平成 16 年度 九 州 電 力 若 手 工 芸 家 国内外派遣研修制度 研 修 報 告 書 溝 上 ( 唐 雅 津 人 焼 ) 国際的に広がる伝統的な陶磁器の製造工程の差異について 溝 上 雅 人 < 目 次 > 1.研修概要 ・・・・・ 1 2.スケジュール ・・・・・ 2 (1)選定理由 ・・・・・ 5 (2)研修内容報告 ・・・・・ 6 (3)考 察 ・・・・・ 15 (4)その他 ・・・・・ 16 (1)選定理由 ・・・・・ 19 (2)研修内容報告 ・・・・・ 19 ・・・・・ 27 3.ドイツでの研修報告 4.アメリカでの研修報告 5.研修を終えて 1.研修概要 (1)テーマ 国際的に広がる伝統的な陶磁器の製造工程の差異について(技術習得および交流) (2)目的 陶磁器については世界各地に伝わっており,当然,その土地によって手に入る原 料(素地や釉薬)等には違いがあるが,今回の研修では,それらの違いではなく, 窯や技法などの「根本的な部分」の違いを現地で体験し,自分が目指す風土に合っ た作陶に応用する。 (3)研修先 ドイツ ドレスデン近郊 ザガー(旧東ドイツ) アメリカ ニューメキシコ州 アルバカーキ (4)期間 平成16年 9月28日(火)〜平成17年 3月 6日(日) −1− 2.スケジュール 月日 9/28 滞在先 ドイツ 研修先 研修内容・視察等 ザ ガ ー Sagar ノ イ ケ ル ヒ 10/1 陶器市にて地元陶芸家との交流 Neukirch ド レ ス デ ン 10/2 Dresden 10/8 Velten マイセンへ視察 フ ェ ル テ ン 暖炉の博物館 ラインツバーグ 10/9 Rinsberg 10/10 Sagar 陶器市にて地元陶芸家との交流 ザ ガ ー 安田猛さんの講座へ レンツェン 10/17 ケ ー ミ ニ ッ ツ Chemnitz よ り 電 車 で 9 時 間 の 移 動 Lenzen イェンツ・ピーター氏の工房で 1 週間 ハ レ 10/23 Halle 10/25 Dresden 10/30 Berlin 陶器市にて地元陶芸家との交流 ド レ ス デ ン 美術館の見学 ベ ル リ ン ゴ ー ド ン 有田陶芸協会展をGordonと見学 ノ イ ケ ル ヒ 10/31 ピーター Neukirch の 陶 器 市 で 知 り 合 っ た Peter キュービッシュ Kubisch氏のコンサートへ 11/2 11/6 ポーランド 初めてのポーランド マ イ セ ン カ イ Meissen 国立マイセン磁器製作所の見学(Kay レ オ ン ハ ル ト Leonhardt氏に案内して貰う) 11/11 ド レ ス デ ン 博物館の見学 Dresden 11/13 11/16 地元陶芸家との交流 ザ ガ ー ゴ ー ド ン Sagar Gordonの窯の窯詰め,窯焚き 11/23 ツヴィンガー宮殿の見学(ヴァルチャー氏の案内) 11/24 Gordonの窯の窯出し 11/27〜28 ゴ ー ド ン ベ ル リ ン エヴァ・マリアさんの工房を拠点に美術 Berlin 館等の見学 12/2 12/8〜11 ギュンター・マイツナー氏の工房を訪ねる ド レ ス デ ン クリスマスマーケットの視察,ハヌー氏の窯焚き,アンテ Dresden ィークマーケットの視察 12/12 ザ ガ ー ムスカウのクリスマスマーケットに視察 Sagar −2− 12/13 12/15〜16 カトリーヌ・ナヨーイカさんの工房を訪ねる フランス ラ 12/18〜19 12/20 Paris ルーブル美術館の見学 ボ ン ヌ 芸術家が多く住む村へ見学 LA BORNE イギリス 大英博物館見学 National