生物多様性ビジネスの時代

The Time for
Biodiversity
Business
生物多様性ビジネスの時代
目次
読者へ....................................................................................................... 02
コスタリカ島で地元住民になる...................................................... 22
視点
謝辞................................................................................................. 04
Blue and John Crow Mountains 国立公園のハニーポット.............. 23
目的地:環境保全............................................................................ 10
中米の持続可能なカカオ・ブランドの確立を目指して.................. 25
サプライチェーンを通じた専門ビジネスの関与:観光業の経験...... 15
生物多様性ビジネスの事例
レバノンのエコツーリズムの促進................................................... 26
生物多様性を基盤とする零細企業開発を通じた地元コミュニティの
Mkuru Camel Safari:正統派アフリカ冒険ツアー.......................... 05
河川流域を支援する手工芸............................................................. 28
利益の創出....................................................................................... 17
スギの地からの天然製品................................................................. 06
自然製品の持続可能な貿易............................................................. 32
尊敬をもった資源の獲得に向けて:
Wild Jordan:自然ビジネスへ......................................................... 07
環境保全のためのBuhoma村落ウォーク......................................... 34
倫理的な資源獲得活動を促進するための民間産業への働きかけ.... 18
Ojon:よく守られた秘密.................................................................. 09
‘Salto del Limon’でのエコツーリズムの運営................................... 35
生物多様性オフセット市場の創出:
Ecoturismo Comunitario:エコツーリズム業者のネットワーク....... 11
紙に力を.......................................................................................... 36
フランスCDC Biodiversiteの事例................................................... 24
Himalayan BioTrade:自然に配慮した森林製品............................. 13
アフリカの自然食品........................................................................ 38
持続可能性ビジネス構築における政府の役割................................. 27
Editorial SalvaNATURA:自然のための出版事業............................. 16
アマゾン川のエッセンス................................................................. 39
環境保全:小額無償資金供与が持続可能な収入を生む.................. 30
血液を利用した保全........................................................................ 40
コミュニティへの公正な利益配分の確保........................................ 31
持続可能なラタン産業の確立.......................................................... 19
認証:生物多様性ビジネスの規模拡大........................................... 37
ケープ植物区界産の自生花............................................................. 20
Biyotematur:自然ツアーの専門家................................................. 21
1
読者へ
生物資源の持続可能な利用に基づ
く事業モデルをもつ企業に対する
民間資本投資が増加していくだろ
うことが示されています。
生物多様性保全は良いビジネス
になると思いますか?
生物多様性ビジネスは従来の環
境保全プログラムにとってかわる
ものではなく、むしろ責任ある製
品とサービスの需要を促進するこ
国際自然保護連合(IUCN)が、
複数の案のなかから、公共政策と
市場ベースの方策のミックスに生
物多様性の損失の解決策があると
考え、このコンセプトを推進しは
じめてからしばらく経ちます。市
場ベース・アプローチの幕開けに
おける究極の方策は、生物多様性
保全を促進する製品およびサービ
スに報酬を与え、その過程で生物
多様性ビジネスを確立することが
できる市場の創出です。
こうした生物多様性ビジネス
は、2008年のIUCN報告書『生物多
様性ビジネスの構築(Building
Biodiversity Business)』で「生
物多様性を保全する活動を通じて
利益を生み、生物資源を持続可能
な方法で利用し、その利用による
利益を公正に分配する利益目的企
業」として定義されています。生
物多様性ビジネスには、持続可能
な農法、持続可能な森林、非木材
森林製品(NTFP)、流域サービス
のための支払い、生物多様性オフ
セット、エコ・ツーリズム等が含
まれます。同報告書では、生物多
様性保全はそれ自身で実行可能な
事業として考えうること、そして
“
の開発を経験してきたということ
です。しかし、こうしたベンチャ
ー事業はビジネスとして優れた意
図を持って始動されていないこと
が多く、ビジネスの動機と能力が
足りないために、持続するための
十分な利益が生まれない活動とな
り、結果的に環境保全目的も達成
生物多様性ビジネスは、生物多様性を保全する
活動を通じて利益を生み出し、持続可能な方法
で生物資源を利用し、その利用から得られた利
益を公正に分配する利益目的企業です。
とにより、それを補完するもので
す。加えて、生物多様性ビジネス
に関連する製品およびサービスの
多くが地方で生みだされ、小規模
企業をベースとしていることか
ら、生物多様性ビジネスは地方の
貧困削減とコミュニティ強化に好
ましい影響を与える可能性も含ん
でいます。
それでは、環境保全は望ましい
ビジネスになり得るというのは本
当でしょうか。反対に、ビジネス
が生物多様性保全にとって望まし
い存在になることはできないでし
ょうか?
環境保全団体は従来、天然資源
を持続不可能な方法で利用してい
るコミュニティにそれにかわるも
のとして持続可能な生計を開発す
るために必要な支援を提供すると
いう役割を活発に果たしてきま
した。これはすなわち、環境保全
団体はすでに生物多様性ビジネス
2
”
できなくなることが少なくありま
せん。
私たちの仮説は、特定のビジネ
ス・セクターをある生物多様性保
全プログラムの一部として促進す
る場合、プログラムの成功の最も
重要な鍵となるのはビジネス・ス
キルの移転であるというものでし
た。もし、事業として成功しな
ければ、その環境保全目的も達成
されません。したがって、どのよ
うなビジネスに関する能力が必要
であるかを詳細に検討する必要性
が明らかに存在しています。IUCN
事務局の主要な役割はIUCN会員の
環境保全プログラムの実施支援で
あるという認識を踏まえ、IUCNビ
ジネス&生物多様性プログラムで
はIUCN会員が環境保全プログラム
の一環として実施している生物
多様性ビジネス開発の経験に関す
る調査を始めました。この調査結
果によって、事務局は同タイプの
環境保全アプローチに、より効率
的な支援を提供することができる
ようになります。調査は、フラン
ス共和国エコロジー・エネルギ
ー・持続可能な開発・国土整備省
(MEEDDAT)の資金で2008年末に
開始されました。
調査の主要な目的にはIUCN会員
が自身の環境保全プログラムの中
で行った(農業、観光および薬用
植物等のセクターにおける)事業
開発の経験の把握、そしてこれら
の取組の成功を支援するニーズ(
能力開発、マーケティングおよび
財務)の評価が含まれます。
IUCN会員活動の机上レビューと
IUCNの会員担当部局の推薦をもと
に、生物多様性ビジネスを開発し
ていると分かった約80会員の中か
ら、63会員にコンタクトし、うち
40会員が本調査に情報を提供して
くれました。
ここに紹介する22事例は、こ
の調査を通じて得られたたくさ
んの素晴らしい事業の情報の一
部を抜粋したものです。残念な
がらすべての事業を紹介すること
はできませんが、収集した情報
は『環境保全に向けた生物多様
性ビジネス構築から学んだこと
(Lessons learned from building
biodiversity businesses for
conservations)』という別の報
告書にまとめました。
すべてのインタビューが、生物
多様性保全戦略の一部として生物
多様性ビジネスを創出する機会と
障害に関するより深い理解を得る
のに役立ちました。さらに重要な
ことに、利益をもたらすビジネス
の創出が環境保全団体の保全のた
めの道具箱のなかで実行可能なツ
ールのひとつになりうるという実
証においても有益でした。
本冊子は、環境保全団体が採用
したアプローチの詳細を分析する
ものではなく、むしろ自身の環境
“
環境保全団体が創出し、企業が開
発・促進したサービスおよび製品
の多くが、ビジネス・パートナー
が果たした役割のおかげで商業的
に成功しています。こうしたパー
トナーは、共同出資や製品仕様
開発支援、マーケティング機会開
発、サプライチェーンへの製品・
サービスの取り込みなどさまざま
な役割を果たします。
国際自然保護連合(IUCN)は、私たちの生活の基
盤となっている生態系による財およびサービス
の創出の継続を確保するために生物多様性を保
全するという共通の目的をもつ1,000を超える
団体を結ぶ会員組織です。
保全戦略の一環として成功裡に生
物多様性ビジネスを始めたIUCN会
員を含む環境保全団体の成功を祝
すと共に更なる成功を促がすこと
を目的としています。
私たちが収集したストーリー
は、以前からあるエコ・ツーリズ
ム事業から成長段階にある健康産
業を支える天然原料、野生生物フ
ィールド・ガイドなどの知的製品
まで幅広い製品およびサービスに
及んでいます。読者の方は、これ
を読みながらホンジュラスやボツ
ワナ、ヨルダン、ラオス人民民主
共和国を旅することができるでし
ょう。
この調査による大きな発見のひ
とつは、環境保全団体とビジネス
の間には明確に補完的な能力と目
的が存在するということです。
”
また、私たちは、生物多様性ビ
ジネスの開発に関連し、よく話題
になる疑問点について専門家10人
の「視点」を掲載しました。この
中には、政府の役割、エコラベル
の有効性、企業の社会的責任プロ
グラムを通じて多国籍企業が担う
ことができる役割、起業資金の利
用可能性の重要性、コミュニティ
との公正な利益分配や技術支援の
必要性が含まれています。こうし
た視点は、本出版物に取り上げた
ストーリーを補完する意見です。
いと考えています。これがすべて
の環境保全の挑戦に対する解決策
ではないことは明らかですが、環
境保全に向けた市場インセンティ
ブの直接的な創造という面からだ
けではなく、人間の生態系そして
生物多様性への依存に関する消費
者意識の更なる創出という面から
も意義があります。
こうしたことから、前述の質問
の答えはこうなります。:はい、
生物多様性保全はビジネスにとっ
て望ましいものになり得るし、ビ
ジネスも生物多様性保全にとって
望ましいものになり得るのです!
こうした事例は皆さんにとって
興味深いものとなるでしょう。楽
しんでください!
経済・環境ガバナンスグループ ディレクター/ビジネス&生物多
様性プログラム主任/Juan Marco
Alvarez
より詳しい情報は以下を参照して
ください。
ウェブサイト:
www.iucn.org/business
お問い合わせ: [email protected]
IUCNビジネス&生物多様性プロ
グラムは、生態系と生物多様性の
経済(TEEB)調査への結果の統合
をはじめ、本調査の成果に基づい
て活動を行う予定ですが、その中
でも特に民間セクターとIUCN会員
の間に商業的結びつきを創出する
支援を行うプログラムを開発した
3
『生物多様性ビジネスの構築
(Building Biodiversity Business)』
は2008年にIUCNとShellによって
発行されました.
主著者の Joshua Bishopは、IUCN
のチーフ・エコノミストです。
参照: http://data.iucn.org/
dbtw-wpd/edocs/2008-002.pdf
謝辞
プロジェクトデザインとコーディネーション:
Giulia Carbone, IUCNビジネス&生物多様性プログ
ラム
調査とストーリー作成: Maria Ana Borges (主著
者), IUCNビジネス&生物多様性プログラム Kristy
Faccer, コンサルタント.
英文編集: Amy Sweeting
成功する生物多様性ビジネスを作り上げることに
関してストーリーや意見を寄せていただいた以下
の方々に大変感謝いたします。
本冊子の中のストーリーに情報や材料を提供して
いただいたのは以下の方々です。:
Lara Beffasti, Istituto Oikos; Yunus Bıyıklı, TEMA
Foundation; Pinar Aksogan, TEMA Foundation; Tala
Al-Khatib, Society for the Protection of Nature Lebanon
(SPNL); Charity Bwiza, Bwindi Mgahinga Conservation
Trust (BMCT); Yesim Erkan, TEMA Foundation; Ilaria
Farina, Istituto Oikos; Sushil Gyawali, Asia Network
for Sustainable Agriculture and Bioresources (ANSAB);
Nizar Hani, Al Shouf Cedar Society (ACS); Angel
Hualpa Erazo, Fundación Ecológica Arcoiris; Dalia
Jawhary, Society for the Protection of Nature Lebanon
(SPNL); Chris Johnson, Wild Jordan, Royal Society for
the Conservation of Nature (RSCN); Amanda Kiessel,
Sewalanka Foundation; Gladman Kundhlande, Southern
Alliance for Indigenous Resources (SAFIRE); Andrea
Lamer, SalvaNATURA; Patricia Lamelas, Centro para la
Conservación y el Ecodesarrollo de la Bahía de Samaná y
su Entorno (CEBSE); Thibault Ledecq, WWF Greater
Mekong Region; Roberto León Gómez, Fundación Natura
Colombia; Allie Orr, Ojon Corporation (MOPAWI
story); Susan Otuokon, Jamaica Conservation and
Development Trust (JCDT); Felix Monggae, Kalahari
Conservation Society (KCS); Osvaldo Munguia, Moskitia
Pawisa Apiska (MOPAWI); Lesley Richardson, Flower
Valley Conservation Trust; Danilo Salas, Fundación
Moisés Bertoni; Barbara Schmal, Avive; Assad Serhal,
Society for the Protection of Nature Lebanon (SPNL);
Bhishma Subedi, Asia Network for Sustainable Agriculture
and Bioresources (ANSAB); Edgar Talavera, Asociación
Coordinadora Indígena y Campesina de Agroforestería
Comunitaria de Centroamérica (ACICAFOC); Lucy
Welford, PhytoTrade Africa; Gayani Wickramarachchi,
Sewalanka Foundation.
以下の方々は、生物多様性ビジネスに関する教訓
を提供してくださいました。
Chetan Agarwal, Winrock India; Leila Bahri, Union
Nationale de la Femme Tunisienne (UNFT); Mustafa
Bakuluzzaman, Shushilan; Tep Bunnarith, Culture
and Environment Preservation Association (CEPA);
Roberto Cáceres Estrada, Centro Mesoamericano de
Estudios sobre Tecnología Apropriada (CEMAT); Romeo
Domínguez, Pronatura Sur; Juan Dumas, Fundación
Futuro Latinoamericano (FFLA); Elena Galante, Instituto
Nacional de la Biodiversidad (INBio); Gustavo Gatti,
Fundação O Boticário de Proteção à Natureza; Francesc
Giró, Acciónatura; Marta Grau, DEPANA; Babar Kabir,
BRAC; Bernard Lesolame, Veld Products Research
and Development (VPRD); Peter Maar, Institute of
Cultural Affairs Ghana (ICAGH); Ramón Martí Montes,
Sociedad Española de Ornitología (SEO/Birdlife); José
Manuel Mateo Féliz, Secretaría de Estado de Medio
Ambiente y Recursos Naturales en Republica Domincana
(Subsecretaría de Áreas Protegidas y Biodiversidad); Mpau
Moli, DEPANA; Essam Nada, Arab Office for Youth and
Environment (AOYE); Maria Priscilia Peña, Secretaría
de Estado de Medio Ambiente y Recursos Naturales en
Republica Domincana (Subsecretaría de Áreas Protegidas
y Biodiversidad); Lillith Richards, St. Kitts and Nevis
Department of Physical Planning, Natural Resources and
Environment; Leonardo Tunesi, Istituto Centrale per la
Ricerca scietifica e tecnologica Applicata al Mare (ICRAM);
Leide Yassuco Takahashi, Fundação O Boticário de Proteção
à Natureza.
4
以下の、「視点」の著者にも、その経験や意見を
提供していただいたことを大変感謝いたします。
IUCNについて
Joshua Bishop, IUCN; Elodie Chêne, IUCN;
Sasha Courville, ISEAL Alliance; Harold Goodwin,
International Centre for Responsible Tourism (ICRT);
Alexander Kasterine, International Trade Center; Rik
Kutsch Lojenga, Union for Ethical BioTrade; Stefanie
Koch, Holcim Ltd; Gonzalo Oviedo, IUCN; Silvia Ritossa,
IUCN NC France; Marielies Schelhaas, IUCN NC
Netherlands.
国際自然保護連合IUCNは、私
たちにとって最も差し迫った課
題である環境と開発の問題に対
して実践的な解決策を見出すこ
とを支援します。
そして、本プロジェクトを支援してくれたIUCN事
務局職員にも感謝します。
• Juan Marco Alvarez, Director of the Economy and
Environmental Governance Group and Head of Business
& Biodiversity Programme, for his continuous guidance
and support.
• Asanka Abayakoon, Raquibul Amin, Andrea Athanas,
Valeria Chamorro, Evelyne Clarke, Saskia De Koning,
Aymeric Eeckman, Lucy Emerton, Robert Hofstede,
Alex Moiseev, Tamara Montalvo Rueda, Stella Musiiwa,
John Poulsen, Yves Renard, Margarita Restrepo, Majdi
Salameh, Susanna Söderström, Shiranee Yasaratne,
Monique Yigbedek for their guidance in setting up the
survey and identifying relevant members.
• Gillian Martin-Mehers for her innovative ideas.
• Ignacio de la Cuevas の観光事業に関する初期的調
査に対して
• Arnaud Collin and Jean-Yves Pirot の資金調達への支
援に対して
最後に、資金的な援助をしていただいたフランス
共和国エコロジー・エネルギー・持続可能な開
発・国土整備省(MEEDDAT)と日本語版作成に関
して資金援助をしていただいた日本経団連自然保
護基金に感謝いたします。
IUCNは、科学的研究の支援や
全世界で行われるフィールドプ
ロジェクト管理、政策、法およ
びベスト・プラクティスの開発
に向けた政府、国連そして企業
の統合を通じて、生物多様性、
気候変動、エネルギー、人間の
生活および世界経済のグリーン
化に取り組みます。
IUCNは政府とNGOで構成され
る1,000を超える会員とおよそ
160ヶ国の11,000人のボランテ
ィア専門家を誇る世界で最も歴
史ある最大の環境保護団体で
す。その業務は、60のオフィス
に在籍する1,000人以上のスタ
ッフと数百におよぶ全世界の官
民セクターとNGOのパートナー
に支えられています。
www.iucn.org
あるIstituto Oikosは、持続可能な発展のひとつのツール
として天然資源の保全と賢明な利用を促進しています。
Oikosはタンザニアでタンザニア観光局とコミュニティ
を基盤とする組織のMkuru Camel Groupと共に、文化遺産や
自然遺産を維持する責任ある観光開発に努めています。
タンザニア北部のMkuru Camel
Safariは、コミュニティベースの
観光イニシアチブで、自然のまま
の本物のアフリカ・サバンナ体験
を観光客に提供します。ラクダと
徒歩を組み合わせたサファリ散策
で、観光客は比類ない絶景とアフ
リカのブッシュに住む豊かな野生
生物を見つけることができます。
地元のマサイのコミュニティとの
交流を通じて、地域の豊かな文化
と伝統について学ぶこともできま
す。
サファリ散策は、地域の自然遺
産・文化遺産に精通し、経験豊富
な英語を話すマサイ人ガイドが行
います。徒歩で半日のツアーから
ラクダ騎乗の7日間ツアーまでの
多彩なツアーのほか、さまざまな
文化的アクティビティも用意され
ています。全ツアーの出発地は絶
好のロケーションに建つ環境に配
慮したムクル・キャメル・キャン
プです。これはキリマンジャロ山
とメル山の絶景に囲まれたソーラ
ー発電のキャンプで、素朴な寝具
を備えたサファリテント、簡易浴
室施設、野外炊事炉、そして心の
こもったタンザニア料理を提供す
る食堂があります。
Mkuru Camel Safariは、Mkuru
Camel GroupとIstituto Oikosが
共同で開発したイニシアチブで、
木炭生産などの持続不可能な活動
への地域依存の対策として持続可
能な生活の選択肢を提供すること
を目的としています。Oikosはこの
イニシアチブにおいて地域の環境
保全に対する能力や理解と協力を
促進することも目指しています。
これまでに、不法伐採の目覚まし
い減少や地域で見られる野性動物
の大幅な増加、そして生物多様性
保全に向けた姿勢の前向きな変化
などいくつかの環境保全の利益が
達成されています。社会的視点か
らみると、Mkuru Camel Safariは
地元の人々に雇用を創出し、生
活条件を改善するとともに、教育
のレベルを向上しました。これら
は、地域の力の増大に結びついて
います。このベンチャーの成功の
鍵は、当事者である両者の、それ
ぞれ自分たちの強みの中で最善を
尽くして運営を行う能力でした。
詳細は以下を参照してください。
ウェブサイト:www.istituto-oikos.
org, www.mkur ucamelsafari.com
問 い 合 わ せ : info@istituto-oikos.
