薬物治療学分野症例シリーズ 5 担当者:永田理恵(修士 1 年) 発熱・紅斑・浮腫・見当識障害で緊急入院した 30 歳の女性 【年齢・性別・患者プロフィル】 30 歳、女性 禁忌薬物:薬物有害反応既往無 既往歴:無 嗜好歴:無 【主訴】 発熱(38℃)、不穏、見当識障害、浮腫、紅斑 【現病歴】 2 年半前(妊娠 4 ヶ月)に鼻と手指先端に紅斑が出現した。その 3 ヶ月後に 38 ℃の発熱、顔面紅斑、浮腫が 出現した。妊娠 9 ヶ月目に切迫流産にて帝王切開したが、術後 38.8 ℃の発熱と共に皮疹が増悪し、大学病院 皮膚科に入院した。そこで全身性エリテマトーデス(SLE)と診断されて 2 ヵ月後に退院した。 以後プレドニゾロン 25 mg/day、 テプレノン顆粒 10% 1.5 g/day の内服により外来で経過観察されていたが、 プレドニゾロンの内服量を自己調節し、コンプライアンス不良であった。 2∼3 週間前より 38℃台の発熱、全身倦怠感、筋肉痛、全身浮腫、不穏や見当識障害が出現し、4/18 に SLE 増悪として同皮膚科に緊急入院した。 【理学所見】 身長 161 cm、体重 46.5 kg、体温 38.5 ℃、血圧 130/100 mmHg、脈拍数 120 回/分整、呼吸数 20 回/分、 全身浮腫、脱毛、満月様顔貌、眼瞼結膜:貧血有・黄疸無、口腔カンジダ症、口唇 爪先 指 円板状エリテマ トーデス(DLE)、心濁音界拡張、聴診所見異常無、腹部圧痛無、肝腫大2cm(鎖骨中線)、胴肥満、陰部潰瘍、四 肢筋萎縮、関節炎(両くるぶし、両手首) 、レイノー現象(手指先)、意識清明、精神症状(不穏、見当識障害)、 リンパ節腫脹。 蝶形紅斑 片山一朗:膠原病 社団法人日本皮膚科学会ホームページより SLE の蝶形紅斑は,鼻根部にかかる暗赤色調の滲出性紅斑が。 典型である。 レイノー現象(重症) ペインクリニック画像情報 西岡憲吾ほか 北九州総合病院麻酔・集中治療科 寒冷刺激等によって血管が攣縮し、皮膚の色 (特に指先)が白→紫→赤に変化する現象。 重症例では、指先に潰瘍を形成する。 【検査成績】 赤血球数 209 万/mm3↓、ヘモグロビン 7.8 g/dL↓、赤血球沈降速度 43 mm/hr↑、白血球数 1700 /mm3↓(白 血球分画:好中球数 1240 /mm3↓、リンパ球数 370 /mm3↓、異型リンパ球数 20 /mm3、単球数 70 /mm3↓)、血小板 数 14.1 万/mm3↓、C反応性蛋白 Fe 21 μg/dL↓、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナー ゼ) 4.8 g/dL↑、血中尿素窒素 77 mg/dL↑、クレアチニン 2.9 mg/dL↑、 109 IU/L↑、アラニンアミノトランスフェラーゼ(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ) 27 IU/L、 乳酸脱水素酵素 1347 IU/L↑、オキシ酪酸脱水素酵素 1204 IU/L↑、クレアチンホスホキナーゼ 337 IU/L↑、 アルドラーゼ 尿蛋白 30.3 IU/L↑、血清総蛋白 4.6 g/dL↓、アルブミン 1.5 g/dL↓、γグロブリン 40.7 %↑、 抗核抗体 36 g/day↑、尿沈渣有(白血球・赤血球・上皮多数、顆粒円柱有)、 2560 倍↑、抗 DNA 抗体 320 倍↑、補体 50%溶血単位 3.5 IU/L↓、 心臓超音波検査: 心のう液貯留あり、心のう炎、胸部 X 線写真:心胸郭比(CTR)70.3 %、両側胸水 胸部Ⅹ線写真:胸水・心嚢液貯留像 両側の胸水(青矢印)と、心陰影の拡大(赤矢印)を認める。 心臓超音波検査:心嚢液貯留像 N Engl J Med 2004;351:279-287 超音波検査で、心陰影の拡大は心嚢液貯留 (黄矢印)によるものと確認した。 抗核抗体陽性 愛知医科大学附属病院 中央臨床検査部免疫血清検査室 問題 1.この症例のプロブレムリストを作りなさい 2.この疾患の診断名とその根拠を述べなさい。 3.ステロイドの副作用と考えられる症状はどれか 4.この症例の治療方針を立てて、その根拠を述べなさい 5.3 の治療効果と副作用の評価のために特に注意すべき項目を 5 つ以上挙げなさい 【プロブレムリスト】 4 月 18 日 1.SLE の急性増悪 1-1 ループス腎炎、ネフローゼ症候群 1-2 中枢神経症状 1-3 胸水、心のう液貯留 2.ステロイドによる副作用(満月様顔貌、口腔カンジダ症、胴肥満) 【初期計画:診断】 1)SLE SLEの急性増悪 SLEの急性増悪 SLE 既往があり、現在発熱(38℃台)し、関節炎・漿膜炎、があり、口唇 爪先 指に円盤状皮疹が出ている。 白血球減少、赤血球減少、血小板減少、抗核抗体は 2560 倍で陽性;抗 DNA 抗体は 320 倍と陽性;赤血球沈 降速度 43 mm/hr;血清補体 3.5 IU/L と減少の臨床検査値はループスと一致する。 SLE 活動期にある。SLE 症状として、口唇 爪先 指に円板状の発疹(DLE)が見られる。また心膜炎、胸膜炎 が見られる。その他の SLE 症状として、倦怠感、全身浮腫、ネフローゼ症候群(ループス腎炎)、不穏・見当 識障害(精神症状)、中枢神経系ループスが出現している。 血液学的異常や免疫学的異常など、SLE と一致する臨床検査値によっても診断される。2 年前からプレド ニゾロン 25mg/day が処方されていたが、コンプライアンス不良(自己調節していた)だったためにコント ロール不良となり、今回の SLE 急性増悪に至ったと考える。 この患者はループス腎炎(ネフローゼ)、中枢神経系ループス、漿膜炎等がみられ重篤な SLE であるので、 積極的な治療が必要である。 1-1)ループス腎炎、ネフローゼ症候群 ループス腎炎、ネフローゼ症候群 血清クレアチニン値と血中尿素窒素はそれぞれ 2.9 mg/dL、77 g/dL と上昇している。クレアチニンクリ アランスは 20.8 mL/min と著明に低下している。尿検査では、蛋白が 36 g/day の高値を示し、沈渣に白血 球・赤血球・上皮多数、顆粒円柱等が出現している。抗 DNA 抗体は 320 倍と大幅に上昇し、補体 50%溶血単位 も 3.5 IU/L と大幅に減少している。 血清蛋白が 4.6 g/dL、血清アルブミンが 1.5 g/dL と低下しており低蛋白血症、低アルブミン血症と浮腫 も認めたことからループス腎炎(SLE)が起因となった二次性のネフローゼ症候群と診断した。 ほとんどの SLE 患者では、ある程度の腎障害を併発する。この腎障害は SLE の治療によって改善されるこ とが多いが、治療抵抗性で慢性腎不全に移行するタイプ(び慢性増殖性糸球体腎炎)もあるので、重症度・予 後の判定のためには腎生検が必要である。 SLE の腎生検組織像( の腎生検組織像(重症例) 重症例) N Engl J Med 2004;350:1550 (び慢性増殖性・膜性変化 WHO IV, V 型) PanelA;hematoxylin and eosin, x275:糸球体に多数の好中球が浸潤して細胞数が増加している。 PanelB;hematoxylin and eosin, x250:大きな細胞性半月体形成(矢印)と乾湿の浮腫、好中球の浸潤を認める。 PanelC;hematoxylin and eosin, x275:wire-loop lesions=肥厚した毛細血管(矢印)を認める。 PanelD; periodic acid–Schiff preparation, x500:糸球体の分葉化、細胞増殖、毛細血管の肥厚(矢印)あり。 PanelB;hematoxylin and eosin, x500:糸球体の硬化、線維細胞増殖を認める。 右の図は蛍光抗体染色 x500:A. IgG による基底膜の染色像、B. IgA による顆粒状の基底膜染色像 治療に際しては、尿量、尿蛋白量、クレアチニン、BUN、クレアチニンクリアランス、血清補体価が治療 効果の指標になる。また、副作用モニターのためには、体重、血圧、血糖値、血清脂質、電解質、便鮮血等 の定期検査が指示されるべきである。 1-2)中枢神経症状 中枢神経症状 SLEでは、疾患の進行に伴い様々な感情的反応が見られることがある。心理的問題も起こりうるが、CNS ループスの出現が、SLEの全身活動性の指標と相関しないことがしばしばある。また、治療薬の副腎皮質ホ ルモン薬を増量した後に、精神症状が悪化することも多く、ステロイド精神病との鑑別が必要である。 CNS ループスの診断は、臨床所見、髄液所見(細胞数、IgG index、IL-6、IFNα)、脳波所見、CT、MRI、 SPECT、PET 等により総合的に行う。精神症状を伴う SLE 患者には抗精神病薬のいずれかを単剤もしくは併 用して投与し、抑うつ症状が強ければ抗うつ薬を追加する。 1-3)胸水・心のう液貯留 胸水・心のう液貯留 漿膜炎(心のう液貯留、両側胸水有より心膜炎、胸膜炎確認)、心濁音界拡張、心胸郭比 70.3 %、血圧 130/100 mmHg、脈拍数 120 回/分、赤血球沈降速度 43mm/hr↑、C 反応性蛋白 4.8g/dL↑、アスパラギン酸アミノト ランスフェラーゼ 109IU/L↑、アラニンアミノトランスフェラーゼ 27IU/L、乳酸脱水素酵素 1347 IU/L ↑、オキシ酪酸脱水素酵素 1204IU/L↑、クレアチニンホスホキナーゼ 337IU/L↑、アルドラーゼ 30.3IU/L↑ 心濁音界拡張、心胸郭比 70.3 %より心拡大が考えられるが、聴診所見異常無より、心不全、肺水腫、間 質性肺炎等ではないと考えられる。加えて、心のう液貯留、両側胸水が認められたことより漿膜炎(心膜炎、 胸膜炎)と診断した。 