タイルドディスプレイのための非圧縮 HDTV 受信システムの設計と実装

大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 21 年 2 月 13 日
タイルドディスプレイのための非圧縮 HDTV 受信システムの設計と実装
桑原 世輝 (応用メディア工学講座)
1 研究の背景と目的
高精度な電子顕微鏡,天体望遠鏡,高度医用画像診断機器
などに代表される観測装置の性能向上により,様々な科学分
野で高精細な計測映像の取得が可能になっている.また,今
日の急速なネットワークの広帯域化は,そのような高精細映
像を遠隔地に伝送することを可能にしつつある.このような
背景から,遠隔地の計測装置で取得される高精細な計測映
像や,遠隔地の計算機で計算された解析結果を高精細な可
視化映像としてリアルタイムに閲覧する,などの科学研究
に低遅延かつ高品質な映像の伝送を行う非圧縮 HDTV (High
Definition TeleVision) 伝送システムを応用することが期待さ
れている.
しかし,非圧縮 HDTV 伝送システムを実際の科学研究へ
応用するには,次の 2 つの課題がある.第一に,映像のさら
なる高精細化や,多地点からの高精細映像の同時閲覧に低コ
ストで対応しうる可視化技術と非圧縮 HDTV 伝送システム
とを連動させる必要がある.第二に,非圧縮 HDTV 伝送シ
ステムで取得した映像を様々な科学アプリケーションで利用
可能にし,他の科学データと組み合わせられるようにする必
要がある.
本研究では,非圧縮 HDTV 伝送システムの科学研究応用
を実現する非圧縮 HDTV 受信システムを提案する.本手法
によって,さらなる映像の高精細化や高精細映像の複数同時
閲覧に対応し,科学アプリケーションとの連携を低コストに
実現する.
2 提案手法
本研究では,前述の課題を解決するための基盤技術としてタ
イルドディスプレイを実現するミドルウェア SAGE (Scalable
Adaptive Graphics Environment) に着目する.タイルドディス
プレイは複数のディスプレイをタイル状に配置し連携駆動さ
せることで高精細表示を実現する技術であり,連携駆動させ
るディスプレイの数をスケーラブルに変更し,任意の高精細
な解像度を得ることができる.また,SAGE は複数のアプリ
ケーションウィンドウをタイルドディスプレイに同時に出力
させる特徴をもつ.
本研究では,IP ネットワークを使用して伝送される非圧
縮 HDTV 映像信号を受信し,SAGE で構築されたタイルド
ディスプレイに受信映像を出力する受信システムを構築す
ることで,さらなる映像の高精細化や,高精細映像の複数
同時閲覧に低コストに対応する.また,受信映像を科学ア
プリケーションで再利用可能にするために,受信システムに
おいて科学アプリケーションで一般的に用いられている映
像フォーマットである RGB フォーマットに映像を変換する.
これにより,非圧縮 HDTV 伝送システムの科学研究応用を
実現する.
非圧縮 HDTV 伝送システムを科学研究へ応用するには,非
圧縮 HDTV 伝送システムを簡便に利用できる必要があると
考える.本研究では,非圧縮 HDTV 伝送システムとして,製
品化されている i-Visto (internet-Video studio system) を利用
すると仮定し,受信システムである i-Visto player を提案・実
装した.図 1 に i-Visto player の構成を示す.
非圧縮 HDTV 伝送システムの特徴である低遅延性を損な
わないために,本提案システムの処理を高速に行う必要があ
IPネットワーク
IPパケット受信
フレーム復元
プログレッシブ変換
フォーマット変換
RGB変換
SAGE映像
ストリーム変換
図 1: i-Visto player
る.処理の高速化のためにメモリコピーの回数を最小限に
し,フォーマット変換を整数計算で行うよう実装した.
3 評価
本研究で提案・実装した i-Visto player の実用性を評価する
ために,プログレッシブ変換と RGB 変換の処理時間を測定
する.評価環境は次の 3 つである.測定環境 1 は,RGB 変
換を規定式で実装した場合である.測定環境 2 は,RGB 変
換を高速化式で実装した場合である.測定環境 3 は,プログ
レッシブ変換と RGB 変換を同時に行うフォーマット変換機
能を用いた場合である.900 フレームの変換について測定し
た値の相加平均を測定結果とする.表 1 に測定結果を示す.
表 1: 処理時間
測定環境 1 測定環境 2 測定環境 3
91.139msec
16.540msec
12.124msec
HDTV は 33.37msec で映像更新されているため,この値
よりも処理時間が短ければ高速な処理が行われていると言え
る.測定結果より,十分短い時間で処理されており実用性が
あると言える.
次に,RGB 変換に用いた高速化式の実用性を評価するた
めに,規定式で変換した場合と高速化式で変換した場合の
変換誤差を測定する.RGB 信号の階調値の違いを変換誤差
として 30 フレームの変換について測定し,平方二乗誤差を
測定結果とする.測定結果は 0.714 であった.測定結果は
0.28%の誤差であり,科学アプリケーションでの利用に支障
がない程度の誤差であると言える.
本研究で構築した i-Visto player の有用性を評価するため
に,遅延,映像品質,コストに着目する.本研究では,i-Visto
player と i-Visto,VLC media player をそれぞれ利用した場合
の比較を行った.比較結果から i-Visto player は科学研究応
用に有用であると言える.
4 まとめ
本研究では,タイルドディスプレイ用非圧縮 HDTV 受信シ
ステムである i-Visto player を提案・実装した.i-Visto player
によって,i-Visto から伝送される映像をタイルドディスプレ
イ出力可能になった.また,i-Visto player によって,受信映
像を RGB フォーマット映像に変換可能にし,受信映像の科
学アプリケーション利用を容易にした.