3‑(4)‑1 下水汚泥高効率ガス変換発電システムの開発 計画調整部技術開発課 1 長塚栄児 宮本彰彦 菊地 厚 調査目的 バ イ オ マ ス の 燃 焼 に よ り 発 生 す る CO 2 は 、 生 物 が 成 長 過 程 に お い て 光 合 成 に よ り 大 気 中 か ら 吸 収 し た CO 2 で あ る こ と か ら 、 大 気 中 の CO 2 を 増 加 さ せ な い と い う 特 性 (「 カ ー ボンニュートラル」と呼ばれる)を有する。このため、化石燃料由来のエネルギーをバイ オ マ ス が 有 す る エ ネ ル ギ ー で 代 替 す る こ と で 、温 室 効 果 ガ ス の ひ と つ で あ る CO 2 の 排 出 削 減に大きく貢献できる。 バイオマスの一種である下水汚泥は、水再生センターに集約されて大量に発生し、収集 も容易な点で、他のバイオマスとは異なった優位性がある。このエネルギーをより高効率 に活用できれば資源循環型社会の構築や地球温暖化防止に大きく貢献できると期待されて いる。 一方で、下水汚泥は高含水率、低発熱量であるため、効率的なエネルギー利用が難しく なっており、従来からの利用技術は、消化ガス発電や焼却廃熱発電などに限られている。 このため、下水汚泥エネルギーをより高効率で有効活用できる技術が求められている。 今 回 、 報 告 す る 「 下 水 汚 泥 の ガ ス 変 換 発 電 シ ス テ ム 」( 以 下 「 本 シ ス テ ム 」 と い う ) は 、 下水汚泥中の可燃分をガス化後、酸素と反応させ、一酸化炭素や水素などの燃料ガスに改 質し、ガスエンジンにより発電するシステムであり、水再生センターの電力自給率の向上 に 寄 与 す る も の で あ る 。 砂 町 水 再 生 セ ン タ ー 内 に 脱 水 汚 泥 で 5t/日 の 処 理 が 可 能 な 実 証 試 験設備を建設し、運転データからその研究成果を取りまとめた。 な お 、当 研 究 は 新 エ ネ ル ギ ー・産 業 技 術 総 合 開 発 機 構( N E D O )が 公 募 し た テ ー マ「 バ イオマスエネルギー高効率転換技術開発」に参加し、委託を受けた三菱重工業株式会社、 日本ガイシ株式会社及び財団法人エネルギー総合工学研究所と、東京都下水道サービス株 式 会 社 及 び 東 京 都 下 水 道 局 が 、「 ノ ウ ハ ウ + フ ィ ー ル ド 提 供 型 共 同 研 究 」の 制 度 に よ り 、平 成 15 年 9 月 か ら 平 成 18 年 3 月 ま で 実 施 し た も の で あ る 。 2 システムフロー 本 シ ス テ ム の フ ロ ー を 図 − 1 に 示 す 。 脱 水 汚 泥 を 含 水 率 30%程 度 ま で 乾 燥 し た 後 、 ガ ス化炉で熱分解ガス化し、更に改質炉で可燃成分として一酸化炭素、水素を主とするガス に改質する。この改質ガスから硫黄成分などの有害物質を除去した後、燃料ガスとしてガ スエンジンで発電する。 高含水率の下水汚泥に対しこの技術を適用する場合、水分除去を効率的に行うことがエ ネルギー回収率を増加させるポイントとなるため、脱水汚泥の乾燥に供給する水蒸気の加 熱には、ガス化・改質ガスの顕熱とともに潜熱を回収し利用する。 循 環 流 動 床 式 の ガ ス 化 炉 に お い て は 、 700℃ 程 度 の 比 較 的 低 温 、 低 酸 素 の 状 態 で 部 分 燃 焼 す る こ と で 可 燃 成 分 を 熱 分 解 、 ガ ス 化 し 、 続 く 改 質 炉 に お い て は 1000℃ 程 度 の 高 温 で 、 酸素を吹き込んで、チャー、タールなどのガス化残渣を燃料ガスに改質する。 