Yamaha HiFi Component I N T E R V I E W ヤマハ HiFi コンポーネント開発ストーリー「ヤマハ HiFi チーム、大いに語る」 S2000/1000/700開発者が明かす ヤマハHiFiコンポーネントの「音の違い」 2007年12月に発売されたプリメインアンプA-S2000とCDプレーヤーCD-S2000に続いて、翌2008年6月には その姉妹機のA-S1000とCD-S1000、 さらに11月にはミドルクラスの新世代機であるA-S700とCD-S700が登場し、 ヤマハHiFiコンポーネントの新しいラインアップが完成しました。そこで今回は各シリーズの開発担当者にお集まり いただき、 その魅力やシリーズごとの音の違いについて、大いに語っていただきたいと思います。 この記事は、 ヤマハ株式会社商品室で2009年3月30日に行なわれたインタビュー取材をもとに再構成したものです。 S2000 Series S1000 Series S700 Series A-S2000 A-S1000 A-S700 CD-S2000 CD-S1000 CD-S700 AV 機器事業部商品開発部 HiFi グループ 熊澤 進 矢崎博久 荒巻英寿 第三開発グループ 1 「ヤマハの HiFi」を ふたたび世に問う 2 完全対称を求めた プリメインアンプ 3 八木芳明 田部正昭 TV 周辺機器グループ 第三開発グループ ファンの期待を超える CD プレーヤーを 1 4 和田理恵 S2000 と S1000、 どちらを選ぶ? 5 伊藤 剛 音楽の感動を身近にする S700シリーズ 1 Yamaha HiFi Component I N T E R V I E W 「ヤマハの HiFi」をふたたび世に問う ̶̶̶ 昨年 6 月に S1000 シリーズ、11 月に てしっかり評価が取れるものでなければ意味が S700 シリーズが加わって、ヤマハの HiFi コン ないと考えていましたが、Soavo のおかげで企 ポーネントはいよいよ 3 ラインアップ体制にな 画が通せたのは事実ですね。 熊澤 進 ̶̶̶ プリメインアンプの A-S2000 は、かつ AV機器事業部 商品開発部 HiFiグループ りましたね。 2007 年の 12 月、 長い沈黙を破って S2000 が突然デビューしたときは「ヤマハさん はどこまで本気なんだろうか?」 という声も耳に ての CA-1000 のイメージを受け継ぐスタイリ しましたが、ラインアップが揃うにつれて、かつ ングでも話題になりました。 これはオーディオ ての CA-1000 の時代のような、HiFi コンポーネ ファン、ヤマハファンからは好意的に受け入れ ントに本格的に取り組もうという姿勢が見えて られたと思うのですが、社内的には 「何をいまさ きたように思います。 ら」 といった意見もあったのではないですか? 熊澤:そうですね。 今でこそホームシアターのイ 矢崎:ところがメンバーの中には、不思議と異 メージが強いヤマハですが、ベテランのオー 論を唱える人はいませんでしたね。 やるなら音 ディオファイルのみなさんなら良くご存じのよ もデザインもヤマハらしいものにしよう、という うに、かつて当社は HiFi コンポーネントで高く ことで、 メンバーの誰もがイメージしたのがこの 評価されていた時代がありました。 そんな企業 顔だったのだと思います。 としての DNA が受け継がれているためか、日頃 A-S2000/1000 のプロジェクトリーダー。 CD-S2000/1000 および S700 シリーズを含め たヤマハ HiFi コンポーネント各機種の音質を総 合的に監修する。 矢崎博久 AV機器事業部 技術開発部 第三開発グループ AV 機器を開発している我々のメンバーには今 ̶̶̶ CA-1000 のデビューは 1973 年という CD-S2000/1000/700 の機構設計を担当。 静けさとスムースさで評価の高いヤマハオリジ でも音楽好き、オー ことですが、 この中でリアルタイムに体験なさっ ナルのローダーメカニズムも氏の作品のひとつ である。 ディオ好きが揃って ているのは‥‥‥‥おそらく CD 開発チームの い ま す。だ か ら、 ベテランおふたり、矢崎さんと八木さんだけで 1970∼80 年 代 の すね (笑) 。 