IT 社会の一翼を担うワイヤレス通信 21 IT 社会の一翼を担うワイヤレス通信 Wireless communication systems which contributes to realization of IT society 松 本 秀 樹* Hideki MATSUMOTO 三 浦 聖* 山 口 剛* Kiyoshi MIURA Tsuyoshi YAMAGUCHI 企業だけでなく,家庭,SOHO,学校や図書館の公共施設においても LAN 接続と LAN によるインターネッ トの利用は,当たり前の事となっている。そればかりか,いつでもどこでもそして安価で高速にインターネッ ト接続できるように情報インフラを整備することが,今や国の重要政策となっている。そして,いわゆる「IT 社会」の実現に向けて,光ファイバー網,CATV 網,衛星通信,無線 LAN などあらゆる通信技術の可能性が 検討されている。当社では,光無線 LAN を中心とするワイヤレス・ソリューションを提供し,この一翼を担 うものである。 本稿では,無線システム製品のラインナップ化において,お客様のニーズと評価をもとにどのように開発を 行ってきたか,そして IT 社会の実現に向けてどのような役割を担おうとしているか記述するものである。 Not only in an enterprise but also in domestic, SOHO and public institution such as a school and a library, LAN connection and use of Internet by LAN are very popular now. And it has been the important policy of a country to build the information infrastructure that is able to connect the Internet with cheap and high-speed at anytime in anywhere. Then, the possibility of all communication technology, such as optical fiber network, CATV network, satellite communication, and the wireless LAN, is examined for the realization of "IT society". Our company provides the wireless solution by developing the optical wireless LAN, and contributes to realization of it. This paper describes how we have developed on the basis of a customer's needs and evaluation result, and what role in realization of IT society our company is going to do by developing the wireless communication systems. 1.は じ め に 無線とりわけ電波を媒体とする無線 LAN は,周波数の 割当てを獲得する必要から,標準化・規格化が先行する。 IEEE では,1990 年 7 月無線 LAN の標準規格案を制定する 802.11 小委員会を設置し,その作業が開始された。わが国 電波方式に比べ簡便で安価に高速無線通信を実現できると の判断から,当社では開発の重点を電波式無線 LAN から 光無線 LAN へとシフトさせていった。 2.光無線 LAN の概要 表 1 が示すように,当社のワイヤレス・ソリューション でも 1991 年 3 月,当時の電波システム開発センター(RCR), 製品群には,光無線 LAN,電波式無線 LAN,及びリスニ 現在の電波産業会(ARIB)が無線 LAN 部会を設置して同 ングシステムなどがある。光無線 LAN はオフィスを中心 様の作業を開始した。当時,NCR 社の WaveLAN やモトロ とした屋内向けとビル間等の長距離ネットワーク接続用の ーラ社の ALTAIR の電波式無線 LAN だけでなく,赤外線 屋外向けに分類され,通信距離や伝送速度で更に細かくラ を利用した光無線 LAN も米フォトニクス社が既に製品化 インナップがされている。 していた。 当社では,1992 年ころから,高信頼性を特徴とする産業 用無線装置の開発を行っていたが,通信速度が遅いこと, 光無線 LAN 製品は,電波式無線 LAN と比べて, ①サテライトタイプで 10 Mbps,対向タイプで 10 Mbps ∼ 1 Gbps と高速通信が可能である。 市場拡大があまり望めないことなどにより,その製品化を ②サービスエリアを制限することが可能であり,レイア 断念した。光無線無線 LAN の開発は,赤外線通信を使っ ウト設計が容易である。また,装置間の干渉が少なく たプリンタバッファや RS232C モデムを製品化していた LTEL 殿と共同で 1994 年より開始した。