Gallery 見学 12/23〜29 アメリカ ニューヨーク 市内の美術館見学 ・メトロポリタン Museum ・American Museum of National History ・グッケンハイム美術館へ ・クーパー・ヒューイット・デザイン博物館へ 12/30 ワシントンDC スミソニアン協会の見学 12/31〜1/6 シカゴ シカゴ現代美術館を見学 1/7〜10 1/11 シカゴ美術館の見学 アルバカーキ 1/12〜13 吉田 甚氏の家へ アルバカーキ Museum の視察 Maxwell Museum とオールド・タウンの視察 1/19 ラクエバ高校へ視察 1/22 アコマの SKY CITY への視察 1/25〜 Clarence 氏の工房で実習(毎火曜) 1/26 ラクエバ高校で 1/30 インディアン・プエブロ・センターの視察 2/12 ク ラ レ ン ス サンタフェ ミニ窯 の製作 地元の Museum を見学 2/14 ラクエバ高校にて ミニ窯 2/16 ミドルスクールへ講師として呼ばれる 2/17 U.N.M プ ア アコマから姉妹作家のデモンストレーションを見学 ケ ク ラ レ ン ス 2/19 Pojoaque 2/20 San Juan Pueblo DEER DANNCE の視察 2/22 U.N.M ミニ窯の 2 作目“LOBO(狼)窯 サ ン の窯焚き ジュアン Clarence 氏の招待で野焼きに参加 プ エ ブ ロ 2/23 の製作 Maxwell Museum 地下収蔵の資料を見学 −3− 2/24 PETRGLYPH NATIONAL MONUMENT の視察 2/25 ドロレス・ゴンザレス小学校に講師として呼ば れる ビル・ギルバート氏の窖窯の視察 ホワイト サ ン ズ 2/26 WHITE SANDS ホワイト・サンズの視察 2/28 U.N.M ミニ窯の窯焚き 3/1 3/2〜4 ミニ窯の窯出し ロサンゼルス 市内の美術館見学 ・MOCA 美術館を見学 3/6 帰国 −4− 3.ドイツでの研修内容報告 (1)選定理由 今回の研修先の一つとしてドイツを選定したのは,2002年8月に日本カール・デ ュイスベルク協会を通じて今岳窯を訪問したゴードン・グラン氏に影響を受けたことが 一番の理由である。 私と同じ年である彼は,ドイツでマイスターとして陶器を学んでおり,古くから焼か れていた陶器に興味があったことから,すぐに親しくなった。また,彼がドイツに帰っ た後も,「登り窯を築炉したがなかなかうまくいかない」との相談をEメールで遣り取 りするなど交流を続けていた。彼の出身地の名前が Sagar (ザガー)といい, 「佐賀」に似ていたことも,何か縁があったのかもしれない。 このようなことから,今回の研修先の一つとしてドイツを選定した。研修テーマを伝 えると,快く応じてくれ,彼の友人や知人にも相談してくれるなど,歓迎をしてくれた。 また, 3ヶ月間の研修期間中も, 近くに焚く予定の薪窯への見学を手配してくれるなど, 本当にいろいろとお世話いただいた。 −5− (2)研修内容報告 ① ゴードン氏との築炉・成形から焼成までの過程 まず,メインの研修先である,ゴードンの窯での築炉・成形から焼成までの過程に ついて述べることとする。 ゴードンの窯は,彼が2002年に益子の築窯師・田巻 保氏の元で研修し,帰国後 に Sagar に築炉した登り窯である。この時期は,クリスマス・マーケットへむけての 作品作りが忙しいようであった。 ゴードンの作った登り窯 窯詰め作業 今回の過程では,前回作った窯の修正と,実際の窯詰め及び焚き方の方法について のアドバイスが欲しいという事だった。 