パーソナル・スイッチによる照明個別制御の実証 ―533―

日本建築学会大会学術講演梗概集
(近畿) 2014 年 9 月
40246
パーソナル・スイッチによる照明個別制御の実証
(その 3)照度差を緩和した照明制御による運用改善
最低照度確保
調光制御
正会員
同
非会員
着座センサ
○及川大輔*1
望月悦子*2
飯田浩一*4
箱田貴之*1
金 政秀*3
吉開孝裕*4
同
同
非会員
制御 b・c では、各机にある IP 電話に照明制御用のスイ
1.はじめに
既報では、東日本大震災に伴う緊急の節電対策として
ッチ機能を付加し、各執務者自身の判断で自席周辺の天
効果の大きかった間引き点灯、不在時・不在箇所消灯 1)を
井照明を制御する。ある 1 つの照明器具を制御できるの
恒久的且つきめ細やかに実践可能な方法の一つとして、
が、全て複数名による制御が行われた。執務者 1 人あた
パーソナル・スイッチを有する天井照明の個別制御によ
りに割り当てられる制御可能な照明器具台数は、席配置
2)
る省エネルギー効果を検証した 。その結果、照明消費電
の関係上、1 人に対し 1 台の割合が 14%となった(図 3)
。
力量は約 44%削減されたが、離着席時のこまめな制御は
前報では、他者の照明環境への影響を懸念して、離席時
ほとんど行われておらず、主に不在箇所の消灯による効
の消灯が行われなかったことから 2)、操作の促進を目的に、
果であった。システムの特性を活かし、更なる省エネル
制御 b ではエリア内で調光下限値の照度を確保した。制
ギー効果を実現するには、運用方法の改善が必要である。 御 c では必要に応じて明るさを変化させられるよう、消灯
本研究では、照明の個別制御を導入した執務室において、 を含む 3 段階で調光可能とした。
執務者の視的快適性を確保しつつ、積極的な照明の個別
制御が行われるための 2 つの制御方法を提案し、実測調
調光率
査により実証した。
2.調査概要
2.1 調査対象 図 1 に示す執務室にて、2 つの照明制御方
離席/不要
光ランプ×2 灯式)30 台が均等に設置されている。調査
%
対象と調査内容の概要を示す。
750
lx
全消灯
300
lx
在席/必要
自席で個別に点灯
始業 出社
‐所在地:東京都中央区
‐調査対象:43 名(管理業務、営業等/0.28 人/ m2)
‐調査内容:天井照明消費電力(1 分間隔)、水平面照度
(床上 1.3 m、15 ヵ所)
・窓面鉛直面照度(Panasonic 無線
図 2 提案した照明制御の動作フロー
センサ子機 UEWR16242T01, 1 分間隔)、執務者在席率、
14
28
10
25
5
20
座席番号
N
退社
※ 実線:壁スイッチ一括制御
点線:自席周辺の天井照明個別制御
制御 a:壁スイッチによる一括点灯(100%)/消灯(0%)
制御 b:壁スイッチにより不在箇所も最低限の照度を確保(30%)、自席周辺
は調光可能(70%)
。個別に消灯不可。
制御 c:要点灯時は 30%を基本。不足感がある場合は調光可能(70%)
。
不要時は個別に消灯可能。
‐調査物件:S タワー42 階テナントエリア(154 m2)
アンケート調査(光環境、照明制御主観評価)
900
lx
個別に消灯
全点灯
%
43
40
35
16,000mm
15
1
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
29
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
照明器具番号
1 人/1 台:6/43 席(14%)
1 人/3 台:2/43 席(5%)
2021 2223 2425 2627 282930
1 人/2 台:35/43 席(81%)
照明制御共有
図 3 各座席と操作可能な照明器具数
2.3 執務者在席率の測定方法 執務者の在席状況を経時的
9,600mm
IP 電話
図 1 調査対象エリア平面図[NO-SCALE]
2.2 照明制御の方法
離席/不要
%
法を実証した。調査対象エリアには照明器具(32W Hf 蛍
制御用
スイッチ
全消灯
% 全点灯
に把握するため、着座時の荷重による圧力の変化で在席/
図 2 に示す 3 つの照明制御方式につ
離席を検知する着座センサを開発した(図 4)
。
いて、以下の各期間に実測調査を行った。
着座センサを調査対象の 43
-制御 a:2013 年 10 月 18 日(金)~11 月 11 日(金)
席の座面に設置し、制御 b・
-制御 b:2013 年 11 月 14 日(月)~11 月 15 日(金)
c の調査期間中、24 時間連続
-制御 c:2013 年 11 月 18 日(月)~11 月 22 日(金)
で自動計測した。
圧力センサ
設置状態
図 4 着座センサ
Actual proof of personal lighting control system
(Part 3) Improvement for operation of lighting control by evening illuminance in office space
― 533 ―
Daisuke OIKAWA et.al
照明消費電力[w/㎡]
3.実測結果
3.1 照明消費電力量の削減効果 実測期間中(平日 5 日間)
の平均で、制御 a に比べ、制御 b で約 42%、制御 c で約
55%の照明消費電力量が削減された(図 5)
。制御 b・c と
も調光率 70%で点灯されることはほとんどなかった。制
御 b では常時調光率 30%で点灯され、均斉度も高いこと
が分かる。制御 c では 32%が消灯されており、制御 b よ
り照明消費電力量が削減された(図 6、表 1)。
12.0
