ジャマイカの経済・産業の動向と展望 現地調査報告 2007

ジャマイカの経済・産業の動向と展望
現地調査報告 2007
2007 年 10 月 5 日
丸紅経済研究所
丸紅経済研究所は、カリブ地域を代表する国であるジャマイカの経済・産業の現状を分析し、
その展望を検討するために、07 年 7 月上旬に同国における現地調査を実施しました。以下、同調
査結果に基づいた政治・経済・産業の現状分析と展望をご報告いたします。
(資料)CIA(地図、国旗)
目
次
1.
ジャマイカの基本情報と政治 .......................................................................................................... 2
2.
経済の現状と展望 ............................................................................................................................ 4
3.
カリブ海地域のゲートウェイとしてのジャマイカ .......................................................................... 8
4.
主要産業・有望投資分野の概要....................................................................................................... 9
5.
日本との経済関係 .......................................................................................................................... 13
担当:丸紅経済研究所
チーフ・エコノミスト
E-mail: [email protected]
1
今村
卓
1. ジャマイカの基本情報と政治
(1) 基本情報・人口構成
•
1494 年、コロンブスがジャマイカ島を発見。
スペイン領を経て 1670 年からは英国領植民
地。1957 年に自治権獲得、62 年に独立(カリ
ブ海の英植民地では最初)、イギリス連邦加盟
国となる。政治体制は立憲君主制、国家元首
はエリザベス 2 世、元首が首相の推薦で総督
図表 1
ジャマイカ基本指標(2006 年)
人口
267.4 万人
国土面積
11,424 km2
名目GDP
103.35 億ドル
一人当たりGDP
3,875 ドル
を任命。英国と同じく上下両院からなる議院
内閣制、首相は下院多数党党首(総督が任命)
。
•
人口は約 270 万人、CARICOM(カリブ共同体)の加盟国ではハイチに次ぐ第 2 位である。
アフリカ系黒人が 91%を占め、次は黒人系混血の 6%。年齢構成上の特徴は 15 歳以下人口が
32%と高いこと。最近の出生率が低下傾向にあるため、今後は従属人口比率が低下し、生産
年齢人口比率が高まるという経済成長が加速しやすい構造に移行していく見通しである。
•
社会経済面では、貧困比率が 02 年 19.7%から 05 年 14.8%へ、失業率が 02 年 14.2%から 06
年 10.3%へとそれぞれ低下しているが、改善の余地は大きい。不完全雇用(underemployment)
は多いが、農村地域の余剰労働力が都市部のサービス業に職を求める傾向が強まりつつある。
(2) 政治: 8 月下旬の総選挙を経ても政策は変わらず、経済への影響は小さい
•
下院(60 議席、総選挙で選出)と上院(21 議席、首相指名 13 議席と野党党首指名 8 議席)
で構成される議院内閣制。主要政党は PNP(人民国家党)と JLP(ジャマイカ労働党)の二
つ。1989 年以来、07 年 9 月まで約 18 年にわたり PNP 政権が続いてきた。
‑
‑
•
72 年発足のマンレイ首相率いる PNP 政権は左傾化・反米傾向を進めたが、放漫財政で経済は混
迷に陥り、80 年の総選挙で JLP が勝利、セアガ政権が発足。セアガ政権は自由主義経済、親米
路線を採用したが、経済再建を果たせず 89 年に PNP が政権奪還、マンレイ政権が再登場。
マンレイ政権は、セアガ前政権の自由主義経済、親米の路線を踏襲。92 年に同首相が健康問題
を理由に引退、パターソン副首相が首相に就任。パターソン首相は 93 年、97 年、02 年と 3 回
連続で総選挙に勝利、15 年にわたる長期政権となった。その後、06 年 3 月に任期途中で同首相
が退任、シンプソン・ミラーPNP 副党首が初の女性党首・首相に就任。
しかし、07 年 9 月 3 日に実施された総選挙は、JLP が 60 議席中 33 議席を獲得、27 議席の
