若年層の社会移動と階層化 - 質問紙法にもとづく社会調査データベース

2005年 SSM 調査シリーズ
11
若年層の社会移動と階層化
Social Stratification and Social Mobility of Young Japanese
太郎丸 博
編
2005年 SSM 調査研究会
科学研究費補助金 特別推進研究(16001001)
「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」成果報告書
2005年 SSM 調査シリーズ
11
若年層の社会移動と階層化
Social Stratification and Social Mobility of Young Japanese
太郎丸 博
編
2005年 SSM 調査研究会
科学研究費補助金 特別推進研究(16001001)
「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」成果報告書
刊行のことば
本書は、文部科学省科学研究費補助金(特別推進研究)「現代日本階層システムの構造と
変動に関する総合的研究」の助成を得て行われた 2005 年社会階層と社会移動調査(SSM 調
査)の研究成果報告書『2005 年 SSM 調査シリーズ』(全 15 巻)のうちの一冊である。
SSM 調査は 1955 年以来 10 年毎に行われている全国調査である。このような継続性を持っ
た社会階層と社会移動に関する調査は世界に類を見ない。もちろんそれぞれの年の SSM 調
査プロジェクトは独自の研究テーマを持っているが、親や本人の階層などの基本変数は継
続的に測定されているので、長期にわたるトレンド分析が可能になる。本シリーズの中に
も、このようなトレンド分析を行っている論文が多数収録されている。
この継続性は SSM 調査の貴重な財産である。2005 年 SSM 調査研究プロジェクトでは、こ
のことを踏まえた上で、新たな方向に踏み出した。それは本格的な国際比較と若年層調査
である。本プロジェクトの基本的なねらいは、次のような問題群に解答を与えることであ
った。グローバリゼーションと新自由主義の進行する中で、労働市場の流動性は高まって
いるのか、それともそうではないのか。また高まっているとすれば、それはどの階層を流
動的にしているのか。特定の階層は保護的制度に守られて流動化していないのではないか。
このような「流動化」と「階層の固定化」という一見すると相反する問題にアタックする
ことが、本プロジェクトの基本的なテーマであった。
このテーマを追求するために、国際比較と若年層調査は不可欠であった。グローバリゼ
ーションと新自由主義はいわば普遍的な変動要因である。ただしこれらは直接的に個々の
社会の社会階層・社会移動に影響を及ぼすのではなく、それぞれの社会のローカルな制度
との相互作用を通じて、社会階層・社会移動に影響を及ぼしたり、及ぼさなかったりする。
また新自由主義や労働市場の流動化に対する人々の評価(これは公共性問題といえよう)
も社会によって異なりうる。これらの問題に答えるためには、国際比較が必要になる。し
かしあまりに異なる社会と日本を比べることは意味をなさない。そこでわれわれは、同じ
儒教文化圏に属し、教育制度も類似しているが、日本よりも早くグローバリゼーションに
さらされている韓国と台湾を比較の対象とした。
労働市場の流動化は若年層にもっとも影響を及ぼすと考えられる。フリーターやニート
の問題をはじめとして、流動化の矛盾は若年層に集中しているといえよう。この問題に関
しては既に多くの研究がなされているが、本プロジェクトでは、SSM 調査の蓄積を活用して、
社会階層と社会移動という視点からこの問題にアプローチすることにした。たとえば、誰
でもフリーターになるわけではなく、出身階層や本人の学歴によってフリーターになる確
率は異なると考えられる。このような社会階層論・社会移動論の道具を用いることで、フ
リーター・ニート問題に新しい光を当てることができるだろう。
このような理論的関心に基づいて、国際比較と若年層調査を行った。国際比較では、韓
1
国と台湾の階層研究者 6 名に研究プロジェクトメンバーとなってもらい、彼ら・彼女らの
全面的な協力の下に韓国と台湾で SSM 調査を実施した。調査票は日本調査とかなりの部分
を共通にして、日本・韓国・台湾で厳密な比較分析が行えるようにした。また産業や職業
の国際比較ができるように、それぞれの社会のデータに国際標準産業分類コードと国際標
準職業分類コードを割り当てた。日本側メンバーにも東アジアの専門家がいて、膨大な時
間を費やしてくれたが、これらの作業は困難を極めた。調査票設計段階の調整から始まり、
調査票の翻訳やバックトランスレーション、調査設計の調整、コーディングにおける無数
ともいえる細かい確認事項などの作業を経て、調査データが完成した。
若年層調査も多くの困難に直面した。大阪大学の太郎丸博氏をヘッドとする若年層調査
タスクグループが実査を担当したが、低い回収率の問題や、郵送調査・ウェブ調査ゆえの
データ・クリーニング、コーディングの難しさがあった。しかし太郎丸氏をはじめとする
タスクグループの献身的な努力により、若年層調査データも完成した。
本シリーズに収録されている論文は、このような調査データの分析に基づいたものであ
る。本プロジェクトでは、8 つの研究会からなる研究体制をとって、それぞれの研究会でメ
ンバーが論文構想を報告して相互にコメントをしあい、より良い論文を執筆することをめ
ざしてきた。その成果が本シリーズに集められている。これらの論文を通じて、日本のみ
ならず、韓国と台湾の階層状況に対する理解が深まることを期待する。
本プロジェクトを推進するに当たり、実に多くの方々のお世話になった。あえて一人一
人のお名前をあげることはしないが、ここに感謝の意を表します。また調査にご協力いた
だいた対象者の方々にも心より御礼申し上げます。
2008年3月
2005年 SSM 調査研究会
2
付記1.本研究会による刊行物のリスト
『2005年 SSM 日本調査
コード・ブック』
2007 年 11 月
『2005年 SSM 日本調査
基礎集計表』
2007 年 11 月
2005年 SSM 調査シリーズ(研究成果報告書集)(2008 年 3 月刊)
三輪
哲
小林
大祐
第2巻
高田
洋
編
『階層・階級構造と地位達成』
第3巻
渡邊
勉
編
『世代間移動と世代内移動』
第4巻
阿形
健司
編
『働き方とキャリア形成』
第5巻
米澤
彰純
編
『教育達成の構造』
第6巻
中村
高康
編
『階層社会の中の教育現象』
第7巻
土場
学
編
『公共性と格差』
第8巻
轟
編
『階層意識の現在』
編
『ライフコース・ライフスタイルから見た社会階層』
編
『階層と生活格差』
博
編
『若年層の社会移動と階層化』
第1巻
編
亮
『2005 年 SSM 日本調査の基礎分析
―構造・趨勢・方法―』
中井
美樹
杉野
勇
第 10 巻
菅野
剛
第 11 巻
太郎丸
第 12 巻
前田
忠彦
編
『社会調査における測定と分析をめぐる諸問題』
第 13 巻
有田
伸
編
『東アジアの階層ダイナミクス』
第 14 巻
石田
浩
編
『後発産業社会の社会階層と社会移動』
第 15 巻
佐藤
嘉倫
編
『流動性と格差の階層論』
第9巻
3
『2006年 SSM 若年層郵送調査
コ-ド・ブック』
2008 年 3 月
『2006年 SSM 若年層郵送調査
基礎集計表』
2008 年 3 月
『2005年 SSM 韓国調査
コード・ブック』
2008 年 3 月
『2005年 SSM 韓国調査
基礎集計表』
2008 年 3 月
“Taiwan Social Change Survey, 2005: Social Stratification and Social
Mobility in Three Countries, User Guide and Codebook” February, 2008
付記2.文部科学省科学研究費補助金研究組織等
研究課題「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」
(16001001)
研究種目
特別推進研究
研究組織
研究代表者:佐藤
嘉倫
(東北大学大学院文学研究科教授)
研究分担者:近藤
博之
(大阪大学大学院人間科学研究科教授)
研究分担者:尾嶋
史章
(同志社大学社会学部教授)
研究分担者:斎藤
友里子(法政大学社会学部教授)
研究分担者:三隅
一百
(九州大学大学院比較社会文化研究院教授)
研究分担者:石田
浩
(東京大学社会科学研究所教授)
研究分担者:中尾
啓子
(首都大学東京都市教養学部教授)
(研究協力者については、全リストを第 15 巻に掲載した。
)
研究経費(単位
千円)
直接経費
間接経費
平成16年度
19,700
5,910
25,610
平成17年度
186,600
55,980
242,580
平成18年度
29,400
8,820
38,220
平成19年度
32,700
9,810
42,510
268,400
80,520
348,920
計
研究発表
全リストを第 15 巻に掲載。
4
総額
はしがき
伝統的な社会階層・社会移動の研究においては、「若年層」は研究対象としてはっきり認
識されてこなかった。確かに学校を卒業して最初の職(初職)は、地位達成分析をはじめ
として、社会移動の分析では重要な研究対象であった。しかし、それは学校から仕事場へ
の移行の問題であったり、地位達成過程の一つの通過点として位置付けられ、固有の研究
対象と見なされることはなかった。2005 年の SSM 調査でこのような状況に変化が生じた
のは、若年層の就業が一つの社会問題として認識されたことが原因であろう。フリーター、
ニート、ネットカフェ難民といった現象へのマスメディアの注目が、
「若年層」への注目の
直接的なきっかけと思われる。このような新しい現象の実態を知りたいという知的好奇心
がこの新しい研究対象への注目の背景にはある。
「若年層」に注目するもう一つの理由は、政策的な重要性であろう。すなわち、若年層
をターゲットにした労働政策の重要性が広く認識されるようになっているからである。確
かに中高年の失業や不本意就業も問題であるが、若年層の長期失業や不本意就業は将来さ
らに大きな問題を惹起する危険性がある。なぜなら、その若者たちがそのまま年をとって
いったとしたら、仕事をするために必要なスキルや知識を持たない中高年が増加すること
になるからである。仕事をするための知識やスキルは、日本の場合、若いうちにオンザジ
ョブトレーニングによって習得されることが多いので、若いころにオンザジョブトレーニ
ングを受ける機会を持たないことは、致命的であるかもしれない。仮にスキルや知識を身
につけたとしても、日本の雇用主は正規雇用の職歴を持たない求職者(ただし新卒を除く)
の能力について懐疑的である。すなわち、日本では、正規雇用の職歴を持たないことは、
人的資本の低さを示すシグナルとして機能している。それゆえ、いったん長期無業/非正規
雇用のキャリアトラックにのってしまうと、そこから抜け出すのが難しいのではないかと
懸念されているのである。
このような問題は必ずしも日本独特というわけではないが、いわゆる日本的雇用慣行が
この問題に微妙な影を落とす。すなわち、新卒一括採用と終身雇用の慣行が強固であるほ
ど、いったん正規雇用のキャリアから逸脱してしまうと、そこに戻ることが難しいと考え
られるからである。近年「第 2 新卒」という言葉があらわれたが、これもいかにも日本的
な言い回しである。第 2 新卒とは一度正規雇用の職についた転職希望の若者のことであっ
て、けっして新卒ではない。それにもかかわらずわざわざ「新卒」と呼ぶのは、新卒に準
じて積極的に採用するという雇用主側の態度の表れであり、裏を返せば新卒と第 2 新卒以
外の採用には消極的ということであろう。
「若年層」に注目する第 3 の理由は、社会の変化が最もよく表れるのが若年層だからで
あろう。例えば、非正規労働者の増大は若年層だけの現象ではなく、あらゆる年齢層で起
こっていることである。しかし、そのような新しい雇用制度は新しく職に就く者から先に
5
導入されるのが常であるから、結果的に若年層に集中的に現れがちである。若年層の研究
は、今後の社会の動向をうらなううえで決定的に重要なのである。特に近年、所得格差の
拡大と貧困層の増大が話題になっているが、これもまず若年層に顕著に現れるのではない
かと懸念されている。単に収入が低くなるだけならばまだよいが、満足度や抑うつ感のよ
うな心理的な面の悪化や、相談相手のような交友関係の収縮がともなうと、ますます困難
な状況に陥ることになる。若いうちは親の援助が得られる場合も多いが、年をとるにつれ
てそれも難しくなっていく。こういった問題は、10 数年後にはもっと上の年齢層にも広が
る可能性があるのである。
この 11 巻は、以上のような背景のもとに書かれている。そもそもマスコミが騒ぐような
「格差」が本当に生じているのか、もしも生じているのならば何が原因か、といった問題
が議論の焦点となる。また、
「格差」といってもさまざまな格差が考えられる。年収、時給、
余暇時間、生活の質、満足度、ライフチャンス、人的資本、社会関係資本、健康のように
様々な観点から「格差」についてはアプローチできる。また格差が存在するとしても社会
移動が容易ならば、格差の弊害はそれほど大きいものとはいえない。仮に高校を卒業後に
非正規雇用の職に就いたとしても、正規雇用への転職が容易ならば、正規雇用と非正規雇
用の間の所得格差の弊害はずっと緩和されるはずである。それゆえ、格差と社会移動は分
かちがたく結び付く重要な問題圏なのである。この 11 巻でも、社会移動を中心に様々な角
度から若年層の階層化にアプローチしている。研究は始まったばかりで、まだ十分な成果
がまとまっているとは言い難いが、現時点での到達点をここにまとめる。この巻が今後の
研究のスプリングボードとなれば幸いである。
2008年3月
太郎丸 博
6
2005年SSM調査シリーズ 11
若年層の社会移動と階層化/目次
刊行のことば
はしがき
平沢 和司
1
1
高等教育拡大期における若年者の学歴・学校歴と初職
2
After the Bubble: Young Men’s Labor Market Entry Experiences in the 1990s and
Beyond
Mary C. Brinton
3
社会関係資本としての学校
―若年層の職業機会を中心に―
4
社会ネットワークと初職非正規雇用ダミーの分析
5
若年層のライフチャンスにおける非正規雇用の影響
三隅 一人
37
太郎丸 博
57
―初職と現職を中心に―
佐藤 香
6
13
67
若年者の能力自己評価と「生活の質」 ―労働時間と仕事特性による分化に注目して―
本田 由紀
7
若者におけるキャリアパターンの不安定化
81
―社会的排除アプローチを参考に―
樋口 明彦
105
8
若年層非正規雇用・無職の地域分析
栃澤 健史
127
9
若年層におけるソーシャル・サポートとディストレス
片瀬 一男
149
10
独身女性の性分業意識と従業上の地位
太郎丸 博
165
11
若年労働者の転職意向と非正規就労経験の関係
飯島 賢志
177
7
12
社会階層と職場のフリーライダー問題
―若年における正規雇用と非正規雇用の比
較―
13
小林 盾
若年層の階層意識における「フリーター」の効果 ―フリーターをしている理由によ
る分析―
14
189
若年層における社会的ネットワークと社会階層
小林 大祐
205
菅野 剛
219
235
既発表成果一覧
8
The 2005 SSM Research Series/ Volume 11
Social Stratification and Social Mobility of Young Japanese
Edited by
Hiroshi Tarohmaru
CONTENTS
Preface to the 2005 SSM Research Series
Preface to Volume 11
1
The Effects of Educational Credentials on Occupational Attainment
Kazushi Hirasawa
2
1
After the Bubble: Young Men’s Labor Market Entry Experiences in the 1990s and
Beyond
Mary C. Brinton
3
School as Social Capital: Its Functioning on Occupational Opportunities for Youth
Kazuto Misumi
4
13
37
Do the Size of Friendship Networks Raise the Probability of Entering Standard
Employment?
Hiroshi Tarohmaru
5
57
Non-regular Employment of Youth and Their Life Chance: Focusing on Jobs and
marriage
Kaoru Sato
6
67
Self-evaluation of abilities and "quality of life": focusing on the differentiation by
working hours and job contents
Yuki Honda
7
81
Changes in Career Patterns of Youth in Japan
Akihiko Higuchi
9
105
8
Regional analysis of young atypical workers and unemployed youth
Takeshi Tochizawa
9
Single Women’s Employment Status and Sex-Role Attitudes
Kazuo Katase
10
149
The Effects of Educational Credentials on Occupational Attainment
Hiroshi Tarohmaru
11
127
165
The Influence of Non-Regular Working Experience to the Intension of Change of
Job of Young Regular Workers
Kenji Iijima
12
177
Social Stratification and the Free-rider Problem in the Workplace: Comparison
between Young Regular and Non-regular Workers
Jun Kobayashi
13
The Effects of the Reason of Being “FREETER” on Class Consciousness
Daisuke Kobayashi
14
189
205
Analysis on the Relationship between Social Stratification and Social Network of
Youth
Tsuyoshi Sugano
Appendix
219
235
10
高等教育拡大期における若年者の学歴・学校歴と初職
平沢 和司
(北海道大学)
【要旨】
戦後二度目の高等教育拡大期に進学時期を迎えた若年コーホート(1971~80 年生まれ)に着目し
て、出身階層と学歴・学校歴が職業キャリアの出発点である初職にあたえる影響を、2005 年 SSM
データ面接票から分析した。その結果あきらかになったのは次の点である。①学歴・大学の学校歴
別に初職の職種・就業先規模の分布および平均職業威信スコアーをみると、中卒、高卒、高等教育
卒の間にはっきりとした差異がある。同時に、大卒者間にも顕著な差異があり、入学難易度の低い
大学は短大や専門学校と類似性が高い。②父職業威信を統制したパス解析によれば、教育年数が初
職職業威信に与える効果はいずれのコーホートでも安定しており、出身階層が学歴を媒介として初
職に影響するというこれまでの趨勢に若年コーホートでも変化はみられない。③大卒者・大学院修
了者のみを対象としたパス解析では、若年および中年前期コーホートで出身階層と大学の学校歴が
いずれも初職威信に影響しており、学校歴の効果は若年のコーホートほど強まる様相を見せている。
ただしこれは男性に限った傾向で、女性に学校歴の効果はみられない。もっとも、本データの若年
コーホートは回収率が低く学歴の低い者が母集団に比べて多く含まれているので、さらなる慎重な
検討が必要である。
キーワード: 学歴、学校歴、初職
1
問題
周知の通り戦後の日本においては、高等教育(大学・短大)進学率が二度にわたって顕
著に増加した。一度目は経済の高度成長期(1960~1975 年ころ)であり、二度目は平成不
況期(1990 年~)である(図 1)
。2005 年には大学・短大進学率(男女計)が 51.5%とは
じめて半数を超えている。このほかに専門学校進学者をあわせれば、同世代のほぼ 4 人に
3 人は、高等教育(正確には中等後教育)を受けていることになる。こうなれば当然、高
等教育の多様性に注目せざるを得ない。そのことは進学率よりも高等教育、とりわけ大学
への入学者数の推移を見たほうがわかりやすいだろう。大学入学者数は、2 度の拡大期に
挟まれた 1970 年代後半から 1980 年代にかけては毎年 42 万人前後だったが、2000 年には
60 万人を超えている。その増加分は 1980 年代の短大入学者数に匹敵する規模である。つ
まりかつては大学に進学しなかったであろう層が相当数、今日のキャンパスにはいるとい
うことである。さらに 1991 年をピークに 18 歳人口は減少しはじめたので、大学生は実数
1
1
55
大学進学率(男性)
大学進学率(女性)
短大・大学進学率(女性)
短大・大学進学率(男性)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
54
57
60
63
66
69
中年後期コーホート
図 1.大学進学率の推移
72
75
78
81
中年前期コーホート
84
87
90
93
96
99
02
05
若年コーホート
出典:文部科学省のホームページ、コーホート区分線は 18 歳時の西暦年
のうえでも比率のうえでもきわめてありふれた存在になった。そうなれば当然、大学生の
平均的な質が低下し大学生間の分散が大きくなり、ひいては職業達成の分散も大きくなる
など地位達成の構造にも何らかの影響をおよぼすことが容易に予想される。
けれども従来の SSM データをもちいたさまざまな分析では、学歴の差違(いわゆるタテ
の学歴)には十分すぎるほど着目してきたのに対し、一部の例外をのぞいて同一学歴の中
での差違(ヨコの学歴あるいは学校歴)にはかならずしも配慮してこなかった。その理由
の一つは最初の拡大期やその後の停滞期では、大卒者の実数も比率も小さかったために、
大卒者内部の差違を検討することが、実質的に難しかったことにあろう。それに対して
2005 年 SSM 調査では約 16%が大卒者である。まだまだ少数派ではあるが、実数にして 917
人で、なんとかその内部の差違を検討できる人数になった。
しかも 2 度目の拡大期に進学時期を迎え、はじめての就職をすでに経験した若年コーホ
ート(1971~80 年生まれ)が対象者に含まれるに至った。このコーホートの年長の約半数
は第 2 次ベビーブーマーのため受験競争がきわめて熾烈だったのに対して、年少の約半数
は大学合格率が急上昇したなかで受験を迎えた。このように大学進学ひとつをとってもか
ならずしも均一的なコーホート集団ではないが、いずれもバブル経済崩壊後の「失われた
10 年」に就職したいわゆる「ロストジェネレーション」である。受験に苦労し、
「氷河期」
の就職にも苦労し、やっとの思いで見つけた職が非正規職で将来に不安に抱いている、と
ジャーナリズムが喧伝している世代である(朝日新聞「ロストジェネレーション」取材班
2007)
。その真偽を含めてこの若年コーホートに着目して、学歴間および大卒者内部の差違
が初職にどう影響するのか、他のコーホートと違いがあるのかどうかを検討することが、
本稿の第一の分析課題である。
第二の分析課題は、学歴および学校歴と出身階層・到達階層との連関を確認することで
ある。高等教育の拡大は、直感的には出身階層間に従来あった高等教育を受ける機会の不
平等を解消ないし緩和するように思われる。しかしかならずしもそうはならないことがシ
2
2
ミュレーションに基づいてはやくから指摘されている(Boudon 1973)
。また学歴が職業達
成に影響する学歴主義の程度が強まれば、条件によっては学歴を媒介とした世代間の再生
産が生じ強化される可能性もある(近藤 2002)
。このおなじみの地位達成分析に本稿では
学歴のほか学校歴を組み込んでみたい。もちろんこうした分析は少数ながらすでに行われ
ている。1995 年 SSM データを用いたものでは、中西(2000)が大学を入試偏差値によっ
て 3 分類し、4 段階の高校ランク・出身階層および職業達成との連関を記述している。そ
のうえで「特に大学ランクがその後の進路に与える影響は大きく、大学入試は日本社会の
なかで最も大きな選別機能を持っているように思われる」と述べている。濱中・苅谷(2000)
は後述する方法で、大企業(従業員数 1,000 人以上)への入職チャンスが、1975 年以降入
職者では選抜度の高い銘柄大学卒業者で有意に高まることを示している。また平沢(1998)
は 1955~74 年生まれの大卒男性では、父職業威信が大学の学校歴(入学年次の学部別入試
偏差値)を媒介として初職の企業規模に影響していることを確認している。とはいえこの
テーマでもっとも体系的に分析したのは近藤(1997)で、初職威信に対して教育年数が、
また高等教育卒に限れば短大卒に比べて銘柄大卒(本稿の大学ⅢとⅣにほぼ対応)が有意
な効果を持っていることを個別の一般線形分析から明らかにしている。さらに近藤(2000)
はすべての者と(入試偏差値を用いて)大卒者のみによってパス解析を行い、
「大学の入試
難易度(横の違い)が教育年数(縦の違い)と同程度の効果を初職に対して及ぼしている
ことから、戦後を通して学歴差と学校差が連続したハイアラーキーをなしてきた」と結論
づけている1。本稿で取り組むのは、こうした趨勢が、二度目の高等教育拡大期にどうあら
われているかを検証することである。
なお、職業達成として本来は初職だけではなく、現職あるいは 35 歳時職などでも捉えた
いところである。
しかしここで注目する若年コーホートは最年長者でさえようやく 35 歳に
達したばかりなので、今回は初職に限定せざるを得ない。このコーホートの初期キャリア
を解明できるのはもう少し先のことである。二重労働市場論によれば初職はその後のキャ
リアに決定的な影響を与えることがわかっており、日本的雇用慣行が継続しているにせよ
瓦解しかけているにせよ、キャリアの出発点について検討しておくことは相応の意義があ
るだろう。くわえて初職に限定すれば年齢効果をほぼ統制できるうえに、現職では離職者
が多い女性も、初職であれば男性と同様の分析ができるというメリットもある。
2
データと分析対象者
本稿で用いるのは 2005 年 SSM 日本調査の面接票(Ver14.2、ウエイトなし)である。SSM
調査では過去のデータと合併して分析することも可能であるが、もっとも若いコーホート
1
このほかに SSM データを用いて学校歴を組み込んだ研究としては、
1975 年データを用いた安藤(1979)、
1985 年データを用いた尾嶋(1990)などがある。
3
3
に主たる関心があるので、1995 年以前のデータとのプールはしていない。
分析対象者は 25~64 歳(1941~80 年生まれ)である。25 歳未満は最終的な学歴が確定
できない者および初職についていない者が多いので、また 65 歳以上は各コーホートの範囲
をそろえるために除いた。
3
変数
学歴:初職についた年齢(問 7)の直前に卒業した学校によって確定した2。これにはい
くつか注意すべき点がある。①高校・専修学校高等課程中退のばあいは中学校、専門学校・
高専・短大・大学・大学院中退・在学のばあいはその前に卒業した学校を指す。②ある学
校(たとえば大学)を卒業後に初職につき、その後ふたたび別の学校(大学院)に通った
人もいるので、初職前学歴(大学)は通常の意味での最高(あるいは最終)学歴(大学院)
とは異なる場合がある。本稿でいう学歴はすべて初職前学歴のことである。③SSM の伝統
的な学歴区分(ed_ssm)とは異なって専門学校を高校から区別してある。④調査票に注記
があるとおり、初職とは「学校を出て初めて」ついた職業であり、学生時代のアルバイト
は含まれない。⑤教育年数として扱うときは、中卒は 9、高卒は 12、専門学校・高専・短
大は 14、大卒は 16、大学院修了は 18 を与えた。退学の場合は一つ前の学歴段階の数値を
与えた。
大学学校歴:大学(の学校歴)の分類に関してはいろいろ見解があり、どう分けても恣
意的にならざるを得ない。本稿では近藤(1997)を参考に、設置者と大学入試難易度にし
たがってⅠ~Ⅳまでの 4 つに分類した3。Ⅳ(33 大学)は旧帝大を含めた国立大学 16 校、
私立大学 17 校で入試の偏差値はほぼ 65 を超えている。いわゆる銘柄大学に相当する。Ⅲ
(66 大学)はⅣ以外の国公立大学である。Ⅰ(49 大学)は偏差値がだいたい 45 以下で、
高度成長期以降に地方都市に新設された歴史の短い大学が多くふくまれる。Ⅱ(86 大学)
はその他の私立大学で、
偏差値はⅠより高い。大学名不明者は初職の分布からⅡに含めた。
量的変数をして扱うときには、ⅣからⅠへ順に 70、60、50、40 を割り当てた。偏差値は旺
文社の『蛍雪時代』の複数の年次を比較しながら決めた。ただし大学入試難易度は同一大
学でも年度・学部によって異なるので、この分類や数値化はあくまでもひとつの試みであ
り目安にすぎない4。それでも高校生が進学するときや、企業が大学生を採用するときに入
2
卒業年齢や初職年齢は 1 歳程度のずれがありうるので、正確には卒業年齢以降に初職年齢が位置する場
合のほか、卒業年齢より 1 歳下と初職年齢が一致する場合も含まれる。
3
既存の大学分類に関しては平沢(1998)を参照。また出身大学が組織内の昇進競争におよぼす効果を日
米で比較する際に、大学の入試偏差値を利用した研究としては Ishida et al.(1997)がある。
4
丹羽・服部(2005:114)に例示されているとおり、同一大学・同一学部であっても受験競争が激しい
時期には偏差値が高く、弛緩期には低くなる。その差は 10 ポイント以上におよぶ場合もある。入学年度
の偏差値を学部別に調べてその情報を活かしたほうがよいのか、それともコーホート間での比較を意識し
て年次にかかわらず同じ値を与えたほうがよいのか判断が難しいが、そもそも理工系学部は文系学部より
4
4
学難易度は明示的あるいは暗黙裏にくりかえし参照されている以上、それなりの妥当性は
あるだろう。
総合職業分類:SSM 総合職業 8 分類を用いた。
企業規模:数値化するときは、質問紙の各カテゴリーの中央値を用いた。ただし、1,000
人以上と官公庁は便宜的に 1,500 にコードした。対数はとっていない。
職業威信:本人・父親(本人 15 歳時)とも 1995 年職業威信スコアー(三輪哲による管
理職に関わるコード修正済み)を用いた。
正規比率:
「臨時雇用・パート・アルバイト」
「派遣社員」
「契約社員・嘱託」
「内職」を
非正規雇用、それ以外の「経営者・役員」「常時雇用されている一般従業者」
「自営業者、
自由業者」
「家族従業者」を正規雇用に分類した。
コーホート:2005 年に 25~34 歳(1971~80 年生まれ)を若年コーホート、35~49 歳(1956
~70 年生まれ)を中年前期コーホート、50~64 歳(1941~55 年生まれ)中年後期コーホ
ートをとした。18 歳で大学に進学したと仮定すれば、この区分は男女とも大学・短大進学
率の急上昇期、停滞期、再上昇期におおむね対応する。なお、学校から職業への移行には
そのときの労働市場の状況がとうぜん強く影響するので、初職入職年によってコーホート
を区分することも考えたが、本稿では移行そのものよりは地位達成過程により関心がある
ので、出生コーホートによって区分した。
4
分析
4.1 学歴・学校歴別初職の分布
ここでは高等教育内部の多様性を探ることを目的として、通常の学歴区分に大学のみ学
校歴を加味した計 7 区分の学歴・学校歴別の初職の分布を、性別・コーホートごとに確認
する。表 1 の第 1・2 列は初職が専門・大企業ホワイトカラーの者が占める比率である。大
卒者を中心にみると、いずれのコーホートでも男性は大学ⅠにくらべてⅡ、Ⅲ・Ⅳのほう
がその比率が高く、若年コーホートほどその差異が大きい。女性は男性ほど大学間の差は
ないが同様の傾向が見られる。第 3・4 列の大企業(従業員数 1,000 人以上)
・官公庁に就
職した者の比率でも、傾向は同じである。第 5・6 列の非正規比率では逆に大学Ⅰのほうが
比率が高い。とくに若年の女性はそうである。また表には示していないが、平均初職威信
も大学学校歴ごとに差異があった。とくに若年コーホートでの多重比較の結果を示せば、
男性では大学Ⅲ・Ⅳは他のすべての区分と、大学Ⅰは大学Ⅲ・Ⅳのみと有意な差違があっ
た。若年女性では大学の 4 区分間に有意な差違は認められなかった。男性短大卒や女性の
偏差値が低いなど、調整が難しい点がある。そこでかなり大雑把ではあるが、本文中に述べたとおり数値
化した。なお F ランク(ボーダーフリー、本稿では大学Ⅰ)の登場は 2000 年なので、若年コーホートで
も該当者はごく少数である。
5
5
表1.学歴・大学学校歴別初職の分布 (N以外はすべて%)
専門・大企業ホワイトカラー比率 大企業・官公庁比率
学歴・大学学校歴
男性
女性
男性
女性
中学
中年後期コーホート
2.0
6.1
9.9
12.2
中年前期コーホート
3.1
5.6
3.0
14.3
若年コーホート
2.8
10.3
13.9
3.4
高校
中年後期コーホート
24.3
31.5
36.7
26.1
中年前期コーホート
24.1
33.0
30.5
23.1
若年コーホート
18.5
29.3
28.7
17.8
専門学校
中年後期コーホート
38.9
49.5
16.7
14.3
中年前期コーホート
43.6
55.7
22.5
21.3
若年コーホート
39.6
54.5
16.3
18.2
短大・高専 中年後期コーホート
38.1
70.0
38.1
40.0
中年前期コーホート
54.5
66.4
45.5
30.5
若年コーホート
33.3
55.5
16.7
25.2
大学Ⅰ
中年後期コーホート
63.2
60.0
21.1
40.0
中年前期コーホート
47.8
84.6
31.9
30.8
若年コーホート
37.5
36.8
12.0
15.8
大学Ⅱ
中年後期コーホート
57.6
80.0
39.1
52.0
中年前期コーホート
70.4
68.9
43.2
34.4
若年コーホート
60.0
80.0
27.3
37.8
大学Ⅲ・Ⅳ 中年後期コーホート
73.7
81.3
50.0
68.8
中年前期コーホート
85.1
89.3
60.4
53.6
若年コーホート
93.8
78.1
53.1
50.0
非正規比率
男性
女性
12.0
13.4
16.7
19.4
30.6
48.3
4.3
6.5
7.9
8.4
12.2
22.9
11.1
7.9
10.0
9.0
6.1
21.2
0
15.7
9.1
12.8
33.3
23.6
0
40.0
6.4
23.1
16.0
31.6
0
8.0
2.7
14.8
7.3
11.1
2.1
12.5
6.9
17.9
9.4
15.6
N
男性
252
67
36
490
384
164
18
40
49
21
22
6
19
47
25
92
111
55
96
101
35
女性
279
36
29
648
441
192
101
122
66
70
141
110
5
13
19
25
61
45
16
28
32
欠損値のために、Nは項目によって若干異なる場合がある。
中年大卒者は数が少ないので断定的なことは言えないが、以上からわかるのは、とくに若
年男性で大学間の差違が顕著であること、大学Ⅰは短大・高専や専門学校と類似した傾向
にあること、他方で高等教育卒と高卒・中卒とは差違が明瞭なこと、である。なかでも大
学Ⅰは入試難易度が低いので、入試を行わない学校も多い専門学校と学生市場がかなり重
複していることが窺える。要するに大卒者は就職から見るかぎり一枚岩とはとうてい言え
ず、かなり多様化しており、その一部は短期高等教育と連続的な存在と考えられる。就職
地を視野に入れれば、とくに大学Ⅰの卒業生は短大や専門学校出身者と共通性の高い地域
ごとの労働市場に吸収されていることが明らかになるであろう。
4.2 出身階層・学歴・初職の連関
つぎの課題はこうした学校歴を加味した学歴と初職との連関を、従来の地位達成分析、
とりわけパス解析の枠組みに位置づけることである。具体的には出身階層に関する変数を
統制しても、この連関に変化がないかどうかをコーホートごとに確認する。ただしそれを
、、、、、、、
行うには、学歴間の違いと大卒者のみの学校歴間の違いを量的変数として同一尺度上にど
のように位置づけるか、という問題がある。いうまでもなく学校歴は学歴の下位概念であ
り、いちおう個人-学校歴-学歴という階層構造があるので、マルチレベル分析の適用も
考えられる。けれども学校歴は大卒者にしかないので、通常のマルチレベル分析をそのま
6
6
ま使うのは適切ではないだろう。また濱中・苅谷(2000)のように学歴間の差違は教育年
数で、大卒者の学校歴はダミー変数で付加的に投入するという方法もある。ただし重回帰
分析のような独立変数の直接効果だけではなく、独立変数間の因果を考慮にいれた間接効
果も同時に表現できたほうがのぞましい。そうなると量的変数ではなく、職業と教育年数
をいずれも質的変数として捉えて対数線形分析によって、あるいは階層性をもった多項ロ
ジスティック分析から間接的に連関の構造を探ることも考えられる。けれどもけっきょく
学歴間の差違と学校歴間の差違を同時に分析するのではなく、まず全員で、ついでそこか
ら大卒者だけを取り出してそれぞれでパス解析を行うことにした。これは洗練された方法
とはいいがたいし、それぞれで分析対象者が異なることになるが、従来の知見と比較しや
すいうえに何よりも直感的でわかりやすいように思われる。そして最後に学歴と学校歴を
同時に投入する一般線形分析によって(直接効果だけではあるが)、パス解析を補うことに
する。
なお、出身階層を表す変数としては父職業威信と父教育年数の双方を投入することが
Blau and Duncan(1967)以来、定石とされ、近年ではとくに父教育年数を組み込む意義が
吉川(2006)によって再評価されている。しかしここでは職業に着目した世代間の階層移
動と学歴の連関を確認することが目的なので、父職業威信のみで出身階層を捉えたもっと
もシンプルな 3 変数モデルによっている。
また父学歴は欠損値が約 20%とかなり多いので、
モデルに含めないほうが分析ケース数が増えるという実利もある。
図 2 はすべての者を対象に、男女別・コーホート別にパス解析を行った結果である5。そ
れによれば、これまでくりかえし確認されたように、男女とも父職業威信が本人教育年数
を媒介として初職威信に影響している。しかも父職業威信から本人教育年数、および本人
教育年数から初職威信へのパス係数は、いずれのコーホートでも大きな値で安定している。
つまり高等教育を受ける出身階層間の格差と学歴主義とが併存しているということであり、
この傾向は若年コーホートにも当てはまることを示している6。したがって前節でみた学歴
主義の趨勢は、出身階層を統制してもなお強固に見られるといってよいだろう。同時に男
性に限れば父職業威信から初職職業威信への直接の効果が若いコーホートほど強まる様相
をみせている。また男女とも教育年数から初職威信へのパス係数が若年コーホートでは中
年コーホートより小さくなっていて、学歴の効果が学校歴の効果へ変貌しつつあることを
予感させる。
5
図 2、3 で表 1 にくらべて分析ケース数が減少しているのは、父職(威信)の欠損値のためである。ま
た飽和モデルなので適合度指標は算出されない。
6
3 つのコーホートを多母集団として Amos によって同時分析を行うと、コーホート間で「配置不変」と
判断できる。いま注目している教育年数から初職威信へのパスは、男性の中年後期コーホートと若年コー
ホートの間でパス係数が有意に異なる。つまり連関の構造はコーホート間で安定しているが、一部のパラ
メーターに変化が生じていると考えられる。
7
7
教育年数
教育年数
①.407***
①.363***
①.300***
①.496***
②.304***
②.419***
②.278***
②.437***
③.352***
③.338***
③.283***
③.378***
父職業威信
初職威信
父職業威信
初職威信
①.045
①.147
①.096*
①.283
②.111**
②.216
②.057
②.208
③.182**
③.190
③-.034
③.137
男性
女性
①中年後期コーホート(1941~55 年生まれ)
男性 831 人 女性 957 人
②中年前期コーホート(1956~70 年生まれ)
男性 647 人 女性 709 人
③若年コーホート(1971~80 年生まれ)
男性 307 人 女性 413 人
図 2.パス解析(全学歴)
誤差項は省略、太字は R2、***p<.001, **p<.01, p<.05
大学学校歴
大学学校歴
① .168*
①.136#
①.119
①-.020
②-.092
②.169*
②.036
② .081
③ .137
③.285**
③.005
③ .136
父職業威信
初職威信
父職業威信
初職威信
①.007
①.019
①.329*
①.107
②.150*
②.046
②.104
②.018
③.181#
③.128
③.027
③.019
男性
女性
大学学校歴
①.-147*
①.159*
②-.095
②.284***
③ .140
③.402***
父職業威信
初職企業規模
①.047
①.025
①中年後期コーホート(1941~55 年生まれ)
男性 185 人 女性 41 人
②.015
②.080
②中年前期コーホート(1956~70 年生まれ)
男性 220 人 女性 95 人
③-.096
③.160
③若年コーホート(1971~80 年生まれ)
男性 98 人 女性 84 人
男性
図 3.パス解析(大卒者・大学院修了者)
誤差項は省略、太字は R2、大学学校歴(量的変数)に関しては本文 3.変数を参照、***p<.001,**p<.01, p<.05, #p<.10
8
8
4.3 出身階層・学校歴・初職の連関
そこでつぎに大卒者と大学院修了者にしぼって、同様の分析を行った。ここでの大学学
校歴は 4 段階の数値で表現してあり、数値が大きいほどいわゆる銘柄大学出身であること
を示す(詳細は 3.変数の説明を参照)
。その結果は図 3 の通りで、男性では大学学校歴から
初職威信へのパスがいずれのコーホートでも正で有意であり、しかもパス係数は若年のコ
ーホートほど大きくなっている。さらに中年前期コーホート以降は父職業威信が職業威信
へ(危険率 10%水準だが)いちおう有意な効果を示すようになってきている。つまり出身
階層の有利さは、大学を目指す者のなかですら就職戦線の有利さにも転化しうることを窺
わせる。ただし父職業威信の初職への直接効果はいまのところそれほど強くない。今後は
父職業威信から大学学校歴へのパスが有意になるかが注目される。また男性のみ図 3 に示
したとおり、初職威信を初職の企業規模(10 段階で数値化)に置き換えると、父職業威信
から初職規模への直接効果が見られなくなる。
大企業や公務員になることに出身階層は
(大
卒者間では)関連していないようだ。他方で、大学の学校歴から初職規模へのパス係数は
若年コーホートほど大きな値を示すようになってきている。もちろんこれらはかなり便宜
的な大学学校歴という尺度構成に依存した結果であり、かつ学部・専攻・大学立地などの
差違をいっさい無視していることに留意しなければならない。また男性ですら最終的な従
属変数の決定係数は小さい。けれどもそうはいっても、わずか 4 段階のスケールで、大学
学校歴から初職へのパス係数が若いコーホートほど大きくなるなど、もっともらしい結果
となっていることに驚かざるをえない。どうやら男性では学歴間と学校歴間の差違が初職
に対して同時に効果を有していると考えてよさそうである。
ただし女性では、大卒者間のこうした連関はいっさいみられない。大学学校歴から初職
へのパス係数は若年コーホートほど大きいが、いずれも有意ではない。また父職威信から
大学学校歴へのパスも有意ではない。試みに父職威信を父教育年数にかえると、大学学校
歴への有意な効果は中年コーホートでは見られたが、若年コーホートにはない。これらに
は女性は短大卒が多く大卒者は少ないこと、そして男性にくらべて初職職業威信の分散が
小さいことが影響しているようである。つまり女性は男性と異なって、出身階層を統制す
るか否かにかかわらず大卒者内部の差違が初職へ影響しているようにはいまのところ見え
ない。差違はもっぱら学歴間をめぐって生じていると言えそうである。
4.4 出身階層・学歴学校歴・初職の連関
もっとも以上は学歴と学校歴を別個に検討したものなので、最後に両者を同時に投入し
た一般線形分析(共分散分析)の結果を示しておこう。表 2 は初職職業威信を従属変数と
して、モデル 1 ではコーホート、父職業威信、学歴・学校歴を、モデル 2 ではそれらのほ
かにコーホートと学歴・学校歴の交互作用項をそれぞれ独立変数として、男女別に分析し
9
9
表2.初職威信を従属変数とする一般線形分析 (数値は非標準偏回帰係数)
男性
モデル1
モデル2
モデル1
若年コーホート
-1.492 **
-3.355 *
-1.620
中年前期コーホート
0
0
0
中年後期コーホート
-.412
-2.461 *
.078
父職業威信
.086 ***
.083 ***
.041
中卒
-6.936 ***
-9.606 ***
-12.050
高卒
-5.566 ***
-6.951 ***
-8.016
専門学校卒
-2.229 *
-5.101 **
-3.968
短大・高専卒
-.381
.002
-4.945
大学Ⅰ卒
-1.344
-1.793
-2.475
大学Ⅱ卒
0
0
0
大学Ⅲ・Ⅳ卒
3.731 ***
2.978 **
1.094
若年コーホート×中卒
4.407 *
若年コーホート×大学Ⅰ卒
若年コーホート×大学Ⅲ・Ⅳ卒
4.408 *
切片
50.107 ***
51.416 ***
56.444
F
50.942 ***
23.009 ***
71.983
.201
.206
.235
修正済みR2
N
1785
1785
2078
***p<.001, **p<.01, *p<.05
女性
***
***
***
***
***
***
*
モデル2
-.997
0
4.191
.034
-10.701
-7.086
-3.064
-4.090
2.083
0
3.067
**
*
***
***
**
***
*
-6.023 *
***
***
54.684 ***
32.587 ***
.242
2078
モデル2ではコーホートと学歴・学校歴の交互作用(大学Ⅱ卒・中年前期コーホート基準)を投入したが、若年コー
ホートで有意な項のみ表示している。
た結果である7。基準カテゴリーは、モデル 2 で若年コーホートへの変化を捉えるのに備え
て近接する中年前期コーホートに、また学歴・学校歴ではもっとも人数が多く一般的なレ
ベルにある大学Ⅱにしてある。それによれば男性では大学Ⅱは銘柄大学である大学Ⅲ・Ⅳ
とは有意な差違があるが、大学Ⅰおよび短大・高専とはない。大学とその他の中等後教育
の間にはっきりとした断絶があるというよりは、大卒者間での分散がそれなりにあり、銘
柄大学以外は(人数は少ないものの)短大・高専とグラデーションをなしているといった
ほうがよいであろう。またモデル 2 のコーホートとの交互作用項では、全体として有意な
項は少なく、モデル 1 の構造がどちらかといえば安定していることがわかる。ただし若年
コーホートに関わる交互作用項のなかでは大学Ⅲ・Ⅳのみが正の有意な効果を持っている
点は注目される8。つまり大学が大衆化するなかで有名大学のプレミア効果はなくなるどこ
ろかむしろ中年前期コーホートにくらべて若年コーホートで高まっていることが窺える。
女性は男性と微妙に異なり、モデル 1 では大学Ⅱは大学Ⅲ・Ⅳと有意な差がなく、逆に大
学Ⅰとの間に差が生じている。また交互作用項では若年コーホートの大学Ⅰで負の有意な
効果が生じている。ただし女性で大学Ⅰは少数なので、断定は慎んだほうがよいだろう。
全体としては男性と同様に、モデル 1 での構造は安定していると考えられる。
7
コーホート間で職業威信が有意な差をもっているが、その理由は不明である。ここではコーホートは統
制変数と位置づけている。
8
男性モデル 2 で若年コーホート×中卒が正で有意であるが、このカテゴリーの人数は少ないので、断定
的なことは言えない。
10
10
5
結びに代えて
以上では、戦後二度目の高等教育拡大期に進学時期を迎えた若年コーホート(1971~80
年生まれ)に着目して、出身階層と学歴・学校歴が職業キャリアの出発点である初職にあ
たえる影響を分析してきた。その際、従来は一括りにされることの多かった大学を 4 つに
分類して他の学歴と比較した。その結果あきらかになったのは、つぎの 3 点である。
①学歴・大学の学校歴別に専門職・大企業ホワイトカラー比率、大企業・官公庁就業者比
率、および平均職業威信スコアーをみると、中卒、高卒、高等教育卒の間にははっきりと
した差異がある。同時に、入学難易度の高い大学とそうでない大学の間にもとくに若年コ
ーホートでは顕著な差異があり、入学難易度の低い大学はむしろ短大や専門学校と類似性
が高い。
②父職業威信を統制したパス解析によれば、教育年数が初職職業威信に与える効果はいず
れのコーホートでも安定しており、出身階層が学歴を媒介として初職に影響するというこ
れまでの趨勢に若年コーホートでも大きな変化はみられない。
③大卒者・大学院修了者のみを対象としたパス解析では、若年・中年前期コーホートで出
身階層と大学の学校歴がいずれも初職威信に影響しており、学校歴の効果は若年のコーホ
ートほど強まる様相を見せている。ただしこれは男性に限った傾向で、女性に学校歴の効
果はみられない。
けっきょく学歴と学校歴が初職に対して同程度の影響を与えてきたとする従来の知見を、
男性の若年コーホートで追認する結果となった。高等教育の拡大によって大学生のボリュ
ームが増す一方で、大学教育の質といった他の条件に変化がないとすれば、雇用主が職務
能力のシグナルとして学歴ばかりでなく学校歴を従来にもまして重視するようになったと
しても不思議ではない。その意味で、
「もはや学歴社会は崩壊したのだから、有名大学卒の
プレミアはない」といった巷間つたわるところは、男性の学校から職業への移行を平均的
な姿で見るかぎり疑わしい。もっともこれをメリトクラシーの実現として評価するかどう
かは意見が分かれるであろうが、高等教育が拡大しても、出身階層の有利さは学歴や一部
の学校歴を通じて少なくとも職業世界の入り口までは次世代へ引き継がれているように見
える。ただしその後の職業キャリアについては本稿の範囲を超えるので分からないし、本
データの若年コーホートは回収率が低く学歴の低い者が母集団に比べて多く含まれている
ので、さらなる慎重な検討が必要である9。また本稿では学歴・職業達成をいずれも教育年
数・職業威信という量的変数で捉えて、変数間に線形関係があることを仮定しているが、
各変数を質的変数で捉え線形でない連関も探るべきだという異論もあるだろう。学歴と学
校歴を融合させた量的変数による分析をふくめて、これらは今後の課題としたい。
9
高等教育卒業者の比率を国勢調査と比較した結果が平沢・片瀬(2008)の表 1 に示されている。
11
11
【文献】
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「学歴社会仮説の検討」
.富永健一編『日本の階層構造』275-292.東京大学出版会.
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日新聞社.
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『機会の不平等』
新曜社)
.
濱中義隆・苅谷剛彦.2000.
「教育と職業のリンケージ」
.近藤博之編『日本の階層システム 3 戦後日本の
教育社会』79-103.東京大学出版会.
平沢和司.1998.
「大卒者の出身階層と学校歴・初職」
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The Effects of Educational Credentials on Occupational Attainment
HIRASAWA Kazushi
(Hokkaido University)
In postwar Japan advancement rate to higher education have increased remarkably two times. The aim of this paper
is to examine the effects of educational credentials on getting first job focusing upon the young cohort born from
1971 to1980 who applied to college at the second expansion of higher education. The 2005 SSM survey in Japan
data shows that years of schooling effects the first job prestige after controlling for social origin and educational
credentials (college selectivity) among male college graduates also influence the first job prestige and the firm size.
This suggest that in Japan colleges are highly stratified and employers use college credentials as signal of job
capacity at recruitment.
Keywords: Educational credentials, College Selectivity, First Job
12
12
After the Bubble: Young Men’s Labor Market
Entry Experiences in the 1990s and Beyond
Mary C. Brinton
Harvard University
Abstract
Labor market conditions changed markedly in the 1990s in Japan, dramatically
affecting the employment experiences of new school-leavers. Rates of unemployment
and non-regular or contingent employment (part-time, temporary, contract, or dispatched
employment) increased as the ratio of full-time job openings to applicants plummeted.
This paper analyzes the early labor market experiences of the cohort of young men who
came of age in the 1990s (the “post-bubble cohort”), comparing them to the experiences
of men who entered the labor market in the 1980s and the cohort who entered prior to the
1980s. Men in the post-bubble cohort were significantly more likely than men in the
other cohorts to enter non-regular employment upon leaving school, and were
significantly less likely to enter their first job within one month of graduation. For men
in all three cohorts, the most common pathway into a job was through an introduction
from their school. Moreover, this route was also the one most closely associated with
immediate entry into full-time employment across all cohorts. While men who came of
age in the 1990s had distinctly different early work trajectories than the cohorts who
preceded them, the most reliable pathway into full-time work appears not to have
changed.
Key words: Post-bubble cohort, labor market entry, part-time employment
13
1. Introduction
One of the key ways that individuals enter adulthood in post-industrial societies is
through finishing school and entering full-time employment. The importance of entry
into a full-time job is especially important for young men, as it often determines their
ability to form an independent household and their readiness for marriage and parenthood.
Full-time employment in Japan has been regarded as a sign that young men have become
shakaijin, or full members of society. In most cohorts throughout the post-WWII period,
the majority of Japanese men have been able to enter full-time employment shortly after
completing their education. This has been constituted by self-employment or
employment in a family business, entry into the civil service, or, increasingly over the
past several decades, work as a full-time employee in a private enterprise.
The deep economic recession of the 1990s produced a different set of
circumstances for new school-leavers. The bursting of the economic bubble led to
heightened rates of unemployment brought on by decreased labor demand. Figure 1
shows how unemployment rates changed among different age groups of Japanese men in
the 1990s. While unemployment rose for all three groups of men shown in the figure
(age 15-24, 25-54, and 55 and older), the most dramatic increase was in the younger age
group. In fact, by the late 1990s the unemployment rate for this group was higher in
Japan than in the U.S.
1
14
Figure 1. Japanese Male Unemployment Rates by Age Category
20
18
16
14
12
Percentage
15-24
25-54
55-64
10
8
6
4
2
0
1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
Year
Source: Statistics Bureau, 1984-2005.
In addition to a heightened risk of unemployment, young men in Japan in the
1990s also entered part-time employment at much higher rates than the several cohorts
that immediately preceded them. Figure 2 shows how steeply the part-time employment
rate increased among young men relative to men in older cohorts. The steepness of the
increase accelerated after 1995 in particular.
2
15
Figure 2. Japanese Male Part-Time Workers as a Percentage of All Male Workers, by Age Group
30
25
20
Percent
All
15
15-24
25-39
10
5
0
1980
1985
1990
1995
2000
2003
Source: Statistics Bureau, 2004.
Debates have raged regarding the extent to which new employment patterns
among young Japanese primarily reflect the supply side of the labor market (young
people’s preferences and choices), or are due to the demand side of the labor market.
Commentators arguing especially for supply-side explanations have emphasized young
people’s weakened sense of commitment to work and their increased choosiness as to the
type of work they will do (Yamada 1999). Those arguing for the importance of the
demand side have stressed instead the fact that significant employment restructuring
occurred in the 1990s, and that this worked largely to the disadvantage of young people.
Genda Yuji has shown that the average job tenure or number of years that a Japanese
male full-time employee worked in one firm increased in the 1990s for men over age 50,
but declined for younger men (Genda 2003). As Japanese employers engaged in cost-
3
16
cutting measures to reduce their losses during the recession, the number of entry-level
positions was cut. The drop in the kyûjin bairitsu, or ratio of job applicants to full-time
job openings, was particularly severe for high school graduates. This was due to the
continued decline in the number of manufacturing jobs, the increase in part-time
employment at the expense of full-time employment in the sales and service sectors, and
also to the significant increase in university graduates in the 1990s. All of these
contributed to a decline in the full-time job opportunities available to new graduates,
especially from high school.
Accompanying the decline in full-time job opportunities, there is also evidence
that the smooth high school-work mechanisms that had made Japan the envy of many
other nations in the 1980s began to seriously unravel in the 1990s (Brinton and Tang
2008). Firms’ declining labor demand made it less likely that they would maintain jisseki
kankei (long-term recruitment relationships) with high schools, and many high schools’
shinro shidôbu struggled to place their graduating seniors. For young men, the strong
and reliable route into a full-time job through their school’s introduction became a
scarcer resource.
This paper looks more carefully at the labor market entry experiences of the
cohort that came of age since the bursting of the economic bubble in the early 1990s.
Because the changes in young men’s work lives have arguably been even more dramatic
than the changes in young women’s work lives in this period, I restrict the analysis to
men and compare the experiences of what I term the “post-bubble” cohort with those of
earlier cohorts. Of particular interest is whether the “post-bubble” cohort’s more tenuous
position in the labor market is related to their use of different job search methods than
4
17
prior cohorts, and whether it is also related to greater delays in labor market entry after
leaving school.
The SSM is a highly appropriate data set for assessing differences across cohorts
in the processes and determinants of labor market entry. It is a national sample, and the
survey includes detailed questions on educational attainment, method and timing of
finding the first job out of school, and detailed information about that job and
individuals’ subsequent employment trajectory.
2. Change in Labor Market Entry Across Cohorts in the SSM Data
In order to see how the significant changes in the 1990s labor market affected
young men’s entry into the labor market, I divide the male respondents in the SSM
sample into three groups. The first group is comprised of men who left school between
1992 and 2005. I call these the “post-bubble cohort.” The second group is comprised of
men who left school mainly during the decade of the 1980s (1978-1991). Because many
men in this group came of age before and during the bubble years, I label this group the
“bubble cohort” for convenience. The third group (the “older cohort”) is comprised of
men who left school before 1978. While the three groups of men are not technically
“cohorts,” I will designate them as such for convenience. Restricting the sample to everworked men, the post-bubble cohort numbers 399, the bubble cohort has 723 men, and
the older cohort has 1478 men.
I first compare these cohorts across several employment outcomes:
1) method of finding their first job,
2) timing of entry into their first job after leaving school,
5
18
3) employment status and firm size of their first job, and
4) number of jobs held during the first five years since leaving school.
After comparing these early employment outcomes for each cohort of men, I use
logistic regression methods to analyze the determinants of some of these outcomes and to
examine whether the processes leading to men’s early employment trajectories differ
across cohorts.
3. Descriptive Statistics
Education. Table 1 compares the post-bubble, bubble, and older cohorts in terms
of their education and early employment experiences. Consistent with aggregate
statistics, the youngest group of men has a high rate of university graduation (45 percent).
If members of the SSM male sample who are currently students (N=56) were included in
the table, this figure would be even higher (51 percent), as many current students are in
university or graduate school. A significantly higher proportion of the post-bubble cohort
have university degrees compared to the bubble cohort (38 percent), and that cohort
likewise has a much higher proportion of university graduates than in the older cohort (20
percent).
At the other end of the educational distribution, the older cohort has a much
higher proportion of men who completed only junior high school (26 percent) than either
of the other two age groups (4 percent in the post-bubble cohort and 6 percent in the
bubble cohort). The proportion of high school graduates has not changed significantly
across the three age groups, and accounts for about half of all men. Rates of graduation
from two-year training schools (senmon gakkô and tandai , although the latter is of
6
19
course mainly an educational destination for women) seem unusually low across cohorts,
although they increased between the older cohort and the bubble cohort. These low rates
may be a particular characteristic of the SSM sample, and warrant further scrutiny.
Employment status. Looking at employment status, the most striking facts are: 1)
the relatively low percentage of men (76 percent) in the post-bubble cohort who entered
full-time employment upon leaving school, and 2) the relatively high percentage who
were temporary or part-time employees (16 percent) or contract employees (3 percent).
These percentages are much higher than in the other two groups of men. Looking at the
comparison between the post-bubble and bubble cohorts on the one hand and the bubble
and older cohorts on the other, it is clear that the large shift to non-regular employment
occurred very recently.
While the rate of regular full-time employment was also significantly higher in
the bubble cohort (87 percent) than in the older cohort (81 percent), this is mainly due to
the significantly higher proportion (14 percent) of older men who started their work lives
either as self-employed workers or as workers in their family’s business. In contrast,
despite popular media suggestions that many young people aspire to be freelance or
independent self-employed workers, almost none (fewer than 1 percent) of men in the
post-bubble cohort actually began their work lives in that status.
The sharp difference between how men in the post-bubble cohort and the other
two cohorts embark on their working lives is even clearer if we focus only on the
majority of men in each age group who started out as employees. Among this group, the
younger men show a much lower likelihood (80 percent vs. 92 and 94 percent for men in
the other age groups) of beginning their work life as regular full-time employees.
7
20
Conversely, 20 percent of all younger men compared to just 8 percent and 6 percent of
older men were “non-regular” workers such as temporary, part-time, dispatched, or
contract employees. This shows the particularly tenuous nature of early employment for
the post-bubble cohort.
Among men who started their work lives as employees, those in the bubble cohort
were somewhat more likely than those in either the older or the post-bubble cohorts to
enter firms of larger size.
Route into first job. The SSM survey categorizes in detail how individuals found
their first job. Among all three cohorts, an introduction through one’s school has
consistently been the most common route into first employment. Reliance on this
pathway into work has not changed significantly over time; 38 percent of men in the
post-bubble cohort used this route compared to 42 and 40 percent, respectively, of men in
the bubble and older cohorts. Social ties were the second most common route for men in
the bubble and older cohorts. But for men in the post-bubble cohort, the second most
common pathway into work was job advertisements. The use of job ads has increased
significantly across time; just over 7 percent of older men got their first job by using job
ads, compared to 15 percent of men in the bubble cohort and 24 percent in the postbubble cohort. Conversely, men in the post-bubble cohort were significantly less likely
to use social ties. It appears that over time, reliance on social ties has to some extent been
replaced by reliance on job advertisements.
Because the rates of starting one’s own business or entering a family business
were significantly higher in the older cohort than in the others, I also examined the route
into first job only for employees in each cohort. The pattern of job entry routes remains
8
21
basically the same across the cohorts. The only change is that the proportion of men in
the older cohort who entered first employment through the introduction of their schools
increases once the categories of entering family business or starting one’s own business
become much smaller.
Timing of labor market entry. The younger cohort of men is also distinct from the
other two cohorts in the sense that a lower proportion of them entered the labor force
within one month of graduating from school. Seventy-six percent of them accomplished
this, compared to 87 percent of men in each of the two older cohorts.
Number of jobs during first five years. Given the popular perception that young
men now seem to be changing jobs more frequently than in previous cohorts, it is
relevant to compare the three cohorts in terms of the number of jobs men have held.
Obviously the “risk” period for employment (the number of potential years of work
experience) varies greatly between the youngest group and the other two groups, as the
younger men have been out of school for a maximum of 13 years and the men in the
other groups have been out of school for a much longer period of years. I therefore
restrict this particular cohort comparison to the jobs each man held during the first five
years since he left school.
As Table 1 shows, men in the post-bubble cohort have held an average of 1.62
jobs in the first five years since leaving school. This is slightly higher than in the bubble
cohort (1.50). But the number of jobs held by men in the bubble cohort is slightly higher
than the older cohort as well (1.40). Thus these data do not indicate that the post-bubble
cohort is unusual in their movement across jobs during the first five years after
completing their education.
9
22
In summary, the results of these comparisons of the early employment
experiences of the three cohorts are generally consistent with our macro-level
understanding of the post-bubble cohort’s labor market entry difficulties. Men who
reached adulthood after 1991 were significantly less likely to embark on their
employment trajectory in regular full-time jobs and more likely instead to be in
contingent work arrangements (as temporary, part-time, dispatched, or contract
employees). On average, young men entered firms of smaller size than was the case for
the bubble cohort. While they were just as likely as older cohorts to have found their first
job through a school introduction, they were more likely than other cohorts to have used
job advertisements and less likely to have used social ties. On average, they were less
likely than the bubble generation to have entered employment immediately after
graduation. And despite media reports that the post-bubble generation engages in more
“job-hopping” after they leave school, their average number of jobs in the first five years
since completing education is only slightly greater than in the bubble cohort, whose rate
of job-hopping is likewise slightly higher than in the older cohort.
4. Determinants of Early Work Experiences
Given the different macro-level conditions facing the post-bubble cohort as they
left school, how was the process of entering the labor market affected? Did it differ from
prior cohorts?
Timing of labor market entry. Table 1 showed that members of the post-bubble
generation were significantly less likely to enter the workforce within one month of
graduation. Table 2 examines the determinants of immediate labor market entry. The
10
23
odd-numbered equations (1, 3, 5) show the process for all workers, and the evennumbered equations (2, 4, 6) are restricted to men who entered the labor market as
employees (either full-time or otherwise). I show a series of nested equations. The first
set of equations includes only the job entry route. I use a series of dummy variables
indicating how men found their first job, with job advertisements as the reference
category. The second set of equations adds dummy variables for educational attainment,
with university as the reference category. Finally, the third set of equations adds dummy
variables for the bubble cohort and the older cohort. This allows us to see whether the
timing of labor market entry differs between the post-bubble cohort and the other cohorts
once job market entry route and education are held constant.
There are several clear findings in these analyses. I discuss first the results for all
workers (equations 1, 3, 5).
First, across all of the equations, a school introduction into one’s first job is
positively and significantly associated with early labor market entry. The use of social
ties is also associated with speedy labor market entry, although this positive effect is no
longer statistically significant once cohort is controlled (equation 5). Men who found
their first job through the shokugyô anteijo were consistently less likely to enter the labor
market immediately upon graduation. Direct use of the shokugyô anteijo is unusual for
junior high school or high school seniors, as they typically require their school’s
recommendation to secure a job (Brinton 2001, Rosenbaum and Kariya 1989).
University seniors are free to use the shokugyô anteijo but would be unlikely to do so.
Instead, it is likely that a subset of the men at all levels of schooling who were
unsuccessful in securing a job through their school may have subsequently gone to the
11
24
shokugyô anteijo for assistance (once they graduated), hence eventually entering the labor
market later. This is probably the reason behind the negative coefficient for this job
route.
Second, job advertisements are not an effective way for men to find a job they can
immediately enter once they graduate from school, except in comparison to use of the
shokugyô anteijo. This is shown in the overall pattern of coefficients. Even the positive
coefficient for “other routes” in the successive equations indicates that job advertisements
were less effective in leading men into post-graduation jobs than a host of other methods
besides school introductions, social ties, or use of the shokugyô anteijo. These other
methods include the miscellaneous methods indicated in Table 1 (introduction through a
private employment agency, entry into a family business, or starting one’s own business).
Third, once controls are entered into the equations for the cohorts, junior high
school and high school graduates are less likely than university graduates to immediately
enter a job upon graduation. This probably reflects the more privileged position of
university graduates in the labor market.
Finally, there is a clear pattern across the cohorts, with men in the post-bubble
cohort being significantly less likely to enter the labor market immediately after
graduating. This shows that the bivariate correlation in Table 1 between cohort and early
job entry holds up once job route and education are controlled.
The pattern of coefficients in equations 2, 4, and 6 for employees only is highly
consistent with the coefficients in the equations for all workers.
Entry into full-time employment. Table 3 shows the relationships between entry
into full-time employment and the timing of labor market entry, job entry route,
12
25
education, and cohort. The dependent variable is coded “1” if men’s first job was as a
full-time employee, and “0” otherwise. This creates a comparison between full-time
employees on the one hand and contingent employees, family workers, and selfemployed workers on the other (although the percentages in the latter two categories are
small for the two younger cohorts, as shown in Table 1).
Before describing the results of this analysis, it is important to point out that the
two outcomes of early labor market entry and full-time employment after graduation
are likely to be related in a non-causal way. That is, strictly speaking it is not possible to
assert that the timing of labor market entry determines the characteristics of first job, as
the two are most likely jointly determined. In this sense, Table 3 should not be
interpreted in a causal fashion but instead as a description of the correlates of entry into
full-time employment.
What does the table show? First, early labor market entry is positively and
significantly associated with entering a full-time job. Second, the pattern of coefficients
for job entry route is very interesting. The importance of a school introduction once
again is very clear, with men who used this route being significantly more likely to enter
full-time employment. The importance of social ties is somewhat more tenuous. In
contrast to Table 2, the use of the shokugyô anteijo is more likely to result in full-time
employment than the use of ads. This may reflect several phenomena. The shokugyô
anteijo are likely to have job postings mainly if not exclusively for full-time jobs.