2)ステロイドの ステロイドの副作用 ステロイドの副作用 満月様顔貌、胴肥満、口腔カンジダ症は、ステロイド薬の副作用である。精神症状は、SLE による可能性 が高いが、ステロイドの影響も否定できない。 副腎皮質から生理的に分泌されるコルチゾールの量は、プレドニゾロン換算で 2.5 mg/day 前後とされて いる。したがって、ステロイド療法が、少量(5-10 mg/day)でも長期間にわたれば副作用をきたす。本症例 は 2 年前より SLE に対してプレドニゾロン 25 mg/day を服用していたので副作用が出現したと考えられる。 免疫抑制に伴う感染症には抗菌薬、糖尿病にはインスリンなどを必要に応じて使用する。重症副作用が初 期から存在する場合は、例外を除きステロイドの使用は望ましくない。軽症副作用には、対症療法の併用で ステロイド療法の続行が可能なことも多い。副作用の予防は第一に必要最低限のステロイド量を用いること であり、局所療法、吸入療法が可能な場合には、できる限り全身投与を避けることが必要である。 【初期計画:治療】 1)SLE SLEの急性増悪 SLEの急性増悪 副腎皮質ステロイドは、SLE の急性期における症候と症状を鎮めるのに主軸となる薬剤である。本症例に 対しては、ベタメタゾン 6mg/day 分 3(3,2,1)食後を投与して、症状の改善がみられなければコハク酸メ チルプレドニゾロンナトリウム 1 g/day×3 日間点滴投与のステロイドパルス療法を行う。 1-1)ループス腎炎、ネフローゼ症候群 ループス腎炎、ネフローゼ症候群 本症例に対しては、蛋白尿の減少と腎機能の改善をチェックしながら、上記のような SLE の急性期治療を 行う。加えて、ネフローゼ症候群の血液凝固能亢進による血栓症の予防のためにワルファリンカリウム 3mg/day、抗血小板薬の塩酸チクロピジン 300 mg/day、とループ利尿薬のフロセミド 10 mg/day を併用する。 一般に、副腎皮質ステロイドは、SLE の二次的症状であるループス腎炎治療の主軸となる。軽い腎炎で蛋 白尿のない患者に対しては治療の必要はないが、蛋白尿、血尿があり、クレアチニンクリアランスが 50 mL/min 以下の患者にはプレドニゾロンが 0.5∼1.0 mg/kg/day 処方され、改善するまで 2∼4 週間続ける。 腎機能の改善が見られない場合、用量を 1.5 mg/kg/day に増量、または 1 g/day のメチルプレドニゾロンの 大量を 3 日間点滴投与するのが効果的である。 1-2)中枢神経症状 中枢神経症状 本症例に対しては上記のステロイド治療を行いながら経過を観察し、改善がみられない場合、抗精神病薬 のクロルプロマジン 100 mg/day 、ハロペリドール 2 mg/day の投与を行う。 適切な心理学的サポート(非薬物的)は重要で、精神科医や内科医などと実施する。 1-3)胸水・心のう液貯留 胸水・心のう液貯留 SLE 治療のみで経過を観察する。 2)ステロイドの副作用 ステロイドの副作用 ステロイドの副作用はその投与量と密接な関係があるので、副作用の面のみを考えた場合は投与量、特に 維持量はできるだけ少量にすべきである。口腔カンジダ症が出現しているが、この患者の重篤な SLE にはス テロイドパルス療法のような大量一括投与が必要であり、ステロイドの減量や中止は困難である。よって、 副作用に対してはその程度により各々対症療法を行い、原疾患の治療を優先する。 本症例の口腔カンジダ症に対して、頻回のポピドンヨードによるうがいと、抗生物質のミコナゾール2% ゲル10g/day(分4毎食後と就寝前に口腔内塗布し少量ずつ嚥下する)、消化性潰瘍予防としてテプレノン顆 粒1.5 g/dayを投与する。 SLE の症状が安定し次第 SLE の症状や副腎不全症の徴候を見つつステロイドの投与量を漸減する。腹痛、 眩暈、失神、発熱、食欲不振、筋肉痛、悪心・嘔吐、息切れ、頭痛、虚弱または疲れ、急な体重減少などを 含む副腎不全症の徴候と症状をモニターする。 【経過・治療】 1)SLE SLEの急性増悪 SLEの急性増悪 ベタメタゾン 6.0 mg/day を 4 週間投与したが、症状の著明な改善がみられなかったので、5/14、15、16 に 3 日間のステロイドパルス療法を行った。その後プレドニゾロン 40 mg/day を投与した。このとき発熱は なく尿蛋白は 20 g/day から 6 g/day に減少した。しかし、その翌日の 5/17 より 39 ℃台の発熱が出現した。 問題 6.5/17 の発熱に対してどのように対処するか。 5/21 胸部 X 線写真と CT よりびまん性の小粒状陰影を確認、酸素分圧 43 mmHg↓、Gaffky3 号 (毎視野中 2∼3 個)を検出した。 胸部 X 線写真と CT に認めたびまん性の小粒状陰影 放射線科 日々の症例 医真会八尾総合病院 放射線科 【プロブレムリスト】 5 月 21 日 1.SLE 2.ステロイドの副作用 3.? 5/23にプロブレム3の治療のため専門病院へ転院した。 問題 7.プロブレム 3 に診断名を入れなさい 8.プロブレム 3 に対する治療方針を立てなさい(投与量を含む) 【転院時(5/23)理学所見】 身長 161 cm、体重 46.5 kg、体温 38 ℃、血圧 130/100 mmHg↑、脈拍数 140 回/分↑整、呼吸数 30 回/ 分↑、全身浮腫、脱毛、満月様顔貌、眼瞼結膜:貧血有・黄疸無、口腔カンジダ症、口唇 爪先 指 円板状 エリテマトーデス(DLE)、S3に奔馬律動有、収縮期雑音 2/Ⅵ、心濁音界拡張(最大K 3.4)、右下肺基底にパチ パチ音とラ音有、腹部異常無、肝腫大2cm(鎖骨中線)、胴肥満、陰部潰瘍、四肢筋萎縮、関節炎(両くるぶし、 両手首) 、レイノー現象(手指先)、意識清明、精神症状(不穏、見当識障害)、リンパ節異常無 【転院時(5/23)検査成績】 白血球数 3300 /mm3↓、赤血球数316 万/mm3↓、赤血球沈降速度38 mm/hr↑、血小板数 9.8 万/mm3↓、 O2 2L鼻 PH 7.46↑、PCO2 29 mmHg↓ クレアチニンクリアランス PO2 60 mmHg↓、塩基過剰 -1 mEq/L、C反応性蛋白 5.2 g/dL↑、 23.2 ml/分↓、血中尿素窒素 38 mg/dL↑、クレアチニン 2.6 mg/dL↑、血清K 4.6 mEq/L、乳酸脱水素酵素 1818 IU/L↑、ロイシンアミノペプチダーゼ 638 IU/L↑、補体50%溶血単位 3.5 IU/L↓、尿蛋白 3 g/day↑ 超音波検査:心のう液貯留増加、胸水有、、胸部X線写真:心胸郭比 63 %↑、両側胸水、胸部粟粒陰影確認、 問題 9. 5/23 の検査で心のう液貯留増加、胸水有とあるが、これはなぜか。 5/17 の発熱について ステロイドを大量投与しており、ステロイドの免疫抑制効果により、患者は感染を起こしやすい傾向にある こと、尿蛋白は減少していることより、SLE 再燃よりも感染症を疑う。原因菌と感染巣を検索しながら、広域 スペクトルをもつ抗生物質として、シラスタチンナトリウム配合イミペネム注 1.5 g/day を 1 日 3 回点滴静 注したが、発熱は改善しなかった。 【初期計画:治療】 3)粟粒結核 粟粒結核 今回の発熱(39 ℃台)は、結核菌の検出(G3号)とともに、胸部X線写真とCTで粟粒陰影が確認され、酸素分 圧の低下(43 mmHg)もみられたため、粟粒結核と診断した。本症はプロブレム2.ステロイドの副作用の一つで ある易感染性に伴うものである。腎機能が低下(クレアチニンクリアランス(Ccr) 23.2 ml/分)しているので 腎排泄型のストレプトマイシンを用いる場合は、Giusti-Hayton法(投与量=標準投与量×{1−fux(1− Ccr/100) } (fu:尿中未変化体排泄率(例:ストレプトマイシンは約0.60))により通常の半分量の0.5 g/dayに 減量して投与する。同様に腎排泄型のエタンブトール(fu:0.8)を用いる場合は、体重 46.5 kg、Ccr 24.5 ml をもとに、250 mg/dayに減量して投与する。 まず、抗結核薬における化学療法を開始する。加えて、SLEの症状を見つつプレドニゾロンの減量とあるい は可能なら投与を中止する。 抗結核療法については5/22よりストレプトマイシン(SM) 0.5 g/day 連日、イソニアジド(INH) 0.6 g/day、 リファンピシン(RFP) 0.45 g/day、エタンブトール(EB) 300mg/dayを4週間投与する。その後、症状が安定す ればSMを週2日とし、結核の症状が改善した場合は、薬物の数を減らすことを考える。患者には終始full-dose 治療を継続し、使用薬物の治療効果(症状の減少)と毒性をモニターする。治療開始時に腎機能の低下により 投与量を減じた薬剤があるが、SLEの治療により腎機能が改善した場合は、その程度に合わせて投与量を増や すなど随時調整していく。リファンピシンによる尿の変色(赤)については、患者に説明しておく。 5/23に結核の専門病院へ転院した。 【薬歴(5/22)】 プレドニゾロン 40 mg/day 分 3(20,10,10) 毎食後内服、 ストレプトマイシン(SM) 0.5 g/day 1 日 1 回 イソニアジド(INH) 0.6 g/day 分 2 リファンピシン(RFP) 連日、 朝夕食後内服、 0.45 g/day 分 1 朝食前内服、 エタンブトール(EB) 0.25 g/day 分1 ワルファリンカリウム 筋注 朝食後内服、 3 mg/day 分 1 夕食後内服、 塩酸チクロピジン 300 mg/day 分 3 毎食後内服、 フロセミド 10 mg/day 分 1 朝食後内服、 テプレノン顆粒 10% 1.5 g/day 分 3 毎食後内服 【プロブレムリスト】 5 月 23 日 1.SLE 2.