理系のための博物館資料論 - 東京農業大学オホーツクキャンパス

理系のための博物館資料論
(2012年前期改訂版)
第1講:自然物の資料化・標本化
【授業の全体構成】
第1講:自然物の資料化・標本化
第2講:カード・ラベル・配列
第3講:学名とタイプ標本
第4講:展示資料と教育資料
第5講:展示室の構造
第6講:足寄動物化石博物館の見学および複製標本の作製
第7講:標本会社、展示会社、製作会社
第8講:展示の技法と新傾向
第9講:写真・映像・音声資料とドキュメンテーション
第10講:保存科学とIPM
第11講:文化財保護法と博物館資料関連法規
第12講:生物多様性の保全と博物館
第13講:海生哺乳類の収集と保存
第14講:自然史研究の歴史
第15講:動物園学と水族館学
1.博物館資料の分類
1)二分法
・自然史資料 自然物を資料化したもの
・文化史資料 人工物を資料化したもの
*この分類で、科学館の資料(自動車、ロケット、コンピュータ)はどちらがふさわしいか
文部科学省は「公立博物館の設置及び運営に関する基準」で
「人文系博物館」とは、考古、歴史、民俗、造形美術等の人間の生活及び文化に関する資料を扱う博物館をいう。
「自然系博物館」とは、自然界を構成している事物若しくはその変遷に関する資料又は科学技術の基本原理若しくはその歴史
に関する資料若しくは科学技術に関する最新の成果を示す資料を扱う博物館をいう。
としている。科学技術は文化でない?日本的な文系理系の区分け。
2)三分法
・自然史資料
・理工系資料
・歴史資料
*この分類で、人類学の資料(化石人類、石器、先住民の生活道具)はどこ?
3)日本の法律等による博物館の対象物(=資料の分類)
博物館 第2条
この法律において「博物館」とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成
を含む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエー
ション等に資するために必要な事業を行い、(中略)登録を受けたものをいう。
・博物館法は資料に関する具体的規定はない。設置者や館の自主性に任せられている。
・むしろ資料の保護は文化財保護法がその役割を担っている。
・よって指定文化財は法的保護の下にあり、それ以外の多くの博物館資料は法による保護のもとにはない。博物
館の責任において保存されている。
2.標本とは何か
自然物+採集データ 松浦2003「自然史標本の収集と管理の指針」『標本学 国立科学博物館叢書1』pp7-9
研究過程の生産物+ラベル=一次資料 学術審議会1996「ユニバーシティ・ミュージアムの設置について」
・自然物そのものは標本とはいえない。標本とするには最低限の採集データが必要。
2)教科書『標本学 国立科学博物館叢書1』の資料分類
動物、植物、化石・古人骨、岩石・鉱物
・国立科学館での研究部の区分とおなじ
・科学館で備えられているような展示装置は含めない
・生体(生きた生物)は含めない
・自然のものであっても、人間が利用したもの・加工したものは含めない
3)保存方法による分類
・乾燥標本 押し葉標本(腊葉[さくよう]標本):維管束植物
そのまま乾燥:コケ類、菌類、地衣類、昆虫、クモ類
骨格標本・剥製:脊椎動物
羽毛標本:鳥類
毛皮・フラットスキン:哺乳類
外骨格のみ:甲殻類
そのまま:化石、岩石標本
・液浸標本 アルコール液浸(エタノール、イソプロパノール):胎児、軟組織、魚類、多くの無脊椎動物
・封入標本 樹脂封入:小動物(小鳥、ネズミまで)、植物、動物、岩石
プレパラート:微少生物、微化石
・その他
冷凍
3.収蔵への手順
自然物を標本にするとき、
A:物体の処理
B:情報の記録
の両方を適切におこなう必要がある
物体の処理では、安楽死・麻酔→清掃→整形→撮影→固定→水洗→強化→保存→収蔵となる。
情報の記録は、採集データの記述・撮影・収蔵情報となる。
色彩は固定も保存もできないので、カラーチャートと一緒に写真撮影して記録する。
生体時の特徴や生息環境・採取環境は文字記録に残す。
計測は可能なものは新鮮な状態で行う。
1)安楽死・麻酔
生きている動物は、固定の前に安楽死させるか麻酔をかける。
冷凍:は虫類、両生類、無脊椎動物
冷蔵:魚類
薬品:一部の昆虫(酢酸エチル)、貝類
2)清掃(クリーニング)
自然物を標本化するときに必要な下処理、固定の前に実施。
・不要部分の除去
よごれや粘液、ゴミ、不要な虫の除去。
岩石やノジュールを破壊して化石だけ取り出す。
一部の昆虫や甲殻類を乾燥標本にする場合、内蔵や筋肉を取り出す。
・脱脂 骨格標本では煮沸・土中埋設、有機溶媒に浸すなどして脱脂する(完成後に行うこともある)
・殺虫・殺菌 ‒40度以下に冷凍、エーテルなどの薬品/炭酸ガスを充填した袋に入れる
・漂白 有機物系の黒ずみ除去に次亜塩素酸を用いることもある
3)整形
自然物を望ましい形状に整える作業(=固定された標本は形状を変更するのが困難)。
・維管束植物:押葉標本(腊葉標本)
・昆虫:展翅・展足、
・魚類:頭を左にしてひれ立て
・はく製や骨格標本でも、作成中から完成時の形状を計算して作業を行う
4)固定
整形された標本の形状を保つための処理。
固定の方法によっては、特定の調査方法や研究ができないことがあるため、将来の利用に配慮して方法を選ぶ。
自然物の種類によっては固定処理を必要としないものもある 例)菌類、地衣類、コケ類、鉱物
・乾燥 維管束植物、昆虫
・ホルマリン処理 液浸標本にするもの
日本薬局方ホルマリン(劇物*):ホルムアルデヒド35-38%+メタノール10%水溶液
ホルマリン10%水溶液とは、ホルマリン原液1に対して水9の割合で混ぜ合わせたもの。
標本作製の固定に使用するのは水道水やきれいな河川水で十分、蒸留水やイオン交換水など不必要。
アルデヒド基がタンパク質のアミノ基に結合して架橋することで、タンパク質の立体構造を壊す。
ホルマリンが酸化すると蟻酸を生じるので、酸性が強い CH² O+O →CH² O²
資料によっては、重曹(炭酸水素ナトリウム)を加えて中和し「中性ホルマリン」として用いる。
粘膜への刺激性を中心とした急性毒性、蒸気は呼吸器系、目、のどに炎症を引き起こす。
使用濃度:昆虫・無脊椎動物:10%液、魚類のひれ立て:原液、海産無脊椎動物は海水希釈
*劇物:毒物及び劇物取締法による指定物質
5)保存
標本(の望ましい形状)を長期間維持すること。
保存の方法によっては、立体形状や色彩が維持されない。
自然物の種類によっては特段の保存処理を必要としないものもある 例)岩石
保存の基本は光をさけること。
・乾燥標本 適切な温度・湿度を保つ、防虫剤、防カビ剤の使用
・液浸標本 アルコール(エタノールやイソプロピルアルコール)70%水溶液を用いる
6)強化処理
薬品を使用して風化を避けるための処理。「保存処理」をこの作業に限定して使うことも多い。
例)合成樹脂の浸透
化石や骨格標本、遺跡出土木製品などのひび割れや風化を予防
簡便な方法:木工用ボンドを水に溶かして塗る
理系のための博物館資料論
第2講:カード・ラベル・配列
1.カード・ラベル・台帳
採集情報は自然物を標本にするための最低条件。
分野(昆虫や魚類といった大分類)ごとに記載内容や様式は異なる。
1)ラベル
標本に直接あるいは、保存容器内や台紙に添付された標本情報シート。
2)カード
標本とは別に管理された標本の情報シート。1枚もの。
現在ではコンピュータで作成され、データベースとして利用される。
紙媒体(ハードコピー、プリントアウト)は必ず作成しておく。
3)台帳
標本やカードとは別に管理された標本の情報冊子。
カードを冊子化したカタログから検索が目的で標本番号(登録番号)のみのものまでさまざま。
4)データベース
カードの内容をデジタルデータ化してコンピュータで操作できるもの。
データベースの利点は?
