こちら - 神戸大学MBA

2005 年 8 月 20 日
2005 年度プロジェクト実習
報告書
~「遊び」を「真面目に」提供するラウンドワン~
装置産業(複合レジャー施設運営)の多店舗展開を支える顧客接点のリ・デザイン
チーム名:「Round9(キュー)」
友金容崇
中島丈敬
中谷晴香
中塚紋太
西田直基
- agenda 1.はじめに
2.ラウンドワンの概要
3.顧客接点の特徴
4.リ・デザインの源泉
5.競合他社との比較
6.まとめ
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1. はじめに
いくつもの繁華街にみられるきらびやかなビル,派手なロゴ,奇抜なCMで登場した「ラ
ウンドワン」はそれまで存在した「おらが町の○○ボウル」とは大きく違ったボウリング
場のイメージを作り出した。同社の提供するエンターテイメント空間に足を踏み入れると,
そこにはボウリングレーンだけでなく,ゲームセンターやカラオケ,ビリヤード,バッテ
ィングセンターなどレジャースタジアムがあり,お客様を飽きさせない大小様々な仕掛け
が用意されている。どこにでもあるありふれたレジャーでも、ラウンドワンのスタイルで
提供すると、また新たな楽しみを発見できるように早変わり!
そのような店舗を 10 年強でまたたく間に 50 店近くまで拡げ,さらなる進化を続ける「ラ
ウンドワン」
。お馴染みのボウリングというスポーツを通じたお客様との接点を巧みにリ・
デザインして成長を遂げたその仕組みについて考察を行なう。
2. ラウンドワンの概要
ラウンドワンは、「ボウリング・アミューズメントを中心とした屋内型複合レジャー施設
の展開及び運営」を行っている企業である。会社設立は 1980 年 12 月、資本金 9,033,027
千円(2005 年 3 月現在)
、年商は 345 億円、従業員数は 2005 年 3 月現在で 515 名(正社
員)と、約 1,768 人の期間契約社員が従事している。本社は堺駅前ポルタスセンタービル
14F にあり、社長は杉野公彦氏(43 歳)、創業者である。
2.1.
歴史
ラウンドワンは事業開始直後から急成長したわけではない。試行錯誤の期間を経た上で、
現在の成長路線に進んでいる。
事業の前身は杉野公彦氏の父親が経営していたローラースケート場を譲り受けて運営す
ることから始まった。1980 年 12 月、杉野氏は大学を出たばかりであった。当時すでにロ
ーラースケートはブームも下火である上、譲り受けた施設は古く、「クーラーは一機しかな
くて室温 40 度を超える中でお客様にローラーさせていた(苦笑)」
(杉野社長談)ため、ま
さにゼロからのスタートであったと思われる。
譲り受けた際に、資金を入れてもらい、クーラーを付け足したり、内装を少し綺麗にし
たり改修してオープンさせたものの、やはり客足は遠く、経営は厳しかった。そんな中で、
中古レーンを買い取ったボウリング場を併設した後から、徐々に、ローラースケート場ボ
ウリング場にアミューズメントコーナーを併設するなど少しずつ工夫をしながら、現在の
ラウンドワンの店舗の原型を作っていった。「もう、完全に手作りでしたね。アミューズメ
2/23
ントの台なんか、自分で塗り替えたりして」(杉野氏)
今のラウンドワンからは想像もつ
かないが、社長の話からは、かなりうらさびしい古ぼけたボウリング場のイメージである。
しかし、杉野社長たちのちょっとした手直しや工夫が効を奏したのか、じわじわ客足が伸
びてくる。
手ごたえを感じはじめるや、即二号店を出店。1990 年のこと。それでも、ローラースケ
ート場の一号店スタートから 10 年が経っていた。二号店は今の堺市の中古ボウリング場の
賃借だった。これも成功する。さらに 3 年後、遂にこのフォーマットでの事業化を思い切
る。杉野社長とその仲間(1名のようである)で、株式会社ラウンドワン設立と相成った。
1993 年のことである。ラウンドワンと言う名称と、
「O」の中のボウリングのピンのマーク
を決定したのもこのときである。
1994 年にはじめての自社物件による「泉北店」をオープンし、その後は年 3.5 店ペース
で出店を重ね、1999 年には年商 100 億(単独)を突破、大証一部に指定替えを果たす。2000
年以降、関東、中国地方へと出店領域を広げ、現在関東から西で全 49 店舗を数える複合ア
ミューズメント施設の一大チェーンとなっており、計画では今後 3 年間で 40 店舗を新規出
店し、2008 年には 87 店舗、2009 年には 100 店舗を目指す計画である。
(店舗展開の状況は下の図の通り)
(ラウンドワンHPより転載)
3/23
事業の沿革として公表されているものを以下に図示する。
(ラウンドワンHPより転載)
いまや、年商 300 億上場一部の全国規模のアミューズメント企業として名をはせるラ
ウンドワンであるが、ここで紹介した草創期の杉野社長の原体験が、ここまで事業を展開
してきた上で、精神的なバックボーンになっているのは間違いない。
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事業内容:有価証券報告書に記載されている、事業内容は以下の通りである。
3【事業の内容】
当社は、ボウリング・アミューズメントを中心とした複合型レジャー
施設を日本国内に展開しております。
当社の事業内容は次のとおりであります。
主要な収入は、ボウリングゲーム収入・貸靴収入・ビリヤード収入・
卓球収入・ストライクゲーム収入・バッティングゲーム収入・各種ゲーム
機収入(体感型・景品型・ビデオ型・メダル型等)・カラオケ飲食収入・
スポッチャ収入からなっております。
平成 17 年3月 31 日現在の営業店舗は次のとおりであります。
店舗数 48 店舗(H17 年度)における設備は、
「ボウリング」レーン:1,726 レーン(1
店舗あたり 36)、「アミューズ機器」数は 12,344(同 257)、他の施設としては「ビリヤー
ド」「卓球」「カラオケ」「スポッチャ」「飲食」「バッティング」という分類となっている。
それらの設備をどのように提供しているのであろうか?