ステロイド副作用 3.粟粒結核 4. 1-3胸水、心のう液貯留→漿膜炎増悪 【初期計画:診断・治療】 4)胸水・心のう液貯留の悪化 胸水・心のう液貯留の悪化 超音波検査より心のう液量増加、胸水有、胸部X線写真より両側胸水、胸部粟粒陰影、心胸郭比 68 %が確 認された。また理学所見においても脈拍数 140 回/分↑整、呼吸数 30 回/分↑、S3に奔馬律動有、収縮期 雑音 2/Ⅵ、心濁音界拡張(最大K 3.4)、右下肺基底にパチパチ音とラ音有などが確認された。SLEの活動性 は、全身的に改善していることから、今回の心のう液貯留と胸水は粟粒結核に伴う結核性心外膜炎、胸膜炎 によるものと考えた。 SLEに対するステロイド療法に加え、粟粒結核に対する抗結核薬による治療を行い、経過を観察する。 【経過】 5/30 鼻出血があり、ネフローゼ症候群における血液凝固能亢進による血栓症の予防のために投与されていた、 ワルファリンカリウム・塩酸チクロピジンを中止した。 6/3 CTR 54%、C反応性蛋白 陰性、酸素分圧上昇(149 mmHg)より粟粒結核は改善傾向にあると考えられる。 尿蛋白は0.8 g/dayと減少しているが、赤血球沈降速度は亢進(92 mm/hr)しており、白血球数減少(2300 /mm3)、 赤血球数減少(309 /mm3)も悪化していた。SLEは活動性であると考えられるため、プレドニゾロン 20 mgから 30 mgに増量する。SLEの症状とステロイドの副作用を見つつ徐々に減量する。その他の治療は継続した。 6/5 熱 37℃程度に解熱し、胸部 X 線写真により CTR、全身状態ともに改善傾向であることを確認した。 6/20 粟粒結核の治療を始めて4週経過し、改善を認めたのでストレプトマイシンを連日から週 2 日に変更し た。クレアチニンクリアランスがこのとき 58.4 mL/分と改善していたので、SM の投与量を 0.75 g/day に EB の投与量を 0.5g/day に増量した。その他の治療は継続した。 7/27 SLE の症状がコントロールされているのでステロイドの漸減を始める。プレドニゾロンを 25 mg に減量 した。その他の治療は継続した。 以後、肺結核は順調に改善したので、9 月より抗結核薬は 3 剤とした。 【薬歴 9/1】 プレドニゾロン 25 mg/day 分 3(20,10,10) 毎食後内服 ストレプトマイシン(SM) 0.75 g/day イソニアジド(INH) 0.4 g/day 分 2 1日1回 朝夕食後内服 リファンピシン(RFP) 0.45 g/day 分 1 朝食前内服 ワルファリンカリウム 3.0 mg/day 分 1 夕食後内服、 筋注 週2日 10/4 プレドニゾロン 20 mg、に減量し、その他の治療は継続した。 SLE については蛋白尿を指標としながら、徐々にプレドニゾロン減量し、11/10 には 15 mg まで減量した。 良好な状態にて12/18退院した。 【退院時サマリー】 赤血球数 40 万/mm3↓、赤血球沈降速度 40 mm/hr↑、白血球数 2600 /mm3↓、血小板数 19.8 万/mm3、尿蛋白 1.5 g/day↑、クレアチニンクリアランス 131.8 L/day、乳酸脱水素酵素 246 IU/L、補体50%溶血単位 40.1 IU/L、 抗核抗体 (+)、抗DNA抗体 <80、LEテスト (+)、LE細胞 (-)、フェノールスルホフタレイン15分値 47.4 %、Total 109.2 %、肝腎機能 正常 コンプライアンス不良により SLE が増悪したことが今回の入院の誘因だったので、入院中から SLE の治療の 必要性について具体的に説明してきたが、再度、服薬の重要性に関する本人の理解度を確認した。自己判断 による中止や、大量服用がどのようなことを招くかも説明し、患者自身がそのことを説明できるようになる まで、きちんと服薬指導した。 当院外来にて 2 週間に 1 回、経過観察した。 【退院処方】 プレドニゾロン 15 mg/day 分 3 イソニアジド(INH) 0.4 g/day 分 2 毎食後内服、 朝夕食後内服、 リファンピシン(RFP) 0.45 g/day 分 1 朝食前内服、 ワルファリンカリウム 3.0 mg/day 分 1 夕食後内服、 塩酸チクロピジン 300 mg/day 分 3 ジピリダモール 300 mg /day 塩酸セトラキサート 600 mg /day 毎食後内服、 分 3 毎食後内服、 分 3 毎食後内服 スクラルファート 3.0 g /day 分 3 毎食後内服 VB1、6,12 混合 75 g /day 分 3 毎食後内服 今後の治療の注意点 SLEの急性増悪の患者であるので、ステロイドの大量投与が必要となる。すでにステロイドを長期服用して いるため副作用が出現しており、それらへの対症療法を行うとともに、活動期のSLEの臨床症状として、皮疹、 関節痛、発熱、肺・腎・中枢神経症状等を観察し、また臨床検査の異常として、抗核抗体陽性、30mm/hr以上 の赤血球沈降速度亢進、1500/mm3以下のリンパ球減少、抗二本鎖DNA抗体陽性、血清補体価の低下などに注意 しながら治療を行う。 加えて、更なるステロイドの副作用が発現しないか、以下のことに注意しながらSLEの改善を図る。 ステロイド性骨粗鬆症に対して、プレドニゾロン 7.5 mg/day 以上・3 ヶ月以上の投与を予定する症例では ビスフォスフォネートを用いて骨量減少に対する予防を行うことが望ましい。またステロイド服用中は最低 1.0 g/day 以上、特に閉経後の女性では 1.2 g/day 以上のカルシウムの摂取が奨められ、喫煙飲酒などの一般 的骨粗鬆症の危険因子はできるだけ減らすよう指導する。血中の Ca 濃度および尿中 Ca 排泄量に注意する。 ステロイド骨粗鬆症患者には活性型ビタミン D およびカルシウム剤を投与する。 感染症については、だるさ・倦怠感などの全身症状、あるいは咳などの局所症状が軽度であっても、血液検 査や X 線検査を積極的に行うことが重要であり、予防としては病原体への暴露を減らすのが基本となる。一 日投与量 40mg 以上の場合は入院治療が望ましく、手洗い、ポピドンヨードによる頻回の含嗽を行い、ステロ イドの用量、患者の体格、全身状態などによって安静度を調節する。また、免疫抑制薬を併用している場合 はさらに注意が必要である。 日本呼吸器学会による突発性間質性肺炎診断と治療の手引きでは、「ステロイド、免疫抑制薬の使用に伴い 感染症の発症・増悪がみられることがあるため、白血球数とその分画、グロブリン量をチェックし、必要に応 じてイソニアジド、ST(スルファメトキサゾール、トリメトプリム)合剤による予防投与を行う。」としている。 また、我が国における深在性真菌症の診断・治療のガイドラインでは、「血液疾患領域においてステロイド が 3 週間以上投与されている場合は、カンジダ症や侵襲性アスペルギルス症に対する抗真菌薬の投与を、ま た臓器移植領域や救急・集中治療領域では、ステロイドの長期投与や大量投与時にカンジダ症に対する予防投 与を考慮する。」としている。 しかし、耐性菌の増加や菌交代症を考慮すれば必要以上に長期にわたる抗菌薬の投与は避けるべきである。 ステロイド投与によってコントロールされている原疾患の増悪についても慎重に鑑別した上で、抗菌薬の投 与に踏み切る前にできるだけ培養検体の採取に努める。感染症という理由で原疾患のためのステロイド投与 を躊躇したり、直ちに中止したりすべきではない。また、感染症の対策、治療に当たっては、感染症専門医 と連携の下で行うことが望ましい。 ステロイド糖尿病の発症予測および検定のためのポイントとして、 治療開始前のステロイド糖尿病発症リスクをチェックする、ステロイド投与計画を必要最低限にし、カロリ ー管理等を行う、食後血糖・HbA1C の検査をしてステロイド糖尿病発症の有無をチェックする、などがある。 内臓肥満を抑制するための適切なカロリー管理、可能な場合は運動処方を行い、食後血糖の上昇に対して食 事成分に線維成分を増やす。また、軽度な糖尿病発症ではビグアナイド薬やチアゾリジン誘導体、α-グルコ シダーゼ阻害薬、グリニド系薬剤などを用い、重症例に対しては食前の速効型インスリンが望ましい。 ステロイド性潰瘍については定期的に血液・便潜血検査や内視鏡検査を行い、重篤な病態を見逃さないよう にする必要がある。ステロイド投与中の患者に対する予防的治療に関しては十分な検討はなされていないが、 NSAIDs の併用が避けられない場合、ステロイドの投与が大量あるいは長期である場合、抗凝固剤の併用があ る場合、消化性潰瘍の既往がある場合、脳卒中・外科手術・熱傷など消化性潰瘍の生じやすい基礎疾患を有す る場合などは消化性潰瘍の予防策をとることが望ましいと思われる。まだ検討が必要であるが、プロトンポ ンプ阻害薬、H2 受容体拮抗薬やミソプロストールを中心としたプロスタグランジン製剤と胃酸分泌抑制剤と の投与が妥当と考えられる。 