3月号 - PVTEC 太陽光発電技術研究組合

●(国)新エネルギー・産業技術総合開発機構から松本真太郎新エネルギー部長より
巻頭言のご寄稿をいただきました。太陽光発電の技術開発方針「NEDO PV Challenges」に提示された方策と技術開発の取り組みをご紹介下さいました。
編 集 後 記
●PVTEC ニュース 第 72 号をお届けします。
●昨年 12 月に開催した第 33 回 PVTEC 技術交流会から、特集 1 で「太陽光発電の
基幹電源化へ向けて」と題した森本理事長の講演および、半年間にわたり推進した
サウジアラビア向け PV モジュールの規格改訂案提案事業をまとめました。
2016
Vol.72
●前号 71 号で取り上げた「太陽光発電システムの維持管理」を今回も特集しました。
(国)産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター 菱川善博評価標準チーム長
が、屋外における太陽電池モジュール測定の高精度化技術を紹介されています。
●PVTEC 戦略企画部会では、組合員の皆様より提案のあったテーマを自主研究とし
て取り上げる活動をしています。平成 28 年度からのテーマとしてご提案いただいた「太
目 次
陽電池リサイクル技術」「フレキシブルモジュールの寿命予測」「マイクロインバータ用
系統連携保護装置」に関連する記事を特集 3 としました。参加組合員を募集してい
ますので、関心のある方は事務局までご連絡ください。
3月号
巻頭言 太陽光発電技術開発の取組
(国)
新エネルギー・産業技術総合開発機構
●今回の産官学コラムのご寄稿は(国)産業技術総合研究所 小西博雄様とエーオン・
ジャパン㈱田中康裕様にお願いしました。小西様は太陽光発電の大量導入に向けた
課題、田中様は太陽光発電とリスクマネジメントについてそれぞれのご専門の観点か
らご執筆くださいました。
(H.S 記)
新エネルギー部長 松本 真太郎
2
特集1 第33回PVTEC技術交流会
太陽光発電技術研究組合
4
特集2 太陽電池屋外測定の高精度化
(国)産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター
菱川 善博
9
特集3-1 太陽電池モジュールの適正な使用後処理のために
みずほ情報総研㈱ 河本 桂一
12
特集3-2 フレキシブル太陽電池
FWAVE㈱ チーフテクノロジーオフィサー
高野 章弘
16
特集3-3 ACモジュール
(マイクロインバータ)
用系統連系
保護装置の試験方法
テュフ ラインランド・ジャパン㈱ 製品部太陽光発電課
アジア太平洋地域課長 五十嵐 広宣
18
コラム 産官学
ニュース
平成28年3月15日
2016 Vol.72 3月号
発行所:太陽光発電技術研究組合
発行人:池田祐一
〒105-0011 東京都港区芝公園3丁目5番8号 機械振興会館2階
Tel 03-6403-4800
印刷所:(株)
サンワ
古紙配合率100%再生紙を使用しています
Fax 03-6403-4801
太陽光発電の大量導入に向けての課題と現状
(国)
産業技術総合研究所 小西 博雄
21
リスクマネジメントの歴史と太陽光
エーオン・ジャパン㈱ マーケティングマネージャー/
リスクコンサルタント
田中 康裕
22
委員会・分科会活動報告
事務局
23
編集後記
事務局
24
PVTEC 太陽光発電技術研究組合
Photovoltaic Power Generation Technology Research Association
巻頭言
太陽光発電技術開発の取組
(国)新エネルギー・産業技術総合開発機構
新エネルギー部長 松本 真太郎
NEDO は、1980 年の発足当初から、一貫して太陽電池の発電効率向上と低コスト化に向
けた技術開発に取り組んでまいりました。その結果、当初、1 ワット当たり数万円もした高
価な太陽光発電システム価格は、今ではその 100 分の 1 程度にまで低下し、太陽光発電は特
別なものではなく身近なエネルギーとなったことは大きな成果と言えます。
これを基礎として、2012 年 7 月にスタートした再生可能エネルギーの固定価格買取制度、
所謂 FIT により太陽光発電の導入量が急増し、2015 年 10 月末時点の住宅用と非住宅用を
合わせた累積導入量は 28 GW を超え、太陽光発電の大量導入社会の実現に向けて着実に進
んでおります。
また、東日本大震災以降、これまで以上に再生可能エネルギーの普及が重要視される中、
経済産業省はエネルギー基本計画の方針に基づき 2015 年 7 月に「長期エネルギー需給見通
し」を決定し、2030 年度の電源構成に占める再エネ比率 22~24%を目標に掲げました。な
かでも太陽光発電は、その核となることが期待されています。
更に、この4月から電力の小売全面自由化が始まることにより、消費者はどの電力会社か
ら電力を購入するか選択肢が増えることと同時に、電気料金の節約も期待ができます。その
際、発電した電気は従来の化石燃料によるものなのか、或いは太陽光や風力、バイオマスと
言った再生可能エネルギーによるものなのか、電力源が何かを基準に電力会社を選択する人
がいるかも知れません。いずれにしても、再生可能エネルギーが電力源の一つの柱として大
きく期待されていることは間違いありません。
しかし、一方で依然として太陽光発電による発電コストは従来型の化石燃料はおろか、他
の再エネと比べても割高である、電力系統への接続問題、FIT による電気料賦課金の国民
負担の増大などの課題も抱えております。
そこで、NEDO は 2014 年 9 月に、これまでの「太陽光発電ロードマップ(PV 2030 +)」
2
から 5 年振りに、太陽光発電の新たな技術開発指針「太陽光発電開発戦略(NEDO PV
Challenges)
」を策定し、
〔1〕発電コストの低減、
〔2〕信頼性向上、
〔3〕立地制約の解消、
〔4〕
リサイクルシステムの確立、
〔5〕産業の高付加価値化、の 5 つの方策を提示し、以下の技術
開発を推進しております。
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① 「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発」(平成 27~31 年度)
発電コストで 2020 年に 14 円 /kWh、2030 年に 7 円 /kWh を目標に、太陽電池の高効率
化と低コスト化の技術開発と、高精度な測定や寿命評価など基盤技術の開発を実施してい
ます。
② 「太陽光発電多用途化実証プロジェクト」(平成 25~28 年度)
導入が困難とされる建物壁面や傾斜地、農地、水上と言った立地制約のある場所への普
及を目指した技術開発を実施しています。また、様々な使用環境で求められる条件に応え
るため、発電以外の特性(色等の外観)や、新たな使い方の提案等、多様な開発を進めて
います。
③ 「太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト」(平成 26~30 年度)
大量に普及した太陽光発電システムが将来、大量に廃棄されることを想定して、循環型
社会システムの構築を目指して、太陽電池の低コストリサイクル技術の開発を実施してい
ます。更に、リユースについても検討を進める予定です。
④ 「太陽光発電システム効率向上・維持管理技術開発プロジェクト」(平成 26~30 年度)
太陽電池以外の周辺機器や維持管理に関するコスト低減技術の開発を実施しており、太
陽光発電技術研究組合(PVTEC)には、
「次世代長寿命・高効率パワーコンディショナの
開発」及び「次世代長寿命・高効率 AC モジュールの開発」の 2 テーマで NEDO との共同
研究開発に参画いただき、その成果が期待されているところであります。
また、昨年の台風被害で見られた様に、パネルの飛散や水没による漏電など太陽光発電
システムの安全性について注目されたことを受け、平成 28 年度より同プロジェクトにお
いて太陽光発電の「安全確保」のための技術開発に取り組んでいきます。
最後に、「太陽光発電開発戦略(NEDO PV Challenges)」での目標を達成するためには、
前述した以外にも、住宅用も含め各発電サイトの発電量を把握し必要に応じて制御、或いは
蓄電池と組み合せたシステムの開発や、需要地に近接した場所での電力ニーズへの対応等、
系統を含む周辺技術等、様々な角度からの技術開発が必要です。このためには、我が国の各
種産業の優れた技術の結集が必要不可欠であることから、引き続き NEDO 事業への御理解
と、御支援をよろしくお願いいたします。
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特 集
1
開催報告
第 33 回 PVTEC 技術交流会
太陽光発電技術研究組合
第 33 回 PVTEC 技術交流会が 12 月 2 日(水)、機械振興会館 6 階 6-66 会議室で開催された。
最初に、太田技術交流部会長からプログラム企画のコンセプト─ソーラー機運後退の危機を
乗越えてチャンスに─について報告があり、その後、PVTEC 事業報告として、特別事業で
実施している NEDO 共同研究事業について、田淵電機㈱様、ポニー電機㈱様から、経産省委
託事業について㈱カネカ様から進捗報告があった。自主事業である戦略企画部会からは、新
規活動テーマについて日東電工㈱様、ダイキン工業㈱様、テュフラインランドジャパン㈱様
から提案があった。
第 33 回 PVTEC 技術交流会 ─ソーラー機運後退の危機を乗越えてチャンスに─
日時:平成 27 年 12 月 2 日(水)13:00~17:15
