米国個人消費はなぜ米国経済の救い主になり得るのか 2016年 3月14日 ゼーン・ E ・ブラウン パートナー、債券ストラテジスト 米国消費が健全であることは米国経済の伸びにとって不可欠です。消費者が支出を拡大さ せ得る 5 つの要因について以下に述べます。 要旨 米国消費セクターは同国国内総生産(GDP)の 70%近くを占めます。 米国の個人消費、ひいては米国経済成長をこの先も下支えしていくと見られる 5 つの要因を 特定し以下に挙げます。 1) 雇用拡大ペースの伸び 2) 賃金の拡大 3) ドル高を伴う石油価格の下落 4) 一段と堅調な家計バランスシート 5) 住宅市場の堅実なファンダメンタルズ 鍵となる論旨—米国経済は国内消費に支えられて予想以上に堅調に推移すると見込まれ、 2016 年の経済成長が 2015 年を上回ることも十分にあり得ます。 米国の消費セクターは米国経済の原動力であり、GDP の 70%近くを占めます。中国や他の新興諸国 経済の減速への懸念は依然としてあるものの、2016 年の初頭から、米国消費が再び経済成長率を 押し上げ他の先進諸国を上回る伸びを見せるための数多くの要因が整っているように見えます。 GDP に占める米国総輸出額の割合はわずか 13%、そして中国向け輸出の割合は 0.9%に過ぎませ ん。米国経済は他に類を見ないほど国内消費に依存しているのです。そして目下のところ消費は堅調 に推移しています。現在米国消費に影響を及ぼしている 5 つの主要な要因を見ていくと、米国が景気 後退入りする可能性は低いだけでなく、2016 年は 2015 年をしのぐ経済成長を見せる公算が大きいと 予想されます。 1) 米国雇用拡大ペースは一段と速まっている 雇用の伸びは米国消費、ひいては米国経済成長率の改善にとって必須だと言えるでしょう。米労働統 計局によるデータを基にすると、2015 年には米国内で 274 万人、月平均で 228,000 人の雇用が創出 されました。一方で、失業率は 2015 年 1 月の 5.7%から 2016 年 1 月には 4.9%に低下しています。 こうした雇用拡大トレンドはある程度の勢いを保って 2016 年も続いているものと見られます。3 月 4 日に労働統計局が発表した 2 月の雇用統計は 224,000 人増と予想以上に力強い伸びとなり、2 月ま 1 での 3 ヵ月平均は 2015 年通年の 228,000 人ペースの水準を保ちました。加えて、労働参加率はここ 5 カ月のうち 4 カ月で上昇し(11 月は変化なし)、求人の存在がこれまで求職活動をしてこなかった就 職希望者を呼び込んでいることが示されています。 求人数の増加は、雇用拡大が 2016 年も続く可能性が高いことを示す最も明確な兆候でしょう。労働 統計局の最も直近の求人労働異動調査(JOLTS)によると、2015 年 12 月の求人数は 560 万人で、 景気後退前のピークである 2007 年 3 月の 420 万人を上回っており、さらには昨年の就職者数 274 万人を大幅に上回っています。こうしたトレンドは、職に就くことは容易だとの労働者たちの見方を下 支えしており、その結果支出を継続し、また増やすことも可能だとの労働者のマインドを押し上げてい ます。JOLTS レポートでマインドの高まりを示しているひとつの指標は、労働者による離職志向あるい は離職率に表れています。離職率は景気後退前の水準に戻っており、このことは新たな、恐らく今以 上に良い職が存在するとの信頼感を示しており、これが潜在的に支出パターンと米国経済の伸びを 下支えしている恰好となっています。 2) 米国賃金の伸びが改善 米国の労働力及び労働参加率がともに拡大している中、労働市場への不信感が払しょくされれば賃 金上昇ペースは加速するはずです。こうした現象はまさに見られ始めたばかりです。労働統計局の月 次レポートによれば、過去 7 年間で初めて賃金上昇率が 2.0%を超え、時間当たり賃金は過去 5 カ月 間に約 2.4%増加しました(前年同期比ベースでは 2.0%増)。こうした流れは JOLTS レポートの 1 求 人当たりの就職希望者の減少と一致します。1 求人に対する就職希望者倍率は 2009 年には 6.8 倍 でしたが、着実に低下を続け現在では 1.4 倍となっており、景気後退前の 1.8 倍をも下回るレベルとな っています。現在の倍率から読み取れることは、2016 年は雇用者がより能力の高い就職志望者を奪 い合う形となるため、賃金圧力が高まる公算が大きいということです。 2016 年のスタートとともに 14 の州で最低賃金が引き上げられたことや、ウォルマート、ターゲット、ス ターバックスといった全米に拠点を置く主要企業が賃金引き上げを発表したことなど、その他の進展も こうしたトレンドを後押ししています。雇用の伸びがこの先も続き賃金の伸び率が上昇し続けるという 2 つの要因が合わさる形で、2016 年の消費と景気拡大を力強く押し上げていくものと見込まれます。 3) 米ドル高を伴う石油価格の下落 ガソリン価格の下落と暖房費の下落もまた消費を促進する可能性があります。2016 年 3 月 1 日時点 で、レギュラー・ガソリンの全米平均価格は 1 ガロン当たり 1.75 ドルで 、米国自動車協会によれば 1 年前の 2.40 ドルから 30%近く下落しています。同様に、2 月末の暖房費は 1 ガロン当たり 2.09 ドル で、12 ヵ月前の 3.19 ドルから 35%近い下落となっています。加えて、ドル高によって輸入品価格は低 下しており、これも消費を一段と押し上げています。労働統計局によれば、1 月の輸入品価格は 1 年 前と比べ 6.2%低下しています。 燃料費の低下と輸入品価格の下落を受け、消費者は他の製品にもより多くの支出ができるようになっ ています。石油価格とドル高が落ち着いたとしても、消費者は価格低下による相対的な恩恵を今年い っぱい享受することができると見られ、より広範な消費拡大が見込まれるとともにそれに伴う相乗効果 も高まることが予想されます。 4)米国家計バランスシートがより堅調に 雇用拡大、賃金上昇、そして商品をより安く購入できるという好条件は個人消費を刺激する要因とな る可能性が高い一方で、そうした前向きなプラス効果は、所得や購買力をも上回るペースで拡大する 新たな債務によって相殺されてしまう恐れがあります。 