----------------------------------------------------------------------------------------2012 年 10 月 22 日 一般格付け規準: ハイブリッド資本のステップアップ条項、繰り上げ償還条項、借 り換え条項の評価規準を明確化 日本における問い合わせ先: 山岡隆正、東京 電話 03-4550-8719 久保田穣、東京 電話 03-4550-8730 【編集注】本リポート中の高資本性に関する記述は、2013 年 4 月 1 日付「General Criteria: Methodology And Assumptions: Assigning Equity Content To Corporate Entity And North American Insurance Holding Company Hybrid Capital Instruments」(和訳版:2013 年 6 月 28 日付「一般格付け規準:手法と想定:事業会 社と北米の保険持ち株会社のハイブリッド資本証券に関する資本性評価要因」)に部分的に取って代わられて います。 *本稿は、2012 年 10 月 22 日付「General Criteria: Criteria Clarification On Hybrid Capital Step-Ups, Call Options, And Replacement Provisions」を翻訳したものですが、本文に付随する情報の一部は訳出を省略し ています。それらについては英語版を参照してください。本和訳版は 2016 年 12 月 14 日に再公表したもので す。 【訂正】本リポートは 2012 年 10 月 18 日に公表されましたが、本評価規準の対象とならない特定のタイプの繰 り上げ償還条項を明確にするために、2012 年 10 月 22 日に段落 3 に説明を加えました。 1. スタンダード&プアーズ・レーティングズ・サービシズ(以下「S&P」)は、ステップアッ プ条項や、繰り上げ償還条項、借り換え条項が設定されたハイブリッド資本証券の資本性を 分類する際の手法と想定を明確にする。本稿は、既存の格付け規準リポートから、様々なセ クターのハイブリッド資本証券を評価する規準をまとめる一方で、既存の評価規準を 1 つの 側面についてのみ変更する。S&P は以前(2012 年 10 月 18 日より前)は、規制対象の発行体 については、利率が事前に設定された幅で上昇(ステップアップ)するという条項がなく〈ま たはステップアップが無視して差し支えない幅(immaterial)に過ぎず〉、財務面で繰り上げ 償還するインセンティブが他に生じないハイブリッド資本証券の場合、発行体に当該証券を 発行日から 5 年より前に繰り上げ償還(コール)することを認める条項があっても「中資本 性」に相当しうるとみなしていた。現在では、このような条項は「中資本性」ではなく、「低 資本性」に相当すると考える。しかし、この変更によって、実際に銀行のハイブリッド資本 証券の資本性が変わることはない。銀行のハイブリッド資本証券が「中資本性」または「高 資本性」を認められるには規制上の自己資本に算入可能でなければならないうえ、銀行の規 制監督当局が発行日から 5 年より前の繰り上げ償還を禁止する傾向があるためである。 1 2. 本稿は 2008 年 12 月 12 日付「ハイブリッド証券の資本性評価 借り換え条項の評価を明確 化」 )および、 2009 年 9 月 16 日付「Criteria Assumptions Regarding Coupon Step-Ups In Equity Hybrids By Banks And Insurers」(英文のみ)に取って代わる。本稿は 2011 年 2 月 16 日付 「Principles Of Credit Ratings」(和訳版:2011 年 3 月 2 日付「信用格付けの原則」 )に関 連している。 本評価規準の適用範囲 3. 本稿は事業会社、公益企業、銀行、保険会社、その他の金融機関をはじめとする事業体が 発行した、または今後発行するハイブリッド資本証券で、ステップアップ条項や繰り上げ償 還条項、借り換え条項が設定されたものすべてに適用する規準をまとめたものだが、ソブリ ン、国際金融機関、地方自治体が発行するものは対象外とする。株主や中央政府をはじめ、 関係当事者(株主でないものを含む)に対して発行される証券も対象外である。本稿におけ る繰り上げ償還権にかかる評価規準には、税制、規制、会計基準、格付け会社分析手法等の 外的事由の変更によって生じる繰り上げ償還権を含まない。 本評価規準の概要 4. 