世界自然遺産地域 小 笠 原 諸 島 新たな外来種の侵入・拡散防止に関する 検討の成果と今後の課題の整理 平成 28 年 3 月 科学委員会下部 新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ 目次 第 1 章 はじめに ..................................................................................................................................................... 1 1. 新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ設置の背景とこれまでの検討経緯 ........ 1 2. ワーキンググループの検討体制 ......................................................................................................... 1 3. 検討の経緯 .......................................................................................................................................... 2 4. 今後の検討の進め方 ............................................................................................................................ 3 5. 本稿の位置づけ ................................................................................................................................... 3 第 2 章 新たな外来種の侵入ルートと優先順位の検討 ........................................................................................... 4 1. これまでの整理の概要 ........................................................................................................................ 4 2. 小笠原諸島における人・物資の移動状況 ........................................................................................... 4 1) 小笠原諸島における人・物資の移動の概要 .................................................................................... 4 2) 優先順位の検討................................................................................................................................ 5 第 3 章 外来種対策施設の検討経緯と主な助言事項 ............................................................................................... 6 1. 外来種対策施設の検討 ........................................................................................................................ 6 2. 検討経緯 .............................................................................................................................................. 6 3. 助言事項 .............................................................................................................................................. 6 4. 保全対策部門の建設計画 .................................................................................................................... 8 第 4 章 侵略的外来種の侵入・拡散防止に関する対応方針の策定 ....................................................................... 12 1. 外来アリ類と外来プラナリア類の対応方針の作成 .......................................................................... 12 2. 平成 27 年度侵略的外来種の侵入・拡散防止に関する対応方針 ...................................................... 12 3. 今後の検討の進め方 .......................................................................................................................... 12 1) 侵略的外来種の未然防止と侵入時対応マニュアルの地域における運用体制づくり .................... 12 第 5 章 新たな外来種となりうる種、分類群のリスト ......................................................................................... 13 1. 小笠原版ブラックリスト(動物編)作成の経緯 .............................................................................. 13 2. 平成 27 年度版小笠原諸島における侵入・拡散防止に注意が必要な動物種リスト ......................... 13 3. 今後の方針 ........................................................................................................................................ 13 第 6 章 水際対策に関する法的検討 ...................................................................................................................... 14 1. これまでの整理の概要 ...................................................................................................................... 14 2. 水際対策に関する法的検討 ............................................................................................................... 14 1) 既存の国内法 ................................................................................................................................. 14 2) 国内検疫 ........................................................................................................................................ 14 3) その他の国内移動の制限 ............................................................................................................... 14 4) 小笠原における水際対策の仕組みの検討...................................................................................... 15 5) 制度化に当たっての注意点(過去の磯崎委員ヒアリングより抜粋) .......................................... 19 3. 小笠原の水際対策についての検討状況(国内・島間) ................................................................... 21 1) 小笠原諸島内での拡散防止 短期的な取組 .............................................................................. 21 2) 本土から小笠原諸島への侵入防止 ................................................................................................ 23 4. 今後の方針 ........................................................................................................................................ 25 参考資料 1. 平成 27 年度小笠原諸島外来プラナリア類の侵入・拡散防止に関する対応方針 2. 平成 27 年度小笠原諸島における外来アリ類の侵入・拡散防止に関する対応方針 3. 小笠原諸島における侵入・拡散防止に注意が必要な動物種リスト(平成 27 年度版) 4. 世界自然遺産登録地に適した侵入病害虫等管理技術の検討~小笠原(父島,母島)島外からの農 業者の苗導入実態調査 5. 世界自然遺産登録地に適した侵入病害虫等管理技術の検討~小笠原(父島,母島)島外からの購 入苗から検出された生物類~ 第1章 はじめに 1.新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ設置の背景とこれまでの検討経緯 ・小笠原諸島の世界自然遺産登録の際の世界遺産委員会における決議事項として、新たな外来種の侵入 や拡散の防止を進めることが要請されたことを受け、平成24年8月に科学委員会の下に「新たな外来 種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ」を設置して議論を進めてきた。 ・本ワーキンググループでは、新たな外来種の侵入・拡散防止に関する様々な課題の未実施事項の 推進と遺産登録後に新たに生じた様々なリスクについて、外来種の侵入・拡散の未然防止、侵入 時の緊急対応のあり方に焦点を当てて議論をすすめてきた。 ・平成24年度に「新たな外来種の侵入・拡散防止行動計画の策定に向けた課題整理」をまとめ、平 成25年度には侵略的外来種の侵入時の緊急対応のあり方について議論を進めた。 ・これらの議論を踏まえ、平成26年度より「外来アリ類の侵入・拡散防止に関する対応方針」「外 来プラナリア類の侵入・拡散防止に関する対応方針」を作成・更新するとともに、これらの対応 方針に基づく取組の試行実績を積み重ねてきた。 2..ワーキンググループの検討体制 ワーキンググループの検討体制は、以下のとおりである。 名 称 設置期間 新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ ・平成24年8月~平成28年3月 (平成24年度(計2回)、平成25年度(計2回)、平成26年度(計3回)、 平成27年度(計3回) 管理機関 環境省、林野庁、東京都、小笠原村 メンバー 磯崎 博司 上智大学大学院地球環境学研究科客員教授(環境法) 加藤 英寿 首都大学東京 理工学研究科 助教(植物) (★:座長) (敬称略・ 五箇 公一 国立環境研究所 主席研究員(昆虫類・外来種リスク評価) 五十音順) 千葉 聡 東北大学 東北アジア研究センター 教授(陸産貝類) ★吉田 正人 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 教授(保全制度) 【アドバイザー】 大林 隆司 東京都小笠原支庁産業課 小笠原亜熱帯農業センター主任 *必要に応じ関連分野の専門家をアドバイザーとして追加 1 3.検討の経緯 平成 24 年度 「新たな外来種の侵入・拡散防止行動計画の策定に向けた課題整理」 外来種の侵入・拡散防止対策の 優先度の考え方の整理 外来種の侵入・拡散防止に向けた 経路別の課題の整理 ○外来種の侵入・拡散リスクの整理 ○経路を「島内」と「本土から小笠原」に分類 ○対策の実現可能性の整理 ○課題の整理 「優先度」と「経路別の課題」を踏まえて 「短期的課題」と「中長期的課題」に分類 課題 短期的課題 中長期的課題 小笠原諸島への外来種の非意図的導入への対応 小笠原諸島内での拡散防止対策の改善・強化 小笠原諸島への外来種の意図的導入への 対策強化(愛玩動物対策等) 平成 25 年度 侵略的外来種の侵入時の緊急対応 ○ 有人島における緊急対応マニュアルの策定 ・本土・父島・硫黄島から母島へのニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入 ・本土・硫黄島から父・母島への外来アリ類の侵入 ○ 無人島における緊急対応マニュアルの策定 ・父・兄・母島から属島へのグリーンアノールの侵入 ・父島から属島へのニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入 平成 26 年度 島民生活・産業と生態系への影響が大きい 外来アリ類と外来プラナリア類に絞って「侵入・拡散防止の対応方針」検討 外来アリ類の対応方針 外来プラナリア類の対応方針 対応の基本的な考え方 対応の基本的な考え方 未然防止・侵入時対応マ ニュアル(父島) 事例集 未然防止・侵入 時対応マニュア ル(母島) 事例集 平成 27 年度 事例の積み重ねと対応方針の見直し 未然防止・侵入時対応マニ ュアルの策定(兄島) リスクが見逃されてきた外来種の早期検出に向けた情報整理 ブラックリストについての検討 2 意図的導入対策 (愛玩動物等) 4.今後の検討の進め方 ・科学的な検討が進み、外来アリ類と外来プラナリア類に関してはマニュアルを含む対応方針が作 成されているが、地域の関係者間で対策に対する社会的合意が十分ではない。 ・地域の関係者間で、目指すべき小笠原諸島の将来像を共有し、侵略的外来種への対応に関し社会 的合意の形成を図るため、地域課題 WG において下記の課題に関する議論を継続する間、科学委 員会下部 WG としての本 WG は休止する。 ・ 「地域課題検討 WG」の結果は随時本 WG に電子メール等により報告する。 ・新たな外来種の侵入・拡散防止に係る科学的な議論の一部は、遺産の管理やあり方全体に係る議 論でもあることから、平成 28 年度以降は別途立ち上げ予定の「管理計画・アクションプラン改 定 WG」や科学委員会本会においても議論する。 ・なお、地域課題検討 WG 等においてマニュアル等に運用上の問題等が指摘され改正の必要等が生じ た場合、適宜、本 WG を再開し(電子メールによる意見照会等も含む) 、改正を行うものとする。 平成 28 年度 平成 27 年度 平成 29 年度以降 (仮)管理計画・アクションプラン改定 WG ブ ラ ックリスト 地域連絡会議 対応方針 ( 行動 マニ ュアル) 科学委員会 下 科学委員会 休止 (電子メール等による意見照会) 対応方針(行動マニュアル)の改正の 提案等 普及啓発 社会的合意の形成 図 1 今後の進め方イメージ 5.本稿の位置づけ ・科学委員会下部ワーキンググループの休止にあたり、これまでの検討の成果と今後の検討課題に ついて整理したものが本稿である。 3 第2章 新たな外来種の侵入ルートと優先順位の検討 1.これまでの整理の概要 小笠原諸島への新たな外来種の侵入及び諸島内での外来種の拡散は、人や物資の移動に伴って発生す ると考えられることから、平成 25 年 3 月に取りまとめられた「新たな外来種の侵入・拡散防止行動計画 の策定に向けた課題整理」において、人や物資の移動の経路、頻度、物資の内容、運搬の実態等につい て調査・情報収集を行い、人や物資の移動にかかるリスクの整理を行った。 結果は「小笠原諸島における人・物資の移動状況」として整理したが、小笠原諸島への入島者、島内 の入林者、属島の利用者の増加や、インターネットによる通信販売の発達により、外来生物を媒介する リスクの高い土付き苗等が短期間で簡単に島内に届くようになったことや、海外からの船の直接の寄港 に伴う外来種の侵入・拡散のリスクの増加が懸念されている。 2.小笠原諸島における人・物資の移動状況 1)小笠原諸島における人・物資の移動の概要 (1)移動経路 ◆小笠原諸島における新たな外来種の導入口は父島にほぼ限定的であり、父島を起点として母 島、その他属島へと導入経路が広がっている。 ◆本土から父島への経路は、おがさわら丸、共勝丸が中心であり、その他、貨物船や観光船等に よる不定期船がある。また、稀に海外からの観光船やヨット等の寄港がある。なお、遺産登録 を受け、平成 23 年度は前年度に比べて観光船は5倍程度の運行本数、来島者数は約 1.5 倍に 増加した。 ◆海外から父島二見港に船舶が入港した際には、検疫、税関、植物防疫担当による船舶や郵便物 手荷物等の検査が行われている。 ◆硫黄島から父島への経路は、自衛隊の船・ヘリコプター・飛行艇等による経路と年1回の墓参 時のおがさわら丸がある。 ◆母島への経路は、父島と母島を結ぶははじま丸と共勝丸等不定期貨物船が中心であり、その他 硫黄島からのヘリコプラーや、本土から直接寄港する貨物船が稀に見られる。 ◆聟島及びその属島への経路は、父島を起点とする観光業者の船舶又は行政事業や調査研究等を 目的とした漁船の傭船がある。 (2)移動物資の内容 ◆非意図的導入の可能性の高い輸送物資としては、苗木、建築資材等(材木、塩ビパイプ、砂利 等) 、重機・自動車・バイク等のタイヤ、カヌー等が挙げられる。 (芝土は公共事業における使 用が制限されたことから稀) ◆他、引越用品や宅急便、手荷物の内容については、把握されていないがペット飼育や栽培等を 目的とした外来種の意図的導入の可能性もある。 ◆また、輸送物資そのものへの付着・侵入の他に、移動手段(乗り物)や積載用容器(コンテナ、 パレット等)自体についても外来種導入の危険性等があり注意が必要である。 4 2)優先順位の検討 「新たな外来種の侵入・拡散防止行動計画の策定に向けた課題整理」において、物資の種類(農水産 物、林産物、鉱産物、金属機械工業、化学工業品、軽工業品、雑工業品、特殊品)ごとに、輸送量や危 険性が抽出されている。また、経路ごとの頻度と移動対象もとりまとめられている。 小笠原諸島での外来種の意図的導入の可能性については、農業・園芸種、愛玩動物として本土から父 島、母島に持ち込まれるものにほぼ限定され、過去に住民へのアンケート調査や農業者ヒアリング等に より「過去に導入実績のある農業・園芸種、愛玩動物」と、 「導入意向のある農業・園芸種、愛玩動物」 、 「乗船に持ち込んだあるいは郵送したことのある動植物」が把握されている。 その後も犬や猫等の比較的大型の愛玩動物動物については、ペットルームの使用状況といった、より 具体的な情報が得られているが、一方、個人の手荷物と一緒に持ち込まれる愛玩の昆虫類やコンテナ・ 宅配便に積み込まれる農業・園芸種の苗などについては、直接確認することができず、アンケート以上 の流通実態の情報は断片的である。 また、非意図的導入に関しては、本土から父・母島、父・母島から属島や島内の重要地域、硫黄島か ら父島等、多様な経路と媒体の可能性があり、その頻度や移動対象の把握を行ったが、どの経路の人と 物資の移動に伴って、どの程度の外来種が実際に持ち込まれているかについての実態は十分に把握され ているとはいえない。 以上の状況の中で、土付き苗は意図的に持ち込まれるものであるが、土に含まれ非意図的に持ち込ま れる生物の実態が明らかになってきており、特にリスクの高い輸送物資として、温浴処理などの対策の 普及が求められている。 また、外来アリ類及び外来プラナリア類については、優先的に対応方針が取りまとめられており、今 後は、地域連絡会議下部の「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する地域課題 WG」の中で、対応方針中 のマニュアルの普及や実施体制の充実を図っていく予定である。 さらに、優先的に対応すべき生物のリストとして、 「新たな外来種の侵入・拡散防止行動計画の策定に 向けた課題整理」において、 「WRA(Weed Risk Assessment)の評価手法を用いて検討された各種リスト」 、 「侵略性の高い農業・園芸種リスト(既侵入/未侵入) 」等が作成されているほか、 「小笠原版ブラックリ スト(動物編) 」が取りまとめられている。 5 第3章 外来種対策施設の検討経緯と主な助言事項 1.外来種対策施設の検討 外来種対策施設は、環境省により父島に設置予定の世界遺産センター(仮称)が検討されている。 林野庁は平成 24 年度より、母島において外来種対策機能を有した施設の建設を計画していたが、平成 26 年度に工事の入札が不調に終わったことから予定通りの着工が叶わず、平成 27 年度末の時点では先の 見通しが不透明な状況である。 本章では、主に環境省により検討されている世界遺産センター(仮称)に関してワーキンググループ委 員より提示された助言内容を整理する。 2.検討経緯 以下に示す会合・説明会において、環境省より遺産センターに関する資料を提示して説明を行い、意 見交換を実施した。 表 1 環境省による外来種対策施設の検討経緯 開催日 会合名 ① 平成 24 年 8 月 8 日 平成 24 年度第1回新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG ② 平成 25 年 9 月 24 日 平成 25 年度第1回新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG ③ 平成 26 年 1 月 18 日 世界遺産センター(仮称)に関する住民説明会 ④ 平成 26 年 2 月 24 日 地域連絡会議 ⑤ 平成 26 年 3 月 4 日 平成 25 年度第 2 回新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG ⑥ 平成 26 年 5 月 19 日 村民向け用地に関する説明会 ⑦ 平成 26 年 7 月 28 日 吉田座長による世界遺産センター建設予定地視察 ⑧ 平成 26 年 7 月 29 日 平成 26 年度第 1 回新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG 3.助言事項 上記各会合において、委員より頂戴した意見をテーマごとに整理する。文末【 】内の数字は、上記表 中番号に対応し、当該会議内での発言であったことを示す。 ■外来種対策施設の参考にすべき先進事例 ・ニュージーランドの Quarantine Facility を参考にして欲しい。ニュージーランド南島の一番南にあ るインバーカーギルという都市にある Quarantine Store で、南方に位置する属島・離島調査の拠点と なる場所を磯崎委員が視察した。クリーンルームやダーティルームはいずれも車が丸ごと入ることので きる規模で、調査前には荷物の梱包から車への積み込みまでクリーンな環境で行うことができ、また調 査後は車ごとダーティルームに入り、そこで開封を行うことができるようになっている。また、保管庫 も整備され、島毎に専用の調査道具が保管・整理されている。 【①】 ■施設で扱う対象物資と限界-チェック体制の必要性 ・施設は小笠原内で移動する資材の処理を対象としており、本土から小笠原へ送られてくる資材について は、街中に設置予定の遺産センターでは対応が難しい。資材がそのまま入るほど大型の倉庫のような施 設が必要となる。 【②】 ・小笠原内で移動する資材にも工事資材等の大型で施設に入りきらないものがある。そういう点でも第三 者のチェックが重要であり、事業者の責任であったとしてもチェックする体制が必要だ。 【②】 6 ■施設の担う機能 ・遺産センターの外来種対策機能については、IUCN の勧告の request に当たるので、補正予算等で今 年度中に実施できることがあれば検討を進めること。 【⑤】 ・土付き苗に伴う非意図的導入対策については新規施設との連携をとりながら取り組んでいくべきであ る。 【⑤】 ・緊急時に迅速な対応ができるように、予算面や初期資材のストックも含めた検討を行っておく必要が ある。日常対応のみならず、緊急時の対応の拠点としての機能をもたせるべきである。 【②】 ■外来植物種子への対策 ・冷凍処理では外来植物の種子を確実に死滅させることはできないが、 リスクを減らすことは可能である。 やはり洗浄とチェックが基本となる。 【②】 ・植物の種子を確実に死滅させる方法は 80℃~100℃で熱処理を行うことである。しかし、実際は資材に 熱処理を行うことは難しい。 【②】 ・ニュージーランドでは土に対してはオーブンで熱処理を行っている。日本でも農業用の土は熱処理が行 われているので、農業用のオーブンはある。 【②】 ・高温処理が難しければ 60℃で長時間、乾燥処理する方法もある。対象に応じて処理方法が変えられれば よい。 【②】 ・種子に対して効果があるかどうかを確認するためには発芽率を調べればよいが、大変な作業である。種 子が侵入する機会があったとしても少ない機会では定着する可能性は低いので、洗浄とチェックでリス クを下げることが重要である。 【②】 ・洗浄の際は、洗剤で洗うのがよい。乾燥機にかければ熱処理ができるのでなお良い。 【②】 ・冷凍処理については、昆虫の場合は-20℃で一晩処理すれば効果が得られる。 【②】 ■使用方法の周知・ソフト面の対策検討 ・渡航先の島ごとに、必須とする対策ルールを詳細に設定する必要がある。 【⑦】 ・調査目的の来島者に対し、事前に施設利用の必要性を通知する仕組みが必要である。入林の許認可を行 う際に、施設の使用義務を説明するのが一案である。 【⑦】 ・施設の使用ルール、運用方法に関しては、行政機関や調査機関の意見を踏まえて検討する。 【⑦】 ・ハードの整備には限界があるので、大型の資材については洗浄・立ち会い点検を行うというように、資 材の規模や種類に応じたソフト面として対策手順のフローを作るべきである。 【②】 ■運用体制 ・入港日に使用者が集中することが予想され、対応する人員配備が課題である。 【⑦】 ■母島の外来種対策施設との連携 ・直接母島へ渡航する人については、林野庁母島施設での対策を義務付けるため、相互に連携して共通ル ールを作る必要がある。 【⑦】 ・父島・母島の新規施設での外来種除去の清浄度の基準を統一すること。 【⑤】 ■展示機能 ・世界遺産としての評価基準は「生態系」であるが、それ以外にも、地質等、価値のあるものがある。評 価基準に極単にこだわるのではなく、 小笠原の多様な魅力が伝わる展示の見せ方を工夫してほしい。 【⑦】 7 ・外来種問題で苦しんでいる地域は他にもあるため、小笠原の取組を世界に向けて発信し、情報交流でき るコーナーがあるとよい。 【⑦】 ■施設利用前、利用後の動線 ・外来種の侵入経路を把握するために、本土から小笠原に送られる物資の経路の把握に取り組むこと。 【⑤】 ・遺産センターで外来種除去対策を実施した後に、外来種が再付着することのないよう対策を検討する べきである。 【⑤】 ■施設内部の構造・動線 ・遺産センターでは飼育室と外来種対策室が廊下を挟んで隣合わせになっているので、出入り口を別に するなど、対応を検討してほしい。 【⑤】 ・固有種の保護増殖室と燻蒸室が同じフロアにあるが、互いの部屋に空気の流通はあるのか? ⇒ドアで仕切られるため、空気の流通はない。 (環境省) 【⑦】 ・平屋建てとなったが、希少種の保護増殖室と、外来種対策室との動線が混同しないよう配慮すべきであ る。 ⇒倉庫と飼育施設を直接行き来できにくいよう、両室の入口を遠くするなどの工夫を考えている。 (環境 省) 【⑧】 ■将来的な増築 ・将来的に予算がつけば二階部分の増築は可能なのか。 ⇒現在の設計では拡張の可能性は考えていない。 (環境省) 【⑧】 4.保全対策部門の建設計画 (1)施設概要 規模:鉄骨(プレキャストコンクリート)造平屋建て 延床面積:846.50 ㎡ 主な設備:太陽光発電設備 5.5KW、高圧受電設備 145KVA、非常用発電機 100KVA、空冷ヒートポンプ形 エアコン 11 台 開館時間(案) :通年(各週1日(不定休) 、年末年始を除く)9:00~17:00 管理運営主体:環境省関東地方環境事務所 ① 平面計画 ・ 管理運営部門、会議部門、保全対策部門、保護増殖部門、地域利用部門、展示交流部門の6部門に ゾーニングし、各部門に関係者以外が自由に立ち入りできないよう、廊下1、2,3には暗証番号に よる電気錠を設置したドアを4カ所設け、管理上問題が生じないよう対策している。 なお、電気錠を設置したドアは火災時には自動的に開放状態となり、避難に支障が出ないよう配慮 している。 8 会議部門 地域利用部門 保護増殖部門 展示交流部門 管理運 保全対策部門 各部門の面積 管理運営部門:236.17 ㎡(管理事務室、更衣室、倉庫 2・5、玄関 1、廊下 1・2・3、EPS・PS、ポンプ室) 会議部門 : 72.89 ㎡(会議室兼多目的室、倉庫 1) 保全対策部門:211.25 ㎡(検査・処置室、燻蒸室、ウォークイン冷凍庫、兄・西・弟・母島倉庫、アノール・プラナリア・ 外来植物・ネズミ倉庫、倉庫 4) 保護増殖部門: 71.76 ㎡(保護増殖室) 地域利用部門: 69.32 ㎡(外来種対処室、待合室、レントゲン室、便所、倉庫 3、ダーティー倉庫) 展示交流部門:185.11 ㎡(風除室、ホール前室、ホール、男子・女子便所、多目的便所) ② 外来種侵入防止対策 ・ 館内は、上足対応とする。 ・ 建物内への外来種侵入防止の観点から、窓などの開口部を極力少なくしている。 また、保全対策部門等の外部に面したドア(保全対策部門は内部も同様)については、セミエアタ イト仕様としており気密性を確保し、外来種侵入防止(保全対策部門は建物内での拡散防止)を図っ ている。 ・ 室内の対策としては、壁に設置されるスイッチやコンセント類には防塵用パッキンを設置、天井に 設置される機器と天井の隙間についてはシーリングを行い、外来種侵入防止及び建物内での拡散防止 を図っている。 ・ 給気ダクトにはモーターダンパ、排気ダクトには逆流防止ダンパを設置し、ダクトからの外来種侵 入防止を図っている。 ・ 東京都条例で敷地内緑化が義務付けられた建築物であることから、東京都と協議の上、外来種侵入 防止の観点から緑化面積の緩和を行うとともに、植栽に使用する樹木は父島由来の種類を使用する。 9 (3)保全対策部門の管理運営体制 本部門に含まれる機能 保全事業拠点機能 ①検査・処置室 本機能は、IUCN からの勧告事項への対 応のために喫緊の課題である属島等への 外来生物の侵入拡散防止のために必要な 機能の一部として、調査研究者や保全事 業実施者などを対象に、属島や父島・母 島の重要地域に調査機材・資材を持ち込 む場合に、外来種の侵入・拡散リスクの 高いものに対して、外来種の検査・除去 処置などを行うため設置する。なお、本 室は、冷凍、燻蒸で処理できない植物類 を、目視で除去するための機能。 ②燻蒸室 調査研究者や保全事業実施者などを対象 に、属島や父島・母島の重要地域に調査 機材・資材を持ち込む場合に、外来種の 侵入・拡散リスクの高いものに対して、 外来種の検査・除去処置などを行うため 設置する。なお、この室は冷凍処理がで きないもの(機械類等)を処理するため のものである。 ③ウォークイン冷凍庫 外来生物(動物)に対しては、冷凍処理 が最も有効であるため、基本は、冷 凍処理により外来種対策を行う。ま た、島民が捕獲したアノール等の外 来種の殺処分や、希少種の死体の一 時的な冷凍保管を行う。 本部門の管理運営方法 環境省直轄(使用規定による運用) ○ 本部門は、管理事務室を中心として環境省職員 (非常勤職員含む)が管理運営を行う。 ○ 施設計画上、本部門は管理運営部門(事務室) 等と切り離した配置とし、外来種の侵入・拡散防 止のためセミエアタイト仕様の気密性のある専 用の出入口(外部・内部とも)を設けている。 ○ 外来種検査・処置室、燻蒸室、ウォークイン冷 凍庫は、使用規定を定め、研究者や他の事業者が 使用できるよう運用する。 ○使用は事前予約制とし、使用する研究者や保全事 業者は予め予約の上、事務室にて入口の鍵を借り 受けて使用する。 ④クリーンルーム(倉庫 計8室) 本機能は、IUCN からの勧告事項への対 応のために喫緊の課題である属島等 への外来生物の侵入拡散防止のため に必要な機能の一部として必須の機 能であり、本施設の中核機能の一つ で冷凍・燻蒸処理をした道具、荷物 を、島別、事業別に保管する。 ○ 外来種の侵入・拡散防止のため前室2に面した 出入口にはセミエアタイト仕様の気密性のある ドアを設置している。 ○島別、保全対象別にクリーンルームを設け、処置 した道具、荷物を保管できるように運用する。 ○ 給排気設備については、ステンレスの溶接ダク トとし、燻蒸剤が建物内に漏れない構造とし、燻 蒸後の燻蒸剤を短時間に排出が可能。 ○ 外来種の侵入・拡散防止のための動線を確保す るため、出入口を2カ所設けている。 ※ 備品等 ・流し台 2台(建築工事) ・PC作業カウンター 一式(建築工事) ・PC、プリンター 各1台 ・下足入 2台 ・冷凍庫 2台 ・倉庫用木製棚 計52台(建築工事) 外来種検査・処置機能 環境省直轄(使用規定による運用) ①外部靴洗い場 エコツアーガイドやツアー参加者を対象 ○ 使用規定を定め、使用する場合は環境省に予め として、父島内のエコツアーの終了 予約のうえ、使用する。 時に立ち寄って、外来種の侵入・拡 ○ 外部の足洗い場の排水は、靴等の洗浄時に排出 散リスクの高い、靴底の泥や衣服等 される泥などが下水道に直接流れないよう、溜め への付着種子等の洗浄除去を行う。 枡を設置している ○ 清掃などは、環境省職員が行う。 ※ 備品等 ・くつ拭きマット(建築工事) 10 ドア(セミエアタイト 管理用ドア(電気錠) 靴洗い場 保全対 策部門利用者 一般利用者等の動線 会議室拡張利用時のスペース 11 第4章 侵略的外来種の侵入・拡散防止に関する対応方針の策定 1.外来アリ類と外来プラナリア類の対応方針の作成 侵略的外来生物のうち、侵入リスクが高く、侵入時における影響が特に大きいと考えられる外 来アリ類と外来プラナリア類について、 「外来アリ類の侵入・拡散防止に関する対応方針」 「外来 プラナリア類の侵入・拡散防止に関する対応方針」を策定した。 名称 侵略的外来種の侵入・拡散防止に関する対応方針* 概要 小笠原諸島における侵略的外来種の侵入による被害を防ぐことを目的として、侵略 的外来種の未然防止と侵入時の対応についての、基本的な考え方、具体の対応手法、 対応事例等をとりまとめたもの。 