薬薬連携と地域医療への 貢献を語る

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司 会
北海道大学病院薬剤部長
北海道大学大学院薬学研究院
臨床薬剤学教授
井関 健 氏
北海道薬剤師会会長
東洋彰宏 氏
札幌医科大学附属病院薬剤部長
札幌医科大学大学院医学研究科
医療薬学教授
宮本 篤 氏
旭川医科大学病院薬剤部長
旭川医科大学教授
北海道病院薬剤師会会長
田﨑嘉一 氏
座談会 北海道発
薬薬連携と地域医療への
貢献を語る
● OPINION TALK 地域における在宅医療連携をどうつくるか
爽秋会岡部医院院長 佐藤隆裕 氏 うえまつ調剤薬局管理薬剤師 轡 基治 氏
● Voice 薬剤師による血清クレアチニン値を用いた腎機能評価のすすめ
八王子薬剤センター 松本有右 氏(前東京薬科大学薬学部教授)
●あたらしい薬局像を探して 気軽に立ち寄り、相談したい薬局のイメージは?
㈱マディア 古川 綾 氏
シリーズ座談会 地域包括ケアとこれからの地域医療②
旭川医科大学病院薬剤部長
旭川医科大学教授
北海道病院薬剤師会会長
田﨑嘉一 氏
北海道薬剤師会会長
東洋彰宏 氏
北海道大学病院薬剤部長
北海道大学大学院薬学研究院
臨床薬剤学教授
札幌医科大学附属病院薬剤部長
札幌医科大学大学院医学研究科
医療薬学教授
井関 健 氏
宮本 篤 氏
司会
北海道発
薬薬連携と地域医療への
貢献を語る
国は 2025 年に向けて地域の医療提供体制の再構築、地域包括ケア体制を目指して
いる。そのキーワードの一つに「連携」があげられている。今回の TCP 座談会は、
北海道薬剤師会会長と道内三つの大学病院薬剤部長の四氏で、北海道の医療事情を
見据えたこれからの薬薬連携や薬剤師の地域貢献のあり方を話し合っていただいた。
2
Towa Communication Plaza
「連携」は地域医療を充実させるために不可欠
患者さんのために活かすのが私たち薬局の仕事ですが、
そのために全道のいくつかの基幹薬局を通して、三大学
病院を中心とする病院との連携、情報共有、交換をして
井関 国は 2025 年に向けて地域医療の再構築、つまり
いく仕組みをつくろうとしている最中です。
地域包括ケアの導入を目指しています。地域包括ケアは
井関 薬剤師不在の問題ですが、たとえば在宅の患者さ
当該地域ごとのいわば“ご当地医療”をつくることです
んの場合、地域のケアマネジャーや介護士といった他職
が、北海道の場合はエリアが広大であり、また札幌を中
種との連携で支えてもらうということもありますか。
心として都市の機能が偏在している地域特性がありま
東洋 時間どおりに薬を出して
「何錠飲んでください」
と
す。そういった特性から様ざまな意味で
「連携」
という言
いうお願いなら可能でしょうが、それでは医療サービス
葉が重要なキーワードとしてクローズアップされます。
の質が担保できません。在宅においても薬剤師がきちん
医療機関の連携、病院と薬局の連携、在宅医療での多職
と関わることによって、副作用を発見したり、アドヒア
種の連携など、どれも北海道の地域医療を考えていく上
ランスが改善されるのだと思います。
で大事だと思います。まずは北海道の医療と連携につい
井関 それらの仕事は薬剤師でなければ提供できないで
てお聞きします。宮本先生はどうお考えですか。 すね。
宮本 地域の連携をどう構築していくかということです
東洋 ただ個店薬局では広いエリアをカバーするマンパ
が、当院の場合はがん治療の外来化が進む中で、内服の
ワーが足りません。人的余裕を持った基幹薬局をつくる
抗がん剤処方が多くなってきている背景もあり、薬薬連
ことも一つの解決法としてあると考えています。たとえ
携を視野に入れた情報発信も含めた勉強会を頻繁にやり
ば大学病院と薬剤師会との連携で薬学的管理のトレーニ
始めています。
ング等を行い、そういう人材を基幹薬局に配置して、道
井関 具体的にはどういった形で行っているのですか。
内の山間僻地も含めた薬剤師不在地域をカバーしてい
宮本 当院の医師も参加して、病院と薬局の薬剤師が症
く。そういった人材は薬剤師会が養成・供給していくの
例を基にレジメン等の情報を共有する勉強会です。基本
が責務だと思っています。
的に地域の薬局に向けてオープンにしていますが、まず
井関 たしかに薬局とアカデミズムが密に連携すること
は処方せんの大半を応需している近隣薬局との連携を
も、地域医療の質を高めるために必要ですね2)。ここま
きっちりと構築し、そこから少しずつ面にも広げていく
でのお話を聞くと北海道の場合、病院と薬局との連携関
というスタンスです。退院時共同指導料という診療報酬
係をどういう形にするかと、もう一つは今、地域包括ケ
のフィーがありますが、これを活用してもっと地域の薬
アという中で
「かかりつけ薬局」という言葉がクローズ
局との連携関係を深めていきたと考えています。
アップされてきていますが、目の前の現実の薬剤師がい
井関 田﨑先生はいかがですか。
ない地域をどうするか、もっと言うと医療の偏在をどう
田﨑 旭川エリアでは、病院薬剤師会と薬剤師会が合同
解消していくのかが大きな課題としてあると感じます。
研究発表会を行うなど2つの組織が密に連携して地域医
療の質の向上に取り組んでいます。その関連で旭川医科
大学病院薬剤部の冠講座を薬局薬剤師向けに行ったり、
当院の薬剤師を市立病院や薬局に輩出させるなどの人材
交流も行っています。
井関 東洋先生は開局薬局のお立場ですが、いかがお考