PNP を抑えて勝利した。得票率でみれば JLP50.1%、PNP49.8%という僅差であったが、高
い失業率や犯罪発生率等への有権者の不満が 18 年にわたる長期政権の PNP に向けられたと
の見方が多い。選挙結果を受けてミラー首相は退任し、9 月 11 日に JLP のブルース・ゴール
ディング党首(59 歳)が歴代 8 人目の首相に就任した。
‑
総選挙は 8 月 27 日に実施予定だったが、直前に大型ハリケーン「ディーン」が上陸し、南部海
岸地域を中心に 30 万人が避難、多くの被害が生じたため、政府は投票を 1 週間延期した。
2
•
ブルース・ゴールディング首相は、貧困層がステップアップできる社会的・経済的仕組みの
構築を抱負として述べ、犯罪・教育・政治の透明性など 7 点の政権公約を発表。選挙結果を
受けて、前政権よりも貧困層・低所得層対策を強化する姿勢を示している。もっとも JLP の
基本路線は、PNP と同様に自由経済主義と親米である。新政権の下で、経済など重要政策の
根幹に前政権からの変化が起こる可能性は低いとみられる。
•
過去、1985 年の総選挙では JLP と PNP の支持が伯仲、各党と結びつきの強いギャング組織
同士の抗争に発展、多数の死者が出たことがある。しかし今回の総選挙は、ほぼ平穏裏に終
了。選挙監視団を派遣した OAS(米州機構)は「ジャマイカの民主主義の成熟」と評価した。
(3) 治安:犯罪件数の多さが懸念材料だが、改善傾向
•
世銀・IFC 刊行の ”Doing Business Report (2006)” によれば、ジャマイカでビジネスを行う上で
の最大の問題要因は犯罪・窃盗の多さである。アンケート回答者の 4 分の 1 強が指摘し、10%前
後にとどまる他要因(政府の非効率性等)を大きく引き離している。
•
2006 年の殺人事件の発生件数は 1,340 件、人口 10 万人当たり 50.12 人(日本は 1.02 人、日本
の約 49 倍)であり、世界最高といわれる。ただ、殺人など凶悪犯罪の発生は、キングストンの
ダウンタウン地域や同市東部のマウンテンビュー・アベニュー地区、オーガスト・タウン地区、
スパニッシュ・タウンの一部地域などに集中。ギャング同士、ギャングと治安部隊とによる銃撃
戦や殺人、強盗事件が多い。また凶悪犯罪は麻薬と関連したケースが多いという。観光地のモン
テゴ・ベイやネグリルで発生しているのは、旅行客等を対象にした強盗や恐喝などである。
•
政府報告によれば、近年、犯罪件数は、対人、対物ともに減少傾向にある。実際、2006 年の殺
人事件の発生件数は前年比 20%減である。政府の犯罪対策の強化が奏功し始めたほか、経済の安
定も寄与している模様。今後も経済発展が持続すれば、犯罪件数は減少に向かうだろう。モンテ
ゴ・ベイ等の観光地での凶悪犯罪が増えれば、観光客が減少して今後の経済発展に打撃となる恐
れがあるが、現状の同地域の安全対策は有効であり、そうしたリスクは小さいと思われる。
3
2. 経済の現状と展望
(1) 経済構造:サービス業中心、観光と物流に期待高まる
•
独立までは、約 340 年にわたりサトウキビやバナナなどの生産・輸出に頼る典型的な植民地
経済が続いた。独立後も農業依存は続いたが、次第に食品加工やボーキサイトとアルミナの
生産へと産業構造の多様化が進んだ。近年は観光産業が中核を占めるまでに急成長している。
•
主要部門別に見れば、現在の経済構造はサービス業主導である。サービス業が GDP に占め
る割合は 72%(06 年)、財サービス輸出に占める割合も約 7 割とそれぞれ高い。サービス業
のうち、構成比が大きいのは商業、輸送通信、政府サービスなどであるが、近年の成長が目
立つのは観光・外食産業である。政府も、観光産業と物流などを同国の今後の経済発展のエ
ンジンにしたいと考え、同業種への外国からの投資を期待している。
図表 2 ジャマイカの主要産業別の GDP 構成比(実質ベース)
農業
鉱業
製造業
食品、飲料、たばこ
建設業
サービス業
電力水道
運輸通信
流通
観光
2001
6.7
5.4
14.1
7.8
8.4
70.8
3.8
13.1
22.3
6.2
2002
6.1
5.5
13.9
7.7
9.7
71.6
3.9
13.7
22.0
6.1
2003
6.3
5.6
13.4
7.4
9.6
71.8
4.0
13.9
21.8
6.3
2004
5.7
5.7
13.7
7.6
10.0
71.9
4.0
13.9
21.9
6.5
2005
5.2
5.8
13.3
7.2
10.6
71.9
4.1
13.9
21.8
6.6
2006
5.9
5.8
12.7
6.6
10.1
72.4
4.1
14.2
21.6
7.3
(資料)Statistical Institute of Jamaica.