治療薬 月 4 5 日 18 14∼ ベタメタゾン 6 17 22 30 3 20 7 9 10 11 12 27 1 4 10 4 6.0 mg 1 g×3日 コハク酸メチルプレドニゾロン プレドニゾロン パルス療法 40 (23∼) mg 20mg 25mg ――→ 20mg 15mg―― ――― ―→ ―― ―→ 0.75 g 連日 ―― ―→ 週2日―― ――― ――――→ 0.6 g イソニアジド ―→ 30 mg ――→ 0.5 g ストレプトマイシン 0.4 ―――――― ―――――――→ ―――→ 0.4 g 0.45 g リファンピシン 0.45 g ――――――――――― ―――― ――――→ エタンブトール 0.3 g ―――――― 0.5g――― ――→ ミコナゾール シラスタチンNa配合 イミペネム ワルファリンK 塩酸チクロピジン 18 0.2 g 1.5 g 鼻出血にて 3mg ――― ――― ―→ 300mg――― ――― ―→ 中止 ジピリダモール 3 mg― ――- ―― → 3 mg 300 mg 300 mg フロセミド 10mg ――― ――― ―→ テプレノン 150mg――― ――― ―→ 塩酸セルラキサート 600 mg スクラルファート 3.0 g ビタミンB1,6,12 75 mg IVH ○ インスリン ○ 他 ○ 検査値 6/4 6/20 ESR(mm/hr) CRP 尿蛋白 (g/day) 4/18 5/17 5/23 9/1 10/4 11/10 12/18 43↑/87 40↑/80↑ 104↑/140↑ ↑ 38↑/86↑ 92↑/140↑ 66↑/108↑62↑/104↑ 4.8↑ 5.2 3↑ 0.8↑ 2↑ 2.7↑ 2.5↑→ 36↑ 20↑6↑ 1.5↑ (外泊後) 5.5↑→ (安静3日後) 2.5↑ → (ジピリダモール300mg 投与後) 1.5↑ 1700↓ 3300↓ 2300↓ 2900↓ 2600↓ (PMN1240 ↓ (IST493 Ly370 ↓ Seg1160 ↓ Ly1044 ↓ Aty-Ly20 ↑ Mo70) Mo203) 209↓ 316↓ 309↓ 419 40↓ 11.8 11.0 7.8↓ 14.1↓ 9.8↓ 24.7 20.5 19.8 91.5 23.2↓ 58.4↓ 90.3 47.4 109.20↑ 77↑ 38↑ 34↑ 18 2.6↑ 1.7↑ 1↑ 2.9↑ 4.6 5.2↑ 21↓ 81↑ 109↑ 27 125↑ 1347↑ 1818↑ 537↑ 456↑ 246 638↑ 243↑ 221↑ 13.9↓ 90.3 91.5 1204↑ 40.7↑ 30.3↑ 337↑ WBC(/mm3) RBC(万/mm3) Hb(g/dL) Plt(万/mm3) Ccr(mL/分) PSP15(%) Total BUN(mg/dL) Scr(mg/dL) K(mEq/L) Fe(mEq/L) AST(IU/L) ALT(IU/L) LDH(IU/L) LAP(IU/L) HBD(IU/L) γGlb(%) ALD(IU/L) CPK(IU/L) O22L鼻 PH PCO2(mmHg) PO2(mmHg) BE(mEq/dL) CH50(IU/mL) CTR(%) 抗核抗体 抗DNA抗体 LEテスト LE細胞 肝腎機能 43↓ 3.5↓ 70.3↑ 2560倍↑ 320倍↑ 7.46↑ 29↓ 60↓ -1 3.5↓ 63↑ 7.47↑ 35 149↑ 2 40.1 54↑ (+) (-) (+) (-) 正常 SLE SLE診断基準 アメリカリウマチ学会 1982 年改定全身性エリテマトーデス分類基準 判定基準 定義 頬部皮疹 頬部隆起部上の扁平あるいは隆起性の固定した紅斑。鼻唇溝は避ける傾向。 円盤状皮疹 付着性、角化性の鱗屑と毛嚢栓塞を伴う隆起性紅斑。旧病変に萎縮性瘢痕形成をみることが ある。 光線過敏症 患者の病歴あるいは医師の観察による、太陽光線に対する異常反応の結果としての皮疹。 口腔内潰瘍 医師の観察による、通常無痛性の口腔あるいは鼻咽頭潰瘍。 関節炎 2 箇所あるいはそれ以上の末梢関節に併発する非糜爛性関節炎。腫脹、圧痛、あるいは滲 出液を特徴とする。 漿膜炎 胸膜炎(胸膜炎による疼痛の確実な病歴、あるいは医師による摩擦音の聴取や胸膜滲出液の 証明)、あるいは心膜炎(心電図による実証、摩擦音、あるいは心膜滲出液の証明)。 腎障害 持続性蛋白尿が 0.5 g/day 以上、あるいは定量されていない場合は 3(+)以上。あるいは、 細胞性円柱(赤血球、ヘモグロビン、顆粒性、尿細管性、あるいはそれらの混合性)。 神経障害 原因となる薬剤や既知の代謝異常(尿毒症、ケトアシドーシス、電解質平衡異常)によるも のを除く発作、あるいは精神病。 血液学的異常 網状赤血球増加を伴う溶血性貧血、4,000 /mm3 未満が 2 回かそれ以上の白血球減少、1500 /mm3 未満が 2 回かそれ以上のリンパ球減少、あるいは原因となる薬剤によるものを除く 100,000 /mm3 未満の血小板減少。 免疫学的異常 LE 細胞試験陽性、抗 DNA 抗体、抗 Sm 抗体、あるいは少なくとも 6 ヶ月間持続し、Treponema pallidium 固定や蛍光トレポネーマ抗体吸収試験で確認された梅毒血清検査偽陽性。 抗核抗体 経過中のどの時点でも、免疫傾向検査法または同等の方法で抗核抗体の異常値を示す。「薬 剤起因性ループス症候群」の原因となる薬剤が投与されていないこと。 観察期間中に同時に、あるいは時期を隔てても、以上 11 項目の判断基準のうち 4 項目以上が存在する場合に、 全身性エリテマトーデスと診断する。 この患者は、分類基準の 11 項目中以下の 8 項目が存在していた。 ①円盤状皮疹(口唇 爪先 指) ②関節炎(くるぶし、手首) ③漿膜炎(心のう液貯留、両側胸水より心膜炎、胸膜炎確認、心濁音界拡張、心胞郭比 70.3 %) ④腎障害(クレアチニン上昇 2.9 mg/dL、血中尿素窒素上昇 77 g/dL、クレアチニンクリアランス低下 24.5 mL/ 分、尿蛋白上昇 36 g/day、沈渣有(白血球・赤血球・上皮多数、顆粒円柱有) ⑤神経障害(不穏、見当識障害等有) ⑥血液学的異常(白血球数減少 1700 /mm3(好中球数減少 1240 /mm3、リンパ球数減少 370 /mm3、異型リンパ 球出現 17 /mm3)、赤血球数減少 209 /mm3、赤血球沈降速度遅延 43 mm/hr、血小板数減少 14.1 万/mm3 有) ⑦免疫学的異常(抗 DNA 抗体陽性 320 倍、補体 50%溶血単位減少 3.5 IU/L) ⑧抗核抗体陽性 2560 倍 SLE の重篤な症状 SLE の活動性を客観的に評価するためのスコアリングシステムが、いくつか提唱されており、活動性の評価 に基づいて、治療の強さを決定することができるようになっているものがある。そのうちの 1 つに ①SLE の活動性を敏感に反映すること ②医師の治療方針決定に役立てること を主要な目的としている点で評価の高い British Isles Lupus Assessment Group(BILAG)スコアリングシステム(1984 年考案、2004 年改訂)と、その 改訂版である British Lupus Integrated Prospective System(BLIPS)(2000 年)がある。 BILAG では、治療の必要性に基づいて、症状・検査の異常を5つのカテゴリーに分けている。 カテゴリーA は、強い免疫抑制・抗炎症治療(ステロイド中等量から大量、または免疫抑制剤を用いる)が必要 な状況、カテゴリーB は、軽い免疫抑制・抗炎症治療(軽い免疫調整剤、非ステロイド性消炎鎮痛剤、ステロ イド少量などを用いる)が必要な状況、カテゴリーC・D・E は、免疫抑制・抗炎症治療をせずともよい状況 (C:対症療法、D:機能補助、E:無治療)となっている。 また BILAG では、症状・検査の異常を8種類(全身症状と 7 種類の臓器別の症状)に分け、この8種類の それぞれのなかで、上記のカテゴリーをあてはめて、治療の強さを決定する。 1.全身症状 2.皮膚・粘膜の異常 3.神経障害 4.筋骨格の異常 5.心肺の異常 6.血管系の炎症 7.腎障害 8.血液学的異常 今回の患者は以下の重篤な症状があった。 2.円盤状皮疹(口唇 爪先 指) 3.神経障害(不穏、見当識障害)、中枢神経系ループス 5.漿膜炎(心のう液貯留、両側胸水有より心膜炎、胸膜炎確認)、心濁音界拡張、心胞郭比 70.3 %、脈拍数 120 回/分 7.腎障害(クレアチニン上昇 2.9 mg/dL、血中尿素窒素上昇 77 g/dL、クレアチニンクリアランス低下 20.8 mL/ 分、尿蛋白上昇 36 g/day、沈渣有(白血球・赤血球・上皮多数、顆粒円柱有) 血清総蛋白減少 4.6 g/dL、アル ブミン減少 1.5 g/dL、γグロブリン上昇 40.7 %) これより、この患者はカテゴリーA にあてはまるので積極的な治療を行った。 カテゴリーA の例えば具体的な治療方針としては、6∼10 週間、経口のプレドニゾロンを 1∼2 mg/kg/day 投与するか、静注メチルプレドニゾロンのステロイドパルス療法(10∼30 mg/kg/day、または 0.5∼1 g/day を 3∼6 日間)を行い、その後、高用量の経口プレドニゾロンを 40∼60 mg/day 投与する。あるいはシクロホ スファミドの間欠大量投与(500 mg 点滴)を 1-3 ヶ月毎に2年間行う、または経口アザチオプリン(2 mg/kg/day) を投与するなどの治療があげられる。 カテゴリーA 検査・症状異常項目 全身症状 発熱に加えて他の3項目を認める 1 発熱(37.5 度以上) 2 体重減少(1 ヶ月で 5%以上) 3 リンパ節の腫れ 4 疲労・全身倦怠感 5 食欲不振・吐き気・嘔吐 皮膚・粘膜の 以下の、いずれかを認める場合。 異常 1 ひどい紅斑、ディスコイド疹、水疱 2 血管性浮腫といわれる、唇からのどにかけての浮腫(むくみ) 3 ひどい口内炎、胃・腸から肛門にかけての粘膜の傷害 神経障害 以下の、いずれかが、新たに発症したか、悪くなった場合。 