Vol.10-20 - 国土交通省 四国地方整備局 港湾空港部

波介川河口導流事業
Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism
「四国技報」第 10 巻 20 号
目
平成23年1月1日
次
《巻 頭 言》
・新年を迎えて
…………………………………
四国地方整備局長
足立
敏之 ……
1
《技術管理業務関連記事》
・異常繁殖する水草対策処理方法の検討
……………………
四国技術事務所
技術情報管理官
平山
勝彦 ……
2
修 ……
6
泰典……
8
・四国技術事務所構内路面下空洞調査実習施設の整備について
…………………………
四国技術事務所
品質調査課長
西山
・工事コスト縮減事例集について
……………
四国技術事務所
防災・技術課
専門職
宮崎
《港湾空港関連記事》
・荷役機械に関する港湾の技術基準改正を受けて
………………
港湾局
技術監理室
技術基準第二係長
高松港湾空港技術調査事務所
川原
洋 …… 12
専門官
前田
昌弘
先任建設管理官
斎藤
嘉造 …… 14
・エコシステム式海域環境保全工法について
………
高松湾空港技術調査事務所
《特集》
【テーマ課題:技術開発(新技術)現場レポート】
・新技術の活用による急峻な地形での工法検討
……………………
松山河川国道事務所
工務第二課
西尾
舞 …… 17
・上老松仮説道路設置工事(SqC ピアキャップ工法)について
……………………
大洲河川国道事務所
建設監督官
太田
秀明 …… 20
大洲河川国道事務所
建設監督官
中野
晴樹 …… 23
高知河川国道事務所
事業対策官
寺内
正範 …… 26
中筋川総合開発工事事務所
建設監督官
高島
愛典 …… 29
事業計画課長
市原
道弘 …… 33
専門官
岡村
政彦 …… 38
…松山港湾・空港整備事務所 保全課 工事品質検査官
泉保
佑介 …… 40
・三次元レーザースキャナによるトンネル出来形計測
……………………
・もうすぐ新しい波介川が産声を上げます
……………………
・横瀬川ダム仮排水トンネルについて
……………
・鹿野川ダム(ゲート改造)
………………
・平成22年度
山鳥坂ダム工事事務所
新技術(四国テーマ設定技術)試行調査結果
………………
四国技術事務所
品質調査課
・松山港外港地区で発見された爆弾等の水中爆破処理について
《若手技術者等の育成》
・河川技術者育成の取り組みについて
…………………………
那賀川河川事務所
副所長
高橋
淳二
…… 43
康
…… 47
・道路管理の技術者育成について
………………………………
土佐国道事務所
副所長
原田
・港湾技術者育成の取り組みについて
……………
高松港湾空港技術調査事務所
調査課長
小泉
勝彦 …… 49
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月 1 日
《巻頭言》
新年を迎えて
四国地方整備局長
足立敏之
あけましておめでとうございます。
平成23年の新しい年を迎え、謹んで新春のお慶びを申し上げます。
四国地方整備局は、平成13年1月の省庁再編で高松に設置され
て以来、満10年を迎えました。
この間、平成13年3月の芸予地震、平成16年から17年にか
けて頻発した水害・土砂災害・高潮災害など多くの自然災害に遭遇
し、あらためて地形が急峻で脆弱な地質構造の四国の自然条件の厳
しさ、災害に対する脆弱さを実感させられたところであります。
四国にとりましては、近い将来必ず発生する東南海・南海地震や、地球温暖化による影響とも懸念
されるゲリラ豪雨をはじめとした極端な現象の多発、深層崩壊などによる大規模土砂災害の頻発など
大規模災害の発生が懸念されます。
これらに対しては、ハード・ソフト両面にわたる総合的な防災力向上に向けた取り組みをさらに強
めていくとともに、これらをバックアップするための防災・減災技術の活用や新技術の開発・普及に
向けた取り組みの強化が求められており、整備局としてもこれらを支える防災技術センター機能の充
実強化が不可欠であると考えています。
一方、平成20年4月に策定された「国土交通省技術基本計画(H20~H24)」は、目指すべき社会と
して「安全・安心な社会」、「誰もが生き生きと暮らせる社会」、「国際競争力を支える活力ある社会」、
「環境と調和した社会」を掲げ、この実現に必要な技術研究開発項目を例示しています。この中では、
電子タグなどの活用による迅速な被害情報の把握技術や、世界一安全でインテリジェントな道路交通
社会実現のための技術、物流情報プラットフォームの構築技術など、近年飛躍的な発展を遂げている
情報通信技術(ICT)の積極的な活用が重要とされています。
今後、国土交通省技術基本計画の一環をなす新技術開発や ICT の活用を積極的に進めていくととも
に、今後、官民共同研究制度を用いた官民連携の他、大学などの研究機関との協働など、多方面との
技術交流を積極的に進める建設技術センターとしての役割も重要と考えます。
今年の干支は「辛卯(かのとう)」です。
この「うさぎ」のしなやかな跳躍力のごとく、四国地方整備局の防災技術や建設技術のセンター機
能を担う四国技術事務所ならびに高松港湾空港技術調査事務所の一層の活躍を期待いたしますととも
に、本年が皆さんにとって明るく楽しく、そして健康で充実した1年となりますことを祈念いたしま
して、新年のご挨拶とさせていただきます。
1
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
異常繁殖する水草処理方法の検討
「旧吉野川・今切川の水草対策検討における中間調査結果について」
四国技術事務所
技術情報管理官
平山 勝彦
1.はじめに
近年、河川等においては外来種等の水生植物(ウォーターレタス、オオカナダモ等)の異常繁茂
による大量発生が大きな問題となっています。水生植物をそのまま放置しておくと河川生物等の周
辺環境への影響のみならず、下流域のノリ養殖や漁への影響など各方面に多大な被害を及ぼすこと
になる。さらに撤去が遅れ水生植物が腐敗すれば、水質が悪化し被害が広がるため環境保全の面か
らも対策が求められています。
このような社会情勢のなかで、平成22年度は河川において異常繁茂が、ここ数年のうちに問題
となってきたオオカナダモ(切れ藻)について、現地調査等により生態や切れ藻の発生状況を分析
し効果的な抑制及び回収方法等について検討を行い、水生植物に対する今後の早期対応・河川環境
保全・撤去コスト縮減等につなげるため実施した中間調査結果について報告します。
2.調査の概要
調査は現地調査と検討調査により実施し、調査の概要は表-1、表-2に示すとおりです。
●現地調査
調査区分
水草繁茂状況調査
実施内容
調査方法
調査場所
繁茂期: 9 月下旬~ 10 月上旬に実施
陸上観察
旧吉野川、今切川
衰退期:最低水温期に実施予定
船上観察
流入支川、水路
分布域、分布密度の把握
(目視、引っ掛け器具)
供給源の把握
水草生育環境調査
繁茂期:10 月上旬に実施
水温計、電磁流速計、採泥器
繁茂域:旧吉野川で 11 群落
衰退期:最低水温期に実施予定
潜水観察、陸上計測
(上流~下流に環境条件別に
水草生育の制限因子の把握(水
コドラート坪刈り
選定)
深、流速、水温、河床材料、藻
(25cm × 25cm)
非繁茂域:比較対照
潜水目視観察
上流(川端)、下流(長岸)
体刈取・分析)
既設フェンス確認調査
10 月上旬に実施
スカート長、設置水深の把握
分流部(三つ合分流部)
流入支川(宮川内谷川流入部)
切れ藻・流れ藻捕捉調査
河川流速調査
11 月上旬に実施
捕捉ネット設置(水面~河床) 上流(川端橋上流)
水深帯別の流下実態把握
1m(H)× 5m(L)× 3 枚(水深
切れ藻・流れ藻の量、長さ
3m)目合 10cm
切れ藻・流れ藻捕捉調査と同時実施
電磁流速計(河床に設置)
下流(第二大谷川)
フェンス設置箇所(川端、三
湛水時→落水時に 1 回
つ合、長岸)
フェンス設置位置等の流速把握
流入河川(第二大谷川)
本川中流部(共栄橋)
表-1
2
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
●検討調査
調査区分
実施内容
実施機関
等
既存事例収集・整理
聞き取り調査、HP 検索等
他地域の事例
関係機関ヒアリング
他地域における対策実態把握
琵琶湖(滋賀)、児島湖(岡山)、江津湖(熊本)、桂川(京都)、
対象地域における対策実態把握
淀川(大阪)等
関係機関
徳島河川国道事務所、旧吉野川出張所、水資源機構、徳島県、
関係市町、漁業協同組合(大津、応神)
学識者ヒアリング
効果的な捕捉装置検討
抜本的な対策検討
オオカナダモの生態について
浜端悦治
准教授(滋賀県立大学環境科学部
環境生態学科)
対策検討について
木下覚
会長(徳島県植物研究会)
調査の進め方について
沖陽子
教授(岡山大学大学院
現行の流下防止フェンスに代わ
経済性、耐久性、効率性を踏まえ複数の装置を比較検討
る効果的な捕捉装置を検討
優位性が認められた装置について実証実験を実施
発生抑制~回収・除去までの一
吉野川流域ホテイアオイ等対策連絡会を活用した流域対策の推進
連の対策検討
徳島河川国道事務所が導入する水草回収船、捕捉装置が連動する対策
環境学研究科)
発生抑制、除去対策等の対策効果の見極め
表-2
3.調査結果の概要
中間調査結果概要の一覧は表-3、表-4に示すとおりである。また、今回の調査による植生分
布は図-1に示すとおりである。なお、今回の結果は繁茂期での調査結果であり、衰退期の調査結
果等により総合的に水草の生態を把握して対策検討を進めていくことになります。
■現地調査
調査区分
水草繁茂状況調査
調査結果概要
・支川、水路:宮川内谷川、黒谷川、第二大谷川、鍛冶屋川、寺前谷川で大繁茂していた。
・本川:今切川で繁茂域拡大が顕著、旧吉野川も河岸や河道内で大群落を形成していた。
水草生育環境調査
・水深:繁茂域の水深は 0.5 ~ 2.7m、非繁茂域の水深は 1.5 ~ 6.8m で概ね水深 3 ~ 4m を上回ると繁茂
していない場合が多い。
・流速:繁茂域で 0 ~ 35cm/s、非繁茂域で 0 ~ 65cm/s で上流部ほど大きい値を示していた。
・河床材料:繁茂箇所の河床材料は粘性土から砂利まで幅広く分布し、河床材料に依存する分布特性
は見られなかった。
・生育の制限因子:主な制限因子は水深(水中光量)と考えられ、流速が大きいほど繁茂密度は小さ
い傾向が見られた。
既設フェンス
・宮川内谷川フェンス:水深 1.3m、スカート 50cm
確認調査
・川端フェンス:水深 2 ~ 3m、スカート 55cm
・三つ合フェンス:水深 3.2m、スカート 20cm
・長岸フェンス:水深 3 ~ 5m、スカート 70cm
表-3-1
3
「四国技報」第 10 巻 20 号
調査区分
平成23年1月1日
調査結果概要
切れ藻・流れ藻
川端橋上流箇所
捕捉調査
・捕捉された水草は表層がもっとも多く水草種はセキショウモが多く、次いでオオカナダモであった。
・その他の種はわずかであり、中層から下層はオオカナダモのみであった。
第二大谷川
・流速が弱いため、川端橋箇所に比べて捕捉量は圧倒的に少なかった。
河川流速調査
・各地点において、落水操作開始とともに流速が上昇し、徐々に流速が遅くなる傾向にあった。
・流速が最も速かったのは三つ合分流部の今切川側であり、最大で約 40cm/s を示した。旧吉野川側は
約 30cm/s であり、今切川側への流量が大きい。
・その他の地点の最大流速は、川端フェンス箇所で約 25cm/s、長岸フェンス箇所で約 33cm/s、共栄橋
上流で約 20cm/s、第二大谷川で約 10cm/s であった。
表-3-2
■検討調査
調査区分
調査結果概要
既存事例収集・
オオカナダモは北海道を除く全国の湖沼、ため池、河川、水路に群生する常緑の沈水植物である。旧
整理
吉野川水系で見られる傾向の知見等に特化して示すと下記のとおりである。
関係機関ヒアリング
・概ね水深 3 ~ 4m 以上で繁茂は少なくなる。
・切れ藻の流下や河床、河岸部への定着を確認している。
・流域の支川、水路や本川全域に繁茂し、切れ藻の供給は常にある。
・越冬して、生長し長さは数m以上にもなる。
・繁茂最盛期は7月~9月であり、死水域や流れの緩い場所の繁茂密度は高い傾向にある。
学識者ヒアリング
対策検討について
・発生源対策として、流域対策(支川、水路)を優先的に実施すべきである。
