平成22年度 二酸化炭素固定化・有効利用技術等対策事業 地球環境国際研究推進事業 (脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 的 発 展 可 能 な 経済社会実現のための対応戦略の研究) 成 果 報 告 書 平成23年3月 財団法人 地球環境産業技術研究機構 ま え が き 本報告書は、 「脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦略の研 究 」( 通 称 A LP S : A Ltern ative P athways towa rd Sustainab le de velop men t and climate stab iliza tion ) プ ロ ジ ェ ク ト の 第 4 年 度 報 告 で あ る 。 温 暖 化 抑 止 に 向 け て の 世 界 の 動 き は益々活発になっており、2010年12月に開かれた気候変動枠組条約締約国会合 ( COP 16)で は 、コ ペ ン ハ ー ゲ ン 合 意 が COP 決 定 と し て 合 意 さ れ 、そ こ で は 地 球 大 気 温 の上昇を2度にとどめる考えも明示されている。そのためには世界は従来にない思い 切 っ た 温 室 効 果 ガ ス 削 減 の 努 力 が 必 要 で 、す で に わ が 国 は 2 0 2 0 年 の 排 出 2 5 % 減 、 2050年の排出80%減を目標として打ち出している。 一方において、発展途上国は貧困からの脱却を願って今後更に大幅な経済の拡大を 指向しており、これと温暖化抑止の努力を如何に整合させ、人類を安定な持続的発展 に 導 く か は 2 1 世 紀 の 世 界 の 最 大 の 課 題 と 考 え ら れ る 。 現 に COP で も 先 進 国 と 途 上 国 の大きな意見対立が見られ、具体的な排出削減への道筋は不明瞭なままである。 本プロジェクトにおいては、そのような複雑な課題への回答を、定性的な総合的社 会経済シナリオの構築とモデルによる定量的な解析を組み合わせて探索している。 本プロジェクトでは、諸大学・研究所そして産業界からも多数の方にご助力をお願 いしている。また、国際的には、ウィーン郊外にある国際応用システム分析研究所 ( IIA SA) や 米 国 ロ ー レ ン ス バ ー ク レ ー 国 立 研 究 所 ( LBN L) と も 連 携 し 、 諸 デ ー タ ・ モ デル分析等における総合協力を行い、大きな成果を得ている。これら外部の方々のご 助力には、厚く感謝申し上げたい。 平成23年3月 (財)地球環境産業技術研究機構 副理事長 i 茅 陽一 委員会、ワーキンググループ名簿 (順 不 同 ) <脱温暖化と持続的発展社会実現戦略技術委員会> 委 員 長 山 地 憲 治 東京大学 名誉教授 (財 )地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構 理 事 ・ 研 究 所 長 委 員 内 山 洋 司 筑波大学 大学院 システム情報工学研究科 教授 枝 廣 淳 子 (有 )イ ー ズ 代 表 取 締 役 江 守 正 多 (独 )国 立 環 境 研 究 所 地 球 環 境 研 究 セ ン タ ー 温暖化リスク評価研究室 室長 大 政 甲斐沼 謙 次 東京大学 大学院 農学生命科学研究科 教授 美紀子 (独 )国 立 環 境 研 究 所 地 球 環 境 研 究 セ ン タ ー 温暖化対策評価研究室 室長 杉 山 大 志 (財 )電 力 中 央 研 究 所 社 会 経 済 研 究 所 上 席 研 究 員 立 花 慶 治 東 京 電 力 (株 ) フ ェ ロ ー 藤 井 康 正 東京大学 大学院 工学系研究科 原子力国際専攻 教授 松 橋 隆 治 東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 教授 三 村 信 男 茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター 教授 俊 介 東京理科大学 理工学部 経営工学科 教授 森 山 口 光 恒 東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授 吉 岡 完 治 慶応義塾大学 産業研究所 教授 委員会事務局 地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構 (RITE) シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ <SDシナリオWG委員会> 主 査 杉 山 大 志 (財 )電 力 中 央 研 究 所 社 会 経 済 研 究 所 上 席 研 究 員 委 員 江 守 正 多 (独 )国 立 環 境 研 究 所 地 球 環 境 研 究 セ ン タ ー 温暖化リスク評価研究室 室長 荻 本 和 彦 東京大学 生産技術研究所 特任教授 角 和 昌 浩 昭 和 シ ェ ル 石 油 (株 ) チ ー フ エ コ ノ ミ ス ト 川 島 博 之 東京大学 大学院 農学生命科学研究科 准教授 小 林 茂 樹 (株 )豊 田 中 央 研 究 所 シ ン ク タ ン ク 室 主 席 研 究 員 野 村 浩 二 慶應義塾大学 産業研究所 准教授 松 本 光 朗 (独 )森 林 総 合 研 究 所 温 暖 化 対 応 推 進 拠 点 温 暖 化 対 応 推 進 室 室長 山 形 与志樹 (独 )国 立 環 境 研 究 所 地 球 環 境 研 究 セ ン タ ー 主 席 研 究 員 山 本 隆 富士常葉大学 総合経営学部 教授 三 ii 秋 元 圭 吾 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ グ ル ー プ リ ー ダ ー 友 田 利 正 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 主 席 研 究 員 和 田 謙 一 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 主 任 研 究 員 長 島 美由紀 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 小 田 潤一郎 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 徳 重 功 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 子 <モデル構築・評価WG委員会> 主 査 森 俊 介 東京理科大学 理工学部 経営工学科 教授 委 員 川 島 博 之 東京大学 大学院 農学生命科学研究科 准教授 紀 伊 雅 敦 香川大学 工学部 安全システム建設工学科 准教授 黒 沢 厚 志 (財 )エ ネ ル ギ ー 総 合 工 学 研 究 所 プ ロ ジ ェ ク ト 試 験 研 究 部 部長 桜 井 清 水 堂 脇 清 志 東京理科大学 理工学部 経営工学科 准教授 藤 井 康 正 東京大学 大学院 工学系研究科 原子力国際専攻 教授 室 田 泰 弘 (有 )湘 南 エ コ ノ メ ト リ ク ス 代 表 取 締 役 山 形 与志樹 (独 )国 立 環 境 研 究 所 地 球 環 境 研 究 セ ン タ ー 主 席 研 究 員 山 本 博 巳 (財 )電 力 中 央 研 究 所 社 会 経 済 研 究 所 上 席 研 究 員 横 木 裕 宗 茨城大学 工学部 都市システム工学科 准教授 秋 元 圭 吾 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ グ ル ー プ リ ー ダ ー 友 田 利 正 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 主 席 研 究 員 和 田 謙 一 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 主 任 研 究 員 礼 美 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 林 紀 久 副主席研究員 庸 電力研究国際協力機構 中央事務局 事務局長代理 東京大学 大学院 農学生命科学研究科 助教 長 島 美由紀 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 本 間 隆 嗣 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 佐 野 史 典 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 娟 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 劉 iii <セクター別シナリオWG委員会> 主 査 秋 元 圭 吾 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ グ ル ー プ リ ー ダ ー 副 主 査 和 田 謙 一 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 主 任 研 究 員 委 員 【電力チーム】 今 中 健 雄 (財 )電 力 中 央 研 究 所 社 会 経 済 研 究 所 主 任 研 究 員 遠 藤 康 之 東 京 電 力 (株 ) 技術開発研究所 地球環境技術グループマネージャー 数 野 裕 史 関 西 電 力 (株 ) 環 境 室 地 球 環 境 グ ル ー プ マ ネ ジ ャ ー 小宮山 涼 一 東京大学 大学院 工学系研究科 原子力国際専攻 特任助教 高 武 雄 (株 )東 芝 電 力 シ ス テ ム 社 火 力 ・ 水 力 事 業 部 橋 新エネルギー・環境事業推進部 技術担当 参事 中 山 寿美枝 電 源 開 発 ( 株 ) 経 営 企 画 部 地 球 環 境 グ ル ー プ グループリーダー 宮 池 潔 (株 )東 芝 電 力 シ ス テ ム 社 火 力 ・ 水 力 事 業 部 技 監 毅 秋田大学 国際資源学教育研究センター 教授 【鉄鋼チーム】 安 達 岡 崎 照 夫 新 日 本 製 鐵 (株 ) 環 境 部 部 長 兼 地 球 環 境 対 策 グループリーダー 手 塚 宏 之 J F E ス チ ー ル (株 ) 技 術 企 画 部 地 球 環 境 グ ル ー プ リーダー(部長) 中 野 直 和 住 友 金 属 工 業 (株 ) 気 候 変 動 担 当 部 長 正 己 (株 )本 田 技 術 研 究 所 四 輪 R & D セ ン タ ー 第 1 技 術 開 発 室 【自動車チーム】 小 椋 主任研究員 堀 江 薫 (株 )本 田 技 術 研 究 所 四 輪 R & D セ ン タ ー 第 3 技 術 開 発 室 HEET 主 任 研 究 員 金 成 修 一 (財 )日 本 自 動 車 研 究 所 エ ネ ル ギ ー ・ 環 境 研 究 部 環境評価グループ 小 林 茂 樹 (株 )豊 田 中 央 研 究 所 シ ン ク タ ン ク 室 主 席 研 究 員 萩 原 典 之 日 産 自 動 車 (株 ) 企 画 ・ 先 行 技 術 開 発 本 部 技 術 企 画 部 主 担 波多野 敦 日 産 自 動 車 (株 ) 企 画 ・ 先 行 技 術 開 発 本 部 技 術 企 画 部 山 戸 昌 子 ト ヨ タ 自 動 車 (株 ) 環 境 部 製 品 グ ル ー プ 担 当 課 長 長 島 美由紀 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 本 間 隆 嗣 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 佐 野 史 典 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 小 田 潤一郎 RITE シ ス テ ム 研 究 グ ル ー プ 研 究 員 iv 目 要 約 (和 文 ・ 英 文 ) 次 ………………………………………………………….1 第 1 章 は じ め に ............................................................................. 33 1.1 背 景 .................................................................................................... 33 1.2 IPCC 第 5 次 評 価 報 告 書 に 向 け た 排 出 シ ナ リ オ ・ 分 析 の 動 向 .............. 36 1.3 国 際 枠 組 み に 関 す る 動 向 .................................................................... 39 1.4 本 研 究 の 目 的 ...................................................................................... 41 第 2 章 持 続 可 能 な 発 展 と 温 暖 化 対 策 に 関 す る 評 価 例 の 調 査 ........ 44 2.1 幸 福 度 指 標 に 関 す る 調 査 .................................................................... 44 2.1.1 は じ め に ............................................................................................... 44 2.1.2 用 語 の 定 義 ........................................................................................... 44 2.1.3 先 行 研 究 ............................................................................................... 45 2.1.4 幸 福 度 と 各 種 指 標 と の 関 連 ................................................................... 46 2.1.5 ま と め .................................................................................................. 51 2.2 Emergy 指 標 に 関 す る 調 査 ................................................................... 53 2.2.1 は じ め に ............................................................................................... 53 2.2.2 コ ン セ プ ト ........................................................................................... 55 2.2.3 エ メ ル ギ ー 計 算 例 ................................................................................. 57 2.2.4 国 レ ベ ル で の Emergy 分 析 .................................................................... 64 2.2.5 Emergy 指 標 に 関 す る ま と め ................................................................. 67 2.3 持 続 可 能 な 発 展 に 関 す る 指 標 化 の 国 際 的 な 取 り 組 み .......................... 68 2.3.1 ミ レ ニ ア ム 開 発 目 標 ( MDGs ) ............................................................. 68 2.3.2 ス テ ィ グ リ ッ ツ ・ セ ン ( CMEPSP) 報 告 ................................................ 71 2.3.3 ま と め .................................................................................................. 72 2.4 気 候 変 動 問 題 に お け る 割 引 率 の 考 察 ................................................... 73 2.4.1 は じ め に ............................................................................................... 73 2.4.2 ラ ム ゼ ー ル ー ル の 導 出 方 法 ................................................................... 74 2.4.3 ラ ム ゼ ー ル ー ル に 関 す る 議 論 ............................................................... 77 2.4.4 不 確 実 性 下 で の 割 引 率 .......................................................................... 78 2.4.5 表 明 選 好 法 に よ る 設 定 .......................................................................... 81 v 2.4.6 多 様 性 の 考 慮 ........................................................................................ 81 2.4.7 ま と め と 今 後 の 研 究 ............................................................................. 82 2.5 投 資 判 断 年 数 に 関 す る 調 査 ................................................................. 84 2.5.1 は じ め に ............................................................................................... 84 2.5.2 企 業 や 個 人 が 投 資 判 断 を 行 う 際 に 用 い ら れ る 割 引 率 ............................ 84 2.5.3 途 上 国 の 状 況 ........................................................................................ 85 2.5.4 主 観 的 割 引 率 ........................................................................................ 88 2.5.5 ど の よ う な 割 引 率 を 設 定 す べ き か ........................................................ 93 2.6 調 査 の ま と め ...................................................................................... 94 第 3 章 叙 述 的 シ ナ リ オ の 策 定 ....................................................... 95 3.1 叙 述 的 シ ナ リ オ の 概 要 ........................................................................ 95 3.2 マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ ................................................... 97 3.3 温 暖 化 政 策 の 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ ............................................ 98 3.4 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ .................................................... 102 3.5 叙 述 的 シ ナ リ オ に 関 す る ま と め ........................................................ 103 第 4 章 モ デ ル 開 発 と 定 量 的 分 析 ................................................. 105 4.1 概 要 .................................................................................................. 105 4.2 都 市 の 空 間 分 布 予 測 モ デ ル の 開 発 .................................................... 107 4.2.1 は じ め に ............................................................................................. 107 4.2.2 都 市 の 現 況 と 既 往 研 究 ........................................................................ 107 4.2.3 適 合 性 を 考 慮 し た 不 規 則 成 長 モ デ ル の 構 築 .........................................112 4.2.4 都 市 圏 別 人 口 の 将 来 推 計 .................................................................... 130 4.3 農 業 土 地 利 用 ・ 水 需 給 ・ 土 地 利 用 変 化 炭 素 収 支 評 価 モ デ ル の 開 発 .. 145 4.3.1 は じ め に ............................................................................................. 145 4.3.2 関 連 す る 問 題 の 解 釈 と モ デ ル 分 析 で の 扱 い ........................................ 145 4.3.3 モ デ ル 開 発 と デ ー タ 整 備 .................................................................... 150 4.3.4 ま と め と 今 後 の 課 題 ........................................................................... 170 4.4 生 態 系 影 響 評 価 モ デ ル の 開 発 ........................................................... 172 4.5 セ ク タ ー 別 の 動 向 調 査 ...................................................................... 175 4.5.1 電 力 部 門 ............................................................................................. 175 4.5.2 鉄 鋼 部 門 ............................................................................................. 193 vi 4.5.3 運 輸 部 門 ( 自 動 車 ) ........................................................................... 223 4.6 短 中 期 温 暖 化 対 策 評 価 モ デ ル DNE21+に よ る 分 析 ・ 評 価 ................. 233 4.6.1 DNE21+モ デ ル の 概 要 ......................................................................... 233 4.6.2 分 析 し た シ ナ リ オ ............................................................................... 235 4.6.3 分 析 結 果 ............................................................................................. 236 第 5 章 叙 述 的 シ ナ リ オ に 沿 っ た 緩 和 と 影 響・適 応 の 定 量 的 シ ナ リ オ の 策 定 .............................................................................. 251 5.1 概 要 .................................................................................................. 251 5.2 人 口 ・ GDP ........................................................................................ 253 5.2.1 一 人 当 た り GDP(MER 換 算 ) ................................................................ 253 5.2.2 人 口 .................................................................................................... 255 5.2.3 GDP(MER 換 算 ) .................................................................................. 258 5.2.4 GDP( PPP 換 算 ) .................................................................................... 262 5.3 都 市 人 口 と そ の 空 間 分 布 .................................................................. 270 5.3.1 は じ め に ............................................................................................. 270 5.3.2 ALPS の 都 市 比 率 と 都 市 人 口 シ ナ リ オ ................................................ 270 5.3.3 都 市 人 口 の 空 間 分 布 ........................................................................... 279 5.4 貧 困 人 口 ........................................................................................... 286 5.5 温 暖 化 に よ る 健 康 影 響 ...................................................................... 290 5.5.1 は じ め に ............................................................................................. 290 5.5.2 シ ナ リ オ 策 定 の 方 法 ........................................................................... 290 5.5.3 死 亡 率 ・ 死 亡 者 数 に 関 す る 暫 定 的 シ ナ リ オ ........................................ 292 5.5.4 ま と め ................................................................................................ 294 5.6 食 料 需 給 と 農 業 土 地 利 用 .................................................................. 295 5.6.1 は じ め に ............................................................................................. 295 5.6.2 食 料 需 要 量 ......................................................................................... 295 5.6.3 食 料 生 産 に 必 要 な 面 積 の 温 暖 化 影 響 と 適 応 ........................................ 298 5.6.4 ま と め ................................................................................................ 300 5.7 水 需 給 ............................................................................................... 300 5.7.1 は じ め に ............................................................................................. 300 5.7.2 水 需 要 量 と 水 資 源 量 ........................................................................... 301 5.7.3 温 暖 化 影 響 と 適 応 ............................................................................... 305 5.7.4 ま と め ................................................................................................ 307 vii 5.8 土 地 利 用 変 化 炭 素 収 支 ...................................................................... 308 5.8.1 は じ め に ............................................................................................. 308 5.8.2 食 料 用 作 物 耕 地 拡 大 に 伴 う 炭 素 放 出 量 ............................................... 308 5.8.3 非 商 用 バ イ オ マ ス 燃 料 利 用 に 係 る 炭 素 放 出 量 .................................... 310 5.8.4 ま と め ................................................................................................ 310 5.9 エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 推 移 ( 短 中 期 ) ...................................... 311 5.9.1 具 体 的 な シ ナ リ オ 設 定 .........................................................................311 5.9.2 シ ナ リ オ I、 II、 III の 分 析 .................................................................. 314 5.9.3 シ ナ リ オ の 分 析 か ら の 政 策 的 含 意 ...................................................... 318 5.10 エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 推 移 ( 長 期 ) ....................................... 319 5.10.1 統 合 評 価 モ デ ル DNE21 の 概 要 と モ デ ル 前 提 条 件 ............................. 319 5.10.2 社 会 経 済 と 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る 長 期 シ ナ リ オ の 分 析 ................ 320 5.11 非 CO 2 GHG 排 出 量 ......................................................................... 328 第 6 章 持続可能な発展及び地球温暖化政策に関する指標開発とそ の 定 量 的 評 価 ................................................................... 334 6.1 概 要 .................................................................................................. 334 6.2 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ .................................................................. 335 6.2.1 算 定 方 法 ............................................................................................. 335 6.2.2 試 算 結 果 ............................................................................................. 337 6.2.3 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標 の ま と め ............................................... 339 6.3 そ の 他 項 目 ........................................................................................ 340 6.3.1 一 人 当 た り GDP ................................................................................. 340 6.3.2 貧 困 人 口 ............................................................................................. 341 6.3.3 5 歳 未 満 児 感 染 症 等 に よ る 死 亡 者 数 ................................................... 343 6.3.4 水 ス ト レ ス 人 口 .................................................................................. 345 6.3.5 GDP あ た り CO 2 排 出 .......................................................................... 347 6.3.6 GDP あ た り 排 出 削 減 コ ス ト ................................................................ 348 6.3.7 全 球 平 均 気 温 上 昇 ............................................................................... 349 6.4 シ ナ リ オ の SD 評 価 .......................................................................... 350 6.4.1 世 界 平 均 値 に よ る 将 来 時 点 の SD 評 価 ................................................ 351 6.4.2 各 時 点 の 地 域 別 SD 評 価 ..................................................................... 353 6.4.3 SD 評 価 の ま と め と 今 後 の 課 題 ........................................................... 356 viii 第 7 章 海 外 主 要 研 究 機 関 に よ る シ ナ リ オ ................................... 357 7.1 中 国 シ ナ リ オ .................................................................................... 357 7.1.1 は じ め に ............................................................................................. 357 7.1.2 方 法 論 ................................................................................................ 357 7.1.3 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 ........................................................................ 358 7.1.4 セ メ ン ト ・ 鉄 鋼 部 門 の エ ネ ル ギ ー 効 率 改 善 技 術 の コ ス ト 分 析 ............ 362 7.1.5 結 果 の 分 析 ......................................................................................... 367 7.1.6 考 察 .................................................................................................... 373 7.2 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 と 気 候 変 動 の 相 互 作 用 ...................................... 374 7.2.1 目 的 .................................................................................................... 374 7.2.2 IIASA に よ る 分 析 手 法 ........................................................................ 374 7.2.3 IIASA に よ る 分 析 結 果 ........................................................................ 377 7.2.4 ALPS へ の 考 察 ................................................................................... 381 7.3 モ ビ リ テ ィ の 消 費 者 選 択 を 通 じ た GHG 削 減 ポ テ ン シ ャ ル ............... 382 7.3.1 目 的 .................................................................................................... 382 7.3.2 IIASA に よ る 分 析 手 法 ........................................................................ 382 7.3.3 IIASA に よ る 分 析 結 果 ........................................................................ 383 7.3.4 ALPS へ の 考 察 ................................................................................... 387 第 8 章 ま と め と 今 後 の 課 題 ......................................................... 389 付 録 ....................................................................................... 393 付録 1 ALPS 国 際 シ ン ポ ジ ウ ム ............................................................ 395 ix 要 約 要 約 本 プ ロ ジ ェ ク ト ( 通 称 ALPS プ ロ ジ ェ ク ト : ALternative Pathways toward Sustainable development and climate stabilization) は 、 経 済 産 業 省 の 補 助 事 業 「 地 球 環 境 国 際 研 究 推 進 事業」の一つで平成19年度から実施しているものであり、本年度は4年目にあたる。本 プロジェクトの目標は、 ( 1 )今 後 100 年 に わ た る 世 界 の 社 会 経 済 、温 室 効 果 ガ ス 排 出 シ ナ リオを提示する、 ( 2 )こ の 排 出 シ ナ リ オ を 基 準 に 温 室 効 果 ガ ス を 各 種 濃 度 安 定 化 レ ベ ル に 抑制する方策を示す、 ( 3 )各 排 出 シ ナ リ オ に お け る 水 資 源 や 健 康 、生 物 多 様 性 等 に 関 連 す る 各 種 持 続 的 発 展 指 標 を 定 量 的 に 提 示 す る 、 そ し て 、( 4 ) こ れ ら の 定 量 的 な 評 価 を 基 に 、 各種持続的発展政策、温暖化緩和・適応策のあり方に関する示唆を得ることである。 本報告書は以下のような内容で構成されている。 第1章 はじめに 本章では、本プロジェクトの背景として、世界の気候変動政策や経済発展、貧困を巡る 情 勢 と 、IPCC 第 5 次 評 価 報 告 書 に 向 け て の シ ナ リ オ の 策 定 動 向 、地 球 温 暖 化 防 止 の た め の 国際枠組みに関する動向を概説し、次いで、本プロジェクトの目的と、本年度の研究目標 を記述した。 第2章 持続可能な発展と温暖化対策に関する評価指標等の調査 我々は将来世代を含めて幸福でありたいために温暖化対策を含めた対応を行おうしてい きている。そこで、本章では、まず幸福度指標に関する調査についてまとめた。一人当た り GDP の 大 き さ と 幸 福 度 の 大 き さ に は 、概 ね 正 の 相 関 が 見 ら れ る も の の 明 確 な わ け で は な く 、一 人 当 た り GDP が 大 き く な る に つ れ 、幸 福 度 は 飽 和 傾 向 が 強 く な る 。ま た 、一 人 当 た り 消 費 額 、人 間 開 発 指 標( HDI)、ジ ニ 係 数 な ど と 幸 福 度 の 関 係 で 見 て も 、一 人 当 た り GDP 同 様 、 相 関 が 強 い わ け で は な い こ と を 整 理 し た 。 一 人 あ た り GDP は 幸 福 度 を 考 え る 上 で 、 一つの重要な指標であることは間違いなく、特にそれが小さい段階では特に重要である。 一 方 で 、一 人 あ た り GDP は 幸 福 度 を 左 右 す る 多 く の 要 因 の 一 つ に 過 ぎ な い こ と も 確 か で あ る 。シ ナ リ オ の 分 析 に お い て は 、GDP を 評 価 し つ つ も 、定 量 化 が 難 し い も の も 多 い が 、そ の他の要因にも十分配慮していく必要がある。 -3- 5.0 4.5 4.0 幸福度指数 3.5 3.0 2.5 y = 0.2621ln(x) + 3.2068 R² = 0.2781 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0 1 10 100 一人当たりGDP(千$) GDPは2007年、幸福度は最新年(主に2005-2008年) 図 1 一 人 当 た り GDP と 幸 福 度 指 標 の 関 係 また、持続的なエネルギー利用に焦点をあてた指標の一つであるエメルギー指標や、そ の他、持続可能な発展に関する指標化の国際的な取り組みや行動の状況についても調査・ 整理を行った。更に、割引率を構成する純粋時間選好率や消費に対する効用の弾力性との 関係に関する論争について幅広く整理を行った。また、投資回収判断年数や投資判断にお いて観測される主観的な割引率について調査を行った結果についてまとめた。 第3章 叙述的シナリオの策定 ALPS で は 、 定 量 的 な シ ナ リ オ 策 定 に 先 立 っ て 、 叙 述 的 シ ナ リ オ 策 定 を 行 っ た 。 中 心 と なるシナリオは、3つの軸(視点)によるものである。それは、マクロの社会経済に関す る シ ナ リ オ( A、B)、温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ( I、II、III)、排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ( 濃 度 安 定 化 レ ベ ル 、IPCC RCP( Representative Concentration Pathway) に 対 応 ) の 3 つ の 軸 で あ る ( 図 2)。 ALPSコ アシナリオ 長期的なマクロの経済社会状況に関するシナリオ B:高位技術 進展シナリオ A:中位技術 進展シナリオ 排出削減レベルに 関するシナリオ 温暖化政策実施における 背景状況に関するシナリオ RCP3.0PD I:多目的多様性社会 シナリオ RCP4.5 II. 温暖化対策 優先シナリオ RCP6.0 RCP8.5 図 2 III:エネルギー安全 保障優先シナリオ ALPS で 想 定 し た シ ナ リ オ ( 主 要 な シ ナ リ オ の み ) -4- 2種類のマクロの社会経済シナリオの主要なドライビングフォースは、技術の進歩であ るとして、その不確実性の範囲として2種類の見通しを策定した。技術進歩は不確実であ り 、将 来 の 革 新 性 の 高 い 技 術 を 予 期 す る こ と は 不 確 実 性 が 高 い と 考 え た た め で あ る 。本 来 、 政策によっても技術の進歩は変わり得るが、それ以上に意図しない不確実性が大きいもの と考えた。シナリオは、これまでの奇跡的とも言える高経済成長から先進国を中心に次第 に 緩 や か な る 経 済 成 長 へ と 変 化 し て い く シ ナ リ オ A と 、奇 跡 的 と も 言 え る 技 術 革 新 が 今 後 も 継 続 し 一 人 当 た り GDP 成 長 も 大 き く 成 長 す る シ ナ リ オ B の 2 種 類 で あ る 。 温 暖 化 政 策 の 背 景 状 況 に 関 す る 3 種 類 の シ ナ リ オ は 次 の と お り で あ る 。 シ ナ リ オ I「 多 目的多様性社会シナリオ」は、現在の社会行動に近いことを前提としたシナリオである。 シ ナ リ オ II は「 温 暖 化 対 策 優 先 シ ナ リ オ 」で あ り 、こ の シ ナ リ オ に お い て は 、様 々 な 目 的 の中で温暖化対策の優先度が高く、温暖化対策をコスト効果的に実施することが優先され る シ ナ リ オ で あ る 。 シ ナ リ オ III は 「 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リ オ 」 で あ り 、 エ ネ ル ギー安全保障の視点から国内資源の利用が優先されるようなシナリオである。 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ は 、IPCC が 第 5 次 評 価 報 告 書 に 向 け た 新 シ ナ リ オ の た め に 選 定 し た 4 つ の 排 出 シ ナ リ オ( RCP)に 沿 っ て 、ベ ー ス ラ イ ン( RCP で は 2100 年 に 放 射 強 制 力 が 8.5 W/m2)、 RCP6.0( 6.0 W/m2)、 RCP4.5( 4.5 W/m2)、 RCP3PD( 3W/m2 を ピ ー ク に 2100 年 に 2.6 W/m2)の 排 出 推 移 、お よ び こ れ に 加 え て 3.7 W/m2 シ ナ リ オ の 5 シ ナ リオについて検討を行うこととした。 表 1 は 、 マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ ( A、 B)、 温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ ( I、 II、 III)、 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ 間 の 関 連 性 の 強 さ に つ い て 概 観 し た も の で あ る 。 例 え ば シ ナ リ オ A か つ シ ナ リ オ III で あ れ ば 、 RCP3PD の よ う な 厳 し い 削 減 も 可 能 性 で あ る か も し れ な い が 、 シ ナ リ オ B か つ シ ナ リ オ I、 II の よ う な 社 会 環 境 に お い て は 、 RCP3PD の よ う な 削 減 は ほ と ん ど 考 え ら れ な い だ ろ う 。 こ れ は 主 観 的にまとめたものであるが、シナリオ間にはこのような関連性が存在していると考えられ る。 -5- 表 1 マクロ経 済 ・ ALPS コ ア シ ナ リ オ 間 の 関 係 [A]中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ [B]高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ 社会 情勢 RCP6 RCP4.5 3.7W/m 2 RCP 3PD RCP6 RCP4.5 3.7 W/m 2 RCP 3PD I. 多 目 的 多様性社会 シナリオ ○ ◎ ○ △ ◎ ○ △ × II. 温 暖 化 対策優先 シナリオ △ ○ ○ ○ ○ ○ △ △ III. エネルギー安 全保障優先 シナリオ ◎ ○ ○ × ◎ △ △ × 全般的 な温暖化 政策背景 注 ) ◎ : 関 連 が 強 い 、 ○ : 関 連 す る 、 △ : 少 し 関 連 す る 、 ×: ほ と ん ど 関 連 し な い 仮 に 、「 マ ク ロ 経 済 ・ 社 会 情 勢 シ ナ リ オ ( [A], [B]) 」 、「 全 般 的 な 温 暖 化 政 策 シ ナ リ オ ( I, II, III) 」 の と き 、そ れ ぞ れ の 濃 度 安 定 化 レ ベ ル の 対 策 を 実 現 す る こ と の 困 難 さ に つ い て 主 観 的 に 評 価 し た も の で あり、将来を予測したものではない。 第4章 モデル開発と定量的評価 多様な要素が複雑に絡み合ったシナリオや政策を評価するためには、一定のロジックに 沿 っ た 定 量 的 モ デ ル が 必 要 で あ る 。 第 4.3 節 で は 、 開 発 し た 食 料 需 給 ・ 水 需 給 ・ 土 地 利 用 お よ び 土 地 利 用 変 化 起 因 の CO 2 の 評 価 モ デ ル に つ い て 記 述 し た 。 ま た 、 第 4.5 節 に お い て 、 エ ネ ル ギ ー ・ 温 暖 化 緩 和 策 に 関 す る モ デ ル 分 析 に 先 だ っ て 、 特 に CO 2 排 出 が 大 き く 排 出 削 減 の 見 通 し に 大 き な 影 響 を 持 つ と 考 え ら れ る 発 電 、鉄 鋼 、自 動車部門について、技術動向、直近の生産活動量および将来の見通し等について、調査・ 整理を行った。 発電部門については、発電コストに関する最新のデータ、技術動向等を幅広く調査し、 石炭、天然ガスの化石燃料発電、原子力発電、風力発電、太陽光発電の現状コストおよび 将来見通しを整理した。また、風力、太陽光発電については、系統安定化に要する追加費 用についても整理を行った。図 3 は時系列で見た発電コストであるが、原子力、石炭発電 は 現 状 で は 8∼ 12 円 /kWh 程 度 、天 然 ガ ス は 10∼ 14 円 /kWh 程 度 、風 力 は 16∼ 18 円 /kWh 程 度 、太 陽 光 は 55∼ 63 円 /kWh 程 度 で あ る( 送 電 費 用 込 )。風 力 、太 陽 光 は 将 来 的 に コ ス ト 低 減が期待できるが、一方で、導入容量が大きくなるにしたがって、設置環境条件が悪くな ったり、系統安定化のための追加費用が必要となったりするために、コストが増大する部 分もある。導入量が小さい部分については、化石燃料発電や原子力発電のコストと比較的 近くなると見込まれる部分もあるが、導入量を増やすと化石燃料発電や原子力発電よりも 相当大きな発電コストを要すると見られる。 -6- 70 発電単価(円/kWh) 60 50 電気 料金 20 40 太陽光発電 30 風力発電 天然ガス発電 石炭発電 10 原子力発電 0 2005 図 3 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 日本における各種発電設備の発電単価および将来の見通し 鉄鋼部門については、粗鋼生産量の将来見通しおよび将来の鉄スクラップ利用可能量に つ い て 推 定 を 行 っ た 。図 4 に 世 界 地 域 別 の 粗 鋼 生 産 量 の 推 定 を 示 す が 、中 国 は 過 去 10 年 程 度の間に急激に粗鋼生産量が拡大したが、一人当たり見掛け粗鋼生産量などのデータを踏 まえると、早晩、飽和傾向に移行すると見られる。一方、インドについては今後生産量の 拡 大 が 見 込 ま れ る 。 2050 年 の 世 界 の 粗 鋼 生 産 量 は 22 億 ト ン 程 度 と 推 定 し た 。 銑 鉄 生 産 時 に一定のエネルギー投入が不可欠であるため一般に銑鉄を主な鉄源とする転炉鋼とスクラ ッ プ を 主 な 鉄 源 と す る 電 炉 鋼 で は エ ネ ル ギ ー 効 率 、 CO 2 排 出 原 単 位 が 大 き く 異 な る 。 そ の た め 鉄 鋼 部 門 に お け る 将 来 の CO 2 排 出 量 を 分 析 す る 際 に 、電 炉 鋼 す な わ ち 鉄 ス ク ラ ッ プ の 利用可能量を推定しておくことは重要である。しかし、社会にどの程度、鉄が蓄積されて いるか、そのうちのどの程度が加工屑・老廃屑等として回収されているのかは不明確であ る。本研究では、限られた情報の中ではあるが、様々なデータ、文献等を総合的に利用し つ つ 、2 種 類 の 推 計 方 法 で 、世 界 の 鉄 ス ク ラ ッ プ 回 収 の 将 来 推 定 を 行 っ た( 図 5)。こ れ に よ る と 、 2050 年 に は 8∼ 10 億 ト ン 程 度 の 鉄 ス ク ラ ッ プ が 回 収 可 能 と 見 込 ま れ た ( 加 工 屑 ・ 老廃屑の合計の値。なお、数値の幅は、過去から現在に至る間に、どの程度、所内屑、加 工屑、老廃屑として回収されてきたかのデータについて、どれに信頼性をおいて推定を行 う か の 違 い に よ る も の )。所 内 屑 が 1.5 億 ト ン 程 度 と 見 込 ま れ る た め 、こ れ は 全 ス ク ラ ッ プ 量( 所 内 屑 、加 工 屑 、老 廃 屑 の 合 計 )で は 9.5∼ 11.5 億 ト ン 程 度 に 相 当 す る 。IEA の 見 通 し で あ る 約 12.5 億 ト ン は 、 本 研 究 に お け る 分 析 よ り も 3∼ 1 億 ト ン 程 度 、 過 大 に 見 積 も っ て いる可能性が示唆された。 -7- Latin America シナリオ 2,000 粗鋼生産量 (Million ton of crude steel/yr) 統計値 (推計値含む) Africa and Middle East Oterh developing Asia 1,500 India Economies in transition 1,000 China 500 OECD Pacific OECD North America OECD Europe 0 1990 2000 図 4 2010 2020 2030 2040 2050 地域別の粗鋼生産量実績と将来シナリオ 16 将来シナリオ(ロジックII) 14 将来シナリオ(ロジックI) 回収利用量(Fe億t/yr) 12 過去の推計(ロジックII) 過去の推計(ロジックI) 10 8 6 4 2 0 1950 図 5 1975 2000 2025 2050 2075 2100 世界の鉄スクラップ回収の実績と将来推定(加工屑および老廃屑の合計) 世界経済危機の影響による直近と将来の各部門の生産活動量の見通しや、上記のような コストや技術の最新動向を、世界を詳細に地域分割し、各種温暖化対策技術を詳細に積み 上 げ た エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム モ デ ル DNE21+の 前 提 条 件 に 反 映 さ せ 、 2050 年 ま で の 期 間 に つ いて、分析・評価を行った。 第5章 叙述的シナリオに沿った温暖化緩和と影響・適応の定量的シナリオの策定 本章では、各種モデル、ツールを用いて、第 3 章でまとめたような叙述的シナリオに沿 って、温暖化緩和と影響・適応の定量的なシナリオ策定を行った。 第 5.2 節 で は 、過 去 の 実 績 等 を 詳 細 に 分 析 し た 上 で 、社 会 経 済 シ ナ リ オ( A、B)の 人 口 、 GDP シ ナ リ オ 策 定 を 図 6、 7 の よ う に 行 っ た 。 -8- SRES A2 (IIASA1996高位) 160 SRESの範囲 ALPS-シナリオA 140 SRES B2 UN2008高位 人口(億人) 120 (UN1998中位) UN2008中位 IIASA2007 100 (10-90パーセンタイル) ALPSの範囲 80 UN2008の範囲 60 UN2008低位 SRES A1/B1 40 (IIASA1996低位) ALPS-シナリオB 20 0 1950 1975 2000 2025 図 6 2050 2075 2100 人口シナリオ Range in SRES 400 SRES A1 SRES B1 GDP (Trillion 2000 USD) 350 300 ALPS-Scenario B 250 200 ALPS-Scenario A 150 SRES B2 100 EIA-IEO2010 SRES A2 50 IEA-ETP2010 0 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 図 7 GDP シ ナ リ オ ま た 、 第 5.3 節 で は 、 そ れ ぞ れ の 都 市 人 口 を 推 定 す る と と も に 、 都 市 別 の 人 口 分 布 に つ い て も 推 定 を 行 っ た 。 第 5.4 節 で は 貧 困 人 口 に つ い て 推 定 を 、 第 5.5 節 で は 温 暖 化 に よ る 健康影響に関する分析を行った。 第 5.6∼ 5.8 節 に お い て は 、 開 発 し た 食 料 需 給 ・ 水 需 給 ・ 土 地 利 用 変 化 を 整 合 的 に 評 価 で きるモデルを用いて、食料需給のシナリオ、淡水資源に関するシナリオ、土地利用および 土 地 利 用 変 化 CO 2 に 関 す る シ ナ リ オ 策 定 を 行 っ た 。 第 5.9 節 で は 社 会 経 済 シ ナ リ オ A に つ い て 、 温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ( I、II、III)の 差 異 に 関 し て 、2050 年 ま で の 短 中 期 の シ ナ リ オ 策 定 、分 析 を 実 施 し た 。 シ ナ リ オ I「 多 目 的 多 様 性 シ ナ リ オ 」 で は 、 現 実 社 会 の 投 資 行 動 で 観 測 さ れ る よ う な 投 資 回 収 年 数 ( 投 資 判 断 に お け る 主 観 的 割 引 率 ) を 想 定 し た 。 シ ナ リ オ II「 温 暖 化 対 策 -9- 優先シナリオ」は投資判断における主観的割引率を現実社会で観測されるものよりも小さ く 想 定 し た 。シ ナ リ オ III「 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 シ ナ リ オ 」は 、石 油 、ガ ス の 関 税 を 他 の シ ナ リ オ よ り も 大 き く 想 定 す る こ と に よ っ て モ デ ル で 表 現 を 行 っ た 。 図 8、 9 に 、 シ ナ リ オ I ( 多 目 的 多 様 性 シ ナ リ オ ) に お け る 2050 年 に 世 界 排 出 量 半 減 の た め の 技 術 別 寄 与 度 、 地 域 別 寄 与 度 を そ れ ぞ れ 示 す 。 図 10 に は 、 シ ナ リ オ I、 II、 III の ベ ー ス ラ イ ン の 発 電 電 力 構 成 を 示 す 。 シ ナ リ オ III で は 、 原 子 力 発 電 の 比 率 が シ ナ リ オ I に 比 べ て 大 き く 、 シ ナ リ オ II では、原子力発電の比率が大きいことに加え、初期設備費用は高いものの高効率な発電設 備 の 導 入 量 が 大 き い シ ナ リ オ と な っ て い る 。図 11 は 、世 界 排 出 量 半 減 の と き の 限 界 削 減 費 用 の シ ナ リ オ I、 II、 III の 比 較 だ が 、 シ ナ リ オ I や III で は 現 実 社 会 に お け る 投 資 回 収 判 断 に依存するため、高い炭素価格をつけなければ半減が達成できないことがわかる。一方、 シ ナ リ オ II で は 、シ ナ リ オ I、 III に 比 べ て 限 界 削 減 費 用 を 低 減 で き る 。こ れ は 炭 素 に 明 示 的に価格付けを行っても実現できず、ボトムアップ的なきめ細かい方策によって、技術普 エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr] 及 障 壁 を 取 り 除 く こ と で 、 こ の シ ナ リ オ II に 近 づ く こ と が で き る も の と 考 え ら れ る 。 60 発電部門:CCS ベースライン排出量: 57GtCO2/yr 50 17% 14% 40 15% 11% 30 43% 20 世界半減時排出量: 13GtCO2/yr 10 発電部門:再生可能 発電部門:原子力 発電部門:効率向上、 化石燃料間転換 発電以外のエネルギー 転換部門 民生部門 運輸部門 産業部門 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 8 CO2排出量 2050 年 に 世 界 排 出 量 半 減 の た め の 技 術 別 寄 与 度 ( シ ナ リ オ A-I) - 10 - エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr] 60 ベースライン排出量: 57GtCO2/yr 50 Other non-OECD 30% Other OME 40 6% 10% 30 24% India China 17% 20 Other OECD 13% 世界半減時排出量: 13GtCO2/yr 10 USA CO2排出量 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 9 2050 年 に 世 界 排 出 量 半 減 の た め の 地 域 別 寄 与 度 ( シ ナ リ オ A-I) 50000 PV 45000 Wind Biomass-Low 35000 Hydro&Geothermal Nuclear 30000 Gas-CHP 25000 Gas-High Gas-Middle 20000 Gas-Low Oil-CHP 15000 Oil-High 10000 Oil-Middle Oil-Low 5000 Coal-High 2020年 図 10 2030年 シナリオIII シナリオII シナリオI シナリオIII シナリオII シナリオI シナリオIII シナリオII 0 シナリオI 発電電力量 [TWh/yr] Biomass-High 40000 Coal-Middle Coal-Low 2050年 ベ ー ス ラ イ ン に お け る 世 界 の 発 電 電 力 量 ( シ ナ リ オ I、 II、 III の 差 異 ) - 11 - 500 CO2限界削減費用 [$/tCO2] シナリオI、III シナリオ I 450 シナリオ II 400 シナリオ III 350 300 シナリオII 250 200 150 100 50 0 2000 2010 2020 2030 2040 2050 西暦年 図 11 シ ナ リ オ I、 II、 III に よ る CO 2 限 界 削 減 費 用 の 比 較 第 5.10 節 で は 、温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ I に つ い て 、社 会 経 済 シ ナ リ オ( A、B)の 差 異 お よ び 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ の 差 異( 濃 度 安 定 化 レ ベ ル 、 IPCC RCP) に 関 す る 分 析 を 、 統 合 評 価 モ デ ル DNE21( DNE21+モ デ ル よ り も 地 域 区 分 、具 体 的 な 温 暖 化 対 策 技 術 の 表 現 が 簡 略 な モ デ ル )を 用 い て 、2100 年 ま で の 長 期 に つ い て 実 施 し た 。 図 12 に 社 会 経 済 シ ナ リ オ A( 中 位 )、 B( 高 位 ) の 違 い に よ る ベ ー ス ラ イ ン に お け る 世 界 の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 を 示 す 。 A、 B い ず れ に お い て も 、 2050 年 に は 現 状 の 2 倍 程 度 、2100 年 に は 現 状 の 3 倍 前 後 の 排 出 と な る こ と が 見 込 ま れ る 。濃 度 安 定 化 レ ベ ル 別 の 世 界 の GDP ロ ス を 図 13 に 示 す 。本 研 究 で の 分 析 結 果 は 、IPCC 第 4 次 評 価 報 告 書における報告の幅の中で中位的なものである。 120 CO2 emissions from energy (GtCO2/yr) RITE ALPS-A 100 RITE ALPS-B 80 SRES A1B SRES A1FI 60 SRES A1T 40 SRES A2 20 SRES B1 0 1975 SRES B2 2000 2025 2050 2075 2100 RCP8.5 (MESSAGE) -20 図 12 ベ ー ス ラ イ ン に お け る 世 界 の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 シ ナ リ オ - 12 - ALPS GDPロス (%) 図 13 濃 度 安 定 化 レ ベ ル に よ る 世 界 の GDP 損 失 ( IPCC AR4 と の 比 較 ) そ し て 、第 5.11 節 で は 、非 CO 2 温 室 効 果 ガ ス 排 出 シ ナ リ オ に つ い て 、社 会 経 済 シ ナ リ オ ( A、 B) の 差 異 お よ び 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 し て 分 析 を 行 っ た 。 第6章 持続可能な発展および地球温暖化政策に関する指標開発とその定量的評価 本章では、温暖化対策を持続的発展というより広い文脈の中で評価するための、策定し た シ ナ リ オ に つ い て 、各 種 の 持 続 可 能 な 発 展 に 関 わ る 指 標 で 評 価 を 行 っ た 。温 暖 化 対 策 は 、 持続可能な発展に対してトレードオフや相乗効果など、幅広い影響をもたらし得る。その ため、シナリオを様々な指標によって評価することは重要である。 例 え ば 、 図 14、 15 は IEA が 作 成 し た エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標 に 準 拠 し た 指 標 を 用 い た 評 価 例 で あ る 。ベ ー ス ラ イ ン で は 、2050 年 に 向 け て エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ の 脆 弱 性 が高まると見込まれる。一方、世界排出量半減の場合でも、エネルギーセキュリティは一 概に低減するわけではなく、むしろ高まる傾向さえ見られることは注目すべき点である。 な お 、 シ ナ リ オ III の エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 シ ナ リ オ で は 、 こ こ で 採 用 し た エ ネ ル ギ ー セ キ ュリティ指標によるとセキュリティが高まるシナリオとなっていることがわかる。また、 図 16、 17 に そ れ ぞ れ 水 ス ト レ ス 人 口 、 GDP あ た り CO 2 排 出 量 を 示 す 。 こ れ 以 外 に も 様 々 な指標を用いてシナリオの評価を行った。 - 13 - エネルギーセキュリティ指標 14000 2000年実績 12000 2050年(ベース) 2050年(50年半減) 10000 8000 6000 4000 2000 エネルギーセキュリティ指標 図 14 World weighted average 韓国, アセアン インド 中国 日本 中東・トルコ・北アフリカ 旧ソ連 中東欧(旧ソ連除く) 西欧 米国 0 地 域 別 の エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標 ( シ ナ リ オ A-I) 5000 Gas 4000 Oil 3000 2000 1000 2000年 ベースライン シナリオ I I I シナリオ I I シナリオ I シナリオ I I I シナリオ I I シナリオ I 0 50年半減 2050年 図 15 世界加重平均のエネルギーセキュリティ指標(シナリオ間比較) - 14 - 1400 2000 1000 2030 ベースライン 800 2030 半減ケース 600 2050 ベースライン 400 2050 半減ケース 200 図 16 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 シナリオ別、時点別、地域別の水ストレス人口 2.7 5.8 2.5 GDP当たりCO2排出量 [tCO2/thousand$] 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 0 米国 水ストレス人口 [百万人] 1200 2000 2.0 2030 ベースライン 1.5 2030 半減ケース 1.0 2050 ベースライン 0.5 2050 半減ケース 図 17 第7章 世界平均 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア 中国 その他東アジア 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 0.0 シ ナ リ オ 別 、 時 点 別 、 地 域 別 の GDP あ た り CO 2 排 出 量 海外主要研究機関によるシナリオ 本 章 で は 、 国 際 応 用 シ ス テ ム 分 析 研 究 所 ( IIASA) の モ デ ル に よ っ て 「 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 と 気 候 変 動 の 相 互 作 用 」 及 び 「 モ ビ リ テ ィ の 消 費 者 選 択 を 通 じ た GHG 削 減 ポ テ ン シ ャ ル 」 を 分 析 し た 結 果 を ま と め た 。 ま た 、 ロ ー レ ン ス ・ バ ー ク レ ー 国 立 研 究 所 ( LBNL) が 有 す る デ ー タ 、 モ デ ル を 用 い て 「 中 国 の CO 2 削 減 ポ テ ン シ ャ ル 」 を 推 定 し た 。 こ れ ら 研 究 を も と に 、エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 を 定 量 的 に 評 価 す る 手 段 と し て ど の よ う な 指 標 が あ る か 、 気候変動とエネルギー安全保障の間にはどのようなトレードオフや相乗効果があるか、旅 客 輸 送 に お け る 排 出 に 関 す る 消 費 者 選 択 の 要 因 、2030 年 ま で の 中 国 の セ ク タ ー 別 排 出 予 測 や セ ク タ ー 別 CO 2 削 減 ポ テ ン シ ャ ル な ど に つ い て ALPS シ ナ リ オ に 関 連 す る 示 唆 を 得 た 。 - 15 - 第8章 まとめと今後の課題 本章では本年度に得られた主要知見と、今後の課題についてまとめた。 付録 本 研 究 に 関 わ る 研 究 の 情 報 交 換 と 本 研 究 成 果 の 情 報 発 信 を 目 的 に 2011 年 2 月 に 東 京 で 開 催 し た ALPS 国 際 シ ン ポ ジ ウ ム の 概 要 を 掲 載 し た 。 - 16 - Summary The ALPS (ALternative Pathways toward Sustainable development and climate stabilization) project is a five year project that has been ongoing since FY 2007 as a part of the “International Research Promotion Program for Global Environment" funded by METI. This year is the fourth year of the entire project period. The goals of this project are; 1) to develop global socio-economic scenarios and greenhouse gas (GHG) emissions pathways over the next 100 years, 2) to present measures in relation to the scenarios for mitigating greenhouse gas emissions at a level corresponding to the Representative Concentration Pathways (RCPs), 3) to set up quantitative sustainable development indicators, including water resources, public health and biodiversity, and 4) to explore the implications for sustainable development policy, mitigation and adaptation measures based on the qualitative analysis above. This report consists of the following chapters; Chapter 1 Introduction At the outset of the report this chapter provides a brief overview of ongoing global challenges, such as climate change, economic development and poverty reduction, and updates recent developments of new emission scenarios towards the IPCC fifth assessment report and of climate change negotiations, followed by overall goals of this project and specific research objectives for this year. Chapter 2 Quantitative assessment of sustainable development and climate change mitigation Well-being not only of our generation but also of future generation is a fundamental objective of our efforts, including climate change actions. In the first half of this chapter, we evaluate the correlation between subjective well-being and various factors. We find that subjective well-being is positively correlated with income level measured by GDP per capita, but not definitive. Although income growth is associated with rising subjective well-being, such positive link gets weaker as country become rich. Per capita consumption, Human Development Index (HDI), and Ginin coefficient are correlated with subjective well-being to some extent, but not definitive as with the case of GDP per capita. Even though GDP per capita is just one of many factors to determine people’s subjective well-being, it offers a valuable insight for happiness, especially in - 17 - developing countries. GDP combined with many other elements are key factors in the process of scenario development although some of which are difficult to quantify. 5.0 4.5 4.0 Index of happiness 3.5 3.0 2.5 2.0 y = 0.2621ln(x) + 3.2068 R² = 0.2781 1.5 1.0 0.5 0.0 0 1 10 100 GDP per capita (thousand $) Not e: GDP i s in the yea r of 2007, and index of happines s is mea sured in th e lat est yea r (m ainly in 2005-2008) Figure 1: Relationship between GDP per capita and index of happiness In the latter half of this chapter, we study emergy index, whch focuses on sustainablility of energy system in addition to several quantitative assessment of sustainable development and climate change mitigation Furthermore we discuss discount rate and its determinants, such as pure time preference and elasticity of utility with respect to consumption. Payback period in investment decision making and implicit discount rate in the private sector are widely investigated. Chapter 3 Illustratve scenario development In this chapter, we develop a set of illustrative scenarios prior to quantitative assessment. There are three pillars for core scenarios as shown in Figure 2: socio-economic scenarios (A and B), scenarios on positioning of climate change issues in the broader agenda (I, II and III), and the “representative concentrating pathways” scenarios compatible with the full range of stabilization. - 18 - ALPS core scenarios Scenarios for macro-level and socio-economic conditions in the long term Scenario A: Medium technological progress scenario Scenario B: High technological progress scenario Scenarios for emission reduction levels Climate change policy scenarios RCP3.0PD I:Pluralistic society scenario RCP4.5 II:Climate policy prioritized scenario RCP6.0 III: Energy security prioritized scenario RCP8.5 Figure 2: Scenarios assumed in ALPS project (only major scenarios) Key driver of the socio-economic scenarios is technological progress, which involves significant uncertainty. Policy can have impact on technology progress to a certain degree, but most other factors can bring large uncertainty about the future technological change. It is quite difficult to forecast future innovation and technological change with high accuracy, so we prepare two discrete scenarios to cover the uncertainty. Scenario A illustrates a gradual shift from dynamic economic development as observed in the past toward a well matured economy especially in developed countries. Scenario B describes a future world of very rapid economic growth with brilliant innovation. With regard to scenarios on positioning of climate change issues in the broader global agenda, we develop three different narratives. Scenario I named “Pluralistic society scenario” is approximate to the current real world situation with people’s diverse values in nature. Scenario II is a “Climate policy prioritized scenario” in which each nation puts high priority on domestic energy resources from energy security perspective. Scenario III called “Energy security prioritized scenario” is a one under which climate change policy is emphasized and people’s behavior are rational in the sense that mitigation measures are taken in a cost effective way. This assumption was implicitly adopted by most of the traditional climate change assessment. Our future emissions scenarios are fully harmonized with a set of four RCPs for IPCC AR5. The RCPs have been selecting from existing literature to span the full range of possible trajectories for future greenhouse concentration. In total 4 scenarios were selected: a very high emission scenario leading to 8.5 W/m2, a high stabilization scenario leading to 6 W/m2, an intermediate stabilization scenario leading to 4.5 W/m2 and a low mitigation scenario leading to 2.6 W/m2 (RCP 3-PD). Additionally we go over 3.7 W/m2 scenario, which comes to five emission pathways in total. - 19 - Table1 lays out interacting structure among socio-economic scenarios (A and B), scenarios on positioning of climate change issues in the broader global agenda (I, II and III), and the “representative concentrating pathways” scenarios. For example, it may be possible to achieve very stringent mitigation target of RCP3PD with combination of scenario A and scenario III, while it seems unlikely that deep emission reduction cut to reach RCP3PD under assumptions of scenario B and scenario I (or II) collectively. This table provides intuitive guidance to understand such cross relationship among scenarios. Table 1: Ecoonmic Correlations among ALPS core scenarios [A] Medium Technological Progress [B] High Technological Progress Scenario Scenario and social conditions Overa ll RCP6 RCP4.5 3.7W/m 2 RCP 3PD RCP6 RCP4.5 3.7 W/m 2 RCP 3PD I. Pluralistic soci et y scena ri o ○ ◎ ○ △ ◎ ○ △ × II. Clim ate pol icy pri o riti ze d sce na ri o △ ○ ○ ○ ○ ○ △ △ III. Energ y secu rit y pri o riti ze d sce na ri o ◎ ○ ○ × ◎ △ △ × climat e p olic y scena ri o Note) ◎ : Strong co rrelation, ○ : Correlation, △ : Weak correlation, ×: Little correlation These correlations are evaluated subjectively on the basis of difficulties to achieve each stabilization level in macro-level and socio-economic scenarios (Scenario A and B) and overal climate policy scenarios (Scenario I, II and III), and threfore, these correlations are not projections. Chapter 4 Model development and quantitative analysis Quantitative modeling exercises with logical consistency are necessary to evaluate scenarios and policies that are entangled with complex elements. In Chapter 4 Section 3 we analyze GHG emissions from land use change, using crop models, water models and land use model. In Chapter 4 Section 5 we show sectoral outlook, including power, iron and steel and automobile with respect to best available mitigation technology and level of activity since these CO 2 intensive sectors make a difference to global emissions pathways. As for power sector, current and future generation costs and technology perspectives were widely surveyed for coal-fired power generation, gas-fired power generation, nuclear power generation, wind power generation and photovoltaic power generation. Additional costs for grid stability with dynamic loads in association with large scale introduction of renewable are also estimated. As shown in Figure 3 of generation costs including grid costs, we approximately - 20 - estimate that the levelized generation costs of coal-fired power plants and nuclear power range between 8yen/kWh and 12yen/kWh, of gas-fired power plants between 10yen/kWh and 14yen/kWh, of wind power plants between 16yen/kWh and 18yen/kWh, and of solar PV between 55yen/kWh and 63yen/kWh. Costs of renewable sources themselves are expected to decline as capacities expand, whereas their ancillary costs are expected to grow because conditions of location become less favorable and because additional investments are required for grid stability to secure reliable power supply. While the costs of wind power generation is nearly equivalent to the costs of fossil power plants when its installed capacity is small, wind power lack competitiveness in the power market as its capacity grows. Power generation costs (Yen/kWh) 発電単価(円/kWh) 70 60 50 40 PV 30 Wind 20 Natural gas Electricity prices Coal 10 0 2005 Nuclear power 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 Figure 3: Projections of power generating costs for each power generation facility in Japan For the steel sector we extrapolate future crude steel production and scrap availability. Figure 4 presents the forecast of crude steel production on regional basis. Crudes steel production in China has expanded rapidly in the past decade, but their production level will be saturated sooner or later, judging from historical data on apparent steel consumption per capita. Alternatively steel production in India is expected to increase. We estimate global steel production is expected to reach approximately 2.2 billion tonnes per year by 2050. The Scrap/EAF route is less energy/carbon-intensive than the BF/BOF route because there is no need to reduce iron ore to iron and because it cuts out the need for the ore preparation and coke-making steps. In this context it is crucial to estimate scrap availability and potential of EAF in projecting global CO 2 emissions from iron and steel sector. One of the biggest challenges in the estimation is to know the volume of social stock of steel scrap and their availability. With limited information and data, we explore two approaches to assess future scrap availability in the world, referring to previous studys. Global scrap availability increases ranging from 0.8 to 1.0 billion tonnes per year in 2050, adding up home scrap, process scrap and obsolete scrap (see Figure 5). The gap comes from data reliability and underlying assumptions on the volume home scrap, process scrap and obsolete - 21 - scrap. The amount of home scrap is likely to reach 150 million tonnes and the sum of the total scrap availability is expected to range from 0.95 billion tones to 1.15 billion tones. This suggests the fact that IEA overestimates scrap availability by about from 100 million tonnes to 300 million tones. Latin America Scenario Africa and Middle East 2,000 Crude steel production (Million ton/yr) Statistics Other developing Asia 1,500 India Economies in transition 1,000 China 500 OECD Pacific OECD North America OECD Europe 0 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 Figure 4: Historical crude steel production by region and its future scenario 1,600 Scrap consumpition (Million ton/yr) Scenario (based on estimation logic no.2) 1,400 1,200 1,000 Scenario (based on estimation logic no.1) Estimate (based on logic no.2) Estimate (based on logic no.1) 800 600 400 Prompt scrap + obsolete scrap (Fe-equivalent) 200 0 1950 1975 2000 2025 2050 2075 2100 Figure 5: Historical global scrap consumption and its projection (Summation of prompt scrap and obsolete scrap) Reflecting the recent economic crisis, we also update the outlook for future activity level on a secotor basis. Based on the review of costs and available technology above, we reexamine assumptions of DNE21+ model, technology-rich energy system model with finer-scale regional details, and work out mitigation pathways toward 2050. - 22 - Chapter 5 Quantitative mitigation and adaptation scenarios in line with illustrative scenarios In this chapter mitigation and adaptation scenarios are elablrated in a quantitative manner according to the narrative scenarios developed in the previous chapters. Chapter 5 section 2 focuses on population and GDP on the basis of socio-economic scenarios (A and B) in line with a historical trend (see Figure6 and Figure7). SRES A2 (IIASA1996 High) 160 Range in SRES ALPS-Scenario A 140 SRES B2 UN2008 High 人口(億人) Population (100 million) 120 (UN1998 Medium) UN2008 medium IIASA2007 100 (10-90 percentile) Range in ALPS 80 Range in UN2008 60 UN2008 Low SRES A1/B1 40 (IIASA1996 Low) ALPS-Scenario B 20 0 1950 1975 2000 2025 2050 2075 2100 Figure 6: Population scenario Range in SRES 400 SRES A1 SRES B1 GDP (Trillion 2000 USD) 350 300 ALPS-Scenario B 250 200 ALPS-Scenario A 150 SRES B2 100 EIA-IEO2010 SRES A2 50 IEA-ETP2010 0 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 Figure 7: GDP scenario - 23 - Urban population of major cities is estimated in Chapter 5 section 3 and population below the poverty line is in section4. Section5 seeks to describe likely impacts of climate change on human health. From section 6 to section 8 of Chapter 5 we develop supply and demand scenarios on food and fresh water, and scenarios of future land-use changes and GHG emissions in a consistent way, using our set of models of food, water and land use change. The gap among scenarios toward 2050on positioning of climate change issues in the broader global agenda (I, II and III) is analyzed with socio-economic assumptions of Scenario A in Chapter 5 section 9. We assume relatively shorter payback period (or higher implicit discount rate) as observed in the real world situation for Scenario I, “Pluralistic society scenario”, while Scenario II, namely “Climate policy prioritized scenario”, is characterized by the longer payback period than that seen in actual cases. Scenarios III “Energy security prioritized scenario” is distinguished in higher tariff barriers for oil and gas export. Figure 8 and Figure 9 respectively show regional and technological contribution to cut global emissions in half by 2050 in the case of Scenario I. Figure 10 identify differences in power generation mix for the baseline case among Scenario I, II, and III. The share of nuclear power generation is higher in Scenario III than in Scenario I. Power generation mix of Scenario III is characterized by higher share of nuclear power generation and of highly efficient fossil fuel power plants regardless of their expensive initial costs. Figure 11 compares marginal abatement costs to reduce global missions in half among Scenario I, II, and III. Scenario I and III imply higher carbon prices due to longer payback period in keeping with the real world situation, while Scenario II leads to lower marginal abatement costs. This result suggests that explicit carbon prices can be very high to meet the targets, which causes great difficulty in implementation, and that detailed measures to remove market barriers to energy efficiency can lower mitigation costs as described in Scenario II. - 24 - Electricity Generation: CCS Energy-related CO2 emissionis and reductions [GtCO2/yr] 60 Baseline emissions: 57GtCO2/yr 50 40 17% Electricity Generation: Renewables 14% Electricity Generation: Nuclear Power 15% 11% 30 43% 20 Emissions when halving global emissions: 13GtCO2/yr 10 Electricity Generation: Efficiency Improvement and Fuel Switching among Fossil Fuels Other Energy Conversion Residential & Commercial Sector Transportation Sector Industrial Sector 0 CO2 Emissions 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 Year Figure 8: Reduction contribution by technology for halving global emissions by 2050 (Scenario A-I) Energy-related CO2 emissions & reductions [GtCO2/yr] 60 50 Baseline emissions: 57GtCO2/yr Other non-OECD 30% Other OME 40 6% 10% 30 24% China 17% 20 10 India Other OECD 13% Emissions when halving global emissions: 13GtCO2/yr USA CO2 emissions 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 Year Figure 9: Reduction contribution by region for halving global emissions by 2050 (Scenario A-I) - 25 - 50000 PV 45000 Wind Electricity generation [TWh/yr] Biomass-High 40000 Biomass-Low 35000 Hydro&Geothermal Nuclear 30000 Gas-CHP 25000 Gas-High Gas-Middle 20000 Gas-Low Oil-CHP 15000 Oil-High 10000 Oil-Middle Oil-Low 5000 Coal-High Y2020 Y2030 Scenario III Scenario II Scenario I Scenario III Scenario II Scenario I Scenario III Scenario II Scenario I 0 Coal-Middle Coal-Low Y2050 Figure 10: Baseline global power generation (Scenario I, II and III) CO2 Marginal Abatement Cost [$/tCO2] 500 ScenarioI and III Scenario I 450 Scenario II 400 Scenario III 350 300 Scenario II 250 200 150 100 50 0 2000 2010 2020 2030 2040 2050 Year Figure 11: CO 2 marginal abatement cost in Scenario I, II and III Chapter 5 section 10 takes a longer perspective up to 2100. The differences between Scenario A and Scenario B and among the RCP scenarios are analyzed with the underlying assumptions of Scenario I, using DNE21 model, which has a simpler structure but longer timeframe than DNE21+ has. Figure 12 shows global CO 2 emissions from fuel combustion for the baseline cases of Scenario A and Scenario B. In both cases, CO 2 emissions are expected to double by 2050 and triple by 2100. Figure 13 provides an insight into a loss of per cent GDP to meet the relevant - 26 - mitigation target under a given RCP scenario. Our overall results can be placed in the middle of various research results referred to the IPCC AR4. 120 CO2 emissions from energy (GtCO2/yr) RITE ALPS-A 100 RITE ALPS-B 80 SRES A1B SRES A1FI 60 SRES A1T 40 SRES A2 20 SRES B1 0 1975 SRES B2 2000 2025 2050 2075 2100 RCP8.5 (MESSAGE) -20 Figure 12: Baseline scenario for global CO 2 emissions from energy ALPS GD P lo s s GDPロス (%) Figure 13: Global GDP loss for each stabilization level (Compared with IPCC AR4) Chapter 5 Section11 analyzes non-CO 2 greenhouse gases emissions for socio economic scenarios, and identify the gap between Scenario A and Scenario B. Chapter 6 Development and application of indicators on sustainable development and climate change mitigation In this chapter we quantitatively assess our scenarios, using SD indicators from a broad set of perspectives to understand climate change mitigation measures in the wider context of sustainable development. Mitigation actions potentially produce a synergistic effect as well as trade-off with sustainable development policy. Scenarios need to be assessed by a different set of indexes in that sense. - 27 - Figure 14 and 15 illustrate examples of energy security evaluation according to the IEA’s index. The baseline scenario indicates that vulnerability to energy security risks is expected to increase toward 2050. It is noteworthy that energy system can be more vulnerable than the baseline in the scenario cutting global CO 2 emissions in half by 2050. Energy security will be enhanced in the “Energy Security Scenario” of our scenario III based on our assessment. Figure 14 and 15 show water-stressed population and CO 2 emissions per capita respectively. Scenarios are also examined by other indexes from various perspectives. 14000 Y2000 Y2050 - Baseline Y2050 - 50% reduction in 2050 Energy security index 12000 10000 Level of vulnerability 8000 6000 4000 2000 World average Korea, ASEAN India China Japan ME, Turkey, North Africa FSU E.Europe W. Europe US 0 Figure 14: Energy security index by region (Scenario A-I) 5000 Gas Oil Level of vulnerability 3000 2000 1000 Y2000 Baseline Scenario III Scenario II Scenario I Scenario III Scenario II 0 Scenario I Energy security index 4000 50% reduction in 2050 Y2050 Figure 15: Global weighted average of energy security index for each scenario - 28 - 2000 1200 2030 Baseline 1000 800 2030 50% reduction in 2050 600 400 2050 Baseline 200 2050 50% reduction in 2050 Oceania Other South Asia India Southeast Asia Other East Asia China Japan Southwest Africa Southeast Africa North Africa, Middle East Russia Eastern Europe, other FSU Western Europe Other South America Brazil Central America Canada 0 U.S. Water-stressed population (million) 1400 Figure 16: Water-stressed population by scenario, period and region 2.7 5.8 2000 2.0 2030 Baseline 1.5 2030 50% reduction in 2050 2050 Baseline 1.0 0.5 World Average Oceania Other South Asia India Southeast Asia Other East Asia China Japan Southwest Africa Southeast Africa North Africa, Middle East Russia Eastern Europe, other FSU Western Europe Other South America Brazil Central America Canada 0.0 U.S. CO2 emissions per GDP [tCO2/thousand$] 2.5 2050 50% reduction in 2050 Figure 17: CO 2 emissions per GDP by scenario, period and region Chapter 7 Insights from scenarios developed by major research institutes abroad This chapter goes over the results studied by IIASA on “Energy security – Trade-offs and co-benefits with climate change mitigation” and “The potential for greenhouse gas mitigation through consumer choices on mobility”. We also refer to the estimates by LBNL’s model and data on China's emissions trajectory and the impact of the wide range of efficiency gains across sectors. Based on these research reports, we gain insights for ALPS scenarios into identification of different energy security metrics, trade-offs and synergies between climate and energy security targets, consumer choices conserning passenger transport, and CO 2 mitigation potential by sector and emissions trajectory in China for the period up to 2030. - 29 - Chapter 8 Conclusion and Next steps This chapter summarizes major findings gained through this year’s project and referred to the tasks ahead in the following years. Appendix This Appendix outlines the RITE International symposium held in February 2011. We exchanged views on this project and delivered the outcomes of our research. - 30 - 本 編 第 1章 1.1 はじめに 背景 1972 年 に 出 版 さ れ た「 成 長 の 限 界 」は 、コ ン ピ ュ ー タ モ デ ル を 用 い た 分 析 に よ っ て 、 こ の ま ま の 発 展 を 続 け る と 人 類 は 限 界 に ぶ つ か る こ と を 示 唆 し た 。こ れ が 契 機 と な り 、 後 に「 持 続 可 能 な 開 発 」の 概 念 が 生 み 出 さ れ 、環 境 と 開 発 に 関 す る 世 界 委 員 会( WCED) が 1 987 年 に 公 表 し た 「 我 ら 共 通 の 未 来 ( O ur Co mmon Fu tu re)」( 通 称 「 ブ ル ン ト ラ ン ト 報 告 書 」)に お い て 定 着 す る こ と と な っ た 。そ し て 、199 2 年 に ブ ラ ジ ル の リ オ デ ジ ャ ネイロで開催された国連環境開発会議において採択された「環境と開発に関する宣言 ( リ オ 宣 言 )」 と 同 行 動 計 画 ( ア ジ ェ ン ダ 2 1 ) に よ っ て 、 根 本 理 念 と し て の 「 持 続 可 能な開発」が具体化された。 アジェンダ21を受け、国連内の持続可能な開発に関するハイレベルなフォーラム と し て 、 持 続 可 能 な 開 発 委 員 会 (Co mmission on Su sta ina ble De velo p men t: C SD)が 19 9 3 年に設立された。同委員会による活動の一環として、持続可能な開発に関する指標が 検 討 さ れ 、 20 01 年 に は 、 社 会 、 環 境 、 経 済 、 制 度 の 4 つ の 分 野 か ら 持 続 可 能 な 開 発 に 関 す る 58 個 の 指 標 が 示 さ れ た 。 10 年 後 の 200 2 年 に は 、南 ア フ リ カ の ヨ ハ ネ ス ブ ル ク に お い て 、持 続 可 能 な 開 発 に 関 する世界首脳会議が開催された。地球環境問題に対する取り組みを評価するため、ア ジ ェ ン ダ 2 1 の 実 施 状 況 を 点 検 し 、 今 後 の 取 り 組 み を 強 化 す る こ と が 確 認 さ れ 、「 持 続 可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」などが採択された。また、当時の国連事務 総 長 の ア ナ ン 氏 は 、 具 体 的 に 成 果 を 挙 げ る こ と が 期 待 さ れ る 重 要 分 野 と し て 、 Water、 Ene rg y 、 Hea lth 、 Ag ricu ltu ral p rod uc tivity 、 B iod ivers ity a nd eco s ys te m man age me n t ( WEHAB) を 掲 げ た 。 そ し て 、 リ オ 宣 言 か ら 20 年 と な る 2012 年 6 月 に リ オ デ ジ ャ ネ イ ロ で 、 持 続 可 能 な 開 発 と貧困根絶に対する国際的な取り組み強化を目的にした「国連持続可能な開発会議 ( R io +2 0 )」 も 予 定 さ れ て い る 。 地 球 温 暖 化 問 題 に お い て は 、 200 9 年 12 月 に デ ン マ ー ク ・ コ ペ ン ハ ー ゲ ン に お い て 、 2013 年 以 降 の 排 出 削 減 枠 組 み ・ 目 標 に 関 す る 合 意 を 目 指 し た 第 15 回 締 約 国 会 合 ( COP 15) が 開 催 さ れ た 。 閣 僚 レ ベ ル で の 協 議 に 加 え 、 最 後 に は 各 国 首 脳 の 多 く も 出 席 し 合 意 を 目 指 し た 。 し か し な が ら 、 結 局 、 26 カ 国 ・ 機 関 の 首 脳 に よ る 「 コ ペ ン ハ ー ゲ ン 合 意( Co pen hag en Accord)」が 何 と か 成 立 し た も の の 、UN FC CC 加 盟 国 は そ れ を 留 意 す る と い う 形 に 留 ま っ た 。そ し て 、1 年 後 の 20 10 年 12 月 に は 、メ キ シ コ ・ カ ン ク ン に て COP 16 が 開 催 さ れ た 。 COP 15 で は 「 コ ペ ン ハ ー ゲ ン 合 意 」 を 正 式 決 定 で き ず に 「 留 意( tak e no te )」に 留 ま っ た が 、COP 16 で は「 コ ペ ン ハ ー ゲ ン 合 意 」を 正 式 に 決 定 し た 。 温 暖 化 枠 組 み を め ぐ る 国 際 動 向 に つ い て は 、 後 の 第 1 .3 節 で よ り 詳 細 に 述 べ る 。 過 去 の CO 2 排 出 量 推 移 を み る と 、 世 界 の CO 2 排 出 量 は 19 71 年 か ら 2000 年 の 間 、 平 均 し て 年 率 1 .8%で 増 加 し て き た( 図 1.1 -1 )。温 室 効 果 ガ ス 排 出 抑 制 の た め に 、1 997 年 末 に 京 都 議 定 書 が 採 択 さ れ た が 、 そ れ 以 降 、 む し ろ 加 速 を 強 め て お り 、 20 00 ∼ 200 8 年 - 33 - の 間 は 年 率 2 .8%増 と な っ て い る 。 こ れ は 特 に 、 最 貧 国 を 除 い た 途 上 国 経 済 の 急 速 な 経 済発展に依っている。最近の世界経済危機の影響で先進国における排出は減少傾向に あるものの、途上国での排出低下はあまり大きくなく、増加続けている国も多く、世 界 の 排 出 量 は 大 き く は 変 化 し て い な い 。ま た 、図 1 .1 -2 で 見 ら れ る よ う に 、CO 2 原 単 位 ( GDP あ た り CO 2 排 出 量 )で み て も 2 000 年 ま で は 着 実 に 年 1 .4%程 度 で 低 下 し て い た が 、 2000 ∼ 20 08 年 の 間 は 横 ば い で 推 移 し て い る 。 経 済 の 急 速 な 発 展 段 階 に お い て は 、 イ ン フ ラ 整 備 が 活 発 に 行 わ れ る た め 、 CO 2 原 単 位 の 大 き い 鉄 鋼 や セ メ ン ト の 生 産 が 増 し 、 CO 2 原 単 位 を 悪 化 さ せ て い る と み ら れ る 。ま た 、こ れ ら の 生 産 の た め の 原 単 位 は 、日 本 な ど に 比 べ 途 上 国 で は 悪 く 、 よ り 大 き な CO 2 排 出 と な っ て い る と 考 え ら れ る 。 経 済 に 大きな影響を与えず、このようなトレンドを変え、脱炭素化を進めていけるかが重要 である。 35 CO2 emission (GtCO2/yr) 30 2000-08 +2.8%/yr 25 World 1971-2000: +1.8%/yr 20 Annex I 15 10 Non-Annex I Kyoto Protocol adoption 5 0 1970 図 1. 1-1 1980 1990 2000 2010 世 界 、 附 属 書 I 国 、 非 附 属 書 I 国 の CO 2 排 出 量 推 移 1) Per-GDP CO2 emission (kgCO2 /US$) 1.6 1.2 1 World 1971-2000: -1.4%/yr 2000-08: +0.0%/yr 0.8 0.6 Annex I 0.4 0.2 0 1970 図 1. 1-2 Non-Annex I 1.4 Kyoto Protocol adoption 1980 1990 2000 2010 世 界 、 附 属 書 I 国 、 非 附 属 書 I 国 の GD P あ た り CO 2 排 出 量 の 推 移 - 34 - 一 方 で 、200 7 年 7 月 頃 か ら 顕 在 化 し て き た 米 国 の サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 問 題 を 発 端 に 、 2008 年 9 月 に は 大 手 投 資 銀 行 で あ る リ ー マ ン ・ ブ ラ ザ ー ズ の 破 綻 に よ り 、 世 界 経 済 危 機が起こっている。経済危機の連鎖は各国に拡大し、先進国を中心に経済へのダメー ジは大きいままである。各国政府は、財政支出によって経済を建て直そうとしている が 、各 国 と も に 財 政 赤 字 が 急 激 に 膨 ら ん で き て お り 、出 口 が 見 い だ せ な い ま ま で あ る 。 米国オバマ政権は、グリーンニューディールとして、財政支出を環境分野に振り分 け る こ と を 掲 げ 経 済 再 建 に 取 り 組 も う と し て き た が 、財 政 赤 字 の 拡 大 を 招 い た 一 方 で 、 米国の雇用増にはあまり結びつかなかったという評価が大きくなっている。そして、 最近は、米国が強みを有している分野(直接的な環境分野に限らず幅広い分野)の海 外輸出を強めることによって雇用増をはかるよう方針転換しているようにも見受けら れる。いずれにしても、政府主導での支出増だけでは、需給ギャップを埋めるような 短期的な効果しかなく、需要を創出していけなければ長期的な経済成長には結びつい ていかないと考えられる。財政赤字の拡大は、今後の温暖化対策や持続可能な発展政 策全般にわたって、政策余地を縛ることにもなりかねず注意が必要なことは間違いな い。より賢く、グリーン・イノベーションを起こし、環境と経済の両立を行っていく ことが重要であろう。 ま た 、 世 界 経 済 危 機 に よ る CO 2 排 出 へ の 影 響 は 大 き く 、 先 進 各 国 で 大 幅 な CO 2 排 出 の 低 下 が 観 測 さ れ て い る ( 図 1 .1 -3 )。 し か し 、 こ れ は 喜 ば し い こ と で は な い 。 現 状 で は GDP と CO 2 排 出 が 強 い 相 関 を 有 し て い る こ と を 改 め て 示 さ れ た と い う こ と で も あ る 。 短 期 的 に 大 幅 に CO 2 を 減 ら す に は 、 生 産 活 動 量 抑 制 が 不 可 欠 と な り 、 そ れ は 、 大 きな雇用喪失につながり、我々の幸福感を大きく損ない、持続可能な発展も損なうこ と に な る と い う こ と で あ る 。 よ っ て 、 GDP と CO 2 排 出 の 正 の 相 関 を い か に 断 ち 切 っ て いくかに注力していくことが、環境と経済の両立、そして何よりも将来世代を含めた 人類の幸福のためにとって重要と言える。 図 1. 1-3 日本の温室効果ガス排出量の推移(出典:環境省 - 35 - 2) ) 一方で、アフリカ等の貧困問題は、温暖化問題以上に深刻とも言える大きな課題で ある。貧困が内戦を生み、一層の貧困へと負のループに落ち込んでいる国は未だ多く あり、世界の持続的な発展を阻害し得る重大な問題である。そして、地球温暖化の影 響はアフリカのような脆弱な地域に最も大きな被害をもたらす可能性も大きい。 地球温暖化問題は、間違いなく、人類にとっての脅威であり、これに立ち向かって 克服していかなければならない課題である。一方で、国際社会は様々な困難に立ち向 かっている。そして、それらの課題は複雑に絡み合っている。これらを同時に高次元 で解決していくことが必要である。そのためには、一つ一つの課題について深く理解 した上で、全体像を俯瞰することが重要である。また、それらを定量的に分析するに は、システム分析の手法が必要である。本研究は、それらに取り組むことによって、 人類がより良い意思決定を行うためのより良い情報、知見を包括的に示そうとしてい る。 1.2 IPCC 第 5 次 評 価 報 告 書 に 向 け た 排 出 シ ナ リ オ ・ 分 析 の 動 向 1 気 候 変 動 に 関 す る 政 府 間 パ ネ ル( IP CC)は 、次 期 報 告 書 で あ る 第 5 次 評 価 報 告 書( Fifth Asse ssme n t Rep ort、以 下 AR5)に 集 約 す る 研 究 に 向 け 、新 シ ナ リ オ を 作 成 し て い る( 図 1.2 -1)。 な お 、 IP CC は 過 去 、「 シ ナ リ オ 開 発 を c oord ina te 」 し て き た が 、 新 シ ナ リ オ で は 研 究 者 に よ る「 シ ナ リ オ 作 成 を ca tal yze 」す る 役 目 を 担 う こ と と な っ て い る 。 シ ナ リ オ 作 成 の た め の 主 要 な 研 究 コ ミ ュ ニ テ ィ は 、 気 候 予 測 に 関 す る 気 候 モ デ ル ( clima te mod eling : CM) コ ミ ュ ニ テ ィ 、 社 会 経 済 シ ナ リ オ に 関 す る 統 合 評 価 モ デ ル ( in teg rated asses s men t mod elin g : IA M ) コ ミ ュ ニ テ ィ 、 影 響 ・ 適 応 ・ 脆 弱 性 ( impa cts, ada pta tion, vulne rab ility: IAV ) コ ミ ュ ニ テ ィ の 3 つ に 大 別 さ れ る 。 2007 年 秋 IP CC は 新 シ ナ リ オ 作 成 の た め の 専 門 家 会 合 を 開 催 し 1) 、以 来 作 業 お よ び 専 門 家 会 合 を 継 続 し て 行 っ て き た 。 代 表 的 濃 度 パ ス ( Re p re sen ta tive Co nce ntration P athwa ys: RCP s)の 選 定 で は 、こ れ ま で 低 濃 度 パ ス の RCP 3 -P D に つ い て 2 .9 W /m 2 か 2. 6 W/m 2 シ ナ リ オ の い ず れ に す る か で 議 論 が 続 い て い た が 、 最 終 的 に は よ り 低 い レ ベ ル の 排 出 シ ナ リ オ と な る 2.6 W /m 2 が 選 定 さ れ た 2) ( 表 1 .2 -1)。 本 研 究 に お け る シ ナ リ オ 策 定においても、この濃度パスに対応した分析を行うことは、国際的なシナリオ発信お よびそれによる排出削減方策の国際的な議論のために、重要であると考えられる。 ま た 、 20 10 年 11 月 に は 、 IP CC WG2 と W G3 共 同 で 、 社 会 経 済 シ ナ リ オ に 関 す る 専 門 家 会 合 を 開 催 し た 。 具 体 的 な 方 針 は ま だ は っ き り と は 定 ま っ て い な い が 、 RCP で は 排出量の不確実性の幅に着目して、4 つのシナリオを選定したが、4 つのシナリオは、 そ れ ぞ れ の シ ナ リ オ で 利 用 し て い る 背 景 と な っ て い る 社 会 経 済 シ ナ リ オ( 人 口 や G DP ) がまちまちである。温暖化緩和と影響・適応を、整合的に総合的に評価し、複数の分 析・評価からある知見を見出していくには、いくつかの社会経済シナリオについて考 1 AR 5 は そ れ ぞ れ 、 第 1 作 業 部 会 ( W G I ) の 報 告 書 は 2 0 1 3 年 早 期 に 、 第 2 作 業 部 会 ( W G Ⅱ ) お よ び 第 3 作 業 部 会 ( W GⅢ ) の 報 告 書 、 統 合 報 告 書 は 2 0 1 4 年 の で き る だ け 早 い 時 期 に 完 成 さ せ る こ と を 要 請 さ れ て い る ( IPCC 第 28 回 会 合 に て ) 。 - 36 - え 方 や 定 量 的 な シ ナ リ オ を 整 理 し て お く こ と が 必 要 で あ る 。20 10 年 11 月 の 専 門 家 会 合 では、それについて議論が行われた。 図 1. 2-1 新 シ ナ リ オ 策 定 に 関 す る 工 程 ( 文 献 1)よ り ) 表 1. 2-1 名称 RCP 8.5 RCP 6 RCP 4.5 RCP 3-P D (2. 6) Re pres ent a tive Con cent rat ion Pathw ays : RC Ps 放射強制力 2 2100 年 に 8. 5W /m 以 上 ∼ 6 W /m パス形状 2100 年 に 137 0pp m 以 上 上昇 ∼ 850 pp m オーバー シュー トす る こ と 2 ( 210 0 年 以 降 安 定 化 ) ∼ 4. 5 W /m ( 210 0 年 以 降 安 定 化 ) 2 ( 210 0 年 以 降 安 定 化 ) 2100 年 よ り 前 に 3 W/m 2 で ピ ー ク 、 以 後 、 下降 濃 度 ( CO 2 等 価 ) ∼ 650 pp m ( 210 0 年 以 降 安 定 化 ) 2100 年 よ り 前 に 490 pp m で ピーク、以後、下降 なく安定化 オーバー シュー トす る こ と なく安定化 ピークおよび下降 な お 、 IP CC WG3( 緩 和 策 ) の 第 5 次 評 価 報 告 書 の 章 構 成 は 以 下 の よ う に 予 定 さ れ て いる。 第 1 部 In trodu c tion 第 1 章 : In tr oducti o n 第 2 部 Fra mi ng Iss ue - 37 - 第 2 章 : In te gra ted Risk and Unce rtainty Assessmen t o f Climate Chan ge Response Po licies 第 3 章 : Soc ial , Econ omic and Ethic al Co ncepts and Me thods 第 4 章 : Sustainable Developmen t and Equity 第 3 部 P athways fo r Mitig atin g C limate C hange 第 5 章 : Dri vers , Tre nds and Miti ga tion 第 6 章 : Assessin g Transforma tion Pa th ways 第 7 章 : Ene rgy Systems 第 8 章 : Transpo rt 第 9 章 : Buildings 第 10 章 : Industr y 第 11 章 : Agri cutl tu re, F ores tr y and Oth er L and Uses (AFOL U) 第 12 章 : Human Se ttlements , Ins fras tru ctur e and Spatial Pl anning 第 4 部 Asse ssme n t o f P olicies, In s titutio ns a nd Fin anc e 第 13 章 : Inte rna tio nal Coope ra tion : Agr eemen ts and Instru ments 第 14 章 : Re giona l Develop ment and Coo perati on 第 15 章 : Na tion al a nd Sub -Na tional Po li cies and Insti tutions 第 16 章 : Cr oss -cutti ng Inves tment and F inance Issues 本 研 究 で は 、 こ の よ う な IP CC の 動 向 も 踏 ま え な が ら 研 究 を 行 っ た 。 - 38 - 1.3 国際枠組みに関する動向 2009 年 12 月 に デ ン マ ー ク の コ ペ ン ハ ー ゲ ン で 開 催 さ れ た 気 候 変 動 枠 組 み 条 約 ( UN FCCC) 締 約 国 会 議 ( COP 15) で は 、 2 013 年 以 降 の ポ ス ト 京 都 議 定 書 の 国 際 枠 組 み に関する決議には至らなかったが、先進国の削減目標及び途上国の削減行動の提出に つ い て 書 か れ た コ ペ ン ハ ー ゲ ン 合 意 が 留 意( take no te )さ れ た 。同 合 意 に 基 づ き 、そ の 翌 年 の 2 010 年 1 月 末 に 先 進 国 は 2 020 年 ま で の 削 減 目 標 、 一 部 の 途 上 国 は 削 減 行 動 を 提 出 し た 。 表 1.3-1 は 主 な 削 減 目 標 ・ 削 減 行 動 を ま と め た も の で あ る 。 表 1. 3 -1 国 日本 主要国の削減目標・削減行動 2020 年 に お け る 条件等 削減目標及び削減行動 1990 年 比 25 %減 すべての主要国による公平かつ実効性のある国際 枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提 EU 1990 年 比 20 -30 %減 他 の 先 進 国 が EU と 同 等 の 削 減 目 標 で 、 途 上 国 が 各々の責任と能力の下で適切な貢献を行った場 合 : ▲30% 米国 2005 年 比 17 %減 国 内 法 成 立 後 、最 終 案 を 提 出 。2 0 5 0 年 ▲ 8 3 % に 沿 っ て 、 2025 年 ▲30%、 2030 年 ▲42%に 取 り 組 む 。 カナダ 2005 年 比 17 %減 オ ー ス ト ラ 2000 年 比 5%-2 5%減 米 国 が ▲17%を 立 法 化 し た 場 合 国際合意があり、先進国が豪州と同様の目標、主 要 途 上 国 が 大 幅 排 出 抑 制 を 行 う 場 合 : ▲15%、 リア 4 5 0 p p m - CO 2 e q . 安 定 化 の 意 欲 的 な 目 標 で 合 意 し た 場 合 : ▲25% ロシア 1990 年 比 15 %-25%減 レンジは、ロシアの森林吸収が適切にカウントさ れ る 仕 組 み が 構 築 さ れ 、す べ て の 主 要 排 出 国 が 法 的 拘束力のある排出削減をとるかどうかによる 韓国 ベ ー ス ラ イ ン 比 3 0% 減 中国 2005 年 比 、 GDP あ た り 一次エネルギーにおける非化石エネルギーのシェ の C O 2 を 4 0 -4 5%削 減 ア を 1 5 % に 。森 林 面 積 を 4 0 mi l l i o n h a 、蓄 積 量 を 1 . 3 インド ( 韓 国 政 府 の 国 内 で の 決 定 は 2005 年 比 ▲4%) billion m3 増 や す 。 2005 年 比 、 GDP あ た り の C O 2 を 2 0 -2 5%削 減 法的拘束力を伴わない自発的な目標 201 1 年 1 1 月 末 か ら 12 月 初 め に か け て メ キ シ コ 、カ ン ク ン で 開 催 さ れ た COP 16 で は 、 「 カ ン ク ン 合 意 2」 が 決 議 さ れ た 。 カ ン ク ン 合 意 は 国 連 気 候 変 動 枠 組 み 条 約 の 枠 組 み の 下で包括的な温暖化効果ガス削減に向けた緩和目標・行動、技術移転、適応、資金に 関する主要な要素を包含し、ポスト京都議定書の枠組みについての基盤が形成された といえる。また、京都議定書延長については、議論を今後も継続することが合意され た。 2 C O P 1 6 決 議 案 は h t t p : / / u n fc c c . i n t / f i l e s / m e e t i n g s / c o p _ 1 6 / a p p l i c a t i o n / p d f / c o p 1 6 _ l c a . p d f 、 C M P 決 議 案 は 、 h t t p : / / u n f c c c . i n t / fi l e s / m e e t i n g s / c o p _ 1 6 / a p p l i c a t i o n / p d f / c o p 1 6 _ kp . p d f を 参 照 。 - 39 - 同 合 意 は 長 期 目 標 に つ い て 、産 業 革 命 以 前 か ら 気 温 上 昇 を 2 ℃ に 抑 え る た め の 温 暖 化 ガス削減という観点から、世界規模の大幅な削減の必要性を認識し、早期の排出量ピ ークアウトを達成するために各国が協力すべきであることが合意された。また、緩和 に つ い て は 、 UN FCC C 事 務 局 が 今 後 作 成 す る 先 進 国 ・ 途 上 国 が 提 出 し た 削 減 目 標 ・ 削 減行動を記載した文書に締約国が留意することが決議され、各国の削減目標・行動を 計 測 、報 告 及 び 検 証( MRV)す る 国 際 シ ス テ ム を 通 じ て 透 明 性 を 確 保 す る( ICA)こ と が合意された。 途上国に対する支援として、気候変動に対して脆弱な途上国に対する適応資金の供 与及び今後高い経済成長が見込まれる新興国が低炭素な経済成長を実現するための技 術・資金協力が検討されている。同合意では、途上国支援という文脈で、「緑の気候 基金」、「技術メカニズム」及び「適応委員会」の設立が合意された。国際交渉にお いて、緩和と同様に適応の重要性及びその枠組みが今後増していくことがいえるであ ろう。 ま た 、市 場 メ カ ニ ズ ム を 含 む 様 々 な 方 策 に つ い て は 、201 1 年 12 月 に 南 ア フ リ カ の ダ ー バ ン で 開 催 さ れ る COP 17 で 新 し い 市 場 メ カ ニ ズ ム の 構 築 が 検 討 さ れ る 予 定 で あ る 。 同 時 に 、 COP 17 で は 、 カ ン ク ン 合 意 の 各 議 題 に つ い て の 取 り 組 み が 具 体 化 さ れ る 方 向 である。 京 都 議 定 書 の 仕 組 み と コ ペ ン ハ ー ゲ ン 合 意 の 仕 組 み は 、大 き く み る と 、図 1.3 -1 の よ うであり、京都議定書は、全体の削減目標を決めてそれを国に割り振るような仕組み で、コペンハーゲン合意は、各国の削減目標・行動計画を提出し、それをレビュー、 検証していく仕組みと考えることができる。京都議定書のような仕組みは、単純であ り、机上計算どおりにいけば期待した削減総量目標が実現するということである。し か し 、 現 実 社 会 は 20 0 カ 国 も の 国 が 存 在 し 、 69 億 人 も の 人 々 が そ れ ぞ れ の 意 思 を 持 っ て行動しており、単純な机上計算、単純なモデル計算は、現実社会では思った通りに は 機 能 せ ず 、第 1. 1 節 で 示 し た よ う に 、京 都 議 定 書 以 降 、世 界 の 排 出 量 は む し ろ そ の 増 大が加速している。京都議定書で排出削減義務を負っている国は、京都議定書の基準 年 で あ る 199 0 年 で は 58%に 達 し て い た が 、 米 国 が 離 脱 し た こ と 、 非 附 属 書 I 国 の 排 出 が 大 き く 増 加 し て き た こ と か ら 、 200 5 年 で は 27%に 低 下 し て い る ( 図 1. 3 -2 ) 。 地 球 温暖化の実効ある抑制のためには、世界すべての国による実効ある排出削減が不可欠 となってきているが、京都議定書のような仕組みでは、世界の多様な国を実質的に排 出削減に取り組む枠組みの中に入れることは難しいと考えられる。コペンハーゲン合 意は、各国の多様性を認めつつ、世界のすべての国、少なくとも主要な排出国すべて を、実効ある排出削減の枠組みに加えていこうとするものであり、必然的な動きであ る と も 言 え る 。京 都 議 定 書 の 第 1 約 束 期 間 の 終 わ り と な る 20 1 2 年 末 が 近 づ い て き て い る こ と か ら 、 COP 17 に 向 け て 、 排 出 削 減 の 実 効 性 が な い こ と は 認 識 し な が ら も 京 都 議 定書の延長論も高まっていくと見られる。しかし、持続的に実効性をもって世界の温 室効果ガス抑制に取り組む枠組みを今構築していくことが、温暖化防止と持続可能な 発展のために不可欠であると考えられる。 - 40 - 図 1. 3-1 京 都 議 定 書 と コ ペ ン ハ ー ゲ ン 合 意 の 仕 組 み ( 経 済 産 業 省 資 料 ) その他非附 属書 I 国 アフリカ 4% 5% 中南米 7% 1990 その他非附 属書 I 国 アフリカ 2% 6% 中南米 8% 米国 19% その他アジ ア 10% EU15 13% インド 5% 中国 12% その他附属 書I国 17% EU27(+12) 4% 2005 その他アジ ア 14% 米除く附属書I: 27% EU15 11% EU27(+12) 2% インド 6% 中国 19% 日本 4% 米国 18% 日本 4% その他附属 書I国 10% 附属書I: 58% 図 1. 3-2 世 界 の 温 室 効 果 ガ ス 排 出 比 率 1.4 本研究の目的 本研究の目的意識としては、より深く現実社会を認識し、実現性、実効性のある温 暖化対応策を探っていこうとするものである。複雑な現実社会にしっかりと向き合っ た分析、検討を行わなければ、提示するシナリオも空虚なものでしかなくなり、また 有効な温暖化対応策にもなり得ない。現実社会は、温暖化対策だけを目的としている わけではなく、多種多様な目的を持って行動している。それら多種多様な目的と温暖 化 対 策 が 調 和 し な い よ う な も の で あ れ ば 、現 実 社 会 で は そ の 温 暖 化 対 策 は 実 現 し な い 。 地球温暖化対策は重要である。だからこそ、持続可能な発展など、温暖化対策以外の - 41 - より広い文脈の中で、この温暖化問題をとらえて実効ある対応策を考えていく必要が ある。本研究では、そのような認識に立って、研究目標を設定し、また研究を遂行し た。 具体的には、以下のような目的を持って研究開発を行った。 • 所得向上やエネルギーセキュリティ、エネルギーアクセスの向上・改善などの 様 々 な 分 野 に わ た る 持 続 的 発 展 を 目 指 し た 経 済 社 会 の 今 後 10 0 年 に わ た る 定 量 的な世界の温室効果ガス排出シナリオを提示する。 • この排出シナリオを基準にして、温室効果ガスを各種濃度安定化レベルに抑制 する方策を示す。 • それら排出シナリオにおける水資源や健康、生物多様性等に関連する各種持続 的発展指標を定量的に評価する。 • これらの定量的な評価を基にして各種持続的発展政策が温暖化対応策(緩和・ 適応)に及ぼす影響を、定性的な分析を加えつつ明らかにする。 上 記 を 達 成 す る た め に 、4 年 目 と な る 今 年 度 は 以 下 の 目 的 を 持 っ て 研 究 を 実 施 し た 。 ① 地球温暖化緩和および適応と持続可能な発展に関する叙述的シナリオの策定 昨 年 度 ま で に 策 定 し た 叙 述 的 シ ナ リ オ を ベ ー ス に 、 IP CC の シ ナ リ オ 策 定 の 動 向 や 昨今の温暖化問題をめぐる国際動向等を踏まえつつ、国際的に説得性、インパクト を持つような叙述的シナリオを策定する。 ② 定量的評価のためのコンピュータモデルの開発 定 量 的 、整 合 的 な シ ナ リ オ 策 定 を 行 う た め 、以 下 の よ う な コ ン ピ ュ ー タ モ デ ル の 開 発を行う。 ・ 土 地 利 用 、水 需 給 制 約 を 考 慮 し た 農 作 物 需 給 モ デ ル を 開 発 し 、農 業 へ の 温 暖 化 影 響 の 評 価 、水 資 源 へ の 温 暖 化 影 響 の 評 価 、土 地 利 用 変 化 か ら の 温 室 効 果 ガ ス 排 出 が推定できるモデルを開発する。 ・ 温暖化による健康影響と持続可能な発展政策との整合的な評価を可能とする健 康影響モデルの改良を行う。 ・ 温暖化による生物多様性への影響評価が可能なモデルの開発を行う。 ・ R ITE が こ れ ま で に 開 発 し 保 有 し て い る 世 界 を 詳 細 に 地 域 分 割 し 、 ま た 、 セ ク タ ー 別 の 詳 細 な 技 術 積 み 上 げ を 行 っ て い る 温 暖 化 緩 和 策 モ デ ル を 改 良 し 、最 新 の 技 術 デ ー タ 、 経 済 状 況 、 CO 2 排 出 実 績 な ど を 反 映 さ せ る 。 ま た 、 発 電 、 鉄 鋼 、 運 輸 部 門 に つ い て 、最 新 の 技 術 動 向 等 を 調 査 し た 上 で 、そ れ ら を モ デ ル に 反 映 さ せ る べくモデル改良を実施する。 ・ 論理的なモデルとして表現できない指標については、叙述的なシナリオに沿っ て 、緩 や か な 論 理 関 係 か ら 定 量 的 な 数 値 を 作 成 す る シ ナ リ オ ジ ェ ネ レ ー タ を 引 き 続き開発し、全体の整合性を確保する。 ③ 叙 述 的 シ ナ リ オ に 沿 っ た 持 続 的 発 展 政 策・温 暖 化 抑 制 政 策 に 伴 う 温 室 効 果 ガ ス 排 出シナリオ、温暖化緩和策の定量的な分析・評価 開 発 し た モ デ ル な ど を 利 用 し て 、当 該 叙 述 的 シ ナ リ オ に 沿 っ て 、持 続 的 発 展 政 策 ・ 温暖化抑制政策に伴う温室効果ガス排出シナリオ、具体的な温暖化緩和策シナリオ - 42 - を作成する。また、それぞれのシナリオにおける温暖化緩和策コスト、経済への影 響等について分析・評価を行う。また、産業セクター別(発電、鉄鋼、運輸部門) のシナリオ策定を行う。 ④ 叙 述 的 シ ナ リ オ に 沿 っ た 持 続 的 発 展 政 策・温 暖 化 抑 制 政 策 に 伴 う 温 暖 化 影 響 お よ び適応策の定量的な分析・評価 定 量 的 な 排 出 シ ナ リ オ そ れ ぞ れ に つ い て 、開 発 し た モ デ ル な ど を 利 用 し て 、温 暖 化 影響を評価する。また、そのときの温暖化適応策について分析・評価を行う。 ⑤ 各種の持続可能な発展および地球温暖化政策に関する指標開発とその定量的評 価 既 往 の 持 続 可 能 な 発 展 、エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ な ど の 各 種 の 持 続 可 能 な 発 展 お よ び地球温暖化に関連する指標の開発を行う。温室効果ガス排出シナリオ、温暖化緩 和策シナリオ、温暖化適応策シナリオについて、各種持続可能な発展および地球温 暖化に関連する指標の定量化、統合指標の定量化を行う。 ⑥ 国内・国際会議等における研究成果の発信と情報収集 国 際 的 な モ デ ル 分 析 比 較 プ ロ ジ ェ ク ト に 本 研 究 に お い て 策 定 し た シ ナ リ オ 、分 析 結 果を提供し、国際的な情報発信を行う。また、国際シンポジウムやワークショップ を開催し、情報収集・調査や研究成果等に関する情報発信を行う。 なお、これらの研究を推進するにあたって、オーストリアにある地球環境問題のシ ス テ ム 分 析 で 名 高 い 研 究 所 で あ る 国 際 応 用 シ ス テ ム 分 析 研 究 所( IIASA) や 、 米 国 の ロ ー レ ン ス バ ー ク レ ー 国 立 研 究 所( LBN L)等 と も 情 報 交 換 を 行 い つ つ 、研 究 を 実 施 し た 。 参考文献(第1章に関するもの) 1) IEA, CO2 emissions from fuel combustions 2010 edition, 2010. 2) 環 境 省 、 2009 年 度 ( 平 成 21 年 度 ) 温 室 効 果 ガ ス 排 出 量 ( 速 報 値 )、 http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/2009sokuho_gaiyo.pdf 3) Intergovernmental Panel on Climate Change Twenty-eighth session, IPCC-XXVIII/Doc.8, Further work on scenarios report from the IPCC expert meeting towards new scenarios for analysis of emissions, climate change, impacts, and response strategies, 19-21 September, 2007 Noordwijkerhout, The Netherlands, Budapest, 9-10 April 2008. 4) Intergovernmental Panel on Climate Change Thirtieth session, IPCC-XXX/Doc.18,Future IPCC activities–New scenarios, Report from the Integrated Assessment Modeling Consortium expert group regarding RCP3-PD, Antalya, 21-23 April 2009. 5) O. Edenhofer, “IPCC’s Catalytic Role: Coordinating Scenarios Jointly with IAMC”, IAMC Meeting, Tsukuba, September 15th, 2009. - 43 - 第 2章 持続可能な発展と温暖化対策に関する評価例の調査 我々が温暖化対策を含め様々な課題に取り組んでいるのは、将来世代を含めて幸福 な状態でいられることを確かなものにするためでもある。そこで、本章では、まず幸 福度指標に関する調査についてまとめる。また、持続的なエネルギー利用に焦点をあ てた指標の一つであるエメルギー指標や、その他、持続可能な発展に関する指標化の 国際的な取り組みや行動の状況についても調査・整理を行う。本研究で取り組んでい る持続可能な発展と温暖化対策の総合的なシナリオ策定において、これら様々な指標 を用いて俯瞰的・整合的に評価を行うことが重要となる。 