テキスト - 翻訳のバベルグループ

翻訳ビジネス起業(法人化)実務
第 1 講 翻訳事業起業(法人化)のすすめ
1. 何故翻訳を学ぶのか
今、貴方はバベル翻訳大学院(米国)で翻訳の学習をスタートしようとしています。この
スタートに当たってもう一度貴方が何故翻訳を志したのかを考えておきましょう。次のど
れでしょうか。
□ 現在勤めている会社からの収入に加えてセカンドインカムを確保する。
良い考えです。翻訳は、きちんと専門をつくって注文が流れてくるようになれば、時給 3,000
円位の収入にはなります。週日と週末をあわせて 10 時間くらいの時間はとれるでしょうか
ら週に 3 万円、月間で 12 万円くらいの第 2 の所得は稼げるでしょう。翻訳はスキル(熟練)
ですから今からスタートすれば 5 年、10 年するうちに熟練が蓄積して速く翻訳できるよう
になり、もっと稼げるようになります。翻訳で英語力も着実に上がっていきます。
□ 現在子育て中だが子供が成長した後の仕事への復帰まで英語力をキープしておきたい。
賢明な考えです。英語は、使わないと、どんどん力が落ちて行きます。子育て中であって
も一日に 1 時間でも 2 時間でも翻訳を通じて英語に触れ続けることが英語力をキープする
秘訣です。それにパソコンとインターネットを毎日操作するのですから新しいテクノロジ
ーにも触れ続けることになります。子供から離れる時期に、何も技術も専門もなかったら、
どのようにして仕事を見つけたらよいのでしょうか。
□ 会社を退職してフルタイムの翻訳者として働くつもりだ。
堅実な生活設計です。現在のような社会経済となって、日本中の会社や法人が英日・日英
両言語で文書を作成しなければならず、しかもそれを社外にアウトソーシングしなければ
ならない時代には、専門をもった翻訳者は引っ張りだこです。普通のサラリーマンと同じ
ようにホームオフィスで働き、そのような人と同じ位の収入は稼げるでしょう。
□ 夢ですが一冊で良いから本を翻訳して出版したいのです。
世界中でまだ日本語訳で紹介されていない本はたくさんあります。貴方の語学を活かして
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世に紹介できる本は山ほどあるのです。バベル University Professional School の学習と並
行して訳し始め卒業時にはきっと出版にこぎつけられます。
貴方が上記のどれに該当するかをもう一度考えチェックしてみましょう。複数のチェック
印が入るかもしれませんね。とにかくここで今一度、目標をはっきりと考えてみましょう。
2. 翻訳大学院と翻訳ワークの特徴
日本の大学・大学院は、皆さんが勉強してこられて知っておられる通り、「知識」を学問と
して教えるところです。ところが専門職大学院というのがあります。弁護士になるための
法科大学院、会計士になるための会計大学院、教員になるための教職大学院がそうです。
アメリカのプロフェッショナルスクールがそれです。バベル University Professional
School of Translation は翻訳者になるための専門職大学院(プロフェッショナルスクール)
です。プロフェッショナルスクールは通常の大学・大学院(アンダグラデュエート&グラ
デュエートスクール)と違い学問的研究の場というよりも専門職としての技能(プロフェ
ッショナル・スキル)を練磨するところです。翻訳の仕事というものは「知識」を得るこ
とよりも「熟練の技術」を身につけることが重要です。一定の時間に大量の、良い正確な
翻訳を生産することができる熟練技術(スキル)を身につけることがプロフェッショナル
スクール・オブ・トランスレーションの真髄なのです。そしてこの「スキルを身につける」
ということは繰り返し、繰り返しの訓練からのみ生まれます。知識から生まれるものでは
ありません。
(勿論、意味のないハードトレーニングでは駄目で、正しい、良く設計された
訓練カリキュラムに沿った翻訳訓練でなければなりませんが。)そこでバベル Professional
School of Translation では、そのカリキュラムにおいて、プロフェッショナル・トランス
レーターになるための大量の翻訳ワークショップを組み込んでいますが、更に受講生が豊
富な翻訳ワークの経験を得られるよう、受講期間中から積極的に翻訳の仕事をすることを
薦めています。バベルグループの翻訳受注会社(バベルトランスメディアセンター)や翻