構成 第1部 侵略的外来種の対応の基本的な考え方 第2部 侵略的外来種の対応手法行動マニュアル【未然防止編】 第3部 侵略的外来種の対応手法行動マニュアル【侵入時対応編】 第4部 参考資料(対応事例等) *侵略的外来種(外来アリ類、外来プラナリア類、グリーンアノール)の種群ごとに「侵入・拡散防 止に関する対応方針」を作成する。 2.平成 27 年度侵略的外来種の侵入・拡散防止に関する対応方針 「平成 27 年度小笠原諸島における外来アリ類の侵入・拡散防止に関する対応方針」及び 「小笠原諸島外来プラナリア類の侵入・拡散防止に関する対応方針」を参考資料として掲載す る。 3.今後の検討の進め方 1)侵略的外来種の未然防止と侵入時対応マニュアルの地域における運用体制づくり 外来アリ類と外来プラナリア類の侵入・拡散防止の対応方針について、地域の理解、協力を 得た上で実効性のある対策が取れるよう、地域課題検討WG等の場で島内の関係者をまじえた 議論を行いつつ、地域への周知及び試行的運用を行う。 また、侵入・拡散防止の対応方針については、試行的運用の結果を事例集として蓄積すると 共に、試行的運用や地域課題検討WG等で得られた情報や課題を元に改訂を繰り返すことで、 より現地の実情に合った実効性のあるものにしていく。 12 第5章 新たな外来種となりうる種、分類群のリスト 1.小笠原版ブラックリスト(動物編)作成の経緯 ブラックリストは、外来種が小笠原諸島に侵入した場合に、生態系、人の生命・身体、農林水 産業に対して、より深刻な被害を及ぼす種、または及ぼす恐れのある種を絞り込み、整理するも のである。 平成 25 年度の本ワーキング発足当初に小笠原版ブラックリストの作成が検討された際には、 以下のような課題があるとされたため、作成は見合わされた。 ・「ブラックリスト」を用いる場合には、リストに記載された種のみが侵略性が高いと判断し て、意図的・非意図的導入の防止措置を講じることになる。 ・防止措置の強さには、リスト記載種の導入禁止、導入に際しての条件付加、注意喚起等の各 段階があるが、強制力を有する法令等の制度的裏付けがなければ、導入抑止の効力は限定的 なものとなる。 ・「ブラックリスト」とは、リストに記載された種に関してはきめ細かな、かつ、徹底した対 策を行うことができる一方で、それ以外の種は全て規制や管理の対象外として扱われるため 抜け落ちてしまう危険性を有している。 ・こうした危険性への配慮と不十分な科学的な知見での評価に対処するためには、被害の発生 可能性のリスクを高めに設定する「安全側の評価」に偏る傾向があり、結果的に「ブラック リスト」の対象種の数が増加してしまい、対策の実効性を担保できなくなるという問題が発 生する可能性もある。 しかし、 「世界の侵略的外来種ワースト 100」に選定されているツヤオオズアリについて、小笠 原諸島に分布していることは認識されていたものの、その危険性が看過されていたために適切な 対応がなされぬまま分布の拡大を招いてしまったことの反省から、リスクのある種を見逃さない ための仕組み作り(早期発見、情報の収集と蓄積の仕組み)が必要であるとの共通認識が持たれ た。そして、小笠原諸島へ侵入した場合に大きなリスクが想定される外来生物の侵入の早期発見 と個別監視に役立てるため、小笠原への侵入を注意・監視すべき動物のブラックリストを作成す ることが、平成 27 年 7 月の本ワーキンググループで決定された。 2.平成 27 年度版小笠原諸島における侵入・拡散防止に注意が必要な動物種リスト 平成 27 年度に策定された「小笠原諸島における侵入・拡散防止に注意が必要な動物種リスト」 を参考資料に掲載する。 3.今後の方針 掲載種の生態・分布情報を注視し、導入の防止を図るとともに、専門家、自然ガイド及び行政 関係者が、新たに島内に侵入した種の監視のために用い、リスト掲載種の早期の発見及び対応に 役立てることを想定し、リストの普及を図ると共に、活用方針を考える。 13 第6章 水際対策に関する法的検討 1.これまでの整理の概要 平成 25 年 3 月に取りまとめられた「新たな外来種の侵入・拡散防止行動計画の策定に向けた 課題整理」において、「短期的な対応」及び「中長期的な対応」を取りまとめている。 「短期的な対応」については、これまでになされた取組を、いずれも継続又は強化する必要が ある。 「中長期的な対応」として、非意図的導入に関する実効性のある対策の実現が挙げられており、 これに対応する水際対策の「実施体制」「制度的裏付け」「社会的合意」の議論が必要とされて いる。 「制度的裏付け」に関しては、法的検討がなされたが、制度化には社会的な合意が前提となる。 社会的合意のための取組として、対策の必要性の根拠(外来種の侵入リスク及び生態系等への被 害の実態)を明らかにする調査と、その結果に基づいた普及啓発がこれまで行われてきたが、今 後、制度及び実施体制の具体的な検討が必要である。 2.水際対策に関する法的検討 1)既存の国内法 我が国の検疫制度は、農林水産業を有害な動植物、病原体から保護することを目的とする 法令(植物防疫法、家畜伝染病予防法、水産資源保護法)及び人間の感染症予防といった健 康の保護を目的とする法令(検疫法、感染症予防法、狂犬病予防法)からなっている。 また、外来生物法は、生物多様性の確保のほか、農林水産業の保護、人の生命の保護も目 的として、特定外来生物の輸入を禁止している。 このほか、関税法が、感染症予防法における病原体を輸入禁止としているほか、ワシント ン条約附属書掲載種の輸入を規制している。 2)国内検疫 上記の国内法のうち、植物防疫法は、有害動物若しくは有害植物のまん延を防止することを 目的に国内検疫を実施することができるとしており、指定された地域からの移動の制限、禁止 をすることができる。 (全国植物検疫協会ヒアリングにおける意見) 国内検疫で課題となるのは、何が入っているか分からないこと。国際検疫の場合は 税関で調べられるが、普及啓発していくしかない。沖縄から宅配便で九州や四国にサ ツマイモが送られているケースも見つかっている。那覇植物防疫事務所では、事業者 に依頼し、品目の記載で移動規制の対象となっているものを見つけた場合に報告して もらうようにしている。また那覇では米軍貨物との調整も行っている。 3)その他の国内移動の制限 ・ 外来生物法:特定外来生物の運搬を禁止 ・ 種の保存法、自然環境保全法、自然公園法、鳥獣法:各法に基づく保護区内での植物の 植栽、動物の放逐等を規制(→保護区に指定されない場所には規制が適用されない) 14 4)小笠原における水際対策の仕組みの検討 小笠原における外来種の侵入・拡散防止の仕組みについて、管理機関が所管する法律や条 例の及ぶ範囲等から考えられ得る規制内容、メリット、デメリット等が以下のとおり整理さ れた。 ①自然公園法【環境省】 概要 優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることに より、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確 保に寄与することを目的(第 1 条)として定められた法律。 国立公園、国定公園および都道府県立自然公園からなる自然公園を指定 し、自然環境の保護と、快適な利用を推進する。 外来種の侵入・拡散防 ・特別保護地区において、木竹の植栽及び動物を放つことが禁止されて 止に関連する項目 いる(第 21 条第 3 項) ・上記に違反した者は、6月以下の懲役又は 50 万円以下の罰金(第 83 条) 小笠原への外来種侵 入・拡散防止のための 適用に向けて ・現在の特別保護地区(父島・母島の一部、聟島、属島)への外来種の 意図的な拡散防止について、本項目が適用できる ・本土から小笠原への移動に対して本法で規制するためには、現在公園 区域外である集落地まで全て特別保護地区に指定する必要があるが、 島民生活を維持する上で必要となる様々な行為に規制が伴うことか ら現実的ではない(工作物の新築・増改築、木竹の伐採、土石の採取、 広告物の掲示等の行為に許可が必要になる) ・非意図的導入については適用が難しい ②特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)【環境省】 概要 日本在来の生物を捕食したり、これらと競合したりして、生態系を損ね たり、人の生命・身体、農林水産業に被害を与えたりする、あるいはそ うするおそれのある外来生物による被害を防止するために、それらを 「特定外来生物」等として指定し、その飼養、栽培、保管、運搬、輸入 等について規制を行うとともに、必要に応じて国や自治体が野外等の外 来生物の防除を行うことを定める。 外来種の侵入・拡散防 止に関連する項目 ・特定外来生物については、飼養、栽培、保管又は運搬が禁止されてい る(第 4 条) ・上記に違反した者は、個人の場合は1年以下の懲役若しくは 100 万円 以下の罰金(場合によっては両方とも) 、法人の場合は 5000 万円以 下の罰金(第 33 条、第 36 条) 小 笠 原 へ の 外 来 種 侵 ・特定外来生物であるニューギニアヤリガタリクウズムシ、グリーンア 入・拡散防止のための ノール、オオヒキガエル、アカカミアリ等の意図的な移動については、 適用に向けて 本項目が適用できる ・特定外来生物以外の種については対象外 ・非意図的に導入される種については、検出・除去手法を確立し、侵入 経路別に実情に即した検疫のしくみを整える必要がある。 15 ③絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)【環境省】 概要 国内に生息・生育する、又は、外国産の希少な野生生物を保全するため に必要な措置を定めている。国内に生息・生育する希少野生生物につい ては、レッドリストに掲載されている絶滅のおそれのある種(絶滅危惧 I 類、II 類)のうち、人為の影響により生息・生育状況に支障をきして いるものの中から、国内希少野生動植物種を指定し、個体の取り扱い規 制、生息地の保護、保護増殖事業の実施など保全のために必要な措置を 講じている。 外来種の侵入・拡散防 平成 27 年度に小笠原の固有陸産貝類 14 種が国内希少野性動植物種に 止に関連する項目 新規指定され、保護事業計画が策定された。事業の目標として、各種の 生息に必要な環境の維持及び改善を図ること、各種が自然状態で安定的 に存続できる状態とすることが謳われており、生息地に直接悪影響を及 ぼす外来種の排除事業を推進する法的根拠となりうる。 小笠原への外来種侵 小笠原陸産貝類 14 種の存続に大きな影響を与えるものとして、クマネ 入・拡散防止のための ズミやニューギニアヤリガタリクウズムシ、その他陸生プラナリア等の 適用に向けて 捕食者が挙げられている他、外来植物のアカギやモクマオウによる植生 変化も生息地の存続に悪影響を及ぼす要因として提示されている。各種 対策事業と相互に連携した取組が期待される。 ④国有林野の管理経営に関する法律-国有林野管理経営規程-国有林野施業実施計画【林野庁】 概要 国有林野について、管理経営に関する計画を明らかにするとともに、そ の適切かつ効率的な管理経営の実施を確保することを目的とする。 森林生態系保護地域は、保護林の一つであり、原生的な天然林を保存す ることにより、森林生態系からなる自然環境の維持、動植物の保護、遺 伝資源の保存等に資することを目的とする。 現在小笠原において行 われている内容 ・森林生態系保護地域保存地区指定ルートへの立ち入りにあたっては、 利用講習を受講し入林許可を得た者の同行が必要 小笠原への外来種侵 ・利用講習時の外来種侵入防止対策の指導を強化 入・拡散防止のための ・入林する際の「入林許可申請書裏面の条件」として外来種の持込防止 適用に向けて に留意することを明記することは可能 ・ただし、森林生態系保護地域に限定される ⑤新規条例【東京都】 小 笠 原 へ の 外 来 種 侵 ・小笠原へ輸送する検査対象の貨物に対して東京港の指定施設において 入・拡散防止を目的と する新規条例の想定さ れる内容 検査・処理を行う (・小笠原行きの船舶乗船者に対して、手荷物チェックシートへの記 入・提出を義務づけ、検査対象の手荷物について検査・処置) ・二見港への着岸の際に手荷物・資材のチェックを行う。 メリット ・港湾管理者でもあるため、発地での検査体制が構築しやすい デメリット ・通常は東京都全体に及ぶが、条例の適用範囲を、都内特定地域の みに適用させることが必要 16 ⑥新規条例【小笠原村】 小笠原への外来種侵 入・拡散防止を目的と する新規条例の想定さ れる内容 ・小笠原に到着した検査対象の貨物に対して、指定施設において検査・ 処置を行う (・小笠原に到着した船舶乗船者に対して、手荷物チェックシートへの 記入・提出を義務づけ、検査対象の手荷物について検査・処置) メリット ・議会、村民全てが関係するため、合意形成がしやすい デメリット ・条例の範囲が小笠原村に限定されるため、内地での処理ができない。 島に到着している貨物が検査終了まで受け取れない(最悪の場合破棄 される)可能性がある ⑦新規ルール(船の運航業者) 小笠原への外来種侵 小笠原に出入りする船舶の運航業者の独自ルールとして、動物(特にエ 入・拡散防止を目的と キゾティック・アニマル)の乗船を禁止する。船に持ち込まれようとし する新規条例の想定さ たペットは、乗船時に内地側で預かれるしくみを整える。 れる内容 メリット ・入島するすべての人に適用可能。 ・単一事業体の判断で制定可能。 デメリット ・小動物については、監視が困難である。 ・非意図的な持ち込みには適用できない。 ・運航会社にペット預かりの負担が生じる可能性が高い。 ・条例による担保があることが望ましい。 17 ⑧参考:シロアリ条例【小笠原村】 概要 父島に生息するイエシロアリ等を、その生息が確認されていない母島* へ「持ち込まない」 、 「持ち込ませない」ことを堅持することにより、母 島におけるイエシロアリ等の蔓延を未然に防ぎ、もつて村民の財産及び 生産物への被害発生の防止と、環境の保全を図ることを目的とする。 外来種の侵入・拡散防 【事業者及び村民】 止に関連する項目 (義務) ・母島へのあらゆる貨物輸送に際し、イエシロアリ等の付着等がない ことを自己点検する ・父島から母島へ材木を輸送する場合、村へ届出し、村職員の確認を 得る ・母島に輸送された貨物からイエシロアリ等が確認された場合、速や かに村に届出、指示に従う ・海上運送用木製パレットを個人の敷地内又は工事現場等に放置せず に、速やかに海上運送業者に返却しなければならない。 (禁止) ・父島において保管又は育成された材木及び植栽用樹木等を、母島に 持ち込んではならない ・イエシロアリの生息する地域において保管又は育成された植栽用樹 木等は、母島に持ち込んではならない。 ・4 月 1 日から 7 月 31 日の間は父島から母島への材木の輸送を禁止 (努力義務) ・本土から母島へ材木及び植栽用樹木等を輸送する際は、父島で荷解 き及び保管をせずに、母島へ輸送するよう努める 【海上運送業者】 (義務) ・事業者及び村民等に対し、海上運送用木製パレットの速やかな返却 を求めなければならない。 (努力義務) ・母島への貨物の海上運送の際に使用する木製パレットについて、薬 剤注入等の防除処理を施し、イエシロアリ等が付着しないように務 める 【罰則】 ・父島から母島への材木の輸送時や母島に輸送された貨物からイエシロ アリ等が発見された場合の村への届出義務を怠つた者又は小笠原村 職員の指示に従わなかった者は、10 万円以下の罰金に処する。 運用上の問題点 ・実質的に村職員による立ち会いや確認が困難 ・シロアリ以外の外来種に適用できない ・貨物受付時点で防除処理をしていない木製パレットごと荷物が固定・ 梱包され、そのまま輸送される場合がある * 既に母島にイエシロアリは侵入している 18 5)制度化に当たっての注意点(過去の磯崎委員ヒアリングより抜粋) ○制度的検討に当たっての留意点 ・ 意図的導入のうち、規制内容を知らずに持ち込んでしまう場合は周知徹底することが必要。 ・ 意図的導入のうち、隠して持ち込む場合には、罰則を厳しくするか、原状回復を義務づける 必要があり、早期発見のシステムを構築することが重要になる。ただしこのケースは可能性 として高くはない。 ・ 非意図的導入のうち、物資を持ち込む際にそれに付着・混入して持ち込まれる場合には、植 物防疫に似たシステムが必要になるが、輸送の途中で外来種もしくは外来種が付着・混入す る可能性の高いモノだけを取り出すという行為は、私財に関わる行為であることから、関税 法のように「疑わしいものには対処できる」といった強制力がある制度的裏付けがない限り、 原則としてはできない。 ・ 小笠原諸島の場合には、一般の人や零細規模の農業者が対象となることから、植物防疫法の ような強制力をもつ法的制度の導入は適さないが、原則禁止といった前提条件をもたずに適 用除外の要件を検討して中間段階のレベルの制度を検討するのは極めて難しい。 ・ 水際対策としての制度については、厳しいものから弱いものまで各レベルについて整理する のが良いと思われる。 ・ 法的な制度をつくる場合には、なぜ必要なのか(避けて通れない害悪が生じる可能性が極め て高い)ということが明確にでなければならない。 ・ また、 「このルート」の「この場所で」、 「この方法で」実施すれば良いという、場所や技術が 限定されており、絞り込まれていなければ、制度として実効性を担保することはできない。 ・ さらに、 「程度の比較」ということも制度設計上は重視される。たとえば、車に付着して導入 される経路と土付き苗に付着して導入される経路が存在した場合に、どちらも同程度の危険 性がある場合には、どちらにも同程度の制限をかけるか、どちらかしか制限できない場合に はどちらも制限できないということになる。どちらかに限定して制限をかける場合には、制 限をかける方の危険性と寄与率が他方に比べて極めて高いことを証明しなければ不平等にな ることに留意が必要である。 19 ○「土付き苗」を対象とした対策の考え方について ・ 対応の強制力において、いくつかの段階が想定される。まず、前提として「土付き苗」の移 入が生態系のみならず農業被害の発生において極めて重大な危険性を有していることに関す る情報を提供し、地元の農業者の理解を得る必要がある。 ・ その上で、例えば以下のような段階での対応が考えられる。 ①最も緩やかな対応としては、適切な対処手法に関する情報を提供して、農業者の各個人に処理 の実施を委ねるという方法がある。 ②次の段階としては、「土付き苗」を導入する際には事前に特定の組織、団体等に届出を提出す るというルールをつくるという方法がある。 →届出制の導入には届出義務が生じるため、条例等での義務化も考えられるが、地元の農業者 との社会的合意を得る上では、農業者の自主的ルールが先行する方が望ましい。 →届出の内容としては、営業財産の侵害にならないように、苗の品種については届出義務を伴 わないようにするなどの配慮が必要な場合もある。 →届出を受けた組織、団体等が、届出者の合意のもとで適切な処理を実施する。 →届出者に金銭的な負担や手間がかからず、荷物が港に着いた時に届出者の立ち会いのもとで 簡易な方法で処理ができれば、処理の実施に対する合意は得やすい。 ③処理を本土側の港で実施する、あるいは船内で処理するために専用のコンテナ等に仕分けする といった行為を必要とする場合には、多くの物資の中から届出対象の「土付き苗」を選別する 必要があり、梱包された荷物を荷主のいないところで開封する必要が生じる可能性があること から、私財に関わる行為となり、強制力をもった法的制度と行政官による実施が必要となる。 20 3.小笠原の水際対策についての検討状況(国内・島間) 『新たな外来種の侵入・拡散防止行動計画の策定に向けた課題整理(平成 25 年 3 月)』以後の状況整理 ※『課題整理』p14~16「小笠原諸島における外来種の侵入・拡散防止に向けた経路別の課題」を改変 1)小笠原諸島内での拡散防止 経路と主な活動 父島・母島 集落地 → 島内重要地域 短期的な取組 これまでの主な取組 今後の課題 ・各宿等へ注意喚起チラシ及び靴 ・小笠原諸島内での既侵入外来種のう 底洗浄ブラシを配布・設置【環 ち、人為的拡散防止対策の対象種を絞 ・外来アリ類と外来プラナリア類に 境省】 り込み、対象種の島内での詳細な分布 関して、侵入・拡散防止の対応方針 状況を把握する必要がある。 を検討。 ・ルート入口におけるマット・粘 観光利用 ・対象種の分布状況に関する最新情報に ・ニューギニアヤリガタリクウズム 持管理【林野庁、東京都、環境 基づき、「どの種」を「どの場所に」 シに関して、父島内での未侵入エ 省】 拡散させないために、「どこ」で「ど 21 討【林野庁】 有人島 →属島 生態系保全 事業 ・観光利用に関する取組を継続。 着ローラー・ブラシの設置・維 ・上記外来種除去装置の改善を検 調査・研究 平成 25 年度以降の経過 ・ツヤオオズアリに関して、母島内 ての具体的かつ効果的な対策の実施 の未侵入エリアへの侵入防止策の 方法を検討する必要がある。 検討に着手。 ・各管理機関が実施させている外 ・属島移動に際しては、多くの外来生物 ・外来アリ類と外来プラナリア類に 来種のチェック・除去方法に関 に対して効果があり、簡易で安全な処 関して、侵入・拡散防止の対応方針 する情報を収集し、共通仕様書 理方法である冷凍処理を実施する仕組 を検討。 を検討【事務局】 みを確立する必要がある。 化の検討【研究者】 ・処理施設の整備に向けて検討中 【環境省・林野庁】 た施設の整備に向けて、設置場所、施 設の規模及び機能、整備主体、整備時 期等に関する具体的な検討、調整を進 める必要がある。 ・注意喚起、普及啓発の徹 底。 リアへの侵入防止策を検討・実施。 のような」対策を講じるべきかについ ・小笠原での調査時の共通ルール ・冷凍処理による外来種除去機能を備え 今後の方向性(案) ・グリーンアノールに関して、侵入・ 拡散防止の対応方針、緊急対応マニ ュアルを検討。 ・世界自然遺産センターの整備内 容・運用を検討。 【環境省】 ・海岸利用の考え方の整理に着手。 ・注意喚起、普及啓発の徹 底 ・対応方針、マニュアルの 運用の改善。 ・世界自然遺産センターの 運用を検討。【環境省】 ・パネル設置・チラシ配付・船内 ・特に留意が必要な父島から母島へのニ ・ニューギニアヤリガタリクウズム ・関係行政部署を含めた行 放送等による普及啓発【東京 ューギニアヤリガタリクウズムシの侵 シに関して、母島への侵入防止対策 政連絡会を開催し、問題意 都・環境省】 入防止対策については、今後もより確 を継続。 識と取組内容を共有する。 ・ははじま丸乗船場所への靴底洗 浄装置の設置【東京都】 定期航路に 父島→母島 よる人や物 資の移動 実な侵入防止対策を継続的に実施して ・地域連絡会議下部WGに いく必要がある。 おいて、「実施体制」「制 ・レンジャー立ち会いによる下船 ・人による移動防止については、既に整 ・足元への案内表示の設置等、洗浄 時の普及啓発・靴底洗浄マット 備された洗浄施設の利用率を高めるた 施設の運用改善策を検討中。【東京 の確保について議論を実 設置【東京都】 めの運用上の改善を行う必要がある。 都】 施する。 ・「小笠原(父島・母島)における ・父島からの土着き植物の持ち込みによ 度的裏付け」 「社会的合意」 ・対策を強化すべき点の洗 景観に配慮した公共施設整備 る移動防止については、公共事業に限 い出しと対策内容の検討。 指針」において、母島への島外 らず、島民に広く周知し、持ち込み防 (土付苗、車両、資機材の からの土付き植物の持込の禁 止の徹底を図る必要がある。 移動等) 止を呼びかけ【東京都】 ・母島へのニューギニアヤリガタリクウ 22 ・シロアリ条例にて貨物輸送時の ズムシの侵入可能性を完全に排除する 自己点検、材木及び樹木の輸送 ことは困難であることから、万が一の 時の届出、木製パレットの防除 事態に対応するため、早期発見の体制 処理等を義務づけ【小笠原村】 確保と緊急的処置の技術開発が必要で ・既存制度の運用状況の見 直し。 ・注意喚起、普及啓発の徹 底 ある。 自衛隊活動 ・防衛省に対し、自衛隊隊員向け ・硫黄島にのみ生息・生育する外来種の の注意喚起チラシの配布を依頼 うち、特に侵略性の高い外来種に関す 【環境省】 る最新の情報を把握し、関係機関に対 ・墓参事業参加者へ注意喚起チラ 硫黄島→父島 墓参事業 シを配布【小笠原村】 ・公共事業における環境配慮指針 遺骨収集事業 について、厚生労働省墓参事業 における活用を依頼【東京都】 して最新情報に基づく的確な注意喚起 を継続的に実施していく必要がある。 ・防衛省への注意喚起を再度実施。 ・墓参事業参加者への注意喚起を継 ・平成 28 年度事業において、 続。【小笠原村】 アカカミアリ対策の強化 ・平成 27 年度事業でアカカミアリの を検討。【小笠原村】 船への飛翔を確認。 2)本土から小笠原諸島への侵入防止 (1)意図的導入 短期的な取組 経路と主な活動 これまでの主な取組 今後の課題 平成 25 年度以降の経過 今後の方向性(案) ・飼いネコへのマイクロチップ ・イヌ・ネコ以外の他の愛玩動物についても適正飼養の具 ・平成 27 年度に地域連絡 ・ 「基本的考え方」に基づ 装着を義務づけ【小笠原村】 体的方法について整理し、より実効性のある形で島民への 会議下部WGを開催。 き、具体的な施策を検 情報提供を行う必要がある。 「基本的考え方」を整理 討。 ・注意喚起チラシ等の配布【ネ 愛玩動物の飼 養 23 本土 →父島・ 母島 農業・園芸活動 コ連、飼い主の会】 ・そのためには、愛玩動物の中から、特に島民の導入意向 ・個別訪問や獣医師会の巡回診 の多い種、既存事例等から侵略性が高いと判断される種な 療等によりイヌ・ネコへのマ どに関して、野外への放逐による定着の可能性や生態系へ イクロチップ装着を推進【小 の影響に関する情報、適切な飼養手法、避妊去勢等の管理 笠原村、ネコ連】 手法に関する情報等を集約・整理する必要がある。 予定。 底 ・パッションフルーツ、トマト ・特に導入意向の高い農業種、園芸種などについては、安 について逸出防止ガイドラ 全に導入するための処理方法や管理方法に関する情報の と「推奨種リスト」の作 インを作成、他 25 種作成中 整理による「ガイドライン」を作成するとともに、安全性 成について検討。【東京 【東京都】 が高く、市場性、生産性も高い農作物についての「推奨種 都】 ・ガイドラインについての農業 リスト」を作成し、農業者への的確な情報提供と指導等を 者等への情報提供【東京都】 実施する必要がある。また、野外への逸出に配慮した営農 ・外来種の侵入・拡散防止チラ ・注意喚起、普及啓発の徹 ・「ガイドライン」の作成 ・注意喚起、普及啓発の徹 底 技術の普及等も重要である。 シの内容に園芸種のリスク を盛り込んで全戸配布【環境 省】 ・「小笠原(父島・母島)にお ける景観に配慮した公共施設 緑化・建設事業 ・「推奨樹種リスト」に対する指導を徹底するだけでなく、 緑化草本類に関する検討も必要である。 整備指針」において「推奨樹 ・道路の維持管理における草刈りの実施により、路傍に繁 種リスト」を作成【東京都】 茂した外来草本類の重要地域内への拡散防止など、公共施 ・民間事業に対しても「東京都 設の維持管理に伴う非意図的導入にも留意が必要である。 景観計画」に基づき「推奨樹 種リスト」に基づく指導を実 施【東京都】 ・注意喚起、普及啓発の徹 底 (2)非意図的導入 経路と主な活動 中長期的な取組 これまでの主な取組 今後の課題 ・WEB サイトにおける情報提供【環 ・人・装備品・手荷物の持ち込みに関し 境省・村観光局】 平成 25 年度以降の経過 ・取組の継続。 ては、関係機関が連携して、外部への ・ 「中長期的な取組」から「短期的な 取組」へのシフト。 ・注意喚起チラシ・パンフレットの 情報発信、乗船時・航路上・下船時の ・関係行政部署を含めた行政連絡会 配付・設置等【環境省・東京都・ それぞれにおける利用者への普及啓 を開催し、問題意識と取組内容を 小笠原海運】 発に努めており、これらの対策を今後 人・装備 ・乗・下船時の靴底洗浄マットの設 品・手荷 置・運用等【東京都・観光船業者】 共有する。 も継続的に実施していく必要がある。 ・対策内容の再確認、不足部分の拡 充。 物 の 持 ・注意喚起の映像上映、船内放送の ち込み 今後の方向性(案) ・注意喚起、普及啓発の徹底 実施、ポスター設置【環境省・林 野庁・東京都・小笠原海運】 ・レンジャー立ち会いによる下船時 24 の普及啓発【東京都・環境省】 本土→ 父島・母島 ・搭乗券への手荷物申告書の刷り込 み調整中【事務局・小笠原海運】 ・物資の輸送状況等の実態調査を実 施【環境省】 ・土着き苗の温浴処理実験、外来種 物資の 輸送 ・小笠原諸島への外来種の非意図的導入 は、リスクが最も高い。 ・意図的導入への対応は、小笠原諸島へ ・土付苗の温浴処理実験を継続。 ・ 「中長期的な取組」から「短期的な ・沖縄から直接持ち込まれる土付 苗のリスクを再確認。 取組」へのシフト。 ・関係行政部署を含めた行政連絡会 の冷凍処理実験等により効果を確 の侵入を未然に防ぐための水際対策が ・農業者の島外からの苗の導入実 を開催し、問題意識と取組内容を共 認【環境省】 最も重要である。 有する。 ・しかし、国内検疫システムを含む、水 態を調査。【東京都】(H26 年 度) ・地域連絡会議下部WGにおいて、 際対策に関する具体的な技術は未だ確 ・沖縄県からの苗の付随生物の実 「実施体制」「制度的裏付け」「社 立されておらず、また、「実施体制」 会的合意」の確保について議論を実 態を調査【東京都】(H27 年度) 「制度的裏付け」「社会的合意」の確 ・母島の農業者ヒアリング及び一 施する。 保も困難な状況にある。そのため、対 般家庭アンケート実施【環境省】 ・既存制度の運用状況の見直し。 策の優先度が高い一方で、これまで、 (H27 年度) 具体的な取組への着手が遅れている。 ・注意喚起、普及啓発の徹底 4.今後の方針 国内の他地域や外国から父・母島への物資の輸送に伴う意図的・非意図的導入の未然防止のた めの水際対策の検討には、「対策技術の確立」、「実施体制の整備」、「制度的な裏付け」、「社会的 合意」が必要である。これらの中長期的課題は、外来アリ類と外来プラナリア類について先行的 に検討を行うことで、検討手順の整理や必要な情報・知見の蓄積を図り、関係機関による対策の 実施に向けた道筋を示す。 25 参考資料 1.平成 27 年度小笠原諸島外来プラナリア類の侵入・拡散防止に関する対応方針 2.平成 27 年度小笠原諸島における外来アリ類の侵入・拡散防止に関する対応方針 3.小笠原諸島における侵入・拡散防止に注意が必要な動物種リスト(平成 27 年度版) 4.世界自然遺産登録地に適した侵入病害虫等管理技術の検討 ~小笠原(父島,母島)島外からの農業者の苗導入実態調査 5.世界自然遺産登録地に適した侵入病害虫等管理技術の検討 ~小笠原(父島,母島)島外からの購入苗から検出された生物類~ 参考資料1 平成 27 年度小笠原諸島外来プラナリア類の 侵入・拡散防止に関する対応方針 平成28年3月 科学委員会 新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ 目次 第 0 章 平成 27 年度小笠原諸島陸産貝類保全のための外来プラナリア類の侵入・拡散防止に関す る対応方針(骨子) ......................................................................................................... 1 第 1 章 小笠原諸島における外来プラナリア類への対応の基本的な考え方 ................................... 5 1. ニューギニアヤリガタリクウズムシが小笠原諸島で引き起こす諸問題 ............................ 5 2. 小笠原諸島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシの対策の基本的な考え方 ........................ 5 3. 小笠原諸島において想定されるプラナリア類の侵入・拡散経路 ....................................... 6 4. ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入・拡散の未然防止について ............................ 7 1) ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入拡散の未然防止の流れ ................................ 7 2) ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入・拡散のリスク評価 ................................... 8 3) 保管対策と出口対策の考え方 ......................................................................................... 9 4) 父島における「保管対策」と「出口対策」のための施設の整備と連携した運用 .......... 9 5. ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入・拡散の侵入時の対応について ................... 11 1) はじめに ....................................................................................................................... 11 2) ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入時の対応の基本的な考え方....................... 11 3) 陸産貝類保全ワーキンググループの緊急開催 .............................................................. 12 第 2 章 母島におけるプラナリア類対応手法行動マニュアル【未然防止編】 .............................. 13 1.母島において想定されるプラナリア類侵入経路 ................................................................ 13 2.母島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシ侵入の未然防止対策の基本的項目....... 14 1) 公共用資材・機材における対策 ................................................................................... 14 2) 農業・園芸関係資材・土付き苗における対策 .............................................................. 16 3) 村民の生活、来島者による観光・調査等に伴う一般的な物流への対策....................... 17 第 3 章 母島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシ侵入時の対応手法 .............................. 20 1. 母島における陸産貝類の重要生息地域と保全上の課題 ................................................... 20 2. 母島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入時の行動マニュアル ............... 22 1) 発見前の準備 ................................................................................................................ 22 2) 発見時の対応 ................................................................................................................ 