むら 彼の窯は奥行きより高さがある為、温度差が激しく作品に斑があるとのことであっ たが,窯詰めを見ると,下段から低い支柱できつく詰めていたので、余裕をもたせて 高い支柱で詰める事で,焼成不足の作品を減らすことができた。 かなり詰めすぎているようだ 戸口を土で塞ぐ −6− のこくず 燃料には ブリッツ と呼ばれる,製材所で出る鋸屑を高圧の蒸気でプレスした物 を焚き始めに使用した。これは薪より安く火持ちもよく Sagar では手に入れ易い燃料 で,暖炉の種火によく使われていた。 ゴードンは塩釉も挑戦していたが,前回は塩を直接入れて窯の周りの木が枯れかけ ていたので、鋸屑と洗剤を混ぜて今回焚く事にした。 ブリッツの屑に水を加える 本来は塩だが洗剤を添加 塊にならないようによく混ぜる このとき,ゴードンは混ぜた物を薪に乗せて直接入れようとしていたので,新聞紙 等,紙に包んで入れると散らからず短時間で窯に投入できる事をアドバイスしたとこ ろ,大変喜ばれた。 −7− あぶり始めはガスバーナーを使って 焼き上がり 温度が上がらないので時々攪拌する 満足そうに眺めるゴードン氏 −8− ② 暖炉の博物館見学 滞在中,いくつかの陶器市や博物館を見学したが,このうち最も印象に残っている フェルテンの「暖炉の博物館」見学について報告する。ここには,さすが暖炉の国と いわれるほどの,多くの暖炉が展示してあったのだが,そのほとんどが,職人達が丁 寧に造った「手造り」であることに感動した。 今でも生産されている暖炉のカットモデル その博物館の中に,あのバーナード・リーチも使用していたという,初期の轆轤も 展示してあり,博物館の方の了承を得て座らせて頂いた。 −9− ③ 安田氏の講演参加 Sagar 近辺で開催された安田猛氏の講義に飛び入り参加をした。安田氏はゴードン が紹介してくれた日本人の陶芸家で,現代イギリス陶芸の中で日本人として代表的 な方である。東京の出身で,益子で修業した後,1973年イギリスに移り住み, 現在中国(景徳鎮等)でも作陶されておられるそうだ。 今回は,同じ日本人と言うことで招待していただいたのだが,普通に受講すると, かなりの高額になるらしい。 講演中の安田氏 真剣に聞き入る生徒の皆さん −10− ④ ピーター氏の工房で1週間の研修 ゴードン氏の紹介により,レンツェンにあるイェンツ・ピーター氏の窯に一週間ほ ど滞在し,窯出し・窯詰め・窯焚きの一連の過程を行った。また,その合間に粘土作 りと薪割りなどを行った。 工房には商品サンプルのポスターがあり,定番商品を弟子の方々が作っていた。容 量の判子をキッチリ押したポット等、釉薬もそんなに多くなかったようであるが,訪 れる客も多く,陶器市ではお客さんが絶えなかった。 ピーター氏の窯の全景 イェンツ・ピーター氏 −11− ここでは,薪に関する点についての日本との相違点を発見できた。彼の工房は山奥 で敷地が広く,丸太のまま乾燥させていた。日本では赤松の薪自体が手に入れにくい が,ドイツでは燃料として道路際にも植樹されていて松が豊富にあり,また,ホーム センターでも個人用の薪割り機が売ってあった。 薪を割るピーター氏 丸太のまま乾燥 薪の保存方法は日本では難しいが、彼に直接教えて貰った投入する薪の種類による 灰被りの違いはとても参考になった。ただし,日本で菩提樹の木を燃料にするのは聞 いた事がない。私は,窯焚き初期は雑木で焼成し,1000℃を越えると赤松で焚く 事が当たり前の様に考えていたので、薪にこだわるイェンツ・ピーター氏の考え等と ても勉強になった。 ポプラの木で焚くとこの灰被り 菩提樹の木の灰被り −12− 松の木の灰被り また,イェンツ・ピーター氏の工房では,口と底を重ね合わせる事によって棚板を 使わずに焼成していた。