外航海運における船社間協定に係る調査 報告書

外航海運における船社間協定に係る調査
報告書
平成 20 年 4 月
(財)日本海事センター
海運問題研究会・海運経済問題委員会
-2-
<目次>
(財)日本海事センター 海運問題研究会・海運経済問題委員会委員名簿・・・・・・・4
用語解説:船社間協定とその類型・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.我が国の独占禁止法適用除外制度
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
海上運送法における独占禁止法適用除外制度の導入・・・・・・・・・・・・ 8
独占禁止法適用除外制度の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
現行海上運送法における独占禁止法適用除外制度・・・・・・・・・・・・・ 9
最近の独禁法適用除外制度等の見直しの動き・・・・・・・・・・・・・・ 9
現行制度で実施された改善・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
2.各国・地域の海運に係る競争法適用除外制度の状況
(1) EU・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
(2) 米国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
(3) オーストラリア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
(4) ニュージーランド・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
(5) シンガポール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
(6) インド・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
(7) 中国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
(8) 香港・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
(9) 台湾・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
(10) 韓国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
(11) タイ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
(12) インドネシア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
(13) ベトナム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
(14) マレーシア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
(15) フィリピン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
3.船社間協定の分析
(1) 同盟・協議協定がもたらしている効果・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
① 運賃の安定性がもたらしている効果・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
※A 同盟・協議協定の存在と運賃の安定性について(定量的
アプローチ)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
※B 日中航路における運賃推移及びその分析 ・・・・・・・・・・・・ 37
※C 日中航路に関する荷主の意見 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39
② 協議メカニズムによる効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
③ 「運賃修復ガイドライン」がもたらしている効果・・・・・・・・・・・ 41
(2) 我が国経済に与える影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42
※D 1985 年~2007 の主要定期船社の M&A・・・・・・・・・・・・・・・ 45
※E キャッシュフローの面からの邦船社と外国船社の比較・・・・・・・・ 48
※F 最近の日本直航配船の推移について ・・・・・・・・・・・・・・ 51
4.結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62
参考資料 (Ⅰ:定期船分野に係る日本を中心とした船社間協定の現状について、
・・巻末添付
Ⅱ:各国競争法及び船社間協定の競争法適用除外制度根拠法条文)
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(財)日本海事センター
海運問題研究会・海運経済問題委員会委員名簿
(2008 年 4 月現在)
(敬称略・順不同)
委員長 杉 山 武 彦
一橋大学学長
委 員 太 田 和 博
専修大学商学部教授
〃
河 村
輝 夫
〃
原
丈 二
〃
喜多澤
〃
菊 地 高 弘
昇
(社)日本荷主協会常務理事
〃
運賃委員会委員長
(株)商船三井執行役員
日本郵船(株)定航マネジメントグループ
航路企画チームチーム長
(北 山
智 雄
日本郵船(株)定航マネジメントグループ
グループ長代理 (2008 年 3 月まで))
〃
木 村 修 一
川崎汽船(株)コンテナ船事業グループ
グループ長代理
〃
園 田 裕 一
(社)日本船主協会常務理事
〃
岡 西 康 博
国土交通省海事局外航課長
(永
〃
松 健
次
野 村 一 昭
〃
(2007 年 7 月まで))
国土交通省海事局外航課
国際海上輸送企画官
(小
原 得
司
〃
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(2008 年 3 月まで))
【用語解説:船社間協定とその類型】
外航定期船に係る船社間協定は、以下の通り「同盟」(もしくは「海運同盟」)、「協
議協定(もしくは「航路安定化協定」)」、「コンソーシアム」に大別される。本調査で
は、これらのうち、協定内容に運賃に係わる事項を含み、近年、各国・地域で競争法との
関係が特に問題とされている「同盟」及び「協議協定」を中心に検討を行うこととする。
船 社 間 協 定
あららら
類型
目的等
共同行為の例
「同盟」
(もしくは
「海運同盟」)
統一運賃の設定、航海数
や使用船舶の調整等を基
礎とする船社間の協調を
通じて、適正な運賃水準
と輸送秩序を維持し、海
運サービスの長期的な安
定供給を図ることを目的と
する伝統的な協定類型。
・運賃タリフ設定
・各サーチャージの
設定
・積取調整、船腹調
整
・運賃プール
・情報交換
等
「協議協定」
(もしくは
「航路安定化協
定」)
従来の同盟・盟外の枠組
みを超えて安定的な輸送
マーケットを供給するた
め、マーケット分析や運賃
設定方針等の情報交換を
行い、盟外船社を含めた
航路安定を図ることを目
的としている。運賃方針等
の設定を行うものの、拘
束力を伴うものではない。
・運賃修復ガイドライ
ンの設定
・各サーチャージガ
イドライン設定
・マーケット分析等の
情報交換 等
「コンソーシアム」
定期航路において、船腹
の効率的使用、サービス
の多様化、投資規模の抑
制、コストの低減を目指
し、複数の船社が一つの
グループを形成し、共同
配船を基礎とした共同航
路運営を行うための技術
的な協定である。なお、世
界規模でサービス提携を
行うアライアンスもある。
・スペースチャーター
・運航スケジュール
調整
・コンテナターミナル
の共同運営 等
具体例
日本/南米西岸運賃同
盟
日本欧州運賃同盟
極東/南アジア-中東
同盟 他
太平洋航路安定化協定
西航太平洋安定協定
カナダ太平洋安定協定
カナダ西航太平洋安定
協定 他
グランドアライアンス協
定 (日本郵船を含む4
社で構成)
The New World Alliance
協定 (商船三井を含む
3社で構成)
CKYH協定 (川崎汽船
を含む4社で構成)
各スペースチャーター協
定 他
(出典:交通政策審議会海事分科会国際海上輸送部会答申(2007年12月)資料を元に作成)
-5-
はじめに
外航定期船分野においては、1875 年のカルカッタ同盟成立以降、同盟をはじ
めとする船社間協定に対し、日米欧をはじめとする世界主要国において競争法
からの適用除外が認められており、一定の条件下での協定の締結と活動が行わ
れてきた。しかしながら、同時に、それがもたらす利益と弊害は幾度となく問
題として取上げられてきた。
同盟成立から間もない 20 世紀初頭には、米国及び英国で、同盟のあり方に関
し、それぞれ数年を費やした調査が行われており、いずれも、同盟の弊害を認
めつつも、利益の大きさにも着目した報告内容となっている。例えば米国のア
レクサンダー報告書(1914 年)は、
「荷主の同盟に対する非難は必ずしも妥当で
はなく、同盟は悪用されない限り、運航の規則性増大、運賃水準の維持、需要
に対する効率配船、コストの低下傾向等に役立つものであり、それを単純に禁
止することは、結局、熾烈な運賃競争の再現か、それを避けるための吸収合併
に導くだけである。必要なことは政府による監督統制であり、それが米国の利
益を図る最善の方法である」としており、政府による一定の監視を条件とした
上で、同盟の役割が肯定的に評価されている。
その後、IA(インディペンデント・アクション)許容の義務化など、船社
間の競争をより促進させる観点からの軌道修正を経つつ、同盟をはじめとする
船社間協定に対しては、日米欧をはじめとする主要国・地域で競争法からの適
用除外が認められてきた。
このような中、2002 年 4 月に公表された OECD 事務局報告書(船社間協定への
競争法適用除外制度の原則廃止を推奨)のとりまとめを一つの契機として、2002
年 3 月から EU(欧州連合)が適用除外制度見直しを開始し、検討の結果、2008
月 10 月から制度が全面的に廃止されることとなった。一方、EU の動きも踏まえ、
豪州も 2004 年 6 月に同国除外制度の見直しに着手したものの、2006 年 8 月に、
一部修正した上で制度自体は維持する決定を行った。また、シンガポールは 2004
年 10 月に成立した競争法の下、2006 年に除外制度が新たに認められることとな
った。その他、米国、インドなどでも制度に係わる動きが見られるところであ
る。
我が国においては、除外制度は海上運送法(第 28 条)に規定されており、最
近では 1998 年~99 年に見直しが実施された結果、審査手続きの一部を修正した
上で、制度自体は維持されている。その後、上述の通り諸外国で制度見直しの
動きが見られる中、2006 年 3 月、公正取引委員会経済取引局長の私的研究会で
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ある「政府規制等と競争政策に関する研究会」において、外航海運における今
後の競争政策のあり方の検討が開始された。同年 12 月には同研究会の報告を受
け、公正取引委員会は、
「1999 年の見直しの際に除外制度が維持された理由は今
日では成立しないと考える」との見解を明らかにした上で、
「制度の要否につい
て国土交通省の検討を期待する」旨のコメントを公表した。
このように、除外制度に関して、諸外国での最近の対応には差異が認められ、
また、我が国の競争当局が見解を公表する中、本報告においては外航海運に対
する競争法適用除外制度に関する内外の最新動向を明らかにするとともに、外
航船社間協定が我が国経済に与える影響について経済的分析等を行うこととし
た。本報告が我が国における独占禁止法適用除外制度のあり方の検討に資する
ことができれば幸いである。
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1.我が国の独占禁止法適用除外制度
(1) 海上運送法における独占禁止法適用除外制度の導入
我が国の海運に対する直接的規制が実施されたのは戦後のことであり、戦前
においては、国策の下、海運の振興と拡張のため、もっぱら保護と助成の施策
が実施されてきた。特に同盟をはじめとする船社間の共同行為については、政
府は不干渉主義をとっていた。
戦後、海運業については、1949 年(昭和 24 年)の海上運送法の制定により、
船社間の共同行為に対する独占禁止法の適用除外が法制化された。
もし、本法が制定されなかった場合、既存の独禁法と事業者団体法の規定に
より、同盟をはじめとする共同行為は非合法とされ、その場合既に民営還元が
予定されていた我が国海運の再建と発展に多大の支障をきたすことになり、輸
出産業はもとより国民経済全般に悪影響を及ぼす結果になったと考えられる。
なお、
「不公正な取引方法」を用いる場合は、海上運送法に基づく独禁法の適
用除外は適用されず、独占禁止法本体が適用されることになっていたことから、
公正取引委員会は海上運送法と独占禁止法の不公正な取引方法との関係を明確
にするため、1953 年(昭和 28 年)「海運業における特定の不公正な取引方法」
(「海運特殊指定」)を行った。
「海運特殊指定」は二重運賃制度*1の形骸化をはじめとする同盟の活動実態の
変化を踏まえ 2006 年(平成 18 年)4 月に廃止された。これにより、今日では、
外航海運業において「不公正な取引方法」に該当するか否かは「一般指定」に
よることとなっている。
*1 二重運賃制度
契約運賃制度ともよばれる。盟外船を利用せず貨物を同盟船に一手積みすることを
約した荷主に対しては、非契約の荷主に課徴する運賃よりも低い運賃率を適用して
運送する制度。同盟制度が機能していた当時は、もっとも有効な荷主拘束手段だっ
たが、米国で 1984 年の海事法改正時に事実上禁止されている。
(2) 独占禁止法適用除外制度の目的
外航海運に関する国際的な枠組みとしては「海運自由の原則」の下、歴史的
に、航路の開設、運賃・料金の設定等に関して、政府の介入を極力抑えること
が原則となっており、安定した外航海運サービスの提供は、運賃・料金、航路・
配船等に関する自主的な船社間協定を基礎とした船社間の国際的な協調・提携
によって支えられてきた。
かかる船社間協定については、米国、EU等を含めて国際的にも独占禁止法
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の適用除外制度が認められているが、我が国において、船社間協定が認められ
てきた理由・目的は以下のとおりである。
① 安定した海運サービス提供の確保
外航海運業は、貨物量の季節変動、往航と復航の荷動きのアンバランス
が大きいこと等により構造的に供給過剰に陥り、破壊的な競争が行われ
やすいとの特殊性を有している。このため、船社間における自主的な協
調が認められない場合には、運賃の乱高下が起こる等により、荷主に対
して良好なサービスを長期にわたって安定的に供給することが困難であ
ること。
② 事業者間の国際的な強調・連携による事業の合理化・効率化
外航海運事業は、世界単一の広大なマーケットで行われており、荷主の
ニーズに対応してグローバルにサービスを提供していくためにも、船社
間の国際的な協調・連携(アライアンス)によって事業の合理化・効率
化・安定化が進められることが必要であること。
③ 国際的な制度の整合性
独占禁止法の適用をめぐる諸外国の制度との齟齬によって船社の活動が
不当に制約されることのないよう国際的な制度の整合性を図る必要があ
ること。
(3)現行海上運送法における独占禁止法適用除外制度
同盟をはじめとする船社間の共同行為については、海上運送法第 29 条の 2 に
基づき事前届出を行うことにより独占禁止法適用除外となっている。国土交通
省は利用者の利益を確保する観点から、①利用者の利益を不当に害さないこと、
②不当に差別的でないこと、③加入及び脱退を不当に制限しないこと、④協定
の目的に照らして必要最小限であること、に関する適合性について審査してお
り、各基準に適合しない場合は、その行為の内容について変更又は禁止命令を
