潮流計算可視化シミュレータの開発 Development Visualization

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
TECHNICAL REPORT OF IEICE.
潮流計算可視化シミュレータの開発
岡部
和弘†
関屋 大雄†
† 千葉大学大学院 融合科学研究科 〒 263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町 1-33
E-mail: †[email protected], ††[email protected]
あらまし
複数の発電所や負荷が存在する電力システムにおいて,各ブランチに流れる電力量や電力損失を計算
することを潮流計算という.潮流計算の結果が可視化されることにより,直感的にシステムの電力潮流状態を把
握できる.電力潮流の様子を可視化し表示するシミュレータを実装すれば,システム内の電力状況を容易に把握
でき,より有効的な電力の制御につながると考えられる.しかし,これまでの潮流計算を行うシミュレータにお
いて,潮流状況の可視化に注力したものは存在しない.また,時々刻々と発電量が変化する自然エネルギー発電
源を組み込んだシステムに対し,時間変化する電力潮流状況を直感的に把握できるシミュレータの開発は行われ
ていない.時間変化する潮流の様子を把握することは,今後増加する自然エネルギー発電源を含めた電力システ
ム全体の制御に必要不可欠であるといえる.本論文では,潮流計算を可視化し,直感的な電力潮流状況の理解を
助けるシミュレータの開発を行う.自然エネルギー発電所を組み込み,需要変動を考慮した場合としない場合の 2
通りで潮流の様子やロス,潮流量を考察することにより,提案するシミュレータの有用性を確認する.
キーワード
潮流計算,自然エネルギー発電源,シミュレータ
Development Visualization Simulator of Power Flow Calculation
Kazuhiro OKABE† and Hiroo SEKIYA†
† Guraduate School of Advanced Integration Science, Chiba University 1-33, Yayoi-cho, Inage-ku, Chiba,
〒 263-8522, Japan
E-mail: †[email protected], ††[email protected]
Abstract Power flow and loss at each branch in power system which exist a lot of generators and loads are
calculated by Power flow calculation. As it can be grasped intuitively about power system, It is important to be
able to see state of power flow in overall system. Although previous research can be displayed the result of power
flow, state of power flow in overall system has not been visible. In addition, there isn’t power flow simulator
which can be understood the state of power flow in each time. It is important to understand the power flow
for controlling the power system, which are existed renewable generators. In this paper, it is performed power
flow simulator that can be understood the power flow in each time and visible. The power flow simulations are
carried out, which showed the validity of the power flow simulator by considering the state of power flow of the
system.
Key words Power flow calculation, renewable generator, simulator
1. ま え が き
等の有害物質の発生が極めて少ないため,環境に優しい発電
源として注目されている.しかし,火力発電に代表される従
近年,スマートグリッド [1] と呼ばれる新しい電力網が注
来型発電源と異なり,発電量が天候に左右されるという欠点
目されている.スマートグリッドとは通信技術と電力技術を
がある.発電量が時々刻々と変化するため,電力潮流を可視
融合させた新しい電力網で,発送電分離や電力自由化,自然
化することは,各時間においてシステム内でどのように電力
エネルギー発電源の更なる有効活用などが期待されている.
のやりとりが行われているかを直感的に把握するために効率
自然エネルギーを使用する代表的な発電源として,風力発電
的であり,より有効的な発電制御を可能とする.
や太陽光発電が挙げられる.これらの発電源は,二酸化炭素
システム内で発生する電力がどのように流れているかを
—1—
計算することを潮流計算という.潮流計算の計算法には一般
的に Newton-Raphson 法や Gauss-Seidel 法に代表される数
2. 潮流計算シミュレータ
値計算法が用いられており,既に確立された計算方法が存
2. 1 潮 流 計 算
在する.潮流の様子を可視化する研究も盛んに行われてい
複数の発電所や負荷が存在する電力システムにおいて,
る [2],[3].[2] では,バス-バス間 (ブランチ) に流れる電力を
各ブランチに流れる電力量や電力損失を計算を潮流計算と
円グラフとして表すことで,どのブランチにどの程度電力が
いう.潮流計算は既に確立された計算手法が存在しており,
流れているかを直感的に理解できる手法が用いられている.
