スクールカウンセラーと教師の連携指導の実際

豊かな心をはぐくむ事例 6
スクールカウンセラーと教師の連携指導の実際
障害児教育・教育相談部
はじめに
文部科学省は,不登校,いじめ,暴力行為など
児童生徒の生徒指導上の課題が憂慮すべき状況で
あることから,学校でのカウンセリング等の教育
相談機能の充実を図るために,平成7年度から6
年間にわたって「スクールカウンセラー活用調査
研究委託事業」を実施し,平成13年度からは「事
業補助」として継続実施し,スクールカウンセラー
の配置を推進している。その結果,学校はスクー
ルカウンセラーと協力しながら,児童生徒の様々
な問題の解決や心の教育の充実のための指導・援
助を行うことが可能になった。
ここでは,スクールカウンセラーと教師との連
携指導について考えてみたい。
Ⅰ
スクールカウンセラーと担任との連携
教育相談において校内の連携や関係機関との連
携が有機的に機能するかどうかは,個々の学校の
状況によることが多く,その課題が解決されない
ままの学校も少なくない状況であった。
しかし,学校へのスクールカウンセラーの配置
によって,このような状況は急速に変化しつつあ
り,現在,教師とスクールカウンセラーがそれぞ
れの教育的役割を果たし,連携を深めて児童生徒
を育てていくことが求められている。
織田
明
2 スクールカウンセラーとの校内連携
スクールカウンセラーが力を十分に発揮できる
教育相談体制は,「心の専門家」としてのスクー
ルカウンセラーと「教育の専門家」としての教師
とが,互いに相手の専門領域を認め合い,その異
質性を受け入れ,ともに協力して児童生徒にかか
わることが重要な要素となる。
教育相談では,報告・連絡・相談(ホウレンソ
ウ)を大切にした連携が不可欠であり,担任や養
護教諭をはじめとする教師,スクールカウンセラー,
保護者が連携を十分に取り合いながら,それぞれ
の役割を果たすことによって,児童生徒の成長を
指導・援助していくことが求められている。
(1) 教育相談体制確立のための連携
学校では,児童生徒の心の問題についての理解
を深め,児童生徒の心のサインを見逃さず指導し
ていくため校内連携体制を整備し,必要に応じて
関係者がチームを組み,迅速・適切な対応をする
ことが重要である。
学校はスクールカウンセラーとの教育相談体制
を確立するために,次に示した内容を中心とした
連携を積極的に行い,その定着・充実を図る必要
がある。
① 教育相談方針の確立
② 教育相談組織の整備
1 スクールカウンセラーの職務
学校に配置されたスクールカウンセラーは,校
長等の指導監督のもとに,おおむね次に示した職
務を行う。
③ 開発的・予防的教育相談の推進
④ 問題解決的教育相談の推進
⑤ 教育相談研修の充実
⑥ 情報連携と行動連携の推進
① 児童生徒へのカウンセリング
② カウンセリング等に関する教職員及び保護
者に対する助言・援助
③ 児童生徒のカウンセリング等に関する情報
収集・提供
④ その他,児童生徒のカウンセリング等に関
し,適当と認められるもの
(2) スクールカウンセラーと担任との連携
担任は日ごろから児童生徒の状況を把握しやす
く,児童生徒や保護者に働きかけやすい立場にい
る。担任が児童生徒への適切な支援を行うために
は,スクールカウンセラーと次に示した連携を行
うことがとても重要なものとなる。
−46−
ラーの配置にともなって,スクールカウンセラー
が効果的に相談活動を行えるように,教育相談室
を整備するなどの取組みを行った。
ア 教育相談室の整備
○ 生徒が気軽に出入りできる場所,教師との
連携がスムーズに行える場所であることなど
を考慮して教育相談室を設置した。
○ 教室とは別のくつろげる場所,心の居場所
としての機能を持たせた。
○ 個別学習の場としての機能を持たせた。
① コンサルテーション
心理的見立てや対応のアイデアの提供など
② コーディネーション
教師,児童生徒,保護者,関係機関との
調整役など
③ 情報交換・意見交換
児童生徒,保護者,関係機関の情報交換,
指導法の意見交換など
④ 研修会の開催
児童生徒理解のための視点や問題行動へ
の対応など
ここでは,大竹高校でのスクールカウンセラー
の実践例を紹介する。
Ⅱ
広島県立大竹高等学校の実践事例
大竹高等学校( 全日制 )は,現在,14クラスで ,
平成9年度より総合学科としてスタートし,生徒
の進路希望や興味・関心に応じて学習できるシス
テムを備えた2学期制の高校である。学校では,
