CQ ham radio 1987 年 10 月号 IC が入手できない! IC が入手できない! IC にも、寿命の長いもの短いも のがあり、過去の製作記事の中に は IC が入手できなくなって作れ なくなったものがどうしても出て きてしまいます。 そんなうちの一つとして気にな October 1987 291~295 頁 っていたものに、小著「ハムのト ランジスタ活用」(CQ 出版社刊) の中で作った“SSB/CW 通信型受 信機”の中の“IF 増幅部”(第 1 図)がありました。 この IF 増幅部では、増幅用に TV PIF 増幅用の TA7124P を使っ ていました。 TA7124P は昨年あたりまでは なんとか入手できたのですが、今 年にはいってついにまったく入手 できなくなってしまいました。千 葉県野田市の三上さん、東京の JF1GBT 内田さんなどからのお 便りに対して、私の手持ちがある うちはさしあげていたのですが、 291 これもついに底をついてしまった のが 8 月のことでした。 というわけで、そうでなくても いずれはやらなければならないと 思っていた代替用の IF 増幅部を いよいよ作ってみることにします。 代替用の IF 増幅部を作るにあ たっては、ディスクリートでやる 方法も考えましたが、TA7124P というテレビの映像増幅用(テレ ビ の 映 像 信 号 は AM な の で 、 SSB/CW 用に使える)を SSB/CW 用受信機の IF 増幅に使うという アイデアがとてもうまくいったの で、このアイデアを捨てるのはも ったいないと考え、なんとかこの アイデアを生かすことにしました。 さて、いちばん手っとり早いの は TA7124P の代替品を捜すこと ですが、これがその後の東芝の IC 292 にはありません。みんな中身が充 実して映像検波まではいったもの になってしまい、使えるものがな いのです。 そこで、各社のデータブックを 捜してみた結果みつかったのが、 三菱の M5183 と M51360L、松下 の AN247 と AN5710、それに TI の SN76600 です。これらはみん な、テレビの映像信号増幅用です。 つぎに「トランジスタ技術」誌 の広告を見て入手可能なものを捜 してみたら、M5183 は亜土電子の 広告には出ているものの在庫切れ で、結局入手できたのは松下の AN5710 と三菱の M51360L でし た。 AN5710 と M51360L AN5710 と M51360L AN5710 は鈴商、M51360L は 亜土電子で購入しましたが、これ らは第 2 図のようなものです。 まず AN5710 は TA7124P に近 いものですが、RF AGC の回路が プラスされています。 M51360L のほうは RF AGC の ほかに映像検波と IF AGC 増幅が はいっていますが、映像 IF 出力 と映像検波入力が分離されている ので使えます。このうち映像検波 は役に立ちませんが、IF AGC は 使えそうです。 でも、この二つを比べてみると AN5710 が 9 ピン SIP、M51360L が 16 ピン Zig-Zag In-Line package(写真 1 参照)で、M51360L のほうはピン数が多いのが使うの にちょっと二の足を踏ませます。 というわけで、TA7124P のやり 方を引きつぐには AN5710 のほ うがよさそうなので、今回は AN5710 でやってみることにしま した。なお、第 2 図を見るとわか るように、AN5710 も M51360L もともに白黒テレビ用です。これ はテレビの中でも簡単なもの用と いうことになるのでしょうが、白 黒テレビもやがてなくなるとすれ ば、これらの IC の運命もそう長 CQ ham radio くないのかもしれません。 さて、データブックを見たので すが、AN5710 の使い勝手が今一 つわからないので、第 3 図の回路 October 1987 で入出力特性と AGC 特性を調べ てみました。なお、最初は負荷に 9MHz の同調回路を使ってみたの ですが、信号レベルが変わるとど うしたわけか同調点がずれるので す。そこで、負荷は RFC として あります。 まず、第 4 図が AN5710 の入出 力特性です。入力が 40dBμ(100 μV)のとき出力は約 0.03V です からゲインは約 300 倍(約 30dB) となります。出力も 0.3V 以上あ り、うまく使えそうです。 つぎに、第 5 図が AGC 特性で す。AN5710 の AGC は仲間の AN5720 と組みにして使うように なっており、データブックには AGC についてのデータがなかっ たので、これはどうしても必要な 測定でした。これを見ると必要な AGC 電圧は 0~0.5V といったと ころで、TA7120P の 7~8V とは 大きく違っています。 ここで RF AGC 出力を測って みたところ、VAGC が 0~0.5V に 対して 0~4.5V が得られました。 なお、これはピン 4 の、RF AGC 遅延の端子をアースしたときで、 ここにプラスの電圧を加えると RF AGC 出力の立ち上がりを遅ら せることができます。 