えですか。
東洋 これからは地域医療が大切だということは医療界
1)
北海道薬剤師会は道内の薬剤師不足解消などを目指して
「北海道薬剤師バ
ンク」
をスタートさせている。一人薬剤師の薬局や病院、道内で目立つ無
薬局町村へ薬剤師を派遣する仕組み。
2)
2012 年より北海道病院薬剤師会と北海道薬剤師会との共同事業として、
遠隔研修システムを使った
「医療薬学講座 - 在宅医療を中心に -」
が開催さ
れている。
医師へ患者情報をフィードバックする仕組み
で共通の認識になってきていると思いますが、わが国の
場合、地域ごとの事情が極端に違います。特に北海道の
井関 薬薬連携ということで言うと、旭川医大病院では
場合、薬剤師がいない、薬局がないエリアがまだ 30 町
トレーシングレポートという画期的な情報ツールを開発
村あります。そこでは患者さんは薬剤師の薬学的な指導
されていますね。田﨑先生、ご紹介いただけますか。
をまったく受けられないわけです。まずこれを解消する
田﨑 2007 年に当時の薬剤部長の松原和夫先生
(現京都
ことを北海道薬剤師会としての目標としています。
大学病院薬剤部長)が始めた薬薬連携の仕組みです。要
井関 マンパワー不足は医療の機会均等の面から悩まし
するに疑義照会レベルまではいかないけれども、必ず医
い問題ですね。薬剤師会としてはどういった対策を取ら
師に伝えたい情報をファクスで当薬剤部に送付いただく
れているのですか。
わけです
(図1)
。最近では、たとえばアドヒアランスが
東洋 喫緊策としてセンター薬局を軸に無薬局地域等に
十分ではない患者さんに
「ジェネリックの OD 錠に替え
対する薬剤師の派遣事業を行います 。また連携という
た」といった情報も共有されます。当初はカルテに添付
ことで申し上げれば、先生方の三大学病院は私たちが日
していたのですが、今は電子カルテからトレーシングレ
常やっていることのエビデンスをきちんと確立する意味
ポートを見ることができるようになっています。
で、非常に大きな役目をしていただいています。それを
井関 たしかに院外の薬局で得られる情報の中には、多
1)
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3
シリーズ座談会 地域包括ケアとこれからの地域医療②
井関 健
密に連携することも重要。
薬局と大学病院が
にも移って、医療の質の向上に活用される状況が生まれ
てきているかと思います。つまり薬局との連携強化に向
けた情報の共有化の動きです。宮本先生はこの院外処方
せんへの検査値記載の動きついてどうお考えですか。
宮本 先述した地域の薬局との勉強会でも臨床データを
搭載することについての議論はあります。薬局がいかに
この情報を患者さんの薬学的管理に活用していくかにあ
ると思っています。ですからまずはその環境づくりが必
要になる。そこが非常に大事なポイントだと思います。
周りでは時期尚早という意見も多く、当院では保留中
です。
井関 当院では 2013 年 9 月から、外来化学療法で必要
とされる白血球数、好中球数等の副作用、投与量を決定
する情報である腎機能、プロトロンビン時間、薬剤性副
氏
作用に関連するクレアチニンキナーゼ、HbA1c 等 13 項
目の検査値の表示を開始しています
(図 2)
。宮本先生が
おっしゃるように活用する環境づくりが大切です。その
ために当院では年に 4 回ぐらいのペースで、薬局と合同
の勉強会をしています。
科受診、複数病院受診、健康食品の使用など診療に役立
宮本 どういう内容のものですか。
つ重要な情報がありますね。薬剤部ではどういう関わり
井関 当院の外来、あるいは病棟で検査値を活用した服薬
方をしているのですか。
指導をしているので、その事例を具体的に話しています。
田﨑 各薬局からの情報内容を薬剤部で集約して、必要
宮本 そこは成功事例というか、臨床データがうまく反
だと判断したものをスキャンして電子カルテに貼り付け
映された事例を取り上げて、その中身をディスカッショ
ています。
ンし合うという形にまでもっていけるのが理想だと思い
井関 院内医師に情報提供すべきものを選ぶ。そこに院
ます。
内薬剤師の目が入るわけですね。
井関 成功事例だけではなく、うまくいかなかった事例
田﨑 そうです。情報のやりとりに薬剤部が介在するこ
も出してほしいと言っています。すべてが正解ではなく、
とで、伝達を確実なものにすることができるのです。宮
うまくいかなかったケースも検証する。そうすると薬局
本先生がおっしゃるように、がん治療の外来化が進むと
側も
「こういうところに気をつければいいんだな」
と理解
薬局との密な情報連携が絶対に必要ですが、トレーシング
してくれます。そういう形で繰り返しやっていると、薬
レポートはその強力なツールになると思っています。
局の方から
「うちの事例でこういうものを紹介したい」
と
井関 今後、病診薬をベースにした地域のチーム医療を
いうレスポンスが出てきて、双方のコミュニケーション
機能させるためには、情報共有のツールやシステム構築
活性化につながっていきます。
が不可欠になると思います。
宮本 様ざまな事例を検証するというのはいい試みです
連携強化に向けた情報の共有化について
ね。
井関 とくに最近は、
「2 カ月〜 3 カ月に 1 回は臨床検査
のデータを見て投与量を決める」
という薬が増えてきて
井関 最近、院外処方せんに検査値を印字・記載したり、