行うことになっている。
更に届出された個々の届出は公正取引委員会へ通知され、公正取引委員会も
関与して二重に審査する体制が整えられた結果、適正な競争が行われていると
考えられる。
(4) 最近の独禁法適用除外制度等の見直しの動き
欧州委員会で 2003 年 3 月より同盟に対する競争法適用除外制度(欧州理事会
規則 4056/86)の見直しが開始されたことなどを契機として、2004 年 5 月、学
識経験者・(社)日本荷主協会・(社)日本船主協会・協会加盟船社及び国土交
通省海事局外航課をメンバーとする独禁法適用除外制度に係る意見交換の場が
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(財)日本海運振興会(現:
(財)日本海事センター)海運問題研究会内部に「海
運経済委員会」(現:「海運経済問題委員会」)として設置された。
同委員会では、欧州、豪州の見直しに関連するペーパーをベースに、参加者
の間で幅広い視野での率直な議論を行ってきており、現在も継続的に開催され
ているところである。
一方、公正取引委員会も、欧州委員会が外航海運分野の適用除外制度廃止の
検討を開始したことを受け、2005 年 1 月から外航海運の競争実態等に関する検
討を開始し、関係者へのヒアリング等の結果を踏まえ、2006 年 3 月より常設の
「政府規制等と競争政策に関する研究会」*2(以下「規制研」とする。)で、外
航海運分野に関する検討を開始した。
*2「政府規制等と競争政策に関する研究会」
我が国における社会的・経済的情勢の変化を踏まえ,公的規制の見直し及び関連分
野における競争確保・促進政策について検討を行うことを目的として,学識経験者
及び有識者をもって構成されている公正取引委員会経済取引局長の私的研究会。
1988 年に発足。
規制研は、2006 年 11 月末までに荷主協会・船主協会それぞれからの意見聴
取を含む計5回の会合を行った一方、公正取引委員会は同年 6 月には規制研の
報告書「外航海運の競争実態と競争政策上の問題点について(案)」を公表し、
「外航海運に関する独禁法適用除外に関する意見募集」
(パブリックコメント募
集)(2006 年 6 月 17 日~9 月 15 日)を行った。同年 12 月 6 日、「外航海運に
関する独禁法適用除外制度は一定の猶予期間を設けた上で廃止することが適当
である。」との報告書を公表、公正取引委員会へ提言した。
これを受け、公正取引委員会は同報告書及び提出された意見書を踏まえ、外
航海運に関する独占禁止法適用除外制度のあり方について検討したとして、
「平
成 11 年の見直しの際の適用除外制度が維持された理由である①海運同盟は運賃
安定効果があり、荷主にとっても望ましい意見があること、②米国、EU等と
の国際的な制度の調和を図ることが必要であること、については、
① 海運同盟が設定している共通運賃(タリフ)は形骸化していること、
運賃以外のサーチャージに関する船社間協定や協調的な運賃引上げ
(運賃修復)には実効性があるが、船社の実コスト以上に請求してい
る可能性があり、また、算出根拠が不明確であること、一方的に通告
されるとの荷主の意見があること等から、荷主(利用者)の利益を害
しているおそれがあること
② 日米欧の適用除外の範囲は異なっており、また欧州連合では 2008 年
10 月から適用除外制度を廃止することを決定したこと
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から、これらの理由は、今日では成立しない」としつつ、外航海運に関する適
用除外制度は、海上運送法に規定されていることから、同制度の要否について
は公正取引委員会のみの判断によるのではなく、国土交通省での検討と判断が
必要である、との見解を公表した。
これに対し、国土交通省は同日、
「現行の本適用除外制度は、適正に機能して
いると認識している。しかしながら、今般、公正取引委員会の見解が公表され
たことを踏まえて、当省は、今後、所管省として、本適用除外制度のあり方に
ついて十分な検討を行うこととする」とのコメントを公表した。
その後、2007 年 10 月~12 月に開催された交通政策審議会海事分科会国際海
上輸送部会において検討が進められ、12 月に公表された答申の中で「独占禁止
法の適用除外制度の今後のあり方については、安定的な国際海上輸送の確保の
観点から、関係者の意見等を踏まえつつ、さらに専門的な検討を行う必要があ
る。今後の検討の視点としては、以下が考えられる。①各国の動きと我が国に
与える影響、②市場の変化、船社の巨大化の進展など、③船社間協定(独禁法
の適用除外)は安定的なサービス提供のために機能しているか、④我が国経済
に与える影響」とされたところである。
(5) 現行制度で実施された改善
(社)日本荷主協会より提出された規制研報告書に対する意見書の中で、次
のような改善要望がなされている。
① 国土交通省は、届出協定事項を開示し、必要に応じ利用者の意見を聞く
ことを担保すること。
② 荷主拘束手段と罰則規定を伴う二重運賃制度の廃止を可及的速やかに行
うこと。またその際の運賃率表は従来の契約運賃率を超えないこと。
③ 同盟・協定等において運賃や料金を値上げあるいは新規課徴する際には
都度荷主団体と協議することを確約すること。
④ サーチャージ新設・値上げに際しては、その内容を十分に説明すること。
上記、4つの改善要望については、現行制度の運用の中で対応可能な事項で
あることから、国土交通省及び船社において以下のような対応が行われた。
①については、同盟・協定より国土交通省に届出られた事項を、
(社)日本荷
主協会へ一覧表の形式で送付することとされた。
②については、かなり形骸化されていたが、2006 年当初、11の同盟で当該
制度が残っていた。荷主からの改善要求に応え、2006 年 9 月 1 日までに日本
のすべての同盟の二重運賃制度が廃止された。
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③及び④については、邦船社が責任をもって行う旨確約され、対応されてい
る。
以上、荷主から出された船社間協定に係る要望については、現行の制度の下
で改善されたところである。
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2.各国・地域の海運に係る競争法適用除外制度の状況
外航海運の船社間協定に係る状況として、コンテナ貨物部門における我が国
の主要貿易相手国である欧米およびアジア主要国の以下の項目について、文献
及びアンケートにより調査を行った。
① 競争法の整備状況
包括的な競争法もしくは分野別競争関連法(包括的な競争法ではないが、競
争政策に関連する法律等)の整備状況。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
船社間協定が競争法適用除外対象となっているか。法的に規定されている場
合は、その法的根拠。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた関係当局等の動きの有無。
(1) EU
① 競争法の整備状況
1958 年に発効した欧州共同体(EC)条約(ローマ条約)には、第 81 条 に
おいて競争制限的協定・協調的行為の規制、第 82 条において市場支配的地位の
濫用行為の規制が定められている。これら EC 条約の規定は、全加盟国におい
て事業者に対し直接適用されており、経済のグローバル化が進んだ今日、EU 競
争法として EU 域内のみならず世界規模の経済活動にも影響を与えている。
EU 競争法の執行機関は欧州委員会であり、実務担当当局として競争総局がお
かれている。欧州委員会は、競争法に関する規則等の立案及び理事会が授権し
た範囲内での制定を行うとともに、EC 条約第 81 条・第 82 条違反を調査し、違
反行為に対する排除措置に関する決定を行うほか、合併等企業結合の規制等を
行う権限を有する。また欧州委員会は、競争阻害行為に対して禁止、制裁金の
賦課等の措置を採ることができる。欧州委員会と加盟国の権限や罰則額等、EC
条約 81 条及び 82 条に関する施行手続きは、欧州理事会規則 No.1/2003 に定め
られている。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
2008 年 3 月現在、1986 年に運輸閣僚理事会において採択され、翌 1987 年に
発効した、海上運送に対する EC 条約 81 条及び 82 条の適用に関する欧州理事
会規則 No.4056/86(以下「規則 4056/86」とする。)により、同盟への EU 競争
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法包括適用除外が認められている。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
欧州委員会は 2003 年 3 月に規則 4056/86 見直しに関するコンサルテーション
ペーパーを公表し、海運への競争法適用除外制度の見直しを開始した。その後、
同委員会は、2004 年 6 月に規則 4056/86 の廃止提案を盛り込んだディスカッシ
ョンペーパーを公表し、その後の検討を経て、2005 年 12 月には規則改廃の権
限を持つ欧州連合閣僚理事会に対し、規則 4056/86 の廃止を提案した。この提
案は閣僚理事会での採択に先立って欧州議会に諮問され、2006 年 7 月の議会本
会議で、規則廃止後に示されるガイドラインが機能すること等の条件付で廃止
に賛成とする決議が行われた。その後同年 9 月 25 日、閣僚理事会において 2 年
間の猶予期間を以って規則 4056/86 を廃止することが承認され、2008 年 10 月
以降、日本/欧州間をはじめとする欧州発着の全ての航路において、同盟の活
動が実質的に禁止されることとなった。欧州委員会は 2008 年 9 月までに、競争
法を外航海運業に適用する際のガイドラインを発表するとしている。
EU において同盟に対する競争法包括適用除外制度廃止が決定された背景に
は、1986 年の規則制定から 15 年以上が経過し、コンテナ化の進展や米国海事
法の影響により外航定期船市場が大きく変化し、同盟も変質を遂げたことや、
2002 年に OECD 海運委員会(MTC)事務局が同盟に対する競争法適用除外制度
は原則廃止すべきと提言する報告書を公表したことが挙げられる。また EU 固
有の背景として、以下の事情も当該決定に影響しているものと考察される。
(a) リスボン戦略と欧州船社による寡占化の進展
2000 年 3 月にポルトガルの首都リスボンにおいて特別欧州理事会が開催され、
10 年間で「持続的経済成長と、量・質両面でのより高い雇用及び、より確固た
る社会的結束が可能な、世界で最も競争力のあるダイナミックな知識型経済」
を達成することを目標に定めた経済・社会改革に向けた政策目標、いわゆるリ
スボン戦略が採択された。リスボン戦略は上記のように EU 企業の競争力強化
を意図するものであり、ガス、電力、郵便、運輸の各分野で自由化のスピード
アップ、および「完成され完全に機能する域内市場を目指した経済改革」の一
環として競争促進を掲げている。規則 4056/86 見直しはこのリスボン戦略をも
背景として行われたものである。
一方、世界の定期船社大手 5 社中 4 社が EU 船社で占められており、規則
4056/86 廃止によって業界再編が加速することにより、欧州大手船社の市場支配
力強化に繋がることが予想される。実際に、2004 年に欧州委員会が規則 4056/86
は廃止すべきとの意見を明らかにして以降、デンマークの Maersk Sealand(現
- 15 -
Maersk)
による P&O Nedlloyd の買収、ドイツの Hapag-Lloyd による CP Ships
買収など、業界再編に向けた動きが見られる。(➡p.46~47 図 4 参照)
また、ごく最近(2008 年 3 月)、燃料油価格をはじめとするコストの上昇、荷
動きの鈍化などを背景に、世界シェア 1 位の Maersk、2 位の MSC(スイス)、
3 位の CMA-CGM(フランス)の「上位 3 位連合」が、2008 年 4 月以降、北米
航路で協調配船を開始することを発表し、関係者に衝撃を与えた。我が国の荷
主からは、巨大定期船社の上位が欧州船社となっていること、その欧州船社が
共同配船を開始したことに鑑み、利用者として監視の効かない独占・寡占の影
響を危惧する声も上げられている。
(b) 単一通貨ユーロ導入・欧州通貨同盟発足と競争当局の権限強化
単一通貨ユーロ導入(2001 年 1 月)の狙いとして、諸市場を効果的に統合す
ることにより、関連市場拡大、競争促進的効果が得られることが挙げられる。
一方で競争が増大することをおそれ、企業が競争相手の市場を排除するための
垂直的ないし水平的協定へと導かれることが懸念されるとともに、欧州通貨同
盟をきっかけとする合併や買収の増加は一定の産業において寡占を生じさせ、
そのような産業に属する企業は暗黙の共謀やカルテルの形成を行うことによっ
て競争圧力を減少させる可能性が懸念された。ユーロ導入は EU 経済活性化の
ための最重要政策であり、ユーロがその利点を十分発揮できる環境を整備する
ことが肝要であるとの認識の下、競争当局の権限強化が図られた。また、外航
海運に対する競争法適用除外制度に関しては、競争当局が所管、運用する体制
がとられている。
(c) 競争法適用除外制度(規則 4056/86)の不備
EU の競争法適用除外制度には、内容面、運用面の不備により、解釈を巡って
訴訟が頻発するなど、関係者の間で長年に渡り混乱が生じていた。具体的に以
下の問題が挙げられ、当該制度の見直しの必要性が生じたものと考えられる。
● 内容面での不備
・ 欧州委員会決定、欧州裁判所判例による実質的修正
規則 4056/86 の条文からでは明らかでない事項や、同規則制定時に認めら
れていた事項について、2002 年の大西洋航路協定(Trans-Atlantic Agreement、
TAA)に関する欧州委員会の決定や内陸運賃設定等に関する欧州第一審裁判
所の判決によって、同盟の行動は制限を受けることになり、包括適用除外の
内容は実質的に修正されたものと考えることができる。具体的には、以下の
事項が挙げられる。
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-
-
1986 年制定時には規則 4056/86 第 3 条で同盟の目的として「輸送船腹量
の規制」を認めているものの、2002 年の欧州委員会の決定により、船腹
調整は「短期的な季節変動に関するもの、かつ、タリフ運賃の上昇をもた
らさないものに限る」と条件を付しており、今日では、同盟は長期的な輸
送船腹量の調整は行っていない。
1998 年の米国改正海事法(OSRA)以降、非公開サービスコントラクトが
米国発着航路以外の航路にも広く普及・定着したものの、サービスコント
ラクトに関しては規則 4056/86 における記述はない。しかしながら、2002
年の欧州委員会の決定では、同盟の加盟船社に対する非公開サービスコン
トラクト締結制限を禁止しており、今日では同決定に従った活動が行われ
ている。
同盟によるマルチモーダル輸送の一環としての内陸輸送運賃の共同設定
権については、欧州理事会規則 4056/86 には明確な記載がなされていない。
このため EU では、内陸輸送への適用に関する解釈を巡る問題が発生した。
同盟による内陸運賃共同設定権については、欧州委員会と欧州同盟(Far
Eastern Freight Conference、FEFC)、大西洋航路協定との間に係争が生
じた。2002 年 2 月、欧州第一審裁判所が、当該問題は競争法違反に当た
るが、欧州委員会の罰金課徴の決定は無効とする判決を示し、紛争はおお
むね決着した。この裁決に基づき、欧州では同盟の内陸運賃の共同設定に
対しては、包括適用除外は認められていない。
・ 不定期船に関する実体法と手続法の適用齟齬
不定期船部門に関しては、規則 4056/86 と同様の規則が存在しないため、
EC 条約第 81・82 条が直接適用されることとなる。しかしながら、第 81・82
条の手続法である欧州理事会規則 No.1/2003 は、第 32 条において外航不定期
船サービスには同規則を適用しないと規定されていた。すなわち、不定期船
部門に関しては、EU 当局による調査権限や罰金課徴金等を定める手続法が存