燃料ガスの精製(排ガス処理)には触媒担持型のセラミックフィルタ(以下「触媒フィ ルタ」という)を採用し、改質ガス中のダスト除去と有害成分(主にシアン、硫化カルボ 1 中圧蒸気 蒸気圧縮機 蒸 気 タービン 低圧蒸気 高圧蒸気 乾燥機 改質炉 ガ ス化 炉 脱水汚泥 汚泥 廃熱 触媒 潜熱回収 ボイラ フィルタ ボイラ 排 ガス 電力 ガス ガス洗 浄 エンジン H2 乾 燥 ドレン水 NH 3 →H 2 転換触媒 凝縮水 NH 3 回 収 排水処理 水処理施設へ ※着 色 部 分 が開 発 の評 価 ポイント ※潜 熱 回 収 ボイラ及 び NH 3 →H 2 転 換 触 媒 (点 線 部 分 )を導 入 したシステムが高 効 率 システム 図 -1 ガス変 換 発 電 システムのフロー ニ ル )の 加 水 分 解 を 同 時 に 実 施 す る こ と で 、装 置 の コ ン パ ク ト 化 及 び 効 率 化 を 図 っ て い る 。 また、汚泥乾燥や改質ガス洗浄の過程で排水中に移行したアンモニウムイオンから水と アンモニアガスを分離し、これを触媒で分解して水素として回収し、燃料として利用する とともに排水の処理負荷低減するものである。 3 開発目標 表−1 本研究における開発目標 実 規 模 施 設 ( 300t/日 ) Step1 Step2 (単 純 型 ) (高 効 率 型 ) を表−1に示す。 実規模施設においては脱 水 汚 泥 処 理 能 力 300t/日 の 場合を想定し、潜熱回収ボ イラ及びアンモニアの水素 転換触媒の導入の有無によ り、導入しないシステムの Step1 ( 単 純 型 シ ス テ ム ) 開発目標 ①ガス化・改質 冷 ガ ス 効 率 ※1 実効冷ガス効率※2 発電端効率※3 ②触媒フィルタ COS、 HCN 転 換 ③ NH3 回 収 水素回収率 実証試験 ( 5t/日 ) 65% 60% 20% 50% 85% 30% 45% - - 70% 70% 70% - 60% 60% 及び導入するシステムの Step2( 高 効 率 型 シ ス テ ム ) の そ れ ぞ れ に つ い て 目 標 値 を 設 定 し た 。 ガ ス 化 ・ 改 質 試 験 に おける目標値の各項目は以下の式により定義した。 ※1 冷ガス効率=回収燃料ガス保有熱量/乾燥汚泥保有熱量 ※2 実効冷ガス効率=発電利用燃料ガス保有熱量/脱水汚泥保有熱量 ※3 発電端効率=ガスエンジンによる発電量/脱水汚泥保有熱量 実証試験における目標値は、実規模施設の各目標値を達成するために必要となる値を算 2 出 し た も の で あ る 。冷 ガ ス 効 率 の 目 標 値 は 45% で あ り 、実 規 規 模 施 設 と 比 較 し て 小 さ く な っているが、これは実証試験設備ではガス化炉等における放熱量が実規模設備と比較して 大きいためである。なお、実証試験設備においては汚泥乾燥のための熱源を外部供給する ため、実効冷ガス効率及び発電端効率の目標値は設定しない。 以 上 を ま と め る と 、実 証 試 験 に お い て 冷 ガ ス 効 率 45%を 達 成 で き れ ば 、実 規 模 施 設 に お け る 発 電 端 効 率 と し て 単 純 型 20%、 高 効 率 型 30%と シ ス テ ム 評 価 で き る こ と と な る 。 4 実証試験 表−2に実証試験設備の諸元を、図−2、3に写真と フローを示す。試験は1回当たり5日間程度の運転を行 い 、 計 14 回 実 施 し た 。 表−2 実証試験設備諸元 処理汚泥 高分子凝集剤−遠心脱水汚泥 乾 燥 汚 泥 75kg/h 以 上 (脱 水 汚 泥 5 t/日 相 当 以 上 ) 循環流動床式 空気、酸素、水蒸気 酸素、水蒸気 処理規模 ガス化炉形式 ガス化炉供給ガス 改質炉供給ガス 図−2 余 剰 ガス 改 質 ガス ガス化 炉 脱水汚泥 実証試験設備外観 触 媒 フィルタ 乾燥汚泥 燃焼炉 洗 浄 塔 精 製 ガス 水 乾燥機 アルカリ G G 灰 蒸気 ガスエンジン 水素 潜 熱 回 収 ボイラ 図−3 4.1 実証試験設備フロー アンモニア回 収 設 備 ガス化・改質試験 乾燥汚泥を循環流動床炉でガス化し、生成した熱分解ガスとチャーを改質炉で酸素と蒸 気を反応させることで水素、一酸化炭素を主体とした燃料ガスを生成する技術について、 安定かつ効率的な運転条件を調査した。 