org,[email protected]
サービスの種類
サファリ散策
ムクル・キャメル・キャンプを
出発した後、訓練を受けたマサイ
人ガイドが同行し、地域の文化・
自然遺産を詳細に説明します。
【キャメル・サファリ】
観光客をアフリカの野生の奥深
くに連れて行く宿泊サファリが何
種類かあります。こうしたサファ
リツアーでは、かつて遊牧の民た
ちが牛を育て、彼らの伝統である
神が住む聖なる木々と山々を称え
るために切り開いた古代の道をた
どってマサイの生活を体験しま
す。観光客はアフリカの星空のも
と、移動キャンプで就寝します。
さまざまなツアーの中でも最も豊
かな景観が楽しめ、野生動物を見
© Istituto Oikos 2009
ヨーロッパと途上国で活動を展開するイタリアのNGOで
© Istituto Oikos 2009
Mkuru Camel Safari:正統派アフリカ
冒険ツアー Istituto Oikos (イタリア)
5
るチャンスも豊富なツアーです。
【ウォーキング・サファリ】
ウォーキング・サファリは一人
ひとりの関心と体力レベルに応じ
てプランを決めます。キャメル・
サファリや文化アクティビティと
組み合わせることもできます。
文化アクティビティ
マサイのコミュニティの中心で
行われるさまざまなアクティビテ
ィ体験を提供します。伝統的なマ
サイ住居(ボマ)訪問、マサイの
踊りと夕食、地域のヒーラーが行
う伝統薬レッスン、マサイの女性
による美術・工芸セッションなど
が用意されています。
スギの地からの
天然製品
主な製品
Al Shoufブランドとして、農村
開発と保全を支援するためにおよ
そ70種の自然製品が開発されてい
ます。主な製品には次のような製
品があります。
Al Shouf Cedar Society (レバノン)
Al
Shouf
Cedar
ハチミツ
ハチミツは数世紀にわたってレ
バノンで生産されてきました。フ
ェニキア人の時代にハチミツを生
産していた証拠もあります。ハチ
ミツの生産は現在でもAl Shouf地
域では重要な生活手段のひとつで
あり、特にスギの蜜は保護区に生
息する健康なスギの木のおかげで
主要なものとなっています。スギ
の蜜は独特の味で、SCNRの外では
稀少であることからプレミアム製
品とされています。ACSは保護区
の地元コミュニティと協力してハ
チミツ(と派生製品)の質の向上
Society
(ACS)は、レバノン最大の保
護地Al
Shoufスギ自然保護区
(SCNR)を管理する重要な組織
です。管理戦略の一環とし
ュニティと協力し、保護地資
源の持続可能な利用を促進し
ています。
Al Shouf Cedar Society (ACS)
© Al Shouf Nature Reserve 2009
て、ACSはSCNE周辺の地域コミ
とAl Shoufブランドとしての販売
に努めてきました。この産業を維
持することは、地域の文化遺産の
保護だけではなく保全にも重要で
す。ミツバチは受粉に重要な役割
を果たすことで、保護区の種の多
様性に貢献しています。
食用・芳香・薬用植物
Al Shouf生物圏保全地域内と周
辺の地元コミュニティでは、芳香
や薬としての特性を誇る数々の野
生植物が伝統的に利用されてきま
した。こうした種の保全、コミュ
ニティの文化遺産の保護、それに
平行した彼らの生活向上のための
取組として、ACSはこうした植物か
ら生産された製品の開発・商業化
のために地元コミュニティを支援
してきました。また、コミュニテ
ィがこうした種を持続可能な方法
で栽培する必要性の認識を向上す
る支援や、野生植物への依存を軽
減するために苗床を建設するため
の支援も行いました。これらの植
物はそのまま販売されるほか、シ
ロップ(セージ、ローズの香りを
つけたゼラニウム、ミント、桑の
実、ざくろ、バラ、オレンジ・ブ
ロッサム)からフレーバー・ウォ
ーター(月桂樹、セージ、イラク
サ、みかんの花、ローズ、ミント
ウォーター)まで多様な製品に加
工され販売されています。
その他の製品
この他にもジャム(りんご、
杏、いちじく、なす)やコンポー
ト(さくらんぼ、桑の実、桃)、
乳製品、ビネガー、ペースト(ざ
くろ、唐辛子、トマト)、ピクル
ス、ブドウとイナゴマメの糖蜜漬
けなど多様な製品が保護区で生産
され、販売されています。
向けたビジネス・アプローチは当
通じて、ACSは同じゴールを達成す
ギ自然保護区周辺地域をAl
Shouf
では、1999年に農村開発プログラ
た作業場を3つ設置しました。さ
初、地元関係者から保護区への支
るために、もっと持続可能な方法
生物圏保全地域として指定し、ACS
ムを作成しました。このプログ
らに、地元コミュニティと協力し
援を得る必要を発端として成長し
があることを実証しました。
の功績は世界的に認められまし
ラムは地元製品の持続可能な生
て、品質の標準化、製造コストの
たものです。ACSが保護区の管理を
産とマーケティングを通じて、Al
最小化を達成し、そしてAl
Shouf
引き受けたとき、地元関係者は最
Shoufスギ自然保護区周辺の地域の
傘下ブランドとして製品にプレミ
終的には破壊につながるような方
生活を向上することを目的として
アム価格の設定を可能としまし
法での開発を望んでいました。当
います。地域の伝統と保護区が提
た。また、現在はLibanCertの有
時、レバノンでは環境保全は親し
供するものを紹介する製品の開発
機認証獲得に向けて作業していま
みのない考えで、地元コミュニテ
のために、発足当初から、地元女
す。全ての自然製品は保護区出口
ィも地域行政当局も地域の生活を
性や養蜂家、羊飼いをはじめとす
や良質な店、ホテルの売店、貿易
向上する最善策は大規模観光向け
る地元コミュニティと協力してき
フェア、展示会などで販売され、
に地域を開発することだと信じて
ました。また、高品質の製品を確
得られた収入は地元コミュニティ
いました。しかし、この農村開発
保するために最先端の素材を備え
に還元されます。この環境保全に
プログラムと小規模な観光開発を
6
この実績の主要な成果のひとつ
は、環境保全に対する地元の姿勢
の変化と保護区への支援の増加で
す。この変化は、地元コミュニテ
た。この重要な指定は人類と自然
のバランスの取れた関係が促進さ
れ実証されている地域に贈られま
す。
ィだけのものではなく、地域行政
より詳しい情報については以下を
当局からの支援も増加しました。
参照してください。
さらに2003年には、UNESCOがAmmiq
ウェブサイト:www.shoufcedar.org
湿地(ラムサールサイトであると
問い合わせ: [email protected]
同時に中東に残る数少ない湿地の
ひとつ)と24村を含むAl
Shoufス
© Wild Jordan 2009
ヨルダンのRoyal
Society
for the Conservation
of Nature (RSCN)は、同国の豊かな自然遺産を管理する
という重要な役割を担っています。この使命の達成を助け
るために、RSCNはその起業部門としてWild Jordanを創設し
ました。Wild Jordanは、ヨルダン王国の保護地域とその周
辺地域におけるエコ・ツーリズムをはじめとする自然をベ
ースにしたビジネスの開発とマーケティングを行います。
Wild Jordan:
自然ビジネスへ
Royal Society for the Conservation of Nature (ヨルダン)
7
従来、ヨルダンは文化的観光地
として知られてきましたが、自然の
景観や多様な生態系を誇る地でも
あります。Royal Society for the
Conservation of Nature (RSCN)の
事業部門であるWild Jordanは、自
然をベースにしたビジネスの開発を
通じてこの豊富な自然遺産を宣伝
するとともに保護しています。現
在、RSCNはヨルダン北部から南部に
かけて6つの保護地域を管理してお
り、Wild Jordanはそこでキャンプ
サイトやゲストハウス、ロッジなど
の観光施設、そしてさまざまなニー
ズに応じたガイドツアーを提供して
います(提供サービスについては囲
みを参照のこと)。さらに、保護地
域内と周辺地域のコミュニティと協
力して、それぞれの地域の自然・文
化の特徴を反映した斬新な製品を生
産する手工芸品企業を設立しました
(コミュニティ手工芸品企業につい
ては囲みを参照のこと)。アンマン
中央部に建てられたWild Jordanセ
ンターには、こうしたイニシアチブ
のすべてが融合し、ヨルダンの天然
資源の持続可能な利用の例を展示し
ています。センター内にはコミュニ
ティ企業の商品を販売する自然ショ
ップやオーガニック製品やフェアト
レード製品を提供するカフェ(その
一部は保護地域で生産されたもの)
、観光客に保護地域観光を案内する
インフォメーション・ポイントが設
置されています。
Wild Jordanの成功の大きな要因
は、その斬新なマーケティング戦略
でした。Wild Jordanブランドを創
出したことで、RSCNは文化観光に焦
点をおいた市場に浸透して市場シェ
アを拡大するだけでなく、自然観光
の隙間市場を占有することができま
した。加えて、Wild Jordanセンタ
ーを設立したことで自然を都市に
運び、その製品を包括的かつ専門的
に紹介することができました。RSCN
はこうしたことを実行するにあたっ
て、その自然環境保全の義務を見失
わず、明確なゾーニング戦略と利用
者制限、定期モニタリングを通じて
ヨルダンの「野生地」が確実に保護
されるよう努めています。
RSCNは、ヨルダンの保護地域にお
ける社会経済開発との対話を統合
するよう14年間にわたって働きかけ
ています。このアプローチは、地
球環境ファシリティ(GEF)の保護
地域管理とDana生物圏保全地域の地
元の人々の社会経済開発を結びつけ
ることを目的としたプロジェクトの
一環として始まりました。今日で
は、RSCNは国内の6つの保護地域を
コミュニティ手工芸品企業
エコツーリズム・サービスのネットワーク開発に加えて、Wild
Jordanはヨルダン人のデザイナーと地元
コミュニティと協力して、手工芸品の開発と生産を行ってきました。ヨルダンの文化や社会に関連するシン
ボルや各保護地域の自然シンボルを使い、市場を理解したうえでデザイナーが斬新な手工芸品を開発しまし
た。こうして生み出された手工芸品は地元コミュニティが生産、販売、管理を行い、全国のWild Jordanの店
舗で売られています。
© Wild Jordan 2009
本事業は地元住民の雇用の創出を目指しているので、Wild Jordanの手工芸品企業の収益はすべて地元コミ
ュニティに戻ります。これら企業は、地元住民の持続可能では無い生活からの転換と保護地域付近に住むと
いうことの付加価値の認識もその目標としています。Wild
Jordanは環境保全の利益を実際に生み出すため
に、最も保護地域に依存している、すなわち最も保護地域に影響を与えているコミュニティの住民から企業
運営者と生産者を選びます。
管理し、観光施設とアクティビティ
のネットワーク構築に成功していま
す。
RSCNが、このより企業的なアプ
ローチを環境保全に適用する主な
目的は、(i)RSCNの環境保全活動の
資金源とするために利益を得る必
要、(ii)自然保護と地元コミュニテ
ィの生活、雇用機会を結びつける必
要、そしてそれを通じて自然保全へ
の共感の姿勢を促進する必要、そし
て(iii)自然環境保全の苦境に対す
るヨルダン国民の意識向上の必要で
した。企業開発は、これまでに数多
くの自然環境保全に対する利益をも
たらしました。まず、Wild Jordan
の設立によって環境保全予算の最高
40%を生物多様性企業から確保する
ことができるようになりました。次
に、手工芸品企業の開発において、
保護地域に最も依存している(すな
わち最も影響力を持つ)コミュニテ
提供サービス
RSCNは、Dana生物圏保全地域、Ajloun森林保護区、Mujib自然保護区、Azraq湿地とShaumari保護区を含む国
内6つの保護地域を管理しています。これらの保護地域のガイドツアーや宿泊は、RSCNの事業部門であるWild
Jordanが開発・運営しています。
ィの住民を対象とすることで、依存
が自分たちの仕事の大きな脅威のひ
とつであることという認識を創出
し、保護地域への依存を減らしまし
た。また、訪問客のおよそ半分がヨ
ルダン国民であるので、国民の環
境保全への支払いに対する支援や
意志が増えました。もうひとつの予
想しなかった面白い成果は、意思
決定者の保全に対する態度の変化
です。Wild Jordanがもたらしたヨ
ルダンの観光産業への大きな貢献か
ら、RSCNはその成果に対してヨルダ
ン政府から多くの尊敬と支援を得て
います。
より詳しい情報については以下を参
照してください。
ウェブサイト:www.rscn.org.jo
問い合わせ:[email protected]
Dana生物圏保全地域
およそ320平方キロメートルの面積を誇るDanaは、ヨルダン最大そして恐らく最も多様性に秀でている自然保
護区です。西には砂丘、東には山頂が広がる多彩な景観をもつさまざまな種の住処です。RSCNとしてエコツーリ
ズムを開発した初めての保護区で、現在では最も多くの観光客向けオプションが用意されています。ガイドツア
ーは短距離の散策から冒険にあふれた終日のハイキングまであります。かつてベドウィン野営地であったランマ
ナキャンプ地や保護地の絶景が一望できるDanaゲストハウス、観光客用に踏み固められた歩道脇に立ち夜間はロ
ウソクが照明代わりとなる最も環境にやさしいFeynanエコロッジなど宿泊オプションも多数用意されています。
Ajloun森林保護区
ヨルダン北部に位置するAjlounは、常緑樫、マツ、イナゴマメ、野生ピスタチオ、野生イチゴの木が生育する
開放的な森林で占められています。この緑にあふれる風景は、数多くの野生植物、動物の生活を助けるととも
に、豊かな文化遺産を有しています。訪れる人々はサファリ・スタイルのキャビンやバンガローに滞在し、森林
を抜けるハイキングや、保護区の屋上レストランや地元の村の果樹園で供される地元の食事を楽しむことができ
ます。
Mujib自然保護区
海面下410mと世界で最も低い場所に位置するMujib自然保護区は、そのごつごつとした地形と絶景で、ヨルダ
ンで最も人気のある自然観光地のひとつとなっています。ここでは観光客は死海でリラックスしたり、川が流れ
る渓谷冒険ハイキングなどを楽しむことができます。保護区散策に格好の宿泊施設は死海の海岸に建てられた
Mujib Chaletです。
Azraq湿地とShaumari保護区
この湿地と保護区は近接しているので、ともに主な宿泊設備はAzraqロッジとなりますが、その景観と生物多
様性は大きく異なります。Azraqは鳥類の多様性で知られる独特の湿地ですが、一方のShaumariは絶滅危惧種の繁
殖地として作られた砂漠の保護区です。Azraqロッジは、1940年代の英国軍の病院を改造した建物で、この2つ
の保護地の散策や東部の砂漠を訪れるのにうってつけの宿泊設備です。
8
Ojon:よく守られた秘密
ホンジュラスのMosquitia開発エージェンシー( MOPAWI)
すこととなりました。
は、生物多様性保全とMosquitia地域に住む先住民族の生
活の改善の統合を使命としています。この目標を達成する
ために、MOPAWIは先住民族の Miskito コミュニティとカ
ナダの多国籍企業Ojonとパートナーシップを形成し、この
地域産の毛髪用自然製品を開発し市場を開拓しています。
ホンジュラスにおける環境保全
上の大きな課題のひとつは、人口
成長と国内の多くの地域における
貧困拡大がもたらした農地による
熱帯林の侵食です。一方、MOPAWI
が持続可能で収益を得られる方法
で行ったバタナのサプライ・チェ
ーンの開発は、土地使用の転換と
Mosquitia地域の森林破壊を予防す
る、あるいは少なくとも制限する
ために有益でした。また地元住民
のための持続可能な経済活動の開
発を支援しただけではなく、将来
の世代に資源基盤を維持する意義
に関する地元の知識の向上にも成
功しました。
Ojon社は、毛髪のタイプやヘア
ケアのニーズに合わせた類を見な
い毛髪ケア製品ラインナップと常
に目覚しい成果を挙げていること
で世界的に知られるようになりま
した。Ojon社の成功の鍵は、天然
原料を活性化させる方法とそれを
最も純粋な形で維持する知識にあ
ります。Ojonの全製品に共通する
原料で、同社の特徴となっている
のはオジョン(Ojon)またはバタ
ナ油です。
オジョンもしくはバタナヤシ
は、ホンジュラス北東のMosquitia
地域の固有種です。この地方の先
住民族Miskitoインディアンは、数
世紀にわたってバタナナッツから
油を抽出し、その成分を利用して
肌や髪の保護など化粧目的に使っ
てきました。古代には、Miskito
インディアンはこの地域では文字
通り髪の美しい人々をあらわす
Tawiraとして知られていました。
彼らはバタナの特性を長年の秘密
として守ってきました。
Mosquitiaの自然と人々の保護
を目的として、地域の非政府組織
MOPAWIによるバタナのサプライ・チ
ェーンの開発が始まったのは1985
年です。当初の焦点は、小規模生
産者の生産の向上と促進の支援で
したが、その後まもなくMOPAWIは国
内市場へのバタナ製品の普及に焦
点を移しました。バタナの特性に
関する知識がMosquitiaの外には知
られていなかったために、市場普
及は容易ではなく、しばらくの間
補助金を受けなければなりません
でした。しかし、継続の成果と幸
運が相まって、2003年にバタナ油
がヘアケア事業に携わるカナダの
Simioni一家の眼に留まったことで
すべてが変わりました。
このとき以来、Ojon社と
MOPAWI、Miskitoインディアンは、
バタナを最も純粋で損なわれてい
ない状態で世界のヘアケア市場で
展開するために連携してきまし
た。また、この互いに有益な関係
によって、地域の生活が向上し、
自然保全活動への理解と協力も増
Ojon社とのパートナーシップ
は、バタナ・サプライチェーンに
おけるMOPAWIの長期にわたる成功
を確保するのに重要な役割を果た
しました。当初、パートナーシッ
プの形成は生産急増が必要なこと
を意味していましたが、MOPAWIはこ
の必要性に注意深く対応し、生産
増加が資源の劣化につながること
のないよう配慮し、コミュニティ
に持続可能な栽培技術を教え、ア
グロフォレストリー手法の導入を
支援することによって資源の劣化
を回避しました。加えて、需要が
伸びたことで、バタナ収穫・生産
が多くの地元住民の持続不可能な
生計を補う結果となりました。こ
のパートナーシップのもうひとつ
9
© Ojon Corporation 2009
Moskitia Pawisa Apiska (MOPAWI) (ホンジュラス)
の望ましい成果は、MOPAWIの環境
保全・開発目標に対してOjonがさ
らに支援を提供してくれたことで
す。Mosquitiaの自然・文化遺産の
保護を活発に提唱するほか、Ojon
社はその売り上げの1%をMOPAWIが
先導するプロジェクトに寄付しま
す。さらに、Miskitoコミュニティ
で採れるカカオやスワ油、アナト
ー(香辛料)など他の製品の購入
にも関心を寄せています。これら
は地域の持続可能な開発にさらに
有益なことです。
MOPAWIの先陣をきった成果は、国
内の他のNGOや政府にインスピレー
ションを与え、環境保全ツールと
してビジネスを開発するプロセス
と、民間セクターとの協力のモデ
ルは現在、同様のイニシアチブの
間でベンチマークとして利用され
ています。
より詳しい情報については以下を
参照してください。
ウェブサイト: www.mopawi.org,
www.ojon.com
問い合わせ:[email protected]
目的地:環境保全
IUCNオランダ委員会の観光と
生物多様性小額無償資金供与プログラムの経験
IUCNオランダ委員会
生態学&経済ユニット ユニット長
Marielies Schelhaas
生物多様性は観光開発の重要か
つ貴重な資源のひとつですが、こ
れは逆にも、つまり観光は生物多
様性保全支援に重要な役割を果た
すことができる、とも言えます。
生物多様性が脅威にさらされてい
る地域では、生物多様性と生態系
サービスに経済価値を付加する
ための方法を提供することによっ
て、観光は解決策の一部となる
ことができます。観光は入念に計
画された場合、入場料やコンセッ
ションなどを通じて環境保全のた
めの直接収入を生むほか、直接雇
用もしくは観光客向け、観光業者
に対する製品販売機会の提供によ