Newton-Raphson 法や Gauss-Seidel 法が代表的な数値計算
また,[3] では,線の太さを変化させ矢印を用いることで,各
法として挙げることができる.図 1 に本論文で開発したシ
ブランチの潮流状況を容易に比較することが可能である.し
ミュレータの動作フローチャートを示す.図 1 の潮流計算部
かし,[2],[3] では独自の電力システムモデルのみを用いるこ
分は以下の手順で処理を行う.潮流計算を行うにあたり,各
としか出来ず,電力システムの研究分野において汎用性の
発電所の発電量とバスシステム構成ファイルより,バス,ブ
低いシミュレータであった.電力システムの研究分野では,
ランチのデータを入力する.次に,各発電所の発電量から各
IEEE バスシステム [4] と呼ばれる,IEEE 標準のベンチマー
バスにかかるバス電圧と各ブランチに潮流する電力量を計
クシステムが用いられることが多いため,これらのモデルに
算する.最後に,バス電圧とブランチに潮流する電力量か
対応した可視化シミュレータが望まれる.また,時々刻々と
ら各ブランチで発生するロス量を計算する.以上の計算を
発電量が変化する太陽光発電や風力発電を組み込んだスマー
Newton-Raphson 法や Gauss-Seidel 法による数値計算法で
トグリッド上において,時間変化する電力潮流の様子を可視
行う.本論文では数値計算法として,Newton-Raphson 法を
化する技術は実装されていない.今後,電力ネットワークで
用い,潮流計算を行うシミュレータを開発する.潮流計算を
は分散型電源が増加することが予想されるため,電力状況の
行うシミュレータは既に外部に公開されているも存在し,フ
時間変化が増加すると考えられ,その状況把握の重要性はま
リーで利用できるものも存在する [5].しかしながら,自然エ
すます高まる.したがって,可視化技術によって各時間にお
ネルギー発電源に代表される時々刻々と発電量が変化する発
いて変化する電力状況を把握できることは,今後,電力制御
電源に対応して,時間変化する電力潮流の様子を可視化する
に必要不可欠であるといえる.電力潮流の可視化と時間変化
技術は実装されていない.近年,環境問題への意識の高まり
する電力状況を把握する技術を統合したシミュレータを開発
から,自然エネルギー発電源が注目されている.今後も自然
することは,電力の有効活用化に対する研究開発の一助とな
エネルギー発電源が増加することが予想されるため,電力潮
ると考えられる.
流の様子が時々刻々と変化することが考えられる.したがっ
本論文では,潮流計算を可視化し,時間変化する電力状況
て,時間変化する潮流の様子を把握することは,今後増加す
を直感的に理解できるシミュレータの開発を行う.Newton-
る自然エネルギー発電源を含めた電力システム全体の制御に
Raphson 法によって潮流計算を行い,バスシステム図上の各
必要不可欠であるといえる.そこで本論文では,潮流計算を
ブランチに潮流する電力量を表示させ,電力量に応じて比例
可視化し,時々刻々と変化する電力潮流状況の直感的な理解
した矢印の太さと向きで視覚的に潮流の様子を示す.また,
を助けるシミュレータの開発を行う.
各発電所の発電量やブランチのロス量を表示させることで,
2. 2 シミュレータ概要
システム全体の電力状況を把握することが可能となる.提案
本論文では,潮流計算を可視化し,電力潮流の様子が時々
するシミュレータにより,電力潮流の様子が直感的に理解す
刻々と変化する様子を容易に把握できるシミュレータの開発
ることができ,容易にシステムの状態を把握できる.また,
を行う.本論文で開発したシミュレータは 4 つの特徴を持
時間変化する気温データや太陽光照度データ,風速データを
つ.まず,各ブランチに流れる電力量と向きを矢印と数値で
入力すると,各時間における太陽光発電や風力発電の発電量
表示し,視覚的に把握できる.次に,IEEE バスシステムに
を自動計算し,太陽光発電,風力発電を組み込むことが可能
標準対応している.さらに,時間変化する気温データや太陽
となる.太陽光発電や風力発電を組み込んだ場合に時間変化
光照度データ,風速データを入力すると,各時間における太
する電力潮流の様子を,逐一表示させることにより把握でき
陽光発電や風力発電の発電量を自動計算することにより,太
る.提案するシミュレータは IEEE バスシステムのシステム
陽光発電所,風力発電所を組み込むことが可能となる.最後
構成ファイルを読みこんだ上で,潮流計算を行える.IEEE
に,時々刻々と変わる潮流の様子を視覚的に確認できること
バスシステムモデルに標準対応することによって,電力シス
である.
