歓談第7回 デフレのメカニズム

第 7 回 デフレのメカニズム
ヒラ(父):デフレというのは一般物価が継続的に下落することだ。賃金もそれに連れて
減少するのが問題だ。そこで、質問するけど「一般物価下落度と賃金下落度が同率なら、
”良いデフレ”で問題にするに値しない。」という見解があるけどどう思う。
ノンチャン:”良いデフレ”なんて無い。第1にデフレはスパイラルに陥り、どんどん悪
性化する。企業の倒産率は増大する。第2に借金して投資するという経済発展の基を崩す。
デフレでも借金額は減らないから借金額は相対的にどんどん巨額になる。設備投資だけで
なく一般庶民の住宅ローンの返済額の賃金に占める割合は相対的に大きくなる。企業は設
備投資に臆病になり社内留保が増え、個人は節約して貯蓄に励むので、投資も消費も減少
傾向になり、GDP が減る。
ヒラ(父):ところで、日本は世界でも珍しいデフレ継続国なんだけど、デフレをどう思
う。買うモノが安くなって学生生活が楽にならない。
テッチャン:ノンチャン:マーチャン:とんでもない。家庭教師の口が見つからないし、
バイト代が安くなって困るんだよね。もっと小遣い上げてよ。そうしたら、バイトしない
で、その時間を猛勉強に充てるからさぁ~。(笑)
ヒラ(父):唯一の楽しみである酒を減らしてでも、君たちの小遣いを増やそうという気
持ちはしっかりとあるよ。そりゃあるとも、でもデフレのせいで仕事の調子が悪く、さっ
ぱり儲からないだよ。だから小遣い値上げできないんだ。勘弁してね。(笑)
ヒラ(父):ところで、何故デフレだと不景気になるんだろう。
ノンチャン:フィリップス曲線からも上記は説明される。つまり、縦軸に物価上昇率、横
軸に失業率をとったときに、両者の関係は右下がりの曲線となる。物価上昇率が低くなれ
ば失業率が増える。また、オークンの法則により GDP の減少は失業率の増大をもたらす。
ヒラ(父):やさしい言葉で説明して。
ノンチャン:失業率の増大はデフレスパイラルを招く。つまり、以下のとおり
↓
1
物価(モノやサービス全体)の継続的下落
↓
2
利潤減少
↓
3
企業リストラ
-1-
↓
4
失業増加
↓
5
所得減少
↓
6
消費減少
↓
7
国民需要減少
↓
8
物価(モノやサービス全体)の継続的下落
↓
(以下
1へ戻り、繰り返す)
ヒラ(父):さすが、良く勉強してるね。フローの問題なんだね。フィリップス曲線とオ
ークンの法則については、後日稿を改めて勉強しよう。ちょっと質問するよ。
ある人が、ちょっとした発明をして、その人が造る製品の価格が半分になったので、
すごく儲かるようになった。これは上の表の
↓
1
物価(モノやサービス全体)の継続的下落
↓
2
利潤減少
↓
に反するのではないの。
2’
利潤増大
↓
3’
雇用増大
ノンチャン:マクロとミクロの混同だよ。個々の企業家に視点を置けば、その価格低下で
儲かる人がいるけど、消費者の立場に立てばその価格低下で浮いた分を他の財の購入に充
てる。トータルで見た消費者の財布のひもはどんどん硬くなるのがデフレで、トータルで
見た「一般物価(モノやサービス全体)の継続的下落」は全体として必ず利潤を減少させ
ると思う。
個々の企業家の発明による価格低下の集積はマクロでみれば、生産性の上昇・供給能力
の増大に該当し、一般物価の継続的下落はマネーストックと需要の関数として把握できる。
テッチャン:発明で生産性が向上して特定のモノの価格が下落しても、それはデフレと
関係ない。価格が下落した商品の売り上げは増える。それとは別に消費者の財布のひもは
かたくなったままであり、個人の場合は消費より貯蓄にお金がまわり、企業の場合は設備
-2-
投資よりも社内留保にお金が貯まるようになる傾向を妨げるものではない。
日本以外の国々はたいていインフレだ。例えば、インフレ気味のアメリカや EU でパ
ソコン価格が下がっても「一般物価の継続的上昇」(=インフレ)と両立する。要は、イ
ンフレかデフレかが、消費者一般の財布のひもが硬くなるか柔らかくなるかだ。
マーチャン:デフレで個人の財布のひもがどんどん固くなり、企業の設備意欲はどんどん
減少し、内部留保しようとすることが問題よ。モノを買わずに預金していれば、どんどん
お金の価値が増えるですもの。
ヒラ(父):個人や企業がお金を貯めることは個人や企業にとって最適な行動なんだけど、
社会全体にとっては最悪な行動なんだ。こういう矛盾を何というか知っている。