いますね。そこをチェックしてもらえるというか、まさ
がん治療のレジメン内容に関する勉強会も含めてです
に医薬分業の本質であるダブルチェックが行われること
が、病院の中だけに留まっていた診療情報が地域の薬局
になります。
図1 旭川医大病院のトレーシングレポートの仕組み
4
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井関 実際、検査値を処方せんに印字・記載する取り組
みは全国的に広まってきていますね。旭川医大病院では
どういう対応ですか。
田﨑 当院ではまだ準備中の段階です。というのは病院
側の負担が結構大きいもことも理由の一つです。たとえ
ば当院は電子カルテになっていますが、電子カルテから
検査値を抽出するためには、新しいプログラムが必要と
厳しい中で優先順位が落ちているという状況ですが、旭
東洋 彰宏
なるなどシステム上のハードルがあります。病院経営が
検査値も重要な情報。
正確な服薬指導のために
検査値記載院外処方せんのあり方について
川薬剤師会の要望もありますので、いずれ進めていく方
針に変わりはないですが…。
氏
井関 検査値が記載された処方せんを受け取る側の立場
である東洋先生はどうお考えでしょうか。
東洋 薬剤師は服薬指導と薬の相互作用チェックほかが
求められていますが、そもそも処方せんに病名が書いて
ないし、検査データも載っていない状況でどうやって正
確な服薬指導ができるのかという思いもありました。北
井関 データが見られることになったせいか、意義のあ
海道でも北大病院が先陣を切って始めたわけですが、そ
る問い合わせ、疑義照会が増えています。医師はそれを
こはポジティブに受けとめています。
歓迎するムードが出てきています。
井関 この動きは 2011 年に福井大学病院が医療安全の
宮本 それは一つの成果ですね。あとはポジティブな結
観点から最初に取り組み、その後、本州では京都大学病
果が出てくるケースと、むしろ逆に検査値が悪くなって
院などに広まっていったようですね 。
いくケースが出てきて、ネガティブな情報になってし
3)
3)
これまでは大学病院を中心に広まっていたが、最近では東京、埼玉、千葉、
神奈川などの民間病院とその処方せんを応需している薬局などによる実
証研究も開始された。ちなみに医薬品医療機器総合機構
(pmda)
の調査に
よると、臨床検査値を院外処方せんに印字記載している施設の割合は
5.1%。病名を印字している施設は 3.3%(pmda: 医薬品・医療機器等の
安全性情報 No.325)
。
まったときに、薬局側がいかにバッドニュースを伝える
かというスキルも必要になってくると思います。
井関 そこは教育、環境づくりで解決していく必要があ
るところです。
宮本 田﨑先生は北海道病院薬剤師会の会長もされてい
ますが、病院薬剤師会は検査値記載についてはどういう
東洋 すでに本州の大学病院などではかなり広がってき
スタンスですか。
ていると聞きます。私の薬局にはご自身の画像診断など
田﨑 薬局が安心・安全のために検査値を読み、患者さ
のデータを持って見える患者さんもおられます。そのく
んから状況・症状を聞き取り、必要に応じて処方医へ用
らい患者さんとの情報共有が進んできました。患者さん
量調節の必要性や副作用の初期症状の可能性について疑
のためになることはやるのが良いと思います。医療や介
義照会するためにも、病院側は積極的に出していくべき
護は今後、在宅も含め多職種の連携によって担われてい
だというスタンスです。いま検査値が悪くなっていく
くはずです。その中で薬剤師が薬学的な役割を果たして
ケースのことが議論になりましたが、それは患者さんか
いくためにもそういう情報がますます必要になっていく
ら見れば、薬の量が増えたり個数が増えたりということ
でしょう。またこういったデータは患者さんとじっくり
で、これまでもあったと思います。それに付随してデー
向き合っている薬局が必要としているものです。
タが出てきても、これは医療をよりよくするためには必
井関 私もそう思います。検査値あるいは抗がん剤のレ
要な部分なのかなと思っています。
ジメンの情報も、本来は面の薬局が時間を取ってケアす
井関 先ほど東洋先生から話がありましたが、自分の検
るという意味で、そういうところに届けるのは良いです
査値を持ってきて、
「これはどうなっているんだ」
と聞き
ね。ただマンパワー不足等うまく活用する準備が整って
たい患者さんが少なからずいらっしゃいます。そんなと
いないのではないかという現実もあります。ここは変え
きに薬剤師が一定の役割を果たしていくことも医薬分業
ていってもらいたい、というのが出す側の思いです。
で重要です。当然ですが、悪くなったデータを説明しな
宮本 個人的な見解ですが、もし検査値をつけるのであ
ければならないこともあるでしょう。薬剤師は今まで“薬
れば病名まで載せることも考えていただきたいという思
の専門家”
という言葉でオブラートにくるまれていたの
いはあります。
が、最近、厚労省では
“薬物療法の責任者”
という言葉を
田﨑 北大病院では検査値を出されるようになって混乱
使い出しています。責任者は責任を取るという重たい部
はなかったのですか。
分があるので、きちんと伝えられるスキルを持つ薬剤師
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5
シリーズ座談会 地域包括ケアとこれからの地域医療②
宮本 篤
理解することから始まる。