光無線 LAN は, 高スループットを維持できる。 ③指向性が強く,壁等の遮蔽物を通過しないことから, セキュリティに優れる。 * エレクトロニクス・デバイス部 ④光を使用した通信のため,電磁ノイズに強い。 昭 和 電 線 レ ビ ュ ー 22 Vol. 51, No. 1 (2001) 表 1 当社のワイヤレス・ソリューション製品 システム 伝送媒体 利用環境 通信形態 1 : n 通信 屋内向け 通信速度 半径 4 m 天井反射型 10 Mbps 半径 4 m SIL010E/R 10 Mbps 15 m SIL010E/C2 100 Mbps 無線 LAN 10 Mbps ビル間向け 1 : 1 通信 100 Mbps 電 波 そ の 他 赤外線 型 名 10 Mbps 1 : 1 通信 赤外線 通信距離 サテライト型 SIL010E/SCA/CT 15 m SIL100E9P 100 m SIL010E/L100 200 m SIL010E/L200 100 m SIL100E/L100 300 m SIL155M/L300 屋内向け 1 : n 通信 11 Mbps 500 m/オムニアンテナ AP340 シリーズ ビル間向け 1 : 1 通信 11 Mbps 3 km/八木アンテナ BR500 屋内向け 1 : n 通信 音声伝送 15 m/± 45 ° リスニングシステム 1 : n 通信を行なう事ができるという特徴を持っている。 ⑤電波では懸念される医療機器への影響がない。 開発当初は,電波式の製品が 2 Mbps の伝送速度であった ⑥電波のように法律による帯域制限がなく,高速通信が こと,工事を必要としない天井反射であったことなどによ 可能である。また,その利用に制限がない。 り大いに話題になった。しかしながら,通信方式に信号の というメリットがある。逆に, ①移動しながらの通信ができない。クライアントが移動 した場合,光軸調整等の手間がかかる。 衝突について何らケアすることのない CSMA 方式を採用し ていたため,ネットワークの負荷が増加し,信号の衝突が ②電波式より価格が高い。 (当初は赤外線方式の方が安価で 増えるに従い,スループットの低下が大きくなるという欠 あったが,近年の電波式の低価格化により逆転した。) 点があった。更に,ネットワークプロトコルの主流が IPX/ ③形状が大きい。 SPX から TCP/IP へ移行して行ったことにより,この欠点 ④障害物や太陽光により通信に影響を与えるため,設置 が顕著となった。また,天井反射を実現するため装置が大 場所が制限される。 型であったこと,赤外線の通信状態を確認する機能やモニ ⑤屋外での長距離通信では,霧や雪により通信距離に影 タする機能がないなどの欠点もあった。 響を与える。 そのため,多くの改善を求められ,以降に示す製品開発 というデメリットがある。 を取組むこととなった。 以上のメリットとデメリットを鑑み,次のようなネット 4.全二重光無線 LAN(SIL010E/C2)の開発 ワーク接続での利用が見込まれている。すなわち,既存の 建物内で床に配線することが難しい学校関係,医療機器に 影響ないことが要求される公共施設や病院,電磁ノイズの 最初に取組まなければならなかった課題は,スループッ トの改善である。 多い工場内,ビル間や地域ネットワークなどケーブル接続 スループットの低下を改善するには,信号の衝突による が困難な場所,ブローバンドネットワーク構築におけるア パケットロスを極力無くすことが必要である。そのために クセス用などである。 は,衝突を検出して信号の再送を行う(CSMA/CD),ある いは衝突が発生しないように親機により信号の送出をコン 3.天井反射型光無線 LAN(SIL010E)の開発 トロールする(CSMA/CA)などの方法がある。CSMA/CA 当社が 1996 年に最初に製品化した光無線 LAN は,赤外 は,IEEE802.11 が規定するところの電波式無線 LAN に採 線を天井反射させることにより通信できるタイプである。 用された方式であり,衝突検出の困難な無線通信では有効 この製品は,通信速度が 10 Mbps,光を天井に反射させて な手段であるとされている。一方,監視エリアを制限可能 表 2 屋内向け対向通信タイプ光無線 LAN の仕様 型 名 SIL010E/C2 SIL100E/P 伝送速度 10 Mbps 100 Mbps 伝送距離 1 ∼ 15 m 3 ∼ 15 m インターフェース 10BASE-T 100BASE-TX 電 源 専用 AC アダプタ 発光半値角 ±4゜ ±3゜ 光軸調整 テストボタンを使って調整 受光レベルメータを使って調整 IT 社会の一翼を担うワイヤレス通信 23 (セグメント長として規定)な有線 LAN では,IEEE802.3 が ため対向型にまして自己反射が大きな問題であった。この 規定するところの CSMA/CD が最も効率の良い通信方式で 対策として,シーリングユニットとノードの発光波長を変 あるとされている。当社では,まず対向全二重通信により えて,自己反射を光学フィルタにより取り除くという方式 10 Base-T の CSMA/CD に対応し,有線 LAN と同じスルー を採用した。