Moreover, it may be that men who are more qualified for full-time jobs are more likely to
turn to the shokugyô anteijo for assistance than to consult job advertisements. It is not
26
possible to determine which of these is the most likely reason for the positive coefficient
for shokugyô anteijo, but it is likely that it is a combination of these reasons.
Third, university graduates are clearly the most likely to enter full-time
employment; junior high school, high school, and senmon gakkô graduates are all
significantly less likely to do so.
Finally, the cohort pattern is once again very clear: members of the post-bubble
cohort are significantly less likely to enter full-time employment when they leave school
than members of either of the other two cohorts.
As in the analyses of labor market entry timing, I also ran parallel analyses for
entry into full-time employment for only those men who started their work lives as
employees. In this case, the dependent variable was coded “1” if men started out as fulltime employees and “0” if they started out as contingent employees (part-time,
temporary, contract, or dispatched workers). This amplifies the contrast between fulltime employees and contingent employees, removing self-employed and family workers
from the analysis. The results are not shown, as they are generally consistent with the
results for all workers, with one exception: men who used “other routes” to find their
first job were less likely than those who used job advertisements to land in jobs as fulltime employees than as part-time employees. This result is opposite that for all workers;
for that group, job advertisements were more likely than “other routes” to lead to jobs as
employees.
Probing this further, the processes underlying these results become clearer.
Among older men, the probability of becoming self-employed or a family worker was
fairly high; among those who did not enter the labor force in one of these two statuses,
14
27
using job advertisements was likely to yield a full-time job. But the meaning of job
advertisements seems to have changed over time. Among younger men (in the bubble
and post-bubble cohorts), who are very unlikely to enter the labor force as non-employees,
the use of job advertisements is negatively associated with getting a full-time job. In
other words, men in the younger two cohorts who used job advertisements were
significantly more likely to enter part-time rather than full-time jobs. These results give
even greater significance to the value among the younger cohorts of having a school
introduction for entering full-time employment. It is those who do not have such an
introduction who are less likely to enter the labor force on a full-time basis.
The experience of part-time employment. The great increase in part-time
employment among young men who came of age in the 1990s produced a fierce debate
between scholars who argued for supply-side vs. demand-side explanations. On the
supply side, Yamada argued that young people’s work preferences had substantially
changed. On the other hand, other scholars such as Genda argued largely from the
demand side, pointing to the dramatic reduction in youths’ opportunities for full-time
employment.
The SSM data do not allow us to fully adjudicate between these two explanations.
However, examining the early labor market trajectories of men in different cohorts
can provide a picture of how the experience of part-time employment has changed
over the past several decades.
Table 1 showed that men in the post-bubble cohort were significantly more likely
to enter the labor force as part-time employees than were men in prior cohorts. I also
calculated for each individual the probability that he had experienced a part-time job at
28
any point during the first five years after leaving school. Men in the youngest cohort
were significantly more likely to have had this experience, whether or not
their very first job was part-time. Fully 30 percent of the post-bubble cohort had at least
one spell of part-time employment during these early five years, compared to just 15
percent of men in the bubble cohort and 17 percent of men in the older cohort.
The probability of experiencing part-time employment during the first five
years after leaving school has changed substantially over these cohorts according to
men’s educational background. Table 4 shows that in the older cohort, only junior high
school graduates were significantly more likely to experience a spell of part-time
employment than university graduates. This extended to high school graduates in the
bubble cohort, and then to high school and senmon gakkô graduates in the post-bubble
cohort.
Table 5 shows the actual probability of experiencing a part-time job by level of
education, within each cohort. As in Table 1, asterisks in the columns between each pair
of cohorts indicate that the difference between the probabilities is statistically significant.
What is immediately apparent is that at every educational level, the probability of parttime employment is significantly higher for men in the post-bubble cohort than the
bubble cohort, but there are no statistically significant differences between the bubble
cohort and the older one. This is consistent with results earlier in the paper showing the
distinctiveness of the post-bubble cohort’s early labor market experiences.
5. Conclusion
The labor market entry experiences and early work trajectories of Japanese men
who completed their education after the end of the bubble economy represent a break
16
29
with the experiences of earlier cohorts. Men in this recent cohort were more apt to
experience a delay in labor market entry and also more likely to move directly into parttime work for their first job. At every educational level, men in the younger cohort had a
higher likelihood of experiencing a spell of part-time employment at some point during
their first five years after leaving school. Across cohorts, men who did enter full-time
employment upon leaving school were most likely to do so through their school’s
provision of an introduction.
These results cannot necessarily adjudicate between the various possible reasons
for the distinct early employment trajectories of the “post-bubble cohort.” But it is
striking that while the early labor market outcomes differ between this cohort and the
ones that preceded it, the process of entering a secure full-time job immediately after
graduation appears not to have significantly changed across time. That is, the most
reliable pathways into full-time work remain the same for those men who choose—or are
able—to use them.
17
30
Table 1. Education and First Employment of the Post-Bubble Cohort, the Bubble
Cohort, and the Older Cohort1
Educational attainment
Junior high school
High school
Technical training school or jr. college
University or higher
Employment status in first job
Regular full-time employee
Temporary or part-time employee
Employee dispatched by agency or
contract employee
Self-employed, freelance, or working in
family business
If employee in first job:
Regular full-time
Temporary, part-time, dispatched, or
Contract
Mean firm size in first job (employees
only)1
Route into first job
Social ties (family,friends,acquaintances)
School alumni
School introduction
Public employment agency (shokuan)
Private employment agency
Job advertisements
Entered the family business
Started own business
Other
Entered workforce within one month of
graduation
Number of jobs held within first five
years since leaving school
PostBubble
(N=399)
Bubble
(N=723)
3.54
48.23
3.28
44.95
***
*
5.53
53.11
3.46
37.90
76.49
16.02
3.36
***
***
***
87.08
7.22
.42
***
*
80.86
4.96
.61
5.28
***
13.58
4.13
79.78
20.22
***
***
641
*
17.29
3.01
37.59
3.01
2.51
23.81
4.26
.50
8.02
76.44
**
1.62
Older
(N=1478)
*
***
91.94
8.06
814
93.56
6.44
**
*
***
24.07
4.29
41.91
2.77
1.24
14.52
4.43
1.11
5.66
87.14
*
1.50
**
***
25.58
52.98
1.89
19.55
***
***
655
28.96
2.77
40.39
2.17
.68
6.50
11.71
1.22
5.60
87.01
1.40
1
Asterisks in columns between each pair of cohorts indicate a statistically significant
difference between the two cohorts on that variable. *p<.05, **p<.01, ***p<.001
2
Government workers are not included in the calculation of firm size. Employees in workplaces
of more than 1000 employees are estimated as working in firms averaging 2500 employees.
18
31
Table 2. Determinants of Entering Employment within One Month of Leaving School:
Results for All Workers and for Employees Only
______________________________________________________________________________________
All
Employees
All
Employees
All
Employees
Workers
Only
Workers
Only
Workers
Only
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
______________________________________________________________________________________
Route into job
School introduction
2.12***
2.10***
2.16***
2.18***
2.06***
2.10***
(.20)
(.20)
(.20)
(.20)
(.20)
(.20)
Social ties
.36*
(.16)
.35*
(.16)
.41*
(.17)
.46**
(.17)
.28
(.17)
.36*
(.17)
Public employment agency
-.65*
(.29)
-.66*
(.29)
-.59*
(.29)
-.55
(.30)
-.67*
(.30)
-.61*
(.30)
----
----
----
----
----
----
.69***
(.18)
.73***
(.20)
.57**
(18)
-.24
(.18)
-.37
(.20)
-.42*
(.19)
-.47*
(.21)
High school
-.27
(.14)
-.33*
(.15)
-.36*
(.14)
-.38*
(.15)
University or graduate
school (reference category)
----
----
----
----
Two-year college or training school
.10
(.46)
1.11***
(.15)
.092
-.10
(.47
1.14***
(.15)
.104
.13
(.47)
-.05
(.47)
Job advertisements
(reference category)
Other routes
Constant
Pseudo x2
.18
(.16)
.96***
(.13)
.096
.71***
(.20)
.97***
(.13)
.101
Education
Less than high school
Constant
Pseudo x2
Cohort
Post-bubble
(reference category)
----
.65**
(.21)
----
Bubble
.73***
(.17)
.67***
(.18)
Older
.77***
(.16)
.67***
(.17)
.104
.57***
(.17)
.77***
(.18)
.112
Constant
Pseudo x2
19
32
Table 3. Determinants of Entering Full-Time Employment after Graduation
______________________________________________________________________________________
(1)
(2)
(3)
______________________________________________________________________________________
Entry into labor market
1.04***
.74***
.65***
within 1 month of graduation (.13)
(.15)
(.15)
Route into job
School introduction
1.82***
(.22)
2.10***
(.23)
2.01***
(.24)
Social ties
.18
(.17)
.57**
(.18)
.44
(.19)
Public employment agency
2.98**
(1.02)
3.28***
(1.02)
3.22**
(1.02)
----
----
----
-1.57***
(.17)
-1.29***
(.18)
-1.44***
(.18)
-1.70***
(.19)
-1.91***
(.20)
-1.03***
(.15)
-1.15***
(.16)
Job advertisements
(reference category)
Other routes
Constant
Pseudo x2
.59***
(.16)
.256
Education
Less than high school
High school
University or graduate
school (reference category)
Two-year college or training school
Constant
Pseudo x2
----
----
-1.60***
(.39)
-1.64***
(.39)
1.53***
(.20)
.257
Cohort
Post-bubble
(reference category)
----
Bubble
.94***
(.19)
Older
.87***
(.17)
1.09***
(.22)
.269
Constant
Pseudo x2
20
33
Table 4. Determinants of Experiencing a Spell of Part-Time Employment During
First Five Years After Leaving School
______________________________________________________________________________________
Post-bubble Bubble
Older
cohort
cohort cohort
______________________________________________________________________________________
Education
Less than high school
1.96***
(.59)
1.50***
(.41)
.65**
(.22)
High school
.73**
(.24)
.86***
(.25)
.22
(.20)
University or graduate
school (reference category)
----
----
Two-year college or training school 1.22*
(.59)
.69
(.59)
-.20
(.64)
Constant
-2.34***
(.21)
-1.92***
(.18)
Pseudo x2
----
-1.37***
(.19)
.040
.030
.010
Table 5. Determinants of Experiencing a Spell of Part-Time Employment During
First Five Years After Leaving School: By Level of Education, for Each
Cohort1
_____________________________________________________________________________________
Post-bubble
Bubble
Older
cohort
cohort
cohort
______________________________________________________________________________________
Probability of experiencing
part-time employment for:
Middle school graduates
64%
*
30%
22%
High school graduates
35%
***
18%
15%
Graduates from two-year colleges
or training schools
46%
*
16%
11%
University graduates
20%
***
9%
13%
1
Asterisks in columns between each pair of cohorts indicate a statistically significant difference between the
two cohorts on that variable. *p<.05, **p<.01, ***p<.001
21
34
References
Brinton, Mary C. 2001. “Social Capital in the Japanese Youth Labor Market: Labor
Market Policy, Schools, and Norms.” Policy Sciences 33: 289-306.
Brinton, Mary C., and Zun Tang. 2008; “School-Work Systems in Postindustrial
Societies: Evidence from Japan.” Manuscript.
Genda, Yuji. 2003. “Who Really Lost Jobs in Japan? Youth Employment in an Aging
Society.” Pp. 103-133 in Labor Markets and Firm Benefit Policies in Japan and the
United States, edited by Seiritsu Ogura, Toshiaki Tachibanaki, and David A. Wise.
Chicago: University of Chicago Press.
Rosenbaum, James E., and Takehiko Kariya. 1989. “From High School to Work: Market
and Institutional Mechanisms in Japan.” American Journal of Sociology 94: 1334-65.
Statistics Bureau. 1984-2005. Annual Report on the Labor Force Survey. Tokyo:
Management and Coordination Agency.
-------. 2004. Basic Survey on Employment Structure. Tokyo: Management and
Coordination Agency.
Yamada, Masahiro. 1999. Parasaito shinguru no jidai. Tokyo: Chikuma Shinsho.
22
35
社会関係資本としての学校
―若年層の職業機会を中心に―
三隅
一人
(九州大学)
【要旨】
本稿は、高卒者の「学校経由の就職」に焦点をあて、学校を基盤とした社会関係資本のプロセ
スの中にそれを位置づける理論的な試みを通して、とくに 1990 年代におけるその変化を検証す
る。初職入職における学校使用率を手がかりとして、前半ではその趨勢的変化をみる。その結果、
とくに若年高卒女性で使用率の低下が激しいこと、一方、職業・雇用機会や就労の安定性に関し
て学校使用は有利さを維持していること、を確認する。後半は若年高卒者に絞って、社会関係資
本のフレームワークから、前半の確認を詳しく検証する。まず使用アクセスに関して、ブルーカ
ラー階層性、地域的「周辺」性、成績に関わるメリトクラティックな特性を析出する。94 年前後
でみると、性別を越えた学校利用の低下が認められるが、これらの諸特性に有意な変化はない。
資本転換の面では、学校使用は、正規・大企業の雇用機会に関して効果を維持し、現在の本人年
収に関しても増分効果を示す。こうして、縮小しつつも機能している「学校経由の就職」の実態
を議論する。
キーワード:若年高卒者、学校経由の就職、社会関係資本
1
問題の所在
本稿は、学校が卒業者の就職指導・あっせんに関わる制度的仕組み(以下では本田[2005]
にならい「学校経由の就職」という)に着目して、次の2点について分析を行う。第一に、
とりわけ高度成長期に重要な役割を果たしてきた高校による就職指導あっせんについて、初
職入職における学校使用の状況が 90 年代にどのように変化したかを検討する。その際、第二
に、
「学校経由の就職」を社会関係資本論のフレームワークにとりこみ、それを媒介として出
身階層から現職に至る間の「資本」蓄積に留意した分析を行う。分析には、2005 年 SSM 日
本調査データ(2007 年 10 月更新の最終版)および 2007 年 SSM 若年層郵送調査データ(2007
年 12 月最終版)を用いる。
1.1
社会関係資本と学校
社会階層のネットワーク的文脈については、比較的古くから階層的通婚圏や差別的交際
(differential association)の研究があり、婚姻関係や友人関係の紐帯のとり結ばれ方が階層的
1
37
に規定される側面を分析してきた。問題系としては、社会的資源としての権力(社会的勢力)
の不平等分配に連なる。社会関係資本論はその問題を含みつつも、むしろ、そうした紐帯の
強さ(弱さ)や紐帯が埋め込まれるネットワークの構造が、職獲得機会や地位達成をどのよ
うに規定するか、という問題設定によって社会階層論とよりよく接合する。社会ネットワー
ク(とくに弱い紐帯)と職獲得過程の関係を発見した Granovetter(1974)や、より直接的に
社会ネットワーク(他者のもつ資源へのアクセス)が地位達成に及ぼす効果を分析した Lin
(2001; also see 1999)等が、典型的である。
ここで、このような社会関係資本の効果の背後に、
「資本」蓄積の過程を想定しておくこと
は重要であろう。社会関係資本の概念定義は、もっとも緩やかには、<社会的文脈によって
ある優位な立場がもたらされることの比喩的な表現>(Burt, 2001)である。本稿も、基本的
にはこの概念を分析指針として用いるので、あえてこれ以上の特定化はしない。肝要なこと
は、分析焦点は「もたらされる」メカニズムにあるのであり、その推論のために「資本」蓄
積の過程を想定しておくことが有用だ、ということである 1 。その蓄積過程には、Bourdieu
(1997=1986)が階級的視点から強調する経済資本や文化資本との転換、あるいは Coleman
(1988)がまさに学校を場として強調する人的資本との転換が、含まれる。それらの転換に
関する推論こそ、社会関係資本論と社会階層論とを理論的・分析的につなぐポイントとなる。
以上をふまえながら、学校と社会関係資本との関係を整理しておこう。
学校は、人的資本の蓄積に関わる。より高等で高ランクの学校ほど、人的資本の蓄積は大
きく、職業機会に関して効果的でありやすい。学校はさらに、社会ネットワークの形成と維
持の重要な基盤である。学校を縁として形成・維持された社会ネットワークは、職業機会に
関して社会関係資本となりうる。これには2つの側面がある。
(1) 学校に特有の内部的な社会ネットワーク特性(Coleman のいうネットワーク閉鎖性など)
が、成績を向上させる、つまり効果的に人的資本に転換される側面。
(2) 学校-企業間の「実績関係」、OB、同窓会による就職支援など、対外的な社会ネットワ
ーク特性として、職業機会により直接的に関わる(制度化された)側面。
いずれの形態の資本も、その蓄積のチャンスは学校ごとに閉じている。人的資本からみれば、
より高等で高ランクの学校への進学は概して合理性をもつが、そうした学校が社会関係資本
の点で優れているとは限らない。もとより、ある学校で利用した社会関係資本が最終的に経
済資本に変換されるとき、他の投資戦略に比べたその相対的効果は経験的な問題である。
以上が、本稿の表題「社会関係資本としての学校」が指示するフレームワークである。そ
1
この過程は直接的には観察不可能である。Misumi(2005: also see 三隅, 2005)は、この蓄積過程が
その上で展開すると推論される社会ネットワークを、「社会関係基盤」によって指標的に計測する方
法を提案している。学校はその意味で典型的な社会関係基盤である。「社会関係資本としての学校」
として本稿を貫く分析スタンスは、基本的にこの着想にもとづいている。
2
38
の中で、本稿は学校を高校に絞り、高卒者の学校を利用した初職入職に分析を絞る。
「学校経
由の就職」は、企業とのコミットメント関係や文字通りの対人関係が関わる社会的コンテク
ストに埋め込まれた制度としてみることができる。この制度利用を軸に、それに対する出身
階層の影響から、入職後の労働条件や収入までの一連の事項系列を上記のフレームワークの
中に収め、議論してみたい。理論不在が言われて久しい社会階層論の中に、理論的言明を蓄
積する足がかりを作るための、いわば思考実験である。
1.2
高校による就職あっせんとその変化
以上のような理論的な試みとともに、本稿は、
「失われた 10 年」と称される 1990 年代に学
卒就職時期を迎えた高卒若年層について、
「学校経由の就職」をめぐる実情とその変化を記述
的に分析する。この課題についても先行研究をふまえて問題の所在を整理しておこう。
前述した Granovetter の研究は、社会ネットワークに埋め込まれたジョブマッチングの視点
からの経済学批判として興味深いが、端的には転職の問題であった。けれども、新規学卒者
との関係で労働市場のあり方を捉えるには、学校と企業との「制度的リンケージ」
(Rosenbaum
and Kariya, 1989: Rosenbaum et al., 1990)が、むしろ重要な視点となる 2。石田(2001:32)に
したがって、高校の「学校経由の就職」に関する具体的な制度的特徴を整理しよう 3。
(1) 職業安定法(1947 年制定)の規定にもとづき、職業安定所と学校が協力して職業紹介業
務を行うものである。厳格で一律的なスケジュール管理により、学校から職業への間断の
ない移行が可能となっている。
(2) 求人票は職安を通して企業が配付を希望する学校に、学校単位で配付される。生徒の就
職機会はその求人枠内に限定される。
(3) 学校で求人に生徒を振り分ける作業は、「1 人 1 社主義」の原則と学内選考にもとづく。
公務員試験を含め併願は認められず、採用が決定した企業には必ず就職する。選考基準の
客観的根拠としては成績・欠席日数などが用いられる。
(4) 企業は学校側の推薦を信頼して求人配付指定を継続し、学校はその信頼に応える推薦を
行う形で、特定の企業-学校間に「実績関係」と呼ばれる継続的な結びつきが認められる。
高度経済成長期の労働力不足と高校進学率の上昇を背景に、次第に量的に中卒者にとって
代わりながら、このように独特の慣習的規制を発達させつつ新規高卒者向け労働市場が形成
されてきた。苅谷(1991)は、これらの規制は教育的論理の優先による帰結だと分析する。
2
「社会関係資本としての学校」フレームワークには、制度的リンケージ論と埋め込まれ理論(ある
いはまたパーソナル・リンケージ)を統合的に捉えるねらいもある。
3
中学にさかのぼる「学校経由の就職」の制度化に関する歴史的な展開と、制度的問題に関するより
詳しい議論としては、岩永(1983)、苅谷(1991)、苅谷・菅山・石田・村尾・西村(1997,1998)、菅
山(1998)、苅谷・菅山・石田(2000)、寺田(2004)、本田(2005)をみよ。
3
39
学業や学校生活を就職に結びつけて意味づけし、生徒の勉学意欲・登校・在校をつなぎとめ
る。選考基準として成績を重視しながら、一方では就職機会の公平さを確保する。そうした
論理である。そうして「学校に委ねられた職業選抜」は「市場原理を標榜するジョブマッチ
ング以上に経済合理的な職業配分を生み落とす可能性を孕んでいた」(苅谷, 1991:181)。
しかしながら、バブル崩壊から長い不況に突入した 1990 年代から 2000 年代前半にかけて、
図 1 に示されるように、新規高卒者をとりまく就職状況は急速に厳しさを増した。量的な求
人率の減尐だけではない。小杉・堀(2002)や石田(2006)が明瞭に指摘するように、大卒
求職者増加との力関係から求人就職先として事務職、そしてまた大企業が縮小し、求人内容
の質的変化が生じた。
1,800,000
1,600,000
求人数(人)
求職者数(人)
1,400,000
1,200,000
1,000,000
800,000
600,000
400,000
200,000
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
0
図1
新規高卒者の求職数・求人数(各年 3 月末現在)
出所)厚生労働省職業安定局『新規学卒者の労働市場』各年度(同省
ホームページ統計表データベース).
この変化の中で、
「 学校経由の就職」が機能しなくなったことが様々な形で報告されている。
多くは、その反面として増加したフリーターに関する問題提起であり(小杉, 2002,2005:堀,
2007)、あるいはまた、同じく増加傾向をたどる高卒無業者(進路未決定)に着目した議論で
ある(苅谷ほか, 1997:粒来, 1997)。本田(2005)は、この機能不全をより正面から捉え、
「教
育の職業的意義(レリバンス)」の欠落という論点からこの制度が本来的に有していた矛盾を
突いている。 4
本稿では、これらの議論の決着を急ぐ前に、いま尐し現状分析を深めたい。SSM のように
教育と職業に関する詳細な情報をもつ全国サンプルにもとづいて、
「学校経由の就職」の実情
とその変化を改めて検討する意義は大きいと思うからである。1995 年 SSM では苅谷(1998)
がその吟味を行っているが、もちろん、90 年代の変化は捉えられていない。本稿はそこでの
4
これらに議論に際して、
「学校経由の就職」の機能不全問題と、間断のない学校-職業移行の崩壊の
4
40
分析点を「社会関係資本としての学校」フレームワークに則して組み替えながら、高卒若年
層に絞って「学校経由の就職」をとりまく階層的機会構造の変化を描いてみたい。
2
「学校経由」の初職入職
2.1
初職入職における学校使用の趨勢
本節では、2005 年 SSM 日本調査データを用いて、世代間比較により初職入職における学
校使用率の趨勢的変化をおさえる。ここで若年層として着目するのは、15 歳時が 90 年代に
あたる 20 代である。また、中卒を含めた「中高卒」で趨勢をみる。中高卒後に専修学校に通
った人は「中高卒」としないが、中高卒後に初職に就き、それと同時に(働きながら)ない
し一定の就業期間を経た後に専修学校に通った人は、ここでの「中高卒」に含める。初職入
職で使用した学校は中学・高校と推測できるからである。
初職の入職経路は以下の分類による。
「学校」が「学校経由の就職」に相当するが、社会関
係資本の趣旨に則してより幅広く先輩の紹介を含めている 5。
学校={卒業した学校の先輩,卒業した学校や先生(含、学校推薦)}
家族={家族・親戚,家業を継いだ}
友人={友人・知人}
機関={職業安定所,民間の職業紹介機関,従業先からの誘い}
自力={直接応募,自分ではじめた}
この質問は複数回答のため、それぞれの入職経路カテゴリーごとに使用率を算出する 6。
それを性別および学歴別で世代間比較した図 2 から、以下を確認できる。
(1) 家族、友人というインフォーマル関係資本に類する経路の使用率は、概して若い層ほど
尐ない 7。対照的に若い層ほど多いのは「自力」であり、とくに中高卒 20 代のはね上がり
が男女共通して際だつ。
(2) 学校は(15 歳時が 1961~70 年高度成長期にあたる)50 代の中高卒(とくに女性)で利
用率が急増している。男性は 50 代、女性は 40 代をピークに、横ばいないし減尐に転じて
いる。とりわけ女性は 20 代の急減により、明確な逆 U 字を描く。短大以上は、中高卒に
比べると使用率変化の幅が小さく、概して横ばいないし微減の趨勢にみえる。
このように 20 代中高卒における学校経路の使用率の低下は、90 年代の「学校経由の就職」
問題を混同すべきではない、という香田(2006)の主張は傾聴に値する。
5
厳密には、公共職安を利用しすぐに就職している中高卒者は、
「学校経由の就職」に該当するかもし
れないが、ここではその分類調整はしていない。
6
したがって後の図2では、各世代の 5 つの経路使用率合計は 100%を越え得る。
7
家族経路の使用率が男性 20 代で尐し上昇しているが、このうち 3 割は初職が自営(家族従業者)で
ある。
5
41
の機能不全の指摘と呼応するが、その影響が女性において強く表れていることに注意を要す
る。
60
ア)男性
%
50
学校
家族
友人
機関
自力
40
30
20
10
0
60- 50- 40- 30- 2069 59 49 39 29
60- 50- 40- 30- 20- (年齢)
69 59 49 39 29
中高以下
70
60
50
40
30
20
10
0
短大以上
イ)女性
%
学校
家族
友人
機関
自力
60- 50- 40- 30- 2069 59 49 39 29
60- 50- 40- 30- 20- (年齢)
69 59 49 39 29
中高以下
図2
2.2
短大以上
性別・学歴別、初職の入職経路[働いたことがある全員]
若年(中)高卒者にとっての「学校経由」
実は、若年層の初職入職における学校使用率の低下は、すでに 95 年 SSM で苅谷(1998:
32)が指摘している。けれどもそこでは性別の相違は確認されていない。そこで改めて図 3
に、中高卒者の初職入職における学校使用率を比較する。2005 年サンプルは全体に学校使用
率が高い。それでも 20 代女性は 95 年調査の 20 代より低い利用率を示す。1966-75 年疑似コ
ホートにおける計測のずれを考慮すると、女性のこの低下傾向はもう尐し早く始まった可能
性が示唆される 8。一方、男性については、各々の疑似コホートで計測のずれが大きく結論に
8
後の図 5 に示唆されるように、この先行的低下は普通科を中心に進行したと推測される。
6
42
は慎重を要するが、概して微増の趨勢にあり、2005 年調査の 20 代コホートまでは明白な使
用率の低下が確認されない。
さらに図 4 に示すように、中高卒男性の場合、学卒後に間断なく職業に移行している場合
には、95 年調査の動きに近づく形で微増傾向が浮かび上がる。女性の逆 U 字はここでも顕在
である。これからすれば、尐なくとも高卒男性について「学校経由の就職」が機能しなくな
っているとはいいにくい。
以上を総合して、次の命題を確認しよう。
●中高卒女性において、男性に比べ高かった初職入職における学校使用率が、90 年代に急速
に低下した。同じ低下は中高卒男性については明確ではない。
70
%
1995SSM
2005SSM
60
50
40
30
20
10
男性
図3
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1976-85
1966-75
1956-65
1946-55
1936-45
1926-35
1976-85
1966-75
1956-65
1946-55
1936-45
1926-35
0
(出生コホート)
女性
95 年 SSM と比較した中高卒者の初職入職における学校使用率
%
すぐ就職
3か月内
4か月以上
60- 50- 40- 30- 2069 59 49 39 29
60- 50- 40- 30- 20- (年齢)
69 59 49 39 29
男性
図4
女性
中高卒者、教育-職業移行パタン別、学校使用率
7
43
この低下の内実をもう尐し吟味しておこう。図 5 は、高卒者のみについて、高校の学科と
進学状況にもとづく上下ランクを統制して、初職入職における学校使用率を比較している。
高卒女性 20 代の低下は全般的だが、とくに「職業科下」における急落が、「職業科上」と対
照的である。一方、男性の低下は「普通科上」によるところが大きい。女性の職業科は多く
が商業系であることを考慮すれば、先に確認した新規高卒者向けの事務職求人の減尐による
しわよせが、「学校経由の就職」に関して学校間格差を増している実情が推察される。
%
80
70
普通科上
普通科下
職業科上
職業科下
60
50
40
30
20
60- 50- 40- 30- 2069 59 49 39 29
60- 50- 40- 30- 20- (年齢)
69 59 49 39 29
男性
図5
女性
高卒者、高校学科・進学ランク別、初職入職の学校使用率
*) 「普通科」は理数科、国際科、英語科、総合学科を含む。「職業科」は工業、商業、農
業・水産、家庭・家政、看護、福祉、芸術、体育を含む。
*) 進学ランクは学校の進学状況に関する回答者の評価にもとづき、普通科は、同級生の 7
~8 割以上が進学なら「上」、それ未満は「下」。職業科は、同級生の 2~3 割以上が進学
なら「上」、「ほとんどいない」が「下」とした。
3
「学校経由」と職業・雇用機会
3.1
「学校経由」と初職条件、その趨勢
本節では、初職入職に学校を使用することによる中高卒者にとっての職業・雇用機会の趨
勢的変化を、前節と同じく 2005 年 SSM 日本調査データによって確認する。職業機会として
は、従来の研究における主要な論点として、従業上の地位(正規・自営/非正規)、職業(事
務/販売・労務)、事業所規模(大/中小)に留意する(区分の詳しい定義は図 6 注をみよ)。
図 6 は、学校使用の場合の正規・自営、事務職、大企業の起こりやすさを、それぞれ非使用
の場合の起こりやすさと比べたオッズ比を示している。これから以下を確認できる。
(1) 学校使用は中高卒男性に対しては若年ほど正規雇用の機会を増している。ただし、学校
使用の正規雇用率はどの世代も 95%以上で変わっていないので、これは非使用者の非正規
8
44
雇用率の急増による相対的な機会増大である。中高卒女性では、学校使用による正規機会
の有利さは上の世代では男性より勝っていたが、若年では低落している。
(2) 学校使用による事務職機会は、中高卒女性では若年層で有利さを増している。男性では
それに類した趨勢は明確でない。
(3) 学校使用による大企業就職機会は、中高卒女性では一貫して縮小し、20 代ではオッズ比
が 1 を大幅に切った。男性は 20 代でやや機会増大の動きをみせるが、趨勢としては横ばい
とみるべきかもしれない。
オッズ比
ア)正規・自営機会
オッズ比
35
男性
女性
30
イ)事務職機会
4.5
男性
女性
4
3.5
25
3
20
2.5
15
2
10
1.5
1
5
0.5
0
0
60-69 50-59 40-49 30-39 20-29
60-69 50-59 40-49 30-39 20-29
(年齢)
オッズ比
ウ)大企業機会
*) オッズ比は下表において、
5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
0.5
ad
bc
正規・自営 または 非正規 または
事務職 または
販売労務職 または
大企業
中小企業
4.5
1
(年齢)
男性
女性
0
60-69 50-59 40-49 30-39 20-29
(年齢)
図6
学校使用
a
b
非使用
c
d
*) 「正規・自営」は{経営者・役員,常時雇用の一般
従業者,自営業主・自由業者,家族従業者,内職}、「非
正規」は{臨時雇用・パート,派遣社員,契約社員・嘱
託}。学校使用の自営はどの年代も尐数なので、実質
的には「正規機会」である。
*) 「事務職」は管理・専門・事務職。販売職は「販
売労務」に含まれる。
*) 「大企業」は従業員数 500 人以上および官公庁。
中高卒者、学校使用の初職入職による職業・雇用機会
9
45
以上において顕著な点を命題として整理すれば、次のようにいえる。
●初職入職における学校使用は、中高卒の男性にとっては正規雇用、女性にとっては事務職
という点で、90 年代においても強みを維持している。大企業という点では、男性にとっては
まだ有利さがあるが、女性にとっての有利さは消失した。
3.2
「学校経由」による就業安定化
95 年 SSM で苅谷は初職継続を重点的に分析し、高校職業科卒に限ってみても、学校使用
による継続促進効果があることを確認した(苅谷, 1998:49)。ここでも、初職入職における学
校使用が、雇用の安定性や定職化という点でもつ効果を吟味しておきたい。
図 7 は、初職在職年数を 1 年と 3 年を区切り、その分布を世代ごとに学校使用の有無で比
較している。やや粗い確認ではあるが、20 代で大きな格差があり、男女とも、学校使用が初
職在職年数を増す顕著な傾向をみせている 9。
20- 30- 40- 50- 60- 20- 30- 40- 50- 6029 39 49 59 69 29 39 49 59 69
女性
男性
年齢 学校使用
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
初職在職年
1年以下
3年以下
4年以上
0%
図7
9
20%
40%
60%
80%
100%
中高卒者、初職入職における学校使用と初職在職年数
20 代については、在職年数が 3 年に満たないケースを考慮して 22 歳以上のみでもチェックしたが、
結果はほとんど変わらない。22 歳以上で 3 年以下の割合のみ確認すると、学校使用ありでは男性 35.4%、
女性 50.0%、使用なしでは男性 62.3%、女性 79.7%である。全体 57.9%はいわゆる「七・五・三」転
職(黒澤・玄田, 2001)の 5 割に近いが、内実はかなりばらつきがある。
10
46
図 8 は、調査時点までの生涯における転職回数を、出生コホートによって 95 年 SSM と対
比させながら、初職入職時の学校使用の有無に応じた平均値で比較している 10。転職回数が
ある面での就業不安定さの指標になるとすれば、05 年調査 20 代では男女とも、その不安定
さは学校使用により低減している(タテの比較)。また、95 年調査の 20 代と比較すると(ヨ
コの比較)、男性ではやはり 05 年調査 20 代の転職回数がより尐ない。女性は 05 年調査 20
代の転職回数がより多いけれども、他の年代比較に比べれば差は小さい。
以上より、次の命題を確認しておく。
●中高卒若年男女において、初職入職における学校使用は、初職継続あるいはその後の転職
抑制でみたときの就業の安定さと結びつく、その傾向を維持している。
転職回数
2.5
2
95学校経路
95非学校経路
05学校経路
05非学校経路
1.5
1
男性
図8
4
1976-85
1966-75
1956-65
1946-55
1936-45
1926-35
1976-85
1966-75
1956-65
1946-55
1936-45
1926-35
0.5
(出生コホート)
女性
中高卒者、初職入職における学校使用と、その後の転職回数[95 年との比較]
社会関係資本としての「学校経由」の検討
本節では、これまでの趨勢分析で確認された中高卒若年層の動向に関する命題をより詳し
く検討し、それによって 90 年代に「学校経由」をめぐって生じた変化を検証する。そのため
に、冒頭で整理した社会関係資本論のフレームワークをより明示的に用いて、投資的な側面
から経済資本としてのリターン側面までを統一的に分析する。
これより先は高卒若年層のみを分析対象とする。サンプル数を確保するために、2005 年
SSM 日本調査と 2007 年若年層郵送調査を、20 歳以上 35 歳以下のサンプルについて合併した
10
ここでの転職は、離職して一定の無業期間を経て再就職するケースを含み、それを転職 1 回として
カウントしている。図 8 において、疑似コホートごとに 95 年と比較したときに、05 年調査では女性
の転職回数が概して高い。これは 05 年調査でカレンダー方式により職歴情報の精度を向上させた効
果(無業期間を正確に聞き取っている)が大きい。この点は三隅(2008:補論)を参照。
11
47
データを用いる(「2005 年 SSM 若年層合併データ」と称する。基本的な属性分布は末尾の付
表 A 参照) 11。前掲の図 1 からも明らかなように、新規高卒者をとりまく労働市場の状況は
1994 年あたりから大きく変化している。そこで分析に際しては、高卒時 1994 年を目安にし
て 29 歳未満とそれ以上を大別し、時代変化を重ね合わせていきたい。
4.1
出身階層・学校属性によるアクセス条件
「社会関係資本としての学校」における「投資」的側面に関わることとして高卒者の出身
階層および学校属性をとりあげ、それらが「学校経由」として制度化された社会関係資本へ
のアクセスに及ぼす影響をみる。それに先だって、そもそもの高卒就職という進路選択に関
わる出身階層の影響を、若年層合併データでおさえておくべきであろう。表 1 をみれば明ら
かなように、高卒就職の進路選択には、父職階層ではブルーカラーとりわけ労務・農林であ
ること、学歴階層では両親ともに高卒以下であることが、強く影響している。参考に、表 1
には高卒後すぐに(働かずに)専修学校に進学した者の比率も記載した。専修学校への進学
に対しては、父職が労務・農林であることが比較的一貫した促進効果をみせるが、その他は
ややイレギュラーである。したがって高卒就職に対する出身階層の影響は、基本的には短大・
大学進学という進路選択の間で表れているとみてよい。
表1
高卒就職および専修学校進学に対する出身階層の影響
男 性
15 歳時
両親とも中高卒
女 性
一方が短大以上
両親とも中高卒
一方が短大以上
父親職業
中高卒
労務農林
55.4
16.3
32.7
23.6
39.7
23.4
22.4
28.6
販売
36.5
20.6
18.8
14.6
34.7
16.7
21.6
13.7
事務
28.1
17.5
19.7
15.2
31.8
22.4
8.3
14.3
管理専門
19.0
6.9
6.9
10.7
23.5
16.2
2.6
15.2
専修
中高卒
専修
中高卒
専修
中高卒
専修
*) 各々のグループにおける本人の学歴分布から中高卒と専修卒のパーセントを抜粋。
第一の問題は、このように低階層バイアスに規定された進路選択の中で、
「 学校経由の就職」
が階層的にさらにどういう意味あいを持ち得ているか、である。苅谷(1998:51)が 1995 年
SSM で行った分析では、20~39 歳の若年層に関して学校使用を規定する有意な出身階層・学
校属性を確認できなかった。分析単位や要因のとりあげ方は異なるが、ここでも同じロジス
ティック回帰分析を行った結果を、表 2(モデル 1)に示す。これをみると 2005 年若年層合
併データではだいぶ結果が異なる。出身階層としては、父職の従業上の地位は無効果だが、
11
各々の調査における 20~35 歳を合併し、日本調査サンプルに 1 年を加算して年齢を補正した。この
点での年齢幅の若干のずれや、標本抽出誤差の調整を行っていないことから、以下の分析における有
意性検定は厳密には参考指標である。
12
48
ブルーカラー職であることが有意な効果をもつ 12。また学校属性では、中学 3 年時の成績が
良いことと職業科であることが、有意な効果をもつ。いま一つは地域条件で、義務教育終了
地が首都圏や大都市をはずれた「周辺」であることが、有意な効果をもつ。
なお、調査種別は学校使用に関して独自の効果をもたない。
比較的学業成績の良い職業科に進んだ「周辺」地域のブルーカラー階層の子弟。これが「学
校経由の就職」へアクセスしやすい高校生像として浮かび上がる。この「周辺」性とブルー
カラー性が、94 年以降の新規高卒求人(とくに事務職)の縮小に関係して表れたものかどう
かをみるために、表 2 のモデル 2 において、世代との交互作用をそれぞれ吟味している。有
意性は認められないので、先の規定関係はバブル期から一貫したものといえる。
表2
初職入職における学校使用(=1)のロジスティック回帰分析(若年高卒者)
モデル1
B
モデル2
Exp(B)
B
Exp(B)
世代 (1)29 歳未満(/29 歳以上)
-0.61 ***
0.54
-1.04 *
0.35
性別 (1)男性(/女性)
-0.11
0.90
-0.13
0.88
中3時の成績(上=5~下=1)
高校の進学率(高=5~低 1)
0.42 ***
-0.09
高校学科 (1)職業科(/普通科)
0.54 ***
1.53
0.91
1.71
0.42 ***
-0.08
0.53 ***
1.53
0.92
1.70
15 歳時父職 (1)Wカラー職(/Bカラー職)
-0.42 **
0.65
-0.31
0.73
15 歳時父職地位 (1)一般雇用(/自営)
-0.09
0.91
-0.08
0.93
15 歳時地域 (1)周辺(/中心)
0.71 ***
2.03
0.56 **
1.76
調査種別 (1)日本調査(/若年層調査)
0.04
1.04
0.03
1.03
世代×15 歳時地域
0.63
1.89
世代×15 歳時父職
-0.41
0.66
-1.24 **
0.29
定数
(N=520)
-1.31 ***
0.27
-2logL(対数尤度)=671.3 -2logL(対数尤度)=669.2
Cox & Snell R 2 =.091
Cox & Snell R 2 =.094
*) 「中3時の成績」は学年中の順位に関する 5 段階自己評定。「高校の進学率」は、学年全体の進学
率に関する回答者の 5 段階評定。父職「Wカラー」は販売を含む。父職地位「一般雇用」は非正規
を含む。地域「中心」は指定都市および東京都・大阪府、「周辺」はそれ以外。
こうして「学校経由の就職」にアクセスする高校生の中には、不本意にそうしている者も
尐なからず含まれるだろう。2005 年日本調査の質問でしか確認できないが、合併データに含
まれる若年高卒者の約 15 パーセントは中学 3 年時に短大・大学進学を考えていた。しかしそ
の一方、7 割は、進学は中高までと答えている。その早期就職志向の高校生たちにとって「学
校経由の就職」は、職業高校として有利にアクセスできる経済資本への転換が可能な「資本」
12
表 1 と同様に、両親ともに高卒以下か否かで 2 値化した親の学歴変数も投入してみたが、有意な効
果はなかった。欠損が多いので、苅谷(1998)と同様の判断で以下の分析では用いない。
13
49
としての積極的な意味あいをもちうるであろう。モデル 2 による先の交互作用に関する確認
は、その意味あいが 90 年代に壊れていないことを示唆するのである。 13
4.2
職業・雇用機会に対する効果
とはいえ、
「学校経由の就職」が実際に引き寄せる職業・雇用機会の有利さ、そして経済資
本がなければ、
「資本」的意味あいは薄れる。前節で吟味した正規、事務職、大企業という職
業・雇用機会は、より直接的に経済資本につながる収入の平均的な水準と安定さに関わる点
でも重要である。そこで改めて若年高卒にしぼって、初職入職における学校使用がこれらの
初職機会に及ぼす効果を検討しよう。基本的には表 2 と同じロジスティック回帰モデルを用
いる。もちろん、学校使用(有無の 2 値)は説明変数に組み入れ、世代との交互作用も吟味
する。被予測変数は、正規(自営を含む)(=1)/非正規(=0)、事務職(管理・専門を含む)(=1)
/販売・労務職(=0)、大企業(従業員 500 人以上・官公庁)(=1)/中小企業(=0)で 2 値処理し、
各々について回帰モデルをたてる。表 3 がその分析結果である。
表3
初職特性に対するロジスティック回帰分析(若年高卒者)
正規(1)
B
世代 (1)20-28 歳
事務ホワイト(1)
Exp(B)
B
Exp(B)
大企業(1)
B
Exp(B)
-1.33 ***
0.27
-0.10
0.91
性別 (1)男性
0.57 **
1.77
-1.98 ***
0.14
0.52 **
1.69
中3時の成績 (上=5~下=1)
0.19
1.21
0.45 ***
1.57
0.24 *
1.27
高校の進学率(高=5~低 1)
0.08
1.09
0.26 **
1.29
0.11
1.12
高校学科 (1)職業科
0.22
1.25
0.65 **
1.91
0.07
1.08
学校使用 (1)あり
4.46 ***
86.52
0.31
1.36
0.68 **
1.97
0.90
0.09
1.09
0.06
1.06
0.01
1.01
-0.14
0.87
0.44
0.11
1.12
0.69 ***
2.00
15 歳時父職 (1)Wカラー職
-0.11
-0.01
0.99
15 歳時父職地位 (1)一般雇用
0.49 *
1.63
15 歳時地域 (1)周辺
0.27
1.31
調査種別 (1)日本調査
0.10
1.10
0.08
1.08
世代×学校使用
-1.98 *
0.14
0.02
1.02
-0.07
0.94
定数
-0.83
0.44
0.14
-3.22 ***
0.04
-2logL(対数尤度)
Cox & Snell R
2
372.2
0.298
-0.81 ***
-2.00 ***
486.7
(N=516)
0.203
497.0
(N=508)
0.058
(N=474)
正規雇用の機会は、若い世代ほど、また女性ほど厳しいことがわかる。15 歳時父職におけ
13
一方で、“社会的弱者”としての文脈も留意される。本人 15 歳時に「父親がいなかった」場合、初
職入職における学校使用率は 40.0%で、それ以外の 46.6%よりも低い。そもそもの高卒止まり率は「父
親がいなかった」者 58.1%が、それ以外 31.3%を大きく上回る。これから推論すると、父不在が示唆
する家計の厳しさは、高卒就職を促すけれども、そこで「学校経由」が「救済」機能を果たしている
わけではない。
14
50
る従業上の地位が自営であることも、正規雇用を難しくする。しかし、これは出身階層の効
果がみえる唯一のケースであり、オッズ比もさほど大きくはない。さて、学校使用は、ここ
でも正規雇用のされやすさに強い効果をみせる。ただし、世代との負の交互作用があるので、
94 年以降その効果は弱まっている。これは、前節のオッズ比による検討では見えなかった変
化である。
事務職への就きやすさについては、それなりの進学レベルの地域的には「中心」の職業高
校、そして成績のよい女子生徒、に強みがある。ここにおいて学校使用の効果はなく、94 年
をはさんだその変化もない。前節のオッズ比分析では学校使用による女子事務職機会の強み
が確認されたが、そこにおける学校使用はメリトクラティックな要素が強く、表 3 の分析で
はそれらの要素効果に分解されたものと理解できよう。
大企業就職はむしろ成績のよい男子生徒が有利である。その点を考慮してもなお学校使用
は大企業への就職しやすさに効果をもち、なおかつ 94 年以降の変化はない。(初職従業先の
規模に関しては調査種別による分布の差異があるようである。)
まとめると、若年高卒者において、初職入職における学校使用の効果として明らかにみて
とれるのは正規・大企業の雇用機会に対するものである。これらは安定的な収入という形で、
経済資本の効率的蓄積につながる効果だと考えられる。正規への効果は 94 年以降低減してい
るが、オッズ比からみれば効果水準は高い。大企業への効果は、水準はさほど高くないが、
94 年以降の低減はない。
4.3
経済資本への転換
より直接的な経済資本への転換効果を、現在の本人年収によって吟味する。もちろん収入
は厳密には「資本」ではないが、その保有可能水準(端的には貯蓄力)の指標という趣旨で
とらえておきたい。また、収入なしの状態も「社会関係資本としての学校」から連なる過程
の一つの帰結と考えて、分析に含める。
初職入職における学校使用の有無に応じて本人年収
表4
本人年収の共分散分析
(若年高卒者)
の分散がどれくらいうまく分割されるかを、本人年収
実額の対数変換値に対する共分散分析(一般線型モデ
F 値
年齢(共変量)
0.022
ル)で調べる。表 4 において、年齢と性別を統制した
性別
8.408 ***
分析を行ったところ(結果を F 値で報告している)、
学校使用(有/無)
9.381 ***
学校使用の主効果は有意であり、使用ありの方が年収
性別×学校使用
性別×年齢
0.050
27.449 ***
平均は高かった。しかし、年齢と性別の間に強い交互
作用が認められたため、平均値の差の吟味は男女別々
の分析を通して行う。
切片
98.374 ***
2
R = .279
*) 年収は対数変換値、年収なしを 0
表 5.1 が、男女別の共分散分析の結果である。モデ
15
51
として含む。
ル2では 94 年をはさんだ学校使用効果の変化を合わせみるために、世代因子を投入し、学校
使用との交互作用をみている。年齢と世代との間に有意な交互作用は認められないので、モ
デル2にもとづいて主効果をみると、学校使用は男女とも(とくに男性)有意な効果を示す。
なおかつ、世代との交互作用が有意ではないことから、その効果に 94 年をはさんだ変化はな
い。 14
モデル2にもとづく平均年収推定値によって、学校使用の有無による平均値の差の検定を
行ったのが表 5.2 である。平均値は実額を示している。男女とも学校使用ありの平均値が高
く、使用なしとの差は大差とはいえないが実額でも対数変換値でも有意である。したがって、
若年高卒者においては、初職入職における学校使用は、現在の本人年収を指標とした経済資
本への転換に関してそれなりの効果をもっている。 15
表 5.1
性別、本人年収の共分散分析
男性
モデル1(F 値)
女性
モデル2(F 値)
年齢(共変量)
28.766 ***
6.152 **
学校使用(有/無)
12.077 ***
13.141 ***
9.544 ***
1.720
2.631
3.608 *
1.880
1.201
学校使用×世代
2.127
1.384
年齢×世代
1.844
1.068
55.302 ***
2
表 5.2
17.336 ***
2
R = .115
R = .125
学校使用
53.407 ***
2
12.169 ***
2
R = .030
R = .037
モデル2における本人年収推定値の差の検定
男性
14
モデル2(F 値)
世代(20-28/29-35)
切片
5
モデル1(F 値)
平均年収(万円)
女性
標準誤差
平均年収(万円)
標準誤差
あり
368.2
19.9
130.6
18.0
なし
327.2
19.9
105.4
17.1
差(実額)
41.0
(p=.017)
25.3
(p=.097)
差(対数)
0.203
(p=.000)
0.200
(p=.058)
結語
同様のやり方で地域(15 歳時および現在地「中心」/「周辺」)と地域移動(15 歳時と現在の間で
県外移動あり/なし)の影響も吟味したが、どれも有意な主効果はなく、学校使用との間の有意な交
互作用も認められなかった。15 歳時地域は、
「学校経由」へのアクセスや事務職機会を規定していた
が、その影響は(尐なくとも若年段階では)収入差には表れないようである。
15
収入なしを除く分析も確認したが、モデル2では学校使用の主効果は男女とも有意であり、世代と
の交互作用はなかった。このモデルにもとづく年収推定値の差は、男性 28 万、女性 20 万とやや縮ま
るが、対数値ではどちらも 5%有意である。
16
52
本稿は、高卒者の「学校経由の就職」に焦点をあて、学校を基盤とした社会関係資本のプ
ロセスの中にそれを位置づける理論的な試みを通して、とくに 1990 年代におけるその変化を
検証してきた。
「学校経由」の制度的作動状況を計測する手がかりとしたのは、初職入職における学校使
用の有無である。そこでは若年高卒女性の使用率の低下が着目された。男性については全体
の世代比較ではさほど明瞭な低下はなかったが、高卒者のみの 1994 年前後の変化を考慮した
分析では、性別を越えた低下が認められた。けれども、職業・雇用機会や就労の安定性との
関係から、利用率の低下は、必ずしも制度的作動の崩壊を伴うものではないことが示された。
その点をより詳細に検証するために、後半では「学校経由の就職」を社会関係資本のフレ
ームワークに組み込んで、アクセスにおける出身階層や学校特性の影響、および経済資本へ
の転換という視点から分析を行った。アクセスに関しては、ブルーカラー階層性、地域的「周
辺」性、あるいはまた、成績に関わるメリトクラティックな特性が注目された。そして、そ
れらに関する 94 年前後の変化は確認されなかった。資本転換の面では、学校使用は、正規・
大企業の雇用機会に関して、その規定力を減じながらも一定水準の効果を維持していた。ま
た、現在の本人年収に関しても増分効果を示した。
これら知見を結論として固めるには、また、これらの知見がより広い文脈で獲得する意味
づけを考察するためには、さらに専修学校への進学者や大卒者との比較分析を詰めていく必
要があるだろう。しかしそのためにも、上記のようにそれなりに「健全」に(われわれのフ
レームワークにおける社会関係資本的な意味で)作動している「学校経由の就職」の実情を
おさえ、確認点としておくは意義あることだと思われる。
【Appendix】
付表A 20~35 歳サンプル合併データにおける基本属性の分布(人)
2005 年 SSM
日本調査
2007 年 SSM
若年層郵送調査
男性
女性
本人学歴
中高 短大・高専 大学・院
254
13
220
専修
90
合計
577
257
159
152
143
711
合計
男性
511
118
172
20
372
215
233
68
1288
421
女性
合計
118
236
142
162
231
446
110
178
601
1022
【文献】
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18
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寺田盛紀(編著), 2004,『キャリア形成・就職メカニズムの国際比較』晃洋書房.
School as Social Capital:
Its Functioning on Occupational Opportunities for Youth
Kazuto Misumi
Kyushu University
4-2-1 Ropponmatsu, Fukuoka 810-8560, JAPAN
[email protected]
In this paper, we focus on high school graduate workers and „the high school mediation‟ as
institutional linkage between school and labor market. Theoretically we locate the high school
mediation in the process of social capital, and elaborate its change in 1990s in Japan. The rate of
using the high school mediation for getting a job has decreased in 90s, especially among female high
school graduate workers. However, still now the high school mediation has some advantages in
regard to occupational opportunities: regular employment, white color jobs, and large companies.
Social capital framework requires a viewpoint of capital accumulation. In the context here,
transforming the high school mediation as social capital into economic capital is important. In
addition to the above-mentioned advantages that will condition the accumulation process, we confirm
that the high school mediation reflects on higher income at present. Thus, we analyze shrinking but
active functioning of the institutional linkage based on 2005 SSM Survey in Japan data and 2007
SSM Survey, Youth, Mail survey data.
Keywords and phrases : High school graduate workers, high school mediation for getting a job,
social capital
19
55
社会ネットワークと初職非正規雇用ダミーの分析
太郎丸 博
(大阪大学)
本稿では、高校時代(高校に通っていない場合は中学時代)の交友関係が、学卒後最初につ
く職に及ぼす影響を検討する。フリーターやニートの研究では、社会ネットワークの不足が
若者の非正規雇用や無業を引き起こしている可能性が示唆されてきた。この仮説を、2005
年 SSM 日本調査と 2006 年 SSM 若年層郵送調査を使って、検証した。学歴、出生年、性別
をコントロールすると、社会ネットワークの大きさは、初職が非正規雇用になるかどうかに
影響を及ぼさなかった。この結果を先行研究と考え合わせると、単なるネットワークのサイ
ズではなく、その質が問題である可能性がある。
キーワード:社会移動、社会階層、社会関係資本、人的資本、フリーター
1 問題
この報告では、2005 年の SSM 調査データを用いて、初職が非正規雇用になる要因を分析する。
特に社会ネットワークの効果を中心に検討する。また、本調査と若年郵送調査に共通の質問を使
い、分布の違いを検討する。
2 社会ネットワークと非正規雇用
社会ネットワークの不足が若年の就業の困難を引き起こすという議論は多い(例えば玄田有史
(2001); 堀有喜衣 (2004); 久木本真吾 (2007); 沖田敏恵 (2004))。ネットワークの不足は、いわゆ
る社会関係資本の不足とも解釈できるが、人的資本の不足とも考えられる。すなわち、職場での人
間関係をうまく処理する能力に欠けているので、非正規雇用になったり、無職になったりするとも
考えられる。この点に関しては、論者によって立場はさまざまであるが、いずれにせよ、ネット
ワークの不足がその指標となっている点には変わりはない。しかし、どの研究も事例を挙げるか、
0 次の関連
*1 を指摘する程度で著しく根拠が弱い。一般に低学歴者ほど社会ネットワークが乏しく
(McPherson et al. 2006)、低学歴者ほど若年無業や非正規雇用になりやすい (小杉 2003) ことが知
られているからである。
社会ネットワークと非正規雇用の関連を検討する際のもう一つの問題は、因果の向きの問題であ
*1
「0 次の関連」とは、まったく他の変数をコントロールしていない、2 変数のクロス表における関連のこと。
57
る。調査時点の社会ネットワークの量と雇用形態の間に有意な関連が認められたとしても、どちら
が原因でどちらが結果かはわからない。非正規雇用であるせいで社会ネットワークが減少したとい
う議論も十分成り立つのである。
そこで、今回は、高校時代の(高校に通ったことがない場合は中学時代の)友人の多さを社会
ネットワークの指標とする。記憶に頼っているのでやや信頼性に欠けるが、就業する前の社会ネッ
トワークなので、因果の向きの問題はクリアできる
*2 。
3 本調査と若年調査の分布の比較
若年のデータが使えるようになったので、本調査のデータと比較できる変数に関しては、比較し
ておいたほうがよいだろう。友人の多さに関しては、本調査 B 票と若年調査の両方に含まれてい
るので、これについて検討する。
4 データの処理
4.1 データセットの作成
本調査のデータ(A 票と B 票の両方)を 1971 年以降生まれに限定し、若年郵送調査と合併す
る。若年のインターネット調査は今回の分析から除外している。ただし、A 票には高校時代の交友
関係の質問が含まれていないので、交友関係変数を用いるときは、A 票のデータはすべて欠損値と
なる。
4.2 従属変数
2 種類の初職非正規雇用ダミーを従属変数とする。どちらも初職の従業上の地位が「臨時雇用・
パート・アルバイト」
「派遣社員」
「契約社員、嘱託」のとき 1 をとり、
「常時雇用の一般従業者」の
とき 0 をとる。2 つのダミー変数の違いは、いわゆる自営(
「経営者・役員」
「自営業主」
「家族従業
者」
「内職」
)の扱いである。初職非正規雇用ダミー 1 では、自営は 0 として、常雇と同じ扱いにし
てある。初職非正規雇用ダミー 2 では、自営は欠損値として分析から除外する。
若年の非正規雇用について考える場合、自営の処理は微妙な問題である。単純に正規雇用と非正
規雇用を比較するのならば、自営業者は分析から除外すべきである。しかし、非正規雇用を道徳的
に非難するような議論においては、自営業も既存の「まとも」な職と見なされているはずなので、
このような文脈では、自営業と正規雇用を同じカテゴリに統合することが考えられる。初職では自
営業の比率は少ない(51/1756 = 0.029)ので、どう処理してもあまり結果には影響ないと思われ
るが、念のため 2 種類の初職非正規雇用ダミーを作り、それぞれ検討する。自営を別のカテゴリと
して、多項ロジスティック回帰分析を用いることも考えられるが、自営業そのものには関心がない
*2
しかし、厳密にはパネル調査データの分析が必要である。現在の就業形態によって、回答者の記憶が歪曲される可能
性もないとは言い切れないからである。
58
ので、上記のように処理した。
4.3 独立変数
本人の性別 1 男性、2 女性。
15 歳時父職 1 専門、2 管理、3 事務・販売、4 マニュアル、5 自営、6 無職・非正規雇用・父はい
なかった。父職は、これまでのいくつかの分析から専門職と管理職では異なる傾向が見られ
る (Tarohmaru 2007; 平尾・太郎丸 2007) ので、両者は分けることにした。父が無職であっ
たり、非正規雇用であったり、父がいない場合、顕著に非正規雇用率が高まるので、これも
欠損値とせずに分析に含めた(父がいないことの効果については、三輪哲 (2005) を参照。
本人学歴 1 中学、 2 高校、 3 専修学校、 4 短大・高専、 5 大学・大学院。本調査に関しては、専
修学校、短大・高専、大学・大学院のうち、どれとどれに通っていたかがすべて分かってい
る。例えば、大学を卒業したあと専修学校に通う人もいる。大学・大学院に通っていれば、
自動的に大学・大学院に分類し、大学に通っておらず短大・高専に通っていれば、短大・高
専に分類し、大学、大学院、短大、高専のいずれにも通っておらず、専修学校に通っていれ
ば、専修学校に分類した。
年齢
1 24 歳以下、 2 25∼29 歳、 3 35 歳以上。
社会ネットワーク
3 つの変数からなる。高校(中卒の場合は中学の時)のときに
• 学校に仲の良い友達がいたか、
• 学校以外で仲の良い友達がいたか、
• 学校に信頼できる先生がいたか、
をたずね、すべて以下の 4 つの選択肢から答えを選んでもらっている。
1. まったくいなかった
2. あまりいなかった
3. 少しいた
4. 多くいた
これら 3 つの変数をそのまま用いる。
中 3 時の成績自己評価
中学 3 年生の時の成績が学年の中でどれくらいだったか尋ね、
1. 下のほう
2. やや下のほう
3. 真ん中あたり
4. やや上のほう
5. 上のほう
の 5 つの選択肢で答えてもらっている。
調査の種類 1 本調査、 2 若年郵送調査。
59
表1
本調査と若年郵送調査で変数の分布が異なるかどうかを χ2 検定
変数
初職非正規(自営含む)
初職非正規(自営除く)
性別
年齢
学歴
15 歳時父職
中 3 時成績
学校の友達
学校以外の友達
信頼できる先生
表2
年齢
学歴
N
1911
1857
2350
2349
2339
2176
2327
1752
1752
1752
X2
2.33
2.23
1.78
66.43
80.18
63.63
92.53
9.39
0.95
10.93
p
0.13
0.14
0.18
0.00
0.00
0.00
0.00
0.02
0.81
0.01
調査の種類 × 各変数のクロス表の調整残差
24 歳以下
8.02
中学
25∼29 歳
−2.11
30 歳以上
−5.78
高校
専修
−4.68
−5.74
−1.39
専門
管理
0.07
中 3 時成績
上の方
8.17
学校の友達
まったく
信頼できる先生
まったく
父職
df
1
1
1
2
4
5
4
3
3
3
−0.92
0.20
短大・高専
大学・大学院
1.22
7.16
事務・販売
低雇用ほか
7.49
−2.47
マニュアル
やや上の方
真ん中
下の方
2.35
−5.77
やや下の方
あまり
少しいた
1.28
−2.75
多くいた
あまり
少しいた
多くいた
−1.01
−1.22
−2.95
−3.65
−1.20
自営
0.64
0.47
2.39
3.25
独立モデルからの調整済み残差。郵送調査の調整残差のみ表示。数値が正の値の場合、郵送のほうが該当セル
の比率が高く、負の値の場合、郵送調査のほうが比率が少ない。絶対値が 1.98 以上の場合、5% 水準で有意
5 分析
5.1 調査による分布の違い
まず用いる変数の分布が、2 つの調査データで異なるかどうかチェックしよう。それぞれの変数
×調査の種類のクロス表を作り、独立性の検定を行った。その結果、が表 1 である。5% 水準で分
布に違いがみられた年齢、学歴、15 歳時父職、中 3 時成績、学校の友達、信頼できる先生について
分布の違いを示すために、独立モデルからの調整残差を示したのが表 2 である。ただし、調整残差
は郵送調査のみについて示してある。郵送のほうが、若年に偏っているが、若年調査は 18∼19 歳
も対象になっているし、学生の回答率がやや高いので、24 歳以下の割合が高くなっていると思わ
れる。その他は、本調査が低学歴に偏っていることに起因していると思われるが、もう少し究明が
必要であろう。
60
表3
調査・男女別の非正規率
自営含む
自営除く
非正規率
計(人数)
非正規率
計(人数)
男
17%
466
18%
445
女
26%
595
26%
585
計
22%
1061
23%
1030
若年郵送
男
23%
347
24%
333
調査
女
27%
503
27%
494
計
25%
850
26%
827
本調査
5.2 従属変数の分布
表 3 は、男女別の非正規雇用の比率を調査別に示したものである。女性のほうが非正規雇用の比
率が高いのは、既存の研究通りの結果であるが、若年調査では、その差が小さすぎる。郵送調査で
は対象者に協力を求める手紙で非正規雇用の問題に言及したので、非正規雇用の男性の回答率が高
い可能性も考えられる。
5.3 ベースラインモデルの検討
まず、性別、年齢、本人学歴、父職の効果を検討してみた。まずモデル 1 で性別と年齢、本調査
ダミーの 3 変数を投入し、モデル 2 で父職を投入し、モデル 3 では本人学歴を投入し、モデル 4 で、
1 次の交互作用効果をすべての独立変数の組み合わせで検討し、後退ステップワイズ法で 10% 水
準で有意なものだけをモデルに残した。表 4 は初職が自営のケース(51 人)を含んだ分析の結果
で、表 5 は自営は分析からのぞいてある。表 4 を見ても表 5 を見ても、年齢が若いほど、そして
女性のほうが非正規雇用になりやすい。従属変数が初職なので、年齢の効果はおおむねコーホート
の効果だと考えるべきだろう
*3 。
本調査ダミーの効果は表 4、表 5 のいずれでも、有意ではない。表には示していないが、念のた
め本調査ダミーとその他の変数の交互作用効果も検討してみたが、すべて有意ではなかった。
父職の効果は、やや複雑である。表 4、表 5 のいずれでも、モデル 1, 2, 3 では、父が管理職の
場合、子供は非正規雇用になりにくく、父がいなかったり無職や非正規雇用の場合、子供も非正規
雇用になりやすい。しかし、性別と父職の交互作用効果を投入したモデル 4 では、女性の場合は父
が管理職だと非正規雇用になりにくいが、男性の場合は、逆になりやすくなっている。父低雇用の
*3
ただし、問題はかなり錯綜している。郵送調査では、最終学校を卒業した年や初職に就いた年はわからないため、
正確なコーホート効果が分からない。第 2 に、本調査と郵送調査では、調査時期が異なる(さらに本調査の一部は
2006 年に集められている)。第 3 に、22 歳未満の場合、大卒はいないことからもわかるように、年齢と学歴が強く
相関していることに注意が必要である。
61
表4
初職非正規ダミー(自営含む)の分析 (N = 1756)
モデル 1
24 歳以下
25∼29 歳
30 歳以上
モデル 2
1.19 **
1.16
0.77 **
0.79
——
——
−0.43 ** −0.44
0.10
0.15
−0.03
−0.39
−0.06
−0.11
0.56
——
モデル 3
**
**
1.14
0.81
——
** −0.42
0.19
0.09
+ −0.33
−0.02
−0.13
**
0.51
——
0.64
0.29
0.27
0.30
——
男性ダミー
本調査ダミー
父専門職
父管理職
父事務・販売
父マニュアル
父低雇用ほか
父自営
中学
高校
専修学校
短大・高専
大学・大学院
男×父専門職
男×父管理職
男×父事務・販売
男×父マニュアル
男×父低雇用ほか
定数
−1.70 ** −1.75 ** −2.05
−2LL
1830.2
1815.1
パラメータ数
5
10
AIC
1840.2
1835.1
** p < .01, * p < .05, + p < .1
**
**
**
*
+
+
**
1809.7
14
1837.7
モデル 4
1.17
0.84
——
−0.93
0.20
−0.01
−0.85
−0.27
−0.41
0.32
——
0.68
0.29
0.28
0.31
——
0.27
1.33
0.69
0.80
0.51
−1.90
1798.4
19
1836.4
**
**
**
**
*
+
+
**
+
*
**
効果はモデル 4 では有意ではなくなっているが、男女に分けたせいで該当サンプルが少なくなって
しまったからであると思われる。
基本的には学歴が低いほど非正規雇用になりやすい結果となっているが、先行研究に比べると、
やや効果が弱いように思える。原因は不明。プログラムのミスか?