1 意識レベルの低下 2 精神状態の変化、興奮状態、混乱した状態 3 けいれん発作(てんかん発作) 4 脳卒中 5 無菌性(ばい菌が原因でない)髄膜炎 6 多発単神経炎(末梢神経の炎症) 7 上行性脊髄炎・横断性脊髄炎(脊髄の傷害) 8 末梢神経や脳神経(三叉神経や顔面神経など)の傷害 9 舞踏病 10 小脳の傷害 筋骨格の異常 以下の2項目もしくはそれ以上を認める場合。 1 筋肉の炎症 血液検査で CPK が上昇することで判断するが、ここでいう筋肉の炎症とは、以下の条件を 満たす場合をさす。 ①体の 4 ヶ所以上で、筋肉の力の低下を認める ②筋肉の一部を切り取ってきて、顕微鏡で調べる検査で、炎症の所見を認める ③筋電図という検査で、筋肉の破壊されているパターンが認められる 2 ひどい関節炎で、動作も不自由になっているもの 心肺の異常 以下の①または②の場合。 ①心不全、あるいは大量の心のう水貯留に加えて、以下の 2 項目の所見を認める ②以下のうちの 4 項目の所見を認める 1 肺を覆う胸膜や、心臓を覆う心膜の炎症による痛み 2 息切れ 3 聴診器で心臓が心膜と擦れる音が聴こえる場合 4 胸のレントゲンで、肺の部分の影が広がっていく場合 ①間質性肺炎 ②肺出血 5 胸のレントゲンで、心臓の影が大きくなっていく場合 6 心電図で、心膜や心臓の筋肉の炎症のパターンを認めた場合 7 脈拍数が 100 以上になる不整脈 8 呼吸機能検査で 20%以上の悪化 9 肺の組織の一部を切り取って調べる検査で、肺の組織の炎症を認めた場合 血管系の炎 以下の、いずれかを認める場合。 症 1 壊死、潰瘍をおこすような、皮膚のひどい血管炎 2 血管炎によるお腹の内臓(腸が代表的)の傷害 3 血栓による内臓傷害が繰り返して起こる(ただし、脳卒中の場合は除く) 腎障害 以下の項目のうちで、2項目以上の所見を認める(ただし、項目1または4または 5 が含ま れていることが必要)場合。 1 尿蛋白について以下の①から④のいずれかの場合。 血液学的異 常 ①尿に下りる蛋白が、試験紙で 2 段階以上の増加(例:以前 1+なら、現在は 3+以上) ②1 日の尿蛋白量が、以前 0.2g 以下であったのが、1g 以上に増加 ③1 日の尿蛋白量が、以前 1g 以上であった場合では、2 倍以上の量に増加した場合 ④以前は尿に蛋白は下りていなかったのに、1 日の尿蛋白量が 1g 以上となった場合 2 血圧が急に高くなってきている(1 ヶ月で 170/110mmHg 以上に) 3 腎機能障害 以下の①から③のいずれかの場合。 ①血液中のクレアチニン値が 1.3mg/dl 以上、かつ、以前に比べて 1.3 倍以上に上昇 ②クレアチニンクリアランスの値が、以前に比べて 3 分の 2 以下に低下 ③クレアチニンクリアランスが 50ml/分を下回る 4 尿検査で、白血球の増加(顕微鏡の 1 視野の内で 5 個以上)、赤血球の増加(同じく 5 個以上)、赤血球が固まって円柱状になったものを認める。 5 腎臓の一部を切り取って、顕微鏡で調べる検査(腎生検)で、現在進行中の腎炎の所見 を認める。 以下の、いずれかを認める場合。 1 白血球数が 1000 以下 2 血小板数が 25000 以下 3 ヘモグロビン(血色素)値が 8 以下 ネフローゼ症候群 〔概念〕腎糸球体の障害により基底膜の蛋白透過性が増し、高度の蛋白尿と低蛋白血症、特にアルブミンが 減少する病態をいう。 〔分類〕成人では一次性が 3/4 で、1/4 は二次性疾患による。慢性腎炎の一過程として見られる。 ①一次性(原発性糸球体腎炎によるもの):微小変化群(非進行性慢性腎炎で病理学的変化の少ないもの。光顕 上ほぼ正常の糸球体を、電顕にて基底膜上皮細胞足突起の融合を示すもの:小児ネフローゼ症候群の 70∼ 80%)、慢性腎症、巣状糸球体硬化症、膜性増殖性腎炎(IgA 腎症ではネフローゼがほとんどみられない) ②二次性(続発性腎疾患によるもの):糖尿病性腎症、ループス腎炎(SLE)など 〔病態生理〕 糸球体基底膜の組織障害→透過性亢進→蛋白漏出→蛋白尿→低蛋白血症→肝での蛋白合成亢進→リポ蛋白 (VLDL)合成亢進→コレステロール合成亢進→高脂血症 ↓ 血漿膠質浸透圧低下→水分の血管外への漏出→浮腫 〔症状および診断基準〕 ・蛋白尿(1 日に 3.5 g 以上) ・低蛋白血症(血清総蛋白:6.0 g/dL 以下、血清アルブミン:3.0g/dL 以下) ・浮腫 ・高脂血症(血清総コレステロール:250mg/dL 以上) このうち蛋白尿と低蛋白血症は診断の必須条件である。 この患者は、36 g/day と尿蛋白の大幅な上昇があり、血清蛋白が 4.6 g/dL、血清アルブミンが 1.5 g/dL と低下しており低蛋白血症、低アルブミン血症がみられた。さらに浮腫も認められループス腎炎(SLE)が起 因となった二次性のネフローゼ症候群であると診断した。 腎機能評価 一般的に糸球体濾過量(GFR)の測定にはクレアチニンクリアランス(Ccr)が用いられている。クレアチニン は骨格筋でのクレアチン代謝により産生され、その産生量および血中濃度は比較的安定している。クレアチ ニンは糸球体基底膜を自由に通過でき、その後尿細管で再吸収も代謝もされない。また、内因性物質である ので体内に試薬を投与する必要もないため、Ccr は GFR の測定に汎用される。 慢性腎疾患などの中等度以上低下した GFR を経過観察するにはその簡便性と侵襲性の少なさ、および尿採 取が不要であることから血清クレアチニン(Scr)測定が汎用されている。Scr は、①GFR 低下、②クレアチニ ン産生増加などでみられ、一方、低下は①肝障害②筋肉量減少等でみられる。また、糖尿病性腎症が進行す ると GFR 低下に比して Scr が比較的低値を示すため、腎機能の推定には注意を要する。 年齢、体重、性別を考慮した Scr からの Ccr 推定は CookcroftCookcroft-Gault の式(Nephron,16:31-41,1976) の式 (140-年齢)×体重(kg)/(72*Scr(mg/dL) より算出する。女性は男性推定値に 0.85 を乗ずる。 ステロイドの副作用 重症副作用 軽症副作用 ・感染症の誘発・増悪 ・異常脂肪沈着(中心性肥満、満月様顔貌、野牛肩) ・骨粗鬆症と骨折、低身長 ・多毛、皮下出血、痤瘡、皮膚線条、皮膚萎縮、発汗異常 ・動脈硬化病変 ・後嚢白内障、緑内障、眼球突出 ・副腎不全、離脱症候群 ・浮腫、高血圧、うっ血性心不全、不整脈 ・消化性潰瘍 ・ステロイド筋症 ・糖尿病の誘発・増悪 ・月経異常 ・精神障害 ・白血球増多 ステロイドの副作用は投与量や製剤によって異なるが、通常、重症副作用と軽症副作用に分けられる。 重症副作用の症状が出現した場合は、直ちに注意深くステロイドを減量ないし中止する。しかし、長期の ステロイド服用患者では視床下部―下垂体―副腎(HPA)抑制による副腎機能不全が起こることがあるので、急 に服用を中止してはいけない。血中コルチゾール濃度等を測定して HPA 機能が正常かを確認しながらゆっく りと漸減する(2∼4 週毎に 10%ずつなど。ステロイドの離脱方法について詳しくは後述する)。 感染症には抗菌薬、糖尿病にはインスリンなどを必要に応じて使用する。重症副作用の症状が初期からあ る場合は、例外を除きステロイドの使用は望ましくない。軽症副作用には、対症療法を行うことでステロイ ド療法の続行が可能なことも多い。 ステロイドの副作用の中で最も頻度が高いものがステロイド性骨粗鬆症 ステロイド性骨粗鬆症およびそれに伴う骨折である。 ステロイド性骨粗鬆症 これらの予防・治療を積極的に行う必要がある。 ステロイドの使用量に応じて骨折リスクは増加し、特に脊椎の骨折においてそのリスクの増大が大きい。 ステロイド投与中止により骨折リスクが低下するが、中止後2年では非投与例と同程度まで骨折リスクは低下 しないことが示されている。ステロイド性骨粗鬆症の骨密度における骨折閾値に関しては、従来原発性骨粗鬆 症に比べより高い閾値で骨折を起こすといわれている。 日本骨代謝学会によると 18 歳以上で経口ステ ロイドを 3 ヶ月以上投与中もしくは投与予定で、 既存脆弱性骨折もしくは治療中新規骨折発生例、 骨折がない場合には骨密度が若年成人平均値 (YAM)の 80 %未満の例、骨折もなく骨密度が高 くても 5 mg/day 以上のステロイド使用例などが 治療対象となっている。治療薬として明らかな 骨折抑制のエビデンスを有するのは、エチドロ エチドロ ネート、 ネート アレンドロネート、 アレンドロネート リセドロネートの リセドロネート 3 つのビスフォスフォネート製剤である。ビスフ ォスフォネートはステロイド開始 3 ヶ月 以内の骨量減少に対する予防(一次予防)、ステロイド療法継続中の骨密度減少と骨折の予防(二次予防)とも に効果を認めている。最近、活性型ビタミン D3 にもビスフォスフォネート製剤より劣るもののメタ解析によ り骨折抑制効果があることが報告された。また、国内の縦断分析にてビタミン K2 にも骨折抑制効果があるこ とが示されている。 ステロイドは炎症過程を強力に阻害することにより炎症疾患に対して効果を現すが、その作用によって、 易感染性を生じる。 易感染性 ステロイドが免疫系に与える影響 ステロイド治療と感染症の頻度 100 例当たりの感染症の 回数 ステロイド ステロイド P値 有群 無群 1.好中球 a)循環血液中の細胞数増加(類白血病反 応の原因の一つ) b)炎症部位への遊走阻止による感染の遷 感染症 延化 c)貪食能・殺菌能に影響なし 総計 12.7 8 <0.001 致死的 1.2 0.5 0.02 非致死的 一日投与量 (PLS;mg) 14.7 9.4 <0.001 2.単球・マクロファージ a)循環血液中の細胞数増加 b)炎症部位への遊走抑制 c)殺菌能の抑制、Fc レセプター機能の抑 制、MHC クラスⅡ抗原の発現抑制 <19 17.8 14.2 0.03∼ 0.07 20∼39 6.8 3.2 0.003 40< 累積投与量 (PLS;mg) 13.5 6.3 0.005 3.