場所:機械振興会館 6 階 6-66 会議室
13:00 開会挨拶
技術交流部会長 大日本印刷㈱ 太田 善紀様
13:05 PVTEC 事業報告
(1)次世代長寿命・高効率パワーコンディショナの開発
田淵電機㈱ 岡本 光央様
(2)次世代長寿命・高効率 AC モジュールの開発
ポニー電機㈱ 長井真一郎様
(3)建築物一体型太陽光発電モジュールの国際標準化
㈱カネカ 中島 昭彦様
(4)戦略企画部会報告
新規テーマ提案①
日東電工㈱ 椙田 由考様
新規テーマ提案②
ダイキン工業㈱ 午坊 健司様
新規テーマ提案③
テュフラインランドジャパン㈱ 五十嵐広宣様
14:20 理事長講演
「太陽光発電の基幹電源化へ向けて」
理事長 森本 弘 15:10 PVTEC 事業特集 1「PV システムの健全性維持に向けて」
(1)PV システムの健全性維持のために
デュポン㈱ 柴田 道男様
(2)家庭用 PV システムの実態と健全性維持の取組み
PV-Net 都筑 建様
(3)大規模発電所の実態と健全性維持の取り組み 日本 PVプランナー協会 池田 真樹様
(4)屋外環境下における IV 測定方法の標準化 太陽光発電技術研究組合 池田 祐一 4
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16:30 PVTEC 事業特集 2「グローバル展開」
「サウジアラビア PV モジュール基準認証事業総括と今後の取組」
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 近藤 道雄様
17:10 閉会挨拶
太陽光発電技術研究組合 専務理事 高塚 汎 4
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事業報告に引き続き、森本理事長より、
「太陽光発電の基幹電源化へ向けて」と題した講演
があった。
さらに PVTEC 事業特集 1「PV システムの健全性維持に向けて」では、健全性維持に関す
る取組について、デュポン㈱様、太陽光発電所ネットワーク様、日本 PV プランナー協会様
から報告頂くと共に、屋外環境下における IV 測定方法の標準化に関する報告を事務局より
行った。
PVTEC 事業特集 2 では、「グローバル展
開」としてサウジアラビア事業に関する報
告が産総研近藤道雄様から行われ、最後に
PVTEC 高 塚 専 務 理 事 が 閉 会 の 挨 拶 を し
た。
以下に森本理事長の講演と近藤様による
サウジアラビア事業に関する報告をまとめ
る。
理事長講演「太陽光発電の基幹電源化へ向けて」
理事長 森本 弘
ソーラーのここ数年の躍進から思うと、少し気運が後退している。ここをどうやって乗り
越えたらよいかという事が本日の論点である。
・太陽光の国内市場は、設備認定容量が
82GW に達し、累積導入量は、平成 27 年
6 月時点で、26GW である。将来の導入量
は 64~80GW と予測されており、そろそ
ろブレーキがかかり始めている。原子力
発電の再稼働遅延や将来の縮小方向、化
石エネルギーのコストと温暖化による縮
小などから、再生可能エネルギーにシフ
トすることは間違いない。
・世界市場においても、IEA で、再生可能
エネルギーの将来性が議論されている。
世界のエネルギー需要は2040年までに37%増加するが、より分散的になってくる。原子力
については、約 200 基の原子炉が 2040 年までに退役し、その大半は欧州、米国、ロシア、
日本の原子炉である。発電量不足が欧州、ロシア、日本で深刻化する。
・欧州では、原子炉の置き換えの多くを再生可能エネルギーで補おうとしている。ドイツの
自家消費を促す導入政策、英国におけるエネルギー効率改善による再生可能熱のインセン
ティブ制度など、量的拡大から、質への変化、使い方への補助というところに変わってい
る。
・太陽光発電のデメリットは、エネルギー密度が低いことである。火力・原子力と同じ電力
量を得ようとすると広大な面積が必要になる。また夜間は発電できず、雨天・曇天の日は
発電出力が低下し不安定になる。エネルギー密度の低さという点については、現在市場が
広がりつつある屋根利用と、発電効率のより高効率化が解決策になる。夜間に発電できな
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い、天候による低出力については、蓄エネによる平準化や調整電力の活用とか、発電量予
測や需要の変動とか、社会全体として安定的に使える方向に持っていくことを考えていく
べきである。
・発電コスト目標について、NEDOPVChallenges では、2020 年にはシステム価格 20 万円 /
kW(発電コスト 14 円 /kW)、2030 年には 10 万円 /kW(発電コスト 7 円 /kW)にまで落と
すとしている。太陽光発電が基幹電源になるためには、この目標を達成することは必須で
ある。
・2020年の14円/kWhの実現については、いろいろな技術が出てきて、達成できそうである。
ウエハを薄型にして安くするとか、エネルギー変換効率も様々な技術で 25%が達成しつつ
ある。PVTEC の事業でやっているパワコンの長寿命化も発電コスト低減に貢献する。基
幹電源化をするためにはさらにコストを下げ、発電の密度を上げて、社会に受け入れられ
る必要がある。
・2030 年に向けては、高密度発電を目指した方が良い。40%の高効率で低コストとなると、
ほぼ化合物系に絞られる。日本の独自技術で、デバイス製造から垂直統合で化合物系を安
く作り、日本のエネルギー安全保障が世界をリードしていくべきである。
・7 円 /kWh の低コスト化ターゲットを化合物系で達成すると、エピ材料費低減、基板コスト
低減等の課題があるが、量産効果でコストを 1/150 にできれば今のシリコンと同じ値段に
なる。化合物系は吸収係数が大きい材料を使っているので、太陽電池層は 2μm でよいが、
これをエピタキシャル成長させるゲルマニウム基板が高い。より安価な基板の上に太陽電
池を乗せるようにすれば、少なくとも材料費については 1/100 オーダーに下げられる。
・ 日 本 の 屋 根 に は 2014 年 の 実 績 で 平 均
4.56kW の 太 陽 電 池 が 付 い て い る。 モ
ジュール変換効率は 15%、設置面積は
2
30.4m である。これを2030年に変換効率
35%にすると、10,640kWh の年間発電量
が得られる。一方、世帯当たりのエネル
ギー使用量は 9,696kWh/ 年であるので、
自分の屋根で作った電力で給湯のエネル
ギーまで賄えることになる。
・もう 1 つ大事なのは、システム化、多様
化である。社会全体としてこの不安定な
電源を安定して使う取り組みである
(Battery、HydrogenStorage、HeatPumpWater-Storage 等)。社会全体で、そのエネル
ギーをマネジメントして、需要と供給をコミュニティ全体で制御するシステム化が必要な
時代が来ると思う。農業分野、農地への展開がこれから大事になってくる。
・2020 年についてはほぼ課題克服が見えてきた。2030 年にかけては、高密度発電という事を
重視するべきである。太陽光発電のシステム化については、多用途化して便利な電源、コ
ミュニティ全体で便利に使える電源、こういうモノを目指していくべきである。再び社会
を牽引する太陽光発電産業をぜひとも皆さんで作って行こう。
6
Q:山手線の内側に全部敷き詰めると原発一基分という話だが、私の計算では、23 区の既存
の個人住宅の屋根に載せると、日本中の電気 1 年分の 1% を賄える。大分違う答えが出てく
る。
A:世の中の人はこんなことを思っているのだという意味で例に上げた。
C:山手線の内側というのは、広いと思わせる比喩である。変換効率 10%で計算されてお
り、現在のシステム効率と異なる。屋根の上と書いてあり、山手線の中を太陽電池で埋め
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つくすという話ではない。NEDO40 周年記念講演会の時に、講師のひとりである堺屋太一
さんは、重要なキーワードを 2 つ言っていた。1 つは、日本人は土地が無いと思っている
が、土地はあまるほどある。なぜなら、80GW 以上申請が出て来たからである。もう 1 つ
は、NEDO の PV ロードマップでは寿命の軸が入っている。寿命を延ばせば値段が下がる。
NEDO PVchallenges を見て、バランスを取ってやってほしい。
PVTEC 事業特集2 グローバル展開
「サウジアラビア PV モジュール基準認証事業総括と今後の取組」
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 近藤 道雄様
サウジアラビアという世界で一番石油産出量の多い国に、太陽電池を入れるという壮大な
プロジェクトの話である。
・これから国内マーケットはどんどん縮小
していくし、新しいマーケットを探さな
いといけない。中東、東南アジア、北ア
フリカなど、日射の強い地域に特に太陽
電池を置く事は極めて自然な流れであ
る。しかし砂漠が傍にあるので、砂が堆
積し、温度差が激しく、新たにメンテナ
ンスの問題が発生してくる。
・いわゆるMENA地域では、日射量が日本
のほぼ倍あるので、年間発電量もほぼ倍
であり、稼働率は 2 倍になる。従って発
電コストは半分になる。現時点で、ドバイでは 6 セント以下、日本円にしてすでに 7 円 /
kWh 以下の金額で電力を販売している。従って、これから日本が 7 円 /kWh を実現してこ
こに持っていくと、3 円 /kWh になるわけで、場合によっては、産油国での石油火力を駆逐