これについても、有価証券報
告書に記載されている下図の概念図から説明できる。
(有価証券報告書より転載)
各店舗において、上のような複数のレジャー施設を複合的に配置し、その利用代金を事
業収入として得ている。つまり、㈱ラウンドワンは、各種のレジャー設備を、その複合施
設によって「レジャー機会の提供サービス」という商品にして、顧客に提供する事業を行
っている、と言える。特徴的なことは「店舗でのサービス」も商品として認知しているこ
とである。
その証拠に、ラウンドワンは、「原価」を構成する要素として、「店舗人件費」(店舗での
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いわゆる「店員」の人件費)を原価に参入している。通常小売店などは店舗人件費は原価
ではなく営業費用である。設備や施設運営による事業の例でいえば、㈱セガや㈱ネクスト
ジャパン(競合他社として後述する)は人件費を営業費用として勘定している。一方、㈱
OLG(オリエンタルランド)は、商品原価に人件費として勘定している。
こうした自分たちの提供するもの=「製品・商品」の考え方や、「店舗」の捉え方それら
が事業システムや事業戦略にどのような工夫を与え、顧客に新たな付加価値を生み出して
いるのか、興味が高まるところである。
2.2.
業績
売上高は、第 30 号店をオープンした 2000 年で 10,484
百万円、その後は年率 20.7%平均で売上を伸ばしている。
40,000
(右下図表参照)
35,000
売上高
34,494
また、特筆すべきは、収益性の高さである。営業利益
率とROAを下に図表で示した。両指標ともに他社を圧
倒している。営業利益率、ROAが高い理由は、後ほど
詳しく述べたいと思う。ここではトピックスだけ理解し
30,000
28,089
20,000
20,551
15,000
16,933
10,000
ていただこうと思う。
31,408
25,000
13,494
5,000
ポイントは2つである。1点は「SPCを活用したオ
0
フバランス」
、もう1つは「内製化・自前主義」である。
2000
R1
JJクラブ
セガ
TAITO
ORG
30.0%
25.0%
20.0%
2002
2003
2004
2005
ROA
営業利益率
35.0%
2001
45.0%
40.0%
R1
JJクラブ
セガ
TAITO
ORG
35.0%
30.0%
25.0%
20.0%
15.0%
10.0%
15.0%
10.0%
5.0%
5.0%
0.0%
0.0%
2003
2004
2005
2003
2004
2005
いずれも、単に財務指標を良くするためだけ、とは思えない。事業にとって、それが顧
客へ生み出す価値を最大にするシクミだ、と判断していると考えられる。ではいったいど
のような効果を生み出すシクミなのか、ラウンドワンのやりたいことをどのように支える
論理なのか?
以上これまでに挙げた疑問に対して行った研究の報告に入る。
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3. 顧客接点の特徴
ラウンドワンが提供するサービスの主要アイテムは①ボウリング②アミューズメント③
カラオケの3本柱である。下記に各業界単体の現況と特徴を挙げる。
各業界の現状とラウンドワンの比較
業界の現況
ボウリング
参加人口3,180万人
アミューズメント
参加人口2,400万人
カラオケ
参加人口4,970万人
•日本全国に950センター
•築30年経過が80%
•単一店舗が多い
•親会社の下での経営
•2004年から下降トレンドへ
ラウンドワン
•多店舗展開
•複合施設、アイテム数の増加
•最新施設の導入
•ボウリング以外の収入の柱
•健全な財務体質
•売上は増加傾向
•日本全国に12,000店舗
•営業面積が狭い
•単一店舗が多い
•2004年から下降トレンドへ
•日本全国に135,000ルーム
•専門店が多い
•低価格化
•大手数社による寡占化が進行
•ブームが終わり、縮小傾向へ
<売上げの推移>
z
ボウリング(参加人口
約3,180万人)
日本全国に約 950 センターが存在するが、その約 80%が建設後 30 年以上を経過してお
り、ひとつのオーナーが経営している傾向から多店舗展開が非常に少ない。かつては企業
の福利厚生として建設された事例も多く、親会社ありきの経営により、積極的にボウリン
グ事業に力を入れてこなかった背景がある。設備の老朽化や営業不振等の理由で、閉鎖す
るボウリング場は増え続けている。広い土地を要し、設備投資が高額であるため参入障壁
が高く、新規出店はほとんど見られない。下降トレンドである。
z
アミューズメント(参加人口
約2,400万人)
日本全国に約 12,000 店舗あり、ボウリング同様ワンオーナータイプが多い。営業面積が
狭い店舗が多く、設置台数の限界、機器の大型化、都市であれば地代の高コストが問題点
である。また、自宅で手軽に本格的なゲームが楽しめるためPS2をはじめとする家庭用
ゲームの充実が脅威である。また、アミューズメント業界は最新機種の導入等ハードに左
右され、コントロール力がなく差別化が困難であり立地の影響力が強い。下降トレンドで
ある。
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z
カラオケ(参加人口
約4,970万人)
日本全国に約 135,000 ルームあり、ほとんどがカラオケ専門店である。成熟市場となっ
た結果、新規参入はほとんど見られず、大手の寡占化が加速している。ドリンク・フード
のサービス充実や低価格化現象があり、スタイルが疲弊している。根強いファン層が存在
するため、急激な市場の縮小は考えにくいが、爆発的なブームは終わり下降トレンドであ
る。
上記に示すように3つの低迷業界がラウンドワンの複合化を形成しているが、成功の要
因は「組み合わせ」による集客の増加やブーム・流行のボラティリティの解消だけで説明
できるのであろうか?ラウンドワンの成長の秘密は「顧客接点のリ・デザイン」による顧
客との関係性を巧みに築く工夫にあるのではないかという仮説から、以下、検証すべくア
プローチを行う。
◆ 4Pの視点で検証するラウンドワン
ラウンドワンはここが違う!