リンパ球 a)循環血液中の細胞数増加(特に CD4 陽性 T リンパ球減少;CD4/CD8 比の低下) b) 3a)による細胞性免疫能の低下、 ツベルクリン皮内反応の陰性化 c) B リンパ球の活性化抑制・増殖抑制、 血清免疫グロブリンの減少 4.可溶性メディエーター/サイトカイン a)プロスタグランジン、ロイコトリエン などの産生減少 b) IL-1、IL-2、IL-4、IL-5、IL-10、IL-12、 相対危険度 (95%信頼区 間) 1.6(1.3∼ 0.9) 2.6(1.2∼ 5.3) 1.6(1.3∼ 1.9) 1.3(1.0∼ 1.6) 2.1(1.3∼ 3.6) 2.1(1.6∼ 2.9) 0.9(0.1∼ 6.6) 2.0(1.0∼ 500∼999 5.3 2.7 3.9) 2.6(1.5∼ 1000∼1999 14.7 5.6 0.02 4.6) 1.5(1.2∼ 2000< 17.9 12.1 <0.001 1.8) 対象患者数:ステロイド有 2111 例、ステロイド無 2087 例 Stuck AE,et al.:Rev Infect Dis 1989;11(6):954-963 より一部 改変 <499 0.8 0.8 0.95 0.05∼ 0.27 TNF-α、INF-γ等の産生抑制 c)転写因子(NF-κB、AP-1)の活性阻害 d)接着分子の発現抑制 一般細菌感染はステロイド治療開始後比較的早期(月単位)に起こることが多く、そのときのステロイド投 与量と関係するが、結核、帯状疱疹などのウイルス感染症、真菌感染は長期治療時に起こりやすいといわれ ている。 ステロイド治療は易感染性をもたらすとともに、投与中は発熱・炎症反応が抑制されているため、感染が見 逃されやすくなるのが問題である。 ステロイド糖尿病は危険因子のない正常人での発症率は低いため、副腎皮質ステロイド投与患者全体での ステロイド糖尿病 発症率は 6∼25%程度と報告されているが、年齢(40 歳以上)、糖尿病家族歴、ステロイド投与量の多い患者 での発症リスクは上昇するため、注意が必要である。発症した患者のうち、半数が投与 2 ヶ月以内で、80% が投与 4 ヶ月以内で起こる。不必要なステロイドの投与で糖尿病発症・悪化を招来すべきではないが、薬剤の 投与が必要な病態ではステロイドを必要量投与し、糖尿病発症時には適切な糖尿病の治療を行うことが原則 である。 ステロイド糖尿病の発症予測および検定のためのポイント 1.治療開始前のステロイド糖尿病発症リスクの評価 糖代謝異常の存在の有無をチェック 内臓肥満の有無 他の動脈硬化リスクのチェック(高血圧症、高脂血症など) 2.ステロイド投与計画の評価 投与量、投与期間を必要十分量の範囲内で最小化(特に糖尿病発症リスクを考えた上で) 発症リスクの高い患者では食事カロリーなども管理し、体重維持を目指す(必要な場合は、減量目標を決 める) 3.ステロイド糖尿病発症の有無を定期的な確認 空腹時血糖のみでは不十分、午後から夜にかけての食後の血糖チェック HbA1C やグリコアルブミンなども可能ならチェック ステロイド糖尿病の治療方針 ステロイド糖尿病はインスリン抵抗性の発現に伴う食後血糖の上昇が特徴である。 食事: 内臓肥満を抑制するための適切なカロリー管理、可能な場合は運動療法をする。 食後血糖の上昇に対して食事成分に線維成分を増やす。 薬剤: 軽度な糖尿病ではビグアナイド薬やチアゾリジン誘導体などインスリン抵抗性改善薬を用いる 軽度な食後血糖の上昇に対してα-グルコシダーゼ阻害薬、グリニド系薬剤が有効 重症例に対しては食前の速攻型インスリンが望ましい。 その他: ステロイド投与による糖尿病の治療は急性の代謝障害を抑えることも重要であるが、ステロイド による動脈硬化促進 動脈硬化促進の抑制も主たる目標となる。このため、糖尿病に加えて、内臓肥満に伴う高 動脈硬化促進 脂血症、高血圧症などのメタボリックシンドロームの共存が動脈硬化の悪化に重大なため、これ らそれぞれについても厳格な治療が必須である。 ステロイド服用者の 5∼10%にステロイド潰瘍 ステロイド潰瘍が発生するとの報告があったが、否定的な意見もあり、未だ ステロイド潰瘍 統一された見解はない。 ステロイド潰瘍患者では腹痛を訴える者は比較的少ない。NSAIDs 同様無症状であることが多く、突然の出 血や穿孔といった重篤な状況で発見されることもしばしばある。特に高齢者の場合、たとえ軽微な腹痛であ っても消化管穿孔などを来たしている場合もあり、これら重篤な病態を見逃さないことが重要である。その ため、定期的に血液・便潜血検査や内視鏡検査を行う必要がある。 ステロイド潰瘍は十二指腸潰瘍が多いという報告もあるが、胃潰瘍の頻度が高いとの考えが一般的である。 発症部位に関しては通常の潰瘍好発部位とは異なり、幽門前庭部に多く、内視鏡像は周堤の浮腫をあまり伴 わず、浅い潰瘍であることが多いといわれている。 ステロイド投与から潰瘍発生までの期間は、1 ヶ月以内が 33%、1∼3 ヶ月以内が 14%と報告されているよ うに、服用開始後比較的早期に出現しやすい。一般にステロイドは初期に大量投与されることが多く、また 用量依存的に相対危険度が増加するという報告もあり、投与早期には特に潰瘍の発症に十分注意が必要と考 えられる。また、ステロイドは単独で使用されるよりむしろ NSAIDs と併用されることが多く、この薬剤との 相互関係も重要である。NSAIDs とステロイドの併用は潰瘍のリスクを増加させることはおおむねコンセンサ スが得られており、日常診療においても注意する必要がある。また、ステロイドがホスホリパーゼ A2 を、NSAIDs がシクロオキシゲナーゼを阻害すること、さらに両薬剤ともプロスタグランジン産生を阻害することから、 ヘリコバクター・ピロリ感染はステロイドによる潰瘍リスクを悪化させる可能性がある。 ステロイドの副作用はその投与量と密接な関係があるので、副作用の面のみを考えた場合は投与量、特に 維持量はできるだけ少量にすべきである。 活動性の病態の患者に対しては、ステロイドを減量することで悪化する可能性がある。その場合、副作用 のより少ないといわれているステロイドパルス療法や、免疫抑制剤の併用により治療を行うことがある。 免疫抑制剤はステロイドの用量を低下させるとの報告があり、副作用が深刻な患者には有効と考えられる。 妊娠とループス 妊娠とループスとの関係には、注目すべき重要な問題があり、例えば、 ・妊娠中にループスの活動性が増す(再燃)こと ・SLEが胎児と早産に影響すること ・妊娠中のSLE患者に対して薬物療法を使用することが挙げられる。 妊娠中のループス患者の50∼60%において通常妊娠の後期(28∼40週)に再燃がみられるとの報告が多い。 この再燃の85%以上は軽症から中等症であり、新たに治療薬剤を追加せずに服用中の薬剤をわずかに増量す るか維持するだけで、ほとんど腎不全が起こることはない。通常、ループスの活動性と一致する臨床検査値 は、補体50%溶血単位の低下と腎機能値の悪化である。 妊娠中のSLE患者の多くが妊娠満期に達し、たいていの幼児が正常に出産されるが、ループスが出現してい ない妊娠患者と比較して、胎児の遺失(流産・死産)が12∼30%多く、早期分娩が20∼50%多く起きている。その ため、妊娠中のSLE患者(特に後期に入る時)には注意が必要である。 この胎児の遺失と早期分娩は、1)腎疾患の悪化と高血圧症、2)抗dsDNA抗体と抗リン脂質抗体(例えばルー プス抗凝固因子と抗カルジオリピン抗体)の上昇、3)補体50%溶血単位の低下などのSLE急性増悪の指標と直接 関係しているため、血圧、血清クレアチニン、完全血球算定、尿の蛋白分析に加えて補体50%溶血単位、抗dsDNA 抗体、抗リン脂質抗体などの血清学的検査のモニターを考慮しなければならない。 妊娠中は母体と胎児への有害作用を防ぐために、大部分の妊娠患者にはループスの薬物療法を継続するこ とが必要である。 ステロイド薬は他の薬剤と比較して、その有効性と相対的に少ない有害作用から、妊娠患者での選択薬剤 である。ステロイド薬は胎盤を通過するが、多くが胎児に到達する前に胎盤のヒドロキシゲナーゼにより代 謝される。患者がSLEの治療中にプレドニゾロンあるいは他のステロイド薬を服用していても母体や胎児にほ とんど問題はない。 免疫抑制剤による薬物療法は催奇形性との関連が指摘されているので可能ならば投与を避けるべきである。 抗リン脂質抗体、特にIgGクラス抗カルジオリピン抗体は習慣流産と関連が強い。抗リン脂質抗体症候群 (ASP)による習慣流産は、妊娠5-6ヶ月以降に起こる晩期流産が多く、胎盤梗塞に伴う胎盤機能不全によると 考えられている。また、他に明らかな合併症をもたない習慣流産患者の約1割に、抗カルジオリピン抗体やル ープスアンチコアグラントが検出される。抗リン脂質抗体が出現している場合、胎児の合併症を減少させる ために抗凝固療法がとられる。 この抗凝固療法では、ワルファリンは催奇形性の問題から使用できない。ワルファリンなどのクマリン誘 導体は催奇形物質としてよく知られており、胎盤を通過し、有意な異常を起こす。妊娠中、特に初期と後期 には投与すべきではない。一般的に行われているのはアスピリンとヘパリンの併用療法であり、少なくとも アスピリンは投与されるべきである。無治療で約30%の生産率が、アスピリンとヘパリンの併用で70∼80%ま で上昇する。本邦においては濃縮ヘパリンが入手しにくく、また、ヘパリンの皮下注は患者にとって決して 簡単な治療ではない。NSAIDsとアスピリンは妊娠初期(0∼15週)では比較的安全である。