芽 瑠 璃 堂 マ ガ ジン 『 R O O T 』 # 0 1 9 History Of Jug Band 19 Roots Of The Grateful Dead ジム・クウェスキン来日公演を振り返って 冊子版特典:A3カタログ・ポスター ジャグ・バンド特集 文=鈴木カツ History Of Jug Band わが国のジャグ・バンド・シーンを牽引したバンドは、 こよなくジム・クウェスキンのヴァンガード盤を愛した 横浜ジャグ・バンド・フェスティヴァルは、今年 こうした楽器編成からも分かるように、ジャグ・ 4 月に何と 12 回を迎えるそうだ。全国から楽し バンドは極めて日常の生活と密接な関係を持って いジャグ・バンドに魅せられて集まってくるバン いる。つまりそれだけ親しみ易いアメリカン・ルー ドの数々。個性あふれる楽しいバンドは、見所満 ツ・ミュージックだった。黒人たちの間で栄えた 点。茅ヶ崎から近いので楽しませていただいてい ジャグ・バンド・ミュージックは、日常雑貨の楽器 る。 「ジャグ・バンド」は、1930 年代にケンタッ 化という楽しい側面を持っていた。恐らく日本で キー州の黒人コミューンで生まれた音楽だった。 ジャグ・バンドが定着したのは、この辺りかも知 ギター、マンドリン、ハーモニカ、フィドル (ヴァ れない。ウォッシュタブ・ベース、ウォッシュボー イオリン )、カズーを軸として、ちょっと変わった ドだけでなく、日常雑貨を改良してオリジナルな 日常の雑貨をうまく利用したおもしろい楽器が登 楽器を創る楽しみも湧いてくる。これがジャグ・ 場する。まず「ジャグ」。これは工業用アルコール バンドの魅力とも言えそう。 瓶、もしくは大きな水差しの口を、大きく息を吸 アメ リ カ で の ジ ャ グ・バ ン ド 黄 金 時 代 は、 い込んで「ブッホー」とチューバのように鳴らす 1930 年代から40 年代。黒人ブルース・シーン ものだ。 で栄えたのだが、その趣は明らかに変わってい 「ウォッシュタブ・ベース」も、ジャグ・バンドの た。ブルース=憂鬱、といった内省的な音楽で 花形だ。洗濯桶を改造、モップにロープを張って はなく、路上パフォーマンスやホーム・パーティ ベース替わりにする。パーカッション替わりの「 などで披露する陽気なバンドだった。これが大ウ ウォッシュボード」も、おおきな存在感を放って ケした理由。「ノヴェルティ・ブルース」と捉える いた。洗濯板を鳴らすものだ。 こともできそうだ。ジャグ・バンド・ブームは、 やがてケンタッキーからメンフィスまで広がり、 が高まっておらず人気を得ることができなかっ 個性的なバンドが生まれた。白人たちに人気が た。マリア・マルダー、ジョン・セバスチャン、デ あったメンフィス・ジャグ・バンド、モダン・フォー ヴィッド・グリスマンなども、ジャグ・バンドに興 クの大物だったルーフトップ・シンガーズにカ 味を示し、イーヴン・ダズン・ジャグ・ジャグ・バ ヴァーされ、一躍知られることになった「ウォーク・ ンドを結成、エレクトラ・レコードからアルバム ライト・イン」のオリジネイター、キャノンズ・ジャ を 1 枚残したが、こちらもさしたる評価を得るこ グ・ストンパーズ、ジャグの芸術性を高めたホイッ とはなかった。こうした中で、ジム・クウェスキン・ スラーズ・ジャグ・バンド、演奏が抜群だったディ ジャグ・バンドだけが人気者になったワケは、ま キシーランド・ジャグ・ブロワーズ、その他が大 ず演奏技術が優れていたことと、単なる黒人ジャ 活躍した。 グ・バンドのコピーだけにとどまらずに、自由奔 ところが一世を風靡したジャグ・バンド・ミュー 放なレパートリー(オールド・ジャズ、ポップ・ソ ジックは、50 年代に入ると衰退減少を示すよう ング、カントリー、ブルース、フォーク)、抜群の になる。いつの間にか「忘れられた音楽」になっ ヴォーカリストのジム・クウェスキン、ジェフ・マ てしまった。だが心配は無用だった。60 年代に ルダー、マリア・マルダーを擁した点にあった。 入ると、ジャグ・バンドの魅力が見直された。そ もうひとつ加えると、フリッツ・リッチモンドの れは 1960 年代に全米を席巻したフォーク・リ ウォッシュタブ・ベースの存在だった。 ヴァイヴァルと密接な関係があった。 