訳者派遣会社(バベルスタッフ)で働き、経験を得る受講生も現にいます。自分でクライ
アント(顧客)を持っている方もいます。
3. 経験の重要性
実際に翻訳会社に働いたりクライアント会社から受注を得たりしますとわかることですが、
翻訳会社や翻訳発注会社には「経験」を非常に重視します。翻訳経験が何年あるかを非常
に重く見るのです。これは翻訳をこれから志す人にとっては酷ですが。というのは経験が
ないからこそ翻訳を学んで翻訳業界に入ろうとしているのですから。しかし翻訳者を採用
する側から言えば翻訳経験の無い人を採用して、「育てて」から使うという余裕はないので
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す。
バベル Professional School of Translation の教科課程では 2 年間で 1,500 時間の、プロフ
ェッショナルトレーニングの機会を与えます。それは優れて体系的な「経験」です。これ
に加えて、個々の受講生が積極的に翻訳事業の起業をして実際に翻訳の受注をして翻訳の
経験を得ることを推奨します。それによって支出した授業料等の受講費用も回収できます
し、卒業して求職する際には「経験年数」をアピールできます。また自立して翻訳受注活
動をはじめるにしても、早くから始めておけば安定した受注先を得られるでしょう。
4. 翻訳ビジネスを個人でやるか法人でやるか
バベル University Professional School of Translation の受講を進めながら、自己の翻訳ビ
ジネスを立ち上げることをお勧めすることは、以上でお分かり頂けたと思いますが、その
翻訳ビジネスを「個人」として立ち上げるか「法人」として立ち上げるかを考えてみまし
ょう。個人として立ち上げるとうのは翻訳ビジネスを個人として始めることですし、法人
として立ち上げるということは貴方の翻訳会社をつくるということです。以下に項目をわ
けて考えてみましょう。
(1) スタートの費用
個人で翻訳ビジネスを立ち上げることはなんらの手続も要りませんから、現在の貴方のま
まで立ち上げ可能です。費用はかかりません。零です。
会社をつくるには法務局で会社の登記をしなければなりません。昔は会社を作るのに資本
金(株式会社で 1,000 万円、有限会社で 300 万円)が要りましたが、今は会社法が変わっ
て資本金なしで会社をつくることができます。株主 1 人取締役 1 人監査役なしの一人会社
をつくることもできます。(詳しくは第 2 講、第 3 項で学びます。)ビジネスを個人でスタ
ートするか、会社でスタートするかについては、昔みたいに大きなバリヤーが今はなくな
り、自由に決めることができるのです。
(2) 営業のやり易さ
個人の場合は、翻訳会社に登録して翻訳の仕事を回してもらうのを待つことになるでしょ
う。余程強力なコネが無い限り、個人で翻訳者を名乗っても自動的には翻訳仕事は流れて
きません。日本中に翻訳会社はたくさん(大手で 250 社ほどといわれています)あります
が、どの翻訳会社も使い慣れた面識のある登録翻訳者に優先して仕事を回しますから、新
規に翻訳者として登録したとしても、なかなか仕事を回してはくれないでしょう。翻訳会
社を設立して「会社」としてクライアントを探すほうが、営業はずっとやりやすいでしょ
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う。翻訳会社の代表が老年であっても若年であっても、クライアントは営業トークを聞い
てくれます。会社を設立してまで翻訳をやるということで。「本気」だと受取ってくれるの
です。クライアントは企業が圧倒的に多いのですが、企業の場合、発注先は「会社」でな
いと信用されませんし社内での取引許可も下りにくいという事情もあります。クライアン
ト企業が翻訳料金を支払う際に支払先が個人ですと 10 パーセントの源泉所得税を徴収しそ
れを支払先が税務署に申告しなければならないという面倒もあります。
(会社に対して支払
う場合はこの面倒がないのです)翻訳の注文を頂くという立場にたてば、個人で営業する
よりも、会社をつくって営業する方が圧倒的にやりやすいのです。実際に何人もの 30 代の
女性が翻訳会社を設立して安定した注文を得て成功しています。
(3) 翻訳経験を証明できるか
前述しましたように翻訳会社は翻訳者の経験年数にこだわります。クライアントも翻訳の