しかし、これらの動 脈管への作用による早期閉鎖のために、中期(16∼27週)と後期には有害であると思われる。低用量のアスピ リンがしばしば使用されるが、もし、NSAIDsやアスピリンを妊娠中に用いる時は可能な限り低用量に制限し、 妊娠初期での使用に限定すべきである。また、骨粗鬆症の観点からステロイドとヘパリンの長期併用は避け るべきである。 ステロイド゙の離脱 副腎皮質から生理的に分泌されるコルチゾールの量は、プレドニゾロン換算で 2.5 mg/day 前後とされてい る。従って、ステロイド療法が、少量(5-10 mg/day)でも長期間にわたれば副作用をきたす。長期のステロイ ド服用患者では視床下部―下垂体―副腎(HPA)抑制による副腎機能不全の危険性があるので、急な服用中止を するべきではない。 血中コルチゾール濃度等測定して HPA 機能が正常かを確認しながらゆっくりと漸減する。 疾患がコントロールされたならば、まずステロイド薬の投与方式を 1 日 1 回投与に変更するべきである。患 者がさらに無症候で経過したならば、その後は投与量を漸減して最終目標の隔日投与とし、可能ならば投薬を 中止するべきである。 初回投与量を 2∼4 週続け、臨床症状、検査所見の改善をみたら、2∼4 週毎に再燃がないことを確認しつつ、 約 10 %ずつ減量していく。20 mg/day 以下に漸減するときや隔日投与へ移行するときは、特別の注意が必要で ある。プレドニゾロンの漸減スケジュールの例として、20 mg/day を 2 週間、17.5 mg/day を 3 週間、15 mg/day を 4 週間投与した後、15 mg/day と 12.5 mg/day を交互に 2∼4 週間、15 mg/day と 10 mg/day を交互に 2∼4 週間、15 mg/day と 7.5 mg/day を交互に 2∼4 週間、15 mg/day と 5 mg/day を交互に 2∼4 週間、15 mg/day と 2.5 mg/day を交互に 2∼4 週間投与する。次に、20 mg を隔日で 4 週間、そして 17.5 mg を隔日で 4 週間投 与する。同様に、これを患者がプレドニゾロン療法を離脱するまで続ける。 離脱時には生理的分泌量に近い、3∼5mg/day 前後を連日朝 1 回、あるいは 2 倍量を隔日朝 1 回、投与する。 朝、ステロイド服用前の血中コルチゾール濃度を数日繰り返して測定し、これらの値が正常値を示せば、HPA 機能は正常と判定する。HPA 機能低下時には、上記の投与量を続けながら、機能の回復を待つ。一旦抑制され た下垂体副腎皮質機能は、回復に 9∼12 ヶ月を要する。 漸減中は、腹痛、眩暈、失神、発熱、食欲不振、筋肉痛、悪心・嘔吐、息切れ、頭痛、虚弱または疲れ、急 な体重減少などを含む副腎不全症の徴候と症状をモニターする。 このスケジュールは 6 ヶ月∼1 年を要するが、途中で疾患の急性増悪が起こればさらにより長い期間を要す るかもしれない。疾患が非主要器官の患者では早い漸減スケジュールが可能であり、重症患者ではより遅い 漸減スケジュールが必要である。漸減中の皮膚発疹は、主要器官の疾患(例えば、疲労、発熱、関節痛、ある いは漿膜炎)を伴わないならば、症状が回復するまで、ステロイド薬を以前の投与量に戻すか、あるいはNSAID sや抗マラリア薬を追加投与するだけで応答するかもしれない。主要器官の疾患(例えば腎炎など)を伴う皮 膚発疹は、以前の投与量に戻すだけではコントロールされないことがある。これらの徴候と症状をコントロ ールするためには大量のステロイド薬が必要とされ、その後は新たな、そしてより緩やかな漸減スケジュー ルが必要となる。 結核治療 結核患者のほとんどは、化学療法レジメの遵守により治癒することができる。活動性結核の薬物療法の目 標には、以下の 2 要素がある。 (a)病気を治癒させること、 (b)結核菌の社会環境への伝播を防ぐこと。 結核感染者への抗結核薬投与は、その人の病気を治癒させるだけでなく、その人と接した人への感染の可 能性を防ぐことができる。コントロールされた臨床試験の結果から、結核治療の 3 原則が導き出された。 (a)治療レジメには、結核菌に感受性のある数種類の薬物を必ず含むこと、 (b)薬物は必ず規則正しく服用すること、 (c)薬物療法は必ず十分な期間継続すること。 薬物療法の狙いは、最短期間で毒性の最も少なく、最も有効な治療レジメを提供することである。 初回治療例の標準的治療法 (A)法:RFP RFP+ RFP+ RFP+INH+ INH+PZA に SM( SM(or EB)の4剤併用で2カ月間治療後,RFP EB RFP+INH(+ INH(+EB (+EB) EB)で4カ月間治療 する。 (B) 法:RFP RFP+ RFP+INH+SM( INH+SM(or EB) EB)で6カ月間治療後,RFP+INH(+EB)で3カ月間治療する。 原則として(A)法を用いる。 PZA 投与不可の場合に限り, (B)法を用いる。 平成 14 年 6 月 日本結核病学会治療委員会 治療反応性の評価として、結核菌を喀痰からに検出した患者においては、結核化学療法開始後、喀痰検査 を繰り返し行うべきである。喀痰検査は、陰性化するまで最低月 1 回の割合で行うべきである。薬物投与前 の培養陽性患者の 85%以上が、2 ヶ月間の INH とリファンピシン(RFP)の併用レジメにより陰性化する。 2ヶ月間の治療後も喀痰培養が陰性化しない患者では、再評価を行い、薬剤感受性検査をすべきである。 もし薬剤耐性が認められれば、治療レジメの変更が必要であり、その耐性菌に抗菌力を持つ薬剤を少なくと も2種類以上投与する。変更された治療レジメの施行は、直接観察療法(DOT)により行われる。その後、培養 が陰性となるまで、少なくとも月1回は細菌検査を行うべきである。 2 ヶ月間の治療後、喀痰培養が陰性化した患者ではさらにもう 1 回喀痰塗沫と培養検査を行って、治療を終 了する。治療中の胸部 X 線写真撮影は、喀痰検査ほど有用ではないが、治療終了時の胸部 X 線写真像は、そ れ以後の X 線写真像と比較する際の基準となる。薬剤感受性菌に感染し、INH と RMP 併用レジメで迅速且つ十 分な反応が得られた患者では、定期的な追跡調査は不要である。 副作用モニターとして、結核治療を受けている患者は、肝酵素、ビリルビン、血清クレアチニン、各種の 血球数、血小板数の各基準値を測定する必要がある。ピラゾナミド(PZA)の投与時には、血清尿酸値も測定す べきである。エタンブトール(EMB)の投与患者では、視力検査、赤色∼緑色色覚検査の基準値を測定する必要 がある。小児に対する基準値テストは、複雑な病状が存在したり、臨床上疑われない限り、不要である(視力 検査は必要)。 抗結核薬を投与されているすべての患者では、副作用を臨床的にモニターし、症状の発見に努める。一般 的に、頻繁な臨床検査は、投薬時の基準値が正常の患者では不要である。 もし薬物毒性が示唆された場合は、上記の臨床検査を行い、毒性の評価とその排除を行うべきである。 結核の院内感染 今回の場合、発熱から結核専門病院転院まで 1 週間を要した。この患者はステロイドの大量投与を受けて おり、事前に易感染の危険性が予測できたこともあり、個室を使用していた。そのため、同室者の結核感染 はなかったが、医療従事者の感染や、それを介した他の患者における二次感染の危険性について注意しなけ ればならなかった。 結核の院内感染防止に関して医療従事者は十分な知識と技術、そしてこれを実践する態度が必要である。 医療機関は、結核患者を含め様々な病気の患者や広範な社会的分野の人々が集まるところであり、空気感染 という感染経路からしても、結核の院内感染対策は多角的・総合的に実施すべきである。現在、施設ごとに結 核予防対策や感染防止マニュアルを作って対応しているところも多くある。その概要を以下にまとめた。 結核菌の伝播をくいとめる最も重要なポイントは感染性結核を持った患者を早期に見つけ、早急に対応し、 効果的な治療を早急に開始することにある。特に肺結核、喉頭結核で塗抹検査陽性の感染性結核では、他へ の感染の危険性が高くなるため早期発見・対応を行う必要がある。 結核患者の早期発見には、病院職員全体が、受診患者の中には結核の可能性があることを自覚することが 重要である。外来においては、咳などの結核の徴候や症状のある患者は優先して別室で診療するように努力 する。また、それらの患者に対し、マスク(サージカル・マスクが望ましい)の支給や、咳や喀痰、鼻水が 出るときにはティッシュで口や鼻を覆うようにという指導を、診察前から積極的に行い、自らが暴露される 危険を少しでも減少させる。予定入院の場合、できるだけ事前に胸部X線写真を撮影し、結核の可能性のない ことを確認する。陳旧性変化を認めた場合、喀痰検査を実施し排菌のないことを確かめる。緊急入院患者(特 に発熱、咳、喀痰を有する場合)の場合、感染の危険性があるものとして、病床を考慮(大部屋の場合できる だけ排気口の近くにする)し、早急に胸部X線写真、喀痰検査を実施し結核の発症の有無を確認する。特にICU入 室患者については、病床の考慮や結核の発症の有無の確認などを遵守する。 いずれにしても、結核患者の早期発見には、担当医が結核を疑うことが最も重要なポイントであるため、 特に医師の結核への意識を高めることは重要である。 医療従事者が知っておくべき事柄 1)喀痰塗沫要請の肺結核患者が咳をしたときに空気感染で伝染する事例がほとんどである。濃厚な接触があっ た場合 25∼50%に感染が生じると報告されている。感染の有無はツベルクリン反応(ツ反)の変化で判定する が、変化が生じるまでに感染から 6∼8 週間かかるので、暴露直後のツ反では感染の有無は判定できない。 2)感染者の 90%は生涯発病しない。