オー ストリア IMBA-Institute of Molecular Biotechnology(`11)

マイコース・プログラム活動報告書
学生番号:0600206816
氏名:三村直哉
所属分野名:内分泌・代謝内科学
期間:5月10日
9月30日(8月13日
9月30日は IMBA-Institute of Molecular
Biotechnology GmbH Dr.Bohr-Gasse 3, 1030, Vienna, Austria で研究に参加しました。)
活動内容(概略):日本でまずゴールデンウィークが開けてから内分泌・代謝内科学の研究
室に通いました。日本で研究の基本的な手技および、基礎研究に必要な実験の考え方や組
み立て方を学んだ後に、1ヶ月半ほどの間、中尾教授がご紹介して下さったウィーンにあ
る IMBA という研究所で研究に参加させていただきました。
0. はじめに
僕は今までラボに通っていた経験が無く、実習を通して得た少ない知識と経験しかなか
ったのですが、このマイコースという機会を活かして海外のラボで実験に参加するという
大変貴重な経験を是非とも体験したいと思っていました。去年マイコースで海外の研究所
で勉強された先輩達の話を参考にし、2月頃から多くの先生に相談させていただきました。
その中でも内分泌・代謝内科学の桑原先生はすぐに紹介先を提示してくださり、また中
尾教授も経験の浅い僕が海外に行くことを後押しして下さりましたので、内分泌・代謝内
科学の研究所をマイコースの所属先として選びました。
ゴールデンウィークが終わってからは中尾先生に一から実験を教えていただきました。
週に2・3日の参加でしたし海外に出発するまで3ヶ月しかありませんでしたので、海外
に行き何かをするには知識が全く足りてはいませんでしたが、この3ヶ月で得た知識は向
こうでも大変有用でした。とはいえ、同じラボ内でも人によってはプロトコルが異なる様
に IMBA での実験のやり方は日本で学んだものと大きく異なる点が多かったです。
僕は IMBA では自分主体で何か実験をしたのではなく、向こうで研究されている人の研
究テーマに沿ったデータの作成や編集を主にしました。ヨーロッパの人は夏休みを皆取り
ますので、僕が向こうに滞在している間にいつもお世話になっていた Dr.Reza が2週間ほ
ど夏休みを取ったこともあり、参加した実験の種類はいくつかあるのですが、どれも深く
まではできませんでした。加えて IMBA ではデータを出すために大切な機器の不具合が多
く実験が難航することが多々ありました。
1. 実験目的
Ⅰ.In vitro Ubiquitination assay
Ⅱ. Cell culture
Ⅲ.B cell isolation
Ⅳ.qPCR
を主に行っていました。その他には block からスライスを作り染色し、その染色したものを
コンピューターに取り込み画像処理を行うことや、injection により誘導性にマウスをノッ
クアウトしていました。
Ⅰ.In vitro Ub assay
ユビキチン転移酵素である E3 リガーゼと脱ユビキチン化酵素(DUB)によって、基質
がユビキチン化される、もしくは脱ユビキチン化されている様子を調べます。TRAF3 と
NEMO を positive control として用い、UCHL1 が APAF1 に影響を及ぼすかを調べまし
た。
(Dr.Reza の PhD work によると、UCHL1 は TRAF3 を脱ユビキチン化し、また NEMO
の変性を引き起こします。)APAF1 はアポトーシスのレギュレーターであり、また彼の実
験によると UCHL1 が枯渇したニューロンはアポトーシスを起こします。
それゆえ、UCHL1
は APAF1 の変性に関与しているのであり、UCHL1 が枯渇した場合 APAF1 がニューロン
内で増加し、その結果そのニューロンがアポトーシスを起こすのではないか、という考え
を確かめることがこの実験の目的です。
Ⅱ. Cell culture
まず、TSPAN6 と
mCherry そして puromycin 抵抗性を持たせたベクターが入った
breast cancer cells を培養します。このベクターはテトラサイクリン応答因子(TRE)も加
えられてあり、テトラサイクリンによる刺激によって TSPAN6 が細胞内で増えるように作
