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牙
「っ……あ、ア……!」
すっかり 慣らされ てしとど に濡れた 後孔に待 ち わびた主
のそれが突き立てられ、瞬く間に最奥まで押し込められた。
いつものよ うに死ぬ ほど焦ら されて与 えられる の もいいけ
れど、こうして意識が霞まぬうちに穿たれて、主の存在を脳
髄の隅々まで植えつけられるのも悪くないと思った。身体が、
心が、主をしかるべき場所に迎えることができた歓喜で打ち
震える。
吐息だけで笑うと、吸い込んだ空気に濃い血の匂いが混ざ
った。今、アキラの視界の外にはいくつもの死体が折り重な
っている。皆アキラの巧みな誘惑の前に膝を折り、つい先ほ
どシキの刀の餌食となった者たちだった。
今日の未明のことだ。シキが数週間に及ぶ遠征から帰って
すなわちアキラの
―
」
寝室は、性のにおいに満ち満ちる
くるという 一報が入 った。そ れから間 もなくし て 、シキの
―
こととなった。
―
「あッ、はあ……っ、ん、ぁ
た手を返り血で美しく染められたシキの頬に当て、うっとり
アキラの唇が綻んで、艶やかな笑みが咲く。首に回してい
絶え間なく上がった。それは一人のさえない男を相手に、い
た。身体はひとりでに反応し、叫びとも唸りともつかぬ声が
穿たれてい るのか最 早わから なくなる くらい滅 茶 苦茶にし
彼らは、アキラが自分の体のどこをどう触れられ、弄られ、
と目を細めた。
かにもシキ から与え られてい るような 快楽を得 て いるのだ
「し、き……っ、おかえり、シキ……」
「きれいだ……」
「もっと、あ、もっと……!
ん、……ぐっ」
と見せかけるよりずっと楽だった。
「今回の『遊び』は随分派手だったな。……これで満足か?」
「……ッ、」
思わず漏れた感嘆の声に応えるように、シキが微笑む。
「ふふ」
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し込められた。意識せずとも自然に喉の奥が開いて、男をす
それでも足りないとねだると、すぐに怒張した肉が口に押
ているようだった。アキラはそれに応えるように、声が上が
違い、アキラをより高く啼かせ締め付けさせることに執心し
それは先 刻後ろで 銜えた男 の獣じみ た乱暴な や り方とは
―
そろそろ、かな。
るがままに任せ、銜える力を緩めずに腰を揺らした。
っかり銜え込む。数え切れないほどの男を受け入れてきたせ
いで、そこはもはや一種の性器と化していた。
「……ッ、ぅ、ん……ン、」
」
びゅく、と吐き出された誰かの白濁を顔にかぶりながら微
笑んだ、その時。
抽挿を繰り返されて呼吸が苦しくなり、異物を排除しよう
と喉が痙攣する。しかしそれが、それこそが快感となった。
「ん、ん……ああッ、……は、ア……
絶頂を迎えて狭まる視界の真ん中に、主を捉えた。
その後の 一分間は 背筋が ぞっと するくら いに刺 激 的だっ
た。ドク、と最奥で精が弾けたのと、絶対王者が刀の鞘を払
塞がれていた反動か、思いのほか大きな嬌声が上がる。す
るりと吐き出した時にはもう、辺りはすっかり血の海になっ
獣たちが動かなくなる。アキラが後ろを穿っていたモノをず
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ひくつく粘膜が男に絡みついて離れない。自分から頭を押し
付けて深く受け入れれば、相手の驚きと興奮が伝わってきた。
すかさず最奥で締め上げてやると、ビク、と震えて精が噴き
出した。それを余すことなく嚥下して捉えていた肉を解放し
た瞬間、腰に重い衝撃を受けた。後ろを穿っていた男が興奮
を煽られたか、腰を勢いよく打ち付けてきたのだった。
るとそれに気を良くしたのかは知らないが、急に内側の一点
ていた。白いシーツが真っ赤に染まり、たちまちむせ返るよ
ったのは同時だった。時が止まったかのようにアキラを貪る
を執拗に攻めてきた。
うな血の匂いが部屋を満たした。
あ、あ……は、ッ」
「ああっ、あ、……あ、ああ……ッ!」
「ア……!