ガス化・改質のイメージを図−4に示す。各プロセスにおける主たる反応は次式に示す ように考えられるる。 ①ガス化(熱分解)反応 汚 泥 の 有 機 分 → メ タ ン な ど 可 燃 性 ガ ス 成 分 + タ − ル な ど 重 質 油 成 分 + チ ャ − ( C) 3 ②主な改質反応 循 環 流 動 床 ガス化 炉 C + CO 2 → 2CO 汚 泥 中 の可 燃 分 を部 分 燃 焼 で、 C + H 2 O → CO + H 2 熱 分 解 ガスやタール分 にガス化 C + 2H 2 O → 2H 2 + CO 2 酸素 C + O 2 → CO 2 水蒸気 C + 1/2O 2 → CO CO + H 2 O → CO 2 + H 2 乾燥汚泥 水 分 1 0 ~4 0 % 表−3に試験条件の概略を、表 −4に改質炉出口におけるガス性 熱 分 解 ガス、タールを酸 素 と蒸 気 で 状の一例を示す。改質ガスは、水 CO、H 2 主 成 分 の可 燃 ガスに改 質 素、一酸化炭素等の燃料成分を 流動空気 30 % 程 度 含 ん で い る こ と が わ か 図−4 る。 1200 も安定運転が可能であること が確認でき、燃料ガスの流量 や組成についても大きな変動 はなく推移した。 4.1.1 800 25 CO濃度 H2濃度 ガス化炉内温度 600 20 15 400 10 燃料ガス流量 200 0 12:00 18:00 図−5 400 3 化( 24 時 間 )を 示 す 。各 炉 と 温度 [℃] 素、一酸化炭素濃度の経時変 30 改質炉内温度 1000 の各炉内温度、得られた燃料 ガスの流量、燃料ガス中の水 表−4 燃料ガス性状(例) 項 目 実測値 H2 vol. % 13.1 CO vol. % 10.4 CH 4 vol. % 3.0 C2H4 vol. % 0.6 その他 vol. % 72.9 低位発熱量 kJ/m 3 N 3845 流量 [m N/h] 改質 験におけるガス化炉、改質炉 ガス化・改質のイメージ 濃度 [%] ガ ス化 表−3 ガス変換実証試験条件 炉内温度 ℃ 600~800 kg/h 乾燥汚泥投入量 75~130 空気比 - 0.2~0.4 炉内温度 ℃ 900~1000 酸素比 - 0.3~0.5 H 2 O/C - 0.5~2 また、図−5に連続運転試 改 質 ガス 改質炉 0:00 6:00 5 200 0 0 12:00 連続運転試験時のガス化状況 ガス化温度の最適化 最適なガス化条件を把握するため、改質炉温度を一定条件のもと、ガス化炉温度をパラ メータとした試験を行った。各炉内温度は、ガス化炉と改質炉へ供給する酸素量を調整す ることで操作した。 ここで、乾燥汚泥中の炭素のうち改質ガス中に移行した割合をカーボンガス化率として 定義した。乾燥汚泥中の灰分全てが焼却灰中に移行すると仮定し、改質炉出口で採取した 焼却灰中の炭素量と灰分量に対し、乾燥汚泥中の炭素量と灰分量を比較する以下の式によ り算出した。 4 カーボンガス化率=改質ガス中の汚泥由来炭素量/乾燥汚泥中の炭素量 ≒ 100− 焼却灰中の炭素量 焼却灰中の灰分量 表−5にガス化温度と改質炉出口 × × 乾燥汚泥中の灰分量 ×100 乾燥汚泥中の炭素量 表−5 で回収した焼却灰中の未燃分及びカ ガス化温度とカーボンガス化率 ガス化温度 改質炉温度 ス化温度の上昇とともに焼却灰中の ガス化炉酸素比 未燃分は減少し、カーボンガス化率 改質炉酸素比 は未燃分の減少により増加するため、 総酸素比 焼却灰中未燃分 ガ ス 化 温 度 が 748℃ で 97.9%ま で 上 カーボンガス化率 昇した。 ーボンガス化率との関係を示す。