば,(11) により,D は P で稠密である.G の generic 性から,p∗ ∈
G ∩ D がとれるが,仮定から, p∗k–
/ P “ ȧ0 = ȧ1 ” だから,p∗ は (α∗) か (β ∗)
のどちらかを満たす.今, p∗ が (α∗) を満たすとする(p∗ が (β ∗ ) を満たす
場合も同様に議論できる).このとき, hḃ∗0 , p∗0 i ∈ ȧ0 で,p∗ ≤P p∗0 かつ,す
べての q ≤P p∗ に対し,hḃ1 , p1i ∈ ȧ1 で q ≤P p1 なら q k–
/ P “ ḃ∗0 = ḃ1 ” とな
るものがある.したがって,帰納法の仮定から,すべての (ḃ1)G ∈ (ȧ1)G に
*39
M [G] は推移的なので,(ȧ0 )G = (ȧ1 )G は M [G] |= (ȧ0 )G = (ȧ1 )G と同値であることに注意する.
19
対し,(ḃ∗0 )G 6= (ḃ1)G である.他方,p∗0 ∈ G により,(ḃ∗0 )G ∈ (ȧ0)G だから,
(ȧ0)G 6= (ȧ1)G である.
(b) ϕ が x0 ∈ x1 の形をしている場合.(i) と (ii) が成り立つことを次のよう
にして示す:
(i): p ∈ G で p k– P “ ȧ0 ∈ ȧ1 ” とする,このとき,(12) と 補題 ℵ 2 により,
q ∈ G ↓ p と hḃ, ri ∈ ȧ1 で,q ≤P r かつ q k– P “ ḃ = ȧ0 ” となるものが存在
する.r ∈ G だから, (ḃ)G ∈ (ȧ1)G だが,(a) により,(ḃ)G = (ȧ)G だから,
(ȧ0)G ∈ (ȧ1)G である.
(ii): すべての p ∈ G で pk–
/ P “ ȧ0 ∈ ȧ1 ” とする.
D = {p ∈ P : p k– P “ ȧ0 ∈ ȧ1 ” または, すべての q ≤P p に対し,
hḃ, ri ∈ ȧ1 で q ≤P r なら, q k–
/ P “ ḃ = ȧ0 ”}
とすると,(12) により,D は P で稠密である.したがって,G の generic 性
から,p∗ ∈ G ∩ D がとれるが,仮定から p∗ k–
/ P “ ȧ0 ∈ ȧ1 ” だから,
(16) すべての q ≤P p∗ に対し,hḃ, ri ∈ ȧ1 で q ≤P r なら,q k–
/ P “ ḃ = ȧ0 ”
である.
が成り立つ.したがって,(a) により,すべての b ∈ (ȧ1)G に対し (ȧ0)G 6= b
となるから,(ȧ0)G 6∈ (ȧ1)G である.
(c) ϕ が ϕ0 ∧ ϕ1 の形をしている場合.ϕ0 と ϕ1 に対しては (i) と (ii) が成り
立つとして,ϕ に対しても (i) と (ii) が成り立つことを示す.(i) は (13) か
ら明かである.
(ii): M [G] |= ϕ0((ȧ0)G, ..., (ȧn−1)G) ∧ (ϕ1((ȧ0)G, ..., (ȧn−1)G) とする.このと
き,M [G] |= ϕ0((ȧ0)G , ..., (ȧn−1)G ) かつ M [G] |= ϕ1((ȧ0)G , ..., (ȧn−1)G ) だ
から,帰納法の仮定により,p0 , p1 ∈ G で,p0 k– P “ ϕ0(ȧ0, ..., ȧn−1) ” かつ
20
p1 k– P “ ϕ1(ȧ0, ..., ȧn−1) ” となるものが存在する.p ∈ G を p ≤P p0, p1 とな
るようにとると,補題 8 により,
p k– P “ ϕ0(ȧ0, ..., ȧn−1) ” かつ p k– P “ ϕ1(ȧ0, ..., ȧn−1) ”
となるから,(13) により,p k– P “ ϕ0(ȧ0, ..., ȧn−1) ∧ ϕ1 (ȧ0, ..., ȧn−1) ” である.
