2002 年第 3 四半期までの出荷動向と今後の展望 ガートナー データクエスト チーフアナリスト ジョン・モンロー シニアアナリスト 鈴木雅喜(監約・加筆) ■概要 2002 年第 3 四半期(7 月 ‑9 月)の HDD 総出荷台数は、前年同期比で 13.4%、前期比で 4.8% 成長した。2002 年 1 月 ‑9 月の出荷台数を合計すると 1 億 5860 万台となる。2001 年同期の 1 億 4070 万台から 12.7% 成長する 結果となった。需要は 11 月まで衰えることなく推移しており、2002 年の総出荷台数は少なくとも 2 億 1500 万台を超える見込みである。前年比で見た成長率は 10% を上回るであろう。以下に、モバイル(1.0"/1.8"/ 2.5")、デスクトップ(3.5"ATA インタフェース)、エンタープライズ(3.5"SCSI/FC/SSA インタフェース)、 HDD 各セグメント毎に市場の概況を振り返り、2003 年への展望を述べる。 ■モバイル・セグメント 図1 モバイル・ドライブの出荷台数推移 10 8 1999 2000 2001 2002 6 百万台 2002 年第 3 四半期のモバイル・ドライブ出荷台数は、 前年同期比では 16% 成長した。1999 年から 2001 年ま で、同じ第 3 四半期ベースで成長率の推移をみると、 23.3%(1999年)、38.7%(2000年)、マイナス5.6%(2001 年)となっている。 (図 1) モバイル・ドライブの出荷台数は、主要 P C ベン ダーのノートPC出荷台数の合計を引き続き上回る形 で推移している。ノーブランドのホワイトボック ス・ノート PC 市場向けと、PC 以外の用途に向けたモ バイル・ドライブ市場が加速度的に成長し始めた。 モバイル・ドライブ市場の中で 1.8"HDD、1.0"HDD 出 荷台数が占める割合は極めて小さいものの、この小 型ドライブ市場も 2002 年 1‑9 月の出荷台数も伸びて いる。前年同期の 2.4 倍となった。 4 2 0 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 出典:ガートナー データクエスト(2002年12月) 四半期ベースでみたモバイル・ドライブの総出荷台数は、ホワイトボックス・ノート PC や PC 以外の新用 途向けを含めた需要の総数も、上回って推移している。ガートナー データクエストでは 6 月にモバイル ドライブの在庫が膨らんだ後、2002 年第 3 四半期に HDD ベンダーは生産を絞ったとみている。9 月末になっ ても、モバイル・ドライブの過剰在庫が解消されていなかったが、30GB/ プラッタ製品への世代交代に伴 う歩留まりの悪化の影響もあり、モバイル・ドライブの在庫は 10 月から 11 月にかけて縮小傾向にある。 年末の HDD 需要は、堅調に推移しており、第 4 四半期のモバイル・ドライブの出荷台数が 900 万台に近づ く可能性もある。この場合、2002 年の総出荷台数は 3500 万台近くにまで達することになるであろう。し かし、このような見方があるとしても、ドライブベンダーは注意深く市場の状況を注視すべきである。 データクエストでは第 4 四半期のモバイル・ドライブ出荷台数が 880 万台を超えた場合、2003 年第 1 四半 期に過剰在庫による問題が起こるとみている。 ■デスクトップ・セグメント 2002 年第 3 四半期のデスクトップ・ドライブ(ATA インタフェースを有する 3.5"HDD)の出荷台数は、前 年比で 15% 成長した。第 3 四半期について 1999 年から 2001 年までの成長率を見ると、23.1%(1999 年)、 18.4%(2000 年)、マイナス 5.4%(2001 年)となっている。第 3 四半期の第 2 四半期に対する成長率は、4.1% (1999 年)、7.9%(2000 年)、+8.6%(2001 年)、8.9%(2002 年)と推移している。(図 2)このセグメントに関し て言えば、第 3 四半期は第 2 四半期に対して一桁 % の成長を遂げ、前年比では二桁 % の成長を遂げるのが 通常のパターンと言えるだろう。2001 年には、このパターンが崩れたが、2002 年には 2000 年までのパター ンを取り戻している。 1 IDEMA Japan News No.52 例年 1‑6 月のデスクトップ・ドライブ市場は、過 剰生産気味に推移する。2002 年も例外ではなかっ 45 た。意図的なものではないが、ほとんど恒例となっ 40 てしまった価格低落期を経て、デスクトップ・ドラ 35 イブ業界は、6 月終わりには生産規模を縮小してい 30 る。しかし、2002 年 7 月にベンダーはドライブ価格 1999 2000 25 の値上げを行った。まだ、在庫の過剰感が残ってい 2001 る状況で、値上げが受け入れられたことは驚くべき 20 2002 こととも言えよう。 予想とは裏腹に、ほとんどの販 15 売チャネルで思いがけなく需要は増大し、8 月には 10 供給不足ぎみになった。