領事関係に関するウイ―ン条約の発効等に伴う警察措置について(例規通達) 領事関係に関するウイ―ン条約(以下「ウイ―ン条約」という。)は、昭和58年11月2 日から我が国に対して発効したが、警察運営に関係が深いと認められる領事機関に与えら れる公文書の不可侵権、領事機関の構成員に与えられる刑事裁判権からの免除及び身体の 不可侵権並びに外国人を抑留した場合の領事機関に対する各種の通報義務及び領事官の訪 問通信権については、同条約のほか、諸外国と我が国との間の二国間条約(以下「個別条 約」という。 )に関連する規定が置かれている。ウイ―ン条約加盟国で本邦に領事機関が存 在する国は、別表第1のとおりであり、ウイ―ン条約への加盟の有無、個別条約の締結の 有無等によつて適用される内容が国ごとに異なることから、今後、次により警察措置を執 ることとし、条約上の義務の履行に誤りのないようにされたい。 記 第1 領事機関の特権及び免除の概要 領事機関は、外交使節団と異なり、外交交渉を行う機能を有しておらず、自国民の保 護等に関連した職務を行うにとどまるが、ウイ―ン条約加盟国は、本務領事官を長とす る領事機関の公館の不可侵権(第31条関係)を始めとして次に示す特権及び免除を享受 することとされているので、領事機関の構成員(領事官及び職員をいう。以下同じ。 )に 係る事案を処理する場合においては、その身分を外務省発給の身分証明票により確認し なければならない。 1 公文書の不可侵(第33条、第61条関係) (1)本務領事官を長とする領事機関の公文書については、いずれの時及びいずれの場 所においても不可侵とされ、捜索、差押え又は閲覧をすることは許されない。 (2)名誉領事官を長とする領事機関の公文書については、個人的な通信文や書類と区 別して保管されていることを条件に、いずれの時及びいずれの場合においても、不 可侵とされる。 2 通信の自由(第35条関係) 領事機関の公用通信は、不可侵とされる。「公用通信」とは、領事機関及びその任務 に関するすべての通信をいう。 3 領事機関の構成員に関する刑事裁判権からの免除及び身体の不可侵(第41条、第43 条、第58条、第71条関係) (1)刑事裁判権からの免除(第43条第1項、第58条第2項、第71条第1項) 本務領事官、名誉領事官及び事務技術職員(タイピスト、通訳、会計職員等領事 機関の事務的、技術的業務のために雇用されている者をいう。以下同じ。ただし、 日本人及び日本に通常居住している者を除く。)は、それぞれの領事任務の遂行に当 たつて行つた行為に関し、その行為が犯罪を構成する場合においても、我が国の刑 事裁判権から免除されるので、これらの者に対する逮捕、捜索、差押え等の強制捜 査は行わないものとする。 (2)身体の不可侵(第35条第5項・第6項、第41条第1項、第71条第1項) ア 本務領事官は、身体の不可侵権を有する。ただし、本務領事官が重大な犯罪(死 刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪をいう。 )を犯し た場合においては、身体の不可侵権を享受しないので、これを通常逮捕すること は許される。(緊急逮捕及び現行犯逮捕は、行うことができない。 ) イ 名誉領事官は、領事任務の遂行に当たつて行つた公の行為に関し、身体の不可 侵権を有する。 ウ 領事伝書使(自己の身分及び領事封印袋の数を示す公文書を交付されていなけ ればならない。)は、職務の遂行を離れて不必要なう回又は長期の滞在をした場合 及び領事封印袋を受取人に交付した後である場合を除き、身体の不可侵権 を有する。 エ 本務領事官、名誉領事官及び領事伝書使を保護し、又はこれらの者が犯罪を行 うことを防止するため、必要に応じてこれらの者の身体に対し、警察官職務執行 法、酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律などに基づき、保 護、避難等の措置、制止等の一時的な強制措置を採ることは許される。 (3)免除及び特権の適用除外(第71条第2項) 事務技術職員(日本人又は日本に通常居住している者に限る。) 、役務職員(受付、 玄関番、運転手、掃除人、料理人等をいう。)並びに領事機関の構成員の家族及び個 人的使用人は、我が国の刑事裁判権から免除されず、また、身体の不可侵権を有し ない。 第2 外国人抑留の際の領事機関に対する通報 逮捕等により、外国人を抑留した場合の領事機関に対する通報については、ウイ―ン 条約第36条のほか、別表第2のとおりアメリカ合衆国、アルゼンテイン、イギリス、ハ ンガリー、パキスタン、フイリピン、ポーランド及び旧ソ連と我が国との間の個別条約 に関連する規定が置かれており、国によつて適用が異なる。 ここでいう「抑留」とは、人の身体を拘束するすべての行為をいうが、抑留後直ちに 釈放した場合や、警察官職務執行法(昭和23年法律第 136号)に基づき、保護、避難等 の措置、制止等一時的に身体の拘束を行つた場合においては、通報の義務はない。 外国人を抑留した場合においては、当該抑留をした警察署又は警察本部の捜査主任官 及び留置施設の留置主任官は、次の措置を採ることとするが、その手順は、別表第3の とおりである。 1 捜査主任官の措置 捜査主任官は、外国人を抑留した場合においては、速やかに、刑事部捜査第一課長 (以下「捜査第一課長」という。)及び警察本部の事件主管課長(以下「主管課長」と いう。)に報告した上、抑留した外国人の所持する旅券又は外国人登録証明書によりそ の国籍を確認し、我が国への永住許可等取得の有無、ウイ―ン条約加盟国の国民であ るか否かにかかわらず次の措置を採らなければならない。 (1)権利の告知 抑留したすべての外国人に対し、遅滞なく次の事項を告知すること。 ア 自国の領事機関に対して身柄を拘束されている旨を通報することを要請するこ とができること。 イ 自国の領事機関に対して我が国の法令に反しない限度において信書を発するこ とができること。 (2)告知及び意思確認の方法 前記(1)の権利の告知及び自国の領事機関への通報を希望するか否かの確認は、 弁解を録取する際等に被抑留者の理解できる言語を確認し、それに対応する言語の 領事官への通報要請確認書(別記様式第1号)を被抑留者に提示して行い、同確認 書に必要な事項を自署させること。 (3)領事機関への通報 別表第1に掲げる国の被抑留者が自国の領事機関に対する通報を希望した場合は、 抑留場所を管轄する領事機関に対して遅滞なく次の事項を電話で通報した上、領事 官への通報要請確認書の通報控に所定事項を記入しておくこと。ただし、次の(4) に記載のいずれかに該当する場合は、それぞれに定める措置をとること。 ア 被抑留者の住所、氏名及び生年月日 イ 抑留の年月日時及び場所 ウ 抑留の原因となつた事案の概要 (4)特定国民等を抑留した場合の領事機関への通報 ア イギリス、ハンガリー、ポーランド又は旧ソ連(ウクライナ、ウズベキスタン 共和国、カザフスタン共和国、キルギス共和国、ベラルーシ共和国、ロシア連邦、 アゼルバイジャン共和国、グルジアの8箇国に限る。)の国民を抑留した場合 被抑留者の意思にかかわらず必ず、領事機関に対して、前記(3)の措置を採 ること。 イ 二重国籍者を抑留した場合 被抑留者の希望する一又は複数の国の領事機関に対して前記(3)の措置を採 ること。 ウ 無国籍者を抑留した場合 旅券発行国の領事機関に対し、被抑留者が通報を希望するときは、前記(3) の措置を採ること。 エ 台湾発行の旅券を所持している者、外国人登録証明書の国籍欄が「朝鮮」であ る者その他領事機関が我が国に存在しない国の国民を抑留した場合 通報しない。 オ 外国人登録証明書の国籍欄が「中国」であるなどにより台湾系中国人であるか 否か不明である者を抑留した場合 被抑留者が中華人民共和国の領事機関への通報を希望するときは、同国の領事 機関に対して前記(3)の措置をとること。 