WebOCMnext のテスティング・システム

WebOCMnext のテスティング・システム
杉浦 謙介 細谷 行輝 大前 智美
(東北大学)(大阪大学)
(大阪大学)
1.はじめに
WebOCMnext1)のテスティング・システムは、WebOCMnext のダイナミック教材作成モ
ジュールを中心にして、これにテスト管理モジュール、テスト結果モジュール、総合成績
管理モジュールなどが連携して動作する WBT (Web Based Testing)システムである。本稿で
は、WebOCMnext のテスティング・システムの機能を概略したうえで、これを簡単に使う
方法について述べる。
2.WebOCMnext のテスティング・システムの機能
WebOCMnext のテスティング・システムは、つぎのような機能をもっている:
(1) 単項選択問題、複項選択問題、キーボードからの文字入力穴埋め問題、ドロップダウ
ンリストからの選択穴埋め問題、記述形式問題を作成できる。キーボードからの文字入力
穴埋め問題、ドロップダウンリストからの選択穴埋め問題では、100%の正解のほか、1%
から 99%までの部分的正解を 4 つまで設定できる。記述形式問題では、教員が手動で採点
するが、これ以外の問題では、システムが自動採点する。
(2) リッチテクストエディター(RTEditor)によって、フォント(種類と大きさ)、文字装
飾(太字、斜字、下線、色、ラインマーカー色、ルビ)、行(左揃え・中央揃え・右揃え・
両端揃え)
、パラグラフ、インデント、リスト(bullet list、numbered list)、表(table)など
を設定できる。
(3) 画像、音声、動画(YouTube)をテスト画面の任意の場所に設置できる。画像について
は、その大きさと縦横比を設定できる。音声については、その再生回数を設定できる。画
像と音声は、WebOCMnext にアップロードしたファイルばかりではなく、外部サーバーの
ファイルも利用できる。動画(YouTube)については、再生開始時間と終了時間(例:動画
ファイルの 30 秒の箇所から開始して 90 秒の箇所で終了する)を設定できる。また、顔文字
(emoticons/smiley)、リンク(外部サーバーの Web ページへのリンク)、レイティング入力
欄(3 段階および 5 段階)を設定できる。
(4) メイン画面を中心にして、その上下左右にフレームを配置できる(メインフレーム+
サブフレーム 4)。左フレームはメニュー・フレームとして使える。さらに、メインフレー
ムをテーブルセルで分割できる(例:左セルに長文テクスト、右セルに設問)。
(5) 「アクション」を付加できる。これによって、テストは動的になり、たとえば、一定
の正解率を条件にしてつぎのテスト画面を表示するように設定できる。複数フレームが空
間的な画面結合であるとすれば、
「アクション」は時間的な画面連鎖である。
(6) テスト全体から各問題項目にいたるまで、それぞれのノードでプロパティを設定・変
更できる。これにより詳細に動作・表示を設定できる。
(7) テストの手動による公開・非公開設定および事前の時間帯設定による公開・非公開設
定、受験回数上限設定、受験のさいの制限時間設定、重みづけ設定(デフォルトは 100%
であるが、0%から 1000%まで変更できる)、テスト結果を成績から除外する無効化設定、
採点表示設定、正解表示設定などができる。
これらの機能2)によって、WebOCMnext のテスティング・システムでは、画像・音声・
動画を用いたテスト、2 画面テスト、Adaptive テストなどをはじめ、ほとんどすべての WBT
を作成・実施することができる。
3.WebOCMnext のテスティング・システムを簡単に使う方法
WebOCMnext のテスティング・システムで簡単にテストを作るにはどうすればいいのだ
ろうか。最も簡単な方法は、テスティング用ファイルを図 1 のような穴埋め問題形式に設
定し3)、これをテンプレートにしてさまざまな形式のテスト問題を作っていく方法である。
図1
3.1 穴埋め問題を作る手順
まず、穴埋め問題を作る手順を示す。
「ダイナミック教材作成システム」の IPEditor(教
材およびテスト問題を作るエディター)の一番上の欄(図 1 では「Form01」という文字列
がある欄)に問題名(例:
「L10-01」)を入れ、「指示内容」の欄に指示文(例:
「空欄に適
当な語を入れましょう。
」)を入れる。そして、
「項目」欄の鉛筆アイコンをクリックすると、
図 2 のような RTEditor が開くので、ここに問題文を入力(コピー&ペースト)する。1 つ
の穴埋め箇所を「選択」し、
「Anaume」アイコン4)をクリックすると、穴埋め箇所の設定
が完了する。この作業をすべての穴埋め箇所においておこなう(図 3)