ディストリビュータからの 5 予期しない需要の急増の背景には、強く、しかも伸 0 び続けるホワイトボックス PC 市場があるとみてい 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 出典:ガートナー データクエスト(2002年12月) る。 供給不足の状況は 7‑9 月期を通して継続し、10 月、11 月に入っても続いている。ドライブベンダー はディストリビュータ向けの価格を値上げし続ける一方で、大手OEM向けの価格を安定的に維持している。 このような価格動向は、前例がない。ドライブ業界は、より賢明に「利益」の得られるビジネスを求める 方向性を強めている。 その結果の一端が市場に現れたといってもいいだろう。 デスクトップ・ドライブのスピンドル回転数は 7200rpm が主流となりつつある。しかし、まだ歩留まりが 良くない 80GB/ プラッタ製品に 7200rpm が求められれば、2003 年初頭のドライブ供給能力に大きなインパ クトを与えることになろう。データクエストでは、次世代のリード・ライトヘッドを十分かつ確実に入手 するのは既に困難になりつつあると見ている。ベンダーがドライブの過剰生産を回避しようと努力してい ることと併せて、部品の供給能力がドライブ供給不足の要因となっていく可能性がある。 百万台 図2 デスクトップ・ドライブの出荷台数推移 ■エンタープライズ・セグメント 百万台 2 0 0 2 年第 3 四半期のエンタープライズ・ドライブ 図3 エンタープライズ・ドライブの出荷台数推移 (SCSI,FC インタフェースを有する 3.5"HDD)は、前期 7 比で 6.9%、前年同期比で 3.8% 市場が縮小した。この 6 セグメントは、他の 2つのセグメントに比べると、変 動が不規則で季節パターンを読みにくい。1999 年の 5 第 3 四半期には前期比で 8.8%、前年同期比で 19.5% 1999 4 2000 市場が拡大、2000 年第 3 四半期には前期比で 16.9%、 2001 2002 前年同期比で 7% 引き続き拡大を続けた。2001 年同期 3 には、前期比で1.6%伸びたが、前年同期比では25.3% 2 市場が縮小している。1997 年から 2001 年までの間、 1 エンタープライズ市場の年間出荷台数は1900万台か ら 2200 万台の間で推移している。年間ベースで見る 0 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 と、2001 年には 14.7% も市場が縮小した。 出典:ガートナー データクエスト(2002年12月) ガートナー データクエストでは、2002 年に 2000 万 台のエンタープライズ・ドライブが出荷されると予測したが、1‑9 月の出荷台数は 1410 万台に留まってい る。2002 年、前年と同レベルの出荷台数を維持するためには、第4四半期に少なくとも前期比 +12.4%、490 万台のエンタープライズ・ドライブが出荷されねばならない。200 2 年1 1 月時点でのベンダーの見込 みでは、第 4 四半期の出荷は好調であり、12 月の出荷が目論見どおり進めば少なくとも、この期の出荷台 数は 500 万台を超えそうである。前年比マイナスの可能性は低くなった。 少なくとも 2002 年 9 月末の時点まで、エンタープライズ・ドライブの過剰在庫が残っていたが、その後 在庫減少に向かい、むしろ一部に供給不足を危ぶむ声が聞かれるようになった。但し、エンタープライズ・ 2 IDEMA Japan News No.52 ドライブの需給バランス改善はあっても、ガートナー データクエストでは引き続き生産計画や価格政策 に十分な注意を払うように薦めている。エンタープライズ・ドライブへの現実の需要は、元来サーバやハ イエンド・ストレージ・システムへの需要に支配されている。劇的にドライブの価格を下げても需要への 大きな変化は望めないであろう。 ■結論 2002 年 1 月 ‑9 月に HDD 市場全体の出荷台数が、データクエストの「ベスト・ケース・シナリオ」をも しのぐ良好な結果に終わったことは紛れもなく良いニュースと言えよう。しかし、良くないニュースもあ る。平均価格は予測を下回って推移した。平均ドライブ単価は第 2 四半期に大きく下落している。第 3 四 半期に需給動向が好転し、価格も安定したが、それでも単価の安いデスクトップ・ドライブの比率が高 まった影響で、平均単価は下落することとなった。データクエストでは 2002 年の市場全体の平均単価を $90 と見積もっていたが結果はそれを下回る見込みである。 ある程度の継続的な価格低下は避けるのが難しく、また逆に HDD 業界にとって必要であるともいえよう。 しかし過剰な価格低減は破滅を招きかねない。しかしデータクエストでは、価格の過剰な下落を回避する ことは現実に可能であるとの見方を変えていない。むしろ通常よく見られる非常に厳しい単価展望は、 2002 年 7 月に始まり第 4 四半期まで続くデスクトップ・ドライブ市場の前例の無い単価値上げによって、 やや緩和されることになった。