・現行の水草フェンスのスカート長は、オオカナダモの捕捉には効果が低く、スカート長を長くする
必要がある。その際、最適長さと回収方法の検討が重要である。
・刈取り等の除去対策は、切れ藻の拡散を促進させる可能性があり、慎重に行うべきである。
・もう少し年数が経過すると、群落としては安定してくる可能性があり、慎重な検討が必要である。
・かつて優占していたクロモの再生が望まれる。オオカナダモの除去対策の際にはクロモを含む在来
種保全が重要であり、クロモの分布把握が必要である。
今後の調査について
・通年の生育サイクルを把握すべきである。
・生育モニタリング調査については、実施するのが良い。
・水草分布の把握に魚群探知機の画像を利用すると良い。
・水中光量が制限因子になっており、分布域端で水中光量を計測すると良い。
・底質中の栄養塩含有量の推移と水草の生長、安定度の関連性を把握するため濃度を調査すると良い。
抜本的な対策検討
・現行の捕捉装置の改良として、スカート長の延長、フェンスの増設等の検討を進める。
・吉野川流域ホテイアオイ等対策連絡会の推進を図るため、体制を含め見直しを提案する。
・発生抑制、流出防止に効果的な河川内対策として刈り取り等の直接除去の検討を進める。
表-4
4
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
旧吉野川・今切川における浮遊性水草等の植生分布
0
図-1
4.今後の方針
今後、実施する現地調査としては生育分布調査、生育環境調査を最低水温期である衰退期に実施
することになります。なお今年度、灌漑期や繁茂最盛期における切れ藻の実態が確認できていない
事もあり、通年の生育モニタリング調査の実施について検討を行います。
また、除去対策の持続効果や多種の進入過程を把握するため刈り取り、除去対策の検討、支川、
水路対策の実証のため流出防止策の試験設置、除去対策範囲を明確化するため分布域の詳細把握に
ついても調査の実施について検討を行います。
5.おわりに
異常繁茂する水生植物に対する処理方法の検討結果が早期対応により河川環境保全や撤去コスト
縮減につながることを期待しています。また、効果的な対策を実施することにより抑制対策、除去
対策が、様々な環境条件下で効率的に安全で確実に実施でき、検討結果に基づき的確な対策を実施
することは、これから益々重要になってきます。そのため、今後の調査においても対策技術の向上
が期待されるところです。
なお、流域対策として既存の吉野川流域ホテイアオイ等対策連絡会の利活用が不可欠となります。
効率的な抑制対策、抜本対策を進めるうえでも重要な位置づけにあり、連絡会による関係機関の円
滑な調整により、効果的な抑制及び回収が実施できることを期待しています。
5
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
四国技術事務所構内路面下空洞調査実習施設の整備について
四国技術事務所
品質調査課
西山
修
1.はじめに
直轄国道において、河川・海岸護岸などから路床・路体土砂の流出や、老朽化した管路の破損、
路面ひび割れ等からの雨水侵入による舗装面の沈下等により発生する路面下空洞を原因とする道路
の陥没事故が、毎年全国各地で発生しています。路面
陥没が発生した場合、道路利用者や沿道住
民の活動に大きな影響を及ぼすことから、効率的かつ的確に路面下空洞を発見し適切な措置を行う
ことにより、路面陥没を未然に防止することが急務となっています。
しかしこれまでの路面下空洞調査では、空洞の恐れ有りと判断された箇所でも、二次調査の削孔
確認により旧埋設管や局部的なゆるみ等の事例が多々あり、今後、維持管理費用等厳しい財政状況
のなか、整備局職員自らも技術力をアップし、一層の空洞化調査の効率化と精度向上を図ることが
必要不可欠です。
2.現在の路面下空洞調査について
四国地方整備局では、平成6年度より路面下空洞調査を実施しており、繰り返して空洞が発見さ
れる区間を中心に実施しています。路面下空洞調査の流れは次のとおりです。
路面下空洞探査車
1)現地踏査
歩道下空洞探査車
(二次調査)ハンディ型地中レーダー
(二次調査)
探査範囲の始終点、道路状況及び沿道状況の確認。
削孔断面及び
空洞内部撮影
走行位置(横断方向での探査範囲)等を模式化した測線図の作成。
2)一次調査
車道等を地中レーダ搭載の道路調査車を用いて探査し連続的データを取得する。
データ分析後判明する異常信号等のデータ発生位置を特定するため、前方・左右・
後方の周辺映像をレーダ探査に合わせ撮影記録する。
3)分
析
4)データ整理
取得したデータを分析し、空洞の可能性のある異常信号を検出する。
検出した信号から平面広がり・発生深度・位置情報を整理、路面陥没を評価する。
①路面陥没発生の可能性評価
平面広がりと発生深度から、陥没に至る可能性評価
②路面陥没時の影響度評価
路面陥没発生による渋滞や沿道環境への影響度評価
5)判定会議
一次調査結果、評価資料、過去の調査実績を基に、二次調査箇所を選定する。
6)二次調査
判定会議で選定された箇所において、ハンディ型地中レーダを用いて空洞有無の
判定および、空洞の縦横断方向の広がりを特定する。
空洞の可能性がある箇所については、空洞の存在状況、規模、舗装構成等を確認
するために、φ 40mm の削孔を実施し、特殊なカメラを用いて削孔断面、空洞内部
を撮影し柱状写真を作成する。
6
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
3.道路調査車による路面下空洞調査の課題
路面下の空洞探査は、一次調査として地中レーダ搭載の道路調査車を使用して行っており、交通
規制を伴わずに路面下の異質物を把握可能という利点から、現存する他の探査手法と比較して有効
です。しかし、現状の地中レーダ原理基づく探査では、空洞であるか否か、空洞の大小を一義的に
判定することははできない等の原理的な問題や、濃淡で表示したレーダー画像からアスファルト路
面下の空洞あるいは砂利を区別するのは困難な場合があったり、占用工事で一部分のみの埋め戻し
をすれば埋め戻した材料の屈折率の差が異常信号として検出される可能性がある等の技術的な課題
・特性があります。一次調査で判明した空洞の可能性箇所について原因は何か、さらに路面陥没等
の被害を引き起こす可能性のある規模の空洞であるかの危険性を判断するためには現地での二次調
査を必要としますが、一次調査で判明した全ての箇所を実施することは不可能であり、二次調査の
実施の判断には、異常信号周辺の埋設物や地形を調べ、水系埋設物への土砂流出や護岸吸出しなど
空洞の進行が懸念される要因の有無など現地状況の適切な把握が必要です。
4.今後の路面下空洞調査の取り組み
一次調査で検出された空洞の可能性が高い異常信号に対し、効率的に二次調査箇所を選択するた
めには、周辺や類似箇所での過去の空洞事例と比較検討が効果的であることから、過去の調査で確
認された空洞について、周辺埋設物や地形、道路状況、発生原因、検出された異常信号等のデータ
ベース化などの検討が進められています。
また、整備局担当職員が主体的に空洞調査を実施するため、路面下空洞の発生メカニズム、管内
における空洞発生の現状、路面下空洞調査のプロセスの理解等を目的とした研修プログラムを計画
しており、このたび実習施設として活用する空洞化調査試験フィールドを整備したところです。本
年2月には地中レーダーによる現地測定にあわせ現地見学会を開催したいと考えています。
5.空洞化調査試験フィールドについて
四国技術事務所構内の路面下空洞を模擬的に再現した試験フィールドについては、今後とも詳細
な整備内容を公表する予定は無く概要のみの紹介となります。延長15m、幅6.5mの2車線を
基本施設とし、施設前後に助走・減速区間を確保しています。片側車線には、発泡スチロールによ
り地下に空洞を再現する事とし、現状での調査対象規模(0.5m×0.5m×0.1m)を基本
に大きさの異なる空洞を深さを変え数カ所設置しています。また他の車線には、様々な地下埋設物
等の状態を想定し水道管などを埋設するほか、一部には地質構造の異なる状態を再現しています。
6.おわりに
空洞の探査・診断から対策の企画・実施に至る過程における職員の技術力の向上を目指し、効果
的な研修プログラムの充実を図ってまいりますので積極的なご参加をお願いします。
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「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月 1 日
「工事コスト縮減事例集」について
四国技術事務所
防災・技術課 宮崎
泰典
1. はじめに
公共工事に関わるコスト縮減の取り組みは、国土交通本省の施策として平成9年度から行動計画を
立て、「コスト縮減の知恵袋」と言う事例集システムを作り公表しています。
四国においても、そうした事例を収集・公表し、四国地整のコスト縮減の取り組みの促進につなげ
るため、四国地整版の「工事コスト縮減事例集」を作成しました。
「工事コスト縮減事例集」は、職員がコスト縮減技術を比較抽出する場合に利用しやすいよう、四技
イントラネットに掲載するとともに、設計業務や工事の受注業者によるコスト縮減提案を促すために
も、外部用の「事例集データ」も作成し、ダウンロードできるようにしました。
2.「工事コスト縮減事例集」の概要
四国地整版「工事コスト縮減事例集」は、本省作成「コスト縮減の知恵袋」では掲載できていない
詳細なデータを追加するとともに、「公共事業における新技術活用システム」に収集されている評価
情報を活用し、工事コスト縮減に寄与し安全に活用できる新技術情報も掲載しています。また、工事
標準積算基準書の工種分け毎に比較検索できるシステムも取り入れてます。
(1) 資料収集
①
新技術資料の収集
活用効果が認められる技術として、NETIS 上で何らかの評価を実施している、事前審査技術 233
件、試行実証評価技術 55 件、活用効果評価技術等 134 件の資料を収集しています。
②
コスト縮減事例データ
四国地整企画部技術管理課よりコスト縮減事例 105 件の資料を収集しています。
(2)「工事コスト縮減事例集」の検索
四国技術事務所イントラネットの「NETIS Support」をクリックし、新技術活用支援画面の「工事
コスト縮減事例集」をクリックすると「コスト縮減一覧表」がエクセルで表示され、必要情報を見
ることができます。
事例集を起動するには、
○四技イントラネット画面を開き、
○「NETIS Support」のボタンを
左クリックして、
○「NETIS Support」画面を開い
てください。
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「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月 1 日
ステップ①
四技イントラネットの「NETIS Support」ボ
タンを左クリックすると、左表の
ようなNETIS Support画面が開き
ます。
ステップ②
開いた画面の「赤囲み」した部分の
文字列を左クリックすると、新た
な画面が開くか、データがダウン
ロードされます。
●「工事コスト縮減事例集」(内部用データ)=
職員用NETISデータにリンクした事例集
検索用のエクセル表が開きます。
●「工事コスト縮減事例集」(外部配布要データ)=
一般用NETISデータにリンクした検索用
のエクセル表が開きます。
内部データ ダウンロード=
内部用のエクセル表とコスト縮減事例の
PDFデータの圧縮データが、ダウンロー
ドされます。
外部配布用データ ダウンロード=
外部にも配布できるエクセル表とコスト
縮減事例のPDFデータの圧縮データが、
ダウンロートされます。
●「工事コスト縮減事例集」利用マニュアル=
事例集の検索用エクセル表の利用方法の
マニュアルが開きます。
(3)「工事コスト縮減事例集」の解説
事例集は誰でも扱えるエクセル表で作成しており、フィルター検索機能を利用したデータ検索
が行えます。また、新技術名野欄をクリックすると、対応する NETIS の掲載情報やコスト縮減策
の詳細データが開くようリンク設定しています。
9
「四国技報」第 10 巻 20 号
10
平成23年1月 1 日