25 3) 発見直後の対応 ............................................................................................................ 26 4) 陸産貝類保全ワーキンググループの緊急開催 .............................................................. 27 第 4 章 参考資料編 ....................................................................................................................... 30 1. 未然防止の対応事例 ......................................................................................................... 30 1) 公共用資材の処理の対応事例 ....................................................................................... 30 2) 農業用苗の処理の対応事例 .......................................................................................... 40 2. 侵入後の対応事例 ............................................................................................................ 42 1) 侵入経路と陸産貝類保全のための重要地域の確認 ....................................................... 42 第0章 平成 27 年度小笠原諸島陸産貝類保全のための外来プラナリア類の 侵入・拡散防止に関する対応方針(骨子) Ⅰ 対応方針の目的 小笠原諸島では、陸産貝類が、小笠原の島しょ生態系における固有種の種分化の過程を顕 著に示しており、小笠原諸島の世界遺産価値の重要な位置を占めている。一方で、小笠原の 固有陸産貝類は、外来生物である貝食性のプラナリアであるニューギニアヤリガタリクウズ ムシに対して脆弱である。ニューギニアヤリガタリクウズムシは父島に侵入している一方で、 母島やその他の無人島にはまだ侵入が確認されていない。そのため本対応方針は、プラナリ ア類が未侵入である地域の陸産貝類の生息地を保全するために、外来プラナリア類の侵入の 未然防止と侵入時の対応を図るものである。 Ⅱ 対象となる外来生物 ニューギニアヤリガタリクウズムシ( Platydemus manokwari ) 扁形動物門 ウズムシ目 ヤリガタリクウズムシ科 ただし母島では近年、上記の種以外の貝食性プラナリア類の分布拡大が確認されており、 陸産貝類への影響が危惧されている。上記の種以外のプラナリアの生息状況についても、定 期的に調査を行い、生態・陸産貝類への影響及び分布域の把握に努める必要がある。 Ⅲ 構成 第1章 外来プラナリア類への対応の基本的な考え方 第2章 母島における外来プラナリア類対応手法行動マニュアル【未然防止編】 第3章 母島における外来プラナリア類対応手法行動マニュアル【侵入時対応編】 第4章 参考資料(対応事例等) Ⅳ 対応方針の検討体制と検討経緯 1.科学委員会、地域連絡会議、検討会等の役割 平成 26 年度から平成 27 年度にかけて、科学委員会下部「新たな外来種の侵入・拡散防止 に関する WG」において本対応方針の全体のとりまとめを行った。具体的な内容は、科学委 員会、地域連絡会議、検討会等の役割に応じて検討を行ってきた。 第 1 章は、科学委員会下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG」において検討 を行った。第 2 章「未然防止編」は、地域連絡会議下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に 関する地域課題 WG」において検討を行った。第 3 章「侵入時対応編」は、技術的な議論は 1 陸産貝類保全・プラナリア対策検討会において検討を進めたが、既侵入地域からの根絶技術 が未確立であり、地域連絡会議下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する地域課題 WG」 において実施予定であった具体的な対応の詳細は詰められていない。 第 4 章は、これらに基づいて行われる試行的な取組や、実践された事例、その他実施の参 考となる基礎資料を整理した。 検討に参加した専門家、機関、団体については、表1~3のとおり。 2.検討の流れ 第1章 第2章【未然防止編】 第3章【侵入時対応編】 素案 素案 素案 第4章 素案 平成 26 年 9 月 4 日 平成 26 年 9 月 4 日 平成 26 年 9 月 4 日 平成 26 年 9 月 4 日 第2回合同 WG 第2回合同 WG 第1回 第2回合同 WG プラナリア対 策・陸産貝類保全検討会 詳細の検討 平成 27 年 1 月 23 日 ポット苗の温浴処理の試行(母島) 対応方針 平成 27 年 2 月 11 日 平成 27 年 3 月 5 日 平成 27 年 3 月 16 日 第3回 第2回 第1回 合同 WG 地域連絡会議(検討) 科学委員会(報告・公開) 事例 平成 27 年 7 月 17 日 母島行き公共工事用資材の洗浄の点検 平成 27 年 11 月 10 日・11 日 沖縄産マンゴー苗の温浴処理 於:母島 対応方針 平成 27 年 2 月 11 日 平成 27 年 3 月 5 日 第3回 第2回 合同 WG 地域連絡会議(検討) 平成 27 年 3 月 16 日 第1回 科学委員会(報告・公開) 平成 28 年 2 月 22 日 第3回 科学委員会下部新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG 平成 28 年 3 月 11 日 科学委員会下部陸産貝類保全 WG 2 3.対応方針の見直しと次年度の予定について 本対応方針は、未確立の技術が含まれていること、対応の参考になる事例が不十分である こと、試行的な取組が様々になされていること、これまでに議論が行われなかった論点があ ることから、随時見直しを行い内容の更新を図ることとする。平成 28 年度は科学委員会下部 「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG」が休止されることから、技術的な部分は科 学委員会下部「陸産貝類保全 WG」において検討を行い、地域連絡会議下部「新たな外来種 の侵入・拡散防止に関する WG」及びテーマごとの関係者を集めた作業部会等において実施 体制の整備、対応の試行を行う。結果、マニュアルの内容に不具合が確認された場合には「陸 産貝類保全 WG」に助言を求めるとともに、内容の見直しが必要な場合は、同 WG で議論の 上、内容の更新を行う。 次年度、議論するべき論点及び重点的に実施すべき試行的な取組については、以下の通り。 ・農業・園芸用苗の処理・点検方法の検討・試行 (特に、温浴による苗への影響の有無、効率的な実施方法・実施体制の整備) ・公共用資材の洗浄・点検方法の検討・試行 3 表1 科学委員会下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG」 (平成 28 年度は休止) 名 称 新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ 管理機関 環境省、林野庁、東京都、小笠原村 メンバー 磯崎 博司 上智大学大学院地球環境学研究科教授(環境法) (★:座長) 加藤 英寿 首都大学東京 (敬称略・五十音順) 五箇 公一 国立環境研究所 主席研究員(昆虫類・外来種リスク評価) 千葉 聡 東北大学 ★吉田 正人 理工学研究科 助教(植物) 東北アジア研究センター 教授(陸産貝類) 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 教授 (保全制度) 【アドバイザー】 大林 隆司 東京都小笠原支庁産業課 小笠原亜熱帯農業センター主任 *必要に応じ関連分野の専門家をアドバイザーとして追加する予定 表2 地域連絡会議下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する地域課題 WG(*1)」 参加する立場 行政機関 新たな外来種の侵入・拡散防止に関する地域課題 WG 環境省 小笠原自然保護官事務所 林野庁 小笠原諸島森林生態系保全センター 東京都 小笠原支庁 小笠原村 土木課 環境課、産業観光課 (その他、調整中(*2)) 農業資材、農作物苗関係 東京島しょ農業協同組合 父島支店、母島支店 属島利用、調査関係 小笠原村観光協会、小笠原母島観光協会、小笠原野生生 物研究会、小笠原自然文化研究所、小笠原環境計画研究所 産業・物流関係 小笠原村商工会 (*1) 地域課題 WG の位置づけについては、平成26年度第2回地域連絡会議にて議論。 (*2)必要に応じ、外来生物の拡散防止に関わる事業の関係者、請負者等の参画を依頼する。 表3 陸産貝類保全ワーキンググループ(旧「プラナリア対策・陸産貝類保全検討会」) 名 称 事務局 メンバー (敬称略) プラナリア対策・陸産貝類保全検討会 環境省、林野庁、東京都、小笠原村 大河内 勇 日本森林技術協会 業務執行理事 加藤 英寿 首都大学東京大学院 助教 佐々木哲朗 NPO 小笠原自然文化研究所 理事 杉浦 真治 神戸大学大学院 准教授 千葉 聡 東北大学大学院 教授 和田慎一郎 森林総合研究所 特別研究員 亘 悠哉 森林総合研究所 主任研究員 大林 隆司 小笠原支庁産業課 小笠原亜熱帯農業センター主任 *必要に応じ関連分野の専門家をアドバイザーとして追加 (五十音順) 4 第1章 小笠原諸島における外来プラナリア類への対応の基本的な考え方 1.ニューギニアヤリガタリクウズムシが小笠原諸島で引き起こす諸問題 小笠原諸島では、陸産貝類が、小笠原の島しょ生態系における固有種の種分化の過程を顕著に 示しており、小笠原諸島の世界遺産価値の重要な位置を占めている。小笠原の固有陸産貝類は、 貝食性の外来プラナリア類であるニューギニアヤリガタリクウズムシに対して極めて脆弱であり、 本種が侵入したエリアに生息する小笠原諸島固有の陸産貝類は壊滅的な打撃を受ける。 ニューギニアヤリガタリクウズムシは広東住血線虫の宿主となるため、本種の摂取又は、広東 住血線虫の感染幼虫によって汚染された野菜、手指、飲料水等を介しての間接的な摂取によって 感染する恐れがある。 ニューギニアヤリガタリクウズムシは、土壌や落ち葉などを生息の場にしている。これらの土 壌や落ち葉には、様々な土壌生物が同所的に生息しており、本種以外の土壌動物も農業などに影 響を及ぼす害虫が含まれている場合がある。 なお、小笠原諸島において確認されている外来の陸産貝類であるウスカワマイマイ、アフリカ マイマイ等は、父島ではニューギニアヤリガタリクウズムシと同所的に分布しており、ニューギ ニアヤリガタリクウズムシによって絶滅させられることはない。 2.小笠原諸島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシの対策の基本的な考え方 小笠原諸島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシは父島のほぼ全域と硫黄島に侵入して いる。一方で、母島やその他の無人島にはまだ侵入が確認されていない。父島の未侵入地域(鳥 山・巽崎)、母島、その他の無人島では、ニューギニアヤリガタリクウズムシの拡散のあり方はそ れぞれ異なる。そのため、保全対象となる場所毎に、きめ細かに対応方針を考える必要がある。 ニューギニアヤリガタリクウズムシは、冷凍、燻蒸、温浴処理、微弱な電流、酸性溶液等の物 理的・化学的な刺激に弱く、個体レベルでの殺虫処理は容易である(図1)。一方で、土中に潜ん でいる同種を視認し除去することは難しく、一定のエリアに拡散した同種をそのエリアから完全 に排除することは極めて困難である。 そのため、ニューギニアヤリガタリクウズムシの対策は、未侵入の場所に侵入させない「未然 防止の対策」が基本的な対応の考え方となる。 ニューギニアヤリガタリクウズムシの拡散は、地面を這うことによる自力での拡散の他、物資 や人に付着して、人為的ではあるが、人が気がつかないまま、非意図的に拡散する。そのため、 ニューギニアヤリガタリクウズムシの移動は、人の生活や産業活動と密接に関わっている。小笠 原諸島においてニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入・拡散の未然防止の対策を考える場合 には、小笠原での暮らしのあり方そのものに向かいあう必要があると考えられる。 なお、既にニューギニアヤリガタリクウズムシが侵入している父島では、本種の分布が確認さ れている場所からの完全排除に成功していない。そのため、父島での取組は、鳥山や巽崎といっ た本種の未侵入エリアへの拡散を防ぐとともに、既侵入箇所の陸産貝類を緊急的に捕獲して域外 5 保全を行う手法を採用せざるを得ない。本対応方針では、母島をはじめとする本種の未侵入エリ アに侵入した場合を想定した「侵入時の対応」についても言及はするものの、それはあってはな らない事態であることはいうまでもない。 図1 プラナリア類に対する処置として採用しうる手法 3.小笠原諸島において想定されるプラナリア類の侵入・拡散経路 小笠原諸島においては、ニューギニアヤリガタリクウズムシは、資材や人の移動に伴って、非 意図的に運ばれる(図2)。 国内でニューギニアヤリガタリクウズムシの生息が確認されている地域は、小笠原諸島の父島、 中硫黄島と琉球列島(沖縄本島、久米島、宮古島、伊良部島、伊計島、平安座島)である。特に リスクの高い物資は琉球列島から運搬される土付き苗であり、母島で栽培されているマンゴーの 苗の多くは琉球列島から持ち込まれている。 母島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入のリスクは、沖縄から農業用、園芸用 の苗が直接母島に持ち込まれるリスク、硫黄島から父島経由で手荷物に付着して持ち込まれるリ スク、父島に保管されている物資や車両に付着して母島に持ち込まれるリスクが考えられる。母 島列島の無人島については、母島本島に本種が未侵入であるため、現時点で本種が直接拡散する リスクは少ないと考えられる。ただし、母島本島には、ニューギニアヤリガタリクウズムシ以外 の貝食性プラナリアが生息しているため、母島属島への渡航においてもプラナリア類の対応を要 する。 父島列島、聟島列島の無人島には、調査やレジャーによって拡散するリスクが考えられる。父 島列島、聟島列島の無人島は、一般的には立入りが制限されているものの、海岸の利用や森林生 態系保護地域内の指定ルート等、一部で利用が可能である。また、調査や研究で属島に上陸する 場合は、島の内陸部まで立ち入ることとなる。そのため、属島での立入りについても、十分な対 応が必要である。 6 図2 小笠原諸島におけるプラナリア類の侵入・拡散経路 4.ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入・拡散の未然防止について 1)ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入拡散の未然防止の流れ ニューギニアヤリガタリクウズムシ等のプラナリア類(以下、プラナリア類という)の侵入の 未然防止のためには、プラナリア類が付着している可能性のある物資(公共用資材、農業用資材、 園芸用資材、土付きの苗など)への適切な処置が必要となる。公共的事業、農業活動、その他の 物流に関係する関係機関・団体・個人を対象に、以下の流れで行われる必要がある。 ① トレーサビリティの確保 対象となる資材が、どこから、どれだけ搬入されているのか。 ② 対象となる資材に応じた処置 対象となる資材に対して、プラナリア類を排除するための措置がとれるのか。 ③ 処置が適切に行われているかの確認・チェック体制の整備 必要な処置が適切に行われたか、確認する体制はあるのか。 事前準備 トレース(現状把握) 実行 リスクの高い物品・箇所の特定 処置(仕様書、環境配慮指示書) 処理方法の検討 処理体制の検討 確認 設計段階での環境配慮指示書 点検(監督員・環境配慮指導員) 対処手法の周知・普及 図3 ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入・拡散の未然防止のフロー図 7 2)ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入・拡散のリスク評価 ニューギニアヤリガタリクウズムシの分布や処置の手法はある程度整理されているため、物資 に付着して小笠原諸島に侵入・拡散するかについては、下記のフローにより、一定のリスク評価 が可能である(図4)。 まず、リスクを評価する対象とする資材や植物の苗が、沖縄由来であるか否かが重要である。 沖縄由来である場合は、野外で採取されたものや野ざらしになった経緯があれば、ニューギニア ヤリガタリクウズムシが付着している可能性は極めて高い。仮に、本種が付着してる可能性があ る場合でも、内地での洗浄、温浴、冷凍、燻蒸のいずれかの手法が徹底されている場合には、本 種が付着しているリスクは軽減される。また、内地から輸送されるもので、沖縄由来でないもの については、ニューギニアヤリガタリクウズムシの付着のリスクは低いと考えられる。 次に、これらの資材や植物の苗が、父島を経由したか、または、父島で保管された経緯がある かが極めて重要である。仮に、資材や植物の苗の由来が新品であったり、沖縄由来でなかったと しても、父島に一時的にでも経由・保管された経緯ある場合には、本種の付着を疑う必要がある。 その場合であっても、父島での洗浄、温浴、冷凍、燻蒸のいずれかの手法が徹底されている場合 には、これらの資材や植物の苗に本種が付着しているリスクは軽減される。 これらのトレーサビリティの確保やリスク軽減のための処置は、事業ごとに、環境配慮指示書 や仕様書に明記することで、一定のリスク回避の担保をとることができる。 上記のいずれの処理も不可能である場合は、母島にニューギニアヤリガタリクウズムシが侵入 している可能性が極めて高く、万一の侵入時に備えて、緊急対応マニュアルの整備が必要である。 しかし、既に見たとおり、本種の対応は未然防止を基本とすべきであり、母島や属島に本種を侵 入させることがあってはならない。 図4ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入・拡散のリスク評価のフロー 8 3)保管対策と出口対策の考え方 ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入・拡散の未然防止については、物資や人の手荷物が 保管されている場所での「保管対策」と、物資や人が移動する際の、保全対象となる場所への「出 口での対策」が基本となる。 父島での物資の保管は、工事用資材は建設事業者等の資材置き場、島内の在住者の調査資材の 場合は各事業所や倉庫、島外からの来島者の調査や手荷物等は宿などに保管される。現在、保管 方法は各事業者や個人にゆだねられているのが実態である。父島島内で、ニューギニアヤリガタ リクウズムシが付着しない保管手法について、関係機関、団体、事業者、個人で統一を図るとと もに、関係者に周知を図る必要がある。 父島から母島や無人島へ移動する物資の種類や数量、対象者や人数は、それぞれの出口におい て大きく異なる(図5)。そのため、それぞれの出口で必要となる設備や機能は、出口ごとにきめ 細かく決める必要がある。 父島から母島への物資や人の移動を考えた場合、父島での出口は、ははじま丸の船待合所を含 む、二見港となる。父島から属島への移動を考えた場合、兄島、弟島等への出口は宮之浜であり、 南島や硫黄列島への出口はとびうお桟橋や二見港となる。 図5 父島での保管場所、出口の概況 4)父島における「保管対策」と「出口対策」のための施設の整備と連携した運用 父島から移動する物資や人の流れは複雑であり、単一の施設や仕組みで全体をコントロールす ることは難しい。そのため、父島における「保管対策」と「出口対策」のために必要な処置が可 能となるよう、既存設備の活用、新たな施設の整備、加えて、これらの施設を連携させた運用を 図る必要がある(図6) 。 今後新たに設置される施設としては、環境省により平成29年に竣工予定の世界遺産センター (仮称)がある。施設内には、属島調査の機材を処置(燻蒸、冷凍、洗浄) ・保管できる部屋が配 備される予定である。 これらの施設は、プラナリア類への対処だけではなく、小笠原諸島に侵入・拡散する恐れのあ る新たな外来生物による様々な脅威に対しても有効である。 9 属島への資材 ①宮之浜園地 色の凡例 属島での調査や事業に必 要な道具やクツについて、 出発前の出口対策を行う。 島内保管の工事 資材・車両 リスクのある資材 出口での処置 ②世界遺産センター(新設予定) 内地の 調査者 クリーンな資材 属島での調査や事業に必 要な資材を、島別、事業別 に処置・保管する。 属島への資材 港湾施設(改修予定) ははじま丸 への資材 内地からの資材 母島や属島での公共工事の資 材や車両を燻蒸、洗浄する出口 対策を行う。 ①宮之浜園地 ②世界遺産センター(仮称) 属島での調査に必要な道具とク ツの酢による洗浄等、出口対策 属島での調査機材の、燻蒸、冷 凍等の機能及びクリーンルーム での保管機能。 図6 父島における「保管対策」と「出口対策」のための施設の整備と連携した運用 10 5.ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入・拡散の侵入時の対応について 1)はじめに 先に見たように、ニューギニアヤリガタリクウズムシの対策は、未侵入の場所に侵入させない 「未然防止の対策」が基本的な対応の考え方となる。既にニューギニアヤリガタリクウズムシが 侵入している父島では、本種の分布が確認されている場所からの完全排除に成功していない。そ のため、本種の侵入時の対応については、本種のさらなる拡散を防ぐとともに、既侵入箇所の陸 産貝類を緊急的に捕獲して域外保全を行う手法を採用せざるを得ない。 「侵入時の対応」は、ニューギニアヤリガタリクウズムシが未然防止の取組をくぐり抜けて侵 入した場合に備えて、技術的に限定された条件下であっても最善の対応するためのやむを得ない 対応である点については、強く留意する必要がある。 2)ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入時の対応の基本的な考え方 ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入時の対応は、技術的に未確立な点はあるものの、 父島鳥山地域での取組事例(父島鳥山モデル:表1)を参考にできる。 表 1 父島鳥山における対策内容と課題(父島鳥山モデル)及び対応案 侵 入前 の準備 対策内容(*) 侵入前のモ ニタリング 侵 入直後 の対応 柵 の設置 保全上の重 要地域の選 定 侵入後の発 見地点周辺 の裸地化・殺 虫処理 プラナリア 類侵入前線 調査 侵入防止柵 エリア防除 柵 囲い柵 そ の他 ネズミ食害 対策 生息域外保 全 課題 目視調査によるモニタリングを行って いたが、モニタリングで発見したとき には、ウズムシはかなり広がっていた。 陸産貝類の生息地選定の観点での調査 を行ってきたが、柵の設置の観点での 施工可能箇所の抽出が不十分だった。 発見エリア全域での殺虫処理は不可能 であり、草刈り程度の裸地化ではプラ ナリアの侵入は止められない。これら の効果はないと思われる。 センサー板に付着した種の同定が困難 である。 海岸まで達する裸地が必要である。 裸地で囲まれたパッチ上の森林を確保 する必要がある。 囲い柵内部での陸産貝類確認数の減少 がみられる。逸出している可能性があ る。樹上からのプラナリア対策が不十 分である。 ネズミによる食害被害が見られる。 島内での飼育体制の確立が必須。 メンテナンスフリーの屋外飼育施設の 検討が重要。 11 対応案 目視調査とセンサー板を用いた検出を並行し て実施し、できる限り頻度を高めて行う。 侵入前に、柵の施工可能箇所の抽出は済ませ ておく必要がある。 発見地点の殺虫処理を行うことは効果的では ない。発見後は、速やかに、侵入防止、域外 保全等の対策に移行すべき。 周辺における補足的な目視調査 乾燥したプラナリアの遺伝子解析手法の簡易 化 設置可能な場所の事前の検討が重要。 陸産貝類逸出防止低周波ロープが開発済み。 樹上からのプラナリア侵入防止対策の技術的 な開発が未対応。 (*)ネズミ対策検討会との連携が必要。 殺鼠剤の散布手法の検討 ネズミ侵入防止柵の設置の検討 飼育技術者の育成。 屋外飼育施設の候補地の抽出。 3)陸産貝類保全ワーキンググループの緊急開催 母島や属島へのニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入は、生態系の保全の観点のみならず、 社会的にも重大な影響を与えると考えられる。そのため、緊急対応にあっては、科学的な知見に 基づく冷静な判断と対応が求められる。陸産貝類保全ワーキンググループを緊急開催し、侵入状 況について報告を行うと共に、今後の対応方針について検討するため、検討するべき項目は予め 想定しておかねばならない。 議事1 ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入状況の評価 侵入状況調査の結果をうけて、ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入状況を評価する。ニ ューギニアヤリガタリクウズムシの侵入が、単発的・偶発的なものであるのか、一定の広がりを 持った分布をしているのかは、その後の対応を検討するために、極めて重要な情報である。 この議事において用意するべき資料は、侵入が確認された状況、侵入前のモニタリング結果、 侵入直後の分布最前線調査結果、陸産貝類の分布調査結果等である。 議事2 目標の設定 ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入状況の評価結果を踏まえ、 「根絶」「ニューギニアヤ リガタリクウズムシの囲い込み(ウズムシのエンクロージャー)」「陸産貝類の生息環境の囲い込 み(ウズムシのエクスクロージャー)」等のプラナリア類防除の目標を設定する。 ひとたび野外に侵入が確認されたニューギニアヤリガタリクウズムシの「根絶」は、極めて限 定的な条件(本種が付着していた資材が明らかであり、その資材が持ち込まれた直後に、その場 で発見され、発見後直ちに発見個体の殺虫処理が行われ、かつ、その場にある全ての資材に対し 酢による洗浄がなされるような場合)でしか達成できない。そのため、本種の発見が偶発的なも のではないと判断された段階で、直ちに、本種のエンクロージャーまたはエクスクロージャーに 向けた対応に切り替えなければならない。 議事3 プラナリア類対策の短期的な防除方針の検討 ひとたび侵入したニューギニアヤリガタリクウズムシに対応するためには、ニューギニアヤリ ガタリクウズムシの侵入防止柵の設置や、陸産貝類の域外保全など、緊急かつ息の長い取組が必 要となる。そのため、プラナリア類の侵入確認から概ね1年以内に実施すべき事項と各機関・団 体の役割分担を整理し、必要な取組を実施する必要がある。 12 第2章 母島におけるプラナリア類対応手法行動マニュアル【未然防止編】 1.母島において想定されるプラナリア類侵入経路 国内でニューギニアヤリガタリクウズムシの生息が確認されている地域は、小笠原諸島の父 島、中硫黄島と琉球列島(沖縄本島、久米島、宮古島、伊良部島、伊計島、平安座島)である1。 特にリスクの高い物資は琉球列島から運搬される土付き苗であり、平成 27 年度にも沖縄産の マンゴー苗 58 株が母島へ持ち込まれた例が確認されている。各地域から母島への人及び物資の 移動経路のうち、プラナリア類の侵入リスクの高い物品と経路ごとの対策について、既往文献 等を基に整理した(表 1、表 2 参照)。 表 1 プラナリア類の侵入リスクの高い物品 リスク 最高 品名 琉球列島産の土付き苗 備考 琉球列島産のマンゴーは 2011~2014 年の平均で 50 株程度持ち込まれている2。 最高 父島で保管した工事資材・仮 木材の移動は小笠原村のシロアリ条例で禁止されて 設材 いるため父島母島間の移動は無いが、父島で使用し た単管パイプ等の移動はある。 最高 穴掘建柱車 電柱等を建てるため地盤に穴を開ける機械である が、現時点では対策が行われていない。 高 一般車両、工事用車両 油圧ショベル等の重機については平均して年2~3 回程度の父島母島間の移動があるが、洗浄が行われ ている。一般車両については、車のタイヤ付近に泥 が溜まる場所がある、洗浄の指導は行われていない。 高 父島で使用した靴 普及啓発やははじま丸の船客待合所にて靴底洗浄が 行われているが、不特定多数の観光客が訪れる。 高 高 調査・研究者が父島で使用し シート類、土壌調査用機材、三脚や夜間に屋外で干 た資機材 していた道具等にリスクがある。 父島産の土付き苗 公共事業での母島への持ち込みは禁止されている。 一般島民が苗木や観葉植物を購入して母島に持ち込 むことがある。 1大河内勇.2002.ニューギニアヤリガタリクウズムシ.外来種ハンドブック,日本生態学会編,地人書館,167. 2 2015 年小笠原亜熱帯農業センター調査結果 13 2.母島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシ侵入の未然防止対策の基本的項目 ニューギニアヤリガタリクウズムシ等のプラナリア類(以下、プラナリア類という)の侵入の 未然防止のためには、プラナリア類が付着している可能性のある物資(公共用資材、農業用資材、 園芸用資材、土付きの苗など)への適切な処置が必要となる。 公共的事業、農業活動、その他の物流に関係する関係機関・団体・個人を対象に、以下の流れ で行われる必要がある。 ① 資材や荷物の由来の把握(トレーサビリティの確保) ② 対象となる資材に応じた処置・処置体制の整備 ③ 処置が適切に行われているかの確認・チェック体制の整備 ④ 関係者との合意形成 1)公共用資材・機材における対策 (1)トレーサビリティの確保 対象となる資材の例:父島で保管した工事資材・仮設材、穴掘建柱車等の工事用車両 公共事業における父島から母島への資材の移動状況については、平成 26 年度に東京都が 母島で事業を行っている建設事業者3社に実施したヒアリング調査の結果から、表2に示 す情報が把握されている。 この結果から公共事業において父島から母島に輸送される普通車両は 0.8 台/年、重機は 2.4 台/年、その他建設機械等は年 2~3 例程度と非常に少ないことが分かった。 今後は特にリスクが高いと考えられる穴掘建柱車の移動実態を把握する必要がある。 表2 調査対象時期 A H21~H25 年度 社 (5 年間) 普通車両 H24~H26 年度 社 (2 年 4 か月間) (0.4 台/年) 社 その他建設機械等 中古足場材 一式 1 回 2台 7台 コンクリートカッター 1 回 (0.4 台/年) (1.4 台/年) ハンドブレーカー 1 回 重機用アタッチメント等 3 回 B C 重機等 2台 5台 (1 台/年) 中古足場材 一式 ほか 1回 *母島での事業のみのため、父母間の移動はなし *普通車両とは乗用車、バン等 *重機等とはバックホウ、ダンプ、ミキサー車、ポンプ車、ユニック車、フォークリフト等 *建設機械とはハンドブレーカー、コンクリートカッター、タンパ等 *全て父島搬出時に入念に洗浄を行い、母島搬入時には目視にて付着物確認を実施 出典:平成 26 年度第2回 新たな外来種の侵入・拡散防止ワーキンググループ 14 参考資料(2014 東京都) (2)対象となる資材に応じた処置 公共用資材・機材については泥落とし等の洗浄を徹底すると共に、特にリスクの高い資 材・機材については洗浄方法を定めた上で、目視点検を行うなどの対策が必要である。 また、以上の対策について事業の請負者に義務づけるために環境配慮指導書や共通仕様 書を作成する必要がある。 (3)処置が適切に行われているかの確認・チェック体制の整備 環境配慮指導書や共通仕様書に定められたことが適切に実施されたかを確認するため、 担当官は、物資や工事用車両が保管されている場所を確認するとともに、請負業者に対し て、物資の移動が行われる日程をあらかじめ知らせるようにしておき、立会いをすること が望ましい。 立ち会った際に、泥の付着している資材がある場合などには、請負者に洗浄等の適切な 処置を指示する必要がある。 (4)関係者との合意形成 公共用資材・機材における対策の関係者は公共事業者である。公共事業者に合意を得な がら対策を進めるためには、資材・機材の処置とチェックの試行を公共事業者と共に実施 し、無理の無い方法を検討するとともに、それらにかかる費用を把握することが重要であ る。また、事業発注者の行政機関は、発注時に仕様書等で父島から母島に資材・機材を運 搬する際の洗浄を義務づけると共に、洗浄にかかる費用を積算した上で、事業を発注する ことが重要である。そのためには、事業者を交えた試行を行う事が重要である。平成 27 年 度は、母島への資材輸送を予定している工事事業者に協力いただき、立会いによる洗浄確 認を行った。 15 2)農業・園芸関係資材・土付き苗における対策 (1)トレーサビリティの確保 対象物品:琉球列島由来の物資、父島に保管されていた農業用資材 琉球列島産の土付き苗、父島産の土付き苗 母島に持ち込まれる農業用土付き苗の実態については、平成 26 年度に亜熱帯農業センタ ーが父島・母島の農家に対して実施したアンケート調査により、過去4年間で約 150 株(約 38 株/年)のマンゴーの苗が沖縄から母島に持ち込まれていることが明らかとなった。 出典:「小笠原(父島、母島)島外からの農業者の苗導入実態調査」平成 26 年度第 3 回 新たな外来種の 侵入・拡散防止ワーキンググループ 参考資料(2015 小笠原亜熱帯農業センター) 一般島民による家庭菜園用の持ち込みについては、小笠原村のシロアリ条例で、父島に おいて保管又は育成された材木及び植栽用樹木等の母島への持ち込みが禁止されているが、 検査体制は確立されていない。平成 27 年度に実施された母島村民対象のアンケート結果で 16 は、父島からの 5 件の苗の持ち込みがあったことが確認されている。 (平成 27 年度第 2 回 新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG_参考資料4)今後、小笠原村と連携しながら 条例による禁止事項の周知徹底をはかる必要がある。 (2)対象となる資材に応じた処置 ニューギニアヤリガタリクウズムシが混入している恐れのある土付き苗については、温 湯処理による処置方法を検討する。温湯処理の方法についてはイネの種もみやイチゴの苗 の消毒に使用されている温湯処理機等を用いて試行を行い、苗に対する影響が小さく、殺 虫効果が大きい方法について検討する。 平成 26 年度から平成 27 年度にかけて、農協や農家を交えた温湯処理を試行したが、湯 温上昇にかかる時間、ポットの高さに応じた水位の調整、ポット苗内部の温度上昇の差な どが課題となっており、さらなる手法の改良が必要であることが明らかとなった。平成 26 年度の試行で使用した苗については、母島で栽培を続け、問題なく成育していることが確 認されたが、今後より精密な影響評価を行う必要がある。平成 28 年度には、亜熱帯農業セ ンターにおいて温浴による苗への影響評価試験を実施予定である。 (3)処置が適切に行われているかの確認・チェック体制の整備 農業に伴う物資の移動は、産業活動に伴って行われるものである。そのため、各農家個 人の協力が欠かせない。そのため、行政の農業部門や農協と連携しながら、営農活動にあ った確認の体制の構築を模索する必要がある。具体的な方法としては、チェックリストに よる自主確認などが考えられる。 (4)関係者への合意形成 苗の処理に用いる温湯処理には、病原菌に対して防除効果があること、農薬の効果が低 い薬剤耐性菌に対しても有効なこと等のメリットがある一方で、苗の温浴によるダメージ のリスクがあると考えられる3ので、それらのメリット・デメリットをできる限り明らかに した上で農家の理解と協力を促すことが重要である。 なお、プラナリア対策の手法については、一定の知見があるものの、母島の農業にあっ た対策手法は確立していないことを前提に検討する必要がある。そのため、画一的な対策 を農家に押し付けるのではなく、農家と共に試行を行いながら各農家の営農形態に合った 手法を模索する必要がある。 3)村民の生活、来島者による観光・調査等に伴う一般的な物流への対策 (1)トレーサビリティの確保 対象物品:一般車両や日用品、調査用具 父島から母島への車両の運搬経路はははじま丸に限られているため、実態を把握するこ 奈良県農業総合センター 環境・安全担当 (http://www.pref.nara.jp/21494.htm) 3 病害防除チームの報告による。 17 とは可能である4。一方、村民生活にかかわる日用品や観光客・調査者の手荷物等の移動実 態を把握する方法はない。母島属島については、調査者が主に渡航しているが、海岸部・ 沿岸部については、一部ガイドの引率によるツアーや島民のレジャーの利用がある(平島 や向島)。ガイドについては、一定のルールが守られている一方、島民のレジャーについて は、約 4 割の母島村民が年に数回以上母島属島・海岸域を訪れている5が、注意事項の普及 啓発は十分になされていない。 (2)対象となる資材に応じた処置 これまで、島民や来島者の靴底の処理については、ははじま丸の船待合所における取り 組みで一定の成果を上げてきている。しかし、一般車両については、泥落とし等の処理が 実施されていない。また、一般島民の生活にかかわる日用品や観光客の手荷物の処置をも とめることは、現在の体制では難しい。 これまで実施してきた注意喚起ポスターの掲示、チラシの配布、宿へのチラシの掲示依 頼・ブラシの配布、指定ルート等の出口における泥落とし、ははじま丸乗船時における泥 落とし、ははじま丸船内における注意喚起アナウンスを継続するなど、泥落としをより徹 底する方法の検討が必要である。 (3)処置が適切に行われているかの確認・チェック体制の整備 これまで、島民や来島者の靴底の処理については、ははじま丸の船待合所における、都 レンジャーの立ち会いなどにより、一定のチェック体制は構築されている。しかし、一般 島民の生活にかかわる日用品、来島者の手荷物のチェックを求めることは、現在の体制で は難しい。 現時点では、各個人の注意喚起を促すための普及啓発活動が重要である。 4 平成 27 年(1 月~12 月)では、父島⇒母島間での自動車の移動は 23 台(その全てが内地からの発送) 、オート バイの移動は 63 台(うち、内地から発送されたと考えられるのは 12 台であり、残り 51 台は父島で使用されてい たものが移動されたと考えられる) 5 「世界自然遺産に関する村民意向調査 結果速報」(小笠原村、平成 27 年 10 月) 18 表 2 これまでの主な取組と今後の課題 経路と主な活動 リスクの高 い物品 これまでの主な取組 今後必要な取組 本 土 農業・園 ・琉球列島産 ・土着き苗の温湯処理実験により外来プ ・土付き苗の温浴処理による影 (琉球 芸活動 の土付き ラナリア類への効果を確認【環境省】 響の把握 列島) 苗 ・効果的な処理手法の確立 → ・温湯処理の実施場所・体制の 母島 検討 ・農業者・園芸者への広報 父 島 公 共 事 ・父島で保管 ・シロアリ条例にて貨物輸送時の自己点 ・洗浄方法の検討 → 業 検、材木及び樹木の輸送時の届出、木 ・目視による確認体制の検討 した工事 母島 製パレットの防除処理等を義務づけ ・洗浄・確認にかかる費用の積 資材・仮設 【小笠原村】 算 材 ・穴掘建柱車 ・冷凍処理実験及び燻蒸処理実験により ・共通仕様書・環境配慮指示書 効果を確認【環境省】 の検討 ・工事用車両 ・自然再生事業における資材の燻蒸処理 を実施【環境省】 ・車両・機材等の移動実態の把握【東京 都】 村 民 生 ・父島で使用 ・各宿等へ注意喚起チラシ及び靴底洗浄 ・シロアリ条例による禁止事項 活 した靴 の徹底 ブラシを配布・設置【環境省】 調査・研 ・調査・研究 ・ルート入口におけるマット・粘着ロー ・入林許可申請時の注意喚起チ 究 者が父島 ラシの配布 ラー・ブラシの設置・維持管理【林野 観光利 で使用し ・普及啓発の強化 庁、東京都、環境省】 用 た資機材 ・パネル設置・チラシ配付・船内放送等 による普及啓発【東京都・環境省】 ・ははじま丸乗船場所への靴底洗浄装置 の設置【東京都】 ・レンジャー立ち会いによる下船時の普 及啓発・靴底洗浄マット設置【東京都】 一般車両 ・取組なし ・輸送実態の把握(伊豆諸島開 発の協力により把握可能) ・洗浄方法の検討 ・目視による確認体制の検討 参考文献:「世界自然遺産地域小笠原諸島 新たな外来種の侵入・拡散防止行動計画の策定に向けた課題整理」 (平成 25 年 3 月 新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ) 19 第3章 母島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシ侵入時の対応手法 行動マニュアル【侵入時対応編】 1.母島における陸産貝類の重要生息地域と保全上の課題 母島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入時の対応のためには、あらかじめ、母島の陸 産貝類の重要生息地域を抽出し(図1)、保全上の課題を洗い出す(表1)必要がある。 表 3 母島における陸産貝類の重要生息地域と保全上の課題 エリア名 エリアの生息地の特徴 対策上の課題 ポイント 父島鳥山モデルとの比較 乳房山・ 陸産貝類の種の多様性が 樹高の高い湿性高木林 侵入防止柵、エリア防除柵を適用で 石門 高く、かつ、固有種が多 が続いており、裸地化し きない。囲い込み柵については、樹 エリア い。母島の陸産貝類保全 て囲い込むことが難し 高が高いため、柵上からの侵入対策 上の最重要地域の一つ。 い。 が技術的な課題。 中ノ平・ 陸産貝類の種の多様性は 南崎は半島部なので分 森林の伐採を伴う点が異なるが、侵 南崎 乳房山・石門エリアに比 断化して対応しやすい。 入防止柵の適用可能性が高い。ただ エリア して高くはないが、この 一方、一定量の伐採を伴 し、国立公園の遊歩道があるため、 エリア固有の種の生息密 う。 公園利用者との調整が必要となる。 侵入防止柵適用可能性が高いが、ア 度が高い。 東崎 陸産貝類の種の多様性は 半島部なので分断化し エリア 乳房山・石門エリアに比 て対応しやすい。一方、 クセスは鳥山よりも困難である。 して高くはないが、この アクセスが極めて悪く、 エリア固有の種の生息密 対策工事が難しい。 度が高い。 西台 陸産貝類の種の多様性は 半島部ではあるが、地形 半島部の分断はしにくく、森林はつ エリア 乳房山・石門エリアに比 的に分断化しにくい。 ながっているが、外来植物の森林が して高くはないが、特定 多いため、エリア防除柵が使える可 の種の生息密度が高い。 能性がある。 東台 同エリア固有種が生息し 半島部であり、道路が通 エリア ている可能性があるが、 っているため、分断は比 在来の陸産貝類の生息状 較的容易である。 侵入防止柵の適用可能性が高い。 況は不明である。 沖港周辺 陸産貝類が減少しつつあ 人の生活圏であり、人為 エリア るが、原因が不明である。 的な撹乱が多い。 新夕日ヶ丘など、孤立した森林があ るため、エリア防除柵が使用可能。 乳房山・石門エリアの個体群の屋外 飼育が検討できる。ただ、陸産貝類 の生息状況が悪化している原因がわ からない。 母島列島 島毎にカタマイマイ、ヤ 母島の侵入時に、母島個 父島個体群の西島等における屋外飼 全体 マキサゴ類の固有種が生 体群の属島での屋外飼 育施設の検討結果を踏まえた、母島 息している。 育施設の検討が難しい。 列島の屋外飼育計画が必要。 20 ⻄台エリア 東台エリア 乳房山石門エリア 東崎エリア 沖港周辺エリア 中の平・南崎エリア 【凡例】 重要地域 侵入防止柵可能性大 エリア防除可能性大 鳥山モデル可能性小 □ 平成26年度陸⾙調査地点 図 1 母島における陸産貝類の重要生息地域と対策上の課題 21 2.母島におけるニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入時の行動マニュアル 1)発見前の準備 (1) 侵入前のプラナリア類モニタリング ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入時に早期発見するための侵入前のプラナリア類モニ タリングを継続することが重要である。母島においては、本種が発見される可能性として、 「公共 事業用資材に付着して侵入し、発見される」、 「農業用の苗や資材に付着して侵入し、発見される」 、 「調査者や観光客の荷物に付着して侵入し、発見される」ことを想定して地点を抽出し、センサ ー板や目視による調査を行っている。平成 27 年度は、農地の周辺とハウス周辺でセンサー板によ る調査を実施した。センサー板の設置地点は、以下のとおりである。 評議平 3 箇所、静沢、中ノ平、中ノ平農業団地、船見台、農道 1 号線入口、見廻山 (2) 陸産貝類の重要生息地域と保全上の課題の抽出 ウズムシの侵入後、迅速な対策を実施するためには、陸産貝類の重要生息地域及び侵入後の対 策が実施可能な地域を抽出しておく必要がある。冒頭の「表 1 母島における陸産貝類の重要生息 地域と保全上の課題」は、下記の考え方にそって選定したものである。 一方で、母島の陸産貝類の分布やそれぞれの重要生息地域の保全上の技術的な課題については、 情報が十分ではなく、現地調査を重ねることで、より精度の高い課題の抽出をはかる必要がある。 表2 母島における陸産貝類の生息重要地域と保全上の課題の抽出の考え方 母島における陸産貝類の重要生息地域の選定基準 ・ 中~大型で土壌生態系の重要な要素となっている可能性の高い種 ・ 小笠原を代表する固有属の種 ・ 小笠原諸島でも母島に分布が限られる種 保全上の課題の抽出方法 ・ (3) 父島鳥山モデルに照らし合わせて、対策が可能な場所であるかどうかを検証。 侵入防止柵等の対策の準備 ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入した際には、母島の陸産貝類の重要生息地域におい て、プラナリア類の侵入防止柵等、大規模な保全上の対策が想定されるため、工事等をスムーズ に実施するために、事前にフェンスラインの選定から柵の工事のための概算、地域の合意形成や 許認可の準備等を済ませておくことが望ましい。 (4) 陸産貝類の緊急的な域外保全に備えた室内飼育体制の整備 母島においては、現時点では、陸産貝類の域外保全のための体制がない。ニューギニアヤリガ タリクウズムシの侵入が確認されてから域外保全の検討を始めると、体制整備が間に合わない恐 れがある。そのため、母島島内における室内飼育体制を構築するため、外来の陸産貝類等を用い た実験的な飼育を行うことが重要である。また、ニューギニアヤリガタリクウズムシが侵入した 22 後、速やかに固有の陸産貝類の飼育が始められるように、文化財保護法に基づく必要な手続きの ための計画策定を進めることが必要である。 (5) 緊急対応に必要な備品の配備 緊急対応に必要な備品を予め配備しておく。必要な備品及び保管場所についてはマニュアルの 資料編に示す。 (6) 侵入時に備えた試行的なプログラムの実施 未然防止の取組がきちんと進んでいるか、緊急事態に対処できるかについては、定期的に、必 要な道具や体制が整っているかを点検し、未確立の技術については試行を繰り返すことが重要で ある。そのため、未然防止のための公共事業等の資材の処置や、農業用の苗の温浴処理の試験等 は、定期的な試行を行うことが重要である。 23 (7) 連絡体制の整備 発見時・発見後の対応フローを図 2 に示す。 1)発見時 の対応 発見 捕獲 写真撮影 ( 発見者) 殺虫 発見地点の記録 通報 2)発見後 の初期対応 現地関係機関 内地関係機関 小笠原自然保護官事務所 小笠原村 ( 関係行政機関) 小笠原村 教育委員会 東京都 関東地方環境事務所 小笠原村 林野庁 現地関係機関の 協力体制のもと 対策を実施 東京都 東京都 教育委員会 林野庁 文化庁 初期対応 プラナリア対策検討会の緊急開催 ①発見地周辺における対応 ①侵入状況の評価 ②広域調査 ②目標の設定 ③短期防除方針の検討 3)侵入防止柵の設置や域外保全の開始の検討 図 2 プラナリア類発見時・発見後の対応フロー 24 2)発見時の対応 プラナリア類発見時に発見者が実施する対応は捕獲、写真撮影(同定)、殺虫、発見地点の記録、通 報の一連の流れとなる。 (1) 捕獲 プラナリア類を発見した際は、速やかに捕獲し、ビニール袋や空のペットボトルなど、密閉可 能な容器に入れる。遺伝子による同定のため、可能であれば 99.5%エタノール漬標本にすること が望ましい。密閉可能な容器が無い場合は写真を撮影した後、速やかに殺虫する。 (2) 写真撮影(同定) プラナリア類の種類を同定するため、写真を撮影する。写真は背面のラインがわかるように撮 影する。なお、プラナリア類は死亡すると溶けて同定が困難となるため、捕獲後は速やかに撮影 する。 Bipalium vagum ニューギニアヤリガタリクウズムシ (3) 殺虫 捕獲したプラナリア類が運搬中に逸出するリスクを排除するために、写真撮影後は速やかに殺 虫する。お酢スプレーを持参している場合は、噴霧して殺虫する。お酢スプレーを持参していな い場合は、海水に浸すか、石などですり潰す。なお、プラナリア類は分断しただけでは再生する ので、断片が動かなくなるまで入念にすり潰す。 (4) 発見地点の記録 発見地点の周辺環境を写真で記録する。GPS や GPS 付きのカメラや携帯電話(写真に位置情報を 記録できるものなど)を持参している場合はポイントを記録する。 (5) 通報 図2にそって、環境省小笠原自然保護官事務所に、プラナリア類の発見時の情報を通報し、そ の場での対処について指示を受ける。 25 発見直後の対応 3)発見直後の対応 (1)ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入前線調査 ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入前線調査 ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入前線を確認するため下記の手法により調査を実施する。 ◆ 目視センサス:ウズムシ(生息適地での任意確認調査)及び陸産貝類の生存状況の調査を実施 する。ウズムシは地表面の湿度が保たれやすい環境を好むため、ビロウの落葉の 下や倒木の下、石の下などを裏返しながら目視調査を行う。 ◆ センサー板による検出:ウズムシを検出するために 9v電池式のセンサー板( v電池式のセンサー板( v電池式のセンサー板(表 4 参照)を設 設 置し、定期的に巡視を行う。 表 4 センサー板の構造 サイズ 高さ×幅×厚み=30cm×90cm× 高さ×幅×厚み=30cm ×3mm 板素材 プラスチックダンボール 写真 電池ボックス 通電テープ 設置方法 ① 板の長さ分の溝を掘る。 ( ~5cm 程度) (3~ ② 溝の両端に杭を打つ。(風を受ける場所では、中央部にも杭を追加) 溝に板を設置し、結束バンドで杭と固定する。 (2) 侵入後の発見地点周辺の裸地化・殺虫処理 父島鳥山地域においては、ニューギニアヤリガタリクウズムシの生息が確認された地点の周囲に おいて、下記の手法により緊急的に、拡散防止・生息個体数の低減を図ることが検討されたが、侵 入時点で広域に分布している場合、いずれの方法も殺虫効率が悪いため、 入時点で広域に分布している場合、 広域に分布している場合、いずれの方法も殺虫効率が悪いため、生息密度 いずれの方法も殺虫効率が悪いため、生息密度を低減するほど 低減するほど の効果は期待できない。そのため、この手法は極めて限定的な場合のみ有効であると考えられる。 の効果は期待できない。そのため、この手法は極めて限定的な場合のみ有効であると考えられる。 26 ◆ 殺虫液の噴霧:プラナリア殺虫液を噴霧器で散布する。殺虫液はプラナリア類に対する高い殺 虫効果が確認されているハッカ油又は酢を使用する。殺虫液の散布にあたっては、 環境影響をモニタリングしながら実施する。 ◆ 裸地化:植生の刈り払いとリターの除去を行うことで地表面を乾燥させる。 4)陸産貝類保全ワーキンググループの緊急開催 陸産貝類保全 WG を緊急開催し、侵入状況について報告を行うと共に、今後の対応方針について検 討する。検討会において検討する項目は下記の内容を想定している。 ①議事1 プラナリア類の侵入状況の評価 侵入状況調査の結果をうけて、プラナリア類の侵入状況を評価するとともに、陸産貝類のモニ タリング結果から陸産貝類の保全上のリスク評価を行う。 ②議事2 目標の設定 プラナリア類の侵入状況の評価結果を踏まえ、「根絶」「ニューギニアヤリガタリクウズムシの 囲い込み(ウズムシのエンクロージャー)」「陸産貝類の生息環境の囲い込み(ウズムシのエクス クロージャー)」等のプラナリア類防除の目標を設定する。 ③議事3 プラナリア類対策の短期的な防除計画の検討 侵入したニューギニアヤリガタリクウズムシに対応するための短期的な防除計画を検討する。 モニタリング調査が進んで情報が集まるにつれ、対応すべき状況が刻々変化することが考えられ るため、防除計画は、策定から概ね1年後に見直しをすることが重要である。議論すべき内容に ついては図 3 に示す。 なお、外来生物の侵入時の短期防除計画を検討・策定した例として、平成 25 年 3 月に兄島に侵 入が確認されたグリーンアノールに対応するための、科学委員会下部 WG「グリーンアノール対策 ワーキンググループ」において議論された「小笠原諸島兄島におけるグリーンアノール短期防除 計画」が参考になる。 27 議事1 侵入状況の評価 議事2 対策目標の設定 フェーズ1*1 フェーズ2*2 フェーズ3 単発的な侵入であることが 住宅地・港湾部・農地に侵入 母島山域に広く侵入 明らかであり、分布が極めて し、ウズムシの分布エリアが 限定的である。 限定的である。 地権者への説明・協力要請 地権者への説明・協力要請 ウズムシの侵入区域 ・ウズムシの侵入地点 の囲い込み での根絶 希少陸産貝類の 生息エリアの囲い込み ・陸産貝類の一時避難 ・域外保全 高密度エリアにおける 殺虫剤の散布 議事3 短期防除計画の検討 1.防除のためのエリア設定 ①分布最前線調査 2.発見直後の対応 ②発見地点周辺の殺虫処理 ①島内拡散の防止 3.個体群の拡散防止 (侵入防止柵等の整備) ②島外からの拡散防止 5.域外保全の実施 母島島内での緊急確保・飼育 ①情報共有の基盤整備 4.対策のための基盤の整備 ②作業動線の確保・整備 ③新技術の研究・開発 6.防除効果の検証 計画の順応的見直し (*1)フェーズ1については、母島南崎でのボランティア作業中に、父島から持ち込まれたプラスチックネットに付着 していたニューギニアヤリガタリクウズムシに対して、緊急的に対応した例がある。 (*2)フェーズ2については、前例がなく、ウズムシのエンクロージャーが有効かについての検証はなされていない。 図 3 短期的な防除計画として検討すべき項目(案) 28 表 5 ニューギニアヤリガタリクウズムシの対応手法・費用・人工 用途 生息状況 の把握 方法 目視 セ ン サ ー板 概要 目視によりウズ ムシ及び陸産貝 類の死殻の調査 を行う。 9V 電池式の通電 テープを用いた センサー板を設 置する。 効果・課題 ・ウズムシの検出能力 が低い ・ウズムシの活性が高 い時期の高密度エリ アにおいては、20m で1週間に 10 個体 以上が捕殺される。 ・ウズムシの活性が低 い時期には検出効果 が期待できない。 ・電極の最小間隔が 6mm 程度であるた め、孵化直後の個体 は通過する恐れがあ る。 生息状況 の把握及 び拡散・ 侵入防止 電気柵 ソーラーパネル 電源の通電ロー プを用いた侵入 防止柵、エリア防 除柵及び囲い込 み柵を設置する。 拡散・侵 入防止 裸地化 個体数の 低減 薬 剤 散 布 ( ハ ッ カ油・酢 酸) 草本を刈り払い、 ・雨天時には効果が得 リターを取り除 られない。 く。必要に応じて ・裸地だけでは侵入防 防草シートを敷 止効果が見込まれな 設する。 いため、通電柵と組 み合わせる必要があ る。 地 表 を 撹 拌 し な ・薬剤がプラナリアに がら、殺虫液を噴 触れないと効果が得 霧器で散布する。 られないため、落ち 噴霧後は薬剤の 葉の上から噴霧した 揮発を抑えるた 場合の効果は弱い。 め、シート等で噴 ・他の土壌生物への影 霧箇所を覆う。 響が懸念される(た だし、ハッカ油は残 留性が極めて低いた め、一時的に影響が あったとしても回復 する可能性が高い。 ) 29 材料費(税・送料抜き) 人工 ■ 1 人 日 - 2000 ㎡ 2 人1時間 1000 ㎡ ■10m の場合 ■10m の場合 資材一式:約 3.2 万円 合計:2.5 人日 (23 枚) (送料別) 土留め用プラスチック 製作 1.5 人日 設置 1 人日 板、通電テープ、電池 ボックス、電池、ミノ ムシクリップ ■囲い込み柵 20m の場 合 資材一式:約 19 万円(送 料別) ソーラーパネル×1、 通電ロープ、遮水シー ト、グラスファイバー ポール、ステンレスペ グ - ■囲い込み柵 20m の場合 12 人日 ■ 処 理 面 積 約 100 ㎡ (100L 散布) ハ ッ カ 油 20L 65,000 円 (5 倍希釈 納品ま で3週間) ■100 ㎡の場 合 2.5 人日 ■ 処 理 面 積 約 100 ㎡ (100L 散布) 氷 酢 酸 5L 10,000 円 (20 倍希釈) 地表面の状況 による 第4章 参考資料編 1.未然防止の対応事例 1)公共用資材の処理の対応事例 (1)環境配慮事項の事前指導 ■実施日時:平成 26 年 5 月 29 日 16:00~17:00 ■場所:工事請負業者の事務所 ■参加者:環境省 澤、吉留 プレック研究所 工事請負業者 野口 作業員約 30 名 ■内容 鳥山における陸産貝類の分布状況、プラナリア対策の意義・内容と実施地点を説明した。 プラナリアの生体及び卵のうを見せた上、酢による殺虫効果の確認を行った。 酢の散布による致死状況の確認 写真 1 環境配慮事項の事前指導の様子 30 (2)工事資材の搬入に伴うプラナリア対策 工事資材の搬入に伴うプラナリア対策を徹底するため、内地及び現地における資材積み込み時 に立会い、表1に示すチェックリスト他の確認を行った。 表 1 資材積み込み時の環境配慮事項チェックリスト チェック欄 環境 配慮 要員 工事請負者 チェック項目 コンテナが清潔で密閉度が高いことを確認する。 コンテナが空の状態で、内側と外側に昆虫・クモ・種子・土等が混入していな いことを確認する。 コンテナの内部を目張りする。 資材・機材を積み込む。新品でない資材・機材を積み込む場合は、昆虫・ク モ・種子・土等が付着していないことを確認する。 燻蒸処理機をスタンパイする。 コンテナを密閉する。 コンテナを密閉した状態のまま保管・運搬する。 ※目視点検の留意事項:燻蒸処理は植物への効果が得られないため、植物の種子や土に注視して点検 を行う。 内地におけるコンテナ燻蒸立会 ■実施日時:1日目 平成 26 年 6 月 16 日 9:00~10:00 2日目 平成 26 年 6 月 17 日 9:00~10:00 ■場所:杉田建設興業(株) ■参加者:杉田建設興業(株) 本社 内山氏、プレック研究所 小山 ■実施内容 ①資材燻蒸用コンテナの目視点検(1日目) ②その他配慮事項の確認(1日目) ③資材の積み込み確認・燻蒸処理確認(2日目) ④燻蒸処理終了確認(2日目) ■結果 資材燻蒸用コンテナの目視点検 a.コンテナ内部の目視点検 ・コンテナ内部の目視点検を行った結果、穴や大きな隙間などが確認されなかった。 31 ・目張りの状況を確認し、隙間が無いことを確認した。 ・内部の扉の蝶板下に砂が溜まっていたため、清掃の指示を出し、杉田建設の作業員が清掃 を行った。 コンテナ内部の様子 砂の堆積状況 清掃の状況 清掃後の状況 写真 1 コンテナ内部の目視点検の状況 b.コンテナ外部の目視点検 ・コンテナ外部の目視点検を行い、昆虫卵、クモの巣等が付着していないことを確認した。 写真 2 コンテナの外観 ⑤その他配慮事項の確認 ・積み込む資材・機材が全て新品であるため、資材・機材の洗浄の必要が無いことを確認し た。 ・資材の積み込み時に作業員の靴に付着した泥がコンテナ内部に入り込むことを防ぐため に、泥落としマットを使用するよう杉田建設に指示した。 32 写真 3 泥落としマットの使用状況 ⑥資材の積み込み確認・燻蒸処理 ・資材の積み込み状況確認した。 ・燻蒸処理機がセットされていることを確認し、稼働した後、密封されたことを確認した。 資材の積み込み状況 燻蒸処理機の設置状況 稼働すると赤い ランプが点灯する 燻蒸処理機の稼働状況 コンテナの密封状況 写真 4 資材の積み込み及び燻蒸処理の状況 ⑦燻蒸処理終了確認 ・燻蒸開始から6時間後に杉田建設より燻蒸処理終了の報告を受けた。 33 ・安全上、燻蒸処理後1時間の換気を行う必要があったため、換気時は昆虫等の混入に注意 すると共に、換気後は速やかにコンテナを密封し、父島到着まで開封しないよう指示した。 写真 5 換気の状況 (3)現地におけるコンテナ燻蒸立会 ■実施日時:平成 26 年 6 月 21 日・7 月 9 日 8:30~12:00 ■場所:父島清瀬 ■参加者:杉田建設興業(株)作業員 5 名、環境省 澤氏、プレック研究所 野口 ■実施内容 ①コンテナ設置準備 ②コンテナ燻蒸 ■結果 ①コンテナ設置準備 a.設置場所の選定および周辺の除草作業 砂利敷きの場所を選定し、ブルーシート敷設予定ラインから外側約 50cm の範囲で除草を 行った。 b.酢の散布 シート設置ライン沿いに酢酸をスプレーし、プラナリアの殺虫を行った。 c.ブルーシートの敷設 作業員がシート上に上る際は、土足から専用のスリッパに履き替えを行うことを確認した。 d.忌避材の設置 ブルーシートの外縁に沿って、プラナリア忌避材を設置した。 e.コンテナ下部の洗浄 コンテナを宙吊りにした状態で、下部をにホースで水を散布し洗浄した。 f.コンテナの移動・設置 運搬用トラックの荷台及び地表面にコンテナがベタ置きされることのないよう、下部に脚 用資材を挟んだ。脚用資材には、事前に酢を散布した。 34 ②コンテナ燻蒸 a.内部目張りの確認 ・コンテナ内部のプレーを散布したことを確認した。 b.燻蒸 ・燻蒸処理機がセットされていることを確認し、稼働した後、密封されたことを確認した。 周辺の除草作業 酢の散布 ブルーシートの敷設 忌避材の設置 コンテナ下部の洗浄 コンテナ移動時の配慮 脚用資材への酢散布 地表面から浮かして設置 35 設置状況 内部目張り 資材と燻蒸器 コンテナ外観 写真 1 コンテナ設置・燻蒸処理の状況(6 月 21 日) 写真 2 シート、セメント燻蒸(7 月 9 日) 36 (4)ヘリによる資材運搬立会 ■実施日時:平成 27 年 2 月 17 日 8:30~12:00 ■場所:父島洲崎 ■確認内容 運搬前資材の梱包状況 資材が全てブルーシートに包まれていること、周囲の地面に断続的に酢が散布されていること を確認した。 ①コンテナ周りのプラナリア対策 コンテナの周囲にプラナリア忌避材シートが設置されていることを確認した。 写真 1 プラナリア対策の実施状況 (5)資材運搬編 資材には着岸地点で酢を散布し、施工現場まで運搬するまで土壌地に置かれることのないよう指 導した。 8月5日 6 月 23 日 6 月 23 日 6 月 23 日 写真 資材運搬・一時デポの様子 37 (6)資材撤去編 ■実施日時:平成 26 年 6 月 16 日 9:00~15:30 ■場所:父島鳥山 ■参加者:杉田建設興業(株)作業員 5 名、プレック研究所 1 名 ■実施内容 搬出動線の確認 ①仮設階段撤去に伴う資材搬出時のプラナリア対策の確認 ②資材デポ状況の確認 ③土壌洗掘個所の対策 ④その他 ■結果 搬出動線の確認 ・荷揚げ地点より極力沢筋を通り、ビロウ林の踏み荒らしのないルートを使用した。 ⑤仮設階段撤去に伴う資材搬出時のプラナリア対策の確認 a.搬出資材のプラナリア対策 ・搬出資材(単管、木材)全てに、酢酸スプレーを散布したことを確認した。 ・梱包用シートや単管は、途中で泥が落ちないよう袋で覆いをしたことを確認した。 搬出資材 対策実施個所(土の少ない場所) 単管パイプへの酢の散布 梱包用シートは、袋で包んで搬出 写真 1 資材搬出時のプラナリア対策の状況 b.靴底のプラナリア対策 ・仮設階段側から沢へ向かう途中のヤギ柵をくぐる地点において、靴底への酢の散布を行った ことを確認した。 38 ⑥資材デポ状況の確認 ・海岸部にデポした資材は、ブルーシートで梱包したことを確認した。 写真 2 資材デポの状況 39 2)農業用苗の処理の対応事例 (1)母島に持ち込まれたマンゴー苗の温浴処理 ①温浴処理状況 平成 27 年 11 月 10-11 日に、温浴装置「湯芽工房」を使い、ポット苗を温水(43 度)に浸水さ せ土中温度 43~45 度を 5 分間維持した。装置には 1 回に 4 鉢しか入らず、土中温度の上昇に時 間がかかったため、58 鉢の温浴処理の所要時間は約 15 時間であった。その後、ポット苗は流水 で冷却した。温浴時間が長いと苗に負荷がかかることから、土中温度上昇の時間短縮のため以下 の工夫を図った。 ⅰ) ポット苗を温水に浸し、更に温水をホースで直接ポット苗の上にかけた。 ⅱ)ポット苗に温水が直接入るようにポットの底と側面を裂いた。 【土中温度上昇時間】 裂かなかったポット―1 時間 20 分 裂いたポット―12 分から 35 分(根の状況によっては 1 時間以上) ②確認された土壌動物 温浴処理前のポット苗から、生きた土壌動物 12 種が確認された。温浴処理後のポット苗から は、生きている別の土壌動物 2 種(オキナワウスカワマイマイとヒメヤスデ類)が確認された。 確認された昆虫等の一覧を下表に示す。また、アフリカマイマイの死殻も確認された。 なお、温浴洗浄前に確認された土壌動物 12 種はその時点で採取したため、温浴処理によって 死亡するかは不明である。 40 確認された昆虫等 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 オビヤスデ類 ヤンバルトサカヤスデ ヒメヤスデ類 イシムカデ類 ナガズジムカデ類 オキナワウスカワマイマイ シラホシカメムシ 沖縄産マイマイ類 ハサミムシ類 ワタリコウガイビル類 オガサワラリクヒモムシ ケブカアメイロアリ ヒメオオズアリ 蛾の蛹 ※温浴処理後の苗から検出 ※温浴処理後の苗から検出 ナガズジムカデ ヤンバルトサカヤスデ ③苗への影響 温浴処理にかかった時間は苗ごとに記録しており、その後の生育状況を追跡している。平成 28 年 3 月 5 日時点で生育不良株は出ていない。 41 2.侵入後の対応事例 1)侵入経路と陸産貝類保全のための重要地域の確認 ■試行の目的 ニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入経路となり得る資材置き場や重要地域を視察し、侵入未然 防止の重要性を確認する。 ■実施日時 平成 26 年 9 月 5 日(金) 9:00~11:30 ■実施場所 資材集積場(東港、日章建設プラント、長浜、夕日ヶ丘、蝙蝠谷) 重要地域(石門) ■参加者 委員 環境省 林野庁 東京都 関係団体 民間 千葉委員、吉田委員 [小笠原自然保護官事務所] 澤、児嶋 [森林生態系保全センター] 吉澤 [土木課]高倉、勝部 [小笠原環境計画研究所] 坂入、葉山 [(一社)日本森林技術協会] 丸山 [(株)一成] 山本、池田 [(株)プレック研究所] 野口、東出 東港 日章建設プラント 長浜 石門 蝙蝠谷 夕日ヶ丘 図 1 視察地点図 42 ①東港/東港手前工事残さ集積場 東港は、共勝丸、ほうせい丸が稀に寄港する。砂利の搬入で使用された例がある。 東港手前の材木置き場は東京都の借用地で、工事に伴って伐採した木本や草本等が集積され焼 却処理される。 木材等はシロアリの問題があるため沖港からの搬出ができないため、南から北の東港へ運ばれ る。 この付近でウスカワマイマイが飛び地的に見つかるのは、草木に混入して島内を南北移動して いるせいかもしれない。 (千葉委員) 東港手前でウズムシが検出された場合は、道路沿いに分断柵を設けることが可能である。 (千葉 委員) 事前に、陸産貝類の生息地域を囲む準備ができるとよい。 (千葉委員) 東港工事残さ集積場 東港 写真 1 東港 ②日章建設プラント 砂礫と、骨材の集積場。 工事発注前からストックされているものであり、トレーサビリティを把握しにくい。 年に2~3回、チャーター船かほうせい丸で東港経由で搬入される。 砂礫の堆積の様子 写真 2 日章建設プラント 43 ③長浜資材置き場 ここに置かれた工事用資材にウスカワマイマイが付着していたので、薬剤を散布してもらった。 (母島村民) 問題が起こってから対処するのではなく、外来種対策をシステムとして確立する必要があると 思う。(母島村民) 広東住血線虫の宿主となるアシヒダナメクジの方が、村民は脅威と感じると思う。ウズムシと 併せて注意喚起するのがよいと思う。(母島村民) 工事の際は、発注者が工事作業員に対し具体的に指導を行う必要がある。(環境省) 周辺にウズムシ侵入防止柵を設置するとなると、地権者の合意を得る必要があるが、付近の山 の地権者は島外の方が多い。アカギ駆除を行った際は、土地交渉は補償コンサルに委託し、地 権者の代表者に承諾を得て実施した。(母島村民) 木製パレットが積まれているが、日章建設へのヒアリングによると、父島-母島間でパレット の移動はないそうだ。一方、鉄筋パイプは、島間移動にあたりプラナリア対策を意識していな いとのことだった。 砂利の集積 木材パレットの集積 写真 3 長浜資材置き場 ④蝙蝠谷仮置場 東京都が借用する工事資材仮置き場。コンクリート塊、金属くず、焼却前の残材等が置かれる。 置かれるのは工事残材であり、新しい資材が置かれることはない。 日章建設にヒアリングしたところ、父島から母島へ移動する前に資機材を洗浄することは指示 されれば可能であるとのこと。ただしキャタピラ等は、洗浄方法を指導する必要がある。 (環境 省) 44 写真 4 蝙蝠谷仮置場 ⑤夕日ヶ丘資材集積場 使い回しの仮設工作物(足場板等)が置かれる。不足する場合は父島から移送されたものも置 かれる。 東京都事業では、父島-母島間での資材移動は年間何度もない。父島側での資材保管方法・洗 浄方法を具体的に示していただきたい。(東京都) 単管パイプ 写真 5 夕日ヶ丘仮設資材集積場 45 ⑥重要地域(石門)の視察 付近に森を区切れる道路がないことから、侵入防止柵設置の可能性は考えにくいことを確認し た。 入口付近の朽木の裏で、Bipalium muninense が見つかった。 センサー板に種が判別できないプラナリアが確認された。 石門入口の様子 侵入防止柵設置の難しさを確認 センサー板に付着した不明個体 石門入口で見つかった Bipalium muninense 写真 6 石門視察 以上 46 参考資料2 平成 27 年度小笠原諸島における外来アリ類の 侵入・拡散防止に関する対応方針 平成28年3月 科学委員会 新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ 目次 第 0 章 小笠原諸島における外来アリ類の侵入・拡散防止に関する対応方針(骨子) ........................................1 Ⅰ 対応方針の目的 .................................................................................................................................1 Ⅱ 対象となる外来生物 ..........................................................................................................................1 Ⅲ 構成 ...................................................................................................................................................1 Ⅳ 平成27年度の対応方針の検討体制 .................................................................................................2 1. 