られてあります。この細胞をマウスに injection し癌の転移の仕方を観察し、TSPAN6 が癌
の転移を抑えるかどうか調べることが目的です。細胞を injection した後にテトラサイクリ
ン系であるドキシサイクリンを含む水を飲むグループと飲まないグループを作り、蛍光タ
ンパクである mCherry によって癌細胞がどう転移したかを調べる事が出来ます。
Ⅲ.B cell isolation
この実験は Dr.Roberto の実験の一部です。CD40 の系で促進的に働く TRAF2 を、
HACE1
が分解するという考えで彼は研究していました。僕は HACE1 の K.O.マウスから脾臓を摘
出した後に B cell だけを抽出し、そこに CD40 抗体を入れたものや LPS を入れたものを作
り B cell がどうなるかを調べました。
Ⅳ.qPCR
この実験は IMBA にいらっしゃらないコラボレーターの人との共同研究です。コラボレ
ーターの人から38個のヒトのサンプル(cancer)を受け取り、そのサンプルを5つの遺
伝子について UBC を housekeeping gene として qPCR を行います。この時それぞれがど
ういった cancer なのかといった情報や、性別や年齢などの情報はブラインドのまま実験を
行いました。qPCR した結果をそれぞれの遺伝子で表にまとめコラボレーターに送り、その
後に具体的な情報を受け取り、それぞれの遺伝子がどういう条件の下で増減するのかを推
測する実験でした。
2. 実験方法
Ⅰ.In vitro Ub assay
Flag tagged protein を含んだ液に HA tagged Ub を加え、そこに E3・DUB を加えます。
そしてラット由来の flag に対する抗体を用いて免疫沈降法を行ってから western blotting
を行います。一次抗体としてマウス由来の flag に対する抗体を用い、二次抗体としてマウ
スに対する抗体を用いることで、TRAF2,NEMO,APAF1 の loading を見ます。それから二
次抗体をマウス由来の HA に対する抗体にすることでユビキチン化の度合いを見ます。
Ⅱ. Cell culture
まず細胞にベクターが入っているかを確認するために Puromycin による selection を行
いました。培養されていた細胞を Trypcinization により 15cm の plate に移して medium
として MCF10A を用いて Puromycin が1μg/ml となるように加えたものを6枚作りまし
た。それからコロニーが十分な数得られるまでは2・3日に一度 medium を変えて待ちま
す。
Ⅲ.B cell isolation
まずマウスから脾臓を取り出し、mesh で濾すことで single cell suspension にします。
そして RBC lysis buffer により RBC を壊した後に、B cell 以外の血球に対する抗体で磁力
に反応するものを加え、強い磁場を経過させることで B cell のみが磁場を通り抜けること
を利用して isolation を行います。それから細胞数を数えて、2.5
10^6 個/ml にして 100ml
ずつ well にまきました。そして LPS を加えたグループと加えなかったグループそれぞれに
抗 CD40抗体を濃度勾配をつけて加えました。数日置いた後に細胞の形を観察し、BrdU
を加えて細胞増殖の度合いを計ろうとしました。
Ⅳ.qPCR
SYBR green と primer と cDNA と水を適当量混ぜ合わせ qPCR を 38 のサンプルをそれ
ぞれ 3 つずつ行い、あまりにズレているものを外して gene expression の平均値を取りまし
た。
3. 実験結果
Ⅰ.In vitro Ub assay
<写真1>
TRAF3
NEMO
APAF1
TRAF3
NEMO
APAF1
<写真2>
これが実験の結果です。何枚も写真を撮ったのですがあまりきれいには撮れませんでした。
Ⅱ. Cell culture
Selection に かな りの 日数が 必要 だっ たた めコ ロニー は得 られ たので すが 、そ れを
injection する前に帰国することになりました。