ジャグ・バンドの魅力は、1950 年代の終盤に ジャグ・バンド復活は、ボストン∼ケンブリッジ・ 英国にも及んだことがあった。「スキッフル」と フォーク・シーンから生まれたジム・クウェスキン・ 呼ばれ、ロニー・ドネガンのバンドがレッドベリー ジャグ・バンドの大活躍にあった。この時代の都 やウディ・ガスリーの歌をカヴァーして注目され、 市部の若者は、1950 年中盤にフォークウェイズ・ 英国はスキッフル・ブームとなる。若き日のビー レコードから発売されたハリー・スミス編纂の トルズの面々もこの影響を受け、クウォーリーメ 『Anthology of American Folk Music』に ンというバンドでスキッフルを楽しんだという。 収録された未知なる黒人音楽=ジャグ・バンドに 日本では高田渡人脈で構成された武蔵野タンポ 刺激され、その楽しいサウンドに魅せられてリ ポ団がまずジャグ・バンドの楽しさに目をつけた。 ヴァイヴァル・ジャグ・バンドを結成するようにな 次は伝説となったアンクル・ムーニーが 1972 年 る。その先陣を切ったのがジム・クウェスキン・ に結成された。このバンドは新しいジャグ・バン ジャグ・バンドと言いたいところだが、フォーク・ ド結成をうながした。リトル・ファッツ&スウィン ブルースで活躍したデイヴ・ヴァン・ロンクが、早 ギン・ホット・ショット・パーティの誕生。そして くも 50 年後半にジャグ・バンドを結成していた いまだに現役バンドのバンバン・バザールの誕生 のだった。 劇だった。こうした日本でのジャグ・バンドの活 フォーク・リヴァイヴァルが芽生える直前にデイ 躍で刺激を受けた若者が続出、これが横浜ジャ ヴは、ブルース研究家のサム・チャーターズとオ グ・バンド・フェスティヴァル誕生に繋がったとい レンジ・ブロッサム・ジャグ・ファイヴを結成、1 う。いうまでもなくわが国のジャグ・バンド・シー 枚のアルバム『Skiffle in Stereo』を発表し ンを牽引したバンドは、こよなくジム・クウェス たが、まだリヴァイヴァル・ジャグ・バンドの機運 キンのヴァンガード盤を愛した。 Roots Of The Grateful Dead Mother McCree’s Uptown Jug Champions リーの 「I Bid You Good Night」 まで、 全17曲52 分。 「Mama Tried」 、 マーティ・ロビ マール・ハガード ンス 「El Paso」 などのカントリー、 ハウリン・ウルフ 「Red Rooster」、 ジミー・リード 「Big Boss Man」 などのブルース、ボビー“ブルー”ブランド「Turn On Your Lovelight」、チャック・ベリー「Promised Land」、バディ・ホリー「Not Fade Away」 といった R&B/R&R、ウディ・ガスリー「Goin' Down This Road Feelin' Bad」やボニー・ドブソン「Morning Dew」のフォーク、 そしてボブ・ディラン 「It's All Over Now, Baby Blue」に至るまで、彼らがどのような 音楽を聴き、そこから影響を受け、デッドという 類希なるバンドへと発展していったのか。そのほ んの一部ではあるものの、その成り立ちを知る 95年11月にシャナキーから発売された『The 上でも決して見過ごすことのできないCDである Music Never Stopped: Roots Of The Grateful と思う。 Dead』 (Shanachie 6014) 。 このCDは、 タイトルか ちなみに 「デッドのルーツ」 というコンセプトをで らすぐ連想されるようにグレイトフル・デッドのメン 編集されたCDは他にも 『The Roots of the Grateful バーが愛聴し、 ライヴでカバーしたり録音をした、 彼 Dead & Jerry Garcia』 (Catfish / 2001年) 『 、The らにとっての原点とも言うべきルーツ・ミュージッ Roots of the Grateful Dead』 (Snapper / 2008 クを集めたオムニバス盤。