る間接雇用で地元関係者に代替収
入の機会を提供することができま
す。こうした利益はすべて環境保
全の強力なインセンティブです。
IUCNオランダ委員会の観光&生
物多様性小額無償資金供与基金の
背景にはこうした考えがありま
す。この基金の対象となる環境保
全NGOと中小企業(SME)は、環境
保全に貢献する観光プロジェクト
を始めるために必要な資金援助を
申請することができます。2004年
の基金設立からこれまでにおよそ
55件のプロジェクトを支援してき
ました。最大支援額は25,000ユー
ロで、新規プロジェクトの全コス
トをまかなうには通常不十分です
が、これはガイド訓練やバイクそ
の他器材の購入、販促材料の開発
などプロジェクトの成功に必要な
追加活動の支援を目的としている
ためです。
今日までのこのプログラムの経
験から2つの貴重な教訓が得られ
ています。
第一に、プロジェクトの成功に
は関係者すべての関与が不可欠で
あるということです。関与したす
10
べての人々の期待が現実的なもの
で、何らかの利益が実現するまで
に時間がかかることを踏まえてい
ることも必要です。ほとんどの場
合、観光は追加収入を創出します
が、特に初期段階はその額は大き
くありません。さらに、プロジェ
クト周辺のコミュニティ全体に利
益を分配し、情報を提供したり地
元住民の訓練を行うことも重要で
す。第二に、効果的なマーケティ
ングと市場アクセスもプロジェク
トの成功に関わります。環境保全
を目的とした観光プロジェクトで
は常にマーケティングに力が入れ
られているわけではなく、マー
ケティング計画や事業計画を立て
ずに始められる開発も多数ありま
す。しかし、観光プロジェクトの
第一段階は、提供する製品、プロ
ジェクト・サイトの利便性、対象
とする観光客(裕福な外国客、バ
ックパッカー、もしくは国内旅行
者)の判断と観光客がどのように
プロジェクトに到達するかを検討
し、観光の潜在力を評価すること
であるべきです。
興味深い点はNGOと観光ビジネ
スの(プロジェクト開発の初期段
階における)協力が付加価値を創
造することです。NGOは環境保全
の専門家として、企業はマーケテ
ィングと開発へのビジネス・アプ
ローチの確保という面で貢献でき
ます。
通常、観光は関与する地元住民
に追加収入を創出し、地域の生
物多様性保全の重要性の意識を創
造します。数は非常に限られます
が、一部のプロジェクトでは、開
発がコミュニティの多くの住民の
主要な収入源となり大きく成功す
る可能性があります。しかし、ど
のようなケースにおいても、環境
保全とビジネス両方の視点を忘れ
ずに観光をうまく管理することが
不可欠です。
より詳しい情報については以下を
参照してください。
問い合わせ: marielies.schelhaas@
iucn.nl
ウェブサイト: www.iucn.nl/fondsen/tourism_and_biodiversity_fund_1/
Ecoturismo Comunitario:
エコツーリズム業者の
ネットワーク
提供サービス
Sierra Nevada de Santa Marta (www.sierranevada-ecoturismo.com)
Sierra Nevada de Santa Martaはコロンビア北部のTayronaとSierra
Nevada de Santa Marta国立公園の緩衝地帯に位置します。この地域の
自然の美しさは、自然そのままのジャングルに囲まれたビーチや豊富
な種が生息する森林、そして考古学的な驚きに満ちています。ここで
はパーク・レンジャーとその家族が、伝統的なわらぶき屋根のヴィラを
利用してエコロッジを経営するコミュニティ組織を形成しています。
エコロッジのほか、伝統的な地元の食事、ガイド付き国立公園散策、
緩衝地帯の自然を誇る地域の散策、マウンテンバイクなどのスポーツ
といった多数のサービスを観光客に提供しています。
Fundación Natura (コロンビア)
Fundación Natura はコロンビアの生物多様性と天然資
源の保全と持続可能な利用に貢献するために設立されまし
た。この目標達成を支援するために、Naturaは生物多様性
を誇る地域のコミュニティ組織とともに、不法な作物生産
にかわるものとしてエコツーリズム企業の設立に努めてき
ました。
Ecoturismo Comunitarioは、コロ
ンビアの生物多様性を誇る地域でエ
コツーリズム体験を提供するコミュ
ニティ・エコツーリズム・ネットワ
ークです。現在、このネットワーク
はSierra Nevada de Santa Marta、Playa
Güío – Guaviare、Tierradentroそして
Tio Tigreの4つのコミュニティ企
業で構成されています。このネット
ワークはエコツーリズム開発に目的
地アプローチを採り、素朴なエコロ
ッジ、生物多様性に焦点を絞ったガ
イド付きツアー、マウンテンバイク
やカヌー遊びといった責任あるスポ
ーツなどのエコツーリズムを提供し
ます。また、文化的に価値の高いス
ポットの訪問や、地元の食事、手工
芸、地元の踊りと音楽などのさまざ
まな文化的経験も提供しています(
提供製品・サービスの詳細について
は囲みを参照のこと)。
この4つのコミュニティ・グル
ープはそれぞれ個別に宿泊や海上交
通、ハイキング、専門ガイドなど幅
広いエコツーリズム・サービスを提
供しています。コミュニティのさま
ざま人員が各サービスの提供と質を
管理し、コミュニティ・グループが
これらのサービスを観光客パッケー
ジとしてまとめ、商業的に販売しま
す。このモデルは農業や漁業、手工
芸などエコツーリズムのバリューチ
ェーンのなかのその他の経済活動も
サポートしています。
コミュニティ・エコツーリズム・
ネットワークの主な役割は、ネット
ワークを構成する4つのエコツーリ
ズム・ベンチャーそれぞれにマーケ
ティング面の支援を提供することで
す。実際、4社は同種の製品と同様
の基準をもっているのですが、それ
が功を奏して複数の目的地に観光客
を惹きつけています。さらに、この
ネットワークを通じて、コミュニテ
ィ間で経験や教訓の共有ができるよ
うになりました。近い将来にはコス
ト削減と効果改善につながる共通の
販促・販売構造も構築される予定で
す。
Fundación
Naturaは、近年の経
済・社会問題を起因とするコロンビ
アの自然遺産への脅威の増大に対応
するためにEcoturismo Comunitario
を設立しました。Naturaは4つの企
業の設計・設立とネットワーク構築
を支援し、訓練と技術・管理能力の
構築も行いました。 さらに、管理
者としての役割を担うかわりにアド
バイザーとして4つのコミュニティ
企業を支え続けています。
Naturaがこの4コミュニティを選
んで活動を始めたのは、これらの地
域が生物多様性に富んでいる地域で
あるとともに、持続可能ではない利
用による生物多様性の劣化が生じて
いたためです。Fundacion
Natura
がこのプロジェクトの標的にした
ひとつの問題はプロジェクト地域
周辺での不法作物栽培です。コカ
とケシの不法作物栽培は、こうした
11
Playa Güío – Guaviare (www.guaviare-ecoturismo.com)
San Jose del Guaviare周辺はたくさんの観光客の注目を集めてはい
ませんが、その優れた自然美、珍しい地層構造、豊かな動植物は十分
に訪問に値します。この地域の散策にうってつけの宿泊設備は、Playa
Güíoエコツーリズム組合が経営するGuaviare川土手のエコロッジです。
このコミュニティ組織は地域情報を提供する観光客センターも運営
するほか、ガイド付き観光スポットツアーやハイキング、カヌーツア
ー、地元の食事などの文化的アクティビティなどを提供します。
Tierradentro (www.tierradentro-ecoturismo.com)
Tierradentroは豊かな自然遺産と文化遺産を誇る地域です。3つ
の異なる山脈が収束するコロンビア山地に位置し、生物多様性に秀
でています。また、Tierradentroは古代のアンデス社会を証明する
考古学上の遺跡が豊富なことから文化的な世界遺産の地でもありま
す。Tierradentroコミュニティはこの価値の高い地域のエコツーリズム
とエスノツーリズムの管理・宣伝を担うコミュニティ組織を形成しま
した。素朴なエコロッジや、重要な文化・自然スポットのガイド付き
ツアー、地元レストラン、手工芸などの幅広い製品やNasa民族の伝統を
共有する機会も提供しています。
Tio Tigre (www.tiotigre-ecoturismo.com)
Tio Tigre Associationは、コロンビアの太平洋岸に位置する
Ensenada de Utria国立公園内とその周辺地域のエコツーリズムを管理
するアフリカ系コロンビア人コミュニティ組織です。海と沿岸を保護
しているこの公園は多様性が非常に富んでいて、サンゴ礁、マングロ
ーブ林、入江や熱帯雨林などさまざまな生態系を誇っています。Tio
Tigreは観光客のニーズにあわせて、いろいろな宿泊オプションを用意
しています。またボートや徒歩での散策、民族音楽と踊りを楽しみな
がら地元のご馳走を食べる夜の集いなど、地域の自然・文化遺産を満
喫するアクティビティも運営しています。
作物を植えるために森林伐採や生育
のために生物多様性に有害な物質を
散布する必要があることから、生物
多様性にとって脅威となります。ま
た、不法作物は治安の悪化と暴力の
増加など社会に悪影響ももたらしま
す。Ecoturismo Comunitarioプロジ
ェクトは、プロジェクトに関与した
コミュニティにおける不法な作物生
産の根絶と、家計収入の増加を助け
る生産活動、生活の持続可能性の促
進に向けた運動を実現しました。
© Fundación Natura Colombia 2009
より詳しい情報については以下を参
照してください。
ウェブサイト: www.natura.org.co or
www.ecoturismocomunitario.org
問い合わせ:
[email protected]
12
Himalayan Biotrade:
自然に配慮した森林製品
Asia Network for Sustainable Agriculture and
Bioresources (ANSAB) (ネパール)
Asia
Network for Sustainable Agriculture and
Bioresources (ANSAB)はコミュニティを基盤とする企業を
志向した解決策を通じて生物多様性保全と経済発展に取り
組んでいます。ANSABはネパールの地域コミュニティ企業
が生産した非木材林産品(NTFP)を国際市場に販売するため
にHimalayan BioTradeを設立しました。
報の詳細については囲みを参照の
こと)。
Himalayan
BioTradeは、国際市
場に参入するために、持続可能性
に貢献し持続可能な方法で調達
した自然製品により高い対価を払
う意志のある多国籍企業のサプラ
イチェーンに焦点を絞った結果、
これまでAveda、S & D Aromaや
Altromercatoといった環境社会責
任原則を掲げる企業とビジネスを
行ってきました。この3社は市場
競争力を持ちつつも自然成分の独
自の特性を維持する製品の開発に
HBTLと共同で取り組むと同時に、
地元のコミュニティ企業に事業に
関する専門知識を提供しました。
Himalayan
BioTradeはネパール
の森林地域の地元コミュニティの
持続可能な開発促進を目標とし
て、Asia Network for Sustainable
© ANSAB 2009
Himalayan
BioTrade
Private
Limited(HBTL)は、ネパールのヒマ
ラヤ地域とヒマラヤ横断地域の8
つのコミュニティを基盤とする企
業の共同事業体で、国内外へ向け
たコミュニティの製品販売を促進
しています。HBTLは有機認証と森
林管理協議会(FSC)認証、もし
くはそのどちらかを持つ、自然で
持続可能な方法で調達した非木材
林産品(NTFP)を専門としていま
す。HBTLが販売する主な非木材林
産品は、エッセンシャル・オイル、
手製の紙、ネパールの薬用・芳香
植物です。このような製品は地元
市場から世界市場までさまざまな
市場に運ばれます。国際市場で最
も高い需要を誇るのは、高品質で
独自の特性を持つエッセンシャル・
オイルと手づくりの紙です。これ
らの製品は、美容製品の原料や珍
しいギフトとして、特に化粧品産
業から求められています(製品情
Agriculture
and
Bioresources
(ANSAB)によって設立されまし
た。HBTLはANSABの非木材林産品
バリューチェーン構築事業の一部
で、地元コミュニティ企業と国内
外市場を結びつけるリンクとして
設計されました。ANSABは、HBTLを
構成する地元コミュニティ企業を
開発するために地元レベルでも活
動を行いました。非木材林産品分
野の開発に総体的なアプローチを
適用した結果、ANSABは地元コミュ
13
ニティ強化とネパールにおける森
林保全促進に成功しました。
ANSABは1994年からネパールの
森林地域のコミュニティと協力し
ています。このネットワークの最
終目標は非木材林産品企業の統合
と森林保全グループの開発で、こ
れは地元コミュニティによる資源
基盤の枯渇につながる生計手段の
追求を防ぐ必要性と、森林保全
へのコミュニティによる理解と協
力の促進そして究極的にはコミュ
ニティによる森林所有、この両側
面を考慮した全く新しいアプロー
チでした。このアプローチのもと
では、地元コミュニティは自分た
ちが順番に収穫し、販売する資
源を保護・監視する責任を与えら
れます。統合的なコミュニティに
よる環境保全と企業グループの創
造に加え、非木材林産品の持続可
能な収穫を実行する地元コミュニ
ティへの追加インセンティブとし
て、ANSABは次にバリューチェー
主な製品
手づくりの紙
ネパールでは伝統的にLokta低木の2種(Daphne bholuaとDaphne
papyracea)の内側の樹皮を高品質紙生産に利用してきました。この紙
は耐久性に非常に優れ魅力的で、現在でも国内外に高い需要がありま
す。Loktaの内皮から作られた紙は書籍や便箋、カード、ノート、包装紙
用に利用されます。HBTLとAvedaがLoktaの手製の紙を使ったAvedaギフト
セットを作るためにパートナーシップを結んだことで、この伝統産業へ
の注目が集まると同時に、近年まで過度に収穫されていた低木の持続可
能な収穫の必要性の認識が高まりました。また、このパートナーシップ
によってネパールの地方地域のおよそ30,000人が雇用を獲得し、生活が
大きく向上しました。
エッセンシャル・オイル
ネパールの森林地域のコミュニティで持続可能な方法で収穫された多
数のエッセンシャル・オイルは、HBTLを通じて国際市場に提供されます。
こうしたエッセンシャル・オイルはその独自の特性から化粧品産業の需要
を集めています。さらに、持続可能な方法で収穫されていること、そし
てオイルを抽出する森林の大部分がFSC認証と有機認証、もしくはそのど
ちらかを有しているために、高品質で真に天然の原料を求める企業の隙
間市場に食い込むことができました。現在、HBTLはAveda、S & D Aromas
とAltromercatoにエッセンシャル・オイルを供給しています。
ンに焦点を当て、コミュニティ企
業を互いに結び付け、国際市場で
の競争力とより大きな収益の獲得
が可能になりました。この結びつ
きを達成するために創出されたも
のがHBTLです。ANSABの森林保全と
企業開発の統合モデルは地域の生
活向上に貢献しながら、ヒマラヤ
山脈の非常に多様な森林を保護す
る素晴らしい方法として証明され
ています。事業開始から、80,000
ヘクタール以上の森林と放牧地が
コミュニティ森林によってより望
ましく管理されるようになりまし
た。一方、企業創出は15,000世帯
以上に利益をもたらしています。
さらに、この事業を通じてANSAB
は持続可能な森林管理と責任ある
事業活動を促進するひとつのツー
ルとして、森林認証を導入しまし
た。これまでにコミュニティ森林
14,000ヘクタールが森林管理協議
会(FSC)の認証を得ているほか、
ネパール人手づくりの紙はFSC認
証、9つのエッセンシャル・オイ
ルはFSC認証と有機認証を得ていま
す。またANSABの非木材林産品分野
における調整・促進事業は、ネパ
ール国がFSC認証を国の目標とする
ことを後押しし、有効な非木材林
産品政策の開発を促進しました。
より詳しい情報については以下を
参照してください。
ウェブサイト:www.ansab.org
問い合わせ: [email protected]
14
サプライチェーンを通じた専門ビジ
ネスの関与:観光業の経験
リーズ・メトロポリタン大学
International Centre for Responsible Tourism
Co-Director, Harold Goodwin,
観光は良い収益源となり得ます
が、いまだに環境保全団体の間に
は、観光を社会・環境面に大きな
悪影響を及ぼすとみなし、それに
従事することをためらう姿勢がし
ばしば見られます。特に保護地域
では、観光そして観光客が問題や
悪影響を及ぼすと多くの人が思っ
ています。しかし、観光産業の専
門家は、環境保全を目指した事業
を行う企業にとって貴重な情報源
となります。
多くの人が観光産業について書
いたり考えたりしますが、少なく
とも一晩家を離れて旅をする人々
にサービスを提供する一連のセ
クターだという捉え方が最も無難
なものです。観光客は目的地まで
の移動手段、目的地の中の移動手
段、宿泊、食物・飲物、そしてア
トラクションやガイドが提供す
る経験、工芸品・おみやげ店、保
護地域、文化スポット、そして目
的地の公共スペースを必要としま
す。ツアー業者と代理店は市場と
目的地を検討し、こうした旅の要
素をパッケージにして売ります。
こうした旅の各要素となる各セク
ターから環境保全のための収益と
雇用を創出する販売機会が生まれ
ます。さらに観光客とのコミュニ
ケーションを通じて、観光客に保
護地域を目的地として売り込み、
保全の利益になる行動を促進する
機会も創出されます。
保護地域管理者の視点からみる
と、保護地域または近隣のコミュ
ニティを訪れる人の影響は彼らの
行動の結果であり、どの程度どこ
で消費したか、それらの環境・社
会面での影響の性質に左右される
ものです。日帰りの訪問客であれ
滞在客であれ、その影響は良いも
のを促進し、悪いものを減少する
よう管理されなければなりませ
ん。多くの人が、観光客の中でも
レベルが高いオプションとしてエ
コツーリストをとらえ、自らエコ
ツーリストになることを選ぶと明
言していますが、多くの自称エコ
ツーリストが保護地域を訪れる観
光客の大多数と同じ飛行機、地上
交通手段と宿泊設備を利用してい
るので、保護地域の中や周辺で実
際にエコツーリストを見分けるの
はとても困難です。
観光業界の専門家は、環境保全
目的でビジネスを発展させようと
している人々に助言や指導、パー
トナーシップを通じて、そして市
場アクセスと流通チャンネルを提
供して貴重な支援を提供すること
ができます。また、環境保全志向
ビジネスに観光客を惹きつけて売
上と成長を促進する製品開発の支
援もできます。このプロセスが成
功するためには、早い段階での準
備と継続が必要であるとともに、
製品は競争的ではなく、むしろ補
完的なものでなければいけませ
ん。
•宿泊提供者は情報を提供し、地
元の工芸品や食品・飲料を購入
することができます。そして、
商品の質と価格が許容範囲内で
あること、そして量が十分で供
給が安定していることを確認す
るために開発プロセスに参画す
べきです。
•ツアー業者とガイドは市場や製
品設計、保健安全の最低基準の
遵守について貴重なアドバイス
を提供することができます。さ
らに流通チャンネルも提供する
ことができます。
15
•観光アトラクションは訪問者と
コミュニケーションする機会を
相互に提供し、クロス・マーケ
ティングすることができます。
•工芸品店とお土産店は小売の場
を提供します。また消費者にワ
シントン条約のもとで買うべき
ではないものについて教育する
機会や、適切であれば持続可能
な製品の売買を促す認証を提供
する機会も提供できます。
観光から利益を得ようとするな
ら、自然環境保全に携わる方々は
産業と協力する必要があります。
産業界の専門家が持つ専門知識を
利用しましょう。
より詳しい情報については以下を
参照してください。
問い合わせ: harold@haroldgoodwin.