科学委員会、地域連絡会議、検討会等の役割 .............................................................................2 2. 検討の流れ ...................................................................................................................................2 3. 対応方針の見直しと次年度の予定について .................................................................................3 第 1 章 小笠原諸島における外来アリ類の侵入・拡散防止対応の基本的な考え方 ..............................................4 1. 外来アリ類が小笠原諸島で引き起こす諸問題 .............................................................................4 2. 小笠原諸島における外来アリ類の侵入拡散防止対策の基本的な考え方 ......................................4 1) 現状 ..........................................................................................................................................4 2) 早期発見の重要性.....................................................................................................................5 3) 緊急対応マニュアルの想定範囲 ...............................................................................................5 4) 侵入・拡散の未然防止の取組 ...................................................................................................5 3. 小笠原諸島において想定される外来アリ類の侵入・拡散経路 ....................................................5 4. 外来アリ類の持ち込み拡散の未然防止について ........................................................................ 11 5. 外来アリ類の定着確認時の対応について .................................................................................. 11 1) 発見時の対応及び初期対応 .................................................................................................... 11 2) 拡散防止と個体数の低減・根絶確認 ...................................................................................... 11 第 2 章 侵略的外来アリ類対応手法行動マニュアル【未然防止編】 ......................................................13 1.外来アリ類の侵入の未然防止の基本的な考え方..........................................................................13 2.侵入経路毎の対応 ........................................................................................................................13 3.拡散媒体毎の対応 ........................................................................................................................15 第 3 章 小笠原諸島における侵略的外来アリ類対応手法行動マニュアル【侵入時対応編】(案) .........16 1. 侵略的外来アリ類の分布現況と侵入リスク ...............................................................................16 1) アルゼンチンアリ...................................................................................................................16 2) アカカミアリ ..........................................................................................................................17 3) ツヤオオズアリ ......................................................................................................................18 2. アリ類の侵入時の行動マニュアル .............................................................................................21 1) 発見前の準備 ..........................................................................................................................21 2) 発見時の対応及び初期対応 ....................................................................................................22 3) 中長期的な防除手法(対象:アリゼンチンアリの場合) ......................................................28 3. 外来アリ類の基礎情報 ...............................................................................................................30 1) 生態特性 .................................................................................................................................30 4. 資料............................................................................................................................................33 1) 初期対応等に必要な備品等 ....................................................................................................33 2) 初期対応に必要な経費 ...........................................................................................................33 3) 短期防除に必要な経費 ...........................................................................................................33 4) 緊急対応を実施するために必要な手続き ...............................................................................34 5) 未然防止の対応事例 ...............................................................................................................34 6) 侵入後の対応事例...................................................................................................................35 第0章 小笠原諸島における外来アリ類の侵入・拡散防止に関する対応方針(骨子) Ⅰ 対応方針の目的 小笠原諸島の島しょ生態系は、希少固有種を含む生物多様性の宝庫であり、世界遺産価値の重要な位 置を占めている。一方でその生態系は海洋島であるがゆえに外来種の侵入に非常に脆弱であり、様々な 外来種の侵入による生物多様性への影響が報告されている。 本対応方針の対象とする外来アリ類は、アカカミアリ、アルゼンチンアリ及びツヤオオズアリとする。 当該3種以外にも小笠原侵入時に生態系被害をもたらすと予想される種は存在し、外来アリ全般の侵 入防止を目指すが、特にリスクが大きいと評価される3種に着目してマニュアル化を行い、その他の種 についてもそれに準じた対応をとることとする。 アカカミアリは、沖縄諸島においては沖縄島及び伊江島、小笠原においては硫黄島で確認されている。 アルゼンチンアリは、日本各地で確認されており、港湾施設から物資に紛れて各地に拡散したと考えら れている。両種とも、父島列島・母島列島・聟島列島では確認されていない。一方、ツヤオオズアリは 父島・母島・硫黄島で既に分布が確認されており、未侵入地域への拡散防止が課題である。 これらの種が既に侵入が確認された日本本土の地域では、小型の節足動物の捕食、在来アリの競合・ 駆逐により、主に昆虫類へ被害をもたらしているほか、また、人への刺咬被害、餌となる甘露を提供す るカイガラムシを本種が保護することによる農業被害など、人間生活に係る問題を引き起こすこともわ かっている。そのため、小笠原諸島においても陸域生態系、人の生活、産業に大きな影響をもたらす恐 れがある。 そのため、本対応方針は、外来アリ類が未侵入である島・地域に外来アリ類を侵入させないことを目 的に、侵入の未然防止と侵入時の早期発見、侵入時の緊急対応を図るものである。 Ⅱ 対象となる外来生物 侵略的外来アリ類のうち、特に侵入時のリスクの大きい以下の3種を対象とする。 対象種 アカカミアリ 主な分布域 硫黄島、沖縄諸島の沖縄島及び伊江島 Solenopsis geminata ハチ目、スズメバチ上科 アルゼンチンアリ アリ科 東京、神奈川、静岡、愛知、岐阜、京都、大 阪、兵庫、岡山、広島、山口、徳島 Linepithema humile ハチ目 スズメバチ上科 ツヤオオズアリ アリ科 Pheidole megacephala 奄美以南の琉球列島、 小笠原(父島、母島、硫黄島) ハチ目 スズメバチ上科 アリ科 Ⅲ 構成 第1章 外来アリ類への対応の基本的な考え方 第2章 小笠原諸島における侵略的外来アリ類対応手法行動マニュアル【未然防止編】 第3章 小笠原諸島における侵略的外来アリ類対応手法行動マニュアル【侵入時対応編】 第4章 参考資料 1 Ⅳ 平成27年度の対応方針の検討体制 1.科学委員会、地域連絡会議、検討会等の役割 ・本対応方針の全体のとりまとめは、科学委員会下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG」 が検討を行う。 ・第 1 部は、科学委員会下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG」において検討する。 ・第 2 部「未然防止編」は、科学委員会の助言を受けながら、具体的な対応については、地域連絡 会議下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する地域課題 WG」において検討する。 ・第 3 部「侵入時対応編」は、科学委員会の助言を受けながら、具体的な対応については、地域連 絡会議下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する地域課題 WG」において検討する。 ・第 4 部は、これらに基づいて行われる試行的な取組や、実践された事例、その他実施の参考とな る基礎資料を整理する。 2.検討の流れ 第1部 第2部・第3部 素案 平成 26 年 7 月 29 日 H26 第1回合同 WG 素案 平成 26 年 7 月 29 日 H26 年度第 1 回合同 WG 第4部 対応事例集の作成 詳細の検討 平成26年7月28日港湾区域の視察(父島) 平成26年12月10日アリ類調査の試行(父島) 対応方針案の検討 ツヤオオズアリ対策 の必要性の提言 平成 27 年 2 月 11 日 第3回 合同 WG 平成 27 年 3 月 5 日 第2回 地域連絡会議(検討) 平成 27 年 3 月 16 日 第1回 科学委員会(報告・公開) 平成 26 年度 までの検討 ツヤ オオズアリ の分 布調査・薬効試験実施 平成 27 年度 ツヤオオズアリ類駆除試験(母島)の報告 平成 27 年 12 月 9 日第 2 回 WG の検討 対策実施体制の検討 <地域課題検討 WG・ツヤオオズアリ作業部会> 詳細の検討・対応方針の策定 平成 28 年 2 月 第 3 回 WG 。 対応方針の見直し<地域課題検討 WG> 母島におけるツヤオオズアリ防除対策を踏まえた見直し 2 平成 28 年度以降 3.対応方針の見直しと次年度の予定について 本対応方針は、未確立の技術が含まれていること、対応の参考になる事例が不十分であること、 試行的な取組が様々になされていることから、随時見直しをすることを前提に議論を進める。 平成 28 年度は科学委員会下部の新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループが 休止されるため、地域課題検討ワーキングの場で、マニュアルに沿った試行・対応検討を重ね、第 4 部対応事例集の蓄積を行う。次年度に議論するべき論点及び重点的に実施すべき試行的な取組に ついては、以下の通り。 ・土木資材・農業資材の輸送経路の把握 ・外来アリ類のモニタリング体制の検討・運用 ・外来アリ類の侵入時の対応の検討・試行 表1 科学委員会下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する WG」 名 称 新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ 管理機関 環境省、林野庁、東京都、小笠原村 メンバー 磯崎 博司 上智大学大学院地球環境学研究科教授(環境法) (★:座長) 加藤 英寿 首都大学東京 理工学研究科 助教(植物) (敬称略・五十音 五箇 公一 国立環境研究所 主席研究員(昆虫類・外来種リスク評価) 順) 千葉 聡 東北大学 東北アジア研究センター 教授(陸産貝類) ★吉田 正人 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 教授 (保全制度) 【アドバイザー】 大林 隆司 東京都小笠原支庁産業課 小笠原亜熱帯農業センター主任 *必要に応じ関連分野の専門家をアドバイザーとして追加する予定 表2 地域連絡会議下部「新たな外来種の侵入・拡散防止に関する地域課題 WG」 参加する立場 (*1) 行政機関 外来種の侵入・拡散防止に関する地域課題検討 WG (*2) 環境省 小笠原自然保護官事務所 林野庁 小笠原諸島森林生態系保全センター 東京都 土木課、港湾課、産業課 小笠原村 環境課、産業観光課 農業資材、農作 東京島しょ農協 父島支店、母島支店 物苗関係 属島利用、調査関 属島利用WG(小笠原自然文化研究所、小笠原野生生物研究会、小笠原 係(*3) 村観光協会) (*1)メンバーは、テーマに応じて、構成を変更する。また、必要に応じ、外来生物の拡散防止に関わる事業の関係者、 請負者等の参画を依頼する。 (*2)地域課題 WG の位置づけについては、平成26年度第2回地域連絡会議にて議論。 (*3)属島利用、調査関係の議題については、平成 26 年度は議論していないため、関係者の参画は依頼していない(開 催案内のみ)。 3 第1章 小笠原諸島における外来アリ類の侵入・拡散防止対応の基本的な考え方 1.外来アリ類が小笠原諸島で引き起こす諸問題 外来アリ類が小笠原諸島で引き起こす問題は、生態系攪乱、農業被害、家屋・衛生・生活害虫として の被害に分けられる。各種ごとに想定される被害を表に示す。 想定される被害 アルゼンチンアリ アカカミアリ ツヤオオズアリ (1)生態系攪乱 アルゼンチンアリの侵入 硫黄島では他のアリ類を 捕食により在来ノミガイ によって在来アリ類をは 駆逐して最優先種となっ 類等の無脊椎動物に深刻 じめとする多くの節足動 ている。グアムでは在来の な影響を及ぼす他、他種 物に影響が及ぶことが想 チョウの幼虫や卵を捕食 のアリ類、昆虫類と競合 定される。また、それに伴 するなどの影響をもたら し、絶滅させる。鳥の営 い種子散布をアリに依存 している。 巣やトカゲ等の爬虫類、 している植物が減少する ジネズミの生息に影響を 可能性がある。 与えている例も知られて いる他、植生の劣化を引 き起こすことも想定され る。 (2)農業被害 甘露を分泌するアブラムシやカイガラムシを保護するため、農業被害が発生するこ とが想定される。 農作物への直接的な被害 パインアップル、バナナ、 として、イチゴ、イチジク、 サトウキビ、コーヒー、 スイカなどに来集する被 ココナツへの被害が報告 害が観察されている。 されている。 (3)家屋・衛生・ 家屋に頻繁に侵入し、生活 生活害虫 - 北アメリカでは本種の人 家屋内にも営巣する。電 に支障をきたす不快害虫 や家畜への刺咬被害が問 気系統に引き寄せられる である。また、人やペット 題となっている。また、 性質があり、電話線など に集団で噛みつくなど、人 1996 年に沖縄島の基地に が噛み切られる事例があ 畜への直接的な被害もみ おいて、本種に刺された米 る。水道管に穴を開けて られ、安眠が妨げられる被 軍兵が強度のアナフィラ 漏水の原因となる 害もでている。 キシーショックを引き起 こした例が知られている。 2.小笠原諸島における外来アリ類の侵入拡散防止対策の基本的な考え方 1)現状 ・防除対象となる外来アリ類3種のうち、アルゼンチンアリは小笠原諸島において未確認である。 ツヤオオズアリは、小笠原諸島では父島、母島、硫黄島における生息が確認されており、特に侵 入初期である母島での駆逐・拡散防止対策が急務である。 アカカミアリは硫黄島における生息が確認されており、現地では他のアリ類を駆逐して最優占種 4 となっている。 ・アルゼンチンアリ及びツヤオオズアリの排除手法としては、ベイト剤、薬剤散布等の効果が確認 されており、侵入初期の徹底した防除により生息数の減少と在来種の回復が観察された事例も報 告されている。大田区東海においては、アルゼンチンアリの定着個体群の根絶に成功している。 2)早期発見の重要性 ・アリ類は侵入の未然防止が難しい種類であり、侵入時の早期発見、早期対応が極めて重要である。 ・従って、侵入の早期発見に努めるとともに、確認された場合の対応を整理した「緊急対応マニュ アル」に従い、必要資材・資源の準備を整えておく必要がある。 ・侵入の早期発見と、侵入した場合の分布域を正確に把握するために、継続的なモニタリングと、 専門家による同定体制の整備が重要となる。 3)緊急対応マニュアルの想定範囲 ・検出される場所が山域か、集落地かによって対応方針が異なる。緊急対応マニュアルでは、集落 地に侵入した場合及び山域の一部に侵入している場合を想定した対応方針を示す 4)侵入・拡散の未然防止の取組 ・「未然防止の取組」にあたっては、種によって侵入経路が異なるため、侵入経路に応じた対策を 講じる必要がある。 ・外来アリ類の移動拡散は、物資や人に付着して、人為的ではあるが、人の気がつかないまま非意 図的に起こる。外来アリ類の移動は人の生活や産業活動と密接に関わっており、対策の実施にあ たっては、島間を行き来する様々な個人および組織の協力が求められる。 ・中でも特にリスクの高い土木資材での対応は、本土からの移入資材に対しトレーサビリティを中 心にした環境配慮指示書・共通仕様書の作成等の対策が有効と考えられる。 3.小笠原諸島において想定される外来アリ類の侵入・拡散経路 防除対象であるアルゼンチンアリ、アカカミアリ、ツヤオオズアリの侵入・拡散経路について、以下 に種別に示す。父島においてアルゼンチンアリ、アカカミアリの侵入リスクの高い区域は港湾地域や集 落地域の比較的まとまった植栽帯であるといえる。 (1)アルゼンチンアリ アルゼンチンアリの国内分布域は、東京、神奈川、静岡、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、岡山、 広島、山口、徳島の各都府県である。東京都では大井ふ頭及び城南島への侵入が確認されており、お がさわら丸や共勝丸の発着・荷役場所である芝浦ふ頭、竹芝ふ頭、月島ふ頭との距離が近いため、人・ 物資の移動に伴う非意図的導入のリスクが高い。したがって父島における侵入リスクの高い区域は港 湾地域や集落地域であると考えられる。 また、土砂、木材等の屋外で保管されている土木資材は、女王アリを含むコロニーごと父島に運搬 する恐れがある。また、土付き苗などの農業資材に紛れて侵入するリスクがあることから、資材置き 場や農地周辺も侵入リスクが高い。なお土付き苗についてはアリを含む多くの昆虫類が混入している 5 ことが調査により確認されている。1 月島ふ頭 竹芝ふ頭 芝浦ふ頭 図 1 アルゼンチンアリの侵入モニタリング調査地点位置図 (出典:平成 22 年度外来生物問題調査検討業務報告書(環境省)) 2013 年、品川区八潮でも侵入定着が確認されている。これまでの防除試験エリア(大田区東海)に 隣接するも、DNA 分析から別ルートで侵入した個体群と判明している。 1 「平成 20 年度小笠原地域自然再生事業 プラナリア対策・陸産貝類保全調査業務 報告書」((株)プレック研究所 2009) 6 (2)アカカミアリ アカカミアリの国内分布は小笠原諸島の硫黄島と沖縄諸島の沖縄島及び伊江島であり、いずれも 自衛隊基地周辺において確認されている。 硫黄島から父島への侵入経路は自衛隊活動、墓参事業、遺骨収集事業に伴う非意図的導入が考え られるため、侵入リスクが高い地域は父島の自衛隊基地周辺及びおがさわら丸が着岸する港湾地域 周辺である。なお、アカカミアリ有翅生殖虫が竹芝へ航行途中のおがさわら丸で確認されている。 (2009 年 6 月)2 沖縄諸島から父島・母島への侵入経路としては農業資材や土付き苗に紛れて侵入するリスクがあ る。なお、父島の農業者へのヒアリング調査の結果から、沖縄からマンゴーの苗を直接購入してい ることが確認されており3、別途実施した調査では、沖縄から直接購入したマンゴーの土付き苗にミ ミズ類、ヤスデ類等が多数含まれていることが確認されている4。 表 侵入経路とこれまでの主な取組 経路と主な活動 自衛隊活動 硫黄島→父島 墓参事業 遺骨収集事業 これまでの主な取組 ・防衛省に対し、自衛隊隊員向けの注意喚起チラシの配布を依 頼【環境省】 ・墓参事業参加者へ注意喚起チラシを配布【小笠原村】 ・公共事業における環境配慮指針について、厚生労働省墓参事 業における活用を依頼【東京都】 「父島発東京行きおがさわら丸でのアカカミアリ有翅生殖虫の確認」 (山本周平・細石真吾、昆蟲(ニ ューシリーズ),13(3・4):133-135,2010) 3 「平成 18 年度 小笠原国立公園生態系特定管理手法検討調査業務報告書」 ((株)プレック研究所 2007) 4 「平成 20 年度小笠原地域自然再生事業 プラナリア対策・陸産貝類保全調査業務 報告書」 ((株) プレック研究所 2009) 2 7 小笠原諸島における外来アリ類緊急対応マニュアルの整備上、リスクの高い箇所 (平成26年7月28日現地調査を受けて) アルゼンチンアリの侵入リスクが高いエリア アカカミアリの侵入リスクが高いエリア 製氷海岸 アルゼンチンアリは、資材に紛れて、港湾から 自衛隊基地 二見港 建設事業者の資材置き場(洲崎、製氷海岸等) に運ばれる。 アカカミアリは、ヘリ、船舶に付着して、 自衛隊基地、港湾周辺に運ばれる。 洲崎 ※ この他に個人消費により持ち込まれる土付き苗が直接個人宅へ輸送される例があることも念頭にお く必要がある。 8 港湾地域でリスクの高い箇所 資材の積まれている場所 資材置き場と道路の植生帯 資材山積場 比較的まとまった緑地帯 背後の山域に侵入すると、検出できない 設置したトラップ 比較的まとまった緑地帯 9 (3)ツヤオオズアリ ツヤオオズアリは既に小笠原諸島の父島、母島、硫黄島において確認されており、父島では 1999 年に確認がなされ、集落周辺や海岸域、森林域の人工物の設置地点等を中心に広範囲に点在してい る。一方、母島では比較的最近侵入したと考えられ、集落域、遊歩道沿いを中心に、一部森林内で の局所的な分布を示している。また、父島属島、母島属島では未確認である。 従って、侵入・拡散の未然防止を図るために留意すべき経路は、父島・母島から属島、母島島内 既侵入域から未侵入域の2経路である。ツヤオオズアリは女王アリを含むコロニーの移動により拡 散する。巣の基質は土である必要はなくあらゆる隙間に営巣可能であるため、さまざまな人工物に 付着してコロニーが運搬され拡散する危険性がある(跳躍分散。アルゼンチンアリと同様)。特に、 野外に数日以上放置された人工物には営巣されやすく、注意が必要である。 父島・母島から属島へ向けては工事・調査目的や観光目的で人と物資の移動が行われており、属 島への出発地点である海岸域には本種が分布していることから、船の着岸地点は侵入リスクが高い。 母島島内既侵入域から未侵入域へ向けては、ツヤオオズアリが営巣可能な工事用資材や土砂、土 付き苗などの農業用資材の運搬が行われているため、植栽の行われた遊歩道沿いや、東屋等の人口 物の周辺への侵入リスクが高い。 表 侵入経路と必要な取組 経路と主な活動 父島・母島 →属島 調査・工事用資材 必要な取組 情報センターだよ ・公共事業の仕様書への環境配慮事項の明記。 りによるリスク・ (屋外に放置した資材を未侵入域に持ち込まな 注意点の周知 ・属島・未侵入域へ持ち込む荷物の点検の徹底。 観光業(カヤック等) 父島・母島 既侵入域 →未侵入域 い、等。) 工事残土 適切な残土集積地の指定 ポット苗 温浴処理 10 4.外来アリ類の持ち込み拡散の未然防止について 外来アリ類の侵入・拡散の未然防止は、1)侵入・拡散防止策、2)定着の確認、3)早期発見のた めの人材育成・広報を主軸に考える。 1)侵入・拡散防止策については、移入経路により差があるが、以下のようにまとめられる。 侵入・拡散防止策 対象種 アルゼンチンアリ アカカミアリ ツヤオオズアリ 島民及び来島者への注意喚起 ● ● ● 父島行きの船舶の発着・荷役場所におけ ● - - 硫黄島自衛隊基地内部における対策 - ● - 土木資材における対策 - - ● 土付き苗における対策 ● ● ● る対策 2)定着の確認にあたっては、トラップや同定能力を持ったものによる定期的な目視調査が重要であ る。 3)早期発見のための人材育成・広報としては、同定能力をもった人材を育成する場の設定や、地域住 民・観光客等への普及・啓発を行う。 5.外来アリ類の定着確認時の対応について 1)発見時の対応及び初期対応 外来アリ類の発見時の対応は発見者が実施する「発見時の対応」と、発見者からの通報を受けた行政 機関が実施する「初期対応」に分けて整理した。また、初期対応後に想定される短期防除事業(案)に ついても項目のみ記載した。対応フローを図に示す。 2)拡散防止と個体数の低減・根絶確認 初期対応に引き続き、外来アリ類の未侵入の地域への拡散を防ぐための手法を下記のように整理した。 (1) 生息分布域の確定 (2) 防除計画(防除範囲および防除スケジュール)の確定 (3) 住民説明 (4) 住民参加による一斉防除 (5) 個体群動態・群集動態調査 (6) モニタリング結果に基づく防除計画の見直し・再構築 (7) 根絶確認 3)必要経費・資材等 初期対応・短期防除に必要な備品や、経費、緊急対応の実施に際し必要な手続きについて、整理した。 11 1)発見時 の対応 ( 発見者) 発見 捕獲 発見地点の記録 通報 同定依頼 小笠原自然保護官事務所 国立環境研究所 結果報告 侵略的外来アリ類の場合 2)初期対応 ( 関係行政機関 現地事務局会議 内地事務局会議 小笠原自然保護官事務所 小笠原村 東京都 関東地方環境事務所 小笠原村 林野庁 ) 現地関係機関の 協力体制のもと 対策を実施 東京都 林野庁 国立環境研究所の協力による 初期対応 防除計画(案)の作成 ①生息状況の把握 ②一斉防除の体制づくり 新たな外来種の侵入・拡散防止WG の緊急開催 ①侵入状況の評価 ②目標の設定 ③短期防除方針の検討 3)短期防除事業【案】 (行政機関) 図 外来アリ類発見時の対応フロー 12 第2章 侵略的外来アリ類対応手法行動マニュアル【未然防止編】 1.外来アリ類の侵入の未然防止の基本的な考え方 物資に付着した外来アリ類について、非意図的導入による分布拡大を未然に防止するためには、アリ 類が付着している可能性のある物資に関して、その由来の把握(トレーサビリティの確保)を行うこと が重要である。 資材や廃棄物を既侵入地から未侵入地へ移動する際に、アリの有無を確認し、消毒や加熱処理等を徹 底して行う必要がある。特に、砂・砂利の移動には、外来アリ類のコロニーが含まれている可能性があ るため、特に注意が必要である。 また、内地から直接購入する土付き苗にもアリ類が含まれるリスクが高いため、注意が必要である。 これらのリスクの高い資材については外来アリ類の既侵入地から持ち込まないことが望ましいが、やむ をえず持ち込む場合は、目視検査を受けるか、薬剤処理及び熱処理を行うなどの対策が必要である。 一方で、これらの資材のうち、特に砂・砂利等については、大量の資材が一度に導入される可能性が あるため、燻蒸等による事前処理が困難であると想定される。そのため、外来アリ類については、侵入 に備えた準備が極めて重要であると考えられる。侵入時に備えた行動マニュアルについては、第 3 部で 詳述する。 2.侵入経路毎の対応 (1)島民及び来島者への注意喚起(対象種:アルゼンチンアリ、アカカミアリ、ツヤオオズアリ) 内地からの人・装備品・手荷物の持ち込みに関しては、すでに注意喚起パンフレット等でおがさわら 丸および観光船の乗船時・航路上・下船時のそれぞれにおける利用者への普及啓発を行っている。また、 硫黄島における墓参事業や自衛隊活動についても注意喚起チラシの配布を行っており、これらの対策を 今後も継続的に実施していく必要がある。母島おいて、未侵入の局所的な侵入が確認されており、初期 対応が進められているツヤオオズアリについては、現状の分布域を拡大させないため、既侵入地域の情 報と、既侵入地域から未侵入地域へ物資を移動する際の注意事項、必要な対策等に関する周知が必要で ある。 広く一般に周知を行うために、外来アリ類の見分け方や外来アリ類と疑われるアリが見つかった際の 連絡先を記したリーフレットを配布する。リーフレットの例としては環境省中国地方環境事務所が作成 した「アルゼンチンアリの見分け方」というリーフレットがある。 13 (出典:「アルゼンチンアリの見分け方」(環境省中国地方環境事務所) ) (2)小笠原行きの船舶の発着・荷役場所における対策(対象種:アルゼンチンアリ) 小笠原へのアルゼンチンアリの侵入を防ぐためには、おがさわら丸や共勝丸の発着・荷役場所である 芝浦ふ頭、竹芝ふ頭、月島ふ頭にアルゼンチンアリを侵入させないことが重要である。そのため、上記 3ふ頭においてモニタリング調査を月1回実施すると共に、アルゼンチンアリの侵入が確認された場合 は、東京湾大井埠頭におけるアルゼンチンアリの防除事例に基づいて防除を実施する。なお、環境省で は平成 22 年度から東京湾において年1回のモニタリング調査を実施しているが、現在のモニタリング 区域には芝浦ふ頭、竹芝ふ頭、月島ふ頭は含まれていない。 (3)硫黄島自衛隊基地内部における対策(対象種:アカカミアリ) 硫黄島の自衛隊基地から父島の自衛隊へ運搬されるアカカミアリの侵入の未然防止のためには、硫黄 島の自衛隊基地内部におけるアカカミアリを低密度化する必要があるが、防除技術が未確立である。そ のため、侵入に備えた準備が必要である。 (4)硫黄島沖に停泊する船舶における対策(対象種:アカカミアリ) 小笠原村の主催で例年実施される墓参事業の際、硫黄島沖に夜間停泊するおがさわら丸にアカカミア リが飛来する危険性があるため、注意を要する。アカカミアリは船の照明灯に誘引されて飛来するため、 照明灯の一部消灯や光量の調節、陸地側の照明を一部覆う、照明の目立つ新月の時期を避けた開催とす る等の対策を検討する必要がある。また、甲板には不要な物資は積載せず、アカカミアリの女王が紛れ 込むことを防止するべきである。 14 (5)父島・母島から属島にわたる際の対策(対象種:ツヤオオズアリ) 既に父島、母島に分布しているツヤオオズアリを属島へ拡散させないため、属島渡島時には乗り物や 運び込む資材へのアリの付着や営巣がないか入念に確認する必要がある。特に長期間屋外に置かれたカ ヤックや物資・資材にはツヤオオズアリが営巣している可能性が高いため、注意が必要である。属島へ 渡る船・カヤック等の発着地点にツヤオオズアリの分布が確認されている場合は、周辺地域において薬 剤散布による根絶・低密度化を図ることを検討する必要がある。 (6)父島・母島の既侵入地域から未侵入地域に入る際の対策(対象種:ツヤオオズアリ) 父島・母島内のツヤオオズアリ既侵入地域から未侵入地域への資材等の移動は極力避けるようにする。 やむをえず運搬する際は、目視検査を受けるか、薬剤処理及び熱処理を行うなどの対策が必要である。 2015年に行われた調査お結果では、本種は父島西側の海岸(宮之浦、大村海岸、製氷海岸、扇浦海岸、 洲崎北側海岸、コペペ海岸、小港海岸、ブタ海岸)で確認されているが、海岸部でも北側の釣浜、西側 の境浦海岸、松海岸、焼場海岸、東側の初寝浦、東海岸では確認されなかった。 (西海岸、中海岸は未 調査)海岸部に限ってみれば、分布地は父島の西側に偏っており、ブタ海岸を除いて、いずれも既存道 路からアクセスが容易な場所(既存道路に位置的に接している海岸)である。確認された海岸から内陸 部にかけて分布が拡がっているかは、内陸部での詳細調査が実施されていないため不明である。また、 農地・集落地での分布状況についても同様に不明である。 3.拡散媒体毎の対応 (1)土木資材における対策(対象種:アルゼンチンアリ、アカカミアリ、ツヤオオズアリ) 土砂、木材等の土木資材は、外来アリ類のコロニーごと運搬するリスクがあるため注意を要する。