ロバート・クラムがジャ 年)があり、曲目は同じでも演奏するプレイヤー ケットのアートワークを手がけ、 ブレア・ジャクソン が違って収録されていたりするので、是非3枚と が思い入れたっぷりに読み応えのあるライナーノー も手に入れてその深みにハマって欲しい。例え ツを執筆し、 プロデュースは自らもデッドの曲を中心 ば、デッドが1stでカバーした「Sitting on Top of にカバーした作品を発表しているインプロ系ギタリ the World」は、 ブルーグラスのビル・モンローと、 ストのヘンリー・カイザーと、 88年9月5日から現在ま カントリー・ブルースの名グループ、 ミシシッピ・ で続いている人気ラジオ番組 「Grateful Dead Hour」 シークスの2パターンで収録されていたりする。 のホストであり、 SSWとしての作品も残しているデ こうしたジャンル横断ソングは、 アメリカン・ルー ヴィッド・ガンスが担当している。 ツ・ミュージック、延いてはデッドを知る上でもと ノース・カロライナ生まれのシンガー/バンジョー ても興味深く面白い部分だと思っているので、ハ 奏者、 オブレイ・ラムゼイの 「Rain And Snow」 から、 こ リ ー・ス ミス が 編 纂 し た 名 作 オ ム ニ バ ス 盤 こに収められたテイクではギターを弾いていない 『Anthology of American Folk Music』 と一緒に がライ・クーダーやタージ・マハルなどにも大きな インスピレーションを与えたバハマのユニークな ギタリスト、 ジョセフ・スペンス&ピンダー・ファミ 合わせて聴きたいところ。 デッドがライヴで演奏したジャグ・バンド縁の曲 の中で特に演奏回数の多いものは、 メンフィス・ジャ グ・バンドの 「KC Moan」 「On The Road Again」 「Stealin'」 、 キャノンズ・ジャグ・ストンパーズの 「New Minglewood Blues」 「Viola Lee Blues」 などがある が、デッド結成以前の64年頃にガルシアが、ボブ・ ウィアやロン “ピッグペン” マッカーナンらと結成し、 わずかな期間だけ活動していたマザー・マクリー ズ・アップタウン・ジャグ・バンドは、 彼らのルーツを 知る上でとても重要なバンドだと思う。 メンバーは ガルシア、ウィア、 ピッグペンのほか、デイヴ・パー カー、 トム・ストーン、マイク・ガーベット。現在まで のところ、98年になってから発表された発掘音源 『Mother McCree's Uptown Jug Champions』 (GDCD4064) が、 彼らの残した音をまとまって聴 今回のテーマは「ジャグ・バンド」ということ ける唯一のCDとなっている。 で、 メンフィス・ジャグ・バンド、ディキシーラン 64年7月にパロ・アルトのタンジェントという ド・ジャグ・ブロワーズと共に3大ジャグ・バンド コーヒー・ハウスで、KZFUのラジオ・プログラム と呼ばれ親しまれているキャノンズ・ジャグ・ス 「Live from the Top of the Tangent」 の一環とし トンパーズの「Big Railroad Blues」から話をし て録音され たこの 音 源 は 、ジェシ ー・フラ ー の ていきたいと思うのだが、実はこの曲、上記の 「Beat It On Down The Line」 「The Monkey And デッドのルーツを集めた編集盤3枚に共通して The Engineer 」 、 メンフィス・ジャグ・バンドなどで 収録されている唯一の曲である。そこに敢えて もお馴染みのトラディショナル 「On The Road Again」 何 か 特 別 な 意 味 を見 出すとす れ ば 、そ れ だ け など、 後にデッドのレパートリーに加わっている曲も デッドの音楽とジャグ・バンドは切っても切り離 すでにこの時点で演奏している。 ギター、 バンジョー、 せない関係にあることはもちろん、デッドヘッ ハーモニカ、 カズー、 ウォッシュタブ・ベース、 マンドリ ズ達にも愛されている曲であると言える。デッ ンなど、 様々な楽器を取っかえ引っかえ演奏していく ドのバージョンは、71年のライブ盤『Grateful 様は文句なしに楽しい。 Dead (Skull and Roses)』のほか、Dick's Picks 収録曲をジャグ・バンド関連に絞って見ていく シリーズなど多くのCDで聴ける。