するという事も十分ありうると考えられる。
・リスクもある。ヨーロッパで 25 年保証されているモノが、単純に暑いところにもっていく
だけで、寿命が 1/10 になってしまう可能性がある。リスクの回避手段について、規格で解
決しようというのが、このプロジェクトの始まりである。
・サウジの人たちは、まずポリシーであるとかルールであるとか、グランドデザインをして
から物事を始める。今回の PV の規格は、どういうモノを入れれば良いのか、そのルール
はどうするのかという事をまず決めようというのがこのきっかけになっている。
・この話の相談を最初に受けたのは、2013 年の 4 月で、丁度プロジェクトの公募が出たころ
である。取るのは難しいけれども、意義はあるのでやってみようということで、2013 年 9
月に応募した。遅々として進まなかったが、2014 年 11 月に最終採択を頂き、2015 年の 2 月
にキックオフをした。そこから 6 か月間のプロジェクトで、規格策定委員会を開催し、規
格原案を提案した。2015 年 8 月にお披露目のワークショップをリヤドで開催した。
・IEC スタンダードを出発点にすることになるが、IEC61730 の AB8 という気候区分では、気
温の最高値が 40℃となっており、それに対して先回りをして規格を作ることになった。
・過去 1 年間について、サウジアラビアのいくつかの地域について温度を調べた。その結果、
大体 47、48℃から 50℃くらいというのが、少なくとも計測された地点の中では最高気温で
あった。そこで、私たちの結論は、50℃を 1 つの上限としてよいということである。
・次に問題になるのは、モジュールの温度である。そこでまず、ケミトックスに協力いただ
き屋内での計測をしたところ、80~90℃であった。その後、リヤドの KACST に場所を借
りて、温度を測る実験を半年間行った。8 月ごろに気温は恐らく 40℃以上あったと思うが、
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その時の最も高いモジュール温度が、実は 76℃しかなかった。10 月に入って気温が若干下
がっているが、一番高かったのが 82℃であった。こういうデータや技術的観点に基づい
て、温度条件を 10℃上げる、年間照射量は 2 倍にする提案をした。
・いろいろなレビューアーからのフィードバックがあったが、共通していたのは特有の地域
に適合した標準化は必要であるという事である。非常に面白かったのは、First solar の人
から、とにかく厳しくしろとのコメントが出てきたことである。結晶シリコンのサンパ
ワーからも、サーマルサイクルは 500 回では足りない。700 から 1000 回やらないとフィー
ルドのフェイラーというのは再現できないと、アグレッシブな意見が出て来た。
・これからは中東地域が有力な市場であることはおそらく間違いない。その中での現地実
績、或いは現地データの取得という事を是非、サウジの方々に達成して頂きたいと考えて
いる。
Q:この基準作成は終わったのか。終わっ
たとすればそろそろ我々の出番が来るの
か。
A:大変良い質問である。基準というのは
できたとしても実際に施行されるまでに
結構時間がかかる。IEC 規格が改定の途
上にあるので、今スタートすると古い基
準をベースにすることになってしまう。
新しい IEC 規格とどう整合させながら施
行するかは、我々の問題ではなくてサウ
ジ(SASO:日本でいう規格化協会)の
問題である。できるだけ、日本の企業の方の出番が早く来るように、アドバイスしたい。
サウジの人は、日本製品が大好きである。その一方でやはり経済性に対して厳しいので、
上手に提案をして、経済性も含めて、合理的な説明をすれば、間違いなく日本の製品は普
及していくと考えている。
Q:2030 年に石油が無くなって、問題になるという危機が近づいているようである。そうい
う中で、サウジアラビアの再生可能エネルギーへの展開の政策というのは、どうなるのか。
A:現時点でサウジアラビアという国が、10 年位で破たんすると考えるのは現実的でない。
財政が厳しいのは、石油とか水とか、生活必需品に多くの補助金を出しているからである。
補助金を切ることで出る社会的影響を王族など上層階級は非常に恐れていて、簡単には補
助金はなくせないというジレンマがある。石油は国内消費するよりは外に売った方が高い
ので、国内消費を減らして、外に売る。同時に電力の国内消費が増えてくる事情を考える
と、太陽光を入れるというのは、多分他に選択肢がないという事だと思う。そういう意味
で、これからサウジが太陽光の大きな市場になる可能性は非常に大きい。
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特 集
2
太陽電池屋外測定の高精度化
(国)産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター
菱川 善博
1.はじめに
太陽光発電の進展に伴って太陽電池の設置数が年々増大し、実際に稼動する屋外で性能を
高精度に評価するニーズが益々高まっている。従来は屋外の自然太陽光下における太陽電池
の性能測定は、ソーラシミュレータを用いた屋内測定に比べて再現性や精度が劣る場合が多
[2]
。現状でも太陽
く、高精度な測定は快晴日等の日射安定時に限られるのが実情であった[1]
電池の屋外測定はモニタリングや発電量推定等に広く用いられているが、日射変動時を含め
た幅広い条件下で高精度化、高能率化を図るための検討は従来行われていなかった。我々は
最近、掃引時間 100ms~200ms の高速 IV 測定と PV 日射センサによる日射の高速モニタ、及
び高精度モジュール温度計測等の技術を用いることによって、
「曇り時々晴れ」等の日射変動
が顕著な天候下でも±1~2%と非常に良い再現性で IV 特性と最大出力 PMAX、短絡電流 ISC、開
放電圧 VOC、曲線因子 FF 等のパラメータを測定可能であることを明らかにした[3]-[6]。この技
術によって従来よりも遥かに低コストかつ高精度に太陽電池の屋外測定が可能となることが
期待できる。
本稿では産総研(茨城県つくば市)における様々な照度・温度条件(図 1)の太陽電池モ
ジュール測定結果(図 1)を基に、太陽電池屋外測定高精度化技術の概要を紹介する。
Module temperature Tm (ºC)
60
40
20
0
0.4
0.6
Isc/Isc0
0.8
1.0
図 1(a)太陽電池屋外測定実験装置(産総研、つくば市)。(b)架台設置太陽電池モジュールの、モジュー
ル温度 Tm 及び短絡電流 ISC の頻度分布の一例(2015 年 5 月)。ISC は STC における値 ISC0 で規格化した。
2.日射変動中の太陽電池測定
快晴日はそれほど頻繁に得られるものでは無い。例えば日本の年間平均快晴日数(雲量<
1.5)は地域により約 7~59 日であるのに対して、晴天日数(雲量≦8.5)は同約 159~250 日と
はるかに多い[7]。従って、快晴日に加えて図 2 のような晴れ時々曇、曇時々晴れ等の日射変
動が顕著な日にも測定可能とすることができれば、屋外における高精度なIV特性の測定機会
が大幅に増加することが期待できる。日射変動が大きい日でも、短時間のうちに電流電圧特
性(IV 特性)を測定することによって、高精度な屋外太陽電池測定の実現が基本的に可能で
あることを我々は最近報告した[3]-[6]。例えば図 2 のように日射変動が顕著な日においても、
IV 特性を測定する掃引時間が 100ms-200ms と短い場合には、測定中の日射変動は ±0.4% 以
内の頻度が90%程度以上であり、±1%以上の変動が観測されることは稀であった。これらの
変動率は屋内で高精度な太陽電池測定を実施する場合とほぼ同等かそれより小さなものであ
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12
Frequency
Relative
frequency (%)
Isc / Isc0
12
Module temperature Tm (ºC)
り、変動率の観点では屋外でも十分に高精度な測定機会が得られることを示している。照度
の絶対値も図 1
(a)の装置で 1kW/m2 以上観測された日が半数以上、0.8kW/m2 以上が観測さ
れた日が 3/4 以上と、高精度な性能評価に十分な日射が得られる機会が多いことが確認され
た(2015 年中の傾斜角 20 度、南面固定設置で測定した 256 日間の割合)。日射変動が顕著な
日には、雲による日射の増強効果を有効に利用できることも、測定機会が増加する要因に
[5]
。
なっている[3]
太陽電池の性能評価では、入射する光の照度(日射強度)の計測が重要である。結晶 Si 太
陽電池の応答速度は日射の変動より十分速いので、被測定太陽電池と同じ基本構造の結晶 Si
太陽電池を照度センサとして使用することにより、掃引速度 100ms~200ms の高速測定にお
いても、高精度な照度測定が可能となる。なおサーモパイル等の熱的なセンサを用いた通常
の日射計は、時定数が 1 秒~10 秒程度と比較的長いため、図 2 のような日射変動日には応答
が遅れ、測定誤差が生じる[3]-[5]。被測定太陽電池との分光感度の類似性も、太陽電池を照度
センサとして用いることの大きなメリットであり、実際屋内での高精度測定では基準太陽電
池で照度を測定・調整することが基本である。
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
100
msec.