テムの研究分野において,より汎用性が高いシミュレータで
2. 2. 1 電力潮流の可視化
あるといえる.自然エネルギー発電所を組み込み,需要変動
電力潮流の可視化とは,潮流計算した結果から得られる
を考慮した場合としない場合における潮流計算シミュレー
潮流量やロスをシステム図に視覚的に表示させることによ
ションを行い,潮流の様子やロス,潮流量を考察することに
り,容易に潮流状況を把握できるということである.本論文
より,提案するシミュレータの有用性を確認する.
で開発したシミュレータでは,以下の処理手順で電力潮流の
可視化を行う.まず,入力データとして潮流計算シミュレー
ションに使用するバスシステム図とバスシステム構成ファイ
—2—
ルを用意する.次に,入力したバスシステム図において,ど
t=1
の座標にバスやブランチが存在するかを読み込む.そして,
Read the file of bus system.
Newton-Raphson 法による潮流計算を行い,各ブランチに流
れる電力量やロスを保存する.最後に,各ブランチに流れる
Yes
t = tmax ?
No
電力量や発生するロス量を,読みこんだバスシステム図上の
対応した座標の位置に示す.全てのブランチの流れる電力量
Is there any
renewable generators?
Yes
No
やロス,各発電所で発電する電力量を示し,バスシステム図
を更新し終えたら図を表示させて終了する.本論文で開発し
Read the file of weather data.
たシミュレータでは,バスシステム図上の各ブランチに潮流
Calculate of output power (P_w,P_s)
by (1) and (2).
する電力量を表示させ,電力量に応じて比例した矢印の太さ
と向きで視覚的に潮流の様子を示すことにより,どのブラン
Create the data of output powers of
each generator.
チにどれくらいの電力量が潮流しているかを確認できる.ま
Update the file of bus system.
た,各発電所の発電量やブランチのロス量を表示させること
で,システム全体の電力状況を把握することが可能となる.
この機能により,電力潮流の様子が直感的に理解することが
Determine the position of
renewable generators.
Execute power flow calculation by
Newton-Raphson method.
Display the result of
power flow calculation.
でき,容易にシステム全体の状態を把握できる.
2. 2. 2 IEEE バスシステムの対応
t=t+1
電力システムモデルとして IEEE バスシステムを利用でき
ることを IEEE バスシステムに標準対応しているという.電
力システムの研究分野では,IEEE 標準のバスシステムが用
End.
図 1 提案シミュレータの動作フローチャート.
いられることが多いため,これらのモデルに対応したシミュ
レータを開発することは重要である.本論文で開発したシ
の発電量は読みこんだ太陽光照度データ,気温データの値と
ミュレータは,以下の処理手順で潮流計算を行う.まず,入
式 (2) によって計算を行う.
力データとして潮流計算シミュレーションに使用する IEEE
標準のバスシステム構成ファイルと,各発電所の発電量デー
タを用意する.次に,バスシステム構成ファイルからシステ
ム内に存在するバス,ブランチデータと各発電所の発電量
データを読みこむ.そして,Newton-Raphson 法により,以
下の手順で潮流計算を行う.全てのバスとブランチに関して,
まず,風力発電の発電量は [6] より,


:0<
 0
= v(t) < vci , vco <
=v

(v(t)−vci )
Pw =
(1)
Pw,rated · (vr −vci )
: vci <
= v < vr


 P
<
: vr = v(t) < vco
w,rated
と計算することができる.ここで,Pw , Pw.rated はそれぞ
各発電所の発電量から各バスにかかるバス電圧と各ブランチ
れ,風力発電の発電量と定格出力である.v(t), vr , vci , vvo は
に潮流する電力量を計算する.計算により求まったバス電圧
それぞれ,時間 t における風速,定格風速,カットイン風速,
とブランチに潮流する電力量から,全てのブランチに対して,
カットアウト風速である.
各ブランチで発生するロス量を計算する.各バス電圧や各ブ
また,太陽光発電の発電量は [7] より,
ランチに潮流する電力量,ロス量を返却することで潮流計算
Ps = Ps,rated ·
を終了する.本論文で開発したシミュレータは,システムを
構成するバス,ブランチ,発電所の具体的数値を含んだ,既
存のバスシステム構成ファイルを読み込み,潮流計算が行え
るシミュレータとなっており,電力システムの研究分野にお
いて,汎用性の高いシミュレータであるといえる.
2. 2. 3 自然エネルギー発電源の組み込み
開発したシミュレータでは,自然エネルギー発電源の組み
込みに対応しており,システム内のどのバスに自然エネル
ギー発電源が接続するかを指定できる機能を搭載している.