info
ウェブサイト: www.icrtourism.org
Editorial Salva NATURA:
自然のための出版事業
成するために、印刷物、音声、動
画、そしてマルチメディアなどさま
ざまなコミュニケーション手段が利
用されます。
SalvaNATURA (エルサルバドル)
SalvaNATURA は、エル
サルバドルにおける自然保
全に寄与し、持続可能な発
展を促すことを目的として
設立されました。その保全
事業の支援と国内の豊かな
動植物に関する意識向上の
ために、SalvaNATURAはそ
の組織内に出版部門として
Editorial SalvaNATURAを設
立し、自然をベースとする
印刷物の出版事業を始めま
した。
Editorial SalvaNATURAは、中米
の生物多様性と生態系に焦点を絞
り、興味深く思慮に富み、装丁も豪
華な教育向けのプロダクツを製作・
出版しています。Editorialの製品
は、自然界に関する地域の誇りと興
味を奨励するよう企画され、科学的
根拠のある地域生態系に関する情報
へのニーズにも対応します。加え
て、Editorial SalvaNATURAは組織
間の情報共有を促進するとともに中
米の生物多様性の意識と理解に貢献
し、地域の天然資源の発見、受容、
管理責任への情熱を触発することを
目指しています。こうした目標を達
16
Editorial SalvaNATURAは、エル
サルバドルの環境NGOのSalvaNATURA
が設立しました。1990年の設立以
降、SalvaNATURA は科学技術資料、
環境教育製品、宣伝カレンダーを製
作してきました。これらのプロダ
クツは、環境保全関係者そして一
般市民の双方から高く認められてい
ます。こうしたプロダクツの認知度
と生物多様性に関する関心の高まり
から、SalvaNATURAはその出版事業
をビジネスとして追及することを決
断しました。こうして設立された
Editorial SalvaNATURAの主な目標
は、国内の生物多様性に関する知識
と意識の成長に貢献すると同時に保
全資金を確保することです。
SalvaNATURAは、官民両セクター
からの生物多様性に関する特定の
出版物の大量注文に加えて、イラス
トやカレンダーなど科学色が弱い出
版物の注文も受けています。また
個人向けに製品を販売するためのオ
ンライン・カタログも現在開発し
ています。これまでに制作した科
学・環境出版物は、生物多様性保
全カレンダーやエルサルバドルの鳥
のCD-MP4など多数あります。2009年
には、The Red List of the Birds
of El Salvador(エルサルバドル
の鳥類レッドリスト)、Plight of
the
Plover(苦境に立つチドリ)
、Children’s Collection of the
Birds of El Salvador(子供のた
めのエルサルバドルの鳥コレクショ
ン)、そして沿岸地域、日陰栽培コ
ーヒー、鳥の多様性を取り上げた
2010年カレンダーなど多数の科学的
出版物を製作しています。
Editorial SalvaNATURAは、エル
サルバドルの生物多様性と天然資源
に関する意識の向上と知識の増大に
貢献してきました。加えて、さまざ
まな利用者を対象とする幅広い製品
を生み出すことで、科学的知識をす
べての人々にとって身近なものにし
ました。Editorialの基本目標のひ
とつはSalvaNATURAの事業の一部を
資金支援することです。比較的歴史
が浅いという事実にもかかわらず、
この目標においても他の複数のプロ
ジェクト資金の創出に成功していま
す。出版物や子供向け製品のイラス
トの製作者として芸術家を雇用する
ことで、エルサルバドルの地方地域
のコミュニティの生活にも利益を生
み出しています。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト: www.salvanatura.org
問い合わせ:comunicaciones@
salvanatura.org
生物多様性を基盤とする零細企業
開発を通じた地元コミュニティの
利益の創出
Holcim Ltd. CSRマネージャー Stefanie Koch
1912年にスイスで創設された
Holcim社はセメントと骨材(粉砕
石、砂と砂利)、生コンクリー
トとアスファルトおよび関連サ
ービスの世界有数サプライヤーで
す。Holcimのビジョンと使命にお
いて持続可能な開発は重要な要素
であり、我が社だけではなく関係
者の利益のためにもその価値の創
造を目指しています。
こうした認識のもとに、長年
にわたって「トリプルボトムライ
ン:価値の創造、持続可能な環境
行動、社会的責任」という考え方
が我々の事業戦略と管理システム
で重要な位置を占めてきました。
我々の事業の資源集約という性
質上、生物多様性保全が長期的な
資源・貯留地確保戦略に大きな役
割を果たすという信念を我々は持
っています。この信念から、尊敬
されている組織であるIUCNの協力
で、我々の生物多様性フットプリ
ントの評価と削減に関する助言を
得ています。また、我が社は辺境
地や貧困地域を含む70カ国を超え
る国で事業を展開しており、この
経験は継続的かつ効果的な関係者
対話や社会経済評価・需要評価、
教育、コミュニティ開発、インフ
ラの分野におけるコミュニティ関
係者との密接で活発な連携開発と
実施に基づくコミュニティ・エン
ゲージメント戦略の開発と実施に
役立ちます。こうしたプロジェク
トでは、さまざまな関係者グルー
プの生活の質を効率よく向上する
ことを目指します。
ホスト・コミュニティによる評
価とコミュニティ助言パネルの成
果評価は、収入創出の機会を明確
にするとともに、関係者にとって
生物多様性保全が最優先事項とな
ることを明らかにしました。多く
の国で得られたこうした経験と学
びをもとに、生物多様性とコミュ
ニティ参画の課題の統合化を試
み、生物多様性を基盤とする零細
企業創出戦略をIUCNとの戦略提携
の一環として作成しました。
生物多様性を基盤とする零細
企業は、生物多様性を保全しなが
ら、個人やコミュニティを貧困か
ら脱出させる可能性を秘めていま
す。こうした企業の主な特徴は、
収入を獲得しながら、その中核事
業を生物多様性に依存する、もし
くはその活動を通じて生物多様性
保全に貢献することです。主な関
係者と事業所有者は、状況分析、
戦略と事業計画開発、バリューチ
ェーンへの統合、そしてモニタリ
17
ングと評価の過程に参画した地元
の起業家たちです。
HolcimとIUCNはこのプロセス自
体を促進・支援します。生物多様
性を基盤とする零細企業開発プロ
ジェクトは、企業関係者に加えて
コミュニティに明確で測定可能な
利益をもたらす優良なプロジェク
トの実施と、生物多様性と天然資
源管理に関する専門知識と事業関
連知識の交換と移転、そして地元
コミュニティにおける生活の質の
大幅な向上の達成の機会となりま
す。
ベトナムでは、Kien Giang省の
クメール少数民族がメコン川デル
タのレピロニア草原生態系の最後
の名残であるレピロニア織物製品
の生産・販売に関する能力訓練を
受けました。こうした製品の販売
は起業家の生活を大幅に改善した
だけではなく、レピロニアの持続
可能な利用と天然資源のコミュニ
ティベース管理を促しました。我
々のみならずこうしたタイプのコ
ミュニティ・プロジェクトを行う
他の多国籍企業にとって、バリュ
ーチェーンとサプライチェーンに
沿った斬新なビジネスの確立、新
規事業案と利益の流れの明確化、
そして最終的にはトリプルボトム
ラインを横断する価値の付加が
その利益となります。我が社の場
合、セメント窯で代替燃料として
使えるもみ殻や他の廃棄製品の利
用をはじめとする持続可能な建設
や廃棄物管理に関連するものが潜
在的事業です。
生物多様性を基盤とする零細企
業開発は、特に今般の世界的な経
済不況下においては、多くの課題
がありますが、それ以上に環境・
社会責任を達成しようとする我が
社の競争上の優位を高める機会が
あると信じています。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
問い合わせ: stefanie.koch@holcim.
com
ウェブサイト: www.holcim.com
尊敬をもった資源の獲得に向けて:
倫理的な資源獲得活動を促進する
ための民間産業への働きかけ
Union for Ethical BioTrade エグゼクティブ・ディレクター
Rik Kutsch Lojenga
的なバイオトレードを行っていない
ブランドの化粧品とパーソナル・ケ
ア商品は今後買わないと回答しまし
た。
今日、消費者の「グリーン」商品
への需要はますます高まっていま
す。そして調査報告や市場報告、バ
イヤー調査が示すとおり、倫理的で
持続可能な商品需要は一時的な市場
の気まぐれではなく、今後も継続す
る成長トレンドであることは疑う余
地がありません。
この拡大する関心と、特に化粧
品セクターにおける生物多様性の
課題に対する意識を把握するため
に、Union for Ethical BioTradeは
2009年に調査を行い、4,000人から
回答を得ました(Ethical BioTrade
Barometer、2009年)。回答者の85
%は化粧品業界における資源調達活
動についてもっと知りたいとし、79
%が環境に配慮した資源調達や倫理
ま た、同 調査 では回 答者の 79 %
が、独立機関から生物多様性の倫理
的資源調達の認証を受けた化粧品企
業、パーソナル・ケア企業により
高い信頼を置くとしました。ここが
Union for Ethical BioTradeの存在
意義のあるところです。Union for
Ethical BioTradeは非営利会員ベー
スの協会で、地域の生物多様性を構
成する動植物からの「尊敬をもった
資源調達」と、資源を調達する地域
に自生する原料の持続可能な利用の
促進を目的としています。関連の民
間産業を巻き込むことで、Union for
Ethical BioTradeは小規模生産者を
含むサプライチェーン構成者が公正
な対価を受け取り、最終製品の販売
から得られる利益の公正な分配を受
けることを確保しながら、生物多様
性保全の促進に励みます。倫理的な
生物多様性資源調達は、生物多様性
に関する国の権利を認識し、地元コ
ミュニティ・先住コミュニティの伝
統知識に関する権利を尊重するもの
です。
しかし、Union for Ethical
BioTradeはサプライチェーンを通じ
た健全な生物多様性行動の実施が小
規模企業にとって課題となる可能性
も認めています。市場への参入や倫
理的行動に対する認識を得るのも難
しいかもしれません。こうしたこと
がUnion for Ethical BioTradeが創
出された理由です。同様の志を持つ
企業のグループ化によって時間の経
過と共に供給プールと倫理的行動の
需要が形成される一方で、検証シス
テムが倫理的に調達された製品の市
場での効率的な差別化を可能にし、
支援策が実施促進をサポートしま
す。
このような形の支援策のひとつで
Union for Ethical BioTradeの使命
を補完するのが、Ethical BioTrade
コミュニティ・プログラムです。近
年発足したこのプログラムは、倫理
的な生物多様性資源調達へ地元・先
住民コミュニティがより深く関与す
ることを促すことを目的としていま
す。倫理的バイオトレード原則を効
果的に実施すれば、地元の収入の創
出が促され、これらコミュニティか
ら調達された生物多様性原料の持続
可能な利用が確保されます。本プロ
18
グラムは、現地機関での取り組みを
通じて、インフラ上の制限や原料の
持続可能な管理に関する情報の欠如
などコミュニティ・レベルで直面す
ることが多い問題に対応します。
プログラムはEthical BioTradeコ
ミュニティ給付金の給付を通じて実
施されます。この給付金は中小企業
を対象とし、倫理的なバイオトレー
ド行動の設計と実施に関するコスト
をまかなうために給付されます。対
象となる活動には利用する種とその
生態系の持続可能性の側面に焦点を
おいた科学調査、コミュニティ協議
プロセス、コミュニティ・レベルで
の知識開発、モニタリング・システ
ムおよび評価システムの設立などが
含まれます。
本イニシアチブやその他イニシア
チブを通じて、Union for Ethical
BioTradeは、地域の生物多様性に由
来する原料の「尊敬を持った資源調
達」を促進するよう企業に働きかけ
ています。市場は明らかにこのトレ
ンドを歓迎する構えですし、消費者
意識も高まっています。しかし産業
がこの市場で本当に生き残り、成長
する需要を十分に利用するには、支
援と独立認証が必要です。Union for
Ethical BioTradeは、まさにこうし
た点における貢献を模索しているの
です。
より詳しい情報は以下をご参照くだ
さい。
問い合わせ: [email protected]
ウェブサイト: www.ethicalbiotrade.org
持続可能なラタン産業の確立
WWF 大メコン地域(ラオス、カンボジア、ベトナム) 課題の双方が解決しました。
保全の重要な鍵となる可能性を秘めています。WWFとIKEA
は、コミュニティの福祉も向上する持続可能なラタン生産
と商業化のモデルを開発し、この目標達成に向けてパート
ナーシップを組んでいます。
持続可能性の面については、森
林と森林資源管理、さらに持続可
能な野生ラタン収穫技術の適用に
ついて地元住民の能力を構築しま
した。ラオスのBolikhanxay省で
は、地元コミュニティが管理する
初のラタン森林の設立に成功し、
現在は、ラオス、カンボジアそし
てベトナムの100コミュニティで
この管理体系を複製するプロセス
が始まっています。また、WWFは野
生ラタンへの依存を軽減するため
にラタン苗床の設立も支援しまし
た。ラオスではこうした植林から
生産される食品用のラタンの芽か
ら年間1ヘクタール当たり500米ド
ルが生み出されます。手工芸用ラ
タンの植林の試験実施も始まって
います。
ヤシ科の一族に分類され、600を
超える種を持ち、全世界で13の属
が発見されているラタンは大メコ
ン地域の森林全域で見られる貴重
な非木材林産品(NTFP)です。そ
の枝は食品や簡易住居、家具の材
料などさまざまな目的で利用され
ています。ラオス、カンボジアそ
してベトナムの村落はラタン取引
に大きく依存しており、その売上
は農村地域の現金収入の50%まで占
めています。ラタン取引はまた、
この地域の国々にとって外貨獲得
の重要な手段のひとつとなってい
ます。しかし、大メコン流域で加
工されるラタンの90%が天然林に
由来しており、その天然林は持続
不可能な速さで蝕まれつつありま
す。
WWF-IKEA持続可能なラタン収穫・
生産プログラムは2006年に、大メ
コン地域のコミュニティ、政府そ
して産業に森林保全の経済的理由
を与える持続可能なラタン産業創
出を目指して発足しました。この
サプライチェーンへの働きかけが
決まった背景には、WWFと政府に
よるこの地域のラタン産業の共同
評価とIKEAからの要請がありまし
た。IKEAはスウェーデンの家具・
ホーム製品の小売業者で、この地
域から大量のラタンを調達してお
り、資源基盤の継続を確保したい
と願っていました。このプログラ
ムは村落の生産グループから販売
者と加工者、そして最終的には買
い手までサプライチェーンのさま
ざまな段階で機能するような方法
で設計されています。また、持続
可能性の問題に経済利点のある解
決策を見つけ、全関係者により収
益を創出するよう努める企業的ア
プローチを環境保全に対してとっ
ています。
村落レベルでは、WWFは地域の主
要なラタン生産者であるカンボジ
アとラオスの6つの村におけるパ
イロット・プロジェクトの設立から
始めました。地元コミュニティに
「村落生産グループ」もしくは「
村落企業」を創出し、持続可能で
より商業性の高い方法でラタンを
収穫・生産・販売するために地元
コミュニティと協力しました。こ
うしたWWFの村落レベルの作業によ
って持続可能性の課題と商業性の
商業的な視点からみると、WWFは
ラタンの収穫・生産・販売のため
にコミュニティ住民を企業に参加
させるビジネス体系を構築しまし
た。さらに、より多くの収益につ
ながる生産の質向上のためにコミ
ュニティ住民を対象とした能力開
発も行いました。利益分配に関し
ては、これらの企業はラタン売上
の70%を開発事業(学校と保健)の
ための村落基金に入れ、残りの30%
はグループを構成する個人に分配
されます。
次のステップとしてWWFは、よ
19
り公正な価格でよりクリーンで持
続可能なラタンの需要を促すため
に地域や国内外のバイヤーと連携
しました。WWFは原材料を買い、加
工により付加価値をつけ、地域の
バイヤーやIKEAのような国際的な
バイヤーと製品を結びつける中間
業者、またはラタン加工業者と販
売業者に働きかけました。中でも
IKEAのラタン供給業者と協力しコ
ミュニティ企業に結びつけたのは
大きな功績です。こうした関係者
と共にサプライチェーンにおける
資源の利用改善と原材料ロスの削
減を目指して効率性の課題につい
ても取り組んでいます。
このアプローチを通じて、WWFは
ラタンが生息する森林生態系の保
全に対する地元コミュニティへの
インセンティブが整備されること
を確信しています。WWFはこの成果
を大メコン地域全域の村落で複製
していく予定で、2010年までにカ
ンボジア、ラオス、ベトナムの100
のコミュニティが持続可能なラタ
ン生産を行うことを中期的目標と
しています。長期的には、このサ
プライチェーン全体を対象とする
環境保全アプローチを通じて、WWF
とIKEA、そして欧州委員会はこの
地域の森林50,000ヘクタールを維
持するための金銭的インセンティ
ブを提供することができる持続可
能なラタン産業の確立を目指して
います。
WWF 2008 © Delphine Joseph
ラタン産業は、大メコン地域における農村開発と森林
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト: www.panda.org/
greatermekong
問い合わせ: thibault.ledecq@
wwfgreatermekong.org
ケープ植物区界の野生の花々
Flower Valley Conservation Trust (南アフリカ)
Flower Valley Conservation Trustは、独特で生物多様
性に富むケープ植物区界の管理と、小売業者への花販売に
対する持続可能な収穫の確保に取り組んでいます。
© Kristy Faccer 2009
Flower Valley Conservation
Trustは1999年に、小売花市場向
けのフィンボスの花製品の持続可
能な利用の調査と促進を目的とし
て、Fauna and Flora International
(FFI)とのプロジェクトを通じて設
立されました。それまでは持続可能
ではない方法で管理されていたた
め、Flower Valleyはこの産業で行
われている収穫・管理行動の改善と
持続可能な販売手段の特定に取り組
みました。
野生の花々の収穫は過去数十年に
わたって南アフリカの西ケープ地域
の伝統的生活の一部であり、雇用創
出源でもありました。しかし、この
期間、フィンボスの持続可能性は収
穫業者による商業価値の高い種の組
織的な刈り取りと土地の農地転換に
よって悪影響をうけてきました。ケ
ープ植物区界は世界の6つの植物区
界の中で最小でありながら最も豊か
で、単位面積当たりの生物多様性は
世界でもトップクラスです。世界の
花産業で流通される多くの花がケー
プ植物区界を由来とし、ケープ植物
区界は世界的に売買される有名なキ
ング・プロテアをはじめさまざまな
野生のまたは栽培花卉品種の貴重な
産出地です。
20
産業を変革するにあたってFlower
Valleyの役割は、フィンボス生態系
と種の生態的要件の理解を深めるこ
とから始まりました。地域の利用可
能な自然資本による利益を最大化し
ながらビジネスリスクを軽減するた
めに、この分野を専門とする科学者
の努力で商業用品種の持続可能な収
穫レベルと方法が定義されました。
こうした基準は、産業内での幅広い
適用に適切であるか確認するために
土地所有者と収穫業者が議論・試験
を行いました。この成果は採用後さ
らに発展し、Flower Valleyによる
行動基準の形成とこの基準に基づく
地域規制管轄機関(Cape Nature)
の許可システムの構築が実現しまし
た。
キング・プロテアやその他のフ
ィンボスの花はたくましく、外見
も独特で、長期間もつフラワー・
アレンジメントに適しています。
こうしたことから、これらの花は
Marks & Spencerなどヨーロッパの
小売業者向けの優れた輸出製品とな
ります。Marks & SpencerはFlower
Valleyと協力し、野生の花のブーケ
の英国からの需要に対する供給もサ
ポートしています。Flower Valley
が認定するサプライヤーはPick‘n
Payなどの南アフリカの小売業者に
も製品を供給しています。Pick‘n
Payは全国規模の小売業者で、Marks
& Spencerのように持続可能な供給
の確保と産業発展支援に関心を持つ
企業です。
この成果に関連するのが、Flower
Valley による持続可能な収穫がま
だあまり良く知られていない市場に
おいて、持続可能な方法で収穫され
たフィンボスの花のビジネス事例を
構築するための投資です。投資を行
うにあたり、監査システムと独自ブ
ランドの開発、そして持続可能なフ
ィンボスのマーケティング戦略につ
いてサプライチェーンとの更なる連
携が必要でした。このアプローチの
一環として、Flower Valleyは持続
可能なフィンボスのための認証制度
としての適性を探るために各種認証
制度に関する調査を実施しました。
現在彼らは、より望ましい市場アク
セスを提供し、持続可能な生産者に
利益を還元しつつ、既存の成果の上
に積み上げることができる能力に関
して、さまざま制度を調べている段
階です。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト: www.flowervalley.org.za
問い合わせ: [email protected]
Biyotematur:
自然ツアーの専門家
TEMA Foundation (トルコ)
Biyotematurは、トルコをベー
スとし、自然を愛する人のために
独自のエクスカーションを提供す
るエコツアー専門業者です。顧客
個人のニーズに合わせて調整でき
るツアーのほか、毎年さまざまな
団体エクスカーションを実施して
います。この企業が注目するのは
トルコの動植物と国内に存在する
さまざまな生物多様性です。オー
ク・ツアー、植物ツアー、自生樹
木ツアー、バードウォッチングツ
アー、ハチ・サファリなどのツア
ーの多くが2週間程度で、すべて
の交通、宿泊、食事を含みます。
団体のニーズに応じて標準エクス
カーションを調整したり、文化的
アクティビティを増減させること
もできます。Biyotematurが地元コ
ミュニティと協力して持続可能な
観光客インフラの開発に努めてき
た主要事業地域はグルジア国境近
くのMacahel地域です。
Biyotematurは2000年に、TEMA
Foundationのトルコにおける環境
保全と持続可能な開発を促進する
という使命を支援するために同基
金によって設立されました。TEMA
はトルコで最も早い成長を遂げ
ている環境NGOです。Biyotematur
は、TEMAの環境保全事業に多額の
資金を提供することでこの使命に
貢献しているほか、トルコの自然
遺産に関する公共の意識の向上に
も役立ってきました。さらに地方
や辺境地域に観光客をもたらし、
地域の持続可能な経済発展にも貢
献してきました。例えば、Macahel
地域では、観光が開発されたこと
で村民が運営する観光関連の小
企業が多数創出されました。TEMA
は、若者が雇用を求めて大きな都
市に移住する必要がないように、
こうした観光関連企業で働ける
ように村の若年層を訓練しまし
た。Biyotematurはまたトルコの辺
境地の一部において伝統産業の復
活を支援しました。
自然をベースとするエクスカ
ーションを提供し、Biyotematur
はトルコで有力なエコツーリズ
ム事業者となり、独創的で斬新
な製品で隙間市場に参入し、創
立以降目覚しい成長を遂げまし
た。この継続的な成長を基盤に、
エクスカーション運営の質を保
つ必要を認識したうえで、TEMAは
近年、Biyotematurの経営をトル
コで事業を展開する観光専門企
業SognoTourに譲渡しました。譲
渡の条件のひとつとして、TEMAと
SognoTourはBiyotematurがトルコの
生物多様性と地元コミュニティの
双方に利益をもたらす方法で今後
も事業を展開していくことで合意
しました。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト: www.biyotematur.com
問い合わせ: biyotematur@biyotematur.