在しないまま、実体法である EC 条約第 81・82 条が適用されることとなり、
実体法と手続法の齟齬が生じていた。2007 年 11 月現在では、2006 年 10 月
に上記の No.1/2003 第 32 条が廃止されたことにより、このような状態は解消
されている。
● 運用面での不備
・ 荷主との協議不在
日本では、日本荷主協会、国土交通省、同盟・協議協定との間に、定期的
に対話の場が設けられている。EU では規則 4056/86 第 5 条に関係荷主との
協議の場を設けることが規定されているが、日本のような対話慣行は定着し
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ていない。
(d) 欧州荷主協会(ESC)と同盟間の長年の対立関係及び ESC の同盟制度廃止
運動
前述のように EU では、同盟・協定と荷主協会の間の協議が根付いておらず、
対立関係が続いてきた。EU における同盟・協定及び荷主協会との対立をあらわ
す事例としては、以下の事例が挙げられる。
- 1985 年のユーロコードが競争法包括適用除外対象とされていたことに対
する英国荷主協会及び欧州荷主協会の異議申し立て
- 1989 年の欧州同盟の内陸運賃共同設定行為が競争法違反に当たるとして、
ドイツ荷主協会が欧州委員会に提訴
- 1993 年の大西洋航路協定(Trans-Atlantic Agreement、TAA)承認に対
する欧州荷主協会等荷主筋からの反対表明
また、欧州荷主協会は長きにわたって規則 4056/86 廃止運動を進めてきてお
り、こうした運動が EU における同盟に対する競争法適用除外制度廃止に大き
く影響したとみられている。
(e) 「包括適用除外制度」の採用による事前調整枠組みの欠如
EU の競争法適用除外制度は、各船社間協定に当局への届出を義務付ける日
米(米国については後述)の制度とは異なる、「包括適用除外制度」であり、
規則 4056/86 の要件を満たす船社間協定(=共通運賃タリフを有する同盟)で
あれば、当局への届出や審査を経ることなく、自動的に競争法からの適用除外
が認められることとなる。このような制度の下では、当局は個別同盟の協定内
容を把握できず、同盟の行動は船社の自主規制に委ねられることになる。
このような制度は、同盟に対する政府不介入、自主規制の原則を明確にし
た英国の伝統的な考え方(1909 年王立海運同盟調査委員会報告書*3。同盟に
よる不利益を政府規制で排除するとの米国の考え方*4とは対照的なもの)に由
来するものと考えられる。この制度下では、協定の事前届出とその審査に係る
船社及び当局の負担はないものの、権利濫用のおそれがある同盟の結成や行為
に対し、当局が予め警告を発する方途はなく、行政による是正措置(罰金課徴
等の制裁)は、全て事後的なものに限定される。この点で、EUの制度は、協
定やその行為の発効前の公式、非公式な調整が可能である日米の制度と比較し
て、柔軟性に欠けていたといえる。
但し、2004 年に EU 競争法手続法が改正されるまでは、EU 競争法一般に
おいて、適用除外を受けるためには事前届出を義務付ける制度が存在し、手続
法からの適用除外が認められていた同盟においても任意で協定内容を欧州委
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員会に届け出て、確認を求めることが可能であった。しかしながら、欧州委員
会競争総局を膨大な届出処理業務から解放し、マンパワーをカルテル等重大な
事案に集中させることを主目的とした 2004 年 5 月の欧州理事会規則 1/2003
施行により事前届出制度は廃止され、あらゆる産業分野において個別協定が
EU 競争法に抵触するか否かの判断は全面的に事業者側の自己責任に委ねら
れることとなった。
ここで想起すべきは、欧州委員会による規則 4056/86 の見直しが、2004 年
5 月を挟む 2003 年 3 月から 2005 年 12 月の間に実施された点である。規則見
直し中の 2004 年 5 月に、EU 競争法から事前届出という仕組みが完全に失わ
れたため、規則見直し後の新制度に関し、日米同様の事前届出・審査制を採用
するという選択肢は消え、包括適用除外制度を「維持する」か、若しくは、
「廃
止する」かという、日米の視点からすれば radical な二者択一をせざるを得な
くなったとも言える。
しかしながら、以上は事前審査をEU競争法に基づき欧州委員会競争総局が
行う場合であって、日本のように運輸(海事)当局にこれを実施する権限が与
えられていれば、EC条約第 81 条や 82 条、規則 1/2003 などの「競争法」と
は別個の法令に基づき事前審査制の導入が可能であったかも知れない。規則
4056/86 はその法的基盤をEC条約第 80 条 2 項(輸送)と第 83 条(競争)に
置くと明記しており、第 80 条 2 項を足がかりに運輸当局(欧州委員会運輸・
エネルギー総局)がより強力なイニシアチブを発揮すれば、同当局による日米
同様の事前審査制度の採用も選択肢に残った可能性もあると考えられる。規則
4056/86 が制定された 1986 年当時は、競争当局と比較して運輸当局の力が強
く、同規則は運輸閣僚理事会の主導で制定されたものの、その後のEU内外で
の競争政策の強化等を反映し、2006 年 2 月には欧州理事会*5は「規則 4056/86
の法的基盤は、今日ではEC条約 83 条(競争)のみであり、第 80 条 2 項は
(4056/86 の法的基盤としては)機能していない」との判断を示している。つ
まり、EUにおいて、同盟の競争法上の取り扱いについては、運輸当局(欧州
委員会運輸・エネルギー総局)にかつての権限はなく、競争当局(欧州委員会
競争総局)が一元化された権限を持つとの判断である。このような判断がなさ
れた以上、やはり日米同様の事前審査制の導入は不可能、ということになる。
*3 英国および植民地における同盟に対する批判を受け、政府の命を受けた王立海運
同盟調査委員会(Royal Commission on Shipping Rings)が 1909 年に取りまとめ
た報告書。報告書の多数意見によると、同盟の独占は、盟外船と新規参入船社から
受ける競争、同盟船社内部の競争及び荷主のとる共同行為によって制限されている
とし、特に最後の点を強調して、荷主団体と同盟が団体交渉を行うことを勧告した。
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また、同盟にとって運賃延べ戻し制の効用は大きいが、濫用に陥らないようチェッ
クされるべきであるとした。
*4 1912 年、米国議会下院海運漁業委員会のアレクサンダー委員長の対案による議会
決議に基づき行われた調査の報告書(「アレクサンダー報告」による勧告の主要部
分は以下の通り。
・船社は運賃の規制、他船社と締結する契約の承認について ICC(州際通商委
員会。現在の FMC(連邦海事委員会))の監督を受ける。
・同盟協定等は ICC に届け出るものとし、ICC はそれが差別的であり、不公正
であり、または米国の通商に有害であると判断した場合は取消しを命ずるこ
とができる。
*5 2006 年 2 月 23 日に開催された競争閣僚理事会ワーキンググループにおける理
事会法務担当の検討結果報告
(2) 米国
① 競争法の整備状況
米国の競争法は、1890 年に制定されたシャーマン法、1914 年に制定された
クレイトン法、連邦取引委員会法及びこれらの修正法から構成されている。シ
ャーマン法は、取引を制限するカルテル・独占行為を禁止し、その違反に対す
る差止め、刑事罰などを規定している。クレイトン法は、シャーマン法違反の
予防的規制を目的とし、競争を阻害する価格差別、不当な排他的条件付き取引
の禁止、合併等企業結合の規制、3 倍額損害賠償制度などについて規定している。
連邦取引委員会法は、不当な競争方法を禁止し、連邦取引委員会の権限、手続
きなどを規定している。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
米国では、1999 年 5 月に施行された 1998 年改正海事法(正確には 1998 年
外航海運改革法によって修正された 1984 年海事法、Ocean Shipping Reform
Act)によって、定期船社間協定の競争法適用除外制度が確認されている。1998
年改正海事法では、船社と荷主間で個別にサービスコントラクトを締結でき、
運賃等の主要部分は非公開とし、同盟は個別のサービスコントラクトを制限し
てはならないとしている。
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③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
2007 年 4 月、3 年間にわたり反トラスト法全体の見直し作業を行っていた独
禁改革委員会(Antitrust Modernization Commission、AMC)が、大統領及び
議会に最終報告書を提出した。同報告書では、基本的に独禁法適用免除を認め
る法律は支持すべきではなく、適用免除を認める例外的な場合も、厳しく制限
を設け、一定の期限がきたら適用免除を廃止するという Sunset Clause をつけ
るべきだとしている。海運については反トラスト法の適用除外とする理由はな
いとした。
ただし、2008 年 3 月現在、米国議会及び米国政府はいずれも、AMC の報告
書を受けた船社間協定の反トラスト法適用除外制度見直しに着手する動きは見
せておらず、米国連邦海事委員会(Federal Maritime Commission、
FMC)も 1998
年改正海事法による現体制を維持するとの基本姿勢を変更していない。
(3) オーストラリア
① 競争法の整備状況
オーストラリアでは、1974 年に取引慣行法(Trade Practices Act 1974、TPA)
が施行された。同法は、競争法規と消費者保護法規の 2 つから成っており、競
争法規に関する禁止規定は第 4 章で定められている。現在、同法の執行機関は、
1995 年 11 月に 1974 年設置の取引慣行委員会(Trade Practices Commission、
TPC)と 1983 年設置の価格監視委員会(Prices Surveillance Authority、 PSA)
が統合されたオーストラリア競争・消費者委員会(Australian Competition and
Consumer Commission、ACCC)であるが、競争政策及び価格監視策といった
政策的な面については財務省が担当している。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
外航定期船社間協定に対する取引慣行法適用除外は、同法第 10 章(PartⅩ)
で認められている。1999 年 6 月には、Part X に対する見直しの必要性が生産性
委員会(Productivity Commission)において諮問された結果、現行法を存続す
るとの答申を発表した。その答申を受けて、オーストラリア政府は 1999 年 12
月に従来の輸出航路にのみ適用していた取引慣行法を今後は輸入航路にも適用
すること、THC(Terminal Handling Charge)の運賃の外出しとするか否かと
いう問題については、法律の問題としては扱わずに同盟・荷主間の協議とする
こと、そして同盟による内陸運賃設定は認めないなどの追加修正を行った上で、
適用除外制度を存続することを決定した。
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③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
1999 年の PartⅩ見直しの際、次回見直しは 2005 年に行う旨が定められてい
たものの、2004 年 6 月、オーストラリア政府は関係者の要望などを受け、予定
を前倒して見直しを行うことを決定、作業を生産性委員会に諮問した。同委員
会は検討の結果、2005 年 2 月、Part X の廃止が最も望ましいとしつつ、その他
の策として対外秘個別サービスコントラクトの保護等 PartⅩの改正を併記して
提案する最終報告書を財務大臣に答申した。
オーストラリア政府はこれを受け、EU などの動向を睨みつつ、Part X の扱
いを巡って 1 年以上にわたって検討を継続した結果、2006 年 8 月に Part X は
維持するものの、オーストラリア外航海運の更なる競争的改革を進めるために、
改正を行うことを骨子とした方針が公表された。具体的な改正方針は以下の4
点である。
- 適用除外の目的の明確化
- 協議協定の包括適用除外制度からの除外
- 対外秘個別サービスコントラクトの保護策の導入
- 手続き条項違反に対する罰則の導入
これを受けた具体的な Part X 改正法案については、2008 年 3 月現在、明ら
かになっていない。
(4) ニュージーランド
① 競争法の整備状況
ニュージーランドでは、1986 年商業法(Commerce Act 1986)が制定されて
おり、同法は 1990 年、1994 年、1996 年、2001 年、2003 年、2004 年及び 2005
年に改正が行われている。また、消費者保護を目的とした規定として、1986 年
公正取引法(Fair Trade Act 1986)が運用されている。
商業法では、第 27 条第 1 項において、「いかなる者も、市場における競争を
実質的に制限する目的を有する、またはそのような効果を有し、もしくは有し
得るような内容を含む契約、協定を実施または合意してはならない」と規定し
ており、競争を実質的に制限する行為を原則的に禁止している。
また、第 29 条において、「競争関係にある 1 以上の者を含む特定の者に対し
て、2 以上の者が共同して、商品または役務の供給または取得を妨害、抑制、制
限することを目的とする契約、取決め、合意であり、かつそれが競争を実質的
に減殺するものである場合、当該契約、取決め、合意の締結及び実施をしては
ならない」ことが規定されており、共同の取引拒絶を禁止している。
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② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
商業法では、形式的には制限的取引慣行に該当するような行為であっても商
務委員会に申請を行い、適用除外の認可を受けることができることが第 5 章で
規定されている。
ニュージーランドにおいて船社間協定の競争法適用除外に関する明確な根拠
法は存在しないものの、船社間協定の活動は慣行上許容されている。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
ニュージーランドにおいては、船社間協定の競争法上の取り扱いに関する特
段の動きは見られない。
(5) シンガポール
① 競争法の整備状況
シンガポールでは、2004 年 10 月に包括的な 2004 年競争法(Competition Act
2004)が成立した。それまでも、同国では電力、ガス、電話などの公共性の高
い一部の業種に関しては各事業法の下で市場取引の独占を禁止することが法で
定められていたものの、包括的な競争法は制定されていなかった。
2004 年競争法成立に伴い、2005 年 1 月に同法の基礎部分が施行され、同時
に施行官庁として競争委員会(Competition Commission of Singapore)が設置
された。実際に違反の根拠規定が盛り込まれている実体規定については、非競
争的取引の禁止規定及び支配的地位の濫用禁止規定が 2006 年 1 月から施行され、
企業合併に関する規定が 2007 年 1 月から施行された。価格協定をはじめとする
競争制限的な事業者間協定の禁止は同第 34 条に規定されている。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
シンガポール競争法では、第 41 条において、協定に対して包括適用除外を付
与する条件として、(a)生産若しくは分配の改善、または、(b)技術若しくは
経済の進歩の促進に寄与し、かつ(ⅰ)企業に目的達成のために必要不可欠で
ない共同的制限を課さず、
(ⅱ)関係する商品若しくはサービスの相当部分に対
して競争阻害可能性を与えない場合に限る、と規定している。