データクエストでも 2003 年の単価の下落を見込んではいるものの、その 下落率はこれまでのように激しいものではないと見ている。利益の生み出せる市場機会を創出するチャン スはある。 1997 年から 2002 年までの間、HDD 業界は長い歴史の中で最も激しい、利益なき価格競争を続けることと なった。しかし、1990 年代初めから中盤以来の規模で、初めて部品の供給不足が(少なくとも短期的に)、 市場に大きな影響を及ぼす可能性が高まっている。新たな制約要因があっても、やはりドライブベンダー は、賢明に生産量と価格を管理し良好な需給バランスを保つ努力を進めるべきであろう。市場シェアの追 求より、そちらの方が重要である。 ドライブベンダーは業界の歴史についても更によく理解する必要があろう。この業界では「季節パター ン」と言えるものが全く無いとは言わないまでも、確実な姿を見出すのがかなり難しいと言ってもいいだ ろう。しかし「例外」が多い経験則はある。HDD 業界の「いつも通りの一年」とは、良くもなく悪くもな い月が6ヵ月から7ヵ月あり(通常 3 月終わりから8月、もしくは9月まで)、出荷の強い月が5ヵ月か ら6ヶ月(通常9月もしくは10月から 1 月、または 2 月まで)あるとの見方ができる。ドライブへの需要 は、毎年最も盛り上がる第4四半期からしばしば新年の第 1 四半期に繰り越されている。しかし、需要の 一段落が明らかになるのは 3 月半ばであり、4月が最も市場が厳しい月となる。 「良い」年には HDD 業界は 4 つある四半期のうちの一つの四半期だけ需要が弱く、一つか二つの四半期が 比較的好調になり、残り二つか一つの四半期が需給バランスが大きく需要側に振れ極めて好調となる。 1996 年は、まさにこの「良い年」であった。元々の HDD 市場予測は 1 億 1200 万台から 1 億 1700 万台の範 囲であったが、メディアとヘッドの供給が十分ではなく業界は 1 億 680 万台しか出荷ができなかった。現 実のドライブ需要はおそらく 1 億 800 万台から 1 億 1100 万台の範囲にあり、完璧に近い、すなわち利益の 上がる需給バランスが 1997 年初頭まで続いた。1996 年の 5 月に終わった価格の急落の後、全ての流通チャ ネルにおいて価格は安定している。ほぼ全てのドライブベンダーが 1996 年と 1997 年初めまで良好な収益 をあげている。株式を公開している HDD ベンダーや部品ベンダーの株価は、それまで無かったレベルにま で急上昇している。 1996 年は特別な一年であった。しかし 1996 年の状況から一転して、1997 年はドライブ業界の歴史の中 で最も厳しい一年となっている。1997 年、HDD の出荷台数は 1 億 2830 万台にまで成長したが、現実の需要 3 IDEMA Japan News No.52 はせいぜい 1 億 1300 万台から 1 億 1500 万台の範囲であった。仮 に 1 億 1500 万台であったとしよう。現実のドライブ需要自体に 実需 供給 は何の異常も無かったが、1 億 1500 万台しか消費できない市場 に対して 1 億 2800 万台以上のドライブを供給したことから HDD 1996年 108-111 107 業界は苦しむこととなった。1997 年の出荷台数はベンダー在庫 を除いても、前年比で 20% 以上成長したにも関わらず、当時、市 1997年 113-115 128 場で上位を占めていた 3 社は、1997 年後半に合計で 4 億 3420 万 ドルもの損失を計上している。 ガートナー データクエストでは、2003 年のドライブ需要を 2 億 3800 万台と見積もっている。もし、ド ライブベンダーがこれまでの経過を振り返り、需給バランスを適正水準に保つことができれば、あってし かるべき HDD 産業としての利益に関して、輝かしい見通しを持つことができるはずである。もしある程度 の利益が 2003 年にもたらされたとしても、2004 年にドライブベンダーは、さらに需給バランスへの十分 な配慮を行い、破滅的であった 1997 年の再来を防ぐ方向に動くと見ている。 本稿では HDD 業界において需給バランスをどう読むのかが、引き続き重要となっている点を述べた。需 要側で最も大きな市場、米国市場で何が起こっているのか、あるいは米国の業界で何が起こっているのか は、できればリアルタイムで注視していくべきである。しかし、それだけではなく、日本の部品業界で何 が起こっているのか、またコンスーマ向け製品を手がける日本のベンダーにも注目すべきであろう。日本・ 米国それぞれでどのような見方がなされているのか、、 、HDD のみではなくストレージ・デバイスに関連す るベンダーは、できるだけ幅広く、タイムリーな情報や見方を集めて、自分のものとして消化し、ビジネ スプランを策定していくべきであろう。 実需と供給の乖離(百万台) 4 IDEMA Japan News No.52
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