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月 1 日
3. おわりに
作成した「工事コスト縮減事例集」は、設計業務発注時や工事発注時にコスト縮減の検討を行うため
の参考資料として、内部用は職員用の NETIS データにリンクして詳細な評価情報が見えるように設定し
、外部用には設計受注業者や工事受注業者に渡せるよう、外部配布用データをダウンロードできるシス
テムとしています。
現在の事例集データは、H22 年 3 月 31 日時点ですが、H23 年 1 月末に H22 年 11 月 31 日時点データに
更新する予定です。
今後、より多くのデータを収集し、出来るだけ多くの方に活用していただけるシステムにしたいと思
っています。
11
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
荷役機械に関する港湾の技術基準改正を受けて
国土交通省
港湾局
技術監理室
技術基準第二係長
国土交通省
四国地方整備局
川原
洋
高松港湾空港技術調査事務所
専門官
前田昌弘
1.はじめに
国土交通省港湾局では、平成22年1月22日に御前崎港で発生した風によるコンテナクレ
ー ン の 逸 走 事 故 を 契 機 に 港 湾 荷 役 機 能 を 常 時 確 保 す る 必 要 性 が 改 め て 認 識 さ れ た こ と を受 け
て、9月6日に「港湾の施設の技術上の基準(以下、「技術基準」という。)」を一部改正し、「船
舶との荷役の用に供する荷役機械(以下、「荷役機械」という。)」の要求性能を追加しました。
本稿では、技術基準の一部改正内容を紹介するとともに、荷役機械の設計にあたって、新し
く技術基準で規定された荷役機械の要求性能をどのように解釈すればよいか、一部を簡単に述
べます。
2.技術基準の一部改正内容(抜粋)及び荷役機械の要求性能の考え方
港湾荷役機能を常時確保する必要性が改めて認識されたことを受け、係留施設に設置された
荷役機械(固定式荷役機械および軌道走行式荷役機械)について、港湾法の体系においても要
求性能(基準省令)・性能規定(細目告示)を一部改正し追加しました。
1)港湾の施設の技術上の基準
を定める省令〈第42条〉(以
改正前
改正後
クレーン+係留施設
クレーン全般
下、「基準省令」という。)
地震荷重
(0.2×垂直静荷重)
船舶との荷役の用に供する
風荷重
荷役機械(石油荷役機械を除
く。)要求性能・・・自重、レベ
ル1地震動、載荷重及び風等
風
クレーン+係留施設
改正前の技術基準では、
耐震強化岸壁に設置さ
れたクレーンのみ耐震
性を規定
風
荷役機械の機能を損なわず継
レベル1
地震動
レールからの脱輪、
逸走、部材の損傷 等
続して使用することに影響を
クレーンは桟橋と一体となっ
てレベル1地震動への耐震
性を有する必要がある
技術基準
対象施設
レベル1
地震動
2)港湾の施設の技術上の基準
の細目を定める告示〈第81
係留施設に加
えて荷役機械
にも要求性能
を追加
厚生労働省告示「クレーン構造規格」等に基づき
クレーン単体としての安全性は確保
の作用による損傷等が、当該
及ぼさないこと。
・係留施設とクレーンの相互作用も考慮することにより、
施設整備の効率化と荷役機能の常時確保を図る。
クレーンの供用期間中に発生する災害等に対して
係留施設は健全でも荷役が不可能になる恐れが
ある。
クレーンの供用期間を通して継続的に荷役可能
荷役機能の常時確保を通じて、我が国港湾
及びサプライチェーンの信頼性向上に資する。
条〉(以下、「細目告示」とい
う。)
技術基準の一部改正のイメージ
船舶との荷役の用に供する軌道走行式荷役機械の性能規定・・・風による逸走を防止するため
の適切な機能を有すること。
12
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
3)施行期日(附則第1条関係)及び経過措置(附則第2条関係)
平成22年9月6日から施行することとする。ただし、基準省令及び細目告示に関しては既
に設置されている技術基準対象施設(建設中のものを含む。)については、この告示の施行後に
改良の工事に着手する場合を除いて、当該性能規定については適合を求めないこととする。
多くの場合、従来のクレーン構造規格の規定に基づいた設計方法でも技術基準の要求性能を
満足すると考えられますが、港湾の特性として今回の基準省令、細目告示の改正に伴う考慮す
べき改正内容の一例として、レベル1地震動の考え方を紹介します。
基準省令においてレベル 1 地震動は、「技術基準対象施設を設置する地点において発生するも
のと想定される地震動のうち、(中略)当該施設の設計供用期間中に発生する可能性の高いも
のをいう。」(基準省令第1条第4号)と定義されております。
このため、荷役機械の設計者(ここでいう設計者とは荷役機械の設置者等を指す。)は、荷
役機械に作用させるレベル1地震動を適切に設定する必要があります。
コンテナクレーン等の公共性の高い荷役機械については、港湾のサイト特性(地震基盤上の
堆積層等が地震動に与える影響)を考慮したレベル 1 地震動を設定することが望ましいとされ
ています。
次に荷役機械に作用させるレベル1地震動の性能照査手法例を紹介します。
①係留施設の設計(H19 技術基準適用)過程において求めた地表面でのレベル1地震動の時刻
歴波形についてクレーン全体を1つの質点でモデル化した1質点モデルに作用させること
で、質点の最大応答加速度を求めることができます。
なお、桟橋上に設置されるクレーンについては、桟橋部分も1質点としてモデル化した2
質点系解析により行うことが基本となります。
②最大応答加速度を重力加速度で除して水平震度を求めます。なお、求めた値が 0.2 を下回
る場合においても、クレーン構造規格を満足するために結果的に水平震度 0.2 の設計は必
要となります。
上記①及び②で求めた水平震度を「クレーン構造規格」(第 10 条)の地震荷重として作用させ
ることにより、以後の設計は、クレーン構造規格の設計方法を準用することができます。
3.経過措置の考え方
平成22年9月6日時点において既設(9月6日以降に新たに改良工事に着手する場合を除
く)、建設中の荷役機械は一部改正された基準省令及び細目告示の適用対象外となります。こ
こで、建設中の荷役機械には、既に荷役機械の基本設計に着手済のものを含めてもよいことと
なっています。
4.おわりに
本稿では、基準省令のレベル1地震動についてその考え方を紹介しましたが、来年の4月以
降、一部改正された技術基準の適正な運用を図る観点から、「港湾の施設の技術上の基準・同
解説」の一部改訂として(社)日本港湾協会 HP にて公表する予定です。
13
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
エコシステム式海域環境保全工法について
高松港湾空港技術調査事務所
環境担当
斎藤
嘉造
1.エコシステム型構造物の開発
沿岸域の「浅場」は多様な生物の生息場として重要であり海域生態系の回復には、浅場を少しでも
再生・創造していくことが有効と考えられている。
この課題に対して、従来の直立型構造物に人工浅場を付加し様々な生物が生息することによって海
域環境の保全・再生を図る「エコシステム式海域保全工法」について紹介する。
(1)生態系からみた従来の直立構造物の弱点
直立構造物は、比較的安く効
果的に所定の機能を発揮できる
ため港湾では、岸壁、護岸、防
波堤などのさまざまな施設に使
われている。しかし、直立構造
物にはカニや魚などの生物が住
める浅場が無く、壁面には貝類
やフジツボ類などの濁りを食す
る付着生物ばかりが増える状況
にある。そのため、付着生物の
糞や死骸などの有機物は構造物
の周辺の海底に溜まり、夏季には貧酸素化を促進しひいては赤潮や青潮発生の一因となっている。
(図
-1)
(2)エコシステム型構造物
このような直立構造物の弱点を緩和するため、構造物内に「浅場」を設けて付着生物の糞や死骸を
食する生物を増やし、食物連鎖を活性化する「エコシステム型」構造物(図-1)を、国土交通省、徳
島大学、徳島県と共同で研究・開発した。本構造物の主な技術的特徴は、次の 2 点である。また、開
発にあたって、護岸型(尼崎港(環境省))、防波堤型(徳島小松島港)の実験構造物を製作してモ
ニタリング調査を行い、その結果から事業化に向けての課題を抽出した。
①夏季にも多様な生物が生息可能な溶存酸素濃度(DO)のある水深帯に浅場を設ける
②浅場には多様な生物が生息する材料を用いて生物の自然加入を促進する
14
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
2.事業化
(1)実用構造物
実験の成果を踏まえて、下記
①,②のように対応し愛媛県の三
島川之江港の防波堤事業で 23.4m
2
の浅場を持つエコシステム型構造
物 9.9m を 10 函分、計 100m(234
m2)の実用構造物を平成 17 年に製
作・設置した。(図-2)
①夏季に、水産用水基準((社)
日本水産資源保護協会 2005)
の「底生生物の生息状況に変
化を引き起こす臨界 DO 濃度
:4.3mg/l」を満足するような
水深を調査し浅場の水深帯を決定した。
また、浅場の水深を 3 段階にして連続させ生息場の多
様化を図った。
②浅場の奥の壁面に多毛類などの生息場となる多孔質部材を、底面にはマナマコ、マダコ、根付き
魚類などの加入を目標として礫材を敷き詰めた。
(2)主な成果
○生物生息場としての機能評価
:
設置後平成 20 年までの 3 年間モニタリング調査を継続し、
(1)①,②に対する評価を行った。
①夏季に 1 カ月間 10 分おきに観測した DO は、3 年とも各浅場の底面で 4.3mg/l を下回ることは
ほとんどなく,生物の生息に十分であった。
②浅場に自然加入する
ことを目標とした生
物が定着し、3 年目
の夏季、冬季の調査
で確認された生物の
個体数を構造物 100
m(234m2)あたりに
換算すると、小型の
エビ類:3,000 個体
以上、メバル:1,5
00 個体以上、マナマ
コ:600 個体以上、
海域生態系の上位に
位置するマダコ:30
個体以上であった。
15
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
なお、これらの生物は同時期に設置された従来の直立構造物の壁面部分にはほとんど生息して
いないことも確認した。(図-3)
○経済性の評価
:
エコシステム型構造物を中心とした背後 5km 圏内の四国中央市約 26,000 世
帯を対象とした事後評価を実施した結果、CVM(仮想評価法)による WTP(支払意思額)は、
平均 3,630 円/年/世帯(中央値 3,379 円)、費用対効果分析の結果(B/C)は 7.5 前後となった。
アンケートの自由意見からは、住民の事業に対する理解が伺え、防波堤のような直接利用できな
い施設であっても社会に受容されることが分かった。
3.今後の展望
今後は、第2・第3のエコシステム型構造物が事業化される為の重要な役割を果たすであろう、
「エコシステム式海域保全工法適用マニュアル」改訂作業の完成度を向上させいく予定である。
16
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
新技術活用による急峻な地形での工法検討
松山河川国道事務所
工務第二課
西尾舞
1.はじめに
松山河川国道事務所の国道 440 号、地芳道路における新技術を用いた急峻な地形での工法検討につ
いて紹介します。
2.1
地芳道路の概要
地芳道路は、愛媛県上浮穴郡久万高原町の国道 33 号と高知県高
岡郡梼原町の国道 197 号を結ぶ一般国道 440 号の県境部での延長
約 8.9km の国土交通省による権限代行直轄事業です。このうち今
回工法検討を行ったのは愛媛県側の西谷地区です。
工事箇所
当該地は、標高 950 ~ 1000m の山地に囲まれており、山頂と河
床の標高差は約 200m と大きく起伏に富む地形となっています。
山地斜面においては急傾斜(約 45 °~ 50 °)と緩傾斜が共存し
写真- 1
地芳道路の位置図
ており、降雨や積雪により度々通行止めになっていました。
2.2
ルート変更の経緯
START
愛媛県西谷地区では、平成 15 年度より工事着手を
していましたが、平成 15 年 7 月に工事用桟橋の施工