オーディオ黄金期の よ う に、本 格 的 な 矢崎:たぶんこの中で私が一番年上だと思うん HiFi 分野にもう一度 ですけど、当時たしか大学生で、初代 CA-1000 チャレンジすること は手の届かない憧れのアンプでした。 だから、あ が私たちの長い間の あいうテイストを伝統として受け継ぎたいとい 夢だったのです。 う思いは強く持っていましたね。 ̶̶̶ それが、2006 年に登場した高級スピー 熊澤:それに最近の HiFi アンプを見ると、大き カーの 「Soavo (ソアヴォ) 」 シリーズと、それに続 な丸いツマミを左右に付けたシンメトリーなデ い て 登 場し た プ リメイン ア ン プ A-S2000、 ザインというのが多いでしょう。 ヤマハの HiFi SA-CD 対応の CD プレーヤー CD-S2000 だっ というのは、回路や中身の構成では徹底して左 たわけですね。 右対称にこだわっていますけど、敢えてデザイ Soavo-1 Soavo-2 ンは非対称にすることで、ヤマハらしいユニー 熊澤:はい。 おかげさまで Soavo は音質的にも クな顔を打ち出したかったのです。 高い評価をいただいて、日本やヨーロッパでの 高級 HiFi 製品の市場性がある程度見えてきま ̶̶̶ たしかに、アンプのほうのパネルフェイ した。 当然、これに見合うアンプや CD が自前で スは昔の CA-1000 以上に非対称度が高まって 揃わないのはいかがなものか、という話にもな いる気がします。CA-1000 を知らない人が売り りまして‥‥‥‥。 場で見たら、逆に今風なデザインだと思うかも 知れませんね。 ̶̶̶ その流れで S2000 シリーズの開発に ゴーサインが出たと。 熊澤:レトロ調と言われることも多いんですが、 昔の製品と並べてみると全然違う。 リバイバル 熊澤:そのとおりです。 もちろん我々としては、 商品ということではなくて、ヤマハらしさのコア Soavo のためだけのアンプや CD を造ろうとは の部分が顔にも現れている、と思っていただけ 最初から考えていなくて、 やるからには単品とし たら良いですね。 2 CA-1000 (1973年発売) A 級 /B 級切替式パワーアンプやペア FET 入力段採用 のフォノイコライザーなど、マニアの要求を満たす新 機軸を美しいデザインに包んだヤマハプリメインアン プ初期の代表作。 発売時定価は 98,000 円、初任給 5 万円台の当時には憧れの高級機だった。 2 Yamaha HiFi Component I N T E R V I E W 完全対称を求めたプリメインアンプ A-S2000/A-S1000 ̶̶̶ ヤマハらしさという意味では、A-S2000 じゃないか」 という手応えを感じたんです。 と A-S1000 に採用された「フローティング&バ 荒巻英寿 ランス・パワーアンプ」 も、 まさにそんな技術じゃ 回路を左右対称化 ないですか。 こういう、見たことも聞いたことも AV機器事業部 商品開発部 HiFiグループ スピーカー ないような技術を一気にモノにしてしまう発想 力とバイタリティは、ヤマハならではだなあと思 いますよ。 たしかこの回路、実はアイデアそのも のはかなり以前から暖められていたものなんだ NPN型 NPN型 電源 (フローティング) 電源 (フローティング) Feedback そうですね? Feedback + - S Signal + パワーアンプや電源部など、A-S2000/1000 の 回路設計を担当。 フローティング&バランス回路 の実用化には特に苦心したという。 S Signal - 荒巻:はい、そのとおりです。 当社で数多くの グラウンド HiFi アンプなどを設計してきたベテラン技術者 の野呂正夫(AV 機器事業部技術開発部 第一開 発グループマネージャー)が 10 数年前に考案し た原理をベースに実用化しました。 ̶̶̶ 野呂さんと言えば、高効率の「PS 電源」 フローティング&バランス・パワーアンプの動作原理 プラス側とマイナス側の回路が完全対称になっており、さらに 入力部や電源部を含むすべてのアンプ回路がグラウンドに接し ていないため、外来ノイズの影響を受けることのない完全バラ ンス動作を実現する。 やデジタルアンプの MX-D1 など、独創的な回路 でたくさんの特許を取得された、その筋では有 ̶̶̶ これまでのトランジスター式パワーア 名な方ですよね。 ンプの出力段は「プッシュ - プル」と呼ばれる回 路が主流でしたが、 この回路では 「プル - プル」 と 荒巻:事業部内では「発明家」と呼ばれています 呼ぶべきものなんだとか? (笑) 。 