5.4 社会ネットワークの効果
表 4 のモデル 4 に、社会ネットワークの変数を投入した結果が、表 6 である。この表を見ると、
社会ネットワークは全く効果を持たないことが分かる。
6 今後の課題
今後は、2007 年 SSM 若年層インターネット調査の結果も分析して比較する必要があるだろう。
また、現職への影響も検討する必要があろう。暫定的に本稿の分析結果が正しいと仮定するなら
ば、今後の研究は以下のような方向で検討すべきだろう。
第 1 に、友人の多さが影響を及ぼさないならば、友人の質を検討してみるということである。内
田龍史 (2007) のように、知人を下層と上層に区別すれば、ネットワークが初職に効果を及ぼす
62
表5
初職非正規ダミー(自営除く)の分析 (N = 1705)
モデル 1
24 歳以下
25∼29 歳
30 歳以上
モデル 2
1.20 **
1.18
0.80 **
0.82
——
——
−0.40 ** −0.41
0.10
0.15
−0.14
−0.50
−0.15
−0.21
0.50
——
モデル 3
**
**
1.16
0.84
——
** −0.39
0.19
−0.02
* −0.44
−0.11
−0.23
*
0.43
——
0.75
0.30
0.27
0.32
——
男性ダミー
本調査ダミー
父専門職
父管理職
父事務・販売
父マニュアル
父低雇用ほか
父自営
中学
高校
専修学校
短大・高専
大学・大学院
男×父専門職
男×父管理職
男×父事務・販売
男×父マニュアル
男×父低雇用ほか
定数
−1.68 ** −1.67 ** −1.99
−2LL
1801.6
1784.5
df
5
10
AIC
1811.6
1804.5
** p < .01, * p < .05, + p < .1
1778.2
14
1806.2
**
**
**
+
*
*
+
+
**
モデル 4
1.19
0.86
——
−0.85
0.20
−0.08
−0.93
−0.33
−0.48
0.27
——
0.79
0.30
0.28
0.33
——
0.20
1.26
0.63
0.71
0.45
−1.86
1768.6
19
1806.6
**
**
**
+
**
*
*
+
+
**
+
*
**
可能性は十分ある。仮に内田 (2007) の議論が正しいとすれば、ネットワークの効果は、コミュニ
ケーション能力というよりも、社会関係資本、または社会化の効果を反映したものと考えられる。
社会関係資本の場合、正規雇用の職を得るのに必要な情報や援助が友人や知人から得られるという
ことであるし、社会科の効果であれば、上層の知人をロール・モデルとした社会化により、職業ア
スピレーションが高まることが考えられる。いずれにせよ、ネットワークがどのように就業と関係
するのか、そのメカニズムを特定し、より適切なネットワークの測定法を考える必要があろう。
第 2 に、視点を若者から採用活動をする雇用主のほうに移してみることも重要であろう。若者の
研究は蓄積されつつあるが、雇用主の採用活動の実態はよく分かっていない。求職者と雇用主の両
方を視野に収めた研究が今後必要だろう。
【文献】
玄田有史, 2001, 『仕事のなかの曖昧な不安』中央公論社.
平尾一朗・太郎丸博, 2007, 「女性と男性の社会移動—–Association Model をもちいて」
『第 44 回
数理社会学会大会報告』於 広島修道大学 9/15, 16.
堀有喜衣, 2004, 「無業の若者のソーシャル・ネットワークの実態と支援の課題」
『日本労働研究雑
63
表6
初職非正規雇用ダミー(自営含む)に対する社会ネットワークの効果の検討 (N = 1271)
モデル 1
24 歳以下
25∼29 歳
30 歳以上
1.06
0.98
——
男性ダミー
−0.88
本調査ダミー
0.15
父専門職
−0.24
父管理職
−0.71
父事務・販売
−0.19
父マニュアル
−0.48
父低雇用ほか
0.36
父自営
——
男×父専門職
0.50
男×父管理職
0.98
男×父事務・販売
0.72
男×父マニュアル
0.87
男×父低雇用ほか
0.26
中学
0.56
高校
0.40
専修学校
0.41
短大・高専
0.38
大学・大学院
——
学校の友達
学校以外の友達
信頼できる先生
定数
**
**
**
*
*
+
+
*
*
*
+
モデル 2
モデル 3
モデル 4
1.06
0.98
——
−0.88
0.15
−0.24
−0.70
−0.19
−0.49
0.37
——
0.49
0.97
0.71
0.87
0.26
0.57
0.40
0.40
0.38
——
−0.06
1.06
0.98
——
−0.88
0.15
−0.24
−0.70
−0.19
−0.48
0.36
——
0.50
0.97
0.72
0.87
0.26
0.56
0.40
0.41
0.38
——
1.06
0.98
——
−0.88
0.15
−0.23
−0.71
−0.20
−0.49
0.36
——
0.49
0.98
0.73
0.88
0.25
0.55
0.39
0.40
0.38
——
**
**
**
*
*
+
+
*
*
*
+
−0.01
**
**
**
*
*
+
+
*
*
*
+
**
**
**
*
*
+
+
*
*
+
+
−0.04
−1.90 ** −1.76 ** −1.89 ** −1.84 **
−2LL
1327
1326.7
1327.0
1326.7
パラメータ数
19
20
20
20
AIC
1365
1366.7
1367
1366.7
** p < .01, * p < .05, + p < .1
モデル 5
1.06
0.98
——
−0.88
0.15
−0.23
−0.70
−0.19
−0.49
0.37
——
0.49
0.98
0.72
0.87
0.25
0.56
0.39
0.40
0.38
——
−0.03
−0.06
0.01
−1.74
1326.5
23
1372.5
**
**
**
*
*
+
+
*
*
+
+
**
誌』533: 38–48.
小杉礼子, 2003, 『フリーターという生き方』勁草書房.
久木本真吾, 2007, 「広がらない世界—–若者の相談ネットワーク・就業・意識」堀有喜衣編『フ
リーターに滞留する若者たち』勁草書房, .
McPherson, M., L. Smith-Lovin, & M. E. Brashears, 2006, “Social Isolation in America:
Changes in Core Discussion Networks over Two Decades.,” American Sociological Review, 71(3): p353 – 375.
三輪哲, 2005, 「父不在・無職層の帰結」尾嶋史章編『現代日本におけるジェンダーと社会階層に関
する総合的研究』平成 15∼平成 16 年度科学研究費補助金基盤研究 (B)(1) 研究成果報告書, .
沖田敏恵, 2004, 「ソーシャル・ネットワークと移行」労働政策研究・研修機構編『移行の危機に
ある若者の実像』労働政策研究・研修機構, 186–211.
Tarohmaru, H., 2007, “Inequality of Opportunity for Regular Employments in the Process
of Japanese Youth-Labor-Market Transformation,” ISA RC28 Spring Meeting in Brno,
Czech, May 24-27.
64
内田龍史, 2007, 「フリーター選択と社会的ネットワーク」『理論と方法』22(2): 139–53.
Do the Size of Friendship Networks Raise the Probability of Entering Standard
Employment?
TAROHMARU, Hiroshi
Osaka University
Department of Sociology, Faculty of Human Sciences
YamadaOka 1-2, Suita, 565-0871, JAPAN
This paper examines the relationship between the friendship networks of high-schooldays
and the probability of entering a standard employment immediately after leaving one’s final
school. Several Sociologists argues that the larger young people’s friendship networks are, the
larger the probability that they enter a standard employment is. The reason might be that
the size of friendship networks are expanded by one’s communication skill and it raises the
probability. We conducted logistic regression analyses to predict the probability of entering
a standard employment. The results show that the size of friendship networks does not raise
the probability of standard employment after controlling the effects of sex, age and education.
This result and previous research imply that not the size, but the quality of friendship networks
may have effect on the probability of entering a standard employment, through encouraging
one’s job aspiration.
keywords and phrases: social mobility, social stratification, social capital, human capital
and freeter
65
若年層のライフチャンスにおける非正規雇用の影響
―初職と現職を中心に―
佐藤 香
(東京大学)
【要旨】
本稿は 2007 年SSM若年層郵送調査データをもちいて、初職と現職を中心として、ライフチ
ャンスにおける非正規雇用の影響をみた。初職で非正規雇用になりやすいのは、2000 年代に成人
した年少グループ、女性、学卒後すぐに就職しなかった若年者である。学歴の直接効果は認めら
れなかったが、学卒後のトランジションは学歴によって異なり、その影響と考えられる。出身階
層については、とくに女性で父主職が無職等であるばあい影響が顕著である。総じて、初職で非
正規雇用になるか否かは、本人にコントロールできない要因によるところが大きい。
初職が非正規で、中3の成績が低く、既婚で、地域移動経験がある女性では、現職が無職にな
りやすい。初職が非正規であると、男性でも女性でも、現職で非正規となりやすい傾向がみられ
る。その他、男性では大都市中心都市に居住していること、女性では中学・高校の学歴であると、
現職が非正規になりやすい。また、現職が非正規の男性は結婚しにくい傾向にあった。
以上のように初職が非正規であることはライフチャンスを制約しているが、初職でのチャンス
が本人の努力では変えられない要因に起因している以上、正規雇用への移行を希望する若年者に
対しては社会的な支援が必要であろう。
キーワード:非正規雇用、若年層、ライフチャンス、初職、現職
1
問題の所在
1990 年代後半以降の日本社会における大きな変化のひとつとして、雇用多様化あるいは雇
用流動化といわれる働きかたの変化があげられる。長引く経済不況の影響から、正規雇用が
減少し、アルバイトやパート、契約社員や派遣・請負といった働きかたが増加した。やや古
いデータであるが、2001 年 8 月に実施された総務庁(現・総務省)統計局「労働力調査特別
調査」によれば、パート・アルバイト、派遣労働者、契約社員・嘱託などの非正規雇用が占
める比率は全雇用者の 25.5%を占め、1359 万人にのぼっていた。また、「労働力調査」の時
系列データによって、非正規雇用のなかでもとくに不安定と考えられる臨時雇および日雇が
就業者に占める比率の推移をみても(図1)、非正規雇用の増加傾向を確認することができる。
これらの変化のなかでも、とくにこの 10 年ほどの間、フリーターやニートと呼ばれる若年
の非正規雇用や無業者の増加は社会的な関心を集めており、教育社会学・労働経済学・家族
社会学・心理学・社会保障論など複数の分野における研究が急速に蓄積されている。これら
1
67
の研究は、大まかにいえば、おもに2つの問題を扱っているといってよいだろう。第一の問
題は、誰がフリーター・ニートになりやすいのかという問題であり、第二の問題は、フリー
ター・ニートの経験はその後のキャリアにどのような影響を与えるかという問題である。
20
%
男性
18
女性
16
14
12
10
8
6
4
2
0
1970
図1
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
臨時雇および日雇の比率(『労働力調査』より作成)
従来の研究については、すでに太郎丸・亀山(2006)によって幅広い整理がなされている
ので、ここで詳しく紹介することはおこなわないが、いくつかの例をみておこう。たとえば
小杉(2003)では、第一の問題にかんして、フリーターになりやすいのは男性よりも女性、
大卒者よりも高卒者、都市部の大学よりも地方都市の大学出身者であることなどが明らかに
されている。また、第二の問題と関連して、小杉(2004)では、フリーターの過半数が正規
雇用への移行を希望しているが、職業的スキルを身につける機会が少ないこともあって、そ
の移行が困難であることも指摘されている。同様に、石田(2005)は、初職で非正規雇用だ
った場合は初職・正規雇用と比較して、男性では約 19 倍、女性では約 8 倍、現職で非正規雇
用になりやすいことを明らかにしている。これらの研究をふまえて、太郎丸(2006)は「出
身階層が低いほうが、フリーターになりやすく、いったんフリーターになった人は、フリー
ターのままである(つまり低い階層にとどまる)傾向」を確認している。
本稿では、2007 年 SSM 若年層郵送調査のデータ 1を用いて、以上の2つの問題を中心とし
て、非正規雇用の経験が若年層のライフチャンスに与える影響を検討することにしたい。こ
の調査は 18~34 歳(出生年では 1971~88 年)を対象としている。彼らは 1990 年代に成人し
ており、この時期、失業率の上昇が最も顕著だったのは若年層であった。玄田(2001)は、
その理由として、中高年の雇用を維持する代償として若年の就業機会が減少したためである
ことを指摘している。こうした時期に成人期を迎えた彼ら/彼女らが経験した非正規雇用は
どのようなもので、その後のライフチャンスにどのような影響を与えたのだろうか。
1
本稿では調査時点で学生であったサンプルを除いて分析をおこなっている。
2
68
2
仮説と使用する変数
前節で述べたように、本稿の関心は、フリーター・ニートに関する2つの問題、すなわち、
誰がフリーター・ニートになるのかという問題と、フリーター・ニートの経験が与える影響
という問題にもとづいている。ところで、フリーター・ニートとは、研究上、どのように定義
されるのだろうか。小杉(2003)では、フリーターを「15~34 歳で学生でも主婦でもない人
のうち、パートタイマーやアルバイトという名称で雇用されているか、無業でそうした形態
で就業したい者」と定義している。またニートについては、小杉(2005)で「15~34 歳の非
労働力(仕事をしていないし、また、失業者としての求職活動をしていない)のうち、主に
通学でも、主に家事でもない者」と定義している。この定義は、一定の問題を指摘されなが
らも、多くの研究で踏襲されてきた。だが、ここでもちいるデータでは、質問紙の設計が異
なることから、この定義をもちいて分析をおこなうことは難しい。そのため、ここでは初職
と現職を取り上げ、従業上の地位が、1)臨時雇用・パート・アルバイト、2)派遣社員、3)契
約社員、嘱託、の3つのカテゴリーであるものを「非正規雇用」として扱うことにしたい。
次節では、初職で非正規雇用になるのは、どのような人たちなのかをみていくが、この点
については、学校から労働市場へのトランジションの問題として、おもに教育社会学の領域
で研究が蓄積されてきている。これらの研究では、とくに出身階層と学歴の効果に着目して
きた。本稿でも、この2つの要因について検討することにしたい。
さきにもふれたように、初職が非正規雇用であることは、その後の職業キャリアにも影響
を与えるが、その影響は働きかただけにとどまらない。酒井・樋口(樋口編 2004)は女性を
対象とするパネル調査データにより、25 歳時点で非正規雇用または無職であった場合に 30
歳までの結婚率が低いことを明らかにしている。山田(2004)は、非正規雇用の男性では未
婚率が高くなっていることを指摘している。JGSS調査データをもちいた佐藤(2008)で
も、20 歳代から 50 歳代のすべての年代で、男性では正規雇用よりも非正規雇用で未婚率が
高く、女性では逆に正規雇用のほうが正規雇用よりも未婚率が高いことが明らかにされてい
る。本稿では、初職で非正規であった影響が現職と結婚に対して与える影響にも目を配るこ
とにしよう。
非正規雇用以外の職業階層については、従業上の地位と職業(職種)による分類をおこな
い、専門管理/正規雇用W/正規雇用B/自営(農業を含む)/非正規雇用、の5つのカテ
2
ゴリーを用意した 。また、出身階層として本人が 15 歳時の父親の職業階層をもちいるが、
3
「非正規雇用」
「無職」
「父はいなかった」と回答したサンプルはまとめて「無職等」とする 。
2
現職については無職も1つのカテゴリーとする。
これらのカテゴリーに含まれるサンプル数は、非正規雇用 20、無職 18、父不在 54 である。なお、その他
に不明であったサンプルが 90 サンプルあり、これらのケースは父主職をもちいた分析では除外してある。
3
3
69
また、年齢によって、18~26 歳と 27~34 歳の2つのグループに分けた。より年長の 27~
34 歳のグループは出生年が 1971~79 年であり、年少のグループの出生年は 1980~88 年であ
る。したがって、90 年代に成人したグループと 2000 年代に成人したグループとに分けたこ
とになる。
現在の居住地については、都道府県に加えて市町村名まで質問しているので、大都市中心
4
都市/大都市周辺都市/地方中核都市/地方都市/町村の5つに分類した 。以下では、これ
らの変数をもちいて、初職と現職、調査時点での結婚状況を中心として分析をおこなう。
3
誰が初職で非正規雇用となるのか
3.1
学歴と出身階層の影響
ここでは、学歴と父主職階層によって、初職での非正規雇用となる比率の違いをみていく。
図2は学歴別、図3は父主職階層別に、性別と年齢グループの影響もあわせて示してある 5。
図2から明らかなように、男性でも女性でも、また、どの学歴でも、年長グループよりも
年少グループで非正規となる比率が高い。2000 年代に入ってから、高校までで教育を修了し
た若年者、とりわけ女性にとって、雇用環境が厳しさを増したことがうかがえる。
%
60
中学・高校
専門学校
短大高専
4大・大学院
50
40
30
20
10
0
27-34歳***
18-26歳***
27-34歳***
男性
18-26歳**
女性
***: p<0.001 **: p<0.01(χ 2乗検定による)
図2
4
5
初職で非正規雇用となる比率(学歴別)
大都市中心都市:東京 23 区・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸(構成比 21.1%、以下同様)
大都市周辺都市:三大都市圏に含まれる8都府県におけるその他の都市(27.1%)
地方中核都市:非大都市圏における政令指定都市とそれ以外の県庁所在地(18.1%)
地方都市:非大都市圏におけるその他の都市(24.7%)
町村:すべての町村(8.9%)
男性の短大・高専はサンプル数が少ないため省略してある。
4
70
次に、図3で父主職階層の影響をみてみよう。男性と女性では、その影響が異なることが
わかる。男性では出身階層が低いほど非正規になるという単純な対応関係にはなっていない。
比率が高い順は、27~34 歳の年長グループでは無職等>雇用ブルー>専門管理>自営>雇用
ホワイト、18~26 歳の年少グループでは雇用ブルー>雇用ホワイト≒自営>無職等≒専門管
理となっている。それに対して女性では、年長グループでも年少グループでも、無職等で顕
著に非正規率が高く、それ以外の階層間の違いはきわめて小さい。
以上のことから、男性でも女性でも、出身階層の影響は連続的あるいは段階的なものでは
ないと考えることができるが、影響のありかたは男女で大きく異なる。男性では父が無職で
あったり不在であったりしても雇用機会が制限されるとは限らないが、女性ではその一点で
大きな制限を受けていることが示唆される。
%
60
専門管理
正規雇用W
正規雇用B
自営
無職等
50
40
30
20
10
0
27-34歳***
18-26歳*
27-34歳
男性
18-26歳**
女性
***: p<0.001 **: p<0.01 * : p<0.05 ( χ 2乗検定による)
図3
3.2
初職で非正規雇用となる比率(父主職階層別)
ロジスティック回帰による分析
うえでみたように、初職で非正規となる比率は、性別・出生年・学歴・出身階層によって
異なっているが、ここでは他の要因も加えて、回帰分析をおこなっていこう。分析に追加す
る変数は、中学3年生のときの成績(問 6)と学校卒業(中退)から入職までに要した時間
(問 10)である。中学3年生のときの成績は5段階で質問しており、これをリバースしても
ちいた。学校卒業(中退)から入職までに要した時間は6段階で尋ねているが、無職の期間
がなかった(すぐに就職した)場合を0、それ以外を1としてもちいる 6。初職・非正規を従
属変数とする2項ロジスティック回帰分析の結果を表1に示した。
6
問 10 の回答分布は以下の通りである。「無職の期間はなかった」84.4%、それ以外 15.6%。
5
71
表1 初職・非正規雇用の規定要因(2項ロジスティック回帰分析)
モデル1
モデル2
B
Exp(B)
B
Exp(B)
(定数)
-1.846
0.158***
-2.256
0.105***
性
学歴
年齢
出身階層
入職期間
成績
(基準:男性)
女性ダミー
0.173
1.189
0.592
1.808**
(基準:4大・大学院)
中学・高校ダミー
専門学校ダミー
短大・高専ダミー
0.395
0.223
0.223
1.485+
1.250
1.090
0.314
0.174
-0.346
1.368
1.190
0.708
(基準:年長グループ)
年少グループダミー
0.874
2.397***
0.670
1.955**
(基準:正規雇用B)
専門管理ダミー
正規雇用Wダミー
自営ダミー
無職等ダミー
-0.249
-0.277
-0.100
0.505
0.780
0.758
0.905
1.657
-0.068
-0.243
-0.054
0.631
0.935
0.784
0.948
1.880+
(基準:すぐに就職)
時間経過ダミー
2.501
12.190***
中3の成績
-0.150
0.861
χ2乗値
-2対数尤度
Negelkerke R2乗
N
38.114***
801.637
0.071
809
180.503***
625.643
0.319
794
2つのモデルを想定したが、明らかにモデル2のほうが当てはまりがよい。モデル1では
10%水準で中学・高校の学歴効果があるのに対して、性別と出身階層の効果はみられない。
一方、モデル2では 1%水準で性別(女性ダミー)と 10%水準で出身階層(無職等)の効果
が認められるが、学歴の効果はない。この違いは、おもに入職までの期間変数を投入したた
めだと考えられる。ただし、中3の成績による効果はない。また、どちらのモデルでも年少
グループダミーは有意である(モデル1では 0.1%水準、モデル2では 1%水準)。
以上のことから、初職で非正規雇用になるか否かは、学卒後すぐに入職するかどうかに大
きく依存していることがわかる。そして若い世代で、女性であり、父親が無職等である場合
には、さらに非正規になりやすくなる。
これらの要因は、そのほとんどすべてが本人によってコントロールできない要因である。
確かに、入職までの期間は、いつ就職活動を開始するかに依存する部分もあるが、これも求
人時期によるところが大きく、完全に本人の責任とみなすことは難しい 7。むしろ、正規雇用
の就業機会がなかったために時間を要した結果、非正規雇用の職しか見つけられなかったと
考えるべきだろう。そうであるとすれば、非正規雇用は本人の選択であり、その後の不利益
も自己責任であるとみなすような言説は、若年者に対してあまりにも酷なのでないだろうか。
7
たとえば宮崎県の高校でおこなった聞取り調査では、県内中小企業では計画採用をおこなう企業は少なく、
採用活動を開始しても、業績悪化によって採用を中止することが多いという。佐藤(粒来)( 2003)参照。
6
72
4
初職・非正規雇用の影響
4.1
現職・無職への影響
初職が非正規雇用であったことは、その後の職業キャリアに対して、どのような影響を与
えるのだろうか。現職が無職であるか否かについて性別の回帰分析をおこなう。その理由は、
現職の規定要因が性別によって異なるためである。日本の女性では、現在でも、結婚や出産
によって就業を中断することが少なくない。無職であっても、男性と女性とでは意味が異な
ってくる。
ここでは、女性について現職が無職であるか否かについての2項ロジスティック回帰分析
をおこなった 8。ここでも2つのモデルを想定する。モデル1の説明変数は、初職が非正規で
あるか否か、学歴、中学3年生の成績、出生年(年少ダミー)、結婚状況である。モデル2で
は、モデル1に居住地域と地域移動経験 9の変数を追加した。
表2 女性の現職・無職の規定要因(2項ロジスティック回帰分析)
モデル1
モデル2
B
Exp(B)
B
Exp(B)
(定数)
-0.698
0.498
-0.754
0.398
初職
(基準:非正規以外)
非正規ダミー
0.706
2.026*
0.701
2.015*
(基準:4大・大学院)
中学・高校ダミー
専門学校ダミー
短大・高専ダミー
0.166
-0.151
-0.051
1.181
0.860
0.950
0.346
-0.128
-0.058
1.413
0.880
0.944
成績
中3の成績
-0.236
0.790+
-0.289
0.749*
年齢
(基準:年長グループ)
年少グループダミー
-0.834
0.434*
-0.803
0.448+
(基準:未婚)
既婚ダミー
離死別ダミー
2.159
-19.109
8.660***
0.000
2.131
-19.110
8.423***
0.000
-0.236
0.231
0.524
-0.184
0.790
1.260
1.689
0.832
0.823
2.278**
学歴
結婚状況
居住地域
(基準:地方都市)
大都市中心都市ダミー
大都市周辺都市ダミー
地方中核都市ダミー
町村ダミー
地域移動経験 (基準:移動経験なし)
地域移動ダミー
χ2乗値
-2対数尤度
Negelkerke R2乗
N
8
9
114.5109***
366.741
0.3411
454
124.6326***
356.6188
0.367322
454
男性で現職が無職であるサンプル数が少ないため、女性についてのみ分析をおこなう。
地域移動経験は、中学3年当時の居住地と現在の居住地について都道府県が異なるものと定義した。
7
73
2つのモデルの結果は、それほど大きく異ならない。初職が非正規雇用であること、年少
グループであること、既婚であること、中3の成績がよくないこと、が現職を無職とする有
意な効果をもつ。興味深いのは、初職の非正規雇用に対して有意な効果をもたなかった中3
の成績が現職の無職に対しては有意である点である。中学生のとき成績がよくなかった場合
は、就業継続に対する熱意をもちにくくなるのかもしれない。
地域の変数を追加したモデル2をみると、地域移動経験が有意であることがわかる。この
地域移動は、おそらく結婚に際しての移動、または結婚後の移動であろう。当然のことなが
ら、地域を移動すると、それまでの職は離れざるをえない。このような場合には、移転先で
就業を再開することが少ないのであろう。
4.2
現職・非正規への影響
ここでは無職のサンプルを除き、現職が非正規雇用であるか否かについて、4.1 と同様に
性別の分析をおこなう。非正規雇用であることの意味も、無職と同じく、男性と女性では異
なるためである。説明変数は 4.1 と共通である。
表3 男性の現職・非正規の規定要因(2項ロジスティック回帰分析)
モデル1
モデル2
B
Exp(B)
B
Exp(B)
(定数)
-2.481
0.084*
-3.883
0.021**
初職
(基準:非正規以外)
非正規ダミー
2.581
13.204***
2.746
15.575***
(基準:4大・大学院)
中学・高校ダミー
専門学校ダミー
短大・高専ダミー
0.544
0.475
0.383
1.723
1.608
1.466
0.659
0.429
0.307
1.933
1.535
1.360
成績
中3の成績
-0.215
0.807
-0.296
0.743
年齢
(基準:年長グループ)
年少グループダミー
0.384
1.468
0.554
1.740
(基準:未婚)
既婚ダミー
離死別ダミー
-2.343
-0.146
0.096**
0.864
-2.587
-0.841
0.075**
0.431
2.964
1.521
1.727
1.054
19.381***
4.579*
5.624*
2.869
-0.630
0.533
学歴
結婚状況
居住地域
(基準:地方都市)
大都市中心都市ダミー
大都市周辺都市ダミー
地方中核都市ダミー
町村ダミー
地域移動経験 (基準:移動経験なし)
地域移動ダミー
χ2乗値
-2対数尤度
Negelkerke R2乗
N
68.989***
148.515
0.406
276
8
74
85.766***
131.737
0.490
239
まず、男性についてみていく(表3)。モデル1とモデル2とを比較すると、モデル1のほ
うがやや改善されている。これは居住地域が有意な効果をもつためである。大都市中心都市・
大都市周辺都市・地方中核都市では、基準である地方都市よりも非正規雇用になりやすいこ
とがわかる。とくに大都市中心都市の効果は大きい。やはり非正規雇用の就業機会が多い地
域では、非正規になりやすいのだろうか。佐野(2004)は、非正規雇用が増加した背景には、
労働供給側・需要側双方の事情があることを指摘している。ここでみた居住地域の効果は、
これらの地域に非正規雇用を需要する要因が働いているとみることができる。
これまでの先行研究が明らかにしているように、初職が非正規雇用であることが現職の非
正規雇用と強く結びついていることが、ここでも確認された。さらに、結婚によって非正規
雇用から正規雇用に移動する傾向も明らかである。ただし、この点についての因果関係の方
向は、必ずしも一方向ではない可能性がある。結婚するから(したから)正規雇用に移動す
るというだけではなく、正規雇用に移動したから結婚する(できる)ということも考えられ
るためである。この点については、以下でも少しみていくことにしよう。
学歴と年齢グループについては有意な効果は認められない。若年層の男性の場合は、これ
らの要因は、現職が非正規であるか否かに対しては直接的な効果をもたず、初職の非正規を
経由した間接的な効果にとどまるようである。このことは、もちろん一定の留保は必要であ
るが、非正規雇用から正規雇用への移動がそれなりに可能であることを意味する。この数年、
景気が回復してきたことの影響であるのかもしれない。初職で非正規であったことは正規雇
用への移動の障害になってはいるが、どうしても乗り越えられない壁にはなっていないので
はないだろうか。
続いて、表4によって、女性の現職・非正規雇用についてみていこう。女性では、モデル
2による改善はほとんどみられない。これは居住地域の効果がないためである。地域による
女性パートの需要の違いは、男性とは異なり、それほど大きくないようである。また、男性
の現職・非正規とは異なり、学歴が中学・高校である場合と中3の成績が有意になっている。
また、予測されたことではあるが、男性とは対照的に、既婚であることが非正規雇用と結び
ついている。なお、女性の現職・無職とは違い、地域移動経験は有意ではない。
女性でも、男性と同様に初職が非正規であることは現職の非正規に結びついているが、男
性と比べると、その効果はやや小さい。だが、女性では、むしろ初職に就くまえの条件、す
なわち中3の成績や学歴の影響が残りやすい。初職の入職で不利になった条件が、そのまま
現職の制約条件になっているようである。雇用機会均等法の施行以来、就業機会にかんする
目にみえる女性差別は確実に減少してきた。けれども、ここでみてきたように、女性の場合
は、出身階層、成績や学歴、結婚、地域移動など、無職や非正規雇用へドライブさせるさま
ざまな要因が働くメカニズムになっており、その意味では目にみえない差別が存在している
と考えることができるだろう。
9
75
表4 女性の現職・非正規の規定要因(2項ロジスティック回帰分析)
モデル1
モデル2
B
Exp(B)
B
Exp(B)
(定数)
-0.942
0.390
-0.621
0.537
初職
(基準:非正規以外)
非正規ダミー
2.087
8.060***
2.140
8.502***
(基準:4大・大学院)
中学・高校ダミー
専門学校ダミー
短大・高専ダミー
1.488
0.560
0.488
4.428***
1.750
1.629
1.584
0.504
0.482
4.873***
1.655
1.620
成績
中3の成績
-0.262
0.769+
-0.299
0.741*
年齢
(基準:年長グループ)
年少グループダミー
-0.209
0.812
-0.241
0.786
(基準:未婚)
既婚ダミー
離死別ダミー
0.755
1.152
2.129*
3.164+
0.753
1.042
2.124*
2.835+
-0.107
-0.388
-0.369
-0.815
0.899
0.678
0.692
0.443
0.356
1.428
学歴
結婚状況
居住地域
(基準:地方都市)
大都市中心都市ダミー
大都市周辺都市ダミー
地方中核都市ダミー
町村ダミー
地域移動経験 (基準:移動経験なし)
地域移動ダミー
χ2乗値
-2対数尤度
Negelkerke R2乗
N
4.3
93.091***
353.942
0.323
353
98.012***
349.021
0.338
353
結婚への影響
本節では、現職の無職と非正規雇用についてみてきたが、最後に、結婚についてもう少し
検討をおこなうことにしたい。すでにみたように、男性と女性とでは結婚状況と現職との関
係がまったく逆の方向に作用している。男性では既婚であることが正規雇用に結びついてい
るのに対して、女性では既婚であることは無職や非正規雇用と結びついている。
だが、さきにも少しふれたが、結婚と現職との関係は、結婚状況が現職を規定するだけで
なく、現職が結婚を規定するというかたちになっていることが考えられる。そこで、ここで
は、結婚状況を従属変数とする2項ロジスティック回帰分析をおこなう 10。説明変数には、
学歴、現職、年齢、居住地域、個人年収 11、初職の非正規雇用、をもちいる。結果を表5に
示した。
男女とも、有意な効果をもつのは年齢・現職・個人年収である点は共通であるが、現職で
有意な職業が異なっており、年収の効果は男女で逆になっている。男性では現職が専門管理
10
11
ここでは、離死別を除いて分析をおこなう。
個人年収には、各カテゴリーの中央値をとっている。
10
76
である場合と非正規雇用である場合に未婚となる傾向があるのに対して、女性では自営であ
る場合と無職である場合に既婚となる傾向がある。また、個人年収が高いと男性では既婚に
なりやすく、女性では逆に未婚になりやすい 12。
初職・非正規の効果は有意ではない。したがって、男性の場合でも、初職が非正規雇用で
あっても、その後、正規雇用に移動すれば結婚することに問題はないと考えられる。
表5 既婚の規定要因(2項ロジスティック回帰分析)
男性
女性
B
Exp(B)
B
Exp(B)
(定数)
-8.233
0.000***
-9.613
0.000***
学歴
(基準:4大・大学院)
中学・高校ダミー
専門学校ダミー
短大・高専ダミー
0.434
0.414
0.360
1.544
1.513
1.433
0.017
-0.058
-0.045
1.017
0.944
0.956
0.248
1.281***
0.342
1.408***
(基準:正規雇用B)
専門管理ダミー
正規雇用Wダミー
自営ダミー
非正規雇用ダミー
無職ダミー
-1.355
-0.531
0.443
-2.426
-19.473
0.258*
0.588
1.558
0.088*
0.000
0.182
-0.016
2.138
0.037
1.455
1.200
0.984
8.486*
1.038
4.286**
(基準:地方都市)
大都市中心都市ダミー
大都市周辺都市ダミー
地方中核都市ダミー
町村ダミー
0.479
0.139
-0.063
0.677
0.311
0.728
0.894
0.176
-0.270
-0.005
-0.631
-0.172
0.763
0.995
0.532
0.842
0.002
1.002+
-0.004
0.996***
-0.257
0.773
-0.338
0.713
年齢
現職
居住地域
個人年収
初職
(基準:非正規以外)
非正規ダミー
χ2乗値
-2対数尤度
Negelkerke R2乗
N
5
105.583***
287.06
0.406
302
232.775***
377.267
0.542
456
まとめ
以上、2007 年 SSM 若年層郵送調査のデータをもちいて、初職と現職を中心として、若年
層のライフチャンスにおける非正規雇用の影響をみてきた。おもな知見は以下の3点である。
① 初職で非正規雇用になりやすいのは、2000 年代に成人した年少グループ、女性、学卒後
すぐに就職しなかったグループである。学歴の直接効果は認められなかったが、学卒後
のスムーズなトランジションが可能であるかどうかが学歴によって異なるためだと考え
られる。出身階層については、父主職が無職等である場合のみに限り、有意な効果があ
12
女性の現職や個人年収でみられる現象は、現職や年収の影響で既婚となっているのではなく、既婚の結果
として自営または無職になっていて個人年収が下がっていると解釈するべきだろう。
11
77
った。クロス表での分析を考えあわせると、とくに女性で、父親が無職であったり、い
なかったりする場合、初職で非正規になりやすいと考えられる。
② 初職が非正規で、中3の成績が低く、既婚で、地域移動経験がある女性では、現職が無
職になりやすい。初職が非正規であった経験は、男性でも女性でも、現職の非正規と結
びつきやすい。その他、男性では、未婚であること、大都市中心都市に居住しているこ
と、が現職で非正規となる傾向を強めている。女性では、中学・高校の学歴で、中3の成
績が低く、既婚・離死別していると、現職が非正規になりやすい。
③ 結婚しているか否かについてみたところ、男女に共通して年齢が高いほど結婚している
が、他の要因は男女で異なっていた。男性では専門管理あるいは非正規雇用であると結
婚しにくく、年収が高いと結婚しやすい。一方、女性では自営や無職、年収が低いと結
婚している傾向がある。
①で指摘したように、初職で非正規雇用になるか否かは、ほとんどが本人の努力ではコン
トロールできない要因によって規定されている。そして、②でみたように、初職が非正規で
あると現職も非正規になりやすく、非正規の男性では結婚することも難しい。
このようなライフチャンスの不利益があり、それが本人の努力では変えることのできない
条件に起因している以上、非正規雇用から正規雇用への移動を求めている若年者に対しては、
社会的な支援をおこなうべきであろう。職業紹介などでは少しずつ支援がおこなわれるよう
になってきているが、包括的な支援策としてはまだまだ不足しているのが現状である。ただ
し、男性と女性では、初職が非正規であることの影響が異なっていることから、必要とされ
る支援も異なっていると考えられる。男性/女性のそれぞれが、どのような支援を必要とし
ているのかを明らかにすることが、今後の課題としてあげられる。
【文献】
石田
浩
2005
「後期青年期と階層・労働市場」『教育社会学研究』第 76 集:41-57
玄田有史
2001
『仕事のなかの曖昧な不安』中央公論新社
小杉礼子
2003
『フリーターという生き方』勁草書房
――――
2004 「労働の変貌――若者の非典型雇用と個人主義」
『社会学評論』第 54 巻4号:355-369
――――
2005
酒井正・樋口美雄
『フリーターとニート』勁草書房
2004
「均等法世代とバブル崩壊後世代の就業比較」樋口美雄・太田清・家計経
済研究所編『女性たちの平成不況』日本経済新聞社:57-85
佐野嘉秀
2004
「非典型雇用――多様化する働き方」佐藤博樹・佐藤厚編『仕事の社会学――変貌
する働き方』有斐閣:141-156
12
78
佐藤(粒来)香
2003
「宮崎県における高卒就職と職業紹介」平成 13 年度~14 年度科学研究費補
助金(研究代表者:耳塚寛明)『高卒無業者の教育社会学的研究(2)』
佐藤
香
「働きかたの多様化と社会的格差」谷岡一郎・仁田道夫・岩井紀子編『日本人の意
2008
識と行動』東京大学出版会(近刊)
太郎丸博・亀山俊朗
2006
「問題と議論の枠組み」太郎丸博編『フリーターとニートの社会学』世
界思想社
太郎丸博
「社会移動とフリーター
2006
――誰がフリーターになりやすいのか」太郎丸博編フリ
ーターとニートの社会学』世界思想社
山田昌弘
2004
『希望格差社会』筑摩書房
Non-regular Employment of Youth and Their Life Chance
: Focusing on Jobs and marriage
Kaoru SATO
(The University of Tokyo)
The studies on transition from school to labor market during about ten years in Japan have argued
who become non-regular employment and the experiences give the youth in their life chance. This paper
examines these two problems with the data of 2007 SSM Survey, Youth Mail survey.
Young people who tend to become non-regular employees are younger people and females. Many
of them did not have immediate transition from school to work. Especially, for the women, that their
fathers did not work or their parents have divorced are their disadvantage at the time of initial entry into
the labor market.
The attainment of current job is strongly influenced by the first job. And the first job also
influences marriage through the current job effect. For Instance, young men whose current jobs are
non-regular are less married than regular employees; on the other hand, young women whose current jobs
are non-regular are more married than regular employees. It can say that the first job status has affected
the life chance of young people.
Because young people cannot control the factors which drives them to non-regular employment,
social support is needed to the youth you hope to be regular employment.
Keywords: non-regular employment, youth, transition from school to work, marriage
13
79
若年者の能力自己評価と「生活の質」
―労働時間と仕事特性による分化に注目して―
本田由紀
(東京大学)
【要旨】
本稿は、若者の働き方の多様化という現状に注目し、就労形態や労働時間などの面で多様化し
た働き方のそれぞれについて仕事に関わる様々な要素のいずれかが他を犠牲にした形で突出し
ており、それが若者の「生活の質」を低めているのではないかということを検証することを目的
とする。その際、仕事に関わる要素のひとつとして、能力の自己評価に着目する。
仕事特性、能力自己評価、収入および「生活の質」の規定要因に関する仮説を設定し、重回帰
分析を用いてそれらを検証したところ、次のことが明らかになった。第一に、非正社員を中心と
して相対的に短い労働時間働いている者については、収入や雇用の不安定さが顕著であり、能力
自己評価と収入との間に関連がみられないが、「生活の質」を強く規定しているのは不安定さよ
りもむしろ仕事の内容や能力自己評価である。第二に、中程度の時間働いている、主に正社員に
ついては、仕事の充実度と収入が相反する関係にあり、職場の人間関係を保つためのコミュニケ
ーション能力自己評価が「生活の質」を強く規定している。第三に、長時間労働者については、
仕事の不安定さやきつさも強い半面、充実度や向上可能性、また能力自己評価も高いが、労働時
間があまりに長いことは「生活の質」を引き下げている。
キーワード:能力自己評価、生活の質、労働時間
1
若者の働き方の多様化
1990 年代半ば以降、日本の若年労働市場においては、パート・アルバイト、派遣社員、契
約社員などの非典型労働者が著しく増大してきた。こうした非典型労働者の働き方の実態に
ついては、90 年代後半以降、数多くの調査研究結果や議論が蓄積されてきている(小杉編
2002、小杉
2003、小杉編
2006、乾編
2006、堀編
2005、部落解放・人権研究所編
2007、雤宮
2007、小林
2005、本田
2007、熊沢
2005、太郎丸編
2007、本田編
2007 他)。
それらが指摘するのは、非典型労働者の賃金の低さ、雇用の不安定さ、仕事内容が単純でス
キル形成に結びつきにくいこと、典型労働へと移行することの困難さ、人間関係の希薄さな
どである。
他方で、若年典型労働者についても、長時間労働化の進行や仕事の過密化、精神的負担の
増大などが指摘されている(熊沢
2006 など)。あるいは、非典型労働者の中に
2006、城
も、仕事に様々な「やりがい」を見出すことにより、長時間の「働きすぎ」状態におちいる
1
81
場合もあるという指摘もある(阿部
2006、阿部
2007、本田
2007 など)。
すなわち、現代の働く若者の間には総じて、就労形態、労働時間、賃金、仕事の特性、能
力発揮の度合いおよび「やりがい」など、仕事を構成する様々な要素に関して多様化の度合
いが増しており、しかもそうした多様化した働き方のそれぞれにおいて、いずれかの要素を
犠牲にしつつ他の要素が極端に突出するような状態が存在することが、多くの若者にとって
きわめてストレスフルな状況をもたらしているのではないかと考えられる。それはたとえば、
賃金や安定を犠牲にして時間的自由を選択する、「やりがい」を犠牲にして安定を選択する、
時間的自由を犠牲にして賃金を選択する、といった形で具体化しているのではないか。そし
て犠牲にされたそれぞれの要素が、個々の若者の主観的な「生活の質(quality of life)」を引
き下げるように作用しているのではないだろうか。
本章は、2007 年社会階層と社会移動若年層郵送調査データにおける有職者サンプルを用い
て、このように多様化した若者の働き方の現状を把握することを目的とする。その際に注目
するのは、自らの様々な能力に関する自己評価という要素である。能力自己評価は、個々の
若者が置かれている環境、特に仕事上の環境によって規定されるとともに、そうした自己認
識が彼らの可能性や限界をも規定するという循環構造の重要な一環をなしていると考えられ
る。人々に対して反省的(再帰的)自己(reflexive self)であることへの要請が高まっている
現代社会(Giddens 1991=2005)において、多様化した仕事世界の要素間の関連構造に能力自
己評価がいかに埋め込まれているかを検討することには、意義が大きいと考える。
また、能力自己評価以外に、上でも述べたように就労形態、労働時間、仕事特性、収入、
および「生活の質」に関わる変数を、働き方の多様性を規定する主要な要素として分析に組
み込む。
以下ではまず第2節において、2007 年 SSM 若年層郵送調査のデータから、能力自己評価
および仕事特性に関する変数を作成する。第3節では作成した変数を用いて、クロス分析や
分散分析などにより、若者の多様な働き方を概観する。第4節では作成された諸変数間の関
係について検証すべき仮説を設定する。第5節では仮説を検証するための分析を行う。最後
の第6節では、知見を改めて整理し、結論を述べる。
2
使用する変数の作成
2.1
能力自己評価
2007 年 SSM 若年層郵送調査では、問 17 において「あなたはふだんの仕事や生活の中で
次のことがそれぞれどれくらいできますか」とたずね、「自分の考えを人に説明する」「よく
知らない人と自然に会話する」「自分自身の計画や目標を達成する」「人が考えないような新
しいことを思いつく」「難しいことにも根気よく取り組む」「まわりの人をまとめてひっぱっ
2
82
ていく」
「面白いことを言って人を楽しませる」
「パソコンやワープロで文書を作成する」
「イ
ンターネットで情報を収集する」の9項目のそれぞれについて「できる/ある程度できる/
あまりできない/できない」の4件法で回答を求めている。回答結果に対して上記の順に4
~1点のスコアを与え、主成分分析にかけた結果が表1である。各主成分について因子得点
の高い項目を網掛けで示してあり、その内容から、第1主成分は「コミュニケーション能力」、
第2主成分は「コンピュータスキル」、第3主成分は「アイデア・独創性」、第4主成分は「計
画実行力」を意味していると解釈できる。各主成分について網掛けした2項目ずつをそれぞ
れを代表する項目とみなし、それらのスコアを加算したものを上記4つの能力のスコアとし
て用いることにする。Cronbach のα値は、「コミュニケーション能力」.642、「コンピュー
タスキル」.838、「アイデア・独創性」.545、「計画実行力」.541 である。
表1
能力自己評価に関する主成分分析結果
第1主成分 第2主成分 第3主成分 第4主成分
考えを人に説明する
よく知らない人と自然に会話
自分の計画や目標を達成
新しいことを思いつく
難しいことに根気よく取り組む
まわりをまとめてひっぱっていく
面白いことを言って楽しませる
パソコン等で文書を作成する
インターネットで情報収集する
回転後の固有値
説明された分散の%
2.2
0.774
0.778
0.528
0.027
0.090
0.485
0.304
0.089
0.127
1.844
20.491
0.153
0.065
0.111
0.096
0.112
0.084
0.091
0.913
0.914
1.746
19.396
0.178
0.263
-0.095
0.668
0.207
0.566
0.808
0.082
0.086
1.587
17.638
0.196
0.042
0.654
0.487
0.815
0.266
-0.076
0.123
0.071
1.465
16.278
仕事特性
2007 年 SSM 若年層郵送調査では、問 15 において、
「現在の仕事やあなたの働き方につい
て、次の①~⑬の事柄がどれほどあてはまりますか」とたずね、「雇用が不安定である」「収
入が不安定である」
「労働時間が長すぎる」
「働いても正当に評価されない」
「職業能力を向上
させる機会がない」
「社会保険や福利厚生が不十分である」
「仕事の内容がきつい」
「自分の能
力が発揮できる」「実績を上げれば、それだけ収入が上がる」「職場全体の仕事のやり方に自
分の意見を反映させることができる」
「お金のためというより、今の仕事が楽しいから働いて
いる」「手抜きをせず、仕事に取り組んでいる」「転職したいと思っている」という 13 項目
を提示して、それぞれ「あてはまる/ある程度あてはまる/あまりあてはまらない/あては
まらない」という4件法で回答を求めている。それぞれの項目に対する回答結果に対して、
上記の順に4~1点のスコアを割り当て、主成分分析を行った結果が表2である。
各主成分について因子得点の高い項目を網掛けで示してあり、それぞれの内容から、第1
主成分は「不安定性」、第2主成分は「向上可能性」、第3主成分は「きつさ」、第4主成分は
3
83
「充実」を意味していると解釈できる。各主成分について網掛けをした3項目ずつをそれぞ
れの主成分を代表する項目であるとみなし、それらのスコアを加算したものを、4つの仕事
特性スコアとして用いることにする(「能力向上機会がない」についてはスコアを反転した上
で加算)。Cronbach のα値は、「不安定性」.789、「向上可能性」.587、「きつさ」.698、「充
実」.554 である。
表2
仕事特性に関する主成分分析結果
第1主成分 第2主成分 第3主成分 第4主成分
雇用が不安定
収入が不安定
労働時間が長すぎる
正当に評価されない
能力向上機会がない
保険や福利厚生が不十分
仕事内容がきつい
能力が発揮できる
実績で収入が上がる
意見を反映させられる
楽しいから働いている
手抜きをせず取り組む
転職したいと思う
回転後の固有値
説明された分散の%
2.3
0.856
0.876
0.041
0.275
0.321
0.738
0.045
-0.027
0.134
-0.003
-0.062
0.080
0.270
2.327
17.903
-0.084
0.095
0.039
-0.483
-0.594
-0.070
0.003
0.551
0.809
0.662
0.359
-0.068
-0.314
2.237
17.207
0.008
0.012
0.867
0.537
0.171
0.165
0.852
0.152
0.012
-0.011
-0.017
0.023
0.261
1.915
14.732
-0.010
-0.067
0.010
-0.113
-0.269
0.013
0.000
0.485
-0.124
0.246
0.635
0.782
-0.485
1.651
12.698
その他の変数
その他の変数については、以下のように作成した。
1)週当たり労働時間:問 14-1 で質問している1日当たり労働時間と週当たり労働日数の積を
週当たり労働時間の連続変数として用いた。また、週当たり労働時間を3つないし6つに区
分したものを週当たり労働時間のカテゴリー変数として適宜用いる。
2)就労形態:分析内容に応じて、問 13③aでたずねている現職の従業上の地位をそのまま用
いるか、あるいは「経営者・役員」および「常時雇用されている一般従業者」を「正社員」、
「臨時雇用・パート・アルバイト」
「派遣社員」
「契約社員・嘱託」
「自営業主・自由業者」
「家
族従業者」「内職」を「非正社員」として二分して用いる。
3)収入:問 30-1 で 20 個の選択肢を示してたずねている過去1年間の税込み収入を、分析内
容に応じて各階級の中央値を連続変数の近似値として用いるか、あるいは 12 のカテゴリーに
再区分して用いる。
4)満足度:問3⑥において、
「現在の仕事内容」
「昇進の機会」
「仕事と生活の両立のしやすさ」
「職場での人間関係」「現在の仕事による収入」「生活全般」の6項目のそれぞれについて満
足している/どちらかといえば満足している/どちらともいえない/どちらかといえば不満
である/不満である」という5件法で質問している。この回答結果について、上記の順に5
4
84
~1点のスコアを与えたものを、それぞれの満足度スコアとして用いる。
5)抑鬱感:問 18 では「憂うつだと感じたこと」
「物事に集中できなかったこと」
「何をするの
も面倒と感じたこと」「なかなか眠れなかったこと」「悲しいと感じたこと」の5項目につい
て「まったくなかった/週に1~2日/週に3~4日/ほとんど毎日」という4件法で回答
を求めている。各項目への回答結果に上記の順で0、2、4、7のスコアを与え、主成分分
析を行ったところ、固有値1以上の主成分は1つのみ抽出された(結果の表は省略)。そこで
5項目のスコアを加算したものを「抑鬱感」のスコアとして用いる。Cronbach のα値は.804
である。
3
若者の働き方の概観
3.1
労働時間の分布
まず性別・未既婚別に週当たり労働時間の分布をみると(図1)1、男性では未婚・既婚と
も 41 時間以上が7~9割を占めており、既婚男性では 51 時間以上が半数を超えている。女
性のうち未婚者については 40 時間以下とそれ以上が半数ずつである。それに対して既婚女
性のみ 30 時間以下が半数近くを占めており、また既婚女性は配偶者の収入に依存している
場合が大半であると考えられるため、以下の分析は既婚女性を除外して行う。
図1 性別・未既婚別 週労働時間
0%
20%
3.9
未婚 2.2
40%
24.7
60%
35.4
80%
20.8
100%
12.9
20時間以下
男
21~30時間
既婚
16.8
29.7
31.7
21.8
31~40時間
41~50時間
5.4
未婚 2.7
37.4
40.5
8.6 5.4
51~60時間
女
61時間以上
既婚
19.7
28.2
29.6
2.8
14.1 5.6
続いて現職の従業上の地位別に週労働時間の分布をみると(図2) 2、一般従業者では 41
時間以上が7割以上を占め、3人に1人は 51 時間以上働いている。それに対し臨時雇用・
パート・アルバイト、派遣社員、契約社員・嘱託では 40 時間以下が5~7割を占めるが、
1
サンプル中に配偶者と死別した者は含まれておらず、また離別者はサンプル数が尐ないた
めここでは未婚者・既婚者のみについて図示した。
2
経営者・役員および内職はサンプル数が尐ないため図2・図3からは除外している。
5
85
その中では 31~40 時間の者が多くを占めている。これら3カテゴリーの中では契約社員・
嘱託において 41~50 時間の比率が高く、比較的長時間働いている。他方で自営業主・自由
業者の場合は 51 時間以上が6割に達しており、長時間労働者の比率がもっとも高い。
図2 従業上の地位別 労働時間
0%
20%
40%
常時雇用されている一般従業者1.4 23.9
60%
80%
40.0
21.9
100%
12.8
20時間以下
臨時雇用・パート・アルバイト 9.2 15.4
1.5
16.9 6.2
50.8
21~30時間
31~40時間
4.3
派遣社員 4.3
60.9
30.4
41~50時間
51~60時間
契約社員、嘱託 5.711.4
自営業主・自由業者 3.610.7
34.3
40.0
25.0
46.4
2.9
5.7
61時間以上
14.3
図2を週労働時間の平均値の形で示したものが図3である。臨時雇用・パート・アルバイ
ト、派遣社員、契約社員・嘱託の3カテゴリーが相対的に労働時間が短いことが確認される
が、これら3カテゴリーでも平均 40 時間近くは働いている。一般従業者と自営業主・自由
業者は平均が 50 時間を超えており、特に後者は 54 時間に達している。
図3 従業上の地位別 週労働時間
60.0
53.9
51.1
50.0
40.0
39.4
37.9
40.8
時 30.0
間
20.0
10.0
0.0
3.2
週労働時間別の就業形態・職種・収入
対象サンプルの中では、週労働時間 40 時間以下、41~50 時間、51 時間以上がそれぞれ
3割前後を占めており、この3つの労働時間カテゴリーによってほぼ三分される。それゆえ
6
86
ここからはこの3つの労働時間カテゴリー別に仕事に関する基本的な要素の特徴を概観する。
図2とは逆に週労働時間別に従業上の地位をみると(図4)、40 時間以下では約半数をい
わゆる正社員である一般従業者が占めており 3、残りの半数が非正社員で、そのさらに半数は
臨時雇用・パート・アルバイトである。正社員の比率は 41~50 時間では4人に3人、51 時
間以上では5人に4人と、労働時間が長くなるほど多くなる。51 時間以上については自営業
主・自由業者が1割を占めていることが特徴的である。
図4 週労働時間別 従業上の地位
51時間以上
経営者、役員
1.9
3.2 10.9
80.1
常時雇用されている一般従業
者
臨時雇用・パート・アルバイト
3.6 3.6
41~50時間
74.2
派遣社員
5.7 7.2
契約社員、嘱託
自営業主・自由業者
40時間以下
48.9
26.3
8.6 9.72.2
家族従業者
DK/NA
0%
20%
40%
60%
80%
100%
図5は、週労働時間別に職種の分布をみたものである。図5のように職種大分類でみた場
合、労働時間による職種の違いはあまりなく、統計的にも有意な差はない。
図5 週労働時間別 職種
51時間以上
19.9 2.0
27.8
9.9 9.3 4.0
25.2
専門技術
管理
事務
41~50時間
20.4 0.5
39.3
10.5 6.31.0
販売
22.0
サービス
保安
農林
40時間以下
22.6 0.6
34.5
運輸通信
6.8 14.1 1.7 18.6
マニュアル
0%
3
20%
40%
60%
80%
100%
40 時間以下に含まれる一般従業者の8割は週労働時間が 40 時間ちょうどである。
7
87
しかし、週労働時間別の3カテゴリー別に上位 10 個の小分類職種を示した表3をみると、
労働時間の長短によって職種に相違があることがわかる(網掛けは該当カテゴリーのみにお
いて上位に登場する職種)。いずれも事務的な仕事が多くを占めており、その度合いは 41~
50 時間においてもっとも顕著であるが、それ以外の職種についてみると、40 時間以下では
給仕係や家事サービス、保母・保父など対面的なサービスを提供する仕事、51 時間以上では
理美容師や料理人など特殊なスキルを要する仕事や、自動車運転者、建設作業者、配管工な
ど肉体労働にあたる仕事がそれぞれ一定比率を占めている。
表3
週労働時間別
40時間以下
総務・企画
事務員
営業・販売
事務員
給仕係
16.1
7.0
41~50時間
総務・企画
事務員
営業・販売
事務員
16.0
8.2
5.9 販売店員
会計事務員
4.8
販売店員
4.8
その他の保
険医療従事
者
女中、家政
婦、家事サー
ビス職業従
事者
上位 10 職種(小分類)
6.7
その他の保
険医療従事
者
その他の一
般事務員
5.2 外交員
理容師、美
15.4
6.4
3.8
3.8
3.2
4.6 容師
3.2
情報処理技
3.1 料理人
3.2
2.7 工・整備工
自動車組立
3.1 険医療従事
電気機械器
具組立工・
修理工
2.7 外交員
2.6 事務員
2.6
その他の労
務作業者
2.7 具組立工・
2.6 販売店員
2.6
保母、保父
合計比率
4.3 会計事務員
5.2
51時間以上
営業・販売
事務員
総務・企画
事務員
自動車運転
者
現場監督、
その他の建
設作業者
4.3 術者
その他の保
2.6
者
出荷・受荷
電気機械器
修理工
55.3 合計比率
れんが積
工、配管工
2.6
57.3 合計比率
49.4
図6は、3つの週労働時間カテゴリー別に過去1年間の税込収入を示したものである。修
労働時間が長いほど年収が高い方に分布の膨らみがみられる。実際に収入の平均値は、40 時
間以下 244 万円、41~50 時間 309 万円、51 時間以上 395 万円と、労働時間が長いほど高い。
しかしいずれの労働時間カテゴリーについても収入は幅広く分散しており、51 時間以上働い
ている者の中では年収が 300 万円に達しないケースと 500 万円以上のケースがいずれも約3
割を占めている。
8
88
図6 週労働時間別 収入分布
40時間以下
41~50時間
3.3
DK/NA
700万円以上
600万円位
500万円位
400~450万円
350~400万円
300~350万円
250~300万円
200~250万円
150~200万円
100~150万円
50~100万円
51時間以上
50万円未満
%
18.0
16.0
14.0
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
週労働時間別の仕事特性・能力自己評価・満足度
図7~9は、それぞれ週労働時間の3カテゴリー別に、仕事特性、能力自己評価、満足度
のスコア平均値を示している。抑鬱感については週労働時間による統計的に有意な差が確認
されなかったため図示は省略する。凡例には分散分析による有意差の水準を付記してある 4。
これらの図から、各労働時間カテゴリーの特徴は以下のようにまとめられる。
40 時間以下の場合、仕事特性については不安定性の度合いが高く、きつさの度合いは明確
に低い。能力自己評価はいずれの項目についても相対的に低めである。満足度は、仕事と生
活の両立のしやすさについてきわめて高い。
図7 週労働時間別 仕事特性
9.0
8.5
8.0
7.5
不安定性**
7.0
向上可能性**
6.5
きつさ***
6.0
充実**
5.5
5.0
40時間以下
4
41~50時間
51時間以上
**:p<0.01、***:p<0.001
9
89
図8 週労働時間別 能力自己評価
7.0
6.5
6.0
コミュニケーション***
5.5
コンピュータ
アイデア***
5.0
計画実行***
4.5
4.0
40時間以下
41~50時間
51時間以上
図9 週労働時間別 満足度
3.9
3.7
仕事内容
3.5
昇進機会***
3.3
仕事生活両立***
3.1
職場人間関係
2.9
仕事収入
2.7
生活全般
2.5
40時間以下
41~50時間
51時間以上
41~50 時間の場合は、仕事特性について不安定性が低く、能力自己評価は総じて低めであ
り、満足度については昇進機会に関して低めである。
51 時間以上の場合は、仕事特性についてはきつさの度合いがきわめて高いが向上可能性や
充実の度合いも高い。能力自己評価については総じて高く、特にコミュニケーション能力と
アイデア・独創性について明確に高い。満足度については、仕事と生活の両立に関してきわ
めて低いが、昇進機会に関しては明確に高い。
このように、労働時間の長短から作成した3カテゴリーの間には、本章の始めに述べた「い
ずれかの要素を犠牲にしつつ他の要素が極端に突出するような状態」が観察される。すなわ
ち、短い労働時間を選択する場合には、仕事はきつくないことの代償に不安定さに甘んじな
ければならず、中程度の労働時間で働く場合には一定の安定性の代償として自らの能力への
評価や昇進機会は不満足なものとなり、長時間働く場合には高い充実度や発展可能性および
自己の能力への自信の代わりにきつさや生活との両立を放棄しなければならなくなっている。
こうした現状は本節のクロス分析や平均値の比較からもうかがえるが、以下では本節で見
10
90
出されたことがらをふまえて個別の仮説を設定し、続いて多変量解析を用いてそれらの仮説
を検証することに進む。
4
仮説の設定
前節で見出された事柄を仮説として設定し直すに際して、本章では、仕事に関わる諸要素
の連関構造として、以下の図 10 のような連関構造を措定する。すなわち、仕事の制度的側面
(労働時間・就労形態)が仕事の質的側面(仕事特性)に影響し、それが個人の能力発揮水
準に関する自己評価に影響し、これらおよびこれらによって規定される収入が「生活の質」
を規定するという構造である。ただし、この連関構造においては、たとえば能力自己評価に
よって収入が規定される面だけでなく、収入の高低が能力自己評価に影響するというように、
逆の関係性も想定されうる面が含まれている。それゆえこの連関構造は分析を整除するため
の暫定的なものとみなすとともに、次節で行う多変量解析においては、独立変数と従属変数
の関係は因果ではなく関連性として解釈する場合があることをあらかじめ述べておく。
図 10
仕事に関わる諸要素間の連関構造
仕事の質的側面
仕事の制度的側面
収入
仕事特性
生活の質
労働時間
満足度
就労形態
抑鬱感
個人の能力発揮水準
能力自己評価
図 10 に示した諸要素間の影響関係のそれぞれについて、始点から順に、以下のような仮説
を設定する。
(1)[仕事の制度的側面→仕事の質的側面]に関して
仮説1:労働時間が短いほど、また非正社員である場合に、不安定さの度合いが高く、労
働時間が長いほど向上可能性や充実の度合いが高いがきつさの度合いも高い。
(2)[仕事の制度的側面→仕事の質的側面→能力の発揮水準]に関して
仮説2-1:労働時間が短いほど、また非正社員である場合に、能力自己評価が低く、労
働時間が長いほど能力自己評価が高い。
仮説2-2:仕事の向上可能性や充実の度合いが高いほど能力自己評価が高い。
11
91
(3) [仕事の制度的側面→仕事の質的側面→能力の発揮水準→収入]に関して
仮説3-1:労働時間が短いほど、また非正社員である場合に、能力自己評価と収入の関
連が弱く、仕事の向上可能性や充実の度合いと収入が相反する関係にある。
仮説3-2:労働時間が長いほど、能力自己評価および仕事の向上可能性や充実の度合い
と収入の関連が強い。
(4) [仕事の制度的側面→仕事の質的側面→能力の発揮水準→収入→生活の質]に関して
仮説4-1:労働時間が短い場合、また非正社員である場合、不安定さが満足度を低め抑
鬱感を高める
仮説4-2:労働時間が中程度の場合、職場の人間関係をうまく形成できるかどうかに関
わるコミュニケーション能力自己評価が満足度や抑鬱感と関連する。
仮説4-3:労働時間が長い場合、労働時間の長さや仕事のきつさが満足度を低め抑鬱感
を高める。
これらの仮説について説明を補足する。仮説1および仮説2-1は、前節の図7・図8に
見出された傾向に沿ったものである。仮説2-2は、仕事の制度的側面としての労働時間や
就労形態に関わりなく、個々の仕事そのものの質的特性が、能力に関する自己認識に影響す
るのではないかという関心から設定した。仮説3-1は、短時間労働や非正社員など、制度
的に重要性の薄いものと定義された仕事である場合に、いくら個人の能力自己評価が高くと
もそれを発揮したりそれが収入に反映されたりする機会が尐ないのではないか、また仕事内
容の質的な良好さと収入がむしろトレードオフの関係にあるのではないかという関心から設
定した。仮説3-2はその逆であり、労働時間が長く要求水準が高い仕事の場合には、能力
自己評価や仕事内容が収入と連動しやすいのではないかという関心に基づいている。仮説4
-1~3は、それぞれの労働時間カテゴリーにとって特徴的な、犠牲にされた突出的な要素
が、それぞれの生活満足度を大きく左右しているのではないかという関心から設定した。仮
説4-1および4-3は、前節の分析から推測されることがらである。仮説4-2について
は、労働時間が中程度の場合、かなりの安定性はあり労働時間も長すぎるわけではないが、
能力自己評価や昇進機会の満足度が低いなどの点から仕事の発展可能性がある程度限定され
ているため、現状を継続的に維持する上で職場の人間関係を保つことが課題として浮上して
くるのではないかと考えたことによる。
次節では、上記の順でそれぞれの仮説を検証してゆく。
5
分析
5.1
仕事の質的側面の規定要因
まず、仮説1すなわち「労働時間が短いほど、また非正社員である場合に、不安定さの度
12
92
合いが高く、労働時間が長いほど向上可能性や充実の度合いが高いがきつさの度合いも高い」
を検証するため、4つの仕事特性変数を従属変数とする重回帰分析を全体について2つのモ
デル(週労働時間を連続変数で投入したモデルとカテゴリー変数で投入したモデル)で行っ
た結果が表4、サンプルを正社員と非正社員に分けて行った結果が表5である。
表4
仕事特性の規定要因(重回帰分析、数値は標準化係数)
不安定性
向上可能性
きつさ
充実
年齢
.093*
.092*
-.092* -.096* .058
.054
.002
.000
女性
-.035
-.024
-.155** -.133** -.017
-.009
.049
.056
短期高等教育
-.028
-.018
-.019
-.011
.033
.044
-.085
-.075
長期高等教育
-.125* -.118* -.004
-.003
-.075
-.099+ -.126* -.130*
専門技術職
.029
.026
.014
.010
.100*
.099*
.211*** .209***
ブルーカラー職
.014
.020
.091+
.096+
-.052
-.057
.037
.038
正社員
-.426*** -.416*** -.012
-.012
.006
.017
-.002
.007
週労働時間
.010
.060
.402***
.146**
40時間以下
.082+
.019
-.215***
-.030
51時間以上
.099*
.148**
.272***
.147**
N
523
523
527
527
528
528
525
525
調整済みR二乗
0.189
0.196
0.038
0.051
0.178
0.188
0.048
0.051
F値
12.188 15.129
3.591
4.132 15.247 14.548
4.302
4.139
有意確率
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
+:p<0.1,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001
表5
就業形態別
仕事特性の規定要因(重回帰分析、数値は標準化係数)
不安定性
向上可能性
きつさ
充実
正社員 非正社員 正社員 非正社員 正社員 非正社員 正社員 非正社員
年齢
.076
.145+
-.098+
-.101
.117*
.004
-.004
.013
女性
-.095
.060
-.178** -.138+
.004
-.031
.092
-.045
短期高等教育 .018
-.090
.022
-.084
.049
.080
-.034
-.186*
長期高等教育 -.162
-.085
.020
-.092
.021
-.155+
-.103
-.187*
専門技術職
-.007
.076
-.037
.127
.153**
-.010
.175**
.277**
ブルーカラー職
.002
.008
.002
.236**
.067
-.184*
.007
.095
週労働時間
.107*
-.107
.019
.115
.452*** .270**
.128*
.045*
N
356
167
358
169
358
170
357
168
調整済みR二乗
0.045
0.001
0.019
0.092
0.235
0.115
0.039
0.073
F値
3.398
1.015
1.994
3.426
16.680
4.142
3.057
2.878
有意確率
0.002
0.423
0.055
0.002
0.000
0.000
0.004
0.007
+:p<0.1,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001
仮説1に関して、表4からは、
「 非正社員である場合に不安定性が高い」ことが検証される。
しかし「労働時間が短いほど不安定性が高い」という点に関しては、労働時間を連続変数で
投入した場合には有意な効果がなく、またカテゴリー変数で投入した場合には、確かに 40
時間以下の短時間労働であることは不安定性を高める弱い効果を持っているが、それよりも
むしろ 51 時間以上の長時間労働者の場合に不安定性が高いという効果の方が強く表れてい
13
93
る。これはおそらく、短時間労働と不安定性の関係は正社員か否かという就業形態に規定さ
れたものであり、むしろ長時間労働である場合には就業形態に関わりなく雇用・収入・福利
厚生などの点で不安定な場合が多いことを意味しているものと考えられる。表5において、
正社員である場合に労働時間が長いほど不安定性が大きいという結果が出ていることは、そ
れを裏付ける。表3で示した長時間労働者の多い職種では、仮に正社員であっても売上や歩
合制などにより収入や雇用の安定性が変動しがちであり、また福利厚生も整っていない場合
があることが推測される。
また、仮説1について「労働時間が長いほど向上可能性や充実の度合いが高いがきつさの
度合いも高い」という点については、表4の結果から支持される。そして表5からは、正社
員のほうがその傾向が顕著であることがうかがわれる。
5.2
能力自己評価の規定要因
続いて、仮説2-1、すなわち「労働時間が短いほど、また非正社員である場合に、能力
自己評価が低く、労働時間が長いほど能力自己評価が高い」および仮説2-2「仕事の向上
可能性や充実の度合いが高いほど能力自己評価が高い」について検証する。能力自己評価の
4変数を従属変数とする重回帰分析を、やはり全体を対象として表4と同様の2モデルで行
った結果を表6、対象を正社員と非正社員に分けて行った結果を表7に示した。前項での分
析における独立変数に、仕事特性の4変数を追加している。
表6
年齢
女性
短期高等教育
長期高等教育
専門技術職
ブルーカラー職
不安定性
向上可能性
きつさ
充実
正社員
週労働時間
40時間以下
51時間以上
N
調整済みR二乗
F値
有意確率
能力自己評価の規定要因(重回帰分析、数値は標準化係数)
コミュニケーション
.032
.029
.088+
.098*
.037
.057
.111+
.112*
-.017
-.021
-.062
-.053
.029
.013
.021
-.002
-.040
-.050
.298*** .300***
.047
.059
.150**
.037
.221***
518
518
0.128
0.144
7.313
7.696
0.000
0.000
コンピュータ
.005
.004
.003
.007
.121*
.120*
.279*** .277***
-.081+ -.080+
-.142** -.142**
-.108* -.105*
-.018
-.020
.000
-.009
.180*** .178***
.103*
.101*
-.009
-.007
.005
518
518
0.140
0.138
7.988
7.360
0.000
0.000
+:p<0.1,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001
14
94
アイデア
.037
.033
-.007
.012
.114*
.131*
.075
.077
-.063
-.065
-.035
-.024
.058
.046
.076
.050
.048
.022
.195*** .192***
-.019
-.013
.075
.076
.221***
518
518
0.061
0.088
3.776
4.829
0.000
0.000
計画実行
.029
.026
.094+
.099*
.005
.020
.070
.068
-.036
-.039
-.031
-.026
-.023
-.035
.030
.011
-.008
-.016
.308*** .311***
.009
.019
.162**
-.007
.184***
516
516
0.129
0.135
7.358
7.192
0.000
0.000
表7
就業形態別
能力自己評価の規定要因(重回帰分析、数値は標準化係数)
コミュニケーション
コンピュータ
アイデア
計画実行
正社員 非正社員 正社員 非正社員 正社員 非正社員 正社員 非正社員
年齢
.006
.085
-.030
.072
.085
-.037
-.028
.106
女性
.124*
.040
.043
-.053
.015
.003
.065
.112
短期高等教育 -.018
.095
.104
.136
.096
.140
-.022
.017
長期高等教育 .041
.232*
.294*** .243*
.078
.145
-.009
.142
専門技術職
.000
-.088
-.110*