発行体による繰り上げ償還権(コールオプション)を備えたハイブリッド資本証券が、 「中 資本性」を認められるかどうかは、いくつかの重要な要因によって決まる。 • 発行日から、初めて繰り上げ償還が可能となる日までの期間。 • 繰り上げ償還が可能になる日またはその後に、利率のステップアップがあるか、または 証券の繰り上げ償還を動機づけるその他の同様な要素があるか。 • そのような財務面でのインセンティブが生じる場合、その強さ(ステップアップの幅を 含む)。 5. • 発行日から、そのようなインセンティブが生じる日までの期間。 • 発行体格付けまたはスタンドアローン評価のいずれかで表される発行体の信用力。 これらの要因をどのように組み合わせるかは、発行体が銀行か、健全性規制の対象である 保険会社か、あるいは他の事業体のいずれであるかによって異なる(後述の各セクション参 照) 。S&P の格付け規準では、銀行を他の事業体とは別に扱う。銀行は信用力に関する市場の 認識の変化の影響をより受けやすく、そのために、例えばステップアップ日にハイブリッド 資本証券を繰り上げ償還しない場合、評判が悪化したり、それがメディアで取り上げられる ことで悪影響を受けたりしやすい(利払いが繰り延べになった場合にも、この評判リスクが 当てはまる)からである。したがって、銀行がステップアップ日にハイブリッド資本証券を 繰り上げ償還するインセンティブは銀行以外の事業体より強く、そのため、銀行が発行した ステップアップ条項付き証券の資本性の評価は低めとなる。また、S&P の格付け規準では、 規制の対象でない事業体(後述の「その他の発行体」参照)と、健全性規制の対象である保 険会社を区別し、同一の特性を備えたハイブリッド資本証券でも、健全性規制の対象である 保険会社が発行したものである場合、資本性がより高いと評価することがある。これは一般 に、保険会社の規制監督当局は保険会社の経営に介入する権限を持ち、保険会社がハイブリ ッド資本証券を繰り上げ償還するには当局の審査が必要となる場合が多いためである。 一般格付け規準:ハイブリッド資本のステップアップ条項、繰り上げ償還条項、借り換え条項の評価規準を明確化 |S&P Global Ratings 2 6. 本段落は削除された。 手法と想定 7. S&P がステップアップ条項や、繰り上げ償還条項、借り換え条項が設定されたハイブリッ ド資本証券の資本性を「高資本性」 、 「中資本性」 、 「低資本性」のいずれかに分類する際の手 法と想定は、以下の通りセクターによって異なる。 8. S&P の格付け規準では、ステップアップ日または繰り上げ償還可能日までの期間は、評価 日からではなく、発行日からの期間と定義する。 9. ハイブリッド資本証券が「中資本性」または「高資本性」を認められるには、本稿にまと めたステップアップ、繰り上げ償還権、借り換え条項の評価に加え、関連リポートに掲載し た格付け規準で説明されている規準に合致していなくてはならない。 銀行 10. 銀行については、ステップアップ条項や繰り上げ償還条項、借り換え条項付きのハイブリ ッド資本証券の資本性の分類に関する手法と想定を表 1 にまとめた。表 1 に示した規準は 2015 年 1 月 29 日付「Bank Hybrid Capital And Nondeferrable Subordinated Debt Methodology And Assumptions」(和訳版:2015 年 2 月 27 日付「銀行のハイブリッド資本証券と支払い停 止条項のない劣後債の格付け手法と想定」 )の段落 58 から 60、68 および 69 の規準と比べる と、発行日から 5 年より前に繰り上げ償還が可能になる場合が「中資本性」に合致しないこ とを明確にした点以外はすべて同一である。表 1 は上記の格付け規準リポートの規準を分か りやすくするため、表形式にしたものである。 11. 本稿での「銀行」は、銀行とその他の預金取扱機関〈住宅金融組合(building societies) など〉 、金融会社、銀行の純粋持ち株会社を指し、保険グループまたは事業会社グループの銀 行子会社を含む。証券取引所や決済機関、資産運用管理会社、保険会社、事業会社、銀行の 子会社である保険会社は含まない。 一般格付け規準:ハイブリッド資本のステップアップ条項、繰り上げ償還条項、借り換え条項の評価規準を明確化 |S&P Global Ratings 3 表 1 銀行の規準 スタンドアローン 評価(SACP) 「bbb-」以上 ハイブリッド証券の性質と資本性の分類 発行日から 5 年より前に発行体が繰り上げ償還権を持たず、かつ、次のいずれかの条件 を満たしている場合、「中資本性」を認める可能性がある。 • 発行日から 20 年以内に、利率のステップアップ(その幅にかかわらず)も、同様な財務 面での他の繰り上げ償還インセンティブも存在しない。 • ゴーイングコンサーン・ベースのコンティンジェント・キャピタル証券*で、残存期間が 15 年以上ある場合、15 年以内に、利率のステップアップ(その水準にかかわらず)も、同様 な財務面での他の繰り上げ償還インセンティブも存在しない。 「bb 格」 発行日から 5 年より前に発行体が繰り上げ償還権を持たず、かつ、次のいずれかの条件 を満たしている場合、「中資本性」を認める可能性がある。 • 発行日から 15 年以内に、利率のステップアップ(その水準にかかわらず)も、同等な財 務面での他の繰り上げ償還インセンティブも存在しない。 • ゴーイングコンサーン・ベースのコンティンジェント・キャピタル証券*で、残存期間が 10 年以上ある場合、10 年以内に、利率のステップアップ(その水準にかかわらず)も、同様 な財務面での他の繰り上げ償還インセンティブも存在しない。 「b 格」 次の条件をともに満たしている場合、「中資本性」を認める可能性がある。 • 発行日から 5 年より前に発行体の繰り上げ償還権が生じない。 • 発行日から 10 年以内に、利率のステップアップ(その水準にかかわらず)も、同様な財 務面での他の繰り上げ償還インセンティブも存在しない。 *本表の「ゴーイングコンサーン・ベースのコンティンジェント・キャピタル証券」とは、ゴーイングコンサーン・ベースのト リガーに抵触した際に強制的に普通株へ転換される、または元本が減額されるという特性を持つ証券で、「銀行のハ イブリッド資本証券と支払い停止条項のない劣後債の格付け手法と想定」の段落 39、40、68、69 に記載された特性 に合致しているものを指す。 銀行のハイブリッド資本証券は規制自己資本に算入可能な場合に限り、「高資本性」または「中資本性」が認められ る。 健全性規制の対象である保険会社 12. 健全性規制の対象である保険会社については、ステップアップ条項や繰り上げ償還条項、 借り換え条項付きのハイブリッド資本証券の資本性の分類に関する手法と想定を表 2 にまと めた。健全性規制の対象となる保険会社とは、自己資本規制を含む規制の対象となっている 保険会社(または保険グループ)である。表 2 にまとめた規準は、2008 年 9 月 15 日付「Hybrid Capital Handbook: September 2008 Edition」 (和訳版:2008 年 10 月 2 日付「ハイブリッド 資本ハンドブック」)の表 6 でも述べられている。 13. 米国とバミューダの保険持ち株会社は、現在は健全性規制の対象となる保険会社に該当し ないため、両国の保険持ち株会社には以下の「その他の発行体」の規準を適用する。 表 2 健全性規制の対象である保険会社の規準 ハイブリッドの性質 資本性の分類 発行日から 5 年より前に中程度の (moderate)の利 率のステップアップと繰り上げ償還権が生じる。 「低資本性」(法的効力のある借り換え条項が設定さ れていても) 発行日から 5 年目以降 10 年より前に中程度の利率 のステップアップがある(ノンコール期間の有無を問 わない)。 法的効力のある借り換え条項が設定されている場合 に限り、「中資本性」を認める可能性がある。 一般格付け規準:ハイブリッド資本のステップアップ条項、繰り上げ償還条項、借り換え条項の評価規準を明確化 |S&P Global Ratings 4 発行日から 10 年目以降に中程度の利率のステップ アップがある(ノンコール期間の有無を問わない)。 無視して差し支えない幅(immaterial)の利率のステ ップアップ(具体的には 25bp 以下)がある、またはス テップアップがない(ステップアップの時期を問わな い)。 14. 発行体に発行日から 5 年より前に繰り上げ償還するこ とを認める条項が設定されていなければ、借り換え条 項がなくても、「中資本性」を認める可能性がある。 表 2 の「中程度(moderate)のステップアップ」とは、発行体格付けが「BBB-」以上の発 行体については 26-100 ベーシスポイント(bp) 、発行体格付けが「BB+」以下の発行体につ いては 26-200bp を意味する。市場のスプレッドが急激に上昇した場合、保険規制当局が明 示的に容認すれば、中程度のステップアップの定義を調整できる場合がある。その場合、ス テップアップが当初の信用スプレッドの 50%を超えなければ、 「中程度」とみなされるが、 上限を 200bp とする。 その他の発行体 15. 