ノンチャン:物価が下がることは、個にとって良いことなんだけど、まわりまわって全体
にとっては悪いことになる。「合成の誤謬」だよ。
ヒラ(父):もう一つ質問するよ。株価や不動産価格は急激にどんどん値上がりした。
株主や不動産のオーナーは、金持ちになったと考え、どんどん消費を増やした。
この場合の株価や不動産価格は、CPI(消費者物価指数)の射程内なの、それとも射程
外と考えて CPI とは別に考えるべきなの。そもそも、価格とはフローなのストックな
の。
マーチャン:難しすぎてわからないよ。
ヒラ(父):消費者物価指数の作成に当たっては、まず世帯が購入する商品(財・サービ
ス)のうち、世帯の消費支出上一定の割合を占める重要なものを品目として選ぶ。次に、
この家計消費支出割合に基づいて指数の計算に用いる各品目のウエイトを求める。
なお、家計消費支出割合は家計調査の結果などを用いる。家賃(持ち家については家賃
相当分を算定)は対象だが、不動産や株は CPI の対象外だよ。
テッチャン:家賃や対象品目を通じて不動産価格や株価も遠回りして計算されていないの
かなぁ~。
ヒラ(父):家賃は価格硬直性が強い。建物や土地の価格が暴騰しても暴落しても、家賃
はそれほど変動しない。同様に株価が38000円から半減しても株価の対象となる上場
企業の製品の価格は変動しない。だから不動産価格や株価は CPI と無関係だ。
それと
「価格とはフローなのストックなのか」考えると、価格は、フローでもストックでもな
い。価格とはモノとモノとの交換比率に過ぎず、次元を持たない。
-3-
ヒラ(父):さっきノンチャンがフロ-の面からデフレスパイラルを説明したけど、
ストックの面からの説明もしてよ。
ノンチャン:エッ!難しいなぁ~。
↓
景気悪化
↓
株価下落・不動産価格下落
↓
担保割れ・自己資本率低下
↓
不良債権増大
↓
貸し渋り
↓
景気悪化
↓
ヒラ(父):すごいじゃない。「自己資本率低下」のところだけ、詳しく説明して。
ノンチャン:BIS 規制(各銀行はこの自己資本比率を一定以上 8 %に維持しなければなら
ないとされる規制) において、株式の含み益が一定程度算入されていたのに、株価下落
で、BIS 規制をクリアしにくくなったんだ。
ヒラ(父):以下は、定義を確認しよう。
ある期間(二年間)、(コアコア CPI を指標とする)一般物価が持続的に下落するのがデ
フレ、持続的に上昇するのがインフレ
マイルド・インフレーションとは、ゆるやかに進むインフレーション。インフレ率は年
数%で、好況期に見られる。経済が健全に成長していると見なされ、望ましい状態と言わ
れることが多い。「クリーピングインフレ-ション」とも呼ばれる。
ギャロッピングインフレーションとは、早足に進むインフレーション。馬の早足を表す
「ギャロップ」から。インフレ率は年率 10%超-数十%程度を指すことが多い。
日本の経験= 1973 年(昭和48年)10 月「狂乱物価」がおきた。第四次中東戦争に端
を発した第一次オイルショックによってもたらされた、1974 年の日本の物価の異常な高
騰のこと。名付け親は福田赳夫。1973 年からの列島改造ブームによる地価急騰で急速な
-4-
インフレーションが発生していたが、第一次オイルショックにより相次いで発生した便乗
値上げ等により、さらにインフレーションが加速されることとなった。具体的には、1974
年、日本国内の CPI が 23%上昇した。狂乱物価は、スミソニアン協定で設定された限度
ぎりぎりの円安水準に為替レートを維持するため金融緩和を持続したことが、インフレを
もたらした。日本銀行のオイルショック前の行き過ぎた金融緩和政策とその後の引き締め
の遅れが企業や労働組合などに製品価格上昇や賃上げを走らせたとしている。
ハイパーインフレには二つの定義がある。
第1の定義:ケーガンによれば、年率 13000%を超える物価上昇の場合と定義される。
この定義のハイパーインフレは、国家が崩壊する場合、革命、戦争という異常な状況下で
起こりえるものである。
第2の定義:国際会計基準の定義では、3 年間で累積 100%年率約 26%の物価上昇をハ
イパーインフレーションと呼ぶ。この定義のハイパーインフレは現実に起こりえるが、ハ
イパーインフレび対する防御策が研究されているので、可能性はきわめてうすい。
(第一次オイルショックの際のCPIの23%上昇も、この意味のハイパーインフレに
