筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ITS 無線情報システムの高度化 に関する研究 服部 有里子 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ITS 無線情報システムの高度化 に関する研究 2013 年 1 月 服部 有里子 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 内容梗概 本 論 文 は , ITS ( 高 度 道 路 交 通 シ ス テ ム ) サ ー ビ ス に 求 め ら れ る 伝 送 情報量の増大,高速で高レスポンス,高信頼性,高セキュリティ性に対 応 す る こ と を 目 的 と し て , 通 信 エ リ ア と 即 時 性 要 求 か ら ITS サ ー ビ ス と 研究課題を分類し,それぞれの通信エリアを想定したシステムを実現す るにあたって解決すべき技術課題について研究したものであり,モバイ ル 通 信 を 伝 送 媒 体 と す る ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム の 高 度 化 に 関 す る 研 究 成 果を取りまとめている. はじめに,安全運転支援協調システムでの情報センタからの緊急情報 配信などの高信頼,低遅延な通信の提供が要求される路車間通信技術に つ い て 検 討 し た .5.8GHz 帯 DSRC( 専 用 狭 域 通 信 )を 前 提 と し て ,シ ャ ドウイング等により通信回線状況が悪化した場合の通信接続に関する課 題 を 解 決 し ,さ ら に 基 地 局 の 移 動 局 に 対 す る 通 信 接 続 維 持 動 作 を 改 良 し , 通信帯域制御を改良する制御方式について研究した.実証試験の結果, 提 案 方 式 に よ り , 100km/h の 高 速 移 動 車 両 に 対 し , 同 報 通 信 の 安 全 運 転 支援情報提供サービスと個別通信のプローブアップリンク情報サービス を同時に提供できることを実証した. 次に,利用者の位置や伝送する情報の特性に応じて,無線通信メディ アを選択あるいは組み合わせて,必要な情報を安定してシームレスに伝 送することが求められる車のネットワーク化について検討した.車内の 様々なセンシング情報を車両から情報センタにアップロードし,それを 用いてセンタが車両に情報配信するための外部通信ネットワークと車載 ネ ッ ト ワ ー ク の 相 互 接 続 技 術 に つ い て 研 究 し た .ま た ,電 気 自 動 車( EV) へ の ICT 適 用 に つ い て 検 討 し , EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム を 開 発 し た . 実 証 試 験 に よ り , EV の バ ッ テ リ 残 量 を 1 秒 以 内 の サ ン プ リ ン グ 周 期 で 連 続 的 に 収 集 し て 車 両 内 に 情 報 提 供 す る こ と ,EV を 遠 隔 操 作 す る こ とによりリアルタイムに車両状態を変化させることを実証した.また, 充電ステーションでの最適な充電スケジューリングにより,安価な夜間 電力を使って充電コストを削減できることを実証した. さらに,車の情報プラットフォーム化に向けて,車からのインターネ 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ット利用と実際のサービス窓口でのサービス提供を高レスポンス,高セ キュリティに行う通信システムについて検討した.車内でカーナビゲー ションからインターネットにより注文情報等を登録し,実際のサービス 窓 口 で サ ー ビ ス の 提 供 を 受 け る , IP 通 信 と 非 IP 通 信 の 連 携 技 術 に つ い て研究した.ドライブスルー実験システムにより実店舗で実証実験を行 い,車両が注文窓口に来てから相互認証し,注文確定と支払が完了する ま で の 処 理 時 間 が 現 行 よ り 50%削 減 さ れ , ド ラ イ ブ ス ル ー 利 用 者 の 待 ち 時間を短縮して店舗利用効率を向上できることを実証した. 最後に,高速で高信頼,高セキュリティが要求される課金・決済サー ビ ス に お け る 路 車 間 通 信 の 利 用 を 想 定 し ,路 車 間 通 信 と IC カ ー ド に よ る 高 セ キ ュ リ テ ィ な 情 報 伝 送 に つ い て 検 討 し た .路 車 間 通 信 と IC カ ー ド ア ク セ ス の 連 携 技 術 に つ い て 研 究 し ,DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド を 連 携 す る 通 信 シ ー ケ ン ス を 提 案 し た . 提 案 方 式 で は , 車 載 器 は DSRC 通 信 エ リ ア 内 で の み カ ー ド ア ク セ ス 処 理 を 行 う こ と が で き る .非 接 触 式 IC カ ー ド 内 の メ モ リ ア ク セ ス は , 路 側 制 御 装 置 が DSRC を 介 し て IC カ ー ド に 直 接 ア ク セ ス す る こ と に よ り セ キ ュ リ テ ィ 性 を 向 上 で き る . ま た , DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド を ベ ー ス と し た 道 路 課 金 シ ス テ ム を 開 発 し ,実 証 試 験 に よ り , 複 数 の セ キ ュ リ テ ィ 性 の 高 い 非 接 触 式 IC カ ー ド に 対 応 し て , 車 速 80km/h に て 通 信 エ リ ア 内 で 料 金 収 受 を セ キ ュ ア に 完 了 す る こ と を 実証した. 以 上 の よ う に 本 論 文 は ,ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム に 求 め ら れ る 無 線 通 信 方 式 の 要 件 を 明 確 化 し ,実 現 に 向 け た 技 術 課 題 を 整 理 し ,課 題 解 決 の た め の 方 策 の 検 討 を 行 っ た .さ ら に ,実 験 シ ス テ ム を 開 発 し ,実 用 化 に 向 け て 実 環 境 で 実 証 試 験 を 行 い , ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム の 高 度 化 を 図 っ た . 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 目 次 主 な略 号 ........................................................................................ 1 第 1章 序 論 ................................................................................... 3 1.1 研 究 の 背 景 ............................................................................ 3 1.1.1 ITS の 現 状 と 動 向 ........................................................ 3 1.1.2 ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム の 役 割 と 課 題 ............................... 6 1.2 研 究 の 目 的 と 検 討 技 術 ......................................................... 13 1.3 本 論 文 の 構 成 ...................................................................... 19 第 2章 路 車 間 通 信 技 術 の高 度 化 ................................................ 21 2.1 ま え が き ............................................................................. 21 2.2 従 来 制 御 方 式 ...................................................................... 22 2.2.1 受 信 信 号 強 度 制 御 ...................................................... 22 2.2.2 ARIB 標 準 に お け る 通 信 接 続 管 理 ................................. 24 2.2.3 ARIB 標 準 に お け る 通 信 帯 域 制 御 ................................. 24 2.3 同 報 通 信 と 個 別 通 信 の 共 用 ................................................... 26 2.3.1 路 車 間 通 信 の ゾ ー ン 構 成 ............................................. 26 2.3.2 同 報 通 信 ................................................................... 26 2.3.3 個 別 通 信 ................................................................... 26 2.3.4 DSRC 通 信 方 式 と 要 求 条 件 ......................................... 28 2.3.5 通 信 接 続 に 関 す る 課 題 ................................................ 28 2.3.6 通 信 帯 域 に 関 す る 課 題 ................................................ 30 2.4 同 報・個 別 通 信 混 在 時 の 安 定 し た サ ー ビ ス 提 供 の た め の 制 御 方 式 ................................................................................................. 32 2.4.1 移 動 局 の 通 信 接 続 管 理 の 改 良 ...................................... 32 2.4.2 基 地 局 の 通 信 帯 域 制 御 の 改 良 ...................................... 34 2.5 実 証 試 験 ............................................................................. 36 2.5.1 通 信 接 続 管 理 の 評 価 ................................................... 36 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 2.5.2 通 信 帯 域 制 御 の 評 価 ................................................... 38 2.6 む す び ................................................................................ 40 第 3章 車 のネットワーク化 と電 気 自 動 車 (EV)への ICT 適 用 ......... 42 3.1 ま え が き ............................................................................. 42 3.2 関 連 研 究 ............................................................................. 43 3.3 外 部 通 信 ネ ッ ト ワ ー ク と 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク の 相 互 接 続 ............ 44 3.3.1 路 車 間 通 信 ................................................................ 44 3.3.2 広 域 通 信 網 ................................................................ 45 3.3.3 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク ...................................................... 45 3.3.4 要 求 条 件 ................................................................... 46 3.4 EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム .............................................. 46 3.4.1 シ ス テ ム 構 成 ............................................................. 47 3.4.2 通 信 プ ロ ト コ ル ......................................................... 48 3.4.3 通信シーケンス ............................................................. 49 3.5 実 験 シ ス テ ム の 開 発 ............................................................. 52 3.5.1 車 載 シ ス テ ム ............................................................. 52 3.5.2 路 側 シ ス テ ム と サ ー ビ ス ア プ リ ケ ー シ ョ ン ................... 55 3.6 実 験 シ ス テ ム に よ る 実 証 試 験 ................................................ 57 3.6.1 実 験 シ ス テ ム 構 成 ...................................................... 57 3.6.2 実 験 シ ス テ ム の 評 価 ................................................... 58 3.7 む す び ................................................................................ 62 第 4章 車 の情 報 プラットフォーム化 とインターネット利 用 ................ 64 4.1 ま え が き ............................................................................. 64 4.2 IP 通 信 と 非 IP 通 信 の 連 携 .................................................... 64 4.2.1 DSRC-IP 接 続 ........................................................... 64 4.2.2 DSRC-SPF( セ キ ュ リ テ ィ プ ラ ッ ト フ ォ ー ム ) ............ 65 4.2.3 サ ー ビ ス の 利 用 状 況 ................................................... 65 4.2.4 要 求 条 件 ................................................................... 66 4.3 車 利 用 型 注 文 ・ 支 払 シ ス テ ム の 開 発 ...................................... 66 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 4.3.1 シ ス テ ム 構 成 ............................................................. 66 4.3.2 通 信 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム ................................................ 67 4.3.3 サ ー ビ ス ア プ リ ケ ー シ ョ ン ......................................... 69 4.4 実 験 シ ス テ ム に よ る 実 証 実 験 ................................................ 70 4.4.1 実 験 シ ス テ ム 構 成 ...................................................... 70 4.4.2 実 験 シ ス テ ム の 評 価 ................................................... 71 4.5 む す び ................................................................................ 72 第 5章 路 車 間 通 信 と IC カードアクセスの連 携 技 術 ...................... 73 5.1 ま え が き ............................................................................. 73 5.2 DSRC 通 信 と IC カ ー ド ア ク セ ス の 連 携 .................................. 73 5.2.1 ア ク テ ィ ブ DSRC 通 信 ............................................... 73 5.2.2 非 接 触 式 IC カ ー ド .................................................... 74 5.2.3 バ ッ テ リ 型 車 載 器 ...................................................... 74 5.2.4 要 求 条 件 ................................................................... 74 5.3 都 市 内 道 路 課 金 シ ス テ ム ...................................................... 75 5.3.1 シ ス テ ム 構 成 ............................................................. 75 5.3.2 DSRC 通 信 と 非 接 触 式 IC カ ー ド の 通 信 シ ー ケ ン ス ....... 75 5.4 実 験 シ ス テ ム の 開 発 ............................................................. 76 5.4.1 車 載 器 ...................................................................... 76 5.4.2 電 力 管 理 機 能 ............................................................. 77 5.4.3 セ ッ ト ア ッ プ 機 能 ...................................................... 77 5.4.4 料 金 収 受 機 能 ............................................................. 78 5.4.5 非 接 触 式 IC カ ー ド ア ク セ ス 機 能 ................................. 78 5.5 実 験 シ ス テ ム に よ る 実 証 試 験 ................................................ 79 5.5.1 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 に よ る 評 価 ................................ 79 5.5.2 ト ラ イ ア ル に よ る 評 価 ................................................ 79 5.6 む す び ................................................................................ 79 第 6章 結 論 ................................................................................. 81 6.1 本 研 究 の 成 果 ...................................................................... 81 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 6.2 本 研 究 の 将 来 展 開 ................................................................ 83 参 考 文 献 ..................................................................................... 85 謝 辞 ........................................................................................... 89 関 連 発 表 文 献 一 覧 ....................................................................... 90 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 主 な略 号 本論文で使用する主な略号を以下に示す. 3G: 3rd Generation 3.5G: 3.5th Generation ACK: positive Acknowledgement AID: Application ID AP: Access Point ARIB: Association of Radio Industries and Businesses ASK: Amplitude Shift Keying ASL: Application Sub-Layer ASL-ELCP: ASL-Extended Link Control Protocol ASV: Advanced Safety Vehicle CAN: Controller Area Network CSMA/CA: Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance CSMA/CR: Carrier Sense Multiple Access with Collision Resolution CTO: Connection Timer for OBU CTR: Connection Timer for RSU DSRC: Dedicated Short Range Communication DSRC-IP: DSRC-Internet Protocol DSRC-SPF: DSRC-Security PlatForm ECU: Electronic Control Unit EMS: Energy Management System ETC: Electronic Toll Collection System ETSI: European Telecommunications Standards Institute EV: Electric Vehicle GPS: Global Positioning System HMI: Human Machine Interface HTML: Hyper Text Markup Language ICT: Information and Communication Technology IEEE: Institute of Electrical and Electronic Engineers 1 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology IP: Internet Protocol ITS: Intelligent Transport Systems ITU: International Telecommunication Union IURP: Integrated Urban Road Pricing LAN: Local Area Network LCL: Lane Controller LPCP: Local Port Control Protocol LPP: Local Port Protocol LTE: Long Term Evolution MAC: Message Authentication Code ( 一 般 に は Media Access Control) OBU: On Board Unit OFDM: Orthgonal Frequency Division Multiplexing PPP: Point-to-Point Protocol PPPCP: Point-to-Point Protocol Control Protocol QAM: Quadrature Amplitude Modulation QoS: Quality of Services QPSK: Quadrature Phase Shift Keying RF: Radio Frequency ROF: Radio on Fiber も し く は Radio over Fiber RSSI: Received Signal Strength Indicator RSU: Road Side Unit SAM: Secure Application Module URI: Uniform Resource Identifier URL: Uniform Resource Locator UWB: Ultra Wide Band VICS: Vehicle Information and Communication System WAVE: Wireless Access in Vehicular Environments WiMAX: Worldwide Interoperability for Microwave Access 2 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 第 1章 序 論 1.1 研 究 の背 景 1.1.1 ITS の現 状 と動 向 (1) ITSの 現 状 ガ ソ リ ン 自 動 車 が 発 明 さ れ て 100 年 以 上 が 経 過 し た 今 日 , 自 動 車 は 日 常生活になくてはならないものになっている.しかしながら,交通事故 による死傷,渋滞による時間の損失や環境汚染などといった問題は根本 的な解決方法が見い出せないまま現在に至っている.これに対して,コ ン ピ ュ ー タ の 小 型 化 ・ 高 性 能 化 ・ 省 電 力 化 , GPS ( Global Positioning System) に よ る ナ ビ ゲ ー シ ョ ン シ ス テ ム や 3G( 3rd Generation) 携 帯 電 話 ,無 線 LAN( Local Area Network)な ど の 無 線 通 信 メ デ ィ ア の 普 及 に 見 ら れ る よ う に , 近 年 , 情 報 通 信 技 術 ( ICT : Information and Communication Technology )の 発 展 が 著 し い .ICT を 活 用 し た 総 合 的 な アプローチで現在の自動車交通における様々な問題を解決するとともに, 新 た な ビ ジ ネ ス の 創 出 を 目 指 す ITS( Intelligent Transport Systems: 高度道路交通システム)が世界的な規模で取り組まれている. ITS は , ICT を 用 い て 「 人 」 , 「 道 路 」 , 「 車 両 」 に 関 す る 情 報 を 結 び,それらを一体として構築したシステムであり,その目的は大きく分 けて「安全・安心」,「環境」,「利便・快適」の 3 つに分けられる. こ れ ま で に VICS( Vehicle Information and Communication System : 道 路 交 通 情 報 通 信 シ ス テ ム ) [1] や ETC ( Electronic Toll Collection System: 自 動 料 金 収 受 シ ス テ ム ) [2] の よ う に 渋 滞 解 消 や 交 通 円 滑 化 等 に 資 す る サ ー ビ ス が 実 用 化 さ れ て い る .VICS は 渋 滞 や 交 通 規 制 な ど の 道 路交通情報や駐車場情報を通信や放送によりリアルタイムに送信し,カ ーナビゲーションなどの車載機器に文字や図形で表示する情報通信シス テ ム で あ る . 1996 年 に サ ー ビ ス が 開 始 さ れ , 2012 年 9 月 末 に は VICS 対 応 の カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン 出 荷 台 数 は 3,567 万 台 に 達 し て い る .2001 年 に サ ー ビ ス を 開 始 し た ETC も 2012 年 8 月 に は 全 セ ッ ト ア ッ プ 件 数 が 5,000 万 台 を 超 え , 高 速 道 路 を 通 行 す る 車 の 88%が 利 用 す る に 至 っ て い る . 現 在 で は , 高 速 道 路 上 を 中 心 に 「 ITS ス ポ ッ ト 」 [3] に 路 側 無 線 ア 3 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ンテナが設置され,ダイナミックルートガイダンス(広域な道路交通情 報 提 供 ) や 安 全 運 転 支 援 サ ー ビ ス が 開 始 さ れ て い る . ITS ス ポ ッ ト は , 2011 年 3 月 ま で に 全 国 1,630 箇 所 に 配 備 さ れ ,走 行 中 に 広 域 の 道 路 交 通 情報,安全運転支援情報,詳細な工事規制,渋滞末尾などの情報をリア ルタイムに提供し,安全・安心で快適なドライブを支援するシステムで ある.