ガ 4.1.2 ℃ ℃ % % 530 894 0.21 0.41 0.53 31.9 85.5 590 914 0.25 0.35 0.51 24.9 89.1 680 925 0.30 0.34 0.54 13.5 94.8 748 904 0.39 0.34 0.59 4.7 97.9 ドロマイト供給試験 改質ガス中に含まれるシアン及びタール分の生成量削減を目的として、ドロマイト ( CaMg(CO 3 ) 2 ) を ガ ス 化 炉 内 に 供 給 し 、 そ の 生 成 量 削 減 効 果 を 調 査 し た 。 ド ロ マ イ ト は 温 度 域 に よ り 二 段 階 で ① の 脱 炭 反 応 が 起 き 、CaO が 生 成 さ れ る 。こ の CaO と水がガス化炉で生成する炭素(タール及びチャー)に対し、②式の反応によりガス化を 促進するため、未燃のタールが減少すると考えられる。 また、シアンは③に示すように炭素とアンモニアの反応により生成されるが、②の反応 により炭素の残留を抑制することから、シアンの生成抑制が可能になると考えられる。 ①ドロマイトの脱炭反応 MgCO 3 → MgO + CO 2 ( 400〜 700℃ ) CaCO 3 → CaO + CO 2 ( 700〜 900℃ ) ②炭素(タール、チャー)のガス化 C + 2H 2 O + CaO → 2H 2 + CaCO 3 ③シアンの生成反応 C + NH 3 → HCN + H 2 ド ロマ イ ト は 、ガ ス 化 炉 の流 動 媒 体 に用 い る 6 号 珪 砂 相 当の 粒 径 の もの を 、乾 燥汚 泥 の 乾 燥 基 準 重 量 に 対 し 5〜 10wt%混 合 し た 。 ガ ス 化 温 度 は ド ロ マ イ ト の 触 媒 作 用 が 期 待 で き る 700〜 800℃ で 操 作 し た 。 図−6に実証試験によるドロマイトのシアン及びタール生成量の削減効果を示す。ドロ 7000 タール濃度(g/m3N) 6000 HCN濃度(ppm) 6 シアン 5000 4000 3000 2000 ドロマイト無し ドロマイト有り 1000 0 タール 5 4 ドロマイト無し (改質炉1000℃) 3 ドロマイト無し (改質炉900℃) 2 ドロマイト有り (改質炉900℃) 1 0 0 200 400 600 800 1000 0 ガス化炉温度(℃) 図−6 200 400 600 ガス化炉温度(℃) ドロマイトによる抑制効果 5 800 1000 マ イ ト の 添 加 に よ り 改 質 ガ ス 中 の シ ア ン 濃 度 は 数 百 ppm と な り 約 1/10 に 、 タ ー ル に つ い て も 約 1/5 に 減 少 し て い る 。 また、硫化水素や硫化カルボニル等の硫黄化合物に対する削減効果も確認できた。 4.1.3 表−6 ガス化・改質試験の評価 以上のようにガス化・改質試験において、補 ガス化炉 助燃料を供給せず下水汚泥の保有する熱量のみ で安定運転できることを確認した。このときの 最適操作条件と、ガス化性能を表−6に示す。 ガス化炉にはシアン、タールの生成を抑制す 改質炉 るためドロマイトを添加し、未反応炭素の削減 とドロマイトの触媒作用に必要な温度を考慮し て 700℃ と し た 。 得られた燃料ガスについては、汚泥中の炭素 燃料ガス 分のうちガス化した割合を表すカーボンガス化 率 は 98.3%と な っ た 。 ま た 、 冷 ガ ス 効 率 に つ い て は 46.3%が 得 ら れ 、 実 証 試 験 に お け る 目 標 値 45%以 上 を 達 成 で き た 。 