ヤマハの HiFi アンプは、昔からエポックメ イキングなモデルで新回路を発表するという伝 荒巻:はい。 従来のアンプでは、グラウンドを基 統もありましたので、今回も何かやりたいねと 準にしてプラス側が電流を押し込む、マイナス いうことで野呂に相談しに行ったんですよ。 側が電流を引き込む動作をしているんですが、 ̶̶̶ そこでこの回路に出会ったというわけ を引き込む動作をさせることで、回路が完全に この回路ではプラス側にもマイナス側にも電流 ですか。 それにしてもこのフローティング&バラ 対称な形で動作します。 回路内も対称、左右チャ ンスというのは、回路図を見ても説明を聞いて ンネルも対称、電源も対称になるよう、基板レイ も、 何が何だかよくわからない (笑) 。 アウトから電源トランスまで、とにかくすべてが 荒巻:実は私も、その場で説明を受けたときは らにプロテクターなどの周辺回路まで、新しい 良くわからなくて、これで本当に動くのかなと 概念で設計し直されているんですよ。 A-S2000 のフォノイコライザーは、かつてヤマハの 高級プリアンプに搭載されていた回路を現代流に リファインしたもの。 もちろん完全ディスクリート 構成である。 完全対称になるように設計しているんです。 さ (笑) 。 それでも、アンプと電源が自動車のピスト ンのように協調して動くという非常に珍しい仕 ̶̶̶ なるほど。 それに回路図を見ると、パ 組みに魅力を感じまして、とりあえず試作で組 ワートランジスターが NPN 型だけ、というのも んでみることにしたわけです。 最初はなかなか 新鮮じゃないですか。 まさにシンメトリーそのも 動かなくて、音が出るまで 1 ヶ月ぐらいかかって のですね。 しまったので、 音が出たときは嬉しかったですね。 荒巻:そうですね。 従来のパワーアンプ回路は、 ̶̶̶ それじゃ、最初はダメモトみたいな感じ 一見対称形のようにも見えるんですが、PNP 型 だったんですか? と NPN 型を組み合わせている以上、現実的には 荒巻:まさにそうです (笑) 。 それで、音が出たの けて見かけ上プラス側とマイナス側の動作を一 対称になり得ません。 そこにフィードバックを掛 で従来方式で組んだ回路と音質を比較してみ 致させても、波形をつくる過程ではプラス側と たら、 こちらのほうが低域は良いし、 S/N は高い マイナス側で電流の流れ方が違うわけです。 し、音場感も豊かで、 「これは良いものになるん その点、フローティング&バランス・パワーアン 3 パワーアンプブロックの一隅に組み込まれた、完全 ディスクリート構成の贅沢なヘッドホン専用アンプ (A-S2000) 。 2 Yamaha HiFi Component I N T E R V I E W 完全対称を求めたプリメインアンプ A-S2000/A-S1000 プでは本当に対称な形になっていますから、プ おいても電流の流れ方がすべて一致していると ボリューム 回路 ラインアンプ ラス側とマイナス側の波形がつくられる過程に 入力端子 (XLR) パワーアンプ Hot + 考えられます。 当然、これは音の違いとなって現 れるはずなんです。 入力端子 (RCA) Cold バランス変換 Unbal Bal ̶̶̶ それと A-S2000 については、入力段か ら出力段までの完全バランス伝送を謳っていま A-S2000全段完全バランス伝送図 すね。 入力だけバランスで受けて、内部でシング ルエンドに変換するものは安価な機器にも見ら になりました。 しかも少ない部品点数で組める れますが、完全なバランス伝送というと従来は ということで、 音質的にも有利になるわけです。 超高級クラスのセパレートアンプなどにしか装 備されていませんでしたから、 このクラスのプリ ̶̶̶ いっぽう姉妹機の A-S1000 はシングル メインアンプとしてはかなり画期的じゃないで エンド入力専用ですが、それでもフローティン すか。 グ&バランスのメリットはあるんですか? 荒巻:従来方式で完全バランス伝送を実現する 荒巻:もちろん大いにあります。 出力の違いを除 には同じパワーアンプ回路が 1 チャンネルあた けばパワーアンプの回路は A-S2000 と共通です り 2 組ずつ必要でしたから、一部の高級機にし から、バランス増幅ならではの安定感や S/N の か採用できなかったんですが、フローティング 良さ、 情報量などを充分に楽しんでいただけます。 &バランス方式ではその必要がないので、20 万 バランス接続にこだわらないのであれば、ぜひ 円前後のプリメインアンプにも採用できるよう 比較検討していただきたい機種だと思いますね。 アルミ無垢のツマミ類(写真上) 。 ボリュームと入力セ レクターは、 指に馴染む逆テーパー形状となっている。 いっぽう写真下は S2000/1000 シリーズ専用のレ バースイッチ。 このようなレバー形のスイッチは既に 製造するメーカーがなく、新たに図面を起こして発注 したそうだ。 A-S2000 の内部 A-S2000 4 3 Yamaha HiFi Component I N T E R V I E W ファンの期待を超えるCDプレーヤーを CD-S2000/CD-S1000 ̶̶̶ 音の良い HiFi コンポーネントを開発す る高剛性・低振動のメカニズムを造ること。 次 るには、技術やノウハウの継承が大切だと良く に低インピーダンス化、アナログ系とデジタル 言われます。 ヤマハさんの場合、ハイエンド AV 系の分離、左右チャンネルの分離‥‥‥‥とい アンプなどを通じて高級アンプの技術継承はな うように、やれることを基本に忠実にやって されてきたと思うのですが、高級 CD プレー いったのです。 八木芳明 AV機器事業部 商品開発部 TV周辺機器 グループ ヤーについては長い長いブランクがありました よね。 CD-S2000のプロジェクトリーダー。 アナログに強いベテランとしての腕を見込まれ、 所属するTV周辺機器グループから 「社内派遣」 八木:それは鋭いご指摘です(笑) 。 ヤマハの CD (ご本人の弁) されたとか。 プレーヤーで真の高級機と呼べるのは GT-CD1 あたりが最後ですから、最初に CD-S2000/ 1000 の計画を知らされたときは、今から本当に 田部正昭 再スタートできるのか?という思いは正直あり AV機器事業部 技術開発部 第三開発グループ ましたね。 ̶̶̶ GT-CD1 ですか。 たしか 1991 年の発売 ですから、 もう 18 年も前になりますね。 CD-S2000/1000/700 の制御系を中心とした 回路設計と、CD-S700 の音質チューニングを担 当。USB の再生音にもこだわりが隠されている という。 八木:はい。 最初に CD-S2000 の話が来たとき、 まずは現状を知ろうと各地のオーディオ専門店 を訪ねたのですが、そこで口々に言われたのは、 ̶̶̶ その中心となるのが、ヤマハオリジナル 昔からの潜在的なヤマハファンがまだまだ多く のローダーメカニズムですね。 いらっしゃることと、その人たちを裏切らないも のを造って欲しいということでした。 かつてヤマ 矢崎:はい。 このメカニズムは、 剛性のあるシャー ハが築いた名声を台無しにしてはならない、と シで CD ドライブ部をしっかり支えるところが最 いうプレッシャーを強く感じました。 大の狙いなんですが、CDトレイの動作音も高級 ̶̶̶ それにしては、と言っては失礼ですが、 シュワイヤーというものを使った新しいローディ 復帰第一作の CD-S2000 は音の良さでかなり ング機構を開発しました。 またデザイナーからは、 機らしい静かなものにしようということで、メッ 評判になっているそうじゃないですか。 私も聴 CD トレイを薄く段 かせていただきましたが、精緻でバランスが取 差のないデザイン れていて、しかも音楽の躍動を感じさせるヤマ にしたいという要望 ハらしい魅力を感じました。 が あ り ま し て、 CD-S2000/1000 八木:ありがとうございます。 CD-S2000 がマー ではアルミダイキャ ケットに受け入れてもらえるかどうか、実は スト 製、CD-S700 A-S2000 以上に未知数だったのですが、蓋を開 では BMC(高比重 けてみたら台数的にも A-S2000 を凌ぐほどの 樹脂)製の薄型トレ 売れ行きになり、 とても有り難く思っています。 イを組み合わせて います。 ̶̶̶ アンプのほうと比べると、CD の構成は 比較的オーソドックスなものですね。 ̶̶̶ それにしても、このトレイ動作は驚くほ ど静かで高級感がありますね。 この何倍もする 八木:そうですね。 他社さんのような技術的蓄 ハイエンド CD プレーヤーでも、なかなかこう 積がないぶん、逆に初心に帰って、いいものを真 いうものはないんじゃないですか? 