情報数値解析 第8回 無限次元問題に対する精度保証 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 1 / 25 第8回・無限次元問題に対する精度保証 ✔ この講義の目的: ✘ ✘ ✔ 無限次元問題に対する精度保証法のひとつである Nakao の方法の 概要を紹介します. 偏微分方程式についても簡単に触れます. Nakao の方法は偏微分方程式に対する精度保証法として開発され ました.流体力学,電気,磁気,力学,光学,熱流など,いずれ の領域における多くの物理現象は偏微分方程式で記述することが できます. 参考文献: ✘ 中尾 充宏, 山本 野人: 『精度保証付き数値計算』日本評論社, 1998. 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 2 / 25 講義のポイント ✔ 無限次元問題に対処するためには,適切な関数空間を設定する必要 があること ✔ Banach 空間における不動点定理が有効であること ✔ 有限次元と無限次元を結ぶ何らかの「架け橋」が必要なこと 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 3 / 25 第8回・無限次元問 題に対する精度保証 講義のポイント 偏微分方程式入門 偏微分方程式とは 偏微分方程式の例 偏微分方程式はなぜ 役に立つのか 偏微分方程式の種類 偏微分方程式に対す る精度保証 偏微分方程式入門 検証例の紹介 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 4 / 25 偏微分方程式とは ✔ 偏導関数を含む方程式のことであり,未知関数が複数個の独立変数 によっているものを指します. ✘ ✔ 例) 温度 u(x, t) は位置 x と時間 t による場合. 未知関数が 1 個の独立変数だけによる方程式を常微分方程式と呼び ます. 以下,簡単のため ∂u ut = , ∂t ∂u ux = , ∂x uxx ∂ 2u = ,... 2 ∂x などと標記することがあります. 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 5 / 25 偏微分方程式の例 ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ut = uxx 1 次元熱伝導方程式 ut = uxx + uyy 2 次元熱伝導方程式 urr + ur /r + uθθ /r2 = 0 極座標表示の Laplace 方程式 utt = uxx + uyy + uzz 3 次元波動方程式 utt = uxx + αut + βu 電信方程式 上の例で未知関数 u はつねに 2 個以上の変数の関数です.微分される方 の変数 u を従属変数と呼び,微分する方の変数を独立変数と呼びます. 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 6 / 25 偏微分方程式はなぜ役に立つのか 物理現象を空間微分と時間微分の間の関係(方程式)として記述すると きに,これらの方程式に導関数が自然な概念(速度,加速度,力,摩擦, 磁束,電流, etc.)を表現するから. ✔ ✔ ✔ ✔ Maxwell 方程式 Schrödinger 方程式 Newton の運動方程式 Navier-Stokes 方程式 ⎧ ∂u 1 ⎪ ⎪ ⎪ ⎨ ∂t + (u · ∇)u = − ρ0 (∇p + g ρ ez ) + νΔu, div u = 0, ⎪ ⎪ ⎪ ⎩ ∂θ + (u · ∇)θ = κΔθ. ∂t 第8回・無限次元問題に対する精度保証 conservation of momentum conservation of mass conservation of heat 情報数値解析 – 7 / 25 偏微分方程式の種類 偏微分方程式は線形か非線形かのどちらか 線形偏微分方程式というのは,従属変数 u とその導関数が方程式の中に すべて線形で現れるもののことである. 《線形の例》 ✔ ✔ utt = e−t uxx + sin t uxx + yuyy = 0 《非線形の例》 ✔ ✔ uuxx + ut = 0 xux + yuy + u2 = 0 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 8 / 25 第8回・無限次元問 題に対する精度保証 講義のポイント 偏微分方程式入門 偏微分方程式に対す る精度保証 紹介する手法 問題と関数空間 不動点定式化 不動点定理 近似空間と誤差評価 不動点問題の分解 Newton 法の適用 不動点定式化 II 不動点定理の適用 代表的な U の取り方 具体的な計算部分 偏微分方程式に対する精度保証 検証例の紹介 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 9 / 25 紹介する手法 偏微分方程式に対する精度保証法のひとつである Nakao の方法の概要を 紹介します. ✔ 1988 