【既往ルート】
各種設計(道路・橋梁)の実施
中に猿橋下流の右岸側にて斜面崩壊が発生しました。
この斜面崩壊を受け、地質調査を実施した結果、大
平成15年7月 斜面崩壊
平成15 ・ 16年 地質調査
【既往ルート】
地滑りブロックの判明
ルート比較検討の実施
きく 2 つの地滑りブロックが確認され、地滑り対策
工を含めたルートの再検討が必要になりました。既
往ルート変更にあたっての経緯は図- 1 に示すとお
りです。検討を行った結果、安全性、施工性、経済
小
既往ルート + 地滑り対策工の選定
性において最も優れる第 2 案を選定しました。
END
図- 1
図- 2
比較ルート案
17
大
既往ルートの工費
〔地滑り対策工費込み〕
【代替ルート案の代案】
第1案 既往ルート
第2案 左岸~右岸ルート①
第3案 左岸~右岸ルート②
第4案 左岸~右岸ルート③
最適ルート(第2案)の選定
安全性・施工性・経済性
ルート選定フロー
「四国技報」第 10 巻 20 号
2.3
平成23年1月1日
新技術・新工法の検討
法と新技術・新工法について比較検討
至 松山
選定されたルートに対して、既往工
検討箇所① No.86 ~ 91
メタルロード
検討箇所② No.91 ~ 93+15
S.P.C工法
が急峻であり、現道が本線に平行して
存在することから、優れた施工性と現
況交通の確保が可能な工法の選定が必
新技術・新工法の検討
至高知
を行いました。本区間は、非常に地形
工法比較検討箇所
要と考えられます。さらに No.86 ~ 91
においては本線の必要道路幅員が高野
川の河川区域内に 2 ヵ所存在すること
図- 3
選定ルートにおける構造形式比較箇所
から、河川区域内に構造物が侵入する
ことを避けられる工法が必要となります。その結果、No.86 ~ 91 の区間ではメタルロード工法、No.91
~ 93+15 の区間では S.P.C ウォール工法を採用しました。
図- 4
No.86 ~ 91 区間構造形式比較検討
18
「四国技報」第 10 巻 20 号
2.4
平成23年1月1日
新技術・新工法の概要・特徴
No.86 ~ 91 の区間で採用したメタルロード工法は、斜面上に基礎・杭兼用の鋼管杭を打設し杭頭
部に工場製作した鋼桁を仮設した後、その上に床版を打設、舗装を行い道路橋として用いる工法です。
本工法は、耐久性に優れた立体ラーメン構造です。中山間部の急峻斜面で狭小な施工箇所において
も部材の運搬、架設が容易で、施工性に優れた工法であり、手延べ工法により現況交通を確保しなが
らの施工が可能です。また、杭形式であることから地形改変が少なく自然環境への影響が少ないため
環境保全について優れた工法といえます。
図- 5
メタルロード工法基本構造
写真- 2
No.90 付近
鋼管杭建込状況
No.91 ~ 93+15 の区間で採用した S.P.C ウォール工法は気泡混合軽量盛土とせん断ボルトにて、地
山と一体化を図るものであり、急峻斜面においても施工可能な軽量盛土工法です。
本工法はプレキャストパネルを PC 鋼棒で連結・緊張することで、同パネルを型枠として、気泡混
合材を 1m 毎に打設硬化させながら、垂直壁の盛土構造物を構築するもので、工期短縮と経済性に優
れた工法です。
図- 6
S.P.C ウォール工法基本構造
写真- 3
No.92 付近
プレキャストパネル施工状況
3.おわりに
本路線のように急峻地形であり、地質が脆弱な場合には、経済性も重要な観点ではありますが、施
工性、将来にわたっての安全性について十分考慮し慎重なルート選定が必要であるといえます。
地芳道路は平成 22 年 11 月 13 日に全線供用開始しました。
19
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
上老松仮設道設置工事(SqC ピアキャップ工法)について
大洲河川国道事務所
建設監督官
太田
秀明
1.はじめに
肱川右岸上老松地区では、川岸まで山が迫っているため、狭い土地に住宅が密集して建っていま
す。ここに堤防を造ることにより、守るべき多くの家屋の移転や用地買収が必要になり、地域社会
の存続が困難になることから、住環境が悪化するなどの影響を及ぼすことになります。
そこで、土地利用一体型水防災事業より、宅地
の嵩上げによる治水対策を実施し、嵩上げ造成地
の土地区画整理事業を導入することで、快適な居
現 状
住環境と治水の両立を図ることと併せて県道の改
計画高水位
良事業を実施しています。
平水位
上老松仮設道設置工事は、堤防整備に先立ち一
般交通を確保するため一時県道を迂回させる仮設
道(延長約 300m)の設置を行いました。
築堤方式
河川区域
計画高水位
H2204撮影
上老松地区土地利用一体型水防災事業(H19着手)
平水位
仮設道設置
嵩上げ方式
(水防災対策特定河川事業)
河川区域
計画高水位
切替道路
平水位
県道(大洲長浜線)
肱川
水防災盛土、土地区画
整理事業区域
大和橋
図-2
図-1
築堤方式と嵩上げ方式
上老松地区
護 岸
県 道
土地区画整理事業
水防災嵩上げ区域
H.W.L
肱川
図-3
上老松地区整備標準図
2.工事(SqC ピアキャップ工法)の概要
上老松仮設道路の計画は、計画交通量(6,000 台/日)や道路管理者(愛媛県)との協議より
第 3 種第 4 級を確保することとして、施工性、構造性、経済性について検討し、「従来工法(H
20
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
鋼材形式)」、
「SqC ピアキャップ工法(NETIS:S-020042-A)」、
「LIBRA 工法(NETIS:KT-990222-A)」
との比較検討の結果より SqC ピアキャップ工法を採用しました。
図-4
上老松仮設道路
SqC ピアキャップ工法の特徴としましては、下記のとおりです
●スパン長(杭ピッチ)を長くすることが可能。(当仮設道路では 10m)
●杭本数を減らすことによりコスト縮減、工期短縮が図れる。
●下部工(ブレス・水平鋼材等)が不要。(脚長最大 15m まで)
●杭数減、下部工不要により河川阻害率の軽減。(環境に優しく安全性の向上)
●世界最大級のバイブロフォンサーを使用することにより硬質地盤(CL 級)への対応が
可能であることから河川内への濁水の影響が少ない。
図-5
21
施工状況
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
特に杭打込時に使用した、世界最大級の最新都市型-超低騒音-超低振動型杭打機-超高周波可
変式油圧バイブロフォンサー「ICE18RF・28RF」の特徴としては、下記のとおりです。
●従来のバイブロフォンサーと比較し、より一層高周波となり、四段変速油圧式高周波に
より低振動低騒音を可能とした。
●地盤とのフリクションを著しくカットし、防音、防振動に優れ、パワーパックの内側に、
防音吸収素材を取付ており、環境性に優れている。
●打設力として起振力に於いては、超大起振力(110ton・160ton)を誇り、大口径長尺杭
を、硬質地盤への打設を可能としている。
●鋼矢板、H 鋼用のシングルチャックと、鋼管用のダブルチャック(最大径 3,300mm)を
装備し、斜杭や本体自体を沈めながらの水中施工も可能である。
表-1
バイブロフォンサー能力表
図-6
バイブロフォンサー
3.工事報告
上老松仮設道の設置は、大和橋から上流、下流に区分し、平成 21-22 年度
工事(上流側請負者:大鉄工業(株))、平成 21-22 年度
上老松仮設道設置
上老松仮設道設置その 2 工事(下流側
請負者:(株)西田興産)の 2 件で行いました。
工事期間中は、近隣住民への騒音や震動、県道切廻しによる一般交通への影響、鋼管杭打設に
よる汚濁によって青海苔採取等の漁業関係者への影響等を懸念したところでありますが、SqC ピ
アキャップ工法を採用したことによりその影響を回避できたと考えています。
ただ、影響を回避できたことは、単に施工方法の選択だけではなく、大洲市の協力、請負者の
ご尽力をはじめ、なにより地元地域住民の方々の事業に対するご理解とご協力により、工事にお
けるご不便や影響を受忍していただいたことも大きく、すべての関係者の方々へ感謝するととも
に御礼を申し上げます。
工事は、平成 22 年 11 月 30 日に無災害・無事故においてすべて竣工し、仮設道路を供用し一
般交通を迂回しています。
現在、上老松地区における土地利用一体型水防災事業の早期竣工に向けて、関連工事について
鋭意邁進しているところです。
22
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
三次元レーザースキャナによるトンネル出来形計測
(四国横断自動車道
平成21-22年度
高光トンネル工事)
大 洲 河 川 国 道 事 務 所
建設監督官
中 野
晴 樹
1.はじめに
大洲河川国道事務所の四国横断自動車道(新直轄区間)事業で実施している、「技術開発・工事一
括発注方式」での工事において、導入した技術のうち三次元レーザースキャナを用いたトンネル出来
形計測について、紹介いたします。
2.四国横断自動車道(宇和島北~西予宇和)の概要
四国横断自動車道は、阿南市を起点として高松市、高知市を経由し、宇和島市、大洲市に至る延長
約 441km の自動車専用道であり、四国四県の広域的なネットワークはもとより四国縦貫自動車道、さ
らには本州四国連絡道路と相まって本州との結びつきを深め、さらには今後想定される「東南海・南
海地震」などによる自然災害時の代替道路としての役割を担う重要な路線です。
3.工事概要
高光トンネル工事は、四国横断自動車道
宇和島北 IC~西予宇和 IC 区間の起点部に位
置する(図-1)、延長270m・幅員
W=10.5m・内空断面積 A=73.1m2 のトンネル
工事です。
本技術導入の背景としては、公共工事に
おける技術開発を促進するため、技術開発
宇和島道路
と施工を一括して発注し、品質と価格に優
れた調達を目指した「技術開発・工事一括
発注方式(A型)」の試行工事として提案
四国横断自動車道
工事箇所
された、情報化施工に関する技術です。こ
の他にも、自動追尾型トータルステーショ
図-1
ンを用いたトンネル計測技術も導入してい
ます。
4.三次元レーザースキャナによるトンネル出来形計測
4.1 概要
三次元レーザースキャナは、水平方向と鉛直方向に同時に回転しなが
らトンネル壁面にレーザー光を照射し、反射光が機械の光源へ返ってく
るまでの時間と照射角度から、照射点の三次元座標を決定する構造で
図-2
23
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
あり、トンネル掘削後やコンクリート打設前後等で、三次元レーザースキャナ(図-2)を使用し
てトンネル形状を計測し、詳細なトンネル出来形を把握する試みを行いました。
なお、使用する機器としては、1秒当たり2万点のスキャン速度性能を有する機器を採用しました。
また、従来は限られた位置での計測だったものが、本技術では1回の計測で約30mの範囲を数分
で測定できることにより、限られた測定位置のみでの管理から、面的な出来形計測が可能となりま
した。(図-3)
(覆工計測の例)
【従来の技術】スチールテープ・レベル測量など
【本技術】三次元レーザースキャナによる
による出来形測量
出来形測量
水平360°
、鉛直270°ノンプリズム計測
限られた位置の断面形状
三次元レーザースキャナ
スチールテープ・人力
1回の計測範囲 30m
40m毎
図-3
本技術と従来技術との比較概念図
4.2 計測対象及び計測状況
計測対象は、吹付けコンクリート(吹付け厚さ)、覆工コンクリート(覆工基準高、覆工幅、覆
工内空高さ、覆工厚さ)、インバートコンクリート(インバート厚さ)としました。
計測対象区間はトンネル全線(区間距離 268.8m)とし、吹付けコンクリート(吹付厚さ)は、ト
ンネル掘削時に 10m間隔で切羽付近の断面形状を計測する事としました。覆工コンクリート、イン
バートコンクリートについては、トンネル全線でスキャナ計測をするため、任意の測点において出
来形情報を求めることができます。(表-1・図-4)
表-1
工種
吹付け工
覆工
コンクリー
項目
出来形計測項目の算出
2 回目
吹付け
①掘削後の
②吹付け後の
同一点付近における①と②の
厚さ
切羽断面形状