交通事故削減のために危険区間で障害物や道路形状などの情報, さらにデジタル地図と連携し,カーブなどの道路構造や事故多発地点の 情報を提供する. また,携帯電話網とカーナビゲーションを連携させて,渋滞予測情報 や交通情報をネットワーク経由で入手し,目的地への最適なルート案内 を実現するほか,目的地の天気をチェックしたり,防災情報などを利用 可 能 に す る テ レ マ テ ィ ク ス サ ー ビ ス [4] が 自 動 車 会 社 を 中 心 に 提 供 さ れ ている.テレマティクスサービスでは,位置情報や区間速度などの情報 を車両からセンタにアップロードし,それを用いてセンタが渋滞情報を 把握し車両に配信する,プローブシステムサービスを提供している例も ある.同様に,携帯電話網を利用して,輸送トラックなどの安全運行や 配 送 管 理 な ど を 行 う 物 流 サ ー ビ ス も 開 始 さ れ て い る [5]. さ ら に , 種 々 の 事 故 防 止 シ ス テ ム も 導 入 さ れ て い る [6]. 例 え ば , 前 方 車両との距離を車載レーダやカメラ映像等によって計測し,急激に距離 が縮まった場合に自律的に制動をかけて追突を防止するシステムが一部 の車種に搭載されている.また,交通事故死亡者の 3 分の 1 以上の割合 を占める歩行者を巻き込んだ事故の防止に向けて,昼夜問わず赤外線カ メラ映像等により歩行者を検出し,カーナビゲーションの画面等にその 存在を映し出すなどのシステムも実用化されている. (2) ITSの 将 来 道路に設置されたインフラや周囲の車両と通信を行うことにより安全 運転支援を行う路車間・車車間の協調システムが実用化され,合わせて 関連の法制度が整備されて普及が進むと考えられる.さらに,車がネッ トワークにつながることによって人と道路と車両に関する情報が融合し, 車 両 に 搭 載 さ れ る 様 々 な セ ン サ の 情 報 と も 密 な 連 携 が 図 ら れ る .例 え ば , 4 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 1 台の車両が車載レーダ,カメラ映像ならびに歩車間通信等により検出 し た 歩 行 者 や 障 害 物 及 び 道 路 形 状( 急 カ ー ブ ,急 勾 配 等 ),路 面 状 況( 滑 りやすい等)などの情報が周囲の車両で共有され,より安全な運転支援 へと移行する.信号や道路・交通標識も電子タグ化され,車載器を通じ てドライバの見落とし防止に貢献する.また,現在,ウインカーやヘッ ドライトのハイビーム点滅等により行っているドライバの意思表示(右 折,車線変更など)も,無線により周囲の車両に確実に伝えられる. 一 方 ,車 の ハ イ ブ リ ッ ド 化 ,EV 化 が 進 み ,単 に ガ ソ リ ン を 使 わ な い こ と に よ る CO 2 削 減 が 図 ら れ る の み で は な く ,電 化 製 品 と と も に ス マ ー ト グ リ ッ ド ・ ス マ ー ト コ ミ ュ ニ テ ィ [7]の エ ネ ル ギ ー 管 理 シ ス テ ム( EMS : Energy Management System) の 一 構 成 要 素 と な る . 太 陽 光 発 電 や 電 化 製品の電力使用量,車のバッテリ残量などが常時把握され,家庭の電気 使用量が最小限になるよう,時間帯,天候や生活パターンなどの状況に 応 じ て 最 適 に 電 力 の 流 れ が 制 御 さ れ る [8].車 の エ ネ ル ギ ー バ ッ フ ァ リ ン グ機能により,停電時には逆に車のバッテリの電力が家庭の電力消費に 使 わ れ る . こ れ ら の 電 力 制 御 は ICT に よ り 制 御 さ れ , 車 内 の 各 種 セ ン サ 情報も取得でき,整備または修理が必要かなども把握できる. さらにその後は,安全で環境に配慮した自動運転の実現を目指した取 り組みが進み,一般道路で完全に自動運転できるのは遠い将来かもしれ ないが,高速道路の特定の専用レーンを使用したトラックの隊列走行な ど一部が実用化されると予想される.高齢者向けの個人自動車(パーソ ナルビークル)が走行場所やレーンを限定して半自動運転で走行できる ようになる.このような(半)自動運転を実現するには,車自体におけ るセンサを使った走行状態,道路状態,歩行者,障害物などの検出とそ れに応じた制御を行うだけでなく,走行する周囲の車両や路側とこれま で以上に高レスポンス,高信頼に通信を行い,連携することが必須とな る. 5 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 1.1.2 ITS 無 線 情 報 システムの役 割 と課 題 (1) モ バ イ ル 通 信 の 役 割 近年,通信や放送のメディアが多様化,ブロードバンド化し,携帯電 話 , 無 線 LAN, WiMAX( Worldwide Interoperability for Microwave Access) , Bluetooth, UWB( Ultra Wide Band) , ZigBee, 赤 外 線 , DSRC( Dedicated Short Range Communication : 専 用 狭 域 通 信 ) な ど の多様な無線通信メディアや地上デジタル放送などの放送メディアを容 易 に 利 用 で き る モ バ イ ル 通 信 環 境 が 整 っ て き た . ITS は , ICT を 用 い て 車のネットワーク化を図ることにより,安全・安心で,環境に優しく効 率的な,しかも利便性が高く快適な車社会を実現しようとするもので, 「 人 」 , 「 道 路 」 , 「 車 両 」 を 結 ぶ ICT の 中 で も , 人 や 車 両 な ど の 移 動 体との通信を行う上で,その実現にはモバイル通信が極めて重要な役割 を担う. 図 1.1 は ,ITS に お け る 車 と モ バ イ ル 通 信 メ デ ィ ア と の 係 わ り を 示 す . ETC等の決済, ITSスポット VICS テレマティクス, インターネット接続等 無線LAN 光/電波 ビーコン DSRC 携帯電話網 放送 地上デジタル WiMAX等 FM多重放送 路車間通信 車載端末 ∧∨ 車載PC 車車間通信 カーナビ 協調システム (安全運転支援等) ECU (Electronic Control Unit) 各種センサ (ワイパ、消耗品、走行情報等) 車載レーダ 電子タグ 既に利用中 衝突防止, 歩行者検知 将来利用 図 1.1 ITS と モ バ イ ル 通 信 メ デ ィ ア Figure 1.1 Mobile communications media in ITS. 6 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology VICS は , 光 ビ ー コ ン , 電 波 ビ ー コ ン や FM 多 重 放 送 を 利 用 し て い る . ま た ,ETC や ITS ス ポ ッ ト は 5.8GHz 帯 DSRC [9] を 利 用 し て お り ,駐 車場やドライブスルー店舗などでの料金決済も今後可能となる.テレマ テ ィ ク ス で は , 3G 携 帯 電 話 網 に 加 え て , 無 線 LAN や WiMAX な ど を 利 用したサービスの提供も検討されている.車載レーダや電子タグは,電 波を用いて自車の周辺に存在する車等を検出し,歩行者や二輪車・自動 車 な ど の 運 転 者 に 情 報 を 伝 達 す る . 例 え ば , ミ リ 波 ( 76GHz 帯 ) を 用 い た 衝 突 防 止 レ ー ダ が 実 用 化 さ れ て い る . 電 子 タ グ は 歩 行 者 ITS で の 利 用 も 検 討 さ れ て い る .地 上 デ ジ タ ル 放 送 な ど の 放 送 メ デ ィ ア は 現 在 ,TV 放 送の視聴が主流であるが,地図情報や地域情報の配信などの検討も開始 されている. こ こ で ,車 両 に 搭 載 さ れ た 車 載 端 末 と モ バ イ ル 通 信 を 行 う 複 数 の 無 線 通 信 メ デ ィ ア ( 携 帯 電 話 網 , 無 線 LAN, DSRC 等 ) は , 通 信 可 能 エ リ ア , 通 信 速 度 ,端 末 の 移 動 許 容 速 度 に 関 し ,異 な る 特 性 を 持 つ .モ バ イ ル 通 信 を 伝 送 媒 体 と す る「 ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム 」は ,基 本 的 な 要 件 と し て ,利 用 者 の 位 置 や 伝 送 す る 情 報 の 特 性 に 応 じ て ,利 用 可 能 な 無 線 通 信 メ デ ィ ア の 中 か ら 適 切 な 通 信 経 路 を 選 択 し ,利 用 者 や 情 報 提 供 者 が 意 識 す る こ と な く シ ー ム レ ス に 利 用 で き る こ と が 求 め ら れ る . そ の た め に は , 無 線 LAN や DSRC の よ う な 局 所 的 な 無 線 通 信 メ デ ィ ア は , 携 帯 電 話 網 等 の 広 域 通 信 と 相 互 利 用 す る 形 態 が 求 め ら れ る .例 え ば ,DSRC は 高 速 道 路 上 や 主 要 道路沿いに設置されるとサービスエリアが限定されるため,通信中に DSRC の サ ー ビ ス 圏 外 に 出 て し ま う こ と が あ る が ,こ の よ う な 場 合 で も サ ー ビ ス エ リ ア の 広 い 携 帯 電 話 網 で 通 信 を 継 続 し ,道 路 交 通 サ ー ビ ス や プ ロ ー ブ シ ス テ ム サ ー ビ ス を 利 用 す る と い っ た 形 態 が 求 め ら れ る .DSRC の よ う な 狭 域 通 信 を 利 用 し た 無 線 通 信 メ デ ィ ア は ,道 路 沿 い の ス ポ ッ ト 的 な 基 地局の整備による道路交通サービスや安全運転支援サービスが実現され て い る が ,複 数 の 狭 域 通 信 に よ り 構 成 さ れ る 無 線 通 信 ゾ ー ン に お い て 連 続 的な通信環境を提供するネットワークとしての方式は確立されていない 状況である. ま た ,無 線 通 信 メ デ ィ ア の 多 様 化 に 加 え ,サ ー ビ ス の 多 様 化 に 対 応 す る 研 究 も 進 め ら れ て い る .ITS 無 線 通 信 サ ー ビ ス で 扱 う 情 報 に は ,安 全 運 転 7 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 支 援 情 報 や プ ロ ー ブ 情 報 の 他 に 道 路 交 通 情 報 ,混 雑 状 況 の 映 像 ,地 域 情 報 さ ら に は ETC な ど で の 決 済 情 報 な ど が あ り , 扱 う 情 報 の 質 ( QoS) と 情 報 量 に お い て 多 様 性 を 持 っ て い る .ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム は ,こ れ ら の 多 様なサービスに対して同じく多様化が進む無線通信メディアを効果的に 選 択 ,あ る い は 組 み 合 わ せ て 利 用 す る こ と に よ り ,そ れ ぞ れ の 要 求 に 応 じ た 機 能 の 実 現 を 図 る こ と が 求 め ら れ て い る .例 え ば ,ITS ス ポ ッ ト に お け る 安 全 運 転 支 援 サ ー ビ ス で は , 100km/h の 高 速 移 動 車 両 に 対 し , 同 報 通 信( 放 送 型 )の 情 報 提 供 サ ー ビ ス と 個 別 通 信( 双 方 向 型 )の ア ッ プ リ ン ク 情 報 サ ー ビ ス を 同 時 に 提 供 で き る こ と が 求 め ら れ る .ま た ,安 全 運 転 支 援 サ ー ビ ス で 扱 う 情 報 は ,デ ー タ 量 は そ れ ほ ど 大 き く な い が ,そ の サ ー ビ ス の 特 性 か ら 高 信 頼 ,高 レ ス ポ ン ス が 求 め ら れ ,通 信 品 質 に つ い て デ ー タ 損 失 に 対 す る 要 求 が 厳 し い .一 方 ,映 像 情 報 な ど マ ル チ メ デ ィ ア 情 報 を 配 信 するアプリケーションでは通信品質に対する要求はそれほど厳しくない が ,効 率 的 な 通 信 が 求 め ら れ ,終 端 間 で の ス ル ー プ ッ ト の 向 上 が 要 求 さ れ る. (2) 安 全 運 転 支 援 シ ス テ ム 「 安 全 ・ 安 心 」 に 資 す る ITS と し て , 「 安 全 運 転 支 援 シ ス テ ム 」 は , 車両単体で安全運転を支援する「自律システム」と道路に設置されたイ ンフラや周囲の車両と協調して安全運転支援を行う「協調システム」に 分類される.自律システムについては車載レーダを活用した衝突被害軽 減 ブ レ ー キ な ど が 事 故 の 被 害 軽 減 に 大 き な 効 果 を も た ら し て い る .一 方 , 交差点付近での事故や対二輪車,対自転車事故に関しては自律システム の効果は限定的であることから,見通し外でも情報が伝わる電波を使っ た安全運転支援システムが有効であると考えられる.安全運転支援シス テムの中で,特に協調システムは運転者の発見の遅れを減少させ,事故 を未然に防止するシステムであり,必ず運転者が介在するものである. 接 近 車 両 の 情 報 提 供 等 を 行 う タ イ ミ ン グ や HMI ( Human Machine Interface) の 差 異 , さ ら に は 一 般 交 通 環 境 で の 複 合 要 因 事 情 に よ り , 対 象 事 故 類 型 及 び 要 因 を 100% カ バ ー す る も の で は な い . し か し , シ ス テ ムの精度及び信頼性の向上を図ることにより効果を高めることが期待さ 8 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology れる. 協調システムは,道路(路側)に設置された基地局(アクセスポイン ト : AP)と 車 に 搭 載 さ れ た 移 動 局 が 通 信 を 行 う こ と に よ り 車 両 が イ ン フ ラからの情報(信号機情報,規制情報,道路情報等)を入手する「路車 間通信」と,見通しの悪い交差点などで移動局同士が直接通信を行うこ とにより互いの位置,速度等の情報を交換する「車車間通信」の 2 つの 無 線 通 信 方 式 が あ る . AP と し て は , ETC で 採 用 さ れ て い る DSRC 通 信 方 式 や 光 ビ ー コ ン を 使 っ た 路 側 機 等 が あ る . ITS ス ポ ッ ト は , 道 路 上 に 設 置 さ れ た DSRC 路 側 無 線 ア ン テ ナ を 介 し て , 車 両 に 対 し 路 車 間 通 信 に より情報をリアルタイムに配信することによりドライバの安全運転を支 援し,道路交通の安全性向上を図るシステムである. AP の よ う な イ ン フ ラ が な い と こ ろ で は ,車 車 間 通 信 に よ る 情 報 交 換 が 有 効 な 手 段 と な る . ま た , AP が 設 置 さ れ て い る 場 所 で あ っ て も , AP と 車両との間にトラックやバスなどの別の大型車両が入ってしまうと電波 が遮られる(シャドウイング)場合があり,大型車両あるいは他の車両 が通信を中継して電波が遮られた車両に情報を配信する車車間通信が有 効である. 路車間・車車間協調システムのための無線通信方式として,米国を中 心 と し て 検 討 さ れ て い る 5.9GHz 帯 の 電 波 を 用 い た IEEE802.11p/ 1609.4( WAVE:Wireless Access in Vehicular Environments )が IEEE で 標 準 と し て 策 定 さ れ た . 同 様 に 欧 州 で も ETSI ES202 663 と し て 標 準 が 規 格 化 さ れ て い る .国 内 標 準 と し て は ,実 験 用 ガ イ ド ラ イ ン で あ る ITS FORUM RC-005( 5.8GHz 帯 ) , RC-006( 700MHz 帯 ) が 策 定 さ れ , 実 用 化 に 向 け た 実 証 実 験 が 実 施 さ れ て い る . 特 に , 700MHz 帯 の 周 波 数 を 用 い た 車 車 間 通 信 シ ス テ ム に つ い て , 「 700MHz 帯 高 度 道 路 交 通 シ ス テ ム 標 準 規 格 ( STD-T109) 」 が 2012 年 2 月 に 策 定 さ れ た と こ ろ で あ る [10]. 表 1.1 に 日 欧 米 の 協 調 シ ス テ ム 用 無 線 通 信 方 式 の 比 較 を 示 す . 安全な道路交通環境を実現するためには,これらを含めて,電波によ る 通 信 の 信 頼 性 を 高 め る 必 要 が あ る と と も に ,国 内 で 使 え る 700MHz 帯 と 5.8GHz 帯 の 2 つ の 帯 域 を ど の よ う に 有 効 利 用 す る の か と い う 点 と , 国内と欧米の規格の違いをどのように整合させていくのかという点を, 9 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 今 後 十 分 に 検 討 す る 必 要 が あ る [11] [12]. 表 1.1 Table 1.1 日欧米における無線通信方式の比較 Wireless communication systems in Japan/Europe/US. 日本 欧州 北米 規 格 ・委 員 会 ARIB STD-T109 ETSI ES202 663 IEEE802.11p/1609.4 使用周波数 755.5MHz~764.5MHz 5.875~5.905GHz 5.850~5.925GHz 10MHz×1ch 10MHz×3ch 10MHz×7ch チャネル数 ( 2 0 M Hz 幅 オ プシ ョ ン あり ) 変調方式 伝送速度 直 交 周 波 数 分 割 多 重 方 式 (OFDM) 6~18Mbps 3~27Mbps 3~27Mbps ( 1 0 M Hz 幅 ) 6~54Mbps ( 2 0 M Hz 幅 ) アクセス方 式 通信形態 CSMA/CA 単 向 通 信 ,同 報 通 信 , 単向通信,同報通信,単信通信, 単信通信 半複信通信 ・単 向 通 信:目 的 と す る 単 一 の 相 手 方 に 対 し て 送 信 の み を 行 う 方 式 ・単信通信:相対する方向で交互に送受信を行う方式 (3) 車 の ネ ッ ト ワ ー ク 化 と 電 気 自 動 車 ( EV) へ の ICT適 用 車 に お け る ICT 利 用 が 進 展 す る 中 で , 車 内 に は カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン を は じ め と す る 情 報 ネ ッ ト ワ ー ク , 及 び 車 両 ECU ( Electronic Control Unit ) や 各 種 セ ン サ を つ な ぐ 制 御 ネ ッ ト ワ ー ク が 存 在 し , 車 の ネ ッ ト ワ ー ク 化 が 進 ん で い る . カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン に 搭 載 さ れ た GPS は , 位 置 特 定機能があるので車を移動するセンサとして活用することも可能となり, そ の 結 果 ,様 々 な セ ン シ ン グ 情 報 の 測 定 が 可 能 と な る [13].イ ン タ ー ネ ッ ト ITS [14] で 検 討 さ れ た プ ロ ー ブ 情 報 を 収 集 す る , プ ロ ー ブ カ ー が そ の 例 で あ る .位 置 情 報 や 区 間 速 度 及 び 路 面 状 況 な ど の 情 報 を 車 両 か ら 情 報 セ ン タ に ア ッ プ ロ ー ド し ,そ れ を 用 い て 渋 滞 情 報 や 道 路 交 通 情 報 を 車 両 に 配 信 す る .車 内 で の イ ン タ ー ネ ッ ト か ら の 情 報 取 得 あ る い は 各 種 セ ン サ 情 報 ( 走 行 状 態 ,道 路 状 態 等 )の ア ッ プ ロ ー ド な ど ,車 載 ネ ッ ト ワ ー ク と 外 部 通信ネットワークとの相互接続を行うことが求められる. 10 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ま た ,低 炭 素 社 会 実 現 の た め ,環 境 に 配 慮 し た 電 気 自 動 車( EV:Electric Vehicle) の 導 入 が 進 め ら れ て い る が , EV は 1 回 の 充 電 で の 走 行 可 能 距 離 に 制 約 が あ り ,現 時 点 で は 充 電 設 備 の 設 置 箇 所 が 少 な い な ど の 課 題 が あ る [15]. EV 導 入 促 進 の た め に は , 通 信 ネ ッ ト ワ ー ク に よ り EV の バ ッ テ リ 残 量 な ど を セ ン タ で 常 時 把 握 し , 電 気 使 用 量 が 最 小 限 に な る よ う , EV の 充 電 を 夜 間 電 力 で 行 う か ,時 間 帯 な ど の 状 況 に 応 じ て 最 適 な 充 電 ス ケ ジ ュ ー リ ン グ を 行 う サ ー ビ ス が 求 め ら れ る . ま た , EV の 充 電 状 況 や バ ッ テ リ 残 量 を 携 帯 電 話 な ど で 常 に 把 握 し ,カ ー エ ア コ ン の 作 動 も 遠 隔 か ら 指 示 できることが求められる. (4) 車 の 情 報 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 化 と イ ン タ ー ネ ッ ト 利 用 車 の 開 発 は ,「 走 る ・ 止 ま る ・ 曲 が る 」と い っ た 機 能 の 追 及 の 歴 史 で あ っ た が ,そ こ に モ バ イ ル 通 信 機 器 が 搭 載 さ れ ,さ ら に カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン が 搭 載 さ れ る に 至 っ た 結 果 ,車 は 位 置 情 報 と リ ン ク し た 情 報 へ の ア ク セ ス を 可 能 と す る 情 報 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム に 進 化 し つ つ あ る .単 に 車 内 で イ ン タ ー ネ ッ ト か ら 情 報 を ダ ウ ン ロ ー ド す る だ け で な く ,双 方 向 情 報 伝 送 に よ り 車 か ら イ ン タ ー ネ ッ ト に 注 文 情 報 等 を 発 信 し ,実 際 の サ ー ビ ス 窓 口 で サ ー ビ ス の 提 供 を 受 け る な ど , IP( Internet Protocol) 系 と 非 IP 系 の ス ム ー ズな連携が求められる. 車 か ら の イ ン タ ー ネ ッ ト 利 用 と し て ,携 帯 電 話 等 か ら イ ン タ ー ネ ッ ト 経 由 で 注 文・決 済 を 行 い ,携 帯 電 話 を 鍵 と し て サ ー ビ ス の 提 供 を 受 け る 形 式 の シ ス テ ム が 実 用 化 さ れ て い る が ,こ れ ら の シ ス テ ム で は 実 際 の 注 文 窓 口 で 車 を 停 車 し , 携 帯 電 話 等 を リ ー ダ /ラ イ タ に か ざ す 必 要 が あ り , 走 行 中 に即時に相互認証を行い,サービスを受けることが困難である. ま た , ITS 無 線 通 信 サ ー ビ ス は , 携 帯 電 話 の 普 及 や そ の 高 機 能 化 に よ り,そのコンテンツサービスで代替できるケースが多い.表示画面が大 きく高機能なスマートフォンの急激な普及は,カーナビゲーションにと って替わる可能性もある.携帯電話で歩行者や車の助手席の人に対して ナビゲーションを行うサービスも既に提供されている.また,道路状況 や 交 通 規 制 な ど VICS や ITS ス ポ ッ ト が 提 供 す る よ う な 情 報 も 携 帯 電 話 で 取 得 で き る . こ の 傾 向 は , 携 帯 電 話 が 3G か ら よ り 高 速 な 次 世 代 方 式 11 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology の LTE( Long Term Evolution) に 移 行 す る に つ れ , ま す ま す 顕 著 と な ってくると思われる.このため,今後,携帯電話サービスとのすみ分け や効果的な連携が求められる. (5) 隊 列 走 行 と 自 動 運 転 シ ス テ ム 自動あるいは半自動で車両が移動するための技術開発も産官学を問わ ず盛んに行われている.車車間通信やセンサを用いて,前を走る車両を 自動追従する技術や,それをさらに進めて,トラックなどを想定した隊 列走行などのための技術開発も行われている.これらに必要な技術とし て,車載レーダにより歩行者検知などを実現するために,より精度の高 い 79GHz 帯 を 用 い る 手 法 の 標 準 化 が 検 討 さ れ て い る . ITS の 各 種 無 線 情 報 シ ス テ ム で 利 用 さ れ る 主 な 周 波 数 帯 を 表 1.2 に 示 す. 表 1.2 Table 1.2 無 線 情 報 システム VICS ITS に お け る 主 な 周 波 数 帯 Main frequency bands in ITS. 周波数帯 76~90MHz 帯 (FM 多 重 放 送 ) システム概 要 ・道 路 交 通 情 報 提 供 2.5GHz 帯 (電 波 ビーコン) ETC 5.8GHz 帯 ・自 動 料 金 収 受 DSRC ( 路 車 間 通 信 5.8GHz 帯 ・料 金 決 済 システム) 車 車 間 通 信 システム ・様 々な情 報 提 供 5.8GHz 帯 ・安 全 運 転 情 報 の伝 達 700MHz 帯 準 ミリ・ミリ波 帯 24/26GHz 帯 ・障 害 物 の検 知 (自 律 型 ) レーダシステム 60/76GHz 帯 ・衝 突 防 止 79GHz 帯 12 ・歩 行 者 検 知 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 1.2 研 究 の目 的 と検 討 技 術 前 節 で 述 べ た よ う に , ITS の 目 的 で あ る 安 全 ・ 安 心 で , 環 境 に 優 し く 効率的な,しかも利便性が高く快適な車社会を実現するために,モバイ ル 通 信 を 伝 送 媒 体 と す る ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム は , ITS の 多 様 な サ ー ビ スに対して,利用者の位置や伝送する情報の特性に応じて,利用可能な 無線通信メディアの中から適切な通信経路を選択,あるいは組み合わせ て利用することにより,それぞれの要求に応じた機能の実現を図ること が で き る [16]. 図 1.2 に 通 信 エ リ ア と 即 時 性 要 求 に よ る ITS サ ー ビ ス と 研究課題の分類を示す. カーナビ・携帯電話 放送 (車両位置情報) (交通・地域情報) 通信(広域) 情報ネットワーク センサ・ECU (走行・路面状況) 携帯電話網 車載ネットワークと携帯電話網 応答時間 路車間・車車間 通信の共用 ICカード 放送連携で 広域に 車車間通信 IP通信と 非IP通信 路車間通信 路車間通信 と携帯電話網 ICカードと (課金・決済) 路車間通信 速く確実に ICカードアクセス 放送と 路車間通信 WiMAX等 (安全運転支援・プローブ情報) 車載ネットワーク と路車間通信 地上デジタル インターネット 通信(狭域) 車載ネットワーク 速 (渋滞・道路交通情報) カーナビと携帯電話網 (テレマティクス) 通信エリア 的確で 効率的に 本論文で取り上 げる技術課題 広 図 1.2 通 信 エ リ ア と 即 時 性 要 求 に よ る ITS サ ー ビ ス と 研 究 課 題 Figure 1.2 ITS services and technical subjects depending on communication area and response time. 図 1.2 の 横 軸 は 無 線 通 信 方 式 の 通 信 エ リ ア サ イ ズ , 縦 軸 は 通 信 応 答 の 即時性要求の目安となる応答時間を示す.図の左下の近距離・低遅延領 13 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 域では,車両の位置情報や区間速度等の収集及び道路情報等の配信を行 い , 路 側 無 線 ア ン テ ナ が 設 置 さ れ て い る ITS ス ポ ッ ト で の カ ー ブ 先 な ど の追突事故防止等の安全運転支援への利用が想定される.ここでは,速 く確実な通信,即ち高信頼,高レスポンスが求められる.一方,右上の 広域かつ遅延が許容される領域では,交通・地域情報の配信が想定され る.ここでは,放送と連携した広域性が求められる.中央部はこれらの 中間として,渋滞・道路交通情報等,利用者の位置に応じてエリアを限 定 し た 交 通 情 報 等 の 利 用 が 想 定 さ れ ,的 確 で 効 率 的 な 通 信 が 求 め ら れ る . 以下にそれぞれの通信エリアを想定したシステムを実現するにあたっ て解決すべき技術課題について述べる. (1) 路 車 間 ・ 車 車 間 通 信 技 術 近距離域では安全運転支援や課金・決済への利用が想定され,これら を実現するために,多様な無線通信メディアを路車間あるいは車車間通 信へ活用することが考えられる.この領域で実現が期待されるサービス として,前方障害物情報や停止・低速車両情報の提供,死角・接近車両 情報の提供,及び道路課金等が想定される.このような近距離での低遅 延通信を実現するための技術課題としては,路車間通信による短時間で 確 実 な 情 報 伝 送 ,路 車 間 通 信 と IC カ ー ド ア ク セ ス の 連 携 に よ る 高 セ キ ュ リティな情報伝送,車車間通信の中継機能とマルチホップ通信,及び路 車間・車車間通信の共用といったものが挙げられる.その中で,本論文 で は ,路 車 間 通 信 技 術 の 高 度 化 と 路 車 間 通 信 と IC カ ー ド ア ク セ ス の 連 携 技術を取り上げ,技術検討を行う. ①路車間通信技術の高度化 路車間通信は道路上に路側無線アンテナが配備されている利用イメー ジで,事故多発地点等において用いられ,情報センタからの緊急情報配 信などの高信頼な通信の提供が期待されるが,大型車両等によるシャド ウ イ ン グ 等 の 回 避 が 課 題 と な っ て い る . 本 論 文 で は , ITS ス ポ ッ ト に 設 置 さ れ て い る 5.8GHz 帯 DSRC 路 側 無 線 装 置 を 前 提 と し て , シ ャ ド ウ イ ング等により通信回線状況が悪化した場合の通信接続に関する課題を解 決 す る た め に 通 信 リ ン ク 切 断 判 定 を 改 良 し , さ ら に DSRC は 通 信 エ リ ア 14 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology が狭域なため,基地局の移動局に対する通信接続維持動作を改良し,通 信帯域制御を改良する制御方式について研究する.提案方式により, 100km/h の 高 速 移 動 車 両 に 対 し , 同 報 通 信 の 安 全 運 転 支 援 情 報 提 供 サ ー ビスと個別通信のプローブアップリンク情報サービスを同時に提供でき ることを実証試験により実証する. ② 路 車 間 通 信 と IC カ ー ド ア ク セ ス の 連 携 技 術 路 車 間 通 信 で は ,IC カ ー ド に よ る 料 金 決 済 へ の 利 用 が 想 定 さ れ ,高 セ キ ュ リ テ ィ な 情 報 伝 送 が 必 要 と な る .本 論 文 で は ,DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド を 連 携 す る 通 信 シ ー ケ ン ス を 提 案 す る . 