総合学科としての教育を充実させるとともに,生
徒に豊かな心をはぐくむための様々な改革に取り
組んでいるところである。その中の一つとして,
平成13年度より配置されたスクールカウンセラー
と教師の連携指導の取組みがある。
「 心の専門家」
であるスクールカウンセラーが積極的に相談活動
を行うことによって,教師や保護者の生徒理解,
生徒への指導・援助に変化が起きてきた。
イ
○
組織的な環境の整備
校内組織の人権学習部教育相談係との連携
を図るために,人権学習部長が校内との連絡
調整を行うこととした。
○ スクールカウンセラーの紹介を全校生徒集
会やPTA総会でおこなった。図1のように
PTAだよりでも紹介を行った。
○ 広報誌などによる地域への紹介を行った。
○ 校内でスクールカウンセラーの役割や業務
内容についての研修会を開催した。
(*は,生活園芸科目のための農場のことである 。)
1 取組みの概要
(1) 教育相談室の設置,環境の整備
大竹高校では,平成13年度のスクールカウンセ
図1
本年度5月より、週1回水曜日
に︵8時30分から17時まで︶
スクールカウンセラーとして、臨
床心理士の梅本俶子先生にお越し
いただいています。
スクールカウンセリング制度は
専門の臨床心理士が、皆さんの様
々な悩みを一緒に考え、問題の整
理や一人ひとりの成長を援助する
ことを目的として設けられたもの
です。
一人で抱え込んでいるのが辛い
なと思うようなことがあればどん
なことでも気軽に教育相談室を利
用してください。
スクールカウンセラー配属
梅本 俶子
人は 大 な り小 なり悩 みを か かえ
て い ます が 、その 解決方法には 模
範 回 答は な く、それ ぞれ が苦労 し
て 自分 らし いやり方を模索し、見
つけ 出さな けれ ばなら な い ようで
す 。そうし た苦労が心の成長とし
て 実を 結 ぶ ように 一 緒に 取り 組ん
でいければと思っています。
豊かな心をはぐくむ特色ある学校づくり
○ 「 学校まるごと美術館の開館」(平成12年度)
・校内での美術作品や書道作品の展示活動
・学校や地域を花でいっぱいにする活動
○ スクールカウンセラーの設置(平成13年度)
○ クラインガルテン *の開園(平成14年度)
・植物の成長や命の大切さを学習する場
・情操教育の場
・地域の人たちとの交流の場
教育相談室
平成13年度PTA新聞(抜粋)
(2) 学校長との連携
スクールカウンセラーが学校の教育方針を理解
−47−
した上で適切な支援を行うためには,学校長とス
クールカウンセラーとの密接な連携が欠かせな
い。スクールカウンセラー着任当初,学 校長は,
「生徒を大切にしよう。学校で関心を示してもら
えず寂しい思いをする生徒がいてはならない 。」
という考えに基づき,次に示した視点から,学
校を取り巻く状況,学校が抱えている問題や課
題,スクールカウンセラーに求める活動内容な
どを説明した。それを受けて,スクールカウン
セラーは各教室の 授業を参観した。このことは,
スクールカウンセラーが 学校の状況を把握し教育
相談の方針を立てることに役立っている。
(4) 教育相談の枠組み
スクールカウンセラーは,図2のように教育相
談の枠組みを決めるとともに,図3のように教育
相談だよりで教師,生徒 ,保護者に紹介している 。
ア 相談の時間
○ 毎週月曜日 9時∼17時
(状況に応じて柔軟に対応する。)
イ 相談の受け付け
○ 昼の休憩時間と放課後
生徒が直接相談室を訪ねて相談又は相談
時間を予約する。
○ 授業時間中
担任又は授業担当者の許可を得て相談室
を訪ねる。
ウ 保護者の相談
○ 担任,教育相談担当教師又は教頭が受け
付け ,日時を調整の上,保護者に連絡する。
○ スクールカウンセラーの勤務日に相談室
に直接電話を入れ,相談の日時を調整する。
エ カウンセリングの必要な生徒の相談
○ 生徒の状況から教師が判断し,カウンセ
リングが必要と考えたときは,生徒や保護
者に相談室の利用を勧める。
オ その他
○ 電話相談も受け付ける。
○ 大竹高校の関係者だけでなく,地域の人
からの相談も受け付ける。
① 生徒がわかる授業をしよう。
② 生徒と先生との心のふれあいや交流を
積極的に図ろう。
③ 学校や教室をきちんと整備し,気持ち
の良い環境をつくろう。
④ 学校が自分たちを尊重してくれる憩え
る場と思えるようにしよう。
⑤ 地域との連携を強め,社会的に認めら
れる体験を積み上げよう。
(3) スクールカウンセラーの活動方針