切羽断面形状
差分
基準高
-
幅
-
高さ
-
厚さ
本体工
計測時期
1 回目
ト工
インバート
出来形計測の計測位置、計測時期および計測項目の算出方法
厚さ
③(天端 Z 座標)
③覆工打設後の断面
③(SL 部左右座標点間距離)
形状
③(天端~インバート表面点間距
離)
②’変位収束後の ③覆工打設後の断面 同一点付近における②’と③の
吹付け断面形状
形状
差分
④インバート
⑤インバート
同一点付近における④と⑤の
床付け後の断面形状 打設後の断面形状
24
差分
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
①掘削後の切羽断面形状
基準高
高さ
⑤インバート打設後の
断面形状
④インバート床付け後の
断面形状
幅
図-4
② 吹付け後の切羽断面形状
②’ 変位収束後の
吹付け断面形状
③覆工打設後の
断面形状
出来形計測項目の算出方法
計測状況は下の写真のとおりです。
4.3 三次元レーザースキャナによる出来形計測の効果
従来のトンネルの出来形計測は、スチールテープやレベル測量等を用いた計測を行ってきました
が、三次元レーザースキャナによる出来形計測を行うことで、より詳細な出来形情報を把握できま
した。また、機械据付・計測・撤収の作業が10分程度で完了、さらに計測結果は制御用コンピュー
タで直ちに図化でき、迅速化が可能になりました。
また、各項目(吹付けコンクリート・覆工コンクリート・インバートコンクリート)の出来形確
保として、施工直後のトンネル断面形状を三次元レーザースキャナで測定することにより、縦断方
向、横断方向ともに三次元的な掘削断面形状を把握することが出来ました。また断面計測結果に応
じて適切な対策を講じることで、確実に所定の出来形確保ができ、より品質の高い構造物の構築が
可能となりました。
5.まとめ
山岳トンネルにおける三次元レーザースキャナによる出来形計測を実施しましたが、従来技術と
比較した結果、下記のとおりの利点があります。
① 機械計測であり、計測時間が短縮され、坑内での安全性及び精度が向上
② 施工段階毎で断面形状を詳細に把握しやすく、適切な段階で適宜対策工を実施することで、所定
の出来形を面的に確保する事が可能
③ 計測Aや切羽観察記録等とあわせ、詳細なトンネル出来形情報を把握することで、将来的な維持
管理における、データ活用が容易
今回は270mの若干短いトンネルでの実施ではありましたが、品質確保に効果のある技術であ
ることを確認出来ました。今後、本技術が多くのトンネル工事で活用していくことで、将来的な管
理手法となることを期待しています。
25
「四国技報」第 10 巻 20 号 平成23年1月1日
もうすぐ新しい波介川が産声を上げます
高知河川国道事務所
事業対策官 寺内 正範
1.はじめに
高知河川国道事務所の最大の河川事業である波介川河口導流事業は平成23年度末の通水を目標
に鋭意施工中です。
本当に長い期間と数多くの人たち努力の結果でありますので、この紙面をお借りして関係各位に御
報告致します。
2.すこし過去を振り返って
土佐市100年の計である波介川河口導流事業の計画は、たびかさなる台風被害を受けるなか特に
昭和50年の台風8号により甚大な被害を受けた事を契機に、市街地の浸水被害を根本的に軽減する
ため現合流箇所を下流へ約L=2400m移動し太平洋に直接放流するよう計画されたものです。
長い間、紆余曲折を経て(下表参照)平成16年3月から着手し、平成19年度からは5カ年計画
で「波介川床上浸水対策特別緊急事業」として採択され、平成23度末に新しい波介川が通水する予
定です。
波介川河口導流事業の経過
年 月
昭和 60 年度
昭和 62 年度
平成元年度
平成 11 年 2 月
平成 13 年 6 月
平成 14 年 9 月
平成 15 年 11 月
平成 16 年 2 月
平成 16 年 3 月
平成 18 年 5 月
平成 19 年 4 月
出来事
内 容
波介川河口導流事業着
手
地区民会議発足
新川開削により地区の1/4の土地を失い、営農環境
が破壊されること等から新居地区において、反対組
織が発足
用地買収着手
個別に用地交渉を実施し買収を図る
新居を守る会発足
地区民会議が解散し、新居を守る会が発足
新居を守る会と「事業容 新居を守る会と国・県・市で事業容認に関する覚書
認に関する覚書」を締結 を締結
土佐市議会が「波介川河 波介川河口導流事業早期着工を国へ要望
口導流事業早期着工に
関する決議」を採択
事業評価監視委員会
事業継続の判断
新居地区全体会議で工
事着工の同意を得る
波介川河口導流事業工
事着工
自治体による河口導流
土佐市長や高知県土木部長等から、国に対して河口
事業早期完成の要望
導流事業の早期完成の要望
波介川床上浸水対策特
平成 16 年、17 年台風出水被害を契機に着手
別緊急事業に着手
26
「四国技報」第10巻20号 平成23年1月1日
3.現在は刻一刻と変化しています
現在の進捗状況を写真で報告します。
最初に全体的な土佐市新居地先の変遷は下記の写真のとおり劇的に変化しており昔の地形や風景
とはかなり変化しています。
H13 撮影
H20.3 撮影
H22.10 撮影
次に重要な3施設の状況です。下流側から逐一報告します。
イ)
「波介川潮止堰」について
新しい波介川への海水遡上を防ぐ為の「波介川潮止堰」は平成23年度末(来年度末)の完成を目
標に着々と進んでいます。
波介川潮止堰完成予想図
波介川潮止堰施工状況
ロ)
「分流堰(仮称)について」
現状の流れを変えない為と海水の逆流防止を目的とした「分流堰(仮称)
」については、平成22年
度末(今年度末)を目標に施工しています。
分流堰(仮称)完成予想図
分流堰(仮称)進捗状況
27
「四国技報」第10巻20号 平成23年1月1日
ハ)
「水交番樋門(仮称)
」について
上流端の施設になりますが平常時の現状の流れを変えないため、現合流箇所に設置している水交番
樋門(仮称)についても、平成22年度末(今年度末)完成予定です。
水交番樋門(仮称)完成予想図
水交番樋門(仮称)進捗状況
4.少し横路に逸れますが
波介川の河道予定地の掘削時に発見された土佐藩の家老、野中兼山が関与しただろうと考えられる
護岸遺構のモニュメントが地元「土佐市新居上ノ村遺跡護岸遺構保存会」の皆様の篤き想いにより完
成しました。
このモニュメント築造については弘済会の援助及び関係業者の協力等により、何所に出しても恥ず
かしくない立派なモニュメント出来たと自負しています。モニュメントの設置場所は、波介川河口よ
り約1.8km上流の「夢渡し橋」を渡ったところです。天気の良い日にはご家族連れで出向き、先
人の治水対策への想いに浸って下さい。
護岸遺構の完成予想図
完成した護岸遺構の看板
完成した護岸遺構
おわりに
昭和50年の台風8号の被害を受けた事に端を発し日下川放水路・宇治川改修及び新宇治川放水路
そして当該事業の波介川河口導流事業で一応の節目を迎えることになります。しかしながら、この3
支川の課題が全て解決した訳では無く今後も引き続き住民の安全・安心のために努めて行きたいと考
えています。繰り返しになりますが、各事業の推進については多くの関係者の努力の賜物であると思
います。感謝すると共に近い将来予定しております通水式への協力等をお願いして報告に代えさせて
いただきます。
以上。
28
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
横瀬川ダム仮排水トンネルについて
中筋川総合開発工事事務所
建設監督官
髙島
愛典
1.はじめに
横瀬川ダムは、四国の西南部に位置する渡川水系中筋川支川横瀬川に、治水及び利水を目的と
して計画されている多目的ダムで、完成すると総貯水容量は730万m3、高さ72.1mで、中筋川ダム(平
成11年より管理)とほぼ同じ規模の重力式コンクリートダムです。
中筋川は上流部まで低平地が連なって河川勾配は四万十川合流点では1/8,000と非常に緩いのに
対して、横瀬川ダム建設予定地周辺は1/100以上と非常に急な河川勾配を有しています。
また、周辺は自然豊かな環境を有しており、多くの植物や生態系などが生息していることから横
瀬川ダム環境委員会を設置し、環境影響評価法に準じた環境影響評価を実施するとともに、専門家
の助言をいただきながら工事を実施しています。
図-1
横瀬ダム位置図
図-2
横瀬川ダム完成予想図
ほこら
横瀬川ダムサイト直下流には、水神さんが宿っており、この近くには 祠 が設置され雨乞い行事
が行われている高さ10m程度の滝があること、また、左岸下流には貴重な植生地として位置づけら
れているシイ・カシ天然林が分布していることから、通常採用されている水平水叩式減勢工を避け、
ダムサイト下流の改変を最小限とした「側水路減勢方式」を採用しています。
今回、ダム本体工事に先立ち横瀬川の流水を迂回させることを目的とし現在施工している仮排水
トンネル工事について紹介します。
2.仮排水トンネルの概要
流下能力95m3/s、L=242m、D=3.6m(標準馬蹄形の小断面)をNATM工法により施工しました。岩質は
比較的新鮮な砂岩(ごく一部に頁岩を含む)が占めており、ほとんどの区間がCパターン(鋼製支保工
なし)で行うことができました。
図-3
トンネル平面図
図-4トンネル標準断面図
29
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
3.仮排水トンネル工事の施工
施工は、下流集落まで約1.3kmと近いこと、下流側では仮設ヤードが確保できないこと、縦断勾配が
2.4%と比較的緩やかなことから上流から掘削を行うこととしました。
全 体 工 程 表
工事名:平成21-22年度 横瀬川ダム仮排水トンネル工事
工事内容
平成21年度
工種
項目
11月
12月
1月
平成22年度
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
1月
2月
3月
準備工
掘削・支保工
トンネル工
覆工・防水工
インバート工 インバート本体工
呑口本体工
坑門工
吐口本体工
閉塞工
ファンカーテン・コンソリ
デーショングラウチング工
吐口水路工
吐口水路工
出水対策工 場所打擁壁工
仮設工
トンネル仮設備工
後始末
写真-1
呑口部
表-1
トンネル工程表
(1)出水対策工(擁壁工)
上流から掘削を行うこと、またトンネル坑口が横瀬川河床より約4m低いことから、トンネ
ル掘削に先立ち施工中の安全確保のための出水対策工(擁壁工)を施工しました。
(2)トンネル掘削・支保工
出水対策工完了後、トンネルの掘削・支保工を施工しました。
写真-2
仮設備
写真-4
掘削状況(発破後の切羽)
写真-6
吹付状況(吹付ロボット)
写真-3
写真-5
コソク・ズリ出し状況(シャフローダ)
写真-7
30
削孔状況(ドリルジャンボ)
ロックボルト施工状況
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
(3)防音対策
当初はトンネル掘削は平成21年末より開始し、平成22年3月には掘削が完了の予定でしたが呑
口側の明かり掘削(別件工事)において、想定以上に硬い岩が広く分布していたため、現道を切
り回しながらの施工などにより、掘削開始が大幅に遅れ、平成22年3月となりました。
現場周辺は山間部で普段から静かなところであり、周辺には少ないものの民家や牛舎もあり、
夜間も発破作業を行うこと、猛禽類や野鳥の繁殖時期とも重なることなどから防音対策の検討を
行い設置しました。
防音扉設置により夜間も含めた1日に最大3回の
発破による掘削を開始しましたが、周辺住民より安眠
できないとの苦情が多く寄せられました。
このため、鳥類等の生態系への影響も懸念されると判
断したため、ただちに深夜の発破を取りやめる掘削サイ
クルにするとともに、防音対策強化の検討を行いました。
鳥類の専門家にも発破の騒音調査時には立会していた
写真-8
防音扉設置状況
だいたところ、かなり音が尾根の方で反響していることが確認されました。
検討した結果、以下の要因が想定した騒音低減につながらなかった理由として推定されました。
イ)周辺は山間部で工場・住宅・主要道路がなく普段から静か(暗騒音35~40dB程度、川・風・鳥
の声のみ)
ロ)周辺は山に囲まれている。呑口部においても囲まれており、(反射面コンクリートと硬岩)反射
しながら想定よりあまり減衰しない状態で山の尾根部に反響している。