シンガポール競争法には成立当初、外航船社間協定の適用除外制度は盛り込
まれていなかったが、日本船主協会、シンガポール船主協会等の海運界からの
コメント提出をはじめとする働きかけの結果、2005 年、シンガポール競争委員
会は、同盟、協議協定、コンソーシアムを含む外航定期船社間協定に対して、
包括的適用除外を認める方針を発表、2006 年 4 月に規則案が公表された。同規
則案は、その後一部修正の上、2006 年 7 月に最終化され、発効した。同規則に
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より、2010 年 12 月 31 日まで 5 年間の期限付きで、船社間協定に対する同法適
用除外が認められている。
なお、2005 年 12 月に公表されたプレスリリースにおいて、シンガポール競
争委員会は以下の見解を示しており、同国の利益との観点から適用除外制度を
創設したことが明記されている。
「競争委員会は、シンガポールは国際的な海運ネットワークの拠点であり、
海運に従事する、異なる利害関係者の規制環境に配慮しなければならないと認
識している。海運の本質、国際的な開発、シンガポール市場の背景及び船社、
荷主からの利益を熟慮した結果、競争委員会は多くの諸外国のように、包括的
適用除外制度を整備し、当該地域の海運業界に確実性を与えるべきであるとの
見解を示す。」
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
シンガポールにおける船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた競争
当局の動きは見られない。
(6) インド
① 競争法の整備状況
インドの競争法は、2002 年競争法(Competition Act, 2002、2003 年に制定・
施行)である。同法はその目的として、市場の競争の確保、消費者の利益の保
護および取引の自由の確保を掲げている。反競争的行為の禁止に重点を置き、
第 3 条に反競争的協定、第 4 条に支配的地位の濫用、第 5 条、6 条に企業結合
に関して規定している。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
適用除外については 2002 年競争法第 54 条に規定され、以下の場合には、適
用除外が認められる。
- 国家の安全もしくは公共の利益のために必要と認められる場合
- 他国との条約、協定に効力を与えるために必要な場合
- インド中央政府または地方政府に代わって、公的機能を担う場合
インドでは 2008 年 3 月現在のところ、船社間協定の競争法適用除外に関する
明確な根拠法は存在しないものの、船社間協定の活動は慣行上許容されている。
インドでは、現在海上貿易慣行法(Shipping Trade Act.)を検討中であり、
2006 年 3 月にインドの海運・道路交通・高速道路省(Ministry of Shipping, Road
Transport & Highways)の海運局(Department of Shipping)から同国関係者
に草案が送付された。2006 年 1 月 24 日付の同草案によると、同案は海運の競
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争法適用除外を前提として起草されている。具体的には、運賃、運賃率を改定
したり、サーチャージを要求する際の同盟・協定と荷主側との意見調整のため
のコンサルテーションのメカニズムを整備しなければならない等との規定が盛
り込まれている。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
海上貿易慣行法の草案に同盟・協議協定の存在を前提とする条文が記載され
ている一方で、2007 年 8 月に、2002 年競争法が改正され、インド競争委員会
が改正法に基づき海運カルテル行為に重い罰金を科すことを検討している。同
委員会は、欧州/インド亜大陸同盟(India Pakistan Bangladesh Ceylon
Conference)代表に対して競争法を強化する考えを伝えたと報じられている。
但し、2007 年改正法は 2008 年 3 月現在、未施行であり、今後同改正法施行ま
でに船社間協定に対する適用除外制度が策定される余地も残されている。
(7) 中国
① 競争法の整備状況
中 国 の 競 争 法 は 、( 1 ) 反 不 正 当 競 争 法 ( The Law Countering Unfair
Competition; 1993 年 12 月施行)、
(2)価格法(The Price Law; 1998 年5月施
行)である。これら法律により、価格カルテル行為、支配的地位の濫用、ダン
ピング行為等が規制されてきた。
近年 WTO 加盟を受けて体系的な競争法整備が必要となったため、2007 年8
月 30 日に包括的競争法となる「中華人民共和国独占禁止法」が採択及び公布さ
れ、2008 年8月1日より施行されることとなった。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
2002 年 12 月 11 日付で公布され、2003 年 1 月 1 日に施行された中国国際海
運条例が、2008 年 3 月現在において、中国において国際海上輸送事業を展開す
る際の規範として用いられている。中国国際海運条例には、定期船サービスを
行う際の交通部への申請、公表運賃(船社・NVOCC のタリフ運賃)及び協議
運賃(船社が荷主や NVOCC とサービスコントラクトなどによって取り決めた
運賃)の関係省(中央政府または自治区直轄の地方自治体)の人民政府交通主
管部門への届出の義務付け、同盟・協定などが公平な競争に対し損害をもたら
す恐れがある場合等における交通部の調査権限について明記されている。すな
わち同条例は同盟・協議協定の存在を前提としているものと言える。
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③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
前述のように、中国独占禁止法は 2008 年 8 月に施行される予定であるが、こ
の新たな独禁法の下での船社間協定に対する適用除外制度の取扱いについては、
2008 年 3 月現在明文化されていない。
(8) 香港
① 競争法の整備状況
香港には、包括的な競争法は存在しないが、1997 年 12 月に COMPAG
(Competition Policy Advisory Group:競争政策諮問委員会)が設置され、競
争法の制定について検討が行われてきた。その中で、2006 年 6 月には COMPAG
の下に CPRC(Competition Policy Review Committee:競争政策検討委員会)
が設置され、分野横断的な競争法の策定と競争当局(Competition Commission)
の設置などを推奨する報告書が公表されている。報告書を受けた立法作業に向
けた動きについては、現時点で特段明らかにされていない。
分野別競争関連法に関しては、通信分野(2003 年に改正された通信法
(Telecommunications Ordinance))及び放送分野(2000 年制定の放送法
(broadcasting Ordinance))の 2 分野に関してのみ、競争制限的協定、支配的地
位の濫用、合併に関する実体規定が整備されており、各規制当局による調査権
限や違反に対する措置が設けられている。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
香港においては、包括的競争法が未整備のため、適用除外制度も存在せず、
船社間協定の活動が許容されている。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
香港においては、船社間協定の競争法上の取り扱いに関する特段の動きは見
られない。
(9) 台湾
① 競争法の整備状況
台湾の競争法は、公平交易法(Fair Trade Law of 2002)であり、「取引にお
ける秩序の維持、消費者利益の保護、公正な競争の確保並びに国民経済の安定
及び繁栄の促進を図ること」
(第1条)を目的とし、1992 年 2 月に施行された。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
競争法適用除外は公平交易法第 14 条に規定されており、カルテル行為は原則
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禁止であるが、次の各号のいずれかにに該当する場合であって、経済全体と公
共利益に有益であり、かつ公平交易委員会の許可を得たときは、この限りでは
ないとされている。
- コスト引下げ、品質改良又は効率増進のために商品の規格と形式を統一す
る場合
- 技術の向上、品質改善、コスト引下げ又は効率増進のために商品又は市場
を共同で研究開発する場合
- 事業者の合理的経営を促進するため、個別に専門分野の開発を行う場合
- 輸出の確保又は促進のため、専ら海外市場の競争について約束した場合
- 貿易の効率を強化するため、海外商品の輸入について共同行為をとる場合
- 不況期に商品の市場価格が生産コストの平均を下回り、当該業種が事業者
として存続が難しくなったか又は生産過剰なため、計画的に需要に適応さ
せる目的で生産販売量、設備又は価格の制限など共同行為を行う場合
-
中小企業の経営効率を増進するか、又は競争力を強化するために共同行為
を行う場合
船社間協定の競争法適用除外については、航業法第 29 条及び第 30 条で規定
されており、法的に認められている。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
台湾では、荷主協会が適用除外制度見直しに向け、競争当局に働きかけを行
っているものの、2008 年 3 月現在、競争当局及び海運当局が同制度見直しに着
手する動きはない。
(10) 韓国
① 競争法の整備状況
韓国では 1980 年 12 月に制定された、独占規制及び公正取引に関する法律
(Monopoly Regulation and Fair Trade Act. 略称「公正取引法」
)が包括的競
争法として運用されている。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
韓国では公正取引法第 12 章 58 項で、他の法律及び規則で定められた場合は、
競争法適用が除外されると規定されている。外航海運の船社間協定に関しては、
海運法(Maritime Transportation Act.)第 3 章 29 項に、公正取引法適用除外
及び船社のこれに関連する活動についての海洋水産部(Ministry of Maritime
Affaire and Fisheries)への届出義務が明記されている。
- 27 -
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
2008 年 3 月現在、韓国における船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向
けた競争当局の動きは見られない。
(11) タイ
① 競争法の整備状況
タイでは 1999 年 4 月に 1999 年取引競争法(Trade Competition Act 1999)
として施行された。これにより、商務大臣を委員長とした取引競争委員会が執
行機関として設けられた。同法は、企業間の公正な競争を促すことにより消費
者の利益を図ることを目的としたものであり、一定以上のマーケットシェアを
持つことを規制することと、物品及びサービス価格等の共同設定を禁止するこ
となどが骨子とされている。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
タイにおいては船社間協定の競争法適用除外に関する明確な根拠法は存在し
ないものの、船社間協定の活動は慣行上許容されている。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
タイにおいては、船社間協定の競争法上の取り扱いに関する特段の動きは見
られない。
(12) インドネシア
① 競争法の整備状況
インドネシアの競争法は、独占的行為及び不公正な事業競争の禁止に関する
インドネシア共和国法 1999 年第 5 号(Law of the Republic of Indonesia
Number 5 of the Year 1999 Concerning the Prohibition of Monopolistic
Practices and Unfair Business Competition、以下、競争法)であり、1999 年
3月に制定・公布され、1 年半の施行準備期間の後、2000 年 9 月から施行され
た。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
競争法の適用除外については、競争法第 50 条に規定され、以下に該当する場
合は適用が除外される。
- 他の法律の規定を遵守するための協定及び行為
-
知的財産権(フランチャイズ契約も含む。)に係る協定
競争を制限/阻害しない商品又はサービスの標準技術化
- 28 -
- 再販売価格維持を条件としない代理店契約
- 福祉増進を目的とする共同研究協定
- インドネシア政府が締結した国際協定
- 国内市場の需要又は供給を阻害しない輸出に係る契約及び行為
- 小規模事業に分類される分野の事業者
- 組合員に対する便宜の供与のみを目的とする協同組合の活動
船社間協定に関しては、インドネシア競争法において明文上での適用除外の
対象(競争法第 50 条)には含まれず、THC の届出(2005 年運輸大臣通達による
届出制度あり)以外の船社間協定の活動が認められるか否かに関しては明確で
はないものの、これまでのところ、協定の活動自体を違法とされた事例はない。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
インドネシアにおいては、船社間協定の競争法上の取り扱いに関する特段の
動きは見られない。
(13) ベトナム
① 競争法の整備状況
ベトナムでは、2005 年に競争法(Law on Competition)が制定された。これ
は、2003 年に商業省内に設置された競争管理委員会で起草作業を行ってきたも
のが、2004 年 11 月に国会で採択され、2005 年 7 月から施行されたものである。
同 法 の 執 行 機 関 は 、 商 業 省 下 に 置 か れ て い る 競 争 管 理 庁 ( Competition
Administration Department)及び競争評議会(Competition Council)である。
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
ベトナム競争法は、第 25 条において競争法適用除外について規定されており、
第 10 条で規定されている基準を満たす競争制限的協定及び第 19 条で規定され
ている経済集中については、商業大臣または首相が許可する場合があることに
なっている。
ベトナム競争法におけるは船社間協定の競争法適用除外に関する明確な根拠
法は存在しないものの、船社間協定の活動は慣行上許容されている。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
ベトナムにおいては、船社間協定の競争法上の取り扱いに関する特段の動き
は見られない。
- 29 -
(14) マレーシア
① 競争法の整備状況
マレーシアでは、現在、包括的な競争法は制定されていないが、各産業が関
連する法律や規制で競争に関する下記の規定があり、関係省庁が競争促進と公
正取引の指導及び監督することにより、不公正な取引方法の禁止及び消費者保
護が行われている。よって、競争法を執行する機関は存在しないが、1993 年よ
り国内取引消費者問題省計画開発局において競争法導入の検討が行われており、
取引慣行法の案が作成されている。
-
-
産業調整法
価格統制法(Price Control Act 1946)
供給規正法(Control of Supplies Act 1961)
1972 年計量法
取引表示法(Trade Description Act 1972)