スクールカウンセラーは学校長との連携を基
に,次のような活動方針を立て教育相談を実施
している。研修会において,活動方針の説明を
するとともに,教師との共通認識を図った。
図2
教育相談の枠組み
スクールカウンセラリングの導入について[お知らせ]
人権学習部
① 4月と9月の2回,生徒及び保護者対象
にスクールカウンセラーの活動について
の広報活動を行う。
② 前期は, 1 年生を中心に交友関係にかか
わる悩みの相談が多いので,担任との連
携を密にし,教室の状況や友人関係につ
いての情報交換を行う。
③ 教師へのコンサルテーションを行うとと
もに,教師の精神衛生に貢献する。
④ 問題行動を起こした生徒に対する面接を
可能な限り行う。
⑤ 保健室との連携を密にし,生徒の精神状
態を早期に把握し,相談につなげる。
⑥ クラインガルテンを相談に来る生徒たち
の活動の場として活用する。
新学期も始まり,期待と不安の入り混じった毎日だと思います。
ところで昨年度に引き続き,本校に4月15日より,週1回,月曜日(8時30分
∼17時)カウンセラーが配置されることになりました。
高校生の時代は,子どもから一人の一人前の大人に成長していく過渡期にあたり,
どのような人になればよいのかと考え,自分の理想像を求めて模索する時期であり,
友だちのこと,家庭のこと,自分自身の性格や生活目標などについて考えたり迷った
りし,いろいろと悩むことが多くなります。こうしたことを考えたり悩んだりするこ
とは,その人の成長にとって大変大切なことですばらしいことですが,一人で考えて
いるとなかなか視野が開けず,どうどう巡りになってしまい,悩みが深まって抜け出
しにくくなることがあります。そうした時,他の人に相談し話すことによって,気持
ちを整理したり,新しい見方が得られたりすることも多いものです。
スクールカウンセリング制度は,専門の臨床心理士が,こうした悩み一緒に考え,
問題の整理や皆さんの成長を援助することを目的として設けられたものです。
相談の内容については秘密を守ります。学校の問題などでは,先生方の協力を得な
ければならないことが多いと思いますが,そうした時も,相談者の了解のもとで対応
していくことを原則としています。
*
相談の受け付けについて
《
中略
》
*
一人で抱え込んでいるのがつらいと思うようなことがあればどんなことでも気軽
に相談室を利用してください。
図3
教育相談だより
(5) 情報の共有
スクールカウンセラーがその力を十分に発揮で
きる教育相談を行うためには,その時々の 学校
−48−
の問題や課題,学校の動きを理解することが大
切となる。そこで,次のようにスクールカウン
セラーが情報交換・意見交換の場に積極的に参
加している。
①
②
③
の利用を勧めている。このような生徒たちも,
担任の手厚い援助によって,教室に慣れ,望ま
しい友だち関係ができるにしたがって学校生活
が安定してきた。
職員朝礼への参加
職員会議への参加
教師とのコンサルテーション
ア 担任との情報交換
イ 養護教諭との情報交換
ウ 生徒指導部との情報交換
エ 教育相談委員会への参加
【担任との連携①】
1 年生の女子生徒を中心にした,新しい環境で新
たな仲間を作っていくにあたり,友だち関係をどの
ようにしていけばよいのか分からない,どうもうま
くいっていない,友だちの言動やそぶりから嫌われ
ているように思うという生徒の相談。
【担任との連携②】
高校に入学して,自分が考えていた学校像と違う
ので,学校に来る意味を見いだせず,これからどう
(6) 守秘義務
スクールカウンセラーは, 秘密の保持が不可
欠のため相談内容をすべてを教師に知らせるこ
とはできないが,教師が心配している事項につ
いての情報交換や意見交換は可能な限り行い,
学校での指導・援助に生かせるように連携を密
にしている。
(7) 研修会の開催
スクールカウンセラーを講師として,次のよう
な研修会を開催した。
研修会の開催
① 職員研修会の開催
② PTA研修会の開催
(研修内容)
・スクールカウンセラーの専門分野
・スクールカウンセラーの仕事内容
・相談にいたる経過・受付
・不登校の特徴とその対応
・思春期の心の理解
スクールカウンセラーの相談活動の実際
スクールカウンセラーが着任した初日,不登
校ぎみの新入生からの相談が3件あった。スクー
ルカウンセラーが活動を進めるにつれて,入学
して間もない時期に高校で不登校の問題が大量
に出ていること,生徒たちの抱えている多様な