2.記載内容
1)ラベル
採集データ(採集者、採集場所、採集年月日)は最低でも記載する。
墨で書くのが一番長持ちだが、現実には鉛筆、顔料系サインペン、顔料系インクジェットプリンタを使用。
紙(中性紙)や布(木綿)に書く。
標本びんで保存する場合は、資料に付属のほか、容器外側に貼ることもある。ふたに貼るのは不可。
ただし、
民俗資料・民族資料では登録番号のみの場合あり
また、ラベルではなく資料に直接書き込むこともある
2)カードまたはデータベース
標本情報:標本番号(登録番号)、タイトル
採集情報:採集者名、採集場所、採集年月日、標高・水深、緯度経度、採集方法、個体数
受入情報:受入年月日、受入者名(博物館側)、受入方法(採集・購入・寄贈・寄託)、寄贈者名
同定と分類情報:科名、学名、和名、同定者、同定年月日、タイプ
収蔵と展示情報:保存状態、収蔵棚名、展示場所名
備考:引用文献、寄贈者とのやりとり
*固有名詞は漢字とローマ字の両方を記載
3)記載項目の基準
GBIF
Darwin Core
Dabrin Core
3)番号の与え方
・資料点数の数え方
・一群の資料は枝番をつける
3.配列
1)法則
・自然史資料であれば分類群ごとの分類体系に従う
・一度決めた配列は原則永久に使い続ける(分類がかわったからといって変更しない)
・人文系の資料は、国や地域ごとの標準的分類がある
・場合によっては、博物館独自の配列方法となる
2)貸出と交換
標本は使用されるために存在している。
複数存在する標本は運送して貸し出す。
重複多数や博物館の目的から慎重に不要と判断した資料は交換や販売可能(イギリスでは推奨されている)。
ホロタイプはふつう貸出しない。
→貸出可能なタイプとは?
3)機関略号:アクロニム acronym(頭字語)
全世界の博物館(または収蔵庫)の個体記号
NSMT:国立科学博物館 National Science Museum, Tokyo
※現在の英名は National Museum of Nature and Science
NHM:自然史博物館(ロンドン) The Natural History Museum
AMNH:アメリカ自然史博物館(ニューヨーク) American Museum of Natural History
NMNH:国立自然史博物館(ワシントン) National Museum of Natural History
理系のための博物館資料論
第3講:学名とタイプ標本
1.タイプ標本
タイプ標本:新種を記載したときの証拠となる標本
コレクションの価値を決めるひとつの指標となる
→タイプ標本は永遠に不滅か?
2.学名
ラテン語で表記される世界共通の生物名
属名+種小名で記載される(二名法)
リンネ(Carolus Linnaeus 1707-1778)が植物は『植物の種 Species Plantarum』(1753)、動物は『自然の体
系・第10版 Systema Naturæ』(1758)で採用した。これ以前の「学名」は現在は無効とされる。
1)Tyrannosaurus rex Osborn, 1905 とは?
2)日本の動物の学名
キツネ
Vulpes vulpes (Linnaeus, 1758)
タヌキ
Nyctereutes procyonoides (Gray, 1834)
オオカミ
Canis lupus (Linnaeus, 1758)
ヒグマ
Ursus arctos (Linnaeus, 1758)
ツキノワグマ
Ursus thibetanus (Cuvier, 1823)
イタチ
Mustela itatsi (Temminck, 1844)
イエネコ
Felis catus (Linnaeus, 1758)
イノシシ
Sus scrofa Linnaeus, 1758
ニホンジカ Cervus nippon Temminck, 1838
カモシカ
Capricornis crispus (Temminkck, 1845)
ニホンザル Macaca fuscata (Gray, 1870)
エゾリス
Sciurus vulgaris Linnaeus, 1758
ニホンリス Sciurus lis Temminck, 1844
エゾモモンガ
Pteromys volans (Linnaeus, 1758)
ニホンモモンガ
Pteromys momonga Temminck, 1844
ユキウサギ Lepus timidus Linnaeus, 1758
ニホンノウサギ
Lepus brachyurus Temminck, 1845
サドモグラ Mogera tokudae Kuroda, 1940
*なぜエゾリスやエゾモモンガとニホンリスやニホンモモンガの命名者、年代が異なるのか?
3.生物の系統分類
2界説(民俗分類)
動物、植物
5界説(ロバート・ホイタッカー Robert Harding Whittaker)
モネラ(原核生物)、原生生物、植物、菌、動物
3ドメイン説(カール・リチャード・ウーズ Carl Richard Woese)
真性細菌、古細菌、真核生物
哺乳類の進化は、長谷川政美.2011.新図説 動物の起源と進化.八坂書房.
→ 配布資料を参照のこと
理系のための博物館資料論
第4講:展示資料と教育資料
1.製作資料
展示不可能な資料の代替、あるいは、実物資料を補完して、博物館の主題(テーマ)の理解を手助けする目的
で製作展示する。製作資料の多用は展示をつまらなくする可能性がある一方、博物館(展示室)の印象、おもし
ろさを向上させる働きもある。実物では困難な展示、たとえば、巨大な/微少なもの、生態景観、生物の軟組織、
さわれる展示(ハンズ・オン展示)などの実現には不可欠である。なお、展示室の製作物のうち資料として扱わ
れず、演出効果をねらったものなどは造作と呼ばれる。
以下に示す製作資料の区分や名称は日本では統一定義がなく、博物館の館種や学問分野でいくらか違いがある。
1)複製資料・複製品(模造・レプリカ・キャスト・コピー)
実物をもとに作られる原寸大の製作資料。
何らかの方法で採寸し、色彩や質感も忠実に再現する。展示用途によっては、重量も実物にあわせる。
・立体物・職人による手作りからデジタル化へ
古典的な方法:養生→雌型(モールド mold, mould)作成→雄型成形(複製品:キャスト cast)
(→重りの配置→着色→仕上げ)
最新の方法:三次元スキャナによる立体データ作成→造形装置による作成
(→重りの配置→着色→仕上げ)
*型取りによるものを複製品、それによらずに似せて作った物を模造品を区別して使う場合もある
・平面資料(二次元の資料:文書、絵画、写真、印刷物など)
複写(カメラによる撮影、スキャナによるデータ化)
模写(手作りの製作)
2)復元資料
意味からすれば二次元の資料を含むが、通常は写真や図面から作成した三次元のものをさすことが多い。
例)骨格標本から筋肉や皮膚の形状を製作する
地図と文献から町並みを製作する
確実な資料や数値を用い、科学的考証を経た上で再現された資料に用いることが多い。
実物大の場合もあれば、縮尺を変える場合も含まれる(複製といった場合は原寸大が普通)。
・想像復元(想定復元)
単に「復元」として使われる場合があるが不親切。
一部の数値やデータをもとに、欠損部分を含めて再現する場合に使われる。また、
近似物・類似物からの推測やまったくの想像によるケースもある。
例)三内丸山遺跡の高層高床式建物・大型竪穴住居(柱穴から建物を想像復元)
恐竜の体色、欠損部位を含む全身化石(とくに体色は現生の爬虫類からの想像がほとんど)
3)模型
かたちを似せて作った立体資料。縮尺や再現方法は目的により異なり、簡略化や定式化、変形することがある。
・通常は縮小のもの:町並み、建造物、機械、立体地図(横方向と縦方向では縮小度合いが異なり、自然な立体
感覚を得るために縦方向は1.4-2.0倍程度強調することが多い)、
・拡大するもの 微生物、微少器官、分子、結晶
模型は科学館や歴史系博物館など実物資料が得られない館種で多用される。
2.ジオラマ
立体資料によって場面を再現する展示物。のぞき窓から見る。原寸大とは限らない。縮小、拡大サイズもある。
19世紀半ばに登場し、日本では、東京高等師範学校(=東京教育大学→現:筑波大学)附属東京教育博物館(=
現:科博)の棚橋源太郎が1912年(大正1)に導入した。
自然史博物館では、背景画と剥製と組み合わせた生態展示の手法として20世紀前半に多用された。
→生息地まで旅行に出掛けることが困難な時代、また双眼鏡やカメラなど光学機器も高価であり、家庭でテレビ
などの映像に接する機会も少ない時代
現在は小型で背景画の代わりに地表面を再現したものが好まれる。
