一般社団法人 海外建設協会 8&9 Aug. & Sep. 2013 Vol.37 / No.8 & 9 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 視点 わが国ODAの特色 海外生活便り アゼルバイジャン 支部通信 上海 8&9 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 01 02 07 13 16 19 23 27 篠塚 徹[拓殖大学北海道短期大学] 【視点】わが国ODAの特色 平成25年度わが国の経済協力について──ODAの戦略的活用に向けて 川田 一德[外務省] 国土交通省の技術協力について 岸本 紀子[国土交通省] [国際協力機構] JICAの有償資金協力について 江口 雅之 JICAの無償資金協力事業における実施監理について 梅永 哲[国際協力機構] [経済協力通信] わが国 ODAと海外建設工事について 松本 茂利 わが国ODAの新たな取り組み 米澤 博臣[日刊建設産業新聞社] [海外建設協会] 平成25年度ODA要望活動と今後に向けて 鈴木 恵 わが社のODAプロジェクトへの取り組み 34 38 42 45 48 51 堀内 功[北野建設] 梅原 昌博[大日本土木] 伊藤 寛一[竹中土木] 河野 暢敬[東亜建設工業] 鈴木 敬二[徳倉建設] 石田 元章[NIPPO] 海外生活便り 54 鳥井 洋介[日特建設] 支部通信 57 中村 直之[竹中工務店] 60 海外受注実績 61 主要会議・行事 61 編集後記 コンゴ民主共和国 キンシャサ市ポワ・ルー通り補修および改修計画 第二次ハトロン州ハマドニ地区給水改善計画 グルジア国、 東西ハイウェイ整備事業(クタイシ工区・サムトレディア工区・ゼスタフォニ工区) インドネシア共和国デンパサール下水道整備事業二期工事 ガーナ共和国国道8号線改修計画 ブランタイヤ市道路網整備計画(第2期) 【アゼルバイジャン】 「アゼルバイジャン共和国」について 【上海】日系企業の対中投資の現状 特集 わが国の経済協力の 現状と見通しについて 【視点】 わが国ODAの特色 篠塚 徹 拓殖大学北海道短期大学 学長 資源の少ない日本は世界有数の自然災害被災国でもあるが、先人は体験を師としてさまざまな知恵と工 夫を重ねて国土を守りぬいてきた。この間、世界に誇り得る内容の濃い科学技術が構築されてきたのであ る。第 2 次世界大戦に敗れ国民がまだ経済的困難に直面していた 1954 年に、日本はコロンボプランに加 盟し技術協力を開始したが、国際協調なくして日本の発展なしという意識の下で、乏しい予算の中から まず技術の移転に力を注いだ。その後 ODA(政府開発援助)大国として名を馳せた日本の国際協力の原点を、 ここに見ることができる。 今日 ODA は DAC(開発援助委員会)などにおける協議によってさまざまな制約を受けているが、ともすれ ば援助供与側である先進国同士の利害関係によって協定などが決められていることが多い。日本の ODA は財政上の制約から借款が多いこともあって東アジアを中心にインフラ整備に向けられていたが、この支 援がアジア諸国の経済発展の基礎を築き、今日の発展に結びついているのは多くの研究によっても明らか である。しかし、欧米諸国から「日本は ODA を輸出振興の手段に使っている」という批判を浴び、アン タイイングの議論が勝って早い段階から一般アンタイド下における国際入札が原則となっている。 ODA は何のために実施しているのであろうか。ODA という言葉の原義からも分かるように、公的な 開発援助を通じて被援助国の発展に寄与することである。ODA の実施に当たって片時も 開発途上国の 発展 という意義を忘れてはいけないが、公的な開発援助である以上、各供与国の特色を出した援助であ ることも、また当然のことであろう。日本の ODA の特色は、ソフトウェアも含めて 日本ならでは と いう技術水準が高く、きめ細かな援助を打ち出すところにある。このことは、受注した日本企業の多くが 開発途上国の実施機関にその誠実な仕事ぶりを高く評価されている事実にも裏づけられている。 円借款の場合、一般アンタイド下で国際入札が行われ、日本企業の受注率が低い時代が続いた。そのた め日本の得意分野を対象に 10 年前に「本邦技術活用条件(STEP)」が導入されたが、本年 4 月円借款関係 3 省が STEP の制度改革を含む「円借款を含む戦略的活用のための改善策」を打ち出したのは、開発途上国 のインフラ開発支援のためにも、日本企業のためにもタイムリーであった。 もとより人道支援や災害救助など ODA の対象分野は広く、ODA と連携した開発手法も多い。その中 にあって日本の ODA が、その特色を維持するために本邦企業が活躍することを念頭に一定の制度を構築 することは望ましいし、現に効果を上げているのである。 2013 08–09 01 特集 平成25年度わが国の経済協力について ──ODAの戦略的活用に向けて 川田 一德[外務省 国際協力局 事業管理室長] 2010 年から 2020 年までのアジアの開発途上国の ある。 インフラ需要は 8 兆 2,225 億ドル、年当たり 7,475 また、現在、わが国の ODA の半分以上を占める 億ドルに達すると推計されている 。新興国・発展 円借款の日本企業受注率は過去 5 年平均で約 33% 途上国の膨大なインフラ需要を前に、日本の優れた となっており、この伸び悩みが課題となっている。 技術・ノウハウを開発途上国に提供し、人びとの暮 このような現状を踏まえ、ODA を効果的に活用 らしを豊かにすると共に、特にわが国と密接な関係 していくために、政府としてもさらなる制度・運用 を有するアジアを含む新興国の成長を取り込むこと 改善を行っていく所存であり、海外建設協会、会員 により、わが国の力強い経済成長に繋げていく必要 企業の方からも引き続きご意見を賜っていきたい。 *1 性は一層増していると言えよう。 この点は、5 月 17 日の安倍総理の「成長戦略第二 以下では、昨年(2012 年)度の ODA 供与実績およ び今年(2013 年)度の目標および方針を概観した後、 弾スピーチ」で発表された「インフラシステム輸出 現在、当方で取り組んでいる制度改善などについて (2013 年 6 月 14 日閣議決定) 戦略」 、 そして「日本再興戦略」 ご紹介したい。 において指摘されている通りであり、これら戦略の 中では、日本経済の活性化に繋がるよう無償資金協 力、有償資金協力、技術協力の各スキームを有機的 に連携させ、ODA を戦略的に活用する必要性が改 1. 平成24年度無償資金協力および円借款の実績 (1)無償資金協力 平成 24 年度の無償資金協力実績(交換公文ベース) めて指摘されている。 「インフラシステム輸出戦略」 は、総額約 2,030 億円であった。平成 23 年度実績 では、インフラシステム輸出促進のためにインフラ の総額約 1,714 億円から約 18%,約 316 億円増と 案件の面的・広域的な取り組みへの支援や、インフ なった。 ラ案件の川上から川下までの一貫した取り組みへの ア)地域別の傾向 支援、インフラ海外展開のための法制度などビジネ 地域別の配分額および割合は、 表 1 の通りである。 ス環境整備などのアプローチそれぞれについて具体 的な施策が掲げられているが、そのそれぞれにおい て ODA を活用した施策を盛り込んでいる。 表1|近年の地域別配分額および割合(無償) 地域 一方、わが国の 2013 年度の ODA 予算は 5,573 億円であり、1997 年度をピークに約半減し、現在 は 1980 年代半ばと同水準にまで落ち込んでいる(後 述) 。わが国の 2012 年度の ODA 実績は、無償資金 協力総額 2,030.11 億円、円借款総額 1 兆 2,265.12 億円 となり、それぞれ前年度比約 18%増、15% *2 増となったものの、依然として厳しい状況にあるこ とには変わりない。さらに、現在は ODA 予算全体 が円安の影響にさらされており、一層厳しい状況に 02 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 割合 金額(億円) 金額(億円) (平成24年度) (平成23年度) (平成24年度) 東アジア・南西アジア 797.03 アフリカ 中東 中南米 大洋州 中央アジア 39.3% 522.76 643.87 31.7% 620.99 310.70 15.3% 292.58 122.99 6.1% 106.60 75.50 3.7% 83.73 44.35 2.2% 58.97 7.69 0.4% 5.28 27.98 1.4% 23.00 2,030.11 100.0% 1,713.91 欧州 その他 合計 *交換公文ベース、債務救済除く。 本年度は対アジア支援の割合が最も大きく、39.3% 供与している。 を占めている。また、本年 6 月に横浜で開催された イ)国別の傾向 第 5 回アフリカ開発会議(TICAD V)で対アフリカ支 平成 24 年度の国別実績は、表 2 の通りであり、 援の重要性が確認された通り、アフリカ向けの配分 ベトナム(2,029 億円)、 ミャ 上位からインド(3,531 億円)、 額割合も 3 割以上を占めている。 ンマー(1,989 億円)、バングラデシュ(1,664 億円)、イラ イ)国別の傾向 ク(670 億円)の順となっている。 平成 24 年度の国別実績は上位から、ミャンマー (約 277 億円) 、アフガニスタン(約 227 億円)、タイ(約 90 ウ)調達方式別の傾向 本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic 億円) 、カンボジア(約 67 億円)、パキスタン(約 65 億円) Partnership)の実績は、総額 2,999 億円となり、円借 の順となっている。 款実績の 24.5% を占め、平成 23 年度の 1,934 億円 (総額の 18.2%)から増額となった。国別には、ベトナ (2)有償資金協力 (円借款) 平成 24 年度の円借款供与実績(交換公文ベース)につ ム 4 件、フィリピン 2 件、インド 1 件、スリランカ いては、総額約 1 兆 2,265 億円となり、交換公文ベー 1 件、イラク 1 件の計 9 件であった。 スとしては史上 2 番目に大きい実績となった。平成 エ)分野別の傾向 24 年度は対ミャンマー円借款が 25 年ぶりに再開さ 分野別に見ると、経済インフラが全体の 54.0% れた。 を 占 め、 そ の う ち 主 だ っ た も の と し て 陸 運 が ア)地域別の傾向 34.5%、電力 15.9% となっている。 供与先は 18 カ国で、アジア向けが 86%と 8 割以 上を占めており、従来同様アジアを中心に円借款を 2. 平成25年度のODA予算および国際協力重点方針 (1)平成25年度ODA予算 今年度の外務省の ODA 予算は 4,212 億円であ 表2|平成24年度円借款供与上位10カ国 国名 実績額(億円) り、平成 24 年度比で 32 億円増額となったが、政府 割合 全体の ODA 予算としては、5,573 億円であり、24 1 インド 3,531 28.8% 2 ベトナム 2,029 16.5% 年度比で 39 億円の減額となり、引き続き減少して 3 ミャンマー 1,989 16.2% いる(図 1)。このような予算の減額を反映し、わが 4 バングラデシュ 1,664 13.6% 5 イラク 670 5.5% 国の援助実績は 2012 年の支出純額ベースで米国、 6 フィリピン 618 5.0% 7 スリランカ 411 3.4% 8 ケニア 277 2.3% (GNI)比(2012 年度)では、 日本は 0.17% となっており、 主要援助国 24 カ国中、ギリシャ、イタリア、韓国、 9 ペルー 211 1.7% 10 インドネシア 155 1.3% その他 709 5.8% 12,265 100.0% 合計 *交換公文ベース、債務救済除く。 ドイツ、英国、フランスに次いで第 5 位となって いる。また、主要援助国 ODA 実績の対国民総所得 スペインに次いでワースト 5 に入っている。 (2) 「平成25年度国際協力重点方針」 本年 6 月に外務省が発表した「平成 25 年度国際 2013 8–9 03 (わが国の外交政策の進展や新たな開発改題に 協力重点方針」 ンマー支援方針の着実な実施の一環として推進して 迅速に対応するため、毎年度の国際協力の重点事項と地域別の供 いく。 与目標額を定めるもの)では、わが国 ODA 政策の基本 また、アフリカにおいては、本年 6 月に開催され 的な考え方として、❶自由で豊かで安定した国際 た第 5 回アフリカ開発会議(TICAD V)において発表 社会を実現する ODA、❷新興国・途上国と日本が した、将来の日・アフリカのビジネスリーダー 1,000 共に成長する ODA、❸人間の安全保障を推進し、 人を招聘する「安倍イニシアティブ」を含む産業人 日本への信頼を強化する ODA の 3 本柱を掲げてい 材育成 3 万人、およびインフラ分野における公的資 る(図 2)。 金 6,500 億円のコミットメントに沿って、日本企業 たとえば、❷の「新興国・途上国と日本が共に成 の対アフリカ投資を促進するための官民連携を推進 長する ODA」については、インフラシステム輸出 する支援、安全な投資環境整備のための支援を具体 支援、新興市場開拓に向けた ODA の活用やビジネ 化していく。また、インフラ整備支援に関しては、 ス環境整備をはじめとする取り組みをアジア、アフ 5 大成長回廊の整備支援、都市計画/交通網/イン リカなどで強化することとしている。アジアでは、 フラ整備などのための戦略的マスタープランを 10 2015 年までの ASEAN 構築に向け、ASEAN 連結性 カ所において策定することを約束している。 支援の具体化やメコン地域全体に対する 6,000 億円 また、地域別供与方針に関しては、平成 25 年度 の支援(2013 年からの 3 年間)、インドネシア、ベトナ の供与目標額総額は、1 兆 7,592 億円となっており、 ム、インドなどにおけるインフラ整備支援、対ミャ 昨年度の目標総額約 1 兆 4,908 億円から増額してい 図1|わが国ODA予算の推移 (億円) 14,000 11,687 11,452 11,061 10,634 10,489 10,144 10,473 10,466 9,522 10,152 9,106 8,831 ■ 政府全体 ■ 外務省 12,000 10,000 8,000 5,810 6,000 4,000 3,022 3,516 2,332 2,000 962 1,347 1,648 3,965 4,417 1,871 2,097 4,813 6,220 6,580 7,010 7,557 8,175 5,281 4,151 2,512 2,751 2,324 2,950 3,106 3,297 4,808 4,472 5,116 5,342 5,537 5,731 5,851 5,568 5,582 5,602 5,565 5,389 8,578 8,169 5,165 5,001 7,862 7,597 4,881 4,733 7,293 7,002 6,722 4,544 4,407 4,363 3,552 6,187 5,727 5,612 5,573 4,134 4,170 4,180 4,212 0 年度 1978 79 (政府案) 04 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 る。これは昨年の総額約 1 兆 5,154 億円という実績 た。主な内容としては、❶円借款の重点分野の見直 を踏まえ、旺盛な発展途上国・新興国の資金需要を しおよび重点分野における金利の引き下げ、❷本邦 踏まえたものであり、この増分の太宗の 2,000 億円 技術活用条件の制度改善、❸中進国および中進国を 以上は円借款の供与目標額の増加によるものであ 超える所得水準の開発途上国に対する円借款の一層 る。ただし、こうした円借款の目標額を実現するた の活用、❹災害発生時に借入国からの要請をもって めにも、無償資金協力や技術協力の役割が重要であ 速やかに融資を実行できるよう、災害発生に備えて る。地域別の目標額も公表しているので外務省ホー 融資枠を合意する「災害復旧スタンドバイ円借款」 ムページを参照いただきたい(http://www.mofa.go.jp/ の創設、❺ノンプロジェクト型借款の一層の活用が mofaj/gaiko/ODA/seisaku/pdfs/25_jyuten.pdf )。 挙げられる。 具体的には、STEP に関しては、金利の引き下げ、 主契約者・調達ルールの柔軟化、F/S 前の上流段階 3. 制度改善とODAの適正な実施 での本邦企業からの意見聴取を含む改善策を盛り込 (1) 円借款の戦略的活用に向けた改善策 円借款については、開発途上国と本邦企業双方に んでいる。また、日本の強みを生かせる分野(防災、 とって魅力的な制度となるよう、昨年 11 月に発表 保健・医療)の優先分野への追加および優先分野の金 した外貨返済型円借款の導入に引き続き、本年 4 月 利引き下げや、すべての中進国に対する供与可能分 に「円借款の戦略的活用に向けた改善策」を発表し 野の拡大(広域インフラ・農業の追加)も行った。このほか、 図2|平成25年度国際協力重点方針の基本的考え方 ■日本を取り巻く情勢が変化する中、 わが国の最も重要な外交手段であるODAの有効性がさらに増大している。 ■途上国の開発と成長というODAの目的を達成するため、❶自由で豊かで安定した国際社会を実現するODA、❷新興国・途上国と日本が共に成長するODA、❸人間の安全 保障を推進し、 日本への信頼を強化するODA、 という3つの柱の下で、 ODAを戦略的・効果的に活用していく。 ■また、NGO、 企業(中小企業を含む)、 地方自治体、 大学といった政府・JICA以外の援助の担い手を積極的に拡大し、 その優れた技術や知見を取り込むことによりODAの質の 向上を図る。 自由で豊かで安定した 国際社会を実現するODA 新興国・途上国と日本が 共に成長するODA 自由や民主主義といった普遍的価値に沿った秩 序形成に向けた戦略的外交を展開するにあたっ て、ODAは最も重要なツールである。 ODAと日本のインフラ、製品、技術の国際展開を 繋げることで、新興国・途上国と日本が共に成長 できる事業を積極的に推進。同時に、ODAによる 人材育成、技術移転を通じ、法制度や規格・基準 の整備を推進する。途上国における資源・エネル ギー開発の促進に繋がる事業も実施。 【具体的取り組みの例】 ・日本と普遍的価値や戦略的利益を共有する国 への支援(インド、 インドネシア、 フィリピン、 ベトナ ムなど) ・国際テロ対策への貢献 ・ミャンマーをはじめ世界各地で民主化、国民和 解を進めている国の努力を後押し ・法制度整備・民主化支援 ・中東・北アフリカ地域の安定と繁栄に向けた包 括的パートナーシップに基づく支援 【具体的取り組みの例】 ・日本型インフラシステム輸出支援 ・中小企業の国際展開支援(平成24年度新事業、 今年度は予算を拡充) ・地方自治体の国際展開支援 ・官民連携の促進 人間の安全保障を推進し、 日本への信頼を強化するODA 人間の安全保障の理念に基づき、人づくりのため の技術協力など日本らしい援助を拡充することで、 わが国への信頼・プレゼンスの強化に繋げる。 【具体的取り組みの例】 ・NGOとの連携強化 ・環境・気候変動/防災対策 ・ミレニアム開発目標(MDGs)達成とポストMDGs 策定への貢献 ・国際保健外交戦略に基づく支援 ・人間の安全保障の促進(アフリカをはじめとする 貧困地域) ・ジェンダー主流化 ・太平洋島嶼地域支援 2013 8–9 05 変動金利の導入やコミットメント・チャージの廃止 のためのキャパシティービルディングについては今 についても決定している。今後も、後発開発途上国 後も一層取り組んでいくべきと考えている。また、 (LDC)向け円借款の制度改善やサブソブリン向けの 税金問題や円借款の工事に関する被援助国政府・実 直接融資について検討し、さらなる改善に努めてい 施機関の手続きの遅延については、引き続き、個別 きたい。 案件ごとに大使館と JICA 在外事務所が一体となっ (2)ODAの実施段階における諸問題 ODA の制度および実施段階における諸問題につ て対応していくべきと考えているので、ご相談いた だきたい。 いては、これまでも ODA 事業の最前線に立つ現場 からの声として、毎年海外建設協会からご要望をい * 1 Biswa N. Bhattacharyay Estimating Demand for ただいているところである。たとえば、先方政府負 Infrastructure in Energy, Transport, Telecommunications, 担事項の指導の徹底や発注機関の事業監理能力向上 Water and Sanitation in Asia and the Pacific: 2010-2020 , アジア開発銀行(ADB) , 2010 年 9 月 * 2 円借款・無償ともに交換公文ベース 06 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 特集 国土交通省の技術協力について 岸本 紀子[国土交通省 総合政策局 海外プロジェクト推進課 国際協力官] 技術協力などの既存ツールを有効に活用し、戦略的 1. インフラシステム輸出戦略 平成 25 年 5 月 17 日に経協インフラ戦略会議(官 に市場獲得につなげていくことが求められる。 