あとは,(d) ϕ が ¬ϕ0 の場合,および (e) ϕ が ∃xϕ(x, . . .) の場合について,
ϕ0 に対し (i), (ii) が成り立つことを仮定して,ϕ に対しても (i), (ii) が成り
立つことを示せばよいが,この証明は (b) の証明と類似のアイデアで遂行
できる.証明の細部は読者の演習とする.
(定理 9)
補題 3 と 定理 9 から次が導かれる:
定理 10 (Theorem 3.6 in Ch.VII of Kunen [9]) ϕ = ϕ(x0, ..., xn−1) を L∈-論
理式として,M を可算で推移的な ZFC のモデルとし,P を poset で P ∈ M
となるものとし,ȧ0,..., ȧn−1 ∈ M P とする.このとき次が成り立つ:
(i) M |= “ p k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” ” ⇔
すべての p を含む (M, P)-generic フィルター G に対し,
M [G] |= ϕ((ȧ0)G, ..., (ȧn−1)G).
(ii) すべての (M, P)-generic フィルター G∗ に対し,
∗
∗
M [G∗] |= ϕ((ȧ0)G , ..., (ȧn−1)G ) ⇔
ある p ∈ G∗ に対し, すべての p を含む (M, P)-generic フィルター G
に対し,M [G] |= ϕ((ȧ0)G , ..., (ȧn−1)G ) が成り立つ.
証明. (i): “⇒” は,定理 9, (i) によりよい.
“⇐”: もし M |= “ pk–
/ P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” ” だったとすると,補題 8 により,
q ≤P p で,すべての r ≤P q に対し M |= “ rk–
/ P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” ” となる
ものが存在する.このとき,(14) により,M |= “ q k– P “ ¬ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” ”
である.補題 3 により,q を含む (M, P)-generic フィルター G が存在する.
21
p ∈ G だが,定理 9 により,M [G] |= ¬ϕ((ȧ0)G, ..., (ȧn−1)G) つまり,M [G] 6|=
ϕ((ȧ0)G, ..., (ȧn−1)G) である.
(ii): “⇐” は明らかである.
∗
∗
“⇒”: M [G∗] |= ϕ((ȧ0)G , ..., (ȧn−1)G ) なら,定理 9, (ii) により,p ∈ G∗ で,
M |= “ p k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” ” となるものが存在するが,(i) から,p を含む,
すべての (M, P)-generic フィルター G に対し,M [G] |= ϕ((ȧ0)G , ..., (ȧn−1)G )
(定理 10)
である.
すべての (M, P)-generic フィルター G は 1lP を含む.したがって,定理 10,
(i) から,特に
(17) M |= “ 1lP k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” ” ⇔
すべての (M, P)-generic フィルター G に対し,
M [G] |= ϕ((ȧ0)G, ..., (ȧn−1)G).
となることがわかる.
そこで,1lP k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” を, k– P “ ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) ” と略記して,
“ϕ(ȧ0, ..., ȧn−1) は(が) P で force される” と読み下すことにする.
M[G] は ZFC のモデルである
強制関係を用いることで次の定理(群)が証明できる:
すべての ZFC の公理(あるいは ZFC の有限個の公理の ∧-結合) ψ に対
し,次が成り立つ:
定理 11 ψ (Theorem 4.2 in Ch.VII of Kunen [9]) M を 推移的な ZFC のモ
デルとする.P ∈ M を poset として,G を (M, P)-generic フィルターとす
るとき,M [G] |= ψ である.
証明. M [G] は推移的だから,M [G] |= “ 外延性公理 ” である.また,∅,
22
ω ∈ M ⊆ M [G] だから,M [G] |= “ 空集合公理,無限公理 ” である.
他の公理については,たとえば,M [G] が L∈-論理式 ϕ に対する分離公理
を満たすことは,次のようにして示せる:
ḃ, ȧ1,..., ȧn−1 を P-名称とする.このとき,M の中に,次を満たすような P名称 ċ が存在することが示せればよい.