•
製造業は補完的な存在であり、GDP に占める割合は 13%にとどまる。製造業の半分近くは
食品加工産業が占める。人口が約 270 万人と少なく、労働集約的な産業の発展には限界。一
方で資本集約的な産業が比較優位を得る可能性も低い以上、製造業主導で経済発展を続ける
ことは困難である。政府も、製造業の中で伸ばすべき業種は食品加工などに絞り込んでいる
し、製造業に期待するのは農村部の余剰労働力の吸収などの面での補完的役割である。
(2) 近年のマクロ経済の展開:伸び悩んだ経済成長率
図表 3 ジャマイカの実質 GDP 成長率(主要産業別)
(前年比, %)
実質GDP
農林水産業
鉱業
製造業
建設業
電力水道
運輸通信
流通
観光
2001 2002 2003 2004 2005 2006 06Q1 06Q2 06Q3 06Q4 07Q1 07Q2
1.5
1.1
2.3
0.9
1.4
2.5
1.2
0.1
0.6
2.4
2.0
2.1
6.3
-7.0
4.8
-8.7
-7.2
15.9
22.9
18.4
10.5
11.7
4.0
4.5
2.6
3.3
4.9
2.6
3.4
1.7
-2.1
1.5
0.8
7.0
0.8
3.0
0.9
-0.9
-0.8
2.7
-1.3
-2.4
-0.9
-4.0
-1.5
-3.4
-0.2
2.4
2.3
2.6
1.5
5.4
7.3
-2.2
-5.1
-4.2
-1.5
1.6
7.0
5.5
0.7
4.6
4.7
-0.1
4.1
3.4
4.0
2.0
3.2
4.4
4.7
2.4
5.1
6.2
3.6
0.9
1.2
4.7
2.7
4.7
7.0
4.4
1.8
2.0
0.0
0.1
1.0
1.3
1.1
1.4
0.7
0.8
1.8
2.4
1.5
1.3
-1.5
0.1
5.6
4.6
3.1
12.3
9.2
20.0
16.5
4.1
-0.8
-1.5
(資料)Statistical Institute of Jamaica.
•
ジャマイカの 04〜06 年の実質 GDP 成長率はわずか年平均 1.6%。ここまで経済が伸び悩ん
4
だ要因は三つあり、一つは公的債務の大きさ。90 年代後半にジャマイカは通貨・金融危機に
陥り、政府は預金者保護のために多額の公的資金を投入。危機は収束したが、代償として公
的債務が増大。02 年には同債務の GDP 比が 141%に達した。
図表 4 ジャマイカの公的債務の GDP 比の推移
150
140
130
120
110
100
90
80
70
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
(資料)Planning Institute of Jamaica.
‑
‑
•
70〜80 年代に放漫財政により公的債務は大幅に増加。90 年代前半に IMF の支援も受けて緊縮財
政を推進し、公的債務の GDP 比は 96 年に 80%まで減ったが、上記金融危機で再拡大。
90 年代後半の通貨・金融危機は、政府が、十分な外貨準備を持たないまま、資本自由化に踏み
切ったことに起因する。自由化後に外貨準備は激減、国内金利は大幅に上昇、不良債権が増大し
て破綻する金融機関が続出した。資本流出はなく、経営悪化が伝えられた金融機関から大手金融
機関への預金移動が危機を大きくした。
巨額の公的債務によって、政府の金利支払は GDP 比 17%超の規模に拡大、緊縮財政を徹底
するしかなくなった。緊縮財政は政府の投資・支出を減らして成長を抑えたし、巨額の公的
債務はインフレ圧力を強め、金利を高止まりさせるなど悪影響も生じた。
•
もう一つの要因は、04〜05 年にかけての天候不順・自然災害による農業生産の落ち込みと国
内食料価格の大幅上昇。農業部門の生産は 2 年連続で 7%を超える減少となった。GDP に占
める農業の割合は低下傾向にあるとはいえ、これだけ生産が落ち込めば経済成長を押し下げ
てしまう。また、食料価格の上昇からインフレ率が 2 ケタに逆戻りしてしまったことも、金
利の高止まりの追加的な要因になり、経済成長を押し下げた。
•
GDP の算出方法が古いため、拡大するサービス部門の実態を正確に捉えられず、過小評価し
ている可能性も指摘される。サービス部門の過小評価は、多くの新興国に共通する問題であ
り、最近、GDP の算出方法が改訂されたブラジルでは、サービス部門の生産が上方修正され、
改訂前よりも過去の GDP が 11%大きくなった上に、GDP 成長率も高くなった実例がある。
ジャマイカの場合も、正確に計測できる電力使用量の伸びが、経済成長率を大きく上回り続
けるなど、疑いの余地は大きいという。
(3) 進む経済構造の改善:対外ファイナンスの安定と堅い金融政策
•
一方で、経済成長が伸び悩む中でも経済構造の改善はあった。一つは外貨準備の着実な増加
と対外ファイナンスの安定である。輸出の堅調な伸び、対内直接投資の拡大、海外労働者か
らの送金増加、観光収入の増大によって、外貨準備は 03 年末の 11.7 億ドルから 06 年末 23.1
億ドルへと倍増、財サービス輸出の約 3 カ月分に達した。新興国に求められる安全な外貨準
5
備としては問題のない水準である。十分な外貨準備は、為替レートの減価を抑制し、国内で
はインフレと金利を落ち着かせる要因の一つとなった。
‑
‑
•
対内直接投資は、04〜05 年に年間 6 億ドル台が続いた後、06 年には 10 億ドルに増加。