面目にコツコツ造ろうというところからスター トしました。 まず、CD 再生にとって一番大切な これは、従来ギヤ 矢崎:ありがとうございます。 のは読み取り精度ですから、 これをしっかり支え やベルトを使って駆動していた CDトレイを、プ 5 GT-CD1 (1991 年発売) 60mm 厚のパーティクルボードと 2.3mm 厚の鉄板 を貼り合わせたベースボード、砲金製メカベース、 8mm 厚のアルミブロックで組まれた DAC 部など、 アナログプレーヤー的発想で高剛性と低共振を追求 した超弩級 CD プレーヤー。DAC 以降の完全バラン ス伝送などに CD-S2000 との共通点も見られる。 発 売時定価は 500,000 円だった。 3 Yamaha HiFi Component I N T E R V I E W ファンの期待を超える CD プレーヤーを CD-S2000/CD-S1000 リンターの印字ヘッドなどに使われる樹脂ワイ ヤーの凹凸を利用して駆動するようにしたもの なんですが、世界的に見ても当社だけの技術だ と思います。 CD ドライブ自体は特別に変わった構成ではあ りませんが、こちらの部品にも特に高信頼性の ものを厳選しまして、高級機らしく長く使って メッシュワイヤーと呼ばれる樹脂ワイヤーと、細かな 歯が斜めに刻まれた特殊なギヤによって、静かでス ムースな動作と高信頼性を実現するヤマハオリジナ ルのローダーメカニズム(写真手前が CD-S700 用、 奥が CD-S2000/1000 用) 。 いただけるように配慮しました。 八木:今回の開発に携わって、私のようなアナ ログ人間には、同じ光ディスクでも BD より HiFi ̶̶̶ 耐久性もありそうですね。 プレーヤーが向いているなあ、と改めて思いま したね (笑) 。 クラフトマンシップと言うんですか、 田部:はい。 ベルトのように伸びてスリップす 回路図に出てこない部分のほうが支配的な世界 る心配がないので、信頼性も高いと思います。 というのは、 やりがいがありますよ。 CD-S2000 の内部 CD-S2000 6 4 Yamaha HiFi Component I N T E R V I E W S2000 と S1000、どちらを選ぶ? ̶̶̶ 改めてお伺いしますが、今度の HiFi コン ̶̶̶ ちょっと肩肘張ったような感じですか。 ポーネントシリーズで目指した「ヤマハらしい音」 というのは、具体的にはどのような音なのでしょ うか? 熊澤:お聴きになる方によってはそう感じるかも 知れません。 特にバランス接続で聴く 2000 の音 は本当に高解像度で S/Nも素晴らしいですから、 熊澤:やはりナチュラルということに尽きますね。 音楽のディテールまで克明に聴き取りたいとい ヤマハが昔から使っている 「ナチュラルサウンド」 う人には自信をもってお薦めできるのですが、 という言葉、これにもいろいろな定義があるので もっとリラックスして聴きたいという人だってい すが、 ここでいうナチュラルとは、たとえばバイオ るでしょう。 リンなら楽器のサイズがわかって、演奏者のポジ ションやその間で響きあうハーモニーがわかって、 ̶̶̶ そういう場合はシングルエンド接続にす さらに各楽器の音が混ざりあう感じがわかる。 つ るだけで、 だいぶ音がほぐれた感じになりますよね。 まり誇張のない楽器表現ができることだと考え ています。 熊澤:そのとおりです。 シングルエンド接続では 中域にぐっとエネルギーが凝縮されて、ラクに鳴 ̶̶̶ お話を伺うと、なるほどねと思うところが る感じになってきます。2000 を買ったら何がな 多いのですが、実際にそういう音が再現できてい んでもバランス接続を、 ということではなくて、接 るオーディオ機器というのは、価格を問わず、な 続による音の違いも楽しんでいただければと思 かなかないものですよね。 います。 熊澤:そうかも知れませんね。 たとえば繊細さと ̶̶̶ いっぽう 1000 の音ですが、これは単な いうことであれば、空間で生まれるハーモニーの る 2000 の廉価版かと思ったら大間違いで、 音楽 A-S1000 繊細さといった領域まで踏み込んで行きたいで 的な魅力度で言えば、2000 を超えてしまったか すし、低音にしても生のウッドベースの低音はそ と感じさせる部分さえあるんじゃないですか? んなに重くないでしょう。 