車 載 器 は DSRC 通 信 エ リ ア内でのみカードアクセス処理を行うことができ,通信エリア外ではカ ー ド ア ク セ ス を 行 う こ と が で き な い .こ れ に よ り ,非 接 触 式 IC カ ー ド に アクセスするためのカードキーは,車載器内ではなく,路側装置内に保 持 さ れ , 非 接 触 式 IC カ ー ド 内 の メ モ リ ア ク セ ス は , 路 側 制 御 装 置 が DSRC を 介 し て IC カ ー ド に 直 接 ア ク セ ス す る こ と に よ り セ キ ュ リ テ ィ 性 を 向 上 す る .次 に ,DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド を ベ ー ス と し た 道 路 課 金 シ ス テ ム を 開 発 す る .複 数 の セ キ ュ リ テ ィ 性 の 高 い 非 接 触 式 IC カ ー ド に 対 応 す る た め , 路 側 装 置 に SAM( Secure Application Module) を 実 装 す る .実 証 試 験 に よ り ,実 験 シ ス テ ム が 全 て の 対 象 IC カ ー ド に 対 応 し て , 車 速 80km/h に て 通 信 エ リ ア 内 で 料 金 収 受 を セ キ ュ ア に 完 了 す る こ とを実証する. ③車車間通信技術 車車間通信では,見通し外エリアでの急激な受信電力低下による通信 特性の劣化を保証するために,中継を利用することによって通信領域を 確保・拡大することが必要となっている.また,直接通信では通信エリ アが交差点近傍に限定されるという課題があり,そのため,車車間に中 継を適用することにより,エリアを拡張することが検討されている.こ の よ う な 課 題 に 対 応 す る た め , 反 射 波 に よ る 影 響 に 強 い OFDM ( Orthgonal Frequency Division Multiplexing : 直 交 周 波 数 分 割 多 重 ) 方式を使うことが考えられている.また,車車間通信においては,直接 15 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology の無線通信範囲外にいる車両同士であってもお互いの通信範囲内に存在 する別の車両を経由することで情報伝達を可能とするマルチホップ通信 が必要となる.このようなマルチホップ通信において,高信頼性と高レ スポンスを確保するための技術開発が行われている. ④路車間・車車間通信の共用 各車両は車同士で車車間通信を行っており,車車間通信の環境では, 全ての車両は基本的に同じ周波数チャネルを利用し,周囲の車に対して 一斉に自車の情報を伝える同報通信が基本になると想定される.この状 況に加え,交差点付近など道路の主要箇所には路側機が設置され,路車 間通信を使って安全運転支援に必要な情報が提供される.この路車間通 信においても情報の提供先は特定の車両とは限らないため,通信エリア に存在する全ての車両に届くように同報通信を行っている.以上の状況 において各車両は路側機の電波が届かないエリアでは車車間通信のみを 行うが,路側機の電波が届くエリアに入ると車車間通信に加えて路車間 通信も行う必要が生じる.このため,路車間・車車間通信を効率よく切 り替えるあるいは共存させる路車間・車車間通信の共用方策が必要とな る. (2) テ レ マ テ ィ ク ス ・ イ ン タ ー ネ ッ ト の 高 度 化 テレマティクスやインターネットサービスのような中距離域において は,近距離域と広域の中間として双方の特長を活かし,そして,利用者 の位置を踏まえたエリア限定サービスの提供が想定される.この領域で は,利用者が欲しい情報を安定してシームレスに伝送できることが重要 で あ る .こ の よ う な 中 距 離 で の 通 信 を 実 現 す る た め の 技 術 課 題 と し て は , 車のネットワーク化のための外部通信ネットワークと車載ネットワーク の相互接続技術,及び車の情報プラットフォーム化とインターネット利 用 の た め の IP 通 信 と 非 IP 通 信 の 連 携 技 術 等 が 挙 げ ら れ る .本 論 文 で は , 外 部 通 信 ネ ッ ト ワ ー ク と 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク の 相 互 接 続 技 術 と IP 通 信 と 非 IP 通 信 の 連 携 技 術 を 取 り 上 げ , 技 術 検 討 を 行 う . 16 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ① 外部通信ネットワークと車載ネットワークの相互接続技術 車内の様々なセンシング情報を車両から情報センタにアップロードし, それを用いてセンタが車両に情報配信するための外部通信ネットワーク と車載ネットワークの相互接続技術について研究する.路車間通信とし て DSRC, 広 域 通 信 網 と し て 3.5G( 3.5th Generation) 通 信 回 線 , 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク と し て CAN( Controller Area Network )を 採 用 し ,DSRC ま た は 3.5G 通 信 回 線 と CAN を 接 続 す る 通 信 プ ロ ト コ ル ,及 び DSRC と 3.5G 通 信 回 線 を 連 携 す る 通 信 プ ロ ト コ ル を 提 案 す る . 次 に , EV が 持 つ 課 題 と 特 性 に 対 応 し た ITS サ ー ビ ス を 提 供 す る た め , 広 域 通 信 網 と 路 車 間 通 信 及 び 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク を 相 互 接 続 し た EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム を 提 案 し , セ ン タ 及 び 路 側 無 線 装 置 か ら 車 載 器 を 介 し て EV デ ー タ の 読 み 出 し と EV の 遠 隔 操 作 を 行 う 車 載 シ ス テ ム と 路 側 シ ス テ ム を 開 発 す る . 実 証 試 験 に よ り , EV の バ ッ テ リ 残 量 を 1 秒 以 内 の サ ン プ リ ン グ 周 期 で 連 続 的 に 収 集 し て 車 両 内 に 情 報 提 供 す る こ と ,EV を 遠 隔 操 作 す る ことによりリアルタイムに車両状態を変化させることを実証する.さら に通信システム上で動作するサービスアプリケーションにより,充電ス テーションでの最適な充電スケジューリングを行い,安価な夜間電力を 使って充電コストを削減できることを実証する. ② IP 通 信 と 非 IP 通 信 の 連 携 技 術 車内でカーナビゲーションからインターネットにより注文情報等を登 録 し , 実 際 の サ ー ビ ス 窓 口 で サ ー ビ ス の 提 供 を 受 け る , IP 通 信 と 非 IP 通信の連携技術について研究する.カーナビゲーションから車載器を介 して注文情報等をセンタサーバに登録し,その後,サービス窓口に設置 し た DSRC 路 側 装 置 に よ り 即 時 に 相 互 認 証 し , 注 文 情 報 を 呼 び 出 す , IP 通 信 と 非 IP 通 信 を 共 存 さ せ る 通 信 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム を 実 装 す る . 次 に , ドライブスルー実験システムとして,双方向情報伝送により複数の車か ら 同 時 に 注 文 情 報 を 登 録 で き る IP ア プ リ ケ ー シ ョ ン と ,DSRC 通 信 に よ り 注 文 確 定・支 払 処 理 を 行 う 非 IP ア プ リ ケ ー シ ョ ン を 開 発 す る .ド ラ イ ブ ス ル ー 実 店 舗 に DSRC 路 側 装 置 を 設 置 し , 実 環 境 で 実 証 実 験 を 行 い , 実験システムにより,車両が注文窓口に来てから注文確定と支払が完了 17 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology す る ま で の 処 理 時 間 が 現 行 よ り 50%削 減 さ れ , ド ラ イ ブ ス ル ー 利 用 者 の 待ち時間が短縮できることを実証する. (3) 地 上 デ ジ タ ル 放 送 と の 連 携 自動車における広域のサービスとしては,広く一般に送るべき情報を 放送連携で広域に送るために,例えば,放送と連携した交通・地域情報 配 信 と い っ た 汎 用 な サ ー ビ ス が 期 待 さ れ る . こ こ で は , ITS 無 線 通 信 に よる緊急の通知と汎用性の高い道路交通情報の配信が課題となる. ① ITS 地 上 デ ジ タ ル 放 送 連 携 技 術 ITS で は 特 に 乗 車 中 の 人 に 対 し て 安 全 ・ 安 心 に 係 わ る 情 報 の 提 供 や き め細かな情報提供の実現を目指したサービスが期待されている.この実 現 に 向 け て , 地 上 デ ジ タ ル 放 送 と DSRC を 連 携 さ せ る シ ス テ ム が 検 討 さ れ て い る . こ こ で は , 放 送 局 か ら の 緊 急 警 報 を DSRC 経 由 で 車 両 に 伝 達 す る 緊 急 警 報 放 送 を 通 知 す る 技 術 , 放 送 局 か ら の 広 域 情 報 に DSRC 路 側 機からの地域情報を加えて,広域・地域情報がマージされたサービスを 実 現 す る ITS 情 報 補 完 放 送 が 検 討 さ れ て い る . 以 上 の よ う に 本 論 文 で は , ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム に 求 め ら れ る 無 線 通 信方式の要件を明確化し,実現に向けた技術課題を整理し,課題解決の ための方策の検討を行う.さらに,実験システムを開発し,実用化に向 け て 実 環 境 で 実 証 試 験 を 行 い , ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム の 高 度 化 を 目 指 す ものとする. 18 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 1.3 本 論 文 の構 成 本論文は全 6 章から構成されている. 第 1 章は序論であり,本研究の背景と目的,技術課題,本論文の構成 を述べる. 第 2 章では,安全運転支援を行う協調システムの路車間通信技術の高 度化について検討する.路車間通信において同報通信の情報提供サービ スと個別通信のアップリンク情報サービスを同時に提供する,同報・個 別通信混在環境での同報通信と個別通信の共用方策について解説する. ま ず , ARIB 標 準 に 規 定 さ れ て い る DSRC 通 信 方 式 に つ い て 述 べ , 次 に ARIB 標 準 を 前 提 と し て 既 存 の 標 準 規 格 の 拡 張 に よ り 通 信 特 性 を 改 善 す る制御方式と実証試験による評価について記述する. 第 3 章 で は , 車 の ネ ッ ト ワ ー ク 化 と EV へ の ICT 適 用 に つ い て 検 討 す る.車内の様々なセンシング情報を車両から情報センタにアップロード し,それを用いてセンタが車両に情報配信するための外部通信ネットワ ークと車載ネットワークの相互接続技術について解説する.まず,広域 通信網及び路車間通信により車両の状態変化を即時に検知すると,情報 センタで車両情報を管理し,センタ及び路側無線装置から車両を遠隔操 作 し ,リ ア ル タ イ ム に 車 両 状 態 を 変 化 さ せ る 通 信 手 段 に つ い て 説 明 す る . 次 に , EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム の 開 発 と 実 証 試 験 に よ る 評 価 に つ いて記述する. 第 4 章では,車の情報プラットフォーム化とインターネット利用につ いて検討する.車内でカーナビゲーションからインターネットにより注 文 情 報 等 を 登 録 し , 実 際 の サ ー ビ ス 窓 口 で サ ー ビ ス の 提 供 を 受 け る , IP 通 信 と 非 IP 通 信 の 連 携 技 術 に つ い て 解 説 す る .ま ず ,カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ンから車載器を介して注文情報等をセンタサーバに登録し,その後,サ ー ビ ス 窓 口 に 設 置 し た DSRC 路 側 装 置 に よ り 即 時 に 相 互 認 証 し , 情 報 を 呼び出す通信システムについて説明する.次に,ドライブスルー実験シ ステムにより実環境で実証実験を行い,通信システム上で動作するサー ビスアプリケーションとして,ドライブスルーシステムの実用性評価に ついて記述する. 第 5 章 で は ,路 車 間 通 信 と IC カ ー ド ア ク セ ス の 連 携 技 術 に つ い て 検 討 19 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology す る . DSRC 通 信 エ リ ア 内 で の み 車 載 器 は カ ー ド ア ク セ ス 処 理 を 行 う こ と が で き る ,DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド を 連 携 す る 通 信 シ ー ケ ン ス に つ い て 解 説 す る .非 接 触 式 IC カ ー ド 内 の メ モ リ ア ク セ ス は ,路 側 制 御 装 置 が DSRC を 介 し て IC カ ー ド に 直 接 ア ク セ ス す る こ と に よ り セ キ ュ リ テ ィ 性 が 向 上 す る こ と を 説 明 す る .次 に ,DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド を ベ ースとした道路課金システムの開発と実証試験による評価について記述 する. 第 6 章では結論を述べ,本論文で得られた結果を要約して評価する. 20 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 第 2章 路 車 間 通 信 技 術 の高 度 化 2.1 まえがき 道 路 に 設 置 し た 路 側 無 線 装 置 ( 基 地 局 , RSU: Road Side Unit) と 車 両 に 搭 載 さ れ た 車 載 器 ( 移 動 局 , OBU: On Board Unit) と の 間 で 通 信 を行う路車間通信を利用した,車両への様々なサービスが実用化され, 路側から車両への情報提供に加えて,走行履歴や性能データなどの車両 情 報 を 路 側 に 吸 い 上 げ ,そ れ を 活 用 す る サ ー ビ ス へ と 拡 大 し て い る [17]. こ れ ま で は 同 報 通 信( 放 送 型 )・ 個 別 通 信( 双 方 向 型 )専 用 の サ ー ビ ス が 提供されてきたが,今後は同報・個別通信混在環境でのサービスが本格 化 し , 受 送 信 す る 情 報 量 は 多 く な る と 予 想 さ れ る [18]. 本 章 で は , 路 車 間 通 信 と し て ETC な ど に 用 い ら れ て い る 5.8GHz 帯 DSRC( 専 用 狭 域 通 信 ) [21] を 対 象 と す る . こ こ で , 移 動 局 が 受 信 す る 同 報 情 報 量 は 25kbyte 以 下 , 移 動 局 が 送 信 す る ア ッ プ リ ン ク 情 報 量 は 4kbyte 以 下 と す る こ と が 規 定 さ れ て い る [19] [20] . ま た , 5.8GHz 帯 DSRC 通 信 方 式 で は , 移 動 局 か ら 基 地 局 へ の ア ッ プ リ ン ク は , 通 信 リ ン ク接続によるコネクション型の個別通信によりデータ送信することが規 定 さ れ て い る [9]. このような1つの基地局が複数の移動局に対して,同報通信の情報提 供サービスと個別通信のアップリンク情報サービスを同時に提供するシ ステムでは,複数の移動局が限られた通信領域内で所望の同報データ, アップリンクデータを同時に受送信することにより安定したサービスが 提供できる.この場合,通信手段における課題は以下の 2 点である. 移 動 局 は ,基 地 局 と 通 信 リ ン ク 接 続 し ,通 信 回 線 状 況 悪 化 に よ る 通 信 不 安 定 時 に お い て も ,サ ー ビ ス 提 供 の た め に 必 要 と さ れ る 通 信 接 続 時 間 を 確 保 す る こ と .( 通 信 接 続 に 関 す る 課 題 ) 基 地 局 は ,通 信 帯 域 を 効 率 よ く 利 用 し ,通 信 領 域 内 の 複 数 の 移 動 局 と 所 望 の デ ー タ 量 の 情 報 交 換 を 可 能 と す る こ と .( 通 信 帯 域 に 関 す る 課 題) 本 章 で 対 象 と す る DSRC は ARIB 標 準 STD-T75 [9],STD-T88 [23] に 準拠し,通信領域が比較的狭いこと,伝送速度が速いことなどを特長と 21 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology し て い る . 本 章 で は こ れ ら の ARIB 標 準 を 前 提 と し て 既 存 の 標 準 規 格 の 拡張により通信特性を改善する制御方式を提案する. 通信接続に関する課題については,通信領域の入口・出口付近でスム ーズな通信リンク接続・切断が実現できることが必要である.また,高 速で移動する車環境ではシャドウイング等により通信回線状況が悪化し た場合,通信領域内の移動局が連続して回線断となり,通信不能な状況 になることがある.本章では移動局の通信接続管理に着目し,移動局の 通信接続管理タイマによる通信リンク切断判定を改良した.通信不安定 になった場合も再接続により接続可能時間を確保する制御方式を提案す る. ま た , DSRC は 通 信 領 域 が 狭 域 な た め , 本 章 で は , 通 信 帯 域 に 関 す る 課題を解決するために基地局の通信帯域制御に着目し,基地局の移動局 に対する通信接続維持動作を改良した.占有する通信帯域を開放するこ とにより通信効率を向上させ,基地局が通信領域内の複数の移動局と所 望のデータ量の情報交換を可能とする方式を提案する. 実証試験の結果,提案方式による通信接続管理改善及び通信帯域制御 の効果を確認し,提案方式の適用により複数の移動局が限られた通信時 間内に所望の情報量を同時に受送信完了することを確認し,提案方式の 有効性を評価した. 以 下 ,2.2 節 で 従 来 制 御 方 式 ,2.3 節 で 同 報 通 信 と 個 別 通 信 の 共 用 に つ い て 述 べ た の ち ,2.4 節 で 同 報・個 別 通 信 混 在 時 の 安 定 し た サ ー ビ ス 提 供 の た め の 制 御 方 式 を 提 案 す る .2.5 節 で 実 証 試 験 に つ い て 説 明 し ,最 後 に 2.6 節 で 本 章 を ま と め る . 2.2 従 来 制 御 方 式 2.2.1 受 信 信 号 強 度 制 御 文 献 [18] に お い て 受 信 信 号 強 度 ( RSSI : Received Signal Strength Indicator) 制 御 を 適 用 す る こ と が 規 定 さ れ て い る . こ れ ま で 基 地 局 と 移 動 局 と が 安 定 し た 通 信 リ ン ク 接 続 を 行 う た め ,RSSI 制 御 に つ い て 研 究 さ れ て い る [24].RSSI 制 御 を 適 用 し な い 場 合 ,通 信 領 域 の 入 口 付 近 で 通 信 リンク接続・切断が繰り返し発生するという問題が生じる.リンク接続 22 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 用 RSSI 閾 値 ,リ ン ク 切 断 用 RSSI 閾 値 を 選 定 し ,リ ン ク 接 続・切 断 の タ イミングを判定することによりリンク接続・切断が繰り返し発生する現 象が解消し,スムーズなリンク接続・切断が実現できることが確認され て い る . RSSI 制 御 を 適 用 し た リ ン ク 接 続 ・ 切 断 例 を 図 2.1 に 示 す . 図 2.1 RSSI 制 御 を 適 用 し た リ ン ク 接 続 ・ 切 断 例 Figure 2.1 Example of a RSSI control with link connected/disconnected. RSSI 制 御 を 適 用 し た ,移 動 局 に お け る リ ン ク 接 続 手 順 と リ ン ク 切 断 ・ 周波数選定移行手順の一例を以下に記す. ① 移 動 局 が 基 地 局 の エ リ ア 進 入 時 ,周 波 数 選 定 状 態 か ら 連 続 し て RSSI 値が正しく検出された場合にリンク接続手順への移行を判断する. ② 次に,リンク接続が完了して移動局が正常動作状態に移行すると, RSSI 値 検 出 時 の エ ラ ー の 発 生 状 況 に 応 じ て 状 態 が 遷 移 す る .こ こ で , 連続してエラーが発生すると,異常動作状態と判断し,リンク切断 手順への移行が判断される. ③ 移 動 局 は RSSI 値 に よ っ て リ ン ク 切 断 手 順 へ の 移 行 を 判 断 す る .一 旦 リンクが切断されると,周波数選定状態に移行し,以後繰り返しの 動作を行う. 23 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 上記のリンク切断判定では,基地局と移動局が通信リンク接続後にシ ャドウイング等により通信回線状況が悪化し,基地局が移動局からデー タ 受 信 で き な く な っ た 場 合 ,移 動 局 は 基 地 局 か ら デ ー タ を 受 信 で き る と , 通信継続状態と判断するため,基地局と移動局のリンク切断判定が行わ れず,移動局はリンク切断手順に移行することができない.その結果, 移動局は通信領域に存在するにも拘わらず個別通信が行えなくなり,再 接続する機会を逸することから通信不能な状況となる. 2.2.2 ARIB 標 準 における通 信 接 続 管 理 ARIB STD-T88 で は ,基 地 局 の 通 信 接 続 管 理 タ イ マ( CTR:Connection Timer for RSU) 及 び 移 動 局 の 通 信 接 続 管 理 タ イ マ ( CTO: Connection Timer for OBU) に よ り 基 地 局 と 移 動 局 間 の 通 信 接 続 の 状 態 を 監 視 す る こ と が 規 定 さ れ て い る . CTR は 移 動 局 と の 通 信 接 続 毎 に 生 成 し , 当 該 移 動 局 か ら デ ー タ 受 信 で き ず に CTR が タ イ ム ア ウ ト し た 場 合 は ,リ リ ー ス 信 号 を 移 動 局 に 送 信 し て CTR を 終 了 さ せ る . CTO は 基 地 局 と の 通 信 接 続 時 に 生 成 し ,基 地 局 か ら 有 効 な デ ー タ 着 信 の 通 知 を 受 け る 毎 に CTO を リ セ ッ ト す る .基 地 局 か ら 有 効 な デ ー タ 着 信 が な く CTO が タ イ ム ア ウ ト し た 場 合 は ,CTO を 終 了 さ せ ,新 た な 接 続 通 知 も し く は 同 報 受 信 を 待 ち 受ける. 上記の通信接続管理では,基地局が移動局からデータ受信できなくな っ た 場 合 ,基 地 局 に お い て CTR に よ る タ イ ム ア ウ ト が 発 生 す る が ,移 動 局では基地局から同報データを受信できる場合がある.同報データ受信 に よ り CTO の リ セ ッ ト を 続 け る と ,移 動 局 は 基 地 局 と の 通 信 接 続 を 継 続 しているものと見なし,再接続する機会を逸することから通信不能な状 況となる. 2.2.3 ARIB 標 準 における通 信 帯 域 制 御 ARIB STD-T88 で は 1 つ の 通 信 フ レ ー ム を 時 分 割 し て 複 数 ス ロ ッ ト に 分け,それぞれのスロットに各移動局向けのデータを割り付けることが 規定されている.基地局においてデータ分割,移動局で組立を行う通信 制御により,通信フレーム中の複数スロットを同一移動局に多重化して 割り付け,通信スロットを有効利用することで実効伝送速度の向上を図 っている.通信フレームは,路車間通信に必要な制御情報などを格納す 24 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology る制御スロットと複数の移動局とデータ交換を行うための複数のデータ ス ロ ッ ト( 個 別 通 信 用 ス ロ ッ ト ,同 報 通 信 用 ス ロ ッ ト ),及 び 移 動 局 が 基 地局に通信接続を要求するためのスロットから構成される.通信フレー ム の ス ロ ッ ト 配 置 例 を 図 2.2 に 示 す . 基 地 局 の ア プ リ ケ ー シ ョ ン サ ブ レ イ ヤ ( ASL) は ア プ リ ケ ー シ ョ ン か らサイズの大きいデータを受け取った場合,データを通信フレームの 1 ス ロ ッ ト 容 量 内 に 収 ま る サ イ ズ に 分 割 し , 順 次 レ イ ヤ 7( ア プ リ ケ ー シ ョ ン レ イ ヤ )へ 渡 す よ う に 操 作 す る .分 割 さ れ た パ ケ ッ ト は レ イ ヤ 2( デ ータリンクレイヤ)の送信キューに積み上げられ,空スロットに順次割 り付けられる.これにより移動局は 1 フレーム中の複数スロットを占有 す る こ と が 可 能 と な る . ARIB STD-T88 で は , 同 報 ・ 個 別 通 信 混 在 時 に は,同報通信用のスロットを 1 フレームに 1 スロット以上を確保するこ とが規定されている. 基地局 【個別通信】 移動局A データA 分割 【同報通信】 移動局C データC 分割 移動局B データB 分割 問合せ DC-2 DC-1 問合せ Program B Program A 分割 分配 DA-3 DA-2 DA-1 PB-2 PB-1 PA-3 PA-2 PA-1 DB-3 DB-2 DB-1 多重化 FCMS DA-1 DB-1 DA-2 PA-1 PA-2 PA-3 PA-1 ACTS FCMS DB-2 DA-3 DB-3 PA-2 PA-3 PB-1 PB-2 ACTS 個別通信用スロット 同報通信用スロット FCMS : Frame Control Message Slot 図 2.2 Figure 2.2 個別通信用スロット 同報通信用スロット ACTS : Activation Slot 通信フレームのスロット配置例 Example of slots arrangement on communication frames. 25 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 2.3 同 報 通 信 と個 別 通 信 の共 用 2.3.1 路 車 間 通 信 のゾーン構 成 本章で対象とする路車間通信では,1 つの基地局が複数の移動局と同 時 に 通 信 を 行 う 構 成 と す る .基 地 局 位 置 を 中 心 と し た 直 径 20~ 30m の 範 囲を通信領域として安定した通信ゾーンを構成するが,シャドウイング 等により通信回線状況が悪化し,通信不安定になることがあるものとす る.ここでシャドウイングとは,基地局と移動局の間の電波伝搬路に他 の車両や障害物が存在することで電波が遮られて,通信に影響を与える 現 象 で あ る . 図 2.3 に 通 信 ゾ ー ン 構 成 を 示 す . 基地局 基地局 移動局 20~30m 通信ゾーン 図 2.3 Figure 2.3 通信ゾーン構成 Configuration of communication zone. 2.3.2 同 報 通 信 同報通信では,移動局が通信領域に入ると,基地局から移動局へ同報 デ ー タ を 送 信 す る .デ ー タ 送 信 は 単 方 向 で あ り ,移 動 局 は 基 地 局 へ 確 認 応 答 を 送 信 し な い .基 地 局 は 通 信 領 域 内 の 不 特 定 多 数 の 移 動 局 を 対 象 に ,誤 り 率 を 改 善 す る た め に デ ー タ を 複 数 回 繰 り 返 し て 送 信 す る「 連 送 処 理 」を 行 う .同 報 通 信 で は ,例 え ば 渋 滞 情 報 や 規 制 情 報 等 の 道 路 交 通 情 報 を 画 像 や 音 声 で 提 供 す る . 同 報 通 信 例 を 図 2.4 に 示 す . 2.3.3 個 別 通 信 個 別 通 信 で は ,基 地 局 と 移 動 局 と の 通 信 リ ン ク 接 続 後 ,通 信 を 開 始 し , 移動局または基地局からデータを送信すると相手局から確認応答を受信 する.個別通信では,例えば車両位置や車速等の車両の走行履歴データ 26 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology を基地局が収集する.基地局は,移動局への転送データがない場合に移 動局に対して送信有無を問い合わせる「送信問い合わせ」を周期的に行 う.移動局は送信データを保持している場合,この問い合わせに応える ことでデータを送信できる.移動局に送信するデータがない場合は,デ ータがないことを基地局に通知する.基地局は応答の有無によって移動 局の存在を監視することになり移動局との通信が継続可能かどうかの判 定が可能である.個別通信例として「プローブ情報を活用した安全運転 支 援 サ ー ビ ス 」 を 図 2.5 に 示 す . 情報提供 音声「この先渋滞、追突注意」 RSU センサ センサ 突発事象 情報 事象検出(停止・渋滞) 基地局 ・突発事象 情報提供 図 2.4 Figure 2.4 同報通信 Broadcast communications. プローブ情報を 活用した安全運転支援サービス OBUに蓄積 走行履歴収集 RSU 急回避 急減速 急減速 停止車等 図 2.5 Figure 2.5 蓄積した事象位置、速度、 上下左右加速度等をアップ 個別通信 Individual communications. 27 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 2.3.4 DSRC 通 信 方 式 と要 求 条 件 本 章 で 対 象 と す る 通 信 方 式 と 要 求 条 件 を 以 下 に 示 す .5.8GHz 帯 DSRC は , ARIB STD-T75, STD-T88 に 準 拠 し , 通 信 領 域 が 比 較 的 狭 い こ と , 伝 送 速 度 が 速 い こ と な ど を 特 長 と し て い る .片 側 4 車 線 道 路 を 走 行 す る 車 両に対応するため,移動局の同時接続台数を 4 台としている.走行速度 100km/h に て 通 信 領 域 20m を 通 過 す る 通 信 時 間 720ms 内 に , 同 報 50kbyte, ア ッ プ リ ン ク 4kbyte の 受 送 信 が 完 了 す る こ と を 要 求 条 件 と す る .同 報 情 報 量 は 伝 送 途 中 の エ ラ ー を 考 慮 し ,25kbyte×2 回 分 の デ ー タ 量 と す る . こ こ で , 走 行 速 度 100km/h は 高 速 道 路 の 制 限 速 度 で あ り , 20m は 5.8GHz 帯 DSRC の 最 小 通 信 領 域 で あ る . 同 時 接 続 台 数 4 台 , 同 報 情 報 量 25kbyte, ア ッ プ リ ン ク 情 報 量 4kbyte は , 文 献 [18] [19] [20] に 規 定されている数値を根拠とする. 