-.054
-.055
-.058
-.083
.009
ブルーカラー職
-.058
-.109
-.117+
-.197*
.032
-.134
-.129*
.075
不安定性
.054
-.023
-.108*
-.084
.107+
-.027
-.011
-.072
向上可能性
.010
.068
-.025
.009
.041
.144
-.043
.137
きつさ
-.056
.004
.004
-.007
-.017
.115
.011
.006
充実
.291*** .316*** .194**
.159+
.216**
.178*
.338*** .263**
週労働時間
.161**
.094
.014
-.047
.094
.070
.172**
.092
N
353
165
353
165
353
165
351
165
調整済みR二乗
0.117
0.110
0.124
0.055
0.064
0.052
0.136
0.118
F値
5.222
2.852
5.510
1.869
3.203
1.810
6.028
2.989
有意確率
0.000
0.002
0.000
0.047
0.000
0.057
0.000
0.001
+:p<0.1,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001
仮説2-1については、表6に見られる通り、労働時間を連続変数として投入した場合に
はコミュニケーション能力および計画実行力について、またカテゴリー変数として投入した
場合にはそれらに加えてアイデア・独創性についても、労働時間が長いほど能力自己評価が
高くなっている。ただし、40 時間以下と 40~51 時間の間には有意な違いは見られず、51
時間以上の場合に能力自己評価が高くなるといえる。
他方で、正社員であることはコンピュータスキルの高さと関連しているが、他の3つの能
力自己評価とは関連がない。
仮説2-2については、仕事特性として充実の度合いが高い場合、4つの能力自己評価の
いずれも顕著に高くなることが表6から見出される。これは、充実変数を構成する3項目の
ひとつに「自分の能力が発揮できる」が含まれていることから、当然予測される結果である。
しかし、
「自分の能力が発揮できる」以外の「お金のためというより、今の仕事が楽しいから
働いている」と「手抜きをせず、仕事に取り組んでいる」の2項目を加算した充実 ver.2 変
数を投入して表4と同様の分析を行っても、4つの能力自己評価変数のすべてについて1%
水準ないし 0.1 水準の有意な効果が見出された。ここから、やはり楽しく積極的に取り組め
る充実した仕事であることと、能力自己評価との間には関連があるといえる。
ただし、仕事特性の中で向上可能性については、能力自己評価と有意な関連をもっていな
い。なお、不安定性とコンピュータスキルとの間には負の関連があるが、ここには職種が介
在しているものと推測される。
表7からは、労働時間と能力自己評価との関連が正社員においてのみ存在することがわか
る。充実と能力自己評価との関連は、コミュニケーション能力については非正社員のほうが
正社員よりも顕著であるが、他の3つの能力自己評価変数については正社員のほうが充実と
15
95
の関連が強い。これは、非正社員にとって充実した仕事とはコミュニケーション能力を発揮
したり必要としたりする内容のものであるという傾向を示唆している。
5.3
収入の規定要因
次に、仮説3-1「労働時間が短いほど、また非正社員である場合に、能力自己評価と収
入の関連が弱く、仕事の向上可能性や充実の度合いと収入が相反する関係にある」および仮
説3-2「労働時間が長いほど、能力自己評価および仕事の向上可能性や充実の度合いと収
入の関連が強い」を検証するために、前項の独立変数に能力自己評価を加え収入を従属変数
としたモデルで、全体および労働時間カテゴリー別に重回帰分析を行った結果が表8、正社
員と非正社員に分けて行った結果が表9である。
表8
全体および労働時間別
収入の規定要因(重回帰分析、数値は標準化係数)
全体
年齢
.392***
女性
-.192***
短期高等教育
-.062
長期高等教育
.079+
専門技術職
.150***
ブルーカラー職
-.051
不安定性
-.171***
向上可能性
.085
きつさ
-.054
充実
-.077
コミュニケーション
-.045
コンピュータ
.047
アイデア
.007
計画実行
.128+
正社員
.131**
週労働時間
.124*
~40×向上
-.086
~40×充実
.031
51~×向上
.217
51~×充実
-.216
~40×コミュニケーション.110
~40×コンピュータ -.031
~40×アイデア
.105
~40×計画
-.158
51~×コミュニケーション.451+
51~×コンピュータ -.161
51~×アイデア
.010
51~×計画
-.211
N
509
調整済みR二乗
0.481
F値
17.824
有意確率
0.000
40時間
以下
.311***
-.128*
-.088
.037
.126*
-.008
-.110
.008
-.060
-.079
.014
.044
.081
.039
.408***
.074
175
0.469
10.614
0.000
41~50
時間
.485***
-.224**
-.062
.099
.243***
.008
-.080
.107
-.019
-.180*
-.074
.074
-.012
.162*
.136*
.014
184
0.423
9.378
0.000
+:p<0.1,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001
16
96
51時間
以上
.442***
-.274**
-.108
.074
.152*
-.169*
-.290***
.147+
-.057
-.134
.151+
-.009
.023
.080
-.096
.073
150
0.428
7.982
0.000
表9
就業形態別
収入の規定要因(重回帰分析、数値は標準化係数)
正社員 非正社員
年齢
.460*** .322***
女性
-.245*** -.175*
短期高等教育 -.057
-.086
長期高等教育 .113+
.076
専門技術職
.158**
.184**
ブルーカラー職
-.017
-.138+
不安定性
-.179*** -.135*
向上可能性
.123*
.145*
きつさ
-.016
-.090
充実
-.099+
-.114
コミュニケーション
.047
.041
コンピュータ
.027
.003
アイデア
.036
-.005
計画実行
.103+
.077
週労働時間
.098+
.359***
N
345
164
調整済みR二乗
0.399
0.421
F値
16.238
8.909
有意確率
0.000
0.000
+:p<0.1,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001
表8の対象サンプル全体に関する分析では、労働時間と能力自己評価の交互作用項も独立
変数に加えている。表8より、仮説3-1に関して「労働時間が短いほど、能力自己評価と
収入との関連が弱い」という点については、いちがいにそうは言えないことがわかる。確か
に労働時間 40 時間以下の場合、能力自己評価と収入との間に有意な関連はみられない。そ
して 41~50 時間では計画実行力と収入との間に有意な関連がみられる。しかし 51 時間以上
の場合はこの連関は再び有意でなくなり、代わってコミュニケーション能力と収入との間に
弱い関連が表れている。これは全体を対象とする分析における交互作用項の効果としても確
認される。これは仮説3-2における「労働時間が長いほど、能力自己評価と収入との関連
が強い」という点を部分的に支持する結果である。
また、仮説3-1について「非正社員である場合に能力自己評価と収入の関連が弱い」と
いうことは、表9において確認される。ただし、正社員の場合にも、計画実行力と収入との
間に弱い連関が見出されるにすぎない。
そして「労働時間が短いほど、また非正社員である場合に、仕事の向上可能性や充実の度
合いと収入が相反する関係にある」という点については、表8において週労働時間 41~50
時間の場合に充実と収入との間に負の連関が観察され、また表9においてもむしろ正社員の
場合に充実と収入との間に弱い負の連関がみられることから、上記の仮説は必ずしも短時間
労働者や非正社員についてではなく、中程度の時間働いている安定性の高い正社員に当ては
まることがらであると考えられる。なお表9では正社員・非正社員を問わず、向上可能性と
17
97
収入との間には正の連関がある。表8でも 51 時間以上の長時間労働者の場合に向上可能性
と収入との間に弱い正の連関が見られることから、仮説3-2における「労働時間が長いほ
ど、仕事の向上可能性と収入の関連が強い」という点についてはある程度支持される。しか
し、表9において仕事の充実と収入との間には正社員においてむしろ負の関連がみられる。
5.4
「生活の質」の規定要因
最後に、仮説4-1「労働時間が短い場合、また非正社員である場合、不安定さが満足度
を低め抑鬱感を高める」、仮説4-2「労働時間が中程度の場合、職場の人間関係をうまく形
成できるかどうかに関わるコミュニケーション能力自己評価が満足度や抑鬱感と関連する」、
仮説4-3「労働時間が長い場合、労働時間の長さや仕事のきつさが満足度を低め抑鬱感を
高める」の検証を行う。ここで「生活の質」として用いる従属変数は、抑鬱感と生活全般に
関する満足度である。前項の独立変数に収入を追加し、労働時間カテゴリー別に重回帰分析
を行った結果が表 10、正社員と非正社員に分けて重回帰分析を行った結果が表 11 である。
表 10
労働時間別
年齢
女性
短期高等教育
長期高等教育
専門技術職
ブルーカラー職
不安定性
向上可能性
きつさ
充実
コミュニケーション
コンピュータ
アイデア
計画実行
正社員
週労働時間
昨年年収
N
調整済みR二乗
F値
有意確率
「生活の質」の規定要因(重回帰分析、数値は標準化係数)
40時間
以下
-.158*
.119
.202*
.181+
-.062
.005
.152+
.017
.210**
-.144+
-.171*
.176*
.090
-.282**
.000
-.079
.094
174
0.211
3.723
0.000
抑鬱感
41~50
時間
-.020
.142+
.042
.130
-.038
-.064
.097
-.043
.157*
-.235**
-.332***
-.044
.069
-.060
-.023
.014
-.023
183
0.254
4.637
0.000
51時間
以上
-.139
.264**
.036
.052
-.013
-.009
.017
.130
.240*
-.140
-.106
.038
-.162+
-.085
-.032
.223**
-.032
150
0.263
4.131
0.000
+:p<0.1,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001
18
98
生活全般満足度
40時間 41~50 51時間
以下
時間
以上
-.077
-.045
.130
.205** .122
.012
-.057
-.106
-.061
-.141
-.054
.047
-.068
.058
.087
-.099
.102
.060
-.028
-.187* -.114
.117
.062
-.061
-.191* -.118
-.295**
.286*** .116
.050
.132+
.247** .295**
-.088
-.002
.091
-.187* -.040
.129
.246** .014
-.042
-.012
.084
.020
.033
.026
.055
.163+
.017
-.059
174
184
149
0.303
0.141
0.199
5.417
2.760
3.160
0.000
0.000
0.000
表 11
就業形態別
「生活の質」の規定要因(重回帰分析、数値は標準化係数)
年齢
女性
短期高等教育
長期高等教育
専門技術職
ブルーカラー職
不安定性
向上可能性
きつさ
充実
コミュニケーション
コンピュータ
アイデア
計画実行
週労働時間
昨年年収
N
調整済みR二乗
F値
有意確率
抑鬱感
正社員 非正社員
-.068
-.197*
.193**
.120
.085
.127
.028
.267**
-.045
.027
-.058
.048
.049
.092
-.017
.112
.262*** .202*
-.146*
-.194*
-.233*** -.164+
.090
.053
-.014
.094
-.124*
-.287**
.090
.068
.036
-.038
343
164
0.208
0.272
6.630
4.809
0.000
0.000
生活全般満足度
正社員 非正社員
.018
-.121
.088
.230**
-.092
-.054
-.070
-.085
-.010
.061
.055
-.111
-.153** .027
.048
.050
-.139*
-.334***
.225*** .109
.251*** .124
.021
-.055
.005
-.141+
-.054
.310***
-.065
.112
.053
-.014
344
163
0.198
0.269
6.299
4.729
0.000
0.000
+:p<0.1,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001
まず表 10 において 40 時間以下の短時間労働者の場合に不安定性と抑鬱感の間に弱い正の
連関があることは、仮説4-1を支持するものである。ただし表 10 で短時間労働者につい
て不安定性と生活全般満足度との間には関連がみられず、表 11 においても非正社員におい
て不安定性と抑鬱感や生活全般満足度の間にはやはり関連がみられない。むしろ、短時間労
働者において抑鬱感や生活全般満足度と強く関係しているのは、仕事のきつさや充実、そし
てコミュニケーション能力や計画実行力(それに加えて抑鬱感についてはコンピュータスキ
ルが、生活全般満足度についてはアイデア・独創性が、いずれも正の効果をもつ)などの能
力自己評価である。
表 11 においても、非正社員の場合に不安定性は「生活の質」と関連しておらず、むしろ
仕事のきつさや充実、あるいは計画実行力の自己評価などが大きく作用している。
次に仮説4-2については、表 10 において、労働時間 41~50 時間の者においてコミュニ
ケーション能力自己評価が抑鬱感と負の、生活全般満足度と正の強い関連をもつことから、
仮説は検証されたといえる。ただし抑鬱感については仕事のきつさや充実、生活全般満足度
については不安定性もまた強い影響を及ぼしている。
表 11 でも、正社員の場合にコミュニケーション能力が明確な効果をもち、仕事のきつさ
や充実も影響している。また抑鬱感については計画実行力の自己評価、生活全般満足度につ
いては不安定性がそれぞれ影響している。
19
99
仮説4-3については、表 10 で 51 時間以上の長時間労働者において仕事のきつさや労働
時間の長さが抑鬱感と正の、また仕事のきつさが生活全般満足度と負の関連をもつことから、
仮説は支持されたといえる。それ以外に、生活全般満足度についてはコミュニケーション能
力自己評価が強く影響している。
6
知見と結論
第5節での検証結果は、以下のように改めてまとめられる。
第1に、
[仕事の制度的側面→仕事の質的側面]に関する仮説1「労働時間が短いほど、ま
た非正社員である場合に、不安定さの度合いが高く、労働時間が長いほど向上可能性や充実
の度合いが高いがきつさの度合いも高い」は、ほぼ検証された。ただし、正社員については、
むしろ労働時間が長いほど不安定さの度合いも高いということが見出された。また、労働時
間が長いほど充実の度合いが高いがきつさの度合いが高いということは、非正社員よりも正
社員において顕著であった。
第2に、
[仕事の制度的側面→仕事の質的側面→能力の発揮水準]に関して、仮説2-1「労
働時間が短いほど、また非正社員である場合に、能力自己評価が低く、労働時間が長いほど
能力自己評価が高い」は、部分的に検証された。すなわち、週労働時間 51 時間以上の長時間
労働者、特に正社員の場合において、コミュニケーション能力やアイデア・独創性、計画実
行力などの自己評価が高くなる傾向がみられる。しかし、非正社員であることが能力自己評
価を下げる固有の効果をもつということはコンピュータスキルについてのみ観察され、他の
能力自己評価については当てはまらない。
また仮説2-2「仕事の向上可能性や充実の度合いが高いほど能力自己評価が高い」は、
部分的に検証された。すなわち、仕事の充実の度合いと能力自己評価は密接に関連している
が、向上可能性については能力自己評価との関連はみられない。充実の度合いと能力自己評
価との関連は非正社員においても見出されるが、正社員のほうがその関連は強い。
第3に、
[仕事の制度的側面→仕事の質的側面→能力の発揮水準→収入]に関して、仮説3
-1「労働時間が短いほど、また非正社員である場合に、能力自己評価と収入の関連が弱く、
仕事の向上可能性や充実の度合いと収入が相反する関係にある」および仮説3-2「労働時
間が長いほど、能力自己評価および仕事の向上可能性や充実の度合いと収入の関連が強い」
については、やはり部分的に検証された。すなわち、週労働時間 40 時間以下の短時間労働者
においては能力自己評価と収入に関連がないが、41~50 時間の場合は計画実行力と、また 51
時間以上の場合はコミュニケーション能力と収入との間に関連が見られる。しかし、仕事の
充実度と収入との間に負の関連が見られるのは 41~50 時間の労働者であり、また正社員にお
いては仕事の充実と収入との間に弱い負の関連が見られる。
20
100
第4に、
[仕事の制度的側面→仕事の質的側面→能力の発揮水準→収入→生活の質]に関し
て、仮説4-1「労働時間が短い場合、また非正社員である場合、不安定さが満足度を低め
抑鬱感を高める」は、弱い支持しか得られなかった。短時間労働者や非正社員において、満
足度や抑鬱感に強く影響しているのは、きつさや充実などの仕事特性およびコミュニケーシ
ョン能力や計画実行力などの能力自己評価であった。仮説4-2「労働時間が中程度の場合、
職場の人間関係をうまく形成できるかどうかに関わるコミュニケーション能力自己評価が満
足度や抑鬱感と関連する」については、検証された。ただし、コミュニケーション能力以外
の、不安定性やきつさ、充実などの仕事特性からの影響も観察された。仮説4-3「労働時
間が長い場合、労働時間の長さや仕事のきつさが満足度を低め抑鬱感を高める」は、支持す
る結果が得られた。ただし、長時間労働者においてもコミュニケーション能力と満足度の間
に強い関連が見出された。
これらを総合すると、若者の働き方の多様性に関して、次のような理解が得られる。まず、
非正社員(その大半が短時間労働者である)は、正社員と比べて、明らかに不安定性の高い
状態に置かれており、また能力自己評価と収入との間に関連がないことから、能力発揮の度
合いが収入という形で反映されにくい状況に置かれている。しかし、労働時間が相対的に短
い非正社員であっても、主観的な「生活の質」に関しては仕事の充実やきつさの度合いなど
仕事そのものの特性や、コミュニケーション能力や計画実行力などの能力自己評価が強く影
響していることから、仕事における能力発揮の認識が彼らにとっても重要な意味をもってい
るといえる。つまり、不安定な状況のもとでも、彼ら自身は仕事の内容や自らの能力の認識
に強い関心をもっているが、それは収入という形での処遇とは切り離された扱いを受けてい
るのである。
他方で、正社員のうち、週当たり 41~50 時間の中程度の時間働いている者については、む
しろ仕事の充実の度合いは収入と相反する関係にあり、また計画をきちんとやりとげる能力
の自己評価と収入が関連しあっていること、コミュニケーション能力と主観的な「生活の質」
が強く関連していることなどから、彼らはどちらかと言えば定型的な仕事を職場の人間関係
に配慮しながら継続してゆくような仕事生活を送っていることが推察される。かなり安定的
でそれほどきつくはないが、収入を得るためには充実感をあきらめなければならないような
内容の仕事を、閉じられた人間関係の中で繰り返してゆくことが、彼らにとっての中心的な
関心事となっていると考えられる。
また、週当たり 51 時間以上の長時間労働者は、しばしば正社員であっても収入や雇用、福
利厚生などが不安定であり、きつくもあるが、同時に向上可能性や充実度も高いと感じられ
る仕事をする中で、自らの様々な能力を最大限発揮しているという実感をもっている。しか
し仕事のきつさや労働時間の長さが限度を超えた場合、それは抑鬱感や生活満足度の低さと
なって跳ね返ってくる。いわば、強烈な明暗をもつ仕事生活を彼らは送っているといえる。
21
101
以上の本章では、若者の働き方の多様性を、就業形態と労働時間を基本軸としながら、能
力への自己評価や「生活の質」という主観的な変数を絡めながら捉えようと試みてきた。分
析結果が示唆しているのは、若者はそれぞれの働き方に固有の閉塞性や過酷さに耐えながら
生きているということである。相対的に短い時間、主に非正社員として働くことを選択する
若者は、仕事への思い入れや努力が収入などの形で報われない状態に甘んじざるをえない。
正社員として中庸な労働時間で働くことを選択する若者は、単調な仕事と職場の人間関係へ
の気遣いに絡め取られて生きている。仕事に伴うリスクを受け入れつつ自らを最大限に発揮
して仕事に没頭する長時間労働者は、ときに疲弊しすりきれることになりがちである。
それぞれの働き方が抱える問題点を緩和し克服してゆくためには、第一に、非正社員に対
しても一定の安定性や、能力発揮が処遇に反映されるような雇用のあり方を導入してゆくこ
と、第二に、中程度の時間働く正社員に対しても仕事上の挑戦の機会と外部労働市場を通じ
た選択可能性を提供してゆくこと、第三に、過度の長時間労働を抑制することが、政府およ
び企業にとっての課題として求められる。仕事に含まれる諸要素のいずれかが突出すること
を防ぎ、安定性とチャンスや挑戦機会の両面が確保されるような働き方を、多くの若者に対
して保障するということが、現代日本社会にとって重要な課題となっている。
【文献】
Giddens, A., 1991, Modernity and Self-Idendity, Stanford Univ. Press(秋吉美都他訳、2005、
『モダニティと
自己アイデンティティ』ハーベスト社).
阿部真大、2006、『搾取される若者たち』集英社.
阿部真大、2007、『働きすぎる若者たち』日本放送出版協会.
雤宮処凛、2007、『生きさせろ!』太田出版.
本田由紀、2005、『若者と仕事』東京大学出版会.
本田由紀編、2007、『若者の労働と生活世界』大月書店.
本田由紀、2007、「〈やりがい〉の搾取」『世界』2007 年3月号.
堀有喜衣編、2007、『フリーターに滞留する若者たち』勁草書房.
乾彰夫編、2006、『18 歳の今を生きぬく』青木書店.
城繁幸、2006、『若者はなぜ3年で辞めるのか?』光文社.
小林美希、2007、『ルポ
正社員になりたい』影書房.
小杉礼子編、2002、『自由の代償/フリーター』日本労働研究機構.
小杉礼子、2003、『フリーターという生き方』勁草書房.
小杉礼子編、2005、『フリーターとニート』勁草書房.
熊沢誠、2006、『若者が働くとき』ミネルヴァ書房.
熊沢誠、2007、『格差社会ニッポンで働くということ』岩波書店.
太郎丸博編、2006、『フリーターとニートの社会学』世界思想社.
22
102
Self-evaluation of abilities and "quality of life": focusing on the
differentiation by working hours and job contents
Yuki Honda
Tokyo University
This paper aims at verifying the hypothesis that the recent diversification of work among Japanese
youth in terms of types of employment and working hours has brought about the situation that some
factors go to extremes within each diversified modes of work and these excessive factors have
negative effects on the young peoples’ ‘quality of life.’ One of the focal points of analysis is the
determinants and effects of the self- evaluation of abilities.
Multivariable analyses about reciprocal relations between working hours, types of employment,
contents of jobs, self-evaluation of abilities, income and subjective ‘qualities of life’ revealed; first,
those working for relatively short hours, more than half of whom consisting of atypical workers, are
characterized by the low income, the instability of employment and no correlation between the
income and the self-evaluation of abilities. Their ‘qualities of life’ are, however, not influenced by
precariousness of income and employment but by the job contents and the self-evaluation of abilities.
Second, those working for slightly more than legal working hours are characterized by the negative
correlation between the repletion of job contents and the income. Their ‘qualities of life’ are strongly
influenced by the self-evaluation of communication skills which are important to maintain human
relations within their workplaces. Third, those working for relatively long hours are characterized by
the hardness and the instability of work on the one hand, high repletion of job contents and the
self-evaluation of abilities on the other. In case that their working hours are excessively long, their
subjective ‘qualities of life’ are remarkably lowered.
1
103
若者におけるキャリアパターンの不安定化
―社会的排除アプローチを参考に―
樋口 明彦
(法政大学)
【要旨】
近年、若年者雇用の不安定化が叫ばれて久しい。本稿では、
「 2005 年 SSM 日本調査」および「2007
年 SSM 若年層郵送調査」に基づいて、若年者のキャリアパターンを探り、その不安定化の軌跡
を整理する。
第一に、
「2005 年 SSM 日本調査」から、若い世代を中心に非正規雇用を含むキャリアパターン
の急増を改めて確認することができた。
第二に、
「2007 年 SSM 若年層郵送調査」をもとに、社会的排除アプローチを参照しながら、若
者の不安定化の諸相を探ると、非正規雇用を中心に、年間収入や生計の立て方など「適正な所得」
に関する不利益、社会保険や社内制度の適用率など「サービス」に関する不利益を見出すことが
できた。ただ、職場における人間関係など「社会関係」に関する不利益、すなわち孤立は確認で
きなかった。
第三に、現職における非正規雇用への就きやすさを探ると、女性であること、年齢が若いこと、
学歴が低いこと、父職がホワイトカラーであること、初職において非正規雇用を経験しているこ
とが規定要因として浮かび上がった。
キーワード:若者、キャリアパターン、社会的排除
1
問題の所在
日本において、若者の不安定化が叫ばれて久しい。そのプロセスは、おおよそ「雇用の不
安定化」と「生活の不安定化」という 2 つの局面から顕在化してきたといえよう。第一に、
1990 年代後半の景気後退以降、労働市場の悪化に伴って、若者の不安定化は、若年失業者や
フリーターなど、いわば正社員に「移行できない若者」の急増として現れてきた。つまり、
学校から職場への移行、あるいは非正規雇用から正規雇用への移行というキャリアパターン
の変化にこそ、その視線は向けられてきたのである。だが、景気回復を契機に、2003 年以来
若年失業率が漸減しつつも、非正規雇用の占める割合が変わらず増え続けていることが明ら
かになってくると、
「雇用の不安定化」に加え、
「生活の不安定化」が指摘されるようになる。
ニート、ワーキング・プア、ネットカフェ難民など、通常の職業生活に「定着できない若者」
の問題が改めて問われるようになったのである。そのとき問題の射程は、単なる就業形態の
如何や所得の多寡にとどまらず、社会保険制度や有給休暇制度など処遇の有無、社会的孤立
1
105
や社会的サポートの有無(社会関係資本の程度)、自己尊厳やアイデンティティのありように
まで及ぶようになった。
本稿では、「2005 年 SSM 日本調査」および「2007 年 SSM 若年層郵送調査」のデータを通
じて、若者の就業形態におけるキャリアパターンの変化を明らかにし、その変化が生活に引
き起こすさまざまな不安定化の諸相を考察することにしたい。
2
先行研究の検討
2.1
キャリアパターンに関する研究
日本における「雇用の不安定化」は、労働市場への不参加、つまり失業としてだけではな
く、労働市場内における分化、つまり正規雇用(正社員)と非正規雇用(パート・アルバイ
ト、派遣社員、契約社員、請負社員など)という従業上の地位における違いとして描き出さ
れることが多い。むろん、若年の雇用問題もその例外ではなく、とりわけフリーター問題と
して顕在化してきた。
小杉礼子は、若者における「雇用の不安定化」を学校から職場への移行という局面に見出
して、
「離学直後」
「途中の就業経験」
「現在」という 3 時点における従業上の地位が描き出す
若者のキャリアパターンの変化を明らかにしている(小杉 2002)。小杉は、2001 年と 2006
年の 2 度にわたる「若者のワークスタイル調査」から、この 5 年のあいだに離学直後から現
在にいたるまで非正規雇用に従事し続けている「非典型一貫」のキャリアパターンが増え、
その割合が 31.8%に及んでいることを明らかにしている(小杉 2007)。さらに、初職が非正
規雇用であった場合、その後も非正規雇用にとどまることが相対的に高くなる傾向、つまり
非正規雇用のキャリアパターンにおける経路依存の傾向は、その他の論者によっても指摘さ
れている(佐藤・小泉 2007)。
2.2
キャリアパターンの規定要因に関する研究
このような若者の非正規雇用化を規定する要因として、両親の職業・学歴あるいは家庭環
境からなる社会階層、本人の学歴、本人の社会関係資本、本人の能力などが検討されている。
第一に、太郎丸博は、非正規雇用のキャリアパターンに対する社会階層の影響を検証して、
父の職業が専門・管理や自営の場合、相対的にフリーターになりにくいことを指摘している
(太郎丸 2006)。また平沢和司は、父親の職業威信が子どもの学歴に影響を与え、その範囲
が間接的に子どもの初職にまで及んでいることを指摘している(平沢 2005)。
第二に、中学校卒や高校卒など相対的に本人の学歴が低かったり、あるいは学校中退を経
験していたりするほど、非正規雇用に就きやすい傾向も確認されている(小杉 2002)(小杉
2007)。
2
106
第三に、近年では、非正規雇用のなりやすさに関して、社会関係資本の役割もしばしば検
討されている。堀有喜衣は、個人が持つ相談ネットワークの存在に焦点を当て、非正規雇用
者や無業者の相談ネットワークは、正規雇用者に比べ相対的に脆弱になりやすく、結婚に対
する意識に影響を与えている可能性を示唆している(堀 2007)。ただ、社会的ネットワーク
の存在が、非正規雇用から正規雇用への離脱に影響があることは確認されていな い(樋口
2006)。そのほか、学業成績や出席日数など学校に対するコミットメントの程度から、在学時
における社会的ネットワークの役割を探り、初職に及ぼす影響を考察した研究も存在する。
下村英雄は、学校時代における学業成績や出席日数の悪さが若者の就労意識を減退させ、
「や
りたいことをする」という主観的選択を過度に強調せざるをえない事態を引き起こしている
と述べている(下村 2002)。
第四に、本田由紀は、就業プロセスのなかで本人のコミュニケーション能力が果たす役割
について検討している(本田 2005)。本田によれば、現代社会は、学力という一元的な「近
代型能力」に還元されるメリトクラシーと、対人能力・意欲・創造力など「ポスト近代型能
力」を含むハイパー・メリトクラシーからなる複合的な社会体制になりつつある。また苅谷
剛彦も、学校現場で生じている意欲低下、つまり学校的価値観から「降りる」という選択肢
の顕在化を指摘して、社会階層の格差が「意欲の格差(インセンティヴ・ディバイド)」につ
ながるメカニズムに光を当てている(苅谷 2001)。
2.3
社会的排除という視点
以上のように、わが国における若者の不安定化は、非正規雇用の拡大というキャリアパタ
ーンの変化、そしてその規定要因をめぐるさまざまな研究のなかで次第に明らかにされてき
たといえよう。このような若者の不安定化がはらむ多面的な特徴は、社会的排除というアプ
ローチにおいて整理することができるかもしれない。1990 年代以降、ヨーロッパの社会政策
の文脈において広く普及した社会的排除という視座は、現代社会における不平等の諸相を、
所得の多寡という「一面的指標」ではなく、職業機会の有無・教育程度・ジェンダー・世帯
状況・地域環境・健康状態などの「多面的指標」から捉え、単なる「静態的な状態」ではな
く、そこにいたるまでの「動態的なプロセス」として描き出した。このような認識の変化に
伴い、不平等を克服する新たな政策指針として、社会的包摂、つまり現金や社会サービスの
単なる「給付」ではなく、むしろ排除された人々が再び社会に参入できるような「参加」の
モチーフが提示されるようになったのである(樋口 2004)。
1999 年に実施された「イギリスにおける貧困と社会的排除調査」は、社会的排除を①いわ
ゆる貧困を意味する「適正な所得と資源からの排除」、②失業や無業などの「労働市場からの
排除」、③医療・図書館など公的サービスや交通機関・スーパーなど私的サービスの利用に関
する「サービスからの排除」、④社会活動への参加や家族・友人との交友をめぐる「社会関係
3
107
からの排除」という 4 つの側面に整理して、個人が被る社会的排除の多元性、そしてそれぞ
れの排除が互いに絡み合う相関性を示唆している(Gordon et al. 2000)。阿部彩は、日本にお
ける社会的排除の現状を、「低所得」「基本ニーズ」「物質的剥奪」「住居」「主観的貧困」「制
度からの排除」「社会関係」「社会参加」という 8 項目から探り、相対的に排除されている者
のプロフィールを「男性、50 歳代、勤労世代の単身男性、仕事がない人々(主婦と退職者を
除く)、中卒」と述べている(阿部 2007)。
社会的排除アプローチの特徴として、以下の 2 点を指摘することができよう。第一に、社
会的排除アプローチは若者の不安定化を多面的に捉え、
「雇用の不安定化」とともに「生活の
不安定化」を視野に入れることができる。第二に、社会的排除アプローチは、社会的包摂と
いう規範を通じ、単に就業形態や所得だけではなく、社会保障制度の現状、人々の社会関係
のあり方、自尊心のありようなど幅広い側面においても、人々の福祉(well-being)における
規範像を積極的に提示して、現状を問い直すことができる。本稿では、社会的排除という視
点を参考にしながら、若者の不安定化を考察することにしたい。
3
若年期におけるキャリアパターン比較―「2005 年 SSM 日本調査」から
3.1
若年期における到達職
はたして、若者のキャリアパターンは、現在と過去のあいだで、どのくらい違っているの
だろうか。まず、
「2005 年 SSM 日本調査」のデータを用いて、20~69 歳までの各年齢層にお
けるキャリアパターンの歴史的変化を概観することにしたい。ただ、年齢層ごとのキャリア
パターンを比較するには、いくつかの困難が伴う。なぜなら、本調査は離学から現在に至る
まで一人ひとりの全職歴を網羅しているため、各人の職歴がとても複雑であるうえ、離学か
ら時間経過の少ない若者の場合、自ずと職歴の移動が小さく見積もられがちになるからであ
る。したがって、できるだけ各人の若年期におけるキャリアパターン変化に的を絞って考察
するため、本節では 20~69 歳までを対象に、①対象者が 39 歳以下の場合、初職から現職ま
での職歴、②対象者が 40 歳以上の場合、初職から 39 歳までに到達した最後の職までの職歴
を抽出する。そして、この現職あるいは最後の職を「若年期到達職」と呼び、初職から若年
期到達職にいたる過程を各人のキャリアパターンとすることにしたい。キャリアパターンを
整理する際は、その従業上の地位に焦点を当て、
「正規雇用」={常時雇用されている一般従
業者}、
「非正規雇用」={臨時雇用・パート・アルバイト、派遣社員、契約社員・嘱託}、
「無
業」={無職}と割り当て、
{経営者・役員、自営業主・自由業者、家族従業者、内職、学生}
は分析から除外している。
まず、性・年齢層別に若年期到達職をまとめた表 1 から、いくつかの傾向を追ってみよう。
第一に、男性の場合、若年期到達職のうち「正規雇用」の割合は、「20~29 歳」75.9%、「30
4
108
~39 歳」89.4%、「40~49 歳」92.3%、「50~59 歳」95.0%、「60~69 歳」97.0%と、年齢が
下がるにつれ一貫して低くなっている。それに応じて、
「非正規雇用」や「無業」の占める割
合は、年齢が下がるほど高くなっている。ただ、
「非正規雇用」の割合は、
「20~29 歳」18.2%、
「30~39 歳」6.1%と 30 代に達すると大きく低下する点に留意すべきである。
第二に、女性の場合、若年期到達職の傾向は男性と大きく異なる。「正規雇用」の割合は、
「20~29 歳」44.0%と、もっとも若い層がいちばん高くなっている。また、「非正規雇用」
の割合も、総じて若い世代が高くなっている。ただ、「非正規雇用」の内訳に目を向けると、
「20~29 歳」は「派遣社員」と「契約社員・嘱託」の占める割合が、それぞれ 8.2%、4.1%
と高いのに対して、「40~49 歳」は、そのほとんどを「臨時雇用・パート・アルバイト」が
占めている。つまり、女性における若年期到達職の非正規化は、①「非正規雇用」そのもの
増大という側面と、②「非正規雇用」内における「派遣社員」
「契約社員、嘱託」の増大とい
う側面に分けることができよう。
表1
男性
女性
20-29
30-39
40-49
50-59
60-69
合計
20-29
30-39
40-49
50-59
60-69
合計
性・年齢層別、若年期到達職(%)
正規雇用
非正規雇用
75.9
89.4
92.3
95.0
97.0
91.9
44.0
36.8
30.4
33.9
31.7
34.5
18.2
6.1
4.5
3.3
2.3
5.4
32.4
30.0
31.3
26.8
20.3
27.8
臨時雇用・パー
ト・アルバイト
12.3
2.8
2.3
1.9
1.0
2.9
20.1
24.2
28.0
24.4
19.5
23.6
派遣社員
契約社員、嘱託
2.5
1.9
1.8
0.4
0.0
1.1
8.2
3.4
1.4
0.6
0.2
2.2
3.4
1.4
0.5
1.0
1.3
1.3
4.1
2.4
2.0
1.8
0.6
2.0
無業
合計(人)
5.9
4.5
3.3
1.7
0.8
2.8
23.5
33.2
38.3
39.2
48.0
37.7
203
424
400
482
525
2034
293
500
504
622
498
2417
むろん、性・年齢層別における若年期到達職の違いは、結婚経験の有無と大きく相関して
いる。表 2 によれば、男性の場合、既婚者であれば、いかなる年齢層であっても「正規雇用」
の割合は約 95%に達している。それに対して、未婚者であれば、20~30 代のうちは「非正規
雇用」、そして 30~50 代のうちは「無業」である割合が相対的に高くなっている。
また、女性の場合、既婚者であれば、
「正規雇用」である割合が減って、
「無業」、つまり専
業主婦である割合が高くなる。
「非正規雇用」の内訳を見た場合、
「派遣社員」
「契約社員・嘱
託」の割合は、未婚かつ若いほど多いものの、
「臨時雇用・パート・アルバイト」は加齢とと
もに既婚者のうちで占める割合が高くなり、主婦パート層の存在がうかがえる。
5
109
表2
男性
20-29
30-39
40-49
50-59
60-69
女性
20-29
30-39
40-49
50-59
60-69
未婚
既婚
未婚
既婚
未婚
既婚
未婚
既婚
未婚
既婚
未婚
既婚
未婚
既婚
未婚
既婚
未婚
既婚
未婚
既婚
性・年齢層・結婚経験別、若年期到達職(%)
正規雇用
非正規雇用
70.7
94.3
76.8
95.7
77.4
95.0
82.9
96.1
83.3
97.3
58.3
17.3
60.8
31.1
66.7
28.8
47.8
33.4
100.0
30.6
22.4
5.7
12.7
2.8
6.5
4.2
2.4
3.4
16.7
2.0
35.8
26.9
30.9
29.6
14.3
32.1
17.4
27.3
0.0
20.6
表3
20-29
30-39
40-49
50-59
60-69
女性
20-29
30-39
40-49
50-59
60-69
無業
合計(人)
4.8
0.0
2.1
1.1
0.0
0.6
0.0
1.1
8.3
1.2
5.9
1.0
4.1
2.0
4.8
1.9
0.0
1.8
0.0
0.6
6.8
0.0
10.6
1.4
16.1
0.9
14.6
0.5
0.0
0.8
5.9
55.8
8.2
39.3
19.0
39.1
34.8
39.3
0.0
48.8
147
53
142
282
62
337
41
437
12
511
187
104
97
402
21
483
23
598
8
490
派遣社員
契約社員、
嘱託
合計(人)
2.4
1.6
0.5
0.3
5.3
4.3
3.8
0.6
0.9
0.5
1.0
1.4
1.4
0.4
-
7.1
1.6
12.5
3.2
4.3
0.4
1.7
0.4
1.7
0.3
1.7
2.4
7.2
3.8
0.6
1.8
2.2
0.5
4.3
0.6
0.9
0.6
-
14
126
8
62
23
260
11
172
25
257
18
187
108
271
16
165
173
292
9
121
7
169
69
52
16
321
113
92
22
377
101
69
128
497
69
42
229
338
22
12
派遣社員
契約社員、嘱託
3.4
0.0
3.5
1.1
1.6
1.8
2.4
0.2
0.0
0.0
10.2
4.8
9.3
2.0
0.0
1.4
0.0
0.7
0.0
0.2
性・年齢層・学歴別、初職(%)
正規雇用
男性
臨時雇用・パー
ト・アルバイト
14.3
5.7
7.0
0.7
4.8
1.8
0.0
2.1
8.3
0.8
19.8
21.2
17.5
25.6
9.5
28.8
17.4
24.7
0.0
19.8
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
42.9
73.0
75.0
83.9
87.0
90.8
72.7
90.7
84.0
91.4
83.3
94.7
85.2
94.1
100.0
97.6
89.6
95.2
100.0
96.7
28.6
63.9
65.2
76.9
62.5
87.9
83.2
83.7
86.4
91.5
84.2
81.2
89.8
95.0
81.2
85.7
75.5
87.3
77.3
100.0
非正規雇用 臨時雇用・
パート・アル
バイト
57.1
50.0
27.0
23.0
25.0
12.5
16.1
11.3
13.0
8.7
9.2
8.8
27.3
27.3
9.3
7.6
16.0
16.0
8.6
8.6
16.7
16.7
5.3
4.8
14.8
14.8
5.9
5.5
0.0
2.4
2.4
10.4
8.7
4.8
4.1
0.0
3.3
1.7
71.4
71.4
36.1
28.4
34.8
23.2
23.1
15.4
37.5
37.5
12.1
10.9
16.8
14.2
16.3
14.1
13.6
13.6
8.5
7.4
15.8
14.9
18.8
13.0
10.2
10.2
5.0
4.4
18.8
17.4
14.3
14.3
24.5
23.1
12.7
12.1
22.7
22.7
0.0
-
6
110
3.2
若年期における初職
次に、離学直後の初職の状況について見てみよう。表 3 によれば、男性の場合、おおむね
本人の学歴が高いほど「正規雇用」の割合が高くなっている。なかでも、
「20~29 歳」では、
「中学校」42.9%、「高校」73.0%、「短大・高専」75.0%、「大学・大学院」83.9%と、学歴
が低いほど「正規雇用」の割合が押しなべて低下している。学歴による就業形態の開きは、
近年になればなるほど大きくなっているといえよう。
また、女性の場合、男性と同様の傾向を有しつつも、
「正規雇用」の割合はいっそう低くな
っている。
「20~29 歳」における「非正規雇用」の割合は、
「中学校」71.4%、
「高校」36.1%、
「短大・高専」34.8%、「大学・大学院」23.1%と高く、大学・大学院を卒業しても約 4 分の
1 が「非正規雇用」に就いている。
3.3
若年期におけるキャリアパターン
最後に、20~69 歳の各年齢層において、初職から若年期到達職にいたるキャリアパターン
がどのようになっているかを探ってみよう。初職における{正規雇用、非正規雇用}と若年
期到達職における{正規雇用、非正規雇用、無業}という組み合わせから、6 つのキャリア
パターンを抽出して、性・年齢層ごとに整理したものが表 4 である。
男性の場合、「正規―正規」の割合は、「20~29 歳」66.2%、「30~39 歳」83.3%、「40~49
歳」87.4%、
「50~59 歳」91.2%、
「60~69 歳」92.3%と、近年になって大きく低下している。
ただ、「非正規―非正規」は、「20~29 歳」において 11.8%と高いものの、「30~39 歳」では
1.6%と急落している。また、
「非正規―正規」をたどる者の割合も、
「20~29 歳」9.8%、
「30
~39 歳」6.3%と相対的に高いことから、男性は仮に非正規雇用に就いたとしても、その多
くが年を経るとともに正規雇用へ移行していることがうかがえる。
また女性の場合も、「20~29 歳」における「非正規―非正規」の割合は 19.7%と、非常に
高い。しかしながら、すでに 3.1 で指摘したように、婚姻というライフイベントによって、
女性のキャリアパターンは複雑な軌跡を描くことになる。おおよその傾向として、未婚の若
年女性の場合、既婚者に比べて「正規―正規」「非正規―非正規」「非正規―正規」として働
く者の割合が高くなっている。
7
111
表4
男性
女性
20-29
30-39
40-49
50-59
60-69
合計
20-29
30-39
40-49
50-59
60-69
合計
正規―正規
66.2
83.3
87.4
91.2
92.3
86.6
38.1
33.3
29.3
33.6
32.1
32.9
性・年齢層別、キャリアパターン(%)
正規―非正規
5.9
4.2
3.5
2.3
1.2
3.0
12.6
23.5
27.7
23.7
12.6
21.0
正規―無業
2.5
3.0
2.3
1.4
0.6
1.8
15.0
28.1
32.6
35.9
41.0
32.0
非正規―非正規 非正規―正規
11.8
9.8
1.6
6.3
0.5
5.6
0.6
4.3
0.8
5.2
1.9
5.7
19.7
6.5
5.8
4.6
2.9
2.9
2.9
1.6
6.1
2.6
6.2
3.3
非正規―無業 合計(人)
3.9
204
1.6
431
0.7
428
0.2
488
521
0.9
2072
8.2
294
4.8
502
4.5
512
2.3
619
5.6
461
4.6
2388
では、このようなキャリアパターンの変化は、雇用の流動化を示しているのだろうか。こ
こでは、職歴数によって流動化の度合いを探ることにしたい。職歴数は、初職から若年期到
達職のあいだで働き方が変わった回数を示している。働き方の変化とは、①従業先のなかで
「地位」「仕事内容」「役職」が変わったこと、②「従業先」が変わったこと、③「無業(無
職あるいは学生)」になったことという 3 つの出来事からなっている。
性・年齢・キャリアパターンごとに平均職歴数を見てものが表 5 である。表 5 によれば、
男性と女性の職歴数は、それぞれ「20~29 歳」2.3 と 2.5、「30~39 歳」2.8 と 3.4、「40~49
歳」2.9 と 3.5、
「50~59 歳」2.6 と 3.4、
「60~69 歳」2.6 と 2.9 になっている。男女とも、
「20
~29 歳」で低い値を取っているが、年齢の若さを考えると自然であろう。男女別に見た場合、
やや女性で職歴数が多いものの、年齢層ごとに見た限り、時代に応じた顕著な違いは確認で
きない。キャリアパターンごとに見ると、顕著な違いとまでは言えないものの、
「30~39 歳」
の「非正規―非正規」において、その職歴数が男性 5.0、女性 3.9 とその他の年齢層に比べて
やや高くなっている。また、男性の場合、
「30~39 歳」の「非正規―無業」も、6.6 と高い値
を取っている。
表5
性・年齢層・キャリアパターン別、平均職歴数
男性
正規―正規
正規―非正規
正規―無業
非正規―非正規
非正規―正規
非正規―無業
合計
20-29
1.8
3.5
4.4
2.7
3.3
3.3
2.3
30-39
2.5
3.9
4.2
5.0
3.7
6.6
2.8
40-49
2.7
4.8
3.1
2.5
4.9
5.0
2.9
50-59
2.5
4.4
4.6
1.7
3.9
3.0
2.6
60-69
2.5
3.2
3.7
1.5
3.7
2.6
20-29
1.5
3.3
3.1
2.9
2.7
3.8
2.5
30-39
2.4
4.5
3.5
3.9
4.1
3.7
3.4
40-49
3.1
4.2
3.3
2.8
3.4
3.7
3.5
50-59
3.3
3.9
3.1
2.9
3.9
3.4
3.4
60-69
2.9
3.9
2.6
2.2
4.3
3.1
2.9
女性
正規―正規
正規―非正規
正規―無業
非正規―非正規
非正規―正規
非正規―無業
合計
8
112
3.4
まとめ
ここで、今までの結果を改めて整理することにしたい。
第一に、初職から若年期到達職までのキャリアパターンを比べた場合、初職において「非
正規雇用」に従事する者の割合が大きく増えている。近年、その傾向は学歴の程度に相関し
たものとなっている。
第二に、ただ「非正規雇用」をめぐるキャリアパターンは、性別において大きく異なる。
男性の場合、20~30 代にかけて、その多くが正社員に移行する。他方、女性の場合、働き方
は婚姻によって大きく左右され、非正規化の軌跡は複雑なものとなる。ただ、近年、未婚の
若年女性の場合、「非正規雇用」のなかでも、「臨時雇用・パート・アルバイト」ではなく、
「派遣社員」「契約社員・嘱託」として働く者が多くなっている。
第三に、
「非正規―非正規」というキャリアパターンを歩む者は、相対的に働き方の変化を
体験する回数がやや多くなっている。
以上のように、若年期におけるキャリアパターンに焦点を当てた結果、若年者雇用のなか
で「非正規雇用」の占める割合が増えていることが改めて明らかとなった。したがって、次
に問うべき問題は、このようなキャリアパターンの変化が、若者の生活にいかなる影響を与
えているかであろう。次節では、18~34 歳の若年層に焦点を絞って、若者の不安定化の諸相
を考察することにしたい。
4
若者の不安定化の諸相―「2007 年 SSM 若年層郵送調査」より
4.1
現職における就業形態
本節では、
「2007 年 SSM 若年層郵送調査」のデータを用いて、若者の不安定化の諸相を検
討することにしたい。性・年齢層別に現職における就業形態をまとめた表 6 から、前節にお
ける「非正規雇用」の高まりと同様の結果を見出すことができる。
男性の場合、「正規雇用」の占める割合は「18~24 歳」で 63.6%と低いものの、年を重ね
るとともに「25~29 歳」77.8%、「30~34 歳」86.6%と大きく回復していく。「非正規雇用」
の割合も、「18~24 歳」28.8%、「25~29 歳」18.2%、「30~34 歳」10.2%と、徐々に減って
いっている。ただ留意すべきは、とりわけ若い時期の「非正規雇用」において、
「臨時雇用・
パート・アルバイト」だけではなく、
「派遣社員」や「契約社員、嘱託」も一定の割合を占め
ていることだろう。
女性の場合、男性以上に「非正規雇用」の割合が高く、「18~24 歳」35.0%、「25~29 歳」
36.2%、
「30~34 歳」25.2%となっている。また、ここでも「派遣社員」と「契約社員、嘱託」
の広がりを見出すことができる。「派遣社員」と「契約社員、嘱託」を合わせた非正社員は、
9
113
すべての年齢層において「非正規雇用」の約 4 割程度を占めるにいたっている。
表6
正規雇用
男性
18-24
25-29
30-34
合計
18-24
25-29
30-34
合計
女性
4.2
63.6
77.8
86.6
78.4
57.0
50.3
37.9
46.2
性・年齢層別、現職の就業形態(%)
非正規雇用 臨時雇用・
パート・アル
バイト
28.8
16.7
18.2
10.1
10.2
5.5
17.1
9.6
35.0
19.0
36.2
21.5
25.2
14.6
31.0
17.8
派遣社員
契約社員、
嘱託
無業
3.0
4.0
2.4
3.1
4.0
7.4
4.9
5.5
9.1
4.0
2.4
4.5
12.0
7.4
5.8
7.7
7.6
4.0
3.1
4.5
8.0
13.4
36.9
22.9
無職:仕事
を探してい
る
3.0
3.0
1.6
2.4
7.0
6.0
7.8
7.0
無職:仕事
を探してい
ない
4.5
1.0
1.6
2.1
1.0
7.4
29.1
15.8
合計(人)
66
99
127
292
100
149
206
455
現職における不安定化の諸相
では、現職における就業形態の違いは、若者の生活にどのような影響を与えているのだろ
うか。前節で確認したように、近年、
「派遣社員」と「契約社員、嘱託」の割合が増えている
ため、本節では両者を合わせて「派遣・契約・嘱託」というカテゴリーに再編して分析を行
うことにしたい。
「正社員」
「パート・アルバイト」
「派遣・契約・嘱託」という 3 つの就業形
態ごとに、現在の「仕事に対する不満」と「働き方」について尋ねたものが、図 1 である。
第一に、「仕事に関する不満」を見てみよう。図 1 によれば、就業形態のあいだで 20 ポイ
ント以上の開きがあるのは、
「雇用が不安定」
「収入が不安定」
「社会保険や福利厚生が不十分」
「労働時間が長すぎる」という 4 項目である。
「雇用が不安定」と「収入が不安定」は、それ
ぞれ「正社員」17.4%・15.4%、
「パート・アルバイト」62.1%・62.9%、
「派遣・契約・嘱託」
51.8%・48.2%と、
「正規雇用」が低く、
「非正規雇用」が高いという同じ傾向を示している。
つまり、
「パート・アルバイト」と「派遣・契約・嘱託」の違いとは無関係に、
「非正規雇用」
で働く若者は、雇用と収入の不安定さを感じているのだ。また「社会保険や福利厚生が不十
分」と答えた者の割合は、
「正社員」24.8%や「派遣・契約・嘱託」37.3%に比べ、
「パート・
アルバイト」のみ 60.6%と高く、「パート・アルバイト」が制度上保障されていない現状が
浮き彫りとなっている。これらの 3 項目とは対照的に、「労働時間が長すぎる」の場合、「正
社員」が 53.3%に上り、「パート・アルバイト」31.4%、「派遣・契約・嘱託」27.7%を大き
く上回っている。
「正社員」のほうが長時間労働に不満を持っている現状がうかがえる。以上
のように、
「仕事に対する不満」のありようは、就業形態に応じて大きく異なっているといえ
よう。
第二に、「働き方」を見てみると、「仕事に対する不満」に比べて、就業形態における違い
は驚くほど小さい。唯一、
「自分の能力が発揮できる」において、
「正社員」61.7%、
「パート・
アルバイト」54.3%、「派遣・契約・嘱託」44.6%と、就業形態による差が生じており、「派
遣・契約・嘱託」が相対的に能力を発揮する機会に恵まれていないと感じている。したがっ
10
114
て、確かに「仕事に対する不満」は違えども、職場での「働き方」は就業形態において大き
な差異がないといえよう。
「転職したい」と回答した者の割合は、
「正社員」42.9%、
「パート・
アルバイト」52.4%、「派遣・契約・嘱託」59.0%と、「非正規雇用」において高くなってい
る。ただ、転職希望において、
「仕事に対する不満」ほど、大きな開きがないことも事実であ
る。
図1
就業形態別、「仕事に対する不満」と「働き方」(%)
し
た
い
ず
、仕
事
転
に
取
事
職
組
り
楽
む
し
い
映
が
の
よ
り
仕
手
抜
き
を
せ
お
金
分
自
績
実
の
と
収
意
入
見
の
で
連
反
動
き
る
い
自
分
の
事
能
の
力
内
が
容
発
が
不
が
仕
利
福
や
険
保
揮
十
き
つ
分
い
が
生
厚
る
さ
せ
上
会
社
力
能
職
業
な
い
機
価
に
評
当
を
向
正
も
い
て
働
会
さ
れ
す
長
が
間
時
働
労
な
ぎ
る
定
安
不
が
入
収
雇
用
が
不
安
定
100.0
90.0
80.0
70.0
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
正社員
パート・アルバイト
派遣・契約・嘱託
以下では、2.3 で整理した社会的排除アプローチを参考にして、「適正な所得と資源からの
排除」、「サービスからの排除」、「社会関係からの排除」という 3 つの側面から「仕事に対す
る不満」の背景を探ることにしたい。また、「労働市場からの排除」という側面については、
次節で検討する。
第一に、
「適正な所得と資源からの排除」という観点から、就業形態別の年間収入を見てみ
よう。図 2 によれば、
「正社員」
「パート・アルバイト」
「派遣・契約・嘱託」のあいだにはは
っきりした収入の格差が存在する。
「パート・アルバイト」の収入は、
「0~99 万」43.2%、
「100
~199 万」38.7%と相対的に低い一方、「正社員」の収入は、ほぼ 6 割が 300 万円以上の収入
を得ている。
「派遣・契約・嘱託」は、ちょうど「パート・アルバイト」と「正社員」の中間
に位置して、「100~199 万」43.2%、「200~299 万」32.1%と、その二つの範疇でほぼ 4 分の
3 を占めるにいたっている。低所得を計る一つの目安としてしばしば援用される年収 200 万
円を基準に考えてみると、年収 200 万円未満である者の割合は、
「正社員」15.1%、
「パート・
アルバイト」82.0%、「派遣・契約・嘱託」54.3%と、対照的な傾向を示している。
11
115
図2
就業形態別、年間収入(%)
90.0
80.0
70.0
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
0-99
正社員
100-199
200-299
パート・アルバイト
300-399
400-549
派遣・契約・嘱託
550(万円)
無業
このような収入の相違は、若者の生計の立て方にも影響を与えている。就業形態別に、生
計の立て方をまとめたものが表 7 である。
「正社員」に比べて収入の低い「パート・アルバイ
ト」や「派遣・契約・嘱託」は外部に依存する割合が高く、それぞれ「配偶者・パートナー
の収入」31.0%、19.3%、「自分の親の援助」39.8%、43.4%と相対的に高い割合になってい
る。個人の年間収入の低さは、家族からの援助によって補われている。
表7
自分の収入
正社員
パート・アルバイト
派遣・契約・嘱託
無業
合計
87.8
57.5
85.5
11.5
71.1
就業形態別、生計の立て方(%)
配偶者・パート 預貯金をとりくず 自分の親の援 配偶者・パート 親以外の家族・
ナーの収入
して
助
ナーの親の援助 親族の援助
14.6
5.0
21.8
2.8
4.8
31.0
5.3
39.8
2.7
8.0
19.3
4.8
43.4
6.0
66.4
18.0
20.5
4.9
3.3
25.6
7.1
26.5
2.8
5.2
その他
2.0
2.7
3.6
1.6
2.2
むろん、年間収入における違いの背景には、労働時間の長さも大きく関係している。週当
たり労働時間をまとめた図 3 によれば、総じて、
「正社員」、
「派遣・契約・嘱託」、
「パート・
アルバイト」の順番に労働時間が長くなっている。週当たりの労働時間が 60 時間を越える長
時間労働者の割合を見てみると、「正社員」32.6%、「派遣・契約・嘱託」15.4%、「パート・
アルバイト」11.1%と、正社員が約 3 分の 1 と非常に高く、また非正規雇用でも長時間働い
ている者が 10%強は存在している。
12
116
図3
就業形態別、週当たり労働時間(%)
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0-29
30-39
40-49
50-59
60(時間)
正社員
パート・アルバイト
派遣・契約・嘱託
第二に、
「サービスからの排除」を検討してみよう。
「2007 年 SSM 若年層郵送調査」では、
図書館・医療機関・スポーツ施設・公営ホール・公共交通機関などの公的サービス、あるい
はスーパーや飲食店など私的サービスのアクセスに関する質問項目を設けていないため、残
念ながら、その実情はわからない。ここでは、
「サービスからの排除」として、就業形態に応
じた社会保険や社内制度の適用率を提示することにしたい。図 4 によれば、全項目中「一時
金(ボーナス)」において、もっとも就業形態の違いが現れている。
「正社員」84.1%、
「派遣・
契約・嘱託」39.8%、「パート・アルバイト」13.3%と、「一時金(ボーナス)」の有無は、年
間収入の多寡と同じ傾向を示している。
「年金保険」
「医療保険」
「雇用保険」
「有給休暇」
「厚
生施設」など、そのほかの項目を見てみると、程度に違いはあるものの、
「正社員」および「派
遣・契約・嘱託」に多く適用され、
「パート・アルバイト」のみ極度に低くなっている様子が
明らかである。このように、社会保険が就業形態に依存していることによって、とりわけ「パ
ート・アルバイト」は企業を基盤とした社会保険制度の埒外に留め置かれている。したがっ
て、生活保護制度など、無拠出で受給できる社会保障制度を活用することが極めて難しい日
本において、
「パート・アルバイト」に従事する若者は生活を保護する社会サービスから排除
されているといえよう。
13
117
図4
就業形態別、社会保険・社内制度の適用率(%)
度
優
施
そ
の
他
の
厚
生
シ
ュ
レ
ッ
フ
リ
一
正社員
待
制
設
暇
休
暇
有
給
休
険
雇
用
保
険
保
医
療
険
保
年
金
時
金
(ボ
ー
ナ
ス
)
90.0
80.0
70.0
60.0
50.0
40.0
30.0
20.0
10.0
0.0
パート・アルバイト
派遣・契約・嘱託
最後に、
「社会関係からの排除」を考察することにしたい。この調査では、家族以外に、日
常生活をおくるうえで個人的な相談や話をできる人の有無について尋ねている。調査結果に
よると、相談できる人が「1 人もいない」と答えた者は、「正社員」2.0%、「派遣・契約・嘱
託」2.4%。「パート・アルバイト」3.5%、「無業」4.1%と非常に少ない。さらに質問では、
相談できる人の数についても尋ねているものの、おおよそ半数が「無回答・該当なし」なの
で、正確な実態をつかむことはできない。
そのほか、現職における職場の人間関係を示すものとして、
「仲のいい同僚」と「信頼でき
る上司」の有無を尋ねている。図 5 によれば、仲のいい同僚が「多くいる」あるいは「少し
いる」と答えた者を合計した割合は、「正社員」81.3%、「パート・アルバイト」77.4%、「派
遣・契約・嘱託」75.6%と、就業形態のあいだにほとんど大きな違いはない。また図 6 によ
れば、信頼できる上司が「多くいる」あるいは「少しいる」と答えた者を合計した割合は、
「正社員」72.3%、「パート・アルバイト」72.5%、「派遣・契約・嘱託」63.8%と、「派遣・
契約・嘱託」のみやや低く、上司との関係が弱くなりがちなことがうかがえる。ただ総じて、
就業形態によって、職場の人間関係が大きく違う様子は見られないといえよう。
図5
就業形態別、仲のいい同僚(%)
0%
20%
40%
60%
80%
図6
就業形態別、信頼できる上司(%)
100%
0%
正社員
正社員
パート・アルバイト
パート・アルバイト
派遣・契約・嘱託
派遣・契約・嘱託
多くいる
少しいる
あまりいない
いない
多くいる
同僚はいない
14
118
20%
少しいる
40%
あまりいない
60%
いない
80%
上司はいない
100%
以上のように、就業形態別に若者の雇用を見てみると、所得の多寡や労働時間の長さ、そ
して社会保険や社内制度の適用率において違いが見られ、その生活の経済的条件にははっき
りとした異同がある。ただ他方で、職場での働き方や人間関係においては顕著な相違は見ら
れず、一定の安定した生活がうかがえることも事実である。その証左として、就業形態別に
「生活全般」に対する満足度を尋ねても、
「満足している」あるいは「どちらかと満足してい
る」と答える者の割合は、「正社員」55.0%、「パート・アルバイト」47.8%、「派遣・契約・
嘱託」49.4%と大きな違いはない(図 7)。言い換えれば、就業形態に依拠する経済条件の違
いはありながらも、それほど大きな生活上の不満を抱えているわけではないという、若者の
アンビヴァレントな状況を見出すことができよう。
図7
就業形態別、生活全般の満足度(%)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
正社員
パート・アルバイト
派遣・契約・嘱託
満足している
どちらともいえない
不満である
4.3
どちらかといえば満足している
どちらかといえば不満である
初職と現職によるキャリアパターン
若者のアンビヴァレントな状況の理由として、今日の若者はたとえ非正規雇用に就いたと
しても、正規雇用への移行が容易なので、不満が少ないのかもしれない。本節では、若者の
キャリアパターンを整理して、いわば「労働市場からの排除」という側面を考察することに
したい。
最初に、初職と現職における就業形態の関係を探ってみよう。表 8 によれば、初職におい
て「正社員」だった者の 70.0%は現職においても「正社員」にとどまり、「派遣・契約・嘱
託」だった者の 52.2%も同じ従業上の地位にとどまっている。「正社員」と「派遣・契約・
嘱託」が初職と現職の連関が相対的に強い一方、
「パート・アルバイト」で初職と現職が同じ
者は 37.3%と低く、「パート・アルバイト」から「正社員」に移行した者も 31.4%に及ぶ。
表8
初職
正社員
パート・アルバイト
派遣・契約・嘱託
合計
正社員
70.0
31.4
19.6
59.3
初職と現職の就業形態(%)
現職
パート・アルバイト 派遣・契約・嘱託
8.4
7.2
37.3
11.8
15.2
52.2
14.5
10.8
15
119
無業
14.5
19.6
13.0
15.4
合計(人)
573
153
46
772
では、先の表 4 のように、就業形態を「正規雇用」「非正規雇用」「無業」という 3 カテゴ
リーに再編して、性・年齢層別にキャリアパターンの分布を考察してみよう。やはりここで
も、男性の場合、「18~24 歳」56.9%、「25~29 歳」67.7%、「30~34 歳」76.4%、また女性
の場合、「18~24 歳」49.0%、「25~29 歳」44.3%、「30~34 歳」32.8%と、年齢層が若いほ
ど「正規―正規」の割合が低くなっている。
「18~24 歳」という年齢において、
「非正規―非
正規」の割合は、男性で 24.6%、女性で 26.0%に至り、入職時以降、若者にとって「非正規
雇用」という働き方が当たり前のものになりつつあるといえよう。
表9
男性
女性
18-24
25-29
30-34
合計
18-24
25-29
30-34
合計
正規―正規
56.9
67.7
76.4
69.1
49.0
44.3
32.8
40.2
性・年齢層別、キャリアパターン(%)
正規―非正規
3.1
6.1
5.5
5.2
9.0
15.4
18.6
15.5
正規―無業
4.6
1.0
0.8
1.7
3.0
9.4
28.4
16.6
非正規―非正規
24.6
12.1
4.7
11.7
26.0
20.8
6.9
15.7
非正規―正規
7.7
10.1
10.2
9.6
8.0
6.0
5.4
6.2
非正規―無業
3.1
3.0
2.4
2.7
5.0
4.0
7.8
6.0
合計(人)
65
99
127
291
100
149
204
453
表 9 から分かるように、初職の「非正規雇用」が増しているとすると、若者はどのように
初職にたどり着いているのだろうか。学歴および中退経験の有無別に、初職での就業形態を
まとめたものが表 10 である。表 10 によれば、初職が「正社員」の割合は、
「中学校」41.7%、
「高校」67.5%、「短大・高専」79.0%、「大学・大学院」78.7%、「専修」77.3%と、相対的
に学歴が低いほど正社員率が低下する傾向にあるといえよう。
「中学校」卒業の場合、その人
数は多くないものの、「パート・アルバイト」が 58.3%に上るうえ、「派遣・契約・嘱託」に
就く者はいないなど、不安定な様子がうかがえる。また、「高校」卒業の者も、「パート・ア
ルバイト」26.1%、「派遣・契約・嘱託」6.4%と、約 3 分の 1 が「非正規雇用」から出発す
ることになる。
また、中退経験が初職に与える影響は、いっそう顕著なものである。最後に行った学校を
中退した者 50 人のうち、「正社員」になったものは 24.0%に過ぎず、「パート・アルバイト」
68.0%、「派遣・契約・嘱託」8.0%と「非正規雇用」の占める割合が高い。学歴の高さとと
もに、円滑な離学であるかどうかが、初職に大きな影響を与えるのだ。したがって、初職に
おける不安定さの問題は、就業形態の如何だけではなく、学校から職場への円滑な移行にお
いても考慮されるべきだろう。
16
120
表 10
学歴
卒業・中退
学歴・中退経験別、初職の就業形態(%)
中学校
高校
短大・高専
大学・大学院
専修
合計
卒業
中退
合計
正社員
41.7
67.5
79.0
78.7
77.3
74.1
77.3
24.0
74.0
パート・アルバイト
58.3
26.1
15.2
16.5
14.2
19.9
16.7
68.0
20.0
派遣・契約・嘱託
6.4
5.8
4.9
8.5
6.0
6.0
8.0
6.0
合計(人)
24
234
138
267
141
804
750
50
800
表 11 が示しているように、離学してから就職するまでの移行期間の長さに応じても、初職
の就業形態は大きく異なる。離学後、「すぐに(1 ヶ月未満で)」就職した者の 83.9%が「正
社員」になっている一方、「少ししてから(1~3 ヶ月以内に)」と答えた者は 33.3%、「だい
ぶしてから(4 ヶ月以上)」と答えた者は 32.1%しか「正社員」に就職していない。したがっ
て、
「少ししてから(1~3 ヶ月以内に)」あるいは「だいぶしてから(4 ヶ月以上)」就職した
者の約 3 分の 2 は「非正規雇用」に従事していることを思えば、円滑な移行と初職の就業形
態は強く相関しているといえよう。キャリアパターンにおける不安定化は、
「正規雇用」と「非
正規雇用」間の移行をめぐるものであると同時に、学校から職場の移行をめぐる問題でもあ
る。
表 11
離学直後の移行期間別、初職の就業形態(%)
すぐに(1ヶ月未満で)
少ししてから(1~3ヶ月以内に)
だいぶしてから(4ヶ月以上)
4.4
正社員
83.9
33.3
32.1
74.7
パート・アルバイト
11.8
47.0
58.0
19.2
派遣・契約・嘱託
4.3
19.7
9.9
6.1
合計(人)
671
66
81
818
現職における非正規雇用の規定要因
最後に、現職における非正規雇用を規定する要因を考察することにしたい。ただ、10 代や
20 代前半の若いときは、就職し始めてから十分に移行する猶予もなく、結果的に初職に留ま
ることが多いかもしれない。したがって、分析では、25~34 歳の若者に対象を絞り、現職に
おいて「非正規雇用」={臨時雇用・パート・アルバイト、派遣社員、契約社員・嘱託}で
あることを被説明変数としたロジスティック回帰分析を行う。説明変数には、性別、本人の
年齢、本人の学歴、本人が 15 歳時における父親の職業、初職における非正規雇用経験、初職
における社会関係資本を用いて、社会階層も視野に入れた考察を行う 1。
1
父親の職業については、村瀬洋一による「1995 年 SSM 総合職業分類」作成プログラムを
参照して、
「自営」={自営ノンマニュアル、自営マニュアル}、「専門・管理」={専門、管
理}、「ホワイトカラー」={大企業ホワイトカラー、中小企業ホワイトカラー}、「ブルーカ
ラー」={大企業ブルーカラー、中小企業ブルーカラー}、「その他」={農業、無職、学生}
に再コードした(村瀬 2003)。その際、2005 年から採用された新たな職業コードを追加した。
17
121
その結果を示したものが、表 12 である。まず、性別と年齢を見てみると、やはり女性であ
るほど、そして年齢が若いほど現職において非正規雇用に就きやすいことが分かる。また、
本人の学歴も、非正規雇用であるかどうかに影響を与え、中学校卒や高校卒のほうが、大学・
大学院卒に比べて非正規雇用に就く割合が高い。さらに、父親の職業がホワイトカラーの場
合、本人の学歴をコントロールしても、現職が非正規雇用につながりやすいという結果が現
れており、社会階層の要因がうかがえる。また、初職における就業形態が非正規雇用であっ
た経験が持つ影響力を探ってみると、非常に強い効果が出ている。つまり、初職に非正規雇
用に就くと、そのまま現職において非正規雇用に就く可能性が高くなるということである。
初職における非正規雇用経験を投入すると、年齢の効果が消えてしまっていることにも留意
すべきだろう。最後に、仲のいい同僚や信頼できる上司など、職場における人間関係が現職
における就業形態に及ぼす影響を調べてみると、いかなる効果も見出すことはできず、社会
関係資本の役割を確認することはできなかった。
表 12
現職における非正規雇用のロジスティック回帰分析(N=491)
説明変数
女性ダミー
年齢
本人学歴
父職
中学校
高校
専修
短大・高専
大学・大学院
自営
ホワイトカラー
ブルーカラー
その他
専門・管理
初職非正規ダミー
初職の社会関係資本 仲のいい同僚
信頼できる上司
定数
モデルχ 2
df
-2Log Likelihood
**p<0.01, *p<0.05, +p,0.1
4.5
モデル1
1.04 **
-0.07 *
モデル2
1.16 **
-0.09 *
2.02 **
0.52 +
0.20
0.03
-
モデル3
1.10 **
-0.07 *
2.27 **
0.61 *
0.20
0.09
-0.54
0.67 *
-0.14
-0.03
-
0.35
25.76 **
2
570.87
0.44
36.17 **
6
560.47
0.05
48.24 **
10
548.40
モデル4
1.14 **
-0.05
1.84 *
0.54 +
0.16
0.10
-0.66
0.70 *
-0.10
-0.12
1.46 **
-0.01
0.12
-1.48
85.15 **
13
511.49
まとめ
以上、第 4 節では、
「2007 年 SSM 若年層郵送調査」から、若者のキャリアパターンを概観
して、何よりも、その不安定化の具体的な諸相を整理することに焦点を当て、考察を進めて
きた。その結果をまとめておこう。
第一に、就業形態別にその働き方を見てみると、
「雇用が不安定」
「収入が不安定」
「労働時
また、初職における社会関係資本は、職場における「仲のいい同僚」および「信頼できる上
司」について尋ね、それぞれ「多くいた」=1~「いなかった」=4 と割り振った。
18
122
間が長すぎる」
「社会保険や福利厚生が不十分」などの項目において、大きな違いが浮き彫り
となった。他方、生活一般に対する満足度を見てみると、就業形態において大きな違いはな
く、働き方の現状と生活意識をめぐってアンビヴァレントな関係がうかがえる。
第二に、就業形態の違いにおける不安定化の内実を探ってみると、
「適正な所得と資源から
の排除」として、年間収入の格差が明らかになった。また、「サービスからの排除」として、
「臨時雇用・パート・アルバイト」において、社会保険や社内制度が十分に適用されていな
い。
「 社会関係からの排除」に関しては、就業形態のあいだにそれほど大きな違いはなかった。
第三に、若者のキャリアパターンを探ってみると、やはり非正規雇用の占める割合の増大
がうかがえる。とりわけ、非正規雇用の占める位置は、学校から職場への移行、そして職場
間の移行(正規→非正規、非正規→非正規、非正規→正規)において複雑な軌跡を描いてい
る。
第四に、現職における非正規雇用の就きやすさについて探ってみると、女性であること、
年齢が若いこと、中学校あるいは高校卒であること、父親の職業がホワイトカラーであるこ
と、初職において非正規雇用に就いていることが規定要因として浮かび上がってきた。
5
おわりに―今後の課題にむけて
本稿での分析を終えるにあたり、今後の課題を提示することにしたい。
第一に、本稿では、今回の SSM 調査の特徴の一つである職歴データを十分に整理すること
ができなかった。確かに、初職と現職における就業形態を軸にキャリアパターンの整理を進
めてきたが、近年しばしば指摘される「雇用の流動化」の是非を検証するには不十分といわ
ざるをえない。職歴における移動の回数、移動にいたるまでの期間、移動経路、移動による
環境の変化など、
「雇用の流動化」の内実を視野に入れた、職歴に対する分析枠組みを提示す
る必要があるだろう。
第二に、本稿では就業形態に焦点を当て、とりわけ正規雇用と非正規雇用の違いに着目し
た。だが、非正規雇用とひと言で言っても、「臨時雇用・パート・アルバイト」「派遣社員」
「契約社員・嘱託」における働き方の違いを無視することは難しいように思える。近年、
「雇
用の不安定化」とともに、
「雇用の多様化」という言葉も叫ばれて久しいが、やはり非正規雇
用を一枚岩として理解するよりは、むしろその違いに目を向ける必要があるだろう。とりわ
け、近年になって増加を続けている「派遣社員」や「契約社員」の趨勢は、若者の雇用にと
って大きな意味を持つに違いない。したがって、「2007 年 SSM 若年層インターネット調査」
のデータに基づいて、非正規雇用の内実を考察する必要があるだろう。
第三に、日本では、1990 年代に入って、急激に若年者雇用問題が顕在化してきた。とはい
え、このような趨勢は必ずしも日本に特有の現象ではない。欧米では、若年者雇用の不安定
19
123
化は夙に指摘されてきた。ただ、雇用法制、社会保障制度、家族形態、就労に至る道のりな
どの点を考慮すると、若年者を取り巻く環境は日本と欧米において必ずしも同一とはいいが
たい。したがって、
「2005 年 SSM 韓国調査」
「2005 年 SSM 台湾調査」のデータをもとに、東
アジアにおける若年者雇用の比較分析も、今後の大きな課題になるといえよう。
【文献】
阿部彩,2007,「現代日本の社会的排除の現状」福原宏幸編『社会的排除/包摂と社会政策』法
律文化社.