制御 a
10.0
11.2
制御 c
制御 b
6.0
机上面
55%
削減
42%
削減
8.0
2.0
制御の
机上面
0
満足度
満足度
図 5 天井照明消費電力量・削減率
しやすさ
調光率 70%/7%
10
20
30
40
50
60 70
80
90
100 (%)
図 6 各調光率での点灯割合(9:00-18:00)
表 1 測定結果一覧(9:00-18:00)
制御
制御a
(全点灯)
制御b
(最低限照度確保)
制御c
(照度の段階的制御)
平均照明消費電力量 削減率 最低照度 平均照度 均斉度 在席率 1日の操作回数アンケート回収率
11.2 w/㎡
-
-
-
-
-
-
-
6.5 w/㎡
42% 390lx
633lx
0.82 37%
0.53回/人
31/44 72%
5.0 w/㎡
55%
637lx
0.48 34%
0.75回/人
29/44 66%
90lx
3.2 在席状況と照明消費電力の関係 制御 b では、30%点
灯を常時確保したため、照明消費電力と在席状況に対応
関係は見られず、夜間でも照明消費電力がピーク時と同
程度の値を示した(図 7)
。制御 c では、昼休み及び夜間
に長時間離席する際、確実に消灯されていることが分か
る。しかし、一日を通した照明操作回数は平均 0.75 回/人
と依然として低く、日中は昼休みの離席以外の離席/着席
時の照明操作は殆ど無く、照明消費電力の削減は前報同
様、不在箇所の消灯による効果が主であった。
在席率[%]
8
平均在席率 37%
平均在席率 32% 60
7
50
6
40
5
4
30
3
20
2
10
1
0
001234567891011121314151617181920.22 01234567891011121314151617181920.22 時
照明消費電力
在席率
図 7 照明消費電力と在席率(左:制御 b 右:制御 c)
3.3 アンケート結果 制御 b は制御 c と比べ、机上面を明
るいと評価した割合は 15%低いが、空間全体を明るいと
評価した割合は 16%高くなった(図 8)
。制御 c では消灯
箇所の点在により極端に暗い箇所が生じたが、机上面・
*千葉工業大学大学院
**千葉工業大学
***首都大学東京
****三機工業株式会社
操作のしやすさ
最低照度確保
調光率 30%/ 61%
段階的制御
やや 4
どちら
でも
やや
3
2
不満足 1
調光率 30%/ 96%
消灯(0%)/ 32%
満足 5
空間全体
スイッチ操作の
確保
1 分間当たりの照明消費電力
[w/㎡]
明るさ評価
5.01
最低照度
0
空間全体
快適性
調光率 70%/2%
照度の
明るさ評価
照明環境の
6.54
4.0
空間全体の満足度、作業のしやすさは制御 b と変わらず
約 8 割の執務者が高い評価をしており、制御 b と比べ、
照明環境を快適と評価した割合は 25%高かった。自席で
好みの明るさに操作可能なこと、暗い箇所が生じても業
務に支障が無いことが理由に挙げられた。アンケートに
回答した席に最も近い測定点の水平面照度 (机上高さ
600mm)と満足度評価には明確な関係はなく、目線高さ
の水平面照度 400 lx 程度(机上面照度 400lx 未満)であっ
ても高い満足度が得られていることが分かる(図 9)
。
0
満足度
照度の段階的制御
200
400
600 800
照度 lx
最低照度確保
1000 1200
照度の段階的制御
図 8 執務者の光環境評価
図 9 執務者評価と照度
スイッチ操作のし易さは、操作時の照明の反応速度
(約 2 秒)の影響が大きく、6 割が不満と回答した。制御
b については、約 8 割の執務者が消灯したいと回答してお
り、長時間の不在箇所であっても最低照度を確保せず、
確実な消灯が望まれた(図 10)
。他人の照明操作について
は、制御 b・c 共に 66%が依然として気になっており、段
調光制御による他人への影響の緩和は見られなかった
(図 11)
。
消灯したいと思いますか?
その他
気になり、不快
7%
13%
多少気になるが
53%
作業に支障はない
27%
気にならない
(%) 0
20
40 50
60 70
80
9100
図 10 消灯への評価
図 11 他人の操作に対する評価
4.まとめ 省エネルギーと執務者の視的快適性を両立する
照明の個別制御方法を実環境で検証した。照明の個別制
御による省エネルギー効果の有効性が再確認された。個
別に段調光を可能にし、長時間の不在・不要箇所を完全
消灯することで、空間全体で均一な照度を確保するより
も、照明環境に対する満足度を向上させることができた。
しかし、個々の照明制御を複数名で行う設定であったこ
と、スイッチ操作の応答速度が影響し、視的快適性向上
が操作の促進にはつながらなかった。今後、各執務者が
制御できる照明器具との最適な対応付けとスイッチ性能
の向上が求められる。
参考文献 1)望月ら:2011 年の節電対策がオフィス照明環境に与えた影響
その 1 日本建築学会環境系論文集, Vol. 78, No.683, pp.9-16(2013)
2)及川ら:パーソナル・スイッチによる照明の個別制御の実証(その 1.2),日本
建築学会大会学術講演梗概集, D-2 分冊, pp.1389-1392(2013)
*Graduate School of Chiba Institute of Technology
**Chiba Institute of Technology
***Tokyo Metropolitan University
***Sanki Engineering co., LTD.
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