連帯保証制度の過去・現在・未来 - 慶應義塾大学 法学部研究会サーバー

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連帯保証制度の過去・現在・未来
和田 絢子
(池田研究会 4 年)
Ⅰ はじめに
Ⅱ 過 去
1 連帯保証のはじまり
2 調査の経過
3 検 証
4 小 括
Ⅲ 現 在
1 利用の実態
2 被害の現実
3 有益な機能
4 近時の議論
5 諸外国の状況
Ⅳ 未 来
1 前 提
2 あるべき姿
3 過渡期の制度として
Ⅴ おわりに
Ⅰ はじめに
「連帯保証人にだけはなってはいけない。」
どこかで一度は耳にしたことのある言葉ではないだろうか。筆者自身にはいつ
からかこのような認識がある。それとともに、どうしてそんな制度がずっと存在
しているのか、という疑問を持ち続けてきた。
402 法律学研究50号(2013)
連帯保証人は、債務の弁済期がきたら即時、債権者からの直接の支払請求に応
じなければならない。名前の単純さとは裏腹に、これによって人生を狂わされた
という話が後を絶たないのが現実である。では、そもそもどうしてこのような制
度が生まれたのか、またその背景には何があったのか。
本論文は、連帯保証制度の過去・現在・未来を提示することを目的とする。そ
のために、まず、古代・中世・近世・近代の連帯保証が言及されている文献を手
掛かりに、日本で連帯保証がどうして行われるようになったのかを示す資料にあ
たることを通じて、上記の疑問を解消する。次に、金融機関やその調査機関が発
信する情報をもとに、現在の利用の実態を明らかにするとともに、連帯保証が生
みだす弊害にも触れる。また、未来を提示するための材料として、連帯保証の有
益な機能の学問的説明や近時の議論、諸外国の状況もまとめておきたい。そして
最後に、本論文全体をふまえた上で、連帯保証制度の未来の姿を提示する。
Ⅱ 過 去
1 連帯保証のはじまり
( 1 ) 保証の深淵
保証はローマ法に深淵すると言われ1)、その当時の保証とは今日の連帯保証を
指すものだったと考えられている。
ローマでは、人と人との間に信義誠実を基礎とする関係が発達しており、債権
の担保は保証によって行われることが多かった2)。そして、古典期の保証契約に
おいては、債権者は保証人または債務者のいずれに請求するのも自由であり、保
証人は債務者とともに連帯債務者として責任を負う、つまり、連帯保証制度に類
似する形が「保証」であったようである。しかし、ユスティニアヌス帝法の時代
に、債務者に訴えたもののよい結果を得られなかった場合に保証人に請求できる
という、保証人が二次的な債務者にとどまる(今日の単純)保証が原則形態になっ
ていたとされる3)。
( 2 ) 日本における連帯保証の利用の端緒と問題提起
では、日本ではいつから連帯保証が行われるようになったのだろうか。19世紀
の法典編纂期に海外から持ち込まれて使われるようになった制度なのだろうか。
制度としてみることができるのは、旧民法からである(旧民法債權擔保編第20
403
條) 。ボワソナード草案にみられたもの がほぼそのままの形でいかされた(草
4)
5)
案第1520條) 。旧民法は法典論争が起きたことで施行が延期され法典調査会で審
6)
議が行われたが、連帯保証部分の規定は基本的な内容を変えることなく現行民法
へ受け継がれており7)、ボワソナードが持ち込んだ制度であるかのようにも思え
る。
現行民法454条
保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前二条の権利を
有しない
しかし、制度の成立をもって連帯保証の利用の端緒とは言えない。筆者が本論
文で明らかにしたいのは、連帯保証がいつ、どうして使われるようになったのか、
である。そこで、日本における連帯保証はボワソナードによる民法起草より前か
らあったのではないか、という仮説を立て、それを検証する形で上記疑問を解消
しようと思う。方法としては、江戸時代以前の法制度を扱っている文献や明治初
期の大審院判例、近時電子化された明治初期の政府関係資料の分析による。
2 調査の経過
( 1 ) 維新前
維新前の保証制度が言及されている文献は少ないが、養老律令(757年) に規
定されている「保證人」の研究から始まって江戸時代の保証制度まで網羅してい
る中田薫博士の論文は興味深い8)。中田論文によれば、古代・中世・近世の日本
には連帯保証なるものはない。養老律令に規定される古代の「保證人」は、債務
者が逃亡または死亡した時に限って代償するものであり、弁済期が到来しても借
金を返さない債務者に対しては、債権者が自力で債務者の財産を差し押えたり、
債務者の身体を拘束して労役に服させたりすることで、財産の回復を図った。奈
良時代の借銭文書のなかには、養老律令に規定されるのとは異なり、「債務者が
債務を弁済しない場合は自分が弁済すべし」という一種の保証契約が記載されて
いるものがあり、こうした記載のある中世・近世以降の証文も残っているようだ
が、今日の連帯保証のように、期限が来たらすぐに直接保証人に請求できるもの
であったとは解し難い。
404 法律学研究50号(2013)
( 2 ) 維新後
明治期の連帯保証については、神戸大学の藤原明久教授の先行研究がある9)。
2 本の藤原論文のうち、本論文のテーマにかかわる記述をまとめると、次のよう
になる。①明治 8 年の太政官第102号布告で、債務不履行の場合はまず債務者に
身代限を申付け、なお不足額があるときに保証人に弁済させることとされた。②
明治10年、横浜裁判所から司法省に対して、「債務不履行の場合直ちに保証人に
弁済させる」旨の特約、つまり太政官第102号布告に反する特約を有効として処
分してよいかとの伺が提出されたところ10)、司法省は契約の事実により審判すべ
しとして特約の有効性を認めた11)。③明治20年、太政官第102号布告の欠陥を指
摘する論文が発表された( 3 で詳述)。④明治27年 5 月24日、大審院は、保証契約
において保証人が主たる債務者と連帯して義務を負担すると解釈される場合には、
連帯保証が成立したものとすると判断した12)。⑤同年 9 月13日、大審院は、連帯
保証の特約は公序良俗に反しないと判断した13)。
以上の藤原論文に登場するいくつかの資料とその出典元を参考にして、明治初
期の政府関係資料をあたってみると、当時の保証取引像を浮かび上がらせる大変
有意義な資料にたどり着くことができた。それが、『諸府県各裁判所上申書』で
ある。これは、明治 8 年10月に司法省より全国の各裁判所に対して出された、民
事裁判に関する法律を補足し、新法制定を要する事件を具申せよ(聴訟ニ関スル
法律ノ闕漏ヲ裨補シ或ハ新法制定ヲ要スル事件心附キノ廉具申セシム )との御達し
14)
への回答にあたるものだ。その第 6 号に、明治 9 年 3 月宮城上等裁判所から提出
された次のような上申書がある。
宮城上等裁判所長心得
明治九年三月廿八日四等判事早川景矩
司法卿大木喬任殿
(中略)
一、負債本人ト請人証人ノ義務ノ順序ニ付建議
(中略)債主ニ於テハ萬一負債主異変之レアル時ノ為メニ備フル保証人ナレ
バ(中略)貸借ノ契約ニ請人証人連署セル者ハ(中略)約定滿期ニ至ルトキ
ハ直チニ其請人証人ニ係リ代償ヲ求ムルコトヲ得ベク(中略)御確定相成度
事15)
(下線は筆者)
405
内容はこうである。
一、主たる債務者と保証人の義務の順序について
債権者においては、万一債務者に異変があるときのための保証人であるから、
保証人が債務者の名前に連ねて署名したときは(中略)約束した期限の到来
時ただちにその保証人に代償を請求することができるよう(中略)決めて頂
きたい
この上申書からは、保証人は債務者に何かあったときのためにいる、だから弁
済期が到来したら、もう債務者に弁済を請求することなどせずに、債権者は保証
人に直接支払うよう請求できてよいことにしよう―そのような仕組みが、当時
の日本にはすでに求められていたことが分かる。前掲藤原論文と併せて考えると、
このような仕組みは当時の日本には慣習として存在しており、また、裁判所とし
てもそれを法制化したほうがよいと認識されていたということになる。保証人へ
の直接の請求を認めるべきとの上申書は他の裁判所からも提出されている16)こ
とからも、このような慣習が当時の日本に広く存在していたのではないかと考え
られ、明治初期から連帯保証制度が求められていたという結論が導かれよう。
3 検 証
以下では、明治初期から連帯保証制度の実際上の要請があったという筆者の見
解を、当時の論文をもとに検証してみる。
横浜始審裁判所詰判事試補であった中橋徳五郎は帝国大学でイギリス法を学
び17)、卒業後着任してまもなく執筆した論文で、イギリスにおける保証制度を紹
介しつつ太政官第102号布告を批判した18)。第102号布告を以下に示す。
明治八年六月八日太政官布告第百二號
金穀貸借請人證人辨償規則
第一條
金銀借用返済相滞リ本人身代限済方申付候上、不足相立候節ハ、其不足ノ分
請人證人ヘ済方申渡シ、猶不相済ニ於テハ其請人證人ヲモ身代限申付、其上
不足相立候ハヾ借主並請人証人ハ勿論其相続人ニ至ルマテ身代持直シ次第皆