年に発表 M.T. Nakao, A numerical approach to the proof of existence of solutions for elliptic problems, Japan J. Appl. Math., 5 (1988), 313–332. ✔ 楕円型偏微分方程式に対する解の存在検証手法として発展 ✔ 偏微分方程式だけでなく,常微分方程式,積分方程式への応用例も 報告されている 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 10 / 25 問題と関数空間 ✔ ✔ ✔ ✔ X, X̂, Y を Hilbert 空間 埋め込み X̂ → X は compact L : X̂ → Y を(楕円型)作用素 f : X → Y : (Fréchet) 微分可能な有界連続関数 適当な領域,境界条件のもと以下の問題を考える. Lu = f (u) 《例》 −Δu = f (x, u, ∇u), x ∈ Ω, u = 0, x ∈ ∂Ω, (1) (2) Ω は Rn (n = 1, 2, 3) の有界領域で区分的に滑らかな境界 ∂Ω を持つ. 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 11 / 25 不動点定式化 問題 (1) の線形化問題: Lv = g は,任意の g ∈ Y に対して一意の解 v ∈ X̂ を持つと仮定する. このとき,解 v ∈ X̂ を X に埋め込むまでの対応を作用素 v ≡ Ag で表 わすと,A : Y → X は compact,さらに,非線形作用素: F u := Af (u) も X 上の compact 作用素となり,問題 (1) は F に対する不動点問題: u = F u. (3) に書き直すことができる.例 (2) では,次のような関数空間を選べばよ い.X = H01 (Ω), X̂ = H 2 (Ω) ∩ H01 (Ω) and Y = L2 (Ω). 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 12 / 25 不動点定理 《Schauder の不動点定理》 M を Banach 空間 X の空でない有界凸閉集合として T : M → M を compact 作用素とする.このとき,T は不動点を持つ. したがって,X の空でない有界凸閉集合 U に対し F U = {F u | u ∈ U } ⊂ U, が確認できれば,Schauder の不動点定理より u = F u をみたす u ∈ F U が存在する.また,この u ∈ X は 問題 (1) の解でもある. 問題は,U の作り方. 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 13 / 25 近似空間と誤差評価 Nakao の方法では,射影 (projection) と無限次元の射影誤差評価が中心的 な役割を果たします. ✔ ✔ ✔ Xh : X の有限次元部分空間 有限要素法の場合 h は,たとえば三角形の辺の長さになる. Ph : X → Xh を射影として,次の近似性を仮定する. v − Ph vX ≤ C(h)LvY , ∀v ∈ X̂. (4) ここで C(h) > 0 は h に応じて具体的な値が決定できる定数.例 (2) で Ph を H01 -projection として定義するとき. C(h) = h/π 双一次矩形要素 C(h) = h/(2π) 双二次矩形要素 C(h) = 0.494h 三角形要素 ∗ ともに R2 領域の一様分割時 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 14 / 25 不動点問題の分解 Xh は X の閉部分空間であるので,X の任意の要素は Xh の要素と X に おける Xh の直交補空間 X∗ の直和の形に一意に分解することができる. したがって,X の不動点方程式 u = Fu も有限次元部分 (Xh ) と無限次元部分 (X∗ ) に次のように一意に分解さ れる. Ph u = Ph F u, (5) (I − Ph )u = (I − Ph )F u. 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 15 / 25 Newton 法の適用 方程式 (5) の有限次元部分の解を得るため,以下の手法を用いる. (1) の近似解 uh ∈ Xh に対し,Nh : X −→ Xh を Nh u := Ph u − [I − Ph F [uh ]]−1 h Ph (u − F u), で定義する.ここで F [uh ] は F の uh での (Fréchet) 微分, [I − Ph F [uh ]]−1 : X → X は P (I − P F [uh ]) の定義域を Xh に制限し h h h h h た作用素 Ph (I − Ph F [uh ])|Xh の逆作用素. ここで,実際の [I − Ph F [uh ]]−1 h の存在と具体的な計算は,対応する行 列を精度保証付きで計算することによって求まる! 