ハ)岩が想定より硬く予測時薬量42kgに対して50kgを超える場合がある。
上記理由により対策を検討し、野鳥等の繁殖が活発になる
5月下旬までに早急に対応できる対策を順次施工し低減効果
を確認しました。
①防音壁改良(背面発泡スチロール+コンクリートによ
る厚さ強化+グラスウール設置)
②防音扉隙間対策(吸音スポンジを隙間に詰める)
③防音シートを2重で坑口を覆う(内側にグラスウール
写真-9
坑口部対策状況
設置)
④坑口より約20mグラスウール設置
⑤山止め材による扉の固定(振動防止)
⑥発破の段数を増やし音を分散(8段から12段に変更)
⑦反響面(岩・コンクリート部)において吸い出し防
止材+古タイヤ+雑木(笹)を設置
⑧坑口及び反射面上部よりシャワーカーテン
写真-10
31
坑内対策状況(グラスウール)
「四国技報」第 10 巻 20 号
騒音調査は、坑口部・上流(180m)・右岸山頂
平成23年1月1日
仮排水トンネル工事 騒音調査結果(補強段階ごとの平均値)
民家
坑口前
市道境界
右岸山頂
火薬量(kg)
120
部(200m)及び上流民家(550m)においても測定を実施
110
100
騒音値(dB)
しました。
114
108
6dB
101
7dB
5dB
96
90
80
0dB
76
76
70
78
5dB
71
68
60
5dB
73
68
3dB
17dB低減
11dB
61 7dB
57
62
61
3dB
59
59
54
2dB
50
49
表-2
図-5
補強④
補強③
補強②
補強①
防音扉
防爆シート
40
騒音調査結果
騒音調査位置図
対策後の騒音数値について、緊急性を要したために個
別の効果の検証は出来ませんでしたが、市道境界地点に
おいて平均で17dBの低減効果がありました。
また、騒音測定時には、発破事前事後において周辺の
状況や鳥の鳴き声の変化などの撮影・録音を実施し、発破
写真-11 貫通状況(トンネル外より望む)
音に対してどのような反応があるか確認しながら騒音調査
を実施しましたが、特に鳴き声などにおいて変化は見られ
ませんでした。
掘削については当初予定より遅れましたが、7 月 19 日に無
事貫通しました。
(4)覆工・インバート
R60m のカーブが2箇所あることから、貫通後吐口側より
写真-12
覆工・インバート施工状況
L=9m のスライドセントルを設置し覆工及びインバートの
施工を実施しました。
(5)呑口・吐口水路工
横瀬川と仮排水トンネルの接続部分となる呑口水路及び吐
口水路を現在施工中です。
(6)閉塞部グラウト工
ダム本体軸周辺のトンネル閉塞部30m区間に於いて、フ
写真-13
吐口水路施工状況
写真-14
グラウト施工状況
ァンカーテングラウチング及びコンソリデーショングラウ
チングを現在施工中です。
4.最後に
本工事に於いては、防音対策だけでなく貴重植物の移植や濁
水対策など様々な環境対策を実施しながら工事を進めています
ので是非現場見学に来られますようお待ちしています。
32
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
鹿野川ダム(ゲート改造)
山鳥坂ダム工事事務所
事業計画課
市原道弘
1.はじめに
鹿野川ダムは、愛媛県最大の河川、肱川(流域面積1,210km2、
延長103km)の上流部に位置しています。肱川流域の地形は約9
0%が山地であり、下流域には狭窄部があるため大洲市街地及び、
その周辺地域においては、洪水による氾濫を受けていました。そう
した被害を解消するために鹿野川ダムは昭和34年に完成しまし
た。
完成後、当時の建設省から愛媛県に移管され県管理のダムとなり
ましたが、平成18年4月からは、再び国土交通省の直轄管理へと
移行しました。移行後は、洪水調節容量の増強や流水の正常な機能
の維持(環境容量の新設)等を目的とした鹿野川ダム改造事業がス
タートしています。
本稿では、この改造事業のメニューの一つであるクレストゲートの改造について紹介します。
2.1
ゲート改造が必要な理由
既設の鹿野川ダムクレストゲートは、設置後約50年が経過し老朽化が進んでいました。また、ゲ
ート高の不足により洪水調節後期においてゲート上端から越水する現象が生じていました。このよう
な状況を解消するために平成20年度から3ヶ年計画でゲート設備の改造工事を実施しています。
EL.91.00
鹿野川ダム洪水調節イメージ図
-流入量
-放流量
サーチャージ水位 EL.89.00
①
流 入 量
1,750m3/s
水
貯留量
流
放 流 量
1,750m3/s
①
洪水量
②
EL.91.00
サーチャージ水位 EL.89.00
②
流 入 量
1,247m3/s
①の段階:850㎥/sの放流量から定開度で洪水調節。
②の段階:貯水位が高い状態で、放流量を少なくするため、 ゲート
を下げる(開度を絞る)とゲートの上から越流が発生
する
33
水
流
放 流 量
1,247m3/s
「四国技報」第 10 巻 20 号
2.2
平成23年1月1日
工事概要及び工程
●工 事 名
平成20-22年度
●工事場所
愛媛県大洲市肱川町山鳥坂地先
●工
平成21年
期
●請負金額
鹿野川ダムクレストゲート設備改良工事
1月21日
~
平成23年
3月31日
¥1,302,000,000-(消費税含む)
ゲート工事は、非洪水期に2門づつ施工し、4門を2ヶ年で更新する計画です。したがって、工事
中の出水は、その時、工事を実施していない残りの2門のゲートで処理します。
鹿野川ダム(下流面図)
4号
3号
H22施工
平成20年度
月
12 1
2
3
2号
1号
H21施工
平成21年度
4
5
6
7
8
平成22年度
9 10 11 12 1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2
3
工場製作
工程
1,2号 撤去・据付
改造後
改造前 扉体高:10.3m
▽
満水
▽
改
13m
10.3m
造
34
満水
3,4号 撤去・据付
扉体高:13.1m
「四国技報」第 10 巻 20 号
2.3
平成23年1月1日
工事中間報告
工事は、幅12m×高さ10.3mの既設ゲートを撤去し、幅12m×高さ13.1mの新規製作
ゲートを鹿野川ダムに設置するものです。ゲート設備(基礎材、ゲート扉体、開閉装置等)の製作は
奈良県にて行い、分割して25tトレーラにて輸送します。分割輸送されたゲート設備は、鹿野川ダ
ムの天端道路上に仮置きし地組作業等を行うことから、作業期間中(撤去・据付時)はダム天端道路
を全面通行止めとしました。
①工場製作・現地施工前
工場製作
現地施工前
②仮締切り・仮設ステージ設置
仮締切りゲートの設置状況
仮設ステージ設置状況
※仮締切り高はクレストゲート敷高+4m
※このステージ上で新設ゲートを組立
③基礎材設置
基礎材設置状況
基礎材吊込状況
※基礎材:ゲートを支持するアンカー部材。ダム本体にPCアンカー(9m×20 本)で固定。
重量は1基当り23tあり、160t吊りクレーンにて施工。
35
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
④既設ゲート解体撤去
シャープランス切断
※12m×10.3mの既設ゲートを幅5m×高さ1.5~2mに切断し撤去。
3,600℃以上の高温で切断。(シャープランス切断)
⑤新設ゲート設置
ゲート組立状況
※新設ゲートは幅12m×高さ2.5m程度に分割(6分割)して輸送し、現地で組立。
⑥試運転調整
1.2号ゲート組立完了
試運転状況
3.採用した新技術
今回の工事で採用した新技術は次のとおりです。
技 術 名 称
登録No
概 要
SEEE永久グラウンドアンカー工法 ダ
ブルアンカーA型
KT-990071-A
高腐食環境に対応する高荷重対応永久グラウンド
アンカー工法
無機質無溶剤超耐久性コーティング材
料「セラトン」
KT-990163-A
超耐久性高密度高光沢被覆材料
鉛レス固体潤滑剤埋設型無給油軸受
KT-070008-V
地球環境に負荷を与えない固体潤滑剤埋設型無
給油軸受
36
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
4.おわりに
ゲート改造工事は現在、3号、4号ゲートを施工中で、平成23年3月末には、全てのゲート
が完成する予定です。既設ダムを運用しながらの難
工事ですが、事故も無く予定どおり工事は進んでい
ます。また、平成23年度からは鹿野川ダム改造事
業の目玉であるトンネル洪水吐の本体工事にも着手
する予定です。このトンネル洪水吐が完成すれば、
ダムの洪水調節容量は約1.4倍となり、これまで
以上にダムの有効活用が可能となります。このよう
なダムのリニューアル事業により肱川の治水に貢献
していきたいと考えています。
トンネル洪水吐(完成予想図)
37
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成 22 年度
平成23年1月 1 日
新技術(四国テーマ設定技術)試行調査結果
[簡易点検技術]
四 国 技 術 工 事 事 務 所
品 質 調 査 課
岡 村 政 彦
1.はじめに
四国地方整備局新技術活用評価委員会では、四国独自のテーマを設定し、新技術を公募により募
集して技術の評価を行っています。
平成22年度の四国テーマ設定技術の公募内容は(表―1)のとおりで平成22年5月10日から6月3
0日まで公募を行いました。
(表―1)
公募技術概要
公募テーマ名
概
要
デジタルカメラのみによ
る非接触測量技術
災害発生後、直ちに安全に、迅速に、災害状況の把握を
デジタルカメラで行える非接触測量技術
簡易点検技術
作業効率の改善並びに点検費用の縮小が可能な、簡易に
構造物点検が行える保全点検技術
日常の維持管理の作業効率を改善し、維持管理費用の低
維持管理技術
減が行える維持管理技術
「デジタルカメラのみによる非接触測量技術」は応募無し、簡易点検技術は3件、維持管理技術は
2件の応募がありましたが、四国地方整備局新技術活用評価委員会で審議の結果(表―2)のとおり
技術の試行を行うことになりました。今回は、試行を行う2つの技術の概要と12月3日に試行を
実施したKUMONOSについて紹介します。
(表―2)
応募技術
簡易点検技術
四国テーマ選定技術
技術名称
応募者名
赤外線調査トータルサポートシステ
西日本高速道路エン
ム J システム
ジニアリング四国(株)
KUMONOS(クラックスケール内
蔵光波測量器を用いたひび割れ計
関西工事測量(株)
測)
2.試行技術(簡易点検技術)の概要
1)赤外線調査トータルサポートシステムJシステム
本技術は赤外線サーモグラフィー法を応用し、コンクリート 内部の損傷を自動検出するもので、
遠望非接触で調査が可能で、規制や高所作業が不要となり経済性に優れています。また、コンクリ
ート構造物の熱環境を的確に把握し、赤外線カメラで撮影した熱画像からリアルタイムで深さ4cm
までの損傷状況(浮き、剥離)を観察、注意、対応必要の3段階で分類することが出来るため、個
38
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月 1 日
人差無く調査の精度・信頼性・効率性を確保することが出来ます。
試行については橋梁の第3者点検(損傷箇所の叩き落とし)前に行う必要があり、平成23年度
の橋梁点検で試行を行うことになりました。
2)KUMONOS(クラックスケール内蔵光波測量器を用いたひび割れ計測)
世界で初めて光波測量器に同心円状のクラックスケールを内蔵、高所作業車や足場等を用いず
に離れた場所からコンクリート構造物に生じたひび割れの幅・長さ・形状・3次元位置座標が測定で
き、測定したデータをCAD図面として自動描画する技術です。20m離れた位置から0.1mmのひび
割れ幅を測定でき、足場等が不要で安全性が向上し、経済性にも優れます。
この技術について12月3日に試行を行いました。
3.KUMONOS(クラックスケール内蔵光波測量器を用いたひび割れ計測)の試行結果
12月3日に坂出市にある国道11号線の福江高架橋の橋脚で四国地方整備局新技術活用評価委員
会の委員が7名参加し、KUMONOS の試行を実施しました。
図-1 測定箇所図
試行は図-1 測定箇所図の橋脚にある上部のひび割
れ状況の確認(スケッチ)と 4 箇所のひび割れの幅・長
さ形状の確認を実施しました。.