問題とその重さに驚いた。
(1) 担任との連携
生徒の中には,精神的に不安定なために教室
で落ち着けない生徒や,友だち関係に悩んでい
る生徒が多いので,担任と連携して教育相談室
するのか休んで考えたいという生徒の相談。
【担任との連携③】
不登校経験の長い定時制の生徒の相談。
【担任との連携④】
保護者の不仲の問題や学校生活を続けるために経
済的な問題をどのように解決していけばよいかに悩
んでいる生徒の相談。
(2) 保健室との連携
スクールカウンセラーは,体調不良を訴えて
保健室をしばしば訪れる生徒の問題を解決する
ために,保健室との連携を強化していった。こ
の連携によって,不眠や食欲不振の問題,対人
関係の問題,学習や進路の問題などをかかえる
生徒たちの教育相談室の利用が増え,生徒の問
題への対応を早期に行うことができるようにな
った。
また, 精神衛生に関する指導では,保健室と
連携し,保健室だよりに計画的に掲載されてい
る心の健康についての記事を利用しながら活動
していくことにしている。
【保健室との連携】
教室がうるさい,教室にいるといらいら
して落ち着けない,疲れる,友だちが怖い,
学校にいるといつも誰かに何か言われるの
ではないかという不安があり緊張感が抜け
ない,といったことにより,学校への不適
応感やストレスの蓄積が身体症状を起こし,
学校に行きたくないという気持ちを強めて
いる生徒との相談をした。
2
(3) 生徒指導部との連携
生徒指導部と連携をとり,特に校則違反行為
などの問題行動により学校反省や別室での指導
を受けている生徒へ激励の面接を行っている。
−49−
【生徒指導部との連携】
生徒からの相談でいじめが表面化した際には,関
係者会議に参加するなどして,生徒指導部と積極的
な情報交換・意見交換を行い,協力して問題解決へ
の取組みを行った。被害者の心のケアと加害者への
心の教育を行うと同時に ,クラスメートに対しても ,
「いじめは絶対に許すことのできない行為である」
こと ,「加害者は軽い気持ちで行った言動でも,立
場の違いにより受け止められ方が異なり,被害者に
大きな傷を与える」こと ,「いじめはエスカレート
しやすく遊びやからかいとして軽く受け止めること
はできない危険な行為である 」ことなどを指導した 。
(4) 保護者との連携
保護者からの電話相談から,生徒,保護者のカ
ウンセリングを始めることもある。
【保護者との連携①】
関係機関と連携しながら取り組んだ重度の場面か
ん黙の生徒の相談。
【 保護者との連携②】
始業式当日の学校による生徒指導方針の説明に反
発し,こんな学校には行けないと不満と不信感を述
べ,保護者の説得に応じない生徒の相談。
(5) スクールカウンセラーの活動状況
平成13年度と14年度(11月末日現在)の相談の
状況は次のとおりである。
表1
生徒
保護者
教師
電話相談
他機関
教育相談数
13年度
74
9
19
7
3
(延べ数)
14年度
123
5
45
2
0
(14年度は11月末日までの集計)
表2
内容別相談数
13年度
不登校
37
いじめ
5
問題行動
18
先生との関係
1
家庭の問題
17
友だち関係
16
進路
7
その他
11
(延べ数)
14年度
107
0
14
1
0
35
3
15
3 取組みの成果と課題
大竹高校ではスクールカウンセラーと教職員が
一体となって豊かな心をはぐくむ様々な取組みを
すすめた結果,学校にきれいで落ち着いた雰囲気
を取り戻し,クラブ活動や学校行事に活気が生ま
れてきた。この間,スクールカウンセラーは実際
に様々な問題を抱えた生徒に直面し,学校の大変
さを実感したという 。「心の専門家」のスクール
カウンセラーと教師とが,連携しながら行ってき
た教育相談活動を振り返る。
(1) 取組みの成果
ア 学校の中に「心の専門家」としてのスクール
カウンセラーの活動が定着してきたことが,
教育相談数の増加につながった。
イ 連携指導の深まりとともに,教師の生徒への
働きかけに嬉しさや親しみを感じ,取組みに前
向きの評価をしている生徒が多くなってきた。
ウ 教育相談室を訪れる生徒たちから ,「教室に
居りやすくなった。静かで落ち着けるようにな
った。」といった言葉を聞くようになった。
(2) 取組みの課題
ア 服装や授業態度などの指導を頻繁に受けて
いる活発な生徒たちと,活発な生徒の振る舞
いやそれを指導する先生方の叱声を脅威と受
け止め,緊張感や嫌悪感を抱く生徒たちが同
じ集団を形成していることから生じる指導の