房長官が議長)でまとめられた「インフラシステム輸 出戦略* 1」において、官民連携の下、わが国企業が 2. 国土交通省の技術協力 2020 年に約 30 兆円(現状約 10 兆円)のインフラシステ 国土交通省海外プロジェクト推進課では、国土交 を目指すことが明記された。また同戦 通省と外国政府インフラ担当省との国際協力を推進 略では、政府開発援助(ODA)や公的金融機関によ することにより、両省間の信頼関係・協力関係を醸 る支援を最大限活用することで、相手国の経済発展 成し、これを活かして日本企業の海外展開を支援し とわが国企業の発展を両立させる Win-Win の構図 ている。経済協力の範疇において国土交通省が実施 を実現することが可能との見解が示された。 している主要な施策として、国土交通省推薦による ムの受注 *2 一方で今年度わが国の ODA 予算総額は、ピーク JICA 専門家の派遣と、JICA 研修の受け入れが挙げ 時の 1997 年度と比べて 5 割以下に落ち込み、依然 られる。このふたつの施策はどちらも、ODA の「技 厳しい状況が続いている。今後関連政府機関では、 術協力」に分類される二国間の協力である(図 1)。 図1|政府開発援助における国土交通省の主な役割 インフラ担当官庁としての技術的・政策的経験を活かし、長期専門家派遣および課題別研修の実施を中心とした、 きめ細かな技術協力を実施。 政府開発援助 多国間協力 二国間協力 技術協力 JICA個別専門家 JICA技術協力 プロジェクト JICA研修 JICA開発計画調査型 技術協力 国土交通省によるセミナー、 ワークショップ、政策対話など 長期 専門 家 短期・ 長 研修員 期専門 家※ 受入 研修員受入 員 調査団 職員 機材供与 専 門 家 有償資金協力 無償資金協力 その他 ※短期専門家とは派遣期間が1年未満の専門家、 長期専門家とは派遣期間が1年以上の専門家 のことをいう。 国際緊急援助 ボランティア派遣 その他 2013 8–9 07 整備、既存道路の改良ともに大きな需要が予想され (1)JICA 専門家の派遣 JICA 専門家は、途上国からの要請を受け、国土 ている。アジア開発銀行の予測(2009 年)によると、 交通省が省内、地方公共団体、関連機関などから適 2010∼ 2020 年のアジアにおけるインフラ需要は約 任者を選定・推薦の上派遣される。国土交通省では、 8 兆ドルであり、そのうち約 3 割を道路分野が占め 政策の企画、立案にあたる中央政府に人を派遣する ている。現在国土交通省から派遣されている道路分 と共に、具体的案件の実施機関や新しい施策をパイ 野の長期専門家は 16 人であり、ベトナム、インド ロット的に実施するための実施機関にも派遣、双方 ネシア、インドなどアジア諸国への派遣が中心と と建設アタッシェが連携し、一連の技術協力を進め なっている。アフリカに対しては、派遣者数は少な ることが望ましいと考えている。 いものの、技術能力の向上に資する専門家の派遣を 行っている。本年 6 月に横浜で開催された第 5 回ア 〈現状〉 国土交通省の推薦による建設分野の専門家の総数 フリカ開発会議(TICAD V)では、安倍総理より、今 は、平成 23 年度、短期、長期合わせて 100 人に上る。 後 5 年間でインフラ整備に対し 6,500 億円(65 億ドル) 分野別に見ると、道路分野が 30 名の専門家を派遣 を投じ、特に内陸部と沿岸を繋ぐ「国際回廊」を整 しており、建設分野で最多である(図 2)。 備することが表明された。この結果を見る限り、今 後道路分野でのアフリカのプロジェクトは増加する 図2|建設分野におけるJICA専門家派遣者数 (短期・長期派遣者の合計、 平成23年度実績) 砂防7% 道路30% 都市13% その他4% 住宅19% 河川17% 合計 100人 下水10% ことが予想され、国交省の専門家に対しても大きな 期待が寄せられるものと考えられる。 河川・砂防分野では、現在 12 人の長期専門家が 派遣されており、インドネシアに 3 名、フィリピン に 2 名などとなっている。また、今年度 8∼ 9 月よ 次に、長期専門家に焦点をあてる。平成 25 年 4 り、ベトナムの「災害に強い社会づくりプロジェク 月 10 日時点で、国土交通省の推薦により開発途上 トフェーズ 2」とブラジルの「統合自然災害リスク 国に派遣されている建設分野の長期専門家は 40 名 管理国家戦略強化プロジェクト」の専門家として、 である(案件名は表 1 を、地理的分布は図 3 を参照)。派遣 合計 4 名が中央政府などに派遣予定である。 各 2 名、 先国数は 15 カ国であり、インフラ需要が高く ODA 下水道分野では、合計 5 名の長期専門家が派遣さ 供与額の多い ASEAN 地域や南アジアに多くの長期 れており、ベトナムに 3 名などすべてがアジア地域 専門家を送り込んでいる。派遣者数の多い順に、イ への派遣となっている。同分野では、政府の中枢に ンドネシア 7 名、ベトナム 5 名、インド 4 名、フィ 人を送り込み、法制度の整備や組織のあり方に関す リピン 4 名、となっており、アジアへの派遣が全 るアドバイスを行うと同時に、具体的案件がある地 体の 83%を占める。次に多いのはアフリカ地域で、 方公共団体などに長期専門家を派遣し、円借款など 全体の 15%を占めている。 によるプロジェクトを技術的な側面から支援してい 〈分野別の傾向〉 経済成長の根幹となる道路整備については、新規 08 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて る。たとえば、ベトナムにおける「ホーチミン市下 水管理能力開発プロジェクト」の長期専門家は、円 借款により日本の技術を活用して整備されたビンフ プランでは、さらに 12 の下水処理場の建設が計画 ン下水処理場建設の運転・管理に係わる現地職員の されている。 建築分野では合計 4 名の長期専門家が派遣されて 能力向上を任務としている。また、同市のマスター 表1|建設分野における国土交通省推薦のJICA長期専門家(平成25年4月10日現在) 形態※ 分野 1 インド 個別 道路 高速道路運営維持管理の組織能力向上プロジェクト 高速道路運営維持管理 国道庁 2 インド 個別 道路 高速道路運営維持管理の組織能力向上プロジェクト チーフアドバイザー/高速道路政策 道路交通省 3 インド 個別 道路 都市交通政策アドバイザー 都市開発省 4 インド 個別 下水 下水道セクター技術政策アドバイザー 都市開発省 5 インドネシア 個有 道路 道路政策アドバイザー 公共事業省道路総局 6 インドネシア 個有 河川 総合防災政策アドバイザー 国家防災庁 派遣国 案件名 派遣先 7 インドネシア 個有 河川 水資源政策アドバイザー/統合的水資源管理 公共事業省水資源総局 8 インドネシア プロ 河川 ジャカルタ首都圏総合治水能力強化プロジェクト チーフアドバイザー/総合治水政策/流域組織調整 公共事業省水資源総局 9 インドネシア 個有 下水 下水管理アドバイザー 公共事業省住宅総局衛生環境局 10 インドネシア プロ 建築 インドネシア建築物耐震性向上のための建築行政執行能力向上プロジェクトフェーズ2 建築政策アドバイザー 公共事業省居住総局 公共事業省居住総局 11 インドネシア プロ 建築 インドネシア建築物耐震性向上のための建築行政執行能力向上プロジェクトフェーズ2 建築行政強化 12 キルギス 個別 道路 道路行政アドバイザー (広域) 運輸通信省 13 タイ プロ 都市 土地区画整理システム自立的発展・普及プロジェクト チーフアドバイザー/土地区画整理マネジメント 内務省公共事業・都市計画局 14 タイ 個別 河川 洪水管理/洪水対策 アドバイザー兼プログラム調整 王室灌漑局 15 中国 プロ 河川 ダムの運用管理能力向上プロジェクト チーフアドバイザー/ダム計画・管理 水利部人材資源開発センター 16 中国 プロ 建築 耐震建築人材育成プロジェクト 耐震建築 住宅・都市農村建設部 17 中国 プロ 建築 耐震建築人材育成プロジェクト チーフアドバイザー/建築行政 中国建築標準設計研究院 18 バングラデシュ 個有 道路 道路橋梁維持管理アドバイザー 運輸省道路局 19 バングラデシュ 個別 河川 河川管理アドバイザー 水資源開発庁 国防省測量局 20 バングラデシュ プロ 地理 デジタル地図作成能力向上プロジェクト 地図行政 21 フィリピン プ有 道路 道路計画管理 公共事業道路省 22 フィリピン プロ 道路 道路・橋梁の建設・維持に係わる品質管理向上プロジェクトフェーズ2 公共事業道路省 23 フィリピン 個有 河川 総合治水 公共事業道路省 24 フィリピン プロ 河川 災害リスク管理(DRRM) 公共事業道路省 25 ベトナム プロ 道路 道路維持管理能力強化プロジェクト 交通運輸省道路総局 26 ベトナム プ有 道路 高速道路運営維持管理体制強化プロジェクト 高速道路管理体制 27 ベトナム プ有 下水 ホーチミン市下水管理能力開発プロジェクトフェーズ2 下水道維持管理 洪水対策センター 28 ベトナム プ有 下水 ホーチミン市下水管理能力開発プロジェクトフェーズ2 チーフアドバイザー/下水道行政 洪水対策センター 29 ベトナム 個有 下水 都市環境(下水道)政策アドバイザー 建設省技術インフラ局 30 ミャンマー プロ 道路 災害多発地域における道路技術改善プロジェクトチーフアドバイザー/道路政策・技術 建設省公共事業局 31 ミャンマー プロ 道路 災害多発地域における道路技術改善プロジェクト 道路技術基準 建設省公共事業局 32 ミャンマー 個別 河川 防災人材育成アドバイザー 社会福祉救済・復興省 救済・復興局 道路交通建設都市開発省、ウランバートル市 33 モンゴル プロ 都市 都市開発実施能力向上プロジェクト 都市計画・都市開発制度 34 ラオス 個別 河川 公共事業省官房長付計画アドバイザー 公共事業・運輸省官房 35 エジプト プロ 道路 橋梁維持管理能力向上プロジェクト チーフアドバイザー 道路橋梁陸運総庁 36 エチオピア 個別 砂防 地すべり対策管理アドバイザー エチオピア地質研究所 37 モザンビーク プロ 道路 道路維持管理能力向上プロジェクト チーフアドバイザー/道路計画・維持管理 道路公社 38 ケニア プ有 道路 道路メンテナンス業務の外務委託に関する管理能力強化 道路点検/施工管理/業務調整 道路公社 39 ケニア プ有 道路 道路メンテナンス業務の外務委託に関する管理能力強化 道路維持管理計画/人材育成/チーフアドバイザー 道路省 40 ケニア プロ 河川 洪水に脆弱な地域における効果的な洪水管理のための能力開発プロジェクト チーフアドバイザー/洪水管理行政 水資源管理庁 ※プロ:技術協力プロジェクト 個別:技術協力個別案件 プ有:技術協力プロジェクト(有償勘定) 個有:技術協力個別案件(有償勘定) 2013 8–9 09 いる。いずれも耐震分野であり、派遣先も地震頻発 することを目的として、途上国の国づくりの担い手 国である中国およびインドネシアである。 となる中央政府や地方公共団体の職員などを主にわ 平成 25 年 2 月にまとめられた「これからのインフ 「JICA 専門家に ラシステム輸出戦略 」において、 *3 が国に受け入れて研修を行うもので、課題別研修と 国別研修に整理される。 ついては、インフラ展開の視点からの戦略的な配置 課題別研修は、日本側で策定した研修メニューを の見直し」が必要とされている。インフラシステム 途上国側に提示し、それに参加を希望する途上国か 輸出戦略におけるわが国の方針も鑑み、インフラ案 ら参加の要請を受けて実現する。一方国別研修は、 件形成支援などの役割を睨んだ専門家の配置を行う 途上国の個別具体的な要請に基づき、国ごとにオー 必要がある。 ダーメイドで研修メニューを策定し実施する。 〈現状〉 (2)JICA 研修の受け入れ 国土交通省の建設分野における JICA 研修員の年 JICA 研修は、専門的知識や技術を途上国に移転 間受け入れ人数は、課題別研修と国別研修を合わせ 図3|建設分野における国土交通省推薦のJICA長期専門家の地理的分布(平成25年4月10日現在) 1 1 4 1 1 3 3 3 3 1 2 5 キルギス 1 インド 4 4 7 1 エジプト 1 エチオピア 1 ケニア 3 モザンビーク 1 10 バングラデシュ 3 ミャンマー 3 タイ 2 ラオス 1 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 中国 3 モンゴル 1 ベトナム 5 フィリピン 4 インドネシア 7 ると、平成 23 年度実績で 972 人に達する。これを 3. 終わりに 分野別に見ると、河川分野が約 24%を占め最も多 このように国土交通省では、インフラ担当官庁とし く、次いで道路、都市が約 20%となっている(図 4)。 ての技術的・政策的な経験を活かし、開発途上国のイ ンフラ整備を技術的な側面からサポートしている。 図4|建設分野におけるJICA研修員受け入れ人数 (課題別研修・国別研修の合計、 平成23年度実績) 砂防8% 75人 道路20% 197人 都市20% 195人 海外プロジェクト推進課では、今後も海外におけ 住宅11% その他8% 109人 73人 河川24% 230人 合計 972人 下水7% 72人 地図2% 21人 課題別研修のうち、表 2 に示す 22 コースについ ては、国土交通省は研修内容を提案するなど、内容 るインフラプロジェクトの積極的な推進に向けて、 JICA 専門家派遣、JICA 研修の受け入れ、政策対話な どの支援策により、貢献していきたいと考えている。 表2|建設分野における国土交通省提案の課題別研修 (平成25年度実施予定分) の策定に深く関与している。また、それぞれの研修 コースについて、担当部局、機関または研究所が全 面的にバックアップを行い、日本の建設分野におけ る政策や技術面の経験を研修員に伝えている。 〈今後〉 「インフラシステム輸出戦略」において、相手国 との人的ネットワーク構築支援を強化するために相 手国キーパーソンの訪日研修を活用するとされてい る。JICA 研修員は、帰国後に自国政府の幹部職員、 つまり政策決定者となるケースも多く、JICA 研修 をインフラ輸出のための人的ネットワークとして活 用することは有用と思われる。 また、平成 24 年 6 月 29 日の第 3 回「海外インフ ラプロジェクト推進懇談会* 4」では、研修が日本に 来る研修生に日本のインフラプロジェクトを PR す る機会とし、海外インフラプロジェクトへの日本企 研修コース名称 1 2 3 分野 橋梁総合コース 道路 道路行政 道路 新 高速道路整備、運営、維持管理(仮) 道路 4 都市整備(土地区画整理手法を中心として) 都市 5 総合都市交通計画・プロジェクト 都市 6 都市計画総合 都市 7 アジア地域 水災害被害の軽減に向けた対策 河川 8 洪水防災 河川 9 総合水資源管理 河川 土砂災害防止マネジメント 10 新 (豪雨、地震、火山噴火起因) 砂防 11 インフラ施設(河川・道路・港湾)の自然災害に対 防災 する抑止・軽減対策および復旧対策 12 下水道技術・都市排水 下水 13 地震・耐震・防災復興政策 建築 14 建築防災(地震、津波、火災などに対して) 建築 15 地震・耐震・防災復興政策 建築 16 住宅・住環境の改善と防災 建築 17 新 実務者のためのデジタル地図更新・普及技術 地図 18 国家測量事業計画・管理 地図 研修員の受け入れに際しては、日本の優れたイン 19 地域開発計画管理 地域開発 20 国土・地域開発政策 地域開発 フラプロジェクトを積極的に紹介し、相手国および 21 社会基盤整備における事業管理 事業管理 日本の双方にとってよりメリットが大きな研修とし 22 建設機械整備および建設施工に関する理論的知識 建設施工 および実務技術の取得 業の参画促進に有効との意見があった。 ていきたい。 新:平成25年度に新規で実施が予定されている研修 2013 8–9 11 * 1 インフラシステム輸出戦略:平成 25 年 3 月より官房 たインフラシステム輸出を推進するための戦略につい 催されている「経協インフラ戦略会議の第 4 回会合」 * 4 海外インフラプロジェクト推進懇談会:平成 24 年 1 た海外展開の推進を図るための具体的施策が記載され インフラプロジェクトに係わるわが国事業者の事業活 ている。 動を積極的に推進するため、有識者から幅広く助言を 長官を議長に国土交通省など関係閣僚の参加の下で開 (平成 25 年 5 月 17 日)において策定。官民一体となっ * 2 インフラシステムの受注:ここで目標とする 30 兆円 のインフラシステム受注額には、事業投資による収入 額を含む。 * 3 これからのインフラシステム輸出戦略:平成 25 年 2 月策定。平成 24 年 5 月より全 6 回開催された「イン フラ海外展開推進のための有識者懇談会」で議論され 12 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて て、その結果をまとめたもの。 月より全 3 回、国土交通省とりまとめの下開催。海外 いただき、今後の海外展開施策の参考とすることを目 PPP などのファイナンススキー 的とし、 海外展開戦略、 ム、人的ネットワークの活用方策などについて議論さ れた。 特集 JICAの有償資金協力について 江口 雅之[独立行政法人 国際協力機構 企画部 業務企画第二課長] 国際協力機構(JICA)の有償資金協力には、開発途 してベトナムやパキスタンの案件を審査・承諾し、 上地域の政府、政府機関などに対して融資する「円 平成 24 年 10 月に「パッケージ型インフラ海外展開 借款業務」と、わが国または開発途上国地域の法人 関係大臣会合」で本格再開が決まりました。平成 その他の団体などに融資または出資する「海外投融 25 年 1 月には、ベトナムの環境配慮型工業団地事 資業務」があります。本稿では、本年 4 月に政府か 業に対する融資を承諾しました。 ら公表された 「円借款の戦略的活用のための改善策」 JICA は PPP インフラ事業への参画を計画してい を中心に、円借款および海外投融資の最近の実績お る本邦法人からの提案に対する調査協力(協力準備調 よび動向についてご紹介します。 査− PPP インフラ事業、平成 24 年度の採択実績は 15 案件)によ る案件形成支援を行うと共に、開発途上国で開発効 1. 平成24年度実績と平成25年度計画 果の高い民間事業を支援していきます。 (1) 円借款業務 平成 24 年度の円借款承諾額(借款契約ベース)は 1 兆 2. 円借款の戦略的活用のための改善策 2,229 億円で前年度比約 29% の増加となりました。 「日本の優れた技術・ 平成 25 年 4 月に日本政府は、 これは平成 8 年度の 1 兆 2,815 億円に次ぐ過去 2 番 ノウハウを開発途上国に提供し、人びとの暮らしを 目の規模となっています。平成 24 年度承諾の特徴 豊かにすると共に、特にわが国と密接な関係を有す として、ひとつ目には、25 年ぶりの支援再開となっ るアジアを含む新興国の成長を取り込み、日本経済 たミャンマーをはじめ、ボツワナ、ヨルダン、ネパー の活性化に繋がるよう、無償資金協力や技術協力と ル、ニカラグアなどが 10 年以上ぶりの円借款支援 も連携しつつ、円借款を戦略的に展開していく」と 再開となったこと、ふたつ目には、本邦技術活用条 して、諸々の改善策を発表しました。 件を適用した案件(STEP 案件)が約 3,000 億円、承諾 額全体の 24.5% と規模・シェアともに過去最高水 準となったことが挙げられます。 平成 25 年度の円借款承諾目標額(交換公文ベース) (1)重点分野の見直しと譲許性の引き上げ 円借款では優先分野の案件に対して金利や償還期 間が優遇された譲許性の高い借款が供与されます。 今般、優先分野の見直しが行われ、 「インフラシス は、6 月に外務省が公表した「平成 25 年度国際協 (平成 25 年 5 月)や「日本再興戦略」 (平 テム輸出戦略」 力重点方針」では 1 兆 4,600 億円となっています。 成 25 年 6 月)で「防災」および「保健・医療」を、日本 JICA は日本政府と協力して目標額を達成すべく、 が政策的に推進していく優先分野として加えると また、政府が 6 月に公表した「日本再興戦略」で言 同時に、供与条件がより譲許的なものとなりまし 及されている「インフラシステム輸出戦略」の実現 た。たとえば、従来は低所得国(インド、ベトナムなど) に寄与すべく、開発効果の高い案件を形成・審査し、 向けの防災や保健・医療分野は一般条件として金利 プロジェクト借款およびプログラム借款による支援 1.40%、償還期間 30 年(うち据え置き 10 年)が適用され を推進していく所存です。 ていましたが、今後は優先条件として金利 0.30%、 (2)海外投融資業務 海外投融資は平成 23 年度からパイロット案件と 償還期間 40 年(うち据え置き 10 年)が適用可能となり ます。なお、気候変動対策を推進すべく時限的に設 2013 8–9 13 けられていた気候変動対策条件はなくなりました 用可能性を検討すべく、民間企業から事業提案を募 が、これらの案件に対しては、引き続き「環境分野」 る「民間技術普及促進事業」を開始しました。