発病していなければ他人に感染させる危険性は皆無であり、医療行為を通 常通り行うことができる。その場合、症状もなく検査値や胸部 X 線の異常も生じない。 3)感染者の6∼7%が感染後3ヶ月から2年の間で発病する。残りの3∼4%は余年を経て易感染状態になった際に発 病する(高齢、糖尿病、免疫抑制剤の服用など)。つまり、感染直後の胸部X線撮影で発病の有無は調べることが できない。 4)BCG の成人に対する効果は疑問視されている。再接種の有効性は否定されている。 5)2 年以内の結核菌に感染が明らかな場合でも、化学予防を行うことで発病率を約 1/5 に減らすことができる。 通常 INH 300 mg を半年間内服する。 6)たとえ肺結核を発病しても、現在半年間の治療でほとんどの症例を 98∼99%完治させることができる。治 療の難しい多剤耐性菌結核は、初回治療では約 1%程度しか存在しない。 7)近畿地区など結核の罹患率が全国平均より高い地域では、たとえ排菌陽性結核患者との接触の覚えがなくて も、2週間以上続く咳嗽・喀痰・微熱・全身倦怠感・体重減少などがある場合、念のため専門医の診察を受ける必 要がある。 8)結核患者を診断した医師は 2 日以内に最寄の保健所に届けなければならない。 感染性結核患者から感染を最小限にするためにはすみやかに適正な治療を行う必要がある。このため、原 則として感染性結核患者の入院可能な病院へ転院させる。胸部X線写真で肺結核が強く疑われる場合には、早 急に専門病院への転院を考慮するが、転院が困難な場合は個室に収容し、N95マスク(後述)、予防衣、換気、 ドアの閉鎖など感染防止に努める。検体採取や検体の取り扱いには、周囲への汚染防止のための配慮が必要 である。感染性結核患者の気管支鏡検査や剖検では、部屋の空調に留意し、術者はN95マスクを使用する。消 毒法としては、結核に有効な消毒剤(0.2∼0.5%LAG液)などを用いる。肺結核の可能性が低い場合には、でき るだけ個室管理とし、再検査を行う。再検査の結果、感染性結核と判定された場合は、早急に専門病院への 転院とする。非定型抗酸菌症の場合は、専門病院と相談のうえできるだけ転院をすすめる。再検査の結果、結核 でなければ個室管理を解除する。 担当医は、感染性結核を診断した場合には、速やかに感染症対策委員会に報告後、2日以内に、患者の概 要(患者の性、年齢、主訴、現病歴、結核が確認されるまでの経過、結核が疑われた日付、抗酸菌塗抹標本の オーダー日、検体の採取日、結果の報告日)を文書にて感染症対策委員会に提出する。 さらに、担当医は、感染性・非感染性を問わず、抗酸菌を検体に認めた場合、2日以内に保健センターに 文書にて届け出る(週末を挟む場合など早急に電話連絡したほうがよい場合もある。)義務がある。 感染症対策委員会は、次のような結核菌による院内感染の恐れがある時には、病院長および保健センターに 報告し、必要に応じて院内結核感染対策本部(以下「対策本部」という)を設置し、保健センターと協力し て、院内感染防止等の対応にあたる。 a) 病院内で結核集団発生が疑われた場合 b) 医療関係者が結核を発病した場合 c) 結核患者から職員への感染の危険性が極めて大きいと感染症対策委員会において判定した場合 対策本部は、提出された「患者の概要」と作成した「接触者リスト」をもとに、今後の対応を検討し、医 療関係者用および患者・その家族用の説明文書を5日以内に作成する。特に、同室患者へは作成した文書を もとに早急に十分な説明を行い、臨時検診等への協力を求める。また、医療者関係者用説明文書を院内関連部 署に配布する。 結核の院内感染の恐れが生じた場合、未発見患者の追求や被感染者の発見のために調査が必要である。 感染性結核患者の感染危険度のランクにもとづき、感染症対策委員会が担当診療科とともに、調査範囲や調 査方法を決める。なお、調査にあたっては、患者および医療関係者のプライバシーに留意するとともに、対 策本部を設置した場合には保健センターと協力して対応にあたる。 感染性結核患者の感染危険度指数の判定は、抗結核剤開始前3回(少なくとも2回)の喀痰塗抹検査のう ち、ガフキー(G)最大号数から判定する(感染危険度指数=最大G号数×咳の持続期間(月))が、抗結核剤開 始前3回の喀痰塗抹検査の成績が得られない場合には以下の簡便法に従う。 最重要:1回の塗抹検査がガフキー3号以上、または胸部X線写真所見が結核病学会分類Ⅰ型またはⅡ型で、 拡がり3以上のもの 重要1 :1回の塗抹検査が G1号または2号。塗抹検査が陰性であっても、胸部 X 線写真所見が結核病学 会分類Ⅱ型で、拡がり1あるいは2のもの 重要2 :喀痰塗抹検査陰性で培養陽性と後日判明したもの、及び喀痰から PCR 法のみで陽性となったもの その他:上記以外 例) 胃液検査のみ、気管支洗浄液のみ、関節腔穿刺液のみ、手術材料のみから結核菌が確認されたもの 接触者の調査および臨時検診の対象者について感染性結核患者との接触程度から A, B, C に分類するが、 下記の点にも注意する。 a. 調査・臨時検診は濃厚な接触者(家族およびA)を先に行い、その結果、必要な場合に対象者をB,Cへと広げる。 b. 医事課は家族の健康診断についての感染情報を当該保健所・保健センターに問い合わせ、症対策本部に報 告する。感染症対策委員会はその成績を調査・臨時検診の参考にする。 c. 小児科、周産母子センター、産科、救急部・集中治療部および免疫抑制状態の患者が多い病棟などで感染 性結核患者が発生した場合には、他の部署より徹底した調査・臨時検診が必要である。 d. 胸部 X 線写真上陰影が認められるのは、結核菌感染後、BCG 既接種者では5ヶ月以後、未接種者では2ヶ 月後(ツ反検査陽転時) 、免疫不全者ではさらに早いことが多い。 感染性結 核 患 者 の 感染危険度 指数 ランク 最重要 10以上 0.1∼ 重要1 9.9 重要2 その他 0および 肺外結核 家族 同室者 (保健所) (保健所) (保健所) (保健所) A A A B 濃厚接触の 療従事者 A A B B その他 B C C C N95微粒子用マスク:0.3μ以上の空気中の微粒子を95%以上の 捕集可能であることを保証されたマスクで、米国疾病管理予防 センター(CDC)の「医療施設における結核菌感染対策のための ガイドライン(1994年改訂)」で定めている「呼吸器感染防護 (防止)器具」の規格に合致している。このマスクは医療従事 者が空気感染を受けないために使用するもので、排菌患者は普 通のマスク装着(飛沫防止)だけでよい。 しかし、微粒子用マスクはそれのみで感染や発病を100%防止 するものではなく、患者の早期発見、隔離、陰圧換気、医療従 事者(スタッフ)の定期検診といった総合的感染防止対策の中 のひとつと位置づけられるべきものである。 スリーエムヘルスケア社タイプN95 微粒子用マスク 米国CDCガイドライン適合、NIOSH認定マスク 詳細については以下を参照のこと。 結核院内(施設内)感染予防の手引き (平成11年10月8日 厚生科学研究の新興再興感染症研究事業積極的疫 学調査緊急研究班(主任) 森 亨 http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1110/h1008-1_11.html 結核院内感染予防マニュアル (平成11年11月 広島大学医学部附属病院感染症対策委員会(委員長) 横山 隆)) http://home.hiroshima-u.ac.jp/soshinhp/Tbmanual.htm 院内感染防止手順 (病院・診療所・介護老人保健施設における院内感染防止手順書例) http://www.imcj.go.jp/kansen/tejun_a.pdf 【参考文献・ホームページ】 水島裕編:今日の治療薬—解説と便覧(第 26 版),南江堂,2004 山口徹,北原光夫編;多賀須幸男,尾形悦郎監:今日の治療指針,医学書院, 2002 黒川清, 松澤佑次編:内科学,文光堂, 1999 Eric T.Herfindal,Dick R.Gourley 編 ; 福地坦監訳 :クリニカル・ファーマシーのための疾病解析(第 6 版),医薬 ジャーナル社, 1999 グッドマン, ギルマン編;高折修二ほか監訳:薬理書(第 9 版),廣川書店, 1999 鈴木克洋:結核菌.日本臨床,2002;60(11):2172-6 中島 由槻:結核の院内感染予防.日本臨床,2003;61(suppl2):682-7 花岡英紀:膠原病における日和見感染症の実体とその対策.内科,2005;95(3):449-55 尾崎承一:副腎皮質ステロイド薬.内科,2005;95(3):473-7 小柴賢洋,熊谷俊一:各科領域におけるステロイド療法 膠原病.実験治療,2004;676:174-8 石井寛,迎寛,河野茂:ステロイド療法における副作用対策 感染症.実験治療,2004;676:197-201 稲葉雅章,西沢良記:ステロイド療法における副作用対策 ステロイド糖尿病.実験治療,2004;676:202-205 三輪洋人,田中淳二:ステロイド療法における副作用対策 ステロイド潰瘍.実験治療,2004;676:206-210 宗圓聰:ステロイド療法における副作用対策 ステロイド性骨粗鬆症.実験治療,2004;676:211-215 Gordon C., et al.:Definition and treatment of lupus flares measured by the BILAG index.Rheumatology, 2003;42:2372-9 Isenberg,D.A., et al.:BILAG 2004. 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