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 16 / 25 不動点定式化 II Ph u = Ph F u ⇔ Ph u = Nh u よって X 上の作用素 T を T u := Nh u + (I − Ph )F u, とすれば u = Tu 第8回・無限次元問題に対する精度保証 ⇔ (6) u = Fu 情報数値解析 – 17 / 25 不動点定理の適用 T は X で compact であるので,再び Schauder の不動点定理より,空で ない有界凸閉集合 ⊂ X に対して TU ⊂ U となれば,T の不動点の存在がいえる. 具体的な U は U := uh + Uh + U∗ , U h ⊂ Xh , U ∗ ⊂ X∗ , (7) で定める.このとき Nh U − uh ⊂ Uh , (I − Ph )F U ⊂ U∗ . (8) であれば T U ⊂ U が成立する. 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 18 / 25 代表的な U の取り方 ✔ Uh は Xh の基底 {φj }N j=1 と区間係数との一次結合として Uh = N [Aj , Aj ] φj , j=1 ✔ 半径 γ > 0 のボールとして Uh = {vh ∈ Xh | vh X ≤ γ}, ✔ 無限次元部分は α > 0 のボールとして U∗ = {v∗ ∈ X∗ | v∗ X ≤ α}. 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 19 / 25 具体的な計算部分 Nh U − uh ⊂ Uh 連立 1 次方程式,Cholesky 分解,最大/最小特異値問題,最大/最小 固有値問題などの有限次元の精度保証付き問題に帰着される. ✔ (I − Ph )F U 射影の性質を用いて ✔ C(h) sup f (u)Y ≤ α u∈U ✔ が確認できればよい. 局所一意性のためには更に次が必要: ∃k < 1 such that T u1 − T u2 ≤ ku1 − u2 , 第8回・無限次元問題に対する精度保証 ∀u1 , u2 ∈ U. (9) 情報数値解析 – 20 / 25 第8回・無限次元問 題に対する精度保証 講義のポイント 偏微分方程式入門 偏微分方程式に対す る精度保証 検証例の紹介 A: 反応拡散方程式 B: MHD 均衡問題 C: 対称性破壊分岐点 D: Bénard cell 検証例の紹介 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 21 / 25 A: 反応拡散方程式 FitzHugh-Nagumo type ⎧ ⎨ −ε2 u = −v = ⎩ u = model problem: u(1 − u)(u − a) − δv for −1 ≤ x ≤ 1, u − γv for −1 ≤ x ≤ 1, v = 0, for x ∈ {−1, 1}, 0.8 0.8 0.6 0.6 S1 0.4 S2 S1 0.2 -1 S2 0 AS1 0.8 1 x -1 0.2 0 AS3 1 x 対称解 [u, v] x 非対称解 [u, v] 0.8 0.6 AS2 0.5 0.4 AS3 0.2 AS1 AS2 -1 0 1 x -1 0 δ = 0.2, ε = 0.1, γ = −0.05, a = 1/2 第8回・無限次元問題に対する精度保証 1 情報数値解析 – 22 / 25 B: MHD 均衡問題 −Δv = λ max {v, 0}, x ∈ Ω, v = −1, x ∈ ∂Ω 4 2 0.8 0.6 0 0.2 0.4 0.4 0.2 0.6 0.8 近似解の形状 λ = 30 第8回・無限次元問題に対する精度保証 v = 0 (自由境界) の包み込み 情報数値解析 – 23 / 25 C: 対称性破壊分岐点 2 次元 (x-z 座標) Oberbeck-Boussinesq 方程式: ⎧ ut + uux + ωuz = px + PΔu, ⎪ ⎪ ⎨ ωt + uωx + ωωz = pz − PR θ + PΔω, ux + ωz = 0, ⎪ ⎪ ⎩ θt + ω + uθx + ωθz = Δθ 25 20 15 10 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 −→ R/RC 第8回・無限次元問題に対する精度保証 情報数値解析 – 24 / 25 D: Bénard cell ⎧ 1 ⎪ ⎪ ⎨ −Δu + (u · ∇)u + ∇p − Rθez = 0, P ∇·u = 0, ⎪ ⎪ ⎩ −Δθ + (u · ∇)θ − w = 0. Bénard による実験結果 (1900) 第8回・無限次元問題に対する精度保証 精度保証された Bénard cell (2006) 情報数値解析 – 25 / 25
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