し たがって、公共事業においては原則として外来アリの侵入区域から上記資材を持ち込まないことが望ま しい。やむをえず持ち込む場合は、目視による検査を徹底するか、薬剤処理及び熱処理を行うなどの対 策が必要である。一時的な資材置場等が外来アリ類の侵入地域か否か不明な場合は、事前にトラップを 設置する等して対象種の生息の有無を確認することが望ましい。土木用資材への対策を実施していくた めには土砂、木材等の運搬経路のトレーサビリティの確保が必要であり、そのための体制及び処理手法 について検討する必要がある。 (2)土付き苗における対策(対象種:アルゼンチンアリ、アカカミアリ、ツヤオオズアリ) 土付き苗については外来アリ類が混入することが確認されているため、非常にリスクが高い。対策と しては温浴処理や薬剤処理(フィプロニル液)に効果が確認されているものの、植物への影響が少ない 処理方法や、実施体制等について検討する必要がある。 15 第3章 小笠原諸島における侵略的外来アリ類対応手法行動マニュアル【侵入時 対応編】 (案) 1.侵略的外来アリ類の分布現況と侵入リスク 1)アルゼンチンアリ アルゼンチンアリの国内分布域は、東京、神奈川、静岡、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、岡山、 広島、山口、徳島の各都府県である。東京都では大井ふ頭及び城南島への侵入が確認されており、お がさわら丸や共勝丸の発着・荷役場所である芝浦ふ頭、竹芝ふ頭、月島ふ頭との距離が近いため、人・ 物資の移動に伴う非意図的導入のリスクが高い。したがって父島・母島における侵入リスクの高い区 域は港湾地域や、建設事業者の資材置き場(洲崎、製氷海岸等)、集落地域であると考えられる。 また、土砂、木材等の屋外で保管されている土木資材は、女王アリを含むコロニーごと父島・母島 に運搬する恐れがある。また、土付き苗などの農業資材に紛れて侵入するリスクがあることから、資 材置き場や農地周辺も侵入リスクが高い。なお土付き苗についてはアリを含む多くの昆虫類が混入し ていることが調査により確認されている。5 月島ふ頭 竹芝ふ頭 芝浦ふ頭 図 2 アルゼンチンアリの侵入モニタリング調査地点位置図 (出典:平成 22 年度外来生物問題調査検討業務報告書(環境省)) 「平成 20 年度小笠原地域自然再生事業 プレック研究所 2009) 5 プラナリア対策・陸産貝類保全調査業務 16 報告書」((株) 2)アカカミアリ アカカミアリの国内分布は小笠原諸島の硫黄島と沖縄諸島の沖縄島及び伊江島であり、いずれも 自衛隊基地周辺において確認されている。 硫黄島から父島への侵入経路は自衛隊活動、墓参事業、遺骨収集事業に伴う非意図的導入が考え られる。ヘリ・船舶へ付着して侵入することが想定されるため、リスクが高い地域は父島の自衛隊 基地周辺及びおがさわら丸が着岸する港湾地域周辺である。なお、アカカミアリ有翅生殖虫が竹芝 へ航行途中のおがさわら丸で確認されている。 (2009 年 6 月)6また、2015 年の硫黄島訪島事業の際 には、硫黄島沖に夜間停泊中のおがさわら丸甲板上でアカカミアリの生殖虫が確認されている。 沖縄諸島から父島・母島への侵入経路としては農業資材や土付き苗に紛れて侵入するリスクがあ る。なお、父島の農業者へのヒアリング調査の結果から、沖縄からマンゴーの苗を直接購入してい ることが確認されており7、別途実施した調査では、沖縄から直接購入したマンゴーの土付き苗にミ ミズ類、ヤスデ類等が多数含まれていることが確認されている8。 小笠原諸島外から外来アリ類が侵入するリスクの高いエリアを図2に示す。 アルゼンチンアリの侵入リスクが高いエリア アカカミアリの侵入リスクが高いエリア 製氷海岸 アルゼンチンアリは、資材に紛れて、港湾から 自衛隊基地 二見港 建設事業者の資材置き場(洲崎、製氷海岸等) に運ばれる。 アカカミアリは、ヘリ、船舶に付着して、 自衛隊基地、港湾周辺に運ばれる。 洲崎 ※ この他に個人消費により持ち込まれる土付き苗が直接個人宅へ輸送される例があることも念頭におく必要が ある。 図2 外来アリ類が侵入する恐れのあるエリア (平成26年7月28日現地調査を受けて) 「父島発東京行きおがさわら丸でのアカカミアリ有翅生殖虫の確認」 (山本周平・細石真吾、昆蟲(ニ ューシリーズ),13(3・4):133-135,2010) 7 「平成 18 年度 小笠原国立公園生態系特定管理手法検討調査業務報告書」 ((株)プレック研究所 2007) 8 「平成 20 年度小笠原地域自然再生事業 プラナリア対策・陸産貝類保全調査業務 報告書」 ((株) プレック研究所 2009) 6 17 3)ツヤオオズアリ ツヤオオズアリは、既に父島・母島及び硫黄島において分布が確認されている。父島での分布域 を図3に、母島での分布域を図4に示す(2015 年 11 月末時点判明分) 。父島では海岸・港湾部を中 心に生息が確認されているほか、父島・母島共に、東屋や看板等の工作物の周辺で確認の多い傾向 にある。 父島・母島属島への本種の侵入の有無は十分に調査がなされていないが、父島・母島からの船舶 の着岸地点や工作物の設置地点は、本種の侵入リスクの高いエリアとして警戒が必要である。 兄島・弟島における入込数の多い海岸を図5に示す。 図3 父島内のツヤオオズアリ確認地点 18 図4 母島内のツヤオオズアリ確認地点 19 図5 兄島・弟島の入込数の多い海岸 20 2.アリ類の侵入時の行動マニュアル 1)発見前の準備 (1) 監視体制 外来アリ類は人や物資等に紛れて侵入する可能性があるため、行政関係者、調査・研究者の連携の元、 監視体制を構築する。外来アリ類の監視のためにはトラップの設置が必要であることから、地域住民に 対する啓発も併せて行うものとする。 (2) 同定体制 外来アリ類の疑いがあるアリ類が確認された場合は、(独)国立環境国立環境研究所の生物・生態系 環境研究センター9へサンプルを送付し、同定を依頼する。なお、アリ類の同定には専門知識が必要とな るため、現地で研修を実施し、環境省の現地自然保護官やアクティブレンジャー、東京都レンジャー、 自然ガイドなどの動植物の専門知識を有する者が、同定できるようにしておくことが望ましい。 待合所裏植栽沿い 公園道路沿い 公園遊歩道沿い 建築物沿い 図2 父島二見港周辺におけるアリ類調査箇所の例 (3) 初期対応用品の配備 マニュアルに定めた初期対応に必要な備品については担当機関が配備し、必要に応じて補充を行う。 初期対応に必要な備品リストは6.1)を参照。 (4) 薬剤の環境影響評価・適正使用量の把握 短期防除に使用される薬剤については、小笠原諸島の脆弱な生態系への影響を予め把握しておく 9 国立環境研究所 侵入生物データベース「アルゼンチンアリ情報提供のお願い」 (http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/archin.html) 21 必要がある。林内、海岸部等の各環境における使用を想定し、非標的生物への影響や、環境残留性 を調査し、適切な使用量・使用法の研究を行っておくことが望ましい。 (5) 短期防除予算の確保 短期防除に必要な予算は、関係機関協力のもと、連携して短期対応や物資配備のための予算の確 保に努める。 (6) 侵入時に備えた試行的な点検プログラムの実施 未然防止の取組がきちんと進んでいるか、緊急事態に対処できるかについては、定期的に、必要 な道具や体制が整っているかを点検することが重要である。 2)発見時の対応及び初期対応 外来アリ類の発見時の対応は発見者が実施する「発見時の対応」と、発見者からの通報を受けた行 政機関が実施する「初期対応」に分けて整理した。また、初期対応後に想定される短期防除事業(案) についても項目のみ記載した。対応フローを図 3 に示す。 22 1)発見時 の対応 ( 発見者) 発見 捕獲 発見地点の記録 通報 同定依頼 小笠原自然保護官事務所 国立環境研究所 結果報告 侵略的外来アリ類の場合 2)初期対応 ( 関係行政機関 現地事務局会議 内地事務局会議 小笠原自然保護官事務所 小笠原村 東京都 関東地方環境事務所 小笠原村 林野庁 ) 現地関係機関の 協力体制のもと 対策を実施 東京都 林野庁 国立環境研究所の協力による 初期対応 防除計画(案)の作成 ①生息状況の把握 ②一斉防除の体制づくり 新たな外来種の侵入・拡散防止WG の緊急開催 ①侵入状況の評価 ②目標の設定 ③短期防除方針の検討 3)短期防除事業【案】 (行政機関) 図 3 外来アリ類発見時の対応フロー 23 (1)発見時の対応 外来アリ類発見時に発見者が実施する対応は捕獲、写真撮影(同定)、殺虫、発見地点の記録、通 報の一連の流れとなる。なお、モニタリング調査で確認された場合は、すみやかに通報する。 ①捕獲 セロハンテープを用いて 2、3 個体のアリを捕獲し、そのまま白い紙に貼り付ける。 ②発見地点の記録 発見地点の周辺環境を写真で記録する。GPS や GPS 付きのカメラや携帯電話(写真に位置情報 を記録できるものなど)を持参している場合はポイントを記録する。 ③通報 環境省小笠原自然保護官事務所に、外来アリ類の発見時の情報を通報し、その場での対処につ いて指示を受ける。 ④民有地での対応 外来アリ類が民有地内で確認された場合は、緊急対応の実施区域内の住民および地権者に対す る説明を行い、作業内容を周知すると共に対策への協力を求める。 (2)初期対応 ① 生息状況の把握 緊急対応の対象地域において、外来アリ類の生息状況を把握するために下記の手法により調査 を実施する。 24 調査方法 トラップ調査 内容 誘引ベイトおよび粘着トラップを併用して調査を実施する。なお、アルゼンチン アリにはツナが、ツヤオオズアリはポテトチップスが誘引効果が高いことが確認 されているが、アカカミアリにおける有効なベイトについては、調査が必要であ る。 目視調査 外来アリ類の生息状況を目視によって確認する。特に外来アリ類が巣を作りやす い場所や餌の供給源となる場所を注視する。ただし、目視調査は生息密度が低い 場合には効果が得られにくいため、上記のトラップ調査が基本となる。 ○巣を作りやすい場所 <アルゼンチンアリ> ・地面に置かれたコンクリートブロックやレンガの下 ・石や木・枯葉の下 ・コンクリート構造物のひび割れの中 ・壁にできた隙間、玄関用マットの下、車のトランクの中など <ツヤオオズアリ> ・屋外に放置された土木・農業資材の隙間 ・ゴミや木材の隙間 ・海岸部 <アカカミアリ> ・裸地や草地など開けた環境 ○餌の供給源となる場所 ・アブラムシ類やカイガラムシ類が生息する街路樹や雑草が生い茂っている場所 ・ゴミ箱など 25 ② 個体数の低減 外来アリ類の既侵入地では周辺への分布拡大防止のため、分布辺縁部において定期的に殺虫剤散布等 による外来アリ類駆除を行う。外来アリ類の個体数を低減する手法を下表に示す。なお、下記の手法は 主にアルゼンチンアリおよびツヤオオズアリを対象としたものであり、アカカミアリに対する効果につ いては未確認である。 分類 目的 化学的 自然生態 防除 系の保全 手法 ベイト剤 内容 毒餌を用いた殺虫剤。粒剤、液体型、ペースト型、ジェ ル型などのさまざまな剤型がある。 液体型殺虫剤 液体型殺虫剤(液剤)は、基本的にはアリが薬剤に触れ ることで効果が発揮される。地中まで浸透させることが でき、構造物の中の亀裂にも浸透させて気化させること で効果を発揮するタイプの製品もある。 フェロモン剤 働きアリは餌を巣に運びこむための信号として「道しる べフェロモン」を分泌する。このフェロモンと同じ物質 をアリの活動域に高濃度で設置すると、アリ同士で情報 交換を行うための信号が攪乱されて正常に餌を巣に運ぶ ことができなくなり、コロニーが衰退する。 人的被害 エアゾール型 一般的に広く市販されている噴霧式の殺虫剤。家屋内に の防止 殺虫剤 侵入してきたアリなど、使用の簡便性、目の前のアリへ の即効性は高い。 粉末型殺虫剤 家屋などへの侵入を防ぐために、家屋の周囲に粉末型の 殺虫剤を散布し、アリの行列を一時的に崩壊させること ができる。 物理的 自然生態 防除 系の保全 熱防除 専用の土壌消毒機や熱湯処理機を使用して行う。土付き 苗を持ち込む場合の予防や、小規模のコロニーで女王ア リを含む場合に有効である。 人的被害 営巣・採餌場 土嚢、木材、ゴムマット、レンガ、ブロックなどの資材 の防止 所の除去 や植木鉢、プランターをむやみに直接地面に置かない。 コンクリート構造物の隙間や亀裂をシーリング材などで 埋める。 餌の除去 自然生態 アブラムシ アブラムシ類・カイガラムシ類の生息場所となっている 系の保全 類・カイガラ 雑草の刈り取りや除草剤の散布、樹木の剪定、伐採や、 ムシ類の防除 殺虫剤の散布による防除を行う。特に住宅地や港湾地域 において有効な手法である。 人的被害 その他の餌の 食べ物や飲み物の食器や食べ残しを放置しないようにす の防止 除去 る。ゴミ収集場所やゴミ箱の構造をアリが入りにくいよ うに改善する。 26 ③ 新たな外来種の侵入・拡散防止WGの緊急開催の緊急開催 新たな外来種の侵入・拡散防止WGを緊急開催し、侵入状況について報告を行うと共に、今後 の対応方針について検討する。検討会において検討する項目は下記の内容を想定している。 議事1 外来アリ類の侵入状況の評価 侵入状況調査の結果をうけて、外来アリ類の侵入状況を評価する。 議事2 外来アリ類の短期防除方針の検討 外来アリ類の侵入確認から概ね3年以内に実施すべき事項について検討する。 議事3 a. 短期防除事業(案)の検討 目標の設定 被害状況を踏まえ、防除目標を定める。目標設定の際には、被害の程度、予算、対象地域の面 積、侵入・定着状況、土地の利用・所有について検討した上で判断する。 b. 計画期間 防除計画の策定の際には最低でも 3 年程度以上の計画としておき、それより長期になることも 想定して対策を講じることが望まれる。 c. 防除計画区域の設定 アルゼンチンアリ及びツヤオオズアリは長距離飛行せず、主に自力による分布拡大の手段は歩 行に限られるため、海や河川・湖沼、水路や幅の広い舗装道路などは横断しにくいと考えられる。 したがって、防除計画区域は原則として、河川や大きな道路、森林など、分布境界とみなせる地 形界で区分し、生息分布域を完全に包含できるように定める。ただし、水が常時流れていない水 路や暗渠となっている場所は分布拡大が可能であるため注意が必要である。アカカミアリについ ては生態が明らかとなっていないため、防除区域の設定のために必要な情報の収集が課題である。 27 3)中長期的な防除手法(対象:アリゼンチンアリの場合) アルゼンチンアリを局所的に根絶させたとしても、周囲に生息していた場合は、すぐに再侵入し、 もとの個体数レベルまで回復する。そのため、再侵入を防止する観点から必要十分な防除実施区域を 設定した上で、一斉に集中的に防除を実施する一斉防除を原則とする。防除手法はアブラムシ類・カ イガラムシ類の駆除、ベイト剤による防除、液剤による防除、モニタリングが基本となる。アカカミ アリについても同様の手法で防除できる可能性が高いが実証実験での確認が必要である。 (1)計画期間 防除計画の策定の際には最低でも 3 年程度以上の計画としておき、それより長期になることも想 定して対策を講じることが望まれる。特にアルゼンチンアリでは1つのコロニーに女王アリが複数 個体存在し、国内では多数の巣からなるスーパーコロニーを形成するため、既に定着している場合 は、コロニーの駆除に時間がかかる。 (2)アブラムシ類・カイガラムシ類の駆除 ベイト剤への誘引効果を高めるため、ベイト剤設置等に先立って餌となるアブラムシ類・カイガ ラムシ類の駆除を実施する。手法としては防除実施区域内の雑草を刈り取るか除草剤を散布する方 法が有効である。なお、刈り取った草は速やかに滅却する。 (3)ベイト剤による防除 道路沿い及び敷地内は建物沿いや植え込み沿いに 5m 間隔でベイト剤を設置する。ベイト剤の交 換は1ヶ月間隔で実施する。この方法はエサを集める能力の高いアルゼンチンアリに対して特に効 果的である。 (4)液剤による防除 巣や大量の行列を発見した際、及び公園内の生息地においては液剤の散布を行う。なお、公園に おいては薬剤の散布を行う前に踏査による生息箇所の特定を行う。 (5)モニタリング 粘着式のトラップを毎月 50m 間隔で設置し、2~3 日後に捕獲された外来アリ類及び在来種アリ類 の個体数を計数して防除の効果を把握する。 (6)対策の実施時期 実施時期は外来アリの生活史パターンに応じて検討することが望ましい。アルゼンチンアリでは、 本土において活動が活発になる春から秋に防除を実施すること有効であるが、小笠原は亜熱帯性の 気候であるため、原則として通年で実施する。 アカカミアリの小笠原における生活史パターンについては調査が行われていないため、硫黄島の 個体群における生活史パターンの把握が望まれる。 (7)実施回数 防除およびモニタリングは、原則月 1 回程度、実施するのが望ましい。モニタリングにより防除 28 効果を確認し、投薬量の増減・実施回数を検討する。 (8)天候 ベイト剤(粒剤・液剤とも)は雨に濡れると誘引効果が無くなるものもあるため、投薬作業は、 降雨の可能性のある日は避ける。 29 3.外来アリ類の基礎情報 1)生態特性 アルゼンチンアリの生態特性を表 1 に、アカカミアリの生態特性を表 2 に、ツヤオオズアリの生 態特性を表 3 に示す。 表 1 アルゼンチンアリの生態特性 和名 分類群 学名 分布域 形態 環境選択性 食性 繁殖生態 侵入の経緯 影響 アルゼンチンアリ 膜翅目 スズメバチ上科 アリ科 Linepithema humile ・原産地:南米 ・国内移入分布:東京、神奈川、静岡、愛知、岐阜、京都、大阪、兵庫、岡山、 広島、山口、徳島の各都府県 ・体長 2.5~3.0mm。体色は黒褐色。 ・複眼はやや大きく、頭部背面前方よりに位置する。胸部は前中胸が多少隆起し 側方からみて緩やかなアーチを描く。腹柄節は扁平なコブ状でその頂部は前伸 腹節の気門より低いところに位置する。外皮は柔らかい。 ・日本には同属種が生息していない。 ・温度選好性:働きアリの活動温度帯は 5~35℃ ・地中をはじめとして、様々な場所に巣をつくる。基本的に物の隙間を利用し、 石や木・枯葉の下、コンクリート構造物のひび割れの中、家や壁にできた隙間、 カーペットの下、車のトランクの中など、様々な場所に巣を作る。 ・雑食性で、特にアブラムシ類やカイガラムシ類が分泌する甘露を好んで摂取す る。その他には、花蜜、昆虫類の死骸などを好んで食べる。 ・家屋内に侵入した場合には、砂糖、菓子類、糖分を含んだ飲料、魚、肉、油脂 類等や生ゴミに大量に集まる。 ・アルゼンチンアリの女王アリは産卵能力が非常に高く、条件が良ければ 1 日に 約 60 個の卵を産むと言われている。巣内には多数の女王アリがいるため、巣 としての繁殖力は非常に高い。 ・多数の働きアリからなる大規模なコロニーをつくり、主に分巣によって分布を 拡大するとされている。 ・新しい巣を確立するため「婚礼の」フライトを行わず、新女王はオリジナルの 巣の近くで新しい巣を営巣する。複数の巣が接続した状態で働きアリが巣間を 往来して、餌資源等を共有するスーパーコロニーを形成する。 ・建築資材などに紛れ込んで侵入した可能性が指摘されている。 ・アブラムシ類、カイガラムシ類など農業害虫の保護や種子の加害、ミツバチの 巣箱の蜜の食害などの農業被害が想定される。 ・種子の散布に貢献する在来アリや、花粉媒介を行う送粉媒介を行う送粉昆虫の 群集を変化させることで、在来植生にも影響を与えるおそれがある。 ・特定外来生物に指定され、許可なしに生きたまま運搬や保管などはできない。 外来生物法 による指定 【参照文献】 ・侵入生物データベース(独立行政法人 国立環境研究所) http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/60090.html ・環境省中部地方環境事務所(2012)「アルゼンチンアリ一斉防除マニュアル」 ・「決定版 日本の外来生物」(自然環境研究センター 編著 2008. 平凡社) 30 表 2 アカカミアリの生態特性 和名 アカカミアリ 分類群 膜翅目 スズメバチ上科 アリ科 学名 Solenopsis geminata 分布域 ・原産地:アメリカ合州国南部から中南米にかけて分布 ・国内移入分布:硫黄島、沖縄島(米軍基地周辺)、伊江島(沖縄諸島) 形態 ・体長 3~8 mm,赤褐色で頭部は褐色. ・働きアリの頭部は大型で四角形状で,後縁は明瞭にへこむ。大あごは頑丈で, 外縁は強く弧をえがく。 環境選択性 ・亜熱帯地域の裸地や草地などの開けた環境に生息し,土中に営巣する. 温度選好性:亜熱帯~暖温帯 食性 ・食性:雑食性。甘露,草の種子など 繁殖生態 ・巣の表面は不定形で多くの出入口の穴をそなえる。ヒアリのような盛り上がっ たアリ塚は形成しない。 ・幼虫はワーカーにもらったタンパク質の餌を分解し働きアリや女王アリに液状 にして与える。この刺激は女王の産卵を促進させる。 侵入の経緯 ・日本では沖縄本島の米軍基地周辺,伊江島の基地および硫黄島で得られており, いずれも米軍の輸送物資に伴って国内に運び込まれたものと推定される。 影響 ・人への刺咬被害があり、強度のアナフィラキシーショックを引き起こした例が ある。 ・硫黄島では他のアリ類を駆逐して最優占種となっている。 ・グアムでは在来のチョウの幼虫や卵を捕食するなどの影響をもたらしている。 ・北アメリカで人や家畜への刺咬被害が問題となっているほか、アカカミアリが 好む甘露を生産するカイガラムシを保護するため、農業被害を助長するといわ れている。 外来生物法 ・特定外来生物に指定され、許可なしに生きたまま運搬や保管などはできない。 による指定 【参照文献】 ・侵入生物データベース(独立行政法人 国立環境研究所) http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/60390.html ・「父島発東京行きおがさわら丸でのアカカミアリ有翅生殖虫の確認」 (山本周平・細石真吾、 昆蟲(ニューシリーズ),13(3・4):133-135,2010) ・「決定版 日本の外来生物」(自然環境研究センター 編著 2008. 平凡社) ・日本産アリ類画像データベース(寺山守 アリ類データベース作成グループ 2008) http://ant.edb.miyakyo-u.ac.jp/J/Taxo/F41201.html 31 表 3 ツヤオオズアリの生態特性 和名 ツヤオオズアリ 分類群 ハチ目 スズメバチ上科 アリ科 学名 Pheidole megacephala 分布域 ・原産地:アフリカ 現在では人間の交流に伴い世界中の熱帯・亜熱帯に広がっ ている。 ・国内移入分布:奄美以南の琉球列島、小笠原(父島、母島、硫黄島) 形態 ・兵アリの体長 3.5 mm,働きアリの体長 2 mm,頭部と腹部は暗褐色,他は褐色。 ・兵アリの頭部後方表面は、彫刻がなく滑らかで光沢がある。働きアリの頭 部後縁は丸く前中胸背板が融合して単一の隆起を形成する。 環境選択性 ・主に攪乱地を好む。裸地、海岸、サトウキビ畑などの土中・石下・倒木下に 営巣する。 ・温度選好性:熱帯~亜熱帯 食性 ・食性:雑食性。甘露,草の種子など 繁殖生態 ・多女王制(1 つの巣に多くの繁殖女王がいる)であり、巣内交尾(兄弟間交尾) により繁殖を行えることから、繁殖力がとても高い ・巣の基質は土である必要はないため、建設資材や自動車などに付着してコロニ ーが運搬され拡散することがある。 侵入の経緯 ・人間の交流・物資の移動に伴い日本へ侵入したと考えられる。 ・小笠原では 1999 年に初めて記録されている。 影響 昆虫への影響 (捕食、競争的排除、間接効果、共生関係) 陸貝への影響 (捕食…小型陸貝が絶滅した。 脊椎動物への影響(捕食、競争、間接効果:鳥類、爬虫類の餌を奪う、卵の捕食、 営巣場所を奪う等) 植生への脅威(・ツヤオオズアリが好む甘露を生産するカイガラムシを保護する ため、農業被害を助長するといわれている。) 人間生活への被害(家屋内に営巣。電気系統に引き寄せられる性質があり電線を 齧る、水道管に穴を開けて漏水) 指定状況 世界の侵略的外来種ワースト 100(IUCN)に該当。 【参照文献】 ・侵入生物データベース(独立行政法人 国立環境研究所) http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/60390.html ・日本産アリ類画像データベース(寺山守 アリ類データベース作成グループ 2008) http://ant.edb.miyakyo-u.ac.jp/J/Taxo/F40604.html ・高橋敬 一・大林隆司・宗田奈保子 (2000)「小笠原諸島父島における貯穀害虫およびその 天敵相」 32 4.資料 1)初期対応等に必要な備品等 初期対応等に必要な備品及び備品の保管場所を表 4 に示す。 表 4 緊急対策に必要な資材 用途 資材 保管場所 モニタリング 粘着トラップ ●● 同定道具(ルーペ、顕微鏡、図鑑、アルゼンチ ●● ンアリの動画等) 防除 ベイトトラップ ●● (使用期限は2年程度) 液剤 ●● 2)初期対応に必要な経費10 道路、港湾地域、住宅地周辺に 50m 間隔(1ha あたり 8 個)で粘着トラップを設置し、2~3 日 後に捕獲されたアリ類を確認するモニタリング調査を実施する場合の経費は下記のとおり。なお、 モニタリングは月1回実施することが望ましい。 1ha あたりの粘着トラップを8個として計算した場合 1ha あたりのトラップの経費:90 円×8 個=720 円 1ha あたりの人工:【設置】1 個あたり 3 分として 3 分×8 個=24 分 1 日 8 時間労働とすると約 0.05 人工 /ha 【回収】1 個あたり 2 分として 2 分×8 個=16 分 1 日 8 時間労働とすると約 0.025 人工 /ha 3)短期防除に必要な経費 (1)アルゼンチンアリ・ツヤオオズアリが住宅地や港湾地域等に面的に生息している場合 東京湾の防除事例では低薬処理区(10m 間隔で設置)では約 6.6 万円/ha、高薬処理区(5m 間隔 で設置)では年間 13.4 万円/ha が1年間にかかる薬剤の経費となっている。 トラップの設置・回収を同時に実施する場合の人工は下記のとおり。 1ha あたりの人工:100 個あたり 30 分として(330 個、5m 間隔)1 時間 40 分 1 日 8 時間労働とすると約 0.2 人工 /ha 10 東京湾大井埠頭及び城南島における防除実績による算出。 33 (2)アルゼンチンアリ・ツヤオオズアリが道路沿いなどのみに線状に生息している場合 道路沿いなどに線状にトラップを設置する場合の経費は下記のとおり。 100m あたりの粘着トラップを 20 個(5m 間隔)として計算した場合 100m あたりのトラップの経費:34.9 円×20 個=700 円 100m あたりの人工:100 個あたり 30 分として 6 分 1 日 8 時間労働とすると約 0.0125 人工 /ha 4)緊急対応を実施するために必要な手続き 緊急対応を実施するために必要な手続きを表 5 に整理した。 これらの手続きについて、速やかに行うための事前調整を行う。 表 5 緊急対応を実施するために必要な手続き 法令等 手続き 窓口 自然公園法 特別保護地区における工作物の設置許可 東京都小笠原支庁土木課 森林法 保安林における工作物の設置許可 東京都小笠原支庁産業課 文化財保護法 天然記念物の現状変更許可 東京都教育委員会 保護林制度 森林生態系保護地域における工作物の設置許 森林生態系保全センター 可 小笠原総合事務所国有林課 小笠原諸島森林生態系保全管理委員会におい 森林生態系保全センター 保護林制度 て、緊急時の対応について事前に承認を得る。 外来生物法 特定外来生物防除計画の確認・認定 5)未然防止の対応事例 (1)土木資材の処理の対応事例 (2)農業用苗への試行的実施の事例 (3)園芸用の苗の試行的実施の事例 (4)その他生活・産業に関する物流への対応事例 34 環境省野生生物課 6)侵入後の対応事例 (1)父島への外来アリ類侵入時の緊急対応の試行 ■試行の目的 アルゼンチンアリの侵入時の緊急対応の流れを確認し、侵入リスクの高い地域を特定するとともに、 緊急対応を実施する上での課題や今後の進め方について共通認識を持つ。 ■実施日時:平成 26 年 7 月 28 日 9:00~12:00 ■実施場所:小笠原総合事務所2階会議室、二見港周辺 ■参加者 委員 吉田座長、大林アドバイザー 環境省 [小笠原自然保護官事務所] 澤、山下 林野庁 [森林生態系保全センター]吉澤、白坂 東京都 [世界自然遺産担当課] 竹内 小笠原村 民間 [土木課] 高倉 [港湾課] 村岡、小野田 [世界遺産専門委員] 岩本 [(一財) 自然環境研究センター] 森 [(株)プレック研究所] 小山、野口 ■実施内容 (1)緊急対応マニュアルの内容確認 (2)父島におけるリスクの高いエリアの整理 (3)外来アリ類のレクチャー (4)港湾区域における対策の検討 ■結果概要 (1)緊急対応マニュアルの内容確認 ・緊急対応マニュアルの内容(参考資料2-2)について説明を行い、具体の実施内容と役割分担(参 考資料2-2)について地域課題WGで議論していくこととした。 <課題> ・アルゼンチンアリの侵入区域から木材や土砂を運搬しないようにするためには、本土側の侵入区域を 把握すると共に、把握した情報を毎年更新する必要がある。 ・セメントに混ぜるための砂にアルゼンチンアリのコロニーが紛れているリスクがあるのかどうか確認 する。 ・アルゼンチンアリの侵入経路を考える場合に、土砂の産地と寄港地の両方を分けて考える必要がある。 ・建設業者に土砂の入手先を確認する必要がある。 ・内地からのアカカミアリの侵入を防ぐために、土砂の産地を仕様書で指定するなどの対策を検討する 必要がある。 35 (2)父島におけるリスクの高いエリアの整理 ・アカカミアリとアルゼンチンアリの侵入リスクが高いエリアについて整理を行った。 アカカミアリの侵入リスクの高いエリア アルゼンチンアリの侵入リスクの高いエリ 奥村・製氷海岸(資材置き場) 東町(資材置き場) 二見港(建設資材置き 二見港(墓参事業) 自衛隊基地 (自衛隊活動、遺骨収集事業) 洲崎(資材置き場) 36 (3)外来アリ類のレクチャー ・アルゼンチンアリとアカカミアリの見分け方について(一財)自然環境研究センターの森氏より、外 来アリ類の標本の観察や動画の鑑賞を含むレクチャーを受けた。 <課題> ・現地行政関係者が外来アリ類を見分けられるようになるためには、一定の訓練が必要となる。 ・父島では生体のアルゼンチンアリやアカカミアリを見ることができないので、映像や標本を見られる ようにしておく必要がある。 レクチャーの様子 顕微鏡での外来アリ類の標本の観察 (4)港湾区域における対策の検討 ・アルゼンチンアリとアカカミアリの侵入リスクの高い二見港の港湾区域を歩き、試験的に設置したト ラップを観察しながら、実際の対策の検討を行った。 <課題> ・港湾区域に放置されている木材パレットや枕木にはアルゼンチンアリが巣を作るリスクがあるため、 定期的に殺虫処理を行うなどの対策が必要となる。 ・港湾区域には外来アリ類の注意喚起ポスターを掲示すると共に、内地からの資材にアリが紛れていた 場合に、すぐに対応できるように殺虫スプレーを配備しておく必要がある。 ・モニタリングの時期・頻度・範囲については地域課題検討WGで実施可能な方法を検討する必要があ る。 ・港湾区域にある植栽帯は外来アリ類が巣を作りやすいため、一斉防除を行う際には草の刈り払いを行 う必要がある。 ・港湾区域に侵入した外来アリ類の拡散を防止する方法として、海水を流した側溝で囲む方法が考えら れるが、車両の出入りがあるため、完全に囲い込むことはできない。 ・本土と小笠原を往来するコンテナにもアルゼンチンアリが巣を作るリスクはあるので、対策が必要で ある。 37 港湾地域の植栽帯 枕木と木材パレット 本土と小笠原を往来するコンテナ 試験設置したトラップに群がるアリ(ツヤオオズアリ) リスクが高く、モニタリングを設置する箇所 資材の積まれている箇所 資材置き場と道路の 植生帯 比較的まとまった 緑地帯 集落と港湾の境のまとま 集落後背の山域に侵入 った緑地帯が検出のライ すると、検出も対策も ンとして重要。 難しくなる。 38 (2)母島におけるツヤオオズアリ緊急対応 平成 27 年度から実施されている母島南崎及び北港におけるツヤオオズアリ防除対策の実施状況 を注視する。以下に「平成 28 年度の小笠原諸島母島における生態系保全のためのツヤオオズアリ 防除計画」からの抜粋を掲載する。 <防除の方法> ①保全対象等の現状把握・効果測定 本項に整理されている項目を基に、各防除エリアの性質に応じて、必要なモニタリングを実施するこ ととする。 a. 陸産貝類等の生息状況把握 ・ツヤオオズアリによる生態系被害の拡大や、防除による生息状況の回復効果を評価するために陸産 貝類の生息密度を把握する。 ・実施時期は、陸産貝類の生息状況が最も安定的である 6 月に実施する。 b. 土壌動物の情報収集、生息状況把握 ・外来アリによる被害程度や環境影響を評価する上で必要な基本的な土壌動物の情報を収集し、デー タが不十分なエリアにおいては、調査を実施する。 ・ツヤオオズアリによる生態系被害の拡大や、防除による生息状況の回復効果、薬剤による影響を評 価するために土壌動物の生息密度を把握する。 ・調査対象には定量調査が可能な優占種であり、ツヤオオズアリの影響を受けると考えられる保全対 象種を選定する。実施時期は、土壌動物調査の適期(情報整理中)に実施する。 c. ツヤオオズアリの密度低減効果モニタリング ・対策効果を評価するために、月に 1 回のペースでアリの生息状況調査を行う。調査方法は(2)の 方法と同様とする。 d.環境影響モニタリング ・薬剤の使用による土壌への環境残留濃度の把握するために、対策実施前、開始 1 か月後、今期の対 策終了後(12 月)の土壌サンプルを採集し、土壌中の有効成分濃度を分析する。 ②母島内の分布域の把握 <実施エリア> 西台、東台、桑ノ木山、石門、南部エリアの未調査地、保全対象の分布域に隣接する農地(フルー ツランド、見廻り山等) <実施方法> ・餌(ツナ等)を使い、粘着トラップで周辺のアリを誘引・捕獲することで、ツヤオオズアリの分布 の有無を確認する。粘着トラップの設置密度は、約 10m に 1 個とし、設置から 3 日後に回収する。 ・非標的種の混獲防止のために、粘着トラップは混獲防止用のネットで覆う。 39 ・各エリアにおける調査位置は、任意の目視調査を行うことで効率的に選定する。 a.南崎における防除の実施 <実施目的> 生態系被害拡大防止、分布域の縮小、平成 29 年度以降に向けた有効な防除手法の確立 <実施方法> ・実施時期:4~11 月 ・対策範囲:50m×1000m(南北の分布域外縁部の総延長)=5ha ・分布域の南北の外縁部において、薬剤を用いた防除を行う。なお、東西の外縁部は、目前に海があ り、これ以上の分布域拡大、被害拡大が見込まれないため、防除は行わない。 ・分布域外縁部 50m 幅内にベイト剤を設置する。設置密度は、400 個/ha(5m×5m 間隔)、及び 200 個 /ha(10m×5m)の 2 パターンとする。ベイト剤は、フィプロニル製剤を用いる。 ・点検は、初期時点ではおよそ 1 週間に一度のペースで行い、その後消費量に合わせて、点検頻度を 調整する。 (※)おおよその見積もりとして、1 人日で点検できるベイト剤の個数を 350 個(ただし、目安であり、 精査は必要) とすると、5ha に 400 個/ha の密度で設置したベイト剤を週 1 回頻度で点検するのに、 6 人日必要となる。 b.北港における防除の実施 ・27 年度の試験防除結果から見ると、北港でのツヤオオズアリ密度は南崎よりかなり高いと推定され ている。また、分布域も特定できていない。 ・このため、28 年度当初(4 月~5 月)の南崎での防除対策の実施状況等を踏まえながら、北港での 分布域の特定や防除方法について実施、検討していく。 c.乳房山における防除の実施 <実施目的> 分布域の消滅、根絶状態の達成 <実施方法> ・実施時期:4~11 月 ・対策範囲:15m×5m ・平成 28 年 12 月時点では、ごく局所的な分布範囲であることから、分布域の消滅を目指して薬剤を 用いた防除を実施する。ベイト剤は、フィプロニル製剤を用いる。 ・点検は、初期は 1 週間に一度のペースで行い、その後消費量に合わせて、点検頻度を調整する。 ③防除技術の改良・開発 <実施目的> 防除対策を効果的に進めるため、また、環境影響を低減するための技術改良を行う。 