分類【添付文書上の使用法との相違】 「妊娠中のてんかん患者の ガイドラインを知らなかった」 医薬品名(薬価収載名)フォリアミン錠 5 mg 2013 年 8 月 30 日 21 歳 女性 小児科 処方内容(疑義照会前) デパケン R 錠 200 mg フォリアミン錠 5 mg 4 錠 1 日 2 回 朝夕食後 90 日分 0.1 錠 1 日 1 回 夕食後 90 日分 発生時点:調剤時 情報源:処方せん 疑義が発生した理由 □小児の頃よりてんかんの治療を行っており、一年ほど前から当薬局を利用している 患者であった。 □薬歴によると、来局当初よりデパケン R 錠 200 mg (一般名:バルプロ酸ナトリ ウム)を 1 日 4 錠 1 日 2 回服用でコントロール良好であった。 □今回よりフォリアミン錠( 5 mg )(一般名:葉酸)が追加になった。 □フォリアミン錠は常用量が 5 ~ 20 mg であるため、0.1 錠ではなく 1 錠の間違い ではないかと推察した。 疑義照会の会話例 薬剤師:お忙しいところ恐れ入ります。会営薬局の薬剤師、○○と 申します。本日、処方せんを受け付けました△△様の処方内容につ いて確認したいことがございますがよろしいでしょうか? 今回、フォリアミン錠が追加となっておりますが、用量は 0.1 錠、 0.5 mg でよろしいでしょうか? 医師:はい、間違いありません。妊娠中ですので 0.5 mg でお願いし ます。詳しくはてんかん治療のガイドラインを参照して下さい。 薬剤師:わかりました。変更なしですね。お忙しいところありがとうご ざいました。 疑義照会後の処方 処方内容(疑義照会後) 変更なし その他特記事項 妊娠の可能性のあるてんかん患者への対応~ガイドラインより~ 妊娠前 (1)妊娠前カウンセリングに十分な時間をとる (2)妊娠前の発作の抑制を試みる (3)葉酸の補充を行う 妊娠中 (1)断薬せず定期的な通院 (2)抗てんかん薬( AED )投与量の増量は服薬が規則的でかつ発作が悪化したと きにのみ行う (3)妊娠前に 1 回、その後必要に応じて AED ・葉酸濃度を測定する (4)妊娠 16 週で血清α-フェトプロテインの測定、胎児モニタリングは妊娠 18 週 で超音波診断を行う (5)全般性強直間代発作を起こす症例では切迫流・早産に注意 出産時および産褥期 (1)一般には自然分娩が可能である (2)分娩前後の不規則服薬によるけいれん発作の頻発、重積状態に注意する (3)AED 投薬例の母親には出産前にビタミン K を内服させる 出産後 (1)産後に AED 血中濃度が上昇する症例では AED の投与量を調整する (2)授乳は原則的に可能 葉酸摂取について ・一部の AED は血中葉酸濃度を低下させること、および葉酸の需要が妊娠で高まる ことに留意し、神経管閉鎖障害の発生リスクを軽減させるため非妊娠時から葉酸を 0.4 mg / 日程度補充させることが望ましいとされている。 ・文献によっては非妊娠時 0.6 mg / 日とする報告や、あるいは非妊娠時 0.4 mg / 日、 妊娠時 0.6 mg / 日、授乳期 0.5 mg / 日とする報告もある。 避妊について ・計画的な出産が望ましいとされている。つまり最も配慮が必要な時期は妊娠前の準 備期間であるとされている。 ・準備期間中は避妊を勧める必要があるが、その際には、PB(フェノバルビタール)、 PHT (フェニトイン)、 CTZ (カルバマゼピン)などは経口避妊薬の効果を減ずる ことを念頭に 50 μg 以上のエストロージェン含有ピルの投与あるいはその他の避 妊手段についても指導すべきである。 ・VPA (バルプロ酸)は経口避妊薬と薬物相互作用を起こさない。 ・経口避妊薬はラモトリギンの血中濃度を 50 % 程度上昇させることがある。 奇形について ・妊娠第Ⅰ期に AED を服用していた場合、生まれてくる児の平均奇形頻度は一般人 口に比し 2 ~ 3 倍高いと報告されている。 ・AED の併用で奇形発現率が著しく高まるため、断薬が不可能な症例では妊娠前か ら AED はできるだけ単剤にする。 ・VPA は投与量、血中濃度に依存して奇形発現率が増加するため、特に 1,000 mg / 日以下の投与量が望ましい。除放剤の血中濃度の日内変動は錠剤のそれより明らか に少ないため、除放剤使用により血中濃度の安定化を図る。 ・新規 AED であるラモトリギン、ガバペンチン、トピラマート*は米国 FDA の催 奇形性誘発分類ではカテゴリー C ( VPA, PHT, CBZ はカテゴリー D )に分類され るが、わが国では新規抗てんかん薬は単剤使用が保険適応外である。 *ただし、トピラマートの奇形発現率は VPA とほぼ同様に高いとされている。 ・男性患者(精子)に与える影響はない。 服用継続の重要性について ・妊娠により、発作が 10 ~ 20 % 増加するとする報告がある。弘前大学の調査によ ると、妊娠で 23 % の症例で発作頻度が増加し、そのうちの 50 % 以上では不規則服 薬の症例であった。この不規則服薬の主な原因は AED による奇形発現の恐れ、服薬 中の授乳により児に AED の副作用が発現する恐れ、多忙のため服薬を忘れてしまっ たなどであったとされる。 専門医は、ガイドラインを熟知し処方されることがほとんどであると考えられるが、 避妊の目的および方法、あるいは抗てんかん薬の服用継続に関しては薬剤師が多いに 関わるべき領域であると思われる。また、妊娠可能な年齢の女性等への葉酸の摂取に ついて、H 12 年 12 月に厚生省の検討会にて報告書がとりまとめられている。この 中で、保健医療関係者の情報提供のあり方について、用量および上限量が示されてお りぜひ参照されたい。http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/dl/h0201-3a3-03c.pdf 参考資料 ・医療機能評価機構:添付文書情報フォリアミン錠/散 http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3135001F1025_1_05/ ・てんかん治療ガイドライン 2010-日本神経学会 http://www.neurology-jp.org/guidelinem/tenkan.html ・妊娠と薬情報センター相談者を対象とした妊婦の葉酸服用率に関する調査: 医薬品情報学 11 (2) : 107-114 (2009) ・妊娠可能てんかん女性の治療管理基準設定に関する研究:てんかん治療研究振興財 団研究年報 1992;4:24-35 ・抗てんかん薬による奇形発現の機序:精神薬療基金研究年報第 19 集:306-311, 1988 ・グラクソスミスクライン株式会社 Lamictal.jp http://lamictal.jp/tenkan_qol/questionaire.html
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