JICA として優先条件が適用されます。 は技術協力と資金協力を有機的に組み合わせ、本邦 (2)本邦技術のさらなる活用 日本企業に受注を限定するタイド借款の「本邦技 術活用条件(STEP)」は導入して 10 年が経過しまし た。今般の制度改善では、本邦企業の応札機会を促 技術・知見を活かした開発途上国への支援を強化し ていきます。 (3) 中進国以上の所得階層への支援 中進国 *1(タイ、ペルー、コロンビア、チュニジア、南アフ 進すべく、本邦企業の主契約者の範囲や本邦調達比 リカなど)や卒業移行国 率の算定ルールに関して、海外に存する本邦企業子 シアなど)に対しては、分野にかかわらず日本の知見 会社による契約や本邦企業子会社からの調達範囲 や技術が最大限活用できるなど、日本としての戦略 を広げました。また、STEP 案件の JICA による F/S 的意義が認められる案件へ円借款を活用していくこ 調査協力では、当該事業の本邦企業の関心・懸念を ととなりました。経済発展の度合が高いこれら所得 踏まえた調査が実施できるように F/S 調査の準備過 階層の国々では、日本が有する高水準の技術やシス 程で事前説明を前倒しで複数回行うこととしました。 テムが、より有効に活用される可能性が高いと思わ 円借款の日本企業受注による国内経済効果は、た とえば、アジアの国際空港整備事業に対する約 200 億円の円借款支援により、国内需要創出効果は約 *2 (ブラジル、パナマ、トルコ、マレー れます。 (4)災害復旧スタンドバイ借款の創設 日本は開発と国際協力において防災を主流化し、 300 億円、雇用創出効果は約 2,000 人、また、国際 国際的な努力を主導化していくこととしています。 港湾整備事業に対する約 1,400 億円の円借款支援に 開発途上国における災害発生後の支援において、従 より、国内需要創出効果は約 2,000 億円、雇用創出 来から対応してきた被災直後の緊急支援や復興段階 効果は約 12,000 人が生ずると試算することができ でのインフラ整備支援に加え、緊急支援と復興を繋 ます。旅客・物流需要の増大に対応したインフラ整 ぐ復旧段階での資金需要に即応できる仕組みを導入 備を支援することにより開発途上国の経済成長を支 しました。災害管理能力強化の技術協力との連携を え、その成長を日本企業の事業権参入や受注を通じ 通じ、開発途上国の災害対応能力の強化を図るもの て日本経済の活性化へ取り込んでいくことが期待で です。フィリピン、エルサルバドルなどの自然災害 きます。 多発国へ本円借款が供与されていきます。 今年新たな円借款供与国となるモルドバでは、こ (5) ノンプロジェクト型借款の一層の活用 れまでの JICA の技術協力による本邦研修や無償 ノンプロジェクト型借款は、相手国のオーナー 資金協力による本邦機材への高い評価を背景に、 シップの下で作成された政策マトリクスを通じて、 STEP 円借款が形成されました。さらに、JICA は 開発途上国の政策・制度改善の実施を支援するもの 今夏より、本邦企業の製品・技術やノウハウ、それ です。本邦企業が開発途上国において投資・ビジネ らを包含したシステムなどに関する開発途上国の政 ス参入を促進していく上で、当該国の政策・制度や 府関係者などの理解促進と、それらの開発事業の活 行政機能が阻害要因となっていることは少なくあり 14 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて ません。JICA は開発途上国政府との間でこれまで 3. 結び の協力関係で築いてきたネットワークや信頼関係を JICA はこれまで多くの開発途上国の経済成長を 礎に政策対話を重ねています。日本企業を含む外国 支援してきました。たとえば、JICA の資金協力は、 投資の促進を当該国の開発課題として位置付け、法 現在のインドネシアでは鉄道整備の 36%、港湾取 制度整備などの政策・制度改善を支援するなどして、 扱貨物量の 40%、タイでは通信回線整備の 15%、 プログラム型円借款や技術協力を駆使して、企業の 空港旅客数の 76%、ベトナムでは火力発電整備の 海外展開にも資する開発途上国の投資環境整備・改 36%、水力発電整備の 10% へ貢献し、運輸、電力、 善を支援していきます。 通信などの主要各セクターの生産性を引き上げ、上 (6)外貨返済型円借款 円借款の借入に伴う開発途上国の為替変動リスク 記 3 カ国の GDP を 4∼ 6% 程度引き上げる効果が あったと評価されています*3。 を軽減することを目的として、昨年末に外貨返済型 他方、アジアをはじめとする開発途上国の著しい 円借款が導入されました。借入人は、外貨返済を選 成長と共に、従来型の ODA から卒業していく国々 択することにより外貨建て(今般導入する適用通貨はドル) が増え、同時に資金調達手段も多様化し、市場環境 での債務額を確定できるため、借入人がドルを軸に も変化しています。JICA はこうした外部環境の変 債務管理を行っている場合には、為替変動リスクの 化を的確に捉え、開発途上国にとってより魅力のあ 軽減が可能となります。借入国の為替リスク軽減に る有償資金協力(円借款、海外投融資)の実現に向けて より、円借款候補案件の裾野が拡大し、日本企業が 不断の改善に努めていく所存です。 関心を有する円借款案件の要請が増えることによ り、日本企業のビジネスチャンスが拡大することが 期待されます。 * 1 世銀 2012 財政年度(2012 年 7 月∼ 2013 年 6 月)でひ 7,035 ドル以下の国。 とり当たり GNI が 4,036 ドル以上、 * 2 世銀 2012 財政年度でひとり当たり GNI が 7,036 ドル 以上、12,475 ドル以下の国。 * 3 JICA 平成 22 年度総合分析「有償資金協力・無償資金 。 協力の経済的インパクト評価」 報告書 (平成 23 年 12 月) 2013 8–9 15 特集 JICAの無償資金協力事業における 実施監理について 梅永 哲[独立行政法人 国際協力機構 資金協力業務部 次長(実施監理担当)] 無償資金協力事業のうち、一般プロジェクト無償 をはじめとする多くの事業の実施主体が 2008 年に これを認証する。 3)これら契約が適切に実施されていることを確認 外務省から JICA へ移管されて 5 年ほど経ちました。 し、本邦企業からの請求を受けて資金の支払い その間、よりよい事業の実施を目指して実施監理業 手続きを行う。 務に努めてきました。 なお、これらの実施監理業務を JICA が行うにあ 今般、この誌面をお借りして、改めて実施監理業 たっては、施主である被援助国実施機関から受任さ 務の主なポイントについてご説明したいと思います。 れたコンサルタントからの報告、申請などに基づい て実施されることは言うまでもありません。 1. JICAが行う実施監理業務 わが国の無償資金協力は、被援助国政府が行う 2. 設計変更 施設建設や資機材調達などの事業に対して、資金 E/N 締結前の協力準備調査や、E/N 締結後の詳 を供与する方式を取っており、外務省は交換公文 細設計において、現地の自然条件、社会的条件など (Exchange of Notes: E/N)で、主に供与限度額と被援助 を適切に把握した設計・積算となるように、JICA 国政府との間の権利義務関係について政府間合意を はコンサルタントに対応を求めています。また、コ 形成しています。JICA は E/N に基づき、被援助国 ンサルタントから提出された積算については、誤り 政府との間で贈与契約(Grant Agreement: G/A)を締結 がないか確認を行っており、誤りがある場合には訂 します。この G/A は主に事業資金の支払いと使途、 正を求めています。 および適正な実施を確保するために必要な権利義務 関係について確認するものです。 しかしながら、施工段階で新たに判明した事情 などに起因し、当初計画(協力準備調査における概略設計) 実施監理業務とは「被援助国実施機関と本邦民間 や設計図書に変更が生じる場合、設計変更を行う必 企業間の契約締結およびその履行状況について、 『無 要が生じます。JICA は実施監理の主体として、資 償資金協力調達ガイドライン』に基づき確認する」 金が適正に使われていることについての説明責任を ことにあります。すなわち、無償資金協力事業にお 果たすため、すべての設計変更について把握してお いては、JICA は生産物や役務の直接の当事者では く必要があります。そのため、設計変更についての ないものの、その適切な実施を確保することがその 手続きを定めています(表 1)。 役割となります。具体的には以下のような業務があ JICA としては、設計変更は例外的な対応という ります。 考え方ではなく、施工の進捗に伴ってさまざまな局 1)契約(銀行取り極め、調達契約)の締結に関して、調 面で発生するものという認識でいます。動いている 査、斡旋、連絡、その他必要な業務を行うと共 現場を止めないように、設計変更申請に対して迅速 に、当該契約の履行状況に関して必要な調査を な対応を図るため、疑問点については早急にコンサ 行う。 ルタントへ返すようにしています。なお、設計変更 2)契約書について「無償資金協力ガイドライン」 の申請にあたってはコンサルタントと施工業者の間 に基づき、適正に締結されていることを確認し、 で十分な意思疎通が図られている必要があること 16 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて は、言うまでもありません。 や強度の変更、総面積や規模の変更などが該当しま 1)設計変更の区分 す。事例については、JICA の HP で公開している 「コ 「大幅な設計変更」と「軽微な設計変更」に区分し ンサルタント業務の手引き」を参照してください。 ています。大幅な設計変更の場合は JICA への事前 2)事前協議 の申請および承認が必要となりますが、軽微な設計 大規模な設計変更の手続きにあたっては、その最 変更は事後の申請としています(ただし当該工事着手の 1 終的な設計や積算が確定した後でないと JICA に申 カ月以内) 。 請できないというものではありません。申請・承認 軽微な設計変更に該当する具体例としては、規格 の迅速化を図る観点から、正式な申請に先立つ事前 の変更(JIS 規格の資材を同等の BS 規格のものに変更するなど)、 協議を導入しており、変更の詳細確定および承認に 現場合わせの調整(配管埋設位置を数メートルずらすなど)、 時間を要すると考えられる場合には、事前協議にお 使い勝手の観点からの細部の変更などがあります。 いて調整未了事項を明確に整理します。その上で、 一方、大幅な設計変更は、外見上一見して当初計 画と異なる変更、サイト(敷地)の変更、主要な構造 コンサルタントと JICA との間で前提条件に合意で きる場合には、金額の変更などを事後確認として、 表1|「大幅な設計変更」の場合の手続きフロー 実施機関 (施主) 1. 事象の発生 施工業者 コンサルタント JICA 設計変更対応の協議 相談 2. 事前協議 指摘事項 申請 3. 設計変更方針承認 注1 承認 申請 4. 承認申請 注2 (積算金額を除く) 5. 本承認申請 着工指示 設計変更要請書 注3 (積算金額を含む) 承認 申請 承認 注1 設計変更の具体的な内容・数量が未定ではあるが、方向性や方針を決定して設計変更に着手したい場合。内容などが明らかであれば、本プロセスを飛ばして「4. 承認申請(積算 金額を除く) 」を行うことは可。 注 2 残余金、予備的経費(該当案件のみ)の範囲内に収まることが見込まれることが前提。ただし、積算金額が確定し設計変更要請書が整っていれば、本プロセスを飛ばして、 「5. 本 承認申請(積算金額を含む) 」を行うことは可。 注3 実施機関からの設計変更要請書はこの段階を待つことなく、 早めに取り付けることが望ましい。 2013 8–9 17 当該部分の施工着工を可としています(ただし、施工業 本での建築学会(JASS5)と土木学会(コンクリート標準 者の了解も必要です) 。 示方書)で管理基準が異なることなどについて、現地 常駐者(コンサルタント、施工業者の双方とも)の理解不足 設計変更の実績としては、2008 年度以降に閣議 決定された一般プロジェクト型無償案件で完工した が見受けられる。 3)安全管理 案件(機材案件を除く)110 案件のうち、63 案件にあり 施工現場での整理整頓状況は概ね良好であり、多 ました。件数としては 186 件であり、その内訳は大 くの案件で無事故・無災害が継続中である。一方で、 幅な設計変更が 122 件、軽微な変更が 64 件でした。 ヘルメット着用の不徹底、掘削斜面での安全対策が この件数を多いと見るか、少ないと見るかという問 不十分、建設機械の誘導員未配置、裸足や草履の作 題はあろうかと思いますが、JICA としては設計変 業員の存在などが見受けられる案件が散見される。 更の事由が適切であり、E/N で定められる供与限 4)現場常駐者の高齢化 度額から資金面で問題がなければ、迅速にこれを承 認することとしています。 3. 実施状況調査 コンサルタント、コントラクターともに同様であ るが、 ここ数年現場常駐者が高齢化する傾向にある。 4. 今後の課題 JICA は実施監理業務を担う立場から、施工中の これまで、よりよい無償資金協力事業を実施して 案件の現場に調査員を派遣して実施状況調査を行っ いくために、できるものからさまざまな改善を行っ ています。これはいわゆる監査や検査ではありませ てきましたが、より柔軟に現場のニーズにあったも んが、調査員の報告事項に関して、重要と判断され のとしていくために、よりいっそうの改善が必要で る内容についてはコンサルタントへ JICA から文書 あると考えています。 で照会を行っています。昨年度は 63 件の調査を実 施しました。 改善にあたっては、JICA 内部での手続きなどを 改めることで完了するものもありますが、無償資金 本調査は全案件を網羅的に調査しているものでは 協力の制度や枠組みといった大きなレベルになる ありませんが、報告事項で以下のようなものがあり と、関係当局の了解を得て進めていかねばならない ました。 ものもあります。一朝一夕に解決するのはこれまで 1)品質・出来形管理 の経緯もあり困難な面もありますが、ひとつひとつ コンサルタントによる管理基準値に関する規定が 不十分である事例が見受けられる。 2)コンクリートの品質管理 配合(調合)強度の決め方、キューブ供試体と円筒 供試体の圧縮強度試験結果の違いおよび換算法、圧 縮強度が基準を満たさなかった場合の対応方法、日 18 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 改善を図っていきたいと考えています。 また、その上で重要となるのは現場からの声であ り、これまでと同様に OCAJI 会員企業の皆様との コミュニケーションを取って、現実的な解決を図っ ていきたいと考えています。 特集 わが国ODAと海外建設工事について 松本 茂利[経済協力通信 編集長] わが国は、長年の内需減少による停滞脱却の一環 で、2010 年来、海外インフラ整備の推進に官民が 連携して取り組んでいる。政府は、ODA について も案件形成段階からわが国企業の進出が容易なイン フラ案件などの発掘強化を進めており、STEP 採用 表1|円借、 無償の最近の当初予算の推移 (単位:億円) 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 円借款 9,260 8,910 9,500 8,800 9,150 無償資金 協力 1,608 1,542 1,519 1,616 1,642 11,168 10,452 11,019 10,416 10,792 合計 の増加などの成果も出始めている。さらに本年度か ら円借款は改善策の実施を始め、LDC(後発開発途上 国)諸国にもタイド的円借款の採用も開始の方向な ど、わが国建設業界にも朗報となっている。 (2) わが国建設業のODA進出、 円借が中心方向 わが国の建設業界が今後 ODA 事業に進出拡大す るには、特に円借款における JICA およびその他の 安倍首相は就任以来、アジア、その他の途上国に 案件形成段階から、可能な限りの参画が重要とされ も積極的に訪問し、首脳外交を通じ、インフラ分野 ている。円借款のインフラ分野への進出は、金額も など、わが国の技術、製品の売り込みを進めている リスクも大きい。それだけに前もって十分な準備を が、関係当局でもアジアを中心とした膨大なインフ 整えつつ参加が必要と伝えている。政府の最近の ラ需要へ対応した各種の進出施策が要望されている。 ODA 政策を見ても、財政資金の少ない円借款の拡 (1)政府、 ODA配分も経済戦略と連携 充に重点を置いており、本年度からタイド借款の強 政府は、成長戦略のひとつとして ODA 供与につ 化など大幅な改善策も実施している。このため建設 いても、従来からの途上国の所得水準や経済成長な 業界の今後の ODA 商談では、予算も 1 兆円近い円 どを中心とした配分から、わが国側の経済対策も考 借款分野への進出策がより重要とされている。 慮し、資源保有国やインフラ整備の多い国には弾力 的な配分の増額も実施する方向としている。 最近、当局の ODA 実施政策を見ても、わが国企 業の進出が容易な案件の形成を進めており、タイド 既に円借款でも、ベトナム、フィリピン、バング 借款の供与も後述のように強化しつつある。加えて ラデシュ、インド、インドネシア向けなど、要請 政府のインフラ輸出の促進策もあり、円借款案件へ ベースで拡大の方針を打ち出しているほか、その他 の形成段階からの参画を含めて積極的な対応が、今 の国々にもわが国の経済対策への連携が期待される 後の ODA 進出拡大のポイントと目されている。 場合、ODA 配分の強化も検討方向と伝えている。 次に最近 5 年間の円借款と無償資金協力の当初予 (3) STEPの採用条件と供与実績の推移 政府は、インフラ輸出戦略の拡大の立場から円 算の推移を見ると(表 1)、合計で 1 兆円台の継続と 借款の STEP 条件についても 2013 年度から見直し、 なっており、今後もほぼ横這いが予想されている。 日系企業 30%の調達枠について、これまで認めて ただ無償資金協力は、毎年度補正予算で 200∼ 300 いなかった先進国への進出企業も含めて採用するほ 億円の追加となっているが、円借款の場合、後付け か、対象分野の拡大、金利引き下げも実施すること のため変更はほとんどない。政府の各国への ODA にした。これによって STEP 条件への途上国側の要 の戦略的な資金協力も同予算の中での配分で、業界 請や、わが国企業の参加もその分容易となり、イン 各社の商談もこの内枠での進出となっている。 フラ輸出の拡大にも寄与することが期待されている。 2013 8–9 19 円借款供与のうち、STEP の採用実績について 次に 2013 年度以降の STEP の見通しについて筆 2009 年度以降で見ると、表 2 の通りとなっている。 者の予想を記載する。2013 年度は表 4 のように、 これによると、 最近は全体的にやや増加方向となり、 ベトナム、フィリピン、インドネシア向けに供与が 2011 年度には約 2,000 億円、2012 年度には約 3,000 見込まれるほか、アジア以外の国々へのやや拡大採 億円と増加している。2012 年度の供与は、表 3 の 用も期待されている。 インド貨物鉄道に対する大口供与のほか、 ベトナム、 また新規供与国としてカーボヴェルデやガーナな フィリピン、イラク向けが採用されている。 どのアフリカ諸国向け採用も有望で、他のアフリカ 表2|最近の円借款供与実績とSTEPの採用方向 の対象国への案件の形成も期待されている。 (単位:億円) 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 STEP 総額 1,229 9,804 986 4,985 1,934 10,560 2,999 (2,000) 12,427 (11,000) (注)2013年度は予想 (4) 2012年度のSTEPリストと今後の予想 円借款の STEP の供与実績のうち、2012 年度の 採用リストについて記載する(表 3)。これを見ると、 供与国ではアジアが 8 件、それにイラクが初めて採 用されている。内容的には、インド向け貨物鉄道建 設第 2 期が断トツに大きく、ベトナム向けは 4 件の うち 3 件が継続となっている。 