100 ms
2014-5-28
200ms
msec.
200
1.4
2014-5
2014/5/28
1.2
1
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1 ssec.
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time:
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5 s5 sec.
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0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
1
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0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
7
Variation of irradiance (%)
図 2(a)日射変動が顕著な日の照度およびモジュール温度の日内変動の一例。(b)日射変動が顕著
な日の、様々な掃引時間の範囲内における日射変動率の頻度分布の一例。
10
3.幅広い条件下での太陽電池特性測定
図 1
(b)に示したように、屋外で太陽電池モジュールは幅広い温度照度条件で稼動するの
で、季節や日射の入射角度等の条件に左右されず、同一の日射強度・モジュール温度におけ
るIV特性測定結果が良く再現する測定方法、測定条件を明らかにすることが重要となる。市
販の結晶Si太陽電池モジュールについて、年間を通したIV特性の屋外測定結果を屋内高精度
測定結果と比較した一例を図 3 に示す。図 3(a)は ISC=0.9 * ISC0(0.9kW/m2 相当)、モジュール
温度 50℃の条件で 2014 年 4 月、8 月、10 月、11 月に、図 3(b)は ISC=0.7 * ISC0(0.7kW/m2 相
当)、モジュール温度 40℃の条件で 4 月、10 月、翌年 3 月、6 月に測定したものである。いず
れの場合も上記の掃引時間 200ms の屋外測定結果は PMAX で ±1% 程度以内に一致しており、
屋内測定結果とも同等の一致が得られた。この結果は日射変動時の幅広い条件下で、屋内測
定に匹敵する高精度な性能評価が可能なことを示している[3]。照度変動を抑える観点に限れ
ば、測定時間は短いほど有利だが、一方で最近の a-Si/ 結晶 Si ヘテロ接合太陽電池や裏面電極
太陽電池等は、測定時間が200ms程度以下では容量成分に起因するIV特性測定誤差が無視で
きないことが知られている[8]。両方の要求を満足する条件として本稿では掃引時間 200ms で
のIV特性測定結果を紹介する。測定の精度・測定頻度・コストを含めた最適条件は、太陽電
池の種類に依存すると思われる。なお図3では被測定モジュールのISC0 が既知であり、基本的
な再現性の検証を行うために、ISC を日射強度の目安とした。実際の屋外測定では ISC0 が既知
ではなく、
STCにおけるISC が既知のPVセル等を日射センサとして日射強度を計測するため、
それに関連する測定誤差を考慮する必要がある。その場合センサの分光感度、角度特性等が
被測定太陽電池と近いことが望ましい。図1(a)の計測装置では5インチ結晶Siセルを市販モ
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図 3 年間を通して様々な季節及び時間に測定した屋外 IV 特性測定の再現性の一例。(a)Isc = 0.9 *
I SC0、50℃、(b)I SC = 0.7 * I SC0、40℃。屋外測定結果を各色の細線で、同条件の屋内測定結果を黒
色の太線で示す。
ジュールと同様にラミネートしたものを使用し、上記のように十分な高精度を確認してい
る。更に小型化等を含めて最適構造が現在検討されている[9]。
4.今後の課題
本稿では IV 測定時の掃引時間(測定時間)を 200ms 程度以内に高速化することにより、日
射変動の影響を実用上無視できる程度に抑えて、結晶 Si 太陽電池モジュールの高精度な屋外
IV 特性を実現することが可能であることを紹介した。屋外での性能評価を更に実用的なも
のとするために、様々なタイプの太陽電池モジュールや測定装置を用いた測定精度を検証す
ることも今後の課題である。本稿では割愛したが、屋外におけるモジュール実温度の高精度
な計測や日射変動、スペクトル変動も屋外測定の高精度化に重要な要素である。測定の高能
率化やアレイ計測への応用と共に今後更に技術開発と検証が必要であり、現在 NEDO プロ
ジェクト「太陽電池性能高度評価技術の開発」において研究開発が進められている。
謝辞:本稿の内容の一部は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの受託研究
の一環として実施されたものであり、関係各位に感謝する。
参考文献
[1]K. Paghasian, G. TamizhMani,“Photovoltaic module power rating per IEC 61853–1: A
studyundernaturalsunlight”
SolarABCStudyReport(2011)(www.solarabcs.org)
[2]EuropeanCommissionJointResearchCenter,“GuidelinesforPVPowerMeasurementfor
Industry”(2010)JRCScientificandTechnicalReportsEUR24359EN
[3]菱川、土井、比嘉、山越、大島、増田、若林“太陽電池屋外高精度評価技術~幅広い日射強
度・温度範囲における高精度測定の検討~”太陽 / 風力エネルギー講演論文集(2015)25-28
[4]菱川、深堀、武内、
“太陽電池高精度屋外測定技術”太陽 / 風力エネルギー講演論文集(2014)
305-308
[5]Y.Hishikawa,K.Yamagoe,H.Ohshimaetal.,“NewTechnologyforPreciseOutdoorPV
ModulePerformanceMeasurements",42ndIEEEPVSC,NewOrleans(2015)
[6]A. Fukabori, T. Takenouchi, Y. Matsuda et al.“ Study of highly precise outdoor
characterization technique for photovoltaic modules in terms of reproducibility”, Jpn. J.
Appl.Phys.54(2015)08KG06
[7]国立天文台編、理科年表 気象部より。なお雲量<8.5 未満の晴天日数は(365.24 日-雲量≧
8.5 以上の日数)で計算した。
[8]Y.HISHIKAWA
“TraceablePerformanceCharacterizationofState-of-the-ArtPVDevices”
Proceedingsofthe27thEUPVSEC,Frankfurt,(2012),pp2954-2960
[9]土井、菱川、比嘉、大島、山越“PVモジュール日射センサー構造の最適化~ダミーセルサ
イズの影響評価に関する予備試験結果”太陽 / 風力エネルギー講演論文集
(2015)
29-31
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特 集
3-1
太陽電池モジュールの適正な使用後処理の
ために
みずほ情報総研㈱
河本 桂一
1.はじめに
長きに亘る技術開発に裏付けられた製品性能に支えられ、太陽光発電の導入は着実に拡大
している。とりわけ、2012 年に施行された固定価格買取制度によって、ここ数年は導入量が
急速に増加し、2015 年 10 月末時点の累積導入量は約 29GW に達した(固定価格買取制度施行
[1]
。固定価格買取制度における太陽光発電の取扱につい
以前導入分に対する移行認定含む)
て様々な議論が実施されているところであるが、将来の基幹電源の一つとして今後の導入拡
大が期待されていることに変わりはなく、太陽光発電の長期安定電源としての健全性を維
持・向上していくための議論も実施されている。
太陽光発電の健全性とは? 適正な施工、適切な保守管理が実施され、長期間に亘り不具
合なく電力を供給し、設置者(所有者)や設置場所の周辺環境にとっての安心・安全を確保
するのはもちろんのこと、発電設備としての役目を終えた後(不具合による交換含む)に適
切な使用後処理が施されることも含まれる。
本稿では、太陽光発電システムの核である、太陽電池モジュールの使用後処理に焦点をあ
て、昨今の動向や今後の取り組みについて、私見を交えて述べてみたい。
2.使用済太陽光発電の適正処理に推進に向けたロードマップ
日本における太陽電池モジュールの使用後処理に関しては、NEDO による技術開発(後述)
等が実施されているほか、資源エネルギー庁 / 環境省においても再生可能エネルギー設備の
適正な使用後処理に関する検討が行われている。
平成 26 年度の資源エネルギー庁 / 環境省による検討会[2]において、使用済太陽光発電の適
正処理の推進に向けたロードマップが示された(図 1)。回収・適正処理・リサイクルシステ
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図 1 使用済太陽光発電設備のリサイクルを含む適正処理の推進に向けたロードマップ[2]
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ムの強化・構築、技術開発支援、環境配慮設計の推進、ガイドライン作成などが掲げられて
おり、技術開発支援としてはリサイクル技術開発への支援、リユース・リサイクルの実証事
業実施などが挙げられている。
使用済み太陽電池モジュールの発生量が少ない間は、現在の産業廃棄物処理の仕組みにお