4.2 ガス化・改質試験評価 項 目 含水率 乾燥汚泥投入量 ドロマイト供給量 温度 都市ガス供給量 空気比 温度 酸素比 H2O/C 蒸気温度 都市ガス供給量 燃料ガス発生量 燃料ガス発熱量 カーボンガス化率 冷ガス効率 % kg/h kg/h ℃ m3/h - ℃ - - ℃ m3/h m3/h kJ/m3 % % 実測値 22.2 126 11.2 707 0 0.32 1000 0.23 1.1 145 0 183.5 920 98.3 46.3 ガスエンジン試験 ガ ス エ ン ジ ン 試 験 は 、既 存 の 6 気 筒 ガ ス エ ン ジ ン 試 験 機 の う ち 1 気 筒 の 給 排 気 系 統 を 他 気筒から独立化したものを用いて実施した。独立化した気筒では燃料ガスを燃焼させて各 種計測を行い、他の 5 気筒は都市ガスにて一定運転した。 試験結果として、空気過剰率と熱効率の関係を都市ガス燃焼時と比較し図−7に示す。 熱効率は、都市ガス燃焼時と比較すると約 3 ポイント低下した。安定運転が可能な空気過 剰 率 は 2.3 程 度 で 、 都 市 ガ ス 燃 焼 時 の 2.0 程 度 と 比 較 す る と や や 希 薄 燃 焼 側 に 移 行 し た 。 消化ガスのようにシロキサン濃度の高いガスをエンジンで燃焼する際、シリカ分がエン ジ ン 気 筒 内 や 脱 硝 触 媒 に 析 出 し 、安 定 運 転 や 部 品 寿 命 に 影 響 を 与 え る こ と が 知 ら れ て い る 。 本試験においてもシロキサンによる影響が考えられるため、燃料ガス中のシロキサン濃度 を 計 測 し た と こ ろ 5mg/m 3 N 以 下 で あ り ( 図 − 8 参 照 )、 消 化 ガ ス 中 の シ ロ キ サ ン 濃 度 45 〜 135mg/m 3 N( 文 献 値 ) と 比 較 す る と 1/10 と 低 濃 度 で あ り 、 機 器 に 対 す る 影 響 は 非 常 に 39 シロキサン濃度(mg/m3N) 正味熱効率(軸端相当) % 小さいと予測できる。 37 35 33 31 29 27 都市ガス 燃料ガス 25 1.80 2.00 2.20 2.40 10 ドロマイト無し ドロマイト有り 8 6 4 2 0 800 850 900 空気過剰率 図−7 950 1000 1050 1100 改質炉温度(℃) 図−8 ガスエンジンの熱効率 6 シロキサン濃度 4.3 一酸化二窒素の排出量試験 下水汚泥を焼却処理する際に、温室効果ガスの一種である一酸化二窒素が排出されてい る 。一 酸 化 二 窒 素 が 持 つ 温 室 効 果 は 二 酸 化 炭 素 の 310 倍 高 い た め 、東 京 都 下 水 道 局 が 排 出 する温室効果ガス全量のうち汚泥焼却炉で排出する一酸化二窒素は約 4 割を占めており、 削減が求められている。 表−7 そこで、当システムについても一酸化 二窒素の排出量を測定し、汚泥焼却炉と 改質ガス中の濃度、燃焼炉及びガスエン ジン出口における排ガス中の濃度を示す。 改質炉 出口 ppm − <5 測定日 比較した。表−7に改質炉出口における 一酸化二窒素濃度測定結果 H17.4.20 H18.1.12 燃焼炉 出口 ppm 30 − ガスエン ジン出口 ppm − <5 燃焼炉出口における測定結果から 一 酸 化 二 窒 素 濃 度 30ppm、 排 ガ ス 量 413m 3 N/h、 汚 泥 処 理 量 63.44kg-DS/h 一酸化二窒素排出量は 413×30×10 - 6 ÷22.4×44( 分 子 量 ) = 0.0243kg-N 2 O/h 汚泥乾物当たりの一酸化二窒素排出量(排出原単位)は、 1000×0.0243÷63.44= 0.383kg-N 2 O/t-DS 一方、汚泥焼却炉における排出原単位は、東京都下水道局で実施した調査結果から、 -0.1172×T+ 101.95 kg-N 2 O/t-DS ( T: 焼 却 炉 フ リ ー ボ ー ド 温 度 ) 温 度 830℃ の と き 4.674 kg-N 2 O/t-DS、 850℃ の と き 2.33 kg-N 2 O/t-DS と 算 出 さ れ る 。 