WHO
群れる人々に
WHAT
コミュニケーションを
・駅前・繁華街・ロードサイド
・専業・直営・多店舗展開
・年中無休・深夜まで営業
HOW
身近なレジャー環境で
・複合(三業態)レジャー
・+ スポーツアミューズメント
・新築・清潔・開放感
・お洒落・健全
place product
promotion price
・ピンをイメージしたロゴ
(ボウリング=ラウンドワン)
・親しみやすいキャラ採用
(ひろみから、ヒロシへ)
・積み上げ式とパック料金の併用
・低価格
・プレイ代金ではなく時間に費やす
ラウンドワンは家族がぎりぎり楽しみを共有できるレジャーを提供していると杉野氏は
断言する。例えば、大学生の娘と高校生の息子、40代の両親がいる家族構成の場合、娘
がデートでボウリングに行ったことがあり、息子がクラスメイトとスポッチャを楽しみ、
母親が家族に内緒で昼間に友人とカラオケを満喫したラウンドワンに父親が「家族で行こ
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う」と誘った場合、ぎりぎり全員の了承がとれ、家族そろってみんなで遊びにいける場と
なりうる。逆に言えば、家族全員で出かけて楽しみを共有できるような場所は少ない。「ボ
ウリングに行こう」ではなく「ラウンドワンに行こう」=「みんなで何か楽しもう」とい
う意味を持ち、ラウンドワンは群れる人々(グループ、家族、恋人同士)に身近なレジャ
ー環境を提供することによって、コミュニケーションの場を生み出しているのではないだ
ろうか。以下 Place、Product、Promotion、Price の観点から考察する。
3.1.
“Place”におけるラウンドワンの試み
従来のボウリング場の特徴と言えば、老朽化が進んだ、うらぶれた建造物のイメージが
大きい。その背景には、既存のボウリング場は多くが親会社傘下の運営形態であり、従業
員の福利厚生の一環とし、専業経営しているボウリング場が少ないことが理由にある。親
会社の業績が悪ければ、当然ボウリング場の手直しや改築に着手する余裕がでてこなかっ
た。
一方、ラウンドワンのボウリング場は新築であり、全国及び一部海外にも多店舗展開を
行っているところが既存ボウリング場と比較して大きく異なるポイントである。ロードサ
イド、駅前、繁華街とその立地も多様である。
ボウリングをレジャーとして楽しむ場合、既存のボウリング場は、昨今巷にあふれる他
のレジャー環境(居酒屋やカフェ等)と比較するとあまりにもオシャレ度の格差は大きい。
目の肥えた消費者にとって、レジャースポットとしてボウリング場を位置づけ難く、偶発
的なブームの力でも借りなければ、継続的な集客を見込みにくい状況にあった。
ボウリング場に求められる環境創り「当たり前のこと」をラウンドワンは実行している。
ラウンドワンのボウリング場という「Place」のリ・デザインはボウリングの「競技場所」
の提供ではなく、「コミュニケーションの場」として演出し環境創りを行っている点に見ら
れる。複合化された施設、新築で開放感がある店内、最新の施設(機器)の導入、様々な
楽しい企画がラウンドワンの強みとして機能している。現在までのところ、業界の役割と
しては、「初めてのボウリングはラウンドワンで」に存在価値を見出している。つまり、ボ
ウリングの楽しみ、仲間や家族、グループで一緒に時間を共有する喜びを印象付けること
が最重要ミッションである。例えば、ボウリングのレーンもカップルの隣のレーンに男性
グループの配置を避けるような配慮や、汚れても目立たない黒・紺色のじゅうたんを施設
内に敷き詰める等、細部に快適環境創造の工夫が見られる。
3.2.
“Product”におけるラウンドワンの試み
ラウンドワンはカラオケやアミューズメントのレジャーアイテムをボウリングに組み合
わせ、既存のアイテムに一工夫加えたり、変形させたりすることにより、新たなアイテム
を創出している。その結果、遊びのスタイルや顧客ターゲットを柔軟に対応させ、ブーム
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や流行の影響を脅威ではなく強みに転換している。杉野社長曰く、「隣に出店されたら嫌な
店」の目線から、社長自らアイデア出しを行い、スタイルの変化に敏感であり、見せ方が
重要なことを誰よりも認識している。
最近では、本格的なスポーツを体験できるスポッチャの導入により、新たなアイテムが
仲間入りしている。多くののアイテムから遊びを選べ、多くの目的を満たすことが可能な
「遊びの百貨店」化を図ることにより、ラウンドワンにとってボウリングはもはや「目的」
ではなく、仲間と楽しい時間を過ごすための「ツール」という位置づけに変化している。
ラウンドワンにとってのボウリングの概念、見せ方がリ・デザインされていることがう
かがえる。
3.3.
“Promotion”におけるラウンドワンの試み
割安感、手軽さ、にぎわいを演出していることがラウンドワンの広告宣伝の特徴である。
また、ボウリング場や他のアミューズメント運営会社と比較すると広告投資に積極的でメ
ディア露出度が高い。ラウンドワンのロゴにはピンがデザインされており、ボウリング=
ラウンドワンのブランディングが確立されてきたといえる。
ボウリングはポピュラーであり、多くの人がボウリング経験を持つ一方、定期的にリ
ピートするのはボウリングを「スポーツ」として捉えているボウリング競技者たちである。
ボウリングは国体種目として認定されており、プロも存在する。技術を磨きたいボウリン
グ競技者にとっては、練習や試合時のボウリング環境には、同質性や真剣な雰囲気を求め
る傾向がある。しかし、ボウリング場は装置産業であるため、集客のボリュームが重要で
あり、顧客対象はボウリング競技者だけでは成り立たない。
2004 年度、ヒロシを採用したテレビCMは、杉野社長をはじめ社員の意図を強く反映し
た印象深い内容に仕上がっている。ヒロシ採用の経緯は、彼の幅広いファン層と人気を考
慮し、またコストバランスを理由に、杉野社長自らの意思決定に基づく。今後の、顧客タ
ーゲットの全方位化(ボウリング競技者の上流やシニア、健康志向へ)がプロモーション
戦略に意図されている。
手軽さ、盛りだくさん、親近感の要素と営業時間の長さ、全国多店舗展開により、ボウ
リング場=ラウンドワンから、自分の街にもあるラウンドワン=「遊びのコンビニ」にイ
メージ、ターゲットのリ・デザインを図っている。多店舗展開とブランディングがうまく
相乗効果を生み出している。
3.4.