。(画像・音声・動
画ファイルを使う場合は、その挿入箇所にカーソルを移動して、そこに設定する。また、
画面や文字のデザインを変更する場合は、この RTEditor を使う。
)
図2
図3
図 3 の RTEditor の左上の「Update & Close」をクリックすると、図 4 の画面になる。
図4
「Save」して「Preview_ALL」をクリックすると、図 5 のようなテストが完成する。
図5
3.2 単項選択問題を作る手順
単項選択問題を作るときにも図 1 のテスティング用ファイルを使う。手順も上の穴埋め
問題と同じである。選択項の番号(もしくは記号)を穴埋めする問題として作成する5)。
(図 6)
図6
「Save」して「Preview_ALL」をクリックすると、図 7 のようなテストが完成する。
図7
3.3 応用例:2 セル単項選択問題を作る手順
図 1 のテスティング用ファイルは、他にもさまざまなテスト形式に応用できる。たとえ
ば、左セルに長文テクスト、右セルに単項選択問題というテストを作成するさいには、図
1 ファイルを図 8 のように拡張する6)。
図8
図9
図 10
図 8 の右セルの「小テスト」ノード以下は、図 1 と同じであり、テスト作成手順も図 1 と
同じである。図 8 の左セルの「項目」の鉛筆アイコンをクリックして RTEditor を開いて長
文テクストを入力(コピー&ペースト)する。左右のセルへの入力が終わると図 9 のよう
になる。これを「Save」して「Preview_ALL」をクリックすると、図 10 のようなテストが
完成する。左右のセルにそれぞれスクロールバーがある。
2014 年に筆者(杉浦、細谷、大前)が制作した『WebOCMnext 用ドイツ語文法問題集』
は、問題テクストファイル、音声ファイル、そして、その両方へのリンクを一覧表にした
HTML ファイルからできている。現場の教員が、問題テクストを自由にカスタマイズした
うえで、そのテクストデータを WebOCMnext の IPEditor の RTEditor 画面にコピー&ペース
トし、必要に応じて音声ファイルへのリンクを設定して、練習問題もしくはテスト問題を
作成する。そのさい、もっとも簡単で過不足のないテンプレートが図 1 のテスティング用
ファイルである。
2015 年に東北大学において、ドイツ語の授業で図 1 のテスティング用ファイル、英語の
授業で図 1 と図 8 のテスティング用ファイルをテンプレートにして、多数の小テストや期
末テストを作成・実施した(音声ファイルも利用した)。きわめて簡単にテストを作成し、
安定的にテストを実施することができた。
4.おわりに
WebOCMnext のテスティング・システムは、ほとんどすべての WBT を作成することが
できる。また、図 1 のようなテスティング用ファイルをテンプレートにすると、さまざま
な形式のテスト問題を簡単に作成することができる。
注
1) WebOCM は、細谷行輝が中心になって大阪大学サイバーメディアセンターのマルチメディア言語
教育研究部門および国立七大学外国語連絡協議会付属外国語 CU 委員会が開発してきた外国語教育
用の e ラーニングシステムであり、WebOCMnext はその後継システムである。外国語教育のために
開発されてきたシステムであるので、一般的な諸機能(認証機能、学習管理機能、教材作成機能、
掲示板機能、ファイル管理機能など)のほか、マルチメディア辞書機能(英語・ドイツ語・フラン
ス語・中国語など)や画像・音声・動画に対応した高度なテスト機能を有している点が特徴である。
WebOCMnext は、北海道大学、東北大学、大阪大学、九州大学など日本の大学ばかりではなく、海
外の諸大学でも使用されている。なお、本稿が対象とする WebOCMnext のバージョンは WebFW
Ver.2.82 であり、IPEditor のバージョンは V.3.01.0318 である。
2) [既存のシステムとの比較] WebOCM(WebOCMnext の前世代のシステム)では、テスト作成用の
XML エディターがあり、使用者は、XML にかんする知識がなくても、このエディターに従って所
定欄にデータ(問題用テクストや設問文や正答など)を入力したり、XML 属性値を設定したりし
ていくと、整合性のあるテスト用 XML ファイルを作成することができた。WebOCMnext では、テ
スト作成用の IPEditor があり、使用者は、一般的な文書作成ソフトウェアでテスト問題を作るよう
な感覚でテスト用 XML ファイルを作成することができる。たとえば、WebOCMnext で穴埋め問題
を作る場合、穴埋め文字列をカーソルで選択して、
「Anaume」アイコンをクリックするだけで完了