(ℵ7) M [G] |= ∀x (x ∈ ċG ↔ x ∈ ḃG ∧ ϕ(x, (ȧ1)G, ..., (ȧn−1)G))
このために,
ċ = {hu̇, qi : u̇ は P-名称 ; ある p ∈ P に対し hu̇, pi ∈ ḃ ;
q k– P “ u̇ ∈ ḃ ∧ ϕ(u̇, ȧ1, ..., ȧn−1) ”}
とすると,ċ は P-名称になるが,この ċ が求めるようなものになっている.
M [G] で議論して,(ℵ7) が成り立つことを示す.
d ∈ M [G] で d ∈ ċG なら,q ∈ G と P-名称 d˙ で, d˙G = d かつ,hd,˙ qi ∈ ċ
となるものがある.
ċ の定義から,M |= “ q k– P “ ϕ(d,˙ ȧ1, ..., ȧn−1) ” ” となるから,定理 9, (i) に
より,M [G] |= ϕ(|{z}
d˙G , (ȧ1)G, ..., (ȧn−1)G) である.
=d
逆に,d ∈ M [G] が,M [G] |= d ∈ ḃG ∧ ϕ(d, (ȧ1)G , ..., (ȧn−1)G ) を満たすとす
ると,hu̇, pi ∈ ḃ で,p ∈ G, u̇G = d となるものがとれる.定理 9, (ii) によ
り,q ∈ G で,
M |= “ q k– P “ ϕ(u̇, ȧ1, ..., ȧn−1) ” ”
となるものがとれる.r ∈ G を r ≤P p, q となるようにとれば,
M |= “ r k– P “ u̇ ∈ ḃ ∧ ϕ(u̇, ȧ1, ..., ȧn−1) ” ”
23
である.したがって,ċ の定義から,hu̇, ri ∈ ċ となる.よって,M [G] |=
d = u̇G ∈ ċG である.
以上で,ċ が (ℵ7) を満たすことが示せた.
(定理 11)
M[G] での基数
M を可算で推移的な ZFC のモデルとして,P ∈ M を poset とし,G を
(M, P)-generic とする.
補題 6 により, OnM [G] = OnM だから,CardM [G] ⊆ CardM である.
ここで “=” は一般には成り立たない*40 .
κ ∈ CardM で,M |= “ k– P “ κ は基数 ” ” が成り立つとき,P は基数 κ を保
存する,という.P がどの基数を保存するかは,M [G] の構造を知るために
重要となる.
以下で,P が特定の基数を保存するための二種類の十分条件を考察する:
κ を基数とする.P が κ-閉鎖 (κ-closed) であるとは,長さが κ 未満の P 下
降列が,すべて下限を持つことである.
ω1-閉鎖は σ-閉鎖 (σ-closed) ともよばれる.
定理 12 (Corollary 6.15 in Ch.VII of Kunen [9] を参照) M |= “ κ は基数 ”
として,M |= “ P は κ-閉鎖 ” なら,P は κ より小さいか等しいすべての
(M での)基数を保存する.
この定理は次の,より一般的な定理からただちに導ける:
*40
M [G] には κ と κ より小さな順序数の間の全単射がつけ加わっているかもしれないからである.
24
定理 13 (Theorem 6.14 in Ch.VII of Kunen [9] を参照) M |= “ κ は基数 ” と
して,M |= “ P は κ-閉鎖 ” とする.G を (M, P)-generic フィルターとする
とき,M [G] での長さが κ 未満の順序数の列はすべて M の元である*41 .
証明. ある δ < κ に対し,M [G] |= “ ṡG は長さが δ の順序数の列 ” とする.
このとき,定理 9, (ii) により,p ∈ G で,M |= “ p k– P “ ṡ は長さが δ の順序
数の列 ” ” となるものが存在する.
以下 M の中で議論する.
D = {q ∈ P : ある順序数の列 s̄ で
q k– P “ s̄ = ṡ ” となるものが存在する*42 }
として,D が p 以下で稠密であることを示せば十分である.これが示せれ
ば,補題 ℵ 2 により,q ∈ D ∩ (G ↓ p) がとれるが,q k– P “ s̄ = ṡ ” だから,
定理 9, (i) により,M [G] |= ṡ = s̄ が言えるからである.