“Price”におけるラウンドワンの試み
ボウリングはゲームごと、アミューズメントは 1 台ごと、カラオケルームは1部屋ごと
で料金が設定されている。ラウンドワンのボウリング単価は、1ゲームあたり 446 円に設
定されており、既存ボウリング場の平均単価 453 円に対し価格競争力を持つ。今後は 371
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円まで単価を引き下げる見通しがある。学生割引やタイムサービスなどのデフレ対応の業
金体系も組み込んでいる。
また、5ゲームまで投げ放題(ボウリング)など、パック制導入による割安感の演出や、
スポッチャでは時間課金型により、時間内で思う存分アイテムを選択して遊ぶことが可能
である。スポッチャを利用する際にユーホーキャッチャーやコインがサービスで付加され
るなど、サービスの組み合わせによるお得感を創出している。ユーホーキャチャーやコイ
ンゲームは、参加するきっかけを与えると、ギャンブルの要素から意地になり、自腹を切
って再挑戦させる誘導効果も大きいアイテムであり、巧みな戦略である。
ラウンドワンは積み上げ式とパック料金制、時間課金型の併用をおこなうことで、自社
の利益を確保し、同時に低価格を実現している。
以上の工夫により、顧客にとっては割安感、お得感、選ぶ喜びを実感させることで、利
用料金ではなくレジャー代金としてお金の使い方にリ・デザインを行っている。
3.5.
まとめ
ラウンドワンの企業理念は、国民的な生涯スポーツであるボウリングや仲間や家族揃っ
て楽しめるアミューズメント・カラオケを通じ人と人とがコミュニケーションをはかれる
場となる施設を提供することを目的としており、地域に密着した屋内型総合レジャー施設
を全国展開している。ラウンドワンは、「群れる人々に、(もしくは人々を群れさせるため
に)、身近なレジャー環境を提供し、コミュニケーションの環境を提供している」点が既存
ボウリング場と異なるスタンスである。常に「環境」を創造し、空間の演出、ブランディ
ング、料金設定、レジャーアイテムの位置づけ等4P の観点から派生した細部に行き届く工
夫と気配りで、「顧客接点のリ・デザイン」を継続的に行っている。
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4. リ・デザインの源泉
4.1.
リ・デザインを生み出す源泉は何か?
では、ラウンドワンにおける顧客接点のリ・デザインは、どこから生み出されるのであ
ろうか?我々は、杉野公彦社長にお話を伺う機会を得ることが出来た。杉野氏は、気さく
で力強い志をもち、歯切れの良い話し方をされる人物であった。ラウンドワンにとって創
業者である杉野氏の影響力は絶大だと感じ取れる。どこか人を惹き付ける魅力を持ち、い
くつもの印象的なメッセージをいただいた。杉野語録を以下にまとめる。
社長の事業観 ~インタビューからの抜粋~
「学園祭の手作り感覚で」
「金かけたら、誰でも客は呼べる。
金をかけずにイイものを作る」
「イイものは、子供でも分かる」
「1から生み出せるのは、所詮1%だよ」
「99%は既にあるものをうまく取り入れること。要は
視点が大事、気付きなんだよ」
「駄目業界の方が、面白い。当たり前のことをやれば
うまくいく」
「家族みんなで楽しめるギリギリのレジャー」
「来期にはTDLの来場者数を抜く予定。次は利益だ」
◆ 杉野社長インタビューより
ラウンドワンのリ・デザインの秘訣は、杉野社長の事業観から強くうかがえる。根底は
一般的に駄目業界に魅力を感じると言う杉野氏のチャレンジ精神があり、ボウリングへの
こだわり、コミュニケーションの必要性そしてコミュニケーションの場の必要性がある。
その環境の提供を同社のミッションと定義する「想い」が基盤となり、ラウンドワンは様々
な工夫を凝らし成長してきた。数々の手作り感覚のアイデア・工夫が検討され、
「隣に来ら
れたら嫌な店」という判断基準を持って、日々、杉野社長の「気付き」は事業に反映され
る。世の中でイチから生み出せるものはせいぜい1%、ほとんどのことは組み合わせと視
点にあるという認識が、細やかなベンチマーキングを習慣化させている。
高齢化などの人口構造の変化、ニーズの多様性など、想定される外部環境の変化に対し、
常に「お客さんの代表」としての目線をもつ杉野氏の気付きとリーダーシップは、ラウン
ドワンの柔軟性を確立し、変化を恐れない企業体質に育てているように感じる。
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4.2.
ラウンドワンの好業績を支える財務戦略
ラウンドワンの成長の軌跡をもう一度振り返ってみよう。
(前述の沿革のとおり)ラウン
ドワンの前身である杉野興産は 1980 年 12 月に大阪府泉大津市にローラースケート場とし
てスタートした。その後ボウリング場やアミューズメントコーナー併設など試行錯誤を行
いながら杉野社長はひたすら顧客がどうすれば喜ぶか、どうすれば集まるかを考え、地道
に工夫を重ね複合レジャー施設運営のノウハウを蓄積していった。そして 1994 年に現在の
株式会社ラウンドワンに改称し、一気に多店舗化を推進する。1997 年末までに約 10 店1を
展開し、続く 2001 年までの 4 年間に実に約 40 店に、2005 年末で約 60 店が確実になってい
る。
出店の推移は以下の図のとおりである。
理屈に裏打ちされた出店戦略
店舗数
120
100
09.3期に
09.3期に
100店舗
100店舗
第2次
拡大期
!