com
© TEMA
トルコのTEMA Foundationの主な目標は、自然生息地と生
物多様性の保護への貢献、環境保全に関する公共意識の向
上、そして森林生態系への社会の関心の改善です。この目
標を達成するため、TEMAは自然に配慮したエクスカーショ
ンを専門とするエコツアー業者Biyotematurを設立しまし
た。
21
魅力にあふれるコスタリカ島はエ
クアドル南部のジャンベリ群島に位
置しています。この地域はエクアド
ルに残るマングローブ林が集中して
います。マングローブ林はさまざま
な海洋鳥類をはじめとする固有種の
重要な生息地です。マングローブ林
特有の小川や水路、非常に多様な動
植物相、マングローブ生態系とその
サービスに関する先祖の知恵に溢れ
た豊かな地元の文化などがこの地域
の魅力です。コスタリカ島には平和
な白い砂浜も点在します。こうした
特長にフレンドリーで快く迎えてく
れる地元住民が加わってコスタリカ
島はエコツーリズムの理想の目的地
となりました。
コスタリカ島で
地元住民になる
Fundación Ecológica Arcoiris (エクアドル)
2000年以降、Fundación Ecológica Arcoirisはエクアドル
南部のマングローブの生態系保全の取り組みを先導してき
ました。その取り組みの一環として、コスタリカ島のエコ
ツーリズム開発・促進のために地元コミュニティと協力す
るほか、彼らにマングローブ林の持続可能な管理について
指導を行っています。
コスタリカ島は、地元NGOの
Fundación Ecológica Arcoirisが地元コ
ミュニティとの協力のもとにエコツ
ーリズム観光地として開発し、交通
や宿泊、飲食、ガイド、維持管理な
どさまざまな観光客向け製品とサー
ビスの提供の責任を担うコミュニテ
ィ企業も設立しました。このコミ
ュニティ企業は、コミュニティ住民
の約90%が交代でさまざまな設備や
アクティビティの運営に関与する方
法で組織されています。事業は調整
機関とコミッション・グループ、マ
ーケティング&セールス部門そして
マングローブ基金で構成される観光
委員会が管理しています。調整機関
は事業の監督をその役割とし、それ
ぞれの漁業連合代表者1名と地方政
府の代表者1名の3名で構成されま
す。コミッション・グループは5名
のコミュニティ住民で構成され、観
光サービスの5つのコミッション(
交通、宿泊、飲食、ガイド、維持管
理)の連携を管理します。
22
Fundación Arcoirisは観光関係者と
のパートナーシップだけでなく販促
材の開発や観光イベントへの参加を
通じて、地元、地域そして全国レベ
ルでマーケティング&セールス部門
の責任を担います。最終的に観光サ
ービス収入の1%がマングローブ基
金に行き、基金は地域の社会・環境
改善資金として利用されます。
コスタリカ島のコミュニティ企業
は、この地域への訪問を独特でオー
センティックな経験とするためにさ
まざまな工夫を凝らしています。地
元コミュニティは観光客をコミュニ
ティの一員として招き、観光客は地
元の風習にならって1日~数日生活
します。観光客は地元の住居に泊ま
り、地元の食事を食べ、猟師として
働いたり、貝殻やカニを集めて地元
の商売を学びます。また、浜辺での
昼寝や徒歩か漁船によるガイド付き
ツアーなどより娯楽要素の強いアク
ティビティを楽しむこともできま
す。
コスタリカ島のエコツーリズム企
業は利益目的だけのために作られ
たのでなく、コミュニティの絆を強
め、地元住民の力の強化に貢献する
ことを主な目的としています。いく
つかの点でこの目標の達成を助けて
いるのが、この事業の利益共有の仕
組みと事業構造です。まず、利益が
サービス供給者の間で公正に分配さ
れ、分配される利益は少なくとも漁
業1日分の価値に相当します。次に
コミュニティ内の開発事業を支援す
るために収益の1%がマングローブ
基金に行きます。そして、この企業
がその製品の大部分を地元で調達す
るという方針をもつので、観光に関
与していないコミュニティ住民にも
追加的な利益があります。また、女
性が社会においてより生産的な役割
を担うことも可能にしました。
Fundación Ecológica Arcoirisはこの
地域のエコツーリズム開発支援を通
じて、コミュニティによる持続不可
能な資源利用に関連する環境保全問
題の一部を食い止めるもしくは予防
することも目指しています。こうし
た問題には、エビ漁によるマングロ
ーブ生態系の分断化、地元猟師によ
る海洋生態系の乱獲、コミュニティ
から小川への排水流入などが含まれ
ます。このプロジェクトとFundación
Arcoirisとの協力を通じて、地元コミ
ュニティは地域の保全問題の意識を
高めたとともに、その解決に参加し
始めています。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト: www.arcoiris.org.ec
問い合わせ: [email protected]
Jamaica Conservation and Development Trust
(JCDT) (ジャマイカ)
Misty Bliss
フェスティバル
Misty
Blissは、Blue
and
John Crow Mountains国立公園
の文化・自然遺産を祝ってHolywellで開かれる独自のイベン
トです。JCDTはこのイベントを
毎年組織し、公園の記念日を祝
います。Misty
Blissの間、国
立公園周辺のコミュニティは、
食品や手工芸品などの地元製品
を販売したり、地元の音楽や踊
りを披露し、地域と文化を紹介
します。また、ジャマイカの天
然資源の保全の重要性について
注目を喚起し、公園と地元コミ
ュニティに重要な収入をもたら
します。
Jamaica
Conservation
and
Development
Trust
のBlue and John Crow
Mountains 国立公園におけ
る使命は、”ジャマイカ国
民の究極の幸せのために、
生物多様性保全と社会経済
開発の間で正しいバランス
を取ることによって、その
自然価値、娯楽価値のため
に”公園を管理することで
す。
ジャマイカ東部にあるBlue
and John Crow Mountains国立公
園 (BJCMNP) は、国のおよそ5%
の面積を占めますが、自然のまま
の熱帯雨林と豊かな生物多様性を
誇り、自然愛好家にとって天国
です。公園はジャマイカの多くの
野生生物の重要な避難所であるほ
か、絶滅の恐れのある巨大アゲハ
をはじめとする多数の固有種の生
息地です。また絶景や文化的重
要性を誇る地域でもあるます。3
JCDTは、収入の創出とBJCMNP支援
のために公園出入口に多目的に利
用できるHolywell娯楽エリアを設置
しました。首都キングストンから
車でたった1時間の距離で豊かな
熱帯雨林の中に位置するHolywell
は、都会生活のストレスから逃れ
るには完璧です。このエリアには
あずまや風のシェルターを備えた
ピクニック・エリアや宿泊用のロ
グ・キャビン3つ、5つのキャン
プサイトが設置されています。公
園奥深くにつながる4つの小道
はハイキングなど活発な娯楽へと
JCDT © Jeremy Francis
Blue and John Crow
Mountains 国立公園の
ハニーポット
つの山脈にまたがり、海抜150mか
ら2,256mまで広がる公園の景色は
常に変化します。文化的な側面で
は、地元コミュニティに残る生活
伝統と史跡がジャマイカの豊かな
歴史を反映しています。ジャマイ
カ政府との合意に基づいて、地元
NGOのJamaica Conservation and
Development Trust (JCDT)がBJCMNP
を管理しています。
23
導きます。地元コミュニティのガ
イドは観光客をそれぞれの小道に
案内し、公園の自然・文化資産に
ついて説明する訓練を受けていま
す。JCDTはまた地元の学校にも教
育的ツアーを提供しています。一
年に一度、Holywellを中心として、
この地域の文化遺産を紹介する
Misty Blissフェスティバル(囲み
参照のこと)のアクティビティが
開かれます。
近年、農地拡大による侵食の
進行の脅威に直面したことか
ら、JCDTは地元住民と観光客の意
識を高める必要性を認識しまし
た。地元住民に雇用と事業の機会
を創出し、公園内での不法活動の
実施を減らしました。加えて、多
くのジャマイカ人に豊かだけれど
も脅威にさらされている国の生物
多様性を紹介し、支援を集めまし
た。さらにHolywellの立地が娯楽使
用の場所(おもに娯楽エリア内)
を限定することになり、過度の観
光客影響が公園の自然資源へもた
らすリスクを減らしています。
JCDTは現在、Holywellで提供され
るアクティビティと施設を補完す
るために、地元コミュニティ、ホ
テルや旅館、さらには小規模ツア
ー業者を含む公園周辺の関係者と
持続可能な観光プロジェクトを発
足しようとしています。このイニ
シアチブを通じて、地元関係者は
観光に目的地アプローチをとり、
観光客の経験と国立公園保全の必
要性の意識を高める製品とサービ
スを開発できるようになります。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト:
www.greenjamaica.org.jm
問い合わせ:
[email protected]
生物多様性オフセット市場の創出:
フランスCDC Biodiversitéの事例
IUCNチーフ・エコノミスト Joshua Bishop
IUCNプロフェッショナル・アソシエート Elodie Chêne
ほぼすべての経済活動が生態系と
生物多様性に残留影響をいくらか残
しますが、責任ある企業は、その事
業活動による環境への悪影響を特定
し、それを避けるもしくは最小化す
る、または緩和するために努力しま
す。生態系の回復と生物多様性保全
は、単なるコストもしくは経済発展
の妨げというよりも、むしろ前向
きな事業命題とならなければなりま
せん。有益な教訓(と潜在的なモデ
ル)は近年台頭してきたカーボン・オ
フセット世界市場や同様の地域・国
家レベルの制度に見つけることがで
きます。
生物多様性とその他の生態系サー
ビスのために複数のオフセット・ア
プローチが開発されていますが、成
長するカーボン・オフセット市場のよ
うに広く知られ、世界的に適用され
てはいません。生物多様性オフセッ
ト・アプローチは「汚染者支払い原
則」に基づき、(回避と緩和のベス
ト・プラクティス手順を行った後に)
その活動の結果もたらされた生息地
もしくは水質への残留影響の責任が
プロジェクト開発者にあるというも
のです。プロジェクト開発者には、
この残留影響を埋め合わせするため
に、環境保全を支援する、またはプ
ロジェクトによって引き起こされた
悪影響と同程度もしくはそれ以上の
環境利益をもたらす回復活動を行う
ことが期待されます。カーボン・オ
フセットと生物多様性オフセットの
間には共通点がある一方、重要な違
いもあります。最も重要な違いは恐
らく、生物多様性が代替可能ではな
いことです。このために生物多様性
オフセットの地域範囲は非常に制限
されます。生物多様性オフセットの
コンセプトの興味深い発展形として
「生物多様性銀行」を設立し、そこ
から必要なだけ補償クレジットを引
き落とせる仕組みがあります。この
アプローチは、生態の補償のための
市場を効率的に創出し、生物多様性
オフセットを資産とします。生物多
様性バンキングは比較的新しい考え
ですが、米国やオーストラリアをは
じめいくつかの国で採用されていま
す。
フランス初の試験的生物多様性銀
行が2009年5月11日に地中海沿岸近く
に開設されました。このプロジェク
トは放棄されていた357ヘクタールの
果樹園を回復し、隣接のCrau自然保
護区に統合することも目標としてい
ます。この保護区は、欧州西部に残
った最後の半乾燥草原地帯で、絶滅
の危機に瀕した数種の希少鳥類や昆
虫、植物の生息地です。このプロジ
ェクトの独自性は、生態回復におけ
る農業の役割にあります。当初の生
息地の創出に不可欠な役割を果たし
た広範囲にわたる家畜生産と季節的
放牧は、ここ数十年で集中灌漑の園
芸にとって変わりました。生物多様
性バンキング・プロジェクトの一環
として、伝統的な放牧方法が地域管
理の重要な要素のひとつとして再導
入されます。産業園芸が(南ヨーロ
ッパと北アフリカ諸国との競争を原
因として)減少傾向にあるなか、こ
の地域そして自然保護区の伝統的な
羊の牧畜への回帰は地元農業セクタ
ーにとって実現可能な代替策を提供
する可能性があります。
この実験は既存のフランスの法規
制、特に自然保護法(1976年)に基
づいて設計されています。自然保
護法は、開発事業者にプロジェクト
の主要な悪影響を避ける、最小化す
る、そして可能であれば補償するこ
とをこの順序で義務付けることを導
入した法律です。Crauの試験的プロ
ジェクトは、活動がこのタイプの生
態系に影響を及ぼし、その残留影響
をオフセットすることが法的に義務
付けられている地元の会社を支援す
る「生物多様性銀行」の創設を目指
しています。さらに、複数の開発事
業者のオフセットを統合し、補償へ
のアプローチを揃えることでより良
い保全成果を生み出すことも目的と
しています。
CDC Biodiversitéは、フランスの金
融機関Caisse des Dépôts et Consignations
の子会社です。オフセット方策の実
施をはじめ、生物多様性に関連する
プロジェクト設計とモニタリングに
必要な知識の提供に従事する役割を
担っています。また、Crauの試験プ
ロジェクトの資金調達と管理を通じ
24
た生物多様性バンキング・アプロー
チの試験も行っています。環境省、
地域環境局、Crau自然保護区管理機
関、そして地域の農業会議所など複
数の国家・地方機関の支援とマルセ
イユ大学、アヴィニヨン大学の科学
者の技術支援によって支えられてい
ます。CDC Biodiversitéは行政から、
クレジット販売の許可を得ており、
クレジットを購入する開発事業者と
30年の契約を締結する予定です。ま
た、クレジット所有者と今後開発さ
れる生物多様性クレジット取引をト
レースするために、生物多様性クレ
ジットの発効から払い戻しまでの追
跡と二重売却に対する保障を確保す
る登録簿作成の可能性を模索してい
ます。
アドホック・オフセットよりもコ
スト効果が高いということが、生物
多様性銀行を正当化する追加的な根
拠です。しかしながら、フランスで
はおもにオフセット実施に関する国
家標準がないために競争力はまだ実
証されていません。Crau草原での実
験によるクレジット価格は、現在1
ヘクタール当たり35,000ユーロと見積
もられています。この価格には、土
地購入と回復、30年間の管理が含ま
れます。しかし、行政による短期プ
ロジェクト(通常0年~5年)が有
効になれば、開発事業者が自身の影
響を自らオフセットするほうが安い
と判断するかもしれません。
長期間の利用やサイト管理、自生
植生とその他の種の回復の速度、
この実験による「生物多様性クレ
ジット」の発生数とそれによる他
サイトの損害のオフセット量など
多くの疑問は残っていますが、CDC
BiodiversitéとCrauの試験的生物多様
性銀行の例は、正しい実行を促す枠
組のなかで何が達成できるかという
ことを示しています。この事例では
それは生息地に対する残留影響を補
償する法的義務です。より一般的に
は、企業、政府そして市民社会にお
ける生物多様性オフセットと生物多
様性バンキングのポテンシャル(と
限界)に対する幅広い理解が必要と
なります。主な優先事項は以下の通
りです。
1.削減の優先順位を実施する(回避
する、削減する、緩和する、補償
する)
2.影響と削減行動を測定し、それを
公開する
3.残留影響を補償する新しいアプロ
ーチを試験する
4.生物多様性の「純損失ゼロ」もし
くは「純プラス影響」を目指す
より詳しい情報は以下をご参照くだ
さい。
問い合わせ: [email protected] and
[email protected]
ウェブサイト: www.iucn.org/economics
© Edgar Talavera, ACICAFOC
ACICAFOCは、中米全域の先住民族と農村人口に持続可能
な林業行動を普及することを目的としたコミュニティ・グ
ループの会員制組織です。その取り組みの1つがサプライ
チェーン管理です。ここ数年、ACICAFOCは中米の持続可能
なカカオブランドを作るために、カカオのサプライチェー
ンと協力してきました。
中米の持続可能な
カカオブランドの確立
を目指して
Asociación Coordinadora Indígena y
Campesina de Agroforestería Comunitaria de
Centroamérica (ACICAFOC) (コスタリカ)
中米の小規模生産者は、中米
カカオ生産ネットワーク(The
Mesoamerican Network for Cocoa
Production)というブランド名で
集合的にカカオ製品を市場に売
り出します。このネットワーク
は、2006年に(i)カカオ生産方法の
改善と標準化、(ii)カカオ・セク
ター政策への働きかけ、(iii)中
米からのカカオ輸出の総体的な価
値の向上、(iv)生産、マーケティ
ング、技術開発そして持続可能性
におけるベスト・プラクティスを
共有するための生産者のとりまと
め、(v)作業計画、財務モデルそし
てマーケティング戦略の開発を通
じた持続可能なカカオの交渉およ
びマーケティングのための正式な
組織への転換を目的として創設さ
れました。現在、このネットワー
クはベリーズからパナマまで15組
織の9,000を超える小規模生産者で
構成されており、拡大が続いてい
ます。そのカカオ総生産量は年間
6,000トン強で、欧米の市場で取引
されています。
中米カカオ生産ネットワークを
開発し、調整しているのは中米の
先住民・コミュニティアグロフ
ォレストリー協会(Coordinating
Association of Indigenous and
Community
Agroforestry
in
Central
America:ACICAFOC)で
25
す。ACICAFOCは、会員制組織で、
同じブランドとして製品を統合す
ることによって市場での成功の確
率が高まると判断した会員たちか
らの要請に基づいてこのネットワ
ークを設立しました。設立にあた
ってACICAFOCは、資源基盤の継続
性を確実にすることは不可欠であ
ると主張するとともに、持続可能
な方法で栽培されたカカオが国際
市場でより多くの収益を得ること
ができると実証し、このイニシア
チブに強固な持続可能性の要素を
付加しました。この地域のカカオ
生産者の多くが実際に生物多様性
に優れた森林地域内もしくは周辺
に住んでいることが、持続可能性
に重点が置かれるようになった起
因です。
中米カカオ生産ネットワーク
はまだ設立間もないにもかかわら
ず、すでに社会面と環境面の双方
の利益を生み出しています。社会
面の主な利益は、国際舞台での交
渉と取引を行う統一した窓口が形
成されたことです。また、参加生
産者はビジネス関連の課題の訓
練や技術支援を受けました。環境
面では、加盟生産者が有機・フェ
アトレード認証に向けて努力し始
め、集約型生産からの切り替えと
アグロフォレストリーへの移行が
始まっています。このプロジェク
トを通じて、ACICAFOCは地元生産
者の生物多様性保全課題に関する
意識を向上させてきました。プロ
ジェクトの次のステップは、2009
年末にカカオ製品を紹介し販売す
るウェブサイトを開発し、このネ
ットワークをブランドとして確立
することです。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト: www.acicafoc.org
問い合わせ: [email protected]
[email protected]
Society for the Protection of Nature in Lebanon
(SPNL) (レバノン)
レバノンのSociety for the Protection of Natureは
BirdLife Internationalの国家パートナーです。その主要
プログラムは、世界的に重要な生物多様性保全地域に含ま
れる重要野鳥生息地(IBA)に焦点を置いています。こう
した地域への意識を高めながら地元コミュニティに追加
収入をもたらすために、SPNLはレバノンのエコツアー業者
Lebanese Adventureと連携して、バードウォッチング観光
設備とエクスカーションの開発を支援します。
Hima Kfar Zabad湿地は、レバノ
ン北東部のBekaa渓谷の乾燥した
傾斜の強い山斜面と農地に囲まれ
た湿地帯です。この地域はレバノ
ンの15の重要野鳥生息地のひとつ
で、アフリカ大陸-ユーラシア大
陸を移動する水鳥の主な移動ルー
ト上にあるので、バードウォッチ
ングには格好の場所です。この地
域では69を超える鳥が観察されて
いるほか、動植物も豊かな多様性
を誇っています。豊かな生物多様
性に活動的な休日に最適な風景が
加わりHima Kfar Zabadはエコツー
リストのための完璧な目的地とな
っています。立地も便利で(ベイ
ルートから1時間半のドライブ)、
考古学上の世界遺産であるBaalback
とAnjarに近接しています。こうし
た条件から、エコツーリズム開発
が地元の天然資源の保全とコミュ
ニティ収入の向上のための最善の
解決策として選ばれました。
Society for the Protection
of
Natureは、観光客インフラと
Hima Kfar Zabadと周辺地域にお
ける娯楽アクティビティの開発を
支援しました。観光客をひきつけ
るために、SPNLはビジターセンタ
ー、ピクニック・エリア、野鳥観
察のための隠れ場所、キャンプ場
などの設備を開発し、中太ロープ
やクライミングウォールなどチー
ムビルディング設備も新たに設置
しました。SPNLはバードウォッチ
ングとバードアイデンティフィケ
ーションに焦点を絞った娯楽パッ
周辺の地元コミュニティはこ
の2つのサイト管理に関与し、
エコツーリズムを運営していま
す。SPNLはこのイニシアチブの実
施によって民間セクターのパート
ナーであるLebanese
Adventureか
ら多くの利益を得ました。Lebanese
Adventureは専門的なエコツアー業
者で、インフラ計画、娯楽アクテ
ィビティの選定などツアーの実施
に不可欠な役割を果たしました。
また、自然をガイドする技術に関
するコミュニティの能力開発やエ
コ・パッケージのマーケティングを
支援しました。
エコツーリズム事業の開発
は、SPNLのIBA保全戦略の核であ
り、Himaシステムの回復というSPNL
26
© SPNL
レバノンの
エコツーリズムの促進
ケージも開発しています。こうし
たパッケージには地元村落訪問や
コミュニティ生活への参加など文
化的要素も含むものも多数ありま
す。パッケージは、通常SPNLが訓
練した地元のガイドが同行し、ハ
イキングや登山、カヌー、自転車
などのアクティビティも含まれま
す。地元村落コミュニティの住宅