幸いにも、現在はそうした状況にはありません。 実際、米連邦準備理事会(FRB)の最近のレポートによれば、消費者のバランスシートは過去 30 年以 上で恐らく最も良好な状態にあります。住宅ローンと消費者債務を含む債務返済総額の可処分所得 に対する比率は、1980 年に記録を取り始めて以降最も小さくなっています。全ての金融債務を見ても 同様の結論に達します。可処分所得に対する総金融債務の比率は 1981 年以降で最も小さくなってい るのです。 2 このような健全なバランスシートが示唆しているのは、家計所得の拡大が消費者家計の健全性を損 なうことなく新たな消費をスムーズに後押ししているということでしょう。債務を増大させるという代償を 払って一段の消費拡大を進める必要はありませんが、もし消費の拡大を望む場合でも、健全なバラン スシートの存在によって、新たな消費資金を得るための信用力拡大を下支えする準備は整っていると 見られます。 5) 米国住宅市場の健全なファンダメンタルズ 最後に住宅市場-2014 年と 2015 年の堅調な米国経済の支柱であった-は 2016 年も引き続き拡大 していくものと見受けられます。世帯形成のペース、低金利、そして資金の入手しやすさは足並みを揃 えて 2016 年の住宅市場セクターの伸びを下支えしていくものと予想されます。 失望的な内容となった 2015 年第 4 四半期をよそに、ニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁は、 2016 年は世帯形成数が拡大するだろうと予測しています。ダドリー総裁は 1 月に、雇用の拡大が世 帯形成率を押し上げる公算が大きく、また低い水準にある住宅ローン利率によって住宅が比較的購 入しやすい状況が続くだろうと指摘しています。雇用の増加によって、親と同居している 18 歳から 34 歳までの層が親元を離れて自ら世帯を形成できるようになり、世帯形成数が増加する可能性もありま す。18 歳から 34 歳までで親と同居する人の比率は金融危機前の 27.5%から 2015 年には 31.5%に 上昇しています。 住宅を購入しようと考えている人々は低い住宅ローン金利による恩恵を感じるはずです。 Bankrate.com によれば、2016 年 2 月時点の 30 年住宅ローン固定金利は平均で 3.68%、15 年住宅 ローン固定金利は平均で 2.80%でした。このどちらも 2015 年の平均より低くなっています。 より重要なのは、米国の貸し手業者たちが住宅ローンの承認取得を容易にしていることです。10-12 月期の FRB による最新の上席融資担当者調査では、 融資基準を引き下げた業者の数は引き上げ た業者数を上回りました。住宅ローン基準を緩和した銀行は全体の 18%であったのに対し引き締め た銀行は 3%に留まりました。融資基準の緩和はこれで 7 四半期連続となっています。融資基準の緩 和、住宅ローン金利の低下、そして世帯形成ペースの伸びという要因が相まって、2016 年も住宅市場 が米国の経済成長に寄与するのは確かだと言えるでしょう。 総括 中国経済と他の新興諸国経済の伸びが今年減速する可能性が高いなか、着実な雇用の伸びと賃金 上昇、燃料費及び輸入品価格の下落、家計バランスシートの改善、魅力的な住宅市況によって勢い を得るであろう国内消費に支えられて、米国経済は予想以上の力強さを示す公算が大きいと見られ ます。企業支出と連邦政府予算の拡大もわずかながら寄与する形で、世界各国での経済面での障害 をよそに、2016 年米国経済は 2015 年以上の力強さを見せるものと見込まれます。 リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。一般 に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。ジャンク債と 時に称される高利回り債ではより高い価格変動リスク、流動性の低さ、適時の元利払い不履行リスク を伴います。債券はまた期限前償還リスク、信用リスク、流動性リスク、金利リスク、そして全般的な市 場リスクといった他のリスクも伴う可能性があります。通常では、より期間の長い債券は金利変動に対 してより敏感に反応します。つまり償還日までの期間が長いほど、金利変動が債券価格にもたらす影 響度は高くなります。低格付け債は高格付け債に比べて高いリスクにさらされる可能性があります。 いかなる投資戦略もすべての市場変動を克服することはできず、また将来の投資成果を保証すること はできません。 見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想を保 証ととらえるべきではありません。 国内総生産(GDP)は特定の期間内に国内で生産された製品及びサービスすべての貨幣価値であり、 通常年率ベースで算出されます。GDP には個人消費、公共消費、政府支出、投資、限定された地域 内で発生する輸出から輸入を差し引いた額全てを含みます。 3 前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可 能性があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または 一般的な市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておら ず、また法的・税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思わ れる情報に基づいて作成されておりますが、当社はその正確性および完全性について保証する ものではありません。 本資料は、情報提供を目的とした参考資料であり、有価証券の取得の申込み・取得の申込みの 勧誘・売付けの申込み・買付けの申込みの勧誘、有価証券に関する投資助言をするものではな く、以上のいずれの行為に関しても一切用いることができません。また、本資料は金融商品取引 法に基づく開示書類ではありません。 著作権 © 2016 by Lord, Abbett & Co. 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