海外労働者からの送金は年間 18 億ドル、直接投資をはるかに上回る規模である。
ジャマイカへの外貨流入増加をもたらした上記の四つの要因は、すべて最近の好調な世界経
済やグローバリゼーションの進展と強く結びついている。輸出は、国際商品市況の上昇がジ
ャマイカの主力輸出品である砂糖やボーキサイトの価格上昇に表れている。直接投資、送金、
観光収入は、好調な世界経済の下で、人と資金の国際移動が増えてきたからこそ伸びている。
•
慎重な金融政策の継続もインフレ抑止への効力を強めた。中銀はベースマネーの伸び率をタ
ーゲットとする政策を採用しており、2000 年以降は、食料価格の高騰など特殊要因があった
03〜05 年を除けば、インフレ率を 1 ケタに抑え込むことに成功している。それを受けて金利
も低下傾向にある。中銀の誘導目標金利(180 日)は、96 年には 40%もあったが、06 年末
には 12%まで低下した。
•
90 年代の一連の自由化政策は、通貨金融危機という重いコストをジャマイカにもたらした。
しかし、改革にブレーキが掛からなかった結果、現在のジャマイカはラテンアメリカ・カリ
ブ地域の中で、自由貿易、資本移動の自由など最も開放度が高い経済構造を得た。それを受
けて直接投資が増え、国内投資も順調に増えた。公共部門による投資は GDP 比 3〜4%と低
いが、民間部門の投資率(投資/GDP)が高く、総投資率(総投資/GDP)は、安定成長を
続けるアジア並みの 30%台に到達している。
•
金融危機を経て、国内金融セクターの再編・強化が進んだことも重要。公的資金の注入によ
って不良債権問題は早期解決に至り、現在では「強い金融機関」しか残っていない。
(4) 上向く景気、改善傾向示すファンダメンタルズ、3〜4%成長持続へ
•
上記の成長制約要因のうち、06 年になって公的債務は改善傾向を示した。緊縮財政の継続に
より、公的債務の GDP 比は 06 年度 127%まで低下(水準は高いが変化が重要)。農業生産も
天候不順という一時的要因が解消して、回復に転じた。GDP の算出方法は改定されなかった
が、上記の構造改善と合わせて、ジャマイカ経済のファンダメンタルズは 06 年に入って、
かなり良好になっていた。
•
実際、06 年には景気が上向き、インフレ圧力は下がるという最良の組み合わせが実現してい
る。実質 GDP 成長率は 2.5%と過去 10 年間で最高、インフレ率は 5.8%と過去 20 年間で最
低をそれぞれ記録した。
•
国内での緊縮財政への抵抗は少なく、今後も、緊縮財政と債務削減は進展するだろう。政府
は 09 年度には財政プライマリー黒字が GDP 比 10%近くに上昇し、債務の GDP 比は 110%
までを低下すると予測。また政府の「04−07 年度中期期社会経済フレームワーク」では、財
政赤字(ノミナル)を GDP 比 2.5%へ、債務の GDP 比を 118.5%にそれぞれ引き下げるとい
う目標も設定されている。また民間では 100%割れも視野に入ってきたとの意見もある。公
6
的債務の削減から始まる好循環が繰り返される可能性が強まってきた。
•
07 年 1-3 月期の実質 GDP 成長率は 2.0%(前年同期比)、4-6 月期は同 2.1%であった。07
年の成長率は前年並みの 2.5%となる見込み。今後は、上記の好循環の顕在化と構造改善の成
果の幅広い分野への浸透を考慮すると、08 年以降、年平均 3〜4%台の堅調な経済成長と 5%
台の安定したインフレの組み合わせが持続する可能性が強まってきたと見込まれる。
•
過去 3 年間の年平均 1.6%という実質 GDP 成長率を物差しにして、今後のジャマイカをみる
ことは、過小評価に陥る可能性が高い。逆にいえば、多くの市場参加者がジャマイカ経済の
今後の 3%台の持続的成長を織り込んでいない今は、ジャマイカにおいて割安な金額で目標
達成の可能性の高い投資を展開する好機でもある。低い経済成長率という実績は、ジャマイ
カに対する過小評価の象徴であるといえよう。
(5) 持続的成長への最大の課題:エネルギー調達
•
一方で、上記の持続的成長を実現するためには、エネルギーの安定確保が欠かせない。現在
の国内の石油消費量は約 2,600 万バレルであり、ベネズエラとメキシコから協定に基づいた
安定供給が確保されている。それでも石油輸入国(輸入依存度 90%)であるジャマイカにと
って、最近の石油価格高騰は大きなコスト増大となって経済運営の負担になっている。
•
今後、経済成長のペースが上がれば、エネルギー需要は膨らむ一方となる。政府は、近隣諸
国からの LNG によるエネルギー確保等を検討しているが、まだ安定的な供給先を見出せてい
ない状態である。今後、政府は外国企業に積極的な参加を求めていくことになろう。
(6) リスク要因:外部環境の悪化と自然災害
•
今後のリスク要因は、第一に世界経済の変調である。ジャマイカの最近の対外ファイナンス
の改善、外貨準備の順調な増加は、ジャマイカ自らの改革と好調な世界経済やそれに伴う国
際商品市況の上昇が重なって実現したものである。仮に、その反転があれば、観光客数の減
少、砂糖やボーキサイトの輸出の減少、海外労働者からの送金減少などが発生し、ジャマイ
カの対外ファイナンスは大きく悪化してしまう。
•
ただ、07 年 8 月以降に強まった米欧に
図表 5 ジャマイカ証券取引所市場指数の推移
おける信用市場の混乱がジャマイカ
に及ぼす影響は限定的にとどまって
いる。ジャマイカ証券取引所市場指数