する。また、WebOCM では、テスト画面の左画面において、HTML のタグで文字列やパラグラフ
などをマークアップすることによって、その文字列やパラグラフなどにレイアウトやデザインを設
定することができた。WebOCMnext では、すべてのテスト画面において、RTEditor(リッチテクス
トエディター)によって、文字列やパラグラフなどにさまざまなレイアウトやデザインを簡単に設
定することができる。さらに、画像、音声、動画にかんしては、WebOCM では設定できる場所が
限られていて、その設定方法が複雑であった。WebOCMnext では、任意の場所に設定でき、設定方
法が一般的な文書作成ソフトウェアでの設定方法と近い。WebOCMnext では、GUI(グラフィカル
ユーザインターフェース)が充実していると言える。
3) 図 1 のテスティング用ファイルの作成手順:WebOCMnext の左側にあるメニューの「ダイナミッ
ク教材作成システム」をクリックする。IPEditor が起動するので、その「ジャンルリスト」から「小
テスト」などの任意のジャンルを選ぶ。IPEditor の左上にある「File」をクリックし、そのなかの「New」
を選択する。ファイル名を設定するボックスが開くので、適当なファイル名を入力し「OK」する
と、そのファイルが「小テスト」などのジャンルに登録される。このファイルをクリックして開く。
開いたファイルの左上にある「□」を右クリックして、そのメニューのなかから「コンポーネント
リスト」をクリックし、表示される画面の「選択形式_穴埋め・DDL」にチェックマークを入れる
(DDL: ドロップダウンリスト)
。必要のない「選択形式_単項」と「Check」のチェックマーク(自
動的についている)をはずす。
「選択形式_穴埋め・DDL」の「+」クリックし、
「項目」行末の右に
「1」を入力、
「Check」のチェックマークをはずす。そのうえで「配下に追加」をクリックすると、
図 1 のテスティング用ファイルとなる。各ノードの表示デザインについては、そのノードのプロパ
ティで調整する。
4) ドロップダウンリストからの選択穴埋め問題にするときは、
「Anaume」アイコンのかわりに「DDL」
アイコンをクリックする。
5) WebOCMnext のテスティング・システムでは、単項選択問題(ラジオボタンによる選択問題)を
作ることもできるが、その場合、1 つの選択肢を 1 つの入力欄に入力(コピー&ペースト)してい
くことになる。つまり、少なくとも全選択肢の数だけ、入力(コピー&ペースト)を繰りかえす。
図 1 のテスティング用ファイルを使うと、1 回の入力(コピー&ペースト)で終わる。キーボード
からの文字入力がむずかしい場合は、ドロップダウンリストからの選択穴埋め問題とすることもで
きる。
6) 図 8 のテスティング用ファイルの作成手順:図 1 のテスティング用ファイル作成のさいと同じよ
うに、まず、「ダイナミック教材作成システム」に新しいファイルを登録して、そのファイルをク
リックして開く。開いたファイルの左上にある「□」を右クリックして、そのメニューから「パー
ツ選択」をへて「テーブル」の値を「行数:1、セル数:2、幅(px):400、高さ(px):20」と設定し、
「直下に追加」をクリックすると、2 つのセルができる。各セルの左上にある「□」を右クリック
して、そのメニューから「パーツ選択」をへて「箇条書き」の値を「項目数:1」と設定し、
「直下
に追加」をクリックする(左右のセルで同じ設定をする)
。右セルの「箇条書き」ノードのすぐ下
にある「項目」の「□」を右クリックして、そのメニューのなかから「コンポーネントリスト」を
クリックし、表示される画面の「選択形式_穴埋め・DDL」にチェックマークを入れる。必要のな
い「選択形式_単項」と「Check」のチェックマークをはずす。「選択形式_穴埋め・DDL」の「+」
クリックし、
「項目」行末の右に「1」を入力、
「Check」のチェックマークをはずす。そのうえで「配
下に追加」をクリックすると、図 8 のテスティング用ファイルとなる。各ノードの表示デザインに
ついては、そのノードのプロパティで調整する。
参考文献
石川祥一, 西田正, 斉田智里 (2011) 『テスティングと評価』大修館書店, 東京.
野口裕之, 大隅敦子 (2014) 『テスティングの基礎理論』研究社, 東京.
杉浦謙介 (2013) 「外国語教育に適した WBT システム―その仕様についての考察―」ドイ
ツ語情報処理研究 (日本ドイツ語情報処理学会) 第 23 号, pp. 1-14.
杉浦謙介, 細谷行輝, 大前智美 (2014) 『WebOCMnext 用ドイツ語文法問題集』 シングリ
ー・ジャパン, 大阪.
植野真臣, 永岡慶三 (2009) 『e テスティング』培風館, 東京.