経験年数を重視します。実際に翻訳にたずさわった経験の年数の多い人と翻訳経験の少な
い人を比べてみても翻訳の品質と生産性(単位時間当たりの翻訳量)の差は如実にありま
す。バベル University Professional School of Translation の修士プログラムの総時間数は
1,500 時間に及びますのでフルタイムの翻訳起業に換算して 3 年間に匹敵します。
(アメリ
カのポストセカンダリー教育 1 年は実務の 3 年間に計算されます)しかし、それでも尚、
求職や受注活動に際して更なる経験を要求される場合があります。そのような場合に備え
てバベル University Professional School of Translation の時期から積極的な翻訳起業・体
験をお勧めするのですが、問題はそれをどのように証明するかです。個人で翻訳ビジネス
をスタートしてそれをアピールするとしても、それは自己の主張としてしか受取ってもら
えないでしょう。会社を設立して翻訳ビジネスを始める場合はその会社の登記簿謄本に設
立年月日が記載されますので自己アピールに公の証明のある登記簿謄本を添えることがで
きます。バベル University Professional School of Translation での翻訳訓練とあわせて合
算した翻訳経験を主張する際の立証の資料となるでしょう。そういう意味でも翻訳会社は
設立しておいた方が良いだろうとも言えます。
(4) 勤務地に知られる危険
翻訳者として独り立ちするまでになるためには或る程度時間が掛かります。経済的に生計
を支える収入が要ります。そのためには現在お勤めしていらっしゃる方は勤務先でのお仕
事を辞めるわけにはいかないでしょう。ところがどの会社にも就業規則というものがあり
ます。この就業規則の中には従業員の二重就職禁止の規定があります。つまり会社の給料
をもらいながら他のアルバイトをしてはならないという規定です。実際の上では翻訳者を
志望する人は一定の期間は現在の会社に勤務しながら「二足のわらじ」をはいて翻訳の仕
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事をせざるを得ないでしょうから、会社に内緒で翻訳のアルバイトをすることになります。
そのような場合に、個人の名前でアルバイト収入を得ていた場合には、会社にそれがばれ
ると極めてまずいことになります。多くの会社勤務の人は毎月の給料から所得税と住民税
を源泉徴収され年末調整で精算するのですが、アルバイトの翻訳収入の方は翌年の確定申
告で申告します。この申告による税の徴収(住民税の特別徴収)で会社にアルバイトがわ
かってします場合があります。個人で翻訳ビジネスをはじめる場合にはこのような危険性
があります。会社を設立して翻訳ビジネスをはじめる場合は会社名義で確定申告をします
からこのような危険性はないでしょう。
(5) 税務上のメリット
これは圧倒的に会社を設立する方が個人ビジネスよりもメリットがあります。会社にして
確定申告をすればいろいろな経費控除ができます。パソコンや翻訳ソフト、電子辞書や参
考図書の購入代金を経費で落とせます。翻訳をするために必要な取材のための交通費や旅
行費用も経費となるでしょう。クライアントとの打ち合わせのための飲食費も「一定限度」
で落とせます。バベル University Professional School of Translation に支払った授業料も
従業員教育費として経費処理できます。これはつまり税金に取られる金で自分の教育がで
きるということです。その他自宅の一部を翻訳の従事場所として使っている人はその文の
家賃を経費として落とせますし、その他税務面ではいろいろと有利な点があります。これ
らについては第 4 講でもっと詳細を説明します。
(6) 責任を限定できること
翻訳をやっていますと思わぬトラブルに巻き込まれることがあります。翻訳代金をとりは
ぐれるのは少ない額ならばあきらめてしまえば良いのですが、面倒なのは損害賠償責任を
請求される場合です。貴方が納入した翻訳物に誤訳があってそれが原因でクライアントに
多額の損害を生じ、その損害の賠償を請求されるようなケースです。あるいは貴方が約束
した翻訳物の納品の期日に遅れて相手方(出版社など)に計画の狂いが生じて多額の損害
が発生し賠償を請求されるようなケースです。個人で翻訳ビジネスをやっている場合は貴