更に、割引率を構成する純粋時間選好率や消費に対する効用の弾力性との関係に関 する論争について幅広く整理を行う。また、投資回収判断年数や投資判断において観 測される主観的な割引率について調査を行う。シナリオ別のモデル分析評価に際し、 いずれも重要な要素である。 2.1 幸福度指標に関する調査 2.1.1 は じ め に 経済の成長により人々は物質的な豊かさを手に入れることができるようになるが、 そ れ が 必 ず し も 内 面 的 な 充 足 に つ な が る と は 限 ら な い 。A LP S シ ナ リ オ に お け る 持 続 可 能な発展、将来世代にわたる社会のあり方を考える必要がある。 経 済 モ デ ル で は 、 通 常 、 人 々 の 「 効 用 」 を 最 大 化 す る こ と を 目 的 に 分 析 を 行 う 。「 消 費効用」を代理指標とし、一人当たり消費の対数で表現されることが多い。更なる近 似としては「消費」を最大化させることであり、エネルギー分野に限れば、総エネル ギーコストの最小化によって評価を行う。人々の「幸福」の最大化、もしくは、世代 をまたがった長期にわたる「幸福」の最大化に立ち戻って考えたとき、策定されるシ ナ リ オ に お い て 、何 が 不 足 し 、何 を 補 完 し て 考 え て お く べ き か を 考 察 す る 材 料 と し て 、 ここでは「幸福」に関する考察を行った。 本節ではまず、幸福に関する用語の定義を行った後、先行研究をレビューし、その う上でさまざまな変数と幸福の関係性を分析し、最後に考察を行っている。 2.1.2 用 語 の 定 義 日本語の「幸福」に相当する英語は複数あり、さまざまな使い分けがなされている。 直 ぐ に 想 起 さ れ る 英 語 は happ iness で あ る が 、 経 済 学 や 心 理 学 で は (sub jective) we ll-be in g と い う 用 語 が 一 般 的 に 使 わ れ て い る 。 経 済 学 で は 幸 福 度 が 効 用 (u tility)と い う 形 で 計 測 可 能 で 、 効 用 を 最 大 化 す る こ と が 個 人の目的だと仮定しているが、ここでも暗に幸福の概念も包摂されている。また、ノ ーベル経済学者のアマーティア・センは従来の従来の効用主義(功利主義: Utilitarian ism)の 大 き な 問 題 点 の 一 つ と し て 、当 事 者 の 効 用 だ け に 注 目 し て 、自 由 や 権 - 44 - 利や実現度やニーズといった「非効用情報」が排除されていることを指摘している。 こ の 批 判 に 対 応 す る も の と し て 位 置 づ け ら れ る 単 語 が We lfa re で あ り 、通 常「 福 祉 」と 訳される。ここには、自由度、公平性、人々の権利や置かれた状態などが含まれてい る。そのため、効用の最大化解としての消費水準と、福祉の最大化解としての消費水 準 は 一 般 に 異 な る と さ れ る 。表 2 .1 .2 -1 は こ れ ら の 用 語 を 整 理 し た も の で あ る 。な お 本 節 に お け る 幸 福 度 と は “Su bjective We ll-bein g” を 指 す も の と し て 検 討 を 進 め る 。 表 2. 1.2 -1 用語 Happ ine ss Well-b eing Utility Wel fa re 「幸福」に関する用語の整理 意味 「 喜 び 」、「 楽 し み 」、「 満 足 」 な ど の 心 理 的 状 態 を あ ら わ す 。 狭 義 に は 「 良 い 状 態 」、「 良 い 存 在 」、 広 義 に は 「 豊 か さ 」、「 満 足 」。 経 済 学 の 用 語 で は 、幸 福 度 に つ い て S ub jective We ll-be in g と 表 現 さ れることが多い。 「 効 用 」。 経 済 学 の キ ー ワ ー ド 。 人 の 主 観 的 価 値 、 物 の 消 費 に 対 す る満足感を表す尺度として用いられる。 「福祉」や「厚生」と訳されることが多く、効用概念では捉えきれ ない部分(例えば自由、公正、権利、当人の置かれた状態など) も含んだ概念。 2.1.3 先 行 研 究 幸福の感じ方は、心理的な側面が多分に作用するため客観的に計測することは難し い。人それぞれ感じ方が異なる上、同じ人でも心理は時々変化する。そのため幸福に 関する定説はいまだなく、見解が分かれていることが多い。 その代表的なものが「イースターリンのパラドックス」と言われるものである。 Easte rlin 1 ) は 一 国 内 で は 所 得 の 高 い 人 は 幸 福 度 も 高 い と い う 相 関 が 見 ら れ る に も か か わ らず、国際比較では、特に先進国間では一国の所得水準と幸福度の平均値に相関がな い こ と を 示 し た 。 ま た 、 Ea sterlin 2 ) は 、 幸 福 度 は 時 系 列 的 な 所 得 の 変 化 に 依 存 し な い こ とも指摘している。 こ れ に 対 し 、 200 8 年 に 発 表 さ れ た 2 つ の 論 文 ( Ste ven so ne t a l . 3 ) と Ing leh ea rte t a l. 4 ) ) では、ともにイースターリンのパラドックスの存在を否定する結論を出している。彼 らは、国内、国家間、時代間という 3 つのカテゴリーのどれにおいても、所得の増加 が幸福の増大につながると結論している。豊かな人は貧しい人よりも幸せで、人は豊 かになるにつれて幸せになることを示唆しており、イースターリンの研究はサンプル 数が少ない、といった問題点を指摘している。 た だ し 、 日 本 で は 19 58 年 か ら 20 07 年 に か け て 1 人 当 た り GDP は 10 倍 以 上 増 え た に も か か わ ら ず 、幸 福 度 は ほ と ん ど 変 化 し て い な い 。ま た 、ノ ル ウ ェ ー に つ い て も 19 8 5 年 か ら 20 01 年 の 間 に 所 得 は 20 %か ら 4 0%増 加 し た が 、平 均 的 な 幸 福 度 は ま っ た く 変 化 していないという研究事例がある。アメリカでも経済成長が続いているにもかかわら ず、幸福が増大する傾向がみられない。そのため、特に先進国では経済成長が直接、 人々の幸福度の増大に結びついていない可能性がある。 - 45 - この状況について、行動経済学という新たな研究分野を開拓したノーベル経済学者 のダニエル・カーネマンは、人々が食、住の基本的な欲求が満たされるようになれば、 それ以上の年収は必ずしも幸せの向上にはつながらないという仮説を提唱している。 その理由として、相対所得仮説と順応仮説という二つの心理的メカニズムを指摘して いる。相対所得仮説は、人々の幸福度は、所得の絶対水準よりもむしろ他のメンバー の所得との相対関係に左右される(隣人効果)というものである。これによれば、経 済成長によって自分の周りにいる人々の所得も上昇するため、他人との相対関係は変 わらず、幸福度は上昇しないことになる。順応仮説とは、人々は状況に素早く順応し てしまうというものであり、仮に幸福度が上昇したとしても、新しい状況に慣れて順 応してしまうために、またたく間に幸福度は元の水準に戻ってしまう。宝くじが当た った場合でも、その幸福効果は 2 年しか続かないとも言われている。加えて、経済成 長によって所得が上昇し続けると人々の期待所得水準も上昇し、実際に所得が上昇し ても心理的な幸福感が上昇することはないといった要素も影響する。 さらにカーネマン 5) は 最 近 、米 国 人 4 5 万 人 以 上 を 対 象 に 調 査 会 社 が 実 施 し た 電 話 調 査のデータを基に、年収と幸福の関係を統計的に分析している。収入が上がるにつれ 生活の満足度は上がるものの、 必ずしも幸福感が増すとは限らないとする調査結果を ま と め た 。 暮 ら し に 対 す る 満 足 度 を 10 段 階 で 自 己 評 価 し て も ら う 「 生 活 評 価 」 の 数 値 は 、 年 収 が 増 え る に つ れ 一 貫 し て 上 昇 し た も の の 、「 昨 日 笑 っ た か 」「 昨 日 悩 ん だ か 」 な ど の 質 問 で 測 る 「 感 情 的 幸 福 」 の 度 合 い は 、 年 収 7 万 500 0 ド ル ( 約 63 0 万 円 ) 前 後で飽和、頭打ちになっていることを明らかにしている。 2.1.4 幸 福 度 と 各 種 指 標 と の 関 連 幸 福 度 に 関 す る 統 計 は オ ラ ン ダ 、 エ ラ ス ム ス 大 学 の Ruu t Vee n ho ve n 教 授 が デ ー タ ベ ー ス (http://wo rldd atabaseo fha pp iness.eur.n l/) を 整 備 し て い る 。 こ れ は 、 個 人 の 主 観 的 幸福度(人々が自分の生活全体をどの程度好ましく思っているか)を質問調査したも ので、各国の幸福度調査の結果が時系列に整理している。ただし、さまざまなデータ ソースから寄せ集めた情報であるため、共通手法により斉一的に調査されたものでは なく質問方法や、調査年、評価区分は統一されていないことに留意する必要がある。 現時点で入手可能なほぼ唯一の網羅的な幸福度に関するデータであるため、本節の 幸福度指数データは全てこれに依っている。評価段階数が異なるものは全て 5 段階評 価 ( 5 が 最 も 幸 福 ) に 換 算 し 、 デ ー タ 値 は 最 新 年 ( 主 に 2005 -2 0 08 年 ) の も の を 用 い て い る 。 対 象 国 は 世 界 の 13 6 カ 国 で あ る 。 (1) 1 人 当 た り GD P と 幸 福 度 国 民 1 人 当 た り GDP を 横 軸 に 幸 福 度 を 縦 軸 に と り 、 各 国 の デ ー タ を プ ロ ッ ト し た も の が 図 2 .1. 4 -1 で あ る 。 な お 、 同 じ 情 報 を 対 数 表 記 し た も の が 図 2 .1. 4 -2 で あ る 。 所 得 水準が低いグループでは右肩上がりの正の相関の可能性はあるが、所得水準が高い先 進国では所得上昇にかかわらず幸福度はほぼ水平、つまり幸福感が高まらないと言え る。 - 46 - 5.0 5.0 y = 0.2621ln(x) + 3.2068 R² = 0.2781 4.5 4.5 4.0 4.0 3.5 3.5 3.0 3.0 2.5 2.5 2.0 2.0 1.5 1.5 1.0 1.0 0.5 0.5 0.0 y = 0.2621ln(x) + 3.2068 R² = 0.2781 0.0 0 10 図 2. 1.4 -1 20 30 40 50 (千$) 60 0 GDP /人 ( 実 数 ) と 幸 福 度 図 2. 1.4 -2 1 10 100 GDP /人 ( 対 数 ) と 幸 福 度 ( 注 ) GDP は 20 07 年 、 赤 印 は 日 本 所得水準が同程度であるにもかかわらず幸福度に違いがあることも観察される。例 え ば 、ド イ ツ と カ ナ ダ の 所 得 水 準 は 同 程 度 で あ る が 、ド イ ツ 人 の 方 が 幸 福 度 は 低 い( ド イ ツ 3.7 、 カ ナ ダ 4.2 )。 ま た 、 途 上 国 間 で は ギ ャ ッ プ が さ ら に 大 き く 、 一 人 当 た り の GDP が $1,000 以 下 の 国 で も 幸 福 度 は 1 .4 か ら 4.4 ま で 大 き な 幅 が あ る 。 図 2 .1. 4 -3 は 全 サ ン プ ル の 所 得 階 層 を 高 ( 1 万 ド ル /年 以 上 )、 中 ( 1 千 ド ル /年 以 上 一 万 ド ル /年 未 満 )、低( 1 千 ド ル /年 未 満 )の 3 つ に 分 類 し 、そ れ ぞ れ の 幸 福 度 の 相 対 分 布 を 図 示 し た も の が あ る 。低 レ ベ ル の 階 層 で は 、幸 福 度 は 1.4 か ら 4.4 ま で 幅 広 く 分 布 し 、 幸 福 度 が 2 以 下 の 国 も 20 %以 上 占 め て い る 。 そ れ に 対 し 、 高 レ ベ ル の 階 層 で は 極 端 に 幸福度の低い国は見られず、相対的に幸福度も大きい。なお、高レベル層に属する国 で 最 も 幸 福 度 が 低 い ( 3 .1 ) 国 は カ タ ー ル で あ る 。 こ の 国 は 石 油 ・ 天 然 ガ ス の 資 源 に よ り 一 人 当 た り GDP は 高 い も の の 、文 化・社 会 体 制 は ま だ 十 分 整 備 さ れ て い な い こ と が 、 低い幸福度の要因であると考えられる。これ以外の高レベル層の幸福度はおおよそ 4 前後に集中している。 - 47 - 図 2. 1.4 -3 所得階層別の幸福度分布 (2) 消 費 と 幸 福 度 豊 か さ の 代 表 指 標 と し て し ば し ば GDP が 用 い ら れ る が 、 効 用 は 人 が 財 ( 商 品 や サ ー ビス)を消費することから得られる満足の水準を表すことから、消費に関する指標の 方がより効用概念に近い。 一 人 当 た り の 家 計 最 終 消 費 と 幸 福 度 の 関 係 を 表 し た も の が 図 2.1. 4 -4 で あ り 、傾 向 と し て は 一 人 当 た り GDP と 幸 福 度 の 関 係 と 似 て い る 。 近 似 曲 線 の 決 定 係 数 は 家 計 最 終 消 費 で 説 明 し た 方 が 若 干 高 く な り 、 GDP で み る よ り も 妥 当 性 が 高 い と い え る が 、 十 分 に は表現できていないことがわかる。 5.0 60 4.5 50 4.0 3.5 40 y = 0.5115x + 0.6178 R² = 0.9358 3.0 2.5 30 2.0 20 y = 0.264ln(x) + 1.5409 R² = 0.3282 1.5 1.0 10 0.5 US$(対数) 0.0 100 図 2. 1.4 -4 1000 10000 0 100000 家 計 最 終 消 費 /人 と 幸 福 度 0 10 図 2. 1.4 -5 20 30 40 1人当たりGDP (千US$) 50 60 GDP /人 と 家 計 最 終 消 費 支 出 / 人 GDP 及 び 家 計 消 費 は 2007 年 、 赤 印 は 日 本 (3) 人 間 開 発 と 幸 福 度 持 続 可 能 な 開 発 の 指 標 と し て よ く 使 わ れ る も の に 、「 人 間 開 発 指 標 ( Hu man Deve lop men t Inde x : H DI)」 が あ る 。「 人 間 開 発 」 の 概 念 は 社 会 の 豊 か さ や 進 歩 を 測 る の に、経済指標だけでなく、これまで数字として現れなかった側面も考慮に入れること を目的にしている。人間が自らの意思に基づいて自分の人生の選択と機会の幅を拡大 - 48 - さ せ る に は 「 健 康 で 長 生 き す る こ と 」「 知 的 欲 求 が 満 た さ れ る こ と 」「 一 定 水 準 の 生 活 に必要な経済手段が確保できること」をはじめ、人間にとって本質的な選択肢を増や していくことが必要という問題意識にたっている。そのため人間開発指数は、平均余 命 指 数 、 教 育 指 数 、 G DP 指 数 の 3 つ の 指 標 の 平 均 か ら 計 算 さ れ 、 1 に 近 い ほ ど 人 間 開 発が高いとされる。 HDI 指 数 の 中 に GDP 指 数 が 入 っ て い る た め 、 図 2 .1. 4 -7 で 示 さ れ る よ う に HD I は 1 人 当 た り GDP と 高 い 相 関 を 示 す 性 質 が あ る 。 HD I と 幸 福 度 と の 関 係 は 図 2 .1 .4 -6 で 示 し て い る 。幸 福 度 と の 相 関 は 一 人 当 た り GDP で み る よ り は H D I の 方 が 高 い が 、消 費 と の相関に比べるとやや低い結果になっている。 5.0 1.0 4.5 4.0 0.8 3.5 3.0 y = 0.11ln(x) + 0.5233 R² = 0.8317 0.6 2.5 y = 2.3389x + 1.9985 R² = 0.3253 2.0 0.4 1.5 1.0 0.2 0.5 0.0 0.0 0.0 0.2 0.4 図 2. 1.4 -6 0.6 0.8 1.0 HDI と 幸 福 度 0 10 20 図 2. 1.4 -7 30 40 50 (千$) 60 GDP /人 と HD I HDI は 2 005 年 、 赤 印 は 日 本 (4) 自 由 と 幸 福 度 人生の選択肢を増やすこと、自由に選択できる社会制度があることは、高い幸福度 をもたらす蓋然性が高い。自由度の指標として、フリーダムハウスによる市民的自由 指 数 を と り 、 幸 福 度 と の 関 係 を み た の が 図 2 .1. 4 -8 で あ る 。 フーダムハウスは毎年、世界における自由の指標を公表している。その指標は、政 治的自由と市民的自由の二つのカテゴリーに分けれ、政治的自由については、自由で 公正な普通選挙、公職への立候補、政党への参加などを含む、政治過程への参加の自 由に関する事項をもとに、市民的自由は表現、信仰の自由、結社の自由、法の支配や 個人の自律などをもとに評価される。評価は 1 から 7 までの 7 段階評価で、数字が小 さいほど自由が大きい。 結果、市民の自由度と幸福度の相関は高くなかった。ただし、最も自由とされる 1 の カ テ ゴ リ ー に お い て は 幸 福 度 も 4. 0 前 後 に 集 中 し て お り 、そ れ よ り も 自 由 度 が 広 く な る と 幸 福 度 の 幅 が 大 き く な る こ と が 見 て 取 れ る 。 な お 一 人 当 た り GDP と 自 由 度 の 関 係 ( 図 2 .1 .4 -9) に つ い て は 比 較 的 高 い 相 関 が み ら れ た 。 - 49 - 5.0 8 y = -0.1558x + 3.965 R² = 0.1213 7 4.0 6 5 3.0 4 2.0 y = -0.725ln(x) + 3.9089 R² = 0.4258 3 2 1.0 1 0.0 0 0 自由 2 4 図 2. 1.4 -8 6 8 0 不自由 市民の自由度と幸福度 10 図 2. 1.4 -9 20 30 40 50 (千$) 60 GDP /人 と 市 民 の 自 由 度 自 由 度 は 201 0 年 、 赤 印 は 日 本 (5) 平 等 と 幸 福 度 不 平 等 の 変 数 と し て ジ ニ 係 数 を 使 っ て 幸 福 度 と の 関 係 を 見 て み る と ( 図 2 .1 .4 -10)、 格差が大きくなれば幸福度はやや下がるという傾向はみられるものの、明確な相関が 見られなかった。 な お ジ ニ 係 数 (G in i c oe fficien t) は 、 主 に 社 会 に お け る 所 得 分 配 の 不 平 等 さ を 測 る 指 標 で 、 係 数 の 値 が 0 に 近 い ほ ど 格 差 が 少 な い 状 態 で 、 1( こ こ で は 10 0) に 近 い ほ ど 格 差が大きい状態であることを意味する。 格差大 70 5.0 4.5 60 y = -0.2989x + 42.016 R² = 0.1332 4.0 50 3.5 y = -0.0176x + 4.1549 R² = 0.0393 3.0 40 2.5 30 2.0 1.5 20 1.0 10 0.5 0.0 0 平等 10 20 図 2. 1.4 -10 30 40 50 60 70 格差大 ジニ係数と幸福度 0 平等 0 10 図 2. 1.4 -11 20 30 40 (千$) 50 GD P/人 と ジ ニ 係 数 (6) エ ネ ル ギ ー と 幸 福 度 図 2 .1. 4 -12 は 、 一 人 当 た り 最 終 エ ネ ル ギ ー 消 費 と 幸 福 度 を 見 た も の で あ る 。 一 人 当 た り の エ ネ ル ギ ー 消 費 は GDP /人 と 相 関 が 高 い た め 、幸 福 度 と の 関 係 も 同 じ よ う な 傾 向 にあるが、相関度合いは若干弱い。 - 50 - 5.0 4.5 4.0 y = 0.3637ln(x) + 3.5255 R² = 0.2459 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0 図 2. 1.4 -12 2 4 6 8 TFC per capita (toe) 10 12 1 人 当 た り 最 終 エ ネ ル ギ ー 消 費 ( 20 08 年 ) と 幸 福 度 2.1.5 ま と め 幸福に関する議論は現在も続けられており、まだ定説は確立されていない。本分析 においても、さまざまな指標と幸福度の関係について見てみたが、おおよその傾向は 把握できたが、明確な相関関係を示すほどではなかった。 一 人 当 た り GDP 、 一 人 当 た り 家 計 最 終 消 費 、 HD I、 自 由 度 、 ジ ニ 係 数 ( 平 等 )、 一 人 当たり最終エネルギー消費の中では、一人当たり家計最終消費が最も相関が強く、逆 にジニ係数が最も弱かった。消費の対数として効用を表現する一般的な経済モデルの 方法は一次近似的には適切と考えられるが、幸福度の指標としては十分ではないこと がわかる。また、ジニ係数は一国内の所得分布により格差の大きさを指標化したもの であるが、幸福度指標は一国の平均をとったものであり、もし各国国内の幸福度分布 もしくは幸福度格差に関するデータがあり、両者を相関させることができれば、また 違った結果が出ていた可能性がある。 一 人 当 た り の GDP と 幸 福 度 の 関 係 に つ い て 言 え る こ と は 、 ① 所 得 階 層 が 高 く な る ほ ど 、 幸 福 度 も 高 ま る 傾 向 が あ る 。 ② 幸 福 度 が 低 い ( 3. 0 以 下 ) の 国 は 一 人 当 た り GDP が 1 万 ド ル /年 未 満 の 国 に し か み ら れ ず 、 逆 に 言 え ば 所 得 の 高 い 国 で は あ る 程 度 以 上 の 幸福が得られている、の 2 点である。すなわち、一定程度の所得は幸福の必要条件で はあるが、十分条件ではないことがわかる。 - 51 - 図 2. 1.5 -1 所得と幸福度の関係イメージ お お よ そ の 傾 向 と し て は 、 図 2. 1.5 -1 で 示 す よ う に 、 途 上 国 で は GDP が 伸 び る に つ れ幸福度が高まるが、先進国は既に一定水準の所得に達しているため所得水準が向上 し て も 幸 福 度 は 上 が り に く い 、と い う こ と が 言 え る 。人 間 ら し く 生 活 を す る た め に は 、 先ずは基本ニーズを充足するため、ある程度の豊かさを実現する必要である。豊かに なるにつれ幸福に対する評価軸が多様化し、金銭価値で評価できないようなものを求 めるようになると考えられる。所得の高い国では、どこに住み、どのような人間関係 を築き、どの程度時間的ゆとりをもつかなど、ライフスタイルにまつわる要因が幸福 度に影響を与えている可能性がある。 社会としては、絶対レベルの貧困を解消しつつ、豊かになるにつれ非貨幣的、質的 側 面 か ら 生 活 の 質 な ど 、 よ り 多 元 的 な 価 値 観 を 志 向 し て い く 必 要 が あ る だ ろ う 。 A LP S シ ナ リ オ 策 定 に あ た っ て は 、 公 平 性 ( 所 得 分 布 )、 富 の ス ト ッ ク 、 自 由 に な る 時 間 ( 余 暇 )、 就 業 状 況 ( 失 業 率 )、 環 境 な ど に つ い て も 配 慮 し て い く こ と が 必 要 と 考 え ら れ る 。 参 考 文 献 ( 第 2. 1 節 に 関 す る も の ) 1) Easterlin, Richard A.; Does Economic Growth Improve the Human Lot?, Paul A. David and Melvin W. Reder 編集, Nations and Households in Economic Growth: Essays in Honor of Moses Abramovitz, New York: Academic Press, (1974) 2) Easterlin, R. A.; Will raising the income of all increase the happiness of all? Journal of Economic Behavior and Organization 27 (1): 35-47, (1995) 3) Stevenson, B and Wolfers, J.; Economic Growth and Subjective Well-Being: Reassessing the Easterlin Paradox (August 25, 2008). 3rd Annual Conference on Empirical Legal Studies Papers, (2008) - 52 - 4) Inglehart R, Foa R, Peterson C, Wetzel C; Development, freedom, and rising happiness: A global perspective (1981–2007). Perspect Psychol Science 3:264–285, (2008) 5) Kahneman, D., Deaton, A.; High income improves evaluation of life but not emotional well-being. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 107(38), 16489-16493, (2010). 6) Frey, B. and Stutzer, A.; Happiness and Economics. Princeton, NJ: Princeton University Press, (2002). 7) Ruut Veenhoven, World Database of Happiness, Erasmus University Rotterdam. 8) Jones, Charles I. and Klenow, Peter J.; Beyond GDP? Welfare across Countries and Time. NBER Working Paper Series 16352, (2010) 9) 大石繁宏『幸せを科学する』新曜社、(2009) 10) 齊藤誠『成長信仰の桎梏−消費重視のマクロ経済学』勁草書房、 (2006) 11) 筒井義郎、大竹文雄、池田新介「なぜあなたは不幸なのか」大阪大学社会経済研究所 Discussion Paper No. 630 (2005 年 2 月行動経済学コンファランス報告論文)、 (2005) 2.2 Emergy 指 標 に 関 す る 調 査 2.2.1 は じ め に 本 事 業 で は 様 々 な SD 指 標 を 調 査 し て き た 。 昨 年 度 の 成 果 報 告 書 に も 記 載 し た 通 り 、 SD 指 標 に は そ の 目 的 や 背 景 に 応 じ て 種 々 の も の が 開 発 さ れ て い る 。 し か し 、 あ る シ ナ リ オ の SD 度 を 総 合 的 に 評 価 し た い 場 合 に 、そ れ ら の 組 み 合 わ せ の 加 重 和 を 統 合 指 標 と して使用しようとする試みもあるが、その具体的な統合指標が必ずしも広く受け入れ ら れ る に い た っ て い な い 。一 方 、字 義 通 り の 持 続 可 能 性 を 評 価 す る 指 標 と し て 、g enu ine sa vin g 、 a d jus t ed s a ving 、 一 人 当 た り 生 産 的 社 会 基 盤 な ど が 世 界 銀 行 や ダ ス ・ グ プ タ ら により提案されているが、これらは、非常にマクロな指標であり、社会全体としての 持続可能性に関する大括りな議論には適しているが、たとえば、個別の失業率や経済 的格差などの指標に関してはなんら知見を与えるものではない。 そ の た め 、 今 年 度 も 引 き 続 き SD 指 標 に 関 す る 調 査 を 継 続 し た 。 こ こ で 、 紹 介 す る エ メ ル ギ ー ( E me rg y) 指 標 あ る い は エ メ ル ギ ー 評 価 分 析 は 、 ど ち らかというと後者に属するものといってよく、生態系や環境の経済への寄与をこれら 生態系や環境を作るのに必要であった太陽エネルギーの量をもとに統一的にとらえよ うとしたものである。あらゆるものを人間社会への有用度ではなく、その生成に要し た 太 陽 エ ネ ル ギ ー で 統 一 的 に 評 価 し よ う と す る こ の 試 み は 非 常 に 魅 力 的 で あ り 、ま た 、 大胆であるともいえる。さらに、この発想は、大きく発展し一国の経済を形作るのに 必 要 な 太 陽 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 、あ る い は そ の GDP に 対 す る 強 度 と い っ た 概 念 も 導 出 し 、 具体的にその値も評価している。さらに、各種「情報」さえもエメルギー評価の対象 に加えるまでに至っている。 エメルギー評価の特徴の一つは、各種(経済だけでなく環境や生態系によるものを 含む)の財、サービスをそれらが人間に対して持つ経済的価値(どれだけ役立つか) で評価しようとするものでなく、それらを作るに要した太陽エネルギーの量で客観的 - 53 - に評価しようとするものである。たとえば、石油についてなら、1単位量の石油から どれだけ便利にどれだけの量のエネルギーが取り出せるか(経済的価値)ではなく、 地球上で地質学的年月を経て石油を単位量生成するのにどれだけの太陽エネルギーが 必 要 で あ っ た か を 評 価 基 準 と す る 。ま た 、さ ら に 発 展 し て 、1 単 位 の 経 済 的 付 加 価 値 を 産 出 す る に 必 要 と し た 太 陽 エ ネ ル ギ ー の 量 を 問 題 と す る こ と と な る 。し た が っ て 、財 ・ サービスを、それらを生成するに要した「自然の力」を基準にして客観的に評価しよ うとするものであり、非常に環境学派的なアプローチあるいは生態系重視の立場から のアプローチといえよう。 もうひとつの特徴は、非常に多様な財・サービスについて、生成するのに必要な太 陽エネルギーを評価するのが容易ではないことである。地下資源などは、地質学的年 代にわたる長期間に生成されたものであり、その期間にどれだけの太陽エネルギーが 必要であったかは、現代において必ずしも学問的に明確になっておらず、相当の近似 を行わざるを得ない。この点が現実的ではないとして、大きな批判対象の一つになっ ている。 な お 、こ れ は 、エ メ ル ギ ー 概 念 の 創 始 者 や 共 同 研 究 者 の 意 図 に 反 す る こ と で あ る が 、 適 用 対 象 を 天 然 資 源 や 生 態 系 サ ー ビ ス の み に 限 定 し 、そ れ ら を 人 間 社 会 が 利 用 す る 際 、 それらの利用コストとして、エメルギーを用いれば、統一的客観的に評価できる考え られる。この場合、人間社会はその欲求を実現するために、自然界をどれだけ「消費」 しているかを自然界に固有の尺度で表現できることとなり、現在よりも広く受け入れ られるのではないかと考えられる。 ま た 、 エ メ ル ギ ー 概 念 は H.T.Od u m( H.T. Odu m, 199 6) 1 ) に よ り 20 世 紀 の 半 ば に 提 唱 され たが 、そ の後 、創始 者自 身や 共 同研 究者 によ り、かな り の変 更が 加え ら れて きた。 これが却って、一般に広く受容されるための障害になっているとも考えられる。当初 は、 「 有 機 物 」を 基 準 と し 、よ り 高 位 の エ ネ ル ギ ー で あ る 木 材 、石 炭 、石 油 、生 物 を「 有 機物」を基準に評価した。次に化石燃料、続いて石炭が評価基準に使用された。のち に、地球が受ける太陽エネルギーが基準に使用され現在にいたっている。また、地球 表面が受けるエネルギーの主要なものとしては、太陽エネルギー、地球深部からの熱 エネルギー、潮汐エネルギーの 3 種類が考えられた。当初、これらのエネルギーの合 計 は 年 間 9.4 4E+24 so lar jou le ( 「 s e j」 と 表 示 す る )と さ れ た が 、 2000 年 に な っ て こ の 値 は 15 .83E+2 4se j に 訂 正 さ れ た 。 さ ら に 、 エ メ ル ギ ー 評 価 に お い て は 、 Ma x imu m E mpo we r 原 理 と い う 仮 定 が 用 い ら れ る。これは、地球上で競争に打ち勝ち生存してきたものは、最も効率よくエネルギー を利用してきたものであるという、最初、生物学の世界で提唱された原理である。ま た、工学の世界においても同様に成立するとしている。従って、ある財・サービスの エメルギー評価において、不確定性がある場合、最も効率よくエネルギーが変換され たとして計算される。ただし、具体的なある地域のある財・サービス・システムなど の評価において、具体的な数値が求められる場合にはその値を用いてそのケースのエ メ ル ギ ー 値 と し て い る 。 Max imu m E mpo wer 原 理 に つ い て 、 こ れ が 不 変 的 に 成 り 立 つ 原 理だというのは疑わしい。自然環境、人間社会はある程度の冗長性を有していると考 えられるからである。 - 54 - エメルギー評価に関するもうひとつの批判対象としてよく取りあげられるのは、評 価バウンダリーの曖昧さである。とくに、時間軸について開始時点をどこに取るかで 評価結果が大きく違いうる。しかし、この批判は、一般的に多くの分野で受け入れら れ 、 実 用 も さ れ て い る LCA 分 析 に も 当 て は ま る こ と で あ り 、 時 間 バ ウ ン ダ リ ー を 明 確 にすればよいことなので、大きな本質的な短所ではないとも考えられる。 以 下 に 、 具 体 的 な エ メ ル ギ ー 評 価 に つ い て 述 べ る 。 そ の 際 、 Tran sfo rmity と い う 、 あ る財・サービスの 1 単位量(単位は財・サービスの種類によりエネルギーや質量)を 生成するに必要な太陽エネルギー量に換算するための係数を用いることになる。具体 的な評価に入る前に、これらの量についてより詳細な説明をする。続いて、地球規模 のプロセス、化石燃料、発電所、国における指標分析などを対象にしたエメルギー評 価 分 析 に つ い て 述 べ る 。最 後 に A LP S プ ロ ジ ェ ク ト で の エ メ ル ギ ー 評 価 分 析 の 取 り 扱 い について述べる。 2.2.2 コ ン セ プ ト (1) エ ネ ル ギ ー 転 換 の ヒ エ ラ ル キ ー ( Ene rgy Trans for mati on Hier archy ) 食物連鎖を考えればわかるとおり、すべてのシステムにおいては、低位から高位に わたって連鎖が形成されている。そして高位に位置するものは低位に位置するものを 多 く 消 費 し て 生 成 さ れ 、よ り 多 く の エ ネ ル ギ ー が 用 い ら れ た と 考 え ら れ る 。そ の た め 、 より高位なものが持つエネルギーはより高級なエネルギーとみなすことができる。 図 2 .2. 2 -1 (b )で 表 示 し て い る よ う に 、エ ネ ル ギ ー は 図 の 左 か ら 右 に 転 換 し て い る 。エ ネルギー転換システムでは、レベルの低いエネルギーが大量に消費され、レベルの一 層高いエネルギーが僅かな量だけ生産される。エネルギーが左から右に流れ、生産し た エ ネ ル ギ ー の 量 が 少 な く な り ( 図 2 .2. 2 -1 (d) )、 単 位 量 エ ネ ル ギ ー を 生 産 す る た め 消 費 し た 最 初 の エ ネ ル ギ ー ( 太 陽 エ ネ ル ギ ー ) の 量 が 多 く な り ( 図 2 .2. 2 -1(e))、 つ ま り 、 その「質」が高くなっている(エネルギーシステムに当たるヒエラルキーレベルが高 く な る )。 単位量エネルギーを生産するため消費した最初のエネルギー(太陽光エネルギー) の量は、このエネルギーの「質」を測定する基準になる。 - 55 - (a ) S pa tia l vie w o f un its a nd th e ir te rrito rie s; (b ) Ene rg y ne tworks includ ing tran sforma tio n and feed bac ks; (c ) Ag g reg a tion o f ene rg y ne two rk in to an e ne rg y ch ain ; (d ) B ar g ra ph o f th e ene rg y f lo ws f or the le vels in th e e ne rg y h iera rch y; (e ) Ba r graph o f so la r tran s fo r mitie s 図 2. 2.2 -1 エネルギーヒエラルキーレベル (2) Emerg y と は Emergy is the ava ila b le ene rgy o f on e k in d of pre v iou sly u se d up direc tly and in d ire ctly to ma ke a se rv ice o r produ c t. Its un it is the Emjou le . (H.T.Odum , 1 996 ) E me rg y と は 、 「 物 ま た は サ ー ビ ス を 生 み だ す た め に 、直 接 、間 接 に 消 費 さ れ た 一 定 任 意 種 類 の 有 効 エ ネ ル ギ ー 総 量 」 で あ る 。 つ ま り 、 E me rg y と は 、 物 に 「 記 憶 さ れ た 有 効 エ ネ ル ギ ー 」( me moried e ne rg y) で あ る 。 E me rg y 手 法 で は 、「 世 の 中 の エ ネ ル ギ ー や 、 - 56 - 物など、元々は太陽光エネルギーから生み出した」という考えより、物質フローを太 陽 光 エ メ ル ギ ー ( So lar E me rg y) に 換 算 し て い る 。 Tran sformit y は あ る 物 ・ サ ー ビ ス を 単 位 量 作 る の に 必 要 な エ ネ ル ギ ー 量 で あ る( 単 位 は 物・サ ー ビ ス に よ り 、エ ネ ル ギ ー で あ っ た り 、質 量 で あ っ た り す る )。S o la r Tran sfo rmit y はある物・サービスを単位量作るのに必要な太陽光エネルギーの量である。 E me rg y 手 法 の 基 本 的 な 計 算 式 は 、 式 ( 2. 2 -1) ∼ 式 ( 2. 2 -3 ) の 通 り で あ る 。 Solar E me rg y = A moun t × So la r Transfo rmity ( 2.2 -1 ) Solar Tran sfo rmity = S ola r E merg y / A moun t ( 2 .2 -2) Solar E me rg y = Σ So la r E me rg y i = Σ A moun t i × So la r Tran sfo rmity i ( 2. 2 -3) 2.2.3 エメルギー計算例 (1) Globa l p roce sse s 最 初 に 、 Od u m は 、 G loba l P roc esse s の エ ネ ル ギ ー が 年 間 9. 44E+2 4 so la r jo u le と 試 算 した いる 1) が 、 2000 年 に こ の 値 は 15 .83E+ 24 に 訂 正 し 2) 3) 。 こ こ で は 、 多 数 の 資 源 の Tran sformity 計 算 の 基 準 と し て き た 2000 年 の 値 の 計 、 最 近 、 ま た 15 .2E+24 に 更 新 し て 算について、紹介する。 地球表層殻への入力エネルギーの主要なものは、太陽エネルギー、地球深層部から のエネルギー、潮汐エネルギーの 3 種類である。 • 太陽エネルギー:陸地、海洋、及び大気活動を駆動する。 • 潮 汐 エ ネ ル ギ ー:月 や 太 陽 な ど の 天 体 に よ っ て 地 球 の ま わ り の 重 力 場 に 勾 配 が 生 じることで起こる。海洋重力ポテンシャルエネルギーを生じ、海流を駆動する。 • 地 球 深 層 部 か ら の エ ネ ル ギ ー : 地 球 深 層 部 か ら の 地 熱 (D eep H ea t) 、 及 び ウ ラ ン ( U)、ト リ ウ ム( Th )、カ リ ウ ム( K)等 か ら の 放 射 性 エ ネ ル ギ ー (R ad iog en ic He a t) を 含 め る 。海 底 地 形 、大 陸 の 再 形 成 、及 び 造 山 運 動 の よ う な 地 質 過 程 を 駆 動 す る 。 他 に 宇 宙 線 な ど が 考 え ら れ る が 、こ れ は 上 記 3 種 類 に 比 し 、無 視 で き る ほ ど 小 さ い 。 こ こ で は 上 記 3 種 類 の エ ネ ル ギ ー の エ メ ル ギ ー と Transfo rmity の 評 価 に つ い て 紹 介 す る 。 太 陽 エ ネ ル ギ ー の Tran sfo rmit y は 定 義 上 1 で あ る の で 、 他 の ふ た つ の Transfo rmit y を g lob a l p roc esse s を 対 象 に し て 、 こ れ ら の エ ネ ル ギ ー に 関 す る 独 立 な 二 つ の 連 立 方 程 式から求める。つまり、系の入力エメルギーと出力エメルギーの総和は等しい、とい う こ と を 2 種 類 の g lo bal p ro cesse s に つ い て 、 定 式 化 す る 。 ま ず 、 地 球 表 層 殻 の エ ネ ル ギ ー の 収 支 を 考 え る 。Sc late r e t a l.(1980 ) 4 ) に よ る と 地 球 表 層 殻 へ 年 間 13. 21E+2 0 ジ ュ ー ル の 熱 エ ネ ル ギ ー が 入 力 し て お り 、 地 球 深 部 か ら は 6.72E+2 0 ジ ュ ー ル ( 熱 エ ネ ル ギ ー と 放 射 性 物 質 か ら の 放 射 線 エ ネ ル ギ ー の 合 計 )が 伝 わ っ て き て い る の で 、 残 り の 6 .49E+2 0 ジ ュ ー ル が 潮 汐 エ ネ ル ギ ー と 太 陽 エ ネ ル ギ ー か ら の 地 表 熱 エ ネ ル ギ ー へ の 寄 与 の 和 で あ る 。 潮 汐 エ ネ ル ギ ー は 0 .52E+20 ジ ュ ー ル (Miller 1966 ) 5 ) 、太 陽 エ ネ ル ギ ー は 正 味 393 00E+20 ジ ュ ー ル (入 射 エ ネ ル ギ ー の 70 % が 地 表 に 吸 収 さ れ る と し て い る )と 分 か っ て い る の で 、 最 初 の 方 程 式 は 式 2 .2 -4 と な る 39300E+ 20 (J/yr) × 1 (se j/J) + 0. 52E+20 (J/ yr) × Trt = 6. 49E+20 × Trh - 57 - 。 (2. 2 -4 ) Trt と Trh は そ れ ぞ れ 潮 汐 エ ネ ル ギ ー と 地 球 表 層 殻 で の 熱 エ ネ ル ギ ー の Tranformi ty である。 続 い て 、海 洋 の 地 球 全 体 の ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー( oce an g e opo ten tia l ene rg y)に つ い て 考 え る 。o ce an g eo poten tia l の 値 は 年 間 2 .14E+2 0 ジ ュ ー ル で あ る (Oo rt e t al., 198 9) 6 ) 。 そ の う ち の 潮 汐 エ ネ ル ギ ー は 、上 述 の 通 り 0.52 E+ 20 ジ ュ ー ル で あ る か ら 差 引 1. 62E+2 0 ジ ュ ー ル が 太 陽 エ ネ ル ギ ー と 地 球 深 部 か ら の 熱 エ ネ ル ギ ー に よ る 寄 与 で あ る 。従 っ て 、 式 2. 2 -5 が 得 ら れ る 。 39300 E+20 (J/ yr) × 1 (sej/J ) + 6.7 2E+20 (J/yr ) × Trh = 1 .62E+2 0 × Trt (2 .2 -5) これら二つの方程式を連立させて解くことにより、 Trh=119 81 se j/J Trt= 7392 3se j/J が 得 ら れ る 。 0.52 39,300 Radio -genic 13.21 0.52 39,300 4.74 1.98 Radio -genic 2.14 図 2. 2.3 -1 地球表層殻のエネルギー収支及び関係図 こ れ ら の 値 を 用 い る と 地 球 全 体 の 入 力 エ メ ル ギ ー (上 記 3 種 類 の エ ネ ル ギ ー の エ メ ル ギ ー の 合 計 値 )は 年 間 15.8 3E+24 se j/J と な る 。 これらのエネルギーが、大気、海洋、水文、岩石生成を駆動する。また、その過程 で熱を発生する。 - 58 - 表 2. 2.3 -1 Note 地 球 生 物 圏 年 間 Eme rgy 受 入 量 Inp uts & Un ite s In flow Tran so fmity E me rg y V a lue J/yr se j/J E+24 se j/ yr 1 Solar en erg y 3.93 E+24 1 3.93 2 Tida l en erg y 0.52 E+20 7.39 E+4 3.84 3 Crustal h ea t 6.72 E+20 1.20 E+4 8.06 4 Tota l -- -- 15.8 3 (2) 大 気 循 環 大 気 中 で は 無 数 の エ ネ ル ギ ー の 小 さ な 循 環 ( c ir cu la t ion ) が あ り 、 こ れ ら が 収 束 、 集 中 し て 数 は 少 な い が よ り エ ネ ル ギ ー の 大 き な 循 環( circ ulation )が あ り 、こ れ ら が 収 束 、 集 中 し て 数 は 少 な い が よ り エ ネ ル ギ ー の 大 き な 循 環 と な り (し た が っ て そ れ ら の Tran sformit y は 大 き な 値 と な る )、 さ ら に そ れ ら が 収 束 、 集 中 し 大 き な エ ネ ル ギ ー を も ち、人間社会にも大きな影響を及ぼす。また、海洋表面上では水の潜熱が小さな大気 の 循 環 に 吸 収 さ れ 、同 様 に 収 束 ,集 中 を 繰 り 返 し 大 き な エ ネ ル ギ ー を も つ 現 象 と な る 。 表 2 .2. 3 -2 は こ れ ら 様 々 な レ ベ ル の 大 気 循 環 に つ い て 、そ の 運 動 エ ネ ル ギ ー の 大 き さ と Tran sformit y に つ い て ま と め た も の で あ る 。そ の 導 出 に つ い て は 省 略 す る 。Tran sformit y の大きさからその現象の集中度の大きさ、エネルギーの大きさを想像していただきた い。 表 2. 2.3 -2 Note 1 大気循環エネルギー Kine t ic Ene rg y Flo w Tran so fmity J/yr se j/J La ten t h ea t into a ir 9.3 E+ 23 12 Kine tic en erg y used 2.33E+2 1 192 Circu la tio n Un it Ove r oce an c ir cu la t io n 2 Cu mu lu s la nd c ircu la tion 9.45E+2 1 485 3 Mesosyste ms 1.73 E+22 912 4 Te mp erate c yc lo ne s 4.9E+21 3230 5 Hurrican es 6.1E+20 6487 6 He misp he re gen er a l c i r cula t ion Surfa ce wind s 1.61E+2 2 983 Ave ra ge c ircu la tio n 6.4E+21 2473 Trop ic a l je ts 3.7E+21 4278 P olar je t 1.61E+2 1 9832 - 59 - (3) 岩 石 類 表 2 .2. 3 -3 は 、 土 地 形 成 、 各 種 岩 石 形 成 の Tran sfo rmity を ま と め た も の で あ る 。 地 球 表 層 殻 へ の 入 力 エ メ ル ギ ー は 15 .83E+2 4se j/yr と 分 か っ て い る の で 、 各 岩 石 に つ い て 年 間 生 成 量 が わ か れ ば Tran sformit y(こ の 場 合 、 単 位 質 量 あ た り の 値 )が 求 ま る 。 表 2. 2.3 -3 Note 土 地 、 岩 石 形 成 の T rans for m ity Co mpo nen t and Un it E me rg y P roduc tion E merg y/Un it E+24se j/yr E+15g /yr E+9se j/g 1 Glob al lan d c yc le , g 15.8 3 9.36 1.69 2 Contin en ta l sed imen t, g 15.8 3 0.4~9 .4 1.7~42 3 P elag ic -a b yssa l sed ime nt, g 15.8 3 9.7 1.63 4 Sha le 15.8 3 3.9 4.1 5 Sand ston e 15.8 3 1.87 8.5 6 Lime stone 15.8 3 1.68 9.5 7 Evapo rite s 15.8 3 0.09 4 169. 0 8 Ocean ic ba sa lt, g 15.8 3 63.4 0.25 (4) 化 石 燃 料 化 石 燃 料 の Transfo rmity に 関 す る 計 算 も 、 glo ba l p ro ce ss es の よ う に 、 人 間 が よ り 広 い 、確 か な 知 識 を 獲 得 す る こ と に と も な い 、何 回 も 修 正 さ れ て き た 。最 初 、Odu m( 199 6 ) は発電所の分析に基づき、石炭発電所、石油発電所の相対的な効率を用い、石炭と石 油 の Transfo rmity を 逆 算 し た 。 そ の 後 、 B as tian on i e t a l. ( 200 5 ) 7 ) が 、 ロ シ ア に あ る 鉱 場を分析対象とし、石油形成の生物地球化学的な過程を分析し、石油、及び天然ガス の Tran sfo rmity を 改 め て 計 算 し た 。 最 近 、 Bro wn ( 2 011) 8 ) は 、 石 炭 、 石 油 及 び 天 然 ガ ス を 形 成 す る 地 質 的 な 過 程 を 年 代 別 に よ り 詳 細 に 分 析 し 、化 石 燃 料 の Tran sformit y を 更 新 し た 。 こ こ で は 、 B as tian on i が 2 00 5 年 に 分 析 し た 石 油 の Tra nsfo rmit y を 例 と し て 、 化 石 燃 料 の Tran sformity の 計 算 に つ い て 、 説 明 す る 。 図 2 .2. 3 -2 は 、石 油 の 形 成 を 含 め る 地 球 の 地 質 的 な プ ロ セ ス を 駆 動 し て い る エ ネ ル ギ ー を 示 し て い る 。石 油 の 形 成 に お け る 光 合 成 作 用( pho to syn the sis)、細 菌 分 解( ba cteria l deg rad ation)、続 成 作 用( d ia gen esis)、及 び 退 行 進 化( ca ta gen esis )プ ロ セ ス を そ れ ぞ れ 表 示 、 分 析 し て い る 。 油 母 ( k eroge n ) は 続 成 作 用 の 成 果 で あ り 、 退 行 進 化 の 始 点 で あ る。 光 合 成 作 用 ( pho to syn the sis): Flo rid a に あ る Mo squ ito 潟 湖 に お け る 分 析 に よ り 、 1 J 太 陽 光 の 光 合 成 作 用 か ら 生 産 さ れ る 有 機 物 の 最 大 量( Yp )を 求 め た 。1 J の 有 機 物 に 累 積 し た 太 陽 光 エ ネ ル ギ ー の 量 ( τ p) は 以 下 の 通 り 計 算 さ れ る 。 τp = 1 1 = = 1.14 × 10 3 sej / J Y p 8.8 × 10 −4 (2 .2 -6 ) - 60 - 単 位 有 機 物 量 あ た り 自 由 エ ネ ル ギ ー( Gp )、及 び 植 物 細 胞 に あ る 有 機 炭 素 成 分( [C ]p) か ら 、単 位 植 物 重 量 あ た り E me rg y 値( ε p )、及 び 植 物 の 単 位 炭 素 あ た り E me rg y 値 (ε p [ C ] ) の計算方法は以下の通りである。 ε p = τ p G p = (1.14 × 10 3 sej / J ) × (1.78 × 10 4 J / g ) = 2.03 × 10 7 sej / g ε p[C ] = εp [C ] p = (2.2-7) 2.03 × 10 7 sej / g = 4.50 × 10 7 sej /( gC ) 0.45( gC ) / g 図 2. 2.3 -2 (2.2-8) 地球生物圏における石油及びガスの形成のイメージ図 細 菌 分 解 ( b ac te r ia l d egrada t io n)、 続 成 作 用 ( d iagenesis) プ ロ セ ス : 完 全 に 分 解 さ れ 、油 母 に 形 成 さ れ る 有 機 物 の 比 率( R D )は 僅 か 5 % で あ る 。又 、油 母 に 炭 素 の 比 率 は 7 5% で あ る 。よ っ て 、単 位 油 母 あ た り E me rg y 値( ε k )、及 び 油 母 の 単 位 炭 素 あ た り E me rg y 値 ( ε k [ C ] ) は 以 下 の 結 果 と な る 。 ε k[C ] = εk = ε p[ C ] RD = ε p[C ] ⋅ [C ] k RD 4.50 × 10 7 sej /( gC ) = 9.00 × 10 8 sej /( gC ) 0.05 = (4.50 × 10 7 sej /( gC )) × (0.75( gC ) / g ) = 6.75 × 10 8 sej / g 0.05 (2.2 -9 ) (2. 2 -1 0) 退 行 進 化 ( c atage ne sis)、 石 油 形 成 プ ロ セ ス : 平 均 的 に 、 10 g 油 母 に あ る 炭 素 が 石 油 に あ る 炭 を 3 .3g 形 成 す る 。 そ の た め 、 単 位 石 油 に あ る 炭 素 あ た り E me rg y 値 ( ε p e t [ C ] ) は : ε pet[C ] = ε k [C ] RC = 9.00 × 108 sej /( gC ) = 2.73 × 10 9 sej /( gC ) 0.33 (2. 2 -11) 石 油 の 85 % は 有 機 炭 素 で あ る こ と に よ り 、 石 油 の Transfo rmity ( 単 位 石 油 当 た り E me rg y 値 ) は : - 61 - ε oil = 0.85 × (2.73 × 10 9 sej / gC ) = 2.32 × 10 9 sej / g τ oil = ε oil H oil = (2 .2 -12 ) 2.32 × 10 9 sej / g = 5.54 × 10 4 sej / J (Ho il は 石 油 エ ン タ ル ピ ー の 平 均 値 で あ る 。 ) 4.19 × 10 4 J / g (2 .2 -13 ) (5) 電 力 の Tr ans form ity の 計 算 こ こ で は 、 Brown & Ulg ia ti (20 02 ) 9 ) が イ タ リ ア に あ る 石 油 火 力 発 電 所 ( 1280 MW、 耐 用 年 数 3 0 年 ) を 分 析 対 象 と し 、 電 力 の Tra nsformit y を 計 算 し た 例 を 紹 介 す る 。 図 2. 2.3 -3 火 力 発 電 所 に お け る E merg y 分 析 表 2. 2.3 -4 発 電 所 に お け る Eme rgy フ ロ ー 分 析 E me rg y a c co u n t i n g o f t h er mo e le c tr i c e le ct r i c it y p r o d uc t io n i n I t al y ( d at a o n a ye ar l y b a s i s; p o we r p l a n t s it ed a t P io mb i n o , I t a l y) Item Unit Amoun t Solar Solar tran sformit y e me rg y (sej/un it) P lan t Con struc tion P ha se (Goo ds, e ne rg y a nd labo r h a ve be en d ivide d b y p lan t life time, 30 ye a rs ) 1 Conc re te g 3.64E+1 0 5.08E+0 8 1.85E+1 9 2 Iron and ste e l fo r struc tu re g 6.17E+0 8 2.77E+0 9 1.71E+1 8 3 In su la ting ma te ria ls (ro ck woo l) g 1.33E+0 7 1.50E+0 9 2.00E+1 6 4 Coppe r elec tric wires g 5.26E+0 6 2.00E+0 9 1.05E+1 6 J 9.87E+11 6.60E+0 4 6.51E+1 6 5 Die se l t ran spo r t of ma t er ia l b y truck 6 Stea m g en erators (stee l) g 2.57E+0 8 2.77E+0 9 7.12E+1 7 7 Stea m cond en se rs (ste e l) g 6.27E+0 7 2.77E+0 9 1.74E+1 7 8 P re -h ea te rs for inp ut water (ste el) g 4.12E+0 7 2.77E+0 9 1.14E+1 7 - 62 - 9 P re -h ea te rs for c o mb ustion a ir (a ir) g 3.20E+0 7 2.77E+0 9 8.88E+1 6 10 P ump s and va lves (ste e l) g 1.67E+0 7 2.77E+0 9 4.62E+1 6 11 P ipes (ste el) g 3.33E+0 7 2.77E+0 9 9.23E+1 6 12 Chimne ys (mo stl y c onc re te ) g 9.33E+0 8 5.08E+0 8 4.74E+1 7 13 Ele ctro st p rec ip ita to rs (ste e l) g 2.93E+0 8 2.77E+0 9 8.13E+1 7 14 Turb in es (stee l) g 6.86E+0 7 2.77E+0 9 1.90E+1 7 15 Ele ctric ge ne ra to rs (ste el) g 4.67E+0 7 2.77E+0 9 1.29E+1 7 16 Ele ctric motors Stee l g 1.60E+0 7 2.77E+0 9 4.43E+1 6 Coppe r g 4.00E+0 6 2.00E+0 9 8.00E+1 5 g 3.33E+0 7 2.77E+0 9 9.23E+1 6 Stee el g 3.12E+0 7 2.77E+0 9 8.64E+1 6 Coppe r g 4.40E+0 6 2.00E+0 9 8.80E+1 5 Coolin g o il J 3.81E+11 6.60E+0 4 2.51E+1 6 17 Ele ctric bo ards an d p an els (iron ) 18 Tran sforme rs 3 70 MVA 19 Oil storage tank s (ste l) g 0.00E+0 0 2.77E+0 9 0.00E+0 0 20 Tra vellin g b ridg e crane (stee l) g 5.00E+0 6 2.77E+0 9 1.39E+1 6 21 La bo r a nd se rvic es ye a rs 3.47E+0 2 2.49E+1 6 8.65E+1 8 22 Ele ctric ity J 2.40E+1 2 1.85E+0 5 4.44E+1 7 23 Die se l fo r ya rd ma ch in ery J 2.13E+1 2 6.60E+0 4 1.47E+1 7 J 2.54E+11 6.60E+0 4 1.67E+1 6 24 Die se l fo r tran sp . Ma jo r co mpone n ts 25 Lu bric an ts J 4.91E+11 6.60E+0 4 3.24E+1 6 26 P ain ts g 5.00E+0 5 1.50E+0 9 7.50E+1 4 J 1.06E+1 6 1.00E+0 0 1.06E+1 6 Abso rp tion of h ea t rele ase d J 2.91E+1 6 9.63E+0 2 2.80E+1 9 P lank ton in ma rine c oo ling wa te r J 4.80E+1 3 1.90E+0 4 9.12E+1 7 Coolin g se rvic e a t ch imne y (win d) J 4.53E+1 3 1.50E+0 3 6.79E+1 6 g 1.13E+1 2 5.16E+0 7 5.85E+1 9 g 4.95E+1 2 5.16E+0 7 2.55E+2 0 Gradu a ted ye a rs 8.00E+0 0 7.47E+1 6 5.98E+1 7 Techn ic a l a nd ad min istra tive ye a rs 1.00E+0 2 4.98E+1 6 4.98E+1 8 P lan t Ope ra t io n P hase 27 Solar rad ia tio n 28 Coolin g 29 Ox ygen Ox ygen a sso c ia te d to f uel extrac tion an d re fin ing Ox ygen a sso c ia te d to c o mbu s t ion pro ce ss es and manu fa c t ure o f co mpone n ts 30 La bo r a nd se rvic e - 63 - Othe r techn ica l se rvic e 31 32 ye a rs 1.97E+0 2 2.49E+1 6 4.91E+1 8 ye a rs 1.00E+0 2 4.98E+1 6 4.98E+1 8 US$ 3.12E+0 6 1.22E+1 2 3.80E+1 8 Lu bric an ts J 1.37E+1 2 6.60E+0 4 9.06E+1 6 Che mic a ls g 1.55E+0 9 3.80E+0 8 5.91E+1 7 J 0.00E+0 0 1.85E+0 5 0.00E+0 0 J 0.00E+0 0 1.85E+0 5 0.00E+0 0 J 6.14E+1 6 5.40E+0 4 3.32E+2 1 US$ 2.38E+1 8 1.22E+1 2 2.90E+2 0 US$ 1.69E+0 6 1.22E+1 2 2.07E+1 8 J 1.46E+1 6 5.40E+0 4 7.87E+2 0 J 2.35E+1 6 2.00E+0 5 4.70E+2 1 La bo r p lan t ma in te nan c e an d o the r lab or fro m ou tside Curren tly rep lac ed materia ls Mach in e ry and e le ctric ma teria ls 33 Ene rg y f or p la nt op era ting Ele ctric ity Air co nd ition ing o f b u ild in gs (e le ctr.) 34 Co mbu stion o il 35 Addition a l service s a nd in vestme nts Addition a l se rvic es fo r fu e l supp l y Addition a l se rvic es fo r p lan t man uf ac tu re Fu e l e x trac tion an d p ro cessing (as oil equ iv) Electric ity P rodu ction 36 Annua l yie ld * 注 :こ の 計 算 は 200 2 年 に 発 表 さ れ た た め 、o il の Tran sformit y は 、Odu m が 計 算 し た 値 を 使 っ て い る ( g lo ba l proce ss が 9.4 4E+24 se j/yr と し て ) 。 表 2 .2. 3 -4 の 分 析 に よ る と 、 石 油 か ら の 電 力 の Transfo rmity は : 電力のTransformity = = 毎年インプットしたEmergy総量 毎年電力生産量 4.70E + 21 Sej =2.00E+05 Sej / J 2.35E + 13 J (2. 2 -14 ) この計算に当たっては、様々な材料、機械、サービスや労働(労働の質により異な る Tran sfo rmit y の 値 が 用 い ら れ て い る )に つ い て の Tran sformity が 用 い ら れ て お り 、当 然、これらの値には相当の不確実性が含まれていると考えるべきであり、その結果で あ る 石 油 火 力 電 力 の Tran sformit y の 値 に つ い て も そ の 不 確 実 性 に つ い て の 留 意 が 必 要 である。 2.2.4 国 レ ベ ル で の Emergy 分 析 E me rg y 専 門 家 は 、 国 レ ベ ル の エ ネ ル ギ ー 、 物 質 、 資 金 、 サ ー ビ ス の フ ロ ー と そ れ ぞ れ の Transfo rmity を 用 い て 国 家 が 消 費 し て い る エ メ ル ギ ー 値 を 求 め た り 、資 源 別 、あ る いはその再生可能性についての区別等により集約して、各種の指標を定義し、国の持 続可能性を評価する研究を行っている 10)11)12)13) - 64 - 。 本 節 で は 、「 E me rg y に よ る 自 然 資 源 利 用 効 率 」( E merg y o f na tu ra l sou rce/$ ratio) と い う 比 較 的 単 純 な 指 標 に つ い て 、 試 算 した。 Emergy of natural source/$ ratio = Emergy of consumed natural source (solar, wind, rain, fossil fuel, metal and etc.) GDP ( 2.2 -1 5) 式 2. 2 -15 で 示 し た よ う に 、 E me rg y に よ る 自 然 資 源 利 用 効 率 と は 、 あ る 国 ( 或 い は あ る 地 域 )が 、単 位 GD P を 達 成 す る た め に 、消 費 し た 自 然 資 源 の E me rg y 総 量( E me rg y of natura l sou rce ) で あ る 。 こ こ の 「 自 然 資 源 」 は 、 人 間 の 労 働 を 含 め て い な い 、 再 生 可 能 な太陽光、風力、及び再生不能な化石燃料、金属等、単純な「物質的な」資源を指す。 これは、物質的な資源を、その人間社会にとっての有用性を示す金銭価値ではなく、 そ の 資 源 を 作 る に 要 し た「 自 然 の 力 」で あ る E me rg y と い う 統 一 単 位 で 表 現 し た 量 を 用 い て 、 単 位 GDP を 生 成 す る に 要 し た 物 質 的 な 資 源 の 量 を 評 価 し た も の で あ る 。 図 2 .2. 4 -1 は 、 2 00 0 年 の 各 国 の 自 然 資 源 利 用 効 率 の 結 果 の ラ ン キ ン グ を 示 し た も の で あ る 。 低 い E me rg y of na tur al sou rc e /$ r a tio 値 を 持 っ て い る 国 が 、 自 然 資 源 の 利 用 効 率 が 良 い と 言 う こ と が で き る 、 つ ま り 、 相 対 的 に 少 な い 資 源 で 単 位 GDP を 生 み 出 す こ とができる。 図 2 .2. 4 -2 は 、 1 980 年 か ら 20 08 年 ま で の 全 世 界 の 自 然 資 源 利 用 効 率 の 時 系 列 結 果 で ある。ここの全世界の自然資源利用量は、全ての資源を網羅したものではないが、主 要 な も の は 全 て 含 ま れ て い る 。 但 し 、 Tra nsformit y の 値 に つ い て は 、 Odu m ら に よ る も のであり、不確実性があることに注意すべきである。時系列の結果を見ると、世界全 体 の 資 源 利 用 効 率 は 向 上 し て き て い る 傾 向 が 見 て と れ る 。 こ れ は 、 GDP が 上 が り 、 生 活が改善されると共に、技術の発展により、省資源が進んできていると見られる。 - 65 - Emergy of natural source/$ ratio Emergy of natural source/$ ratio 1.31 1.56 1.59 2.03 2.07 2.27 2.28 2.72 3.10 3.21 3.24 3.51 3.92 4.13 4.15 4.43 4.44 4.61 4.84 5.07 5.08 5.35 5.39 5.58 5.95 6.08 6.73 6.87 6.91 7.07 7.08 7.14 7.29 7.38 7.43 7.47 7.58 7.96 8.43 8.47 8.51 9.19 9.20 9.20 9.29 9.43 9.43 9.51 9.54 9.72 10.02 10.09 10.15 10.19 10.37 10.73 10.73 10.94 11.10 11.32 11.61 12.24 12.24 12.48 12.78 13.18 13.28 0 Trinidad and Tobago Thailand Mexico Côte d'Ivoire Chile Paraguay Macedonia Malaysia South Africa Iran Niger Serbia and Montenegro Botswana Azerbaijan Belarus Moldova Senegal Benin Indonesia Bangladesh Ecuador Jordan Lesotho Cameroon The Gambia Bulgaria Nicaragua Belize Cambodia Peru Mali Russia Sudan Congo Tanzania Djibouti Namibia Swaziland Turkmenistan Togo Ghana Kenya Guinea Nepal Ethiopia Sierra Leone Iceland Eritrea Bolivia Kazakhstan Gabon Guyana Ukraine Armenia Suriname Mauritania Madagascar Central African Republic Guinea-Bissau Mongolia Mozambique Zambia Libya Papua New Guinea Zimbabwe 13.41 13.53 13.68 13.96 14.31 14.46 14.87 14.91 15.05 15.45 15.65 15.71 16.45 16.76 17.05 17.23 17.51 18.17 18.25 18.26 19.00 19.85 20.06 22.24 23.27 24.30 24.99 25.28 26.08 27.41 27.71 28.11 28.29 28.71 30.27 30.76 33.24 33.88 34.86 35.19 38.34 38.48 39.55 39.85 40.38 40.56 41.69 42.18 43.47 44.58 47.63 49.11 51.72 自然資源利用効率が良い 自然資源利用効率が良い Japan Switzerland United States Israel Germany France Denmark Sweden United Kingdom Italy Finland Norway Greece Cuba Leba non Saudi Arabia Netherla nds Egypt Oman Croa tia Turkey Slovenia Burundi Algeria Hungary Kuwait El Salvador Rwanda Costa Rica Poland Belgium Spain South Korea Canada Lithuania Portuga l Latvia Tunisia Yemen Venezuela Pa kistan Uruguay Syria Morocco Malawi Czech Republic Philippines Estonia Guatema la Romania Argentina Albania Colombia China Nigeria Brazil Uganda Ireland New Zealand India Australia Burkina Faso Vietnam Slovakia Jamaica Panama Honduras 1012 sej/$ 50 図 2. 2.4 -1 100 150 200 72.26 73.86 79.22 82.09 99.07 100.90 101.53 102.19 120.48 131.27 155.69 165.47 0 50 100 150 132 ヶ 国 の 自 然 資 源 利 用 効 率 及 び ラ ン キ ン グ ( 200 0 年 ) 1012sej/$ 5.00 4.50 4.00 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50 0.00 1980 図 2. 2.4 -2 1985 1990 1995 2000 2005 2008 世界自然資源利用効率の時系列結果 - 66 - 1012 sej/$ 200 2.2.5 Emergy 指 標 に 関 す る ま と め E me rg y 手 法 が 、2 0 世 紀 80 年 代 に 開 発 さ れ 30 年 経 っ た 。し か し 、こ の 手 法 の 普 及 は 、 現在でもこの分野の研究者仲間に限られ、広い範囲で応用されていない。コンセプト が理解しにくい、又分析には大量の計算が必要な他、用いられるデータの不確実性が 高いことが、この手法を受け入れにくくしている主な理由と考えられる。そして、こ の 節 の 最 初 で 述 べ た よ う に 、E me rg y 計 算 の ベ ー ス で あ る g loba l p ro ce ss es の 値 や 、鉱 物 の Tran sfo rmit y の 値 等 が 今 ま で 何 回 も 修 正 さ れ て き た 。さ ら に 、他 の 分 野 の 研 究 者 か ら 、 この手法の計算方法、指標の定義にも批判の声が出ている。この手法は、まだ「未成 熟 」で あ り 、改 善 す べ き 点 が 多 く あ る と 考 え ら れ る 。こ の 節 で は 、 「 E me rg y に よ る 自 然 資 源 利 用 効 率 」 指 標 を 用 い 、 各 国 、 及 び 世 界 時 系 列 の 値 を 計 算 し た 。 A LP S で の 取 り 扱 いに際しては、この手法の特徴を十分理解すべきであることはもちろんであるが、実 際 の 計 算 に お い て 、そ の 基 本 と な る Transfo rmit y の 値 に 相 当 の 不 確 実 性 が 含 ま れ る こ と にも留意すべきである。 参 考 文 献 ( 第 2. 2 節 に 関 す る も の ) 1) Howard T. Odum: Environmental Accounting: Emergy and Environmental Decision Making, John Wiley & Sons, Inc. (1996) 2) Howard T. Odum: Handbook of Emergy Evaluation Folio #2: Emergy of Global Processes (draft version), University of Florida, (2000) 3) Mark T. Brown & Sergio Ulgiati: Updated Evaluation of Exergy and Emergy Driving the Geobiosphere: a Review and Refinement of the Emergy Baseline, Ecological Modelling, 221, 2501-2508 (2010) 4) J. G. Sclater, C. Jaupart and D. Galson: The Heat Flow through Oceanic and Continental Crust and the Heat Loss of the Earth, Review of Geophysics, Vol. 18, No. 1, 269-311 (1980) 5) Gaylord R. Miller: The Flux of Tidal Energy out of the Deep Oceans, Journal of Geophysical Research, Vol. 71, NO. 10, 2485-2489 (1966) 6) Abraham H. Oort, Stephen C. Ascher, Sydney Levitus, and José P. Peixóto: New Estimates of the Available Potential Energy in the World Ocean, Journal of Geophysical Research, Vol. 94, NO. C3, 3187-3200 The Flux of Tidal Energy out of the Deep Oceans (1989) 7) Simone Bastianoni, Daniel Campbell, Ludovico Susani, and Enzo Tiezzi: The Solar Transformity of Oil and Petroleum Natural Gas, Ecological Modelling, 186, 212–220 (2005) 8) Mark T. Brown, Gaetano Protano, and Sergio Ulgiati: Assessing Geobiosphere Work of Generating Global Reserves of Coal, Crude Oil, and Natural Gas, Ecological Modelling, 222, 879-887 (2011) 9) M.T. Brown & S. Ulgiati: Emergy Evaluation and Environmental Loading of Electricity Production Systems, Journal of Cleaner Production, 10, 321-334 (2002) 10) M.T. Brown & S. Ulgiati: Emergy-based Indices and Ratios to Evaluate Sustainability: Monitoring Economies and Technology toward Environmentally Sound Innovation, Ecological Engineering, 9, 51-69 (1997) 11) S. Ulgiati, H.T. Odum, and S. Bastianoni: Emergy use, environmental loading and sustainability, An Emergy analysis of Italy, Ecological Modelling, 73 (3-4), 215-268 (1994) - 67 - 12) Juan Liu: Emergy Analysis Method on Evaluation of National Ecosystem: Case of Japan, ConAccount 2008: “Urban metabolism: measuring the ecological city" (2008) 13) National Environmental Accounting Database, http://www.emergysystems.org/nead.php 2.3 持続可能な発展に関する指標化の国際的な取り組み 2.3.1 ミ レ ニ ア ム 開 発 目 標 ( MDGs) 持 続 可 能 な 発 展 に 関 す る 指 標 ( SD 指 標 ) と し て ミ レ ニ ア ム 開 発 目 標 ( MDG s) は 重 要な指標と考えられる。本研究において、これまでも度々、参照してきたが、本節で は 、 MDGs の 進 捗 状 況 に つ い て 概 要 を 記 す 。MDGs は と り わ け 、 開 発 や 貧 困 、 人 権 と い っ た 開 発 途 上 国 に お け る 重 要 課 題 を 解 決 す る た め に 掲 げ ら れ て い る 目 標 で あ り 、 2 015 年 ま で に 達 成 す べ き 目 標 が 8 つ 、そ れ ら 目 標 に 関 連 す る 具 体 的 指 標 が 48 種 設 け ら れ て い る ( 詳 細 は 文 献 1 )を 参 照 さ れ た い )。 国 際 連 合 ( 国 連 ) で は 、 MDG s 達 成 期 限 を 5 年 後 に 控 え 、 199 0 年 比 の 各 種 目 標 の 達 成 見 込 み に つ い て 、 地 域 別 、 目 標 別 の 進 捗 状 況 ( 図 2.3 .1 -1 ) を 示 す と と も に 、 以 下 の ように報告している • 目標1 2),3),4) 。 極度の貧困と飢餓の撲滅:世界的には貧困削減目標の達成にめど、飢餓 半 減 へ の 前 進 は 停 滞 。1 日 1 ド ル 25 セ ン ト 未 満 で 暮 ら す 開 発 途 上 地 域 の 人 々 の 数 は 、 18 億 人 ( 1 990 年 、 46 %) か ら 14 億 人 ( 2005 年 、 27%) へ と 低 下 、 グ ロ ー バ ル 経 済 ・ 金 融 危 機 に よ り 経 済 成 長 は 減 速 し た も の の 、 201 5 年 ま で に は 9 億 200 0 万人程度とみられる。東アジア、中国、インドで大幅な貧困削減に寄与している が 、サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ で は 貧 困 が 増 大 し て い る 。飢 餓 に 苦 し む 人 々 の 割 合 は 20 % ( 199 0 年 ) か ら 1 6%( 2005 ∼ 20 07 年 ) へ 減 少 し た が 、 20 02 年 以 降 は 前 進 が 見 ら れ な い 。 20 08 年 食 料 ・ 金 融 危 機 が 発 生 す る ま で は 、 サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ で も 飢 餓 率 が減る一方で人口増加を埋め合わせるほどにはペースが追いつかないといった状 況 で は あ る も の の 、 2 015 年 ま で に 栄 養 不 良 人 口 の 割 合 半 減 に 目 途 が 立 っ て い た 。 しかし、食料危機後は、食料価格高騰や雇用減少により、貧困世帯の所得減が食 料購買力の大幅低下を助長させた。グローバルには目標達成が危ぶまれている。 • 目標2 普遍的な初等教育の達成:普遍的教育達成は望み薄。初等教育就学率は 上 昇 を 続 け 、 89 %に 達 し た も の の 、 男 女 の 区 別 な く 初 等 教 育 全 課 程 を 修 了 で き る よ う に は い た っ て い な い 。教 員 数 、教 室 の 確 保 や 、学 校 に 通 い 続 け る こ と( 費 用 、 教育に対する社会的・文化的障壁等)も課題となっている。 - 68 - 図 2. 3.1 -1 ミレニアム開発目標の進捗状況 ( MDGs 20 10 P rog ress Char t 5 ) を RI TE に て 加 工 ) - 69 - • 目標3 ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上:一部地域の女子にとって、 教育を受ける権利は未実現。開発途上地域全体で見ると、就学率での男女平等は 達 成 さ れ つ つ あ る ( 男 子 100 人 に 対 す る 女 子 の 割 合 は 初 等 教 育 で 91 人 ( 199 9 年 ) か ら 96 人 ( 20 08 年 ) に 増 ) が 、 も っ と も 悪 い 状 況 に あ る 地 域 は オ セ ア ニ ア ( 89 人 )、サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ( 9 1 人 )、西 ア ジ ア( 92 人 ) ( い ず れ も 2008 年 )で あ る 。 • 目標4 幼 児 死 亡 率 の 削 減:目 標 達 成 に 不 十 分 。世 界 的 に 5 歳 未 満 児 死 亡 総 数 は 、 1,240 万 人 ( 1 990 年 ) か ら 810 万 人 ( 20 0 9 年 ) へ と 3 5%程 度 減 少 し て い る 。 前 進 が見られる反面、近年はまったく改善が見られない。特にサハラ以南アフリカは 出生率が高い一方で、5 歳未満児死亡率も依然として高く、幼児死亡の絶対数は 世 界 の 幼 児 死 者 数 の 半 数 の 400 万 人 ( 20 0 9 年 ) 占 め て い る 。 死 因 と し て 、 41%が 新 生 児 ( 早 産 、 窒 息 他 ) で あ り 、 ま た 43 %を 4 大 疾 患 ( 肺 炎 、 下 痢 症 、 マ ラ リ ア 、 エイズ)が占めている。肺炎や下痢症、マラリアは安価な予防・治療措置が導入 されていれば救うことのできた命がほとんどであるとされている。 • 目標5 妊産婦の健康状態の改善:妊産婦死亡率の減少は前進しているが、目標 達 成 に は 不 十 分 。開 発 途 上 国 に お け る 妊 産 婦 死 亡 率 は 、10 万 人 あ た り 45 0 人( 1 990 年 ) か ら 290 人 ( 200 8 年 ) へ と 34 %減 少 し た が 、 死 亡 率 を 4 分 の 3 減 少 す る と い う 目 標 達 成 に は 取 り 組 み の 加 速 が 必 要 で あ る 。 妊 産 婦 死 亡 者 数 ( 2 008 年 ) は 全 世 界 で 358 ,00 0 人 、そ の う ち の 99 %が 開 発 途 上 国 、87 %の 313 ,00 0 人 が サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ 、 南 ア ジ ア で 占 め る 。 死 因 は 多 量 出 血 35 %、 高 血 圧 症 18%で 、 多 量 出 血 は 熟練医療従事者の適切な処置によって予防、抑制が可能であるが、開発途上国で 熟 練 医 療 従 事 者 の 立 会 い 下 で 出 産 す る 女 性 の 割 合 は 6 3%( 20 0 8 年 )、 サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ 、 南 ア ジ ア で は そ れ ぞ れ 46 %、 4 5%で あ る 。 • 目標6 H IV /エ イ ズ 、 マ ラ リ ア 、 そ の 他 の 疾 病 の 蔓 延 防 止 : H IV 蔓 延 は ほ と ん ど の 地 域 で 一 段 落 し た と 見 ら れ 、 感 染 者 の 余 命 も 伸 長 。 新 規 H IV 感 染 者 数 は 1996 年 ピ ー ク の 3 50 万 人 か ら 200 万 人 ( 20 08 年 ) に 減 少 し た も の の 、 東 欧 、 中 央 ア ジ ア や サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ で は 、 新 規 H IV 感 染 率 が 高 い た め 、 有 病 率 が 上 昇 を 続 け て い る 。 延 命 効 果 に よ り H IV 感 染 者 数 は 増 大 を 続 け 、 全 世 界 で 3,3 40 万 人 、 そ の う ち 2, 240 万 人 が サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ に 集 中 し て い る 。 新 規 感 染 率 は 、 依 然 と し て 治 療 の 拡 大 を し の ぎ 、 毎 年 2 人 が 治 療 を 始 め る ご と に 、 5 人 が 新 た に H IV 感 染 し て い る と い う 実 態 で あ る 。 マ ラ リ ア 感 染 に つ い て 、 2008 年 2 億 4,3 00 万 人 が 発 症 し 、 86 万 3 ,000 人 が 死 亡 し た と 見 ら れ 、 こ の う ち 89%が ア フ リ カ で 発 症 し て い る。殺虫剤処理済み蚊帳の利用拡大は急増し、マラリアからの保護が前進してい る 。十 分 で は な い が 外 部 資 金 援 助 の 増 大 は 、マ ラ リ ア 発 生 率 減 少 に 関 係 し て い る 。 • 目標7 環境の持続可能性の確保:森林破壊は依然として急速なペースで進行、 気 候 変 動 へ の 対 策 が 急 務 、201 0 年 生 物 多 様 性 保 全 目 標 が 達 成 で き な か っ た こ と で 重大な帰結が生じるおそれ、飲料水目標達成のめどは世界的には立っている、衛 生 施 設 20 15 年 目 標 達 成 は 絶 望 的 、 ス ラ ム 改 善 は 都 市 貧 困 層 の 膨 張 に 追 い 付 か ず 。 森林破壊について、中国、インド、ベトナムでの大規模植林プログラムが功を奏 し、森林面積純増といった結果をもたらしているが、他のアジア諸国、南米、ア フリカでは森林の多用途への転換(主として農地転用)が急進している。気候変 - 70 - 動 に つ い て 、 全 世 界 の CO 2 排 出 量 は 前 年 比 3.2 %増 で 2007 年 に 300 億 ト ン を 越 え た。このような増加は持続不可能であり、地球の気候システムに深刻な悪影響が 及ぶ危険性をさらに高めるだろうとしている。生物多様性保全について、その損 失 は と め ど な く 続 い て お り 、 絶 滅 の お そ れ の あ る 動 植 物 は 1 万 7,0 00 種 に 近 く に お よ ぶ 。世 界 の 陸 域 の 約 12%、海 域 の 約 1 %が 保 護 区 域 と な っ て い る も の の 十 分 で は な い 。保 護 区 域 で も 管 理 不 十 分 で あ る こ と が あ る 。安 全 な 飲 料 水 利 用 に つ い て 、 世 界 的 に は 目 標 の 達 成 が 見 込 ま れ る ( 200 8 年 普 及 率 8 7%)。 開 発 途 上 国 で の 普 及 率 71%( 20 08 年 ) は 2015 年 86 %を 見 込 ん で い る 。 し か し 、 サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ で の 普 及 率 は 60 %( 2 008 年 )、 オ セ ア ニ ア は 20 年 弱 に わ た っ て 50%で あ り 、 地 域 に よ り 多 く の 課 題 が 残 る 。 改 良 衛 生 施 設 を 利 用 で き な い 人 々 は 全 世 界 で 26 億 人 、 2015 年 に は 27 億 人 へ と 増 加 の 見 込 み で あ る 。 衛 生 実 践 の 最 大 の 脅 威 が 屋 外 排 便 で 、 北 ア フ リ カ 、 西 ア ジ ア で 減 少 が 見 ら れ 、 未 だ 11 億 人 が 屋 外 排 便 し て い る 。 • 目標8 開発のためのグローバル・パートナーシップの構築:情報通信技術に対 す る 需 要 は 増 加 の 一 途 。 情 報 通 信 技 術 ( ICT) 利 用 は 全 世 界 で 拡 大 を 続 け て い る 。 2009 年 末 ま で の 携 帯 電 話 加 入 者 数 は 、 全 世 界 で 46 億 人 、 開 発 途 上 地 域 で も 普 及 率 が 50%、 サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ で も 3 0%に 達 し て い る 。 SD 指 標 は 多 数 提 案 さ れ て お り 、上 述 の よ う な MDGs は 、温 暖 化 対 策 以 外 に も 取 り 組 む べ き 課 題 が 多 い こ と も 示 し て い る 。ま た SD 達 成 度 の 現 況 や 統 計 に 基 づ く 将 来 推 計 が 表すように、指標の設定は問題を客観的に捉え、解決に向かうための有用な手段の一 つであることを示している。 なお、国連において定期的に実施される良質な調査が無いことは、良質なデータ入 手を困難としており依然として課題のようである。 2.3.2 ス テ ィ グ リ ッ ツ ・ セ ン (CMEPSP) 報 告 2.1 節 で は 将 来 シ ナ リ オ の 選 択 に あ た り 重 要 な 指 標 の 一 つ と し て 幸 福 度 指 標 に つ い て 、 GDP と い っ た 金 銭 価 値 で 評 価 し き れ な い 課 題 が あ る こ と を 述 べ た が 、 本 節 で は 、 GDP に 代 表 さ れ る 現 在 の 統 計 で は 経 済 社 会 の 実 態 が う ま く 捉 え ら れ て い な い の で は な い か と い う 問 題 意 識 の 下 、 フ ラ ン ス の サ ル コ ジ 大 統 領 が 2 008 年 に 「 経 済 パ フ ォ ー マ ン ス と 社 会 の 進 歩 の 測 定 に 関 す る 委 員 会 」を 設 置 し 検 討 を 行 っ た 内 容 に つ い て ま と め た 。 この委員会は、ジョセフ・スティグリッツやアマルティア・センなどがメンバーを務 め 、 2 009 年 9 月 に 報 告 書 6) がまとめられた。 報 告 で は GDP の 欠 点 を 指 摘 し つ つ 、社 会 的 な 幸 福( We ll be in g )を 測 る 指 標 は ど の よ うな要素を考慮する必要があるかをまとめている。 GDP は 、「 市 場 に お い て 取 引 さ れ た 財 ・ サ ー ビ ス 」 を 計 上 す る も の で 、 か つ 「 そ の 年 に生み出された財・サービス」の「付加価値」を計上するという 3 原則がある。その ため、これらの範疇に入らない事象は捕捉できない。具体的には次の 3 点があげられ よう。 - 71 - 1 点 目 は 「 外 部 性 」 の 課 題 が あ る 。 GDP で カ ウ ン ト さ れ る の は 市 場 で 売 買 さ れ て い る財・サ ービ スで あ る。し か し、世 の 中 には 市場 で売 買 され てい ない サー ビ スも 多い。 最も代表的なものが家計生産(家庭を運営するために必要な家事サービス)である。 料理だけでなく食糧の生産や加工、住宅建設、水の供給、娯楽など先進国では市場を 通じて行われる多くの活動が、途上国では家庭で行われることが多い。また、環境へ の影響、外部不経済は考慮されていない。石油など限りある資源の枯渇も考慮されて いない。現時点での利得は計測されるが、将来の潜在的損失はカウントされない。 2 点 目 は 、「 フ ロ ー 」 の 概 念 で あ る と い う こ と 。 幸 福 に は 、 GDP や 所 得 、 消 費 な ど フ ローの指標ではとらえられない側面がある。例えば、所得が少なくても、多くの資産 を保有していれば幸福と感じるかもしれない。すなわち幸福は、フローの所得や消費 の み な ら ず 、 富 ( wea lth )、 あ る い は ス ト ッ ク ( 資 産 の み な ら ず 負 債 も ) の 影 響 も 受 け る。持続可能性の問題の本質は、どれだけのストックを将来世代に引き渡すことがで きるかであるといえ、フローの議論と必ずしも整合的に扱えるものではない。 3 点 目 は 「 質 」 で あ る 。 GDP は も っ ぱ ら 量 的 な 側 面 に 注 目 す る も の で あ り 、 質 や 価 値は考慮されていない。幸福に関連しそうな個々人に提供されるサービスの質、例え ば 公 的 保 険 や 医 療 、教 育 な ど の 政 府 サ ー ビ ス の 質 な ど は 考 慮 さ れ て い な い 。ま た P C の よ う な 製 品 は 、 品 質 向 上 と 価 格 低 下 が 急 速 に 進 む が 、 こ の よ う な 変 化 は GDP で 捕 捉 で きない。 こ れ ら GDP が 本 質 的 に 抱 え る 問 題 を 克 服 す る た め 、 生 産 ベ ー ス の も の か ら 人 々 の 幸 福 ( We ll-be ing ) に 軸 足 を お い た 測 定 シ ス テ ム 、 具 体 的 に は 以 下 の 要 素 を 考 慮 す る よ う 提唱している。なお、報告書では具体的な数値による各国評価は行われていない。 1) 物質的な幸福を評価する場合、生産ではなく所得や消費をみる 2) 家計の視点を大切にする 3) 所得や消費は富(ストック)と一緒に評価する 4) 所得、消費、富の分布も考慮する 5) 所得指標は非市場的な活動まで拡大すること 6) 生 活 の 質 は 人 々 が 置 か れ て い る 状 況 や 能 力 に 左 右 さ れ る た め 、健 康 、教 育 、個 人 の活動、環境向上の対策をとる 7) 生活の質については、不平等も考慮される必要がある 8) 多元的な生活の質の評価 9) 統計局は多元評価に資する様々な指標を提供する 10) 幸 福 を 客 観 /主 観 両 面 か ら 評 価 で き る よ う に す る 11) 持続可能性の評価はさまざまな観点からの指標が必要である 12) 環境は貨幣的な側面からだけでなく物理的な面からも評価する 2.3.3 ま と め SD 指 標 に つ い て 、 MDGs 進 捗 状 況 を ま と め た 。 貧 困 削 減 、 初 等 教 育 の 普 及 、 ジ ェ ン ダー平等の推進、幼児死亡率削減、妊産婦健康改善、エイズ等蔓延防止、環境の持続 可 能 性 確 保 、 グ ロ ー バ ル ・ パ ー ト ナ ー シ ッ プ 推 進 の 8 つ の 目 標 に つ い て 、 2015 年 達 成 - 72 - にめどがついている分野は、貧困削減、エイズやマラリア等疾病の蔓延防止、環境の 持続可能性の確保のうち安全な飲料水利用が挙げられるが、いずれも世界全体での目 標 達 成 で あ り 、 地 域 別 に は 不 十 分 で あ る な ど 課 題 は 多 い 。 ま た MDGs 目 標 設 定 が 問 題 解決への通過点に過ぎない点にも留意が必要である。さらに重要な点は、温暖化対策 以外にも世界には取り組むべき課題が多いことである。 GDP に つ い て 、 市 場 で 測 れ な い 「 質 」「 価 値 」 を 考 慮 す る 必 要 が あ る と し た 例 を ま と め た 。 こ れ ま で も GD P は 、 持 続 可 能 な 発 展 を 示 す 指 標 と し て は 時 と し て 適 切 と は 言 い 難 い こ と が 指 摘 さ れ て き て お り 、本 研 究 で も 目 的 に 応 じ た 指 標 の 選 定 が 重 要 と い え る 。 参 考 文 献 ( 第 2. 3 節 に 関 す る も の ) 1) (財)地球環境産業技術研究機構: 「脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦 略の研究」平成 19 年度成果報告書 (2008) 2) 国際連合広報センター(UNIC) : 「国連ミレニアム開発目標報告 2010」http://unic.or.jp/pdf/MDG_ Report_2010.pdf (2011 年 3 月アクセス) (2011) 3) United Nations: The Millennium Development Goal Report 2010 Addendum 1, http://mdgs.un.org/unsd/ mdg/Resources/Static/Products/Progress2010/2010_Addendum_Goal4.pdf 4) United Nations: The Millennium Development Goal Report 2010 Addendum 2, http://mdgs.un.org/unsd/ mdg/Resources/Static/Products/Progress2010/2010_Addendum_Goal5.pdf 5) United Nations: Millennium Development Goals :2010 Progress Chart: http://mdgs.un.org/unsd/mdg/ Resources/Static/Products/Progress2010/MDG_Report_2010_Progress_Chart_En.pdf (2011 年 3 月アクセ ス) (2011) 6) Joseph E. Stiglitz, Amartya Sen and Jean-Paul Fitoussi: Report by the Commission on the Measurement of Economic Performance and Social Progress (2009) 2.4 気候変動問題における割引率の考察 2.4.1 は じ め に 気候変動対策のモデル分析結果を決定づける要因の一つとして割引率が挙げられ る。長期気候変動に関する費用便益分析において、割引率設定は世代間の衡平性を確 保するために将来世代の厚生をどのように扱うかに関する価値判断の問題でもある。 割引率の選択についてはこれまで多くの議論がなされ、適切な割引率の選択に関する 数多くの論文が発表されている。本項の目的は、気候変動問題に関するモデル分析を 行う際の“適切”な割引率を提案することに焦点を当てるのではなく、割引率を使用 する際に考慮すべき点を明示化するため、先行研究のサーベイを行い環境経済モデル で使用されている割引率の整理及び定義の考察を行うことを目的とする。 - 73 - 2.4.2 ラ ム ゼ ー ル ー ル の 導 出 方 法 気候変動問題における割引率とは一般的に削減にかかる費用と削減による便益(削 減することによって避けられた被害)のフローを現在価値に表すために使用される。 こ の 際 の「 社 会 的 割 引 率 」に つ い て の 議 論 は 1990 年 初 頭 に 環 境 経 済 学 の 文 脈 で Cline 1 ) 1 ) , Nordh aus 2 ) を 中 心 に 行 わ れ て き た 。 一 般 に 、 気 候 変 動 問 題 の 分 析 に お い て 最 適 な 割 引 率 を 決 め る 際 に 主 に 2 つ の ア プ ロ ー チ が あ る ( A rro w e t a l . 3 ) , IP CC 4 ) , 5 ) )。 1 つ 目 は 規 範 的 あるいは倫理的観点で行うもので将来世代の影響をどのように価値づけるかを重視す る 。 こ の 場 合 の 社 会 的 割 引 率 は 3 %以 下 と 相 対 的 に 低 く 、 気 候 変 動 に よ る 将 来 の 影 響 を 十 分 に 考 慮 す る た め 早 期 の 大 幅 な 削 減 を 必 要 と す る よ う な 結 果 を 導 く 。一 方 、2 つ 目 は 記述的アプローチであり、異時点間のトレードオフに関するどのような選択を人々が 行うべきかに焦点が当てられ、削減に関する投資の機会費用や異時点間の移転の限界 を考慮している。この場合、社会的割引率は市場の利子率に整合的である相対的に高 い 割 引 率 ( 7 %超 ) が 使 用 さ れ る 。 こ の 場 合 、 将 来 の 気 候 変 動 に よ る 被 害 を 小 さ く 推 計 する傾向があるため現在世代の排出削減は相対的に少ないという結果を導く。 経済分析では集権化された経済において、消費、貯蓄と生産に関する意思決定が社 会 的 計 画 者 ( S oc ia l p lan ne r) に よ っ て 行 わ れ 、 所 与 の 生 産 技 術 の 下 で 家 計 の 効 用 が 最 大となるような消費、貯蓄、生産を計画する。以下では社会的厚生に関する社会的割 引 率 ( ラ ム ゼ ー ル ー ル ) に つ い て 紹 介 す る 。 ラ ム ゼ ー モ デ ル は Ra mse y 6 ) 、 C ass 7 ) 7 ) 、 Koo p mans 8 ) 8 ) ら に よ っ て 開 発 さ れ た 新 古 典 派 成 長 モ デ ル の 一 つ で あ る 。消 費 と 貯 蓄 の 配 分が家計の最適化行動によって決定され、最適貯蓄率がモデルによって導出される ( Bla nch ard & Fisc he r 9 ) , バ ロ ー & サ ラ ・ イ ・ マ ー テ ィ ン 10) , 中田 11)11) を 参 照 )。 生 産 関 数 は 規 模 に 関 す る 収 穫 不 変 を 仮 定 し 、効 用 関 数 に つ い て は 限 界 効 用 の 弾 力 性 が 一 定( 別 の 言 い 方 を す れ ば 、異 時 点 間 の 代 替 の 弾 力 性 が 一 定 、ま た は 相 対 リ ス ク 回 避 度 が 一 定 ) を仮定している。 効用の合計 W を最大化する非線形計画問題を考える。 ∞ max W = e −δt ⋅ u (ct ) dt (2. 4 - 1 ) 0 sub je c t to k = f (kt ) − ct − nkt (資本の遷移式) k 0 は 所 与 、 全 て の t に 関 し て kt 、 ct は 正 で あ る 。 代 表 的 消 費 者 の 総 効 用 は 、 効 用 u ( た だ し 、 u ′ > 0, u ′′ < 0 ) の 積 分 和 で 与 え ら れ 、 効 用 u は 単 位 労 働 者 あ た り の 消 費 c か ら 構 成 さ れ る 。 δ は 純 粋 時 間 選 好 率 ( た だ し 0 < δ < 1 )、 生 産関数 f は単位労働者あたりの資本 k で構成され、 n は資本減耗率である。資本の遷移 式では、資本ストックの増加分は総貯蓄(産出と消費の差)から資本減耗を引いたも のとして表される。 上 記 の 最 大 化 問 題 を P ontr yag in の 最 大 値 原 理 で 解 く 。 ハ ミ ル ト ニ ア ン 関 数 は 、 次 の とおりに表される。 - 74 - H t = e −δt ⋅ u (ct ) + μt [ f (kt ) − ct − nkt ] (2. 4 - 2 ) μt は 共 役 変 数 で 、 時 点 t に お け る 資 本 ス ト ッ ク の 追 加 的 1 単 位 の 価 値 で あ る 。 効用最大化のための一階の条件は以下の通りである。 ∂H = 0, ∂ct (2. 4 - 3 ) ∂H = − μ t , ∂kt (2. 4 - 4 ) lim μt ⋅ kt = 0. ( 横 断 性 条 件 ) (2. 4 - 5 ) t →∞ 横 断 性 条 件 と は 、初 期 条 件 と と も に 一 階 の 条 件 に 対 す る 解 を 決 め る 境 界 条 件 で あ る 。 これは資本の価値が漸近的にゼロにならなければならないことを意味する。したがっ て 、期 間 が 無 限 に 近 付 く に つ れ て 、資 本 ス ト ッ ク が 正 で あ れ ば 、そ の 限 界 的 な 価 値 μt が ゼロであり、限界的な価値が正ならば資本がゼロでなければならないことを意味して いる。 最 大 化 条 件 (2.4 -3 )式 よ り 、 e −δt ⋅ u ′(ct ) = μt (2. 4 - 6 ) μt ⋅ [ f ′(kt ) − n ] = − μ t (2. 4 - 7 ) 最 大 化 条 件 (2.4 -4 )式 よ り 、 こ こ で (2.4 -6 )式 お よ び (2.4 -7 )式 か ら 消 費 の 時 間 変 動 を 記 述 し た 式 を 導 出 す る 。 ま ず 、 (2.4 -6 )式 を 時 間 に つ い て 微 分 す る 。 μ t = −δ ⋅ e −δt ⋅ u ′(ct ) + e −δt ⋅ u ′′(ct ) ⋅ ct = −δ ⋅ μ t + e −δt ⋅ u ′′(ct ) ⋅ ct (2. 4 - 8 ) (2. 4 -8)式 を (2 .4 -7 )式 に 代 入 し て 整 理 す る 。 μ t ⋅ [ f ′( kt ) − n] = −(−δ ⋅ μ t + e −δt ⋅ u ′′(ct ) ⋅ ct ) μ t ⋅ [ f ′( kt ) − n] − δ ⋅ μ t = −(−δ ⋅ μ t + e −δt ⋅ u ′′(ct ) ⋅ ct ) f ′(kt ) − n − δ = − e −δt ⋅ u ′′(ct ) ⋅ ct μt (2. 4 - 9 ) (2. 4 -9)式 に (2 .4 -6 )式 を 代 入 し 、 整 理 す る 。 f ′(kt ) − n − δ = − e −δt ⋅ u ′′(ct ) ⋅ ct e −δt ⋅ u ′(ct ) f ′(kt ) − n − δ = − f ′(k t ) − n = δ − 右項の第 2 項目の − u ′′(ct ) ⋅ ct u ′(ct ) u ′′(ct ) ⋅ ct ct ⋅ u ′(ct ) ct (2. 4 - 10 ) u ′′(ct ) ⋅ ct は 効 用 関 数 の 曲 率 を 示 す 。こ こ で 、以 下 の 相 対 的 回 避 度 一 u ′(ct ) 定 (CRRA)の 効 用 関 数 を 仮 定 す る 。 - 75 - u (ct ) = ct1−η , 1 −η (2. 4 - 11 ) for η > 0, η ≠ 1 η は リ ス ク 回 避 度 で あ る 。 CRRA 型 効 用 関 数 は u ′ > 0, u ′′ < 0 及 び 以 下 の 稲 田 条 件 を 満 た す。 lim u ′(c) = ∞, lim u ′(c) = 0. c →0 c →∞ CRRA の 効 用 関 数 を 仮 定 す る と 、 η は 以 下 の 通 り 表 さ れ る 。 u ′′(ct ) ⋅ ct − η ⋅ ct−η −1 ⋅ ct = = −η u ′(ct ) ct−η (2. 4 - 12 ) よ っ て 、 (2 .4 -10 )式 は 次 の 通 り 表 さ れ る 。 f ′(k t ) − n = δ + η ⋅ ct ct (2. 4 - 13 ) 消費成長率についてまとめると、最適成長経路が満たすべき必要条件として、下記 の式が得られる。 ct 1 = [ f ′(k t ) − n − δ ] ct η (2. 4 - 14 ) (2. 4 -14 )式 は 最 適 成 長 論 に お け る ラ ム ゼ ー ル ー ル( Ke yn e s -R a ms e y r u le)と 呼 ば れ る も の で 、資 本 か ら の 実 効 収 益 率( 限 界 生 産 性 f ′(kt ) か ら 資 本 減 耗 率 n を 引 い た も の )が 純 粋 時間選好率を上回る場合は、将来時点の消費を増加させることが最適であることを示 唆する。したがって、実効収益率が高ければ、最適経路において消費は時間と共に増 加する。 ま た 、 完 全 な 資 本 市 場 の 下 で は 資 本 か ら の 実 効 収 益 率 は 割 引 率( 貯 蓄 の 利 子 率 ) r と 等しくなるため、利子率についてまとめると以下のとおり表される。 r = δ +η ⋅ ct ct (2. 4 - 15 ) こ こ で 、 (2 .4 -15 )式 の ラ ム ゼ ー ル ー ル の 構 成 要 素 に つ い て 詳 し く 説 明 す る 。 前 述 の 通 り、 δ は純粋時間選好率、 η は消費に対する限界効用の弾力性、 す(以下では ct は消費の成長率を表 ct ct = g と す る )。 δ は 将 来 の 「 効 用 」 あ る い は 「 厚 生 」 を 割 引 く こ と を 示 す ct 純 粋 時 間 選 好 率 で あ り 、将 来 世 代 の 厚 生 の 相 対 的 な 重 要 性 を 測 る も の で あ る 。 η は 消 費 に 対 す る 限 界 効 用 の 弾 力 性( 効 用 関 数 の 曲 率 )を 表 す も の で あ る 。ま た 、 η は リ ス ク 回 避度や世代内及び世代間の不平等に対する回避度を表す。つまり、将来は現在の世代 よりも裕福になるという仮定の下で将来の消費の価値を割引くことや、ある所得一単 位から得ることができる効用は裕福な人の方がそうでない人に比して相対的に低いこ とを示唆する。 δ および η は通常、規範的パラメータとして認識され、政策決定者の価 値 判 断 に 大 き く 依 存 す る 。 g は 消 費 の 成 長 率 を 表 し 、消 費 が 成 長 す れ ば 将 来 は 現 在 よ り も裕福になるためこれに応じて将来の消費の価値を割り引くことが適切とされる。 - 76 - 2.4.3 ラ ム ゼ ー ル ー ル に 関 す る 議 論 一般的に不確実性が存在しない場合、消費効用の最適化問題から導かれるラムゼー ルールに基づいた割引率が設定される。本項では割引率設定に関する主な議論を紹介 する。一つ目はラムゼールールを構成する変数(純粋時間選好率など)の議論、二つ 目はラムゼーモデルで使用する効用関数の仮定についての議論である。 (1) ラ ム ゼ ー ル ー ル を 構 成 す る 変 数 に つ い て 2006 年 の Stern Re vie w ( Ste rn 1 2 ) )が 発 表 さ れ た 後 、気 候 変 動 問 題 に お け る 割 引 率 の 議論が再び高まり、その分析方法を批判する論文や全般的な割引率に関するサーベイ 論 文 が 発 表 さ れ て い る 。Ste rn Re vie w は 基 本 的 に ラ ム ゼ ー ル ー ル に 基 づ い て い る 。Stern Re view は 経 済 モ デ ル を 用 い た 推 計 に お い て 相 対 的 に 低 い 割 引 率 を 使 用 し て お り 、 こ れ まで経済学の分野において提案されてきた数値と比べてきわめて低い割引率を使用し た 。 具 体 的 に は 、 δ を 0.1%、 η を 1 、 g を 1. 3%と し 、 割 引 率 を 1.4 %と 仮 定 し て い る 。 そのため、長期の被害の影響を比較的大きく評価し、早急かつ大幅な削減が必要との 結論を得ている。スターンレビューの分析に関し、批判も含めてその妥当性について 次 の よ う な 議 論 が な さ れ て い る 。 We ya n t 1 3 ) 及 び Nordha us 1 4 ) は Stern Re vie w で 使 用 さ れ た割引率は実際に観測できる市場の利子率と整合的ではないと批判している。 Dasgu pta 1 5 ) は Stern R e vie w の 結 論 は 彼 ら の 異 時 点 間 の 衡 平 性 に 関 す る 価 値 判 断 に 基 づいてなされた結果であり、ラムゼーによる割引率の概念を使用しているが、 δ と η の 関係には整合性がなく、ラムゼールールに基づいて導かれたものではないと指摘して い る 。つ ま り 、 δ を 0.1 %と す る こ と は 問 題 で は な い が 、人 類 の 不 平 等 や リ ス ク を 表 す η を 1 と す る こ と は 人 々 の 間 の we ll-be in g の 分 配 に 関 す る 衡 平 性 は 全 く 考 慮 し な い た め 適 切 で は な く 、実 験 結 果 に 基 づ い た 2∼ 4 の 値 の 方 が よ り 倫 理 的 な 価 値 観 を 反 映 し た 値 と なると主張する。 η の 値 の 解 釈 に つ い て は Beck erman & He pbu rn 16) で は 次 の よ う に 説 明 し て い る 。ま ず η の 値 は 同 時 に リ ス ク 回 避 度 、世 代 内 ・ 世 代 間 の 衡 平 性 に 影 響 を 与 え る た め 、高 い η の 値 が気候変動の影響の現在価値を増加させるのか、あるいは減少させるのかは明確では な い と し て い る 。リ ス ク 回 避 度 に つ い て 言 え ば 、高 い η は 気 候 変 動 を 含 む リ ス ク 全 般 の 回避度が高いことを意味する。したがって、気候変動の影響に関する将来リスクを回 避するために、早期の削減対策を必要とする。一方、世代内の衡平性については、高 い η は 裕 福 で は な い 人 々 の 消 費 に 高 い 重 み づ け を す る た め 、消 費 の 不 平 等 に 対 す る 回 避 度 が 高 く な る 。同 様 に 、世 代 間 の 衡 平 性 に つ い て 、高 い η は 世 代 間 の 相 対 的 な 富 の 違 い を 十 分 考 慮 す る た め 、将 来 世 代 の 消 費 成 長 が 期 待 さ れ て い る 中 で 、高 い 値 の η を 使 用 す ることは、相対的に裕福な将来世代に対する気候変動の影響を防ぐために、現在世代 が削減に相当な額を費やすべきではないということを示唆する。したがって、このよ うな η の特徴を踏まえて、純粋時間選好率の値のみならず、 η の値を変えて感応度分析 を行う必要があるといえる。 - 77 - Nordh aus 1 4 ) は Ste rn R e vie w の 分 析 結 果 は 倫 理 的 判 断 か ら 導 か れ た も の で あ る と 指 摘 し 、 ベ ー ス ラ イ ン 設 定 と し て 、 時 間 選 好 率 を 1.5 % 、 消 費 の 弾 力 性 値 を 2 と し 最 適 成 長 論 に 基 づ い た 動 学 統 合 モ デ ル で あ る D IC E モ デ ル で の 消 費 成 長 率 の 仮 定 の 下 で 、均 衡 下 で の 実 質 利 子 率 を 5 .5 % と し た 。 Ste rn Re v ie w と 同 じ 時 間 選 好 率 ( 0. 1% ) と 消 費 の 弾 力 性 値 ( η =1)で D ICE モ デ ル 計 算 し た 場 合 、 早 期 に 大 幅 な 排 出 削 減 を 行 う こ と が 望 ま し い と い う Ste rn Re vie w と 同 様 な 結 果 を 得 た 。 し か し 、 こ の 設 定 で は 実 際 の 市 場 デ ー タと比較して実質リターンがかなり低く、貯蓄率がかなり高くなるため問題である。 そ の た め 、 時 間 選 好 率 0. 1% を 維 持 し 、 消 費 の 弾 力 性 値 を 観 測 で き る 変 数 と 合 致 す る よ うにカリブレーションを行い、計算すると低い時間選好率を使用しているにも関わら ず ベ ー ス ラ イ ン と 近 い 結 果 が 導 か れ た 。ま た 、Ste rn Re vie w で は 一 人 当 た り 消 費 成 長 率 が 1. 3% と 仮 定 し て い る こ と を う け て 、な ぜ 現 在 世 代 よ り も 裕 福 な 将 来 世 代 の 厚 生 を 改 善するために現在世代が多額の負担をして削減をする義務があるのかについて倫理的 な説明が不十分であると指摘している。 Ste rn and Ta ylor 1 7 ) は Nordh au s の 見 解 に 対 し て 反 論 し 、 Ste rn Re vie w で 得 ら れ た 結 果 は最新の科学的知見に基づいたリスクと倫理の両側面を考慮した結果であると主張し ている。彼らの指摘通り、元来の割引率は政策やプロジェクト評価に使用され、それ らの便益やコストは一世代に関わるものであり、決断による影響はその世代が受ける こ と を 意 味 し て い る 。 し か し 、 気 候 変 動 問 題 は 異 時 点 間 の 政 策 で あ り 、 δ の 値 は “出 生 日 に よ る 差 別 ”を 示 唆 す る パ ラ メ ー タ で あ る と 認 識 す べ き と し て い る 。 ま た 消 費 の 成 長 率について、気候変動は将来の消費成長を減少させる可能性があることを強調し、他 の条件が同じ場合は気候変動が無い場合と比べて低い割引率を使用すべきとしてい る。また、観測できる市場行動と合致した値を割引率として使用すべきという批判に 対しては、市場利子率は気候変動問題に対する我々の倫理的対応を表すものとして見 ることができないと指摘している。 (2) 効 用 関 数 に つ い て Ste rne r & P ersso n 1 8 ) は 通 常 用 い ら れ る 効 用 関 数 の 構 成 要 素 に つ い て 、 物 質 財 の み な ら ず、環境財も考慮すべきであると指摘している。具体的には、物質財と環境財との相 対 価 格 変 化 を 考 慮 し た 場 合 、高 い 割 引 率 を 使 用 し た の に も か か わ ら ず 、Ste rn Re vie w で 得られた被害費用と近い結果を得た。具体的には、将来もし物質財の生産が増加する 一方で清浄水や生物多様性等といった環境財へのアクセスが低下するならば、このよ うな環境財の相対価格は上昇する。その結果、気候変動による経済的被害は増加する と 考 え ら れ る 。 こ の よ う に 非 市 場 財 を 考 慮 し た 場 合 、 も し Ste rn R e view と 同 様 の 低 い 割 引 率 を 採 用 す れ ば 更 に 被 害 費 用 は 増 加 す る た め 、Ste rn Re vie w の 被 害 費 用 は む し ろ 過 小評価であると主張している。 2.4.4 不 確 実 性 下 で の 割 引 率 上記の議論で明らかなように、経済学者の間でも気候変動問題の費用便益分析にお い て “適 切 ” な 割 引 率 の 設 定 基 準 に つ い て の 合 意 は 得 ら れ て い な い 。こ の よ う な 倫 理 的 価 - 78 - 値判断を含む割引率に関する異なる見解の中で、時間を通じて一定の割引率、つまり 指 数 的 割 引 率 の 問 題 点 が 認 識 さ れ 、 人 々 の 割 引 率 は 時 間 と 共 に 減 少 す る ( H yp er bo lic disco un ting ) と い う 実 験 結 果 を 基 に 、 割 引 率 の 設 定 に 不 確 実 性 の 概 念 を 入 れ た 研 究 が Weitzman 1 9 ) , 2 0 ) を 中 心 に な さ れ て き た 。 Weitzman 1 9 ) で は 、 時 間 に 従 属 し た 割 引 要 素 を 使 用 し て 期 待 現 在 価 値 を 表 し 、 割 引 率 を 算 出 し て い る 。 We itz man の 割 引 率 を RW 、 あ る t 期 の 利 得 を Z と す る 。 将 来 の シ ナ リ オ を i ( i = 1,2,..., n )と し 、 シ ナ リ オ i に お け る t 期 の 割 引 率 は ri (t ) で あ る 。 ど の シ ナ リ オ が 生 じ る か 不 確 実 で あ る た め 、 シ ナ リ オ i の 確 率 は pi で あ り 、 pi > 0 か つ pi = 1 で あ る 。 割引現在価値は以下のように表現される。 n Z ⋅ exp(− RW (t )t ) = Z ⋅ pi exp(−rit ) (2. 4 - 16 ) i =1 両辺を Z で割ると、 n exp(− RW (t )t ) = pi exp(−rit ) (2. 4 - 17 ) i =1 両辺の対数をとると n − RW (t )t = ln pi exp(− rit ) (2. 4 - 18 ) i =1 両 辺 を t で 割 り 、 RW に つ い て ま と め る と 、 1 n RW (t ) = − ln pi exp(−rit ) t i =1 (2. 4 - 19 ) RW は 以 下 の 性 質 を も つ 。 n RW (0) = pi ri , i =1 dRW (t ) < 0, RW (∞) = min{ri } dt し た が っ て 、 Weitzma n 1 9 ) は 、 将 来 の 割 引 率 に 関 す る 不 確 実 性 が あ る 場 合 は 、 時 間 と 共に減少する確実性等価社会的割引率を使用すべきであると主張している。また、そ の場合、遠い将来の利得を評価する際は実現しうる中で最も低い割引率を使用すべき であると結論づけている。 一 方 、 Gollier 2 1 ) は 将 来 の 投 資 機 会 に 関 す る 不 確 実 性 が あ る 場 合 、 時 間 と 共 に 上 昇 す る確実性等価の社会割引率を使用することが適切であると主張し、以下の通り説明し て い る 。Go llier の 割 引 率 を R G 、あ る t 期 の 利 得 を Z と す る 。将 来 の シ ナ リ オ を i ( i = 1,2,..., n ) と し 、シ ナ リ オ i に お け る t 期 の 割 引 率 は ri (t ) で あ る 。ど の シ ナ リ オ が 生 じ る か 不 確 実 で あ る た め 、 シ ナ リ オ i の 確 率 は pi で あ り 、 pi > 0 か つ pi = 1 で あ る 。 割引将来価値は以下のように表現される。 n Z ⋅ exp( R G (t )t ) = Z ⋅ pi exp(ri t ) (2. 4 - 20 ) i =1 両辺を Z で割ると、 n exp( R G (t )t ) = pi exp(ri t ) (2. 4 - 21 ) i =1 両辺の対数をとると - 79 - n R G (t )t = ln pi exp(ri t ) (2. 4 - 22 ) i =1 両 辺 を t で 割 り 、 RG に つ い て ま と め る と 、 1 n R G (t ) = ln pi exp(ri t ) t i =1 (2. 4 - 23 ) RG は 以 下 の 性 質 を も つ 。 n R G (0) = pi ri , i =1 dR G (t ) > 0, R G (∞) = max{ri } dt (2. 4 - 24 ) (2. 4 -24 )式 よ り 割 引 率 は 、 将 来 実 現 し う る 中 で 最 も 高 い 割 引 率 を 使 用 す る べ き で あ る ことを意味している。 Hepbu rn and Gro o m 2 2 ) は こ の 2 つ の 異 な る 結 果 、 い わ ゆ る 「 We itzman -Go llier p uzz le」 に 関 し て 、両 者 と も 正 し い と 述 べ 、評 価 時 点 に 関 わ ら ず 確 実 等 価 割 引 率 は 減 少 す る が 、 一方で投資プロジェクトの評価時点が将来に向かうにつれて、ある時点の確実性等価 割引率は増加すると主張している。 時 間 と 共 に 減 少 す る 割 引 率 の 具 体 的 な 数 値 例 を 挙 げ る と 、 We itz man 2 0 ) で は 、 216 0 人 の経済学者に対して長期にわたる環境プロジェクトの費用分析において使用する適切 な割引率をアンケートによって調査した。その結果、たとえ個々の割引率が確実であ っても割引率についての意見の違いによって確実性等価社会的割引率はガンマ分布に 従 い 、 時 間 と 共 に 減 少 す る こ と が わ か っ た ( 表 2 .4. 4 -1 参 照 )。 表 2. 4.4- 1 Weit zma n の 割 引 率 期間 割引率 1 -5 年 4.0 6 -2 5 年 3.0 26 -75 年 2.0 76 -300 年 1.0 300 年 以 上 0.0 ま た 、 Oxe ra 2 3 ) に よ る と 、 英 国 政 府 は 長 期 の 影 響 を 与 え る プ ロ ジ ェ ク ト に つ い て 、 時 間 と 共 に 減 少 す る 割 引 率 を 推 奨 し て い る ( 表 2.4 .4 -2 参 照 )。 表 2. 4.4- 2 英国政府の割引率 期間 割引率 0 -3 0 年 3.5 31 -75 年 3.0 76 -125 年 2.5 126 -20 0 年 2.0 200 -30 0 年 1.5 301 年 以 上 1.0 - 80 - 2.4.5 表 明 選 好 法 に よ る 設 定 これまで紹介してきた、不確実性が無い場合のラムゼールールに基づく割引率の設 定は政策決定者やプロジェクト決定者の判断に依存する。そのため、実際に人々は将 来の厚生をどの程度考慮しているのかを調査することは適切な割引率の設定において 重要といえる。以下では、一般市民に対するアンケート調査を基に割引率を推定する 方法を紹介する。 Cropp er et al. 2 4 ) は 30 0 0 の ア メ リ カ の 家 計 を 対 象 に 電 話 ア ン ケ ー ト を 行 い 、 汚 染 規 制 プログラムによって救われる人数に関する評価を行った。規制プログラムは 2 通りあ り 、 規 制 プ ロ グ ラ ム A は 現 在 100 人 の 人 命 を 救 う プ ロ グ ラ ム で 、 規 制 プ ロ グ ラ ム B は 100 年 後 に 20 0 人 の 人 命 を 救 う プ ロ グ ラ ム で あ る 。A と B の プ ロ グ ラ ム 実 施 に か か る 費 用は同じであると仮定し、プログラム A が選ばれた場合、プログラム B の救う人命数 や 期 間 を 変 更 し 、再 調 査 を 行 っ て い る 。推 定 結 果 に よ る と 、現 在 1 人 を 救 う 政 策 は 10 0 年 後 に お い て 45 人 を 救 う 政 策 と 等 価 ( 割 引 率 約 4% ) で あ り 、 ま た 、 現 在 1 人 救 う 政 策 は 2 5 年 後 に お い て 6 人 を 救 う 政 策 と 等 価 ( 割 引 率 約 7% ) で あ る こ と が わ か っ た 。 したがって、将来世代の救命は現在の救命よりも低く評価されており、割引率は時間 と共に減少していくという結果が得られている。 一 方 、 P oulos and Wh itting to n 2 5 ) は Cro ppe r e t a l . 2 4 ) と ほ ぼ 同 様 の 方 法 で 、 19 94 -199 7 年 の間に 6 つの途上国(ウガンダ、モザンビーク、エチオピア、インドネシア、ブルガ リ ア 、 ウ ク ラ イ ナ ) の 約 300 0 人 を 対 象 に ア ン ケ ー ト を 行 い 、 救 命 に 関 す る 個 々 の 時 間 選 好 率 を 計 測 し た 。 救 命 プ ロ グ ラ ム は 2 つ あ り 、 プ ロ グ ラ ム A は 今 年 100 人 の 人 命 を 救 う も の で 、プ ロ グ ラ ム B は T [2, 5,1 0]期 に [200 , 500 , 1 000 ]人 の 人 命 を 救 う も の で あ る 。 アンケート回答者はどちらかのプログラムを選び、プログラム A が選ばれた時はプロ グラム B の救う人命数や期間を変更する。推定結果によると、個人の時間選好率は対 象国によって大きく異なり、米国や西欧で観測される時間選好率よりも高い傾向がみ られており、また、これらの違いは所得や社会経済状況によって説明することができ ないと結論づけている。 2.4.6 多 様 性 の 考 慮 通常、経済モデル分析では代表的個人の行動(効用最大化など)を考えるが、現実 はあらゆる面で多様である。つまり、人々の選好や、所得分配、財の種類、温暖化被 害等は国および個人によって多様であり、この点を考慮したモデルの必要性が指摘さ れている。 Conce ic ao and Zhan g 2 6 ) は 、社 会 的 割 引 率 を 設 定 す る 際 は 、世 代 間 及 び 世 代 内 の 多 様 性 を考慮すべきであると指摘している。例えば、同世代における各個人の時間選好率を 集計する際、ウェイト付けを各個人のリスク回避度に従って集計すると、各個人のリ スク回避度が時間と共に減少する時は、代表的個人の時間選好率は時間と共に減少す る と の 結 論 を 得 て い る 。 ま た 、 世 界 の 一 人 当 た り 消 費 成 長 率 を 算 出 す る 際 、 通 常 GDP による重み付けがなされるが、人口による重み付けなどによって各国の多様性を考慮 するのも一つの方法である。更に、現世代と将来世代の時間選好率、リスク回避度及 - 81 - び一人当たり消費成長率も異なるため、個人の効用を集計する際に、世代間の多様性 も考慮できるような集計方法の検討が必要であるといえる。 2.4.7 ま と め と 今 後 の 研 究 本項では割引率に関する様々な見解や導出法を紹介した。ラムゼールールに基づい た割引率を構成する純粋時間選好率や消費に対する効用の弾力性との関係についても モデル結果に大いに影響を与えるということが先行研究より明らかとなった。このよ うな倫理的価値判断に左右されるラムゼールールに基づく割引率の問題を緩和させる べく、不確実性の概念を入れた場合の割引率の設定に関する研究が進んでいるが、実 際 に モ デ ル 分 析 に 導 入 す る 際 に 解 決 し な け れ ば な ら な い 問 題 が あ る と い え る 。例 え ば 、 時間と共に減少する割引率を考える際、どのような割引率の値がどのような確率で生 じるか、またその場合の割引率とモデル対象期間との整合性についても考慮する必要 があり、今後の研究課題であるといえる。これまでのところ、気候変動問題を扱う環 境経済モデル分析を行う際、割引率の設定は分析結果に影響を与えるため、異なる割 引率を用いて感応度分析を実施したり、異なるモデル間で割引率等のモデルの前提を 統一して分析を行う傾向があるが、不確実性の概念を入れた割引率の設定といったよ う な 倫 理 的 価 値 観 を 必 要 と し な い 割 引 率 の “ 妥 当 ” 範 囲 に 関 す る 研 究 が 進 め ば 、気 候 変 動 による被害費用および緩和費用の推計において今後の環境経済モデル分析に有益であ る と 考 え ら れ る 。ま た 、A LP S プ ロ ジ ェ ク ト に お い て 策 定 し て い る 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナリオは多様な目的の下で限定合理的な判断を行うといった多様な枠組みを想定して いる。これに加えて、割引率の文脈から各国の多様性の概念を入れることが今後の課 題であるといえる。 今 後 の 研 究 の 方 向 性 と し て 、 D ICE モ デ ル 等 の 経 済 モ デ ル を 用 い て 、 効 用 関 数 の 形 状 や パ ラ メ ー タ を 変 え る こ と に よ る 結 果 へ の 影 響 を 数 値 で 示 す こ と が 考 え ら れ る 。ま た 、 不確実性下における時間と共に変化する割引率を実際にモデルに入れた場合に変数が どのように変化するのかを分析することも興味深いテーマである。 参 考 文 献 ( 第 2. 4 節 に 関 す る も の ) 1) W.R. Cline: The economics of global warming, Institute for International Economics, Washington DC (1992) 2) W.D. Nordhaus: Managing the global commons: The economics of climate change. Cambridge, MA, MIT (1994) 3) K.J. Arrow, W.R. Cline, K.G. Maler, M. Munasinghe, R. Squitieri & J.E. Stiglitz: Intertemporal equity, discounting, and economic efficiency, In J.P. Bruce, H. Lee, and E.R. Haites (Eds.), Climate Change 1995, Economic and social dimensions of climate change, contribution of working group III to the second assessment report of the intergovernmental panel on climate change, Cambridge, Cambridge University Press, 125-144 (1996) 4) IPCC: Chapter 4. Intertemporal equity, discounting, and economic efficiency, Climate Change 1995: Economic and social dimensions of climate change, contribution of working group III to the Second - 82 - assessment report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, Bruce J.P., Lee H. and Haites E.F. (eds), Cambridge university press, Cambridge, U.K. (1996) 5) IPCC: Chapter 2. Framing Issues, Climate Change 2007: Mitigation of climate change, contribution of working group III to the Fourth assessment report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, Metz. B, Davidson, O.R., Bosch P.R. Dave, R. and Meyer L.A. (eds). Cambridge university press, Cambridge, U.K. (2007) 6) F.P. Ramsey: A mathematical theory of saving, Economic Journal, 38, 543-559 (1928) 7) D. Cass : Optimum growth in an aggregative model of capital accumulation, Review of Economic Studies, 32, 3, 233-240 (1965) 8) T.C. Koopmans: On the concept of optimal economic growth, Cowles Foundation Paper 238, Reprinted from Academiae Scientiarum Scripta Varia 28, 1, 225-300 (1965) 9) O.J. Blanchard & S. Fischer : Lectures on Macroeconomics, The MIT press (1989) 10) バロー、R.J.、サラ−イ−マーティン、大住圭介 訳: 内生的経済成長理論 II(第 2 版) 、九州大学 出版会 (2004) 11) 中田真佐男: 経済数学 マクロ動学(成長理論)の基礎習得に向けて、財務省総合政策研究所研究 部 (2007) 12) N. Stern: The Economics of climate change: The Stern review, Cambridge Univ. Press, Cambridge (2006) 13) J.P. Weyant: A critique of the Stern Review's mitigation cost and analyses and integrated assessment, Review of Environmental Economics and Policy, 2-1, 77-93 (2008) 14) W.D. Nordhaus: A review of the Stern Review on the economics of climate change, Journal of Economic Literature, 45, 686-702 (2007) 15) P. Dasgupta: Comments on the Stern review's economics of climate change, National Institute Economic Review, 199, 4-7 (2007) 16) W. Beckerman & C. Hepburn: Ethics of the discount rate in the Stern Review on the economics of climate change, World Economics, 8, 1, 187-210 (2007) 17) N. Stern & C. Taylor: Climate change: risk, ethics, and the Stern Review, Science, 317, 203-204 (2007) 18) T. Sterner & U.M. Persson: An even Sterner review: introducing relative prices into the discounting debate, Review of Environmental Economics and Policy, 2-1, 61-76 (2007) 19) M. L. Weitzman: Why the far distant future should be discounted at its lowest possible rate, Journal of Environmental Economics and Management, 36, 201-208 (1998) 20) M.L. Weitzman: Gamma discounting, American Economic Review, 91, 261-271 (2001) 21) C. Gollier: Expected net present value, expected net future value, and the Ramsey rule, Journal of Environmental Economics and Management, 59, 142-148 (2004) 22) C. Hepburn & B. Groom: Gamma discounting the expected net future value, Journal of Financial Economics and Management, 53, 99-109 (2007) 23) Oxera: A social time preference rate for use in long-term discounting. The office of the deputy prime minister, department for transport, and department of the environment, food and rural affairs. Oxera report. England. (2002) 24) M.L. Cropper, S.K. Aydede & P.R. Portney: Preferences for life Saving Programs: How the public discounts time and age. The Journal of Risk and Uncertainty, 8, 243-265 (1994) - 83 - 25) C. Poulos & D. Whittington: Time preferences for life-saving programs: Evidence from six less developed countries. Environmental Science & Technology, 34, 8, 1445-1455 (2000) 26) P. Conceicao & Y. Zhang: Discounting in the context of climate change economics: the policy implications of uncertainty and global asymmetries. Environmental Economics and Policy Studies, 12, 31-57 (2010) 2.5 投資判断年数に関する調査 2.5.1 は じ め に 本節では、省エネ型製品の購買及び省エネ型技術の投資に関する投資判断年数、割 引率について考察する。なお、割引率と投資回収年数は、割引率が高くなるにつれ投 資回収年数は短くなるという逆相関の関係があることに留意されたい。 省エネ製品は通常の製品よりも高価であることが多いが、日々のエネルギーコスト が節減され、将来的には初期投資の差額は回収できると見込まれるものが多い。省エ ネ 製 品 の 購 買 や 投 資 の 便 益 や 費 用 は 、1 時 点 に お い て の み 発 生 す る も の で は な く 、多 期 間にわたって生じることになるため、将来的な価値はある割引率で割り引いて現在価 値で比較する必要がある。 一般に割引率という用語は複数の概念が混同された形で議論されることが多いが、 こ こ で は 主 に 社 会 資 本 整 備 の 費 用 便 益 分 析 に 用 い ら れ る 「 社 会 的 割 引 率 」、 企 業 や 個 人 が「 投 資 判 断 を 行 う 際 に 用 い ら れ る 割 引 率 」、実 際 に 社 会 で 観 察 さ れ る「 主 観 的 割 引 率 」 の 3 つ に 分 け て 議 論 し た い 。な お 、社 会 的 割 引 率 の 詳 細 は 2 .4 節 で 議 論 し た と お り だ が 、 ①公的な投資は多くの人の効用に影響を与え、②財源も多くの人から集められ、③時 間的にも社会資本はきわめて長期にわたって使い続けられ将来世代に対しても影響が あ る 、と い う 点 に お い て 対 象 が 限 定 的 な 企 業 や 個 人 が 用 い る 割 引 率 と は 異 な っ て い る 。 以下、企業や個人が投資判断の際に用いる割引率と主観的割引率に焦点を当てて議論 を進める。 2.5.2 企 業 や 個 人 が 投 資 判 断 を 行 う 際 に 用 い ら れ る 割 引 率 完全な資本市場が存在し市場が均衡しているならば、消費者の消費・貯蓄の意思決 定における時間選好率は均衡市場利子率に等しく、また企業の投資は、市場利子率と 投資の限界生産が等しい値で意思決定が行われる。しかし、実際にの投資判断は、リ スクや利潤などを独自に勘案して割引率が設定される。 企業が投資の経済性を見極める上で用いられる分析方法は、利益を予想し(平均) 投 下 資 本 に 対 す る 年 平 均 の 利 益 率 を 計 算 す る RO I( re tu rn on in ve stme nt/ 投 資 収 益 率 ) 法、投資によるキャッシュフローにより初期投資を何年で回収できるかを計算する回 収 期 間 法 、 将 来 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を 現 在 価 値 に 割 り 戻 し て 事 業 価 値 を 評 価 す る NP V ( Net P resent Value / 正 味 現 在 価 値 ) 法 や IRR( In tern a l Ra te o f R etu rn / 内 部 利 益 率 ) 法 な ど が あ る 。RO I 法 や 回 収 期 間 法 は 貨 幣 の 時 間 的 価 値 を 考 慮 し て い な い の に 対 し 、D C F - 84 - ( Dis cou n ted C as h Flo w/ 割 引 現 在 価 値 ) 法 の 一 種 で あ る NP V や IRR で は 一 定 の 割 引 率 で将来の価値を割り引いいて採算を評価するものである。 NP V は 、 プ ロ ジ ェ ク ト に よ っ て 生 じ る 一 連 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を 現 在 価 値 に 直 し 、 そ の 値 を 合 算 し て 正 味 現 在 価 値 を 算 定 す る も の で あ る 。 IRR は NPV の 計 算 方 法 に 基 づ き 、事 業 全 体 の キ ャ ッ シ ュ ・ イ ン フ ロ ー( 現 金 流 入 )と キ ャ ッ シ ュ ・ ア ウ ト フ ロ ー( 現 金流出)それぞれの現在価値がバランスるする率(利益率)を特定するものである。 この計算で用いられる割引率は、通常、リスクフリーの利子率(長期国債の利子率な ど)に、リスク分を考慮したプレミアムを加算して設定され、一般には加重平均資本 コ ス ト ( WACC; We ig hte d Ave rage Co st of Capital) が 用 い ら れ る ケ ー ス が 多 い 。 WA CC は以下の式で定義される。 WACC = D E * rd * (1 − t ) + * re D+E D+E (2. 5 -1) D: 有 利 子 負 債 、 E : 株 主 資 本 、 r d : 負 債 コ ス ト 、 r e : 株 主 資 本 コ ス ト 、 t: 法 人 税 率 企業から資金を調達する場合、株式(資本)と負債(借入)では調達コストが異な る た め 、 WACC は 両 者 の 割 合 に 応 じ て 加 重 平 均 し て 割 引 率 を 決 定 す る フ ォ ー ミ ュ ラ で ある。なお、負債コストは借入金にかかる費用である支払利息や、債券の発行による 費用である発行費用及び支払利息のことであるため、事前に決定しうるものである。 他方、株主資本コストは株式による資金調達のためのコストであり、投資家が要求す るリターンである。株主は企業に資金を投資することによって、他の投資機会を失う 上、元本割れのリスクを負うことになるため、株主は企業への投資に対してリスクフ リーの利回り以上の利回りを求めることになる。定式化すると、株主資本コストは (2. 3 -2) の よ う に リ ス ク フ リ ー レ ー ト の 部 分 と リ ス ク プ レ ミ ア ム の 部 分 に 分 け る こ と が できる。 株 主 資 本 コ ス ト = リ ス ク フ リ ー レ ー ト + リ ス ク プ レ ミ ア ム ×β (2. 5 -2) なお、ここでβとは個別株価と市場の連動性、市場の変動に対する株価の感応度を 示し、一種のリスク指標である。 以上は企業の財務上用いられる一般的な割引率の設定方法であるが、それ以外に独 自 に 設 定 し た 利 益 率 や 、企 業 戦 略( 例 え ば 、利 益 率 を 落 と し て で も シ ェ ア 拡 大 を 図 る )、 ブランド力など、実際にはさまざまな要素が考慮されて投資の割引率が考慮されるこ とになる。 2.5.3 途 上 国 の 状 況 一般に、途上国における割引率は先進国に比して高い。これは、途上国における投 資にリスクがあること、所得が低いこと、市場利子率自体が高いといった理由が考え られる。 - 85 - 途上国の法制度やインフラなどは十分に整備されておらず、事業リスクが高くなる ケースが多い。そのため、企業や投資家は諸々のリスクを勘案し、高いリスクプレミ アム分を加算した形で投資判断を行うことになる。リスク要因をどの程度見込むか、 リ ス ク を ど う 定 量 的 に 評 価 す る か は ケ ー ス バ イ ケ ー ス で あ る が 、 柴 田 ( 19 85 ) 1 2 ) に よ れ ば 想 定 さ れ る リ ス ク の 種 類 と し て は 表 2.5. 3 -1 の よ う な も の が あ る 。 表 2. 5.3 -1 スポンサーリスク カントリーリスク 工事リスク 生産リスク プロジェクト・ファイナンスにおけるリスク評価 当該企業の既往の業績及びプロジェクト期間中の収益予想 バランス・シート評価 将来の財務的柔軟性 当該プロジェクトに関する既往事業のパフォーマンス 当該プロジェクトのマネジメント能力 財 務 、技 術 、経 営 の 各 側 面 に お け る 当 該 プ ロ ジ ェ ク ト へ の 関 与 度 合 問題発生時の解決能力および意思 国有化 接収 事業拡大の制限 為替規制(対外送金の制限、強制換金など) 収入税の引き上げ 現地通貨切り下げ インフラ(プロジェクト資材の入手可能性、港湾・鉄道等の整備) 源泉課税の強制あるいは増額 賃金、価格統制、諸税、為替レートにおける政策変更 ホスト・カントリー対外累積債務の課題な増加、財務状況の悪化 汚職 国際金融市場へのアクセス 外国籍企業、スポンサーへの態度変化 主要マネジメント人員への査証提供 主要マネジメント人員にとっての現地生活・労働環境悪化 インフレ ロイヤリティ、貿易政策 中央政府と地方自治体など統治機関同士の紛争 サイトの地理的位置及びインフラ 社 会 的 /環 境 的 イ ン パ ク ト プロジェクトマネジメント フィージビリティスタディの質 設計及び仕様の詳細 コスト見積もりの妥当性 予定コスト超過時の資金準備 技術リスク スケールアップリスク 労働力の入手可能性、生産性、技能水準など労働リスク 部材供給リスク 工期中の保険 スポンサー及び貸し手の与信形態 天変地異の可能性 操業者あるいはマネジメントスタッフの能力 埋蔵量リスク 回収可能性リスク 技術的問題 操業コスト、品質管理、財務管理 原材料供給リスク及びその価格 - 86 - 近隣住民との関係 環境問題リスク 労働力の調達可能性、及びその生産性と技能水準 流通及びコスト 保守プラン及びスペアパーツ 故障への対応策 天変地異 需要供給予測 価格、買手、市場集中度に関する見通し マーケティング戦略および期間契約 特殊契約条項、最低価格の保証 フォース・マジュール 価格設定方式 テ イ ク ・ オ ア ・ ペ イ /テ イ ク ・ ア ン ド ・ ペ イ 市場競合における優位性と劣位性 技術リスク 市場リスク 所得階層によって割引率も異なることも知られており、貧しい所得層の方が割引率 は 概 し て 高 い 。 ジ ェ リ ー ・ ハ ウ ス マ ン (Je rry Ha usma n) 1 ) に よ る と 、 エ ア コ ン の 場 合 、 富 裕 な 家 庭 の 場 合 8 .9%、 貧 し い 家 庭 の 場 合 39%で あ っ た 。 ま た 、 Suthe rland (200 3)も 図 2.5. 3 -1 で 示 し て い る よ う に 、 所 得 が 大 き く な る に つ れ 割 引 率 が 低 下 し て い く こ と を 報 告している。富裕な家庭の場合、初期費用にはそれはど制約されることなく、高価で も効率のよいエアコン買うのため割引率は低くなる。それに対し貧しい家庭の場合、 手元資金に余裕がなく、日々のコストが高くついたとしても初期費用の安い製品を購 入するため、割引率は高く出る傾向がある。割引率は、家庭の経済状況など消費者属 性を敏感に反映するものとなるため、家計所得が低い途上国の割引率は高くなる傾向 があることが推察される。 100% 割引率 暖房 80% エアコン 家電製品 60% 40% 20% 0% 年間所得 $0 $10,000 $20,000 $30,000 $40,000 $50,000 $60,000 図 2. 5.3 -1 所得階層による割引率の違い - 87 - 9) また、途上国では市場利子率が高いことが多い。資本市場が未整備であったり、成 長過程の過熱した景気の影響のためインフレ傾向になっていたり、貸し倒れリスクが 高かったりといった理由により先進国よりも途上国の方が金利は高いケースが多い。 その上、この利子率自体も時間の経過によって変化していくケースがある。今日の理 論経済学では、割引率(時間選好率)が通時的に一定と仮定され、日本における公共 事 業 の 費 用 便 益 分 析 を 行 う 際 に 用 い ら れ る 社 会 的 割 引 率 は 4%が 適 用 さ れ る こ と が 多 い 。し か し 、実 際 に は 時 間 を 通 じ て 割 引 率 が 変 化 す る こ と が 観 察 さ れ て い る 。図 2. 5. 3 -2 は 日 本 の 社 会 的 割 引 率 の 推 移 に 関 し て 推 定 し た 実 証 研 究 の 事 例 で あ る 。 阪 田 ら ( 2 002) 10) は無限期間生きる個人の重複世代モデルにより①生産関数のパラメーター、②死亡 率、③物価上昇率、④実質利子率のトレンドから社会的割引率を推定している。日本 が 高 度 成 長 期 に あ っ た 1 97 0 年 代 は 非 常 に 高 い 割 引 率 で あ っ た が 、 1 98 0 年 代 頃 よ り 4% 前 後 で 落 ち 着 き 、 近 年 は 2%程 度 で あ る こ と が わ か る 。 こ れ よ り 、 実 際 に は 社 会 的 割 引 は時間を通じて一定ではなく、また経済が成熟する前には高い割引率になる可能性が あることが示唆される。 図 2. 5.3 -2 日本の社会的割引率 10) 2.5.4 主 観 的 割 引 率 主観的割引率は、将来価値(あるいは将来効用)を現在価値(あるいは現在効用) に引き戻す際に企業や消費者が暗黙のうちに想定している固有の割引率であり、一般 的には実際の消費者購買行動や企業投資行動から事後的に計測され、市場の利子率と はリンクしていない。 主観的割引率に関する代表的な研究事例として、初期費用は安いが運転費用は高い 旧型家電の購入と、初期費用は高いが運転費用は安い新型家電の購入とのトレードオ フから割引率を計測したものがある 1) 。そ れ に よ る と エ ア コ ン は 20 %、給 湯 器 は 1 02 %、 冷 蔵 庫 は 1 38% で あ っ た 。 そ の 後 、 さ ま ざ ま な 研 究 2.5. 4 -1 9),7)な ど がおこなわれているが、図 機器別の主観的割引率のように、家電製品の種類や計算方法によってかなり 計 測 結 果 に 幅 が 生 じ て い る 。 た だ し 、 平 均 で み る と 冷 蔵 庫 が 67%、 給 湯 が 41 %、 空 調 - 88 - が 2 4%、 断 熱 が 24 %と 、 い ず れ も か な り 高 い 主 観 的 割 引 率 ( 機 器 の 耐 用 年 数 よ り も か なり短い投資回収年数)が計測されている。 200% 150% 100% 50% 0% 冷蔵庫 図 2. 5.4 -1 給湯 空調 断熱 機器別の主観的割引率 企 業 の 省 エ ネ 投 資 行 動 も 同 じ よ う に 短 視 眼 的 な 傾 向 が 観 察 さ れ て い る 。 So re n ら 7) (20 02)は 、ア メ リ カ の エ ネ ル ギ ー 省 が 行 う 中 小 企 業 を 対 象 に し た 無 料 省 エ ネ 診 断 プ ロ グ ラ ム で 提 案 さ れ た 38 , 920 件 の 省 エ ネ プ ロ ジ ェ ク ト に つ い て 、 プ ロ ジ ェ ク ト 実 施 率 、 投 資回収年数、不採用理由などの調査を行った。その結果、提案されたプロジェクトの 平 均 投 資 回 収 年 数 は 約 15 カ 月 程 度 ( 割 引 率 に す る と 8 0%以 上 ) で あ り 、 そ の う ち 実 際 に 導 入 さ れ た プ ロ ジ ェ ク ト は 全 提 案 の 53 %に し か な ら な か っ た と い う 。 ま た 、 図 3 で 示されているように、投資回収期間が長くなるほどプロジェクト導入率も低下するこ とが報告されている。 提 案 さ れ た プ ロ ジ ェ ク ト の 79 %は 投 資 回 収 期 間 が 2 年 未 満 で あ っ た が 、 こ の 結 果 は 他の研究事例とも整合する。例えばアメリカエネルギー省のレポートでは、投資回収 期間の閾値として、いくつかの大企業では 3 年とするところが見られるものの、ほと んどの企業は 2 年を限度としていることを報告している。また日本のアンケート調査 13) に お い て も 回 答 者 の 55 % が 3 年 以 下 で あ っ た 。 こ れ ら の 研 究 よ り 、 現 実 の 省 エ ネ 投 資は機器の耐用年数よりもはるかに短い回収期間しか想定されておらず、また市場の 利子率と比してかなり高い割引率を想定していることがわかっている。 - 89 - 図 2. 5.4 -2 投資回収期間と省エネプロジェクト導入率 7) (注)丸の大きさはプロジェクト数、縦軸は導入率、横軸は投資回収年数を表す 望 ま し い と 考 え ら れ る 省 エ ネ ル ギ ー 水 準 と 現 状 の 差 は 省 エ ネ ギ ャ ッ プ ( Ene rg y Eff ic ien c y G ap) と 呼 ば れ 、 数 値 上 こ の ギ ャ ッ プ の 大 き さ が 主 観 的 割 引 率 の 高 さ と な っ てあらわれてくる。社会にはエネルギー効率の良い機器などの技術普及を妨げる様々 な 障 壁 が 存 在 し て い る た め 、市 場 利 子 率 は 先 進 国 で は せ い ぜ い 数 %で あ る が 、機 器 導 入 の投資判断は様々な要因が加味され、通常の投資判断や個人の購買行動は市場利子率 よりもさらに高い割引率を設定して投資判断がなされている傾向がある。 採算が合うと判断されるプロジェクトであっても、なぜ実施されることがなかった り、短期の回収期間しか設定されなかったりするのであろうか。省エネギャップの原 因 に つ い て 、 こ れ ま で 様 々 な 理 論 的 な 説 明 が な さ れ て き た 。 S P RU(2000) 8 ) で は 、 3 つ の カテゴリーに分けて省エネ投資には障壁があることを説明している。一つは経済的な 要因によるもので、実際には採算が合わないケース、隠れたコスト、リスク、資金不 足、不完全情報、逆選択、利害の不一致、投資主体と代理人の関係といったものがあ る。二つめは行動的・心理的な要因で、人間の限定合理性、不適切な情報提供、情報 の信頼、惰性、価値観などがある。三つめは組織的な要因で、組織の意思決定プロセ スや組織文化といったものがある。 これらの要因以外にも、企業であれば他の投資機会との競合、個人であれば他製品 との競合といった理由も考えられる。例えば、企業に予算的な制約がある場合、いく ら省エネ投資が採算に合っていたとしても、新製品の生産ラインに対する投資を必要 としているときには、資金が省エネ投資に向かない可能性がある。個人の購買行動に しても、省エネは数多くある製品特性の一つに過ぎず、ブランドやデザインといった も の が 優 先 さ れ る こ と は 珍 し く な い 。表 2.5. 4 -1 は 省 エ ネ ギ ャ ッ プ の 要 因 に つ い て 、投 資側、対象設備・機器、外部環境という三要因から整理したものである。 - 90 - 表 2. 5.4 -1 投資側の要素 資金 省エネギャップの要因 主観的なリスク選好 資金的余力、資金調達力 投 下 資 本 利 益 率( R O I )は 、通 常 1 0 - 2 0 % と 言 わ れ て お り 、 各企業全体の収益率から大きく離れることは実施の障壁 となり得る。 経営者個人の時間選好率も影響するが、むしろ、経営者 の任期も大きく影響(動機の不一致:自らの任期中には 投資回収ができない) 投資判断者の主観的なリスク選好 情報入手や情報整理のコスト 小規模な場合、情報入手や整理のコストが無視できない 企業としての収益率 時間選好率 限定合理性 対象設備・機器に関する要素 機器の耐用年数の不確実性 機器の技術進展の期待 新規の機器への抵抗感・拒絶感 省エネ以外の機器の魅力等 検討能力にも限りがあるため、最適な選択ができない 新規の機器で実績がないと信頼性が乏しいと判断されれ ば導入障壁となる。 