済可致事
406 法律学研究50号(2013)
第二條
借主逃亡又ハ死去跡相續人無之時ハ其請人證人ヘ済方申渡シ候上不相済ニ於
テハ身代限申付猶不足相立候ハヾ請人證人ハ勿論其相續人ニ至ルマデ身代持
直シ次第皆済可致19)
この布告の内容はこうである。
第一条
借金の返済が滞り、主たる債務者について身代限をした上で不足があるとき
は、その不足分は保証人に請求し、なお決着がつかなければその保証人をも
身代限を申付ける。それでも不足があるときは、主たる債務者や保証人は勿
論、その相続人の暮らし向きが良くなり次第返済すること
第二条
主たる債務者が逃亡又は死亡し、相続人がいない時は、その保証人に請求し、
それで決着がつかない場合は身代限を申付ける。なお不足があるときは保証
人は勿論その保証人の暮らし向きが良くなり次第返済すること
イギリスにおいては、弁済期が到来したら直ちに保証人へ請求することが債権
者に認められていたのに対し、日本のこの布告によれば、保証人への請求の前に
主たる債務者の身代限を申付けなければならず、このような甚だ迂遠な手続きは
やめるべきだというのが中橋論文の主張である。
論文ではその主張の根拠として、次の三点が指摘されている。第一点としては、
債権者が保証人を立てさせるのは、主たる債務者本人が返済しないときに直に本
人に代わって弁済することを保証させるためであり、主たる債務者がどのような
手段をもっても債務を完済できなくなった時に初めて保証させるためではないと
いうものだ。また、第二点は、布告のとおりでは社会の取引を遅滞させ、かつ、
契約当事者の事業計画等を妨げて社会取引上特に商業上の取引を滞らせ、莫大な
損害を生むというものだ。そして第三には、身代限には費用がかかるし裁判機関
を煩わせる上、本人の名誉を汚すものでもあることを挙げて、保証人に直接請求
できるようにすべきとする。
このように、第102号布告以来制度として認められてきた保証は迂遠さの付き
まとうものであり、実務家からはこのような手続きを定める第102号布告の廃止
407
が提唱されていた。従って、裏を返せば、弁済期が到来すれば保証人に支払いを
請求できるようにすることが求められており、この観点からも連帯保証制度の実
際上の要請があったと言うことができるだろう20)。
4 小 括
『諸府県裁判所上申書』とボワソナード草案や旧民法・明治民法のつながりは
明らかでない。しかし、新法制定を要する事件を具申せよ、との司法省の御達し
があったことを考えると、これに応答する形で提出された上申書が、当時の日本
の保証取引形態を表すものとして参照されたと考えても不思議ではない21)。
いずれにせよ、連帯保証制度は、世界的に見れば保証の原始形態であり、日本
における端緒は、明治時代に入って西洋の法典を取りいれるより前からあること
が分かった。このことは、連帯保証が人々にとって必要であるからこそ生まれた
のだというはじまりの姿を物語っている。
Ⅲ 現 在
1 利用の実態
一般に、世の中で行われている保証のほとんどは連帯保証と言われる22)。では、
実際どのくらい行われているものなのだろうか。
連帯保証は、お金を借りるときだけでなく、家を借りるときや就職するとき等
債権者の債権を担保するために様々な場面で用いられるが、私人間で結ばれる賃
貸借契約や雇用契約でどれだけの保証人をつけるかを把握することは難しい。そ
こで、ここでは、全国的な調査資料のある銀行と信用金庫で「お金を借りるとき
の担保としての連帯保証」について考えることとする。
まず、銀行からお金を借りるときはどのくらい連帯保証が利用されているのか。
金融総合情報機関である日本金融通信社が毎年発表している調査23) によれば、
全国銀行合計の担保種類別に見た貸出金残高は、信用貸しが205兆3362億円と最
も多く、次いで「保証」を担保とする貸出金166兆3397億円、
「不動産」担保が72
兆8132億円となっている(2012年 3 月末)。ここで、信用貸しとは、貸し手が借り
手を信用して、無担保・無保証で行う貸し付け24)のことであるため、有担保の
貸出金の残高としては「保証」が最もよく使われていることになる。まとめると、
全貸出残高459兆5019億円のうち 3 割強が、特に有担保貸出残高について言えば
408 法律学研究50号(2013)
表 1 銀行と信用金庫の全貸出金残高及び「保証」を担保とする額とその構成比
全貸出残高
(有担保貸出残高)
銀行
459兆5019億円
(2012.3末)
(254兆1657億円)
信用金庫
63兆7545億円
(2011.3末)
( 50兆7949億円)
うち保証
166兆3397億円
13兆 405億円
構成比(%)
36.2
(65.4)
20.5
(25.7)
その 6 割強が、保証を利用して借りられたお金だということが分かる。
次に、信用金庫ではどうか。㈳全国信用金庫協会が毎年発表している全国の信
用金庫の財務諸表を分析した資料25)によると、担保種類別に見た貸出金平均残
高は、「不動産」を担保とする貸出金が22兆2949億円と最も多く、次いで信用保
証協会・信用保険を担保として13兆6928億円、「保証」を担保として13兆405億円
となっている(2011年 3 月末)。銀行ほど大きな額ではないが、全貸出残高63兆
7545億円のうち 2 割、特に有担保貸出残高の 4 分の 1 を占める額が、保証を利用
して借りられたものということになる。
ここで、「保証」の果たす役割の大きさを分かりやすく示すために上記金額か
ら単純計算してみると26)、銀行及び信用金庫の有担保貸出残高のうち「保証」が
55%も占めているということが分かる。前述したように保証のほとんどが連帯保
証であることを踏まえると、銀行や信用金庫といった金融機関が担保をとってお
金を貸そうとするとき、半分以上の割合で連帯保証が利用されていると考えられ、
連帯保証は日本の金融を支えているとも言いうる存在のようだ。
2 被害の現実
しかし、広く利用されているという実態がある一方で、連帯保証にまつわる被
害が後を絶たないのも現実だ。そのトラブルはしばしば、ある日突然返済を迫ら
れ保証人自身が破綻に追い込まれる、という悲劇的なドキュメントとして報道さ
れる27)。連帯保証は、住宅ローンを組むとき、アパートに入居するとき、奨学金
を借りるとき等、よく用いられる保証であるため、「迷惑はかけないから」
「名前
を借りるだけだから」と頼まれて安易に請け合ったり、義理や情から「この人の
ためなら」といった具合に断れなかったりして、リスクを十分に理解せずに引き
409
受けてしまう人が多いのだろう。
その悲劇的な結末の結果と捉えられるのが、連帯保証債務を原因とする自殺者
数である。警察庁の調べによれば、2011年中における自殺者総数 3 万651人のう
ち、連帯保証債務を原因・動機として自殺した者は43人存在する28)。これは、動
機が遺書等からはっきり分かった者の数であり、心中を表明せずに自殺していっ
た人のことを考えればその数はもっとも多いはずだ。
こうしてみると、連帯保証制度は保証人に悲惨な運命をたどらせる危険性をお
おいに孕んでいるものだということがよく分かる。
3 有益な機能
1 で述べたように、連帯保証は実に広く利用されている。連帯保証契約を結ん
でおけば、債権者は弁済期が到来し次第すぐに連帯保証人へ請求できるうえ、そ
の請求は主たる債務の時効停止事由にもなる。こうした、債権者にとって債権を
管理しやすい仕組みから考えれば、その利用の多さもごく自然な状況と言えよう
が、連帯保証は債権者にとっては常に有益な機能をもつ制度なのか、以下ではこ
の点について考えてみたい。
連帯保証の機能を考えるにあたって参考になるのは、学習院大学の小出篤教授
29)
の論文「中小企業金融における人的保証の機能」
での、
「人的保証には、保全
機能、シグナリング機能、モニタリング機能の三つの機能がある」との分析であ
る。小出教授は特に中小企業の場合を念頭において分析されているのだが、これ
らの機能は債権者・主たる債務者・保証人という三者間関係から導かれるもので
あり、その三者間関係のもとで成り立つ人的保証一般、すなわち連帯保証の機能
とも言える。よって、この三つを連帯保証の機能として考察してみる。
まず保全機能とは、連帯保証人をとることによって債権者にとっての回収原資
が拡大するという機能である。これは、保証人に資力があることを前提とするも
のだが、保証の最も基本的な機能である。二つ目のシグナリング機能とは、連帯
保証人の存在により、主債務者の信用状態を安全と考えられていることを表明す
る機能である。主債務者に関する情報の正確性を債権者に確信させることが難し
いとき、ある個人が保証人になるという事実は、主債務者の信用状態が悪くない
ことを示すシグナルになるという意味だ。つまり、連帯保証人がついていれば、
それがいない場合よりも債権者は主債務者の信用状態の審査コストを削減できる
ことになる。三つ目のモニタリング機能とは、主債務者が債権者を害する行動を
410 法律学研究50号(2013)
しないよう連帯保証人が監督するという機能である。保証人は、主たる債務者が