は、07 年 2 月下旬の世界同時株安の際
に大きく下落して 7 月まで停滞したが、
その後は世界的に株価が下落した 8 月
中旬を除き、上昇基調を保っている。
7
•
第二のリスク要因は、自然災害である。前述のように、07 年 8 月下旬の大型ハリケーン「デ
ィーン」の上陸は大きな被害をもたらし、総選挙を延期させた。06 年以前に複数回発生した
大型のハリケーンも、農業生産に深刻な打撃を与えただけでなく、インフラも破壊した。農
業生産は翌年には回復可能だが、インフラは、貴重な資金を新規投資から既存施設の修理や
再建に回すことになり、中長期的にはジャマイカの潜在成長率の低下にもつながってしまう。
•
小国であるジャマイカは、上記二つのリスク要因そのものを回避し続けることは難しい。リ
スクが現実になっても、ショックを吸収できるような安定した経済構造を整えることが、ジ
ャマイカの課題。したがって公的債務の水準が依然として高い現状は、ジャマイカにとって
リスクが大きく、早期に公的債務を減らすことが重要である。
3. カリブ海地域のゲートウェイとしてのジャマイカ
図表 6 カリブ海地域主要国の概要
国土面積
平方km
Antigua and Barbuda
442
Bahamas, The
13,878
Barbados
430
Belize
22,966
Dominica
751
Grenada
344
Guyana
214,969
Haiti
27,750
Jamaica
10,991
St. Kitts and Nevis
262
St. Lucia
539
388
St. Vincent and the Gren
Suriname
163,820
Trinidad and Tobago
5,130
cuba
110,861
名目GDP
人口
百万人 10 億ドル
0.082
0.96
0.329
6.22
0.279
3.39
0.301
1.21
0.072
0.30
0.106
0.53
0.759
0.87
8.478
4.47
2.673
10.57
0.041
0.49
0.165
0.93
0.107
0.47
0.518
2.11
1.298
19.94
11.200
50.00
対内直接投資
成長率
輸出
輸入
ドル
百万ドル 百万ドル 百万ドル 2004 2005 2006
11,685
60
550
129 5.2 5.3 8.0
18,917
674
2,401
360 1.8 2.7 4.0
12,154
341
1,545
159 4.5 4.1 3.5
4,028
266
676
107 4.6 3.5 5.0
4,181
38
165
27 3.0 3.4 4.1
4,989
20
280
28 -6.9 12.1 2.1
1,147
569
876
77 1.6 -1.9 4.8
528
476
1,875
10 -2.6 0.4 2.2
3,952
1,964
5,352
601 1.0 1.4 2.7
11,741
31
286
50 7.3 4.1 4.6
5,650
65
600
112 4.8 5.8 4.2
4,360
25
247
34 6.8 2.2 4.1
4,081
1,200
900
41 8.1 5.5 5.8
15,355
11,982
5,804
1,100 9.1 7.9 12.0
4,464
2,449
9,375
-1 5.4 11.8 12.5
一人当たりGDP
*国土面積は世界年鑑2007、人口、名目GDP、一人当たりGDP、成長率はIMF、輸出、輸入はWTO、FDIはWorld Investment Report 2006
*cubaの人口、名目GDP、成長率はJCIF(政府公表に基づく数字)
*cubaの人口、名目GDPは2005年。名目GDPは1ドル=0.93ペソで計算
*FDIは2005年、他は2006年
•
内需の規模でみれば小国のジャマイカだが、同国を含めたカリブ海地域、さらにキューバの
将来における経済改革の実現、市場経済への移行までを視野に入れて、カリブ海地域+キュ
ーバという単位でみれば、一定の規模の人口と内需が存在していることが分かる。
•
カリブ海地域の 14 カ国が加盟する CARICOM(カリブ共同体)は、経済面では 08 年中の
CARICOM 単一経済(CSE)の実施開始を目指している。14 カ国の中で、ジャマイカはリーダ
ー的な存在であり、
他の CARICOM 諸国への影響力も大きい。
またジャマイカ自らも、
「CARICOM
のゲートウェイ」として、先進国からの投資を獲得しようとしている。今後、ジャマイカへの進
出を考える企業は、ジャマイカにとどまらず、CARICOM そして将来的にはキューバへの進出に
拡大する可能性があることを視野に入れておくべきだろう。
8
4. 主要産業・有望投資分野の概要
(1) ボーキサイト・アルミナ等
•
ジャマイカは国土の 3 分の 2 が第三紀石灰岩で占められ、それを母岩とするボーキサイトが、
埋蔵量で世界第 3 位、生産量で世界第 4 位という多さになっている。アルコアなど欧米アル
ミメジャーと同国政府の合弁事業アルミナ精錬所で精製が行われている。
図表 7 ボーキサイトの主要生産・埋蔵国
埋蔵量
百万トン
構成比
8,600
26.9%
ギニア
7,900
24.7%
オーストラリア
2,500
7.8%
ジャマイカ
2,500
7.8%
ブラジル
2,300
7.2%
中国
32,000
100.0%
世界合計
(資料)U.S. Geological Survey.