導入を待った方がより良い機器・設備が入手できるとの 期待感 現場は慣れ親しんだ設備・機器を好む傾向あり ブランド、デザインなど 外部環境に関する要素 エネルギー価格の不確実性 市場利子率 株主の利益への期待感 確実なエネルギー価格の上昇が見込まれるか、否かによ って投資判断は左右される。 市場利子率は、資金調達にも影響 短期的収益あるいは長期的収益を期待しているか 図 2 .5. 4 -3 は 、省 エ ネ 製 品 と 通 常 製 品 に 関 す る コ ス ト 構 造 の イ メ ー ジ を 図 示 し た も の である。明示的なコストとしては資本コストと燃料コストの 2 種類があり、通常の製 品と省エネ製品を比べた場合は省エネ製品の方が安いものの、取引費用や情報収集コ ストなど目に見えないコスト分を加味すると省エネ製品の方が高く感じられるため、 省エネ製品が選ばれにくい状況を説明している。 図 2. 5.4 -3 技術選択のイメージ - 91 - 1 0.8 指数型 双曲型 0.6 0.4 0.2 0 0 5 10 図 2. 5.4 -4 15 20 25 30 35 40 45 50 指数型割引と双曲型割引 現実社会における割引率が高くなる一要因について、人々のリスクや時間に対する 認識のバイアスからもアプローチすることができる。新古典派経済学では、人間は完 全に合理的であることを前提として理論が展開されているが、最近注目を集めている 行動経済学では、人間の知識や計算能力に限界があること(限定合理性)を前提とし つつ、実際の意思決定場面で見られるバイアスについて解明を試みている。 省エネは費用が発生する時点と、便益を享受する時点が異なる。そのため、人の時 間に対する感覚が意思決定に影響を及ぼす。通常の経済学あるいは会計学では、割引 率は通時的に一定と仮定した指数型割引が用いられる。しかし、実際の人間は現在か ら近未来にかけては近視眼的なのに対し、遠い未来の出来事に関しては関心が薄れ無 差 別 に な る 傾 向 が あ り ( 現 在 志 向 バ イ ア ス )、 時 間 に 対 し て 非 整 合 的 な 感 覚 を 持 っ て い ることが知られている。この性質を説明するために提案されたのが双曲型割引曲線で ある。 図 2 .5. 4 -4 は 、 指 数 型 及 び 双 曲 型 曲 線 の 例 で あ る 。 こ こ で は Harris ら t 事 例 を 参 照 し 、 指 数 型 は f(t)= δ 、 δ =0. 9 44 、 双 曲 型 は f(t)=(1 + α t) 2) -γ /α (2 003 )に よ る 、 γ = 1 、 α =4 としている。この図からもわかるとおり、指数型割引は時間の経過と共に一定の割合 で価値が減少するのに対し、双曲型割引は、最初に急激に減少するが、時間が経つに つれ価値の減少する程度が減っていく。この特徴は、遠い将来よりも現在に近い時間 を 重 視 す る こ と で あ り 、人 々 が こ の よ う に 現 在 を 重 視 す る こ と は「 現 在 志 向 バ イ ア ス 」 とこれを省エネ投資のケースにあてはめると、以下のような状況が想定される。省エ ネ性能カタログ 10) に よ る と 冷 房 能 力 4.0 k W と い う カ テ ゴ リ ー に お い て 最 も 効 率 が い い と さ れ る エ ア コ ン の 年 間 電 気 代 は 28 ,00 0 円 、効 率 の 悪 い も の は 40 ,10 0 円 で あ り 、差 額 は 1 2,10 0 円 /年 で あ っ た 。 購 入 価 格 は 時 期 と 場 所 に よ り 変 動 す る も の の 、 前 者 は 約 1 5 万円、後者は約 7 万円であった。節約できる電気代で機器の差額を回収しようとする - 92 - と 、 割 引 の 仕 方 に よ っ て 回 収 年 数 が 変 わ っ て く る 。 節 約 電 気 代 の 現 在 価 値 を 図 2 . 5.4 -4 に あ て は め て 考 え た 場 合 、 指 数 型 割 引 で は 差 額 分 を 回 収 す る の に 9 -10 年 か か る の に 対 し 、 双 曲 型 割 引 で は 16 年 か か る こ と に な る 。こ れ は 節 約 で き る 電 気 代 を 初 期 段 階 で 大 き く 割 り 引 く 心 理 が 働 き 、投 資 回 収 期 間 を よ り 長 く 捉 え て し ま う 感 覚 を 説 明 し て い る 。 つまり心理的な損益認識と会計上の損益には差があるため、省エネのメリットは過小 評価されがちであることがわかる。 なお双曲型割引は時間に対して連続に変化するため、異時点間の最適化問題を考察 する際に問題が複雑になる。これに対応するため、割引率が離散的に変化するものと し て 準 双 曲 型 ( q ua si-h ype rbo lic) 割 引 率 が La ib son [1 997 ]な ど に よ り 考 案 さ れ 、 異 時 点 間の最適化問題に応用されている。 2.5.5 ど の よ う な 割 引 率 を 設 定 す べ き か 人々の経済合理的な行動を前提とした場合、省エネ投資のように収益性のあるよう な対策は自然に進むと考えられる。しかし、実際に観察される現象は、必ずしも理論 通りではなく、様々な省エネバリアにより高い割引率が観察されている。 人 々 の 意 思 決 定 の 様 子 を 記 述 す る モ デ ル は 、規 範 モ デ ル と 記 述 モ デ ル に 大 別 で き る 。 規範モデルとは人々のありうる行動規範をモデル化しもので、たとえば合理的意思決 定をする場合の理想的な行動が描写される。それに対して記述モデルは、人々が現実 にどういった意思決定を行うのかを表現するもので、行動経済学の双曲型割引などは これに該当する。 温暖化対策を評価する上ではなるべく現実社会に近い状況を把握し、そこから対策 を考える記述モデルによるアプローチの方が、より具体的で実効性のある政策提言に 結 び つ く 。現 実 か ら 乖 離 し た 小 さ な 割 引 率 を 用 い る と 、省 エ ネ の 効 果 が 過 大 評 価 さ れ 、 CO 2 削 減 の た め の コ ス ト を 過 小 評 価 す る こ と に つ な が り か ね な い 。現 実 を 踏 ま え た 技 術 選択モデルにおいては、主観的割引率のような実社会で観察される割引率を設定した うえで、政策を講じることによって割引率がどう変化しうるのかを分析することによ り、現実妥当性の高い政策的示唆を得ることができると考えられる。 参 考 文 献 ( 第 2. 5 節 に 関 す る も の ) 1) Dubin, Jeffrey A; Market barriers to conservation: Are implicit discount rates too high? Social Science Working Paper 802, California Institute of Technology (1992). 2) Harris, Christopher et al; Hyperbolic Discounting and Consumption, Advances in Economics and Econometrics, Theory and Applications 8th World Congress Volume 1, Econometric Society, pp.258−298 (2003). 3) Hausman, Jerry A.; Individual Discount Rates and the Purchase and Utilization of Energy Using Durables, Bell Journal of Economics, Spring 10, 33-54(1979). 4) International Energy Agency (IEA); Energy Technology Perspectives 2010 pp.602, (2010) - 93 - 5) Laibson, David, ; Golden Eggs and Hyperbolic Discounting, The Quarterly Journal of Economics, MIT Press, vol. 112(2), pp. 443-77, (1997) 6) Sanstad, Alan H et al; How High Are Option Values in Energy-Efficiency Investments? Energy Policy 23(9): 739–743, (1995). 7) Soren T. Anderson et al; Information Programs for Technology Adoption: The Case of Energy-Efficiency Audits, Discussion Paper 02-58. Washington, DC: Resources for the Future, (2002). 8) SPRU (Science and Technology Policy Research); Reducing barriers to energy efficiency in public and private organizationspp.11−62 SPRU,UK, (2000) 9) Sutherland, Ronald J.; The High Costs of Federal Energy Efficiency Standards for Residential Appliances, Policy Analysis, No. 504. Washington, DC: Cato Institute (2003) 10) 経済産業省 資源エネルギー庁; 省エネ性能カタログ 2010 年夏版, 経済産業省, (2010) 11) 阪田和哉・林山泰久: 社会資本ストックの社会的割引率に関する実証的研究、応用地域学研究 第 7 号 pp.99-109 (2002) 12) 柴田匡平: プロジェクト・ファイナンスにおけるリスク評価、信州大学経済学論集, 23:19-32 (1985) 13) 省エネルギーセンター; 省エネルギー技術普及促進事業調査報告書平成 15 年度, http://www.eccj.or.jp/diffusion/03/diff_03_03.html (アクセス日 2011 年 3 月 21 日)(2003) 2.6 調査のまとめ 本 章 で は 、 幸 福 度 指 標 に 関 し て 調 査 を 行 っ た 。 一 人 当 た り GDP の 大 き さ と 幸 福 度 の 大 き さ に は 、 概 ね 正 の 相 関 が 見 ら れ る も の の 明 確 な わ け で は な く 、 一 人 当 た り GD P が 大きくなるにつれ、幸福度は飽和傾向が強くなる。また、一人当たり消費額、人間開 発 指 標 ( HD I)、 ジ ニ 係 数 な ど と 幸 福 度 の 関 係 で 見 て も 、 一 人 当 た り GDP 同 様 、 相 関 が 強 い わ け で は な い こ と を 整 理 し た 。 一 人 あ た り GDP は 幸 福 度 を 考 え る 上 で 、 一 つ の 重 要な指標であることは間違いなく、特にそれが小さい段階では特に重要である。一方 で 、 一 人 あ た り GDP は 幸 福 度 を 左 右 す る 多 く の 要 因 の 一 つ に 過 ぎ な い こ と も 確 か で あ る 。シ ナ リ オ の 分 析 に お い て は 、GDP を 評 価 し つ つ も 、定 量 化 が 難 し い も の も 多 い が 、 その他の要因にも十分配慮していく必要がある。またエメルギー指標や、その他、持 続可能な発展に関する指標化の国際的な取り組み状況について調査を行い、本研究の 目的に応じた指標によるシナリオ評価が重要であるとした。 さ ら に 、モ デ ル 分 析 評 価 に 重 要 な 要 因 と な る 割 引 率 、投 資 判 断 年 数 の 調 査 を 行 っ た 。 いずれも倫理的あるいは主観的といった人々の価値判断に左右され得る不確実性を伴 う概念であることを整理し、今後本研究においてどのように設定すべきかが課題とし た。 - 94 - 第 3章 叙述的シナリオの策定 昨年度までに、脱地球温暖化と持続可能な発展に関する叙述的シナリオの検討を行 ってきた。今年度は、昨年度策定したシナリオをベースにしつつ、関連する周辺動向 および定量的なシナリオ策定の作業も踏まえて、その説明などについて、修正を行っ た。 3.1 叙述的シナリオの概要 昨 年 度 ま で の 検 討 に 基 づ き 、A LP S の コ ア と す る 叙 述 的 シ ナ リ オ は 、3 つ の 軸( 視 点 ) に よ る シ ナ リ オ と し た 。そ れ は 、マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ( A 、B)、温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ ( I、 II、 III)、 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ ( 濃 度 安 定 化 レ ベ ル 、 IP CC RCP 1 ) に 対 応 ) の 3 つ の 軸 で あ る ( 図 3.1 -1 )。 今 年 度は、この3つの軸のシナリオを中心にその定量化と具体的な分析、検討、その上で、 分析結果から得られた結果の叙述的な解釈を実施した。ただし、食料需給・土地利用 変化の分析においては、農業の土地生産性に関する異なった将来シナリオについても 分析を行った。 経済関連 資源関連 国内経済格差に 関するシナリオ ALPSコアシナリオ 最貧国経済発展に 関するシナリオ 長期的なマクロの経済社会状況に関するシナリオ 先進国等の人口減少 阻止シナリオ 石油価格に関するシナリオ etc. B:高位技術 進展シナリオ A:中位技術 進展シナリオ etc. エネルギー技術関連 原子力シナリオ CCSシナリオ 再生可能エネル ギーシナリオ 排出削減レベルに 関するシナリオ 温暖化政策実施における 背景状況に関するシナリオ RCP3.0PD I:多目的多様性社会 シナリオ RCP4.5 II. 温暖化対策優先 シナリオ RCP6.0 RCP8.5 III:エネルギー安全 保障優先シナリオ EVシナリオ スマートグリッドに 関するシナリオ その他の技術関連 農業生産性に関するシナリオ etc. 図 3. 1-1 温暖化政策関連 各国の排出削減枠組み への実質参加のタイミ ングに関するシナリオ ジオエンジニアリングに関するシナリオ 海外クレジット(REDD 等)に関するシナリオ etc. etc. 今年度定量的なシナリオ策定を行った叙述的シナリオ - 95 - 図 3 .1 -2 は 、 IP C C 第 5 次 評 価 報 告 書 ( AR5 ) に 向 け た シ ナ リ オ 策 定 の イ メ ー ジ を 示 し た IP CC WG3 共 同 議 長 O. Eden ho fe r が 提 示 し て い る 図 で あ る が 、こ れ と A LP S で 策 定 し た 叙 述 的 シ ナ リ オ と の 関 係 性 を 見 る と 、マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ( A、B) は 「 u nce r ta in t y in ba s elin e」 の 軸 と 、 温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ ( I、 II、 III) は 「 u nce r ta in ty in po lic y」 の 軸 と 、 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ は 「 mitiga ta io n e ffort RCP 」 の 軸 と 比 較 的 近 い 関 係 に な り 、 IP CC シ ナ リ オ 策 定 の 動 向 と も 関連したシナリオとなっている。 I:多目的多様性社会 シナリオ II. 温暖化対策優先 シナリオ 各国の排出削減枠組み への実質参加のタイミ ングに関するシナリオ III:エネルギー安全保障 優先シナリオ RCP3.0PD RCP4.5 RCP6.0 RCP8.5 O. Edenhofer (IPCC WG3 Co-chair), 2009 石油価格に関するシナリオ A:中位技術 進展シナリオ 図 3. 1-2 B:高位技術 進展シナリオ IP CC AR5 へ 向 け た シ ナ リ オ 策 定 と の 関 係 - 96 - 3.2 マクロの社会経済に関するシナリオ ここで策定した2種類のマクロの社会経済シナリオの主要なドライビングフォース は 、技 術 の 革 新 で あ る と し て 、そ の 不 確 実 性 の 範 囲 と し て 2 種 類 の 見 通 し を 策 定 し た 。 技術進歩は不確実であり、将来の革新性の高い技術を予期することは不確実性が高い と考えたためである。本来、政策によっても技術の進歩は変わり得るが、それ以上に 意図しない不確実性が大きいものと考えた。すなわち、ここで策定したマクロの社会 経済シナリオは、理念的なシナリオを描いたものではなく、また、政策によってコン トロールできるものとは考えないものであり、社会の帰結として実現し得る幅を有し た将来見通しとして考えた。 2種類のシナリオは、これまでの奇跡的とも言える高経済成長から先進国を中心に 次第に緩やかなる経済成長へと変化していくシナリオ A と、奇跡的とも言える技術革 新 が 今 後 も 継 続 し 一 人 当 た り GDP 成 長 も 大 き く 成 長 す る シ ナ リ オ B で あ り 、そ れ ぞ れ 概要を以下に示す。 シナリオ A • (中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ ) 全 般 的 な 技 術 の 進 展 は 見 ら れ る も の の 、先 進 国 を 中 心 に 物 質 的 に 満 た さ れ て き た 社 会 の 中 で 、新 た に 大 き な 消 費 効 用 を 生 み 出 す ほ ど の 革 新 性 は 乏 し く 、従 来 の よ う に 高 位 の 経 済 成 長 を 引 き 起 こ す に は 力 不 足 で あ る 。そ の た め 、先 進 国 を 中 心 に 、次 第 に経済成長率は小さくなっていく。 • シナリオ A では、シナリオ B のような高経済成長の世界自体を知らないし、国内 所得格差もシナリオ B ほどは拡大しないため、シナリオ A の世界でも十分満足し て い る か も し れ な い 。た だ し 、経 済 的 な 向 上 感 に つ い て 乏 し さ を 感 じ て い る 人 々 も 少なくはない。 • 後 進 発 展 途 上 国 ( LD Cs) の 経 済 成 長 も 、 先 進 国 の 影 響 を 受 け B よ り は 小 さ い 。 • 先 進 途 上 国 は 、一 定 の 経 済 レ ベ ル ま で は 消 費 拡 大 指 向 が 続 く も の の 、先 進 国 に 続 い て大量消費社会から離脱する。 • 全 体 と し て 、 経 済 成 長 は 比 較 的 緩 や か で あ り 、 そ れ に 伴 っ て 人 口 も 2 050 年 頃 ま で 上 昇 し 、 そ れ 以 降 21 0 0 年 頃 ま で 概 ね 維 持 さ れ る 。 • 先進国の潜在的な一人当たりエネルギー需要は、低下傾向に変わる。 • 21 世 紀 後 半 の 食 料 需 要 に つ い て は 、 経 済 成 長 に よ る 効 果 よ り も 人 口 の 影 響 の 方 が 大きく表れるため、シナリオ B よりもむしろ大きい。 - 97 - シナリオ B • (高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ ) 世 界 は 、 過 去 に 農 業 革 命 、 産 業 革 命 、 IT 革 命 の よ う な 社 会 を 大 き く 変 え る 技 術 革 新を実現し、奇跡的とも言える経済成長を成し遂げてきた。シナリオ B では、こ の よ う な 社 会 を 激 変 さ せ る よ う な 技 術 革 新 が 将 来 も 興 っ て 、そ れ に よ り 新 た に 大 き な消費効用を生み出し、世界経済は高位に成長し続ける。 • IT 技 術 、輸 送 技 術 を 中 心 と し た 技 術 も 更 に 進 展 し 続 け 、グ ロ ー バ ル 化 が 一 層 進 む 。 • よ り 高 付 加 価 値 な 製 品 、サ ー ビ ス を 提 供 で き る 者 と そ う で な い 者 の 所 得 格 差 は 拡 大 す る 。ま た グ ロ ー バ ル 化 の 更 な る 進 展 は そ れ を 後 押 し す る 。政 府 は 税 に よ っ て 国 内 所 得 格 差 を 是 正 し た い と こ ろ だ が 、グ ロ ー バ ル 化 は そ の 対 応 を 困 難 に し 、所 得 格 差 を小さくすることには限界がある。 • 現 在 の 先 進 国 、新 興 発 展 途 上 国 は 、よ り 付 加 価 値 の 高 い 産 業 へ と 移 行 し て い く た め 、 第1次産業や比較的付加価値の低い第2次産業の製品製造の拠点はアフリカ等の 後進発展途上国にも移り、アフリカ等もそれ相応に発展をする。 全 世 界 的 な 高 経 済 成 長 に 伴 い 、 急 速 な 少 子 化 が 世 界 の い た る 地 域 で 進 行 し 、 21 世 紀後半には世界の人口が縮小していく。 • 農村と都市との所得格差は一層広がり、多くの国では都市化が更に進む。 • 潜在的な一人当たりエネルギー需要は、これまで同様上昇が続く。 • 食 料 需 要 に つ い て は 、経 済 成 長 に よ る 効 果 よ り も 人 口 の 影 響 の 方 が 大 き く 表 れ る た め 、 21 世 紀 後 半 に つ い て は 人 口 の 減 少 に 伴 っ て シ ナ リ オ A よ り も 小 さ く な る 。 A、B シ ナ リ オ の 定 量 的 な マ ク ロ の 社 会 経 済 シ ナ リ オ に つ い て は 、後 述 の 第 5 章 に お いて示す。 3.3 温暖化政策の背景状況に関するシナリオ 第 3. 2 節 で 述 べ た マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ に 加 え て 、よ り 、政 策 的 な 議 論 までを喚起するシナリオとするために、温暖化政策の背景状況に関する3種類のシナ リオを策定した。ここで策定したシナリオは、温暖化政策立案や政府における政策立 案でいずれかのシナリオをとり得ることは不可能ではないものの、温暖化政策を超え た 幅 広 い 政 策 の 文 脈 と な る た め 、必 ず し も 簡 単 に シ ナ リ オ 選 択 が で き る も の で も な い 。 すなわち、前節で示したマクロの社会経済シナリオと同様に、社会の帰結ととること もできる一方、それとは異なって、人類の選択の余地のあるシナリオでもある。 3 種 類 の シ ナ リ オ は 、シ ナ リ オ I と し て「 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ 」を 想 定 、こ れ は 現 在 の 社 会 行 動 に 近 い こ と を 前 提 と し た シ ナ リ オ で あ る 。 シ ナ リ オ II は 「 温 暖 化 対 策優先シナリオ」であり、このシナリオにおいては、様々な目的の中で温暖化対策の 優先度が高く、正味で負の削減費用となるような省エネ対策などが徹底的に行われる など、温暖化対策をコスト効果的に実施することが優先されるシナリオである。シナ リ オ III は 「 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リ オ 」 で あ り 、 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 の 視 点 か ら国内資源の利用が優先されるようなシナリオである。 - 98 - シナリオ I (多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ ) 社会は、様々な人で構成されており、多様な目的を有して行動している。効用の発 生も様々であり、経済合理性の追求だけが効用増をもたらすわけではない。また認知 にバイアスがかかる場合もあり、効用増大の仕組みは複雑である。更には、情報が限 られていたり、すべてを総合的に判断できる能力を持ち合わせていなかったりするこ とによって、経済合理的な行動がとれない場合もあるだろう。 省エネルギー機器の選択においても、正味では負もしくは安価な排出削減費用と推 定されるものも多いが、主観的に判断される投資回収年数は相当短いことが観測され ている。これは経済合理的な判断ができていないと見ることもできる一方で、多様な 目的を有して行動がなされている結果であり、合理的な判断となっていると見ること もできる。いずれにしても現実の社会はこのように行動している。 このシナリオにおいては、多様な目的の下で限定合理的な判断を行う結果、多様な 枠組みが構築されやすい。これは温暖化対策コストからは非合理的かもしれないが、 人類の多目的性、多様性を考えると一概に非合理的と言うこともできない。 なお、人間の認知は複雑であり、例えば確率が低いものを実際よりも高く認知する 一方、確率が高いものを実際よりも低く認知する傾向があるとされているし、一旦認 知したことと異なる情報は受け入れられにくくなる認知的不協和が起こることもあ る。このシナリオでは、人間らしい認知バイアスが常に起こりやすいことが前提であ り、混沌とした温暖化問題への見方の中で、温暖化対策も策定していかなければなら ないと考えるシナリオである。 シ ナ リ オ II (温 暖 化 対 策 優 先 シ ナ リ オ ) 我 々 は 、少 な く と も こ れ ま で は コ ス ト 合 理 的 な 温 暖 化 対 策 を と っ て き て は い な い が 、 温暖化問題の重要性の認識がより広まり、より大きな排出削減をより小さな費用で実 現する必要性が高まり、技術普及障壁を取り除くことに成功し、温暖化対策について コスト効率的な対策がとられるようになる。 具体的には、エネルギー効率の高い設備、省エネルギー機器の広範な普及が挙げら れる。エネルギー効率の高い設備や省エネルギー機器は、正味では負もしくは安価な 排出削減費用と推定されるものも多いが、エネルギーコストとして見たとき、合理的 な意思決定がなされているとは言えない。しかし、このシナリオの下では相当にコス ト合理的な意思決定が進展する。 ただし、温暖化対策コストの合理性を追求することによって、場合によっては、別 の目的、そこに発生していた効用を、一部、損なうことも起こり得るということを忘 れてはいけない。すなわち、社会は多目的であり、温暖化対策、エネルギー対策とし ては非合理と見られても、社会の多目的性に照らすと、合理的と考えられる場合も多 く 存 在 す る た め で あ る 。よ っ て 、社 会 が 温 暖 化 対 策 の 優 先 度 を 高 く お く よ う に な れ ば 、 ここで表現されるシナリオは合理的な対策を表現したものとなるが、社会が現状のま ま推移するのであれば、ここで表現されるシナリオは、限定合理的な行動の除去とい う面においては合理的な対策と言えるが、全体としてみると必ずしも合理的とは言え - 99 - ない可能性もある。よって、このシナリオが広い意味での合理性を有するようになる には、温暖化対策以外の幅広い社会システムの変革が不可欠であり、長期的な時間を 要すると考えられる。 シ ナ リ オ III (エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リ オ ) 安全保障問題、とりわけエネルギー安全保障問題は各国ともに最重要課題の一つで ある。 実際、米国オバマ政権のグリーンニューディールも具体的な内容からすると、温暖 化対策というよりもむしろエネルギー安全保障政策と見ることができる。 このシナリオにおいては、石油価格が高騰し、それに引きずられるように各種資源 価格、食料価格等も高い水準となる。また、非在来型資源の開発が一層進む。 本シナリオは、温暖化対策は推進されつつも、むしろ、それはエネルギー安全保障 政策を補完する位置付けとして推進されるシナリオである。 なお、温暖化懐疑論が勢いづいた場合には、否応なくエネルギー安全保障政策の文 脈や化石エネルギー資源の有限性といった文脈の中で、温暖化対策を推進せざるを得 なくなる可能性もある。 な お 、 シ ナ リ オ I、 II に つ い て は 少 し 補 足 を し て お く 。 図 3.3 -1 は 、 石 炭 発 電 設 備 の 例であるが、発電効率は低効率だが初期設備費用が小さい設備、中効率で初期設備費 用も中程度の設備、高効率で初期設備費用も高効率の設備の3種類について、設備投 資の投資回収判断年数によってどの設備が選択されやすいかを示したものである。日 本 で は 投 資 回 収 判 断 年 数 が 長 く ( 投 資 判 断 に お け る 主 観 的 な 割 引 率 が 小 さ い )、 高 効 率 な設備が選択されやすいが、投資回収判断年数が短い(投資判断における主観的な割 引率が相当大きい)途上国等では、必ずしも高効率な技術が選択されないことがわか る。日本は、優れた環境技術を有しながらも、必ずしも世界でそういった技術が選択 さ れ な い こ と は 大 変 多 い ( 第 2. 3 節 も 参 照 )。 図 3. 3 -2 、 図 3.3 -3 は そ れ を 別 の 視 点 か ら イ メ ー ジ 的 に 表 現 し た も の で あ る が 、 図 3.3 -2 で 見 る よ う に 、 右 に 示 さ れ る 高 効 率 な 技 術 は 、 本 来 コ ス ト が 左 の も の よ り も 安 価 で あ る に も 関 わ ら ず 、 隠 れ た コ ス ト が 追 加 さ れ ( 先 の 主 観 的 な 割 引 率 に 相 当 )、 結 果 と して左の技術が選択されやすい状況が現実社会ではよく観察される。特に、途上国等 に お い て は 、こ の 隠 れ た コ ス ト が 大 き い わ け で あ る 。ま た 、図 3.3 -3 の よ う に 正 味 で ポ ジティブのコストとなる場合もあるが、いずれにしても隠れたコストが上乗せされる ため、仮に明示的に炭素に価格付けを行う場合、隠れたコストも含めてそれを上回る よ う な 価 格 付 け を 行 わ な け れ ば 右 の 技 術 が 選 択 さ れ な い 。シ ナ リ オ I は 隠 れ た コ ス ト を 含 ん だ 社 会 環 境 を 表 現 し た よ う な シ ナ リ オ 、 シ ナ リ オ II は 隠 れ た コ ス ト が な い か 、 限 定的な社会環境を表現したシナリオである。 社会が、短期のリターンではなく、長期のリターン追求に変わっていき、現状に近 い シ ナ リ オ I の よ う な 社 会 環 境 か ら 、 シ ナ リ オ II の よ う な 社 会 に 長 期 的 に は 変 わ る こ とが可能かもしれないが、それは相当な社会の変革が必要と考えられる。一方で、適 切 な 政 策 を と る こ と で 、 シ ナ リ オ II の よ う な 社 会 を 実 現 す る 手 段 も 存 在 す る と 考 え ら - 100 - れる。ただし、世界が直面している多くの課題の中で、温暖化対策が仮に重要視され な い よ う な 状 況 で あ れ ば 、む し ろ 、シ ナ リ オ I の よ う な 世 界 が 望 ま し い と 考 え る こ と さ えできる。本シナリオによって、このように複雑な問題を、より良く理解し、より良 い政策のあり方を考えていくきっかけにすることができると考えている。 第 5. 9 節 で シ ナ リ オ I、 II、 III の 定 量 的 な 分 析 を 踏 ま え て 改 め て こ の シ ナ リ オ か ら 得 られる含意について議論することとする。 日本 途上国 140 石炭発電の例 発電単価($/MWh) 120 設備費; 効率 100 低効率: 1250$/kW; 22% Coal-I 80 中効率: 1875$/kW; 36% Coal-II 60 低効率 40 中効率 高効率: 2125$/kW; 42% Coal-III 高効率が選択されやすい 割引率25~8% 20 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 投資回収年数 図 3. 3-1 投資回収判断年数と機器・設備のコスト効率性 炭素に明示的に価格付けを行う方策の場合、 このコスト比較になり、高い炭素価格をつけな ければならない。 シナリオI 途上国等で大きく、日本は小さい。 民生部門は一般に大きい。 ボトムアップの対策(技術普及障壁の 除去)はこの比較を実現し得る。 シナリオII 図 3. 3-2 技 術 選 択 に お け る コ ス ト の イ メ ー ジ( ネ ガ テ ィ ブ コ ス ト の 場 合 ) ( 出 典:IEA ETP20 10 を 加 工 ) - 101 - 炭素に明示的に価格付けを行う方策の場合、このコスト 比較になり、高い炭素価格をつけなければならない。 シナリオI 2国間を中心としたボトムアップ の取り組み、国内では自主行 動計画の強化などにより障壁 除去 シナリオII 2国間クレジット、省エネ基準強 化、直接規制、税、補助金など により実現 図 3. 3-3 技 術 選 択 に お け る コ ス ト の イ メ ー ジ( ポ ジ テ ィ ブ コ ス ト の 場 合 ) ( 出 典:IEA ETP20 10 を 加 工 ) 3.4 排出削減レベルに関するシナリオ IP CC の 次 期 排 出 シ ナ リ オ 策 定 に お い て は 、 気 候 変 動 モ デ ル 計 算 等 の た め 、 既 往 の シ ナ リ オ か ら 幅 広 い レ ン ジ を 表 現 す る 4 つ の シ ナ リ オ ( RCP s: R epresen ta tie C onc en tra tion P athwa ys)の 選 定 が 行 わ れ て き た( 第 1. 2 節 参 照 )。そ れ は RCP 8.5( 2100 年 の 放 射 強 制 力 が 8.5 W /m2)、 RCP 6.0 ( 210 0 年 の 放 射 強 制 力 が 6 .0 W /m2)、 R CP 4.5( 210 0 年 の 放 射 強 制 力 が 4.5 W /m2 )、RCP 3P D( RCP 2.6、放 射 強 制 力 の ピ ー ク が 3 .0 W /m2 で そ の 後 低 下 し 、 2 10 0 年 に 2.6 W /m2) の 4 つ の シ ナ リ オ で あ る ( 図 3. 4 -1)。 な お 、 IP CC 第 4 次 評 価 報 告 書 に お い て ま と め ら れ た 6 つ の 濃 度 安 定 化 レ ベ ル 別 の カ テ ゴ リ ー と RCP の 4 つ の シ ナ リ オ と の 比 較 は 、図 3.4 -2 に 示 す 。 IP CC で は 、RCP は 3 . 7W/m2 近 辺 の シ ナ リ オ が 欠 落 し て い る た め 、 緩 和 策 ・ 影 響 ・ 適 応 策 評 価 に あ た っ て は 、 RCP 4.5 と RCP 3P D の 気 候 変 動 モ デ ル 分 析 評 価 を 内 挿 し て 利 用 す る 形 で 、 3 .7W /m2 に つ い て も 分 析 を 行 う べ き と い っ た 意 見 も 多 く 見 受 け ら れ る 。そ こ で 、本 A LP S プ ロ ジ ェ ク ト に お い て は 、排 出 レ ベ ル に つ い て 、 ベ ー ス ラ イ ン ( RCP 8. 5 の 代 替 )、 RCP 6.0 、 R CP 4.5 、 3. 7W /m2 ( RC P で は な い )お よ び RCP 3P D(2.6 )相 当 の 5 つ の シ ナ リ オ に つ い て 分 析 を 実 施 し て い く こ と とする。これによって、国際的な分析の比較も行いやすいようにする。 - 102 - 図 3. 4-1 RCP3PD(2.6) IP CC 次 期 排 出 シ ナ リ オ ― 濃 度 安 定 化 代 表 パ ス ( RCP ) ― 3.7W/m2:450 ppm-CO2相当 RCP8.5 図 3. 4-2 3.5 RCP4.5:550 ppm-CO2相当 RCP6.0: 650 ppm-CO2相当 IP CC 第 4 次 評 価 報 告 書 で 報 告 さ れ て い る 濃 度 安 定 化 レ ベ ル と R CP と の 関 係 叙述的シナリオに関するまとめ 表 3 .5 -1 は 、マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る シ ナ リ オ( A、B )、温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ ( I、 II、 III)、 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ 間 の 関 連 性 の 強 さ に つ い て 概 観 し た も の で あ る 。 例 え ば シ ナ リ オ A か つ シ ナ リ オ II で あ れ ば 、 RCP 3P D の よ う な 厳 し い 削 減 も 可 能 性 で あ る か も し れ な い が 、 シ ナ リ オ B か つ シ ナ リ オ I、III の よ う な 社 会 環 境 に お い て は 、RCP 3P D の よ う な 削 減 は ほ と ん ど 考 え ら れ な い - 103 - だろう。これは主観的にまとめたものであるが、シナリオ間にはこのような関連性が 存在している。 以上策定した叙述的シナリオにそって、後述の第 5 章において、シナリオの定量化 および定量的な分析を行った結果についてまとめることとする。また、コアシナリオ 以外については、農業の土地生産性(単収)に関するシナリオや、温暖化適応策実施 に関するシナリオ等についても分析、検討を行った。 表 3. 5-1 マクロ経 済 ・ AL PS コ ア シ ナ リ オ 間 の 関 係 [ A] 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ [ B] 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ 社会 情勢 RCP6 RCP4.5 3.7W/ m2 RCP 3PD RCP6 RCP4.5 3.7 W/m2 RCP 3PD I. 多 目 的 多様性社会 シナリオ ○ ◎ ○ △ ◎ ○ △ × II. 温 暖 化 対策優先 シナリオ △ ○ ○ ○ ○ ○ △ △ III. エネルギー安 全保障優先 シナリオ ◎ ○ ○ × ◎ △ △ × 全般的 な温暖化 政策背景 注 ) ◎ : 関 連 が 強 い 、 ○ : 関 連 す る 、 △ : 少 し 関 連 す る 、 ×: ほ と ん ど 関 連 し な い 仮 に 、「 マ ク ロ 経 済・社 会 情 勢 シ ナ リ オ( [ A] , [ B ] )」、「 全 般 的 な 温 暖 化 政 策 シ ナ リ オ( I , I I , I I I )」 の と き 、そ れ ぞ れ の 濃 度 安 定 化 レ ベ ル の 対 策 を 実 現 す る こ と の 困 難 さ に つ い て 主 観 的 に 評 価 し た も のであり、将来を予測したものではない。 参考文献(第 3 章に関するもの) 1) IP CC, To wa rds Ne w Sc ena rios fo r An al ysis of E missio ns, C lima te Ch ange , Impa cc ts a nd Respo ns e Str ateg ie s, IP CC Expe r t M ee ting Re pro t, 20 07. - 104 - 第 4章 4.1 モデル開発と定量的分析 概要 叙述的シナリオに沿って、温暖化関連と様々な持続可能な発展に関連したシナリオ を定量的に、しかもそれぞれの項目が整合性を持った形で評価するためのモデル開 発・改良を行った。本研究において、開発・改良を行い、定量的なシナリオ策定に用 い る モ デ ル を 図 4.1 -1 に 概 観 す る 。持 続 可 能 な 発 展 と い う 幅 広 い 文 脈 の 中 で 温 暖 化 対 策 を評価し、シナリオ策定を行うために、様々なモデルを開発し、それらをリンクさせ ることによって、定量的シナリオ策定にアプローチした。 第 4 .2 節 で は 、 平 成 2 0 年 度 に A LP S で 開 発 し た 世 界 都 市 人 口 の 空 間 分 布 予 測 モ デ ル を改良し、都市圏人口推計を精緻化し、世界の都市人口の空間分布推計を行った。具 体 的 に は 、都 市 別 人 口 を 推 計 す る た め の 不 規 則 成 長 モ デ ル の 定 式 化 を 見 直 す と と も に 、 都市圏の空間拡張メカニズムをモデルフレームに組み込み、推計方法の理論的妥当性 と統計データの再現性の向上を図った。 第 4. 3 節 は 農 業 土 地 利 用・水 需 給・土 地 利 用 変 化 炭 素 収 支 評 価 モ デ ル に つ い て 記 載 し た。このモデルは地球温暖化対策と持続的発展に関する中核モデルとして開発してき たものであり、今年度は食料需給、水需給、土地利用を整合的に評価できるよう改良 を 加 え 、ま た 、各 種 統 計 デ ー タ と の 整 合 性 確 保 も 行 っ た 。ま た 、土 地 利 用 変 化 起 因 CO 2 排出についてシナリオ策定を行った。 ま た 、第 4 .4 節 に は 、生 物 多 様 性 評 価 モ デ ル B IOME 4 を 本 研 究 で 利 用 す る よ う 準 備 を 行った内容について記載した。 温 暖 化 緩 和 策 に つ い て は 、ま ず 、CO 2 排 出 の 大 き い 部 門 で あ る 発 電 、鉄 鋼 、運 輸 部 門 に つ い て 、最 新 の 技 術 動 向 等 を 調 査 、整 理 を 行 っ た 。そ の 内 容 に つ い て 、第 4 .5 節 に ま と め た 。 そ し て 、 そ れ を R IT E で こ れ ま で に 開 発 し て き た 温 暖 化 緩 和 策 評 価 モ デ ル DNE21+モ デ ル の 前 提 条 件 と し て 反 映 を 行 っ た 。 そ し て 、 第 4. 6 節 に 示 す よ う に 、 2 050 年 ま で の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 の 見 通 し 、 お よ び 世 界 半 減 ケ ー ス に つ い て 分 析 ・ 評 価を行った。また、主要部門である発電、鉄鋼、運輸部門について、その具体的な部 門別シナリオについてもまとめた。 - 105 - 人口、GDP エネルギー起源CO2以外のGHG 国内所得格差 都市人口分布 Non-CO2 GHGモデル 2020-30年中心、2150年まで エネルギーセキュリティ 評価モデル エネルギー DNE21+ 2020-30年中心、2050年まで 産業構造変化、 金融 環境調和型都市 分析モデル DEARS DNE21 2020-30年中心、2050年頃まで 経済全体・産業連関を考慮 2150年頃まで 経済全体も考慮 気候モデルとの統合 気候変化 経済 土地利用、食料、水資源 食料需給・水資源・土地利用変化モデル 2150年まで 水セキュリティ評価モデル 食料セキュリティ評価モデル グリッド別気候変化推定 生物多様性影響評価モデル ( BIOME利用) 図 4. 1-1 MAGICC 健康影響評価モデル 温暖化影響 シナリオ策定のためのモデル・ツール - 106 - 4.2 4.2.1 都市の空間分布予測モデルの開発 はじめに 国 連 の 報 告 に よ る と 、現 在 、都 市 に は 全 人 口 の 約 半 数 の 3 3 億 人 が 居 住 し て お り 、20 50 年 に は そ の 数 は 約 70 %の 6 4 億 人 に な る と 推 計 さ れ て い る 。 こ の た め 、 人 間 の 活 動 が 最 も集約的に行われる場所として、地球環境と持続可能な開発の両面から、都市の将来 像を見通すことは重要である。例えば、都市のコンパクト化や公共交通指向型開発な ど、根本的な低炭素都市の構築には長いリードタイムを要するため、将来の社会構造 変化を見据えた戦略的な取り組みが必要となる。また、気候変動が水資源や食料生産 を通じて生活に及ぼす影響を評価する際にも、それらへのアクセス人口の把握が不可 欠である。こうした課題を検討する上で、都市人口の長期展望は不可欠な基礎情報と なる。 本 稿 で は 、 平 成 2 0 年 度 に A LP S で 開 発 し た 世 界 都 市 人 口 の 空 間 分 布 予 測 モ デ ル を 改 良し、都市圏人口推計を精緻化し、世界の都市人口の空間分布を推計する。具体的に は、都市別人口を推計するための不規則成長モデルの定式化を見直すとともに、都市 圏の空間拡張メカニズムをモデルフレームに組み込むことで、推計方法の理論的妥当 性と統計データの再現性の向上を目的とする。 以下では、まず都市人口の推移と都市問題について説明した上で、人口推計に関す る既往研究を整理する。次に本研究で開発するモデルを説明する。本モデルは、国別 の都市人口を所与として、都市圏別の人口を推計するものであり、推計には不規則成 長モデルを活用するが、その際、都市の発生と成長に影響する自然地理条件を考慮す る 。 ま た 、 現 状 の 都 市 圏 の 人 口 と 地 理 配 置 を G IS で 整 理 し た う え で 、 こ れ に 基 づ き モ デ ル パ ラ メ ー タ を 設 定 す る 。 な お 、 国 別 の 将 来 都 市 人 口 は IIA SA -GG I で 用 い ら れ て い る SRES シ ナ リ オ と 国 連 の 人 口 推 計 結 果 を 比 較 す る と と も に 、次 章 で A LP S シ ナ リ オ 策 定に適用する。 こ の モ デ ル を 用 い 、 2 100 年 ま で の 都 市 別 の 人 口 規 模 と 空 間 分 布 を 推 計 し た 。 ま た 、 い く つ か の 都 市 圏 に つ い て 19 50 年 以 降 の 人 口 変 化 の 再 現 性 を 検 証 し た 。 そ の 結 果 、 い く つ か の 都 市 圏 に つ い て は 、 平 成 20 年 度 の モ デ ル よ り も 再 現 性 、 推 計 の 妥 当 性 が 高 ま ったが、未だそれらの再現性が不十分な都市圏も数多く残されている。その原因につ いて考察を行い、今後の課題として整理した。 本モデルは、引き続き残された課題を解決するために改良が必要であるが、それに より得られる結果は地球温暖化の影響評価、都市域での緩和・適応策評価、および持 続可能性指標の分析等に活用可能と期待される。 4.2.2 都市の現況と既往研究 (1) 都 市 人 口 の 推 移 と 都 市 問 題 国 連 の 人 口 推 計 で は 、世 界 の 都 市 に 居 住 す る 人 口 比 率 は 1 950 年 代 に は お よ そ 3 0%程 度 だ っ た も の が 、現 在 は 50%と な っ て お り 、2 050 年 に は 70%に な る と 推 計 さ れ て い る 。 図 4 .2. 2 -1 は 国 連 に よ る 都 市 部 と 非 都 市 部 の 世 界 人 口 の 推 計 値 を 示 し て い る が 、非 都 市 - 107 - 部 の 人 口 は 今 後 横 ば い か ら 減 少 に 向 か う が 、都 市 人 口 は 205 0 年 に か け て 増 加 し 続 け る と推計されている。 このように、人間の活動の場としての都市の重要性は今後も増大すると考えられ、 また地球温暖化対策の検討においても将来都市人口の空間分布の推計は、土地被覆推 計 や CO 2 排 出 源 分 布 の 推 計 、 都 市 防 災 等 の 温 暖 化 適 応 策 の 評 価 分 析 等 に お い て 必 要 性 が高い。 現 在 、 都 市 の 空 間 分 布 に 関 す る 地 理 情 報 シ ス テ ム ( G IS ) デ ー タ が 蓄 積 さ れ つ つ あ る が、それらは行政界に基づく人口統計、あるいは衛星画像解析に基づく土地被覆に基 づいており、そこから直接導かれる都市圏は必ずしも温暖化対策の評価に用いる活動 単位として適切ではなく、対策効果の将来推計の基礎データとするには多くの工夫が 必要である。 出典)国際連合 図 4. 2.2 -1 1) 都市人口の変化 本研究は都市圏を通勤圏として定義した上で、データの得られる国、地域に基づき 都市圏の推計モデルを作成し、これを用いた世界の都市圏人口の推計を試みる。また 導 出 さ れ た 現 況 都 市 規 模 分 布 の 経 験 的 分 布 則 ( Zipf 則 ) へ の 適 合 性 を 確 認 し 、 将 来 予 測への不規則成長モデルの適用可能性を検討する。その際、都市の発生と成長に影響 す る 自 然 地 理 条 件 を 考 慮 す る 。 平 成 20 年 の モ デ ル で は 、 都 市 圏 の 推 計 モ デ ル を 日 本 の データに基づき推計し、それを全世界に当てはめていたが、本年度のモデルでは、国 連の都市人口データベースにおいて、都市圏として人口データが与えられている国に ついて都市圏推計モデルを作成し、そのパラメータの国際比較から全世界に適用可能 な モ デ ル を 構 築 す る 。 ま た 、 以 前 の モ デ ル で は 、 都 市 圏 の 空 間 範 囲 を 200 0 年 時 点 で 固 定した上で過去と将来の都市圏人口を推計したが、本年度は、人口増加に応じた都市 圏の空間的拡張をモデル化し、推計の理論的妥当性を向上させる。このモデルを IIASA -GG I の SRES シ ナ リ オ に 適 用 し 、 2 100 年 ま で の 都 市 別 の 人 口 規 模 と 空 間 分 布 を 推計する。 - 108 - (2) 既 往 研 究 温暖化対策などの全球レベルでの環境問題の検討を深度化するために、全世界の人 口の空間分布の将来推計について様々な研究がなされている 1-4) 。こ れ ら の 研 究 は 全 陸 域をグリッドに分割し、そのグリッド上の人口を推計するものである。多くは国別あ るいは地域別の人口を統計的に求めた上で、それをグリッド人口にダウンスケーリン グする方法がとられている。しかしながら、その一般的な方法は確立されておらず、 それぞれの研究がアドホックな人口案分関数を設定している。 一 方 、 Asa doo rian 3 ) は 人 口 密 度 分 布 を ベ ー タ 分 布 で 表 わ し 将 来 の 人 口 密 度 の 空 間 分 布 を 推 計 し て い る 。 そ こ で は ベ ー タ 分 布 パ ラ メ ー タ を GNP 、 国 土 平 均 人 口 密 度 の 関 数 で 表わし、それらの将来推計を用いて緯度経度 1 度メッシュごとの将来人口密度を推計 している。ただし、具体的なシミュレーション方法は明示されていない。 Grüb ler ら 1) は SRES シ ナ リ オ で 与 え ら れ る 地 域 別 人 口 を 0.5 度 メ ッ シ ュ に 細 分 化 す ることを試みている。細分化においては、前期の人口が多い都市ほど人口増加率が高 くなるモデルとなっている。この方法は、メッシュ人口を一様に増加させる従来方法 と比較して、都市周辺への人口集中を表現できるようになっており、推計方法の妥当 性が向上していると考えられる。しかし、その結果得られる人口の空間分布の妥当性 を 検 証 す る 方 法 は 見 い だ さ れ て い な い 。 図 4 .2. 2 -2 に 199 0 年 と B1 シ ナ リ オ の 207 0 年 のメッシュ人口の推計を示す。この結果をみると、人口密度の高い地域が大きく増加 していることが読み取れる。 出 典 ) Gr übl er e t al . 1 ) 図 4. 2.2 -2 SRE S シ ナ リ オ と 整 合 す る 人 口 密 度 分 布 - 109 - 一 方 、都 市 の 人 口 規 模 に 関 し て は 、Zip f 則 5) 、あ る い は ラ ン ク サ イ ズ ル ー ル と 呼 ば れ る、経験的によく知られた法則がある。これは、都市規模分布はパレート分布に従う というもので、その分布への都市規模分布の適合性の検証が古くから行われている。 し か し 、 な ぜ Zip f 則 が 都 市 規 模 分 布 で 成 り 立 つ か に つ い て 十 分 説 明 で き る 理 論 モ デ ル は 確 立 し て は い な い 。 初 期 の 研 究 と し て 、 Simon 6 ) は シ ン プ ル な 不 規 則 成 長 モ デ ル か ら パレート分布が導かれることを示している。その際、都市の成長確率は総人口に対す る個別の都市の人口比率に比例することとなっている。このモデルは理論的にはラン クサイズルールを導出するが、それはあくまで集計的な規模分布を理論的に保証する に過ぎず、実際に将来予測を行う場合にはモンテカルロシミュレーションが必要であ り、個別の都市を見ると試行によって結果が異なる可能性がある。また、このモデル では冪指数が 1 に十分近いとすべての人口が 1 つの都市に集中する結果が導かれる。 Gaba ix 7 ) は 都 市 の 期 待 成 長 率 と そ の 分 散 が 規 模 か ら 独 立 で あ る と い う 仮 定( G ib rat 則 ) から近似的な指数法則が導かれることを示している。また標準的な都市経済モデルか ら Gibra t 則 を 導 き 都 市 規 模 分 布 の 指 数 則 を 導 出 す る 研 究 8,9) も 見 ら れ る が 、期 待 成 長 率 が規模から独立となる現象の経済的説明は十分明らかではない 10) 。 近年の複雑ネットワーク理論はパレート分布を導く別のアプローチを示している 11 , 1 2 ) 。この理論は都市への適用を念頭に置いたものではないが、ネットワークノード 間の接続が規模に応じた選好を持つとき、パレート分布が導かれる。具体的には、ス ケールフリーネットワーク理論における連続量アプローチでは、ノードの接続性に関 する動学方程式を規模に応じた選好に基づき定式化し、そこから漸近的にパレート分 布が導かれることを解析的に示している。ただし、このモデルを都市規模分布の推計 に適用する場合、都市が発生した順に規模が大きくなることとなり、必ずしも実際の 状 況 を 再 現 し え な い と 考 え ら れ る 。E rgun and Ro dge rs 1 3 ) は ノ ー ド の 適 合 性 を 考 慮 し た 不 規則成長モデルを示しており、やはり解析的に指数法則を導いており、また得られる パレート分布は様々な冪パラメータを取ることが可能になっている。 一方で、近年の都市データの蓄積により、ランクサイズルールの適用可能性に関す る国際比較研究も進められている。いくつかの研究では、パレート分布の冪パラメー タが1に等しいとする古典的なランクサイズルールは統計的に棄却される国が存在す ることが示されている 14-16) 。このことは、冪パラメータは国によって異なることを示 唆 し て お り 、 E rgun a nd Rod ge rs の モ デ ル を 応 用 す る こ と に よ り 、 よ り 現 実 に 即 し た 推 計を行える可能性があると考えられる。 (3) 本 研 究 の 位 置 づ け 都市の成長過程を鑑みると、人口規模が大きいほど経済的魅力が増加し、それがさ らに人口を引き付けるといった収穫逓増の性質を有すると考えられる。一方、都市の 発生過程においては交通の要衝であるなど自然地理的条件が大きく影響するとも考え ら れ る 。 上 記 モ デ ル の う ち E rgu n a nd Ro d gers モ デ ル は 操 作 性 、 指 数 則 の 頑 健 性 、 地 理 条件等の導入の容易性から世界を対象とした都市の空間分布の推計に適していると考 えられる。そこで本研究ではこのモデルを都市空間分布推計に用いるよう修正したう えで適用可能性を検討する。 - 110 - 図 4 .2. 2 -3 は 本 研 究 の 分 析 フ ロ ー を 示 し て い る 。 ま ず 、 行 政 界 ベ ー ス の 都 市 人 口 を 、 不規則成長ネットワークモデルを用いて推計するが、その際、都市の適合性を考慮す る。このため、地理・気候要因を全球グリッドについて整備し、これに基づき都市の 適合性を定量化する。また、この適合性と現況の行政界別の都市人口、並びに国別の 将来都市人口シナリオに基づき、都市別の将来人口を逐次推計する。 一方、地球温暖化対策の検討において必要とされる情報は行政界の人口ではなく、 都市圏の人口である。このため、都市圏の地理的な範囲を都市人口に基づき推計する モデルを構築する。都市圏の空間範囲は人口とともに拡大すると考えられるが、拡大 する程度は国によっても異なると考えられる。つまり、同じ人口であっても、移動性、 モビリティの高い国では都市圏範囲が大きく、モビリティが小さければ都市圏範囲は 小さいものと考えられる。そこで、人口と都市圏範囲の関係を国毎に求め、その国際 比較から、モビリティを経済指標に基づき推計し、都市圏人口を推計するサブシステ ムを構築する。 先 に 求 め た 行 政 界 人 口 に 、 こ の シ ス テ ム を 適 用 し 、 SRES お よ び A LP S シ ナ リ オ の 下 での都市圏人口を推計する。 図 4. 2.2 -3 分析フロー なお、本モデルシステムの行政界人口推計については、必ずしも実際の行政界の人 口として推計しているわけではないことに留意が必要である。例えば、日本の首都圏 は東京、神奈川、千葉、埼玉などから構成されるが、首都圏における人口は当初は東 京都区部で増加したが、その後、区部の人口増加は頭打ちとなり、都市圏の郊外に当 たる周辺 3 県で人口が増加してきた。この場合、マクロに見ると、経済機会等を求め て、東京都市圏に人口が移動してきたが、実際の居住地は、必ずしも行政界で見た東 京都ではなく、周辺の県ということになる。しかし、本モデルにおける選好は都市の 適合性と人口のみに基づいており、圏域内の立地制約等は考慮していない。従って、 ここで推計される行政界人口は、あくまでも社会移動において選好される地点を考慮 した潜在的な人口であり、実際の人口の空間分布を考慮する場合は都市圏内で改めて 配置を検討することが必要である。すなわち、本モデルのアウトプットは都市圏人口 であり、行政界人口は中間的な計算結果に過ぎないことになる。 - 111 - 4.2.3 適合性を考慮した不規則成長モデルの構築 本 章 で は E rgun an d R odge rs モ デ ル に 基 づ き 適 合 性 を 考 慮 し た 不 規 則 成 長 都 市 モ デ ル を構築する。まず、動学方程式に基づきパレート分布を導く不規則成長都市モデルを 定式化し、次に、冪パラメータを都市データに基づき推計する。また、都市の適合性 指 標 を G IS デ ー タ に 基 づ き 算 定 し た 上 で 、 冪 パ ラ メ ー タ と 適 合 性 の 関 係 を 分 析 す る 。 (1) 不 規 則 成 長 モ デ ル の 定 式 化 こ こ で は 、 Ba rab asi a nd Albe rt 1 2 ) に よ る co ntin uu m theo ry ア プ ロ ー チ と 、 Krap ivsk y, Rende r and Le yvraz ① 17) に よ る 、 R ate-equ ation ア プ ロ ー チ の 両 面 か ら 定 式 化 す る 。 conti nuu m th eor y ア プ ロ ー チ 都 市 i の 人 口 を k i 、 適 性 指 数 を μ i と し 、 時 間 あ た り の 人 口 増 加 量 を q、 時 刻 t に お け る 都 市 の 集 合 を Ω t 都 市 数 を |Ω t |=N t 、都 市 数 の 時 間 増 加 量 を n 、対 象 都 市 に お け る 適 正 指 数 の 平 均 値 を m、と す る 。た だ し 、時 刻 t=0 に お け る 都 市 数 、お よ び 都 市 人 口 は ゼ ロ と する。すると、以下の式が成り立つ。 k = q ⋅t (4. 2 -1) = Nt ⋅ m = n ⋅ m ⋅ t (4. 2 -2) j j∈Ω t μ j j ∈Ω t Nt = n ⋅ t (4. 2 -3) 式 (4.2 -1 )は 対 象 地 域 の 総 都 市 人 口 の 条 件 を 表 し 、式 (4.2 -2 )は 都 市 適 正 指 数 の 和 に 関 す る 条 件 、式 (4. 2 -3)は 都 市 数 に 関 す る 条 件 で あ る 。こ こ で 、都 市 i の 人 口 増 加 量 が 次 式 で 表されると仮定する。 (ki + μi − 1) ∂ki = q⋅ ∂t (k j + μ j − 1) (4. 2 -4) j これは、都市人口の増加確率が、対象地域の全都市人口と適正指数の和に対する、 当該都市のそれで表されることを表現しており、都市人口が大きく、かつ都市の適合 性 が 高 け れ ば 、そ れ だ け 当 該 都 市 の 人 口 増 加 量 が 大 き い こ と を 意 味 し て い る 。こ こ で 、 Σ j 1=n· t で あ る こ と か ら 、 次 式 が 導 か れ る 。 (k j j + μ j − 1) = (q + n ⋅ (m − 1)) ⋅ t (4. 2 -5) こ れ を 式 (0 -4 )に 代 入 す る と 次 式 が え ら 得 る 。 ∂ki (ki + μi − 1) = ∂t (1 + n ⋅ (m − 1) q ) ⋅ t この微分方程式は以下のように変形される。 - 112 - (4. 2 -6) k i dk dt = + μi − 1 (1 + n ⋅ (m − 1) q ) ⋅ t (4. 2 -7) 両辺の不定積分をとると次式がえら得る。 ln (ki + μi − 1) = 1 ln (t ) + C (1 + n ⋅ (m − 1) q ) (4. 2 -8) こ こ で 、 t=t i に お い て 都 市 i は 発 生 し 、 そ の と き の 初 期 人 口 は k 0 と す る 。 つ ま り 、 人 口 k0 に 達 し た 時 点 で そ の 集 落 は 都 市 と 認 識 さ れ 、 そ の 時 点 を ti と す る 。 こ の 条 件 を 上 の式に代入すると定数項が次のように求められる。 C = ln (k0 + μi − 1) − 1 ln (t ) (1 + n ⋅ (m − 1) q ) i (4. 2 -9) こ れ を 式 (4 .2 -8 )に 戻 す と 次 式 が 得 ら れ る 。 ln (ki + μi − 1) = 1 1 ln (t ) + ln (k0 + μi − 1) − ln (t ) (1 + n ⋅ (m − 1) q ) (1 + n ⋅ (m − 1) q ) i (4. 2 -10 ) この式を変形し、整理すると次式が得られる。 1+ n ⋅ ( m −1) q ki + μi − 1 k0 + μi − 1 = t ti (4. 2 -11 ) こ こ で 、 ki<k と な る た め に は 、 k は 次 式 を 満 た す 必 要 が あ る 。 1+ n ⋅( m −1) q k + μi − 1 + − k μ 1 i 0 1+ n ⋅ ( m −1) q k + μi − 1 > i + − k μ 1 i 0 = t ti (4. 2 -12 ) 従 っ て 、都 市 i よ り も 大 き い 人 口 を 持 つ 都 市 に つ い て は 、そ の 発 生 時 期 に 関 し て 次 式 を満たす必要がある。 1+ n ⋅( m −1) q k + μi − 1 ti > t ⋅ 0 k + μi − 1 (4. 2 -13 ) 都 市 の 生 成 確 率 は 一 様 と 仮 定 す る 。 す る と 、 適 合 度 が μi と 等 し い 別 の 都 市 の 人 口 が k i よ り 大 き く な る 確 率 は 次 式 で 表 さ れ る 。た だ し 、一 般 化 の た め に 確 率 を 計 測 す る 期 間 を 有 限 の -t 0 か ら 取 っ て い る 。 1+ n⋅( m −1) q t k0 + μi − 1 Pr (ki < k μi ) = 1− t + t0 k + μi − 1 (4. 2 -14 ) こ の 定 式 化 は 、 次 の 図 を 用 い て 説 明 す る こ と が 出 来 る 。 ま ず 、 ki< k で あ る た め に は 、 そ の 都 市 が 発 生 し た 時 刻 が 式 (4.2 -13 ) を 満 た す 必 要 が あ る 。 す な わ ち 、 時 刻 t i が - 113 - t· {(k 0 + μ i -1 )/(k+ μ i -1 )} 1 + n · t· [1 -{(k 0 + μ i -1)/(k+ μ i -1)} (m-1)/q と t の間にあれば良いことになる。するとその確率は 1+n· (m-1)/q 図 4. 2.3 -1 ]を t+ t 0 で 除 し た も の に な る 。 都 市 の 発 生 時 刻 が ti 以 前 と な る 確 率 こ こ で 、 時 刻 t に お い て 、 適 合 度 μの 都 市 人 口 が ち ょ う ど k と な る 確 率 は 次 の よ う に 求められる。 Pr (ki < k + Δk ) − Pr (ki < k ) Δk → 0 Δk Pr (k μ , t ) = lim = ∂ Pr (ki < k ) ∂k n⋅( m −1) q k0 + μ i − 1 t k0 + μi − 1 =− ⋅ − (1 + n ⋅ (m − 1) q ) ⋅ 2 t + t0 k + μi − 1 + − ( k μ 1 ) i = t (k + μi − 1) ⋅ (1 + n ⋅ (m − 1) q ) ⋅ 0 t + t0 (k + μi − 1)2 + n⋅(m −1) q 1+ n ⋅( m −1) q (4. 2 -15 ) t が十分大きければ、右辺第 1 項は 1 となるため次式が得られる。 Pr (kμ ) = lim Pr (k μ , t ) = (1 + n ⋅ (m − 1) q ) ⋅ t →∞ (k0 + μi − 1)1+ n⋅(m −1) q (k + μi − 1)2 + n⋅(m −1) q (4. 2 -16 ) 次に、k が K よりも大きい確率は次式で与えられる。 ∞ (k + μi − 1)1+ n⋅(m −1) q (k0 + μi − 1)1+ n⋅(m −1) q Pr (k > K μ ) = Pr (k > K μ )dk = − 0 = 1+ n ⋅( m −1) q 1+ n ⋅( m −1) q K (k + μi − 1) K (K + μi − 1) ∞ (4. 2 -17 ) こ こ で 、 K>> μ -1 と す る と 、 上 式 は 次 の よ う に 近 似 さ れ る 。 Pr (k > K μ ) = (k0 + μi − 1) 1+ n ⋅( m −1) q K − (1+ n⋅(m −1) q ) (4. 2 -18 ) こ れ を 、 全 て の μに つ い て 積 分 す る と 、 都 市 人 口 が K よ り も 大 き い 確 率 が 得 ら れ る 。 - 114 - Pr (k > K ) = { f (μ )(k + μ −1) 1+ n⋅( m −1) q 0 } dμ ⋅ K −(1+n⋅(m−1) q ) (4. 2 -19 ) こ れ は 、人 口 の 大 き い 都 市 か ら 並 べ た 場 合 の 累 積 分 布 を 意 味 し て お り 、K の 指 数 部 分 に -1 を 乗 じ た も の が 冪 パ ラ メ ー タ に な る 。 こ こ で 、 m=1 な ら ば 、 冪 パ ラ メ ー タ は 1 と な り、ランクサイズルールと等しくなる。 ② Rate- equ atio n ア プ ロ ー チ 対 象 地 域 の 総 人 口 が 一 単 位 変 化 す る 場 合 の 人 口 k 、適 合 度 μ の 都 市 数 N k ( μ )の 変 化 量 を 次式で定義する。 ∂N k (μ ) ∂Q 1 = {(k + μ − 2 )N k −1 (μ ) − (k + μ − 1)N k (μ )} + δ k 1 f A (μ ) ∂t ∂t M (4. 2 -20 ) M = (k + μ − 1)N k (μ ) (4. 2 -21 ) ∂Q =q ∂t (4. 2 -22 ) k ,η こ こ で 、 式 (4 .2 -20 )は 、 全 体 の 人 口 が 変 化 す る と き 、 ど の 都 市 で ど れ ほ ど 人 口 が 変 化 す る か 表 し て い る 。ま ず 、都 市 の 選 好 を k + μ -1 と 仮 定 し 、追 加 さ れ る 人 口 に 人 口 k -1 の 都市が選択される確率は全都市の選好の総和に対する当該都市の選好の比率で表され る と す る な ら ば 、そ の 確 率 は (k+ μ -2 )/M で あ り 、そ の よ う な 都 市 が N k - 1 ( μ )個 存 在 す る こ と か ら 、 新 た に 人 口 が k と な る 都 市 の 数 の 期 待 値 は (k+ μ -2)/M×N k - 1 ( μ )で あ る 。 一 方 、 現 在 の 人 口 が k で 適 合 度 が μ の 都 市 に 1 単 位 人 口 が 追 加 さ れ 、人 口 が k+1 と な る 確 率 を 、 同 様 に (k+ μ -1)/M と す る と 、 そ の 都 市 の 数 が N k ( μ )で あ る か ら 、 人 口 が k で は な く な る 都 市 の 数 の 期 待 値 は (k+ μ -1 )/M×N k ( μ )で あ る 。 最 後 の 項 は 、 適 合 度 η の 都 市 の 増 加 数 を 表 し て お り 、 f A ( μ )は 適 合 度 μ の 都 市 の 生 起 確 率 で あ る 。 た だ し 、 δ k 1 は 新 都 市 数 を コ ン ト ロ ー ル す る 変 数 で あ り 、 k=1 の 場 合 の み 次 の ように表し、それ以外ではゼロをとる変数とする。 δ k1 = n ∂Q =n q ∂t (4. 2 -23 ) ただ し、n は 単位 時間 あた りに 増加 す る都 市数 であ る。ここ で 、n を q で 割 って いる の は 、 式 (4.2 -2 0)が 人 口 が 一 単 位 変 化 す る 期 間 の 都 市 数 の 変 化 率 で あ る こ と か ら 、 そ れ にあわせている。また、q は総人口の時間増加率である。 ここで、以下の表記を用いる。 M ij = k i μ j N k (μ ) (4. 2 -24 ) k ,η す る と 、 式 (4.2 -2 0)の 各 項 は 次 の よ う に 表 さ れ る 。 ∂M 10 ∂ = kN k (μ ) = q ∂t ∂t k ,η - 115 - (4. 2 -25 ) ∂M 00 ∂ = N k (μ ) = n ∂t ∂t k ,η (4. 2 -26 ) ∂M 01 ∂ = μN k (μ ) = m ⋅ n ∂t ∂t k ,η (4. 2 -27 ) た だ し 、 m は 適 合 度 の 平 均 値 で あ る 。 こ の た め 、 式 (4.2 -2 0)は 次 の よ う に 表 さ れ る 。 ∂M ∂ = (k + μ − 1)N k (μ ) = q + n ⋅ m − n ∂t ∂t k ,η (4. 2 -28 ) 両辺を t で積分すると次式が得られる。 M (t ) = (q + n ⋅ (m − 1)) ⋅ t (4. 2 -29 ) ま た A symp to tic limit に よ り 、 人 口 k の 都 市 数 の 時 間 変 化 率 を n k ( μ )と 表 し て 、 N k ( μ , t) を次式で表す。 N k (μ , t ) = nk (μ ) ⋅ t (4. 2 -30 ) す る と 、 式 (4.2 -2 0)は 次 の よ う に 変 形 さ れ る nk (μ ) {(k + μ − 2) ⋅ nk −1 (μ ) − (k + μ − 1) ⋅ nk (μ )}⋅ t = + δ k 1 f A (μ ) q (q + n ⋅ (m − 1))t (4. 2 -31 ) 両 辺 に (q+n· (m -1))を か け る と 、 次 式 が 得 ら れ る 。 (1 + n ⋅ (m − 1) q + (k + μ − 1)) ⋅ nk (μ ) = (k + μ − 2) ⋅ nk −1 (μ ) + (q + n ⋅ (m − 1))δ k1 f A (μ ) (4. 2 -32 ) こ れ を n k ( μ )に つ い て 解 く と 、 次 式 が 得 ら れ る 。 nk (μ ) = (k + μ − 2) (q + n ⋅ (m − 1)) δ f (μ ) ⋅ nk −1 (μ ) + (1 + n ⋅ (m − 1) q + (k + μ − 1)) (1 + n ⋅ (m − 1) q + (k + μ − 1)) k1 A (4. 2 -33 ) n 0 ( μ )= 0 と す る と 、 次 式 が 得 ら れ る 。 n1 (μ ) = (q + n ⋅ (m − 1)) ⋅ n ⋅ f (μ ) (1 + n ⋅ (m − 1) q + μ ) q A スターリングの公式を用いると次式が得られる。 nk (μ ) = (q + n ⋅ (m − 1)) ⋅ n ⋅ f (μ ) (k + μ − 2)! (μ − 1)! ⋅ (1 + n ⋅ (m − 1) q + (k + μ − 1))! (1 + n ⋅ (m − 1) q + μ )! (1 + n ⋅ (m − 1) q + μ ) q A - 116 - (4. 2 -34 ) = Γ(k + μ − 1) Γ(μ ) (q + n ⋅ (m − 1)) ⋅ n ⋅ f (μ ) (4. 2 -35 ) ⋅ A Γ(2 + n ⋅ (m − 1) q + (k + μ − 1)) Γ(2 + n ⋅ (m − 1) q + μ ) (1 + n ⋅ (m − 1) q + μ ) q ここで、k が十分大きい場合のガンマ関数の性質より次式が得られる。 Γ(k + μ − 1) − ( 2 + n ⋅( m −1) q ) = (k + μ − 1) Γ(2 + n ⋅ (m − 1) q + (k + μ − 1)) (4. 2 -36 ) これを代入すると、次式となる。 nk (μ ) = Γ(2 + n ⋅ (m − 1) q + μ ) (q + n ⋅ (m − 1)) ⋅ n ⋅ f (μ ) ⋅ (k + μ − 1)− (2 + n (m −1) q ) ⋅ Γ (μ ) (1 + n ⋅ (m − 1) q + μ ) q A (4. 2 -37 ) これより、人口 K 以上の都市数の時間変化率は次式となる。 ∞ nk > K (μ ) = nk (μ )dk = K n ⋅ f A (μ ) Γ(2 + n ⋅ (m − 1) q + μ ) − (1+ n ( m −1) q ) ⋅ ⋅ (K + μ − 1) (4. 2 -38 ) Γ (μ ) (1 + n ⋅ (m − 1) q + μ ) 式 (4.2 -30 )よ り 、都 市 数 は 時 間 に 比 例 す る こ と に な る た め 、結 局 、式 (4. 2 -38 )は 正 規 化 さ れた都市規模の累積分布を表している。K が十分に大きければ、これは K に関するパ レ ー ト 分 布 と な り 、 冪 パ ラ メ ー タ は (1+n (m-1)/q ) で あ る 。 こ れ は 、 c on tinu u m the or y app roa ch と 同 じ 結 果 で あ る 。 (2) 都 市 人 口 推 計 モ デ ル 上記モデルに従えば、各都市の初期人口と対象地域における都市人口増加量が与え ら れ れ ば 、式 (4 .2 -4)を 用 い て 将 来 の 各 都 市 の 人 口 を 推 計 す る こ と が で き る 。さ ら に 、将 来の人口のみならず、同式を展開することにより過去の人口についても推計すること が可能である。 ま ず 、 t 期 の 都 市 i の 人 口 を k i t と し 、 t 期 か ら t+ 1 期 に か け て 対 象 地 域 の 都 市 人 口 が ΔQ t 増 加 す る と き 、 都 市 i の t+ 1 期 に お け る 人 口 k i t + 1 は 次 式 で 表 さ れ る 。 kit +1 = kit + kit + μ i − 1 ΔQ t t k j + μ j −1 (4. 2 -39 ) j t こ こ で 、 ΔQ =Σ j k j t+1 -Σ j k j で あ る か ら 、 Σ j k j t =Σ j k j t + 1 -ΔQ t と し て 上 式 に 代 入 す る と 次 式 t が得られる。 kit +1 = kit + kit + μi − 1 ΔQ t k tj+1 + μ j − 1 − ΔQ t j t こ れ を ki に つ い て 解 く と 次 式 を 得 ら れ る 。 - 117 - (4. 2 -40 ) k i ,t = (k + η − 1) − ΔQ k (k + η − 1) j j ,t +1 j j ,t +1 j i ,t +1 − j (ηi − 1)ΔQ (k j j ,t +1 + η j − 1) (4. 2 -41 ) す な わ ち 、当 期 の 人 口 を 用 い て 、前 期 の 人 口 を 推 計 す る こ と が で き る 。な お 、式 (4 .2 -39 ) は 人 口 増 加 局 面 に お け る 推 計 式 で あ り 、も し ΔQ t が マ イ ナ ス な ら ば 、こ の 式 を そ の ま ま 当てはめると人口の大きい都市における減少率が大きく推計される。日本の人口動態 を見ると、人口減少は中小都市から生じており、大都市では人口を維持あるいは増加 さ せ て い る 。 こ の こ と か ら 、 総 都 市 人 口 の 減 少 局 面 に お い て は 、 式 (4. 2 -39 )と は 異 な る メカニズムが働くと考えられる。都市の人口動態が自然的な増減よりも社会的な増減 が支配的であることを反映しており、人口減少下における都市人口の推計を行うため には工夫が必要である。本研究ではアドホックであるが、人口減少は小規模都市から 生じるものと仮定し、次式により推計する。 ∂k i = q ⋅ exp(− γ ⋅ k i ) ∂t s. t. j∈Ω (4. 2 -42 ) exp (− γ ⋅ k j ) = 1 (4. 2 -43 ) こ こ で 、 q は 負 の 値 で あ り 、 γ は 正 の 値 で あ る 。 式 (4 .2 -42 )は 、 都 市 人 口 k i が 大 き い ほ ど 人 口 減 少 率 が 小 さ く 、小 さ い ほ ど 大 き く な る こ と を 意 味 し て い る 。ま た 、式 (4 .2 -43) は総都市人口変化を与えられた変化量と等しくするための制約条件である。人口減少 局 面 の 都 市 人 口 推 計 に お い て は 、現 況 の 都 市 人 口 の 下 で 、ま ず 式 (4 .2 -43 )を 用 い γ を 算 定 し 、 そ れ を 用 い て 、 式 (4.2 -42 )に よ り 個 別 都 市 人 口 の 変 化 量 を 推 計 す る 。 (3) 都 市 圏 半 径 の 推 計 モ デ ル 以上のモデルは、行政界でみた人口を推計することに用いられる。先に述べたよう に、都市人口動態は行政界で見るよりも、都市圏で見るべきであるが、都市圏の範囲 は都市の人口によって変化するため、両者を同時に推計する必要がある。しかし、そ の方法は現時点では存在しないことから、本研究では、上記モデルにより行政界人口 を推計し、それに基づき都市圏人口を推計する。 まず、都市圏として通勤圏を想定する。このとき、都市圏は中心都市と郊外都市か ら構成されていると定義し、中心都市から一定の距離の範囲内にある都市を郊外都市 とする。ここで、都市圏の範囲は都市圏人口の増加関数であると想定する。都市圏が 円形であり、人口密度が都市圏内で一様であるならば、都市圏の範囲は都市圏人口の 平方根に比例すると考えることができる。そこで、ここでは都市圏範囲は都市圏人口 の平方根に比例し、都市圏の範囲内の市町村人口の合計が都市圏人口であると仮定し て、これを次式で表す。 Ri = η PopiAG PopiAG = Pop AD j , whe re (4. 2 -44 ) { Mi = j j∈M i - 118 - d ij < Ri } (4. 2 -45 ) こ こ で 、 R i は 都 市 圏 i の 都 市 圏 半 径 を 表 し 、 Pop i A G と P op j A D は 、 そ れ ぞ れ 都 市 圏 i と 市 町 村 j の 人 口 を 表 す 。 ま た M i は 都 市 圏 i に 含 ま れ る 市 町 村 の 集 合 を 表 し 、 d ij は 都 市 圏 i と 市 町 村 j の 中 心 距 離 を 表 す 。η は パ ラ メ ー タ で あ り 、都 市 圏 の モ ビ リ テ ィ な ど 、 国によって異なるものと仮定する。 こ こ で 、式 (4. 2 -44 )か ら R i を 推 計 す る に は Pop i A G が 必 要 で あ り 、式 (4.2 -45 )か ら P op i A G を 推 計 す る に は Ri が 必 要 と な る が 、 こ れ ら を 解 析 的 に 解 く こ と は で き な い 。 特 に 、 式 (4. 2 -45 )で は 、Po p i A G は 、中 心 都 市 i と 郊 外 都 市 j の 間 の 距 離 、お よ び 郊 外 都 市 j の 人 口 に 依 存 し て お り 、 R i と Pop i A G が 収 束 す る ま で 両 者 を 交 互 に 解 く こ と で 求 め る 。 (4) モ デ ル パ ラ メ ー タ の 推 計 本節では、上記定式化したモデルのパラメータを各種データに基づき推計する。以 下 で は 、 ま ず 使 用 す る 都 市 デ ー タ を 説 明 し 、 次 に 、 (3 )項 の 都 市 圏 半 径 の 推 計 モ デ ル の パラメータを特定化する。このモデルを用い推計した都市圏データを用い、国ごとの 冪パラメータを推計する。 ① 都 市 GIS デ ー タ 整 備 と 都 市 圏 の 設 定 こ こ で は 、 都 市 人 口 デ ー タ を World G aze tteer (h ttp ://www. world -gazetteer.co m/) お よ び GeoNa me s (h ttp ://www.g eon a mes .o rg /)に 基 づ き 整 備 し た 。 こ れ ら の デ ー タ セ ッ ト は 最 新の都市人口とそれらの座標を含んでいる。これらのデータは全体で40万件以上に なるが、非常に人口の少ない集落等のデータも含んでいる。そこで、非都市部の集落 や 村 落 を 除 外 す る た め に 、 人 口 5 千 人 以 上 の デ ー タ の み を 抽 出 し 都 市 G IS デ ー タ セ ッ トを作成する。対象とした2つのデータソースは同一の都市を含んでいることから、 都 市 の 名 称 、 人 口 、 座 標 等 に 基 づ き 、 両 者 を 統 合 し た 。 以 上 の 作 業 に よ り 、 54, 91 0 都 市についての データセットが得られた。 このデータの都市の定義は市町村レベルの行政界である。これを都市圏のデータと す る た め に 、 (3 )項 で 説 明 し た 方 法 に よ り 都 市 圏 の 範 囲 を 推 計 す る 。 そ の 際 、 式 (4.2 -44 ) に 基 づ き 都 市 圏 半 径 を 推 計 す る た め に は 、 η を 与 え る 必 要 が あ る 。 こ こ で は 、 Un ited Nation s Wor ld Urb an iz atio n P ro spe c t da taba s e 1 8 ) で 与 え ら れ る 都 市 圏 デ ー タ と 本 研 究 で 作 成した都市人口データに基づき、データの得られた国について を推計する。この United Na tion s Wo rld Urban iza tion P ro spe ct datab ase で は 、 世 界 の 1 2 0 カ 国 、 約 6 0 0 都市圏の人口について、1950年から現在までの統計値と2025年までの推計値 を 提 供 し て い る 。 た だ し 、 国 ご と に ηを 推 計 す る た め 、 1 2 0 カ 国 の う ち 、 5 つ 以 上 の サンプルを持つ23カ国を対象とした。 国連データでは都市圏の中心座標は与えられていないが、国連データと同じ都市名 を も つ 都 市 G IS デ ー タ の 座 標 を 都 市 圏 の 中 心 座 標 と し て 設 定 す る 。 パ ラ メ ー タ 推 計 で は 、 推 計 さ れ る P op i A G と 国 連 の 2 0 0 7 年 の 統 計 値 の 誤 差 が 最 小 と な る も の を 探 索 す る 。式 (4. 2 -44 )に お い て 、η が 小 さ け れ ば R i も 小 さ く な り 、式 (4.2 -45)で 推 計 さ れ る Pop i A G も 小 さ く な る 。こ の た め 、一 次 探 索 に よ り 推 計 誤 差 が 最 小 と な る η を 求 め る こ と が で き る。 - 119 - 推 計 さ れ た η は 、都 市 圏 内 の 移 動 性 あ る い は 密 度 を 表 す 指 標 と し て 解 釈 す る こ と が で きる。すなわち、このパラメータが大きければ、同じ都市圏人口に対して都市圏の範 囲が広くなり、圏域内の移動距離が長い、あるいは低密度な都市構造となる。そのよ うな都市構造が可能となるのはモータリゼーションの進んだ国においてであり、この た め 、 ηは 経 済 開 発 水 準 と 関 係 が あ る と 考 え ら れ る 。 そ こ で 、 ηを こ こ で は モ ビ リ テ ィ パラメータと名付ける。 図 4 .2. 3 -2 は 、 2 3 カ 国 に つ い て 、 一 人 あ た り GDP に 対 す る モ ビ リ テ ィ パ ラ メ ー タ の推計値をプロットしたものである。これより、十分明確ではないものの、両者の間 に は 相 関 が 見 ら れ る 。 推 計 さ れ た モ ビ リ テ ィ パ ラ メ ー タ が 単 純 に 一 人 あ た り GDP で 説 明しきれないことには、いくつかの理由が考えられる。移動性や都市構造を決定づけ るのは必ずしも経済開発水準のみではない。例えば、米国と日本はともに経済開発が 十分進んでいるが、都市部の人口密度は大きく異なり、多くの米国の都市と比べて日 本の都市の人口密度は高い。これは、両国の地理条件の違いとともに、それに起因し た交通インフラの整備状況やライフスタイルの違い、燃料税などの移動にかかるユー ザーコストの違い、都市化の進展時期の違いなどが影響していると考えられる。図に お い て 、 一 人 あ た り GDP が 2 万 ド ル 以 上 の 国 の 間 で も ば ら つ き が 見 ら れ る が 、 パ ラ メ ータが上位の国は米国やカナダ、オーストラリアなどの大陸型の地理条件を持つ国で あり、下位の国は日本や欧州など、都市の歴史が古く稠密な都市構造を持つ国となっ ている。 一 方 、 一 人 あ た り GDP の 低 い 国 に お い て も 、 モ ビ リ テ ィ パ ラ メ ー タ の 高 い 国 が 存 在 す る 。 こ れ は 、 国 連 デ ー タ と 本 研 究 で 整 備 し た 都 市 G IS デ ー タ の 間 の 不 整 合 を 反 映 し て い る 可 能 性 が あ る 。 都 市 G IS デ ー タ で は 最 新 の 行 政 界 で み た 都 市 人 口 デ ー タ を 整 備 しているが、一部途上国では古い年次のデータが用いられている可能性がある。対象 とする国連データの年次よりも古く、行政界でみた都市人口が少なければ、現実より も広い範囲の都市を都市圏に含む必要があるため、モビリティパラメータが高く推計 される。また、特に途上国では、必ずしも全ての行政界について都市データが整備さ れているわけではなく、実際には都市圏に含まれている都市のデータが欠落している 場合、国連統計と整合する都市圏人口とするためにより広い範囲を都市圏とする必要 があり、やはりモビリティパラメータが高く推計されることになる。 このように、都市圏半径の推計モデル構造の単純さやデータの不整合等の問題があ ると考えられるが、本研究では都市拡大のメカニズムを近似する方法として、ここで 推計されたデータを用いる。 - 120 - 図 4. 2.3 -2 一 人 あ た り GDP に 対 す る モ ビ リ テ ィ パ ラ メ ー タ 以 上 の 分 析 で 推 計 対 象 と し た の は 23 カ 国 で あ り 、こ れ ら の 国 に つ い て は 得 ら れ た モ ビリティパラメータを用いる。一方、データを整備できなかった他の国については、 以下の式を用いてパラメータを推計する。 η = β1 ⋅ (GDP / N + β 2 )β + β 4 3 (4. 2 -46 ) こ こ で 、 GDP /N は 一 人 あ た り GDP で あ り 、 β 1 - β 4 は パ ラ メ ー タ で あ る 。 こ れ ら の β は 23 カ 国 の デ ー タ を 用 い て 推 計 し た 。そ の 結 果 、β 1 = 1 .94 , β 2 = 0. 04 73, β 3 = 0 .175 , and β 4 = 4.67 と 推 計 さ れ た 。 都 市 圏 半 径 は 、 ま ず 、 上 述 の 23 カ 国 に つ い て は 推 計 さ れ た モ ビ リ テ ィ パ ラ メ ー タ を 用 い 、ま た そ の 他 の 国 に つ い て は 式 (4 .2 -46 )を 用 い て モ ビ リ テ ィ パ ラ メ ー タ を 推 計 す る 。 次 に 得 ら れ た モ ビ リ テ ィ パ ラ メ ー タ を 用 い て 、式 (4. 2 -44 )と 式 (4.2 -45 )を 同 時 に 解 く こ と で 都 市 圏 半 径 と 都 市 圏 人 口 を 同 時 に 推 計 す る 。モ ビ リ テ ィ パ ラ メ ー タ が 与 え ら れ る と 、 式 (4.2 -44 )を 用 い て 、 都 市 圏 の 半 径 が 与 え ら れ る 。 こ の と き 、 あ る 都 市 j が 他 の 都 市 i の 都 市 圏 内 に 存 在 す る と き 、言 い 換 え る と 都 市 圏 i の 中 心 と 都 市 j の 距 離 d i j が 都 市 圏 i の 半 径 Ri よ り も 小 さ け れ ば 、 j は 都 市 圏 i に 従 属 す る と 考 え る 。 も し 、 2 つ の 都 市 が 互 いに従属し合っている場合には、両者のうち人口の小さい都市が、人口の大きい都市 に 属 す る と 定 義 す る 。ま た 、2 つ の 都 市 圏 範 囲 が 重 な っ て お り 、そ の 間 に 都 市 j が 存 在 する場合、すなわち、都市 j が 2 つの都市圏に従属すると算定される場合、都市 j は、 R i /d i j が 最 も 大 き く な る 都 市 i に 従 属 す る と 定 義 す る 。 ま た 、 他 の 都 市 を 従 属 さ せ 、 そ れ自身は他の都市に従属しない都市を中心都市と定義し、中心都市とその従属都市で 構成される集合を都市圏と定義する。 ここで、都市圏に従属都市が加わると、都市圏人口が増加し、都市圏半径が長くな る 。す る と 、新 た な 従 属 都 市 が 追 加 さ れ る 可 能 性 が あ る 。式 (4 .2 -44)と 式 (4 .2 -45 )を 用 い 、 新たなに追加される従属都市が無くなるまで、都市圏半径と都市圏人口を交互に繰り 返すことで、都市圏を推計する。 なお、ある都市圏 i が別の都市圏 j の中心都市を従属させる場合、i は j の従属都市 を継承して i の従属都市とする。 このプロセスにより、都市データは、都市圏の中心となる中心都市、都市圏に従属 する従属都市、都市圏を形成せず単独で存在する独立都市、の 3 つに分類される。こ - 121 - こでは、中心都市に、その都市圏の従属都市の人口を全て加えたものと、独立都市で 構成される都市圏データベースを作成した。元の都市データベースとの違いは、中心 都 市 の 人 口 が 都 市 圏 人 口 と な っ て い る 点 と 、従 属 都 市 が 除 か れ て い る 点 の 2 点 で あ る 。 そ の 結 果 、 世 界 で 1, 7 61 都 市 圏 が 生 成 さ れ 、 そ の 中 に は 、 同 数 の 中 心 都 市 と 9, 594 個 の 従 属 都 市 が 含 ま れ る 。 残 り の 4 3,5 55 都 市 は 独 立 都 市 で あ る 。 こ れ よ り 、 都 市 圏 デ ー タ ベ ー ス は 4 5,3 16 件 の 都 市 ま た は 都 市 圏 デ ー タ を 有 す る こ と に な る 。 図 4 .2. 3 -3 は 東 京 、上 海 、ロ サ ン ゼ ル ス に つ い て 、推 計 さ れ た 都 市 圏 を 同 じ 空 間 ス ケ ールで示している。ここで、地図中の丸印のポイントは行政界でみた都市の中心を表 しており、同じ色で示されたものが都市圏を構成している。例えば、上海ではポイン トの数が少なくなっているが、これは行政界の地理範囲が広いことを意味している。 これらの都市圏人口はいずれも 1 千万人を超えているが、都市行政界の範囲やライフ スタイルの国による違い等を反映して、その形状や範囲が異なっていることが読み取 れる。 図 4. 2.3 -3 ② 推計された都市圏(東京、上海、ロサンゼルス) ランクサイズプロットと都市圏データセットの修正 図 4 .2. 3 -4 は 日 本 、中 国 、米 国 の 都 市 と 都 市 圏 の ラ ン ク サ イ ズ プ ロ ッ ト を 示 し て い る 。 ここで、横軸は都市人口または都市圏人口の対数であり、縦軸は都市規模の順位を示 している。すなわち、最大の都市の順位は 1 位であることから、縦軸の値はゼロであ る 。ま た 図 中 の 赤 い ×印 の プ ロ ッ ト は 都 市 デ ー タ で あ り 、黒 い 丸 印 の プ ロ ッ ト は 都 市 圏 データを表している。 図より、都市のプロットと都市圏のプロットを比較すると、日本と米国では、小規 模都市が大都市圏に従属している様子が読み取れる。その結果、都市のプロットと比 べて、都市圏のプロットの傾きは緩やかになっている。なお、中国については両者に 余り違いが見られない。これは、元々の都市の行政界が十分大きく、都市と都市圏が 同 等 で あ る こ と を 示 唆 し て い る 。例 え ば 、図 4.2 .3 -3 で 見 た よ う に 、上 海 周 辺 の 行 政 界 は、日本や米国の都市行政界と比較して非常に大きいことが読み取れる。このため、 中 国 に 関 し て は 都 市 デ ー タ セ ッ ト と 都 市 圏 デ ー タ セ ッ ト に 余 り 違 い が 無 く 、そ の た め 、 ランクサイズプロットも概ね同様の傾向を示していると考えられる。 - 122 - また、図より、人口規模の小さい領域においては、日本と中国ではプロットの傾き が非常に小さく、水平に近くなっている。これは、いくつかの理由が考えられる。一 つは都市の定義に関連するものであり、一定以下の人口の集落は都市としてデータ化 されていないことによる。また、地方部の都市はいくつかの小規模な集落を集めて行 政単位としているものもあり、これは必ずしも通勤圏としての都市圏とは言えない。 その場合、小規模集落はデータとして欠落する一方、それらを集めた人口規模の大き い都市がデータに追加されることになる。また、使用したデータソースにおいて、小 規模都市が十分網羅されていない可能性もある。 本研究の関心は、将来の大都市圏の動向であり、むしろ推計に於いて、データに不 備のある小規模都市を考慮することはバイアスをもたらす可能性があると考えられ る。このため、以下の手順により小規模都市データを除外した。 図 4. 2.3 -4 都 市 人 口 と 都 市 圏 人 口 の ラ ン ク サ イ ズ プ ロ ッ ト ( 赤 :都 市 、 黒 :都 市 圏 ) バイアスをもたらしうる小規模都市データを除外するために、ここでは各国の都市 デ ー タ を 都 市 人 口 の 大 き さ の 順 に 10 個 の サ ブ セ ッ ト に 分 割 し た 。全 て の サ ブ セ ッ ト の サンプル数は同一である。そのサブセット毎に冪パラメータ、すなわちランクサイズ プロットの傾きを求め、冪パラメータの平均と標準偏差を求めた。ここで、最も人口 の小さいサブセットのパラメータが、平均値から標準偏差を引いたものよりも小さけ れば、そのサブセットはデータセットから除外する。これを、最も人口の小さいサブ セットが除外されなくなるまで繰り返すことで、国別のデータセットを作成した。 ③ 冪パラメータの推計 前項で得られたデータセットを用い、冪パラメータを推計する。パラメータ推計に お い て 、 多 く の 既 往 研 究 で は 最 小 自 乗 法 ( O LS ) と H ill の 方 法 が 用 い ら れ て い る 。 こ れらの方法はともに以下の分布構造を仮定している。 ln R = ln A − α ⋅ ln S (4. 2 -47 ) こ こ で 、R は 都 市 の 順 位 、S は 都 市 の 人 口 で あ り 、A、α は パ ラ メ ー タ で あ る 。こ こ で 、 α が 冪 パ ラ メ ー タ で あ り 、 (1 )項 の 定 式 化 に お い て 、 1 + n ( m - 1 ) / q で 表 さ れ た も の を 示 し て い る 。 lnA は ラ ン ク サ イ ズ プ ロ ッ ト の 切 片 と な る が 、 も し 、 α =1 な ら ば A は 最 - 123 - 大 都 市 の 人 口 を 表 す ( R=1 の 場 合 の S) 。 本 研 究 で は 式 (4 . 2 -4 7)に 加 え 、 以 下 の 式 を 用 い た 場 合 の αも 推 計 す る 。 ln R = α ⋅ (ln S max − ln S ) (4. 2 -48 ) S m a x : s iz e o f t he l a rge s t ci t y こ れ は 、 式 (4 . 2 -47 )に お い て 、 A を S m a x に 固 定 し 、 最 大 規 模 の 都 市 が ラ ン ク サ イ ズ プ ロ ッ ト の 回 帰 直 線 上 に 存 在 す る よ う に し た も の で あ る 。以 下 で は 、式 (4 . 2 -47)に 基 づ く 通 常 の 最 小 自 乗 法 に よ る 推 計 を O LS 1、動 式 に 基 づ き H ill の 方 法 で 推 計 し た も の を Hill、 式 (4 . 2 -48 )に 基 づ く 最 小 自 乗 法 に よ る 推 計 を O LS2 と 表 記 す る 。 図 4 .2. 3 -5 は 対 数 ス ケ ー ル の ラ ン ク サ イ ズ プ ロ ッ ト と 回 帰 直 線 を 示 し て い る 。 A と α の O LS 1 は 2 つ の パ ラ メ ー タ に 関 し て 回 帰 し て お り 、 O LS 2 は α の み で 回 帰 し て い る 。 Hill は H ill の 方 法 で α を 推 計 し て い る 。も し 、都 市 規 模 デ ー タ が 誤 差 の な い パ レ ー ト 分 布から生成されているならば、これら 3 つの方法からは全く同一の推計結果が得られ る。しかし、得られたデータはパレート分布により完全には記述されないことから、 これらの 3 つの方法は異なる推計結果を与えることになる。 図 4. 2.3 -5 都市圏人口のランクサイズプロットと回帰直線 こ こ で 、 都 市 数 は 都 市 規 模 が 小 さ い ほ ど 多 く な る 。 従 っ て 、 O LS 1 で は 中 小 規 模 の 領 域 に フ ィ ッ ト す る 直 線 が 推 計 さ れ て い る 。例 え ば 、中 国 で は O LS 1 は 300 万 人 以 下 の 都 市の規模分布によく適合しているが、人口規模の大きい領域では誤差が大きくなって いる。この図表から、都市規模分布は、人口規模に応じた複数の異なる分布で構成し う る こ と が 示 唆 さ れ る 。 B la ck a nd Hen de rson (20 03 )は 、 2 0 世 紀 を 通 じ た 米 国 の 都 市 人 口データに基づき、冪パラメータは推計に使ったデータのサンプルサイズに依存する ことを示している。 O LS 1 と 比 較 し て O LS 2 の 推 計 結 果 は デ ー タ 領 域 全 体 に 対 し て 平 均 的 な 傾 き を 推 計 し て い る よ う に 見 え る 。一 方 、H ill 推 計 量 に つ い て は 、規 模 分 布 が パ レ ー ト 分 布 に 従 わ な い場合バイアスを持つことが報告されており 14) 、上図の日本と米国の結果は、その知 見 と 整 合 的 で あ る と 考 え ら 得 る 。 推 計 さ れ た パ ラ メ ー タ を 表 4.2. 3 -1 に 示 す 。 - 124 - 表 4. 2.3 -1 冪パラメータの推計結果 OLS1 OLS2 Hill Japan 1.00 0.84 0.99 China 0.91 1.23 1.19 USA 0.94 1.01 1.14 冪パラメータが大きい、すなわちランクサイズプロットの傾きが急であることは、 人口の集中の度合いが小さく、分散型の国土構造を表すのに対して、冪パラメータが 小 さ い 場 合 は 、大 都 市 に 人 口 が 集 中 す る 集 中 型 の 国 土 構 造 を 表 す こ と に な る 。こ こ で 、 O LS1 の 推 計 結 果 は 、日 本 の 冪 パ ラ メ ー タ が 米 国 や 中 国 よ り も 大 き く 、両 国 よ り も 分 散 型の国土構造であると解釈される。これは我々の実感とは異なる。このことは、図 4.2. 3 -5 に 示 し た O LS 1 の 最 大 都 市 へ の 当 て は ま り の 悪 さ に 起 因 し て い る と 考 え ら れ る 。 一 方 、 O LS2 で は 逆 の 推 計 結 果 が 与 え ら れ て お り 、 日 本 が 最 も 集 中 型 で あ り 、 中 国 が 最 も分散型となっている。これら 3 カ国の結果を比較すると、冪パラメータの推計にお い て は 最 大 規 模 の 都 市 へ の 当 て は ま り を 考 慮 す る こ と が 望 ま し く 、こ の た め 、O LS 1 よ り も O LS 2 の 方 が 我 々 の 実 感 に 合 致 す る 結 果 が 得 ら れ る も の と 考 え ら 得 る 。 図 4 .2. 3 -6 は 、 2 0 以 上 の 都 市 圏 デ ー タ を 有 す る 1 41 カ 国 に つ い て 推 計 さ れ た 冪 パ ラ メ ー タ の 分 布 を カ ー ネ ル 密 度 関 数 で 示 し て い る 。こ の 結 果 よ り 、Hill 推 定 量 の ば ら つ き は非常に大きく、本研究においては推計量として不適切であると考えられる。2 つの O LS の 推 計 結 果 の 平 均 値 は と も に 1 を 下 回 っ て お り 、 O LS1 で は 0.92 、 O LS2 で は 0. 85 で あ る 。Soo 1 4 ) は 26 カ 国 の 冪 パ ラ メ ー タ を O LS に よ り 求 め 、そ の 平 均 値 は 0. 87 と 推 計 し て い る 。 こ の 結 果 は 、 O LS1 の 結 果 よ り も O LS2 の 結 果 に よ り 近 い 。 た だ し 、 So o の 推 計 方 法 は 通 常 の O LS で あ る 。 図 4. 2.3 -6 冪パラメータのカーネル密度 以 上 の 分 析 よ り 、国 土 構 造 の 解 釈 の 観 点 か ら 、本 研 究 で は O LS2 に よ る 冪 パ ラ メ ー タ の推計が望ましいと考えられ、以降の分析ではその推計量を用いる。 - 125 - (5) 都 市 の 適 合 性 指 標 (1)項 で 説 明 し た よ う に 、 本 研 究 に お け る 冪 パ ラ メ ー タ は 、 都 市 人 口 増 加 率 q 、 都 市 数増加率 n および適合度指標の平均値 m により表される。これらの要素の中で、適合 度は冪パラメータが 1 以上となるか、1 以下となるかを決める最も重要な変数である。 不規則成長モデルは都市人口の増加局面において、都市規模分布が漸近的にパレート 分 布 に 従 う こ と を 再 現 す る も の で あ る た め 、q と n は 通 常 、両 方 と も 正 で あ る こ と を 想 定している。適合度についてはこれまで定義をせずに用いてきたが、もし m が 1 以上 ならば冪パラメータも 1 以上となり、そうでなければ 1 以下となる。本研究では、こ の適合度を、都市の立地する地理条件と気候条件から算定することを試みる。 こ こ で は 、 地 理 ・ 気 候 条 件 と し て 、 全 陸 域 に つ い て 5 分 ×5 分 グ リ ッ ド で 、 標 高 、 傾 斜、海岸線および大規模河川からの距離、年平均気温と年間降水量のデータを整備し た 。 標 高 デ ー タ は SRTM30_P LUS 1 9 ) を 用 い る が 、 元 の デ ー タ は 30 秒 グ リ ッ ド で あ る た め 、 こ れ を 5 分 グ リ ッ ド に 集 計 し た 。 傾 斜 に つ い て は SRTM3 0_P LUS に 基 づ き 以 下 の 手 順 に よ り 推 計 し た 。 ま ず 、 30 秒 グ リ ッ ド の 各 グ リ ッ ド に つ い て 隣 接 す る グ リ ッ ド と の標高差と距離から平均傾斜を推計する。その 5 分グリッド内の最大値を代表値とし て 用 い る こ と と し た 。 海 岸 線 は P itn e y Bo we s Bu sine ss Insig h t 2 0 ) の 国 境 ポ リ ゴ ン デ ー タ か ら 抽 出 し 、大 河 川 は H yd roSHEDS 2 1 ) か ら 取 得 し た 。こ こ で 、H ydroSHEDS の デ ー タ は 標 高 デ ー タ に 基 づ き 構 築 さ れ て お り 、必 ず し も 現 実 の 河 川 を 表 し て い る わ け で は な い 。 本 研 究 で は こ の デ ー タ の う ち 、 累 積 流 域 セ ル の 数 が 30 万 個 以 上 で あ り 、 な お か つ 、 Glob al La nd C o ve r C h ara c te ristic s da tab ase version 2 .0 2 2 ) に お け る 砂 漠 以 外 の 地 点 を 大 河 川 と し て 設 定 し た 。 平 均 気 温 は Wo rldC lim 2 3 ) を 用 い た 。 図 4 .2. 3 -7 は 、都 市 の 存 在 す る グ リ ッ ド と 全 陸 域 グ リ ッ ド の そ れ ぞ れ に つ い て 、こ れ らの指標の分布を示したものである。全陸域グリッドの分布と比較して、都市グリッ ドの分布は、標高が低く、傾斜が緩やかであり、海岸線・大河川に近接しており、一 定程度の気温と降水量を有する場合に多くなっていることが分かる。この、全陸域の 分布と都市グリッドの分布の違いは、都市としての各種条件の望ましさを反映してい ると想定し、各地理・気候条件における都市の生起確率を、都市グリッドにおけるカ ーネル密度と全陸域におけるカーネル密度の比で定義した。求められた生起確率と、 こ れ を パ ラ メ ト リ ッ ク 関 数 で 近 似 し た も の を 図 4 .2. 3 -8 に 示 す 。 な お 、 標 高 、 傾 斜 、 海 岸線・大河川からの距離については指数分布で近似し、気温、降水量については、対 数正規分布で近似している。 - 126 - 図 4. 2.3 -7 図 4. 2.3 -8 地理条件、気候条件のカーネル密度 地理条件、気候条件に対する都市の生起確率 これらの生起確率は地理・気候条件に関する都市の立地点としての適合度を表して いるものと考えられる。そこで、これらの確率密度を合成して適合性指標を作成する ことを考える。ここでは単純に、確率密度の算術平均として、次式のように適合度指 標を定義する。 Fi = ( 1 f j xij θ j J j ) (4. 2 -49 ) こ こ で 、 Fi は グ リ ッ ド i に お け る 適 合 性 指 標 で あ り 、 fj は 要 素 j に 関 す る 確 率 密 度 関 数 、 xij は グ リ ッ ド i に お け る 要 素 j の 値 、 θj は 密 度 関 数 の パ ラ メ ー タ 、 J は 要 素 数 で あ - 127 - る。要素集合は、標高、傾斜、海岸線からの距離、大河川からの距離、年平均気温、 年 間 降 水 量 で あ る 。 全 陸 域 グ リ ッ ド に お け る 算 定 さ れ た 適 合 度 指 標 を 図 4.2 .3 -9 に 示 す。 図 4. 2.3 -9 適合度指標の地理分布 こ の 適 合 度 指 標 の 国 別 の 平 均 値 と (4) ③ 項 で 推 計 さ れ た 冪 パ ラ メ ー タ の 関 係 を 図 4.2. 3 -10 に 示 す 。な お 、適 合 度 指 標 の 平 均 値 は 、都 市 の 存 在 す る グ リ ッ ド に 関 す る 平 均 で あ り 、 Ω c を 都 市 の 存 在 す る グ リ ッ ド の 集 合 と し て 、 <F> = Σ i ∈ Ω c F i /|Ω c |と し て 求 め た 。 こ こ で は 、 2 8 件 以 上 の 都 市 圏 デ ー タ を 有 す る 132 カ 国 に つ い て 示 し て い る 。 図 4. 2.3 -10 適合度指標と冪パラメータの関係 こ の 結 果 よ り 、適 合 度 指 標 と 冪 パ ラ メ ー タ に は 、弱 い な が ら も 正 の 相 関 が 見 ら れ る 。 ここに、正の相関が見られると言うことは、都市としての適合性の高い地点が多くあ る国では、分散型の国土構造となり、逆に適合性の低い地点の多い国では、集中型の 国 土 構 造 と な る 傾 向 が あ る こ と を 意 味 す る 。す な わ ち 、国 土 の 地 理 条 件 と 気 候 条 件 は 、 国土構造と都市規模分布に影響を与えている可能性があるといえる。 一方で、この相関が弱いものに留まっている理由として、分析対象とした要因が限 定的であること、モデルおよびデータの質が不十分なこと、等が考えられる。当然の ことながら、国土構造の決定要因は自然地理条件や気候条件だけではなく、政治シス テムや経済構造、歴史的経緯や国土基盤施設の整備状況など様々な要因が影響してい る と 考 え ら れ る 。 So o は 44 カ 国 に つ い て 、 推 計 さ れ た 冪 パ ラ メ ー タ を 、 各 国 の 政 治 指 標、経済指標を説明変数とする回帰分析により説明することを試みているが、それら - 128 - の政治指標や経済指標が、なぜ冪パラメータに影響を及ぼすかについては必ずしも明 らかにはされていない。 交通インフラについても、都市の適合性に影響を与えると考えられる。しばしば交 通インフラ整備に伴い工業団地等が発生し周辺の都市化が進む状況が観察される。し かしながら、交通投資は都市部ほど大きく、つまり、都市の成長に応じてインフラが 整備されてきている。従って、単純に交通インフラを都市の適合度の説明変数として 用いることはトートロジーであり、むしろ各国の間でインフラの整備状況に差をもた らす要因により説明することが適切であると考えられる。 以上のような課題が残されているが、本研究では、この方法を用いて、地理条件、 気候条件に基づき都市別の適合度を与える。まず、適合性指標を地理条件、気候条件 に 基 づ き 算 定 し 、 こ れ を 図 4. 2.3 -1 0 の 回 帰 式 を 用 い て 変 換 し た 値 を 各 都 市 の 適 合 度 μ とする。 本モデルは、極めて単純な立地選好に従って都市人口を推計しており、実際の人々 の行動に関わる要素は明示的には考慮していない。本研究のアプローチ以外にも、 Gib ra t 則 に 基 づ き 都 市 規 模 の パ レ ー ト 分 布 を 導 出 す る ア プ ロ ー チ に 関 す る 研 究 が 進 め ら れ て い る 。こ こ で 、Gib ra t 則 と は 都 市 の 成 長 率 が 確 率 変 数 で あ り 、そ れ が 都 市 規 模 と 独立であるならば、都市規模について漸近的にパレート分布が導かれる法則のことで ある 7) 。Ros s i -H ans be rg and Wrigh t 9 ) は 、Gibrat 則 を 経 済 成 長 を 内 生 化 し た 一 般 均 衡 モ デ ルから導出し、パレート分布の冪パラメータは都市における生産性の確率変動の大き さに依存することを示している。この方法は、都市システムの形成過程を説明する有 力な方法の一つと考えられる。しかしながら、この方法は生産性の変動を表すために 乱数を用いる必要があり、従って、個別の都市を見ると、その将来予測はシミュレー ションの試行によって結果が異なってくる。すなわち、この予測シミュレーションか ら得られる結果は、都市規模分布という集計化された形で見ると安定的な結論を得ら れるが、個々の都市を見ると、無限に起こりうる結果の一つを示すに過ぎないことに なる。モンテカルロ法では、多数回の試行により推計の信頼区間を求めることも可能 だが、都市人口の将来推計において、その性能はまだ確認されていない。 適合度指標推計におけるデータの質と合成方法についても留意が必要である。大河 川 を 表 現 す る た め に 用 い た H yd roSHEDS デ ー タ は 標 高 デ ー タ に 基 づ き 生 成 さ れ た も の であり、それは流域における降水量を考慮しておらず、必ずしも現実の河川を表すも のではない。本研究では、アドホックに砂漠地帯の河川を除いたが、その他の土地利 用グリッドにおける流出量は未確認である。ここでは、大河川は内陸部の物流にかん して重要な要素であると想定したが、季節河川などは物流を目的とした河川としては 利用することは出来ないであろう。今後はデータをより詳細に確認することが必要で ある。加えて、各要素を合成した適合度指標の算出方法として、ここでは加法的に指 標を合成したが、合成方法としては乗法型、混合型など様々な方法がある。こうした 合成方法についてもより一般的な方法を検討することが必要である。 - 129 - 4.2.4 都 市 圏 別 人 口 の 将 来 推 計 本 章 で は 、SRES シ ナ リ オ に 基 づ き 将 来 の 都 市 圏 別 人 口 を 推 計 す る と と も に 、そ の 妥 当性について検討する。 (1) 都 市 人 口 の 設 定 SRES と 整 合 的 な 都 市 人 口 に つ い て は IIAS A-GG I デ ー タ ベ ー ス で 提 供 さ れ て い る 。オ リ ジ ナ ル の SRES で は 世 界 11 地 域 毎 の 将 来 人 口 が 設 定 さ れ て い る が 、 こ れ を ダ ウ ン ス ケ ー リ ン グ す る こ と に よ り 国 別 の 人 口 を 与 え て い る 。た だ し 、A2 シ ナ リ オ に つ い て は 、 統 計 お よ び 国 連 の 推 計 と の 乖 離 が 大 き い こ と が 明 ら か に な っ た た め 、IIASA が 修 正 し た A2r シ ナ リ オ を 用 い て い る 。 図 4. 2.4 -1 将 来 の 都 市 人 口 シ ナ リ オ ( S RES) (2) 都 市 圏 人 口 の 推 計 2000 年 を 基 準 年 と し て 、 1 950 年 か ら 210 0 年 ま で の 都 市 人 口 を 推 計 し た 。 こ こ で 、 1950 年 か ら 2 000 年 ま で の 都 市 圏 人 口 は 式 (4.2 -41 )に 基 づ く 遡 及 推 計 で あ り 、 全 て の シ ナ リ オ で 同 一 で あ る 。 一 方 、 2000 年 か ら 2100 年 の 期 間 は 、 式 (4.2 -39 )を 用 い た シ ナ リ オに基づく推計であり、シナリオごとに異なる。 図 4 .2. 4 -2 は 195 0 年 か ら 200 0 年 ま で の 都 市 人 口 の 推 計 結 果 を 示 し て い る 。こ の 推 計 結 果 か ら は 、 1970 年 代 以 前 に は 、 人 口 1 千 万 を 超 え る メ ガ シ テ ィ は そ れ ほ ど 多 く な か っ た が 、 1980 年 代 以 降 、 巨 大 都 市 が 増 加 し て き た 様 子 が 読 み 取 れ る 。 ま た 、 都 市 圏 人 口 が 300 0 万 人 を 超 え る 都 市 圏 は 2 000 年 時 点 で は 東 京 の み と な っ て い る 。 - 130 - 図 4. 2.4 -2 都 市 人 口 の 遡 及 推 計 結 果 ( 1 950 年 ∼ 2 000 年 ) なお、上記の都市人口は、モデルによる遡及推計の結果を示している。ここで、国 連の都市圏データベースより集計される、人口階級別の都市数と、本モデルで推計し た 都 市 数 を 、 表 4 .2. 4 -1 、 表 4. 2.4 -2 に 示 す 。 こ れ ら を 比 較 す る と 、 ま ず 、 人 口 3 千 万 人以上の都市数については国連統計とモデル推計は一致しており、また、その都市圏 は 東 京 で あ る 。 人 口 1 千 万 人 か ら 3 千 万 人 の 都 市 数 に つ い て は 、 1 970 年 代 以 降 、 本 モ デ ル の 結 果 が 過 大 と な っ て い る 。 モ デ ル で は 200 0 年 の 人 口 を 与 え た 上 で 、 そ れ 以 前 の 都 市 数 を 遡 及 的 に 推 計 し て い る が 、 2 000 年 の 時 点 で 、 当 該 階 級 の 都 市 数 は 多 く な っ て いる。これは、都市圏人口を行政界人口とモビリティパラメータに基づき推計してい るが、その推計誤差に起因していると考えられる。都市圏の範囲はデータの十分な都 市については国平均のモビリティパラメータを与えており、またデータの不十分な都 市 に つ い て は GDP に 基 づ き そ の パ ラ メ ー タ を 推 計 し て い る 。 こ こ で 、 デ ー タ の 十 分 無 く二については、国平均のパラメータを用いることにより、個別の都市で見ると誤差 が生じている可能性がある。また、データが不十分な国では、モビリティパラメータ の 推 計 に 起 因 し た 誤 差 が 生 じ て い る も の と 考 え ら れ る 。 こ の た め 、 20 00 年 時 点 の 都 市 - 131 - 圏人口の推計精度を向上させることにより、それ以前の当該階級の都市数の推計精度 は向上するものと考えられる。 一方、1千万人以下の都市人口階級の都市数については、本モデルの推計結果がや や過小推計となっている。特に、百万人から二百万人の階級では全ての年代で過小推 計 で あ る 。 こ れ は 、 1 千 万 人 か ら 3 千 万 人 の 階 級 と は 逆 に 、 2 000 年 時 点 の 都 市 数 が 少 ないことに起因していると考えられ、これも、現況の都市人口の推計精度を向上する ことにより改善しうると考えられる。 このような誤差はあるものの、全体として見ると、全ての階級において都市数が増 加 し て い る と い う 19 50 年 か ら 20 00 年 ま で の 傾 向 は 、 お お よ そ 再 現 で き て い る と 言 え る。 表 4. 2.4 -1 1 -2 millio n 国連データベースに基づく人口階級別都市数 2 -5 millio n 5 -1 0 million 10 -30 million MT 30 million 1950 51 20 5 2 0 1960 69 29 10 2 0 1970 98 44 16 2 0 1980 130 66 20 4 0 1990 175 92 20 9 1 2000 219 115 28 15 1 表 4. 2.4 -2 1 -2 millio n モデルで推計された人口階級別都市数 2 -5 millio n 5 -1 0 million 10 -30 million MT 30 million 1950 48 18 7 1 0 1960 56 29 11 1 0 1970 83 43 12 4 0 1980 120 50 16 8 0 1990 155 83 23 14 1 2000 188 117 25 20 1 次 に 、 各 シ ナ リ オ の 下 で の 、 2 050 年 、 2100 年 に お け る 階 級 別 都 市 の 地 理 分 布 を 図 4.2. 4 -3 に 示 す 。 図 よ り 、 い ず れ の シ ナ リ オ に お い て も 、 2 000 年 と 比 較 し て 、 現 在 の 開 発途上国を中心に、人口 3 千万人以上の巨大都市圏が増えていることが分かる。ただ し 、そ の 数 は シ ナ リ オ に よ っ て 大 き く 異 な っ て い る 。ま ず 、205 0 年 を 比 較 す る と 、SRE S シナリオ間で、それほど大きな差は見られない。 2100 年 の 結 果 は 、 SR ES シ ナ リ オ 間 で 大 き な 差 が 見 ら れ る 。 A2 r シ ナ リ オ で は 中 国 、 インド、アフリカ、中東地域を中心に多数の巨大都市圏が出現し、特にインドにおい て 著 し く 増 加 す る と 推 計 さ れ て い る 。 B 1 シ ナ リ オ で は そ の 数 は A2 r シ ナ リ オ と 比 較 し て 少 な く 、 中 国 を 見 る と 、 20 50 年 に 上 海 が 人 口 3 千 万 人 を 超 え て い た も の が 、 人 口 減 - 132 - 少 に よ り 3 千 万 人 を 下 回 る と 推 計 さ れ て い る 。 B2 シ ナ リ オ は 、 両 者 の 中 間 的 な 分 布 を 与えている。 いずれにしても、各シナリオで巨大都市圏の出現が予想される地域は南アジアやア フリカといった現在の途上国であり、日本、米国、欧州といった現在の先進国では、 それほど大きな変化が見られず、人口 3 千万人以上の都市圏が新たに出現するのは、 A2r シ ナ リ オ に お け る 、 米 国 の Ne w Yo rk 都 市 圏 の み で あ る 。 a)A2 r シ ナ リ オ b)B1 シ ナ リ オ c)B2 シ ナ リ オ 図 4. 2.4 -3 都 市 人 口 の 推 計 結 果 ( S RES シ ナ リ オ ) 各 シ ナ リ オ に お け る 人 口 階 級 別 の 都 市 数 を 表 4.2 .4 -3 ∼ 表 4.2 . 4 -5 に 示 す 。こ れ よ り 、 地 図 上 で の プ ロ ッ ト で は 読 み 取 り に く か っ た 、各 階 級 の 人 口 動 態 が 分 か る 。SRE S シ ナ リ オ を 見 る と 、A2 r シ ナ リ オ で は 、人 口 3 千 万 人 以 上 の 都 市 圏 だ け で は な く 、百 万 人 以 上の全ての階級で他のシナリオよりも都市数、都市圏数が多くなっている。また、逆 に B1 シ ナ リ オ で は 全 て の 階 級 で 都 市 数 が 他 の シ ナ リ オ よ り も 少 な い こ と が 分 か る 。こ の シ ナ リ オ で は 、 205 0 年 以 降 、 総 都 市 人 口 が 減 少 す る こ と に よ り 、 都 市 数 も 減 少 す る - 133 - 傾 向 が 見 ら れ 、 特 に 百 万 人 か ら 二 百 万 人 の 階 級 の 都 市 数 は 20 7 0 年 を ピ ー ク と し て 、 そ の後大きく減少している。 表 4. 2.4 -3 人 口 階 級 別 都 市 数 ( SRES -A 2r シ ナ リ オ ) 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 1 -2 millio n 188 242 290 320 379 417 456 482 506 525 544 2 -5 millio n 117 144 167 201 230 249 273 311 346 368 371 5 -1 0 million 25 37 56 72 84 97 103 109 110 122 135 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 表 4. 2.4 -4 人 口 階 級 別 都 市 数 ( SRES -B 1 シ ナ リ オ ) 1 -2 millio n 2 -5 millio n 5 -1 0 million 10 -30 million MT 30 million 188 117 25 20 1 244 142 37 27 2 283 167 55 30 7 312 189 63 38 8 336 202 68 43 13 343 220 79 44 13 340 233 83 46 13 352 236 80 49 13 317 241 81 47 14 312 236 80 46 15 301 226 80 47 14 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 表 4. 2.4 -5 人 口 階 級 別 都 市 数 ( SRES -B 2 シ ナ リ オ ) 1 -2 millio n 2 -5 millio n 5 -1 0 million 10 -30 million MT 30 million 188 117 25 20 1 240 143 39 27 2 279 167 53 32 7 307 189 65 39 11 349 215 73 49 13 391 233 77 60 13 415 239 86 65 16 434 248 88 70 17 446 266 91 72 18 456 280 94 77 20 460 285 95 77 22 - 134 - 10 -30 million 20 27 31 39 52 70 75 82 90 92 92 MT 30 million 1 2 7 11 13 14 19 23 30 37 42 (3) 推 計 結 果 の 検 証 本節では、いくつかの国について、ランクサイズプロットを示すことで、推計結果 のパレート分布の成立状況を把握するとともに、いくつかの都市圏人口について、国 連都市圏人口データベースと本モデルによる推計結果を比較することで、本モデルの 妥当性と課題を検討する。 ま ず 、 日 本 の ラ ン ク サ イ ズ プ ロ ッ ト を 図 4.2. 4 -4 に 示 す 。 こ こ で は 、 19 50 年 、 200 0 年 、2 050 年 、210 0 年 の 分 布 を 示 し て い る 。こ れ よ り 、195 0 年 か ら 200 0 年 に か け て は 、 都 市 人 口 の 増 加 に よ り 分 布 曲 線 は 右 側 に シ フ ト し て い る が 、 2 000 年 以 降 は 人 口 減 少 局 面 と な る た め 、 分 布 形 状 は ほ と ん ど 変 わ っ て い な い 。 た だ し 、 2050 年 の 曲 線 で は 人 口 規模の小さい領域において曲線の傾きが小さくなっている。これは、本研究で想定し たように、人口減少は小規模都市から生じると想定していることを反映しており、そ れら小規模都市が消滅することを表している。ただし、この結果から、人口規模の大 き い 領 域 に お い て は 、 こ の 曲 線 の 傾 き は 2 000 年 と ほ と ん ど 変 わ っ て お ら ず 、 将 来 推 計 においてもランクサイズルールが安定的に得られていることが分かる。 図 4. 2.4 -4 ランクサイズプロット(日本) 次 に 、 中 国 の ラ ン ク サ イ ズ プ ロ ッ ト を 図 4.2. 4 -5 に 示 す 。 こ れ よ り 、 SRES -A 2 r シ ナ リ オ で は 曲 線 は 一 貫 し て 右 に シ フ ト し て い る が 、 B 2 シ ナ リ オ で は 205 0 年 と 21 0 0 年 が ほ ぼ 同 じ 曲 線 と な っ て お り 、 B 1 シ ナ リ オ で は 205 0 年 か ら 210 0 年 に か け て 曲 線 が 左 に シフトするとともに、小規模都市が消滅する様子が読み取れる。これより、中国に関 し て は 、 205 0 年 ま で は い ず れ の シ ナ リ オ で も 大 都 市 は 更 に 成 長 す る が 、 2 100 年 に か け て は SRE S -A2 r シ ナ リ オ で は 更 に 成 長 す る も の の 、SRES -B2 シ ナ リ オ で は 大 都 市 の 成 長 は 収 束 し 、 小 規 模 都 市 の 人 口 は 減 少 し 、 S RES -B1 シ ナ リ オ で は 大 都 市 で も 人 口 が 減 少 すると推計されていることが分かる。 - 135 - 図 4. 2.4 -5 ランクサイズプロット(中国) 以上、日本と中国を例としてランクサイズプロットを示したが、推計対象としたほ ぼ 全 て の 国 で 、将 来 推 計 さ れ る 都 市 規 模 分 布 は パ レ ー ト 分 布 を お お む ね 満 た し て お り 、 またそのパラメータは大きく変化しないことが分かった。このことは、将来推計され る都市人口から得られる都市規模分布が、現在の経験則を満たしていることを意味し ており、推計の妥当性を示す証左の一つになると考えられる。 次に、個別の都市圏について、本研究の推計結果と国連の都市圏人口データを比較 す る こ と で 、 推 計 の 妥 当 性 を 検 討 す る 。 国 連 の 都 市 人 口 デ ー タ ベ ー ス で は 世 界 580 都 市 圏 に つ い て 、 1 950 年 か ら 現 在 ま で の 人 口 統 計 と 、 2 025 年 ま で の 推 計 結 果 を 提 供 し て い る 。ま た 、本 推 計 で は 、20 00 年 を 基 準 と し て 、都 市 毎 に 19 5 0 年 ま で の 遡 及 推 計 を 行 い 、2 000 年 か ら 210 0 年 ま で に つ い て は 各 シ ナ リ オ 下 で の 人 口 を 推 計 し て い る 。こ れ ら を比較することで、国連の統計に対し、本モデルによる過去の人口推計がどの程度当 てはまっているか、また、将来推計についてのシナリオ間の相違を把握する。 図 4 .2. 4 -6 は 、 SRE S シ ナ リ オ に 基 づ く 日 本 の 都 市 圏 の 人 口 推 計 結 果 を 表 し て い る 。 こ こ で 、 過 去 の 人 口 に つ い て は 、 2000 年 の 人 口 に 基 づ く 推 計 の た め シ ナ リ オ 間 で 差 は 存在しない。まず、過去の人口推計と国連統計とを比較すると、東京と京都は概ね推 計 値 と 統 計 値 が 同 様 の 傾 向 を 示 し て い る 。 ま た 、 大 阪 は 197 0 年 以 前 の 再 現 性 は 良 好 だ が 、2 000 年 時 点 の 推 計 値 が 過 大 と な っ て い る 。名 古 屋 に つ い て は 200 0 年 時 点 の 都 市 圏 人口を過大推計しており、過去の推計についても一貫して過大推計となっている。福 岡 は 逆 に 一 貫 し て 過 小 推 計 と な っ て お り 、 札 幌 は 、 20 00 年 時 点 の 人 口 は 過 少 推 計 と な っ て い る が 、 195 0 年 代 の 人 口 は 過 大 推 計 と な っ て い る 。 このように、過去の都市圏人口の再現性は、都市圏によってまちまちであり、一貫 した傾向は見られない。その理由として、都市圏の推計モデルは、国平均のパラメー タを用いており、その平均からの偏差によって誤差の現れ方が異なっていることが考 えられる。現況の都市圏人口を過大に推計している大阪や名古屋では、モビリティパ ラメータが国平均よりも低い値を取る必要があり、逆に福岡や札幌などはそのパラメ ータがより高い値を取る必要があるものと考えられる。さらに、札幌のように、現況 の都市圏人口は過少推計だが、過去の人口は過大推計となっている都市圏では、モビ リティパラメータ自体が経年的に変化するよう設定すべきと考えられる。すなわち、 - 136 - 現況については国平均よりも高く設定し、過去についてはモビリティパラメータが低 下するように設定することにより、過去の都市圏範囲をより狭くすることができ、統 計とより合致した推計が行われることになる。これについては、例えば、交通インフ ラの整備量等を用いて説明することも可能と考えられるが、世界の都市圏の交通整備 量についてはデータが整備されていないため、この方法をとることが出来るのは一部 の都市圏に限られる。ただし、このような分析方法の工夫により、将来のモビリティ パラメータの設定方法についても示唆を与えることが出来ると考えられる。 図 4. 2.4 -6 推 計 結 果 の 比 較 ( SR ES シ ナ リ オ 、 日 本 ) 次 に 、 米 国 の 3 都 市 に つ い て の 推 計 結 果 を 図 4.2 .4 -7 に 示 す 。 こ れ よ り 、 N ew York と Lo s Ang e le s は 国 連 デ ー タ と 比 較 し て 過 小 推 計 と な っ て お り 、San An ton io は ほ ぼ 統 計 と一致した推計結果となっている。米国の都市については、過小推計となっているも の が 多 く 、モ ビ リ テ ィ パ ラ メ ー タ の 推 計 方 法 や 使 用 デ ー タ な ど を 精 査 す る 必 要 が あ る 。 - 137 - 図 4. 2.4 -7 米 国 都 市 の 推 計 結 果 ( S RES シ ナ リ オ ) 米 国 に つ い て は 、程 度 の 差 は あ る が 、い ず れ の シ ナ リ オ も 人 口 が 増 加 し て い る 。SRES で は A2 r シ ナ リ オ と B1 シ ナ リ オ が 同 様 の 傾 向 を 示 し て お り 、 N ew York 都 市 圏 は A2r シ ナ リ オ で 、 210 0 年 に 人 口 が 3 千 万 人 を 超 え る と 予 想 さ れ る 。 中 国 都 市 の 推 計 結 果 を 図 4.2 .4 -8 に 示 す 。 こ れ よ り 、 200 0 年 時 点 の 推 計 結 果 は 、 概 ねいずれの都市も統計と合致しているが、過去の遡及推計結果は、過小推計となる傾 向 が 見 ら れ る 。中 国 で は 、か つ て 厳 し い 戸 籍 制 度 の 下 で 人 口 移 動 が 制 限 さ れ て い た が 、 近 年 こ う し た 制 限 が 緩 和 さ れ 都 市 部 で の 人 口 が 急 増 し て い る 。 上 海 を 見 る と 、 195 0 年 か ら 198 0 年 ま で は ほ ぼ 人 口 は 横 ば い で あ り 、 人 口 動 態 は 、 こ う し た 制 約 を 反 映 し て い るものと考えられる。一方、本モデルの想定では、都市規模に応じた選好に基づき都 市 人 口 は 増 加 す る こ と を 想 定 し て お り 、人 口 移 動 に 関 す る 制 約 条 件 は 考 慮 し て い な い 。 このため、現在の都市人口から推計される過去の人口は、統計値と比べて過小になっ ており、逆に、もし人口移動に関する制約が無かったとすれば、上海や北京の人口は より大きなものになっていたと考えられる。 SRES の A2 r シ ナ リ オ で は 、 上 海 の 人 口 は 210 0 年 に 9 千 万 人 を 超 え る と 推 計 さ れ て おり、北京についても 5 千万人を超えると推計されている。現在、世界最大の都市圏 は 東 京 都 市 圏 で 約 3 千 万 人 だ が 、A2 r シ ナ リ オ で は 、そ れ を 遙 か に 上 回 る 巨 大 都 市 圏 が 出 現 す る と 予 想 さ れ る 。一 方 、上 海 の 人 口 は B2 シ ナ リ オ で は 2 100 年 に 550 0 万 人 、B 1 シ ナ リ オ で は 、 2 040 年 に 340 0 万 人 の ピ ー ク を 迎 え 、 そ の 後 減 少 す る 。 図 4. 2.4 -8 中 国 都 市 の 推 計 結 果 ( S RES シ ナ リ オ ) - 138 - ただし、以上の推計結果は、人口移動に制約の無いことを想定した結果であり、都 市への人口流入規制等が実施されれば、当然のことながら、全く異なる結果が得られ ることになる。 インドの都市については、統計値に対してやや過大推計となっているが、都市人口 の増加傾向は概ね統計値と同様の傾向となっており、現況の誤差を修正すれば、本モ デルによる人口動態の再現性は良好であると言える。 イ ン ド で は 中 国 以 上 に 都 市 人 口 の 増 加 が 顕 著 で あ り 、 SRES -A 2r シ ナ リ オ で は 、 2 10 0 年 に は ム ン バ イ の 人 口 は 1 億 3 千 万 人 を 超 え て お り 、 B2 シ ナ リ オ で も 、 1 億 人 を 超 え ると推計されている。これほどの人口を居住させるためには、水資源の確保や各種社 会基盤の大規模な整備が不可欠であり、逆に、こうした要因が人口増加の制約となり うる。本モデルでは、都市生活に必要とされる資源制約については考慮しておらず、 単純に人口と地理・気候条件から推計される適合性指標により都市の選好が決まると 想定している。しかし、水資源が確保できない中での都市への過度な人口集中は、生 活水準を極端に悪化させ、それが都市成長の制約条件になるものと考えられる。本モ デルの結果は、制約が無い場合に起こりうる人口動態を示しており、社会基盤や資源 管理の必要性、あるいは人口移動管理の必要性を示唆するものであると言える。 図 4. 2.4 -9 イ ン ド 都 市 の 推 計 結 果 ( SRE S シ ナ リ オ ) 最 後 に 、 平 成 20 年 度 と 本 年 度 の 推 計 結 果 を 、 東 京 を 例 と し て 比 較 す る 。 以 前 の 推 計 では、都市圏の地理範囲を現況に固定して推計していたが、都市圏の地理範囲は、そ の人口規模に応じて拡大すると考えられる。このため、人口が成長する都市圏におい て地理範囲を固定して分析すると、過去の人口を過大に推計し、将来の人口を過少に 推 計 す る こ と に な る と 考 え ら れ る 。実 際 、図 4 .2. 4 -1 0 の 左 図 は 平 成 20 年 の 方 法 に よ る 東京都市圏の推計結果を示しているが、国連統計と比較して過去の人口が過大推計と なっており、将来推計については、国連よりも低い推計結果となっている。一方、本 年度は、都市圏人口に応じた都市圏の地理範囲の拡大をモデルに組み込むことで、都 市圏人口推計の精緻化を図っている。その推計結果を見ると、過去の推計結果は、ま だ 過 大 推 計 と な っ て は い る が 、そ の 偏 差 は 平 成 2 0 年 の 方 法 と 比 較 し て 小 さ く な っ て お り、また、将来の推計人口については国連の推計とほぼ同程度の水準となっている。 以上のことから、本年度のモデル改良により推計の妥当性は向上したと考えられる。 - 139 - ただし、いくつかの国、都市については、現況再現性が不十分であることから、更な る分析手法の工夫が必要である。 図 4. 2.4 -10 将 来 都 市 人 口 の 推 計 結 果 ( 左 : H 21 年 推 計 、 右 : H22 年 推 計 ) (4) 推 計 結 果 の 考 察 以上の結果より、世界の都市人口は想定するシナリオにより大きく異なるが、概ね いずれのシナリオでも、今後、主に途上国において巨大都市が多数出現し、また、こ れまでに存在しない規模の超巨大都市が出現する可能性が示された。 人 口 1 千 万 人 以 上 の メ ガ シ テ ィ は 200 0 年 に は 21 都 市 存 在 す る と 推 計 さ れ た が 、 こ れ が 210 0 年 に は SRES -A2 r シ ナ リ オ で は 1 34 都 市 、 B1 シ ナ リ オ で は 61 都 市 、 B2 シ ナ リ オ で は 99 都 市 に な る と 推 計 さ れ た 。 シ ナ リ オ に よ っ て 、 ば ら つ き は 大 き い も の の 、 2000 年 と 比 較 し て 210 0 年 に は メ ガ シ テ ィ の 数 は 3 倍 か ら 6 倍 に 増 加 す る と 推 計 さ れ た 。 ただし、先進国では、メガシティはそれほど増加せず、途上国において大きく増加す ると推計される。特に、南アジアとアフリカでの増加が顕著になると推計された。 また、このシミュレーションにおいて、国別のランクサイズプロットは人口変化に 応 じ て 平 行 移 動 す る が 、 そ の 傾 き は 、 ほ ぼ 変 化 し な い 。 こ れ は 、 将 来 推 計 人 口 が Zip f 則を満たすことを意味するため、人口推計手法として望ましい特徴であると考えられ る。 個 別 の 都 市 圏 の 推 計 結 果 を 見 る と 、 2 00 0 年 の 推 計 に 誤 差 が 生 じ て い る 都 市 が 少 な か らずある。これは、都市圏推計モデルを国別に求めており、都市の個別性が捨象され ていることに起因すると考えられる。また、使用した都市人口データについても精度 は必ずしも確認されておらず、データの不備に起因したバイアスも存在する可能性が ある。 また、過去の人口推計については、現況都市圏の推計誤差に起因した乖離が生じて いる都市が多いが、中国のように人口移動を制限するなど、政策による都市人口の管 理を行っていた国では、推計される人口トレンドが統計と乖離している。本モデルで は、政策要因を考慮していないため、こうした状況に対応するためには、本モデルと は別の推計メカニズムを検討する必要がある。 イ ン ド の 都 市 で は 、 1 950 年 か ら 20 00 年 ま で の 人 口 増 加 の 傾 向 は 良 く 一 致 し て い る 。 SRES -A2 r で は ム ン バ イ の 人 口 は 21 00 年 に は 1 億 3 千 万 人 を 超 え る と 推 計 さ れ て い る 。 - 140 - その場合、それだけの人口を収容するための各種資源制約の解消や社会インフラの整 備などが適切に実施されることが条件となるが、こうした都市政策が十分機能しない 場 合 に は 、現 在 の モ デ ル で は 想 定 し て い な い 制 約 を 予 測 に 導 入 す る こ と が 必 要 と な る 。 現 在 、 東 京 都 市 圏 の 人 口 は 約 300 0 万 人 だ が 、 そ の 人 口 を 支 え る た め に 多 大 な イ ン フ ラ投資を行ってきた。例えば、東京の水需要を支えるための水源の範囲は、栃木県、 群馬県、長野県に及んでいる。こうした水源に多くのダムを整備し、また長大な導水 路 を 整 備 し て い る に も か か わ ら ず 、気 象 条 件 に よ っ て は 取 水 が 制 限 さ れ る 場 合 も あ る 。 もし、インフラ整備不足により、断水や取水制限等が慢性的になるならば、水資源制 約が都市圏人口の増加の抑制要因となりうる。その場合には、都市人口のみならず、 流域内の農業、産業との水利用競合についても考慮する必要があると考えられる。 ま た 、 交 通 イ ン フ ラ に つ い て も 十 分 な 整 備 が 必 要 で あ る 。 例 え ば 交 通 渋 滞 は 、 199 5 年 の バ ン コ ク で は GDP の 約 6%、200 0 年 の マ ニ ラ で は 4 %の 損 失 を も た ら し た と の 試 算 もあり 24) 、十分な投資が行われなければ、交通混雑が経済成長の制約となりうること を 示 し て い る 。 日 本 の 首 都 圏 ( 東 京 都 、 千 葉 県 、 埼 玉 県 、 神 奈 川 県 ) の 200 3 年 の 道 路 ス ト ッ ク は 4 1 兆 円 と 推 計 さ れ て い る が 、そ れ で も 都 心 部 で は 慢 性 的 な 渋 滞 が 発 生 し て いる。ただし、多くの途上国で交通インフラが不足している都市部への人口流入は続 いており、これが、都市の人口増加の制約条件にはならないものと考えられる。むし ろ、推計された都市人口の下で、都市生活の質を維持、向上するために必要とされる 交通インフラ整備量についての分析を別途行うことが必要であり、その前提条件とし て本研究の結果を活用することが出来ると考える。 更に、都市生活を支えるためには、下水、廃棄物処理、エネルギー供給、住宅など の各種社会基盤の整備が不可欠である。もし、本研究で推計された都市成長が見込ま れるならば、南アジアおよびアフリカにおいて、都市部への多大な社会基盤投資が必 要になると考えられる。一方で、メガシティの成長について現実的な推計を行うため には、本研究では考慮していない水資源やインフラ等の制約を十分検討することが必 要である。 (5) ま と め と 今 後 の 課 題 本 研 究 で は 、平 成 20 年 に 引 き 続 き 、 自 然 地 理 条 件 に 基 づ く 都 市 の 適 合 性 を 考 慮 し た 将 来 都 市 の 地 理 分 布 を 推 計 す る た め の モ デ ル を 開 発 し た 。そ し て 、SRES シ ナ リ オ に つ い て 210 0 年 ま で の 都 市 圏 ご と の 人 口 を 推 計 し た 。 このモデル開発により、国レベルのマクロな都市人口推計と整合し、なおかつ都市 規模の経験分布則を保証する都市人口推計が可能となった。このモデルを適用した結 果、南アジア、中部アフリカといった途上国で人口 1 千万人以上のメガシティが数多 く 形 成 さ れ 、 210 0 年 に は 、 そ の 数 は 2 000 年 の 3 倍 か ら 6 倍 に な る と 推 計 さ れ た 。 本年度は、都市圏の拡張機構を組み込み、人口増加に応じてその地理的範囲が拡大 し、周辺の市町村を都市圏の一部とするモデルとした。これにより、過去の都市圏人 口の遡及推計の精度が高まり、また将来推計の妥当性が向上したと考えられる。この メカニズムを表現する際、人口に対して都市圏が広い場合、都市圏内の移動性が高い と 想 定 し 、 移 動 性 と 一 人 あ た り GDP の 関 係 を 確 認 し た 。 そ の 結 果 、 十 分 明 確 で は な い - 141 - ものの、両者の間には相関が見られた。移動性や都市構造を決定づけるのは必ずしも 経済開発水準のみではなく、地理条件の違いや、それに起因した交通インフラの整備 状況やライフスタイルの違い、燃料税などの移動にかかるユーザーコストの違い、都 市化の進展時期の違いなどが影響していると考えられる。例えば、米国と日本はとも に経済開発が十分進んでいるが、こうした諸々の違いにより、都市部の人口密度は大 きく異なり、多くの米国の都市と比べて日本の都市の人口密度は高くなっている。移 動性の高い国は米国やカナダ、オーストラリアなどの大陸型の地理条件を持つ国であ り、低い国は日本や欧州など、都市の歴史が古く稠密な都市構造を持つ国となってい ることが明らかとなった。 一 方 、 一 人 あ た り GD P の 低 い 国 に お い て も 、 移 動 性 の 高 い 国 が 存 在 し て い る が 、 そ の 理 由 と し て 、 国 連 デ ー タ と 本 研 究 で 整 備 し た 都 市 G IS デ ー タ の 間 の 不 整 合 を 反 映 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 都 市 G IS デ ー タ で は 最 新 の 行 政 界 で み た 都 市 人 口 デ ー タ を 整 備 し て い る が 、一 部 途 上 国 で は 古 い 年 次 の デ ー タ が 用 い ら れ て い る 可 能 性 が あ る 。 対象とする国連データの年次よりも古く、行政界でみた都市人口が少なければ、現実 よりも広い範囲の都市を都市圏に含む必要があるため、移動性が高く推計される。ま た、特に途上国では、必ずしも全ての行政界について都市データが整備されているわ けではなく、実際には都市圏に含まれている都市のデータが欠落している可能性があ り、その場合、国連統計と整合する都市圏人口とするためにより広い範囲を都市圏と する必要があり、やはり移動性が高く推計されることになる。 人口に応じた都市圏の空間的拡大メカニズムをモデルに組み込む方向性は正しいと 考えられるが、その説明要因として、経済的要因だけではなく、地理的要因等を考慮 することが今後必要である。それに加えて、特に途上国の推計の妥当性を向上するた めにはデータソースの見直し等も必要である。 また、都市圏別の人口推計結果を国連データと比較し検証した結果、いくつかの都 市については、本手法による推計が高い妥当性を有することが示されたが、他の都市 については、統計あるいは国連推計と大きく乖離しているものも見られた。その原因 として、ここでは、都市圏の地理範囲の推計関数を国毎に求めているが、それを個別 の都市に当てはめる際に、誤差が生じている可能性がある。上述のように、都市圏の 拡大メカニズムに関して国毎の特徴を反映する方法論は作成したが、更に都市ごとの 個別性を考慮した方法論が必要である。 以上のように、改良すべき点は未だ残されているが、都市規模分布の予測に適した モデルとなってきており、必要に応じて更なる改良を行い、地球温暖化の都市域への 影響評価、都市圏内での緩和・適応策評価、および持続可能性指標の分析等に活用し ていく予定である。 参 考 文 献 ( 第 4. 2 節 に 関 す る も の ) 1) Grüb le r, A., O 'N eill, B., R iah i, K., Ch irk o va, V., Go ujon, A ., Ko lp, P., P ro mme r, I., Sche rbo v, S. , an d S len toe, E . 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145 - 2009年 (m illions) 図 4. 3.2 -1 2 009 年 の 飢 餓 人 口 1) 必要最低熱量 (途上国平均 =1825kcal) 図 4. 3.2 -2 国 民 1 人 ・ 1 日 当 た り の 供 給 熱 量 ( 2 004 -200 6 年 ) 1 ) (2) 食 料 価 格 の 解 釈 FAO に よ る と 3) 、 19 60 年 以 降 の 長 期 的 な 傾 向 と し て 食 料 価 格 は 低 下 し て い る ( 図 4.3. 2 -3)。 こ れ は 、 潜 在 的 に は 、 食 料 需 要 を 満 た す に 十 分 な 生 産 ポ テ ン シ ャ ル が あ る こ とによる。つまり、この間、需要は増加したが、生産性の向上や耕地の拡大により、 需要増加以上に生産量が増大した事を示唆している。 一 方 で 、近 年 は 小 麦 等 の 価 格 上 昇 が し ば し ば 話 題 に 上 る 。農 林 水 産 省 に よ る と 、2 011 年 3 月 の 穀 物 等 の 国 際 価 格 は 、 20 06 年 秋 頃 に 比 べ 1 .7∼ 3.2 倍 の 高 い 水 準 に あ り ( 図 4.3. 2 -4)、そ の 要 因 と し て 、20 10 年 の ロ シ ア の 干 ば つ と 穀 物 輸 出 禁 止 措 置 、と う も ろ こ し の バ イ オ 燃 料 向 け 需 要 の 増 大 、中 国 の 旺 盛 な 大 豆 輸 入 等 が あ げ ら れ る 4) 。ま た 、こ の ような、天候不順や需要増大に加え、穀物市場に投機マネーが流入し、相場を押し上 げているという見方もある 5) つまり、これまで長期的には、生産ポテンシャルは需要量を上回り、価格は低下傾 向にあった。但し、短期的には、天候不順、生産国の貿易措置、金融商品としての取 引等、の影響を受けて食料価格は大きく変動すると解釈できる。長期のトレンドと短 期の動向と、それぞれの要因を冷静に分析・評価することが重要と考えられる。 - 146 - 図 4. 3.2 -3 食 料 価 格 の 変 遷 (参考 3) 1973 年 : 世 界 同 時 不 作 、 1974 年 : 米 国 大 豆 禁 輸 措 置 ) 図 4. 3.2 -4 穀 物 等 の 国 際 価 格 の 動 向 (小麦、トウモロコシ、大豆:シカゴ商品取引所価格、 4) 米:タイ国家貿易取引委員会公表値) (3) 農 作 物 の 土 地 生 産 性 ( 単 収 ) の 解 釈 図 4 .3. 2 -5 は 、 小 麦 と ト ウ モ ロ コ シ を 例 に 、 1 961 ∼ 20 05 年 の 地 域 別 単 収 と 一 人 当 た り GDP の 関 係 を 示 し た も の で あ る 。 こ れ に よ る と 、 一 人 当 た り GDP の 増 加 に 伴 っ て 、 単収が向上する傾向がみられるものの、相関関係は必ずしも明らかでない。これにつ いて、次のような解釈ができる。すなわち、地域によっては、十分な耕地があるため 単収向上の必要がなく、むしろ供給過剰によって価格の低下を招かない程度に単収を 調整している。あるいは、日本のトウモロコシのように、ごく一部の生食用以外は輸 入に依存しており国内の単収を向上させるインセンティブが小さい、等である。 - 147 - つまり、技術的には、遺伝子組み換え等によって単収がさらに向上する可能性は考 えられるものの、価格維持や海外調達といった経済的な事象と密接に関連していると 解釈される。 7 12 Wheat 6 5 Western Europe Japan 4 Oceania China 3 India 2 USA 10 Yield (ton/ha) Yield(ton/ha) Maize USA Western Europe Japan 8 Oceania China 6 India 4 Brazil Brazil 2 1 0 0 0 10000 20000 30000 40000 0 10000 20000 30000 40000 GDPperCap($) GDPperCap($) 図 4. 3.2 -5 地 域 別 の 単 収 と 一 人 当 た り GD P の 関 係 ( 単 収 は 文 献 6) 、 一 人 当 た り GDP は 文 献 7)を 基 に 作 図 ) (4) 水 ス ト レ ス の 解 釈 水は地球の陸、海、大気を循環する再生資源であるが、人間の主な管理対象となる 水資源とは、年間に陸域に降った降水から蒸発散を差し引いた残りの流出量(図 4.3. 2 -6 の B lue wa te r)を 指 す こ と が 多 い 8) 。こ の 年 間 の 流 出 量 の う ち 、何 割 を 人 間 が 直 接取水し使用しているかの比率は水需給比、あるいは水ストレス指標と呼ばれる。さ ら に 、 水 需 給 比 ( 取 水 量 /流 出 量 ) >0 .4 の 状 態 は 水 ス ト レ ス に あ る と し て 、 水 ス ト レ ス の流域に住む「水ストレス人口」の評価も行われている リオに対する評価の一例 10) 9) 。 図 4 .3. 2 -7 は 、 SRES シ ナ で、今後の人口増加、水需要増加に伴い、世界の水ストレ ス人口が増加すると考えられている。 こ の 他 、 農 作 物 は 成 長 に 多 く の 水 ( 図 4 . 3.2 -6 の Gre en wa ter) を 要 す る こ と よ り 、 域内で生産が困難な農産物の輸入は水ストレスの緩和に役立っているという見方もあ る 11) 。 すなわち、水ストレスについては、直接的な水利用の増加と、農産物等の貿易を介 した間接的な水利用、そして、温暖化による降水量、蒸発散量、流出量の変化、これ らを総合的に考慮する必要があると解釈できる。 - 148 - 図 4. 3.2 -6 水資源の概念図 ( 文 献 8) を 基 に 作 図 ) 図 4. 3.2 -7 水ストレス人口の評価例 10) (5) バ イ オ 燃 料 需 要 拡 大 の 影 響 の 解 釈 脱 温 暖 化 対 策 の う ち 、化 石 燃 料 代 替 と し て バ イ オ 燃 料 の 利 用 拡 大 が 、米 国 や EU を は じめ世界各地で提案されている 12,13) 。 こ れ に つ い て 、1)世 界 人 口 が さ ら に 増 加 す る と 予 測 さ れ る 中 、バ イ オ 燃 料 作 物 の 生 産 は 食 料 生 産 と 土 地 を め ぐ っ て 競 合 し な い の か 、2 )も し 、バ イ オ 燃 料 需 要 増 に よ っ て 食 料 価 格 が 上 昇 す る と 、飢 餓 人 口 が 増 大 す る の で は な い か 、3 )バ イ オ 燃 料 利 用 と 、植 林 や 森 林 再 生 に よ る 炭 素 固 定 で は ど ち ら が よ い の か 、4 )も し 、バ イ オ 燃 料 用 作 物 栽 培 の た め に 耕地を拡大するならば、炭素放出につながるのではないか、といった懸念が持たれた り 、 5) バ イ オ 燃 料 栽 培 は ア フ リ カ の 経 済 を 発 展 さ せ る の で は な い か 、 と い っ た 見 方 も もされている。 こ こ で 、留 意 す べ き こ と は 、バ イ オ 燃 料 が こ の 先 30 年 、50 年 と い っ た 時 間 ス ケ ー ル の間に、果たしてどの程度導入されるかは、バイオ燃料の生産ポテンシャルの他、導 入・利用のコスト、利便性、そして、何より温暖化抑制のレベルに依存するという点 である。つまり、バイオ燃料需要拡大の影響については、温暖化抑制の必要レベルを 合わせて評価するべきと解釈される。 - 149 - (6) モ デ ル 分 析 内 容 食 料 、 水 、 土 地 利 用 に 関 す る 主 要 な 問 題 に つ い て 、 本 研 究 で の 解 釈 の 詳 細 を (1 )∼ (5) 節に述べた。このような解釈のもと、今年度はどのようなモデル分析を行ったかを、 表 4 .3. 2 -1 に ま と め る 。 表 4. 3.2 -1 関連する 関連する問題の解釈と今年度モデル分析内容 解釈 今年度モデル分析内容 食 料 不 足 と い う よ り 、低 ・経済問題や格差問題までは踏み込まず、地域平均的な 所得国における格差の 社会、経済シナリオ下で想定される食料需要を満たすた 問題 めに、必要な農地面積を算定。 食料価格、 市 場 と の 関 連 性 大 、土 地 ・価格による需要や供給への影響は特に考慮せず、地域 貿易、作物 利用との関係は十分な の平均的供給熱量を基に算定した食料を生産する。 生産性 理解に至っていない ・貿易シェア(国産シェア、国際市場シェア)は、ある 問題 飢餓人口 地域に割り付け不足が生じて、別の余剰地域で生産する 場 合 を 除 き 、 2000 年 の ま ま 。 ・作物の土地生産性に関し、技術の進歩と、その他の要 因による過去のトレンドを考慮した係数を想定。 水ストレス 直 接 的 、 間 接 的 利 用 量 、 ・ 直 接 的 に 管 理 対 象 と な る Blue water に つ い て 、 社 会 、 水資源量の把握が必要 経済、気候の変化を考慮した水需給比と水ストレス人口 を算定。 (・農産物貿易による間接的な水利用は次年度算定予定) バイオ燃料 温暖化抑制のレベルに ・食料需要を満たした上で、なお利用可能な土地面積を と土地利用 依存 算定(食料を優先)。 ( ・ 温 暖 化 抑 制 レ ベ ル を 考 慮 し た 植 林 、バ イ オ 燃 料 用 作 物 栽 培 の 土 地 利 用 は 、次 年 度 D N E 2 1 + モ デ ル と ソ フ ト リ ン クをはかり分析予定) 4.3.3 モ デ ル 開 発 と デ ー タ 整 備 (1) モ デ ル の 構 成 農 業 土 地 利 用 、水 需 給 、土 地 利 用 変 化 炭 素 収 支 評 価 モ デ ル の 枠 組 み を 図 4 .3 .3 -1 に 記 す。基本的な手順として、農業土地利用評価モデルで算定した食料用作物の作付け地 点、作付け時期等を水需給比評価モデルに入力し、灌漑用水需要量を算出後、生活・ 工業用水需要量、水資源量も合わせて、水需給比と水ストレス人口を算定する。また、 農業土地利用評価モデルで算定した耕地拡大域を土地利用変化炭素収支評価モデルに 入 力 し 、 炭 素 放 出 量 を 算 定 す る 仕 組 み に な っ て い る 。 計 算 時 点 は 、 200 0∼ 2 050 年 の 10 年 毎 と 20 70 年 、210 0 年 で あ る 。入 出 力 デ ー タ の 空 間 分 解 能 は 、グ リ ッ ド( 土 地 利 用 関 - 150 - 連 は 主 に 15 min×1 5 min 、 気 候 関 連 は 主 に 2 .5º× 2.5 º) も し く は 、 河 川 流 域 14) 、国、世 界 32 地 域 ( 図 4 .3. 3 -2) の い ず れ か で あ る 。 作物需要量 気候 作物生産性係数 生活・工業部門の需要量 水需給評価モデル 農業土地利用評価モデル 作付地点・作物・時期 (天水/灌漑)・生産量 余剰地 再利用 水・淡水 化水量 水ストレス人口 耕地拡大域 食料の域内水・域外水 入出力値の地域区分 土地利用変化に伴う 炭素収支評価モデル 国 32地域 グリッド 土地利用変化炭素収支 図 4. 3.3 -1 河川流域 農業土地利用、水需給、土地利用変化炭素収支評価モデルの枠組み RUS CAN WEP USA NOA AIS EEP OFS TUR IRN UME APS ARP MEX OSA SEA BRA MDK CHN JPN KOR IND OTA THI CLV MSB IDS PHI OSM ANZ PUA SOA 図 4. 3.3 -2 32 地 域 区 分 図 4 .3. 3 -3∼ 図 4.3 .3 -5 に 、 そ れ ぞ れ 農 業 土 地 利 用 評 価 モ デ ル 、 水 需 給 評 価 モ デ ル 、 土 地 利 用 変 化 炭 素 収 支 評 価 モ デ ル の 主 要 構 成 を 示 す 。 図 4 .3.3 -3 、 図 4. 3.3 -4 に 示 す 通 り、農業土地利用モデルの作物別生産量ポテンシャル、及び水需給評価モデルの水資 源量、灌漑用水需要については、温暖化の影響を考慮している。農業土地利用モデル で扱う農作物は、小麦、米、トウモロコシ、サトウキビ、大豆、オイルパームフルー ツ 、 菜 種 、 そ の 他 の 計 8 種 類 で 、 (5)節 に 述 べ る 通 り 、 一 人 当 た り 熱 量 需 要 量 か ら 算 定 した食料需要量をこの 8 種類の農作物の需要量に換算し、農作物の栽培に必要な土地 を算出する。すなわち、農作物数は 8 種類に限定されているが、これらの生産によっ てカロリーベースの総食料需要量を満たされると想定している。土地利用変化炭素収 - 151 - 支 評 価 モ デ ル は 、 (7) 節 に 述 べ る よ う に 食 料 用 作 物 耕 地 拡 大 に よ る 炭 素 放 出 モ デ ル 、 植 林・燃料用作物栽培に係る炭素収支モデル、非商用バイオマス燃料利用に係る炭素放 出モデルの 3 つのサブモデルから構成される。各評価モデルに関し今年度実施した主 な 開 発 と デ ー タ 整 備 を (2)節 ∼ (8 )節 に 記 述 す る 。 作 物需要量 農 作物温暖化 影 響モデル 気 候・土壌・ 勾 配 作物別生産 ポテンシャル(天水/灌漑)・品種・時期 ; 「適応策」の想定あり*1 割 り付け不足作物 貿易モデル 土 地割り付けモデル (15min x15min) 生産性係数 (K) 作付優先度 作付候補地(土地被覆) 割り付け不足発生 灌漑候補地 (Nmax回まで) 生 態系純生産量(NEP) サブモデル 作付地点・作物・品種・時期(天水/灌漑) 32地域 グリッド 作 物生産量 耕地拡大域 炭素固定候補地・E作物栽培候補地 図 4. 3.3 -3 農業土地利用評価モデルの主要構成 作付地点・作物・品種・時期(天水/灌漑) 気候 水資源モデル 灌漑効率;「適応策」の想定あり*2 灌漑用水モデル 灌漑用水需要量 流出量(F) 取水量(W) 入出力 作物の成長に要した水量 生活用水需要量(都市/農村) 水需要モデル 工業用水需要量 淡水化水量 再利用水量;「適応策」の想定あり *3 水需給比モデル 水ストレス人口; R≡(W/F) ≥ 0.4の流域に住む人口 人口・都市人口分布 サブモデル 国 32地域 グリッド 河川流域 図 4. 3.3 -4 水需給評価モデルの主要構成 - 152 - 入出力 耕地へ転換された土地面積 土地利用タイプ別炭素密度 余剰地の面積・生産ポテンシャル等 食料用作物耕地拡大に よる炭素放出モデル 植林・燃料用作物需要等 非商用バイオマス燃料需要 植林・燃料用作物栽培に 係る炭素収支モデル 変換係数(暫定値) 非商用バイオマス燃料利 用に係る炭素放出モデル 食料用作物耕地拡大 による炭素放出 非商用バイオマス燃料 利用に係る炭素放出 サブモデル 32地域 54地域 植林・燃料用作物 栽培に係る炭素収支 入出力 図 4. 3.3 -5 土地利用変化炭素収支評価モデルの主要構成 (2) 適 応 策 農 業 、 水 需 給 に 関 す る 適 応 策 と し て 、 表 4.3. 3 -1 に 記 す 3 つ の 適 応 策 が 20 20 年 以 降 導入可能とした。 表 4. 