D が p 以下で稠密であることを示すために,任意の q ≤P p に対し,r ≤P q
で r ∈ D となるものを,次のようにして構成する:
P の元の(≤P に関する)下降列 hqα : α < δi を,q0 ≤P q で各 α < δ に対
し,ξα ∈ On (つまり ξα ∈ OnM )で,qα k– P “ ṡ(α) = ξα ” となるようなも
のがとれるように構成する.これは,P が κ-閉鎖であることと次の補題か
ら可能である.
P は κ-閉鎖だから,r ∈ P で,この下降列の下にある(つまり,すべての
α < δ に対し,r ≤P qα となるような)ものがとれるが,
r k– P “ ṡ = hξα : α < δi ” だから,r ∈ D である.
*41
(定理 13)
つまり P は κ 未満の長さの,新しい順序数の列を M に付け加えない,ということである.
q k– P “ s̄ = ṡ ” は,本来なら q k– P “ s̄ˇ = ṡ ” と書くべきものであるが,混乱の恐れのないときには M の元の標準的な P-名称
を,それの表す M の元と同一視してしまうことが多い.
*42
25
補題 ℵ 3 M を可算で推移的な ZFC のモデルとして,P ∈ M を poset とす
る.P-名称をパラメタとして持つ閉じた項 t と p ∈ P に対し,M |= “ p k– P “ t
は順序数 ” ” なら,q ≤P p と α ∈ OnM で,M |= “ q k– P “ t = α ” ” となる
ものが存在する.
証明. G を p を含む (M, P)-generic フィルターとする.このとき,定理 9, (i)
により,M [G] |= “ tG は順序数 ” である*43 .したがって 補題 6 により,
α ∈ OnM で tG = α となるものがある.定理 9, (ii) により, r ∈ G で,
M |= “ r k– P “ t = α ” ” となるものがとれるが,q ≤P p, r となるようにとれ
ば,この q が求めるようなものである.
(補題 ℵ 3)
定理 12 の定理 13 からの証明: λ ≤ κ で λ ∈ CardM とする.もし,M [G] |=
“ λ は基数でない ” とすると,µ < λ と f ∈ M [G] で,M [G] |= “ f は µ か
ら λ への上射 ” となるものがある.f は長さが κ 未満の順序数の列とみな
せるから,定理 13 により f ∈ M である.したがって,M |= “ λ は基数で
ない ” となってしまうが,これは矛盾である.
(定理 12)
X ⊆ P が反鎖 (antichain) であるとは,任意の異なる p, q ∈ X が共存不可
能であることである.
P が κ-連鎖条件 (κ-chain condition) を満たすとは,P の任意の反鎖の濃度
が κ 未満のときである.
ℵ1-連鎖条件は countable chain condition ともよばれ,c.c.c. または ccc と略
記されることも多い.
*43
t = t(ȧ0 , , ..., ȧn−1 ) のとき,tG = tM [G] ((ȧ0 )G , ..., (ȧn−1 )G ) とする.
26
定理 14 (Lemma 6.9 in Ch.VII of Kunen [9]) M |= “ κ は正則基数 ” で,
M |= “ P は κ-連鎖条件を満たす ” なら,P は,κ より大きいか等しい,す
べての(M での)基数を保存する.
証明. M |= “ κ ≤ λ ∧ λ は基数 ” とする.もし
M [G] |= “ λ は基数でない ”
が成り立つとすれば,µ < λ と 上射 f : µ → λ, f ∈ M [G] が存在する.
f˙ ∈ M P を f˙G = f となるものとすると,定理 9 により,p ∈ G で,
(ℵ8) M |= “ p k– P “ f˙ : µ → λ ∧ f˙ は上射 ” ”
となるものがとれる.
各 α < µ に対し,
Dα = {r ∈ P : r ≤P p ;
ある β ∈ OnN に対し, M |= “ r k– P “ f˙(α) = β ” ”}
とする.補題 ℵ 3 により,Dα は p 以下で稠密である.Aα ⊆ Dα を(包含
関係に関して)極大な反鎖とすると,Pα が κ-連鎖条件を満たすことから,
| Aα | < κ である.
Bα = {β ∈ OnM : ある p ∈ Aα に対し M |= “ p k– P “ f˙(α) = β ” ”}
とすると,| Bα | < κ である.