薬薬連携は相互の仕事を
システムになっていくと思います。
井関 宮本先生や田﨑先生がおっしゃるようなコストの
課題等はあるにしても、このところ医薬分業の薬局の役
割について議論が起こっている中で、今話し合っている
ようなことが一つのブレークスルーになっていけばよい
ですね。
4)
日本に住むすべての人に割り当てられる税と社会保障の共通番号。医療
への活用も構想されていて、マイナンバーと連動した医療番号でカルテ、
レセプト等の医療情報を活用することも想定している
(2020 年度本格運
用方針)
。
地域医療でジェネリックをどう活用するか
井関 国がジェネリック医薬品
(以下、ジェネリック)
の
氏
有効活用を強力に推進しているのは周知のことです。
DPC 病院を中心にジェネリックの採用も拡大傾向です。
地域連携の観点から考えた場合、大学病院も含めて地域
の基幹病院のジェネリックへのスタンスも地域の薬局は
気になるところだと思います。札幌医大病院はいかがで
を育てていかなければいけないこともあると思います。
すか。
宮本 もう一つお話しします。地域医療情報ネットワー
宮本 DPC 病院に
「後発医薬品指数」
が導入され、去年あ
と一緒に議論されていま
たりから急激に使用率を伸ばしています。2014 年度は大
す。あのネットワーク構想が進むと、処方せん上に検査
学病院の 7 割が赤字と言われています。そういう背景も
値を載せるという議論が加速すると言われています。そ
あってジェネリックは病院経営にも影響してきます。
うなると、もう少し導入はしやすいと感じています。
井関 旭川医大病院はかなり強力に進めていますよね。
田﨑 私もマイナンバー制度をうまく活用すれば、こう
田﨑 宮本先生がおっしゃるようにジェネリックの採用
いう問題はすっきり解決して、地域医療にも貢献できる
率が病院収支に大きな影響を与えるようになったことか
クがいまマイナンバー制度
4)
検査値印字
図2 検査値が記載された院外処方せん見本(北海道大学病院見本を改変)
6
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クフォースによって決められるようになっています。
井関 大学病院は新薬の使用率が高いので、変えられる
ものはすべて替えるというスタンスでいかないと、後発
医薬品指数で最高評価になる 80%はクリアできない状況
もありますね。
田﨑 どこの医療機関もそうだと思いますが、当院では
ジェネリックメーカーが出してくる製品がどれだけ品質
がきちんとしているものか、供給体制はどうか、それら
を確認して選択しています。
臨まれていますか。
東洋 国が掲げる 80%という目標はレベルの高い目標値
ですが、そういう状況の中でもはやジェネリックが良い、
田﨑 嘉一
井関 東洋先生、薬剤師会としてはどういうスタンスで
薬薬連携の強力なツール。
「トレーシングレポート」は
ら、当院のジェネリックの採用戦略は病院長直下のタス
氏
悪いというレベルはとっくに終わっているはずです。た
だ医療費削減や財政問題への寄与以上に、ジェネリック
がそのシンボルになっているという感は否めないですね。
井関 世界的にジェネリックを使うという流れで、私も
ジェネリックメーカーの工場見学をした経験があります
が、品質が確保されているのであれば、拒否するものは
しょう。
何もないと思います。
東洋 宮本、田﨑両先生がおっしゃった意味での人材育
地域医療に貢献する薬剤師の育て方
成はすごく重要で、継続してやらなければいけません。
人材育成でもう一つ申し上げておきたいのは、とくに北
海道の場合、地域のために働きたいという薬局をつくる
井関 今日は北海道の地域医療と連携ということでここ
若い人材をいかに育てるかです。それは学問的に育てる
まで話を進めさせていただきましたが、おそらく最終的
ということもありますが、経済的にバックアップしてい
な命題は人材育成に尽きると思います。連携のネット
くことも必要です。薬剤師が地域の薬局でやっていける
ワークをつくっていくにしても、そこを担う人材がいな
形をつくれば、病院との連携もしっかりできるのではな
いと絵に描いた餅で終わってしまいます。最後にその辺
いでしょうか。
りを伺って本座談会の締めとしたいと思います。
宮本 医薬分業が見直しのステージに入っているのは事
宮本 地域連携はまずはお互いの仕事を理解するところ
実だと思います。今はいいタイミングだと思います。地
から始まると思います。当院の横に会営薬局があります
域包括ケアの推進ということもありますが、地域におけ
が、そこの薬剤師が
「病院の仕事も見てみたい」
と訪問し
るかかりつけ医の役割を一度きっちり再構築していただ
てきて、一通りを見て帰ったりします。
「病院薬剤師の
ければ、かかりつけ薬剤師の重要性が出てくるのではな
業務実態を勉強したい」
と来られる方もいます。こういっ
いかと思います。
た相互乗り入れというか、お互いの仕事を理解し合う動
井関 人材育成ということでは卒後レジデント制度と
きは評価したいですね。そうすればお互いの立ち位置も
いったものも全国で始まっているようです。私も薬剤師
理解しやすくなって、連携も取りやすくなるだろうと
になってからの卒後教育のところで、いかに地域医療を
思っています。
担う薬剤師を育てるかというのはとても重要だと思って
田﨑 同感です。当院も薬局の薬剤師実習を受け入れて
います。たとえば北海道でレジデント制度をつくる場合、