カ 領事機関の構成員を抑留した場合 領事機関の長については警察庁を通じて外務省に対し、領事機関の職員につい ては当該領事機関の長に対し、それぞれ抑留の事実の通報を要するので、その身 分を外務省発給の身分証明票により確認した上、領事機関の長である場合には捜 査第一課長に電話報告し、領事機関の職員である場合には領事機関の長に通報す ること。 なお、通報後、領事官への通報要請確認書の通報控に所定事項を記入しておく こと。 (5)事後の措置 ア 前記(1)による権利の告知をした外国人を留置するときは、当該留置施設の 留置主任官に対して、領事官への通報要請確認書の写しを交付すること。 イ 留置中の外国人から意思変更による通報要請の申出を受けたときは、直ちにそ の旨を当該留置施設の留置主任官に連絡すること。 ウ 逮捕した外国人を検察官に送致するときは、領事官への通報要請確認書(次の 2(1)イの措置が採られた外国人については、同措置に伴う書面を含む。 )の写 しを2部作成し、1部を送致書類末尾に添付し、他の1部を捜査第一課長に速や かに送付すること。 なお、当該書面の正本は、犯罪事件処理簿の末尾にとじて保管すること。 2 留置主任官の措置 留置主任官は、抑留した外国人を留置施設に留置する場合においては、捜査主任官 と連携を密にし、速やかに、その状況を警務部留置管理課長(以下「本部留置管理課 長」という。)に連絡するとともに、次の区分により措置しなければならない。 (1) 警察が逮捕した外国人の場合 ア 外国人を留置するに当たっては、領事機関に対する通報措置が採られているか 否かを明らかにするため、前記1(5)アにより交付された領事官への通報要請 確認書の写しを留置人名簿の末尾に添付すること。 イ 留置開始時に領事機関に対する通報の要請をしていなかった外国人が留置中に 意思を変更して通報を要請した場合には、領事官への通報要請確認書(意思変更) (別記様式第2号)によりその意思を確認した上、当該留置施設の所在地を管轄 する領事機関に対して留置の事実を遅滞なく通報し、同書面中の通報控に所定事 項を記入した後、当該確認書の写しを捜査主任官に交付し、正本は、留置人名簿 の末尾に添付すること。留置中の外国人の意思の変更による通報要請の申出を受 けた者から連絡を受けた場合も同様の措置を採ること。 なお、身柄送致後の外国人被疑者又は被告人についてこの措置を採つたときは、 その旨を、起訴前にあつては検察官、起訴後にあつては裁判所に対して、電話連 絡等適宜の方法により通知するとともに、通知控(別記様式第3号)を作成し、 留置人名簿の末尾に添付すること。 ウ 留置中の外国人が検察官又は裁判所に対して領事機関に対する通報を要請し、 当該検察官又は裁判所において領事機関に対する通報措置を採ったときは、当該 検察官又は裁判所から通報を行つた旨の通知がされることとなつているので、こ の通知を受理したときは、通知受理票(別記様式第4号)を作成するとともに、 その写しを捜査主任官に交付し、正本は、留置人名簿の末尾に添付すること。 (2) 警察が逮捕した者以外の外国人を警察の留置施設に留置する場合 ア 外国人を留置するに当たつては、当該外国人を抑留した機関から領事機関に対 する通報措置の有無を確認し、その結果を留置人名簿の備考欄に記載する等して おくこと。この場合において、既に通報措置が採られているときは通知受理票を 作成し、留置人名簿の末尾に添付すること。 イ 留置開始時に領事機関に対する通報の要請をしていなかった外国人が留置中に 意思を変更して通報を要請した場合には、領事官への通報要請確認書(意思変更) によりその意思を確認した上、当該留置施設の所在地を管轄する領事機関に対し て留置の事実を遅滞なく通報し、同書面中の通報控に所定事項を記入した後、当 該確認書を留置人名簿の末尾に添付すること。