該当しない。)
ハイパーインフレは主に、経済の提供可能な供給能力を超えて政府がシニョリッジ(通
貨発行益)の獲得を図る時に発生する。
シニョリッジ獲得のために貨幣を刷って名目貨幣残高を増やす。
↓
インフレを伴うのでシニョリッジは実質で見ると目減り
↓
シニョリッジ獲得のために貨幣を刷って名目貨幣残高を増やす。
↓
インフレの一層昂進
逆に言えば、経済の提供可能な供給能力の範囲内で政府がシニョリッジ(通貨発行益)
を獲得する限りハイパーインフレはおきない。現在の日本経済には、30兆円から100
兆円ものデフレギャップがあると言われている。その範囲内で国債を発行しかつ非不胎化
政策を採ってもハイパーインフレはおきないと言える。
マーチャン:急に、難し過ぎるよ。「非不胎化」って何。「非」と「不」が並ぶなんて
へんじゃん。「不胎化」と「胎化」でいいじゃん。
ヒラ(父):良い覚え方があるんだ。「胎化」って妊娠のことなんだ。
インフレを妊娠させないことを「不胎化」って言う。
-5-
インフレを妊娠させないとは限らない(妊娠させるかもしれない)ことを「非不胎化」、
例えば、日銀が市場から国債を買う。すると円が市場に出る。(実際には、金融機関の
の日銀預けの当座預金残高が増える。)その分、日銀が後から国債を売って円を取り戻
すのは不胎化、売らないのは非不胎化だよ。
マーチャン:非不胎化って卑怯な男みたいね。(笑い)
ヒラ(父):あまり深くつっこまないことにしよう。
ヒラ(父):日本はハイパーインフレを経験したことがあるかなぁ~。
ノンチャン:明治維新の直後と昭和20年の太平洋戦争終戦時に起きたらしい。
ヒラ(父):2000年から2009年の10年間の日本のデフレの猛威の傷跡・惨劇の
様子を見てみよう。
この10年間の実質成長率は、たったの0.74%
この10年間の名目成長率はマイナス0.45%
この10年間の鉱工業生産は、何と、年平均1.5%低下
この10年間の雇用者報酬(賃金の総額)は、何と何とマイナス
マーチャン:驚いたわ。ひどいわね。
ヒラ(父):本題が「デフレの弊害」だから、絶対落としてはならない論点がもう一つあ
るんだ。それはね。「デフレが続くと財政破綻が起きやすい。」ということだ。
髙橋洋一著「日銀新政策の成功は数式で全部わかる」の143頁の数式に書かれているん
だが、私自身がよくわ理解できないんだ。
髙橋先生は「増税は財政破綻の危険性を増大させる。」とも言っている。
以上
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補論
ヒラ(父):2013年10月1日安倍首相は来年4月からの消費税増税を是認したね。
コアコア CPI はどうなるのだろう。
マーチャン:1.7%程度コアコア CPI が上昇すると言われているわ。
来年4月から一定期間、コアコア CPI が上昇しても、景気の指標として使えないわね。
ノンチャン:つまりコアコ CPI が上昇しても、日本経済が滑らかに発展しているとは
言えなくなるよ。一定期間、コアコア CPI 指標ではなく、失業率指標と賃金上昇率指標
-6-
名目 GDP 指標で日本経済が伸びてているかどうか判断すべきなのかもしれないね。
テッチャン:来年4月以降は、コアコア CPI が上昇しても失業率指標が増え、賃金上昇
率指標が下がる危険があるね。
ヒラ(父):税収を単純化すると
個人所得×平均税率=所得税収入 法人所得×平均税率=法人税収入--- となるが、
もっと簡略化すると ”名目 GDP × 税率 = 税収”となる。
増税は名目 GDP を大幅に減少させる。
従って、税率が上がっても名目 GDP の減少率がそれ以上に下がれば税収は減る。
安倍内閣は増税による名目 GDP の減少を防ぐために以下の二つの政策を採ろうとしてい
る。
1.法人税減税 (増税のために減税することになる。)
2.財政出動(財政赤字を防ぐために増税したのに、財政赤字を増やすことになる。)
ヒラ(父):物価が上がっても企業業績の改善が賃上げに反映され、設備投資や消費に結
びついていく「好循環」がデフレ脱却なんだ。
9 月末の CPI は、前年同月比 0.8%上昇で 3 か月連続プラスとなったが、コアコアCP
Iは同0.1%低下と引き続き水面下にあり、これがプラスに転じなけらばデフレ脱却に
はならない。日本はまだデフレなんだ。デフレなのに、消費税増税を決めてしまったんだ。