‼
圧倒的な美しさを持って、主は立っていた。
そしてそこに、主がいた。
シキという美術品を傑作に仕立て上げた。
はりその通りであった。積み重なる死体と夥しい量の血は、
高の宴になるだろう。そんなふとした思い付きだったが、や
つと増えたなら、シキの美しさは一層輝きを増し、きっと最
その冷えた血の瞳で、アキラを射抜いた。
アキラはまた、もう一つの満足を得ていた。彼らはシキの
略によって殺された者たちだ。アキラが身ひとつで、 Nicole
手にかかっていることには違いないが、実際にはアキラの策
するのは、己に淫行を働いた者たちが斬られる時だけだ。刀
によって常人を凌駕する力を手に入れた者たちを、最も望ま
城の外に 出ること のない アキラ がシキの 刀の閃 き を目に
を手にするシキの立ち姿は何よりも美しい。そこに血の華が
しいやり方で殺したのだ。その事実を認識したとき、アキラ
は高揚を覚える。どこか遠く懐かしくも感じられる、心の奥
咲くとき、美は完成する。アキラは名画を鑑賞するように、
血塗れたシキをじっくりと眺めて満足する。震えるような愉
底に燻る何かが一瞬ぱっと火花を散らして燃え盛るような。
そしていつもより濃密な死の香りの中で及ぶ行為は、主の
その感覚は実に心地よいものだった。
悦がアキラを犯した。
ああ、最高だ。最高だよ、シキ。
いう男は、死の影を纏うことで一層その存在を際立たせる。
―
この満足のために、アキラは劇作家になる。アキラが二人
死の中にあってこそ、彼は生きることができる。それをアキ
長い不在で退屈していたアキラをひどく興奮させた。シキと
だけの世界に引き入れた第三者を、シキが一刀のもとに斬り
ラは直感で知っていた。
これほど興奮を煽るシナリオは他にはない。そう
捨てる
「ン、……っあ!」
―
だ、シキの気高く鋭い刃の元に散る命が一つではなく二つ三
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わずその一点を突き上げた。
れ浄化されていく。シキは数回乱暴に腰を前後させると、迷
幾人もの体液で穢された腔内が、シキによって塗り替えら
めとられる。ああ、今度は俺が食われている。俺を食うこと
の熱い吐息を感じた。滲み出る呪われた血を余すことなく舐
噛みつかれてピリリと甘い電流が走り抜け、開いた傷口に彼
れる全てを捉えようと、感覚が研ぎ澄まされていく。首筋に
アンタだけだ。
†
は、シキだけのもの。絶対に誰にも渡さない。
首筋に滲んだ血を拭うと、指先がほんのり色づいた。これ
ができるのは、シキ
―
「ああ、ア……、っひ、ぁ……!」
溺れかけたアキラを追い詰めるように強く揺さぶる時、シ
キは決まって微かに呼吸を乱す。短く繰り返される何かを絞
り出すような吐息を耳にして、アキラは来たる大きな快楽の
波を期待して全身がひくひくと震え始めるのを感じた。さあ、
早く。シキを俺に食わせて。もう腹が減って仕方がないんだ。
「はは、はははっ……あ、あ……!」
であるアキラの血を摂取することができない。それは
Nicole
ラインという麻 薬の僕となっ たシキの私 兵た ちは、非
腹の底から笑いが湧きあがってきた。笑いが止まらない。
シキだけに許される聖域だった。時折、どうせシキに斬り殺
「……ッ」
愉悦と快楽で気がおかしくなりそうだ。最高だよ、シキ。い
そうとはしなかった。この血はシキのためのもの。どこまで
されて死ぬのだからと求める輩もいたが、アキラは決して許
シキが息を詰めると同時に、アキラは彼から全てを取り上
もシキと寄り添うもの。魔王が築き上げた黒い城を滅ぼすこ
ま、最高の気分なんだ。
げる勢いで中を締めつけた。狂ったように昂ぶったまま迎え