通 信 方 式 : 5.8GHz 帯 DSRC( ARIB STD-T75/T88 準 拠 ) 伝 送 速 度 4Mbps( QPSK:Quadrature Phase Shift Keying ) 空 中 線 電 力 (移 動 局 ) 10mW 以 下 , (基 地 局 ) 300mW 以 下 1 ス ロ ッ ト 容 量 : (同 報 ) 181byte, (個 別 ) 183byte 1 フ レ ー ム 通 信 時 間 : 7ms 1 フレーム利用可能スロット数:7 スロット 同 報 情 報 量 : 50kbyte( 25kbyte×2 回 ) ア ッ プ リ ン ク 情 報 量 : 4kbyte 最 小 通 信 領 域 : 20m 同時接続台数:4 台 移 動 局 の 通 信 時 間 : 720ms( 走 行 速 度 100km/h で の 通 信 領 域 20m の 通過時間) 送信問い合わせ周期:4 フレームに 1 回 2.3.5 通 信 接 続 に関 する課 題 ARIB STD-T75 で は ,移 動 局 の 空 中 線 電 力 を 10mW 以 下 ,基 地 局 の 空 中 線 電 力 を 300mW 以 下 と 規 定 し て お り , 移 動 局 の 空 中 線 電 力 は 基 地 局 の空中線電力よりも小さいため,シャドウイング等により通信回線状況 が悪化した場合,移動局は基地局からデータ受信できるが,基地局は移 動局からデータ受信できなくなるケースが生じる.この場合,基地局が 28 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 通信切断状態,移動局が通信継続状態となり,基地局と移動局の通信状 態が一致しなくなることがある.基地局は個別通信途中に移動局が通信 領域から抜けた(通信エリアアウト)と判断する.移動局は通信領域に 存在するにも拘わらず個別通信が行えなくなり,また,再接続する機会 を逸することから通信不能な状況となる. 図 2.6 に 基 地 局 と 移 動 局 の 通 信 状 態 が 不 一 致 と な る シ ー ケ ン ス 例 を 示 す.移動局の空中線電力が基地局の空中線電力よりも小さいため,通信 が不安定な場合,基地局が個別通信の確認応答を移動局から受信できな いことにより,基地局からの個別通信が届かず,基地局が通信切断状態 となることがある.移動局は基地局から同報データを受信できると,通 信継続状態となる. 同報 同報 個別 個別 同報 個別 個別(リトライ) 同報 リリース リリース(リトライ) 基地局 基地局 : 通信リンク切断 タイム アウト 状態の 不一致 通信不安定 移動局 : 通信接続中 移動局 図 2.6 基地局と移動局の通信状態が不一致となるシーケンス例 Figure 2.6 Example of sequence wherein communication state of base station and mobile station become non-corresponding. 以下に,課題となる具体的ケースについて整理する. 2.3.5.1 個 別 通 信 が途 中 で終 了 するケース ARIB STD-T88 で は , 基 地 局 が 移 動 局 か ら デ ー タ を 受 信 で き な く な っ た 場 合 , 通 信 接 続 管 理 タ イ マ CTR に よ る タ イ ム ア ウ ト が 発 生 す る . 同 報・個 別 通 信 混 在 時 に CTR が タ イ ム ア ウ ト し た 時 点 で 基 地 局 か ら 送 信 さ れるリリース信号を通信回線状況悪化により移動局が受信できず,一方 で 同 報 デ ー タ 受 信 に よ り 通 信 接 続 管 理 タ イ マ CTO の リ セ ッ ト を 続 け る と ,移 動 局 は 通 信 領 域 に 存 在 す る に も 拘 わ ら ず 途 中 で 個 別 通 信 が 終 了 し , 個別サービスを提供できないケースがある. 29 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 文 献 [25] の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 に よ る と ,片 側 2 車 線 で 車 両 速 度 が 第 1 車 線 80km/h, 第 2 車 線 100km/h, 車 両 密 度 が 100 台 /km の 場 合 , シ ャ ド ウ イ ン グ が 発 生 す る 確 率 は 0.08 で あ る .こ こ で ,車 両 密 度 は 1 つ の 車 線 で 1km に 何 台 の 車 両 が 存 在 す る か で 表 す .実 際 の 通 信 で は ,個 別 通 信 は 受 信 で き ず ,同 報 通 信 だ け 受 信 で き る ケ ー ス は ,10 回 に 1 回 の 頻 度で発生すると考えられる.通信が不安定な場合,基地局が個別通信の 確認応答を移動局から受信できないケースがあるが,個別通信は受信で きて同報通信だけが受信できないケースは,ほとんど発生しないと考え る. 2.3.5.2 個 別 通 信 が開 始 できないケース 基地局と移動局との通信リンク接続において,移動局は基地局から接 続 通 知 を 受 信 し た が ,基 地 局 は 移 動 局 か ら 確 認 応 答 を 受 信 で き な い 場 合 , 移動局は同一通信領域において個別通信を開始できず,個別サービスを 提 供 で き な い ケ ー ス が あ る . ARIB STD-T88 で は , 移 動 局 は 接 続 通 知 受 信 時 点 で CTO を リ セ ッ ト す る が ,基 地 局 は 確 認 応 答 を 受 信 で き な い た め , CTR に よ る 通 信 接 続 監 視 が 開 始 さ れ な い . こ の 場 合 , 移 動 局 は 同 報 デ ー タを受信することができる. 2.3.5.3 通 信 再 接 続 遅 延 移動局において通信切断が発生した場合,再接続までにリリースタイ マで規定される時間と周波数選定時間を加算した時間だけ必要となる. その結果,一旦通信が切断されると,再接続することなく通信領域から 抜けてしまい,通信不能な状況となり,移動局が所望のサービスを提供 できないケースがある.この場合,移動局は同報データも受信すること ができない. 2.3.6 通 信 帯 域 に関 する課 題 個別通信において,基地局は移動局への転送データがない場合に,移 動局に対して送信問い合わせを周期的に行う.基地局は応答の有無によ って移動局との通信が継続可能かどうかの判定が可能である.この送信 問い合わせによって一定の通信帯域が占有され,移動局の同時接続可能 台数を制限したり,同報通信で利用可能な通信帯域を制限したりする. 以下に,課題となる具体的ケースについて整理する. 30 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 2.3.6.1 個 別 通 信 の接 続 維 持 動 作 ARIB STD-T88 で は ,個 別 通 信 の 通 信 接 続 を 維 持 す る た め に ,基 地 局 ・ 移動局間で送信問い合わせが周期的に行われる.この送信問い合わせに は,それぞれ 1 スロットを占有することから,複数の移動局との同時通 信等により同報通信帯域を圧迫する要因となり,1 フレームに割り当て られる同報通信用スロット数が少なくなる場合,所望の同報データを移 動局が受信できなくなるケースがある. 2.3.6.2 複 数 移 動 局 の同 時 接 続 が制 限 されるケース 走行中の車両に対するサービスにおいて複数の移動局が通信領域に存 在する場合,先行する移動局が通信領域から抜けるときに先行車への再 送 処 理 が 発 生 し ,後 続 車 が 利 用 可 能 な 通 信 帯 域 が 減 少 す る と 考 え ら れ る . 渋滞等により先行車が静止している場合,先行車によって通信帯域が占 有され,隣接車線を走行する後続車が個別通信を開始できず,個別サー ビ ス を 提 供 で き な い ケ ー ス が あ る . 図 2.7 に 走 行 中 の 車 両 に 対 す る サ ー ビス例を示す.この場合,同報通信で利用可能なスロット数が少なくな り,所望の同報データを移動局が受信できなくなる. ① 車 両 A, B, C が 通 信 領 域 か ら 抜 け る と き に , 車 両 A, B, C へ の 再 送処理が発生し,通信帯域が占有される. ② その結果,後続車との個別通信が開始できず,車両 G のように第3 車線を走行する車両に対するサービスの提供が行えなくなる. C G 通信領域 第3車線 B 第2車線 A 図 2.7 Figure 2.7 D E F 走行中の車両に対するサービス例 Example of services to running vehicle. 31 第1車線 渋滞中 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 2.4 同 報 ・ 個 別 通 信 混 在 時 の 安 定 し た サ ー ビ ス 提 供 の た め の 制 御 方式 前節に示したように,現行システムでは通信接続に関する課題と通信 帯域に関する課題がある.本章ではこれらの課題を解決するために移動 局の通信接続管理と基地局の通信帯域制御に着目し,同報・個別通信混 在時の通信特性を改善する制御方式を提案する. 2.4.1 移 動 局 の通 信 接 続 管 理 の改 良 ARIB STD-T88 で は , 同 報 ・ 個 別 通 信 を 問 わ ず , 基 地 局 か ら 有 効 な デ ー タ 着 信 の 通 知 を 受 け る 毎 に 移 動 局 の 通 信 接 続 管 理 タ イ マ CTO を リ セ ットする.そのため,基地局が個別通信の確認応答を移動局から受信で き ず に 通 信 接 続 管 理 タ イ マ CTR が タ イ ム ア ウ ト し た 場 合 ,移 動 局 は 基 地 局との通信接続を継続しているものと見なし,基地局と移動局の通信状 態が不一致となる.個別通信が通信不能な状況を解消するためには,移 動局が個別通信の双方向データ未受信を検知し,通信リンク切断判定に より通信リンクを切断し,再接続する必要がある. そ こ で 本 章 で は ,同 報・個 別 通 信 混 在 時 の CTO に よ る 通 信 リ ン ク 切 断 判定を改良し,移動局が同報データを受信し,かつ個別通信を開始して い る 場 合 ,同 報 デ ー タ 受 信 時 の CTO リ セ ッ ト を 抑 制 す る .同 報・個 別 通 信 混 在 時 に お い て ,個 別 通 信 開 始 以 降 は ,双 方 向 デ ー タ 受 信 時 の み CTO を リ セ ッ ト す る こ と に よ り ,CTO タ イ ム ア ウ ト を 制 御 す る 方 式 を 提 案 す る. ARIB STD-T88 で は , 基 地 局 に お い て CTR タ イ ム ア ウ ト を 検 知 し た 場 合 ,リ リ ー ス 信 号 を 移 動 局 に 送 信 す る こ と で 通 信 リ ン ク を 切 断 し ,再 度 周 波 数 選 定 か ら や り 直 す こ と が で き る .本 章 で は ,CTO の 値 を「 再 送 回 数 ×1 フ レ ー ム 通 信 時 間 」以 下 に 短 縮 す る こ と を 提 案 す る .こ こ で ,再 送 回 数 は 基 地 局 か ら 移 動 局 へ の 再 送 回 数 で あ り ,基 地 局 の ア プ リ ケ ー シ ョ ン の 送 信 モ ジ ュ ー ル に て 再 送 す る 毎 に カ ウ ン ト す る .移 動 局 は 変 数 に よ り 基 地 局 か ら 渡 さ れ る . 現 行 シ ス テ ム で は CTO の 値 は , 0~ 4,095ms の 定 数 で 設 定 さ れ て い た . CTO が 短 く て す ぐ に リ ン ク 切 断 と 判 定 す る と 何 度 も リ ン ク 接 続 を 試 み な け れ ば な ら ず ,逆 に 長 く す る と リ ン ク 切 断 の 検 知 が 遅 く な る . 通 信 が 不 安 定 な ほ ど 通 信 に 時 間 が か か る た め , CTO を 長 く す る 必 要 が あ 32 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology り , 通 信 の 不 安 定 性 と 再 送 回 数 は 比 例 し て い る と 考 え ら れ る た め , CTO を再送回数に比例する式で与えた. 通信回線状況悪化により移動局がリリース信号を受信できない場合, CTO の 値 を「 再 送 回 数 ×1 フ レ ー ム 通 信 時 間 」以 下 に 短 縮 す る こ と に よ っ て ,同 一 通 信 領 域 に お い て CTO タ イ ム ア ウ ト に よ り 通 信 リ ン ク を 切 断 し , 通 信 接 続 を や り 直 す こ と が で き る .移 動 局 が リ リ ー ス 信 号 を 受 信 で き な い 場 合 , 同 報 デ ー タ も 未 受 信 と 想 定 す る こ と が で き , 移 動 局 に お い て CTO タ イ ム ア ウ ト に よ り 通 信 切 断 し ,再 度 周 波 数 選 定 か ら や り 直 す こ と で 通 信 不能な時間を短縮し,通信領域内で通信可能な状況となる. 図 2.8 に 同 報 と 個 別 の CTO を 別 管 理 す る 通 信 シ ー ケ ン ス を 示 す . ① 個 別 通 信 開 始 以 降 は ,個 別 通 信 の 双 方 向 デ ー タ 受 信 時 の み CTO を リ セ ッ ト す る . 同 報 デ ー タ 受 信 時 は CTO を リ セ ッ ト し な い . CTO の 値 を 「 再 送 回 数 ×1 フ レ ー ム 通 信 時 間 」 以 下 と す る . ② 移動局の空中線電力は基地局の空中線電力よりも小さいため,通信 が不安定な場合,基地局が個別通信の確認応答を移動局から受信で きないことにより,基地局からの個別通信が届かなくなることがあ る. ③ 双 方 向 デ ー タ 受 信 時 の み リ セ ッ ト さ れ る CTO が タ イ ム ア ウ ト し た 時 点で,基地局と移動局の通信リンクを切断し,再度周波数選定から やり直す. 同報 同報 個別 個別 同報 個別 個別(リトライ) 同報 個別 個別(リトライ)同報 リリース リリース(リトライ)同報 基地局 CTR タイム アウト 通信不安定 通信不安定 移動局 CTO CTO リセット リセット 図 2.8 Figure 2.8 × CTO リセット 「再送回数×1フレーム通信時間」以下 × CTO CTO リセット リセット × CTO リセット CTO タイムアウト 同 報 と 個 別 の CTO 別 管 理 の シ ー ケ ン ス Sequence wherein broadcast and individual CTO are controlled separately. 33 通信 切断 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 提案方式は,基地局と移動局の通信リンク切断判定を改良することが で き , 2.3.5.1 個 別 通 信 が 途 中 で 終 了 す る ケ ー ス に 適 用 で き る と と も に , 基 地 局 が 移 動 局 か ら 応 答 を 受 信 で き ず ,CTR に よ る 通 信 接 続 監 視 が 開 始 さ れ な い ,2.3.5.2 個 別 通 信 が 開 始 で き な い ケ ー ス に も 適 用 で き る .双 方 向 デ ー タ 受 信 時 の み リ セ ッ ト さ れ る CTO が タ イ ム ア ウ ト し た 時 点 で 基 地局と移動局の通信リンクを切断し,再度周波数選定からやり直すこと で,通信領域内で移動局が通信可能な状況となり,接続可能時間が長く なると予測できる. ま た ,2.3.5.3 通 信 接 続 遅 延 に 対 応 す る 通 信 再 接 続 時 間 を 短 縮 す る 方 法 として,リリースタイマの設定を行わない手法が考えられる.リリース タイマを抑制すると,移動局が通常の通信エリアアウト時に同一基地局 と再接続する可能性があるが,通信再接続を迅速に行える手法として使 えるものと考える. 2.4.2 基 地 局 の通 信 帯 域 制 御 の改 良 現行システムではサービスが終了した移動局に対しても,基地局から 送信問い合わせを送信し,通信領域から抜けるときに再送処理が発生す る.複数の移動局が通信領域に存在する場合,先行車によって通信帯域 が占有され,後続車が個別通信を開始できないケースがある.同報・個 別通信混在時には,複数の移動局との同時通信により,1 フレームに割 り当てられる同報通信用スロット数が少なくなり,所望の同報データを 移動局が受信できなくなるケースがある. そこで本章では,基地局からサービスが終了した移動局への送信問い 合 わ せ を 停 止 す る こ と に よ り ,2.3.6.1 個 別 通 信 の 接 続 維 持 動 作 を 改 良 す る制御方式を提案する.基地局においてアプリケーションの移動局との 通信終了条件を定めることにより,移動局に対するサービスの終了を検 知すると,同報通信を継続したまま,サービスが終了した移動局への個 別通信のみ終了させる.移動局に送信する送信問い合わせを停止するこ とで,占有する通信帯域を開放することができる.基地局アプリケーシ ョンは,移動局との双方向のデータ通信の終了を判定する手法により, 移動局に対するサービスの終了を検知する. 図 2.9 に 基 地 局 ア プ リ ケ ー シ ョ ン か ら 個 別 通 信 の み 終 了 さ せ る シ ー ケ 34 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ン ス を 示 す . ARIB STD-T88 で は , 基 地 局 に お い て , DSRC プ ロ ト コ ル と ア プ リ ケ ー シ ョ ン の 間 に ASL を 介 在 し ,DSRC の 通 信 機 能 を 補 完 す る 拡 張 DSRC プ ロ ト コ ル と し て 階 層 構 造 を 持 つ . 移 動 局 に 対 し て リ リ ー ス 信号の送信を抑制することによって移動局は継続して同報データを受信 することができる.下記に個別通信の終了手順を記す. ① 基地局アプリケーションは移動局とのデータ通信の終了条件を判定 する. ② 基地局アプリケーションは移動局に対するサービスの終了を検知す る と , 個 別 通 信 の 終 了 を ASL に 要 求 す る . ③ ASL は 該 当 す る 移 動 局 の 通 信 管 理 を 終 了 し , 送 信 問 い 合 わ せ を 停 止 する. ④ DSRC レ イ ヤ 7 は 該 当 す る 移 動 局 へ リ リ ー ス 信 号 を 送 信 し な い . ⑤ ASL は 移 動 局 へ の 同 報 デ ー タ の 送 信 を 継 続 す る . 基地局 APPL 移動局 ASL DSRC 送信 問い合わせ データ送信(終了) サービスの終了 個別通信終了要求 送信問い合わせを停止 通信切断の通知 通信管理を終了 リリースを送信しない リリース APPL : Application 図 2.9 × ASL : Application Sub-Layer 基地局アプリケーションからの個別通信終了シーケンス Figure 2.9 Sequence of individual communication close by base station application. 35 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 上記処理手順に基づいて個別通信のみ終了することにより,移動局へ の送信問い合わせが通信領域内で終了するため,先行車への通信エリア アウト後の送信問い合わせの再送処理がなくなり,通信帯域の占有を抑 えることができる.これにより通信効率が向上し,後続の移動局が個別 通 信 を 開 始 す る こ と が で き ,2.3.6.2 複 数 移 動 局 の 同 時 接 続 が 制 限 さ れ る ケースが解消される.また,同報通信で利用可能なスロット数を増やす ことにより,通信領域内の複数の移動局と所望のデータ量の情報交換が 可能となる. 2.5 実 証 試 験 2.5.1 通 信 接 続 管 理 の評 価 前節で提案した制御方式による通信接続管理の有効性を評価するため, 「 個 別 通 信 時 の み CTO を リ セ ッ ト す る 」 方 式 , 加 え て 「 CTO の 値 を 短 縮する」方式を適用したシミュレーションを行った.提案方式を適用す ると,通信リンク接続後に通信不安定になった場合,通信リンクを切断 し,通信領域内で当該移動局が基地局と再接続することにより,現行シ ステムと比較して接続可能時間が長くなると予測できる.通信不安定に な っ た 場 合 ,通 信 接 続 管 理 タ イ マ CTO の タ イ ム ア ウ ト に よ り 通 信 リ ン ク を切断し,周波数選定後に再接続するものとした. 文 献 [25] に よ る と ,片 側 2 車 線 で 前 後 車 両 に よ る シ ャ ド ウ イ ン グ と 隣 接 車 両 に よ る シ ャ ド ウ イ ン グ が 発 生 す る と 考 え ら れ , 表 2.1 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 条 件 で シ ャ ド ウ イ ン グ が 発 生 す る 確 率 は 0.08 で あ る こ と か ら , 個 別 通 信 の 応 答 の 内 ,10% が 基 地 局 に 届 か な い よ う に 設 定 し た .こ こ で , 通 信 領 域 を 20m, 通 信 不 安 定 は 通 信 領 域 内 で 一 様 に 発 生 す る と 仮 定 し , 移 動 局 の 周 波 数 選 定 時 間 は ARIB STD-T75 に 規 定 さ れ て い る 9 フ レ ー ム ( 63.28125ms),リ リ ー ス タ イ マ の 設 定 は 行 わ な い と し た .CTO の 値 は , 現 行 シ ス テ ム の 設 定 値 500ms と 提 案 方 式 の 再 送 回 数 ×1 フ レ ー ム 通 信 時 間の 2 ケースについて評価した. 図 2.10 に 提 案 方 式 を 適 用 し た 場 合 の 接 続 可 能 時 間 を 走 行 速 度 別 に 示 す . 比 較 の た め ,「 個 別 通 信 時 の み CTO を リ セ ッ ト す る 」 方 式 , 加 え て 「 CTO の 値 を 短 縮 す る 」方 式 ,及 び 現 行 シ ス テ ム に お い て 通 信 不 安 定 に 36 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology なった場合の接続可能時間を同じグラフ上に示す.図より提案方式を適 用した場合の接続可能時間の向上が見られ,走行速度が高速なほど通信 時 間 が 短 い こ と か ら 「 CTO の 値 を 短 縮 す る 」 方 式 の 効 果 が 大 き い .「 個 別 通 信 時 の み CTO を リ セ ッ ト す る 」 方 式 , 加 え て 「 CTO の 値 を 短 縮 す る」方式を適用することにより,通信接続管理改善の効果があるといえ る. 表 2.1 Table 2.1 シミュレーション条件 Condition of simulation. 2 車線 第 1 車 線 80km/h,第 2 車 線 100km/h 100 台 /km ポアソン分布に従う 車線数 車両速度 車両密度 車両の流れ 3000.0 2684.2 接続可能時間(ms) 2500.0 現行システム 提案方式(個別通信時のみ) 提案方式(個別通信時のみ+CTO短縮) 2559.2 2000.0 1800.0 1500.0 1334.2 1209.2 1000.0 900.0 500.0 884.2 659.2 759.2 600.0 534.2 450.0 524.2 399.2 360.0 0.0 20 図 2.10 Figure 2.10 40 60 80 走行速度(km/h) 100 434.2 309.2 300.0 120 提案方式による走行速度別接続可能時間 Connectibility time of each running speed by proposed methods. 37 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 2.5.2 通 信 帯 域 制 御 の評 価 2.5.2.1 シミュレーション結 果 提案方式による通信帯域制御の有効性を評価するため, 「サービスが終 了すると問い合わせを停止する」方式を適用したシミュレーションを行 った.提案方式を適用すると,サービスが終了した移動局に対する個別 通信の接続維持動作を停止するため,接続維持動作フレームはゼロに近 く な る と 予 測 で き る . DSRC は 基 地 局 の ア ン テ ナ と 移 動 局 の ア ン テ ナ の 距離が比較的短く,見通しによる安定した電波伝搬路を確保することが できる.指向性アンテナと最低受信レベルの設定により安定した通信ゾ ーンを構成すると仮定した. 表 2.2 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 諸 元 に 基 づ き シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 っ た 結 果 ,走 行 速 度 100km/h の 場 合 ,通 信 領 域 20m の 通 過 時 間 720ms 内 に 伝 送 可 能 な ス ロ ッ ト 数 は 714 , 伝 送 可 能 な 情 報 量 は 1 ス ロ ッ ト 容 量 が 183byte で あ る こ と か ら , 130kbyte と な る . 表 2.2 シミュレーション諸元 Table 2.2 Simulation parameters. 同 報 情 報 量 (KB)( 25KB×2 回 ) ア ッ プ リ ン ク 情 報 量 (KB) 同時接続台数 送信問合せ周期 表 2.3 50 4 4 4 フレームに 1 回 シミュレーション結果 Table 2.3 Simulation results. 走 行 速 度 (km/h) 通 信 領 域 20m の 通 過 時 間 (ms) 通信フレーム数 伝送可能なスロット数 伝 送 可 能 な 情 報 量 (KB) 同報通信で使用するスロット数 個別通信で使用するスロット数(4 台) 余剰スロット数(1 台あたり) 余剰フレーム数 余 剰 情 報 量 (KB)( 1 台 あ た り ) 余 剰 の う ち 個 別 通 信 で 使 用 可 能 な 情 報 量 (KB) (1 台あたり) 38 80 100 120 900 128 896 163 277 316 75 49 13.7 6.6 720 102 714 130 277 316 30 23 5.5 3.1 600 85 595 108 277 316 0 6 0.0 0.0 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 上り/下り通信帯域 通信領域を通過する際に伝送可能な情報量(130KB) 余剰情報量 (22KB) 個別通信で使用可能 (12.4KB) 1 2 3 4 同報通信で使用する情報量 (50KB) 1移動局が個別通信で使用する情報量 (14.5KB) 図 2.11 Figure 2.11 走 行 速 度 100km/h の 場 合 の 通 信 帯 域 占 有 図 Figure of communication zone occupation for 100 km/h running speed. 通信領域を通過する際に伝送可能な情報量から,同報・個別通信で使 用 す る 情 報 量 を 差 し 引 い た 余 剰 情 報 量 ( 1 台 あ た り ) は 5.5kbyte, そ の う ち 個 別 通 信 で 使 用 可 能 な 情 報 量 は 3.1kbyte( 1 台 あ た り ) と な る . 従 っ て , ア ッ プ リ ン ク は シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 諸 元 の 4kbyte に 3.1kbyte を 加 算 し た 7.1kbyte の 情 報 量 を 送 信 す る こ と が で き る . 通 信 時 間 720ms 内 の 1 台 あ た り 通 信 容 量 は 同 報 50kbyte, ア ッ プ リ ン ク 7.1kbyte と な り , 所望の情報量を同時に受送信完了することができる.以上より,通信帯 域制御の効果があるといえる. 表 2.2 に シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 諸 元 , 表 2.3 に シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 , 図 2.11 に 走 行 速 度 100km/h の 場 合 の 通 信 帯 域 占 有 図 を 示 す . 2.5.2.2 通 信 試 験 結 果 通信試験により,提案方式による通信帯域制御の効果を確認した.屋 外 テ ス ト コ ー ス に て 1 台 の 基 地 局 と 4 台 の 移 動 局 を 用 い て ,同 報 50kbyte, ア ッ プ リ ン ク 4kbyte を 4 台 の 移 動 局 が 走 行 速 度 100km/h で 受 送 信 完 了 する通信時間を計測した.現行システムでは,複数の移動局との通信接 続を維持するために,通信フレームのスロット割り付けにおいて,個別 通信の接続維持動作フレームが挿入されると考えられる.この接続維持 動作フレームによって個別通信帯域が占有されることから,個別通信で 使 用 可 能 な 情 報 量 が 少 な く な り ,通 信 時 間 720ms 内 で 送 信 可 能 な ア ッ プ リンク情報量が限定される. 39 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 現 行 シ ス テ ム と 提 案 方 式 の 通 信 試 験 結 果 を 図 2.12 に 示 す .現 行 シ ス テ ム で は ,4 台 の 移 動 局 が 720ms 内 に 同 報 50kbyte,ア ッ プ リ ン ク 4kbyte を 同 時 に 受 送 信 完 了 す る 割 合 は 16%で あ る . 提 案 方 式 は 現 行 シ ス テ ム と 比 較 し て , 通 信 時 間 が 150ms 程 度 短 縮 さ れ , 4 台 の 移 動 局 が 720ms 内 に 同 報 50kbyte,ア ッ プ リ ン ク 4kbyte を 同 時 に 受 送 信 完 了 す る 割 合 は ほ ぼ 100%で あ る . 以 上 よ り , 通 信 帯 域 制 御 の 効 果 が 確 認 で き た . 100.0% 43.0% 41.4% 40.0% 現行システム 提案方式 累計(現行システム) 累計(提案方式) 34.5% 30.0% 22.0% 20.0% 10.4% 10.0% 6.9% 3.4% 0.0% 0.0% t≦ 4 70 47 0< t≦ 5 52 0< 4.0% 3.4% 20 t≦ 5 70 57 0< t≦ 6 20 62 0< t≦ 6 70 67 0< t≦ 7 20 72 0< 60.0% 40.0% 16.0% 10.0% 80.0% t≦ 7 70 77 0< t≦ 20.0% 4.0% 0.0% 8 20 82 0< t≦ 8 70 87 0< t≦ 9 20 92 0< t≦ 9 累計割合 通信時間毎の割合 50.0% 70 97 0< 0.0% t 通信時間(ms) 図 2.12 Figure 2.12 現行システムと提案方式の通信試験結果 Communication test results by present systems and proposed methods. 2.6 むすび 本章では,路車間通信において,1つの基地局が複数の移動局に対し て同報通信の情報提供サービスと個別通信のアップリンク情報サービス を同時に提供する,同報・個別通信混在環境で安定したサービスを提供 す る た め に , 5.8GHz 帯 DSRC を 前 提 と し て 既 存 の 標 準 規 格 の 拡 張 に よ り通信特性を改善する制御方式について研究した. 