Ⅳ吸収不良症候群アルコール過飲者はたとえ十分な食事をしていたとしても、腸管からの吸収不良や下痢などによって、ビタミン不足をはじめとする栄養障害に陥りやすい。そして、アルコール依存症になると、食事も取らないで飲み続けることが多く、栄養の摂取が十分でなくなる。つまり、アルコール依存者は栄養不足に陥りやすい。 ① アルコール心筋症長期大量飲酒によって、心臓が肥大して、不整脈、体動時の呼吸困難や動悸、夜間の突発性呼吸困難等がみられる。断酒によって急速によくなるが、末期になると断酒しても回復しない。 ② アルコール・ミオパチー主として、手足の筋肉がやられる。大量のアルコール摂取後、急激に骨格筋の筋痛、脱力、浮腫、壊死を生じる急性型と、徐々に体幹に近い筋肉の萎縮と脱力が起こってくる慢性型がある。 ③ 脳神経障害ビタミンＢ1 の欠乏によって起こる。眼球運動 Ⅰウェルニッケ脳炎障害、歩行障害、意識障害が主な症状である。しばしば後にかくコルサコフ症候群、多発神経炎を合併する。 Ⅱコルサコフ症候群物覚えがひどく悪くなり、最近のことを少しも覚えられない。覚えのないことを聞かれると、作話をして答える。人物、場所、時間の見当がつかなくなる。 Ⅲアルコール小脳変性症小脳虫部の一部の神経細胞が脱落する。歩行障害で始まることが多く、眼振、筋緊張低下、言語障害などになる。 Ⅳ多発神経炎四肢末端から始まる左右対称性の知覚鈍麻、痛み、しびれ感等が認められ、進行すると運動障害を伴うようになる。 Ⅴアルコール痴呆大脳が萎縮することにより、知能低下、人格変化などを引き起こす。進行すると社会生活は不可能になる。 ④ ペラグラビタミンの一種であるニコチン酸の欠乏によって起こる。日光にさらされる部位の対称性の皮膚炎、せん妄を中心とする精神症状、下痢などが主な症状である。治療が遅れると死亡する場合がある。 ⑤ 中毒性弱視徐々に視力が低下して、検査すると視野中心部に見えないところがあるのに気付く。断酒、栄養摂取によって改善する。 ⑥ 胎児アルコール症候群 Ⅰ胎児の障害妊娠中に大量のアルコールを飲用していた母親から、特異的な顔貌（小頭症、薄い唇、小さい目、人中形成不全）、心臓その他の臓器の奇形、発育障害、中枢神経障害（学習、記憶、注意力の持続、コミュニケーション、視覚・聴覚の障害など）を持った子供が生まれることが知られている。妊婦が摂取したアルコールは胎盤を通じて胎児の体に入るが、胎児にそのアルコールがどのようにして作用して障害を引き起すのかについては、胎児の発育過程そのものに不明な点が多いことや、妊娠中に飲酒した時期、飲酒の頻度や飲酒量、母親と胎児の健康状態や遺伝的素因など様々な要因が関係することから十分に解明されていない。しかし、最近の研究から、アルコールの代謝に伴って発生する物質が胎児の細胞を傷つけたり、神経細胞の正常な発育に必要ないくつかの物質の作用をアルコールが阻害してしまう可能性など、様々な原因が複雑に絡み合いながら障害の発生に関与しているものと考えられています。アルコールによる胎児の障害は妊娠中であれば何時でも起きる可能性がある。また妊娠中に飲酒しても安全なアルコールの量は明らかにされておらず、妊娠中の飲酒はその量や時期に関わらず胎児に悪影響を与える恐れがあるとされている。 Ⅱ日本の状況平成１２年に厚生労働省（2000年）に厚生労働省が実施した妊娠中の飲酒に関する調査によると、妊娠中に飲酒した回数が１０回未満と回答した人の割合は９．３％、同じく月１～２回が４．５％、週１～２回が２.６％、週３回以上が１．４％で、妊娠中に一度でも飲酒したことのある女性の割合は合計１８.１％となっている。厚生労働省は「２１世紀における国民健康作り運動」のなかで、アルコールに関する次のことについて目標値を定め取り組んでいる。・多量飲酒問題の早期発見と適切な対応・未成年者の飲酒防止 Ⅲアルコールと健康についての知識の普及酒造業界などにおいては、自主的に酒類製品の本体に「妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。」