いて、ある一定の適正な使用後処理が施されるであろうが、発生量が急増した場合への適応
性は明らかではない。使用済み太陽電池モジュールが大量に発生した場合にも適正に処理す
るための方策を早期に準備しておく必要がある。
3.太陽電池モジュールのリサイクル等に関する技術開発
(1)NEDO による技術開発
太陽光発電技術開発における太陽電池モジュールリサイクルに向けた最初の取り組みは、
「平成10~12年度 太陽光発電システム実用化技術開発/太陽光発電利用システム・周辺技術
の研究開発「新建材一体型太陽電池モジュールの研究開発」
(実用化解析に関する調査研究)
」
(NEDO/PVTEC)のもとで平成 12 年度に設立・運営された「リサイクル小委員会」による、
[3]
であろう。
「太陽光発電システムのリサイクル・リユース処理技術に関する調査研究」
この調査研究を経て、平成 13~17 年度に「太陽光発電技術研究開発 / 太陽光発電システム
共通基盤技術研究開発/太陽光発電システムのリサイクル・リユース処理技術等の研究開発」
が実施された。この研究開発は、PVTEC が幹事となり、シャープ、産総研、昭和シェル石
油、旭硝子が参加した[4]。この当時は、Si 価格が高く、結晶 Si モジュールから Si セルを回収
し、セルとして再生、あるいは Si 原料としてのリサイクルすることによって、モジュールコ
ストの大幅低減に資することも期待されていた。
その後、市場の関心が世界的な急速な導入拡大への対応に引き寄せられたこともあり、太
陽電池モジュールリサイクルに関する目立った研究開発は実施されていなかったが、平成 22
年度になり、
「太陽エネルギー技術研究開発 / 太陽光発電システム次世代高性能技術の開発 /
広域対象の PV システム汎用リサイクル処理手法に関する研究開発」
(幹事:北九州産業学術
。平
推進機構(FAIS)
)が実施された(PVTEC ニュースVol.65、2013 年 11 月号[5]をご参照)
成 26 年度からは「太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト」(~平成 30 年度)が開始さ
れ、このプロジェクトのもと、平成 27 年度には表 1 に示す「低コスト分解処理技術実証」テー
マが採択された[6]。
これらはいずれも「モジュール構造の分離・分解→有価資源の高収率での回収」を効率的、
経済的に実用可能とすることを目指している。
表 1 平成 27 年度「太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト」に係る採択先一覧[6]
研究開発テーマ
採択先
ウェット法による結晶系太陽電池モジュールの高度リサ 東邦化成株式会社
イクル実用化技術開発
合わせガラス型太陽電池の低コスト分解処理技術実証
ソーラーフロンティア株式会社
PV システム低コスト汎用リサイクル処理手法に関する 株式会社新菱
研究開発
結晶シリコン太陽電池モジュールのリサイクル技術実証
三菱マテリアル株式会社
ホットナイフ分離法によるガラスと金属の完全リサイク 株式会社浜田
ル技術開発
株式会社エヌ・ピー・シー
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(2)新たな技術開発の方向性
現在実施されている技術開発が着実に推進されることの必要性は言うまでもないが、加え
て、以下のような方向性もあると考えられる。
① 結晶 Si セルの再生・再資源化
以前と比較して、現在実施されている技術開発は、結晶 Si セルへの着目度はあまり高くな
いものと見られる。この理由として Si 価格が比較的安定的に安価で推移していること、結晶
Siをセル/ウェハーあるいは原料として高純度かつ経済的に回収することが困難であること、
などが考えられる。しかしなから、言い換えれば、結晶 Si セル(あるいは Si 原料)を高純度
かつ経済的に回収する技術が見出されれば、新たな活路が開けるのかもしれない。例えば、
太陽電池セル原料を太陽電池セルとして再生する。十数年使用した結晶Siモジュールからセ
ルを原型のまま回収し、表面処理を施し、最新のセル作製技術により再生したところ、セル
効率が上昇したという報告[7]がある。欧州では結晶 Si モジュールから回収した Si セルを Si 原
料に戻し、低コストでセル・モジュールとして再生するためのプロジェクトが開始された[8]。
② 回収・再生資源を用いたモジュール作製と耐久性試験
上述のセル再生に加え、セル以外の原料も太陽電池モジュールに戻すこと、使用済み太陽
電池モジュールからの回収物を可能な限り太陽電池モジュールに戻すというループを目指す
価値があると思われる。
このようなことを目指すためには、太陽電池モジュールからの原料資源の回収を効率的・
経済的に実現することはもちろんのこと、回収・再生資源を使用した太陽電池モジュールの
作製、それらの耐久性試験も実施していく必要があるであろう。
③ リユース・リサイクルのための寿命予測
再生したモジュールを市場に戻すためには製品としての保証の与え方も重要となってく
る。初期製品(新品)に対する数十年保証のような必要はないとすれば、何年程度の性能保
証ができるのか、その基準はどうするか、といった議論、技術的な検証が必要であろう。用
語としては「性能保証」というよりも「寿命予測」の方が正しいのかもしれない。
寿命予測を可能とする技術が確立された場合、再生モジュールの性能のみならず、撤去さ
れ市場から回収されたモジュールの残寿命の予測にも適用することができる。回収された太
陽電池モジュールの性能を予測し、一定以上の性能を有するものをリユース可能なものとし
て選別する。いわゆるリユースモジュールである。そして、それ以外はリサイクルする。
リユースモジュールの市場が形成されるためには、リユースモジュール販売・提供者の責
任範囲や商品ラベル・銘板のあり方など、商習慣としての基本的なルールが必要不可欠とな
るが、同時に必要となるのが、製品性能の把握、判定方法である。平成 26 年度までの「太陽
光発電システム次世代高性能技術の開発 / 発電量評価技術等の開発・信頼性及び寿命評価技
術の開発」において、
「リユースモジュールのガイドライン[素案]
(結晶 Si 系モジュールの再
[9]
販売時に必要な提示事項)
」が提案されている 。このガイドラインをベースとし、寿命予測
につながる指標や試験方法、判定基準などに関する議論や研究開発を展開していくことは、
使用済み太陽電池モジュールの適正処理としてのリユース、太陽電池モジュールの長期使用
につながるものであると同時に、太陽電池モジュールリサイクルループの実現にも欠かせな
い取り組みである。
14
④ リサイクルが容易なモジュール構造
リサイクルという観点では、リサイクルを容易にするモジュール構造も重要となる。この
ような取り組みは未だあまり例を見ないように思えるが、欧州で実施されている Cu-PV プロ
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ジェクト[10]では、銀電極を銅電極に置換すると同時に、リサイクル性の高いモジュール構造
の実現を目指している。また、同じく欧州で、充填材を用いないモジュール構造の開発・実
用化に向けた取組みも手掛けられている[11]。
日本でも平成 13~17 年度にかけて実施された研究開発の一部として実施されていた[4]が、
今一度リサイクル性の高いモジュール構造の実現に向けた取り組みに着手してみてはどうで
あろうか。
4.終わりに
太陽電池モジュールの重量目安を 100g/W とすると、日本に導入されている太陽電池モ
ジュールは 300 万トン近い(あるいはそれ以上の)重量となる。もちろん、全ての太陽電池モ
ジュールが一斉に廃棄物となるわけではないが、将来的には使用済み太陽電池モジュールの
発生量は、産業廃棄物処理という側面において無視できなくなることは容易に想像できる。
使用済み太陽電池モジュールの適正処理に向け、技術と仕組みの両輪が必要となることは
疑う余地はない。紹介した内容が昨今の取り組みの全てを網羅できているわけではなく、新
たな技術開発の方向性も飛躍や非現実的な部分もあるかもしれないが、技術と仕組みの両輪
を効果的に駆動させていくための議論のきっかけとなれば幸いである。
〈参考文献〉
[1]資源エネルギー庁:固定価格買取制度情報公開用ウェブサイト
(http://www.fit.go.jp/statistics/public_sp.html)
(アクセス日:2016 年 2 月 8 日)
[2]使用済再生可能エネルギー設備のリユース・リサイクル・適正処分に関する検討会:太陽光
発電設備等のリユース・リサイクル・適正処分に関する報告書、2015 年
[3]太陽光発電技術研究組合:平成12年度太陽光発電システム実用化技術開発/太陽光発電利用
システム・周辺技術の研究開発「新建材一体型太陽電池モジュールの研究開発」
(実用化解析
に関する調査研究)(平成 12 年度 NEDO 委託業務成果報告書)
、平成 13 年 3 月
[4]太陽光発電技術研究組合、シャープ㈱、昭和シェル石油㈱、旭硝子㈱、独)
産業技術総合研究
所:平成 16~17 年度太陽光発電技術研究開発 / 太陽光発電システム共通基盤技術研究開発 /
太陽光発電システムのリサイクル・リユース処理技術等の研究開発(平成16~17年度NEDO
委託業務成果報告書)、平成 18 年 3 月
[5]野田:太陽電池の大量普及に伴うリサイクルシステム構築について、PVTEC ニュース
Vol.65、2013 年 11 月号
[6]NEDO:平成 27 年度「太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト」に係る採択先一覧
(http://www.nedo.go.jp/content/100758617.pdf)
、平成 27 年 9 月 16 日(アクセス日:2016 年
2 月 8 日)
[7]J. Lee, et al: Low-cost Recovery Process of Unbroken Solar Cell from PV Module, 25th