空間伝送による WDM 伝送を実現した画期的 プットを実現させた。 な製品と言える。 全二重通信の実現には,自身の発信する光が反射して戻 光軸調整については,通信中,光軸が合っているか判断 ってくる自己反射対策が必要である。当社ではその方法と できるよう受信する光量レベルを表示する機能を採用し して,送信光の発光放射角を狭くし,反射光が自身に入射 た。また,通信の状態については,ソフト的に PC で表示 することを軽減させる,偏光フィルタを利用して送信と受 できるよう監視ソフトを開発した。 1998 年このサテライト型光無線 LAN の製品化により多 信の偏光方向を変えるなどにより実現した。 くの課題が克服され,大学や小中学校などの文教や市役所 などの公官庁向け大規模システムの受注も獲得できた。 写真 1 SIL010E/C2 5.サテライト型光無線 LAN(SIL010E/SC,/ST)の 開発 サテライト型光無線 LAN は,天井にシーリングユニッ トと呼ぶ親機を設置し,各端末はノードと呼ぶ子機よりシ ーリングユニットを通しネットワーク接続する形態であ る。この方式は,ノードが少ないパワーで通信でき,装置 を小型化できるというメリットがある。 サテライト型光無線 LAN においても全二重通信による CSMA/CD の実現が優先課題であった。サテライト型では, シーリングユニットはエリア内に大量の赤外線を放射する 写真 2 サテライト型光無線 LAN 表 3 サテライト型光無線 LAN の仕様 名 称 シーリングユニット ノード 型 名 SIL010E/SCA SIL010E/STA 伝送速度 10 Mbps アクセス制御方式 CSMA/CD 通信エリア 半径 4 m 専用 AC アダプタ ・変換 BOX(SIL010E/SE) ・専用 PS マウスコード(SIL010E/SM) ・専用 USB コード(SIL010E/SU) ・専用 LAN カード(SIL010E/SP) いずれかと組み合わせて使用。 − ±4゜ 電 源 発光指向半値角 光軸調整 LED とブザー音によって光軸遮断や光軸ズレを検出し通知する。 昭 和 電 線 レ ビ ュ ー 24 6.100 Mbps 光無線 LAN(SIL100E/P)の開発 有線 LAN において伝送速度 100 Mbps の FastEthernet Vol. 51, No. 1 (2001) 8.無線通信システムのトータルソリューション を目指して 電波式無線 LAN への取り組み が広く普及してくると,無線 LAN にも高速化の要求が強 8.1 くなってきた。1999 年には,他社に先駆け屋内用 100 当初,電波式無線 LAN の取扱いは,ビル間用光無線 Mbps 光無線 LAN を開発し,当社の技術力を大いにアピー LAN のバックアップ用として販売していた。電波も光も ルした。表 2 にその仕様を示す。この製品は,SIL010E/C2 同じ電磁波であり,ただ,電波式無線 LAN の使用している と比べて伝送速度が 10 倍であるのにもかかわらず,形状及 電波は,周波数が 2.5 GHz で,波長に換算すると 12 cm で び通信距離はほぼ同じである。もちろん,全二重通信に対 あるのに対し,光無線 LAN の使用している赤外線の波長 応し,受信レベル表示,光と有線両方のリンク表示機能も は 850 nm と,異なるのみである。それぞれの波長の違い 持っている。 は,赤外線が霧および雪により減衰するのに対し,電波は 雨の影響を受けやすいという性質の違いに表れる。当社で は,この性質の違いを利用し,電波式無線 LAN を光無線 LAN のバックアップとして販売を開始した。 2000 年,IEEE802.11b 規格の 11 Mbps 製品の登場を機に, オフィス向け無線 LAN として Cisco Aironet 社製品のもそ のラインナップに加えた。この電波式無線 LAN をライン ナップに加えたことによりトータルワイヤレスソリューシ ョンを提供できるようになった。当社では,機器売りだけ でなく,導入前の現地調査,アクセスポイントの配置,使 用チャンネルの設計,導入後の電波状態の確認,カードの インストール,システム設定等をサポートできることより, 多様なお客様のニーズに対応している。今後は,最大 54Mbps で通信可能な 5.2GHz 帯製品への取り組みを進めて 写真 3 SIL100E/P いく計画である。 Cisco Aironet 340 シリーズの特徴 7.ビル間用光無線 LAN の製品化 ・ IEEE802.11b 準拠 通信速度 11,5.5,2,1 Mbps ネットワークは急激に発展し,オフィス内にとどまらず, ・チャネル数 14 ch(独立した 4 ch を利用可能) 敷地内の建物,公道をまたいだビル間へも拡大,近年では, ・技術基準適合証明取得済のため免許不要 地域ネットワークへと進展してきている。そして,これら ・ 40 bit,128 bit 暗号化対応 のネットワーク接続に無線 LAN はまさに威力を発揮する。 ・ WiFi 認証取得 当社では,1997 年イーサネット LAN 接続専用のビル間 ・ 10/100 Mb イーサネット対応 用光無線 LAN を製品化した。