(ℵ9) M |= “ p k– P “ f˙(α) ∈ Bα ” ”
である: そうでないとすると,q ∗ ≤P p と β ∗ ∈ OnM \ Bα で
M |= “ q ∗ k– P “ f˙(α) = β ∗ ” ”
27
となるものがあるが,このとき Aα ∪ {q ∗} は反鎖となるから,Aα の極大性
に矛盾する.
∪
B = α<µ Bα とすると,| B | < λ である(ここで λ = κ の場合に κ の正則
性が必要となる).また,(ℵ9) から M |= “ p k– P “ f˙ 00µ ⊆ B ” ” だが, B 6= λ
だから,これは,(ℵ8) に矛盾である.
(定理 14)
Posets の典型的な例のうちのいくつか
κ を基数として,I, J を集合とし,| I | ≥ κ とする.
Fn(I, J, κ)
= {f : f は I の濃度が κ 未満の部分集合から J への関数 }
とする,
f , g ∈ Fn(I, J, κ) に対し,
f ≤Fn(I,J,κ) g ⇔ f ⊇ g
とする*44 .
特に,λ を基数として I = λ × ω, J = 2 = {0, 1}, κ = ω と置いたときの
Fn(I, J, κ), つまり Fn(λ × ω, 2, ω) を,Cλ と表し,λ 個の実数を付加する
コーエン poset とよぶ.
定理 15 (a) κ が正則基数なら Fn(I, J, κ) は κ-閉鎖である.
(b) (Lemma 6.10 in Ch.VII of Kunen [9]) Fn(I, J, κ) は (|J|<κ)+-連鎖条件を
満たす.
*44
f と g が関数のときには,f ⊇ g は,“関数 f は,関数 g の拡張になっている” という意味になることに注意する.
28
定理 16 M を可算で推移的な ZFC のモデルとする.
(a) M |= “ P = Fn(I, J, κ) ” として,G を (M, P)-generic フィルターとす
∪
る.このとき G は I から J への上射になる.
(b) M |= “ P = Cλ ” として,G を (M, P)-generic フィルターとする.(a)
∪
から,g =
G は λ × ω から 2 への関数となる.α < λ に対し,
gα : ω → 2 を n 7→ g(α, n) で定義すると,gα ∈ M [G] で gα , α < λ は
互いに異なる.
λ を基数として,
(18) Rλ = {X : X ∈ Bor(λ×ω2), µ(X) > 0}
とする.
ただし,λ×ω2 は κ × ω から 2 への関数の全体で,これに 2 上の離散位相の
積位相を入れて位相空間と考える*45 .
また,位相空間 S に対し,Bor(S) で S の Borel 集合の全体をあらわす.
µ は 2 上の canonical な測度の積測度として得られる Bor(λ×ω2) 上の測度で
ある.
p, q ∈ Rλ に対し,
q ≤Rλ p ⇔ q ⊆ p
とする.
Rλ は ランダム実数を side-by-side に λ 個付け加える poset である.
補題 17 (演習 17.3 in Kanamori [7]) Rλ は ccc を満たす.
*45
集合 X, Y に対し
X
Y で X から Y への関数の全体をあらわす.
29
補題 18 M を可算で推移的な ZFC のモデルとして,M |= “ P = Rλ ” と
し,G を (M, P)-generic フィルターとする.このとき,
(a) ∩G は λ × ω から 2 への関数となる.α < λ に対し, gα : ω → 2 を
n 7→ g(α, n) で定義すると,gα ∈ M [G] で gα , α < λ は互いに異なる.
(b) すべての f ∈ (ωω)M [G] に対し*45 ,g ∈ (ωω)M で f ≤ g となるものが
存在する.
最後に,ここで考察した posets の比較的簡単な応用 ── 連続体仮説の ZFC
からの独立と,ω1-スケールの存在の ZFC + ¬CH からの独立の証明 ── を
見てみることにする.
連続体仮説
連続体仮説 (CH) は,2ℵ0 = ℵ1 という命題だった.ここに 2ℵ0 は,基数
|R| = |ω2| = |ωω| = |P(ω)| である*46 .
強制法を用いると CH の ZFC からの独立性が証明できる.
定理 19 M を可算で推移的な ZFC のモデルとする.