苅谷剛彦,2001,『階層化日本と教育危機』有信堂高文社.
小杉礼子,2002,「学校から職業への移行の現状と課題」小杉礼子編『自由の代償/フリーター』
日本労働研究機構.
小杉礼子,2007,「学校から職業への移行の変容」堀有喜衣編『フリーターに滞留する若者たち』
勁草書房.
佐藤博樹・小泉静子,2007,『不安定雇用という虚像』勁草書房.
下村英雄,2002,「フリーターの職業意識とその形成過程」小杉礼子編『自由の代償/フリータ
ー』日本労働研究機構.
太郎丸博,2006,「社会移動とフリーター」太郎丸博編『フリーターとニートの社会学』世界思
想社.
樋口明彦,2004,「現代社会における社会的排除のメカニズム」『社会学評論』217.
――――,2006,「社会的ネットワークとフリーター・ニート」太郎丸博編『フリーターとニー
トの社会学』世界思想社.
平沢和司,2005,「家庭環境・学歴と職業的自立」『平成 16 年度青少年の社会的自立に関する意
識調査』内閣府政策統括官(共生社会政策担当).
堀有喜衣,2007,「広がらない世界」堀有喜衣編『フリーターに滞留する若者たち』勁草書房.
本田由紀,2005,『多元化する「能力」と日本社会』NTT 出版.
村 瀬 洋 一 , 2003 ,「 1995
年
SSM
調 査 用 の 職 業 分 類 作 成 プ ロ グ ラ ム 」
(http://www.ir.rikkyo.ac.jp/~murase/ssm/job.html,2007 年 12 月 15 日).
Gordon, David, et al., 2000, Poverty and Social Exclusion in Britain, Joseph Rowntree Foundation.
20
124
Changes in Career Patterns of Youth in Japan
Akihiko HIGUCHI
Hosei University
[email protected]
In this article, I examine changes in career patterns of youth in Japan on the basis of the Social
Stratification and Social Mobility Survey in Japan (2005) and the Social Stratification and Social
Mobility Youth Mail Survey (2007).
First, I confirm the rapid increase of non-regular youth workers including part-time workers,
temporary workers or contract workers.
Next, the data reveals the differences in degree of stability between regular workers and non-regular
workers about wage, working time and the take-up of social insurances. But, on the other hand, I
don’t found the direct information about the exclusion from social relations and social activi ties
among non-regular workers.
The findings suggest the disadvantages of non-regular youth workers resulted from position of
employment.
21
125
若年層非正規雇用・無職の地域分析
栃澤 健史
(大阪大学大学院人間科学研究科)
【要旨】
本稿では若年層非正規雇用・無職と地域の関連を検討する。若年層非正規雇用・無職について
は大都市に集中していることが示唆されている。この仮説を若年層非正規雇用・無職のなりやす
さが居住地域によって異なるのかを分析することによって検証する。その結果、次の知見が得ら
れた。①初職については、「大都市中心」に比べて「大都市周辺」
「地方中核都市」では非正規雇
用のなりやすさに有意な違いがみられないが、
「地方周辺都市」
「郡部」では「大都市中心」より
も非正規雇用になりにくい。②現職では「大都市中心」と「大都市周辺」
「地方中核都市」「地方
周辺都市」「郡部」でいずれも非正規雇用・無職のなりやすさに有意な違いがみられない。この
結果は、とりわけ現職については、若年層非正規雇用・無職が大都市に限定される問題ではない
ことを示している。また大都市に比べて上昇移動の機会に恵まれないとされる地方において、若
年層非正規雇用・無職のなりやすさが大都市と変わらないという状況が、地方における地域格差
のリアリティの一因となっている可能性がある。
キーワード:若年層非正規雇用・無職
1
問題
地域
新たなる貧困
大都市と地方
地域格差
―若年層非正規雇用・無職は大都市に集中しているのか?
かつて「フリーター」という名称が一般化し、その存在が認識された当初、非正規雇用・
無職の問題は、当事者の選択の問題として、あるいは若年労働者の道徳的問題として言及さ
れることが多かった。だが、近年では産業構造や労働市場の変化に伴う社会構造の問題とし
て、そして社会階層や社会移動の観点から社会的不平等の問題として捉えられるようになっ
てきている(太郎丸・亀山 2006)。こうした社会学的アプローチによる研究が蓄積されつつあ
るとはいえ、社会階層や社会移動の研究における関心のひとつである地域差という視点から
若年層非正規雇用・無職を論じた研究は、これまでほとんど行われてこなかった。
もっとも、若年層非正規雇用・無職と地域との関連にそれほど注意が払われてこなかった
のは、社会学だけに限ったことではなく、若年層非正規雇用・無職の研究一般にもいえるこ
とである。その理由のひとつとして、若年層非正規雇用・無職が大都市に集中しており、大
都市中心の問題であると考えられてきたということが挙げられよう。例えば、若年労働市場
の地域特性を考察した太田聰一は、新規高卒者の内定率が低い都道府県に大都市を有する都
1
127
道府県が含まれる理由を「フリーターになる若者が多いため」と示唆している(太田 2005:
20) 1。太田によれば、都市部では若者を魅了する文化が集積されており、夢を求めてフリー
ターになろうとする若者が多く、またそれを肯定する価値観が強い。さらに経済のサービス
化が進んだ都市部ではフリーターへの需要も旺盛である。
「このように、都市部においては若
者の欲求と企業のニーズが合致して、多数のフリーターが生み出されるわけである」(太田
2005:20)。この言明にみられるような大都市中心の問題としての若年層非正規雇用・無職の
姿は、一般的に「フリーター」という呼称が喚起するイメージとも合致していると思われる。
実際、
「フリーター」という言葉から地方の若年非正規雇用・無職を想像しようとしても、に
わかにそのイメージや彼らのライフスタイルが思い浮かばないのが普通であろう。
若年層非正規雇用・無職が大都市に集中していると考えることは、ある意味で正しいこと
ではある。というのも、人口規模でみれば大都市に若年層非正規雇用・無職が多く存在する
ことは、おそらく間違いないからである。とはいえ、こうした「常識」や都市的なイメージ
を持つ「フリーター」という言葉から一度離れて、別の視点から若年層非正規雇用・無職と
地域の関連について問うてみることも必要である。すなわち、夢を追い求めるといった本人
の動機とは関係なく、若年層非正規雇用・無職という不安定な立場の若年労働者が、地方に
も存在する可能性を想像してみるということである。
近年、再び「地域格差」ということがいわれるようになってきている。所得等の指標でみ
た場合の歴史的趨勢としては都市と地方の格差が縮小しているにもかかわらず、地方におい
て地域格差のリアリティが増している理由としては、人口減尐の影響、構造改革による影響
など様々な要因が指摘されている(みずほ総合研究所 2007)。地域格差の要因は様々であろう
が、地方においても都市と同様に若年層非正規雇用・無職が増加していることが一因となっ
ていることも十分考えられる。この推論の根拠となるような議論がある。ウルリヒ・ベック
は、産業資本主義・労働市場社会の発展や教育機会の拡大等に伴って、階級や社会階層に基
づいた出自による拘束や不平等から、原因と結果が個人に帰される新たな貧困による不平等
へという変化について論じている(Beck 1986=1998)。この議論において彼が指摘するのは、
階級や社会階層に基づく既存の拘束や不平等が消えてなくなるということではなく、これら
が維持されつつも、長期失業や臨時雇用などの増加という形で、これまでの階級論や社会階
層論では捉えきれないような、新たなる貧困が出現しているということである。もしベック
が論じるような社会への移行が現在の日本で進行しているとすれば、都市化の進展や広範な
意味での社会的移動の拡大もあって、人々は居住している地域による拘束から以前よりも自
由になる一方で、比較的にどこにおいても新たなる貧困というリスクを背負うようになりつ
つあると考えられよう。すなわち、不安定で比較的不利な立場という点で若年層非正規雇用・
無職を新たなる貧困の問題として捉えるならば、ある特定の地域に限らず、どの地域にあっ
1
この場合の「フリーター」とは無職を含めない非正規雇用のみを指している。
2
128
ても非正規雇用・無職になるリスクは変わらないということが考えられるのである 2。
このような理論的仮説に立てば、若年層非正規雇用・無職を人口規模ではなく、若年人口
に占める割合でみた場合に、若年層非正規雇用・無職が大都市のみならず地方にも同様の割
合で存在している可能性が考えられる。あるいはリスクという観点からいえば、若年層非正
規雇用・無職のなりやすさが大都市と地方とで変わらないという可能性が考えられる。その
場合、若年層非正規雇用・無職が大都市中心の問題であるとは必ずしもいえず、地方も含め
た問題として、あるいはそれぞれの地域に特有の事情も考慮して考察を進めるべき問題とし
て捉え直す必要があることが示唆されるだろう。若年層非正規雇用・無職が大都市に集中し
ているという説と、地方でも大都市と同様に非正規雇用・無職になるという説のどちらが正
しいのか。これらの仮説の検証は、市区町村単位の地域区分による地域変数を用いて量的デ
ータを分析することにより可能である。本稿では、初職非正規雇用と初職居住地との関連、
および現職非正規雇用・無職と現在居住地との関連の 2 時点について分析することで、若年
層非正規雇用・無職のなりやすさが居住地域によって異なるのか否かを検討する。
こうした試みは、若年層非正規雇用・無職の研究において重要であるだけではなく、社会
階層や社会移動の研究においても重要であると考えられる。これまでの社会階層や社会移動
の研究では、主に上昇移動を念頭において、個人の地位達成を促進するのか、あるいは制約
するのかという観点から地域を扱うことが中心的テーマのひとつであった(原 2002)。また、
そうすることによって、その時代の地域格差や地域構造の様相が論じられてきた。他方、本
稿のアプローチは、若年層非正規雇用・無職という不安定で比較的不利な立場にとくに注目
し、それを指標として地域の様相をみようとするものである。この新たな指標を導入するこ
とにより、地方で現在起こっている変化について、既存のアプローチでは捉えきれない部分
を補うような知見が得られるのではないかと考えるのである。この点については、分析結果
を踏まえて最後に考察したい。
2
先行研究
量的データに基づいて若年層非正規雇用・無職の地域分布を調べた研究は数尐ないが、そ
れらの先行研究では若年層非正規雇用・無職が大都市を有する首都圏や関西圏に多いことが
2
無職は別として、非正規雇用については本人が自分の働き方として選択しているので問題はないという議
論もあり得る。また原純輔は、これまでの地位達成過程が前提とする上昇移動を必ずしも目標としないライ
フスタイル追求の動きがみられ、そうした職業ではなく生活の場を重視する生き方においては、「地位達成
を促進したり制約したりする要因としてではなく、追求の対象として」の地域が問題となる と指摘している
(原 2002:60)。原の議論には首肯すべき点があるが、ライフスタイルとして非正規雇用や居住地を選択する
にしても、現状では不安定で不利な労働条件や社会的地位も同時に選択せざるを得ない点で、本稿では非正
規雇用・無職と地域の関連を不平等の問題として扱うべきであると考える。
3
129
示唆されている。例えば、
『就業構造基本調査』(1997)から 15~24 歳の都道府県別パート・ア
ルバイト比率を調べた小杉礼子によれば、その比率は沖縄県の 29.6%から秋田県の 4.2%まで
大きな開きがあり、パート・アルバイト比率が多い上位県は沖縄を除き、首都圏(東京、神奈
川、埼玉、千葉)と関西圏(和歌山、京都、奈良、大阪、兵庫)に集中している(小杉 2001)。こ
のことから、小杉は「フリーターは明らかに都市集中型である」と主張している(小杉 2001:
47)。また森博美・坂田幸繁・山田茂は『就業構造基本調査』(1987,1992,1997)のリサンプリ
ング・データを用いて、人口規模の差に起因する要因を調整した労働人口 1 万人当たりの若
年層非正規雇用・無職の密度を地域ブロック別に試算している(森・坂田・山田 2005)。彼ら
は『労働白書』(平成 13 年版)によるフリーターの定義 3に基づきながら、男性の非未婚者や
女性の勤続年数 5 年以上の者などを定義から除外した「狭義のフリーター」と、派遣・嘱託
といったその他の非正規雇用、求職していない無職などを段階的に定義にくわえた 4 つの「広
義のフリーター」を用いて、それぞれ地域ブロック別の推計を算出している。それによれば、
労働人口 1 万人当たりの密度の推計でみると、「狭義のフリーター」では関東圏で 24.0 人、
近畿圏で 27.0 人とそれ以外の地域圏の平均である 18.9 人を上回っている。そこで彼らは「狭
義のフリーター」では「関東や近畿で(「狭義のフリーター」)の規模そのものも大きく、ま
たその密度も高いことがわかる」と結論づけている(森・坂田・山田 2005:151)。だが一方
で、もっとも「広義のフリーター」では関東圏で 53.9 人、近畿圏で 58.2 人とそれ以外の地
域圏の平均である 45.6 人を上回っているが、九州・沖縄圏も 54.1 人と近畿圏に次ぐ高い密
度となっており、必ずしも関東圏や近畿圏に集中していないことも示されている。いずれの
研究にしても、大都市を有する地域で若年層非正規雇用・無職の割合が高いことが示唆され
ているものの、大都市に集中しているといえるほどの結果は示されていない。
このように先行研究では基礎的な分析に留まっているのだが、これらの先行研究から本稿
の分析で考慮すべき問題を見出すことができる。第一に、地域の単位と区分の問題である。
都道府県や地域ブロックでは単位としては大き過ぎるので、それだけで都市集中型の問題と
断言するには無理がある。市区町村単位の人口規模や都市度に基づいてカテゴリーをつくり、
その地域区分によって分析する方が、より的確な検証を可能にするだろう。これまでの SSM
調査で用いられてきた地域区分として人口規模による地域区分がある。塚原修一・野呂芳明・
小林淳一は、人口 50 万人以上の市部を「大都市」、10 万人以上 50 万未満の市部を「中都市」、
10 万人未満の市部を「小都市」、それ以外の郡部を「町・村」として、居住地による地域差、
出身地の地域効果、地域移動について検討している(塚原・野呂・小林 1990)。こうした人口
規模による地域区分は、各市区町村が比較的自律していることが前提となっている 4。これは、
3
15~34 歳のアルバイトまたはパートの雇用者で、男子は継続就業年数が 5 年未満の者、女子は未婚の者、
または家事も通学もしていないアルバイト・パートの仕事を希望する無職の者。
4
このことは、地域の要因を実証的に検討する古典的研究を行ったリプセットとベンディックスが、地域を
「コミュニティ」と表現していることにもあらわれている(Lipset and Bendix 1959=1965)。
4
130
就業と居住地の関連についていえば、居住地と勤め先が一致しているという前提が強く、通
勤による越境が考慮されないということである。この難点はいかなる地域区分にも当てはま
ることではあるが、大都市に若年層非正規雇用・無職が集中しているか否かを検証する本稿
の分析では、大都市を個別の都市としてみるよりも隣接する都市も含めた大都市圏として捉
える方が適切であると考えられるので、この点でとくに問題となる 5。これにたいして林拓也
は、地位達成に必要とされる諸機会の多寡が人口規模を指標とする際の本質であるとして、
就業や就学の機会へのアクセスという観点から大都市圏を考慮した地域区分を提案している
(林 1997)。その地域区分とは、三大都市圏の中枢であり豊富な機会を有する「六大都市」、
六大都市に周辺に位置する「大都市周辺都市」、県レベルでもっとも諸機会が整備されている
「地方中核都市」、それ以外の地方の市部である「地方都市」、郡部である「村・町」である 6。
この大都市圏を考慮した地域区分は、就業機会へのアクセスの度合いであると同時に、都市
化の度合いを示すものとも考えられる(稲月 1998)。したがって、本稿の分析で用いる地域区
分として適していると考えられるので、本稿では林による区分を採用して分析を行うことに
する。ただし、人口規模による地域区分を用いた分析結果も併せて示すことにする。
第二に、若年層非正規雇用・無職の定義の問題である。森・坂田・山田の研究(2005)から
は、若年層非正規雇用・無職の定義によって、地域分布の差が異なることが示されている。
どのような定義を用いるのかは分析の目的によって異なるであろうが、地域に焦点を当てた
詳細な分析がほとんど行われていないなかでは、若年層非正規雇用・無職に関する先行研究
で用いられている標準的な定義を使用することが望ましいであろう。本稿では小杉(2003)や
太郎丸・亀山(2006)に基づきつつ、20~34 歳で学生でも主婦でもないパート・アルバイト・派
遣社員・契約社員・嘱託・内職および求職中の無職を若年層非正規雇用・無職という定義を
採用する 7。
第三に、純粋に若年層非正規雇用・無職と地域の関連といえるのかという問題である。つ
5
札幌・仙台・広島・熊本・鹿児島といった三大都市圏以外の都市が「大都市」に含まれている一方で、
三大都市圏に含まれる東京 23 区・大阪市・名古屋市に隣接する都市群が「中都市」
「小都市」にカテゴライ
ズされてしまうという問題がある。
6
具体的には、「六大都市」とは東京 23 区・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸、「大都市周辺都市」とは東
京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・愛知県・京都府・大阪府・兵庫県に含まれるその他の都市、「地方中核
都市」とは札幌・仙台・広島・福岡・北九州などの政令指定都市と県庁所在地、「地方都市」とはそれ以外
の市部、「村・町」とはすべての郡部である(林 1997:47-48)。
7
本稿において、契約社員・派遣社員・嘱託・内職を定義に含めるのは、これまで典型的とされてきた雇用
形態にたいして不安定で不利な雇用であると考えるためである。また小杉や太郎丸・亀山の定義では、パー
ト・アルバイトの形態で就業したい無職が含まれるが、本稿では求職中の無職とした。なお、若年層非正規
雇用・無職の研究において、その定義から女性既婚者と 35 歳以上を除くことは「常識」である。だが、男
性の場合は結婚経験にかかわらず「非正規雇用・無職」と定義されるのにたいして、女性の場合は非未婚女
性が「非正規雇用・無職」の定義から除かれること(すなわち女性の場合のみ未婚者を若年層非正規雇用・
無職とみなすこと)は、性別役割分業を前提としている点で問題がある(太郎丸・亀山 2006)。また年齢につ
いては、35 歳以上となると同じ従業上の地位であっても若年層非正規雇用・無職の定義から除かれてしま
うことも、不安定な雇用の実態を反映していない可能性がある。これらの問題は、若年層非正規雇用・無職
の研究全体の課題であると同時に、本稿の分析結果の解釈の際にも注意が必要である。
5
131
まり、若年層非正規雇用・無職の地域分布をみるだけで地域差があるといっても、それが出
身階層や本人の最終学歴など他の要因の地域分布の差によって生じている可能性がある。実
際、若年層非正規雇用・無職の研究では、出身階層や本人の学歴が低いことが非正規雇用・
無職の到達に直接的あるいは間接的影響を及ぼすことはよく知られている(耳塚 2002;小杉
2003;石田 2005;太郎丸 2006)。さらに地域移動による影響も考慮する必要があるだろう。
人々は生まれ育った土地で一生を過ごすというだけではなく、他の土地に移り住むことがあ
る。一般に就職のために地域移動をするということは、より望ましい機会へアクセスするた
めに行われると考えられる(粒来・林 2000)。とくに就職や就学の機会が豊富にある大都市圏
に地域移動によって移住するものは比較的恵まれた雇用に就いていると考えることができる。
また転勤などのように地域移動は社会的地位の移動と関連していることが多い。一方で非正
規雇用・無職の場合、転勤のような地域移動は考えにくく、出身地に留まっているか、一度
は他地域で過ごした後 U ターンして出身地に戻っていることが考えられる。したがって、地
域移動の有無による影響は考慮する必要があるだろう。また地域移動と関係するものとして、
若年層非正規雇用・無職は親との同居率が高いという指摘があるので(大石 2004)、この要因
もまた考慮すべきであろう。以下の分析では、こうした他の要因をコントロールしたうえで、
若年層非正規雇用・無職のなりやすさが居住地域によって異なるのかを検証する 8。
3
データと変数
本稿の分析に用いるデータは、2005 年 SSM 日本調査 9である。本稿の分析では、調査時点
で 20 歳から 34 歳で職に就いたことのある者にサンプルを限定している。サンプル数は、男
性 463、女性 595、計 1058 である。
従属変数については、初職では、初職従業上の地位が「臨時雇用・アルバイト」、「派遣社
員」、
「契約社員・嘱託」、
「内職」を「非正規雇用」、同じく「経営者・役員」、
「常時雇用され
ている一般従業者」、「自営業主・自由業者」、「家族従業者」を「その他の雇用」と操作的に
定義する。現職では、現職従業上の地位が「臨時雇用・アルバイト」、「派遣社員」、「契約社
員・嘱託」、「内職」「無職(仕事を探している)」を「非正規雇用・無職」、同じく「経営者・
役員」、「常時雇用されている一般従業者」、「自営業主・自由業者」、「家族従業者」を「その
他の雇用」と操作的に定義する。ただし、女性の「非正規雇用・無職」については未婚のみ
を「非正規雇用・無職」とし、それ以外の場合は分析から除外した。
8
なお、地域移動のような居住地の選択と社会的地位のどちらが先立つのかという因果関係は明確ではない。
社会的地位の構造と個人の選択された居住地の関連は、地位達成過程と並行して決定されると考えられる
(塚原・野呂・小林 1990)。本稿で地域の効果という場合でも因果関係として断定するのではない。
9
本稿で使用するのは、最終版のデータである。
6
132
独立変数として用いる地域変数としては、初職分析では初職居住地、現職分析では現在居
住地を用い、それぞれ 2 種類の地域区分を用いることにする 10。まず就業機会へのアクセス
の度合いを考慮した地域区分としては、林(1997)、林・粒来(2000)にしたがって「大都市圏中
心」(東京 23 区・横浜市・名古屋市・京都市・大阪市・神戸市の 6 大都市)、
「大都市圏周辺」
(三大都市圏に含まれる東京・神奈川・千葉・埼玉・愛知・京都・大阪・兵庫という 8 都府県
の「大都市圏中心」以外の都市)、
「地方中核都市」(非大都市圏における政令指定都市と県庁
所在地)、「地方周辺都市」(上記以外の都市)、「郡部」(すべての町村)と定義する。次に人口
規模による区分は塚原・野呂・小林(1990)にしたがって「大都市」(50 万人以上の都市)、
「中
都市」(10 万人以上 50 万人未満の都市)、「小都市」(10 万人未満の都市)、「郡部」(すべての
町村)と定義する 11。
コントロール変数としては以下の変数を用いる。まず男性と女性では「非正規雇用・無職」
の割合に差があるので、性別による差をコントロールするため「女性ダミー」変数を導入す
る。また労働市場参入時期を考慮するため、「入職コーホート」を「86-89 年」、「90-94 年」、
「95-99 年」、「00-05 年」と 4 つに分類する。出身階層は 15 歳時の父親の職業を代表させて
「専門・管理」「事務・販売」「マニュアル」「農業」「父はいない・無職」と 5 つのカテゴリ
ーに分類する。学校関連の変数は、本人の最終学歴を「中学・高校」「高専・短大」「大学・
大学院」と 3 つに分類する。また地域移動変数としては、初職分析では 15 歳時の居住地(し
ばしば出身地として読みかえられている)と初職居住地の異同から「初職地域移動ダミー」変
数を用いる。すなわち、都道府県内外を問わず、15 歳時の居住地と初職居住地が異なる市区
町村である場合は初職で地域移動をしているとみなし、同じである場合は初職で地域移動し
ていないとみなす 12。現職分析では 15 歳時の居住地、初職居住地、現在居住地の異同から、
地域移動経験を「他市区町村へ移動」「U ターン移動」「移動なし」と 3 つに分類する。すな
わち、15 歳時の居住地と現在居住地が異なる場合は「他市区町村へ移動」、15 歳時の居住地
と現在居住地が同一であるが初職居住地が異なる場合は「U ターン移動」、3 地点とも同一の
場合は「移動なし」としている。さらに現職分析では親と同居しているか否かという情報か
ら「親同居ダミー」を導入する。また初職で非正規雇用であった場合に現職でも非正規雇用
になりやすいことが指摘されているので(石田 2005)、「初職非正規雇用ダミー」変数も導入
する。
10
2005 年 SSM 日本調査では、調査前後に行われた市町村合併を考慮して「85 年コード」と「05 年コード」
の 2 種類の地域コードが用意されている。本稿では、調査対象者が成長し初職に就くまでの期間がほとんど
の場合、合併前の市区町村であること、また初職分析と現職分析に統一性を持たせること、以上の理由から
「83 年コード」を使用する。
11
『全国市町村要覧(平成 16 年版)』の情報に基づいてリコードした。
12
したがって、初職で地域移動なしの場合に、就学で地域移動をして出身地で就職した U ターン移動が含
まれていることに注意が必要である。
7
133
4
分析
4.1
初職非正規雇用の地域分析
表1-1 は初職居住地域と初職非正規雇用の関係を男女別に表したものである。初職非正規
雇用の全体での割合は、男性では 16.6%、女性では 26.5%となっており、女性の方が非正規
雇用の割合が高い。居住地域についてみると、男性では「地方中核都市」で非正規雇用の割
合が高くなっており、必ずしも「大都市中心」
「大都市周辺」といった大都市圏に集中してい
ないことがわかる。他方、女性では「大都市中心」で非正規雇用の割合がもっとも高い。女
性の場合、
「大都市中心」から「郡部」に向かうにしたがって尐しずつ非正規雇用の割合が低
くなっているのが特徴である。ただし、男女ともカイ二乗検定で有意な差とは認められない。
次にコントロール変数である「15 歳時の父職」
「本人学歴」
「初職地域移動」それぞれにつ
いて、初職非正規雇用との関係を初職居住地域別にみていく。まず表 1-2 は、初職非正規雇
用と 15 歳時の父職の関係を地域別に示したものである。「大都市中心」では非正規雇用の割
合が「専門管理」でやや低く、「マニュアル」出身でやや高い。「大都市周辺」では「専門管
理」出身で非正規雇用の割合がやや高い。
「地方中核都市」
「地方周辺都市」
「郡部」では「父
はいない・無職」出身で非正規雇用の割合が高い。ただし、いずれ地域でも「父はいない・
無職」のサンプル数が尐ないので参考程度に考えた方がよいだろう。「地方都市」「郡部」で
は「農業」出身で非正規雇用の割合が低い特徴がみられる。
つづいて初職非正規雇用と本人学歴との関係を地域別に示したのが表 1-3 である。
「大都市
中心」
「大都市周辺」
「地方中核都市」では「大学・大学院」で非正規雇用の割合が低い。
「地
方周辺都市」
「郡部」では「中学・高校」と「大学・大学院」で非正規雇用の割合にほとんど
差がない。「大都市周辺」「地方周辺都市」はカイ二乗検定で有意ではないので、それほど大
きな差があるとはいえないが、
「大都市中心」
「地方中核都市」
「郡部」ではそれぞれ地域によ
る特徴が確認される。概ね都市度が高いと「大学・大学院」で非正規雇用の割合が低いが、
地方であると「中学・高校」で非正規雇用の割合が比較的低くなる傾向がうかがえる。
表 1-4 は、初職非正規雇用と初職地域移動との関係を地域別に示したものである。すべて
の地域で「移動なし」で非正規雇用の割合が高く、
「郡部」のみでほとんど差がない。これは
カイ二乗検定で、
「大都市中心」
「大都市周辺」が 10%水準、
「地方中核都市」
「地方周辺都市」
が 5%水準で有意である。つまり、「郡部」以外の地域では 15 歳時の居住地と同じ場所で初
職に就いた場合に、初職で地域移動した場合よりも非正規雇用の割合が高いので、出身地に
留まっている方が非正規雇用の割合が高いということである。
8
134
表 1-1
性別
男女別、初職居住地域別の初職非正規雇用の割合(%)
初職居住地域
非正規雇用
それ以外の雇用
合計 (N)
男性 大都市中心
大都市周辺
地方中核都市
地方周辺都市
郡部
合計
16.9
18.8
21.8
13.1
14.3
16.6
83.1
81.3
78.2
86.9
85.7
83.4
100 (77)
100 (96)
100 (78)
100 (122)
100 (84)
100 (457)
女性 大都市中心
大都市周辺
地方中核都市
地方周辺都市
郡部
合計
35.9
28.6
24.2
23.9
22.3
26.5
64.1
71.4
75.8
76.1
77.7
73.5
100
100
100
100
100
100
(92)
(126)
(91)
(176)
(103)
(588)
男性 χ2=3.236 p=0.51
女性 χ2=6.219 p=0.18
表 1-2
初職居住地域別、15 歳時の父職別の初職非正規雇用の割合(%)
合計(N)
初職居住地域
15歳時の父職
非正規雇用
それ以外の雇用
大都市中心
専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
合計
16.1
25.0
29.3
0.0
20.0
24.0
83.9
75.0
70.7
100.0
80.0
76.0
100
100
100
100
100
100
(31)
(44)
(58)
(3)
(10)
(146)
大都市周辺
専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
合計
29.4
17.3
26.3
33.3
20.0
24.6
70.6
82.7
73.8
66.7
80.0
75.4
100
100
100
100
100
100
(51)
(52)
(80)
(6)
(10)
(199)
地方中核都市 専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
合計
20.0
17.8
21.8
25.0
54.5
22.9
80.0
82.2
78.2
75.0
45.5
77.1
100
100
100
100
100
100
(30)
(45)
(55)
(12)
(11)
(153)
地方周辺都市 専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
合計
26.5
21.3
14.9
8.7
33.3
18.2
73.5
78.7
85.1
91.3
66.7
81.8
100
100
100
100
100
100
(34)
(61)
(134)
(23)
(12)
(264)
郡部
専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
合計
22.2
17.8
20.7
9.5
28.6
18.9
77.8
82.2
79.3
90.5
71.4
81.1
100
100
100
100
100
100
(9)
(45)
(87)
(21)
(7)
(169)
大都市中心
大都市周辺
地方中核都市
地方周辺都市
郡部
χ2=3.011 p=0.56
χ2=2.604 p=0.63
χ2=7.122 p=0.13
χ2=6.170 p=0.19
χ2=1.912 p=0.75
9
135
表 1-3
初職居住地域別、本人学歴別の初職非正規雇用の割合(%)
初職居住地域
それ以外の雇用
中学・高校
高専・短大
大学・大学院
合計
30.2
55.0
11.3
27.2
69.8
45.0
88.7
72.8
100
100
100
100
(96)
(20)
(53)
(169)
大都市周辺
中学・高校
高専・短大
大学・大学院
合計
28.2
20.6
17.5
24.3
71.8
79.4
82.5
75.7
100
100
100
100
(131)
(34)
(57)
(222)
地方中核都市 中学・高校
高専・短大
大学・大学院
合計
29.0
16.7
13.6
23.2
71.0
83.3
86.4
76.8
100
100
100
100
(100)
(24)
(44)
(168)
地方周辺都市 中学・高校
高専・短大
大学・大学院
合計
17.6
26.8
19.0
19.2
82.4
73.2
81.0
80.8
100
100
100
100
(193)
(41)
(63)
(297)
郡部
中学・高校
高専・短大
大学・大学院
合計
15.2
33.3
18.8
18.7
84.8
66.7
81.3
81.3
100
100
100
100
(125)
(30)
(32)
(187)
大都市中心
大都市周辺
地方中核都市
地方周辺都市
郡部
χ2=14.987 p=0.00
χ2=2.775 p=0.25
χ2=4.720 p=0.09
χ2=1.852 p=0.40
χ2=5.229 p=0.07
表 1-4
本人学歴
合計(N)
非正規雇用
大都市中心
初職居住地域別、初職地域移動経験別の初職非正規雇用の割合(%)
初職居住地域
初職地域移動
合計(N)
非正規雇用
それ以外の雇用
大都市中心
移動なし
移動あり
合計
32.6
21.3
27.5
67.4
78.7
72.5
100 (92)
100 (75)
100 (167)
大都市周辺
移動なし
移動あり
合計
27.0
17.4
24.0
73.0
82.6
76.0
100 (152)
100 (69)
100 (221)
地方中核都市 移動なし
移動あり
合計
28.4
12.3
22.9
71.6
87.7
77.1
100 (109)
100 (57)
100 (166)
地方周辺都市 移動なし
移動あり
合計
20.8
10.3
18.4
79.2
89.7
81.6
100 (226)
100 (68)
100 (294)
郡部
移動なし
移動あり
合計
19.6
16.3
18.8
80.4
83.7
81.2
100 (143)
100 (43)
100 (186)
大都市中心
大都市周辺
地方中核都市
地方周辺都市
郡部
χ2=2.632 p=0.10
χ2=2.390 p=0.12
χ2=5.537 p=0.02
χ2=3.845 p=0.05
χ2=0.236 p=0.63
10
136
それでは、初職居住地と初職非正規雇用の関連だけではなく、初職非正規雇用への到達に
影響を持つと考えられる変数を加えた多変量解析を行う。表 1-5 は初職非正規雇用ダミーを
従属変数とし、独立変数に初職居住地域および「女性ダミー」
「入職コーホート」
「15 歳時の
父職」「本人学歴」「初職地域移動ダミー」のコントロール変数を順に投入していった二項ロ
ジスティック回帰分析の結果である。
「女性ダミー」と「入職コーホート」でコントロールし
たモデル 1 では、女性であると非正規雇用になりやすく、また労働市場への参入が最近であ
るほど非正規雇用になりやすいことが確認される。居住地域についてみると、
「 地方周辺都市」
のみで有意(10%水準)に非正規雇用になりにくいことがわかる。この効果は「女性ダミー」を
投入したときは表れず、
「入職コーホート」の投入によってあらわれたものである。モデル 2
は「15 歳時の父職」と「本人学歴」でコントロールしたモデルである。
「父はいない・無職」
で非正規雇用になりやすく、「大学・大学院」で非正規雇用になりにくい効果が確認できる。
これらの効果をコントロールしても、モデル 1 の場合と比べて居住地域の効果に変化はない。
だが、
「初職地域移動ダミー」でコントロールしたモデル 3 では、
「地方周辺都市」の効果 (5%
水準)にくわえて、
「 郡部」においても非正規雇用のなりにくさに有意な効果があらわれる(10%
水準)。オッズ比を計算すると「大都市中央」と比べて非正規雇用になる確率は「地方周辺都
市」で 0.528 倍、「郡部」で 0.581 倍となり、非正規雇用のなりやすさはおよそ半分である。
これは初職地域移動の効果をコントロールすると「地方周辺都市」
「郡部」で非正規雇用にな
りにくい効果が強まるということである。ダミー変数である地域移動した場合の負の効果は、
地域移動しなかった場合の正の効果でもある。「地方周辺都市」「郡部」では地域移動した場
合の非正規雇用の割合が「大都市中央」と変わらず、出身地に停留した場合の非正規雇用の
割合が「大都市中央」に比べて低いことを考えると、地域移動しなかった場合の正の効果、
すなわち非正規雇用になりやすい効果をコントロールした結果、「地方周辺都市」「郡部」で
は非正規雇用になりにくい効果があらわれたと考えるのが妥当であろう。また AIC と BIC を
みるとモデル 3 のあてはまりがもっともよい。なお、性別により初職居住地域の効果が異な
ることがクロス表によって示唆されたので、
「女性ダミー」と初職居住地域の交互作用効果を
調べたが有意な結果は得られなかった。このように地域以外の他の要因をコントロールする
と「地方周辺都市」
「郡部」において「大都市中心」と比べて初職で「非正規雇用」になりに
くいという結果が得られた。また統計的に有意ではないが「郡部」を除くと「大都市中央」
から就業機会へのアクセス、あるいは都市化の度合いが低くなるほど非正規雇用になりにく
い傾向も確認される。
同様の分析について、人口規模による地域区分を変数に用いた分析結果も示す。表 1-6 は
初職居住地域(人口規模による区分)と初職非正規雇用との関係を男女別に示したものである。
男女とも非正規雇用の割合が「大都市」
「中都市」で高く、
「小都市」
「郡部」で低い傾向がみ
られるが、カイ二乗検定では有意ではない。表 1-7 は初職非正規雇用ダミーを従属変数とし、
11
137
独立変数に人口規模による地域区分および他のコントロール変数を順に投入していった二項
ロジスティック回帰分析の結果である。モデル 1 およびモデル 2 では、居住地域の有意な効
果はみられない。「初職地域移動ダミー」でコントロールしたモデル 3 では、「小都市」にお
いて非正規雇用のなりやすさに有意な効果があらわれる(5%水準)。だが、
「郡部」では効果が
あらわれない。また AIC と BIC をみると「モデル 3」のあてはまりがよい。このように人口
規模による地域区分による分析では、他の要因をコントロールすると「大都市」にくらべて、
「小都市」では非正規雇用になりにくいということが確認される。また、統計的に有意では
ないが「郡部」を除くと「大都市」から都市度が低くなるほど非正規雇用になりにくい傾向
も確認される。ただし、
「郡部」では「大都市」と比べて非正規雇用になりにくいという有意
な効果は認められなかった。
表 1-5
初職非正規雇用ダミーの二項ロジスティック回帰分析
モデル1
初職居住地域
B
----0.05
-0.15
-0.44 +
-0.36
0.73 **
-1.20 **
-1.04 **
-0.43 *
----
大都市中央
大都市周辺
地方中核都市
地方周辺都市
郡部
性別
女性ダミー
入職コーホート 86-89年
90-94年
95-99年
00-05年
15歳時の父職
専門・管理
事務・販売
----
マニュアル
農業
父はいない・無職
本人学歴
----
中学・高校
高専・短大
大学・大学院
初職地域移動
モデル2
モデル3
B
----0.11
-0.22
-0.49 +
-0.40
0.66 **
-1.45 **
-1.23 **
-0.46 *
---0.28
0.01
----0.46
0.61 +
----0.06
-0.88 **
初職地域移動ダミー
定数
-2LL
Cox & Snell R2
AIC
BIC
**
N=927
p<0.01,
*
-1.00 **
-0.69
913.685
892.933
0.050
0.071
931.7
922.9
940.4
937.4
p<0.5, +p<0.1
12
138
*
B
----0.20
-0.32
-0.64 *
-0.54 +
0.64 **
-1.40 **
-1.23 **
-0.47 *
---0.31
0.02
----0.38
0.71 *
----0.07
-0.83 **
-0.65 **
-0.43
882.192
0.082
914.2
929.7
表 1-6
初職居住地域(人口規模区分)別、本人学歴別の初職非正規雇用の割合(%)
性別
初職居住地域
非正規雇用
それ以外の雇用
合計 (N)
男性 大都市(50万人~)
中都市(10~50万人)
小都市(~10万人)
郡部
合計
17.3
21.1
11.1
14.3
16.6
82.7
78.9
88.9
85.7
83.4
100 (127)
100 (147)
100 (99)
100 (84)
100 (457)
女性 大都市(50万人~)
中都市(10~50万人)
小都市(~10万人)
郡部
合計
30.1
28.4
22.7
22.3
26.5
69.9
71.6
77.3
77.7
73.5
100
100
100
100
100
(163)
(194)
(128)
(103)
(588)
男性 χ2=4.659 p=0.20
女性 χ2=3.290 p=0.35
表 1-7
モデル1
性別
B
---0.05
-0.36
-0.24
0.72
-1.18
-1.04
-0.45
----
大都市
中都市
小都市
郡部
女性ダミー
入職コーホート 86-89年
90-94年
95-99年
15歳時の父職
00-05年
専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
本人学歴
中学・高校
高専・短大
大学・大学院
初職地域移動
定数
4.2
モデル2
**
*
**
*
モデル3
B
---0.01
-0.39
-0.25
0.65 **
-1.43 **
-1.22 **
-0.48 *
---0.29
0.02
----0.47
0.60 +
----0.08
-0.88 **
初職地域移動ダミー
-2LL
Cox & Snell R2
AIC
BIC
**
N=927
p<0.01,
女性 大
中
小
郡
合
男性 χ
女性 χ
初職非正規雇用ダミーの二項ロジスティック回帰分析(人口規模区分)
初職居住地域
性別
男性 大
中
小
郡
合
*
-1.10 **
-0.83
914.308
893.807
0.050
0.071
930.3
921.8
935.1
935.3
p<0.5, +p<0.1
**
B
----0.08
-0.50 +
-0.36
0.63 **
-1.37 **
-1.22 **
-0.48 *
---0.32
0.03
----0.40
0.69 +
----0.09
-0.82 **
-0.61 **
-0.61 *
884.193
0.080
914.2
928.7
現職非正規雇用・無職の地域分析
表 2-1 は現在居住地域と現職非正規雇用・無職の関係を男女別に表したものである。現職
非正規雇用・無職の全体での割合は、男性では 15.0%、女性では 27.3%となっており、女性
13
139
の方が現職非正規雇用・無職の割合が高い。居住地域についてみると、男性では地域による
差がほとんどみられない。他方、女性では「大都市中心」で非正規雇用の割合が「大都市中
心」と「大都市周辺」でやや高い。ただし、男女ともカイ二乗検定では有意ではないので、
大きな差があるとはいえない。
次にコントロール変数である「15 歳時の父職」
「本人学歴」
「初職地域移動」それぞれにつ
いて、現職非正規雇用・無職との関係を現在居住地域別にみていく。まず表 2-2 は、現職非
正規雇用・無職と 15 歳時の父職の関係を地域別に示したものである。「大都市中心」では非
正規雇用・無職の割合が「専門管理」でやや低く、「マニュアル」出身でやや高い。「大都市
周辺」では「マニュアル」出身で非正規雇用・無職の割合がやや高い。
「地方中核都市」では
「マニュアル」出身で非正規雇用・無職の割合がやや高く、
「父はいない・無職」出身も高い
割合である。「地方周辺都市」では「農業」出身で非正規雇用・無職の割合がやや高い。「郡
部」では「専門管理」出身で非正規雇用・無職の割合がやや高いが、サンプル数が尐ないの
で参考程度に考えた方がよい。いずれの地域もカイ二乗検定では有意ではないので、明確な
差があるとはいえない。
つづいて現職非正規雇用・無職と本人学歴との関係を地域別に示したのが表 2-3 である。
「大都市中心」では「高専・短大」でおよそ 6 割が非正規雇用・無職になっている。一方、
「大学・大学院」では 1 割程度と非正規雇用・無職の割合が低い(カイ二乗検定 1%水準で有
意)。
「大都市周辺」では非正規雇用・無職の割合が「大学・大学院」でやや低くなっている。
「地方中核都市」では「高専・短大」で非正規雇用・無職の割合がやや高い。
「地方周辺都市」
では学歴による差がほとんどない。
「郡部」は大学・大学院」で非正規雇用・無職の割合がや
や低い。
表 2-1
性別
男女別、現在居住地域別の現職非正規雇用・無職の割合(%)
現在居住地域
合計(N)
非正規雇用・無職
それ以外の雇用
男性 大都市(50万人~)
中都市(10~50万人)
小都市(~10万人)
郡部
合計
11.9
19.6
12.1
14.4
15.0
88.1
80.4
87.9
85.6
85.0
100
100
100
100
100
(109)
(153)
(107)
(90)
(459)
女性 大都市(50万人~)
中都市(10~50万人)
小都市(~10万人)
郡部
合計
31.3
26.1
25.3
26.5
27.3
68.8
73.9
74.7
73.5
72.7
100
100
100
100
100
(96)
(115)
(83)
(63)
(362)
男性 χ2=4.051 p=0.26
女性 χ2=1.029 p=0.79
14
140
表 2-2
現在居住地域別、15 歳時の父職別の現職非正規雇用・無職の割合(%)
現在居住地域
15歳時の父職
非正規雇用・無職
それ以外の雇用
大都市中央
専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
合計
14.3
17.1
28.6
--20.0
20.8
85.7
82.9
71.4
--80.0
79.2
合計(N)
100 (21)
100 (35)
100 (35)
--- (0)
100 (5)
100 (96)
大都市周辺
専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
合計
15.9
20.0
27.0
0.0
14.3
20.8
84.1
80.0
73.0
100.0
85.7
79.2
100
100
100
100
100
100
(44)
(50)
(63)
(4)
(7)
(168)
地方中核都市 専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
合計
15.4
14.7
22.2
0.0
40.0
18.9
84.6
85.3
77.8
7.0
60.0
81.1
100
100
100
100
100
100
(26)
(34)
(45)
(7)
(10)
(122)
地方周辺都市 専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
合計
10.7
18.2
17.1
25.0
14.3
17.2
89.3
81.8
82.9
75.0
85.7
82.8
100
100
100
100
100
100
(28)
(44)
(105)
(20)
(7)
(204)
郡部
専門管理
事務販売
マニュアル
農業
父はいない・無職
合計
30.0
15.2
22.4
5.3
20.0
18.7
70.0
84.8
77.6
94.7
80.0
81.3
100
100
100
100
100
100
(10)
(33)
(67)
(19)
(5)
(134)
大都市中央 大都市周辺
地方中核都市
地方周辺都市
郡部 χ2=2.108 p=0.55
χ2=3.348 p=0.50
χ2=5.470 p=0.24
χ2=1.756 p=0.78
χ2=3.982 p=0.41
表 2-4 は、現職非正規雇用・無職と地域移動経験との関係を地域別に示したものである。
「大都市中心」「大都市周辺」「郡部」では「移動なし」で非正規雇用・無職の割合がやや高
い。「地方中核都市」では「他市区町村へ移動」で非正規雇用・無職の割合がかなり低い(カ
イ二乗検定 1%水準で有意)。また「地方中核都市」
「地方周辺都市」では「U ターン」で非正
規雇用・無職の割合が高いが、サンプル数が尐ないので参考程度に考えた方がよいだろう。
それでは、現在居住地と現職非正規雇用・無職の関連だけではなく、現職非正規雇用・無
職への到達に影響を持つと考えられる変数を加えた多変量解析を行う。表 2-5 は現職非正規
雇用・無職ダミーを従属変数とし、独立変数に初職居住地域および「女性ダミー」
「入職コー
ホート」「15 歳時の父職」「本人学歴」「初職非正規雇用ダミー」「地域移動経験」「親との同
居ダミー」のコントロール変数を順に投入していった二項ロジスティック回帰分析の結果で
ある。「女性ダミー」と「入職コーホート」でコントロールしたモデル 1 では、女性である
15
141
表 2-3
現在居住地域別、本人学歴別の現職非正規雇用・無職の割合(%)
本人学歴
中学・高校
高専・短大
大学・大学院
合計
非正規雇用・無職
それ以外の雇用
23.0
64.3
8.6
23.6
77.0
35.7
91.4
76.4
合計(N)
100 (61)
100 (14)
100 (35)
100 (110)
中学・高校
高専・短大
大学・大学院
合計
28.4
22.2
12.3
22.2
71.6
77.8
87.7
77.8
100 (102)
100 (18)
100 (65)
(185)
地方中核都市 中学・高校
高専・短大
大学・大学院
合計
18.6
37.5
12.1
19.3
81.4
62.5
87.9
80.7
100
100
100
100
(86)
(16)
(33)
(135)
地方周辺都市 中学・高校
高専・短大
大学・大学院
合計
20.6
13.6
15.1
18.7
79.4
86.4
84.9
81.3
100
100
100
100
(155)
(22)
(53)
(230)
郡部
中学・高校
高専・短大
大学・大学院
合計
20.8
26.1
11.8
19.6
79.2
73.9
88.2
80.4
100
100
100
100
(101)
(23)
(34)
(158)
大都市中央 大都市周辺
地方中核都市
地方周辺都市
郡部 χ2=17.233 p=0.00
χ2=5.983 p=0.05
χ2=4.529 p=0.10
χ2=1.210 p=0.55
χ2=2.028 p=0.36
現在居住地域
大都市中央
大都市周辺
表 2-4
現在居住地域別、地域移動経験別の現職非正規雇用・無職の割合(%)
現在居住地域
地域移動経験
非正規雇用・無職
それ以外の雇用
大都市中央
移動なし
他市区町村へ移動
Uターン移動
合計
30.3
21.5
22.2
24.3
69.7
78.5
77.8
75.7
合計(N)
100 (33)
100 (65)
100 (9)
100 (107)
大都市周辺
移動なし
他市区町村へ移動
Uターン移動
合計
28.7
14.8
22.2
22.3
71.3
85.2
77.8
77.7
100 (94)
100 (81)
100 (9)
(184)
地方中核都市 移動なし
他市区町村へ移動
Uターン移動
合計
25.5
3.3
53.8
17.8
74.5
96.7
46.2
82.2
100
100
100
100
(55)
(61)
(13)
(129)
地方周辺都市 移動なし
他市区町村へ移動
Uターン移動
合計
18.6
12.3
42.1
18.3
81.4
87.7
57.9
81.7
100
100
100
100
(129)
(81)
(19)
(229)
郡部
移動なし
他市区町村へ移動
Uターン移動
合計
23.0
15.3
16.7
19.1
77.0
84.7
83.3
80.9
100
100
100
100
(74)
(59)
(24)
(157)
大都市中央 大都市周辺
地方中核都市
地方周辺都市
郡部 χ2=0.937 p=0.63
χ2=4.860 p=0.09
χ2=22.509 p=0.00
χ2=9.114 p=0.01
χ2=1.375 p=0.50
16
142
と「非正規雇用」になりやすく、また労働市場への参入が最近であるほど「非正規雇用」に
なりやすいことが確認される。これは初職非正規雇用と同様の傾向である。居住地域につい
てみると、非正規雇用・無職のなりやすさに有意な差が認められない。モデル 2 は「15 歳時
の父職」と「本人学歴」でコントロールしたモデルである。
「大学・大学院」で非正規雇用に
なりにくい効果が確認できる。この効果をコントロールしても、モデル 1 の場合と比べて地
域の効果に変化はない。
「初職非正規雇用ダミー」でコントロールしたモデル 3 では、初職で
非正規雇用に就いた場合に現職で非正規雇用・無職になりやすいことが確認できる。また
「95-99 年」に入職したコーホートの効果が消える。このコーホートは入職と現職の間での
10 年弱であるので、初職非正規雇用の影響が比較的強いためだと思われる。居住地域につい
てみると、非正規雇用・無職のなりやすさに有意な差が認められない。
「地域移動経験」でコ
ントロールしたモデル 4 では、「他市区町村へ移動」で非正規雇用・無職になりにくく、「U
ターン移動」で非正規雇用・無職になりやすい効果がみられる。また「86-89 年」に入職し
たコーホートの効果が消える。このコーホートでは入職から比較的時間が経っており、非正
規雇用以外の職に就いていて地域移動を経験している可能性が高い。そうした効果がコーホ
ートの影響としてあらわれていたと考えられる。居住地域についてみると、非正規雇用・無
職のなりやすさに有意な差が認められない。さらに「親と同居ダミー」でコントロールした
モデル 5 では、親と同居している場合に非正規雇用・無職になりやすい効果が確認できる。
この効果をコントロールすると、すべての入職コーホートの効果が消え、地域移動で他市区
町村へ移り住んだ場合の効果も消える。地域移動経験で「他市区町村へ移動」の効果が消え
るのは、「移動なし」の場合に非正規雇用・無職になりやすいとしてあらわれていた効果が、
親との同居による効果であったためだと考えられる。それでも、
「U ターン移動」の効果は消
えずに残ったままであり、親との同居の効果による疑似相関ではないことを示している。居
住地域についてみると、このモデルでも非正規雇用・無職のなりやすさに有意な差がなく、
「大都市中心」以外の地域でも非正規雇用のなりやすさに変わりがないことが確認される。
また AIC と BIC をみるとモデル 5 のあてはまりがよい。なお、性別により現在居住地域の効
果が異なることがクロス表によって示唆されたので、
「女性ダミー」と初職居住地域の交互作
用効果を調べたが有意な結果は得られなかった。このように、地域以外の他の要因をコント
ロールしても、現職非正規雇用・無職のなりやすさに「大都市中心」と他の地域とで有意な
違いが認められなかった。つまり、就業機会のアクセス、あるいは都市化の度合いによって
非正規雇用・無職のなりやすさに違いがないということである。
同様の分析について、人口規模による地域区分を変数に用いた分析結果も示す。表 2-6 は
現在居住地域(人口規模による区分)と現職非正規雇用・無職との関係を男女別に示したもの
である。男性では非正規雇用・無職の割合が「中都市」でやや高いが、その他の地域ではほ
とんど差がない。女性では非正規雇用・無職の割合が「大都市」でやや高く、その他の地域
17
143
表 2-5
現職非正規雇用・無職ダミーの二項ロジスティック回帰分析
モデル1
B
----0.03
-0.21
-0.26
-0.12
0.83 **
-1.03 +
-0.97 **
-0.41 +
----
現在居住地域
大都市中央
大都市周辺
地方中核都市
地方周辺都市
郡部
性別
女性ダミー
初職入職
86-89年
コーホート
90-94年
95-99年
00-05年
15歳時の父職
専門管理
事務販売
マニュアル
---農業
父はいない・無職
本人学歴
中学・高校
---高専・短大
大学・大学院
初職非正規雇用ダミー
地域移動経験
他市区町村へ移動
Uターン移動
移動なし
親と同居ダミー
定数
-1.28 **
-2LL
661.753
0.052
Cox & Snell R2
AIC
679.8
BIC
636.0
**
N=718
p<0.01, * p<0.5, +p<0.1
表 2-6
モデル2
モデル3
B
---0.04
-0.25
-0.31
-0.18
0.72 **
-1.42 *
-1.20 **
-0.39 +
----0.28
-0.21
----0.72
0.05 +
---0.02
-1.04 **
-0.76
638.371
0.082
668.4
595.5
*
モデル4
B
---0.28
-0.06
0.01
0.03
0.59 *
-1.08 +
-0.79 **
-0.26
----0.52
-0.28
----0.63
-0.18
----0.03
-0.81 **
2.26 **
-1.78
536.944
0.203
568.9
491.2
**
モデル5
B
---0.21
-0.17
-0.10
-0.18
0.60 *
-1.04
-0.71 *
-0.25
----0.45
-0.23
----0.62
-0.34
----0.08
-0.83 **
2.28 **
-0.51 +
0.74 *
----1.61
525.957
0.215
562.0
474.5
**
B
---0.17
-0.10
-0.13
-0.37
0.47 +
-0.79
-0.39
-0.11
----0.42
-0.23
----0.66
-0.43
----0.07
-0.82 *
2.19 **
-0.02
0.78 *
---1.41 **
-2.78 **
502.184
0.241
540.2
447.9
男女別、現在居住地域(人口規模区分)別の現職非正規雇用・無職の割合(%)
性別
現在居住地域
合計(N)
非正規雇用・無職
それ以外の雇用
男性 大都市(50万人~)
中都市(10~50万人)
小都市(~10万人)
郡部
合計
11.9
19.6
12.1
14.4
15.0
88.1
80.4
87.9
85.6
85.0
100
100
100
100
100
(109)
(153)
(107)
(90)
(459)
女性 大都市(50万人~)
中都市(10~50万人)
小都市(~10万人)
郡部
合計
31.3
26.1
25.3
26.5
27.3
68.8
73.9
74.7
73.5
72.7
100
100
100
100
100
(96)
(115)
(83)
(63)
(362)
男性 χ2=4.051 p=0.26
女性 χ2=1.029 p=0.79
ではほとんど差がない。男女ともカイ二乗検定で有意な差とは認められない。表 2-7 は現職
非正規雇用・無職ダミーを従属変数とし、独立変数に人口規模による地域区分および他のコ
ントロール変数を順に投入していった二項ロジスティック回帰分析の結果である。居住地域
についてみると、いずれのモデルでも有意な効果はみられない。また AIC と BIC をみるとモ
デル 5 のあてはまりがよい。このような結果から、人口規模による地域区分よる分析では、
18
144
他の要因をコントロールすると「大都市」に比べて「中都市」「小都市」「郡部」では非正規
雇用・無職のなりやすさに有意な違いが認められなかった。
表 2-7
現職非正規雇用・無職ダミーの二項ロジスティック回帰分析(人口規模区分)
モデル1
現在居住地域
大都市
中都市
小都市
郡部
B
---0.16
-0.20
0.03
0.83 **
-1.01 +
-0.96 **
-0.40 +
----
女性ダミー
初職入職コーホート 86-89年
90-94年
95-99年
00-05年
15歳時の父職
専門管理
事務販売
マニュアル
---農業
父はいない・無職
本人学歴
中学・高校
---高専・短大
大学・大学院
初職非正規雇用ダミー
地域移動経験
他市区町村へ移動
Uターン移動
移動なし
親と同居ダミー
定数
-1.43 **
-2LL
661.137
0.053
Cox & Snell R2
AIC
677.1
BIC
684.0
**
N=718
p<0.01, * p<0.5, +p<0.1
5
モデル2
モデル3
B
---0.20
-0.27
-0.03
0.74 **
-1.40 *
-1.19 **
-0.39 +
----0.31
-0.20
----0.73
0.02 +
----0.02
-1.05 **
-0.91
637.433
0.083
665.4
677.4
**
モデル4
B
---0.28
-0.04
0.05
0.59 *
-1.05 +
-0.79 **
-0.26
----0.51
-0.28
----0.65
-0.25
----0.05
-0.82 **
2.25 **
-1.80
536.708
0.203
566.7
579.6
**
モデル5
B
---0.17
-0.12
-0.13
0.61 *
-1.00
-0.71 *
-0.24
----0.44
-0.23
----0.64
-0.39
----0.10
-0.84 **
2.27 **
-0.49 +
0.73 +
----1.66
526.368
0.215
560.4
574.9
**
B
---0.17
-0.22
-0.35
0.48 +
-0.76
-0.36
-0.10
----0.42
-0.25
----0.69
-0.48
----0.10
-0.84 **
2.18 **
0.00
0.78 *
---1.44 **
-2.82 **
501.631
0.241
537.6
553.0
考察と今後の課題
本稿では、初職非正規雇用と初職居住地域との関連、および現職非正規雇用・無職と現在
居住地域との関連の 2 時点について分析することで、若年層非正規雇用・無職のなりやすさ
が居住地域によって異なるのか否かを、就業機会へのアクセス、あるいは都市化の度合いに
基づいた地域区分を用いることによって検討した。得られた知見をまとめると、初職では、
地域以外の他の要因でコントロールして分析した結果、
「大都市中心」に比べて「大都市周辺」
「地方中核都市」では非正規雇用のなりやすさに有意な違いがみられなかったが、
「地方周辺
都市」「郡部」では「大都市中心」よりも非正規雇用になりにくいということが確認された。
このことから大都市圏だけではなく、
「地方中核都市」という地方でも比較的機会に恵まれた
地域、あるいは都市化の度合いが高い地域では非正規雇用のなりやすさが「大都市中心」と
同程度であり、必ずしも「大都市中心」
「大都市周辺」といった大都市圏のみで非正規雇用に
19
145
なりやすいというわけではないことがわかった。ただし、「地方周辺都市」「郡部」では「大
都市中心」に比べて非正規雇用になりにくいので、ある程度は就業機会へのアクセス、ある
いは都市化の度合いと労働市場参入時での非正規雇用のなりやすさが比例しているとも考え
られる。他方、現職では、地域以外の他の要因でコントロールして分析した結果、
「大都市中
心」と「大都市周辺」
「地方中核都市」
「地方周辺都市」
「郡部」でいずれも非正規雇用・無職
のなりやすさに有意な差が認められなかった。初職の結果と比較すると、非未婚の女性が対
象から除外されているため単純には比較できないものの、初職では「大都市中心」と比較し
て非正規雇用になりにくかった「地方周辺都市」
「郡部」で、現職では非正規雇用・無職のな
りやすさに違いがないということが注目される。このことから、現職では就業機会へのアク
セス、あるいは都市化の度合いと無関係に、どの地域においても非正規雇用・無職のなりや
すさに変わりがないことがわかった。以下、本稿で得られた知見について、今後の課題も含
めて考察する。
最初にいえることは、本稿の分析結果から若年層非正規雇用・無職を大都市中心の問題と
考えることに疑問が生じたということである。初職においては、地方でも「地方中核都市」
では大都市圏と非正規雇用のなりやすさに違いがなかった。さらに現職においては、
「地方周
辺都市」
「 郡部」も含めて地方と大都市圏で非正規雇用・無職のなりやすさに違いがなかった。
このことは、若年層非正規雇用・無職が、これまであまり注目されてこなかった地方も含め
た問題として、あるいは地域それぞれの事情を考慮して考察すべき問題として捉えるべきで
あることを示唆している 13。
一方で、若年層非正規雇用・無職を新たなる貧困の問題として捉え、それを指標として地
域の様相について考察するならば、とくに現職において、比較的に就業上の諸機会に恵まれ
ないとされる地方においても大都市と若年層非正規雇用・無職のなりやすさに変わりがない
ことが、現在の地域格差のリアリティの一因となっている可能性がある。というのも、所得
や大学進学率においては地域格差が縮小しているとしても、都市的なものとみなされる若年
層非正規雇用・無職のような新たなる貧困に地域差がない、つまり地方においても大都市と
同様に新たなる貧困が生じつつあるならば、格差が解消されているというよりは格差が開い
ているという実感となるということが考えられるからである。若年層非正規雇用・無職を大
都市中心の問題とみなす前提には、大都市には上昇移動の豊富な機会がある一方で下降移動
のリスクもあるという認識が含まれよう。ところが、上昇移動の機会に比較的恵まれないと
される地方において下降移動のリスクが大都市と同様にあるとすれば、そこに現在の地域格
差の一端を垣間見ることができると考えることは必ずしも的はずれではあるまい。こうした
13
ただし、本稿で使用したデータの特徴は、他の大規模データでは市区町村の情報がないために比較がで
きず、明らかにできなかった。したがって、若年層非正規雇用・無職と地域の関連については、今後、他の
地域区分の検討も含めて、繰り返し検証される必要がある。
20
146
仮説は、今後、地域間格差や地域内格差の拡大が懸念されるなかで、地方で生じつつある変
化を捉える手がかりとして、検討に値すると思われる。
このように若年層非正規雇用・無職と地域との関連については、さらに詳細な検討が必要
であることが明らかになった。本稿の分析では、初職と現職で地域差にも違いがみられたの
で、労働市場参入時から現職に至るまでの到達過程が地域によって異なる可能性がある。そ
の過程では、性別による違いや、出身階層、本人学歴、地域移動といった到達へ影響を与え
ると考えられる要因が地域毎で異なる効果を持つ可能性があるので、さらに詳細な分析を行
う必要がある。またその際、産業構造、人口構成、生活構造などの地域特性との関連からも
検討する必要があろう。本稿では、そうした地域毎の若年層非正規雇用・無職への到達過程
などについて立ち入った分析ができなかった。これらは、今後、行われるであろう(あるいは
現在行われつつある)都道府県など地域別の調査結果とも突き合わせながら、検討すべき課題
である。
【文献】
Beck, Ulrich. 1986. Riskogesellschaft Auf dem Weg in eine andere Modrne. Suhrkamp. =1998.東兹・伊藤美
登里(訳)『危険社会』法政大学出版会.