SPCのノウハウ取得
SPCのノウハウ取得
有利子負債の削減
既存店の内部充実
80
60
第1次
拡大期
40
▲
売上
200億
東証・大証
一部上場
20
▲
売上
300億
全国のボウリング場の
数は950店舗。成長
のフロンティアは広い
▲
売上
ラウンドワン
100億
0
に改称
1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
累計
1
2
5
9
18
25
32
37
38
41
47
横浜駅西口店
の1店のみ
59
71
83
95
107
年度
しかし、この短期間での大量出店は闇雲に行われているわけではない。その推移を仔細
に見ると 2002 年は 1 店舗しか出店しておらず、その後また大量出店を行っていることが分
かる。このアクセルを思いきり踏み込み、一度急ブレーキをかけ、再びアクセル全開とい
う動きは車の運転で言えば事故を引き起こしかねない危険な運転かもしれないが、ラウン
ドワンという企業においては、計算されたいわば“安全運転”の為の動きであった。この
2002 年、2003 年の空白の時期には、その後の大量出店に備えた財務面での体力強化とノウ
ハウの習得期間だったのである。
1 1997 年 12 月に当時通算で 13 店舗目の富士店を出店しているが,これは現在の 10 号店にあたる。またこの間,大証
2 部上場を果たしている。
13/23
この時期にラウンドワンがとった財務的な処置は以下のとおりである。
•
開発型SPCの活用ノウハウの習得
•
セールスアンドリースバックによる有利子負債の削減
•
既存店のてこ入れと差入保証金の流動化
これらについて簡単に説明をしておこう。まず、開発型SPCの活用ノウハウ習得である。
SPCを利用した新規出店の第 1 号は 2002 年の唯一の出店である横浜駅西口店である。そ
れまでは土地・建物を自社で所有し、そ
れを担保に金融機関より得た融資によっ
賃料
PCとはSPC(特別目的会社)を設立
賃貸
て初期費用を手当てしていた。開発型S
ラウンドワン
証券・社債
など購入
して、機関投資家から資金を調達し、土
地の取得と建物を建設した後、その建物
を一棟まるごとラウンドワンに賃貸する
SPC
(特別目的会社)
というスキームである。
(左図参照。
)
投資家
配当・利子
など支払
通常繁華街などへ自社負担で出店した場合に、土地・建物などの購入費用で一般的に 30
~40 億円程度かかると言われている初期コストを、この方式を採用することで 10 億円程度
に抑えることができたのである。当然ながら運営上、賃料としてSPCに支払う必要があ
り、そこは運営の収益で賄うことになるが、同社の培った集客ノウハウを背景にした高い
売上高利益率が物語るように店舗の運営という強みを有しており、十分に採算は合うと判
断したようだ。
次にセールスアンドリースバックであるが、これは資産を売却した上で自社を相手とす
るリース契約を結ぶという手法であり、オフバランス化の仕組みである。同社はこれを当
時所有していた 9 店舗のうち 6 店舗に採用し、有利子負債の削減に努めた。資産をオフバ
ランス化することにより、土地や建物の評価替えによって損益が上下することを避けるこ
とができ、純粋に店舗運営によって収益を上げることを明確化したのである。当時は減損
会計制度の導入も検討されていた時期であり、リストラの一環としてオフバランス化が手
法として利用されつつあったが、前向きに「持たざる経営」を志向し、実践した企業はそ
う多くはなかったはずである。
最後に既存店舗のてこ入れと差入保証金の流動化であるが、多店舗展開企業の宿命とし
て既存店の売上低下に対して同社もかなり気を使っている。市場からの成長要求にこたえ
る為に新規出店を続け、やがて既存店の売上低下が足を引っ張り過大な投資が続けられず
破綻するケースは多い。同社もこうしたジレンマ2を感じているが、同社の対応は店舗直営
というスタイルに現れていると考えられる。「当たり前のことをやれば儲かる」と杉野社長
2 有価証券報告書において,
「既存店舗の業績と新規出店の動向によるリスク」として記載されている。
14/23
「細かい小さな工夫を行
は言うが3、ここでいう当たり前のことという言葉の真意を我々は、
うこと」と解釈しており、こうした顧客に楽しさや居心地よさを与える工夫が即座に実行
可能とする為に、直営にこだわっているのであろう。この出店を意図的に抑えた時期は既
存店のてこ入れを行うには絶好のタイミングであったといえる。一方、差入保証金(店舗
建設費をオーナーに支払い賃貸後に返済されるお金)の流動化とは、差入保証金をリース
会社へ譲渡することであるが、2003 年 7 月に守口店、新御堂緑地店、瑞穂店の 3 店舗の差
入保証金の債権を三井住友銀リース株式会社へ 8 億 6100 万円で譲渡し、その後同年中に 4
店舗分についても同様の処置を取った。これらによって、現預金が実質有利子負債ゼロを
達成したのである。4
同社は 2004 年以降新規出店をハイペースで続けており、2009 年 3 月期には 100 店舗を目
標としている。さらに通常はSPCの活用に際してアレンジャーを使わず、専門家のサポ
ートを受けながらノウハウを社内に蓄積し、自前で行っている。そうすることでアレンジ
ャーフィーが不要となり約 1 億円程度の経費が節約されている。そのような取組みもあっ
て、金融機関からの評価もかなり高く、同社の出店を阻む理由は財務面からは見当たらな
い。
3 2005 年 7 月の筆者達による杉野社長ヒアリングによる。
4 現在では,出店に伴う資金調達を社債などを通じて行っており,この限りではない。
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5. 競合他社との比較
同社の業態の特徴は、ボウリング・アミューズメント・カラオケ・スポッチャなどの複
合レジャーを提供することである。特にスポッチャでは個々の遊戯設備利用料金の積み上
げ方式時間課金方式を採用している。こうした業態を多店舗展開することによって業績を
伸ばしている同社だが、同業態を多店舗展開するという点で競合企業も当然ながら存在す
る。こうした競合店はドミナント出店を行っているところが多いが、比較企業として株式
