研究技術者 >

< 基礎技術をビジネスに結びつける研究技術者 >
トップを走り続けるためのデータへのこだわりと負けん気
お客様の現場の要求
郵便物に書かれた郵便番号を読み取り, 高速で仕分
け処理するシステムに “OCR” が使われていることをご存
知の方も多いでしょう。
今回は, “文字の読み取り” 一筋にその機能と性能の向
上に心血を注ぎ, 当社の OCR ビジネスを業界トップクラス
で維持し続けてきた OCR のスペシャリストを紹介します。
人間に近づいてきた OCR の読み取り能力
40 年程前にこの技術が開発, 実用化された当初は,
読み取りの対象は数字で, しかも決められた位置に, 決
められた書体で, 丁寧に手書きされたものに限られていま
した。 しかし, その後, 英字, カタカナ, ひらがな, 漢
字と対象は拡大しました。 また, 少々乱れた手書き文字で
も, 書かれている位置がズレたものでも読み取れるように,
その能力は進化し, 人間の能力に近づいてきています。
現在では, 郵便局などで取り扱われる払込票, 生活
協同組合や通信販売の注文書, 自動車保険の申込書な
ど, 身の周りにその技術が普及し, 様々な分野で業務の
効率化やデータ化などに貢献しています。
業界トップを走り続ける技術開発力
OCR 技術の開発には, 他の基礎技術と同様に専門性
が高く奥が深いため, 技術の蓄積と継承のうえに, 更な
る地道な研究が求められます。 彼も, 大学で専攻した人
工知能分野の一つ “パターン認識” の知識を活かし, ( 株 )
東芝に入社以来, 研究所で OCR 基礎技術の研究を深
めてきました。 そして, その一方で, 現場の要求に応え
基礎技術を実用化するために, 事業部門との連携を粘り
強く続けました。
1980 年代半ばに製品化された OCR-V3000 シリーズ
により当社はビジネスのアドバンテージを確実なものにしま
したが, これの開発に没頭したのが, 彼の第一の節目に
なります。 OCR-V3000 シリーズは, 自由に手書きした英
数字や漢字の読み取りを小型機で実現したものですが,
その後も, 一般の印刷ドキュメントを読み取る技術を製品
化したり, 一般帳票の読み取り技術を開発したり, 常に
新しい技術にチャレンジし, OCR の可能性を広げてきま
した。
負けないためのデータへのこだわり
営業部門は, ビジネスのために往々にして, お客様か
らの無理とも思える高い数値 (ハードル) の要求をクリア
するようぶつけてきます。 しかし, 彼はそのハードルに猛
然と立ち向かい, 最終的には要求を超える性能を実現す
ることもしばしばです。
「壁にぶち当たったときは, あらゆることを思考し, 試し,
データを集め, 一つひとつ問題点をつぶす。 信頼でき
るテスト結果を得るためには, 多量のデータを作り, 統
プラットフォームソリューション事業部 要素技術開発部
主幹 黒沢 由明
計的に分析する労は惜しまない。」 と自信を持って言い
切るほど, データを大切にし, 強いこだわりを持っていま
す。 「人 (他社) に負けたくないから。」 と言う裏には,
自分自身へのプライドの高さが感じられます。
ビジネスの動向を見据えた研究開発
手書き数字の読み取り能力はほぼ人間の能力レベルに
近づいてきましたが, 英字やカタカナ, ひらがな, 漢字
の読み取り能力はこれに比べると若干低いのが現状で
す。 精度と速度という相反する二つの要素のバランスをと
りながら, 更に向上させることに, 今も継続課題として取り
組んでいます。
また, “研究開発” の専門職として, ビジネスの動向を
見据えた新技術開発の研究にも注力しています。 例えば,
OCR の応用の幅を広げるため, MFP, PDA, 携帯電
話などへの応用のほか, 動画像の認識技術の開発などに
も取り組んでいます。
---------------------------------------------------------------------インタビュー後記~編集部
長い時間をかけて積み上げていく基礎技術開発とビ
ジネス化の両立は,言うほどたやすいものではない。
学生時代に出会った人工知能技術にほれ込み続けた
“研究技術者”である。
■インタビュー, 執筆 ・ 構成 : 編集部
「東芝ソリューション テクニカルニュース」 2006 年 (冬季号)
19