3.3 -1 1 2 適応策の想定 適応策 「適応策」有ケース 「適応策」無ケース 作付け品種・ ・各時点で生産ポテンシャルが最大になる品 ・ 2010 年 に 最 適 な 品 種 ・ 時 時期の調整 種・時期を選んで作付けする 期を、それ以降も選択する 灌漑効率の改 ・ 2020 年 以 降 、 需 給 比 改 善 目 標 (Rtarget) *1 を 満 ・ 2000 年 効 率 *2 の ま ま 善 たさない流域では、効率を改善する。 ・ (1− 前 期 の 効 率 )×0.05 だ け 改 善 3 再利用水量の ・ 2 0 2 0 年 以 降 、灌 漑 効 率 を 改 善 し て も 需 給 比 改 ・都市人口一人当たりの再 増加 善 目 標 を 満 た さ な い 流 域 で は 、都 市 人 口 一 人 当 利 用 水 量 は 、 2010 年 想 定 値 た り の 再 利 用 水 量 を 前 期 よ り 10%増 加 す る *3 のまま ・ 前 期 に 再 利 用 水 量 が ゼ ロ の 国 は 、当 期 の 都 市 人 口 一 人 当 た り の 生 活 用 水 需 要 量 の 20%を 都 市人口一人当たりの再利用水量として導入す る *1 水 需 給 比 改 善 目 標 の 想 定 : Rtarget = max(0.4 , R0×0.7) , *2 文 献 15)を 参 考 に 国 別 に 想 定 。 作 物 に よ る 灌 漑 効 率 の 違 い は 特 に 考 慮 し て い な い が 、 米 の み 0.1 小 さ い 効 率 を 適 用 *3 16) R0:対 策 無 時 の 需 給 比 。 AQUASTAT デ ー タ ベ ー ス の 2000 年 再 利 用 水 量 17) から都市人口一人当たりの再利用水量を推 計 。さ ら に 、2 0 1 0 年 の 都 市 人 口 一 人 当 た り の 再 利 用 水 量 は 2 0 0 0 年 の 同 値 よ り 5 % 増 加 と 想 定 。 都 市 人 口 は 5.3.2 節 参 照 。 - 153 - (3) 農 作 物 生 産 性 係 数 ① モデルの単収と生産性係数 農 業 土 地 利 用 評 価 モ デ ル で 各 作 物 の 世 界 32 地 域 別 単 収 ( Y ) は 、 (4 .3 -1)式 の よ う に 表 現 さ れ る 。同 式 の「 第 I 項 」は 、各 地 域 で 想 定 さ れ た 作 物 毎 の 生 産 量 を 満 た す よ う に 、 農業土地利用モデルで、生産ポテンシャルの高い耕地グリッドから順に作付けた結果 の値である。 ( 生 産 性 の 高 い グ リ ッ ド を 、ど の 作 物 に 優 先 的 に 割 り 当 て る か は 、(4)節 に 記 載 。) す な わ ち 、 各 グ リ ッ ド の 気 候 条 件 、 土 壌 条 件 、 及 び 、 作 付 け す る 品 種 や 時 期 を 反映した項であり、作物毎に「自然地理条件から想定される単収」といえる。一方、 各 地 域 の 単 収 は 、 4 .3. 2(3 )で 述 べ た よ う に 、 農 産 物 価 格 、 農 業 従 事 者 の 所 得 、 輸 入 等 、 様 々 な 要 素 と 複 雑 に 絡 み 合 っ て お り 、第 I 項 の み で は 、FAO 統 計 の 単 収 値 6) とに乖離が 生 じ て し ま う 。 そ こ で 、 2 000 年 の 単 収 統 計 値 と 大 き な 矛 盾 が 生 じ な い よ う に 調 整 し つ つ 、将 来 の 技 術 進 歩 等 を 反 映 出 来 る よ う に 導 入 し た 項 が 、 「 生 産 性 係 数 (K)」で あ り 、モ デルでは外生的に与えている Pi • Ai Y = i Ai i 16) 。 •K (4. 3 -1) 生産性係数 I. 自 然 地 理 条 件 か ら 想定される単収 i:作付けグリッド Pi : 生 産 ポ テ ン シ ャ ル * *温 暖 化 影 響 評 価 モ デ ル ( AEZ ベ ー ス の モ デ ル )で 算 定 。 LAI(Leaf Area Index)、 HI(Harvest Index)共 High レ ベ ル 想 定 。 Ai : 面 積 こ の 生 産 性 係 数 (K)の 将 来 シ ナ リ オ に つ い て 、 昨 年 度 は 、 現 在 単 収 の 低 い 地 域 の み 将 来 は伸びるケース、どの地域も将来は伸びるケース等を想定した。但し、その根拠が十 分でなかったため、今年度は、過去の生産性係数を以下のように解釈した上で、将来 の生産性係数シナリオを作成した。 ② 過去の生産性係数の推定 図 4.3 .3 -6 は 、 (4.3 -1)式 の 第 I 項 は 20 00 年 の ま ま ( モ デ ル で 算 定 ) で 過 去 約 40 年 間 変 わ ら な か っ た 、 と い う 仮 定 の 下 、 FA O 統 計 の 単 収 か ら 推 定 し た 地 域 別 の 生 産 性 係 数 の 例 で あ る 。 こ の 生 産 性 係 数 ( K) の 値 に つ い て 、 K> 1 な ら ば 、 実 際 の 単 収 は 自 然 地 理 条 件 か ら 想 定 さ れ る 単 収 以 上 に 高 め ら れ て い る 、 逆 に K<1 な ら ば 、 実 際 の 単 収 は 自 然 地理条件から想定される単収に達していない、という解釈ができる。 - 154 - Wheat 3.5 USA TermII 生産性係数(K) 3.0 CAN 2.5 WEP JPN 2.0 ANZ 1.5 CHN IND 1.0 0.5 0.0 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 Year 図 4. 3.3 -6 過去の生産性係数の推定値(小麦の例) 次 に 生 産 性 係 数 (K)が 図 4 .3. 3 -6 の よ う に 向 上 し て き た 要 因 に つ い て 、 生 産 調 整 や 貿 易拡大等の影響はあるものの、緑の革命で代表されるように多収量品種の導入や化学 肥料の普及など技術進歩が寄与した事はおそらく間違いない。そこで、生産性係数を (4. 3 -2)式 で 示 す よ う に 、「 潜 在 的 技 術 係 数 (Tec h)」 と 「 そ の 他 の 要 因 係 数 (O the rs)」 の 項 で表現することとし、次にそれぞれの係数を推定した。 K = Tech • Others ③ (4. 3 -2) 過去の潜在的技術係数の推定 潜 在 的 技 術 係 数 は 、 (4.3 -3 )式 の よ う に 一 人 当 た り GDP の 向 上 に 伴 っ て 上 昇 す る 関 数 で 表 現 さ れ る と し た 。 そ し て 、 世 界 32 地 域 の う ち 、 作 物 別 に 生 産 量 上 位 10 地 域 の 過 去 約 40 年 間 の デ ー タ 6) を用い、係数αとβを回帰分析により推計した。ここで、世界 32 地 域 中 生 産 量 上 位 10 地 域 に 着 目 し た 理 由 は 、経 済 発 展 に 伴 う 技 術 向 上 の 効 果 が 単 収 に反映されやすいと想定したことによる。また、トップランナーの一地域に限らず、 複 数 地 域 を 取 り 上 げ る こ と に よ っ て 、 個 別 地 域 の 「 そ の 他 の 要 因 係 数 (O the rs)」 の 影 響 は 、打 ち 消 さ れ る と 仮 定 し た 。図 4. 3.3 -7 の 赤 線 は 、潜 在 的 技 術 係 数 の 回 帰 関 数 で あ る 。 図から分かるように回帰精度は決して高くない。作物によって地域数をさらに絞り込 むなど、検討の余地がある。 Techrkt = ak • GDCrt bk (4. 3 -3) r: 地 域 、 k : 作 物 、 t: 時 点 GDCrt : 一 人 当 た り GDP a,b : 回 帰 係 数 - 155 - Maize 0.7 0.6 2.5 0.5 2.0 0.4 K K Oil palm fruits 3.0 1.5 0.3 1.0 0.2 Statistics 0.1 Statistics 0.5 Tech=f(GDC) Tech=f(GDC) 0 0.0 0 10000 20000 30000 0 GDP perCap ($/person) 2000 3000 4000 5000 GDP perCap ($/person) Soybeans 0.7 1000 Rapeseed 2.5 0.6 2.0 1.5 0.4 K K 0.5 0.3 1.0 0.2 Statistics 0.1 0.5 Statistics Tech=f(GDC) Tech=f(GDC) 0.0 0 0 10000 20000 30000 0 20000 30000 GDP perCap ($/person) GDP perCap ($/person) 図 4. 3.3 -7 10000 潜在的技術係数の回帰関数 (トウモロコシ、オイルパーム、大豆、菜種の例) ④ 過去のその他要因係数の推定 ③ の 回 帰 関 数 を 用 い 、過 去 の 潜 在 的 技 術 係 数 (Tech )を 算 出 し 、さ ら に 、K/Tech よ り 過 去 の そ の 他 要 因 係 数 (Others)を 算 出 し た 。 O the rs に は 、 自 然 地 理 条 件 や 潜 在 的 技 術 で は 表現しきれなかった生産調整、生産規模の拡大、市場や貿易の変化等の影響が含まれ る 。 表 4 .3. 3 -2 に 、 そ の 他 要 因 係 数 (O the rs)の 1960 年 代 か ら 200 0 年 代 の 年 変 化 率 を 示 す。この値の正負について、次のような解釈ができる。すなわち、年変化率が正の作 物・地域は、規模の拡大等によって単収向上がはかられた、一方、年変化率が負の作 物・地域は、輸入依存度を強め、地域内での単収向上には注力されなかった。日本の トウモロコシやサトウキビは、後者の例と考えられる。 - 156 - 表 4. 3.3 -2 [%/yr] USA CAN WEP JPN ANZ CHN MDK CLV KOR MSB IDS THI PHI IND APS OTA IRN ARP UME TUR NOA SOA SEA OSA MEX BRA PUA OSM RUS AIS OFS EEP ⑤ そ の 他 要 因 係 数 の 年 変 化 率 ( 196 0 年 代 - 200 0 年 代 ) Wheat 0.99 1.06 2.12 0.90 0.62 3.44 Rice 0.74 0.18 -0.08 0.73 0.96 Maize 0.91 0.23 1.20 -1.71 1.92 0.24 0.64 0.19 0.36 1.64 0.18 2.04 1.36 1.05 1.47 0.23 1.62 0.16 1.52 -0.38 2.29 0.69 0.18 0.13 2.46 2.36 1.08 1.88 2.02 1.24 1.62 1.41 -0.24 0.67 2.69 2.09 1.98 2.09 1.90 2.06 Potato Sugarcane Soybeans 1.35 -0.77 0.77 0.97 0.12 1.29 -0.15 0.68 1.02 -1.01 -0.03 1.81 -0.10 2.56 0.45 -0.31 0.62 1.79 2.17 3.46 0.93 1.64 1.79 2.10 1.50 2.09 1.10 1.00 0.09 0.83 1.27 1.37 1.16 1.62 1.75 1.90 0.25 0.94 1.37 1.40 2.59 1.96 1.57 3.22 0.70 -0.99 2.45 2.79 2.65 1.28 0.97 0.72 -1.39 -0.54 Oil palm Rapeseed -0.81 1.18 1.66 -2.37 0.27 0.01 0.60 0.25 0.07 -1.21 0.88 0.14 0.76 1.58 1.99 1.07 0.85 0.14 -1.39 0.00 -0.16 0.09 0.86 0.75 0.39 3.33 0.28 2.55 -0.49 1.76 1.37 0.14 0.98 0.88 -0.52 0.53 2.17 0.13 0.28 0.41 1.87 1.53 1.87 1.54 1.06 -0.06 0.21 0.38 -0.60 -0.01 1.72 1.83 1.67 1.76 2.23 0.26 将来の技術係数の想定 A LP S の シ ナ リ オ A ,B に 対 し 、 潜 在 的 技 術 係 数 (Tech )は 、 (4. 3 -3)式 の 作 物 別 回 帰 関 数 と シ ナ リ オ 毎 の 地 域 別 一 人 当 た り GDP と よ り 算 定 し た 。 そ の 他 の 要 因 係 数 (O the rs)は 、 (4. 3 -4)式 に 示 す よ う に 、 過 去 の ト レ ン ド を 次 第 に 減 少 さ せ つ つ 、 将 来 に 反 映 さ せ た 。 a rkt →t +1 Min (a rk 1960 s → 2000 s , a rk 1990 s → 2000 s ) / 4 Min ( a rk 1960 s → 2000 s , a rk 1990 s → 2000 s ) / 8 = Min ( a rk 1960 s → 2000 s , a rk 1990 s → 2000 s ) / 16 Min ( a rk 1960 s → 2000 s , a rk 1990 s →2000 s ) / 32 ( for H < 1) ( for 1 ≤ H < 1.5) ( for 1.5 ≤ H < 2) (4.3 -4 ) ( for 2 ≤ H ) r: 地 域 、 k : 作 物 、 t: 時 点 a rkt →t +1 : t 時 点 か ら t+1 時 点 ま で の O th ers の 年 変 化 率 図 4.3 .3 -8 に 、A LP S の シ ナ リ オ A と B に つ い て 、生 産 性 係 数 の 変 化 を 考 慮 し た 作 物 別 単 収 を 示 す 。 シ ナ リ オ A と B で そ の 他 の 要 因 係 数 (Oth ers)の 値 は 同 じ 値 を 想 定 し た 。 す な わ ち 、 シ ナ リ オ A と B の 単 収 の 違 い は 、 潜 在 的 技 術 係 数 (Tech )の 違 い に よ る も の であり、高位進展技術のシナリオ B の方が、中位技術進展のシナリオ A より、高い単 収 想 定 と な っ て い る 。 図 4.3 .3 -9 は A LP S の シ ナ リ オ A に つ い て 、 2 000 年 単 収 に 対 す る比である。ここに示すように、先進地域に比べ途上地域で単収の伸びは大きい想定 になっている。 - 157 - な お 、 こ れ ら は 、 ① 節 で 述 べ た 「 I. 自 然 地 理 条 件 か ら 想 定 さ れ る 単 収 」 が 20 0 0 年 の ま ま と 想 定 し た 場 合 の 値 で あ る 。モ デ ル 分 析 に よ る 最 終 的 な 単 収 は 、(4 .3 -1 )式 に 示 し た ように、どのグリッドにどの作物が作付けられるか、これは、将来の気候や食料需要 にも依存しており(例えば、K が同じでも、食料需要が少ないため優先度の低い作物 も生産ポテンシャルの高いグリッドに作付けられるようになると、その作物の単収は 向 上 す る )、 厳 密 に は 図 4 .3. 3 -8 と は 異 な る 。 - 158 - Wheat 2000 6 2030 4 2050 2 2070 0 2100 8 単収(ton/ha) 単収(ton/ha) 8 2030 4 2050 2 2070 0 2100 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 2000 単収(ton/ha) 単収(ton/ha) Rice 2030 2050 2070 2100 14 12 10 8 6 4 2 0 Rice 2050 2070 2100 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 20 2000 15 2030 10 2050 単収(ton/ha) 単収(ton/ha) Maize 2070 5 2100 0 Maize 2030 10 2050 2070 5 2100 0 Sugarcane USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 150 2030 100 2050 2070 50 200 2000 2100 単収(ton/ha) 200 単収(ton/ha) 2000 15 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA Sugarcane 2000 150 2030 100 2050 2070 50 0 2100 0 ANZ CHN THI IND MEX BRA OSM Soybean 5 4 ANZ CHN THI IND MEX BRA OSM 6 2000 単収(ton/ha) 6 単収(ton/ha) 2000 2030 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 20 2000 6 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 14 12 10 8 6 4 2 0 Wheat 2030 3 2050 2 2070 1 2100 0 5 Soybean 2000 2030 4 3 2050 2 2070 1 2100 0 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 図 4. 3.3 -8 生 産 性 係 数 シ ナ リ オ に 基 づ く 単 収 ( 左 :A LPS -A、 右 : A LPS -B) ( 自 然 地 理 条 件 は 2000 年 の ま ま と 想 定 し た 場 合 ) - 159 - Rapeseed 4 5 2000 単収(ton/ha) 単収(ton/ha) 5 2030 3 2050 2 2070 1 2100 Rapeseed 4 2030 3 2050 2 2070 1 2100 0 0 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 50 Others(Potato) 60 2000 単収(ton/ha) 単収(ton/ha) 60 2000 2030 40 30 2050 20 2070 10 2100 0 50 Others(Potato) 2000 2030 40 30 2050 20 2070 10 2100 0 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 図 4. 3.3 -8( 続 き ) USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 生 産 性 係 数 シ ナ リ オ を 考 慮 し た 単 収 ( 左 : ALPS- A、 右 : ALP S-B ) ( 自 然 地 理 条 件 は 2000 年 の ま ま と 想 定 し た 場 合 ) Wheat 2.0 2000 2030 1.5 2050 1.0 2070 0.5 2100 0.0 3 単収(2000年=1) 単収(2000年=1) 2.5 2 5 2030 3 2050 2070 1 2100 0 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 図 4. 3.3 -9 2070 1 2100 0 4 2000 4 2 2050 1 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 単収(2000年=1) 単収(2000年=1) Maize 2000 2030 2 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 6 Rice Soybeans 2000 3 2030 2 2050 1 2070 0 2100 USA WEP JPN CHN IND SEA BRA 生 産 性 係 数 シ ナ リ オ を 考 慮 し た 単 収 の 2 000 年 比 ( ALP S-A ) ( 自 然 地 理 条 件 は 2000 年 の ま ま と 想 定 ) (4) 作 付 け 優 先 度 、 貿 易 パ ラ メ ー タ ① 作付け優先度 昨 年 度 は 、 世 界 32 の 各 地 域 の 作 付 け 候 補 地 ( 耕 地 名 義 ) グ リ ッ ド の う ち 生 産 ポ テ ン シャルの高いグリッドから順に、単位面積当たりの生産額の高い作物を優先的に作付 - 160 - けした 16) 。但し、この場合、1グリッド当たりの生産額が高いサトウキビ等が、灌漑 設備を備え生産ポテンシャルの高い土地に作付けられ、一方、単位面積当たりの生産 額 が 相 対 的 に 低 い 米 が 、生 産 ポ テ ン シ ャ ル の 低 い 天 水 栽 培 地 に 作 付 け ら れ る と い っ た 、 不自然な結果を招く可能性があった。 そこで、今年度は、米、小麦、トウモロコシ、大豆、菜種、オイルパーム、サトウ キビ、その他(じゃがいもで代用)の順に優先的に生産ポテンシャルの高い土地に作 付 け る こ と に し た ( 但 し 、 地 域 に よ っ て は 、 2 000 年 の 作 物 別 単 収 が 統 計 値 と 大 き な ず れ が 生 じ な い よ う に 、こ の 優 先 度 を 一 部 調 整 )。将 来 の 作 付 け 優 先 度 は 不 確 実 性 が 高 く 、 議論の余地が大きいが、今回の改定によって、生産性の高い灌漑グリッドに米や小麦 が作付けられ、前述した不自然な結果を招く可能性は低減された。 ② 貿易パラメータ 世 界 32 地 域 別 の 農 作 物 需 要 量 の 算 出 に 当 た り 、 第 一 次 農 産 品 や 加 工 品 、 畜 産 品 の 需 要量と、需要量に対し地域内で生産する比率(地域内産シェア)と、国際市場で各地 域が占める比率(国際市場シェア)が必要である。この貿易パラメータについて、昨 年 度 は こ れ ら を ロ ジ ッ ト モ デ ル で 表 現 し 、 1990 年 代 の 作 物 、 品 目 価 格 か ら 算 定 し た も のの、ロジットモデルの再現性は必ずしも高くなかった そ こ で 、今 年 度 は 、2 000 年 の FAO 統 計 値 16) 。 6) ( 作 物 、品 目 別 生 産 量 、輸 出 量 、輸 入 量 ) より、地域内産シェアと国際市場シェアを算定し、ある地域の生産不足を別の余剰地 域で作付ける場合を除き、将来も一定とした。 (5) 食 料 需 要 量 ① 一人当たり食料需要量 昨 年 度 同 様 、地 域 に よ る 食 習 慣 の 違 い を 反 映 す る た め 、 世 界 32 地 域 別 に 一 人 当 た り GDP の 関 数 を 用 い て 統計値 6) 16) 算 定 し た 。今 年 度 は 、関 数 の パ ラ メ ー タ を 分 析 時 点 で 最 新 の FA O に 基 づ い て 更 新 し た 。 図 4. 3.3 -1 0 は 、 更 新 パ ラ メ ー タ を 用 い て 算 出 し た 主 要 国の一人・一日当たりの食料供給量である。 Food demand (kcal/day/cap) 4500 United States Canada Western Europe Japan Oceanina China South Korea Indonesia Thailand India Iran North Africa South East Africa Brazil Paraguay et al. Russia 4000 3500 3000 2500 2000 1500 100 1000 10000 100000 GDP per capita (US 2000 $) 図 4. 3.3 -10 主要国の一人・一日当たりの食料供給量 (実線は統計値 6) 、 点 線 は ALPS-A シ ナ リ オ ) - 161 - ② 品類、品目シェア 図 4 .3. 3 -11 に 示 す よ う に 、 カ ロ リ ー ベ ー ス の 食 料 需 要 量 は 昨 年 度 同 様 4 品 類 、 13 品 目 に 分 割 す る 。 図 4. 3 .3 -12 に 、 分 析 時 点 最 新 の FAO 統 計 値 6) に基づいて更新した 4 品 類 の カ ロ リ ー シ ェ ア を 示 す 。表 4 .3 .3 -3 に は 、各 品 類 内 の 品 目 へ の 配 分 を 示 す 。品 目 へ の配分に関し、昨年度は、品類「穀物・野菜」に含まれる品目を小麦、米、トウモロ コシ、大豆、じゃがいもの 5 種類とし、これらのカロリーシェアに応じて各品目の需 要量を比例拡大していたのに対し、今年度は、小麦、米、トウモロコシ、大豆の需要 量は各カロリー相当とし、それ以外のカロリー分をその他(じゃがいも)の需要量と した。同様に、品類「動物性食品」の配分も、牛肉、豚肉、鶏肉とその他(牛乳)と した。これによって、その他以外の品目は、より実態に近い需要量を算定するように した。なお、飼料需要量の想定方法は昨年度から更新なく、牛肉、豚肉、鶏肉、牛乳 16) 1 kg 当 た り の 飼 料 要 求 率 、 飼 料 構 成 比 率 4品類・13品目 を用いて、8 つの農作物需要に変換する。 8作物 (小麦、米、トウモロコシ、大豆、 サトウキビ、菜種、オイルパーム、その他) (カロリーシェアで分割) Cereal & Vegetable Wheat Wheat Rice Rice Maize Maize Soybeans Soybeans Others 食料 需要量 (カロ リー) Others Sugar & Sweets Ingredients Sugar & Sweets Sugar Wheat Wheat Rice Rice Maize Soybeans Maize Trade model Soybeans Rapeseed Rapeseed Others Others Sugar cane Sugar cane Oilpalm Oilpalm Sugar cane Sugar Soybeans Vegetable oil Vegetable oil Soybean Oil Rapeseed Oil Palm Oil Rapeseed Soybean Oil Trade model Oilpalm Rapeseed Oil Palm Oil Feed Wheat Animal products Animal products Bovine meat Bovine meat Pig meat Pig meat Poultry meat Poultry meat Others Others Rice Maize Sugar cane Soybeans Rapeseed Others 図 4. 3.3 -11 カロリーベース需要量から作物需要量への換算 - 162 - Agroland use model Cereal & Vegetable 100 USA シナリオ Vegetable oil 20 CAN USA JPN 90 CAN シナリオ WEP WEP 18 ANZ JPN ANZ MDK CLV KOR 80 MSB IDS THI PHI 70 IND APS OTA IRN 60 ARP UME TUR NOA 50 CHN Share in calories (%) Share in calories (%) CHN SOA 16 MDK CLV KOR 14 MSB IDS THI 12 PHI IND APS 10 OTA IRN ARP 8 UME TUR NOA 6 SOA SEA SEA OSA 4 OSA MEX 40 MEX BRA BRA 2 PUA PUA OSM OSM RUS 30 1960 RUS 0 1960 AIS 1980 2000 2020 2040 2060 2080 2100 2120 2140 OFS 2000 2020 2040 EEP Year 2100 2120 2140 EEP CAN シナリオ WEP JPN WEP JPN 40 ANZ ANZ MDK CLV KOR 14 MSB IDS THI 12 PHI IND APS 10 OTA IRN ARP 8 UME TUR CHN Share in calories (%) Share in calories (%) CHN 16 MDK 35 CLV KOR MSB 30 IDS THI PHI 25 IND APS OTA 20 IRN ARP UME TUR 15 NOA 6 NOA SOA SEA 4 OSA SOA SEA 10 OSA MEX BRA 2 PUA MEX BRA 5 PUA OSM OSM RUS 0 1960 AIS 1980 2000 2020 2040 2060 Year 2080 2100 2120 2140 OFS OFS USA CAN 18 2080 Animal products 45 USA シナリオ 2060 Year Sugar & Sweets 20 AIS 1980 RUS 0 1960 EEP AIS 1980 2000 2020 2040 2060 2080 Year 図 4.3.3-12 4 品類のカロリーシェア(シナリオは ALPS-A) - 163 - 2100 2120 2140 OFS EEP 表 4. 3.3 -3 品類内の品目への配分想定 品類 品目への配分 穀物・野菜 小麦、米、トウモロコシ、大豆、その他 砂 糖・甘 味 料 砂 糖 100 %と 想 定 植物油 大豆油、菜種油、パーム油。3 品目のカロリーシェアを基に比例拡大 動物性食品 牛肉、豚肉、鶏肉、その他 (6) 耕 地 の 拡 大 農 業 土 地 利 用 評 価 モ デ ル で は 200 0 年 の 土 地 被 覆( (8 )① 節 参 照 )デ ー タ に 基 づ き 、20 00 年時に「耕地」名義であったグリッドを「農作物の作付け候補地」とし、生産性ポテ ン シ ャ ル の 高 い グ リ ッ ド か ら 順 に 、 作 付 け 割 り 当 て を 行 う 。 な お 、 20 00 年 に 「 耕 地 」 名 義 の 土 地 は 157 0 万 [k m 2 ]、 一 方 、 FAO 統 計 6) の 栽 培 面 積 ( Are a ha r ve s te d) は 119 0 万 2 [k m ]で あ る こ と よ り 、 世 界 に は 耕 地 名 義 で あ り な が ら 農 作 物 が 栽 培 さ れ て い な い 土 地 ( 休 耕 地 、 余 剰 耕 地 ) が 40 0 万 [k m 2 ]程 度 存 在 し た と 考 え ら れ る 。 従って、世界全体でみると今後の食料需要量増加に伴って、耕地を急速に拡大する 必要性はそれほど大きくないと考えられる。但し、地域によっては、需要増加が著し く耕地を拡大しなければ需要を満たすだけの生産ができない、余剰耕地があっても土 壌劣化等の原因で栽培に適さず新たな耕地が必要、という事も考えられる。そこで、 モ デ ル で は 、 2010 年 以 降 、 条 件 付 で 耕 地 ( = 農 作 物 の 作 付 け 候 補 地 ) を 拡 大 で き る と 想 定 し た 。こ こ で の 条 件 と は 、1 )前 期 に 耕 地 名 義 で あ っ た グ リ ッ ド に 隣 接 す る 、2 )モ デ ル 分 析 の 一 時 点 間( 2 050 年 ま で は 10 年 間 、205 0∼ 207 0 年 は 2 0 年 間 、20 70∼ 210 0 年 は 30 年 間 ) で 、 各 地 域 ( 世 界 32 地 域 ) の 最 大 利 用 可 能 面 積 ( 内 陸 水 域 や 構 造 物 域 を 除 い た 土 地 の 面 積 ) と 前 期 耕 地 面 積 と の 差 の 3%ま で 、 で あ る 。 こ の 条 件 に 関 し 、 世 界 32 の全ての地域に、同じ条件でよいか、という点は検討の余地がある。また、生物保護 地区等による拡大制約も必要であれば考慮すべきといえる。 なお、本年度分析では、温暖化緩和策としての植林等への土地利用変化は考えてお らず、一度耕地となった土地は将来にわたり耕地のままであり、他の目的に転用され ることはないとした。このため、作付け有無の区別をしなければ、耕地面積は次第に 増加する仕組みになっている。 (7) 土 地 利 用 変 化 に 伴 う 炭 素 収 支 評 価 モ デ ル 土 地 利 用 変 化 に 伴 う 炭 素 収 支 評 価 モ デ ル は 、図 4 .3. 3 -5 に 示 す 通 り 、食 料 用 作 物 耕 地 拡大による炭素放出モデル、商用バイオマス燃料利用に係る炭素放出モデル、植林・ 燃料栽培に係る炭素収支モデルの 3 つのサブモデルから構成される。このうち、温暖 化 抑 制 レ ベ ル に 依 存 す る と 考 え ら れ 、次 年 度 DNE21+と の ソ フ ト リ ン ク に よ っ て 分 析 予 定の植林・燃料栽培に係る炭素収支を除く、2 つのサブモデルの想定について述べる。 ① 食料用作物耕地拡大による炭素放出モデル 耕地以外の土地(熱帯雨林、その他の森林、草地、牧草地、耕地、痩せ地)から耕 地 へ 転 用 さ れ た 場 合 は 、生 体 バ イ オ マ ス 及 び 土 壌 か ら 、転 用 前 後 の 炭 素 密 度 の 差 だ け 、 - 164 - 炭 素 が 放 出 さ れ る と し た 。 土 地 利 用 タ イ プ 別 の 炭 素 密 度 は 、 文 献 1 8,19 )を 参 考 に 、 32 地 域 別 に 設 定 し た ( 表 4 .3. 3 -4、 表 4.3 .3 -5)。 な お 、 耕 地 の 炭 素 密 度 は 作 付 け の 有 無 に よって変わらない(すなわち、作付け地から余剰耕地になっても炭素の吸放出なし) とした。土壌からの炭素放出期間について、一般に、熱帯地方では土地の転用後から 数年間で放出されるが、寒帯地方では数十年にわたって放出が続くといわれる。文献 18,1 9)に よ る と 、 土 壌 か ら の 炭 素 放 出 は 転 用 後 の 急 激 な 酸 化 ( 3 ∼ 15 年 ) と 、 そ の 後 の ゆ っ く り し た 酸 化 ( 5 ∼ 30 年 、 Borea l fo re st は 65 年 ) に 大 別 さ れ 、 Boreal forest を 除 け ば 、 大 半 の 炭 素 は 転 用 後 の 急 激 な 酸 化 で 減 少 す る 。 そ こ で 、 ほ と ん ど の 土 壌 炭 素 は 10 年程度の期間(モデル分析の一時点間)に放出されるとした。 以 上 の 想 定 で 、森 林 の 成 長 に よ る 炭 素 密 度 の 増 加 、温 暖 化 の 影 響 は 考 慮 し て い な い 。 土地利用変化に伴う炭素収支は化石燃料利用による炭素放出に比べ、推定の不確実性 が大きいといわれる。パラメータ等の不確実性の考慮は、今後の課題である。 表 4. 3.3 -4 耕 地 へ 転 用 前 後 の 生 体 バ イ オ マ ス 炭 素 密 度 想 定 値 [10 6 g -C/h a] (a) 耕 地 へ 転 用 前 の 炭 素 密 度 熱帯雨林 USA CAN WEP JPN ANZ CHN MDK CLV KOR MSB IDS THI PHI IND APS OTA IRN ARP UME TUR NOA SOA SEA OSA MEX BRA PUA OSM RUS AIS OFS EEP 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 250 転用前土地タイプ その他の 草地 牧草地 森林 148 17 10 128 17 10 128 17 10 148 17 10 148 17 10 148 17 10 148 17 10 150 23 10 148 17 10 150 23 10 150 23 10 150 23 10 150 23 10 150 23 10 148 17 10 150 23 10 148 17 10 148 17 10 148 17 10 148 17 10 148 17 10 148 17 10 150 23 10 150 23 10 150 23 10 150 23 10 148 17 10 150 23 10 128 17 10 128 17 10 148 17 10 148 17 10 (b ) 耕 地 へ 転 用 後 の 炭 素 密 度 痩せ地 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 熱帯雨林 USA CAN WEP JPN ANZ CHN MDK CLV KOR MSB IDS THI PHI IND APS OTA IRN ARP UME TUR NOA SOA SEA OSA MEX BRA PUA OSM RUS AIS OFS EEP - 165 - 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 転用前土地タイプ その他の 草地 牧草地 森林 5 5 5 5 4 5 5 4 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 4 5 5 4 5 5 5 5 5 5 5 痩せ地 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 表 4. 3.3 -5 耕 地 へ 転 用 前 後 の 土 壌 炭 素 密 度 想 定 値 [1 0 6 g-C/ h a] (a) 耕 地 へ 転 用 前 の 炭 素 密 度 熱帯雨林 USA CAN WEP JPN ANZ CHN MDK CLV KOR MSB IDS THI PHI IND APS OTA IRN ARP UME TUR NOA SOA SEA OSA MEX BRA PUA OSM RUS AIS OFS EEP ② 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 120 転用前土地タイプ その他の 草地 牧草地 森林 134 129 87 158 129 87 158 129 87 134 129 87 134 129 87 134 129 87 134 129 87 80 56 87 134 129 87 80 56 87 80 56 87 80 56 87 80 56 87 80 56 87 134 129 87 80 56 87 134 129 87 134 129 87 134 129 87 134 129 87 134 129 87 134 129 87 80 56 87 80 56 87 80 56 87 80 56 87 134 129 87 80 56 87 158 129 87 158 129 87 134 129 87 134 129 87 (b ) 耕 地 へ 転 用 後 の 炭 素 密 度 痩せ地 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 58 熱帯雨林 USA CAN WEP JPN ANZ CHN MDK CLV KOR MSB IDS THI PHI IND APS OTA IRN ARP UME TUR NOA SOA SEA OSA MEX BRA PUA OSM RUS AIS OFS EEP 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 84 転用前土地タイプ その他の 草地 牧草地 森林 107 97 65 136 97 65 136 97 65 107 97 65 107 97 65 107 97 65 107 97 65 56 42 66 107 97 65 56 42 66 56 42 66 56 42 66 56 42 66 56 42 66 107 97 65 56 42 66 107 97 65 107 97 65 107 97 65 107 97 65 107 97 65 107 97 65 56 42 66 56 42 66 56 42 66 56 42 66 107 97 65 56 42 66 136 97 65 136 97 65 107 97 65 107 97 65 痩せ地 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 44 非商用バイオマス燃料利用に係る炭素放出モデル ア フ リ カ や ア ジ ア の 途 上 国 で は 電 気 に ア ク セ ス で き な い 人 々 を 中 心 に 、 約 27 億 の 人々が伝統的な木炭や木材(非商用バイオマス燃料)を燃料として使用している 20) 。 非商用バイオマス燃料の利用が土地の炭素固定能に及ぼす影響は明らかでないが、こ こでは、持続的な森林管理がなされないため、エネルギーとして使用した分だけ、再 生されず炭素固定量が減少するという、暫定的な仮定を設け、非商用バイオマス燃料 需 要 量 に 単 位 熱 量 当 た り の 材 木 重 量( 2 .16 1[BD -to n /TOE]、文 献 21)を 基 に 設 定 )と 炭 素 含 有 率 ( 0.4 7、 文 献 2 2)を 基 に 設 定 ) を 乗 じ 、 試 算 し た 。 (8) そ の 他 デ ー タ の 整 備 ① 土地被覆データ 農 業 土 地 利 用 評 価 モ デ ル で は 200 0 年 の 土 地 被 覆 を 基 準 に そ れ 以 降 の 耕 地 拡 大 等 土 地 利用タイプの変化を評価する。昨年度までは土地タイプ毎に分布データを整備してい た が 、 デ ー タ の 整 合 性 を 確 保 す る た め IIA SA 2 3 ) 、 HYDE 2 4 ) の 20 0 0 年 デ ー タ を 基 に 、 図 4.3. 3 -13 に 示 す 2 000 年 の 土 地 被 覆 デ ー タ を 整 備 し た 。 こ こ で 、 土 地 の タ イ プ は 、 熱 帯 雨 林 、 そ の 他 の 森 林 、 草 地 ( 含 灌 木 地 )、 牧 草 地 、 耕 地 、 痩 せ 地 、 建 築 構 造 物 地 、 内 陸 水 域 の 8 種 類 で あ る 。 空 間 分 解 能 は 、 農 業 土 地 利 用 モ デ ル と 同 じ 15 min×15 min で 、 土 - 166 - 地タイプ毎にグリッド内面積比率で与えられる。 ( 図 4. 3.3 -1 3 は 各 グ リ ッ ド の 最 大 面 積 占有土地タイプで色付け) Rainforest Other forest Grass/scrub Pasture Cropland Barren Built-up Water 図 4. 3.3 -13 ② 20 00 年 の 土 地 被 覆 気候データ 図 4 .3. 3 -1 4 に A LP S シ ナ リ オ A ,B の 分 析 用 に 想 定 し た 全 球 平 均 気 温 上 昇 を 示 す 。 最 終 的 に は シ ナ リ オ に 沿 っ た 各 種 GHGs 、S Ox、NOx の 排 出 シ ナ リ オ か ら 全 球 平 均 気 温 を 算 定 す る 予 定 で あ る が 、 今 年 度 は SOx、 NOx 等 の シ ナ リ オ 作 成 に 及 ば な か っ た こ と よ り 、 暫 定 的 に SRES -A 1V2(Min iCAM) 2 5 ) の 排 出 シ ナ リ オ を 代 用 し 、 シ ナ リ オ A,B の ベ ー ス ラ イ ン ( 特 に 温 暖 化 抑 制 を 行 わ な い ケ ー ス ) の 気 温 上 昇 と し た 。 な お 、 RCP 排 出 シ ナリオ 26) 、 及 び ③ で NEP 算 定 に 用 い た SR ES -B2 シ ナ リ オ 25) の気温上昇も同時に示し て い る 。 全 球 平 均 気 温 上 昇 の 計 算 に は 簡 易 気 候 変 動 モ デ ル MA GICC 2 7 ) を 用 い た 。 Change in global mean temperature (°C) 6.0 5.0 ALPS-A,B RCP8.5 4.0 RCP6.0 RCP4.5 3.0 RCP3-PD SRES-B2 2.0 1.0 図 4. 3.3 -14 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 0.0 全球平均気温上昇(産業革命前比) - 167 - 気温、降水量、流出量、風速、雲量、比湿等の月平均気候分布データは、 Miro c3.2 (Med re s)-A1B 2 8 ) を 基 に 、上 記 全 球 平 均 気 温 上 昇 に 応 じ た パ タ ー ン ス ケ ー リ ン グ により作成した。 ③ 生 態 系 純 生 産 量 ( NEP ) デ ー タ 農業土地利用評価モデルで、食料用作物栽培の土地を確保した上でなお、温暖化緩 和策として植林等による炭素固定に利用可能な土地を算定する。ここで、炭素固定能 力 が 一 定 値 以 上 の 土 地 を 選 別 す る た め 、分 析 各 時 点 の 生 態 系 純 生 産 量( NEP )デ ー タ を 作 成 し た 。 生 態 系 純 生 産 量 ( NEP ) は 純 一 次 生 産 (NP P )か ら 従 属 栄 養 呼 吸 を 差 し 引 い た も の で 、炭 素 固 定 能 を 示 す 指 標 と さ れ て い る 29) 。NP P は 文 献 31) 気 候 よ り 算 出 し た ( 図 4 .3. 3 -1 5)。 NEP は 、 文 献 30) の 式 と SRES -B2 相 当 の 等 の 値 を 参 考 に NP P の 暫 定 的 に 6 割 と し た 。 な お 、 算 定 に お い て SRES -B 2 相 当 の 温 暖 化 影 響 は 考 慮 し た も の の 、 A LP S の シ ナ リ オ A,B や RC P シ ナ リ オ 等 、 シ ナ リ オ 毎 の 温 暖 化 影 響 の 違 い を 考 慮 す る よ う に は な っ て い な い 。 各 シ ナ リ オ に 対 応 し た NEP デ ー タ の 作 成 は 、 炭 素 固 定 能 の 算 定 方 法 と合わせ、今後の課題である。 100 200 300 400 図 4. 3.3 -15 ④ 500 600 700 800 900 [g-C/m 2/yr] 20 00 年 NP P 推 定 値 人口分布・都市人口分布データ 水 需 給 評 価 モ デ ル で 使 用 し た 人 口 分 布 図 と 都 市 人 口 分 布 図 を 、 そ れ ぞ れ 図 4 .3. 3 -1 6、 図 4 .3. 3 -17 に 示 す 。 2 000 年 の 人 口 分 布 、 都 市 人 口 分 布 は 、 そ れ ぞ れ HYDE の 200 0 年 人 口 分 布 、 都 市 人 口 分 布 デ ー タ ( 5 min× 5 min) 3 2 ) を A LP S の 2 0 00 年 国 別 人 口 、 国 別 都 市人口と矛盾しないように調整したものである。 将 来 の 人 口 分 布 は 、(4 . 3 -5 )式 の よ う に 国 別 の 人 口 変 化 分 を 人 口 密 度 に 応 じ て 当 該 国 の グリッドに配分して作成した。 pi,t +1 = pi,t + ( pi,t / Pt ) • ΔP (4. 3 -5) t: 時 点 i: あ る 国 に 属 す る グ リ ッ ド - 168 - pi,t : グ リ ッ ド i の 人 口 Pt : あ る 国 の 人 口 ΔP = Pt +1 − Pt : あ る 国 の 人 口 変 化 将来の都市人口分布(都市グリッド分布)は、国別に前期に都市であったグリッド のうち、当期の人口が大きいグリッドから優先的に当期の都市グリッドとした。当期 の 都 市 グ リ ッ ド 選 別 は 、 国 別 都 市 人 口 比 率 が A LP S シ ナ リ オ ( 5. 3.2 節 ) に 達 す る ま で と し 、も し 、国 別 都 市 人 口 比 率 が A LP S シ ナ リ オ の 値 に 達 し な い 場 合 は 、都 市 グ リ ッ ド 周辺で人口の高いグリッドを都市人口グリッドに追加した。 今 回 整 備 し た デ ー タ は 、 2 00 0 年 の 人 口 分 布 、 都 市 人 口 分 布 を 基 準 に し て い る こ と 、 そ し て 、 空 間 分 解 能 が 高 い こ と よ り 、 昨 年 度 ま で 使 用 し て い た デ ー タ ( 19 95 年 の 人 口 分 布 デ ー タ を 基 準 、 空 間 分 解 能 は 30 min ×30 min ) 1 6 ) に 比 べ 、 将 来 予 測 の 整 合 性 が 向 上 したと考えられる。 (a)20 00 年 0 1000 10000 20000 ( b)A LPS- A シ ナ リ オ 2 050 年 30000 40000 50000 60000 80000 100000 < [ p er so n / 5 mi n x5 mi n g r i d ] 図 4. 3.3 -16 人口分布データ (a)20 00 年 0 1000 10000 20000 ( b)A LPS- A シ ナ リ オ 2 050 年 30000 40000 50000 60000 80000 100000 < [ p er so n / 5 mi n x5 mi n g r i d ] 図 4. 3.3 -17 都市人口分布データ - 169 - 4.3.4 ま と め と 今 後 の 課 題 本節では、食料、水、土地利用に関し、飢餓人口や食料価格、単収の変化、水スト レス等、近年話題にあげられる問題に対する留意点を整理し、その上で、本年度のモ デル分析ではどのような内容を対象にしたかをまとめた。例えば、現在の食料につい て、量的に足りないというよりも、低所得国の格差や経済的な問題が存在すると考え られること、また、食料市場への投機マネー流入や単収の調整など市場との関連性が 大き いと 考え ら れる こと を示 した 。水 ス トレ スに つい て は、直接 的、間接 的水 の 利用、 そして、水資源量の変化を総合的に考える必要性があることを述べた。また、バイオ マス燃料需要拡大による将来の影響は、温暖化抑制のレベルを考慮すべきことを述べ た。 以上のような問題認識のもと、本年度は、平均的な社会・経済シナリオ下で想定さ れ る 食 料 需 要 を 満 た す た め に 必 要 な 作 付 面 積 や 、 温 暖 化 抑 制 に 利 用 可 能 な 土 地 、 B lue wa te r と 呼 ば れ る 水 資 源 量 に 対 し 、 直 接 利 用 す る 水 の 量 の 比 率 ( 水 需 給 比 )、 そ し て 、 耕 地 拡 大 に 伴 う 炭 素 放 出 を 評 価 す る モ デ ル の 開 発 と デ ー タ の 整 備 を 行 っ た 。こ の う ち 、 農業土地利用評価モデルと水需給比評価モデルについては、昨年度まで個々に開発し てきたモデルをハードリンクさせ、モデルの整合性を高めると同時に、農業・水利用 分野の適応策を想定し、モデルに組み込んだ。今後の課題としては、ハードリンクし たモデルを使い、水需給比を考慮した農業土地利用や余剰地評価など、フィードバッ ク機能の構築が考えられる。土地利用変化炭素収支評価モデルについては、本年度よ り本格的な枠組み構築に取り組んだところであり、モデルのアルゴリズムやパラメー タ、データに改善の余地が多く残されている。今後の課題として、温暖化緩和策モデ ル DNE21+と の ソ フ ト リ ン ク に お い て 、温 暖 化 緩 和 策 シ ナ リ オ を 農 業 土 地 利 用 評 価 に 反 映できるような仕組みの検討があげられる。 参 考 文 献 ( 4. 3 節 分 ) 1) FAO:The State of Food Insecurity in the World (2009). 2) FAO:Minimum dietary energy requirement (2006). 3) FAO:World agriculture: towards 2015/2030, an FAO perspective, Edited by J. Bruinsma (2003). 4) 農林水産省:「穀物等の国際価格の動向」(2011) (http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_zyukyu_kakaku/pdf/kakaku.pdf). 5) あおぞら銀行:Weekly market report, Jan 31, 2011 (http://www.aozorabank.co.jp/kojin/products/study/wmreport/pdf/20110131_report.pdf). 6) FAO:FAOSTAT (http://faostat.fao.org/site/291/default.aspx) 7) World bank:World development indicators (2008). 8) FAO:Review of world water resources by country, Water reports 23 (2003). 9) Alcamo J, Flörke M, Märker M (2007) Future long-term changes in global water resources driven by sosio-economic and climate changes, Hydrilogical Science, 52(2):247-275. 10) Oki T and Kanae S:Global hydrological cycles and world water resources, Science,313-25 (2006) - 170 - 11) Hoekstra A Y and Hung P Q: Globalization of water resources: international virtual water flows in relation to crop trade, Global environmental Change, 15, 45-56 (2005) 12) NEDO :欧州委員会が再生可能エネルギーのロードマップを提案, NEDO 海外レポート No.994 (2007). 13) NEDO :米国のバイオエタノールの現状と今後の展望, NEDO 海外レポート No.1000 (2007). 14) Oki T: Total runoff integrating pathways (TRIP) (2001). (http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/%7Etaikan/TRIPDATA/TRIPDATA.html) 15) Döll P and Siebert S:Global modeling of irrigation water requirements, Water resources research, 38-4, 8-1 ∼10 (2002). 16) (財)地球環境産業技術研究機構:脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦略 の研究 平成 21 年度成果報告書 (2010). 17) FAO:AQUASTAT main country database. (http://www.fao.org/nr/water/aquastat/dbase/index.stm) 18) Houghton R A and Hackler J L:Carbon flux to the atmosphere from land-use changes:1850 to 1990. ORNL/CDIAC-131, NDP-050/R1 (2001). 19) Houghton R A:The annual net flux of carbon to the atmosphere from changes in land use 1850-1990, Tellus, 51B, 298-313 (1999). 20) IEA:World energy outlook 2010, 237–271 (2010). 21) 山地憲治、山本博己、藤野純一:バイオエネルギー,第 2 章バイオマス資源の特性, 17-46,ミオシン 出版(2000). 22) IPCC:2006 IPCC guidelines for national greenhouse gas inventories, Vol.4 (2006). 23) IIASA: Land use and land cover (http://www.iiasa.ac.at/Research/LUC/External-World-soil-database/HTML/LandUseShares.html?sb=9) 24) PBL ; Land cover. (http://www.pbl.nl/en/themasites/hyde/landusedata/landcover/index.html) 25) IPCC:Special report on emissions scenarios, Cambridge University Press, Cambridge (2000). 26) IIASA:RCP Database (version 2.0). (http://www.iiasa.ac.at/web-apps/tnt/RcpDb/dsd?Action=htmlpage&page=about) 27) Wigley T M L:MAGICC/SCENGEN version 5.3. (http://www.cgd.ucar.edu/cas/wigley/magicc/) 28) Hasumi H, Emori S (2004) K-1 coupled GCM (MIROC) description. 29) IPCC:Climate Change 2001: The Scientific Basis, Cambridge University Press, Cambridge (2001). 30) Alexandrov G and Yamagata Y:Verification of carbon sink assessment; Can we exclude natural sinks?, Climatic Change, 67, 2-3,437-499(2004). 31) 山形与志樹, Alexandrov G, 木下嗣基、石井敦:京都議定書吸収源としての森林評価に関する研究 B-60. 32) PBL:History database of the global environment. (http://themasites.pbl.nl/en/themasites/hyde/index.html) - 171 - 4.4 生態系影響評価モデルの開発 世 界 全 体 を 評 価 可 能 な 生 態 系 影 響 評 価 モ デ ル と し て は 、 B IOME4 1 ) が 著 名 で あ る 。 モ デ ル に 入 力 す る 環 境 条 件 は 評 価 対 象 時 点 (2100 年 等 )に お け る グ リ ッ ド 別 の 気 温 ・ 降 水 量等であり、モデルの出力として定常状態に達したときの植生分布の推定結果を得る こ と が で き る 。 こ の よ う に モ デ ル よ り 得 ら れ る 植 生 分 布 の 推 定 結 果 を 基 準 年 (199 0 年 ) と評価対象時点との間で比較することにより、温暖化影響による生態系影響評価を行 うこととした。ただし、あくまで気温、降水量等による潜在的な植生を評価するもの であるため、評価結果の解釈には注意が必要である。 表 4.3 .4 -1 に B IO ME4 に お い て 考 慮 さ れ て い る 植 生 タ イ プ の 定 義 を 、図 4 .4 -1 に 1 9 90 年 に お け る 潜 在 的 植 生 分 布 の 推 定 結 果 を 示 す 。ま た 、図 4. 4 -2 に は 各 濃 度 安 定 化 レ ベ ル に お け る 210 0 年 の 潜 在 的 な 植 生 分 布 の 推 定 結 果 を 示 す ( な お 、 今 年 度 こ こ で 用 い た ベ ー ス ラ イ ン は 、 IP CC SRES B2 で あ る 。)。 温 暖 化 に 伴 い 、 北 半 球 高 緯 度 地 域 の 分 布 ポ テ ンシャルが大きく変化することがわかる。 表 4. 3.4 -1 Bio me 植生タイプの定義 Bio me Typ e (Na me) Bio me Typ e ( ID ) Bio me Typ e (Na me) Typ e ( ID ) 1 Trop ic a l e ve r g re en fo rest 2 Trop ic a l se mi-d ec idu ou s fo re st 3 Trop ic a l d ec idu ou s 4 Te mpe rate d ec id uou s fore st fo re st/wo od lan d 5 Te mpe rate con ife r fo re st 6 Warm mixe d fo re st 7 Cool mix ed fo rest 8 Cool co n ifer forest 9 Cold mix ed fo rest 10 Eve rg ree n ta ig a /mon ta ne fo re st 11 Deciduou s ta iga /mon ta ne fo re st 12 Trop ic a l sa vann a 13 Trop ic a l x eroph ytic shrubland 14 Te mpe rate x eroph ytic shru bland 15 Te mpe rate sc le ro ph yll 16 Te mpe r ate b ro ad le a ve d sa van na woo dland 17 Open c on ife r woo dland 18 Bore al p ark land 19 Trop ic a l g ra ss l and 20 Te mpe r ate g ra s s land 21 Dese rt 22 Stepp e tu nd ra 23 Shru b tu nd ra 24 Dwarf sh ru b tu ndra 25 P rostrate sh rub tund ra 26 Cush ion -fo rb s, lichen a nd moss 27 Barren 28 La nd ice - 172 - 図 4. 4-1 19 90 年 に お け る 潜 在 的 な 植 生 分 布 の 推 定 (a ) ベ ー ス ラ イ ン (b ) 65 0 p pm-C O 2 (R CP6 .0 相 当 ) (c) 550 pp m-CO 2 (RC P4. 5 相 当 ) 図 4. 4-2 (d) 450 pp m-CO 2 (3. 7W/ m2 相 当 ) 濃 度 安 定 化 レ ベ ル 別 の 潜 在 的 な 植 生 分 布 の 推 定 (21 00 年 ) 図 4.4 -3 に 、 1 99 0 年 の 潜 在 的 な 植 生 分 布 と 比 較 し て 、 各 濃 度 安 定 化 レ ベ ル の シ ナ リ オ の 各 時 点 ( 205 0 年 お よ び 21 00 年 ) に お い て 、 植 生 の タ イ プ が 変 化 し た 面 積 を 示 す 。 - 173 - 排出抑制を行うことにより、潜在的な植生分布の変化を抑制することができる。この ように植生分布に関して、濃度安定化レベル別の温暖化影響の評価が可能である。 Decreased potential area relative to Y1990 [%] 10 ベースライン 650ppm-CO2 550ppm-CO2 450ppm-CO2 8 6 4 2 0 2050年 図 4. 4-3 2100年 各 排 出 パ ス の 下 で の 植 生 分 布 ポ テ ン シ ャ ル 減 少 (1 990 年 比 ) 本節では、温暖化による生態系影響として、潜在的な植生分布の変化を評価するこ と に よ っ て 、こ れ を 評 価 し た 。た だ し 、B IOME4 の 評 価 は 、あ く ま で 気 温 条 件 等 が 定 常 状態に達したときに、支配的になる植生を評価するものである。温暖化による植生へ の影響評価としては、過小に評価しているかもしれないし、逆に過大に評価している かもしれない。実際の生態系への温暖化影響は相当複雑と考えられ、ここでの分析結 果は、あくまで相当に制約された一定の条件下での評価にすぎないことに留意する必 要がある。 参 考 文 献 ( 第 4. 4 節 に 関 す る も の ) 1) J.O. Kaplan, et al.: Climate change and Arctic ecosystems: 2. Modeling, paleodata-model comparisons, and future projections, Journal of Geophysical Research, Vol.108 No.D19, 8171 (2003) - 174 - 4.5 セクター別の動向調査 温暖化対策シナリオの策定にあたっては、実現性の伴った具体的な対策を描くこと が 不 可 欠 で あ る 。R IT E で は 、こ れ ま で に 、セ ク タ ー 別 技 術 積 み 上 げ 型 の モ デ ル DNE2 1+ を構築するにあたって、セクター別の詳細なデータ収集を行い、モデルの前提条件と してきた。昨今の経済危機の影響や最新の技術動向等を反映し、より信頼性の高い分 析 と す る た め に 、 セ ク タ ー 別 の 検 討 を 実 施 し た 。 今 年 度 は 、 特 に CO 2 排 出 お よ び 排 出 削減 に大 きな 寄 与を 有す る電 力、鉄鋼 、自動 車部 門に つ いて 、詳細 な 検討 を実 施 した。 検討は、各部門の専門家によるワーキンググループを設置し、知見やデータ提供を受 けながら、詳細な検討を実施した。ただし、各専門家と意見が一致しない箇所に関し て は 、 モ デ ル 分 析 と の 調 和 性 な ど も 勘 案 し 、 R ITE の 判 断 で 整 理 を 行 っ た 。 4.5.1 電 力 部 門 電力部門については、最新の発電コスト・効率の情報収集、整理を主に行った。ま た、間欠性を伴う再生可能エネルギー(風力、太陽光発電)の大量導入時の系統安定 化のための費用算定についての最新情報等についても収集、整理を行った。それらの 情 報 を も と に 、 DNE2 1+モ デ ル の 前 提 条 件 と し て の 反 映 を 行 っ た 。 (1) 発 電 コ ス ト ・ 効 率 の 調 査 、 整 理 電力部門については、供給部門と需要部門の両者の検討が必要であるが、本年度は 供給部門を中心に検討を行った。発電コストについては、各種文献(国内文献、 IEA/NEA20 10 1 ) 、IEA E TP 2010 4 ) な ど )を 基 に 、国 内 お よ び 世 界 に つ い て 、整 理 を 行 っ た 。 国 内 に つ い て は 表 4 . 5.1 -3 の よ う に 石 炭 、 天 然 ガ ス 、 原 子 力 、 風 力 、 太 陽 光 発 電 に つ い て、コスト構造別に整理を行った。全体としての発電コストを見るだけでなく、項目 毎に整理を行うことによって、現在のコストの見方の違い、将来のコスト低減の見通 し の 理 解 が 深 ま る こ と を 目 指 し た 。 ま た 、 世 界 の 報 告 例 を 表 4.5. 1 -4 に 示 す 。 IEA/N EA は 、 日 本 を 含 む 世 界 各 国 の 発 電 コ ス ト 事 例 が ま と め ら れ た 文 献 で あ る 。 表 4. 5.1 -3 は 、 IEA/NEA を 含 む 多 く の 文 献 を も と に 整 理 を 行 っ た が 、 主 要 な 文 献 の デ ー タ と し て は 、 例 え ば 、時 系 列 を 伴 う 風 力 発 電 の 実 績 値 は 図 4 .5. 1 -1 、太 陽 光 発 電 の 実 績 値 は 図 4.5 .1 -2 のような報告等を利用した。また、系統安定化の費用としては、太陽光発電について は 、 表 4 .5. 1 -1 お よ び 表 4 .5. 1 -2 の 試 算 例 を 、 風 力 発 電 に つ い て は 日 本 風 力 発 電 協 会 に よ る 試 算 例 ( 例 え ば 5000 万 kW 導 入 時 は 8.6 ∼ 10 .4 兆 円 等 と 試 算 ) を 参 考 に し て ま と め た 。た だ し 、こ れ ら を も と に 表 4. 5.1 -3 の よ う に 整 理 を 行 っ た が 、再 生 可 能 エ ネ ル ギ ーの系統安定化のための費用については十分な検討がなされているとは言えない。例 えば、日本風力発電協会による風力発電の系統安定化費用の試算や、環境省による太 陽光発電の系統安定化費用は、前提が不適当や考慮が十分でなく、安価に見積もりす ぎとの意見も多いが、報告されている数値を幅広くサーベイしたものであるので、注 意されたい。 そ の 他 、 表 4 .5 .1 -3、 表 4 .5. 1 -4 含 め た 全 体 的 な 傾 向 と し て は 、 大 き な 傾 向 と し て は 、 各種電源(化石燃料発電、原子力発電、風力発電)の設備費は、近年上昇傾向にある - 175 - こ と が わ か る 。資 材 価 格 の 高 騰 等 に よ る も の と 考 え ら れ る 。ま た 、図 4. 5.1 -2 で 見 ら れ る よ う に 、太 陽 光 発 電 パ ネ ル の 価 格 に つ い て は 低 減 傾 向 に は あ る も の の 、19 97 -200 7 年 の 平 均 年 コ ス ト 習 熟 率 は 4%で あ る も の の 、 2002 年 以 降 に 限 れ ば 年 平 均 1 %と な っ て お り、コスト習熟の飽和もしくは資材価格高騰の影響が出ているものと考えられる。ま た 、 2 002 年 以 降 に 限 れ ば 、 太 陽 光 パ ネ ル 以 外 の 付 属 機 器 と 設 置 工 事 費 の 合 計 は む し ろ 増大傾向にある。 図 4. 5.1 -1 図 4. 5.1 -2 風力発電の実績値 8) 太陽光発電のコストの実績値 - 176 - 9) 表 4. 5.1 -1 太陽光発電の系統安定化費用の試算例1 - 177 - 表 4. 5.1 -2 太 陽 光 発 電 の 系 統 安 定 化 費 用 の 試 算 例 2 12) - 178 - 表 4. 5.1 -3 大項目 中項目 小項目 石炭発電 日本における発電コストの整理 原子力発電(軽水炉) 天然ガス複合発電 現状(2005年頃) 2050年 現状(2005年頃) 2050年 現状(2005年頃) 2050年 技術習熟要素無もしくは小 建設費 注)特に、風力、太陽光発電の項の引用 文献の一部については限られた文献から の引用となったため、、前提条件の想定 が適当とは考えられないものや精度の高 い推定と考えられないものも含まれるの で、注意が必要 25~35万円/kW程度 12~20万円/kW程度 30~40万円/kW程度 20~40万円/kW程度 稼働率 70~80%程度 50~60%程度 30~40年 30~40年 耐用年数 kWhあたり単価へ換算 燃料想定価格 2.1~3.7円/kWh 石炭 LNG ウラン(濃縮・成形加工費込) 発電効率(送電端、低位発熱量基準) 燃料費 運転人件費・メインテナンス費 小計 8,800円/t 発電施設解体費用 51,000円/t 42%程度 2.9円/kWh 48%程度 52%程度 5.1円/kWh 6.5円/kWh 1円/kWh程度 8 . 2 ~9 .8 円/ kW h 0.01円/kWh 1.3~3.1円/kWh 30~40%程度(コスト推計には不使用) 1 3 .5 ~1 5 .2 円/ kW h 0.01円/kWh 5 .1 ~7 .4 円/ kW h 4 . 8 ~6 . 6 円/ kWh 0.04~0.05円/kWh ― ― 2 ~4 円/ kW h 程度 費用計(配電費用は含まず) 2 ~4 円/ kWh 程度 8 ~1 1 .6 円/ kW h 1 0 . 2 ~1 3 . 8 円/ kWh 1 0 .4 ~1 4 .1 円/ kW h 1 5 .5 ~1 9 .2 円/ kW h 8 .8 ~1 2 .4 円/ kW h 1 0 . 9 ~1 4 . 5 円/ kWh 1 0 .7 ~1 4 .4 円/ kW h 1 5 .8 ~1 9 .5 円/ kW h 費用計(温暖化影響費用含む(炭素価 炭素価格100$/tCO2相当時 格による感度解析)) 1 5 .8 ~1 9 .4 円/ kW h 1 7 ~2 0 . 6 円/ kW h 1 3 .8 ~1 7 .5 円/ kW h 1 8 .6 ~2 2 .3 円/ kW h 炭素価格200$/tCO2相当時 2 3 .5 ~2 7 .1 円/ kW h 2 3 . 8 ~2 7 . 4 円/ kWh 1 7 .2 ~2 0 .9 円/ kW h 2 1 .6 ~2 5 .3 円/ kW h 炭素価格10$/tCO2相当時 2050年 3円/kWh程度 1 4 円/ kW h 程度( 陸上) [太陽電池パネル] 43万円/kW程度 想定技術習熟率(2005~ 2030年):8%/年 5.8万円/kW程度 想定技術習熟率(2030~ 2050年):4%/年 2.6万円/kW程度 12%程度(10~15%程度) 20~30年 48.1~55.7円/kWh(住宅 等);44.3~55.7円/kWh (大規模集中) 16~27.3円/kWh(住宅 等);12.9~27.3円/kWh (大規模集中) ― ― ― 14~24.9円/kWh(住宅 等);10.9~24.9円/kWh (大規模集中) 現状15%程度(コスト推計には不使用) 2030年25%、2050年40%目標有(実現すればポテンシャル増につながる。コスト低減の想定 はこの効果を織り込んだ想定) 3円/kWh程度 ― 3円/kWh程度 3円/kWh程度 3円/kWh程度 1 2 .2 ~1 7 .2 円/ kW h ( 陸 1 1 .2 ~1 4 .5 円/ kW h ( 陸 5 1 .1 ~5 8 .7 円/ kW h ( 住 1 9 ~3 0 . 3 円/ kWh ( 住宅 1 7 ~2 7 .9 円/ kW h ( 住宅 上) ; 1 7 .7 ~2 6 .8 円/ kW h 上) ; 1 6 .7 ~2 5 .9 円/ kW h 宅等) ; 4 7 .3 ~5 8 .7 円 等) ; 1 5 .9 ~3 0 .3 円/ kW h 等) ; 1 3 . 9 ~2 7 . 9 円/ kW h ( 海上) ( 海上) / kW h ( 大規模集中) ( 大規模集中) ( 大規模集中) 0.1円/kWh程度 0.1~0.3円/kWh程度 2~4円/kWh程度 (系統までの送電費用は建設費に含まれるものとした) 4円/kWh程度 (オンサイトの場合でも系統と全く連系しない場合はほとんどないと 考えられるためすべてで想定) 【日本風力発電協会による試算(既設連系線使用可能時~使用不可能時)】 ~500万kW:1円/kWh未満 ~1,000万kW:0.8~1.3兆円(2030年まで累積)(=4.8~7.8円/kWh) ~2,000万kW:2.9~4.6兆円(2030年まで累積)(=8.7~13.8円/kWh) ~2,500万kW:3.8~5.4兆円(2030年まで累積)(=9.1~12.9円/kWh) ~5,000万kW:8.6~10.4兆円(2030年まで累積)(=10.3~12.5円/kWh) ― ― ― 3円/kWh程度 1.5円/kWh 注)限られた文献からの引用となったため、引用文献の一部につい ては、前提条件の想定が適当とは考えられないものや精度の高い 推定と考えられないものも含まれるので、注意が必要 再処理費、廃棄物処理費 11円/kWh程度(陸上) 9.2~12.4円/kWh(陸上); 8.2~11.5円/kWh(陸上); 14.7~23.8円/kWh(海上) 13.7~22.9円/kWh(海上) ― 2円/kWh程度 2030年 20年 58%程度 1円/kWh 現状(2005年頃) 20%(15~25%程度) ― ― ― 11.6円/kWh ― 20%(15~25%程度) ― ― 燃料費の項で記載 0.6円/kWh程度 8 .4 ~1 0 . 1 円/ kW h 20%(15~25%程度) 想定技術習熟率(2030~ 2050年):1%/年 10万円/kW程度 20年 2~4円/kWh程度 系統安定化のための追加費(周波数調整力確保対策+余剰 電力対策+配電対策等) kWhあたり単価は、風力、太陽光発電それぞれの発電電力量 を分母として算出したもの 小計 想定技術習熟率(2005~ 2030年):1%/年 12万円/kW程度 102,000円/t ― 送電費用(明確な区分けは困難だが、配電費用は含まない単 価。配電費用は電圧等により大きな差がある。) その他費用 2.1~4.4円/kWh ― 17,600円/t 85~90%程度 2050年 [設置工事費、付属機器費] [設置工事費、付属機器費] 20~25万円/kW程度(戸建住宅屋根傾斜面設置、最大5300万kW程度(設置の制約 640万kW(条件:陸上・限定された条件):8万円/kW程度 条件を考慮すると、1219~4878万kWとの報告も有));20~30万円/kW程度(非傾斜 2,500~30,000万kW(条件:陸上・緩和された条件):10~15万円/kW程度 面屋上設置、集合住宅:最大2200万kW程度(164~654万kWとの報告も有)、大型産 510~40,000万kW(条件:洋上・着床式):20~40万円/kW程度 業施設:最大5300万kW程度(1490~3450万kWとの報告も有)、公共施設:最大 3,800~130,000万kW(条件:洋上・浮体式):20~40万円/kW程度(技術習熟要素一 1400万kW程度(950~2130万kWとの報告も有));15~30万円/kW程度(その他未 部有、コストレンジは技術習熟を含めたもの) 利用地等、最大6000万kW程度(7590~9370万kWとの報告も有)) 【設置費用については設置条件次第で大きく変わるため概算値】 【設置費用については設置条件次第で大きく変わるため概算値】 40~60年 1.3~3円/kWh ― ― 6 ~7 .6 円/ kW h 60~85%程度 太陽光発電 2030年 [風車] 16万円/kW程度 技術習熟要素有 発電費 風力発電 現状(2005年頃) 【経済産業省研究会試算2009年7月】 ~1,300万kW:1円/kWh未満 ~2,800万kW:3000億円程度(2030年まで累積)(=1.3円/kWh) ~5,100万kW:4.6兆円程度(2030年まで累積)(=11円/kWh程度) ~5,321万kW:最大7兆円(2030年まで累積)(=16円/kWh程度) 【経済産業省研究会試算2010年5月(出力抑制無、系統側蓄電池ケース)】 ~2,800万kW:16.2兆円(20年まで)(=69円/kWh) 【環境省研究会試算2009年2月】 ~7,900万kW:3.56兆円(2030年まで累積)(=5円/kWh程度) 1円/kWh程度 ― ― 3 ~5 .1 円/ kW h 程度 ~5 0 0 万kW : 2 .1 ~4 .1 円/ kW h ~1 , 0 0 0 万kW : 6 .9 ~1 1 .9 円/ kW h ~2 ,0 0 0 万kW : 1 0 .8 ~1 7 .9 円/ kW h ~2 ,5 0 0 万kW : 1 1 .2 ~1 7 .0 円/ kW h ~5 ,0 0 0 万kW : 1 2 .4 ~1 6 .6 円/ kW h ~1 , 3 0 0 万kW : 4 .1 ~4 . 3 円/ kWh 程度 ~2 ,8 0 0 万kW : 5 .4 ~5 .6 円/ kW h ~5 ,1 0 0 万kW : 9 ~1 5 円/ kW h ~7 ,9 0 0 万kW : 9 ~2 0 円/ kW h 8 . 1 ~1 2 .5 円/ kW h 8 . 1 ~1 2 .5 円/ kW h 7 .8 ~1 1 .7 円/ kW h 1 4 .3 ~1 6 .3 円/ kW h 【 5 0 0 万kW 程度ま で】 ; 1 9 .1 ~ 1 6 . 1 ~1 8 . 1 円/ kWh ( 陸 2 9 .1 円/ kW h 【 1 0 0 0 万kW 上) 【 2 0 0 8 年度末: 約1 9 0 まで 】 ; 2 4 .6 ~3 3 .8 円 / kW h ( 陸上) 、 3 0 .1 ~ 万kW 】 4 3 .4 円/ kW h ( 海上) 【 5 0 0 0 万kW ま で】 1 3 .3 ~1 5 .3 円/ kW h 【 5 0 0 万kW 程度まで 】 ; 1 8 .1 ~ 2 6 .4 円/ kW h 【 1 0 0 0 万kW 5 5 . 2 ~6 3 円/ kW h 【 2 0 0 8 ま で】 ; 2 3 .6 ~3 1 .1 円 年度末: 約2 0 0 万kW 】 / kW h ( 陸上) 、 2 9 . 1 ~ 4 2 .5 円/ kW h ( 海上) 【 5 0 0 0 万kWま で】 2 0 ~3 4 .6 円/ kW h 【 1 3 0 0 万kW 程度ま で】 ; 2 1 . 3 ~3 5 .9 円/ kW h 【 2 8 0 0 万 kW程度ま で】 ; 2 4 .9 ~ 4 5 .3 円/ kW h 【 5 1 0 0 万kW 程度まで 】 1 8 ~3 2 .2 円/ kW h 【 1 3 0 0 万kW 程度まで 】 ; 1 9 .3 ~3 3 .5 円/ kW h 【 2 8 0 0 万 kW 程度まで 】 ; 2 2 .9 ~ 4 2 .9 円/ kW h 【 5 1 0 0 万kW 程度まで 】 7 .8 ~1 1 .7 円/ kW h 1 4 .3 ~1 6 .3 円/ kW h 【 5 0 0 万kW 程度ま で】 ; 1 9 .1 ~ 1 6 . 1 ~1 8 . 1 円/ kWh ( 陸 2 9 .1 円/ kW h 【 1 0 0 0 万kW 上) 【 2 0 0 8 年度末: 約1 9 0 まで 】 ; 2 4 .6 ~3 3 .8 円 / kW h ( 陸上) 、 3 0 .1 ~ 万kW 】 4 3 .4 円/ kW h ( 海上) 【 5 0 0 0 万kW ま で】 1 3 .3 ~1 5 .3 円/ kW h 【 5 0 0 万kW 程度まで 】 ; 1 8 .1 ~ 2 6 .4 円/ kW h 【 1 0 0 0 万kW 5 5 . 2 ~6 3 円/ kW h 【 2 0 0 8 ま で】 ; 2 3 .6 ~3 1 .1 円 年度末: 約2 0 0 万kW 】 / kW h ( 陸上) 、 2 9 . 1 ~ 4 2 .5 円/ kW h ( 海上) 【 5 0 0 0 万kWま で】 2 0 ~3 4 .6 円/ kW h 【 1 3 0 0 万kW 程度ま で】 ; 2 1 . 3 ~3 5 .9 円/ kW h 【 2 8 0 0 万 kW程度ま で】 ; 2 4 .9 ~ 4 5 .3 円/ kW h 【 5 1 0 0 万kW 程度まで 】 1 8 ~3 2 .2 円/ kW h 【 1 3 0 0 万kW 程度まで 】 ; 1 9 .3 ~3 3 .5 円/ kW h 【 2 8 0 0 万 kW 程度まで 】 ; 2 2 .9 ~ 4 2 .9 円/ kW h 【 5 1 0 0 万kW 程度まで 】 1)割引率を5%として計算した。より高い割引率(例えば10%)を用いて計算すると、設備費が高い電源が、相対的により高い発電単価として算出される。 2)IEA/NEA, Projected Costs of Generating Electricity-2010 Editionから多くの数値を引用 備考(根拠、出典等も記載) 1)2050年の燃料価格は現状価格の2倍と想定 2)2050年の発電効率は、これよりも高い効率の設備が見込 まれるが、設備の残存も含めた平均的な効率のおおよその 見通しとして設定 1)2050年の燃料価格は現状価格の2倍と想定 2)2050年の発電効率は、これよりも高い効率の設備が見込 まれるが、設備の残存も含めた平均的な効率のおおよその 見通しとして設定 1)燃料費のうち、濃縮・成形加工費が7割程度を占めており、 ウラン燃料費の比率は小さいため、2050年の燃料費は現状 比の1.5倍と想定 2)将来設備費については、H22経済産業省「次世代軽水炉開 発の中間評価の公表」(次世代軽水炉の建設費(開発目 標):13万円/kW)等も参考にしつつ、現実感も踏まえて総合 的に判断し、20万円/kW~と想定したケースで計算 - 179 - 1) NEDO, 「新エネルギー等導入基礎調査」, 2000; JWPA, 「風力発電の賦存量とポテンシャ ルおよびこれに基づく長期導入目標とロードマップの算定」, 2009; 環境省, 「H21年度再生可 能エネルギー導入ポテンシャル調査」, 2010;NEDO, 「再生可能エネルギー技術白書」, 2010 2) 近年、建設費は増大傾向にあるが、名目価格での上昇であるため、実質価格としては引 き続き低減すると仮定して費用を想定した。 1) NEDO, 「2030 年頃までの技術発展を想定したときの国内導入可能量」, 2005; NEDO, 「太陽光発電ロードマップ(PV2030+)」, 2009;METI低炭素電力供給システムに関する研究 会, 2009; METI次世代送配電ネットワーク研究会, 2010; 環境省, 「H21年度再生可能エネル ギー導入ポテンシャル調査」, 2010 2) 1997-2007年の太陽光パネルの技術習熟率は4%/yrであるが(2002~07年に限れば1%/yr 程度とこれよりもかなり低い)、2030年までは8%/yrと想定 メインテナンス費はOECD平均値(IEA/NEA, 2010) 表 4. 5.1 -4 IEA/NEA2010 報告レンジ中 設備費 OECD中央値 運転人件費・メインテナンス費 燃料費 発電効率 稼働率 耐用年数 発電単価($/MWh) 国際研究機関等における実績報告値、モデル想定値 $/kW $/MWh $/MWh % % 年 割引率5% 割引率10% 石炭 (SC/USC coal) 2133.49 6.02 18.21 41.10% 85% 40 65.18 80.05 風力(陸上) 天然ガス(CCGT) 原子力 1068.97 4.48 61.12 57% 85% 30 85.77 92.11 4101.51 14.74 9.33 33% 85% 60 58.53 98.75 2348.64 21.92 ― ― 26% 25 96.74 137.16 6005.79 29.95 ― ― 13% 25 410.81 616.55 太陽光 報告レンジ (途上国含) 設備費 発電単価($/MWh) $/kW 割引率5% 割引率10% 602~2719 29.42~88.08 33.26~107.03 538~1622 35.81~105.14 39.01~119.53 1556~5863 29.05~81.65 42.09~121.62 1223~3716 48.39~162.9 72.01~234.32 2878~7381 122.86~626.87 186.54~934.63 IEA/NEA2005 報告レンジ (途上国含) 設備費 発電単価($/MWh) $/kW 割引率5% 割引率10% 719~2347 15.7~56.9 25.9~69.1 424~1030 38.2~60.4 40.9~63.8 1074~2510 20.8~48.0 30.3~68.6 1024~1634 31.1~92.3 46.1~144.2 3363~5239 120.6~484.8 209.1~743.4 IEA ETP 2010 2010年時点 設備費 $/kW 2100~2200 900 3000~3700 1450~2200 3500~5600 風力(陸上) 2008年 2030年 1770~1960 1440~1600 90~105 70~85 2008年 5730~6800 360~755 IEA/WEO PNNL 450 scenario 設備費 発電単価($/MWh) 設備費 運転人件費・メインテナンス費 発電効率 発電単価($/MWh) 追加費用(電力貯蔵) $/kW $/kW $/MWh % Pluverized coal 2020年 ― ― 39% 39.3 Gas (CC) 2020年 ― ― 55% 18.2 Nuclear (Gen III) 2020年 ― ― ― 50.9 $/kW - 181 - 太陽光 2030年 2010~2400 140~305 Rooftop PV Wind 2005年 1167 4.11 2020年 1124~1082 3.42~3.42 658 566~486 2005年 9500 11.42 2020年 6278~4258 5.71~3.42 Central PV 2005年 6875 2.85 2020年 4525~3446 2.85~2.51 480 413~355 309.4~517 図 4 .5. 1 -3 は 、 表 4.5 . 1 -3 を も と に 、 少 し 簡 略 化 し な が ら 、 そ れ を グ ラ フ 化 し た も の で あ る 。 石 炭 、 天 然 ガ ス 発 電 は 、 化 石 燃 料 価 格 が 205 0 年 に 向 け て 2 倍 程 度 に 上 昇 す る と仮定しつつ、一方で発電効率向上を見込んで発電単価推移の見通しを示している。 原 子 力 発 電 は 、燃 料 費 が 1.5 倍 程 度 に 上 昇 す る と 仮 定 し つ つ( 燃 料 費 に は ウ ラ ン 資 源 費 のみならず、加工費が含まれるため、ウラン資源については概ね2倍程度に上昇する と 仮 定 し た 想 定 )、稼 働 率 が 60 -8 5%か ら 、 2050 年 に 85 -90 %へ 推 移 す る と 想 定 し た と き の 発 電 単 価 を 示 し て い る 。風 力 発 電 は 、 風 車 部 分 の コ ス ト 低 減 が 年 率 1%で 継 続 す る と し た も の 、太 陽 光 発 電 は 、太 陽 光 パ ネ ル の コ ス ト 低 減 が 2 030 年 ま で は 年 率 8%、2030 -5 0 年 は 年 率 4%と 想 定 し た 場 合 の 発 電 単 価 を 示 し て い る 。 ま た 、 風 力 、 太 陽 光 は 、 導 入 量 が大きくなると、系統安定化等のためにむしろ費用が大きくなる要因もあるため、そ れを含めた幅として示している。 ま た 、 図 4.5 .1 -3 は 、 炭 素 価 格 と し て 1 00$ /tCO 2 を 想 定 し た と き の 化 石 燃 料 発 電 の 発 電 単 価 の 相 対 的 な 位 置 づ け の 変 化 を 示 し た も の で あ る 。100 $/tCO 2 程 度 の 炭 素 価 格 に な ると、風力発電は化石燃料発電とかなり競争力を有するようになる。太陽光発電につ い て は 、 相 当 コ ス ト 習 熟 が 進 ん だ 段 階 に な ら な い と 、 1 00$ /tC O 2 程 度 の 炭 素 価 格 の 下 で あっても化石燃料発電と競争力を有するようにはならないと見られる。また、風力、 太陽光発電は、コスト条件が良い部分まではコスト競争力を有するようになることが 期待できるものの、導入量が大きくなると、条件の悪いところでの設置や、系統安定 化のための追加費用が必要になってくる。コスト効率性からは、適切なレベルの導入 が望ましいことが理解できる。 70 発電単価(円/kWh) 60 50 電気 料金 20 40 太陽光発電 30 風力発電 天然ガス発電 石炭発電 10 0 2005 原子力発電 2010 2015 図 4. 5.1 -3 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 発電単価:時系列、温暖化外部費用含まず - 182 - 70 発電単価(円/kWh) 60 50 電気 料金 20 40 太陽光発電 30 風力発電 天然ガス発電 石炭発電 10 原子力発電 0 2005 2010 図 4. 5.1 -4 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 発 電 単 価 : 時 系 列 、 温 暖 化 外 部 費 用 含 む ( 1 00$/ tCO 2 ) 図 4 .5. 1 -5 、 図 4. 5.1 -6 に は 、 20 30 年 に お け る 発 電 単 価 を そ れ ぞ れ 設 備 容 量 別 、 発 電 電 力 量 別 に 示 し た も の で あ る 。 一 方 、 図 4.5. 1 -7、 図 4 .5. 1 -8 は 、 同 じ く 、 203 0 年 に お ける発電単価をそれぞれ設備容量別、発電電力量別に示したものであるが、炭素価格 100$ /tCO 2 を 想 定 し た も の で あ る 。 2030年 60 太陽光発電:戸建住宅+就業住宅+大型産業施設+公共施設最大設置可能量 太陽光発電:戸建住宅+就業住宅最大設置可能量 発電単価(円/kWh) 50 電気 料金 太陽光発電:戸建住宅最大設置可能量 太陽光発電 40 陸上風力最大設置可能量 30 風力発電 20 天然ガス発電 石炭発電 10 原子力発電 現時点の 太陽光設備容量 0 0 1000 現時点の 風力設備容量 図 4. 5.1 -5 現時点の 現時点の原子力 石炭設備容量 設備容量 2000 3000 4000 5000 設備容量(万kW) 現時点の天然 ガス設備容量 6000 7000 8000 現状比10% 発電単価:設備容量別、温暖化外部費用含まず - 183 - 2030年 60 太陽光発電:戸建住宅+集合住宅+大型産業施設+公共施設最大設置可能量 太陽光発電:戸建住宅+集合住宅最大設置可能量 50 太陽光発電:戸建住宅最大設置可能量 発電単価(円/kWh) 太陽光発電 40 陸上風力最大設置可能量 30 電気 料金 風力発電 20 天然ガス発電 石炭発電 10 原子力発電 現時点の太陽光 発電電力量 0 0 現時点の風力 発電電力量 現時点の石炭 現時点の原子力 現時点の天然 発電電力量 発電電力量 ガス発電電力量 5000 10000 現状比10% 現状比5% 図 4. 5.1 -6 15000 20000 25000 発電電力量(MWh) 30000 35000 40000 発電単価:発電電力量別、温暖化外部費用含まず 2030年 60 太陽光発電:戸建住宅+就業住宅+大型産業施設+公共施設最大設置可能量 太陽光発電:戸建住宅+就業住宅最大設置可能量 発電単価(円/kWh) 50 電気 料金 太陽光発電:戸建住宅最大設置可能量 太陽光発電 40 陸上風力最大設置可能量 30 風力発電 20 石炭発電 天然ガス発電 10 原子力発電 現時点の 太陽光設備容量 0 0 1000 現時点の 風力設備容量 図 4. 5.1 -7 現時点の 現時点の原子力 石炭設備容量 設備容量 2000 3000 4000 5000 設備容量(万kW) 現時点の天然 ガス設備容量 6000 7000 8000 現状比10% 発 電 単 価 : 設 備 容 量 別 、 温 暖 化 外 部 費 用 含 む ( 1 00$/t CO 2 ) - 184 - 2030年 60 太陽光発電:戸建住宅+集合住宅+大型産業施設+公共施設最大設置可能量 太陽光発電:戸建住宅+集合住宅最大設置可能量 発電単価(円/kWh) 50 太陽光発電:戸建住宅最大設置可能量 40 陸上風力最大設置可能量 30 電気 料金 風力発電 20 石炭発電 天然ガス発電 10 原子力発電 現時点の太陽光 発電電力量 0 0 現時点の風力 発電電力量 図 4. 5.1 -8 5000 現状比5% 現時点の石炭 現時点の原子力 現時点の天然 発電電力量 発電電力量 ガス発電電力量 10000 現状比10% 15000 20000 25000 発電電力量(MWh) 30000 35000 40000 発 電 単 価 : 発 電 電 力 量 別 、 温 暖 化 外 部 費 用 含 む ( 100 $/t CO 2 ) IEA En e rg y Te chn olog y P erspec tives (ETP ) 2 0 10 の シ ナ リ オ 策 定 に お い て 利 用 さ れ て い る 発 電 設 備 の 設 備 費 と 発 電 効 率 の 想 定 は 表 4 .5. 1 -5 の よ う に な っ て い る 。 表 4. 5.1 -5 IEA ETP 2010 で 用 い ら れ て い る 設 備 費 と 発 電 効 率 I n v e s t me n t co st ( U SD / k W ) Ne t e ff i c ie n c y ( %) 2010 2050 2010 2050 SC PCC 2100 1650 42 42 USC PCC 2200 1700 46 52 IGCC 2400 1850 42 54 NG C C 900 750 57 63 U S C P C C +p o s t - co mb c a p t ur e 3400 2500 36 44 I G C C +p r e - co mb c ap t ur e 3200 2450 33 48 NG C C +p o st - co mb cap t u re 1450 11 0 0 49 56 NG C C + o x y- f u e ll i n g 1650 1350 47 54 B io ma s s s te a m t u r b i ne 2500 1950 - - 3 0 0 0 -3 7 0 0 2 7 0 0 -3 3 0 0 36 37 N uc l ear ( Ge n II I+ ) - 185 - (2) DNE21 +モ デ ル に お け る 想 定 上記のように、発電コスト等の調査、整理を行った上で、それらを総合的に参考に し て 、温 暖 化 対 策・エ ネ ル ギ ー 技 術 評 価 モ デ ル DNE21+ に お け る 発 電 コ ス ト を 表 4.5 .1 -6 のように想定した。 表 4. 5.1 -6 DNE 21+ モ デ ル に お い て 今 回 想 定 し た 設 備 費 と 発 電 効 率 2000年価格設備 2007年価格設備 費 ($/kW) 費 ($/kW) 発電効率 (LHV %) 低効率 (在来型(亜臨界)、現在の途上国で の利用) 中 効 率 (主に現在の先進国での利用(超臨 界)∼将来、複合発電化(IGCC)を含む) 1000 1250 22.0–27.0 1500 1875 36.0–45.0 高効率 (現在先進国で利用∼将来、複合発電 化(IGCC、IGFC)) 1700 2125 42.0–55.0 石油発電 低効率(ディーゼル発電等) 中効率(亜臨界) 高効率(超臨界) CHP 天然ガス発電 低効率(蒸気タービン) 中効率(複合発電) 高効率(高温型複合発電) CHP 250 650 1100 700 300 650 1100 700 1200–900 2200–1600 2400 2100 2800–2050 1900–1400 1100 1000 313 813 1375 875 375 813 1375 875 1500-1125 2750-2000 3000 2625 3500-2625 2375-1750 1375 1250 22.0–27.0 37.0–45.0 50.0–60.0 37.0–47.0* 26.0–32.0 38.0–47.0 52.0–62.0 38.0–48.0* 18.0–28.0 36.0–46.0 石炭発電 バイオマス発電 原子力発電 低効率(蒸気タービン) 高効率(複合発電) 在来型 先進型 CO2 回収付IGCC/IGFC 天然ガス酸素燃焼発電 水素発電(FC/GT) 電力貯蔵(揚水発電等) 33.0–51.0 40.7–50.7 52.0–64.5 図 4 .5. 1 -8 、 図 4 .5. 1 -9 に は 、 各 国 の 石 炭 火 力 と 天 然 ガ ス 発 電 の 発 電 効 率 ( 低 位 発 熱 量 基 準 ) と モ デ ル の 基 準 年 と な る 200 0 年 の 低 効 率 、 中 効 率 、 高 効 率 の 発 電 設 備 の 発 電 効率の想定値を示す。高効率は、世界最高レベルの発電効率を有する国の発電効率、 中効率は世界平均レベル、低効率はほぼすべての地域の現状の最も低位の発電効率を カバーできるレベルとしている。 - 186 - 55 高効率 中効率 50 Australia Canada Efficiency (% LHV) 低効率 France Germany 45 Japan 40 UK US 35 EU27 Russia 30 Korea China 25 India World 20 1990 1992 1994 1996 1998 図 4. 5.1 -9 2000 2002 2004 2006 2008 石炭発電効率の想定 注 ) 図 中 の 低 効 率 、 中 効 率 、 高 効 率 は 、 表 4.5.1-6 の 石 炭 発 電 の 低 効 率 、 中 効 率 、 高 効 率 に 相 当 す る 。 発 電 効 率 の 実 績 値 は IEA 統 計 よ り 算 定 し た も の 。 55 Australia Canada 50 Efficiency (% LHV) France Germany 45 Japan 40 UK US 35 EU27 Russia 30 Korea 高効率 中効率 25 China India 低効率 World 20 1990 1992 1994 1996 1998 図 4. 5.1 -10 2000 2002 2004 2006 2008 天然ガス発電効率の想定 注 ) 図 中 の 低 効 率 、 中 効 率 、 高 効 率 は 、 表 4.5.1-6 の ガ ス 発 電 の 低 効 率 、 中 効 率 、 高 効 率 に 相 当 す る 。 発 電 効 率 の 実 績 値 は IEA 統 計 よ り 算 定 し た も の 。 図 4 .5. 1 -11、 図 4.5 .1 -1 2 は 、 そ れ ぞ れ 石 炭 発 電 、 天 然 ガ ス 発 電 に お い て 、 低 効 率 だ が設備費用が安価な発電設備、中効率で設備費用も中程度の発電設備、高効率だが設 備費用も高価な発電設備の3種類が、投資判断にあたっての割引率(主観的な投資回 収年数)の違いによって費用効率性がどのように変化するか、また、燃料価格によっ て費用効率性がどのように変化するかの感度を簡単に試算したものである。日本のよ - 187 - うに相対的に低い割引率(長い投資回収年数)で投資判断がなされると、高効率な発 電技術がコスト効率性を有するが、途上国のように高い割引率(短い投資回収年数) で投資判断がなされると、低効率な発電技術がコスト効率性を有し、選択されやすく なることがわかる。 な お 、DNE21+ モ デ ル の モ デ ル 計 算 に お い て は 、 化 石 燃 料 価 格 や 稼 働 率 は モ デ ル で 内 生的に計算される。ここではどのような要因でどの程度、コスト効率性が異なってく るのかの感度を見ていることに注意されたい。 b) 現 状 石 炭 単 価 × 2 倍 140 160 120 140 100 発電単価($/MWh) 発電単価($/MWh) a) 現 状 石 炭 単 価 80 60 40 国・時点による想定範囲 (割引率25~8%) 20 120 100 Coal-I 80 Coal-II 60 国・時点による想定範囲 (割引率25~8%) 40 Coal-III 20 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 18 2 4 6 投資回収年数 図 4. 5.1 -11 8 10 12 14 16 18 投資回収年数 投資回収判断年数と発電コストの関係(石炭発電の事例) 注 ) Co al - I , I I , I I I は 、 そ れ ぞ れ 、 表 4 . 5 . 1 - 6 の 石 炭 発 電 の 低 効 率 、 中 効 率 、 高 効 率 に 相 当 す る 。 設 備 費 は 2007 年 価 格 を 利 用 。 稼 働 率 は 75%を 想 定 し て 計 算 。 モ デ ル 計 算 に お い て は 、 稼 働 率 は 内 生 的に決定される。 a) 現 状 L NG 単 価 b) 現 状 LNG 単 価 × 2 倍 180 250 160 200 発電単価($/MWh) 発電単価($/MWh) 140 120 100 80 60 国・時点による想定範囲 (割引率25~8%) 40 150 Gas-I Gas-II 100 国・時点による想定範囲 (割引率25~8%) Gas-III 50 20 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 0 投資回収年数 図 4. 5.1 -12 2 4 6 8 10 12 14 16 18 投資回収年数 投資回収判断年数と発電コストの関係(ガス発電の事例) 注 ) Gas - I , I I , I I I は 、 そ れ ぞ れ 、 表 4 . 5 . 1 - 6 の ガ ス 発 電 の 低 効 率 、 中 効 率 、 高 効 率 に 相 当 す る 。 設 備 費 は 2007 年 価 格 を 利 用 。 稼 働 率 は 50%を 想 定 し て 計 算 。 モ デ ル 計 算 に お い て は 、 稼 働 率 は 内 生 的に決定される。 - 188 - a) 現 状 燃 料 価 格 b) 現 状 燃 料 価 格 ×2 倍 ( 原 子 力 は 燃 料 費 × 1.5 倍 ) 250 160 140 発電単価($/MWh) 発電単価($/MWh) 200 120 100 80 60 国・時点による想定範囲 (割引率25~8%) 40 20 Coal-I Coal-II 150 Coal-III Gas-I Gas-II 100 Gas-III Nuc-I 50 Nuc-II 国・時点による想定範囲 (割引率25~8%) 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0 18 2 4 図 4. 5.1 -13 6 8 10 12 14 16 18 投資回収年数 投資回収年数 投資回収判断年数と発電コストの関係(石炭、ガス、原子力の比較) 注 ) Co al - I , I I , I I I お よ び Gas - I , I I , I I I は 、 そ れ ぞ れ 、 表 4 . 5 . 1 - 6 の 石 炭 お よ び ガ ス 発 電 の 低 効 率 、 中 効 率 、 高 効 率 に 相 当 す る 。 設 備 費 は 2007 年 価 格 を 利 用 。 稼 働 率 は 石 炭 、 ガ ス と も に 75%、 原 子 力 は 85%を 想 定 し て 計 算 。 モ デ ル 計 算 に お い て は 、 稼 働 率 は 内 生 的 に 決 定 さ れ る 。 ま た 、 風 力 発 電 、 太 陽 光 発 電 に つ い て も 、 表 4. 5.1 -3 や 表 4 .5.1 -4 の よ う な 整 理 を 通 し て コ ス ト の 将 来 見 通 し を 更 新 し た 。モ デ ル で は 200 0 年 の 実 質 価 格 で 想 定 し て い る こ とも踏まえて、調査・整理したコストを踏まえながら、将来コストの想定を行った。 表 4 .5. 1 -3 で 整 理 し た よ う に 、風 車 や 太 陽 光 パ ネ ル の コ ス ト 習 熟 が 進 む に つ れ 、コ ス ト 習熟があまり期待できない設置費の比率が高まるため、以下のようなコスト習熟を想 定 し た 。 風 力 発 電 は 2 030 年 ま で は 1.0 %/yr で コ ス ト 低 減 す る も の の 、 そ れ 以 降 は 徐 々 に コ ス ト 低 減 が 小 さ く な り 、 2030 -4 0 年 は 0.7 5%/yr、 204 0 -50 年 は 0 .5%/ yr の コ ス ト 低 減 を 想 定 し た 。 太 陽 光 発 電 に つ い て は 、 2 030 年 ま で は 3.4 %/yr 、 203 0 -40 年 は 2.4 %/yr、 2040 -5 0 年 は 1. 4%/yr の コ ス ト 低 減 を 想 定 し た 。 Generation cost (US2000$/MWh) 120 100 Grade 1 80 Grade 2 60 Grade 3 Grade 4 40 Grade 5 20 0 2000 2010 2020 2030 2040 2050 Year 図 4. 5.1 -14 風力発電のコスト想定 注 ) 割 引 率 5 % / yr の 場 合 - 189 - Generation cost (US2000$/MWh) 500 400 Grade 1 Grade 2 300 Grade 3 200 Grade 4 Grade 5 100 0 2000 2010 2020 2030 2040 2050 Year 図 4. 5.1 -15 太陽光発電のコスト想定 注 ) 割 引 率 5 % / yr の 場 合 風力発電と太陽光発電における設備容量と発電パターン、瞬時ピーク時間帯での期 待 出 力 の モ デ ル 化 と そ の 想 定 値 を 図 4 .5. 1 -16 お よ び 図 4. 5.1 -1 7 に そ れ ぞ れ 示 す 。 図 4.5. 1 -17 で 示 す よ う に 太 陽 光 発 電 は ピ ー ク 時 間 帯 の み に 発 電 可 能 と 想 定 し て い る 。 ま た 、 い わ ゆ る kW 価 値 は 瞬 時 ピ ー ク 時 間 帯 ( 1 年 間 87 60 時 間 の 1%と し て モ デ ル 化 ) で 期 待 で き る 出 力 と し て 表 現 し 、 設 備 容 量 の 1 0%を 想 定 し た 。 な お 、 間 欠 性 を 有 す る 風 力 、 太 陽 光 発 電 の kW 価 値 は ゼ ロ で あ る と す る 見 方 も あ る が 、 こ こ で は 設 備 容 量 の 10%を 仮 定 し た 。ま た 、導 入 規 模 に よ っ て も kW 価 値 を ど の 程 度 見 込 み 得 る か は 異 な っ てくると考えられるが(導入規模が大きくなると、間欠時のリスクが高まると考えら れるため、設備容量に対する比率としてはより小さく見込む方が適当とも考えられ る )、 こ こ で は 導 入 規 模 に 依 ら ず ( す な わ ち 時 点 に 依 ら ず ) 一 定 と 仮 定 し た 。 瞬時ピーク時間帯 設備 容量 ピーク時間帯 中間時間帯 オフピーク時間帯 稼働率20% 20.1% 10% 1% 33% 図 4. 5.1 -16 33% 33% 8760時間 風力発電のモデル化 - 190 - 瞬時ピーク時間帯 設備 容量 ピーク時間帯 中間時間帯 オフピーク時間帯 稼働率12% 36% 10% 1% 33% 図 4. 5.1 -17 33% 33% 8760時間 太陽光発電のモデル化 風力、太陽光発電の系統安定化のための追加費用については、特段の対策が無くと も 導 入 可 能 な 量 を 従 来 の DNE21+ で は 、総 発 電 電 力 量 の 15 %と し て い た が 、10 %に 下 方 修 正 す る こ と と し た 。 前 項 で の 調 査 の よ う に 、 日 本 に つ い て は 、 2 .5% 程 度 で あ っ て も 系統安定化のための追加費用が相当分必要と推定されているが、系統規模によってそ の レ ベ ル は 大 き く 異 な り 、DNE21+モ デ ル で は モ デ ル 分 割 地 域 間 の 対 策 費 用 の 比 較 も 重 視した分析を行っていく一方、この閾値となる数値を地域毎に論理的に設定すること が 困 難 と 考 え ら れ た た め 、 地 域 に よ ら ず 、 一 律 で 10 %を 閾 値 と し て 想 定 を 行 っ た 。 な お 、 系 統 制 御 技 術 の 進 展 に よ り 、 2 030 年 以 降 は こ の 閾 値 が 10 %か ら 、 20 50 年 で は 1 5% になると仮定した。 また、前項で見られたように、導入規模によって系統安定化のための追加費用の単 価 は 増 大 す る と 考 え ら れ る が 、 DNE21+モ デ ル は 線 形 モ デ ル で あ る こ と 、 ま た 、 モ デ ル の 規 模 増 大 を 避 け る た め 、 閾 値 10%( 20 5 0 年 で は 1 5%) を 超 え る 導 入 量 に つ い て は 、 系統安定化のための追加費用は一定単価としてモデル化した。ただし、追加費用は、 バッテリー単価の低減にともない、将来的には低下すると想定した。 す な わ ち 、 風 力 、 太 陽 光 発 電 そ れ ぞ れ 、 地 域 別 に 総 発 電 電 力 量 の 10%( 20 50 年 に は 15%)が 系 統 安 定 化 の た め の 追 加 費 用 無 し で 導 入 可 能 、バ ッ テ リ ー を 含 む 系 統 安 定 化 対 策 を 行 え ば 、 更 に 総 発 電 電 力 の 1 5%ま で 導 入 可 能 と 想 定 し た ( あ わ せ る と 、 2 050 年 に は 、 風 力 、 太 陽 光 発 電 そ れ ぞ れ 総 発 電 電 力 量 の 30 %ま で )。 参 考 文 献 ( 第 4.5 .1 節 に 関 す る も の ) 1) IEA/NEA, P rojec te d C osts o f Gen era ting Elec tric it y- 20 10 E ditio n, 2 010. 2) IEA/NEA, P rojec te d C osts o f Gen era ting Elec tric it y- 20 05 Up da te , 2 005. 3) IEA/NEA, P rojec te d C osts o f Gen era ting Elec tric it y- 19 98 Up da te , 1 998. 4) IEA, En e rg y Tech no log y P e rspe ctives 20 10, 2 010. 5) IEA, Wo rld En e rg y Ou tloo k 2 010 , 2 010 . - 191 - 6) P NNL, C O 2 E miss io ns Mitig atio n and Tec hno logica l Ad van ce : An Up dated Ana lysis of Advanc ed Tec hno lo g y Scen ario s- S cen ario s U pda ted Janu ar y 2 009 , 2 009 7) 戒 能 、「 電 源 構 成 試 算 モ デ ル と 発 電 コ ス ト 比 較 に つ い て 」、 2003 8) NEDO、「 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 技 術 白 書 」、 2010 9) 新 エ ネ ル ギ ー 財 団 、「 平 成 1 9 年 度 住 宅 用 太 陽 光 発 電 シ ス テ ム 価 格 及 び 発 電 電 力 量等について」 10) 資 源 エ ネ ル ギ ー 庁 、「 低 炭 素 電 力 供 給 シ ス テ ム に 関 す る 研 究 会 報 告 書 」、 200 9 11) 環 境 省 、「 低 炭 素 社 会 構 築 に 向 け た 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 普 及 方 策 に つ い て 」、 20 09 12) 資 源 エ ネ ル ギ ー 庁 、 「低炭素社会実現のための次世代送配電ネットワークの構築に 向 け て ― 次 世 代 送 配 電 ネ ッ ト ワ ー ク 研 究 会 報 告 書 ― 」、 20 10 13) IEA, En e rg y Ba la ncc es of OECD/Non -OECD Coun trie s, 20 10. - 192 - 4.5.2 鉄 鋼 部 門 鉄 鋼 部 門 に つ い て は 、昨 今 の 経 済 危 機 の 影 響 な ど も あ り 粗 鋼 生 産 が 200 8 年 か ら 200 9 年にかけて一時的に減少した。また中国などの新興国については、この経済危機の影 響と潜在的需要の増加(及び政府によるインフラ整備拡大)などの影響が複合的に生 じるため最新の生産実績値に基づく更新を行うことが必要である。このような観点か ら 、 現 在 入 手 可 能 な 最 新 の 生 産 実 績 値 ( 2 010 年 wo rldstee l 速 報 値 1) )に基づき生産シ ナリオの更新を行った。 なお、将来の粗鋼生産に対し、鉄スクラップの入手可能性がどの程度あるのかとい う点は、省エネ対策や温暖化対策のみならず、持続可能な発展、省資源対策といった 文脈においても鍵となる要素である。粗鋼生産に要する鉄源の内、スクラップにて供 給できない部分は、銑鉄などの一次生産が必要となるが、高炉一貫製鉄所(ここでは 銑 鉄 を 主 な 鉄 源 と す る 場 合 に 換 算 ) と 電 炉( こ こ で は 鉄 源 の 1 00%を ス ク ラ ッ プ と す る 場 合 に 換 算 )で は 、図 4.5 .2 -1 に 示 す 通 り 必 要 な 一 次 エ ネ ル ギ ー 量 に 3 倍 程 度 の 差 が あ t粗鋼当りの一次エネル ギー投入量 (GJ/t粗鋼) る。これは銑鉄生産(酸化鉄の還元)に一定のエネルギーが必要であるためである。 30 25 20 15 28.4 10 8.8 5 0 転炉鋼 図 4. 5.2 -1 スクラップ電炉鋼 転 炉 鋼 と ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 の 一 次 エ ネ 投 入 量 (20 05 年 世 界 平 均 ) 出典:資料 注 1) 2)3) な ど に 基 づ き RI TE 推 計 転 炉 鋼 へ の 銑 鉄 投 入 量 は 2005 年 世 界 平 均 の 1.025t 銑 鉄 /t 粗 鋼 と し た 。 ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 と は 鉄 源 の 100 %を ス ク ラ ッ プ と す る 場 合 に 換 算 し た も の 。 注 2) こ の よ う な 一 次 エ ネ 差 異 は 鉄 源 差 異 に よ る も の で あ り 、転 炉 へ の ス ク ラ ッ プ 投 入 比 率 を 高 め る と 本 図 よ り も 低 い 一 次 エ ネ 投 入( 例 : 鉄 源 の 3 割 を ス ク ラ ッ プ と す る と 2 2 GJ/ t 粗 鋼 程 度 ) と な る 点 に 注 意 が 必 要 。 そこで本年度は、将来の鉄スクラップの入手可能性についておおよその見通し(シ ナリオ)を得ることを目的に、過去これまでにどのような鉄源フローであったのかと いう実態の把握・推定を行うと共に、現時点での鉄鋼蓄積量を推定する。このような 分析を基礎としつつ、将来のスクラップシナリオを作成する。 - 193 - (1) 粗鋼生産シナリオの更新 現 時 点( 平 成 23 年 2 月 現 在 )に お い て world stee l 統 計 1) か ら 200 9 年 ま で の 粗 鋼 生 産 統 計 値 と 201 0 年 速 報 値 が 得 ら れ る 。 こ れ ら デ ー タ を 整 理 し 、 既 存 の 粗 鋼 生 産 シ ナ リ オ を 更 新 し た の が 図 4 . 5.2 -2 で あ る 。 Latin America シナリオ 2,000 粗鋼生産量 (Million ton of crude steel/yr) 統計値 (推計値含む) Africa and Middle East Other developing Asia 1,500 India Economies in transition 1,000 China 500 OECD Pacific OECD North America OECD Europe 0 1990 2000 2010 2020 図 4. 5.2 -2 2030 2040 2050 粗鋼生産量 出 典 : 2 0 1 0 年 ま で は wo r l d st e e l 統 計 1) に 基 づ く 。 そ れ 以 降 は RI TE 想 定 。 こ の シ ナ リ オ は 、201 0 年 時 点 で 20 07 年 の 水 準 へ 回 復 し そ の 後 緩 や か に 増 加 す る シ ナ リオである。地域別に見ると中国の生産規模はかなり大きな水準を維持し、長期的に は イ ン ド の 粗 鋼 生 産 規 模 が 拡 大 す る シ ナ リ オ と 言 え る 。OECD の 内 、人 口 増 加 の 見 ら れ る OECD North A me ric a( メ キ シ コ 含 む )の み 20 10 年 以 降 増 加 傾 向 と な る シ ナ リ オ で あ る。なお、相対的に見て旧ソ連・その他途上国の生産規模はそれほど増加しないシナ リオと言える。 な お 、 図 4. 5.2 -2 の 粗 鋼 生 産 シ ナ リ オ 作 成 に 際 し 主 要 国 に つ い て は 図 4 .5. 2 -3 の 一 人 当 た り 見 掛 粗 鋼 消 費 量 、図 4.5 .2 -4 の 鋼 材 輸 出 入 量 を 基 と し た 。一 人 当 た り 見 掛 粗 鋼 消 費量は各地域の産業構造を強く反映している。すなわち、韓国、日本、台湾、中国な どは製品に内包される形での鉄鋼輸出(間接輸出)を行っているため、米国などと比 較し、比較的高い一人当たり見掛粗鋼消費量となっている。 - 194 - 1,400 US France 1,200 一人当たり 粗鋼見掛消費量 (kg粗鋼/人/年) Germany 1,000 Japan Korea 800 China 600 Chinese Taipei India 400 Turkey Mexico 200 Brazil 0 Russia 1990 2000 図 4. 5.2 -3 2010 2020 2030 2040 2050 一人当たり見掛粗鋼消費量(主要国のみ) 出 典 : 2 0 0 9 年 ま で は wo r l d st e e l 統 計 1) に 基 づ く 。 そ れ 以 降 は RI TE 想 定 。 50 US 正味で 輸出 France Germany 25 鋼材輸出入量 (Mt粗鋼/年) Japan Korea China 0 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 Chinese Taipei India Turkey -25 Mexico Brazil 正味で 輸入 Russia -50 図 4. 5.2 -4 鋼材輸出入量(主要国のみ) 出 典 : 2 0 0 9 年 ま で は wo r l d st e e l 統 計 - 195 - 1) に 基 づ く 。 そ れ 以 降 は RI TE 想 定 。 図 4 .5. 2 -4 に 示 し た 鋼 材 輸 出 入 量 は 、 地 域 別 の 鉄 鋼 生 産 設 備 容 量 、 原 材 料 入 手 費 用 、 品種別の国際競争力などによると考えられる。すなわちロシアは、生産設備が国内需 要を上回りかつ原材料入手費用が相対的に低位であるため、鋼材汎用品を主に輸出し ていると考えられる。また日本は国際競争力のある乗用車や家電向けの鋼材を輸出し て い る と 考 え ら れ る < 鋼 材 種 別 の 輸 出 量 : 熱 延 広 幅 帯 鋼 (86 0 万 t)、 冷 延 広 幅 帯 鋼 (340 万 t)、 亜 鉛 め っ き 鋼 板 ( 43 1 万 t)、 厚 中 板 (375 万 t) (カ ッ コ 内 の 数 値 は 2 00 9 年 度 実 績 値 4) )> 。 (2) 粗 鋼 生 産 シ ナ リ オ の 考 察 ( IE A 作 成 の シ ナ リ オ と の 比 較 ) IEA(2 009 ) 5 ) は 図 4 .5. 2 -5 に 示 す Lo w-de man d ケ ー ス 、 H igh -d e ma nd ケ ー ス の 2 つ の シ ナ リ オ を 示 し て い る 。 図 4.5 .2 -2 に 示 し た R IT E 想 定 (205 0 年 21 .7 億 t)は 、 IEA(2009 ) の 低 位 シ ナ リ オ (20 50 年 23 .1 億 t)と 比 較 し 、 相 対 的 に や や 低 い 。 こ の よ う な 相 対 差 は 、 主 に 旧 ソ 連 ・ そ の 他 途 上 国 、す な わ ち「 O ther de ve lop in g Asia」 「 Econo mies in tran sition 」 「 Africa and Midd le Ea st」「 La tin A merica」 で 生 じ て い る と 言 え る 。 このように旧ソ連・その他途上国で想定が異なる要因は主に次の点の相対差による と考えられる。 1. 鋼材輸出入量(直接輸出入)についての相対差 R ITE で は 、 そ の 他 途 上 国 に お い て 鋼 材 の 輸 入 が 今 後 も 継 続 す る と 想 定 < 理 由 : 一 貫 製 鉄 所 の み な ら ず 電 炉 製 鉄 所 に お い て も 規 模 の 経 済 性 が 働 く た め 、先 進国や中国、トルコなどから輸入することが経済合理的であるため。> 2. 製品中に内包する形での輸出入量(間接輸出入)についての相対差 R ITE で は 、 旧 ソ 連 ・ そ の 他 途 上 国 に お い て 、 間 接 輸 入 が 今 後 と も 継 続 す る と 想定 3. 国内のインフラ整備向けの鉄鋼需要量についての相対差 R ITE で は 旧 ソ 連 地 域 の 国 内 イ ン フ ラ 向 け 需 要 は 、 (過去の粗鋼生産量が高位で あ り 、あ る 一 定 の 鉄 鋼 蓄 積 が 存 在 す る と 考 え ら れ る こ と か ら )そ れ ほ ど 上 昇 し ないと想定 図 4. 5.2 -5 IEA 作 成 の 粗 鋼 生 産 シ ナ リ オ 出 典 : I E A( 2 0 0 9 ) 5 ) - 196 - (3) 粗 鋼 生 産 に 占 め る ス ク ラ ッ プ 電 炉 比 率 の 想 定 国別のスクラップ電炉比率の想定にあたっては、粗鋼生産規模、スクラップの入手 可能性、歴史的経緯など多様な要素が影響すると考えられる。そこで、これらを定量 的に考察するために、本項ではまず、各国の粗鋼生産規模、電炉比率の整理を行った ( 図 4 .5 .2 -6)。 一 貫 製 鉄 所 か 電 炉 か は 、 主 に 各 企 業 が 経 済 的 側 面 か ら 判 断 し た 結 果 で あ る と 言 え る が 、 図 4 . 5.2 -6 か ら さ ら に 次 の こ と が 言 え る 。 ・ ( 元 )社 会 主 義 国 を 除 き 粗 鋼 生 産 規 模 が 低 い 地 域( 例 え ば 粗 鋼 年 産 10 0 万 t 未 満 )で は 、電 炉 に よ り 依 存 す る 傾 向 が 強 い 。こ れ は 、一 貫 製 鉄 所 で 規 模 の 経 済 性 が 電 炉 よ り も 強 く 働 く( 一 貫 製 鉄 所 の 規 模 が 小 さ く な る こ と に よ っ て 電 炉 よ りも非経済的になる)ためと考察される。 ・ 粗 鋼 年 産 100 万 t か ら 1 億 t の 地 域 で は 、 規 模 が 大 き い ほ ど 電 炉 比 率 が 低 下 す る傾向が見られる。 ・ 工 業 製 品 の 純 輸 出 国 で は 電 炉 比 率 が 比 較 的 小 さ い 。こ れ は 付 加 価 値 の 高 い 工 業 製品向け鋼材生産には転炉鋼の方が適している要因も影響していると考えら れる。 ・ (元)社会主義国は粗鋼生産規模に関わらず一貫製鉄所への依存度が高い。 ・ ブ ラ ジ ル 、オ ー ス ト ラ リ ア 、ロ シ ア と い っ た 鉄 鉱 石 資 源 の 豊 富 な 地 域 で は 、比 較的一貫製鉄所への依存度が高い。 ・ 以 上 か ら 、図 全 体 を 概 観 す る と 弓 な り の 形 状 を 示 し て い る 。即 ち 各 国 で の 粗 鋼 生 産 量 や 資 源 量 な ど の 諸 条 件 に よ り 、棲 み 分 け 的 な 電 炉 比 率 と な っ て い る と 考 察できる。 - 197 - 全粗鋼生産量が年100万トン未満の国 38カ国中の30カ国が電炉100% Libyan Arab Jamahiriya Trinidad and Tobago Saudi Arabia Algeria Indonesia Malaysia アジア諸国(Malaysia, Guatemala Slovenia Portugal Thailand Nigeria Jordan Philippines Venezuela Thailand)、ヨーロッパ諸国 Israel Morocco Mongolia Qatar Norway Kenya (Norway, Luxembourg), DRI生 Uruguay Tunisia Albania Singapore Viet Nam 100% Zaire Croatia United Arab Emirates Greece El Salvador Cuba Belarus 産国(Saudi, Venezuela)など Luxembourg Uzbekistan 地中海沿岸諸国、 あるいはDRI生産国 (Egypt, Iran, Mexico, India)など Egypt 80% Iran Spain Turkey Mexico Colombia Bulgaria Peru Bosnia And Herzegovina Italy India 全電炉比率(%) 60% United States Argentina Poland Taiwan Province of China South Africa 40% 主要な 資源国 20% Korea Canada France Romania Sweden Germany Belgium New Zealand Finland Brazil Hungary Japan Chile Australia United Kingdom 工業製品の純 輸出国 Pakistan Austria (元)社会主義国など Russian Federation Czech Republic Netherlands 0% 0.01 図 4. 5.2 -6 0.1 China Slovakia Democratic People's Paraguay Republic of Korea Zimbabwe Latvia Yugoslavia Kazakhstan 1 10 全粗鋼生産量 (百万t/yr) [対数表示] Ukraine 100 1000 各 国 の 粗 鋼 生 産 量 ( 対 数 ) と 電 炉 比 率 [2 008 年 時 点 ] 出 典 : wo r l d st e el 統 計 1) に基づく 注 1) 横軸の粗鋼生産量は、転炉鋼、電炉鋼、平炉その他の粗鋼生産量の合計。対数表示。 注 2) 縦軸は、粗鋼生産に占める電炉比率。電炉鉄源の一部は、直接還元鉄、銑鉄を含む。従 っ て 、 本 報 告 書 で 記 載 し て い る 「 ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 ( 鉄 源 の 100 %が ス ク ラ ッ プ ) 」 と は 定義が異なる点に注意が必要。 以 上 の 考 察 に 基 づ き 、想 定 し た 地 域 別 の ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 シ ナ リ オ は 図 4. 5.2 -7 の 通 りである。地域により特徴的な比率となるシナリオであり、例えば、イタリア、スペ イン、ポルトガル、トルコ、米国のスクラップ電炉比率は今後とも高まるが、その一 方、日 本、英国 、イ ンド など は今 後 とも 横ば い、ある いは 低 下と なる シナ リ オで ある。 ( 内 、イ ン ド に つ い て は 直 接 還 元 鉄 の 拡 大 を 見 込 ん で お り 、こ れ は ス ク ラ ッ プ 電 炉 と は 別 の 区 分 と し て い る 。) 図 4.5 .2 -7 に て 示 し た 地 域 別 の ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 シ ナ リ オ を 世 界 合 計 し た も の が 図 4.5. 2 -8 で あ る 。 205 0 年 時 点 で 下 限 シ ナ リ オ は 6.8 億 t、 上 限 シ ナ リ オ は 7. 7 億 t と な る シ ナ リ オ で あ る 。 こ の よ う に 若 干 の 幅 を も た せ た の は 、 DNE2 1+に て 50 年 半 減 と い っ - 198 - た 極 め て CO 2 制 約 が 厳 し い ケ ー ス に つ い て も 計 算 を 行 う が 、 こ の よ う な CO 2 制 約 が 厳 し い 場 合 に お い て 、通 常 で あ れ ば 費 用 や 手 間 の た め 回 収 が 行 わ れ な い 鋼 材 ス ト ッ ク( 地 下 部 分 に 利 用 さ れ て い る 鋼 材 [基 礎 鋼 や 配 管 な ど ]、 僻 地 に 点 在 す る 鋼 材 [使 用 済 み パ イ プ ラ イ ン な ど ]) の 回 収 、 混 合 物 中 [シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト な ど ] の 鉄 回 収 率 の さ ら な る 向 上 な ど が 、 若 干 な が ら 進 む こ と を 想 定 し た こ と に よ る 。 た だ し 、 仮 に 50 年 半 減 と い っ たケースであっても、スクラップ回収量がそれほど大きくない想定である点に注意が 必要である。 スクラップ電炉率 (%) 100 Spain, Portugal Turkey 75 Italy US 50 Germany Japan 25 UK China India 0 1990 図 4. 5.2 -7 2010 2030 2050 スクラップ電炉比率のシナリオ(主要国のみ) 出 典 : 2 0 0 9 年 ま で は wo r l d st e e l 統 計 1) に 基 づ く 。 そ れ 以 降 は RI TE 想 定 注 1) 鉄 源 の 100%が ス ク ラ ッ プ で あ る 電 炉 鋼 に 換 算 し 表 示 。 注 2) DN E 2 1 + で は 、 ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 の 上 下 限 シ ナ リ オ を 与 え て い る 。 本 図 で は 、 そ の 平 均 値 を示した。 - 199 - 8 全電炉鋼実績値 電炉鋼生産量(Fe換算、億t/yr) スクラップ電炉鋼(上限シナリオ) 6 スクラップ電炉鋼(下限シナリオ) 4 2 0 1940 図 4. 5.2 -8 1960 1980 2000 2020 2040 スクラップ電炉鋼の上下限シナリオ(世界合計) 出 典 : 2 0 0 9 年 ま で は wo r l d st e e l 統 計 1) に 基 づ く 。 そ れ 以 降 は RI TE 想 定 注 1) 全電炉鋼とは、鉄源に直接還元鉄や銑鉄を用いた電炉も含む。 注 2) ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 と は 、 鉄 源 の 100%が ス ク ラ ッ プ で あ る 電 炉 鋼 に 換 算 し た も の 。 (4) 鉄 源 フ ロ ー に 関 す る 既 往 分 析 の 調 査 前項では、各国の粗鋼生産規模、電炉比率を基に、国別のスクラップ電炉比率の将 来シナリオを策定した。一方、将来の鉄スクラップ入手可能性の点からも検証を行っ ておくことが必要と考えられる。そこで、本項では将来の世界における鉄スクラップ の入手可能性について分析を行った。なお、将来の鉄スクラップの入手可能性の推計 のためには過去どのような鉄源フローであったのか、また現時点での鉄の社会蓄積量 がどの程度かを推定把握する必要がある。この把握により、将来の世界計のスクラッ プ利用量の見通を得ることができ、前項で策定した地域別のスクラップ電炉鋼シナリ オの世界合計値との整合性を確認することとした。 そこで、鉄源フローに関する既往の文献について幅広く調査を行った。既往の文献 は目的・手法・対象地域・対象期間など多岐に渡るが主に次の2グループに分けられ る。 ① 特定地域に的を絞り鉄源ストック、鉄源フロー、老廃回収率などを分析した 文 献 < 19 90 年 以 降 と い っ た 比 較 的 近 い 時 点 の 評 価 が 多 い > < 特 定 部 門 ( 例 : 自動車、建築、土木、機械)について的を絞った評価も> ② 世界合計の鉄源ストック、鉄源フロー、老廃回収率などについて分析した文 献 < 鉄 鋼 生 産 が 量 的 に 増 加 し 始 め た 1 870 年 以 降 の 長 期 に 渡 っ て 評 価 > 調査した文献は多数に上るが、ここではその内とりわけ鍵となる文献について、上 記①、②について順に示す。 図 4.5. 2 -9 は Fe n ton (20 04) に よ る 1 998 年 米 国 鉄 源 フ ロ ー 推 定 で あ る 。 こ の 図 か ら ”Un rec o ve rd o ld sc ra p”が 38 (百 万 t)あ り 、 ”Old s cr ap s upp ly” 78 (百 万 t)の お よ そ 半 分 が “ 未 回 収 ”で 、 “ 回 収 率 ”は 5 0%程 度 と 読 め る 。た だ し 、同 じ く 北 米 地 域 に つ い て の IIS I - 200 - 分析 7) で あ る 表 4.5 .2 -1 か ら は ”En d -of-life rec yc ling ra te , %”が 8 5.9%と な っ て い る 。 評 価 時 点 差 異 も 考 え ら れ る が 、Fe n to n(2 004 )と IIS I の 数 値 は 大 幅 に 異 な る こ と か ら 、そ の 要因(語彙の定義を含む)についての検討が必要であると少なくともここから考察さ れる。 次 に 日 本 に つ い て の 分 析 で あ る が 、醍 醐 ら (20 06)は 図 4 .5. 2 -10 に 示 し た「 (1)Materia ls in po stcon su me r prod ucts(使 用 済 み 製 品 と し て 排 出 さ れ た と 推 定 さ れ た も の の 中 に 含 ま れ る 素 材 の 量 )」を 分 子 、 「 (3 )Co llec ted ma te ria ls( 素 材 の 再 生 プ ロ セ ス に 投 入 さ れ た 量 )」 を “ 回 収 率 ” と し て 定 義 す る と 明 確 に 述 べ た 上 で 、 そ の “ 回 収 率 ” は 表 4.5 .2 -2 と 推 定 されたとしている。この分析では“回収率”が幅を持って推定されるもののその平均 値 は 建 築 土 木 加 重 平 均 値 で 0.6 ( ヒ ア リ ン グ 値 0 .5)、 機 械 で 0 .4 9( ヒ ア リ ン グ 値 0 .8 ) と な っ て い る 。ま た 土 木 用 途 に は「 回 収 さ れ る 可 能 性 の な い も の が 39 .8%あ る と 言 わ れ ている」ことも併記している 8) 。 さ ら に 松 野 (200 8)に よ る と 、200 0 年 時 点 で 日 本 の 鉄 鋼 蓄 積 1 2 億 t 強 の 内 、 “製品に使 用 さ れ て い る 蓄 積 ”9 億 t 程 度 、 “ 回 収 不 可 能 な 蓄 積 ”3 億 t 強 と な っ て い る( 図 4. 5.2 -11) 9) 。従 っ て 、醍 醐 ら (20 06)が 示 し た“ 回 収 さ れ る 可 能 性 の な い も の ”8 ) は 松 野 (200 8)の“ 回 収 不 可 能 な 蓄 積 ” 9)と な っ て 整 理 さ れ て い る と 考 え ら れ る 。 な お 、醍 醐 ら (200 6)は 図 4 .5. 2 -1 0 に お い て 、 “ (1 )使 用 済 み の 製 品 と し て 排 出 さ れ た と 推 定 さ れ る も の ”、“ (2)回 収 さ れ た 製 品 中 に 含 ま れ る も の ”、“ (3)素 材 の 再 生 プ ロ セ ス に 投 入 さ れ た 量 ”、“ (4 )リ サ イ ク ル さ れ た 量 ” を 明 確 に 区 分 け し て い る が 、 こ れ は 各 段 階 で“ 抜 け 落 ち る 量 ”が あ る た め 8) と 考 察 で き る 。林 (20 05 )は 図 4 .5.2 -1 2 に 示 す 通 り 20 01 年 か ら 20 03 年 (暦 年 )に お け る 乗 用 車 リ サ イ ク ル の 鉄 源 フ ロ ー を 整 理 し て い る 10) 。こ の 中 で シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト (ASR ) に 内 包 さ れ る 鉄 60 万 t に つ い て は 最 終 的 に 埋 立 な ど ( 他 、カ ウ ン タ ー ウ ェ イ ト 製 造 用 な ど )に 回 さ れ 、い わ ば 鉄 鋼 部 門 と し て リ サ イ ク ル さ れない“抜け落ちる量”と言える 10) 。以上が上記①と区分される文献である。 - 201 - 図 4. 5.2 -9 注 1) Fen ton( 2004) に よ る 米 国 の 1 9 98 年 の 鉄 源 フ ロ ー 推 定 下 線 ( 赤 ) は RI TE 加 筆 表 4. 5.2 -1 IIS I が 示 し た 北 米 の “ 回 収 率 ” - 202 - 7) 6) 図 4. 5.2 -10 表 4. 5.2 -2 醍 醐 ら (2006 )に よ る 整 理 8) 醍 醐 ら ( 2006) の 推 定 と ヒ ア リ ン グ 値 の 比 較 図 4. 5.2 -11 松 野 (2 008) に よ る 日 本 の 蓄 積 量 推 定 - 203 - 9) 8) 図 4. 5.2 -12 林 (200 5)に よ る 自 動 車 解 体 に 伴 う 鉄 源 フ ロ ー 1 0 ) 上記②のグループ、即ち世界の過去長期に渡る鉄源フローを分析、と区分される主 な も の は 、小 澤 ・ 月 橋 (2009 a, 2009 b) 1 1 ) , 1 2 ) 、Nee lis a nd P a te l (200 6) 1 3 ) 、高 松 ・ 林 (2 011 ) 14) の 3 グ ル ー プ で あ る 。 小 澤 ・ 月 橋 (2 009 a, 2009b ) 、 Nee lis and P a te l (20 06)が 推 定 し た 世 界 合 計 の ス ク ラ ッ プ 消 費 量 を そ れ ぞ れ 図 4.5. 2 -13、図 4 .5 .2 -14 に 示 す 11)-13) 。こ れ ら 図 で は と り わ け 老 廃 屑 (obso lete sc rap )推 定 結 果 に か な り 大 き な 差 異 が 見 ら れ る 。小 澤 ・ 月 橋 (2009 a, 200 9b )で は 1970 年 前 後 は ほ ぼ 0 億 t、 2 000 年 は 1 億 t 程 度 の 推 移 で あ る が 、 Neelis an d P a te l (200 6 )で は 1 970 年 に 1 億 t 程 度 、 20 00 年 は 2 億 t 程 度 で あ る 。 ま た 、 累 積 の 老 廃 屑 利 用 量 は こ れ ら 小 澤 ・ 月 橋 (2009 a)で 2 0 億 t 程 度 、 Nee lis and P a te l (20 06) で 80 億 t 程 度 と 約 4 倍 の 開 き が あ る 。< 以 上 の 数 値 は 図 か ら の 読 み 取 り に よ る 概 算 値 。 累 積 は 18 70 年 か ら 2 0 02 年 ま で の 合 計 値 。 > 1 1 ) - 13) な お 、 小 澤 ・ 月 橋 (20 09a, 2009 b)、 Nee lis a nd P ate l (20 06 )は 共 に 公 開 さ れ た 文 献 で あ り、両者ともに銑鉄生産量、粗鋼生産量などをベースとしつつ、最終的に老廃屑を推 定す るロ ジッ ク を用 いて いる。こ れら 文 献の 所内・加 工・老 廃の スク ラッ プ 合計 値は、 IIS I 統 計 (1975 年 以 降 の デ ー タ あ り ) 1 ) よ り も 多 い 数 値 と な る 結 果 を 共 に 示 し て い る 13) 11)- 。 一 方 、 高 松 ・ 林 (2011) は 私 信 に よ る も の で 現 時 点 で 非 公 開 で あ る 老 廃 の ス ク ラ ッ プ 合 計 値 は IIS I 統 計 1) 14) 。所内・加工・ を利用しており、先に所内・加工のスクラップ - 204 - 量を想定し、残りを老廃屑とする推定ロジックを用いている(その後、老廃屑量が蓄 積 量 と 比 較 し 妥 当 か ど う か を チ ェ ッ ク し て い る )。200 2 年 ま で の 累 積 の 老 廃 屑 利 用 量 は 65 億 t 程 度 ( Fe 換 算 で 62 億 t 程 度 ) と し て い る 。 以 上 、 上 記 ② の 文 献 の 概 略 を ま と め る と 表 4 .5. 2 -3 の 通 り で あ る 。 図 4. 5.2 -13 小 澤 ・ 月 橋 ( 20 09a, 200 9b) 推 定 の ス ク ラ ッ プ 消 費 量 ( Fe 換 算 ) 1 1 ) , 1 2 ) 図 4. 5.2 -14 Ne elis and Pat el ( 200 6)推 定 の ス ク ラ ッ プ 消 費 量 - 205 - 13) 表 4. 5.2 -3 世界の過去長期に渡る期間を分析対象とした文献の概要 11)-14) 累積の老廃屑 推定ロジック 利用量推定値 鋳物部門の扱い 補足 (18 70 -200 2) 小澤・月橋 (20 09a ,200 9b ) Neelis and P a te l (20 06) 銑 鉄 、粗 鋼 な ど の 生 産 量 か ら 、最 終 的 に 老廃屑を推定 20 億 t 程 度 (Fe 換 算 ) たスクラップ合計 とし推定実施 80 億 t 程 度 公開 区分は困難として明 IISI 統 計 に 示 さ れ 高 松 ・ 林 (2 011 ) 鋳物部門も分析対象 65 億 t 程 度 値を参照 示的区分を行わず (基本的に鋳物部門 非公開 は系外との扱い) 以上の既往の分析を調査から、次のことが示唆される。 ・ 語 彙 の 定 義 に つ い て 統 一 さ れ た も の は 存 在 せ ず 、数 量 の 大 小 の み な ら ず 各 文 献 中での定義を詳細に見る必要がある(例:鉄鋼蓄積量<鋳物も含むかどうか、 半 永 久 に 利 用 さ れ る も の や 回 収 が 困 難 な も の を 含 め る か ど う か > )。 ・ 過 去 の 鉄 源 フ ロ ー に つ い て は 不 明 な 点 が 多 い( 例:累 積 の 老 廃 屑 利 用 量 が 文 献 に よ り 4 倍 程 度 異 な る )。 (5) 過 去 の 統 計 値 及 び 銑 鉄 ・ 粗 鋼 生 産 量 に つ い て 小 澤 ・ 月 橋 (200 9a, 2 0 09b ) 1 1 ) , 1 2 ) 、 Neelis and P ate l (200 6) 1 3 ) は 推 定 の 基 礎 統 計 値 と し て 銑鉄生産量と粗鋼生産量を参照している。その理由は、これら統計値が相対的に他の データよりも確度が高いと著者らが判断したことによる。そこで、ここでは銑鉄・粗 鋼生産量についてその統計データがどのような状況かをここで整理を行う。 図 4 .5. 2 -1 5 に 各 種 文 献 1),14)-17) か ら R ITE に て 整 理 を 行 っ た 銑 鉄 ・ 粗 鋼 生 産 量 の 累 積 に 占 め る 時 期 別 シ ェ ア を 示 す 。 銑 鉄 に つ い て は 2008 年 ま で に 311 億 t の 累 積 生 産 で あ り 、 こ の 内 、 194 4 年 以 前 が 1 2%、 19 45 年 か ら 197 3 年 ま で が 2 4%、 合 わ せ て 3 6%の シ ェ ア を 占 め る 。 粗 鋼 に つ い て は 、 2008 年 ま で に 426 億 t の 累 積 生 産 で あ り 、 こ の 内 、 1944 年 以 前 が 9%、 1 9 45 年 か ら 197 3 年 ま で が 24 %、 合 わ せ て 33 %の シ ェ ア を 占 め る 。 地域別に見ると、中国、旧ソ連の鉄源フローがとりわけ不確かであるが、中国の銑 鉄 生 産 量 は 2000 年 か ら 2008 年 の 間 だ け で も 26 億 t( 8%)、 旧 ソ 連 の 1945 年 以 降 の 粗 鋼 生 産 量 は 63 億 t( 1 5%) に も 上 り 世 界 計 に 与 え る 影 響 も 大 き い 。 1 973 年 以 前 の 鉄 源 フロー、及び中国、旧ソ連の鉄源フローについて確度が一段劣ると考えると、結局過 去の累積生産の半分程度については確度が一段劣ることになる。 - 206 - a)銑 鉄 生 産 量 (187 0 -20 08, 311 億 t) 20002008, 22% b )粗 鋼 生 産 量 (187 0 -2008 , 42 6 億 t) 18701944, 12% 20002008, 23% 18701944, 9% 19451973, 24% 19451973, 24% 19741999, 42% 図 4. 5.2 -15 19741999, 44% 銑鉄・粗鋼生産量の時期別累積シェア 出典:各種文献 注 1) 1),14)-17) に 基 づ き RI TE 整 理 銑鉄生産量には鋳物向け銑鉄(鋳物銑)を含むが、鋳物銑の統計データは基本的に得ら れていないため、本図においても鋳物銑を含む合計の銑鉄生産量を示す。なお、鋳物の 累 積 生 産 量 ( 1 8 7 0 年 - 2 0 0 8 年 ) は 4 7 億 t 程 度 ( RI T E 整 理 に よ る ) で あ り 、 無 視 で き る 量 で はない。 注 2) 粗鋼生産量には一部鋳物生産量の数値も含むが、これらを明確に区分した統計データは 基本的に得られていないため、本図においても一部の鋳物を含む粗鋼生産量を示す。 注 3) Fe 重 量 比 率 は 基 本 的 に 不 確 か で あ る た め 、 こ こ で は 銑 鉄 、 粗 鋼 の グ ロ ス 重 量 を 示 し た 。 な お 、錬 鉄 に つ い て は 累 積 生 産 量 が 4 億 t 程 度 と 粗 鋼 累 積 に 比 べ 1%程 度 10) と小さい が 、 ベ ッ セ マ ー 法 、 ト ー マ ス 法 、 平 炉 法 に よ る 粗 鋼 生 産 累 積 量 は 図 4 .5. 2 -16 に 示 す 通 り 合 計 で 33 %と 無 視 で き な い 規 模 で あ る 。 こ れ ら プ ロ セ ス に つ い て は 、 と り わ け 情 報 が不足しており、確度が一段劣る。 ベッセ マー法、 トーマス 法、その 他, 5% 平炉, 28% 転炉, 44% 電炉, 23% 図 4. 5.2 -16 累 積 の 粗 鋼 生 産 に 占 め る プ ロ セ ス 別 シ ェ ア ( 187 0 年 -20 08 年 累 計 ) 出典:下村・林 16) に 基 づ き RI TE 整 理 以上は、銑鉄・粗鋼生産量の統計データを固定した議論であったが、実際はそれぞ れの統計データには注意すべき点が多い。より具体的に見ていくと、銑鉄生産量(世 - 207 - 界 計 )に つ い て 190 0 年 以 前 は B eck (1 897 ) 1 5 ) 、187 5 年 か ら 191 4 年 ま で は C arr and Tap lin (19 62) 1 7 ) 、 1900 年 以 降 は USGS, website や IIS I 1 ) に デ ー タ が 記 載 さ れ て い る 。 た だ し 、 こ れ ら 文 献 で 必 ず し も 値 は 一 致 し な い 。こ れ は 、1)一 部 の 主 要 国 の 生 産 量 か ら 世 界 合 計 量 を 推 計 し た こ と( 20 00 年 以 降 で も 一 部 途 上 国 で は デ ー タ が 得 ら れ な い )、2 )パ ド ル 法 、 ベッセマー法、トーマス法など、平炉が大規模普及するまで主に利用されていた方式 に対し、それぞれ適した銑鉄の組成に乖離が見られること(例:ベッセマー法では、 硫黄と燐の少ない銑鉄を用いるか、もしくはマンガンを多量に含むスピーゲルアイゲ ン [銑 鉄 の 一 種 ]を 加 え る 必 要 が あ っ た 15) )[最 大 で 数 割 変 化 ]、3 )利 用 が 難 し い 屑 銑 や 規 格 に 合 わ な い 不 適 合 銑 の 存 在 (2 000 年 以 降 に お い て も 中 国 で 多 く の“ 不 適 合 銑 ”が 生 産 さ れ て い る と さ れ る )[ 最 大 で 1 割 変 化 ] 、 4 ) 鋳 物 向 け 銑 鉄 、 鍛 造 向 け 銑 鉄 を 含 む 統 計 と 含 ま な い 統 計 の 混 在 [最 大 で 1 割 変 化 ]、な ど 多 様 な 要 因 に よ る と 考 え ら れ る 。な お 、1 973 年 以 降 は 1 )と 2 )の 影 響 は 量 的 に か な り 小 さ く な っ た と 考 え ら れ る が 、 3)と 4)に つ い て は現時点においても量的な影響が大きく注意が必要である。 粗 鋼 生 産 量 ( 世 界 計 ) に つ い て 、 190 0 年 以 前 は 歴 史 的 経 緯 か ら 溶 鉄 と 溶 鋼 ( 粗 鋼 ) と区分がそもそもあいまいである 15) 。パドル法での生産物を錬鉄、ベッセマー法、ト ー マ ス 法 、 平 炉 で の 生 産 物 を 粗 鋼 と し た 場 合 で も 、 B eck (18 97 ) 1 5 ) 及 び Ca rr a nd Ta p lin (19 62) 1 7 ) の 間 で 差 異 が 見 ら れ る 。 19 00 年 以 降 は IIS I “ Stee l Sa tistics Yea rboo k 1 980” 1) に デ ー タ 記 載 が あ る が 、 IIS I 自 身 も そ の 粗 鋼 生 産 量 の 見 直 し を 行 っ て い る 。 粗 鋼 生 産 量( 世 界 計 )に つ い て の デ ー タ に つ い て は 、1 )主 要 国 の 合 計 を そ も ま ま 世 界 計 と す る 場 合 や 、 デ ー タ の 得 ら れ な い 地 域 を 推 定 加 算 し 世 界 計 と し た こ と ( 2 000 年 以 降でも一部途上国ではデータが得られない 1) )、2 ) ど の 段 階 に お け る 量 と 定 義 す る か と い う 点 ( 2a . 一 旦 得 ら れ た 溶 鋼 全 て を 粗 鋼 と す る 場 合 [最 大 で 数 割 過 大 評 価 ]、 2b . 鋳 型 向 け 溶 鋼 と 連 続 鋳 造 で 得 ら れ た も の の 内 の 良 塊 を 粗 鋼 と す る 場 合 < 以 前 の IIS I で は 粗 鋼 を こ の よ う に 定 義 > 、2c. さ ら に 下 工 程 で の 良 製 品 を 粗 鋼 と す る 場 合 [最 大 で 数 割 過 小 評 価 ]< 例 : 良 ス ラ ブ > 1 1 ) - 1 3 ) )、 3 )鋳 物 製 品 を 粗 鋼 に 含 む 統 計 と 含 ま な い 統 計 の 混 在 [最 大 で 数 割 過 大 評 価 ]、 な ど に 注 意 が 必 要 で あ る 。 ま た 、一 般 に 冷 戦 終 結 の 1990 年 以 降 に 国 際 貿 易 が 活 発 と な っ た と 理 解 さ れ て い る が 、 実 際 に は 190 0 年 以 前 で あ っ て も 多 量 の 銑 鉄 、鉄 ス ク ラ ッ プ の 国 際 貿 易 が な さ れ て お り 15) 、このような点も各国の生産量推定を困難にし、各国の合計値として得られる世界 計の量の推定を難しくしている。 以上をまとめると次の通りである。 ・ 銑 鉄 ・ 粗 鋼 生 産 量 に つ い て 、 1 )地 域 ・ 時 点 に よ っ て デ ー タ が 得 ら れ な い 点 、 2) 一定の定義に元づくデータ収集整理はなされていない ・ 比 較 的 確 度 が 高 い と さ れ る 銑 鉄・粗 鋼 生 産 量 で さ え こ の よ う な 状 況 で あ り 、銑 鉄・粗鋼生産量以外のデータはより一段と確度が低いと理解すべき ・ 2008 年 ま で の 累 積 で 見 て 、 鉄 源 フ ロ ー に 関 す る 情 報 が よ り 不 確 か な 中 国 や 旧 ソ 連 の シ ェ ア 、 19 73 年 以 前 の 銑 鉄 ・ 粗 鋼 生 産 量 シ ェ ア 、 さ ら に 粗 鋼 生 産 に 占 めるベッセマー・トーマス・平炉のシェアなどもかなり大きい 従って、これらの点に注意が必要と言える。 - 208 - (6) 鉄 源 フ ロ ー 及 び 語 彙 の 整 理 既 往 の 文 献 で は 、必 ず し も 前 提 と す る 鉄 源 フ ロ ー や 語 彙 に つ い て 統 一 さ れ て お ら ず 、 多様な使われ方がされている。このような不一致は効率的な議論を行うためにも回避 す べ き で あ る 。 そ こ で 、 本 報 告 書 で は 図 4.5. 2 -17 に 示 す 鉄 源 フ ロ ー 及 び 語 彙 の 定 義 を 行った。所内屑、加工屑、老廃屑について、それぞれ次の定義とした。 所内屑=製鉄所内で発生し(基本的に)所内で再利用されるもの、ただしプロセス歩 留 落 ち ( 例 : 平 炉 に 投 入 し た が 良 溶 鋼 と な ら ず 、 再 び 平 炉 に 戻 さ れ る も の )、 鋳 造 機 歩 留 落 ち( 例 : 良 溶 鋼 と な り 連 続 鋳 造 機 へ 流 し 込 ん だ が 良 塊 と な ら ず 、再 び 平 炉 へ戻されるもの)を除く 加 工 屑 = 鋼 材 と な り 市 中 へ 出 荷 さ れ た が 、最 終 製 品 製 造 段 階 で 切 り 落 と さ れ た も の( 新 断 ち )や 削 ら れ た も の( ダ ラ イ 粉 )< 例 : 自 動 車 工 場 に 出 荷 さ れ た が 、自 動 車 自 体 に組み込まれなかった鉄> 老 廃 屑 = 一 度 は 社 会 蓄 積 ( Wo rk in g sto ck ) と な っ た が 、 そ の 後 回 収 し 製 鋼 プ ロ セ ス 鉄 源として利用されたもの、一般的な文脈での狭義のスクラップと同一 所内屑・加工屑はフローから生じるものであるためフロー屑、老廃屑はストック屑 とも呼ぶ。また加工屑・老廃屑は基本的に市中にて流通・取引されるたこれらをまと め て 市 中 屑 と も 呼 ぶ 。 所 内 屑 は 自 家 発 生 ス ク ラ ッ プ 、 ホ ー ム ス ク ラ ッ プ 、“ c ir cu la t ing sc rap ” と も 呼 ば れ る 。 - 209 - 鋳造機歩留落ち +DRI (転炉、 平炉、電炉、 その他) 鋳造 機 (CC、 Ingot) 粗鋼生産量 銑鉄(製鋼向け) 製鋼 プロセス 圧 延 工 鋼 程 材 投 入 社 会 蓄 積 向 け Fe 出 荷 社会蓄積 (Working stock)の 純増 社会蓄積 から移行 するFe 量 加工屑 所内屑 未回収ロス 回収可能性なし 回収可 未回収 能性あ 老廃屑 り スラグ・ダスト・スラッジなどに 伴い系外へ移行するもの (=所内ロス) プロセス歩留落ち 所内屑 + 加工屑 (フロー屑) 老廃屑(ストック屑) 図 4. 5.2 -17 想定する鉄源フローの概略(イメージ) 出 典 : 高 松 ・ 林 (2011)作 成 の 図 14) を R I TE 再 加 工 注 1) 鋳物部門は系外の扱いとする 注 2) 社 会 蓄 積 向 け F e 出 荷 量 = 容 器( 最 短 の 寿 命 で 一 週 間 )か ら 土 木 向 け 出 荷 量( 半 永 久 的 に 使用されるもの)までを含む 注 3) 社 会 蓄 積 ( Wo r k i n g s t o c k) = 利 用 さ れ て い る 鉄 鋼 製 品 の 蓄 積 量 ( 長 期 保 管 用 容 器 含 む ) +土木部門などで半永久的に利用されるダム、トンネル、港湾などの構造材、 基礎杭 +各種地下施設用の鋼材 ※ 社 会 蓄 積 ( Wo r k i n g s t o c k) は 場 所 が 特 定 で き る も の と さ れ る ※ 使用を終え閉鎖されたトンネルの構造材は、抜き取りにより地盤の弱化・崩落などがお き 別 途 手 当 が 必 要 と い っ た 意 味 で 、抜 き 取 り は 社 会 的 経 済 的 に 意 味 を な さ な い 。従 っ て 、 閉 鎖 さ れ た ト ン ネ ル の 構 造 材 も work し て い る と の 扱 い 。 注 4) 社 会 蓄 積 か ら 移 行 す る Fe= 回 収 可 能 性 あ り + 回 収 可 能 性 な し 注 5) 回収可能性なし=使用を終えた建築物(ビル、工場など)の基礎杭(再利用されないも の) +地下配管・石油ガス田の地下利用鋼材・海中利用鋼材 + 僻 地 に 点 在 す る 鋼 材 ( 使 用 後 の パ イ プ ラ イ ン な ど )・ 輸 送 手 段 が 失 わ れ た 各 種 廃 墟 + 錆 に よ る 流 出 ・ 減 肉 ( 配 管 内 部 な ど )・ 減 耗 ( 鉄 道 レ ー ル な ど )・ 焼 失 ・ 脱 落 +他、不可抗力と呼べるもの(例:砲弾・弾薬) 注 6) 未回収ロス=廃棄物と共に埋め立てられたもの +海底ケーブル +沈んだ船舶(堤防、漁礁のための意図的廃棄含む) +不法投棄 注 7) 回収率=老廃屑/回収可能性があるもの - 210 - な お 、 図 4. 5.2 -1 7 に 示 し た 鉄 源 フ ロ ー は 概 略 ( イ メ ー ジ ) で あ り 、 次 の よ う な 各 種 フロー(実際には存在するとされるが、その世界計の量について確度が極めて低いも の)について省略している。 ・ 回 収 し た 老 廃 屑 の 内 、鉄 鋼 部 門 で 利 用 さ れ な か っ た も の( 例 : 自 動 車 解 体 に 伴 いシュレッダーダストとして利用されなかったもの 10) 、鋳物向け鉄源として 利用されたもの) ・ 溶鋼の内、鋳物向けに出荷されたもの ・ 製 鋼 プ ロ セ ス で 一 端 は ス ラ グ ・ ダ ス ト ・ ス ラ ッ ジ な ど に 混 入 し た が 、そ の 後 鉄 源として回収され焼結鉱製造の原料とされたもの ・ 20) 各種スクラップの内、高炉向け鉄源として利用されたもの 次 の 鉄 源 フ ロ ー の 推 定 で は 、 こ の よ う な フ ロ ー に つ い て ゼ ロ と 仮 置 き し 、( 分 か り や すさを優先するため)可能な限り簡略化した推定内容としつつ、結果の考察の際にこ のようなゼロと仮置きした点について議論を行うこととする。なお、このような細か い(枝葉ともとれる項目の)数量が無数に積み重なり、全体の結果に無視しえない影 響を及ぼす可能性があることも鉄源フロー推定を難しくしている一要因である。 (7) 過 去 の 鉄 源 フ ロ ー と 社 会 蓄 積 の 推 計 過 去 の 鉄 源 フ ロ ー 推 計 に つ い て は 表 4.5 .2 -3 (p. 206 に 記 載 ) に 示 し た 3 文 献 が 主 要 な も の と 言 え る 。そ こ で 、本 報 告 書 で は こ れ ら 推 定 内 容 の 数 値 を 再 現 す る こ と を 試 み た 。 基 本 的 に は こ れ ら 文 献 と 同 様 の 推 定 ロ ジ ッ ク ・ パ ラ メ ー タ を 用 い る が 、 R ITE の 判 断 で 一部使用する想定値を変更している。 こ こ で は 、 過 去 の 老 廃 屑 累 積 量 が 相 対 的 に 少 な い 小 澤 ・ 月 橋 (2009 a, 2 009b ) 11 ) , 1 2 ) の 再 現 内 容 < 以 下 、 推 定 ロ ジ ッ ク I と 記 載 > と 、 相 対 的 に 多 い 高 松 ・ 林 (2011) 1 4 ) の 再 現 内 容 < 以 下 、 推 定 ロ ジ ッ ク II と 記 載 > に つ い て 示 し 、 相 対 比 較 を 行 う こ と と す る 。 な お 、 基 本 的 に 図 4 .5 .2 -17 に 示 し た 鉄 源 フ ロ ー と 語 彙 の 定 義 に 基 づ く が 、 図 4. 5.2 -1 7 と 異 な る場合はその旨明記を行う。 ① 推定ロジック I 推 定 ロ ジ ッ ク I で は 小 澤 ・ 月 橋 (200 9a, 200 9b) 11 ) , 1 2 ) 、Nee lis and P atel(2 006 ) 1 3 ) が 用 い た 推定ロジック、すなわち鉄源必要量から銑鉄生産量を差し引くことで老廃屑を求める 推 定 ロ ジ ッ ク を 用 い た 。 ま た 、 用 い る パ ラ メ ー タ は 基 本 的 に 小 澤 ・ 月 橋 (200 9a, 2009b ) 11 ) , 1 2 ) を 参 照 し た 。 ここで示す推定ロジック I は、理論的な説明力が高いという点では優れているもの の、各種想定を積み重ねた後に最終的な老廃屑が求まるため、想定誤差・推定誤差の 全 て が 「 老 廃 屑 」 に 集 約 さ れ る 点 に 注 意 が 必 要 で あ る < 実 際 に 小 澤 ・ 月 橋 (2 009 a, 2009b ) 11 ) , 1 2 ) 、 Ne e lis a nd P ate l(2006 ) 1 3 ) は 用 い る 推 定 ロ ジ ッ ク は ほ ぼ 同 じ で あ る も の の 、 想 定 す る パ ラ メ ー タ の 違 い か ら 老 廃 屑 推 定 値 ( 累 積 ) に 4 倍 程 度 の 差 異 が あ る (p.2 06 の 表 4.5 .2 -3 参 照 )> 。 - 211 - 以 下 、具 体 的 に 推 定 ロ ジ ッ ク I の 概 要 を 示 す 。推 定 ロ ジ ッ ク I で は 、ま ず 各 種 生 産 量 の 整 理 を 図 4 .5 .2 -18 の 通 り 行 っ た 。 次 に 製 鋼 プ ロ セ ス シ ェ ア を 図 4.5 .2 -19 の 通 り 整 理 した。 200 銑鉄(Pig iron):F1のほとんど 180 粗鋼(Crude steel):F2 生産量(million ton / yr)_ 160 鋳物(Foundry products):FF 140 練鉄(文献値) 練鉄(RITE想定値) 120 100 80 60 40 20 0 1870 図 4. 