ガス・キャノン と、 まずはメンフィス・ジャグ・バンドの「Overseas の バンジョー 、アシュリー・トム ソン によ る ギ Stomp」。ジム・クウェスキン・ジャグ・バンド(以 ター、そしてノア・ルイスの吹くハーモニカによ 下、 JKJB) の1st 『Unblushing るこの曲は、ハーピストのノア・ルイスが書いた ヴン・ダズン・ジャグ・バンドもカバーしており、 Brassiness』 やイー 「The Lindy」 としても知られてい も の で 、2 8 年 にシン グ ルとして 発 表 され た 。 「Lindberg Hop」 ジェリー・ガルシアがどのような経緯でこの曲 る曲。 デッドとしては66年∼67年の間に演奏して を知ったのかは今となっては定かではないが、 おり、 イリーガルだが71年に発表された『Historic ギターを弾く前にバンジョーを弾いていたこと Dead』 (Sunflower SNF-5004) や、 2003年にリ からもわかる通り、尋常ではない量のルーツ・ イシューされた一連のエクスパンデッド・エディ ミュージックを貪るように聴いていたはずで、 ションの1stアルバムにボーナス・トラックとして その中からこの曲をレパートリーにした理由に も収録されている。 このデッド版はガルシア、ウィ は興味をそそられる。 アがメインでヴォーカルを取り、 ピッグペンがハー モニカをプレイ、クルーツマンのドラムスと共に トラディショナルで、 メンフィス・ジャグ・バンドやウ 見事にエレクトリック化している。 ディ・ガスリー&シスコ・ヒューストンなど、多くが ライトニン・ホプキンスの 「Ain't It Crazy (aka レパートリーにしている。 続く 「Beedle Um Bum」 The Rub)」 、 JKJBの1stでもカバーされていたカリ はJKJBの1stにも収録されていた曲で、その他、 フォルニア・ランブラーズの 「Yes She Do, No She ジョージア・トム、タンパ・レッ ホーカム・ボーイズ、 Don't (aka I'm Satisfied with My Gal)」、チャッ ド、 ブラインド・ウィリー・マクテル、 ビッグ・ビル・ブ ク・ベリーの「Memphis」を挟んで、ディキシーラン ルーンジーなどに取り上げられている。 「On the ド・ジャグ・ブロワーズの「Boodle Am Shake」。 こ Road Again」 「The Monkey and the Engineer」 は の曲もJKJBの1stや、ジョン・フェイヒーの『Old どちらもお馴染みだと思う。前者は、 メンフィス・ Fashioned Love』などでお馴染み。オリジナルは ジャグ・バンド、後者はジェシー・フラー。共にデッ ディキシーランド・ジャグ・ブロワーズがシングル ドの『レコニング』に収録されている。 この『レコニ で発表したもの。 ング』は、80年にデッド結成25周年を記念して 続いてブラインド・ボーイ・フラーやレッドベリー ニューヨークとサンフランシスコで連続公演を行 などもレパートリーにしていたトラディショナルの ない、それを元にレコード化されたもので、エレク 「Big Fat Woman」 。 歌い出しの 「∼ meat shaking トリックの『デッド・セット』、アコースティックの on her bones」 と言うのを聴きながら思い出したの 『レコニング』 というように振り分けられた。そん が、 ボブ・ディラン&ザ・バンドの 『Planet Waves』 に な『レコニング』は、デッドのルーツを探る上で興 収録されている 「Tough Mama」 。若干言い回しは 味を惹かれる曲がいくつもあるので、是非チェッ 違うもののニュアンスはそっくり。ちなみにこの クしてほしい作品。 「Tough Mama」 は後にジェリー・ガルシア・バンド そして、 ジミー・ロジャースの 「In the Jailhouse などでカバーされているのも面白い。 Now」 の後、「Crazy Words, Crazy Tune (aka 続いて 「私の青空 (My Blue Heaven) ( 」作詞は Washington at Valley Forge)」 でラスト。 