PVSEC,Busan(Korea),2015 年 11 月
[8]DevelopingaCircularEconomyBasedonRecycled,ReusedandRecoveredIndium,Silicon
and Silver Materials for Photovoltaic and Other Applications, 31st EU-PVSEC, Hamburg
(Germany),2015 年 9 月
[9]菱川:「太陽光発電システム次世代高性能技術の開発/発電量評価技術等の開発・信頼性及び
寿命評価技術の開発」(平成 27 年度 NEDO 新エネルギー成果報告会 太陽光発電分野)、2015
年 10 月
[10]M.J.A.A. Goris: Production of Recyclable c-Si PV Modules, 31st EU-PVSEC, Hamburg
(Germany),2015 年 9 月
[11]M. Mittag, et al:TPEDGE: Qualification of a Gas-Filled, Encapsulation-Free Glass-Glass
PhotovoltaicModule,31stEU-PVSEC,Hamburg(Germany),2015 年 9 月
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特 集
3-2
フレキシブル太陽電池
FWAVE ㈱
チーフテクノロジーオフィサー
高野 章弘
フレキシブル太陽電池は、
「軽量」「フレキシブル」「省スペース」「安全(割れない)
」
「ま
ぶしくない(正反射光が無い)」
「環境に優しい」
「生産性が高い」などの特徴があり、従来か
ら様々な可能性を持っていると言われてきた。しかしながら、結晶系太陽電池の厳しい価格
競争の影響や、独自の市場形成が思ったように進まないことなどから、事業再編、譲渡、撤
退などの動きが続いてきた。
弊社も、富士電機株式会社の太陽電池部門の事
業譲渡を契機に再出発している。次世代の屋根材
料およびその量産技術を保有する親会社とのシナ
ジー効果を活かし、超軽量・高耐久ハイブリッド
屋根材(BIPV &空気式太陽熱)の上市に向けて
邁進している。ゼロエミッションハウスを見据え
たこの新製品については、また別の機会にご紹介
させて頂きたいと思う。ここでは、弊社の太陽電
池(セル)の「カスタマイズが容易」という大き
図 1 FWAVE 社のフレキシブル太陽電池
http://www.fwave.co.jp/
な特徴を活かし、多くのビジネスパー
トナーとの協業を通して実現してい
る、様々な製品やシステムを紹介した
い。
図 2 コアテック株式会社の湖上フロートシステムと
防草発電シート
http://www.coretec.co.jp/core/eco_top/solar_
cell/solar_cell.htm
16
している。この3,000mのフィルムに、薄膜シリコ
ン系太陽電池を連続的に製造していく(図 1)。こ
の太陽電池構造は従来とは全く異なるものであ
り、非常に薄いプラスチックフィルムに形成した
多数のスルーホールで、電気的接続を行ってい
る。この構造により、太陽電池(セル)を、カッ
ターなどの工具で簡単に切断したり、導電性粘着
テープで配線することなどが可能となる。つま
り、任意の電圧と電流を持つ製品を容易にカスタ
マイズして製造することができる。
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熊本工場では、1m 幅で 3,000m の長
さ の フ ィ ル ム を ロ ー ル で 取 り 扱 う、
ロールツーロール生産プロセスを採用
図 3 平岡織染株式会社の洋上システムと
温室向けシステム
http://www.tarpo-hiraoka.com/jp/
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様々な業界の特徴有る技術や製品
を有するメーカーと協業すること
で、大型の系統連系システムから
ポータブル電源システムまで、幅広
い製品を世の中に送り出せるように
なってきている。大型のシステムと
しては、湖上や洋上に浮かべるよう
なフロートタイプ製品や、防草シー
トや温室シートと一体化した農業用
途向け製品(図 2、3)
、デザイン性
図 4 日本マテリエイド株式会社の合わせガラスモ
に優れた合わせガラスタイプ製品
ジュール
(図 4)などがある。ポータブル電源
システムは、スーツケースなどの小型製品に組み込んだり、丸めたり折りたたんだりできる
製品(図 5、6)を実現している。
世界的には、フレキシブル太陽電池モジュールの規格(IEC61215-1-5)の議論が開始され
ている。PVTEC では、
「建築物一体型太陽光発電(BIPV)モジュールに関する国際標準化」
の中で、新技術の一つとしてフレキシブル太陽電池が取り扱われたり、フレキシブル太陽電
池の寿命予測手法の開発の分科会が立ちあげられようとしている。国内外でフレキシブル太
陽電池に関する取り組みが、再び活発になりつつある。このフレキシブル太陽電池の“第 2
章”が、成功につながるように専心していきたい。
図 5 株式会社オーエスのポータブル電源
(巻取り型、スーツケース組み込み型)
http://jp.os-worldwide.com/solution/
solar/index.html
図 6 株式会社ナベルのポータブル電源
(折り畳み型)
http://www.bellows.co.jp/ja/?p=922
17
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特 集
3-3
AC モジュール(マイクロインバータ)用
系統連系保護装置の試験方法
テュフ ラインランド・ジャパン㈱
製品部太陽光発電課アジア太平洋地域
課長 五十嵐 広宣
2008 年ごろまでの日本国内の太陽光発電システムの普及期は、一般住宅の屋根に設置され
る出力4kW程度のシステムが中心であった。しかし、エネルギー供給構造高度化法に基づき
2009 年 11 月 1 日より太陽光発電の余剰電力買取が開始され、次いで、2012 年 7 月 1 日に余剰
電力買取制から全量買取制へ制度が変更された。これらの制度変更は、一般住宅用以外の工
場やビルなどの屋上へ設置される中規模なものから、平地に設置される大規模太陽光発電所
の設置導入を急激に増加させる大きな一因となった。
近年、一般住宅用太陽光発電システムにおいて、太陽電池モジュール単体の性能劣化が原
因となり太陽電池アレイ全体の発電効率を低下させる事象が報告されている。一方で、大規
模太陽光発電所となれば太陽電池モジュールの設置枚数が数万枚を超え広範囲に設置され
る。設置された太陽電池モジュールのごく一部に不具合が発生した場合においても、発電効
率の低下要因や故障要因の発見が非常に困難であり、大規模太陽光発電所全体の発電効率低
下の要因になることが予想される。しかし、マイクロインバータが各太陽電池モジュールの
出力を測定し、運転状態を監視できる機能を具備することにより、一般住宅用よりも発電効
率の低下を防ぐことが可能となる。このため、太陽電池モジュール単体で効率よくエネル
ギー変換を行うことがより期待されるマイクロインバーターへ注目が寄せられている。
ACモジュールとは、太陽電池モジュール1枚毎に直流を交流に変換する小型のパワーコン
ディショナ(系統連系保護機能付きのインバータ)を太陽電池モジュール裏面に取り付けた
もの総称となっており、別名マイクロインバータとも呼ばれている。
AC モジュールの歴史は、1991 年に Ascension
Technology 社 に よ っ て 開 発 さ れ、1994 年 に
Ascension Technology 社 は テ ス ト サ ン プ ル を
SandiaNationalLabsへ送った。
1997年、
Ascension
Technology 社は 300W の AC モジュールつき太陽
電池モジュールを導入するために、米国の太陽電
池モジュールメーカである ASE 社と提携した。
18
しかし、AscensionTechnology 社は、2001 年に
Applied Power Corporation 社によって買収され
たことにより 2001 年に AC モジュールの開発を中
止することとなり、2003 年には補助金制度も終了
したため、2003 年には AC モジュールの姿は市場
から消すことになった。
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18
1991 年 に 開 発 さ れ た AEE Solar 社 の
Micro-InvertersandACModules
引用:http://av.conferencearchives.com/
pdfs/091001/33.1308.pdf
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10:34:13
その後は、Enphase 社が 2007 年よりマイクロインバータを市場へ販売することにより再度
AC モジュールの市場展開が開始され、アメリカ国内をはじめ世界各国へ販売する AC モ
ジュール製造者として世界第一位となった。
AC モジュール市場は、米国最大の太陽光発電システム導入補助プログラム「California
SolarInitiative(CSI)
」のデータによると、カリフォルニア州の住宅向けシステムのうち 25%
がマイクロインバータを利用している。具体的には、2008 年に 0.2MW(全体の 0.4%)だっ
たものが、2013 年 1~8 月で 36MW(全体の 25%)になった(図 1)。2013 年 1~8 月では、パ
ワー・コンディショナ全体の 1/3 の規模まで成長している。カリフォルニア州では、2008 年
に 1000 個に至らなかったマイクロインバータの設置数が、2013 年 1~8 月だけで約 15 万個に
なった(図 2)
。マイクロインバータはモジュールごとに設置するため、従来の集中型のパ