債務不履行に陥った場合には自ら保証債務を履行しなければならず、保証債務を
履行すると主たる債務者に対して求償権を有するという意味でいわば債権者類似
の立場にある。従って、融資後の主たる債務者の行動の監視―プロジェクト成
功のための努力をしているか等―を保証人に促し、債権者はモニタリングコス
トの負担を分担できることになる。
ここで、特に小出教授が指摘されているのは、企業に関する情報を最もよく知
る「経営者」個人が企業の連帯保証人となる場合(以下、経営者保証という)のシ
グナリング機能・モニタリング機能の効果である。保証人は経営者であるのだか
ら、この人以上に経営状況を知る者もなかろうし、自分が保証人になった以上は、
経営者はなんとしても事業を成功させて債務を弁済してしまいたいと努力するだ
ろうから、企業を無責任に放り出してしまうことも考えにくい。従って、債権者
は主たる債務者たる「経営者」の信用状態の審査コストやその行動の監督等融資
に伴うコストを債権者は大いに軽減できるというわけだ30)。
なるほど、連帯保証(ないし人的保証一般) は、債権者が融資の際や融資中に
負担するコストを少なくすることのできる、素晴らしい制度である。主たる債務
者の信用状態の調査や行動管理にコストをあまりかけなくとも、連帯保証人の存
在によって一定程度の信用状態や行動が担保され、主たる債務者に何かあったと
きでも、連帯保証人に請求すれば貸したお金が返ってくるからだ。しかし、これ
らの三機能は、ごく限定的な場合にのみ働くという指摘が可能ではないか。まず、
経営者でない第三者が連帯保証人になる場合、信用状態をよく知る者でなければ
シグナリング機能やモニタリング機能は期待できない。また、経営者保証の場合
でも、ほんの少し売上が下がったという程度であれば、連帯保証という「重み」
が良いプレッシャーとなり、経営者たる保証人自身が売上増を目指す強い動機に
つながるかもしれない。が、どう頑張っても経営を立て直せない状況にまで到っ
てしまった場合はどうだろうか。連帯保証人という人間がいようとも、シグナリ
ング機能やモニタリング機能はあってないようなものだ。当然保全機能も働かな
い。経営者の中には、自らの肩に掛かる大きな「重み」に耐えられず、経営から
逃げ出してしまうこともあるだろう。
このように考えると、連帯保証は確かに債権を管理しやすい仕組みをもつが、
その仕組み以外の機能(シグナリング機能やモニタリング機能)は、経営者が連帯
保証人であり、かつ、その経営状態が良い時でなければ働かず、一度経営に行き
411
詰まると債権者にとってもメリットがなくなる制度である。また、基本的な機能
である回収原資の拡大(ここでの保全機能)は、経営者が連帯保証人となる場合
にはそれほど期待できない。この 2 点から、連帯保証を経営者保証とそうでない
場合に分け、前者のときは良い経営状態を維持する限りで利用し、後者のときは、
あくまで回収原資として連帯保証人をとることが許容される限りで利用するとい
う、ひとつの「未来の姿」が浮かび上がってきそうだ。
4 近時の議論
さて、2013年現在、法務省においては債権法改正の議論が進行中だが、連帯保
証制度の在り方についてはどのような議論が繰り広げられているのだろうか。法
制審議会に参加している、特に実務家の発言は、連帯保証の現在を実際に目で見
ている方々の指摘であり、未来の姿を考えるうえでの有益な資料として参考にで
きるだろう。そこで以下では、法制審議会議事録を中心に、関連する提言等を含
めて、連帯保証制度に関する近時の議論に検討を加えていきたい。
【2010年 3 月法制審議会民法(債権関係)部会第 6 回会議】
連帯保証制度の在り方や見直すべき点について法制審議会で初めて議論され
た 。出された意見を大別すると、①連帯保証を廃止すべき、②保証人保護方策
31)
を強化して存続すべき、③現行制度のまま存続すべき、の三つの方向性に分類で
きる。
まず、①の意見は、連帯保証にまつわる悲劇の一番大きな原因を「消費者自体
が保証人になることで自分にどういう責任が来るかというのがほとんど分かって
ない」状況で連帯保証契約をしてしまうところに求めて、述べられたものであ
る32)。ただし、このような主張をしたのは消費者生活専門相談員の岡田委員のみ
であり、連帯保証が広く使われている現状を考えると、制度そのものの廃止は暴
論の感が否めない。
一方、現行制度のまま存続すべきという③の意見もあった。特に経営者保証に
関して、金融機関としては中小企業の財務諸表やコーポレートガバナンス機能を
どこまで信頼してよいのか分からないといった不安感から、「経営責任を自覚し
てもらうために企業経営者を保証人にとる」必要性が述べられている33)。また、
労働者の立場からは、経営者個人を連帯保証人とすることで労働債権を確保でき
るという観点から、経営者保証について現行制度の維持を求める声があった34)。
以上の①、③に対して、保証人保護方策を整えたうえで制度を存続させるべき
412 法律学研究50号(2013)
という中間的な意見が②である。中小企業の中には連帯保証を引き継ぐことへの
抵抗感から事業承継を躊躇し、事業承継に支障が生じていることもあるようで、
対策として保証人保護を拡充すべきとの意見が出ている35)。具体的な保護方策と
しては、(ⅰ)連帯の文字だけでなく、個別具体的な効果が明記され、その説明
を受けて理解した場合に連帯保証の効果を認めることにしてはどうか、(ⅱ)個
人保証について、過大保証債務の履行請求を制限してはどうか36)、
(ⅲ)連帯保
証人に催告・検索の抗弁を認めてはどうか37)、(ⅳ)適時執行義務のようなもの
を規律として設けてはどうか38)、などが挙げられた。さらに、債務者の資力が悪
化した場合に、債権者が主たる債務者プラス保証人の資力全体をみることによる
安易な貸付継続を防ぐ方策も必要ではないか、との指摘もあった39)。
【2010年12月第20回会議】
民法と商法及び学説の指摘をふまえて、事業者が経済事業の範囲内で保証をし
たときは連帯保証とする、との考え方が紹介された40)。しかし、会議では「経済
事業」等の概念の曖昧さが指摘されたにとどまり41)、本論文で特筆すべき議論は
なかった。
【2011年 4 月「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」決定】
改正すべき論点を中間的に整理したものが発表された。連帯保証に関しては、
催告・検索の抗弁や分別の利益が認められない連帯保証人は、通常の保証人より
不利な立場にあり、保証人保護の観点から問題があるため、連帯保証人の保護を
拡充する方策を検討することが確認された。保護拡充策の具体例としては、連帯
保証の効果の説明を具体的に受けて理解した場合にのみ連帯保証となるとすべき、
との意見が示されている。また、事業者が経済事業の範囲内で保証をしたときに
は連帯保証になるという考え方も提示されている42)。
【2011年 6 月パブリック・コメント受付開始】
中間論点整理に関する意見の募集が開始される。
43)
【2011年11月「中間論点整理に対して寄せられた意見の概要(各論 1 )」
配布】
6 月に集められたパブリック・コメントをまとめたもので、制度そのものの在
り方について、様々な考え方があることがうかがえる。
大別すると、①法人が連帯保証人となる場合にのみ認めるべき、②連帯保証の
効果の説明を具体的に受けて理解した場合にのみ認めるとすべき、③現行制度を
維持すべき、との三つの方向性に分類できる。
まず、①を主張したのは、金沢弁護士会消費者問題対策委員会、福岡弁護士会、
413
弁護士、日弁連消費者問題対策委員会所属の弁護士有志、日弁連、第二東京弁護
士会である。その理由としては、連帯することのリスクを十分把握できるのは法
人のみだ、個人連帯保証は社会的弱者が一方的に不利な立場を押しつけられてい
るに過ぎない、などがあった。
②を主張したのは、保証被害対策全国会議、札幌弁護士会、大阪弁護士会、弁
護士、愛知弁護士会である。個人に対してはこうあるべき、との意見もあり、長
島・大野・常松法律事務所有志の意見がこれだ。また、連帯保証の意味や効果に
ついて理解していることが証明可能な場合のみ可とすべき、との東京弁護士会法
友全期会の興味深い意見もあった。
なお、この程度の限定では情義的な動機による過剰な保証の問題の解決は図れ
ない、理解した場合に連帯保証となるというのでは、連帯保証の効力発生要件が
不明確になる、契約の性質が保証人の主観によって定まり債権者が極めて不安定
な立場に立たされる、との批判44)がある。
①、②とは逆に③を主張していたのは、㈳全国宅地建物取引業協会連合会、日
本貸金業協会、第一東京弁護士会、経営法友会である。主張の根拠としては、我
が国においては保証の大部分が連帯保証であるというのが現在の取引実務であり、
それを制限すれば実際の運用において無用な混乱が生じ、円滑な信用取引を妨げ
る、といったところである45)。
なお、経済事業の範囲内でする事業者の保証を連帯保証にするとの考え方に対
しては、事業者には個人も含まれるため、保証の原則形態を連帯保証とすること