事業会社など、その他の発行体については、ステップアップ条項や繰り上げ償還条項、借 り換え条項付きのハイブリッド資本証券の資本性の分類に関する手法と想定を表 3 にまとめ た。 16. 表 3 の「中程度のステップアップ」とは、発行体格付けが「BBB-」以上の発行体について は 26-100bp、発行体格付けが「BB+」以下の発行体については 26-200bp、またはそれに相 当する他の仕組みを意味する。 表 3 その他の発行体の規準 ハイブリッドの性質 資本性の分類 発行日から 5 年より前に繰り上げ償還権が 生じる。 「低資本性」(利率のステップアップがなく、法的効力のある借 り換え条項が設定されていても) 発行日から 5 年目以降 10 年より前に中程度 の利率のステップアップと繰り上げ償還権が 生じる。 「高資本性」にはならない。法的効力のある借り換え条項が設 定されている場合に限り、「中資本性」を認める可能性があ る。 発行日から 10 年目以降に中程度の利率の ステップアップがあり、5 年目以降に繰り上 げ償還権が生じる。 「高資本性」にはならない。次のいずれかの場合に限り、「中 資本性」を認める可能性がある。 • 2013 年 4 月 1 日 付 「 Methodology And Assumptions: Assigning Equity Content To Corporate Entity And North American Insurance Holding Company Hybrid Capital Instruments」(和訳版:2013 年 6 月 28 日付「手法と想定:事 業会社と北米の保険持ち株会社のハイブリッド資本証券に 関する資本性評価要因」)の規準に合致する、法的効力の ある借り換え条項が設定されている。 • 日本など、法的効力のある借り換え条項を実務的に使用で きない国では、借り換えの意思が表明されている。 無視して差し支えない幅の利率のステップア ップ(具体的には 25bp 以下、ステップアップ の時期を問わない)がある、またはステップ アップがなく、発行日から 5 年より前に繰り 上げ償還権が生じない。 借り換え条項がなくても、「中資本性」または「高資本性」と認 める可能性がある。 一般格付け規準:ハイブリッド資本のステップアップ条項、繰り上げ償還条項、借り換え条項の評価規準を明確化 |S&P Global Ratings 5 17. 本稿で述べた規準は、レバレッジド・バイアウトを実施している会社が発行するハイブリ ッド資本証券を評価するものではない。2014 年 4 月 29 日付「The Treatment Of Non-Common Equity Financing In Nonfinancial Corporate Entities」を参照されたい。 付属資料 A:よくある質問(FAQ) 質問 1:発行体の格下げによりハイブリッド資本証券の資本性が失われたら、発行体に当該証券を繰り 上げ償還する権利が発生するという条項が既存のハイブリッド証券の発行書類に含まれる場合、発行 体が当該証券の保有者にその繰り上げ償還権を行使しないことを表明すれば、そうした繰り上げ償還条 項があることで生じるリスクが十分に軽減され、当該証券に「中資本性」以上の資本性が認められる か? 18. 既存の証券に関しては、 「中資本性」以上の資本性を認める可能性がある。それは法的分析 を踏まえた S&P の格付け委員会の分析が以下のような場合である。すなわち、当該証券の発 行書類で認められていた格下げ時の繰り上げ償還権を行使しないという発行体の表明が、発 行体に課される法的拘束力のある無条件の取り消し不能な義務であり(かつそれを変更する 権利が、当該証券の他の主要条件を当初条件から変更する権利と同等またはそれ以上に十分 制限されており) 、発行体が表明を反故にしたり、表明した内容を変更したりしようとするリ スクが非常に低い場合。 19. さらに、このような表明によってハイブリッド証券の資本性が「中資本性」か「高資本性」 と認められるには、1)他のすべての特性が当該資本性の要件に合致する、2)表明が公表さ れている、3)発行体がそうした表明を行う目的が、前述の繰り上げ償還権の影響を相殺する ことにある――のすべてを満たす必要がある(S&P は、そうした繰り上げ償還権について、 「中資本性」に必要な永続性と損失吸収能力の概念と合致しないと考えており、この点につ いては、2015 年 10 月 27 日付「Standard & Poor's Affirms Various Ratings Following Review Of Corporate Hybrid Equity」にて、一部の証券の資本性を「中資本性」から「低資本性」 に分類し直したことを発表した際に言及している) 。 