いて、当初は 2 週間でしたが、現在は1月2週間を 3 カ
薬剤師がいない地域に行ってもらえる制度をその中に盛
月やることになっています。それは在宅医療をやる上で、
り込むといった工夫が必要です。そこは薬剤師会、ある
注射剤や点滴の部分を学ばなければいけないということ
いは病院薬剤師会、教育関連病院が協力していく必要が
からです。病院から在宅に移った場合、病棟での活動が
あるところだと思います。
在宅医療の姿になるというイメージでやっています。ま
だ少数ですがこういった経験を積んだ、地域で頑張る薬
局、薬剤師をサポートしていきたいと考えています。
本日は長時間にわたって貴重なお話をありがとうござ
いました。
(座談会収録:2015 年 8 月 6 日)
井関 東洋先生、人材育成、地域医療の部分でいかがで
Towa Communication Plaza
7
OPINION TALK 2025 を見据えた薬局の果たすべき役割
地域における
在宅医療連携を
どうつくるか
岡部医院/うえまつ調剤薬局(宮城県名取市)
爽秋会 岡部医院 院長
佐藤隆裕 氏
うえまつ調剤薬局 管理薬剤師
くつわ
轡 基治 氏
宮城県名取市で先進的な在宅医療連携関係を構築している岡部医院・佐藤院
長とうえまつ調剤薬局・轡氏に、地域包括ケアを見据えた地域医療のあり方、
多職種連携の作り方についてお話いただいた。
爽秋会岡部医院
(宮城県名取市)は、
取る診療所はまだそんなに多くはない
だけでしたが、岡部医院さんが積極的
宮城県立がんセンターの呼吸器外科・
と思います。
にそれぞれのエリアの薬局を引っ張っ
岡部健医師
(故人)
ががん患者を地域で
轡 実際、
「餅は餅屋に」
とはよくおっ
てくださるので、少しずつ在宅に入る
支えるという考えのもとに 1997 年に
しゃっていましたね。だから薬局も含
薬局も増えてきたと思います。
開設。福島県にある診療所も含め約
めて多職種で支援を行うというのは、
佐藤 先ほどの
「餅は餅屋に」
という岡
100 人のスタッフが主に緩和ケア、在
比較的自然なことだったと思います。
部先生の言葉ですが、それはまるっき
宅看取りに対応している。特色は介護
患者さんもいろいろな職種が支えてく
り丸投げにしなさいということではあ
職員も入れて、多職種が密に連携する
れるというのは安心につながるはずで
りません。多職種であることの逆の意
在宅医療システムを構築したこと。佐
す。私はもともとモルヒネの基礎研究
味は、
「丸投げにはしない」
というとこ
藤医師は 10 年前に入職、岡部医師の
をやっていたので、
「臨床現場はどうな
ろにあると思っています。ここからこ
後の院長職を引き継ぐ。うえまつ調剤
のだろう」
という興味もあってお手伝い
こは薬局の部分というのはありますが、
薬局は同院隣に立地、管理薬剤師の轡
することになりました。
重なる部分もあります。チーム医療は
氏も岡部医師に誘われて在宅分野に。
佐藤 在宅医療の中でも在宅緩和ケア
分業作業ではないのです。たとえば轡
は特殊性があります。当院が診ている
薬剤師が訪問して、患者さんに少しこ
患者さんの 8 割ぐらいの患者さんは家
れまでと違った様子があることを報告
で看取ります。使用薬の適正使用のた
してくれるのと同じで、私たち診療側
―岡部医院とうえまつ調剤薬局の連携
め、服薬指導、服薬状況の確認や副作
も薬のことをある程度評価して、自分
はどのようにスタートしたのですか。
用チェックなど、薬局との連携は必要
たちなりの試行錯誤をしながらキャッ
佐藤 岡部先生はもともと多職種連携
不可欠だと思っています。ただ患者さ
チボールをしていく。だから看護師も
をビジョンに持っている人でした。医
んは地域に点在しているので、一つの
それなりの薬の知識は持っています。
師と看護師で診療所を始めたところ、
薬局で
「がん患者さんを全部引き受けま
轡 そこを分かって、それぞれの職種
す」
というわけにはいきません。
が対応しないとチームとしては機能し
支えられないのがすぐ分かった」
とよく
轡 その意味で私のところはいま名取
ないことになるのだと思います。
話されていました。それで岡部医院に
市の在宅患者さんを中心に受け持って
は早いうちから、多職種で一緒に動く
います。仙台市などその他のエリアの
環境ができていきました。介護職員を
患者さんは、その地域の薬局にお任せ
院内に引き入れて、互いに密な連携を
しています。最初のころは本当にうち
連携体制構築のきっかけと
在宅看取りの現状
「薬局と介護の手がないと、患者さんを
8
Towa Communication Plaza
訪問指示を待つのではなく、
自ら動く発想が必要
―国のこれからの施策で 2025 年ま
でに
「薬局はすべてかかりつけ薬局
ID を入力すると見られるようになって
ということを知らないで出している可
に」
ということがある中で、
「まずは在
います。それで私は薬を出している患
能性も多々あると思います。持ち帰っ
宅に取り組んでほしい」という声も大
者さんの診療情報、たとえば昨日、佐
た薬を家族やヘルパーさんが患者さん
きくなっています。ただ多くの薬局に
藤先生が診療してこういう情報が入っ
宅で砕いているといったことを想像だ
はまだハードルが高いようです。
た。看護師さんは一昨日訪問して、こ
にしないで薬を出しているわけです。
轡 薬剤師が集まる講習会などで
「医師
うだった。こういう経緯があって、こ
ここは佐藤先生がおっしゃったように、
の指示がないと行けない」
という声をよ