は危険だとの理由から、反対する意見がほとんどであった。
【2012年 1 月日弁連「保証制度の抜本的改正を求める意見書」46)提出】
内容は、個人保証原則禁止とし、経営者保証、債権者と主債務者がいずれも事
業者でない場合、居住用建物の賃貸借契約における賃借人の債務を主たる債務と
する場合、法令が特に定めた場合をその例外とするものである。また、契約締結
時・締結後に保証人保護のための規制を設けることやフランスの比例原則を参照
することも求めている。
【2012年 3 月大阪弁護士会有志「保証の主要論点についての条文提案」発表】
連帯保証に関連するところとして、連帯保証契約の締結には、債権者が連帯保
証の具体的な効果を説明し、かつこれを契約書に規定することが必要とされた。
具体的には、分別の利益や催告・検索の抗弁権がないこと、及び請求に絶対効が
あることを明記し、説明義務があるものとすべきと提案されている47)。
414 法律学研究50号(2013)
【2012年 4 月部会44回会議】
連帯保証制度の在り方は審議項目とはなっておらず48)、制度の存続を前提に保
証人保護の在り方について議論されている49)。もっとも、鹿野・山野目両幹事か
らは、「連帯保証というものが極めて安易に用いられ、容易にその効力が認めら
れているような気がします。別のところで議論するのだろうと思いますが、連帯
の特約について、つまり、どういう場合に連帯という特約の効力が認められるの
かについては、検討する余地があるのではないか」50)、「自然人を保証人とする保
証の場合に、随意に連帯保証というものをすることを認めてよいのかということ
も引き続き議論される必要がある」51)との指摘があり、在り方そのものをもっと
論じるべきだとの意見が出されているのだが、その段階まで戻った議論はすすん
でいないようだ。
このように、連帯保証制度をめぐる議論は近時活発に行われており、連帯保証
の廃止、といったドラスティックな提言すら存在する。
確かに、連帯保証制度の現実の弊害を考えると、そのおおもとの原因を作って
いる制度そのものをなくしてしまうのが最も簡単かつ確実な方法かもしれない。
しかし、有用性の高さから今日広く使われているこの連帯保証制度を廃止すれ
ば、経済界に混乱を引き起こし、社会におけるお金の流れが滞ることで最終的に
一般消費者にしわ寄せがくることになるだろう。このように考えると、連帯保証
制度は存続させたうえで、いかにして弊害をなくしていくかを考えるのが妥当で
ある。
ここで弊害をなくすための方策として、「連帯保証の効果の説明を具体的に受
けて理解した場合にのみ連帯保証となる」といったものが中間論点整理やパブ
リック・コメントにおいて見られたが、これでは何をもって「理解した」と言え
るのかが曖昧である。
「理解していることが証明可能な場合に限り連帯保証とな
る」との興味深い提案もあったが、形式的な証明方法ではすぐ悪用する者が出て
くるだろう。何より、この方法では情義に基づいて連帯保証を引き受ける場合に
は何ら保護方策とならないため、不十分であると考える。
ここで、連帯保証制度をめぐる諸外国の状況に目を向けてみたい。連帯保証の
起源がローマ法にもあることから、日本以外にもその制度があると考えられるが、
同じような問題は起きていないのだろうか。何か対策が講じられているのだろう
か。法制審議会においても、保証人保護に係る規律を多く持つフランスをはじめ
海外の保証法制等を調査した報告書が提出されており52)、日本の連帯保証制度の
415
未来を考えるうえで示唆に富む考えを得られよう。以下では、フランス、ドイツ、
スイス、アメリカ、イングランドについて、各国の連帯保証制度と保証人保護方
策の有無、そしてその内容を中心に、各国の保証法制を見ていきたい。
5 諸外国の状況
連帯保証制度は債権者の便宜から生まれた仕組みであり、古くローマ法の時代
から存在していることから、諸外国においても同様の制度はあるようだ。以下で
は、各国の連帯保証制度と、保証人保護方策について考察していきたい。
( 1 ) フランス53)
フランスでは、保証人が債権者に対して、主たる債務者と連帯して義務を負う
ことを約した場合、に連帯保証人 caution solidaire になる。この場合、検索の利
益を有せず、保証人と主債務者は連帯共同債務者 codébiteur solidaireto と同様に
扱われる(2298条)。実際上、保証契約のほとんどすべてが連帯保証であると言
われており、日本と変わらない状況が浮かび上がる。
しかし、保証人を保護するために様々制度が整備されてきている。まず、連帯
保証契約は諾成契約だが、保証が商行為でありかつ証人に対する関係で証明が行
われる場合と、保証債務が800ユーロを超えない場合以外は、手書きした書面に
よらなければそもそも証拠として認められず、債権者は保証債務を主張できなく
なる。また、事業者と自然人の間で債務総額を制限しない保証契約が締結される
場合、それを連帯保証とすることはできない(消費法典 L. 341-345条)。そして、
債権者は少なくとも年 1 回、債務総額の推移や無期限の保証における任意解約権
を通知しなければならず、怠った場合は利息等に関する権利を失ううえ(通貨金
融法典 L. 313-322条、消費法典 L. 341-346条、民法2293条)
、主債務者の不払いが生じ
たとき、債権者は直ちに保証人に通知しなければならず、これを怠った場合にも
利息等に関する権利を失う(消費法典 L. 341-341条)。さらに、消費法典 L. 331332(債務超過状態の処理手続において債務者に留保されるべき最低限の収入額等に関
する規定)で定められた最低限の財産については、債権者は保証人に留保しなけ
ればならず(民法2301条)、保証債務と保証人の財産とが比例性(proportionnalité)
を欠くときには、債権者はその保証契約を主張することができなくなる(消費法
典 L. 313-310条、L. 341-344条)
。
このように、フランスにおいては日本とは比較にならないほど沢山の保証人保
416 法律学研究50号(2013)
護方策がある。もっとも、これらは一律に目的を「保証人保護」として作られた
のではなく、それぞれ異なる目的をもつ複数の特別法が、結果的に保証人の保護
を厚くする効果をもつに至ったものである54)。
( 2 ) ドイツ55)
ドイツでは、保証人の先訴の抗弁(債権者による主たる債務者に対する強制執行
が不奏功に終わるまで、弁済を拒絶できること) を排除する旨の合意を、書面で、
電子的方式に依らずに保証契約を締結した場合、連帯保証人となる(Bürgerliches
Gesetzbuch 766条、773条 1 項)。実務上広く用いられており、特に銀行との間の取
引で保証人が立てられるときは連帯保証が利用されることが一般的とされる。ま
た、保証人にとって保証が商行為である場合は、先訴の抗弁を排除する旨の合意
がなくても、連帯保証と同様に扱われ(商法349条)、日本と同じような状況である。
一方、保証人保護のための特別の規定は特には存在していないようだ。保証契
約の有効性は、良俗違反(138条 1 項)や約款規制に関する諸規定によって規律さ
れるのみで、判例においては、保証に関する債務者側のリスクについて債務者の
錯誤が惹起された場合や、債権者がそのリスクを意図的に小さく見せかけた場合
などに、教示義務を認めたことはあるが56)、債権者側の説明義務を定めた法律上
の規定もない。
なお、ドイツには、保証人の抗弁を全面的に排除して債権者の地位をより強く
した請求即払保証 Bürgschaft auf erstes Anfordern という保証形態がある。これ
は、保証人にとって重大なリスクを負うものであるため、判例において、銀行等
の信用供与機関による保証の場合にのみ認められることになっている57)。ここで、
保証人が請求即払の意味を理解しておらず、この点についての教示義務を債務者
が尽くしていない場合は、通常の保証としての効力しか認められないとされ58)、
この点は、参照に値する。
( 3 ) スイス
日本の連帯保証と同内容の契約を結ぶためには、保証人が責任の最高額ととも
に連帯責任の旨を保証証書自体に自筆しなければならず、責任額が2000スイスフ
ラン以上のときは公正証書が必要となる(Obligationenrecht 493条 1 項 2 項)。そし
て、既婚者の保証は、原則として配偶者の書面による同意が有効であることを必
要とし、保証内容の変更の際も配偶者の同意が必要となる(494条 1 項 3 項)。さ
417
らに、「連帯して(solidarisch)」という文言またはそれと同義の他の表現を加え
た場合でも、債権者はまず主たる債務者に催告しなければならず、保証人が弁済
期の到来時直ちに請求されることはない(496条 1 項)。
また、連帯保証人が責任を負うのは、債権の弁済が動産質・債権質の換価によ
るだけでは不足が生じることが換価前に裁判官によって予測されたとき、または
約定したとき、あるいは主たる債務者が破産したとき、主たる債務者に支払いが