離れた位置から測定できることを確認するため、ひ
び割れ形状は橋脚正面7.2m×2mのひび割れを測
定しました。
ひび割れ幅とひび割れ長さを確認するために、図-2
測定平面図の測定面から15m離れた点、25m離れ
た点で測定しました。
図-2
測定平面図
また斜めからの測定による誤差を確認するため、正
面から角度15度をとって15m離れた点、25m離
れた点、角度25度をとって15m離れた点で測定し
ました。
その結果、点検員がひび割れをクラックスケールで
直接測ったものに近い結果が出ました。
この結果をもとに、今後行われる四国地方整備局第
3回新技術活用評価委員会で、この技術の評価を審議
します。
KUMONOS試行状況
4.終わりに
四国技術事務所では今後も「災害対応技術」「構造
物保全技術」「維持管理技術」をメインテーマに、現
状の課題を解決できるようなテーマを厳選し、四国テ
ーマ設定技術募集を実施していきます。
39
「四国技報」第10巻20号
平成23年1月1日
松山港外港地区で発見された爆弾等の水中爆破処理について
松山港湾・空港整備事務所
保 全 課
泉 保 佑 介
1.はじめに
松山港外港地区では、取扱貨物量の増加や利用船舶の大型化に対応するため、国際物流ターミナル
の整備を行っています。今般、泊地(-13m)浚渫工事に先立ち潜水調査を実施していたところ、爆弾等
が発見されました。このため、港湾関係者及び関係行政機関のご協力のもと、11月25日に現地で水中
爆破処理しましたので、その経緯や周辺施設への影響についてご報告します。
2.爆発物等の発見
7 月 6 日と 8 月 26 日に図-1 に示す海域において潜
水士により爆発物らしきものが発見されました。た
だちに松山海上保安部に通報し、海上自衛隊呉地方
爆発物発見場所
泊地範囲
松山空港
総監部水中処分隊によって調査が行われました。そ
吉田浜防波堤
の結果、爆弾であることが判明し、すべて信管付き
外港地区
であったため爆発の危険性があることから、そのま
ま存置されることとなりました。
当海域は残存機雷区域には指定されていません
が、旧日本軍の基地が近隣にあったことから、海上
図-1.爆発物発見場所
投棄されたものと推測されます。
種
類:99 式 250kg 爆弾(信管付き)
形状寸法:直径 300mm
長さ 1,400~1,800mm
個
数:5 個
備
考:その他に砲弾、弾倉箱、歩兵銃
などが発見された。
写真-1.爆弾の水中状況写真
3.松山港爆発物処理安全対策連絡会の開催
存置された爆弾を現地で処理するため、当事務所が事務局となって松山港爆発物処理安全対策連絡
会を開催しました。連絡会は 7 月 16 日と 10 月 13 日の計2回開かれ、行政機関や港湾関係者など 27
団体 61 名が出席し下記の項目について決定しました。
・処分方法
現地において爆発物全てを同時に爆破すること
・処理日時
11 月 25 日(木) (予備日:11 月 26 日、27 日)とすること
・処理日当日は現地対策本部を設置する。また、爆破処理に関して関係者は最大限協力する。
40
「四国技報」第10巻20号
平成23年1月1日
4.水中爆破に向けた準備
先の連絡会で決定した各行政機関の役割分担にしたがって、処理に向けた準備が進められました。
特に安全対策や周辺地域への周知方法については、陸域に非常に近く周辺には工場や民家が点在して
いたことから、重要な課題となりました。このため、関係者を集めた行政機関担当者会議を行い、各
機関と連携をとりながら詳細な調整を行いました。
行政機関名
役割分担
海上自衛隊
不発弾の爆破処理に関すること
松山海上保安部
航行禁止区域等の設定、周辺海域の警戒に関すること
松山空港事務所
航空機の安全運航、空港利用者等への広報に関すること
松山港湾・空港整備事務所
松山港爆発物処理安全対策連絡会の事務局、関係機関との連絡調整
愛媛県警察本部
立入禁止区域(陸上)の警戒、交通規制(陸上)に関すること
愛媛県
現地対策本部の設営・運営、港湾利用者への広報・避難、放置艇対策
松山市
住民への広報、立入禁止区域(陸上)の設定、緊急病院の確保
5.処理日当日
11 月 25 日、各行政機関から約 70 名が参集し、現地対策本部
が設置されました。
7 時 00 分から海上自衛隊による爆破処理作業が開始され、危
険区域となる爆発物を中心とした半径 600m の区域について、
陸上では立入禁止、海上では航行禁止の規制が行われました。
湾内に残っていた船舶についても、順次港外へ誘導を行いま
写真-2.現地対策本部
した。
危険区域内の退避が完了し、爆破の準備が整ったことを確認した上で、同日 11 時 35 分爆破が行わ
れました。轟音と共に水柱が 2 本(高さ 60m と 30m)立ち上り、20~30cm の波が発生しましたが、
周辺への被害は確認されませんでした。
水中の濁りが収まった後、海上自衛隊によって確認作業が行われ、海底に直径 5~18m 深さ 0.5~3m
の穴が計 4 個確認されました。13 時 20 分すべての爆弾が完全に爆破したことが確認され、これをも
って、13 時 30 分現地対策本部長より安全宣言がなされ、爆破処理は無事完了しました。
写真-3.水中爆破処理の瞬間
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「四国技報」第10巻20号
平成23年1月1日
6.港湾施設の被害状況
現地対策本部が安全宣言を行った後、ただちに港湾施設の被害状況について調査を行いました。
対象施設は、発見場所である泊地と隣接する吉田浜防波堤としました。
6-1.泊地
泊地については、爆破直後に海上自衛隊により海底に穴が4個確認されており、今回の調査で
は海底の面的な変化をとらえるため、ナローマルチビームによる深浅測量を行いました。
11 月 19 日 測量
11 月 26 日 測量
爆破による穴
図-2.深浅図(爆破前)
図-3.深浅図(爆破後)
測量の結果、爆破による穴が出現した以外は海底面の変化は見られず、隣接して施工中の浚渫
工事についても埋没などはなく、影響はありませんでした。
6-2.吉田浜防波堤
吉田浜防波堤については、陸上・水中部の目視調査や構造物の変位量について調査を行いまし
た。その結果、上部工及びケーソン本体に微細なひび割れが数か所生じていましたが、早急に補
修が必要なものはありませんでした。変位量については、港内側に最大 109mm 移動しており、
沈下量は最大 84mm でした。また、捨石マウンドについては崩れ・飛散は見られず被害は確認さ
れませんでした。
以上、若干のひび割れ・変位があったものの施設の性能を損なうものではなかったため、実質
的な被害は生じませんでした。
7.まとめ
今回の爆発物処理にあたっては、市民をはじめ港湾利用者にご不便をおかけしましたが、ご理解と
ご協力を頂きまして無事処理を終えることができました。また、関係行政機関につきましても爆破処
理に向けてご尽力頂きました。この場を借りて厚くお礼申しあげます。
戦後 60 年あまりが経ちましたが、未だ残存爆弾は各地に残されており、現在も各地で処理が続けら
れています。今回は幸いにも大きな人的・物的な被害はありませんでしたが、港湾工事を実施するに
あたっては、十分な調査のもと進めることが重要であることを改めて感じました。
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「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
河川技術者育成の取り組みについて
那賀川河川事務所
副所長
高橋淳二
1.はじめに
那賀川河川事務所では、築堤事業等の河川事業、長安口ダム改造事業、河川環境整備事業など、多
種の河川関係事業を実施しています。
今年度の河川技術者等育成の取り組みは、各業務に関する情報共有や理解を深めることを目的とし
て、講習会や現地での業務体験等を実施しています。このことが職場内の「横のコミュニケーション」
にも繋がればと考えています。また、次のステージにあがり、さらに活躍してもらうため、講師は講
習会等を通じて若手職員に期待するメッセージを発進することに心がけているところです。
手探り状態での活動ではありますが、「四国技報」への執筆の機会を頂きましたので、その内容を
ご紹介いたします。
2.平成22年度年間計画の概要
本年度の年間計画について紹介します。また、下記以外にも徳島河川国道事務所等のご協力により
他事務所で開催される講習会にも参加しています。
名
称
講師等
開催月
排水ポンプ車操作訓練
河川管理課長等
河川維持管理に関する勉強会
河川管理課長
水防工法訓練
工務課長
6月
工事安全点検講習会及び現地体験
外部講師
8月
工事監督勉強会
建設監督官等
10月
事業損失、収用手続き講習会
用地課担当係長等
11月
ダム水理設計について(講習会)
土木研究所
11月
備
考
5月
5,8月
他事務所からも参加
上席研究員等
河川巡視勉強会
河川管理課長
11月
桑野川の引堤事業とその効果(講習会)
工務課長
12月
徳島河川国道事務所
の取り組みに参加
那賀川の現状と課題(講習会)
調査・品質確保
12月
(河川基本技術会議から)
課長
情報化施工現地勉強会
工務課長等
1月(予定)
長安口ダム改造計画(講習会)
開発工務課長
1月(予定) 徳島河川国道事務所
の取り組みに参加
長安口ダムの管理の現状(講習会)
工事品質管理官等
1月(予定)
河川環境現地調査勉強会(鳥類)
調査・品質確保
2月(予定)
課長等
埋蔵文化財調査現地勉強会
工務課長等
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2月(予定)
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
3.取り組み紹介
3.1
講習会:那賀川の現状と課題
(講師:調査・品質確保課長)
(1)目的
那賀川水系河川整備計画に基づく河川、ダム関係の調査・設計・工事を行うにあたり、那賀
川の現状と課題について認識を深めることを目的として実施。
(2)講義概要
那賀川の現状と課題として、「治水、利水安全度の向上」「河川環境の維持・改善」など、
各種データにより現状説明を行うとともに今後の方針を説明した。現状把握においては、河床
変動、流下能力など河道に関する部分と、
堤防整備、河川管理施設の整備状況など
管理に関する事項を、また、河川環境と
しては生物の生息・生育状況の現状説明
を行い、貴重種等の状況など今後の河川
整備を行う上での留意事項を示した。
今回の講義内容は、河川に関わる部分と
長安口ダムに関する部分、また、流域全
体に亘るものもあり、普段業務では携わ
っていない職員もおり、事務所内での情
報共有を行った。
調査・品質確保課長による講義状況
3.2
講習会:ダムの水理設計について
(講師:(独)土木研究所水工研究グループ
箱石上席研究員、櫻井主任研究員)
(1)目的
ダム洪水吐きの形式と特徴、水理現象等について、技術的見識を高め、適切な設計や管理
に資する目的で、ダム水工における幅広い研究を実施している(独)土木研究所のダム水工グ
ループより講演を頂いた。
(2)講義概要
日本におけるダム洪水吐きの歴史から、洪水吐き形式と特徴、キャビテーション等の水理的
に問題となる現象、ダム排砂対策の最新動向などについて、技術的な根拠を織り交ぜながら幅
広い内容にて講義を頂いた。また、現在実施中の長安口ダム洪水吐き水理設計について、求め
られる条件と実験による基本設計までの流れ等について講義が行われた。
参加者からは、模型実験を踏まえた減勢工側壁高さの設定方法や、排砂工法についての効果
や運用上の課題等、積極的な質問と議論が行われ、ダムの水理に関する見識を高めることがで
きた。
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「四国技報」第 10 巻 20 号
土木研究所水工研究グループ
講義で説明された長安口ダム改造
箱石上席研究員による講義状況
3.3
平成23年1月1日
模型実験の状況
講習会、現地研修:河川維持管理・河川巡視勉強会
(講師:管理課長)
(1)目的
河川管理施設等を適正に管理するため、河川管理水準の向上及び職員の技術力向上を図るこ
とを目的に、維持管理計画及び維持管理のあり方等の勉強会及び河川巡視研修を実施した。
(2)講義概要
維持管理勉強会では、維持管理計画の概要、点検実施計画等の説明及び、現状で管理が抱え
ている個別問題(除草、ゴミや環境施設等)に関する意見交換・アンケート等を行った。意見交換
では、「自然河岸も管理すべき」とか「ゴミは撤去しませんと告知する」等の賛否両論の意見
があった。
河川巡視勉強会では、河川の定期調査、
モニタリング等の概要説明を行うととも
に、実際に徒歩巡視を実施した。半日程
度の徒歩巡視であったが、約 8km 区間の
堤防や直轄管理樋門及び許認可施設の巡
視を行い、巡視中で気がついた箇所は、
図面に記入し持ちかえって確認作業も行
った。
河川巡視勉強会の状況(桑野川)
3.4
講習会:土地収用法に基づく収用工程・事業損失について(講師:用地係長、専門員)
(1)目的
土地収用制度の概要、特に事業認定申請手続について理解を深めることで、事業課と用地課
の連携を円滑にし、もって事業の工程管理等に資することを目的とした。
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「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
また、事業損失については、発生防止に向けた事業の各段階での注意点の習熟や、主務課と関
係課の分担などを確認することで、事業損失の発生時に円滑な対応を行うことを目的とした。
(2)講義概要
土地収用法については、憲法により保障される財産権と、事業認定の要件を定めた土地収用
法第20条を中心に講義するとともに、事業認定告示から裁決手続を経て、土地引渡しまでに
通常要する期間を示すことで、土地収用手続全体の標準工期を認識した。
事業損失については、補償基準上の位置付けや、施工内容に対する損失発生の類型、損失の
判定を行う上での留意点などについて講義した。
4.今後に向けて
河川技術者等育成の取り組みについては、短期に成果が上がるものでないことから、長期的な視点
からのアプローチが必要と考えています。具体的なプログラムについては、どういった内容が職員・
組織についてプラスとなるのかを検討し、効果のある取り組みに見直すことも必要と感じています。
また、技術者として身につけなければならない職務遂行上の技術や能力は、現場作業での経験や職員
間のコミュニケーションの中で身につけるものであることから、各課単位あるいは若手職員間のミニ
研究会等を通常の業務の中で意識的に取り入れ実施することも一案ではないか思います。
今年度の取り組みについては、講義や現地勉強会スタイルがメインとなりました。今後の取り組み
については、講師、受講者が参加し、これまでの結果を検証し、効果のある取り組みを継続して実施
する予定です。今後とも本局、各事務所のご意見を伺いながら連携し取り組んで参りますので、ご指
導等宜しくお願いします。
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「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
道路管理の技術者育成について
土佐国道事務所
副所長
原田
康
1,はじめに
土佐国道事務所では、平成20年度より須崎道路の自動車専用道路の管理