表3|2012年度のSTEP実績 供与国 案件名 (単位:億円) 表4|2013年度以降のSTEP案件の対象予想 供与国 案件名 年度 ベトナム ハノイ都市鉄道2号線計画 2013年以降 ベトナム ノイバイ国際空港拡張計画(Ⅲ) 2013年以降 ベトナム 衛星情報の気候変動対策計画(Ⅱ) 2013年以降 ベトナム ホーチミン都市鉄道建設計画(第3期) 2013年以降 ベトナム ラックフェン国際港建設計画(Ⅱ) 2013年以降 ベトナム 南北高速道路建設計画(第2期) 2013年以降 ベトナム ロンタン新空港建設計画 2013年以降 フィリピン メトロマニラ立体交差計画 2013年以降 フィリピン 巡視船建造計画 2013年以降 フィリピン 天然ガスパイプライン計画 2013年以降 フィリピン クラーク空港高速道路計画 2013年以降 フィリピン マニラ都市圏モノレール計画 2013年以降 インドネシア ジャカルタ都市鉄道南北線計画(第2期) 2013年以降 インドネシア ジャカルタ都市高速鉄道南北線延伸計画 2013年以降 金額 年度 インドネシア チラマヤ新港開発計画 2013年以降 ベトナム ハノイ都市鉄道1号線計画(第1期) 165.88 2012 モンゴル ウランバートル新空港建設(Ⅱ) 2013年以降 ベトナム 南北鉄道橋梁安全向上計画(Ⅲ) 137.90 2012 モンゴル アジルチン跨線橋建設計画 2013年以降 89.42 2012 スリランカ コロンボ都市交通整備計画 2013年以降 156.37 2012 インド 貨物専用鉄道建設計画(フェーズⅠ) (第2期) 2013年以降 2012 パキスタン カラチ環状鉄道修復計画 2013年以降 エジプト カイロ地下鉄4号線計画(第2期) (Ⅱ) 2013年以降 エジプト 太陽光発電所計画 2013年以降 エジプト ダイリュート堰群改修計画 2013年以降 イラク コール・アズベール港整備計画 2013年以降 ベトナム カイメックチーバイ国際港開発計画(Ⅱ) ベトナム ニャッタン橋建設計画(第3期) フィリピン 新ボホール空港建設計画 107.82 フィリピン LRT第1・2号線延伸計画 432.52 2012 インド 貨物専用鉄道建設計画(第2期) 1,361.19 2012 スリランカ 国道主要橋梁建設計画 123.81 2012 イラク バスラ製油所改良計画(第1期) 424.35 2012 合計(9件) 20 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 2,999.26 カーボヴェルデ 上水道整備計画 2013年以降 ガーナ ボルタ川架橋建設計画 2013年以降 モルドバ 医療サービス改善計画 2013年以降 ウクライナ ミコライ橋建設計画 2013年以降 (5) 円借款供与、 LDCにも契約者タイド方式 政府は、本年度から LDC への円借款でも契約者 タイドの中味アンタイドの新しいパートナー借款の 採用がほぼ実施の方向である。同システムはこれ のインフラ輸出、製品輸出への対策とならないので はとの懸念も聞かれる。 (6) 円借款のタイ ド強化、 建設企業は朗報 政府は、本年度から円借款の改善策で、中進国、 まで円借款の調達方式として採用している OECD 卒業国への途上国に対し、積極的に採用拡大の方針 ルールにはないが、DAC 規定としてわが国も一般 を打ち出している。狙いは成長戦略の一環であるイ 無償の供与で実施している。 ンフラ輸出の拡大に対し、円借款でも可能な範囲の ただし同システム採用は中味アンタイドが原則 参画を行おうとするもので、わが国企業の進出を容 で、STEP 方式のように 30%までタイドを認めるな 易にしようとの方針とされる。特にタイド円借款の どの弾力化対策はない。このため契約者のみはタイ 拡大は、 建設業界としても大きなプラス要因となる。 ドでも、中味はすべて第 3 国製品の調達実施も可能 STEP の拡充に続いて、LDC への契約者タイド方 とされ、その点で何らかのかたちでわが国製品の採 式の採用は、現地業者との共同体制が原則であり、 用も可能な対策も要望されている。 インフラ整備ではむしろ共同方式が進出面、施工面 LDC に対する円借款の契約者タイド方式での でも有効と目されている。 参加は、被援助国企業との共同体制(ジョイントベン そのため建設業者は、JICA、その他調査の案件 チャー)を原則とし、必要なら現地企業への技術指導 形成段階からも、STEP や LDC のインフラ案件の も行いつつ、プロジェクトの完成を実施する義務付 円借款形成に対し進出対策の強化が重要と伝えて けが課せられるようである。一般無償の分野では学 いる。 校建設などをこれまで数多く支援しているが、その (7) タイ ド円借款、 企業も積極的参加を 際、わが国建設業者が現地業者を下請け採用し、技 前項のように、円借款は、STEP のほか、LDC 術指導を十分に実施しながら完成し、現地企業の育 へのタイド的な供与の採用強化の方針であり、その 成にも寄与したと伝えている。このため同じ国への 推進が期待されている。しかし円借款にしろ、無償 学校建設支援では、最近コミュニティ方式を採用 資金協力案件にしろ、インフラ案件の場合、完成ま し、現地業者単独で施工を進めるケースが多いよう で一括契約となっており、その間に企業は各種の問 である。 題が起こるリスクを負う。このため同商談への参加 円借款の LDC 国へのタイド的な供与で、建設企 業がインフラ工事に共同体制で参加するとなると、 にあたっては、リスク対策は前もって十分に行う必 要がある。 現地業者の育成となることは間違いないが、LDC さらに政府がインフラ輸出対策や企業の要望を受 国に大型工事を共同で実施できる現地業者が存在す けて、タイド借款を拡大した場合、わが国企業の参 るかが、やや懸念されている。 加が条件となるが、参加企業がないと途上国政府に また調達製品の中味をまったくのアンタイドとし も説明できず、困ることにもなる。 た場合、入札の際に、日本製品よりも第 3 国製品を そこでタイド借款を供与する場合、案件の形成段 採用し参加する企業体も出ないとは限らず、わが国 階から、JICA や政府はコンサルタントや業界と十 2013 8–9 21 分な調整をしながら推進することも肝要と伝えてい 政治、 治安、 る。特にアフリカなど LDC 諸国の場合、 (9)今後のODA、 官民連携で推進を 政府は、今後の途上国支援で PPP 進出、インフ 物価、為替などのリスクも多いだけに、企業はタイ ラ輸出の振興、ODA も資源国、インフラ需要の多 ド借款でも利益が見込めないと参加するとは限らな い国への配分強化など、これまで口に出さなかった いからである。このため政府も関係業界もタイド借 ことを政府方針として打ち出している。わが国経済 款が決定すれば、迅速に参加体制を整え、途上国側 は、20 年来のデフレ下で内需停滞から経済不況の にも喜ばれるかたちの案件の完成が要望されている。 長期化で財政も悪化し、東北大地震で原発の停止、 貿易赤字の継続と、政府も以前のように ODA も民 (8) わが国建設業界のODA進出実績 わが国建設業界の ODA 工事への進出実績は、海 間中心ではすまされない実態となっている。 外建設協会の集計によると、大体において全体の このため政府は、2 年前の新成長戦略の中にイン 10%前後となっている(表 5)。今後は政府の政策であ フラ輸出を組み入れ、民間資金の活用など、資金 るインフラ輸出の拡大方針、円借款の案件形成から 的、政策的にも ODA を含めて官民の連携で輸出戦 のわが国企業の進出可能案件のより多い選定、さら 略を強化している。安倍政権の成長戦略でも、アジ にタイド借款の拡大などにより、わが国建設企業の ア諸国を中心に経済協力の拡大を継続する方向であ 進出拡大も期待されている。国民の税金による ODA る。産業界もわが国経済の回復のためには、ODA、 事業であり、わが国業界も顔の見えるかたちに結び PPP、その他のインフラ輸出で政府の支援と共に、 付く進出へのいっそうの努力も期待されている。 内外需要対策にも貢献するいっそうの努力が期待さ 表5|わが国建設企業の円借、 無償の受注の推移 (単位:億円) 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 ODA工事 865 1,374 664 1,855 563 円借款 630 878 127 1,395 295 無償資金 協力 235 496 537 460 269 海外建設 全体 10,347 6,968 9,072 13,503 11,828 22 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて れている。 特集 わが国ODAの新たな取り組み 米澤 博臣[(株)日刊建設産業新聞社 記者] 2012 年から 2013 年にかけての大きな変化と言え している。他省庁の ODA 予算は、厳しいシーリン ば、政権交代。これにより国内経済は、いわゆるア グの中で、優先順位の下、減らさざるを得ない状況 ベノミクスにより株価が上昇、積極的な財政出動も にあるが、外務省の場合、これ以上減らしてしまう 行われ、デフレ経済からの脱却や、さらなる成長が と、外交上の支障が生じるからだ。日本のプレゼン 期待されている。安倍首相のトップセールスも積極 スを高めていく上でも、重要な施策である。政府全 的で、これまでロシアやアラブ首長国連邦、トルコ、 体ベースで同水準の 84 年、85 年と現在を比べても、 ミャンマー、カタールなど数々の国を訪問し、イン 外務省分は 5 割以上、上回っている。 フラや原発などの輸出にも力を注いでいる。これら この外務省分の増加傾向は、来年度も見込まれ の対応と共に、わが国の最も重要な外交手段として る。2014 年度予算案の概算要求で外務省は、ODA 展開してきた政府開発援助(ODA)にも注目が集ま について前年度比 494 億円増(11.7%増)の 4,706 億 る。日本を取り巻く情勢が変化する中で、ODA の 円を要求。安倍内閣の下で今年 6 月に閣議決定され 有効性がさらに増しているからだ。 た、日本再興戦略に則り要求したものだ。同戦略に は、世界のインフラ市場を官民一体で獲得する目標 が示され、現在 10 兆円規模のインフラシステムの 1. 成長戦略に必要なODA ODA 予算は、1997 年度(1 兆 1,687 億円)をピーク 受注を、2020 年には 3 倍の 30 兆円にまで拡大する に年々減少している(表 1)。国の厳しい財政状況の 成長戦略を掲げている。先進国での受注もあるだろ 下、量的な拡大ではなく質を重視してきた結果、 うが、当然、新興・途上国での獲得も含まれること 2013 年 度 は 5,573 億 円(対前年度比 0.7%減)と な り、 から、その一端を ODA も担っていることは言うま ピーク時のほぼ半分にまで減少した。水準としては でもない。円借款を中心とした道路や橋、港湾など 28∼ 29 年前の 1984 年、85 年とほぼ同じ。ただし、 のインフラ整備で、建設業が裨益する案件も含まれ それは政府全体の話で、外務省分に限ってみると減 てくる。 少に歯止めがかかり、ここ 3 年は ODA 予算が増加 表1|ここ10年間のODA予算推移 (単位:億円) 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 政府全体ODA予算 8,169 7,862 7,597 7,293 7,002 このうち外務省分 5,001 4,881 4,733 4,544 4,407 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 6,722 6,187 5,727 5,612 5,573 4,363 4,134 4,170 4,180 4,212 参 考 ❶35年前の1978年度、 ❷2013年度と同水準の 1984年度、1985年度、 ❸ピーク時の1997年度 1978年度 政府 外務省 1984年度 1985年度 1997年度 2,332 5,281 5,810 11,687 962 2,512 2,751 5,851 2013 8–9 23 2. ミャンマーへの支援拡大 物需要に対応した港湾の拡張を進める計画だ。 そうした新興・途上国の成長の取り込みに向け て、有望視されている市場のひとつがミャンマー 3. 日本企業の受注拡大へ制度改善 だ。以前の軍事独裁から民主化に向けて動き出した ODA を通じて、新興・途上国と共に日本が経済 ことで、日本を含む先進国と利益を共有する関係に 成長することや、日本への信頼強化などを目的とし 変化。米国も支援を開始している。ミャンマーの国 ているが、これらを阻害する事態が顕在化してい づくりを進める過程で、日本の ODA に寄せられる る。日本企業の価格競争力の低下により、中国や韓 期待も大きい。それに応えるように、ミャンマーに 国などの海外企業に、日本の円借款案件を受注され 対する日本の予算は増加しており、昨年は無償・技 てしまうケースが増えているからだ。この状況に当 協合わせて倍増の 200 億円で要求。円借款について 然、外務省も問題意識を持って、円借款の制度改善 も今年 1 月、ミャンマーの延滞債務を解消したこと に取り組んでいる。日本企業をタイドにできれば問 で、今後大きく伸ばしていく環境が整った。安倍首 題はないのだが、DAC(開発援助委員会)のルール上、 相は今年 5 月、内閣総理大臣として 36 年ぶりにミャ 円借款は基本的にアンタイドでなければならない。 ンマーを訪問し、円借款 510 億円、無償・技協合わ 円借款における日本企業の過去 5 年の平均受注率は せて 400 億円、計 910 億円の支援を今年度末までに 35.8%。これを引き上げていくための知恵が求めら 実施することを表明。そのプロジェクト関係で、建 れる。 設業も裨益するインフラ案件が含まれる。 表2|円借款における日本企業の受注率 その訪問中、両首脳立ち会いの下、新規円借款 3 案件と無償資金協力 2 案件の交換公文署名式が執り 行われた。ミャンマーへの無償資金協力 2 案件は、 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 34.6% 40.4% 27.9% 42.8% 5年平均 33.1% 35.8% ※契約同意額ベース(商品借款を除く外貨建て調達部分) ヤンゴン市上水道施設緊急整備計画 19 億円、人材 そのためのひとつが、タイド円借款である STEP 育成奨学計画 4.56 億円。円借款 3 案件は、貧困削 (本邦技術活用条件)の活用促進。現在、円借款契約額 減地方開発計画(フェーズ 1)170 億円、インフラ緊急 全体の 13%を占める STEP を増やす必要があると 復旧改善計画(フェーズ 1)140.52 億円、ティラワ地 いうことだ。しかし、新興・途上国にしてみれば、 区インフラ開発計画(フェーズ 1)200 億円。このうち 日本企業に仕事を依頼する STEP は、価格的に割高 ティラワ地区は、ヤンゴン近郊にあり、豊富な労働 で敬遠しがち。そこで外務省は、STEP の魅力を高 力と既存の産業集積、また既存港湾が活用できるメ めようと、まずは金利を引き下げ、より低利な融資 リットがあるため、ミャンマー政府が経済特区とし で事業資金を提供することにした。さらに、企業の て、優先的に開発を進めようとしている地区だ。し 声を受けて、海外における日本企業の子会社も、主 かし建設予定地は、インフラが未整備のため、企業 契約者として認める改善なども行っている。 進出を促進する上で大きな課題となっている。そこ もうひとつは、STEP でなくても日本企業が受注 で、ティラワ地区への十分な電力供給に向けて、電 できるような、アンタイドの円借款を増やしていく 力関連施設を整備すると共に、増大するコンテナ貨 こと。そのためには、日本企業が技術的に優位性を 24 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 持っている分野で、円借款を増やしていくことに尽 災害が発生した際には、すぐに融資できるようにす きる。保険や防災などがそうだ。従来 STEP は、橋 るのが狙いだ。これまで日本は、被災直後に緊急支 梁・トンネル、幹線道路・ダムなど、10 分野に限 援として、緊急援助隊の派遣や医薬品、食糧などの 定して適用してきたが、これに医療機器、防災シス 提供を行い、復興段階ではインフラ整備の支援を テム・防災機器も新たに追加している。また、案件 行ってきたものの、緊急支援と復興を繋ぐ復旧段階 を STEP にしなくても、日本企業が受注できそうな の支援が存在しなかった。復旧段階で発生する資金 案件になるように形成することや、日本企業に有利 需要に対し、即応的に迅速な支援を行うため同制度 な案件を発掘していくことも重要だ。 を構築した。日本の防災技術を役立てる観点から、 橋や道路といったインフラの復旧に活用することも 想定している。 4. 新たに「防災」を輸出 円借款の制度改善を図る中で、 日本の豊富な防災・ 資金の活用は、❶プロジェクト型と、❷ノン・プ 災害対応に関する知見や技術を生かそうと、外務省 ロジェクト型のふたつに分かれており、どのように が新たに創設した円借款がある。災害復旧支援のた 活用するかは政府間で合意しておくこととなる。プ めの「災害復旧スタンド・バイ円借款」だ(図 1)。自 ロジェクト型は、被害を受けた小規模ライフライ 然災害が発生した時に、案件をそこから発掘するに ン・インフラ(道路、水道、排水、病院など)の緊急復旧、 は時間がかかるため、あらかじめ融資の支援枠、資 災害発生後の瓦礫の除去など、労働力を必要とする 金の使途も、途上国と合意しておくことで、万一、 事業で、震災により職を失った人びとを雇用する 図1|災害復旧スタンド・バイ円借款(防災協力と災害時の流れのイメージ) 災害発生 予 防 防災関連支援 (技術協力等) 応急対応 (国際緊急援助隊など) 復 興 復興支援 応急対応後、復旧・復興 支援までの資金需要に 速やかに対応 財政的備え 災害復旧 スタンド・バイ円借款 復 旧 トリガー 2013 8–9 25 Cash for Work プログラムなどとしている。ノン・ たとえば海外からの調達が大勢を占める場合など、 プロジェクト型は、災害発生後に必要な物資(燃料、 その事業入札のための調達書類作成などをコンサル 仮設住宅など)の輸入決済資金の補填や一般財政への タントが行う。その作成支援などを日本のコンサル 支援としている。 タントが行うことで、日本企業の応札意欲も増すも 事業は、相手国の実施機関が行う。ただし、技術 のと、外務省側は考えている。また、この円借款の 協力により事業の調達支援を行うことは可能だ。プ 供与前提として、 災害対策に関する政策決定事項を、 ロジェクト型の事業実施にあたり、コンサルタント 供与相手国の実施機関と JICA で合意することとな を雇用するケースでは、 通常の円借款と同様、 ショー るが、その中で災害発生前の予防事業の重要性や、 トリスト方式で相手国政府がコンサルタントを調達 日本の技術を活用することの重要性を、訴えていき する。その際、JICA が日本のコンサルタントを推 たいとしている。 薦。ショートリスト先のコンサルタントに対し、プ この円借款の契約第 1 号となった国が、フィリピ ロポーザルの招請状を発送してから、プロポーザル ン共和国。安倍首相が今年 7 月、フィリピンを公式 の評価がなされるまで 4.5 カ月程度が見込まれる。 訪問した際、災害復旧スタンド・バイ円借款として このように、あらかじめ評価順位を決め、ある程度、 100 億円の供与を表明し、アキノ大統領から謝意が コンサルタントを絞っておくことで、災害時すぐに 表明された。外務省はフィリピン以外にも、同円借 契約締結が可能となる。迅速に業務に取り掛かれる 款の契約締結に向けて今後準備を進めることとして 点が大きなメリットだ。 おり、アジア地域と中南米地域を主に想定している この災害復旧スタンド・バイ円借款も当然、アン という。東日本大震災や豪雨など多くの自然災害を タイドとなる。日本の企業が保有する防災技術が世 経験し、国土強靭化を進めようとする日本。その防 界的に優れていても、災害発生前の予防事業や、災 災・減災技術や知識などが、この円借款を通じて輸 害発生時の復旧事業に容易に参画できる仕組み、イ 出され、新興・途上国の多くの国民の生命・財産を ンセンティブが働く仕組みは存在しない。しかし、 死守することに貢献し、ひいては日本のプレゼンス プロジェクト型では、同借款の事業実施にあたり、 向上に繋がっていくことにも期待したい。 26 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 特集 平成25年度ODA要望活動と今後に向けて 鈴木 恵[(一社)海外建設協会 国際企画部 副部長] 日本が ODA の援助国となってから今年で 59 年 たっており、要望書の紙面の関係などで割愛した項 目を迎え、来年は 60 年目の節目を歴史に刻むこと 目もありますが、当協会では ODA 事業の実施上の になります。この長い歴史の中で、建設業界は日本 課題については、ODA 要望実施後も随時、政府関 の ODA 事業を担う重要な業界のひとつとして、こ 係各省および JICA と意見交換を行っており、緊急 れまで数多くの国々で ODA 事業の実施に携わり、 の課題については、その都度、個別に要望を実施し、 相手国のインフラ整備への協力を通じて、 「日本の 当協会会員の声ができるだけ早く、正確に諸問題の 顔の見える援助」の一翼を担って参りました。 改善に反映されるよう努めています。 しかし一方で建設企業各社は、それぞれの国、発 本年度の ODA 要望については、昨年同様「ODA 注者、プロジェクトごとに大きく異なる事業環境と 共通」 、 「無償資金協力関係」 、 「有償資金協力関係」 、 リスクに直面しつつも、きちんとプロジェクトを遂 「海外進出企業への支援」の 4 つのパートに大別し、 行することを求められるため、開発途上国の ODA 取りまとめました。本年度の要望項目の骨子は以下 の最前線の現場ではきわめて大きな負担が発生する の通りです。紙面の制約もありますので、要望書の ケースが多く、ODA 案件を実施している会員各社 本文、添付資料、参考資料の掲載は省略させていた からは制度上の改善を求める意見が多く寄せられて だきます。 います。 