猶予されたときに限られる(496条 2 項)。元来496条 1 項 2 項の規定内容はなかっ
たが、1941年の債務法改正時に盛り込まれたそうだ。
スイスの連帯保証制度は手続が煩雑であり、特に配偶者のいる者を保証人とす
ることには高いハードルを設けている。保証人だけでなく、その家族の生活の安
全まで考えたこの保証法制は、日本にそのまま持ち込まないとしても、その考え
方に学ぶべきところは多そうだ。
( 4 ) アメリカ59)
アメリカには、連邦および50州プラスαの法域(jurisdiction) が存在し、日本
における契約法は州法に含まれている。従って、保証に関するルールの多くは州
法で定められているのであるが、保証に関する制定法をもつ州は多くなく、保証
は判例法(common law)の形で存在する。この判例法を条文としてまとめて説明
と例を付したものがリステイトメント(Restatement)であり、1995年には保証法
リステイトメント(Restatement of Suretyship and Guaranty)が発表されている。以
下、これを参照して述べることとする。
日本における保証人に対応する者として、アメリカには伝統的に、主たる債務
者と同一の債務を負う surety と主たる債務者に債務不履行が生じた場合に責任
を負う guarantor の二つの種類があるのだが、実務上それほど差異はなく、いず
れのものも、債務者が債務不履行となった場合は、通常債権者は直ちに保証人に
債務の履行を請求できることになっている。そして、これが法律上の原則形態で
ある点が注目に値する60)。予め保証契約において取り決め(回収保証 guaranty of
collection)をしておけば、保証人は債権者に対し、まずは主たる債務者の責任を
追及するよう求めることができるが、保証契約を締結する利便性が損なわれるた
め、実際にこのような取り決めをすることは稀だと言われている。
保証人保護方策として、契約の締結に際して、詐欺または重要事項の不実告知
があった場合や一定の情報が提供されなかった場合には、保証人は保証契約を取
418 法律学研究50号(2013)
り消すことができることを挙げられる(保証法リステイトメント12条 1 項 2 項)。ま
た、メリーランド州、ニューメキシコ州、ルイジアナ州を除く州では、書面によ
ることが求められている。もっとも、不実告知等によって契約を取り消すことが
できたり、契約を書面により行わなくてはならなかったりするのは保証契約に限
られないので、特に保証人保護のためのものとは言えない。但し、裁判所におい
ては、保証人を保護する立場が宣言されており、ニューヨーク州の裁判所は「保
証契約の文言は、個人保証人に有利なように、厳格に解釈されるべきである」と
した61)。また、主たる債務者が更生手続を開始した場合に保証人に対する債権者
の回収活動に差止命令を出したものがあり62)、興味深い。
( 5 ) イングランド63)
イングランドでも、契約で別段の定めのない限り、主たる債務者が債務不履行
に陥った場合は、債権者は保証人に対し、主たる債務者に請求や執行を行ったこ
とを示すことなく、保証債務の履行を当然に求めることができることが判例法上
確立している64)。つまり、アメリカと同様、法律上の原則形態が日本で言うとこ
ろの連帯保証ということになる。
そして、1677年詐欺防止法(Statute of Frauds 1677 s. 4)の適用があり、捺印証
書または約因とともに書面をもって契約することが義務付けられているほか、個
人が保証人となる契約では1974年消費者信用法(Consumer Credit Act) により、
より厳格な書面要件が要求されており、保証人保護方策がいくつかあるようだ。
さらに、消費者信用法の規制を受ける契約の債権者は、保証人からの書面による
請求と 1 ポンドの手数料支払いに応じて、債務者が将来支払うべき合計額等の情
報を提供する義務を負い、債務不履行の通知を保証人に与える義務も負う65)。ま
た、判例では不当威圧の法理(undue influence) が確立しており、たとえば、主
たる債務者と保証人との間に信頼関係が存在し、保証人が主たる債務者の助言に
依存しているような関係において、主たる債務者がその信頼関係を利用し、公平
無私の助言を勧告せずに不利な保証契約を締結させ、さらに債権者がそれを認識
していた場合には保証人は保証契約を取り消しうるものとなる66)。なお、1977年
不公正契約条項法(Unfair Contract Terms Act 1977)や1999年消費者契約における
不公正条項規制(Unfair Terms In Consumer Contracts Regulations 1999)も保証契約
に適用され、保証人に不利な条項が不公正条項として規制されるとの考え方があ
るが、議論が分かれている67)。
419
( 6 ) 小 括
本節では、 5 カ国の連帯保証法制を概観したが、英米と大陸とで形式の差こそ
あれ、一般的には広く使われている制度であることが分かった。
まず、アメリカ、イングランドでは保証の法律上の原則形態が連帯保証である
という点は目を引く。両国において、日本のような弊害はないのか―連帯保証
債務を原因として自殺する者はいないか、など―、それを示す資料を手に入れ
ることができなかったのだが、いくらかの保証人保護方策を講じてその原則形態
を今なお変えずに存続させている事実から考えれば、日本のように自殺者が出て
いる等の弊害はないのではないかと考えられる。それには、両国の「約因」を契
約成立要件とする慣習や、他人の債務を負担することに対する日本人とは何か異
なる意識の存在が関係しているのかもしれないが、この点についての考察は他日
としたい。
一方、フランス、ドイツ、スイスでは日本と同様、連帯保証は保証の特殊形態
という位置づけであるものの、実際によく使われているのは連帯保証であること
が分かった。もっとも、フランスでは、保証人保護法制が整っていたり、スイス
では連帯保証契約成立のための形式要件が厳格であったりと、市民が連帯保証と
いうものへの警戒感を抱きやすいような制度が構築されているという点は付言し
ておく。
以上のことから、連帯保証をとりまく諸外国の状況としては、次のようにまと
められる。①連帯保証を保証の原則形態とする英米型、例外とする大陸型がある
が、②大陸型であっても実際の取引社会で「原則形態」となっているのは通常の
単純保証ではなくむしろ連帯保証であり、③全体としてみれば、連帯保証は、保
証の最もスタンダードな形として広く世界で利用されている。
Ⅳ 未 来
1 前 提
Ⅲで述べたとおり、連帯保証はその利便性ゆえに広く世界で使われている、保
証の最もスタンダードな形態である。そして、Ⅱで論証したように、日本におい
てもその利便性は古くから着目されており、取引社会に求められて制度化された、
いわば保証の草の根的形態でもある。しかしながら、日本では連帯保証で人生を
狂わせてしまうという悲劇が後を絶たない。これは、確かに連帯保証が市民の
420 法律学研究50号(2013)
使っていた特約を立法化したものではあるが、それを知っている人と知らない人
とが当然存在しており、「こんなことになるとは思いもしなくて」とか「知って
はいたけど断れなくて」という事情から連帯保証契約を結んでしまうからである。
では、悲劇を少なくするにはどうしたらよいのか。
そこで、こういった場面が生まれる原因を考えてみる。
まず一つには、契約、特に連帯保証契約の意味や危険性が十分認知されていな
いことが考えられる68)。契約が当事者の合意で成り立つことや、連帯保証契約を
結んでしまったら、債務者の借金を全額即時に肩代わりしなければならないこと、
もしそれができなければ自分の家や土地が競売にかけられてしまうこと―これ
が分かっていたら、安易に連帯保証契約を結んでしまうことも少しは減るのでは
なかろうか。従って、契約とは何か、連帯保証とは何かといったことを共有認識
とするための法教育が必要だということになる。
また、もう一つ理由を挙げるとするならば、日本人の法や契約に対する主体性
69)
が弱いことを指摘できるだろう。勝間和代氏の『断る力』
が注目を浴びたこと
からも、日本人にはどこか、断ることに躊躇してしまうきらいがあるのかもしれ
ない。仮にそうしたものがあるとすれば、日本の法制度としては、これを一定程
度配慮したものであってしかるべきである。
2 あるべき姿
しかし、筆者の考える連帯保証のあるべき姿は、こうした国民性に配慮した保
証人保護方策で保証人を守りながら運用されていくというものではない。そうで
はなく、上で一つ目に述べた原因に対処する形、つまり、契約とは何か、連帯保
証とは何かといったことを市民の共有認識とし、そのような正しい知識の普及し
た社会で連帯保証制度が運用されるというのがあるべき姿だと考えるのである。
なぜなら、たとえ断ることができないとは言っても、初めから果たすことのでき
ない約束をするのは断るよりもっと不誠実だと思われるし、連帯保証というもの
を知ったうえで「債務全額はとてもお支払できません」と言う者とは債権者も連