通信接続に関する課題を解決するために移動局の通信接続管理に着目 し ,移 動 局 の 通 信 接 続 管 理 タ イ マ に よ る 通 信 リ ン ク 切 断 判 定 を 改 良 し た . 通信不安定になった場合も再接続により接続可能時間を確保する制御方 式を提案した.さらに,通信帯域に関する課題を解決するために基地局 の通信帯域制御に着目し,基地局の移動局に対する通信接続維持動作を 40 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 改 良 し た .占 有 す る 通 信 帯 域 を 開 放 す る こ と に よ り 通 信 効 率 を 向 上 さ せ , 基地局が通信領域内の複数の移動局と所望のデータ量の情報交換を可能 とする方式を提案した. 実証試験の結果,提案方式による通信接続管理改善及び通信帯域制御 の効果を確認し,提案方式の適用により 4 台の移動局が走行速度 100km/h で 720ms 内 に 同 報 50kbyte, ア ッ プ リ ン ク 4kbyte を 同 時 に 受 送信完了することを確認し,提案方式の有効性を評価した. 今後は,走行試験により通信不安定や高速走行での電波環境において 提案方式の有効性を評価するとともに,受送信する情報量に応じて同 報・個別通信双方の通信帯域利用効率を向上させるスロット配置につい てさらに改良し,通信帯域の損失を解消,安定したサービスを提供する システムを構築する所存である. 41 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 第 3章 車 のネットワーク化 と電 気 自 動 車 (EV)への ICT 適 用 3.1 まえがき 低 炭 素 社 会 実 現 の た め , 環 境 に 配 慮 し た 電 気 自 動 車 ( EV : Electric Vehicle) の 導 入 が 進 め ら れ て い る . EV は 1 回 の 充 電 で の 走 行 可 能 距 離 に 制 約 が あ る ,現 時 点 で は 充 電 設 備 の 設 置 箇 所 が 少 な い ,ま た ,EV は レ ン タ カ ー や カ ー シ ェ ア リ ン グ で の 利 用 に よ り 1 台 の EV を 複 数 の 利 用 者 がシェアして利用するケースが想定され,従来の燃料補給の考え方を適 用できない,などの課題がある.一方,停車中に電気が使える,通信ネ ッ ト ワ ー ク を 組 み 込 み や す い な ど の 特 性 が あ る .EV 導 入 促 進 の た め に は , EV を 安 心 し て 利 用 す る 方 法 と し て ,充 電 残 量 や 最 寄 り の 充 電 ス テ ー シ ョ ン の 情 報 を リ ア ル タ イ ム に 提 供 す る と と も に ,EV 充 電 電 力 マ ネ ジ メ ン ト と し て EV の 電 力 需 要 を 把 握 し , 充 電 ス テ ー シ ョ ン で の 効 率 的 な 充 電 ス ケ ジ ュ ー リ ン グ を 行 う ITS サ ー ビ ス が 必 要 で あ る . こ の よ う な サ ー ビ ス を提供するシステムの課題は以下の 2 点で,外部通信ネットワークと車 載ネットワークとの接続による,高速で高品質,セキュリティ性の高い 通信手段と,通信システム上で動作するサービスアプリケーションの開 発が要求される. 車 両 の 状 態 変 化 を 即 時 に 検 知 し ,車 両 内 に 確 実 に 情 報 提 供 す る と と も に ,車 両 を 遠 隔 操 作 す る こ と に よ り ,リ ア ル タ イ ム に 車 両 状 態 を 変 化 さ せ る こ と . こ こ で , 車 両 の 状 態 変 化 と は , EV 充 電 残 量 の 低 下 を 対 象 と す る .ま た ,車 両 を 遠 隔 操 作 す る と は ,充 電 の 遠 隔 操 作 や エ ア コ ン ス イ ッ チ の 乗 車 前 作 動 を 想 定 し て お り ,自 動 運 転 の 遠 隔 制 御 を 意 味 するものではない. 通 信 に よ り 収 集 し た 車 両 情 報 に 基 づ き ,最 寄 り の 充 電 ス テ ー シ ョ ン の 情 報 を 生 成 す る と と も に ,充 電 ス テ ー シ ョ ン で の 効 率 的 な 充 電 ス ケ ジ ューリングを行うこと. これまで車両状態監視システムとして,携帯電話等の広域通信網を用 い る 方 法 が 実 用 化 さ れ て い る [26] . 車 両 の 状 態 変 化 を 検 知 す る と , 広 域 通信網により情報センタ等に情報集約するが,情報が外部に通知され, センタ等にて情報生成・提供するため,ドライバや車両管理者が即時対 42 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 応することが困難である.また,車両に搭載されているカーナビゲーシ ョ ン を 使 用 す る シ ス テ ム が 車 両 に 実 装 さ れ て い る [27] が ,セ ン タ で 情 報 管 理 し な い セ ン タ レ ス シ ス テ ム [28] で は 自 車 の 状 態 し か 把 握 で き ず ,管 理 対 象 と す る EV 全 体 の 情 報 を 把 握 す る こ と が で き な い . 本章では,これらの課題を解決するため,広域通信網と路車間通信及 び 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク を 連 携 し た ICT シ ス テ ム を 提 案 す る .提 案 す る「 EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム 」 は , 走 行 中 に 充 電 残 量 を 収 集 し , EV ル ー ト周辺の最寄りの充電ステーションの場所と利用状況を案内するととも に , 充 電 ス テ ー シ ョ ン で の EV の 効 率 的 な 充 電 ス ケ ジ ュ ー リ ン グ を 行 う システムである.広域通信網及び路車間通信により車両の状態変化を即 時に検知すると,情報センタで車両情報を管理し,センタ及び路側無線 装置から車両を遠隔操作し,リアルタイムに車両状態を変化させること により即時対応を可能とする.具体的には,広域通信網と路車間通信及 び車載ネットワークを接続する通信プロトコルを開発し,センタ及び路 側無線装置から車載器を介して車両データの読み出しと車両の遠隔操作 を行う,車載システムと路側システムを開発した.実験システムにより 実証試験を行い,通信システム上で動作するサービスアプリケーション を 開 発 す る こ と に よ り , 提 案 シ ス テ ム が EV 車 内 で の 安 心 感 向 上 と 充 電 ス テ ー シ ョ ン で の 利 便 性 ・ 快 適 性 向 上 に お い て , 有 効 な ITS サ ー ビ ス を 提供することを評価した. 以 下 ,3.2 節 で 関 連 研 究 ,3.3 節 で 外 部 通 信 ネ ッ ト ワ ー ク と 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク の 相 互 接 続 に つ い て 述 べ た の ち , 3.4 節 で EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム を 提 案 し ,3.5 節 で 具 体 的 な 車 載 シ ス テ ム と 路 側 シ ス テ ム の 開 発 に つ い て 解 説 す る .3.6 節 で 実 験 シ ス テ ム に よ る 実 証 試 験 に つ い て 説 明 し , 最 後 に 3.7 節 で 本 章 を ま と め る . 3.2 関 連 研 究 ICT の 車 へ の 実 用 展 開 と し て , 携 帯 電 話 と カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン を 統 合 したテレマティクスや路車間通信による安全運転支援システムが実用化 さ れ て い る .テ レ マ テ ィ ク ス で は 3.5G 携 帯 電 話 シ ス テ ム に 加 え ,モ バ イ ル WiMAX が 利 用 さ れ て い る . 安 全 運 転 支 援 シ ス テ ム で は , 既 存 の 道 路 43 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 交 通 情 報 シ ス テ ム ( VICS) に 加 え て , 5.8GHz 帯 DSRC 路 車 間 通 信 [22] を 採 用 し た ITS ス ポ ッ ト サ ー ビ ス ( 新 VICS) に よ り , ETC 機 能 を 併 せ 持 つ ITS 車 載 器 に 対 し て 道 路 交 通 状 況 や 予 防 安 全 情 報 が 提 供 さ れ る . 車両状態監視システムとしては,携帯電話等の広域通信網によって情 報センタに情報を集約する広域通信システムが実用化され,さらに,車 両に搭載されているカーナビゲーションを使用する,センタで情報管理 しないセンタレスシステムが車両に実装されている. 広 域 通 信 シ ス テ ム は ,サ ー ビ ス エ リ ア に 関 す る 制 約 は ほ と ん ど な い が , 情報提供がプル型であり,特定のエリアに存在する車両全てに対するプ ッシュ型の情報配信には不向きである.センタレスシステムはセンタ運 営 費 が 不 要 で あ る が , 自 車 の 情 報 に 限 定 さ れ , 管 理 対 象 と す る EV 全 体 の 情 報 を 把 握 し ,電 力 需 要 管 理 を 行 う こ と が で き な い .ま た ,EV に 最 寄 りの充電ステーションの情報を提供するためには,事前にオフラインで 充電ステーションの情報等をダウンロードしておく必要がある.これら に対して路車間通信システムは,サービスエリアが路側装置近傍に限定 さ れ , 30m 程 度 で あ る . し か し , 通 信 領 域 内 の 車 両 か ら リ ア ル タ イ ム で 情報が収集でき,情報センタで収集した車両情報を管理し,同時にプッ シュ型で確実な情報提供が行えるというメリットがある.また,限定さ れた路側装置との通信のため,セキュリティ性が高い.一方,サービス 範 囲 を 面 的 に カ バ ー す る と 路 側 装 置 設 置 費 用 が 必 要 と な る [29] . そ こ で 本章では,広域通信と路車間通信を連携し,両方のメリットを活かした システムを提案する. 3.3 外 部 通 信 ネットワークと車 載 ネットワークの相 互 接 続 3.3.1 路 車 間 通 信 本 章 で は , 路 車 間 通 信 と し て ETC な ど に 用 い ら れ て い る 5.8GHz 帯 DSRC を 採 用 す る . DSRC は ARIB STD-T75 [9], STD-T88 [23] に 準 拠 し , 通 信 領 域 が 比 較 的 狭 い こ と , 伝 送 速 度 が 速 い ( 4Mbps) こ と な ど を 特 長 と し て い る .DSRC は 基 地 局 位 置 を 中 心 と し た 直 径 30m の 範 囲 を 通 信領域として安定した通信ゾーンを構成し,1 つの基地局が複数の移動 局と同時に通信を行うが,シャドウイング等により通信回線状況が悪化 44 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology し,通信不安定になることがあるものとする. ARIB STD-T88 で は 1 つ の 通 信 フ レ ー ム を 時 分 割 し て 複 数 ス ロ ッ ト に 分け,それぞれのスロットに各移動局向けのデータを割り付けることが 規定されている.基地局においてデータ分割,移動局で組立を行う通信 制御により,通信フレーム中の複数スロットを同一移動局に多重化して 割り付け,通信スロットを有効利用することで実効伝送速度の向上を図 っている.基地局は,移動局への転送データがない場合に,移動局に対 してポーリングにより周期的に送信問い合わせを行う.移動局は送信デ ータを保持している場合,ポーリングに応答することでデータを送信で きる.移動局に送信するデータがない場合は,データがないことを基地 局に通知する.基地局は応答の有無によって移動局の存在を監視するこ とができる. 3.3.2 広 域 通 信 網 本 章 で は , 広 域 通 信 網 と し て 現 在 主 流 の 3.5G 通 信 回 線 を 採 用 す る . 3.5G 通 信 回 線 は 既 に サ ー ビ ス を 提 供 し て お り ,先 進 国 都 市 部 に 普 及 し て いる.車両情報のアップリンク,ドライバへの情報提供をタイムリに行 うため,リアルタイム性が必要であり,郊外や山間部でもできる限り常 時接続できる方式とする.通信速度は,車両情報のアップリンクのため に は 100kbps 程 度 , ド ラ イ バ へ の 情 報 提 供 の た め に は 1Mbps あ れ ば ス トレスなく利用できると想定される. 3.3.3 車 載 ネットワーク 本 章 で は , 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク と し て CAN を 採 用 す る . CAN は ISO 11898 [31] に て 国 際 標 準 化 さ れ た シ リ ア ル 通 信 プ ロ ト コ ル で , 国 産 の 自 動 車 へ も 普 及 し て い る 代 表 的 な 自 動 車 用 LAN プ ロ ト コ ル で あ る .欧 州 に お い て は 制 御 系 に も 適 用 さ れ て い る .制 御 系( 高 速 系 )CAN と ボ デ ィ 系 ( 低 速 系 )CAN で は 用 途 に 応 じ て 分 化 し て お り ,例 え ば バ ス イ ン タ フ ェ ース(通信)回路は,低速系では 2 線式差動電圧型回路が,高速系では 2 線 式 平 衡 電 流 型 回 路 が 採 用 さ れ て い る . CAN は , バ ス に 対 し て 最 初 に 送 信 を 開 始 し た ユ ニ ッ ト が 送 信 権 を 得 る こ と が で き る CSMA/CR ( Carrier Sense Multiple Access with Collision Resolution ) [32] を 用 い た マ ル チ マ ス タ 方 式 の バ ス 構 成 で あ る .CAN は 接 続 さ れ る 全 て の ユ ニ 45 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ッ ト が メ ッ セ ー ジ の 送 信 を 開 始 す る こ と が で き ,最 大 1Mbps の 高 速 通 信 が可能である. 3.3.4 要 求 条 件 EV は 1 回 の 充 電 で の 走 行 可 能 距 離 に 制 約 が あ る , 現 時 点 で は 充 電 設 備 の 設 置 箇 所 が 少 な い ,ま た ,EV は レ ン タ カ ー や カ ー シ ェ ア リ ン グ で の 利 用 に よ り 1 台 の EV を 複 数 の 利 用 者 が シ ェ ア し て 利 用 す る ケ ー ス が 想 定され,従来の燃料補給の考え方を適用できない,などの課題がある. 一方,停車中に電気が使える,通信ネットワークを組み込みやすいなど の 特 性 が あ る . 本 章 で 提 案 す る EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム で は , こ れらの課題と特性に対応した,外部通信ネットワークと車載ネットワー クとの接続による,高速で高品質,セキュリティ性の高いシステムが要 求される.ここで,システムが満たすべき要求条件を以下にまとめる. ① 充電残量や走行履歴などの車両情報を走行中に任意のタイミングで 収集することが可能で,車両内に情報提供を行えること. ② 車 両 を 遠 隔 操 作 し ,リ ア ル タ イ ム に 車 両 状 態 を 変 化 さ せ る こ と .通 信 接 続 か ら 制 御 開 始 ま で の 時 間 が 短 く ,情 報 伝 送 が 高 速 で 低 遅 延 で あ る こと. ③ 車 載 シ ス テ ム の 構 成 ・ 能 力 に 応 じ た 情 報 提 供 が 可 能 な こ と .車 載 器 単 体 シ ス テ ム か ら ス マ ー ト フ ォ ン 連 携 シ ス テ ム ,比 較 的 高 リ ソ ー ス な カ ーナビゲーション連携システムまで多種多様な車載システムに対応 すること. ④ セキュリティ性の高い情報伝送が可能であること. ⑤ サ ー ビ ス の 追 加 や 拡 張 に 機 器 構 成 の 変 更 が な く ,ア プ リ ケ ー シ ョ ン ソ フトウェアの追加・変更により対応可能なこと. 3.4 EV 向 け ITS 情 報 通 信 システム 前節で整理した要求条件を満足するシステムとして,広域通信網と路 車 間 通 信 及 び 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク を 活 用 し た EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム を 提 案 す る . 提 案 シ ス テ ム で は , 路 車 間 通 信 と し て DSRC, 広 域 通 信 網 と し て 3.5G 通 信 回 線 , 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク と し て CAN を 採 用 す る . 本 節 で は EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム の シ ス テ ム 構 成 に つ い て 述 べ た の 46 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ち ,DSRC と 3.5G 通 信 回 線 及 び CAN を 接 続 す る 通 信 プ ロ ト コ ル に つ い て述べる. 3.4.1 システム構 成 EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム は , 情 報 セ ン タ ・ 路 側 シ ス テ ム ・ 路 側 無 線 装 置( ア ン テ ナ )・ 車 載 器 ・ 情 報 提 供 機 器( カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン ,ス マ ー ト フ ォ ン )・ EV か ら 構 成 さ れ る . 車 載 器 は , カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン , 車 両 ECU( Electronic Control Unit) 及 び 広 域 通 信 網 と イ ン タ フ ェ ー ス を 持 ち , CAN イ ン タ フ ェ ー ス に よ り ECU を 制 御 す る と と も に , カ ー ナ ビゲーションへ情報提供を行う.センタ及び路側アンテナと車載器が周 期的に通信を行い,車両の状態変化を検知すると車両内に情報提供を行 うとともに,車載器を介して車両を遠隔操作し,車両状態を変化させる シ ス テ ム で あ る .EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム の シ ス テ ム 構 成 を 図 3.1 に示す. 情報センター 広域通信網 路側無線装置 (路側システム) 路側アンテナ DSRC カーナビゲーション スマートフォン EV 車載器 CAN ECU 図 3.1 Figure 3.1 EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム の 構 成 Configuration of ITS information communication system for EV. EV ル ー ト 周 辺 の 最 寄 り の 充 電 ス テ ー シ ョ ン の 場 所 と 利 用 状 況 を 情 報 提 供 す る た め に は ,EV の 充 電 残 量 や 走 行 履 歴 ,及 び 充 電 ス テ ー シ ョ ン の 47 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 利 用 状 況 を リ ア ル タ イ ム に 情 報 セ ン タ で 管 理 し て い る 必 要 が あ る .ま た , EV 電 力 需 要 を 把 握 し ,充 電 ス テ ー シ ョ ン で の 効 率 的 な 充 電 ス ケ ジ ュ ー リ ングを行うためには,自車の情報を把握するだけでなく,地域やカーシ ェ ア リ ン グ で 管 理 対 象 と す る EV 全 体 の 充 電 状 況 を 把 握 し , 情 報 セ ン タ で管理できるシステム構成が必要である. 3.4.2 通 信 プロトコル DSRC ま た は 3.5G 通 信 回 線 と CAN を 接 続 す る 通 信 プ ロ ト コ ル ,及 び DSRC と 3.5G 通 信 回 線 を 連 携 す る 通 信 プ ロ ト コ ル を 開 発 し ,路 車 間 の み ならず,広域通信網及び車載ネットワークとの相互接続も追加した通信 基 盤 を 構 築 す る .こ れ ら の 通 信 プ ロ ト コ ル に よ り ,3.3.4 項 要 求 条 件 ① の 車両情報収集と車両内への情報提供,要求条件②の車両遠隔操作が実現 できる. 3.4.2.1 DSRC プラットフォーム DSRC プ ラ ッ ト フ ォ ー ム は , DSRC を 活 用 し た 多 様 な ITS ア プ リ ケ ー シ ョ ン ( AP) を 効 率 的 に 開 発 ・ 動 作 さ せ る た め の 共 通 基 盤 で あ り , こ れ によりアプリケーションの追加・変更を容易にするものである.即ち, DSRC プ ロ ト コ ル と ア プ リ ケ ー シ ョ ン ソ フ ト ウ ェ ア 間 の 汎 用 的 な イ ン タ フェース及び各種アプリケーションで共通化が可能な基本アプリケーシ ョ ン を ソ フ ト ウ ェ ア 共 通 基 盤 と し て 提 供 す る [33] . こ れ に よ り , 要 求 条 件⑤のアプリケーションソフトウェアの追加・変更対応が満足される. 3.4.2.2 プロトコルスタック 本 章 で 提 案 す る EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム の た め の , 路 側 シ ス テ ム-車載システム-車載ネットワークを繋ぐプロトコルスタックを図 3.2 に 示 す .路 側 シ ス テ ム の 情 報 提 供 ア プ リ ケ ー シ ョ ン と 車 両 状 態 監 視 ア プ リ ケ ー シ ョ ン を , DSRC 通 信 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム を 下 位 層 と す る DSRC アプリケーションとして構築する.これにより,路側システムの車両状 態 監 視 ア プ リ ケ ー シ ョ ン か ら 車 載 シ ス テ ム の CAN イ ン タ フ ェ ー ス( I/F) を介して,車載ネットワークの車両データ読出及び車両制御データ書込 を実現する.また,車載システムが車載器とカーナビゲーションなどの 外部機器から構成されることを想定し,車載システムのアプリケーショ ン構成を,路車間通信を担当するプロトコル処理と情報提供アプリケー 48 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ションの 2 階層とした.さらに,カーナビゲーション及び広域通信網と のインタフェースを用意することで,情報提供アプリケーションをカー ナビゲーション上に搭載することを可能とした.これにより,要求条件 ③の車載システムの構成に応じた情報提供が実現できる. カーナビゲーション 広域通信網 ナビゲーション システム 広域通信 モジュール 車載システム 路側システム 情報提供 車両状態 AP 監視 AP 基本アプリケーション ETC 処理 車載ネットワーク カーナビ 連携 プロトコル 広域通信 連携 プロトコル CAN I/F ECU CAN I/F 基本アプリケーション プロトコル処理 プロトコル処理 DSRC通信 DSRC通信 DSRC 図 3.2 プロトコルスタック Figure 3.2 Protocol stack. 3.4.3 通信シーケンス (1) 路 側 シ ス テ ム と 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク を 接 続 す る 通 信 シ ー ケ ン ス 路側システムのアプリケーションから車載システムを介して,車載ネ ットワークの車両データ読出及び車両制御データ書込を行うための路側 シ ス テ ム と 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク を 接 続 す る 通 信 シ ー ケ ン ス を 図 3.3 に 示 す . ① 車両データ読出しシーケンス 車 載 器 の CAN イ ン タ フ ェ ー ス は CAN バ ス か ら メ ッ セ ー ジ ID と デ ー タ を 読 み 取 り , CAN 受 信 メ モ リ に 保 存 ・更 新 す る . 車 載 器 制 御 部 は CAN 受信メモリを周期的に参照し,車載器制御部に登録されているメッセー ジ ID と 一 致 す る 受 信 デ ー タ を 取 り 出 し ,車 両 ス テ ー タ ス 情 報 と し て メ モ リ タ グ に 保 存 す る .路 側 シ ス テ ム は , 「 メ モ リ 読 出 し 要 求 コ マ ン ド 」に よ り,車載器のメモリタグからデータを読み出す.車載器制御部はメモリ 読出し要求コマンドを正常終了後,メモリタグの内容を初期化する. 49 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 路側システム 路側 AP 車載システム 路側 DSRC 車載器 DSRC 車載ネットワーク 車載器 制御部 車載器 車両 CAN I/F CAN I/F ECU CAN セットアップ データ保存 データ更新 (繰返し) CAN 受信 CAN 受信 (繰返し) DSRC 初期接続 DSRC 機器認証・セキュリティ 車両ステータス 読出し CAN 読取り データ送信 メモリ読出し要求 コマンド メモリ読出し応答 コマンド 車両制御コマンド 書込み 車両制御コマンドを ECU コマンドに変換 メモリ書込み要求 コマンド ECU コマンド 書込み要求 ACK 受信 メモリ書込み応答 コマンド 図 3.3 路側システムと車載ネットワークを接続する通信シーケンス Figure 3.3 Communication sequence for connecting roadside with in-vehicle network. ② 車両制御データ書込みシーケンス 路側システムは, 「 メ モ リ 書 込 み 要 求 コ マ ン ド 」に よ り ,車 両 制 御 コ マ ンドを車載器のメモリタグに書き込む.車載器制御部は,車両制御コマ ン ド を ECU コ マ ン ド に 変 換 し , CAN イ ン タ フ ェ ー ス に よ り 送 信 す る . ECU コ マ ン ド の 内 容 は 車 種 毎 に 異 な る こ と が あ る た め ,車 両 制 御 コ マ ン ド と ECU コ マ ン ド の 変 換 表 を 用 意 す る . 車 載 器 制 御 部 は , ECU コ マ ン ド の 実 行 結 果 を ,車 載 器 DSRC 部 か ら 路 側 シ ス テ ム に 送 信 す る .ECU コ 50 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology マンドを正常終了したら「メモリ書込み応答コマンド」で路側システム に 応 答 す る .失 敗 し た 場 合 は ,路 側 シ ス テ ム に 対 し , 「車載器否定応答コ マンド」を返し,終了する. (2) 広 域 通 信 網 と 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク を 接 続 す る 通 信 シ ー ケ ン ス 車載システムは,広域通信網によりセンタに車両ステータス情報を周 期的にアップリンクする.車両ステータス情報のアップリンクは,セン タに対して車載システムへの提供情報の有無を確認するポーリングとし ての役割を持つ.センタは車両ステータス情報のアップリンクに対する 応答として,必要に応じて,センタが車載システムに提供する情報を識 別 す る た め の URI( Uniform Resource Identifier) 情 報 を 車 載 シ ス テ ム に 送 信 す る .車 載 シ ス テ ム は URI を セ ン タ に 送 信 す る こ と で ,カ ー ナ ビ ゲーション向けのコンテンツや情報を受信する.広域通信網と車載ネッ ト ワ ー ク を 接 続 す る 通 信 シ ー ケ ン ス を 図 3.4 に 示 す . 車載システム センタシステム 広域通信 I/F 車載ネットワーク 車載器 制御部 車載器 車両 CAN I/F CAN I/F カーナビゲーション CAN セットアップ データ保存 車両ステータス情報(メッセージ通知) データ更新 (繰返し) CAN 受信 CAN 受信 (繰返し) URI(メッセージ通知応答) URI(メッセージ要求) コンテンツ or 情報(メッセージ要求応答) コンテンツ or 情報 情報表示 図 3.4 広域通信網と車載ネットワークを接続する通信シーケンス Figure 3.4 Communication sequence for connecting wide area with in-vehicle network. (3) 路 車 間 ・ 広 域 通 信 連 携 の 通 信 シ ー ケ ン ス 路側システムは,車載器が通信領域に入ると,必要に応じて路車間通 51 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 信 の プ ッ シ ュ 型 情 報 配 信 に よ り カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン 向 け の URI 情 報 を 送 信 す る .車 載 シ ス テ ム は ,広 域 通 信 網 に よ り URI に 接 続 し ,カ ー ナ ビ ゲ ーション向けのコンテンツや情報を受信する.路車間通信と広域通信の 連携により,路側装置周辺のローカルな充電施設情報や広告情報等をタ イムリに車載システムに提供することが可能となる.路車間・広域通信 連 携 の 通 信 シ ー ケ ン ス を 図 3.5 に 示 す . 路側システム センタシステム 路側 AP 車載システム 広域通信 I/F 路側 DSRC 車載器 DSRC カーナビゲーション 車載器 制御部 プッシュ型情報配信 (URI) URI(メッセージ要求) コンテンツ or 情報(メッセージ要求応答) コンテンツ or 情報 情報表示 図 3.5 Figure 3.5 路車間・広域通信連携の通信シーケンス Communication sequence for combining road to vehicle with wide area communications. 3.5 実 験 システムの開 発 前 節 で 提 案 し た EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム に つ い て 実 証 試 験 に よ りその有効性を評価するために実験システムを開発した.本節では具体 的な車載システムと路側システムの実装について述べる. 3.5.1 車 載 システム 車載システムは,車載器とそれと接続されるカーナビゲーション,車 両 ECU 及 び 広 域 通 信 網 と の イ ン タ フ ェ ー ス を 含 め た も の と す る .