ワー・コンディショナに比べて数が多くなる。マイクロインバータの最大定格出力は、
200~
300W である。住宅用の 4kW のシステムでは約 20 台のマイクロインバータが、10kW のシス
テムになると約 50 台のマイクロインバータが必要になる。* 1
図 1:カリフォルニア州の住宅向け太陽光発電
システムにおけるパワー・コンディショ
ナの設置量(MW)
引用:*1 日経テクノロジーオンライン 2013/09/26
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20
130926/305658/?ST=print
図 2:カリフォルニア州の住宅向け太陽光発
電システムにおけるパワー・コンディ
ショナの設置数(千台)
引用:*1 日経テクノロジーオンライン 2013/09/26
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/
20130926/305658/?ST=print
ACモジュールの利点は、太陽電池モジュール単体でエネルギー変換を行うことから、個々
のモジュールの特性に合わせてエネルギーを効率よく得られる点である。そのため、従来の
ストリング接続方式と比較しても、影の影響や接続枚数の増加に伴う高電圧損失及び PID 現
象などの損失要因が少なくなる。また、O&M の面においても太陽電池モジュール単位での
交換が可能とるなるため作業面での効率向上及びコスト削減が図れる。更に、従来のストリ
ング方式にて結線された太陽光発電システムを設置した住宅又は近隣住宅において火災が発
生した際に、人為的に太陽電池モジュールの発電を停止する方法が無く、高電圧の直流電圧
を維持した太陽光発電システムが消防士の消火活動の妨げとなることが問題視されている。
しかしながら、AC モジュールの場合は、系統側の電源を停止させることにより、太陽電池
モジュール単位で発電停止が行え、ストリング方式に比べ単位モジュールあたりの直流電圧
が低いため、消防士の消火活動の妨げになることが少ないと考えられる。
一方、AC モジュールの欠点として考えられる点は、1 台のパワーコンディショナによって
電力変換及び系統保護を実施することが可能である従来型の太陽光発電システムに対し、設
置した太陽電池モジュールごとに電力変換装置を設置しなければならない。また、AC モ
ジュール用パワーコンディショナは住宅用屋根と太陽電池モジュールとの間に設置されるこ
とが想定される。その際に、太陽からの直射日光を受けた太陽電池の裏面温度は高温とな
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り、更に屋根と太陽電池モジュールの取付具合によっては、風通しが悪いため更に高温にな
る可能性がある。これらの使用条件を考慮した場合、通常のパワーコンディショナとは異な
る過酷な運転条件にも耐えうる構成を考慮しなければならない。そのため、設置個数及び機
器構成のコストが割高になる可能性が考えられる。そのため、日本の一般住宅用として使用
する場合は、長期信頼性を考慮し価格においても低価格を実現できる AC モジュールが必要
となると考えられる。
AC モジュールは、個別単位のパワーコンディショナが一般配電線へ系統連系することを
可能とする。しかしながら、電力保安の観点から電力供給が停止した際に、停電を検出し直
ちに発電を停止する必要性があり、これらの停電を検出する装置(単独運転検出装置)につ
いても言及したい。
昨今、同一配電線上に単独運転検出装置から出される能動的検出信号の相互干渉に伴い、
単独運転機能が誤動作する可能性が大きくなると懸念されている。そのため、相互干渉が無
いとされる新型単独運転検出装置の開発が行われ、一般住宅用のパワーコンディショナへ具
備されることになった。また、2015 年 9 月 16 日に開催された第 82 回日本電気技術規格委員会
において、保安及び電力品質の確保を確実に行うために,AC モジュールを低圧系統に連系
する場合の技術的要件が明確化された。
これらの決定に伴い、今後は AC モジュールの普及促進が進むものと考えられるが、一方
で系統連系保護装置や環境性試験方法など性能評価を含む試験方法の整備を進めなければ普
及拡大への道は辿ることが出来ないと考えられる。特に環境性試験方法については、通常の
耐環境性試験に加え、前項に述べたように使用環境を考慮した長期信頼性評価の観点を含ん
だ試験方法を合わせて検討する必要がある。また、電磁環境性評価においても従来の試験方
法が、AC モジュールへ対応し適合できるのかを検証する必要がある。一方海外では、既に
アメリカ UL やカナダ CSA と北米において機器の電気的安全性を含む認証が行われており、
ドイツ TUV Rheinland においても IEC62109 規格をベースとした 2PfG 2305 を開発し認証を
実施している。国際規格である IEC 規格においては、AC モジュールの安全性試験規格
(IEC62109-3)として 2012 年から TC82WG6 のプロジェクトチームにおいて検討が進められ
ており、現在 CD の改定を行っている状況である。
AC モジュールの電気的安全評価試験方法については、PV モジュールが IEC 規格に従い試
験認証が行われており、IEC62109-3 においても PV モジュールの試験方法と協調を図りなが
ら規格作成が進められているため、国内における規格検討時には IEC 規格を考慮しながら電
気的安全性規格の検討を進める必要がある。
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そもそも系統連系保護装置の評価試験方法は、従来の一般住宅用太陽光発電システム用パ
ワーコンディショナ4kW程度の住宅用を中心に検討された試験方法である。そのため、出力
が 300W 程度と極小出力のパワーコンディショナへそのまま適用可能であるかの検証が必要
と考えられる。また、AC モジュールの出力は、交流電圧であることが前提とされいてるが、
場合によっては直流電圧として出力することも可能であるため出力形態の違いによる試験評
価方法への検討が必要となる。更には、系統連系を行う電気配線方式についても、一般的な
低圧配電線の単相 3 線式へ連系可能な AC モジュールもあれば、単相 2 線式へ接続できる AC
モジュールもあり、単相2線式モデルを3相三線式の各相間へ接続することも可能である。設
置数は、1 台から数万台以上数百 W から数 MW までと広範囲での設置が可能であるため、試
験方法も広範囲になると想定される。そのため、先ずは最も普及が想定される住宅用から検
討を進める事が急務である。
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太陽光発電の大量導入に
向けての課題と現状
(国)産業技術総合研究所
小西 博雄
脱原子力、電力自由化の流れの中にあり、再生可能エネルギー電源の導入が進められている。中
でも太陽光発電(PV)は政府の導入目標も 2020 年に 28GW と発電設備容量の 1 割を超える値[1]
であり、リードタイムが短いことから急速に増大している。しかし、安定したエネルギー源として
の PV には多くの課題がある。
1 つは設備利用率が低いことで、日本における利用率は 12%程度である。これを高めるために
は設置場所として日照条件の良い場所を選ぶことは勿論のことであるが、太陽電池の発電効率やパ
ワーコンディショナー(PCS)の変換効率、PV システムの全体の効率を上げることが重要である。
現状、メーカや研究機関が協力して鋭意研究開発に取り組んでいる状況にある。
また、電源としての PV の kW 価値(最大需要が発生した時の電源の発電出力比率)は、出力不
安定のために低く、これを高めることが重要課題の 2 つ目としてある。PV 導入量[%](各地域
のピーク需要に対する PV 設備容量比)に対する我が国地域の kW 価値の計算結果[2]をみると、導
入量が少ないときは 50%を超える地域もあるが、50%以下と低く、さらに導入量が増えると低
くなっていく。理由は、PV は太陽の南中時に近い需要のピークをカットするが、導入量が多くな
ると日中のピークが夕方に向けて移動し、需要と日射との相関が弱くなる傾向にあるからである。
また、北海道地域に関しては最大需要となる時刻が日射のない冬季の夜になることから略ゼロにな
ると説明されている。このことから kW 価値を増加させるためには、PV 発電出力のエネルギーシ
フトを行うことが解決策となり、低コストで高信頼性、高寿命なエネルギー蓄積装置の早期開発や
実証導入が期待されるところである。加えて、PV の電源価値をさらに向上させるために、PV 側
と既存の電力系統側の双方が情報を共有しながら両者を効率よく円滑に運用するシステム技術やス
マートグリッド技術の適用が有効になるものと考えられる。
ところで PV システムの系統への貢献として、直接的ではないが、「NEDO 北杜メガソーラプロ
ジェクト」で研究開発した成果[3]を紹介する。プロジェクトでは大容量 PCS の無効電力制御によ
る電圧変動や高調波抑制、系統事故時の運転継続(FRT)の検証を行った。電圧型自励式変換器
で構成される PCS は、出力交流電圧の位相と振幅を変えることによって有効電力と無効電力を制
御でき、しかも独立に行える。従って、日射のない雨天時や夜間にも有効電力でなく無効電力制御
が PCS 容量に応じて行え、負荷変動による送電線の電圧変動や高調波抑制に貢献できる。その他、
プロジェクトで検証は行わなかったが軽負荷時の PCS による出力抑制も検討している。これら制
御は系統に悪影響を与えない PV の運転を実現できる。
以上、PV 大量導入に向けての課題と現状を思いつくまま述べ
てきたが、解決に向けた一層の研究開発や実用化が望まれる。
参考文献
[1]経産省「長期エネルギー需給見通し」(2008.5)
[2]大山力、
「再生可能エネルギー電源はどこまで頼れる
か」
、電気学会誌 Vol.135 No.12(2015)
[3]
「NEDO メガソーラープロジェクト 北杜サイトにお
ける実証研究」
、
(2010.
