第5章 【PDF:330KB】

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■ 第5章 ■
学校評価、教員評価とフィードバック、
学校と教員への影響
要 約 ................................................................................................ 176
はじめに ............................................................................................. 177
第 1 節 学校評価のあり方と影響 ........................................................ 182
第 2 節 教員評価とフィードバックの様式 .......................................... 192
第 3 節 教員評価とフィードバックの結果 .......................................... 200
第 4 節 教員評価とフィードバックの影響 .......................................... 205
第 5 節 教員評価およびフィードバックと学校改善 ............................. 209
第 6 節 学校における教育評価の枠組みとその関連 . ........................... 213
第 7 節 結論:政策と実践への示唆 .................................................... 220
第5章
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第5章 学校評価、教員評価とフィードバック、学校と教員への影響
要 約
●
評価とそのフィードバックは、教員とその仕事によい影響をもたらす。教員の回
答によれば、職務満足感が向上し、いくらか仕事への安心感を得られたうえ、教
員としての専門性開発をおおいに促進しているということである。
第5章
●
教員評価とそのフィードバックの特定の側面が強調されればされるほど、授業実
践において教員が自らの学習指導を改善する変化もより顕著に表れる。学校評価
において学習指導の特定の側面がより強調されることが、教員評価における同じ
側面の強調と結びつき、それに伴って、教員が回答したような授業実践における
変化も生じるという場合もある。このような場合には、教育評価の枠組みは効果
的に機能しているようである。
●
多くの国々では評価をあまり制度的に位置づけておらず、学校評価、教員評価と
そのフィードバックの効用を得ていない。たとえば、オーストリアでは 35%、ア
イルランドでは 39%、ポルトガルでは 33% と、3 分の 1 もしくはそれ以上の割合
の教員が仕事をしている学校では、過去 5 年間に学校評価が行われていない。さ
らに、TALIS 調査参加国平均では、教員の 13% が、学校で評価とそのフィードバ
ックの機会をまったく享受していない。イタリアでは 55%、ポルトガルでは 26%、
スペインでは 46% と、評価とそのフィードバックから得られる利益を得ていない
教員の割合が高い国々もある。
●
多くの教員は、教員の努力に対して何の報奨や認定も与えられていない学校に勤
務している。4 分の 3 の教員が、自らの仕事の質を向上させたことに対して認定
を受けることはないと回答している。また、ほぼ同じ割合の教員が、自らの学習
指導について革新的であることに対して認定を受けることはないと回答している。
この結果は、学校を継続的な改善を促す学習の拠点にしようとする多くの国々の
試みにおよそ沿うものではない。
●
多くの教員は、成果をあげている教員を報奨せず、成果に乏しい教員を解雇しな
い学校に勤務している。回答によれば、教員の 4 分の 3 が勤務する学校では、最
も成果をあげている教員が最もよい認定を受けているわけではない。また、ほぼ
同じ割合の教員が、自分の学校では、教員が成果のあがらない状態が続いている
ことによって解雇されることはないと回答している。
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学校評価、教員評価とフィードバック、学校と教員への影響 第5章
はじめに
学校における教育評価と教員評価およびそのフィードバックの枠組みは、TALIS 調査の中心
的な関心事である。評価は、学校の改善と教員の成長において重要な役割を果たすものである
(OECD, 2005)。強みと弱みを認識し、データに基づく資源配分の決定を行い、学校や教員に対
して能力向上の動機づけを行うことは、学校改善、学校の説明責任、学校選択などの政策目標
を達成する助けとなる。調査データは、教員に与えられる認定や報奨を含む、これらの問題お
よび関連する問題に関して、校長と教員から収集したものである。調査データの分析を通じて、
学校のあらゆる関係者にとって重要な多くの知見がもたらされた。
校長と教員から収集したデータが示すのは、学校評価が教員評価とそのフィードバックの性
格と様式に影響を及ぼし、そのことが次には教室での教員の仕事ぶりにも影響を及ぼすという
ことである。それゆえ、政策の立案者および運用担当者には、能力の向上をもたらし、学校教