以上より、当システムで排出される一酸化二窒素量は、汚泥焼却炉で排出される量より も 大 幅 に 少 な く 、850℃ で 高 温 焼 却 し た 場 合 と 比 較 し て も 1/6 程 度 ま で 削 減 が 期 待 で き る 。 下水汚泥を焼却する際、シアン由来物質、アンモニア由来物質、炭素(固体)等の各物 質 が NO( 一 酸 化 窒 素 ) と 反 応 し 、 一 酸 化 二 窒 素 を 生 成 す る と 考 え ら れ て い る 。 当 シ ス テ ム に お い て は 、 低 酸 素 状 態 で ガ ス 化 反 応 が 行 わ れ る た め NO が 生 成 し に く い と も に 、 改 質 ガス中のシアンやアンモニアは洗浄塔で排水中に移行し、ガスエンジンや燃焼炉内に供給 さ れ な い こ と が 、当 シ ス テ ム に お い て 一 酸 化 二 窒 素 排 出 量 が 少 な い 理 由 と し て 推 察 さ れ る 。 4.4 触媒フィルタ試験 クリ-ンガス 下 水 汚 泥 に は S 分 、N 分 セラミック が比較的多く含まれ、ガス フィルタ 化する際には有害な硫化水 素( H 2 S)、硫 化 カ ル ボ ニ ル 触媒層 ( COS)、 シ ア ン ( HCN)、 ア ン モ ニ ア ( NH 3 ) が 多 く ダスト 発生する。このうち、硫化 カルボニルは湿式洗浄では 除去されにくく、また、シ 改 質 ガス アンは洗浄排水中へ移行す 図−9 ると除去処理に費用がかか 触 媒 フィルタサンプル 触媒フィルタの構造 る。 触媒フィルタは、改質ガス中に含まれるダストを集じんする機能と、触媒による加水分 解反応で硫化カルボニルを硫化水素へ、シアンをアンモニアへ変換する機能を併せ持つ設 備であり、有害成分の分解性能と最適な触媒反応条件について調査を行った。 7 触 媒 は TiO 2 に 助 触 媒 を 担 持 し た も の を 用 い 、 運 転 条 件 は ベ ン チ 試 験 で 高 い 活 性 が 確 認 さ れ た 反 応 温 度 300℃ 、SV 値 2000h - 1 と し た 。触 媒 フ ィ ル タ の 構 造 と 写 真 を 図 − 9 に 示 す 。 触 媒 フ ィ ル タ の 入 口 、 出 口 の ば い じ ん 濃 度 の 測 定 結 果 は 、 入 口 側 100〜 350g/m 3 N に 対 し て 、 出 口 側 0.2〜 0.6 g/m 3 N で あ り 、 ダ ス ト 除 去 率 と し て 99.4〜 99.9% を 達 成 し た 。 こ の と き の フ ィ ル タ 差 圧 に つ い て は 逆 洗 を 実 施 す る こ と に よ り 0.6〜 1.2kPa の 範 囲 を 推 移 し 、 安定運転が可能であった。 図 − 10 に 触 媒 フ ィ ル タ 前 後 に お け る 改 質 ガ ス 中 の シ ア ン 、硫 化 カ ル ボ ニ ル の 濃 度 を 示 す 。 反 応 温 度 350〜 400℃ に お い て シ ア ン は 80〜 85% 、硫 化 カ ル ボ ニ ル は 92〜 95%と 高 い 分 解 率が得られた。 1200 140 シアン 100 800 600 400 80 60 40 入口濃度 出口濃度 200 入口濃度 出口濃度 20 0 0 0 100 図−5 200 300 400 500 触媒反応温度 シア ンの分解状況 図 − 10 4.4 硫化カルボニル 120 濃度(ppm) 濃度(ppm) 1000 0 図−6 100 200 300 400 500 触媒反応温度 硫化カルボ ニルの分解状況 触媒フィルタによる除去状況 潜熱回収ボイラ試験 改質炉から送出される改質ガスは廃熱ボイラで顕熱を回収された後も水蒸気を多く含む。 そこで、潜熱回収ボイラで改質ガス中の水蒸気の凝縮潜熱を回収し、低温、低圧の蒸気を 発 生 さ せ 、乾 燥 機 の 熱 源 と し て 利 用 す る 。