本論文で開発したシミュレータでは,以下の処理手順で自然
エネルギー発電源を潮流計算シミュレーションに組み込む.
まず,入力データとして太陽光照度データ,気温データ,風
速データの気象データを用意する.気象データは [8] 等より
入手する.表 1 に入力する気象データのフォーマットを示す.
気象データを読み込ませた後,風力発電の発電量は読みこん
だ風速データの風速値と式 (1) によって計算し,太陽光発電
G(t)
(1 + kpv (T (t) − Tr ))
GST C
(2)
と 計 算 す る こ と が で き る .こ こ で ,Ps , Ps.rated は そ
れ ぞ れ ,太 陽 光 発 電 の 発 電 量 と 定 格 出 力 で あ る .
G(t), GST C , kpv , T (t), Tr はそれぞれ,時間 t における太陽
光照度,定格照度,温度係数,時間 t における気温,定格温
度である.式 (1),(2) と,各風速・太陽光照度・気温データを
もとに風力発電、太陽光発電の発電量を決定する.
最後に,求まった風力発電,太陽光発電の発電量を,潮流
計算を行う際に必要な各発電所の発電量データとしてデー
タ化することで終了する.本論文で開発したシミュレータは
気象データを与えることにより,各時間の太陽光発電や風力
発電の発電量を自動計算し,潮流計算を行える.また,風力
発電と太陽光発電の定格出力 (Pw,rated , Ps,rated ) をパラメー
タとして与えることが出来るため,様々な規模の自然エネル
ギー発電所の発電量を算出することが可能である.
2. 2. 4 時間変化する潮流の様子の表示
時々刻々と変わる潮流の様子の表示とは,各時間における
—3—
表 1 気象データフォーマット.(風速データの例)
Time Data
1
5.2
2
.
.
.
4.0
.
.
.
潮流の様子を逐一表示し,変化している様子を確認できると
いうことである.今後,電力ネットワークでは分散型電源が
増加することが予想されるため,電力状況の時間変化が増加
図 2 IEEE14 バスシステム.
すると考えられ,その状況把握の重要性は高まるといえる.
本論文で開発したシミュレータは以下の処理手順で時間変化
する潮流の様子を表示する.まず,読みこんだ気象データか
電にかかるロス,総発電量を示す.本論文では,需要変動を
ら総時間数を自動で読み込む.各時間毎にその時間に対応し
考慮した場合としない場合の 2 通りに対して潮流計算シミュ
た気象データを読み込み,潮流計算を行い,潮流状況を可視
レーションを行うことで考察を行う.
化した図を表示する.結果の表示後,次の時間に対応した気
象データを読み込み,同様の処理を行う.総時間数まで同様
の処理を繰り返し行い,総時間数に達したらシミュレータの
3. 1 発電状況のみが変化した場合におけるシミュレーショ
ン結果
自然エネルギー発電源が存在する場合は時々刻々と発電状
動作を停止することで終了する.開発したシミュレータでは,
況が変化するため,その時々に合わせて潮流計算を行う必要
このようにして時間変化に対応し,可視化させた各ブランチ
がある.本論文で開発したシミュレータでは,時間変化する
の潮流量やロス,各発電所の発電量の表示を変化させること
気温データや太陽光照度データ,風速データを入力すると,
によって,時間変化する電力状況を容易に把握できる.
各時間における太陽光発電や風力発電の発電量を自動計算し,
時間ごとに潮流計算を行うことで時々刻々と変化する電力潮
本論文で開発した潮流計算シミュレータは以上のような
流の様子を把握することが可能である.しかしながら,現実
4 点の特徴を持つシミュレータである.この潮流計算シミュ
の発電状況が大幅に変化することは希で,潮流の様子が大幅
レータを用いて,IEEE バスシステム上で潮流計算シミュレー
に変化する状況は起こりにくい.本節では,時間変化する潮
ションを行う.
流の様子を容易に把握出来ることを確認するため,仮定とし
て, 大幅に自然エネルギー発電源の発電量が変化した場合を
3. シミュレーション結果
考える.バス 2(PG2 ) とバス 3(PG3 ) にそれぞれ太陽光発電,
実装したシミュレータを用い,可視化の有効性を示すため
風力発電が存在する場合を考える.自然エネルギー発電源は
に潮流計算シミュレーションを行う.潮流計算の結果を示す
時間とともに発電量が変化する.図 3 に太陽光,風力発電所
ために用いるバスシステムモデルとして,IEEE 標準のバス
の発電量を示す.本節では,t = 2 と t = 12 の場合における
システムモデルを用いる.IEEE バスシステムとは,IEEE
シミュレーション結果を示す.時間 t = 2 と t = 12 の各発電
が電力システムのベンチマークシステムとして標準化してい
量を比較すると,太陽光,風力発電ともに発電量が大幅に変
る電力システムモデルである [4].今回,提案するシミュレー
化していることがわかる.また,総 load 量 Pd = 259[MW]
タの有用性を示すために,IEEE14 バスシステムを用いる.