オーストラリア
ブラジル
中国
ギニア
ジャマイカ
世界合計
生産量
百万トン
構成比
61.4
34.7%
21.0
11.9%
20.0
11.3%
15.2
8.6%
14.9
8.4%
177.0
100.0%
図表 8 ジャマイカの主要鉱業の生産量
Country and commodity
Bauxite, dry equivalent, gross weight
Alumina
12
1000t
do.
Cement, hydraulic
Clay12
kilograms
Gold12
Gypsum12
Lime12
1000 barrels
Petroleum refinery productse
Salt
Sand and gravel
do.
Shale, for cement
Silica sand12
Silver
kilograms
Stone:13
Limestone
thousand metric tons
Marble, cut and/or polished
Marl and fill
thousand metric tons
2001
12,370
3,542
596,247
91
214
320,323
281,853
3,600
19,070
2,205
151,277
8,244
95
2002
13,119
3,631
613,981
66
328
164,880
255,266
3,600
19,000
2,249
144,205
9,367
174
3,488
150
5,422
3,522
150
5,693
13
13
13
13
13
13
13
e
13
13
13
13
13
r, 13
13
2003e
13,445
3,844
607,682
81
277
248,558
275,763
3,600
19,000
2,316
217,005
12,825
92
3,593
155
6,376
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
3, 13
(Metric tons unless otherwise specified)
2005
2006
2004e
13,297 3, 13 14,118 14
14,900
4,021 3, 13
4,086 14
808,070 3, 13 844,840 14
525 3, 13
45 14
r, 14
20
-- 14
3, 13
283,352
302,066 14
3, 13
269,139
269,743 14
3,600
11,600
19,000
19,000 e
2,362
2,392 14
184,993 3, 13 164,235 14
11,172 3, 13 14,261 14
9 13
-- 14
r, 3, 14
2,500
120
5,900
13
13
13
2,610
120
5,310
14
14
14
r
e
Estimated; estimated data are rounded to no more than three significant digits; may not add to totals shown. Revised.
Reported figure.
12
Source: Ministry of Mining and Energy of Jamaica.
3
13
Source: Ministry of Land and Environment of Jamaica.
14
Ministry of Agriculture and Lands, Mines and Geology Divison of Jamaica.
Source: U.S. Geological Survey
•
ボーキサイトの生産量は、世界のアルミ需要の拡大を反映する形で、05 年から年平均 5.9%
と堅調なペースで増加している。今後も需要の拡大が見込まれることから、ジャマイカ政府
とアルコアの合弁企業 JAMALCO は約 13 億ドルを投資して、生産能力を 140 万トン以上増
強し、280 万トンとする見通しである。
•
ジャマイカは石油精製能力の拡大も図っている。現在の精製能力は日量 3 万 6,000 バレルだ
が、5 億ドル強を投資して 09 年までに日量 5 万バレルに引き上げる見通しである。
9
(2) 観光産業(ホテル、レストラン、クラブ等)
•
モンテゴ・ベイ地域を中心に、03 年以降、旅行者数・消費額ともに増勢を強めている。06
年には旅行者数が 301 万人、消費額は 19 億ドル弱をそれぞれ記録。旅行者数はジャマイカ
の人口を超える規模に拡大した。カリブ地域の英語圏では、バハマを上回り最大の旅行者数
になった模様である。301 万人の旅行者のうち、空路利用が 169 万人(前年比 13.5%増)、ク
ルーズ利用が 134 万人(同 17.7%増)であった。
図表 9 ジャマイカに到着した旅行者数とその消費額
2001
到着旅行者数(万人)
(前年比、%)
2002
2003
2004
2005
2006
211.7
213.2
256.6
251.5
261.5
-5.1
0.7
20.4
-2.0
4.0
15.3
12.3
12.1
13.5
14.4
15.5
18.9
-7.5
-1.9
11.7
6.3
7.6
22.2
旅行者消費額(億ドル)
(前年比)
301.5
(資料)Jamaica Tourist Board.