5.2 -18 1880 1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 整 理 し た 各 種 生 産 量 ( 統 計 値 の 信 頼 性 が 劣 る 19 5 0 年 ま で を 記 載 ) 粗鋼生産に占めるシェア (%) 出 典 : Beck (18 97 ) 15) 、 wo rldstee l 統 計 1) な ど に 基 づ き RI TE 整 理 100% 電炉 ベッセマー法、 トーマス法、る つぼ法 80% 60% 40% 平炉 20% 転炉(BOF) 0% 1870 1890 1910 1930 1950 1970 1990 2010 図 4. 5.2 -19 粗鋼生産に占めるプロセス別シェア 出 典 : 下 村 ・ 林 ( 2 0 0 5 ) 1 6 ) 、 wor ld s te e l 統 計 1) に 基 づ き RI TE 整 理 粗 鋼( 転 炉 な ど )、鋳 物 、練 鉄 の 1 t 生 産 に あ た り に 投 入 し た Fe 量 想 定 値 を 図 4. 5.2 -2 0 に 示 す 。こ れ ら は 1 よ り も 大 き い が 、1 よ り 大 き い 分 の 多 く( = 次 に 示 す 所 内 ロ ス 以 外 ) は再度鉄源として系内で利用される。 次 に Fe 投 入 当 り の 所 内 ロ ス 想 定 値 を 図 4 . 5.2 -21 に 示 す 。こ こ で の 所 内 ロ ス と は 、製 鋼 ス ラ グ 、 ダ ス ト 、 ス ラ ッ ジ な ど に 混 入 し カ ス ケ ー ド 利 用 向 け な ど へ 移 行 す る Fe 比 率 で あ り 、 鉄 鋼 部 門 で 使 用 さ れ な く な る 所 内 ロ ス を 意 味 す る ( 図 4 .5. 2 -1 7 参 照 )。 次 に 各 種 比 率 を 図 4 . 5.2 -22 に 示 す 。最 終 製 品 と は 、例 え ば 出 荷 さ れ る 家 電 、自 動 車 、 船舶といった最終製品を意味する。 - 212 - 1.8 鋳物 Fe投入比 1.6 平炉 + 他 1.4 転炉(BOF) 錬鉄 1.2 電炉(EAF) 1.0 1870 図 4. 5.2 -20 1890 1910 1930 1950 1970 1990 2010 粗 鋼 、 鋳 物 、 錬 鉄 生 産 に お け る Fe 投 入 比 ( 想 定 ) 出 典 : RI TE 想 定 10% Fe投入当りのロス (%) 錬鉄 8% 電炉以外の 製鋼法(転 炉、平炉) 6% 電炉 4% 鋳物 2% 0% 1870 1890 図 4. 5.2 -21 1910 1930 1950 1970 1990 2010 所 内 ロ ス ( 想 定 、 Fe 投 入 当 り ) 出 典 : RI TE 想 定 1.8 最終鋼材/ 最終製品 1.6 各比率 →歩留落ちは加工屑 粗鋼/最終 鋼材 →歩留落ちは所内屑 1.4 1.2 鋳物・錬鉄/ 最終製品 1.0 1870 1890 1910 図 4. 5.2 -22 1930 1950 1970 1990 2010 各比率(想定) 出 典 : RI TE 想 定 このように、ロジック I では鋳物部門、錬鉄生産を明示的に区分するよう努めてい る。 以 上 の 想 定 に よ り 試 算 し た 各 鉄 屑 利 用 量 を 図 4.5 .2 -23 に 示 す 。 老 廃 屑 は ( Fe 必 要 量 − 銑 鉄 及 び DR I の Fe 量 − 所 内 屑 − 加 工 屑 ) に て 計 算 し た 。 - 213 - 7 F5r:老廃屑 スクラップ利用量(億t/yr) 6 F4r:加工屑 F3r:所内屑(鋳造・圧延) 5 F2r:所内屑(製鋼) 4 3 2 1 0 1870 1890 1910 図 4. 5.2 -23 1930 1950 1970 1990 2010 鉄 屑 利 用 量 の 推 定 結 果 ( Fe 換 算 ) 出 典 : RITE に よ る 推 定 結 果 次 に 老 廃 屑 と な り う る ポ テ ン シ ャ ル を 見 積 も る た め 表 4 .5. 2 -4 に 示 す 通 り の 需 要 区 分 及 び 寿 命 想 定 を 行 っ た 。 こ こ で は 、 wo r ld s tee l(20 08 ) が 示 し た 最 終 需 要 区 分 の シ ェ ア (20 07 年 ) 1 8 ) を 参 照 し つ つ 、 許 ら (20 10 ) の 建 築 ・ 土 木 の 区 分 推 定 19) を参考に、 wo rldstee l(200 8 )記 載 の “ Con stru c tion ” を 「 建 築 」 と 「 土 木 」 へ 区 分 し た 。 過 去 に つ い ても、このような平均寿命・標準偏差を持つ鉄鋼製品が出荷されていたと想定する。 表 4. 5.2 -4 推定ロジック I で想定する鉄鋼需要区分・寿命 寿 命 想 定 (年 ) 需要区分別のシェア (文献値の平均的な 寿命を想定) 平均 標準偏差 建築 32.4% 40 15 土木 17.3% 50 20 自動車 12.5% 15 7 産業機械・船舶・鉄道 17.7% 20 7 20.1% 12 8 他 Metal Products (家 電 、 電 気 電 子 機 器 ) 計 100% 出 典 : wo r l d st e el ( 2 0 0 8 ) 1 8 ) な ど を 基 に RI TE 想 定 注 1) 需 要 区 分 は 2 0 0 7 年 の 値 で あ る が 、過 去 に つ い て も こ の よ う な 平 均 寿 命 ・ 標 準 偏 差 を 持 つ 鉄鋼製品が出荷されていたと想定。 注 2) とりわけ土木向けには半永久的に利用されるものといった需要区分があり、また回収可 能 性 の な い F e が 存 在 す る と さ れ る が 、推 定 ロ ジ ッ ク I で は こ の よ う な 需 要 は 存 在 し な い ものとの簡略的な想定を行い、結果算定後の考察部分でこのような項目について議論を 行う。 注 3) 需要区分別の平均寿命、標準偏差に合致するようそれぞれワイブル分布を想定。 - 214 - 表 4 .5. 2 -4 に 示 し た 需 要 区 分 及 び 寿 命 想 定 と 、 図 4. 5.2 -23 に 示 し た 老 廃 屑 を 基 に 、 2008 年 ま で の 累 積 で 見 た 結 果 を 図 4. 5.2 -2 4 に 示 す 。 単 年 で 見 る と そ の 時 々 の 景 気 変 動 に伴う資本回転速度などが反映されるため、このように長期の累積で見ることが議論 の基礎材料として重要である。 便宜的区分上 回収利用した老廃 寿 命 を 迎 え た Fe( c): 屑 (d) :47 億 t 156 億 t (実 際 に は 半 永 久 的 に 使 用 さ (c)と (d) の 差 : 社会蓄積向け れるもの、回収可能性がない 109 億 t Fe 出 荷 量 : ものを全て含む) 333 億 t 使用中の社会蓄積: 177 億 t 図 4. 5.2 -24 ロ ジ ッ ク I の 結 果 ( 187 0-20 08 年 累 積 、 単 位 : Fe 換 算 億 t ) 出 典 : RI TE 推 定 結 果 注 1) 社 会 蓄 積 向 け F e 出 荷 量 の 累 計 3 3 3 億 t が ど の よ う に 区 分 さ れ る か を 見 た 図( 縦 方 向 が 量 を表す、横方向は区分を表す) 注 2) 社 会 蓄 積 向 け Fe 出 荷 量 、 使 用 中 の 社 会 蓄 積 に は 鋳 物 部 門 も 含 む 注 3) 図 中 の ( c ) の 1 5 6 億 t 、 及 び ( d ) と ( c ) の 差 1 0 9 億 t に は 、「( 便 宜 的 区 分 上 ) 寿 命 を 迎 え た も のの、回収利用しされなかった老廃屑」を意味するが、実際には、半永久的に利用され るもの、回収可能性がないものを含む 図 4 .5. 2 -24 で 示 し た (d)と (c)の 差 1 09 億 t は 、実 際 に は 半 永 久 的 に 使 用 さ れ る も の( 土 木 で も 50 年 と い う 有 限 の 寿 命 を 設 定 し た た め こ こ に 区 分 さ れ た も の )、 回 収 可 能 性 が ないもの全て含むため注意が必要である。 な お 、後 の 将 来 の シ ナ リ オ 策 定 に あ た っ て は 、2 000 年 か ら 2 0 09 年 ま で の 老 廃 屑 回 収 利 用 量 1 8 億 t と 、便 宜 的 区 分 上 寿 命 を 迎 え た Fe 量 44 億 t と の 比 率 41 %が 利 用 さ れ る 。 ② 推 定 ロ ジ ッ ク II 推 定 ロ ジ ッ ク II は 、 高 松 ・ 林 (2 011 )の 推 定 ロ ジ ッ ク 及 び 想 定 パ ラ メ ー タ 14) を参照す る 。高 松・林 (2011)は IIS I が 示 し た 全 鉄 屑 利 用 量 (197 5 年 以 降 の 各 年 デ ー タ あ り )を 所 与 とし、次に所内屑、加工屑を推定することで残りを老廃屑と算定する方式である 14) 。 この推定ロジックは、所内屑、加工屑、老廃屑の現実的な妥当性、即ちスクラップ統 計やスクラップのフロー分析に長年携わった分析者の感覚から妥当と判断される数量 を反映したものであり、このような点において有意性がある。一方で過去に生産した 銑鉄がその後どのように移行したかを明らかにするためには別途推計が必要となる。 - 215 - な お 、高 松 ・ 林 (2011)は 私 信 に 基 づ く も の で あ り 、具 体 的 な デ ー タ に つ い て は 現 時 点 で 非 公 開 で あ る ( 論 文 発 表 後 の 公 開 を 予 定 ) 14)。 そ の た め 、 本 報 告 書 で は そ の 結 果 を 中心に示す。 高 松 ・ 林 (2011 )で は 、「 所 内 屑 、 加 工 屑 、 老 廃 屑 の 各 量 」、「 回 収 可 能 性 の あ る Fe 量 の 85%を 老 廃 屑 と し て 回 収 利 用 」 と 推 定 し て い る 14) 。ただし、将来のスクラップの利用 可能量を検討するためには、鉄鋼需要区分、需要区分別の寿命、半永久的に使用され る 比 率 、回 収 可 能 性 の な い Fe の 想 定 が 必 要 と な る 。そ こ で 表 4.5. 2 -5 に 示 す 値 を R ITE に て 想 定 し た 。 表 4 . 5.2 -5 に 示 す 値 は 、 高 松 ・ 林 (2011 )の 指 摘 す る 「 所 内 屑 、 加 工 屑 、 老 廃 屑 の 各 量 」、「 回 収 可 能 性 の あ る Fe 量 の 85 %を 老 廃 屑 と し て 回 収 利 用 」 と 整 合 的 に な る よ う に 想 定 し た が 、高 松・林 (2 011 )の 指 摘 を 満 た す 各 種 想 定 の パ タ ー ン は 無 数 に 存 在 す る た め 、い わ ば こ れ ら の 想 定 は そ の 一 つ の パ タ ー ン を R ITE に て 仮 定 し た こ と と な る。 表 4. 5.2 -5 推 定 ロ ジ ッ ク II で 想 定 す る 鉄 鋼 需 要 区 分 ・ 寿 命 寿 命 想 定 (年 ) 需要区分別のシ (文献値の平均的な ェア 寿命を想定) 平均 標準偏差 24.7% 60 25 25.0% ∞ 自動車 12.5% 18 8 産業機械・船舶・鉄道 17.7% 25 12 20.1% 20 15 建築・土木 (寿命が存在するもの) 建築・土木 (半永久的に利用されるもの) 他 Metal Products (家 電 、 電 気 電 子 機 器 ) 計 100% 出 典 : RI TE 想 定 注 1) 需 要 区 分 は 2 0 0 7 年 の 値 で あ る が 、過 去 に つ い て も こ の よ う な 平 均 寿 命 ・ 標 準 偏 差 を 持 つ 鉄鋼製品が出荷されていたと想定。 注 2) 高 松 ・ 林 ( 2 0 11 ) は 需 要 区 分 の 分 離 や 寿 命 想 定 は 困 難 と し て い る が 、 将 来 の シ ナ リ オ 策 定 の た め RITE 想 定 注 3) 「回収可能性のないもの」についてはデータが得られないため、ここでは「回収可能性 の な い も の 」は ゼ ロ と 仮 定 し 、半 永 久 的 に 利 用 さ れ る も の( シ ェ ア 2 5 % と 想 定 )に は「( 現 実世界で生じている)回収可能性のないもの」を区分上含めることとした 注 4) な お 、 高 松 ・ 林 ( 2 0 11 ) に よ る と 土 木 需 要 の 内 の 半 分 程 度 に つ い て は 半 永 久 的 に 使 用 さ れ るが、建築部門のほとんどは回収されると指摘 注 5) 14) 寿命想定は、ロジック I で示したものよりも相対的にやや長い想定である。 - 216 - 高 松・林 (2011 )の 指 摘 14) 、及 び の R ITE 想 定 に よ り 得 ら れ た 結 果 を 図 4.5 .2 -25 に 示 す 。 老 廃 屑 が 7 6 億 t、 回 収 可 能 性 が あ り か つ 寿 命 を 迎 え た Fe が 8 9 億 t で あ り 、 こ れ ら の 比 率 (“ 回 収 率 ”) が 8 5%と な る 。 社会蓄積向け 回収可能性があり 回収利用した老廃屑 かつ寿命を迎えた (d):7 6 億 t Fe(c) :89 億 t (c)と (d) の 差 :13 億 t Fe 出 荷 量 : 296 億 t 使 用 中 の 社 会 蓄 積 (Wo rking st ock) :20 7 億 t < た だ し 半 永 久 的 に 使 用 さ れ る も の 74 億 t を 含 む 、 従 っ て 寿 命 が 有 限 の 社 会 蓄 積 は 133 億 t> 図 4. 5.2 -25 ロ ジ ッ ク II の 結 果 ( 18 70-2 008 年 累 積 、 単 位 :Fe 換 算 億 t ) 出 典 : 高 松 ・ 林 ( 2 0 1 1 ) 1 4 ) に 基 づ き RI TE 推 定 ・ 整 理 注 1) 社 会 蓄 積 向 け F e 出 荷 量 の 累 計 2 9 6 億 t が ど の よ う に 区 分 さ れ る か を 見 た 図( 縦 方 向 が 量 を表す、横方向は区分を表す) 注 2) 鋳 物 部 門 は 含 ま な い (鋳 物 部 門 は 系 外 と の 扱 い ) 注 3) 回 収 可 能 性 の な い Fe に つ い て は ゼ ロ と 想 定 注 4) 高 松 ・ 林 ( 2 0 11 ) に 基 づ く 所 内 屑 、 加 工 屑 、 老 廃 屑 の 各 利 用 量 を 想 定 し た が 、 鉄 鋼 製 品 区 分 ・ 寿 命 ・ 半 永 久 的 に 使 用 さ れ る も の の 比 率 な ど に つ い て は RITE 想 定 注 5) 本 図 は 、 R I T E 想 定 値 を 含 む 結 果 で あ り 、 必 ず し も 高 松 ・ 林 ( 2 0 11 ) の 推 定 内 容 14)か ら一 意に求められるものではない 注 6) ③ 語彙の定義、結果の解釈を含め、本図は現在検討中のものである 推 定 ロ ジ ッ ク I と II の 比 較 ・ 考 察 推 定 ロ ジ ッ ク I と II( 及 び 各 パ ラ メ ー タ セ ッ ト )に よ る 結 果 で 、と り わ け 異 な る の が 社 会 蓄 積 で あ る 。推 定 ロ ジ ッ ク I の 結 果 で は 177 億 t で あ る の に 対 し 、推 定 ロ ジ ッ ク II の 結 果 で は 2 07 億 t で あ る 。こ れ は「 半 永 久 的 に 使 用 さ れ る も の 」、 「回収可能性のない もの」という区分の仕方による見掛け上の影響が大きい。 た だ し 、 老 廃 屑 と 社 会 蓄 積 向 け Fe の 比 を 比 べ る と 、 推 定 ロ ジ ッ ク I で 4 7 億 t/33 3 億 t= 14%で あ る の に 対 し 、推 定 ロ ジ ッ ク II で は 76 億 t/296 億 t= 26%と 2 倍 近 く 差 異 が あ る 。 つ ま り 、 一 単 位 の 社 会 蓄 積 向 け Fe に 対 し 2 倍 程 度 の 老 廃 屑 の 利 用 可 能 性 と な る こ とを示唆している。このような差異が生じた理由はパラメータ想定の差異によるもの で あ る が 、 無 数 に あ る パ ラ メ ー タ の 中 で も と り わ け 所 内 ロ ス の 影 響 が 大 き い 。 R IT E に て 整 理 し た 各 種 文 献 の 所 内 ロ ス を 表 4.5 .2 -6 に 示 す 。 - 217 - 表 4. 5.2 -6 各 文 献 に お け る 粗 鋼 生 産 1t 当 り の 所 内 ロ ス 粗鋼生産 1t 当 りの 各種文献 所 内 ロス 197 5 年 or 1970 年 代 ロジック II World Ste el ロジック I 想定値 Dynamics 想定値 (鋳 物 銑 がゼロ (2005 ) 2 3 ) の場 合 ) 米国推定 平炉 0.04 転炉 0.04 電炉 0.03 0.20 相 当 0.11 0.15 相 当 0.14 相 当 0 . 0 1 [ 日 本 , 製 鋼 ス ラ グ 量 1 0 0 kg / tc s の 高 々1 0 % ] ( 高 松 ・林 ,2011)14) 0.025-0.1 2003 年 or [ ス ラ ク ゙ 経 由 0 . 0 2 5 、 ス ラッ ジ ・ 転炉 ダス ト 中 F e を 再 利 用 し な い 0.04 場 合 0 .0 7 5 相 当 ] 2000 年 代 0.12 相 当 0.09 (岡 崎 , 2011)20) 0 . 0 3 [ダ ス ト 、ス ラ ッ シ ゙ 、ス ラ グ の Fe 分 を 推 計 , EA F 含 む 全 米 を 対 象 ( A I S I, 2 0 0 1 ) 2 1 ) 電炉 参 考 :2002 年 までの 老廃屑累積 0.03 (Moll et al. , 2005 ) 2 2 ) 20 億 t 程 度 小 澤 ・月 橋 (2009a,2009b) 11),12) 0.03 0.08 相 当 35 億 t 65 億 t ロジック I ロジック II 80 億 t 程 度 Neelis and Patel(2006)13) 出 典 : 上 記 の 各 種 文 献 に 基 づ き RI TE 推 定 ・ 整 理 注 1) 所 内 ロ ス の 大 小 を 見 や す く す る た め 、本 表 で は 所 内 ロ ス が 0 . 0 5 未 満 の も の に つ い て は 青 文 字 、 0.05 以 上 に つ い て は 赤 文 字 で 示 し た 。 注 2) N e e l i s a n d P a t e l ( 2 0 0 6 ) 1 3 ) は 、 右 側 に 示 し た Wo r l d S t e e l D y n a m i c s ( 2 0 0 5 ) 23)の 値に近 い相対的に大きな所内ロスを想定しており、その影響が主に働き老廃屑は大きくなった と考えられる。 注 3) 小 澤・月 橋 ( 2 0 0 9 a , 2 0 0 9 b ) 1 1 ) , 1 2 ) は 、ロ ジ ッ ク I で 示 し た 所 内 ロ ス よ り も 小 さ な 所 内 ロ ス を 想定しており、その影響が主に働き老廃屑が小さくなったと考えられる。 注 4) 高 松 ・ 林 ( 2 0 11 ) は 所 内 ロ ス に つ い て 示 し て い な い が 14)、 本表では鋳物銑鉄がゼロであっ た 場 合 に つ い て RITE に て 試 算 し た 数 値 を 示 す 。 注 5) 「 参 考 : 2002 年 ま で の 老 廃 屑 累 積 」 は 先 に 示 し た 2008 年 ま で の 老 廃 屑 累 積 と 整 合 的 な 数 値 で あ り 、 値 が 異 な る の は 2003 年 か ら 2008 年 ま で 老 廃 屑 差 異 に よ る 。 (8) 将 来 の 老 廃 屑 の 利 用 可 能 性 の 見 通 し ( シ ナ リ オ ) に つ い て 以 上 の 通 り 、 ロ ジ ッ ク I と II と い う 2 つ の ケ ー ス に お け る 過 去 の 鉄 源 フ ロ ー 、 現 時 点の社会蓄積量についてそれぞれ推定を行った。この推計をベースとし将来の粗鋼生 産 量 を 所 与 と し つ つ 、 ロ ジ ッ ク I 及 び II で そ れ ぞ れ 想 定 し た 鉄 鋼 需 要 区 分 、 寿 命 、 老 - 218 - 廃屑回収利用量の比率が将来も維持されるとの仮定の下、将来のスクラップ利用可能 量の見通し(シナリオ)を作成した。老廃屑の結果、及び全スクラップ合計値の結果 を そ れ ぞ れ 図 4. 5.2 -2 6、 図 4. 5.2 -2 7 に 示 す 。 16 将来シナリオ(ロジックII) 14 将来シナリオ(ロジックI) 回収利用量(Fe億t/yr) 12 過去の推計(ロジックII) 過去の推計(ロジックI) 10 8 6 4 2 0 1950 1975 図 4. 5.2 -26 2000 2025 2050 2075 2100 将来の老廃屑(シナリオ) 出 典 : RI TE 推 定 注 1) 過 去 の 推 計 に つ い て も ロ ジ ッ ク I と II で 形 状 の 差 異 が 見 ら れ る が 、 こ れ は 過 去 の パ ラ メ ータ想定で「時系列的な変化が線形である」と仮定したパラメータ項目が異なるため。 注 2) ロジック I では鋳物部門も含むが、それ以上に所内ロスが小さく「必要な鉄源−銑鉄× (1−所内ロス)−所内屑−加工屑」が小さくなるため、ロジック I の方が過去につい て老廃屑の量が小さい。 16 将来シナリオ(ロジックII) 14 回収利用量(Fe億t/yr) 12 10 将来シナリオ(ロジックI) 過去の推計(ロジックII) 過去の推計(ロジックI) 8 6 4 2 0 1950 図 4. 5.2 -27 1975 2000 2025 2050 2075 2100 将来の所内・加工・老廃屑の合計(シナリオ) 出 典 : RI TE 推 定 注 1) ロジック I では鋳物部門も含む数値を提示しており、また小さい所内ロスを想定したた め、過去の所内・加工・老廃屑の合計が相対的に大きい。 - 219 - 老 廃 屑 の シ ナ リ オ を 比 較 す る と 、 ロ ジ ッ ク I で の 5. 5 億 t(205 0 年 )で あ る の に 対 し 、 ロ ジ ッ ク II で は 7 .8 億 t(205 0 年 )と 差 異 が 広 が る 。こ れ は 基 本 的 に 既 述 の 通 り 、老 廃 屑 と 社 会 蓄 積 向 け Fe の 比 が 異 な る た め と 言 え る 。 所 内 ・ 加 工 も 含 め た 全 ス ク ラ ッ プ の 結 果 ( 図 4.5 .2 -2 7 ) を 見 る と 、 将 来 時 点 で ク ロ ス す る 図 と な っ て い る 。こ れ は 、ロ ジ ッ ク I で は 鋳 物 部 門 も 含 む 結 果 を 示 し て い る た め 過 去 に つ い て ロ ジ ッ ク I の 全 ス ク ラ ッ プ が 大 き い と 考 え ら れ る が 、将 来 は 老 廃 屑 に 開 き が生じるため、その結果将来時点でクロスすると見られる。 ま た IEA(2 009 )が 提 示 し た ス ク ラ ッ プ 利 用 可 能 性 を 図 4 .5 .2 -28 に 示 す 5) 。 IEA (20 09 ) の 提 示 し た S cr ap が 、所 内 ・ 加 工 屑 を 含 む か 、鋳 物 部 門 の ス ク ラ ッ プ も 含 む か 不 確 か で あ る が 、 2006 年 の 4 億 t 強 か ら 20 50 年 の 12 億 t 強 ま で 3 倍 程 度 に 増 加 し て い る よ う で あ る 。 こ れ は R IT E に て 試 算 し た ロ ジ ッ ク II の 全 ス ク ラ ッ プ の 伸 び 率 よ り も 大 き く 、 IEA(2 009 )は R ITE よ り も よ り 大 き な ス ク ラ ッ プ の 利 用 可 能 性 を 見 込 ん で い る と 言 え る 。 図 4. 5.2 -28 IE A(20 09)提 示 の シ ナ リ オ ( 粗 鋼 生 産 Lo w-de man d ケ ー ス 、 Bl ue シ ナ リ オ ) 出 典 : I E A( 2 0 0 9 ) 5 ) 注 1) 図 中 の Scrap は 所 内 ・ 加 工 ・ 老 廃 の 合 計 値 だ と 見 ら れ る 。 注 2) Neelis et al. (2006)の historical data は 2002 年 ま で し か 与 え て い な い た め 、 2003 年 以 降 は IEA analysis に よ る も の と 見 ら れ る 。 な お 、 IEA (20 09 )も 過 去 の デ ー タ に つ い て Neelis and P a te l(200 6) 1 3 ) を 参 照 し た と 明 記 し て い る が 、 R ITE も 別 途 Ne e lis and P atel(2006 ) 13) の再現を試みた。その結果、本報告 書 の ロ ジ ッ ク II で 推 計 し た シ ナ リ オ よ り も 更 に 大 き な 老 廃 屑 シ ナ リ オ を 得 た 。従 っ て 、 IEA analysis で は Nee lis a nd P a te l (2 006 )を 基 礎 と し て 将 来 シ ナ リ オ を 描 き 、 結 果 と し て 大きなスクラップの利用可能性を推定したものと考えられる。 - 220 - (9) 鉄 鋼 部 門 の ま と め 全粗鋼生産シナリオを地域別に推定した。この推計にあたっては、一人当たり粗鋼 見掛消費量などを参照した。また、スクラップを鉄源とするスクラップ電炉鋼のシナ リ オ に つ い て 、各 国 の 粗 鋼 生 産 規 模 と 電 炉 比 率 と の 関 係 か ら 将 来 シ ナ リ オ を 策 定 し た 。 ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 の エ ネ ル ギ ー 消 費 量・C O 2 排 出 量 は 、高 炉 転 炉 法 と 比 べ 低 位 と な る た め ( 銑 鋼 比 率 を 固 定 し た 場 合 )、 CO 2 排 出 削 減 の 分 析 に お い て 、 こ の ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 のシナリオ検討は重要となる。 一方、世界全体で見て鉄スクラップの利用可能性には上限があると考えられ、各国 の粗鋼生産規模と電炉比率との関係から策定したシナリオが、整合性を欠いたもので ないかの検討が必要である。そこで世界全体での鉄源フロー・社会蓄積についても試 算を行った。過去の実態について情報が極めて限られているため、ここでは2つのケ ースを想定しつつ、それぞれのケースにおける将来のスクラップの利用可能性につい てシナリオ分析を行った。 各国の粗鋼生産規模と電炉比率との関係から策定したスクラップ電炉鋼のシナリオ は、2つのケースの内、将来のスクラップの利用可能量が低位のものとおよそ整合的 で あ っ た 。本 報 告 書 に お け る DNE21+ を 用 い た モ デ ル 分 析 で は 、こ の ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 シナリオ(ただし若干の上下限の幅があるシナリオ)を前提条件として分析を行って い る が 、今 後 、よ り 精 度 の 高 い デ ー タ が 得 ら れ れ ば 、そ れ に 応 じ た DNE21+ の 想 定 と す る予定である。 参 考 文 献 ( 第 4.5 .2 節 に 関 す る も の ) 1) World steel, h ttp ://www.wo rld stee l.o rg / 2) IEA, En e rg y Ba la ncc es of OECD/Non -OECD Coun trie s, 20 10. 3) Asso cia tion fo r Iron & Stee l(A IST ), 201 0 AIST Ind ustry R ound u ps, EA F Roun dup , Wash in g ton D.C., USA, 201 0. 4) 社 団 法 人 日 本 鉄 鋼 連 盟 , 「 鉄 鋼 統 計 要 覧 」 , 各 年 . 5) IEA, En e rg y Tec hno lo g y Tran sitions for Ind ustr y, Stra te g ie s fo r th e Nex t In dustria l Re vo lu tion , P aris, 200 9 . 6) Fe n ton , M.D. , Iron an d Ste e l R ec yc ling in th e United Sta tes in 199 8, U.S. Geo lo g ica l Surve y, C ircu lar 1196 -G, Ve rsio n 2 .0 [re vised 17 -J ul y-2 006 ], P ub lish ed 2 004 . 2 004 . 7) IIS I, App lica tion o f the IIS I LC I Da ta to R ec yclin g S cen ario s. p .3. 8) 醍 醐 ・ 松 野 ・ 足 立 , 鉄 鋼 材 の マ テ リ ア ル フ ロ ー を 基 に し た 各 種 製 品 に お け る 回 収 率 の 導 出 手 法 の 開 発 , 日 本 金 属 学 会 , 70 (2 ), pp.114 -117 . 2 006 . 9) 松 野 , 素 材 の リ サ イ ク ル ポ テ ン シ ャ ル と 環 境 負 荷 低 減 量 の 推 定 , 日 本 オ ペ レ ー シ ョ ン ズ リ サ ー チ 学 会 , 4 月 号 , pp. 205 -20 9, 20 08. 10) 林 , 重 要 性 増 す 鉄 ス ク ラ ッ プ , (株 )日 鉄 技 術 情 報 セ ン タ ー , 20 05 . 11) 小 澤 ・ 月 橋 , 使 用 過 程 の 鋼 ス ト ッ ク 量 の 推 定 に よ る 世 界 の 鉄 源 需 要 の 解 析 , 鉄 と 鋼 , 95 (10 ), pp .46 -55 . 2 009. - 221 - 12) 小 澤 ・ 月 橋 , ス ク ラ ッ プ 量 の 推 定 及 び 一 次 二 次 鉄 源 と 粗 鋼 生 産 量 の 関 係 に よ る 世 界 の 鉄 源 需 要 の 解 析 , 鉄 と 鋼 , 95 (1 0), p p.4 0 -45 . 2 009 . 13) Neelis, M. a nd P ate l, M. K. (2006 ), Long -te rm pro duc tion , e ne rg y co n su mp tion a nd CO 2 emission scen arios fo r the wo rldwide iron and steel industry. h t t p : / / ww w. ch e m. u u . n l / n w s/ ww w/ p u b l i c a/ p u b l i c at i e s 2 0 0 6 / N WS - E - 2 0 0 6 - 1 8 0 . p d f 14) 高 松 ・ 林 , 私 信 , 20 11. 15) Beck, 「 鉄 の 歴 史 第 5 巻 」 中 沢 護 人 (訳 ) , 原 著 出 版 年 1 897 年 , 邦 訳 出 版 年 1 970 年 ∼ 1 973 年 . 19 87. 16) 下 村 ・ 林 , 鉄 源 と 製 鋼 プ ロ セ ス の 変 化 に 関 す る 一 考 察 , ふ ぇ ら む , 10 (6 ), pp. 17 -22 , 2005 . 17) Carr, J.C. and Tap lin , W., H istory o f th e British Stee l In du str y, B la ckwe ll P ublishe rs, 1962 . 18) wo rldstee l, Su sta ina b ility R epo rt 2 008 , p .7, 2 008. 19) 許 ・ 醍 醐 ・ 松 野 ・ 足 立 , 衛 星 画 像 を 用 い た 建 築 ・ 土 木 に お け る 鋼 材 ス ト ッ ク 推 計 , 鉄 と 鋼 , 96 (8 ), 201 0. 20) 岡 崎 , 私 信 , 2011. 21) Asso cia tion fo r Iro n & Stee l(A IST ), Stee l Techno log y Road ma p. Wa sh ing to n D.C ., USA, 200 1. 22) Moll, S. , A costa, J ., and Sc hu tz , H ., Iro n and s tee l – a ma te r ia ls s ys te m a na lysis. Work in g P aper 2005 /3, Eu rop ean To pic Cen tre o n Resou rce and Wa ste Ma nag e men t, 2005 . 23) World Stee l D yn a mics, Globa l Me ta llic s Ba la nce : USA, Eng lewood Cliffs, NJ, USA, 2005 . - 222 - 4.5.3 運 輸 部 門 ( 自 動 車 ) 今年度は、運輸部門のうち、自動車(乗用車、バス、トラック)について調査・整 理を行った。まず、直近の各種実績との整合性および本研究の社会経済シナリオと整 合性を確保した運輸需要の将来推定を行った。また、自動車技術のエネルギー効率等 の 技 術 動 向 や コ ス ト ・ 価 格 に つ い て 調 査 し 、DNE21+モ デ ル の 前 提 条 件 と し て 反 映 を 行 った。 (1) 運 輸 ( 自 動 車 ) 需 要 の 見 通 し 世 界 経 済 危 機 の 影 響 を 考 慮 し つ つ 、運 輸 部 門( 自 動 車 )の 需 要 の 見 通 し を 策 定 し た 。 需 要 見 通 し 策 定 の 手 順 は 、 図 4 .5. 3 -1 の と お り で あ る 。 今 年 度 は 、 シ ナ リ オ A( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ ) の 人 口 、 GDP シ ナ リ オ ( 後 述 の 第 5.2 節 に 掲 載 ) に 沿 っ た 需 要 見 通 しを策定した。図は、乗用車輸送サービス需要シナリオ策定の手順であるが、バス、 トラックについても同様の手順でシナリオ策定を行った。 一人当たりGDPと乗用車保有台数実績 をもとに将来シナリオ策定 乗用車耐用年数 一人当たりGDP(人口、GDP) 乗用車保有台数 新車販売台数 一台あたり年間走行距離 (人・km/台) 年間乗用車輸送サービス 需要(人・km) 図 4. 5.3 -1 運輸需要(乗用車輸送サービス)シナリオ推定の手順 乗 用 車 保 有 台 数 の 実 績 値 を 図 4. 5.1 -1 に 示 す 。 2 008 年 に お け る 乗 用 車 の 保 有 台 数 は 、 世界全体で約 8 億台である。そのうち、米国が 2 億 4 千万台程度と圧倒的に大きなシ ェアを占めている。 - 223 - 900 800 乗用車保有台数 [百万台] 700 600 500 400 300 200 100 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 西暦年 図 4. 5.3 -2 Other FUSSR Russia Other Central&Latin America Brazil Mexico Africa Middle East Other Asia India China Korea New Zealand Australia Japan Other Europe Other EU-27 Germany France United Kingdom Canada United States 乗 用 車 保 有 台 数 実 績 (参 考 文 献 1) 等 ) 図 4 .5. 3 -3 に 、 一 人 当 た り GDP と 乗 用 車 保 有 台 数 の 関 係 に つ い て 、 実 績 値 と そ れ に 基 づ い て 想 定 し た 将 来 シ ナ リ オ を 示 す 。 実 績 値 よ り 、 一 人 当 た り GDP の 増 加 に 伴 っ て 乗用車保有台数は増加するが、地域によって差があることがわかる。これは、地理的 な条件や、公共交通インフラの整備状況の差異等によって生じていると言える。将来 シナリオの想定においては、乗用車保有台数は地域差を有しつつも、将来的に飽和す るとした。 600 900 United States(想定) 700 United Kingdom(統計) 600 United Kingdom(想定) France (統計) 500 France (想定) Germany (統計) 400 Germany (想定) 300 Japan (統計) Japan (想定) 200 Australia (統計) 100 China(統計) China(想定) United States(統計) 500 人口当たり保有台数 [台/1000人] 人口当たり保有台数 [台/1000人] 800 Korea(統計) Korea(想定) India(統計) 400 India(想定) Saudi Arabia(統計) 300 Saudi Arabia(想定) Mexico(統計) 200 Mexico(想定) Brazil(統計) Brazil(想定) 100 Russia(統計) Australia (想定) 0 Russia(想定) 0 15 25 35 45 55 0 65 一人当たりGDP (MEX) [thousand $ / capita] 図 4. 5.3 -3 10 20 30 一人当たりGDP (MEX) [thousand $ / capita] 一 人 当 た り GDP と 乗 用 車 保 有 台 数 の 関 係 ( 実 績 お よ び ALP S シ ナ リ オ ( 2010 ∼ 2 050 年 )) - 224 - 40 図 4 .5. 3 -4 は 、 IEA ET P 2010 2 ) に お い て 示 さ れ て い る 一 人 当 た り GDP と 乗 用 車 保 有 台 数の実績値および将来シナリオを示している。本研究のシナリオは、先進国について は ETP 2010 の ベ ー ス ラ イ ン シ ナ リ オ と 近 い 想 定 と な っ て い る 一 方 、 中 国 、 イ ン ド 等 の 途 上 国 に つ い て は 、E TP 2010 の B LUE Sh ifts シ ナ リ オ( モ ー ダ ル シ フ ト が 加 速 す る シ ナ リオ)と近い想定となっている。 図 4. 5.3 -4 一 人 当 た り GDP と 乗 用 車 保 有 台 数 の 関 係 ( I EA E TP201 0 シ ナ リ オ ) 図 4 .5. 3 -5 は 、 本 研 究 で 想 定 し た 2050 年 ま で の 乗 用 車 保 有 台 数 シ ナ リ オ を 示 す 。 図 4.5. 3 -3 に 示 し た 一 人 当 た り GDP と 乗 用 車 保 有 台 数 の 関 係 を 将 来 (2050 年 ま で )に つ い て 地域別に想定し、人口シナリオを乗じることによって作成している。 世 界 全 体 で は 、現 状 で 8 億 台 程 度 だ が 、2 050 年 に は 1 7 億 台 程 度 と 二 倍 以 上 に 増 加 す る と 推 定 さ れ た 。な お 、IEA ETP 201 0 で は 、Ba se lin e シ ナ リ オ が 22 億 台 、Hig h Ba se line シ ナ リ オ が 2 6 億 台 、 B LUE Sh ifts シ ナ リ オ が 17 億 台 と さ れ て い る 。 本 研 究 で の 世 界 全 体 の 乗 用 車 保 有 台 数 の 推 定 は 、 IEA ETP 2010 の 中 で は 低 位 な 見 通 し で あ る B LUE Sh ifts シナリオに近いと言える。これは、中国やインドの保有台数の見通しに依る所が大き い 。図 4. 5.3 -4 に お い て 、 IEA で は GDP は 購 買 力 平 価 (P PP )を 用 い て い る が 、2 050 年 に お け る 中 国 の 一 人 当 た り GDP (P PP )は 60 thousand $と 、世 界 で 最 も 大 き な 国 と の 想 定 に な っ て い る 。一 方 、本 研 究 の GDP シ ナ リ オ は 基 本 的 に 為 替 換 算 の GDP を 用 い て い る が 、 そ れ を 購 買 力 平 価 に 換 算 す る と 、 中 国 は 一 人 当 た り 29 th ou sand $ で あ り 、 米 国 ( 54 tho usand $ ) や 日 本 ( 52 th ou san d $) 等 よ り も 小 さ い と 想 定 し て お り 、 乗 用 車 保 有 台 数 は相対的に小さく見積もられることとなる。この違いが、中国やインド等の途上国の 乗用車保有台数の見通しの違いとなって表れている。 - 225 - 1800 1600 乗用車保有台数 [百万台] 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 5.3 -5 Other FUSSR Russia Other Central&Latin America Brazil Mexico Africa Middle East Other Asia India China Korea New Zealand Australia Japan Other Europe Other EU-27 Germany France United Kingdom Canada United States 乗用車保有台数シナリオ 図 4 .5. 3 -6 に は 、 乗 用 車 一 台 当 た り の 年 間 走 行 距 離 ( 人 ・ k m) 実 績 と 将 来 シ ナ リ オ を示す。国によって様々ではあるが、実績値は総じて低下傾向にあり、将来的にも、 一台当たり乗車人数や一台当たり年間走行距離の低下によって、乗用車一台当たりの 年 間 走 行 距 離 ( 人 ・ k m) は わ ず か な が ら 低 下 傾 向 を 示 す と 想 定 し た 。 一台当たり年間輸送サービス [p-km/vehicle] 80000 United States Canada 70000 United Kingdom 60000 France Germany 50000 Japan Australia 40000 New Zealand 30000 China Korea 20000 India 10000 Saudi Arabia Mexico 0 2000 図 4. 5.3 -6 2010 2020 2030 西暦年 2040 2050 Brazil Russia 一 台 当 た り 年 間 走 行 距 離 実 績 ・ シ ナ リ オ ( 人 ・ k m/ 台 ) - 226 - 以 上 の 想 定 か ら 、図 4 .5.3 -7 に 示 す よ う に 年 間 の 乗 用 車 輸 送 サ ー ビ ス 需 要 シ ナ リ オ を 想 定 し た 。中 国 の 需 要 は 大 き く 伸 び 、20 5 0 年 に は 世 界 の 四 割 程 度 を 占 め る と 推 定 し た 。 また、米国は現状では世界の四割程度であるが、将来の増加は限られ、中国を初めと す る 途 上 国 の 増 加 も あ っ て 2050 年 に お け る 世 界 全 体 に 占 め る シ ェ ア は 二 割 程 度 と な る 見通しである。 同様の手順により、バス輸送サービス需要、トラック輸送サービス需要も、図 4.5. 3 -8、 図 4 .5. 3 -9 の よ う に そ れ ぞ れ 推 定 し た 。 比 較 の た め 、 図 4.5 .3 -10 に IEA ETP 2010 に お け る 運 輸 輸 送 サ ー ビ ス 需 要 シ ナ リ オ を 示 す 。先 述 し た よ う に 、乗 用 車 保 有 台 数 の 見 通 し に つ い て は 、こ こ で の 推 定 は 、ETP 2010 の Ba se line シ ナ リ オ よ り も 小 さ く 、 B LUE Sh ifts シ ナ リ オ と 近 い も の と な っ て い る が 、 乗 用 車 サ ー ビ ス 需 要 で 見 る と 、 ETP 2010 の Base line シ ナ リ オ の 方 に 近 い 推 定 と な っ て い る 。す な わ ち 、IEA ETP 2010 よ り も 、中 国 等 に お い て 、1 台 あ た り 年 間 走 行 距 離( 人 ・ k m) を 本 推 定 で は 大 き め に 見 積 も っ て い る こ と に な る 。 ま た 、 バ ス 、 ト ラ ッ ク の 輸 送 サ ー ビ ス 需 要 も 、 ETP 2010 の Ba se lin e シ ナ リ オ と 概 ね 近 い シ ナ リ オ と な っ て い る 。 乗用車輸送サービス需要 [billion p-km/yr] 60000 50000 40000 30000 20000 10000 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 5.3 -7 Other FUSSR Russia Other Central&Latin America Brazil Mexico Africa Middle East Other Asia India China Korea New Zealand Australia Japan Other Europe Other EU-27 Germany France United Kingdom Canada United States 乗用車輸送サービス需要シナリオ - 227 - 16000 バス輸送サービス需要 [billion p-km/yr] 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 5.3 -8 バス輸送サービス需要シナリオ トラック輸送サービス需要 [billion t-km/yr] 25000 20000 15000 10000 5000 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 5.3 -9 Other FUSSR Russia Other Central&Latin America Brazil Mexico Africa Middle East Other Asia India China Korea New Zealand Australia Japan Other Europe Other EU-27 Germany France United Kingdom Canada United States Other FUSSR Russia Other Central&Latin America Brazil Mexico Africa Middle East Other Asia India China Korea New Zealand Australia Japan Other Europe Other EU-27 Germany France United Kingdom Canada United States トラック輸送サービス需要シナリオ - 228 - 図 4. 5.3 -10 運 輸 輸 送 サ ー ビ ス 需 要 シ ナ リ オ ( IE A ET P20 10 シ ナ リ オ ) (2) 自 動 車 技 術 ・ コ ス ト の 見 通 し 自動車は、広く国際的に取引される商品であり、国内外各社の技術開発競争が激し い 技 術 で あ る 。 そ の た め 、 20 50 年 と い っ た 長 期 に わ た っ て 技 術 進 展 ( 性 能 や コ ス ト ) の見通しを持つことは大変難しい。 自動車の技術進展について、既往の文献等を参考に、本年度は以下のような想定を 行った。なお、上述のように、技術の不確実性は大きいため、感度解析を行うことに よって幅を持った評価を行っていく。 DNE21+モ デ ル で は 、運 輸 部 門 に 関 し て 、図 4 .5. 3 -11 、図 4.5 .3 -12 の よ う な モ デ ル 化 を し て い る 。 ま ず 、 図 4.5 .3 -11 に あ る よ う に 、 輸 送 機 関 を 乗 用 車 (小 型 、 大 型 )、 バ ス 及 び ト ラ ッ ク (小 型 、大 型 )に 区 分 し 、前 節 で 述 べ た 輸 送 サ ー ビ ス 需 要 を そ れ ぞ れ で 満 た す こ と と し て い る 。 具 体 的 な 技 術 に つ い て は 、 図 4. 5.3 -1 2 に あ る よ う に 、 従 来 型 内 燃 機関車の他に、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池 車 を 想 定 す る と 共 に 、代 替 燃 料 (バ イ オ 燃 料 )を 高 濃 度 で 利 用 す る 場 合 に は 専 用 の 技 術 が 必要としている。 具体的な燃費とコストの想定を、小型乗用車の主要技術について、それぞれ、図 4.5. 3 -13、 図 4.5 .3 -1 4 に 示 す 。 2030 年 ま で は 漸 進 的 な 技 術 進 展 を 想 定 す る 一 方 、 長 期 的 に は 技 術 進 展 の 不 確 実 性 が 大 き い と 考 え 、 2 030 年 以 降 に つ い て は 革 新 的 な 技 術 進 展 を仮定したものを将来シナリオとした。なお、ハイブリッド車、プラグインハイブリ ッ ド 車 及 び 電 気 自 動 車 に お い て 重 要 な 技 術 で あ る 蓄 電 池 に 関 し て は 、 NEDO の 次 世 代 自動車用蓄電池技術開発ロードマップ 3) 等 を 参 考 に 、 図 4.5 .3 -15 に 示 す よ う に コ ス ト 習 熟 を 想 定 し た 。 蓄 電 池 の 容 量 は 、 小 型 乗 用 車 で は ハ イ ブ リ ッ ド 車 : 1kWh 、 プ ラ グ イ ン ハ イ ブ リ ッ ド 車 : 4 kWh、 電 気 自 動 車 : 4 0kWh と し た 。 ま た 、 近 距 離 移 動 を 主 目 的 と す る よ り 小 型 の 電 気 自 動 車 も モ デ ル 化 し 、 蓄 電 池 容 量 は 2 0kW h と し た 。 - 229 - Gasoline Engine base Gasoline Gasoline + Ethanol (≧20%) Ethanol Passenger car (Small/Large) Bus Truck (Small/Large) Passenger car (Small) Passenger car (Large) Bus Diesel Engine base Light Oil Bio diesel Light oil + Bio diesel (<20%) Passenger car (Small/Large) Light oil + Bio diesel (≧20%) Bus Passenger transport [p-km] Gasoline + Ethanol (<20%) Truck (Small/Large) CNG Electricity Truck (Small) Truck (Large) Passenger car (Small/Large) Bus Hydrogen Truck (Small/Large) 図 4. 5.3 -11 DN E21+ モ デ ル に お け る 輸 送 サ ー ビ ス の モ デ ル 化 Fuel : Gasoline Gasoline + Ethanol (<20%) Ethanol Gasoline + Ethanol (≧20%) Light oil Bio diesel CNG Light oil + Bio diesel (<20%) Light oil + Bio diesel (≧20%) ICEV-Gasoline (Low-Eff.) ICEV-Gasoline (High-Eff.) Diesel engine base ICEV-B-Gasoline ICEV-CNG ICEV-Diesel (Low-Eff.) HEV-Gasoline ICEV-Diesel (High-Eff.) HEV-B-Gasoline/ HEV-CNG ICEV-B-Diesel HEV-Gasoline (Plug-In) HEV-Diesel HEV-B-Gasoline (Plug-In) HEV-B-Diesel Gasoline engine base Electricity EV Hydrogen Traffic Service HEV-Diesel (Plug-In) HEV-B-Diesel (Plug-In) FCHEV ICEV:従来型内燃機関車、HEV:ハイブリッド車、HEV(Plug-In):プラグインハイブリッド車、EV:純電気自動車、 FCHEV:燃料電池車、B:高濃度バイオ燃料利用車 図 4. 5.3 -12 D NE21 +モ デ ル に お け る 小 型 乗 用 車 の フ ロ ー - 230 - Freight transport [t-km] Passenger car (Small) Truck (Small) 120 100 従来型内燃機関車(低効率) 燃費 [km/L] 80 従来型内燃機関車(高効率) ハイブリッド車 60 プラグインハイブリッド車 40 電気自動車(40kWh) 燃料電池車 20 0 2000 2010 2020 2030 西暦年 図 4. 5.3 -13 2040 2050 小型乗用車の燃費想定 400 350 車両費用 [万円] 300 従来型内燃機関車(低効率) 250 従来型内燃機関車(高効率) ハイブリッド車 200 プラグインハイブリッド車 150 電気自動車(40kWh) 100 燃料電池車 50 0 2000 2010 2020 2030 西暦年 図 4. 5.3 -14 2040 2050 小型乗用車のコスト想定 - 231 - 25 蓄電池 蓄電池費用 [万円/kWh] 蓄電池(進歩) 20 15 10 5 0 2000 2010 図 4. 5.3 -15 2020 2030 2040 2050 蓄電池の費用想定 図 4.5 .3 -16 に 実 燃 費 と カ タ ロ グ 燃 費 の ギ ャ ッ プ の 想 定 を 示 す 。道 路 の 混 雑 度 合 い や 、 運転の仕方などによって、実走行燃費とカタログ燃費にはギャップが存在する。しか し、道路整備やエコドライブの普及等によって、このギャップが小さくなることも期 待 で き る 。本 研 究 で は 、現 状 は モ デ ル の 想 定 (燃 費 、輸 送 サ ー ビ ス 需 要 等 )と エ ネ ル ギ ー 統計 4) 等 が 整 合 的 に な る よ う に 推 定 し 、 将 来 は 図 4. 5.3 -1 6 に 示 す よ う に 、 ギ ャ ッ プ が 小さくなっていくものと想定した。 実燃費とカタログ燃費のギャップ 1.5 United States Canada 1.4 United Kingdom France 1.3 Germany Italy 1.2 Japan China 1.1 Korea India 1 Russia 2000 2020 図 4. 5.3 -16 2040 実燃費とカタログ燃費のギャップの想定 参 考 文 献 ( 第 4.5 .1 節 に 関 す る も の ) 1) (社 )日 本 自 動 車 工 業 会 、「 世 界 自 動 車 統 計 年 報 第 9 集 」、 2 010 2) IEA, En e rg y Tech no log y P e rspe ctives 20 10, 2 010. 3) NEDO、「 次 世 代 自 動 車 用 蓄 電 池 技 術 開 発 ロ ー ド マ ッ プ 」、 2008 4) IEA, En e rg y Ba la ncc es of OECD/Non -OECD Coun trie s, 20 10. - 232 - 4.6 短 中 期 温 暖 化 対 策 評 価 モ デ ル DNE21+に よ る 分 析 ・ 評 価 第 4.5 節 で 調 査 し た よ う な 最 新 の 動 向 を 、温 暖 化 対 策 技 術 を 詳 細 に 積 み 上 げ て モ デ ル 化し、また、世界の地域を詳細に分割評価している温暖化対策・エネルギー評価モデ ル DNE21+の 前 提 条 件 と し て 反 映 し た 。そ し て 、そ の 最 新 デ ー タ に 基 づ い た モ デ ル を 用 い て 、 第 3 章 で 述 べ た 叙 述 的 シ ナ リ オ の う ち 、 中 位 の 技 術 進 展 を 想 定 し た シ ナ リ オ A、 そして、温暖化政策実施の背景シナリオについては、現状に近い多目的多様性社会シ ナ リ オ を 想 定 し て 分 析 評 価 を 行 っ た 。特 に 第 4.5 節 で 調 査 し た 発 電 、鉄 鋼 、自 動 車 の 主 要セクターについては、部門別に分析を行った。また、比較的モデル構造も似通った IEA ETP 2010 シ ナ リ オ と の 比 較 評 価 も 行 っ た 。 4.6.1 DNE21+モ デ ル の 概 要 DNE21+モ デ ル は 、 温 暖 化 対 策 技 術 を 詳 細 に 積 み 上 げ た モ デ ル で あ り 、 ま た 、 世 界 の 地域を詳細に分割したモデルである。これにより、どこで、どのような対策技術を用 いて対策を行えば良いのかを具体的に提示できる。また、技術を詳細に評価していな が ら 、 20 50 年 ま で の 比 較 的 長 期 に わ た る 期 間 に つ い て 評 価 が 可 能 で あ る 。 DNE21+は 、評 価 対 象 期 間 に お け る 世 界 全 体 の エ ネ ル ギ ー ・ シ ス テ ム 総 コ ス ト を 最 小 化 す る 最 適 化 型 モ デ ル ( 線 形 計 画 モ デ ル ) で あ る 。 こ れ に よ っ て 、 例 え ば 205 0 年 の 削 減 目 標 を 踏 ま え て 、 2 020 年 、 203 0 年 に ど の よ う な 対 策 を と る べ き か を 提 示 で き る こ と と な る 。そ し て 、エ ネ ル ギ ー 供 給 部 門 か ら エ ネ ル ギ ー 消 費 部 門 ま で( 図 4 .6. 1 -1 参 照 )、 エネルギー輸出入、時点間の設備推移までも含めてハードリンクしており、完全に整 合的なシステムを算定することができる。 具体的な特徴を以下に示す。 ○ 最 適 化 代 表 時 点 は 20 05, 2010 , 2 015 , 20 20, 2025 , 2 030 , 2 040, 2 050 年 の 8 時 点 ( 2005 年 は 2 003 ∼ 2 007 年 、 20 10 年 は 20 08∼ 2 012 年 、 2 015 年 は 20 13 ∼ 201 7 年 、・ ・ ・ を そ れ ぞ れ 代 表 し て い る ) ○ 世界全体を54地域に地域分割(米国、カナダ、オーストラリア、中国、イン ド 、 ロ シ ア は さ ら に 1 国 内 を 分 割 、 計 77 地 域 分 割 )。( 図 4.6 .1 -2 ) ○ エ ネ ル ギ ー 供 給 技 術 ( 各 種 発 電 技 術 、 石 油 精 製 、 石 炭 ガ ス 化 技 術 な ど )、 二 酸 化 炭素分離・回収、貯留・隔離については、各技術のコストやエネルギー効率な ど を 明 示 的 に モ デ ル 化 ( ボ ト ム ア ッ プ 的 )。 ○ エネルギー需要技術については、 ・エネルギー多消費産業のうち、鉄鋼、セメント、紙パ、アルミ、化学の一部(石 油 化 学 の う ち エ チ レ ン ・ プ ロ ピ レ ン 製 造 、 ア ン モ ニ ア 製 造 )、 運 輸 ( 自 動 車 )、 民 生の一部については、各技術のコストやエネルギー効率などを明示的にモデル化 ( ボ ト ム ア ッ プ 的 )。 こ れ ら の 部 門 の 活 動 量 ( 産 業 部 門 は 生 産 量 、 自 動 車 は 輸 送 需 要、民生の一部は機器の利用時間)は外生的に想定し、モデル計算においては固 定とする。一方、技術選択は、モデルで内生的に決定され、エネルギー消費量な どが導出される。 - 233 - ・それ以外の部門については、地域によって技術特性が様々であったり、将来の技 術が多様であると予想されるなど、個別技術の積み上げを行うことが必ずしも的 確な評価につながらないと考えて、個別技術としては想定せず、最終エネルギー 需要を産業、運輸、民生部門別にマクロ的に4種に区分(固体燃料需要、液体燃 料 需 要 ( ガ ソ リ ン 需 要 、 軽 質 油 需 要 、 重 質 油 需 要 )、 気 体 燃 料 需 要 、 電 力 需 要 ) し てモデル化(トップダウン的)し、全部門にわたる評価を実施。 ・省エネルギー効果は、長期価格弾性値を用いて評価。 ○ 各設備については、設備のヴィンテージ(過去の何年にいくらの容量の設備が 導入されたか)を考慮しているため、時点によって代替のための費用効率性が 異なることが明示的に考慮され、それが費用効率的な技術選択に反映される。 設備寿命を残して新たな設備の建設も、当然、高い費用と算出されるが、モデ ル上、考慮できる。 ○ 分割地域間のエネルギー輸送を考慮(石炭、石油、天然ガス、エタノール、電 力 )。 ○ 8 種 の 一 次 エ ネ ル ギ ー を 考 慮 ( 石 炭 、 石 油 ( 在 来 型 、 非 在 来 型 )、 天 然 ガ ス ( 在 来 型 、 非 在 来 型 )、 水 力 ・ 地 熱 、 原 子 力 、 風 力 、 太 陽 光 、 バ イ オ マ ス )。 ○ 電力需要については、電力負荷変動に合わせた供給となるように、年負荷持続 曲線を基に、電力負荷の大きさによって4時間帯に区分し、それぞれ需給バラ ンスがとれるようにモデル化。これによって、ベース電源、ピーク対応電源な ど、それぞれの発電技術の特性にあった評価を可能としている。 ○ 各種エネルギー変換過程(各種発電、石炭ガス化・液化、天然ガス改質、バイ オ マ ス 液 化 な ど )、二 酸 化 炭 素 分 離・回 収 、貯 留・隔 離( CCS)な ど を モ デ ル 化 。 産業部門 化石エネルギー 石炭 石油(在来型、非在来型) 天然ガス(在来型、非在来型) 生産 単価 各種エネルギー 変換プロセス (石油精製、 石炭ガス化、 バイオエタノール化、 ガス改質、 水電解等) セメント 紙パ 化学(エチレン, プロピレン, アンモニア) アルミ 累積生産量 固体、液体、気体燃料、電力 再生可能エネルギー 水力・地熱 風力 太陽光 バイオマス 鉄鋼 運輸部門 各種発電 自動車 固体、液体、気体燃料、電力 供給 単価 民生・業務部門 年間生産量 CCS 原子力 (在来型、次世代型) 図 4. 6.1 -1 冷蔵庫、テレビ、エアコン 他 固体、液体、気体燃料、電力 DN E21+ に お け る エ ネ ル ギ ー フ ロ ー の 全 体 概 要 - 234 - 図 4. 6.1 -2 DN E21+ に お け る 世 界 の 地 域 分 割 4.6.2 分 析 し た シ ナ リ オ 今 年 度 は 、 第 3 章 で 策 定 し た 叙 述 的 シ ナ リ オ の う ち 、 DNE2 1+の 分 析 は 、 シ ナ リ オ A ( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ ) に つ い て 分 析 ・ 評 価 を 行 っ た ( 具 体 的 な 人 口 、GDP シ ナ リ オ は 第 5.2 節 に 記 載 )。 ま た 、 本 節 で は 、 温 暖 化 政 策 実 施 の 背 景 シ ナ リ オ に つ い て は 、 現 状 に 近 い 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ( シ ナ リ オ I)を 想 定 し て 分 析 評 価 を 行 っ た 。 シ ナ リ オ II、 III と の 比 較 に つ い て は 、 第 5 章 に 記 載 す る 。 そ の 上 で 、 排 出 削 減 レ ベ ル に つ い て は 、 ベ ー ス ラ イ ン シ ナ リ オ ( 特 段 の 温 暖 化 対 策 が な い 場 合 ) と 世 界 排 出 量 を 2050 年 に 2 005 年 比 で 半 減 す る シ ナ リ オ ( RCP で は 、 RCP 3P D(2.6)相 当 ) の 2 種 類 に つ い て 分 析 ・ 評 価 を 行 っ た 。 な お 、 205 0 年 に 世 界 半 減 シ ナ リ オ で は 、 世 界 全 体 の 費 用 が 最 小 化するような分析(すなわち、各国で限界削減費用が均等化)を行った。 な お 、こ こ で は 、投 資 判 断 に お け る 割 引 率 お よ び 投 資 回 収 判 断 年 数 は 表 5 .9 .1 -2 の よ う に 想 定 し た 。ま た 、ベ ー ス ラ イ ン に お け る 化 石 燃 料 価 格 は 概 ね 表 5.9 .1 -3 の よ う に 想 定した。なお、化石燃料の生産費用についてはモデルで内生的に決定されるため、排 出削減レベル等が異なったシナリオの場合、ここで示す価格から変動する。 - 235 - 表 4. 6.2 -1 投 資 判 断 に お け る 割 引 率 お よ び 投 資 回 収 判 断 年 数 ( シ ナ リ オ I) 投資判断における割引率 上限 下限 投資回収判断年数 上限 下限 8% 20% 11.9 年 5.0 年 11% 23% 9.0 年 4.3 年 その他エネルギー転換部門 15% 25% 6.6 年 4.0 年 エネルギー多消費産業 15% 25% 6.6 年 4.0 年 運輸(自動車)部門 30% 45% 3.3 年 2.2 年 民生・業務部門 30% 55% 3.3 年 1.8 年 発電部門 原子力 *投 資 回 収 判 断 年 数 は 、 発 電 部 門 、 そ の 他 エ ネ ル ギ ー 転 換 部 門 、 エ ネ ル ギ ー 多 消 費 部 門 は 設 備 寿 命 40 年 (但 し 原 子 力 は 50 年 )、 運 輸 (自 動 車 )部 門 、 民 生 ・ 業 務 部 門 は 15 年 と して換算した値。 表 4. 6.2 -2 石炭 石油 ガス 化 石 燃 料 価 格 の 想 定 ( シ ナ リ オ I) 2010 年 2020 年 2030 年 2040 年 2050 年 106 157 162 172 185 399 615 702 741 818 (63 ) (96 ) (11 0) (11 6) (12 8) 308 455 530 552 569 単 位 : US200 0$ /toe 、 石 油 の 括 弧 内 の 数 値 は US200 0$ /bb l 4.6.3 分 析 結 果 第 4.6 .2 節 で 記 述 し た シ ナ リ オ に つ い て 、 DNE21+モ デ ル に よ っ て 分 析 を 行 っ た 。 (1) CO 2 排 出 量 ・ 削 減 量 図 4.6 .3 -1 に 、 A LP S シ ナ リ オ A -I に お け る ベ ー ス ラ イ ン 排 出 量 と 、 ベ ー ス ラ ラ イ ン か ら の 世 界 排 出 量 半 減 時 の 部 門 別・技 術 別 の 排 出 削 減 量 を 示 す 。ま た 、比 較 の た め に 、 IEA ETP 2010 に お け る 世 界 排 出 量 半 減 時 の 部 門 別 ・ 技 術 別 の 排 出 削 減 量 を 図 4.6 .3 -2 に 示す。世界半減のためには様々な部門で各種技術により削減を行うことが必要と見ら れ る 。 ま た 、 ETP 201 0 と の 比 較 で は 、 比 較 的 似 通 っ た 削 減 シ ナ リ オ と な っ て い る 。 な お 、 ETP 201 0 の 推 定 で は 、 世 界 半 減 時 の 205 0 年 の CO 2 限 界 削 減 費 用 は 17 5$ /tCO 2 ( ETP 2008 で は 2 00∼ 5 00$ /tCO 2 、 技 術 楽 観 ケ ー ス ∼ 悲 観 ケ ー ス ) と し て お り 、 本 研 究 の 推 定 で は 476 $/tCO 2 と 、ETP 2010 よ り も 大 き く 算 定 さ れ た 。こ れ は 技 術 進 展 の 見 通 し の 違 い や 、 地 域 分 割 の 詳 細 さ ( DNE21+モ デ ル で は 5 4 地 域 、 ETP モ デ ル で は 1 7 地 域 ) の 違い等によっているものと考えられる。 - 236 - エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr] 60 発電部門:CCS ベースライン排出量: 57GtCO2/yr 50 17% 14% 40 15% 11% 30 43% 20 世界半減時排出量: 13GtCO2/yr 10 発電部門:再生可能 発電部門:原子力 発電部門:効率向上、 化石燃料間転換 発電以外のエネルギー 転換部門 民生部門 運輸部門 産業部門 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 6.3 -1 CO2排出量 ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 と 世 界 半 減 の た め の 技 術 別 排 出 削 減 量 注)国際海運、国際航空は含めていない。 図 4. 6.3 -2 IEA ETP 2010 に お け る ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 と 世 界 半 減 の た め の 技 術 別 排出削減量 次 に 世 界 地 域 別 の 削 減 寄 与 を 見 る こ と と す る 。図 4. 6.3 -3 に 、ベ ー ス ラ ラ イ ン か ら の 世 界 排 出 量 半 減 時 の 地 域 別 の 排 出 削 減 量 を 示 す 。 ま た 、 各 国 の 20 05 年 を 基 準 と し た と き の 削 減 率 の 推 移 を 図 4 .6. 3 -4 に 示 す 。 2 050 年 の 削 減 寄 与 度 と し て は 中 国 が 2 4%と 最 も 大 き い 。中 国 は 、205 0 年 で ベ ー ス ラ イ ン で は 20 05 年 比 で お よ そ 3 倍 に な る と こ ろ を 、 - 237 - 半 減 時 に は 20 %減 程 度 に 抑 制 す る も の で あ る 。 イ ン ド に つ い て は 、 ベ ー ス ラ イ ン で お よ そ 5 倍 に な る と こ ろ を 、 半 減 時 に は +40 %程 度 で 留 め る と い う も の で あ る 。 先 進 国 は 半 減 時 に は 概 ね 60∼ 70%減 程 度 と な っ て い る 。 比 較 の た め に 、 IEA ETP 2010 に お け る 世 界 排 出 量 半 減 時 の 地 域 別 の 排 出 削 減 量 を 図 4.6 .3 -5 に 示 す 。 地 域 別 の 寄 与 度 で 見 て も 、 ETP 201 0 と 比 較 的 似 通 っ た シ ナ リ オ と 言 え る 。 エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr] 60 ベースライン排出量: 57GtCO2/yr 50 Other non-OECD 30% Other OME 6% 10% 40 24% 30 India China 17% 20 Other OECD 13% 世界半減時排出量: 13GtCO2/yr 10 USA CO2排出量 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 6.3 -3 ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 と 世 界 半 減 の た め の 地 域 別 排 出 削 減 量 注 ) 国 際 海 運 、 国 際 航 空 は 含 め て い な い 。 Oth er OME (O th er M ajo r Eco no mies ): ブ ラ ジ ル、ロシア、南アフリカ a) ベ ー ス ラ イ ン b) 世 界 排 出 量 半 減 2 エネルギー起源CO2排出量 [Y2005 = 1] エネルギー起源CO2排出量 [Y2005 = 1] 6 5 4 3 2 1 0 2005 1.8 1.6 1.4 USA 1.2 Other OECD 1 Japan 0.8 China 0.6 India 0.4 Other OME Other non-OECD 0.2 0 2015 2025 2035 2045 2005 西暦年 図 4. 6.3 -4 2015 2025 2035 2045 西暦年 ベ ー ス ラ イ ン と 世 界 半 減 の 地 域 別 CO 2 排 出 量 推 移 - 238 - 図 4. 6.3 -5 IEA ETP 2010 に お け る ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 と 世 界 半 減 の た め の 地 域 別 排出削減量 (2) 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 図 4. 6.3 -6 に ベ ー ス ラ ラ イ ン に お け る 世 界 の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 推 移 を 、 図 4.6. 3 -7 に 、 ベ ー ス ラ ラ イ ン と 世 界 排 出 量 半 減 時 の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 を 示 す 。 ベ ー スラインにおいては、石炭を中心に化石燃料依存が継続する。風力や太陽光発電とい っ た 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー は 、 将 来 の コ ス ト 低 減 を 見 込 ん で も コ ス ト が 高 く 、 2 050 年 に 至ってもその利用は限定的である。世界半減ケースにおいては、石炭、石油を中心に 化石燃料の利用量は大きく減少し、原子力、バイオマス、風力、太陽光発電といった 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー の 比 率 が 大 き く な っ て い る 。 ま た 、 比 較 の た め に 、 IEA ETP 2 010 に お け る 世 界 排 出 量 半 減 時 の 世 界 の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 を 図 4 .6. 3 -8 に 示 す 。A LP S、 ETP 2010 両 者 で こ こ で も 大 き な 差 異 は な い も の の 、世 界 半 減 時 の 20 50 年 に お い て 、 「そ の 他 」の 風 力 発 電 の 利 用 量 に つ い て は 、A LP S の 見 通 し は ETP 201 0 の 見 通 し よ り も 少 し 小さい。 - 239 - 一次エネルギー供給量 [Mtoe/yr] 24000 22000 20000 18000 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 Others Biomass & Waste Hydro & Geothermal Nuclear Natural Gas Oil Coal 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 6.3 -6 ベースラインにおける世界の一次エネルギー供給量推移 24000 一次エネルギー供給量 [Mtoe/yr] 22000 20000 18000 16000 Others 14000 Biomass & Waste 12000 Hydro & Geothermal 10000 Nuclear 8000 Natural Gas 6000 Oil 4000 Coal 2000 0 ベースライン 世界半減 ベースライン 2030年 図 4. 6.3 -7 世界半減 2050年 ベースラインと世界半減のための世界の一次エネルギー供給量 - 240 - 図 4. 6.3 -8 IEA ETP 2010 に お け る ベ ー ス ラ イ ン と 世 界 半 減 の た め の 世 界 の 一 次 エ ネ ルギー供給量 (3) 発 電 電 力 量 図 4.6 .3 -9 に ベ ー ス ラ ラ イ ン に お け る 世 界 の 発 電 電 力 量 推 移 を 、 図 4. 6.3 -10 に 、 ベ ー ス ラ ラ イ ン と 世 界 排 出 量 半 減 時 の 世 界 の 発 電 電 力 量 を 、 ETP 2010 の 分 析 と の 比 較 を 含 め て 示 す 。 ま た 、 図 4 .6. 3 -11 に 、 世 界 半 減 の た め の 地 域 別 の 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー の 利 用 量 を 、 図 4 .6. 3 -1 2 に は ETP 2010 に お け る シ ナ リ オ を 示 す 。 ベ ー ス ラ イ ン に お い て は 、 2 05 0 年 ま で の 期 間 に わ た っ て 、 石 炭 発 電 が 総 発 電 電 力 量 の 5 割 程 度 を 占 め る よ う な状況と見られる。原子力発電は概ね現状レベルで維持する。一方、風力発電は比率 的 に は 大 き く な い も の の 、 着 実 な 拡 大 は 見 込 ま れ る 。 IEA ETP 2010 と の 比 較 で み る と 、 本 研 究 で は ETP 2010 よ り も 風 力 に つ い て は 小 さ く 見 積 も っ て い る 。太 陽 光 発 電 は 2 050 年半減時での導入量は概ね両者で同じレベルである。一方、バイオマス発電について は 、 本 研 究 の 方 が ET P 2010 よ り も 大 き く 、 ま た 、 バ イ オ マ ス CC S の 比 率 が 高 い 。 本 研 究 で は 、 エ ネ ル ギ ー 利 用 部 門 で の 省 エ ネ が ETP 2010 ほ ど 進 展 し な い と 見 た 分 析 と な っ ており、その分、電力供給における原単位改善が必要であり、正味で負の削減となる バ イ オ マ ス CCS の 利 用 が 大 き く な っ て い る 。 バ イ オ マ ス 供 給 可 能 量 に は 上 限 が あ り 、 そ れ は 概 ね IEA ETP 2 010 と 本 研 究 で は 近 い も の と な っ て い る よ う に 見 受 け ら れ る 。 本 研究では、バイオマスを発電部門で余計に利用するため、運輸部門の分析において、 後 述 す る よ う に 、 そ の 分 、 運 輸 部 門 で の 利 用 は 、 ETP 201 0 よ り も 小 さ く な っ て い る 。 地 域 別 の 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 利 用 を 見 る と 、 ETP 2010 と 比 較 し て 、 本 研 究 で は 、 ア フリカやラテンアメリカにおけるバイオマス発電を大きく見込んでいる。また、中国 の お け る 太 陽 光 発 電 も 大 き く 見 込 ん で い る 。 一 方 、 中 国 に お け る 風 力 発 電 は ETP 2 010 よりも小さく見込んでいる。 - 241 - 50000 Others 発電電力量 [TWh/yr] 45000 Solar 40000 Wind 35000 Biomass+CCS Biomass 30000 Hydro & Geothermal Nuclear 25000 Gas+CCS 20000 Gas 15000 Oil+CCS 10000 Oil Coal+CCS 5000 Coal 0 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 6.3 -9 ベースラインにおける世界の発電電力量推移 50000 Others 45000 Solar Wind 40000 Biomass+CCS 発電電力量 [TWh/yr] 35000 Biomass 30000 Hydro & Geothermal Nuclear 25000 Gas+CCS 20000 Gas 15000 Oil+CCS Oil 10000 Coal+CCS 5000 Coal 2030年 図 4. 6.3 -10 BLUE Map (ETP2010) Baseline (ETP2010) 世界半減 ベースライン ベースライン 世界半減 0 2050年 ベ ー ス ラ イ ン と 世 界 半 減 の た め の 世 界 の 発 電 電 力 量 ( IE A ET P20 10 と の 比較) - 242 - 3.5 発電電力量 [PWh/yr] 3 2.5 Wind 2 Solar Hydro & Geothermal 1.5 Biomass 1 0.5 図 4. 6.3 -11 図 4. 6.3 -12 China Latin America Middle East Africa United States OECD Europe 0 世界半減のための地域別の再生可能エネルギーの利用量 IE A ET P201 0 に お け る 世 界 半 減 の た め の 地 域 別 の 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー の 利用量 (4) 鉄 鋼 部 門 図 4.6 .3 -1 3 に ベ ー ス ラ イ ン に お け る 世 界 の 技 術 別 粗 鋼 生 産 量 を 示 す 。 ベ ー ス ラ イ ン に お い て も 、 高 効 率 な 生 産 設 備 の 拡 大 が 見 ら れ る 。 ま た 、 図 4.6. 3 -14 に は ベ ー ス ラ イ ン と 世 界 半 減 に お け る 世 界 の 技 術 別 粗 鋼 生 産 量 を 示 す 。世 界 半 減 シ ナ リ オ に お い て は 、 2030 年 頃 か ら CCS や 水 素 還 元 製 鉄 な ど の 利 用 が 必 要 に な っ て く る 。ス ク ラ ッ プ 電 炉 鋼 の 利 用 は 、 CO 2 原 単 位 を 引 き 下 げ る 効 果 が あ る も の の 、 第 4. 5 .2 節 で 分 析 し た よ う に 、 - 243 - ス ク ラ ッ プ 鉄 の 利 用 可 能 性 等 の 制 約 に よ り 、 2 050 年 で は 高 炉 ・ 転 炉 の 利 用 は 全 生 産 の 半分程度を占める結果となっている。なお、ガス資源を有し、その利用が容易な国に お い て は 、 直 接 還 元 鉄 ( DR I) の 利 用 拡 大 も 見 ら れ る 。 2500 スクラップ電炉(高効率) 粗鋼生産量 [Mt-CrudeSteel/yr] スクラップ電炉(中効率) 2000 スクラップ電炉(低効率) DRI(高効率) 1500 DRI(中効率) CCS・水素還元製鉄 1000 高炉転炉(高効率+次世代 コークス炉) 高炉転炉(高効率) 500 高炉転炉(中効率) 高炉転炉(低効率) 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 6.3 -13 ベースラインにおける世界の技術別粗鋼生産量 スクラップ電炉(高効率) スクラップ電炉(中効率) 2000 スクラップ電炉(低効率) 1500 DRI(高効率) 1000 DRI(中効率) CCS・水素還元製鉄 500 図 4. 6.3 -14 世界半減 世界半減 2030年 ベースライン 0 ベースライン 粗鋼生産量 [Mt-CrudeSteel/yr] 2500 高炉転炉(高効率+次世代 コークス炉) 高炉転炉(高効率) 高炉転炉(中効率) 高炉転炉(低効率) 2050年 ベースラインと世界半減における世界の技術別粗鋼生産量 - 244 - 図 4.6 .3 -15 は 、 鉄 鋼 部 門 の CO 2 排 出 量 (電 力 の 間 接 排 出 も 含 む )に つ い て 、 ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 と 全 部 門 で 世 界 半 減 時 の 鉄 鋼 部 門 で の 地 域 別 排 出 削 減 量 を 示 し て い る。 世 界 全 体 で は 、205 0 年 の ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 は 3 400MtCO 2 /yr で あ り 、半 減 時 に は 1800 MtCO 2 /yr(ベ ー ス ラ イ ン 比 で 約 ▲ 5 0%)ま で 削 減 す る こ と と な る 。 な お 、 2 005 年 の排出量と比べると約二割減であり、鉄鋼部門のみで見た場合には半減となっていな い。地域別には、生産量の多い中国やインドでの排出削減が大きい結果である。 エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr] 4000 Other non-OECD 3500 3000 Other OME 2500 India 2000 China 1500 Other OECD 1000 USA 500 CO2排出量 0 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 6.3 -15 鉄 鋼 部 門 の ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 と 世 界 半 減 の た め の 地 域 別 排 出 削 減 量 (電 力 の 間 接 排 出 も 含 む ) (5) 二 酸 化 炭 素 回 収 貯 留 ( CCS ) 図 4.6 .3 -16 に は 本 研 究 に お け る 世 界 排 出 量 半 減 シ ナ リ オ 時 の 地 域 別 の CCS 利 用 量 を 、図 4. 6.3 -17 に は IEA ETP 2010 の 半 減 シ ナ リ オ に お け る 地 域 別 の CCS 利 用 量 を 示 す 。 本 研 究 に お け る シ ナ リ オ の 方 が 、ETP 2010 よ り も 若 干 CCS 利 用 量 が 大 き く な っ て い る 。 発電部門の項で述べたように、本研究のシナリオでは、アフリカやラテンアメリカに お け る バ イ オ マ ス CC S の 利 用 量 が ETP 201 0 よ り も 大 き い こ と が 主 要 な 差 異 と な っ て い る 。 ETP 201 0 で は 1 か 所 30 0 万 ト ン /年 と す る と 2 050 年 に は 34 00 か 所 で 貯 留 が 必 要 で あ り 、 本 研 究 の シ ナ リ オ で は 450 0 か 所 程 度 で 貯 留 す る こ と と な る 。 い ず れ に し て も 、 現実的には相当な困難を伴う実施量と考えられる。 - 245 - 14000 OECD Pacific United States CO2回収量 [MtCO2/yr] 12000 Other OECD North America OECD Europe 10000 Other developing Asia 8000 Middle East 6000 India Eastern European Union and Former Soviet Union Central and South America China 4000 2000 Africa 0 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 6.3 -16 図 4. 6.3 -17 世 界 半 減 の た め の 地 域 別 の C CS 利 用 量 IE A ET P201 0 に お け る 世 界 半 減 の た め の 地 域 別 の C CS 利 用 量 - 246 - (6) 運 輸 部 門 図 4 .6. 3 -1 8 に 、 本 研 究 に お け る ベ ー ス ラ イ ン お よ び 世 界 半 減 の た め の 運 輸 部 門 の 地 域 別 の エ ネ ル ギ ー 消 費 量 を 、 ま た 、 図 4. 6 .3 -19 に は ETP 201 0 に お け る 運 輸 部 門 の エ ネ ル ギ ー 消 費 量 を 示 す 。本 研 究 の ベ ー ス ラ イ ン は 、ETP 201 0 に 比 べ る と 、そ の 他 非 O ECD 諸国を中心に若干ながら小さい。一方、世界半減ケースではほぼ同程度のエネルギー 消費量となっている。 図 4 .6. 3 -2 0 に は 、 ベ ー ス ラ イ ン お よ び 世 界 半 減 ケ ー ス に お け る 自 動 車 の 年 間 販 売 台 数 ( 年 間 導 入 台 数 ) を 、 図 4. 6.3 -2 1 に は ETP 2010 の シ ナ リ オ を 比 較 の た め に 示 す 。 世 界 の 販 売 台 数 は 、ETP 2010 で は 現 状 の 年 間 約 7 千 万 台 か ら 2 050 年 に は 約 1 億 8 千 万 台 に 拡 大 す る と し て い る 一 方 、 本 研 究 で は 約 1 億 台 程 度 と し て い る 。 こ れ は 、 第 4.5 . 3 節 で記載したように、中国やインド等の途上国における自動車保有台数の見通しが ETP 2010 で は 本 研 究 よ り も か な り 大 き い こ と が 主 要 な 要 因 で あ る 。 そ れ は 、 例 え ば 中 国 は 20 50 年 に は P PP で 見 る と 、 世 界 で 最 も 一 人 当 た り GDP が 高 い 国 に な っ て い る と す る ETP 2010 の 想 定 が 基 に な っ て い る 。 自 動 車 技 術 の 内 訳 で 見 る と 、 ETP で は プ ラ グ インハイブリッド、燃料電池自動車の比率が大きいが、本研究では特に燃料電池自動 車の比率は小さく見込んでおり、一方、ハイブリッド自動車の比率を高く見込んでい る違いがある。 いずれにしても、自動車技術の技術動向は不確実性が高く、感度解析などを充実さ せていくことが重要と考えられる。 運輸部門エネルギー消費 [Mtoe/yr] 6000 Other Non-OECD 5000 India 4000 China 3000 Other OECD 2000 OECD Europe 1000 United States 2030年 図 4. 6.3 -18 世界半減 ベースライン ベースライン 世界半減 0 2050年 ベースラインおよび世界半減のための運輸部門のエネルギー消費量 - 247 - a) 地 域 別 b) 種 類 別 図 4. 6.3 -19 IE A ET P201 0 に お け る ベ ー ス ラ イ ン お よ び 世 界 半 減 の た め の 運 輸 部 門 の エネルギー消費量 - 248 - 乗用車年間導入台数 [百万台/年] 200 180 FCV 160 EV 140 PlugIn-HEV (Alternative Fuel) 120 PlugIn-HEV (Diesel) 100 PlugIn-HEV (Gasoline) 80 60 HEV (Alternative Fuel) 40 HEV (Diesel) 20 HEV (Gasoline) ICEV (Alternative Fuel) 図 4. 6.3 -20 2030~2040年 世界半減 2020~ 2030年 ベースライン ベースライン/世界半減 2010~ 2020年 世界半減 ベースライン/世界半減 2000~ 2010年 ベースライン ベースライン/世界半減 0 ICEV (Diesel) ICEV (Gasoline) 2040~2050年 ベ ー ス ラ イ ン お よ び 世 界 半 減 ケ ー ス に お け る 自 動 車 の 年 間 販 売 台 数( 年 間導入台数) 図 4. 6.3 -21 IE A ET P201 0 に お け る ベ ー ス ラ イ ン お よ び 世 界 半 減 ケ ー ス に お け る 自 動 車の年間販売台数(年間導入台数) 図 4.6 .3 -22 は 、 運 輸 部 門 の CO 2 排 出 量 (電 力 の 間 接 排 出 も 含 む )に つ い て 、 ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 と 全 部 門 で 世 界 半 減 時 の 運 輸 部 門 で の 地 域 別 排 出 削 減 量 を 示 し て い る。 世 界 全 体 で は 、 2 05 0 年 の ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 は 約 110 00MtCO 2 /yr で あ り 、 半 減 時 に は 610 0MtCO 2 /yr (ベ ー ス ラ イ ン 比 ▲ 44 %)ま で 削 減 す る こ と と な る 。 な お 、 2 005 年 - 249 - の 排 出 量 と 比 べ る と + 3%で あ り 、全 部 門 で 最 も 費 用 効 率 的 に 20 0 5 年 比 半 減 を 行 う 場 合 、 運輸部門では現状レベルに排出量を戻すという位置づけである。 エネルギー起源CO2排出量・削減量 [GtCO2/yr] 12000 Other non-OECD 10000 Other OME 8000 India 6000 China 4000 Other OECD 2000 USA CO2排出量 0 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 西暦年 図 4. 6.3 -22 運 輸 部 門 の ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 と 世 界 半 減 の た め の 地域別排出削減量 (電 力 の 間 接 排 出 も 含 む ) - 250 - 第 5章 5.1 叙述的シナリオに沿った緩和と影響・適応の定量的 シナリオの策定 概要 本章では、昨年度までに検討を行い、今年度、本報告書第 3 章のように策定した叙 述 的 シ ナ リ オ に 沿 っ て 、各 種 モ デ ル 、ツ ー ル を 用 い て 定 量 的 な シ ナ リ オ 策 定 を 行 っ た 。 図 5.1 -1 は 、 叙 述 的 シ ナ リ オ の う ち 、 コ ア と し て 考 え た 3 つ の 軸 に よ る シ ナ リ オ で あ り 、社 会 経 済 シ ナ リ オ( A、B)、温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ( I、 II、III)、排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ( 濃 度 安 定 化 レ ベ ル 、IP CC RCP に 対 応 )に ついて実施した。 定 量 的 シ ナ リ オ 策 定 、 分 析 に 利 用 し た モ デ ル 、 ツ ー ル は 、 図 5.1 -2 に 示 す よ う な も のであり、モデルそれぞれの特徴にもあわせて使い分けを行って、叙述的シナリオに 沿った定量的なシナリオ策定を行った。 第 5.2 節 で は 、 過 去 の 実 績 等 を 詳 細 に 分 析 し た 上 で 、 社 会 経 済 シ ナ リ オ ( A 、 B) の 人 口 、 GDP シ ナ リ オ 策 定 を 行 っ た 。 ま た 、 第 5.3 節 で は 、 そ れ ぞ れ の 都 市 人 口 を 推 定 す る と と も に 、都 市 別 の 人 口 分 布 に つ い て も 推 定 を 行 っ た 。第 5. 4 節 で は 貧 困 人 口 に つ い て 推 定 を 、 第 5. 5 節 で は 温 暖 化 に よ る 健 康 影 響 に 関 す る 分 析 を 行 っ た 。 第 5.6 ∼ 5. 8 節においては、開発した食料需給・水需給・土地利用変化を整合的に評価できるモデ ルを用いて、食料需給のシナリオ、淡水資源に関するシナリオ、土地利用および土地 利 用 変 化 CO 2 に 関 す る シ ナ リ オ 策 定 を 行 っ た 。第 5 .9 節 で は 社 会 経 済 シ ナ リ オ A「 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ 」に つ い て 、温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ( I、 II、 III) の 差 異 に 関 し て 、 205 0 年 ま で の 短 中 期 の シ ナ リ オ 策 定 、 分 析 を 実 施 し た 。 第 5.10 節 で は 、 温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ I に つ い て 、 社 会 経 済 シ ナ リ オ ( A、 B) の 差 異 お よ び 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ の 差 異 ( 濃 度 安 定 化 レ ベ ル 、 IP CC RCP ) に 関 す る 分 析 を 21 0 0 年 ま で の 長 期 に つ い て 実 施 し た 。 そ し て 、 第 5.11 節 で は 、非 CO 2 温 室 効 果 ガ ス 排 出 シ ナ リ オ に つ い て 、社 会 経 済 シ ナ リ オ( A 、B) の差異および排出削減レベルに関して分析を行った。 - 251 - ALPSコアシナリオ 長期的なマクロの経済社会状況に関するシナリオ B:高位技術 進展シナリオ A:中位技術 進展シナリオ 排出削減レベルに 関するシナリオ 温暖化政策実施における 背景状況に関するシナリオ RCP3.0PD I:多目的多様性社会 シナリオ RCP4.5 II. 温暖化対策 優先シナリオ RCP6.0 RCP8.5 図 5. 1-1 III:エネルギー安全 保障優先シナリオ 今年度定量的なシナリオ策定を行った叙述的シナリオ 人口、GDP エネルギー起源CO2以外のGHG 国内所得格差 都市人口分布 Non-CO2 GHGモデル 2020-30年中心、2150年まで エネルギーセキュリティ 評価モデル エネルギー DNE21+ 2020-30年中心、2050年まで 産業構造変化、 金融 環境調和型都市 分析モデル DEARS DNE21 2020-30年中心、2050年頃まで 経済全体・産業連関を考慮 2150年頃まで 経済全体も考慮 気候モデルとの統合 気候変化 経済 土地利用、食料、水資源 食料需給・水資源・土地利用変化モデル 2150年まで 水セキュリティ評価モデル 食料セキュリティ評価モデル グリッド別気候変化推定 生物多様性影響評価モデル ( BIOME利用) 図 5. 1-2 MAGICC 健康影響評価モデル 温暖化影響 シナリオ策定に用いたモデル・ツール - 252 - 5.2 人 口 ・ GDP 本節では、第 3 章で策定した社会経済に関する 2 種類の異なる方向性をもつ叙述的 シ ナ リ オ に 沿 っ て 、ま ず 、基 礎 的 な 社 会 経 済 シ ナ リ オ と し て 、一 人 当 た り GDP (MER(市 場 為 替 レ ー ト )換 算 )や 人 口 、GDP (MER 換 算 )に つ い て シ ナ リ オ を 策 定 し た 。過 去 の 統 計 デ ー タ か ら 得 ら れ る こ れ ら の 相 互 依 存 性 を 考 慮 し つ つ 、各 シ ナ リ オ を 策 定 し た 。次 に 、 GDP (MER 換 算 )に 対 応 し た GDP (P PP (購 買 力 平 価 )換 算 )の シ ナ リ オ を 策 定 し た 。 な お 、 こ こ で 策 定 し た GDP シ ナ リ オ は い ず れ も 実 質 GDP (200 0 年 米 ド ル 価 格 )と し て 示 し た 。 本 節 で 策 定 し た 基 礎 的 な 社 会 シ ナ リ オ を ベ ー ス ラ イ ン と し て 、第 5. 3 節 以 降 、各 種 定 量 的シナリオが策定される。 5.2.1 一 人 当 た り GDP(MER 換 算 ) 過去の統計データ 4)5) から、全般的に以下の傾向がみられる。 最貧国においては一 人 当 た り GDP 成 長 率 が 低 い 。一 人 当 た り G DP が 数 百 ド ル か ら 千 ド ル 程 度 に な る と 、一 人 当 た り GDP 成 長 率 は 大 き く な る 傾 向 が あ る 。 そ し て 、 そ れ 以 降 は 緩 や か な 経 済 発 展 に移行し、その成長率は逓減していく傾向にある。産業構造としては、大きな傾向と しては、第一次産業中心の初期段階の産業構造から、経済の高度成長期には軽工業か ら重工業への発展があり、安定成長期に入るとサービス産業や情報産業といった第三 次産業が伸び始める。これらの大きな傾向は基本的に普遍であると考え、その上で、 技 術 進 展 の 程 度 に よ る 不 確 実 性 を 考 慮 し て 、 将 来 の 見 通 し を 策 定 し た ( 図 5. 2.1 -1 , 図 5.2. 1 -2)。 図 5.2 .1 -3 に 、 シ ナ リ オ A 、 B の 世 界 の 一 人 当 た り GDP を 示 す 。 ま た 、 比 較 の た め 、 IP CC SRES シ ナ リ オ に お け る 一 人 当 た り GDP も 記 載 し た 。 SR ES と 比 較 す る と 、 本 研 究 で 策 定 し た シ ナ リ オ A、B は SRES B2 を 挟 む よ う な シ ナ リ オ で あ り 、ま た 、SRE S B1 と A2 で 挟 ま れ た よ う な シ ナ リ オ と な っ て い る 。少 し SRES シ ナ リ オ よ り も 不 確 実 性 の 幅 は 小 さ く と っ て い る も の の 、極 め て 高 い 一 人 当 た り GDP を 想 定 し て い る SRES A1 を 除 け ば 、 SRE S シ ナ リ オ と も 大 き な 見 通 し の 差 は な い と 言 え る 。 - 253 - 12 Annual growth rate of per-cap. GDP (%) 中国 10 8 韓国 エ チオピア インド 6 4 日本 2 ブラジ ル インドネシ ア 0 100 1000 -2 ドイツ 米国 10000 100000 南ア ナイジ ェリア -4 GDP per capita (US 2000 $) 図 5. 2.1 -1 シ ナ リ オ A の 19 80- 210 0 年 の 一 人 当 た り GDP (ME R )と そ の 年 成 長 率 の 関 係 注 )実 線 と 点 線 は 、 そ れ ぞ れ 実 績 値 と シ ナ リ オ 想 定 値 を 示 す 。 5 年 間 の 年 平 均 成 長 率 を 表 示 。 12 Annual growth rate of per-cap. GDP (%) 中国 10 8 韓国 エ チオピア インド 6 4 日本 2 ブラジ ル ドイツ インドネシ ア 0 100 1000 -2 ナイジ ェリア 10000 米国 100000 南ア -4 GDP per capita (US 2000 $) 図 5. 2.1 -2 シ ナ リ オ B の 19 80- 210 0 年 の 一 人 当 た り GDP (ME R )と そ の 年 成 長 率 の 関 係 注 )実 線 と 点 線 は 、 そ れ ぞ れ 実 績 値 と シ ナ リ オ 想 定 値 を 示 す 。 5 年 間 の 年 平 均 成 長 率 を 表 示 。 - 254 - 60 SRES A1 一人当たりGDP ( 2000価格千ドル) SRES B1 SRESの範囲 50 40 ALPS-シナリオB 30 20 ALPS-シナリオA 10 SRES B2 SRES A2 0 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 図 5. 2.1 -3 198 0-21 00 年 の 世 界 平 均 の 一 人 当 た り GDP (MER ) 注 )2 0 0 8 年 ま で は 統 計 値 、2 0 0 9 年 以 降 R IT E 見 通 し 。S R E S は IP C C 排 出 シ ナ リ オ に 関 す る 特 別 報 告 書( 2 0 0 0 ) 7)に お け る シ ナ リ オ 。 SRES シ ナ リ オ は 1990 年 価 格 の た め 、 1990 年 の 2000 年 価 格 GDP と 一 致 す る よ う に 補 正して表示している。 シ ナ リ オ A で は 、 現 在 の 先 進 国 は 2100 年 に か け て 徐 々 に 成 長 ス ピ ー ド が 低 下 し 、 2100 年 に 一 人 当 た り GDP 成 長 率 が 約 0 .5 %/年 に 収 束 す る 。 途 上 国 は 着 実 に 成 長 し 続 け る も の の 、210 0 年 に は 、新 興 途 上 国 、後 発 途 上 国 に お い て そ れ ぞ れ 約 1%、2 %/年 で の 成 長 に と ど ま る 。 2 000 -210 0 年 の 世 界 の 平 均 成 長 率 は 1. 5%/年 で あ る 。 シ ナ リ オ B で は 、 現 在 の 先 進 国 も 210 0 年 に お い て も 一 人 当 た り GDP が 約 1.0 %/ 年 を 維 持 し て 成 長 し 続 け る 。 途 上 国 は 急 速 に 成 長 し 続 け 、 2 10 0 年 に お い て も 現 在 の 新 興 途 上 国 、 後 発 途 上 国 が そ れ ぞ れ 約 2%/年 、 3 % /年 台 で 成 長 し 続 け る 。 2000 -2 10 0 年 の 世 界 の 平 均 成 長 率 2 . 1% /年 で あ る 。 経 済 格 差 に 関 し て は 、 シ ナ リ オ A、 B と も に 、 2100 年 に か け て 現 在 の 先 進 国 と 途 上 国 の 格 差 は 2 100 年 に か け て 着 実 に 縮 ま る 。 た だ し 、 シ ナ リ オ B の 方 が 、 シ ナ リ オ A よ り も 先 進 国 と 途 上 国 の 経 済 格 差 は 大 き い 。 例 え ば 、一 人 当 た り GDP の OECD90 対 ア フ リ カ の 比 は 、 2000 年 時 点 で は 38 .5 だ が 、 210 0 年 で は シ ナ リ オ A で 6 .4、 シ ナ リ オ B で 6. 7 で あ る 。 5.2.2 人口 世界人口シナリオに関しては、世界的に幅広く活用されている国連経済社会局人口 部 に よ る 世 界 人 口 推 計 200 8 6 ) を 参 考 に 策 定 し た 。 二 年 お き に 策 定 さ れ て い る 国 連 世 界 人口の中位推計シナリオは更新のたびに概ね下方修正されている。そこで、本シナリ オでは、アジアやアフリカなどの途上国の将来の人口増加を考慮したとしても、今後 の 世 界 人 口 が 10 0 億 人 を 大 き く 上 回 る よ う な 人 口 シ ナ リ オ は 蓋 然 性 が 低 い と 考 え た 。 - 255 - 過 去 の 統 計 か ら 、 一 人 当 た り GDP が 大 き く な る と 、 出 生 率 や 人 口 成 長 率 は 小 さ く な る 傾 向 が か な り 明 確 に 見 ら れ る (図 5.2 .2 -1)。将 来 に お い て も こ の 傾 向 に 従 う と 想 定 し 、 一 人 当 た り GDP と 出 生 率 の 関 係 に 変 え て 、年 人 口 変 化 率 と 一 人 当 た り GDP の 関 係 に よ っ て A LP S 人 口 シ ナ リ オ を 策 定 し た (図 5. 2.2 -2 )。 シ ナ リ オ A と 比 較 す る と 、 シ ナ リ オ B で は 一 人 当 た り GD P が 大 き い の で 人 口 成 長 は 小 さ い と 想 定 し た 。 7 United States United Kingdom Japan Australia Korea Brazil Mexico South Af rica China India Indonesia Russia World 6 Total fertility rate 5 4 3 2 1 0 0.1 1 10 100 GDP per capita (thousands 2000 US$) 図 5. 2.2 -1 196 0-20 06 年 の 出 生 率 と 一 人 当 た り GD P の 関 係 ( U N 6 ) よ り 作 成 ) - 256 - シナリオ A シナリオ B 4 3 エチオピア ナイジェリ ア 南ア 2 インド インドネシ ア ブラジ ル 韓国 中国 1 ドイツ 米国 0 100 1000 10000 100000 日本 -1 Annual change rate of population (%) Annual change rate of population (%) 4 -2 3 エチオピア ナイジェリ ア 南ア 2 インド インドネシ ア ブラジ ル 韓国 中国 1 ドイツ 米国 0 100 1000 10000 -1 100000 日本 -2 GDP per capita (US 2000 $) 図 5. 2.2 -2 GDP per capita (US 2000 $) 198 0-21 00 年 の 人 口 成 長 率 と 一 人 当 た り G DP(M ER) の 関 係 注 )実 線 と 点 線 は 、 そ れ ぞ れ 実 績 値 と シ ナ リ オ 想 定 値 を 示 す 。 5 年 間 の 年 平 均 成 長 率 を 表 示 。 図 5.2 .2 -3 と 図 5 .2 . 2 -4 に は 、そ れ ぞ れ 世 界 人 口 と 主 要 国 別 人 口 の シ ナ リ オ を 示 し た 。 シ ナ リ オ A で は 、 世 界 人 口 は 中 位 成 長 で あ る と 想 定 し 、 国 連 2008 中 位 推 計 を 利 用 し た 。 世 界 人 口 は 、 205 0 年 に 9 1 億 人 に な り 、 そ れ 以 降 は 安 定 的 に 推 移 し 210 0 年 に 93 億人となる。一方、シナリオ B では、世界人口は低位成長であると想定し、国連推計 2008 6 ) の 低 位 推 計 と 中 位 推 計 の 中 間 値 に 概 ね 相 当 す る よ う な シ ナ リ オ を 想 定 し た 。シ ナ リ オ B の 世 界 人 口 は 、 200 0 年 の 6 1 億 人 か ら ゆ っ く り と 成 長 し 、 2 050 年 頃 に 86 億 人 で ピ ー ク を 迎 え 、 2 100 年 に か け て 74 億 人 ま で 減 少 す る 。 IP CC SRES シ ナ リ オ に お い て は 、 SRE S A1 と B1 シ ナ リ オ は 、 IIAS A の 199 6 年 の 低 位 推 計 ベ ー ス 、 SRES B 2 は 国 連 の 19 98 年 中 位 推 計 ベ ー ス 、A2 は IIAS A の 199 6 年 高 位 推 定 ベ ー ス で シ ナ リ オ が 策 定 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 、 シ ナ リ オ A は 、 国 連 が 199 8 年 推 計 よ り も 20 08 年 推 計 で 下 方 修 正 し て い る た め 、 SRES B2 よ り も 若 干 小 さ い 人 口 シ ナ リ オ と な っ て い る 。 シ ナ リ オ B に つ い て は 、 推 計 元 は 異 な る も の の 、 世 界 全 体 の 人 口 と し て は 、SRES A1 /B 1 と 概ね近いシナリオとなっている。 - 257 - 160 SRES A2 (IIASA1996高位) 140 SRESの範囲 UN2008高位 SRES B2(UN1998中位) 120 人口(億人) UN2008中位 ALPS-シナリオA 100 IIASA2007 (10-90パーセンタイル) 80 UN2008の範囲 60 ALPS-シナリオB UN2008低位 40 SRES A1/B1(IIASA1996低位) 20 0 1950 1975 2000 2025 図 5. 2.2 -3 2050 2075 2100 世界人口シナリオ 注 ) 2 0 0 8 年 ま で は 統 計 値 、 2 0 0 9 年 以 降 R IT E 見 通 し 。 Population (million people) 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 A: '05-50: +0.2%/y; '50-2100: -0.3%/y B: '05-50: +0.0%/y; '50-2100: -0.8%/y China A: +0.8%/y; -0.1%/y B: +0.6%/y; -0.5%/y India A: +0.6%/y; +0.1%/y B: +0.5%/y; -0.1%/y United States Indonesia Brazil Russia Japan A: +0.6%/y; -0.1%/y B: +0.4%/y; -0.6%/y Nigeria Germany Ethiopia 1990 A: +0.4%/y; -0.2%/y B: +0.2%/y; -0.6%/y 2005 A: -0.5%/y; -0.5%/y B: -0.6%/y; -0.8%/y A: -0.5%/y; -0.4%/y B: -0.6%/y; -0.6%/y シ ナリオ 2050 A 2100 シ ナリオ A: +1.6%/y; +0.3%/y B: +1.4%/y; +0.1%/y Pakistan Bangladesh 1800 B 2050 2100 A: +0.8%/y; +0.0%/y B: +0.7%/y; -0.3%/y A: +1.6%/y; +0.3%/y B: +1.5%/y; +0.1%/y A: -0.3%/y; -0.2%/y B: -0.5%/y; -0.4%/y A: +1.9%/y; +0.5%/y B: +1.7%/y; +0.3%/y 図 5. 2.2 -4 主要国の人口シナリオ 注 ) 1 9 9 0 年 と 2 0 0 5 年 は 統 計 値 、 2 0 5 0 年 と 2 1 0 0 年 は R IT E 見 通 し 。 5.2.3 GDP(MER 換 算 ) 図 5 .2. 3 -1 に は 、 前 述 の 一 人 当 た り GDP と 人 口 か ら 得 ら れ る 世 界 GDP (MER 換 算 )シ ナ リ オ を 示 し た 。 世 界 の 潜 在 的 な GDP は 、 シ ナ リ オ A に 比 べ 、 シ ナ リ オ B の 方 が 高 位 に 推 移 す る 。 た だ し 、 こ れ ま で に 述 べ て き た よ う に 、 一 人 当 た り GDP が シ ナ リ オ B よ り も 高 位 に 推 移 す る シ ナ リ オ A で は 、人 口 は シ ナ リ オ B よ り も 小 さ く な る と 見 ら れ - 258 - る た め 、 両 シ ナ リ オ に お け る GDP の 差 異 は 縮 ま る 。 シ ナ リ オ A、 B の 2 000 -2 10 0 年 の 世 界 の 年 平 均 成 長 率 は そ れ ぞ れ 2. 0%/年 、2 .3%/年 で あ る 。 SRES と 比 較 す る と 、20 50 年 頃 ま で は SRES B と 比 較 的 近 く 、 SRES A 2 と B1 で 挟 ま れ た よ う な シ ナ リ オ と な っ て い る 。一 方 、21 00 年 で は 高 位 シ ナ リ オ の シ ナ リ オ B と SRES A 2、B2 と 同 じ よ う な レ ベ ル で 、 中 位 の シ ナ リ オ A で は SRES の い ず れ の シ ナ リ オ よ り も 低 位 と な っ て い る 。 ま た 、 IEA -ETP 201 0 や 米 国 DOE /E IA -IEO と 比 較 し て も 、 概 ね 近 い 数 値 と な っ て い る 。 図 5.2 .3 -2 に は 、主 要 地 域 別 GDP シ ェ ア の 推 移 を シ ナ リ オ 別 に 示 し た 。シ ナ リ オ A、 B の 地 域 シ ェ ア の 違 い は 小 さ い 。 世 界 GDP に 占 め る 先 進 国 (米 国 、 EU27 、 日 本 、 そ の 他 OECD の 合 計 )の シ ェ ア は 、2 005 年 に は 約 77 %で あ る が 、そ の 後 徐 々 に 先 進 国 の シ ェ ア は 低 下 し 続 け 、 210 0 年 に は シ ナ リ オ A で 36%、 シ ナ リ オ B で 約 3 3% と な る 。 21 00 年 に は 、 現 在 の GDP シ ェ ア と は 大 き く 異 な り 、 現 在 の 途 上 国 が 世 界 経 済 に お い て 大 き な シ ェ ア を 占 め る 。 2 050 頃 ま で は 中 国 な ど の 現 在 の 新 興 途 上 国 の 経 済 発 展 が 急 速 に 進 展し、それ以降はアフリカなどの現在の後発途上国が相応に経済発展する。 SRESの範囲 400 SRES A1 SRES B1 GDP (2000年価格兆ドル) 350 300 ALPS-シナリオB 250 200 ALPS-シナリオA 150 SRES B2 100 EIA-IEO2010 SRES A2 50 IEA-ETP2010 0 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 図 5. 2.3 -1 世 界 GD P (MER 換 算 )シ ナ リ オ 注 )2 0 0 8 年 ま で は 統 計 値 、2 0 0 9 年 以 降 R IT E 見 通 し 。S R E S は IP C C 排 出 シ ナ リ オ に 関 す る 特 別 報 告 書( 2 0 0 0 ) 7) に お け る シ ナ リ オ 。 SRES シ ナ リ オ は 1990 年 価 格 の た め 、 1990 年 の 2000 年 価 格 GDP と 一 致 す る よ う に 補 正 し て 表 示 し て い る 。 E IA - IE O 2 0 1 0 シ ナ リ オ 1 2 ) は 2 0 0 5 年 価 格 の た め 、 2 0 0 5 年 の 2 0 0 0 年 価 格 G D P と 一 致 す る よ う に 補 正 し て 表 示 し て い る 。 IE A - E T P 2 0 1 0 シ ナ リ オ 1 1 ) は 、 P P P シ ナ リ オ で あ る た め 、 A L P S - シ ナ リ オ A の P P P / M E R の 比 率 ( 世 界 平 均 ) を 用 い て 世 界 GD P ( M E R 換 算 ) を 推 計 し た 。 - 259 - 中東 アフリカ中南米 4% 2% 2% 1990年 旧ソ連・東欧 3% その他アジア 3% インド 1% 中国 2% 中南米 5% アフリカ 2% その他アジア 4% 中国 6% 日本 17% 旧ソ連・東欧 2% 中東 2% インド 2% 米国 29% その他 OECD 10% 2005年 米国 30% その他 OECD 10% EU27 27% 日本 13% EU27 24% シナリオ A 中東 アフリカ 3% 3% 中南米 5% 2020年 その他アジア 5% 旧ソ連・東欧 2% 米国 26% インド 3% 2050年 旧ソ連・東欧 4% アフリカ 5% 中東 4% 中南米 8% 米国 19% その他アジア 6% 中国 12% その他 OECD 10% EU27 9% 中東 5% インド 11% 日本 6% その他 OECD 9% 日本 3% その他 OECD 9% その他アジア 10% 中国 21% 日本 11% 米国 15% アフリカ 11% EU27 13% インド 7% EU27 20% 2100年 旧ソ連・東欧 3% 中南米 6% 中国 16% シナリオ B 中東 アフリカ 3% 3% 中南米 5% 2020年 その他アジア 5% 米国 26% インド 3% 旧ソ連・東欧 2% アフリカ 5% 中東 4% 中南米 6% 2050年 旧ソ連・東欧 4% 中南米 8% 米国 20% その他アジア 6% 中国 12% その他 OECD 10% EU27 20% 日本 11% 図 5. 2.3 -2 中東 5% EU27 13% インド 7% 中国 21% 2100年 旧ソ連・東欧 3% アフリカ 11% 米国 14% EU27 8% その他 OECD 8% その他アジア 11% その他 OECD 9% 日本 5% インド 12% 日本 3% 中国 17% 地 域 別 G DP シ ナ リ オ ( 上 段 :実 績 値 、 中 段 : シ ナ リ オ A、 下 段 : シ ナ リ オ B) 注 ) OECD は OECD90(1990 年 時 点 の OECD 加 盟 国 )を 表 す 。 表 5 .2. 3 -1 に は 、 短 中 期 の 見 通 し に つ い て 、 各 種 研 究 機 関 等 が 公 開 し て い る 実 質 GDP (MER)成 長 率 と 、本 シ ナ リ オ と の 比 較 を 示 し た 。策 定 し た GDP (MER)シ ナ リ オ は 、 概ね他研究機関の予測値と近い数字になっている。 - 260 - 表 5. 2.3 -1 実 質 GD P (MER) 年 成 長 率 に 関 す る 各 種 予 測 値 と の 比 較 1960- 1970- 1980- 1990- 2000- 20051970 1980 1990 2000 2005 2010 WORLD シナリオA ALPS 3.8% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 OECD シナリオA ALPS 5.1% 3.5% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 North America シナリオA ALPS 4.0% 3.4% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 US シナリオA ALPS 3.8% 3.2% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 信金中央金庫 総合研究所 ニッセイ基礎研究所 Europe シナリオA ALPS 2.3% 2.2% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 ニッセイ基礎研究所 EU27 シナリオA ALPS シナリオB IEA-WEO2009 Pacific シナリオA ALPS 9.3% 4.3% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 Japan シナリオA ALPS 9.9% 4.4% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 新成長戦略(日本政府) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 帝国データバンク 三菱総研 日本経済研究センター 信金中央金庫 総合研究所 第一生命経済研究所 日立総合計画研究所 富国生命 大和総研 ニッセイ基礎研究所 Non-OECD シナリオA ALPS 5.3% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 E. Europe/Eurasia シナリオA ALPS シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 Asia シナリオA ALPS 5.8% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 China シナリオA ALPS 6.7% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 信金中央金庫 総合研究所 ニッセイ基礎研究所 ADB India シナリオA ALPS 3.1% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 ADB Middle East シナリオA ALPS 7.0% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 Africa シナリオA ALPS 3.9% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 Latin America シナリオA ALPS 5.1% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 Brazil シナリオA ALPS 7.8% シナリオB IEA-WEO2009 DOE/EIA-IEO2010 注記:IEA-WEOのみはGDP(PPP換算),他はGDP(MER為替レート換算)。 2.9% 2.8% - 3.0% 2.6% - 3.1% 3.2% - 3.2% 3.2% - 2.2% 2.3% - - 2.2% - 4.0% 1.8% - 3.9% 1.2% - 2.3% 3.8% - - -3.4% - 6.6% 6.8% - 8.3% 8.9% - 5.4% 5.3% - -0.6% 3.7% - 2.0% 2.5% - 1.0% 3.0% - 1.5% 2.5% - 20102020 3.1% 3.3% 4.7% 2.7% 2.1% 2.3% 2.4% 2.4% 2.2% 2.4% 2.7% 3.0% 2.1% 2.4% 2.0% 2.8% 3.2% - 20202030 2.7% 2.7% 2.1% 3.1% 3.0% 3.1% 0.9% 1.4% 2.0% 0.9% 1.9% 1.9% 2.1% 1.7% 2.3% 1.2% 2.2% 2.3% 2.6% 1.6% 2.3% 1.2% 2.1% 2.2% 2.5% (1.6%~)2.5%(~3.1%) 1.9% 2.1% 1.2% 1.8% 0.7% 2.4% 1.9% 1.8% 2.1% 2.0% 1.8% (1.0%~)1.4%(~2.0%) 1.4% 2.1% 1.2% 1.8% 0.6% 2.4% 1.9% 2.3% 1.8% 2.0% 1.0% 1.8% 0.6% 2.0% 1.2% 1.3% 2.6% 1.2% 2.0% 1.7% 0.8% 1.3% 0.0% 1.7% 0.9% 1.1% 2.0% 1.4% 0.4% 2.0% 0.9% 1.3% -0.2% 1.3% 1.4% 0.0% 1.3% 1.3% -0.3% 1.2% 1.9% (0.8%~)1.3%(~1.9%) 1.3% 1.1% 1.3% (1.1%~)1.6%(~2.0%) 0.7% 5.3% 5.0% 6.0% 5.4% 5.5% 5.2% 4.1% 6.2% 3.9% 4.8% 5.0% 5.5% 6.2% 3.4% 5.3% 5.6% 3.3% 5.0% 2.8% 3.3% 6.3% 5.5% 6.8% 7.7% 6.4% 5.6% 4.6% 7.5% 4.3% 5.9% 7.0% 6.0% 8.6% 9.5% 7.2% 6.2% 4.4% 9.0% 6.8% 4.6% 9.6% (7.5%~)8.5%(~10.1%) 9.7% 5.5%~6.6% 7.1% 5.9% 6.7% 7.8% 7.2% 5.9% 5.9% 7.0% 5.7% 4.1% 4.5%~6.0% 4.2% 4.0% 4.2% 3.7% 4.3% 4.2% 4.0% 5.6% 3.5% 4.4% 4.7% 4.7% 4.6% 4.4% 4.9% 5.0% 3.1% 5.2% 3.8% 3.4% 3.2% 3.1% 2.9% 4.1% 3.3% 3.6% 2.5% 3.3% 3.7% 3.4% 3.2% 2.7% 3.8% 2.7% 3.3% 3.3% 2.5% 3.0% 4.3% 3.9% - 261 - 備考 PPP,2008US$ 2005US$ PPP,2008US$ 2005US$ PPP,2008US$ 2005US$ PPP,2008US$ 2005US$ (2010.03)公開 (2009.10)公開 PPP,2008US$ 2005US$ (2009.10)公開 PPP,2008US$ PPP,2008US$ 2005US$ PPP,2008US$ 2005US$ (2010.06)閣議決定 (2009.12)公開 (2010.02)公開 (2010.01)公開 (2010.01)公開 (2010.03)公開 (2009.11)公開 (2009.12)公開 (2009.12)公開 (2008.12)公開 (2009.10)公開 PPP,2008US$ 2005US$ PPP,2008US$ 2005US$ PPP,2008US$ 2005US$ PPP,2008US$ 2005US$ (2010.03)公開 (2009.10)公開 (2010.09)公開, ADO 2010 update PPP,2008US$ 2005US$ (2010.09)公開, ADO 2010 update PPP,2008US$ 2005US$ PPP,2008US$ 2005US$ PPP,2008US$ 2005US$ PPP,2008US$ 2005US$ 5.2.4 GDP(PPP 換 算 ) 次 に 、 前 述 の GDP (MER 換 算 ) に 対 応 し た GDP (PPP 換 算 ) シ ナ リ オ を 策 定 し た 。 図 5.2. 4 -1 に は 、 一 人 当 た り GDP (MER 換 算 )と 一 人 当 た り GDP(P PP 換 算 )の 関 係 を 示 し た 。一 人 当 た り GDP (MER)が 比 較 的 低 い レ ン ジ に お い て は 、一 人 当 た り GDP (P PP 換 算 ) が 一 人 当 た り GDP (MER)を 上 回 る 傾 向 に あ り 、 ま た 、 非 常 に 相 関 の 高 い 回 帰 関 数 が 得 られる。また、長期的には、経済発展とともに購買力平価が均等化し、一人当たり GDP (PPP 換 算 )が 一 人 当 た り GDP (MER ) に 収 束 す る と 想 定 し た 。 各 国 の 購 買 力 平 価 が 徐 々 に 1 に 収 束 す る と い う 想 定 は 、主 要 国 の 205 0 年 GDP (P PP )を 推 計 し た Ha wkswo rth 9 ) に お い て も 採 用 さ れ て い る 。本 推 計 で は 、こ れ ら の 大 き な 傾 向 に 従 い 、A LP S -GDP (MER) に 対 応 し た PPP シ ナ リ オ を 策 定 し た 。 Per-cap. GDP-PPP (thousand$/capita) 60 50 y = 3.1858x0.6942 R² = 0.9334 40 30 20 10 0 0 10 20 30 40 50 60 Per-cap. GDP-MER (thousand$/capita) 図 5. 2.4 -1 一 人 当 た り GDP( MER )換 算 と 一 人 当 た り G DP(P PP 換 算 ) 注 : 青 : 2005 年 各 国 実 績 値 、 赤 : 日 本 (2008 年 実 績 値 ) 、 緑 : 中 国 (2008 年 実 績 値 )、 紫 : イ ン ド (2008 年 実 績 値 ) 、 オ レ ン ジ 線 : M E R = P P P の ラ イ ン , 数 値 は IE A 統 計 2 0 1 0 に 基 づ く 。 こ こ で は 、 以 下 の 回 帰 式 に よ っ て 、 一 人 当 た り GDP (P PP )を 想 定 し た 。 (i) GDP(MER 換 算 ) ≤ GDP (PP P 換 算 )の 場 合 一 人 当 た り GDP PPP (T)=3. 1858× 一 人 当 た り GDP MER(T) 0 . 6 9 4 2 + C(T) た だ し 、 C (T )=1 人 当 た り GDP PP P (T− 1)− 1 人 当 た り GDP MER(T− 1 )。 - 262 - (5. 2 -1) (ii) GDP (MER 換 算 )> GDP (PPP 換 算 )の 場 合 一 人 当 た り GDP PPP (T)= 一 人 当 た り GDP MER(T) + 一 人 当 た り GDP MER(200 8)− 一 人 当 た り GDPPPP (2008 ) (5 .2 -2) 図 5.2 .4 -2 と 図 5. 2. 4 -3 に は 、上 記 の 方 法 で 策 定 し た シ ナ リ オ A の 日 本 と 中 国 の 一 人 当 た り GDP (MER,P PP 換 算 )の 時 系 列 推 移 を 示 し た 。 日 本 で は 、 200 8 年 に は P P P /MER の 値 が 0.70 と 1 よ り 小 さ い が 、 (5. 2 -2)式 に 基 づ い て 2050 年 に は P PP /MER の 値 (0.81 ) へ と 徐 々 に 購 買 力 平 価 が 1(基 準 の 米 国 値 )に 収 束 す る よ う に 想 定 し た 。 中 国 で は 、 2 008 年 の P P P /MER の 値 が 3.89 と 非 常 に 大 き い が 、(5.2 -1 )式 に 基 づ い て 、205 0 年 の P P P /MER の 値 (1 .66 )へ と 徐 々 に 購 買 力 平 価 が 1 (基 準 の 米 国 値 )に 収 束 す る よ う に 想 定 し た 。 70 日本 65 60 PPP/MER =0.81 Per-cap. GDP-PPP 55 Y2050 50 Y2035 PPP/MER =0.78 45 系列1 累乗 (系列1) 40 y = 3.1858x0.6942 R² = 0.9334 35 PPP/MER =0.70 Y2008-Y2035 △Per-cap GDP(PPP)=1.72%/Yr △GDP(PPP)=1.30%/Yr Y2008 30 25 Y2008-Y2035 △Per-cap GDP(PPP)=1.28%/Yr △GDP(MER)=0.86%/Yr 20 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 Per-cap. GDP-MER 図 5. 2.4 -2 シ ナ リ オ A の 日 本 の 一 人 当 た り GDP( MER )と 一 人 当 た り GD P(P PP) の 関 係 注 : 青 : 2 0 0 5 年 各 国 実 績 値 ( IE A 統 計 14)15) ),赤 : 日 本 (Y2008,Y2035,Y2050),オ レ ン ジ 線 : MER=PPP の ラ イ ン - 263 - 40 y = 3.1858x0.6942 R² = 0.9334 中国 35 Y2050 30 Per-cap. GDP-PPP 25 Y2035 PPP/MER =1.66 20 系列1 PPP/MER =2.06 累乗 (系列1) 15 Y2008-Y2035 △Per-cap GDP(PPP)=3.63%/Yr △GDP(PPP)=3.96%/Yr 10 Y2008 5 PPP/MER =3.89 0 0 5 Y2008-Y2035 △Per-cap GDP(MER)=5.98%/Yr △GDP(MER)=6.31%/Yr 10 15 20 25 30 35 40 Per-cap. GDP-MER 図 5. 2.4 -3 シ ナ リ オ A の 中 国 の 一 人 当 た り GDP( MER )と 一 人 当 た り GD P(P PP) の 関 係 注 : 青 : 2 0 0 5 年 各 国 実 績 値 ( IE A 統 計 14)15) ),緑 : 中 国 (Y2008,Y2035,Y2050),オ レ ン ジ 線 : MER=PPP の ラ イ ン 図 5.2 .4 -4 に 、 シ ナ リ オ A、 B の GDP (P PP 換 算 )シ ナ リ オ を 示 す 。 GDP (MER 換 算 )と 同 様 に 、 世 界 の GDP (PPP 換 算 )は 、 シ ナ リ オ A に 比 べ 、 シ ナ リ オ B の 方 が 高 位 に 推 移 す る 。 し か し 、 世 界 GDP (MER 換 算 )と 比 較 し て 、 世 界 GDP (PPP 換 算 )の シ ナ リ オ A, B 間 の 差 異 が 小 さ い 。 こ れ は 以 下 の 要 因 に よ る も の で あ る 。 GDP (PPP 換 算 )の 成 長 率 は 、 「 △ GDP (P PP 換 算 )= △ GDP (MER 換 算 )+ △ (P P P /MER の 比 率 )」 と 分 解 で き 、 第 1 項 は シ ナ リ オ A の 方 が 小 さ く 、第 2 項 は シ ナ リ オ B の 方 が 小 さ い 。そ の た め 、世 界 GDP (P PP 換 算 )で は 、 MER 換 算 よ り も シ ナ リ オ A,B 間 の 差 異 が 小 さ く な る 。 第 2 項 △ (P P P /MER の 比 率 )に つ い て は 、 図 5 .2. 4 -1 に 示 さ れ る よ う に 、 現 在 の 途 上 国 は GDP (PP P 換 算 )が GDP (MER 換 算 )を 大 き く 上 回 っ て い る が 、 今 後 、 途 上 国 の 経 済 成 長 と と も に 世 界 平 均 の P PP /MER の 比 率 は 長 期 的 に 1 に 向 か っ て 収 束 し 、△ (P P P /MER の 比 率 )は 長 期 的 に は 負 値 に な る 。シ ナ リ オ A、B の 21 00 年 の 世 界 平 均 の P P P /MER の 比 率 は 、そ れ ぞ れ 1. 35、 1.15 で あ り 、 高 位 経 済 成 長 シ ナ リ オ で あ る シ ナ リ オ B の 方 が △ (P P P /MER の 比 率 )が よ り 小 さ い ( 負 値 と し て 大 き い )。 こ の た め 、 世 界 の GDP (PP P 換 算 )は 、 GDP (MER 換 算 ) よりもシナリオ A と B の差が小さいシナリオとなっている。 策 定 し た GDP (P PP )シ ナ リ オ は 、IEA -ETP 2010 シ ナ リ オ と 比 較 す る と 、205 0 年 で は 若 干 低 位 で あ る も の の 、 204 5 年 頃 ま で で 比 較 す る と ほ ぼ 同 じ よ う な シ ナ リ オ と な っ て い る。 - 264 - 400 ALPS-シナリオB GDP-PPP (2000年価格兆ドル) 350 300 ALPS-シナリオA 250 200 EIA-IEO2010 150 IEA-ETP2010 100 50 0 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 図 5. 2.4 -4 注 : 1 9 8 0 - 2 0 0 8 年 は IE A 統 計 15) 世 界 GD P (PPP 換 算 )シ ナ リ オ に よ る 実 績 値 。E IA - IE O 2 0 1 0 シ ナ リ オ 12) は 2 0 0 5 年 価 格 の た め 、2 0 0 5 年 の 2 0 0 0 年 価 格 GD P ( P P P ) と 一 致 す る よ う に 補 正 し て 表 示 し て い る 。 図 5.2 .4 -5 と 図 5. 2. 4 -6 に は 、策 定 し た シ ナ リ オ A の MER 換 算 と P PP 換 算 の 主 要 国 別 の 一 人 当 た り GDP を そ れ ぞ れ 示 し た 。MER 換 算 と P P P 換 算 の 違 い に 関 わ ら ず 、一 人 当 た り GDP は す べ て の 国 で 2 05 0 年 ま で 増 加 し て い く 。 ま た 、 2 000 年 時 点 に お い て 、 一 人 当 た り GDP (MER )に 比 べ る と 、一 人 当 た り GDP (P PP )に 関 し て 先 進 国 と 途 上 国 と の 間 の 差 異 が 小 さ く 、 2 050 年 に お い て は そ の 差 異 は 一 層 縮 小 す る と 推 計 さ れ る 。 Per Cap. GDP(MER) (thousand$/capita) 70.00 米国 一人当たりGDP(MER換算) 60.00 EU27 日本 50.00 カナダ オーストラリア 40.00 中国 30.00 インド ブラジル 20.00 韓国 10.00 ロシア メキシコ 0.00 1960 1970 1980 図 5. 2.4 -5 注 : 1 9 6 0 - 2 0 0 0 年 は IE A 統 計 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 世界平均 シ ナ リ オ A の 主 要 国 の 一 人 当 た り GD P(M ER 換 算 ) 14)15) に基づく実績値。 - 265 - Per Cap. GDP(PPP) (thousand$/capita) 70.00 米国 一人当たりGDP(PPP換算) 60.00 EU27 日本 50.00 カナダ オーストラリア 40.00 中国 30.00 インド 20.00 ブラジル 韓国 10.00 ロシア メキシコ 0.00 1960 1970 1980 図 5. 2.4 -6 注 : 1 9 6 0 - 2 0 0 0 年 は IE A 統 計 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 世界平均 シ ナ リ オ A の 主 要 国 の 一 人 当 た り GD P(P PP 換 算 ) 14)15) に基づく実績値。 図 5.2 .4 -7 と 図 5. 2. 4 -8 に は 、策 定 し た シ ナ リ オ B の MER 換 算 と P PP 換 算 の 主 要 国 別 の 一 人 当 た り GDP を そ れ ぞ れ 示 し た 。シ ナ リ オ A 同 様 に 、換 算 方 法 の 違 い に 関 わ ら ず 、 一 人 当 た り GDP は す べ て の 国 で 2 050 年 ま で 増 加 し て い き 、 各 国 の 経 済 成 長 の 度 合 い は シ ナ リ オ A よ り も 大 き い 。ま た 、シ ナ リ オ A 同 様 に 、2 050 年 に か け て 一 人 当 た り GDP (PP P )の 先 進 国 と 途 上 国 の 差 異 は 一 層 縮 小 し て い く と 推 計 さ れ る 。 Per Cap. GDP(MER) (thousand$/capita) 80.00 米国 一人当たりGDP(MER換算) 70.00 EU27 日本 60.00 カナダ 50.00 オーストラリア 40.00 中国 30.00 インド ブラジル 20.00 韓国 10.00 ロシア メキシコ 0.00 1960 1970 1980 図 5. 2.4 -7 注 : 1 9 6 0 - 2 0 0 0 年 は IE A 統 計 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 シ ナ リ オ B の 主 要 国 の 一 人 当 た り GD P(M ER 換 算 ) 14)15) に基づく実績値。 Per Cap. GDP(PPP) (thousand$/capita) 80.00 米国 一人当たりGDP(PPP換算) 70.00 世界平均 EU27 日本 60.00 カナダ 50.00 オーストラリア 40.00 中国 30.00 インド ブラジル 20.00 韓国 ロシア 10.00 メキシコ 0.00 1960 1970 1980 図 5. 2.4 -8 注 : 1 9 6 0 - 2 0 0 0 年 は IE A 統 計 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 世界平均 シ ナ リ オ B の 主 要 国 の 一 人 当 た り GD P(P PP 換 算 ) 14)15) に基づく実績値。 - 266 - 図 5.2 .4 -9 に は 、 主 要 地 域 別 GDP (P PP )シ ェ ア の 推 移 を シ ナ リ オ 別 に 示 し た 。 シ ナ リ オ A、 B の 地 域 シ ェ ア の 違 い は 小 さ い 。 世 界 GDP (PPP )に 占 め る 先 進 国 (米 国 、 EU27 、 日 本 、 そ の 他 OECD の 合 計 )の シ ェ ア は 、 2005 年 に は 約 51 %で あ り 、 MER 換 算 GDP と 比 較 す る と 先 進 国 と 途 上 国 の 差 異 は 小 さ く な る 。そ の 後 徐 々 に 先 進 国 の GDP (P PP )シ ェ ア は 低 下 し 続 け 、 205 0 年 に は シ ナ リ オ A で 27%、 シ ナ リ オ B で 約 2 9% と な る 。 20 50 年 に は 、 現 在 の GDP シ ェ ア と は 大 き く 異 な り 、 現 在 の 途 上 国 が 世 界 経 済 に お い て 大 き な シ ェ ア を 占 め る 。 2 050 頃 ま で は 中 国 や イ ン ド な ど の 現 在 の 新 興 途 上 国 の 経 済 発 展 が 急速に進展する。 旧ソ連・ 東欧 7% 中南米 8% 1990年 中南米 アフリカ 8% 米国 20% 中東 4% 中東 4% その他 その他アジ ア 8% アジア 7% 中国 6% 旧ソ連・東欧 4% 4% 米国 21% アフリカ 4% 2005年 EU27 26% インド 4% インド 6% 日本 9% その他 OECD 4% EU27 21% 中国 15% その他 OECD 4% 日本 6% シナリオ A 2020年 2050年 旧ソ連・東欧 3% アフリカ 7% 旧ソ連・東欧 3% 中南米 10% 米国 14% 中東 5% アフリカ 10% 中国 19% 米国 12% EU27 10% EU27 16% その他アジ ア 10% インド 9% 中南米 9% 中東 5% その他 OECD 3% 日本 4% 日本 3% その他 OECD 2% その他アジ ア 11% 中国 22% インド 13% シナリオ B 2020年 2050年 旧ソ連・東欧 3% アフリカ 7% 旧ソ連・東欧 3% 中南米 10% 米国 14% 中東 5% アフリカ 10% EU27 16% その他アジ ア 10% インド 9% 中国 19% その他 OECD 3% 中南米 9% EU27 11% 中東 5% その他アジ ア 11% 日本 4% 米国 13% インド 12% 中国 21% 図 5. 2.4 -9 地 域 別 G D P(PPP )シ ナ リ オ (上 段 :実 績 値 ,中 段 : シ ナ リ オ A, 下 段 : シ ナ リ オ B) 注 ) OECD は OECD90(1990 年 時 点 の OECD 加 盟 国 )を 表 す 。 - 267 - 日本 3% その他 OECD 2% 次 に 、 他 の 文 献 で 推 計 さ れ る GDP (P PP )シ ナ リ オ と 、 本 節 で 策 定 し た GDP (P PP 換 算 )シ ナ リ オ の 比 較 を 調 査 し た 。表 5 .2 .4 -1 に は 、IEA に よ る WE O2010 1 0 ) と ETP 2010 11 ) と の 比 較 し た 、 GDP (PP P )シ ナ リ オ を 示 す 。 策 定 し た GDP (P PP )シ ナ リ オ は 、 IEA の PP P シ ナ リ オ よ り は 若 干 小 さ め の 国 が 多 い も の の 、 概 ね 近 い 数 値 に な っ て い る 。 図 5.2. 4 -10 に は 、 IEA -E TP 2010 の 一 人 当 た り GDP (PPP 換 算 )シ ナ リ オ を 示 し た 。 IEA ETP 2010 で は 、205 0 年 の 一 人 当 た り GDP (PP P )は 、中 国 が 米 国 を 抜 い て 世 界 最 高 水 準 となるとするシナリオとなっている。 表 5. 2.4 -1 IEA の 各 種 文 献 と の G DP(P PP) シ ナ リ オ の 比 較 ( 年 成 長 率 ) 2 0 0 8 -2 0 ALP S 日本 米国 E U2 7 中国 インド 世界 2 0 0 8 -3 5 ALP S WEO2010 2 0 0 7 -5 0 ALP S WEO2010 シナリオ シナリオ シナリオ シナリオ シナリオ シナリオ A B A B A B 1.7% 1.8% [ 1 . 2 %] [ 1 . 2 %] 1.8% 2.0% [ 1 . 8 %] [ 2 . 0 %] 2.2% 2.3% [ 1 . 4 %] [ 1 . 7 %] 4.7% 4.8% [ 7 . 3 %] [ 7 . 4 %] 6.2% 6.2% [ 7 . 1 %] [ 7 . 1 %] 3.9% 4.0% [ 2 . 7 %] [ 2 . 9 %] 1.0% 2.0% 3.6% 7.9% 7.4% 3.6% 1.3% 1.5% [ 0 . 9 %] [ 1 . 0 %] 1.7% 2.0% [ 1 . 7 %] [ 2 . 0 %] 1.4% 1.5% [ 1 . 3 %] [ 1 . 8 %] 4.0% 4.0% [ 6 . 3 %] [ 6 . 5 %] 4.9% 4.9% [ 6 . 3 %] [ 6 . 3 %] 3.1% 3.2% [ 2 . 7 %] [ 3 . 0 %] 1.0% 2.1% 1.6% 5.7% 6.4% 3.2% 0.9% 1.1% [ 0 . 5 %] [ 0 . 7 %] 1.5% 1.9% [ 1 . 5 %] [ 1 . 9 %] 1.0% 1.2% [ 1 . 2 %] [ 1 . 6 %] 3.2% 3.3% [ 5 . 2 %] [ 5 . 4 %] 4.1% 4.1% [ 5 . 5 %] [ 5 . 6 %] 2.6% 2.7% [ 2 . 4 %] [ 2 . 7 %] ETP2010 ( 1 . 5 %) * 1.7% ( 1 . 1 %) ** 4.9% 4.9% 2.9% 注 [ ] は GDP ( M E R 換 算 ) 成 長 率 を 表 す 。 ( ) * と ( ) ** は そ れ ぞ れ OE C D P a ci f i c, OE CD Eu r o p e の 値 を 参 照値として記載。 - 268 - Per Cap. GDP(PPP) (thousand$/capita) 80 一人当たりGDP(PPP換算) 70 米国 60 EU27 50 40 中国 30 20 インド 10 世界平均 0 1960 1970 1980 1990 図 5. 2.4 -10 2000 2010 2020 2030 2040 2050 IE A-ET P201 0 に よ る 一 人 当 た り GD P(PP P 換 算 ) 注 : 1 9 6 0 - 2 0 0 8 年 は IE A 統 計 1 4 ) 1 5 ) に 基 づ く 実 績 値 。 IE A - E T P 2 0 1 0 1 1 ) の 地 域 別 GD P ( P P P ) 成 長 率 を も と に 推 計 。 た だ し 、 EU27 は OECD-Europe の 成 長 率 を 利 用 し た 。 人 口 シ ナ リ オ は 国 連 2008 中 位 推 計 シ ナ リ オ (シ ナ リ オ A と 同 値 )に 基 づ く 。 図 5 .2. 4 -11 に は 、 日 経 セ ン タ ー に よ る 主 要 地 域 の 一 人 当 た り GDP (PPP 換 算 )を 示 し た 。 日 経 セ ン タ ー 予 測 で は 米 国 の 一 人 当 た り GDP (P PP ) が 大 幅 に 伸 び て い る 点 を 除 け ば 、 シ ナ リ オ A,B と 概 ね 近 い 数 値 に な っ て い る と 言 え る 。 Per Cap. GDP(PPP) (thousand$/capita) 100 90 日経センター予測(小峰,2007) 80 一人当たりGDP(PPP換算) 70 米国 60 EU27 50 日本 40 中国 30 インド 20 10 0 1960 1970 1980 1990 図 5. 2.4 -11 注:日本経済研究センター 13) 2000 2010 2020 2030 2040 2050 日 経 セ ン タ ー に よ る 一 人 当 た り GDP( PPP ) より作成 参 考 文 献 ( 第 5. 2 節 に 関 す る も の ) 1) R ITE; 脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 的 発 展 可 能 な 経 済 社 会 実 現 の た め の 対 応 戦 略 の 研 究 平 成 1 9 年 度 成 果 報 告 書 (20 08) - 269 - 2) R ITE; 同 平 成 20 年 度 成 果 報 告 書 (200 9) 3) R ITE; 同 平 成 21 年 度 成 果 報 告 書 (201 0) 4) 徳 重 他 ; 統 計 デ ー タ か ら の 温 室 効 果 ガ ス 排 出 と 持 続 可 能 な 発 展 の 検 討 , 第 26 回 エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム ・ 経 済 ・ 環 境 コ ン フ ァ レ ン ス (2010 ) 5) 本 間 他 ; 社 会 経 済 要 因 の 分 析 に 基 づ い た 将 来 の 社 会 経 済 シ ナ リ オ の 策 定 , 第 2 7 回 エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム ・ 経 済 ・ 環 境 コ ン フ ァ レ ン ス (2011) 6) UN P opulation Division ; Wo rld P opu la tio n P ro spe c ts (The 2008 Re vision ), http ://e sa .un .o rg /u npp / (20 09) 7) IP CC ; Sp ec ia l Re po rt on E missio ns Sce na rio s (SRES), Ca mb ridg e Universit y P re ss (20 00) 8) The Wo rld Ba nk ; Wo r ld De ve lo p men t Ind ica to r s (20 08) 9) J.Hawk sworth , “T he World in 205 0 - H o w b ig will the ma jor e me rg ing ma rk e t econ o mie s g et and ho w can the OECD comp ete? -”, http ://www.p wc. co m/g x/en /world -2 050 / 10) IEA, Wo rld ene rg y ou tlook 2010 (201 0) 11) IEA, En e rg y tec hno lo g y pe rspe ctive 201 0, (2 0 10) 12) DOE/E IA, In terna tion al Ene rg y Ou tlo ok 2010 , h ttp ://www.e ia . doe. go v/o iaf/ie o/ (20 10) 13) 小 峰 、 日 本 経 済 研 究 セ ン タ ー ; 超 長 期 予 測 老 い る ア ジ ア 、 日 本 経 済 新 聞 出 版 社 、 (20 07) 14) IEA, En e rg y b alanc es o f OECD/No n -OECD c o untrie s 2010 Ed ition , (2010 ) 15) IEA, CO 2 e missio ns fro m fue l co mbu stion 20 1 0 Ed ition, (201 0) 5.3 都市人口とその空間分布 5.3.1 は じ め に 本 節 で は 、 A LP S シ ナ リ オ A ( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )、 B( 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ ) につ いて 、都 市人 口 の推 計と その 空 間分 布(都 市 圏別 の人 口 )の推 計 を行 った 。まず、 人 口 と 一 人 当 た り GDP な ど か ら 、 A 、 B シ ナ リ オ の 都 市 人 口 シ ナ リ オ を 策 定 し た 。 そ の 上 で 、 そ れ を 前 提 条 件 と し て 第 4 .2 節 で 構 築 し た 都 市 の 空 間 分 布 予 測 モ デ ル を 用 い て、世界の都市圏別の人口について推計を行った。 5.3.2 ALPS の 都 市 比 率 と 都 市 人 口 シ ナ リ オ (1) 都 市 の 定 義 ( 国 連 UN 2 009) 国 連 の 都 市 人 口 統 計 ( UN200 9) 1 ) に よ る と 、 現 在 の 「 都 市 」 の 定 義 は 表 5 .3 .2 -1 に 示 す よ う に 国 毎 に 異 な る 。( 同 一 国 で も 、 定 義 が 改 訂 さ れ る こ と が あ る た め 、 過 去 の 都 市 人 口 統 計 も 変 わ り う る 。) 中 国 、 イ ン ド 、 ロ シ ア の よ う に 、「 非 農 業 従 事 者 」 の 割 合 を 条件の一つに含めている国もあるが、職業は特に指定していない国も多い。比較的多 - 270 - くの国で取り上げられている条件としては、人口密度が一定以上、公共インフラが整 備されている、などがある。 - 271 - 表 5. 3.2 -1 主要国の都市の定義 ( UN2 009) 国名 出典 定義 オーストラリア 1954, 1961, 1971, 1976, 1981, 1986, 1991, 1996, 2001 人口1000人以上の都市部 年の全数調査 バングラディッ 1951, 1961, 1974, 1981, 1991 and 2001の全数調査 町(shahar)議会又は駐屯地理事会などの自治体組織 (pourashava)を持つ。 一般に シュ 都市部は5000人以上が 隣接した家屋が密集した所に住み、地域社会が確立して いて、道路、街灯、水供給、衛生設備等の公共設備が整備 されている。 こういった 都市は一般に貿易・商業の中心で、労働人口のほとんどは非農業で、識字能力の レベルは高い。 人口5,000人以下だが都市特性は備えているところは特別に、都市 とみなされる。 ブラジル 1950, 1960, 1970, 1996, 2000年の全数調査 中国 1953, 1964, 1982, 1990, 2000年の全数調査 1965, 1982年までは市・町の総人口。 10万人以上の人口を有するか、行政、戦略的、経 1970, 1972, 1975, 1977, 2005, 2008年は推計人口。 済的重要性を持ったものを市とし, 3000人以上の住民を有し、その70%以上が非農 業従事者、又は2,500人から3,000人の住人でそのうちの85%が非農業従事者で占 める集落を町とした。1990年の全数調査では: (1)直轄市、地級市の都市部に住む 全ての住民; (2) 県級市の町(街道)(jiedao)に住む住民; (3)県内の町(鎮)の居民 委員会の全ての住民と定義。2000年調査では、中国本土の都市人口は1Km2あたり 平均1500人以上の人口密度を持つ都市部に住む住民を対象とする。 他に、建物 が隣接し密集している・地方自治体の所在地・町(街道)・居民委員会があるなどの 基準を満たせば、小区域や鎮レベルの町の人口も含まれる。 チェコ共和国 1950, 1961, 1970, 1980, 1991, 2001年の全数調査 フランス 1954, 1962, 1968, 1975, 1982, 1990, 1999, 2006年の 200メートル以内に隣接している家屋に住み、2000人以上の人口を持つコミューン; 全数調査 又は上記に定義された条件を満たし、複数のコミューンが集まってできたコミュー ン。 1950, 1961, 1987年の全数調査; 1970, 1980, 1981, 1Km2 あたり150人の人口密度を有するコミューン(kreisfreie Staedte and Kreise)。 1982, 1983, 1984, 1985, 1986, 1987, 1988, 1989, 1990, 1991, 1992, 1993, 1994, 1995, 1996, 1997, 1998, 1999, 2000, 2001, 2002, 2003, 2004, 2005年の 推計調査 ドイツ 都市部・郊外にある自治体municipios、地域の行政中心地 人口2000人以上の自治体 インド Censuses of 1951, 1961, 1971, 1981, 1991, 2001年の 都市の定義は次の通り: (a) All 自治体組織・法人・駐屯地理事会・届け済み町内 全数調査; 1996, 2004, 2007年の推計調査 会 等を有する法的地域 (b) 次の3つの基準を満たす: i) 人口5000人以上; ii) 男性 の労働人口の75%以上が非農業従事者; iii) 1Km2 あたりの人口密度が400人以上 (1マイル平方あたり1000人以上) 日本 1960, 1965, 1970, 1975, 1980, 1985, 1990, 1995, 2000, 2005年の全数調査 人口集中地区 (DID)、 、1Km2 あたり4000人以上が住み、基本単位となる区画が 隣接して集まったところ、または市・区・町・村内に公共・産業・教育・娯楽施設があり 人口5000人以上と定義される。 ケニア 1962, 1969, 1979, 1989, 1999年の全数調査 人口2000人以上の自治体、町議会がある、都心等を指す。 1990年の全数調査で 都市部の概要説明が大幅に変更されたため、 “都心” の人口のみが前回の調査と 一致すると考えられる。 ペルー 1961, 1972, 1981, 1993, 2007年の全数調査 100以上住居施設が隣接し集まり、人口が集中している中心地 フィリピン 1960, 1970, 1975, 1980, 1990, 2000年の全数調査 ロシア 1959, 1970, 1979, 1989, 2002年の全数調査; 2005, 2006, 2009年の推計調査 1Km2 あたり1000人以上の人口密度を有する全ての都市・地方自治体; 2000人以 上の住民が住んでいる行政の中心地の居住地区barrios・1000人以上が住んでいる 行政の中心地に隣接している居住地区barriosがあり、1Km2 あたり500人以上の人 口密度を有する全ての都市・地方自治体は; 人口2500人以上を有する他の行政中 心地 住民人口・非農業従事者とその家族が占める割合に基づいた基準に従い、公式に 指定された都市・都市型地域 サウジアラビア 1974, 2004年の全数調査; 1962, 1986年の推計調査; 人口5000人以上の都市 1950, 1992年の国連推計 南アフリカ 1951, 1960, 1970, 1996, 2001年の全数調査; 1980, 1985, 1991年の国連推計 集落で大勢を占める住民と土地利用に基づいた分類。 都市、町、郡、郊外等は典 型的な都市定住型。 無断居住者の定住地区・簡易宿泊所・公共施設・工業地区・ 娯楽地区を含む調査地域と正規の都市定住区内もしくはそれに隣接した小自作農 地は都市に分類される。 1996年の推計は2001年の全数調査の定義に順守し、調 整されている。1980年、1985年、1991年の推計はTranskei, Bophuthatswana, Venda and Ciskei の人口を考慮に入れるよう調整されている。 英国 1951, 1961, 1971, 1981, 1991, 2001年の全数調査 1974年までは都市の定義は行政区画に基づいていた。 1981年以降は都市地域は 10000人以上の定住区域とする。 米国 1950, 1960, 1970, 1980, 1990 2000年の全数調査 都市部は一定の人口密度の条件を満たす定住区域と定義され、2500人以上の人口 を有する。 2000年の調査から居住地に基づいた定義から人口密度に基づいた定 義に変わったが、2000年以前、以降の推計の比較に大きな影響はない。 ウルグアイ 1963, 1975, 1985, 1996, 2004年の全数調査 公式に定義された都市 イエメン 1986, 1994, 2004年の全数調査; 1950, 1960, 1970年 17の行政区域と町の首都 の推計 エジプト 1960, 1966, 1976, 1986, 1996, 2006年の全数調査 カイロ、アレキサンドリア、ポートサイド、イスメリア、スエズの行政地区; 国境行政 地区; 他の行政地区の中心地; 地方の中心地 オランダ 1950, 1960, 1970, 1980, 1990, 2000 年の国連推計 都市部の定義が数回変更されてきた歴史があるため、ここでは2万人以上の住民を 有する自治体とした。 