留置中の外国人の意思の変更によ る通報要請の申出を受けた者から報告を受けた場合も同様の措置を採ること。 なお、この措置を採ったときは、当該外国人の身柄拘束について権限を有する 関係機関に対して、領事機関に通報した旨を電話連絡等便宜の方法により通知す るとともに、通知控を作成し、留置人名簿の末尾に添付すること。 ウ 留置中の外国人が警察以外の機関に対して領事機関に対する通報を要請し当該 機関から領事機関に対する通報を行つた旨の通知があつたときは、通知受理票を 作成し、留置人名簿の末尾に添付すること。 第3 領事官による訪問通信権 領事官は、我が国の法令に従つて抑留されている当該国民を訪問し、これと通信 することができるが、この訪問通信権についてもウイーン条約第36条のほか別表第 2の個別条約の規定により国によつて適用が異なるので、捜査主任官及び留置主任 官は、前第2の措置に伴い、領事官が被抑留者に対して接見を求めてきた場合は、 次により措置しなければならない。 1 身分の確認 当該領事官の身分を外務省発給の身分証明票により確認すること。 2 被抑留者の接見意思の確認 (1)被抑留者に対して領事官が接見を求めている旨を告げ、接見を希望するか否 かを確認すること。 (2)被抑留者が接見を希望しない場合は、接見を行わせないものとし、領事官と の面会に関する意思確認書(別記様式第5号) を提示して被抑留者の署名を得、 その旨を明らかにしておくこと。 (3)この書面は、領事官の要求があれば、これを提示し、又はその写しを交付す ること。 なお、当該意思確認書は、犯罪事件処理簿末尾にとじて保管することとし、 その写し1部を速やかに捜査第一課長に送付すること。 3 接見の方法 (1)被抑留者が当該領事官との接見を希望する場合は、捜査上及び留置施設の保 安上支障がない限り、便宜を図ること。 (2)被抑留者と当該領事官との接見、信書の発受、 差入れ等の取扱いについては、 被留置者の留置に関する規則(平成19年国家公安委員会規則第11号)その他の 法令に定めるところによるほか、富山県警察の留置等に関する訓令(平成19年 富山県警察本部訓令第15号)の定めるところにより措置すること。 (3)接見には、警察官及び通訳人を立ち会わせること。ただし、アメリカ合衆国 又はイギリスの領事官と当該国籍を有する被抑留者との接見には、立会人を置 くことは許されない。 (4)ハンガリー、ポーランド又は旧ソ連(ウクライナ、ウズベキスタン共和国、 カザフスタン共和国、キルギス共和国、ベラルーシ共和国、ロシア連邦、アゼ ルバイジャン共和国、グルジアの8箇国に限る。)の国籍を有する被抑留者の場 合は、抑留時から起算して遅くとも4日までの間に1回目の訪問又は通信を行 わせなければならない。 第4 外国人死亡の場合の領事機関に対する通報 犯罪に起因する外国人の死体又は変死体を認知した場合は当該事案を認知した 警察署長が、ウイーン条約加盟国の国籍を有する者が留置施設に抑留中に死亡し た場合は当該留置施設を管理する本部留置管理課長又は警察署長が、ウイーン条 約第37条の規定により次の事項を当該死亡の場所を管轄する領事機関に対し、遅 滞なく電話で通報しなければならない。 ただし、死亡者の家族等が領事機関への通報を希望しない場合は、この限りで ない。 1 死亡者の氏名 2 死亡の年月日及び場所 3 死亡の原因 第5 難破及び航空事故の場合の領事機関に対する通報 警察署長は、管轄区域内における外国籍船舶の難破若しくは座礁事故を認知し た場合又は外国登録航空機の事故を認知した場合は、ウイーン条約第37条の規定 により次の事項を最寄りの地にある領事機関に対し、遅滞なく電話で通報しなけ ればならない。 1 船舶又は航空機の名称 2 事故の日時及び場所 3 事故の概要 ※ 別表以下省略
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