293 これで AN5710 の素性がつか めたので、早速 IF 増幅部を作っ てみることにしました。 IF 増幅部の作り方 IF 増幅部の作り方 第 6 図が、SSB/CW 用 9MHz IF 増幅部の回路です。これは「ハム のトランジスタ活用」の IF 増幅 部にそっくり置き替えて使えるよ う、電源電圧やそれぞれの端子の 名称などを合わせてあります。 まず IC1 と IC2 が AN5710 によ る IF 増幅で、第 2 図を見るとわ かるように AN5710 は TA7124P よりもちょっとゲインが少ない 294 (TA7124P のゲインは 40dB)こ とと、AN5710 の負荷に同調回路 を入れると信号レベルによって同 調点がずれるという第 3 図の測定 時の経験を生かして、FET による アンプを 1 段入れました。 AN5710 の AGC 電圧は第 5 図 でわかるようにゼロからでよいの で、TA7124P よりも簡単です。ダ イオード(D5、D6)で整流したあ とオペアンプで直流増幅し、100 μF(C)を急速に充電します。放 電のスローレリーズのほうは、R (33kΩ)により調節できます。 なお、RF ゲインおよびスタン バイの方法は、TA7124P の場合の やり方になっています。 AN5710 には RF AGC 回路がは いっているので、IC1 のほうのこ の回路を利用します。VR1 によっ て RF AGC 遅延を加減できるよ うにしてあります。 ここで、ちょっと困ったことが おきました。それは、 「ハムのトラ ンジスタ活用」の受信機の周波数 変換部の RF 増幅にかける AGC がリバース AGC 対応になってい るのに、AN5710 はどこにも書い てありませんがフォワード AGC 用のようです。 ちなみに、三菱の M51360L は リバース AGC(フォワード AGC 用には M51364L がある)なので す。 そこで、トランジスタ(2SC 1815)で RF AGC 出力を反転さ せています。 S メーターは AGC 電圧を測れ ばよいのですが、第 6 図では電圧 に余裕のある RF AGC 電庄を測 るようにしました。 では、第 6 図に示した回路をそ っくりプリント板の上に作ること にして部品を集めましょう。 CQ ham radio 第 1 表が、プリント板の組み立 てに必要な部品の一覧です。本器 の心臓部である IC の AN5710 は、 (株)鈴商(電話 03-255-9187) で求めました。そのほかには、む ずかしい部品はなにもありません。 第 7 図が IF 増幅部のプリント パターンです。 「ハムのトランジス タ活用」の TA7124P を使ったも のに比べると、50×120mm と左 右が 5mm だけ短くなっています。 プリント板の加工が終わったら、 部品を取り付けて組み立てます。 全体の組み立て(写真 2)が終 わったら、4 個ある半固定 VR を みんなほぼ中央の位置におき、電 源端子に 12V を加えてみます。こ のときに、30~35mA の電流が流 れていれば正常です。 調整と使い方 調整と使い方 このあとは、 「ハムのトランジス タ活用」の p.114 からに紹介して ある“周波数変換部”とミズホ通 信の VFO-5、“キャリア発振部”、 “低周波増幅部”それに“コント ロール部”といったものが必要で October 1987 すが、それらがあるとして調整の 要点を説明しましょう。 まず、信号を何も受信しない(ア ンテナをつながない)状態で RF ゲインを最大にし、VR1 を回して S メーターがわずかに振れるよう にします。 そこで、VR2 を回してみましょ う。キャリア・バランスがくずれ ると S メーターが振れてきますか ら、S メーターの振れが最小にな るように VR2 を調節します。 では、いったん VR3 をアース側 にいっぱいに回し、アンテナをつ ないで電波を受信してみましょう。 何か信号が受かったら、まず受信 音が最大になるように T を調整し ます。 うまく受信できるようになった ら、十分に強い信号を受信し、S メーターが S9 を示すように、VR4 を調節します。 最後は、VR3 による RF AGC の 調整です。テスターで AGC 端子 の電圧を測り、VR3 を上げていく と信号の強度に応じて電圧が変化 するようになりますから、十分に 強い信号がはいったときに 2V く らいになるように VR3 を調節し ます。なお、この電圧を下げすぎ る(RF AGC を効かせすぎる)と、 強い信号を受信したときにしゃっ くり現象を起こしてしまいます。 * この IF 増幅部は、出力が 9MHz の周波数変換部をつなぐことによ って SSB/CW 受信機を作ること ができます。その場合の S メータ ーとスタンバイ/RF ゲインのつな ぎ方を第 8 図に示しておきます。 できあがった結果はとても FB で、TA7124 を使ったものより発 生雑音が少なく快適に働いていま す(完成は写真 3)。 295
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