内に朝食付き宿泊設備も整えられ
ています。また、環境保全の目的
により多くの観光客を惹きつけ、
環境意識を促進するために、SPNL
は毎年10月には鳥の渡りを祝う祭
りを、5月にはAEWAフェスティバル
を祝います。直近のフェスティバ
ルは、特に同じ湿地と国際的に指
定されたIBAを共有する2つの村
落に共通の環境意識を創出するた
めに、USAID-OTIレバノンが支援す
るプロジェクトのもとKfar Zabad
とAnjar村の2村の間で開かれまし
た。
の焦点にも適っています。Hima
は、周辺コミュニティによる自
分たちのための土地の保護と、天
然資源の持続可能な利用を確保
するためにアラビア半島で1,500
年以上にわたって行われてきた
天然資源保有の伝統的なシステム
です。SPNLは、各サイト管理を支
援する地元コミュニティのボラ
ンティアグループであるサイト支
援グループ(SSG)の形成を通じ
て、Himaを守る環境保全原則を保
証します。レバノンでは、これ
までに5つのHima(Bekaa渓谷の
Kfar ZabadとAnjar湿地、南海岸の
OolieliehとMansouri海洋Hima、レ
バノン南部のEbel El-saqi森林)が
宣言されていますが、SPNLは意識
向上、能力開発、生物多様性保全
と地元コミュニティの代替収入源
の創出を結びつけるアクティビテ
ィに焦点を置いた複数のプロジェ
クトを開発しています。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト:www.spnlb.org
問い合わせ: [email protected]
+961 01 344814
持続可能性ビジネス構築における政府の役割
国際貿易センター(UNCTAD/WTO)
シニア市場開発アドバイザー(貿易と環境)
Alexander Kasterine
政府は公共サービスを提供し、経
済発展に向けて正しい条件を整える
ために存在します。民間セクターは
富の創造において大きな力となるこ
とができますが、政府が決める「ゲ
ームのルール」に従って事業を行わ
なければなりません。こうしたルー
ルは持続可能性にとって良いもので
あるとも悪いものであるとも限りま
せんが、生物多様性ビジネス開発に
おいては、このルールはどちらかと
いえばわるいものです。環境破壊へ
の経済インセンティブが強力なため
に生物多様性は減少しています。
さらに、気候変動軽減への政府行
動が欠如しているために、生物多様
性のかなりの部分が破壊の脅威にさ
らされ、生物多様性を事業者が「マ
ーケット化」する余地はほんのわず
かです。ネイチャーは、現在の排出
を続ければ2050年までに気温上昇に
よって最悪の場合40%の動植物種が
絶滅すると報告しています。炭素排
出を制限する政府間合意は生物多様
性ビジネスが存続し、繁栄するため
には不可欠な前提です。排出削減の
ゲームのルールを確立する責任はビ
ジネスではなく政府にあります。こ
れは基本的にキャップ・アンド・ト
レード制度もしくは炭素税のどちら
かを通じた炭素の価格設定を指しま
す。
自国を低炭素排出の方向へ向ける
というだけでなく、国内の環境政策
の設計と施行においても政府は中心
的な役割を担っています。これに
は漁獲制限、持続可能な森林管理制
度、土地所有権の確保、農業生態系
調査と普及、国立公園保護などが含
まれます。政府の行動は複合的で入
り組んだ長期的なものでなければな
りません。望ましくない統治(政治
的腐敗)はこうした対策の全価値を
損ないます。
自然製品セクターは特に持続可能
性を確保するために政府の力に依存
しています。世界保健機構(WHO)の積
算では野生動植物は年間650億米ドル
の価値があるとされます。この取引
は、辺境地で貧困生活を送っている
ことが多い数百万という地方住民に
現金収入をもたらします。
化粧品や医薬品、食物の自然原料
に対する消費者需要が高まり、天然
資源は圧力にさらされています。こ
うした資源が実る季節になると現金
収入を必死に求める人々が森林や山
に駆け込み、貴重な葉や根、実を摘
みます。発展途上国ではこうした収
集活動の許可制度はほとんど存在
しないので、乱獲が進み、資源の枯
渇につながっていきます。ある加工
食品企業が南アフリカ産の多肉植物
Hoodiaに関心を持ったために、乱獲
によりHoodiaの植生が地域的に破壊
された事例もあります。こうしたこ
とを踏まえて、ワシントン条約はそ
の付属書2リストにこの植物を掲載
し、その貿易は「管理」されること
となりました。
貿易の管理とは、透明で持続可能
なサプライチェーンを構築するとい
うことです。ナミビアの例で示され
ているように、これは政府の重要
な役割のひとつです。ナミビアでは
1994年には輸出はまったくありませ
んでしたが、マルラ油、カラハリメ
ロン種油、その他固有種などの自然
製品の輸出の伸びが、数千という先
住民に雇用を創出しました。
政府はまず植物資源調査とその商
業可能性の評価を行い、次に固有植
物タスクチームを設立し資金を提供
しました。この調整機関は政府の省
庁や企業、NGOといった多様なグルー
プで構成され、当該セクターにおけ
る優先行動分野の特定と新しい資源
の発見・利用をその役割としていま
27
す。こうした形の「計画プラットフ
ォーム」と、より戦略的な予算展開
の能力を用いて、乏しい政府予算の
影響を強化し、製品開発の失敗のリ
スクを最小化しました。
こうしてナミビア政府は国家的な
生物多様性ビジネスの開発のために
産業とコミュニティに対してゲーム
の明確なルールを作りました。しか
し、より大きな市場欠陥、つまり気
候変動を正すのはナミビアや他の発
展途上国の力だけでは不十分です。
生物多様性資源の将来「供給」を決
めるのは先進国そして経済台頭国に
よる温室効果ガス削減努力です。
より詳しい情報は以下をご参照くだ
さい。
問い合わせ: [email protected]
ウェブサイト: www.intracen.org/
organics
本記事に記述されている見解は著者
のもので、必ずしもITCの見解を反映
するものではありません。何らかの
誤りがある場合、その責任は著者の
みに帰属します。Phytotrade Africa
のCyril
LombardとCRIAA/SA-DCの
Pierre Plassisの貴重な意見の提供
に感謝します。
河川流域を
支援する手工芸
Kalahari Conservation Society
The Every River has its People Project(ERP)は、越
境のコミュニティを基盤にした天然資源管理(CBNRM)プロ
グラムで、オカバンゴ河流域で6年以上続けられていま
す。ERPは複数の非政府組織(NGO)、アンゴラとボツワ
ナ、ナミビアの関係者、関係省庁の統合パートナーシップ
です。ERPの焦点は、オカバンゴ流域人口(アンゴラ、ボ
ツワナそしてナミビアのおよそ600,000人)による同地域
の天然資源の持続可能な管理と利用に関する責任と意思決
定に向けた能力開発です。プロジェクトはオカバンゴ河川
委員会(OKACOM)が後援し、1999年から2007年まではスウ
ェーデンのSIDAが資金提供しました。
Okavango river basin © Every River Has Its People Project
(KCS) (ボツワナ)
The Every River has its People
決定に参加するための能力開発を
能な活動に従事するコミュニティ
ニシアチブは天然の固有資源の集
手工芸品は収入獲得の選択肢が
Project (ERP)は、アンゴラの環境
提供しました。EPRのもうひとつの
住民に持続可能な代替策を与えま
合管理と最適な持続可能な利用を
制限される辺境地の地方コミュニ
保全と地方開発協会 (ACADIR)とナ
重要な要素は、持続可能な企業の
した。ERPパートナーは河川流域の
実現しています。流域地域間の能
ティにとって重要な収入源となり
ミビア自然基金(NNF)、ボツワナの
開発を促進し、地元コミュニティ
地元コミュニティと協力し、持続
力と知識の交流がもたらす利益を
ます。もし得た収入がパン一塊の
カラハリ保全協会(KCS)が共同でオ
に経済的選択肢を与え生活を改善
可能な方法で調達した原料で作ら
利用する一方で、地域と原産国の
価値よりも大きく、それが主に女
カバンゴ河川流域で進めているプ
することです。
れた地元製品の生産と商業化を目
権威を保持する努力も払われてい
性によって得られたものなら、利
天然資源を管理する力を地元コ
的とするコミュニティ企業を設立
ます。ボツワナは手工芸開発の先
益があるといえます。手工芸は伝
ミュニティにつけるために、ERP
しました。こうした企業が開発し
駆者で、提供すべき知識と経験が
統的な知識と技術を強化するとと
は天然資源管理企業を設立し、コ
た主な製品には木工を中心とする
豊富でした。ナミビアは3ヶ国の
もに、加工食品(パン、砂糖、ス
ミュニティによる資源利用の制限
手工芸品、装飾オーナメント、か
知識と技術の越境移転の中心に位
ープ、魚の缶詰)や基本的な家庭
を補償すると同時に、河床の掘り
ご、漁網、陶器などがあります。
置し、それぞれの国の手工芸の取
用品(石鹸、洗濯粉、ロウソク、
起こしや魚の乱獲などの持続不可
手工芸品の大部分は、地域固有の
り組みを1つの相乗企業として結
マッチ、化粧水)、家畜など大型
天然資源で作られており、このイ
集するに最適です。
品を買うための金銭をもたらします。
ロジェクトで、包括的なプロジェ
クト管理はカラハリ環境保全協会
(KCS)が行っています。ERPでの取
り組みを通じて、これら3つの組
織は、コミュニティによる資源の
持続可能な管理を支援するととも
に、彼らに流域開発に関する意思
28
ERPは、サファリ企業に協力を依
には受付と会議室、休憩所が設け
良好な関係が築き上げられたこと
頼し、こうした手工芸製品の市場を
られる予定で、製品の安全保管のた
で、ジェンダーや貧困削減、社会進
創出しました。サファリ企業はその
めに現代的な素材を使う必要がある
歩、天然資源管理そしてHIV/AIDSや
観光客を企業を形成している地元
保管室と会議室以外には、地域固有
その他の保健プログラムなど健康増
村落に連れて行き、村民は観光客相
の素材を使うことが期待されていま
進などの開発課題に対抗する理想的
手に製品を売ることができます。オ
す。
な入り口が生まれました。
手工芸が辺境コミュニティにもた
より詳しい情報は以下をご参照く
らした利益は自立促進や力の獲得、
ださい。
貧困削減、創造性の促進、伝統文化
ウェブサイト: www.kcs.org.bw
慣習の強化、社会・文化的アイデン
問い合わせ: [email protected]
ティティの増加、環境管理と天然資
and [email protected]
カバンゴ流域の手工芸生産者は、個
人が所有する露店や卸売業者との契
約、小売業者や宿泊施設を通じて、
コミュニティベース組織とNGOの支
援を受けて観光客に直接製品を販売
します。ERPはコミュニティ企業の
手工芸を宣伝、販売するために定期
的に全流域展示会も開催します(囲
み参照のこと)。
オカバンゴ工芸展示がもたらす利益
源配慮の拡大、そして栄養改善など
さまざまです。さらに手工芸によっ
てERPとコミュニティの信頼の上に
地元コミュニティが製作した工芸品を宣伝するために流域のさまざ
まな場所で定期的な展示会が開かれています。こうした展示会はプロ
グラムに以下のような利益をもたらしました。
ERPはボツワナの森林局とEtshaか
ご織り職人と協力して、1980年代初
頭に始まったアグロフォレストリ
• 流域全域にわたる工芸品の宣伝:流域全域で行われる展示会を通じ
て、ERP工芸品の潜在顧客や既存の顧客は、製品の品揃えを捉える
ことができ、製品の品揃えに対する意識を形成することができま
す。展示会のフィードバックを生産者に戻すことも生産プロセスの
理解の向上に役立っています。この宣伝プロセスは、ウィンドホー
ク・カントリークラブでの工芸品展示で継続されています。
ーイニシアチブの復活を支援しまし
た。正確には、2つのアグロフォレ
ストリープロットに資金が提供され
ました。資金を提供したアグロフ
ォレストリー計画のひとつは、479
本のパームナッツ植林で44人を支援
• ERPブランド名の開発:展示会を通じてERPブランドが参入するニッ
チがあることが分かりました。工芸産業にニッチを得ることができ
れば、最終的に定期的で持続可能な収入を生み、生産者の利益とな
ります。ERP製品の宣伝は現在も続いています。
し、もうひとつは1,386本のパーム
の種に関するもので124人を支援し
ました。現在準備が進められている
3つめの計画はバークレイ銀行ボツ
• 製品のERP品質管理の確認:ERPは販売過程での現場訓練と買い手から
生産者へのフィードバックや、経験豊富な生産者による村落レベル
の教育を通じて、常に製品品質の向上に努めています。同じサイズ
であっても品質がより優れた製品に高い対価を払う格付制度を採用
しています。
ワナの資金で、苗床と、地元の学校
とコミュニティを対象とする天然資
源普及に関する教育センターを設立
し、天然資源の持続可能な利用を促
進するものです。
• マーケティングの可能性の改善:8社の既存定期顧客に加え新しい
6社が展示会後に顧客となり、ERPの顧客ベースは合計で定期顧客
14社となりました。製品は世界水週間など国際フォーラムにも出品
されています。
ERPはまた、かご織り職人が日中
働き、出来上がった製品を保管する
簡易な建物に投資しています。建物
29
環境保全:小額無償資金供与が持続可能な収入を生む
IUCNフランス国委員会 フランス地球環境基金(FFEM)国際プログラム スモール・イニシアチブ・プログラム(PPI)、総
括 Silvia Ritossa
乱獲される「共有地の悲劇」を避け
るために地元住民の利用を制限し、
入手可能な天然資源をより適切に管
理することから生じることを実証し
たことです。
しかし、いくつかのNGOが地域・
国際市場での製品販売に関する効果
的な経済戦略を、活動の持続可能性
を保証する手段として開発したこと
もPPIの経験は示しています。PPIが
支援した活動には以下のものが含ま
れます。
2006年、フランス地球環境基金
(FFEM)は、生物多様性保全と気候
変動対策に活発なフランス語圏ア
フリカのNGOを支援するためにスモ
ール・イニシアチブ・プログラム
(PPI)を設立しました。
200万ユーロの予算から、PPIは
2006年から2008年に20カ国の56プロ
ジェクトに資金を提供しました。そ
の成果が概ね良好な評価を得られた
ので、翌2年間の予算を250万ユー
ロとして先頃刷新されました。この
プログラムはIUCNのフランス国委員
会が管理しています。
このプログラムの条件のひとつ
は、その環境活動が地元の人々の生
活の改善にも貢献し、長期にわたる
環境活動を持続可能とするものとさ
れています。プログラムの第一フェ
ーズの成果は、活動の初期の経済影
響が、無制限な利用によって資源が
エコツーリズム:通常、エコツーリ
ズムは自然保護戦略の中で手軽で簡
単なものとして捉えられ、ほぼすべ
てのプロジェクトでその長期コスト
を回収する方法としてエコツーリズ
ム開発が検討されますが、現実に
は、その成果は好ましいものではな
く、フランス語圏アフリカにおいて
このタイプの観光を開発する際の障
害について記述した文書も複数あり
ます。しかし、FFEM-PPIが支援した
NGOのいくつかは地元の人々に大き
な利益をもたらす質の高い製品の開
発に成功しています。
•マダガスカルのAssociation des
Peuples des Montagnes du Monde
は、地元コミュニティが管理する
キツネザルの保護地Anzaを国内で
最も人気のある観光地のひとつに
転換することに成功しました。年
間10,000人が訪れています。同NGO
はまたAmbohimahamasinaにハイキ
ングルートを開発し、地元ガイド
を提供したり、地元住居を観光客
の宿泊先として利用して大きな成
功を収めています。
•Association de Protection des
Hippopotames du Niger (APHN)は
ニジェール川岸にキャンプを設立
しました。このキャンプから得ら
れた収入はニジェールに最後に残
ったカバの群れの保護に使われま
す。田んぼ保護のための電気フェ
ンスの利用や、カバのための草
地の確保などがその活動の一部で
す。
•EcoBéninは、Aheme湖沿いにキャン
プスタイルの宿泊設備を備えた目
的別観光ルートを十数本開発しま
した。これらは特別な訓練を受け
た地元ガイドが管理します。
•マダガスカルのセント・マリー島
のMegapteraは、島を代表する観光
アトラクションのひとつとなった
ホエール・ウォッチングに厳しい
規則を導入しました。
地元製品のマーケティング:PPIが
支援するNGOのいくつかは地元市場
での製品販売に特化し始めました。
•ベニンのAssociation des Femmes
de la Lagune (AFEL)は太陽光蒸発
を利用して塩を生産しています。
これによって伝統的なマングロー
ブへの木材資源依存が減りまし
た。また、地元のブードゥー教の
支援を得て村のマングローブを保
護しています。
•伝統医薬に使われる薬用植物の希
少性の高まりに直面して、セネガ
ルのSantorun 、ベニンのCIED、
ブルキナファソのAssociation des
Traditherapeutes de la Province
du HouetといったNGOは地元市場向
けの十数種の植物を生産する薬用
植物園の開発を始めました。
30
•ベニンでは、狩猟の終了と引き換
えにハチミツ生産工程を開発す
ることによって14,000ヘクタール
の森林を保護するために、Ferme
Apicole de Tobéが伝統的な狩猟家組
織とBante王を支援しました。
輸出製品:他のNGOは、製品の生物
学と公正で生物多様性に配慮した特
性を宣伝し、輸出製品に焦点を絞る
ことにしました。
•マダガスカルのFanambyはバイオロ
ジカル・バニラを販売します。
•マダガスカル西部のBefandefaコ
ミューンの23漁村の連合である
Association Velondriakaは興味深
い実験を行いました。野生生物保
護協会(WCS)と英国のダイビング
組織Blue Venturesの支援を得て、
指定区内を漁業禁止とする一時保
護区を設立した結果、猟師が捕る
イカのサイズが大きくなり、輸出
業者のCopefritoはこうした持続可
能な管理行動の継続を奨励するた
めにより高い対価を支払うことに
同意しました。
•中央アフリカ共和国中部の村落
協会RICAGIRNは、いわゆる「スポ
ーツ」猛獣狩猟地域の保全に成功
しています。この地域を国際的狩
猟ガイドに使用権ベースで貸し出
し、地元の雇用を生み出すほか、
賃貸料として多額の収入を得てい
ます。
炭素取引:いくつかのNGOは国際的
炭素市場に進出しています。
•Tananamadioはマダガスカルの
Mahajangaの住居から出されるご
みの大半を堆肥に変え、ごみの
廃棄から生じるメタンガスの量
を削減しています。フランスの
NGO、Gevalor の支援により、削減
したメタンガスに相当する炭素ク
レジットを国際市場で販売し、コ
ストの大半を回収しています。
•マダガスカルのNGO、L’Homme et
L’Environnementはエコツーリズ
ムや活動地域で生産される幅広い
製品に焦点を置いています。この
中にはすでにシャネルやイヴ・ロ
シェといった国際的化粧品企業が
販売している森林のエッセンシャ
ル・オイルなどが含まれます。ま
た固有樹木の新規植林を行い、産
業国の企業や世界銀行に炭素クレ
ジットを販売しています。こうし
た製品から得られた収入は、その
類まれなる豊かな生物多様性の長
期にわたる保護を確保すると同時
に活動地域全域の地元住民の生活
や保健・教育サービスの提供に使
われます。
こうしたプロジェクトは、ビジネ
ス・アプローチを通じた生物多様性
保全が可能であることを示していま
すが、これらのプロジェクトの成功
の一部は実施したNGOの確固たる意
志と優れた専門性に、そして残りは
製品と市場の利用可能性に依存して
いることを忘れてはいけません。こ
うした事例が世界の生物多様性を救
うために地球上のどこでも適用でき
ると考えるのは非現実的です。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
問い合わせ: [email protected]
ウェブサイト: www.uicn.fr
コミュニティへの
公正な利益配分の確保
IUCN 社会政策シニア・アドバイザー
Gonzalo Oviedo
すが、実際は社会責任、環境保全
そして地元の利益の3点が交わ
る複雑で達成が難しいものです。
このコンセプトは広く受け入れら
れ、世界のいたるところに普及し
ています。
これら3つの互いに結びついた
要素は、企業の経済的持続可能性
に密接に結びついているとされて
います。仮説は、この3つの分野
での成果の達成がビジネスの経済
的持続可能性の確保に不可欠であ
るということです。複雑なトレー
ドオフがあり、短期的利益の誘惑
がこのアプローチの3つの主要素
に勝ってはならないという意識が
あります。しかしながら、コミュ
ニティの利益がエコツーリズムの
犠牲になっていることがプロジェ
クト評価によって明らかとなるこ
とがしばしばあります。
エコツーリズムという言葉が登
場してからすでに20年が経過しま
した。エコツーリズムは「環境を
保全し、地元住民の生活を向上さ
せる自然地域への責任ある旅行」
として定義されます(TIES、1990
年)。一見、単純で簡潔な定義で
社会責任と倫理的貿易、自然保
全、利益共有はエコツーリズムの
範囲を超えた生物多様性ビジネス
の3つの要として世界的に認識さ
れています。生物多様性条約は、
保全、持続可能な利用そして利益
共有を不可欠で生物多様性管理の
切り離せない側面であり目標であ
ると断定しています。実質的にす
べての生物多様性ビジネスのた
めの政策とツールには、利益共有
と認証制度が含まれていますが、
地元の利益に関する成果の説得力
ある証拠は多くの場合はっきりし
ません。
もはや、課題は利益共有を含め
るか否かではありません。むしろ
どのようにしてそれを達成するか
です。既存のガイドラインの多く
は、企業設計と経営における利益
共有に有用なヒントに触れていま
すが、その手段、特に実行段階に
おける生物多様性ビジネスの利益
共有成果に影響を及ぼす社会・文
化要素、政策的要素への十分な考
慮が欠けています。これはこうし
た事業は、公式な制度規則を逃れ
るダイナミクスを持ち、貧困、社
会不安、疎外化の現状の克服に巨
大な障害を抱えるコミュニティが
ある地方で行われるためです。
ここで指す利益共有とは、世帯
収入の増加の方法だけを意味する
のではなく、経済的利益が内部か
らの発展、自立、自己開発を支援
する方法も含みます。すなわち、
即時に標準的な消費者になるため
に判断を放棄するのではなく、む
しろ、個性とプライドを持って、
自身の文化に基づき、情報をもと
にした選択を行う能力と個人そし