原純輔.2002.「社会階層研究と地域社会」『地域社会学会年報』18:45-61.
林拓也.1997.「地位達成における地域間格差と地域移動 -学歴・初職に対する影響の計量分析-」
『社
会学評論』48:334-47.
稲月正.1998.「都市化と入職手段」三隅一人編『1995 年 SSM 調査シリーズ 4:社会階層の地域的構造』
121-137.
石田浩.2005.「後期青年期と階層・労働市場」『教育社会学研究』76:41-57.
小杉礼子.2001.「増加する若年非正規雇用者の実態とその問題点」『日本労働研究雑誌』409:44-57.
小杉礼子.2003.『フリーターという生き方』勁草書房.
Lipset, Seymour M. and Reinhard Bendix. 1959. Social Mobility in Industrial Society. The University of
California Press.=1965.鈴木広(訳)『産業社会の構造』サイマル出版会.
耳塚寛明.2002.「誰がフリーターになるのか――社会階層的背景の検討」小杉礼子編『自由の代償/フ
リーター』日本労働研究機構:133-48.
み ず ほ 総 合 研 究 所 .2007. 「 み ず ほ 政 策 イ ン サ イ ト : 地 域 格 差 の 実 態 と 「 格 差 不 安 」 の 背 景 」
(http://www.mizuho-ri.co.jp/research/economics/pdf/policy-insight/MSI070330.pdf,2007.12.28)
森博美・坂田幸繁・山田茂.2005.「 日本におけるフリーターの地域分布について」
『研究所報』34:141-51.
大石亜希子.2004「若年就業と親との同別居」『人口問題研究』60(2):19-31.
太田聰一.2005.「地域の中の若年雇用問題」 『日本労働研究雑誌』539:17-33.
市町村自治研究会.2004.『全国市町村要覧(平成 16 年版)』第一法規.
太郎丸博・亀山俊朗.2006.「問題と議論の枠組み」太郎丸博編『フリーターとニートの社会学』世界思
想社:1-29.
太郎丸博.2006.「社会移動とフリーター――誰がフリーターになりやすいのか」太郎丸博編『フリータ
ーとニートの社会学』世界思想社:30-48.
粒来香・林拓也.2000.「地域移動から見た就学・就職行動」近藤博之編『日本の階層システム 3
21
147
戦後
日本の教育社会』東京大学出版会:57-76.
塚原修一・野呂芳明・小林淳一.1990.「 地域と社会階層――地域差、地域効果および地域移動」直井優・
盛山和夫編『現代日本の階層構造①社会階層の構造と過程』東京大学出版会:119-45.
Regional analysis of young atypical workers and unemployed youth
Takeshi TOCHIZAWA
Graduate School of Human Sciences Osaka University
The number of young atypical workers and unemployed youth in Japan (often called “freeters”) is
increasing. In this paper I regard them as precarious young workers. The paper examines the relationship
between the attainment of young workers and their place of residence.
Some researchers suggest that
precarious young workers’ dense population in large Japanese cities is the root of the problem. In order to
verify the hypothesis, I conduct logistic regression analyses to examine the effects of the place of
residence on the rate of the attainment of young workers, controlling for sex, age, father ’s job, youth’s
own educational attainment, experiences of geographical mobility and so on.
The following results are
obtained: for workers just entering labor market, the odds of becoming precarious young workers in core
cities of the provinces are the same as that in the six largest cities and the odds of that in other towns in
the provinces are lower than that in the six largest cities. For employed workers, the odds of becoming
precarious young workers have no relevance to the place of residence. These results lead me to the
conclusion that especially for employed workers, there is no difference in the ratio of those who become
precarious young workers between the large cities and the provinces. It is thus untrue to understand them
only as a problem of large cities. These results also suggest that the relatively sparse opportunities for
upward mobility in the provinces are heretofore unrecognized causes of regional inequality.
Keywords and phases: precarious young workers, region, new poverty, large cities and the provinces,
regional inequality
22
148
若年層におけるソーシャル・サポートとディストレス
片瀬
一男
(東北学院大学)
【要旨】
本稿では、若年層のディストレスを緩和する要因として、社会階層によるソーシャル・サポー
ト源の量的・質的差異を検討した。その結果、無職や非正規雇用である者、また学歴が低い者は、
相談ネットワークが量的に少ないことが明らかになった。この背景には、若年層のネットワーク
が主として学生生活を通じて得られること、また非正規雇用では職場の友人関係にも恵まれない
ことがあると考えられた。他方、ソーシャル・サポート源の質的側面に注目すると、学歴に関し
ては同一水準の学歴の者を相談相手とする者がとくに高学歴者で多いことがわかった。これに対
して、職業に関しては、ホワイトカラー正規雇用であることはネットワークの同質性を高め、同
じホワイトカラーでも非正規であること、またブルーカラーや無業であることは、ネットワーク
の同質性を低下させていることが確認された。さらに、こうした相談ネットワークのあり方がデ
ィストレスを緩和するか検討した結果、ソーシャル・サポートの量は、ディストレスを有意に低
減させることが明らかになった。しかし、相談相手の同質性はディストレスの低下に有意な効果
をもっておらず、またサポート量のバッファー効果も確認することができなかった。
キーワード:若年層、ソーシャル・サポート、ディストレス
1
問題の所在
日本の若年労働市場においては、バブル崩壊後の長期不況の間に新規学卒者の雇用を手控
え、非正規雇用化する流れが定着した。その結果、学卒無業者や非正規雇用者の増大によっ
て、「フリーター」「ニート」といった存在が注目されるようになった(小杉 2003,玄田・曲
沼 2004)。最近は景気回復と労働力不足から、若年労働市場も好転しつつあるが、こうした
循環的な変化とは別に、この長期不況が日本の労働市場に構造的な変動をもたらした点は見
過ごせない(片瀬・佐藤 2006)。1つは、高度経済成長期以降、日本の若年層(とくに高校
生)の労働市場参入を安定化させてきた「学校経由の就職経路」(苅谷 1991)の機能不全が
顕在化したことである。そして、もう1つはサービス経済化と規制緩和によって非正規雇用
の拡大と定着が進んだことである。他方、非正規雇用の増大によって、反面で絞り込まれた
若年正規労働者は成果主義の名のもとに、過重な労働を強いられている。このことから、若
年労働者では「燃え尽き」と「使い捨て」とでもいうべき二極化が進行してきた、とされる
(熊沢 2006)。
こうした状況では、非正規雇用の若年労働者には自律性を欠いた仕事が割り当てられる一
1
149
方で、絞り込まれた正規労働者には要求度の高い長時間労働が求められる。仕事の自律性の
欠如も、要求度の高さも、ともに従来から「仕事の要求度-コントロール・モデル」
(Karasek
1979, Karasek and Theorell 1990)によって職業性ストレスを高める要因として注目されてきた。
また仕事における努力/報酬の不均衡もまた、ディストレスを高めることが指摘されてきた
(Siegrist 1996)。実際、今回の 2005 年 SSM 調査の分析結果からも、若年層の場合、職種自
体はいずれもディストレスを直接、規定していないものの、仕事の条件が有意な効果をもち、
社会的・心理的な努力/報酬不均衡がディストレスを増大させる一方で,仕事の自律性がディ
ストレスを有意に低減させる効果をもつことがあきらかになった(片瀬 2008)。
その一方で、このような職業性ストレスを低減させるための資源として、ソーシャル・サ
ポートの有効性についても検討がなされてきた。たとえば、アメリカ国立職業安全保健研究
所 NIOSH ストレス・モデル・モデル(Hurrell and McLanery 1988)においては、
「仕事のスト
レッサー」が「個人的要因」「職務外要因」および「バッファー要因」(このなかにはソーシ
ャル・サポートが含まれる)に媒介されながら「ストレス反応」を発生させ、疾病を引き起
こすと考えられている。
本稿では、このうちバッファー要因としてのソーシャル・サポートの基盤となる社会関係
資本の配分状況について分析を行う。というのも、「仕事の要求度-コントロール・モデル」
(Karasek 1979)とソーシャル・サポートを組み合わせてコーピングの効果を検討する研究
(島津ほか 2003)もあるが、そこでは仕事のコントロールやソーシャル・サポートをあげる
だけでなく、より積極的な対処を行うことがストレスを低減させること、とくに同僚からの
サポートを受けることがコーピングの効果を高めることが指摘されているからである。
2
ソーシャル・サポートの基盤となる社会関係資本
心理学者や精神科医は、コーピングとならんで、ソーシャル・サポート(社会的支援)を
得ることが有力なストレス・マネジメントの方略であり、それゆえストレス発生の媒介要因
となると考えてきた。しかし、このソーシャル・サポートの基盤となる社会関係資本の配分
状況およびその階層間格差については、十分な研究がなされていない。こうした社会関係資
本のあり方(「連帯」の有無)が、社会病理の発生と関連をもつことは、デュルケームの『自
殺論』(Durkheim 1897=1968)以来、指摘されてきたことである。
カワチら(Kawachi and Kennedy 2000=2004)によれば、消費社会における社会的不平等(所
得格差)が、競争的な過剰消費・過剰労働を生むことで、とりわけ下層から時間的余裕を奪
い、職場外の家族や地域における社会参加や社会関係資本の形成が妨げられるという。そし
て、その結果、経済的側面だけでなく情緒的側面でもソーシャル・サポートが剥奪され、メ
ンタル面での健康が低下する、と推測している。
2
150
しかし、これらの研究では、そもそも情緒的サポート源となる社会関係資本がどのように
不平等に配分されているのか、またなぜ社会関係資本の多寡が個人の精神的健康に影響する
のか、といった点が明確にされていない。社会学においては、転職などにおける社会関係資
本の道具的効果が研究されてきたが(Granovetter 1995=1996)、ソーシャル・サポートの基盤
となる社会関係資本の階層間格差についての研究は十分とは言えない。今後は、ストレス・
マネジメントの表出的資源としての社会関係資本の偏在についても研究を進める必要がある。
実際、ソーシャル・サポートがストレスを軽減することは、これまでにも心理学の分野で
繰り返し指摘されてきた(浦 1992)。コーエンら(Cohen and Wills 1985)によれば、ソーシ
ャル・サポートは、まずあるイベントがどの程度、ストレスフルなのか評価する段階で介入
し、ストレスに緩衝作用を及ぼす。この段階で有効なサポートを得られた人は、そうでなか
った人に比べ、同じイベントを経験してもストレスを感じない。次に、たとえストレスフル
と評価されたイベントでも、それが実際にストレス反応をもたらすかも、ソーシャル・サポ
ートのあり方に影響され、適切なサポート源をもつ者ほどストレス反応が出にくいという。
そして、こうしたサポート源に関しては、社会学における社会的ネットワーク論の観点(た
とえばネットワークの「範囲」や「密度」、「同質性」などとの関連)から研究されてきた。
リン(Lin, Dumin and Woefel 1986,Lin 2001a,b)は、曖昧と言われる社会関係資本の概念を整理
し、社会構造と行為が相互作用する局面に注目して社会関係資本(社会的ネットワークに構
造的に埋め込まれた資源)をモデル化しているが、そのなかで社会関係資本がもたらす効果
もしくは利得を「道具的利得(道具的行為への利得)」と「表出的利得(表出的行為への利得)」
にわけ、後者に身体的・精神的健康および生活満足を入れている。そして、とりわけ同質的
なネットワーク資源に構造的に埋め込まれた社会関係資本は、経験を共有する他者からの承
認という利得をもたらすため、情緒的ストレスを緩和するという。さらに、こうした「表出
的利得」は、ネットワークの密度によって利得構造は異なるものの、遡って集合財の獲得や
機会へのアクセシビリティを高めるという互酬的効果をもつとされる。実際、心身とも健康
な人ほど地位達成の機会をもつものである。
同様に石田(2004)も、社会関係から生み出される関係的資源には「道具的資源」の他に「表
出的資源」があるとする。この「表出的資源」は「目的達成や問題解決のための行動の維持・
安定に寄与する資源」であり、心身の健康を維持・増進する情緒的サポートの機能や、社会
化の機能を果たすとしている。また、一般に緊急な相互援助が必要なときには同質的ネット
ワークが有効に働くが、不確実性の高い流動的状況で情報力や柔軟性が必要な場面では、む
しろ異質性の高いネットワークの方が有効なサポートを提供する、という(石田 2004)。さ
らに、岩間(2002)は、ホームレスの自立支援策を念頭に、行政(東京都)の自立支援が「経
済資本」と「身体資本」の獲得に焦点づけられているのに対して、民間のボランティア団体
は「社会関係資本」の提供を通じて、①「信頼」を介した道具的資源の獲得、②高階層ネッ
3
151
トワークによる道具的資源の獲得に加えて、③同質的ネットワークを介した表出的資源の獲
得(当事者同士の結びつきを強めることで、他者からの承認を得たり、肯定的アイデンティ
ティを再構築し、情緒的ストレスを緩和することなど)を可能にしていると主張している。
そこで、本稿では、まず若年層インターネット調査のデータをもとに、若年労働者の職業
階層(若年インターネット調査票問 13)および学歴(問 7)によってサポート源の量(問 20)
がどのように異なるか検討する。次に、本人現職・学歴を基準にサポート源の異質性・同質
性(問 21)を把握するとともに、サポート源の異質性・同質性を規定する要因を学歴や職業
といった階層変数のなかに探っていく。そして、最終的にはこうしたサポート源の量やその
異質性・同質性がディストレス(問 18)を低減させる効果があるか、またサポートはストレ
スフルな階層的条件とディストレスの発生との関係に介入するバッファー要因となっている
のか分析を行う。
3
学歴・職業階層とソーシャル・サポート量
まず、ソーシャル・サポートの有無をみるために、日常生活を送る上で家族以外に個人的
な相談ができる相手がいるか、職業別・学歴別にみていく。なお、職業については、①上層
ホワイトカラー(専門・管理・技術)、②下層ホワイトカラー(事務・販売・保安)、③ブル
ーカラー(サービス・接客・技能・生産工程・農業)、④自営業(自由業・家族従業者も含む)、
⑤無職に分けたうえで、①から③については正規雇用と非正規雇用を分けた8分類を用いた。
図1は、この職業階層別に相談相手の有無を集計した結果を示している。これによると、
男女とも「無職」の者に「相談相手がいない」という者が多い。とくに男性無業者では、
「相
談相手がいない」という者は、58%にのぼる。また有職者でも男性のブルーカラー非正規雇
用の者で「相談相手がいない」という者が 47%もいる。無業やフリーターに滞留する若年層
に関する事例研究(日本労働政策研究・研修機構 2004)からは、こうした困難を抱えた若者
のネットワークには、「孤立型」「限定型」 1が多いと指摘されてきた(堀 2004)が、今回の
調査結果からも、このことが確認できる。
1堀(2004)は、無業やフリーターに滞留する若者に関する事例研究(日本労働政策研究・研修機構
2004)か
ら、若年層のソーシャル・ネットワークを3つに類型化している。すなわち、①家族以外の人間関係がほと
んどない孤立型、②地元の同年齢で構成された人間関係のみに所属する限定型、③人間関係を広げていく志
向が強い拡大型の3類型である。
4
152
男性
女性
上層ホワイト正規
上層ホワイト非正規
下層ホワイト正規
下層ホワイト非正規
ブルー正規
ブルー非正規
自営
無職
上層ホワイト正規
上層ホワイト非正規
下層ホワイト正規
下層ホワイト非正規
ブルー正規
ブルー非正規
自営
無職
いる
いない
0%
図1
20%
40%
60%
80%
100%
職業階層別にみた相談相手の有無
また、同様に従来の研究からは、学歴もまた、若年層の社会的ネットワークの形成に大き
な影響をもつことが指摘されてきた。それによると、学校を早く離れた場合(たとえば中学
卒業)、とくに男性は「密度の濃い地元の友人関係の中に生きている」「限定型」が多いとい
う(堀 2004)。こうした濃密な友人関係は、情緒的サポートを若者にもたらす一方で、進路
選択の幅を狭めたり、移動を心理的に制約をするとされる(新谷 2002,2007)。これに対して、
遅く学校を離れた若者の場合、ソーシャル・ネットワークは学校を通じて形成されるため、
安定した支援を受けやすい相談相手が得られるという(堀 2004)。
そこで、図 2 には学歴別に相談相手の有無を男女別に示した。男女ともとくに学歴が中学
卒という者で「相談相手がいない」という者が著しく多く、男性で7割、女性で5割を超え
ている(ただし、中学卒は男性で 26 名、女性で 28 名と少ない)。このことから、低学歴であ
ることは相談ネットワークを築くうえでの障害となっていることがわかる。
男性
中学
高校
高専・短大・専門学校
大学・大学院
いる
女性
中学
いない
高校
高専・短大・専門学校
大学・大学院
0%
図2
20%
40%
60%
80% 100%
学歴別にみた相談相手の有無
5
153
実際、学歴の低さが相談相手とのネットワークを形成する上で障害になることは、別の角
度からも見いだすことができる。図3は、その相談相手と知り合った「場」について学歴別
に集計したものである 2。これによると、男女ともおおむね学歴が低いほど学校を相談相手と
知り合った場所とする者が少なくなる。とくに中学卒業者では、男性で3割、女性では2割
弱となる。そして、「その他」の場所(男性では「町や遊び場」、女性では「インターネット
やメール」)で相談相手と知り合ったという者が多くみられた。これに対して、高校以上の学
歴になると、学校が主要なソーシャル・サポートの供給源となることがわかる。
男性
中学
高校
高専・短大・専門学校
女性
大学・大学院
学校
中学
職場
高校
その他
高専・短大・専門学校
大学・大学院
0%
図3
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90% 100%
学歴別にみた相談相手との出会いの場
次に、ソーシャル・サポートの量をみるために、相談相手の人数について見てみよう 3。図
4 は、職業階層別に相談相手の人数をみたものである。これによると、まず男性では相談相
手の人数は、無職の者で平均 1.4 人ともっとも少なく、これに次いで下層ホワイト・ブルー
カラーの非正規雇用でも少ない。また女性は全般的に男性よりも相談相手には恵まれている
が、下層ホワイトカラーやブルーカラーの非正規、無職で少ない。このことから、男女とも
無業であったり、非正規雇用であることは、相談相手とのネットワークを築きあげる上での
障害となっていると言える。
これに対して、男女とも自営業・家族従業である者において、もっとも相談相手が多くな
る。このことは自営業層の交際範囲の広さを物語っていると考えられる。また雇用層では、
男女とも上層・下層ホワイトカラーの正規雇用において、相談相手が多くなっている。さき
に若年層にとって学校が社会的ネットワークの供給源の1つであると述べたが、職場もまた
若年層に家族以外の相談相手を提供することが考えられる。
2
ここで「職場」は「就職した職場」「アルバイト先」をあわせた。また、「その他」には、「インターネッ
トやメール」「町や遊び場」「家族や親戚の紹介」を含む。
3 ここでは「相談相手がいない」という者は人数を0人とした。また 50 人、100 人、200 人と答えた場合
は「はずれ値」として、分析から排除してある。
6
154
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
図4
無職
自営
ブルー非正規
ブルー正規
下層ホワイト非正規
下層ホワイト正規
上層ホワイト非正規
無職
上層ホワイト正規
自営
ブルー非正規
ブルー正規
下層ホワイト非正規
下層ホワイト正規
上層ホワイト非正規
上層ホワイト正規
0
職業階層別にみた相談相手の人数
実際、従来の研究(樋口 2006)からも、正規雇用であることは職場からのサポートを受け
やすくするが、非正規雇用や無業の者は、職場で相談相手をみつけにくいことが指摘されて
きた。そこで、図 5 には雇用者について、職業階層別に職場における「仲のよい同僚」の有
無を集計した結果を示している。ここからは、女性では従業上の地位による違いは明確には
みられないが、男性においてはどの職種でも非正規雇用者において、相談ネットワークを形
成する契機となると考えられる「仲のよい同僚」が少なくなる傾向がみてとれる。
図5
ブルー非正規
ブルー正規
下層ホワイト非正規
下層ホワイト正規
上層ホワイト非正規
上層ホワイト正規
ブルー非正規
ブルー正規
下層ホワイト非正規
下層ホワイト正規
上層ホワイト非正規
上層ホワイト正規
80
70
60
50
40
30
20
10
0
職業階層別にみた「仲の良い同僚」の有無(「多くいる」「少しいる」の合計)
7
155
では、これらの分析をふまえて、相談ネットワークの量を規定する要因を探っていきたい。
表 1 は相談相手の数を従属変数にして、①性別(女性を基準としたダミー変数)、②教育年数、
③職業(無職を基準としたダミー変数)を投入した重回帰分析の結果を示している。
まず、性別は相談相手の数に大きな影響を与えており、男性に比べると女性において相談
相手が多いことがわかる。教育年数もまた、相談相手の数に有意な正の効果をもたらしてお
り、学歴が高いほど相談相手が多くなる。他方、職業階層もいくつかの点で有意な効果をも
っており、無職を基準にすると、1%水準でみて正規雇用の上層ホワイト
カラー・下層ホワイトカラーおよび自営業者であることは、相談相手の数を有意に増加させ
ることになる。逆に言えば、男性であること、学歴が低いことに加えて、非正規雇用の下層
ホワイトカラーやブルーカラーであることは、無業と同様、相談ネットワークを築けない要
因となっているとも考えられる 4。
表1
相談ネットワーク量の規定要因
独立変数
β
性別ダミー
-0.190***
教育年数
0.067***
上層ホワイト正規ダミー
0.098***
上層ホワイト非正規ダミー
0.051**
下層ホワイト正規ダミー
0.113***
下層ホワイト非正規ダミー
0.035
ブルー正規ダミー
0.058**
ブルー非正規ダミー
0.028
自営ダミー
0.068***
自由度調整済R 2
0.043***
注)*** p<0.01
4
**:p<0.05
学歴・職業階層と相談ネットワークの異質性-同質性
次に相談相手の異質性・同質性という観点から、学歴・職業階層による相談ネットワーク
の質的な差異をみてみよう。まず、表 2 には、本人の学歴ごとに相談相手の学歴を示した。
これによると、男性の高専・短大・専門学校、女性の中学卒業者をのぞき、どの学歴層でも
同じ学歴の者を相談相手とする者が最頻値となっている。つまり、学歴に関しては相談ネッ
トワークの同質性は高いといえる。先にもみたように、若年層にとって学校が相談相手の主
4
ただし宮田・太郎丸(2007)によれば、無業や非正規雇用が社会的孤立をもたらすというより、学歴が
就業状態(正規雇用か非正規雇用・無業か)と同時に相談ネットワークを規定するとして、無業者が社会的
に孤立する傾向にあるのは「見かけ上の関連」に過ぎないとしている。この点については、改めて検討した
い。
8
156
要な供給源であることを考えれば、これは当然のことと言える。
また学歴が高くなるほど、学生時代の友人を相談相手としていたが、この表からみても男
女とも大学・大学院卒業者は、同じ学歴の者を相談相手として選択する率が際だって高い。
そこで、右表側には多様性係数を示したが、男女とも大学・大学院卒業者で多様性が低くな
っている。逆に、多様性が最も高いのは、男女とも高専・短大・専門学校の卒業者であり、
高校から大学・大学院までの卒業者まで幅広く相談相手としていることがわかる。
表2
本人学歴ごとにみた相談相手学歴
相
本人学歴
男性
女性
中学
談
相
高校
手
学
歴
短大・専
大学・
多様性
門学校
大学院
係数
中学
50.0
33.3
0.0
16.7
0.611
高校
5.5
56.9
14.9
22.7
0.600
高専・短大・専門学校
4.0
36.8
34.4
24.8
0.683
大学・大学院
3.6
17.9
10.2
68.4
0.489
中学
9.1
54.5
0.0
36.4
0.562
高校
9.6
61.2
18.0
11.2
0.571
高専・短大・専門学校
6.7
32.9
38.2
22.2
0.692
大学・大学院
3.8
18.4
16.6
61.1
0.563
次に、表 3 は、同様に職業間の関連について作成したクロス表である。この表からは、先
の学歴間の関係とは異なるパターンを読み取ることができる。たとえば、上層ホワイトカラ
ー正規雇用の者は、男女とも同じ上層ホワイトカラー正規雇用者を相談相手として選択する
ことがもっとも多いが、女性の場合、上層ホワイトカラーでも非正規雇用者は、同じ非正規
の上層ホワイトカラーよりも正規雇用の上層ホワイトカラーの者を相談相手にする率が高い。
また男性の場合、下層ホワイトカラーの非正規でも、上層ホワイトカラー正規の者を相談相
手にしている者がもっとも多い。そして、男性の場合、全体の欄でみるとわかるように、上
層・下層ホワイトカラー正規雇用者が相談相手として選ばれることが多い。したがって、職
業のいかんにかかわりなく、非正規雇用よりも正規雇用の者を、またブルーカラーよりもホ
ワイトカラー、下層ホワイトカラーよりも上層ホワイトカラーを相談相手として選好する傾
向がみられる(この傾向はとくに男性において顕著である)。そこで、右表側には、先と同じ
く多様性係数を示したが、男女とも職種に関わりなく、正規雇用の者より非正規雇用や無職
の者において、またホワイトカラーよりもブルーカラーにおいて相談相手の異質性が大きい
ことがわかる。
9
157
表3
本人職業ごとにみた相談相手職業
相
上層
上層
談
下層
相
手
正規
男性
女性
ホワイト
非正規
業
多様性
下層
本人職業
ホワイト
職
ホワイト
正規
ブルー
ブルー
正規
非正規
ホワイト
自営
無職
係数
非正規
上層ホワイト正規
68.1
1.5
10.8
3.4
2.9
1.0
9.3
2.9
0.512
上層ホワイト非正規
22.4
17.2
24.1
6.9
3.4
1.7
10.3
13.8
0.826
下層ホワイト正規
29.7
2.2
42.3
4.9
6.6
1.6
7.7
4.9
0.717
下層ホワイト非正規
27.4
3.6
19.0
14.3
4.8
8.3
10.7
11.9
0.832
ブルー正規
37.0
4.1
15.1
15.1
1.4
21.9
5.5
0.765
ブルー非正規
22.1
3.8
21.2
11.5
12.5
13.5
7.7
7.7
0.846
自営
27.7
8.5
6.4
8.5
6.4
2.1
36.2
4.3
0.768
無職
15.2
4.0
20.2
10.1
7.1
8.1
23.2
12.1
0.844
全体
36.1
4.1
21.7
6.8
6.8
4.3
13.2
6.9
0.788
上層ホワイト正規
47.0
3.6
14.5
9.6
1.2
6.0
4.8
13.3
0.724
上層ホワイト非正規
24.2
12.1
21.2
13.6
1.5
1.5
9.1
16.7
0.826
下層ホワイト正規
19.8
2.1
40.6
9.4
5.7
4.2
4.7
13.5
0.761
下層ホワイト非正規
10.7
5.5
19.9
23.4
3.1
10.3
6.9
20.3
0.834
ブルー正規
22.7
22.7
4.5
22.7
18.2
9.1
0.802
ブルー非正規
11.3
2.4
12.1
15.3
5.6
18.5
11.3
23.4
0.844
自営
8.9
2.2
24.4
11.1
4.4
4.4
28.9
15.6
0.808
無職
15.0
6.2
15.0
10.6
5.3
7.5
7.5
33.0
0.817
全体
17.0
4.8
21.1
14.2
4.6
8.1
8.2
21.9
0.841
従来の研究では、高い階層的地位にある者ほど、ネットワークの構成における異質性が高
いとされてきたが(菅野 1998) 5、若年層の場合、学校や職場を基盤にして社会関係資本の
蓄積途上にあり、かえって階層的地位が低く不安定な者の方がさまざまな他者にソーシャ
ル・サポートを求めているため、相談相手が異質になるとみることもできる。そして、全体
として地位の向上や安定をめざして、自分より地位の高い者をサポート源とする傾向がある
と推測される。
次に、この サポート・ネットワークの異質性-同質性を規定する要因を探るために、以下
の手順で分析を行った。まず、ネットワークの同質性を測定するために、表 2、表 3 をもと
に、学歴・職業それぞれについて一致している場合に 1、不一致の場合に 0 を与えて同質性
指標を作成した。つぎに、この2つの同質性指標を従属変数とし、性別・教育年数・職業を
5
ただし、菅野(1998)も含めて従来の研究では、対象者に複数の知己の階層的属性について回答を求めたり、
またいくつかの職業名を提示して知り合いがいるかどうか尋ねる形式で、ネットワークの同質性-異質性が
個人レベルで検討されている。これに対して、本研究では回答者があげた1人の相談相手に関して本人属性
との関連をみているので、相談ネットワークを介して階層間の結合をみていることになる。
10
158
独立変数としたロジスティック回帰分析を行った(ダミー変数は表1と同じである)。その結
果は、表 4 に示した。
この表によれば、まず相談ネットワークにおける学歴の同質性は、教育年数には影響さ
れず、性別と職業階層によって規定されていることがわかる。そして、性別に関しては男性
であるほど学歴の同質性が高く、職業では無職を基準にして、上層ホワイトカラー正規・下
層ホワイトカラー正規であることはネットワークの同質性を高めている。他方、職業の同質
性には、性別と教育年数の影響はみられず、職業のみが有意な影響を及ぼしている。そして、
上層・下層ホワイトカラー正規雇用では同質性が高まるが、上層・下層ホワイトカラー非正
規および正規・非正規を問わずブルーカラーであることは相談相手との職業の同質性を低下
させている。
表4
相談ネットワークの同質性の規定因
従属変数:学歴の同質性
B
有意確率
Exp (B)
B
有意確率
Exp (B)
性別ダミー
0.230
0.019
1.258
-0.100
0.374
0.905
教育年数
0.011
0.676
1.011
-0.008
0.776
0.992
上層ホワイト正規ダミー
0.590
0.000
1.805
1.484
0.000
4.410
上層ホワイト非正規ダミー
0.045
0.828
1.046
-0.804
0.004
0.448
下層ホワイト正規ダミー
0.305
0.032
1.357
0.629
0.000
1.875
下層ホワイト非正規ダミー
-0.025
0.857
0.975
-0.356
0.033
0.701
ブルー正規ダミー
-0.143
0.536
0.867
-0.607
0.044
0.545
ブルー非正規ダミー
-0.110
0.490
0.896
-0.682
0.001
0.506
0.203
0.372
1.225
0.244
0.328
1.276
自営ダミー
-2 対数尤度=2771.322
Cox & Snell R
5
従属変数:職業の同質性
2
=0.019
-2 対数尤度=2278.979
Cox & Snell R
2
=0.099
ソーシャル・サポートによるディストレスの緩和
では、これまでみてきたソーシャル・サポートの供給源の広がりや同質性-異質性は、実際
にディストレスを低減する効果があるだろうか。従来から、同質的なネットワーク資源に埋
め込まれた社会関係資本は、経験を共有する他者からの承認をもたらすため、情緒的ストレ
スを緩和するとされてきた(Lin, Dumin and Woefel 1986, Lin 2001a,2001b)が、若年労働者にお
ける相談ネットワークの同質性も同様にディストレスを低減させる効果をもつだろうか。
また、アメリカ国立職業安全保健研究所 NIOSH ストレス・モデル・モデルでは、ソーシ
ャル・サポートは、ストレッサーの影響を緩和するバッファー要因としてとらえられていた
(Hurrell and McLanery 1988)。近年もソーシャル・サポートが、とくに低学歴の者や無職の者
に対して、不利な階層的要因が健康に及ぼす影響を緩和する交互作用効果のあることが指摘
11
159
されている(Gorman and Sivaganesan 2007)。そこで、以下では併せてこうしたバッファー効
果についても検討する。
まず、表 5 のモデルⅠでは、ディストレス 6を従属変数とし、性別・教育年数・職業に加え
て(ダミー変数の構成は従前と同じ)、相談ネットワークの広がりを示す 相談相手人数と、
学歴と職業における相談相手との同質性を独立変数とした重回帰分析をおこなった。そ
の結果、性別や教育年数、職業階層 7を統制した場合、相談ネットワークの広がりはディス
トレスに有意な負の効果をもっており、相談相手の数が多いほどディストレスは有意に低下
することがわかった。これに対して、職業と学歴における相談相手との同質性には、ディス
トレスを低下させる効果はみられなかった。
他方、モデルⅡでは、ソーシャル・サポートのバッファー効果を確認するために、モデル
Ⅰの変数に加えて、中学卒業ダミー変数と相談相手人数の交互作用項ならびに無職・非正規
雇用ダミー変数と相談相手人数の交互作用項を加えて重回帰分析を行った。このモデルⅡに
関しても、交互作用項は有意になっていない。このことから、ソーシャル・サポートの量(相
談人数)には、ディストレスを直接的に低減させる効果はみられたものの、とくに階層的条
件に恵まれない若年層のディストレスを低下させるバッファー効果はもたないことがわかる。
表5
ディストレスの規定因(β係数)
独立変数
モデルⅠ
モデルⅡ
性別ダミー
-0.043
-0.043
教育年数
-0.016
-0.014
上層ホワイト正規ダミー
-0.087**
-0.106**
上層ホワイト非正規ダミー
-0.024
-0.023
下層ホワイト正規ダミー
-0.070*
-0.091*
下層ホワイト非正規ダミー
-0.039
-0.039
ブルー正規ダミー
-0.055*
-0.066*
ブルー非正規ダミー
-0.052
-0.054*
自営ダミー
-0.076**
-0.088
相談相手人数
-0.073**
0.005
職業による相談ネットワーク同質性ダミー
0.023
-0.023
学歴による相談ネットワーク同質性ダミー
0.013
-0.013
相談相手人数×中卒ダミー
0.038
相談相手人数×非正規・無職ダミー
-0.097
調整済み R2
注)***:p<0.01
0.016***
**:p<0.05
0.015***
*:p<0.10
ディストレスの指標としては、若年層インターネット調査の問 18 の5項目の合計得点を使用している。
職業階層における仕事の条件(自律性や努力/報酬不均衡)が若年層のディストレスにどのように関わる
かについては(片瀬,2008)で分析したので、ここでは触れない。
6
7
12
160
6
むすび
本稿では、若年層のディストレスに関わる要因として、家族以外の相談相手からのソーシ
ャル・サポートのあり方に注目し、まず社会階層によるソーシャル・サポート源の量的・質的
差異を検討した。その結果、無職や非正規雇用である者、また学歴が低い者(とくに中学卒
業者)は、家族以外のサポート源をもたない「孤立型」のネットワークか、限られた数の相
談相手しかいない「限定型」のネットワークをもつことが明らかになった。この背景には、
若年層のネットワークが主として学生生活を通じて得られること、また非正規雇用では職場
の友人関係にも恵まれないことがあると考えられた。
他方、ソーシャル・サポート源の質的側面に注目すると、学歴に関しては同一水準の学歴の
者を相談相手とする者がとくに高学歴者で多いことがわかった。このように学歴に関しては
相談ネットワークが同質的なのは、若年層が学校の友人関係を主要な基盤として社会関係資
本を蓄積していたことからも理解できる。これに対して、職業に関しては、非正規雇用より
も正規雇用の者を、またブルーカラーよりもホワイトカラー、下層ホワイトカラーよりも上
層ホワイトカラーを相談相手として選好する傾向がみられた。その結果、正規雇用の者より
非正規雇用や無職の者において、またホワイトカラーよりもブルーカラーにおいて相談相手
の異質性が大きいことがわかった。若年層の場合、階層的地位が低く不安定な者の方が異質
な他者にソーシャル・サポートを求めているため、相談ネットワークが多様になると考えら
れる。ロジスティック回帰分析の結果からも、上層・下層ホワイトカラー正規であることは
ネットワークの同質性を高め、同じ上層・下層ホワイトカラーでも非正規であること、また
ブルーカラーであることは、ネットワークの同質性を低下させていることが確認された。
最後に、こうした相談ネットワークの量的・質的差異がディストレスを緩和するか検討し
た。そして、ソーシャル・サポートの量はディストレスを有意に低減させていたが、相談相
手との同質性は影響をあたえていなかった。また、ソーシャル・サポートがとくに階層的条
件に恵まれない者のディストレスを緩和するというバッファー効果も確認することはできな
かった。したがって、今回の分析では、サポート源の広がりがディストレスの緩和に有効で
あることは確認できたが、ネットワークの同質性の効果やバッファー効果については明らか
にできなかった。実際、従来の研究に関するレビュー(Hirsch,
Engel=Levy, Du Bois and
Haredsty 1990)でも、どのような特質をもつネットワークが有効であるかについては、個別的
な状況におかれた対象者(被援助者)がもつ価値や目標、欲求に依存するとされている 8。こ
の点では、困難な雇用状況に置かれた若年層(たとえば「年長フリーター」)に対して、どの
8
たとえば、ハーシュら(Hirsh and Reishl 1985)によれば、親密で密度の高い社会的ネットワーク(家族や友
人)からのサポートは、通常の若者には適応を促進するが、ハイリスク下の青少年(親が精神的・身体的な
疾患を抱えた家族の子ども)には、親へのアンビバレンスな態度をもたらしたり、他者の境遇との社会的比
較から不安を抱かせるなどして、かえって不適応をもたらす、という。
13
161
ような特質をもったソーシャル・サポートの提供が有効であるか検討することは今後に残さ
れた課題であると言えるだろう。
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15
163
Social support and distress in young workers
Kazuo KATASE
Faculty of Liberal Arts
Tohoku-gakuin University
Sendai,Miyagi,981-3193
In this article, we examined the quantitative and qualitative differences in resources
of social support, which may reduce distress of young workers. We found that the
unemployed and those of non-regular employment, and those of lower education, had less
supportive network, because young people get network mainly through school life and
non-regular employees are hard to get friends in work place. Meanwhile, as for
qualitative aspect of social support, especially the highly educated has tendency to
consult those with same educational level. In contrast, in regard to occupation, regular
white-collar employment increase homophily of network and non-regular white-collar
employment and blue color decrease.
Further, we examined how nature of social network related to distress and found that
quantity of social support significantly reduces distress. However, we could not confirm
the effect of homophily of network and buffering effect of social support.
Key words and phrases:
young workers, social support, distress
16
164
独身女性の性分業意識と従業上の地位
太郎丸 博
(大阪大学)
本稿では、性分業意識が女性の従業上の地位を低める可能性を検討する。独身女性が将来、
専業主婦になろうと思う場合、正規雇用を無理をしてまで継続する誘引が弱まると考えられ
る。この仮説が正しければ、将来、専業主婦になろうと思う女性の場合、非正規雇用や無職
の割合が高くなるはずである。学歴、年齢、離死別経験をコントロールした上で、性分業意
識(将来主婦になりたいかそれとも就業を継続したいか)と従業上の地位の関係を調べる
と、無職や派遣社員の場合、正社員よりも性分業意識が強かった。パートアルバイトははっ
きりした結果が得られず、契約社員・嘱託社員の場合、正社員とほぼ同じ程度の性分業意識
を示した。自営業は、正社員よりも性分業意識が弱く、因果の方向は性分業意識が従業上の
地位に影響を及ぼすのではなく、むしろその逆である可能性が示唆された。
キーワード:非正規雇用、フリーター、ニート、社会階層、社会移動
1 問題:性分業意識が女性をフリーターにするのか
一説では、性分業意識の強い女性はフリーターになりやすいとされるが本当だろうか。女性の場
合、専業主婦になることを厭わなければ、無理にフルタイムの職を続ける必要がないので、非正規
雇用や無職になりやすいというわけである。この仮説を性分業仮説と呼ぶことにしよう。太郎丸博
(2007) は、インターネット調査の結果から、この仮説を否定している。本稿では、太郎丸 (2007)
を追試すると同時に、非正規雇用内部の多様性を検討する。
私は性分業仮説には否定的である。第 1 に、この仮説は、意識が就業形態の選択に影響を及ぼす
と仮定する。もちろん、独身のときから結婚した後の生活について明確な予定を持っている場合、
そのような予定が仕事の選択に影響を及ぼすことはあるだろう。しかし、むしろ逆の場合のほうが
多いと考えられる。すなわち、現在、自営業だから結婚した後も仕事を続けられるだろうとか、現
在、無職だから、結婚した後も無職のまま主婦になろうといった判断が働きやすいと考えられる。
つまり、現在の従業上の地位が将来のライフコースの選択に影響を及ぼす場合のほうが多いと考え
られる。
性分業仮説を否定する 2 番目の理由は、将来のライフコースは、どのような配偶者と出会うかに
強く依存しているので、独身のときは、あまり明確なライフコースの展望を持ちにくい場合が多い
と考えられるからである。専業主婦になりたくても、配偶者の収入が十分でなければ働くこともあ
165
るかもしれないし、逆に働き続けたくても、配偶者の転勤などのせいで働き続けることが難しい場
合もありうる。そのため、結婚する相手が決まるまでは、明確なライフコース展望が持ちにくいと
いう女性のほうが多いのではないだろうか。
上記のような 2 つの可能性は、本稿では検討できない。本稿で検討するのは、年齢や学歴などを
コントロールしても、従業上の地位とライフコース展望の間に関連があるかどうかという問題であ
る。もしも両者の間に関連がなければ、性分業仮説は誤りであるとみなせる。また、関連があった
としても、非正規雇用のほうが性分業意識が弱かったりしたら、やはり性分業仮説の予測には反す
ることになろう。
2 インターネット調査を使った非正規雇用内部での差異の検討
正規雇用と非正規雇用を比較する場合、暗に非正規雇用は均一な特質を持つと示唆してしまいが
ちである。しかし、非正規雇用の内部にも、さまざまな差異があると考えられる。例えば、パー
ト・アルバイトや派遣社員のほうが、契約社員・嘱託社員よりも労働条件は悪いと考えられる。派
遣社員にもさまざまなタイプがあるが、平均的に見れば契約期間が短く失業しやすい。意識の面で
も、違いがある可能性がある。
特定の年代の人々の全体を母集団としてランダムサンプリングしたデータでは、派遣社員や契約
社員の数がそれほど多くないため、両者をまとめて扱うことが多い。労働力調査でも出生動向基本
調査でも、両者をまとめて集計することが多いので、派遣社員と契約社員の違いがわからない。
2007 年に行った SSM 若年インターネット調査は、派遣社員と契約社員を多めにサンプリングし
ているため、両者の違いを検討するのに最適である。この調査では調査会社のモニターから無作為
抽出したサンプルを用いているため、日本社会全体には単純に一般化できない。しかし、本稿の目
的にはよく合致したデータと言えるだろう。以下では、1 回目と 2 回目のインターネット調査と郵
送調査の結果を比較しつつ分析を進めていくことにする。
3 データの処理と変数
データは、2007 年 SSM 若年層郵送調査(以下郵送と省略)と 2007 年 SSM 若年層インターネッ
ト調査(1 回目と 2 回目)
(以下ネット 1 回目、ネット 2 回目と省略)を用いる。既婚者、在学中の
者はデータから除いた。また、男性もデータから除外した。
ここでは、性分業意識の指標として、ライフコース展望としばしば呼ばれる変数を用いる。これ
は独身女性に対して、表 1 のような質問をする。もともと 7 つの選択肢があるが、これをこの表の
ように 3 つのカテゴリに統合する。本稿では、一般論、あるいは理論的な水準では、性分業意識と
いう言葉を用い、上記のような指標をライフコース展望と呼ぶ。性分業意識にはいくつかの次元が
あるといわれるが、ライフコース展望もその側面と言えるだろう。
ただし、性分業意識は非常に強いが、家業の都合などで将来は仕事を継続することを予想するよ
うな人もいるであろうから、いわゆる性役割意識とはやや異なると考えるべきである。しかし、こ
166
表 1: 女性に対するライフコース展望のワーディング(2007 年 SSM 若年調査)
あなたは、将来の仕事と結婚についてどのように考えていますか。もっとも近
いと思われるものを1つ選んで下さい
1=仕事をせずに、結婚して家庭に入る
2=結婚したら仕事をやめて、家庭に入る
専業主婦型
3=子供ができたら仕事をやめて、家庭に入る
4=子供ができたらいったん仕事をやめ、子供に手がか
一時中断型
からなくなったら仕事を始める
5=結婚して子供ができても仕事を続ける
6=結婚しても子供を作らず、仕事を続ける
仕事継続型
7=結婚しないで仕事を続ける
こで問題になっているのは、一般論として「男は外で働き、女は家庭を守るべき」といった意識で
はなく、「私は主婦になるつもりだから、今はパートでいい」といった判断が働くかどうかという
問題であるから、やはりライフコース展望を用いるのが適切である。そしてライフコース展望は一
般的な性役割意識と同じではないが、密接に関連していると考えるべきである。
4 出生動向基本調査との比較
まず、それぞれのデータの分布の偏りを検討するために、2005 年に行われた第 14 回出生動向基
本調査(独身者調査)(以下では「出生動向調査」と省略する)(国立社会保障・人口問題研究所編
2007) と比較しよう。出生動向調査の有効回収率は 75% で、年齢の分布も国勢調査の結果に近似し
ており、SSM の結果よりも信頼できる。出生動向調査では、今回の SSM 若年調査で用いた質問文
と類似の質問文をもちいて、独身女性に将来のライフコースの希望と予定を尋ねている。ワーディ
ングが異なるため、どちらが「正しい」とはいえないが、分布を比較しておくことは必要だろう。
4.1 ライフコース展望のワーディング
出生動向調査では、表 2 のようなワーディングでライフコース展望をたずねている。SSM 調査
との大きな違いは、出生動向調査では、まず理想のライフコースを尋ね、その後に予定のライフ
コース(あるいは予想するライフコース)を尋ねている点である。また、選択肢も 5 つに簡略化さ
れている。
4.2 分布の違い
出生動向基本調査、郵送、ネット 1 回目、ネット 2 回目のデータに関して、年齢×ライフコース
展望のクロス表を作ったのが、表 3、表 4、表 5 である。 3 つの表を比べると、郵送調査で中断型
167
表 2: 女性に対するライフコース展望のワーディング(2005 年出生動向調査)
問 1 あなたの理想とする人生はどのタイプですか。
問 2 理想は理想として実際になりそうなあなたの人生はどのタイプですか。
1 結婚せず仕事を続ける
2 結婚するが子供はもたず、仕事を続ける
仕事継続型
3 結婚し子供をもつが、仕事も続ける
4 結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会に退
一時中断型
職し、子育て後に再び仕事を持つ
5 結婚し、子どもを持ち、結婚あるいは出産の機会に退
専業主婦型
職し、その後は仕事を持たない
表 3: 年齢×ライフコース展望(郵送調査)
継続
中断
主婦
計(人数)
18∼24 歳
25%
53%
23%
93 人
25∼29 歳
32%
48%
20%
111 人
30∼34 歳
39%
42%
19%
79 人
表 4: 年齢×ライフコース展望(インターネット調査 1 回目&2 回目)
1 回目
継続
中断
主婦
18∼24 歳
30%
36%
33%
25∼29 歳
40%
36%
30∼34 歳
44%
30%
2 回目
計(人数)
継続
中断
主婦
計(人数)
66 人
35%
31%
33%
108 人
24%
113 人
35%
39%
26%
254 人
26%
115 人
45%
32%
23%
226 人
表 5: 年齢×理想/予定のライフコース(出生動向基本調査)
理想のライフコース
継続
中断
主婦
18∼24 歳
37%
41%
23%
25∼29 歳
40%
36%
30∼34 歳
47%
29%
予定のライフコース
計(人数)
継続
中断
主婦
902 人
40%
46%
14%
874 人
24%
718 人
44%
46%
10%
694 人
24%
440 人
57%
35%
8%
411 人
168
計(人数)
が多い。インターネット調査は、1 回目も 2 回目も出生動向調査の理想のライフコースの分布に似
ているようである。大雑把に言えば、SSM 若年のワーディングは、予定よりも理想を尋ねること
になっていたようである。実際、予定を持っている人はそれほど多くないと考えられるので、予定
よりは理想のほうが答えやすいのかもしれない。
さらに、4 つの調査の分布を比較するために、調査の種類×年齢×ライフコース展望の 3 重クロ
ス表から、モザイクプロットを作ったのが、図 1 と図 2 である。 図 1 も図 2 も、郵送、ネット 1
1 2
>4
24
18
2:4
0:2
-2:0
29
25
-4:-2
<-4
34
Standardized
Residuals:
30
図 1: 出生動向基本調査の希望のライフコースと若年調査データの分布を比較したモザイクプ
ロット
回目、ネット 2 回目の部分はまったく同じクロス表から作っている。2 つの図の違いは、図 1 は出
生動向調査に関して「理想」のライフコースのデータを、図 2 は「予定」のライフコースのデータ
を使っている点である。モザイクプロットとは、基本的には帯グラフのことである。帯の幅が、各
カテゴリの比率を示す。この 2 つの図の場合、9 つの帯を縦に並べ、さらに個々の帯を各調査のサ
ンプル数に比例するように4つに分割している。さらに各帯の高さが、それぞれに該当するサンプ
ル数に比例するように描かれている。例えば、一番下の「30∼34 歳の主婦型」の帯の高さと、下
から 3 番目の「30∼34 歳の継続型」の帯の高さを比較すると、明らかに「30∼34 歳の継続型」の
169
1 2
>4
24
18
2:4
0:2
-2:0
29
25
-4:-2
<-4
34
Standardized
Residuals:
30
図 2: 郵送と予定のモザイクプロット
ほうが高い。これは、継続型のほうがこの年代では人数が多いからである。
さらに、帯には色がついているが、これは標準残差を示している。これらの図の場合、階層的対
数線形モデルで、[年齢×ライフコース展望][調査] の交互作用を仮定し、このモデルからの残差を
示している。すなわち、このモデルは年齢もライフコース展望も、4 つの調査で分布が同じである
ことを仮定している。実際には分布が有意に異なるところで、モザイクプロットの帯に色がついて
いる。例えば、一番上の帯の一番右側は、出生動向調査の「18∼24 歳の継続型」であるが、このカ
テゴリの調整残差は、4 以上ある。すなわち、明らかに SSM 若年調査よりも出生動向調査のほう
が、
「18∼24 歳の継続型」の割合が大きいということである。
図 1 を見ると、SSM 若年調査は、出生動向調査に比べて 18∼24 歳のサンプルの比率が低い。ま
たネット調査は 30∼34 歳の比率が高い。ネット調査では、女性の非正規雇用の比率を高くしたり、
離死別経験者を多くサンプリングしたりしているので、比較的年齢が上のサンプルが多くなってい
るのだろう。図 2 もほぼ同様の傾向である。
170
表 6: ライフコース展望×従業上の地位
常雇
契約
派遣
パート
自営
失業
非労働力
計(人数)
仕事継続型
61 %
10 %
7%
10 %
7%
4%
1%
90
一時中断型
56 %
12 %
5%
19 %
2%
5%
1%
135
専業主婦型
48 %
10 %
8%
18 %
2%
10 %
3%
60
仕事継続型
28 %
10 %
8%
26 %
6%
13 %
10 %
167
一時中断型
32 %
4%
17 %
21 %
2%
16 %
7%
112
専業主婦型
15 %
2%
15 %
31 %
2%
18 %
18 %
108
仕事継続型
31 %
9%
15 %
20 %
8%
10 %
6%
358
一時中断型
24 %
8%
18 %
23 %
4%
18 %
5%
239
専業主婦型
26 %
5%
18 %
23 %
2%
13 %
13 %
192
郵送
ネット 1 回目
ネット 2 回目
5 分析
調査の種類別に、従業上の地位と性分業意識のクロス表を作ったのが、表 6 である。確かに、専
業主婦に将来なろうと考えている女性は、仕事を継続したり一時中断してからまた働こうと考えて
いる女性に比べると、相対的に常雇や自営が少ない。また、専業主婦型は派遣と非労働力の割合が
高い。これらの事実は、性分業仮説を支持する結果である。しかし、この仮説が正しければ、契約
社員やパートは非正規雇用なので、専業主婦型か一時中断型で多いはずであるが、必ずしもそうで
はない。失業の比率も、調査によってまちまちで、あまり明確な傾向が見られない。
ライフコース展望と従業上の地位の間に、調査の種類をコントロールしても有意な関連があるか
どうかを確かめるために、階層的対数線形モデルをいくつか当てはめた結果が表 7 である。1 番目
と 2 番目のモデルを比べると、AIC では、ライフコース展望と従業上の地位の関連を仮定した 2 番
目のモデルのほうが、当てはまりがよいとわかる。しかし、BIC では、むしろ両者の関連を仮定し
ない 1 番目のモデルのほうがあてはまりがよく、ライフコース展望と従業上の地位の関連は弱いも
のであることがわかる。3 番目と 4 番目のモデルを比較しても同様の傾向である。
ライフコース展望と従業上の地位の関連を示すために、両者の交互作用パラメータを示したのが
表 8 である。これを見ると、専業主婦型は就業継続型に比べて、派遣、パート、失業、非労働力が
多く、自営が少ない。契約社員と自営を除けば、性分業仮説の予測どおりとなっている。
性分業仮説では、自営は明示的に考察されていないが、基本的には、常雇と同じように考えるべ
171
表 7: ライフコース展望×従業上の地位×調査の種類の階層的対数線形モデルのあて
はまり
G2
df
p
AIC
BIC
1 [展望][地位][調査]
244.0
52
0.0
140.0
−134.9
2 [展望 × 地位][調査]
182.0
40
0.0
102.0
−109.5
3 [展望 × 調査][地位 × 調査]
82.5
36
0.0
10.5
−179.9
4 [展望 × 調査][地位 × 調査][展望 × 地位]
20.0
24
0.7
−28.0
−154.9
モデル
表 8: ライフコース展望と従業上の地位の交互作用パラメータ(表 7 の 4 番目のモデル)
常雇
契約
派遣
パート
自営
失業
—–
—–
—–
—–
就業継続型
—–
—–
一時中断型
—–
−0.14
0.38
0.23
−0.82*
0.56**
専業主婦型
—–
−0.36
0.58*
0.53**
−1.18**
0.70**
非労働力
—–
−0.08
1.05**
きであると考えられる。もちろん、将来専業主婦になるつもりだから今は家業を手伝っているとい
う人もいるだろうが、基本的には、自営は人的資本への投資と考えられるだろう。しかし、自営の
専業主婦志向は著しく弱く(逆に言えば就業継続志向が強く)、常雇を上回っている。もしも性分
業仮説が正しいならば、常雇も自営も同程度の性分業意識を持っていると予測されるが、そうは
なっていない
*1 。
しかし、年齢と学歴もコントロールした上でライフコース展望と従業上の地位の関係を検討すべ
きであろう。また、ネット 2 回目では、離死別を多くサンプリングしているため、離死別ダミーも
コントロールすべきであろう。そこで、ライフコース展望を従属変数として、多項ロジットモデル
と順序ロジットモデルを当てはめた。性分業仮説に従えば、従業上の地位を従属変数とすべきであ
るが、結果が煩雑となるため、ライフコース展望を従属変数とした。
その結果が表 9 と表 10 である。AIC を見ると、多項ロジットのほうが当てはまりがよいが、単
純な順序ロジットの結果を見てみよう。なお、どちらも、2 次の交互作用まで検討したが
*2 、いず
れもモデルの AIC を改善しなかったので、主効果のみのモデルの推定値を示している。 順序ロ
ジットの結果を見ると、学歴が低いほど、年齢が若いほど、そして離死別経験者よりも未婚者のほ
うが性分業意識が強い。また、調査の種類は有意な効果を持たない。ただし、多項ロジットの結果
を見ると、郵送調査で一時中断型が多いという効果ははっきりと認められる。また、多項ロジット
では、パートの専業主婦型の効果が有意になっているが、順序ロジットではそうはなっていない点
*1
前述のように、このような結果は、性分業意識が弱いから自営なのではなく、自営だから就業の継続を予想している
と解釈したほうが適切だろう。
*2 AIC を基準にした後退ステップワイズ法を用いた。
172
表 9: 多項ロジットモデル (就業継続型が従属変数の
基準カテゴリ)
一時中断
係数
切片
中学・高校
専門学校
短大・高専
大学
大学院
離死別
24 歳以下
25∼29 歳
30∼34 歳
35∼40 歳
ネット 1 回目
ネット 2 回目
郵送
契約
常雇
派遣
パート
自営
失業
非労働力
−0.11
—–
0.06
0.31
−0.02
−0.85
−0.23
—–
−0.04
−0.41
−1.32
—–
0.03
0.58
−0.18
—–
0.39
0.18
−0.63
0.54
−0.02
S.E
0.25
—–
0.20
0.20
0.17
0.47
0.19
—–
0.19
0.19*
0.24**
—–
0.15
0.20**
0.24
—–
0.21
0.18
0.34
0.22*
0.30
専業主婦
係数
0.01
—–
−0.57
0.24
−0.58
−1.66
−0.70
—–
−0.23
−0.44
−0.83
—–
−0.10
0.02
−0.46
—–
0.53
0.40
−1.02
0.57
0.91
S.E
0.27
—–
0.23*
0.20
0.19**
0.71*
0.25**
—–
0.20
0.21*
0.26**
—–
0.17
0.22
0.32
—–
0.23*
0.20*
0.51*
0.24**
0.30**
** p < 0.01, * p < 0.05, N = 1459, deviance= 2944.7,
AIC= 3012.7, BIC= 3229.8
に注意が必要だろう。
従業上の地位の基準カテゴリは、常雇の一般従業者、すなわち、いわゆる正社員にほぼ対応する。
これに比べると、契約社員の場合、顕著な違いが見られず、パート・アルバイトははっきりしない
結果である。無職や派遣の場合、有意に性分業意識が強く、自営は著しく性分業意識が弱い。
6 議論
無職の女性の場合、性分業意識が強くなることは、すでにわかっていたことだが、今回、失業者
と非労働力に分けた結果、非労働力のほうが分業意識が強かった。また、非正規雇用を細かく分け
た結果、派遣社員の分業意識は正規雇用よりも強かったが、その他の非正規雇用と正規雇用の間に
は有意差が見つからなかった。
序論でも述べたように、契約社員・嘱託社員は、派遣社員やパート・アルバイトとは、異なる意
173
表 10: 順序ロジットモデル (係数が大
きいほど、専業主婦型が多く、継続型が
少ない)
中学・高校
専門学校
短大・高専
大学
大学院
離死別
24 歳以下
25∼29 歳
30∼34 歳
35∼40 歳
ネット 1 回目
ネット 2 回目
郵送
常雇
契約
派遣
パート
自営
失業
非労働力
切片: 継続/中断
切片: 中断/専業主婦
係数
S.E
—–
−0.37
0.16
−0.39
−1.31
−0.50
—–
−0.13
−0.32
−0.84
—–
−0.07
0.10
—–
−0.32
0.38
0.26
−0.80
0.45
0.77
−0.75
0.78
—–
0.16*
0.15
0.14**
0.40**
0.16**
—–
0.14
0.15*
0.18**
—–
0.12
0.15
—–
0.20
0.16*
0.14
0.29**
0.17**
0.22**
0.19**
0.19**
** p < 0.01, * p < 0.05,
deviance= 3011, N = 1459, AIC= 3047,
BIC= 3162
識を持っていると考えるべきだろう。このような意識の違いは、おそらくキャリアパターンや人的
資本の違いからくると考えられるが、今後検討が必要であろう。また、私はパートと派遣はかなり
類似していると予想していたが、必ずしもそうではないという結果になった。おそらくパート・ア
ルバイトの女性もかなり多様な人々からなっているのではないだろうか (小林 2006; 永吉 2006)。
性分業仮説は、部分的に否定され、部分的には支持されたと言うべきであろう。専業主婦型で
は、確かに派遣社員や無職の女性が相対的に多かった。しかし、パートと契約社員・自営について
は、予測に反する結果となっている。もっと説明力の高い、高次の理論が今後必要であろう。
174
【文献】
小林大祐, 2006, 「フリーターの労働条件と生活—–フリーターは生活に不満を感じているのか」太
郎丸博編『フリーターとニートの社会学』世界思想社, 97–120.