シンガポール 1957, 1970, 1980, 1990, 2000, 2004 年の全数調査 シンガポールに住む居住者、非居住者が含まれる スイス 1950, 1960, 1970, 1980, 1990, 2000 年の全数調査 2003, 2004, 2005, 2007 年の推計 郊外を含む1万人上の住人が住むコミューン、2万人以上の住人が住む隣接する市 街地を有する都市的集積地域 - 272 - (2) ALPS 都 市 人 口 比 率 (1 )節 に 述 べ た よ う に 、 都 市 の 定 義 は 国 に よ っ て 異 な る が 、 比 較 的 多 く の 国 に 共 通 す る 条 件 と し て 、 (i) 人 口 密 度 が 一 定 以 上 、 (ii) 公 共 イ ン フ ラ が 整 備 さ れ て い る 、 が あ げ ら れ る こ と よ り 、 国 別 の 人 口 密 度 と 一 人 当 た り GDP を 代 理 指 標 と し て 、 都 市 人 口 比 率 を表現することを想定した。 図 5 .3. 2 -1 は 、 過 去 約 40 年 間 に つ い て 、 主 要 国 の 都 市 人 口 比 率 ×人 口 密 度 2) 1) と 一 人 当 た り GDP の 関 係 を 示 し た も の で あ る 。国 に よ っ て 傾 き は 異 な る も の の 、概 ね 、一 人 当 た り GDP ×人 口 密 度 が 増 加 す る と 、国 の 人 口 比 率 も 増 加 す る 傾 向 が み ら れ る 。な お 、 GDP ×人 口 密 度 は 、 す な わ ち 、 単 位 面 積 当 た り の GDP に 相 当 し 、 す な わ ち 、 土 地 の 資 本生産性と都市人口比率の間には関連があると考えられる。 Proportion of urban population 1.0 United States 0.8 Canada United Kingdom 0.6 Japan China 0.4 India Saudi Arabia Brazil 0.2 Ethiopia Bangladesh 0.0 1 10 100 1000 10000 100000 GDPperCap(1000$)*Pop Density(person/km2) 図 5. 3.2 -1 主 要 国 の 都 市 人 口 比 率 と 一 人 当 た り GD P×人 口 密 度 そ こ で 、(5 .3 -2 )式 の よ う な 、一 人 当 た り GDP ×人 口 密 度( = 単 位 面 積 当 た り の GDP ) の 関 数 で 主 要 国 の 都 市 人 口 比 率 が 表 現 さ れ る と し 、 そ の 過 去 40 年 間 の 統 計 値 1,2) をも と に 、 国 別 の 回 帰 係 数 を 求 め た 。 な お 、 (5 .3 -2)式 で は 、 GDP ×人 口 密 度 ( = 単 位 面 積 当 た り の GDP )次 第 で 、都 市 人 口 比 率 が 急 速 1 に 達 す る こ と も あ り う る が 、現 実 的 に は 、 ある程度の値に達すると、増加速度が減少すると考えられることより、微調整機能と して導入した。 f (GDC rt , Drt ) UPRrt = rt UPRrt −1 + {Min( f rt (GDC rt , Drt ), 1) − UPRrt −1 }• β r :国(地域) t :時点 - 273 - ( for UPRrt −1 < 0.9) ( for UPRrt −1 ≥ 0.9) (5 .3 -1 ) UPRrt : 都 市 人 口 比 率 β: ダ ミ ー 変 数 ( de fa ult = 0.1 ) f rt (GDC rt , Drt ) = α 1 • (log(GDC rt • Drt )) α 2 (5. 3 -2) GDC rt : 一 人 当 た り GDP Drt : 人 口 密 度 α 1、 α 2: 回 帰 係 数 図 5 .3. 2 -2 は 、 主 要 国 に つ い て 、 統 計 値 ( 点 ) と 回 帰 関 数 に 基 づ く 算 定 値 ( 線 ) を 比 較 し た も の で あ る 。 ま た 、 表 5. 3.2 -2 に は 、 回 帰 係 数 と 決 定 係 数 (R 2 )を 示 す 。 こ れ ら よ り、多くの国では、統計値と回帰関数に基づく算定値の間に、目立って大きな乖離は み ら れ な い 。 英 国 の よ う に 、 過 去 の 都 市 人 口 比 率 の 変 動 幅 が 小 さ い 場 合 は 、 R2 が 小 さ く 算 定 さ れ る 可 能 性 が あ る も の の ( 図 5 . 3.2 -3 )、 将 来 の 予 測 に 支 障 が 生 じ る よ う な も のでないと考えられる。 Proportion of urban population 0.9 United States 0.8 France 0.7 United Kingdom Japan 0.6 China 0.5 India 0.4 Saudi Arabia 0.3 Bangladesh 0.2 Brazil Mexico 0.1 Ethiopia 0.0 1960 1970 1980 1990 2000 Year 図 5. 3.2 -2 統 計 値 ( 点 ) と 回 帰 式 に 基 づ く 算 定 値 ( 線 ) の 比 較 - 274 - 表 5. 3.2 -2 主要国の回帰係数と決定係数 回帰期間(5年間隔) 国名 α1 α2 R2 United States 1960 - 2005 43.47 0.535 0.92 United Kingdom 1960 - 2005 67.65 0.112 0.51 France 1960 - 2005 19.98 1.119 0.91 Japan 1960 - 2005 4.98 1.820 1.00 China 1975 - 2005 13.43 1.336 1.00 India 1960 - 2005 13.12 0.958 0.95 Saudi Arabia 1985 - 2005 47.90 0.744 0.92 Ethiopia 1980 - 2005 15.70 0.913 0.87 Mexico 1960 - 2005 30.06 0.992 0.99 Brazil 1960 - 2005 40.31 1.054 0.98 UK Proportion of urban population 0.790 0.785 0.780 0.775 0.770 0.765 1960 1970 1980 1990 2000 Year 図 5. 3.2 -3 英 国 の 統 計 値 ( 点 ) と 回 帰 式 に 基 づ く 算 定 値 ( 線 )( 拡 大 図 ) 図 5 .3. 2 -4 に A LP S シ ナ リ オ A,B の 人 口 比 率 を 示 す 。算 定 は 、国 別 に 実 施 し た が 、図 に は 、 世 界 3 2 地 域 ( 図 4 .2.3 -2 に 図 示 ) に 集 約 し て 表 示 し て い る 。 シ ナ リ オ B は シ ナ リ オ A に 比 べ 、一 人 当 た り GDP が 高 い が 、人 口 が 少 な い( す な わ ち 、人 口 密 度 が 低 い ) ことにより、両要素を考慮すると、シナリオ A と B で都市人口比率は大きな差は生じ ない。 - 275 - ALPS- シ ナ リ オ A Scenario Proportion of urban population 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 1960 1980 2000 2020 2040 2060 2080 2100 Year USA CAN WEP JPN ANZ CHN MDK CLV KOR MSB IDS THI PHI IND APS OTA IRN ARP UME TUR NOA SOA SEA OSA MEX BRA PUA OSM RUS AIS OFS EEP World ALPS- シ ナ リ オ B Scenario Proportion of urban population 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 1960 1980 2000 2020 2040 Year 図 5. 3.2 -4 2060 2080 2100 USA CAN WEP JPN ANZ CHN MDK CLV KOR MSB IDS THI PHI IND APS OTA IRN ARP UME TUR NOA SOA SEA OSA MEX BRA PUA OSM RUS AIS OFS EEP World A LPS の 都 市 人 口 比 率 ( 国 別 の 都 市 人 口 を 世 界 3 2 地 域 に 集 約 し て 表 示 ) - 276 - 図 5 .3. 2 -5 は 、 20 50 年 の 各 国 の 都 市 人 口 比 率 に つ い て 、 A LP S シ ナ リ オ A と UN200 9 を 比 較 し た も の で あ る 。A LP S シ ナ リ オ A 、UN200 9 ど ち ら も 人 口 は 、国 連 200 8 年 予 測 の中位人口 3) に 対 す る も の で あ る が 、 UN2009 は 、 一 人 当 た り GDP 等 、 ど の よ う な 社 会 、経 済 を 想 定 し て 作 成 さ れ た か は 明 ら か で な い 。つ ま り 、A LP S シ ナ リ オ A と UN20 09 の都市人口比率が一致しない国があるからといって、特別な問題があるとは考えられ Proportion of urban population (ALPS-A) ない。 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Proportion of urban scenario (UN2009) 図 5. 3.2 -5 205 0 年 の 都 市 人 口 比 率 の 比 較 ( A LPS シ ナ リ オ A 対 UN 200 9) 図 5 .3. 2 -6 と 図 5 .3 .2 -7 に 、 そ れ ぞ れ 、 A LP S の 都 市 人 口 と 農 村 ( 非 都 市 ) 人 口 を 示 す 。 都 市 人 口 比 率 は 、 シ ナ リ オ A ,B で 大 差 が な い が 、 都 市 人 口 ( 絶 対 値 ) は 、 シ ナ リ オ A の方が、総人口が多い分、多く算定されている。 - 277 - ALP S-シ ナ リ オ B 6000 6000 図 5. 3.2 -6 ALPS- シ ナ リ オ A 6000 Year 図 5. 3.2 -7 Year A LPS の 農 村 ( 非 都 市 ) 人 口 - 278 - 2090 2080 2070 2060 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 1960 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 0 2010 0 2000 1000 1990 1000 2020 2000 2010 2000 3000 2000 3000 4000 1990 4000 5000 1980 5000 1970 Rural population (millions) 6000 1980 2050 ALP S-シ ナ リ オ B 7000 1970 2040 A LPS の 都 市 人 口 7000 1960 EEP OFS AIS RUS OSM PUA BRA MEX OSA SEA SOA NOA TUR UME ARP IRN OTA APS IND PHI THI IDS MSB KOR CLV MDK CHN ANZ JPN WEP CAN USA Year Year Rural population (millions) 2030 1960 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 0 1990 0 1980 1000 1970 1000 2020 2000 2010 2000 3000 2000 3000 4000 1990 4000 5000 1980 5000 1970 Urban population (millions) 7000 1960 Urban population (millions) ALPS- シ ナ リ オ A 7000 EEP OFS AIS RUS OSM PUA BRA MEX OSA SEA SOA NOA TUR UME ARP IRN OTA APS IND PHI THI IDS MSB KOR CLV MDK CHN ANZ JPN WEP CAN USA 5.3.3 都 市 人 口 の 空 間 分 布 (1) 都 市 人 口 シ ナ リ オ 本 節 で は 、 前 節 の A LP S 都 市 人 口 シ ナ リ オ ( 図 5.3 .2 -6 ) に 基 づ き 将 来 の 都 市 圏 別 人 口 を 推 計 し た 。 A LP S の A シ ナ リ オ は SRE S の B1 シ ナ リ オ と B 2 シ ナ リ オ の 間 に 位 置 し て お り 、 A LP S の B シ ナ リ オ は SRES の B 1 シ ナ リ オ に 近 い ( 図 5.3 .3 -1 参 照 )。 図 5. 3.3 -1 将 来 の 都 市 人 口 シ ナ リ オ ( 左 : S RES 、 右 : A LPS ) (2) 都 市 圏 人 口 の 推 計 第 4 .2 節 で は 、 SRES シ ナ リ オ に つ い て 、 都 市 圏 人 口 推 計 を 行 っ た が 、 同 様 の 方 法 で A LP S シ ナ リ オ A 、 B に つ い て 推 計 を 行 っ た 。 2 050 年 、 210 0 年 に お け る 階 級 別 都 市 の 地 理 分 布 を 図 5. 3.3 -2 に 示 す 。 A LP S の A と B の 2 つ の シ ナ リ オ の 結 果 を 見 る と 、 両 者 に 大 き な 違 い は 見 ら れ な い 。 大 都 市 圏 の 違 い と し て み ら れ る の は 、 B で は 210 0 年 に 東 京 の 人 口 が 3 千 万 人 を 割 り 込 む が 、A で は 3 千 万 人 以 上 を 維 持 し て い る こ と で あ る 。A LP S シ ナ リ オ で は 、20 50 年 ま で に 南 ア ジ ア の 巨 大 都 市 圏 は 既 に 出 現 し て お り 、 210 0 年 に か け て そ の 数 は 増 え て い な い の に 対 し て 、 ア フ リ カ の 巨 大 都 市 圏 は 2050 年 か ら 21 00 年 に か け て 出 現 し て い る 。 A LP S シ ナ リ オ で は 、こ れ ら の 都 市 は 3 千 万 人 を 超 え て お ら ず 、代 わ り に ソ マ リ ア の モ ガディシュが 3 千万人を超える都市となっている。 - 279 - ALPS- シ ナ リ オ A ALPS- シ ナ リ オ B 図 5. 3.3 -2 都 市 人 口 の 推 計 結 果 ( A LPS シ ナ リ オ ) シ ナ リ オ A、 B に お け る 人 口 階 級 別 の 都 市 数 を 表 5. 3.3 -1 、 表 5.3 .3 -2 に そ れ ぞ れ 示 す 。 B シ ナ リ オ で は 、 205 0 年 以 降 、 多 く の 人 口 階 級 で 、 都 市 数 は 横 ば い か ら 減 少 に 転 じ る が 、 A シ ナ リ オ で は 210 0 年 に か け て 、 都 市 数 は ほ ぼ 一 貫 し て 増 加 し て い る 。 - 280 - 表 5. 3.3 -1 1 -2 millio n 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055 2060 2065 2070 2075 2080 2085 2090 2095 2100 188 216 253 265 278 289 296 323 327 345 365 371 377 381 387 392 399 407 412 411 413 表 5. 3.3 -2 1 -2 millio n 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055 2060 2065 2070 2075 2080 2085 2090 2095 2100 188 216 253 263 279 282 294 313 329 331 347 355 359 364 361 355 364 369 370 361 352 人 口 階 級 別 都 市 数 ( ALP S-A シ ナ リ オ ) 2 -5 millio n 5 -1 0 million 10 -30 million 25 34 40 46 51 60 64 69 74 74 84 86 88 90 90 95 96 97 97 97 95 20 22 25 27 31 35 38 42 47 51 53 53 52 56 58 59 59 58 59 60 61 117 118 128 150 166 179 194 199 206 217 216 217 218 223 231 237 237 239 241 245 247 MT 30 million 1 2 3 5 7 7 8 9 10 11 11 11 11 11 11 11 11 13 13 13 14 人 口 階 級 別 都 市 数 ( ALP S-B シ ナ リ オ ) 2 -5 millio n 5 -1 0 million 10 -30 million 25 34 40 46 52 59 65 63 68 71 77 78 82 83 81 82 85 85 86 85 82 20 22 25 27 31 34 36 42 46 49 49 50 49 49 51 53 53 53 54 53 54 117 118 128 149 162 176 189 198 198 207 211 212 210 212 217 221 221 221 217 222 223 - 281 - MT 30 million 1 2 3 5 7 7 8 8 10 10 11 11 11 11 11 11 11 11 11 12 12 次 に 、 A LP S シ ナ リ オ に お け る 主 要 都 市 圏 の 将 来 人 口 推 計 を 、 S RES シ ナ リ オ と 比 較 し な が ら 考 察 す る 。 図 5. 3.3 -3 ( A LP S )、 図 5. 3.3 -4 ( SRES ) を 見 る と 、 東 京 、 大 阪 、 名 古 屋 、 福 岡 の 人 口 減 少 傾 向 が 、 SRES よ り も A LP S の 方 が 顕 著 に 見 ら れ る 。 一 方 、 京 都 、 札 幌 に つ い て は 、 SRES -B 1、 B 2 シ ナ リ オ と A LP S シ ナ リ オ は 、 同 様 の 推 計 値 と な っ て い る 。A LP S シ ナ リ オ は 世 界 全 体 で 見 る と SRE S の B 1 シ ナ リ オ と B2 シ ナ リ オ の 間 に位置しているが、個別の都市で見ると、その傾向はかなり異なっていることが読み 取 れ る 。 な お 、 SRES -A1 シ ナ リ オ に お い て 、 名 古 屋 、 京 都 で 人 口 が 急 増 し て い る 時 期 が見られるが、これは周辺都市を都市圏に併合することにより、都市圏人口が急増し たことを意味している。 図 5 .3. 3 -5 に は 、米 国 の 都 市 の 都 市 圏 人 口 の 推 移 予 測 を 示 す 。米 国 に つ い て は 、程 度 の 差 は あ る が 、 い ず れ の シ ナ リ オ も 人 口 が 増 加 し て い る 。 SRE S で は A2 r シ ナ リ オ と B1 シ ナ リ オ が 同 様 の 傾 向 を 示 し て お り 、 N ew York 都 市 圏 は A2 r シ ナ リ オ で 、 210 0 年 に 人 口 が 3 千 万 人 を 超 え る と 予 想 さ れ る 。A LP S -A シ ナ リ オ で は 、日 本 と は 異 な り 人 口 は 増 加 す る と 推 計 さ れ る が 、 B シ ナ リ オ で は 205 0 年 以 降 横 ば い と な っ て い る 。 図 5. 3.3 -3 推 計 結 果 の 比 較 ( AL PS シ ナ リ オ 、 日 本 ) - 282 - 図 5. 3.3 -4 図 5. 3.3 -5 推 計 結 果 の 比 較 ( SR ES シ ナ リ オ 、 日 本 ) 米 国 都 市 の 推 計 結 果 ( 上 段 : SRE S シ ナ リ オ 、 下 段 : A LPS シ ナ リ オ ) - 283 - 中 国 都 市 の 推 計 結 果 を 図 5.3 .3 -6 に 示 す 。 SRES の A2r シ ナ リ オ で は 、 上 海 の 人 口 は 2100 年 に 9 千 万 人 を 超 え る と 推 計 さ れ て お り 、 北 京 に つ い て も 5 千 万 人 を 超 え る と 推 計 さ れ て い る 。現 在 、世 界 最 大 の 都 市 圏 は 東 京 都 市 圏 で 約 3 千 万 人 だ が 、A2 r シ ナ リ オ では、それを遙かに上回る巨大都市圏が出現すると予想される。一方、上海の人口は B2 シ ナ リ オ で は 21 0 0 年 に 55 00 万 人 、B1 シ ナ リ オ で は 、20 40 年 に 340 0 万 人 の ピ ー ク を 迎 え 、そ の 後 減 少 す る 。A LP S シ ナ リ オ で は 、20 40 年 に か け て 都 市 人 口 は 急 増 し 、上 海では 4 千万人を超えるが、その後横ばいから減少傾向となる。 図 5. 3.3 -6 中 国 都 市 の 推 計 結 果 ( 上 段 : SRE S シ ナ リ オ 、 下 段 : A LPS シ ナ リ オ ) 図 5 .3. 3 -7 に は イ ン ド の 都 市 の 推 計 結 果 を 示 す 。イ ン ド で は 中 国 以 上 に 都 市 人 口 の 増 加 が 顕 著 で あ り 、SRE S -A2 r シ ナ リ オ で は 、2100 年 に は ム ン バ イ の 人 口 は 1 億 3 千 万 人 を 超 え て お り 、B2 シ ナ リ オ で も 、1 億 人 を 超 え る と 推 計 さ れ て い る 。ま た 、A LP S シ ナ リ オ で も SRES ほ ど で は な い が 、急 激 な 都 市 人 口 の 増 加 が 想 定 さ れ て お り 、ム ン バ イ で は A シ ナ リ オ で 740 0 万 人 に 達 し 、B シ ナ リ オ で も 20 50 年 に は 6 5 00 万 人 に 達 す る と 推 計された。 - 284 - 図 5. 3.3 -7 イ ン ド 都 市 の 推 計 結 果 ( 上 段 : S RES シ ナ リ オ 、 下 段 : AL PS シ ナ リ オ ) (3) 都 市 圏 人 口 シ ナ リ オ の ま と め 本 節 で は 、 第 4. 2 節 で 構 築 し た 都 市 の 空 間 分 布 予 測 モ デ ル を 用 い て 、 A LP S シ ナ リ オ A、 B に つ い て 世 界 の 都 市 圏 別 の 人 口 に つ い て 推 計 を 行 っ た 。 人 口 1 千 万 人 以 上 の メ ガ シ テ ィ は 2 000 年 に は 21 都 市 存 在 す る と 推 計 さ れ た が 、 こ れ が 210 0 年 に は SRES -A2 r シ ナ リ オ で は 1 34 都 市 、 B 1 シ ナ リ オ で は 61 都 市 、 B2 シ ナ リ オ で は 99 都 市 、 A LP S -A シ ナ リ オ で は 75 都 市 、 B シ ナ リ オ で は 66 都 市 に な る と 推 計 さ れ た 。シ ナ リ オ に よ っ て 、ば ら つ き は 大 き い も の の 、200 0 年 と 比 較 し て 2 100 年 に はメガシティの数は 3 倍から 6 倍に増加すると推計された。ただし、先進国では、メ ガシティはそれほど増加せず、途上国において大きく増加すると推計される。特に、 南アジアとアフリカでの増加が顕著になると推計された。また、個別の都市圏の推計 結 果 を 見 る と 、 例 え ば 、 イ ン ド の 都 市 は 、 SRES -A 2r で は ム ン バ イ の 人 口 は 2 100 年 に は 1 億 3 千 万 人 を 超 え て お り 、 ま た A LP S -A シ ナ リ オ で は 7 40 0 万 人 に 達 す る と 推 計 さ れた。 参 考 文 献 ( 5. 3 節 分 ) 1) UN:World urbanization prospects The 2009 revision (2009) 2) World bank:World development indicators (2008). 3) UN:World Population Prospects: The 2008 Revision(2008) - 285 - 5.4 貧困人口 将 来 の 貧 困 人 口 の 推 計 に 関 し て は 、H21 年 度 報 告 書 1) と 同 様 に 、貧 困 線 と 所 得 分 布 を 用いる手法にもとづいた。ベースラインにおける貧困人口を推計するために、所得分 布と貧困線については以下のように想定した。 所 得 分 布 に 関 し て 、 一 人 当 た り GDP (MER)を 所 得 の 代 理 指 標 と み な し 、 シ ナ リ オ A の 一 人 当 た り GDP (MER)の 地 域 内 分 布 が 対 数 正 規 分 布 に 従 う と し た 。 地 域 別 の 一 人 当 た り GDP (MER)の 平 均 値 を 対 数 正 規 分 布 の 平 均 と し た 。 対 数 正 規 分 布 の 標 準 偏 差 は 、 ジニ係数に変換することが可能である 3) 2) 。所得格差を示すジニ係数に関して、内閣府 に よ る と 、「 発 展 段 階 が 進 む に つ れ て 所 得 格 差 は 拡 大 し 、 一 定 の 所 得 水 準 を 超 え た 後 は格差は縮小に向かう」クズネッツの逆U字仮説が基本的に成立する傾向にあるが、 国ごとの動向をみると所得格差の現状は様々であると報告されている。主要各国のジ ニ係数の動向をみると、例えば、先進国ではフランスを除いた各国で格差が近年緩や かに拡大しているのに対し、新興国では変化は多様であり、中国においては格差が急 速に拡大しているが、ブラジルやロシア、メキシコでは縮小傾向にあり、インドでは あまり変化がみられない。国内所得格差を表すジニ係数は各国の政策等に左右される ことから、将来のジニ係数の推移については不確実性が大きいと考え、ここでは、ジ ニ 係 数 の 感 度 解 析 と し て 、基 準 年 の ジ ニ 係 数 か ら 変 化 し な い 場 合 (基 準 年 値 一 定 )と 、変 化 す る 場 合 (2 050 年 に 基 準 年 値 ± 10 % ポ イ ン ト に 収 束 す る 場 合 (途 中 の 期 は 線 形 補 間 を 想 定 、 ま た 国 別 パ ネ ル デ ー タ の ジ ニ 係 数 最 高 値 0 .74 を 超 え な い と 想 定 ))に つ い て そ れ ぞれ分析した。 また、貧困線の想定に関しては、将来の不確実性を以下のように想定した。現在の 国際貧困線は世界銀行 4) が 想 定 し た 1. 25$ /da y(2005 年 価 格 )で あ る 。 国 際 貧 困 線 は 、 こ れ以下の収入及び支出で生活している人々を地域によらず貧困層と定義し、国家間の 貧困の比較をするのに用いられる。長期の貧困人口シナリオを予測した既往文献は数 少 な い 。 PBL5)で は 、 将 来 の 国 際 貧 困 線 は 基 準 年 か ら 変 化 せ ず 安 定 的 で あ る と 想 定 し 、 貧困人口の分析を実施している。一方、貧困分析の調査では、国際貧困線ではなく、 国別の国内貧困線を用いる方法も存在する 6) 。これは、国際間比較には向かないもの の、一国内分析として、途上国の各国固有の経済社会状況を反映し、各国の生活必需 品の物価などが考慮されている。本分析では、国際貧困線を利用するものの、国内貧 困線で考慮される生活必需品の実質物価について、将来の不確実性を考慮した。すな わち、将来の最低限な生活レベルに要する所得は不確実性が大きく、将来における貧 困線は上昇する可能性もあると考えた。本分析では、貧困線に関して、感度分析とし て 、現 在 の 貧 困 線 か ら 変 化 し な い 場 合 と 、変 化 す る 場 合 を 分 析 し た 。後 者 の 場 合 に は 、 2050 年 頃 ま で 中 長 期 的 に 食 糧 や エ ネ ル ギ ー 等 の 実 質 価 格 の 上 昇 に 伴 っ て 、 最 低 限 な 生 活レベルに要する所得が上昇し、貧困線が上昇する可能性がある点を考慮した。ここ では、生活必需品の実質物価として、石油実質価格を対象とした。貧困線が変化する 場 合 に 関 し て は 、シ ナ リ オ A の 石 油 実 質 価 格 (第 5 章 の DNE21+ モ デ ル の 想 定 )に 注 目 し て、それに応じて貧困線が変動すると仮定した。ここでは、石油実質価格に対して貧 困 線 が 弾 性 値 1. 0、 0 . 5 で そ れ ぞ れ 変 動 す る ケ ー ス を 想 定 し た 。 - 286 - 図 5.4 -1 に は 、シ ナ リ オ A の 20 30 年 と 2 050 年 の 地 域 別 貧 困 人 口 の 推 計 を 貧 困 線・ ジ ニ 係 数 想 定 別 に 示 し た 。 図 5. 4 -2 に は 、 シ ナ リ オ A の 203 0 年 と 205 0 年 の 主 要 地 域 の貧困人口割合の推計を貧困線・ジニ係数想定別に示した。 2000 年 時 点 で は 、世 界 の 貧 困 人 口 は 約 1 6 億 人 (世 界 の 貧 困 人 口 割 合 は 約 26 % )で あ り 、 中 国 や イ ン ド 、 サ ブ サ ハ ラ ・ ア フ リ カ 地 域 (図 中 の 南 東 部 ア フ リ カ と 南 西 部 ア フ リ カ ) が 大 き な シ ェ ア を 占 め て い る 。 20 30 年 に は 、 世 界 の 貧 困 人 口 は 約 3~11 億 人 (世 界 の 貧 困 人 口 割 合 は 約 4~ 13 % )と 推 計 さ れ 、貧 困 線・ジ ニ 係 数 の 想 定 に よ ら ず 、中 国 や イ ン ド 、 アフリカ以外の途上国の貧困人口は大幅に縮小すると推計される。これは、特に中国 やインドでは、人口はやや増加するものの、その増加率を上回る成長率で経済発展が 着 実 に 進 展 し 、 平 均 所 得 が 向 上 す る た め と 考 え ら れ る 。 一 方 、 203 0 年 に お い て も 、 未 だ に サ ブ サ ハ ラ ・ ア フ リ カ 地 域 の 貧 困 人 口 は 大 き い と 推 計 さ れ る 。 20 30 年 に お け る こ れ ら の 傾 向 は 、P B L5 )と ほ ぼ 同 様 の 傾 向 を 示 し て い る 。貧 困 線 が 基 準 年 固 定 、石 油 価 格 弾 性 値 0 .5 、 1. 0 で 変 動 す る と 想 定 し た 場 合 に 、 サ ブ サ ハ ラ ・ ア フ リ カ 地 域 の 貧 困 人 口 は 20 00 年 比 で そ れ ぞ れ 0. 6~0. 9、1. 2~1. 3、1 .7~1. 8 倍 に 増 加 す る 。こ れ は 、サ ブ サ ハ ラ ・ アフリカでは今後も急速に人口は増大し、貧困線が石油価格とともに上昇すると想定 した場合には、貧困を克服するほどには経済発展が進展しないためと考えられる。 2050 年 に は 、世 界 の 貧 困 人 口 は 約 1~8 億 人 (世 界 の 貧 困 人 口 割 合 は 約 1~9 % )と 推 計 さ れ 、 サ ブ サ ハ ラ ・ ア フ リ カ に お い て も 経 済 発 展 が 若 干 進 展 し 、 203 0 年 と 比 較 す る と サ ブサハラ・アフリカの貧困人口は減少すると推計される。ただし、貧困線が石油価格 に 連 動 し て 上 昇 す る 場 合 に は 、 205 0 年 の サ ブ サ ハ ラ ・ ア フ リ カ に は 、 20 00 年 比 と 同 等 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 南西部アフリカ 南東部アフリカ インド 2000 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 中国 ジニ係数 基準年値固定 貧困人口(百万人) 以上の貧困人口が未だに存在すると推計される。 基準年固定 石油価格連動(σ=0.5) 石油価格連動(σ=1.0) 基準年固定 石油価格連動(σ=0.5) 石油価格連動(σ=1.0) 貧困線 貧困線 貧困線 貧困線 貧困線 貧困線 2030 2050 図 5. 4-1 シ ナ リ オ A の 54 地 域 別 の 貧 困 人 口 注 :地 域 区 分 は DNE21+モ デ ル の 世 界 54 地 域 に 準 拠 す る 。 - 287 - Other E.Europe Other Annex I of East Europe OECD E.Europe Other FUSSR Kazakhstan Belarus Other Annex I of FUSSR Russia Other South America Paraguay et al. Venezuela et al. Brazil Other Central America Mexico Other S.S.Africa South East Africa South Africa North Africa Turkey Other Middle East Bahrain et al. Saudi Arabia Iran Other Asia Myanmar Pakistan et al. India Chinese Taipei Brunei Philippines Thailand Indonesia Malaysia et al. Korea Viet Nam et al. North Korea et al. China Other Oceania 50 China 40 India 30 South East Africa 20 Other S.S.Africa 10 世界平均 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 0 ジニ係数 基準年値固定 貧困人口割合 (% of population) 60 基準年固定 石油価格連動(σ=0.5) 石油価格連動(σ=1.0) 基準年固定 石油価格連動(σ=0.5) 石油価格連動(σ=1.0) 貧困線 貧困線 貧困線 貧困線 貧困線 貧困線 2000 2030 図 5. 4-2 2050 シナリオ A の主要地域の貧困人口割合 2030 年 頃 に は ジ ニ 係 数 の 想 定 よ り も 貧 困 線 の 想 定 が 貧 困 人 口 に 影 響 を 与 え る 傾 向 に あ る が 、 205 0 年 頃 に は ジ ニ 係 数 と 貧 困 線 の 両 者 の 想 定 が と も に 貧 困 人 口 に 影 響 を 与 え る傾向にあると推計される。持続可能な発展の観点から、世界の貧困縮小にとって、 サブサハラ・アフリカの平均所得を向上させる経済発展政策が重要であるとともに、 地域内の所得格差や最低限の生活レベルを表す貧困線に対する政策も非常に重要であ ることが示唆される。 次に、シナリオ B に対応する貧困人口を同様に推計した。第 3 章の叙述的シナリオ に示されるように、シナリオ A に比較してシナリオ B では経済発展がより進展するも のの国内格差が拡大する傾向にある。ここでは、シナリオ B では、将来のジニ係数の 推 移 に 関 し て 、2 050 年 に 基 準 年 値 + 10% 、+20% ポ イ ン ト に そ れ ぞ れ 収 束 す る 場 合 (た だ し 、 国 別 パ ネ ル デ ー タ の ジ ニ 係 数 最 高 値 0 .74 を 超 え な い と 想 定 )を 想 定 し た 。 図 5 .4 -3 に は 、シ ナ リ オ A、B の 203 0 年 と 2 050 年 の 地 域 別 貧 困 人 口 の 推 計 を 貧 困 線・ ジ ニ 係 数 想 定 別 に 示 し た 。図 5.4 -4 に は 、シ ナ リ オ A、B の 2 03 0 年 と 20 50 年 の 主 要 地 域 の 貧 困 人 口 割 合 の 推 計 を 貧 困 線 ・ジ ニ 係 数 想 定 別 に 示 し た 。シ ナ リ オ A に 比 較 し て 、 シナリオ B では各国ともに経済成長がより進展するが、一方で国内経済格差はより拡 大するために、貧困に対する両者の効果が打ち消され、貧困人口の多いサブサハラ・ アフリカ地域では、シナリオ B の貧困人口はシナリオ A とそれほど大きな差異はない 可能性があると推計される。 - 288 - 南西部アフリカ 南東部アフリカ インド シナリオA シナリオ B シナリオB シナリオA シナリオ B シナリオA シナリオB 石油価格連動(σ=1.0) 基準年固定 石油価格連動(σ=1.0) 貧困線 貧困線 貧困線 貧困線 2030 図 5. 4-3 ジニ係数 「(基準年値)+0.2」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)+0.2」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 シナリオA 基準年固定 2000 2050 Other E.Europe Other Annex I of East Europe OECD E.Europe Other FUSSR Kazakhstan Belarus Other Annex I of FUSSR Russia Other South America Paraguay et al. Venezuela et al. Brazil Other Central America Mexico Other S.S.Africa South East Africa South Africa North Africa Turkey Other Middle East Bahrain et al. Saudi Arabia Iran Other Asia Myanmar Pakistan et al. India Chinese Taipei Brunei Philippines Thailand Indonesia Malaysia et al. Korea Viet Nam et al. North Korea et al. China Other Oceania シ ナ リ オ A と シ ナ リ オ B の 54 地 域 別 の 貧 困 人 口 60 50 40 30 20 10 0 China India South East Africa シナリオA 2000 シナリオ B シナリオA シナリオB シナリオA 基準年固定 石油価格連動(σ=1.0) 基準年固定 貧困線 貧困線 貧困線 2030 図 5. 4-4 シナリオ B シナリオA ジニ係数 「(基準年値)+0.2」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)+0.2」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 Other S.S.Africa ジニ係数 基準年値固定 貧困人口割合 (% of population) ジニ係数 基準年値固定 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)+0.1」に収束 ジニ係数 「(基準年値)-0.1」に収束 中国 ジニ係数 基準年値固定 貧困人口(百万人) 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 世界平均 シナリオB 石油価格連動(σ=1.0) 貧困線 2050 シ ナ リ オ A、 B の 主 要 地 域 の 貧 困 人 口 割 合 参 考 文 献 ( 第 5. 4 節 に 関 す る も の ) 1) R ITE; 脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 的 発 展 可 能 な 経 済 社 会 実 現 の た め の 対 応 戦 略 の 研 究 平 成 2 1 年 度 成 果 報 告 書 (2 010 ) 2) R ITE; 脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 的 発 展 可 能 な 経 済 社 会 実 現 の た め の 対 応 戦 略 の 研 究 平 成 2 0 年 度 成 果 報 告 書 (2 009 ) 3) 内 閣 府 、 世 界 経 済 の 潮 流 2010 、 h t t p : / / w w w 5 . c a o . g o . j p / j - j / s e k a i _ c h o u r y u u / s h 1 0 - 0 1 / i n d e x . h t m l 4) S.Chen , M. Ra va llion “The de ve lop ing wo rld is po orer tha n we th o ugh t, bu t no le ss suc ce ssfu l in the figh t ag ainst po ve rty” , U N P olic y Re se arch Work in g P ap er 4 703 (20 08) - 289 - 5) P BL, To wa rd s a g lob al in teg rated sustainab ility mo de l: G ISMO1. 0 statu s re po rt, P B L rep ort 550 025 002 (2 00 8) 6) World Bank , Wo rld de velo p men t in d ica to rs, (2 010 ) 5.5 温暖化による健康影響 5.5.1 は じ め に 温暖化による健康への影響として、マラリアや下痢の増加、対流圏オゾンなど大気 質の変化による循環器・呼吸器疾患の増加、熱波、洪水、嵐、火事に関する病気や損 傷の増加があげられ、主として途上国の乳幼児や老人などで悪影響が大きいと予測さ れている 1) 。但し、これらの疾病は、低栄養や不安全な水など、温暖化以外の要因の 影響も大きいことが指摘されている 2) 。 そ こ で 、 A LP S プ ロ ジ ェ ク ト で は 、 温 暖 化 以 外 の要因の変化も考慮した温暖化影響評価に向け、モデルの構築を行ってきた 3) 。ここ で は 、そ の プ ロ ト タ イ プ モ デ ル を 用 い 、A LP S シ ナ リ オ A に つ い て 、地 域 別 、年 齢 別 に 評価した温暖化の健康影響シナリオについて述べる。 5.5.2 シ ナ リ オ 策 定 の 方 法 シ ナ リ オ 策 定 に 用 い た モ デ ル は 、 WHO に よ る 200 4 年 の 地 域 別 、 年 齢 別 、 性 別 、 疾 病 別 の 死 亡 者 数 に 対 し 、 世 界 に 蔓 延 す る 24 種 の リ ス ク 因 子 の 寄 与 度 2) に基づくもので あり、リスク因子の将来の寄与度がシナリオに沿って変化すると想定したものである ( モ デ ル の 詳 細 は H2 1 年 度 報 告 書 3) 参 照 )。図 5 .5. 2 -1 に 、リ ス ク 因 子 の 疾 病 別 死 亡 者 数 への寄与度について整理した例を示す。例えば、マラリアによる死亡について、その 5.4%は 低 体 重 、 9.3% は 亜 鉛 欠 乏 、 2.8%は 気 候 変 動 と い う 各 リ ス ク に 起 因 し て い る 、 と い う こ と を 意 味 し て い る 。こ こ で 、24 種 の リ ス ク 因 子 は 、(i)世 界 的 に ま ん 延 し て い る 、 (ii)そ の リ ス ク に 曝 さ れ て い る 人 口 と そ の う ち 死 亡 あ る い は 障 害 に 繋 が っ た 人 口 の 推 計 に 必 要 な デ ー タ が あ る 、そ し て 、(iii)そ の リ ス ク を 取 り 除 い た 場 合 の 効 果 の ポ テ ン シ ャ ルが分かっているものに限られる。従って、薬剤耐性菌の出現等、重要なリスクであ っ て も 、 上 記 条 件 に 当 て は ま ら な い リ ス ク は 含 ま れ て い な い 。な お 、文 献 2 )に よ る と 、 気候変動リスクが寄与する疾病は、各種感染症と不慮の事故に限られ、循環器・呼吸 器 疾 患 へ の 寄 与 は 取 り 上 げ ら れ て い な い 。 こ れ は 、「 気 候 変 動 が 、 熱 ス ト レ ス に よ る 死 亡 を ど の 程 度 の 期 間 ( 2∼ 3 週 間 、 も し く は 数 年 )、 早 め る 又 は 遅 ら せ る か 不 明 で あ り 、 他 の リ ス ク の 分 析 条 件 と 整 合 し な い 。」 と い う 理 由 に よ る も の で あ る 2) 。このため、本 モ デ ル の 評 価 で は 、 文 献 1 )の よ う に 、 温 暖 化 に よ っ て 循 環 器 ・ 呼 吸 器 疾 患 が 増 加 す る という影響は算出されない。これについては、他の文献等も比較しながら、検討する 余地があると考えられる。 - 290 - 図 5. 5.2 -1 リ ス ク 因 子 の 疾 病 別 死 亡 者 数 へ の 寄 与 度 [%] ( 2 0 0 4 年 、 ア フ リ カ 、 0 − 4 歳 、 男 子 の 死 亡 者 数 に つ い て 整 理 表 よ り 抜 粋 ) リスク 1 2 3 4 5 6 7 小 児期 と母 体の 低栄 養 低体重 9 10 11 12 13 ビタミ 亜鉛欠乏 次善授乳 ンA欠乏 高血圧 高コレスト 高血糖 ロール 過体重・ 肥満 14 15 依存 症 果物・野 運動不足 菜不足 たばこ 16 17 18 19 性・ 生殖 20 21 22 環境 アルコー 不安全な 避妊具の 不安全な 都市大気 固体燃料 非法薬物 ル 性行為 普及不足 水・衛生 汚染 の屋内煙 23 職業 鉛汚染 気候変動 24 注射 ・ 児童 虐待 24個のリ 健康管理 職業上の 児童性的 スク計 欠如の注 リスク 虐待 射 疾患 U000 U001 U002 U003 U004 U005 U006 U007 U008 U009 U010 U011 U012 U013 U014 U015 U016 U017 U018 U019 U020 U021 U022 U023 U024 U025 U026 U027 U028 U029 U030 U031 U032 U033 U034 U035 U036 U037 U038 U039 U040 U041 U042 1.感 染症 、産 科 、周 産期 、栄 養障 害 感 染・ 寄生 虫症 結核 HIV以外の性行為感染症 梅毒 クラミジア 淋病 その他の性行為感染症 HIV/AIDS 下痢 小児疾患 百日咳 ポリオ ジフテリア 麻疹 破傷風 髄膜炎 B型肝炎 C型肝炎 マラリア 熱帯病 トリパノソーマ症 シャーガス病 住血吸虫症 リーシュマニア症 リンパ管フィラリア症 回旋糸状虫症 ハンセン病 デング熱 日本脳炎 トラコーマ 腸内線虫感染症 回虫症 鞭虫症 鉤虫症 その他の腸管感染症 その他の感染症 呼 吸器 感染 症 下部呼吸器感染症 上部呼吸器感染症 中耳炎 妊 婦の 病気 U049 U050 U051 U052 U053 U054 U055 U056 U057 U058 U059 U060 U061 U062 U063 U064 U065 U066 周 産期 の病 気 未熟児・低体重児 出産時仮死・出産時外傷 新生児感染症 他 栄 養障 害 たんぱく質-エネルギー欠乏 ヨウ素欠乏 ビタミンA欠乏 鉄欠乏性貧血 その他の栄養障害 Ⅱ. 非感 染症 悪 性腫 瘍 口腔咽頭 食道 胃 大腸・直腸 肝臓 膵臓 U148 Ⅲ. 損 傷 U156 U157 U158 U159 U160 鉄欠乏 8 他 の栄 養関 連と 身体 活動 故 意の 事故 自殺 暴力 戦争・内戦 その他の故意的事故 - - - - - - 40.2 46.5 40.9 46.3 41.8 38.5 41.3 30.5 40.4 42.2 45.7 45.5 5.4 42.9 46.0 42.5 50.1 40.2 26.2 46.0 43.7 25.5 44.3 42.1 - - - - 19.5 14.0 - 14.4 9.3 7.7 - 27.3 14.4 - - - - - - - - - - - - - - - - 100.0 100.0 100.0 - - 89.1 - 1.1 0.9 0.6 - 52.6 - - 0.4 0.5 0.4 2.7 0.4 0.4 0.4 0.3 0.4 0.4 0.5 0.5 2.8 0.4 0.5 0.4 0.5 0.4 0.3 0.5 0.4 0.3 0.4 0.4 - - 11.3 17.4 - - 40.5 0.0 100.0 0.0 0.0 100.0 100.0 97.1 0.0 42.0 38.7 41.5 40.4 40.6 42.4 52.0 55.2 16.6 0.0 43.1 0.0 46.3 42.8 50.3 0.0 0.0 40.4 0.0 0.0 0.0 26.4 0.0 46.3 0.0 43.9 72.5 45.0 42.7 - 0.3 2.8 1.9 100.0 - - 12.5 12.6 100.0 - - 34.8 - - - - - - - - 0.5 - - - - - - - - 0.0 0.0 0.0 1.0 - - - - 13.2 2.9 44.1 100.0 0.0 100.0 0.0 0.0 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 8.4 - - 0.0 0.0 0.0 0.0 8.4 0.0 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 10.7 - - - - - - - - - - - - 0.0 10.7 0.0 0.0 - 291 - - - - - - - - - - - - 本 分 析 で は 、 前 述 し た 2 4 種 の リ ス ク 因 子 の う ち 、「 気 候 変 動 」 や 「 固 体 燃 料 に よ る 屋 内 煙 」、「 不 安 全 な 水 ・ 衛 生 」 な ど 環 境 に 関 す る リ ス ク 因 子 、 及 び 、 こ れ ら の 環 境 に 関するリスク因子と同時に影響を及ぼす可能性が高いとみられる小児期と母体の低栄 養に関する 5 つのリスク因子、計 8 つのリスク因子に着目し、そのリスク因子の疾病 死 亡 へ の 寄 与 度 が シ ナ リ オ に 沿 っ て 、以 下 の よ う に 変 化 す る と 仮 定 し た 。な お 、( 5 .5 -1) 式 、(5. 5 -2)式 の 想 定 は 、あ く ま で 仮 定 の も の で あ り 、具 体 的 な 関 連 性 に つ い て は 、今 後 検討予定である。 • 小 児 期 と 母 体 の 低 栄 養 に 関 す る 5 つ の リ ス ク 因 子 と 「 不 安 全 な 水 ・ 衛 生 」、「 固 体 燃 料 の 屋 内 煙 」 の リ ス ク 因 子 の 将 来 時 点 ( t) で の 寄 与 度 ( PAFdr _ t ) は 、 所 得 向 上 に よ り (5.5 -1 )式 の よ う に 減 少 す る 。 PAFdr _ t = PAFdr _ 2004 × GDP2004 GDPt (5. 5 -1) • 「 気 候 変 動 」 リ ス ク 因 子 は 、 全 球 平 均 気 温 上 昇 ( 19 61 -199 0 年 平 均 比 ) に 応 じ て 、 寄 与 度 が (5 .5 -2 )式 の よ う に 増 加 す る 。 PAFdr _ t = PAFdr _ 2004 × ΔTt ΔT2004 表 5 .5. 2 -1 は 、WHO の 世 界 6 地 域 区 分 (5. 5 -2) 2) と 、 モ デ ル 分 析 に お け る 世 界 18 地 域 区 分 と の 対 応 を 示 し て い る 。 以 降 の 文 章 で 、 例 え ば 、 ア フ リ カ と は 、 18 地 域 区 分 の 南 東 部 ア フ リ カ 、 南 西 部 ア フ リ カ を 意 味 す る ( な お 、 WHO の ア フ リ カ と 本 分 析 で の ア フ リ カ で は 、 含 ま れ る 国 が 完 全 に 一 致 せ ず 、 従 っ て 、 人 口 等 が 多 少 異 な る こ と が あ る )。 表 5. 5.2 -1 WH O の 6 地 域 区 分 WHO に よ る 世 界 6 地 域 区 分 と 本 分 析 で の 対 応 地 域 本分析での対応地域* AF R アフリカ 南東部アフリカ、南西部アフリカ AMR アメリカ 米国、カナダ、中米、ブラジル、その他南米 EMR 東地中海 北アフリカ・中東、南アジア(インド除く) EUR ヨーロッパ 西欧、ロシア、東欧・旧ソ連(ロシア以外) S E AR 東南アジア 東南アジア、インド WP R 西太平洋 日本、中国、東アジア(中国以外)、オセアニア * 第 6 章 SD 指 標 に よ る 評 価 の 18 地 域 区 分 5.5.3 死 亡 率 ・ 死 亡 者 数 に 関 す る 暫 定 的 シ ナ リ オ 図 5 .5. 3 -1 は 、 20 00 年 と 205 0 年 の ベ ー ス ラ イ ン 、 半 減 ケ ー ス に つ い て 、 地 域 別 、 年 齢 別 に 算 定 し た 死 亡 率 で あ る 。 図 に よ る と 、 ど の 地 域 も 2000 年 に 、 5 歳 未 満 児 は 感 染 症 に よ る 死 亡 率 が 高 く 、 65 歳 以 上 は 呼 吸 器 ・ 循 環 器 疾 患 に よ る 死 亡 率 の 高 い こ と が 分 - 292 - かる。地域間を比較すると、中でも、アフリカ地域の 5 歳未満児の感染症死亡率が、 ア メ リ カ 地 域 の 約 10 倍 と 高 い こ と が 目 立 つ 。2 050 年 に は ベ ー ス ラ イ ン 、半 減 ケ ー ス と も 、 2 000 年 に 比 べ 、 5 歳 未 満 児 の 感 染 症 、 65 歳 以 上 の 呼 吸 器 ・ 循 環 器 疾 患 の 死 亡 率 が 低 減 す る 。 こ れ は 、 一 人 当 た り GDP の 向 上 に 伴 い 、 小 児 期 と 母 体 の 低 栄 養 に 関 す る 5 つ の リ ス ク 因 子 と 、「 不 安 全 な 水 ・ 衛 生 」、「 固 体 燃 料 の 屋 内 煙 」 の リ ス ク が 低 減 す る と 想 定 し た こ と に よ る 。 2050 年 の ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス で は 、 半 減 ケ ー ス の 方 が 各 年齢の死亡率がわずかに低減する。これは、温暖化の影響が低減されることによる。 な お 、 こ の よ う な 、 一 人 当 た り GDP の 向 上 や 温 暖 化 抑 制 に よ る リ ス ク 低 減 の 程 度 は 、 (5. 5 -1)式 と (5 .5 -2 )式 の 仮 定 に 依 存 し て お り 、効 果 を 比 較 で き る よ う な 精 度 は 備 え て い な い。しかしながら、今回の評価によって、小児期と母体の低栄養に関するリスクや、 不 安 全 な 水 等 の リ ス ク を 低 減 す る こ と に よ っ て 、5 歳 未 満 児 感 染 症 等 に よ る 死 亡 率 を 大 幅に低減できる可能性が示され、すなわち、それだけ、適応の余地も大きい事が示唆 0-4歳 5-64歳 65歳以上 図 5. 5.3 -1 0-4歳 5-64歳 65歳以上 その他 循環器疾患、 呼吸器疾患 感染症 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 0-4歳 5-64歳 65歳以上 西太平洋 8 7 6 5 4 3 2 1 0 その他 循環器疾患、 呼吸器疾患 感染症 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 死亡率(千人/10万人) 東南アジア 8 7 6 5 4 3 2 1 0 東地中海 8 7 6 5 4 3 2 1 0 5-64歳 65歳以上 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 死亡率(千人/10万人) ヨーロッパ 8 7 6 5 4 3 2 1 0 0-4歳 5-64歳 65歳以上 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 死亡率(千人/10万人) 0-4歳 アメリカ 8 7 6 5 4 3 2 1 0 死亡率(千人/10万人) 死亡率(千人/10万人) アフリカ 8 7 6 5 4 3 2 1 0 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 2000年 2050年Aベ 2050年A半 死亡率(千人/10万人) された。 0-4歳 5-64歳 65歳以上 200 0 年 と 20 50 年 の 死 亡 率 図 5 .5. 3 -2 は 、 シ ナ リ オ A ベ ー ス ラ イ ン の 2050 年 の 死 亡 者 数 を 、 半 減 ケ ー ス の 死 亡 者数と暫定的に比較したものである。今回の前提条件のもとでは、温暖化をベースラ インから半減ケースまで抑制することにより、アフリカや東南アジア、東地中海をは じ め 、 世 界 全 体 で 死 亡 者 数 が 20 万 人 余 り 低 減 さ れ る と い う 結 果 が 得 ら れ た 。 - 293 - その他 循環器疾患、 呼吸器疾患 アフリカ 図 5. 5.3 -2 アメリカ 東地中海 ヨーロッパ 東南アジア 65歳以上 5-64歳 0-4歳 65歳以上 5-64歳 0-4歳 65歳以上 5-64歳 0-4歳 65歳以上 5-64歳 0-4歳 65歳以上 5-64歳 0-4歳 65歳以上 5-64歳 感染症 0-4歳 ベースラインの死亡者数 (対半減ケース )[千人] 80 70 60 50 40 30 20 10 0 西太平洋 ALP S シ ナ リ オ A ベ ー ス ラ イ ン の 205 0 年 の 死 亡 者 数 推 計 値 ( 対 半 減 ケ ー ス の 20 5 0 年 の 死 亡 者 数 推 計 値 ) 5.5.4 ま と め A LP S プ ロ ジ ェ ク ト で 構 築 中 の 、 温 暖 化 影 響 評 価 に 関 す る プ ロ ト タ イ プ モ デ ル を 用 い 、 A LP S -A シ ナ リ オ ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス の 20 50 年 の 地 域 別 、 年 齢 別 、 疾 病 別 死 亡 率 、 死 亡 者 数 を 暫 定 的 に 推 計 し た 。 そ れ に よ る と 、 2 050 年 に は ベ ー ス ラ イ ン 、 半 減 ケ ー ス と も 、 2 000 年 に 比 べ 、 主 と し て 途 上 地 域 で の 死 亡 率 が 低 減 す る 。 こ れ は 、 一 人 当 た り GDP の 向 上 に 伴 い 、 小 児 期 と 母 体 の 低 栄 養 に 関 す る リ ス ク や 、 不 安 全 な 水 ・ 衛 生 、 固 体 燃 料 の 屋 内 煙 の リ ス ク が 低 減 す る と 想 定 し た こ と に よ る 。 2050 年 の ベ ー ス ラインと半減ケースでは、半減ケースの方が温暖化の影響が抑制され、死亡率がわず かに低減する。このような死亡率低減効果の大きさは、パラメータ設定の論理性を今 後検討する必要があり、あくまで暫定的なものである。しかしながら、特に途上国で は、温暖化に対する適応の余地も大きい事が示唆された。 参 考 文 献 ( 5. 5 節 分 ) 1) IPCC WGII:Impacts, Adaptation and Vulnerability (2007) 2) WHO: Global health risks, mortality and burden of disease attributable to selected major risks (2009), (http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/global_health_risks/en/index.html). 3) (財)地球環境産業技術研究機構:脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦略 の研究 平成 21 年度成果報告書 (2010). - 294 - 5.6 食料需給と農業土地利用 5.6.1 はじめに 本 節 で は 、 4 .2 節 で 開 発 し た 農 業 土 地 利 用 モ デ ル を 用 い 、 A LP S シ ナ リ オ A,B に 沿 っ た 社 会 経 済 シ ナ リ オ ( 5. 2 節 で 記 載 ) 下 で 想 定 さ れ る 食 料 需 要 量 シ ナ リ オ と そ の 生 産 の た め の 土 地 利 用 に つ い て 記 述 す る 。 こ こ で 、 食 料 需 要 量 シ ナ リ オ に つ い て は 、 5. 6. 2 節 に述べるように、地域による違い、経済成長に伴う食の嗜好の変化、及び、飼料需要 量の変化を考慮した。食料生産量については、土地利用を考慮しつつ需要量を満たす だけ生産するとし、供給不足が生じることは想定していない。そこで、需要を満たす た め に 必 要 な 作 付 面 積 に つ い て 、温 暖 化 の 影 響 と 適 応 を 考 慮 し た シ ナ リ オ を 策 定 し た 。 5.6.2 食 料 需 要 量 図 5 .6. 2 -1 は 、 世 界 主 要 地 域 の 一 人 一 日 当 た り の 食 料 需 要 量 と 、 一 人 当 た り GDP の 関 係 を 示 し た も の で あ る 。 図 か ら 、 一 人 当 た り GDP が 増 加 す る と 一 人 一 日 当 た り の 食 料 需 要 量 も 増 加 す る 傾 向 が み ら れ る も の の 、 例 え ば 、 2005 年 に 米 国 の 一 人 一 日 当 た り の 食 料 需 要 量 が 3 850 [kc a l/ pe rs on /da y]で あ る の に 対 し 、 日 本 で は 27 40 [kc al/pe rso n /d a y] と 2) 、 一 人 当 た り GDP 以 外 に 、 地 域 に よ る 違 い が あ る と い え る 。 な お 、 両 国 の こ の 値 は 、主 と し て 途 上 国 を 対 象 に FAO が 算 定 し た 生 活 に 必 要 な 最 低 熱 量( MDER : Min imu m Die ta r y E ne rg y Req ui re men t)の 2 004 -2 006 年 値 、途 上 国 平 均 値 182 5[k ca l/pe r son /d a y]( 最 低 値 1680 [k ca l/pe rson /da y]、最 高 値 19 90 [kc a l /pe r son /d a y])を 上 回 る も の で あ る( MDER に つ い て は 、4. 2.2 節 に 記 載 )。米 国 な ど で は 、肥 満 が 健 康 問 題 に な っ て き て い る こ と を 鑑 み る と 、 こ の 先 は 、 一 人 当 た り GDP が 上 昇 し て も 、 一 人 当 た り の 需 量 が 伸 び 続 け る こ と は な く 、 あ る 程 度 の 量 で 頭 打 つ と 考 え ら れ る 。 そ こ で 、 A LP S プ ロ ジ ェ ク ト で は 、 一 人 一 日 当 た り の 食 料 需 要 量 が 一 人 当 た り GDP に 伴 っ て 増 加 し 、 あ る 程 度 の 値 で 飽 和 する関数を想定し 1) 、過 去 約 4 0 年 間 統 計 値 2) よ り 、世 界 32 地 域 別 に 回 帰 関 数 を 推 定 し た 。図 5 .6. 2 -1 の 点 線 は 、そ の 地 域 別 回 帰 関 数 に 基 づ い て 算 定 し た 将 来 シ ナ リ オ で あ る 。 ある程度の値で飽和すると想定しているため、一人一日当たりの食料需要量は、シナ リ オ A と B で 大 差 が な い 。 こ の た め 、 全 人 口 分 の 需 要 量 は 図 5.6. 2 -2 に 示 す よ う に 、 主 と し て 人 口 シ ナ リ オ に 依 存 し 、 シ ナ リ オ A の 方 が 高 く 算 定 さ れ た 。 過 去 、 1961 -1 990 年 の 間 は 年 率 2 .5 % 、 199 0 -200 5 年 の 間 は 年 率 1 .7 % で 食 料 需 要 が 増 大 し て き た が 、 2005 -20 50 年 の 間 は 、シ ナ リ オ A で は 年 率 0.8%、シ ナ リ オ B で は 年 率 0 .7%の 増 大 と 算 定され、食料需要の増大率は徐々に低下する傾向をたどると推定されている。 - 295 - (1 ) A LPS -シ ナ リ オ A 図 5. 6.2 -1 ( 2) ALP S- シ ナ リ オ B 主要地域の一人一日当たり食料需要量 ( 実 線 は 1961 年 ∼ 2005 年 の 統 計 値 2) 、 点 線 は 2100 年 ま で の シ ナ リ オ ) 30,000 シナリオ 25,000 20,000 15,000 10,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 0 (1) 1961 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 5,000 1961 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 需要慮(109 kcal day-1) シナリオ 需要量(109 kcal day-1) 30,000 ALP S-シ ナ リ オ A 図 5. 6.2 -2 (2) オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 ALPS -シ ナ リ オ B 需 要 量 (カ ロ リ ー ベ ー ス ) 図 5.6 .2 -3 に 「 穀 物 ・ 野 菜 」、「 砂 糖 ・ 甘 味 料 」、「 植 物 油 」、「 動 物 性 食 品 」 に 換 算 し た 需 要 量 を 、 ま た 、 図 5.6. 2 -4 に 、 そ れ ら の シ ェ ア を 示 す 。「 砂 糖 ・ 甘 味 料 」、「 植 物 油 」、 「 動 物 性 食 品 」食 品 の シ ェ ア は 、一 人 一 日 当 た り の 食 料 需 要 量 と 同 様 、一 人 当 た り GDP の 向 上 に 伴 っ て 増 加 し 、あ る 程 度 の 値 で 飽 和 す る よ う な 回 帰 関 数 を 世 界 3 2 地 域 別 に 推 計しておき 1) 、 そ の 関 数 に 基 づ い て 算 定 し た 。 図 5. 6.2 -4 よ り 、 シ ナ リ オ A 、 B と も 動 物 性 食 品 の 重 量 ベ ー ス シ ェ ア は 、200 0 年 に 30 %で あ る が 、21 0 0 年 に は 40%ま で 増 加 す るシナリオになっている。 - 296 - (1) ALP S-シ ナ リ オ A (2) 図 5. 6.2 -3 (1) 需 要 量 (重 量 ベ ー ス ) ALP S-シ ナ リ オ A 図 5. 6.2 -4 ALPS -シ ナ リ オ B (2) ALPS -シ ナ リ オ B 需要量の重量ベースシェア ( 1960∼ 2000 年 統 計 値 2) 、 2010 年 以 降 が シ ナ リ オ ) 図 5 .6. 2 -5 に 、一 次 農 産 品( 以 下 、簡 単 に 作 物 と 呼 ぶ )の 需 要 量 を 示 す 。こ こ で 、 「砂 糖 ・ 甘 味 料 」、「 植 物 油 」 は そ の 原 料 作 物 需 要 量 に 、「 動 物 性 食 品 」 は 飼 料 用 作 物 需 要 量 に 換 算 し て あ る 。 飼 料 用 作 物 の 換 算 パ ラ メ ー タ は 平 成 21 年 度 報 告 書 の 値 1) を用いた。 図 よ り 、 作 物 需 要 量 は 重 量 ベ ー ス で 、 21 0 0 年 に 20 00 年 の 1.6 倍 ( シ ナ リ オ A)、 1. 4 倍 ( シ ナ リ オ B) と 算 定 さ れ た 。 - 297 - 10,000 作物需要量 (106 ton) 8,000 6,000 4,000 2,000 Others Rapeseed 8,000 Oil palm fruits Soybean 6,000 Sugarcane 4,000 Maize 2,000 0 Rice Wheat 年 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2000 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 0 2010 作物需要量 (106 ton) 10,000 年 図 5. 6.2 -5 作物需要量 (カロリーベース需要量から算出した値。流通過程ロス、種需要の想定値を含む。 (「 Othres」 以 外 の 7 作 物 に つ い て は 2000 年 値 が 統 計 値 2) と合うように調整済) 5.6.3 食 料 生 産 に 必 要 な 面 積 の 温 暖 化 影 響 と 適 応 5.6. 2 節 で 述 べ た 作 物 需 要 量 を 満 た す た め に 必 要 な 作 付 面 積 は 、4.2 節 の 農 業 土 地 利 用 モデルで算定した。すなわち、シナリオに沿った作物生産性向上や、温暖化による作 物 生 産 ポ テ ン シ ャ ル へ の 影 響 を 考 慮 し た も の で あ る 。 シ ナ リ オ A、B に 対 し て 想 定 し た 作 物 生 産 性 は 4. 2.3 (3 )節 、 気 候 変 動 シ ナ リ オ は 4.2 .3 (8 )② 節 の 通 り で あ る 。 図 5.6 .3 -1 に シ ナ リ オ A ベ ー ス ラ イ ン の 土 地 利 用 面 積 と 作 付 面 積 の 算 定 結 果 を 示 す 。 土 地 利 用 面 積 の 図 ( 左 図 ) か ら 分 か る よ う に 、 20 00 年 時 に 耕 地 名 義 で あ り な が ら 農 作 物 が 作 付 ら れ て い な い 土 地 ( 余 剰 耕 地 ) が 400 万 [k m 2 ]程 度 存 在 す る 。 こ の よ う に 、 世 界全体でみると耕地は余っている状態であるが、地域によっては、今後の需要増加に 伴って耕地の拡大が必要、あるいは、余剰耕地があっても土壌劣化等の原因で栽培に 適さず新たな耕地が必要、という事も考えられる。そこで、本分析では、一定割合ま で は 、 耕 地 の 拡 大 が 可 能 と 想 定 し た ( 耕 地 拡 の 想 定 に つ い て は 4.2 .3 (6 )節 に 記 載 )。 さ らに、一度耕地となった土地は将来にわたり耕地名義のままであり、他の目的に転用 されることはないと想定した。このため、作付地と余剰耕地を合わせた耕地面積は、 21 世 紀 末 に 向 け 、 緩 や か に 増 加 す る と 結 果 と な っ て い る 。 図 5.6 .3 -1 の 右 図 よ り 、 作 付 面 積 は 、 205 0 年 頃 ま で 増 大 し 、 2 000 年 の 約 1. 2 倍 に な る と 算 定 さ れ た 。図 5.6. 2 -5 の 需 要 量 増 加 に 比 べ 、作 付 面 積 の 増 加 が 小 さ い の は 、需 要 増 加 を 上 回 る 生 産 性 の 向 上 ( 単 収 の 増 加 ) が 見 込 ま れ る た め で あ る 。 2050 年 以 降 は 、 生 産 性 の 向 上 と 需 要 量 増 加 鈍 化 に よ り 、作 付 面 積 は 次 第 に 減 少 す る 結 果 と な っ て い る 。 図 5 .6. 3 -2 に は 20 50 年 の 作 付 地 点 を 示 す 。 - 298 - 16,000 その他 120,000 森林 100,000 牧草地 80,000 草地 60,000 耕地(余剰耕地) 40,000 耕地(作付地) 20,000 作付面積(103km2) Others 14,000 Rapeseed 12,000 Oil palm f ruits 10,000 8,000 Soybean 6,000 Sugarcane 4,000 Maize 2,000 Rice 2100 2070 2050 2040 2030 2000 2100 2070 2050 2040 2030 2020 2010 2000 図 5. 6.3 -1 2020 0 0 2010 土地利用面積 (103 km2) 140,000 Wheat 土地利用面積(左)と作付面積(右) ( AL PS- A ベ ー ス ラ イ ン 適 応 無 ケ ー ス ) 図 5. 6.3 -2 作 物 作 付 け 地 ( ALPS -A ベ ー ス ラ イ ン 適 応 無 ケ ー ス 、 2 050 年 ) 図 5.6 .3 -3 は 、 シ ナ リ オ 間 で 作 付 面 積 を 比 較 し た も の で あ る 。 シ ナ リ オ B は A に 比 べ 、食 料 需 要 量 が 少 な く 、作 物 生 産 性 が 高 い と 想 定 し た こ と に よ り 、21 世 紀 を 通 じ て 、 シナリオ A より作付面積は小さく算定された。シナリオ A の半減ケースでは、ベース ラインに比べ、温暖化影響が抑制されるため、世界全体の作付面積は縮減される可能 性がある。但し、シナリオ A ベースラインでも、作付品種や作付時期を選ぶという適 応 策 を 導 入 す る こ と に よ っ て 、世 界 全 体 の 作 付 面 積 は 縮 減 さ れ る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 な お 、こ れ は 、世 界 の 全 地 域 で 全 作 物 に 適 応 策 が 導 入 さ れ る と 想 定 し た 結 果 で あ る が 、 現実的には、適応策導入の地域差を考慮することも今後必要と考えられる。 - 299 - 作付面積 (103 km2) 16,000 14,000 Aベース・適応無 12,000 Bベース・適応無 10,000 8,000 A半減・適応無 6,000 Aベース・適応有 (品種・時期) 4,000 2,000 図 5. 6.3 -3 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 0 シナリオによる作付面積の違い 5.6.4 ま と め 人 口 増 加 や 一 人 当 た り 摂 取 量 の 増 加 に 伴 い 、 2 050 年 に 世 界 の 食 料 需 要 は シ ナ リ オ A で 2000 年 の 1.6 倍 、 シ ナ リ オ B で 1.5 倍 ま で 増 加 す る も の の 、 引 き 続 き 単 収 の 増 大 が 見 込 ま れ る た め 、 作 付 面 積 の 増 加 は シ ナ リ オ A で 200 0 年 の 1 .2 倍 、 シ ナ リ オ B で 1.1 倍程度にとどまると予想される。 温暖化を抑制した場合、温暖化影響が緩和され、世界全体の作付面積が縮減される 可能性があるものの、仮に、温暖化を抑制しなくても、作付品種や作付時期を選ぶと いう適応策の導入によって、世界全体の作付面積は縮小される可能性が示唆された。 参 考 文 献 ( 5. 6 節 分 ) 1) (財)地球環境産業技術研究機構:脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦略 の研究 平成 21 年度成果報告書 (2010) 2) FAO:FAOSTAT (http://faostat.fao.org/site/291/default.aspx) 5.7 水需給 5.7.1 は じ め に 水は地球の陸、海、大気を循環する資源であるが、人間が利用できる水資源はその 一 部 に 限 ら れ る 。 例 え ば 、 陸 域 に 降 っ た 降 水 は 、 そ の 後 の 形 態 に よ り 、 (i) 砂 漠 、 湖 、 湿 地 か ら の 蒸 発 ( Lo ss)、 (ii)耕 地 や 森 林 で 植 物 の 成 長 に 係 る 蒸 発 散 (G ree n wa te r) 、 (iii) 地 表 面 水 、地 下 水( Blue wa te r)に 大 別 さ れ 、人 間 の 主 な 管 理 対 象 と な る 水 資 源 と は (iii) の Blue wa te r を 指 す こ と が 多 い 1) 。 本 報 告 書 4.2 .2 (4 )節 に 述 べ た 通 り 、 水 ス ト レ ス を 正 し く 評 価 す る に は 、(i)∼ (iii)の 全 て に つ い て 、温 暖 化 や 農 産 物 貿 易 、土 地 利 用 変 化 の 影 響 を 分 析 す る 必 要 が あ る 。但 し 、(i)∼ (iii)の 関 連 性 に つ い て 十 分 に 分 析 で き て い な い た め 、こ こ で は 、文 献 2 , 3)等 を 参 考 に 、年 間 の Blue wa ter に 対 し 人 間 が 直 接 利 用 す る 水 の - 300 - 割 合( 水 需 給 比 )に 着 目 し 、 「 水 需 給 比 が 0 . 4 以 上 の 流 域 に 住 む 人 口( 水 ス ト レ ス 人 口 )」 を 、 A LP S の シ ナ リ オ A,B に 対 し て 評 価 し た 。 5.7.2 水 需 要 量 と 水 資 源 量 (1) 水 ス ト レ ス 人 口 算 定 に 係 る 項 目 水 需 給 比 は 、 (5. 7 -1)式 、 (5.7 -2 )式 で 表 現 さ れ る が 、 本 研 究 で は こ の う ち 、 (5. 7 -1)式 の 流 出 量 (F) 、 と ( 5. 7 -2 ) 式 の 灌 漑 用 水 需 要 量 に お い て 、 温 暖 化 の 影 響 を 考 慮 し て い る 。 ( A LP S シ ナ リ オ A,B の 気 候 変 動 シ ナ リ オ 想 定 は 4 .2. 3(8 )② 節 参 照 ) 水 需 給 比 (R )= 取 水 量 (W) ÷ 地 表 面 水 や 地 下 水 と し て 流 出 す る 量 ( F) (5. 7 -1) W =生活用水需要量+工業用水需要量+灌漑用水需要量 −淡水化水量−再利用水量 (5. 7 -2) (2) 生 活 用 水 需 要 量 生 活 用 水 需 要 量 の 算 定 方 法 は 、平 成 21 年 度 報 告 書 4) の 通 り で 、都 市 、農 村 人 口 変 化 、 一 人 当 た り GDP 向 上 に 伴 う 一 人 当 た り の 生 活 用 水 需 要 量 増 加 、 水 ア ク セ ス 人 口 比 率 の 変 化 を 考 慮 し て い る 。 都 市 人 口 、 農 村 人 口 シ ナ リ オ は 、 5 .3. 2 節 の 通 り で あ る 。 水 ア ク セ ス 人 口 比 率 は 、 シ ナ リ オ A,B と も 世 界 32 の 全 地 域 ( 水 需 給 比 モ デ ル の 地 域 区 分 、 図 4.2. 3 -2 に 図 示 ) で 、 農 村 の 水 ア ク セ ス 人 口 比 率 が 20 50 年 に は 0 .7 を 、 同 様 に 21 0 0 年 に は 0 .9 を 上 回 る と 想 定 し た ( 想 定 方 法 は 文 献 4 )に 記 載 )。 一 人 当 た り GDP は 、 5 . 2 節 の通りである。 図 5 .7. 2 -1 に 示 す よ う に 、 シ ナ リ オ A,B と も 20 50 年 ま で に 、生 活 用 水 需 要 量 は 2 000 年の 2 倍以上に増加すると算定された。特にインド、その他南アジア、東南アジア、 中国、南西部アフリカ、南東部アフリカで、需要量増加が著しい。背景に都市人口の 増加、一人当たり水需要量増加があげられる。 - 301 - 900 900 400 2100 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 年 年 (1) 2090 2000 2100 2090 2080 2070 2060 2050 0 2040 100 0 2030 100 2020 200 2010 200 2080 300 2070 300 500 2060 400 600 2050 500 700 2040 600 2030 700 800 2020 800 2010 生活用水需要量(km3 ) 1,000 2000 生活用水需要量(km3 ) 1,000 A LPS- シ ナ リ オ A (2) 図 5. 7.2 -1 ALP S-シ ナ リ オ B 生活用水需要量 (3) 工 業 用 水 需 要 量 工 業 用 水 需 要 量 は 、 (5.7 -3)式 に 基 づ い て 算 定 し た 。 こ こ で 、 工 業 活 動 量 は 文 献 4 )の 通 り 、 DNE21+ の 粗 鋼 、 紙 パ ル プ 、 ア ン モ ニ ア 、 エ チ レ ン ・ プ ロ ピ レ ン の 生 産 量 を 代 理 指標として算定した。水利用効率は、高炉転炉法による粗鋼単位生産量当たりのエネ ルギー消費量を代理指標とした 4) 。 20 00 年 の 工 業 用 水 需 要 量 5) ×工 業 活 動 量 の 比 (将 来 /現 在 ) × 水 利 用 効 率 の 比 (将 来 /現 在 ) (5. 7 -3) 図 5 .7. 2 -2 に 、 A LP S シ ナ リ オ A ,B の 工 業 用 水 需 要 量 算 定 値 を 示 す ( シ ナ リ オ A,B に 同 一 値 を 適 用 )。 世 界 全 体 で 、 2000 年 に 比 べ 、 2 050 年 に 1.8 倍 、 2100 年 に 2 倍 ま で 増 加する結果となっているいる。増加が顕著な地域はインドで、工業活動量の増加が水 利用効率の向上を上回ることによる。米国は、工業活動量が増加するものの、水利用 効率の向上を上回るものではなく、従って、将来の工業用水需要量は減少する。 - 302 - 工業用水需要量(km3 ) 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 0 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 年 図 5. 7.2 -2 工業用水需要量 (ALPS -シ ナ リ オ A ,B) (4) 再 利 用 水 量 シ ナ リ オ A の 再 利 用 水 量 を 図 5. 7.2 -3 と 図 5 .7. 2 -4 に 示 す 。 再 利 用 水 量 は 、 4.2 .3 (2 ) 節 に 述 べ た よ う に 、 2 020 年 以 降 に 適 応 策 と し て 増 大 可 能 と し て い る 。 図 5 .7 .2 -3 は 、 適 応 無 の 場 合 の 想 定 値 、 図 5. 7.2 -4 は 適 応 有 の 場 合 の 水 需 給 モ デ ル に よ る 算 定 値 で あ る。ここで、再利用水とは、生活部門、もしくは工業部門の廃水のうち、規定の浄化 処 理 を し た 水( AQUASTAT 5 ) の Trea ted wastewa ter reused)相 当 を 想 定 し て い る 。そ こ で 、 本研究では、生活廃水を集めやすい都市部で利用されるとし、その水量は都市人口一 人当たりの量で表現されるとした。つまり、適応無の場合は、都市人口一人当たりの 再 利 用 水 量 は 201 0 年 の ま ま で あ る が 、 適 応 有 の 場 合 は 、 水 需 給 目 標 ( 表 4. 2.3 -1 参 照 ) を 満 足 し な い 流 域 で 、 都 市 人 口 一 人 当 た り の 再 利 用 水 量 を 前 期 よ り 1 0%増 加 す る 、 前 期 に 再 利 用 水 量 が ゼ ロ の 地 域 で は 、 都 市 人 口 一 人 当 た り 生 活 用 水 需 要 量 の 20 %分 を 都 市人口一人当たり再利用水量として導入すると想定した。 図 5 .7. 2 -4 の よ う に 、 適 応 有 の 場 合 、 中 国 、 北 ア フ リ カ ・ 中 東 に 加 え 、 イ ン ド な ど で も再利用水量が新たに利用されると算定されている。 - 303 - 再利用水量(km3 ) 160 その他南アジア 140 中国 120 南西部アフリカ 100 南東部アフリカ 80 北アフリカ・中東 60 東欧・その他旧ソ連 40 その他南米 20 中米 2100 2070 2050 2040 2030 2020 2010 2000 0 シナリオB-Total 年 図 5. 7.2 -3 再 利 用 水 量 ( AL PS- A ベ ー ス ラ イ ン 適 応 無 ) 2000 年 は 統 計 値 5) 、 2010 年 以 降 は シ ナ リ オ 図 中 、 点 線 は ALPS-B ベ ー ス ラ イ ン 適 応 無 の 値 再利用水要量(km3 ) 160 140 120 インド 100 80 中国 60 40 北アフリカ・中東 20 年 図 5. 7.2 -4 2100 2070 2050 2040 2030 2020 2010 2000 0 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 再 利 用 水 量 ( AL PS- A ベ ー ス ラ イ ン 適 応 有 ) 2000 年 は 統 計 値 5) 、 2010 年 以 降 は シ ナ リ オ 淡 水 化 水 量 は 、 導 入 量 と 地 域 の 想 定 が 困 難 だ っ た こ と よ り 、 文 献 で 20 10 年 に 導 入 が 見込まれる量を加算し 4) 、 そ れ 以 降 一 定 と し た ( 図 5 .7 .2 -5)。 - 304 - オセアニア その他南アジア インド 東南アジア 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 中米 カナダ 米国 淡水化水量(km3) 8 6 4 2 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 0 年 図 5. 7.2 -5 2000 年 は 統 計 値 淡水化水量(適応無) 5) 、 2010 年 以 降 は シ ナ リ オ 5.7.3 温 暖 化 影 響 と 適 応 (1) 水 資 源 量 図 5 .7 .3 -1 は 、 シ ナ リ オ A,B の ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス に 対 す る 世 界 の 水 資 源 量 ( 流 出 量 )を 水 需 給 モ デ ル に よ り 算 定 し た も の で あ る 。温 暖 化 に よ る 水 資 源 量 へ の 影 響 は文献 6) 等 に 示 さ れ る よ う に 、地 域 に よ っ て 異 な る が 、陸 域 全 体 の 水 資 源 量 は 温 暖 化 に 伴って増加する傾向にある。このため、温暖化が抑制される半減ケースの水資源量は べースラインより少ない結果となっている。 水資源量 (103 km3) 60 50 A,Bベース 40 A,B半減 30 20 10 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 0 年 図 5. 7.3 -1 水資源量 (2) 灌 漑 用 水 需 要 量 図 5 .7. 3 -2 に 、 農 業 土 地 利 用 モ デ ル 、 水 需 給 モ デ ル で 算 定 し た 、 シ ナ リ オ A ベ ー ス ライン・適応無ケースの灌漑面積(左図)と灌漑用水需要量(右図)を示す。これに よると、灌漑面積は次第に縮小し、それに伴って灌漑用水需要量も次第に減少すると - 305 - 算定されている。中でも、中国で、灌漑面積の縮小が顕著であるが、これは、同国の 農作物生産性(単収)の向上が大きいことによる。なお、灌漑面積の縮小と灌漑用水 需要量の縮小が比例しないのは、主として作付作物の違い(米は、他の作物より単位 面積当たりの灌漑用水需要量が多い)によると考えられる。 灌漑用水需要量(km3 ) 2,500 2,500 2,000 1,500 1,000 500 2,000 1,500 1,000 500 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2000 2100 2090 2080 2070 2050 2040 2030 2020 2010 2060 年 年 図 5. 7.3 -2 2010 0 0 2000 灌漑面積・二期作考慮(103km2 ) 3,000 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 灌 漑 面 積 ( 左 )、 灌 漑 用 水 需 要 量 ( 右 ) ( AL PS- A ベ ー ス ・ 適 応 無 ) 2000 年 は 統 計 値 5) 、 2010 年 以 降 は シ ナ リ オ (3) 水 ス ト レ ス 人 口 図 5 .7. 3 -3 は 各 シ ナ リ オ の 水 ス ト レ ス 人 口 を 示 し て い る 。 200 0 年 に 世 界 で 約 18 億 人 の 水 ス ト レ ス 人 口 は 、20 50 年 に は シ ナ リ オ A で 約 3 3 億 人 に 、シ ナ リ オ B で 約 31 億 人 に 増 加 す る と 算 定 さ れ た 。 シ ナ リ オ B は 温 暖 化 を 抑 制 し な く て も 、 20 50 年 以 降 は 人 口 の減少に伴って水ストレス人口も減少傾向となる。温暖化の抑制は、シナリオ A の半 減ケースの結果から分かるように、世界の水ストレス人口の低減策としてはあまり期 待できない。むしろ、適切な作付品種・時期の選択(作付面積、灌漑面積の縮小につ な が る )、 灌 漑 効 率 の 向 上 、 再 利 用 水 量 の 増 大 、 と い っ た 適 応 策 に よ っ て 、 水 ス ト レ ス 人口が縮減される可能性があると考えられる。 - 306 - Aベース・適応無 3,000 Bベース・適応無 2,500 A半減・適応無 Aベース・適応有(品 種・時期) Aベース・適応有(灌 漑効率&再利用水) 2,000 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 1,500 2000 水ストレス人口 ( 百万人) 3,500 年 図 5. 7.3 -3 水ストレス人口 5.7.4 ま と め 定 量 的 モ デ ル を 用 い た 算 定 に よ る と 、 200 0 年 に 約 18 億 人 の 水 ス ト レ ス 人 口 は 20 50 年 に は シ ナ リ オ A で 約 33 億 人 、シ ナ リ オ B で 約 31 億 人 ま で 増 加 す る 。背 景 に 、生 活 、 工業用水需要の増加、水ストレス流域での人口増加がある。 温暖化抑制は水ストレス人口の低減にあまり期待できない。むしろ、適切な品種や 作付時期選択による作付面積の縮小、再利用水の利用拡大等の適応策によって低減さ れる可能性が示唆された。 なお、以上は、年間の水需給比に基づくものであり、温暖化による豪雨や洪水、干 ばつ等の影響は考慮していない点に留意が必要である。 参 考 文 献 ( 5. 7 節 分 ) 1) FAO:Review of world water resources by country, Water reports 23 (2003). 2) Alcamo J, Flörke M, Märker M (2007) Future long-term changes in global water resources driven by sosio-economic and climate changes, Hydrilogical Science, 52(2):247-275. 3) 4) Oki T and Kanae S:Global hydrological cycles and world water resources, Science,313-25 (2006). (財)地球環境産業技術研究機構:脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦 略の研究 平成 21 年度成果報告書 (2010). 5) FAO:AQUASTAT main country database. (http://www.fao.org/nr/water/aquastat/dbase/index.stm) 6) (財)地球環境産業技術研究機構:国際産業経済の方高を含めた地球温暖化影響・対応技術の総合評 価平成 19 年度成果報告書(2008). - 307 - 5.8 土地利用変化炭素収支 5.8.1 は じ め に 人 間 活 動 に よ る CO 2 の 排 出 起 源 は 、化 石 燃 料 燃 焼 、プ ロ セ ス 由 来( セ メ ン ト 製 造 等 )、 土 地 利 用 変 化 に 大 別 さ れ る が 、 IP CC に よ る と 19 90 年 代 の 平 均 炭 素 放 出 量 は 、 化 石 燃 料 燃 焼 及 び プ ロ セ ス 由 来 か ら が 6. 4 ± 0. 4 [GtC /yr] 、 土 地 利 用 変 化 起 源 が 1.6 (0 .5 ∼ 2.7 )[G tC /yr])で あ る 1) 。土地利用変化に伴う炭素放出量は測定が難しく不確実性の幅が 大 き い と い う 特 徴 が あ る が 、 上 記 値 に よ る と 人 為 起 源 放 出 量 の 約 2 0 %に 達 す る 。 一 方 で、土地は、植林による炭素吸収源や、バイオ燃料の生産による化石燃料削減の源と なることも期待されている。本研究では、土地利用変化に伴う炭素収支に関し、重要 な 影 響 を 及 ぼ す と 考 え ら れ る (i) 食 料 用 作 物 耕 地 拡 大 に 伴 う 炭 素 放 出 、(ii)植 林・バ イ オ マス燃料作物の栽培に係る炭素吸収について、温暖化緩和レベルや社会、経済、技術 シナリオと整合する定量的分析を行う。 ところで、アフリカやアジアの途上国で、電気にアクセスできない人々を中心に約 27 億 の 人 々 が 伝 統 的 な 木 炭 や 木 材 ( 非 商 用 バ イ オ マ ス 燃 料 ) を 燃 料 と し て 使 用 し て い る 2) 。非 商 用 バ イ オ マ ス 燃 料 の 利 用 と 土 地 利 用 の 関 係 は 明 ら か で な い が 、持 続 的 な 森 林 管理が施されていないとすれば、森林の炭素固定能力を低下させ、炭素放出に繋がる 可 能 性 も 考 え ら れ る 。 そ こ で 、 (iii) 非 商 用 バ イ オ マ ス 燃 料 利 用 に 係 る 炭 素 放 出 に つ い て暫定的であるが、定量的評価を行った。 なお、世界の商用木材需要を満たすため熱帯途上地域における不法な森林伐採が、 炭素放出につながっているという指摘もあるが 3) 、今 後 、森 林 生 態 系 保 全 に 関 す る 社 会 責任が重視され、減少すると想定し、分析対象外とした。 5.8 節 で は 、A LP S プ ロ ジ ェ ク ト で 対 象 と し た 、上 記 (i)∼ (iii)の う ち 、本 年 度 定 量 的 分 析 を 行 っ た (i) 食 料 用 作 物 耕 地 拡 大 に 伴 う 炭 素 放 出 と 、(iii) 非 商 用 バ イ オ マ ス 燃 料 利 用 に 係 る 炭 素 放 出 に つ い て 、記 述 す る 。(ii)に つ い て は 、次 年 度 、DNE21+モ デ ル 、農 業 土 地利用モデルを用い分析予定である。 5.8.2 食 料 用 作 物 耕 地 拡 大 に 伴 う 炭 素 放 出 量 図 5 .8. 2 -1 は 、 シ ナ リ オ A、 B の ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス に つ い て 、 食 料 用 作 物 耕 地拡大に伴う炭素放出モデルで算定した炭素放出量を示している(食料用作物耕地拡 大 に 伴 う 炭 素 放 出 モ デ ル に つ い て は 4. 2.3 (7)節 に 記 載 )。 こ れ に よ る と 、 2000 − 2 010 年 の 耕 地 拡 大 に 伴 う 炭 素 放 出 量 は 1200 [Tg -C/yr]、 2 040 − 20 50 年 に は そ の 約 1/3、 2070 − 2100 年 に は 、 そ の 約 1/1 0 ま で 減 少 す る と 推 計 さ れ て い る 。 こ れ は 、 5. 6 節 に 述 べ た よ う に 、 シ ナ リ オ A,B と も 205 0 年 に 向 け 、 食 料 需 要 は 増 加 す る が 、 そ れ 以 上 に 作 物 生 産 性(単収)の向上が見込まれ、耕地拡大の必要性が次第に減少することによる。 な お 、シ ナ リ オ B の 炭 素 放 出 量 が シ ナ リ オ A よ り 少 な い の は 、シ ナ リ オ A に 比 べ て 食料需要量が少なく生産性が高いため、食料栽培必要な面積が小さいことによる。シ ナリオ A で、ベースラインに比べ半減ケースで炭素放出量が少ないのは、半減ケース では、温暖化の影響が抑制され、食料栽培必要な面積が小さいことによる。なお、こ - 308 - こ で は 温 暖 化 対 策 と し て の CO 2 固 定 化 植 林 に よ る 正 味 で 負 の 炭 素 放 出 の 効 果 は 考 慮 し て い な い 。 20 30 年 頃 以 降 は 、 仮 に 温 暖 化 を 特 段 抑 制 し な く て も 、 作 付 品 種 や 時 期 を 選 ぶという適応策を導入する事によって、必要な栽培面積が縮小され、炭素放出量が減 少する可能性も示唆された。 炭素放出量 (Tg-C/yr) 1,200 Aベース・適応無 1,000 A半減・適応無 Aベース・適応有(品種・時期) 800 Bベース・適応無 600 400 200 図 5. 8.2 -1 2070-2100 2050-2070 2040-2050 2030-2040 2020-2030 2010-2020 2000-2010 0 食料用作物耕地拡大に伴う炭素放出量 図 5 .8. 2 -2 は 、シ ナ リ オ A の ベ ー ス ラ イ ン 適 応 無 ケ ー ス に つ い て 、耕 地 拡 大 に 伴 う 炭 素放出量を地域別に示したものである。南米、南西部アフリカ、東南アジアで熱帯林 が耕地に転用され、炭素が放出すると算定されている。その他、南西部アフリカ、ロ シア、米国などで熱帯林以外の森林が耕地に転用され、炭素放出源になると推計され て い る 。 な お 、 4 .2 .3 ( 6)節 に 述 べ た よ う に 、 一 時 期 に 拡 大 で き る 面 積 は 制 約 し て い る も のの、保護地区などの制約は考慮していない。また、耕地拡大に伴うコストも考慮し ていない。 痩せ地 牧草地 草地 その他森林 熱帯林 210 180 150 120 90 60 30 図 5. 8.2 -2 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 0 米国 炭素放出量 (Tg-C/yr) 240 食料用作物耕地拡大に伴う地域別炭素放出量 ( A LPS- A ベ ー ス ・ 適 応 無 、 2 0 20-20 30 年 ) - 309 - 5.8.3 非 商 用 バ イ オ マ ス 燃 料 利 用 に 係 る 炭 素 放 出 量 非 商 用 バ イ オ マ ス 燃 料 利 用 に 係 る 炭 素 放 出 量 は 、 非 商 用 バ イ オ マ ス 燃 料 需 要 量 ( 5 .9 ∼ 5.11 節 で DNE21 モ デ ル 、 DNE21+ モ デ ル 用 に 想 定 ) に 、 単 位 熱 量 当 た り の 材 木 重 量 ( 2.1 61 [BD -ton /TOE ]、 文 献 4)を 基 に 設 定 ) と 炭 素 含 有 率 ( 0 .47 、 文 献 5) を基に設定)を 乗じ、試算した。なお、非商用バイオマス燃料利用すべてが非持続的なバイオマス利 用 と は 言 え な い た め 、こ の 炭 素 放 出 量 の 推 定 は 最 大 で 見 積 も っ た 場 合 の 数 値 と 言 え る 。 図 5. 8.3 -1 に よ る と 、 非 商 用 バ イ オ マ ス 燃 料 利 用 に 係 る 炭 素 放 出 量 は 、 ア ジ ア で は 2010 年 を ピ ー ク に 次 第 に 減 少 す る が 、 ア フ リ カ で は 、 210 0 年 ま で ほ ぼ 一 定 量 放 出 さ れ る。これは、アフリカで一人当たりバイオマス燃料需要量は次第に減少するが人口増 加のため、非商用バイオマス燃料需要の総量は今後激変しないというエネルギー需要 量シナリオを反映したものである。なお、シナリオ A と B で大差はない。ベースライ 1,000 Oceania S. America 800 N. & C. America 600 Europe W. & C. Asia 400 S. & S. E. Asia East Asia 200 Africa シナリオA-Total 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 0 2000 非商用バイオマス燃料利用に 係る炭素放出(TgC/yr) ンと半減ケースでは、上記パラメータ想定に差異がないことより、同値である。 年 図 5. 8.3 -1 非商用バイオマス燃料利用に係る炭素放出量 5.8.4 ま と め モ デ ル を 用 い た 試 算 に よ る と 、食 料 用 作 物 耕 地 拡 大 に 伴 う 炭 素 放 出 量 は 、20 00 − 201 0 年 に は 、 1200 [Tg -C /yr ]で あ る が 、 205 0 年 に は そ の 約 1/3、 2100 年 に は 、 そ の 約 1 /1 0 ま で減少する。これは、食料需要増加を上回る作物生産性(単収)の向上が見込まれ、 耕地 拡大 の必 要 性が 次第 に減 少す る こと によ る。地域 別に は 、南西 部 アフ リカ 、南米、 東南アジア、ロシア、で炭素放出量が多いという結果が得られた。さらに、半減ケー ス、適応策導入ケースのように、栽培に必要な面積が縮小される場合には、土地利用 変化炭素吸放出がわずかながら縮小される可能性も示唆された。なお、土地利用変化 炭素吸放出については、不確実性の幅が大きいことより、今後は不確実性を考慮した シナリオ策定も必要と考えられる。 - 310 - 次年度は、温暖化緩和レベルや社会、経済、技術シナリオを考慮した、植林・バイ オマス燃料作物の栽培に係る炭素吸収について分析した結果も合わせ、土地利用変化 に伴う炭素吸放出のシナリオを策定する予定である。 参 考 文 献 ( 5. 8 節 分 ) 1) IPCC:Climatic change 2007:the physical science basis (2007). 2) IEA:World energy outlook 2010(2010)237–271. 3) (財)地球・人間環境フォーラム:平成 19 年度違法伐採による環境影響調査業務報告書(2008). 4) 山地憲治、山本博己、藤野純一:バイオエネルギー,第 2 章バイオマス資源の特性, 17-46,ミオシン 出版(2000). 5) IPCC:2006 IPCC guidelines for national greenhouse gas inventories, Vol.4 (2006). 5.9 エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 推 移 ( 短 中 期 ) 本節では、第 3 章で策定した叙述的シナリオのうち、特に温暖化政策実施の背景に 関 す る シ ナ リ オ で あ る シ ナ リ オ I、II、III の 違 い に 焦 点 を 当 て て 、叙 述 的 シ ナ リ オ に 沿 っ た 定 量 的 シ ナ リ オ 策 定 を 行 っ た 。マ ク ロ の 社 会 経 済 シ ナ リ オ に つ い て は 、シ ナ リ オ A 「 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ 」を 想 定 し 、排 出 削 減 レ ベ ル に つ い て は 、ベ ー ス ラ イ ン と 20 5 0 年 の 世 界 排 出 量 を 20 05 年 比 で 半 減 さ せ る シ ナ リ オ ( RCP 3P D(2.6)相 当 ) を 分 析 し た 。 分 析 に は DNE21+ モ デ ル( 第 4 .5 節 参 照 )を 用 い 、20 50 年 ま で の 期 間 に つ い て 分 析 を 行 った。 5.9.1 具 体 的 な シ ナ リ オ 設 定 第 3 章で記載したように、温暖化政策実施の背景に関するシナリオは、 シ ナ リ オ I「 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ 」 シ ナ リ オ II「 温 暖 化 対 策 優 先 シ ナ リ オ 」 シ ナ リ オ III「 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リ オ 」 の 3 種 類 で あ る 。 こ れ を 第 4 .5 節 で 記 載 し た DNE21+ モ デ ル に よ っ て 分 析 す る た め 、 DNE21+モ デ ル の 前 提 条 件 と し て 以 下 の よ う な 想 定 を 行 っ た 。 表 5 .9. 1 -1 に 、 シ ナ リ オ I、 II、 III に お い て DNE21+モ デ ル で そ れ ぞ れ 想 定 を 行 っ た 投資判断における割引率の想定を示す。また、そのとき、相当する投資回収の判断年 数 を 表 5 .9. 1 -2 に 示 す 。 更 に 、 表 5 .9 .1 -3 に は 、 シ ナ リ オ の 違 い に よ る ベ ー ス ラ イ ン で の化石燃料価格の想定を示す。 シ ナ リ オ I「 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ 」 は 、 現 実 社 会 で 観 測 さ れ る 投 資 判 断 の 割 引 率 に 近 い も の を 想 定 し た ( 第 4. 5 節 に お け る 分 析 と 同 様 )。 一 方 、 本 来 は 、 省 エ ネ に よ る メ リ ッ ト は 大 き い 。シ ナ リ オ I で は 、温 暖 化 以 外 の 目 的 を 追 求 し て い た り 、ま た 限 定 合理的な判断が含まれたりしているため、観測される投資判断年数は短いものとなっ て い る 。 一 方 、 シ ナ リ オ II「 温 暖 化 対 策 優 先 シ ナ リ オ 」 で は 、 温 暖 化 対 策 が 優 先 さ れ 、 - 311 - 本来有している省エネメリット追求の重みが増し、また、限定合理的な行動をできる 限り除去する対応がとられるとするシナリオである。そのため、表に示すように低い 割 引 率 、長 い 投 資 回 収 判 断 年 数 を 想 定 し た シ ナ リ オ と し て 想 定 し た 。な お 、シ ナ リ オ I では、原子力については高いリスク認知傾向を表現するため、割引率の想定値が他の 電 源 よ り も 高 い も の と 想 定 し た 。 シ ナ リ オ III「 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リ オ 」 に おいては、国産エネルギーが優先され、特に石油、ガスの輸入リスクが高いと認識さ れるシナリオと考え、それを表現するために、モデル上としては、石油、ガスの輸入 価 格 に 関 税 の 形 で 、 他 の シ ナ リ オ に お け る 燃 料 価 格 想 定 よ り も 10 %分 関 税 が 追 加 さ れ ると想定した前提条件をおいてシナリオ策定を行った。 - 312 - 表 5. 9.1 -1 シナリオによる投資判断における割引率の想定 シ ナ リ オ I、 III 発電部門 (シ ナ リ オ I の 原 子 力 ) シ ナ リ オ II 上限 下限 上限 下限 8% 20% 5% 8.5% ( 11%) ( 23%) その他エネルギー転換部門 15% 25% 7% 8.5% エネルギー多消費産業 15% 25% 7% 8.5% 運輸(自動車)部門 30% 45% 10% 15% 民生・業務部門 30% 55% 10% 15% 表 5. 9.1 -2 シナリオによる投資回収の判断年数の想定 シ ナ リ オ I、 III シ ナ リ オ II 上限 下限 上限 下限 11.9 年 5.0 年 17.2 年 11.3 年 (シ ナ リ オ I の 原 子 力 ) (9. 0 年 ) (4. 3 年 ) その他エネルギー転換部門 6.6 年 4.0 年 13.3 年 11.3 年 エネルギー多消費産業 6.6 年 4.0 年 13.3 年 11.3 年 運輸(自動車)部門 3.3 年 2.2 年 7.6 年 5.8 年 民生・業務部門 3.3 年 1.8 年 7.6 年 5.8 年 発電部門 *発 電 部 門 、 そ の 他 エ ネ ル ギ ー 転 換 部 門 、 エ ネ ル ギ ー 多 消 費 部 門 は 設 備 寿 命 40 年 (但 し 原 子 力 は 50 年 )、 運 輸 (自 動 車 )部 門 、 民 生 ・ 業 務 部 門 は 15 年 と し て 換 算 し た 値 。 表 5. 9.1 -3 石炭 シ ナ リ オ I∼ III 共 通 シ ナ リ オ I、 II 石油 シナリオによる化石燃料価格の想定 2010 年 2020 年 2030 年 2040 年 2050 年 106 157 162 172 185 399 615 702 741 818 (63 ) (96 ) (11 0) (11 6) (12 8) 677 772 815 900 (10 6) (12 1) (12 8) (14 1) 455 530 552 569 501 583 607 626 シ ナ リ オ III シ ナ リ オ I、 II ガス 308 シ ナ リ オ III 単 位 : US200 0$ /toe 、 石 油 の 括 弧 内 の 数 値 は US200 0$ /bb l 注:ベースラインにおける価格想定であり、モデルでは内生的に価格が決定され、分 析シナリオによって異なってくる。 - 313 - 5.9.2 シ ナ リ オ I、 II、 III の 分 析 図 5 .9. 2 -1 に シ ナ リ オ I、 II、 III そ れ ぞ れ に お け る 世 界 の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 推 移 を 示 す 。シ ナ リ オ I で は 、205 0 年 の 世 界 の 排 出 量 は 5 7GtCO 2 程 度 と な っ て い る が 、 正 味 で 負 の 削 減 費 用 と な る よ う な 省 エ ネ が 徹 底 的 に 行 わ れ る シ ナ リ オ II で は 50GtCO 2 程度に留まる。 エネルギー起源CO2排出量 [MtCO2/yr] 60 50 40 30 20 シナリオ I 10 シナリオ II シナリオ III 0 2000 2010 2020 2030 2040 2050 西暦年 図 5. 9.2 -1 ベ ー ス ラ イ ン に お け る 世 界 の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 推 移 ( シ ナ リ オ I 、 I I 、 III の 比 較 ) 図 5 .9. 2 -2 、 図 5 .9. 2 -3、 図 5. 9.2 -4 に は 、 シ ナ リ オ I、 II、 III に お け る 世 界 の 一 次 エ ネルギー供給量、発電電力量、乗用車新車販売台数を示す。一次エネルギー供給量を 見 る と 、 シ ナ リ オ II で は 正 味 で 負 の 費 用 と な る 原 子 力 発 電 の 比 率 が シ ナ リ オ I よ り も 大 き く な っ て い る 。シ ナ リ オ III で も 、シ ナ リ オ II ほ ど で は な い も の の 、エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 の 視 点 か ら シ ナ リ オ I よ り も 原 子 力 発 電 の 比 率 が 高 い シ ナ リ オ で あ る 。ま た 、シ ナ リ オ II で は 、 石 油 を 中 心 に 省 エ ネ が 進 み 、 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 は シ ナ リ オ I よ り も小さい。発電電力量の構成で見ると、高効率な石炭発電や高効率なガス発電の比率 が 、シ ナ リ オ II で は 他 の シ ナ リ オ よ り も 高 く な っ て い る 。ま た 自 動 車 に つ い て 見 る と 、 ハ イ ブ リ ッ ド 自 動 車 や プ ラ グ イ ン ハ イ ブ リ ッ ド 自 動 車 の 比 率 が 、 シ ナ リ オ II で は 他 の シナリオよりも高くなっている。 世界半減ケースにおいては、削減目標レベルが決まっており、また、相当厳しい排 出 削 減 レ ベ ル で あ る た め 、 シ ナ リ オ I、 II、 III の 間 で 、 こ れ を 実 現 す る た め の 技 術 の 構 - 314 - 成はあまり大きな差異がなくなる。一方で、それを実現するための限界削減費用は図 5.9. 2 -5 で 見 る よ う に 、 シ ナ リ オ 間 で 大 き く 異 な る ( 参 考 ま で に 、 IEA ETP 200 8 、 2 010 と 本 研 究 の 限 界 削 減 費 用 の 比 較 を 図 5.9 .2 -6 に 示 す )。 シ ナ リ オ I は 、 現 実 的 な 投 資 判 断における割引率を反映した分析であり、仮に世界半減を明示的に炭素に価格付けを 行 っ て 実 現 す る 場 合 に 必 要 と な る 炭 素 価 格 に 相 当 す る 。 一 方 、 シ ナ リ オ II は 、 技 術 を ベースとして、基準、ラベリングなど、ボトムアップの対策をとったときに必要とな る暗示的な炭素価格に相当する。明示的に炭素価格をつける方法の場合、相当高い価 格付けが必要であるが、きめ細かいボトムアップの対策によって暗示的に価格付けを 行えば、相対的に低い価格で同じ削減レベルを実現できる。 な お 、 シ ナ リ オ III「 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リ オ 」 に つ い て は 、 エ ネ ル ギ ー セ キュリティ指標とあわせて分析結果を解釈する。第 6 章をあわせて参照されたい。 24000 一次エネルギー供給量 [Mtoe/yr] 22000 20000 Others 18000 Biomass & Waste 16000 Hydro & Geothermal 14000 Nuclear 12000 Natural Gas 10000 Oil 8000 Coal 6000 4000 2000 2020年 図 5. 9.2 -2 2030年 シナリオIII シナリオII シナリオI シナリオIII シナリオII シナリオI シナリオIII シナリオII シナリオI 0 2050年 ベ ー ス ラ イ ン に お け る 世 界 の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 ( シ ナ リ オ I、 II 、 III の比較) - 315 - 50000 PV 45000 Wind 発電電力量 [TWh/yr] Biomass-High 40000 Biomass-Low 35000 Hydro&Geothermal Nuclear 30000 Gas-CHP 25000 Gas-High Gas-Middle 20000 Gas-Low Oil-CHP 15000 Oil-High 10000 Oil-Middle Oil-Low 5000 Coal-High 2020年 図 5. 9.2 -3 2030年 Coal-Middle シナリオIII シナリオII シナリオI シナリオIII シナリオII シナリオI シナリオIII シナリオII シナリオI 0 Coal-Low 2050年 ベ ー ス ラ イ ン に お け る 世 界 の 発 電 電 力 量 ( シ ナ リ オ I、 I I、 III の 比 較 ) 120 乗用車年間導入台数 [百万台/年] 100 FCV 80 EV PlugIn-HEV (Alternative Fuel) PlugIn-HEV (Diesel) 60 PlugIn-HEV (Gasoline) HEV (Alternative Fuel) HEV (Diesel) 40 HEV (Gasoline) ICEV (Alternative Fuel) 20 ICEV (Diesel) ICEV (Gasoline) 0 シナリオI シナリオII シナリオIII 2030~2040年 図 5. 9.2 -4 シナリオI シナリオII シナリオIII 2040~2050年 ベ ー ス ラ イ ン に お け る 世 界 の 乗 用 車 の 年 間 販 売 台 数 ( 年 間 導 入 台 数 )( シ ナ リ オ I 、 II 、 II I の 比 較 ) - 316 - 500 CO2限界削減費用 [$/tCO2] シナリオI、III シナリオ I 450 シナリオ II 400 シナリオ III 350 300 シナリオII 250 200 150 100 50 0 2000 2010 2020 2030 2040 2050 西暦年 図 5. 9.2 -5 世 界 排 出 量 半 減 時 の CO 2 限 界 削 減 費 用 ( シ ナ リ オ I 、 II 、 II I の 比 較 ) IEA ETP2008 RITE2010 シナリオI, III ベースライン RITE2010 シナリオI, III 476$/tCO2 シナリオII 285$/tCO2 シナリオII ベースライン ETP2010 BLUE Map 175$/tCO2 ETP2010 ベースライン: 57 GtCO2 ETP2008 ベースライン: 62 GtCO2 図 5. 9.2 -6 CO 2 限 界 削 減 費 用 の IEA ET P シ ナ リ オ と の 比 較 - 317 - 5.9.3 シ ナ リ オ の 分 析 か ら の 政 策 的 含 意 現実社会は多目的多様性に富んでおり、温暖化対策のみに取り組んでいるわけでは ない。また現実社会では、多様な人々が存在し、いろいろな限定合理的な行動も見受 けられる。それらは、技術普及の障壁となっており、たとえエネルギー効率の高い正 味 で 負 の 削 減 費 用 の 技 術 で あ っ て も 普 及 し な い ケ ー ス が 多 い 。シ ナ リ オ I は そ の よ う な 世界像を表現している。 こ の よ う な 世 界 で は 、明 示 的 に 炭 素 に 価 格 を つ け る 方 策( 炭 素 税 や 排 出 量 取 引 制 度 ) をとる場合、主観的に判断される高い割引率(短い投資回収判断年数)によって、図 5.9. 2 -5 で 見 た よ う に 、 相 当 高 い 炭 素 価 格 ( 限 界 削 減 費 用 ) を つ け な い 限 り 大 幅 な 排 出 削減はできないことが示される。しかし、世界半減のために限界削減費用が地域間で 均等化するような想定を行った最も安価な対策として推定したものでも、限界削減費 用 が 500$ /tCO 2 ( 実 質 価 格 ) 近 い よ う な も の と な る 場 合 、 現 実 社 会 で そ れ が 実 施 さ れ る ことはまずあり得ない。 一 方 、 温 暖 化 対 策 が 優 先 さ れ る よ う な 世 界 ( シ ナ リ オ II の よ う な 世 界 ) で は 、 正 味 で負の省エネ対策が徹底的に追求されるような世界に移行できるかもしれない。しか し、これは社会全体の変革を必要とするため、短期的には実現することは困難と考え られる。一方で、長期的には社会が長い投資回収判断年数をとるような世界に移行す ることによってそれを実現していける可能性がある。また、もう一つの方策は、短期 的であっても、限定合理的な判断が障壁となっていたりする場合、ボトムアップにき め細かい対策を実施することによってその障壁を取り除くことで、大きな費用負担を 負うことなく、排出削減を進めることが可能と言える。すなわち、明示的な価格シグ ナルを使って削減しようとすれば、政治経済的に非現実的なほど高い炭素価格をつけ な け れ ば 削 減 で き な い が 、個 別 の 技 術 普 及 に 焦 点 を 当 て た ボ ト ム ア ッ プ の 対 策 の 場 合 、 相対的に小さな炭素価格(限界削減費用)で削減を実現できることが、これらの分析 から示唆される。 な お 、 今 回 の 分 析 で は 、 シ ナ リ オ II で は 相 当 炭 素 価 格 が 低 下 す る こ と が 示 さ れ 、 285$ /tCO 2 程 度 と 推 定 さ れ た 。 し か し 、 こ れ で も 相 当 高 く 、 現 実 社 会 で こ れ を 実 現 す る こ と は 相 当 困 難 と 見 ら れ る 。 そ の た め 、 仮 に 世 界 排 出 量 を 20 5 0 年 に 半 減 す る の で あ れ ば、現在考えられていないような更に革新的な技術の開発・普及が不可欠と考えられ る。しかし、とりわけエネルギー供給サイドやエネルギー多消費産業における技術の 見通しはかなりついていると言えるため、エネルギー需要サイドにおける革新的な省 エネや社会の変革などが重要と考えられる。その際、対策をシステム的に考え、共同 便益を発生させるような対策に注力することが特に重要と考えられる。 も し く は 、図 5. 9.2 -6 で 見 ら れ る よ う に 、限 界 削 減 費 用 曲 線 は 、削 減 レ ベ ル に よ っ て 急激に上昇していく傾向があるため、適応策を強化することなどと併せて、若干排出 削減目標レベルを引き下げることによって、より現実味のある限界削減費用に留める ことも考えられる。 - 318 - 5.10 エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 量 推 移 ( 長 期 ) 本 節 で は 、温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ I に つ い て 、社 会 経 済 シ ナ リ オ ( A、 B) の 差 異 お よ び 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ の 差 異 ( 濃 度 安 定 化 レ ベ ル 、IP CC RCP に 対 応 し て( RCP に つ い て は 第 1 .2 節 参 照 )、ベ ー ス ラ イ ン 、6 .0W /m2 相 当( 650 pp m-CO 2 安 定 化 )、4. 5 W /m2 相 当( 550 p p m-CO 2 安 定 化 )、2.6 W /m2 相 当( 37 5 pp m-CO 2 安 定 化 )と 加 え て 、RCP で は 設 定 さ れ て い な い が 3. 7 W/m2 相 当( 45 0 pp m-CO 2 安 定 化 )) に 関 す る 分 析 を 210 0 年 ま で の 長 期 に つ い て 実 施 し た 。 そ の 上 で 、 エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 排 出 推 移 、 そ の と き の エ ネ ル ギ ー 供 給 構 成 、 CO 2 限 界 削 減 費 用 、 GDP 損 失 等について、分析を行った。 5.10.1 統 合 評 価 モ デ ル DNE21 の 概 要 と モ デ ル 前 提 条 件 (1) 統 合 評 価 モ デ ル D NE2 1 モ デ ル の 概 要 DNE21( D yna mic N ew Earth 2 1) モ デ ル は 、 東 京 大 学 藤 井 康 正 教 授 ら が 開 発 し 、 そ の 後 、 R ITE で 前 提 条 件 等 の 更 新 を 行 っ て き た モ デ ル で あ る 1)-5) 。 DNE21 は 、 「 マ ク ロ 経 済 モ デ ル 」、 「 気 候 変 動 モ デ ル 」を 統 合 し た 統 合 評 価 モ デ ル で あ り 、 エ ネ ル ギ ー 生 産 、 変 換 、 消 費 お よ び CO 2 回 収 、 貯 留 ・ 隔 離 等 の プ ロ セ ス を 詳 細 に 記述した「エネルギーシステムモデル」を中心に、マクロ経済全体を把握する「マク ロ 経 済 モ デ ル 」、 CO 2 濃 度 や 気 温 上 昇 等 を 算 出 可 能 な 「 気 候 変 動 モ デ ル 」 を 一 体 化 し た 最 適 化 型 の モ デ ル と な っ て い る ( 図 5.1 0. 1 -1 参 照 )。 DNE21 モ デ ル は 、 世 界 全 体 を 10 地 域 に 分 割 、 2100 年 ま で も し く は そ れ 以 上 の 長 期 に 亘 る 期 間 を 評 価 対 象 と し て お り 、 世 界 の 2100 年 ま で の 消 費 効 用 を 最 大 化 す る エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム を 中 心 と し た CO 2 削 減 方策を導出することが可能である。 こ れ に よ っ て 、例 え ば 、CO 2 濃 度 安 定 化 レ ベ ル を 満 た し つ つ 、期 間 中 の 割 引 済 み 消 費 効 用 を 最 大 化 す る よ う な CO 2 排 出 経 路 を 導 出 で き る 。 ま た 、 そ の と き の エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム コ ス ト の み な ら ず 、 GDP 損 失 に つ い て も 評 価 で き る 。 ま た 、 エ ネ ル ギ ー 供 給 部 門 の 技 術 お よ び CO 2 回 収 ・ 貯 留 技 術 を 具 体 的 に モ デ ル 化 し ているため、これらについてマクロ的な評価のみならず、具体的な技術オプションの 提 示 が 可 能 と な っ て い る 。た だ し 、前 節 の DNE21+モ デ ル と 比 較 す る と 、技 術 の 記 述 は 簡略であり、また、エネルギー需要部門の技術については具体的なモデル化は行って おらず、燃料種毎に長期価格弾性値を用いたマクロの評価に留まっている。 - 319 - 図 5. 10. 1-1 DN E21 モ デ ル の 構 成 概 略 と 主 な 入 出 力 (2) DNE2 1 の 前 提 条 件 の 更 新 マ ク ロ の 社 会 経 済 に 関 す る 叙 述 的 シ ナ リ オ A、 B に 沿 っ た 定 量 的 な 人 口 、 GDP シ ナ リ オ( 第 5.2 節 参 照 )、ま た 、第 4. 4.1 節 で 最 新 情 報 を 収 集 ・ 整 理 し た 発 電 コ ス ト に つ い て 、 DNE21 モ デ ル の 前 提 条 件 に 反 映 し た 。 ま た 、 人 口 、 GDP シ ナ リ オ か ら 、 シ ナ リ オ A、 B に お け る 燃 料 種 別 ( 固 体 燃 料 、 液 体 燃 料 、 気 体 燃 料 、 電 力 ) の 基 準 ( ベ ー ス ラ イ ンにおける)最終エネルギー需要を推定し、モデルの前提条件とした。また、化石燃 料 価 格 に つ い て も 、 前 節 の 想 定 ( シ ナ リ オ I) に 準 拠 し た 想 定 を 行 っ た 。 5.10.2 社 会 経 済 と 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る 長 期 シ ナ リ オ の 分 析 (1) 分 析 の シ ナ リ オ 想 定 社 会 経 済 シ ナ リ オ ( A、 B) お よ び 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ に 関 し て 、 表 5.10 .2 -1 の よ う な シ ナ リ オ を 想 定 し 、DNE2 1 モ デ ル に よ っ て 分 析 を 行 っ た( 温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ に つ い て は 、シ ナ リ オ I を 想 定 )。DNE21 モ デ ル の 分 析 は 、終 端 効 果 を 除 く た め 2 150 年 ま で の 期 間 に つ い て 最 適 化 計 算 を 行 っ た 上 で 、 2100 年 ま で の 評 価 を 行 っ た 。 表 5. 10. 2-1 長 期 の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO2 排 出 量 に 関 わ る 分 析 の た め の シ ナ リ オ シナリオ A シナリオ B 中位技術進展シナリオ 高位技術進展シナリオ A LP S -A A LP S -B 650 pp m-CO 2 ( RCP 6. 0 相 当 ) A650 p p m-CO 2 B650 p p m-CO 2 550 pp m-CO 2 ( RCP 4. 5 相 当 ) A550 p p m-CO 2 B550 p p m-CO 2 450 pp m-CO 2 ( 3 .7W /m 2 相 当 ) A450 p p m-CO 2 B450 p p m-CO 2 375 pp m-CO 2 ( RCP 3PD(2.6 )相 当 ) A375 p p m-CO 2 B375 p p m-CO 2 社会経済シナリオ 排出削減レベル ベースライン ( 濃 度 レ ベ ル は 2100 年 時 点 で の も の ) - 320 - (2) 社 会 経 済 、 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る 長 期 シ ナ リ オ の 分 析 図 5 .10 .2 -1 に シ ナ リ オ A( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )、 B ( 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ ) に よ る 世 界 の ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 の 見 通 し を 、 IP CC SRE S シ ナ リ オ 6) お よ び IP CC RCP 8.5( ベ ー ス ラ イ ン シ ナ リ オ ) と の 比 較 で 示 す 。 20 50 年 の 世 界 排 出 量 は シ ナ リ オ A で 56 G tCO 2 /yr、 シ ナ リ オ B で 6 1 G tCO 2 /yr、 2100 年 の 世 界 排 出 量 は シ ナ リ オ A で 75 GtCO 2 /yr、 シ ナ リ オ B で 94 G tCO 2 /yr と 推 計 さ れ た 。 SRES と 比 較 す る と 、 20 50 年 ま で は シ ナ リ オ A, B と も に SRES A2 も し く は 2050 年 の み で み る と SRES A1B と 比 較 的 近 い 排 出 と な っ て い る 。210 0 年 で 比 較 す る と 、シ ナ リ オ A は SR ES A2 よ り も 少 し 低 い レ ベ ル 、 シ ナ リ オ B は 、 SRES A 2 と SRE S A 1B も し く は B2 の 間 程 度 と な っ て い る 。 図 5 .10 .2 -2 に は 濃 度 安 定 化 シ ナ リ オ に つ い て 、 IP CC RCP と の 比 較 で 示 す 。 RCP 6. 0 は A LP S の 65 0 pp m-C O 2 安 定 化 の 分 析 と 、 RCP 3P D(2.6 )は A LP S の 37 5 pp m-CO 2 安 定 化 の 分 析 と 概 ね 整 合 的 と な っ て い る が 、 本 来 整 合 的 で あ る は ず と 考 え ら れ る RCP 4. 5 と 550 p p m-CO 2 安 定 化 に つ い て は 少 し ず れ が 生 じ て お り 、 RCP 4. 5 は 550 p p m-CO 2 と 450 pp m-CO 2 安 定 化 ( 3.7 W/m2 相 当 ) の 間 程 度 と な っ て い る 。 3 75 p p m-CO 2 シ ナ リ オ で は 、 2050 年 は 世 界 CO 2 排 出 量 が 20 00 年 比 で 半 減 レ ベ ル と な っ て い る 。 図 5 .10 .2 -3 に は 、 大 気 中 CO 2 濃 度 の 推 移 を 示 す 。 ベ ー ス ラ イ ン の 濃 度 は 、 A LP S -A で は 210 0 年 に 70 0 pp m-CO 2 、A LP S -B で は 7 70 pp m-CO 2 程 度 と 推 定 さ れ た 。375 pp m-CO 2 シ ナ リ オ で は 、 2 040 年 に 425 pp m-CO 2 で 濃 度 が ピ ー ク に な り 、 そ の 後 、 低 減 す る オ ー バーシュートシナリオとなっている。 120 CO2 emissions from energy (GtCO2/yr) RITE ALPS-A 100 RITE ALPS-B 80 SRES A1B SRES A1FI 60 SRES A1T 40 SRES A2 20 0 1975 SRES B1 SRES B2 2000 2025 2050 2075 2100 RCP8.5 (MESSAGE) -20 図 5. 10. 2-1 世 界 の ベ ー ス ラ イ ン CO 2 排 出 量 の 見 通 し ( 超 長 期 ) - 321 - CO2 emissions from energy (GtCO2/yr) 120 RITE ALPS-A ベースライン RITE ALPS-B 100 ALPS-A650ppmCO2 (RCP6.0) ALPS-A550ppmCO2 (RCP4.5) ALPS-A450ppmCO2 80 60 ALPS-A375ppmCO2 40 RCP8.5 (MESSAGE) 20 RCP6.0 (AIM) 0 1975 RCP4.5 (MiniCAM) 2000 2025 2050 2075 2100 RCP3-PD (IMAGE) -20 図 5. 10. 2-2 世 界 の CO 2 排 出 量 の 見 通 し ( 超 長 期 ) Atmospheric CO2 concentration (ppm-CO2) 800 RITE ALPS-A 700 RITE ALPS-B 600 ALPS-A650ppmCO2 (RCP6.0) ALPS-A550ppmCO2 (RCP4.5) 500 ALPS-A450ppmCO2 400 ALPS-A375ppmCO2 300 2000 2020 2040 図 5. 10. 2-3 2060 2080 2100 大 気 中 CO 2 濃 度 推 移 図 5 .10 .2 -4、 図 5 .10 . 2 -5 は 、 そ れ ぞ れ 、 世 界 の 一 人 あ た り CO 2 排 出 量 、 GDP あ た り CO 2 排 出 量 の 推 移 を 示 す 。 現 在 の 世 界 の 一 人 当 た り CO 2 排 出 量 は 4.4 tCO 2 /y、 日 本 は 9 tCO 2 /yr 程 度 、米 国 は 18 tCO 2 /yr 程 度 、中 国 は 5 tCO 2 /yr 程 度 と な っ て い る が 、シ ナ リ オ A で は 世 界 平 均 が 2 05 0 年 に 6 tCO 2 /yr 程 度 、2100 年 に 8 tCO 2 /yr 程 度 に な る シ ナ リ オ で あ る 。 高 位 の 経 済 成 長 、 低 位 の 人 口 を 見 込 ん だ シ ナ リ オ B は 、 世 界 平 均 が 20 5 0 年 に 7 tCO 2 /yr 程 度 、21 00 年 に 13 tCO 2 / yr 程 度 に な る シ ナ リ オ で あ る 。い ず れ の シ ナ リ オ に お いても、人口比率が高い途上国が今後経済成長することにより、世界平均の一人当た り 排 出 量 は 増 大 が 見 込 ま れ る 。 世 界 平 均 で み た GDP あ た り CO 2 排 出 量 は 20 00 年 頃 ま で 継 続 的 に 低 下 し て き た が( 19 75 -200 0 年 の 平 均 で 年 率 1. 4%で 低 下 )、200 0 年 以 降 、ほ ぼ 横 ば い と な っ て い る( 1 975 -20 08 年 の 平 均 に す る と 年 率 1 .1 %で 低 下 )。GDP あ た り の CO 2 排 出 量 が 大 き い 途 上 国 で し か も 特 に イ ン フ ラ 整 備 な ど の た め 、鉄 鋼 や セ メ ン ト 部 門 - 322 - な ど 、 エ ネ ル ギ ー 多 消 費 産 業 の 成 長 が 大 き く 、 ま た 、 途 上 国 で は そ れ ら の CO 2 原 単 位 が比較的大きいこともあって横ばい傾向に変わっている。しかし、ベースラインのシ ナ リ オ A、B で あ っ て も 、今 後 、原 単 位 改 善 が な さ れ る も の と 推 定 さ れ る 。シ ナ リ オ A で は 2010 -5 0 年 は 、年 平 均 0.9 %、201 0 -210 0 年 は 0.8 %で 低 下 が 見 込 ま れ る 。シ ナ リ オ B で は 、20 10 -50 年 は 、年 平 均 1 .0%、2 010 -21 00 年 は 0 .9%で 低 下 が 見 込 ま れ る と い う も の で あ る 。概 ね 1 975 -20 08 年 平 均 と 同 じ レ ベ ル で あ る 。550 pp m-C O 2 安 定 化 シ ナ リ オ の 場 合 、シ ナ リ オ A の 201 0 -50 年 は 年 平 均 1. 5%、2010 -2 100 年 は 1. 8%、シ ナ リ オ B の 2 010 -5 0 年 は 年 平 均 1.8 %、 20 10 -2100 年 は 2. 2%と 、 こ の 濃 度 安 定 化 レ ベ ル で あ っ て も 過 去 よ り も 相 当 大 き な 改 善 が 必 要 に な る 。 更 に 、 4 50 p p m-CO 2 安 定 化 シ ナ リ オ の 場 合 に な る と 、 シ ナ リ オ A の 2010 -5 0 年 は 年 平 均 2 .9%、 2 010 -210 0 年 は 2. 4%、 シ ナ リ オ B の 201 0 -5 0 年 は 年 平 均 3 .2%、2 01 0 -2 100 年 は 2.7 %と 、過 去 の 2 ∼ 3 倍 程 度 の 大 き な 原 単 位 改 善 が 必 要になる。 RITE ALPS-A RITE ALPS-B Kuwait 25 ALPS-A650ppmCO2 (RCP6.0) ALPS-B650ppmCO2 (RCP6.0) ALPS-A550ppmCO2 (RCP4.5) ALPS-B550ppmCO2 (RCP4.5) ALPS-A450ppmCO2 20 US 15 10 Japan World 5 0 1975 ALPS-B450ppmCO2 China India 2000 ALPS-A375ppmCO2 2025 2050 2075 2100 -5 図 5. 10. 2-4 ALPS-B375ppmCO2 世 界 の 一 人 あ た り CO2 排 出 量 推 移 1.2 Per-GDP CO2 emissions (kgCO2/US$) Per-capita CO2 emissions (tCO2/yr) 30 RITE ALPS-A RITE ALPS-B 1 ALPS-A650ppmCO2 (RCP6.0) ALPS-B650ppmCO2 (RCP6.0) ALPS-A550ppmCO2 (RCP4.5) ALPS-B550ppmCO2 (RCP4.5) ALPS-A450ppmCO2 0.8 0.6 0.4 0.2 ALPS-B450ppmCO2 0 1975 ALPS-A375ppmCO2 2000 2025 2050 2075 2100 ALPS-B375ppmCO2 -0.2 図 5. 10. 2-5 世 界 の GDP あ た り CO 2 排 出 量 推 移 - 323 - 図 5 .10 .2 -6、図 5 .10 . 2 -7 に は 、そ れ ぞ れ 、シ ナ リ オ 別 の CO 2 限 界 削 減 費 用 と GDP ロ スを示す。 CO 2 限 界 削 減 費 用 は 、 550 pp m-CO 2 安 定 化 の 場 合 、 シ ナ リ オ A、 B と も に 2 050 年 に 30 $ /tCO 2 程 度 、 21 00 年 で は シ ナ リ オ A が 100$ /tCO 2 程 度 、 B が 120$/tCO 2 程 度 と 推 定 さ れ た 。 4 50 p p m-CO 2 安 定 化 の 場 合 、 20 50 年 で は 、 シ ナ リ オ A が 90 $ /tCO 2 程 度 、 B が 110 $ /tCO 2 程 度 、 210 0 年 で は シ ナ リ オ A が 15 0$ /tCO 2 程 度 、 B が 19 0$ /tCO 2 程 度 と 推 定 さ れ た 。 そ し て 、 375 pp m-CO 2 安 定 化 の 場 合 、 2 050 年 で は 、 シ ナ リ オ A が 180 $ /tC O 2 程 度 、 B が 190 $ /tCO 2 程 度 、 210 0 年 で は シ ナ リ オ A が 310 $/tCO 2 程 度 、 B が 3 60$ /tCO 2 程 度 と 推 定 さ れ た 。 3 75 pp m-CO 2 ケ ー ス は 、 205 0 年 に 世 界 排 出 量 半 減 ケ ー ス に 近 い も の で あ る が 、 DNE21 モ デ ル の 分 析 で も 20 0 $ /CO 2 程 度 の 大 き な 限 界 削 減 費 用 が 推 定 さ れ る 。 な お 、 こ れ は IEA ETP 2010 の 推 定 と も 近 い 数 値 と な っ て い る 。 な お 、 前 節 で 分 析 し た よ う に 、需 要 部 門 を 含 め て よ り 詳 細 な 技 術 の モ デ ル 化 を 行 っ て い る DNE21+モ デ ルによる分析ではより大きな限界削減費用も推定されている。 GDP ロ ス は 、 シ ナ リ オ A、B に よ る 差 異 は 小 さ く 、550 pp m-CO 2 安 定 化 の 場 合 、2 050 年 に 1%あ ま り 、 210 0 年 に 2.5 %程 度 、 450 p p m-CO 2 安 定 化 の 場 合 、 205 0 年 に 3 %程 度 、 2100 年 に 3. 5%前 後 、 375 p p m-CO 2 安 定 化 の 場 合 、 205 0 年 に 4 .3%程 度 、 210 0 年 に 4 .6% 程度と推定された。 図 5 .10 .2 -8 は 、 IP C C 第 4 次 評 価 報 告 書 7) で ま と め ら れ た CO 2 限 界 削 減 費 用 と GD P ロ ス と A LP S で の 推 定 結 果 と を 比 較 し た も の で あ る 。 A LP S で の DNE2 1 モ デ ル に よ る 分 析 は 、 IP CC 報 告 と 照 ら し て 、 概 ね 中 位 的 な 分 析 と な っ て い る 。 Marginal abatement cost ($/tCO2) 500 A550ppmCO2 (RCP4.5) 400 B550ppmCO2 (RCP4.5) 300 A450ppmCO2 200 B450ppmCO2 100 A375ppmCO2 B375ppmCO2 0 2000 2020 2040 図 5. 10. 2-6 2060 2080 2100 CO 2 限 界 削 減 費 用 - 324 - GDP loss relative to baseline (%) 6 5 A550ppmCO2 (RCP4.5) 4 B550ppmCO2 (RCP4.5) A450ppmCO2 3 B450ppmCO2 2 A375ppmCO2 1 B375ppmCO2 0 2000 2020 2040 2060 図 5. 10. 2-7 2080 2100 GDPロス ALPS GDPロス (%) 限界削減 費用 ($/tCO2) 図 5. 10. 2-8 IP CC 第 4 次 評 価 報 告 書 ( AR4 ) 7 ) と 本 分 析 の 比 較 図 5 .10 .2 -9、 図 5.1 0. 2 -1 0 に 、 シ ナ リ オ A 、 B の 世 界 の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 を 示 す ( ベ ー ス ラ イ ン 、 550 、 450 、 3 75 pp m-CO 2 )。 シ ナ リ オ A、 B と で は 大 き な 差 異 は 見 受 け られないが、経済成長を大きく、ベースライン排出量も大きいシナリオ B では、濃度 安定化において、シナリオ A よりも太陽光発電の利用量が大きいシナリオとなってい る。 - 325 - 40 Baseline Primary energy production (Gtoe/yr) Primary energy production (Gtoe/yr) 40 30 20 10 0 Hydro & Geoth. 20 N.Gas CCS 10 0 Oil CCS Crude Oil 図 5. 10. 2-9 30 20 10 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 Hydro & Geoth. 20 Nuclear N.Gas CCS Natural Gas 10 Oil CCS Crude Oil Coal CCS 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 550 ppm-CO2 10 0 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 Photovoltaics Wind Biomass Hydro & Geoth. 20 Nuclear N.Gas CCS Natural Gas 10 Oil CCS Crude Oil Coal CCS 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 375 ppm-CO2 30 Coal Photovoltaics Wind Biomass CCS Biomass Hydro & Geoth. 20 Nuclear N.Gas CCS 10 Natural Gas Oil CCS Crude Oil 0 図 5. 10. 2-10 Coal Biomass CCS 30 40 Primary energy production (Gtoe/yr) 450 ppm-CO2 20 Wind Biomass 0 30 Photovoltaics Biomass CCS 30 40 Baseline Primary energy production (Gtoe/yr) Primary energy production (Gtoe/yr) 375 ppm-CO2 Coal 世 界 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 ― ALP S A シ ナ リ オ 0 Primary energy production (Gtoe/yr) Coal CCS 0 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 40 Natural Gas 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 Primary energy production (Gtoe/yr) Primary energy production (Gtoe/yr) 20 40 Nuclear 10 40 30 Wind Biomass 0 450 ppm-CO2 Photovoltaics Biomass CCS 30 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 40 550 ppm-CO2 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 世 界 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 ― A LPS B シ ナ リ オ - 326 - Coal CCS Coal (3) 分 析 か ら 示 唆 さ れ る こ と 本 節 で は 、 マ ク ロ の 社 会 経 済 の 将 来 の 不 確 実 性 を 表 現 し た シ ナ リ オ A( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )、 B( 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ ) と 、 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る 分 析 を 行 っ た 。 IP CC 第 3 次 評 価 報 告 書 の 主 要 な 知 見 と し て 、 ベ ー ス ラ イ ン 排 出 量 す な わ ち そ の 背 景 と なっている社会経済シナリオの差異は、濃度安定化レベルの違い以上に、排出削減費 用 、 GDP ロ ス の 大 き さ に 大 き な 影 響 を 及 ぼ す と い う こ と が あ っ た ( 図 5. 10. 2 -11)。 こ の知見については、本分析の結果に関わらず、同意できるものであるが、一方で、本 分析からは、過去を慎重に分析した上で、将来蓋然性が高いと見込まれる排出レベル を推定すると、ベースライン排出量(すなわち特段の温暖化抑制に対する緩和策をと ら な い 場 合 の 排 出 量 ) は 、 IP CC SRES が 示 し て い る よ う な 大 き な 排 出 レ ン ジ が あ る わ けではなく、それほど大きな幅をもたない可能性があることが示唆された。そうする と 、 結 局 の と こ ろ 、 C O 2 限 界 削 減 費 用 や G DP ロ ス も 、 社 会 経 済 シ ナ リ オ の 不 確 実 性 に よって、さほど大きな差異が生じない可能性も高いと見込まれた。 今後更に検討を重ね、分析から得られる示唆を強化していく予定である。 図 5. 10. 2-11 I PCC 第 3 次 評 価 報 告 書 で 整 理 さ れ た 社 会 経 済 シ ナ リ オ と 濃 度 安 定 化 レ ベ ル に 対 す る GD P ロ ス の 分 析 8) 参 考 文 献 ( 第 5.1 0 節 に 関 す る も の ) 1) R ITE/NEDO、 「 平 成 1 4 年 度「 地 球 再 生 計 画 」の 実 施 計 画 作 成 に 関 す る 調 査 報 告 書 」、 2003 2) Y. Fu jii, an d K. Ya maji, “Asse ssme n t of te chno log ica l op tion s in the g lob a l ene rg y s yste m fo r limiting th e a tmosphe ric CO 2 co nce ntration”, E n viron men tal E c ono mics and P o lic y Stud ie s, 1, 113 -1 39 (1 9 98). 3) 山 地 憲 治 、 藤 井 康 正 、「 グ ロ ー バ ル エ ネ ル ギ ー 戦 略 」 電 力 新 報 社 (199 5) 4) 茅 編 、「 CO 2 削 減 戦 略 − 地 球 を 救 う シ ナ リ オ 」、 日 刊 工 業 新 聞 社 (200 0) 5) K.Ak imo to, T.To mo da, Y. Fu jii, K.Ya ma ji, A ssessmen t o f Globa l Warming Mitig a tion - 327 - Option s with In teg ra te d Asse ssmen t Mo de l D NE21. En e rg y Ec ono mi cs, Vol.26 , 635 -65 3 (20 04). 6) IP CC, Spe c ia l Re po rt o n E missio ns Sc ena rio s, Ca mbrid ge Un ive rsity P ress (200 0). 7) IP CC, C lima te Chan ge - Mitiga tion of C lima te Change : Working G rou p III c on tribu tion to the Fo urth Asse ssme n t Repo rt o f th e IP CC, Ca mb ridge Un ive rsity P re ss (2007 ). 8) IP CC, C lima te Chan ge - Mitiga tion of C lima te Change : Working G rou p III c on tribu tion to the T hird Asse ssme n t R epo rt o f th e IP CC, Ca mbridg e Un iversity P ress (2 001 ). 5.11 非 CO 2 GHG 排 出 量 本 節 で は 、非 CO 2 GHG 分 析 モ デ ル に つ い て 、シ ナ リ オ A,B の 人 口 、GDP 見 通 し に 沿 っ て モ デ ル 前 提 条 件 の 更 新 を 行 い 、ベ ー ス ラ イ ン 及 び 世 界 半 減 ケ ー ス の 非 CO 2 GHG シ ナ リ オ を 策 定 し た 。 非 CO 2 GHG 分 析 モ デ ル で は 、 京 都 議 定 書 で 対 象 と さ れ る CH4,N2O,H FC s,P FCs, S F6(京 都 5 ガ ス ) 1 が 対 象 で あ る 。本 モ デ ル は 、EPA 2 ) , EPA 3 ) , H yman et a l. 4 ) に よ る 評 価 法 に も と づ き 、 5 種 類 の 非 CO 2 GHG の 削 減 率 と 限 界 削 減 費 用 と の 関 係 を 代 替 弾 性 値 で 表 現 す る モ デ ル で あ る 。 そ し て 、 EPA の 非 CO 2 GHG 対 策 に 関 す る 技 術データベースから算定される部門別・ガス別の限界削減費用曲線を再現するように 弾性値が決定される。そのため、直接的には技術積み上げのモデルとはなっていない ものの、そのベースは技術積み上げによって削減費用と削減可能量が算出される形と なっている。 R ITE が こ れ ま で 開 発 し て き た 非 CO 2 GHG 分 析 モ デ ル 1)5) は、モデル対象地域は世界 18 地 域 で あ る も の の 、 エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 を 分 析 対 象 と す る D NE21+モ デ ル の 世 界 54 地 域 別 に 対 応 す る よ う に 基 準 年 排 出 量 の 排 出 シ ェ ア を も と に 世 界 54 地 域 別 の 非 CO 2 GHG を 分 析 し て き た 。 本 年 度 は 、 シ ナ リ オ A,B の 人 口 、 GDP 見 通 し に 沿 っ た ベ ー ス ラ イ ン 排 出 量 の 更 新 と 同 時 に 、 非 CO 2 GHG 分 析 モ デ ル の 分 析 対 象 地 域 を 世 界 18 地 域 か ら 、基 準 年 排 出 量 の 排 出 シ ェ ア を 用 い ず に 直 接 世 界 5 4 地 域 を 分 析 で き る よ う に 拡 張 し た 。 ベ ー ス ラ イ ン の 排 出 量 の 想 定 方 法 や モ デ ル 前 提 条 件 は Ak i mo to e t a l . 5 ) に 基 づ く 。 図 5 .11 -1 と 図 5.11 -2 に は 、 205 0 年 ま で の シ ナ リ オ A、 B の ベ ー ス ラ イ ン 非 CO 2 排 出 量 を そ れ ぞ れ 示 し た 。 シ ナ リ オ A、 B の 経 済 成 長 の 違 い か ら 、 205 0 年 の 非 CO 2 -GHG 排出量に関してはシナリオ A の方がシナリオ B に比べて若干小さいと推計される。両 シ ナ リ オ と も に 2 005 年 か ら 20 50 年 に か け て 、先 進 国 の 非 CO 2 -G HG 排 出 量 は や や 微 増 で あ る が 、途 上 国 の 非 CO 2 -GHG 排 出 量 は 中 国 や イ ン ド を 中 心 に 大 き く 増 加 す る 傾 向 に ある。 図 5 .11 -3 と 図 5.11 -4 に は 、シ ナ リ オ A,B の ベ ー ス ラ イ ン の ガ ス 別 の 世 界 非 CO 2 -GHG 排 出 量 を そ れ ぞ れ 示 し た 。 20 05 年 か ら 2 0 50 年 に か け て 、 ど の 非 CO 2 -GHG も 増 加 傾 向 に あ り 、 2005 年 に お い て も CH4 と N2O の シ ェ ア が 大 き い 傾 向 は 続 く 。 途 上 国 の 経 済 1 モ デ ル で は 非 C O2 GH G 排 出 量 を I P C C - S AR の 1 0 0 ye ar - GWP を 用 い て 等 価 CO2 換 算 し て い る 。 - 328 - 発 展 と と も に 、 産 業 部 門 か ら 発 生 す る F ガ ス (H FCs,P FC s,S F6 ) も 着 実 に 増 加 す る と 推 計 される。 20000 実績値 18000 非CO2-GHG(京都5ガス)排出量 [MtCO2 eq.] 16000 ブラジル 14000 南西部アフリカ 12000 10000 インド 8000 6000 中国 4000 2000 米国 0 2000 2005 図 5. 11- 1 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 Other E.Europe Other Annex I of East Europe OECD E.Europe Other FUSSR Kazakhstan Belarus Other Annex I of FUSSR Russia Other South America Paraguay et al. Venezuela et al. Brazil Other Central America Mexico Other S.S.Africa South East Africa South Africa North Africa Turkey Other Middle East Bahrain et al. Saudi Arabia Iran Other Asia Myanmar Pakistan et al. India Chinese Taipei Brunei Philippines Thailand Indonesia Malaysia et al. Korea Viet Nam et al. North Korea et al. China Other Oceania New Zealand Australia Japan Other Western Europe Greenland Norway et al. Other EU North Europe Belgium et al. Spain et al. Italy Germany France United Kingdom Canada United States シ ナ リ オ A・ ベ ー ス ラ イ ン の 世 界 54 地 域 別 の 5 ガ ス 排 出 量 - 329 - 20000 18000 非CO2-GHG(京都5ガス)排出量 [MtCO2 eq.] 16000 ブラジル 14000 南西部アフリカ 12000 10000 インド 8000 6000 中国 4000 2000 米国 0 2000 2005 非CO2-GHG(京都5ガス)排出 量 [MtCO2 eq.] 図 5. 11- 2 20000 18000 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 Other E.Europe Other Annex I of East Europe OECD E.Europe Other FUSSR Kazakhstan Belarus Other Annex I of FUSSR Russia Other South America Paraguay et al. Venezuela et al. Brazil Other Central America Mexico Other S.S.Africa South East Africa South Africa North Africa Turkey Other Middle East Bahrain et al. Saudi Arabia Iran Other Asia Myanmar Pakistan et al. India Chinese Taipei Brunei Philippines Thailand Indonesia Malaysia et al. Korea Viet Nam et al. North Korea et al. China Other Oceania New Zealand Australia Japan Other Western Europe Greenland Norway et al. Other EU North Europe Belgium et al. Spain et al. Italy Germany France United Kingdom Canada United States シ ナ リ オ B・ ベ ー ス ラ イ ン の 世 界 54 地 域 別 の 5 ガ ス 排 出 量 実績値 SF6 PFCs HFCs N2O CH4 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 図 5. 11- 3 シ ナ リ オ A・ ベ ー ス ラ イ ン の ガ ス 別 の 世 界 の 非 C O 2 -G HG 排 出 量 - 330 - 非CO2-GHG(京都5ガス)排出 量 [MtCO2 eq.] 20000 18000 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 実績値 SF6 PFCs HFCs N2O CH4 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 図 5. 11- 4 シ ナ リ オ B・ ベ ー ス ラ イ ン の ガ ス 別 の 世 界 の 非 C O 2 -G HG 排 出 量 次 に 、 世 界 半 減 ケ ー ス の 非 CO 2 -GHG 排 出 量 の 分 析 を 実 施 し た 。 非 CO 2 -GHG モ デ ル 分 析 で は 、エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 の 限 界 削 減 費 用 と 同 レ ベ ル の 非 CO 2 -GHG 緩 和 策 を 実 施 し た 場 合 の 結 果 が 得 ら れ る 。 こ こ で は 、 世 界 半 減 ケ ー ス の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 の 限 界 削 減 費 用 は 、 第 5. 9 節 の DNE2 1 モ デ ル に お け る CO 2 -3 75pp m ケ ー ス (限 界 削 減 費 用 世 界 均 等 化 )の 結 果 を 利 用 し た 。 図 5.11 -5 に は 、 シ ナ リ オ A 、 B 別 の ベ ー ス ラ イ ン 及 び 世 界 半 減 ケ ー ス の 世 界 の 非 CO 2 -GHG 排 出 量 を 示 し た 。 DNE21 モ デ ル の 分 析 結 果 か ら 、 シ ナ リ オ A、 B の 世 界 半 減 ケ ー ス に お け る 限 界 削 減 費 用 は 、202 0 年 で は そ れ ぞ れ 59$ /tCO 2 ,6 4$ /tCO 2 で あ り 、2 0 50 年 で は そ れ ぞ れ 1 78$ /tCO 2 ,192 $ /tCO 2 で あ る 。 シ ナ リ オ A,B と も に 、 世 界 半 減 ケ ー ス で は 、各 ベ ー ス ラ イ ン と 比 べ 、非 CO 2 -GHG 排 出 量 が 小 さ く な り 、世 界 半 減 ケ ー ス の 2 050 年 に は 世 界 の 非 CO 2 -GHG 排 出 量 は 201 0 年 レ ベ ル 相 当 に ま で 縮 小 す る と 推 計 さ れ る 。 2050 年 ま で の ベ ー ス ラ イ ン 非 CO 2 -GHG 排 出 量 の 差 異 は シ ナ リ オ A、B 間 で 小 さ く 、ま た シ ナ リ オ A、B の 限 界 削 減 費 用 も 比 較 的 近 い こ と か ら 、世 界 半 減 ケ ー ス に お け る シ ナ リ オ A と B の 非 CO 2 -GHG 排 出 量 に 関 し て は 大 き な 差 異 は な い と 推 計 さ れ る 。 シ ナ リ オ A の 世 界 半 減 ケ ー ス に お け る 20 20 年 と 2050 年 の 削 減 量 は 、 そ れ ぞ れ 7 1%、 66 %(ベ ー ス ラ イ ン 比 )と 推 計 さ れ る 。 