オーディオ的に迫力の ある音ということではなくて、音楽表現としての 熊澤:そう言っていただけると嬉しいですね。 私 低音再生を大切にして行きたいと思うのです。 はクラシックも好きですけど、ブルース、ソウル、 CD-S1000 ジャズなどのブラックミュージックが持つリズム やグルーブ感といったものも大好きで、たとえば 黒人の女性ヴォーカル特有のスピリチュアルな雰 囲気を忠実に再現したいとか、そういう想いを実 は 1000 のほうにより強く込めたつもりなんです。 ̶̶̶ たしかにフラッグシップとして背負わさ れた重圧が少ないぶん、音楽が活き活きと鳴っ ̶̶̶ A-S2000 と A-S1000 の音を聴かせてい ている感じがありますね。 もちろんオーディオ的 ただくと、 とりわけ実際に楽器を演奏したり、生の なクォリティで言えば 2000 のほうがさらに優 音楽に触れる機会の多い人に支持されそうな音 れているんでしょうけど。 だな、という感じがします。 ただ、アンプも CDも 含めて 2000 と 1000 とでは音の方向性が明ら 熊澤:低音の沈み込みや高音の伸び、解像度、奥 かに違いますね。 行の表現といったオーディオ的評価では、当然 2000 のほうがハイレベルです。 さまざまな音楽 熊澤:はい。2000 の立ち位置は今のヤマハの中 ジャンルへの対応力も高いですし、特にバランス ではフラッグシップですから、あらゆる意味で 接続では違いが感じられると思いますよ。 だから オールマイティでなければならないんです。 わか 逆 に 1000 で は そ う い う 部 分 に 縛 ら れ ず、 りやすく言うと、たとえばマーラーの交響曲を低 「Musicality(音楽性) 」 、 「Enjoyable(楽しさ) 」 、 インピーダンスのスピーカーで完璧に鳴らし切 「Openness (開放感) 」 といったところを意識して、 れるとか (笑) 。 音楽の魅力をもっとストレートに、リラックスし 7 不要共振を抑えるため、天板の固定方法にも新たな工 夫が凝らされた。 サイドウッドは裏側まで天然木突板 で美しく仕上げられている。 4 Yamaha HiFi Component I N T E R V I E W S2000 と S1000、どちらを選ぶ? て楽しめる音にしたいと考えたのです。 ̶̶̶ 1000 は 2000 より半年遅れて発売され ̶̶̶ なるほど。 カタログだけ眺めていると、 スッキリしているので軽く見えますけど、持って A-S1000 で は バ ラ ン ス 入 力 が 省 か れ、 みるとずっしり重いですし。 CD-S1000 では電源トランスがシングルになっ たので、音づくりにもじっくり取り組めたのでは てバランス出力も省略‥‥‥‥というように、ど 熊澤:こっそり本音を言わせていただくと、私た ないですか? うしても装備の差に目が行ってしまいますが、実 ちの想いがよりストレートに込められていて、ま 際に聴き比べてみると見方が大きく変わります た個人的に可愛いのは 1000 のほうだったりす 熊澤:それはあるかも知れませんね。 カスタムの ね。 1000 にしかない魅力も多い。 るんですよ (笑) 。 音質部品の調整とか、ダンパーの取り付け位置 や量の調整などの制振対策といった細かなとこ 熊澤:たしかに 1000 は 2000 と比べて、トラン ̶̶̶ あはは、ついに言ってしまいましたね ろまで、後発の 1000 ではさらに時間をかけて見 スやブロックコンデンサーのサイズはダウンし (笑) 。 それでは 1000 の CD と 2000 のアンプ、 直すことができたと思います。 ていますが、それによって、かえって目指すべき あるいはその逆の組み合わせというのは、開発者 チューニングの方向性がはっきりしたとも言え から見てアリなんでしょうか? ̶̶̶ 具体的には、どういった方向で音を煮詰 るんですよ。 熊澤:それは大いにアリだと思います。 たとえば めていったのですか? 矢崎:1000 のシリーズは、実は見えない部分の CD-S1000 と A-S2000 の組み合わせだと、CD のウォームトーンな音がアンプのちょっとクー 熊澤:まず低域では、 音程感が正確でレスポンス チューニングにかなりコストを掛けていまして、 が良くグルーブ感のある表現を、中域ではメロ 社内的には定価を安く設定し過ぎたんじゃない ルな感じをうまくカバーして、けっこう絶妙なバ ディ楽器の質感や抑揚を、そして高域では楽器 かと言われているほどなんです(笑) 。 