この曲も ジョージ・ホワイティング)などを作曲したことで JKJBの1stで取り上げられているが(しかも1曲 も知られる作曲家ウォルター・ドナルドソンの 目)、 よくよく考えてみると、JKJBの1stと 『Mother 「Borneo」。 ビックス・バイダーベックなどを始め、 McCree's Uptown Jug Champions』 に共通して 20世紀初頭のジャズ・ミュージシャン達にも愛奏 収録されているのは7曲もある。 これはJKJBの1st された曲でJKJBも1stでカバー。同じく1stに収録 のちょうど半分にあたる曲数。その事を踏まえて されていたトラディショナルの 「My Gal」 は、 ラヴィ 改めてJKJBの1stを聴き返すと、今までとは違った ン・スプーンフルの 『魔法を信じるかい? (Do You 感慨にひたることができた。 Believe In Magic) 』 でもお馴染み。 「Shake That 実際の演奏がレコードに記録されて聴くことが Thing」は、デイヴ・ヴァン・ロンクのラグタイム・ できるようになった20年代当時の音が、時代とと ジャグ・ストンパーズでもカバーされていたトラ もに受け継がれていき、もうすぐ100年が経とう ディショナルで、パパ・チャーリー・ジャクソンやミ としている2013年の現在までその音楽に魅了さ シシッピ・シークスなど、多くのミュージシャン達 れることができるとは、なんて素晴らしいことな がレパートリーにしている軽快な曲。 んだろうと思う。 デッドも1stに収録していたジェシー・フラーの 「Beat It on Down the Line」 は、 デッドの30年に 及ぶ歴史の中でも長い間レパートリーに含まれて いた曲のひとつ。オリジナルにはないリフやコー ラスを取り入れるなど、完全に自分達のものにし ているのがカッコいい。 「Cocaine Habit Blues」 は 2013年4月 葉月賢治 ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの来日東京公演を振り返って 超銘盤『Garden Of Joy』のメンバーを引 ンガード録音で高らかに示した楽しい演 き連れて来日したクウェスキン・ジャグ・バ 奏「Jug Band Music」。 ソロ・パフォーマ ンドの東京公演。1970年代のモダン・ブ ンスとしてビル のクロマティック・バン ルーグラス・シーンを牽引したビル・キー ジョーが味わえた「Caravan」。有田との ス( バンジョー)やリチャード・グリーン スウィング・バンジョー・ギグが会場を沸 (フィドル) と天才たちを交えたリユニオ かせた。 リチャードのソロ・ヴァイオリン ン・ライヴは、 さしずめ“ジム・クウェスキン 「Amazing Grace」は、 アメリカン・フィド &ブルーグラス・ジャグ・バンド”といった ルの先祖として知られるケルト音楽、 アパ 風情だった。それをより強く感じさせたの ラチアン・トラッドなどの奏法を披露、 これ が、日本ブルーグラスでのトップ奏者、井 はもう感動的なプレイだった。 ジムとジェ 上タロー(マンドリン)、有田純弘(バン フの十八番「Morning Blues」も、弾き語 ジョー)の参加。 りブルースの真髄を見せてくれた。余談だ アメリカの文化遺産を楽しむ、共有する が、 この曲は1930年代から40年代にか という素晴らしいライヴ・パフォーマンス け た 大 活 躍したカントリー 歌 手 、バン から、そのまま「米 国 の 豊 穣なルーツ・ ジョー弾き語りのアンクル・デイヴ・メイコ ミュージックは、時を感じさせないで輝き ンがうたったホワイト・ブルースの先駆的 を放っている。年老いた老人たちによる楽 作品。 このことをMCでジムは語っていた。 しげな演奏も永遠の輝きを失っていな ジェフのうたうオールド・ジャズ・ソング かった。音楽は、 リラクゼーションという精 「Sweet Sue」は、 マリアがヘリウム・ガス 神世界に大きな位置を見出している」と をジェフに吸わせて声変わりの茶目っ気 いうようなイメージに広がっていった。舞 あるヴォーカルを演出。これが実に楽し 台の袖には、惜しくも天国に召されてし かった。