帯保証契約を結ばず、安易な契約締結による悲劇はなくなると考えられるからで
ある。これでは、債務者の資金調達の道が閉ざされてしまう、との批判が予測さ
れるが、今日では保証以外の担保制度が整備されているし、こうした制度のもと
でも誰も融資してくれないのであれば、安易に多額の借金をするのではなく、事
業計画自体を見直す必要があるのではないかと思われる。
421
2003年 7 月より法務省においては、学校教育における司法及び法に関する学習
を充実させるため、それらの教育について調査・研究・検討を行っている。そし
て、その結果が、2004年11月に法教育研究会「報告書」として発表された70)。こ
の報告書では、法教育とは、「法律専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、
これらの基礎になっている価値を理解し、法的なものの考え方を身に付けるため
の教育」と定義され、「国民一人ひとりが自由な活動を行っていく上で、法及び
司法が果たすべき役割について理解を深め、あらかじめ紛争を予防し、また、紛
争を適切に解決するために必要な、基礎的な素養を身に付けるためのものである
と同時に、国民一人ひとりが自由で公正な社会の担い手として、公共的な事柄に
主体的に参加する意識を養うものでなくてはならない」とされている。
これを受けて、法務省は法教育の普及・推進を図るため、2005年法教育推進協
議会を発足させ、学校教育における法教育の位置づけ等が検討された。ここでの
検討は学習指導要領の改訂にも反映されており、2011年度から順次全面的に実施
される新学習指導要領においては、充実した法教育が盛り込まれている。具体的
には、小学校 3 ・ 4 年では、従来扱ってこなかった「法」やきまりの意義を学習
することになった71)。この学年でも理解しやすい道路交通法等を取り上げて、何
のために法やきまりがあるのかを理解させるのが目的である。また、中学校では、
対立から合意に至るまでのプロセスを体験させたり、その合意が効率的な最善の
ものか、内容は公正かを考えさせることで、紛争処理の際に必要となる思考の枠
組みを学ぶ72)。そして、高校では、現代社会における諸課題を扱う中で法に関す
る基本的な見方を身に付けさせ、経済活動を支える司法に関する基本的な考え方
にも触れるとされている73)。
まだ始まったばかりではあるが、法教育は、法務省の取り組みを中心として、
全国の法曹や教育関係者の課題となっている74)。大人一人ひとりが意識的に法教
育に取り組んでいくことで、将来的には日本人の法意識の底上げが期待できるだ
ろう。
3 過渡期の制度として
もっとも、法教育の成果が現れるまでには時間がかかる。また、正しい法知識
の普及した社会への過渡期においては、情に厚い「良い人」を守る視点も取り入
れられるべきだ。そこで筆者は、本章の冒頭で示した問題に対処する仕組みとし
て、説明義務、経営者保証の制限、過大保証の取立制限の 3 点を提示する。簡潔
422 法律学研究50号(2013)
に述べれば、債権者に一定の説明義務を課し、また、経営者保証を制限したうえ
で、保証債務が連帯保証人の支払能力と比較して明らかに過大な場合は、過大な
部分についての保証債務の履行を債権者は主張できないとすべき、との提言であ
る。以下、順にそれぞれを詳述する。
( 1 )連帯保証契約を締結する際、主たる債務の総額を連帯保証人となるべき者
に示し、万一のときはその全額を請求する旨を口頭で説明する義務を債権者に課
す。
連帯保証には回収原資の拡大という魅力的な機能があり、それは債権者の融資
行為の萎縮を防ぎ、経済全体の活性化を支えているとも言える。一方には、連帯
保証制度による被害が絶えないという現実があるが、それは連帯保証人の法律の
無知に起因するもので、法律の無知が招いたトラブルの責任は無知なる連帯保証
人自身が負うべきだ、との意見もあるだろう。しかしながら、連帯保証契約の効
果が一般市民の常識にはなっておらず、その知識が普及するまでの過渡期の連帯
保証被害の防止策が必要だ。そこで、連帯保証人が最悪の場合に請求される債務
の総額を示し、この額を請求する旨を連帯保証人となるべき者に口頭で説明させ
る義務を債権者に課すのがよいと考える。
これに対しては、保証人となるすべての者が保証に係る取引に疎いわけではな
く、契約の効果や保証人が負うリスク等の説明義務を一律に課すことは、ただ手
続を煩雑にするだけとの指摘もある75)。しかし、「債務総額を示し、その全額を
請求する可能性がある旨と口頭で説明する」程度の最小限度のリスク説明をすべ
ての場合に義務付けても、それほど手続が遅滞することもなかろうし、こうした
義務を債権者に課すことは、連帯保証契約による被害の防止を喚起し、契約の効
果に関する知識の普及にも資するため、ひいては法律の無知によるトラブルをな
くすことにもつながるだろう。
なお、連帯保証契約書を手書きで書かせる、いわゆる手書きルールを導入する
との考え方もあるが。これに対しては、日本で導入したところであまり効果はな
いのではないかとの指摘があり76)、筆者の考えもほぼ同様である。手で書いたと
ころで、実際に書いたものの意味が認識されなければ意味はないからだ。もちろ
ん、上述した債務の総額、及びその全額を請求する可能性がある旨を手書きさせ
るとの規定を設ける精神には賛同するが、形式要件の厳格化は円滑なお金の流れ
を阻害する恐れがあるため、債権者による口頭での説明で足りるとすべきである。
423
( 2 )経営者は、停止条件付連帯保証契約による場合を除いて、経営する企業の
連帯保証人になることはできないこととする。
経営者がその経営する企業の連帯保証人になる場合、Ⅲ 3 で述べたように企業
の信用状態と行動を一定程度担保する(シグナリング機能とモニタリング機能が働
く)が、それは企業の経営状態が良いときに限られ、一度経営が行き詰まれば保
証の基本的な機能である(債権の)保全機能すら期待できない。しかし、経営状
態がよい場合に連帯保証が果たす経営規律の効果は十分期待でき、それを使わな
い手はない。そこで、停止条件付連帯保証契約による場合にのみ、経営者がその
経営する企業の連帯保証人になることを認めることとすべきである。この停止条
件付連帯保証とは、経営者が法令を遵守しない場合や噓をついた場合を連帯保証
人の責任を発生させる停止条件として、経営者の連帯保証責任を融資契約に組み
込むもので、連帯保証の経営規律効果をうまく活用した制度として現実に一定の
利用実績を上げている77)。この停止条件付連帯保証の一番の特色は、経営者が誠
実な行動をしていれば連帯保証人になることはない、という点であり、この場合
にのみ経営者保証を認めるとすることで、連帯保証制度の有用性を活かしつつ、
債権回収を見込めない状況下にある誠実な経営者に不可能を強いるケースを減ら
すことができるだろう。
( 3 )支払請求時の連帯保証人の支払能力に照らして明らかに過大な保証債務は、
その過大な部分に限り、債権者は弁済を請求できないこととする。
これに対しては、過大とはどの程度のことを指すのかが曖昧であり、保証債務
の履行請求の可否が不明確にならざるを得ない、支払能力の評価そのものが困難
である、その評価のために保証人及び主たる債務者側から供された資料に虚偽が
あった場合のリスクは負うべき適当な人がいない、という批判もある78)。しかし、
連帯保証債務を苦として自殺する者が実際に存在することを考えると、現実問題
として支払うことができないにも拘わらず情義的事情等によって連帯保証人にな
らざるを得なかった者を過酷な取立てから守るセーフティネットが必要であり、
またその取立ては連帯保証人自らの借金ではなく、あくまで債務者の身代わりと
して取立てを受けているのだから、借金帳消しを認めることになるセーフティ
ネットを敷くことにも十分な許容性があると言えるのではないか。「個人保証に
対する規制は、何より、その内容に対する規制を伴ってこそ初めて規制としての
本質的な意義を発揮する」79)。従って、連帯保証人がどうやっても支払えないよ
424 法律学研究50号(2013)
うな過大な債務は、過大である部分のみ、債権者の取立てを認めないこととすべ
きだ。
なお、ここでは、過大な保証債務は無効とする、とか、そのような過大な融資
をした債権者側に民事責任を負わせる、といった保証債務の制限方法も考えられ
る80)。しかし、これらの方法では債権者の融資行為を萎縮させ取引の安全も損な
われる。従って、過大だ、と裁判所が個別具体的に判断した部分のみ取立てを制
限することで、債権者側の過大な融資を抑制しつつ、連帯保証人を過酷な取立て
から守るのが、債権者・保証人双方の経済活動のバランスを考えた最善の方法で
あろう。
Ⅴ おわりに
法の理念は正義である。
17世紀の市民革命以来、各人は自らの権利義務は自らが決するものとされてき
たが、資本主義経済の発達に伴って現実の不平等が顕在化し、法もその対処のた
めに様々な展開を遂げてきた。
本論文で扱った連帯保証は、今、展開の瀬戸際に立たされている分野である。
現在に至るまで経済を支える重鎮的役割を果たしてきた一方で、過剰な負担を連