その意味で ランスになりますよ。 から出る自然な響きと音の抜けを大切にしまし はお買い得だと思いますね。 ̶̶̶ なるほど。 そういう楽しみかたができる た。 こうした音楽的な表現を突き詰めていくこと で、ミュージシャンの感情表現という音楽のコア ̶̶̶ たしかに、同価格帯の他のモデルと比べ の部分により迫れたと考えています。 ると中身が詰まった感じがします。 デザインが A-S1000 の内部 のも、 このシリーズの隠れた魅力なんですね。 CD-S1000 の内部 A-S1000 CD-S1000 8 5 Yamaha HiFi Component I N T E R V I E W 音楽の感動を身近にする S700 シリーズ ̶̶̶ それでは最後に、S2000/1000 のテイ ̶̶̶ A-S700 の仕様を見ると、基本的な回路 ストを受け継いだ中級機の S700 シリーズにつ 構成は従来型を発展させたもののようですね。 和田理恵 いてお話を伺っていきたいと思います。A-S700 の回路設計と音質チューニングを担当された和 和田:はい。S2000 や S1000 のようなフロー 田さんはお若い女性ですが、こういう仕事をな ティング&バランス回路ではなく、 ここでは定評 さっていると周囲から驚かれることも多いので のある従来型のパワーアンプ回路をリファイン はないですか? して採用することにしました。 AV機器事業部 商品開発部 HiFiグループ A-S700の回路設計と音質チューニングを担当。 和田:そうですね。 実は私はこれまでミニコンポ ̶̶̶ 音質的にはどのような方向を目指した のようなシステム商品を担当してきまして、本 のですか? 今回初めてHiFiチームの一員として、 中核機種 の音決め役に抜擢された。 格的な HiFi アンプの設計は初めてなんです。 音 決めを任されるのも初めてで、とにかく勉強し 和田:A-S2000/1000 のシリーズ機種にふさ 伊藤 剛 ながらという感じでした。 わしいものを、ということで、専用の高音質パー AV機器事業部 商品開発部 HiFiグループ ツを厳選して、できる限りこれらと方向性の近 いナチュラルな音を目指しました。 それと、この クラスの製品はミニコンポから買い替えていた だくケースも多いと思いますので、先ほどもお A-S700の筐体設計を担当。 これまで設計してい たYSPでは共振をいかに抑えるかを考えてきた 話が出たように、 ヴォーカルやギターなどがわ が、 HiFiアンプでは微妙なバランス感覚こそ大 切、 と話す。 かりやすく豊かなサウンドで楽しめる音づくり にもこだわったつもりです。 ̶̶̶ いろいろと責任重大ですね (笑) 。 ̶̶̶ 音質チューニングというのは、設計の技 和田:上位モデルの評価が高かったこともあっ 術だけではなくて音を聴き分ける特別な能力の て、 「700 だけ音が全然違う」とは言われないよ ようなものも要求されるわけでしょう。 うにしなければ、 と思いました。 熊澤:もともと彼女はバンドでヴォーカルをやっ ̶̶̶ それから、ヤマハのアンプに昔から付い ていまして、音を聴く力というのは持っているん ている 「コンティニュアス・ラウドネス」 も、この です。 彼女に限らず、社内には音楽をやっている モデルには受け継がれていますね。 人がとても多いので、 ヤマハらしい音というもの の共通認識は自然とできていきますね。 和田:この価格帯ですと、 小さな音量で聴いたり、 コンパクトなブックシェルフスピーカーと組み ̶̶̶ へえ、ヤマハさんらしい話ですね。 でも、 合わせる機会も多いと思うんです。 その意味で、 音楽をやっている人は自分の好きな音というか、 低音の量感を好みや環境に合わせてコントロー 音に対しての主張が人一倍強いでしょう。 たと ルできるこの機能は、やはり残しておいたほう えば、 自分好みの音に突っ走ってしまうというこ が良いのではないかと。 コンティニュアス・ラウドネス 接続するスピーカーのサイズやお好みに合わせてラ ウドネス効果を無段階に設定できる便利な機能。音 量に応じて低音と高音のバランスを自然に補正し、 小音量のリスニングでも聴きやすさを保ちます。 とはないんですか (笑) 。 和田:どうなんでしょう (笑) 。 熊澤:まあ、このアンプでヴォーカルのソースを 聴きますと、なるほどねと感じるところはありま す。 