会社ネクストジャパン(店名:JJClub)を取り上げ、ラウンドワンの戦略を様々な角度
から検証してみたい。
【ネクストジャパンの概要】(2005 年 1 月末現在)
ネクストジャパンの概要は右のとおり。本
設立:1993 年 8 月
社が大阪にあり、近年急成長を遂げている点
資本金:6 億 2487 万円
や提供レジャー設備、店舗イメージ、時間課
従業員数:正社員 157 名,アルバイト 450 名
金の料金制などラウンドワンと類似点が多い。 売上高:5,566 百万円
しかし、同社は完全会員制、FC展開を主
事業内容:
としている点など顧客接点の面で違いも目立
時間消費型会員制複合レジャー施設「JJClub100」
つ。両社の顧客接点を下記にまとめた。
の運営フランチャイズチェーン本部の経営
ラウンドワンとネクストジャパンの比較
ラウンドワン
ネクストジャパン(JJClub)
1980年設立(94年名称変更)
正社員数 : 515名
売上 : 344億円
企業
概要
1993年設立
従業員数 : 317名
売上 : 55億円
ボウリング・アミューズメントを
中心とした屋内型複合レジャー施設
の展開及び運営
事業
内容
時間消費型会員制
複合レジャー施設「JJCLUB100」
の運営
店舗数
全国 52店舗
(直営10店舗/FC42店舗)
全国48店舗
基本的に全て直営
店舗
イメージ
顧客接点だけでなく、両社の戦略面を見るとさらにその違いが明確になる。戦略面での
比較を下記に整理した。
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戦略面での違い
ラウンドワン
顧客戦略
成長戦略
事業展開
シナリオ
ネクストジャパン(JJClub)
会員制度はあるが、無理矢理勧誘
せずあくまで顧客の選択まかせる。
面白ければまた来てくれるはず。
完全会員制によって顧客行動を
把握し、データを収集。
JJポイントによる囲い込み。
ハワイに1店舗(開発中)あるが、拡大
中国へ進出。高級アミューズメントと
する気は無く、当面は国内の充実を図る。 してポジショニングし、拡大を図る。
ボウリング部門強化・カラオケてこ入
れ、スポッチャ拡充を目指す。
れ、スポッチャ
あくまで細かな改善による本業強化
あくまでコミュニケーションの場と
なる施設を提供することにこだ
わって成長を目指すラウンドワン
Eコマース・デジタルコンテンツ配信
事業などの新規事業展開
エリアの拡大およびIT活用による
事業領域の拡大によって成長を目
指すネクストジャパン
両社の戦略の違いは、会員制度は残すものの、「色んな顧客がいる」
(杉野社長5)との認
識に立って無理に会員加入を勧めない、国内を基盤とした成長の志向、事業ドメインをレ
ジャー施設運営からぶらしていないなど、
「あくまでコミュニケーションの場となる施設を
提供することにこだわって成長を目指すラウンドワン」と、完全会員制による顧客データ
収集・活用や海外・事業領域拡大を志向する「エリアの拡大およびIT活用による事業領
域の拡大によって成長を目指すネクストジャパン」とまとめられる。
現時点での経営数値のみを比較すると、売上高で約 6 倍、営業利益率で約 2.5 倍、当期
純利益では約 20 倍の差があり、同じ複合レジャー施設の運営という業態同士の比較ではラ
ウンドワンの業績がネクストジャパンを圧倒している。この経営数値の差は、ネクストジ
ャパンがFCによる店舗展開をしている事に対して、ラウンドワンが直営での店舗展開を
していること、店舗展開がラウンドワンの方が早期に多店舗展開を行い、先行者利益を獲
得していることが主な原因と考えられる。また両社ともに業績を拡大しており、複合レジ
ャー施設運営という市場自体が成長段階にあって伸びていることを考慮すると、現時点で
の経営数値の比較を持って、その優劣を論じるのはいささか早計であろう。上記のように
両社はその顧客接点の類似性に注目が集まるが、その戦略には大きな違いがあり、今後市
場が成熟してゼロサム状態で競争をした時に、その違いが両社の業績にどう影響を与える
のかは現時点では判断が難しい。ただし本研究を踏まえての仮説は次項にて触れることに
する。
5 05 年 7 月の筆者達による杉野社長ヒアリングによる。
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6. まとめ
6.1.
ラウンドワンの持続的成長
以上から、ラウンドワンには持続的成長を続ける仕組みが形成されている。ポイントと
しては大きく3点にまとめられる。
①杉野社長の事業拡大への強い意志
杉野社長の起業のきっかけは、父親の経営するローラースケート場を建て直したいと
いう一念であった。この時の想いは非常に強く、現在でもなお、事業のベースとしてこ
の「起業の原体験」が存在している。
さらに、この「原体験」を通して、杉野社長は、「ボウリングは面白く、環境さえ整
えられれば、顧客は必ず来る」という信念を持った。これを起爆剤として、杉野社長は
事業を拡大していく。これは、杉野社長自身の積極的な性格とチャレンジ精神が大きく
影響している。インタビューでも、「起業のきっかっけからすると、1店の成功で満足
してもよかったが、自らの性格により事業拡大路線を選んだ。」とのことであった。そ
して、この姿勢は現在の事業展開の面でも変わらない。先のインタビューの際に、
「今、
他の職業を選ぶとしても、安定した企業より、苦境に陥っている企業に入って建て直す
ことを選ぶ。」というコメントがあったが、これからも社長のチャレンジ志向がよく分
かる。
現在は、株式を公開しているため、株主価値の向上・社会的存在といった企業の使命
として、事業を拡大し、成長・発展していく義務があるが、ラウンドワンでは、それ以
上に、杉野社長の「起業の原体験」、
「チャレンジ精神」の影響が大きいと言える。なお、
この姿勢の表れとして、ラウンドワンでは、広く事業を捉え、ライバルとしてオリエン
タルランドまでを視野に入れている。
②事業の仕組み
3章で述べたように、事業の面では、この成長路線を遂行する各種の仕組みが作られ
ている。これらを一般的なボウリング場と比較すると、下記のようになる。
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喜びの提供に対する飽くなき追求!