帯保証人に負わせ、その命を絶たせる要因ともなっており、制度のあり方に再考
が求められているからだ。その再考にあたっての参考資料を提示することが本論
文の一義的な目的であるのだが、最後に、我が学部 4 年間を総括する気持ちを込
めて、知識を有する者はその知識を紳士的に使わなければならないということを
主張しておきたい。
本論文執筆にあたって読んだ文献や、連帯保証にまつわるトラブルに巻き込ま
れそうになった方の話からも強く感じたのだが、知識のある者がない者に対して、
自分と同じレベルの耐性を前提としてする行為は暴力と同じではなかろうか。た
とえば、連帯保証を学んだ人が、「慣行だから」と言って、契約の効果すら正確
に知らない者を相手に連帯保証契約を結び、後になって莫大な債務の弁済を請求
する。これは、格闘家が一般人を相手に技を仕掛けることに等しく、正義にかな
うとは到底言えまい。もちろん、市民が知識という体力をつけることも大事な課
題である。しかし、社会の複雑化や科学技術の進歩に対応して法律の数が膨れ上
がっていることや今後もそれが予想されること、また、法教育がそれほど進んで
425
いないことを考えると、法律を学んだ者の他者を配慮する紳士的態度こそ、法が
理念としてもつ正義の実現のために不可欠だと思われてならない。恵まれて法律
学をかじった身として自戒をこめつつ、本論文の結びとしたい。
1 ) 鶴井俊吉「ドイツ法における保証制度の概略」手形研究334号(1982)30頁。
2 ) 船田亨二『ローマ法入門〔新版〕オンデマンド版』有斐閣(2001)167頁。
3 ) ゲオルク・クリンゲンベルク(瀧澤栄治訳)『ローマ債権法講義』大学教育出版
(2001)154頁。なお、その後ローマ法を基礎として大陸各国で法典が編纂されて
いくが、その取り入れ方は異なっており、各国の保証制度には違いがみられる
(Ⅲの 4 で後述)。
4 )「保證人ハ明示又ハ默示ニテ財産檢索ノ利益ヲ抛棄シ又ハ主タル債務者ト連帶シ
テ義務ヲ負擔シタルトキハ檢索ノ利益ヲ享ケス」現代法制資料編纂会編『明治
『旧法』集』国書刊行会(1983) 4 頁より。
5 )「保證人カ明示又ハ默示ニテ財産討索ノ利益ヲ抛棄シ又ハ主タル抛債務者ト連帶
シテ義務ヲ負擔シタルトキハ保證人ハ討索ノ利益ヲ享ケス」ボワソナード民法典
研究会編『再閲修正民法草案註釈第 4 編』雄松堂出版(2000)40頁より。
6 ) 商事法務研究会「法律取調委員會民法草案財産編取得編議事筆記」
(日本近代立
法資料叢書九)457頁。
7 ) 商事法務研究会「第六十九回法典調査会議事速記録」(日本近代立法資料叢書三
所収)440頁。
8 ) 中田薫「我古法に於ける保證及び連帯債務」『法制史論集[第二版]第三巻上』
岩波書店(1971)118頁。
9 ) 藤原明久「明治前半期における連帯債務法―フランス民法継受の諸相―」神戸
法学雑誌46巻 3 号(1996)455頁、「明治二三年旧民法と判例連帯債務法の展開」
神戸法学雑誌47巻 3 号477頁。
10) 司法省編『司法省指令録民事部第24號』15頁(『司法省指令録民事部第 1 号 - 第
33号』博聞社(1877)251頁、国立国会図書館近代デジタルライブラリーより)。
11) 司法省編・前掲指令録10)民事部第24號17頁(前掲指令録民事部第 1 号 - 第33
号252頁)。もっとも、当時の司法省は連帯保証人を連帯債務者と(誤って)理解
していた。司法省編・前掲指令録18頁。
12)『大審院民事判決原本』明治27年 4 ・ 5 月分、第一民事部。
13)『大審院民事判決原本』明治27年自 6 至 9 月分、第一民事部。
14) 明治 8 年司法省第 9 号達(内閣官報局『法令全書』(1875)1769頁、国立国会図
書館近代デジタルライブラリーより)。
15)『諸府県各裁判所上申書第 6 号』(1876)。
16)『所府県各裁判所上申書第 2 号』(1876)の凾館裁判所上申「一、金穀ノ借主違
約等及出訴節ハ負債者受人証人一同済方可申付事」によれば、借主の身代限(借
金の返済ができなくなった債務者に対し、公権力の命令でその財産の全部を債権
426 法律学研究50号(2013)
者に与えて債務の返済にあてさせること。『大辞林』三省堂より)まで受人請人
(保証人のこと)に請求できないというのは、日にちがかかりすぎ、請人がいな
くなったり曖昧になったりして紛争になるので、借主受人請人連名で請求できる
ようにしてはどうか、とある。
17) 1864年生まれ。1886年帝国大学法科大学を卒業後、判事試補として横浜始審裁
判所詰を命じられる。その後、政治家、実業家として活躍した。nichigai web
service(『WHO』
、『人物レファレンス事典(日本)』
、『近代日本の先駆者』、『海
を越えた日本人名事典』)を参照。
18) 中橋徳五郎「身代限ノ原由ヲ論ズ」法学協会雑誌37号(1887)31頁。
19)『規則累算.乙』慶應義塾出版社(1879)259丁(182頁、国立国会図書館近代デ
ジタルライブラリーより)。
20) なお、第102號布告は、明治民法施行に伴って制定された明治31年 6 月法律第11
号民法施行法により廃止されるに至る。
21) なお、明治初期、連帯保証制度そのものの理解―これはそもそも保証なのか、
連帯債務なのか―が錯綜していたのだが、明治民法制定の頃には確立している。
大判明治31年 2 月17日民録 4 輯 2 巻27頁では、連帯保証が債権者の担保をより確
実にするための特別の保証である、との理解が示され、大判明治31年 4 月29日民
録 4 輯 4 巻81頁でも、連帯保証は保証契約として結ばれた一種の特約であり、保
証債務は主たる債務と運命を共にする(附従性をもつ)と判断した。これは、ボ
ワソナードが持ち込んだフランス法、そして彼の草案に沿って起草された旧民法
に学んだ理解であると考えられる。藤原明久「明治二三年旧民法と判例連帯債務
法の展開」神戸法学47巻 3 号540頁参照。
22) 銀行や商社の法務部、学者ともに認めるところである。「座談会債権法改正にお
ける『保証』の論点」事業再生と債権管理134号(2011)36頁等で三井住友銀行
法務部長は「世の中の保証のほとんどが連帯保証」と、丸紅法務部担当役員補佐・
参与は「取得する保証は、ほとんどすべてが連帯保証」と述べているし、星野英
一『民法概論Ⅲ』(1978)191頁にも同様の記述がある。
23)「貸出金の担保別残高・構成比(全国銀行2012年 3 月末)」ニッキンレポート
1254号(2012)17頁。
24) 金田一春彦ら監修『日本語大辞典』講談社(1991)、『デジタル大辞泉』小学館
(ジャパンナレッジプラスより)を参照。
25) 社団法人全国信用金庫協会企画部『平成22年度全国信用金庫財務諸表分析』
(2011)22頁。
26)(保証を担保とする貸出金残高の合計)÷(有担保貸出残高の合計)。
27)「連帯保証人法改正へ動き」朝日新聞2012年 2 月11日朝刊31面、北健一「『平成
の奴隷契約』を廃絶せよ! ― 連帯保証地獄からの救済の道」中央公論50巻 6 号
(2006)212頁、北村龍行「連帯保証人―近代以前の亡霊が人々を窮地に追い込む」
毎日新聞2003年 8 月13日朝刊 5 面など。
427
28)「平成23年中における自殺の状況(付録 1 年齢別、原因・動機別自殺者数②)」、
警察庁ホームページ http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/H23jisatu-huroku.pdf
参照(2013/ 1 /25)。
29) 小出篤「中小企業金融における人的保障の機能」(黒沼悦郎ら編『企業法の理論
(下巻)』商事法務(2007)所収)を参照。
30) なお、小出教授は前掲論文の中で、経営に関する情報の乏しい「経営者以外の
第三者」が企業の連帯保証人となることには、上記ほどのコスト削減効果はなく、
期待できるのは保全機能のみではないかと述べている。
31) 民法(債権関係)部会資料 8 - 2 民法(債権関係)の改正に関する検討事項( 3 )
詳細版62頁(部会第 6 回配布)。
32) 部会第 6 回議事録30頁、消費者生活専門相談員岡田ヒロミ委員発言。
33) 前掲議事録32)31頁、㈱三井住友銀行法務部長三上徹委員発言。
34) 前掲議事録32)48頁、日本労働組合総連合会総合労働局長新谷信幸委員発言。
個人保証については、保証人の保護を強化すべきだとしている。
35) 前掲議事録32)48頁、㈱千疋屋総本店代表取締役社長大島博委員発言。
36) 順に、前掲議事録32)56頁、39頁。弁護士(大阪弁護士会所属)中井康之委員
発言。
37) 順に前掲議事録32)46頁(弁護士(東京弁護士会所属)高須順一幹事発言)、44
頁(慶應義塾大学教授鹿野菜穂子幹事)。鹿野幹事は、これを強行法規的に認め
てはどうかと述べている。
38) 前掲議事録32)43頁、弁護士(第二東京弁護士会所属)深山雅也幹事発言。
39) 前掲議事録32)44頁、東京大学教授道垣内弘人幹事発言。
40) 部会資料20- 2 検討事項(15)詳細版22頁(部会第20回配布)。