日本においても,須恵器の時代から使われていた技法だが, かめ 現在は棚板の普及と甕やすり鉢等の需要が減ったため,肥前地区では登り窯を焚く際 の「目詰め」という重ねて焼く方法が残るのみである。やはりデザイン的なことや日 用品としての使い易さからきた形として,和食器と洋食器で違う様な印象がした。 煉瓦を 3 重にして金具で締め上げて完了 淵を合わせ高く積んでいく 仕上げ焚きを行うピーター氏 イェンツ・ピーター氏の工房の皆さん −13− ⑤ 陶器市の見学 イェンツ・ピーター氏の工房での研修後も,いくつかの場所で陶器市を見学した。 そのうちの一つであるハレの陶器市では,デザインや釉薬も様々で,白化粧を施した 素地に鳥や花を描いたものなどがあった。 こんなに離れた土地なのに,私と同じスタイルの花器や置物を創っておられる陶芸 家の方がおられ,また,その方々と思わず交流できた事が,何より嬉しかった。 また,ハレの大学を見学した際,昨年この研修制度を利用した副島 孝信君や,母校 の有田窯業大学校の写真等が通路に展示してあったのを見ることができた。 ハレの陶器市にて 鳥や花を描いてあるもの デザインも様々 −14− (3)考察 今回の訪問及び作陶において,日本とドイツで根本的に違う部分を3点発見できた。 まず1点目は「轆轤」の違いである。日本の電動轆轤は,正逆往復の2通りの回転 が手元のスイッチで切り替えが出来るが,ドイツの主だった轆轤は,反時計回りの一 方向にしか動かないものが多かった。もっとも,成形時の役割も,動力の力で成形す るのではなく、回転数を任意の最高値迄もっていき,後は惰力で成形するというもの であるため,どちらかと言えば肥前地区の蹴轆轤に近い使用法だった。 2点目は「成形する道具」の違いである。日本では内側にヘラを当てて形を整える が、彼らは外側にヘラを当てて成形していた。 3点目は「コーヒーカップ等の取っ手の取り付けの技法」であった。日本では取っ 手を予め作り,ある程度かたくなったらドベ(水に溶かした粘土)で接着するが,ド イツでは,カップ本体が完全に乾く前に,粘りのある柔らかい土で本体に直接取り付 ける方法が職人(マイスター)の教本に載る程ポピュラーな技法であった。こうする ことで,ヒビ等が入りにくく歩留りが良くなった。この技法は,まず一番に取り入れ たい技術だと思い,マスターするため練習を繰り返した。 これらのうち,日本に帰っても活用できるものとして,以下の2点を挙げる。 まず轆轤については,日本式の電動轆轤での成形では同心円でキッチリ形が出来て しまうため,茶道具の柔らかなラインを出すにはドイツ式は向いているように思えた。 現在使用している蹴轆轤は足で蹴りながら成形するので、慣れないと腰に負担が掛か るため,動力でサポートさせるこのタイプの方が,使い方によっては効率よく成形が 出来そうである。 また,取っ手の接着については,土に粘りを加えることで唐津焼にも応用が利く技 法で取り入れて見ようと思っている。 −15− (4)その他 ドイツでの研修終了後,次の受入先まで若干期間に余裕があったため,少し足を伸 ばして美術館や博物館の見学や,陶芸家が集まる村「LA BONE」の訪問を行った。 以下,いくつか印象に残った点について報告する。 ① イギリス・フランスの博物館・美術館 ルーブル美術館や大英博物館,ナショナルギャラリーなどの見学を行った。日本で 開催されるほとんどが1〜2時間で見学出来るのに、世界3大美術館と言われるこれ らの施設を,開館から閉館までゆっくりと視察出来たことが, 何よりの財産であった。 ルーブル美術館ではカメラの撮影が許可されていて,エジプトや石像を様々な角度 から撮れた事が良かった。 ② フランスの芸術家の集まる村「LA BONE」訪問 また,フランスでは,ドイツの知人から窯について詳しく書いてある本が LA BONE という町にあると聞き,そこを訪問することにした。 −16− フランスに住む知人にに相談したところ,車で行かないと交通の便が良くないらし く車で連れて行って頂けることになった。また,この知人の友人が,1つ1つ窯を案 内してくれた。 村の至る所に窯がある 耐火煉瓦では無く普通の赤レンガ 煉瓦造り 何気なく道沿いに窯がある 古い窯の図面 窖窯の断面図 −17− 登り窯も発見 煙突が二つ これらのほとんどの窯が,現在も使用されているそうだ。また,この村は陶芸家だ けでなく,絵画や他の分野の芸術家も多く,逆に深夜まで日本の技法を紹介する事に なった。彼らは,自分達の作品のイメージに合う技法等はどんどん取り入れようとし ており,4〜5名の方に日本から持ってきた資料や DVD をみせたところ,何度も巻 き戻したり,フランス語での説明を求められたりした。 −18− 4.アメリカでの研修報告 (1)選定理由 2箇所目の研修地として,アメリカ・ニューメキシコ州のアルバカーキを選定した。 ここを訪れたのは,昔からネイティブ・アメリカンの陶芸に興味を持っており,特に ニューメキシコ周辺には,部族独自の作風が在る事を聞き,現地で自分の目で見てみ たいという思いがあったからである。 (2)研修内容報告 アメリカでは,基本的には知人である吉田 甚氏のお宅にホームステイさせていただ いた。また,研修はUNM(University New Mexico)を拠点として行ったが,吉田氏 の要望で,ラクエバ高校というところに週に1回指導に行くことになった。 ① クレランス氏の工房での実習 まず,UNM の講師であるクレランス氏の工房での研修について述べることとする。 −19− ここでは,壷と湯呑みなどの小物を作ったのであるが,轆轤を使わない独特な成形法 とポリッシュ(磨き工程)を実地で学ぶ事が出来たのは凄く良かった。 スタジオの前で 道 具 ポリッシュの練習 サラダ油で濡らしながら −20− また,焼成の燃料には薪というより「枝」の様な細い木だったため,それを割ると いう工程が私にはとても難しかった。 「枝」割り? 箱の周りに木を並べているところ 焼成方法の野焼きは日本でも焚いたことがあったが、オーブンで素焼きをしてから 本焼するのには驚いた。 アメリカのキッチンでは,大抵,大きなオーブンがあるが,日本ではどうだろうか? 生の素地から焼成すると、よく湿気が抜けなくて爆発や割れたりするが,私の作品も, 一旦焼いて予熱後,鉄の箱の中に作品を入れて焼成したので,薪があたって割れるこ となく焼き上がった。 オーブンで素焼き 作品を周りに置くことで急激な温度変化を避ける −21− 焼成中 焼き上がり 完成(ただし帰りの飛行機で粉々になった) 野焼きの焚き方は大変参考になった。エッチングによる動物等のシンボルは日本で 子供に教える際に面白い。色々な意味で,例えば熊は冬眠することから体内にパワー と かげ を蓄えるシンボルとして,蜥蜴は動きの俊敏さから子供達へのお守りとして良く使わ れる。このように意味を考えながら装飾すれば,作品に物語が出来て楽しい。 −22− ② ラクエバ高校の視察・窯の製作 前述のとおり,ステイ先の吉田 甚氏から,彼が教えているラクエバ高校で講師とし て来てほしいとの要請があり,美術専攻コースの学生に教えることとなった。 ここで,バーベキュー用の炭を使用した 簡易ミニ窯 を製作し,それを使用して ぐい呑みの作成を行った。 まず土作り。耐火度を上げる為に,素焼きの出来損ないを乳鉢で砕き,それに粘土 を混ぜて,一日をかけて基礎から一気に作り上げた。