とができる力は、いつでもその魔王の手中に
アキラの中
た絶頂は、頭が白くなるどころか冴え冴えとしていた。ドク、
にあるのだった。
―
とシキの一部がアキラの奥深くに注がれる。シキから与えら
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「お前の『遊び』はどこまで酔狂になるのか、見ものだな」
紫の瞳の男とは対照的に、シキの狂気はますます苛烈を極め
獣は更なる獲物を求めて狩りに出向く。孤独に沈んでいった
ていた。刀は血を吸うことをやめず、不敵な笑みは消えるこ
シキは絶 頂の波を 越えてた ゆたうよ うに抱か れ ていたア
キラの髪を梳きながら嘲笑を浮かべた。
アキラは 果てのな い奈落へ と堕ちて いくシキ を 間近で見
とを知らない。
主がきちんと手綱を握っていれば、アキラがふらふらと籠
ていたいと思うのと同時に、相反する欲望を抱いてもいた。
「シキがちっとも帰ってこないからだよ」
の中から出る必要もないのだ。シキが一瞬たりとも目を離さ
それは狂気に囚われた赤い瞳の悪魔を、食い尽くしたいとい
う欲望だった。彼をその燃え盛る狂気ごと、永遠に自分とい
ずにいてくれれば、どこにも行きはしないだろう。シキもそ
れをわかっているはずだった。
う存在の中 に閉じ込 めること ができた ならどん な にいいだ
出会い、どう殺したのか。シキの前に堂々と立ちはだかるこ
ど戻ってきたシキの目を見ればわかる。シキがどんな獲物に
彼が城の内外で何をしているのか、アキラは知らない。けれ
はまめに帰還するどころかますます留守がちになっていた。
徐々にエスカレートするアキラの『遊び』に反して、シキ
彼の狂気の原動力は、つまるところ『あの男』であった。ふ
キは『あの男』とは真逆の道を進もうと必死になっている。
がちらつくのをアキラは知っていた。同じ呪いを受けて、シ
ラを抱いているあいだでさえ、その瞳の奥に『あの男』の影
りも強く彼に干渉し、濃い影としてつきまとっている。アキ
しかしそれは容易なことではなかった。『あの男』は何よ
―
「主の帰 りを待ち かねて 手当た り次第に 肉を喰 い 漁る
とができる者は、この国にはもうほんの一握りしか残ってい
とした瞬間、ただその一点だけが許せなくなることがあった。
ろう。
ないのだろう。シキは大抵の場合苛立ちと共に帰還する。そ
『あの男』の影がこの上なく憎くなることがあった。その全
とんだ駄犬だな」
してごくまれに、その赤い瞳に愉悦を滲ませている。飢えた
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てを取り上げて、シキという男を沈めたくなるのだった。彼
を完全に自分のものに、したい。主へと向けられた牙はやが
て大きく鋭く成長し、アキラの心を侵食していった。
「つぎはもっと……、ひどくしてよ」
「ふ、『待て』もできない犬が主に餌を乞うか」
シキとアキラは互いを食い合うようにして、死臭の中で酔
狂な情交に耽った。アキラは自分の意識が飛び散るまでひた
すらにシキを乞い続け、シキはそれに応えた。
夢も見ぬ ほどの深 い眠りか ら目覚め たアキラ を 迎えたの
は、窓から溢れる黎明の光だった。純潔にして凄烈な、新し
い光。すっかり清められた部屋の中で白に包まれた彼の身体
は、心は、それをぼんやりと浴びた。翡翠の瞳は光を失い、
シキに散々抱かれ、痛めつけられた体にはもうわずかな力も
入りそうになかった。シキのいない黒い城は、こんなにも静
かで空しい。
―
今日もひとりの一日が、始まる。
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