人文系博物館(歴史、民俗、民族など)でも使われる。
・パノラマ
もとは眺望を室内で再現する装置や施設をさした。模型の配置や照明を用いることもある。
現在では単に横に大きく広がる写真や図絵の意味に用いることが普通。
3.教材資料
複数収蔵する資料の活用方法のひとつ。場合によっては破損消滅してもかまわない。
1)説明資料
2)持ち出し用の資料
トランクキット:講座の内容に合わせた資料一式を持ち運び可能な形でパッケージ化したもの。
理系のための博物館資料論
第5講:展示室の構造
1.展示室の構造
1)建築 壁、床、天井、別の部屋からの通路
2)設備
・空調
・電力線
・LAN
・音響
3)内装
・内装壁
・造作
4)器具
・ケース
・照明
・間仕切り
5)資料
6)情報
・グラフィック
・ネーム
7)サインその他
・防災設備:誘導灯、非常用照明、手すり、火災報知器、
・保安設備:監視カメラ、防犯装置
*ちなみに展示会社の仕様書では
仮設工事、木工事、金属工事、塗装工事、ガラス工事、内装工事その他、グラフィック工事、模型造形工事、映
像音響工事、メカニカル装置工事、取付パーツ工事などに分かれている。
2.ケースと照明
1)ケース(展示ケース、ショーケース)
・機能
資料の保存環境の提供(温湿度、防塵、地震対策)
盗難防止
来館者への安全
視線の一定化
空間演出
資料の演出
・種類
ウォールケース(壁付きウインドウケース)
独立型可動ケース
ハイケース(立ち見用)
ローケース(覗き込み用)
・付属物・補助具
展示台(陳列台、ステージ)
展示壁
吊り金具
展示壁と吊り金具、あるいはステージのみで、ケースなしで展示の場合あり=露出展示
2)照明
・機能
室内の照度提供
〃 演色提供
〃 空間演出
資料への照度確保
〃 色彩再現
・方式
自然採光
人工照明 以下、人工照明について
・構成
配線
照明器具
電球(ランプ、バルブ)
蛍光灯
ハロゲンランプ
水銀灯
発光ダイオード(LED)
・配置
天井
壁
床
展示ケース
その他:観覧者の手持ちランプ/光ファイバー、
3)照明の知識
・色温度 単位:k(ケルビン)
・光度 光源から出る光の強さ 単位:cd(カンデラ)
・照度 光源によって照らされている面の明るさ 単位:lx(ルクス)
JIS照度基準 (lx)
住宅(人物)
会社
店舗
100,000
晴天の屋外
10,000
飾窓の重点(外向き)
3000
手芸作業
飾窓の重点
1500
手芸・裁縫
案内コーナー
裁縫
事務室
読書・勉強
750
調理
店内全般(郊外)
300
食卓
書庫
200
卓球公式競技
スーパー(都心)
プロ野球(外野)
サッカー公式競技
スーパー(郊外)
高級店
150
休養室
100
スキー場(リフト)
75
便所
50
表札・廊下階段
非常階段
プロ野球(客席)
25
0.2
プロ野球(内野)
店内重点陳列
会議室
500
1
曇天の屋外
大相撲
2000
1000
その他
スキー場(ゲレンデ)
寝室・廊下階段(深夜)
非常灯(床面)
満月の月明かり
3.情報(資料を解説する文字)
1)グラフィック(解説版)
学芸員のいう「展示パネル」のこと。展示業界では「グラフィック」という。「パネル」は資料やグラフィッ
クを陳列する展示壁をさす。博物館の展示は、資料とグラフィックからできている。
展示コーナーの解説版
文章(コピー)+図版、場合によっては映像装置や音響装置が埋め込まれる
文字数はさまざまだが、200字が一応の目安
2)バナー
垂直に掛けられた布製や紙製の図表や解説
3)ラベル(キャプション、ネーム)
個別の資料の解説版
とくに写真に用いられる場合はキャプションと呼ぶことが多い
4.造作
展示効果を高めるために用いられる立体物。
5.その他
1)サイン(案内板)
展示資料とは直接関係のない、観覧者の誘導、注意喚起などの連絡用文字盤
資料出典:日本展示学会「展示学事典」編集委員会.1996.展示学事典.ぎょうせい.315pp.
理系のための博物館資料論
第6講:足寄動物化石博物館の見学および複製標本の作製
5月19日(土)足寄動物化石博物館見学 バスロータリー出発8:15 帰着18:00
持ち物:鉛筆、(あれば)カメラ、昼食 服装:ぴったりした服装(少し汚れる可能性あり)+運動靴、ひらひ
らだぼだぼの格好は不可、スカートも不可
博物館資料論レポート
課題:展示資料または展示コーナーを1つ選び、展示状況を含むスケッチを描き提出する。資料は説明なしでも
形状がわかる程度に描き、展示状況はラベル、グラフィックパネル、照明、展示ケース、展示台、金具や補助具
などの要素を描く。各要素は引出線を使って名称を記入する。展示資料の固定方法も文字と絵を使って説明する。
筆記用具は展示室では鉛筆を使用。下書きは別の紙にすること。
学科: 学籍番号: 氏名:
提出期限:5/28授業時間
資料(コーナー)名:
理系のための博物館資料論
第7講:展示会社と標本製作会社
博物館の基本機能は資料や標本の保存である。加えて、日本の法的位置付け(=社会教育施設)や実際の要望、
教育意義などから、展示機能も欠かせない。実際の展示(常設展示室)は学芸員と展示会社・製作会社との共同
作業で作られる。
1.誰が標本を作っているのか?
標本会社のウェブサイトを見てみよう。標本づくりは職人の世界。
1)学芸員がつくる
・研究標本、教育標本
見た目は常設展示では使えないレベル。
2)標本会社・造形会社がつくる
(株)西尾製作所
(株)京都科学
(株)海洋堂
(株)デフ
医学標本や菊人形、マネキン人形などの製作会社から分離独立した。
最新技術を駆使したベンチャー企業、SOHO規模の会社もある。
3)個人作家がつくる
古生物アート 新村龍也 http://www.museum.ashoro.hokkaido.jp/html/column/20110111.htm
透明標本 冨田伊織 http://www.shinsekai-th.com/
巨大模型の原型 薄井誠 http://www.asahi.com/mammal/sea/topics/AIC201007220004.html
2.誰が展示を作っているのか?
展示会社のウェブサイトを見てみよう。乃村工藝社のサイトでは仕事案内をしてくれるページもある。
1)学芸員がつくる
・特別展、ロビー展
2)展示会社がつくる
(株)乃村工藝社
(株)丹青社
(株)トータルメディア開発研究所
(株)日展
中央宣伝企画株式会社
(株)鬼工房
北電総合設計株式会社
Cambridge and Seven Associates, Inc. http://www.c7a.com/index.asp
Cambridge and Seven Associates ‒ Wikipedeia http://en.wikipedia.org/wiki/Cambridge_Seven_Associates
・展示会社の業務分野:専門店、大型商業施設、企業PR施設、販売促進、博覧会・イベント、文化学術施設、
公共施設、余暇施設、その他(病院、空港、地下道、本社ビル、ホテル)
・1970年の大阪万博は日本で展示(ディスプレイ display)という仕事が認知され、企業が成立、業界が確立した
画期だった。
・万博跡地に開館した国立民族学博物館と初代館長梅棹忠夫は展示の考え方をリードした。
・展示に直接関わる職種は、プランナー(構想・企画)、プロッター(展示室の設計)、デザイナー(グラフィ
ック・造作デザイン)、ディレクター(展示工事の進行管理)に分かれる。
・現実には協力会社が実際の工事をすることが多く、現在ではディレクター職がおもな業務になっている。
3)制作会社がつくる
展示工事は大手展示会社が受注、専門分野の協力会社、つまり標本製作会社や制作会社(グラフィック、映像、
音響、コンピュータなど)に発注して進められる。制作会社がさらに個人(ライター、イラストレータ、カメラ
マン、フォトグラファー)に発注している。
(株)アクロス http://www.across-bb.tv/index.html
北海道映像記録株式会社 http://www.eizo-kiroku.co.jp/
4)その他
そのほか展示ケースやステージなどの什器、照明器具など個別の機器機材の販売会社も展示会社を通じて博物
館の展示室に関わりを持つ。
3.展示室ができるまで 学芸員/展示会社/制作会社はいつから関わるか?
1)開館までの手順
資料の発見/存在/里帰り
基本構想
基本設計
実施設計
建築デザイン・設計
展示(内装)デザイン・設計
グラフィックデザイン
製作・施工
開館
2)学芸員/専門職員の採用と関与
・足寄動物化石博物館でもらった「施設概要」を見てみよう(授業に持参のこと)
4.展示における学芸員の仕事とは?