石油開発法(Petroleum Development Act 1974)
1976 年商標法
食品法(Food Act 1983)
直接販売法(Direct Sales Act 1993)
1999 年消費者保護法(Consumer Protection Act 1999)
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
マレーシアにおける船社間協定の取り扱いについては明確ではないが、慣行
上、協定の活動が許容されている。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
マレーシアにおいては、船社間協定の競争法上の取り扱いに関する特段の動
きは見られない。
(15) フィリピン
① 競争法の整備状況
フィリピンでは、包括的な競争法及びそれを執行するための機関は存在して
いない。そのため、各産業や部門を管轄する省庁や監督機関に対応が任されて
おり、競争に係る法としては、改正刑法第 186 条(Article 186 of the Revised
Penal Code)、価格法(Price Act)、消費者法(Consumer Act)などが存在する。
このうち、カルテルの禁止については、価格法で定められている。
周辺各国の状況や、市場自由化及び競争力確保の必要性などの理由から、競
争法整備の必要性は高まりつつあるため、2004 年には上下院において、包括的
競争法案(The Philippine Anti-Trust Act 及び The Philippine Competition
Act)がそれぞれ提出され、審議されている。
- 30 -
② 船社間協定の競争法適用除外制度の現状
フィリピンでは、外航・内航ともに船社間協定の競争法適用除外制度が法的
に整備されていないが、慣行上許容されている。
③ 船社間協定の競争法適用除外制度見直しに向けた動向
フィリピンにおいては、船社間協定の競争法上の取り扱いに関する特段の動
きは見られない。
以上の各国・地域の状況(2008 年 3 月現在)を整理したものは別表のとおり。
- 31 -
別表
国名
包括的競争法
分野別競争関連法
カルテルに関する規 船社間協定に対する適用除外制
定
度の有無
欧州
EC 条約 81 条、82 条
(1958 年制定)
---
有
有
米国
反トラスト法
(シャーマン法(1890 年制定)、クレイトン法
(1914 年制定)、連邦取引委員会法(1914
年制定)
---
有
有
豪州
1974 年取引慣行法(Trade Practices Act)
---
有
有
ニュージーランド 1986 年商業法(Commerce Act 1986)
1986 年公正取引法(Fair Trade Act 1986)
2004 年競争法
非競争的取引の禁止規定及び支配的地
シンガポール
位の乱用禁止規定が 2006 年 1 月施行、企
業合併に関する規定が 2007 年 1 月施行
---
有
無
(慣行上は許容)
---
有
2002 年競争法(Competition Act、 2002;
2003 年 1 月制定)
---
有
インド
中国
香港
台湾
韓国
タイ
インドネシア
ベトナム
マレーシア
フィリピン
(2008 年 3 月現在)
外航船社間協定の競争法包括的適用除外をめぐる各国・地域の状況総括表
適用除外制度の根拠法
取引慣行法第 10 章
国際貨物海上輸送
(Trade Practices Act Part X)
-
有
Block Exemption for Liner Shipping
2010 年 12 月 31 日まで期限付き Agreements Order 2006
で適用除外
無
(慣行上は許容)
2007 年8月 30 日に「中華人民共和国独占 反 不 正 当 競 争 法 ( The Law Countering
有
有
禁止法」が採択及び公布、2008 年 8 月施 Unfair Competition; 1993 年 12 月施行)
(価格法で規定)
行予定
価格法(The Price Law; 1998 年 5 月施行)
通信法(Telecommunications Ordinance;
有
無
立法化に向けた検討中
2003 年改正)、放送法(Broadcasting
(通信、放送分野の
(活動を許容)
Ordinance; 2000 年改正)
み)
公平交易法(Fair Trade Law of 2002)
--有
有
独占規制及び公正取引に関する法律
--有
有
(1980 年 12 月制定)
1999 年 取 引 競 争 法 ( Trade Competition
無
--有
Act 1999)
(慣行上は許容)
独占的行為及び不公正な事業競争の禁止
無
に関するインドネシア共和国法 1999 年第 5
(但し、共通 THC は 2005 年運輸
号 ( Law of the Republic of Indonesia
--有
大臣通達に届出規定あり。また、
Number 5 of the Year 1999 Concerning the
これまでのところ協定の活動自体
Prohibition of Monopolistic Practices and
が違法とされた事例はない。)
Unfair Business Competition
無
競争法(Law on Competition; 2005 年制定)
--有
(慣行上は許容)
産業調整法、価格統制法(Price Control
Act 1946 ) 、 供 給 規 正 法 ( Control of
Supplies Act 1961)、1972 年計量法、取引
表示法(Trade Description Act 1972)、石
不明
油 開 発 法 ( Petroleum Development Act
検討中
有
(慣行上は許容)
1974)、1976 年商標法、食品法(Food Act
1983 ) 、 直 接 販 売 法 ( Direct Sales Act
1993)、1999 年消費者保護法(Consumer
Protection Act 1999)
改正刑法第 186 条(Article 186 of the
Revised Penal Code; 1957 年制定)、価格
有
無
検討中
法(Price Act; 1992 年制定)、消費者法 (価格法にて規定)
(慣行上許容)
(Consumer Act; 1992 年制定)
- 32 -
適用除外制度見直しに関連する動き
海上運送に対する EC 条約 81 条及
び 82 条の適用に関する理事会規則 2008 年廃止決定
No.4056/86
2007 年 4 月に独禁改革委員会(AMC)が大統領及び議会に
最終報告書を提出。同報告書の中で、海運は反トラスト法適
用除外の対象にする必要はないとしている。
1998 年米国改正海事法
(Ocean Shipping Reform Act 1998) ただし、米国議会・米国政府は AMC 報告書を受けた見直し
に着手しておらず、米国連邦海事委員会(FMC)は 1998 年米
国改正海事法に基づく現体制を維持する姿勢を変更してい
ない。
生産性委員会から Part X の廃止を盛り込んだ答申が 2005
年 2 月に答申されたが、政府は 2006 年 8 月に Part X は維
持するものの、改正することを骨子とした方針を公表
無
無
(起草中の Shipping Trade Act は、 2007 年 8 月インド競争委員会が競争法を改正し、海運カルテ
適用除外制度を前提とする条文あ ル行為に重い罰金を科すことを検討と発表
り)
国際海運条例
無
-
無
航業法
海運法(Maritime Transportation
Act.)
無
-
無
-
無
-
無
-
無
---
無
無
以上の各国・地域の状況整理結果から、以下の特徴が抽出される。
● EU の特殊性
(1)で取りまとめた通り、EU における競争法包括適用除外制度廃止の背景と
して、以下に掲げる他にはない特殊事情が作用したものと考えられる。
-
リスボン戦略と欧州船社による寡占化の進展
-
単一通貨ユーロ導入・欧州通貨同盟発足と競争当局の権限強化
-
競争法適用除外制度(欧州理事会規則 4056/86)の内容面、運用面での不
備
-
欧州荷主協会(ESC)と同盟間の長年の対立関係及び ESC の同盟制度廃
止運動
-
「包括適用除外制度」の採用による事前調整枠組みの欠如
これらの事情は EU 固有の問題であり、かなりの特殊性を有するものである
といえる。
● アジア各国等の動向
欧米の動きに加え、近年取引量が増加しているアジア各国の動向等を注視す
ることも重要であると考えられるが、本調査の範囲内のアジア(インド以外)、
オセアニア各国では競争法適用除外制度にかかわる当局の特段の動きは認めら
れないのが現状である。
別表に示すように、アジアでは包括競争法が未整備の国も見受けられ、既に
整備されている国でも欧米と比較すると制定から 10 年も経過しておらず、競争
政策の歴史が浅い。また、外航海運の包括適用除外制度については、フィリピ
ンのように、慣行上許容されているが、明文化されていない国も多く見受けら
れる。
前述のシンガポールのように、海運ネットワークの拠点たるシンガポール市
場の特性、荷主・船社から同国にもたらされる利益に配慮し、包括適用除外制
度を整備した国も見受けられる。
このように、コンテナ貨物としては EU を上回る我が国の貿易相手であるア
ジア各国等の制度状況を勘案することも重要であると思われる。
- 33 -
3.船社間協定の分析
(1) 同盟・協議協定がもたらしている効果
① 運賃の安定性がもたらしている効果
外航海運業の特徴としては、以下の点が挙げられる。
・非常に高い固定費用と低い限界費用との特徴を持つ。
・貨物量の季節変動および往復航の荷動きの不均衡が不可避であり、かつ大
きい。
・商品である貨物スペースの在庫が利かない。
・荷主の需要に対応するため、ピークにあわせた船腹を持たざるを得ない。
・基本的にはサービスの差別化が困難。
・
「海運自由の原則」の下、世界的にも参入規制がないため、世界単一市場で
の競争を行っている。
これら特徴により、定期船社は、高い世界的競争状態の中で恒常的な余剰船
腹を抱え、しかも限界費用が低いことから、ごく小さな契機によって破滅的な
運賃引き下げ競争に走り、その結果、一定の時間が経過すると生き残った船社
が一斉に大幅な運賃引き上げを行い、
「運賃乱高下」に陥り易い傾向があるとさ
れている。
これに対処するため、国としては以下 2 種類の政策を採りうる;
a. 運賃を国が管理(運賃認可制等)する。
b. 船社間に自律的な運賃秩序形成権を与え、船社の権利濫用については国家
が監督する。
定期海運業に関しては、1章でも述べた「海運自由の原則」が存在するため、
a.の手段を採用する国は皆無であり、日米欧を含む世界主要国においては b.の考
え方に基づく同盟制度が認められ、それにより運賃の安定化が図られてきた。
但し、現在の同盟・協議協定の「運賃修復ガイドライン」にはかつての同盟
タリフのような拘束力は無く、よってかつてのような運賃安定化効果は望めな
いとの指摘もある。同盟・協議協定の存在と運賃安定性の関係について、定量
的アプローチを試みた。(➡次頁の※A参照)
- 34 -
※A 同盟・協議協定の存在と運賃の安定性について(定量的アプローチ)
結論:北米、欧州航路の運賃はその他航路および不定期船の運賃よりも
安定的であり、同盟・協議協定により市場の需給を反映しつつ価格
の変動を抑える運賃安定化効果が見受けられる。
2.5
2
1.5
北米航路単価
欧州航路単価
その他航路単価
不定期船定期用船料指数
1
0.5
0
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
図 1:定期航路運賃の変動(3 社平均)
変動係数
北米航路
0.0863
欧州航路
0.1243
その他航路
0.2374
不定期船定期用船料指数
0.5908
表 1:邦船社の航路別運賃(3 社平均)および不定期船運賃指数の変動係数
(使用したデータ)
・ 定期船の航路別運賃は、邦船 3 社データに基づく国土交通省海事局外航課
資料(北米航路、欧州航路、その他航路の収入および荷動き量データ)を
もとに算出。なお、原則として 1997~2006 年度のデータを使用した。
- 35 -
・ 各年の運賃を 10 年間の平均運賃で割り、この平均を 1 とおいた指数に変換
・ 比較のため、Lloyds’ Shipping Economist 発表の「不定期船定期用船料
指数」を利用。データの出所は日本船主協会ウェブサイトおよび Lloyd’s
Shipping Economist
(変動係数について)
変動係数は「変動係数=標準偏差÷平均値」で定義され、平均的な大きさが異
なる数値の変動(ボラティリティ)の大きさを比較するために使用する。変動
係数が小さいほど運賃の変動が少なく、安定的である。また、変動係数に差が
あるか統計的検定を行った。その結果、北米航路および欧州航路では基本的に、
その他航路の運賃、不定期船定期用船料指数、Baltic Dry Index、タンカー運
賃指数に比べて安定性が高いことが示されている。
現在においても同盟・協議協定に一定の運賃安定化効果が認められるとした
場合、以下のような整理が可能である。
(i) 運賃の安定化が船社にもたらす効果
まず、運賃安定化効果の最大の受益者は、それにより収益の安定化が図れ、
船舶やターミナル施設への計画的な投資、サービスの提供の安定が可能となる
船社であると言える。世界各地で、各船社が競争法適用除外制度維持に向けた
活動を強力に推進していることはその証拠と言えよう。
(ii) 運賃の安定化に対する荷主の考え
運賃安定化そのものに対する荷主の考えについては、大別すれば以下 2 つの
考え方が可能である。
a. 同盟・協議協定の機能により運賃は安定しているものの、高止まりしてい
る。よって、荷主としては、運賃等の不安定リスクを抱えてでも、自由な
運賃(共同運賃設定の廃止)を志向する。
b. 同盟・協議協定の機能により運賃は安定しており、かつ許容範囲内に収ま
っている。よって、荷主としては、運賃等の不安定リスクを抱えるよりは、
現状の存続を志向する。
欧州荷主協会(European Shippers’ Council)は、「競争法適用除外制度が維持
- 36 -
されるよりは、例え結果的に運賃が上ったとしても、自由運賃市場の方が良い」
旨発言(2003 年 12 月の欧州委員会主催公聴会)しており、上記 a の考えに近
いものと思われる。
一方、我が国荷主の運賃に対する考え方は、まず現在の運賃水準全般に高い
不満は持っていないものと考えられる。(2005 年 5 月に規制研に提出された日
本荷主協会資料に(現在の)「運賃は決して高くない」と記されている。)
また、
(同盟・協議協定が実質的に機能していない)日中航路では荷主に対し
て不合理な運賃設定が行われているケースもあり(➡以下の※B参照)、これら
に対する荷主の不満は強い(➡p.39 の※C参照)ことから、我が国荷主は運賃水
準の安定を強く望む傾向にあるものと考えられる。
これらの点から、我が国の荷主の多くは、上記 b の立場に近く、同盟・協議
協定による価格(運賃)の安定を志向していると考えられる。
※B 日中航路における運賃推移及びその分析
結論:日中航路においては、欧州航路・北米航路を大幅に上回る運賃変動が
見られる。また、その水準は、長期に亘り実勢運賃がサーチャージ類
の合計額を下回る(いわゆる「マイナス運賃」)など、長期持続的運賃
が維持できていない。
実勢運賃、サーチャージ(ドル/TEU)
700
600
2006年9月28日に
中国交通部がゼロおよびマイナス
運賃禁止の通達
500
EBS
FAF
YAS
日本向け実勢運賃
400
300
200
100
0
Aug-07
Jul-07
Jun-07
May-07
Apr-07
Mar-07
Feb-07
Jan-07
Dec-06
Nov-06
Oct-06
Sep-06
Aug-06
Jul-06
Jun-06
May-06
Apr-06
Mar-06
Feb-06
Jan-06
Dec-05
Nov-05
Oct-05
Sep-05
図 2:上海発日本向けのコンテナ貨物実勢運賃の推移(2005 年 9 月~2007 年 8 月)
EBS:Emergency Bunker Surcharge(緊急燃料油割増)
FAF:Fuel Adjustment Factor(燃料油割増)
YAS: Yen Appreciation Surcharge(円高サーチャージ)