途中生徒に質問をされたり,製 作工程を写真に撮りながらの制作だった。 素焼を粉砕して粘土にまぜ,耐火度を上げる 雑誌を土台にして紙を敷く ニューメキシコクレイ(粘土) まず最初はロストル作り −23− 焚口のアーチを作る 手捻りでの成形 表面を慣らしたところ 焚口等の成形 蓋を切り込んで素焼き 針金で補強し完成 燃焼室・焼成室・煙道と,シンプルながら立派に成形が出来た。一週間以上ゆっくり乾 燥させた後,素焼きを施し針金で補強した。 −24− ニューメキシコは標高が高く空気も薄いが、バーベキュー用の炭とドライヤーのお蔭で 何とか高温焼成することが可能だった。この ミニ窯 を使用して本焼焼成を行った。六 時間程度で,ぐい呑み等を焼成した。 窯詰め 焚口を開けてみる 焼成終了 窯から出た直後 余談ではあるが,ラクエバ高校は今年美術コースのコンクールで優秀な成績を残し 来年は ミニ窯 を数人で作る計画があるそうだ。 −25− ③ ワシントンの美術館見学 途中経由したワシントンで,かねてから興味のあったスミソニアン協会を中心に美 術館・博物館を見学した。日本に関係の深いものも多く展示してあり,日本の作品が 海外でどのように評価されているのかを自分の目で確かめることが出来た。 Freer Gallery Of Art スミソニアン協会のパンフレット また,African Art Museum では,アフリカの伝統工芸技法に関するDVDを発見し た。この中には,アフリカの陶芸家が使う5つの技法が紹介されており,想定外の出 会いであったが,非常に貴重なものとなった。 African Art Museum でたまたま見つけた DVD −26− 5.研修を終えて 以上,半年間にわたる研修について印象に残ったものを中心に述べてきたが,この 研修で,それぞれの地域に「風土に合った道具や技法」があり,他の技法を否定する のではなく良い所を取り入れていくという考え方が,どの地域にもあることを改めて 自分の目で確認できたこと,そして,道具も工夫して製作したり,見方を変えたりす る事で,今までとは違う作品を創り出すアイデアが浮かぶようになったことなど,今 後の作陶に生かすことができる貴重な経験を積むことが出来た。 具体的な技法については,ドイツで身に付けた取っ手を付ける技法は,すでにマグ カップ等の製作時に応用しているし, 野焼き や ミニ窯 は,私が教えている陶芸 教室の中で紹介しながら,第2・第3の窯を作って,精度を高めていこうと考えてい る。また,それらを通じて,今回の研修で得た知識や経験を,多くの人に伝えていけ ればと考えている。 当初は不安だった言葉の面についても,翻訳機頼りで日本を出発し,最初は言葉の 微妙なニュアンスが伝わらないもどかしさはあったが,2ヶ月を過ぎると,少ないボ キャブラリーの中でも会話が出来るようになっていた。こちらが積極的に意思を伝え ようとすれば,相手も何とか理解してくれるということも感じ,おかげで無事に半年 間の研修を終えることができた。 また,出会った方々のご好意や,いくつもの思いがけない出会いがあり,本当に充 実したものになった。6 ヶ月近く家を空けて研修に集中できたのも,家族・友人達に助 けられての事だと感謝している。また,このような貴重な経験の場を提供いただき, かつ,計画段階から研修修了までサポートいただいた九州電力ならびに担当者に深く 感謝している。 今回の研修で得た経験を生かして,これからより良い作品を残していこうと思うし, 同時に,この研修を通じて自分が受けた恩を,何らかの形で少しでも広めていけたら と思っている。 平成17年9月 −27− 溝上 雅人
© Copyright 2024 Paperzz