図 − 11 に 構 造 を 示 す が 、改 質 ガ ス を 潜 熱 回 収 槽 内に気泡状に分散すると、改質ガス中の水蒸気が凝縮することで、循環水が昇温される。 この循環水を熱源として、チューブ式熱交換器(蒸気発生器)で低圧蒸気を発生させるも のである。 改質ガス 蒸発水 蒸気 蒸気 出口 80 80 循環水温度(昇温前) 温度(℃) 水 ポンプ 水ポンプ 改 質 ガス 改質ガス 入口 75 75 発生蒸気流量 70 凝縮水 循 環水 潜熱回収槽 図 − 11 85 70 発生蒸気温度 凝縮水 凝縮水 65 18:00 蒸気発生器 潜熱回収ボイラ構造 18:10 図 − 12 8 18:20 潜熱回収状況 65 18:30 流量(m3/h) 蒸発水 改 質 ガス 循環水温度(昇温後) 85 図 − 12 に 実 証 試 験 に お け る 蒸 気 の 発 生 状 況 の 経 時 変 化 を 示 す 。時 間 の 経 過 に 対 し 、発 生 し た 低 圧 蒸 気 の 温 度 は 約 70℃ で 、流 量 に つ い て も 75m 3 /h と ほ ぼ 一 定 で あ り 、安 定 回 収 で きることが確認できた。 4.5 水素回収触媒試験 改質ガス中には多量のアンモニアが含まれ、さらに、シアンについても触媒フィルタで アンモニアに転換されるため、アンモニア濃度はさらに高くなる。このアンモニアは改質 ガス洗浄塔で排水側に移行する。 そ こ で 、リ ン 酸 ア ン モ ニ ウ ム マ グ ネ シ ウ ム( MAP)が ア ン モ ニ ア を 吸 収 ・ 放 出 す る 特 性 を利用して、改質ガス洗浄排水や汚泥乾燥機排水中に含まれるアンモニアを回収し、回収 したアンモニアを触媒によって水素に転換し、ガスエンジンの燃料とするものである。 図 − 13 に MAP に よ る ア ン モ ニ ア 回 収 原 理 を 示 す 。 加 熱 MAP ( MgHPO 4 )、 MAP ( MgNH 4 PO 4・6H 2 O)と も 白 色 の 粉 体 で 、加 熱 MAP は ア ン モ ニ ア 含 有 水 と 接 触 す る こ と で ア ン モ ニ ア と 水 を 取 り 込 み MAP に な り 、80〜 120℃ で 加 熱 す る こ と で ア ン モ ニ ア と 結 晶 水 を ま た 放 出 し 加 熱 MAP と な る こ と が わ か っ て い る 。 加 熱 MAP(再 利 用 ) NH 3 含 有 排水 H 2 ,N 2 MAP ①MAP スラリ MAP MAP ろ過 器 反応槽 ②MAP NH 3 再生器 H2転 換 触媒 450℃ ①アンモニアの吸 収 MgHPO4 + NH3 + 水 ⇒ MgNH4PO4・6H2O (加 熱 MAP) (MAP) ②アンモニアの放 出 (加 熱 MAP の再 生 ) MgNH4PO4・6H2O ⇒ MgHPO4+NH3↑+6H2O↑ 図 − 13 改質ガスの洗浄塔排水に対し、 MAP の 繰 り 返 し 利 用 に よ る ア ン モニアの除去性能を評価した結果 を 表 − 8 に 示 す 。MAP は 繰 り 返 し 利用が可能であるとともに、アン モ ニ ア の 除 去 率 は 70 〜 80% で あ ることが確認できた。 また、アンモニアの水素転換触 水素回収のフロー 表 -8 排 水 中 からのアンモニアの回 収 状 況 試料排水 改 質 ガス洗 浄 塔 排 水 処理排水量 200 L MAP 投 入 量 1.0 kg MAP 使 用 回 数 新品 2 回目 3 回目 4 回目 MAP 加 熱 時 間 h 48 24 24 24 MAP 加 熱 温 度 ℃ 105 105 105 105 原 水 NH 3 濃 度 Mg/L 230 134 206 272 処 理 水 NH 3 濃 度 Mg/L 68.0 41.0 52.0 45.2 NH 3 除 去 率 % 70.4 69.4 74.8 83.4 媒 に つ い て は 、 反 応 温 度 450℃ に お い て 、 ア ン モ ニ ア か ら 水 素 へ の 転 換 率 80% 以 上 を 達 成 で き た 。 