- 37 -
欧州航路(西航)
欧州航路(東航)
北米航路(西航)
北米航路(東航)
日中航路(日本向け)
変動係数
0.0816
0.0358
0.0444
0.0576
0.4529
表 2: 上海発日本向けのコンテナ貨物実勢運賃と欧州、北米航路の運賃指数の変動係数
~図および表による分析~
・ 日中航路においては、欧州航路や北米航路では見られない大きな運賃変動
が発生している。
(20%以上の変動が 2 年のうち 11 ヶ月。時期によっては、
1 ヶ月で運賃が 3 倍となる等)
・ サーチャージ抜きの実勢運賃は、2 年間のうち多くの期間において、マイ
ナスからゼロに近い水準で推移。
・ 国慶節前の秋口の駆け込み需要で運賃が急騰する一方で、国慶節後、著し
く下落する傾向がある。但し、2006 年秋の運賃上昇は、中国交通部が同年
9 月 28 日に公表したマイナス運賃設定を禁止する公告の影響をも受けた
ものと見られるが、同公告の実勢運賃への影響は一時的なものに留まって
いる。
(使用したデータ)
・ 上海発日本向けコンテナ貨物実勢運賃:上海航運交易所『航運交易公報』
掲載の上海発西日本向けの運賃データ(2005 年 9 月~2007 年 8 月の各第一
週)
・ 変動係数の比較のため、欧州航路と北米航路の運賃指数として
Containerisation International 発表の「Freight Rates Indicators」を
使用。2005 年第 3 四半期~2007 年第 2 四半期のデータを使用。
(変動係数について)
変動係数は「変動係数=標準偏差÷平均値」で定義され、平均的な大きさ
が異なる数値の変動(ボラティリティ)の大きさを比較するために使用する。
変動係数が小さいほど運賃の変動が少なく、安定的である。また、変動係数
に差があるか統計的検定を行った。データの頻度などにずれがあるものの、
上海発日本向けのコンテナ貨物の実勢運賃の変動係数は欧州、北米航路の価
格指数に比べて変動係数が有意に大きく、運賃の安定性が低いことが示され
- 38 -
ている。
(注)
;以上のデータは、上海航運交易所が中国サイドで、船社及び代理店から
得た運賃・サーチャージ情報に基づいて取りまとめたものである。よっ
て、日本サイドで日本荷主から徴収される CY チャージ(輸入の場合、
24,200 円/TEU、48,400/FEU)は含まれない。
※C 日中航路に関する荷主の意見
((財)日本海運振興会海運経済委員会資料(2004 年 11 月)及び(財)日本海事センターの聞
き取り調査による)
・ 運賃、サーチャージ(YAS、FAF、EBS、THC、ECHC、PSS 等。ただし、日本
側「CY チャージ」を除く。)については、各社が個別でマーケット状況等
を鑑みて独自設定を行っている。
・ 運賃の季節変動上下幅が大きく、不安定な運賃設定となっている。
・ 諸チャージ関係についての設定額、同一のサーチャージが航路によって異
なる等、課徴に合理性、統一性を欠いている。
・ 比較的短期間での航路の改廃がある。
・ 日中航路の航路特性として、中国船社の運賃、サービスが不安定なため、
急激なブッキングやキャンセルが多い。
・ 日中双方の船社との合議の場が必要と考える。
・ 荷主とは直接の契約関係に無い外国船社代理店団体が、本来船社から受け
取るべき書類作成や運賃に含まれるべき費用を荷主から徴収しようと運
動している。このような代理店団体の行動は、不合理なものであるばかり
か、代理店に独占禁止法の適用除外が認められていないことから、同法違
反の可能性がある。
・ 日中航路において積み取りシェアが大きく、マーケットリーダーとなって
いる中国船社(複数)が一部サーチャージの徴収運用について合理性を欠
く慣習を導入している。
・ 輸入の際、CIF 契約(運賃、保険料は中国の出し荷主負担であり、B/L 上
は“Freight Prepaid”)であるにもかかわらず、中国船社が日本荷主へ
の貨物引渡し条件として FAF、EBS、YAS 等のサーチャージの支払いを日本
荷主に求める例が頻発している。
- 39 -
② 協議メカニズムによる効果
公正取引委員会が平成 18 年 12 月 6 日に公表した「外航海運に関する適用除
外制度についての考え方」では、荷主の意見として「サーチャージや協調的な
運賃引き上げ(運賃修復)の算定根拠が不明確である」「一方的に通告される」
との2点を挙げ、現在の同盟・協議協定は荷主(利用者)の利益を害している
おそれがあるとしている。
しかしながら、このような指摘とは別に、我が国では、船社は運賃修復やサ
ーチャージの新設等にあたっては、独禁法適用除外制度(以下「除外制度」と
する。)の下での協調行動による弊害を最小化すべく、荷主との協議を重視して
おり、欧米諸国では類例のない協議メカニズムの発達が見られる。
具体的には、同盟・協議協定のもと船社と(社)日本荷主協会とは継続的な
対話の場を有しており、緊張関係を持って当事者間で合意に向けた継続的努力
がなされている。また、除外制度を規定する海上運送法の所管官庁である国土
交通省は、同盟・協議協定の行為に対して同法に基づく適切な監視を行ってい
る。このような当局の監督の下、荷主と船社が自律的に対話を行うという協議
のメカニズムは、除外制度の下、我が国の商慣習により培われてきたものであ
る。実際、この協議メカニズムを通じ、同盟・協議協定が導入を見送ったサー
チャージもいくつか存在している。
外航定期船事業が我が国の貿易を支える重要な社会インフラであり、極めて
高い公共性を有することは疑いのない事実であるが、「海運自由の原則」の下、
我が国を含む世界の大部分では航路への参入は自由であり、かつ、電気・ガス・
航空等我が国の他の公共サービス業に見られる規制官庁による料金規制(許認
可・届出制度)は存在していない。
このような環境のもと、外航海運に関し除外制度が廃止された場合には、前
述の対話調整の場や国土交通省による監視も同時に失われることとなり、個別
船社による一方的かつ大幅な値上げやサービス低下などが生じた場合、荷主、
とりわけ中小荷主の対抗手段は現在に比べ極めて限定されてくるおそれが強く
なるものと思われる。この懸念が、現時点において、我が国荷主の大部分から
除外制度の即時廃止を求める声が出ていない要因のひとつとなっているものと
考えられる。
よって、除外制度によってもたらされる対話の存在が、結果として、荷主、
とりわけ、中小荷主の利益につながっていると考えられるところである。
- 40 -
③ 「運賃修復ガイドライン」がもたらしている効果
公正取引委員会の指摘の通り、現在、同盟の運賃タリフの実効性は極めて低
く、これに代わって船社は、同盟・協議協定による「運賃修復ガイドライン」
を以て値上げ希望幅を公表することにより、荷主に対し、個別に値上げ要請を
行っている。
(荷主が要請に応じるかどうかは個別交渉次第であり、同盟・協議
協定がガイドラインを遵守しない船社に罰則を課すことは、米国法(OSRA)で明
確に禁止されている。また、米国以外でもこのような罰則行為は行われていな
い。一方、欧州航路などにおいて同盟タリフが存在するにもかかわらず、タリ
フ運賃とは別の「実勢運賃」が存在することを前提とする運賃修復ガイドライ
ンが機能している現状が存在する。)
その結果、現在では運賃修復ガイドラインは、契約交渉において船社・荷主
双方にとってひとつのベンチマークとして機能している。即ち、船社にとって
は値上げの目標額、荷主にとっては値上げの限度額、という意味合いを有して
いると言える。更に荷主の視点からは、船社との契約の際の社内調整にあたり、
契約担当者が各船社の値上げ幅を調査すること等による手間と手続きの長期化
を抑制する効果もあるものと考えられる。
- 41 -
(2) 我が国経済に与える影響
同盟・協議協定が存在しなくなり、運賃が不安定化した場合の影響について
ひとつのシナリオを描いてみた。全体像は下図のとおりであるが、寡占化の更
なる進展に伴い、荷主を含めた我が国経済全体への悪影響が懸念されるところ
である。
図 3:我が国経済に与える影響のシナリオ
- 42 -
現実的に起こり得るシナリオとしては、以下が考えられる。
<<フェーズ1:定期船の収益の不安定と低収益船社の市場からの撤退>>
前述の定量的アプローチにより、同盟・協議協定が一定の運賃安定化効果を
もたらしている傾向が示されたが、同盟・協議協定が存在しなくなった場合、
不定期船運賃同様に、運賃が大幅に変動する可能性が高くなるものと思われる。
この場合、定期船社の収益は不安定化し、その結果、低収益船社は定期船市場
からの撤退を余儀なくされるものと考えられる。
<<フェーズ2:寡占化の進展>>
低収益船社の定期船市場からの撤退が生じた場合、撤退船社によるサービス
の「穴」をどうするかについては、外航海運には政府もしくは民間による参入
規制や参入阻害は基本的には存在しないため、以下 a~c のケースが考えられる。
a. 低コスト等を売り物とした新規船社の参入によって、撤退船社の抜けた穴
がカバーされる。
b. 撤退船社から事業を引き継いだ既存の船社がサービスを継続する(同航路
に配船していた既存船社が増便によりサービスを継続する場合を含む。)。
c. 撤退船社が抜けた穴はカバーされず、当該サービスは失われる。
ケースaに関しては、特に航行距離の長い基幹航路において、新規参入船社が、
既存船社撤退の穴を直ちに埋めることは、実質上不可能と考えられる。なぜな
らば、例えば欧州航路で定曜日ウィークリーサービスを行う場合、1300 億円程
度の巨額の新規投資*が必要であり、かつ船舶の建造には少なくとも 2~3 年を
要することから、資金的にも、時間的にも、撤退船社のサービスを即時に代替
し得る新規参入船社を期待するのは極めて困難と考えられるからである。なお、
船舶に関しては、傭船による調達という手段もあるが、現在の傭船市場におい
て、船型・性能の揃った 8 隻のコンテナ船を同時に調達することは非常に難し
い状況にある。
* コンテナ船建造には$120M/隻(8000TEU型) が必要であり、欧州航路でウィー
クリーサービスを実施する場合、8 隻の船舶投入が必要。また、コンテナの新造に
$260M 程度必要であると想定して、($120M×8)+$260M を 1 ドル 105 円で換算し
た。
- 43 -
ケース c に関しては、需給が長期的に緩和された場合は取られ得るが、これ
までの世界の海上荷動きの上昇傾向を勘案すれば、現実的であるとは言えない。
1985 年に存在した主要 50 船社の内、2007 年までの 20 年余りで 34 社(68%)
が淘汰されたものの、既存船社によって営業が引き継がれなかった船社は 2 社
に過ぎないことや、この間の新規参入船社が 1 社であること(➡次頁※D 参照)
などを踏まえるとケース b が現実的であると言える。
この場合、競争法適用除外制度による一定の収益安定効果を享受しているに
もかかわらず M&A が繰り返されている定期船業界においては、その一定の秩
序を喪失することで、船社は更に M&A を加速させ、寡占を通じ市場支配を行
おうとするインセンティブが更に働くこととなり、最終的に大手寡占船社によ
る市場支配と、それに伴う運賃の高止まりや、サービス内容の低下など、荷主
の不利益が強く懸念される。
- 44 -
※D 1985 年~2007 年の主要定期船社の M&A
1985 年に東西基幹航路(欧州航路及び北米航路)に就航していた主要定期船
社 50 社(但し、1985 年時点では基幹航路に就航していないものの、その後基
幹航路船社に吸収された船社を含む)の現在に至るまでの M&A の歴史を図 4
に示した。
同図は、1985 年に存在した船社 50 社中、現在まで営業を継続している船社
は 16 社(32%)に過ぎず、7 割近い船社が吸収・合併の対象となっていること
を示している。
(使用したデータ)
・商船三井『定航海運の現状』
・日本郵船『世界のコンテナ船隊および就航状況』
・『Containerisation International Yearbook 2008』
・ 各社ホームページ
- 45 -
- 46 -
- 47 -
<<フェーズ3:邦船社への影響>>
次に、定期船市場による寡占化が進展した場合の邦船社(定期船事業)への
影響を考えることとする。この場合、現状における邦船社の以下の特徴を勘案
することとする。
・前頁図 4 の通り、我が国大手定期船社 3 社の運航船腹量は世界で 9~13 位
であり、世界の超大手船社と比較すれば、削減可能な費用(燃料、船舶等
の価格割引やターミナル利用の効率化等)は限定される。
・我が国船社は、トン数標準税制導入の遅れ等により、同税制が既に導入さ
れ利益を積み上げてきた諸外国の船社と比べてキャッシュフローの差が拡
大している。
(➡以下の※E 参照)今後も市場の支配力を背景に、その差が
拡大する可能性がある。
これら特徴を踏まえれば、同盟・協議協定が存在しなくなり、運賃乱高下が
発生した場合、邦船社(定期船部門)が外国船社による M&A の対象となる可
能性が出現するといえる。
※E キャッシュフローの面からの邦船社と外国船社の比較
部門別の詳細な財務データを公表している邦船社 2 社と主要外国船社の定期
船部門のキャッシュフローの状況を、以下表3で比較した。なお、データ算出
にあたっては、キャッシュフローを示す指標のひとつであるEBITDA*の絶対額
で行った。
この結果、外国船社の定期船部門と比べ、邦船 2 社の定期船部門のキャッシ
ュフローは概して豊富とはいえないことが示された。
船社名
Maersk(デンマーク)
Evergreen(台湾)
NOL/APL(シンガポール)
COSCO(中国)
OOCL(香港)
Yangming(台湾)
邦船2社平均
2004
2877.3
204.7
1108.1
533.8
99.0
240.1
520.9
2005
3214.9
254.0
1044.1
726.6
101.8
162.4
296.5
2006
1737.3
81.1
538.3
320.8
78.1
27.5
26.1
表3:キャッシュフローの比較(定期船部門の EBITDA、単位は百万ドル)
*:EBITDA(イービットディーエーもしくはイービットダー)について
EBITDA は営業活動によって得たキャッシュフローを示す指標のひとつである。ここで
は「営業利益+減価償却費」という簡便法によって計算を行った。
- 48 -
<<フェーズ4:外船社への依存の増大>>
邦船社の定期船部門が外国船社による M&A の対象となり、邦船社によるサ
ービス提供が実施されなくなった場合、具体的に考えられる影響としては、以
下があげられる。
(我が国船社・海運業界への影響)
現在、外船社に配乗される日本人はほとんど存在していないが、邦船社の
定期船部門からの撤退により、定期船配乗の日本人船員はほぼゼロとなり、
日本人海技者の更なる減少、その結果として我が国海事クラスターへの悪
影響が懸念される。
(我が国経済安全保障への影響)
コンテナ輸送をすべて外国企業に委ねることとなるため、非常時や有事の
際の経済安全保障問題が発生する。(ちなみに、基幹航路に配船する自国
大手定期船社が存在しない米国では、1 隻あたり 260 万ドル(×最大 60 隻)
の補助金を支払い、国家緊急時の際の徴用船腹を確保している。)
(我が国荷主への影響)
・外船社は、日本事務所のスタッフには日本人を雇用している場合も多いが、
大半の場合、責任者は外国人であることから、大きな問題が発生した際、
我が国荷主は責任者と日本語でコミュニケーション出来ない可能性がある。
更に、日本事務所を自社直営とせず、代理店に委託している外船社も多く
存在し、そのような船社に関しては、トラブル発生時に代理店と交渉して
も「自らは船社ではないため、最終的な責任を負えない」として、我が国
国内での実質的な交渉が困難になることも考えられ得る。また、輸送に関
して紛議が生じた場合の準拠法や裁判地を、実質的に(我が国荷主にとっ
ては外国となる)本社所在国に限定している外船社も存在するといわれ、ト
ラブル発生時に国内で法的解決を図ることが出来ないケースもあり得る。
・我が国荷主と有形無形の長年の結びつきを有する邦船社と、我が国企業と
しての歴史をほとんど持たない外船社では、日本荷主に対するloyaltyが異
なると言える。即ち、日本関係航路の収支が他航路と比べて悪化した場合、
外船社は比較的「躊躇することなく」大型母船の日本寄港を中止し(➡p.51
の※F参照)、日本発着貨物は香港などのアジアの近隣港で大型船から小型
フィーダー船に積み替えて輸送することとして、輸送コストの低減を図る
ものと考えられる。この場合、外地での積み替えに伴うトランジット・タ