このため当協会では、ODA 関係の中央省庁およ び JICA に対する改善の提案を盛り込んだ ODA に 係わる要望活動を昭和 63 年度(1988 年度)から開始 し、以降、毎年継続して今年で 26 年目になります。 当協会のこれまでの要望に対する最近の成果とし ては、無償案件における予備的経費の対象案件の拡 「平成25年度わが国政府開発援助等に関する要望の骨子」 ODA共通 1. ODA 事業のあり方 (1)ODA 予算の拡大 (2)日本の顔が見える援助を目指して 2. ODA 事業のすすめ方 大、円借款の標準入札書類の使用の義務付けをはじ (1)事前調査の充実と設計精度の向上 め、円借款の戦略的活用のための改善策、STEP 円 (2)先方政府負担事項の徹底指導 借款の運用ルールの改善などに関連したものがあり (3)発注機関の事業監理能力向上のためのキャ ます。政府関係各省および JICA のご関係者の方々 には、あらためて日頃のご協力、ご尽力に対し心か パシティービルディング 3. 税金問題とその解決 ら感謝を申し上げます。 無償資金協力関係 1. 平成25年度のODA要望について 要望項目については、当協会の会員企業全社を対 象に実施したアンケート調査をベースに、無償研究 会、有償研究会における選定作業を経て取りまとめ ました。各社から寄せられる要望項目は多岐にわ 1. 契約関連の改善 (1)積算数量の開示 (2)片務的契約条項の是正(業者契約書フォームの 見直し) 1)エスカレーション条項の設定 2013 8–9 27 2)不可抗力の発注者責任条項の明記 地球規模の災害多発に鑑み、わが国が誇る防災技術 (3)国債(国庫債務負担行為)工事の支払いの改善 に関する産官学の連携による技術協力などの促進を (4)工事契約書認証作業の迅速化 要望しています。 2. 予備的経費の適用拡大 3. 入札期間の延長 無償資金協力関係1.(1)積算数量の開示 既に予備的経費の対象案件については積算数量を 有償資金協力関係 1. 本邦企業の受注率向上 開示いただく仕組みができていますが、入札段階に おいてコンサルタントの作成した積算数量を参考と 「本邦技術活用」条件円借款(STEP)のあり方 (1) して開示いただく案件を増やすこと、特に初めて進 (2)設計施工案件における入札費用の一部補償 出する地域・国の工事や規模の大きい工事、施工難 について 易度の高い工事について積算数量を開示していただ 2. 契約関連の改善 くよう要望しています。 (1)JICA 円借款調達ガイドラインの厳守 (2)紛争裁定委員会(Dispute Board)の推進 3. 有償工事の迅速化など 無償資金協力関係3. 入札期間の延長 近年、アフリカなど、初めて進出する地域・国に (1)被援助国における迅速化 おいて無償工事が増加しており、また、大型で施工 (2)許認可関係の事前調査 難易度の高い工事も見られる中、十分な見積もり期 (3)用地買収の確認徹底 間が必要にもかかわらず見積もりの日数が不足し、 その結果、不調などの問題が発生している案件もあ 海外進出企業への支援 るので、現状の入札期間の延長を要望しています。 1. 海外工事におけるセキュリティー確保 2. 貿易保険の弾力的な運用 有償資金協力関係1.(2)設計施工案件における入札 上記の要望事項の骨子のうち、 下線を付した事項は、 費用の一部補償について 本年度の新規の要望事項ですので、要望に至った背 景や要望内容について下記により若干補足します。 設計施工案件での応札費用は非常に高額であり、 落札できなかった場合の負担が多大になるので応札 者の数が少ないという現状があるため、米国や韓国 ODA共通1. (2)日本の顔が見える援助を目指して などで採用されている「失注者への入札費用の一部 「日本の顔の見える援助」については、当協会と 補償制度」の新設を要望しています。 しても従来から本邦建設企業の得意な技術、ノウハ ウを発揮できる仕組みと案件づくりについて積極的 な提案と協議を行ってきましたが、 今回の要望では、 有償資金協力関係3. (1)被援助国における迅速化 有償工事について、事前説明会が数多く開催され 官民の意見交換会の開催、被援助国との人材交流な るなど迅速化に寄与していますが、被援助国政府に どの一層の充実をお願いすると共に、昨今における よる事前資格審査から契約締結までの進捗が非常に 28 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 遅く、さまざまな問題が発生しているので、発注者 的経費の積極活用に加え、今後の改善策として、契 に対する迅速化の働きかけを要望しています。 約通貨に外貨を導入するなどの提案を行いました。 なお、急激な為替変動の問題については、今回の 海外進出企業への支援1. 海外工事におけるセキュ ODA 要望事項の無償資金協力関係の「2. 予備的経 リティー確保 費の適用拡大」において、資材の高騰などと合わせ 最近の事例として、アルジェリアのテロ事件、ケ て柔軟な対応をいただくよう要望しています。 ニアの強盗事件など、死亡事故を伴う誠に痛ましい 事件が発生しており、当協会としても会員企業に対 し、さらなる注意喚起と安全対策の徹底を促してい 3. 本年度の当協会会員のODA事業の受注動向 当協会の「2012 年度 海外建設受注実績調査(2013 るところですが、 特に危険地域での施工に際しては、 年 3 月末時点) 」によると、当協会の会員企業による日 日本政府から撤退勧告が発せられた場合でも、先方 本の ODA 関連の受注工事(契約金額ベース)は、2011 政府、発注者が工事中断命令を出さなければ退避で 年度に比し、有償工事(円借款)の受注が約 79%と大 きないという現状もあります。このため、❶現地駐 幅にダウンし、294 億円にとどまりました(本誌 2013 在の日本人への迅速な支援およびサポートを日本政 年 6&7 月号参照) 。背景として、2011 年度では、東日 府・ JICA レベルで先方政府などと共に設定してい 本大震災の影響で発注が遅れていた案件の受注増が ただくこと、❷保安要員、現場保守などのセキュリ あったのに比べ、2012 年度は、逆に年度内の発注、 ティー対策費を積算項目として計上していただくこ 契約合意が遅れ、次年度に繰り越されていることが とを要望しています。 影響していると見られます。 無償工事については、約 31%ダウンの 269 億円 2. 緊急要望として「無償工事に係わる で、3 年連続の減少となっています。前述の急激な 」 を別途実施 急激な為替問題(急激な円安) 為替変動の問題などにより入札不調となる案件も多 要望項目の取りまとめにあたり、会員企業に本年 く、今後とも魅力ある案件づくりが期待されます。 実施したアンケート(2013 年 2 月)では、多くの会員 企業から緊急の課題として、昨年末の自民党主体へ 4. 政府関係各省、JICAへの要望と働きかけ の政権交代後、一気に加速した急激な為替変動(急 国土交通省(2013 年 7 月 9 日)、外務省(7 月 19 日)、財務 激な円安)により、無償工事のコストが大幅に増大 省(7 月 25 日)、経済産業省(8 月 1 日)、JICA(7 月 31 日)を して大変苦慮しているとの回答が多く寄せられまし 訪問し、ODA 要望書の提出と内容の説明を行いまし た。このため当協会では、会員企業が実施中の無償 た。国土交通省(稲葉国際統括官出席)、外務省(梅田国際協 工事について早急に実態調査を行い、実例に基づ 力局長出席)には、当協会の白石会長自ら足を運び要望 き、本年 5 月初旬、ODA 要望の実施に先立ち、無 いたしました。また、無償研究会(三瓶座長:大日本土木)、 償研究会メンバーを中心とする該当各社と事務局が 有償研究会(浅井座長:大成建設)以下研究会役員にもご JICA に対し救済のための緊急要望を行いました。 出席いただき、事務局は山口専務理事以下役員、担 各社からは救済策として、個別案件の残余金、予備 当職員が出席して要望を実施いたしました。 2013 8–9 29 (1)国土交通省 国土交通省には、会員各社との意見交換会をはじ をいただいております。今回の要望にあたり、外務 省から主に次のようなご意見をいただきました。 め、具体の案件に係わる相談窓口として「海外建設 ・「インフラシステム輸出戦略」により、2020 年 ホットライン」を通じて ODA に関するさまざまな までに現在のインフラ受注額を 10 兆円から 3 倍 アドバイスとご支援をいただいております。今回の 「日本再興戦略(2013 年 6 月)」 の 30 兆円へ拡大し、 要望にあたり、国土交通省からは主に次のようなご により日本の再活性化を目指す。安倍総理自ら 意見をいただきました。 「トップセールス」で働きかけ、各国に駐在し ・ 国際機関、関連各省の縦・横の協力、連携を取っ ている大使が問題解決の先頭に立つ。 て対応、協力を推進し、政府の新戦略「インフ ラシステム輸出戦略(2013 年 5 月)」の下、ODA を含め本邦企業の受注高の拡大を支援したい。 ・ 安倍政権はトップセールスを重視しており、相 手国政府との連携を密にしていきたい。 ・「官民連携、オールジャパン」で円借款での現在 38% の本邦企業受注率をさらに拡大していく。 ・ アフリカは日本企業が投資をする分野に関連し たインフラ、人材育成に集中投資すべきである。 「経済協力インフラ戦 ・ ODA の戦略的活用のため、 ・ 海外工事におけるセキュリティー確保の問題は 略会議」を今後も継続的に行う。建設業界が抱え 重要であり、政府の来年度予算への反映を検討 ている問題を後方支援できる環境を整備したい。 したい。セキュリティーのノウハウと情報共有 ・ 片務契約について先方政府都合の問題はあって には建設業界とエンジニアリング業界の連携も はならないので協力して是正する。問題が発生 必要ではないか。 したらすぐ相談してほしい。 ・ 契約については片務契約とならないように取り 組んでいきたい。 ・ 予備的経費の拡大、急激な円安問題は理解でき る。円安問題は外務省の執行予算の目減りという 点で共通の問題であり、 今後も声を上げてほしい。 これに対し当協会側からは、ODA 要望の内容に ・ STEP についてはさらなる改善、戦略的活用方法 関して毎年、進歩前進していることに感謝を申し上 を検討していくが、もっと日本業者の入札参加 げると共に、特にセキュリティーの問題について、 をお願いしたい。 危険地域での無償工事ではセキュリティー予算が確 ・ セキュリティーの問題は、改めて検討したい。 保されていない案件もあるのでよく調査して予算を 安全確保について現地大使館と十分に連携を 確実に確保していただきたいこと、日本政府が避難 取ってほしい。 勧告を出しても相手国政府が契約を盾に拒み、工事 ・ OCAJI 会員企業の受注実績を延ばし、日本の活 を中断できずに工期延長を余儀なくされる場合もあ 力を高めてほしい。今後も節目節目で業界の現 るので、契約上の明文化をお願いしました。 状を教えてほしい。 (2)外務省 ・ ODA 予算の拡大を図るには、関係者への働きか 外務省とは必要に応じ、無償工事、有償工事その け、新聞などの媒体を通した日本の国益のため ほか ODA 全般について、非公式な意見交換の機会 「日本再興戦略」 の ODA 活用の積極的な PR、 30 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて に謳われているアベノミクスと日本経済の再生 ・ 対象国ごとにできること、できないことがある の視点からの ODA 予算拡大の重要性を発信し ので、官民による知恵出しが必要である。 ていってほしい。 当協会側からは、ODA に関する制度が着実に改 善されていることに御礼を申し上げると共に、無償 これに対し当協会側からは、着実に ODA に関す 工事については、 予備的経費の近い将来の予備費化、 る制度が改善されていることに感謝申し上げると共 急激な円安問題の救済などについての配慮をお願い に、無償工事については、試行的運用の段階である しました。有償工事については、STEP 案件の拡大 「予備的経費」の対象案件・項目の拡大と近い将来 について御礼を申し上げ、さらなる案件数と対象分 の「予備費」としての制度化、物価上昇に係わる足 野の拡大、危険地域におけるセキュリティー対策費 切り条件の緩和(2% から 1.5% への緩和)、最近の急激な 用の予算措置などをお願いしました。 為替変動(約 20% の円安)についての救済策の検討を お願いしました。 有償工事については、関連業界団体を通じた企 (4)経済産業省 経済産業省からは、今回の要望にあたり、所管す る円借款事業について主に次のようなご意見をいた 業対象の STEP 事前説明会の前倒しと制度化によ だきました。 り、早い段階で業界の意向が反映され、各社が入札 ・「円借款の戦略的な活用のための改善策(2013 年 4 に参加しやすい状況となったことを感謝申し上げ、 月) 」 、 「インフラシステム輸出戦略」 、 「経済協力 STEP の案件数と対象分野のさらなる拡大と、事前 インフラ戦略会議」に基づき、今後も円借款の 説明会の仕組みの一般案件への拡大をお願いしま 制度改善を継続していく。また、 「日本再興戦略」 した。 の方針に基づき、円借款の戦略的な活用を推進 (3)財務省 外務省と共に ODA 所管省である財務省からは、 していく。 ・ STEP の開始から 10 年が経ち、着実に案件数が 今回の要望にあたり、主に次のようなご意見をいた 増えてきたが、日本国民の理解に加え、被援助 だきました。 国側の理解がきわめて重要である。STEP 案件へ ・ 要望内容はよく理解できた。有償工事はアンタ の日本業者の入札参加が少なく、適正な競争性 イド化が世界の流れであるが、日本を売り込む の観点から相手国政府が納得しないケースが出 べく STEP の拡充を図っている。 てきているので、日本政府も努力するが民間側 ・ STEP については、現地から日本はコストが高 も積極的に参加してほしい。 い、入札参加企業が少ないとの不満もあるので、 日本は良いものを安く提供していることを丁寧 に説明する必要がある。 当 協 会 側 か ら は、2003 年 ∼ 2012 年 ま で の 間、 STEP の案件数が着実に増加してきていること、 ・ 設計施工案件での失注者への費用一部補償は、 STEP 案件の事前説明会開催の前倒しと制度化につ 入札参加者を増やすインセンティブがある制度 いて御礼を申し上げました。また、過去 10 年間の なので検討する。 STEP 案件の分野別の動向について、建設事業であ 2013 8–9 31 る橋梁、幹線道路、都市交通システム分野などの案 件が STEP 案件全体の 74% を占めている現状(図 1) 交換を行いました。 また、今回は、当協会が 2 年前からコンサルタン を説明し、分野についても引き続きの拡大をお願い トの業界団体の国際建設技術協会(IDI)と行ってい しました。また、円借款の迅速化について、一般的 る「建設業の海外展開における課題検討会」が取り に有償工事の場合、E/N 締結から工事契約まで通 まとめた、案件の工事入札前、入札時に直面してい 常 3 年ほどであるのが、平均で 1 年近くオーバーし る課題と要望についても合わせて説明しました。 ている現状を説明し、被援助国政府の手続きを含め 今回の要望にあたり、JICA 側からいただいた主 た迅速化をお願いしました。 なご意見は以下の通りです。 (5) JICA ODA 実施機関の JICA には、昨年度に引き続き、 ・ OCAJI の要望について違和感はない。目指す方 JICA 側のご配慮により、JICA の全部長に要望内容 向は一緒であり、お互いのコミュニケーション をご理解いただくため、定例の JICA 内部の部長会 をさらに深めたい。JICA だけでは解決できない 議の場をお借りし、約 30 名のご関係者にご出席を 問題については政府関係各省と協議して状況を いただき、要望と意見交換を行いました。 改善していきたい。 JICA には無償工事、有償工事を含む ODA の制 ・ 東南アジア市場はここ数年で状況が様変わりし 度全般をはじめ個別案件について日頃から随時、具 ている。新規市場に戦略的に建設企業が参入し 体的な課題についての相談や意見交換を実施いただ ていくには総合的な対策が必要であり、特に円 く機会が増えています。今回の ODA 要望では、本 借款ではクイックな対応が必要であるので連絡 年度の新規要望事項を中心に説明し、合わせて意見 を密にしたい。 図1|STEP案件の分野別動向(2003∼2012年度、 案件数ベース) 全体件数:54件 うち、 建設事業:40件で全体の74.1% 建設事業以外の機材、 E/S案件など:14件で全体の25.9% 建設事業以外の機材など 19% 建設事業以外のE/S 7% 橋梁 18% その他 2% 幹線道路 15% 発電 2% 環境対策事業 2% 都市洪水対策事業 4% 空港 9% 出典:外務省公開のデータを基に当協会が作成(2013年6月末) 32 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 港湾 9% 都市交通 システム 13% ・ JICA として ODA の積極的 PR のため、日刊建 問題であるので、 セキュリティーの問題については、 設工業新聞に月 1 回、JICA の知見についての特 補償、保険なども合わせて今後対策を検討していた 集記事を掲載している。 だきたいなどの意見を申し上げました。 ・ STEP の案件形成のために、被援助国の要人を招 聘する「民間技術普及促進事業」を開始したの で活用してほしい。 ・ セキュリティーに関しては、是非 JICA 現地事 今後に向けて 5. 要望を終え、 今回の ODA 要望は、要望先の関係各省の人事異 動などの影響もあり、7 月初旬から 8 月初めまで、 務所と情報交換・共有をお願いしたい。現地で 幅広い日程の中での実施となりました。この間、当 ODA 事業に携わっている日本人職員の配置動 協会の白石会長をはじめ、要望活動にご参加をいた 向を日頃から把握しておく必要があるので、現 だきました無償研究会、有償研究会のご関係者およ 地でさらなるコミュニケーションを取ってほし び要望先の政府関係各省、JICA のご関係者におか い。危険地域でのセキュリティーや退避につい れましては真摯にご対応いただき、実質的な意見交 ては、相手国政府を巻き込んで進めていく必要 換をいただきありがとうございました。この場をお があるので、情報、ノウハウを共有して官民連 借りして改めて御礼申し上げます。 携して積極的に取り組んでいく。 ・ STEP の適応分野で「防災システム」が追加され 今回の ODA 要望では、新政権のリーダーシップ によるインフラ輸出の強化策を背景に、訪問先の たが、日本の防災技術を海外へ売り込むための 政府関係各省、JICA においては、例年にも増して、 意見交換を行い、官民連携で進めたい。 前向きで積極的なご意見や励ましの言葉を多くいた ・ 海建協には無償工事の予備的経費に関するアン ケート(2013 年 6 月)に協力してもらい感謝して だき、官民の方向性は一緒であり、同じ土俵に乗っ ているとの心強い印象を受けました。 いる。急激な為替変動、コストエスカレーショ ODA 事業の新たな市場には、アフリカ諸国や ンへの対応を含め外務省と協議中である。協力 ミャンマーといったこれからの市場であるがゆえに 準備調査の充実についても取り組んでいきたい。 情報が少なく、制度整備も不十分で政府のガバナン スや発注者の事業監理能力に多くの課題がある国々 当協会側からは、JICA、コンサルタント、コン もあります。 トラクターの 3 者にはそれぞれの立場があるが、実 当協会といたしましては、引き続き会員企業の意 務的な問題の解決のために意見交換の場が必要であ 向を十分に反映した上で、ODA の円滑な事業展開 る。たとえば、日本でないとできない技術、ノウハ に資することができるよう、今後も政府関係各省、 ウをいかに活用するのかなどの議論ができる場をつ JICA と密接に協議を続けてまいりたいと思います。 くってほしいとの意見や、ポリティカルリスク、カ ご関係者におかれましては、今後ともどうぞよろし ントリーリスクの判断は企業にとって非常に難しい くお願い申し上げます。 2013 8–9 33 特集 わが社のODAプロジェクトへの取り組み コンゴ民主共和国キンシャサ市ポワ・ルー通り 補修および改修計画 堀内 功[北野建設(株)コンゴ民主共和国キンシャサ市ポア・ル−通り改修計画 作業所長] 1.コンゴ民主共和国 候、ここで降った雨は広大な流域面積を誇るコンゴ コンゴ民主共和国(以降コンゴ民国)は中央アフリカ 川に注がれる。下流のキンシャサで観測される乾季 に位置し、国土はアフリカ第 2 の広さ、流れるコン と雨季の水位差が 5m 強生じるほどの雨量である。 ゴ川もアフリカ第 2 の長さと流域面積を有してい コンゴ民国の歴史は波乱に満ちており、ポルト る。人口は約 7,000 万人。そのうち 840 万人が首都 ガル奴隷商人の歴史から始まり 1885 年ベルギー王 キンシャサ、他は地方都市のルムンバシ、キサン 国の私有地、1908 年ベルギー政府が王国の私有地 ガニをはじめ各州に 500 万人∼ 800 万人が点在して を買い上げベルギー政府の植民地となる。その後 いる。 1950 年代はアフリカ各地の独立闘争の流れに乗り、 首都キンシャサと地方都市を結ぶ交通網は、陸路 1960 年晴れて独立しコンゴ民主共和国となる。