ボウリングを中心としたアミューズメントビジネス
・badサイクル
・goodサイクル
•ボウリングしかない
•プロ重視
•事業展開の
さらなる拡大
•事業展開の
行き詰まり
•ボウリング以外もある
•身近さ、一般対象
・ボウリング
収入減少
・設備更新されず
古いまま
•イメージダウン
•もっと楽しい場所を
求め客が移動
・客飽きる
•ボウリング以外
の遊びを増して
収入補う
•多店舗展開と
新しい設備の導入
•賑やか感の創出
•身近なエンター
テイメント創出
・客飽きない
・選べる楽しみ
•客足伸張
・客足遠のく
ラウンドワンの出店で同一商圏内の既存ボウリング場を駆逐
現在は出店すればするほど儲かる状態を作り出した
一般的な既存のボウリング場については、
「ボウリングしかない」
「プロ重視」を起点
として、「設備更新がされない」→「客が飽きる」→「客足が遠のく」→「イメージダ
ウン」→「収入減」→「事業展開の行き詰まり」という悪循環のサイクルが回っている。
これとは正反対に、ラウンドワンでは、
「ボウリング以外もある」
「身近さ」という仕
組みをきっかけとして、
「新しい設備導入」→「客が飽きない」→「客足が回復・増加」
→「賑やか感の創出」→「ボウリングとの相乗効果」→「収益拡大」→「事業展開の拡
大」→「多店舗展開」、
「新規事業」というように、3章で挙げた各種の差別化の仕組み
が、上手く好循環のサイクルを回していることが分かる。
この好循環のサイクルが、ラウンドワンの事業の仕組みの大きな特徴であり、結果、
持続的な成長を生み出している。今後も、このサイクルが回っている限り、ラウンドワ
ンの事業は成長を遂げることが可能であると言える。
③理屈に裏打ちされた仕掛け
①で挙げた社長の事業拡大への強い意志を実行に移し、②の事業の仕組みで好循環の
サイクルを回していくためには、ソフト・ハード両面で、それを支える仕組みが必要で
ある。それが、4章で挙げた「理屈に裏打ちされた仕掛け」である。
ソフト面においては様々な工夫や戦略を実行する必要があるが、これらは「自前主義
によるスピード経営」でなければ実行できない。また、ハード面においては、広大な土
地を確保し、建物を建設・所有していくリスク増加を抑える必要があるが、これらは「持
たざる経営による土地・建物の評価変動リスク排除」、
「財務テクニックを駆使した初期
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投資負担の軽減」により、より効果的に行うことが可能となる。
つまり、ラウンドワンでは、事業の仕組みに合致した合理的なシステムが下支えする
ことで、一層の好循環サイクルが形成されていると言える。
以上より、ラウンドワンでは、社長の企業の原体験・拡大路線への積極志向をもとに、
様々な事業の仕組みが作り出され、好循環のサイクルが形成されるとともに、そのサイク
ルに合致した合理的なシステムがそのサイクルを下支えすることにより、一層の好循環の
サイクルが形成され、現在まで持続的な成長が維持されている、と言うことができる。
6.2.
今後の課題
一方、今後の課題としては、①杉野社長の事業拡大への強い意志の面と、②事業の仕組
みの面において、下記が挙げられる。
課題①:杉野社長なき後の体制
杉野社長へのインタビューによると、「数十年先を見据えて会社の方向性を決め、長
期的なインフラを作っており、現在検討している具体的な案件については、それに向か
って全社が一貫となって動く体制作りができている」とのことであった。
現実に、ラウンドワンでは、次の事業の柱として大型スポーツ(スタジアム型)施設
である「スポッチャ」を計画し、2006 年 3 月期までに 12 店舗、それ以降は、41 店舗
の新規出店を予定しており、中期的に見れば、方向性も定められ、それに向けた事業展
開への体制も作られていると言える。
しかし、現在のラウンドワンは、積極的で非常に前向きな社長の強いリーダーシップ
のもとで成長しており、将来に渡って、継続的に事業を拡大していくためには、具体的
な仕組み・体制作りが不可欠であろう。
課題②:差別化の欠如(競合他社の出現、ターゲットの変化)
これまで挙げてきた差別化による優位性を欠如させる要因として、競合他社の動向と
ターゲットの変化に目を向ける必要がある。
【競合他社の動向】
杉野社長へのインタビューからは、基本的にはライバルはなく、そこが事業を拡大し
ていける秘訣でもあるとのコメントがあったが、実際にはネクストジャパン(店名はJ
JClub)という同様の事業形態を持つ企業が出現し、勢力を拡大しつつある。さらに、
最近は、差別化を図った新しいボウリング場も新聞紙上を賑わしており、沈滞気味であ
ったボウリング場に変化が出始めている。
20/23
●ネクストジャパン(JJClub)
5.に述べたように、両社の戦略の違いは、
「あくまでコミュニケーションの場とな
る施設を提供することにこだわって成長を目指すラウンドワン」と、「エリアの拡大
およびIT活用による事業領域の拡大によって成長を目指すネクストジャパン」とま
とめられ、店舗形態と顧客戦略とエリア戦略の面で、両社の成長戦略に大きな差が出
てきている。
店舗形態においては、ネクストジャパン FC 制を採っているが、これでは、杉野社
長の進める客の代表としての目線によるリ・デザイン、細かな気づきの実践による
リ・デザインは推し進められず、継続的な成長は難しい。
また、顧客戦略においては、ネクストジャパンでは完全会員制を採っているが、こ
れは、これまでラウンドワンが行ってきた「コミュニケーションの場を身近なレジャ