構想と資料(標本・文章・図)提供、監修
専門職員の採用時期が展示を決める
理系のための博物館資料論
第8講:展示の技法と新傾向
おもにヨーロッパの博物館を事例に展示の変遷と特徴を見る。
ウェブサイト「ヨーロッパの博物館めぐり」を参照のこと。
http://www.h6.dion.ne.jp/ unisan/data/euromuse/euromuse.html
・イギリス
大英博物館 British Museum
ロンドン自然史博物館 The Natural History Museum
ロンドン科学博物館 The Science Museum, London
アッシュモレアン美術考古学博物館 Ashmolean Museum of Art and Archeology
オックスフォード科学史博物館 Museum of the History of Science, Oxford
オックスフォード大学自然史博物館 Oxford University Museum of Natural History
ピットリバース博物館 Pitt Rivers Museum
・フランス
パリ自然史博物館 du Muséum natoinal d'Histoire naturelle
シテ科学産業館 Cité des science et de l'industrie
ルーブル美術館 Musée du Louvre
・オランダ
ライデン自然史博物館「ナチュラリス」 Naturalis (Nederlands Centrum voor Biodiversiteit)
ブールハーフェ博物館 Museum Boerhaave
・ドイツ
ベルリン自然史博物館 Museum für Naturkunde
ゼンケンベルク自然博物館研究機構(フランクフルト) Forschungsinstitut und Naturmuseum
・日本
名護博物館(沖縄)
理系のための博物館資料論
第9講:写真・映像・音声資料とドキュメンテーション
1.写真と映像の資料とは 保存すべき内容は「写されたものやこと」である。しかし、現実に保存対象となるの
は記録媒体である。
1)メディア media(媒体)とフォーマット format(規格、判型))の違い
2)写真のメディア:フィルム、プリント、印刷物、CD/DVD、デジタルデータ。
1970年以前だと、ガラス乾板、19世紀だとさらにさまざまなメディアがある:湿板、銀板。
フォーマット:35ミリ、645、6 7、6 9、4 5、8 10、その他。
3)映像:デジタルデータ、BD (Blu-Ray Disk)、DVD、レーザーディスク(LD)、VHD、ビデオ、フィルム
さらにビデオとフィルムはいろいろなフォーマット
映像フィルム:8、13、16、24、35、70、90 。さらに1秒間コマ数の種別がある。
ビデオテープのフォーマット:DV、miniDV、8ミリ、Beta(1/2、3/4、1inch)、VHS、U-matic。
2.保存上の問題
1)保存媒体の寿命
保存媒体にも寿命がある。デジタルデータそのものは経年劣化しないが、保存媒体であるDVDの 寿命は最短20年
といわれる、製造起源の個体差や保存状態による差が生まれる。どこ/何が劣化するのか?
2)再生装置の消滅
・フィルムやプリントは再生装置がなくとも見ることができる。しかし、再生装置が必要な記録媒体の場合、 ア
ナログ方式でもデジタルデータでも装置の維持も同時に行なう必要がある。
・すでに再生装置が存在しない/ほとんどない記録媒体がある。それを見越して現用の記録媒体に転写する こと
も保存業務として必要となる。
3)写真の保存の実際
とても貴重な写真、人類にとっての共通財産というような写真(→たとえば?)の保存方法を見てみよう
・光がないこと=暗所 ・温度が低いこと、場合によっては冷凍庫 ・閲覧用の資料、印刷用の資料など何種類かの
利用目的の資料を作成。
3.正統性 legitimacy と本物性 authenticty
1)記録は誰のものか 個人情報
医療カルテは誰のもの?先住民の記録は誰のもの?
著作権
所有権
*著作権と所有権については視聴覚教育メディア論で学ぶ
2)なにが本物か、一次資料と二次資料 ・記録(著作性が低いもの、最たる者は機械撮影・自動撮影)は二次資
料という扱いがふつう。しかし、唯一性が高いと一次資料として扱われる
・作品(芸術写真、個人的な写真)ならば作者によるプリントが本物(という場合がふつう)なのでプリントは一
次資料
一次資料:フィルム原版、オリジナルプリント
二次資料:デュープ(複写フィルム)、販売写真、絵はがき、出版物、印刷物
その他:二次加工作品(コラージュ、パロディ)
しかし、著作性の高い絵はがきであれば、作品=一次資料といえるかも知れない
*写真や映像は複製可能なので、実物と複製の定義はじつは難しい。
**収蔵者=原版所有者/著作権者とは限らず、別に所有者や著作権者が存在することもある。
4.属性情報(メタデータ)
メタデータ(属性情報)とは「撮影データ」に媒体情報や収蔵情報を加えたもの。
撮影情報は、デジタルカメラでは自動記録される。
1)撮影情報:撮影者、撮影場所、撮影年月日、技術情報(シャッタースピード、絞りほか)。
2)媒体情報:上記参照
3)収蔵情報:アルバム名、整理番号、形状、所有者など
4)著作者情報:著作権者、制作者
5)内容情報:被写体の記載(=文章化:ドキュメンテーション)、キーワード
*メタデータは資料カードやデータベースの記載事項であり、展示ラベルに利用可能
5.写真・映像資料の記載:ドキュメンテーション
ドキュメンテーション documentation とはドキュメントすること、つまり文章化=文章記録作成のこと。
写真や絵画、映像資料、音声資料、無形文化財などを保存するには文章化が欠かせない。
データを文章化することが、資料の整理保管、研究、展示の基礎である。
メタデータの記載は例示する、データの文章化は実際にやってみよう。
博物館資料論レポート
学科 学籍番号 氏名 .
課題:NHK「北海道映像の20世紀」(一部)について下記に従い内容を記載しなさい。
1)ふさわしいタイトルを与える
2)シーン毎に小見出しを付け、映像内容を描写(文章で表すこと)する
シーン1・・・
3)ナレーションを利用して内容を要約する
授業時間にレポート用紙を配布します。
理系のための博物館資料論
第10講:保存科学とIPM
IMP = Integrated Pest Management つまりはいろいろなことをちゃんとやりましょうということ
1.標本被害(収蔵庫、展示室、調査研究、輸送中)
1)物理的:変形、変質、汚染、欠損、滅失
・日常的なもの:異常温度、異常湿度、水濡れ(漏水・結露・雨漏り)、光(日射・照明)、震動
・自然災害:地震、津波、落雷、浸水
・人為災害:火災、事故、破壊行為
2)化学的:化学変化、腐食、汚染
・日常的なもの:高温低温、水分、化学物質(殺虫剤、建材内化学物質)、大気汚染物質、酸性雨
・自然災害:火山ガス、温泉ガス
・人為災害:火災、化学物質
3)生物的:腐敗、食害
・微生物、カビ、昆虫・その他の小型節足動物、鳥類(糞)、哺乳類(ネズミ)
4)社会的:形状変化なし
・盗難、誹謗中傷、良い/悪い象徴
2.対策
1)施設(収蔵庫・展示室)
・入口の二重扉化、自動温湿度管理装置(空気調節装置=空調)の導入、防虫剤の使用、
・湿度調整素材(木材)の使用、照明の調節、(入館者による)防塵対策
・温湿度調整保管設備=保存箱の使用(茶箱、桐箱、中性紙容器)
2)日常管理
・燻蒸→臭化メチルは2005年から使用禁止のため代替方法による
・防虫剤・殺虫剤の散布・塗布(収蔵資料・展示資料)
・冷凍・高温乾燥(新規受入資料、借用資料)
冷凍処理:‒20から‒40℃7日間、
高温処理:55‒60℃、8‒18時間
・温湿度調節 保存空間、展示空間、輸送空間
・監視(モニタリング)と記録 温湿度、振動など→自動記録装置(データロガー)が普及
3.個別対策
1)照明 美術・博物館用蛍光灯の使用、低照度展示
2)温湿度 空調設備、展示ケースの使用
3)害虫 臭化メチル使用禁止により日常管理の重要性増加
4)カビ 上記の害虫対策では殺菌できない→防カビには湿度(相対湿度)を60%未満に保つ
5)輸送 美術梱包(個別固定、クッション、専用箱、エアーサスペンション車、特殊カプセル)
6)地震 建物の耐震補強、免震装置の導入
7)防犯 監視員の配置、監視カメラの設置
4.とくに注意を要する資料と原因
・皮製品(皮革、毛皮、その他):昆虫(イガ、コイガ)の食害
→防虫・殺虫の徹底
・酸性紙:とくに戦時中から戦後まもなく(1940年代後半から1950年代前半)
→アルカリ性物質散布
・CD、DVD:温度変化、高温、物理的損傷に脆弱
→恒温保存、バックアップデータの分散保存
【参考文献】
京都造形芸術大学編.2006.文化財のための保存科学.375pp.角川学芸出版、東京.
馬淵久夫他編.2003.文化財科学の事典.522pp.朝倉書店、東京.