- 49 -
イムの悪化やカーゴダメージのリスクが高まることが懸念され、我が国精
密機械メーカーなどにとっては、直航配船の減少は深刻な問題となり得る。
また、直航配船維持のため、日本発着運賃が値上げされることも考えられ
る。
また、我が国製造業における海外生産の高まり、アジア域内での工程間
分業の進展(図 5、図 6 参照)に伴い、国際海上輸送を、製造過程における
ベルトコンベアー的役割として利用する企業が増加しており、これら企業
にとっては、安定した国際海上輸送サービスが SCM(サプライチェーンマ
ネジメント)成功のひとつの鍵を握っている。こうした企業からは、サー
ビスの提供に関して最も信頼性が高いのは邦船社であるとの声も多く聞か
れ、国際海上輸送サービスが外船社にシフトされることへの懸念が強いも
のと考えられる。
35.0%
30.0%
30.6%
29.0% 29.1% 29.7% 29.9%
25.0%
20.0%
21.8%
23.8% 24.5% 23.0% 24.2%
15.0%
14.3% 14.6%
10.0%
16.7%
15.6% 16.2%
11.6% 11.4% 11.8%
10.4% 11.0%
5.0%
図5:製造業の海外生産比率*の推移
度
出典:経済産業省
海外事業活動基本調査
年
年
度
20
05
年
度
20
04
年
度
20
03
年
度
20
02
年
度
20
01
度
年
20
00
年
度
19
99
19
98
年
度
19
97
年
度
0.0%
19
96
製造業の海外生産比率
(全企業ベース)
製造業の海外生産比率
(海外進出企業ベース)
*海外生産比率=海外現地法人の売上高÷総売上高
(単位:100 万円)
60000
50000
40000
30000
対外直接投資
対内直接投資
20000
10000
0
1996
1997
1998
1999
2000
2001
200 2
2003
2004
2005
2006
-10000
図6:日本の対外直接投資および対内直接投資**の推移
出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)ウェブサイト
**対内直接投資:海外の企業による我が国国内への直接投資
- 50 -
※F
最近の日本直航配船の推移について(外船の日本寄港中止の例)
欧州航路及び北米航路を例に、過去約 20 年間(1985 年~2007 年)の推移を以下
の通りとりまとめた。
(使用したデータ)
1985 年:日本郵船『世界のコンテナ船隊および就航状況 1986 年版』
1990 年、1995 年、2000 年、2005 年、2007 年:オーシャンコマース『国際輸送ハンドブック』
1991 年、1996 年、2001 年、2006 年、2008 年版
対象船はフルコンテナ船のみとする。また、世界一周サービス、大陸間 pendulum サービスにつ
いては、寄港パターンに応じて航路を区別した。
(1) 欧州航路(アジア~北欧州)
① 日本直航配船社と投入隻数について(表4参照)
・ 1985 年には日本直航配船社は 21 社。
・ その後、2007 年に至るまで日本直航を維持している船社は、邦船 3 社の他には
Maersk(デンマーク)1 社のみ。
・ 新規参入に関しては、1990 年代の HMM(韓国)
、UASC(クウェート)が最後
であるが、何れも 2000 年以降日本直航を中止している。
1985
年
船社
本拠地
Ben Line
英国
3
CGM → CMA-CGM
フランス
1
Cho Yang
韓国
1
CMA
フランス
CR (Chargeurs Reunis)
フランス
2
EAC (East Asiatic Co Ltd)
デンマーク
2
Evergreen
台湾
Hanjin
韓国
Hapag-Lloyd
ドイツ
HMM(Hyundai Merchant Marine)
韓国
川崎汽船
日本
2
KSC (Korea Shipping Corporation)
韓国
1
Maersk → Maersk Sealand → Maersk
デンマーク
MISC
マレーシア
1995
年
2000
年
2005
年
2007
年
-
-
-
-
*1
-
-
*2
-
-
-
*3
-
-
-
*1
4
3
8
20
5
- 51 -
1990
年
-
4
24
22
20
12
5
13
14
12
3
7
6
5
3
3
8
8
8
5
8
9
21
9
9
2
2
2
商船三井
日本
2
NED (Nedlloyd Lines)→P&O Nedlloyd
オランダ・英国
3
NOL → NOL/APL
シンガポール
1
Norasia
スイス
日本郵船
日本
4
OCL (Overseas Containers Ltd)
英国
5
OOCL (Orient Overseas Container Line)
香港
3
POL (Polish Ocean Lines)
ポーランド
2
P&O
英国
6
ScanDutch (CGM/EAC/NED/STO/WIL)
デンマーク
7
Sea-Land
米国
Senator / DSR-Senator
ドイツ
STO (Swedish Transocean Lines)
スウェーデン
UASC (United Arab Shipping Co)
クウェート
USL (United States Lines)
米国
W. Wilhelmsen
ノルウェー
1
Yangming
台湾
4
18
5
79
131
129
4
3
8
5
6
4
2
6
8
-
8
-
*4
10
*5
5
-
9
-
4
8
8
-
-
-
*6
9
-
-
-
*7
2
3
-
-
-
*8
15
9
6
-
-
*9
13
10
-
-
*10
2
1
11
合計
-
-
-
107
57
33
表4:欧州航路における日本直航配船社と投入隻数推移
*1
*5
*9
1993 年 Maersk に吸収/*2 2001 年に倒産/*3 1999 年 CGM と合併/*4 2005 年 5 月 Maersk と合併
2000 年 CSCV と合併/*6 1986 年 P&O に吸収/*7 1998 年 Nedlloyd と合併/*8 1999 年 Maersk と合併
1997 年 Hanjin と合併/*10 1986 年に倒産
また、表4から日欧直航サービスを行う船社数の推移を示したものを図7で示す。
日欧直航サービス船社数
25
20
3
3
3
15
邦船社
外船社
社
10
3
18
16
14
5
9
3
3
0
3
1
1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2007年
図7:日欧直航サービス船社数
- 52 -
②日本への週間配船隻数
表4では日欧直航サービスを行う船社数と延投入隻数を示したが、実際のスケジュ
ールを踏まえた週間寄港数(=欧州航路における日本寄港ループ数)の推移を図8
で取りまとめた。なお、取りまとめにあたっては、アライアンスによる共同運航が
広く行われていることを勘案し、外船社を「邦船社と同アライアンス」
「邦船社とア
ライアンスを組まないもの」に区別した。
欧州航路(直航サービス)における日本への週間配船隻数
14.0
12.0
1.4
隻
10.0
1.6
2.4
2.6
8.0
邦船社寄港隻数
2.1
1.9
0.6
1.7
6.0
8.9
4.0
8.0
3.0
7.0
3.0
4.9
2.0
外船(邦船と同アライア
ンス)寄港隻数
外船(邦船とアライアン
ス組まず)寄港隻数
3.0
1.0
19
85
年
19
90
年
19
95
年
20
00
年
20
05
年
20
07
年
0.0
図8:欧州航路(直航サービス)における日本への週間配船隻数
③ 欧州航路(直航サービス)における日本への供給キャパシティについて
特に近年のコンテナ船の大型化により、1 隻あたりのキャパシティが増加傾向に
あることから、供給キャパシティの推移を図9として別途とりまとめた。
欧州航路(直航サービス)における日本への週間供給キャパシ
ティ
60,000
50,000
18%
TEU
40,000
21%
30,000
15%
23%
52%
18%
20,000
10,000
7%
21%
64%
68%
72%
邦船社供給キャパシ
ティ
19%
72%
56%
48%
28%
19
85
年
19
90
年
19
95
年
20
00
年
20
05
年
20
07
年
0
外船(邦船と同アライ
アンス)供給キャパシ
ティ
外船(邦船とアライアン
ス組まず)供給キャパ
シティ
図9:欧州航路(直航サービス)における日本への週間供給キャパシティ
- 53 -
④ 図表による結果と分析
1985 年以降、定期船社の統合の流れの中、日本寄港船社数は一貫して減少傾向に
ある(図7)ものの、投入隻数ベース(図8)では 1995 年まで、投入キャパシテ
ィベース(図9)では 2000 年までは一定割合で増加している。このことから、1985
年~2000 年の間は、撤退船社や投入隻数の減少が生じたとしても、別船社の参入や
既存船社のサービス拡充、船型の大型化等によって供給キャパシティの拡大が実施
されていると言える。
一方、2000 年~2007 年に関しては、船社数・隻数・キャパシティの全てが減少
している。船型大型化によって、キャパシティの減少率は寄港隻数の減少率を下回
るが、それでも 2007 年の供給キャパシティ(25,629TEU) は 2000 年(54,830TEU)
と比較して 53%の減少を示しており、日本向けキャパシティはこの 7 年間で大きく
減少したと言える。但し、この間の配船パターンの変化等を勘案すれば、日本寄港
船のキャパシティの減少率が直ちに日本荷主に割り当てられるスペースの削減率と
同率とは言い難い点には留意すべきである。何れにせよ、近年において欧州との直
航を望む日本荷主が利用できる便数が最盛期(週 13 便:1995 年)の 3 分の 1 以下
(週 4 便:2007 年)となり、利用可能スペースの上限も最大時の半分以下に絞り込
まれたことは事実である。この間、日本発着貨物は概ね横ばい~小幅増であること
から、一部荷主は直航サービスの利用を中止し、香港、上海等東アジア他地域から
の積み替え(トランシップ)サービス利用への切り替えを行った(若しくは行わざ
るを得なくなった)と考えられる。
また、図8・図9により、邦船とアライアンスを組む外船社*9が 1985 年~2000
年の間継続してきた自社運航船による日本寄港を 2005 年以降は揃って取り止め、
当該外船社の抜けた「穴」を各アライアンス内の邦船社が吸収している点も明らか
である。
(但し、図9による邦船のキャパシティは、アライアンス僚社に貸し出され
るスペースを含む)更に、表4・図8・図9によると、2000 年~2007 年の間に、
邦船とアライアンスを組んでいない外船社は、日本向けの配船・供給キャパシティ
を大幅に削減(Maersk)しているか、日本寄港から撤退(Cho Yang、UASC、Senator、
Evergreen)し、この「穴」は全く埋められていない。
*9 欧州航路における主要アライアンスと加盟船社(2008 年 3 月現在)
The Grand Alliance:日本郵船、OOCL、Hapag-Lloyd、MISC
The New World Alliance:商船三井、APL、HMM
CKYH Alliance:川崎汽船、COSCO、Yangming、Hanjin
(CKYH Alliance ではスペースチャーターの形態が多く採られる)
- 54 -
外船社がサービスを縮小・停止し、その「穴」が他の外船社によって埋められな
い第一の理由としては、欧州~アジア航路において、中国発着貨物が順調に荷動き
を増加*10させる中、日本発着サービスよりも、日本に寄港しない中国折り返しサー
ビスの方が高利潤*11が確保、若しくは見込まれる点が考えられる。
*10 図 10:アジア/欧州航路における荷動きの推移
(国土交通省海事局『海事レポート』平成 19 年版より)
*11 欧州航路においては、日本は航路の最東端に位置する。このため、船社
- 55 -
にとって、日本寄港(内地 3 港寄港)を行うためには、例えば上海で折り
返して運航するのと比較して、往復で 4 日間程度を要する。よって、単純
には、船社は日本荷主から、この間に要する燃料費はじめ、船員費等諸コ
ストをカバーするだけの上乗せ運賃を収受できない限り、日本への直航配
船を行う動機は乏しいといえる。
最近では、これとは逆に、中国出し運賃のほうが、日本出し運賃と比べ
40 フィートコンテナ当たり 1,000 ドル上回っているとの報道(2007 年 8
月 9 日付海事プレス)もある。
一方、欧州航路の日本寄港サービスにおいて、邦船社が提供するキャパシティの
割合は、2000 年の 17.5%から 2007 年は 71.6%に急拡大しており、高い利潤が見込
めないにもかかわらず、外船社の動きとは逆に邦船社の日本寄港サービスの割合は
拡大していることとなる。
この主な理由としては、邦船社は、定期船以外の部門での取引を背景として、日
本荷主との間で外国船社を上回る結びつきがあり、このため、容易に日本直航を取
り止めることができないものと推測される。
(但し、邦船社と強い結びつきを持つの
は、必然的に取り扱い貨物量の多い大手荷主に限定される。)それ以外の理由として
は、邦船社が外国船社と比較して、日本国内のターミナルや諸施設に多額の投資を
行ってきている点や、外国船社の運航する最新鋭巨大船が港湾設備の制約により、
物理的に日本寄港が不可能となっている点なども考えられる。
よって、現状、邦船社は、日本荷主との関係性を重視し、多少の採算悪化が見込
まれるとしても、荷主(とりわけ大手荷主)のニーズに応えるべく日本寄港サービ
スを継続しているものと考えられる。
上述の事実関係および分析を踏まえ、欧州航路における日本直航サービスの現状
と今後を整理すると次のように図示される。
- 56 -
図 11:欧州航路における日本直航サービスの現状と今後
(2) 北米航路(アジア~北米)
日本が航路の東端に位置する欧州航路と、中国・台湾~北米の航路上に位置する
北米航路では、日本寄港に伴う船社の負担が大きく異なるものの、比較のため、(1)
とほぼ同様のデータを北米航路でも収集し、以下表5、図 12~15 に取りまとめた。
- 57 -
1985
年
1990
年
1995
年
10
15
7
2000
年
2005
年
2007
年
-
-
-
*1
-
-
-
*2
-
-
*3
船社
本拠地
APL (American President Lines)
米国
BBS (Barber Blue Sea)
ノルウェー
China Shipping Container Line
中国
Cho Yang
韓国
COSCO (China Ocean Shipping Company)
中国
CP Ships
英国
CSAV (Compania Sud Americana de Vapores)
チリ
EAC (East Asiatic Co Ltd)
デンマーク
Emirates Ship
アラブ首長国連邦
Evergreen
台湾
Gearbulk
ノルウェー
Hanjin
韓国
Hapag-Lloyd
ドイツ
HKIL (Hong Kong Island Line)
香港
7
HMM (Hyundai Merchant Marine)
韓国
2
ジャパンライン
日本
5
川崎汽船
日本
11
KSC (Korea Shipping Corporation)
韓国
6
LT (Lloyd Triestino)
イタリア
Lykes Lines
米国
Maersk→Maersk Sealand→Maersk
デンマーク
MSC (Mediterranean Shipping Company)
スイス
商船三井
日本
NED (Nedlloyd Lines)→P&O Nedlloyd
オランダ・英国
NOL (Neptune Orient Lines)→NOL/APL
シンガポール
Norsul
ブラジル
2
NPS (North Pacific Steamship)
米国
2
日本郵船
日本
日本ライナーシステム
日本
OOCL (Orient Overseas Container Line)
香港/中国
Pacific Express Line
デンマーク
Sea-Land
米国
Senator / DSR-Senator
ドイツ
昭和海運
日本
TMM (Transportacion Maritime Mexicana SA de C.V.)