M |= “ P = Fn(ω1, 2ℵ0 , ℵ1) ” として G を (M, P)-generic フィルターとする
と,M [G] |= CH である.特に,CH は ZFC 上相対的無矛盾である.
証明. 定理 16, (a) により,
M [G] |= (ℵ1)M = (2ℵ0 )M ≤ (ℵ1)M [G] である.
ところが,定理 15, (a) と 定理 13 により (ωω)M = (ωω)M [G] だから,
M [G] |= CH がわかる.
*46
(定理 19)
連続体仮説に関しては,[2], [3] なども参考にされたい.
30
定理 20 M を可算で推移的な ZFC のモデルとする.
M |= “ λ ≥ ℵ2 ∧ P = Cλ ” として G を (M, P)-generic フィルターとする
と,M [G] |= ¬CH である.
特に ¬CH は ZFC 上相対的無矛盾である.
証明. 定理 15, (a) により P は ccc を満たす.したがって,定理 14 により,
P はすべての基数を保存する.
定理 16, (b) により,M [G] |= “ |ω2| ≥ λ ” だから,特に M [G] |= ¬CH であ
(定理 20)
る.
定理 19 と定理 20 により,CH は ZFC 上独立であることが結論できる.
f , g ∈ ωω に対し,
ω1-スケールの存在
f ≤∗ g ⇔ {n ∈ ω : f (n) > g(n)} は有限集合である
とする.≤∗ は擬順序となることが容易に確かめられる.
F ⊆ ωω が ω1-スケール であるとは,
(19) F は ≤∗ によって,順序型 ω1 に整列される.
(20) すべての f ∈ ωω に対し,g ∈ F で f ≤∗ g となるものが存在する.
が成り立つことである.
補題 21 S ⊆ ωω を可算とするとき, f ∈ ωω で,g ≤∗ f がすべての g ∈ S
に対し成り立つようなものが存在する.
証明. S = {gn : n ∈ ω} と整列する.
31
f (n) = max{g0(n), . . . gn(n)} + 1 として f を定義すれば,これが求めるよう
(補題 21)
なものである.
定理 22 CH のもとで ω1-スケールが存在する.
証明. ωω = {gα : α < ω1} と枚挙する.これは CH により可能である.
ここで,fα ∈ ωω を帰納的に,
(21) すべての β < α に対し fβ ≤∗ fα
(22) gα ≤∗ fα
となるようにとってゆく.これは,補題 21 により可能である.
F = {fα : α < ω1} が求めるようなものである.
(定理 22)
定理 23 M を可算で推移的な ZFC のモデルとする.
M |= “ λ ≥ ℵ2 ∧ P = Cλ ” として G を (M, P)-generic フィルターとする
と,M [G] |= “ ω1-スケールは存在しない ” が成り立つ.
証明. I ⊆ λ に対し,CI = Fn(I × ω, 2, ω) とあらわすことにする.
F ∈ M [G] で M [G] |= “ F は ω1-スケール ” だったとして矛盾を示す.
M と M [G] を行き来して議論する.
Cλ は ccc を満たすから,|I| = ℵ1 となる I ⊆ λ で,GI = G ∩ CI としたと
きに F ∈ M [GI ] となるようなものが存在する.
α ∈ λ \ I として gα : ω → 2 を,定理 16, (b) でのようにとり,h : ω → ω
を (gα )−1 00{1} を 下から順に枚挙するような関数とする.このとき,どの
f ∈ (ωω)M [GI ] に対しても h 6≤∗ f となることが示せるが,これは矛盾であ
(定理 23)
る.
32
定理 24 M を可算で推移的な ZFC + CH のモデルとする.
M |= “ λ ≥ ℵ2 ∧ P = Rλ ” として G を (M, P)-generic フィルターとする
と,M [G] |= “ ¬CH ∧ ω1-スケールが存在する ” が成り立つ.
証明. 補題 17 により,P はすべての基数を保存する.したがって,補題 18 (a)
により,M [G] |= ¬CH である.補題 22 により M には ω1-スケールが存在
するが,補題 18, (b) により,この ω1-スケールは V [G] でも ω1-スケールに
(定理 24)
なっている.
系 25 “ω1-スケールが存在する” は ZFC + ¬CH から独立である.
33
参考文献
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