11)www.e-wei.co.jp/
sustainable-tecnology_seminar/pdf/B-21.pdf
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図 1 PV 導入量と kW 価値[2]
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リスクマネジメントの
歴史と太陽光
エーオン・ジャパン㈱
マーケティングマネージャー / リスクコンサルタント
田中 康裕
保険と聞くと皆さんはどのような印象をお持ちでしょうか?以前は、会社に入社してしば
らくするとそろそろ生命保険に入るべきと言われ、机の上に保険設計書が置いてあったとい
う経験をした方も少なくないと思います。
自分が想定すべきリスクはなにか?そのリスクが発生する可能性と被害額は?そのリスク
を保険でカバーすることができるのか?などを相談することもなく、毎月支払うことができ
る保険料を聞かれ、次の日、また設計書が机の上に置かれていたことを思い出します。
日本の保険業界が自由化されたのは、1996 年とまだ 20 年程度しかたっていません。そ
れまでの日本の保険業界は、護送船団方式と呼ばれる保護のもと、どの保険会社で加入して
も差はありませんでした。それに加え、終身雇用、高度経済成長、年功序列、安全神話など
のキーワードから想像できるように日本人の多くは、リスクマネジメントの必要性を感じる
機会も少なかったのでしょう。
そのような環境が長く続いたことが原因か、以前と比べ、社会環境が激変した現在であっ
ても、リスクの洗い出し、洗い出されたリスクの評価、その評価結果に基づいて判断すると
いうリスクマネジメントプロセスを踏まず、すぐに何かよい保険はないのか?というステッ
プに入ってしまうことが多いようです。
太陽光では、モジュールメーカーが 25 年の長期出力保証を提供しています。長期保証は
付加価値サービスであるはずなのに、メーカーによっては、25 年間の保証を継続するだけ
の財務力を金融機関が評価することができず、滞ってしまっているプロジェクトがあるよう
です。この状況を打開する手段として保険への期待が高まっていますが、FIT 価格の低下に
伴い、モジュール価格もモジュールの長期信頼性も低下しています。このような状況で保険
会社がリスクを引き受けることは容易ではなく、仮に提供できたとしても今度は、保険料が
あがるのではないか?継続できなくなるのではないかという次の心配がでてくることにな
り、結果として保険ではこの状況を打開することができないと結論づけられてしまうので
す。
つまり、一番重要なことは、長期信頼性の確保なのです。リスクの洗い出し、リスク評価、
リスクの軽減を通じて発生確率と想定被害額をできる限り低くした上で保険を含めたリスク
ヘッジ手法を選択することが正しいリスクマネジメントプロセスと言えます。
エーオンは、120ヶ国、500ヶ所で事業を展開するリスクマネジメントサービス会社で
す。私は、太陽光をはじめ再生可能エネルギーマーケットのなかでリスクマネジメントの考
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え方が浸透するように努め、このマーケットの発展に少しでも貢献したいと思っておりま
す。活動を通じて、保険はお守りではなく、重要なリスクヘッジ手法のひとつと理解される
ことを信じています。
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委員会・分科会
活動報告
運営幹事会
第 55 回運営幹事会
第 15 回次世代パワーコン
第 13 回次世代 AC モジュ
ディショナ開発コンソーシ
ール開発コンソーシアム運
アム運営委員会
営委員会
平成 28 年 1 月 18 日(月)
平成 27 年 12 月 24 日(木)
平成 28 年 2 月 17 日(水)
14:00-16:50 機械振
15:00-17:30 機械振
港区 PVTEC 会議室
興会館 PVTEC 会議室
興会館 PVTEC 会議室
1.平成 28 年度 事業計画
第 16 回次世代パワーコン
第 14 回次世代 AC モジュ
(案)
の件(総会審議)
ディショナ開発コンソーシ
ール開発コンソーシアム運
アム運営委員会
営委員会
平成 28 年 2 月 29 日(月)
平成 28 年 2 月 3 日(水)
■議題
2.平成 28 年度 予算
(案)
の件(総会審議)
3.組合員名義変更の件(運
営委員会審議)
NEDO 委託
関連委員会
15:00-16:30 田淵電
15:00-16:30 田淵電
子工業㈱ 再生可能エネ
機㈱ 再生可能エネルギー
ルギー開発センター
開発センター
13:30-17:15 機械振
興会館 PVTEC 会議室
特別運営委員会
特別運営委員会
第 3 回次世代 AC モジュー
第 3 回次世代パワーコンデ
ル開発コンソーシアム特別
次 世 代 長 寿 命・ 高 効 率 パ
ィショナ開発コンソーシア
運営委員会
ワーコンディショナの開発
ム特別運営委員会
平成 27 年 11 月 16 日(月)
平成 28 年 2 月 29 日(月)
次世代パワーコンディショ
ナ開発コンソーシアム運営
委員会
13:00-15:00 田淵電
13:00-15:00 田淵電
子工業㈱ 再生可能エネ
機㈱ 再生可能エネルギー
ルギー開発センター
開発センター
第 13 回次世代パワーコン
次世代長寿命・高効率 AC
ディショナ開発コンソーシ
モジュールの開発
13:30-16:00 機械振
興会館 PVTEC 会議室
コンソーシアム運営委員会
第 5 回 BIPV 国際標準化運
営委員会・標準会員会
第 12 回次世代 AC モジュ
ディショナ開発コンソーシ
営委員会
アム運営委員会
平成 27 年 11 月 16 日(月)
興会館 PVTEC 会議室
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建築物一体型太陽光発電
る国際標準化
ール開発コンソーシアム運
13:30-16:00 機械振
経済産業省
委託事業
次世代 AC モジュール開発
第 14 回次世代パワーコン
平成 27 年 12 月 10 日(木)
興会館 B2-2 会議室
(BIPV)モジュールに関す
アム運営委員会
平成 27 年 11 月 5 日(木)
15:00-17:00 機械振
平成 27 年 12 月 14 日(月)
14:30-17:00 兵庫県 豊岡市
13:00-15:00 機械振
興会館 B2-2 会議室
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11:02:52
●(国)新エネルギー・産業技術総合開発機構から松本真太郎新エネルギー部長より
巻頭言のご寄稿をいただきました。太陽光発電の技術開発方針「NEDO PV Challenges」に提示された方策と技術開発の取り組みをご紹介下さいました。
編 集 後 記
●PVTEC ニュース 第 72 号をお届けします。
●昨年 12 月に開催した第 33 回 PVTEC 技術交流会から、特集 1 で「太陽光発電の
基幹電源化へ向けて」と題した森本理事長の講演および、半年間にわたり推進した
サウジアラビア向け PV モジュールの規格改訂案提案事業をまとめました。
2016
Vol.72
●前号 71 号で取り上げた「太陽光発電システムの維持管理」を今回も特集しました。
(国)産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター 菱川善博評価標準チーム長
が、屋外における太陽電池モジュール測定の高精度化技術を紹介されています。
●PVTEC 戦略企画部会では、組合員の皆様より提案のあったテーマを自主研究とし
て取り上げる活動をしています。平成 28 年度からのテーマとしてご提案いただいた「太
目 次
陽電池リサイクル技術」「フレキシブルモジュールの寿命予測」「マイクロインバータ用
系統連携保護装置」に関連する記事を特集 3 としました。参加組合員を募集してい
ますので、関心のある方は事務局までご連絡ください。
3月号
巻頭言 太陽光発電技術開発の取組
(国)
新エネルギー・産業技術総合開発機構
●今回の産官学コラムのご寄稿は(国)産業技術総合研究所 小西博雄様とエーオン・
ジャパン㈱田中康裕様にお願いしました。小西様は太陽光発電の大量導入に向けた
課題、田中様は太陽光発電とリスクマネジメントについてそれぞれのご専門の観点か
らご執筆くださいました。
(H.S 記)
新エネルギー部長 松本 真太郎
2
特集1 第33回PVTEC技術交流会
太陽光発電技術研究組合
4
特集2 太陽電池屋外測定の高精度化
(国)産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター
菱川 善博
9
特集3-1 太陽電池モジュールの適正な使用後処理のために
みずほ情報総研㈱ 河本 桂一
12
特集3-2 フレキシブル太陽電池
FWAVE㈱ チーフテクノロジーオフィサー
高野 章弘
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特集3-3 ACモジュール
(マイクロインバータ)
用系統連系
保護装置の試験方法
テュフ ラインランド・ジャパン㈱ 製品部太陽光発電課
アジア太平洋地域課長 五十嵐 広宣
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コラム 産官学
ニュース
平成28年3月15日
2016 Vol.72 3月号
発行所:太陽光発電技術研究組合
発行人:池田祐一
〒105-0011 東京都港区芝公園3丁目5番8号 機械振興会館2階
Tel 03-6403-4800
印刷所:(株)
サンワ
古紙配合率100%再生紙を使用しています
Fax 03-6403-4801
太陽光発電の大量導入に向けての課題と現状
(国)
産業技術総合研究所 小西 博雄
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リスクマネジメントの歴史と太陽光
エーオン・ジャパン㈱ マーケティングマネージャー/
リスクコンサルタント
田中 康裕
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委員会・分科会活動報告
事務局
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編集後記
事務局
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PVTEC 太陽光発電技術研究組合
Photovoltaic Power Generation Technology Research Association