5.東日本大震災と資料の救出
1)文化財レスキュー事業
・実施主体は文化庁文化財部美術学芸課
・正式名称は「東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援事業」
文化財レスキュー事業について
http://www.bunka.go.jp/bunkazai/tohokujishin_kanren/pdf/bunkazai_rescue_jigyo_ver04.pdf
文化庁長官メッセージ
http://www.bunka.go.jp/bunkazai/tohokujishin_kanren/chokan_message.html
・類似の対策に「東日本大震災被災文化財建造物復旧支援事業」(文化財ドクター派遣事業)
http://www.bunka.go.jp/bunkazai/tohokujishin_kanren/pdf/bunkazai_doctor_jigyo.pdf
・文化財保護・芸術研究助成財団が資金援助(通称:平山財団、募金も受付中)
http://www.bunkazai.or.jp/index.html
・阪神・淡路大震災で初実施
http://www.bunkazai.or.jp/02bunkazai/02_02.html
2)陸前高田市立博物館の押葉標本救出作戦
・西日本自然史系博物館ネットワーク/日本生態学会の人脈を活かし、岩手県立博物館が実施
日本生態学会「博物館と生態学」 http://sites.google.com/site/museumecology/jjecol
西日本自然史系博物館ネットワーク http://www.naturemuseum.net/blog/
岩手県立博物館による説明 http://www.geocities.jp/curaiwt/rescue/botany.htm
知床博物館も参加 http://shir-etok.myftp.org/news/押し葉標本の修復作業が終了しました (URLは日本語まで
含む)
理系のための博物館資料論
第11講:文化財保護法と博物館資料関連法規
博物館法:社会教育機関としての機能を規定、資料の収集・保存に関する規程はほとんどない。
文化財保護法:博物館資料のうち美術工芸品を包括的にカバーするほか、建造物、祭りなど無形文化や技術、景
観など地理的広がりを持つ土地空間、天然記念物では動植物や鉱物も対象にする。
1.文化財保護法[文化庁]
文化庁の文化財ホームページ http://www.bunka.go.jp/bunkazai/index.html
1)指定文化財(指定)
国宝・重要文化財
史跡・名勝・天然記念物
重要無形文化財
重要有形民俗文化財
重要無形民俗文化財 重要無形文化財保持者の通称が「人間国宝」
2)登録文化財(登録)
登録有形文化財(建造物、美術工芸品、登録有形民俗文化財、登録記念物)
管理・修理への助成(指定文化財=重要文化財・天然記念物、登録文化財)
保存のための調査
3)埋蔵文化財
緊急発掘あるいは行政発掘の義務付け
4)調査と保存
博物館での陳列と一体化した事業
例)寺院の本堂の修復中に東博で仏像を展示する
5)展示、公開
重要文化財の公開 所有者・管理団体、国(国立博物館=東京・京都・奈良・九州国立博物館)
〃 所有者以外の展示(文化庁長官の許可する「公開承認施設」:「重要文化財の所有者及び管理団体以外
の者による公開に係る博物館その他の施設の承認に関する規程」平成8年8月2日文化庁告示第9号)
http://www.bunka.go.jp/bijutsukan_hakubutsukan/shoninshisetsu/index.html
6)その他
・文化的景観(選定)
重要伝統的建造物群保存地区
重要文化的景観
・文化財の保存技術(選定)
選定保存技術
・文化や技術のリスト化(選択)
記録作成等の措置を講ずべき無形文化財
記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財
2.資料の採集に関連する法令(採集を規制・禁止)
1)自然環境保全法[環境省]
採集・捕獲の禁止、立入制限
原生自然環境保全地域(立入制限地区1か所)および自然環境保全地域
都道府県自然環境保全地域
2)自然公園法[環境省]
採集・捕獲の禁止、利用制限(未遂)
国立公園および国定公園(特別地域、特別保護地区、海中公園、普通地域)
都道府県立自然公園
3)鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(鳥獣保護法)[環境省]
狩猟鳥獣の選定、狩猟期間の設定:10/15-4/15(北海道9/15-4/15)、捕獲数、区域、猟法
鳥獣保護区(特別保護地区、特別保護指定区域)、有害鳥獣駆除
4)絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)[環境省]
希少種の指定、採集許可
生息地等保護区(管理地区、監視地区)
5)森林法[林野庁]
保安林、入林許可(国有林)、採集許可
保護林(森林生態系保護地域ほか)
6)水産資源保護法[水産庁]
特定種の採捕禁止 さけ・ますなど
輸入許可、特定疾病関係種
保護水面(農林水産大臣)、 資源保護水面(知事)
特別採捕許可
7)漁業法[水産庁]
海区漁業調整委員会の設置→海区漁業調整規則 漁法・漁期・操業海域の設定
内水面漁業調整規則→河川・湖沼での漁業調整
ワシントン条約の国内法(公海からの持ち込み:調査捕鯨によるクジラ)
8)持続的養殖生産確保法 平成12年4月1日施行[水産庁]
特定疾病予防、移動制限
9)外国為替及び外国貿易管理法(外為法)[経済産業省]および関税法[財務省]
ワシントン条約の国内法として機能
10)絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約:CITES)1973年3月3日
採択[環境省]
付属書I掲載種:輸出入国の科学当局からの助言必要、輸出入許可書が必要、商業取引禁止
付属書II掲載種: 輸出国の科学当局からの助言必要、輸出許可書が必要
付属書III掲載種:輸出許可書が必要
2.資料の保存に関連する法律
1)毒物及び劇物取締法[厚生労働省]
劇物 過酸化水素、ホルムアルデヒドの保管取り扱い
2)特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律1988年5月20日施行[経済産業省・環境省]
ウイーン条約の国内法
3)オゾン層の保護のためのウイーン条約(ウイーン条約)1985年3月22日採択[経済産業省・環境省]
1987年9月16日にオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(モントリオール議定書)を採択
→1992年に臭化メチルを指定、1997年第9階締約国会議で2004年末に臭化メチル全廃を決定
*これにより国内博物館で広範に行われていた「エキボン」を用いたガス燻蒸が不可能になった。
3.資料の展示に関連する法律
1)登録美術品制度
美術品の美術館における公開の促進に関する法律(平成10年)
http://www.bunka.go.jp/bijutsukan_hakubutsukan/tourokubijutsuseido/gaiyo/index.html
文化庁「登録美術品制度の御案内」
http://www.bunka.go.jp/bijutsukan_hakubutsukan/tourokubijutsuseido/index.html
2)海外美術品の公開促進
海外の美術品等の我が国における公開の促進に関する法律(平成23年)
http://www.bunka.go.jp/bijutsukan_hakubutsukan/sokushinhou/tsuuchi.html
解説として、島田真琴.2011.海外から借り入れた美術品等の差押え等を禁止する法律(海外美術品公開促進法)
について.慶應法学,20:187-228.
