直感的・視覚的にわかりやすい効果的な指導法の研究 −加工実習をより理解するために− 大阪市立中学校教育研究会技術・家庭部 大阪市立 淀 中学校 教諭 畠野郁夫 大阪市立市岡中学校 教諭 笠間優雄 1.はじめに 老子は「聞いたことは、忘れる。見たことは、覚える。やったことは、わかる。 」と言ってい る。科学的な根拠はないと思うが、人間が学習することは今も昔も変わりはない。この言葉を 受け今までの実践をふり返り、 「わかる授業」について研究を広げていくことにした。 生徒が確かな情報をこころと体で受け取るには「わかる授業」の必要性がある。 「わかる授業」 とは、<視覚的にわかりやすい授業>が最適であると考えた。当然このような内容は以前から 実践されている。そこで<3 年間を見通した授業計画>と<視覚的にわかりやすい授業>をベ ースに「技術とものづくり」の実践をどのように組み合わせていくか研究をすすめた。また、 学習指導は毎回改善していく中で成果が表れるものである。学習する側の生徒の感性や経験度、 コミュニケーションのとり方などでも大きな差が生ずると考えられる。 「聞く力」 「集中力」 「会 話力」「助け合う力」 「図や文章の表現力」など授業の中でどのように身につけさせることがで きるかが大切である。さらに、作品を完成させたという実感が喜びとなり、人やものを大切に するという心が育つことを願い実践を試みた。 2.研究のねらい 生徒の<感性>から学習内容に結びつくような方法を<直感的・視覚的にわかりやすい授業 >と研究テーマを設定した。10 年程前から、視聴覚機器等を工夫して<視覚的にわかる授業> の実践をしてきた。ただ、視聴覚機器を使うだけでなくデジタルコンテンツの適切な活用やい ろいろな提示物等と併用して使うことでよりいっそう効果が上がるのではないかと考えた。ま た、基礎的・基本的な加工の体験が少ない生徒に対して今まで以上に加工技術やトラブル解決 方法等を身につけさせる必要性も感じた。そこで、<視覚的にわかりやすい授業>を工夫し、 基礎的な工具・機械の使い方にウエイトを置いた「基礎実習」の実践を進めた。また、<3 年 間を見通した授業計画>として「技術とものづくり」の(5)へと広がる「からくり人形」を発展 題材とし、題材開発を行った。 さらに、工夫しわかりやすい授業ができれば教科として支援が必要な生徒に対しても理解し やすのではないかと考えた。 よって、<直感的・視覚的にわかりやすい授業>と「基礎実習」の 2 つにウエイトを置いて 研究をすすめることにした。 以上のことを簡単に図 1 にまとめた。 検討・評価 次の発展題材へ 直感的・視覚的に 情報の収集・実験 情報の共有・交換・活用 わかりやすい授業 基礎実習・製作 (問題解決・助け合う力) 作品の完成 作品の活用 図 1. 3.研究の内容 (1) <直感的・視覚的にわかりやすい授業>の指導法の研究 ① 視聴覚機器の利用 ア 簡易提示装置(OHC)の利用 授業中いろいろな場面で一番多く利用した機器である。接写ができるので立体物・ プリント原稿・部品・手先で行う作業などをテレビ画面に大きく見せることで生徒が 具体的に理解でき、作業の失敗が少なくなった。 (写真 1・写真 2) 写真 1.簡易提示装置とテレビ イ ビデオ・DVD の映像の利用 ビデオ編集をした動画を見ること 写真 2.簡易提示装置 表1 でその場で見せることができない内 OHC 簡易提示装置 テレビ 容等を理解させ、短時間で流れのあ ビデオデッキ ビデオカメラ る説明等に使う。 パソコン プロジェクター OHP の利用 デジタルカメラ DVD プレーヤー デジタルカメラやスキャナーで撮 OHP オーバーヘッドプロ ウ った画像・写真とイラスト・図の利 用方法を工夫した。 エ 利用できる視聴覚機器・・・表1 ジェクター ② 提示物・印刷物の工夫 製作手順等を示した図等の表現に工夫をした。 プリントに使う図は、原寸表示やキャビネット図と第三角法を組み合わせて表現し た。また、同じ原稿を模造紙大に拡大コピーしておく。 プリントの利用では、生徒に配布→説明時に簡易提示装置で同じプリントで説明→ 同じプリントを模造紙大に拡大コピーし黒板等に掲示する。繰り返し同じ内容のプリ ントを使うことで効果的に理解・定着させることが以前より高まった。同時に自分で 考えてみようというように変えることができた。 ③ 実験 仮説を立てさせて「本当はどうか」と 視聴覚 科学的に考えさせる授業や実験を行った。 デジタル すぐに答えを教えないで「なぜそうなる 情 機 器 提示物 報 のか」を「科学的」に考えさせた。また、 ④ 生徒の意見はすぐに否定しないで問いか 拡 け考えさせた。 掲示物 視覚的に 大 教科書 わかりや すい授業 完成品・部品の見本 上記の方法を学年・学級に合わせて効 果的に組み合わせ視覚的にわかる授業を 板書の 実 験 作りあげる。