の処方せんが今日出たんだな。この状
もっと
「来局者の向こう側を意識」
すべ
く聞きます。しかし医師が往診してい
況であれば、ここは別の剤形にしたほ
きです。
なくても、まずは一回患者さん宅に伺っ
うがいいのではないか、あるいはちょっ
佐藤 わが国全体がいま急速に超高齢
て訪問の必要性を評価し、後から指示
と数が足りないのではないかなどを含
社会が進み、多死社会を迎えようとし
をもらえばいいわけです。
めて評価ができるのです。
ています。在宅におけるがんや慢性疾
佐藤 私も薬剤師さん自らがそのよう
佐藤 私たちの中でこういう状況だと
患で治療やケアを必要とする患者さん
に動いていくことも必要だと思います。
いう情報共有があると、
「次にこういう
は、確実に増えていきます。在宅とく
轡 今後、在宅療養の患者さんの薬を
変化が起こるな」
と察して行動している
に緩和医療は経験が蓄積するのに時間
そのご家族、看護師やヘルパーさんが
ところもあります。そういう感覚的な
がかかるものです。そういう意味では
薬局に取りにくるというケースがます
部分も在宅医療の多職種連携では大事
薬局にはもっともっとこの分野に入っ
ます増えてきます。そこで薬を取りに
なことです。
てきてほしいですね。
来ている人にそのあたりの状況を聞い
轡 岡部医院さんのやり方で非常にあ
轡 同感です。あとは個々の薬局、薬
て、
「これは訪問が必要だ」
と判断になっ
りがたいのは、退院される前、在宅に
剤師がそれをどれだけ自覚していくか
たとします。介護保険証等に担当の介
移行される前に、患者さんに関する一
だと思っています。
護事業所の名前が書いてありますから、
通りの基本的な情報がすでに揃ってい
ケアマネさんと連絡を取って、主治医
ることです。岡部医院さんには、自宅
に
「これから単独訪問が要るかもしれな
に帰られてからどういった形で療養さ
いので指示を出していただけませんか」
れるのか、病歴、治療歴、あとは紹介
―最後に、これから財源問題で地域医
とお願いするといったことが薬局のビヘ
状の内容といった情報を退院調整の時
療もそんなにお金をかけられないとい
イビアとしてあるということなんです。
点で病院に取りに行く職種の方が何名
う中で、国の医療費削減や患者さんの
佐藤 そういうふうに来局者の向こう
かいらっしゃいます。介入前に基本的
薬の額を減らすという意味で、ジェネ
側をちょっと意識してもらうことも大
な情報が揃っているので、私たち外部
リックの役割についてお聞きします。
事ですね。
の連携スタッフもそれに従って準備を
轡 私たちのエリアでも患者さんが
轡 実際、行ってみたほうが良いので
始められるわけです。
ジェネリックに慣れているので、そこ
はないかと感じるケースは少なくない
と思います。訪問が必要かどうかの評
価を、薬局で得られる情報から考える
現場では主体的な対応と
スキルが必要になる
いかにジェネリックを
地域医療で活用するか
からさらに薬が高くなるということは
誰も望みませんし、また先発品に戻る
というのはあまり歓迎されないことで
ということだと思います。その意味で
―医師からみて、今後在宅医療におい
はないかと思います。
は患者さんの自宅に問題点があるのが
て薬局、薬剤師にはどのような期待を
佐藤 私もたとえば先発の薬よりも
分かったら、積極的に動ける薬局が今
されますか。
ジェネリックに OD 錠がある、剤形が
後、地域包括ケアという中では求めら
佐藤 在宅の現場で主体性を持って説
工夫されているなどの点でもジェネ
れていくのだろうと思います。
明することや、変更提案を行うといっ
リックの出番があると思います。
たことは、ある程度スキルとして持っ
轡 その意味では私たちがここのジェ
ておくべきではないかと思っています。
ネリックメーカーは OD 錠がある、こ
たとえば胃瘻の患者さんの処方薬で、
れは飲みづらい、味がどうだといった
共有情報をベースに
それぞれの判断で効率的に動く
―多職種連携においては患者情報の
「砕くよりも細粒がある」
といったアド
情報を持っていないといけないし、そ
共有が不可欠だと思いますが、岡部医
バイスは、医師にとって有用で、ぜひ
れを多職種連携の中で情報提供してい
院さんとうえまつ調剤薬局さんの場
いただきたいところです。慢性疾患の
くことが重要になると思います。
合、情報の共有はどうやってされるの
レベルでも、薬剤師が関与して薬の飲
―ありがとうございました。
ですか。
み方や処方の仕方が劇的に変わる部分
佐藤 基本はカルテ情報です。
はかなりあると思います。
轡 岡部医院さんの電子カルテに患者
轡 実際、その患者さんが経管栄養だ
Towa Communication Plaza
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Voice
薬剤師による血清クレアチニン値を用いた
腎機能評価のすすめ
—薬局・薬剤師が薬のプロとして認識されるために
八王子薬剤センター 松本有右 氏(前東京薬科大学薬学部教授)
国は「かかりつけ薬局」の施策を掲げ、薬局薬剤師に地域医療の重要な担い手としての役割
を期待する。TCP ではその一つの機能として、松本氏が提言する腎排泄性薬剤のリスク管
理について注目、以下にその概要について紹介していただいた。
高齢者の腎排泄性薬剤の
リスク管理が必要な理由について
高齢者は一般に加齢に伴い、心臓をはじめとする主な臓器
の機能低下や筋肉量の低下によって身体機能が衰えてきます。
