妊娠中の姿勢変化 理学療法学科 助教 須永康代 妊娠中は腹部の容積が増え、外見からでも見える変化としては腹囲や子宮底長が増 加していきますが、腹部の重みによって身体重心位置は前方に変化するといわれてい ます。重心の位置が変化するとバランスが不安定となるため、重心を後ろへ戻そうと して、いわゆる猫背姿勢や腰をそらせるような姿勢となることが多くなってきます。 左の写真は、同じ女性の妊 娠 16 週の時期と妊娠 32 週の 時期の立位姿勢です。 赤い線で示したように、妊 娠 32 週では腰椎(背骨の腰の 部分)の彎曲が強くなってい ます。また、下半身は黄色い 線よりやや前方に出ています が、上半身は妊娠 16 週の時期 とほぼ変わりありません。 これは、前に述べたように、 お腹の重みによって重心位置 が前方に変化したのに対し、 腰をそらせることでバランス をとろうとしたためと考えら 妊娠16週 妊娠32週 れます。 このような姿勢の変化は腰背部痛と関連性が高く、妊娠中の女性の 50%以上が腰痛 を経験したことがあるとの報告もあります。実際に、現在妊娠中の女性や妊娠を経験 されたかたの中には、腰痛を経験したというかたが多くいらっしゃるのではないでし ょうか。お腹が大きくなることで、妊娠前よりも日常生活に不自由さを感じるだけで なく、こうした腰痛などが生じると、さらに様々な動作に困難さを感じることも多く なってきます。 妊娠中は、つわりなどの体調不良や安全面からも、積極的な運動が出来なかったり、 動くことに不安を感じがちになりますが、適切・適度な運動を行うことで腰痛などを 予防・軽減し、身体的・精神的リラックスにもつながります。妊娠・出産という女性 にとってとても大きなライフイベントを快適で安全に過ごしていきましょう。 今回は、妊娠中も無理なく簡単にできるストレッチングと、腰痛予防・軽減のため の日常生活上の注意点についてご紹介いたします。運動を行う際には、無理のない範 囲で、お腹の張りや痛みがある場合にはすぐに中止し、かかりつけの医師等に相談を してください。 ストレッチング ・股関節・骨盤周囲のリラクゼーション あおむけになり、両膝を曲げた状態で左右に膝を倒します。 ・腰背部のストレッチング あぐらまたは椅子に座り、両手を前で組んで息 を吐きながらゆっくりと背中を丸めていきます。 ・股関節のストレッチング あぐらをかくようにして両足の裏を合わせ、息 を吐きながら膝を床に向かって押します。 ・ふくらはぎのストレッチング 一方の足を後ろに引いて立ち、膝を伸ばして、息を 吐きながらかかとを床につけるようにして、ゆっく りとふくらはぎを伸ばします。反動をつけないよう に注意しましょう。 日常生活での注意点 ・あおむけで寝る際に、腰痛があったり、腰の下に手が入る隙間があるような場合は、 膝の下に枕やクッションを入れ、軽く膝を曲げるようにすると腰部の筋がリラック スし、腰痛予防・軽減につながります。妊娠後期でお腹が大きくなってきたら、で きるだけ横向きに寝るようにし、足の間に枕やクッションを置くと楽になります。 ・寝ている状態から起き上がる時は、一度横向きになり、腕の力で起きるようにしま しょう。 ・床から物を持ち上げるときは、腰を曲げず膝を曲げるようにしましょう。 参考文献 田中康弘:図解マタニティビクス マタニティビクスの「理論」「効果」「実践法」. 山海堂,2002,16-27. 村井みどり:産前産後の理学療法のための検査・測定のポイントとその実際.理学 療法,2004,21(2) ,279-284. 村井みどり: 「姿勢」―とらえ方・取り組み方 姿勢 姿勢その多様性 妊娠と姿勢. 理学療法,2007,24(1) ,56-62.
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