基本的には S2000/1000 の路線なのですが、 ̶̶̶ 筐体については、S2000/1000 と同じ ウォームトーンな 1000 に比べると 700 は若干 考え方に基づくセンターバーが装着されていま 硬めというか、 ヴォーカルやギターの音の芯の すが、 これも音に効きそうですね。 部分が明快に表現された、そんな傾向の音に なっていますね。 伊藤:はい。 見た目はちょっと地味ですが、これ 9 2 手前が CD-S700、 奥が CD-S2000/1000 のローダー 機構。 トレイの材質など一部の仕様は異なるものの基 本設計は共通で、 スムースな開閉動作も上級機譲りだ。 5 Yamaha HiFi Component I N T E R V I E W 音楽の感動を身近にするS700シリーズ ひとつで音は劇的に変わります。 さらにブロック がありますから、 それにいかに近づけるかという ケミコンに取り付けるゴムダンパーなど、従来 ところに集中しました。 ローダーメカニズムの質 型の構造をベースにもっとも効果的な音質対策 量に対応して、シャーシ剛性も徹底的に強化し をひとつずつ積み上げていきました。 ています。 もちろん、A-S700 との音質的なマッ チングもしっかり追い込んでいますよ。 ̶̶̶ 構造がこれだけ違うのに、見た目や音は S2000/1000 と共通のイメージにしなければ ̶̶̶ それにしても、 S2000 の登場がこうして ならないのも、 意外と大変なんじゃないですか? 中級機のブラッシュアップにまでつながってい くとは思いませんでした。 リファレンス製品を持 つということは、やはりメーカーとしても大きな 伊藤:そうですね。例えば細かなところですが、 意味があるようですね。 縦長のツマミがセンタークリックのところで ぴったり垂直に揃っていないといけないでしょ た。 機構がシンプルなぶん、設計上もさまざまな う。普通の円形ツマミに比べると生産技術の面 ソリューションを選べるので、 オーディオ機器と でも新たな工夫が求められるんですよ。 しての音質はもちろん、再生時の動作音といっ 携帯音楽プレーヤーや音楽配信の普及によって、 たところまでデリケートに追い込んでいけると 新しい音楽と出会う機会が急激に増えています 考えたのです。 よね。 その割に、メーカーの人間が言うのも変で ̶̶̶ なるほどね。 いっぽう CD プレーヤーの 熊澤:そのとおりだと思います。 今という時代は、 すが、HiFi オーディオの世界というのは相変わ CD-S700 は S2000/1000 と同じく田部さんの ご担当ですが、こちらは完全な新設計と考えて 熊澤:SA-CD というのは、たしかに音場的な表 らず敷居が高い。 音楽を 良いわけですか? 現力には長けています。 いっぽう CD には音楽 より良い音で聴きたいと 田部:はい。S2000/1000 と同じオリジナル のコアエネルギーといいますか、 そういったもの いう純粋な気持ちに応え を直接感じさせる力がある。 感覚的にはバラン るために、幅広い音の傾 のローダー機構を搭載しまして、 従来の中級機と ス接続とシングルエンド接続のような違いがあ 向や価格帯の製品を揃え も S2000/1000 とも違う新規設計としています。 ると思うんです。 それに、ほとんどのリスナーに て、オーディオの敷居を とって日常的に楽しむメディアの多くは CD で 高くし過ぎないことも、 ̶̶̶ こ れ は CD-S2000/1000 の よ う な すよね。 だから S700 では、敢えて CD 専用機と 我々に課された責任のよ SA-CD 対応機ではありませんが、敢えて CD 専 しての完成度を高める方向を選んだわけです。 うな気がするんです。 用機にこだわった理由もあるわけですよね。 ̶̶̶ 音質チューニングについてはどうですか? ̶̶̶ なるほど。 新しいヤマハの新しい HiFi コ ンポーネントが、オーディオファンの輪をさらに 田部:SA-CD 対応という選択肢も当然あった のですが、設計の自由度が高いという理由から、 田部:これまで担当してきた中級機と違って、 今 大きく広げてくれると良いですね。 本日はありが この CD-S700 については CD 専用機にしまし 回は S2000/1000 という新しいリファレンス とうございました。 A-S700 CD-S700 10
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