車 載 シ ス テ ム は ,車 載 ネ ッ ト ワ ー ク と 接 続 し て 指 定 し た 車 両 情 報 を 収 集 し ,CAN イ ン タ フ ェ ー ス に よ り ECU を 制 御 す る と と も に ,DSRC に よ り 路 側 無 線 装置と通信を行い,広域通信インタフェースによりセンタへ車両情報を 52 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 集約し,カーナビゲーションへ情報提供する機能を実装する. 3.5.1.1 車載器 車 載 器 は , ITS 車 載 器 DSRC 部 標 準 仕 様 [34] に 準 拠 し , DSRC 通 信 機 能 ,広 域 通 信 網 接 続 機 能 ,ECU 接 続 機 能 ,及 び カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン 接 続 機 能 を 有 す る .ま た ,車 両 が 駐 車 中( イ グ ニ ッ シ ョ ン OFF 状 態 )に DSRC 通信により車載器を起動できること,駐車中の車載器の消費電力は十分 に小さいこととして,駐車中に低消費電力状態に移行する機能と伝送路 の電位変化を検知してウェークアップする機能を設ける. 3.5.1.2 ECU インタフェース センタ及び路側システムから車両状態を監視し,車両を遠隔操作する た め , 車 載 器 - ECU 間 の イ ン タ フ ェ ー ス を 実 装 す る . ECU イ ン タ フ ェ ー ス は , DSRC プ ラ ッ ト フ ォ ー ム の 基 本 ア プ リ ケ ー シ ョ ン を 利 用 し て , セ ン タ 及 び 路 側 シ ス テ ム か ら CAN イ ン タ フ ェ ー ス に よ り 指 定 し た 車 両 ステータス情報の読出し,車両制御データの書込みを行う.通信シーケ ン ス は DSRC と CAN を 接 続 す る 通 信 プ ロ ト コ ル に 従 う . ま た , 特 定 の 路 側 無 線 装 置 以 外 か ら の ECU へ の ア ク セ ス を 防 止 し ,セ キ ュ リ テ ィ 性 の 高 い 情 報 伝 送 を 可 能 と す る . ECU イ ン タ フ ェ ー ス 部 の CAN イ ン タ フ ェ ースと通信制御部の機能要件を以下に述べる. (1) CAN イ ン タ フ ェ ー ス ① 電 気 仕 様 は ISO 11898-2 [35], 11898-3 [36] に 準 拠 す る . ② 通 信 パ ラ メ ー タ は CAN-B( 低 速 系 ) 及 び CAN-C( 高 速 系 ) に 準 拠 し ,高 速 系 の 通 信 速 度 は 500kbps,サ ン プ リ ン グ 周 期 は 500msec と する. (2) 通 信 制 御 部 ① 通 信 制 御 部 は ,周 期 的 に ECU の ス テ ー タ ス 情 報 を 読 み 出 し ,メ モ リ タグに保存し,最新データに更新する. ② 路 側 シ ス テ ム か ら 書 込 み 要 求 を 受 け 付 け る と ,通 信 制 御 部 は ECU コ マ ン ド に 変 換 し , CAN イ ン タ フ ェ ー ス に よ り 送 信 す る . ③ 路 側 シ ス テ ム か ら 通 信 制 御 部 へ の 読 出 ・ 書 込 は , DSRC セ キ ュ リ テ ィ プ ラ ッ ト フ ォ ー ム ( DSRC-SPF ) を 経 由 し た , 基 本 ア プ リ ケ ー シ ョンのメモリアクセスからのみ受け付ける.さらに,メモリタグに 53 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology パ ス ワ ー ド を 設 定 し ,特 定 の 路 側 無 線 装 置 の み 読 出・書 込 可 能 と し , ECU デ ー タ 及 び 車 両 ス テ ー タ ス 情 報 の 盗 聴 ・ 改 ざ ん を 防 止 す る .こ れ に よ り ,3.3.4 項 要 求 条 件 ④ の セ キ ュ リ テ ィ 性 の 高 い 情 報 伝 送 が 満 足される. 3.5.1.3 広域通信インタフェース センタから車両状態を監視し,センタへ車両ステータス情報を周期的 に送信するとともに,カーナビゲーションへ情報提供を行うため,車載 器-広域通信網間のインタフェースを実装する.広域通信インタフェー スにより,充電残量や走行履歴等のアップリンク情報の収集,充電施設 情 報 等 の ダ ウ ン リ ン ク 情 報 の 提 供 , HTML ( Hyper Text Markup Language) に よ る イ ン タ ー ネ ッ ト 接 続 等 を 行 う . 3.5.1.4 カーナビゲーションインタフェース センタ及び路側システムからカーナビゲーションへの情報提供を行う ため,車載器-カーナビゲーション間のインタフェースを実装する.カ ーナビゲーションインタフェースにより,道路交通情報等のダウンリン ク 情 報 の 提 供 , 走 行 履 歴 等 の ア ッ プ リ ン ク 情 報 の 収 集 , HTML に よ る イ ンターネット接続等を行う.カーナビゲーションインタフェース部の通 信部と通信制御部の機能要件を以下に述べる. (1) 通 信 部 ① 通 信 方 式 は USB バ ー ジ ョ ン 1.1 以 上 と す る . ② 車 載 器 は USB デ バ イ ス ,USB ホ ス ト は カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン と す る . ③ 実 効 通 信 速 度 は 4Mbps 以 上 と す る . (2) 通 信 制 御 部 ① 基 本 ア プ リ ケ ー シ ョ ン 及 び PPPCP( Point-to-Point Protocol Control Protocol ) な ど , 複 数 の デ ー タ 形 式 及 び こ れ ら を 利 用 し た ア プ リ ケ ーションに対応する. ② DSRC 部 で の デ ー タ 受 信 後 , 通 信 部 へ の デ ー タ 転 送 遅 延 は 10msec 以下とする. ③ 車載器とカーナビゲーションとの相互認証,データの暗号化・復号 化に対応可能とする. 54 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 3.5.2 路 側 システムとサービスアプリケーション 路側システムは,情報提供アプリケーションと車両状態監視アプリケ ーション,及び路側無線装置(アンテナ)を含めたものとする.路側シ ステムの車両状態監視アプリケーションから車載システムを介して車両 状態を監視し,車両を遠隔操作するとともに,車両内に情報提供する機 能 を 実 装 す る . 路 側 シ ス テ ム の 構 成 を 図 3.6 に 示 す . 情報提供アプリケーションは,カーナビゲーションへ情報提供するダ ウンリンク情報の生成を行う.車両状態監視アプリケーションは,基本 機 能 と し て ,路 側 無 線 装 置 か ら 車 両 ID を 読 み 込 み ,登 録 車 両 の 確 認 を 行 う 機 能 ,及 び CAN イ ン タ フ ェ ー ス に よ り 車 両 情 報 の 読 出・書 込 を 行 う 機 能を有する.加えて,車両監視機能及び車両情報に基づくサービスアプ リ ケ ー シ ョ ン を 実 装 す る .車 両 状 態 監 視 ア プ リ ケ ー シ ョ ン の 一 例 と し て , 今回実装した車両監視機能とサービスアプリケーションについて以下に 述べる. 車両監視画面 路側システム 登録車両 データベース 車両状態監視 AP 車両情報 読出 車両情報 書込 ・・・ 車番 充電残量 車速 50% エアコンスイッチ ON 100km/h 車両ID 読込 コマンド処理 DSRC 車載器 ECU 路側無線装置 DSRCプロトコル 図 3.6 Figure 3.6 路側システムの構成 Roadside system configuration. 3.5.2.1 車 両 監 視 機 能 車両監視機能は,センタ及び路側システムが車載器から受信した車両 情報(充電残量,エアコンスイッチ状態等)に基づいて監視する動作を 行 う . 車 両 監 視 機 能 で 取 り 扱 う 車 両 情 報 の 一 例 を 表 3.1 に 示 す . セ ン タ 55 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 及 び 路 側 ア ン テ ナ と 車 載 器 が 周 期 的 に 通 信 を 行 い , 表 3.1 の 車 両 情 報 を 収集し,状態をセンタ及び路側システム画面に表示する. 実験システムでは,充電の遠隔操作(開始・停止)とエアコンスイッ チの乗車前作動を車両遠隔操作が必要なサービスとして実装する.充電 ス テ ー シ ョ ン で の EV の 充 電 ス ケ ジ ュ ー リ ン グ に 基 づ き , 適 正 な 充 電 方 法 ( 急 速 /普 通 ) を 選 択 し , EV の 充 電 の 遠 隔 操 作 を 行 う . ま た , 乗 車 前 に事前にエアコンスイッチを作動させる. 表 3.1 Table 3.1 車両情報の項目例 Example of vehicle information items. 項目 充電残量 EV 出 力 エアコンスイッチ ヘッドランプスイッチ シフトスイッチ 充電状態 急速充電 車速 走行距離 方向指示器 ブレーキランプスイッチ 内容 充 電 率 ( %) ( W) ON/OFF ON/OFF ド ラ イ ブ /エ コ /ブ レ ー キ OFF/AC100V/AC200V 普 通 充 電 /急 速 充 電 ( km/h) ( km) OFF/右 折 /左 折 /ハ ザ ー ド ON/OFF 3.5.2.2 サービスアプリケーション 車両情報に基づくサービスアプリケーションについて,そのサービス 動作を以下に記す. (1) 充 電 ス テ ー シ ョ ン 案 内 機 能 充電残量が閾値を下回ると充電残量不足と判断し,センタ及び路側シ ステムが警告を表示し,車両内のカーナビゲーションに対して警告出力 を行う.充電残量に基づく走行可能距離に応じて,カーナビゲーション にルート周辺の最寄りの充電ステーションの位置や利用状況を情報提供 し,カーナビゲーションにて案内する. (2) 充 電 ス テ ー シ ョ ン で の ス ケ ジ ュ ー リ ン グ 機 能 提 案 シ ス テ ム に て サ ー ビ ス 提 供 す る EV の 利 用 状 況 は , 個 人 が 利 用 す 56 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology る EV を 地 域 で 管 理 す る ケ ー ス と ,レ ン タ カ ー や カ ー シ ェ ア リ ン グ で EV を 利 用 す る ケ ー ス が 想 定 さ れ る .地 域 で 管 理 す る EV 利 用 で は ,EV 利 用 者 が 事 前 に 日 時 と 充 電 方 法( 急 速 /普 通 )を 指 定 し て 充 電 ス テ ー シ ョ ン を 予約することが可能で,予約が優先される.予約情報と情報センタで管 理 す る EV の 充 電 残 量 を 基 に , 充 電 ス テ ー シ ョ ン で の 充 電 ス ケ ジ ュ ー ル を作成する. カ ー シ ェ ア リ ン グ で EV を 利 用 す る 場 合 は , カ ー シ ェ ア リ ン グ の ス テ ー シ ョ ン が 充 電 ス テ ー シ ョ ン を 兼 ね て い る こ と が 一 般 的 で あ る [37] . カ ー シ ェ ア リ ン グ で は EV を 事 前 予 約 し た 上 で 利 用 す る た め , 充 電 残 量 と 次 に EV を 利 用 す る ま で の 時 間 に よ っ て 適 正 な 充 電 方 法 を 選 択 し , 充 電 ス ケ ジ ュ ー リ ン グ を 行 う . カ ー シ ェ ア リ ン グ で は 利 用 直 前 に EV の 予 約 を 入 れ る こ と が 可 能 で あ る が , 充 電 ス テ ー シ ョ ン で 管 理 対 象 と す る EV 全体の効率的な充電タイミングをスケジューリングするため,直前の予 約 を 含 め て そ の 都 度 ス ケ ジ ュ ー リ ン グ す る の で は な く , 前 日 ま で の EV 予約情報を基にスケジュールを作成する. 3.6 実 験 システムによる実 証 試 験 3.6.1 実 験 システム構 成 EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム の 実 験 シ ス テ ム は , セ ン タ シ ス テ ム ・ 路 側 シ ス テ ム・路 側 無 線 装 置( ア ン テ ナ ) ・車 載 器・カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン ・ EV か ら 構 成 さ れ ,セ ン タ 及 び 路 側 シ ス テ ム か ら 車 両 状 態 の 監 視 と 車 両 情 報に基づくサービスアプリケーションの動作と性能を評価する.屋外テ ストコースにて見通しによる安定した電波伝搬環境で試験を実施した. 実 証 試 験 の 諸 元 を 表 3.2 に 示 す . 図 3.7 に 車 両 と 路 側 ア ン テ ナ と の 位 置 関係を示す. 表 3.2 Table 3.2 テストコース直線 実験で使用する車線数 車両台数 車両速度 実証試験の諸元 Feasibility test parameters. 400m 1 車線 4台 100km/h( 車 両 情 報 収 集 ), 0 km/h( 停 車 )( 車 両 内 情 報 提 供 / 車 両 遠 隔 操 作 ) 57 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 路側アンテナ 50° 4m 車載器 アンテナ高さ:1m 1m 車両進行方向 図 3.7 Figure 3.7 車両と路側アンテナとの位置関係 Relation of position between vehicle and roadside antenna. 3.6.2 実 験 システムの評 価 3.6.2.1 機 能 評 価 (1) 車 両 監 視 機 能 の 確 認 セ ン タ 及 び 路 側 ア ン テ ナ と 車 載 器 と の 通 信 に よ り ,車 両 ID を 読 み 込 み , セ ン タ 及 び 路 側 シ ス テ ム が 登 録 車 両 を 検 出 し , 同 時 に 表 3.1 の 車 両 情 報 項目の状態をセンタ及び路側システム画面に表示することを確認した. (2) 充 電 ス テ ー シ ョ ン 案 内 機 能 の 確 認 実 車 両 で EV 充 電 率 30%以 下 の 状 態 を 発 生 さ せ た 場 合 , セ ン タ 及 び 路 側システムが充電残量不足を検知すると,警告を表示し,車両内のカー ナビゲーションに対して警告出力を行うことを確認した.車両が登録車 両 で な い 場 合 , 車 両 ID に よ り 判 別 し , 充 電 率 30%以 下 の 状 態 を 発 生 さ せてもカーナビゲーションに警告出力を行わないことを検証した.さら に,車両内のカーナビゲーションに確実にルート周辺の最寄りの充電ス テーションの位置や利用状況を情報提供することを確認した. (3) 充 電 ス テ ー シ ョ ン で の ス ケ ジ ュ ー リ ン グ 機 能 の 確 認 充 電 ス テ ー シ ョ ン の 予 約 情 報 と 情 報 セ ン タ で 管 理 す る EV の 充 電 残 量 を 基 に ,充 電 ス ケ ジ ュ ー ル を 作 成 す る こ と ,ま た ,充 電 方 法( 急 速 /普 通 ) を 選 択 し ,EV の 充 電 の 遠 隔 操 作( 開 始 ・ 停 止 )を 行 う こ と ,乗 車 前 に 事 58 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 前にエアコンスイッチを作動させることを確認した. カ ー シ ェ ア リ ン グ で は , 事 前 に EV の 利 用 予 約 を 行 う た め , 充 電 残 量 と 次 に EV を 利 用 す る ま で の 時 間 に よ っ て 適 正 な 充 電 方 法 を 選 択 し , 充 電 ス ケ ジ ュ ー リ ン グ を 行 う . カ ー シ ェ ア リ ン グ の 場 合 の EV の 充 電 ス ケ ジ ュ ー ル 例 を 図 3.8 に 示 す . 次 の 予 約 ま で に 十 分 な 充 電 時 間 が あ る 場 合 は,安価な深夜電力を使って普通充電を行うスケジュールを作成し,充 電コストを削減することを検証した. 12:00 23:00 7:00 深夜電気時間帯 深夜電気時間帯 利用者 1 次の予約までの時間によって, 適切な充電方法を選択 利用者 2 安価な深夜電力 を使って充電 利用者3 利用者 4 利用前には 利用前には 事前空調+普通充電 急速充電 図 3.8 Figure 3.8 普通充電 車両利用 事前空調 EV の 充 電 ス ケ ジ ュ ー ル 例 Example of battery charge schedule for EV. 3.6.2.2 性 能 評 価 (1) 車 両 情 報 収 集 性 能 の 評 価 通 信 試 験 に よ り 実 験 シ ス テ ム の 車 両 情 報 収 集 性 能 を 評 価 し た .車 両 ID に よ り 登 録 車 両 を 判 別 し ,車 両 情 報 1kbyte を 3.5G 通 信 回 線 ま た は DSRC に よ り 収 集 す る 時 間 を 計 測 し た .こ の 時 間 に CAN イ ン タ フ ェ ー ス の サ ン プ リ ン グ 周 期 500msec を 加 え た 処 理 時 間 の 分 布 を 図 3.9 に 示 す .こ こ で , DSRC は 通 信 領 域 が 狭 い た め , 複 数 車 載 器 同 時 通 信 に お い て , 1 台 あ た りの通信帯域が減少することにより再送処理が発生し,通信時間にばら つきが生じる.同時接続は 4 台まで可能であることを検証した. 高 速 通 信 で あ る CAN を 採 用 し た こ と ,及 び 3.5G 通 信 回 線 と DSRC の 59 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 連携により,センタ及び路側システムが車載器を介して 1 秒以内に車両 情 報 を 収 集 す る 割 合 は ほ ぼ 100%で あ る . 以 上 よ り , 実 験 シ ス テ ム に よ 50.0% 100.0% 39.9% 40.0% 80.0% 33.6% 30.0% 60.0% 20.0% 10.0% 75 0 0 75 < 7.3% 3.5% 0.0% 0.0% t≦ 40.0% 12.5% t≦ 80 0 0 80 < t≦ 85 0 85 < t≦ 90 0 0 90 < t≦ 95 9 0 < 50 t≦ 処理時間(ms) 図 3.9 Figure 3.9 20.0% 3.2% 0 10 10 00 < 00 t≦ 10 50 1 累計割合 処理時間毎の割合 って 1 秒以内のサンプリング周期で車両情報を収集することを検証した. 0.0% 0 05 < 0.0% t 実験システムの車両情報収集時間分布 Distribution of time for collecting vehicle information by experimental system. (2) 車 両 内 情 報 提 供 性 能 の 評 価 実 車 両 で EV 充 電 率 30%以 下 の 状 態 を 発 生 さ せ , セ ン タ 及 び 路 側 シ ス テムが充電残量不足を検知し,車両内のカーナビゲーションに対して警 告 出 力 を 行 う ま で の 時 間 を 計 測 し た . 充 電 率 が 30%以 下 と な っ た 時 点 か ら カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン へ の 警 告 出 力 ま で の 処 理 時 間 の 分 布 を 図 3.10 に 示す. 3.5G 通 信 回 線 と CAN を 接 続 す る 通 信 プ ロ ト コ ル を 使 用 す る こ と に よ り ,充 電 残 量 不 足 発 生 か ら 警 告 出 力 ま で 3 秒 以 下 で あ る 割 合 は ほ ぼ 100% である.以上より,実験システムの車両内情報提供性能を評価した. (3) 車 両 遠 隔 操 作 性 能 の 評 価 通 信 試 験 に よ り 実 験 シ ス テ ム の 車 両 遠 隔 操 作 性 能 を 評 価 し た .車 両 ID に よ り 登 録 車 両 を 判 別 し ,DSRC と CAN イ ン タ フ ェ ー ス に よ り エ ア コ ン ス イ ッ チ を ON に 書 き 込 む 処 理 時 間 を 計 測 し た . 車 両 デ ー タ 書 込 み の 処 60 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 理 時 間 の 分 布 を 図 3.10 に 示 す . 高 速 通 信 で あ る CAN を 採 用 し た こ と ,及 び DSRC と CAN を 接 続 す る 通信プロトコルを使用することにより,路側システムが車載器を介して 3 秒 以 内 に エ ア コ ン ス イ ッ チ を ON に 書 き 込 む 割 合 は ほ ぼ 100%で あ る . 以上より,実験システムによって充電ステーションのスケジュールに基 づき,乗車前に事前にエアコンスイッチを作動させることを検証した. 100.0% 警告出力 車両データ書込み 累計(警告出力) 累計(車両データ書込み) 40.5% 38.3% 40.0% 27.8% 25.9% 30.0% 18.2% 20.0% 8.5% 10.0% 8.4% 5.1% t≦ 20 0.0% 0.0% 00 20 < 00 20.0% 4.0% 4.6% 0.0% 0.0% 0.0% t≦ 22 00 22 < 00 t≦ 24 00 24 < 00 t≦ 26 00 26 < 00 t≦ 28 00 28 < 00 t≦ 30 00 30 < 00 t≦ 60.0% 40.0% 13.2% 5.5% 80.0% 32 00 3 累計割合 処理時間毎の割合 50.0% 0 20 < 0.0% t 処理時間(ms) 図 3.10 Figure 3.10 実験システムの処理時間分布 Distribution of processing time by experimental system. (4) シ ス テ ム 全 体 の パ フ ォ ー マ ン ス 評 価 提 案 し た EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム と , 広 域 通 信 シ ス テ ム 及 び セ ンタレスシステムとを比較し,提案システムのシステム全体のパフォー マンスを評価する.システム構成,コスト,通信の速度,安定性,セキ ュリティといった観点から比較し,コストはセンタレスシステムが最も 安価であるが,通信の速度,安定性,セキュリティにおいては提案シス テ ム が 優 位 で あ り ,シ ス テ ム 全 体 の パ フ ォ ー マ ン ス は 最 も 高 い と い え る . 提案システムと他のシステムとのパフォーマンスを比較した結果を表 3.3 に 示 す . 61 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 表 3.3 Table 3.3 項目 システム構成 提案システムのパフォーマンス評価 Performance evaluation of proposed system. 広域通信システム 情 報 セ ン タ +車 載 器 + センタレスシステム 車 載 器 +カ ー ナ ビ +セ ン サ 情 報 セ ン タ +路 側 装 置 +車 載 器 +カ ー ナ ビ カーナビ コスト 提案システム ○ 通 信 費 +セ ン タ 運 営 費 ◎ センタ運営費不要 △ 路側装置設置費用+ 通 信 費 +セ ン タ 運 営 費 通信の速度 ○ 実効速度低下 - 情報ダウンロードに時間 ○ 最 大 4Mbps がかかる 安定性 セキュリティ ○ △ ◎ プル型で車両が要求 収集データを車載器内部 プッシュ型で車両への したときに提供可能 に格納 情報提供の安定性高い ○ 比較的高い ○ 外部通信接続なし ◎ 限定された路側装置と の通信のため高い システム全体 ○ △ のパフォーマ センタにて情報収集 ・自車の情報に限定 ンス ・生成・提供するため ・情報ダウンロード必要 オーバヘッド大 ・情報量が少ない ◎ ・路車間通信で直接情 報交換するため高い ・センタで情報管理 3.7 むすび 本 章 で は , EV が 持 つ 課 題 と 特 性 に 対 応 し た ITS サ ー ビ ス を 提 供 す る た め , 広 域 通 信 網 と 路 車 間 通 信 及 び 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク を 活 用 し た EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム を 提 案 し た . 路 車 間 通 信 と し て DSRC, 広 域 通 信 網 と し て 3.5G 通 信 回 線 , 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク と し て CAN を 採 用 し , DSRC ま た は 3.5G 通 信 回 線 と CAN を 接 続 す る 通 信 プ ロ ト コ ル , 及 び DSRC と 3.5G 通 信 回 線 を 連 携 す る 通 信 プ ロ ト コ ル を 開 発 し ,セ ン タ 及 び 路側無線装置から車載器を介して車両データの読み出しと車両の遠隔操 作を行う,車載システムと路側システムを開発した. 実験システムにより実証試験を行い,センタ及び路側システムが車両 の状態変化を検知し,車両内に確実に情報提供することを確認した.さ らに,センタ及び路側システムから車両を遠隔操作することにより,リ アルタイムに車両状態を変化させることを確認した.これらの通信シス テム上で動作するサービスアプリケーションを開発することにより,提 案 し た EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム が EV 車 内 で の 安 心 感 向 上 と 充 電 62 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ステーションでの利便性・快適性向上において,有効なサービスを提供 することを評価した. 今 後 は ,EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム の 実 用 化 評 価 を 行 う と と も に , 車 車 間 通 信 な ど の 他 通 信 メ デ ィ ア シ ス テ ム と の 連 携 を 可 能 と し ,EV 通 信 ネ ッ ト ワ ー ク を 活 用 し た サ ー ビ ス ,EV を 情 報 通 信 イ ン フ ラ と し て 利 用 す ることも可能とする所存である. 63 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 第 4章 車 の情 報 プラットフォーム化 とインターネット利 用 4.1 まえがき 自動車に乗ったまま商品やサービスが提供されるドライブスルー店舗 が増加している.通常,ドライブスルー利用者は,ドライブスルーレー ンに車で進入した後に,窓口で商品を選択し,会話により注文する.混 雑時は,前の利用者が注文を終えるまで,後続の利用者は長く待たされ ることになる.そこで,車内で事前に商品を選択し,注文まで行ってか らドライブスルーレーンに進入し,窓口でスムーズに注文を確定し,料 金 支 払 を 行 う ITS サ ー ビ ス が 求 め ら れ て い る [38]. イ ン タ ー ネ ッ ト 経 由 で注文・決済を行い,ドライブスルー窓口で携帯電話を鍵として注文情 報 を 呼 び 出 す シ ス テ ム [39] で は ,携 帯 電 話 を リ ー ダ /ラ イ タ に か ざ す 必 要 がある. 本 章 で は ,ド ラ イ ブ ス ル ー レ ー ン で の サ ー ビ ス 時 間 短 縮 を 目 的 と し て , DSRC 路 車 間 通 信 [30] を 使 用 し た 車 利 用 型 シ ス テ ム を 提 案 す る .具 体 的 に は ,イ ン タ ー ネ ッ ト プ ロ ト コ ル( IP)通 信 と 非 IP 通 信 を 共 存 さ せ る 通 信プラットフォーム,カーナビゲーションにより注文情報を登録できる IP ア プ リ ケ ー シ ョ ン , 及 び 注 文 確 定 ・ 支 払 処 理 を 行 う 非 IP ア プ リ ケ ー ションを開発した.実店舗での実証実験の結果,ドライブスルー利用時 の サ ー ビ ス 時 間 が 現 行 よ り 50%短 縮 で き る こ と が 示 さ れ , サ ー ビ ス の 有 効性とシステムの実用性が実証された. 以 下 ,4.2 節 で IP 通 信 と 非 IP 通 信 の 連 携 に つ い て 述 べ た の ち ,4.3 節 で 車 利 用 型 注 文・支 払 シ ス テ ム の 開 発 に つ い て 解 説 す る .4.4 節 で 実 験 シ ス テ ム に よ る 実 証 実 験 に つ い て 説 明 し ,最 後 に 4.5 節 で 本 章 を ま と め る . 4.2 IP 通 信 と非 IP 通 信 の連 携 4.2.1 DSRC-IP 接 続 DSRC は ARIB STD-T75[9], STD-T88[23] に 準 拠 し , 安 定 し た 通 信 ゾ ー ン ( 20m) を 構 成 し , 伝 送 速 度 が 速 い ( 4Mbps) こ と な ど を 特 長 と し て い る . DSRC で は 1 つ の 路 側 装 置 が 複 数 の 車 載 器 と 同 時 に 通 信 を 行 う . DSRC-IP 接 続 [40] は 以 下 の 機 能 を 有 す る . 64 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology (1) RFC1661( 1994 年 7 月 版 ) で 規 定 さ れ る PPP( リ ン ク 制 御 プ ロ ト コ ル と IP 制 御 プ ロ ト コ ル に よ り 構 成 )を 用 い て ,ロ ー カ ル コ ン トローラと車載器をポイント・ツー・ポイントで接続する. (2) 初 期 接 続 URL ( Uniform Resource Locator ) は , ITS FORUM RC-004 [33] の 擬 似 プ ッ シ ュ 機 能 , 個 別 通 信 に よ る 通 常 ポ ー ト で 確認応答なしプッシュ型情報配信を用いて,路側装置から車載器 へ通知される. (3) 切 断 は 4 通 り あ る( エ リ ア ア ウ ト に よ る 切 断 ,車 載 器 /路 側 装 置 側 か ら の PPP 接 続 の 切 断 , 車 載 器 側 か ら の DSRC 切 断 ). 4.2.2 DSRC-SPF(セキュリティプラットフォーム) DSRC 路 車 間 通 信 に お い て は , 無 線 通 信 路 上 を 経 由 し て 支 払 の 金 銭 に 係わる情報が取り扱われるため,なりすましや盗聴,改ざんといった脅 威 か ら 路 側 装 置 と 車 載 器 を 保 護 す る 必 要 が あ る . DSRC 路 車 間 通 信 に あ た っ て は , DSRC セ キ ュ リ テ ィ プ ラ ッ ト フ ォ ー ム ( DSRC-SPF) [41] を 用いて,路側装置-車載器間の相互認証,後述の基本アプリケーション [33]の プ ロ ト コ ル デ ー タ ユ ニ ッ ト の 暗 号 化 /復 号 化 ,及 び MAC( Message Authentication Code) 生 成 /検 証 を 行 う . 4.2.3 サービスの利 用 状 況 本章で対象とするサービスの利用状況は,以下の 4 つの利用シーンを 想定する. (a) 店舗外での事前注文登録 車両がドライブスルー店舗に進入する前に,店舗外に設置された路側 装置からカーナビゲーションへメニューを配信し,車両の搭乗者が事前 に 商 品 を 選 択 し ,注 文 を 行 う .注 文 内 容 と 当 該 車 両 の 識 別 ID が 紐 付 け ら れ て 登 録 さ れ る .