•
観光産業の実質 GDP は 06 年には前年比 12.3%増と大幅に増加した。同年のジャマイカの実
質 GDP 成長率 2.5%に対する寄与度も 0.8%に達し、主要産業の中では最大となった。GDP
に占める観光産業のシェアは 96 年 5.1%から 06 年 7.3%まで拡大してきており、今後のジャ
マイカ経済を牽引する最大の産業になるとの見方が強まっている。
•
航空機利用の旅行者の約 71%は米国人が占め、06 年は前年比 12.5%増とその増勢も強まっ
た。ジャマイカが英語圏であることに加え、同国の文化や音楽に魅力を感じるアフリカ系米
国人の増加が、米国からの旅行者増加の大きな要因といわれる。また、世界同時好況とグロ
ーバリゼーションの進展の中で、海外旅行が世界的に高成長分野になったことも見逃せない。
‑
•
米国以外では、欧州のシェアが 15.2%、カナダ 9.1%。日本は 0.2%(約 3,800 人)
。
政府は「04−07 年度中期社会経済フレームワーク」の中で、観光産業の発展を重要目標に設定。
政府は、観光産業が 10 年後に GDP の 15%を占めるまで発展することを期待。到着旅行者数は
年平均 5.5%増、旅行者の消費額は同 8.4%増という具体的目標を持っている。
•
近年、スペイン系を中心とした外国資本によるホテル建設が大幅に増えている。直接投資流入額
の約 7 割もホテルなど観光産業が占めている。ホテル建設は、既存施設の拡張や新設などプロジ
ェクトが目白押し。ホテルの総室数も、07 年には前年比 5%増の 27,323 室に達する。現在の建
設計画からみて、室数は 08 年 10%、09 年 12%、10 年 7%増と堅調に拡大する見通しである。
図表 10
最近のモンテゴ・ベイ地域での主なリゾートホテル建設計画
Fiesta-Point, Hanover
1,600 室の高級ホテル建設
3.5 億ドル
2008 年
Fuertes – Secrets Resort & Spa
700 室のリゾートホテル建設
1.3 億ドル
2009 年
Palmyra
550 室のリゾートマンション建設
1.5 億ドル
2008 年
Iberostar
980 室の高級ホテル建設
1.8 億ドル
2007 年
Grupo Excellence Oyster Bay Resort
1,650 室の高級ホテル建設
2.0 億ドル
2009 年
Grupo Pinero – Gran Bahia Principe
1,800 室のリゾートホテル建設
2.0 億ドル
2006 年
10
•
ホテル以外ではアトラクションの建設が大幅に増えている。ジャマイカの自然を活用したエ
コツーリズムや観光農園などのコンセプトが目立つ。
•
このように、近年、観光施設への投資が加速した要因は二つある。一つは、ジャマイカ政府
の積極的な投資奨励策の導入である。”Hotel Incentives Act”など 6 つの税制優遇策が施行され、
外国企業の投資を誘発した。もう一つは、スペインの好景気である。自国の景気拡大を背景
に業績が好調なスペイン企業が、拡大するキャッシュフローを活用して、積極的な海外投資
に乗り出しているのであり、ジャマイカがその対象になった。
•
このように需要以外の制度変更や外部環境の変化に応じた投資増加であることから、将来的
に過剰投資が生じるリスクはある。今後、拡大する施設が高い稼働率を確保・維持するには、
リピーターをどれだけ増やせるか、バハマなどライバルとなる地域に対して、価格と魅力の
両面でどれだけ優位性を確保できるかが課題となる。
•
一方、上記施設が完成、稼動し始めると、供給面で様々なボトルネックが生じる可能性があ
る。インフラのうち、高速道路は、政府が総額 8.5 億ドルの Highway 2000 という投資計画
を打ち出して、モンテゴ・ベイを中心にした北部海岸地域のネットワークの整備が進められ
ている。今後は、オチョ・リオからスパニッシュ・タウンなど、北部海岸地域から他地域へ
の高速道路の整備が進められる予定である。重要なポイントは、モンテゴ・ベイ地域から短
時間で移動できる地域を拡大して、観光客が訪問可能な施設や場所を増やし、観光業や関連
産業が創出する付加価値を拡大させることである。
•
政府は空港施設の改良には既に着手している。モンテゴ・ベイの Sangster 国際空港には 2 億