太郎丸博, 2007, 「若年非正規雇用・無業とジェンダー――性別分業意識が女性をフリーターにす
るのか?――」『ソシオロジ』52(1): 37–51.
国立社会保障・人口問題研究所編, 2007, 『平成 17 年わが国独身層の結婚観と家族観—第 13 回出
生動向基本調査—』
(財)厚生統計協会.
永吉希久子, 2006, 「フリーターの自己評価—–フリーターは幸せか」太郎丸博編『フリーターと
ニートの社会学』世界思想社, 121–43.
Single Women’s Employment Status and Sex-Role Attitudes
TAROHMARU, Hiroshi
Osaka University
Department of Sociology, Faculty of Human Sciences
YamadaOka 1-2, Suita, 565-0871, JAPAN
This paper examines the hypothesis that single women’s sex-role attitudes would lower one’s
employment status. If a woman is to become a full-time housewife, she may not have a strong
incentive to do a full-time employment. Therefore, she might be more likely to quit a full-time
job and do a parttime job than a woman who is to continue a full-time job after marraige.
To test this hypothesis, we conducted multinomial logistic regression analyses. The results
show that a single woman wanting to be a fulltime housewife is more apt to be jobless, or a
teporary helping worker than a standard employee. There is no difference between fixed-term
employees and standard employees. Many of self-employed women are to continue one’s job
after marriage comapred to standard employees. This implies the reverse causal direction
between sex-role attitudes and employment status.
keywords and phrases: nonstandard employment, freeter, NEET, soical stratification, social
mobility
175
若年労働者の転職意向と非正規就労経験の関係
飯島賢志
(武蔵丘短期大学)
【要旨】
本論文は、若年雇用者の転職意向について、過去の非正規雇用経験の有無がどのように影響し
ているのかを検討している。分析では、現在、正規職にある者に着目して分析をおこなった。そ
の結果、第一に、現職が正規職にある者において、過去の非正規雇用、無業の経験が学歴や収入
を統制しても転職意向を強める効果があること。第二に非正規・無業経験は、それだけで転職意
向に影響を及ぼすものであり、今回の分析に投入し、影響を想定した安定志向、自己能力の発揮
の重視といった変数には有意な効果を及ぼさないことがわかった。
キーワード:若年正規雇用者の転職意向
1
非正規雇用経験
本稿の目的と関心
本稿の目的は、非正規雇用経験または無業の経験の有無が、その後の転職意向に影響を与
えるのかどうか、その関係を明らかにすることである。本稿では特に現職が正規雇用にある
者に対して、過去に非正規雇用経験を有していると、転職意向が強くなるのかどうかに関心
をおき、非正規雇用経験が直接、転職意向に影響を及ぼすのか、それとも他の要因を介して
間接的に転職意向に作用するのかを検討する。
非正規雇用・無業は従来の社会階層的研究のなかでは社会移動研究の地位達成研究の中で、
周辺的に扱われてきたように思う。しかし、階層移動の既存理論の多くが現実社会の実態に
適合的でないことによって階層論が停滞に陥ったこと(原・盛山(1999))や、非正規雇用・無業
層が階層移動研究の中では一つの独立した階層とみなされてこなかったことの一方で、1990
年代後半からの非正規雇用・無業層の増大のインパクトが大きかったこと(太郎丸(2006))など
によって、近年、非正規雇用・無業の研究は社会階層研究の枠組みでなされるよりも、むし
ろ労働経済学、教育社会学において活発に研究がなされてきた。そして、その研究視点は非
正規雇用・無業層がなぜ増大したのか、また非正規層・無業層はどのように分類して理解さ
れるのか、といった、原因論や認識論(小杉(2003))に力がそそがれてきたといえよう。
原因論や認識論は多くの成果をもたらしてきたが、今後、原因論、認識論とともに重要に
なってくるのは、将来どのような状況が予期されるのか、という点だろう。本稿はそのよう
な関心のもと、従来の原因論、認識論とは一歩距離を置いて、今後、社会的にどのような状
1
177
況が予見されるのかという視点を内在して議論をすすめている。
ここで用語について若干の整理しておく。本稿でいう非正規雇用経験とは、具体的にはパ
ート、アルバイト、臨時雇用、内職、派遣、嘱託の形で就労した経験のことを指し、無業の
経験とは文字通り、失業ないし学卒後、就職しないで無職を経験することを指している。ま
た本稿の分析で「非正規」といった場合には、この非正規雇用および無業の経験を意味して
いる。そのほか、転職意向とは転職行動を具体的にはとっていないものの、転職をしたいと
思う態度のことを指す。
以下では、まず関連研究から、転職に影響を与えると思われる変数を取り出し、つぎに本
稿で分析するデータを紹介し、最後に分析して結論を述べるという手順で進めていく。
2
関連する研究と分析方針
2.1
関連する研究
本稿に関連すると思われる研究には、たとえば、小杉(2006)、グラノヴェター(1995=1998)、
渡辺(1991)、玄田(2004)、佐藤(2005)、太郎丸(2006)などがある。
小杉(2006)は若年労働者へのインタビュー調査から、転職のための政策支援のあり方を模
索した仕事である。小杉はよい転職へのカギは、職業能力の発揮できるか、賃金などの労働
条件が満たされるか、長期的なキャリアを展望できるか、社会的ネットワークが存在してい
るか、景気などのそのときの社会的な外部条件が整っているか、および転職を促すライフ・
ステージにあるか関わるという。よいわるいの価値判断はともかくとして、小杉の指摘は転
職への促進要因を指摘したものとして捉えられよう。
社会的ネットワークについては、ジョブ・サーチにおける重要な情報の伝播構造に着目し
たグラノヴェター(1995)でも指摘されている。グラノヴェターは転職の成功に対して、それ
ほど緊密に顔を合わせる間柄ではない程度の社会的ネットワークの重要性を弱い紐帯として
指摘している。また玄田(2004)も転職のためには仕事以外の部分で友人ネットワークを多く
持つことが幸福な転職への重要な要因であるとし、ネットワークの重要性を主張している。
渡辺(1991)もグラノヴェターのいう弱い紐帯仮説に国の違いによる疑問を呈するものの、ネ
ットワーク自体の存在を否定するものではなく、社会的なネットワークの存在が転職にたい
して促進要因であるとする基調に変わりはない。
転職に対する学歴の効果について、佐藤(2005)は大卒者は終身雇用制を選ぶなど定着、安
定志向傾向であること、パートタイム労働者は終身雇用制よりも収入を上げることを重視す
ることを指摘している。また太郎丸(2006)はどのような層がフリーター、ニートになりやす
いのかを人的資本仮説、文化的再生産仮説、貧困仮説の3つの仮説を検証するなかで、父親
の職業、学歴、本人の 15 歳時の出身家庭の財産の間接的な効果のかかわりを指摘する。
2
178
以上から、転職に対して、つぎのような仮説に整理される。仮説 1「自己能力仮説」
:自己
能力の発揮の希求が転職意向を高める。仮説 2「ネットワーク仮説」
:友人関係など外部の社
会的ネットワークの存在が転職可能性を高める。仮説 3「経済的報酬仮説」
:経済的報酬の希
求が転職意向を高める。仮説 4「安定志向仮説」
:長期的なキャリアを意識するなど安定を望
むと終身雇用を選ぶため転職意向は弱まる。仮説 5「機会豊富化仮説」
:景気などの社会経済
的状況が整い、転職受け入れ窓口が増加すると転職可能性が高まる。仮説 6「ライフ・ステ
ージ仮説」:出産などのライフ・ステージが転職意向を高める。
2.2
分析方針
本稿ではデータの制約から1~4 までを分析に組み入れ、転職意向に対する非正規経験の
効果の統制要因とする。分析は第 1 段階として非正規雇用経験の直接効果の関係を他の要因
で統制してもなお効果があるのかどうかを検証する。つぎに第 2 段階として、
「リスク低減仮
説」を分析に加える。リスク低減仮説とは、非正規経験をすることによって、非正規・無業
に対する抵抗感が弱まることで転職へのリスク評価が低減し、転職意向が高まるという仮説
である。従来の仮説との関係では、非正規雇用経験→(-)→安定志向→(+)→転職意向という構
図として表現される。
3
使用するデータ
使用するデータは 2007 年 1 月実施の「2006 年社会階層と社会移動若年層郵送調査(調査主
体:2005 年社会階層と社会移動全国調査研究会)」のデータである。この調査の対象者は全
国において住民基本台帳から選ばれた 18 歳から 34 歳の男女を対象としている。分析では調
査票の問 2_8、 問5、問 7_1、問 15_5、 問 15_8、 問 20、 問 30_1、 問 19、 問 27_1、お
よび問 13 を用いる。
4
分析
4.1
分析の準備
分析は転職意向を従属変数として、各仮説に対応する独立変数を組み込んだ回帰分析から
はじめ、考察とともにパス解析を実行することでおこなう。分析に使用するソフトウェアは
Scientific Software International 社の Lisrel 8.54 と SPSS 社の SPSS 13.0J である。Lirel を使用す
る理由は 2 点ある。一つは Lisrel を使うことで構造方程式モデリングが可能になり、回帰分
析からパス解析までを一連の分析として、まとめて扱うことができる点で利便性があるから
3
179
であり、もう一つは、カテゴリカルな変数に対して、ポリコリック相関やポリシリアル相関 1
を計算してくれ、本稿で扱う変数の分析に向いていると考えられるからである。
回帰分析に投入した従属変数間の相関係数を示したのが表1である。表1の一番上の行の
項目名の欄にある Q20 と書かれている個所は、それが調査票の問 20 に対応しているという
意味である。相談者人数というのは日常生活の相談をできる人数の回答であり、社会的ネッ
トワークの指標として用いたものである。個人収入は経済的報酬の指標である。安定志向は
失業の恐れがないことをどれくらい重視するかに対する回答であり、
「重要である」から「重
要ではない」までの5件法になっている。自己能力発揮は現職において自分の能力を発揮で
きるかどうかについて、「あてはまる」から「あてはまらない」の 4 件法での回答である。
表1:回帰分析の独立変数間の相関係数
安定志向
能力発揮
相談人数
個人収入
正規非正規
Q2-8
Q15-8
Q20
Q30-1
Q13より作成
性別
年齢
学歴
1
性別
安定志向
.018
1
自己能力発揮
.012
-.059
1
相談者人数
.061
.023
-.049
1
個人収入
-.215
.071
-.114
-.055
1
正規非正規
-.099
-.015
-.021
.086
.095
1
年齢
.049
.034
-.001
-.099
.461
.261
1
学歴
.016
.057
.008
.032
.016
-.077
-.060
1
また、正規非正規とは現職が正規で、かつ初職または3年後職において非正規か無職を経験
したか否か、つまり、現職正規で過去に非正規・無業を経験したか否かであり、非正規経験
を示す変数である。質問に対して、転職なしで正規職のままだと初職、3年後職、現職で正規
と回答し続けるが、分析では転職していない者は原則として分析から除外している 2。初職―
3年後職―現職で、正―正―正となる場合でも、必ず転職しているケースとなっている。従属
変数の転職意向には問15-13「転職したいと思っている」に対する回答4値を1-2でひとま
とめ、3-4でひとまとめにした2値変数を用いた。
4.2
分析と考察
表 2 は初職、3 年後職、現職で、非正規か正規かどちらであったかについての回答パタン
1
2
ポリコリック相関係数、ポリシリアル相関係数については、豊田(1998)を参照のこと
問 12 の転職社数を利用した。
4
180
によって Type I~Type IV の 4 層に分けたのち、それぞれのタイプにおける転職意向の割合を
示した表である。
表2:転職意向と転職、非正規経験の関係
初—三年-現
転職意向強
転職意向弱
%(人数)
非-正非-正:Type I
45.2
54.8
100(62)
正--非--正:Type II
57.9
42.1
100(19)
正--正--正:Type III
37.3
62.7
100(158)
無転職正規:Type IV
42.0
58.0
100(245)
41.5
58.5
100(484)
計
転職意向に対して、4つのパターンを同時に、一元配置の分散分析をした結果、有意な違
いはみられなかった。しかし、個々のパターンの対の組み合わせで一元配置の分散分析をし
たところ、正規―非正規-正規(Type II)と正規―正規―正規(Type III)の間において 10%水準
で有意な違いがみられた。さらに、[Type I + Type II] と[Type III + Type IV]との間には違いは
見られなかったが、[Type I + Type II]と[Type III]との間に 10%有意で違いがみられた。違いが
みられた箇所で関連の向きを調べたところ、ともに非正規経験があると転職意向が強いとい
う向きになっている。
つぎに非正規経験と転職意向の関係について、従来転職に影響するとされた変数と性別、
年齢などの基本的な変数を投入してコントロールし、なおかつ非正規経験が転職意向とプラ
スの関連があるかどうかをみてみよう。
図1:非正規経験と転職意向の関係(左が Type II、右が TypeI+TypeII の場合)
5
181
図1は転職意向に対する非正規経験の関係を、従来の仮説を反映した変数で統制した結果
である。左側は、初職は正規であったが、現職までの間に非正規を経験したか否かと転職意
向との関係をしめしたものであり、右は初職が正規であるか否かは考慮せず、過去の職にお
いて非正規を経験したか否かと転職意向との関係を示したものである。左では 5%水準で有
意であるのは安定志向、自己能力発揮の2つであり、10%水準に緩めてさらに有意となるパ
スはない。つまり、初職正規で途中で非正規を経験して現職に至っている場合では 10%水準
にゆるめても非正規経験が有意な効果を持つとはみとめられない。ただ、TypeII はケース数
が少ないので、その点に留意する必要があるかもしれない。図1の右側では、安定志向と自
己能力発揮の2つが5%水準で有意である。さらに 10%水準に緩めると、非正規経験のみが
有意になる。10%水準という緩やかな水準ではあるが、収入や学歴、年齢を統制してもなお、
過去の非正規経験が、転職意向に影響を持つことがしめされている。右側では転職意向に対
して、安定志向と自己能力発揮、非正規経験が効果を持ち、それぞれ安定志向であると転職
を考えない傾向があること、自己能力が発揮でないと考えると転職意向が強くなること、過
去に非正規雇用ないし無職を経験していると、現職が正規職であっても転職意向が強まるこ
とを意味している。
図2:出身階層と本人学歴の効果
6
182
他の変数で統制しても非正規経験が転職意向に対して効果を持つことはわかったが、過去
に非正規を経験した層というのは、どのような特徴をもった層なのだろうか。
誰が非正規・無業層になるのか、どのような社会的状況が若年非正規、若年無業層を生み
出すのかについて、太郎丸(2006)は先行研究(部落解放・人権研究所(2005)、小杉(2005))を
整理して、父親の職業の効果、学歴の効果、および本人が15歳時の出身家庭の財産の間接的
な効果を指摘する。この指摘を考慮して本稿の分析でも出身階層の指標として15歳時父職 3と
15歳時の財産を、本人の人的資本の指標として学歴を設定し、非正規経験へのパスを仮定し
てみる。さらに、職場以外の友人知人の存在が幸福な転職につながるという玄田(2004)の指
摘も考慮して、相談者から非正規経験へのパスを仮定する。こうして図1のモデルから派生
した新たなモデルで分析した結果が図2である。
非正規経験には相談者と15歳時財産、および父職が効果をもつ。相談者の存在は5%有意で
あるが、関連はほとんどない。学歴の効果については有意な効果は観察されなかった。15歳
時財産と父職の効果の大きさについては一定の大きさを示していることがわかる。ただ、面
白いのは、その効果の向きがマイナスである点である。つまり出身家庭での財産が多いと非
正規経験をしており、また父職が高いと非正規経験ありを示しているのである。これは貧困
層の出身であると、非正規になりやすいという貧困仮説や、出身階層が文化的に低い層であ
ると非正規になりやすいという文化的再生産仮説と適合的ではない結果を示している。親が
富裕層であると非正規になりやすいという今回の結果に対して、山田(1999)が指摘するよう
な親世代と同居して親に頼って暮らしている若年層像が想起されるが、現在、本人の父親、
本人の母親、配偶者父親、配偶者母親と同居しているかについて相関係数を求めると、-0.024、
-0.031、-0.045、-0.015であり、相関はほとんどない。もちろん、対象者は現職正規であり、
現在非正規であるわけではないので、正規職になった後に、別居したとも考えられる。ただ、
わずかにある相関の向きに注意してみると、その向きはマイナスであり、むしろ同居は非正
規を経験していない層に観察される傾向であることを示している。
そのほか、15時財産と父職から転職意向へのプラスの直接効果があることがわかる。財産
については、ほとんど効果がないといえるが、父職からは0.14の効果がある。父階層の低さ
が転職意向につながっている。父職の効果を非正規経験と併せて考えると、次のような構図
になっている。すなわち、親世代を頼ることができると考えるのかどうかよくわからないが、
父職が高いと転職の中で非正規を経験する傾向がある。その一方で父職が低いと、親を頼れ
ないと思うのかどうかわからないが、転職の中で非正規を経験しないで、正規職で転職を重
ねる傾向がある。そして父職の低さは転職意向を直接に高めるという構図である。父職の低
3
職業は橋本(1999)の分類を参考にして資本家[従業員規模 5 人以上の経営者、役員、自営業・家族従事者]、
新中間階級[専門、管理職および男性事務職]、旧中間階級[従業員 5 人未満の経営者・役員、自営業主・家族
従事者、契約社員・嘱託]、労働者階級[臨時雇用・パート・派遣・内職で事務職、および一般従業者の事務
職女性、その他]、無職層[無職・学生]として分析に用いた。変数としては資本家層を大きい数値に設定した。
7
183
さが直接的、間接的に転職意向を高める形になっている。
最後に図3の分析結果をみてみよう。飯島(2007)は東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城の一
都四県において実施された調査データの分析から、現職が正規職にある大卒男性において、
不安定雇用(パート、アルバイト、派遣、契約・嘱託社員)の経験が、仕事に対する自己能力
の発揮の重視に有意に結びつくことを指摘している。また玄田(2004)においても転職者にお
ける特徴として独立志向、仕事志向を強調する。こうした議論を踏まえ、非正規経験から自
己能力発揮への影響関係を仮定し、さらに2.2節で提案したリスク低減仮説を反映してモデル
を構成して分析した結果が図3である。図3がこれまでの議論をすべて反映したモデルとな
っている。
図3:非正規経験の効果
非正規経験から安定志向、および自己能力発揮へのパスはともに10%水準で有意とはならか
かった。だが、モデルの適合度をみるとRMSEAは0.049であり、適合度がよいとされる0.050
を下回り、全体としてのモデルの適合度はよい。GFIは0.97である(図2は0.92)。リスク低減
仮説を仮定した方がモデルとしては好ましいと思われる。
全体的にみると、転職意向に対しては、自己能力の発揮、安定志向、非正規経験、15歳
時財産、父職の5つが有意である。だが、安定志向と15歳時財産は有意であるといっても
その効果はほとんど0に近く、関連の程度は極めて低い。
効果がなかった変数についてみてみると、従来、比較的パワフルな変数と思われていた学
歴、収入、性別の効果が有意ではなく、また仮に有意であっても、その効果はほとんどない。
8
184
なぜ効果がでないのかについて考えてみると、つぎのようなことが考えられる。
本稿は現職が非正規と正規職にある者の違いをみているわけでも、初職が正規か非正規か
の違いをみているわけでもない。本稿の分析はすでに正規職にある者を対象として、現職正
規以前の職において、非正規・無業を経験したか否かに焦点を合わせている。つまり、全員、
現職正規なので、現職について同質的な対象となっているため学歴や収入の効果が薄い結果
になっている可能性がある。
ただ、そうしたなかで、効果が比較的強く出ている変数については注意すべきだろう。正
規職につき、ある程度、安定した状況において、転職を促す要因は、学歴や収入ではなく、
自己の能力を発揮できるかどうかという内在的な報酬の効果であること、出身階層が低いこ
と、そして過去において非正規・無業を経験していることなのである。出身階層や非正規・
無業の経験が現在の収入、学歴で統制しても、なお効果がみとめられるということは、そう
した経験自体が何か特別な意味を持つ可能性がある。出身階層と非正規経験と自己能力発揮
および転職意向の関係をみると、有意性に問題があるものの、出身階層が高いと非正規経験
が高くなり、非正規経験が高いと現職において自己能力を発揮できていないと回答する傾向
があり、自己能力を発揮できないと回答すると転職意向が高まるという構図になっている。
転職意向に収入の効果があらわれていないことと併せて踏み込んで考えると、出身階層が高
いことで自己能力への自己評価が高くなり、そのことによって適職と考えるハードルが高く
なり、非正規になりやすかったり、現職で能力が発揮できないという回答としてあらわれて
いるということなのかもしれない。
5
結論
本稿では、非正規・無業経験と転職意向の関係に焦点をあわせ、先行研究で転職意向に影
響を与えると思われる要因を取り出し、転職経験があり現職が正規にある者に対して分析を
おこなった。その結果、第一に、現職が正規職にある者において、過去の非正規雇用、無業
の経験が学歴や収入を統制しても転職意向を強める効果があることがわかった。このことは、
1990 年代後半からの日本の非正規・無業層の増大と併せて考えると、今後、正規職について
いる者においても、収入、学歴にかかわらず、転職が増加するのではないか、ということが
予想される。第 2 に非正規・無業経験は、それだけで転職意向に影響を及ぼすものであり、
今回の分析に投入し、影響を想定した安定志向、自己能力の発揮の重視といった変数には有
意な効果を及ぼさないことがわかった。リスク低減仮説は適合的ではないが、リスク低減仮
説を仮定したモデルの方が、仮定しないモデルよりもモデル全体としての適合度はよくなる
ことから、リスク低減仮説についてはもう少し検討の余地があるということ見解に至った。
そのほか、転職意向には非正規経験以外に自己能力の発揮できるかが効いており、自己能力
9
185
を発揮できないと転職意向が強まる傾向がある。学歴や収入を統制しても効果が観察されて
いるため、非正規経験の有無とは別に、自己の能力をより自由に発揮できる職場づくり、組
織体制、社会システムでないと転職が増加することが予想される。自己能力発揮の規定因に
ついては本稿では定かではない。また調査票にはまだ同じ構成概念の指標となりそうな別の
質問項目がある。今後、それらも吟味する必要があるだろう。今後の課題である。
【文献】
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John H.Goldthorpe,1980=1987,Social Mobility and Class Structure in Modern Britain,Clarendon Press.
謝辞:本稿の作成までに SSM 若年層班の方を中心にアドバイスをいただき、編者の太郎丸博氏には、アドバ
イスのみならず本稿執筆に際して寛大なご配慮をいただきました。ここに記して感謝の意を示します。また
三隅一人氏には本稿執筆につながる機会を与えていただきました。あらためて感謝の意を示します。
10
186
The Influence of Non-Regular Working Experience to the Intension of
Change of Job of Young Regular Workers
Iijima Kenji
MUSASHIGAOKA COLLEGE
This paper examines whether the experience of non-regular working influences the intention of change
of job of young regular workers. On analysis, I analyzed young regular workers. As a result, I found out
that the experience of past non-regular employment influences the intention of change of job .
Keywords : non-regular working experience, intention of change of job
11
187
社会階層と職場のフリーライダー問題
―若年層における正規雇用と非正規雇用の比較―
小林
盾
(成蹊大学)
【要旨】
この論文では,若年層における正規雇用労働者と非正規雇用労働者を比較して,どういう人が
職場で同僚にフリーライド(ただ乗り)するのかを検討した.非正規雇用労働者が近年増えてお
り,ともすれば社会階層間の格差が,そうした雇用形態という形で拡大していくかもしれないか
らである.
しかし,これまで職場のフリーライダー問題について,正規雇用労働者と非正規雇用労働者を
比較したものはなかった.そこで,人びとが仕事に手抜きをしないで取り組んでいるかどうかを
調べた.データは, 2007 年 SSM 若年層郵送調査と 2007 年 SSM 若年層インターネット調査を結
合して用いて,15 歳から 39 歳を対象とした.
分析の結果,以下のことが分かった.(1)雇用形態別に調べたら,仕事に手抜きしないで取り組
んでいるのは,正規雇用労働者より非正規雇用労働者のほうであった.(2)個人の要因としてモチ
ベーションを調べたら,内発的モチベーションが高く,賃金より仕事そのものを報酬としている
人ほど,手抜きをしなかった.(3)ところが,職場の要因として賃金制度を調べたら,年功序列型
である人とくらべて成果主義型である人ほど,仕事に手抜きをしていた.(4)したがって,大枠で
は非正規雇用労働者のほうが正規雇用労働者より,フリーライダーとならなかった.ただし,内
発的モチベーションが高い人どうしで比較すると,差は縮んだ.こうしたメカニズムは,社会階
層間の格差を縮小させる可能性もあるし,逆に拡大させる可能性もあるだろう.
キーワード:社会階層,フリーライダー,職場,若年層,正規雇用労働者,非正規雇用労働者,
モチベーション,成果主義,年功序列
1
問題
1.1
非正規雇用労働者の拡大
総務省統計局の労働力調査によると,パート,アルバイト,派遣社員,契約社員などの非
正規雇用労働者の比率は,これまで増え続けてきた.2007 年には,役員を除く雇用者 5520
万人のうち,正規雇用労働者 3393 万人にたいして,非正規雇用労働者が 1726 万人いた.そ
の結果,非正規雇用の労働者の比率が 33.7%となり,はじめて 1/3 を超えた(1~3 月平均,
図 1 参照).
では,こうした労働市場の変化は,人びとの働き方にどのような影響を与えているのであ
ろうか.労働市場が流動化することで,社会階層間の格差は縮小しているのだろうか.
1
189
山田によれば,現代では労働者が正規雇用か非正規雇用かへ二極化しているという.正規
雇用労働者は,
「企業に必要な中核的労働者」で「専門的・創造的労働者」であるが,非正規
雇用労働者は「代わりが利き,マニュアル通りに働けばよい単純労働者,サポート労働者」
と位置づけられているという(山田 2004).たとえば,コンビニエンスストアであれば,本
社のアドバイザーが正規雇用労働者であり,複数の店舗を管理する.各店舗の店員や店長は,
非正規雇用労働者の比率
( パーセント)
アルバイトの非正規雇用労働者が担っている.
40.0
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
年
図1
非正規雇用労働者の比率の変化(1984~2007 年,労働力調査より)
役員を除く雇用者中の比率.
1984~2001 年は 2 月,2002~2006 年は年平均,2007 年は 1~3 月平均.
1.2
問題
そこで,この論文では若年層の正規雇用労働者と非正規雇用労働者を比較して,どういう
人がどういう場合に仕事で手抜きをするのかを検討する.なぜなら,雇用形態によって,お
のずと働くモチベーションや将来への展望に違いがでてきて,日々の働き方にも差が生まれ
るだろうと予想できるからである.その結果,長期的なキャリア形成や生涯賃金にも違いが
生まれて,社会階層間の格差が拡大されるかもしれない.
雇用形態の二極化は,とりわけ若い労働者の間で深刻だろう.若年層は労働市場に新規参
入する.そのため,労働市場が変化すると,すでに働いている人たちとくらべて影響を受け
やすい.山田は,
「30 代までの若者たちは,二極化の影響を直接受けている」と指摘する(山
田 2004).
この問題を調べることで,非正規雇用の拡大が,人びとの働き方をどう変化させたかを明
らかにできるだろう.しかし,もしこの問題を解明できないと,ややもすればそれに伴う階
層間格差の拡大や固定化を,見逃すことになるかもしれない.
2
2.1
先行研究
社会的ジレンマ
2
190
仕事に手抜きをすることは,これまで組織研究で「職場のフリーライダー問題」として研
究されてきた.フリーライダーFree-rider とは,同僚が組織に貢献しているときに,手抜きを
してただ乗り(フリーライド)する人をさす.フリーライドすることは,もともと組織研究
で「怠業 Job neglect」とよばれ,近年は「さぼり Shirking」
「社会的手抜き Social loafing」
「手
抜き Withholding effort」と概念化されてきた(Kidwell and Robie 2003 参照).日本では,ぶ
ら下がりとよばれることもある.
また,フリーライダーが生じる状況は,
「社会的ジレンマ」とよばれる.社会的ジレンマは,
職場以外だと,社会運動(Olson 1965)や環境問題(藤井 2003)などに共通するメカニズム
として指摘されてきた(定式化は Dawes 1980 による).社会的ジレンマ研究の展開は,Kollock
(1998) や山岸 (2002) に整理されている.
2.2
職場のフリーライダー問題
さて,これまで日本の職場では,労働者が相互協調的でありながら,相互監視的であると
考えられてきた.そのため,ともすれば職場にフリーライダーは存在しないか,いてもわず
かと想定されてきた.ところが現実には,後輩の教育,職場の雰囲気作り,労働組合への参
加などで,フリーライダー問題が発生しうると指摘されている(沼上 2003).
先行研究では,組織内で全数調査を行ってきた.その結果,たとえば欧米では,フリーラ
イダーがもっとも減るのは 5 人の職場であること(アメリカの法律事務所,Leibowitz and
Tollison 1980),仕事が上司からモニターできたり内発的な関与を高めるほどフリーライダー
が減ること(アメリカの営業職,George 1992),仕事が互いに独立だったりチームが小さい
ほどフリーライダーが減ること(アメリカの企業,Liden et al. 2004)が分かった.
日本ではどうか.高橋 (1997) は,1987~96 年にそれぞれ 10 前後の企業で,フリーライダ
ーを「仕事に変化を求めない人」として測定した(高橋は体温とよぶ).その結果,フリーラ
イダーが尐ない企業ほど,活性化していることを報告している(高橋の言葉ではシステム温
が高かった).
小林他 (2005) は,フリーライダーを「チームワークに貢献しない人」として,より直接
的に測定した(ある企業の 4 営業所で全数調査).その結果,チームワークをするサイズや,
職場のサイズは,フリーライダーにほとんど影響しないこと,外勤者より内勤者に,またホ
ワイトカラー労働者(事務部門・営業部門)よりブルーカラー労働者(技能部門)にフリー
ライダーが尐ないこと,内発的モチベーションが高い人ほどフリーライダーが尐ないことを
明らかにした.
2.3
先行研究の課題
ただし,先行研究には,正規雇用労働者と非正規雇用労働者の比較を行ったものはなかっ
3
191
表1
内発的モチベーションと外発的モチベーションの比較
主な報酬
仕事が
親和的な賃金制度
予測
内発的モチベーション
仕事そのもの
目的
年功序列
手抜きを抑制
外発的モチベーション
収入
手段
成果主義
手抜きを促進
た.たとえば,高橋と小林他の調査では,正規雇用労働者のみが調査対象となっている.
3
仮説
3.1
雇用形態の影響
では,正規雇用労働者と非正規雇用労働者のフリーライダー問題について,どのように仮
説を立てることができるだろうか.派遣社員でもパートでも非正規雇用労働者は一般に,仕
事の内容が変化しにくく,同じ仕事を繰りかえすことが多い.また,働きつづけても昇進の
チャンスが限られている.とすると,非正規雇用労働者は正規雇用労働者とくらべて,あえ
て組織に貢献するよりも,手抜きをして同僚にぶら下がるかもしれない.
とはいえ同時に,仕事を変えやすかったり,労働時間を自分で決めやすいために,非正規
雇用という働き方を選ぶ人は多いだろう.とすれば,その仕事に打ち込む理由が正規雇用労
働者よりあるため,非正規雇用労働者のほうがフリーライダーとなることは尐ないと予想で
きる.たとえば,飲食店でアルバイトをしながらバンドを続けるある非正規雇用労働者は,
「アルバイトを真剣に続ける人だけが,バンドでも成功するはずだ」と語っていた.
仮説 1:正規雇用労働者とくらべて非正規雇用労働者ほど,手抜きをしないだろう.
3.2
内発的モチベーションの影響
つぎに,個人の要因としてモチベーションを取りあげる.マーチとサイモンは,モチベー
ション(動機付け)が仕事の成果にとって重要と考えた(March and Simon 1958).その後ハ
ーズバーグは,達成感など動機付け要因が仕事の満足を左右するとして,作業条件などの衛
生要因と区別した(Herzberg et al. 1959).
これらを踏まえてデシは,仕事そのものが目的となっている場合を,
「内発的モチベーショ
ン」とよんだ(Deci 1980).これに対して,仕事の報酬が収入や作業条件など外的なもので
あって,仕事が手段となっている場合を「外発的モチベーション」とした.さらに,外発的
モチベーションが高まれば,内発的モチベーションが減ることを,実験で示した.
ここから,内発的モチベーションに動機付けられた人は,仕事に楽しさを見つけだすので,
手抜きをすることは尐ないだろうと予想できる(表 1 参照).実際,小林他の調査では,内発
的モチベーションが高い人ほど,手抜きをしなかった(小林他 2005).
4
192
したがって,正規雇用労働者と非正規雇用労働者のどちらにとっても,内発的モチベーシ
ョンは組織への貢献を促すと予想できる.ただし,仮説 1 で非正規雇用労働者のほうが,手
抜きをしないと想定した.そこで,内発的モチベーションの効果は,非正規雇用労働者のほ
うが大きいと考えるのが自然だろう.
仮説 2:正規雇用労働者と非正規雇用労働者のどちらでも,内発的モチベーションが高い
人ほど,手抜きしないだろう.また,非正規雇用労働者にとってのほうが,内発的モチベー
ションの効果が大きいだろう.
3.3
成果主義の影響
職場の要因として,賃金制度がフリーライダーにどのように影響しているのかを調べる.
近年は賃金制度を,これまでの横並びな年功序列から,業績に応じた成果主義へと変える企
業が増えているという.成果主義は,富士通が 1993 年に導入してから,拡大していった.し
かし,城によれば,富士通では成果主義が導入されてから,人びとはかえってやる気をなく
し,企業としても業績が悪化したという(城 2004).実際,富士通は 2001 年には成果主義の
見直しをはじめている.なぜだろうか.
高橋は,こうした成果主義の弊害が生まれたのは,人びとが外発的モチベーションをもっ
たためだろうと指摘する(高橋 2004).デシによれば,収入という外的報酬を目指すように
なると,外発的モチベーションが増えて内発的モチベーションが低下する.その結果高橋は,
仕事が目的ではなく手段となって,
「金のために働くということは,ある一定の基準をクリア
できるように働くということであり,ベストを尽くすことはなくなる」(高橋 2004: 170)と
主張する.
とすれば,正規雇用労働者でも非正規雇用労働者でも,年功序列的な職場にいる人より,
成果主義型の職場にいる人のほうが,できるだけ手を抜くだろうと予想できる.また,正規
雇用労働者のほうが,長期にわたって同じ職場で働くため,成果主義の影響は大きくなるだ
ろう.以上の仮説を図示すると,下図となる.
仮説 3:正規雇用労働者と非正規雇用労働者のどちらでも,年功序列的賃金制度とくらべ
て成果主義的賃金制度で働く人ほど,手抜きするだろう.また,正規雇用労働者にとっての
ほうが,成果主義の効果が大きいだろう.
雇用形態
内発的モチベーション
成果主義でない
図2
モデル
5
193
手抜きしない
表2
調査の概要
調査名
2007 年社会階層と社会移動若年層郵送調査(2007 年 SSM 若年層郵送調査)
母集団
満 18~34 歳の全国男女
計画標本
4,680 人
抽出方法
層化二段無作為抽出法
有効回収数
1,187 人(回収率 25.36%)
調査時期
2007 年 1 月 11 日~2 月 26 日
調査方法
郵送調査
調査名
2007 年社会階層と社会移動若年層インターネット調査(2007 年 SSM 若年層イ
ンターネット調査)
母集団
満 15~39 歳の学生以外の全国男女
計画標本
7,479 人
抽出方法
マイボイス社モニターから,割り当て人数に比例して無作為抽出.割り当ては,
無職の独身男性,無職の独身女性,パートアルバイトの独身男性,パートアル
バイトの独身女性,その他の独身男性,その他の独身女性,既婚男性,既婚女
性を各 150 人.これとは別に,離死別者,既婚者,派遣・契約の未婚者,パー
ト・アルバイトの未婚者,無職の未婚者,その他の地位の未婚者を各 350 人
有効回収数
3,273 人(回収率 43.76%)
調査時期
2007 年 1 月 11 日~2 月 25 日
調査方法
インターネット調査
4
方法:データと変数
4.1
データ:2007 年 SSM 若年層郵送調査,2007 年 SSM 若年層インターネット調査
データとして,2007 年社会階層と社会移動若年層郵送調査(2007 年 SSM 若年層郵送調査)
と 2007 年社会階層と社会移動若年層インターネット調査(2007 年 SSM 若年層インターネッ
ト調査)を用いる(調査の概要は表 2 参照).どちらも,全国の個人を対象とした横断的調査
であり,若年層を対象としている.正規雇用か非正規雇用を含めて,職業や働き方について
詳しく質問しているので,この論文の問題関心に適しているだろう.
2 つの調査は,調査方法こそ異なるが,調査票は共通している.そこで,データを結合し
て分析する.従属変数について,2 つの調査で等分散を仮定できるか検定したところ,仮定
することに問題なかった.
4.2
分析の対象
回答者は,2 つの調査の合計で 4,460 人いた.このうち,2,643 人を分析対象とする.
職場のフリーライダー問題を検討するには,まず現在働いている必要がある.さらに,自
営業者,家族従業者,内職者には,フリーライドできる同僚がいないので,分析対象から除
6
194
表3
変数
変数
備考
従属変数
手抜きしない
質問は「手抜きをせず,仕事に取り組んでいる」
独立変数
非正規雇用ダミー
経営者,役員,常時雇用が正規雇用,臨時雇用,パート,
アルバイト,派遣社員,契約社員,嘱託が非正規雇用
内発的モチベーション
質問は「お金のためというより,今の仕事が楽しいから
働いている」
統制変数
成果主義
質問は「実績を上げれば,それだけ収入が上がる」
郵送調査ダミー
参照カテゴリーはインターネット調査
年齢
2007 年 1 月現在の年齢
教育年数
最終学歴が中学なら 9 年,高校なら 12 年,高専・短大・
専門学校なら 14 年,大学なら 16 年,大学院なら 18 年
結婚ダミー
参照カテゴリーは未婚・離別・死別を併せたもの
ホワイトカラーダミー
参照カテゴリーはブルーカラー職
グレーカラーダミー
参照カテゴリーはブルーカラー職
役職ありダミー
監督・職長・班長・組長,係長以上
仕事がきつくない
質問は「仕事の内容がきつい」(逆転させた)
能力を発揮できる
質問は「自分の能力が発揮できる」
質問への選択肢は 1(あてはまらない),2(あまりあてはまらない),3(ある程度あてはま
る),4(あてはまる)
いた.同様に,勤務先が 1 人の場合も,同僚がいないので除いた.
また,インターネット調査で職業を「その他」とした場合も,分類できないので除外した.
4.3
従属変数:手抜きをしない
従属変数として,回答者が職場でフリーライダーかどうかを調べたい.そこで,現在の仕
事について「手抜きをせず,仕事に取り組んでいる」かという質問を用いた.選択肢は,1
(あてはまらない),2(あまりあてはまらない),3(ある程度あてはまる),4(あてはまる)
の 4 つである.変数の一覧については,表 3 を参照.
たしかに,このように自己評価だと,社会的望ましさやうぬぼれによって,バイアスがか
かる危険がある.可能であれば,同僚や上司に質問することが望ましい(Tsui 1984).とはい
え,自己評価であっても,同僚からの評価や上司からの評価と,おおむね相関することが分
かっている(どちらも 1%水準で有意,Van Dyne and LePine 1998 より).
4.4
独立変数:非正規雇用,内発的モチベーション,成果主義
独立変数は,仮説にしたがって,まず現職の従業上の地位を用いて,経営者,役員,常時
雇用を正規雇用とした.これにたいして,臨時雇用,パート,アルバイト,派遣社員,契約
社員,嘱託を,非正規雇用とした.分析では,非正規雇用ダミーとして用いる.
7
195
内発的モチベーションは,
「お金のためというより,今の仕事が楽しいから働いている」か
という質問を用いた.成果主義型か年功序列型かには,
「実績を上げれば,それだけ収入が上
がる」かを質問した.どちらも,手抜きしないと同様に,1(あてはまらない)から 4(あて
はまる)の 4 つの選択肢で答える.
4.5
統制変数
統制変数には,まず調査方法の影響を除くために,インターネット調査を参照カテゴリー
として,郵送調査ダミーを用いる.
回答者の属性として,性別,年齢,学歴,婚姻状態を用いる.性別は男性ダミーで,学歴
は教育年数で,婚姻状態は現在結婚しているというダミー変数にした.
また,現在の仕事について,職業,役職,従業先の規模,転職経験を用いる.職業には,
ブルーカラー職業を参照カテゴリーとして,専門職と管理職と事務職をホワイトカラーダミ
ー,販売職とサービス職をグレーカラーダミーとした.役職には,監督,職長,班長,組長,
係長以上を役職ありダミーとする.従業先の規模は,100 人以上で区切って,規模 100 人以
上ダミーとした.転職経験は,ある場合を転職経験ありダミーとする.小林 (2007) によれ
ば,転職経験がある人ほど,フリーライダーとならなかった.
さらに,仕事の内容について,2 つの変数で統制する.まず,仕事の困難の度合いがある.
仕事がきつい場合は,手抜きをしたとしても,フリーライドしたというよりは,自分の能力
を超えているためといえるだろう.また,自分の能力を発揮できるかどうかでも,統制する
必要があろう.発揮できない場合に手抜きをしたとしても,自分から手抜きをしたというよ
りは,組織に貢献する機会がなかったからと考えるのが自然だろう.選択肢はどちらも,手
抜きしないと同様に,1(あてはまらない)から 4(あてはまる)の 4 段階であった.
5
分析結果
5.1
記述統計
従属変数である手抜きしないについて,あてはまるとある程度あてはまるを合計すると,
78.2%いた(表 4).したがって,手抜きをする人は 2 割強で,8 割弱の人は手抜きをしてい
なかった.小林他 (2005) では,6 割強が手抜きをしていなかった.比率はやや異なるが,手
抜きしない人が多いという傾向は一致している.
あてはまるを 4,あてはまらないを 1 として,全体の平均を求めると,3.01 であった(表
7).手抜きしない人が多かったことから,1 と 4 の中点 2.5 を上回っている.
統制変数ごとに平均を求めると,郵送調査のほうがインターネット調査より 0.3 高くなっ
ていたのが目立つ.性別では,男性のほうが 0.2 ほど低かった.学歴からは,明確な傾向を
8
196
表4
従属変数の記述統計(手抜きしない)
度数
1 あてはまらない
パーセント
120
457
1332
734
2643
2 あまりあてはまらない
3 ある程度あてはまる
4 あてはまる
合計
4.5%
17.3%
50.4%
27.8%
100.0%
読みとることは難しかった.
では,独立変数ごとだとどうか.従業上の地位別では,経営者・役員が 3.15 と最も高く,
契約社員が 2.93 で最も低かった.ただし,正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間では,明
確な違いを見つけにくい.内発的モチベーションは,予想どおり高いほど手抜きしないこと
を促した.しかし,成果主義的であると,予想に反して手抜きしなくなっていた.こうした
傾向が,他の変数で統制したときに,どうなるのだろうか.
5.2
雇用形態ごとの回帰分析
仮説を検証するために,回帰分析を行った.まず,正規雇用労働者と非正規雇用労働者に
分けて分析した(表 5).
その結果,正規雇用労働者の間では,内発的モチベーションが高い人ほど,有意に手抜き
をしなかった.つまり,収入という外的な報酬を求める人とくらべて,仕事そのものに価値
を見いだす人のほうが,手抜きをしないで仕事に取り組んでいた.
また,賃金制度が年功序列型な人とくらべて成果主義型な人ほど,有意に手抜きをしてい
た.つまり,収入が横並びである人とくらべて,実績に応じて収入が変わる人のほうが,仕
事で手抜きをしていた.
では,非正規雇用労働者の間ではどうだろうか.正規雇用労働者と同様に,内発的モチベ
ーションが高い人ほど,有意に手抜きをしなかった.また,成果主義型の職場にいる人ほど,
有意に手抜きをしていた.
以上の独立変数の効果は,予想のとおりであった.正規雇用労働者でも非正規雇用労働者
でも,仕事でフリーライドするかしないかについては,同じようなメカニズムが働いている
といえそうである.
なお,統制変数の効果をみると,郵送調査のほうがインターネット調査よりも,有意に手
抜きをしない人が多かった.性別や教育年数といった属性は,ほとんど効果をもたなかった.
職業別にみると,ブルーカラー労働者とくらべて,販売職・サービス職のグレーカラー労働
者に手抜きをする人が有意に多かった.ブルーカラー労働者とホワイトカラー労働者の間に
は,差はなかった.転職や規模の効果はなかった.
9
197
表5
回帰分析の結果(非標準化係数)
正規雇用
労働者
統制変数
独立変数
郵送調査ダミー
0.24 **
非正規雇用
労働者
0.25 **
全体
0.25
**
男性ダミー
年齢
教育年数
結婚ダミー
-0.07
0.00
-0.02
0.01
-0.04
0.01 *
-0.01
-0.12
-0.05
0.00
-0.01
-0.01
ホワイトカラーダミー
グレーカラーダミー
役職ありダミー
規模 100 人以上ダミー
転職経験ダミー
-0.07
-0.22 **
0.11 **
0.01
0.05
0.03
-0.14 *
-0.16 *
-0.04
0.13
-0.03
-0.18
0.03
-0.01
0.06
仕事がきつくない
能力を発揮できる
-0.09 **
0.19 **
-0.08 **
0.04
-0.09
0.12
**
**
0.34
**
0.21
**
非正規雇用ダミー
内発的モチベーション
非正規雇用×
内発的モチベーション
成果主義
非正規雇用×成果主義
0.18 **
0.17 **
-0.07
-0.04 †
標本サイズ
決定係数
1,435
0.16
-0.05 †
1,103
0.07
**
†
*
-0.03
-0.05
2,538
0.11
従属変数は手抜きしない.×:交互作用,†:10%水準で有意,*:5%,**:1%.
仕事の内容については,正規雇用労働者でも非正規雇用労働者でも,仕事がきついほど手
抜きをしていた.ただし,能力を発揮できる人が,手抜きしなかったのは,正規雇用労働者
の間だけであった.
5.3
全体での回帰分析
つづいて,全体について分析した.このとき,雇用形態ごとの違いを調べるために,非正
規雇用ダミーと内発的モチベーションの交互作用項と,非正規雇用ダミーと成果主義の交互
作用項を投入した.
その結果,正規雇用労働者とくらべて非正規雇用労働者ほど,有意に手抜きしなかった.
非標準化係数から,他の条件を揃えれば,正規雇用労働者より非正規雇用労働者のほうが,1
から 4 の尺度の中で 0.34 だけ手抜きしないことが分かった.これは予想どおりであった.
では,内発的モチベーションと成果主義の効果は,雇用形態によって異なるのだろうか.
交互作用項をみると,内発的モチベーションの効果は,非正規雇用労働者ほど有意に減った.
つまり,非正規雇用労働者とくらべて正規雇用労働者のほうが,内発的モチベーションが上
10
198
表6
独立変数
分析結果の要約(手抜きしないへの効果)
正規雇用労働者
非正規雇用労働者
内発的モチベーション
有意に正
有意に正
成果主義
有意に負
有意に負
雇用形態による差
有意に正規雇用労働
者のほうが大きい
ない
がることで,より手抜きをしなくなった.その結果,内発的モチベーションが高くなるにし
たがって,雇用形態による手抜きの差が減っていった.これは,予想と異なっていた.正規
雇用労働者のほうが,もともと専門性や創造性の高い仕事をしているとしたら,モチベーシ
ョンが上がるほど,より手抜きしなくなるのかもしれない.
同様に非正規雇用労働者と成果主義の交互作用項をみると,有意な効果がなかった.つま
り,成果主義型か年功序列型かが手抜きに影響する度合いは,正規雇用労働者でも非正規雇
用労働者でも同じくらいということになる.予想では,非正規雇用労働者のほうが影響が大
きいだろうと考えた.以上の分析結果を整理すると,表 6 となる.
なお,こうした内発的モチベーションと成果主義の効果の違いを,正規雇用労働者と非正
規雇用労働者で比較すると,下図となる.内発的モチベーションが上がると,効果が近づい
てくる様子が分かる.ただし,逆転することはなかった.一方,成果主義の度合いが高まっ
ても,効果はほぼ平行していることも,見てとれる.
非正規雇用労働者
正規雇用労働者
手抜きしないへの非標準化係数
0.8
0.6
0.4
0.2
0
-0.2
あてまらない あまりあて ある程度 あてはまる
はまらない あてはまる
あてまらない あまりあて ある程度 あてはまる
はまらない あてはまる
内発的モチベーション
図3
成果主義
回帰分析の非標準化係数の比較
従属変数は手抜きしない.
正規雇用労働者であてはまらない場合を 0 とする.
6
まとめ
6.1
仮説の検証
では,仮説は検証されたのだろうか.まず,雇用形態の比較について検証する.
11
199
仮説 1(正規雇用労働者とくらべて非正規雇用労働者ほど,手抜きをしないだろう)
:肯定
された.たしかに,非正規雇用労働者のほうが,手抜きをせず仕事に取り組んでいた.
つぎに,個人の要因として,内発的モチベーションの効果はどうだっただろうか.
仮説 2(正規雇用労働者と非正規雇用労働者のどちらでも,内発的モチベーションが高い
人ほど,手抜きしないだろう.また,非正規雇用労働者にとってのほうが,内発的モチベー
ションの効果が大きいだろう)
:前半は肯定された.後半は予想と逆で,正規雇用労働者にと
ってのほうが,効果が大きかった.
最後に,職場の要因として,賃金制度が成果主義的であることは,以下のように影響した.
仮説 3(正規雇用労働者と非正規雇用労働者のどちらでも,年功序列的賃金制度とくらべ
て成果主義的賃金制度で働く人ほど,手抜きするだろう.また,正規雇用労働者にとっての
ほうが,成果主義の効果が大きいだろう)
:前半は肯定された.後半は予想と異なり,違いが
なかった.
6.2
分析結果の要約
ここまでの分析から分かったことを整理すると,以下となる.こられは,職場のフリーラ
イダー問題を雇用形態別に分析したことで,はじめて明らかにできた.
(1)まず雇用形態を比較したら,正規雇用労働者より非正規雇用労働者のほうが,手抜きをせ
ずフリーライダーとならなかった.
(2)個人の要因を調べたら,内発的モチベーションが高い人ほど,フリーライドしなかった.
仕事そのものに動機付けられて,仕事が目的となっているからだろう.このことは,George
(1992) や小林他 (2005) の結果と一致している.また,内発的モチベーションの効果は,正
規雇用労働者にとってのほうが大きかった.
(3)しかし,職場の要因を調べたら,賃金制度が年功序列型である人とくらべて,成果主義型
である人ほど,フリーライダーであった.外発的モチベーションが高まって,仕事が手段と
なっているからだろう.このことは,高橋 (2004) の予想と一致した.また,成果主義の効
果は,正規雇用労働者でも非正規雇用労働者でも,同じくらいであった.
(4)以上から,大枠では非正規雇用労働者のほうが正規雇用労働者より,フリーライダーとな
らなかった.ただし,内発的モチベーションが高い人どうしで比較すると,差は縮む.内発
的モチベーションが上がるにしたがって,フリーライダーの割合は近づいていった.
6.3
含意
以上から,どのような実践的な含意を引きだせるだろうか.
12
200
(1)職場のフリーライダーを減らすには,個人の要因では内発的モチベーションが上がるよう,
仕事の報酬を賃金より仕事そのものにできると効果的だろう.職場の要因では,賃金制度が
成果主義であるよりは,従来の年功序列のほうが,フリーライダーを減らすことを期待でき
そうである.
(2)また,非正規雇用労働者にたいしては,モチベーションが高い人にたいしてほど,フリー
ライダーとならないよう対策を立てるべきである.分析からは,内発的モチベーションが高
いと,正規雇用労働者との差が縮んだからである.
(3)こうしたメカニズムは,社会階層間の格差を縮小させる可能性もあるし,逆に拡大させる
可能性もあろう.もし非正規雇用労働者がフリーライダーとならないことが,周囲から評価
されれば,労働条件が改善されて正規雇用労働者と近づくかもしれない.そうなれば,格差
は縮小するだろう.とはいえ,もしフリーライダーが尐ないことが,現在の仕事に過剰に同
調していることを意味しているなら,格差の拡大を後押しするかもしれない.
6.4
今後の課題
この論文では,対象を 15 歳から 39 歳の若年層に限定した.そこで,他の年代でも今回の
結果が当てはまるのかを,調べる必要があるだろう.
また,この論文では,社会階層をとくに正規雇用か非正規雇用かで捉えて分析した.学歴
や職業や収入など他の方法でも社会階層を特徴づけて,職場のフリーライダー問題との関連
を検討すれば,より立体的に隠れたメカニズムにアプローチできるだろう.
さらに,この論文では職場のフリーライダー問題の原因を探った.今後は,その帰結とし
て,本人の所得や転職希望などにどう影響するのか,また社会階層の固定化や流動化にどう
影響するのかを検討することも不可欠だろう.
【付記】
データ使用については,2005 年社会階層と社会移動調査研究会の許可を得た.データは,第 2
次配布版(郵送調査は 2007 年 12 月 7 日配布,インターネット調査は 12 月 26 日配布)を用いた.
この論文は文部科学省科学研究費補助金特別推進研究「現代日本階層システムの構造と変動に関
する総合的研究」の研究成果の一部である(代表佐藤嘉倫).
【謝辞】
論文の執筆に当たり,2005 年社会階層と社会移動調査研究会のメンバーをはじめ,多くの方か
らコメントをいただきました.とりわけ相澤真一氏,石田淳氏,片瀬一男氏,佐藤嘉倫氏,盛山
和夫氏,高橋伸夫氏,太郎丸博氏,平沢和司氏,平田周一氏,三隅一人氏,武藤正義氏,吉田崇
氏に感謝します.
【文献】
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13
201
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14
202
【付録】
表7
全体
調査方法
性別
年齢階級
学歴
婚姻状態
従業上の地位
職業
従業先規模
転職経験
内発的モチベー
ション
独立変数の記述統計(平均と標準偏差は手抜きしないについて)
23.2%
76.8%
47.7%
52.3%
0.1%
36.1%
63.8%
0.8%
23.6%
2.8%
10.4%
43.6%
5.6%
13.1%
66.7%
21.5%
11.6%
0.2%
1.8%
55.4%
平均
3.01
3.24
2.95
3.05
2.98
3.33
3.02
3.01
3.09
3.05
2.91
3.02
2.98
3.01
3.07
3.01
3.04
3.00
3.00
3.15
2.99
標準偏差
0.80
0.75
0.80
0.79
0.80
0.58
0.83
0.77
0.68
0.80
0.80
0.83
0.78
0.79
0.82
0.79
0.80
0.84
0.89
0.92
0.79
620
23.5%
3.06
0.78
291
220
11.0%
8.3%
3.07
2.93
0.82
0.82
専門職
703
26.6%
3.05
0.76
管理職
事務職
販売職
サービス職
ブルーカラー職
2~4 人
5~9 人
10~29 人
30~99 人
100~299 人
300~499 人
500~999 人
1,000 人以上
官公庁
転職経験なし
転職経験あり
あてはまらない
あまりあてはまらない
36
894
336
232
442
127
188
418
439
424
175
168
573
131
792
1850
739
954
1.4%
33.8%
12.7%
8.8%
16.7%
4.8%
7.1%
15.8%
16.6%
16.0%
6.6%
6.4%
21.7%
5.0%
30.0%
70.0%
28.0%
36.1%
2.94
3.00
2.90
2.97
3.09
3.09
3.08
3.04
3.05
2.98
3.09
3.05
2.91
3.08
2.97
3.03
2.84
2.93
0.75
0.79
0.85
0.77
0.83
0.79
0.77
0.79
0.76
0.80
0.70
0.82
0.85
0.76
0.78
0.80
0.95
0.73
郵送調査
インターネット調査
女性
男性
10 代
20 代
30 代と 40 歳
中学校
高校
高等専門学校
短期大学
大学
大学院
専修学校
未婚
既婚
離別
死別
経営者,役員
常時雇用
臨時雇用,パート,アルバ
イト
派遣社員
契約社員,嘱託
度数
2643
614
2029
1259
1381
3
954
1684
22
621
74
273
1146
148
344
1756
566
304
6
48
1464
パーセント
15
203
成果主義
ある程度あてはまる
あてはまる
あてはまらない
あまりあてはまらない
ある程度あてはまる
あてはまる
711
237
1134
881
450
177
26.9%
9.0%
42.9%
33.3%
17.0%
6.7%
3.13
3.56
3.04
2.94
3.04
3.17
0.63
0.63
0.87
0.70
0.71
0.91
Social Stratification and the Free-rider Problem in the Workplace:
Comparison between Young Regular and Non-regular Workers
Jun KOBAYASHI
Department of Sociology
Seikei University
3-3-1 Kichijoji-Kitamachi, Musashino, Tokyo 180-8633, JAPAN
This paper compared young regular and non-regular workers in Japan to specify who free-rided in the
workplace. This was because gaps might increase between those workers. Yet so far, no such comparison
has been conducted. Findings are: (1) Non-regular workers were less likely to free-ride. (2) If a worker
was more intrinsically motivated, she was less likely to free-ride. (3) However, if a worker was evaluated
based on achievement, she was more likely to free-ride. These mechanisms may increase as well as
decrease the differences among social stratifications.