本 章 で は ,車 両 の 識 別 ID を 車 両 に 搭 載 さ れ て い る「 車 載 器 ID」 と 定 義 す る . (b) 店舗入口での広告配信 ドライブスルー店舗入口に路側装置を設置し,店舗に進入してきた車 両に搭載された車載器へ広告情報を配信する. (c) 店舗窓口での注文確定 ドライブスルー店舗の注文窓口に設置された路側装置が,ドライブス 65 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ルーレーンに進入してきた車両に搭載されている車載器と無線通信を行 い,相互認証を行う.事前登録されている注文内容を注文者に通知し, 注文確認・確定を行う. (d) 店舗窓口での料金支払 路側装置と車載器の間で相互認証を行う.路側装置から車載器へ支払 金 額 を 送 信 し , 支 払 意 思 確 認 後 , IC カ ー ド に よ る 料 金 決 済 処 理 を 行 う . 4.2.4 要 求 条 件 本 章 で 提 案 す る 「 DSRC に よ る 車 利 用 型 注 文 ・ 支 払 シ ス テ ム 」 で は , 高速でセキュリティ性の高い通信手段が要求される.ここで,システム が満たすべき要求条件を以下にまとめる. (1) IP 接 続 に よ り WEB コ ン テ ン ツ に 5 秒 以 内 に ア ク セ ス し , 4 台 の 車から同時に注文情報を登録できること. (2) 注 文 者 の 車 両 が ド ラ イ ブ ス ル ー 窓 口 に 来 る と ,路 車 間 の 相 互 認 証 を 行 い ,注 文 情 報 を 読 み 出 し ,注 文 確 定・支 払 が 30 秒 以 内 に 完 了 すること. 4.3 車 利 用 型 注 文 ・支 払 システムの開 発 前節で整理した要求条件を満足するシステムとして, 「 DSRC に よ る 車 利用型注文・支払システム」を提案する.本節ではシステム構成につい て 述 べ た の ち ,IP 通 信 と 非 IP 通 信 を 共 存 さ せ る 通 信 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム , 及びサービスアプリケーションの実装について述べる. 4.3.1 システム構 成 提案システムは,センタサーバ,路側装置,車載器,カーナビゲーシ ョ ン か ら 構 成 さ れ る . シ ス テ ム 構 成 を 図 4.1 に 示 す . セ ン タ サ ー バ は ,ロ ー カ ル コ ン ト ロ ー ラ ,WEB サ ー バ ,デ ー タ 管 理 サ ーバから構成される.ローカルコントローラは,情報コンテンツを路側 装置により車載器及びカーナビゲーションへ配信するための制御を行う. デ ー タ 管 理 サ ー バ は , シ ス テ ム が 取 り 扱 う 情 報 を DB に 蓄 積 し , 登 録 ・ 更 新 ・ 削 除 等 の 管 理 制 御 を 行 う . WEB サ ー バ は , IP 接 続 に よ り カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン に 配 信 す る コ ン テ ン ツ の 管 理 を 行 う . 路 側 装 置 は , DSRC 路 側 無 線 装 置 と ア ン テ ナ で 構 成 さ れ , DSRC-IP 接 続 に よ り サ ー バ に IP 66 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 接 続 す る と と も に , DSRC に よ り 車 載 器 へ 情 報 配 信 を 行 う . 車 載 器 は , ITS 車 載 器 DSRC 部 標 準 仕 様 [34] に 準 拠 し , 路 側 装 置 と DSRC 通 信 を 行い,カーナビゲーションとのインタフェースを持つ.カーナビゲーシ ョ ン は ,車 載 器 イ ン タ フ ェ ー ス に よ り サ ー バ に 接 続 す る と と も に ,DSRC により路側装置から配信される情報コンテンツを再生する. センタサーバ ローカルコントローラ 路側装置 DSRC路側無線装置 DSRC アンテナ 専用アプリケーション IP系 非IP系 情報配信 料金支払 IP接続管理 車載器ID読取 WEBサーバ DSRC車載器 データ管理サーバ カーナビゲーション コンテンツ管理 専用アプリケーション IP系 非IP系 ICカード 専用アプリケーション WEBブラウザ 広告情報 注文情報 メニュー情報 クーポン情報 車載器ID情報 顧客情報 スマートフォン 専用アプリケーション WEBブラウザ 図 4.1 Figure 4.1 DSRC に よ る 車 利 用 型 注 文 ・ 支 払 シ ス テ ム の 構 成 Configuration of order and payment system via DSRC in-vehicle use. 4.3.2 通 信 プラットフォーム IP 通 信 と 非 IP 通 信 を 共 存 さ せ る 通 信 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム を 図 4.2 に 示 す . DSRC プ ロ ト コ ル 及 び そ の 上 位 に ア プ リ ケ ー シ ョ ン サ ブ レ イ ヤ ( ASL) [23] を 車 載 器 及 び 路 側 装 置 に 実 装 す る . IP 通 信 と 非 IP 通 信 の 各 通 信 プ ロ ト コ ル は , ASL の 拡 張 通 信 制 御 プ ロ ト コ ル 部 ( ASL-ELCP) 上 に 位 置 す る . ASL は マ ル チ プ ロ ト コ ル に 対 応 し て お り , 一 つ の AID ( Application ID) に よ り , DSRC-IP 接 続 と 非 IP 通 信 プ ロ ト コ ル の 共 存 が 可 能 で あ る .非 IP 通 信 は バ ル ク 転 送 制 御 ,同 報 モ ー ド 制 御 な ど の 機 能 を 有 し て お り ,こ れ ら の 機 能 を DSRC-IP 接 続 と 同 時 に 利 用 可 能 と す る ことで,リソース量の軽減を図ることができる. 非 IP ア プ リ ケ ー シ ョ ン の う ち ,プ ッ シ ュ 型 情 報 配 信 で は 比 較 的 大 容 量 67 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ( 25kbyte)の デ ー タ を 送 信 す る と と も に 同 報 通 信 機 能 も 必 要 で あ る .注 文・支払などのサービスではデータ損失に対する要求も厳しくなる.さ ら に ,多 様 な ITS ア プ リ ケ ー シ ョ ン を 効 率 的 に 開 発・動 作 さ せ る た め に , DSRC プ ロ ト コ ル と サ ー ビ ス ア プ リ ケ ー シ ョ ン 間 の 汎 用 的 な イ ン タ フ ェ ー ス ( IF) 及 び 各 種 ア プ リ ケ ー シ ョ ン で 共 通 化 が 可 能 な 基 本 ア プ リ ケ ー シ ョ ン ( プ ッ シ ュ 型 情 報 配 信 ・ IC カ ー ド ア ク セ ス ・ 車 載 器 指 示 応 答 ・ 車 載 器 メ モ リ ア ク セ ス ) を ソ フ ト ウ ェ ア 共 通 基 盤 と し て 実 装 す る [33] . DSRC の セ キ ュ リ テ ィ 機 能 を 担 う DSRC-SPF は ,基 本 ア プ リ ケ ー シ ョ ン と ASL の ロ ー カ ル ポ ー ト プ ロ ト コ ル( LPP)の 間 に 位 置 し ,基 本 ア プ リ ケ ー シ ョ ン 毎 に DSRC-SPF を 利 用 し て ア ク セ ス で き る セ キ ュ ア ポ ー ト と DSRC-SPF を 利 用 せ ず に ア ク セ ス で き る ノ ン セ キ ュ ア ポ ー ト が 割 り 当てられており,相互認証が正常に完了した場合のみセキュアポートへ のアクセスが可能となる. センタサーバ 路側装置 サービスアプリ サービスアプリケーション 基本アプリケーション 車載器 IC カード 指示応答 アクセス アプリ アプリ SPF SPF 連携プロトコル 車載器 プッシュ 型 メモリアクセス 情報配信 アプリ アプリ サーバIF 情報配信 料金支払 WEB 配信 車載器ID 読取 データ 管理 連携プロトコル 料金支払 装置IF DSRC 路側IF 料金支払 装置IF SPF SPF ASL ローカルポート ポート番号によって識別 プロトコル(LPP) PPP TCP/IP TCP/IP 通信 デバイス Class 通信 デバイス Class 通信 通信 デバイス PPP 制御 プロトコル ローカルポート制御 プロトコル(LPCP) 拡張通信制御プロトコル (ASL-ELCP ) サーバシステム 3 1 アクセス点識別子によって識別 DSRC プロトコル AID=18 AID ( EID )に よって 識別 デバイス 非IP 車載器 SPF : DSRC-Security PlatForm DSRC-IP接続 図 4.2 Figure 4.2 通信プラットフォーム Communication platform. 68 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 4.3.3 サービスアプリケーション 4.3.3.1 IP 系 アプリケーション IP 系 ア プ リ ケ ー シ ョ ン と し て ,事 前 注 文 登 録 ア プ リ ケ ー シ ョ ン を 実 装 す る . IP 系 ア プ リ ケ ー シ ョ ン の 処 理 手 順 を 以 下 に 記 す . 相 互 認 証 完 了 後 ,路 側 装 置 が 車 載 器 ID を 読 み 取 る .ロ ー カ ル コ ン ト ロ ー ラ が 車 載 器 ID を 付 加 し た WEB コ ン テ ン ツ の URL を 生 成 し , 路 側 装 置 か ら 車 載 器 へ 車 載 器 ID 付 URL を 送 信 す る .複 数 の 車 か ら 同 時 に ア ク セ ス す る 場 合 は ,そ れ ぞ れ の カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン か ら 異 な る URL に ア ク セ ス す る こ と に よ り ,シ ス テ ム が 各 車 両 の 情 報 を 車 載 器 ID に よ り 識 別 管 理し,セキュリティを確保することができる.カーナビゲーションから URL の WEB コ ン テ ン ツ に 接 続 し , メ ニ ュ ー 画 面 を 表 示 す る . メ ニ ュ ー 選 択 を 行 い ,注 文 情 報 が WEB サ ー バ の 車 載 器 ID に 紐 付 け ら れ た バ ス ケ ットに保持される.カーナビゲーションでの注文確定により,サーバに 車 載 器 ID を 付 加 し た 事 前 注 文 情 報 が 登 録 さ れ る . 4.3.3.2 非 IP 系 アプリケーション 非 IP 系 ア プ リ ケ ー シ ョ ン と し て ,広 告 配 信 ,注 文 確 定 ,及 び 料 金 支 払 の 各 ア プ リ ケ ー シ ョ ン を 実 装 す る .図 4.3 に 非 IP 通 信 の 通 信 シ ー ケ ン ス を示す. (1) 店舗窓口での注文確定処理 車 載 器 と 路 側 装 置 が DSRC 通 信 を 行 い , 相 互 認 証 を 行 う . ロ ー カ ル コ ン ト ロ ー ラ が サ ー バ に 登 録 さ れ て い る 車 載 器 ID に 紐 付 け ら れ た 事 前 注 文情報を読み出し,車載器へ注文確認のための画面表示と音声を確認応 答ありプッシュ型情報配信により送信する.ローカルコントローラが車 載器から注文確定応答を受信し,サーバに注文情報を登録する. (2) 店舗窓口での料金支払処理 ロ ー カ ル コ ン ト ロ ー ラ が 車 載 器 ID に 紐 付 け ら れ た 注 文 内 容 を 読 み 出 し,車載器へ料金金額と支払意思確認のための画面表示と音声を確認応 答ありプッシュ型情報配信により送信する.ローカルコントローラが車 載 器 か ら 支 払 意 思 確 認 応 答 を 受 信 し ,サ ー バ に て IC カ ー ド に よ る 料 金 決 済処理を行う. 69 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 車載器 ローカルコントローラ 路側装置 データ管理サーバ 車両進入 Request COM Start カーナビ注文開始 電波発射 初期接続 情報交換 セキュリティ認証 Client information Notify OBU connection - OBU-ID - Port list - Client information 事前注文 情報 オーダボードに 注文情報を表示 事前注文情報問合せ (OBU-IDと紐付け) 事前注文情報 Request Push Send Info 画面表示案内 Confirmed Push Operation Notify Push Send Result Request Push Send Info 音声案内 Confirmed Push Operation Notify Push Send Result Request OBU Disconnect 注文情報 注文情報登録 (OBU-IDと紐付け) 通信切断 Notify Process End Request COM Stop 電波停止 車両退出 図 4.3 Figure 4.3 非 IP 通 信 の 通 信 シ ー ケ ン ス Communication sequence for non-IP communications. 4.4 実 験 システムによる実 証 実 験 4.4.1 実 験 システム構 成 ドライブスルー実店舗にて 4 台の路側装置(アンテナ)を設置し,車 載器とカーナビゲーションを搭載した車両 8 台を使用して実環境で実証 実 験 を 実 施 し た . ド ラ イ ブ ス ル ー レ ー ン の レ イ ア ウ ト を 図 4.4 に 示 す . 図 4.4 の A, B, C, D の 4 カ 所 に 路 側 装 置 ( ア ン テ ナ ) を 設 置 し , 車 両 を A で 停 車 ,そ の 後 ,B→C→D( 停 車 )の 順 に 走 行 さ せ て 実 験 を 実 施 し た . 70 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology A)店舗外 A 事前注文 メニュー配信 B)店舗入口 広 告 配 信 駐車 スペース 支払 46m C)オーダボード D C DSRCアンテナ 注 文 確 定 24.1m D)支払ブース 料 金 支 払 B 広告配信 11.7m 36.5m 図 4.4 ドライブスルーレーンのレイアウト図 Figure 4.4 Layout chart of drive-through lane. 4.4.2 実 験 システムの評 価 (1) IP 接 続 に よ る 事 前 注 文 登 録 路 側 ア ン テ ナ A の 周 囲 5m に 4 台 の 車 両 を 停 車 し , 4 台 の カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン か ら 同 時 に 注 文 操 作 を 行 い , カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン が DSRC-IP 接 続 を 開 始 し て か ら WEB コ ン テ ン ツ の ト ッ プ 画 面 が 表 示 さ れ る ま で の 時間を計測した.4 台の車両が同時にトップ画面を表示するまでの応答 時間は 5 秒以下で要求条件を満たしている.カーナビゲーションでの注 文 確 定 に よ り ,サ ー バ に 車 載 器 ID を 付 加 し た 事 前 注 文 情 報 を 登 録 す る こ とを検証した. (2) 非 IP 通 信 に よ る 注 文 確 定 と 支 払 処 理 車 両 1 台 を 路 側 ア ン テ ナ C の 通 信 領 域 に 車 速 10km/h で 進 入 さ せ , 路 側装置と車載器の間で相互認証を行い,車載器へ注文確認を送信するこ とをカーナビゲーションの画面と音声により確認した.車載器から注文 確定応答を受信し,サーバに注文情報を登録することを検証した.認証 71 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 失敗した場合は,当該車両に対してそれ以降の処理を行わないことを確 認した. 次 に ,車 両 1 台 を 路 側 ア ン テ ナ D の 通 信 領 域 内 に 停 車 さ せ ,車 載 器 へ 料金金額と支払意思確認を送信することをカーナビゲーションの画面と 音声により確認した.車載器から支払意思確認応答を受信し,サーバに て IC カ ー ド に よ る 料 金 決 済 処 理 を 行 う こ と を 検 証 し た . 車両がドライブスルーの注文窓口 C に来てから相互認証を行い,注文 確 定 が 完 了 す る ま で の 時 間 ,加 え て 支 払 窓 口 D で の 支 払 処 理 時 間 を 計 測 し , 処 理 時 間 が 25 秒 以 下 と な り , 目 標 の 30 秒 以 内 に 完 了 す る こ と を 確 認した.提案システムによりドライブスルー利用時のサービス時間が現 行 よ り 50%短 縮 で き る こ と が 実 証 さ れ た . 4.5 むすび ドライブスルー実店舗での実証実験の結果,車両が注文窓口に来てか ら 注 文 確 定 と 支 払 が 完 了 す る ま で の 処 理 時 間 は 25 秒 以 下 と な る .提 案 シ ステムにより,ドライブスルー利用時のサービス時間と利用者の待ち時 間が短縮できることが示され,サービスの有効性とシステムの実用性が 実証された. 今後は,ドライブスルー店舗における走行試験により,通信不安定や 走行中の電波環境において提案システムの有効性を評価するとともに, 車からのインターネット利用サービスをさらに発展させていく所存であ る. 72 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 第 5章 路 車 間 通 信 と IC カードアクセスの連 携 技 術 5.1 まえがき 交通渋滞は,特にアジアの開発途上国で深刻な問題となっている.道 路課金システムの導入は,大都市の渋滞緩和のための効果的な解決策の 一 つ で あ る . 本 章 で は , 日 本 で 実 績 の あ る ア ク テ ィ ブ DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド を ベ ー ス と し た 「 統 合 都 市 内 道 路 課 金 シ ス テ ム ( Integrated Urban Road Pricing : IURP) 」 を 提 案 す る . 提 案 シ ス テ ム で は , 非 接 触 式 IC カ ー ド 内 の メ モ リ ア ク セ ス は , 路 側 制 御 装 置 が DSRC を 介 し て IC カ ー ド に 直 接 ア ク セ ス す る こ と に よ り ,セ キ ュ リ テ ィ 性 を 向 上 で き る . 開 発 し た バ ッ テ リ 型 車 載 器 ( OBU) は , ア ジ ア 各 国 で 買 い 物 の 支 払 メ デ ィ ア と し て 広 く 流 通 し て い る セ キ ュ リ テ ィ 性 の 高 い 非 接 触 式 IC カ ー ド とのインタフェースを有する.加えて,車載器を車両に取り付けるため の配線が不要で,利用者は容易に車載器を導入することができる.アク テ ィ ブ DSRC を 使 用 す る 場 合 , 車 載 器 の 電 力 消 費 が 大 き い た め , 通 常 は 外部バッテリによる電力供給が必要であるが,スリープ・ウェークアッ プ 制 御 に よ り 消 費 電 力 を 30%削 減 し , バ ッ テ リ 寿 命 が 2 年 以 上 の バ ッ テ リ内蔵型車載器を開発した. マ レ ー シ ア の 高 速 道 路 で の 1 年 間 の ト ラ イ ア ル に て , IURP シ ス テ ム は , 道 路 課 金 シ ス テ ム と し て エ ラ ー 率 10 - 5 以 下 で ト ラ ブ ル な く , 全 て の 対 象 IC カ ー ド に 対 応 し て ,車 速 80km/h に て 通 信 エ リ ア 内 で 料 金 収 受 を セキュアに完了することを実証した. 以 下 ,5.2 節 で DSRC 通 信 と IC カ ー ド ア ク セ ス の 連 携 に つ い て 述 べ た の ち ,5.3 節 で 都 市 内 道 路 課 金 シ ス テ ム を 提 案 し ,5.4 節 で 実 験 シ ス テ ム の 開 発 に つ い て 解 説 す る .5.5 節 で 実 験 シ ス テ ム に よ る 実 証 試 験 に つ い て 説 明 し , 最 後 に 5.6 節 で 本 章 を ま と め る . 5.2 DSRC 通 信 と IC カードアクセスの連 携 5.2.1 アクティブ DSRC 通 信 本 章 で は ,路 車 間 通 信 と し て 日 本 の ETC に 用 い ら れ て い る 5.8GHz 帯 ア ク テ ィ ブ DSRC を 採 用 す る . DSRC は ARIB STD-T75 [9] , STD-T88 73 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology [23] に 準 拠 し , 路 側 装 置 を 中 心 と し た 直 径 30m の 範 囲 を 通 信 領 域 と し て安定した通信ゾーンを構成し,1 つの路側装置が複数の車載器と同時 に通信を行う.アクティブ通信方式によって通信領域が広域で高速伝送 ( 4Mbps) を 実 現 し , 高 速 道 路 の 料 金 所 の シ ン グ ル レ ー ン バ リ ア 方 式 と マルチフリーフローレーン方式の両方に共通で使用することができる. 5.2.2 非 接 触 式 IC カード 車 載 器 の 支 払 メ デ ィ ア と し て , 例 え ば Mifare Classic [42], Mifare DESfire, Mifare Plus の よ う な 複 数 の セ キ ュ リ テ ィ 性 の 高 い 非 接 触 式 IC カ ー ド に 対 応 す る こ と が 求 め ら れ る .こ れ ら の 非 接 触 式 IC カ ー ド は ,ア ジア各国で買い物に多数流通しているカードであり,公共交通にも実際 に利用されている.従って,利用者は新たなカード運用を必要とせず, 既存のインフラを利用することができる. 5.2.3 バッテリ型 車 載 器 バッテリ型車載器は内蔵バッテリにより動作する.バッテリ型車載器 を車に取り付ける場合,配線が不要で,利用者は容易に車載器を導入す ることができる.一方,車載器は,載せ替えといった不正運用のリスク が あ る . バ ッ テ リ 型 車 載 器 を 実 用 化 す る た め に は ,低 電 力 消 費 と 不 正 使 用に対応する対策が必要であり,電力管理機能やセットアップ機能を開 発した. 5.2.4 要 求 条 件 本 章 で 提 案 す る IURP シ ス テ ム は , ア ジ ア 諸 国 に お け る 道 路 課 金 の 課 題 に 対 応 す る シ ス テ ム で あ り ,路 車 間 通 信 と 非 接 触 式 IC カ ー ド ア ク セ ス を連携する,高速で高品質,高セキュリティな通信手段が要求される. ここで,システムが満たすべき要求条件を以下にまとめる. 車 速 80km/h で 料 金 収 受 を 正 確 か つ セ キ ュ ア に 完 了 す る こ と . 情 報 伝送が高速で低遅延であること. MiFare SAM ( Secure Application Module ) を 搭 載 し , Mifare Classic, Mifare DESfire, Mifare Plus と い っ た 複 数 の セ キ ュ リ テ ィ 性 の 高 い 非 接 触 式 IC カ ー ド に 対 応 す る こ と . 車 載 器 の バ ッ テ リ 寿 命が 2 年以上であること. 74 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 5.3 都 市 内 道 路 課 金 システム 要 求 条 件 を 満 た す た め に ,路 車 間 通 信 ,非 接 触 式 IC カ ー ド ,バ ッ テ リ 型 車 載 器 を 使 用 す る IURP シ ス テ ム を 提 案 す る . 提 案 シ ス テ ム で は ,路 車 間 通 信 と し て ア ク テ ィ ブ DSRC, 非 接 触 式 IC カ ー ド ア ク セ ス と し て Mifare SAM を 採 用 す る . 5.3.1 システム構 成 IURP シ ス テ ム は ,車 線 制 御 装 置( LCL: Lane Controller),キ ー サ ー バ ,路 側 装 置 ,路 側 ア ン テ ナ ,車 載 器 ,非 接 触 式 IC カ ー ド か ら 構 成 さ れ る . LCL と 路 側 ア ン テ ナ が DSRC を 介 し て 車 載 器 と 通 信 し , Mifare イ ン タ フ ェ ー ス に よ り IC カ ー ド に ア ク セ ス す る .図 5.1 に IURP シ ス テ ム 構 成 を 示 す . Mifare Classic, Mifare DESfire, Mifare Plus に 対 応 す る た め , 路 側 装 置 ま た は 車 載 器 の い ず れ か に Mifare SAM を 実 装 す る . 路側アンテナ DSRC 通信 非接触 IC カード 車載器 挿入 (TCP/IP) キーサーバ 路側装置 車両検知器 車線制御装置 (LCL) 図 5.1 Figure 5.1 IURP シ ス テ ム 構 成 Configuration of IURP system. 5.3.2 DSRC 通 信 と非 接 触 式 IC カードの通 信 シーケンス IURP シ ス テ ム で は ,DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド を 連 携 す る 通 信 シ ー ケ ン ス を 開 発 し た . 図 5.2 に IURP シ ス テ ム の 通 信 シ ー ケ ン ス を 示 す . 車 載 器 は DSRC 通 信 エ リ ア 内 で の み カ ー ド ア ク セ ス 処 理 を 行 う こ と が で き,通信エリア外ではカードアクセスを行うことができない(透過トラ 75 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology ンザクションによる動作).これにより,以下のとおり,システムのセ キュリティ性を向上することができる. 非 接 触 式 IC カ ー ド に ア ク セ ス す る た め の カ ー ド キ ー は , 車 載 器 内 ではなく,路側装置内に保持される. 非 接 触 式 IC カ ー ド 内 の メ モ リ ア ク セ ス 手 順 は , 車 載 器 に よ っ て 制 御 せ ず , LCL は DSRC を 介 し て IC カ ー ド に 直 接 ア ク セ ス す る . LCL (Lane controller) 路側 アンテナ 車載器 IC カード (キー) リンク接続 リンク接続 カード認証 (カードキーを含む) ICカード情報 課金処理 リリース 路側システム 図 5.2 Figure 5.2 DSRC 通信 透過トランザクション による動作 車載システム DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド の 通 信 シ ー ケ ン ス Communication sequence of DSRC and contactless IC card. 5.4 実 験 システムの開 発 5.4.1 車 載 器 車 載 器 は ITS 車 載 器 の DSRC 部 標 準 仕 様 [34] に 準 拠 し , DSRC 通 信 機能を有する.利用者は,車載器のホルダを両面テープで車のフロント ガラスに容易に設置することができる.車載器本体はホルダに取り付け ることができ,車載器不使用時は盗難防止のため,ホルダから取り外す ことができる. 76 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 5.4.2 電 力 管 理 機 能 車 載 器 の 動 作 モ ー ド は 「 deep sleep mode 」,「 sleep mode 」,「 active mode」に 分 類 さ れ る .車 載 器 に カ ー ド が 挿 入 さ れ て い な い 場 合 は「 deep sleep mode」 と な る . カ ー ド が 挿 入 さ れ る と ,「 active mode」 に 遷 移 し て 非 接 触 カ ー ド の 認 証 を 行 い ,一 定 時 間 経 過 後 , 「 sleep mode」に 遷 移 す る. 「 sleep mode」時 に 無 線 部 が 路 側 か ら の キ ャ リ ア を 検 知( 電 波 を 受 信 ) し た 場 合 , 車 載 器 は ウ ェ ー ク ア ッ プ し ,「 active mode」 に 遷 移 し て 路 車 間 通 信 を 行 い , 通 信 終 了 後 ,「 sleep mode」 に 遷 移 す る . CPU を ス リ ー プさせ,スリープ時間を現行車載器の 2 倍にして車載器の消費電力を 30%削 減 す る こ と が で き る .カ ー ド が 抜 き 取 ら れ た 場 合 ,車 載 器 は 「deep sleep mode」に 遷 移 す る . 車 載 器 の 状 態 遷 移 を 図 5.3 に 示 す . active mode 電池交換,カード挿入 カード抜取 deep sleep 一定時間経過後, スリープ処理 ウェークアップ 信号割込 mode sleep mode カード抜取 図 5.3 Figure 5.3 車載器の状態遷移図 State transition of OBU. 5.4.3 セットアップ機 能 利 用 者 が 車 か ら 車 載 器 の 取 付 け /取 外 し を 容 易 に 行 え る た め ,載 せ 替 え に よ る 不 正 運 用 が 行 わ れ や す い .車 載 器 の メ モ リ に 車 載 器 ID,車 種 等 の よ う な セ ッ ト ア ッ プ 情 報 を 書 き 込 み , DSRC に よ り セ ッ ト ア ッ プ 情 報 を LCL に 転 送 す る . 一 方 , 車 種 判 別 装 置 が LCL と 連 結 さ れ , 車 種 の 不 一 致が検知されると,不正車両取締りシステムと連携して不正車両に対す る対策を講じることができる. 77 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 5.4.4 料 金 収 受 機 能 料金収受の基本手順は下記のとおりである. (1) 路 側 装 置 は , LCL か ら 車 と の 通 信 開 始 要 求 を 受 信 し て DSRC 通 信 を 開 始 し , 車 載 器 と DSRC 通 信 を 確 立 す る ( コ ネ ク シ ョ ン ) . (2) 車 載 器 の 機 器 認 証 と カ ー ド 認 証 を 行 う . (3) 車 載 器 ID, 契 約 者 番 号 , カ ー ド ID を 読 み 取 り , カ ー ド ID か ら カ ードキーを生成する. (4) 車 載 器 ID や 属 性 情 報 等 を 使 っ て 課 金 額 を 決 定 す る . カ ー ド 残 額 を 調べ,料金を引き去る. (5) 車 載 器 で 課 金 結 果 を 表 現 し , リ リ ー ス す る ( コ ネ ク シ ョ ン 切 断 ) . 5.4.5 非 接 触 式 IC カードアクセス機 能 DSRC を 介 し た 非 接 触 式 IC カ ー ド の デ ー タ ア ク セ ス を 表 5.1 に 示 す . こ こ で ,各 項 目 の デ ー タ 量 は 16 バ イ ト で あ る .車 載 器 は ,DSRC 通 信 エ リ ア 内 で の み IC カ ー ド ア ク セ ス 処 理 を 行 う . 