困難さを克服していく。
イ 青年期に起こりやすい仲間からの評価に対
する過敏さから,周囲に振り回されて自分自
身が分からなくなってしまう生徒が多いので,
生徒に自分の内面を豊かにすることの大切さ
を指導していく必要がある。
ウ 不登校から休学・退学した生徒のカウンセ
リングを継続する場合が多いことから,社会
とどこかでつながっていたいという生徒たち
の気持ちを大切にして,図書館やボランティ
アなど社会的な場につなげていく取組みをす
る必要がある。
エ 基本的な学校の決まりを守ることの意味を
理解せず,甘えが強く学校の指導を受け入れ
ようとしない生徒,保護者への面接指導を強
化する必要がある。
オ 中学校,高校それぞれの教育相談体制の整
備と密接な連携システムづくりを行う必要が
ある。
(14年度は11月末日までの集計)
−50−
Ⅲ
実践から学ぶこと
これまで述べてきたように,大竹高校ではスクー
ルカウンセラーが配置されたことによって,教師
の教育相談への関心が高まり,生徒への支援体制
を強化することができた。ここには,学校がスクー
ルカウンセラーと協力しながら,生徒の様々な問
題を解決するための参考になる点が多くある。
していたのでは,その問題の解決がとても困難
になる場合が多い。
そこで,スクールカウンセラーと教師が情報
交換と守秘義務とのバランスをとりながら,で
きる限りの情報の共有化を図り,連携,協力し
て生徒の問題解決に向けた取組みを行った。
5
1 教育相談機能の充実
教育相談機能の強化・充実を図るためには,教
師とスクールカウンセラーが互いの専門性を理解
し合い,それぞれの特性を生かした協力体制づく
りが必要である。なかでも,スクールカウンセラー
が学校の教育方針や生徒指導方針等を理解して活
動することは,円滑な校内連携を進めるためにと
ても有効であった。
2 生徒への支援活動
学校がスクールカウンセラーと連携をすること
によって,心の揺れ,悩みや不安などの心の問題
を抱える生徒に柔軟で多面的な対応ができるよう
になった。このことは,生徒が深刻な事態になる
ことを予防することにつながった。
3 スクールカウンセラーと教師との連携
スクールカウンセラーによる教師へのコンサル
テーションは,教師の意識の変化を促した。教師
が,スクールカウンセラーの生徒理解の方法や生
徒の状況にあった対応法を積極的に学ぶことによ
って,学校の相談活動全体が活性化してきた。
このことは,教師が生徒の問題に対応する際の心
理的負担の軽減につながった。
4
情報の共有化
生徒の問題解決に向けた取組みでは,生徒を
取り巻く様々な状況にあわせた指導・援助が必
要になる。このとき,スクールカウンセラーや
担任が生徒の情報を一人で抱え込んだまま対応
※
保護者への支援活動
スクールカウンセラーが ,「心の専門家」とし
て保護者の相談にも応じることによって,保護者
の生徒理解を深めることができ,学校と家庭とが
より強く連携した対応をとることができた。
6 関係機関との連携
学校だけで適切な対応が困難なケースについて
は,学校が問題を抱え込まず,スクールカウンセ
ラーが保護者に関係機関を紹介するなどして積極
的な連携を行い,生徒の問題解決に向けて対応す
ることができた。このことによって,教師の中に ,
生徒の問題解決では関係機関と積極的に連携しよ
うとする意識が現れてきた。
おわりに
児童生徒の様々な問題は,学校,家庭,地域社
会のいろいろな問題が複雑に絡み合っており,学
校だけでは対応できない面も多くある。その中で,
学校へのスクールカウンセラーの配置は,児童生
徒,保護者,教師に対するカウンセリングを通し
て,児童生徒の心の問題の解決や問題行動の具体
的な解決につながっている。また,スクールカウ
ンセラーによる専門的見地からのコンサルテーシ
ョンやコーディネーション,研修の実施などは,
教師の意識変化や相談活動の活性化をもたらし,
学校の教育相談体制の充実に役立つものであると
いえる。
今後は,スクールカウンセラーとの連携を,
「情
報連携」だけでなく,関係者と一体的な対応を行
う「 行動連携」を重視した内容にする必要がある 。
実践事例は,広島県立大竹高等学校の梅本 俶子スクールカウンセラーの 協力によるものである。
【参考文献】
教職研修3月増刊号 スクールカウンセリングの実践技術№6スクールカウンセラーと連携した指導
教育開発研究所 平成14年
千葉県総合教育センター 研究報告書 第346号 平成13年
−51−