Ⅲ.B cell isolation
細胞の形にはそれほど大きな差がなかったですので、BrdU の結果を見ようとしていたの
ですが、試薬を加えて発光強度を計ろうとしましたが機械の調子が悪くデータが得られま
せんでした。
Ⅳ.qPCR
この実験ではコラボレーターに結果を送ることまではできましたが、コラボレーターか
らの情報を得る前に帰国しましたので、実験として最後まではできませんでした。
4. 考察
Ⅰ.In vitro Ub assay
<写真1>から TRAF3 の loading に関しては大差がないと思われます。しかし NEMO
と APAF1 に関しては左側の方が多いことがわかります。
<写真2>では左から交互にコントロールと UCHL1 が過剰発現しているものが並びま
す。つまり、TRAF3 に関しては左から1番目と3番目のものがコントロールであり、残り
の2つは UCHL1 が過剰発現しているものです。この写真から TRAF3 の左から4番目のも
のを除けばそれぞれ、その左隣にあるコントロールのものよりユビキチン化がされておら
ず、その結果バンドが薄くなっています。(ユビキチン化が多くされるとその分、分子量が
大きくなるため分子量に幅を持ったバンドが形成されることで黒いバンドが長くなりま
す。
)つまり、それぞれの遺伝子は UCHL1 が過剰であれば、ユビキチン化が進まなくなっ
ていることがわかり、変性などが起こっていると考えられます。
これだけでは確信を得る事はできないですが、Dr.Reza の仮説に沿った結果となりまし
た。
Ⅱ. Cell culture
この実験のために Dr.Reza は細胞を長い間培養してやっと得られたコロニーだったそう
ですので、コロニーを得られたこと自体は非常に良いことでしたが、実験を最後まで見る
事ができず残念でした。Puromycin による selection は行いましたが、この後 western
blotting により実際に TSPAN6 の発現量をみることも行うそうです。
Ⅲ.B cell isolation
試薬が古かったこともあり本来なら目に見えて変色するところが、あまり青くならなか
ったので成功していなかったのかもしれませんが、機械の不調により値としてデータを出
せなかったのは残念です。同じ実験をしようとして新しく試薬の注文をしたのですが、そ
れが届くのにまた日数がかかったため2度目はできませんでした。
Ⅳ.qPCR
実験が最後まで終わらなかったので、どういったこと状況でそれぞれの遺伝子の発現量
が変化するのか考察することができませんでした。このレポートを書いている11月でも
まだ何もコラボレーターから情報が来ていないそうです。
5. 感想
こうしてレポートにしてみると、僕の手技が稚拙なこともありますが、ほとんどデータ
が出せておらず、1ヶ月半という期間が実験をするにあたっていかに短いかということが
よくわかりました。向こうでは半年に一回自分の研究を同じラボの人に向けて発表する場
が設けられます。京都大学の内分泌・代謝内科学では2週間に一回です。どういった実験
をしているのかによりますが、2週間はデータを出すには短過ぎるように感じられました。
大変お世話になった IMBA を悪く書きたくはないですが、何よりも驚いたことはヨーロ
ッパの研究者は日本の研究者よりも大変
雑
だと思いました。手技だけにとどまらず、
実験器具の扱い方やその後片付けなど驚く程に適当でした。そういう適当さがあって機械
の不調が日本では考えられない程起こると花田先生はおっしゃっていました。ただ、それ
はその人がどこで研究に関して教育を受けたかということに左右されるのであって、もち
ろんラボの中にはきれいな手技の方もいらっしゃいました。また IMBA では誰がどの仕事
をするかがきっちりと決まっていた事にも驚きました。研究者は研究のみをすればよく、
ビーカーやシリンダーの掃除はトレイの上に置いておけば全て掃除の人が行ってくれます
し、新しいものは廊下にある棚の中にきちんと並べられています。また IMBA の地下には
倉庫があり、よく使われる試薬や培地などは地下に行けば山のようにあります。その反面
BrdU のキットの注文といった、あまり使われないものを注文すると研究所に届くまでに日
数がかかります。