そ は熱帯雨林の旺盛な繁殖力で瞬く間に道路が密林に れも束の間、独立後 1 週間でクーデター、その後 吸収され、地図上にあっても実際は存在しないのが は動乱、民族闘争、周辺国を巻き込む国際紛争と、 常。コンゴ川を利用した水運はいつどこへ接岸でき 2006 年新憲法が成立するまでこの国に国民が安住 るか、あるいは船があるのか?は行ってみないと解 できる時代はなかった。 らない。ゆえに、安全上問題はあるが、空路以外の 移動手段はない。 キンシャサがある南部と中央部とでは気候が違 2. プロジェクト計画背景 コンゴ民国の国家開発計画に基づき策定された う。南部は雨季と乾季がハッキリ分かれるサバナ気 「貧困削減戦略書」の一部であるインフラ、雇用、 候であって、乾季の 6 月、7 月、8 月は降雨ゼロと言っ 教育、水、電気、保健の 5 つの分野の復興戦略を重 ても過言ではない。中央部は高温多雨の熱帯雨林気 点的に 2007 年から進めており、中でもインフラ整 備は最優先課題分野と位置付けられキンシャサ市内 のポワ・ルー通りの復興もそこに含まれていた。 ポワ ・ ルー通りは主にキンシャサ市内と空港を結 ぶ連絡道路、キンシャサの西側と東側の州を結ぶ幹 線道路、沿線の製造業、運送業の産業道路としての 役割を担っている。波乱の歴史のこの国では、政府 機能はマヒ状態であったがゆえにインフラの維持管 理は行われていなかった。そのため道路の経年劣化 に加え雨季の降雨で道路面の破壊そして陥没、 結果、 降雨時は車輛の通行機能が著しく低下し、幹線道路 としては末期状態となっていた。 ◆特筆すべき事項 工事は現道の 2 車線を改修し新たに歩道を設ける コンゴ民主共和国位置図 34 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 計画でスタートした。現地に乗り込み、資機材の輸 送、キャンプ設営まで、政府機能が劣る諸官庁に何 施工する区分けとなっている。 の統一性もなく煩雑な諸々の手続きに加え、その手 ◆施工 法に翻弄されながら、何とか本工事のプレキャスト 工事概要で分かる通り、特別な工種はなく工事規 製品製作開始まで漕ぎ着けた。ところが突如大統領 模がやや大型である以外は特に難しい工事ではな から「ポワ・ルーは 4 車線でなければならない」の い。しかし既に記述した「動乱の歴史のこの国では 横槍、そして「工事中止命令」発出。政府機能が劣 政府機能もマヒ状態であった」ため、インフラの維 る配下の諸官庁相手に「お先真っ暗」とは、まさに 持管理は行われていなかった。 このことであった。 その後日本大使館、JICA キンシャサ事務所は元 より、外務省本省、JICA 本部の多大なるサポート この事がいかに物理的、精神的に工事の妨げとな るかを思い知らされている。 ◆施工体制 をいただき、4 車線のうち 2 車線は JICA の無償開 コンゴ民国内で資機材、労務の確保は難しいこと 発資金で実施、残りの 2 車線はコンゴ政府予算で実 は容易に想像できたので、一般労働者、一部の資材 施するというウルトラ C で決着した。先方政府の一 以外はすべて外部調達とした。 声で前代未聞の 8 カ月間の工事中止となった。 まず機材は日本をはじめアジア各国から調達し、 SV(スーパーバイザー)、熟練工、技能工はバングラデ シュとベトナムの混合チームでプロジェクト沿線に キャンプを構え、彼らの宿舎もそこに構えた。 ◆施工状況 延長 34km 余りの水路はプレキャストで製作し、 それを据え付ける方法を取った。これにより製作+ 養生+現場据付け、そして水路設置後の路盤工の工 程を一体管理することで、進捗率と経済性を追求す ることができた。 またストックヤードに限りがあり、 写真1|完了した4車線(1期工事) かつ砕石供給業者が 1 社に限定されることからプラ ントの稼働状況、施工数量、トラック運搬数を日々 3. プロジェクトの実施 ◆工事概要 管理することで安定供給を図っている。砕石業者は キンシャサにいくつかあるが、雨季に通行を阻まれ 当プロジェクトは、ポワ・ルー通りの全長 12km るなど、通年通して砕石を供給できる業者は現在取 を車道(片側 2 車線)4 車線と歩道を合わせた全幅 り引きしている 1 社のみである。しかしこの業者も 19m∼ 20m 道路に改修する工事である。 決して供給が安定しているわけではなく、停電、故 全長 12km の工区割りは、起点から 3.5km を 2-2 工区、4.5km を 2-1 工区と分け、これを 2 期工事と して施工、残り終点までの 4km を 1 期工事として 障、メンテナンスで月平均 2∼ 2.5 週間の稼働が限 界である。 2 車線から 4 車線に拡幅されたことで工事全体に 2013 8–9 35 わたり地下埋設物が支障になってしまった。地下埋 に移すまで漕ぎ着け、遅れ遅れではあるが一部の 設物の状況は、1 期よりは 2 期、2 期の中でも 2-1 工 支障物の移設を開始することができ、かつコント 区より 2-2 工区と工事が先に進めば進むほど煩雑に ラクターの手法と合わせて奮闘している最中であ なっている。これらの問題解決は JICA のスコープ る(写真 2)。 と現地政府のスコープ、 いずれも施主の義務である。 しかし大口径の埋設管を除いて他の埋設物の存在を 4. 終わりに 誰も把握していない。ならば支障物管理業者に管と 現在プロジェクトも終盤に入り、2-2 工区を施工 ケーブルを把握するよう依頼しても「お金がないか 中である。この区間はコンゴ川からの荷受車両、荷 ら掘れない」と言われる。今度は施主に支障物移設 車、仲買人が絶えず工事場所にたむろし、かつ地下 費用の支払いを督促し再依頼するも、 「お金はもらっ 埋設物も全工区一の多さ、おまけに解体移設が必要 たけど上司の許可がないから作業できない」……な な建物も多くある。施主の義務の履行は以前より改 ど、できない理由ばかり並べ一向に問題解決の気配 善されてきているとは言え、ここはコンゴ、事がス を感じさせない状況であった。 ムーズに進むわけがなく施主と喧々諤々の交渉の毎 結局はコントラクターが試掘、手探りで埋設物を 日である。 探し出し、支障となる物は押したり引いたり曲げた また政府機能がマヒしていた過去は教育も満足で りで施工スペースを確保する方法を取らざるを得な はなく、一般常識、特に交通ルールは至上最低、無 かった。 法地帯と言っても過言ではない。この無法地帯で資 1 期工事そして 2 期工事前半までは何とかこの手 材運搬車両、工事車両の安全確保のためにたどり着 法で乗り切れた。しかしその先は支障物が多く、こ いた手法は、運転速度やプロジェクトで定められた の手法にも限界があって結局施主、支障物管理業者 交通ルールを破った者への懲罰、そして免職へと実 に対しコントラクターから催促、脅し、指導を繰り 害が出るペナルティーを科す何とも低レベルの手法 返した。その結果、ゆっくりではあるが何とか行動 を取っている。そのほか外国人労働者には「己の身 は己で守れ」を肝に銘じ、工事作業帯の明確な区分 けを徹底し事故の防止に努めている。残念なのは工 事が完成し道路がよくなった結果、交通事故、それ も考えられないような大きな事故が頻繁に起きてい ることである。 最後にここにも中国の援助、投資の手は伸び、数 社の中国企業が腰を据えて道路工事を中心にいくつ かの工事を実施している。しかしながら施工管理が よいとはお世辞にも言えない中国企業に比べ、秩序 立てて予定通り粛々と事を進め、かつ施工中の交通 写真2|誰も把握していない地中ケーブル 36 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 確保を念頭に置いた日本企業の施工管理を目の当た りにしたコンゴ人も、違いを認めやがては称賛に 企業らしく誠実な仕事をすることで日本の存在感 転じ、ひいてはコンゴ政府の信頼を得られるまで をアピールするのも日本援助のあり方だと感じて になっている。このように中国攻勢の中でも日本 いる(写真 3、4)。 写真3|施工状況 写真4|実車を用いて安全指導 2013 8–9 37 特集 わが社のODAプロジェクトへの取り組み 第二次ハトロン州ハマドニ地区給水改善計画 梅原 昌博[大日本土木(株)海外支店 ハマドニ地区給水改善計画 作業所長] 1. はじめに 対象地域であるハマドニ地区は東北部と西部を山 今回の工事を施工したタジキスタン共和国は、周 地(標高約 800m から 1,300m)によって挟まれ、地区の 辺をアフガニスタン、ウズベキスタン、キルギス、 南部を東から西に流下するピアンジ川(国際河川)に 中国に囲まれた中央アジアの内陸国である。国土 よって、アフガニスタンと国境を接している。西部 面積は 14.31km (日本の約 40% に相当)であり、その約 山地のすそ野にはクジュルシュ川が流れており、平 94% は山岳地帯で、山岳地帯の半分は標高 3,000m 野部はこれらの河川の氾濫によって形成された沖積 以上の高地である。人口は 700 万人(2009 年、外務省 平野であり、とりわけ南部地区にはピアンジ川の扇 データ) 、ひとり当たり GNI(国民総所得)は、600 ドル 状地形が広がっている。 2 (2008 年、世界銀行)である。1991 年、ソ連邦解体と共 に独立したが、1992 年から 1997 年までの内戦や頻 2. プロジェクトの目標 発する自然災害によって経済成長は遅れ、総人口の 本プロジェクトはハマドニ地区における「安全な 83% が貧困層とされ、旧ソ連圏諸国の中でも最貧 (2006 飲料水の供給改善プログラム(2007∼ 2020 年)」 国に位置付けられている。 年 12 月に公布)を支援し、この目標を具現化するた 工事位置図 38 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて めの方策のひとつとして位置付けられる。 そのため、 配水管敷設(径 50∼ 250mm) ハマドニ地区の村落の中で、最も厳しい給水状況に 配水管付帯工 14.5km 1式 あるモスクワ町とメハナタバッド・ジャモアットに おける 2 村落の給水施設を整備し、安全で安定的な 4. 工事の施工体制 給水を実現することにより、住民の衛生環境を改善 本プロジェクトは下記の体制で施工を実施した。 することを目標としている。 井戸施設工事 水中ポンプ設置 現地協力会社請負施工 直庸施工 井戸管理室 3. プロジェクトの概要 高架タンク(新設) 現地協力会社請負施工 高架タンク(改修) 現地協力会社請負施工 コンサルタント:株式会社 協和コンサルタンツ 塩素消毒設備設置 直庸施工 請負金額:687,000,000 円 受配電設備・電気設備新設 現地協力会社請負施工 契約工期:2011 年 11 月∼ 2013 年 7 月 配水施設 施主:ハマドニ地区飲料水供給プロジェクト運営管 理センター 工事内容:(以下に示す) 配水管敷設(径 50∼ 250mm) 直庸施工 ■モスクワ町 配水管付帯工 直庸施工 井戸施設(ボドカナル取水場施設) ■日本人 水中ポンプ設置 3式 作業所長:1 名 当社土木技術職員 2 名、 井戸管理室 1棟 事務担当職員 1 名、派遣土木技術者 1 名 高架タンク(新設) 2基 高架タンク(改修) 1基 配管工:4 名、型枠大工:4 名、CAD オペ:1 名、 塩素消毒設備設置 1式 メカニック:1 名、料理人:1 名 受配電設備・電気設備新設 1式 ■外国人技能工 ■タジキスタン人 現地協力会社:3 社 配水施設 配水管敷設(径 50∼ 250mm) 32.2km 土木技術者:1 名、事務担当要員:1 名、 配水管付帯工 1式 通訳:3 名、世話役:7 名、他作業員:約 120 名 ■メハナタバッド・ジャモアット地区 井戸施設(ケンジャ・アブドゥル取水場施設) 水中ポンプ設置 1式 高架タンク 1基 塩素消毒設備設置 1式 受配電設備・電気設備設置 1式 配水施設 2013 8–9 39 5. 施工 ポンプ設置およびそれに関連する工事は円滑に進 み、予定工期より早く完了した。現地協力会社では あるが、世界にネットワークを組んでいるポンプ メーカーであるため、技術は確立されていた。 高架水槽組み立て工事が本案件で最も苦労した工 種である。現地協力会社との請負契約を結び施工を 行ったが、安全、工期、品質に対する管理がまった くと言ってよいほどできなかった。職員が事細やか に指導し、ようやく指示通りに施工を行うが、何日 か経過すると元に戻ってしまうような状態であっ ボドカナル井戸施設 高架水槽 た。特に安全に関しては、高さ 20m の高架水槽組 み立て工事であったため非常に気を遣った。鳶工の ような技能工は存在せず、 「高いところが得意」と いう労働者の集まりで作業を進めていったため、気 が緩むことがなかった。無事に完了したことを本当 に安堵している。 コンクリート構造物工事および配管工事は直庸体 制で施工を実施した。コンクリート練り混ぜ機は日 本から調達し製造を行った。タジキスタンでは、技 能工が溶接工か電気工くらいで型枠大工、鉄筋工あ るいは配管工などの職種がなかったために、一から モスクワ町 各戸給水接続工事 教えることとなった。また、技能工(型枠大工、配管工) はフィリピン人を派遣し、その技能工の下でタジキ スタン人を指導しながら施工を進めた。 工事期間中の気候に関して、夏季は体感温度で 40 度以上となり冬季には氷点下となる日々が多く 工事の進捗に少なからずとも影響を及ぼした。 メハナタバッド村 配管工事 40 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 6. おわりに らのありがとうの一言で「タジキスタンに来てよ 工事竣工時に地域に給水がなされた際の住民の笑 かった」 、また「この工事を無事に完了できてよかっ 顔を今でも覚えている。車で村を走ると「ラハマッ た」と思える。今後も機会があれば海外の人びとが トカロン(ありがとう)」と声をかけられることが多々 喜んでくれる仕事に携わりたいと思う。 あった。工事期間中は苦労することがあったが、彼 モスクワ町 各戸給水 給水状況 メハナタバッド村 共同水栓 給水状況 2013 8–9 41 特集 わが社のODAプロジェクトへの取り組み グルジア国、 東西ハイウェイ整備事業 (クタイシ工区・サムトレディア工区・ゼスタフォニ工区) 伊藤 寛一[(株)竹中土木 作業所長] 1. はじめに 日本で、ほとんど馴染みのないグルジア国は、ア 2. 工事の概要 2009 年、グルジア国政府と国際協力機構(JICA) ゼルバイジャン、トルコ、アルメニア、ロシアと国 との間で、 「東西ハイウェイ整備事業(3 工区)」を対 境を接している、旧ソビエト連邦から 1991 年に独 象とした総額 177 億 2,200 万円を限度とする円借款 立した共和制国家である。国土は、西アジア北端、 貸付契約が締結された。 南コーカサス地方にあり、地政学的にアジア・欧州・ ロシア・中東の交差路に位置する。 本工事は、西グルジア・イメレティ地方のクタイ シ工区、サムトレディア工区、ゼスタフォニ工区 グルジア国は、歴史上、幾度となく他民族支配に の合計 58.1km の高速道路建設であり、1997 年「電 さらされながらも、キリスト教信仰をはじめとする 力リハビリ事業」以降、グルジアに対する日本の 伝統文化を守り通してきた国で、独立した旧ソ連諸 ODA インフラ事業の第 2 号にあたる。 国の中でも民主化・市場経済化を積極的に進めている。 そのため日本大使館および JICA とも、非常に期 なお、2008 年にはロシア国境と接する南オセチ 待を持って見ておられ、在グルジア日本国大使から アを巡ってロシアとの軍事衝突があったが、その後 も、 「グルジアで日本企業が初めて大規模インフラ は安定した政情が続いている。 整備に参画した事業であるので、他の開発援助工事 本プロジェクトは、黒海とカスピ海を結ぶ重要な との品質・管理の違いをグルジア国に示せるよう努 国際物流網である東西回廊の中で、グルジア国内を 力してほしい。予期せぬ工事の進捗阻害要因があれ 横断する東西ハイウェイのゼスタフォニ∼サムトレ ば、大使館も協力してことにあたる」との心強い助 ディア間の道路・橋梁の整備を行う事業であり、輸 言をいただいている。 送力増強による経済の発展と共に、紛争後の復興に 貢献することを目的としている。 下部工施工状況(クタイシ工区、 全長470m) Chishura橋、 当工事の概要は、全 3 工区(総延長 58.1km)のうち、 第 1 工区(クタイシ工区、延長 17.3km の新設道路、橋梁 10 カ 所、インターチェンジ 4 カ所)が 2012 年 1 月より着工し、 また第 2 工区(サムトレディア工区、延長 25.6km の新設道路、 位置図 42 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 橋梁 8 カ所、インターチェンジ 3 カ所)が同年 7 月より着工 格との整合性を確認しながら施工協議をしなけれ しており、現在鋭意施工中である。 ばならない、予期せぬ煩わしさに苦労することと 第 3 工区(延長 15.2km の道路拡幅・改良、橋梁 10 カ所、イ ンターチェンジ 3 カ所)についても国際競争入札を経て、 なった。 また、プロジェクトにおける公用言語は英語と明 本年 3 月に工事契約を締結し、7 月末にグルジア国 記されているが、当プロジェクトに携わる 10 カ国 政府道路局からの工事着工許可を得た段階にある。 以上の国籍を持つスタッフ、作業員のほとんどが旧 当社としてはグルジア国での初の工事施工である ソ連諸国の出身であり、書面以外の実質的な公用語 ため、当地に経験のあるイタリアのゼネコンと協業 はロシア語またはグルジア語となっている。そのた して当プロジェクトに参画しており、第 1 工区を隣 め、会議や日々のコミュニケーションにはロシア語 国アゼルバイジャンの協力会社と、また第 2 工区を から英語への通訳を介する不便さがある。 グルジアの協力会社と共に施工を進めている。 主要な施工機械やプラントは協力会社保有のもの を用い施工しており、砕石プラントとコンクリート プラントは、エンジニアの承認を受けて仮設ヤード に設置し工事に用いている。しかし、 重機のスペア・ パーツの調達がグルジア国内では限りがあり、ほと んどのパーツは隣国のトルコ、アゼルバイジャンか らの調達となるため、通関などに時間を取られ、修 理できるまでの時間が読めないなど、機械の稼働時 間が思うように上がらない問題も抱えている。 路体盛土施工状況(サムトレディア工区6.0km付近) 3. 当プロジェクトの特色 旧ソ連国の特徴として、独立から 20 年以上も経っ てはいるものの、今でも旧ソ連体制の影響が強く 残っていることから、当プロジェクトの契約内容に おいても現地施工業者の職員には、まだ精通されて いないところが多い。 一例として、契約における技術仕様は英国規格ま コンクリート舗装完了状況(クタイシ工区14.0km付近) たは米国規格を規定しており、ロシア規格が一般的 である現地技術者にとっては、抵抗感があるようで ある。 われわれにとっても、ロシア規格と英国・米国規 建設資材については、セメント、鉄筋、型枠材、 アスファルトなどの主要材はグルジア国内で生産し ており比較的容易に入手できるが、 その他の資材(特 2013 8–9 43 に 2 次製品)は輸入となるため、他国の生産元に直接 発注するか、または現地輸入販売店に早めの発注が 理を標準化し、徹底することは難しい。 いまだ道なかばではあるが、他の東西ハイウェイ 事業における世界銀行、欧州開発銀行、アジア開発 望まれる。 銀行供与プロジェクトと比較した際に、当プロジェ 4. おわりに 個々のスタッフ、作業員の異なる言語、経験・知 識や思考方法の違いなどから、品質・工程・安全管 44 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて クトの円借款事業が高い評価を得られるよう、ス タッフ一同努力していきたい。 特集 わが社のODAプロジェクトへの取り組み インドネシア共和国デンパサール 下水道整備事業二期工事 河野 暢敬[東亜建設工業(株)国際事業部 インドネシア事務所 所長] 1. はじめに 2. 工事概要 バリ島はインドネシア共和国の島で、首都ジャカ 「デンパサール下水道整備事業」は、一期工事 ルタのあるジャワ島の東側に位置する火山島であ と二期工事に分かれ実施された(図 2)。一期工事は 2 る。その面積は 5,633km (日本・四国の 1/3 程度の広さ)、 2003 年から 2007 年に、デンパサール地区(対象面積 人口は約 389 万人(2010 年)で、周辺の島々と合わせ 520ha 排水路延長約 77.5km)、サヌール地区(対象面積 330ha てバリ州を構成する(図 1)。 排水路延長約 38.5km) 、クタ・スミニャック地区(対象面 バリ州の州都デンパサールは、島の南側の平野部 積 295ha 排水路延長約 47.1km)の下水道管渠整備および に位置し、地方政治・経済の中心地としてのみなら 下水処理場(汚水処理能力 51,000m3/ 日、管理棟 1 棟、流入ポ ず、その南側にクタビーチ、サヌールビーチ、ヌサ ンプ場 1 棟、曝気池 2 カ所、沈殿池 2 カ所)の建設が実施され ドゥアビーチなどの観光地区を抱え、マリンリゾー た。二期工事は 2009 年 10 月から 2013 年 7 月まで トとしての顔も持ち合わせている。当地を訪れる 実施された。