法の対象は「美術品等」で、「等」には自然史資料が含まれる。
3)美術品保証制度
展覧会における美術品損害の補償に関する法律(平成23年)を制定施行
http://www.bunka.go.jp/bijutsukan_hakubutsukan/hosyoseido/hourei.html
4)消防法[消防庁]
消火用設備(消化器、消火栓、自動消火設備)
危険物 引火性液体(アルコールなど)、酸化性液体(過酸化水素など)の保管
非常口の仕様(条例規定)
5)建築基準法[国土交通省]
避難施設(非常口、非常階段)、避難経路、排煙窓→展示室の形状に影響
4.資料の輸出入に関連する法律
1)文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約(文化財不法輸出入等禁
止条約) Convention on the Means of Prohibiting and Preventing the Illicit Import, Export and Transfer of
Ownership of Cultural Property
1970年採択、1972年発効、2002年日本批准→文化財保護法の改正、2)の法律の制定
2)文化財の不法な輸出入等の規制等に関する法律
理系のための博物館資料論
第12講:生物多様性・遺産の保全と博物館
1.生物多様性の保全
1)文章化された役割規定
・博物館法や「公立博物館の設置及び運営に関する基準」には記載なし
2)生物多様性条約
「生物の多様性に関する条約」平成5年12月21日 The Convention on Biological Diversity (CBD) 1992.5
日本語 http://www.biodic.go.jp/biolaw/jo_hon.html 環境省ウェブサイト
英語 http://www.cbd.int/convention/text/ 生物多様性条約事務局のウェブサイト
・利用の推進、原産国の権利の尊重
・新・生物多様性国家戦略(環境省2002)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kankyo/kettei/020327tayosei_f.html
3つの危機の明記
第1の危機:人間活動に伴うインパクト
第2の危機:人間活動の縮小に伴うインパクト
第3の危機:移入種等によるインパクト
・生物多様性国家戦略2010(環境省2010)
http://www.env.go.jp/nature/biodic/nbsap2010/index.html
博物館については、「新」においては博物館が環境学習(226p)で記載されてのみだったが、
「2010」では、教育・学習・体験の推進やライフスタイルの転換(81p)や学校外での取組生涯学習(245p)に
加え、生物多様性総合評価(61p)、生物多様性情報クリアリングハウスメカニズム CHM(266p)、地球規模生
物多様性情報気候 GBIF(267p)、生物多様性情報に係る拠点整備・体制の構築(277p)で、動物園と水族館も
生息域外保全(204-205p)、学校外での取組生涯学習(245p)で登場する。
*ページ数は冊子版のもの、なおPDF版と冊子版ではページ数が異なる。
3)言葉の定義と実践
保護 Protection
傷病個体の収容や個体群の維持
保全 Conservation
生息地を含む環境全体の健全な状態を維持すること、化学的内容も含む
管理 Management
生息地や植生の維持管理、個体数調整、利用調整など積極的な関わりを意味する
増殖 Breeding
飼育下での繁殖事業
2.博物館・動物園・水族館での種の保全
1)増殖事業
・稀少淡水魚の増殖活動
・人工授精技術の追求
・環境省>種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)>保護増殖事業
2)教育普及活動
・展示、現場での活動
・メディアの利用
・伝える方法
3)課題
・累代飼育の不可能性:
ラッコ飼育個体の減少 130頭(1994)→30頭(2011)、うち繁殖可能個体は雌雄合わせて5頭
神戸新聞 http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0004962919.shtml
・飼育環境の改善(環境エンリッチメント):イルカの遊び
・野生復帰の困難:アメリカシロヅルの保護事業
3.世界規模の文化財=ユネスコの遺産保全事業
1)世界遺産 World Heritage
世界遺産条約 Convention concerning the protection of the world cultural and natural heritage 1972年採択
1975年発効、日本は1992年に国会承認・発効
保護の対象:記念工作物、建造物群、遺跡、自然の地域等で普遍的価値を有するもの
登録基準:下の1つ以上に合致、i-iv は自然遺産、v-x は文化遺産
(i)
人類の創造的才能を表す傑作である。
(ii)
ある期間、あるいは世界のある文化圏において、建築物、技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展における人類の価
値の重要な交流を示していること。
(iii)
現存する、あるいはすでに消滅した文化的伝統や文明に関する独特な、あるいは稀な証拠を示していること。
(iv)
人類の歴史の重要な段階を物語る建築様式、あるいは建築的または技術的な集合体または景観に関する優れた見本であ
ること。
(v)
ある文化(または複数の文化)を特徴づけるような人類の伝統的集落や土地・海洋利用、あるいは人類と環境の相互作
用を示す優れた例であること。特に抗しきれない歴史の流れによってその存続が危うくなっている場合。
(vi)
顕著で普遍的な価値をもつ出来事、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または明白な関
連があること(ただし、この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
(vii)
類例を見ない自然美および美的要素をもつ優れた自然現象、あるいは地域を含むこと。
(viii) 生命進化の記録、地形形成において進行しつつある重要な地学的過程、あるいは重要な地質学的、自然地理学的特徴を
含む、地球の歴史の主要な段階を代表とする顕著な例であること。
(ix)
陸上、淡水域、沿岸および海洋の生態系、動植物群集の進化や発展において、進行しつつある重要な生態学的・生物学
的過程を代表する顕著な例であること。
(x)
学術上、あるいは保全上の観点から見て、顕著で普遍的な価値をもつ、絶滅のおそれがある種を含む、生物の多様性の
野生状態における保全にとって、もっとも重要な自然の生育地を含むこと。
2)無形文化遺産 Intangible Cultural Heritage
無形文化財遺産条約 Convention for the safeguarding of the intangible cultural heritage 2003年採択2006年発効、
日本では2004年に国会承認・発効、国内法は?
選考基準:(1)のいずれかを満たし、(2)の6つの基準を考慮する必要
(1) (イ)たぐいない価値を有する無形文化遺産が集約されていること
(ロ)歴史、芸術、民族学、社会学、人類学、言語学又は文学の観点から、たぐいない価値を有する民衆の伝統
的な文化の表現形式であること
(2) (イ)人類の創造的才能の傑作としての卓越した価値
(ロ)共同体の伝統的・歴史的ツール
(ハ)民族・共同体を体現する役割
(ニ)技巧の卓越性
(ホ)生活文化の伝統の独特の証明としての価値
(ヘ)消滅の危険性
3)記憶遺産 Memory of the World Programme : World Documentary Heritage
1992年に開始、自治体やNGOも申請可能、日本でへ2011に福岡県田川市が推薦した山本作兵衛の炭坑記録絵
画や日記(田川市石炭・歴史博物館蔵)が登録された
Documentary heritage reflects the diversity of languages, peoples and cultures. It is the mirror of the world and its
memory. But this memory is fragile. Every day, irreplaceable parts of this memory disappear for ever.
UNESCO has launched the Memory of the World Programme to guard against collective amnesia calling upon the
preservation of the valuable archive holdings and library collections all over the world ensuring their wide
dissemination.
4.人文系資料の論点
1)優位な文化の価値観の支配
探検する側とされる側、日本は明治時代1910年代までは探検される側でもあった
・ヨーロッパ中心主義の地域名称(世界地図)
・野生動物のひとつとしての先住民(欧米の自然史博物館のジオラマなど)
・近代(普遍的)美術対原始美術(初期芸術)=ヨーロッパ対それ以外
フランス・パリの美術館では、西洋、未開、東洋、の3区分である
ルーブル美術館・オルセー美術館 普遍的美術・近代美術、エジプト、イスラム美術
ケ・ブランリー美術館 原始美術(アフリカ、東南アジア、南米)
ギメ東洋美術館 仏教美術、日本、朝鮮や中国の美術
*博物館や展示は単純明快な形で思想が現れる
・歴史の時計を止める(多くの民族展示、たとえばスミソニアン国立自然史博物館のエスキモー)
・徹底した「文化相対主義」(国立民族学博物館:民博/みんぱく)
しかし→「国立民族学博物館の悲しさは忘れがたい」(池澤夏樹1986)
2)大英博物館の資料は誰のものか
・ロゼッタストーン(エジプトでフランスが見つけて、いまイギリス)
・パルテノン神殿の彫刻(ギリシアを領有していたトルコの皇帝の勅令でイギリスが調査持ち帰り)
・サンダーバード(カナダ太平洋岸の先住民の儀礼用仮面を当時の法令で没収後イギリスへ)
3)資料そのものが持つ視線
・アイヌ絵 なぜ卑屈な姿なのか、注釈抜きに展示してよいか
・年表 時代区分は何に基づくのか、記載事項の選択について、自分で考え判断しているか
4)展示あるいは館名の持つ政治性あるいは歴史への価値判断
・エノラ・ゲイ展(スミソニアン航空宇宙博物館)
・北海道開拓記念館(札幌市)の名称への評価 → 新称は「北海道博物館」
なぜ「道立」の文字がないか?その利点は?
理系のための博物館資料論
第13講:海生哺乳類の収集と保存
鯨目 髭鯨亜目 コセミクジラ科・セミクジラ科・ナガスクジラ科・コククジラ科
歯鯨亜目マッコウクジラ科・コマッコウ科・イッカク科・アカボウクジラ科
マイルカ科・ネズミイルカ科・インドカワイルカ科・アマゾンカワイルカ科
ヨウスコウカワイルカ科・ラプラタカワイルカ科
食肉目 鰭脚亜目アザラシ科・アシカ科・セイウチ科
裂脚亜目イタチ科(ラッコ,ミナミウミカワウソ)・クマ科(ホッキョクグマ)
海牛目 ジュゴン科(ジュゴン,ステラーカイギュウ*)・マナティ科
*鯨目は、遺伝子を用いた系統学から現在は鯨偶蹄目とされる
クジラとイルカの違いは?あるいはイルカとは?
