2014 年 6 月 Corporate Law Newsletter 弁護士 塚本 英巨 今回のテーマ ○ スクープ報道の対象となった上場銘柄は、注意喚起の対象に~東京証券取引所による 「注意喚起制度」の創設~ 投資者に対して機動的に注意喚起をするための「注意喚起制度」について ≪新たな制度の導入の背景≫ ○ 東京証券取引所は、マスコミ報道等により上場会社に関する不明確な情報が発生した 場合に、投資者に対して機動的かつ柔軟に注意喚起を行うための制度(“注意喚起制度”) を新設するため、業務規程等を改正した(本年5月31日施行)。 ○ 従来、東京証券取引所には、 「開示注意銘柄制度」があった。これは、上場会社が、上 場規則に基づく会社情報の開示を直ちに行わない状況にあると認められる場合等に、当 該開示が行われるまでの間、 「開示注意銘柄」に指定して、開示すべき事項が開示されて いない旨及びその理由を東京証券取引所が公表する制度であった。 しかし、 「開示注意銘柄制度」では、機動的かつ柔軟な発動が困難で、過去の適用事例 もわずかであるなどしたため、今般、当該「開示注意銘柄制度」に代えて、機動的かつ 柔軟に、投資者に対して不明確な情報の存在を周知して注意喚起を行うため、新たな制 度(注意喚起制度)を構築するに至ったものである。 ≪「注意喚起制度」の概要≫ ○ 具体的には、東京証券取引所は、次の(a)又は(b)のいずれかに該当する場合で あって、その周知を必要と認めるときは、投資者に対する注意喚起を行うことができる ものとされている(業務規程30条)。 なお、注意喚起制度は、機動的かつ柔軟に投資者に対する注意喚起を目的とするもの であり、上場会社に対する規制やペナルティを目的とするものではないとされている。 (a)有価証券又はその発行者等に関し、投資者の投資判断に重要な影響を与えるおそれがあ ると認められる情報が生じている場合で、当該情報の内容が不明確であるとき (b)その他有価証券又はその発行者等の情報に関して、注意を要すると認められる事情があ るとき ① 「投資者の投資判断に重要な影響を与えるおそれがある」情報(上記(a))とは: 合併等の組織再編、買収や経営統合、新株発行等による資金調達、上場廃止の原因 となり得るような事情に関する情報(法的整理や私的整理に係る情報、虚偽記載に係 る情報等)が含まれる。 投資者の投資判断上重要なものであるかどうかについては、「不明確な情報の重要 さ」、「情報と真実(照会によって把握された事情等)とのギャップ」、「情報の確から しさ」等の事情を考慮して判断されるようである。 ② 情報の内容が「不明確である」とき(上記(a))とは: 報道や市場の噂などの形で発生した情報であるなど、上場会社自身の適切な方法に よる情報開示が行われていない中で発生した情報である場合を指す。 ③ 「その他有価証券又はその発行者等の情報に関して、注意を要すると認められる事 情」(上記(b))とは: 例えば、決定事実や業績予想の修正等の開示時期を過ぎているにもかかわらず開示 を行わない場合等が想定されている。 -1- ④ 「注意喚起」の方法: 取引参加者への通知、報道機関への公表及び東京証券取引所のホームページへの掲 載等の方法により行われ、併せて、注意喚起する理由が示される。 注意喚起に関する東証HP:http://www.tse.or.jp/market/chui/index.html なお、注意喚起制度は、東京証券取引所が必要と認めた場合にその都度注意喚起を 行うものであり、解除を伴うものではないとされている。 ○ 東京証券取引所は、これまでと同様に、投資者の投資判断に重要な影響を与えるおそ れがある不明確な情報の発生を認識したときは、不明確な情報の事実関係について、上 場会社に対して照会を行い、当該照会に係る事実について、開示することが必要かつ適 当と認めた場合には、上場会社に対して情報開示を求めることになる。 また、不明確な情報が投資者の投資判断に重大な影響を与えるおそれがあると認めた 場合には、上場有価証券の売買が停止されるという点も、これまでと同様である。 ≪スクープ報道に対する今後の開示の在り方≫ ○ これまで、新聞等における上場会社に関するスクープ報道等に対し、「当社が発表し たものではございません」、 「現時点において、開示すべき決定した事実はございません」 といった紋切り型の開示が行われることが多かった。 他方で、報道によれば、東京証券取引所は、昨年から、重要な案件について、なるべ く踏み込んだ表現を使って開示するよう指導し、そのような状況も変化しつつあるよう である。実際、近時、スクープ記事の対象となった事項について「検討・協議している」 旨やその日に開催する取締役会に「付議する予定である」旨を開示している例がある。 注意喚起制度は、上場会社に対する規制を目的とするものではないが、今後、不明確 情報について踏み込んだ開示を行うことがより強く促されることになると考えられる。 具体的な開示の在り方としては、これまでの踏み込んだ開示事例も踏まえ、報道に係 る買収等の事項等を検討している場合には、実際の進捗状況や今後の手続の予定(取締 役会への付議の予定等)について、開示可能な範囲内で踏み込んで開示することになる であろう。その際、買収の相手方や対象会社等の第三者との関係で、どこまで開示する ことができるか、当該第三者に対する守秘義務に反しないように留意する必要がある。 ○ なお、どのような情報・状況のもとにおいて注意喚起の対象となるかは事例の集積を 待つほかないが、注意喚起が行われた事例が既に1件ある。具体的には、本年6月2日、 第一生命保険について、「注意喚起の実施事由」を「エクイティ・ファイナンスに関す る不明確な情報が生じているため」として、注意喚起が行われている。 http://www.tse.or.jp/market/chui/archives.html# プロフィール ひでお 塚本 英巨 弁護士/アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー TEL: 03-6888-5819(Direct) / 080-4347-4887(Mobile) E-mail: [email protected] 主な業務:M&A・組織再編、会社訴訟等の紛争案件、株主総会対策等の会社法関連業 務、インサイダー取引規制をはじめとする金融規制法関連業務 2004 年 10 月 弁護士登録(第二東京弁護士会) 2010 年 11 月~2013 年 12 月 法務省民事局勤務(会社法改正法案の企画・立案担当) 2013 年 1 月 パートナー就任 2014 年 4 月 東京大学法学部非常勤講師( 「民法基礎演習」担当) -2-
© Copyright 2024 Paperzz