202 0 年 と 20 50 年 の 限 界 削 減 費 用 の 比 較 的 大 き な 差 異 に 比 べ 、ベ ー ス ラ イ ン か ら の 削 減 量 に そ れ ほ ど 大 き な 差 異 が 生 じ な い 原 因 は 、非 CO 2 -G HG の 削 減 ポ テ ン シ ャ ル が 5 0$ /tCO 2 e q.程 度 ま で の 比 較 的 安 価 な 範 囲 に お い て 大 き く 、 そ れ を超える高い限界削減費用の範囲では小さいためである。よって、本分析で想定した 2050 年 の 高 い 限 界 削 減 費 用 に お い て も 、 エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 と は 異 な り 非 CO 2 -G HG 削減の大幅な削減は難しいと推計される。ただし、本分析では、ベースラインの排出 量 に 対 し て の エ ネ ル ギ ー 起 源 CO 2 の 限 界 削 減 費 用 と 同 レ ベ ル の 対 策 を 行 っ た 場 合 の 推 計 結 果 で あ り 、世 界 半 減 ケ ー ス 時 の 気 候 条 件 を 考 慮 し た 農 業 部 門 か ら の 非 CO 2 -GH G 排 出 量 (水 田 か ら の 排 出 量 な ど )へ の 影 響 は 考 慮 し て い な い 点 に 留 意 さ れ た い 。 - 331 - 20000 非CO2-GHG排出量(MtCO2eq.) 18000 16000 14000 12000 シナリオA ベースライン 10000 シナリオA 世界半減ケース シナリオB ベースライン 8000 シナリオB 世界半減ケース 6000 4000 2000 0 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 図 5. 11- 5 シ ナ リ オ 別 の 世 界 の 非 CO 2 -G H G 排 出 量 注 : 温 暖 化 対 策 は 2015 年 以 降 に 導 入 さ れ る と 想 定 。 今 後 の 課 題 と し て 、本 分 析 で は 、農 業 部 門 か ら の 非 CO 2 -GHG 排 出 量 の 関 連 す る よ う な 、第 4. 3 節 や 第 5. 6 節 で 実 施 し た 農 業 土 地 利 用 モ デ ル の 耕 地 面 積 や 収 穫 量 等 の 変 化 に 関する分析結果を十分には反映していない。ベースラインと排出抑制ケースでは気候 条件が異なることから、ベースラインと排出抑制ケースでは農業土地利用モデルから 推計される水田面積や農業収穫量のシナリオが異なる可能性がある。このような観点 を 考 慮 す る と 、非 CO 2 -GHG 分 析 で は 、非 C O 2 -GHG に 対 す る 直 接 的 な 削 減 対 策 に 加 え 、 農 地 面 積 等 の 変 化 に よ る 非 CO 2 -GHG 排 出 量 の 農 業 部 門 の 稲 作 や 農 用 地 土 壌 な ど か ら の CH4,N2O 排 出 量 の 影 響 も 考 慮 す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ る 。 今 後 、 農 業 土 地 利 用 モ デ ル の 結 果 を ソ フ ト リ ン ク す る こ と に よ り 、非 CO 2 -GHG 分 析 に つ い て よ り 精 緻 な 分 析 を 行う予定である。 参 考 文 献 ( 第 5.1 1 節 に 関 す る も の ) 1) R ITE; 脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 的 発 展 可 能 な 経 済 社 会 実 現 の た め の 対 応 戦 略 の 研 究 平 成 2 1 年 度 成 果 報 告 書 (2 010 ) 2) EPA; In te rn ationa l Meth an e a nd N itro us Oxid e E missions an d Mitig a tion D ata, http ://www.ep a.g o v/metha ne /a ppe nd ices. h tml. (2 002 ) 3) EPA; Glob al Mitiga tio n of Non - C O 2 Green hou se Ga se s, http ://www.ep a.g o v/c limatechan ge/econ o mic s/download s/Globa lMitig atio n Fu llRep ort.pd f . (200 6) 4) H yman , R.C. , Reilly, J.M., B ab ike r, M.H., Valperg ue De Masin, A., Jaco b y, H.D., Mode lin g non - C O 2 gre enho use gas aba te me n t. En viron me nta l Mod e ling and Asse ssme nt 8 , - 332 - 175–1 86 (2 003 ). 5) K. Ak imo to , F. San o, T. Ho mma, J. Oda, M. Nag ashima , M. Kii, Estima te s o f GHG e mis s ion red uc tion p otentia l b y cou n tr y, sec to r, and c os t, En e rg y P olic y, Vo l. 38 , Iss ue 7 , pp. 338 4 -3 393 , 2 010 - 333 - 第 6章 6.1 持続可能な発展及び地球温暖化政策に関する指標開 発とその定量的評価 概要 近 年 、国 際 社 会 は 温 暖 化 対 策 の 優 先 度 を 高 め つ つ あ る と 考 え ら れ る 。し か し な が ら 、 社会は温暖化対策のみを目的に行動しているわけではない。社会における多くの目的 からすると、温暖化対策はむしろ相対的には低いままとさえ言える。社会が多目的に 意思決定している中にあって、温暖化対策を効果的に実施していくには、温暖化対策 を社会が持っている様々な目的と照らしながら評価しておくことが重要である。本章 では、これまでに策定してきたシナリオについて、地球温暖化抑制という指標のみな らず、幅広く持続可能な発展と関連した指標を総合的に評価した内容についてまとめ る。 温暖化の緩和と影響に関する定量的評価は第5章に述べた通りであるが、これらを 総合的に考慮した場合、どのシナリオがどの点で優れているかを示すには、一定のロ ジックに従って数値化した「指標」での利用が効率的と考えられる。そこで、本プロ ジ ェ ク ト で は 、 昨 年 度 ま で 、 既 存 の 持 続 可 能 な 発 展 に 関 す る 指 標 ( SD 指 標 ) を 参 考 に し つ つ 、 A LP S -SD 指 標 の 開 発 を 行 っ て き た 1) 。今年度は、昨年度に引き続き、指標と して取りあげるべき項目を検討し、項目値の指標化を行った。そして、複数のシナリ オ に つ い て 、 SD 指 標 に 基 づ い て 評 価 を 行 っ た 。 今 年 度 検 討 し た 、指 標 の 項 目 案 を 表 6.1 -1 に 示 す 。叙 述 的・定 量 的 シ ナ リ オ の 内 容 を 考 慮 し 、「 地 球 温 暖 化 」 分 野 の 項 目 を 昨 年 度 か ら 追 加 し て い る 。 こ の 各 項 目 に つ い て 、 A LP S -A の 205 0 年 の ベ ー ス ラ イ ン と 世 界 排 出 量 半 減 ケ ー ス の シ ナ リ オ を 評 価 し た 。 6 .2 節 に は 、 各 項 目 中 で も 、 温 暖 化 政 策 の 背 景 状 況 ( 3. 3 節 参 照 ) ま で を 含 め て 考 察 し た エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ に つ い て 述 べ る 。そ の 他 の 項 目 に つ い て 評 価 の 方 法 と 結 果 は 6. 3 節 に 示 す 。 6 .4 節 で は 、 各 項 目 値 の 指 標 化 、 及 び 指 標 に 基 づ く シ ナ リ オ の SD 評 価 に つ いて述べる。 - 334 - 表 6. 1-1 AL PS- SD 指 標 の 評 価 項 目 案 分野 項目 経済 生活 セキュリティ 本報告書に 評価例有り 一人当たりGDP ○ 貧困人口 ○ 5歳未満児死亡者数 ○ 水ストレス人口 ○ エネルギーセキュリティ ○ 食料セキュリティ 地球温暖化 自然環境 GDPあたりCO2排出 ○ GDPあたり排出削減コスト ○ 全球平均気温上昇 ○ 生態系変化 参 考 文 献 ( 第 6.1 節 分 ) 1) (財 )地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構:脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 的 発 展 可 能 な 経 済 社 会 実 現 の ための対応戦略の研究 6.2 6.2.1 平 成 21 年 度 成 果 報 告 書 (20 10). エネルギーセキュリティ 算定方法 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ は そ も そ も 定 義 す る こ と 自 体 が 容 易 で は な く 、地 域 や 時 点 、 直近の事象(事件、事故、自然災害)などの含め幅広い背景・文脈がエネルギーセキ ュリティに対する見方に影響を与える。そのため識者内で定性的な議論を行っても多 様な意見が出される 1)-3) 。 中でも、どのようなポイントで脆弱性を評価するか(評価すべきか)が重要な点あ る。一つは「国家が十分な量のエネルギーを許容可能な価格以下で入手できること」 という評価ポイントである。その一方「個々の消費者が経済的社会的に妥当(許容可 能)な形態で任意にエネルギーにアクセスできること」といった評価ポイントも指摘 される 1) 。 このようなエネルギーセキュリティそのものの難しい側面を深く認識しつつも、本 年度は“国家にとっての石油、ガス輸入の脆弱性”に着目しこれを指標として定量化 す る こ と を 試 み た 。 こ の よ う に 指 標 と し て 定 量 化 す る こ と は 、 1) 識 者 内 で の エ ネ ル ギ - 335 - ー セ キ ュ リ テ ィ の 議 論 の 効 率 性 を 高 め 、2 )識 者 外 を 含 め よ り 良 い コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 幅広く行っていくため、重要かつ有効な手段となりえる。 本年度は、社会経済等の違いを表現した複数のシナリオと、それぞれのシナリオに お い て CO 2 排 出 制 約 を 課 し た 場 合 に つ い て DNE21+等 に て 分 析 評 価 を 行 っ た 。 こ こ で は、エネルギーセキュリティ指標を定義し、シナリオ毎にそれを定量的に評価するこ とで、複数のシナリオについて、エネルギーセキュリティ上どのように評価できるか をシナリオ間で相対比較することができる 2) 。 本 試 算 で は 、IEA (20 0 7)が 示 し た エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標 み 記 載 ) を 主 に 参 考 と し つ つ 、 H20 年 度 報 告 書 1) 3) ( 以 下 、「 指 標 」と の で 示 し た 算 定 方 法 を (6 .2 -1 )式 、 (6 .2 -2) 式 の 通 り 若 干 更 新 し つ つ 200 0 年 時 点 、 及 び 20 50 年 時 点 の 指 標 算 定 を 行 っ た 。 指 標 (米 国 , Oil) = (米 国 Oil TP ES/ 米 国 全 エ ネ TP ES) [中 東 か ら の O il 輸 入 / (米 国 Oil TP ES+ 米 国 輸 出 )] 2 × 中 東 の 政 治 リス ク指 標 ×{ + [ロシア か ら の O il 輸 入 / (米 国 Oil TP ES+ 米 国 輸 出 )] 2 ×ロ シアの 政 治 リ スク 指 標 + ・・・ } (6. 2 -1) 指 標 (米 国 )= 指 標 (米 国 , O il)+ 指 標 (米 国 , Gas) (6.2 -2 ) た だ し 、 TP ES は 一 次 エ ネ ル ギ ー 総 供 給 量 (total primary en ergy supp ly)を 意 味 す る 。 (6. 2 -1)式 の 第 一 項 は T P ES に 占 め る 石 油 依 存 度 の 項 で あ る 。第 二 項 は 、そ の 石 油 の 輸 入 先 の 地 域 的 集 中 度 ( 及 び 政 治 リスク ) を 評 価 す る 項 で あ る 。 こ こ で 、 中 東 欧 、 イ ン ド ( 将 来 時 点 )と い っ た 地 域 で は 石 油 、ガ ス の 中 継 地 点 と し て の 役 割 が 大 き く 域 内 TP ES に 比 べ輸出入量が共に大きくなる傾向にある。そのような地域でもより妥当な指標となる よう「輸入先の地域的集中度」を評価する部分で分母には輸出量を加えた。このよう な 点 は H20 年 度 及 び 平 成 21 年 度 の 報 告 書 1) 2) とは異なる。 各 地 域 の 政 治 リ ス ク は 、 世 界 銀 行 が 示 し た P olitica l Stability と Reg ulato ry Quality の 平 均 値 を H20 年 度 報 告 書 1) と 同 様 参 照 し た ( な お 、 20 50 年 時 点 の 政 治 リ ス ク が ど の よ う に な る か 設 定 が 困 難 で あ る た め 、こ こ で は 200 0 年 時 点 の 政 治 リ ス ク が 今 後 と も 変 化 し な い と す る 保 守 的 な 想 定 を 行 っ た )。 (6. 2 -2)式 は 、石 油 と ガ ス の 指 標( 脆 弱 度 )の 和 を そ の 地 域 の 指 標( 脆 弱 度 )と す る こ とを意味する。これら指標は値が小さいほど頑健であり、値が大きいほど脆弱である ことを意味する。 なお、石炭については既往の文献(例えば文献 4)5) )においてセキュリティに関する 注目度が石油、ガスに比べ一段低く、またそもそも石炭の生産地が世界各地に分散さ れ て い る こ と な ど か ら 、 H2 0 年 度 及 び 平 成 2 1 年 度 の 報 告 書 性については評価対象としないこととした。 - 336 - 1)2) とは異なり、その脆弱 6.2.2 試算結果 2000 年 時 点 に つ い て は GTAP の 貿 易 マ ト リ ッ ク ス を 、2 050 年 時 点 に つ い て は DNE21+ の計算結果における貿易マトリックスを参照しつつ、各地域の指標を試算した。第 3 章 で 記 載 し た シ ナ リ オ の う ち 、シ ナ リ オ A( 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ )か つ シ ナ リ オ I( 多 目 的 多 様 性 シ ナ リ オ ) に お け る 結 果 を 図 6.2. 2 -1 に 示 す 。 地 域 別 に 見 る と そ れ ぞ れ 特 徴 的 な 変 遷 と な る 結 果 で あ る 。 205 0 年 に 向 け て 、 輸 入 量 が大幅に伸びる中国、インドでとりわけ脆弱性が高まる結果であり、世界半減ケース では国産の石炭利用を減らすことになるため、インドなどで更に脆弱性が高まる結果 である。 ま た イ ン ド は 地 理 的 条 件 上 、 50 年 半 減 ケ ー ス で 中 東 の ガ ス に 多 く を 依 存 す る 結 果 で あ り 脆 弱 と な る 結 果 で あ る 。日 本 は ベ ー ス ラ イ ン と 比 較 し 50 年 半 減 ケ ー ス で 若 干 頑 健 となる方向へシフトしているが、これは国内で消費する石油、ガスの総量がさらに減 少する結果であることが影響している(代わりにバイオ燃料をより多く輸入する結果 であるが、本指標ではバイオ燃料の脆弱性については評価していない点に注意が必要 で あ る )。 ま た 、 世 界 の 多 く の 地 域 で 50 年 半 減 ケ ー ス の 方 が 脆 弱 と な る 傾 向 に あ る 点 に注意が必要である。 エネルギーセキュリティ指標 14000 2000年実績 12000 2050年(ベース) 2050年(50年半減) 10000 8000 6000 4000 2000 図 6. 2.2 -1 World weighted average 韓国, アセアン インド 中国 日本 中東・トルコ・北アフリカ 旧ソ連 中東欧(旧ソ連除く) 西欧 米国 0 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標 [地 域 別 ]( ALP S-A ・ シ ナ リ オ I ) 注 )地 域 区 分 は 、エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ と い う 観 点 か ら 注 目 度 の 高 い 地 域( 輸 入 国 、資 源 国 )を 抜粋。 各 シ ナ リ オ の 世 界 的 な 傾 向 を つ か む た め 図 6 .2. 2 -2 に 世 界 加 重 平 均 し た 結 果 を 示 す 。 世 界 加 重 平 均 値 (Wo r l d we ig h ted a ve ra ge )と は 、 各 地 域 の 石 油 、 ガ ス の TP ES 量 に て 加 重 をとり算定した数値である。 - 337 - 図 6 .2. 2 -2 に お い て 2 000 年 時 点 と 20 50 年 時 点 を 比 較 す る と 20 5 0 年 の 方 が 全 般 的 に 脆弱となる結果である。これは長期的に見て石油、ガスの消費量が増加し貿易量が増 加する影響、資源量が豊富な中東、ロシアなどに輸入先が集中する影響などによるも のであり、とりわけガスの脆弱性が高まる結果である。 次 に シ ナ リ オ I、II、III の 間 で の 比 較 で あ る が 、シ ナ リ オ II は シ ナ リ オ I よ り も 投 資 判断に用いる投資回収年数を長くとったシナリオ(低い時間選好割引率を想定したシ ナ リ オ ) で あ る 。 そ の た め 、 シ ナ リ オ II は 基 本 的 に シ ナ リ オ I よ り も 初 期 投 資 は 高 く なるが、ランニングコストの低い高効率の発電設備などが普及するシナリオである。 シ ナ リ オ III は 、 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 を 重 視 し た シ ナ リ オ で あ り 、 輸 入 す る 石 油 、 ガ ス に 対 し 輸 入 価 格 の 10 %の 関 税 が 課 せ ら れ る 他 、 ガ ス パ イ プ ラ イ ン の 年 経 費 率 が シ ナ リ オ I よ り も 高 位 の ケ ー ス を 想 定 し て い る( ガ ス パ イ プ ラ イ ン で は 輸 入 先 の 振 り 替 え が 技 術 的 に 困 難 で あ り セ キ ュ リ テ ィ 上 脆 弱 性 が 高 い と 認 識 さ れ る 傾 向 に あ る た め )。 2050 年 の ベ ー ス ラ イ ン に 注 目 す る と 、シ ナ リ オ II は 一 次 エ ネ ル ギ ー 総 供 給 量( TP ES) が よ り 低 位 と な り 、輸 入 す る 石 油 、ガ ス 量 が シ ナ リ オ I よ り 低 位 で あ る 。そ の た め 、若 干 な が ら シ ナ リ オ II の 方 が シ ナ リ オ I よ り も セ キ ュ リ テ ィ 上 頑 健 で あ る と の 結 果 で あ る。 シ ナ リ オ III(エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リ オ )で は 、 輸 入 石 油 、 ガ ス が 減 少 し 国 内 資 の 生 産 量 が シ ナ リ オ I、 II よ り も 増 加 す る た め 、 相 対 的 に 頑 健 と な る 結 果 で あ る 。 こ れは石油、ガスの関税さらにはパイプライン費用の増額(以上は、シナリオ想定とし て外生的に与えた)に伴い国内の非在来型資源の生産が増加することによる。 2050 年 の ベ ー ス ラ イ ン と 50 年 半 減 を 比 較 す る と 、 シ ナ リ オ I、 II、 III 全 て で 50 年 半減の方がより脆弱となる結果である。このことから一般に指摘されることが多い 「 CO 2 を 抑 制 す れ ば エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 上 頑 健 と な る 」 と 一 概 に は 言 え ず 、 む し ろ 本 分 析 結 果 か ら は 50 年 半 減 と い っ た ケ ー ス で は 脆 弱 と な る 方 向 へ シ フ ト し て い る 。 - 338 - エネルギーセキュリティ指標 5000 Gas 4000 Oil 3000 2000 1000 2000年 ベースライン シナリオ I I I シナリオ I I シナリオ I シナリオ I I I シナリオ I I シナリオ I 0 50年半減 2050年 図 6. 2.2 -2 エネルギーセキュリティ指標の世界加重平均値 [燃 料 別 ・ シ ナ リ オ 別 ]( AL PS- A) 注 )世 界 加 重 平 均 値 ( Wo r l d wei gh t ed a v e r a ge ) は 各 地 域 の 石 油 、ガ ス の TP E S 量 に て 加 重 を と り 算 定 。 6.2.3 エネルギーセキュリティ指標のまとめ 本 節 で は IEA が 開 発 し た 指 標 に 準 拠 し つ つ 、 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 指 標 の 開 発 を 行った。その上で、本研究で策定した複数のシナリオについてエネルギーセキュリテ ィ の 定 量 的 評 価 を 行 っ た 。本 分 析 か ら は 、CO 2 排 出 を 抑 制 す れ ば エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ上頑健となるとは単純に言えない結果が得られた。このようなトレードオフにも注 意する必要があると考察される。 参 考 文 献 ( 第 6. 2 節 分 ) 1) (財 )地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構:脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 的 発 展 可 能 な 経 済 社 会 実 現 の ための対応戦略の研究 平 成 20 年 度 成 果 報 告 書 (20 09). 2) (財 )地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構 : 脱 地 球 温 暖 化 と 持 続 的 発 展 可 能 な 経 済 社 会 実 現 の ための対応戦略の研究 平 成 21 年 度 成 果 報 告 書 (20 10). 3) IEA, E ne rg y Sec ur i t y an d C l i ma te P ol ic y – Asses s ing In te ra c t ion s, P ar i s: IEA P ublica tion s (2 007 ). 4) 石 油 産 業 活 性 化 セ ン タ ー , ア ジ ア の エ ネ ル ギ ー ・ セ キ ュ リ テ ィ と 日 本 の 役 割 に 関 す る 調 査 , 日 米 共 同 研 究 会 , 1 999 . 5) 経 済 産 業 省 資 源 エ ネ ル ギ ー 庁 , エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ ワ ー キ ン グ グ ル ー プ 報 告 書 , 総 合 資 源 エ ネ ル ギ ー 調 査 会 , 電 気 事 業 分 科 会 , 総 合 部 会 , 20 01. - 339 - 6.3 その他項目 6.3.1 一 人 当 た り GDP ベ ー ス ラ イ ン の 一 人 当 た り GDP に 関 し て は 、 第 5 .2 節 に 記 し た シ ナ リ オ A の ベ ー ス ラ イ ン の 一 人 当 た り GDP シ ナ リ オ を 利 用 し た 。半 減 ケ ー ス の 一 人 当 た り GDP に つ い て は 、 DNE21 モ デ ル か ら 得 ら れ る GDP ロ ス を 利 用 し て 、 地 域 別 一 人 当 た り GDP を 評 価 し た 。世 界 半 減 ケ ー ス の GDP 変 化 は 、CO 2 -3 75pp m 安 定 化 ケ ー ス の DNE21 の 地 域 別 G DP ロスの結果を利用した。 図 6 .3 .1 -1 に は 、 18 地 域 別 の 一 人 当 た り GDP を 時 点 別 ・ 排 出 目 標 別 に 示 し た 。 図 6.3. 1 -2 に は 、 半 減 ケ ー ス 時 の 1 8 地 域 別 の 一 人 当 た り GDP に つ い て 、 ベ ー ス ラ イ ン か ら の 減 少 割 合 を 示 し た 。 半 減 ケ ー ス 時 の 一 人 当 た り GDP の 減 少 割 合 (ベ ー ス ラ イ ン 比 ) は、先 進 国で は相 対 的に 小さ く、途上 国 、特に ア フリ カ地 域 では 大き いと 推 計さ れる。 これは、世界半減ケースでは全地域での限界削減費用均等化を想定し、ここでは費用 負担については特段の制約を設けていないことから、世界半減ケースではバイオマス 70 60 2000 50 2030 ベースライン 40 2030 半減ケース 30 2050 ベースライン 20 2050 半減ケース 10 図 6. 3.1 -1 18 地 域 別 一 人 当 た り GDP - 340 - 世界平均 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 0 米国 一人当たりGDP(MER) [thousand$/capita] CCS の 可 能 性 が あ る ア フ リ カ 等 で 費 用 負 担 増 が 大 き く な る た め で あ る 。 半減ケース時の 一人当たりGDPの減少割合 [%,ベースライン比] 10% 2030 半減ケース 8% 6% 2050 半減ケース 4% 2% 図 6. 3.1 -2 世界平均 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 0% 半 減 ケ ー ス 時 の 18 地 域 別 一 人 当 た り GDP の 減 少 割 合 6.3.2 貧 困 人 口 前 節 で 推 計 し た 地 域 別 一 人 当 た り GDP を 利 用 し て 、 ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス 時 の 貧 困 人 口 の 推 計 を 行 っ た 。ベ ー ス ラ イ ン の 貧 困 人 口 は 、第 5. 4 節 に 記 し た 貧 困 人 口 に 関 す る 中 高 位 的 な 推 計 値 (ジ ニ 係 数 基 準 年 一 定 、貧 困 線 に 対 す る 石 油 価 格 弾 性 値 1. 0; 国 内 所 得 格 差 が 固 定 的 で あ り 、 生 活 レ ベ ル が 生 活 必 需 品 の 価 格 変 動 に 脆 弱 な 想 定 。 )を 用 い た 。 世 界 半 減 ケ ー ス の 貧 困 人 口 の 推 計 に 関 し て は 、 緩 和 策 に よ る GDP の 変 化 の み を 考 慮 し た 。前 節 同 様 に 、世 界 半 減 ケ ー ス の 一 人 当 た り GDP 変 化 は 、375p p m-CO 2 安 定 化 ケ ー ス の DNE21 の 地 域 別 GDP ロ ス の 結 果 を 利 用 し た 。世 界 半 減 ケ ー ス の ジ ニ 係 数 や 貧 困 線は、ベースラインから変化しないと想定した。本推計における世界半減ケースの貧 困 人 口 は 、 温 暖 化 緩 和 策 に よ る GDP ロ ス の 影 響 の み を 考 慮 し 、 温 暖 化 影 響 被 害 増 大 に 伴う貧困増の影響は、現時点では考慮していない点に留意されたい。 図 6 .3. 2 -1 と 図 6 .3. 2 -2 に は 、そ れ ぞ れ 貧 困 人 口 と 貧 困 人 口 割 合 (総 人 口 に 対 す る 貧 困 人 口 の 割 合 )を 時 点 別 ・ 排 出 目 標 別 に 示 し た 。 2 050 年 の 世 界 の 貧 困 人 口 は 、 ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス で そ れ ぞ れ 5 .7 億 人 、6. 5 億 人 (ベ ー ス ラ イ ン 比 +14%)と 推 計 さ れ る 。2 050 年 の 世 界 の 貧 困 人 口 割 合 は 、 ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス で そ れ ぞ れ 6. 2%、 7. 1%と 推 計 さ れ る 。 2050 年 の 半 減 ケ ー ス 時 の 貧 困 人 口 増 加 の 主 要 な 地 域 は ア フ リ カ 地 域 で あ る と 推 計 さ れ る 。 こ れ は 、 ベ ー ス ラ ン に お い て 一 人 当 た り GDP が 相 対 的 に 低 い た め に 貧 困 人口が大きく、また前節で示したように半減ケース時のアフリカ地域の経済影響がベ ースライン比較でみると最も大きいためである。 - 341 - 図 6. 3.2 -2 - 342 - 18 地 域 別 の 貧 困 人 口 割 合 世界平均 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 図 6. 3.2 -1 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 貧困人口割合[% of population] オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 貧困人口[百万人] 500 2000 400 2030 ベースライン 300 2030 半減ケース 200 2050 ベースライン 2050 半減ケース 100 0 18 地 域 別 の 貧 困 人 口 60 50 2000 40 2030 ベースライン 2030 半減ケース 30 2050 ベースライン 20 2050 半減ケース 10 0 6.3.3 5 歳 未 満 児 感 染 症 等 に よ る 死 亡 者 数 (1) 前 提 と 評 価 方 法 本 報 告 書 5. 5 節 に 示 し た よ う に 、死 亡 に つ な が る 疾 病 は 、年 代 に よ っ て 異 な り 、例 え ば 、 5 歳 未 満 児 は 感 染 症 に よ る 死 亡 が 、 65 歳 以 上 で は 非 感 染 症 の 循 環 器 ・ 呼 吸 器 疾 患 に よ る 死 亡 が 多 い 。こ こ で 、5 歳 未 満 児 の 感 染 症 に よ る 死 亡 率 低 減 は 、ミ レ ニ ア ム 開 発 目標 1) に も 掲 げ ら れ て い る よ う に 持 続 的 発 展 に 向 け 、基 本 的 な 課 題 の 一 つ で あ る 。な お 、 5 歳 未 満 児 に と っ て 、循 環 器 ・ 呼 吸 器 疾 患 に よ る 死 亡 率 は 、現 在 の と こ ろ 感 染 症 に 比 べ ると低いが、途上国の調理用に使用されている固体燃料の屋内煙等の影響を受けてい る 2) 、す な わ ち 、今 後 の エ ネ ル ギ ー 選 択 と も 関 連 す る こ と よ り 、持 続 的 な 発 展 に 向 け た 基本的課題と考えられる。そこで、ここでは、持続的発展に向け基本的な課題と考え ら れ る 、5 歳 未 満 児 の 感 染 症 と 循 環 器 ・ 呼 吸 器 疾 患( 以 下 、感 染 症 等 と 呼 ぶ )に よ る 死 亡 率 、及 び 死 亡 者 数 を 、A LP S シ ナ リ オ A の ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス に つ い て 評 価 し た。 評 価 方 法 は 、 5.5 節 に 述 べ た 通 り で 、 感 染 症 に つ い て は 、 (i)一 人 当 た り GDP の 向 上 に伴い、低体重や鉄・ビタミン・亜鉛欠乏、不安全な水等のリスクが低減する、そし て 、 (ii)全 球 平 均 気 温 上 昇 に 伴 い 、 気 候 変 動 の リ ス ク は 増 加 す る 、 と 想 定 し て い る 。 循 環 器 ・ 呼 吸 器 疾 患 に つ い て は 、 (i) 一 人 当 た り GDP の 向 上 に 伴 い 、 固 体 燃 料 の 屋 内 煙 のリスクが低減する、と想定している。なお、半減ケースの評価に用いた一人当たり GDP は 、 ベ ー ス ラ イ ン ケ ー ス と 同 じ で あ り 、 温 暖 化 緩 和 の た め の GDP ロ ス ( 6.3 . 1 節 参照)は考慮していない。すなわち、ベースラインと半減ケースでの評価結果の違い は、気候変動リスクの想定の違いに依存するものである。 (2) 評 価 結 果 図 6 .3. 3 -1 、図 6 .3. 3 -2 に そ れ ぞ れ 、世 界 1 8 地 域 別 の 5 歳 未 満 児 感 染 症 等 に よ る 死 亡 率 と 死 亡 者 数 の 評 価 結 果 を 示 す 。 図 6.3 .3 -1 に み ら れ る よ う に 、 200 0 年 時 点 で は 、 ア フ リ カ や ア ジ ア の 途 上 地 域 で の 死 亡 率 が 高 い 。 20 50 年 に は ベ ー ス ラ イ ン 、 半 減 ケ ー ス と も 、 20 00 年 に 比 べ 、 5 歳 未 満 児 感 染 症 等 に よ る 死 亡 率 は 低 減 す る と 推 計 さ れ た 。 こ れ は 、 (1)で 述 べ た よ う に 、 一 人 当 た り GDP の 向 上 に 伴 い 、 低 体 重 や 鉄 ・ ビ タ ミ ン ・ 亜 鉛 欠 乏 、不 安 全 な 水 、固 体 燃 料 の 屋 内 煙 等 の リ ス ク が 低 減 す る と 想 定 し た こ と に よ る 。 2050 年 の ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス で は 、 半 減 ケ ー ス の 方 が 温 暖 化 の 影 響 が わ ず か に 低 減 さ れ る 。 な お 、 こ の よ う な 、 一 人 当 た り GDP の 向 上 や 温 暖 化 抑 制 に よ る リ ス ク 低 減 の 程 度 に つ い て は 5 .5 節 に 述 べ た よ う に 、評 価 モ デ ル に お け る パ ラ メ ー タ 設 定 の 論 理 性を高めた上で議論するべきものであり、あくまで暫定的なものである。しかしなが ら、今回の評価によって、低体重や鉄・ビタミン・亜鉛欠乏、不安全な水等のリスク を低減すれば、5 歳未満児感染症等による死亡率を大幅に低減できる可能性が示され、 すなわち、それだけ、適応の余地も大きい事が示唆された。 - 343 - 図 6. 3.3 -2 - 344 - 5 歳未満児感染症等による死亡者数 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 図 6. 3.3 -1 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 5歳未満児感染症等死亡者数 [千人] 世界平均 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 5歳未満児感染症等死亡率 [千人/10万人] 4.0 3.5 2000 3.0 2050 ベースライン 2.5 2050 半減ケース 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 5 歳未満児感染症等による死亡率 3,000 2,500 2000 2,000 2050 ベースライン 2050 半減ケース 1,500 1,000 500 0 6.3.4 水 ス ト レ ス 人 口 (1) 前 提 と 評 価 方 法 水は地球の陸、海、大気を循環する資源であるが、人間が利用できる水資源はその 一 部 に 限 ら れ る 。 例 え ば 、 陸 域 に 降 っ た 降 水 は 、 そ の 後 の 形 態 に よ り 、 (i) 砂 漠 、 湖 、 湿 地 か ら の 蒸 発 ( Lo ss)、 (ii)耕 地 や 森 林 で 植 物 の 成 長 に 係 る 蒸 発 散 (G ree n wa te r) 、 (iii) 地 表 面 水 、 地 下 水 ( B lue wa te r) の 3 つ に 大 別 さ れ 、 人 間 の 主 な 管 理 対 象 と な る 水 資 源 と は (iii)の B lu e wa te r を 指 す こ と が 多 い 3) 。 本 報 告 書 4. 3.2 (4 )節 に 述 べ た 通 り 、 水 ス ト レ ス を 正 し く 評 価 す る に は 、(i)∼ (iii)の 全 て に つ い て 、温 暖 化 や 農 産 物 貿 易 、土 地 利 用 変 化 の 影 響 を 分 析 す る 必 要 が あ る 。但 し 、(i)∼ (iii)の 関 連 性 に つ い て 十 分 に 分 析 で き て い な い た め 、こ こ で は 、文 献 4 ,5 )等 を 参 考 に 、年 間 の B lu e wa te r に 対 し 人 間 が 直 接 利 用 す る 水 の 割 合 ( 水 需 給 比 ) に 着 目 し 、「 水 需 給 比 が 0. 4 以 上 の 流 域 に 住 む 人 口 ( 水 ス ト レ ス 人 口 )」 を 、 A LP S の シ ナ リ オ A の ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス に 対 し て 評 価 し た 。 水 需 給 比 は 、(6 .3 -1 )式 、(6 .3 -2 )式 で 表 現 さ れ 、こ の う ち 、(6 .3 -1 )式 の 流 出 量 (F)、と (6. 3 -2 ) 式 の 灌 漑 用 水 需 要 量 で 、温 暖 化 の 影 響 を 考 慮 し て い る 。A LP S シ ナ リ オ A の ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス 用 に 想 定 し た 全 球 平 均 気 温 上 昇 は 6.3 .7 節 に 示 す 。そ の 他 、生 活 用 水 需 要 量 等 の 想 定 は 、 5. 7 節 に 記 載 し た 通 り で あ る 。 な お 、 5. 7 節 で は 、 水 ス ト レ ス の 流 域 で灌漑効率の向上や再利用水量の利用増といった適応策を想定した分析結果も示した が、本 節 で以 下に 示 す結 果は 、こ のよ う な適 応策 の導 入 は想 定し てい ない 、す な わち、 灌 漑 効 率 は 2 000 年 の ま ま 、 再 利 用 水 量 に つ い て は 、 都 市 人 口 一 人 あ た り の 再 利 用 水 量 が 20 10 年 の ま ま 、 と し て 分 析 し た も の で あ る 。 水 需 給 比 (R )= 取 水 量 (W) ÷ 地 表 面 水 や 地 下 水 と し て 流 出 す る 量 ( F) (6. 3 -1) W = 生活用水需要量+工業用水需要量+灌漑用水需要量 −淡水化水量−再利用水量 (6. 3 -2) (2) 評 価 結 果 分 析 に よ る と 、 世 界 の 水 ス ト レ ス 人 口 は 2 000 年 に 18 億 人 で あ る が 、 20 30 年 に は 2 9 億 人 、 20 50 年 に は 3 3 億 人 に 増 加 す る 。 図 6 .3. 4 -1 は 、 世 界 1 8 地 域 別 の 水 ス ト レ ス 人 口を示したものである。これによると、インドや、その他南アジア、北アフリカ・中 東 で 、 203 0 年 、 205 0 年 に 向 け 水 ス ト レ ス 人 口 の 増 加 が 著 し い と 推 計 さ れ た 。 こ の 主 な 要 因 と し て 、 5. 7 節 に 述 べ た よ う に 、 人 口 増 加 や 経 済 発 展 に 伴 う 生 活 用 水 や 工 業 用 水 需 要の急速な増加があげられる。温暖化を半減ケースまで抑制した場合、ベースライン に 比 べ 、 西 欧 や 、 南 西 部 ア フ リ カ 、 東 南 ア ジ ア の 各 地 域 で 、 2 050 年 に そ れ ぞ れ 1 千 万 人程度水ストレス人口が減少する一方、北アフリカ・中東、中国では逆にそれぞれ 1 千万人、5 百万人程度、水ストレス人口が増加すると推計された。北アフリカ・中東、 中国のように、温暖化によって年間の流出量が増加すると予測されている地域では、 温暖化を抑制することによって、流出量増加が制約されるためと、考えられる。なお、 本評価は、年間の水需給比に基づくものであり、温暖化による豪雨や洪水等の影響は 考慮していない。 - 345 - 図 6 .3. 4 -2 は 、水 ス ト レ ス 人 口 割 合 を 示 し た も の で あ る 。日 本 で も 国 民 の 数 パ ー セ ン トが水ストレス人口にカウントされるのは、大都市圏でごく一部の水ストレスの流域 に人口が密集しているためである。すなわち、将来の人口分布によって、水ストレス 人口を緩和できる可能性も示唆されている。 以上をまとめると、想定した、温暖化、水需要、人口分布シナリオの下では、世界 の 水 ス ト レ ス 人 口 は 、 205 0 年 に 向 け 、 2 00 0 年 の 18 億 人 か ら 3 3 億 人 ま で 増 加 す る 。 増 加の著しい地域は、インドや、その他南アジア、北アフリカ・中東で、人口増加や経 済発展に伴う生活用水や工業用水需要の急速な増加が主な要因と考えられる。温暖化 を抑制した場合、西欧や、南西部アフリカ、東南アジアのように、水ストレス人口が 低減される地域がある、一方で、北アフリカ・中東、中国のように逆に水ストレス人 口が増大する地域がある。なお、いずれの地域も、温暖化抑制によって、水ストレス 人口を大幅に低減させることは難しく、むしろ、水利用の効率化や人口分布等、温暖 化以外の観点からの対策が必要といえる。 1,200 2000 2030 ベースライン 2030 半減ケース 800 2050 ベースライン 2050 半減ケース 600 400 200 図 6. 3.4 -1 水 ス ト レ ス 人 口 - 346 - オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 0 米国 水ストレス人口[百万人] 1,000 80 2000 70 2030 ベースライン 水ストレス人口割合 [% of population] 60 2030 半減ケース 50 2050 ベースライン 40 2050 半減ケース 30 20 10 図 6. 3.4 -2 世界平均 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 0 水ストレス人口割合 6.3.5 GDP あ た り CO 2 排 出 ベ ー ス ラ イ ン と 半 減 ケ ー ス に お け る GDP 当 た り CO 2 排 出 量 に 関 し て 、 DNE21+ モ デ ル を 用 い て 評 価 し た 。 こ こ で の シ ナ リ オ 想 定 は 、 シ ナ リ オ A・ シ ナ リ オ I で あ る 。 図 6.3. 5 -1 に は 、 1 8 地 域 別 の GDP 当 た り CO 2 排 出 量 を ベ ー ス ラ イ ン ・ 半 減 ケ ー ス 別 に 示 し た 。 先 進 国 で は 、 G DP あ た り CO 2 排 出 量 は 小 さ く 、 環 境 負 荷 が 小 さ い 傾 向 に あ り 、 特 に 日 本 の GDP あ た り CO 2 排 出 量 は 最 も 小 さ い 。 一 方 、 途 上 国 や 旧 ソ 連 ・ 東 欧 地 域 は GDP あ た り CO 2 排 出 量 が 大 き く 、環 境 負 荷 が 大 き い 傾 向 に あ る 。世 界 半 減 ケ ー ス で は 、 バ イ オ マ ス CCS な ど の 利 用 が 大 き く な る 南 米 や ア フ リ カ 、オ セ ア ニ ア に お け る GDP 当 た り CO 2 排 出 量 が 小 さ く な る 。 た だ し 、 こ の 分 析 で は バ イ オ マ ス の 大 量 利 用 に 伴 う 生 態系への影響を特段考慮していないために、今後、生態系評価などの指標での総合的 な 評 価 が 必 要 と な る と 考 え ら れ る 。半 減 ケ ー ス 時 に お け る 詳 細 な 分 析 結 果 に 関 し て は 、 第 5. 9~第 5.11 節 を 参 照 さ れ た い 。 - 347 - 2.7 5.8 GDP当たりCO2排出量 [tCO2/thousand$] 2.5 2000 2.0 2030 ベースライン 1.5 2030 半減ケース 1.0 2050 ベースライン 0.5 2050 半減ケース 図 6. 3.5 -1 世界平均 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 0.0 18 地 域 別 の GDP 当 た り C O 2 排 出 量 6.3.6 GDP あ た り 排 出 削 減 コ ス ト 世 界 半 減 ケ ー ス 時 に お け る GDP 当 た り 排 出 削 減 コ ス ト に 関 し て 、 DNE21+モ デ ル を 用 い て 評 価 し た 。こ こ で の シ ナ リ オ 想 定 は 、シ ナ リ オ A・シ ナ リ オ I で あ る 。図 6.3 . 6 -1 に は 、 世 界 半 減 ケ ー ス 時 の 1 8 地 域 別 の ベ ー ス ラ イ ン 比 GDP 当 た り 対 策 費 用 を 示 し た 。 第 5. 9 節 で 示 し た よ う に 、 世 界 半 減 ケ ー ス で は 20 50 年 に 急 激 に 限 界 削 減 費 用 が 上 昇 す る こ と か ら 、 2030 年 に 比 べ 、 2050 年 で は 多 く の 地 域 で GDP 当 た り 対 策 費 用 が 急 激 に 上 昇 す る と 推 計 さ れ た 。世 界 半 減 ケ ー ス で は 全 地 域 で の 限 界 削 減 費 用 均 等 化 を 想 定 し 、 ここでは費用負担については特段の制約を設けていないことから、世界半減ケースで は バ イ オ マ ス CCS の 可 能 性 が あ る ア フ リ カ 等 で 費 用 負 担 増 が 大 き く な る と 推 計 さ れ た。費用分担の議論は別途必要であると考えられる。半減ケース時における詳細な分 析 結 果 に 関 し て は 、 第 5. 9~第 5.11 節 を 参 照 さ れ た い 。 - 348 - 10.3 GDP当たり対策費用 [%] 8.0 6.0 2030 半減ケース 4.0 2.0 2050 半減ケース 0.0 図 6. 3.6 -1 世界平均 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 -2.0 GDP 当 た り 対 策 費 用 ( ベ ー ス ラ イ ン 比 ) 6.3.7 全 球 平 均 気 温 上 昇 図 6 .3. 7 -1 に A LP S シ ナ リ オ A,B の ベ ー ス ラ イ ン と 世 界 排 出 量 半 減 ケ ー ス ( 450 pp m-CO 2 eq. 相 当 ) 用 に 想 定 し た 全 球 平 均 気 温 上 昇 ( 産 業 革 命 前 比 ) を 示 す 。 最 終 的 に は 各 種 GHGs、 SOx 、 NOx の 排 出 シ ナ リ オ か ら 全 球 平 均 気 温 を 算 定 す る 予 定 で あ る が 、 今 年 度 は SOx、 NOx 等 の 排 出 シ ナ リ オ 作 成 ま で は 行 わ な か っ た こ と か ら 、 A ,B の ベ ー ス ラ イ ン に は 、比 較 的 排 出 量 推 移 が 近 い SR ES -A1V2 (M in iCAM) 6 ) の 排 出 シ ナ リ オ を 代 用 し た 。世 界 排 出 量 半 減 ケ ー ス に つ い て は 、RCP -3P D 7) の 排 出 シ ナ リ オ を 用 い た 。全 球 平 8) 均 気 温 上 昇 は 、 簡 易 気 候 変 動 モ デ ル MAG ICC で 計 算 し た 。 図 6 .3. 7 -1 に よ る と 、 ベ ー ス ラ イ ン シ ナ リ オ の 全 球 平 均 気 温 は 、 半 減 ケ ー ス に 比 べ 、 2050 年 で 約 0 .7 ℃ 高 く 、 2 100 年 で 約 3℃ 高 い 想 定 と な っ て い る 。 - 349 - Change in global mean temperature (°C) 4.5 4.0 3.5 A,Bベースライン 3.0 A,B半減 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 図 6. 3.7 -1 2100 2090 2080 2070 2060 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 0.0 全球平均気温上昇(産業革命前比) 参 考 文 献 ( 6. 3 節 分 ) 1) 国連開発計画東京事務所 : ミレニアム開発目標. (http://www.undp.or.jp/aboutundp/mdg/mdgs.shtml) 2) WHO: Global health risks, mortality and burden of disease attributable to selected major risks (2009). (http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/global_health_risks/en/index.html) 3) FAO:Review of world water resources by country, Water reports 23 (2003). 4) Alcamo J, Flörke M, Märker M (2007) Future long-term changes in global water resources driven by sosio-economic and climate changes, Hydrilogical Science, 52(2):247-275. 5) Oki T and Kanae S:Global hydrological cycles and world water resources, Science,313-25 (2006) 6) IPCC:Special report on emissions scenarios, Cambridge University Press, Cambridge (2000). 7) IIASA:RCP Database (version 2.0). (http://www.iiasa.ac.at/web-apps/tnt/RcpDb/dsd?Action=htmlpage&page=about) 8) Wigley T M L:MAGICC/SCENGEN version 5.3. (http://www.cgd.ucar.edu/cas/wigley/magicc/) 6.4 シ ナ リ オ の SD 評 価 6.2 節 、6. 3 節 に 述 べ た 各 項 目 の 評 価 値 を 基 に 、本 節 で は シ ナ リ オ の SD 評 価 を 行 っ た 。 数 値 の 規 格 化 、 統 合 化 の 方 法 を 検 討 し つ つ 、 ま ず 、 世 界 平 均 値 を も と に 、 2050 年 の 各 シ ナ リ オ の SD 度 を 評 価 し た 。次 に 、各 シ ナ リ オ の 各 時 間 断 面 で 見 た 場 合 、世 界 各 地 域 の SD 度 が ど の よ う な 位 置 に あ る か を 評 価 し た 。 評 価 対 象 シ ナ リ オ は 、 A LP S シ ナ リ オ A のベースラインシナリオと半減ケースシナリオである。 なお、本年度は、本研究で評価を予定している全項目について分析・評価が完了し てはおらず、また、項目によっては暫定的な評価値も含まれることに注意されたい。 - 350 - 6.4.1 世 界 平 均 値 に よ る 将 来 時 点 の SD 評 価 図 6 .4. 1 -1 は 、SD 評 価 に 用 い た 8 項 目 に つ い て 20 00 年 、2 050 年 ベ ー ス ラ イ ン 、205 0 年半減ケースの世界平均値をまとめたものである。ここで、エネルギーセキュリティ に つ い て は 、 6. 2 節 の シ ナ リ オ I、 II、 III の う ち 、 シ ナ リ オ I の 評 価 結 果 を 使 用 し て い 0 0.5 2000 2050 2050 2000 全球平均気温上昇 (産業革命前比)[℃] 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 2050 2000 図 6. 4.1 -1 2050 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 ベースライン ベースライン 半減ケース 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 GDP当たり対策費用 [%] 2000 ベースライン 半減ケース 0.0 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 2050 各項目の世界平均値 - 351 - 半減ケース 1.0 40 35 30 25 20 15 10 5 0 半減ケース 水ス トレス人口割合[%] 1.5 2050 半減ケース 2000 2.0 2000 5 2050 ベースライン 5歳未満児感染症等死亡率 [千人/10万人] 2000 GDP当たりCO2排出量 [tCO2/thousand$] 半減ケース 0 ベースライン 2 10 ベースライン 4 15 エネルギーセキュリティ(脆弱度) 6 20 半減ケース 8 25 半減ケース 10 30 ベースライン 12 貧困人口割合[% of population] 14 ベースライン 一人当たりGDP(MER) [thousand$/capita] る。 2000 2050 と こ ろ で 、図 6 .4 .1 - 1 の 値 の ま ま で は 、単 位 の 異 な る 項 目 間 で の 比 較 が で き な い の で 、 項 目 毎 に (6 .4 -1 )式 に 基 づ き 、値 を 規 格 化 し た 。(6. 4 -1)式 の 分 子 は 、200 0 年 時 に 比 べ 20 5 0 年 時 の SD 度 が ど の よ う に 変 わ っ た か を 意 味 し て お り 、 ま た 、 (6 .4 -1)式 の 分 母 は 、 20 0 0 年 、 20 50 年 の ベ ー ス ラ イ ン 、 2 050 年 の 半 減 ケ ー ス 、 の 3 つ の サ ン プ ル の い ず れ か に よ って、考えら得る世界像の両端(最大値と最小値)が表現できると仮定した場合、考 え 得 る 世 界 像 の 広 が り 幅( 最 大 値 − 最 少 値 )で 規 格 化 す る と い う 意 味 で あ る 。× 1 0 は 、 数 字 を 見 や す く す る た め の も の で 、特 別 の 意 味 は な い 。な お 、8 つ の 項 目 の う ち 、一 人 当 た り GDP 以 外 の 項 目 は 、 図 6. 4.1 -1 の 値 が 大 き い ほ ど 持 続 的 発 展 に 相 反 す る と 考 え られることより、−の符号を付加した。 S ik = (± ) 10 • Wik − Wi 2000 Maxi − Mini (6. 4 -1) i: 項 目 k : (205 0 年 ベ ー ス ラ イ ン 、 205 0 年 半 減 ケ ー ス ) S ik : 世 界 平 均 値 に 関 す る 規 格 化 値 ( 世 界 平 均 SD 度 ) Max i = Max (Wi 2000 ,Wi 2050 ベースライン ,Wi 2050半減ケース ) Mini = Min (Wi 2000 ,Wi 2050 ベースライン ,Wi 2050半減ケース ) (±) :「 一 人 あ た り GDP 」 の み 「 + 」、 そ の 他 の 項 目 は 「 − 」 図 6 .4. 1 -2 に 、 20 50 年 の 項 目 別 規 格 化 値 ( 以 下 世 界 平 均 SD 度 、 あ る い は SD 度 と 呼 ぶ)と、全項目の単純和からなる統合化値を示す。なお、各項目がどの程度重要と考 え る か は 、個 人 の 価 値 判 断 に よ り 異 な る し 、ま た 、例 え ば 本 研 究 で 策 定 し た シ ナ リ オ I ( 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ )、 II( 温 暖 化 対 策 優 先 シ ナ リ オ )、 III( エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障優先シナリオ)の違いによっても異なって然るべきである。そのため、例えば、た アンケート調査等を通して項目の重みづけを行うことも考えられるが、本年度は、暫 定的に各項目の重要度が同じと仮定して、統合化値を試算した。図より、一人当たり GDP は 、 ベ ー ス ラ イ ン に 比 べ 、 半 減 ケ ー ス の 方 が 、 温 暖 化 緩 和 策 の 導 入 に 伴 う GDP ロ ス の た め 、 SD 度 は 低 く 評 価 さ れ て い る 。 貧 困 人 口 割 合 は 、 ベ ー ス ラ イ ン に 比 べ 、 半 減 ケ ー ス の 方 が 、 ア フ リ カ や ア ジ ア の 途 上 国 の 一 人 当 た り GDP が 低 下 し 貧 困 人 口 が 増 加 す る い と い う 評 価 を 反 映 し 、 SD 度 は 低 い 結 果 に な っ て い る 。 5 歳 未 満 児 感 染 症 等 死 亡 率、水ストレス人口割合は、ベースラインに比べ、半減ケースの方が、温暖化影響が 低 減 さ れ る た め 、 逆 に 、SD 度 は 高 く な っ て い る 。同 様 に 、GD P あ た り CO 2 排 出 量 、 全 球 平 均 気 温 は 、 ベ ー ス ラ イ ン に 比 べ 、 半 減 ケ ー ス の 方 が 、 SD 度 は 高 い 。 GDP あ た り の 対 策 費 用 は 当 然 の こ と な が ら 、半 減 ケ ー ス で SD 度 が 低 下 す る 。エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィは、半減ケースでは、インドで国産の石炭利用が減少し、中東のガス依存度が高ま るため、脆弱性が増加するという評価を反映し、ベースラインに比べ、半減ケースの 方 が 低 い SD 度 と な っ て い る 。以 上 の 値 を 均 等 に 加 算 し た 統 合 化 値 は 、ベ ー ス ラ イ ン に - 352 - 比べ、半減ケースの方が低く算出された。なお、この重みは、上述の通り、あくまで 暫定的なものであり、従って、この統合化値から、ベースラインより半減ケースの方 が SD 度 は 低 い と 判 断 で き る も の で は 決 し て な い 点 に 留 意 が 必 要 で あ る 。 世界平均値SD度 15 10 2050年・ベースライン 5 2050年・半減ケース 0 -5 -10 図 6. 4.1 -2 8項目和(統合化値) 全球平均気温上昇 GDP当たり対策費用 GDP当たりCO2排出 エネルギーセキュリティ 水ストレス人口割合 5歳未満児感染症等死亡率 貧困人口割合 一人当たりGDP -15 世 界 平 均 SD 度 ( ど の 項 目 も 、 正 値 は SD 度 が 高 い ) 6.4.2 各 時 点 の 地 域 別 SD 評 価 本節では、各シナリオの各時間断面で見た場合、それぞれのシナリオの中で各地域 ( 世 界 18 地 域 )の SD 度 が 世 界 平 均 に 対 し て ど の よ う な 位 置 に あ る か を 評 価 し た 。こ こ で は 、各 地 域 の 項 目 値 を 比 較 す る た め 、全 球 平 均 気 温 を 除 く 7 項 目 の 値 に つ い て (6. 4 -2 ) 式に基づき規格化した。ここで、規格化値 0 は世界平均値に等しいことを意味する。 (6. 4 -1)式 同 様 に 、 7 つ の 項 目 の う ち 、 一 人 当 た り GDP 以 外 の 項 目 は 、 持 続 的 発 展 に 相 反すると考えられることより、−の符号を付加した。 N ijt = (± ) (A ijt − M it ) (6. 4 -2) STit i: 項 目 j: 地 域 (1 ∼ 18 ) t: 時 点 (20 00 年 、 2 050 年 ) N ijt : 規 格 化 値 ( 地 域 別 SD 度 ) - 353 - Aijt : 項 目 の 値 M it : 世 界 平 均 値 STit = (A − M it ) 2 ijt 18 :世界平均値からの偏差 (±) :「 一 人 あ た り GDP 」 の み 「 + 」、 そ の 他 の 項 目 は 「 − 」 図 6 .4. 2 -1 は 、 20 00 年 の 規 格 化 値 ( 以 下 、 地 域 別 SD 度 あ る い は SD 度 と 呼 ぶ ) を 世 界 18 地 域 別 に 示 し た も の で あ る 。 こ れ に よ る と 、 例 え ば 、 日 本 は 、 一 人 当 た り GDP 、 貧 困 人 口 割 合 、 5 歳 未 満 児 感 染 症 等 死 亡 率 、 水 ス ト レ ス 人 口 割 合 、 GDP あ た り CO 2 排 出量については、この時点の世界平均値を上回っているが、エネルギーセキュリティ に つ い て は 、 世 界 平 均 値 を 大 き く 下 回 り 、 18 地 域 の 中 で 最 も SD 度 が 低 く な っ て い る 。 こ の 他 の 地 域 で は 、 ロ シ ア や 東 欧 ・ そ の 他 旧 ソ 連 で GDP あ た り CO 2 排 出 量 の SD 度 が 低 い こ と 、南 東 部 ア フ リ カ や 南 西 部 ア フ リ カ で は 、貧 困 人 口 割 合 、5 歳 未 満 児 感 染 症 等 死 亡 率 の SD 度 が 低 い こ と 、イ ン ド 、そ の 他 南 ア ジ ア 、北 ア フ リ カ ・ 中 東 で は 水 ス ト レ ス 人 口 割 合 の SD 度 が 低 い こ と が 読 み 取 れ る 。 2000年 一人当たりGDP 2 貧困人口割合 1 5歳未満児感染症等 死亡率 水ストレス人口割合 0 -1 エネルギーセキュリ ティ GDP当たりCO2排出 -2 -3 GDP当たり対策費用 図 6. 4.2 -1 200 0 年 の 地 域 別 SD 度 ( ど の 項 目 も 、 正 値 は SD 度 が 高 い ) - 354 - オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ -4 米国 地域別SD度 3 図 6 .4. 2 -2 と 図 6.4 .2 -3 に 、 そ れ ぞ れ 20 50 年 ベ ー ス ラ イ ン と 2 05 0 年 半 減 ケ ー ス の 地 域 別 SD 度 の 差 を 示 す 。 図 6 .4. 2 -2 の 205 0 年 ベ ー ス ラ イ ン で は 、 例 え ば 、 南 西 部 ア フ リ カ の 貧 困 人 口 割 合 に 関 す る SD 度 の 低 い の が 目 立 つ 。 図 6.4 .1 -2 に 示 し た よ う に 、 世 界平均的な貧困人口割合は改善されてきているが、地域別に見ると、南西部アフリカ が 世 界 1 8 地 域 の 中 で 、 貧 困 人 口 割 合 が 最 も 高 く ( 図 6. 3.2 -2 参 照 )、 つ ま り 、 貧 困 人 口 割 合 に 関 す る SD は こ の 世 界 で も 南 西 部 ア フ リ カ 最 も 低 く な っ て い る 。 20 50 年 半 減 ケ ー ス で は 、 各 地 域 に GDP あ た り の 対 策 費 用 が 生 じ る が 、 南 西 部 ア フ リ カ 、 東 欧 ・ そ の 他 旧 ソ 連 の GDP あ た り の 対 策 費 用 が 高 い( 図 6. 3.6 -1 )こ と を 反 映 し 、こ れ ら の 地 域 的 SD 度 は 、 そ れ ぞ れ 1 8 地 域 の 最 低 値 と 最 低 か ら 二 番 目 の 値 と な っ て い る 。 ま た 、 こ れ ら の 地 域 的 で は 、他 の 項 目 と 比 べ て も 、GDP あ た り の 対 策 費 用 の SD 度 が 低 い こ と よ り 、 温室効果ガス排出量半減のための費用負担が、貧困や水ストレス、エネルギーセキュ リティ等の問題よりも、より深刻に感じられる可能性も考えられる。 一人当たりGDP 3 貧困人口割合 2 5歳未満児感染症等死亡率 1 水ストレス人口割合 0 エネルギーセキュリティ -1 GDP当たりCO2排出 -2 GDP当たり対策費用 図 6. 4.2 -2 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ -3 米国 地域別SD度 2050年・ベースライン 4 205 0 年 ベ ー ス ラ イ ン の 地 域 別 SD 度 ( ど の 項 目 も 、 正 値 は SD 度 が 高 い ) - 355 - 2050年・半減ケース 4 一人当たりGDP 3 地域別SD度 貧困人口割合 2 5歳未満児感染症等死亡率 1 0 水ストレス人口割合 -1 エネルギーセキュリティ -2 GDP当たりCO2排出 -3 GDP当たり対策費用 図 6. 4.2 -3 オセアニア その他南アジア インド 東南アジア その他東アジア 中国 日本 南西部アフリカ 南東部アフリカ 北アフリカ・中東 ロシア 東欧・その他旧ソ連 西欧 その他南米 ブラジル 中米 カナダ 米国 -4 205 0 年 半 減 ケ ー ス の 地 域 別 S D 度 ( ど の 項 目 も 、 正 値 は SD 度 が 高 い ) 6.4.3 SD 評 価 の ま と め と 今 後 の 課 題 6.4.1 節 に 述 べ た よ う に 、 2 050 年 の 世 界 平 均 の SD 度 は ベ ー ス ラ イ ン 、 半 減 ケ ー ス と も 、20 00 年 に 比 べ 、一 人 当 た り GDP 、貧 困 人 口 割 合 、5 歳 未 満 児 感 染 症 等 死 亡 率 、G DP あ た り CO 2 排 出 の 点 で 、 向 上 す る が 、 水 ス ト レ ス 人 口 割 合 、 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ 、 GDP あ た り 対 策 費 用 、 全 球 平 均 気 温 上 昇 の 点 で 、 低 下 す る と 評 価 さ れ た 。 ま た 、 2 050 年のベースラインと半減ケースでは、半減ケースの方が、温暖化影響が緩和されるた め 、 5 歳 未 満 児 感 染 症 等 死 亡 率 や 水 ス ト レ ス 人 口 割 合 の 点 の SD 度 が 上 昇 す る と 評 価 さ れた。一方で、エネルギーセキュリティは、半減ケースの方が、ベースラインよりも SD 度 が 低 下 す る 可 能 性 が あ る こ と も 評 価 さ れ た 。さ ら に 、6.2 . 2 節 で は 、シ ナ リ オ 、時 点 毎 に 各 地 域 の 世 界 平 均 に 対 す る SD 度 に つ い て 述 べ た 。こ こ で 示 し た 地 域 的 SD 度 は 、 そ の 世 界 観 の 中 で 、各 地 域 が ど の 程 度 SD に つ い て 優 位 性 を 感 じ ら れ る か 、と い う 意 味 の も の で あ る 。仮 に 世 界 の 平 均 的 な SD 度 が 上 昇 し て い て も 、そ の 世 界 観 の 中 で は 相 対 的 に 自 国 の SD 度 を 低 く 感 じ る 可 能 性 も あ る 。 今後の課題として、引き続き、脱温暖化と持続的発展に関連する指標項目の検討が あげられる。そして、各項目の指標化(規格化、統合化)についても更なる検討の余 地がある。本研究で策定した複数のシナリオを、社会が有している幅広い目的に照ら し て で き る 限 り 的 確 に 、そ し て 総 合 的 に 評 価 で き る よ う 、更 に 検 討 を 行 う 予 定 で あ る 。 - 356 - 第 7章 7.1 海外主要研究機関によるシナリオ 中国シナリオ 7.1.1 は じ め に 複 数 の 国 際 研 究 機 関 が 2006 年 も し く は 2 007 年 に 、 中 国 の 温 室 効 果 ガ ス 排 出 国 が 米 国 を 上 回 っ た こ と を 発 表 し て い る 。中 国 の エ ネ ル ギ ー 効 率 改 善 、CO 2 排 出 削 減 の 速 度 は 全世界の温室効果ガス排出総量に与える影響も大きい。そのため、これまで以上に中 国のエネルギー効率や温暖化政策の動向等に注目が集まっている。 本 節 で は 、 米 国 ロ ー レ ン ス バ ー ク レ ー 国 立 研 究 所 ( LBN L) が 実 施 し た ボ ト ム ア ッ プ 手法に基づくモデルを用いて、産業セクター別のシナリオ策定及びの省エネルギー分 析 を 概 観 す る 。 LBN L は 2 030 年 ま で の 中 国 の セ ク タ ー 別 排 出 の モ デ ル 分 析 を 行 っ た 上 で、中国の現時点におけるエネルギー効率と、最も効率の良い技術を導入した場合の 差(省エネポテンシャル)を試算している。本節では、どの分野に効率改善の余地が あるかを把握し、持続可能な発展に向けた示唆を得ることを目的とする。また、この LBN L の 分 析 結 果 を 含 め 、 他 の 研 究 機 関 に よ る 中 国 シ ナ リ オ 分 析 結 果 の 比 較 を 行 う 。 7.1.2 方 法 論 LBN L は ボ ト ム ア ッ プ 型 か つ シ ナ リ オ 分 析 的 な 構 造 を 持 つ LEAP ソ フ ト 2 を 用 い た 「 China En e rg y End U se Mode l」 を 構 築 し て い る 。 こ の モ デ ル は 、 セ ク タ ー 別 の 最 終 エ ネ ルギー需要が細かく設定入力可能であることから、各部門の技術進歩を詳細に検討し つ つ 、中 国 全 体 の エ ネ ル ギ ー 消 費・CO 2 削 減 と い っ た マ ク ロ な ト レ ン ド を 整 合 的 に 評 価 することができる。 エ ネ ル ギ ー 需 要 部 門 を 民 生 、商 業 、工 業 、及 び 交 通 部 門 に 分 け 、2008 年( 或 い は 200 9 年)の最新統計データを用い、エネルギー需要を分析している。モデルの「転換部門」 については、石油精製、石油採掘、コークス・石炭採鉱、ガス採掘、及び発電といっ たサブセクターを設けている。エネルギー生産サブセクターから、異なる種類のエネ ルギー生産量を計算し、需要側へ供給する構造になっている。 レ フ ァ レ ン ス シ ナ リ オ (R eferenc e ) と 最 大 技 術 シ ナ リ オ (Ma x Te ch ) の 二 つ の シ ナ リ オ を 設 定 し て い る 。レ フ ァ レ ン ス シ ナ リ オ (Re fe ren ce )は 、現 在 の エ ネ ル ギ ー 効 率 の 改 善 ペ ー ス を 維 持 す る シ ナ リ オ で あ る 。最 大 技 術 シ ナ リ オ (Ma x Tec h)と は 、現 在 利 用 可 能 な 最 高効率の技術などが広く普及するシナリオである(技術的意味のみならず、社会的に もエネルギー効率が良くなるような社会シナリオを想定(例:鉄道電化といったの目 標 等 を 適 用 )。 最 大 技 術 シ ナ リ オ が 、 技 術 普 及 に お け る コ ス ト を 度 外 視 し 、 利 用 可 能 な 最高効率の技術を適用することを想定している点に留意する必要がある。 2 L E AP : Lo n g- Ran g e E n er g y Al t er n at i v es P l an n i n g so f t wa r e p l at f o r m, d e v el o p ed b y S t o c kh o l m E n v i r o n me n t a l I n s t i t u t e - 357 - 二 つ の シ ナ リ オ は 、 人 口 、 都 市 化 水 準 、 G DP 増 長 率 、 及 び 各 セ ク タ ー の エ ネ ル ギ ー 需要に影響する要素(建築面積、自動車保有量、工業生産など)については同じ設定 をし てい るが 、設 備 の年 間エ ネル ギ ー消 費量、工 業製 品の エ ネル ギー 強度 、技 術 構成、 及び燃料構成等エネルギー効率改善水準に差異を設けている。 レファレンスシナリオは、ベースラインシナリオとも言いかえることができ、全て のセクターが「市場本位」の、穏やかな改善率を維持しつつ、中国政府が発表した効 率改善に関する政策、目標が全て導入することになる。最大技術シナリオでは、積極 的 に 政 策 ・ プ ロ ジ ェ ク ト を 導 入 し 、 2 030 年 に お い て 各 セ ク タ ー が 最 大 限 の 効 率 改 善 を 達成することになる。なお技術の貿易障壁を配慮していない点に注意が必要である。 また、エネルギー効率の改善、及び技術の応用は、時系列で見て線形的に達成するよ う設定している。 部門別に見ると最大限の効率改善とは 製品の場合(家電等)は、現在利用可能な最高効率製品を使用する。 産業の場合(工業生産)は、国際的に使われている最高効率のものを適用する。 発 電 部 門 は 、再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 、非 化 石 燃 料 の 発 電 を 積 極 的 に 促 進 す る と い っ た政策主導的な手法を前提とする。 7.1.3 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 LBN L に よ る 分 析 結 果 の 要 点 は 次 の 通 り で あ る 。 • 2030 年 時 点 で 、最 大 技 術 シ ナ リ オ は 、レ フ ァ レ ン ス シ ナ リ オ と 比 較 し 年 間 1 0 億 tce ( ton of co a l e qu iva len t, 石 炭 換 算 ト ン ) 以 上 の 省 エ ネ と な る 。 • ど ち ら も 202 0 年 が C O 2 排 出 量 の タ ー ニ ン グ ポ イ ン ト で あ る 見 込 み だ が 、 最 大 技 術 シナリオの方がより早くピークを迎える可能性が高い。 • 工 業 部 門 が 最 大 の 省 エ ネ ル ギ ー ・ CO 2 削 減 ポ テ ン シ ャ ル を 持 っ て い る 。 • 電 力 部 門 は 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー の 普 及 加 速 に 加 え 、石 炭 発 電 効 率 の 改 善 に よ り 電 力 の脱炭素化が進む。 (1) エ ネ ル ギ ー 需 要 の 見 通 し 一 次 エ ネ ル ギ ー 需 要 の 年 平 均 増 加 率 に 関 し て 、レ フ ァ レ ン ス シ ナ リ オ で は 201 0 年 か ら 2020 年 ま で 2 .6% 、 202 0 年 以 降 1 .0 % で あ る 。 最 大 技 術 シ ナ リ オ で は 、 2020 年 ま で 1.4 % 、 2 020 年 以 降 -0. 3% ( 年 率 0. 3%の 減 少 ) と な る 。 最大技術シナリオで一次エネルギー需要の減少は、主に石炭の需要減少による(よ り詳細には、電力消費量総量の減少、石炭設備容量の増加、再生可能エネルギーの加 速 な ど に よ る 影 響 )。 そ の た め 石 炭 の 総 需 要 量 が よ り 早 く ピ ー ク を 迎 え 、 20 30 年 に は 、 一 次 エ ネ ル ギ ー 需 要 量 の 僅 か 39 % と な る 。 一 方 、 レ フ ァ レ ン ス シ ナ リ オ で は 、 ほ ぼ 同 じ水準を維持する。 部 門 別 に 見 る と 、 二 つ の シ ナ リ オ と も 、 2 010 年 か ら 、 工 業 の エ ネ ル ギ ー 需 要 シ ェ ア が 低 下 す る が 、両 シ ナ リ オ 共 に 203 0 年 ま で エ ネ ル ギ ー 消 費 総 量 の 50 % 以 上 を 占 め る こ - 358 - と は 共 通 し て い る 。ま た 、最 大 技 術 シ ナ リ オ で も 、20 10 年 か ら 20 30 年 ま で 、商 業 部 門 と 交 通 部 門 の 一 次 エ ネ ル ギ ー 需 要 が 年 間 平 均 4% 増 加 す る 。 Primary Energy Demand (Mtce) 4,500 4,000 3,500 5,000 Reference Primary Electricity* Petroleum Natural Gas Coal 4,500 Primary Energy Demand (Mtce) 5,000 3,000 2,500 2,000 1,500 2010-20 AAGR: 2.6% 2020-30 AAGR: 1.0% 1,000 500 4,000 3,500 Max Tech Primary Electricity* Petroleum Natural Gas Coal 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 2010-20 AAGR: 1.5% 2020-30 AAGR: -0.3% 500 0 0 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2005 2010 2015 2020 2025 2030 注 : *一 次 電 力 需 要 に は 、 水 力 、 風 力 、 太 陽 光 及 び 他 の 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 、 原 子 力 が 含 ま れ る 。 図 7. 1.3 -1 4,500 Primary Energy Use (Mtce) 4,000 Agriculture Industry Transport Commercial Residential Reference 4,500 2% 4,000 3,500 54% 3,000 5,000 1% 58% 2,500 2,000 1,500 20% 17% 1,000 Primary Energy Use (Mtce) 5,000 燃料別一次エネルギー需要見通し 12% 10% 500 13% 13% 0 2005 Agriculture Industry Transport Commercial Residential Max Tech 2% 1% 3,500 3,000 2,500 53% 58% 2,000 1,500 22% 18% 1,000 10% 500 11% 13% 12% 0 2010 2015 2020 図 7. 1.3 -2 2025 2030 2005 2010 2015 2020 2025 2030 部門別一次エネルギー需要見通し 各サブセクターの分析結果を見ると、最大の省エネポテンシャルを持っている工業 部 門 は 「 そ の 他 工 業 」 と 区 分 さ れ て い る 。「 そ の 他 工 業 」 の 省 エ ネ ポ テ ン シ ャ ル は 、 住 居 と 商 業 セ ク タ ー に あ る 11 つ の サ ブ セ ク タ ー の 省 エ ネ ポ テ ン シ ャ ル 総 和 を 超 え る 。 し かし、採鉱、製造、加工等様々な工業を含める「その他工業」の省エネは、相対的に 不確実性が高いと推察される。 - 359 - 1100 Air Trucks Buses 1000 2030 Primary Enregy Savings under Max Tech (Mtce) Transport Cars & Taxis 900 800 Other Industry 700 Glass Industry Ethylene Industry Ammonia Industry Paper Industry Industry 600 500 Aluminum Industry Cement Industry 400 Iron & Steel Industry 300 200 Equipment Water Heating Lighting Cooling Space Heating Other Uses Water Heating Appliances Space Heating Cooking Lighting Commercial 100 Residential 0 By Subsector 図 7. 1.3 -3 By End-Use 203 0 年 部 門 別 省 エ ネ ル ギ ー 成 果 ( Ma x Te ch シ ナ リ オ ) (2) CO 2 排 出 量 の 見 通 し 12,000 12,000 10,000 8,000 Mt CO2 Emissions Mt CO2 Emissions 10,000 Reference Agriculture Industrial Transport Commercial Residential 6,000 4,000 8,000 6,000 4,000 2,000 2,000 0 0 2005 Max Tech Agriculture Industrial Transport Commercial Residential 2010 2015 2020 2025 図 7. 1.3 -4 2030 2005 2010 2015 2020 2025 2030 部 門 別 CO2 排 出 見 通 し CO 2 排 出 量 に 関 し て 、 最 大 技 術 シ ナ リ オ で は 8504 Mt を ピ ー ク と し ( 20 19 年 )、 そ の 後 年 間 2 % の ペ ー ス で 下 が り 、 203 0 年 に は 現 在 よ り 低 い 水 準 と な る 。 - 360 - 最 大 技 術 シ ナ リ オ の CO 2 削 減 は 、 主 に 工 業 部 門 で 達 成 さ れ ( 5 8% )、 商 業 ( 17 % )、 民 生( 13 % )、交 通( 11% )と 続 く 。燃 料 別 に 見 る と 、主 な 排 出 削 減 は 石 炭 関 連 で あ り 、 石 油 の 排 出 減 が 続 く 。 201 0 年 か ら 2030 年 ま で の 累 積 的 な CO 2 削 減 は 30 9 億 ト ン C O 2 である。 12,000 Petroleum Natural Gas Million tonnes of CO2 emissions Reference 10,126 Coal 10,000 Cumulative Reduction: 30, 878 Mt CO2 7,190 8,116 8,000 Max Tech 6,000 4,000 2,000 0 2005 2010 2015 図 7. 1.3 -5 2020 2025 2030 燃 料 別 CO2 排 出 見 通 し 最 大 技 術 シ ナ リ オ で の CO 2 削 減 は 、 主 に 工 業 部 門 に お け る 積 極 的 な 技 術 転 換 に よ り のエネルギー効率の改善が進むことによる。商業、住居、交通部門の削減ポテンシャ ルは、工業部門と比べ小さい。それは、家電などのエネルギー効率標準化、電気自動 車 の 普 及 と い っ た CO 2 削 減 に 関 す る 効 率 改 善 政 策 は レ フ ァ レ ン ス シ ナ リ オ で も あ る 一 定規模で実施される想定を行っている影響も大きい。 Max Tech Total CO2 Abatement Policies and Trends Industrial Savings Faster technology switching (BOF to EAF) Meet World Best Practice before 2030 Faster intensity reduction through technical improvements 20% additional efficiency in Other Industry subsector Transport Savings Greater fuel economy improvements in cars, bus, trucks, aircrafts Accelerated EV share (25% vs 10%) Accelerated rail electrification (68% vs 63%) Best practice heating and cooling efficiency before 2030 Some technology switching for efficiency gain Commercial Savings Faster improvement of appliance efficiency with greater tech shift Meet highest technically feasible efficiency levels for heating Residential Savings Reference Total 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 2030 CO2 Emissions (Mt CO2) 図 7. 1.3 -6 203 0 年 部 門 別 CO 2 削 減 ポ テ ン シ ャ ル - 361 - 7.1.4 セ メ ン ト ・ 鉄 鋼 部 門 の エ ネ ル ギ ー 効 率 改 善 技 術 の コ ス ト 分 析 LBN L は 省 エ ネ 供 給 曲 線 “ Co nserva tion Sup ply Cu rve” を 用 い 、 セ メ ン ト 業 、 鉄 鋼 部 門のエネルギー効率改善技術のコスト分析を行った。省エネ供給曲線とは、省エネポ テンシャルについて限界省エネ費用の関数として示したものである。 省 エ ネ の コ ス ト ( Cost of Con se rve d En e rg y、 以 下 CCE) は 次 式 の 通 り 計 算 す る 。 Cost of Conserved Energy = N (Annual Capital Costs + Change in Annual O & M Cost) n (1 + d) n n =1 N n =1 (Annual Energy Saving) n (7 .1 -1 ) こ こ で 、 N は 分 析 対 象 期 間 、 d は 割 引 率 ( 本 研 究 は 15 % を 想 定 ) で あ る 。 各 技 術 の CCE を 個 別 に 計 算 し た 後 、 コ ス ト の 順 で 各 技 術 を ラ ン キ ン グ し 、 省 エ ネ 供 給 曲 線 を 作 成 す る 。各 技 術 の x 軸 は こ の 技 術 の 年 間 省 エ ネ ル ギ ー 量 で あ り 、y 軸 は こ の 技術のコストである。省エネ供給曲線に、現在のエネルギー価格線を引き、価格線の 下にある技術は、費用効果的手段であるとして扱う。省エネ供給曲線から、採用可能 な全ての技術の累積省エネポテンシャルが分かる。 本研究においてセメント、鉄鋼の製品生産量は主に中国セメント協会、及び中国鉄 鋼 年 鑑 の 統 計 デ ー タ を 整 理 し 使 用 し て い る 。エ ネ ル ギ ー 効 率 は 専 門 家 に ア ン ケ ー ト や 、 「 国 家 重 点 省 エ ネ ル ギ ー 技 術 推 進 目 録 」( 中 国 国 家 改 革 発 展 委 員 会 NDRC、 200 8、 200 9、 2010 ) に 基 づ く 。 セ メ ン ト 部 門 に 適 用 さ れ る 22 つ の 技 術 は 17 つ の 省 電 力 技 術 と 5 の 省 燃 料 技 術 あ り 、 省 電 力 曲 線 と 省 燃 料 曲 線 が 別 々 に 作 成 さ れ て い る 。鉄 鋼 部 門 に 適 用 さ れ る 20 つ の 技 術 は 、 3 つ の 省 電 力 技 術 と 17 つ の 省 燃 料 技 術 か ら な る 。 その結果、鉄鋼、セメント部門に採用される技術のほぼ全ては、費用対効果がある ことがわかった。 Fuel Conservation Supply Curve Cost of Conserved Fuel ($/GJ) 5.0 Weighted Avg Unit Price of Fuel (4.5$/GJ) 4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 Cost effective and total fuel saving potential: 4,708 PJ 2.0 1.5 1.0 0.5 1 - 1,000 3 2 2,000 3,000 4 4,000 5 5,000 Cumulative Fuel Savings Potential 2008 - 2030 (PJ) 図 7. 1.4 -1 中国セメント業における省燃料曲線 - 362 - 表 7. 1.4 -1 中国セメント部門に適用される燃料効率改善技術(コスト順) 効率改善技術 省燃料量 省燃料コスト CO 2 削 減 効 果 (PJ ) (US$ /GJ-sav ed ) (Mton CO 2 ) 1,96 8 0.01 190 606 0.02 57 1,38 6 0.05 131 205 0.06 22 543 0.18 48 混 合 セ メ ン ト (添 加 物 : フ ラ イ ア ッ シュ、ポゾラン、石灰石、高炉スラ グ) 窯 外 壁 熱 損 失 の 減 少 (耐 火 物 の 改 良) 代替燃料の使用 最大限的な熱回収、クリンカー冷却 器の性能向上 クリンカー製造過程におけるエネル ギー管理システム 表 7. 1.4 -2 200 8 年 ∼ 203 0 年 中 国 セ メ ン ト 部 門 の 省 燃 料 、 及 び CO 2 排 出 削 減 総 量 省 燃 料 ポ テ ン シ ャ ル (PJ) 累 積 的 な CO 2 排 出 削 減 [Mtce ] (Mt C O 2 ) 費用効果的 技術的可能性 2008 -20 30 累 積 4,70 8 4,70 8 ポテンシャル [16 1] [16 1] 費用効果的 技術的可能性 448 448 90.0 Avg Unit Price of Electricity (79.7$/MWh) 80.0 Cost of Conserved Electricity ($/MWh) 70.0 Cost effective and total technical electricity saving potential: 244 TWh 60.0 17 50.0 16 40.0 15 30.0 14 13 20.0 12 10.0 7 45 12 3 6 - 50 8 9 10 11 0.0 100 150 200 250 300 Cumulative Electricity Savings Potential 2008 - 2030 (TWh) 図 7. 1.4 -2 中国セメント業における省電力曲線 - 363 - 表 7. 1.4 -3 中国セメント部門に適用可能な電力効率改善技術(コスト順) CO 2 削 減 効 果 省電力 省電力コスト (TWh) (US$ /MWh -saved ) (M ton CO 2 ) 2.9 0.73 1.6 0.6 1.85 0.3 15.9 1.88 8.7 1.9 2.23 1.1 9.3 3.14 5.1 可変速駆動器 38.7 4.12 21.1 低温廃熱の回収・発電 25.0 4.27 13.6 改良したボールミル粉砕媒体 5.0 4.76 2.7 0.6 5.02 0.3 21.1 7.48 11.5 66.1 8.01 36.1 仕上げ粉砕の高効率分級機 9.6 12.7 8 5.2 原料粉砕の高効率分級機、分離機 4.1 17.9 8 2.2 27.6 22.6 3 15.0 6.1 28.8 1 3.3 7.3 40.0 8 4.0 2.2 57.7 5 1.2 効率改善技術 石炭粉砕に竪型ローラーミルがボール ミルを代替 セメントミル換気扇が高効率換気扇 に交換 高効率モーター インバーター付き高効率原料ミル換 気扇 粉 砕 過 程 の エ ネ ル ギ ー 管 理・プ ロ セ ス 制御 可 変 周 波 数 駆 動 器 の 設 置 、石 炭 集 塵 袋 扇風機の交換 仕上げ粉砕に竪型ローラーミルがボ ールミルを代替 仕上げ粉砕のボールミルの予粉砕と する高荷重ローラプレス機 竪型ローラーミルがボールミルを代 替、原料粉砕の高荷重ローラプレス 低圧・低損失サイクロン形予熱器 原材料準備のための高効率(機械的) 運搬システム 材料混合(均質化)システム 表 7. 1.4 -4 200 8 年 ∼ 203 0 年 中 国 セ メ ン ト 部 門 の 省 電 力 、 及 び CO 2 排 出 削 減 総 量 省 電 力 ポ テ ン シ ャ ル (TWh) 2008 -20 30 累 積 ポテンシャル CO 2 排 出 削 減 (M t C O 2 ) 費用効果的 技術的可能性 費用効果的 技術的可能性 243. 8 243. 8 133. 0 133. 0 - 364 - Fuel Conservation Supply Curve 10.0 17 Weighted Avg Unit Price of Fuel (8.6$/GJ) Technical fuel saving potential: 20,085 PJ Cost of Conserved Fuel ($/GJ) 8.0 6.0 Cost effective fuel saving potential: 19,867 PJ 4.0 16 2.0 0.0 1 2 3 45 - 6 7 8 5,000 11 9 10 13 14 15 12 10,000 15,000 20,000 25,000 -2.0 Cumulative Fuel Savings Potential 2008 - 2030 (PJ) 図 7. 1.4 -3 表 7. 1.4 -5 中国鉄鋼部門における省燃料曲線 中国鉄鋼部門に適用可能な燃料効率改善技術(コスト順) 省燃料量 省燃料コスト CO 2 削 減 効 果 (PJ ) (US$ /GJ-sav ed ) (Mton CO 2 ) 転炉に天然ガスの注入 679 -0. 51 64 転炉の溶銑に粉炭の注入 350 -0. 15 33 1,70 0 0.01 151 160 0.01 11 642 0.05 54 2,39 6 0.11 227 43 0.13 3 焼結冷却却機の排熱回収 3,32 3 0.18 314 転炉にコークス炉ガスの注入 1,03 4 0.19 81 高炉ガスの回収 192 0.23 18 焼鈍設備の熱回収 164 0.25 15 3,19 8 0.33 163 203 0.84 20 2,12 7 0.93 201 効率改善技術 総合製鋼所の予防管理 電炉工場の予防管理 総 合 製 鋼 所 の エ ネ ル ギ ー モ ニ タ ー・管 理システム 高 効 率 熱 交 換 器 、及 び リ ジ ェ ネ バ ー ナ の使用 電 炉 工 場 の エ ネ ル ギ ー モ ニ タ ー・管 理 システム 総合製鋼所の未利用のコークス炉ガ ス、高炉ガス、転炉ガスの熱電併給 冷却水からの熱回収 転炉ガス、及び顕熱の回収 - 365 - 効率改善技術 省燃料量 省燃料コスト CO 2 削 減 効 果 (PJ ) (US$ /GJ-sav ed ) (Mton CO 2 ) 885 0.95 84 2,77 2 2.38 149 218 9.00 21 コ ー ク ス 乾 式 冷 却 設 備 (CDQ) 連 続 鋳 造 圧 延 (ス ト リ プ 鋳 造 ) 石炭調湿 表 7. 1.4 -6 200 8 年 ∼ 203 0 年 中 国 鉄 鋼 部 門 の 省 燃 料 、 及 び CO 2 排 出 削 減 総 量 省 燃 料 ポ テ ン シ ャ ル (PJ) CO 2 排 出 削 減 (M t CO 2 ) [Mtce ] 費用効果的 技術的可能性 2008 -20 30 累 積 19,8 67 20,0 85 ポテンシャル [67 9] [68 6] Cost of Conserved Electricity ($/MWh) 90.0 費用効果的 技術的可能性 1,58 8 1,60 8 Avg Unit Price of Electricity (79.7$/MWh) 80.0 70.0 60.0 50.0 Cost effective and total electricity saving potential: 136 TWh 40.0 30.0 20.0 3 10.0 2 1 - 50 100 150 Cumulative Electricity Savings Potential 2008 - 2030 (TWh) 図 7. 1.4 -4 表 7. 1.4 -7 中国鉄鋼部門における省電力曲線 中国鉄鋼部門に応用される電力効率改善技術(コスト順) 効率改善技術 自動的なモニター・ターゲッティング システム 総合製鋼所可変速排煙装置、ポンプ、 送風機 炉 頂 圧 エ ネ ル ギ ー 回 収 タ ー ビ ン (TRT) CO 2 削 減 効 果 省電力 省電力コスト (TWh) (US$ /MWh -saved ) (M ton CO 2 ) 30 0.84 16 54 3.14 29 52 11.08 28 - 366 - 表 7. 1.4 -8 200 8 年 ∼ 203 0 年 中 国 セ メ ン ト 業 の 省 電 力 、 及 び C O 2 排 出 削 減 総 量 省 電 力 ポ テ ン シ ャ ル (TWh) (Mt C O 2 ) 費用効果的 技術的可能性 費用効果的 技術的可能性 136 136 74 74 2008 -20 30 累 積 ポテンシャル 7.1.5 累 積 的 な CO 2 排 出 削 減 結果の分析 こ こ で は 、中 国 に お け る エ ネ ル ギ ー 利 用・C O 2 排 出 見 通 し を 行 う 代 表 的 な 幾 つ の 研 究 機関の結果を紹介し、比較検討する。 1993 年 か ら 、 国 際 エ ネ ル ギ ー 機 関 ( IEA) は Wo rld Ene rg y Mode l( WEM) を 用 い て 、 中長期エネルギー見通しを策定し、毎年報告書を出版している。その最新版である 「 World Ene rg y Ou tloo k 2010 」1 ) は 、2 010 年 1 0 月 発 表 さ れ た 。World Ene rg y Mo de l( WE M) は 、 大 規 模 な シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 型 の モ デ ル で あ り 、 世 界 を 24 区 域 ( 中 国 は そ の 内 の 一 つ ) と し 、 セ ク タ ー 別 、 地 域 別 の シ ナ リ オ 分 析 を 行 う 。 2 010 年 の 最 新 版 は 、 三 つ の シ ナ リ オ に お け る 2 035 年 ま で の エ ネ ル ギ ー 需 給 見 通 し を 作 成 し て い る 。 中 国 エ ネ ル ギ ー 研 究 所( 国 家 発 展 改 革 委 員 会・エ ネ ル ギ ー 研 究 所 )は 、IPAC( In te rgra ted P olic y Asse ssmen t Mo del o f Ch in a) モ デ ル を 開 発 し 、 中 国 中 長 期 エ ネ ル ギ ー 利 用 ・ C O 2 排出の見通しを行っている 2) 。IPAC モ デ ル は 、IPAC -A IM( 技 術 )モ デ ル 、IPAC− E mission モ デ ル 、及 び IPAC− C GE モ デ ル 三 つ の モ ジ ュ ー ル か ら 構 成 さ れ て い る 。IPAC− A IM( 技 術)モデルは、ボトムアップモデルであり、エネルギー需要予測、エネルギー効率試 算、及び技術選択三つのサブモデルを含め、エネルギー需要を最小コストで達成する 技 術 選 択 を 導 く 構 造 で あ る 。 IPAC− E mi s s io n モ デ ル は 、 気 候 変 動 に 対 す る 政 策 を 評 価 す る こ と が で き る 。 IPAC− CGE モ デ ル は ト ッ プ ダ ウ ン モ デ ル で あ り 、 エ ネ ル ギ ー 政 策 における経済分析を実施できる。 LBN L 中 国 エ ネ ル ギ ー グ ル ー プ は 、 200 6 年 以 降 Ch ina En e rg y End Use Mode l を 開 発 ・ 更 新 し て い る ( 既 述 の 通 り )。 表 7 .1. 5 -1 は 、各 研 究 機 関 が 行 っ て い る 中 国 シ ナ リ オ 分 析 の 手 法 、及 び シ ナ リ オ 設 定 をまとめたものである。は、各研究のシミュレーション結果である。四つの研究は、 ER I の IPAC モ デ ル ( ト ッ プ ダ ウ ン の 経 済 サ ブ モ デ ル を 用 い て い る ) 以 外 、 全 て ボ ト ム アップ的手法のモデルである。ベースラインシナリオとして、各研究は既に実施して い る 省 エ ネ ル ギ ー・C O 2 削 減 の 政 策 を 維 持 継 続 す る 、あ る い は 、策 定 済 み の 計 画 通 り 改 善が行われる、と想定している。 各 研 究 機 関 は ほ ぼ 同 じ 人 口 ・ 都 市 化 率 を 想 定 し て い る 。 GDP 成 長 率 に つ い て 、 IEA は 相 対 的 に 低 い 成 長 率 を 想 定 し 、ER I は そ れ よ り も や や 高 い 成 長 率 を 想 定 し て い る と 見 え る 。 し か し 、 IEA の シ ナ リ オ で は P P P 換 算 の GDP で 示 さ れ て い る 一 方 、 DNE21+ は MER 換 算 の GDP シ ナ リ オ で あ る 。ま た 、E R I 及 び LBN L の GDP 想 定 が 、P P P 換 算 値 か MER 換 算 値 か は 現 時 点 の 調 査 で は 不 明 な た め 、 そ の 比 較 に は 注 意 が 必 要 で あ る 。 - 367 - 図 7 .1. 5 -1 、 図 7 .1. 5 -2、 図 7. 1.5 -3 に は 、 そ れ ぞ れ 、 各 研 究 機 関 に よ る 中 国 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 、CO 2 排 出 量 、一 人 当 た り CO 2 排 出 量 の シ ナ リ オ を 示 す 。ER I に よ る 中 国 一 次 エ ネ ル ギ ー 需 要 の 見 込 み は 相 対 的 に 中 庸 の も の と な っ て い る 。ER I の 低 炭 素 強 化 シ ナ リ オ は 、 20 50 年 に は 20 05 年 の 排 出 水 準 に 戻 る よ う な シ ナ リ オ と な っ て い る 。 LB N L ( 203 0 年 ま で の 分 析 事 例 ) の 最 大 技 術 シ ナ リ オ で は 、 コ ス ト 及 び 貿 易 障 壁 に 配 慮 せ ず 、 最 も 効 率 の 良 い 技 術 を 最 大 限 活 用 す る 想 定 で あ り 、 20 20 年 に IEA の 450 シ ナ リ オ よ り 低 い CO 2 排 出 量 を 達 成 す る 結 果 で あ る 。 DNE21+モ デ ル に よ る ベ ー ス ラ イ ン の 結 果 は 、 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 量 、 CO 2 排 出 量 共 に 他 研 究 機 関 よ り や や 大 き い 値 と な っ て い る 。DNE21+モ デ ル に よ る 世 界 半 減 の 結 果 か ら 見 る と 、 世 界 半 減 を 達 成 す る た め の 20 3 0 年 中 国 の CO 2 排 出 量 は 、 IEA の 45 0 シ ナ リ オ や LBN L の 最 大 技 術 シ ナ リ オ よ り は 緩 や か な 削 減 シ ナ リ オ と な っ て い る 。一 方 、2050 年 に お い て 、ER I の 強 化 低 炭 素 シ ナ リ オ と 比 較 す る と 、若 干 で は あ る が よ り 小 さ い 排 出 量を達成しなければならないシナリオとなっている。 一 人 当 た り CO 2 排 出 量 を 見 る と 、 現 在 5 ト ン 程 度 で あ る が 、 2 050 年 に ベ ー ス ラ イ ン で は 8∼ 1 0 ト ン 程 度 、ER I の 強 化 低 炭 素 シ ナ リ オ や DNE21+ の 世 界 半 減 シ ナ リ オ に お い て は 、 3∼ 4 ト ン 程 度 と い う 推 定 に な っ て い る 。 - 368 - 表 7. 1.5 -1 主 要 研 究 機 関 に よ る 中 国 シ ナ リ オ 間 の 比 較 ( 1) 方 法 論 ・ シ ナ リ オ 設 定 研究機関 IEA (WEO201 0) ER I LBN L( 205 0) LBN L( 2 030 ) モデルについて WEM モ デ ル IPAC モ デ ル (大規模ボトム (多モデルフレー アップモデル) ム) 分析手法 Chin a E ne rg y End Use Mode l Chin a Ene rg y End Use Mo de l 2050 年 ま で 2030 年 ま で 現 行 政 策 シ ナ リ BAU シ ナ リ オ オ( 20 10 年 中 旬 ( 対 策 な し ) まで既に採用さ れ た エ ネ ル ギ ー・環境政策) 継 続 改 善 シ ナ リ オ ( 現 在 、及 び 計 画 し た 政 策・技 術を実施) 新政策シナリ オ(公開され た公約・計画 を実施する) 450 シ ナ リ オ ( 2020 年 約 束 値の上限を実 現され、その 後、より強い 政策を実施す る) 低 炭 素 シ ナ リ オ( エ ネル ギー セ キ ュ リ テ ィ・環境・低炭 素を 重視 し 、実 現 さ れ る シ ナ リオ) 低 炭 素 強 化 シ ナ リ オ ( CO 2 削 減 が も っ と 注 目さ れ 、国 際協 力を 得 、技 術進 歩・コスト低減 を促す) 加速改善シ ナリオ(全 てのセクタ ーが効率改 善、技術進 歩 を 加 速 し、非化石 燃料よりの 発電、及び 拡大的な電 化からの脱 炭素化を促 進する) レファレンス シナリオ(現 在のエネルギ ー効率の改善 ペースを維持 する) 最大技術シ ナ リ オ( 各 セ クターが最 大限の技術 可能な効率 改善を達成 する) 2035 年 ま で 予測期間 2050 年 ま で シナリオ設定 ベースラインシナ リオ 対策シナリオ 社会・経済シナリオ設定 人口(億) 2020 年 14.2 6 14.4 0 14.2 0 14.3 1 2030 年 14.2 8 14.7 0 14.6 0 14.6 2 2040 年 14.4 8 14.7 0 − 14.4 0 14.1 0 2050 年 都市化率(%) 2020 年 − 63 63 63 2030 年 − 70 70 70 2040 年 − 74 − 2050 年 − 79 79 2010 ∼ 20 20 7.9 8.38 7.67 7.7 2020 ∼ 20 30 3.9 7.11 5.85 5.9 2030 ∼ 20 40 3.9 4.98 4.09 3.60 2.82 GDP 成 長 率 ( % ) 2040 ∼ 20 50 - 369 - 表 7. 1.5 -2 主 要 研 究 機 関 に よ る 中 国 シ ナ リ オ 間 の 比 較 ( 2) シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 2020 年 2030 年 2040 年 現行政策シナリオ 32.8 8 39.0 7 42.1 5( 2 035 年 ) 新政策シナリオ 31.5 9 35.6 8 37.3 7( 2 035 年 ) 450 シ ナ リ オ 30.9 7 30.9 4 31.3 1( 2 035 年 ) BAU シ ナ リ オ 48.1 7 55.2 6 62.0 2 66.5 7 低炭素シナリオ 39.9 6 44.7 4 48.3 3 52.5 0 強化低炭素シナリオ 39.2 1 42.7 5 46.6 0 50.1 4 項目 2050 年 一次エネルギー供給量 IEA (億 TOE) ER I( 億 TCE) LBN L( 2 050 年 ま で の 分 析 事 例 )( 億 TCE) 継続改善シナリオ 44.5 9 52.1 3 54.1 8 54.8 1 加速改善シナリオ 40.9 7 44.7 5 45.2 5 45.5 8 LBN L( 2 030 年 ま で の 分 析 事 例 )( 億 TCE) レファレンスシナリオ 42.5 5 47.0 0 最大技術シナリオ 37.8 9 36.6 3 CO 2 排 出 量 ( エ ネ ル ギ ー 起 源 ) IEA (WEO201 0)( 億 ト ン CO 2 ) 現行政策シナリオ 99.9 3 117.11 125. 61( 2 035 年 ) 新政策シナリオ 93.8 1 99.8 5 101. 18( 2 035 年 ) 450 シ ナ リ オ 90.3 0 66.1 7 51.6 4( 2 035 年 ) BAU シ ナ リ オ 27.7 9 31.7 9 35.2 5 34.6 5 低炭素シナリオ 22.6 2 23.4 5 23.9 8 24.0 6 強化低炭素シナリオ 21.9 4 22.2 8 20.1 4 13.9 5 ER I( 億 ト ン C) LBN L( 2 050 年 ま で の 分 析 事 例 )( 億 ト ン C O 2 ) 継続改善シナリオ 104. 65 119.3 1 119.0 0 111.92 加速改善シナリオ 94.3 0 96.8 0 88.5 4 73.5 2 LBN L( 2 030 年 ま で の 分 析 事 例 )( 億 ト ン C O 2 ) レファレンスシナリオ 98.9 3 101. 26 最大技術シナリオ 84.8 8 71.9 0 - 370 - 億TOE 60 IEA-現行政策シナリオ IEA-新政策シナリオ IEA-450シナリオ 50 ERI-BAUシナリオ ERI-低炭素シナリオ 40 ERI-強化低炭素シナリオ LBNL2050−継続改善シナリオ LBNL2050-加速改善シナリオ 30 LBNL2030-レファレンスシナリオ LBNL2030-最大技術シナリオ DNE21+-シナリオI(ベースライン) 20 DNE21+-シナリオII (ベースライン) DNE21+-シナリオIII(ベースライン) 10 DNE21+-シナリオI(世界半減) DNE21+-シナリオII(世界半減) DNE21+-シナリオIII(世界半減) 0 2005年 2010年 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年 2045年 2050年 注 : 図 で 示 す IEA の 2010 年 デ ー タ は 2008 年 の 実 績 値 で あ る 。 他 の 研 究 機 関 の 2010 年 の デ ー タ は 推定値である。 図 7. 1.5 -1 各研究機関による分析結果の比較(中国一次エネルギー供給) 億トンCO2 180 IEA-現行政策シナリオ IEA-新政策シナリオ 160 IEA-450シナリオ ERI-BAUシナリオ 140 ERI-低炭素シナリオ ERI-強化低炭素シナリオ 120 LBNL2050−継続改善シナリオ 100 LBNL2050-加速改善シナリオ LBNL2030-レファレンスシナリオ 80 LBNL2030-最大技術シナリオ DNE21+-シナリオI (ベースライン) 60 DNE21+-シナリオII (ベースライン) DNE21+-シナリオIII (ベースライン) 40 DNE21+-シナリオI(世界半減) 20 DNE21+-シナリオII(世界半減) DNE21+-シナリオIII(世界半減) 0 2005年 2010年 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年 2045年 2050年 注 : 図 で 示 す IEA の 2010 年 デ ー タ は 2008 年 の 実 績 値 で あ る 。 他 の 研 究 機 関 の 2010 年 の デ ー タ は 推定値である。 図 7. 1.5 -2 各 研 究 機 関 に よ る 分 析 結 果 の 比 較 ( 中 国 CO 2 排 出 量 ) - 371 - トンCO2/人 12 IEA-現行政策シナリオ IEA-新政策シナリオ IEA-450シナリオ 10 ERI-BAUシナリオ ERI-低炭素シナリオ 8 ERI-強化低炭素シナリオ LBNL2050−継続改善シナリオ LBNL2050-加速改善シナリオ 6 LBNL2030-レファレンスシナリオ LBNL2030-最大技術シナリオ 4 DNE21+-シナリオI (ベースライン) DNE21+-シナリオII (ベースライン) 2 DNE21+-シナリオIII (ベースライン) DNE21+-シナリオI(世界半減) DNE21+-シナリオII(世界半減) 0 2005年 2010年 図 7. 1.5- 3 2020年 2030年 2040年 2050年 DNE21+-シナリオIII(世界半減) 各 研 究 機 関 に よ る 分 析 結 果 の 比 較 ( 中 国 一 人 当 た り CO 2 排 出 量 ) 図 7 .1. 5 -4 、及 び 図 7. 1.5 -5 は 、燃 料 別 の エ ネ ル ギ ー 供 給 の 見 通 し で あ る 。DNE21+ モ デルによるベースラインの結果は、他の研究機関より、石炭の供給量がやや大きい、 再 生 可 能 な エ ネ ル ギ ー の 供 給 量 が 、低 い 値 と な っ て い る 。IEA の モ デ ル で は 、バ イ オ マ スと廃棄物エネルギーが一つ項目になっているから、他の研究機関より、大きい値が 見 ら れ る 。 ER I は 、 他 の 研 究 機 関 よ り 、 水 力 の 供 給 量 が 大 き い 値 と 見 込 ん で い る 。 Mtoe 5 000 4 500 4 000 3 500 3 000 2 500 2 000 1 500 1 000 500 - Primary Electricity Other Renewables Biomass Hydro シナリオ ︵I世界半減) DNE21+- シナリオ III( ベースライン ) DNE21+- シナリオ IIベ(ースライン ) DNE21+- シナリオ ベ DNE21+I (ースライン ) 強化低炭素シナリオ ERI- 低炭素シナリオ ERI- シナリオ ERI-BAU 最大技術シナリオ LBNL(2030) レファレンスシナリオ LBNL(2030)- 図 7. 1.5 -4 シナリオ IEA-450 新政策シナリオ IEA- 現行政策シナリオ IEA2008 Nuclear Gas Oil Coal 2030 各 研 究 機 関 に よ る 分 析 結 果 の 比 較 ( 燃 料 別 、 203 0 年 ) - 372 - Mtoe 6000 5000 4000 3000 Primary Electricity Other Renewables 2000 Biomass Hydro 1000 Nuclear 0 シナリオ ︵I 世界半減) DNE21+- シナリオ IIIベ(ースライン ) DNE21+- シナリオ IIベ(ースライン ) DNE21+- シナリオ ベ DNE21+I (ースライン ) 強化低炭素シナリオ ERI- 低炭素シナリオ ERI- シナリオ ERI-BAU 図 7. 1.5 -5 Gas Oil Coal 各 研 究 機 関 に よ る 分 析 結 果 の 比 較 ( 燃 料 別 、 205 0 年 ) 7.1.6 考 察 LBN L は 、 ボ ト ム ア ッ プ 手 法 で あ る 「 Ch in a Ene rg y End Use Mod el」 を 用 い つ つ 、 レ フ ァ レ ン ス シ ナ リ オ ( 現 在 の エ ネ ル ギ ー 効 率 改 善 ペ ー ス を 維 持 )、 及 び 最 大 技 術 シ ナ リ オ( 現 時 点 で の 世 界 に お け る 最 高 効 率 の 技 術 を 適 用 )に お け る 中 国 の エ ネ ル ギ ー 需 給 ・ CO 2 排 出 量 を 分 析 し て お り 、本 節 で は そ の 分 析 に つ い て ま と め た 。分 析 結 果 を 参 照 す る と 、 最 大 技 術 シ ナ リ オ は レ フ ァ レ ン ス シ ナ リ オ に 比 べ 、 年 間 10 億 tc e 以 上 の 省 エ ネ ル ギ ー 、 累 積 的 に 309 億 ト ン CO 2 の 削 減 ポ テ ン シ ャ ル と な る 。 し か し 、 最 大 技 術 シ ナ リ オを達成するためのコストや、貿易障壁を配慮していないため、最大技術シナリオの 実現可能性に注意が必要である。又、中国の急速な経済発展に伴い、ベースラインよ りも高位の生活水準(例えばより高位の自動車保有率、家電保有量、居住面積、業務 面積)となる可能性もあることに留意が必要である。 一 方 、 A LP S で 実 施 し て い る DNE21+モ デ ル の 結 果 を 海 外 研 究 機 関 に よ る シ ナ リ オ 分 析 結 果 と 比 較 す る と 、DNE21+モ デ ル の 結 果 は 本 節 で 示 し た よ う に 相 対 的 に よ り 高 い 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 ・ C O 2 排 出 量 と な る 結 果 で あ る 。 燃 料 別 の 結 果 か ら 見 る と 、 DNE2 1+ モ デ ル に よ る ベ ー ス ラ イ ン の 結 果 は 、他 の 研 究 機 関 よ り 、石 炭 の 供 給 量 が や や 大 き い 、 再 生 可 能 な エ ネ ル ギ ー の 供 給 量 が 、低 い 値 と な っ て い る 。こ れ は 、IEA の 現 行 政 策 シ ナ リ オ や LBN L リ フ ァ レ ン ス シ ナ リ オ で は 、 中 国 政 府 が 掲 げ て い る 政 策 は こ れ に 織 り 込 ま れ て い る 一 方 、 DNE21+の ベ ー ス ラ イ ン は 、 温 暖 化 対 策 を 行 わ な い と し た 場 合 の シ ナ リオであることの違いも大きいと考えられる。モデル間の各種想定の比較分析をより 詳細に行い、この差異が生じた要因をさらに把握することも重要である。 - 373 - 参 考 文 献 ( 第 7. 1 節 に 関 す る も の ) 1) 「 World Energy Outlook 2010 」 の 日 本 語 要 約 版 は 、 以 下 か ら ダ ウ ン ロ ー ド で き る 。 http://www.worldenergyoutlook.org/docs/weo2010/weo2010_es_japanese.pdf 2) 姜 克雋他:「中国 2050 年低炭素情景及び低炭素発展道路」(China′s Low-carbon Scenarios and Roadmap for 2050) 、中外能源(Sino-Global Energy)、No. 6、pp.1-7 (2009) 7.2 エネルギー安全保障と気候変動の相互作用 7.2.1 目 的 本節の目的は、気候変動問題とエネルギー安全保障問題について、両者の相乗効果 やトレードオフを考慮しながら、コストや技術選択、政策効果を一体で評価する方法 論を考察することにある。 国 際 的 な エ ネ ル ギ ー 分 析 や 気 候 変 動 問 題 に お い て 定 評 の あ る IIA SA で は 、 エ ネ ル ギ ーセキュリティを考慮したシナリオ策定を重点課題と位置付け、さまざまな分析を行 っ て い る 。そ こ で 本 節 で は IIASA の 分 析 1) に則して方法論や結果の概要を整理した後、 A LP S へ 援 用 す る 場 合 の 留 意 点 な ど を レ ビ ュ ー し た 。 具 体 的 に は 、以 下 の 構 成 を と っ て い る 。ま ず 、IIASA の レ ポ ー ト を 要 約 す る 形 で 一 次 エネルギー輸入依存度、エネルギー供給の多様性、電源構成や最終エネルギー需要な ど、定量評価する手段としてどのような指標があるかをはじめに検証している。次に 将来的にどのようなエネルギー利用シナリオがありうるかを考量し、代表的なシナリ オの下でエネルギー安全保障と気候変動の両面でどのような問題が生じうるか、特定 された指標を用いて評価を行う。さらに、評価シナリオの数を数百に増やすことによ り、気候変動とエネルギー安全保障の間にみられるより普遍的な相関関係を考察して いる。最後に、どのような政策によりエネルギー安全保障と気候変動を両立させてい く か 、 A LP S へ 適 用 す る 場 合 の 示 唆 を 得 て い る 。 7.2.2 IIASA に よ る 分 析 手 法 IIASA に よ る レ ポ ー ト は 大 き く 、少 数 の シ ナ リ オ に 限 定 し た 前 半 部 と 、大 量 の シ ナ リ オを分析した後半部で構成されている。 前 半 で は 、 基 本 と な る 3 つ の GEA( G lo ba l En e rg y A ss es s men t) シ ナ リ オ と 交 通 部 門 の 2 シナリオを組み合わせ、合計 6 つのシナリオを作成している。基本の 3 シナリオ は 、 GEA 効 率 化 シ ナ リ オ 、 GEA 供 給 シ ナ リ オ 、 GEA ミ ッ ク ス シ ナ リ オ と 呼 ば れ 、 具 体 的には以下のようなシナリオが想定されている。 GEA 効 率 化 シ ナ リ オ( 図 7. 2.2 -1 )で は 、効 率 改 善 と 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー に 重 点 を 置 い て い る 。 こ の シ ナ リ オ で は 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー の 長 期 的 シ ェ ア は 9 0%に 達 し 、 原 子 力 発 電 は 耐 用 年 数 に 到 達 次 第 フ ェ ー ズ ア ウ ト す る こ と が 想 定 さ れ 、 CCS が 中 期 的 に 橋 渡 し 役 を す る こ と が 期 待 さ れ て い る 。 BAT 技 術 の 急 速 な 普 及 、 既 存 設 備 の 改 修 、 リ サ - 374 - イクルの強化、製品のライフサイクルデザイン、効率基準、ライフスタイルの変化と いった要因によりエネルギーの効率化は、これまでよりも 2 倍のスピードで進むこと が想定されている。 図 7. 2.2 -1 GEA 効 率 化 シ ナ リ オ に お け る 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 GEA 供 給 シ ナ リ オ( 図 7 .2. 2 -2 )で は 、エ ネ ル ギ ー 供 給 側 の 選 択 肢 拡 大 に 重 点 を 置 い て い る 。 効 率 改 善 は 過 去 の 推 移 と 同 じ ペ ー ス で 進 む と さ れ 、 R &D 投 資 強 化 の 結 果 、 燃 料 電 池 や EV と い っ た 新 し い イ ン フ ラ が 整 備 さ れ 、長 期 的 に 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー は 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 の 約 半 分 を 占 め る よ う に な る 。 CCS が 脱 炭 素 化 に お い て 大 き な 役 割 を は た し 、 原 子 力 も 20 3 0 年 以 降 大 き な 割 合 を 占 め る 。 図 7. 2.2 -2 GEA 供 給 シ ナ リ オ に お け る 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 GEA ミ ッ ク ス シ ナ リ オ ( 図 7 .2. 2 -3) で は 、 上 記 2 シ ナ リ オ の 中 間 的 な 位 置 づ け で 、 主にエネルギー供給源の多様化に重点を置いている。また、資源の賦存や技術選択な ど多様な地域性も考慮されている。その結果、多様なエネルギー資源が共進化し、例 え ば ラ テ ン ア メ リ カ や 旧 ソ 連 、北 ア メ リ カ 、OECD 太 平 洋 諸 国 で 第 二 世 代 バ イ オ が 、中 - 375 - 国や中東などで化石燃料の液化といったものが普及するようになり、電源構成が異な るものの、多くの地域で電化が進むとされている。 図 7. 2.2 -3 GEA ミ ッ ク ス シ ナ リ オ に お け る 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 これら 3 つのシナリオに、運輸部門の標準ケースと技術進展ケースの 2 ケースが組 み 合 わ さ り 、合 計 6 ケ ー ス が 検 討 さ れ て い る 。運 輸 部 門 が 取 り 上 げ ら れ て い る 理 由 は 、 他の部門よりも化石燃料の依存比率が高く、エネルギー安全保障の面で脆弱性がある ためである。 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 に つ い て は 3 つ の 軸 で 整 理 し て い る 。 一 つ は 主 権 ( sove re ignty) で 、こ れ は 国 家 が エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム を ど の 程 度 コ ン ト ロ ー ル で き る か を 見 る も の で 、 主 に 輸 入 依 存 度 に よ り 把 握 で き る 。 も う 一 つ は 弾 性 ( resilien ce) で 、 こ れ は 供 給 途 絶 に対しどれくらい対応能力があるかを示すもので、主にエネルギー源の多様性で捕捉 さ れ る 。 最 後 に 、 頑 強 性 ( rob us tn es s) で 、 こ れ は エ ネ ル ギ ー 資 源 及 び イ ン フ ラ が 物 理 的にどの程度リスクに晒されているかを判断するものである。ただしレポートの中で 定量化されているのは主権と弾性のみで、頑強性については分析の対象外となってい る。 表 7. 2.2 -1 エネルギー安全保障の評価軸 安全保障 So ve re ig nt y Res i lienc e ( 主 権 /依 存 度 ) ( 弾 性 /多 様 性 ) <供給側> 供給量、貿易集約度 一次エネルギー供 一次エネルギー供給 (燃料別) 給の多様性、偏在度 サブ 電力及び需要部門 エネルギー供給減 信頼性、安全度 システム (運輸、民生、産業) の多様性 一次エネルギー供 地域性 輸入依存度 <需要側> 給の多様性 エネルギー安全保障における主権に関する尺度は、エネルギー貿易の絶対量、ある いは消費量に占める輸入エネルギー量(貿易集約度)で示される。 - 376 - エネルギーシステムの弾性に関する尺度は一次エネルギー供給源の多様性で評価さ れ、具体的には以下の式により求められるシャノンウィナー指数で計測される。 SWDI = − wi ln wi (7. 2 -1) i こ こ で 、S WD I は シ ャ ノ ン ウ ィ ナ ー 指 数 、w i は 燃 料 源 の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 に 占 め る シェアをそれぞれ表し、S が大きいほど多様化が進んでいることを示す。 また、上記式はエネルギー源がどれだけ多様化しているかを示すに過ぎないため、 そのエネルギー源をどれだけ輸入に頼っているか(その国のエネルギー供給がどれで け 脆 弱 で あ る か ) を 表 現 す る た め 、 複 合 多 様 化 指 標 ( C o mp ou nd D ive rsity Inde x : CD I) もあわせて検討されている。 CDI = − (1 − mi ) * ( wi * ln wi ) (7. 2 -2) i こ こ で 、 CDI は 複 合 様 化 指 標 、 m i は 純 輸 入 に よ っ て 供 給 さ れ る 一 次 エ ネ ル ギ ー 資 源 の シ ェ ア 、 wi は 燃 料 源 の 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 に 占 め る シ ェ ア を そ れ ぞ れ 表 し て い る 。 CDI が 低 い ほ ど エ ネ ル ギ ー 供 給 が 脆 弱 で あ る こ と を 示 し て い る 。 前 半 は 、 こ の 輸 入 量 ( 輸 入 依 存 度 )、 SWD I、 CD I を 用 い な が ら 石 ・ ガ ス ・ 石 炭 ・ バ イ オ燃料といったエネルギー供給種、運輸・電力・産業・民生といった需要部門別、さ らに地域別にエネルギー安全保障に対する脆弱性が定量的に評価されている。 後半は 2 つの気候変動政策とエネルギー安全保障の相関、相乗便益が一般的にどの 程度あるか見ることを目的にしている。それぞれの政策を軸にとり、各シナリオでそ れぞれの政策目的を達成する可能性がどのくらい高いかをプロットし、気候変動政策 と他の政策(エネルギー安全保障と大気汚染防止)の最適な組み合わせのあり方につ いて考察している。 7.2.3 IIASA に よ る 分 析 結 果 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 の 主 権( 貿 易 依 存 度 )に 関 す る 全 体 的 な 評 価 は 図 7 .2. 3 -1 に 集 約 さ れ て い る 。 左 図 は 全 体 の エ ネ ル ギ ー 貿 易 量 を 示 し て お り 、 2 040 年 頃 を ピ ー ク に ミ ッ クスしなりおと効率シナリオでは貿易量が低減していくのに対し、供給シナリオでは 貿 易 の 絶 対 量 は 120~ 150EJ の 間 で 推 移 し て い る 。 こ の 主 な 理 由 は 、 供 給 シ ナ リ オ の 場 合 、 石 油 の 貿 易 量 は 2 040 年 頃 を ピ ー ク に 大 き く 減 少 し て い く も の の の 、 ガ ス の 場 合 の 貿 易 量 は そ れ ほ ど 減 ら ず 、石 炭 に 至 っ て は 20 80 年 頃 ま で 継 続 的 に 貿 易 量 が 増 加 す る と 見込まれているためである。 ただし、これらの貿易量が一次エネルギー供給に占める割合はいずれのシナリオに お い て も 203 0− 2 040 年 頃 を 境 に 大 き く 低 下 し て く こ と に な る 。エ ネ ル ギ ー 貿 易 額 の 絶 対量が将来にわたってもそれほど減らない供給シナリオにおいても、全体の一次エネ ル ギ ー 供 給 量 が そ れ 以 上 の ペ ー ス で 増 え る た め 、 全 体 の 割 合 に 占 め る 貿 易 量 は 、 2 030 年頃をピークに低下していくことになる。 - 377 - 図 7. 2.3 -1 エ ネ ル ギ ー 貿 易 量( 左 )と 一 次 エ ネ ル ギ ー 供 給 に 占 め る 貿 易 量 の 割 合( 右 ) 赤線:供給シナリオ、青線:ミックスシナリオ、緑線:効率シナリオ 実線:技術進展ケース(運輸部門)、破線:通常ケース(運輸部門) 図 7 .2. 3 -2 は 、 エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム の 弾 性 ( 多 様 性 ) を 示 し て お り 、 左 側 は SWD I、 右 側 は 輸 入 を 考 慮 し た CD I の 210 0 年 ま で の 推 移 を 表 し て い る 。 両 者 に お い て 205 0 年 最も多様化し、エネルギーシステムの弾性が高まるが、その後、ゆっくり低下してい く 経 路 を 辿 る 形 に な っ て い る 。 こ れ は 205 0 年 以 降 、 石 油 、 ガ ス 、 石 炭 と い っ た 化 石 燃 料のシェアが低下していくのに対し、バイオ燃料のシェアが高まるため多様性という 面では弾性が減じるためである。 図 7. 2.3 -2 多様化指標(左)と輸入量を考慮した複合指標(右) 赤線:供給シナリオ、青線:ミックスシナリオ、緑線:効率シナリオ 実線:技術進展ケース(運輸部門)、破線:通常ケース(運輸部門) 図 7 .2. 3 -3 は 需 要 側 か ら み た エ ネ ル ギ ー 供 給 の 多 様 性 ( SWD I) を 示 し て い る 。 エ ネ ルギー供給源の多様性に関し電力、産業、民生部門では大きな変化はないが、運輸部 門においてはエネルギー源の多様化が大きく進むことがわかる。これは現在、運輸部 門んのエネルギー供給はほとんど石油系の化石燃料に依存しているのに対し、将来的 には燃料のガス化、あるいは電化が進むことが示唆されている。 - 378 - 図 7. 2.3 -3 需 要 部 門 の 多 様 化 指 標 ( SWD I) 赤線:供給シナリオ、青線:ミックスシナリオ、緑線:効率シナリオ 実線:技術進展ケース(運輸部門)、破線:通常ケース(運輸部門) エネルギー安全保障の主権、すなわち輸入依存度はほとんどの地域において将来的 に 低 下 し て い く 。 現 在 、 輸 入 依 存 度 が 高 い 地 域 で も 2 100 年 時 点 で は 輸 入 依 存 度 が 低 下 し、ほとんどの地域においてローカルなエネルギー供給源が主体となる。これは、世 界的に見て偏在している化石燃料資源から、地域性の強い再生可能エネルギー資源へ 主要なエネルギー源がシフトしていくことを示唆している。 表 7. 2.3 -1 輸 入 依 存 度 の 経 年 変 化 ( 全 11 地 域 ) 輸入依存度 2005 2050 2100 低 ( 1 6%未 満 ) 5 地域 7 -11 地 域 9 -11 地 域 中 ( 1 6 -35%) 3 地域 1 -3 地 域 0 -2 地 域 高 ( 3 5%以 上 ) 3 地域 1 -3 地 域 0 地域 - 379 - 図 7. 2.3 -4 図 7. 2.3 -5 気候変動政策とエネルギー安全保障政策の関係 追加コストからみたエネルギー安全保障政策の相乗効果 - 380 - 図 7. 2.3 -6 気候変動政策の強度別コスト 2 つ の 政 策 を 同 時 に 追 求 し た 場 合 の コ ス ト は 、そ れ ぞ れ の 政 策 に か か る と 見 積 も ら れ ているコストの単純な足し算ではなく、相乗効果により追加的にかかるコストは逓減 していく傾向にある。 7.2.4 ALPS へ の 考 察 エネルギー安全保障の概念を 3 つに整理し、供給側、需要側、そして地域別の視点 から考察する分析のフレームワークは妥当なものである。ただし、背景にある基本の ロジックは、国際的に取引されている化石燃料を、国内産の再生可能エネルギーに置 き 換 え る こ と に よ り 、 CO 2 の 排 出 を 抑 え る と 同 時 に 、 エ ネ ル ギ ー の 輸 入 依 存 度 を 下 げ 、 またエネルギー源の多様化をするというものである。概して再生可能エネルギーに寄 せ ら れ る 期 待 が 高 い が 、化 石 燃 料 を 代 替 し う る ほ ど の ポ テ ン シ ャ ル が あ る の か ど う か 、 コストの見積もりは妥当なものなのか、よく検証しておく必要がある。また、日本は 太 平 洋 OECD に カ テ ゴ ラ イ ズ さ れ て い る こ と に 留 意 が 必 要 。 日 本 、 韓 国 、 豪 州 、 N Z が 一括りとされているが、日本(+韓国)と豪州ではエネルギー安全保障の状況が大き く異なることから、直接、日本の政策のインプリケーションを得ることはできない。 参 考 文 献 ( 第 7. 2 節 に 関 す る も の ) 1) IIASA; Energy (ENE) Program contribution entitled Energy security – Trade-offs and co-benefits with climate change mitigation, (2011) unpublished - 381 - 7.3 7.3.1 モ ビ リ テ ィ の 消 費 者 選 択 を 通 じ た GHG 削 減 ポ テ ン シ ャ ル 目的 運 輸 部 門 に お け る 削 減 技 術 は 限 定 的 で あ る た め 、短 期 的 に GHG 削 減 す る こ と は 難 し い。特に途上国において自動車保有台数が伸びており、今後も引き続き増加が見込ま れていることから、運輸部門の効率向上による排出削減も相殺されてしまう。 本 分 析 で は 7 .2 同 様 、IIASA の 分 析 1) に拠りながら運輸部門の非技術的要素に焦点を あ て 、 GHG 削 減 ポ テ ン シ ャ ル を 検 討 し 、 A LP S へ の 適 用 可 能 性 を 考 察 す る こ と を 目 的 と し て い る 。IIASA の 分 析 対 象 は 日 本 、ド イ ツ 、ア メ リ カ の 3 ヶ 国 で あ り 、そ れ ぞ の 国 に お い て 移 動 パ タ ー ン の 決 定 要 因 に ど の よ う な 違 い が あ る か 、 GDP や 人 口 動 態 の 変 化 が人々の移動パターンにどのような影響を与えるか、政策により人々の移動パターン がどのように変化し、どのような政策が効果的かを考察している。非技術的要素の具 体的なものとしては、燃料価格、車や自動車免許の保有、性別、人口密度、人口動態、 公 共 交 通 期 間 ま で の 距 離 、ラ イ フ ス タ イ ル 、通 勤 に 車 を 使 う か な ど が 考 え ら れ る 。人 々 の車での移動距離にこれらの要因がそれぞれどの程度インパクトを持つかについて、 IIASA の 分 析 を も と に 考 察 を 加 え A LP S へ の 示 唆 と す る 。 7.3.2 IIASA に よ る 分 析 手 法 IIASA の 分 析 で は 、ま ず 日 、米 、独 に お け る 移 動 パ タ ー ン の 基 本 的 な デ ー タ を 整 備 し て い る ( 表 7.3 .2 -1 )。 人 口 密 度 が 高 い 日 本 で は 、 人 々 の 一 日 当 た り 平 均 移 動 距 離 は 25~30k m な の に 対 し 、 ド イ ツ は 約 2 倍 、 ア メ リ カ で は 約 3 倍 程 度 あ る 。 車 で 移 動 す る 割 合 は ア メ リ カ で 90 %に 達 し て い る の に 対 し 、公 共 交 通 機 関 が 充 実 し て い る 日 本 で は 、 そ の 半 分 の 45%に 過 ぎ な い 。 ま た 、 日 本 の 車 の 平 均 燃 費 は 平 均 で ア メ リ カ よ り 5 0 %程 度 、 ド イ ツ よ り 20 %程 度 高 い も の の 、 日 本 で は 駐 車 料 金 や 有 料 道 路 の 通 行 料 が 高 い た め 車 の 運 転 コ ス ト は 、 ド イ ツ の 約 2 倍 、 ア メ リ カ の 4 .5 倍 に 達 し て い る 。 表 7. 3.2 -1 日 米 独 に お け る 移 動 パ タ ー ン の 主 な 違 い アメリカ ドイツ 日本 平 均 移 動 距 離 /日 ~75k m ~45 -5 0k m ~25 -3 0k m 平 均 移 動 回 数 /日 ~4 3.5 2.3 90% 75% 45% ~1100 ~2500 ~6700 4.3 9.5 19 * 9 6 -7 5 -6 移動における車の割合 居 住 地 域 の 人 口 密 度 /k m 2 車 の 運 転 コ ス ト US 車の平均燃費 セ ン ト /k m l/10 0k m 人 々 の 移 動 距 離 ( k m/ 日 /人 ) に つ い て は 、 Bueh le r 1 ) の 研 究 を ベ ー ス に 説 明 変 数 の 選 定、係数の決定を行っている。引用元となっている研究では、アメリカとドイツを対 - 382 - 象に約 5 万サンプルのデータをもとに人々の 1 日当たり移動距離について多重回帰分 析 (7.3 -1 )を 行 い 、 各 種 パ ラ メ ー タ ー を 決 定 し て い る 。 D国 = αi * xi + C国 (7. 3 -1) i D:一 人 当 た り の 平 均 一 日 移 動 距 離 、 α i :係 数 、 x i :変 数 、 C :調 整 項 、 i:表 7. 3.3 -1 参 照 なお、引用元の論文はアメリカとドイツ 2 カ国のみが対象となっているため、日本 については、日本人一人当たりの 1 日平均移動距離のデータをもとに交通事情が比較 的類似しているドイツの係数を参照しながら、各種係数を調整している。 観 測 値 に よ り 基 準 年 ( 日 本 は 2 005 年 、 ア メ リ カ は 200 1 年 、 ド イ ツ は 20 02 年 ) の 係 数 を 求 め た う え で 、 将 来 的 な の 人 口 動 態 や GDP 、 都 市 化 率 の 変 化 を 想 定 し 、 各 種 変 数 に 20 30 年 時 点 の 値 を 入 れ 、 人 々 の 移 動 距 離 が ど う 変 化 す る か 、 ど の 要 因 が 効 い て い る かを分析している。また将来想定の不確実性を考慮し、移動距離が増えるケースと減 るケースについて感度分析も行っている。 7.3.3 IIASA に よ る 分 析 結 果 観 測 デ ー タ を も と に し た 基 準 年 の 結 果 は 、表 7.3 .3 -1 に 示 さ れ た 通 り で あ る 。プ ラ ス となっている係数は、人々の移動距離増の要因となっており、マイナスのものは減要 因となっている。 - 383 - 表 7. 3.3 -1 変数、係数、基準年データ アメリカ 変 数 (i) 公共交通機関までの距離 ( 400m 未 満 ) 公共交通機関までの距離 ( 4 0 0 m~ 1 0 0 0 m ) 運転免許保有 一人当たりの車保有台数 車の維持費 人口密度 土地利用の多様性 家計所得 年 齢 ( 16/18 歳 以 下 ) 労働者の単身世帯 DI N KS 幼児がいる労働家庭 学齢児童がいる家庭 退職者世帯 非労働者の単身世帯 非労働者の 2 人世帯 幼児がいる非労働世帯 学齢児童がいる非労働世帯 性 別 ( 男 =1 ) 休日 定数 平均移動距離 単位 2001 年 αi ドイツ 日本 2002 年 αi 2005 年 αi 1 = ye s -6.8 32% -2.1 54% -2.1 60% 1 = ye s -5.7 11% -2.0 35% -2.0 30% 6.6 3.1 -2.8 -2.7 -13.2 0.1 -16.1 -2.6 -1.2 2.4 0 -9.2 -9.8 -5.7 -4.7 -6.5 3.8 -0.9 65.1 90% 1 4.3 1.09 31% 57 25% 3% 10% 12% 17% 20% 3% 9% 11% 16% 47% 14% 1 73% 0.7 9.5 2.54 34% 47 19% 1.7% 8.8% 7% 16% 25% 2% 11% 9% 20% 49% 14% 1 5.4 6.7 -0.5 -1.7 -12.9 0.1 -11.9 -1.0 0.0 1.0 0.0 -5.2 -3.0 -3.8 -2.6 -3.5 7.0 -0.4 42.2 62% 0.62 19.0 6.70 50% 41 18% 7.7% 8.8% 12% 12% 25% 7.4% 7% 10% 10% 49% 14% 1 1 = ye s 台 /人 US c/ k m 千 人 /km2 1=多 様 $1000 1 = ye s 1 = ye s 1 = ye s 1 = ye s 1 = ye s 1 = ye s 1 = ye s 1 = ye s 1 = ye s 1 = ye s 1 = ye s 1 = ye s km k m/ 日 50 5.4 6.7 -0.5 -1.7 -12.9 0.1 -9.4 5.2 1.7 0.2 0.0 -1.2 2.6 -3.8 -2.6 -3.5 4.9 4.0 33.7 32 24 日 本 、ド イ ツ 、ア メ リ カ に お け る 変 数 ご と の イ ン パ ク ト を 見 た も の が 図 7. 3.3 -1 で あ る。男性であることや、高い家計所得、車や免許の所有といった要因が移動距離の増 加に作用し、逆に車の維持費や人口密度、公共交通機関のアクセスといった要因が移 動距離の減少に寄与していることがわかる。 また国別の違いを見た場合、日本は人口密度や、土地利用形態、車の維持費が他国 に比して大きな影響を与えていることがわかる。またアメリカでは、車の維持費が日 本やドイツと比して相対的に安いものの、これが人々の移動距離の変化に大きく影響 していることも読み取れる。 - 384 - 図 7. 3.3 -1 変数別、国別の一日あたり走行距離へのインパクト(基準年) こ れ を 2030 年 時 点 で 見 た も の が 図 7. 3.3 -2 で あ る 。 ト ー タ ル で 見 る と 日 本 、 ア メ リ カ、ドイツとも移動距離が減っているが、日本は大きな変化がなく、逆にアメリカが 約 3k m/日 以 上 減 少 し て い る 。 将 来 的 に 移 動 距 離 が 変 化 し う る 最 も 大 き な 要 因 は 維 持 費 の 増 加 で 、 こ れ に よ り 各 国 で 1 日 あ た り の 移 動 距 離 が 5km 前 後 減 少 す る と み ら れ て い る。それ以外に、家計所得の上昇、若年層人口、車の保有、運転免許といった変数が それぞれ若干の増加要因になっているが、維持費の増加分により相殺されネットでは 移動距離が減少すると見られている。 - 385 - 図 7. 3.3 -2 変 数 別 、 国 別 の 一 日 あ た り 走 行 距 離 へ の イ ン パ ク ト ( 20 30 年 BA U) 車の保有にかかわる税金や有料道路の料金、さらには都市計画といった要因につい ては、政策次第で将来的に変化しうる要素である。そこで、政策的示唆を導くため表 7.3. 3 -2 の よ う な 2 ケ ー ス を 想 定 し て 感 度 解 析 を 行 っ て い る 。 そ の 結 果 は 、 図 7. 3.3 -3 及 び 図 7 .3. 3 -4 に 示 す と お り で あ る 。 表 7. 3.3 -2 人口密度 土地利用 公共交通機関 運転免許 車の保有 維持費 変数の感度 低ケース ( 米 ) 人 口 が 30 %増 加 し 、 増 分 は 都 市 部に居住。新規開拓地はなし。 ( 独 )都 市 集 中 度 の 増 加 。特 に 高 齢 者 。 (日)人口減にもかかわらず、居住地 域の人口密度は増加。 都市化が進む (米)公共交通機関利用が増加 (独・日)人口増分は公共交通機関を 利用 都市部で免許保有率が低下 都市部で車の保有率が低下 (米)税や道路料金等による大幅増 (独・日)増大 高ケース 郊外化が進む 分散化が進む 人口密度低下に伴う公共 交通機関の縮小 増加 増加 燃費向上により低下 結 果 と し て は 、 低 ケ ー ス で は BAU よ り も 大 き な 減 少 が 見 込 ま れ 、 高 ケ ー ス で は 逆 に 現在よりも移動距離が増えることが示唆されている。いずれのケースでも燃料代を含 - 386 - む維持費の増減がトータルの移動距離に最も大きな影響を与えており、人口動態の影 響は少なく経済的な側面が大きくあらわれている。ただし、日本については人口密度 の高低も比較的大きなインパクトをもっている。 ド イ ツ ( k m) ア メ リ カ ( k m) 図 7. 3.3 -3 ア メ リ カ ( 左 )、 ド イ ツ ( 右 ) の 感 度 分 析 日 本 ( k m) 図 7. 3.3 -4 日本の感度分析 7.3.4 ALPS へ の 考 察 本 分 析 の 方 法 論 は 、 バ ー ジ ニ ア 工 科 大 学 Ralp h Bue h le r 3 に よ る 著 作 を 下 敷 き に し て お り、それを日本にまで対象を拡大させたことに意義があるといえよう。アプローチは 3 個 人 HP は h t t p : / / w ww. s p i a . vt . ed u / p eo p l e/ sp i a f a cu l t yb i o s/ b u eh l e r sp i ab i o . h t ml - 387 - シンプルであるが、人々の移動特性に関するデータは整備されていないことが多く、 多 面 的 に よ く デ ー タ 収 集 が な さ れ て い る 印 象 を 受 け る 。た だ し 、A LP S へ 応 用 し て い く 場合、以下の 3 点について留意する必要がある。 1 つ は 多 重 共 線 性 の 問 題 が あ る 。例 え ば 、家 計 所 得 と 車 の 保 有 に つ い て は 強 い 相 関 が あると一般的には考えられる。説明変数相互に相関が強いとき、それらの影響を二重 に評価してしまう可能性があるが、本文ではそれがどう処理されているのかは言及さ れていない。 2 つ 目 は 、人 々 の 移 動 距 離 に 影 響 を 与 え そ う な 国 土 面 積 や 、徒 歩 や 自 転 車 を 含 む 代 替 輸送手段の選択肢などの要素が変数として検討されていない点である。前者は人口密 度、後者は公共交通機関までの距離という変数で補足されている可能性はあるが、変 数として他にも適当なものがある可能性があり、どのような変数を用いるかさらに吟 味し、研究を改善させていく余地がある。 また、本分析ではデータが比較的整備されている日本、アメリカ、ドイツが対象と なっているが、同じアプローチによる分析の対象国をどこまで拡大できるかも課題で ある。今後、運輸部門のエネルギー需要が大幅に伸びることが見込まれる中国やイン ドなどの新興国を分析することができれば、グローバルな温暖化対策・政策に有効な 示唆をえることができる。しかし、これら途上国の統計データは往々にして不十分で あるため、同じような方法論での分析には限界があることが想定される。 参 考 文 献 ( 第 7. 3 節 に 関 す る も の ) 1) IIASA; Mitigation of Air Pollution and Greenhouse Gases (MAG) Program (formerly APD) contribution entitled The potential for greenhouse gas mitigation through consumer choices on mobility, (2011) unpublished 2) Buehler, R. ; Transport Policies, Travel Behavior, and Sustainability: A Comparison of Germany and the U.S., Doctoral Dissertation, (2008) - 388 - 第 8章 まとめと今後の課題 本報告書は、 「脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための対応戦略の研 究 」( 通 称 A LP S ( A Ltern ative P athwa ys towa rd Sustainab le de velop men t and climate stab iliza tio n)プ ロ ジ ェ ク ト )の 4 年 目 と な る 平 成 22 年 度 の 成 果 を と り ま と め た も の で ある。 (1) 今 年 度 の ま と め 本報告書において記載してきたように、今年度実施した研究内容の概略は以下のと おりである。 ① 地球温暖化緩和および適応と持続可能な発展に関する叙述的シナリオの策定 H21 年 度 ま で に 策 定 し た 叙 述 的 シ ナ リ オ を ベ ー ス に 、 IP CC の シ ナ リ オ 策 定 の 動 向 や 昨今の温暖化問題をめぐる国際動向等を踏まえつつ、国際的に説得性、インパクトを 持つような叙述的シナリオを策定した。 中心となるシナリオは、3つの軸(視点)によるものであり、マクロの社会経済に 関 す る シ ナ リ オ ( A、 B)、 温 暖 化 政 策 実 施 に お け る 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ ( I、 II、 III)、 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ ( 濃 度 安 定 化 レ ベ ル 、 IP CC RCP に 対 応 ) で あ る。マクロの社会経済シナリオは、これまでの奇跡的とも言える高経済成長から先進 国 を 中 心 に 次 第 に 緩 や か な る 経 済 成 長 へ と 変 化 し て い く シ ナ リ オ A「 中 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ 」 と 、 奇 跡 的 と も 言 え る 技 術 革 新 が 今 後 も 継 続 し 一 人 当 た り GDP 成 長 も 大 き く 成 長 す る シ ナ リ オ B「 高 位 技 術 進 展 シ ナ リ オ 」の 2 種 類 を 策 定 し た 。温 暖 化 政 策 の 背 景 状 況 に 関 す る シ ナ リ オ は 3 種 類 策 定 し た 。シ ナ リ オ I「 多 目 的 多 様 性 社 会 シ ナ リ オ 」は 、 現 在 の 社 会 行 動 に 近 い こ と を 前 提 と し た シ ナ リ オ で あ る 。 シ ナ リ オ II は 「 温 暖 化 対 策 優先シナリオ」であり、このシナリオにおいては、様々な目的の中で温暖化対策の優 先度が高い中で、省エネ技術の普及障壁除去など、温暖化対策をコスト効果的に実施 す る こ と が 優 先 さ れ る シ ナ リ オ で あ る 。シ ナ リ オ III は「 エ ネ ル ギ ー 安 全 保 障 優 先 シ ナ リオ」であり、エネルギー安全保障の視点から国内資源の利用が優先されるようなシ ナ リ オ で あ る 。 排 出 削 減 レ ベ ル に 関 す る シ ナ リ オ は 、 IP CC が 第 5 次 評 価 報 告 書 に 向 け た 新 シ ナ リ オ の た め に 選 定 し た 4 つ の 排 出 シ ナ リ オ ( RCP ) に 沿 っ て 、 ベ ー ス ラ イ ン ( RCP で は 21 00 年 に 放 射 強 制 力 が 8. 5 W /m2)、RCP 6.0( 6. 0 W /m2 )、RCP 4.5( 4.5 W /m2 )、 RCP 3P D( 3W/m2 を ピ ー ク に 21 00 年 に 2.6 W/m2 )の 排 出 推 移 、お よ び こ れ に 加 え て 3 .7 W/m2 シ ナ リ オ の 5 シ ナ リ オ に つ い て 検 討 を 行 っ た 。 ② 定量的評価のためのコンピュータモデルの開発 持続的発展と脱温暖化に関するシナリオの重要要素を一定のロジックに基づいて表 現 し 、SD 政 策 や 温 暖 化 対 策 の 効 果 を シ ナ リ オ と 矛 盾 な く 評 価 す る た め の モ デ ル 開 発 を 行ってきた。今年度は、地球温暖化対策と持続的発展に関する中核モデルとしてこれ - 389 - まで開発してきた農業土地利用モデルについて、食料需給、水需給、土地利用を整合 的に評価できるよう、モデル改良を実施し、また、各種統計データとの整合性確保も 行った。また、健康影響評価、生物多様性評価モデルについても、開発・改良を行っ た。 ま た 、CO 2 排 出 の 大 き い 部 門 で あ る 発 電 、鉄 鋼 、運 輸 部 門 に つ い て 、最 新 の 技 術 動 向 等 を 調 査 、整 理 を 行 っ た 。そ し て 、そ れ を R ITE で こ れ ま で に 開 発 し て き た 温 暖 化 緩 和 策 評 価 モ デ ル DNE21+モ デ ル の 前 提 条 件 と し て 反 映 を 行 い 、最 新 の 実 績 デ ー タ や 技 術 動 向に基づいた分析が可能とした。更に、超長期の評価のため、東大藤井康正教授らが 開 発 し 、R ITE が 更 新 を 行 っ て き て い た DNE21 モ デ ル に つ い て も 、最 新 の 実 績 デ ー タ や 技術動向を反映させ、本研究における整合的、総合的な分析ができるようにした。ま た 、非 CO 2 GHG モ デ ル に つ い て も 、人 口 、GDP 見 通 し に 沿 っ て モ デ ル 前 提 条 件 の 更 新 を行った。 ③ 叙 述 的 シ ナ リ オ に 沿 っ た 持 続 的 発 展 政 策・温 暖 化 抑 制 政 策 に 伴 う 温 室 効 果 ガ ス 排 出 シナリオ、温暖化緩和策の定量的な分析・評価 開 発 、改 良 を 行 っ た DNE21+モ デ ル な ど を 利 用 し て 、策 定 し た 叙 述 的 シ ナ リ オ( シ ナ リ オ A -I)に 沿 っ て 、持 続 的 発 展 政 策 ・ 温 暖 化 抑 制 政 策 に 伴 う 温 室 効 果 ガ ス 排 出 シ ナ リ オ、具体的な温暖化緩和策シナリオを作成した。産業セクター別(発電、鉄鋼、運輸 部 門 ) の シ ナ リ オ 策 定 も 行 っ た 。 ま た 、 D NE21 モ デ ル を 利 用 し て 、 シ ナ リ オ A 、 B の 差異、濃度安定化レベルの差異に関する分析・評価を行った。 ④ 叙 述 的 シ ナ リ オ に 沿 っ た 持 続 的 発 展 政 策・温 暖 化 抑 制 政 策 に 伴 う 温 暖 化 影 響 お よ び 適応策の定量的な分析・評価 定量的な排出シナリオそれぞれについて、開発したモデルなどを利用して、農業影 響、淡水資源影響、健康影響に関する温暖化影響を評価した。また、そのときの温暖 化適応策についても分析・評価を行った。 ⑤ 各種の持続可能な発展および地球温暖化政策に関する指標開発とその定量的評価 シナリオや温暖化対策を持続的発展という文脈の中で評価するための、持続可能な 発 展 ( SD) 指 標 の 開 発 を 行 っ た 。 既 往 の 持 続 可 能 な 発 展 、 エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ ィ な どの各種の持続可能な発展および地球温暖化に関連する指標について、シナリオ間の 比較評価を行った。 ⑥ 国内・国際会議等における研究成果の発信と情報収集 Ene rg y M ode lin g Fo ru m (EM F)や Asian Mo d elin g E xc er s ise (AME )な ど の 国 際 的 な モ デ ル分析比較プロジェクトに本研究において策定したシナリオ、分析結果を提供した。 ま た 、A LP S 国 際 シ ン ポ ジ ウ ム や ワ ー ク シ ョ ッ プ を 開 催 し 、 情 報 収 集 ・ 調 査 や 研 究 成 果 等に関する情報発信を行った。その他、国内会議等を通じた情報発信も行った。 - 390 - (2) 今 後 の 課 題 このように、今年度までの研究によって、脱地球温暖化と持続可能な発展社会実現 の定量的シナリオ策定のためモデルの構築はほぼ出来上がった。また、定量的シナリ オ策定に先立っての叙述的シナリオ策定についても、温暖化問題や持続可能な発展に 関わる国内外の周辺動向も踏まえ、今年度、その位置づけをより明確にすることがで きた。今後の課題としては、本研究で構築したモデル間の整合性、また、叙述的シナ リオとの整合性をより強固にし、分析を行うことが挙げられる。そして、これによっ て、より深く重要な政策的な示唆を得ていく。 ま た 、研 究 成 果 の 発 信 の 充 実 も 課 題 と し て 挙 げ ら れ る 。IP CC WG3 の 第 5 次 評 価 報 告 書 の 出 版 は 2 014 年 は じ め に 予 定 さ れ て お り 、本 研 究 成 果 が 幅 広 く 活 用 さ れ て い く よ う にするため、論文執筆、国際会議、また国際的なモデル分析比較プロジェクトなど、 様々なルートから研究成果を発信していく。 - 391 - 付 録 付録 1 ALPS 国 際 シ ン ポ ジ ウ ム 本研究プロジェクトでは、脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会実現のための 対応戦略の研究を進めるにあたり、地球温暖化問題研究で世界的に著名なオーストリ ア の 国 際 応 用 シ ス テ ム 分 析 研 究 所 ( IIASA : Interna tion a l In stitute fo r Ap p lied S yste ms Anal ysis) を は じ め 、 世 界 の 研 究 機 関 と も 協 力 し な が ら 研 究 を 進 め て い る 。 平 成 23 年 2 月 、 本 共 同 研 究 の 成 果 報 告 会 と し て 、 ま た 、 本 研 究 に つ い て 幅 広 い 関 係 者 の 理 解 を 得 る と と も に 今 後 に 向 け て の 指 導 ・ 助 言 も 得 る た め 、「 A LP S 国 際 シ ン ポ ジ ウ ム ― 温 暖 化 対 策 シ ナ リ オ ・ 分 析 の 最 前 線 ― ( A LP S In te rna tiona l S ympo siu m “ Th e Fron t ie r s o f Sc ena r io s fo r Cl i ma te Chan ge Re sea rc h an d Asse ssmen t”)」 を 開 催 し た 。 当 日 は 、 国 際 応 用 シ ス テ ム 分 析 研 究 所 ( IIASA )、 米 国 ロ ー レ ン ス バ ー ク レ ー 国 立 研 究 所 ( LBN L)、 パ シ フ ィ ッ ク ノ ー ス ウ ェ ス ト 国 立 研 究 所 ( P NNL)、 能 源 研 究 所 か ら の 海 外 招 聘研究者計5名、および電力中央研究所からの国内招聘専門家1名にも講演を頂き、 企 業 、 官 公 庁 、 大 学 、 研 究 機 関 、 そ の 他 団 体 等 か ら 約 24 0 名 が 参 加 し 、 地 球 温 暖 化 と 持続的発展、さらには具体的な温暖化緩和策について、活発な議論がなされた。 以下に、本シンポジウムの要旨集を掲載する。 開催年月日 2 011 年 2 月 9 日 (水 ) 開催 灘尾ホール 場所 10 :0 0–17 :1 0 (東 京 都 千 代 田 区 霞 が 関 3 -3 -2 ) 主 催 財団法人 後 援 経済産業省 地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構 (R ITE ) 以上 - 395 - 目次 山地憲治 財団法人地球環境産業技術研究機構 研究所長 CO 2 削 減 の た め の 技 術 シ ナ リ オ と 政 策 マーク・レビン 米国ローレンスバークレー国立研究所 中国エネルギーグ ループ グループリーダー 中 国 は CO 2 排 出 量 で 今 後 も 世 界 を 圧 倒 す る か ? 杉山大志 財団法人電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員 世界シナリオにおける電気利用技術の表現の改良について ネボーシャ・ナキシェノビッチ 国際応用システム分析研究所 副所長 抜本的なエネルギー転換の複合的相乗便益:地球統合評価シナリオか らの観点 マーカス・アマン 国際応用システム分析研究所 大気汚染と経済開発プロ グラム プログラムリーダー 長期と短期の気候強制力の緩和策:非気候政策目標の相乗便益 レオン・クラーク パシフィックノースウェスト国立研究所 上席研究員 長期シナリオ:見通しと経験、そして行動 姜 克隽(ジャン・ケジュン) 国家発展改革委員会能源研究所 能源システ ム分析・市場分析研究センター センター長 世界目標下での中国削減経路における統合評価 秋元圭吾 財団法人地球環境産業技術研究機構 システム研究グループ グ ループリーダー 温 暖 化 緩 和 と 持 続 可 能 な 発 展 に 関 す る シ ナ リ オ ― ALPS シ ナ リ オ - 396 - CO 2 削 減 の た め の 技 術 シ ナ リ オ と 政 策 山地 憲治 財団法人地球環境産業技術研究機構 研究所長 1.地球温暖化対策の基本構造 地球温暖化を招いた原因の根源には人間の欲求がある。人間の欲求から気候変動の被害までを、エネ ルギー利用に伴う CO2 排出に注目して、人間の欲求→物・サービス生産などの人間の活動→エネルギー 需要→CO2 排出→大気中 CO2 濃度上昇→気候インパクト→気候変動による損害、という各フェーズに分解 し、それぞれのフェーズにおける対策のタイプを整理する。図1に示すように、各フェーズに対応した対策 は、①社会構造・ライフスタイルの変革、②エネルギー効率改善、③エネルギーの低炭素化、④CO2 回収・ 貯留・吸収、⑤気候制御、⑥気候変動への適応に分類される。