を行っており、平成22年度中に新たに新直轄(須崎西IC~中土佐IC)
及び高知東部自動車道(香南やすIC~芸西西IC)を供用予定であり、そ
の後も順次延伸予定である。一方、一般道路については、高知県内の主要な
幹線道路である一般国道32,33,55,56号の4路線290.8km
を管理しており、維持管理費の縮減を図りながら、年々多様化・高度化する
道路利用者や住民からのニーズに的確に対応していくことが求められている。
直轄国道の管理については、これまで主に一般道路を対象としており、また、維持管理においては
幹線道路の機能を低下させないよう必要十分な予算措置を講じてきた。しかしながら、前述のとおり
直轄の道路管理を取り巻く状況は急変しており、自専道管理や効率的な維持管理を念頭に意識改革す
るとともに適切に管理できる体制整備が喫緊の課題となっている。
本稿では、これらの課題に対する当事務所の技術者育成の取り組みを紹介する。
2,自専道管理の取り組み
(1)先進地現地調査
直轄による自専道の管理に必要なハード、ソフトの取り組みを調査するために、改築・管理担当者
にて、新直轄で最初(平成19年9月)に供用された日本海沿岸東北自動車道(本庄IC~岩城IC)
及び高規格道路でNEXCO管理区間と接続する北近畿豊岡自動車道(春日JCT~和田山JCT)
の現地調査を実施した。
各道路の管理担当者より常時・非常時の管理体制や基地配置・保有資機材状況等の説明を受け、調
査後、所内の自専道管理の検討会で報告を行い、当事務所での管理方針の検討や必要な体制整備の参
考とした。
(2)通行規制実技訓練
NEXCO西日本高知高速道路事務所の
協力を得て、道路巡回パトロールによる路上
落下物やロードキル対応時の通行止め訓練を
実施した。訓練は南国ICのNEXCOの構
内でNEXCOによる模範演技の後、出張所
職員及び巡回員で実技指導を受けた。
参加者はNEXCOの機敏な行動に緊張感を
持って取り組んでいた。
写真-1
47
実技訓練実施状況
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
(3)高速道路災害図上訓練視察
管理担当者にてNEXCO主催による高速
道路交通警察隊や消防、医療機関等関係機関
が参加した机上訓練の様子を視察した。関係
機関による意見交換では迅速な救急救命活動
に対して医療機関から受け入れ判断のための
事前の負傷者の症状等の情報提供要望など実
務担当者の生の声を聞くことができ、今後の
道路管理を行う上で大いに参考となった。
写真-2
図上訓練実施状況
3,一般道管理の取り組み
(1)道路巡回パトロール実習
所内の技術系係員全員を対象に道路巡回パ
トロールに同乗し、日常管理がどのように行
われているかを体験することで、管理現場で
の対応能力の向上を図った。実習では巡回員
よりパトロール前に巡回システム及びパトロ
ール車の装備資機材等の説明を受けた後、同
乗し巡回パトロールを体験した後、構造物の
異常、占用状況、住民対応等についての実習
報告書を提出させ、所内幹部へ供覧すると共
に出張所へ今後の巡回パトロールの参考とす
るよう情報提供した。
写真-3
装備資機材の説明状況
4,おわりに
管内では8月16日に一般国道33号越知町で落石が発生し約4日間通行止めとなり、住民生活に
支障を来たした。今回落石箇所は道路防災ランク 1(要対策箇所)の箇所であり、管内では同様のラ
ンク1の箇所が102箇所(四国内180箇所の約6割)残っており、防災面でも日常管理のノウハ
ウを習得することも重要な課題であり、今後はこの面においても技術者の育成を図っていきたい。
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「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
港湾技術者育成の取り組みについて
高松港湾空港技術調査事務所
調査課
小泉
勝彦
1.はじめに
高松港湾空港技術調査事務所は、その所掌事務において「港湾・空港整備事務所の行う工事等に関
する試験、研究及び技術の開発並びに技術の指導及び成果の普及に関すること。」と定められている。
当所では、これまで、講習会の開催や研修等における講師の派遣を行い、技術の指導事務を実施し
てきた。しかしながら、技術の指導という面においては、当所での勤務を経験した職員が転任先にお
ける技術的に指導的な役割を果たし、港湾・空港関係技術の底上げにつながるよう各個人の技術力の
向上を図ることも重要であると考えられる。今般、職員の自主的な取り組みにより、職員の技術力を
向上させるような取り組みがなされた。
本稿においては、その取り組みとして地震動作成勉強会の例を報告する。
2.勉強会実施の背景
1)港湾の施設の技術上の基準の改正に伴う地震動の考え方の変更
平成 19 年に港湾の施設の技術上の基準が改正され、信頼性設計法が導入されると共に、地震動の考
え方の変更が行われた。その考え方を文献 iより引用すると、以下のとおりである。
これまで、港湾の施設の耐震設計においては、地震動による動的な作用の影響を静的な慣性力に置
き換えてその影響を評価する震度法の適用を基本としてきた。この方法おいて設計に用いる震度(設
計震度)は、工学的基盤面に対応した「地域別震度」を基準とし、これに表層地盤における地震動の
増幅を考慮した「地盤種別係数」と構造物の重要性を考慮した「重要度係数」を乗じて設定されてき
た。また、動的解析等による耐震性能評価や液状化予測を行う際には、八戸や神戸等といった、設計
対象地点とは必ずしも一致しない点で観測された地震波形を用いて地震応答解析が行われてきた。
しかし、地震動は、震源特性、伝搬経路特性、対象地点周辺の地盤特性(サイト特性)に依存し、
また、施設の地震応答は入力地震動の振幅の大小だけではなく、地震動、地盤及び構造物の周波数特
性に依存するので、性能照査に用いる入力地震動は、これらの諸特性を適切に考慮したものであるべ
きである。このことから、港湾の施設の耐震性能照査において考慮する地震動による作用は、従来の
震度法による考え方に代えて、震源特性、伝搬経路特性、サイト特性を考慮して得られる工学的基盤
面における地震動の時刻歴波形をもとに、表層地盤や構造物の特性を考慮して算定する方法を用いる
こととした。
これにより、港湾の構造物の震度法による照査においても動的解析においても、その構造物に対す
る地震動を新たに作成し、それを用いて行うこととなった。
このうち、震度法による照査に用いるレベル1地震動については国土交通省 国土技術政策総合研究
所 港湾研究部 港湾施設研究室のホームページで公開されており、これを必要に応じて補正しながら
用いればよい。しかしながら、レベル2地震動については、対象港湾施設にあわせて作成する必要が
生じている。具体的な地震動の作成方法は、文献iiiiiに示されている。
2)地震動作成業務における問題点
先の引用にもあるとおり、地震動の取り扱いは従来の手法とは全く異なるものとなった。このため、
当所の所謂「ベテラン」職員も、若手職員を十分に指導できる技術的知見を有していなかった。
49
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
そのような状況であったため、地震動を作成する業務において生じた疑問点等については、当所の
担当職員が、随時、港湾空港技術研究所 地震動研究チームに問い合わせや確認を行いながら、職務を
行っていたのが実態であった。
このことから、早急に、地震動の作成に関する技術的知見を高め、所内で共有する必要が生じてい
た。
3.地震動勉強会
このような背景を受け、当所の若手職員が、中国地方整備局 広島港湾空港技術調査事務所と共同し、
港湾空港技術研究所 地震動研究チームへの「押しかけ研修」を企画した。「押しかけ研修」から地震
動作成勉強会に至る流れを図1に示す。
1)過去の研修における講義ビデオの視聴
当所では、過去に職員が受講した研修の講義のうち講師の了解が得られた物については、ビデオ撮
影を行い、随時、視聴できるように保存している。
押しかけ研修に先立ち、ライブラリーから地震動に関するものを視聴し、基礎知識を得ることを心
がけた。このとき、押しかけ研修のメンバーのみでなく、他の事務所職員も同時に視聴した。参加者
は 10 名程度であった。
2)押しかけ研修
地震動の作成に関係のある業務を担当し
港湾空港
技術研究所
ている職員2名が、港湾空港技術研究所
高松港湾空港技術調査事務所
担当職員
その他の職員
地盤・構造部 地震動研究チームにおいて、
地盤・構造部 地震動研究チーム
地震動に関する講義、地震動作成の実習を
受け、関連ソフトを持ち帰った。押しかけ
研修は 2 泊 3 日工程であり、当所職員 2 名
の他、中国地方整備局 広島港湾空港技術調
査事務所の職員 1 名が参加した。
3)押し掛け研修後の内容整理
押し掛け研修の内容を整理するともに、
過年度研修のビデオの視聴
押しかけ研修
地震動作成実習
実習内容整理
地震動作成勉強会を開催する準備として、
地震動作成勉強会
押し掛け研修参加職員 2 名が相互確認を行
講師
受講生
いながら、内容を整理した。
図1
地震動作成勉強会までの流れ
4)地震動作成勉強会の開催
事務所職員へ習得した内容を水平展開するため、地震動作成勉強会を開催した。講師は、押し掛
け研修に参加した職員2名が担当した。
勉強会の内容は、
z
押し掛け研修における講義の概要説明
z
地震動の作成実習
大阪平野の上町断層帯地震の直下型地震動(地表面波)の作成である。
50
「四国技報」第 10 巻 20 号
平成23年1月1日
講義の概要の説明は、参加者が 7 名。講義では、
ライズタイム(アスペリティ上のある場所ですべり
が継続する時間)やサイト位相特性の考え方につい
て、質疑が行われた。その状況を写真1に示す。参
加者からは、「資料を読んだだけでは概念的な理解
は難しいが、質疑と実習を行うことで、理解が深ま
る。」といった感想があった。
実習の参加者は 3 名であり、震源等パラメータ
の設定、サイト増幅特定の入手を行い、上町断層地
写真1
震による地表の地震波を作成した。
地震動作成勉強会の状況
具体的な作業としては、次のとおりであった。
①
政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会の資料から、上町断層帯のアスペリティを設定
し、その面積・大きさ、地震モーメントを計算する。
②
地震動算出箇所に対して最も危険となるようにアスペリティを配置し、アスペリティの破壊
開始点の座標を求める。
③
アスペリティ毎のライズタイムと破壊開始遅れ時間を算出
④
地震動算出箇所のサイト増幅特性のデータと強震観測記録を読み込む
⑤
①~③で求めた地震パラメータを入力し、地震動算出地点の地表面地震動を作成する。
⑥
⑤で求めた地震波形(時刻暦)をモニター上で確認する。
今回の実習において地震動作成の手順を学ぶことができた。今後は、文献等により理解を深め
ていく必要がある。当事務所職員は実務担当者であるため、今回の実習が、今後の勉強のための足
がかりなっていくものと考えられる。
業務の関係で、実習の参加人数は多くは無かったが、押しかけ研修のビデオも残してあること
から、今回、実習に関係した 5 名の誰かがいれば、今後も同様の勉強会は開催可能である。このこ
とから、概ね、押し掛け実習内容の水平展開はなされたものと考えられる。
4.おわりに
港湾技術者育成の取り組みとして、当所で行われた地震動作成勉強会の例を述べた。先にも述
べたとおり、今回の地震動作成勉強会は、当所の中堅職員の自発的な取り組みによるものである。
また、港湾関係で多用されている FLIP(Finite Element Analysis Program for Liquefaction Process)
に対して、一般的知識だけではなく、解析ノウハウの所内共有を目指す勉強会の開催も準備され
ており、中堅・若手技術者が自ら(ベテランまでも巻き込みながら)成長しようとする試みが始
まっている。このような状況を誇りに思うと共に、ベテランの一人として支援をしたいと考えて
いる。少なくとも足を引っ張らないようにしたい。
最後に、「押しかけ研修」の講師を快くお引き受けいただいた港湾空港技術研究所
野津
厚
地震動研究チームリーダーに深謝し、拙文を終えたい。
i
社団法人 日本港湾協会:港湾の施設の技術上の基準・同解説 平成 19 年7月 pp
野津厚、菅野高弘:経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法―内陸活断層地震およ
び海溝型地震への適用性の検討― 港湾空港技術研究所資料 No.1120 June2006
iii
野津厚、菅野高弘:経験的サイト増幅・位相特性を考慮した強震動評価手法―因果性と多重非線形性
効果に着目した改良― 港湾空港技術研究所資料 No.1173 March2008
ii
51
編
集
後
記
「四国技報」をご愛読いただきましてありがとうございます。記事を投稿していただいた方々にお
礼を申しあげます。さらに一層内容を充実して「四国技報」を広く皆様にお届けできるように編集員
一同努力をしてまいりますので、今後共、よろしくお願い致します。
新 技 術 の 問 合 せ は
国土交通省
四国地方整備局
四国技術事務所
TEL087-845-3135
防災・技術課長
(内線 311)技術相談の担当
技術情報管理官
(内線 303)新技術の活用・情報担当
ホームページ
…………
Eメール
………………
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四国地方整備局
技術開発課
技術開発係
ホームページ
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[email protected]
高松港湾空港技術調査事務所
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技術相談、新技術の活用・情報担当
…………
http://www.pa.skr.mlit.go.jp/tkgityou
海 と み な と の 相 談 窓 口 は
国土交通省
住
所
四国地方整備局
高松港湾空港技術調査事務所
総務課
香川県高松市番町1丁目6番1号(住友生命高松ビル2F)
℡ 087-811-5660
四
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国
技
報
第10巻20号
平成23年1月1日発行
編集・発行
国土交通省 四国地方整備局
○四国技術事務所(施工調査課)
〒761-0121 香川県高松市牟礼町牟礼1545
TEL087-845-3135 マイクロ88-712-381、310
FAX087-845-3998 FAX(MC)88-712-318
○高松港湾空港技術調査事務所(総務課)
〒760-0017 香川県高松市番町1丁目6番1号(住友生命高松ビル2F)
TEL087-811-5660 FAX087-811-5670
国土交通省
四
国
地
方
整
四 国 技 術 事 務 所
備
局
高松港湾空港技術調査事務所
ホームページアドレス : http://www.skr.mlit.go.jp/yongi/index.html
: http://www.pa.skr.mlit.go.jp/tkgityou/index.htm
E - m a i l ア ド レ ス : [email protected][email protected]