41) なお、連帯保証に関して言及したのは岡委員のみである。部会第20回議事録48頁。
42)「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理(以下、中間論点整理と記
す)」43頁、法務省ホームページ http://www.moj.go.jp/content/000074384.pdf 参
照(2013/ 1 /25)。
43) 部会資料33- 2 「中間論点整理に対して寄せられた意見の概要(各論 1 )」721頁
(部会第35回会議配布)。
44) 順に、全国青年司法書士協議会ら、最高裁判所、㈳全国信用金庫協会の指摘。
部会資料33- 2 「意見の概要」724、728頁。
45) 前掲部会資料44)729頁。
46) 日 弁 連 ホ ー ム ペ ー ジ http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/
data/2012/opinion_120120.pdf 参照(2013/ 1 /25)。
47) 大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志「保証の主要論点についての条文提
案」(部会第43回会議委員等提出資料)15頁。
48) 部会資料36民法の改正に関する検討事項( 8 )(部会第41回会議配布)参照。
49) 部会第44回議事録を参照。
428 法律学研究50号(2013)
50) 前掲議事録49)15頁。
51) 前掲議事録49)23頁。
52) 商事法務「諸外国における保証法制及び実務運用についての調査研究業務報告
書」(2012)http://www.moj.go.jp/content/000097107.pdf 参照(2013/ 1 /25)、法
制審議会民法(債権関係)部会資料36民法の改正に関する検討事項( 8 )別紙比
較法資料(2012)(以下、「【36】」)という) 6 頁以下参照。
53) 上井長久「フランス法における保証制度の概略」手形研究334号(1982)25頁、
前掲資料52)10頁(石川博康執筆担当部分)参照。
54) 大澤慎太郎「保証人保護の問題―連帯債務・保証その 3 」法時84巻 8 号(2012)
19頁、
「フランスにおける保証人の保護に関する法律の生成と展開( 1 )
( 2 ・完)」
比較法学42巻 2 号(2009)47頁、42巻 3 号(2009)25頁参照。
55) 鶴井・前掲論文 1 )30頁、石川・前掲資料52)15頁参照。
56) BGH WM 1996, 944; NJW 1988, 3205; 1997, 3230; BGHZ 165, 363.
57) BGH ZIP 1990, 1186.
58) BGH NJW 1992, 1446; 1998, 2280.
59) 商事法務・前掲報告書52)113頁以下参照。
60) 田井義信「英米法における保証制度の概略」手形研究334号(1982)22頁、前掲
資料52)18頁(石田京子執筆担当部分)参照。
61) 商事法務・前掲報告書52)139頁。
62) F.T.L., Inc. v. Creaster Bank (In ReF. T. L. Inc), 152 B. R. 61 (Bankr. E. D. Va. 1993).
63) 商事法務・前掲報告書52)95頁以下参照。
64) 田井・前掲論文60)22頁、石田・前掲資料52)20頁参照。
65) 商事法務・前掲報告書52)107頁。
66) 商事法務・前掲報告書52)98頁。なお、債権者と保証人の間に信頼関係がある
場合について、保証人からの保証契約の取消しを認めたものとして、Lloyd v.
Bundy [1974] 3 All E.R. 757 (C.A.) がある。
67) 商事法務・前掲報告書52)108頁。
68) なお、これには、契約や法に対する主体性が日本人の間に育まれていないこと
とも関係しているだろう。というのも、かつての日本においては、法は私たちに
与えられてさえもいなかった。徳川家康が「民をして依らしむべし、知らしむべ
からず」と言ったとされることに象徴されるように、かつての法は国民のもので
はなく、法は裁判をする役人のためのものに過ぎなかった。明治維新後の法典の
名宛人も国民ではなく官吏であったことが、1870年に発布された刑法典『新律綱
領』が「内外有司其之を遵守せよ」という言葉で結ばれていること等から分かる。
つまり、国民の「法は自分たちのものである」という意識が生まれるきっかけが
そもそもないまま法と出会い、「法はお上から与えられたもの」程度の認識が長
きにわたってあったというわけである。それに対して、西洋における法は、市民
が革命を経て作り出したものである。そのため、自分たちが法の担い手であると
429
いう意識が高く、自らが義務を負担する契約に対しても慎重になり、安易に連帯
保証契約を締結しないとも考えられる。
69) 文春新書(2009)。
70) 橋本康弘「新学習指導要領における法教育―法教育に関して法律実務家に求め
られること」法ひろば65巻17号(2012) 4 頁、岡田志乃布「法務省における法教
育の推進―法教育推進協議会の活動を中心とした法教育全体を巡る回顧と展望」
法 ひ ろ ば65巻17号(2012)11頁、 文 科 省 ホ ー ム ペ ー ジ http://www.moj.go.jp/
content/000004217.pdf より(2013/01/21)。
71) 文部科学省『小学校学習指導要領』(2011)36頁。
72)『中学校学習指導要領』第 2 章第 2 節〔公民的分野〕
、文科省ホームページ http://
www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/chu/sya.htm より(2013/ 1 /21)。
73) 文部科学省『高等学校学習指導要領』(2009)48頁。
74) 法教育への民間の取り組みとして、「法に関する教育教材開発研究会」の取り組
みを挙げられる。この研究会は、社会化教育が専門の大学教員らで構成されてお
り、2012年 6 月には「新学習指導要領における『法教育』のあり方を問う―『対
立と合意、効率と公正』『幸福、正義、公正』と事例にして―」をテーマに、中
学校社会科や高校項民化の研究者 3 名が授業プランを提案した。内外教育6175号
(2012) 6 頁を参照。また、第一東京弁護士会法教育委員会委員の鈴木啓文「子
どもたちのための法教育」日本教育法学会年報41巻(2012)52頁も参照。
75) 大澤・前掲論文54)(2012)21頁。
76) フランスにおいては手書きの意味が重い。山野目・前掲論文 9 頁によれば、フ
ランスでは「自書は、いわば人格をかけてするものであり、そうであるからこそ
保証文言を自書させることに特段の効果が期待される」が、日本でこれを導入し
ても「債権者は根気よく保証人となろうとする者が自書することを待つであろう
し、保証人となろうとする者も、ときに律儀に応じてしまうのではないか」と考
えられる。
77) 中村廉平「中小企業向け融資における経営者保証のあり方について―コベナン
ツに基づく『停止条件付連帯保証』の有用性」銀行法務720号(2010)14頁。
78) 資料中の虚偽の有無に拘らず過大保証は一律に禁止するということになると、
保証制度は極めて不安定なものになるであろう。一方、資料中の虚偽のリスクを
債権者が負わないということになると、過大保証の禁止によって保証人を保護す
ることの意味が失われかねない(大澤・前掲論文21頁参照)。
79) 山野目章夫「フランス保証法における過大な個人保証の規制の法理」法制審議
会 民 法( 債 権 関 係 ) 部 会 第44回 委 員 等 提 供 資 料 9 頁 http://www.moj.go.jp/
content/000097381.pdf 参照(2013/ 1 /25)。
80) フランスにおける過大な保証禁止ルールは、そもそも金融機関―自然人たる保
証人間で結ばれた保証契約にのみ適用されていたものであり、2003年に、事業者
たる債権者―自然人たる保証人間で結ばれるすべての保証契約へと(それ以前の
430 法律学研究50号(2013)
判例の展開を覆す形で)適用領域が拡張されたことについては、疑問の声があ
がってはいる。ピェール・クロック(平野裕之訳)「フランス法における保証人
に対する情報提供―近時の状況及び将来の改革の展望」慶應法学 2 号193頁。
※註で挙げたもののほか、次の文献からも示唆を得た。
池田真朗『新標準講義民法債権総論』慶應義塾大学出版会(2009)
池田真朗『民法はおもしろい』講談社現代新書(2012)
大村敦志ほか編著『法教育のめざすもの―その実践に向けて』商事法務(2009)
神戸大学法政策研究会『法政策学の試み―法政策研究第13集』信山社(2012)
団藤重光『法学の基礎〔第 2 版〕』有斐閣(2007)
橋爪大三郎『人間にとって法とは何か』PHP 新書(2003)
山吹繁『連帯保証人―ノンフィクション』東京図書出版会(1999)