てコミュニティとして成長するた
めに資源を利用する能力です。
数ヶ月前、私は故郷のアンデス
山脈の一地方を訪問しました。こ
こは現在人気のあるエコツーリズ
ム観光地です。私がここを訪れた
のは20年ぶりでした。この地域で
経済が活性化していることは聞い
31
ていたのですが、実際に目にする
と驚きました。多くのお金が循環
していることは明らかで、主要な
町は店や簡易ホテル、飲食店が並
び、道は観光客であふれていまし
た。しかし表を離れたところにあ
る町の周辺コミュニティは、より
経済的に脆弱になっていました。
これは彼らが提供するサービスか
らの収入への依存が増えたことに
よります。多くの世帯が家畜を観
光客貸出用の馬にかえたために土
地が荒れ、家族は道で物を売るよ
うになったのがその一例です。世
帯の現金収入は増えたかもしれま
せんが、このような変化をコミュ
ニティの持続可能な開発の変化と
呼ぶのはためらわれます。
生物多様性ビジネス哲学の本質
的な部分として利益共有を構築す
ることは大きな一歩ですが、それ
が個人・世帯の収入の増加だけを
意味している場合、十分ではあり
ません。生物多様性ビジネスは、
公正(男女平等が不可欠な側面で
す)、文化の強化と個性を生かし
た開発という考えに基づいて利益
共有を計れば、本当の意味でコミ
ュニティ開発の主要な牽引力とな
ります。これは持続可能性にとっ
て不可欠です。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
問い合わせ: gonzalo.oviedo@
iucn.org
ウェブサイト: www.iucn.org/
about/work/programmes/social_
policy/
PhytoTrade Africa (ジンバブエ)
PhytoTrade Africaは、多岐にわたる小企業支援の提供と
自然製品の倫理的かつ持続可能な貿易の開発によってアフ
リカ南部の貧困な地方コミュニティを支援することを目的
とする非営利事業者団体です。
PhytoTrade Africaの目標は、地
元住民の利益獲得と生物多様性保
全のためにアフリカ南部に持続可
能な自然製品産業を開発すること
です。PhytoTrade Africaは、この
地域でこれまでに行われた個々の
プロジェクトが期待した成果をも
たらさなかったことから、その取
り組みを統合し、自然製品の規模
の経済を促進するために、2001年
末に複数の非政府機関によって設
立されました。主な課題は、こう
した組織が主に小規模で組織化さ
れていない企業グループと協力し
ていたことでした。小規模企業グ
ループの生産量はわずかで、輸出
市場を創出し維持するために必要
なレベルを量・質ともに満たして
いませんでした。
こうした欠点に対応する取り組
みとして、PhytoTradeAfricaは地
域で調達される固有製品と種を
絞り込み重点製品としました。重
点製品は、地域加盟者へのサービ
スと成長過程にある市場における
機会を最大化するために、複数の
要因に基づいて選ばれました。こ
うした要因には市場の関心の予
測、生態回復力、地理的分布、ま
たは資源量が含まれます。事業者
団体の加盟者はボツワナ、モザン
ビーク、マラウィ、ナミビア、ザ
ンビア、ジンバブエ、スワジラン
ドそして南アフリカ全域の主に自
然製品産業に携わる中小企業です
が、NGOや組合、政府機関、調査機
関、個人も加盟しています。
PhytoTrade Africaは2002年初頭
の事業開始から、加盟者にこうし
たサービスを提供してきました。
そのアプローチは、市場の長期的
な関心がある高価値で持続可能な
方法で生産された日用品を開発す
るものです。自然製品は野生の自
然から収穫され、地域や国際的な
化粧品、パーソナル・ケア、食品
そして飲料の市場へ、生活スタイ
ルや健康、持続可能な製品に関心
を持つ消費者層を中心ターゲット
として販売されます。PhytoTrade
Africaは一事業者団体として、こ
の種の団体に期待される特有のサ
ービスの多くを提供しますが、自
然製品産業とその受益者の開発に
供給面の取り組みには、産業へ
の投資誘致、加盟者の要請に応じ
た事業開発支援の提供、新製品の
開発のための研究開発、サプライ
チェーン全体の能力・効率開発と
いう多くの課題が含まれます。ま
た、仲介者やIUCN、BioTradeイニシ
アチブといったその他のパートナ
ーと協力して、産業全体における
持続可能性の促進と、輸出市場取
引に必要な能力と資源を企業が保
有することを示すために必要な支
援を明確にし、提供します。この
事業を通じて、PhytoTrade Africa
とパートナーは、自然製品のサプ
ライチェーンの運営が生物多様性
条約の原則に沿っていること、
そしてそれらが持続可能な方法で
利用され、公正な利益共有を促進
し、環境保全に貢献するものであ
ることを確実にするために働いて
います。PhytoTradeAfricaは、IUCN
やその他の機関同様、野生から持
続可能かつ倫理的な方法で調達さ
れた製品を宣伝・普及するUnion
for Ethical BioTradeの創立メンバ
ーの1機関です。
需要面においてPhytoTradeAfrica
は、加盟者に情報サービスを提供
するために多くの時間と資源を費
やし市場や市場動向、標準の理解
に努めています。また、市場参加
者に自然製品産業に関する情報や
産業における提携の機会を提供し
ています。フランスの化粧品企業
Aldiviaや南アフリカの植物抽出物
32
© IUCN
自然製品の
持続可能な貿易
関する事業も行っています。これ
はつまり、PhytoTrade Africaは自
身が、供給に対するのと同じくら
い需要開発に関しても取り組んで
いるということを意味します。
生産者Afriplexなどの企業パートナ
ーとの選別・協議を経て、最新技術
とマーケティング・システムによ
ってPhytoTrade製品が市場にでまし
た。この過程の多くを支えているの
はヨーロッパのPhytoTrade事務所で
す。ヨーロッパの事務所は、主要な
輸出市場における活発で目に見える
宣伝を担当します。PhytoTradeは規
制機関や、市場専門家、認証機関と
協力して、南アフリカ産の製品が
法規制を順守し、斬新で、市場に呼
応したものであるよう保証していま
す。
PhytoTradeの成功のカギは、野
生から収穫された自然製品に対す
る需要が増加傾向にある市場に競
争力がある斬新な製品を提供する
独自の能力にあるといえるでしょ
う。PhytoTradeAfricaは、小企業が
抱える課題を機会に変え、地域全域
で入手可能で地方の生産者が利用で
きる高価値、少数生産製品の選別
(囲みを参照のこと)から開始し、
大企業の(集中的かつ標準化された
生産体制を通じた)低コスト、大量
生産の先を行くものとして自身を位
置づけています。こうした方策をも
って小企業への支援の拠点となるこ
とで、PhytoTradeAfricaは顧客ニー
ズ、生産者製品そして環境の持続可
能性に価値を付加する方法を見つけ
ました。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト:
www.phytotradeafrica.com
問い合わせ:
[email protected]
33
PhytoTrade Africaのマーケティング
戦略:一歩先を行く
洗練された自然製品の市場の増加と、地域固有で持続可能かつ社会的
に意識的な製品に対する消費者の関心の著しい成長を目の当たりにし
て、PhytoTradeAfricaは目が利くヨーロッパの消費者を惹きつけるた
めに斬新で積極的な戦略を開発しました。この戦略の特徴は以下のと
おりです。
Ubuntu 憲章:Ubuntu 憲章はPhytoTradeアフリカと企業パートナー
のAldiviaが開発した地方生産者、事業者団体そして自然化粧品原
料のバイヤーによる生産条件規定です。これは原料が持続可能かつ
公正に生産され、供給されることを保証することを目的としていま
す。この憲章の短期的な利点は市場での製品の差別化で、長期的な
利点は認証や同様の制度を通じた第三者保証への道筋を整えるこ
とです。Ubuntu憲章はパートナーのフェアトレード、環境持続可能
性、グッド・ガバナンスそしてベスト・プラクティスを定めていま
す。
Ubuntu 油:広範囲にわたる調査開発により、パートナーはアフリカ
天然脂質油のUbuntu Natural Rangeを開発しました。Ubuntu marula
油は、Aldiviaの緑脂質化学がバージン・オイルの酸化安定性と抗
酸化特性を維持しながら、スキン・ケア配合に必要な厳しい微生物
およびの品質基準を確保しています。
バオバブ・スーパーフルーツ:バオバブの果実は数世代にわたって
アフリカ南部で収穫されてきました。その栄養の高さで知られてい
ます。PhytoTradeはバオバブを新しいもしくは「今までにない」食
品原料として欧州連合の規制承認を得るために取組んできました。
現在ではヨーロッパの消費者や米国の消費者に向けて最新の「スー
パーフルーツ」としてマーケティングを行っています。
環境保全のためのBuhoma村落ウォーク
BMCT © Ken Nicholson
Bwindi Mgahinga Conservation Trust (BMCT) (ウガンダ)
Bwindi Mgahinga Conservation Trust (BMCT) は、地
元の環境保全意識を向上するイニシアチブを通じて、ウガ
ンダ南西部のムガヒンガ・ゴリラ国立公園(MGNP)とブ
ウィンディ原生国立公園 (BINP)の長期保護と維持を保証
するという使命を担っています。この目標の実現に向け
て、BMCTは観光客にBuhoma村落ウォークを提供するコミュ
ニティ企業を創設しました。
Buhomaは、世界遺産のひとつで
あるブウィンディ原生国立公園の
北玄関口に位置します。ここで
は、観光客はBuhoma村落ウォーク
を楽しめます。このガイド付き観
光は、ウガンダの地方の生活とこ
の地域の文化伝統やアクティビテ
ィの体験を提供します。3時間の
散策のなかで、観光客はBuhomaの
生活のさまざまな側面を紹介する
9つのスポットを訪れます。ウォ
ークは、地元コミュニティの8人
のガイドと各スポットの所有者で
構成される村落ウォーク企業グル
ープが運営しています。このグル
ープはコミュニティの住民も多数
雇用しています。
た。BMCTは、この企業がブウィン
ディ原生国立公園の保全に貢献す
ることも確かなものにします。
テントや地域のBanda(藁ぶき
屋根の住居)に基本的な観光客設
備を整えたBuhomaコミュニティ・
レスト・キャンプから、ツアー
は、(i)地元女性の手工芸センタ
ー(15分間の工芸制作のデモを行
います)、(ii)気分が一新する滝
(観光客は滝に飛び込んだり、周
囲の豊かな動植物を観察すること
ができます)、(iii)地元のお茶
のプランテーション、(iv) バナナ
醸造の実演サイト、(v)伝統治療
師、(vi)地元の学校、(vii)コミュ
ニティの植林地でのバードウォッ
チング、 (viii)地元のジンの醸造
所、 (ix) Batwa音楽とパフォーマ
ンスを体験します。
Buhoma村落ウォークの成功の主
な要因は3つの関係団体の経験の
統合です。この蓄積された経験に
よって、この地域の他の観光体験
を補完する全く新しい製品の設計
が可能になっただけではなく、各
関係者の観光に関するネットワー
クへの働きかけを通じて市場アク
セスの確保も実現されました。
このBwindiにおける斬新な観光
経験は、Bwindi
Mgahinga保全基
金(BMCT)、ウガンダ野生生物監督
機関 (UWA) そしてBuhomaコミュ
ニティの密接な協力から生まれ
ました。これは当初、食糧農業
機関(FAO)と国連基金(UNF)が
FAOの市場分析と開発方法論を世
界遺産の地で試験するために資金
提供したプロジェクトとして開始
されました。BMCTはこのプロジェ
クトの実施機関で、その役割は企
業グループの設立と他の2関係団
体と協力したBuhoma村落ウォーク
の設計、そして企業の運営でし
34
Buhoma村落ウォークを作った環
境保全上の目的は、保全に対する
地元の姿勢の改善と、コミュニテ
ィ住民と保護区の衝突を最小化す
ることでした。このイニシアチブ
はまた、追加収入源を発掘し、ブ
ウィンディ原生国立公園の野生動
物による作物被害を受ける地元村
落住民を補償することも目的とし
ています。2002年の開始から、村
落ウォークは環境面と社会経済面
の両方で望ましい成果を達成して
います。
環境面では、コミュニティ住民
が自身の生活条件の改善とブウィ
ンディ原生国立公園の保全を関
連付けるようになり、公園資源
を保全する意志が大きく増えまし
た。BMCTはさまざまな能力開発訓
練を通じて地元村民の保全意識の
向上に時間を費やしてきました。
社会経済面では、企業メンバーに
大きな追加収入を創出しました。
年間平均1,000人の観光客(国立
公園を訪れる観光客の半分)が訪
れ、ウォークはおよそ10,000米ド
ルの収益をもたらします。さら
に、この収益の20%が行政区全域
の開発プロジェクトの資金として
Buhoma議会に提供されます。
Buhoma村落ウォークは国レベル
での反響ももたらしました。ウガ
ンダ初の観光開発のためのコミュ
ニティを基盤とした取り組みとし
て、企業開発の取り組みを模倣し
はじめたコミュニティのモデルに
なっています。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト:www.bwinditrust.ug
問い合わせ:[email protected]
‘Salto del Limon’でのエコツーリズムの運営
Centro para la Conservación y el Ecodesarrollo de la Bahía de Samaná y su Entorno (CEBSE) (ドミニカ共和国)
サマナの中心部に位置し、澄み
切った水を湛えた40mの滝Salto del
Limónはその比類ない自然の美しさ
と独特の生態でドミニカ共和国の宝
石のひとつとされています。このよ
うなことから、観光が常に地方開発
の重要な手段のひとつとして考えら
れてきました。現在、EL Limónでの
観光は、半日または終日旅行の各種
文化アクティビティを伴うEl Limón
のエクスカーションを提供する零細
企業もしくはパラダ(文字通りの意
味は「停留所」)を通じて組織的に
整備されています。この地域で事業
を行う13のパラダは、それぞれ似た
ような旅程を提供します。通常、こ
の旅程は、徒歩または乗馬でのガイ
ド付きEl Limón訪問、滝の天然プー
ルでの水泳、地元の食材を使ったラ
ンチ、そして地元の芸術品と手工芸
品店でのショッピングで構成されて
います。パラダはすべてEL Limón滝
のコミュニティ・エコツーリズム協
会であるACESALと提携しています。
El LimónにおけるACESALの役割
は、この地域で営業するエコツー
リズム零細企業の監督と調整で、El
Limónの自然・文化遺産が損なわれ
ることがないように観光客の流れを
管理する支援を行っています。ま
た、この地域の観光すべてが一定
の質を維持するよう観光事業を調整
し、零細企業が提供するサービスを
モニターします。この地域で営業を
希望する企業はACESALに加盟しなけ
ればなりません。ACESALと加盟企業
は、ともに滝と周辺地域の保全に努
めます。
サマナの自然遺産の保護を担うド
ミニカ共和国のNGOであるCEBSEは、
拡大する観光地の乱開発がもたらす
地域生態系の健全性への脅威に対応
するために、1990年代末にACESALの
設立を促しました。当時、この地域
の劣化の原因となった要因には、観
光計画の欠如とこの地域を対象と
する(零細から巨大まで)観光企業
数が過多であったことなどがありま
す。CEBSEはACESALの設立により、こ
の持続可能ではないトレンドに歯止
めをかけ、El Limónをエコ観光地に
変えました。
El Limónの観光事業の調整は、社
会面にも環境面にも望ましい成果を
もたらしました。社会面では、観光
産業の繁栄とその公平性によって地
元コミュニティの生活条件が改善さ
れました。品質基準の改善は、観光
客がその観光により多くを支払う
意志と地元のアートや手工芸品を買
う可能性が高まることを意味しま
す。環境面での利点では、より組織
化された観光アプローチによって
El Limónと周辺地域の望ましくない
利用を防ぐことができます。コミュ
ニティはこの地域の資源の保護によ
り意識的になり、環境保全モニタリ
ングに参加します。この地域の観光
業の調整の成功に基づき、ドミニカ
共和国はこの地域を保全する責任を
ACESALに与えました。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト:www.samana.org.do
http://associatives.org/
saltolimon.de/ACESAL/index.html
問い合わせ:[email protected]
© CEBSE
ドミニカ共和国のCentro para la Conservación y el Ecodesarrollo
de la Bahía de Samaná y su Entorno (CEBSE) は、文化・環境影
響を最小にとどめながら、地元の生計を向上させる事業開
発を推進し、地域の天然資源利用を改善することを目的と
しています。CEBSEは重要自然地であるEl Limón滝の観光開
発と運営をコーディネートするためにACESALの創設を支援
しました。
35
Sewalanka Foundation (スリランカ)
Sewalanka Foundationは、スリランカの地方コミュニティ
の生活の質を向上し力を与えるために、社会的に望ましく環
境面で持続可能な現実味のある収入機会の創出に努めていま
す。この事業のひとつの重要な要素は、Savyiaスリランカ自
然製品企業などのコミュニティ企業の創出支援です。
Savyiaスリランカ自然製品はスリ
ランカの中心部、Knuckles Rangeの
Puwakpitiyaコミュニティの50名で
構成されるコミュニティ企業です。
この企業は、高品質の手づくりの紙
(1シート30×20インチ)の生産を
専門としています。生産品の一部は
天然染めを加えて最終加工されるほ
か、さまざまな質感をもつ紙として
加工されます。この紙の用途は文房
具や、装飾性の強い包装紙やカード
などさまざまです。この紙は広く利
用可能な植物、特に侵略的外来植物
種を使って作られています。
このコミュニティ企業は、Home
Employment and Lighting Package
(HELP)として知られるイニシアチブ
の成果です。HELPは持続可能な収入
創出活動の創造と地域インフラの強
化を通じて、貧困層と辺境の村落を
開発することを主な焦点としていま
す。このイニシアチブはネパールの
Himalayan Light Foundation (HLF)
とスリランカの保全と開発を行う
NGO、Sewalanka Foundationのパー
トナーシップの成果のひとつとして
生まれました。HELPプログラムは、
再生可能エネルギー技術を通じて辺
境地人口の生活の質を向上するため
に作られました。HELPの目標は、持
続可能な追加収入源を辺境コミュニ
ティに創出し、村に設置した再生可
能エネルギー設備代金を回収したう
えで、コミュニティの収益と自立の
促進に寄与することです。
Himalayan Light Foundationの支
援を受けて、Sewalankaはコミュニ
ティの手製紙企業の開発を支援し
ました。これは生物多様性保全に
も貢献するものです。これらの組織
はともに製品設計と開発、さらに
技術移転と侵略種と収穫に関する能
力開発の促進という面においても
コミュニティを支援しました。ま
た、Sewalankaは製品のマーケティ
ング戦略にも主要な役割を果たし、
特に製品を国内や国際市場に出すこ
とにより、地域外での宣伝に貢献し
ました。この企業はコミュニティ住
民によって運営され、原材料の収集
と商品生産の責任もコミュニティ住
民にあります。こうしたコミュニテ
ィ住民は主に地元の女性(75%)で
構成され、収益は企業メンバー間で
公正に分配されます。
生物多様性に優れた地域から侵
略種を根絶することの重要性を強
調するために、この紙製品のパッ
ケージには侵略種から生産されて
いることを買い手に伝えるラベルが
貼られています。この情報はバー
コードにも記録されています。さら
に、Sewalankaは森林資源を持続可
能な方法で利用する意義に関する地
元コミュニティの意識の向上と、侵
略種の大部分の製紙での消費が重要
地域の保全に貢献することを望んで
います。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト:www.sewalanka.org
www.sedco.lk
問い合わせ:headquarters@
sewalanka.org
[email protected]
36
© Sewalanka
紙に力を
Knuckles
Range森林は、スリラ
ンカの最も重要な熱帯雨林のひとつ
であり、豊かな生物多様性を有する
と同時に多数の絶滅危惧種の生息
地でもあります。Sewalankaの目標
は、製紙が地域の生態系に悪影響
がないことだけではなく、環境保全
に貢献するものであるものを保証
することなので、自生植物の生息地
を侵食し、悪影響を与えている外来
種に由来する繊維が主要な紙原料と
なります。原料となる主な種はギニ
アキビ (Panicum maximum)とバナナ
の葉 (Musa acuminata)です。これら
は今後10~12年は利用可能です(こ
れよりも早い根絶は不可能です)
が、Sewalankaは、すでにこれらの
資源がなくなったときに事業を継続
できるよう代替資源に関する調査を
始めています。
認証:生物多様性ビジ
ネスの規模拡大
制度によって小売業者は胸を張ってそ
の製品を売ることができます。ひとつ
の地域での成功がその他の地域でも複
製できるようになります。何が達成さ
れたかを測ることができます。
国際環境社会認証同盟(ISEAL Alliance)エグゼク
ティブ・ディレクター
Dr. Sasha Courville
多数の標準制度によって、持続可能
な農業、林業そして漁業のための基準
がすでに確立されています。加えて、
新しい標準制度も野生資源収集から炭
素回収、観光業から鉱業まで幅広いセ
クターで形成されつつあります。
す。こうした基準はたいていの場合、
生産者と取引業者、広告業者、科学
者、消費者そして政府といったすべて
の関係者間における慎重な協議の末に
設定されます。複数の関係者プロセス
は異なる解決方法の余地も残しなが
ら、実行可能で幅広く受け入れられる
持続可能性の確固たる定義とその実現
の方法を決定します。
生物多様性に配慮したビジネスを見
つけるのは時に困難です。エコホテル
は本当に環境影響を減らし、地元コミ
ュニティに利益をもたらしているでし
ょうか?森林は実際にその生物多様性
を尊重し管理されているでしょうか?