表 5.1 非 接 触 式 IC カ ー ド の デ ー タ ア ク セ ス Table 5.1 Data accesses in contactless IC cards. 非 接 触 式 IC カ ー ド の データアクセスポイント データアクセス項目 入口 出口 バリア (1)契 約 者 情 報 (Read) ○ ○ ○ (2)残 額 (Read) ○ ○ ○ (3)残 額 (Decrement) ○ ○ ○ (4)残 額 (Read) ○ ○ ○ (5)ト ラ ン ザ ク シ ョ ン 履 歴 (Read) ○ ○ ○ (6)ト ラ ン ザ ク シ ョ ン 履 歴 (Write) ○ ○ ○ (7)課 金 履 歴 (Read) ○ ○ ○ (8)課 金 履 歴 (Write) ○ ○ ○ (9)入 口 情 報 (Read) - ○ - (10)入 口 情 報 (Write) ○ - - 78 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 5.5 実 験 システムによる実 証 試 験 5.5.1 シミュレーション結 果 による評 価 IURP シ ス テ ム の 構 成 と し て , SAM を 路 側 装 置 に 搭 載 す る 路 側 SAM と , 車 載 器 に 搭 載 す る 車 載 SAM 構 成 が 考 え ら れ , 各 構 成 の 性 能 を シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ り 比 較 し た . シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 条 件 と し て , DSRC の 1 フ レ ー ム 周 期 を 7ms,IC カ ー ド 伝 送 速 度 を 106kbps と す る .そ の 結 果 , 路 側 SAM で は IC カ ー ド ア ク セ ス を 含 む DSRC 通 信 時 間 は 281ms と な り , 車 速 80km/h で 料 金 収 受 す る た め に 通 信 エ リ ア が 7m 必 要 で あ る . 車 載 SAM で は DSRC 通 信 時 間 は 217ms で 通 信 エ リ ア は 5m と な る が , システム運用上いずれも問題ない.そのため,車載器コストを削減でき る 路 側 SAM を 採 用 し た . ま た , 複 数 カ ー ド 対 応 可 能 な 低 消 費 電 力 設 計 の 車 載 器 の バ ッ テ リ 寿 命 を 計 算 し た . 1 日 の 車 載 器 使 用 モ デ ル を 「 deep sleep」16h, 「 sleep」8h (ス リ ー プ 時 間 を 現 行 車 載 器 の 2 倍 と す る ) ,ウ ェ ー ク ア ッ プ 8 回 と し て , 公 称 2400mAh の リ チ ウ ム 一 次 電 池 を 採 用 す る と , バ ッ テ リ 寿 命 は 2.2-2.3 年 と な る . 5.5.2 トライアルによる評 価 マレーシアの高速道路の料金所シングレーンにて,1 年間トライアル を実施した.実験用車載器を選定した利用者に配布し,公共交通の非接 触 式 IC カ ー ド を 支 払 メ デ ィ ア と し て 使 用 し た .ト ラ イ ア ル の 結 果 ,IURP システムは,公共交通カードとの相互運用を実証することができた.利 用者は,既存カードのインフラを利用し,利便性を享受することができ る . IURP シ ス テ ム は , 道 路 課 金 シ ス テ ム と し て エ ラ ー 率 10 - 5 以 下 で ト ラブルなく,長期安定運用することを実証した. 5.6 むすび シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 に よ り ,全 て の 対 象 IC カ ー ド に 対 応 し て ,車 速 80km/h に て 通 信 エ リ ア 内 で 料 金 収 受 を セ キ ュ ア に 完 了 す る こ と が で き , また,車載器のバッテリ寿命 2 年以上を満たしている. マレーシアのシングルレーンでの 1 年間のトライアルにて,アクティ ブ DSRC,非 接 触 式 IC カ ー ド ,バ ッ テ リ 型 車 載 器 を 採 用 し た IURP シ ス テ ム は ,ト ラ ブ ル な く 実 運 用 を 実 施 し ,シ ス テ ム の 有 効 性 を 確 認 で き た . 79 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology トライアルの結果,路側システムはシングルレーンバリア方式からマル チ フ リ ー フ ロ ー レ ー ン 方 式 に 更 新 す る こ と が 可 能 で , IURP シ ス テ ム は 両 方 式 に 共 用 で き る 見 通 し を 得 た . 今 後 は , IURP シ ス テ ム を 最 良 の 交 通需要管理システムへとアップグレードすることを目標とする. 80 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 第 6章 結 論 6.1 本 研 究 の成 果 本 論 文 は , ITS サ ー ビ ス に 求 め ら れ る 伝 送 情 報 量 の 増 大 , 高 速 で 高 レ スポンス,高信頼性,高セキュリティ性に対応することを目的として, モ バ イ ル 通 信 を 伝 送 媒 体 と す る ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム の 高 度 化 に 関 す る 研究成果をまとめたものである. 本研究で得られた成果を総括すると,以下のとおりである. 第 2 章では,安全運転支援協調システムで実用化されている路車間通 信において,同報通信の情報提供サービスと個別通信のアップリンク情 報サービスを同時に提供する,同報・個別通信混在環境で安定したサー ビ ス を 提 供 す る た め に , ARIB 標 準 に 規 定 さ れ て い る 5.8GHz 帯 DSRC を前提として既存の標準規格の拡張により通信特性を改善する制御方式 について研究した. まず,高速で移動する車環境でシャドウイング等により通信回線状況 が悪化した場合の通信接続に関する課題を解決するために,移動局の通 信接続管理に着目し,移動局の通信接続管理タイマによる通信リンク切 断 判 定 を 改 良 し た .通 信 回 線 状 況 悪 化 に よ り 通 信 不 安 定 に な っ た 場 合 も , 再接続により接続可能時間を確保する制御方式を提案した.さらに, DSRC は 通 信 領 域 が 狭 域 な た め , 通 信 帯 域 に 関 す る 課 題 を 解 決 す る た め に基地局の通信帯域制御に着目し,基地局の移動局に対する通信接続維 持動作を改良した.占有する通信帯域を開放することにより通信効率を 向上させ,基地局が通信領域内の複数の移動局と所望のデータ量の情報 交換を可能とする方式を提案した.実証試験の結果,提案方式による通 信接続管理改善及び通信帯域制御の効果を確認し,提案方式の適用によ り 4 台 の 移 動 局 が 720ms 内 に 同 報 50kbyte, ア ッ プ リ ン ク 4kbyte を 同 時 に 受 送 信 完 了 す る こ と を 確 認 し た . DSRC 路 側 装 置 が 設 置 さ れ て い る 高 速 道 路 上 の ITS ス ポ ッ ト に て ,100km/h の 高 速 移 動 車 両 に 対 し ,同 報・ 個別通信のサービスを同時に提供できることを実証した. 第 3 章では,車内の様々なセンシング情報を車両から情報センタにア ップロードし,それを用いてセンタが車両に情報配信するための外部通 81 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 信ネットワークと車載ネットワークの相互接続技術について研究した. 路 車 間 通 信 と し て DSRC,広 域 通 信 網 と し て 3.5G 通 信 回 線 ,車 載 ネ ッ ト ワ ー ク と し て CAN を 採 用 し , DSRC ま た は 3.5G 通 信 回 線 と CAN を 接 続 す る 通 信 プ ロ ト コ ル , 及 び DSRC と 3.5G 通 信 回 線 を 連 携 す る 通 信 プ ロトコルを提案した. 次 に ,EV が 持 つ 課 題 と 特 性 に 対 応 し た ITS サ ー ビ ス を 提 供 す る た め , 広 域 通 信 網 と 路 車 間 通 信 及 び 車 載 ネ ッ ト ワ ー ク を 相 互 接 続 し た EV 向 け ITS 情 報 通 信 シ ス テ ム を 提 案 し , 具 体 的 に は セ ン タ 及 び 路 側 無 線 装 置 か ら 車 載 器 を 介 し て EV デ ー タ の 読 み 出 し と EV の 遠 隔 操 作 を 行 う 車 載 シ ステムと路側システムを開発した.実証試験の結果,センタ及び路側シ ス テ ム が EV の 状 態 変 化 を 検 知 し 車 両 内 に 確 実 に 情 報 提 供 す る こ と , ま た , セ ン タ 及 び 路 側 シ ス テ ム か ら EV を 遠 隔 操 作 す る こ と に よ り リ ア ル タ イ ム に 車 両 状 態 を 変 化 さ せ る こ と を 確 認 し た .EV の バ ッ テ リ 残 量 を 1 秒以内のサンプリング周期で連続的に収集すること,カーエアコンのス イッチを 3 秒以内に作動させることを実証した.これらの通信システム 上 で 動 作 す る サ ー ビ ス ア プ リ ケ ー シ ョ ン に よ り ,EV 車 内 で の 安 心 感 向 上 と充電ステーションでの利便性・快適性向上において,有効なサービス を提供することを検証した.充電ステーションでの最適な充電スケジュ ーリングを行い,安価な夜間電力を使って充電コストを削減できること を実証した. 第 4 章では,車内でカーナビゲーションからインターネットにより注 文 情 報 等 を 登 録 し , 実 際 の サ ー ビ ス 窓 口 で サ ー ビ ス の 提 供 を 受 け る , IP 通 信 と 非 IP 通 信 の 連 携 技 術 に つ い て 研 究 し た .カ ー ナ ビ ゲ ー シ ョ ン か ら 車載器を介して注文情報等をセンタサーバに登録し,その後,サービス 窓 口 に 設 置 し た DSRC 路 側 装 置 に よ り 即 時 に 相 互 認 証 し , 注 文 情 報 を 呼 び 出 す , IP 通 信 と 非 IP 通 信 を 共 存 さ せ る 通 信 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム を 実 装 した. 次に,ドライブスルー実験システムとして,双方向情報伝送により複 数 の 車 か ら 同 時 に 注 文 情 報 を 登 録 で き る IP ア プ リ ケ ー シ ョ ン と ,DSRC 通 信 に よ り 注 文 確 定・支 払 処 理 を 行 う 非 IP ア プ リ ケ ー シ ョ ン を 開 発 し た . ド ラ イ ブ ス ル ー 実 店 舗 に DSRC 路 側 装 置 を 設 置 し , 実 環 境 で 実 証 実 験 を 82 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 行 い ,4 台 の 車 か ら 同 時 に IP 接 続 し た 場 合 に 5 秒 以 内 に ト ッ プ 画 面 が 表 示され,車両が注文窓口に来てから相互認証し,注文確定と支払が完了 す る ま で の 処 理 時 間 が 25 秒 以 下 と な り , 現 行 よ り 50%削 減 で き る こ と を確認した.提案システムにより,ドライブスルー利用時のサービス時 間と利用者の待ち時間が短縮できることが示され,店舗利用効率を向上 できることを実証した. 第 5 章 で は ,路 車 間 通 信 と IC カ ー ド ア ク セ ス の 連 携 技 術 に つ い て 研 究 し , DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド を 連 携 す る 通 信 シ ー ケ ン ス を 提 案 し た . 車 載 器 は DSRC 通 信 エ リ ア 内 で の み カ ー ド ア ク セ ス 処 理 を 行 う こ と が で き,通信エリア外ではカードアクセスを行うことができない.これによ り ,非 接 触 式 IC カ ー ド に ア ク セ ス す る た め の カ ー ド キ ー は ,車 載 器 内 で は な く ,路 側 装 置 内 に 保 持 さ れ ,非 接 触 式 IC カ ー ド 内 の メ モ リ ア ク セ ス は , 路 側 制 御 装 置 が DSRC を 介 し て IC カ ー ド に 直 接 ア ク セ ス す る こ と によりセキュリティ性を向上できる. 次 に ,DSRC と 非 接 触 式 IC カ ー ド を ベ ー ス と し た 道 路 課 金 シ ス テ ム を 開 発 し た .複 数 の セ キ ュ リ テ ィ 性 の 高 い 非 接 触 式 IC カ ー ド に 対 応 す る た め , 路 側 装 置 に SAM を 実 装 し た . 実 証 試 験 に よ り , 実 験 シ ス テ ム が 全 て の 対 象 IC カ ー ド に 対 応 し て ,車 速 80km/h に て 通 信 エ リ ア 内 で 料 金 収 受をセキュアに完了することを確認した.トライアルの結果,実験シス テムは公共交通カードとの相互運用を実証し,道路課金システムとして エ ラ ー 率 10 - 5 以 下 で 長 期 安 定 運 用 す る こ と を 実 証 し た . 以 上 の よ う に 本 研 究 で は , ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム に 求 め ら れ る 無 線 通 信方式の要件を明確化し,実現に向けた技術課題を整理し,課題解決の ための方策の検討を行った.さらに,実験システムを開発し,実用化に 向 け て 実 環 境 で 実 証 試 験 を 行 い , ITS 無 線 情 報 シ ス テ ム の 高 度 化 を 図 っ た.今後,高齢化がますます進む中,高齢者の社会・経済活動のための 安全でしかも環境に配慮した移動を支援する車環境の実現が期待される. 6.2 本 研 究 の将 来 展 開 本 研 究 で は , 通 信 エ リ ア と 即 時 性 要 求 か ら ITS サ ー ビ ス と 研 究 課 題 を 分類し,それぞれの通信エリアを想定したシステムを実現するにあって 83 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 解決すべき技術課題について技術検討を行った. 今後は,安全・安心で,環境に優しく効率的な,しかも利便性が高く 快適な車社会を実現するために,電波による通信の信頼性を高める必要 があるとともに,見通しの悪い交差点などでの安全運転支援のため,協 調 シ ス テ ム の 車 車 間 通 信 技 術 に つ い て 研 究 し ,国 内 で 使 え る 700MHz 帯 と 5.8GHz 帯 の 2 つ の 帯 域 を ど の よ う に 有 効 利 用 す る の か と い う 点 と , 国内と欧米の規格の違いをどのように整合させていくのかという点を十 分に検討する必要がある.また,路車間・車車間通信を効率よく切り替 えるあるいは共存させる路車間・車車間通信の共用方策についても研究 する所存である.さらにその後は,安全で環境に配慮した自動運転の実 現を目指してゆきたい. 84 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 参考文献 [1] VICS http://www.vics.or.jp/index.html [2] ETC http://www.go-etc.jp [3] ITS ス ポ ッ ト http://www.mlit.go.jp/road/ITS/j-html/spot_dsrc/index.html [4] テ レ マ テ ィ ク ス サ ー ビ ス http://toyota.jp/g-book/index.html [5] Y. 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[13] 三 瓶 政 一 : 人 と 環 境 が 調 和 す る 社 会 を 支 え る 将 来 の モ バ イ ル ・ 通 信 技 術 , 電 子 情 報 通 信 学 会 通 信 ソ サ イ エ テ ィ マ ガ ジ ン , No.19 [ 冬 号 ], 85 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology pp.186-190 (2011). [14]イ ン タ ー ネ ッ ト ITS 協 議 会 http://www.internetits.org/ja/top.html [15]永 田 剛 志 ,大 野 秀 和 ,服 部 有 里 子:低 炭 素 社 会 の 実 現 に 向 け た ITS ( 高 度 道 路 交 通 シ ス テ ム ) の 役 割 と 可 能 性 , 三 菱 重 工 技 報 , Vol.47 , No.4, pp.2-6 (2010). [16]野 原 光 夫 ,遠 藤 洋 介 ,堀 松 哲 夫 ,難 波 秀 彰 ,間 瀬 公 太 ,小 花 貞 夫:多 様 な 無 線 メ デ ィ ア を 用 い た ユ ビ キ タ ス ITS の 実 現 に 向 け て , 情 報 処 理 , Vol.50, No.1, pp.64-69 (2009). [17]Y. Hattori and M. Yasui: Vehicle information collection system by compact DSRC, Proc. 11th ITS World Congress, Nagoya (Oct. 2004). [18]国 土 交 通 省 国 土 技 術 政 策 総 合 研 究 所 : 路 側 無 線 装 置 ( DSRC: ス ポ ッ ト 通 信 ) 仕 様 書 (2009). [19] 財 団 法 人 道 路 新 産 業 開 発 機 構 : DSRC-A07400 電 波 ビ ー コ ン 5.8GHz 帯 路 車 間 イ ン タ フ ェ ー ス 仕 様 書 (2008). 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[26]セ コ ム : コ コ セ コ ム 自 動 車 用 サ ー ビ ス http://www.855756.com/car/ichijouhou/ [27]三 菱 自 動 車 : EV( 電 気 自 動 車 ) に 関 連 す る 総 合 ポ ー タ ル サ イ ト http://www.ev-life.com/ [28]佐 藤 雅 明 ,石 田 剛 朗 ,堀 口 良 太 ,清 水 克 正 ,春 田 仁 ,和 田 光 示 ,植 原 啓 介 ,村 井 純:実 車 両 を 用 い た セ ン タ レ ス プ ロ ー ブ 情 報 シ ス テ ム に よ る 道 路 交 通 情 報 生 成 ア ル ゴ リ ズ ム の 提 案 と 評 価 ,情 報 処 理 学 会 論 文 誌 , Vol.49, No.1, pp.253-264 (2008). [29]Y. Hattori and M. Ito: Car security system using DSRC in-vehicle system, Proc. 16th ITS World Congress, Stockholm (Sep. 2009). [30]伊 川 雅 彦 ,五 十 嵐 雄 治 ,後 藤 幸 夫 ,熊 澤 宏 之 ,津 田 喜 秋 ,森 田 茂 樹:車 両 へ の情報配信サービスに適したプッシュ型プロトコルの設計と実装, 情 報 処 理 学 会 論 文 誌 , Vol.50, No.1, pp.42-50 (2009). [31]International Organization for Standardization: ISO 11898-1 Road vehicles - Controller area network (CAN) – Part 1: Data link layer and physical signaling (2003). [32]ル ネ サ ス エ レ ク ト ロ ニ ク ス 株 式 会 社 : RJJ05B0937-0100 Rev.1.00 CAN 入 門 書 (2006). 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[39]杉 山 寛 和 ,栗 田 太 郎 : 携 帯 電 話 と FeliCa を 融 合 し た モ バ イ ル FeliCa 技 術 , 情 報 処 理 , Vol.48, No.6, pp.561-566 (2007). [40]財 団 法 人 道 路 新 産 業 開 発 機 構 : 5.8GHz 帯 DSRC 情 報 接 続 サ ー ビ ス 路 車 間 イ ン タ フ ェ ー ス 仕 様 書 (2010). [41]一 般 社 団 法 人 ITS サ ー ビ ス 推 進 機 構 : 狭 域 通 信 ( DSRC) セ キ ュ リ テ ィ プ ラ ッ ト フ ォ ー ム ( SPF) イ ン タ フ ェ ー ス 仕 様 書 (2008). [42]NXP Semiconductors: MF1ICS50 Functional specification Rev.5.4, Eindhoven (2008). 88 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 謝 辞 本論文をまとめるにあたり,終始変わらぬ暖かい励ましと貴重なご指 導 を 賜 り ま し た ,京 都 大 学 大 学 院 情 報 学 研 究 科 吉 田 進 教 授 に 心 か ら 深 甚 なる感謝の意を表し上げます.また,ご親切なるご指導,ご鞭撻を賜り ました高橋達郎教授,守倉正博教授に謹んで感謝の意を表します. 本 研 究 は , 著 者 が 三 菱 重 工 業 株 式 会 社 交 通 ・ 先 端 機 器 事 業 部 ITS 部 に て 行 っ た ITS 無 線 情 報 通 信 利 用 に 関 す る 一 連 の 研 究 を ベ ー ス と し て , 京都大学大学院情報学研究科通信情報システム専攻博士後期課程にて, 吉田進教授のご指導のもとに研究成果をまとめたものであります.この 間,本研究の機会を与えて下さり,またその遂行を温かく見守りいただ いた歴代事業部長の山口武生氏,長島是氏,渡辺芳治氏に深く感謝いた し ま す . ま た , 上 司 と し て ご 指 導 , ご 激 励 を い た だ い た ITS 部 歴 代 部 長 の西村守康氏,重永久夫氏,田中康夫氏,戸田裕之氏,首藤浩行氏,内 田研氏に心より感謝いたします. さ ら に ,本 研 究 を 進 め る に あ た り ,有 益 な 助 言 ,討 論 を い た だ き ,あ る いは実験の面でご協力をいただいた,三菱自動車工業株式会社 開発本部 の 早 舩 一 弥 副 本 部 長 ,原 徹 電 子 技 術 部 長 ,伊 藤 政 義 マ ネ ー ジ ャ ー ,三 菱 重 工 業 株 式 会 社 交 通 事 業 部 制 御 技 術 部 ITS設 計 課 の 竹 内 久 治 課 長 な ら び に関係各位に深く感謝いたします. 最後に,論文作成と研究室での生活において,有益な助言,討論をい ただいた吉田研究室の村田英一准教授,山本高至准教授ならびに学生の 皆様に感謝いたします. 89 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology 関連発表文献一覧 Ⅰ 学術論文 [1] 服 部 有 里 子 : 路 車 間 通 信 に お け る 同 報 ・ 個 別 通 信 混 在 時 の 安 定 し た サ ー ビ ス 提 供 の た め の 制 御 方 式 ,情 報 処 理 学 会 論 文 誌 ,Vol.53,No.1, pp.175-183 (2012). [2] 服 部 有 里 子 , 下 田 智 一 , 伊 藤 政 義 : 電 気 自 動 車 ( EV) 向 け ITS情 報 通 信 シ ス テ ム の 開 発 と 評 価 , 情 報 処 理 学 会 論 文 誌 , Vol.53, No.7, pp.1721-1731 (2012). [3] Y. Hattori, T. Nagata, and K. Terasaka: Development and evaluation of urban road pricing system based on active DSRC and contactless IC cards, IEICE Communications Express, Vol.1, No.6, pp.190-195 (2012). [4] Y. Hattori, Y. Sakai, and T. Saito: Development and field tests of order and payment system via DSRC in-vehicle use, IEICE Communications Express, Vol.1, No.7, pp.240-245 (2012). Ⅱ 国 際 会 議 (査 読 付 き) [1] 服 部 有 里 子 , 下 田 智 一 , 伊 藤 政 義 : 電 気 自 動 車 ( EV) 向 け ITS情 報 通 信 シ ス テ ム の 開 発 と 評 価 , FIT2011第 10回 情 報 科 学 技 術 フ ォ ー ラ ム 論 文 集 ( 査 読 付 き ) , 第 4分 冊 , RM-007, pp.67-72 (2011) (船 井 ベ ス ト ペ ー パ ー 賞 受 賞 ). [2] Y. Hattori, T. Shimoda, and M. Ito: Development and evaluation of ITS information communication system for Electric Vehicle, Proc. IEEE 75th Vehicular Technology Conference (VTC2012-Spring), Yokohama (May 2012). [3] Y. Hattori: Commercial vehicle control management system based on vehicle operation data, Proc. 8th ITS World Congress, Sydney (Oct. 2001). [4] Y. Hattori and Y. Miyazaki: Area information providing system by 90 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology FM teletext broadcasting, Proc. 9th ITS World Congress, Chicago (Oct. 2002). [5] Y. Hattori and M. Yasui: Vehicle information collection system by compact DSRC, Proc. 11th ITS World Congress, Nagoya (Oct. 2004). [6] Y. Hattori: Estimate of economic effect and effect of CO 2 emissions reduction according to ETC spread expansion, Proc. 15th ITS World Congress, New York (Nov. 2008). [7] M. Ito, Y. Hattori, H. Takeuchi, and H. Matsumoto: Study for the security method of car-sharing system using DSRC, Proc. 16th ITS World Congress, Stockholm (Sep. 2009). [8] Y. Hattori and M. Ito: Car security system using DSRC in-vehicle system, Proc. 16th ITS World Congress, Stockholm (Sep. 2009). [9] Y. Hattori, T. Shimoda, and M. Ito: Development of ITS information system for EV (Electric Vehicle), Proc. The 11 t h Asia-Pacific ITS Forum & Exhibition, Kaohsiung (Jun. 2011). [10]Y. Hattori, T. Shimoda, and M. Ito: Development of ITS information system for EV (Electric Vehicle), Proc. 18th ITS World Congress, Orlando (Oct. 2011). [11]Y. Hattori, Y. Sakai, and T. Saito: Development and evaluation of order and payment system via Internet in-vehicle use, Proc. 19th ITS World Congress, Vienna (Oct. 2012). Ⅲ 学会口頭発表 [1] 服 部 有 里 子 , 坂 井 康 彦 : 同 報 ・ 個 別 通 信 混 在 時 の 安 定 し た サ ー ビ ス 提 供 の た め の 制 御 方 式 , 2010電 子 情 報 通 信 学 会 ソ サ イ エ テ ィ 大 会 , 基 礎 ・ 境 界 講 演 論 文 集 , A-17-7, pp.153 (2010-9). [2] 服 部 有 里 子 , 下 田 智 一 , 伊 藤 政 義 : 電 気 自 動 車 ( EV) 向 け ITS情 報 通 信 シ ス テ ム の 開 発 と 評 価 , FIT2011第 10回 情 報 科 学 技 術 フ ォ ー ラ ム , 第 4分 冊 , RM-007 (2011-9). [3] 服 部 有 里 子 , 坂 井 康 彦 : 車 か ら の イ ン タ ー ネ ッ ト に よ る 注 文 ・ 支 払 91 筑波技術大学 機関リポジトリ National University Corporation Tsukuba University of Technology シ ス テ ム の 開 発 と 評 価 , 2012電 子 情 報 通 信 学 会 総 合 大 会 , 基 礎 ・ 境 界 講 演 論 文 集 , A-17-9, pp.277 (2012-3). [4] 牧 野 浩 志 , 田 中 伸 治 , 平 沢 隆 之 , 服 部 有 里 子 , 齋 藤 卓 , 青 木 新 二 郎 : 車 両 IDを 活 用 し た 複 数 駐 車 場 の 連 携 管 理 シ ス テ ム の 開 発 , 第 9 回 ITSシ ン ポ ジ ウ ム 2010論 文 集 , 1-C-10 (2010-12). Ⅳ その他 [1] 永 田 剛 志 ,大 野 秀 和 ,服 部 有 里 子 : 低 炭 素 社 会 の 実 現 に 向 け た ITS ( 高 度 道 路 交 通 シ ス テ ム ) の 役 割 と 可 能 性 , 三 菱 重 工 技 報 , Vol.47, No.4, pp.2-6 (2010). [2] 牧 野 浩 志 , 田 中 伸 治 , 平 沢 隆 之 , 服 部 有 里 子 , 齋 藤 卓 , 青 木 新 二 郎 : 車 両 IDを 活 用 し た 複 数 駐 車 場 の 連 携 管 理 シ ス テ ム の 開 発 , 生 産 研 究 ,東 京 大 学 生 産 技 術 研 究 所 先 進 モ ビ リ テ ィ 研 究 セ ン タ ー ,Vol.63, No.2, 通 巻 679号 , pp.275-280 (2011-2). [3] 伊 藤 亜 生 ,服 部 有 里 子 : CVM( 仮 想 市 場 評 価 法 )を 用 い た ETCの 評 価 , 第 27回 日 本 道 路 会 議 発 表 論 文 , 50043 (2007-11). 92
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