1.収集方法
1)漁獲物(商業捕鯨,調査捕鯨,イルカ漁業)
2)漁具での混獲(by-catch, incidental catch)個体
3)座礁・漂着(うちあがった死体=beaching)個体
4)迷入個体(港・入り江)
*3)と4)をあわせて,生死にかかわらず「ストランディング stranding」という
2.標本・試料としての価値・利用
計測
生活史
病理学
血液
食性
寄生虫
毒性
DNA
骨格
解剖
生きた個体
○
△
△
○
△
△
△
○
新鮮な死体
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
軽度腐敗
○
○
△
○
○
△
○
○
△
強度腐敗
○
△
△
△
○
△
△
○
白骨・ミイラ
△
△
△
○
3.ストランディング対応の実際
1)情報の伝達
ストランディング→第一発見者→地元関係機関(自治体・博物館・水族館)→研究機関
北海道では「ストランディング・ネットワーク北海道」(SNH)が精力的に情報収集
博物館や水族館は、第一発見者の情報を確認し、研究機関に伝える役目がある
2)課題
・漁業対象種以外の希少な収集機会を活かせるか
・個体が大型:多人数の協力、重機(パワーショベル)が必要
・多岐にわたる利用価値=調査には複数の研究機関が参加
・ストランディングへの現場対応と情報伝達経路の確立
・ストランディング個体の利用調整役の重要性
4.ストランディング・ネットワーク
1)アメリカ合衆国
1972 海生哺乳類保護法 Marine Mammal Protection Act の発効
(1)海生哺乳類の管理主体は連邦政府
(2)政府許可者以外の試料採取を禁止,
(3)合衆国海生哺乳類委員会 Marine Mammal Commission の設置
国立自然史博物館 National Museum of Natural History (スミソニアン協会
Smithsonian Institution )のミード学芸員 James G. Mead が全国の記録を整理
1977 ストランディング・ワークショップの開催(海生哺乳類委員会主催)
国立海洋漁業局 National Marine Fisheries Service (NMFS) の管轄区域ごとに
ストランディング警戒ネットワーク National Stranding Alert Network を立ち上げ
1981 地域ネットワークの構築,調査・報告手順の機能開始
<文献>
山田格・天野雅男(監訳).1996.ストランディング・フィールドガイド.海游舎.
Geraci, J. R. and Lounsbury, V. J. 2005. Marine Mammal Ashore: A Field Guide for Strandings,
Second Edition. (上の訳書の第2版)
Marine mammal necropsy : an introductory guide for stranding responders and field biologists
https://darchive.mblwhoilibrary.org/handle/1912/1823?show=full 下方にリンクあり PDF 9.2 MB
2)日本
・法令、制度など構築不足,ボランティアベースの体制
1986 鯨類研究所(旧鯨研)がストランディングレコードの収集開始(日本鯨類研究所が継承)
1988 日本海セトロジー研究グループ(現・日本セトロジー研究会)が活動開始
1995 国立科学博物館が鯨類座礁漂着個体への対応開始
1997 海棲哺乳類ストランディングシンポジウム開催(主催:国立科学博物館)
2001 水産庁「混獲又は座礁等した鯨類の学術目的所持の届出書」の提出を義務付け
2004 水産庁「鯨類座礁対処マニュアル」の公表
2007 ストランディング・ネットワーク北海道」(SNH)が発足
2012 「鯨類座礁対処マニュアル(平成24年度改訂版)」の公表
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/pdf/24manyuaru.pdf
5.ストランディング対応と成果
国立科学博物館「海棲哺乳類情報データベース」 http://svrsh1.kahaku.go.jp/m/mm/
1)1998年9月 山口県角島の不明ヒゲクジラ
2003年に新種記載「ツノシマクジラ」 Balaenoptera omurai Wada, Ohishi and Yamada, 2003
2)2002年7月 鹿児島県薩摩川内市のタイヘイヨウアカボウモドキ 初の生体撮影、成獣メスの全身骨格
3)2005年2月 羅臼町相泊のシャチ集団座礁 初の群れ全体の遺伝子解析、胃内容分析
4)2008年6月 常呂町(現:北見市常呂)の不明ツチクジラ
現在記載作業進行中 国立科学博物館(2010)『大哺乳類展―海のなかまたち―』
理系のための博物館資料論
第14講:自然史研究重要人名録
1.古典古代(ギリシア、ローマ)
1)古代ギリシア Ancient Greece, Αρχαία Ελλάδα Greekは形容詞、現在の正式国名は Hellenic Republic
日本では縄文時代の終わり(縄文時代というのは後からの、つまり現代からの呼び方)
科学/哲学の始まり。実験はできなかったが、観察と洞察力は現代にも通用する。
・アリストテレス Aristotle, Ἀριστοτέλης 384-322 BC 『動物誌』『動物発生論』(=動物学)
・テオフラストス Theophrastus, Θεόφραστος 372-288 BC 『植物誌』『鉱物論』(=植物学、鉱物学)
2)古代ローマ Rome
日本では弥生時代(元号や遷都令のような線引き不能、地域による年代差あり、○○文化との表現が適切)
レンガとコンクリートを使用した土木建築は近代建築の手本、ローマ法は近代法に引き継がれている。
・大プリニウス Pliny the Elder, Gaius Plinius Secundus AD 23-79 『自然誌(または博物誌)』(=アリスト
テレスやテオフラストスの抜き書き)
この時期=古典古代の西洋文明の中心は地中海沿岸。現在の西ヨーロッパは未開の地。395年にローマ帝国の分裂後、書籍
と技術は東ローマ帝国が保存した。ギリシアの学問の直接の後継者はイスラム文明である(だから、大航海時代の幕開けはイ
スラムの支配を受けたイベリア半島=スペイン・ポルトガルから始まった)。西ヨーロッパに近代科学が展開するのはルネサ
ンス(=ギリシア・ローマの学芸復興)以降だが、これは直接的には、1453年の東ローマ帝国の滅亡によって、ギリシア語文
献が持ち込まれたことによる(西村三郎.1999.文明のなかの博物学)。ちなみに高度に発達し後世に影響を与えたものは、
ギリシアは科学と哲学、ローマはローマ法と建築。
2.ルネサンスと近代ヨーロッパ
科学の成立と近代博物館
1)ルネサンス the Renaissance
・ゲスナー Konrad Gessner 1516-1565 『動物誌』、近代動物学へのかけはし
2)近代生物学
・ロバートフック(英) Robert Hooke 1635-1703 コルクの細胞壁をスケッチ、『顕微鏡図譜』 Micrographia
・レーウェンフック(蘭) Antony van Leeuwenhock 1622-1733 バクテリアの発見者
・リンネ(瑞) Carl von Linné Carolus Linnaeus 1707-1778 医師・生物学者 ウプサラ大学で教鞭、『植物の
種』(1753)、『自然の体系 Systema Naturæ』(第10版)1758-59 二名法
・ラマルク(仏) Jean-Baptiste Lamarck 1744-1829 獲得形質の遺伝、「無脊椎動物」を造語、大分類を実行
3)探検博物学
・シュテラー(独) Georg Wilhelm Steller 1709-1746 北太平洋の生物と住民、ステラーカイギュウの記録
・フンボルト(独) Alexander von Humboldt 1769-1859 最も偉大な博物学者、南米探検、植物地理学の創出
・チャールズ・ダーウィン(英) Charles Robert Darwin 1809-1882 ビーグル号世界周航、自然選択説、『種
の起源』1859
4)自然史博物館
・ハンス・スローン Sir Hans Sloane 1660-1753 収集資料が国家に寄贈され大英博物館となった
・ビュフォン Comte de Buffon 1707-1788 『一般と個別の博物誌』パリ王立植物園園長
・ジョセフ・バンクス Joseph Banks 1743-1820 ジェイムズ・クックの探検航海に同行、キューガーデン Royal
Botanic Gardens, Kew (ロンドン)を世界屈指の植物園に育てる
・キュビエ Georges Cuvier 1769-1832 比較解剖学者、古生物学者。天変地異説。パリ自然史博物館
du Muséum natoinal d'Histoire naturelle 勤務。『動物界』1817 動物の四体制群(脊椎動物、関節動物、軟体
動物、放射動物)
3.日本への近代生物学の浸透
井の中の蛙から共通の科学の世界への転換
1)近世:開国と長崎出島のオランダ系居留者
・ケンペル Engelbert Kaempfer 1651-1716 『廻国奇観』1712、『日本誌』英語版1727
・ツュンベリー(ツンベルグ) Carl Peter Thunberg 1743-1828 医師・生物学者 『日本植物誌』1784 日本
産植物の初めての近代分類学書(二名法による同定)、標本はウプサラ大学に収蔵
・シーボルト Philipp Franz von Siebold 1796-1866 文政6年(1823)に商館医として来日。『日本』