メキシコ
USL (United States Lines)
米国
W. Wilhelmsen
ノルウェー
Westwood
米国
Yangming
台湾
9
-
-
-
14
6
3
4
11
16
9
9
9
-
*4
-
*5
3
3
-
-
2
18
35
40
30
24
24
27
25
17
17
6
9
13
13
3
3
9
-
-
-
7
-
12
-
10
-
6
14
17
7
6
7
11
-
5
11
-
-
*6
6
-
15
*7
15
-
-
-
*8
-
-
-
*9
-
-
-
*10
53
31
32
6
14
15
14
18
11
15
2
4
5
20
8
-
7
5
13
15
14
6
5
3
7
15
-
12
-
*11
24
22
25
11
-
-
2
*12
5
8
11
12
13
-
15
1
6
-
-
6
23
8
- 58 -
-
-
6
-
-
-
*13
-
-
*14
-
-
*15
-
-
*16
-
-
*17
9
9
4
7
7
8
18
10
12
1
8
山下新日本汽船
日本
ZIM
イスラエル
6
合計
-
-
-
-
-
*18
10
11
13
15
14
8
175
224
229
273
204
202
表5:北米航路における日本直航船社と投入隻数推移
*1
1997 年に NOL と合併/*2
1991 年 4 月『Baber West Africa』,『Scan Carriers』,『Willine』との 4 社で
サービス名を『Willhelmsen Lines SA』に統一/*3
*5
2001 年に倒産/*4 2005 年 8 月に Hapag-Lloyd と合併
1993 年に Maersk に吸収/*6 1989 年に船隊を COSCO に売却
*7 1988 年に定期船部門が山下新日本汽船の同部門と統合され日本ライナーシステムとなる
1987 年 Hanjin と合併/*9
1993 年より Evergreen の支配下となる/*10
*11
2005 年 5 月 Maersk と合併/*12
*14
1996 年 Hanjin と合併/*15
*17 1986 年に倒産/*18
1991 年に日本郵船と合併/*13
1997 年 8 月 CP Ships に買収される
1999 年 Maersk と合併
1998 年に中国を除く定期船部門から撤退/*16
2000 年 1 月に CP Ships に吸収
1988 年に定期船部門がジャパンラインの同部門と統合され日本ライナーシステムとなる
北米直航サービス船社数
30
25
3
3
20
6
4
社 15
3
10
15
3
邦船社
外船社
21
19
15
13
5
12
0
1985年 1990年 1995年 2000年 2005年 2007年
図 12:日本/北米直航サービス船社数
5.2
6.6
0.5
7.5
2.2
5.8
8.5
邦船社寄港隻数
8.6
7.5
6.4
6.5
16.0
13.0
外船(邦船と同アライア
ンス)寄港隻数
外船(邦船とアライアン
ス組まず)寄港隻数
20
07
年
05
年
20.5
20
19.3
00
年
18.9
95
年
90
年
19.4
19
19
7.0
19
40.0
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
85
年
隻
北米航路(直航サービス)における日本への週間配船隻数
20
*8
図 13:北米航路(直航サービス)における日本への週間配船隻数
- 59 -
160,000
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
16%
27%
16%
22%
2%
77%
24%
8%
邦船社供給キャパシ
ティ
26%
23%
25%
50%
47%
23%
58%
68%
28%
61%
19
85
年
19
90
年
19
95
年
20
00
年
20
05
年
20
07
年
TEU
北米航路(直航サービス)における日本への週間供給キャパシ
ティ
外船(邦船と同アライ
アンス)供給キャパシ
ティ
外船(邦船とアライアン
ス組まず)供給キャパ
シティ
図 14:北米航路(直航サービス)における日本への週間供給キャパシティ
これらのデータからは、北米航路においては、需要(荷動き量)の傾向は欧州航
路同様、日本発着は概ね横ばい、中国発着が急伸(よって日本の比率は低下)、の状
況にある(次頁図 15)にもかかわらず、供給面においては欧州航路で見られるよう
な顕著な直航サービス減少は見られない。週間配船隻数(=日本寄港ループ)は、
1985 年~2007 年の間、27~36 隻の範囲内で上下しており(図 13)、船型大型化に
伴い供給キャパシティは拡大傾向(図 14)にある。
この理由としては、我が国が中国・台湾~北米を結ぶ大圏航路上に位置し、欧州
航路のように中国などから延航することなく on the way で寄港が可能であるとい
う地理的要因が極めて大きいものと思われる。日本寄港に伴う船社の採算への影響
は、欧州航路と比較すれば小さいと言える。
但し、このような北米航路においても、図 14 の通り、1995 年以降、邦船が供給
シェアを拡大している(1995 年:21.6%→2007 年:28.3%)一方で、邦船とアライ
アンスを組まない Maersk、Evergreen などの外船社は 1985 年以降、供給シェアを
徐々に下落させており(1985 年:76.6%→2007 年:46.5%)、供給キャパシティも
2000 年をピーク(75,309TEU)に低下傾向にある。
よって、北米航路においても欧州航路同様、非常に緩やかながら邦船社による外
船社の肩代わり傾向が認められる。このため、将来、競争法適用除外制度の廃止、
若しくはその他の理由により邦船社が存在しなくなり、サービスに「穴」が開いた
場合、一時的(外船社が寄港パターンを再編し、日本寄港を拡大させるまでの間)
に日本寄港が減少する可能性はある。しかしながら、北米航路が欧州航路と比較し
て時間的にも金銭的にも小さなコストで日本追加寄港が可能である以上、いずれ外
船社によって「穴」が埋められることが予想され、直接寄港サービスという側面に
おいては、欧州航路と比較すれば混乱は限定的であろう。
- 60 -
往航(アジア→北米)
16,000
14,000
(千TEU)
12,000
4%
5%
10,000
5%
7%
8,000
6,000
9%
14%
4,000
2,000
0
69%
63%
15%
16%
32%
10% 3%
37%
27%
13%
7%
28%
1985
1990
マカオ
シンガポール
フィリピン
ベトナム
マレーシア
インドネシア
タイ
韓国
台湾
香港
中国
日本
42%
26%
18%
12%
1995
2000
(年)
7%
6%
2005
2007
復航(北米→アジア)
6,000
5,000
(千TEU)
8%
4,000
8%
9%
3,000
13%
2,000
1,000
0
9%
18%
9%
19%
16%
5%
44%
1985
13%
11%
12%
11%
9%
13%
13%
16%
4%
8%
20%
38%
31%
30%
1990
14%
1995
2000
(年)
39%
36%
19%
15%
2005
2007
マカオ
ベトナム
マレーシア
フィリピン
シンガポール
タイ
インドネシア
香港
台湾
韓国
中国
日本
図 15:アジア/北米航路における荷動きの推移
(JOC PIERS データを基に(財)海事産業研究所、(財)日本海運振興会及び(財)日本海事センターまとめ)
- 61 -
4.結論
「はじめに」にも記載したとおり、1875 年のカルカッタ同盟成立以降、船社
間協定のもたらす利益と弊害に関しては、世界各地で幾度と無く議論が行われ
てきた。特に、競争法上、
「ハードコアカルテル」の典型例とされる価格カルテ
ルの要素を含む船社間協定である同盟と協議協定については、米国を震源とす
る汎地球的な競争促進・自由化のうねりにより競争法がその地位を高めるなか、
徐々にその競争制限性を減じてきた。そして、ついに同盟発祥の地の欧州(欧
州連合(EU))は欧州巨大船社の有する強大な競争力を背景に、競争当局の主導
により、2008 年 10 月をもって同盟に対する競争法適用除外制度を廃止するこ
とを決定した。
一方、シンガポールでは、海運ハブとしての機能強化を目的として適用除外
制度の新設がなされ、その他アジア主要国においても同盟・協議協定の否定に
つながる政策はとられていない。また、米国においても直ちに適用除外制度を
見直す動きは見られない。
同盟・協議協定が価格ガイドラインの協議・公表という、他の業界一般では
およそ認められない権能を許されている以上、そのあり方を巡って様々な意見
があることは当然であり、同盟・協議協定の活動実態や競争法の適用が時々刻々
変化することと相俟って、適用除外問題に関する普遍的な回答は存在しないと
言っても過言ではない。各国政府はその中で、その時々の周囲の状況を踏まえ
た「最適解」を導くことが要求される。このような問題の検討において政府は、
当事者の利益及び自国の国益を考慮し、かつ諸外国の動向を加味した上で、
「最
適解」を冷静に導く必要があるものと考えられる。
そこでまず最初に検討すべきことは、同盟・協議協定から直接の影響を受け
るであろう我が国荷主及び船社の意見である。今回の調査の過程で、我が国荷
主の多くが、安定した運賃及びサービスを第一に求め、欧州巨大船社による寡
占化傾向を不安視している点が明らかとなった。
また、調査を通じ、同盟・協議協定が機能している北米航路、欧州航路にお
いては、日中航路に代表される同盟・協議協定が機能していない他航路と比較
して運賃の安定性が高いことが示された。一方、サービスについては、現在の
同盟・協議協定の活動に、かつての同盟が有していた積取量割当制や配船義務
制度が含まれないため、同盟・協議協定が直接的にサービス改善・維持に寄与
- 62 -
しているというデータは得られなかったものの、少なくとも、前述の運賃安定
性により、船社が安定収益を得ることが可能になり、これにより投資や新規航
路への参入が容易化され、サービスの安定や質の向上に寄与している点は明ら
かであると言えよう。
また、本調査によって、競争法適用除外制度が廃止された場合、長期的には、
海外の大手船社による寡占化が進展し、その場合には、経済安全保障問題をは
じめ、航路によっては日本寄港の切り捨て、日本発着貨物への運賃上乗せなど、
我が国経済にとって深刻な事態が懸念される点が示された。
公正取引委員会の研究会である「政府規制等と競争政策に関する研究会」は、
1 年弱の検討を経て競争法的見地から適用除外制度の廃止を提言しているが、本
調査で明らかになった内容を勘案すると、EU(我が国の貿易量に占める割合:
12%、欧州航路のコンテナ荷動き量:11,960 千トン、参考資料Ⅰ参照)の動き
に追従し、我が国経済全体に悪影響を及ぼす可能性の高い除外制度の存廃に係
わる結論を単純に導き出すことは拙速であろう。
100 年を超える同盟の歴史において、これまで我々は一度として「同盟・協議
協定のない世界」を経験したことがない。このため本調査も、除外制度の廃止
による影響については、現時点までのデータを踏まえた上である程度のシナリ
オを想定せざるを得なかった。
現段階においては、我が国荷主の多くが現行制度の即時廃止を求めてはおら
ず、また、制度廃止が邦船社の将来や国益の毀損にかかわる可能性がある以上、
我が国は 2008 年 10 月の EU の適用除外制度廃止によって生じる影響を十分検
証するとともに、我が国を含む世界のこれからの変化を見据えた上で、制度廃
止が我が国全体に与える影響をさらに慎重に検討し、我が国にとっての「最適
解」を求めていくべきであると考える。
- 63 -