Keywords and phrases: Social stratification, Free-rider, Workplace, Youth, Regular and non-regular
worker, Motivations, Achievement, Seniority
16
204
若年層の階層意識における「フリーター」の効果
―フリーターをしている理由による分析―
小林 大祐
(仁愛大学)
【要旨】
本研究では若年層の階層意識に対して、失業状態やフリーターであることが他の経済的要因を
コントロールしても効果を持つかどうかが検討された。特に、2007 年社会階層と社会移動若年
層インターネット調査の 2 回目でのみ存在している「フリーターをしている理由」項目を用い、
どのような理由でフリーターをしているかが、主観的幸福感や階層認知に及ぼす影響を分析した。
フリーターを 3 タイプに分類し、「生活満足感」、「階層帰属意識」を従属変数とした分析を行っ
た結果、「生活満足感」に対しては「やむを得ず型フリーターダミー」は男女ともに有意なマイ
ナスの効果を持っていることが示された。一方「階層帰属意識」に対しては、タイプによる顕著
な差異は確認できなかった。この結果は、フリーターであることの不安定さが階層認知に対して
はマイナスの効果を持つが、その代わりに得られる時間的余裕が「やむを得ず型」のフリーター
以外ではマイナスを相殺しているためと考えられ、主観的幸福感の低さが、外的なラベリングの
内面化による一律的なものというよりは、それぞれの動機付けにもとづく内的な要因に基づくと
いうことを示すものである。
キーワード:フリーター、主観的幸福感、階層帰属意識
1
問題意識
本稿の目的は若年層の階層意識をその従業上の地位のあり方から論じるものである。いわ
ゆる「失われた 10 年」の間で雇用の流動化は急速に進行し、1995 年には 20.9%であった非
正規の職員・従業員の割合は 2005 年には 32.6%にまで上昇している(総務省『労働力調査』)。
若年層においても、新規学卒時に正社員として労働市場に入っていくという、高度成長期以
降の日本社会の「常識」はもはや過去のこととなってしまったといえる。
このような時代背景は、人びとの階層意識に対してどのような影響を及ぼしているであろ
うか。特に若年層に対しては、
「フリーター・ニート」といった存在が社会問題化し注目を集
めたことで、そのような立場にあることそのものが、収入や職業内容にかかわらず階層帰属
意識や生活満足度にマイナスの影響を持つとは考えられないであろうか。つまり、幸福感や
階層認知に与える負の影響が、経済的な要因にのみには還元できない、社会的な意味づけに
よるものであるという可能性である。
小林(2008)は、このような問題意識から、人びとの階層意識に対して職業が持つ効果が、
1
205
従来の職業威信スコアで測られる職業内容だけではなく、どのような立場で仕事をおこなっ
ているか、すなわち従業上の地位についても考慮される必要があることを論じた。そして、
経済的な要因をコントロールしても、なお「フリーター」であることが、主観的幸福感に対
して、男性サンプルにおいてマイナスの効果を持っていたことを示した。階層帰属意識に対
しては、フリーターであることは男女ともに効果を持たなかった。しかし、パート・アルバ
イトにあることや自営業自由業にあることはマイナスの効果が持つことが示されたことから、
従業上の地位が人びとの階層認知に影響を及ぼしていることは明確に示されたといえる。
ただ、失業についてはともかく、
「フリーター」であることが階層意識にマイナスの影響を
持つのだとしても、この結果からはそれがどのようなプロセスでマイナスとなっているのか
までは分からない。フリーターをしていることが、どうして人びとの主観的幸福感にマイナ
スになるのであろうか。
様々な要因を想定することが出来るが、本稿では外的な要因と内的な要因とについて考え
られる可能性を論じていく。まず外的な要因としては、メディアによって拡散される「フリ
ーター」というレッテルが若年非典型労働者の自己評価にもマイナスに作用するというプロ
セスが考えられる。負のラベリングを内面化してしまうことが彼(女)らの生活満足度や階
層認知を低めてしまうという可能性である。次に、内的な要因として、
「フリーター」である
ことにどのような動機付けがなされているかという点が考えられる。つまり、「フリーター」
という立場に何を見いだしているかが問題となる。これは、
「フリーター」という必ずしも満
足のいくわけではない現状が将来への投資として捉えられているか否か、つまりそこに「希
望」があるかどうかが重要だということを意味する。
「フリーター」であることに希望を見い
だせない状況こそが、彼(女)らの生活満足度や階層認知を低めてしまうという可能性であ
る。
このような可能性をデータで検証することが本稿の目的となる。したがって以下では、ま
ず、これら外的な要因と内的な要因とについての先行研究をレビューしたうえで仮説を設定
する。そして、「2007 年社会階層と社会移動若年層インターネット調査」(以下「2007 若年
層ネット調査」と表記)の第 2 回調査を用いて、その実証分析を行う。この調査データを用
いることの長所はふたつある、ひとつめは、若年層(18 歳~39 歳)に特化したサンプを用
いることで、若年層の階層意識に実証的にアプローチすることが可能である点である。そし
て、ふたつめとしては、この 2007 若年層ネット調査は 2 回にわたって実施されているのだ
が、その第 2 回調査では、フリーターをしている理由についての項目が訊ねられており、本
稿の問題意識を検証することが可能となるためである。したがって、実証分析の部分におい
ては、まず本調査データから得られた傾向との相違を確認した上で、2 つの可能性について
実証的に探っていくという手順で論考を進めていく。
2
206
2
先行研究
2.1
フリーターの意識についての研究
非正期雇用におかれた若年層の意識面に着目した研究は、フリーターを生む背景としての
若年層特有の価値観や労働観について論じたものは多数存在するが 1、フリーターという状況
におかれた若年労働者がどのような意識を持つかについて、その背景を探る議論は比較的少
ないといえる。そんななかでも、本田(2002)はフリーター男性が暗い自己イメージを持っ
ていることを明らかにした上で、それが職業、家族形成の面での展望のなさによることを指
摘している。そして、そのようなフリーターの意識に対して社会的な側面がどの程度関連し
ているかについて、具体的には社会的に「フリーター」への関心が高まるなかで、
「世間のフ
リーター観」を意識することで主観的幸福感や階層認知を低くしているのかについては、下
村(2002)が、フリーターが世間の厳しい「フリーター観」を感じているが、後ろめたさも
反発も感じていないことを指摘している。しかし、一方で西田(2007)はインタビュー調査
から「フリーター」に対する周囲からのまなざしや処遇も若者たちを追い込んでいる要因と
なっている場合があることを紹介している。
また、フリーターの内的な動機づけに注目して、その違いこそが彼(女)らの意識に影響
を及ぼしているという議論も存在する。日本労働研究機構(2000)はインタビューから「モ
ラトリアム型フリーター」が比較的世間の厳しい視線を意識していることを報告している。
計量的なアプローチにおいても、やはりフリーターをしている理由に着目して、
「やむを得ず
型フリーター」であることが、他の社会経済的属性をコントロールしても、生活満足感(小
2006)や自尊感情(永吉
林
2006)に対してなお有意なマイナスの効果を持つことが報告
されている。これらの結果は、外的なレッテルより自身がどのような動機付けで「フリータ
ー」をしているかが彼らの自己評価に影響している可能性を示唆するものである。
これらの可能性を検証するためには、フリーターをその動機のあり方で分類してその傾向
性の違いの有無を問題とすべきである。そもそも、フリーターをひとつのカテゴリとして捉
えることの妥当性についての疑問は、これまでも様々な論者 2から指摘されている。したがっ
て、次の節ではフリーターの分類についての先行研究を紹介する。
2.2
フリーターのタイプについての研究
1このような議論は、
労働観の未成熟さがフリーター増加の背景にあるという主張とつながっ
て語られることが多いのが特徴で、例えば、高梨(2001)は親と同居している若者で失業率
が高いことから、親頼みの安易さが背景にあることを指摘し、山田(1999)も豊かな親の存
在が就職の先延ばしや離職の要因となっていることを主張している。
2 代表的なものとして玄田(2001)
、小杉(2003)がある。
3
207
フリーターを分類する基準としては、学歴や期間など客観的な基準を用いたものもあるが、
本稿では、
「はじめに」に示したような問題意識から、主観的な基準としてフリーターをして
いる動機に着目した分類を用いていく。このような分類において、先駆的にして代表的なも
のに日本労働研究機構(2000)による分類がある。これは、現役フリーターとフリーター経
験者 97 人へのヒアリング調査に基づき、フリーターとなった理由によって、フリーターを
大きく 3 つ、そして細かく7つの型に整理したものである。以下その 3 分類を紹介する。
まず、1つ目が「夢追求型」である。
「夢追求型」は「芸能志向型」と「職人・フリーラン
ス志向型」からなり、公務員等の試験合格、希望の業種・職種への正規雇用を妥協せずに目
指す、タレントを目指すといった明確な目標を持った上で、生活のために、あるいは一種の
社会勉強の手段としてフリーターを選んだ者として定義される。
2つ目の類型は「モラトリアム型」である。このタイプは「離学モラトリアム型」と「離
職モラトリアム型」からなり、職業を決定するまでの猶予期間としてフリーターを選択し、
フリーターをしている間に自分のやりたいことを探そうとするタイプや、先の見通しがはっ
きりしないまま学校や職場を離れた者などがここに分類される。
最後が「やむを得ず型」である。
「正規雇用志向型」と「期間限定型」と「プライベート・
トラブル型」からなり、正規雇用を志向しながらも、何らかの理由によりそれが得られない
者や家族の事情等でやむなく学費を稼ぐ必要が生じたためにフリーターをせざるを得なくな
った者などとして定義される。
このような分類については,それが実際上「志向」に重点が置かれて分類されてしまって
いることにより,フリーターである若者の意識の不明確さを実際以上に誇張してしまう危険
性があるとの批判も存在する(本田 2005)。とはいえ、動機に着目するこの分類は本稿の問
題意識にも合致するものであり、これらの類型ごとにフリーターの間でも主観的幸福感や階
層意識に差異が存在するかどうかを検証することは、意義のあることであるといえよう。す
なわち、
「夢追求型」、
「モラトリアム型」、
「やむを得ず型」のタイプにかかわらず一律にマイ
ナスの効果を持つとすれば、世間的に持たれているフリーターの負のイメージを受容してし
まっていると判断できるであろう。対して、特定のタイプがマイナスの効果を持っているの
だとしたら、フリーターという状態に対する内的な動機付けこそが、フリーターであること
の階層意識へのマイナス効果の理由と考えられるであろう。したがって、以下ではこの点に
注目して分析を進めていく。
3
データと変数
3.1
データ
本稿で用いるのは、
「2007 年社会階層と社会移動若年層インターネット調査」の第 2 回調
4
208
査のデータである。このデータを使用するに際して注意しておくべきことは、それが調査会
社のモニターを母集団 3とするインターネット調査であるという点である。
具体的には、2007 若年層ネット調査第 2 回調査では 18~39 歳の学生以外のモニター
に対してまず婚姻状態と従業上の地位について予備調査を行っている。そして、その有効回
収サンプル 31352 ケースのなかで、割り当て(離死別 350 人、既婚 350 人、未婚で派遣・
契約社員 350 人、未婚でパート・アルバイト 350 人、未婚で無職 350 人、未婚でその他
350 人)に比例するように 3504 ケースをサンプリングし、それらのサンプルに対し調査を
依頼しているのである。このように、母集団の代表性よりも特定の属性を持つ人びとの傾向
をはっきりと捉えることに力点を置いた調査設計となっており、分布が婚姻状態と従業上の
地位について、もともと偏りを含んでいるために、分析の際にはこれらをコントロールする
必要がある。
また、回収についても契約した回収率にもとづく割り当て数に回収サンプルが到達した時
点で、回収を打ち切るという手法をとっており(有効回収数 2081)、普通に用いる意味での
回収率とは意味が異なることにも注意する必要がある。したがって、通常のランダムサンプ
リングによって実施されたのではない以上、本稿の分析で行われる有意性の検定は、目安と
して以上の意味を持たない。
ただ、若年層は社会調査においてもっとも回収の難しい年齢層であり、そこに焦点をあて
る調査の回収率は相対的に低く、当然そのなかでフリーターと定義できるサンプルの数も少
なくなる。実際、今回同時期に実施された無作為抽出による郵送調査においては、回収率が
25.4%(計画標本数 4680、有効回収数 1187)にとどまり、有効回収数のうち従業上の地位
がパート・アルバイトの状態にある人は 113 人で、複雑な分析を行うに十分とはいえない。
このような調査環境においては、ネット調査を用いることも、最善ではないにしろ許容され
るであろう。
3.2
フリータータイプの定義
フリータータイプの分類は、その理由についての項目を利用して行ったが、先述の通りそ
の質問はネット調査の第2回目にしか存在していない。その質問文と選択肢は次頁の通りと
なる。
これらの選択肢のうち、1,2 を「夢追求型」に、3,4,9 を「モラトリアム型」に、5,6,
7,8 を「やむを得ず型」に分類した。ただ、注意すべきは、この質問は、現在自分をフリー
ターであると思っている人に対してされているので、派遣や正規雇用の状態にあっても、自
分はフリーターであると答えた人が存在している点である。しかし、これは逆にいえば、ど
マイボイスコム株式会社の登録モニター(公称約 26 万人)のうち全国の学生を除く 18~
39 歳の男女が母集団となる。
3
5
209
なぜあなたは今フリーターをしているのですか。もっとも近いものをひとつ選んでください
1.芸能関係の職につきたいから
2.自分の技能・技術で身を立てる職業につきたいから
3.自分に合う仕事を見つけたいから
4.気楽に働きたいから
5.学費稼ぎなど、生活のために一時的に働く必要があるから
6.家庭の事情があるから
7.正社員として採用されないから
8.病気など事情があって就職活動ができないから
9.なんとなく
10.その他
(
)
のような属性の人びとが自分をフリーターであるとみなしているのかを、データで示すこと
ができるということでもある。したがって、実感としてのフリーターが、政府統計などで操
作的に定義される「フリーター」とどの程度ズレを示しているのかを、まず確認しておくこ
とにする。性別、配偶者の有無、そして従業上の地位で分類した 28 グループ別に、彼(女)
らの内、どれだけの比率が自分を「フリーター」と回答したかで示したのが表 1 である。
サンプル割当数そのものが少ない既婚者を除くと、
「アルバイト・パート」の状態にある男
性未婚者のうちでで 81.3%、女性既婚者のうちで 59.5%が自分を「フリーター」であると評
価しており圧倒的高い比率となっている。これに続くのが「無職:求職中」の未婚男性の
38.6%、未婚女性の 36.4%であり、「無職:非求職中」でも未婚男性 19.6%が、未婚女性の
23.1%が「フリーター」だと認識していることがわかる。一方、内閣府の統計では「フリー
ター」と定義される派遣社員については、
「派遣・契約・嘱託」カテゴリのうち自身を「フリ
ーター」とみなしているのは、未婚の男性で 8.8%、未婚の女性で 6.5%であり高い水準には
ないといえる。
この結果から、フリーター当事者の認識は内閣府の定義よりは厚生労働省の定義により近
いと考えることが出来るが、本稿においてはフリーターの定義として、本人の認知を尊重し
つつも、従業上の地位で男女ともに半数以上が自身をフリーターであると認識していた「ア
ルバイト・パート」にある者を「フリーター」とすることにする 4。したがって、フリーター
の理由による分類も、このように操作的に定義された「フリーター」についておこなわれる。
4
この定義だと自身をフリーターと認識していれば、既婚女性のアルバイト・パートでもフ
リーターと定義されることになるが、今回のデータでは、そのような女性は 1 名のみである。
6
210
表1
配偶者有無、男女、従業上の地位別フリーター認知
配偶者有無
性別
従業上の地位
配偶者無し
男性
経営者役員
正社員
アルバイト・パート
派遣・契約・嘱託
自営自由家族従業内職
無職:求職中
無職:非求職中
経営者役員
正社員
アルバイト・パート
派遣・契約・嘱託
自営自由家族従業内職
無職:求職中
無職:非求職中
経営者役員
正社員
アルバイト・パート
派遣・契約・嘱託
自営自由家族従業内職
無職:求職中
無職:非求職中
正社員
アルバイト・パート
派遣・契約・嘱託
自営自由家族従業内職
無職:求職中
無職:非求職中
女性
配偶者有り
男性
女性
現在フリーターかどうか
度数
フリーター
フリーター
ではない
100.0
0.0
16
99.6
0.4
285
18.8
81.3
160
91.3
8.8
160
92.1
7.9
38
61.4
38.6
101
80.4
19.6
51
100.0
0.0
7
99.6
0.4
227
40.5
59.5
190
93.5
6.5
199
85.4
14.6
41
63.6
36.4
110
76.9
23.1
65
100.0
0.0
9
99.3
0.7
147
100.0
0.0
1
66.7
33.3
3
100.0
0.0
14
100.0
0.0
1
50.0
50.0
2
100.0
0.0
21
97.3
2.7
37
100.0
0.0
11
93.3
6.7
15
100.0
0.0
13
100.0
0.0
74
すなわち、
「アルバイト・パート」を「夢追求型フリーター」、
「モラトリアム型フリーター」、
「やむを得ず型フリーター」、そして「フリーターと認識していないアルバイト・パート」の
4 タイプに分類し分析をしていく。なお、年齢については操作的な定義においては、上限を
34 歳までとしていることがほとんどであるが、本稿では 39 歳までとしている。これは、近
年の新卒求人の好調さの中で高齢者フリーターの問題がクローズアップされていることを考
慮しているためである。
4
分析
4.1
基礎的分析
まず、フリーターのタイプごとの基礎的な傾向を確認していく。表 2 から女性においては
「アルバイト・パート」であってもフリーターと認識していない割合が半数近くいることが
7
211
分かる。これは、このカテゴリに主婦パートや家事手伝いが多くこのカテゴリに含まれるた
めと推測され、実際、生活満足感の平均値を比較した表 3 においては「フリーターと認識し
ていないアルバイト・パート」の生活満足感はどの「フリーター」よりも高くなっている。
そして、「フリーター」の生活満足感はすべて 3 未満であるが、その分類のなかでは、特に
「やむを得ず型」が低く 2.40 は「無職:求職中」よりも低い最低の水準となっている。
表2
男女別フリーター分類の分布
フリーターと認
夢追求型
識していないア
フリーター
ルバイトパート
性別
男性
女性
合計
表3
31
19.3
113
49.8
144
37.1
モラトリアム型 やむを得ず型 その他
フリーター
フリーター
フリーター
17
10.6
12
5.3
29
7.5
52
32.3
53
23.3
105
27.1
55
34.2
42
18.5
97
25.0
合計
6
3.7
7
3.1
13
3.4
161
100.0
227
100.0
388
100.0
フリーターを下位分類した従業上の地位別の生活満足度(降順)
フリーター下位分類した従業上の地位
平均値
度数
標準偏差
経営者役員
3.34
32
1.31
正社員
3.22
680
0.98
派遣・契約・嘱託
3.00
373
1.03
自営自由家族従業内職
3.07
108
1.10
無職:求職中
2.55
225
1.13
無職:非求職中
3.10
192
1.11
フリーターと認識していないアルバイトパート
3.04
144
1.02
夢追求型フリーター
2.93
29
0.92
モラトリアム型フリーター
2.90
105
1.02
やむを得ず型フリーター
2.40
97
1.10
その他フリーター
2.46
13
1.51
このような基本的な傾向は、フリーターをしている理由が主観的幸福感に影響を与えてい
る可能性を示唆するものであるが、当然出身階層がどのような理由でフリーターをしなけれ
ばいけないかに影響していることによる、見かけの関連である可能性も否定できない。小林
(2006)は、「夢追求型」フリーターの「生家の豊かさ」が他のタイプのフリーターとくら
べて高いことを示しており、今回の調査データでも出身階層とフリーター理由との関係につ
いて確認しておく必要があるだろう。今回の調査データには、出身家庭の豊かさの主観的程
度をたずねる「生家の豊かさ」の項目は存在していないため、客観的な指標を用いて分析を
進める。すなわち、15 歳時の所有財産についての項目から作成した「15 歳時財産得点」を 4
分位数で分割したものと父職について 3 分類したものとの関連をクロス表に表したものがそ
れぞれ表 4 と表 5 である。
8
212
表 4 からは、フリーター間の 15 歳時財産得点の分布の違いがはっきりみてとれる。すな
わち、
「夢追求型フリーター」において 15 歳時財産得点の上位1/4である「Ⅳ」の割合は
37.9%で、この値はフリーターのなかだけでではなく、すべての従業上の地位のカテゴリの
なかでももっとも高いのである。そして逆に「Ⅰ」の割合は 20.7%ですべてのカテゴリのな
かでもっとも低いことからも、
「夢追求型フリーター」には夢を追求できるだけの余裕がある
ということが確認できるであろう。
表4
フリーターを下位分類した従業上の地位別 15 歳時の財産得点 4 分類
15歳時財産得点(4分類)
Ⅳ
Ⅲ
Ⅱ
経営者役員
25.0
25.0
21.9
正社員
17.8
30.0
24.1
派遣・契約・嘱託
16.9
27.1
26.3
自営自由家族従業内職
27.8
28.7
19.4
無職:求職中
12.9
23.1
28.4
無職:非求職中
12.5
28.1
27.6
フリーターと認識していないアルバイトパート
19.4
15.3
31.3
夢追求型フリーター
37.9
27.6
13.8
モラトリアム型フリーター
17.1
29.5
26.7
やむを得ず型フリーター
9.3
25.8
30.9
その他フリーター
30.8
15.4
30.8
合計
17.3
26.9
25.9
Ⅰ
28.1
28.1
29.8
24.1
35.6
31.8
34.0
20.7
26.7
34.0
23.1
29.9
度数
32
680
373
108
225
192
144
29
105
97
13
1998
これと対照的なのが「やむを得ず型フリーター」である。というのも、
「Ⅳ」の割合が 9.3%
ですべてのカテゴリのなかでもっとも低く、
「Ⅰ」の割合も 34.0%で、
「無職:求職中」に次
ぐ高い水準にあるのである。これらの結果は、一括りにして語られがちである「フリーター」
に明確な出身階層上格差があることを示唆する。
表5
フリーターを下位分類した従業上の地位別 15 歳時の父職 3 分類
職業3分類
専門管理
経営者役員
正社員
派遣・契約・嘱託
自営自由家族従業内職
無職:求職中
無職:非求職中
34.5
35.1
32.5
37.8
32.3
29.8
32.2
59.1
30.1
28.9
22.2
33.5
フリーターと認識していないアルバイトパート
夢追求型フリーター
モラトリアム型フリーター
やむを得ず型フリーター
その他フリーター
合計
(%)
度数
事務販売
20.7
28.8
28.6
24.4
24.6
31.8
27.0
18.2
30.1
23.7
22.2
27.7
生産工程・
労務・農業
44.8
36.1
39.0
37.8
43.1
38.4
40.9
22.7
39.7
47.4
55.6
38.8
29
587
308
90
167
151
115
22
73
76
9
1627
この可能性を更に確かめるために、父職についても同様に、フリーターを下位分類した従
9
213
業上の地位別に検討を進める。15 歳時の父職を「専門・管理」、
「事務・販売」、
「生産工程・
労務・農業」の 3 カテゴリ 5に分類して分布を比較したのが表 5 である。
やはり、「専門・管理」に注目して比較をすると、やはり「夢追求型フリーター」では父
職が「専門・管理」である割合が 59.1%にも及びもっとも高い値となっている。対して「や
むを得ず型フリーター」の父職「専門・管理」の割合は 28.9%であり、サンプル数の少ない
「その他フリーター」を除けば、「無職:非求職中」とともに低い水準にあることがわかる。
これらの結果から、フリーターには出身階層において大きな差があることが確認でき、特
に「夢追求型フリーター」は社会経済的にもっとも恵まれていて、夢を追いかけるだけの余
裕がある人びとであることが分かるのである。
4.2
生活満足感・階層帰属意識の規定要因
次に、フリーターのタイプが階層意識に対してどのような影響を持つかを分析する。具体
的には従属変数である階層意識として、それぞれ「生活満足感」、
「階層帰属意識」6を用いた
2 つの重回帰モデルについて分析を進めていく。
表6
生活満足度(降順)
階層帰属意識(降順)
年齢
有配偶ダミー
離死別ダミー
大卒以上ダミー
現職専門管理技術ダミー
等価所得
15歳時財産得点
平均値
2.9
2.5
31.9
0.2
0.2
0.6
0.3
225.9
12.3
記述統計量
男性
標準偏差 度数
平均値
1.09
988
3.1
0.97
988
2.6
4.77
988
30.8
0.38
988
0.2
0.37
988
0.2
0.49
988
0.3
0.46
988
0.1
182.32
988
176.3
3.42
988
12.9
女性
標準偏差 度数
1.05
1009
0.89
1009
4.93
1009
0.38
1009
0.37
1009
0.48
1009
0.35
1009
128.25
1009
3.28
1009
独立変数にはフリーターを下位分類した従業上の地位のダミー変数(基準カテゴリは「正
社員」)を用いる。コントロール変数としては、
「年齢」、そして社会経済的地位変数として「等
価所得」7、
「大卒以上ダミー」、
「専門・管理ダミー」を用いる。そして、
「夢追求型フリータ
ー」において出身階層が高い傾向が示された 4.1 での知見から、出身階層についてもコント
ロールする必要があるだろう。したがって、出身階層の影響を統制する変数として「15 歳時
5
「専門・管理」には「専門」
「管理」
「技術」が、
「事務・販売」には「事務」
「販売」
「サー
ビス」「接客」が、「生産工程・労務・農業」には「保安」「職人・技能工」「生産工程・運輸
従事者」「農林水産業」が含まれている。
6 「生活満足感」
、「階層帰属意識」ともに 5 点尺度で、「生活満足感」には「満足している」
に 5 点を、「階層帰属意識」は「上」に 5 点を与えて分析を行う。
7 世帯収入を世帯人員の平方根で割ったもの。
10
214
財産得点」を投入する。また、3.1 で示したとおり 2007 若年層ネット調査の第2回調査では、
離死別者、未婚者、派遣・契約社員、パート・アルバイト、無職に多くのサンプルが割り当
てられて抽出されている。したがって、その歪みが分析結果に影響を与える可能性も考慮す
るため、「離死別ダミー」、「有配偶ダミー」もコントロール変数として投入する。
分析結果として、まず、「生活満足感」を従属変数とする分析について示したものが表 7
である。
「 無職:求職中ダミー」が男女ともに有意なマイナスの効果を持っており、小林(2008)
が示したとおり社会経済的属性変数をコントロールしても失業は人びとの主観的幸福感にマ
イナスとなることが若年層のデータでも改めて確認された。ただ、より注目すべきはフリー
ターのタイプごとに傾向差が示されたことである。すなわち、
「やむを得ず型フリーターダミ
ー」は男女ともに、「生活満足感」に有意なマイナスの効果を持っていたのに対して、「夢追
求型フリーターダミー」、「モラトリアム型フリーター」では、そのような効果はみられない
のである。これは、意に反してフリーターの状況にあることこそが、主観的幸福感にとって
マイナスであることを意味するものである。
表7
生活満足感を従属変数とした重回帰分析
標準偏回帰係数
男性
年齢
有配偶ダミー
離死別ダミー
大卒以上ダミー
現職専門管理技術ダミー
等価所得
15歳時財産得点
経営者役員ダミー
派遣等ダミー
自営等ダミー
無職:求職中ダミー
無職:非求職中ダミー
フリーターと認識していないアルバイトパートダミー
夢追求型フリーターダミー
モラトリアム型フリーターダミー
やむを得ず型フリーターダミー
その他フリーターダミー
調整済み決定係数
度数
***<0.001,**<0.01,*<0.05,†<0.1
-.119
.245
-.010
.021
.031
.149
.027
.059
-.011
-.047
-.126
-.022
-.007
-.029
-.046
-.141
-.087
.149
988
女性
***
***
***
†
***
***
**
-.044
.194
.000
.034
.028
.077
.060
-.047
-.058
.001
-.169
-.059
-.067
-.007
-.012
-.096
-.012
.074
1009
***
*
†
***
†
**
次に、「階層帰属意識」について同様の分析を行ったのが表 8 である。「生活満足感」を従
属変数とする分析にくらべ従業上の地位の効果がより顕著であることが分かる。すなわち、
11
215
男性サンプルにおいては「経営者役員ダミー」と「フリーターと認識していないパートアル
バイトダミー」以外のすべてのグループが、女性サンプルにおいては「経営者役員ダミー」、
「夢追求型フリーターダミー」、「その他フリーターダミー」以外のすべてのグループが 5%
以下の有意確率でマイナスの効果を示しているのである。これは、正規雇用社員の立場にな
いことが、その人の階層認知にマイナスであることが若年層においてもはっきりとした形で
表れていることを意味するものであろう。
表8
階層帰属意識を従属変数とした重回帰分析
標準偏回帰係数
男性
年齢
有配偶ダミー
離死別ダミー
大卒以上ダミー
現職専門管理技術ダミー
等価所得
15歳時財産得点
経営者役員ダミー
派遣等ダミー
自営等ダミー
無職:求職中ダミー
無職:非求職中ダミー
フリーターと認識していないアルバイトパートダミー
夢追求型フリーターダミー
モラトリアム型フリーターダミー
やむを得ず型フリーターダミー
その他フリーターダミー
調整済み決定係数
度数
***<0.001,**<0.01,*<0.05,†<0.1
5
-.022
.223
.022
.158
.028
.196
.011
-.043
-.119
-.075
-.206
-.064
-.054
-.066
-.116
-.168
-.084
.273
988
女性
***
***
***
***
**
***
*
†
*
***
***
**
-.002
.225
-.003
.121
.066
.136
.038
-.012
-.106
-.063
-.197
-.106
-.136
-.056
-.065
-.206
-.049
.165
1009
***
***
*
***
**
*
***
**
***
†
*
***
†
まとめ
本稿では若年層の階層意識に対して、失業状態やフリーターであることが他の経済的要因
をコントロールしても効果を持つかどうかが検討された。分析の結果、失業状態にあること
は、個人の社会経済的属性をコントロールしてもなお主観的幸福感と階層帰属意識にマイナ
スの効果を持つことが示され、若年層のデータでも失業の効果が確認されたことになった。
そして、フリーターであることの影響については、フリーターをしている理由で分類した
タイプによって生活満足感に対するマイナスの効果の有無に差がみられたことから、フリー
ターであることが階層意識に対して持つマイナスの効果にも濃淡があることが示されたとい
えるが、このような傾向は、どのように解釈すべきであろうか。フリーターの主観的幸福感
12
216
や階層認知の相対的な低さが、外的なラベリングの内面化による一律的なものということで
あれば、当人がどのような理由でフリーターをしていようと、マイナスの効果が同じように
示されるはずであり、対してそれぞれの動機付けにもとづく内的な要因によるところが大き
いのだとすれば、理由によるタイプ別に傾向差がみられるはずである。この点からすれば、
「生活満足感」に対する分析結果は、主観的幸福感に対して、どのような理由によってフリ
ーターをしているかが影響している傾向を明確に示しているといえるであろう。すなわち、
「夢追求型」のように目標のあるフリーターや「モラトリアム型」のようにあえて現在の立
場にあるフリーターにとっては、現在の状況は投資や過渡的な状況として認知され幸福感に
マイナスとして顕在化しないと考えられるのである。そして、「階層帰属意識」の結果では、
有意水準の程度には差はみられたが、正社員からみて、フリーターであることがすべてのタ
イプにおいてマイナスの効果を持っていたことも、前田(1998)が示したような、階層帰属
意識には経済的地位が影響しているのに対し生活満足感にはそれに加え意識項目と幅広く連
関し、特に時間的余裕とも関連しているという性質からすれば説明がつく。つまり、フリー
ターという自身の置かれた不安定な経済的地位は、階層帰属意識にはマイナスの影響を与え
るのみであるが、生活満足感に対しては、その立場と引き換えに得られる時間的余裕が、自
身の「やりたいこと」への投資に用いられている「夢追求型フリーター」や猶予期間として
の気楽さをもたらす「モラトリアム型フリーター」においてはプラスに評価されることで相
殺されると考えられるのである。これは原(1988)による、階層帰属意識は「対自己意識の
認知的側面」で生活満足感は「対自己認識の評価的側面」であるという主張とも整合的であ
る。
本稿の知見は、ネット調査によるものであり、その結果については留保が必要である。し
かし、本調査や先行研究とも基本的に同じ傾向が示されたということからすれば、本稿の分
析結果にも一定の信頼性を与えることは可能だろう。特に、
「夢追求型フリーター」において
他のフリーターに比べ主観的幸福感が高いという知見は、彼(女)らの出身階層が比較的高
いという知見と併せて考えると、大変示唆に富むものである。なぜなら、この結果は、改め
て西田(2007)が主張するように、フリーターを一括りにして語ることが、いかに事実とか
け離れているかを示すものであるからであり、そして、親から譲り受けた余裕こそが夢を追
求することを可能にし、それが自身の幸福感を規定しているという点で、フリーター理由の
なかに若年層の「希望格差」のあり方が見えるからである。
【文献】
原純輔. 1988. 「階層意識研究の課題と方法」原純輔(編)『階層意識の動態』(1985 年社会階層と社
会移動の全国調査報告書第二巻): 1-18.
本田由紀. 2002. 「ジェンダーという観点から見たフリーター」.小杉礼子(編)
『自由の代償/フリー
ター:現代若者の就業意識と行動』労働政策研究・研修機構.
13
217
小林大祐.
2006. 「フリーターの労働条件と生活:フリーターは生活に不満を感じているのか」 『フ
リータートニーとの社会学』世界思想社.
小林大祐. 2008. 「階層意識に対する従業上の地位の効果」轟亮(編)『階層意識の現在』. 2005 年社
会階層と社会移動調査研究会所収.
前田忠彦. 1998. 「階層帰属意識と生活満足感」間々田孝夫(編)
『現代日本の階層意識』
(1995 年 SSM
調査シリーズ 6):89-112.
永吉希久子.
2006. 「フリーターの自己評価:フリーターは幸せか」
『フリータートニーとの社会
学』世界思想社.
西田芳正. 2007. 「『ニート・フリーター』意識の構造:自由記述データ・インタビュー調査から」第
58 回関西社会学会報告原稿.
日本労働研究機構. 2000. 『フリーターの意識と実態:97 人へのヒアリング調査より』調査研究報告
書 136.
下村英雄. 2002. 「フリーターの職業意識とその形成過程:
「やりたいこと」志向の虚実」小杉礼子(編)
『自由の代償/フリーター:現代若者の就業意識と行動』労働政策研究・研修機構.
高梨昌. 2001. 『日本の雇用問題: 21 世紀の雇用』社会経済生産性本部生産性労働情報センター.
山田昌弘. 1999. 『パラサイトシングルの時代』筑摩書房.
The Effects of the Reason of Being “FREETER” on Class
Consciousness
Daisuke Kobayashi
Jin-ai University
In this paper, I demonstrated the effects of employment status such as nonstandard
employment or Joblessness on class consciousness of young people, after controlling
socio-economic factors. Especially this study focused on the effect of the reason why they are
„freeter‟, on class consciousness using the 2007 web research data (2nd survey). Classifying
the „freeter‟ into three types by their reasons, „dream pursuing type‟, „moratorium type‟ and
„no alternative type‟, multiple regression analyses were conducted with „Life Satisfaction‟ and
„Class Identification‟ as dependent variables.
As the results of analyses, only “no alternative type” among three types of „freeter‟ has
significant negative effect on „Life Satisfaction‟ in both male and female samples. However,
as the result of analysis of „Class Identification‟, the same tendency can not be observed.
These results show that low subjective well-being of „freeter‟ could be caused by the reason
why they are „freeter‟, rather than by internalizing the negative labeling from society.
Key Words: freeter, subjective well-being, Class Identification
14
218
若年層における社会的ネットワークと社会階層
菅野
剛
(日本大学)
【要旨】
本研究では、2007 年社会階層と社会移動若年層郵送調査を用いて、若年層の社会関係について
分析を行う。その際に、過去の社会関係(中学校時代の親子関係、高校時代の学内外での仲のよい
友達)、現在の社会関係(相談相手数、相談相手の社会的属性、職場における仲のよい同僚・上司、
社交性)を取り上げ、社会階層との関連で分析を行った。最も親しい相談相手の社会的属性は、回
答者の所属する場や社会的属性と関連しており、学校から職業へと生活・社会環境の移行に伴う
社会関係の変化が、個人的な社会関係の選択に大きく影響を与えていた。中学校時代の親子関係
については、高校時代学内外での仲のよい友達の有無と関連が見られた。関連して、対象者を単
位として親子関係について階層クラスター分析を行った結果、様々な関係パターンの存在が確認
できた。また、対応分析を行った結果、過去と現在の社会関係の関連や、15 歳時財産との関連等
が見られた。社会関係は個人的なものであるが、個人が所属する場や社会階層によって、他者と
の出会いの機会は構造化されており、その制約のもとで選択がなされる傾向がある。
キーワード:社会階層、社会関係、親子関係、同質性
1
はじめに
社会生活を営む上で社会関係は欠かせないが、特に若年層にとって社会関係は様々な意味
で重要と言える。社会関係は様々な面で手段的・表出的資源として作用する。一般に社会関
係は、社会階層などの社会構造とは異なる側面をもつものとして捉えられるが、社会関係自
体に格差のような現象が生じているだろうか?特に若年層においては、手段的にも情緒的に
も社会関係は重要なものと言える。本研究では、2007 年社会階層と社会移動若年層郵送調査
(SSM2007-Y-M)を用いて、若年層の社会関係について分析を行う。まず、社会関係のうち、
個人的な相談や話をする人の中で、最も親しい人一人に限定し、回答者の社会階層や社会的
属性の関連を探る。次に、最も親しい相談相手と出会った場が学校であることから、高校時
代の友人関係に注目し、過去の親子関係や社会階層との関連について分析を行う。そして、
過去の親子関係・友人関係、現在における社会関係・社交性について分析を行う。分析には R
2.6.1 for MacOS X (R Development Core Team, 2007) を用いた。
219
2
現在の社会関係
2.1
相談相手人数
調査票では、日常生活をおくる上で個人的な相談や話をできる人の人数を、家族を除いた
形で尋ねている。これは実行されたかどうかは別として、潜在的に可能なサポート資源を測
定している。他方で、2005 年社会階層と社会移動日本調査データにおける、過去 1 年間に相
談をしたかどうかという項目による分析も出来る。実際に実行されたサポートは、ストレス
の多さと相関があることが知られており、潜在的に可能な主観的サポートの指標と、異なる
値と傾向を持つことが指摘されている。このため注意が必要だが、対象者の 5 割が、過去 1
年間において相談を行った相手として、家族を挙げており、他の社会的カテゴリーよりも重
要な位置を占めているという点は確かである。また、2007 年 SSM 若年層郵送調査での年齢
構成と同じ 37 歳以下にデータを限定すると、6 割が過去 1 年に相談を行った相手として家族
を挙げている。若年層において相談という社会関係自体が重要性であり、その際に家族の存
在が重要である。情緒的・心理的サポートにおいて家族は重要な位置を占めており、これが
除外されることで、意図的に家族以外の資源について焦点を定めている分析となっている。
2007 年 SSM 若年層郵送調査では、家族を除く個人的な相談や話を出来る人の人数につい
ての回答は、最小値=0、最大値=38、中央値=4、平均=4.65、標準偏差=3.97 であり、 4~5 人
程度の相談相手が一般的ということになる。注意点として、相談相手人数では、欠損値
(99=DK/NA)が多く 52.5%を占める。また、0 という回答が、有効な回答のうち 5.5%のみと
少ないことも、特徴的である。他方で、その後に続く、最も親しい相談相手 1 人について尋
ねる項目では、欠損値が少なく、回答が得られている。相談相手人数については回答しなか
ったが、相談相手を持っている回答者は多いことが分かる。相談相手人数での無回答におい
て、いくつかの層が混ざっていることが示唆される。つまり、(1)相談相手が欲しいが、社会
関係に恵まれておらず、相手がいない場合、(2)相談の必要性を感じておらず、相談相手がい
ない場合、(3)家族以外に相談相手はいるが、具体的な人数の回答を回避した場合等である。
図 1: 最も親しい相談相手についての項目
220
2.2
最も親しい相談相手について
次に、最も親しい相談相手 1 人について限定して、分析を行う。最も親しい相談相手の学
歴について見ると、高校や、大学・大学院を回答する者が多い(図 1)。非該当の 31 名(2.6%)
は、相談相手人数が 0 人であった回答者であり、無回答(DK/NA)は 78 名(6.6%)のみである。
これら 9.2%を除くと、回答者の 91.8%は、相談相手を有している。また、相談相手の学歴
について、殆どの人は把握している。本人属性ごとに、相談相手の学歴を見たのが図 2 であ
る。年齢が若いほど相談相手の学歴が中学・高校である、本人学歴と相談相手の学歴には強
い関連が見られる、専門・管理職で相談相手が高学歴である傾向がある、ブルーカラー・農
林漁業で学歴が高校である傾向がある、などの傾向が確認出来る。
最も親しい相談相手の仕事について見ると、非該当の 31 名(2.6%)は相談相手が 0 人であり、
DK/NA は 88 名(7.4%)である(図 1)。 DK/NA の割合が小さいことから、最も親しい相談相手
の仕事について、きちんと把握していることが分かる。相手が民間企業である場合が最も多
く(有効回答中 37.2%)、相手が学生である場合も多い(同じく 24.6%)。続くパート・アルバ
イトは 11.3%である。本人属性ごとに相談相手の仕事について見たのが図 3 である。若いと
相談相手が学生であり、年齢が上がると相談相手が民間企業に勤める人にシフトしている。
学歴が大学・大学院であると、相手が学生である割合が高い。これは大学在学中の者も含め
ている。本人が学生であると、相手は学生が多く、本人が無職であると相手も無職が多い。
最も親しい相談相手の職業について見ると、非該当が同じく 31 名(2.6%)である。 DK/NA
は 170 名(14.3%)であり、やや DK/NA が増えていることから、相手の職業の内容に踏み込ん
で知っている人がわずかに減少する。相談相手として最も多いのは無職(有効回答中 25.3%)
であるが、調査回答者の 24.8%が学生であることと関連している。また、技術的職業(有効回
答中 18.0%)、事務的職業(同じく 16.9%)が多めである。属性と相談相手の職業の関連を見
たのが図 4 である。正規雇用の相談相手は、民間企業に勤めている人が多い。非正規雇用の
相談相手は、契約社員、パート・アルバイトが多い。自営業の相談相手は、同じく自営業が
多い。無職の相談相手は、先ほど確認したように無職が多く、学生の相談相手は学生が多い。
このように、本人の職業が、相談相手の仕事と強く関連している。
最も親しい相談相手と出会った場所について見ると 32 名(2.7%)であり、DK/NA は 105 名
(8.8%)となっている。 DK/NA の割合は小さめで、最も親しい相談相手と出会った場所につ
いて、きちんと把握していることが分かる。相談相手と出会った場所として、学校が圧倒的
に重要であり、有効回答中の 73.0%が集中している。続くのは、就職した職場(14.4%)であ
るが、かなり差が開いている。属性と出会った場所との関連を見たのが図 5 である。年齢が
高くなるほど、学校から職場へ相談相手と出会った場所がシフトしていっている。仕事ごと
に、相談相手と出会った場所を見ると、全体的に学校で出会ったという回答が多い。特に、
学生において学校で出会ったという回答が圧倒的に多い。職業ごとに見ると、専門管理、事
221
図 2: 回答者の属性と、相談相手の学歴
図 3: 回答者の属性と、相談相手の仕事
222
図 4: 回答者の属性と、相談相手の職業
図 5: 回答者の属性と、相談相手と出会った場
223
務販売、ブルーカラー・農林業においては、職場で出会ったという回答の割合も高くなって
いる。職業生活を経て状況に応じて、自分の所属先、自分の生活の場が変わることによって、
相談相手も変わる。従業上の地位ごとに相談相手と出会った場所を見ても同じく、学校で出
会ったという回答が多い。ただし、正規雇用では職場での出会いの割合もそれなりに高く、
非正規雇用では代わりにバイト先で出会っている。学生については、先ほどと同じく、学校
で出会ったという回答が多い。
2.3
職場での仲のよい同僚
現代社会では、生活一般における職業の占めるウエイトが大きい。社会関係における職業
生活に関連する部分として、職場における仲のよい同僚の有無について分析を行う。初職に
おいて仲が良い同僚がいたかどうかという項目と、現職において仲が良い同僚がいたかどう
かという項目のクロス集計を行った(図 6)。左端の図を見ると、関連は強い(Cramer's V=0.33)。
単純に解釈すると、職業生活において仲のよい同僚に恵まれた人は、その後も恵まれる傾向
にある。なお、勤務先が 1 社のみの場合(同じ職場のまま、勤務先が変わっていない)に限定
すると、関連はさらに強い(Cramer's V=0.64)。勤務先が 2 社以上である者に分析を限定する
と、関連は弱まる(Cramer's V=0.16)。勤務先が変われば環境も変わり、人間関係の構築もリ
セットされるが、弱いとはいえ、過去に同僚関係で恵まれることと、現在同僚関係に恵まれ
ることと、全く関連が無いわけではない。
3
過去の社会関係
以上より、社会関係における学校や職場という、場の持つ重要性が再確認された。個人の
持っている社会関係の特徴は、所属する場に大きく影響され、その中で選択がなされる(Feld
1981, 1982)。 SSM2005 調査では、中学校の際の親子関係、高校の際の学内・学外の友人関
係について尋ねているので、社会関係が築かれる基礎的な部分について分析を続けることに
する。幼い頃の親子関係は社会関係の最も基礎的なものといえる。ここでは、過去の親子関
係のあり方、過去の人間関係のあり方、過去の社会階層について幅広く分析を行う。
2007 年 SSM 若年層郵送調査では、中学生の頃の親子関係について、父親、母親それぞれ
に対して尋ねている(本田 2005)。あなたのことをよく理解していた、あなたにいろいろなこ
とを話すほうだった、あなたに対して厳しいほうだった、あなたの仕事や勉強についてうる
さく言うほうだった、明るくユーモアがあった、あなたに対してあまり関心がなかった、あ
なたをぶったことがあった、の 7 項目のうち、あてはまるもの全てを選んでもらう二値変数
であり、あてはまる場合に 1、あてはまらない場合に 0 となっている。これらの変数は、父
親・母親との親子関係についてのあくまでも主観的評価であるという制約があるもの貴重な
224
変数と言える。該当する割合を見ると、母親における良好な関係が高めとなっている(図 7 上)。
まず、父親と母親との親子関係 14 項目と、関連のある過去・現在の様々な変数を探った。
過去の財産数、性別、年齢、配偶者の有無、最終学歴、個人年収などについては、あまり関
連が見られなかった。有意な関連を示すものもあったが、関連の大きさはあまり大きくなか
った。その中でも比較的結果がはっきりしていたのは、過去の社会関係であった(図 7 の 2-4
段目)。図には、過去の友人関係が多かったか/少なかったという回答ごとに、過去の親子関
係であてはまるものの割合(平均)を示している。項目名には、クロス集計での χ 二乗検定で
の有意確率と Cramer の V 係数を示してある。
図 6: 初職と現職での仲のよい同僚の有無
3.1
過去の親子関係の構造と特徴
これら 14 の二値変数を用いて、データの構造の特徴をつかむための探索的分析の一つとし
て、対象者と変数について階層クラスター分析(Ward 法)をそれぞれ行った。距離行列は
asymmetric binary を用いた。また、1 の場合に色を塗り、0 の場合には色を塗らないという
形で、0/1 のデータをプロットしてあり、データの分布と特徴が一目で分かる。
変数に対するクラスター分析の結果を見ると、まず、母親側における、話すほうだった、
理解があった、ユーモアがあった、でまとまり、父親側における、話すほうだった、理解が
あった、ユーモアがあった、でまとまった上で、これらが一つのクラスターとなっている。
他方で、父親側の、ぶったことがあった、厳しいほうだった、うるさく言うほうだった、母
親側の、ぶったことがあった、厳しいほうだった、うるさく言うほうだった、がまとまって
いる。また、父無関心、母無関心がまとまってクラスターを形成している。
対象者に対するクラスター分析の結果を図の左側から見ていくと、まず父親とも母親とも
良好な関係+厳しいしつけというクラスターが存在する。すぐ右には、父親とも母親とも良
好な関係+厳しいしつけはなし、というクラスターが存在する。いずれにせよ、これらは大
225
図 7: 過去の親子関係
きくは、両親と良好な関係が得られており、恵まれた親子関係というまとまりを形成してい
る。その右には、全ての項目について 0 となっているクラスターがある。次に、両親の厳し
いしつけ・力関係があり、両親との良好な関係はないというクラスターがある。母親との良
226
図 8: 中学時の親子関係に対する階層クラスター分析
好な関係が多く見られることを考慮すると、これは独特なクラスターである。さらに右には、
母親と良好な関係があり、父親や母親から厳しいしつけがあるというクラスターが存在する。
最も右側には、母との良好な関係はあるが、父親が無関心であったり、あるいは父親からの
しつけがないというクラスターがある。全体的に、母親との良好な関係が基底にあり、父親
との良好な関係の有無で分かれる。両方がない場合もある。また、両親との良好な関係の有
無の上に、それぞれの親からの厳しいしつけ・もしくは力関係の行使の有無の違いがある。
3.2
高校時代の社会関係についての重回帰分析
父親・母親の学歴、15 歳時の父親の職業、なども分析で考慮した。父親と母親の学歴は関
連が強く、両方を投入するとコントロールした効果は双方とも有意でなくなるので、ここで
は父親の学歴のみを残してある。父の職業については多少効果が見られたが、ここでの分析
では除外した。また、回答者の、現時点の年齢、学歴、職業等も考慮したが、職業は効果が
微妙であり、ここでは除外してある。
重回帰分析の決定係数はあまり高くない(表 1,3,5)。過去の親子関係については全て投入し
ており、トレランスを確認(略)する限りは問題ないが、お互いの効果がコントロールされた
上での結果が示されている。親子関係が良好であると社会関係が増える傾向にあり、親が無
関心だと社会関係が減る傾向が見られる。また、現在の年齢、配偶者の有無、学歴について
も、因果関係として本来は逆であるが、関連を探るために投入してみた結果をそれぞれ示し
227
表 1: 校内の友達の重回帰分析
Intercept
性別
父学歴
中3成績
15歳時財産
父理解
父話す
父ユーモア
父無関心
父厳しい
父うるさく
父ぶった
母理解
母話す
母ユーモア
母無関心
母厳しい
母うるさく
母ぶった
Adj.Rsq
coef
3.74
0.06
0.03
0.02
0.01
0.02
0.07
0.11
-0.12
0.03
0.02
-0.03
0.05
0.04
0.13
0.06
0.02
0.00
0.07
s.e.
0.12
0.04
0.02
0.02
0.01
0.05
0.05
0.04
0.06
0.05
0.05
0.05
0.05
0.05
0.04
0.11
0.04
0.04
0.05
t
30.34
1.65
1.70
1.47
1.70
0.35
1.60
2.59
-1.99
0.71
0.44
-0.62
1.06
0.88
2.95
0.56
0.55
0.11
1.54
p
0.00
0.10
0.09
0.14
0.09
0.73
0.11
0.01
0.05
0.48
0.66
0.54
0.29
0.38
0.00
0.58
0.58
0.92
0.12
表 2: 校内の友達の重回帰分析
std.coef
Intercept
性別
父学歴
中3成績
15歳時財産
父理解
父話す
父ユーモア
父無関心
父厳しい
父うるさく
父ぶった
母理解
母話す
母ユーモア
母無関心
母厳しい
母うるさく
母ぶった
年齢
配偶有無
学歴
Adj.Rsq
0.05
0.05
0.05
0.05
0.01
0.06
0.09
-0.07
0.02
0.01
-0.02
0.04
0.03
0.10
0.02
0.02
0.00
0.05
0.07
表 3: 学外の友達の重回帰分析
Intercept
性別
父学歴
中3成績
15歳時財産
父理解
父話す
父ユーモア
父無関心
父厳しい
父うるさく
父ぶった
母理解
母話す
母ユーモア
母無関心
母厳しい
母うるさく
母ぶった
Adj.Rsq
coef
3.12
0.06
0.02
-0.02
0.02
0.07
0.15
0.08
-0.16
0.07
0.02
0.01
-0.02
0.06
0.11
0.17
-0.02
0.09
0.11
s.e.
0.17
0.05
0.02
0.02
0.01
0.07
0.06
0.06
0.09
0.06
0.08
0.07
0.07
0.07
0.06
0.15
0.06
0.06
0.07
t
18.26
1.19
0.95
-0.74
1.78
1.03
2.34
1.35
-1.90
1.10
0.32
0.22
-0.28
0.88
1.84
1.17
-0.26
1.52
1.71
p
0.00
0.23
0.34
0.46
0.07
0.30
0.02
0.18
0.06
0.27
0.75
0.83
0.78
0.38
0.07
0.24
0.79
0.13
0.09
Intercept
性別
父学歴
中3成績
15歳時財産
父理解
父話す
父ユーモア
父無関心
父厳しい
父うるさく
父ぶった
母理解
母話す
母ユーモア
母無関心
母厳しい
母うるさく
母ぶった
年齢
配偶有無
学歴
Adj.Rsq
0.04
0.03
-0.02
0.06
0.04
0.09
0.05
-0.07
0.04
0.01
0.01
-0.01
0.03
0.06
0.04
-0.01
0.05
0.06
表 5: 信頼出来る先生の重回帰分析
Intercept
性別
父学歴
中3成績
15歳時財産
父理解
父話す
父ユーモア
父無関心
父厳しい
父うるさく
父ぶった
母理解
母話す
母ユーモア
母無関心
母厳しい
母うるさく
母ぶった
Adj.Rsq
s.e.
0.16
0.05
0.02
0.02
0.01
0.07
0.06
0.06
0.08
0.06
0.07
0.06
0.07
0.07
0.06
0.14
0.06
0.06
0.06
t
16.92
0.33
2.19
1.66
1.97
1.85
0.79
0.30
-0.40
0.22
0.35
0.01
2.32
0.83
0.55
-1.75
2.13
-0.94
1.90
p
0.00
0.74
0.03
0.10
0.05
0.06
0.43
0.76
0.69
0.82
0.73
0.99
0.02
0.41
0.58
0.08
0.03
0.34
0.06
s.e.
0.19
0.04
0.02
0.02
0.01
0.05
0.05
0.04
0.06
0.05
0.05
0.05
0.05
0.05
0.04
0.11
0.04
0.04
0.05
0.00
0.05
0.02
t
21.82
1.60
1.72
2.26
2.06
0.14
1.81
2.05
-1.92
0.37
0.63
-0.49
1.37
0.34
3.16
0.30
0.64
0.14
1.30
-2.67
2.23
-2.13
p
0.00
0.11
0.09
0.02
0.04
0.89
0.07
0.04
0.06
0.71
0.53
0.62
0.17
0.73
0.00
0.76
0.52
0.89
0.19
0.01
0.03
0.03
std.coef
0.05
0.06
0.08
0.07
0.01
0.07
0.07
-0.07
0.01
0.02
-0.02
0.05
0.01
0.11
0.01
0.02
0.00
0.04
-0.10
0.08
-0.08
表 4: 学外の友達の重回帰分析
std.coef
0.05
coef
2.78
0.02
0.05
0.04
0.02
0.12
0.05
0.02
-0.03
0.01
0.03
0.00
0.16
0.06
0.03
-0.25
0.12
-0.05
0.12
coef
4.09
0.06
0.03
0.04
0.02
0.01
0.09
0.09
-0.12
0.02
0.03
-0.02
0.07
0.02
0.14
0.03
0.03
0.01
0.06
-0.01
0.12
-0.05
0.09
coef
4.13
0.05
0.02
0.02
0.02
0.06
0.14
0.06
-0.15
0.08
0.03
0.02
0.01
0.03
0.11
0.15
0.00
0.08
0.10
-0.03
0.20
-0.13
0.08
s.e.
0.26
0.05
0.02
0.02
0.01
0.07
0.07
0.06
0.09
0.06
0.08
0.07
0.07
0.07
0.06
0.15
0.06
0.06
0.07
0.01
0.07
0.03
t
15.94
0.85
0.67
0.83
1.89
0.87
2.08
1.06
-1.74
1.22
0.39
0.37
0.13
0.47
1.81
1.02
0.05
1.41
1.49
-4.77
2.83
-3.74
p
0.00
0.40
0.50
0.40
0.06
0.38
0.04
0.29
0.08
0.22
0.69
0.71
0.90
0.64
0.07
0.31
0.96
0.16
0.14
0.00
0.01
0.00
std.coef
0.03
0.02
0.03
0.06
0.04
0.08
0.04
-0.06
0.04
0.01
0.01
0.00
0.02
0.06
0.03
0.00
0.05
0.05
-0.18
0.10
-0.13
表 6: 信頼出来る先生の重回帰分析
std.coef
Intercept
性別
父学歴
中3成績
15歳時財産
父理解
父話す
父ユーモア
父無関心
父厳しい
父うるさく
父ぶった
母理解
母話す
母ユーモア
母無関心
母厳しい
母うるさく
母ぶった
年齢
配偶有無
学歴
Adj.Rsq
0.01
0.07
0.05
0.06
0.07
0.03
0.01
-0.01
0.01
0.01
0.00
0.09
0.03
0.02
-0.06
0.07
-0.03
0.06
0.06
228
coef
3.07
0.04
0.03
0.01
0.02
0.12
0.06
0.01
0.00
0.02
0.01
-0.01
0.18
0.04
0.02
-0.26
0.13
-0.05
0.11
-0.01
0.02
0.07
0.07
s.e.
0.25
0.05
0.02
0.02
0.01
0.07
0.06
0.06
0.08
0.06
0.07
0.06
0.07
0.07
0.06
0.14
0.06
0.06
0.06
0.01
0.07
0.03
t
12.28
0.70
1.34
0.54
1.66
1.80
0.99
0.24
0.02
0.35
0.10
-0.13
2.58
0.55
0.29
-1.82
2.12
-0.95
1.64
-1.83
0.31
2.07
p
0.00
0.49
0.18
0.59
0.10
0.07
0.33
0.81
0.99
0.73
0.92
0.90
0.01
0.58
0.78
0.07
0.03
0.34
0.10
0.07
0.76
0.04
std.coef
0.02
0.05
0.02
0.05
0.07
0.04
0.01
0.00
0.01
0.00
0.00
0.10
0.02
0.01
-0.06
0.07
-0.03
0.06
-0.07
0.01
0.07
てある(表 2,4,6)。年齢が高いほど過去の社会関係を少なく評価する傾向があることから回顧
による測定が、回答時点によって影響を受ける可能性が示唆される。また、配偶者がいると、
過去の社会関係が多く評価する傾向があるが、婚姻も社会関係の一つであることから、相関
は十分に考えられる。学歴は高いほど、学外友達は少なかった、信頼出来る先生は多かった
と回答しており、この点はもう少し分析が必要である。いずれにせよ、以上は過去について
の主観的評価である回顧項目であるため、本人の回答傾向による効果など、解釈に一定の留
保が必要ではある。ただし、社会階層との関連で重要な点としては、15 歳時財産が多いほど、
校内・学外の仲のよい友達が多かったと回答する傾向が見られることである。
図 9: 学歴ごとの過去の社会関係
4
過去の親子関係とその他の変数の関連
次に、14 の二値変数で表される過去の親子関係のあり方と、本人の属性や社会階層変数、
そして、現在における社会関係や社交性についての自己評価といった変数との関連を探る。
ここでは対応分析を行う(近藤 2007)。取り上げる変数が多いが、対応分析によってデータの
おおよその特徴を把握することが出来る(Chessel et al. 2004)。なお、男女で分けて分析を行う
と若干異なる特徴が見られ興味深いが、本研究では全体データでの結果を示しておく。親子
関係の変数のみの分析、その他の社会関係を含めた分析、属性変数を含めた分析、という形
で対応分析を試行錯誤した結果、父親・母親との親子関係において一定の傾向が確認出来る
(図 10、n=1027)。また、現職において仲のよい同僚に恵まれているかどうかを含め、有職者
に限定し、無職者・学生を除外した分析も行った(図 11、n=604)。サンプルが変わることに加
229
え、分析に含めた変数間の相対的な結果が示されるため、多少 Y 軸方向に結果が伸びている
が、相対的な配置についての大きな変化はない。
親の理解、親が話す、ユーモアについて、あるという回答が X 軸の正の方向、第 1・第 4
象限の方に位置し、ないという回答が X 軸の負の方向、第 2・第 3 象限の方に位置している。
この軸は親子のふれあいやコミュニケーションの良好な関係を表している。他方で、厳しい、
うるさく、ぶった、に関しては、あるという回答が Y 軸の正の方向、第 1・第 2 象限の方に
位置し、ないという回答が Y 軸の負の方向、第 3・第 4 象限の方に位置している。この軸は、
回答者から見て親に対するネガティブな記憶が反映されている。よい意味として捉えれば親
としてなすべきしつけや教育、悪い意味で捉えれば親子の力関係の非対称性を表している。
このような相対的な配置と、その他の変数との関連を確認すると、性別による差はあまり見
あたらない。年齢は若いほど、親子関係が良好であり、過去の学内外の友達が多い傾向が見
られる。 15 歳時財産、中学の頃の成績、学歴、職業にはやや関連が見られ、過去の社会関
係、親子関係が良好であることともやや関連は見られる。人に説明する、知らない人と会話、
人をまとめる、人を楽しませる、ということについての、社交性・社交能力についての主観
的自己評価と、親子関係にも関連が見られる。相談相手人数については、人数の多さによっ
て 3 カテゴリーに区分している。相談相手人数の欠損値についてはまとめて一つのカテゴリ
ーとし、データ分析の有効数を減らさないようにしている。この変数も、過去や現在の他の
社会関係と緩やかに関連している。職場における仲のよい同僚・上司も、過去の社会関係・
現在の社会関係と緩やかに関連を示している様子が伺える。
5
議論
本研究での相談相手についての分析に関連して、同類指向や選択的交際として分析されて
いる(岡本 1989; 鹿又 1990; 中尾 2000; 片瀬 2007)。最も親しい相談相手というのは、最も
個人的なことがらであり、プライバシーの中核に触れる部分である。特に私的な生活領域と
みなされる最も親しい相談相手が、回答者の社会階層、属性、出入りする場といった、社会
構造的な要因に大きく影響を受けている。様々な人々と接する機会の構造によって、個々人
の社会関係の選択が影響・制限を受けるということは若年層に限定されない。しかし、教育
から職業へと生活が変わることによる変化に伴って、社会関係における変化が表れている様
子は、若年層においてよく表れている。
職場での仲のよい同僚については、初職、3 年後職、現職のいずれの間にも関連が見られ、
同僚関係に恵まれるとその後も恵まれる傾向が見られた。この傾向は勤務先が変わるとかな
り減少するが、それでも関連は確認された。関連の実質的な中身については、パーソナリテ
ィや社交性等の個人的要因によるのか、あるいは回答者の職業や仕事等の社会環境の特徴に
230
図 10: 過去と現在の属性と社会関係の対応分析(全体)
よるのかについては今後分析が必要である。職業によって、他者とのコミュニケーションに
関連する仕事条件に質的・量的に大きな違いがある。社会階層と社会的ネットワークの相関
の実質的効果の一つとして、コミュニケーションに関連する職業条件が重要な効果を持って
いることが示されている(菅野 1994)。
231
図 11: 過去と現在の属性と社会関係の対応分析(有職者)
また、過去の親子関係についてのクラスター分析により、親子関係はそれぞれ特徴的なパ
ターンに分類されることが示された。そして中学生の時点での家庭内での親子関係がうまく
いっていることと、高校生の時点での家庭外での友達の多さに関連が見られた。様々な第 3
変数による関連の可能性も考えられるので、ライフスタイル、社交的スキル、社会関係に対
232
する因果関係についてはっきりとは断定出来ないが今後も分析をする必要がある。親子関係
については、親の価値観・しつけの仕方と職業階層・仕事条件の関連から分析することも、
課題として残っている(Kohn and Schooler 1983)。過去の社会関係の重回帰分析では、15 歳時
財産が多いほど、校内・学外の仲のよい友達が多かったという社会階層の効果が見られた。
なお、調査時点での財産は、学生や親と同居している対象者の方が多い傾向が見られ、効果
の解釈には注意が必要であるように思われた。
データにおける回答者の年齢は 20-37 歳であり、在学者が 4 分の 1 を占めている。回答者
によって、中学時代の親子関係・高校時代の友人というのが比較的最近である場合と、そう
でない場合とに分かれる。対象者年齢の現在の年齢によって、回答にバイアスがかかる等の
可能性についても今後考慮する必要があるかもしれない。また、分析に用いている変数が過
去についての懐古、現状についての主観的自己評価である変数が多い。回答者自身のパーソ
ナリティや回答バイアスによってこれらの関係が生じている部分がある程度存在することも
否定出来ないので、解釈には一定の保留をおきつつ慎重に行う必要がある。さらに対応分析
では、有意差検定を行っているわけではない。しかし、中学生の頃の親子関係が良好である
こと、高校生の頃の(主観的)社会関係の多さ、現時点での(主観的・自己評価による)社交能力・
社会関係構築力、職場で仲のよい同僚とうまくやっていること、そして社会階層的な側面と
しては財産などに関連が確認できたことは興味深く、今後さらに分析が必要である。
【文献】
Chessel, D. and Dufour, A.-.B. and Thioulouse, J. 2004. “The ade4 package-I- One-table methods.” R News. 4:
5-10.
Feld, Scott L. 1981. “The Focused Organization of Social Ties.” American Journal of Sociology 86: 1015-1035.
―――――. 1982. “Social Structural Determinants of Similarity Among Associates.” American Sociological
Review 47: 797-801.
本田由紀. 2005. 「社会的自立とライフスキル」内閣府政策統括官(共生社会政策担当)編『平成 16 年度
青少年の社会的自立に関する意識調査』: 279-312.
――――. 2007. 「SSM 若年調査分析途中経過報告」SSM2005 若年層班研究会配布資料.
鹿又伸夫. 1990. 「交際と社会距離」平松闊編『社会ネットワーク』福村出版: 89-111.
片瀬一男. 2007. 「若年層における社会関係資本とソーシャル・サポート」SSM2005 ライフスタイル・
ライフコース班研究会配布資料.
Kohn, M. L. and C. Schooler. 1983. Work and Personality: An Inquiry into the Impact of Social Stratification.
Norwood: Ablex.
近藤博之. 2007. 「階層研究における社会空間アプローチの実践」SSM2005 方法論班研究会配布資料.
中尾啓子. 2000. 「階層とネットワーク」『都市社会の人間関係』放送大学教育振興会: 135-143.
岡本隆宏. 1989. 「日常交際における社会的同質性と階層構造」『年報人間科学』 10: 89-110.
R Development Core Team. 2007. R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for
Statistical Computing, Vienna, Austria. ISBN 3-900051-07-0, URL http://www.R-project.org.
菅野剛. 1994. 「社会階層と人々の交際形態」白倉幸男編著『現代の社会階層と社会意識』社会移動研
究会: 65-86.
233
Analysis on the Relationship between Social Stratification and Social
Network of Youth
Tsuyoshi SUGANO
Nihon University
The aim of this paper is to conduct analyses on the relationship between social stratification and
social networks of youth. Social characteristics of the important intimate alter are turned out to be clos ely
related to respondent's social stratification. Past parental relationship with respond ent showed correlation
with the size of social networks in the past. Correspondence analysis showed past parental relationship
and past social network are related to present social network characteristics such as size of support
network on advises, good relationships with coworkers and supervisors, self-rated sociability. Assets hold
in the house when respondents are year of 15 is also related to measures of social networks.
Key words and phrases: social network, parent-child relationship, homophily, differential association
234
既発表成果一覧
1
論文・著書
Misumi, Kazuto, "Whole-net Base and Social Capital: Stratified Opportunity Structure
of Social Capital." 『理論と方法』20(1): 5-25, 2005 年 9 月.
三隅一人「仮想ホールネットとしての社会関係基盤-社会関係資本の分析方法試論」三隅
一人(編)『フォーマライゼーションによる社会学的伝統の展開と現代社会の解明』科研費
報告書: 17-34, 2005 年 3 月.(Revised version in English: Misumi, Kazuto, “Social
Capital on Net-Bases: A Methodological Note.” Bulletin of the Graduate School of
Social and Cultural Studies, Kyushu University 14: 49-63, 2008 March.)
片瀬一男,2005.「社会階層と健康:予備的考察」『東北学院大学教養学部論集』第 142
号:201-227.
片瀬一男・佐藤嘉倫,2006.「若年労働市場の構造変動と若年労働者の二極化」
『社会学年報』
第 35 号:1-18.
2
学会等報告
小林大祐,2007 年 9 月, 「階層意識に対する「失業」と「フリーター」の効果について」数
理社会学会第 44 回大会(広島修道大学).
Misumi, Kazuto, July 2006, “Social Capital on Whole-net Bases: A Methodological
Note,” ISA 16th World Congress of Sociology (Durban, South Africa.)
三隅一人, 2005 年 3 月,「社会関係基盤と社会関係資本-友人関係資本の階層的機会構造」
第 39 回数理社会学会大会(新潟国際情報大学.)
Misumi, Kazuto, March 2005, “Opportunity Structure of Social Capital: From the
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2005年 SSM 調査シリーズ
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若年層の社会移動と階層化
太郎丸
博
編
2008年3月 10 日発行
発行
2005年 SSM 調査研究会
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同志社大学社会学部社会学科尾嶋研究室(発行担当)
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