40 <実施方法> ・剤型の(ジェル剤、液剤)の改良による防除効果、環境影響、薬剤の無効化の検証 ・フィプロニル製剤の手撒きによる無効化の検証 ・海外における防除事例の情報収集 ④環境配慮の実施 ・なお、作業踏圧による影響への配慮については、兄島陸産貝類保全対策で実施している環境配慮方法 に準じて、可能な限りの環境配慮を実施する。具体的には、陸産貝類の良好な生息環境であるビロウ やタコノキの落葉が堆積する箇所については、薄い堆積地であれば落葉を周囲に寄せ、厚く堆積する 箇所については、迂回する配慮を行う。 ・また、踏圧影響の軽減の観点からも、手撒き散布の有効性を検証し、可能であれば導入する。 ⑤事業評価 ・防除効果測定の評価を行うに当たり、活性の落ちる真夏を境に、春~夏まで、夏~秋までを、それぞ れ 8、12 月に評価する。 ・防除効果だけでなく、土壌動物の調査結果や、土壌への薬剤成分の残留状況から、環境影響について も検証する。 ⑥集落域から遺産区域内への新たな侵入・拡散防止 平成 28 年度の新たな外来種の侵入・拡散防止に関する地域課題 WG において、検討・実施体制を議論 し、実行的な取組を進める。 まずは、公共工事等における配慮については、分布の確認されていない場所にツヤオオズアリを運ん でしまうことのないよう、資材の保管や移動等についてリスクの高い方法は避けるなど、考え方を整理 し、運用を開始する。 (具体例) ・ツヤオオズアリの分布域の明示とともに、各事業者へ周知徹底 ・施工箇所(分布域外)で使用する資材は、分布域内での仮置きを行わず、入港後は速やかに施工箇所 へ移動 ・集落等分布域内にストックしてある仮設資材等を分布域外で使用する際には、あらかじめ入念に洗浄 し、ツヤオオズアリの付着がないことを確認してから使用 ⑦地域理解の促進 ・保全対象である陸産貝類の観察会などを開催し、保全上の価値並びにツヤオオズアリをはじめとした 外来種の特性や小笠原の生態系に侵入・拡散することの危険性などに関する普及啓発を進める。また、 小笠原自然情報センターだよりや村民だよりなどの広報誌等を活用し、新たな外来種の侵入・拡散防 止の対策と合わせて周知することで、地域全体の理解の底上げを図る。 ・ツヤオオズアリが侵入している農地からの拡散を防止するため、農業関係者への周知を図る。 ・観光利用のある場所での防除については、現場での周知も行う。 41 参考資料3 小笠原諸島における侵入・拡散防止に注意が必要な動物種リスト (平成 27 年度版) 平成28年3月 科学委員会 新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ 目次 1. リスト作成の背景 ................................................................................................................................................ 1 2. リストの目的と活用方針 .................................................................................................................................. 1 3. リストの選定過程 ................................................................................................................................................ 1 1) リスト原案の作成 ............................................................................................................................................ 2 2) リスト掲載種の精査 ....................................................................................................................................... 2 3) 精査結果 ............................................................................................................................................................ 3 4) リスト掲載種の見直しの必要性 ................................................................................................................ 3 4. 小笠原諸島における侵入・拡散防止に注意が必要な動物種リスト .............................................. 4 <ほ乳類>------------------------------------------------------------ 5 <鳥類>-------------------------------------------------------------- 6 <爬虫類><両生類>-------------------------------------------------- 8 <魚類>-------------------------------------------------------------- 9 <環形動物><有櫛動物><水生無脊椎動物>--------------------------- 15 <甲殻>------------------------------------------------------------- 16 <軟体動物>----------------------------------------------------------18 <クモ>---------------------------------------------------------------20 <昆虫<倍脚>--------------------------------------------------------21 1.リスト作成の背景 小笠原諸島においては、様々な侵略的外来種の侵入により世界遺産の価値の中心とな る固有の生態系が脅かされる例が散見されている。 平成 26 年度第 3 回「新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ」に おいては、「世界の侵略的外来種ワースト 100」に選定されているツヤオオズアリについ て、小笠原諸島に分布していることは認識されていたものの、その危険性が看過されて いたために適切な対応がなされぬまま分布の拡大を招いてしまったことが指摘された。 この反省から、リスクのある種を見逃さないための仕組み作り(早期発見、情報の収集 と蓄積の仕組み)が必要であるとの共通認識が持たれた。 このような経緯から、小笠原諸島へ侵入した場合に大きなリスクが想定される外来生 物の侵入の早期発見と個別監視に役立てるため、小笠原への侵入を注意・監視すべき動 物のブラックリストを作成することが、平成 27 年 7 月の同ワーキンググループで助言さ れた。 2.リストの目的と活用方針 本リストは、小笠原諸島において侵入・拡散が危惧される動物種リスト小笠原諸島に おいて、野生下で定着した場合に生態系、人の生命・身体、農林水産業に対し深刻な被 害を及ぼす種、又は及ぼすおそれのある種をリストアップし、掲載種の侵入の未然防止 及び侵入時の早期発見のための注意喚起を促すことを目的とする。 掲載種の侵入の未然防止を目的とした活用方針としては、掲載種の生態や最新の分布 情報を注視し、侵入の可能性が高くなった種については、導入の防止に向けた具体的な 対応を検討する。掲載種の侵入の早期発見を目的とした活用方針としては、種ごとの情 報シート等を作成・ウェブ公開し、主に動植物分野の専門家、自然ガイド及び行政関係 者が、新たに島内に侵入した種の監視のために用い、リスト掲載種の早期の発見及び対 応に役立てることを想定している。 なお、小笠原諸島の脆弱な生態系はいかなる外来種が侵入した場合においてもその影 響は測り知れず、極論を言えば、日本国内の在来種であっても、小笠原の在来種でない 全ての種は小笠原諸島内に持ち込みを阻止されるべきである。日本国内の他地域で既に 定着し大きな問題とはなっていない在来種でも、小笠原においては想定外の悪影響をも たらす可能性がある。本リストに掲載された種は、既に他の地域で生態系被害を及ぼし ている等、危険性が証明されている種を中心としており、本リストに非掲載の種が小笠 原諸島へ侵入した際のリスクが低いことを意図するものではない点に留意が必要である。 3.リストの選定過程 リストの選定は、平成27年10月から平成28年3月にかけて、以下の手順で行われた。 1 1)リスト原案の作成 以下に示す既存資料に掲載された種全てを、リストの原案としてリストアップした。な お、交雑種は除いた。また、微生物・線形動物は、侵入への注意を払うことが現実的では ないためリストから除いた。 表 1 リスト原案に含めた生物種の参照元 環境省,2015 年 5 月閲覧 「外来生物法による特定外来生物等一覧」「要注意外来生物一覧」 http://www.env.go.jp/nature/intro/index.html 日本生態学会,「日本の侵略的外来種ワースト 100」(日本生態学会編, 2002, 「外来種ハンドブック」) IUCN,2013「世界の侵略的外来種ワースト 100」(http://www.issg.org/database/species/search.asp?st=100ss) 環境省 2015 年 3 月 26 日「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」 2)リスト掲載種の精査 (1)種群ごとの専門家 リスト原案の掲載種は 449 種となり、これらを総じて一律に扱うのは困難と考えら れたため、特に注意すべき種の絞り込みを行うべく、各生物種群の専門家にリスト掲 載種の選定を依頼した。生物種群ごとの担当専門家を表 2 に示す。 また、小笠原諸島内への定着状況については、大林隆司氏(東京都小笠原支庁産業 課亜熱帯農業センター主任)及び堀越和夫氏(NPO法人小笠原自然文化研究所)に情報 をいただいた。 表 2 種群ごとの担当専門家 担当種群 ほ乳類 鳥類 爬虫類 両生類 魚類 脊索動物 環形動物 棘皮動物 有櫛動物 水生無脊椎動物 甲殻 軟体動物 クモ 昆虫 倍脚 担当専門家/ご所属 石井 信夫 川上 和人 戸田 光彦 戸田 光彦 佐々木 哲朗 佐々木 哲朗 佐々木 哲朗 佐々木 哲朗 佐々木 哲朗 佐々木 哲朗 佐々木 哲朗 千葉 聡 五箇 公一 五箇 公一 五箇 公一 東京女子大学 教授 森林総合研究所 主任研究員 一財)自然環境研究センター 同上 NPO 法人小笠原自然文化研究所 理事 同上 同上 同上 同上 同上 同上 東北大学東北アジア研究センター 教授 国立環境研究所主席研究員 同上 同上 (2)選定の視点 選定にあたっては以下の3点を基準とし、いずれかに当てはまるものをリストに掲 載することとした。 2 ⅰ)小笠原へ侵入した場合に特に重大な生態系被害を及ぼすと予想されるもの ⅱ)小笠原へ侵入する可能性が高いもの ⅲ)生態系被害のほか、人体や経済・産業に大きな影響を及ぼすもの 平成 27 年 12 月 9 日に開催された科学委員会下部新たな外来種の侵入・拡散防止に 関するワーキンググループでは、選定過程のリスト(案)について、選定の視点を明 確にした上で見直しを行うべきとの指摘があった。 特に、基準ⅰ)の「重大な生態系被害」については、海洋島小笠原諸島の脆弱な生 態系の状況をふまえ、具体的には以下の 3 点を念頭におき、選定の見直しを行った。 選定基準ⅰ) 「重大な生態系被害」の具体的内容 ①小笠原侵入時に、遺伝的撹乱を起こす恐れのあるもの ②小笠原固有種に対する捕食圧・競合をもたらすもの ③(在来種への影響は不明でも)一度定着すると高密度化するもの リスト掲載種の見直しと同時に、元のリストに掲載されていなかった種でも小笠原 において危険性が懸念される種についても追記がなされた。 3)精査結果 精査の結果、280 種がリスト掲載種に選定された。掲載種数を表 3 に示す。 表 3 種群と担当専門家 種群 ほ乳類 鳥類 爬虫類 両生類 魚類 脊索動物 環形動物 棘皮動物 有櫛動物 水生無脊椎動物 甲殻 軟体動物 クモ 昆虫 倍脚 合計 掲載種数 原案 選定後 65 20 50 30 84 1 2 1 1 1 21 57 15 101 1 449 22 16 4 3 75 0 2 0 1 1 18 30 8 99 1 280 4)リスト掲載種の見直しの必要性 リスト掲載種の生態情報、小笠原へ侵入状況、他地域での被害情報は時間の経過と共 3 に変化するため、リスト掲載種は随時見直しを行う。 4.小笠原諸島における侵入・拡散防止に注意が必要な動物種リスト 表 4 小笠原への侵入状況・駆除対象の情報参照元 東京都港湾局・(株)プレック研究所, 1997,「 平成9年度小笠原空港環境現況調査報告書」 東京都港湾局・(株)プレック研究所, 1999, 「平成 11 年度小笠原空港環境現況調査報告書」 東京都港湾局・(株)プレック研究所, 2001, 「 平成 12 年度小笠原空港環境現況補足調査及び環境影響評価書作成委託報告書」 東京都総務局・日本工営株式会社, 1994, 「小笠原空港環境現況調査報告書」 国土交通省都市・地域整備局,2005, 「平成 16 年度 小笠原諸島における世界自然遺産登録のための外来生物対策基礎調査 報告書」 ※4【生態的特性】欄は、以下の情報を参考とした。 ●外来生物法HP: 環境省「外来生物法ホームページ」(WEB提供資料) http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/index.html http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/caution/index.html ●侵入DB: (独)国立環境研究所「侵入生物データベース」(WEB提供資料) http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/ ●GISD: IUCN 種の保存委員会 侵入種専門家グループ(ISSG) 「GLOBAL INVASIVE SPECIES DATABASE」 (WEB提供資料 http://www.issg.org/database/welcome/ ●外来種HB: 日本生態学会編「外来種バンドブック」(2002) ●日本の外来生物: 自然環境研究センター 編 「日本の外来生物」(2008) 4 <ほ乳類>(22 種) 和名 学名 5 フクロギツネ アカゲザル カニクイザル タイワンザル アナウサギ カイウサギ クリハラリス フィンレイソンリス ハツカネズミ クマネズミ Trichosurus vulpecula Macaca mulatta Macasa fascicularis Macaca cyclopis Oryctolagus cuniculus Oryctolaugs cuniculus Callosciurus erythraeus Sciurus finlayosonii Mus musculus Rattus rattus ドブネズミ ニホンイタチ チョウセンイタチ ノイヌ フイリマングース ジャワマングース ノネコ アカシカ ニホンジカ キョン ブタ ヤギ Rattus norvegicus Mustela itasti Mustela sibirica Canis lupus Herpestes auropunctatus Herpestes javanicus Felis silvestris catus Cervus elaphus Cervus nippon Muntiacus reevesi Sus scrofa domesticus Capra hircus (網掛け:既定着種) 特 定 生態系 外来 被害 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 被害が予想される保全対象種(例) 意図的 非意図的 人体・経済・ 備考 産業影響 樹木、陸鳥の卵・ヒナ 植物 植物 樹木 樹木 ● ● ● ● ● ● ● ● 植物、鳥類の卵・ヒナ、小動物(陸貝な ど) 鳥類、トカゲ類、昆虫類 鳥類、トカゲ類、昆虫類 鳥類、トカゲ類、昆虫類 鳥類、トカゲ類、昆虫類 鳥類、トカゲ類 植物 植物 植物 ウミガメ、掘り起こしによる植生改変 植物 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 裸地化による土壌流出 裸地化による土壌流出 父島、母島、弟島に生息 聟島列島、父島列島及び 母島に生息 母島列島に生息 ● ● 父島・母島に生息 ● ● ● ● ● 弟島で根絶 父島に生息 ■意図的な持ち込みへの対応 島内居住者による飼育用の持ち込み、観光客による一時的な持ち込みに注意が必要である。可能な限り持ち込みは控えていただくこと、ペッ トとして飼育する場合は適正飼養、終生飼養を行うことの啓発が重要。 ■非意図的な持ち込みへの対応 コンテナ等への混入及び属島渡島時の荷物への混入に注意が必要である。 <鳥類>(16 種) 和名 学名 カナダガン ブランタ属の全種(ただし、カナダガン B. canadensis、シジュウカラガン B. huhutchinsii leucopareia、ヒメシジュウカラガ ン B. h. minima、コクガン B. bernicla を除く) コブハクチョウ コリンウズラ Branta canadensis Branta spp. 生態系 被害 被害が予想される保全対象 種(例) 意 図 的 ● ● 水生生物 水生生物 ● ● 捕食、水質悪化 捕食、水質悪化 Cygnus olor Colinus virginianus ● ● ● ● 捕食、水質悪化 インドクジャク Pavo cristatus ● コウライキジ Phasianus colchicus karpowi Columba livia ● ● 水生生物 陸産貝類、地表性動 物、土壌動物 陸産貝類、地表性動 物、土壌動物 陸産貝類、地表性動 物、土壌動物 カラスバト、ノスリ Zosterops palpebrosus、Z. japonicus simplex など ● イオウトウメジロ ● カワラバト (レースバト) 特 定 外来 ○ 非 意 図的 人体・経 済・産業 影響 ● ● ● ● ● ● カラスバト:競争、病気感染の 可能性。経済:農業被害の可能 性。ノスリの行動が変化する恐 れもある。 年に数羽ほど飛来するため、そ の度捕獲し内地送付している。 火山列島の在来メジロに対し てのみ影響:交雑、競争、感染。 ● ● 農業被害 ● ● ● ● ● ● ● ● 競争、外来植物拡散、農業被害 競争、外来植物拡散、農業被害 競争、外来植物拡散、農業被害 競争、外来植物拡散、農業被害。 迷鳥として、時折飛来する。 6 外国産メジロ(ハイバラメジロ、ヒメメジロな ど):Z. japonicus の亜種、ヒメメジロ(Z. japonicus simplex )、ハイナンメジロ (Z. j. hainanus )キクチメジロ (Z. j. batansis )、 フィリピンメジロ(Z. j. meyeni ) を含む。在 来メジロ(Z. j. japonicus 、 Z. j. steunegeri 、Z. j. alani 、 Z. j. insularis 、 Z. j. loochooensis 、Z. j. daitoensis) は除く ワカケホンセイインコ シリアカヒヨドリ シロガシラ インドハッカ ホシムクドリ Psittacula krameri manillensis Pycnonotus cafer Pycnonotus sinensis Acridotheres trisitis Sturnus vulgaris ● ● ● ● 小型陸鳥、在来植物 小型陸鳥、在来植物 小型陸鳥、在来植物 小型陸鳥、在来植物 備考 和名 学名 特定 外来 生態系 被害 被害が予想される保全対象 種(例) 意 図 的 ガビチョウ ソウシチョウ チメドリ科の他の全種 Garrulax canorus Leiothrix lutea ○ ○ ● ● ● 小型陸鳥 ウグイス、在来植物 小型鳥類 ● ● ● 非意 図的 人体・経 済・産業 影響 備考 競争 競争、外来植物拡散、農業被害 競争 ■意図的な持ち込みへの対応 島内居住者による飼育用の持ち込み、観光客による一時的な持ち込みに注意が必要である。可能な限り持ち込みは控えていただくこと、ペッ トとして飼育する場合は適正飼養、終生飼養を行うことの啓発が重要。 ■非意図的な持ち込みへの対応 レースバトの飛来個体に対しては適宜内地搬送等の処置が必要である。 7 <爬虫類>(4 種)<両生類>(3 種) 和名 学名 グリーンアノ ール アカミミガメ Anolis carolinensis 8 生 態 系 被 害 被害が予想される保 全対象種(例) 意図 的 非意 図的 ● 樹上性の昆虫類 ● ● Trachemys scripta ● ● オキナワキノ ボリトカゲ Japalura polygonata polygonata ● グリーンイグ アナ オオヒキガエ ル ヌマガエル Iguana iguana ● 淡水域から汽水 域の植物、甲殻 類、軟体動物、昆 虫、魚類など 樹上性の昆虫類 (アリ類等)、爬虫 類 各種の植物、大 型昆虫等 地表性の小動 物、捕食者 湿地性の昆虫 類、クモ類、軟体 動物等 主に樹上性の昆 虫類 シロアゴガエ ル 特 定 外来 ○ Bufo marinus (Rhinella marina) Fejervarya kawamurai ○ Polypedates leucomystax ○ ● ● ● ● 人体・ 経済・ 産 業 影響 備考 父島、母島のほか、兄島に定着。他の属島への侵入が懸念される。 国内でもっとも多く輸入・流通している爬虫類。小笠原の水辺に遺棄された 場合、定着、繁殖が予測される。島内で逃亡個体が山域に入っており、定着 している可能性がある。 ● ● ● ● ● ● ● 奄美群島及び沖縄諸島に原産し、九州南部に侵入している。小笠原に持ち 込まれた場合、定着する可能性が高い。 島内で幼体の飼育事例、逸走成の捕獲例が複数あり、卵巣に発達卵胞を持 つメスも含まれていた。 父島、母島に定着。兄島滝之浦での発見事例があったが、その後 2 年は見 つかっておらず、根絶したと考えられる。 本州中部から沖縄諸島に広く分布し、近年、関東地方に定着して広がってい ることから、混入しやすいと考えられる。 小笠原でもっとも警戒すべき爬虫両生類。近年、南西諸島で分布域を急速 に拡大させている特定外来生物。混入しやすい種であり、小笠原諸島に侵 入すれば定着し分布域を急速に拡大するおそれが高い。 ■意図的な持ち込みへの対応 島内居住者による飼育用の持ち込み、観光客による一時的な持ち込みに注意が必要である。可能な限り持ち込みは控えていただくこと、ペッ トとして飼育する場合は適正飼養、終生飼養を行うことの啓発が重要。 ■非意図的な持ち込みへの対応 コンテナ等への混入及び属島渡島時の荷物への混入に注意が必要である。 <魚類>(75 種) 和名 学名 ノーザンパイクとア ムールパイクを除く カワカマス属の全 種 ソウギョ Esox spp. 特 定 外来 生態 系被 害 ● 被害が予想される保全対象種 (例) オガサワラヨシノボリ 意図的 ● 9 ● キンギョ Ctenopharyngondon idellus Carassius auratus レッドホースミノー コイ Cyprinella lutrensis Cyprinus carpio ● ● パールダニオ ゼブラダニオ ハクレン Danio albolineatus Danio rerio Hypophthalmichthys molitrix Aristichthys nobilis Mylopharyngodon piceus Opsarichthys uncirostris uncirostris Pseudorasbora parva Tanichthys albonubes Misgurnus anguillicaudatus コクレン アオウオ ハス モツゴ アカヒレ ドジョウ ● ● ● ● ● ● 非 意 図 的 人 体 ・ 経 済 ・ 産業影 響 備考 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・繁殖は低水温下で行われるので個体数増加のリスクは低 い。 夏祭り用にキンギョを島内に移送していたが、現在は止めてい る。放逐された個体が、八瀬川で大型化したものが目撃されて いる。 時雨ダム、小曲ダム、連珠ダム、乳房ダムでは、生息が確認さ れている。境浦ダムは不明、大谷ダムも未確認。 ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ● ● ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ● ● ● ・カツオ飼料として導入されたが、1975 年以降確認記録が無い ため、定着後に絶滅した可能性がある。 ・食用として島内で生きたまま販売されることがある。 和名 学名 カラドジョウ Paramisgurnus dabryanus Pseudobagrus fulvidraco Tachysurus nudiceps Ameiurus nebulosus Ameiurus spp. 特 定 外来 生態 系被 害 被害が予想される保全対象種 (例) 意図的 人 体 ・ 経 済 ・ 産業影 響 備考 ● オガサワラヨシノボリ ● ・小笠原にはドジョウが自然分布していないため、遺伝的攪乱 の問題は無い。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ● ● オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 Ictalurus spp. ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 Pylodictis olivaris ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 Clarias batrachus ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 Clarias fuscus Pterygoplichthys anisitsi ● ● ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・付着藻類食のため、小笠原の底生動物や藻類食魚類との餌 の競合が心配される。 マダラロリカリア Pterygoplichthys disjunctivus ● ● ・付着藻類食のため、小笠原の底生動物や藻類食魚類との餌 の競合が心配される。 オリノコセイルフィ ンキャットフィッシュ Pterygoplichthys multiradiatus ● ● ・付着藻類食のため、小笠原の底生動物や藻類食魚類との餌 の競合が心配される。 アマゾンセイルフィ ンキャットフィッシュ Pterygoplichthys pardalis ● オガサワラヨシノボリ オガサワラカワニナ、ル リボウズハゼ、ボウズハ ゼ、ナンヨウボウズハゼ オガサワラカワニナ、ル リボウズハゼ、ボウズハ ゼ、ナンヨウボウズハゼ オガサワラカワニナ、ル リボウズハゼ、ボウズハ ゼ、ナンヨウボウズハゼ オガサワラカワニナ、ル リボウズハゼ、ボウズハ ゼ、ナンヨウボウズハゼ ● ・付着藻類食のため、小笠原の底生動物や藻類食魚類との餌 の競合が心配される。 コウライギギ ギギ 10 ブラウンブルヘッド Ameiurus 属の他の 全種 チャネルキャットフ ィッシュ Ictalurus 属の他の 全種 フラットヘッドキャッ トフィッシュ ウォーキングキャッ トフィッシュ ヒレナマズ スノープレコ Ictalurus punctatus ● 非 意 図 的 ○ 11 和名 学名 ヨーロッパナマズ カダヤシ Silurus glanis Gambusia affinis ガンブシア・ホルブ ローキ Gambusia holbrooki ● グッピー Poecilia reticulata ● ソードテール カムルチー コウタイ タイワンドジョウ オヤニラミ Xiphophorus hellerii Channa argus Channa asiatica Channa maculata Coreoperca kawamebari Lateolabrax sp. Lates niloticus タイリクスズキ ナイルパーチ アカメ科の全種 ブルーギル コクチバス オオクチバス サンフィッシュ科の 他の全種 Lepomis macrochirus Micropterus dolomieu Micropterus salmoides 特 定 外来 生態 系被 害 ● 被害が予想される保全対象種 (例) オガサワラヨシノボリ ○ 意図的 ● ● 非 意 図 的 人 体 ・ 経 済 ・ 産業影 響 備考 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・生息域では高密度化しているため、何らかの生態系影響の 可能性があるが、実態は不明。 ・小笠原にはメダカが自然分布しないため、この類の競合や駆 逐の問題は無い。 ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ・小笠原にはメダカが自然分布しないため、この類の競合や駆 逐の問題は無い。 ・生息域では高密度化しているため、何らかの生態系影響の 可能性があるが、実態は不明。 ・小笠原にはメダカが自然分布しないため、この類の競合や駆 逐の問題は無い。 ● ● ● ● オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ ● ● ● ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ○ ● ● ● ● オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ ● ● ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ○ ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ○ ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 12 和名 学名 コンビクトシクリッド Cichlasoma nigrofasciatum ● ブルーティラピア Oreochromis aureus ● ナイルティラピア Oreochromis niloticus ● スポッテッドティラ ピア Tilapia mariae ● ジルティラピア Tilapia zillii ● モザンビークテラピ ア Oreochromis mossambicus ● ナンダス科の全種 ホワイトパーチ ホワイトバス ストライプトバス モロネ科の他の全 種 Gadopsis 属の全種 マーレーコッド Maccullochella 属 の他の全種 Morone americana Morone chrysops Morone saxatilis Gadopsis spp. Maccullochella peelii Maccullochella spp. 特 定 外来 ○ ○ 生態 系被 害 被害が予想される保全対象種 (例) 意図的 ● ミナミサルハゼ、タネカワ ハゼ、オガサワラヨシノ ボリ ミナミサルハゼ、タネカワ ハゼ、オガサワラヨシノ ボリ ● ● ● ● ● ● ● ミナミサルハゼ、タネカワ ハゼ、オガサワラヨシノ ボリ ミナミサルハゼ、タネカワ ハゼ、オガサワラヨシノ ボリ ミナミサルハゼ、タネカワ ハゼ、オガサワラヨシノ ボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ ● ● ● ● 非 意 図 的 人 体 ・ 経 済 ・ 産業影 響 備考 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・定着した場合、高密度化する恐れがあり、また、なわばり行 動をとるため在来生物への影響が心配される。 ・定着した場合、高密度化する恐れがあり、また、なわばり行 動をとるため在来生物への影響が心配される。 ・小笠原の記録はモザンビークティラピアとの混同と考えられ、 未定着の可能性がある。 ・定着した場合、高密度化する恐れがあり、また、なわばり行 動をとるため在来生物への影響が心配される。 ・定着した場合、高密度化する恐れがあり、また、なわばり行 動をとるため在来生物への影響が心配される。 ● ・定着した場合、高密度化する恐れがあり、また、なわばり行 動をとるため在来生物への影響が心配される。 ● ・定着水域では高密度化しており、また、なわばり行動をとるた め在来生物への影響が心配されるが、実態は不明。 ● ● ● ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 和名 学名 ゴールデンパーチ Macquaria 属の他 の全種 Percichthys 属の 全種 ラッフ Macquaria ambigua Macquaria spp. ● ● オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 Percichthys spp. ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 Gymnocephalus cernuus Gymnocephalus spp. Perca fluviatilis Perca spp. ● ● ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 13 Gymnocephalus 属 の全種 ヨーロピアンパーチ Perca 属の他の全 種 パイクパーチ Sander 属の他の全 種 Zingel 属全種 ケツギョ コウライケツギョ ケツギョ属の全種 ラウンドゴビー インディアングラス フィッシュ ガー科の全種 ペヘレイ Sander lucioperca Sander spp. Zingel spp. Siniperca chuatsi Siniperca scherzeri Siniperca spp. Neogobius melanostomus Pseudambassis ranga Lepisosteidae gen. spp. Odontesthes bonariensis 特 定 外来 生態 系被 害 被害が予想される保全対象種 (例) 意図的 非 意 図 的 人 体 ・ 経 済 ・ 産業影 響 備考 ● オガサワラヨシノボリ ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ○ ● ● オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ○ ● ● オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ● ● ● ● ● オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ オガサワラヨシノボリ ● ● ● ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ○ ○ ● ● オガサワラヨシノボリ ● ● ・魚食傾向が強く、水生生物の補食被害が心配される。 ■意図的な持ち込みへの対応 島内居住者による飼育用の持ち込み、観光客による一時的な持ち込みに注意が必要である。