高 校 化 学 平面電池の製作と教材化 埼玉県立川口工業高等学校 目 的 常 之* 図 1 に一般的な平面電池の製作方法を示す(写真 1、 写真 2)。 図 1 一般的な平面電池の製作方法 要 (1)この平面電池は、面を押しても電解液が漏れ出 さない量的条件のもとで、布粘着テープで密閉し て製作する。布粘着テープは、絶縁体として短絡 を防ぐだけでなく、手で簡単に裂いたり切断でき、 乾いた状態で接着すると後でぬれてもはがれにく く、本電池の製作目的に最適である。 (2)電解液の液漏れが無い密閉構造をとることにより、 従来のこの種の電池では製作が困難であった、ア ルカリ電解液を使用する電池(アルカリ電池、ア ルカリ蓄電池)や気体活物質を利用する蓄電池 (水素酸素燃料電池など)の製作が可能であり、生 徒が製作した電池の持ち帰りもできる。 (3)この電池では、キッチンタオルペーパーを用い て電解液を吸収し、液漏れを防止する構造にした。 タオルペーパーは、ティッシュペーパー(製作可 能)よりも吸水力に優れ、しかも濾紙よりも安価 で、本電池製作に適する。また炭素繊維シート (カーボンマットの方がカーボンクロスよりも安 価)を用いて、電解液の吸収層と導電剤を兼ねる 工夫をした。 (4)製作する電池は、厚さの薄い平面型電池のため、 正負両極板間の距離が非常に小さくなり、意外と 電池性能がよく、本格的な玩具用マブチモーター の作動が可能である。また薬品の使用量を減らし て作製するため、いわゆる少量化学実験になる利 点もある。 * 岸 教材・教具の製作方法 現代の子供は、さまざまな「もの」を利用している が、「もの」自体を自作する体験には極めて乏しい。 電池の学習においても、実用的な種々の電池を製作 することは容易でなく、もっぱら「図解」などの参考 資料を見て理解するのが常である。 そこで、化学の教科書に出ているダニエル電池、マ ンガン乾電池、鉛蓄電池ばかりでなく、アルカリ乾電 池、空気電池、燃料電池、ニッケルカドミウム蓄電池 など多くの実用電池を簡便に自作できる、形もユニー クで、薄型の平面型電池(以下、「平面電池」という) の製作方法を工夫考案した。 概 峯 みねぎし つねゆき 埼玉県立川口工業高等学校 図 2 に、負極集電体金属が活物質を兼ねる場合の断 面図を示す。タオルペーパーが隔膜を兼ねている。 図2 集電体が活物質を兼ねる場合の特別な製作方法 写真 1 製作中の平面電池 教諭 〒 333-0846 埼玉県川口市南前川 1-10-1 ☎(048)251-3081 @ E-mail [email protected] 写真 2 製作後の各種一次電池(二次電池も形は同様) 製作時には、正極側と負極側の集電体や活物質が互 いに接触しないように注意する必要がある。 使用時には、モーターやメーターの端子をつなぎ、 面を押す。端子のない炭素繊維シート等には、端子用 の太い銅線(0.8mm)をのせて圧着するとよい(写 真 3)。 写真 3 平面電池によるマブチモーターの作動 [図 1 の方法による製作] ① Aダニエル電池 亜鉛板(5cm 角;負極活物質)上にタオルぺーパー 2 枚(5c m 角)を置き、 1moℓ/ℓ ー酸亜鉛水溶液0.5mℓ を滴下し、セロハン (5.5cm 角) とタオルぺーパー 2 枚 (5cm 角)を順に重ね、その上から1moℓℓ / 硫酸銅 (Ⅱ) タ 水溶液 0.5mℓを滴下し、銅板 (4.5cm 角;正極集電体) をのせ、周囲を布粘着テープで囲んで密封する。無負 荷電圧は 1V でマブチ 280 モーターは 8 分間作動す る。 ② Bアルカリ乾電池、アルカリ空気電池 ステンレス板(5cm 角;負極集電体)上の炭素繊維 シート (4. 5cm 角) に粉末亜鉛 1g 、KO H 0. 