とし,時間にかかわらず一定であるものとする.図 4,5 に
図 2 に IEEE14 バスシステムのシステム図を示す.IEEE14
それぞれ t = 2,t = 12 の時の潮流計算を行った結果の図を
バスシステムとはブランチ同士が集合している箇所 (バス)
示す.各ブランチに 2 つの数字が並んでいるが,潮流する電
が 14 本存在し,バス 1,2,3,6,8 にそれぞれ発電所が設置され
力量を上段に,発生したロス量を下段に表わしている.図 4
ているシステムである.ここで,各発電所の発電量をそれぞ
と図 5 を比較すると,電力潮流量やロス量が変化している様
れ,PG1 ,PG2 ,PG3 ,PG6 ,PG8 とする.また,バス 1 に接続さ
子がわかる.また,t = 2 と t = 12 の場合で,各時間毎の発
れている発電所はシステム内の発電状況によって外部の電
電量に応じた潮流計算が行えているため,時々刻々と変化す
力システムと自由に電力を融通出来る発電所である.各バ
る電力潮流の様子を把握できることがわかる.したがって,
スには load と呼ばれる電力消費地点が存在しており,バス
時々刻々と発電量が変化する発電所が存在する場合,時間変
2 ∼ 6, 9 ∼ 14 に load が接続されている.各発電所の発電量
化する潮流状況を直感的に把握できるため,本論文で開発し
の総和は総 load 量と送電にかかるロスの和と等しくなる必
たシミュレータの有用性が示された.
3. 2 load,発電状況が変化した場合における結果
要があり,
本節では,自然エネルギー発電源の発電量が時間変化する
のみならず,各 load も時間変化した場合において電力潮流
PG = PD + PL
(3)
の様子がどのように変化するかを考察する.IEEE14 バスシ
PG = PG1 + PG2 + PG3 + PG6 + PG8
(4)
ステムにはバス 2 ∼ 6, 9 ∼ 14 に load 地点が存在し,仮定と
となる.ここで,PD , PL , PG はそれぞれ,総 load 量,送
して,バス 2 ∼ 6 の load は大規模 load,バス 9 の load は
—4—
かる.その結果,G1 から遠い load に電力を融通するために
250
solar
wind
各ブランチで送電ロスが多く発生していることがわかる.表
200
Power[MW]
3 より総ロス量が 26.38[MW] となっており,総発電量の約
150
7.3% の損失が発生しているという結果となることがわかる.
次に,自然エネルギー発電所が存在する場合について考察を
100
行う.表 2 に太陽光,風力発電所の発電状況を示す.図 8 に
50
自然エネルギー発電所が存在する場合の潮流計算結果の図を
0
0
5
10
15
20
25
Time[hour]
図 3 太陽光,風力発電発電量.
示す.また,表 3 に潮流計算を行った結果から得られる総ロ
ス量を示す.図 7 と図 8 を比較すると,各ブランチに流れる
電力量や送電ロス量が変化している.これは,各 load 位置
に近い自然エネルギー発電所が発電を行った場合,より短い
距離で送電することが可能となるため,送電ロスが減少する
と考えられる.また,表 3 をから総ロス量が 13.89[MW] と
なり,総発電量の約 3.8% まで減少する結果となることから,
自然エネルギー発電所を含めることにより,より効率良く電
力供給が行えることがわかる.しかし,自然可能エネルギー
発電は発電コストが高く,火力発電と比較した場合,風力発
電は約 2 倍,太陽光発電は約 3 ∼ 7 倍程度の発電コストがか
かってしまうという欠点が存在する.したがって,ロスと発
図 4 t=2 の場合における潮流計算結果.
電コストの両面のバランスを取って発電を行う必要があると
いえる.また,図 7 と図 8 を比較すると,容易にシステム内
の電力潮流の変化を確認することができるため,本論文で開
発したシミュレータの有用性を示すことができた.