ー環境で」というリ・デザインの根幹を踏襲するものとはなっておらず、成長効果は
限定的なものとならざるを得ない。
最後にエリア戦略である。ネクストジャパンは中国での事業展開を事業の柱とする
予定であるが、これは、国内で収益の上がるエリアの進出を既にラウンドワンが行っ
てしまっており、進出の余地が限られているためである。この点からもラウンドワン
は国内においては圧倒的優位に立っており、中期的には問題がないと言える。しかし、
長期的な視点からは、この海外展開については注意が必要である。これは、例えば国
内市場が頭打ちになった際に、ラウンドワンが海外展開を考えるケースも考えられる
が、その際、既にJJClub が中国という巨大市場を抑えている場合には、ラウンドワ
ン事業長戦略の一つが実施できないことになり、持続的な成長が阻害される可能性が
あるからである。
以上のように、ネクストジャパンには、基本的にはラウンドワンのこれまでの差別
化の優位性を欠如させる要因はなく、現時点では真の競合となるとは言えない。しか
し、長期的な視点からは、ネクストジャパンの戦略は、ラウンドワンが視野に入れる
べき戦略の一つとも考えられ、今後、このような新規の競合他社に対しての対策が必
要であろう。
●新しいボウリング場
ホテルなどのボウリング場を中心に、個室、あるいはバーを併設するなど、「ボウ
リングサロン」といった形態も出始めている。しかし、これらのターゲットは大人向
けに限定され、身近なレジャー環境とは言い難く、現在のところ、気軽さ・親しみや
すさを追求するラウンワンとは一線を画する。
【ターゲットの変化】
ターゲット層としては、今後益々進む「少子高齢化」を検討しておく必要がある。ま
た、主力の若者層については、若者文化がこれまでの「群れる若者」から「群れない若
21/23
者」へと大きく変化しており、この点についても考慮しておく必要がある。
●少子高齢化
高齢化対策については、ラウンドワンでも、既に意識し始めている。業界を上げて、
ヘルシーボウラーといった冊子を発行して、ボウリングを高齢者にもなじみやすい適
度な運動と宣伝し、需要を開拓している。また、少子化対策についても、新規事業形
態である大型スポーツ施設「スポッチャ」を郊外で展開することで、ファミリーが集
い、ボウリングや各種スポーツを簡単に気軽に楽しめる場の提供を推進することで、
対応を図っている。
●若者文化の変化(群れない若者)
若者については、これまでの事業を作り出してきた、杉野社長の積極的な姿勢とし
て、「群れない若者を群れさせる文化を創っていくことも我々の使命」というコメン
トであった。起業から事業拡大に至る経緯から、「いいモノを作れば、必ず受け入れ
られ、文化を作り上げることができる」という確固たる信念に基づいている。
これは、前向きに捉える創業者ならではの嗅覚と感覚ということでは片付けられな
い。現状の動向から、現状に合わせたマーケティングを行うのではなく、将来の文化
を創ることまでを視野に入れた展開を考えることで、新たな事業創造が可能となるの
である。事業の成長を、単なる事業展開ではなく、事業創造という観点から見ること
で、新たな顧客接点が生み出されるといえる。
以上から、今後の課題とその評価をまとめると、下表のようになる。
課題検証
杉野社長後の
体制
動向
新しい動き
ラウンドワンの
対応
評価
中・長期の体制
は万全。全社一
丸となって動く。
ちなみに、
社長は43歳。
○
当分、問題ない
はず!
JJ Club
新しいボウリン
グ場
少子高齢化
若者文化の変
化
複合化では同じ
戦略。
但し、入会金が必
要。
大人を対象に限
定
高い
主なターゲット層
である若者が減
少し、高齢化が進
む。
群れない若者
手軽さ・気軽さ重
視
一般客の取り込
みついては上。
一般客、ファミ
リー、若者、ヤン
キーなど、広い
範囲を顧客層と
し、ターゲットが
違う。
・業界として高齢
者取り込み
「文化を創造
する」という企
業使命に基づ
き、群れさせて
やる!!
○
全く問題ない
○
全く問題ない
22/23
・具体的施策を実
施
○
全く問題ない
○
全く問題ない
6.3.
まとめと将来展望
以上見てきたように、ラウンドワンでは、お馴染みのボウリングというスポーツを通じ
た顧客との接点において「スタイルを巧みにリ・デザインすること」で、成長を遂げてきた
と言うことができる。
リ・デザインのポイント
「”Style(スタイル)”のリ・デザイン」
「”Style(スタイル)”のリ・デザイン」
サービス空間のリ・デザイン
ボウリング場 → コミュニケーションの場
ターゲットのリ・デザイン
プレーヤー → 年齢問わず群れるグループ
価値のリ・デザイン
プレイの対価 → 楽しむ時間の対価
概念のリ・デザイン
ボウリングが目的 → ボウリングは手段(ツール)
この「スタイルのリ・デザイン」は、ラウンドワンの事業システムの根幹をなすと同時
に、これを元に、事業システムの上で様々なリ・デザインが創出されている。さらに、創出
された様々なリ・デザインは、ヒト・ファイナンス・マーケティング面における様々な合理
的な仕組みによって、下支えされることにより、競争優位の源泉となり、それらが好循環
のサイクルを回すことで、さらに競争優位は強固なものとなり、一層の好循環のサイクル
が形成されるのである。
そして、これらは現在のところ、敵なしである。ラウンドワンが、このような「スタイ
ルのリ・デザイン」に基づいた事業システムを継続していく限り、現在までの持続的な成
長を将来に渡って維持していくことができるであろう。
以
23/23
上