また驚いたことに IMBA では週に1回金曜日の夕方に beer hour というものがあります。
これは IMBA のラボが持ち回りで主催を担当するちょっとした宴会で、軽食が出されビー
ルが飲み放題でした。毎週飲み会があり昼間は外で ひなたぼっこ をしている人も多く、
本当に研究をしているのかと疑う程にゆっくりと過ごしている研究者が多かったです。
僕が行かせていただけることが決まってから最初にラボの人達が花田先生に尋ねた質問
が「その学生の英語は大丈夫なのか?」だそうです。日本人の仕事は評価されていると思
いますが、英語はあまり上手ではないと認識されています。日本は島国ですしヨーロッパ
に比べ外国人の流入が少なく、また経済的に世界的にも大変進んでいる国ですので日本語
だけで十分生活できることもあり、日本人の英語は上手になりづらい環境だと思います。
ですが、研究の世界において公用語はもちろん英語ですし、英語の大切さを改めて認識し
ました。英語で苦になることはあまりありませんでしたが、初めて行う実験の説明を受け
ていると何度聞き直しても細部まで理解できた自信はありませんでした。
ほとんど知識の無い僕を1ヶ月半もの間ウィーンに行かせていただき本当にありがとう
ございました。内分泌・代謝内科学の中尾教授、桑原先生、中尾先生には大変感謝してお
ります。また Prof.Penninger, Dr.Reza, 花田先生にも大変感謝しております。マイコース
のおかげでたくさんのことを学ぶことができ、今までに無い充実した夏となりました。
以下はウィーンでの生活についてです。
0.出発の準備
他のヨーロッパで留学する友達は取っていなかったですが、IMBA の事務の方に VISA
を取るよう言われたので、一応取りました。VISA には種類がありますが、研究目的でした
ので、D VISA を取りました。申請は東京にあるオーストリア大使館まで本人が行かなけ
ればならず、旅行会社の代行は認められませんでした。週末に電車に乗っている時、たま
たま警察の方にパスポートを出すよう言われ、その時に自分が留学をしていることを VISA
で証明できましたが、隣にいた韓国人は tourist と言ってパスポートを出したら問題は無か
ったですし、実際取らなくても良かったと思います。
1.一日の過ごし方
毎朝10時ごろにラボへ着いていました。IMBA の中にはカフェテリアがあり、ラボの
メンバーでいつも誘い合って昼食を食べていました。自分の ID カードには入金することが
でき、それでカフェテリアや IMBA の中の自販機を利用出来ます。帰りは8時ごろでした。
スーパーが早くに閉まるので実験の合間にスーパーに行き買い物を済ませ、ラボのメンバ
ーが使うキッチンの冷蔵庫で帰るまで保存することが多かったです。
2.宿舎について
8月いっぱいは IMBA のゲストルームを使わせていただきました。ゲストルームは IMB
A の中にあり無料です。ゲストルームはベッドにシャワー、トイレ、テレビ、電話、インタ
ーネット、冷蔵庫、タオルが揃っており、毎日掃除をしてもらえ、タオルも新しいものに
替えてもらえました。ラボまですぐですし、大変快適で僕には贅沢過ぎるほどの部屋でし
た。また IMBA の中には施設の人間が自由に使う事が出来る洗濯機もありました。
9月は他の大学生も住むアパートに住んでいました。アパートから IMBA まではトラム
で乗り換える事無く10分ほどで着きます。ルームメイトとシャワー、トイレ、キッチン
は共用で自分だけの部屋もありました。またバルコニーがありましたが、バルコニーには
部屋の間に仕切りがなく、皆で一緒にお酒を飲んだりしていました。フランス人が多かっ
たですが、ベルギー人やイタリア人スイス人アメリカ人等アパートにいる人は様々でした。
引っ越した日から一緒にお酒を飲もうと誘ってもらえ、ルームメイトとすぐに仲良くな
れたことがこのアパートでの生活を楽しいものにしました。ルームメイトと同じ大学の人
達とも仲良くなり一緒に遊びに街へ出たりしました。
3.ウィーンの安全性
ウィーンは安全であるとよく聞く様に本当に安全な街でした。深夜に一人で路地を歩い
ても問題はなかったです。ウィーンはリングの中が栄えていますが、人が多い場所でもほ
とんどスリはいないと現地の方に聞きました。1ヶ月半過ごしましたが、非常に過ごしや
すく、また行きたいと思う魅力的な街です。