以 上 、各 結 果 か ら 、排 水 中 の ア ン モ ニ ア か ら 水 素 へ の 総 合 転 換 率 と し て 約 60% が 得 ら れ た。 9 5 システム評価 本 シ ス テ ム を 脱 水 汚 泥 処 理 量 300 t/日 の 実 機 規 模 施 設 と し て 導 入 し た 場 合 の 効 果 を 、 実 証試験結果に基づき算出し、従来技術と比較し表−9に示す。 脱 水 汚 泥 の 保 有 熱 量 の う ち 、 単 純 型 で は 60%を 燃 料 ガ ス と し て 利 用 が 可 能 で 、 さ ら に 、 高 効 率 型 の 場 合 は 85% ま で 上 昇 す る 。 ガ ス エ ン ジ ン に よ り 、 単 純 型 で 1,900kW、 高 効 率 型 で 2,600kW の 発 電 が 可 能 と な り 、 こ れ ら は 従 来 の 焼 却 廃 熱 に よ る 蒸 気 発 電 量 と 比 較 す る と 、 そ れ ぞ れ 2.4 倍 、 3.3 倍 に 相 当 する。 また、本システムは購入電力量を削減できるだけでなく、一酸化二窒素の排出量が従来 焼 却 炉 の 1/10 以 下 で あ る た め 、 温 室 効 果 ガ ス 総 排 出 量 は 焼 却 廃 熱 発 電 と 比 較 し て CO 2 換 算 で 1/25〜 1/125 と な り 、 排 出 量 が 非 常 に 少 な い シ ス テ ム で あ る 。 本システムの導入により資源循環型社会の構築と地球温暖化防止に大きく貢献できるこ とが期待される。 表−9 脱水汚泥熱量 燃 料 ガス熱 量 発電量 発電端効率 場内使用電力 送電量 温 室 効 果 ガス 排出量 6 全 体 シ ス テ ム 評 価 ( 脱 水 汚 泥 処 理 能 力 300t/日 、 含 水 率 75%) 今 回 技 術 /ガス変 換 発 電 従来技術 Step1 Step2 焼却廃熱発電 単位 ( 燃 焼 温 度 8 30 ℃) (単 純 型 ) (高 効 率 型 ) ① kW 8,800 8,800 8,800 kW 5,540 7,790 - ② kW 1,900 2,650 800 ②/① % 21.6 30.1 9.1 ③ kW 1,400 1,780 1,200 ②-③ kW 500 870 -400 電力由来 t-CO 2 /年 -1,520 -2,650 1,220 N2O 由 来 t-CO 2 /年 2,940 2,940 35,860 合計 t-CO 2 /年 1,420 290 37,080 おわりに 本システムについて、実証試験による基本特性評価を完了し、その結果から実機設備と して導入した場合の効果を試算した結果、水再生センターの電力自給率の向上に寄与する とともに、地球温暖化防止に貢献できることが判明した。 しかし、当研究においては各設備の実証期間も短く、連続運転時の信頼性に関する項目 や、実規模施設化する際のスケールアップ評価といった今後の課題も残る。 ま た 、発 電 能 力 に 優 れ る Step2 の 高 効 率 シ ス テ ム に つ い て は 、さ ら な る 研 究 開 発 が 必 要 であるとともに、設備機器の増加に伴う建設費や維持管理費の増加も予想される。 今 後 に つ い て は 、Step1 の 単 純 型 シ ス テ ム に よ る 実 証 試 験 を 平 成 19 年 3 月 ま で 継 続 し 、 実 証 試 験 デ ー タ の 蓄 積 や 、長 期 の 連 続 運 転 に よ り 信 頼 性 及 び 安 定 性 の 評 価 を 行 う と と も に 、 ガス化残渣(焼却灰)の有効利用法の検討などを行い、実用化を目指していく。 10
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