方は「個人」でその債務を背負い込むことになります。一生かかっても返しきれない額か
もしれません。翻訳会社を設立してその名義で翻訳物を納品した場合には貴方は「個人責
任」を負いません。これを会社の有限責任と言います。会社宛に請求があれば会社を倒産
させてしまう(即ち、支払えないと宣言する)ことで貴方には累は及びません。貴方が会
社の代表取締役であっても、役員であっても債務は会社の財産の範囲(即ち、有限責任)
でとまります。これからの世の中はどのようなことが起きるかわかりませんから、最初の
起業の時から安全なセーフティーネットをこしらえておくことも重要でしょう。
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以 上 の よ う に 考 え て き ま す と 、 貴 方 が バ ベ ル University Professional School of
Translation に入学した最初の時から、貴方の会社を設立し体制を整えておくのが賢明であ
るといえるでしょう。どのような会社を起業するか、どのように会社を設立するかは次講
(第 2 講)、次次講(第 3 講)において述べます。
5. 名刺と挨拶状
バベル University Professional School of Translation に入学されたときに会社を設立する
ことをお勧めすることについては上述の通りですが、設立すればすぐに名刺と挨拶状が要
ります。翻訳の仕事というものは、自分がそれをやっていることを PR しなければ入ってき
ません。翻訳会社を設立することを決めた人はその名義での名刺と挨拶状を用意しましょ
う。翻訳会社を設立することをまだ決めていない人であっても、勤務先で支給される会社
の名刺とは別に個人の名刺を刷っておくことが良いでしょう。肩書きを「翻訳家」とか「ト
ランスレーター」にして、右下にバベル University Professional School of Translation○
○専攻と書き、左下に住所、電話、Fax 番号、E メールアドレスを書いた名刺を持ち歩き、
将来クライアントになってくれそうな人を見つけたら配っておくのです。勿論、自分の翻
訳会社を設立されれば、その名刺をつくっておきます。名刺に自宅の住所を印刷するのを
ヘジテートする人がいます。特に女性の方の中にはストーカーなどにつきまとわれる危険
への配慮から自宅住所を名刺に印刷するのを避けたいと思われる方がいらっしゃるかも知
れません。そのような方は住所を載せない名刺でもよいでしょう。(電話番号やメールアド
レ ス は 取 り 替 え る こ と が で き ま す ) 尚 、 バ ベ ル University Professional School of
Translation では、スチューデントサービスに申し出て下されば郵便アドレス提供・転送の
サービスを行っていますから、これを利用して名刺を作ってくださっても結構です。
6. 日本以外の国ではどうか
受講生の中には、日本以外の国に在住していらっしゃる方もいらっしゃると思います。以
上に述べたことは、基本的には、どこの国でもあてはまると思いますが、国によっては税
務面で法人化のメリットが上述した日本の場合よりも少ない場合がありますから、それぞ
れの国で考えて下さい。たとえばアメリカ合衆国の場合、パートナーシップやコーポレー
ションを選択すれば個人の税務申告と合算できますが他方、法人に州税のフランチャイズ
タックスがかかるというような点があって、必ずしも、個人の翻訳ビジネスよりも法人化
した翻訳ビジネスの方が有利であると断言できないようなことがあります。これらについ
ては、バベル University Professional School of Translation のプログラムの中の米国法 30
科の中のアメリカ税法を受講されたり、それぞれの国の税法をしらべたりして決定してく
ださるとよいと思います。しかし一般的に言えば、先進国においては法人化したほうが有
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利であると考えておかれるのがよいと思います。次講以降でも随時、日本以外に居住され
る受講生に配慮して説明します。
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