以上のことを図 2 にまとめ 工 プリント た。 ⑤ 夫 図 2. 教科として支援を必要とする生徒への配慮 支援を必要とする生徒にわかる授業を工夫し研究を続けていく必要がある。 今後の課題である。 (2) <加工法の指導>を中心とした「基礎実習」から発展題材までの研究 ① 基礎実習においては、生徒が初めて工具や機械を使うということを前提として、<直感的・ 視覚的にわかりやすい授業>をベースにし た指導を行った。 視覚的にわかりやすい授業 (情報の収集:知識理解) 工具・機械の使い方の実践では、班単位に ローテーションで行う。また、生徒はお互い 班単位の実習:情報共有 に助け合う。これはただ単に機械の操作だけ (工具・機械を使う) 学習するのではなく、<わからないことが聞 ける><助けてあげる>というねらいも 実習時の問題点:情報の交換・活用 ある。また、部品の加工にジグの利用にも (問題解決・助け合う力) 工夫した。 基礎実習の発展題材に結びつくように した。 ② 班単位での実習:作品の製作 (再認識) 基礎実習の基本的な流れを図 3 に示す。 実践のまとめ(記録) 図3 図3 ③ 基礎実習の一例を表 2 にまとめた。 表 2. 目標・学習内容をはっきり明確にする・・・・・支援を必要とする生徒への配慮 「○○○を作る。」 ①工具・機械の使い方 ②作業の流れを考える ③実習・問題解決 ④作業の助け合い 学 習 内 容 1.工具・機械の使い方① 2.工具・機械の使い方② 3.実践① 視聴覚機器等 ビデオ・DVD 生徒の活動 映像(動画)を見る。 映像から使い方を知る。 静止画・簡易 プリント冊子・映像 図・説明文・映像等から 提示装置 (静止画)を見る。 使い方を理解する。 ビデオ・DVD 班単位のローテーシ 実際に工具・機械を使い ョンで全員が工具・機 具体的に体験し、班メン 「工具・機械を使う練習」 械を使う練習をする。 バーで助け合いコミュ ニケーションをとる。 4.実践② 完成した部品 準備している部品で 作業の流れや組み立て 「組み立て練習」 の利用 「組み立てる」練習 方を班で考える。 完成品・部品 図面(原寸大)のプリ 現物を見ることで製作 5.実践③ 「作品の製作」 の見本の提示 ントを使って製作を のイメージを作る。 拡大コピーで する。 図面の掲示 トラブル解決 トラブル解決:班メン 班メンバーで考え、工夫 :プリント バーで問題解決また する。 は教師に質問する。 6.実習結果のまとめ ④ レポート用プ レポート作成 作業の流れや使用工具 リント 等を思い出し完成する。 「思い出す」学習 基礎実習の主な作品例 基本的には主題材や発展題材のベースになるような作品を考えた。各学校・学年によ って作品は違う。基礎実習ではロボット人形・自動車・ティッシュボックスなどの作品 を写真 3∼写真 5 を参考例とした。発展題材は動くおもちゃ「からくり人形」写真 6∼写 真 7 を製作させた。主題材は木製品のキットなので写真は載せていない。 写真 3. ロボット人形 写真 4. 自動車 写真 5. ティッシュボックス ア 基礎実習は学校によって違うが 4 時間∼5 時間で行っている。 イ 3 年生で実習する保育交流に向け事前に技術の授業でロボット人形や自動車を再 度製作し園児にプレゼントした。 ⑤ 3 年間を見通した指導計画で発展題材を「技術とものづくり(5)」の木で動くおもち ゃ「からくり人形」とした。(デザインは基本的に自由とした。) 写真 6 写真 7 4.おわりに 道具を使ったことがない生徒が多いことや作業ができないということについてもう 10 年以 上も前から言われてきている。考え方を変えて「できない」ではなく「やったことがない」と いう前提で授業を進めた。第 32 回近畿大会で「基礎実習」にウエイトを置いた研究を発表した。 しかし、ただ単に作業が「できない」ではなく、 「作業の流れが把握できない」 「多くの説明内 容に混乱して何をするのかわからない」 「材料の自己管理ができない」等の生徒が多いというこ とに注目をした。<直感的・視覚的にわかりやすい授業>を実践した結果、説明時間が短縮し、 加工の失敗が減少した。1 回の授業にはプリント・実験用具・掲示物などの準備物が必要であ ることを痛感した。しかし、準備したが良い結果が出ない場合もあり、より工夫する必要性が あると感じた。<直感的・視覚的にわかりやすい授業>を工夫すれば、教科として支援を必要 とする生徒に対してもわかりやすいのではないかと考え、今後の課題として研究をすすめてい きたい。生徒が少しでも楽しくいきいきと活動している授業ができればと考え研究を続けてい きたい。これからも皆様のきびしいご指導をお願いする次第である。
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