育の特定の分野にねらいを定めた評価枠組みを作成する機会が開かれている。とくに、TALIS
調査のデータによれば、特別な学習ニーズをもつ生徒の指導と多文化環境での学習指導の領域
における指導力向上に対する教員のニーズへの対応を強化する余地がある(第 3 章を参照)。
さらに、教員の回答によれば、現在の評価枠組みには、かれらの専門性開発とかれらが生徒
に提供する教育の改善に対して必要な支援と動機づけが欠けているという。教員は、改善や革
新に対する報奨はほとんどなく、勤務する学校で最も成果をあげている教員が最も高い認定を
得ているわけではないと回答している。したがって、評価がもたらす利益を享受するために学
校教育を評価する枠組みを強化する機会は、すべてとはいわないまでも、大半の教育制度にあ
るといえる。教員は、かれらが受け取る評価とフィードバックは有益であり、公正であり、教
員としての成長に役立つものであると答えている。このことは、学校評価と教員評価およびフ
ィードバックを強化し、より構造化する機運を生み出している。
第 1 節では、TALIS 調査参加国を通じた学校評価の性格と影響について論じる。ここでは、
評価の頻度、とりわけ学校評価がほとんど行われていない国々における評価の頻度および学校
評価の目的に焦点をあてる。続いて第 2 節では、教員評価とフィードバックに関して、その頻度
と焦点にとくに注目しながら議論していく。次に第 3 節では、教員評価とフィードバックの結果
および影響について論じる。続いて第 4 節で、教員評価とフィードバックを、学校改善の広範な
文脈に位置づけて分析する。第 5 節で学校評価、教員評価とフィードバック、教員の指導におけ
る影響との関連が論じられる。最後に、結論として政策への示唆を提起する。
本章(およびこの報告書全体)で示される分析および主要な知見に関する議論は、TALIS 調
査のデータの性格によって一定の制約を受けている。TALIS 調査がクロスセクション調査であ
るため、大雑把な因果関係を結論づけるのは賢明なことではない。とくに生徒の学力に対する
第5章
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第5章 学校評価、教員評価とフィードバック、学校と教員への影響
影響については、それが TALIS 調査プログラムでは調査されていないので、なおさらである。
したがって、生徒の学力に関する長期的な影響を確かめることができないところでは、結果の
解釈に際して注意を払わなければならない。
0.1 学校における教育評価の枠組み
近年、多くの国では学校評価の役割に変化が生じている。歴史的には、学校評価は学校をモ
第5章
ニタリングして手続きと方針が確実に守られるようにすることに焦点をあて、その関心は学校
管理に関する問題にあった(OECD, 2008d)
。現在では、多くの国においてその焦点は、学校
の説明責任と学校改善の諸側面へと移行している。さらに、ある国の教育制度では、学校の成
果を測定する指標や学校評価に関する他の情報が、学校選択を促進するために公表されてもい
る(Plank and Smith, 2008; OECD, 2006a)
。学校における教育を評価するための枠組み、とく
に学校評価のための枠組みの開発を後押しするもう 1 つの要因は、近年多くの国の教育制度にお
いて学校の自律性が強化されていることである(OECD, 2008a)
。中央集権型の統制が弱まれば、
共通のスタンダードが確実に守られるようにするためのモニタリングと評価が増える結果にな
りうる(Caldwell, 2002)。さらに、学校の自律性が強化されれば、学校はそれぞれのニーズに
最も適合的な実践を選択し、改善していくことができるので、教育実践がより多様なものにも
なりうる。こうした多様性とそれが教育成果にもたらす影響は、生徒にとってよい影響が生じ
ること、またさまざまな政策上および管理上の要請が守られることを保障するためのみならず、
学校改善にとって効果的な実践からより多くのことを学ぶためにも、評価される必要があるだ
ろう。ある国の教育制度では、他の国の制度に比べて、学校間で教育成果や学習到達度により
多様性がみられることを考えると、この点はとくに重要である(OECD, 2007; OECD, 2008a)。
学校改善を目的とした学校評価は、学校がさまざまな改善策に取り組み、モニタリングを行
ううえで有益な情報を提供することを主眼とし、校長と教員を支援することができる(van de
Grift and Houtveen, 2006)。教員評価とそれに続くフィードバックは、学校の関係者がよりよく
情報を提供されたうえで意思決定を行う助けにもなりうる(OECD, 2005)
。こうした改善の努
力は次のような方針によって促進される。つまり、インプット、プロセス、アウトプットとの
関連性を分析するために評価を用いる学習組織として学校を位置づけることによって、学校が
自らの強みを自覚したうえで実践を展開し、弱点を克服する取り組みによって、自らを改善す
る努力を後押しする目的を果たそうとすることである(Caldwell and Spinks, 1998)
。
投入された公的資金とそれに付随して提供されるサービスに対して、公的資金を利用する機
関の説明責任を確保しようとする動きは、多くの国の行政改革においてますます広くみられる
特徴である(たとえば Atkinson, 2005; Dixit, 2002; Mante and O’Brien, 2002)
。学校の説明責任
は、学校の教育成果の測定を中心として考えられることが多いが、これもこうした一連の説明