この内、①、②、③と④の一部(回収・貯留) は温室効果ガスの大気中排出を抑制するため抑制対策と呼ばれ、⑥は地球温暖化を前提としての対策で あるので適応対策と呼ばれる。④と⑥の一部と⑤には地球規模の物質・エネルギー循環や地形を人工的 に改変するものが含まれるのでジオエンジニアリングと呼ばれている。 図 1 地球温暖化対策の基本構造 (出所:山地憲治「エネルギー・環境・経済システム論」、岩波書店、2006 年) 抑制対策の中心となるのは、省エネルギーと低炭素化である。省エネルギーは、ライフスタイル変化など 活動量削減を含む広い視点から進めるべきであるが、エネルギー利用効率改善だけに着目しても、個別 機器の効率改善から交通システムや都市構造の工夫まで、多種多様な技術的可能性がある。しかし、家 庭など多くの主体が参加しなければ実効性を持たないので、技術によって拓かれた可能性を現実の効果 に実らせるために、社会的対応と組み合わせることが重要である。 - 397 - エネルギーの低炭素化については、天然ガスへの燃料転換をはじめ、原子力や再生可能エネルギー など非化石エネルギー利用の推進が、地球環境時代のエネルギーの長期的基本戦略として進められてい る。また、燃料からの炭素分の除去や燃焼排ガスから CO2 を除去して隔離する技術(CCS)も開発中である。 バイオマスのエネルギー利用と CCS を組み合わせれば、エネルギー生産と同時に大気から CO2 を吸収す る、つまり、CO2 排出をマイナスにすることすら可能になる。 地球温暖化対策には、温室効果による気温上昇に対し、人工的な地球冷却によって温暖化を相殺する という気候制御技術も考えられる。また、大気中の CO2 を吸収・固定する技術についても、海洋に大規模に 栄養素を投入して植物性プランクトンを増殖させる海洋施肥や土地利用を変化させて CO2 を固定するなど の提案がある。海洋施肥やアルベド制御のように地球の物質・エネルギー循環を変える大規模技術はジオ エンジニアリングと呼ばれている。実行には十分過ぎるほどの慎重な対応を要するものの、長期的な温暖 化対策技術のメニューの中には残しておくべきであろう。 最後に、地球温暖化の損害を緩和する適応対策がある。温暖化対応の農林産物の品種改良、植物工 場など農業の気候依存性の低減、洪水などに対する早期警戒システムの構築、大規模堤防工事による海 面上昇への対応などが含まれる。温暖化の影響が特に厳しいと予想される途上国の国土を、洪水などに 対して抵抗力のある強靭なものにし、農業生産を近代化して気候変動による影響を弱めることは地球温暖 化対策としてだけでなく、途上国の発展のために基本的に必要なことである。つまり、適応技術は、地球温 暖化問題の不確実性を考慮しても採られるべきノーリグレット対策としての意味を持っていることに留意す る必要がある。 2.地球温暖化対策の技術シナリオ 抑制対策に焦点を当て、対策の技術シナリオを検討した IEA の研究例を紹介する。要旨では紙面の都 合で省略するが、電力の脱炭素化とエネルギー需要の電力シフトが大幅な CO2 排出削減の鍵になること が分かる。 3.わが国の低炭素政策について 2009 年 2 月の二階経産大臣(当時)による太陽光発電の固定価格買取制度の導入、同年 9 月の鳩山首 相(当時)の国連における 2020 年の温室効果ガス 25%削減(1990 年比)目標の表明など、わが国の低炭素 政策では政治主導が目立つようになってきている。政策推進に政治主導は必要であるが、政策の効果や 実現性、政策導入による国民負担等について十分な検討が不足しているように思われる。 地球温暖化問題には科学的不確実性があり、G8 サミット等で国際合意されている産業革命以前の水準 から2℃の気温上昇に抑制する目標にしても、これに対応する温室効果ガスの排出経路と水準には大きな 不確実性の幅があるが、政治主導においては、このような科学的な不確実性についてまったく考慮されて いない。そもそも、2℃目標の妥当性に関しても科学者間での合意があるわけではない。つまり、地球温暖 化対策における政治と科学の関係には問題がある。政策研究者は、このような科学と政治の関係における 課題を意識し、政策案のシナリオ分析における前提と結果の関係が意思決定者に理解できるように説明す る必要がある。 - 398 - 中 国 は CO 2 排 出 量 で 今 後 も 世 界 を 圧 倒 す る か ? マーク・レビン 米 国 ローレ ンスバークレー国 立 研 究 所 中 国 エ ネルギーグループ グループリーダー 本講演では、中国のエネルギー需要とエネルギー起源 CO2 排出量を考察する。過去は 1980 年まで 30 年遡り、将来は 20 年先の 2030 年と 40 年先の 2050 年までの見通しを予測する。当初の予想に反して 2025 年から 2035 年までの間にエネルギー需要の伸びに大きな変化が見られ、エネルギー需要の伸びは著しく 鈍る。何故そのようなことが起こりえるのか、その結果がどれほど確固としたものなのか、長期の分析枠組み を踏まえながら、その答えを明らかにする。この分析により得られる示唆は、世界全体の排出削減能力に対 してはもちろん、最近の気候変動交渉にとっても意義深いものである。 (RITE 仮訳) 世界シナリオにおける電気利用技術の表現の改良につ いて 杉山 大志 財団法人電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員 電力はクリーンでカーボンフリーのエネルギー担体であり、気候変動緩和策において極めて重要な役 割を担っている。不思議なことに、電力を利用する需要側技術は気候・エネルギーの世界モデル、シナリ オにおいてほとんど注目を集めてこなかった。このことはバイオエネルギー、水素技術の文献が数多くある ことと顕著な対照をなしており、世界モデルでは電気利用技術をもっと重視することが必要である。 ここでは需要側の技術選択を積極的に扱った最新の簡易エネルギーシステムモデルを紹介したい。 ‘電気社会’モデルは世界を対象に、それぞれの時期におけるエネルギーシステムコストを最小化した線形 計画モデルである。モデルの建物部門では給湯、暖房ヒートポンプを加え改良されている。産業部門でもヒ ートポンプや誘導加熱などが入っている。乗用車部門ではプラグインハイブリッドや電気自動車が含まれて いる。エネルギー利用者の‘省エネルギーバリア’を大まかに表現するため、エネルギー利用機器の資本コ ストを年価になおすためには主観的割引率(ハードルレート)を用いている。 排出削減目標を課すことは電化率 ―最終エネルギー需要に対する電力の占める割合― を引き上げ ることになる。給湯、暖房のヒートポンプが普及し、電力へのシフトは建物部門(家庭用、商業用)で著しい 他方、乗用車部門の電化には技術進歩を考慮しても、バッテリーと車両のコストを下げる必要がある。バ ッテリーの価格推定には不確実性があり、運輸部門に関してさらなる研究が必要であることは文献でも示さ れている。 - 399 - 効率的な電気利用技術により CO2 限界削減費用が大幅に下がることが感度分析で明らかになった。電 気機器の資本コストは化石燃料を直接燃焼させる従来のものより高いので、主観的割引率が電気へのシフ トに影響することも明らかになった。 電気利用技術は気候変動緩和策のカギであり、電力の排出原単位を低下させる対策とあわせ、このよう な技術を促進する政策により、将来大幅に排出を削減することが可能になる。 抜本的なエネルギー転換の複合的相乗便益:地球統合 評価シナリオからの観点 ネボーシャ・ナキシェノビッチ 国 際 応 用 システム分 析 研 究 所 (IIASA) 副 所 長 歴史的多国間協定がメキシコ、カンクンでの COP16 気候変動会議で合意に達し、全ての国が産業革命 以前の水準から気温上昇を 2℃以内に抑制するよう取り組むことを約束した。この目標を達成するために必 要な大幅な排出削減に向け、先進国が‘カンクン合意’と称される一括同意の一部として低炭素開発計画、 方策を採択することに合意したのは意義深い。 本講演では、GHG 排出削減と深刻な気候変動の回避のため、エネルギーが担う重要な役割に着目す る。IIASA(国際応用システム分析研究所)と GEA(世界エネルギー評価)の研究から、気候とエネルギーに 関する統合的な政策による、国、地域レベルの複合的便益に関して最新の情報を紹介する。又、国連ミレ ニアム開発目標(MDGs)の達成においてエネルギーが担う潜在的役割について述べる。 産業革命以降、人類文明は、手頃で安定的なエネルギーの供給力増加と、基本的エネルギー需要(料 理、暖房、加工処理、モビリティー)を満たすことのできる技術や制度の強化を基盤に発展してきた。十分 なエネルギーがないと現代社会は成り立たないのは周知の事実である。最近のエネルギー開発は天然ガ ス、石油とも、供給のセキュリティと気候変動対応という観点から社会的関心が寄せられている。総合的に、 エネルギーは重要かつ高まりつつある懸念と関連しており、21 世紀に取り組まなければならない重要分野 である。 IIASA(国際応用システム分析研究所)では、全体的、統合的なアプローチを用い、エネルギーシステム の転換、GHG 排出の削減、危険な気候変動の回避のみならず、付加的便益をもたらす経営や政治の選 択肢を提示している。ここで、付加的便益には以下の項目が含まれる。 • エネルギーへのアクセス向上(現在、近代的エネルギーにアクセスできていない 25 億人のエネルギ ー貧困人口を減少) • 大気質の改善、健康状態と平均寿命の向上 • エネルギーセキュリティの向上(化石燃料への依存度低減と供給の信頼性) • 気候変動の悪影響に関連した損失の回避 - 400 - • エネルギー助成金の回避 IIASA の分析では、これらの付加的便益がエネルギー転換を達成するのに関連したコストを大部分で上 回り、同時に危険な気候変動を回避することを示唆している。更に多くの場合、短期間で、国家規模及び 地域規模の便益が得られる。つまり、エネルギーと気候に関する統合的合開発戦略は、それ以外の環境、 社会的目的も達成という相乗便益を伴うといえる。 上記で述べた便益は、より持続的な将来経済に必要なグリーン成長開発経路のモチベーションと捉え ることができる。 ( RITE 仮 訳 ) 長期と短期の気候強制力の緩和策:非気候政策目標の 相乗便益 マーカス・アマン 国 際 応 用 システム分 析 研 究 所 (IIASA) 大 気 汚 染 と 経 済 開 発 プログラム プログラムリーダー CO2 と大気汚染物質をあわせて制御することは、人々の健康やエコシステム、農業生産を守ることなど 気候政策とは異なった政策目標と温室効果ガス削減の両面で大きな恩恵をもたらす。このことは科学的論 文の中で多くの証拠が示されている。先進国と途上国ともにその恩恵を享受できるし、緩和策が行われた 時間及び場所の付近で効果があらわられる。温室効果ガス緩和のコストと便益を包括的に評価する際は、 このようなコベネフィットを無視すべきではない。 しかしながら、CO2 排出緩和とあわせて(例えば SO2 排出などの)排出を削減することが大気中で冷却効 果を持つ短寿命物質を減らすため、短期的にはさらなる温暖化につながることもある。そのため、冷却作用 を持つ因子を共に制御することは、今後数十年間、CO2 削減がもたらす便益を相殺してしまうだろう。 UNEP より刊予定の「黒色炭素と対流圏オゾン評価」という我々の研究成果の中では、長寿命温室効果 ガスの削減努力を相殺しうる短寿命物質制御の余地について調べ、それにより SO2 制御による気候への悪 影響を最小限にすることを検討している。 我々は IIASA の GAINS モデルを用いて、CH4 と黒色炭素の排出を減らすことにより、それらの物質によ る放射強制力を 2/3 減らしうる 16 の方法を特定した。これらの方法はすべて既に世界各所で実際に成功 裏に適用されたものであり、CO2 緩和対策を補完するものである。例えば、炭鉱や石油・ガスの精製・輸送、 廃棄物管理や畜産により排出される CH4、あるいは(ディーゼルエンジンのための粒子フィルター、クリーン な料理コンロ、農業廃棄の燃焼など)黒色炭素を対象にした手法などがある。我々の分析では、これらの対 策を世界中で早急に実施すれば次の数十年における気温上昇を 0.5(0.3-0.7)度まで抑えることができる ことを示している。地域的には、これらの物質の削減ポテンシャルが大きいアジアや北極圏が有望である。 これらの手段の多くは、CO2 緩和の対象になっていない排出源に作用し、気候変動緩和の対策としては講 - 401 - じられないものである。しかしながら CO2 緩和と併せ、これらの手段は 2 度目標実現のチャンスを大幅に高 めるものである。 これらの手段は気候変動への影響に加え、地域規模で大気環境の改善につながり、人間の健康や農 業生産に大きな便益をもたらす。大気汚染物質の排出や影響の対策を講じる国の(あるいは国際的な)機 関は既にあり、既存の地域的な大気管理体制で実施が可能である。さらに、これらの対策の多くは(クリー ンなエネルギーや水へのアクセス、廃棄物管理、よりエネルギー効率のよい生産技術と言った)発展目標 に資するものもある。 (RITE 仮 訳 ) 長期シナリオ:見通しと経験、そして行動 レオン・クラーク パシフィックノースウ ェスト国 立 研 究 所 上 席 研 究 員 大規模のエネルギー・経済統合評価モデルによって作成されたシナリオは、気候科学や気候変動に関 する国内外の政策の議論及び公共と民間部門における意思決定に関する知見を提供してきた長い歴史 がある。例えば、IPCC の SRES シナリオは大気大循環モデル(GCMs)に対する主要な投入情報となってい る。これらの結果として生まれる気候シナリオは地方や国内の影響や適応に関する様々な研究の基盤とし ての役割を果たしている。IPCC は評価する際にシナリオを使用し続けており、AR5 でも確実に同様な対応 がとられるであろう。例えば、現存するシナリオにおける再生可能エネルギーの役割についてのレビューは 再生可能エネルギーに関する IPCC の特別報告書において重要な統合的役割を果たしている。その他の 良い例は、気候変動緩和に焦点を当てたエネルギーモデルフォーラム(EMF)での一連の研究である。例 えば、EMF14 は京都議定書のデザインや潜在的意味を分析した。また、EMF14 は政策決定者が京都議 定書を理解するための主な情報源の一つとしての役割を果たした。EMF21 は気候変動緩和における CO2 以外の温室効果ガスの役割を明確にし、これらの温室効果ガスをより精緻に表現することを促進した。最近 では、EMF22 は国際気候変動枠組みへの参加の遅れが示唆することを研究した。この研究はコペンハー ゲンでの交渉前に最も頑健性のある詳細な情報を提供するために 2009 年の半ばに終了した。EMF22 の 国際シナリオには 10 のモデルが参加し、その結果は国内外の政策関係者間の中で広く発信されている。 多くの理由により、シナリオ開発の過程は決して完全ではない。まず、シナリオは高い不確実性のある将 来を見るための窓である。時間が経過し、我々がより学ぶにつれて、シナリオにおける根本的な仮定は継 続的に更新されなければならない。更に新しい情報の考慮並びにコンピューター処理能力の増加の活用 及び現代科学や政策における議論にとって重要な要素をより効果的に表現するために、シナリオに基づく 大規模のエネルギー経済及び統合評価モデルは、継続的に改善され拡張されている。これらのモデルは、 多くの物理的および人類システム過程を表現するべきではあるが、詳細なレベルで全てを包含するのは難 しい。そして、どの箇所が最も焦点を受けるかに応じて選択がなされるべきである。 シナリオ開発に関してモデル研究者達によるいくつかの優先事項がある。1つ目の優先事項は技術で ある。技術発展は安定化に向けた転換シナリオにおいて最も重要な決定要因であるが、どのように技術が 発展及び展開するのかについて大きな不確実性がある。したがって、いくつかのマルチモデル研究は、技 - 402 - 術と気候政策、特に緩和策に関する意思決定との間の関連を分析するシナリオを作成している。これらの 研究は技術改良に関する異なる経路が示唆することに主な焦点を当てている。また、これらの研究は技術 重視政策の役割やモデル間の技術の想定の比較方法及び技術発展の過程といった事項も考慮してい る。 2つ目の優先事項は国内及び国際レベルにおける短期の緩和アプローチを構成する政策構造をより良 く表現することである。長い間、標準的な緩和アプローチは世界炭素税及びキャップ・アンド・トレードを想 定してきた。しかし、現代の政策に関する議論では非常に異なる政策環境を想定しており、それはコミットメ ントやこれらのコミットメントを満たすアプローチを異なるものにすることによって特徴づけられる。このため、 いくつかのモデル研究において、より現実的な国内及び国際政策構造に関する事項に取り組む試みがな されている。これらの新しい研究は排出削減を達成するための国家間の努力や実際の政策における違い のポテンシャルについて分析している。 3つ目の優先事項は制度的能力を含む国内及び地域のより良い特性評価である。世界炭素税あるいは キャップ・アンド・トレードを想定することによって、伝統的なシナリオ分析は経済システムの効率性における 整合性や地域間の整合的な能力やアプローチを仮定してきた。新しいシナリオ開発は地域の特性や気候 関連政策に対するアプローチの違いを理解することを重視するかもしれない。 4つ目の優先事項は緩和シナリオ、気候シナリオ及び影響と適応シナリオの間の連関である。現在、大 規模 GCM によって計算される気候ストックのシナリオは主に IPCC の SRES シナリオに基づいている。そし て、これらの気候モデル計算は様々な影響と適応に関する研究の基礎となっている。しかし、統合評価モ デルの研究者らは新たな気候計算や影響と適応研究の基盤となる新たな気候シナリオ、つまり代表濃度シ ナリオ(RCPs)を開発した。一方で、これらの代表濃度シナリオから欠けているものは、気候モデル計算に沿 う形で影響と適応の研究の基盤となる整合的な社会経済シナリオを定義する方法である。この乖離を埋め るために、統合評価や影響と適応の研究に関する代表的な研究者らは AR5 に先立って一連の共有社会 経済シナリオを共同で開発している。 (RITE 仮 訳 ) 世界目標下での中国削減経路における統合評価 姜 克隽(ジャン・ケジュン) 国 家 発 展 改 革 委 員 会 能 源 研 究 所 能 源 システム分 析 ・市 場 分 析 研 究 センター センター長 エネルギー消費量の高速増長は中国に大量の CO2 を排出することをもたらした。現在、中国は世界最 大の温室効果ガス排出国であり、アメリカよりもはるかに多い温室効果ガスを排出している。中国のエネル ギー消費量を増加するトレントを変わることが出来なければ、中国だけではなく、全世界が地球温暖化に関 する目標を達成することができない。 UNFCCC の GHG 排出量を抑制する政策を進めるため、中国は GHG 排出量の増加を抑える圧力をか けられる。中国では、国内のエネルギー効率目標、及び再生可能なエネルギー目標に関する多数の政策 - 403 - が採用された。これらのエネルギー政策は排出削減政策と一致する。最も重要なのは、中国政府が、気候 変動問題を政府の重要課題の一つとして位置づけていることである。そして、2007 年 4 月、「中国応対気候 変化国家方案」が公開された。この方案は、中国国家、及び各省の気候変動政策を指導する重要な文書 である。 UK、日本といった数カ国は、2050 年まで排出量を 60%~80%削減しようとしているが、中国は何が起こ るか?中国の GHG 排出量を削減する可能性は?本論のシナリオ分析は、他の国のモデルチームと連携 し、モデルで削減オプションを設定し、これらのオプションを実行すれば(時間ギャップを与え、リープフロッ ギング(蛙跳び)をすることにより)、中国は何が起こるのかが明らかにすることを目指している。 この研究のモデル分析は前の IPAC モデルチームでの先行研究を基づき、国内エネルギー消費及び 排出シナリオは、IPCC シナリオ、EMF 研究等に基づくこと。 統合的なモデル方法を採用し、中国将来の排出削減のシミュレーションを行った。まず、この研究は、 IPAC 世界排出モデルを用い、世界目標を考察した。そして、中国のボトムアップ分析とトップダウン分析を 両方とも取り組んでいる二つモデルと結びつけた。図1はモデルフレームワークを示している。 世界排出モ デルIPAC 世界エネルギー需給 世界GHG排出量 世界目標 責任分担 エネルギー輸入・輸出 エネルギー価格 削減コスト 経済部門の見通し エネルギー集約型 産業 削減コスト 中国エネルギー・ 排出シナリオ 部門別エネルギー 需要 エネルギー供給 削減コスト エネルギー技術モデ ルIPAC-AIM(技術) エネルギー・経済 モデルIPAC-CGE 図1 モデルフレームワーク この排出シナリオによると、2030 年まで中国の CO2 排出量は増加が続くと見込まれる。様々の政策オプ ションにより、2030 年以降排出量を削減することが見込まれている。2030 年、CO2 排出量は 26.3 億 t-C(炭 素換算トン)までに増加し、2000 年の排出量の 3.13 倍になる。2050 年、17.3 億 t-C までに削減し、2030 年の 66%、2000 年の 2.05 倍になることが可能である。 (RITE 仮 訳 ) - 404 - 温暖化緩和と持続可能な発展に関するシナリオ― ALPS シ ナ リ オ 秋元 圭吾 財 団 法 人 地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構 システム研 究 グループ グループリーダー 1.はじめに 地球温暖化対策を早急に進めなければならないことを、世界の多くの国、多くの人々は同意するものの、 実際の削減は簡単ではない。RITE のモデルやその他世界の多くのモデル分析結果は、例えば、2050 年 に世界の温室効果ガス排出量を半減することや、2020 年に先進国の排出量を 1990 年比で 25%削減するこ とも、技術的には可能としている。しかしそれを現実社会で実現するための障壁は大きく、障壁を乗り越え ていくには、より正しくこの問題を理解することが重要である。 RITE では、2007 年度から地球環境国際研究推進事業「脱地球温暖化と持続的発展可能な経済社会 実現のための対応戦略の研究」(通称 ALPS プロジェクト:ALternative Pathways toward Sustainable development and climate stabilization)」において、地球温暖化対策と持続可能な発展の総合的なシナリオ 策定を行ってきている。本研究では、社会は多様で多目的であることを前提とし、それをシナリオとして定 性的、そしてできる限り定量的に描き出すことによって、多様で多目的な社会の中で、温暖化抑制ひいて は持続可能な発展につながるより良い意思決定ができるよう、情報提供を行うことを目的としている。そのた めに、温暖化対策、持続可能な発展は、長期的かつ幅広い視点でとらえるとともに、短中期的な対応は、 国別、セクター別、技術別に着実に対策を積み上げた分析を行っている。マクロの視点とミクロの視点の両 者を融合したシナリオ策定によって、具体的な温暖化対策そしてより大きく持続可能な発展の道筋を明確 にしていく。 2.現状認識 京都議定書は 1997 年 12 月に採択され、2005 年 2 月に発効したが、附属書I国の CO2 排出量のトレン ドにはほとんど変化はなく、非附属書I国の排出量や世界排出量にいたってはむしろトレンドを上昇加速基 調に変えている(図1)。とりわけ途上国を中心として経済成長は重要であり、短期的な CO2 排出増はやむ を得ない面があるが、GDP あたりの CO2 排出量で見ても、2000 年頃を境として、それまで逓減傾向にあっ た世界のトレンドは、改善が見られなくなっている(図2)。経済は、1次産業から2次産業への移行時期に おいて大きく成長する傾向が強い。すなわち、エネルギー多消費産業の成長に伴うものでもあり、多くの国 がより成熟した社会へと進むことができてきている結果であって、それ自体は非難されるべきものではない とも言える。しかしながら、温暖化の抑制を目的とした枠組みである京都議定書は明らかに欠陥を露呈して いる。世界のすべての国が、各国が有する差異を認識し、許容しながら、きめ細かい対策を行い、削減努 力を行っていく新たな仕組みが求められる。コペンハーゲン合意そしてそれに続くカンクン合意は、この方 向性に合致したものであり、2011 年末の COP17 で更に進展することが望まれる。 - 405 - 35 CO2 emission (GtCO2/yr) 30 世界計 25 20 附属書I国 15 10 非附属書I国 5 0 1970 京都議定書採択 1980 1990 2000 2010 図1 エネルギー起源 CO2 排出量の推移 Per-GDP CO2 emission (kgCO2/US$) 1.6 非附属書I国 1.4 1.2 1 世界平均 0.8 0.6 附属書I国 0.4 0.2 0 1970 京都議定書採択 1980 1990 2000 2010 図2 GDP あたりのエネルギー起源 CO2 排出量の推移 3.将来の社会経済、温室効果ガス排出の見通し CO2 排出は、人類のエネルギー利用と密接に関わっている。今後、経済成長と CO2 排出の相関関係を 断ち切っていくことが重要ではあるが、過去の動向からは、CO2 排出と人口、経済成長には強い正の相関 関係がある。本研究では、過去の様々な指標を総合的に分析し、昨今の世界経済危機の影響等も踏まえ て、GDP 成長、人口成長等の将来シナリオを策定している。図3は、策定した A)中位技術進展シナリオ、 B)高位技術進展シナリオにおける世界の GDP 見通しである。2005-20 年の世界平均の実質 GDP 成長は シナリオ A では年率 2.8 %、シナリオ B では 2.9%、2020-50 年はシナリオ A では年率 2.4%、シナリオ B では 年率 2.7%である。2050 年に向け、中国、インド等の現在の新興途上国の GDP は大きく伸び、世界の GDP に占めるシェアが相当大きくなると見られる。 RITE で開発してきた詳細な地域、技術解像度を有する DNE21+モデルによって、現状以上の特段の温 暖化対策がとられないとした場合の温室効果ガス排出の見通しを図4、5に示す。世界経済危機の影響は、 世界全体での温室効果ガス排出に対してはあまり大きくなく、引き続き、排出が増加すると見られる。1990 - 406 - 年において附属書I国の排出シェアは世界の 58%であったが、2020 年には 37%(京都議定書を離脱してい る米国を除くと 22%)にすぎなくなるとみられる。図6は、GDP と GDP あたり GHG 排出量の地域分布を示し たものだが、GDP あたり GHG 排出量は 2020 年にかけて途上国を中心に大きな改善が推定されるが、GDP 成長が大きく、GHG 排出量の増大は避けられない。環境と経済の両立を実現できるバランスの良い削減目 標が必要であるし、対応方策が必要である。 SRESの範囲 400 SRES B1 SRES A1 GDP (2000年価格兆ドル) 350 300 ALPS-シナリオB 250 200 ALPS-シナリオA 150 SRES B2 100 SRES A2 50 0 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 図3 世界の GDP 見通し 注)SRES は IPCC 排出シナリオに関する特別報告書(2000)におけるシナリオ 80000 70000 その他非附属書 I 国 GHG排出量 [MtCO2eq./yr] 60000 アフリカ 中南米 50000 その他アジア インド 40000 中国 その他附属書 I 国 30000 日本 EU27(+12) 20000 EU15 10000 米国 0 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 図4 ALPS シナリオ A ベースラインにおける世界主要国・地域別の GHG 排出見通し (土地利用変化 CO2 は除く) - 407 - その他非附 属書 I 国 アフリカ 4% 5% 中南米 7% 1990 その他非附 属書 I 国 アフリカ 2% 6% 中南米 8% 米国 19% その他アジ ア 10% 中国 12% その他附属 書I国 17% その他非附 属書 I 国 アフリカ 2% 7% 中南米 8% EU15 11% 中国 19% 日本 4% その他非附 属書 I 国 2% アフリカ 9% 米国 15% その他附属 書I国 10% 2050 米国 11% EU15 7% EU27(+12) 3% 中南米 8% EU15 9% その他アジ ア 15% EU27(+12) 2% 日本 4% インド 6% EU27(+12) 4% 2020 米国 18% その他アジ ア 14% EU15 13% インド 5% 2005 日本 1% その他附 属書 I 国 8% EU27(+12) 2% 日本 2% インド 7% その他アジ ア 17% その他附 属書 I 国 8% 中国 25% 中国 23% インド 11% 図5 GHG 排出量の地域分布(実績値とシナリオ A ベースライン) 4.5 2005年 39 GtCO2eq. その他附属書I国 4 Per-GDP GHG emission (kgCO2eq./US200$) 中国 3.5 インド 3 アフリカ 2.5 2 EU27(+12) その他アジア 1.5 中南米 1 米国 その他非附属書I国 0.5 EU15 日本 0 0 10000 20000 30000 40000 50000 60000 GDP (billion US2000$) 4.5 2020年 55 GtCO2eq. Per-GDP GHG emission (kgCO2eq./US200$) 4 3.5 3 その他附属書I国 アフリカ インド 2.5 2 中国 その他アジア EU27(+12) 中南米 1.5 1 米国 その他非附属書I国 0.5 EU15 日本 0 0 10000 20000 30000 40000 50000 60000 GDP (billion US2000$) 図 6 GDP あたり GHG 排 出 量 の地 域 分 布 (20 05 年 実 績 と 202 0 年 シナリオ A ベースライン) - 408 - 4.CO2 排出削減に向けて 技術的な世界の CO2 削減ポテンシャルはかなり大きいと見込まれている。しかし、現実社会は多目的で 多様性を有しており、技術的な CO2 削減ポテンシャルが社会で実現する障壁は相当に大きい。それが代 表的に表れているのが、投資回収の判断年数と言える。エネルギーコストだけを考えれば、省エネ効果が 大きく、元がとれる(正味で負の削減費用の)技術であっても技術が普及しないケースは多く見受けられる。 しかし、それを非合理的な判断と単純に片付けることは適当ではない。 (a) 現実社会で観測される短い投資回収判断年数から推定される費用曲線 1990年比-25%(05年比-30%) (限界削減費用:$476/tCO2 eq) 次世代コークス炉 を前倒 しで導 入 太陽光 発電増加 乗用車でハイブリッド車 更に拡大 バイオエタノール拡大 灯油利用の抑制 2005年比-15% (限界削減費用:$151/tCO2eq) バイオエタノール拡大 エア コン、テレビ効率向上 冷蔵庫、 エアコン、 テ レビ、照明効率向上 現状 CCS 原子力 各種電気機器効率向上 灯油利用の抑制 ガス火力 発電増加 風力 発電増加 バイオエタノール拡大 乗用車 燃費向上 商用車 でもハイブリッド車拡大 テ レビ、照明効率向上 灯油利 用の抑制 (b) 長い投資回収年数を用いて推定される費用曲線 1990年比-25%(05年比-30%) オリ ジナルの投資回収年数での 限界削減費用曲線 乗用車 でのハイブリッド車拡大+ ハイブリ ッド車での高濃度バイオ 燃料へ の対応が相対的に安い 費用で 対策としてとられる。 2005年比-15% 商用車で のハイブリッド車拡大が 相対的に安い費用で対策としてとられる。 冷蔵 庫、テレビ、エアコンで 高効 率機器普及 現状 CCS 原子力 石炭 ・石 油火力減少 ガス火力増加 正味で負の費用での削減 乗用車 燃費向上 商用車 にもハイブリッド車導入 図7 日 本 の 202 0 年 に お け る 削 減 費 用 曲 線( 現 実 社 会 で 観 測 さ れ る 短 い 投 資 回 収 判 断年数を用いて推定したケースと長い投資回収年数を用いて推定したケースの差異) - 409 - 図7は、日本の 2020 年の GHG の削減費用曲線を推定したものである。これは日本の削減費用曲線の 推定であるが、世界の削減費用曲線も含めて、いくつか重要な示唆が得られる。日本の投資回収判断年 数は世界各国と比較して長い。日本では、これまで比較的長期の経営判断がなされており、それが過去省 エネを推進する原動力となってきた。一方、途上国などでは投資回収判断年数は大変短く、多少性能が悪 くても、初期投資が安価な技術が選好されやすい。高い経済成長率の下にあるとき、企業経営からは、投 資回収判断の割引率も高く設定せざるを得ない。これは一例でしかないが、このように、観測される投資回 収判断年数は、温暖化対策コスト以外の要因を含めて最適化された結果として表れている部分も多い。社 会は温暖化対策のみを目的にしているわけではないことから、エネルギーコストを考えれば元がとれるから といって、その実現が必ずしも無条件に正当化されるものではない。しかし、一方で、限定合理的に判断を 行っている部分もあるだろう。そういった限定合理的な判断がなされている対策、部門を特定し、きめ細かく ボトムアップ的に対策を実施していくことが必要である。また、別の示唆としては、排出量取引制度のような 炭素に明示的に価格をつける政策で実現することは難しいということである。炭素に明示的に価格をつけ ると、社会が炭素価格を指標として投資判断を行う。すなわち、現実に観測される短い投資回収判断年数 に従って温暖化対策がとられるということである。そうすると、相当に高い炭素価格がつけない限り対策が 進まないことになる。しかし、それは現実社会では、経済的にも政治的にも実現不可能である。限定合理的 な判断がなされている対策、部門を特定し、きめ細かくボトムアップ的に対策を実施すれば、現実に観測さ れる短い投資回収判断年数に支配されなくて済む。 5.おわりに モデル分析は単純化した分析となり、現実社会の障壁を軽視することも多い。しかし、それでは、本当に 効果のある政策を誤りかねない。現に京都議定書はほとんど機能しなかったし、現実社会を深く分析する と、EU-ETS タイプの排出量取引制度もあまり機能しないだろう。人類の持続的な発展を考えると、強い温 暖化対策、大きな温室効果ガスの排出削減は不可欠と考えられる。しかし、一方で負担が大きすぎる削減 は、むしろ持続的な発展を阻害しかねず、適度なバランスを見出していくことも重要である。ALPS プロジェ クトでは、現実社会で真に効果を有する温暖化対策、政策、そしてより広く持続可能な発展が可能な社会 像を、定性的、定量的なシナリオとして描き提示することによって、より良い方策立案に貢献していく予定で ある。 - 410 - ■ 講演者略歴 山 地 憲 治 ( RI T E 研究所長) 2010 年 4 月より、(財)地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長。日本学術会議会員、日本 エネルギー学会副会長、エネルギー・資源学会副会長でもある。RITE 前職は東京大学大学院工学系研 究科電気系工学専攻 教授である。1972 年東京大学工学部原子力工学科卒業、1974 年同大学原子力 工学科修士課程修了、1977 年同大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。早期より、主として 電力中央研究所在籍時からエネルギー技術評価の分析に従事してきた。 エネルギーシステムに関する著書は 60 冊を超えており、論文多数、また日本政府におけるエネルギー・ 環境政策に関わる審議会委員も多く務める。IPCC 第 3 次および第 4 次報告書(いずれも WG3)代表執筆 者。 マ ー ク ・ レ ビ ン ( LBNL 中国エネルギーグループ グループリーダー) マーク D. レヴィン博士は 1996 年から 2006 年まで、ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)環境 部門のディレクターをつとめる。この部門では 400 名のスタッフがエネルギー効率政策分析と研究開発を行 っていた。1988 年に LBNL に中国エネルギーグループを創設。中国においてエネルギー効率を高めるた め、中国との共同研究に重点的に取り組んでいる。 中国におけるエネルギー効率の研究の 20 年間の主な実績 • エネルギー財団中国持続可能エネルギープログラム、北京エネルギー効率センターの共同創設 者、LBNL 中国エネルギーグループを創設者 • 中国に機器効率基準をもたらしたチームを率い、現在、30 品目にのぼる基準は、毎年、三峡ダム (18GW)発電量 10 年分以上の節約に相当する • 産業エネルギー効率のパイロットプロジェクト実行チームに関与。同プロジェクトは中国産業部門 における効果的な省エネルギー政策策定に重要な役割を果たした。(企業 1000 社プログラム) • LBNL 中国エネルギーグループに建物エネルギー効率重点分野をつくり、熱エネルギー削減のた めの住宅改修パフォーマンス評価及び、商業用建物の省エネ改修を評価するコンピュータープロ ラムの開発研究を率いる(進行中) 最近、米中クリーンエネルギー研究センターの責任者(建物の省エネ)に選ばれた。6 研究所と企業 10 社が参加し(中国側からの支援とあわせ)5 年間で 2500 万ドル授与された。 中国エネルギーの研究に加えて、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の建物におけるエネルギー 利用からの CO2 排出についての章の統括執筆責任者を務めた。(IPCC はノーベル平和賞を受賞)米国、 中国、世界の包括的エネルギーシステムの主だった研究においても優れた成績を挙げている。連邦政府 による研究開発プログラム(ローレンスバークレー国立研究所主導)、電力信頼性ソリューションに関するコ ンソーシアムの創設者 3 人のうちの一人。 アメリカでは主要 3NPO 法人、中国では 1 つの NPO 法人の理事を務める。[米国エネルギー合理化経 済評議会(ACEEE)、カリフォルニアクリーンエネルギーファンド(CalCEF)、クリーンエネルギー政策センタ - 411 - ー、上海太平洋エネルギーセンター] 米のディビス省エネルギーセンター、日本のアジア太平洋エネルギ ー研究センター(APERC)の諮問委員会委員を務める。1999 年にはカリフォルニア科学技術評議会のフェ ローに選ばれた。近年、3 つの名誉ある賞を受賞した。持続可能な都市開発への貢献で大林賞、中国の 省エネ研究で米科学者連盟の公共事業賞、日本建築学会会員以外を対象としては最も栄誉ある日本建 築学会文化賞を受賞。 100 以上の出版物を執筆した他、IPCC の建物部門におけるエネルギー利用にともなう CO2 排出の章で 主筆者を務める。アメリカ、中国、世界の主要な包括的エネルギーシステム研究にも携わっている。 プリンストン大学を最優秀の成績で卒業、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得。フルブライ ト奨学金、ウッドロウ ウィルソン フェローシップ、アメリカ国立衛生研究所博士賞を受与されている。 (RI TE 仮 訳 ) 杉山 大志(財団法人電力中央研究所 社会経済研究所 上席研究員) 1991年 東京大学 理学部物理学科卒業 1993年 東京大学大学院 工学研究科物理工学修士了 1993年 (財)電力中央研究所入社 1995年~1997年 国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員 2002年~2004年 国際学術会議 地球環境の制度的側面 科学執行委員 2002年 京都議定書CDM理事会 小規模CDMパネル委員 2003年~産業構造審議会環境部会地球環境小委員会 将来枠組み専門委員会委員 2004年~IPCC第四次評価報告書 第三部会 主著者 2005年~IPCC第四次評価報告書 統合報告書 主著者(IPCCは 2007 年ノーベル平和賞受賞) 2005年~産業構造審議会環境部会地球環境小委員会 市場メカニズム専門委員会委員 2010年~IPCC第五次評価報告書 第三部会 総括執筆責任者 現在 電力中央研究所 上席研究員 【主要な著書】 省エネルギー政策論(2010)、戦後日本の省エネルギー史(2010)、新・これが正しい温暖化対策(2010)、 続・これが正しい温暖化対策(2008)、これが正しい温暖化対策(2008)」(エネルギーフォーラム賞優秀賞受 賞) ネボーシャ・ナキシェノビッチ(IIASA 副所長) ネボーシャ・ナキシェノビッチ教授は、国際応用システム分析研究所(IIASA)の副所長。また、ウィーン工 科大学のエネルギー経済学分野の教授であり、世界エネルギー評価(Global Energy Assessment)の責任 者でもある。 その他の役職としては、国際連合のエネルギーと気候変動に関する事務総長諮問グループのメンバー、 ドイツ政府の地球変化に関する諮問会議(WBGU)のメンバー、世界銀行「2010 年開発報告書:気候変化」 の諮問会議のメンバー、国際科学会議(ICSU)の科学計画と査読委員会のメンバー、グローバルカーボン プロジェクトのメンバー、エネルギーセクター経営援助プログラム(ESMAP)の持続可能なエネルギー供給・ - 412 - 貧困減少・気候変動に関する専門家パネルのメンバー、気候変動影響と対応評価のための社会経済シナ リオのパネルメンバー、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第 5 次評価報告書において代表執筆 者、21 世紀の再生可能エネルギー政策ネットワーク(REN21)の運営委員会メンバー、ヘルムホルツ技術プ ログラムの国際諮問委員会委員、オーストリア OMV 未来エネルギー基金諮問委員会委員長を務めてい る。 また、「技術予測と社会変動誌」(International Journal on Technological Forecasting and Social Change)、 「気候政策誌」(International Journal on Climate Policy)、「土木学会誌」(International Journal of the Institution of Civil Engineers) 、 環 境 持 続 可 能 性 の 最 新 評 価 ( Current Opinion in Environmental Sustainability)「エネルギーセクター経営誌」(International Journal of Energy Sector Management)の編集委 員でもある。 2002~2007 年の間、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書において統括執筆 責任者を務めた。また、2001~2005 年の間、国連ミレニアムエコシステム評価において統括執筆責任者、 1993~1998 年の世界エネルギー会議の世界エネルギー展望の責任者、1993~1995 年の IPCC の第2次 評価報告書の代表執筆者、1997~2000 年 IPCC の排出シナリオに関する特別報告書の代表執筆者、 1999~2001 年 IPCC 第3次評価報告書の執筆者、1999~2000 年「世界エネルギー評価-エネルギーと 持続性の挑戦」の代表執筆者、2006~2008 年再生可能エネルギーに関する国際科学パネルのメンバー、 1993~2003 年グラーツ工科大学客員教授を務めた。 米国プリンストン大学で経済学の学士号、計算機科学の修士号を取得、ウィーン大学で博士号を取得し た。また、ロシア科学アカデミーより名誉博士号(工学)を授与されている。 技術変化の長期的なパターン、経済開発と気候変動への影響、エネルギー、モビリティ、情報、コミュニ ケーションの技術革新に特に研究の興味を有している。 (RITE 仮訳) マ ー カ ス ・ ア マ ン ( IIASA 大 気 汚 染 と 経 済 開 発 プ ロ グ ラ ム プログラムリーダー) マーカス・アマンは国際応用システム分析研究所(IIASA)の「大気汚染物質と温室効果ガス緩和」プロ グラムを率いている。 IIASA では、大気汚染物質と温室効果ガス分析のための RAINS、GAINS モデル開発、及び長距離越境 大気汚染条約及び EU における政策への適用を取りまとめている。IPCC 第四次評価報告書や英国王立協 会によるオゾン報告書、UNEP による黒色炭素評価の主執筆者でもある。オーストリア化学アカデミーのクリ ーンエア委員会のメンバーに任命されている。 アマン博士はオーストリアのウィーン工業大学電気工学科を卒業し、ドイツのカールスーエ大学から経 済学博士号を授与された。 (RI TE 仮 訳 ) - 413 - レ オ ン ・ ク ラ ー ク ( PNNL 上席研究員) Clarke 博士は米国メリーランド大にあるジョイントグローバルチェンジ 研究所(JGCRI)の上席研究員で 経済学者であり、JGCRI の統合モデル及びエネルギーグループにおいて主導的な役割を果たしている。 Clarke 博士の現在の研究は気候変動対策における技術の役割、国際気候政策、シナリオ分析や統合評 価モデルの開発に焦点を当てている。また、Clarke 博士は米国気候変動科学プログラムの排出シナリオ開 発過程(SAP2.1a)の調整役を務め、IPCC の第4次報告書ではワーキンググループⅢの執筆協力者であり、 またエネルギーモデルフォーラム 22 のシナリオプロジェクトの調整役や共同編集者を務め、気候対策の選 択に関する全米アカデミー研究のメンバーを務めた。現在は、IPCC の再生可能エネルギーに関する特別 報告書の代表執筆者を務めている。 パシフィックノースウェスト国立研究所(PNNL)に入所する前は、ローレンス・リバモア国立研究所やパシ フィックガス&電力会社、RCG/ハグラ―、バイリ―社での勤務経験がある。また、スタンフォードのエネルギ ーモデリングフォーラムにおいてリサーチアシスタントを務めた。Clarke 博士は機械工学の学士号と修士号 をカリフォルニア大学バークレー校で取得し、工学経済システムとオペレーションリサーチの修士号と博士 号をスタンフォード大学で取得した。 (RITE 仮訳) 姜 克隽<ジャン・ケジュン>(国家発展改革委員会能源研究所 能源システム 分析・市場分析研究センター センター長) 1993 年から、エネルギー技術の政策評価、エネルギー供給の政策評価、再生可能なエネルギー発展、 及び省エネルギーを中心とする気候変動に関するエネルギー政策分析の研究を始めた。1994 年から、中 国、及び世界のエネルギー消費、GHG 排出におけるシナリオ・政策を分析している統合評価モデル (IAM)の開発を取り込んできた。1999 年東京工業大学で社会工学の博士号を取得。 現在は、統合政策評価モデル(IPAC)の中国チームを率いて、エネルギー政策評価、及び環境政策評 価分野で活躍している。主な対象分野は、エネルギー消費・排出シナリオ、エネルギー政策、エネルギー システム、エネルギー市場分析、気候変動、地域環境政策、及び国際交渉である。 1997 年から、IPCC の排出シナリオに関する特別報告書、第 3 次評価報告書第 3 作業部会の作業に関 与、第 4 次評価報告書第 3 作業部会第 3 章の代表執筆者、地球環境展望 4(GEO-4)第 2 章の代表執筆 者を務めてきた。現在は IPCC 第 5 次評価報告書の統括代表執筆者である。 最近は、エネルギー・排出シナリオ 2030、2050 年までの低炭素シナリオ、エネルギー税・燃料税の評価、 中国のエネルギー目標ポテンシャル、及び統合政策評価モデルの開発など多数のプロジェクトを行ってい る。 (RI TE 仮 訳 ) 秋 元 圭 吾 ( RI T E システム研究グループ グループリーダー) 昭和 45 年生まれ。平成 11 年 横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。平成 11 年 財団法人 地球環境産業技術研究機構 入所、研究員。平成 15 年、同 システム研究グループ 主任研究 - 414 - 員。平成 19 年、同 グループリーダー・副主席研究員 現在に至る。平成 18 年 国際応用システム分析研 究所(IIASA)客員研究員。平成 18~20 年 東京大学先端科学技術研究センター客員研究員兼務。平成 19~20 年日本学術会議特任連携会員。平成 21 年 東京大学公共政策大学院非常勤講師兼務。平成 22 年~ 東京大学大学院総合文化研究科客員教授。IPCC 第5次評価報告書代表執筆者。エネルギー・環 境を対象とするシステム工学が専門。 著書として、CO2 削減戦略(分担執筆)、図解 CO2 貯留テクノロジー(分担執筆)、「低炭素エコノミー― 温暖化対策目標と国民負担」(分担執筆)、「CO2 削減はどこまで可能か―温暖化ガス‐25%の検証」(分担 執筆)。1997 年 IIASA より Peccei 賞、1998 年電気学会より優秀論文発表賞、2004 年エネルギー・資源学 会より茅奨励賞をそれぞれ受賞 - 415 - Contents Kenj i Yamaj i, Director-General , RI TE Policy and Technol ogy Scenario f or CO 2 Emission Reduction Mar k Levine, Group Leader, China Energy Group, Environmental Energy Technol ogies Divisi on, Lawrence Barkley Nati onal Laboratory (LBNL) Will Chi na Overw hel m the World w ith its CO 2 Emissi ons? Taishi Sugi yama, Sector Leader, Senior Research Scientist, Socio- economic Research Center, Cent ral Research Institute of Electric Power Industry Improving Represent ation of Electric End Use Technology in Global Scenario Neboj sa Nakicenovic, Deputy director, Internati onal Instit ute for Applied Systems Anal ysis (II ASA) The Multiple Co- Benef its of a F undamental Energy Transf ormati on: Perspecti ves f rom Gl obal Int egrated Assessment Scenari os Mar kus Amann, Progr am Leader, At mospheric Polluti on & Economic Devel opment Program, I nternational Inst itute for Appli ed Systems Analysis (I IASA) Mitigation of Long- and Short- Lived Climate Forcers: Co-Benef its on Non- Climate Policy Objectives Leon E. Clar ke, Senior Research Economist , Pacific Nort hwest National Labor ator y (PNNL) Long-Term Scenarios : Perspectives, Experience, and Activiti es Kej un J iang, Director, Energy Syst em Anal ysis and M arket Anal ysis Research Center, Energy Research I nstitut e National Devel opment and Refor m Commissi on Integrated Ass essment f or China’s Miti gation Pathw ay Under Global Target Keigo Aki mot o, Group Leader of Syst ems analysis Group, RITE Scenarios f or Global Warmi ng Mitigati on and Sustai nable Developm ent − ALPS Scenarios - 416 - Policy and Technology Scenario for CO 2 Emission Reduction Kenji Yamaji Dir ec to r -G ene ra l , R ITE 1. Structure of response measures Response measures to cope with the climate change issues range widely. Figure 1 illustrates response measures related to the energy sector by dividing into six groups. Figure 1 Structure of response measures in energy sector to cope with climate change The first group is the measures to modify “activities”; for example, modifying life style and/or social structure to suppress consumptions. The measures in this group may be called social technology in a broader sense which includes social education. Second group is the measures which reduce the ratio of energy consumption to activities. There are many technologies in this group; for example, efficient power generation, efficient lighting, fuel economy improvement for cars, and so on. The measures in this group are usually called energy conservation or energy efficiency improvement. Third group is the measures to reduce the ratio of CO 2 emissions to energy supply. While there are also many technologies in this group, technologies are further divided into the following sub-group; 1) fuel switching (e.g. from coal to natural gas), 2) nuclear power, and 3) renewable energies. It would be appropriate to name this group of measures as decarbonization of energy. The next group is the measures to suppress CO 2 concentration in the atmosphere. There are two subgroups: one is CCS (carbon capture and storage) technologies to remove and store CO 2 from the combustion process of fuels; the other is the sink enhancing technologies (e.g. afforestation) to absorb and store CO 2 from the atmosphere. It is possible to realize negative emission by combining biomass combustion with CCS technology. - 417 - Remaining two groups are climate control and adaptation. Climate control is the measures to offset the climate change caused by the greenhouse effect; for example there are research activities on albedo control to offset the temperature rise. Such technologies to modify intentionally the natural function of the earth are called geo-engineering. Ocean fertilization to enhance CO 2 absorption capacity of the ocean, which belongs to the previous group, is another example of geo-engineering technologies. We should carefully check side effects and risk of geo-engineering before implementation. Adaptation is, on the other hand, very important in a sense that adaptation to climate change could also contribute to the achievement of other international priorities, including the Millennium Development Goals. Humans have been adapting to their environment throughout history. But the rate and scale of climate change are unprecedented. Enhancing our response to the changes in environment is needed, with action at global, national and local level. Among the measures in the six groups, those except the adaptation measures are called mitigation measures in a sense that these measures alleviate the climate change itself. In the presentation, we focus on promising mitigation measures, particularly on energy efficiency improvement, decarbonization of energy, and CCS technologies. 2. Technology scenarios For illustrative purpose, IEA’s BLUE scenarios, which are corresponding to the long-term goal of achieving 50% reduction of global greenhouse gas (GHG) emissions by 2050, will be discussed. Decarbonization of electricity and electrification of energy demands play a critical role for the deep cut in CO 2 emission reductions. 3. Review of low carbon policy in Japan Political leadership has been prominent in recent decision makings for the low carbon policy in Japan, such as the introduction of feed-in tariff for PV and the target of 25% reduction of GHG emissions in 2020 from the level in 1990. While political leadership is an indispensable element in policy decisions, a more detailed scientific study seems to be required on the effects and costs of the policy including its feasibility in real world from the long term and global perspectives. Energy issues consist of various aspects, including global warming, energy security, and economic growth, and so on. Global warming is not the sole issue for us to solve. It is important therefore to understand the issue from a comprehensive perspective while endeavoring to maintain economic growth and enhance the convenience and comfort for the lives of people. G8 countries agreed to the long-term goal of achieving at least 50% reduction of global greenhouse emissions by 2050 to suppress the temperature rise within 2 degree C. The current policy of Japanese government for low carbon society is formed to meet the - 418 - international agreement assuming the remaining major countries will pursue the equivalent level of commitments to realize the ambitious goal. The science on climate change, however, involves uncertainties; for example, there is a wide range of uncertainty in the relation between the stabilized level of GHG concentration and the temperature rise as well as that between the level of concentration and the GHG emission pathway. The political decision makings on climate policy seem to have paid no attentions on these scientific uncertainties. Science basis for climate policy is not enough. We should promote more discussions between scientists and policy makers by providing a more transparent systems analysis on the proposed climate policy taking into account the uncertainties involved in the climate science. Will China Overwhelm the World with its CO 2 Emissions? Mark Levine Group Le ad er, Ch ina E nerg y Group, E n viron menta l Ene rg y T ech no log ie s Division , La wren ce Bark le y Na tion a l La bo rato ry ( LBN L) This talk looks at energy demand and energy-related CO 2 emissions from China. The historical perspective goes back 30 years to 1980. The prospective look goes forward 20 and 40 years – to 2030 and 2050. Unexpectedly, a discontinuity in energy demand growth appears in the 2025 to 2035 time period: energy demand growth slows significantly. The analysis provides answers on why such a discontinuity is likely to take place and how the results are robust considering the long time frame for the analysis. The implications of this for both the current round of climate change negotiations as well as for the ability to reduce global emissions are profound. Improving Representation of Electric End Use Technology in Global Scenario Taishi Sugiyama Sec to r Lea de r, Se n io r Rese arch Sc ien tist, S oc io -e cono mic Re se arch Center, Cen tra l Re sea rc h In stitu te o f E lec tric P o we r Ind ustry Electricity is a clean, carbon-free energy carrier, which will play a vital role in mitigation of global climate change. Curiously, demand-side technologies that use electricity have received scant attention in global climate-energy models and scenarios. This is in sharp contrast with a large literature on bioenergy and hydrogen technologies. - 419 - It is therefore essential to improve representation of electric technologies in global models. We here present a simple energy system model that has been updated to explicitly treat the technology choice at the demand side. The model, called the Electric Society model, is a linear programming model, which is global in scope and minimizes the energy system cost at each time step. The model’s building sector is modified to include heat pumps for hot water and space heating. It also has heat pump technology and induced heating for the industry sector. The passenger car sector includes plug-in hybrids and electric vehicles. To crudely represent “energy efficiency barriers” faced by energy service users, we include implicit discount rates (or hurdle rates) to annualize the capital costs of energy using devices. Imposing emissions reduction targets leads to an increase in the electrification rate, which is defined as the proportion of electricity to the final energy demand. Shift toward electricity is particularly strong in the building sector (both household and commercial services), with heat pumps supplying hot water and heating. On the other hand, electrifying the passenger car sector requires significantly cheaper batteries and vehicles than current estimates of the technological progress suggest. The literature shows a huge uncertainty of estimated costs of batteries, which points to the need of more research on the transport sector. Sensitivity analyses demonstrate that efficient electric technologies contribute to substantial decreases in the marginal cost of carbon dioxide abatement. Implicit discount rates are also found to affect the shift toward electricity because the capital costs of electric devices are higher than conventional ones with direct combustion of fossil fuels. Electric technologies are the key to climate change mitigation, and policies to promote such technologies will enable future drastic cuts in emissions, when combined with measures to reduce carbon intensity of electricity. The Multiple Co-Benefits of a Fundamental Energy Transformation: Perspectives from Global Integrated Assessment Scenarios Nebojsa Nakicenovic Depu ty D irec to r, In te rn atio na l In stitute fo r Ap plie d S yste ms Ana lysis (IIASA ) The historic multilateral agreement reached at the recent COP16 Climate talks in Cancun Mexico commits all countries to keeping temperature rise below 2C above preindustrial levels. Significantly, industrialized countries, as part of the package referred to as the ‘Cancun Agreements’, have agreed to adopt low-carbon development - 420 - plans and strategies to achieve the drastic emissions reductions required to achieve this temperature target. The presentation reinforces the critical role energy plays in reducing GHG emissions and averting dangerous climate change, and provides new information from the International Institute for Applied Systems Analysis (IIASA) and the Global Energy Assessment (GEA) on the significant and multiple benefits of integrating climate and energy policies at both national and regional levels. It also highlights the potential role of energy in supporting achievement of the UN Millennium Development Goals (MDGs). Human civilization, since the advent of the Industrial Revolution, has been built on increasing availability of affordable and secure energy, and the technological and institutional capacity to meet basic energy service needs, such as cooking, heating, industrial processing and mobility. Without adequate energy, modern society, as we know it, would not be possible. Recent developments have focused public attention on the energy situation in terms of security of supply, both natural gas and oil, and the need to respond to climate change. In total, energy is the key area for action to address in the 21st century, with many significant and growing concerns. Using a holistic and integrated approach, researchers at the International Institute for Applied Systems Analysis (IIASA) have identified management and policy options that could not only transform energy systems, reduce GHG emissions and avert dangerous climate change, but generate additional benefits including: • Improved energy access (reducing energy poverty for the 2.5 billion people currently without access to modern energy sources); • Improved air quality and improved human health and life expectancy; • Improved energy security (reducing reliance on fossil fuels and reliability of supply); • Avoided costs associated with the adverse impacts of climate change; and • Avoided energy subsidies. IIASA’s analyses indicate that that these additional benefits outweigh most of the costs associated with achieving an energy transformation while avoiding dangerous climate change. Furthermore, in many cases, the benefits are demonstrable in the short-term and at national and local scales. Thus, there is a strong argument for an integrated development strategy, focusing on energy and climate as the key entry points with many co-benefits that achieve other environmental and social objectives. The above-mentioned benefits can collectively be seen as the motivation for a “green growth” development pathway, one that is necessary to move emerging economies toward a more sustainable future. - 421 - Mitigation of Long- and Short-Lived Climate Forcers: Co-Benefits on Non-Climate Policy Objectives Markus Amann P rogra m Le ad e r, A tmosphe ric P o llu tion & E co no mic De velop men t P rogra m, In te rn atio na l In stitu te fo r App lie d S yste ms Ana lysis (IIA S A) The scientific literature presents ample evidence that co-control of CO 2 and air pollutants leads to significant co-benefits of greenhouse gas mitigation on non-climate policy objectives, inter alia for the protection of human health, ecosystems and agricultural production. Such co-benefits occur both in industrialized and developing countries, and they emerge in the near term and close to the locations where mitigation measures are taken. Thus, a comprehensive assessment of the costs and benefits of greenhouse gas mitigation must not ignore such co-benefits. However, some of the emission reductions that occur as a co-control of CO 2 mitigation (e.g., of SO 2 emissions) lead to additional warming in the near term, as presence of such short-lived substances exert in the atmosphere exert a cooling effect. Thus, such co-controls of cooling agents will compensate some of the climate benefits from CO 2 mitigation in the next few decades. Our study, undertaken for the forthcoming ‘Assessment of Black Carbon and Tropospheric Ozone’ of the United Nations Environment Program (UNEP), explored the scope for control of short-lived substance that could complement efforts to reduce long-lived greenhouse gases and thereby minimize the negative climate impacts of SO 2 controls. Based on IIASA’s GAINS model we identified 16 measures that reduce emissions of CH 4 and black carbon so that the global radiative forcing from these substances could be cut by two thirds in the near term. These measures, all of which are already successfully applied in practice in different parts of the world, are complementary to CO 2 mitigation measures. They include measures to control emissions of CH 4 from coal mines, production and distribution of oil and gas, from waste management and livestock farming, as well as measures directed at emissions of black carbon (e.g., particle filters for diesel engines, clean cooking stoves, agricultural waste burning, etc.). Our analysis shows that rapid implementation of these measures throughout the world could reduce global temperature increase in the next few decades by up to 0.5 (0.3-0.7) degrees. Larger reductions would occur in Asia, where the main potential for further reductions of these substances exists, and in the Arctic. Most of these measures affect sources that are not in the focus of CO 2 mitigation, and would thus not be taken in the interest of climate change mitigation. However, together with CO 2 mitigation, these measures would substantially increase the chance to keep the global temperature increase below 2 degrees. In addition to their climate impacts, these measures have substantial benefits on human health and agricultural production as they also lead to improved air quality at the local - 422 - scale. Since they affect air pollution emissions and impacts for which (inter-)national policy institutions are already in place, they could be implemented under existing local and regional air quality legislation regimes. Furthermore, many of these measures would contribute to existing development objectives (e.g., access to clean energy and water, waste management, introduction of more efficient energy production technologies, etc.). Long-Term Scenarios: Perspectives, Experience, and Activities Leon E. Clarke Sen io r R es ea rch Ec ono mis t, Group Le ade r f or Integ ra te d Mod eling a nd E ne rg y, J o in t G lo ba l Change Re sea rch In stitute , P ac ific No rth we st Nation a l La bo ra to ry (P NNL) Scenarios generated by large-scale energy-economic and integrated assessment models have a long history of informing climate change science, the national and international policy debates surrounding climate change, and climate change decision making more generally in both the public and private sectors. For example, the SRES scenarios generated for the IPCC have served as the key inputs for large-scale global circulation models (GCMs). These resulting climate scenarios have served as the basis for a wide range of local and national impacts and adaptation studies. The IPCC continues to rely on scenarios for its assessments and will certainly do so in AR5. For example, a review of the role of renewable energy in existing scenarios serves an important integrating role in the IPCC’s Special Report on Renewable Energy. Another good example is a series of Energy Modeling Forum (EMF) studies that have focused on climate change mitigation. For example, EMF 14 explored the design and potential implications of the Kyoto Protocol. It served as one of the primary sources of information for decision makers to understand the Kyoto Protocol. EMF 21 made clear the role of non- CO 2 greenhouse gases in climate mitigation and spurred more sophisticated representations of these gases. More recently, EMF 22 explored the implications of delayed participation in international climate regimes. The study was completed in mid-2009 in order to make the most robust and thorough information available prior to the Copenhagen negotiations. Ten models participated in the EMF 22 international scenarios, and the results have been widely disseminated in national and international policy circles. For a number of reasons, the process of scenario development can never be complete. For one, scenarios are a window into a highly uncertain future. As time passes and we learn more, the fundamental assumptions underlying scenarios must be continually updated. Further, the models upon which scenarios are based – large-scale energy-economic and integrated assessment models – are continually being refined and expanded to take into account new information, to take advantage of increasing computational capabilities, and more generally to more effectively represent issues or forces that are particularly important for contemporary science and policy discussions. - 423 - These models must represent so many physical and human system processes that it is impossible to cover all at the same level of detail, and choices must be made as to which should receive the greatest focus. There are several current priorities for scenario development by this modeling community. One priority is technology. The evolution of technology is among the most important determinants of the nature of transition pathways to stabilization, yet there is enormous uncertainty about how technology might evolve and deploy. Several multi-model studies are therefore creating scenarios that explore the linkage between technology and climate decisions, primarily mitigation decisions. These studies are focusing primarily on the implications of different pathways for technology improvements, but they are also considering issues such as the role of technology-focused policies, methods to better compare technology assumptions across models, and the processes by which technology evolves. A second priority is to better represent the policy structures that might constitute the near-term approach to mitigation at both national and international levels. For many years, the standard approach to mitigation studies was to assume a full global carbon tax or cap-and-trade regime. Yet, contemporary policy discussions envision a very different policy environment; one characterized by differing commitments and approaches to meet these commitments. For this reason, several modeling studies are attempting to make headway on more realistic national and international policy structures. These new studies are exploring the potential for differences both in level of effort among countries and the actual policies that countries use to achieve emissions reductions. A third priority is better characterization of national and regional characteristics, including institutional capabilities. By assuming a global carbon tax or cap-and-trade regime, traditional scenario analyses have inherently assumed consistent capabilities and approaches across regions, as well as consistency in the underlying efficiency of economic systems. New scenario efforts may focus more heavily on understanding differences in regional characteristics and approaches to climate and climate-related policy. A fourth priority is the linkage between mitigation scenarios, climate scenarios, and scenarios of impacts and adaptation. Currently, the stock of climate scenarios run by large-scale GCMs is based predominantly on the SRES scenarios. These climate runs have then served as the basis for a range of impacts and adaptation studies. However, the integrated assessment modeling community has developed a new set of climate scenarios, the Representative Concentration Pathways (RCPs), to serve as the basis for new climate runs and impacts and adaptation studies. Missing from these pathways, however, is a means to define a consistent set of socioeconomic pathways that can serve, along with the climate model runs, as the basis for studies of impacts and adaptation studies. To fill this gap, leaders from the integrated assessment and impacts and adaptation communities are working together to develop a set of Shared Socioeconomic Pathways to provide this link in advance of AR5. - 424 - Integrated Assessment for China’s Mitigation Pathway Under Global Target Kejun Jiang Director, Energy System Analysis and Market Analysis Research Center, Energy Research Institute National Development and Reform Commission Rapid increase of energy use in China brought large amount of CO 2 emission in China. China is now the largest country for GHG emissions in the world, which is already significantly higher than that in US. If there is no change for the trend of energy increase, China and the world will not reach the global target on climate change. This gave very big pressure for China to control GHG emission increase in future in order to implement UNFCCC to curb emissions. However we did see a lot of policies are adopted and adopting to reach domestic energy efficiency target and renewable energy target. All these policies are consistent with emission mitigation policies. Most important, Chinese government is taking climate change as one of major issues for government to action. In June 4 2007, the National Program on Climate Change was released. This is an important document in China to guide the future national and provincial policies on climate change. An important thinking is, in the case some countries like UK, Japan etc. will have emission reduction by 60% to 80% in 2050, what happen for China? What is the possibility for China to reduce GHG emission? The purpose to do this scenario analysis is to work with modeling team in other countries, to work out mitigation options in their model, and see what happen if China will follow the options, by giving time gap, but taking some leapfrog. Modeling work for this study is based on previous work in IPAC modeling team, for domestic energy and emission scenarios, IPCC scenarios, EMF studies etc. Global Model IPAC-Emission Global energy demand and supply Global GHG Emission Global Target Burden sharing Energy import/export Energy Price Reduction cost Future economic sector detail Energy intensive industry Reduction cost China energy and emission scenarios Energy demand by sectors Energy supply Reduction cost Energy technology model IPAC-AIM/technology Energy economic model IPAC-CGE Figure 1 Models framework - 425 - An integrated modeling methodology was adopted to make simulation on future China’s emission mitigation. The study first looks at global target by using IPAC-Emission global model, and linked with two national models which focus both on bottom-up analysis and top-down analysis for China. Figure 1 presents the model framework. Emission scenario for China is given in figure 3. CO 2 emission keeps increasing until 2030 in mitigation scenario. It is expect to have emission reduction after 2030 by various policy options. By 2030, CO 2 emission will increase to 2.63billion t-C in mitigation scenario, 3.13 time of that in 2000. By 2050, it is possible to go down to 1.73billion t-C, 66% of that in 2030, and 2.05 times of that in 2000. Scenarios for Global Warming Mitigation and Sustainable Development − ALPS Scenarios Keigo Akimoto Group Lea de r o f S yste ms an al ysis G roup , R ITE 1. Introduction Most countries and people agree with greenhouse gas (GHG) emission reductions rapidly; however, achievements of large emission reductions are not easy in a real world. Global warming mitigation models including RITE models show that halving global emissions in 2050 and 25% reductions of developed countries in 2020 can be achieved technologically. But the barriers to achieve such targets are large in a real world, and we should recognize such large barriers properly to be overcome. RITE has been working on a synthetic scenario development for climate change control and sustainable development in a project called ALternative Pathways toward Sustainable development and climate stabilization (ALPS). The ALPS project aims at providing alternative plausible future scenarios and through quantification of multiple aspects of society on the assumptions that the real-world society consists of a wide range of values. This approach allows us to inform decision makers of more appropriate strategies toward sustainable development and climate stabilization from longer and wider perspectives. Another focus is to gain a clearer understanding of CO 2 emissions structure on a national, sectoral and technological basis in order to deal with short and mid-term climate challenges. The scenarios on combinations of macro and micro views would generate further insights into climate change mitigation and sustainable development. 2. Historical trend The Kyoto Protocol was adopted in December 1997 and entered into force in February 2005. However, the emission trend of CO 2 in Annex I countries after 1997 almost - 426 - unchanged comparing with that before 1997, and the emission increase in Non-Annex I and the world changed their trend to the acceleration (Figure 1). Economic growth is important particularly in developing countries and therefore the increase in CO 2 emissions might be inevitable in short term. However, per-GDP CO 2 emissions in the world also changed from the gradual decrease to almost constant after around year 2000 (Figure 2). Economic growth is usually large under the transition from the primary industry to the secondary industry. Thus, we should not simply criticize such countries whose per-GDP CO 2 emissions currently increase, because the society of such countries is under process changing to an economically mature society. However, the Kyoto Protocol has obviously fault as a framework for reducing global emissions and mitigating global warming. In order to achieve effective emission reductions, a new framework where all the countries reduce their emissions by steadily bottom-up activities with recognition and tolerance of differentiations of each country. The Copenhagen Accord and the Cancun Agreements keep along with the way, and it is desirable to improve the agreement in COP17. 35 CO2 emission (GtCO2 /yr) 30 World 25 20 Annex I 15 10 Non-Annex I Kyoto Protocol adoption 5 0 1970 Figure 1 1980 1990 2000 2010 Historical trajectory of energy-related CO 2 emissions Per-GDP CO2 emission (kgCO2/US$) 1.6 1.2 1 World 0.8 0.6 Annex I 0.4 0.2 0 1970 Figure 2 Non-Annex I 1.4 Kyoto Protocol adoption 1980 1990 2000 2010 Historical trajectory of energy-related CO 2 emissions per GDP - 427 - 3. Future outlook of socioeconomic conditions and GHG emissions CO 2 emissions are closely related to the use of energy. It is important to decouple CO 2 emissions from economic growth, however, it has been shown that there is a statistically significant positive relationship between CO 2 emissions, population and economic growth. For a synthetic scenario development of climate change control and sustainable development, therefore, a careful treatment for projections of population and economic growth is required. This project aims to analyze various indices comprehensively and to develop future scenarios such as about population and economic growth, taking impacts of world financial crisis into consideration. Figure 3 shows global GDP projections in our scenarios A) Medium technological progress scenario (medium scenario) and B) High technological progress scenario (high scenario). The global average of real GDP annual growth assumed to be 2.8% in Scenario A and 2.9% in Scenario B between 2005 and 2020, and 2.4% and 2.7% between 2020 and 2050, respectively. GDP in emerging economies such as China and India will grow significantly and its share of global GDP will further expand toward 2050. Outlook of GHG emissions are shown in Figures 4 and 5 for the baseline of the Scenario B. The impacts of global economic crisis on global GHG emissions will not be large, and the emissions will increase steadily. The share of Annex I countries in global emissions is 58% and 37% (the share is 22% if United states are excluded) in 1990 and 2020, respectively. Figure 6 shows the relationship between GDP and per-GDP GHG emissions by region. Per-GDP GHG emissions in many developing countries decrease substantially to 2020, but the ratio of GDP increase is larger than the decrease in per-GDP GHG emissions, and then total GHG emissions increase. Under the situations, a balanced emission reduction target with environment and economic compatibility and emission reduction measures are required. Range in SRES 400 SRES A1 SRES B1 GDP (Trillion 2000USD) 350 300 ALPS- Sceenario B 250 200 ALPS-Scenario A 150 SRES B2 100 SRES A2 50 0 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 2100 Figure 3 Global GDP scenario Note: SRES stands for the scenarios described in IPCC Special Report on Emissions Scenarios (2000). - 428 - 80000 70000 Other Non-Annex I 60000 GHG emission [MtCO2eq./yr] Africa Latin America 50000 Other Asia India 40000 China Other Annex I 30000 Japan 20000 EU27(+12) EU15 10000 US 0 1990 Figure 4 2000 2010 2020 2030 2040 2050 Baseline GHG emission outlook in major countries and regions for ALPS Scenario A Note: CO 2 emissions from land-use change were excluded. Other NonAnnex I 4% Latin America 7% Other NonAnnex I Africa 2% 6% Latin America 8% 1990 US 19% Af rica 5% Other Asia 10% EU15 13% India 5% China 12% Other NonAnnex I Af rica 2% 7% Latin America 8% 2020 Other Annex I 8% Figure 5 India 6% China 19% Other NonAnnex I 2% Af rica 9% US 15% Other Asia 15% India 7% EU15 11% Japan 4% EU15 9% EU27(+12) 2% Japan 2% US 18% Other Asia 14% EU27(+12) 4% Other Annex I 17% 2005 2050 Other Annex I 10% EU27(+12) 2% Japan 4% US 11% EU15 7% EU27(+12) 3% Latin America 8% Japan 1% Other Annex I 8% Other Asia 17% China 23% China 25% India 11% Regional share in GHG emissions (Historical and Baseline emission of Scenario A) - 429 - 4.5 Year 2005 39 GtCO2eq. Other Annex I Per-GDP GHG emission (kgCO2eq./US200$) 4 China India 3.5 3 Africa 2.5 EU27(+12) Other Asia 2 1.5 Latin America 1 US Other Non-Annex I 0.5 EU15 Japan 0 0 10000 20000 30000 40000 50000 60000 GDP (billion US2000$) 4.5 Year 2020 55 GtCO2eq. Per-GDP GHG emission (kgCO2eq./US200$) 4 3.5 3 Other Annex I Africa India 2.5 2 China Other Asia 1.5 EU27(+12) Latin America 1 US 0.5 Other Non-Annex I EU15 Japan 0 0 10000 20000 30000 40000 50000 60000 GDP (billion US2000$) Figure 6 Per-GDP GHG emissions by region in 2005 and 2020 (Scenario A baseline) 4. Toward effective emission reductions Many studies indicate that technological potentials of CO 2 emission reductions are large. However, there are large barriers to avoid achievements of the technological potentials in a real world that has multi-objectives and diversities. Payback time observed in a real world for investments is one of the obvious barriers to diffuse energy-efficiency technologies. However, the barriers should not be recognized simply as irrational behaviors. Figure 7 shows the abatement cost curves of Japan in 2020. Such cost curves indicate some important implications. The payback time of Japan is observed to be relatively long comparing with other countries. The long payback time in Japan has been helped energy efficiency improvements. On the other hand, the payback time in many developing countries and some developed countries are short, and technologies with cheap initial investments and bad energy efficiency are preferred. High discount rate (short payback time) is adopted under high economic growth in general. The payback time include several factors that societies have multi-objectives. Even if net negative cost by energy savings are achieved, such investments should not be justified without any doubt because societies have multi-objectives. However, some of the factors will be controlled by bounded rationalities. - 430 - (a) Emission reduction cost curve estimated by using short payback time observed in a real world 25% Reduction relative to Y1990 30% Reduction relative to Y2005 (Marginal Abatement Cost: $476/tCO2eq) Reduction of Kerosene Use Early Retirement and Replacement of BF-BOF Plant Diffusion of PV Efficiency Improvement of Various Electric Appliances 15% Reduction relative to Y2005 (Marginal Abatement Cost: $151/tCO2eq) Expansion of Bio-ethanol Use Efficiency Improvement of Air-conditioner & Television Efficiency Improvement of Refrigerator & Air-conditioner CCS Nuclear Power Diffusion of NGCC (Natural Gas Combined Cycle) Expansion of Bio-ethanol Use Efficiency Improvement of Passenger Car Diffusion of HEV for Commercial Vehicle Diffusion of Wind Power Efficiency Improvement of Television Reduction of Kerosene Use (b) Emission reduction cost curve estimated by using long payback time 25% Reduction relative to Y1990 30% Reduction relative to Y2005 Marginal Abatement Cost Curve Under Original Payback Time Expansion of HEV for Passenger Car Expansion of Bio-ethanol Use for HEV 15% Reduction relative to Y2005 Diffusion of HEV for Commercial Vehicle Efficiency Improvement of Refrigerator, Television, and Air-conditioner CCS Nuclear Power Emission Reduction with Negative Cost (No-Regret) Diffusion of NGCC (Natural Gas Combined Cycle) Efficiency Improvement of Passenger Car Diffusion of HEV for Commercial Vehicle Figure 7 Emission reduction cost curves of Japan in 2020 (short payback time observed in a real world and long payback time) Such factors should be removed by bottom-up approaches for better measures not only of global warming mitigation but also of whole economy. It will be difficult to remove such barriers by one of the explicit carbon pricing measures, emission trading. Emission trading schemes are controlled by short payback time and really high carbon - 431 - prices are required for large emission reductions, but it is difficult to introduce high explicit carbon prices in many of the countries in terms of economic and policy barriers. Technology-based bottom-up approaches can avoid short payback time controls. 5. Final remarks Models are simplified and sometimes neglect significant factors of real societies, such as technology diffusion barriers. However, we should carefully treat the model analyses and recognize scenarios developed by simplified models. The Kyoto Protocol has not worked and emission trading schemes harmonizing the Kyoto Protocol has not also well worked. Large emission reductions will be needed for sustainable development. On the other hand, too big cost burden for emission reductions will also avoid sustainable development, and well balanced emission reductions in proper time periods are important. The ALPS project will contribute better climate policy making by qualitative and quantitative scenarios which include really effective policies and measures in real societies for global warming and sustainable development. ■ Speaker's biographies Kenji Yamaji (Director-General, RITE) Dr. Kenji Yamaji is Director-General of the Research Institute of Innovative Technology for the Earth (RITE) since April 1, 2010. Simultaneously, Dr. Yamaji is a Member of Science Council of Japan, Vice-President of the Japan Institute of Energy, and Vice President of the Japan Society of Energy and Resources. Dr. Yamaji’s immediate past position was a Professor of Electrical Engineering and Information Systems, School of Engineering at the University of Tokyo. He obtained B.S., M.S., and Dr. of Engineering degrees in nuclear engineering from the University of Tokyo in 1972, 1974, 1977 respectively. During the earlier part of his career, Dr. Yamaji had been extensively involved in the analysis of energy technology assessment, mainly at the Central Research Institute of Electric Power Industry (CRIEPI) in Japan. He has published more than 60 books on energy systems as well as many research papers, and he is also serving in many advisory bodies on energy and environmental policy for Japanese government. Dr. Yamaji contributed to Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC) as a lead author for 3 rd and 4 th Assessment Reports. Mark Levine (Group Leader, China Energy Group, Environmental Energy Technologies Division, LBNL) Mark D. Levine was director of the Environmental Division at Lawrence Berkeley National Laboratory (LBNL) from 1996-2006, a division of 400 people working on energy efficiency policy analysis and R&D. In 1988, he created and has since led the - 432 - China Energy Group at LBNL. His research on China focuses on collaboration with Chinese counterparts in advancing energy efficiency. Key achievements from two decades of work on energy efficiency in China include: • Co-creator of the Energy Foundation China Sustainable Energy Program and the Beijing Energy Efficiency Center; also founded the LBNL China Energy Group • Led team that brought appliance efficiency standards to China; the current standards on 30 products will save more energy annually than the Three Gorges Dam (18 GW) produces within 10 years. • Participated in a team that performed a pilot project on an industrial energy efficiency that was important in establishing a new and effective policy for energy saving in industry in China (the 1000 Enterprise Program) • Created a buildings energy efficiency focus area in the China Energy Group and led research on assessing performance of residential retrofits to reduce heating energy and in the development of a computer program to assess energy efficiency retrofit measures in commercial buildings (in progress) He has recently Research Center matched on the companies under been selected to be the Director of the U.S. China Clean Energy (buildings energy efficiency). This is a five-year $25M award (to be Chinese side) involving six research institutions and ten private the leadership of Dr. Levine. Besides his work on China energy, he was the leader of the chapter on C O 2 emissions from energy use in buildings for the Intergovernmental Panel on Climate Change (that won the Nobel Peace Prize). He has also led major comprehensive studies of the energy systems of the United States, China, and the world. He was one of three founding members of the Consortium on Electricity Reliability Solutions, the federal R&D program on this topic (led by Lawrence Berkeley National Laboratory). Dr. Levine is a board member of three leading non-profits in the United States (American Council for an Energy Efficient Economy, the California Clean Energy Fund [CalCEF], and the Center for Clean Energy Policy] and one in China (Shanghai Pacific Energy Center). He is an advisory board member of one U.S. organizations (Davis Energy Conservation Center), including one in Japan (APERC). He was elected a fellow of the California Council on Science and Technology in 1999. In recent years he has been the recipient of three prestigious awards: the Obayashi Prize for his contributions to sustainable urban development; the Public Service Award of the Federation of American Scientists for his groundbreaking work on energy efficiency in China; and the Appreciation Prize, the highest award of the Japan Institute of Architects (AIJ) for a non-member of AIJ. In addition to authoring more than 100 technical publications, he was the leader of the chapter on C O 2 emissions from energy use in buildings for the Intergovernmental Panel on Climate Change (that won the Nobel Peace Prize). He has also led major comprehensive studies of the energy systems of the United States, China, and the world. - 433 - Dr. Levine graduated summa cum laude from Princeton University, earned a PhD from the University of California, Berkeley, and has been the recipient of a Fulbright scholarship, a Woodrow Wilson Fellowship, and National Institute of Health doctoral awards. Taishi Sugiyama (Sector Leader, Senior Research Scientist, Socio-economic Research Center, Central Research Institute of Electric Power Industry) 1991 1993 BA. Physics, School of Science, The University of Tokyo M. Eng., Applied Physics, The University of Tokyo 1993-1997 Researcher, Central Research Institute of Electric Power Industry (CRIEPI). 1995-1997 Research Scholar, International Institute for Applied Systems Analysis (IIASA), Austria. 1998- Senior Researcher, CRIEPI. 2001-2005 Member, Scientific Steering Committee (SSC), International Human Dimension Program/Institutional Dimension of Global Environmental Change (IHDP/IDGEC) 2002 Member Panel to Recommend Simplified Modality and Procedure for Small Scale CDM (Small Scale CDM Panel) to the Executive Board of Clean Development Mechanisms (CDM/EB) of the Kyoto Protocol of the United Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC/KP). 2002- Leader, Climate Policy Project, CRIEPI. 2004-2010 Associate Editor, Climate Policy journal (Earthscan). 2004-2007 Lead Author, IPCC AR4/WG3 Chapter 2 2005-2007 Member, Core Writing Team, IPCC AR4/Synthesis Report 2007- Leader, Technology Strategy Project, CRIEPI. 2010-(2014) Coordinating Lead Author, IPCC AR5/WG3 Chapter 15 Publications Energy Efficiency Policy ,2010; Japanese Energy Efficiency History after the World War II ,2010; Climate Change Policy, vol.3, 2010, Energy Forum (in Japanese); Climate Change Policy vol.2, 2008, Energy Forum (in Japanese), Climate Change Policy vol.1, 2007, Energy Forum (in Japanese), Winner of the Energy Forum Prize 2007 - 434 - Nebojsa Nakicenovic (Deputy director, IIASA) Nebojsa Nakicenovic is Professor of Energy Economics at the Vienna University of Technology, Deputy Director of the International Institute for Applied Systems Analysis (IIASA), and Director of the Global Energy Assessment (GEA). Among other positions, Prof. Nakicenovic is member of the United Nations Secretary General Advisory Group on Energy and Climate Change; Member of the Advisory Council of the German Government on Global Change (WBGU); Innovation and Society; Member of the Advisory Board of the World Bank Development Report 2010: Climate Change; Member of the International Council for Science (ICSU) Committee on Scientific Planning and Review, and Member of the Global Carbon Project; Member of the Energy Sector Management Assistance Program (ESMAP) Expert Panel on Sustainable Energy Supply, Poverty Reduction and Climate Change; Member of the Panel on Socioeconomic Scenarios for Climate Change Impact and Response Assessments; Lead Author of Fifth Assessment Report of the IPCC; Member of the Renewable Energy Policy Network for the 21 st Century (REN21) Steering Committee; Member of the International Advisory Board of the Helmholtz Programme on Technology, and Chair of the Advisory Board of OMV Future Energy Fund (Austrian oil company). He is also an Editorial Board Member of the following journals: International Journal on Technological Forecasting and Social Change, International Journal on Climate Policy , the International Journal of the Institution of Civil Engineers , Current Opinion in Environmental Sustainability, and the International Journal of Energy Sector Management . Prof. Nakicenovic was a Coordinating Lead Author of the Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC), the Fourth Assessment Report, 2002 to 2007, Coordinating Lead Author of the Millennium Ecosystem Assessment, 2001–2005, Director, Global Energy Perspectives, World Energy Council, 1993 to 1998, Convening Lead Author of the Second Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, 1993 to 1995, Convening Lead Author of the IPCC Special Report on Emissions Scenarios, 1997 to 2000, Lead Author of Third Assessment Report of the IPCC, 1999 to 2001, Convening Lead Author of the World Energy Assessment: Energy and the Challenge of Sustainability, 1999 to 2000, Member of the International Science Panel on Renewable Energies (ISPRE), 2006 to 2008, and Guest Professor at the Technical University of Graz, 1993–2003. Prof. Nakicenovic holds bachelor's and master's degrees in economics and computer science from Princeton University, New Jersey, USA and the University of Vienna, where he also completed his Ph.D. He also holds Honoris Causa Ph.D. degree in engineering from the Russian Academy of Sciences. Among Prof. Nakicenovic's research interests are the long-term patterns of technological change, economic development and response to climate change and, in particular, the evolution of energy, mobility, information and communication technologies. - 435 - Markus Amann (Program Leader, Atmospheric Pollution & Economic Development Program, IIASA) Markus Amann leads the ‘Mitigation of Air Pollutants and Greenhouse Gases’ program at the International Institute for Applied Systems Analysis (IIASA), Laxenburg, Austria. At IIASA he coordinated the development of the RAINS and GAINS models for air pollutants and greenhouse gases and their policy applications for the Convention on Long-range Transboundary Air Pollution and the European Union. Inter alia, he served as lead author to the Fourth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, the Report on Ozone of the UK Royal Society, and the UNEP Black Carbon Assessment. He has been appointed as member of the Clean Air Commission of the Austrian Academy of Sciences. Dr. Amann graduated in Electrical Engineering at the University of Technology, Vienna, Austria and received his PhD in Economics from the University of Karlsruhe, Germany. Leon E. Clarke (Senior Research Economist, PNNL) Dr. Clarke is a Senior Research Economist at JGCRI and leads JGCRI’s Integrated Modeling & Energy group. Dr. Clarke’s current research focuses on the role of technology in addressing climate change, international climate policy, scenario analysis, and integrated assessment model development. Dr. Clarke coordinated the U.S. Climate Change Science Program’s emissions scenario development process (SAP 2.1a), he was a contributing author on the Working Group III contribution to the IPCC’s Fourth Assessment Report, he coordinated and co-edited the Energy Modeling Forum 22 Transition Scenarios project, and he was a member of the National Academy Study on America’s Climate Choices. He is currently a lead author on the IPCC’s Special Report on Renewable Energy, and he will be a coordinating lead author on the Working Group III contribution to the IPCC’s Fifth Assessment Report. Prior to joining PNNL, Dr. Clarke worked for Lawrence Livermore National Laboratory, Pacific Gas & Electric Company, and RCG/Hagler, Bailly, Inc. He was also a research assistant at Stanford’s Energy Modeling Forum. Dr. Clarke received B.S. and M.S. degrees in Mechanical Engineering from U.C. Berkeley and M.S. and Ph.D. degrees in Engineering Economic Systems and Operations Research at Stanford University. Kejun Jiang (Director, Energy System Analysis and Market Analysis Research Center, Energy Research Institute National Development and Reform Commission) From 1993, Kejun Jiang began the research on climate change relative to energy policy analysis, which focus on energy technology policy assessment, energy supply policy assessment, renewable energy development and energy conservation. Started from 1994, have worked on Integrated Assessment Model(IAM) development for energy and GHG emission scenarios, policies, focusing on China and global analysis. - 436 - At present He is mainly working on policy assessment for energy and environment policy assessment by leading Integrated Policy Assessment Model for China(IPAC) team. Major focus includes energy and emission scenarios, energy policy, energy system,. energy market analysis, and climate change, local environment policies and international negotiation. Started from 1997, worked with IPCC for Special Report on Emission Scenario and Working Group III Third Assessment Report, leader author for IPCC WGIII AR4 Chapter 3, and leader author for GEO-4 Chapter 2. Now he is CLA in IPCC AR5. His recent research projects include energy and emission scenarios for 2030, low carbon emission scenarios up to 2050, assessment on energy tax and fuel tax, potential for energy target in China, development of Integrated Policy Assessment model etc., He got his Ph.D in Social Engineering Department of Tokyo Institute of Technology. Keigo Akimoto (Group Leader of Systems analysis Group, RITE) Keigo Akimoto was born in 1970. He received Ph.D. degree from Yokohama National University in 1999. He joined Research Institute of Innovative Technology for the Earth (RITE) to work with the Systems Analysis Group in April 1999 and was a senior researcher in April 2003. Currently he is the Leader of the Systems Analysis Group and an associate chief researcher at RITE. His scientific interests are in modeling and analysis of energy and environment systems including the costs, risks and public perceptions. He was a guest researcher at IIASA in 2006, a guest researcher at the Research Center for Advanced Science and Technology, the University of Tokyo in 2007-2009, an associate member at the Science Council of Japan in 2008-2009, and a part-time lecturer, Graduate School of Public Policy, the University of Tokyo in 2009. He is currently a guest professor, Graduate School of Art and Science, the University of Tokyo. He is also a Lead Author for the Fifth Assessment Report of IPCC. He received the Peccei Scholarship from IIASA in 1997, an award from the Institute of Electrical Engineers of Japan in 1998, and an award from the Japan Society of Energy and Resources in 2004. - 437 - 本報告書の内容を公表する際は、あらかじめ 財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE) システム研究グループの許可を受けてください。 電 話 FAX 0774(75)2304 0774(75)2317
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