などの注意表示を行うこととしている。 ⑦ 糖尿病インスリンを産生しているすい臓が、アルコールに侵され、インスリン不足になることによって起こる。検査では、高血糖と尿糖がみられ、口渇、多飲、多尿、空腹感、体重減少等の症状が出る。コントロールが悪いと多くの合併症を生じやすくなる。重症になると、毎日、インスリンの注射が必要となる。酒をやめてから、甘いものをよく食べるようになり、糖尿病になるケースもある。まとめいままで述べてきた病気は全てアルコールの飲み過ぎが、原因で起こるものである。これらの病気で内科に入院したものの、また退院したあとに酒をまた飲むことによって悪化してしまい死亡ということが、多い。現実に内科からアルコール依存症を治す精神科に、つながるかというと、そんなことはほとんど無い。精神科医でさえ、アルコール依存症の知識がある人は、少ない。これでは、私たち一般人に知識がまわってくるはずがない。これからも、アルコール依存症患者は増えていくだろう。そのときに、治療をすることはできない。ただ、死んでいくだけかもしれない。本当に、多い病気であるから、もっとアルコール依存症の知識について広めていかなければならないのである。第一節家庭への影響「地獄を見たければ、アルコール依存症者のいる家庭を見よ」話がある。これは、アルコール依存症は本人だけの病気ではなく、家族全体を巻きこんで苦しめるものであることを端的に表わしている。 WHO から「アルコール有害使用低減世界戦略からみた日本における現状と課題」というデータを公開した。本人への有害性を身体的、精神的、社会的の害の３種類に、他社への精神的、社会的の２種類に分けて、計５項目のサブグループに分類し、各薬物を０（無害）～１００（最も有害）に点数化したものである。その結果、アルコール（７２点）が全般的に最も有害な薬物と評価され、次いでヘロイン ( 5 5 点 ) 、クラックコカイン（５４点）と続いた。クラックコカイン（３７点）、ヘロイン（３４点）、メタアンフェタミン ( 3 2 点 ) は、本人への有害性が大きかったが、他者に対して有害性が大きかったのは、アルコール（４６点）、ヘロイン（２１点）、クラックコカイン ( 1 7 点 ) であった。結果より、アルコールは他者などへの一番大きいことが示された。よって、家族への影響が大きいことがわかる。 ① 妻アルコール依存症者の妻は、自分には何も問題が無い、悪いのは酒害者であると考えている。しかし、正しい知識を持たないままでこの病気に巻き込まれたのが原因で、他から援助を受けなければ立ち直れないほどのおおきな問題を持っている。まず、アルコール依存症についての知識がないから、アルコール依存症者を病人としてみることができない。真面目にやれば、問題を起こさないでやれる人だと考えてしまう。事実、アルコール依存者は酒を飲まなければ普通である。そして、問題を繰り返すことに我慢できず、愚痴を言ったり、説教や非難をする。治すことには、至らない。その為、なかなか良くならないアルコール依存症者に対して怒りや恨みをいだく。「この人のせいで人生がダメになった。」という被害意識が強い。年月が経つにつれて、飲酒問題はよくならいという絶望感が生じ、「早く死ね。できれば殺してやりたい」といった、アルコール依存症者の存在を認めない気持ちがでてくる。さらに、世間体の悪い思いをしたり、将来の生活に対する不安や暴力により、感情が安定しなくなる。そうして日常生活がうまくいかなくなり、仕事が十分にできない。また、精神的な不安定が原因で体の病気を引き起こすこともある。 ② 子供厚生労働省による、全国の高校生のアンケート調査では 1 0 ％以上が、親のお酒で悩んでいると回答している。アルコール問題家庭で育った、子供が問題を抱えているのは良く知られている。そして、アルコール依存症の家庭で育ち成人した人々をアダルトチルドレン (ＡＣ )とよぶ。アメリカの社会心理学博士のクラデイア・ブラック氏は、ＡＣをこう定義している。