20. 前述の表明は、借り換え条項とは形態が異なる。借り換え条項は、S&P のハイブリッド資 本の格付け規準において有効と評価されるためには、ハイブリッド資本証券以外の債務を保 有する債権者のために設定されなければならず、また発行体に特定の行動をとる(具体的に は、代わりのハイブリッド証券などを新たに発行する)ことを義務付けるものでなくてはな らない。これと異なり、前述の表明は、発行体が一定の行動をとること(具体的には繰り上 げ償還権の行使)を防ぐものである(義務付けるのではない) 。繰り上げ償還権発生のトリガ ーとなる事象が発生しても、発行体が当該ハイブリッド証券を繰り上げ償還しないであろう ことが当該表明から明らかであると格付け委員会が判断し、さらに段落 19 で説明した他の 3 つの条件も満たされる場合、当該表明を行うことは「中資本性」に合致しうる。格付け規準 のこの解釈は 2015 年 10 月 27 日より前に発行されたハイブリッド資本証券に適用される(格 下げをトリガーとする繰り上げ償還条項についての S&P の見方を同日に公表しており、同日 以降にこのような繰り上げ償還条項を盛り込むことは経営陣の意思についての疑問を提起す るという点に留意されたい) 。 21. 発行体がその表明を反故にした場合(あるいはその表明を変更できる範囲において変更を 一般格付け規準:ハイブリッド資本のステップアップ条項、繰り上げ償還条項、借り換え条項の評価規準を明確化 |S&P Global Ratings 6 試みた場合) 、2012 年 11 月 13 日付「Methodology: Management And Governance Credit Factors For Corporate Entities And Insurers」 (和訳版:2013 年 1 月 9 日付「手法:事業会社と保 険会社の経営陣とガバナンスに関する信用力評価要因」 )が適用されることにも留意されたい。 そのような場合には、S&P は発行体の経営陣が優先順位の高い債権者のために当該ハイブリ ッド証券に損失吸収させる意思がないと考え、発行体の格付けを引き下げ、その他のハイブ リッド証券の資本性を「低資本性」に分類し直す可能性が高い。 質問 2:最近の金利環境において、利率のステップアップが固定金利から変動金利へのリセットと同時に 生じることで、ハイブリッド資本証券の支払い利息が大幅に減少し、したがって証券を繰り上げ償還する 経済的インセンティブがほとんど生じない場合、ステップアップ条項付き証券は法的効力のある借り換え 条項がなくても、「中資本性」と認められるか? 22. S&P の格付け規準では、利率の上昇が無視できない(material)幅であるステップアップ 条項と組み合わされた繰り上げ償還条項は、ステップアップを回避するために証券を繰り上 げ償還するインセンティブを与えるよう考案されたものとみなしている。こうした理由から、 無視できない幅のステップアップがある場合、本稿で既に述べたように、法的効力のある借 り換え条項のような借り換え文言を求める。そのような借り換え条項がなければ、証券の資 本性は「低資本性」となる。しかし、利率のステップアップが生じても、同時に固定金利か ら変動金利へ切り替わることで実際には利率(証券から発生する利息額が決まる水準)が低 下するような金利環境にある場合(かつ、そうした状況が当面続くと予想される場合)、ステ ップアップ回避のために証券を繰り上げ償還するインセンティブはなくなる。このような特 定の証券はもはや実質的にステップアップの特性を持っていない。 23. 繰り上げ償還が可能になる日が十分に近く、したがって格付け委員会が――金利環境につ いての S&P の見通しを考慮しつつ――金利の変動についてそれほど懸念する必要がない場合、 上記の状況は、利率のステップアップが無視できる幅にすぎない証券やステップアップのな い証券に相当すると考えることができる。また、この分析はステップアップが 100bp 以下の 場合にのみ適用される。それより大幅なステップアップは S&P の格付け規準のもとでは中程 度(moderate)とみなされず、また、証券を維持する発行体の意思が、少なくとも当初は弱 いことを示唆しうるためである。 24. したがって、以下の 5 つの条件すべてを満たす証券は、利率のリセット日から償還まで十 分長い期間(「ハイブリッド資本ハンドブック」で説明されている残余期間)があれば、 「中 資本性」を認められうる。 • 繰り上げ償還が可能になる日が 12 カ月以内。 • 発行時に、S&P の格付け規準に基づく「高資本性」か「中資本性」を備えていた。 • ステップアップが 100bp 以下(中程度のステップアップとみなされる範囲と一致) 。 • S&P の正式な予想に基づくと、金利のリセットにより支払い利息が減少する水準に金利 がとどまると格付け委員会が予想する。 • 格付け委員会は、発行体との議論の場で示された発行体の意思と発行体の財務方針につ いての S&P の評価に基づき、証券が繰り上げ償還されないと予想する。 25. 格付け委員会がステップアップが行われないと判断するには、5 つの条件がすべて該当す 一般格付け規準:ハイブリッド資本のステップアップ条項、繰り上げ償還条項、借り換え条項の評価規準を明確化 |S&P Global Ratings 7 る必要がある。 「中資本性」に分類される証券については、S&P は発行体との議論や発行体の 財務方針の評価に基づき、当該証券は繰り上げ償還されず、また、利息費用は利率リセット 日に減少すると想定する。証券が後にステップアップ日に償還された場合、財務方針の評価 を含む発行体の信用力の全体的な評価に影響を及ぼす可能性がある。 付属資料 B:変更履歴 (訳注:本項に記載された訂正に関する記述のみ訳出し掲載している) • 本リポートは 2012 年 10 月 18 日に公表されたが、本評価規準の対象とならない特定のタ イプの繰り上げ償還条項を明確にするために、2012 年 10 月 22 日に段落 3 に説明を加え た。 関連格付け規準と関連リサーチ (訳注:本項は英語のまま転記している) • Bank Hybrid Capital And Nondeferrable Subordinated Debt Methodology And Assumptions, Jan. 29, 2015 • The Treatment Of Non-Common Equity Financing In Nonfinancial Corporate Entities, April 29, 2014 • Methodology And Assumptions: Assigning Equity Content To Corporate Entity And North American Insurance Holding Company Hybrid Capital Instruments, April 1, 2013 • Methodology: Management And Governance Credit Factors For Corporate Entities And Insurers, Nov. 13, 2012 • Principles Of Credit Ratings, Feb. 16, 2011 • Hybrid Capital Handbook: September 2008 Edition, Sept. 15, 2008 • Feasibility Of Replacement Capital Covenants Under Japan's Legal Framework, July 3, 2007 * 本格付け規準(criteria)は、信用リスクと格付け意見を決定する基本的原則(fundamental principles)を個別ケースに適用する際に用いられるものである。格付け規準の適用は、発行 体または個別債務に固有の事実、当該発行体または個別債務の信用リスクに対するスタンダ ード&プアーズ・レーティングズ・サービシズの評価、ならびに該当する場合には、発行体 や個別債務格付けのストラクチャーにかかるリスクによって決定される。手法(methodology) と想定(assumptions)は、市場や経済の状況、個別債務または発行体に固有の要因、信用力 の判断に影響を及ぼしうる実績データを勘案した結果を受けて、適宜変更されることがある。 Copyright © 2016 by Standard & Poor's Financial Services LLC. All rights reserved. 本稿に掲載されているコンテンツ(信用格付、信用関連分析およびデータ、バリュエーション、モデ ル、ソフトウエア、またはそのほかのアプリケーションもしくはそのアウトプットを含む)及びこれら のいかなる部分(以下「本コンテンツ」といいます。 )について、スタンダード&プアーズ・フィナン シャル・サービシズ・エル・エル・シーまたはその関連会社(以下、総称して「S&P」 )による事前の 書面による許可を得ることなく、いかなる形式あるいは手段によっても、修正、リバースエンジニアリ ング、複製、頒布を行うこと、あるいはデータベースや情報検索システムへ保存することを禁じます。 