次に,t = 10 の場合における潮流計算シミュレーション
結果を示す.はじめに,自然エネルギー発電所が存在しない
場合について考察を行う.図 9 に自然エネルギー発電所が存
在しない場合の潮流計算結果の図を示す.また,表 3 に潮流
計算を行った結果から得られる総ロス量を示す.図 7 の場合
と同様に,G1 から遠い load に電力を融通するために各ブラ
図 5 t=12 の場合における潮流計算結果.
ンチで送電ロスが多く発生している.表 3 から総ロス量が
145.46[MW] となっており,総発電量の約 16.2% の損失が発
中規模 load,バス 10 ∼ 14 は小規模 load とする.図 6 に総
生しているという結果となることがわかる.
load 量の時間変化の様子を示す.また,バス 2(PG2 ) とバス
図 7 と図 9 を比較すると,電力潮流状況が時間変化している
3(PG3 ) にそれぞれ太陽光発電,風力発電とし,自然エネル
様子が容易に把握できるため,本論文で開発したシミュレー
ギー発電源の発電量は図 3 にしたがって変化することを考え
タの有用性を示すことができた.次に,自然エネルギー発電
る.2基の自然エネルギー発電所の有無によって電力潮流の
所が存在する場合について考察を行う.図 10 に自然エネル
様子やシステム内全体のロス量に変化が出ることが予想され
ギー発電所が存在する場合の潮流計算結果の図を示す.また,
るため,本節では潮流の様子のだけでなく,発電状況とロス
表 3 に潮流計算を行った結果から得られる総ロス量を示す.
量の結果を含めて考察を行う.したがって,自然エネルギー
表 3 をから総ロス量が 81.77[MW] となり,自然エネルギー
発電所が存在する場合としない場合の 2 通りの場合に対し
発電所を含めた場合,総発電量の約 9.8% まで減少すること
てシミュレーションを行う.また,本節では t = 6, t = 10
がわかる.図 8 と図 10 を比較すると,自然エネルギー発電
の場合における潮流計算結果を示す.なお,t = 6, t = 10
所を含めた場合においても,電力潮流状況が時間変化して
の総 load 量はそれぞれ 360,750[MW] となっており,表 2
いる様子が容易に把握できるため,本論文で開発したシミュ
に各発電所の発電量を示す.まず,t = 6 の場合における潮
レータの有用性を示すことができた.
流計算シミュレーション結果を示す.はじめに,自然エネル
ギー発電所が存在しない場合について考察を行う.図 7 に自
4. ま と め
然エネルギー発電所が存在しない場合の潮流計算結果の図を
本論文では,潮流計算を可視化し,直感的な電力潮流状
示す.また,表 3 に潮流計算を行った結果から得られる総ロ
況の理解を助けるシミュレータの開発を行った.提案するシ
ス量を示す.G1 のみで発電を行っている様子が図 7 よりわ
ミュレータにより,電力潮流の様子がリアルタイムで直感的
—5—
900
800
Total Load[MW]
700
600
500
400
300
図 10
200
0
5
10
15
20
t = 10 の場合における潮流計算結果 (自然エネルギーあり).
25
Time[hour]
図6
総 load 量変化.
表2
t = 6, 10 時の各発電所発電量.
Time
Case
t=6
自然エネルギーあり
164.03(MW) 10.00(MW) 200.00(MW)
G1
G2
t=6
自然エネルギーなし
386.47(MW)
0(MW)
G3
0(MW)
t = 10 自然エネルギーあり 622.71(MW) 60.00(MW) 150.00(MW)
t = 10 自然エネルギーなし 893.36(MW)
0(MW)
0(MW)
表 3 総ロス量 (PL ) 結果.
図 7 t = 6 の場合における潮流計算結果 (自然エネルギーなし).
Time
Case
PL
t=6
自然エネルギーあり
13.88(MW)
t=6
自然エネルギーなし
26.38(MW)
t = 10 自然エネルギーあり
81.77(MW)
t = 10 自然エネルギーなし 145.46(MW)
文
図 8 t = 6 の場合における潮流計算結果 (自然エネルギーあり).
図 9 t = 10 の場合における潮流計算結果 (自然エネルギーなし).
に理解することができ,容易にシステムの状態を把握するこ
献
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とが可能となった.自然エネルギー発電所を組み込み,需要
変動の有無や潮流の様子やロス,潮流量を考察することによ
り、提案するシミュレータの有用性を確認した.今後の課題
として,バスシステム図の自動作成やシミュレータのソフト
ウェア化が挙げられる.
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