可能な限り持ち込みは控えていただくこと、ペッ トとして飼育する場合は適正飼養、終生飼養を行うことの啓発が重要。 島内の一部に既に定着している種(グッピー、ヌノメカワニナ等)については、他の河川・水場への拡散がなされないよう普及啓発が必要で ある。 14 <環形動物(2種)・有櫛動物(1種)・水生無脊椎動物(1種)> 和名 学名 カサネカンザシ Hydroides elegans Ficopomatus enigmaticus Mnemiopsis leidyi Cercopagis pengoi カニヤドリカンザシ ツノクラゲの一種 セルコパジス・ペンゴ イ(オオメミジンコ科の 一種) 特定外来 生態系 被害 ● 被害が予想される保全 対象種(例) 非 意 図的 人体・経済・産業影響 備考 ● ● ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ● ● ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ● ● ● ・定着した場合、大量発生する恐れがある。 ● ● ● オハグロガキモド キ、海産固着動物 オハグロガキモド キ、海産固着動物 意 図 的 ■非意図的な持ち込みへの対応 船体への付着、バラスト水等に混入し持ち込まれる危険性がある。おがさわら丸での対策は未検討。 ・定着した場合、大量発生する恐れがある。 15 <甲殻類(18 種)> 和名 学名 特 定 生 態 被害が予想される保全対象 意 図 非 意 人 体 ・ 外来 系 被 種(例) 的 図的 経 済 ・ 害 備考 産業影 響 キラーシュリンプ (ディケロガマル ス・ヴィロースス) フロリダマミズヨ コエビ Astacus 属の全 種 ウチダザリガニ 16 ザリガニ科の他 の全種 ラスティークレイ フィッシュ アメリカザリガニ ミステリークレイ フィッシュ アメリカザリガニ 科の他の全種 Cherax 属の全種 ミナミザリガニ科 の他の全種 チチュウカイミド リガニ Dikerogammarus villosus ● ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ・ボートへの付着、釣り人、鳥などによって運ばれる Cragonyx floridanus Astacus spp. ● ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ・バラスト水への混入・養殖魚や餌への混入 ・植物の捕食による生息環境破壊、底生動物の補食による被害が心 配される。 ・植物の捕食による生息環境破壊、底生動物の補食による被害が心 配される。 ・植物の捕食による生息環境破壊、底生動物の補食による被害が心 配される。 ・植物の捕食による生息環境破壊、底生動物の補食による被害が心 配される。 ・植物の捕食による生息環境破壊、底生動物の補食による被害が心 配される。・1979 年に東京水産大学の調査で大村川から記録されて いる。一時的に定着していた可能性がある。 ・植物の捕食による生息環境破壊、底生動物の補食による被害が心 配される。 ・単為生殖するため非常に危険。 ・植物の捕食による生息環境破壊、底生動物の補食による被害が心 配される。 ・植物の捕食による生息環境破壊、底生動物の補食による被害が心 配される。 ・植物の捕食による生息環境破壊、底生動物の補食による被害が心 配される。 ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ・バラスト水により拡散。 Pacifastacus leniusculus ○ ● 固有トンボ類、底生動 物 固有トンボ類、底生動 物 固有トンボ類、底生動 物 固有トンボ類、底生動 物 固有トンボ類、底生動 物 ● ○ ● ● 固有トンボ類、底生動 物 ● ● 固有トンボ類、底生動 物 固有トンボ類、底生動 物 固有トンボ類、底生動 物 海産底生動物等 ● ● Orconectes rusticus Procambarus clarkii ○ ● Procambarus fallax Cherax spp. ● ○ ● ● Carcinus aestuarii ● ● ● ● ● ● ● ● 和名 学名 特 定 生 態 被害が予想される保全対象 意 図 非 意 人 体 ・ 外来 系 被 種(例) 的 図的 経 済 ・ 害 備考 産業影 響 ヨーロッパミドリ ガニ Carcinus maenas チュウゴクモクズ ガニ Eriocheir sinensis モクズガニ属の オガサワラモクズ ガニを除く他の全 種 タテジマフジツボ Eriocheir spp. 17 アメリカフジツボ ヨーロッパフジツ ボ Amphibalanus amphitrite Amphibalanus eburneus Amphibalanus improvisus ● 海産底生動物等 ○ ● ○ ● オガサワラモクズガ ニ、オガサワラカワニ ナ オガサワラモクズガ ニ、オガサワラカワニ ナ ● ● ● オハグロガキモドキ、 海産固着動物 オハグロガキモドキ、 海産固着動物 オハグロガキモドキ、 海産固着動物 ● ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ・船体への付着、バラスト水、水産物種苗や釣り餌を運ぶ海藻への混 入により拡散 ・オガサワラモクズガニの遺伝的攪乱が懸念される。 ・淡水貝類の捕食が心配される。 ● ● ・オガサワラモクズガニの遺伝的攪乱が懸念される。 ・淡水貝類の捕食が心配される。 ● ● ● ● ● ● ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ・バラスト水により拡散。 ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ・船底への付着あるいは種ガキへ付着 ・定着した場合、高密度化する恐れがある。 ・船底への付着あるいは種ガキへ付着 ■意図的な持ち込みへの対応 島内居住者による飼育用の持ち込み、観光客による一時的な持ち込みに注意が必要である。可能な限り持ち込みは控えていただくこと、ペッ トとして飼育する場合は適正飼養、終生飼養を行うことの啓発が重要。 ■非意図的な持ち込みへの対応 バラスト水や、養殖魚や餌へ混入して持ち込まれる危険性がある。おがさわら丸の対策は未検討。 <軟体動物(30 種)> 和名 学名 特 定 生 態 被害が予想される保全対 意 図 外来 系 被 象種(例) 的 非意図的 害 影響 18 Limnoperna fortunei ○ ● オガサワラカワニナ ● カワヒバリガイ属の全種 Limnoperna spp. ○ ● オガサワラカワニナ ● コウロエンカワヒバリガイ Xenostrobus securis ● オガサワラカワニナ ● クワッガガイ カワホトトギスガイ イガイダマシ Dreissena bugensis Dreissena polymorpha Mytilopsis sallei ● ● ● オガサワラカワニナ オガサワラカワニナ 汽水域の動物 ● ● ● タイワンシジミ種群 Corbicula fluminea ● 淡水の動物 ● チャコウラナメクジ マダラコウラナメクジ スクミリンゴガイ Lehmannia valentiana Limax maximus Pomacea canaliculata ● 淡水の動物 ● ● ● コモチカワツボ ● オガサワラカワニナ ● オオクビキレガイ ナメクジ コウラナメクジ科の1種 オナジマイマイ ヤマヒタチオビガイ Potamopyrgus antipodarum Achatina (Lissachatina) fulica Rumina decollata Meghimatium bilineatum Limax sp. Bradybaena similaris Euglandina rosea Sinoennea 属全種 Sinoennea spp. アフリカマイマイ ● ○ 備考 済・産業 カワヒバリガイ ○ ○ 人体・経 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 固有陸貝 ● ● ● ● ● ● ● 固有陸貝 ● ● 水流、ボートなどに付着して移動、バラ スト水 水流、ボートなどに付着して移動、バラ スト水 バラスト水、幼生の自然分散、船体へ の付着等 バラスト水 バラスト水 八瀬川河口域など 輸入木材への付着、バラスト水 投棄、水鳥による分布拡大、ホタル保 全のため放流されたカワニナに付着。 輸入シジミ類の取り扱いに注意 物資への付着 物資への付着 土壌混入、飼育個体の逸出、釣餌用 具の放置、雑草防除に利用している農 家による放飼 輸入魚類に混入 養殖個体の逸出、農作物や乗り物へ の付着 島内拡散の防止 農業害虫 島内拡散の防止 島内拡散の防止 島内拡散の防止 父島ではウズムシにより低密度化。母 島への侵入は非常に危険。 物資への付着 和名 学名 特 定 生 態 被害が予想される保全対 意 図 外来 系 被 象種(例) 的 非意図的 Platydemus manokwari Euhadra spp Satsuma spp ○ 備考 済・産業 害 ネジレガイ科の全種 Haplotrematidae 科の全種 Oleacinidae 科の全種 Spiraxidae 科の他の全種 ニューギニアヤリガタリクウズムシ マイマイ属の各種 琉球列島産ニッポンマイマイ属の 各種 人体・経 影響 ● ● ● ● ● ● ● 固有陸貝 固有陸貝 固有陸貝 固有陸貝 固有陸貝 陸貝 陸貝 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 19 パンダナマイマイ Bradybaena circulus ● 陸貝 ● ヒメオカモノアラガイ(リュウキュウ ヒメオカモノアラガイ、オキナワヒメ オカモノアラガイ) アシヒダナメクジ なし(バイパリウム・バグム) Neosuccinea lyrata ● 陸貝 ● Laevicaulis alte Bipalium vagum ● ● 陸貝 陸貝 ● ● ● ヌノメカワニナ Melanoides tuberculata ● オガサワラカワニナ ● ● 物資への付着 物資への付着 物資への付着 物資への付着 諸島内拡散の防止 八丈島などに侵入後、爆発的に増加 八丈島ではオオシママイマイが爆発的 増加。父島ではミヤコマイマイが定 着、増加しつつある ウスカワマイマイやオナジマイマイと生 息環境と生態的特性が類似 固有オカモノアラガイへの影響 父島、母島に定着か? 父島に定着、増加のきざし 南西諸島からの土付き苗に付着して 移動。母島で部分的に分布。 父島の大村川、清瀬川、奥村川、吹上 川、八瀬川の 5 水系に定着。定着地で はオガサワラカワニナからの置き換わ りが進行中。 ■意図的な持ち込みへの対応 島内居住者による飼育用の持ち込みの他、産業目的での持ち込みに注意が必要である。可能な限り持ち込みは控えていただくこと、ペットと して飼育する場合は適正飼養、終生飼養を行うことの啓発が重要。 ■非意図的な持ち込みへの対応 バラスト水や、物資への付着により持ち込まれる危険性がある。 資材に付着して持ち込まれるものについては、普及啓発の他、チェック体制の整備が求められる。 小笠原諸島内で局所的に分布が確認されているもの(ニューギニアヤリガタリクウズムシ、Bipalium vagum、アシヒダナメクジ等)については、諸島内拡散の 防止対策が必要である。 <クモ>(8 種) 和名 学名 特定外来 生態系被 被害が予想され 意 図 非意図 人体・経済・産 害 る保全対象種 的 的 業影響 備考 (例) トマトサビダニ ハイイロゴケグモ セアカゴケグモ アカオビゴケグモ クロゴケグモ ゴケグモ属の他の全種 キョクトウサソリ科の全種 サソリ目に含まれる全科全属全種 Aculops lycopersici Latrodectus geometricus Latrodectus hasseltii Latrodectus indicus Latrodectus mactans Latrodectus spp. ● ● ● ● ● ● ○ ○ ○ ○ ● ● ● 植物に付着して移動 物資に付着して移動 物資に付着して移動 物資に付着して移動 物資に付着して移動 物資に付着して移動 飼育用、食用で持ち 込まれる 飼育用、食用で持ち 込まれる ■意図的な持ち込みへの対応 20 飼育用・食用での持ち込みを控えるよう、注意喚起が必要である。ペットとして飼育する場合は適正飼養、終生飼養を行うことの啓発が重要。 ■非意図的な持ち込みへの対応 おがさわら丸及びははじま丸で持ち込まれる植物・物資への付着の有無をチェックする体制整備が求められる。 <昆虫>(99 種)<倍脚類>(1 種) 和名 学名 特 定 生態系 被害が予想さ れる 意 図 非 意 人体・経 外来 被害 保全対象種(例) 的 図的 済・産業 備考 影響 21 チャバネゴキブリ ワモンゴキブリ イエシロアリ Blattella germanica Periplaneta americana Coptotermes formosanus ● ● ● ● ● ● ミカンキイロアザミウマ Frankliniella occidentalis ● ● クロトンアザミウマ チャノキイロアザミウマ ミナミキイロアザミウマ ネギアザミウマ ガジュマルクダアザミウマ アオバハゴロモ クマゼミ Heliothrips haemorrhoidalis Scirtothrips dorsalis Thrips palmi Thrips tabaci Gynaikothrips ficorum Geisha distinctissima Cryptotympana facialis ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● クロイワニイニイ Platypleura kuroiwae ● ギンネムキジラミ ワタアブラムシ キナラ・カプレッシ(オオアブラムシの一種) モモアカアブラムシ シルバーリーフコナジラミ タバココナジラミ オンシツコナジラミ ヤノネカイガラムシ カンシャコバネナガカメムシ カブトムシ本土亜種 Heteropsylla cubana Aphis gossypii Cinara cupressi Myzus persicae Bemisia argentifolii Bemisia tabaci Trialeurodes vaporariorum Unaspis yanonensis Caverelius saccharivorus ● ● ● ● ● ● ● ● ● Trypoxylus dichotomus septentrionalis ● ● ● ● ● ● ● ● ● 船舶・飛行機に混入 船舶・飛行機に混入 木材、根覆い、鉢植え・木 製ボートに混入 植物体の移動、風による 分散で拡散 沖縄より導入した街路樹 から発生も非定着 沖縄より導入した街路樹 から発生も非定着。 気流による侵入 侵入したが、定着か不明 侵入したが、定着か不明 輸入植物への付着 観賞用植物の輸入 輸入植物への付着 飼育用 和名 学名 特 定 生態系 被害が予想さ れる 意 図 非 意 人体・経 外来 被害 保全対象種(例) 的 図的 済・産業 備考 影響 Dynastinae gen. spp. テナガコガネ属の全種 クモテナガコガネ属の全種 ヒメテナガコガネ属の全種 ハイイロハナムグリ サカイシロテンハナムグリ Cheirotonus spp. Euchirus spp. Propomacrus spp. Protaetia fusca Protaetia orientalis sakaii リュウキュウツヤハナムグリ Protaetia pryeri ヤマトシリグロハネカクシ クワガタムシ科 ヒメアカカツオブシムシ Lucanidae ● ○ ○ ○ 飼育用。父島でアトラスオ オカブトの記録あり(非定 着) 飼育用 飼育用 飼育用 近年減少 樹木等の移動に伴い、土 中の幼虫が持ちこまれ る。定着か不明 園芸植物などへの混入の 可能性が指摘されてい る。 ・八丈島と小笠原の往復 便の船内で発見された記 録がある。 ● ● ● ● ● ● 22 カブトムシ全種 Astenus chloroticus ● ● Trogoderma granarium ● ● ● ● ● ● ツヤハダゴマダラカミキリ Epiachna varivestis Epilachna vigintioctopunctata Anoplophora glabripennis クビアカツヤカミキリ(クロジャコウカミキリ) Aromia bungii ● ツシマムナクボカミキリ フェモラータオオモモブトハムシ Cephalallus unicolor Sagra femorata ● ● インゲンテントウ ニジュウヤホシテントウ ● ● 飼育用 航空機、旅行者による非 意図的な持ち込み、船で 運ばれる穀物に混入 定着?(時々発生) 苗木の輸入、コンテナなど 硬木のパッケージ素材の 移動 輸入貨物や木製梱包材に 随伴して侵入する 定着か不明 和名 学名 特 定 生態系 被害が予想さ れる 意 図 非 意 人体・経 外来 被害 保全対象種(例) 的 図的 済・産業 備考 影響 アリモドキゾウムシ イモゾウムシ アルファルファタコゾウムシ イネミズゾウムシ Cylas formicarius Euscepes postfasciatus Hypera postica Lissorhoptrus oryzophilus カンショオサゾウムシ Rhabdoscelus obscurus 固有種ノヤシへ の食害 23 ムネアカセンチコガネ科、マンマルコガネ科、ホソマグ ソクワガタ科、センチコガネ科、ヒゲブトハナムグリ 科、ニセコブスジコガネ科、アツバネコガネ科、クワガ タムシ科、アカマダラセンチコガネ科、クロツヤムシ 科、フユセンチコガネ科、コガネムシ科、コブスジコガ ネ科の全種 ガジュマルコバチ Eupristina verticillata アシナガキアリ Anoplolepis gracilipes アルゼンチンアリ Linepithema humile ツヤオオズアリ Pheidole megacephala ヒアリ Solenopsis invicta ○ ● アカカミアリ Solenopsis geminata ○ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 物資等への付着 輸入乾草への混入 輸入物資に付着。偏西風 による成虫の飛翔 ● ● ● ○ ● ● ●昆虫類、陸産 貝類、オガサワ ラトカゲ ●昆虫類、陸産 貝類、オガサワ ラトカゲ ●昆虫類、陸産 貝類、オガサワ ラトカゲ ●昆虫類、陸産 貝類、オガサワ ラトカゲ ●昆虫類、陸産 貝類、オガサワ ラトカゲ ● 植物体の導入に伴って侵 入 土、木材、車輌等の移動 ● 輸入物資に付着 ● 船、陸上交通、機械類の 輸送、ガーデン廃棄物、庭 の植物から拡散 輸入物資に付着 ● ● ● ● 輸入物資に付着 硫黄島からの侵入に注意 が必要 和名 学名 特 定 生態系 被害が予想さ れる 意 図 非 意 人体・経 外来 被害 保全対象種(例) 的 図的 済・産業 備考 影響 24 コカミアリ Wasmannia auropunctata チャイロネッタイスズバチ ナンヨウチビアシナガバチ ツマアカスズメバチ Delta pyriforme subsp. Ropalinda marginata Vespa velutina キオビクロスズメバチ Vespa vulgaris ● セイヨウミツバチ Apis mellifera ● アフリカミツバチとその交雑個体群(アフリカ化ミツバ チ) Apis mellifera scutellata ● アイヌヒメマルハナバチ アカマルハナバチ ウスリーマルハナバチ ウルップシュレンクマルハナバチ エゾオオマルハナバチ エゾコマルハナバチ エゾトラマルハナバチ エゾナガマルハナバチ エゾミヤママルハナバチ オオマルハナバチ クナシリシュレンクマルハナバチ クロマルハナバチ コマルハナバチ シコタンヒメマルハナバチ シュレンクマルハナバチ ○ ● ○ ● ● ●昆虫類、陸産 貝類、オガサワ ラトカゲ ●鱗翅目昆虫 ●昆虫類 ●昆虫類、ミツ バチ ●昆虫類、ミツ バチ ●雑草の花粉 媒介、ハナバチ との競合 ●雑草の花粉 媒介、ハナバチ との競合 ● ● ● ● ● ● ● ● 輸入物資に付着 中硫黄島に定着 園芸栽培種の輸入品に随 伴 所持品などに付着 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 熱帯に適応したミツバチと して導入 和名 学名 特 定 生態系 被害が予想さ れる 意 図 非 意 人体・経 外来 被害 保全対象種(例) 的 図的 済・産業 備考 影響 セイヨウオオマルハナバチ 25 チシママルハナバチ ツシマコマルハナバチ トラマルハナバチ ナガマルハナバチ ニセハイイロマルハナバチ ノサップマルハナバチ ハイイロマルハナバチ ヒメマルハナバチ ホンシュウハイイロマルハナバチ マルハナバチ属の他の全種 ミヤママルハナバチ ネッタイシマカ ヒトスジシマカ アノフェレス・クァドリマクラタス(ハマダラカの一種) ウリミバエ ミカンコミバエ トマトハモグリバエ マメハモグリバエ イエバエ タケノホソクロバ ヒロヘリアオイラガ ナミアゲハ ホソオチョウ アカボシゴマダラ Bombus terrestris Bombus spp. ○ ● 温室栽培植物の受粉目的 に輸入 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● Aedes aegypti Aedes albopictus ● ● ● ● Anopheles quadrimaculatus Bactrocera cucurbitae Bactrocera dorsalis Liriomyza sativae Liriomyza trifolii Musca domestica Artona martini Parasa lepida Papilio xuthus Sericinus montela Hestina assimilis( 在来 H. a. shirakii を除く) ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 輸入貨物に侵入。定着? 苗木の輸入(ミリオンバン ブー) 湿潤な稙栽やタイヤ、コン テナ(卵や幼虫を含んでい る)の移動 1985 年に根絶。 輸入植物への付着 和名 学名 特 定 生態系 被害が予想さ れる 意 図 非 意 人体・経 外来 被害 保全対象種(例) 的 図的 済・産業 備考 影響 マイマイガ Lymantria dispar アメリカシロヒトリ Hyphantria cunea ヤンバルトサカヤスデ Chamberlinius hualienensis ●固有植物加 害 ● ● ● ● ● ● 家具や苗木などの輸送時 に付着して導入 物資への付着 土壌や植物の運搬に随伴 2015 年、沖縄からの苗に 混入して侵入した ■意図的な持ち込みへの対応 島内在住者の飼育用の持ち込み、産業用昆虫の導入が想定される。可能な限り持ち込みを控えること、ペットとして飼育する場合は適正飼養、 終生飼養を行うことの啓発が重要。 26 ■非意図的な持ち込みへの対応 おがさわら丸及びははじま丸で持ち込まれる植物・物資への付着をチェックする体制整備が求められる。 参考資料4 〔 (公)病害虫防除試験(農林水産部食料安全課所管)〕 世界自然遺産登録地に適した侵入病害虫等管理技術の検討 ~小笠原(父島,母島)島外からの農業者の苗導入実態調査~ 大林隆司・藤本周一* (小笠原農セ・*営農研修所) -------------------------------------------------------------------------------【要 約】父島,母島の農業者の半数が島外から苗を導入しており,沖縄などからが多い。 果樹,観葉植物以外に野菜苗も導入されている。今後も半数にマンゴーなどの導入予定が ある。半数が病害虫対策処理の必要性を認めつつも,苗への影響などを懸念している。 -------------------------------------------------------------------------------【目 的】 小笠原では世界自然遺産登録の 2011 年以降も,毎年新たな害虫(8種:2011 年2種, 2012 年2種,2013 年1種,2014 年3種)が記録されている。侵入要因は,島外からの苗 の導入に伴う場合や自然要因(台風など)が挙げられるが,前者については島外からどの ような苗が・どこから・どのくらいの量が入ってきているのか,きちんと把握されていな い。農業者にアンケート調査を実施することでこれらを把握し,今後の対策に役立てる。 【方 法】 アンケートは6つの質問(1.2011 年1月以降の島外からの苗の導入の有無,2.導入 した苗の品目・大きさ・量・導入時期・導入元,3.今後の導入の意志の有無,4.導入 予定の苗の品目・大きさ・量・導入元,5.導入苗への病害虫対策処理の是非,6.病害 虫対策処理が不要と思う理由)からなり,無記名とした。父島は 2014 年 11 月 18~26 日に 配布し, 11 月 28 日まで回収, 母島は同年 11 月 14~25 日に配布, 11 月 28 日まで回収した。 【成果の概要】 1.アンケートの回収数/配布数(回収率)は,父島が 10/11(90.9%),母島が 16/30(53.3%) であった。なお,配布数はほとんどの農業者を網羅している。 2.島外からの苗の導入の有無については,父島・母島ともに半数以上があると回答し, 母島の方が割合が高かった(表1) 。 3.島外から導入した苗の品目・量・導入時期・導入元については,品目は様々であった が,父島・母島ともマンゴーが最も多く,母島では半分以上を占めた。また,果樹・観 葉植物以外にも,野菜類の苗も導入されていた。量は数十株単位が多く,導入元は父島 は大阪,京都,沖縄が,母島は沖縄,東京が多く,他に三宅島や母島(父島へ)もあっ た(表2) 。導入時期は 2011 年1月以降,途切れることなく続いていた(結果省略) 。 4.今後の島外からの苗の導入予定の有無については,父島・母島とも半数があると回答 し(表3) ,今後,島外から導入予定の苗の品目・導入元については,種類はハーブ類や マンゴー,ライチが多く,量は数十株単位までが多く,導入元は未定が多かった(表4) 。 5.導入苗への病害虫対策処理の是非については,おおむね半数が「すべきと思う」と回 答し, 「思わない」理由としては,苗への影響の懸念とコストが多かった(表5,6) 。 6.まとめ:現時点での農業者の島外からの苗の導入実態が明らかになった。島外からの 苗は農業者以外も導入している可能性があり,関係機関による調査が望まれる。今後も 定期的な調査の実施と,苗への影響が無い病害虫対策処理の開発が必要である。 9-1-14 6 表1 島外からの苗の導入の有無(2011 年1月以降) 島名(調査人数) 父島(10) 母島(16) 父島+母島(26) 導入有り(%) 5(50.0) 9(56.2) 14(53.8) 導入無し(%) 5(50.0) 7(43.8) 12(46.2) 表2 島外から導入した苗の品目・導入元(2011 年1月~2014 年 11 月) 島名(記入品目数) 父島(14) 母島(15) 品目(導入件数/合計株数 a) マンゴー(2/17~18),ネギ(2/140),クプ アス(1/?) ,アーモンド(1/5) ,アテモヤ (1/3) ,みょうが(1/10) ,らっきょう(1 /100),パパイア(1/5),スイカ(1/20), メロン(1/10) ,ナス(1/20) ,ピーマン(1 /15) マンゴー(8/180 c),アテモヤ(2/15),イ チゴ(1/?) ,リュウガン(1/2) ,アオサン ゴ(1/1) ,ラン類(1/?) ,観葉植物(1/?) 導入元(導入件数) 大阪(7) ,京都・沖縄 b(各2) , 東京・母島・栃木(各1) 沖縄 b(8),東京(5),三宅島 (2) a) ?は株数不明。 b) 宮古島も含む(父島:1,母島:2) 。 c) 2011 年:40 株,2012 年:90 株,2013 年:40 株,2014 年:10 株。 表3 今後の島外からの苗の導入予定の有無 島名(調査人数) 父島(10) 母島(16) 父島+母島(26) a) 未回答も含む(母島で4名)。 導入予定有り(%) 5(50.0) 8(50.0) 13(50.0) 導入予定無し(%)a 5(50.0) 8(50.0) 13(50.0) 表4 今後の島外から導入予定の苗の品目・導入元 島名(記入品目数) 父島(7) 母島(10) 品目(導入予定件数/合計株数 a) 導入元(導入予定件数) ハーブ(2/?) ,マンゴー(1/10~20) ,ス 大阪・未定(各3) ,東京(1) イカ(1/20),メロン(1/20) ,ナス(1/20) , 未定(1/?) ライチ(3/20~25) ,マンゴー(2/20~) , 未定(7) ,東京(2) ,沖縄(1) 未定(2/?) ,アテモヤ(1/5~10) ,ラン 類(1/?) ,観葉植物(1/?) a) ?は株数不明。 表5 今後の島外からの導入苗への病害虫対策処理の是非 島名(調査人数) 処理すべきと思う(%) 父島(10) 7(70.0) 母島(16) 7(43.8) 父島+母島(26) 14(53.8) a) 未回答・ 「不明」という回答も含む(各4名・1名) 。 処理すべきと思わない(%) 3(30.0) 9(56.2)a 12(46.2) 表6 導入苗への病害虫対策処理をすべきと思わない理由(複数回答可) 島名(思わない人数) 理由(回答数) 父島(3) 面倒(0) ,コスト(0) ,苗への影響が不安(3) ,その他(1) 母島(9a) 面倒(0) ,コスト(2) ,苗への影響が不安(2) ,その他(4) a) 未回答・ 「不明」という回答も含む(各4名・1名) 。 参考資料5 〔(公)病害虫防除試験(農林水産部食料安全課所管)〕 世界自然遺産登録地に適した侵入病害虫等管理技術の検討 ~小笠原(父島,母島)島外からの購入苗から検出された生物類~ 大林隆司 (小笠原農セ) -------------------------------------------------------------------------------【要 約】沖縄県の2業者からマンゴー苗を購入し付随生物を調査した結果,9割以上の 苗から生きた生物が検出され,そのうちの約9割が土壌部から検出された。それらの中に は小笠原諸島未記録のマンゴーの害虫や近年小笠原に侵入した害虫が含まれていた。 -------------------------------------------------------------------------------【目 的】 昨年度,農業者に島外からの苗の導入に関するアンケート調査を実施した結果,半数が 沖縄などからマンゴーなどを導入しており,今後もマンゴーなどの導入の意向が多いとい う結果が出た。そこで,実際に沖縄から苗を購入し,苗(土壌を含む)にどのような生物 が付随しているか,実態を調査し把握する。 【方 法】 沖縄県の2業者(A,Bとする)からマンゴー苗(2~3年生)を購入し,地上部(幹・ 枝・葉)に付着している生物を確認・回収後,鉢から苗を取り出し,土を少しずつ落として バットに広げ,肉眼で確認できる生物(生体・死体)を確認・回収して同定した。苗の購 入時期や購入数はそれぞれ,2015 年8月下旬・10 株,2015 年9月上旬・15 株であった。 【成果の概要】 1.生物が検出された苗の割合(表1)は,業者Aが 90%,業者Bが株 93%であり,両者 の合計では 92%であった。なおいずれの業者も地上部に薬剤処理を実施していた。 2.生物の検出部位の割合(表2)は,いずれの業者でも土壌部の方が大幅に高く,業者 Aが 80%,業者Bが 93%であり,両者の合計では 88%であった。 3.検出された生物の種類(表3)は様々であったが,検出株数は業者A・Bとも陸産貝 類が多く,他は業者Aではヤスデ類,アリ類が多く,業者Bではアリ類,ジムカデ類が 多かった。検出個体数は業者Aではアリ類,陸産貝類などが多く,業者Bではアブラム シ類,アリ類,陸産貝類などが多かった。これらの中には,小笠原諸島未記録のものも あり,沖縄県ではマンゴーの害虫となっているもの(ハゼアブラムシ,アカアシホソバ ッタ)も含まれていた。また,近年小笠原に侵入したと考えられるオキナワウスカワマ イマイやツヤオオズアリなども検出され,これらが沖縄県方面から苗と共に侵入した可 能性が示唆された。 4.なお,陸産貝類については,生貝以外にも多数の死貝が土壌部から検出され,小笠原 諸島既記録のオキナワウスカワマイマイやオナジマイマイなど以外に,小笠原諸島未記 録のオキナワヤマタニシ,バンダナマイマイも検出された(結果省略)。 5.まとめ:島外からの導入苗のほぼ全てから何らかの生物が検出され,しかもそのほと んどが土壌部から検出された。さらに,小笠原諸島未記録の害虫種も含まれていた。今 後は「島外からの導入苗には何らかの生物が付随している」前提での対策が必要である。 来年度,植物の海外輸出の際に実施されている土壌への熱水処理の効果検証を行なう。 表1 沖縄県からの購入苗の生物(生きていたもの)検出の有無 業者(調査株数) 検出株数(%) 業者A(10)a 9(90.0) 業者B(15)b 14(93.3) A+B(25) 23(92.0) a) 2015 年8月 17 日沖縄出荷,8月 20 日父島着,8月 21・24・25 日調査。 b) 2015 年8月 29 日沖縄出荷,9月3日父島着,9月7~10 日調査。 表2 未検出株数(%) 1(10.0) 1( 6.7) 2( 8.0) 沖縄県からの購入苗の生物(生きていたもの)の検出部位 業者(調査株数) 地上部検出株数(%) 土壌部検出株数(%) 業者A(10) 1[2a](10.0 [20.0 a]) 8(80.0) 業者B(15) 2(13.3) 14(93.3) A+B(25) 3[4a](12.0 [16.0 a]) 22(88.0) a) どの株に付随していたか不明のアカアシホソバッタのみが付随していた株があったと仮定した場合。 表3 沖縄県からの購入苗の検出生物(生きていたもの)のリスト 業者(調査株数) 業者A(10) 業者B(15) 種名(目・科),★:小笠原諸島未記録 オキナワウスカワマイマイ オナジマイマイ ヒメオカモノアラガイ アカアシホソバッタ★ オオシワアリ ケブカアメイロアリ クモ類 ヤスデ類 ジムカデ類 線虫類 検出株数(%) 3(30.0) 1(10.0) 1(10.0) 1(10.0) 1(10.0) 1(10.0) 1(10.0) 4(40.0) 1(10.0) 1(10.0) 検出個体数 3 3 1 1 48 8 1 6 1 1 ウスイロヘソカドガイ オナジマイマイ シモチキバサナギ ナハキビ ノミガイ 3(20.0) 2(13.3) 1( 6.7) 1( 6.7) 1( 6.7) 4 2 5 2 2 ハゼアブラムシ★ アメイロアリ属 sp. オオシワアリ ツヤオオズアリ ナンヨウテンコクアリ マナコハリアリ★ リュウキュウアメイロアリ★ ダニ類 クモ類 ヤスデ類 ジムカデ類 ワラジムシ類 フナムシ科ヒメフナムシ属 sp. またはヒメワラジムシ科 sp. 端脚目 sp. ミミズ類 2(13.3) 3(20.0) 8(53.3) 1( 6.7) 1( 6.7) 1( 6.7) 2(13.3) 1( 6.7) 4(26.7) 1( 6.7) 5(33.3) 3(20.0) 1( 6.7) 1( 6.7) 3(10.0) 300~ 3 34 17 1 1 11 2 4 1 8 6 2 2 11 a 図1 b c d 沖縄県からの購入苗からの検出生物の例(a,b は小笠原諸島未記録) a:アカアシホソバッタ,b:ハゼアブラムシ,c:ツヤオオズアリ(上:大型ワーカー,下:小型ワーカ ー),d:オキナワウスカワマイマイ。 世界自然遺産地域 小笠原諸島 新たな外来種の侵入・拡散防止に関する検討の成果と今後の課題の整理 平成 28 年 3 月 科学委員会下部 新たな外来種の侵入・拡散防止に関するワーキンググループ 本報告書(表紙を除く)は、古紙配合率 100%、白色度 70 の再生紙を利用しています。
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