一般格付け規準:ハイブリッド資本のステップアップ条項、繰り上げ償還条項、借り換え条項の評価規準を明確化 |S&P Global Ratings 8 本コンテンツを不法な目的あるいは権限が与えられていない目的のために使用することを禁じます。 S&P、外部サービス提供者、およびその取締役、執行役員、株主、従業員あるいは代理人(以下、総 称して「S&P 関係者」 )はいずれも、本コンテンツに関して、その正確性、完全性、適時性、利用可能 性について保証いたしません。S&P 関係者はいずれも、原因が何であれ、本コンテンツの誤謬や脱漏(過 失であれその他の理由によるものであれ) 、あるいは、本コンテンツを利用したことにより得られた結 果に対し、あるいは利用者により入力されたいかなる情報の安全性や維持に関して、一切責任を負いま せん。本コンテンツは「現状有姿」で提供されています。S&P 関係者は、明示または黙示にかかわらず、 本コンテンツについて、特定の目的や使用に対する商品性や適合性に対する保証を含むいかなる事項に ついて一切の保証をせず、また、本コンテンツに関して、バグ、ソフトウエアのエラーや欠陥がないこ と、本コンテンツの機能が妨げられることがないこと、または、本コンテンツがいかなるソフトウエア あるいはハードウエアの設定環境においても作動することについての保証を含む一切の保証をいたし ません。いかなる場合においても、S&P 関係者は、損害が生じる可能性について報告を受けていた場合 であっても、本コンテンツの利用に関連する直接的、間接的、付随的、制裁的、代償的、懲罰的、特別 ないし派生的な損害、経費、費用、訴訟費用、損失(損失利益、逸失利益あるいは機会費用、過失によ り生じた損失などを含みますが、これらに限定されません)に対して、いかなる者に対しても、一切責 任を負いません。 本コンテンツにおける、信用格付を含む信用関連などの分析、および見解は、それらが表明された時 点の意見を示すものであって、事実の記述ではありません。S&P の意見、分析、格付けの承認に関する 決定(以下に述べる)は、証券の購入、保有または売却の推奨や勧誘を行うものではなく、何らかの投 資判断を推奨するものでも、いかなる証券の投資適合性について言及するものでもありません。S&P は、本コンテンツについて、公表後にいかなる形式やフォーマットにおいても更新する義務を負いませ ん。本コンテンツの利用者、その経営陣、従業員、助言者または顧客は、投資判断やそのほかのいかな る決定においても、本コンテンツに依拠してはならず、本コンテンツを自らの技能、判断または経験に 代替させてはならないものとします。S&P は「受託者」あるいは投資助言業者としては、そのように登 録されている場合を除き、行為するものではありません。S&P は、信頼に足ると判断した情報源から情 報を入手してはいますが、入手したいかなる情報についても監査はせず、またデューデリジェンスや独 自の検証を行う義務を負うものではありません。 ある国の規制当局が格付け会社に対して、他国で発行された格付けを規制対応目的で当該国において 承認することを認める場合には、S&P は、弊社自身の裁量により、かかる承認をいかなる時にも付与、 取り下げ、保留する権利を有します。S&P 関係者は、承認の付与、取り下げ、保留から生じる義務、お よびそれを理由に被ったとされる損害についての責任を負わないものとします。S&P は、それぞれの業 務の独立性と客観性を保つために、事業部門の特定の業務を他の業務から分離させています。結果とし て、S&P の特定の事業部門は、他の事業部門が入手できない情報を得ている可能性があります。S&P は各分析作業の過程で入手する非公開情報の機密を保持するための方針と手続を確立しています。 S&P は、信用格付の付与や特定の分析の提供に対する報酬を、通常は発行体、証券の引受業者または 債務者から、受領することがあります。S&P は、その意見と分析結果を広く周知させる権利を留保して います。S&P の公開信用格付と分析は、無料サイトの www.standardandpoors.com、そして、購読契約に よる有料サイトの www.ratingsdirect.com および www.globalcreditportal.com で閲覧できるほか、 S&P によ る配信、あるいは第三者からの再配信といった、他の手段によっても配布されます。信用格付手数料に 関する詳細については、www.standardandpoors.com/usratingsfees に掲載しています。 一般格付け規準:ハイブリッド資本のステップアップ条項、繰り上げ償還条項、借り換え条項の評価規準を明確化 |S&P Global Ratings 9
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