消費増税実施を1年延期すれば、1年後は黒田緩和が効きはじめコアコア CPI もプラ
スに転じており、賃金も上昇し、失業率も最低レベルに達し、設備投資が増え、消費も増
え、日本経済には増税を受け入れる体力がついている。(設備投資も企業の内部留保では
足らなくなり、銀行から借り入れるようになる。)
マーチャン:株価は騰がっているけど、株価は先行指標で経済実体を示すものではないわ。
現在「コアコア CPI は0.1%低下」であり、デフレ脱却とは言えないわ。消費増税は
後1年待つべきだったわね。
テッチャン:リーマンショック後、イギリスやイタリアは消費税増税をしたが、どちらの
国でも、経済が不況になりカエッテ税収は減少したんだ。
ヒラ(父):何のために消費税増税をするか、それは税収を上げて財政再建に資するため
だ。それなのに、消費税増税を2014年4月に断行すれば、税収が減少し、財政危機が
深まる危険がある。
たとえ話をするよ。エンジン4発の旅客機「日本経済号」は離陸した。成層圏に入れば
飛行は安定するが、しかし、まだ地上に近く飛行は不安定だ。
「日本経済号」のエンジンを一発止める必要がおきた。私が機長なら離陸直後ではなく
成層圏飛行に移ってから、3発エンジンに移行するね。
-7-
テッチャン:デフレ脱却だけに全力投球すれば良いのに、消費税増税の来年4月実施なん
て危険だね。
ノンチャン:「消費増税すれば税収が増える。」という事実に反する馬鹿な考えに、マス
コミは毒されている。
マーチャン:消費税増税で6兆円~8兆円程度税収が増え、6兆円以上所得税・法人税等
の税収は減少すると思うわ。経済活動縮小に備えて、東北災害用に増税した法人税を1年
はやく撤廃するなど減税するかもしれないわね。でも復興増税分は補填する。ということ
は、消費税増税で財政赤字が増えることにならない。完全に矛盾だわ。
ヒラ(父):2013年は2%を超える経済成長率だった。2014年は消費税増税のせ
いで、せいぜい0.5%程度の成長率と予想される。場合によっては、マイナスになるケ
ースも考えられる。デフレ下での増税は経済成長を止めるんだ。
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ヒラ(父):もっと根源的な問題がある。増税で財政再建は絶対にできない。人類の歴史
上増税で財政再建に成功した例は皆無なんだ。増税無しか減税して経済成長で税収を増や
し財政再建に成功した例はたくさんある。
マーチャン:へ~。具体例を上げて。
ヒラ(父):経済成長で財政赤字は簡単に克服できる。最近の例ではクリントン元大統領
の政策だ。
アメリカ経済の中心を重化学工業から IT・金融に重点を移し、第二次世界大戦後とし
ては 2 番目に長い好景気をもたらし、インフレなき経済成長を達成した。グリーンスパ
ン FRB 議長の助言の下に、均衡財政をめざし、巨額の財政赤字を解消して、2000 年には
2300 億ドル(約23兆円)の財政黒字を達成した。
これらの経済政策は、クリントノミックスと呼ばれる。
クリントノミックスほど劇的ではないが、イギリスがナポレオン戦争後、および第 2 次世
界大戦後に、ネットの負債が GDP 比で 250%前後に達したが、その後イギリスは経済成
長したため破綻しなかった例もある。財政赤字/ GDP
比
が問題なのであって、経済
成長によって分母の GDP を増やしていけば、財政赤字の問題は消える。GDP を増やすに
は、経済成長こそ重要だ。
マーチャン:前例があるのね。なんとなく胸のつかえがなくなったわ。
-8-
ヒラ(父):黒田日銀が異次元の金融緩和に踏み切った。それにより、IS - LM 曲線の
LM 曲線が右へシフトし、実質金利が下がり IS 曲線との交点も右へ移る。投資はじわじ
わと増え、CPI も上がる。CPI が上がれば、フィップス曲線により、失業率は改善される。
失業率が改善されるとオークン法則により実質 GDP が増える。実質 GDP が増えれば、そ
れは即所得増と同義なので、(CPI 上昇傾向とあいまって)消費が増える。消費が増えれ
ば、それに応じて設備投資が増え始める。
マーチャン・テッチャン:パパが何言っているのかさっぱりわからないよ。
ヒラ(父):ごめん、ごめん。独りよがりになっちゃった。別な日に、IS - LM 曲線、フ
ィップス曲線、オークン法則を説明するね。今日はこれまで。
-9-