最初に製品化したのは,伝 ・ネットワークおよびシリアルポートから設定が可能 送速度 10 Mbps,通信距離 100 m 及び 200 m の 2 機種であ ・ Windows ベースの GUI ユーティリティ る。これまで,NTT の専用回線による低速で高額な料金 ・サイトサーベイ機能搭載 を支払ってネットワーク接続を強いられていたお客様から 大いに喜ばれた。NTT 専用回線への不満を NTT 自身が最 も感じていたようで,NTT 様に最も多く当社のビル間用 光無線 LAN をインテグレートしていただいる。 8.2 リスニングシステムの開発 ネットワークの進展は,より高速化,より広域化へと向 LAN 以外の赤外線空間伝送の応用製品として,音声を かっている。当社でもこのニーズに答えるべく,100 Mbps 光で伝送し,赤外線ヘッドホンで受信するリスニングシス の開発とともに,海外のメーカ製品を品揃えに加えている。 テムを製品化した。リスニングシステムでは,教室内全体 現在では,図 1 に示すように,伝送速度 1 Gbps,通信距離 を均一の音質で受信することが可能であり,入学試験等の 4 km(10 Mbps)までカバーしている。 リスニング試験に最適とされている。名古屋大学様におい て入学試験のリスニング試験用に導入された他,学校関係 での導入が見込まれている。 IT 社会の一翼を担うワイヤレス通信 25 表 4 ビル間用光無線 LAN の仕様 型 名 SIL010E/L100 伝送速度 SIL010E/L200 SIL100E/L100 10M bps 伝送距離 100 m 200 m インターフェース SIL155M/L300 100 Mbps 10BASE-T 電 源 100 m 300 m 100BASE-TX 100BASE-FXATM155 屋内設置 屋内外設置 AC100 V 発光指向半値角 ±4゜ 使用環境 屋外設置の際は専用シェルが必要 光軸調整 テスト機能にて調整 ± 0.17 ゜ レベルインジケータにて調整 写真 4 ビル間用光無線 LAN (左上 SIL010E/L100,右上 SIL010E/L200,左下 SIL100E/L100,SIL155M/L300) 新ラインアップ製品 従来製品 通信速度 SIL1250M/L1000 SIL1250M/L300 1 Gbps 100 Mbps 10 Mbps SIL155M/L2000 SIL155M/L1500 SIL155M/L1000 SIL155M/L500 SIL155M/L300 SIL100E/L100 SIL020M/4000 SIL020M/2000 SIL020M/L600 SIL010E/L200 SIL010E/L100 30 m 100 m 300 m 1 km 通信距離 図 1 長距離光無線 LAN のラインナップ拡充 3 km 10 km 昭 和 電 線 レ ビ ュ ー 26 Vol. 51, No. 1 (2001) 赤外線ラジエータ (音声信号を赤外線で放射) 音源 (CD,MD,DATなど) 音声信号 音声信号(電気) (電気) 音声信号(光) デジタルトランスミッタ (光伝送距離延長用) ラジエータコントローラ コードレスヘッドホン (音声信号の変調処理と分配) (赤外線の届く範囲ならどこでも受信) 図 2 リスニングシステム ビル間用光無線は,LAN 間接続を目的に商品化され, 広帯域で安価という特徴がエンドユーザーにより強く支持 され成り立っている。その反面,通信事業者やシステムエ ンジニアが求める光無線装置の信頼性との間にギャップが 存在する。気象現象の影響を受ける空間伝送において,そ の影響と回線品質との関連性に解明されていない部分がま だ多く有るのがその理由である。こうした自然現象に於け る回線品質データの蓄積とそれを補う機能・性能面の改善 により,高い精度の回線設計が出来る装置を開発すること がこれからの課題といえる。 写真 5 Cisco Aironet 340 シリーズ 9.今後の取り組み 屋内用無線システムへの要求として,光無線では,100 Mbps の天井ユニット及び 100 Mbps で 1 : n 通信が可能な もの,さらに高速な 1 Gbps 製品,光軸調整の自動化,監 視機能付きの製品が求められている。また,LAN 以外で 松本 秀樹(まつもと ひでき) エレクトロニクス・デバイス部 技術課 課長 1982 年入社 電子デバイス,電子機器の開発および設計に 従事 三浦 聖(みうら きよし) エレクトロニクス・デバイス部 技術課 主査 1984 年入社 電子デバイス,電子機器の開発および設計に 従事 は,音声や映像伝送,多チャンネルや双方向通信,数百 Mbps の高速映像伝送等の要求が高まってくることが予想 される。これらの要求に対し,波長多重空間伝送技術,1 Gbps 高速伝送技術,光軸自動調整機能,小型小電力での 通信技術,管理機能などの使い勝手の改善などの検討して いくことが必要となる。 山口 剛(やまぐち つよし) エレクトロニクス・デバイス部 技術課 主査 1988 年入社 電子機器の開発および設計に従事
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