二期工事は一期工事で対象とならな 外国人観光客数は、1990 年に約 49 万人であったの かったホテル・商業施設を多く含む緊急性の高い地 に対して 2000 年には約 141 万人に急増し、2012 年 区および地元住民の要望が多い地区を対象とし、デ は 290 万人に達している。これに伴い、貿易、ホテ ンパサール地区(対象面積 280ha 排水路延長約 30km)およ ル、レストランなどの産業を中心に経済成長を遂げ (以 びサヌール地区(対象面積 160ha 排水路延長約 15.7km) ている。 下「ICB-1」とする) 、クタ・スミニャック地区(対象面積 1990 年当初、デンパサールおよびその周辺の観 500ha 排水路延長約 43.6km) (以下「ICB-2」とする)の二工区 光地区では下水道施設は未整備で、汚水は直接河川 で建設が行われた。 や排水路などに排出されている状況であった。その ため、汚水が地下に浸透することによる地下水の汚 染や、大切な観光資源としての海洋の汚染拡大が懸 念され、早急な対策の必要性が課題として提起され た。このような背景の下、1990 年に JICA 調査団が 発足し、 「デンパサール下水道整備事業」として計 画および設計(対象面積 237km2、そのうち緊急地区 20.9km2) が行われ、2003 年から建設工事が開始された。 図1|インドネシア共和国バリ島位置図 図2|デンパサール下水道整備事業計画図 2013 8–9 45 3. 本プロジェクトの施工 おける下水道管渠では推進工法が採用された。管径 当社は観光地における都市土木技術を要求される は 800mm で、推進工法の選定においては、土質・ ICB-2 を受注し、スローガン「クリーン・コンスト 長距離および曲線施工・道路占有縮小への適応性、 ラクション」を掲げ施工を実施した。主要工事は下 推進設備の簡素性・環境負荷(騒音・振動・粉塵など)の 水道管渠敷設のほかに一期工事で施工された下水処 軽減などを比較検討し、 「泥濃式推進工法」を採用 理場内の機器設備の増設およびバリ島内で、最も観 した。立坑(発進・到達)築造は路面覆工を架設し薬液 光客で賑わうレギャン通りの美化整備工(排水路整備 注入工法とライナープレート工法を併用し、作業占 工および歩車道復旧工)が含まれた。クタ・スミニャッ 有面積の軽減に努めた。その結果、当初推進工の延 ク地区は、ホテル・商店・歓楽街などの密集地域で 長は繁華街に面した主要幹線沿いの 2.2km であっ あり、管渠敷設に関しては作業時間や交通規制(通 たが、推進工の進捗に伴い、観光地特有の環境に適 行止めの禁止など)などの多くの制約を強いられ、それ した工法であることが発注者および地元住民に理解 らの条件をクリアするために一部の主要幹線沿いに され、開削工で計画されていた他の主要幹線の一 部も推進工に変更され、推進工管路総延長は 5.4km に変更(3.2km 増)となった。 レギャン通りはクタ地区の中でも特に飲食店・商 店・ホテルが密集している地域にあり、観光スポッ トの「顔」としての側面がある。一方、密集地域で あるがゆえ、作業時間および作業帯の制限が複雑に 混在する地域であった。このような背景の下、美化 整備工の施工についても、環境負荷軽減のための対 策を再検討する必要があった。 排水路整備工では、従来工法(排水路内の堆積土を レギャン通りの工事の様子 人力にて撤去)から真空ポンプにより堆積土を吸引す る方法(バキューム方式)を採用した。この方式では堆 積土を吸引してタンクに直接積み込むため、悪臭の 発生を抑制し、作業性の向上を図ることができた。 また、吸入管を延長することで長距離の施工が可能 になり、排水路の開口箇所を低減したことで、観光 客などの通行の安全確保ができ、さらに作業帯を、 飲食店、商店、ホテルおよび観光地の入口を回避し た場所に設置することができた。排水路蓋部の施工 では、プレキャストコンクリートを採用して作業効 作業占有面積を軽減 46 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 率の向上を図り、また、作業時間を 24 時間体制と することで、混在する複雑な作業制限に対応した。 えたパイロット事業と言われている。本プロジェク その結果、ホテル・観光客・店主からの苦情を受け トを成功に導くため、当社が担当した工区では日本 ることなく短期間で工事を終えることができた。排 で培った都市土木技術と、インドネシア国内で長期 水路整備効果は大きく、今後もレギャン通りがバリ にわたり培ってきた文化や国民性を考慮したコンス 島の観光スポットとして賑わい続けることに大いに トラクション・マネジメント・ノウハウを十分に発 貢献できたと考えている。 揮できたものと考える。そして、そのことにより、 建設事業における社会環境負荷の低減に寄与できた 4. 終わりに 本稿で紹介したデンパサール下水道整備事業は、 急激な経済成長を続けるインドネシア国内の都市部 達成感は大きい。最後に、さまざまな制約条件があ る中で工事を安全に遂行できたことに対して、関係 者の皆様に心より謝意を表したい。 における、将来的な社会基盤整備事業の増加を見据 バキューム方式 下水道整備前の道路の様子 観光地の入口を回避した作業帯 下水道整備後の道路の様子 2013 8–9 47 特集 わが社のODAプロジェクトへの取り組み ガーナ共和国国道8号線改修計画 鈴木 敬二[徳倉建設(株)ガーナ共和国 国道8号線改修計画 作業所長] 1. ガーナ共和国について ガーナ共和国は、西アフリカにあり国土面積は (車で 5 時間弱) 、ガーナ第二の都市、クマシより約 100km(車で 1 時間半)の位置になる。 239,460km で、日本の約 2/3、人口は約 2,500 万人、 2 気候は熱帯気候で 1 年を通じて最高気温 29∼ 35 度、 2. 工事の概要 最低気温 20 度前後、5、6、9、10 月が雨季になる。 本工事は、ガーナ共和国国道 8 号線のうち、損傷 西アフリカの中では最も早く(1957 年)イギリス領 の激しいアシンプラソ∼ベクワイ間(約 60km)の舗 より独立し、政治はアフリカ地域においては際立っ 装、排水工、道路構造物付帯施設およびアシンプラ て安定している。 ソ橋の新設工事を行う。 2012 年 GDP は 389 億ドル、世界の 86 位で、ア フリカ内ではケニアに次ぐ 12 位となっている。 この工事により道路状況が改善され、車両の事故 が減少し、地域間物流の輸送量が増大することが見 金を産出し、カカオ豆の産地として有名、2007 込まれる。 年に油田開発が始まり、2010 年より本格生産を開 ・ 工事場所 始している。 現場(ベースキャンプ)は首都アクラより約 300km ガーナ共和国アシャンテ州国道 8 号線アシンプ ラソ∼ベクワイ間延長 59.9km(うち橋梁 98m) ・ 工事期間 2010 年 4 月 6 日∼ 2013 年 12 月 15 日 ・ 発注者 ガーナ道路公社 GHA ・ コンサルタント 株式会社アンジェロセック ・ 請負業者 徳倉建設株式会社 ・ 請負金額 8,346,980,000 円 ・ 工事内容 1 アスファルト舗装工事 2 橋梁工事 3 道路拡幅&登坂車線工事 4 横断管水路工事 5 側溝水路工事 6 防護柵、防止柵工事 7 路側標識工事 工事位置図 48 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 8 付属構造物工事 ベースキャンプは、工事延長測点 0km∼ 59.9km 両の通行を確保しながら施工を行うため、当初より のほぼ中間測点 24.7km に面積 10.07ha を開墾し、 工事による一般車両への交通災害事故防止対策が重 砕石プラント、アスファルトプラント、コンクリー 要視されていた。 トプラント、重機整備工場、事務所、宿舎などを設 置した。 横断管水路工事施工においては、迂回路を設け、 工事標識を設置し、掘削箇所への一般車両転落防止 のため、コンクリートバリケードを設置した。 また、夜間対策として、工事標識へ反射板の取り 付け、 日本より輸送したソーラー式点滅灯を設置し、 事故防止対策を行った。 舗装補修完了に伴い、一般車両の速度超過による 交通事故が予想されたため、各施工段階(路盤工事、 アスファルト工事、排水路工事、区画線工事など)に即し ベースキャンプ た標識の設置、交通誘導員の配置(40∼ 50 人/日)を 決め、事故防止対策を行った。また、速度超過の取 土取場などの用地確保問題 3. 土捨場、 工 事 乗 り 込 み 時 に お い て、 土 工 事 掘 削 土 量 98,730m3 の 捨 土 場 所、 路 体、 路 床 盛 土 量 203,935m3 の盛土材採取場所の用地確保に期間を 要し、始点橋梁部の家屋移転には工事開始より約 2 年かかった。 特に盛土材の採取場所は品質確認を行いながら、 多数箇所(最終土取場使用箇所は 19 カ所)の土地所有者と の使用許可、作物補償などの交渉に期間がかかり、 舗装改修工事の着手が予定より大きく遅れ、全体工 横断管水路施工時安全設備 期への影響が生じたため、工事着手後 16 カ月(当初全 体工期は 42 カ月) で 4 カ月の工期延長変更契約を行った。 着手後早期での工期延長承認が得られない中にお いて、施主、関係期間への調整を迅速に行ったこと により、工期延長変更契約が行えたと思っている。 4. 一般車両通行による交通安全対策 本工事は、アスファルト舗装と横断管水路(φ 900 × 1 連∼φ 1,500 × 3 連、127 カ所)などの工事を、一般車 排水路工事での標識設置、 誘導員の配置 2013 8–9 49 り締まりを警察へ依頼すると共に、施主(GHA)を 入手が困難なため、配合において細骨材を砕砂から 通じて、ガーナの新聞やラジオで当工事施工区間で 現場より約 600km 離れたボルタ湖河口の川砂を調 の 50km/h 速度制限の広報を行ったことが、交通災 達した配合を行い、設計コンクリート強度を満足し 害事故の低減に繋がった。 た施工を行うことができた。 5. 橋梁コンクリート強度における問題 6. 終わりに 本工事の始点部(0.4km∼ 0.5km)に新設の橋梁を設 2013 年 7 月末現在まで、3 年 4 カ月の長期工事で、 ける設計となっていた。 政治が安定したガーナ共和国とは言え、現地スタッ 橋梁工事概要 フのマラリア発症者も頻繁にあり、アフリカ地域で 全長 98.0m 全幅 12.1m の衛生面維持には苦慮した。 上部工 PC3 径間連続ラーメン橋梁(張り出し架設、 工事の現況は(2013 年 7 月末現在)舗装改修工事は 59.9km のうち 56.3km が完了しており、施主 GHA キャンティレバー工法) 下部工 橋台基礎 2 基:深礎杭(直径 2.0m、深さ 10∼ より舗装状況においては高い評価をいただいている。 最後に、本工事に携わった関係者の皆様、および 11m) 橋脚基礎 2 基:直接基礎 ガーナ人スタッフに感謝の意を表し、本工事がガー 上部工は PC 工法でコンクリート強度は、40N/ ナ共和国の発展に寄与することを切に願います。 mm の設計(使用するガーナ産セメント強度は 42.5N/mm ) 2 2 で、当初、打設前試験練りではコンクリート強度 40N/mm2 を満足していたが、上部工コンクリート 打設開始直前の試験練りで 40N/mm2 に達しない結 果となり、 原因の究明、 強度発現の対策に苦慮した。 結果として、ガーナ産セメント品質の不安定さが 影響していると思われるが、ガーナ産セメント以外 2013年7月上部工状況 50 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 舗装改修工事着工前 徳倉社長と共に現地スタッフ一同 舗装改修工事完了 特集 わが社のODAプロジェクトへの取り組み ブランタイヤ市道路網整備計画(第2期) 石田 元章[(株)NIPPO マラウイ工事事務所 工務主任] 1. プロジェクトの背景 どは 1950 年代前半に建設されたが、経年による路 マラウイ共和国(以下、マラウイ)は周囲をモザンビー 面の劣化進行だけでなく、人口集中や産業発展に伴 ク、ザンビアおよびタンザニアの 3 カ国に囲まれた い、交通量が設計時の交通容量を大幅に上回ったた アフリカ南東部の内陸国であり、本プロジェクトが め、慢性的な交通渋滞や事故を引き起こしており、 実施されたブランタイヤ市は、首都リロングウェか 市民の日常生活、経済活動に支障をきたす深刻な状 ら南に約 300km に位置する、マラウイ最大の経済 況となっている。 都市である。 内陸国であるマラウイでは、物資の輸出入を陸上 輸送に大きく依存しており、道路インフラの整備は こうした背景より、本プロジェクトは、市内道路 の渋滞緩和と、これによる経済発展の促進を目的と して計画されたものである。 同国経済の発展にとってきわめて重要であり、特に 最大都市であるブランタイヤ市内の幹線道路整備 は、最重要課題のひとつである。市内道路のほとん 2. 工事概要 着工からほどなくして顕在化した国内政情不安 と、 これに起因して発生したさまざまな社会問題(後 述)の影響から、本プロジェクトは実施期間中に数 度の契約変更を余儀なくされ、最終的には当初から 大幅に変更した作業スコープによる実施となった。 概要は以下の通りである。 契約工期:2010 年 11 月∼ 2013 年 7 月 施工場所:市内幹線道路(チペンベレハイウェイ) 工事内容:上記幹線道路 2.75km 区間(チチリラウン ドアバウト−ヤナキスラウンドアバウト間)の舗装および 排水構造物の改修工事 3. 問題の発生と経過について ここでは、当工事が着工以来直面してきた問題の うちの主なものを紹介すると共に、その対応の結果 と経過について述べるものとする。 (1)燃料・材料不足と反政府デモ 民間による燃料の独自輸入を国策で制限している マラウイでは、政府直轄の公社が一元的に調達した 燃料を民間の石油元売り各社が購入して市中に販売 工事位置図 する体制を取っている。そのため、需要規模に見合 2013 8–9 51 う供給と調達を可能とする十分な外貨準備高が政府 も、ようやく作業が開始されたのは工事着工から 1 に求められるが、世界銀行や IMF、諸外国からの 年後、当初契約における工期直前の 2011 年 12 月の 援助に外貨収入を依存する乏しい財政状況が慢性的 ことであった。 な外貨不足を引き起こしているのが実際である。こ 上記(1)と共に、こうした実施条件に関わる致命 れに加えて、外交問題のもつれから国外からの支援 的な問題が相次いで発生したことで、現場作業には が完全停止する事態が 2011 年に発生し、長期に及 大幅な遅れが発生したと共に、作業スコープそのも ぶ燃料供給の停止状態が発生するに至った。 のの見直しも余儀なくされることとなった。 この事態は単に工事用燃料の不足をもたらしたに とどまらず、現地材料業者の生産供給体制や国外調 (3)通貨切り下げと物価上昇および管理費の膨張 (2)の問題による工事の遅れは、深刻な 上記(1) 達資材の輸送、電力供給にも深刻な影響を及ぼし、 出来高不足と管理費の増大を生み、当プロジェクト 結果、工事はやむを得ず長期の中断を余儀なくされ の予算を大きく圧迫していった。さらに拍車をかけ ることとなった。同年 7 月には、状況が深刻さを極 るように、国家財政の悪化とこれによる流通の機能 めると共に国内全土に及ぶ反政府デモが勃発し、武 不全が、通貨の大幅な切り下げに至るまでの急激な 力衝突により数名の死者を数える惨事に至った。 物価上昇をもたらし、プロジェクトのコスト管理を さらに厳しいものにしていった。 (4)治安問題 近隣諸国と比べてもとりわけ国民性が穏やかであ ると言われているマラウイだが、先述の通りの政情 不安が近年にない治安の悪化も生むこととなり、強 盗傷害事件や武力衝突を伴うデモ活動も頻出するこ ととなった。本プロジェクトにおいても、残念なが ら強盗事件による被害が数件発生し、盗難被害にも デモの様子 (2)地下埋設物問題 日常的に苦しめられることとなった。 4. 施工 本プロジェクトは、夥しい量の地下埋設物が縦横 前項に述べたさまざまな問題の結果、本プロジェ に走る既存幹線道路の改修工事であり、実施にあ クトは 2011 年末から数カ月に及ぶ中断を経て、既 たってはそれらが適宜移設されていることが最低条 述の通り大幅に変更された作業スコープの下で工事 件であった。工事契約においても、施工箇所に存在 を再開することとなった。 する支障物や地下埋設物を工事着工前に完全移設撤 政権交代や国外からの資金援助の回復により、マ 去することが施主に義務付けられていたが、実際 ラウイの国内情勢はその後徐々に安定を取り戻した には着工後においても長く手付かずの状況が続き、 こともあり、再開後はそれまでの遅れを挽回すべく 現地 JICA 事務所と大使館の働きかけがありながら 急ピッチで作業体制を整え、燃料や材料の確保に奔 52 特集 わが国の経済協力の現状と見通しについて 走して、施工に臨んだ。プラントや建機、管理要員 5. 終わりに となる人材と特殊材料の多くをタンザニアと南アフ 既述の通り、本プロジェクトは 2010 年 11 月の受 リカから調達したが、燃料や主要材料、汎用機と一 注以来、非常に多くの紆余曲折を経て完了に至っ 般労務の調達はほぼすべてマラウイ国内で完結した。 た。完成に至るまでに要した時間は実に 2 年半以上 マラウイで一般に、11 月から翌年 3 月までの 5 カ にも及び、この間の度重なる工事中断のため、長期 月間が雨期となり、この期間は激しい降雨のせいで に及ぶ道路閉鎖と交通迂回により地元住民には多大 満足に工事を行うことができない。 今年に限っては、 な迷惑を強いることとなった。不可抗力が働いた結 雨期同然の降雨が 6 月頃まで残ったこともあり天候 果とは言え、プロジェクト本来の意図と逆の状況を 不順にも随分悩まされたが、無事契約工期内に工事 つくり出してしまったことそのものは、きわめて遺 を完了させることができた。 憾なことであったと言わざるを得ない。しかしなが ら、工事再開の折りには、道行く人びとの多くが現 場で足を止めてわれわれに激励の言葉をかけていた だき、また完成時にもたいへん多くの方々から感謝 の言葉を頂戴することができた。関係者の協力と地 元住民の方々の誠意や理解に支えられてきたからこ そ完成することができたものと、真摯に受け止めな ければならない。 本プロジェクトが実施されたブランタイヤ市のみ ならず、マラウイの道路交通事情には依然課題が多 施工状況 く、整備に対する国民の期待も非常に大きいものと 理解している。本プロジェクト以降のわが国 ODA による事業展望に期待を寄せると共に、マラウイ共 和国の発展を切に祈念するものである。 完成 2013 8–9 53 海外生活便り 「アゼルバイジャン共和国」 について 鳥井 洋介 日特建設 (株)バイエル作業所 作業所長 1. はじめに 私は現在、アゼルバイジャン共和国の首都バクーで発 ります。冬、雪はほとんど降りませんが、それなりに寒 いという印象です。 生した地すべり関連工事に従事しています。延べ日数で 緯度は、日本で言うと秋田や岩手あたりです。一年を 3 カ月程度の滞在で、その上、首都バクーが勤務地のた 通して風が強く、湿度が低いです。首都バクーの語源は め、他の地域に出たことはありません。そのため、まだ まだ知らないことがたくさんありますが、 私が赴任して、 この国に関して感じたことを書かせていただきます。 『風の街』という意味だそうです。 アゼルバイジャン人が全人口の 90%以上を占めると 文献には記載されています。しかし私の印象では、アゼ ルバイジャン人には多民族(中東系、トルコ系、ロシア系な 2. アゼルバイジャン共和国とその首都バクー アゼルバイジャン共和国は、皆さんには馴染みの薄い 国だと思われます。まずは簡単な国の紹介をします。 黒海とカスピ海に挟まれた地域はコーカサス地方と呼 どなど)が入り混じり混血の方も多いのでは? という感 じを受けます。 宗教はイスラム教が全体の 95%です。しかし、ソ連 支配下にあった影響か、 あまり強い宗教色は感じません。 ばれます。一般に北(ロシア領)と南に分けられ、アゼル 酒もタバコも基本的に OK で、レストランなど外での飲 バイジャンはこのうち南コーカサス地方に属します。ほ 食も問題ありません。酒好きな私にとっては、生活に支 かにグルジア、アルメニアが含まれます。 障はありません。ワインもウォッカも非常に安くておい アゼルバイジャンは、図 1 の通り、カスピ海の西岸に しいので、飲みすぎに注意しています。 あり、西にアルメニアとトルコ、北はロシア、南はイラ 食事は、イスラム教のため、基本的に豚肉が食べられ ンと接しています。 現地の方は、 「われわれの国は、 東ヨー ません(「なんちゃってムスリム」の方もいらっしゃるようですが ロッパであり、西アジアである」という言い方をします ……) 。したがって肉類は牛、羊、鳥がメインです。魚 (なぜか北中東とは言わない) 。地図を見る限りまさに、その はあまり出ません。あと主食は、パンとじゃがいもで、 ような位置に存在します。 気候は、夏は暑く最高気温で 40℃近くになる日もあ 米(インディカ種)がたまに出るという感じです。あとは 毎食のように出る、生野菜(きゅうりとトマト)です。毎日 似たようなものが多く、問題なく食べられるのですが、 飽きてくることもしばしばです。 また、都市部に居住しているためか、治安はとてもよ く感じます(国境地帯は別のようですが……)。 