中でも腎臓機能の低下は薬物動態に直接、関連してきます。
腎機能が低下した患者さんに常用量の腎排泄性薬剤を投与す
ると、腎臓からの薬物の排泄が滞る可能性があります。
つまり腎排泄性薬剤の過量投与による中毒性の副作用が発
現するリスクが高くなるのです。
ですから地域薬局は、高齢者などの腎機能が低下した患者
さんに対して安全な薬物療法を提供するために、処方せんに
書かれた薬剤のうち腎排泄性薬剤や腎機能低下時において
AUC 等に変化を来たす薬剤があるかをしっかり認識して、
個々の患者さんの腎機能に適した薬用量を計算した上で調剤
することが求められてきます。
医師の 8 割以上が腎排泄性薬剤の
処方チェックを薬局に求める
腎排泄性薬剤のリスク管理のあり方に関して、2011 年 6
月において私の研究室の卒研生と八王子薬剤師会そして同エ
リアの開業医師の共同研究として、医師と薬局薬剤師にアン
ケート調査を実施しています。その結果の一部を紹介します
と、まず
「全ての患者
(高齢者)
の腎機能を確認しているか」
の
問いには、医師の 30%、薬局薬剤師の4%が
「確認している」
と回答しており、高齢者全員に腎機能を確認している薬剤師は
極端に少ないという結果を得ました。また
「腎機能低下患者に
対して、どの検査値で投与量を決定しているか」
の質問では、
「血
清クレアチニン値で評価している」
が医師、薬局薬剤師共にほ
ぼ半数を占めていました。そして
「腎機能低下患者に用量調節
が必要である腎排泄性薬剤をどの程度把握できているか」
とい
う問いには、
「重要な薬剤やよく処方する薬剤だけは覚えてい
るが、覚えていない薬剤はチェックできていない」
という回答が
まつもと ゆうすけ 1982 年東京
薬科大学薬学部卒業。薬学博士。前
東京薬科大学薬学部教授(薬学実務
実習研修センター / 薬局管理学講座)
。
同大学の実務研修施設である㈱八王
子薬剤センターの薬剤師も務める実
務家教員として実習先の薬局と大学
教員との間で独自の薬局実務実習の
システム、八王子システムの構築等
に当たってきた。現在、同社次長、
(一
社)八王子薬剤師会理事、
(公社)東
京都薬剤師会常務理事、東京薬科大
学客員教授。
ほぼ半数を占めていました
(図)
。
このアンケート全体から読み取
れるのはまず、腎機能低下患者の
用量調節が必要な薬剤を個々の地
域薬局でしっかり把握できていな
いことです。また注目したいのは、
「添付文書情報などが分かり
づらいため、
薬局薬剤師がしっかりと処方チェックをしてほしい」
と回答した医師の割合が 87.1%に及んでいたことです。薬局薬
剤師は本来の医薬分業の観点からも、調剤業務の見直しを行い、
腎排泄性薬剤等の処方監査を強化することで、医薬品の安全性
の確保に繋がり、医薬品の適正使用に貢献できると考えます。
血清クレアチニン自己簡易測定を用いた
パイロットスタディー
腎排泄機能が低下している高齢患者の処方監査、とくに腎
排泄性薬剤の投与量の監査が重要になることはここまで述べ
てきた通りです。そのためは患者さんの腎機能を知ることが
必須になります。私達の研究グループは地域薬局において腎
機能を知る積極的な手立てとして、薬剤師等の補助に基づく
血清クレアチニン自己簡易測定器を用いた自己採血法の有用
性を確認する臨床研究を進めてきました。これは糖尿病の自
己血糖測定とほぼ同様な手技で実施可能です 1)。
これも私達が行った研究結果ですが、地域薬局や在宅患者
等を対象に血清クレアチニン自己簡易測定を実施してみた
データでは、
過量投与が危惧された患者は108名中36名あり、
腎排泄性薬剤の過量投与が見過ごされている可能性が示唆さ
れる結果となりました。そこで過量投与が危惧される 36 処方
に対して疑義照会を行い、減量もしくは処方変更を提案したと
ころ、22 処方に対して薬剤師の提案が受理されました 2)。
こういった結果を踏まえて、私達の研究グルーブでは、レ
セプトオンラインデータを用いて腎排泄性薬剤の処方割合等
の解析を行うと共に、当該薬局の採用薬品である腎排泄性薬
剤の腎機能に応じた投与量一覧を地域薬剤師会の会員薬局に
提供する準備をしています。
超高齢社会が進む我が国において、薬局薬剤師が高齢者に
対して安全な薬物療法を行うためには、医療機関等との連携
の下、血清クレアチニン値をしっかりと入手し、クレアチニ
ンクリアランスや eGFR を算出することで腎排泄性薬剤等に
おける処方量の適否を薬局薬剤師として評価することが大切
だと思います。くしくも医薬分業の成果についての議論がな
される中、こういった取り組みを地域社会の中で実践するこ
とで
「薬のプロ」
としての薬局薬剤師の存在価値を、地域社会
に示すことになると私は考えます。
図 腎機能低下患者に用量調節が必要である腎排泄性薬剤をどの
程度把握できているか。
(腎機能低下患者への適正な腎機能評価のためのアンケート調査)
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Towa Communication Plaza
1)厚生労働省は臨床検査技師法に基づく告示の一部を改正し、薬局などで自己採血検
査を法的に可能とした(TCP‐No.32 の「糖尿病アクセス革命」に関する記事参照)
。
2)本研究の一部は日本腎臓病薬物療法学会雑誌(第 3 号:2013 年 1 月)に詳述され
ています。
古川綾の あたらしい薬局像を探して…②
気軽に立ち寄り、相談したい
薬局のイメージは?