後半の圧巻は、何といってもジャ まったフリッツ・リッチモンド氏が得意だっ グ・バンドの魅力を余すことなく伝えたこ たジャグが飾られており “一緒に今夜のラ の2曲「Blues In The Bottle」 (ヴァン イヴに参加していますよ”という嬉しい配 ガード盤『See Reverse Side For Title』 慮。少しばかり涙を誘った。待ちに待った に収録)、 「The Sheik of Araby」 (エレク 50年ぶりのライヴの幕開けは、1963年 トラ盤『Garden Of Joy』に収録)。前者 の記念すべきデビュー盤『Unblushing は、 ウェスタン・スウィングの先駆者、 プリ Brassiness』に刻まれた「Boodle Um ンス・アルバート・ハント&テキサス・ラン Shake」から。御大ジムのリード・ヴォーカ ブラーズの1928年オーケー録音のカ ルは、70歳を超えても衰えていない。2番 ヴァー。後者は、 ジプシー・ジャズでお馴染 手は、妖艶なヴォーカルでロック・ファンを みのジャンゴ・ラインハルト&ステファン・ 魅 了した マリア・マ ルダ ー がうたう「 I グラッペリの名演奏のカヴァー。やあー、 Ain't Gonna Marry」、 いうまでもなく素 クウェスキン・ジャグ・バンドは最高だ。 敵。ちょっと低音になったのが寂しいが そうそうパンフに印刷されていたクウェ …。休憩時間をはさんでおよそ15曲余り スキン・ジャグ・バンドの歴史が味わえる 熱演。会場に詰めかけたファンと熱唱した レアな写真を、茅ヶ崎まで帰りの電車で眺 ラスト・ソング「Stealin'」まで、もう楽しく めていたら、悠久の時を経ても輝きを失 心ワクワクさせるルーツ・ミュージックの わない“1960年代フォーク・リヴァイヴァ 連続だった。 ル”の凄さをあらためて実感。ありがとう、 印象的だったステージは、 まずジム・ク 麻田さん、 トムス・キャビン! ウェスキン・ジャグ・バンドの存在感をヴァ 文=鈴木カツ ROOT SELECTION ∼ ジャグ・バンド・アルバム編 V.A.『ジャグ・バンドのすべて』 ジャグ・バンドが自由奔放なジャンルを演奏していたことを知る上で便利なオムニバス盤。代表格メンフィス・ ジャグ・バンド、キャノンズ・ジャグ・ストンパーズ、ディキシーランド・ジャグ・ブロワーズの代表作が光るものだが、 あまり語られないジェッド・デイヴァンポート&ビール・ストリート・ジャグ・バンド、サウス・メンフィス・ジャグ・バ ンド、 アラバマ・ジャグ・バンドなど、黒人たちで流行った黄金期のサウンドがたっぷり楽しめる。 (Pヴァイン PCD20090) ジム・クウェスキン・ジャグ・バンド『アンブラッシング・ブラシネス』 ハリー・スミスの『Anthology Of American Folk Music』に触発されたジム・クウェスキン&ジェフ・マル ダーなどが結成したリヴァイヴァル・ジャグ・バンドのスター、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの記念すべきデ ビュー・アルバム(1963年発売)。ボストンのコーヒー・ハウス「クラブ47」のフォーク・ジャムから誕生したという。 ここでのバンジョーは、ブルーグラス奏者のボブ・シギンズ。ジム&ジェフのヴォーカルも魅力的だったが、 ウォッ シュタブ・ベースのフリッツ・リッチモンドの存在感が圧倒的だった。発売から50年という時を経ているが、まだま だ色あせない素晴らしい傑作盤だ。 (ヴィヴィド/VSCD3554) ジム・クウェスキン・ジャグ・バンド『ガーデン・オブ・ジョイ』 メンバーを替えながら、ジャグ・バンドの楽しさを世界の若者にアピールしたクウェスキン・ジャグ・バンドのラ スト・アルバム。ヴォーカルにマリア・マルダー、バンジョーはビル・キース、フィドル(ヴァイオリン)は、 リチャード・ グリーンなどと、バンド史上最高のメンバーだった。やはり 「オールド・タイム・レイディ」という異名をとった妖艶な ヴォーカリスト、マリアの絡む録音「Garden Of Joy」、「When I Was A Cowboy」、「I Ain't Gonna Marry」が、 素晴らしいの一言だ。 リチャードのフィドルが炸裂する「My Old Man」、ジプシー・ジャズのカヴァー 「Sheik Of Araby」も大きな聴きどころ。 (ワーナー/WPCR15001) ラグタイム・ジャグ・ストンパーズ『ラグタイム・ジャグ・ストンパーズ』 リヴァイヴァル・ジャグ・バンドの先陣を切ったデイヴ・ヴァン・ロンクは、1950年終盤に自主制作盤としてジャ グ・バンド・アルバムを発表したが、残念にも話題にもならずに終わってしまった。このアルバムは、そのリベンジ として1963年に企画され発売されたもの。 メンフィス・ジャグ・バンドの「K.C.Moan」、キャノンズ・ジャグ・ストン パーズの「Steain'」のカヴァーが聴きどころ。ジャズ歌手を目指しただけあって、古き良きジャズ・ソング「 Everybody Love's My Baby」、「Mack The Knife」などのカヴァーにも挑戦。 これがこのアルバムのハイライ ト作品と言ってよいだろう。 (ユニバーサル/UCCU9008) オフェリア・スウィング・バンド『スプレッディング・リズム・アラウンド』 1960年代のフォーク・リヴァイヴァルで、ボストン∼ケンブリッジ・フォークから誕生したのがジム・クウェスキ ン・ジャグ・バンドだったが、情報の発信地「デンヴァー・フォークロア・センター」があったコロラド・フォーク・シー ンからも優れたジャグ・バンドが誕生した。ビスケット・シティというインディーズから2枚のアルバムを発表した オフェリア・スウィング・バンドの存在も忘れられない。男女混合メンバーのオフェリアは、フィドル&マンドリン名 人のティム・オブライアン、パーカッション替わりのウォッシュボード名人、黒人のウォッシュボード・チャドの存在 感があふれたバンドだった。 (ヴィヴィド/VSCD152) ナッシュヴィル・ジャグ・バンド『ナッシュヴィル・ジャグ・バンド』 ジャグ・バンドのリヴァイヴァルは、カントリー・ミュージックの本場、ナッシュヴィルにも波及した。 このアルバム は、その地で活躍する敏腕ミュージシャンを集めて録音。発売は、1987年。あのジム・ルーニーが、録音技師として クレジットされている。基本的には、ブルーグラス系のミュージシャンが中心。フィドル&マンドリンの名手、サム・ ブッシュ、ベースの達人、ロイ・ハスキーなどの名が見られるのも嬉しい。さすが名手ぞろいで、エキセントリックな ジャグ・バンドが味わえる。マリア・マルダーそっくりのヴォーカリスト、ジム・クレインが歌う「Crazy Blues」が思 わぬ大収穫! (ヴィヴィド/VSCD138) カパカヒ・ジャグ・バンド『カパカヒ・ジャグ・バンド』 ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドの人気は、あこがれのハワイまで及んだ。1980年代初頭、ひっそりと自主制 作盤として発売されたカパカヒ・ジャグ・バンドの魅力は、お洒落なアレンジと、ミュージカル・ソウ(のこぎり)の存 在。 メンバーは多人数で、マリア・マルダーを彷彿させる女性歌手もいたりして、存分にハワイ産ゆるゆるジャグ・ バンドが楽しめる。 アーロ・ガスリーのヴァージョンでお馴染みの「Ukulele Lady」、ジミー・ロジャーズの「Any Old Time」カヴァーなどが、 この盤のハイライトだろう。時折ナショナル製トライコーン型ギターのご機嫌なスラ イド・ギターも聴こえてくる。 (バッファロー/BUF127) V.A.『ミスター・ジャグ・バンド・マン』 日本でもジム・クウェスキン・ジャグ・バンド、黒人ジャグ・バンドなどに影響されて、多くのジャグ・バンドが誕生 した。このアルバムは、そうした愛すべきジャグ・バンド・フリークの足跡を紹介したもの。東西のジャグ・バンドの 逸材を収録、東日本からはマッドワーズ、 トウキョウ・ジャグバンド、モカ・ジャバ(東京)、ジャム・ポット (豊橋)、西日 本からは春待ちファミリー・バンド (神戸)、 イエロー・ブルース・ファミリー (京都)、 江州ジャグ・ストンパーズ(滋 賀)、アルゴ探検隊(福岡)。名曲「せんたく板とひもバケツ」、「あこがれのニューオリンズ」、「おばさんのダンス」な どが秀逸。 (ヴィヴィド/VSCD120-21) 選盤=鈴木カツ
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