国の大きさは北海道より少し大きい程度で、人口は 900 万人程度、赴任先の首都バクーは 200 万人の都市で、 主な産業は、石油と天然ガス(ノーベル兄弟が開発した油田) であり、まさにオイルマネーによる建築ラッシュで発展 中の国という印象を受けます。 最近では、地上 1,050m の世界一の高層ビルを建てる 計画もあるそうです。 図1|アゼルバイジャン周辺地図 54 海外生活便り 3. 世界遺産と観光 アゼルバイジャンには『ふたつの世界遺産』がありま す。ひとつは乙女の塔を含む城塞都市バクー。もうひと つは泥火山群を含むコブスタンの岩絵です。 前者の乙女の塔と城塞都市は、バクー中心部にあり、 比較的容易に行くことができ、乙女の塔は、入場料を払 えば屋上まで登ることもできます。私も登って市内の眺 望を楽しんできました。 コブスタンの岩絵と泥火山群はバクーより 60km 程度 あり、私はまだ行くことができていません。このうち特 に泥火山は、10 数年前に突然 15m の高さで炎と共に噴 き上げたという話で、これが、ゾロアスター教(拝火教) の基になったのではという説もあり、是非一度行ってみ たいと思っています。 最近では、日本人観光客も増えているようです。ヨー ロッパなどに飽きた人びとが、コーカサス地方にも観光 に来ているようです。 4. アゼルバイジャンの人びととその生活 アゼルバイジャンの人びとの印象は、20∼ 30 年前く らいの日本に近いのでは? と思います。原油高騰によ るバブルで、収入が上がり、生活が豊かになってきてい るようです。ただ反面、失業率も高く、戦争避難民や貧 困層の人も多いようです。 性格はみなさん温厚で、温和な雰囲気でいつも接して くれます。歌や踊りも好きで、陽気な声がしょっちゅう 聞こえてきます。 昔の日本とは違うのは、携帯電話とスマートフォンの 普及、インターネットの普及でしょう。街中が通話する 人であふれています。 ただ一点よくないところがあります。それは、交通渋 滞とマナーの悪さです。国が急に豊かになり、車の台数 城塞都市バクーの街並み。 ※一番上の写真の右側3棟のビルは、 ア ゼルバイジャンにイスラム教が入ってくる前のゾロアスター教(拝 上から2番目の写真のように、 火教)の炎をイメージした高層ビル。 夜に炎のようにライトアップされます。 が急激に増えたのが一番の要因のようです。しかし街中 には駐車場が少なく、路上駐車は当たり前で、さらに渋 滞に拍車をかけています。 2013 8–9 55 今現在、地下駐車場などの建設を進めている最中との 逆に、日本では会話スクールなどを探しましたが、な ことですが、まだまだ解消されるには時間がかかると思 かなか見つからず、結局辞書と会話帳で調べながら現地 われます。対策が急がれるところです。 で話をしているといった状態です。 まだまだ時間がかかるかもしれませんが、両国の交流 5. 日本との交流 が進むことを望みます。 近年まで、アゼルバイジャン国内で日本語を学ぶには 独学しかなく、留学など国外に出なくてはならなかった 6. まとめ ようですが、アゼルバイジャン言語大学に日本語学科が アゼルバイジャンという国は、日本人にも親しみやす 開設され、国内でも学ぶ環境ができたようです。また、 い国だという印象を受けています。ただ、 お金はあるが、 大使館などが主催している日本語学校もあるようで、多 技術はまだ遅れているのかな? という印象を受けます。 くの生徒が学んでいるようです。 もっと技術交流・親交も深め、 お互いによいかたちになっ これから、多くの日本語を学んだ学生が、国際的な場 で活躍していくことを望みます。 56 海外生活便り ていけばよいな…と思っています。私も微力ですがその 力になれればと思っています。 支部通信 日系企業の対中投資の 現状 中村 直之 (株) 竹中工務店 執行役員 竹中 (中国) 建設工程有限公司 董事 総経理 日系企業の対中投資行動が、昨年 2012 年 9 月の領土 ところで、この 90 年代の動きで特筆すべきは、日系 問題以降、 微妙に変化してきている。中国事業の柱を 「日 建設会社が 「日系企業の生産施設建設」 だけではなく、 「大 系企業の生産施設建設」としている日系建設会社にとっ 型ビル建設」も手掛けていたことである。これは、日本 ては、非常に気掛かりなところである。そこで、本稿で の建設業界にとって、中国市場の広がりを強く意識させ は、これまでの日系企業の中国進出の過程を振り返りな るものであった。 がら、現状の変化について考えてみたい。 3. 2000年代の対中投資 1. 80年代の対中投資 戦後の日中関係は 1972 年の国交回復に始まるが、実 こうして 「世界の工場」 として経済規模を拡大していっ た中国は、2000 年代に入って次第に個人消費が拡大し、 際に経済交流が本格化するのは日本政府の経済援助が始 「世界の市場」としての側面も併せ持つようになってく まった 1978 年頃からである。民間レベルにおいても、 る。したがって、日系企業の中国進出目的も、中国市場 1978 年に、当時の国務院副総理であった鄧小平が日本 そのものをターゲットにしたものへと変化していき、対 を訪問し、工場見学をした大企業トップに対し、直接、 中投資も「中国内需」向けのものが主流になってくる。 対中投資を呼び掛けたことが契機になっている。日系 その典型的な例が自動車産業で、日系完成車メーカー各 建設会社も、80 年代の初めには相次いで北京へ進出し、 社は、2004 年前後に相次いで天津や広州で工場を立ち 日本政府の経済援助プロジェクトを手掛ける傍ら、既に 上げ、これに追随した多くの日系部品メーカーも一気に 日系企業の中国進出をサポートする体制を整えていた。 中国進出を本格化させた。 しかし、この頃の日系企業の中国進出目的は、安い労 一方、この時期、中国の WTO 加盟に向けた政策転換 働力や原材料を背景にした 「日本あるいは第三国へ輸出」 により、これまで認められてきた本社直接受注が禁止さ であり、その多くは労働集約型産業で、生産規模も小規 れ、日系建設会社は、新たに認められることとなった 模なものから試験的にスタートさせるものがほとんどで 100%外資の現地法人設立に動いた。しかし、これには あった。このため、80 年代から 90 年代初めにかけての さまざまな受注制限が設けられており、 期待していた 「大 日本の対中直接投資額は、今と比較するとかなりの低水 型ビル建設」市場から事実上排除されてしまうことにな 準で推移していた。 る。よって、各社は、日系企業の生産施設建設に回帰せ ざるを得なくなったわけだが、ここに旺盛な日系企業の 2. 90年代の対中投資 この状況は、中国政府が「対外開放政策」を鮮明に打 対中投資という追い風が吹き、市場が狭められたにもか かわらず受注を大きく伸ばす結果となった。 ち出した頃から一変する。それは、1992 年に鄧小平が 広東省で行ったいわゆる「南巡講話」に始まるのだが、 4. 2010年代の対中投資 その後、中国は「世界の工場」へと変貌していく。日系 「中国 2010 年代に入っても、日系企業の対中投資は、 企業も沿岸地域に次々と生産拠点を展開していき、その 内需」がキーワードであることには変わりなく、さらに、 結果、日本の対中直接投資額は 1992 年から急激に右肩 その色合いが鮮明になってくる。 上がりで推移し始める。これに伴い、日系建設会社も、 まず業種別に見ると、自動車、家電、食品、飲料、医 一気に北京、天津、青島、大連、上海、広州などへと活 薬などの製造業はもちろん、商業、銀行・保険、飲食店 動範囲を広げていった。 などのサービス産業も含め、あらゆる産業分野で中国進 2013 8–9 57 出が図られている。そして、急速に拡大していく中国市 な中国市場を前に生産が追いつかない好調な企業がある 場に追随すべく、大規模な工場を立ち上げるなど、投資 一方、次第に厳しい競争環境に巻き込まれていった企業 を大型化させていく一方で、中国市場が「より高品質な も多く、 水面下で二極分化が進展していったと思われる。 モノ」 、 「より便利なモノ」を求めてくることに対し、最 結果として、中国市場に対する認識も、企業によって受 新戦略商品の投入や中国市場向け R & D の立ち上げを行 け止め方にバラツキが出始めてきたように思う。 うなど、投資内容もより高度化・戦略化させていった。 このように、 「中国内需」をキーワードにした日系企 【契機となった領土問題】 業は、リーマンショックで一時的に慎重になった後、特 さて、このように、中国市場に対する認識が、日系企 に 2010 年代に入ってからは、あらゆる業種で投資を大 業の個別企業レベルで徐々に変化していく過程で生じた 型化させ高度化・戦略化させていく傾向を強めていった。 昨年 9 月の領土問題は、日系企業の中国事業への取り組 そして、日系建設会社も、2011 年から 2012 年にかけ み姿勢や戦略を見直す契機となった可能性がある。 て、急激かつ大幅に受注高を伸ばし、中国事業への関心 度、注目度を高めていった。 昨年 2012 年の 10 月から 12 月、すなわち領土問題直 後に調査された、日本貿易振興機構(ジェトロ)の「在ア ジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012 年 12 月)」 5. 領土問題以降の対中投資 によると、今後 1∼ 2 年の事業展開の方向性につき、 「拡 さて、一見順調に中国事業に向き合っている日系企業 大していく」と回答した在中国日系企業は、1 年間で の投資行動が、冒頭に記載した通り、昨年 9 月の領土問 66.8%から 52.3%へと 14.5 ポイント低下した。同じ質 題以降、微妙に変化してきている。これは、リーマン・ 問に対する回答が、2008 年から 2011 年までは 60% ショック時に、すべての日系企業が一斉に「投資の一時 以上でかつ 3 年連続で上昇していただけに、明らかに領 見直し」を行った状況とは、少し様子が違っている。以 土問題を境にマインドが変化していることが見て取れ 下その点を見ていきたい。 る。また、このうち中小企業のみを対象にしてみると、 2011 年の 51.5%から 2012 年は 34.8%へと 16.7%ポ 【変化の背景−減速基調の中国経済】 イントも低下しており、大企業と中小企業でスタンスに 中国は、リーマン・ショック時にいち早く 4 兆元の景 違いが生じてきたことも読み取れる。なお、この調査 気対策を打ち出し、ある意味、世界経済を牽引すること が行われたのは昨年 10 月から 12 月の領土問題直後で となったが、中国の実質 GDP は、この景気対策が終了 あって、その後もこの問題が膠着状態にある現状では、 した 2010 年の 10.4%成長をピークに、ここ数年 7 四半 状況がさらに悪化している可能性があると思われる。日 期連続で減速している。それでも、2013 年第 2 四半期 系建設会社にとっては、たいへん気に掛かるところで で年率 7.5%プラスを維持しており、まだまだ高い水準 ある。 にあるのだが、いくら高水準とはいえ、連続した減速は、 社会にさまざまな「ひずみ」を表面化させていくことと なったのも事実である。 昨今、 話題になっているシャドー バンクもその一例である。 そして、こうした「ひずみ」は、日系企業の中でも個 別企業レベルでの温度差を生じさせた。すなわち、巨大 58 支部通信 6. まとめ 日系企業は、過去 30 年、基本的に拡大路線で中国事 業に向き合ってきた。そして、特に 2010 年代に入って、 あらゆる業種が、巨大な中国市場を取り込もうとして、 こぞって対中投資を拡大していった。いささか過熱気味 であったのかもしれない。しかし、それは、現時点、減 市場にはそれに見合うだけの潜在力があると思う。言い 速基調の中国経済の前にあって、個別企業レベルでの戦 たいのは、今後はしたたかに戦略を練り市場浸透して 略の見直しに向かわせているように思う。そして、その いこうとする企業のみが、中国市場に対峙できる時代 契機になったのが、領土問題であったと思うのである。 になったということである。 「日系企業の生産施設建設」 ここでは、ことさらに中国悲観論を展開しているつも りはない。多くの日系企業にとって、中長期的には中国 を事業の柱とする日系建設会社も、こうした認識で今後 の中国に向き合っていかなければならない。 市場を抜きにした海外戦略はあり得ず、そしてまた中国 2013 8–9 59 海外受注実績 (単位:百万円) 2. 地域別海外工事受注実績 2013年度 伸び率(%) 1. 月別の海外工事受注実績 2013年度 月 件数 本邦法人 24 158 182 33 108 141 69 153 222 49 139 188 40 134 174 215 692 907 4 現地法人 5 6 7 8 累 計 計 本邦法人 現地法人 計 本邦法人 現地法人 計 本邦法人 現地法人 計 本邦法人 現地法人 計 本邦法人 現地法人 総合計 受注額 2012年度 件数 9,676 65,388 75,064 16,892 101,175 118,067 60,567 54,764 115,331 52,672 78,770 131,442 28,605 81,821 110,426 168,412 381,918 550,330 受注額 40 21,502 95 32,062 135 53,564 38 21,617 149 70,691 187 92,308 51 32,219 144 60,951 195 93,170 34 12,293 118 70,495 152 82,788 47 27,265 106 35,824 153 63,089 210 114,896 612 270,023 822 384,919 *受注額に よる 地域別 -55.0% 103.9% 40.1% -21.9% 43.1% 27.9% 88.0% -10.2% 23.8% 328.5% 11.7% 58.8% 4.9% 128.4% 75.0% 46.6% 41.4% 43.0% 件数 本邦法人 現地法人 計 本邦法人 中東 現地法人 計 本邦法人 アフリカ 現地法人 計 本邦法人 北米 現地法人 計 本邦法人 中南米 現地法人 計 本邦法人 欧州 現地法人 計 本邦法人 東欧 現地法人 計 本邦法人 大洋州 現地法人 その他 計 本邦法人 累計 現地法人 総合計 アジア 受注額 132 576 708 7 1 8 7 0 7 2 51 53 44 24 68 1 17 18 0 23 23 22 0 22 215 692 907 (単位:百万円) 2012年度 構成比 (%) 122,751 22.3% 198,665 36.1% 321,416 58.4% 13,590 2.5% 32,879 6.0% 46,469 8.5% 9,594 1.7% 0 0.0% 9,594 1.7% 976 0.2% 134,533 24.4% 135,509 24.6% 19,357 3.5% 3,415 0.6% 22,772 4.1% 13 0.0% 866 0.2% 879 0.2% 0 0.0% 11,560 2.1% 11,560 2.1% 2,131 0.4% 0 0.0% 2,131 0.4% 168,412 30.6% 381,918 69.4% 550,330 100.0% 件数 134 514 648 8 0 8 8 0 8 12 51 63 31 22 53 4 9 13 0 15 15 13 1 14 210 612 822 受注額 伸び率(%) 構成比 *受注額に (%) よる 79,474 20.6% 187,060 48.6% 266,534 69.2% 10,385 2.7% 0 0.0% 10,385 2.7% 1,731 0.4% 0 0.0% 1,731 0.4% 3,704 1.0% 68,520 17.8% 72,224 18.8% 17,809 4.6% 6,090 1.6% 23,899 6.2% 172 0.0% 4,335 1.1% 4,507 1.1% 0 0.0% 4,002 1.0% 4,002 1.0% 1,621 0.4% 16 0.0% 1,637 0.4% 114,896 29.8% 270,023 70.2% 384,919 100.0% 54.5% 6.2% 20.6% 30.9% ー 347.5% 454.2% 0.0% 454.2% -73.7% 96.3% 87.6% 8.7% -43.9% -4.7% -92.4% -80.0% -80.5% 0.0% 188.9% 188.9% 31.5% -100.0% 30.2% 46.6% 41.4% 43.0% 3. 本邦・現法主要工事〈10億円以上〉 (単位:百万円) 〈8月受注分〉 〈7月受注分〉 国 名 香港 件 名 MTR沙中線1102工区ヒンキン 駅舎新築工事 香港 タイオーピン道路工事 台湾 C住宅新築工事 K住宅新築工事 台湾 ベトナム タイ タイ 工場建設工事 A社工場新築工事 工場建設工事 タイ 社屋建替工事 タイ タイ タイ マレーシア 工場増築工事 G社工場増築 T社工場新築工事 病院建設工事 シンガポール G社DC新築工事追加工事 シンガポール N社プラント土建工事 インドネシア 工場建設工事 インドネシア 工場増築工事 インドネシア MRT建設計画CP106工区 (シールド工事) インド K社工場新築工事 スーダン 食料生産基盤整備計画 南スーダン ジュバ市水供給システム改善 計画 米国 学校建設工事 米国 米国 米国 ポーランド アパートメント建設 研究所改修 オフィス・研究所建設 倉庫新築工事 ハンガリー B社工場増築 60 契約金額 会社名 13,206 五洋建設 7,321 9,086 4,443 1,015 1,569 7,691 1,883 2,396 1,139 1,534 5,494 4,677 1,385 3,431 1,362 五洋建設 熊谷組 熊谷組 大林組 安藤・間 大林組 大林組 大林組 鹿島建設 東急建設 大林組 佐藤工業 三井住友建設 大林組 大林組 10,580 三井住友建設 1,047 三井住友建設 2,564 鴻池組 3,300 大日本土木 4,483 1,590 1,140 4,330 1,200 5,291 大林組 鹿島建設 鹿島建設 鹿島建設 鹿島建設 竹中工務店 国 名 中国 (単位:百万円) 件 名 台湾 タイ P社工場新築工事 K社マンション新築工事 F社工場建設工事 カタール 複合施設 エチオピア エチオピア幹線道路フェーズ4 (2期) 米国 集合住宅建設 米国 高速道路改修 米国 アパートメント建設 米国 米国 米国 米国 工場増築 病棟改修 工場建設 メキシコ メキシコ メキシコ メキシコ ブラジル G社工場新築(プロセス) B社工場新築工事 A社工場新築工事 D社工場新築工事 E社工場新築工事 U社工場新築2期 契約金額 1,847 5,735 1,743 32,879 会社名 フジタ 大成建設 西松建設 大林組 7,330 鹿島建設 2,086 3,660 4,350 7,770 1,210 6,620 1,447 1,408 6,657 1,720 1,232 1,032 大林組 鹿島建設 鹿島建設 鹿島建設 鹿島建設 鹿島建設 清水建設 安藤・間 安藤・間 フジタ フジタ 戸田建設 主要会議・行事 とき ところ 7月9日(火) 国土交通省 13日(土)∼16日(火) ハノイ 主要会議・行事 ODA要望 日本・ベトナム共同イニシアティブWT会議 17日(水) OCAJI 第3回月例セミナー「海外プロジェクトのリスク−保険はどこまで対応できるか」 18日(木) OCAJI 第1回研修部会 19日(金) 外務省 ODA要望 23日(火) OCAJI 東京建設会館 第4回月例セミナー「平成25年度我が国の経済協力について」 ベトナム人材育成協議会総会 25日(木) 財務省 ODA要望 26日(金) 国土交通省 鶴保副大臣表敬 29日(月) OCAJI タンザニアCRB訪問団来訪 30日(火) OCAJI 第4回海建塾(会計編) 31日(水) OCAJI 第3回契約管理研究会 JICA 8月1日(木) 経済産業省 2日(金) OCAJI シンガポール 5日(月) 東京建設会館 7日(水) OCAJI ODA要望 ODA要望 第3回総務委員会運営部会 鋼構造・非破壊検査セミナー 臨時総会 第1回IFAWPCA準備委員会 12日(月) コロンボ IFAWPCA中間理事会 28日(水) 東京ミッドタウン Herbert Smithセミナー 29日(木) OCAJI 第1回ベトナム・ミャンマー法制度支援検討会議 OCAJI 第5回海建塾(一般編) 編集後記 経済成長が目覚ましいアジア、アフリカ諸国において、 インフラ整備の潜在的ニーズは高まっており、わが国建設 業のこれら地域での取り組みが重要になっている。新成長 戦略ではインフラシステム輸出戦略が柱のひとつに位置付 けられることにより、インフラ輸出が官民連携で推進され ることが期待される。また、円借款を中心とした ODA の 拡充により、質の高い援助の実現と、会員各社の建設業を 通じた海外活動の機会の増加も期待したい。 (OCAJI 編集室 I) 2013 8–9 61 ©一般社団法人 海外建設協会 Printed in Japan 一般社団法人 海外建設協会 〒 104-0032 東京都中央区八丁堀 2-24-2 日米ビル 7F Tel. 03-3553-1631(代表) Fax. 03-3551-0148 E-mail:[email protected] HP:http://www.ocaji.or.jp
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