㈱マディア 古川
かかりつけ薬局は薬局の
イメージを変えるチャレンジ
綾氏
ふるかわ あや
㈱マディア代表取締役、薬剤師。大塚製
薬にて新薬開発プロジェクトのリード、
ファーマコビジランス部室長、PwC コ
ンサルティング、IBM ビジネスコンサ
ル テ ィ ン グ に て Life Science R&D
practice の AsiaPacific Lead、IMS
ジャパンを経て 2010 年5月㈱マディ
アを設立。リスクコミュニケーションを
探求し、地域で頑張る薬剤師を応援して
いる。多摩大学医療・介護ソリューショ
ン研究所シニアフェローも務める。
ために 1990 年 4 月より始まった基準
薬局制度が、処方せん受取率が全国で
約 65% となり所期の目標をほぼ達成
写真1は、2013 年 12 月に見学さ
したとして 2014 年 3 月に発展的解消
せていただいたスイスのローザンヌに
がなされた。これに伴い、神奈川県薬
ある薬局である。入口は広く光が入る
剤師会は独自の認定基準を策定し本制
ように設計され、一般用医薬品、サプ
度を導入した。初回となる今回は、申
リメント、スキンケア商品など多数の
請された 168 薬局から 118 薬局に対
民への認知をはかるため、新聞広告や
製品が壁面に整理、陳列されている。
し、2015 年 9 月 〜 2017 年 8 月 ま
薬剤師会のホームページでの掲載、県
入口左手には、調合室があり、往来の
での 3 年間について認定した。認定要
民向けの健康フェア、認定された薬局
人がガラス越しに調合を眺めることが
件は、前述の
「薬局の求められる機能
のステッカー貼付、チラシ配布などが
できる。ガラス越しにそば打ちを眺め
とあるべき姿」などを参考に、県民の
行われる。同時に、薬局・薬剤師によ
ることができる日本の蕎麦屋に近いイ
健康増進や疾病予防、在宅医療・介護
るヘルスケアに関する情報提供の有用
メージである。この綺麗な薬局は、前
への取り組み、地域の事業への参加な
性の検討も行われる。認定薬局にて、
の国際薬剤師・薬学連合
(FIP)会長の
ど県民・患者への貢献などが中心と
一斉に 9 月から、来局者に減塩と血圧
Michel Buchmann 氏の薬局である、
なっている。
に関する情報を提供し、来局者のヘル
“薬局は綺麗でなければいけない。多
『くすりと健康相談薬局』
について県
スケアに対する関心や意識の変化、食
種類の製品は来局者との接点を増や
事中の塩分摂取量の変化
す。人々からプロフェッショナルとし
などを評価する。筆者も
て 認 識 さ れ る た め に、visible で
本検討の計画立案、分析
available でなくてはならない”と、
などを支援している。結
近隣の人々が気軽に立ち寄り、相談し
果は、かながわ薬剤師学
たい、相談できそうと思える場にすべ
術大会にて公表予定であ
きと氏は指摘する。綺麗であるとは、
る。来局者が薬局で学ん
美しく華やかであると同時に、清潔で、
だ知識やスキルで塩分摂
温かみがあることも含まれている。
取や血圧の管理ができる
日本では、2014 年 1 月に報告され
ようなれば、薬局・薬剤
た厚生労働科学研究費補助金事業
「薬
師を医療のプロフェッ
局の求められる機能とあるべき姿」に
写真1 前 FIP 会長 Michel Buchmann 氏の薬局
ショナルとして認識する
まとめられたとおり、国民一人ひとり
だろう。また、県民の評
のかかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師
価 を 受 け る こ と に よ り、
となるべく、その機能を拡大しようと
今回の認定要件の検証も
している。一方、国民の多くは、薬局
可能にする。
国民の健康増進、疾病
は医療機関で出された処方せんにもと
づく薬を受け取る場と認識している。
予防に貢献する機能を薬
このギャップを埋めるために、大きな
局が獲得するには、国民
チャレンジが始まろうとしている。
とのコンセンサスが不可
欠である。今回のような、
神奈川県薬剤師会の「くすりと健
康相談薬局」の取り組み
2015 年 9 月 6 日に、神奈川県薬剤
師会は、
『くすりと健康相談薬局』
の認
定式を執り行った。医薬分業の普及の
県民の評価を得ながら検
証する取り組みが重ねら
写真 2 くすりと健康相談薬局に認定された、横浜市中区にある
加藤回陽堂薬局の相談スペース。加藤回陽堂は、
「相談ができる
薬局」と大きな看板を掲げ、健康相談や受診勧奨を積極的に行っ
ている。
れることで、コンセンサ
スの醸成が行われると確
信する。
Towa Communication Plaza
11
東和コミュニケーションプラザ 2015 年 11 月発行 Vol.35
編集・発行 東和薬品株式会社 〒571-8580 大阪府門真市新橋町 2-11
KK 1511.13