高速ディジタル・データ伝送入門 高速ディジタル・データ伝送入門 高速

連 載
高速ディジタル・データ伝送入門
高速ディジタル・データ伝送入門
第 11 回
シリアル&高速化するパソコン内部バス
志田 晟
Akira Shida
前回は DDR SDRAM を例に,パソコンのメモリ・
バスに使われている伝送方式を説明しました.メモ
CPU の内部処理速度と
マザーボード上のバスの転送速度には
大きな開きがある
リ・バス以外にも,パソコンのマザーボードにはいろ
いろなバスがあります.一般的な拡張カード用バスと
しては PCI(Peripheral Component Interconnect)バ
■ パソコンの内部バス構造
スがあります.しかし PCI バスのクロックは,CPU
の内部クロックが GHz を越えるのが当たり前になっ
CPU にインテルの Pentium4 を使用する汎用マザー
ているのに,いまだに 33 MHz にとどまったままです.
そのため,高速な後継規格が必要になってきています.
ボードで,2004 年始めの段階で最も新しい構成を図
11 − 1 に示します.図中には各部のデータ転送速度も
RapidIO や HyperTransport など,いろいろな規格
示しています.CPU から直接出ているバス(FSB :
が提唱されてきましたが,PCI バスの後継規格は
PCI − Express に落ち着くようです.2004 年の中ごろ
フロント・サイド・バス)のデータ転送速度は 6.4 G バ
イト/s です.
には PCI − Express を採用したマザーボードが出てく
る見込みです.
■ CPU の内部処理速度と
メモリ・バス速度には約3
0倍の差がある
図 11 − 2 は,パソコンにおける CPU の処理速度と
ボード上のデータ転送速度の推移を示したものです.
ただし 2005 年の値は予想です.実験的にですが,内
部クロックが数十 GHz のデバイスも作られており,
(2)
〈図 11 − 1〉
パソコンの内部バス構造
AGP 8×
64ビット
2.1Gバイト/s
Pentium4
システム・バス
6.4Gバイト/s
(800MHz)
グラフィック・
コントローラ
DDR400
(デュアル・チャネル)
6.4Gバイト/s
メモリ・
コントローラ
ハブ・インターフェース
8ビット
266Mバイト/s
Serial ATA150
Ultra ATA/100
インターフェース・
コントローラ
USB 2.0
CODEC
モデム
230
PCI バス
イーサネット
Super I /O
BI OS
オーディオ
2004 年 2 月号
今後も図 11 − 2 の線に沿った高速化が見込まれます.
● DDR SDRAM のデータ転送速度は 3.2 G バイト/s
過していますが,バス幅もクロック周波数も採用当時
のまま 32 ビット,33 MHz で,データ転送速度は
PC3200(DDR400)タイプの DDR SDRAM モジュー
ルは,データ・レートが 400 MHz で,64 ビット同時
133 M バイト/s です.メモリ・バスのデータ転送速度
に対して 1/20 程度,CPU の処理速度に対しては
にアクセスします.つまりデータ転送速度は,0.4 ×
1/750 程度の転送速度しかないので,今となっては
10 9 ×(64/8)= 3.2 G バイト/s になります.さらに,
二つのメモリ・モジュールを同時に動かすデュアル・
PCI バスはかなり遅いことがわかります.
CPU の内部処理速度に比べればメモリも遅いので
チャネル方式なら,データ転送速度は 6.4 G バイト/s
になります.これは,FSB のデータ転送速度と同じ
すが,メモリについては CPU 内にあるキャッシュと
いう一時保管用のメモリを使用することで,ある程度
です.
の遅れを補償できます.しかし外部バスはそのような
● CPU の処理速度は 100 G バイト/s
インテルの Pentium4 は,CPU 内部で一度に 256 ビ
対応が難しいこともあり,高速応答が必要な用途には
大きな問題となっていました.
ットのデータを扱います.クロックを 3 GHz とすると,
内部処理速度は 3 × 10 9 ×(256/8)= 100 G バイト/s に
達します.CPU 内部の処理速度がそのままマザーボ
グラフィック・カード専用の高速バス
… AGP
ード上で必要なわけではありませんが,デュアル・チ
ャネル方式の DDR SDRAM でも,まだまだ遅いと言
● PCI バスを見切ったグラフィック・カード
PCI バスが採用された当時は,グラフィック・カー
えます.
ドも PCI バスにつながっていました.しかし CPU や
メモリに次いで高速性が求められるグラフィック・カ
■ 拡張カード用バスと CPU 処理速度には
さらに大きな開きがある
図 11 − 2 には ISA バスや PCI バスなど,マザーボー
ード専用に,PCI バスとは独立したバスが設けられま
した.これが AGP(Advanced Graphics Port)バスで
す.ただし,高速な信号を確実に伝送するため,バス
ドに設けられている拡張カード用バスの速度も併せて
示しています.拡張カード用バスの速度は,1995 年
といってもスロットは一つだけです.
● AGP バスのデータ転送速度は約 2.1 G バイト/s
から 2000 年まで横ばいになっています.PCI を高速
にした PCI − X という規格が 2000 年頃に出ていますが,
図 11 − 1 を見るとわかるように,AGP バスは CPU
と直接接続されるメモリ・コントローラから出ていて,
実際には多くのパソコンの PCI バスは,2003 年頃ま
CPU と高速に通信しています.
で 133 M バイト/s のままです.
2005 年に拡張カード用バスが 500 M バイト/s まで
AGP バスのバス幅は 32 ビット,クロックは
66 MHz です.図 11 − 3 に示すように,AGP には 1 ク
高速化していますが,これは PCI − Express × 1 の採
用が見込まれているためです.なお,このグラフには
ロックで 2 回データ転送する 2 ×モード,同じく 1 ク
ロックで 4 回データ転送する 4 ×モード,そして 1 ク
示していませんが,グラフィック・カード用のバスは
ロックで 8 回データ転送する 8 ×モードがあります.
1995 年以降,メモリ・バスの 1/4 〜 1/2 程度に高速化
されています.
1 ×モードではデータ転送速度は 266 M バイト/s です
が,8 ×モードでは約 2.1 G バイト/s に達します.
● PCI バスのデータ転送速度は CPU 処理速度の
1/750 しかない
● AGP 8 ×では高速化のため線路インピーダンスで
終端している
PCI バスは,パソコンに採用されてから約 10 年経
〈図 11 − 2〉CPU の処理速度とボード上のデータ転送速度の推移
PCI バスは 3.3 V の LVTTL で,メモリ・バスのよ
うに線路端で終端されていません.したがって反射な
処理速度 / データ転送速度
[G バイト /s]
1000
CPU
〈図 11 − 3〉AGP のデータ転送タイミング
100
クロ
ック
10
メモリ
1
1×
0.1
拡張カード用バス
1980
1985
1990
1995
年
2004 年 2 月号
2000
2005
D2
D3
D4
D5
D6
D7
D8
2× D1 D2 D3 D4 D5 D6 D7 D8
0.01
0.001
D1
4×
D D D D D D D D
1 2 3 4 5 6 7 8
8×
DDDDDDDD
12345678
231