(1832-52)、『日本動物誌』Fauna Japonica 1833-52、『日本植物誌』Flora Japonica 1835-42→ 資料はオラ
ンダ国立自然史博物・国立植物学博物館・国立民族学博物館(ライデン)に収蔵
・テミンク1778-1858 Coenraad Jacob Temminck 1778-1858 オランダ国立自然史博物館館長 Nationaal
Natuurhistorisch Museum (現 naturalis )(初代)
・シュレーゲル Hermann Schlegel 1804-1884 オランダ国立自然史博物館館長(2代目)
2)近代:大学と明治お雇い外国人
・ヒルゲンドルフ Franz Hilgendorf 1839-1904 明治6−9年(1873-86)東京医学校で教鞭、ウミホタル、オキ
ナエビス、クロソイの記載、日本の魚類標本を収集、ベルリン動物学博物館 Zoologischen Museum (ベルリン
自然史博物館館 museum für naturkunde)魚類部長(curator)→同館に収蔵
・モース Edward Sylvester Morse 1838-1925 椀足類(ホオズキガイなど)の研究者、東京帝国大学教授として
ダーウィンの進化論を講義、大森貝塚の発見→ピーボディ博物館(マサチューセッツ州セーラム)に収蔵、館長
も務める→フェノロサを紹介
・フェノロサ Earnest Francisco Fenollosa 1853-1908 1878-1890、1896-1900 日本滞在、日本美術養護、東京
美術学校設立(1889年開校、現・東京芸術大学)
3)明治の日本人
東京国立博物館、国立科学博物館、文化財保護法など現代につながる制度整備に尽力した人物、大規模な現地
調査を実施、大学に資料を残した人物など
・伊藤圭介 1803-1901 本草学・医師、シーボルトに師事
・田中芳男 1838-1916 本草学、文部省官吏・貴族院議員、上野動物園創設に尽力、伊藤圭介に師事→明治政府
で博覧会を担当
・棚橋源太郎 1869-1961 東京高等師範学校(→東京教育大学→筑波大学)教授・東京教育博物館(→国立科学
博物館)主事、生態展示(ジオラマ)の導入、「棚橋賞」(日本博物館協会)
・松原新之助 1853-1916 大日本水産会、日本人初の魚類学者、ヒルゲンドルフに師事、水産講習所(後の東京
水産大学、現・東京海洋大学)の創設者
・箕作佳吉 1858-1909 日本人初の動物学教授東大三崎臨海実験所の創設者
・岡倉天心 1862-1913 フェノロサに師事、東京美術学校校長、臨時全国宝物取調係、国立博物館三館構想(東
京、京都、奈良)→晩年はボストン美術館東洋部部長
4.現代日本
・渋沢敬三 1896-1963 「日本資本主義の父」渋沢栄一の孫、日銀総裁、大蔵大臣、日本常民文化研究所(自宅
屋根裏の「アチック・ミューゼアム」から発展)、漁業漁村史料(→中央水産研究所に収蔵)・民俗資料(→国
立民族学博物館に収蔵)の収集→宮本常一『忘れられた日本人』の輩出
・宮本常一 1907-1981 土着文化の聞き取り、民具学会の設立、猿回しの復興
・西村三郎 1930-2001 日本人には数少ない、おおきなテーマの概説書の執筆 『日本海の成立』『地球の海と
生命』『文明のなかの博物学』『毛皮と人間の歴史』
・梅棹忠夫 1920-2010 国立民族学博物館館長(初代)、全国の主要博物館構想に関係、文明と博物館の思想家 『文明の生態史観』『知的生産の技術』「博情館」「情報産業」
・荒俣 宏 1947- 『世界大博物図鑑』、博物館の擁護者、博物学時代の書籍図版の復刻
5.北海道関係者
オホーツク海周辺は世界史的にみても辺境の地域である。北海道の生物相を学会に報告した人物とは。
・ブラキストン Thomas Wright Blakiston 1832-1891 軍人、貿易商、函館に20年滞在、ブラキストン線の提唱、
北海道千島の鳥類標本を収集→開拓使札幌仮博物場(現・北海道大学植物園博物館)に収蔵
・山階芳麿 1900-1989 アジア・太平洋地域、とくに樺太の鳥類標本収集、標本は山階鳥類研究所(茨城県我孫
子市)に収蔵。
・折居彪二郎(おりい・ひょうじろう) 1883−1970 山階芳麿などの標本採集家、樺太・千島・朝鮮半島・ミ
クロネシア・台湾・満州・中国・ベトナム・沖縄など、苫小牧出身
・米村喜男衛(よねむら・きおえ) 1896-1981 モヨロ貝塚の発掘、北見郷土館→網走市立郷土博物館の館長、
樺太先住民(ニブフ・ウイルタ)との関わり→ニポポ
・舘脇 操 1899-1976 北海道大学教授 洞爺丸台風(1954)以前の北海道の森林を記録、千島列島の植物相を
調査
理系のための博物館資料論
第15講:動物園学と水族館学
1.概要
1)歴史
・動物園
世界では1793年 パリ植物園内の動物園 Ménagerie du Jardin des Plantes
国内では1882年 上野博物館付属動物園
・水族館
世界では1853年 ロンドン動物園内 Fish House
国内では1882年 上野博物館付属動物園内「観魚室(うおのぞき)」
2)数
2011年現在の日動水加盟数は動物園87、水族館66、153館園
JAZA加盟館園数<総数、実情は水族館:国内に100、世界に500と推定(鈴木・西2010:76-77)
2.展示
1)水族館 aquarium
英語のアクアリウム aquarium の意味は?
・汽車窓水槽
・巨大水槽
海遊館(1990)、名古屋港水族館(1992南館, 2001北館)、ふくしま海洋科学館アクアマリン福島(2000)、
アクアワールド茨城県大洗水族館(2002)、沖縄美ら海水族館(2002)
・テラリウム terarium 水中に加え、陸上(岸辺)の自然を再現した水槽
・タッチプール touch pool 水中の生物にさわれる池や水槽
・マリンランド marine land 大型プールと観客席、スタジアムのような展示
・オセアナリウム oceanarium 入り江の一部を仕切り飼育場とする方法
・水族園 神戸市立須磨海浜水族園(1987)、葛西臨海水族園(1989)
2)動物園 zoo
・形態展示 種ごとに飼育、飼育施設は生存が可能なこと、昔ながらの展示
・生態展示 生息地の地形や植生を再現、サンディエゴ動物園、よこはま動物園ズーラシア(1994)
・行動展示 行動を引き出す工夫、旭山動物園(施設1997、言葉の使用2001、開館は1967)
小菅名誉園長のコラム「行動展示」
http://www5.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/zoo/entyou/koudoutenji.html
3)解説
「水族館は博物館である。博物館としての水族館の解説が、魚名札だけでは物足りない。ではどうすればいいか。
明白な答えは、残念ながらまだない」(鈴木・西2010:359)
→ 回答してほしい。
3.使命 mission
1)自然保護・生物多様性の保全
・稀少種の増殖
・飼育環境の充実(環境エンリッチメント enrichment)
2)研究 動物園や水族館ならではの研究とは何か
水族館での研究の中心は、飼育から繁殖に移っており、近年は野外調査や自然保護も増加した(鈴木・西2010:
364)
3)教育
・博物館法の対象施設
・1と2の成果の普及
4)レクリエーション
・知的好奇心、科学的興味
・楽しみは生産性の向上につながる→元気を回復している(小菅正夫)
http://www5.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/zoo/entyou/sc02_ent015.html
4.日本動物園水族館協会(日動水、動水協、JAZA) webpageを見てみよう http://www.jaza.jp/
・世界版は世界動物園水族館協会 World Association of Zoos and Aquariums WAZA
世界動物園保全戦略 The first World Zoo Conservation Strategy 1993
Code of Ethics and Animal Welfare
<以下おもに水族館に関して>
5.飼育
1)魚類
・底性魚
・回遊魚
・深海魚
・熱帯魚、冷水魚
2)無脊椎動物
・イカ、タコ
・定着性の生物
・プランクトン
3)海獣類
・鰭脚類
・鯨類
・海牛類
・ウミガメ
・海鳥
・水鳥
6.研究
単独、大学や研究機関との共同、素人参加
1)飼育と繁殖
・深海生物の飼育
・シマアジの繁殖(大分マリーンパレス水族館)→養殖事業へ
・クロマグロの完全養殖(近畿大学水産研究所)
・シャチの人工授精(名古屋港水族館)
2)解剖と病理
・メガマウスの解剖(マリンワールド海の中道)
・イルカの人工尾びれ装着(沖縄美ら海水族館)
3)生態と行動
・シーラカンスの生態(ふくしま海洋科学館アクアマリンふくしま)
・ジンベエザメの回遊追跡(いおワールドかごしま水族館)
4)保護と教育
・写真データベースの構築(神奈川県立生命の星地球博物館)
7.施設・運営
1)展示
・水槽 日プラ株式会社 http://www.nippura.com/index.html
2)バックヤード
・取水と濾過システム(鈴木・西2010:308-323)
・水族採集、海水調達 伊豆中央水産 http://www.izuchuo.co.jp/
3)飼料
クローバーリーフ「日本で唯一の動物園ビジネス」
京都府の企業紹介ページ http://www.pref.kyoto.jp/yamashiro/meister/1192778466558.html
NHK関西ローカル「ビジネス新伝説ルソンの壺」2012.2.19
http://www.nhk.or.jp/luzon/schedule/backnum/120219.html
引用文献
鈴木克美・西源二郎.2010.新版水族館学.東海大学出版会.