5g 、水 0.5mℓの混合物を塗布し、タオルぺーパー 2 枚(5cm 角)、セロハン (5.5cm 角)、タオルぺーパー 2 枚 (5cm 角)を順に重ね、その上から KOH 1g、水 2mℓ、二酸 化マンガン 2g、粉末活性炭 1g の混合ペーストの薬さ じ大 1 杯半 (約 3g) を塗布後、炭素繊維シート (4.5cm 角;正極集電体) をのせて周囲を布粘着テープで密封 する。無負荷 1.35V で、マブチ 280 モーターが 2 時 間 45 分程度作動する。 アルカリ乾電池は、負極活物質の粉末亜鉛がアルカ リ液に溶解し反応抵抗が小さいため、性能が大変良い。 二酸化マンガンを加えないと、活性炭への吸着酸素が 正極活物質になるアルカリ空気電池になる。 ③ C水素酸素燃料電池、水素塩素燃料電池 アルミホイル 4 枚(5cm 角;正極集電体)に粉末 活性炭 1g、KOH 1g、水 2mℓ の混合ペーストの薬さ じ大 1 杯半を丸く塗布し、タオルぺーパー 2 枚(5cm 角)、セロハン (5.5cm 角)、タオルぺーパー 2 枚 (5cm 角)を順に重ね、上と同量の混合ペーストを塗布し、 アルミホイル 4 枚(4.5cm 角;負極集電体)をのせて 布粘着テープで周囲を密封すれば、水素酸素燃料電池 になる。 この電池は、面を押しながら、手回し発電機(ゼネ コン) を 300 回回転して電気分解により充電すると、 無負荷 1.2V でマブチ 280 モーターが 2 〜 4 分間作動 する(ソーラーモーターなら 30 分間)。 KO H と水の代わりに、飽和硫酸ナトリウム水溶液 (2mℓ)を用いると、電圧が 2V と高く、マブチ 280 モーターが 5 分間作動する水素酸素燃料電池になり、 飽和食塩水 (2mℓ) を用いると水素塩素燃料電池になる。 燃料電池の製作では、セロハンをのせてから、指で 空気を追い出しながら作製すると上手にできる。 ④ Dアルカリ蓄電池 (ニッケルカドミウム蓄電池、ニッ ケル水素蓄電池など) ステンレス板(5cm 角;正極集電体)上の炭素繊 維シート (4.5cm 角) に、硫酸ニッケル (Ⅱ) タ 六水和物 2.4g を水 6mℓに溶かした液に、KOH 1g を水 2mℓに溶か した液を加えて生じる水酸化ニッケル (Ⅱ) タ の沈殿をタオ ルペーパー数枚にはさみ水分を切り、その 1/3 量を 塗布する。タオルぺーパー 2 枚 (5cm 角)、セロハン (5.5cm 角)、タオルぺーパー 2 枚(5cm 角)を順に重 ね、その上から粉末カドミウム 1g、KOH 1g、水0.5mℓ フ全量を塗布し、炭素繊維シート (4.5cm 角)、ステ ンレス板(4,5cm 角;負極集電体)を順にのせて周囲 を布粘着テープで密封し、ニッケルカドミウム蓄電池 を製作する。 面を押しながら、手回し発電機で 300 回回転充電 すると、無負荷 1.35V で、マブチ 280 モーターが 2 〜 3 分間作動する(ソーラーモーターなら 40 分間)。 粉末カドミウム 1g の代わりに、鉄粉 0.5g を用いる とニッケル鉄蓄電池(エジソン電池)になり、活性炭 1g(KOH 1g、水 2mℓ) を用いるとニッケル水素蓄電池に なる(1.6V、マブチ 280 モーターが 1 〜 3 分間、ソー ラーモーター 25 分間作動)。 [図 2 の方法による製作] ① A鉛蓄電池 鉛シート (5cm 角) 2 枚の間に、1moℓℓ / 希硫酸 0.5mℓ を滴下したタオルペーパー (5.5cm 角)をはさんで、 布粘着テープで周囲を密封する。手回し発電機で 300 回回転充電で、無負荷 1.9V で、マブチ 280 モ ーターが 2 〜 4 秒間作動する(ソーラーモーター 20 秒間)。 ② Bマンガン乾電池、空気電池 アルミホイル 4 枚 (5cm 角)上のタオルペーパー 3 枚(5cm 角)の上から、二酸化マンガン 2.5g、活性 炭 5g、飽和食塩水 16mℓ フ混合ペースト (4 人分)の 薬さじ大 2 杯を丸くのせ、炭素繊維シート(4cm 角; 正極集電体)をのせてから、その周囲を布粘着テープ で密封してマンガンアルミニウム乾電池を製作する。 手の平で強く面を押してから測定すると、無負荷 1.1V で、マブチ 280 モーターが 40 分間作動する。 二酸化マンガンを加えないと、活性炭に吸着された 酸素が活物質の空気電池になる(無負荷 1V で、マブ チ 280 モーターが 12 分間作動)。図 1 の方法で、負 極に亜鉛板・電解液に塩化亜鉛水溶液を使用すると、 マンガン亜鉛乾電池になる。空気電池も亜鉛板を用い ると、空気亜鉛電池になる。 学習指導方法 生徒実験としての平面電池の製作では、筆者は生徒 全員に作製させることを前提として、材料の入手方法 の容易さや製作費用などの面から、アルミホイルを使 用する電池を対象とした。 1 学年の化学 ⅠB の電池の授業において、第 1 回目 は一次電池の例として、「マンガン乾電池」および 「空気電池」(いずれもアルミホイル使用)の製作実験 を、第 2 回目は二次電池の例として「水素酸素燃料電 池」(電解液として硫酸ナトリウム水溶液、アルミホ イル使用)の製作実験を、それぞれ実施した。 電圧計で無負荷電圧を測るとともに、1.5V 用豆電 球の点灯およびモーターの回転を確認する。生徒全員 に製作した平面電池を実験プリントにセロテープで貼 り付けて提出する。平面燃料電池では、手回し発電機 によって 300 回回転充電してから放電させた。 考察では、実際の乾電池の炭素棒や亜鉛缶などが、 本実験の炭素繊維シートやアルミホイルなどに対比す ることから、電池の仕組みを理解する授業を行った。 写真 4 生徒実験の授業風景 実践効果 生徒実験終了後のアンケートによると、製作した平 面電池に関して、「今までこのような電池は見たこと が無い」、「このような電池で本当にモーターが動くと は思わなかった」、「こんなにも簡単に電池が作れると は思わなかった」、「どうして動くのか不思議だ」など の感想が多かった。このことから、今までにない電池 製作を体験した生徒に大きなインパクトを与えてお り、それが実際にモーターを動かすのを見て、生徒の 電池に関するイメージが大きく変わる感動を与える教 材になっている。 その他補遺事項 ・炭素繊維シート(カーボンマット)は「東急ハンズ」 で購入できる(1m2 あたり 1,380 円<池袋店>)。 (http://www.tokyu-hands.co.jp) 炭素繊維シートが無いときは、イオン化しにくい正 極集電体として、太い銅線(厚紙を載せて平面化す る。これが最も簡単。)、銅板、真鍮箔、ステンレス 板を使用してもよい。 ・平面電池製作後に、机上で全体の面を手の平で強く 押して圧着してから、端子をつなぎ、面を指で強く はさむか、厚紙やプラスチック板ではさんでクリッ プで押さえると、確実にかつ長時間モーターが回る (写真 3、文中のデータ〔充電は 2 回目以後〕)。接 着剤としてポリアクリル酸ナトリウムやゼラチン (二価イオン含有時)を混ぜて製作してもよい。 ・空気電池、燃料電池等で、活性炭の代わりに市販の 木炭粉も可能だが、かなり強く面を押す必要がある。 ・混合ペーストは、水の含有率が多いと液漏れの原因 になる。混合ペーストの塗布量が多いほど電池性能 がよいが、特に両極に金属板を使用する時は、面を 押すと液漏れを起こしやすいので、タオルペーパー の枚数との関係から、塗布量には限界がある。 ・この平面電池は、重ねるだけで直列接続ができる。
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