店の製品は本当にラベルどおりに持続
可能な野生資源から作られているでし
ょうか?
生産者またはサービス供給者を知っ
ていて信頼している場合には、ただ質
問をして自身の意見を持てばいいので
すが、それ以外、特に製品を取引する
際には、誰か他の人に保証を求める必
要があります。この役割を果たすのが
認証です。
標準制度は、事業が認証を受ける
ために必要な原則と基準に沿うもので
特定のビジネス・セクターにおけ
る生物多様性基準に関する合意によっ
て、市場がすべきことをすることが可
能になります。自社事業の緑化に関心
を持っている企業には守るべき特定の
ガイドラインと達成目標があります。
独立機関がこうした企業による基準の
遵守を認証し、定期的に状況を検査し
ます。公式ラベルとトレーサビリティ
しかし、すべての標準制度が公平に
信用できるわけではありません。信用
に値する標準は、その目的と内容を規
定するためにバランスの取れた複数関
係者によるプロセスを経て開発された
ものです。複数関係者によるプロセス
を経ることで、独立検証制度全体と
認証の影響を測るプロセスが確立され
ます。ISEALのグッド・プラクティス基
準はこのような信用に値する社会・環
境標準制度の国際的な参考文書で、そ
の順守がISEAL Allianceへの加盟条件
となっています。マルチステークホル
ダーによる基準制度は、さまざまな人
々が参加することでその影響を高めま
す。生物多様性ビジネスのために確固
たる認証制度の創出に参加する方法に
ついては、www.isealalliance.orgを
ご覧頂くか、[email protected]
までお問い合わせください。
より詳しい情報は以下をご参照。
問い合わせ:
[email protected]
ウェブサイト:www.isealalliance.
org
認証林業
1992年にリオデジャネイロで開
かれた地球サミットで、各国政
府が世界森林条約の合意に至ら
なかったために、木材業者、森
林労働者、環境保全家そして社
会学者の連合はこの問題を自身
のものとし、認証持続可能森林
の標準の作成に合意したことか
ら森林管理協議会(FSC)は誕生
しました。今日、認証森林面積
は、2010年生物多様性目標達成
に向けたひとつの対策として貢
献しています。全世界の生産森
林のおよそ10%がFSCの認証を受
けています。
ISEALメンバー標準(生物多様性ビジネス関連)
農業 国際有機農業運動連盟(IFOAM)基本有機標準、フェアトレード、レインフォレス
ト・アライアンス、UTZ認証*、ベター・シュガーケーン・イニシアチブ*
森林(NTFP含む)
森林管理協議会
漁業および養殖
海洋管理協議会、海洋水族館協議会、水産養殖管理検討会*
気候変動
再生可能なバイオ燃料のための円卓会議*、Green-E energy とGreen-E climate*
* 標準開発段階 (2009年6月1日時点のデータ)
37
アフリカの自然食品
主な製品
Southern Alliance for Indigenous Resources (SAFIRE) (ジンバブエ)
© Safire 2009
Tulimara
The Southern Alliance
for Indigenous Resources
(SAFIRE)はアフリカ南部で事
業を展開する地域NGOです。
天然資源の持続可能な管理、
利用そして商業化を通じて地
方開発を促進します。この目
標を達成するために、SAFIRE
は地域固有の食品を開発し
て市場に売り出すために、
地元コミュニティとTulimara
Speciality Foods of Africa
とパートナーシップを組みま
した。
Specialty Foods of
Africa (Pvt) Ltd.は、地域固有の
斬新な自然食品を生産するジンバ
ブエの企業です。その製品はバオ
バブやグアバ、マルラ、マサウ、
野生ビワなどの地域の野生の自然
やジンバブエ固有種から資源を調
達しています。製品は植物油やパ
ルプ、ハーブティー、ジャムや果
物の砂糖煮(主要な製品について
は囲みを参照のこと)などがあり
ます。Tulimaraは殺虫剤、化学品
または肥料を使わずに栽培し、人
口香料または保存料を使わずに加
工した本当の自然製品の生産に誇
りを持っています。また、すべて
の製品の原料を地元コミュニティ
で調達し、コミュニティが公正な
対価を得るよう保証しています。
地元NGOのSouthern
Alliance
for
Indigenous
Resources
(SAFIRE)はTulimaraのパートナー
で、Tulimaraと天然製品を収穫・
生産する地方コミュニティとの
仲介を行います。また、SAFIRE
はコミュニティ・レベルの小規
模事業の開発の責任も担って
います。SIFIREが設立した企業
は地元住民によって運営されま
す。SAFIREが自然製品を扱うよう
になったのは1996年です。このき
っかけとなったのは、企業と彼
らを支える管理体制があれば、地
元コミュニティは自分たちが収
穫する資源から利益を得ること
ができるという認識でした。当
初、SAFIREは製品調査研究に焦点
をあて、資源量の調査と生産が可
能な製品のタイプの把握のために
地域の知識を調査しました。その
後の製品開発段階でコミュニティ
と協力して持続可能な収穫技術の
開発を行い、高品質の原材料の抽
出と製品に付加価値をつける特定
の素材の製造を支援しました。同
時に、市場での成功を確かなもの
にするために製品の市場テストも
行いました。最終的に、SAFIREは
Tulimaraとパートナーシップを組
み、コミュニティ製品の市場販売
や、一部のケースでは生産まで行
いました。
ジンバブエの自然食品製品は、
アフリカ南部自然製品事業者協会
PhytoTradeAfricaを通じて国際市
場にも展開しています。SAFIREと
Tulimaraがともに加盟するこの協
会は、地域の地方貧困人口に長期
的な収入補足源を開発することを
目指しています。PhytoTradeを通
じて、この2者のパートナーはコ
ミュニティ製品を新たな舞台に持
っていき、地元需要と国内需要の
縮小時でも製品需要が安定するよ
う保証しています。
SAFIREの環境保全に対する企業
的アプローチは、天然資源管理に
コミュニティを関与させるために
実施した事業に端を発していま
す。この事業でSAFIREは、地元コ
38
食品・化粧品原料
ジンバブエの人々は、葉や根、樹皮そして果物からさまざまな食品を生み出
し、伝統的に地域固有の木や植物から多くの栄養を得ています。こうした
種から抽出した油やパルプは、食品や化粧品原料としての独自の特性で国
内外に知られています。Tulimaraが油やパルプとして販売する主要な種はバ
オバブ(Adansonia digitata)、マルラ (Sclerocarya birrea)、そしてマサウ
(Ziziphus mauritiana)です。
ハーブティ
Tulimaraは、マコニとテマリカタヒバの2種のハーブティの生産を専門とし
ています。 マコニ・ハーブティは主にジンバブエの東部高地地帯に生息す
る野生低木(Fadogia ancylantha)から作られ、免疫系を強化する特性を持っ
ています。テマリカタヒバ・ハーブティは、テマリカタヒバ低木として一般
に知られる国全域の平坦な岩表面に生育する赤茶の枝を持つ低木植物から作
られます。これは風邪や咳の治療や高血圧治療にも使われます。
ジャムとゼリー
ジンバブエは非常に多くの種類の野生果物の宝庫で、その多くがビタミンA
やC、その他基本的なミネラルを豊富に含んでいます。これらの果物はその
栄養価、収入創出の可能性そして伝統医療の目的から地方コミュニティにと
って、とても重要なものです。Tulimaraは地方コミュニティから果物を購入
し、マサウ(Ziziphus mauritiana)ジャムやマルラ(Sclerocarya birrea)ゼリ
ー、野生ビワ(Uapaca kirkiana)ジャムやグアバ・ゼリーなどジャムやゼリー
に加工します。
ミュニティが環境保全を支持する
ためには、コミュニティは環境保
全から経済的利益を引き出さなけ
ればいけないということに気づき
ました。また経済価値のある資源
の多くが乱獲されていること、そ
して持続可能な収穫技術を開発す
る必要があることにも気づきまし
た。このアプローチは徐々にジン
バブエの地方部の環境保全に対す
る態度に目に見える変化をもたら
しました。現在、コミュニティは
資源基盤を所有しているという改
善された意識を持ち、天然資源管
理に積極的に参加しています。こ
れらの企業に関与するコミュニテ
ィ住民も、よりより生活条件を手
に入れました。これは直接的な経
済利益によるものだけではなく、
単一の穀物への依存度が減り、食
品の供給が改善されたことにもよ
っています。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト:www.safireweb.org
www.tulimara.co.zw
問い合わせ: [email protected]
Associação Vida Verde da Amazônia
(AVIVE) (ブラジル)
Associação Vida Verde da Amazônia (AVIVE)は、地元
女性の持続可能な生活を促進しながら、熱帯雨林の自然製
品、美容製品の生産を通じて豊かなアマゾン流域を実現す
るために活動しています。AVIVEは、競争力のある持続可
能で高品質な製品を供給するためにコミュニティや、非政
府、政府、民間といった幅広いセクターのパートナーと共
に取り組んでいます。
AVIVEは、芳香植物と薬用植物
のコースに参加したシルベス地
域の20人の女性によって1999年
に設立されました。アマゾナス
連邦大学の教授が指導したこの
コースは、Silves
Association
for Environmental and Cultural
Preservation (ASPAC)が開催、運
営したものでした。参加した女性
たちは、その豊富な伝統知識と地
元コミュニティの熱帯雨林植物を
利用して、石鹸や香水など自家製
の薬品と自然化粧品を生産するた
めに、事業を始めました。彼女た
ちの目的は、熱帯雨林の自然製品
の安全と持続可能性を確保しなが
ら、経済機会を創出するためにア
マゾン川の豊かな植生を利用する
ことでした。
AVIVEの事業モデルの中心となる
のは、良く知られ、理解されてい
る植物種の利用と大量生産の概念
です。こうした植物はこれまで通
常、医薬やその他の地元の目的の
ために利用されてきたので、産業
標準や政府規制はAVIVEの医薬品と
して市場に出すことはできないこ
とを決定しました。これをうけて
AVIVEは、アロマセラピー、パーソ
ナル・ケアまたは化粧品としての
製品の貴重な特性を強調すること
にしました。原材料を収穫後加工
し、原料(エッセンシャル・オイ
ルなど)または最終品(グリセリ
ン石鹸)として価値を付加し国内
外市場やシルベス地域に開いた店
舗で観光客に販売します。石鹸の
売上だけでその収益のおよそ20%を
占めます。こうした収益はコミュ
ニティや企業、サプライチェーン
の開発活動に還元されます。AVIVE
は非営利組織なので、製品の生
産とマーケティングは組合である
COPRONATが行います。女性たちは
COPRONATからその業務に対する賃
金を得ます。
のために植え替えられ、供給の持
続可能性と地元の生態系の回復が
保たれています。
AVIVEは設立から、サプライチ
ェーンにおける持続可能な抽出と
自生種の再生のための信頼できる
技術の開発と適用に努めてきまし
た。これは消費者問題への直接ア
プローチを持続可能性と関連付け
たことで成功の大きな要因となり
ました。また重要な環境教育プロ
グラムや事業で利用する全種の生
産も行っています。こうした種は
地元の苗床で生育したあと、回復
AVIVEは近年、サプライチェーン
全体と、生産地の薬用・芳香植物
の生産のためにフェアワイルド標
準を採用し、持続可能性への行動
を一歩前進させました。この標準
の適用によって、AVIVEはフェアワ
イルド・ラベルによる目に見える
宣伝効果を提供するとともに、持
続可能な管理活動に関する第三者
保証とガイダンスを得ました。次
は、この認証によって市場アクセ
Juvenal Perreira © WWFBrazil
アマゾン川の
エッセンス
39
スが改善され、協会の利益が拡大
することが期待されています。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト: www.avive.org.br
問い合わせ: [email protected]
血液を利用した
環境保全
クレジット
本書における地理的名称の表記および資料提示は、国、領土、地域また
はその当局の法的地位あるいはその国境または境界の設定に関するIUCN
のいかなる意見をも示すものではありません。
この出版物の刊行は一部、フランスのエコロジー・エネルギー・持続可
能開発省(MEEDDAT)の寛大な資金援助により実現しました。
Fundación Moisés Bertoni (パラグアイ)
この出版物の日本語版は、日本経団連自然保護基金の寛大な資金援助に
より実現しました。
Fundación Moisés Bertoni (FMB) はパラグアイにおけ
る持続可能な開発を達成する手段として関係者連携を促進
します。1998年以降、FMBはLICÁNを設立し運営するため
に官民セクターと連携してきました。LICÁNは高品質の機
能性動物血中タンパク質の製造、マーケティングを専門と
する企業です。この事業を通じて、FMBは重大な環境・社
会問題のひとつを解決しました。
1999年まで、毎日20,000リットル
の牛の血液が地元の食肉解体場か
らパラグアイのアスンシオン湾の
Mburicaó川とItay川に廃棄されてい
ました。地元コミュニティはこの
2つの川を清潔で新鮮な水の重要
な水源としていましたが、この廃
棄習慣によって都市部の水が汚染
され、環境問題、社会問題が起き
ました。環境面では、川が徐々に
汚染され、川に依存する種も脅威
にさらされました。さらに、この
2つの川が南米の主要な川である
パラグアイ川に流れ込むために、
アスンシオンよりも下流の汚染も
起きました。社会面では、アスン
シオンの人口に深刻な健康問題が
多数発生しました。
この環境・社会問題に共同で取
り組むために、地方政府とコミュ
ニティは実行可能な解決策を分析
する専門家パネルFundación Moisés
Bertoni (FMB)を設立しました。その
調査の結果、血液を原料とするい
くつかの製品が特定されたととも
に、この種の事業に従事する国際
企業が接触してきました。その結
果、FMBと地方政府、そして血液の
加工を専門とする国際企業LICÁN
Foodsの パ ー ト ナ ー シ ッ プ に よ る
LICÁNパラグアイ支部の創設への動
きが生まれました。LICÁNパラグア
イはこれらアスンシオンの3つの
パートナーによって、5つの食肉
解体場から廃棄される牛の血液を
加工するために設立されました。
収集した原材料は、動物飼料への
添加や農業肥料、食品産業で多種
多様な目的に使える動物血漿に加
工されます。LICÁNパラグアイは
1999年の事業開始から、いくつか
の環境、経済、社会利益をもたら
しています。まず、血液副産物の
国内外市場における需要はこの企
業が財務的に健全で競争力がある
ことを意味し、FMBの保全・開発事
業資金を提供するとともに、パラ
グアイの外貨獲得源のひとつとな
っています。次に、この企業の創
出によって地元住民13人に雇用を
創出し、安定した収入源を提供し
ました。LICÁNが設立されるに至っ
た協議プロセスは地元住民が力を
獲得し、意思決定に参加したこと
も意味します。そして、LICÁNは毎
月400,000リットルの血液が2つの
川に流入するのを防ぎ、水を清潔
に保ち、人間の健康への脅威を削
減し、生物多様性の損失を回避し
ています。
より詳しい情報は以下をご参照く
ださい。
ウェブサイト:www.mbertoni.org.py
www.licanfood.com
問い合わせ:[email protected].
py
日本語版制作・監訳:古田尚也 IUCN日本プロジェクトオフィス
問い合わせ:[email protected]
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IUCN, Gland, Switzerland
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© 2009 International Union for Conservation of
Nature and Natural Resources
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the source is fully acknowledged.
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prohibited without prior written permission of the copyright holder.
Citation:
The Time for Biodiversity Business.
Gland, Switzerland: IUCN. 20pp.
ISBN:
978-2-8317-1162-1
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for Conservation of Nature)
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A catalogue of IUCN publications is also available.
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