ドル、キングストンの Norman Manley 国際空港に 1.3 億ドルを、それぞれ投資して空港設備
の近代化と拡張が進められている。
•
上記以外でも供給制約が考えられる点は多い。政府が強調しているのは、ホテルや観光施設を運
営できる有能な人材が不足する可能性である。人材育成を急ぐ必要があり、その面で政府は民間
部門に投資を呼び掛けている。また、ホテル等の従業員向けの住居もこのままでは不足するし、
水の需要も政府試算では今後 20 年間に現在の 3.2 倍に増え、現在の供給能力を 2.4 倍に拡大し
なければ、水不足に陥ってしまう。また、現状の環境対策が極めて不十分なことも、今後、問題
になる可能性が高い。そのほか、電力、下水道など、あらゆるインフラ投資に大幅な拡大が求め
られている。その上に、石油やガスなどのエネルギー確保という問題が出てくる。
(3) ロジスティクス
•
海運の多いカリブの中心に位置するというロケーションが、ジャマイカの持つ最大の優位性
である。カリブ海沿岸の主要港湾から平均 32 マイルという近さである。そして、パナマ(そ
の先のアジアへ)、中米、米国東海岸、南米、欧州など、あらゆる地域へのアクセスが可能で
ある。また、自然港湾として世界第 7 位の規模という地理的な優位性もある。政府も”Location
is everything”と強調し、国内の主要港湾の整備に乗り出している。実際、キングストン港の
コンテナ取扱量は急速に拡大しつつあり、過去 4 年間で倍増した。
11
図表 11 キングストン港のコンテナ取扱量
(資料)Port Authority of Jamaica .
•
政府は、キングストン港をカリブのロジスティック・センターとすることを目指している。
同港の現在のコンテナ処理能力は 2 百万 TEU。07 年末までに能力増強が進み、拡張計画の
完了時には、処理能力は 330 万 TEU になる見通しである。
•
港湾は国有、運営は民間企業に委託されており、現在は世界の主要企業がオペレーションに
参加している。今後の施設拡張により、民間企業の参入と事業拡大の余地は広がるだろう。
(4) 食品加工
•
食品加工はジャマイカの有する生産要素からみて、比較優位のある産業である。カリブ地域で人
気のあるジャークと呼ばれる調味料の生産・販売では、国内に有力企業が存在。高級コーヒーの
生産も活発であり、UCC 上島珈琲が日本向けにブルーマウンテンの生産・輸出を手掛けている。
•
伝統輸出品として砂糖やバナナがある。このうち、砂糖は 06 年に 14 万トン、9,030 万ドル
を輸出。このうち EU 向けが 87.8%を占め、米国向けは 2.5%。米国ではブラジルよりも競争
力があるとの見方が多いが、実態は関税率格差によるもの。米国はブラジルからの砂糖輸入
に高関税を課しているが、ジャマイカには低い関税を課すにとどめている。関税率格差がな
ければ、広大な土地と優れた生産技術を持つブラジルの輸出競争力が上回る。
‑
•
06 年の主要農産物輸出はバナナ 3.2 万トン
(1,341 万ドル)
、
コーヒー1,500 トン
(2,965 万ドル)
。
ジャマイカでもサトウキビからのエタノール生産が始動。ただ、上記のサトウキビ、砂糖の
競争力からみて、ジャマイカのエタノールが価格競争力を確保できるかは不透明な面がある。
‑
07 年 8 月にブラジル企業の技術協力を得たエタノール精製所が完成。年間に 6000 万ガロン、約
2 億 7000 万リットルのエタノール生産能力を確保。同精製所の落成式にブラジルのルーラ大統
領が出席している。ジャマイカ政府はガソリンに 10%のエタノールを混合することを義務付け
ており、エタノール生産は、当面、国内需要への対応との位置付けとなる模様である。
12
5. 日本との経済関係
(1) 貿易:日本からは自動車、ジャマイカからはコーヒー
•
06 年の日本からジャマイカへの輸出額は 195.3 億円、輸入額は 35.8 億円。輸出は 01 年からの 5
年間で 3 割強増えたが、輸入は 1 割強減少した。機械機器、特に自動車を中心とする輸出は、ジ
ャマイカの緩やかな経済成長に沿って拡大してきたが、食品が中心である輸入は、製品価格の変
動に影響され、金額ベースでは減少を記録した。
図表 12
日本とジャマイカの貿易概況
(百万円, %)
輸出
(前年比)
輸入
(前年比)
(資料)財務省
•
2001
14,785
13.9
4,008
10.3
2002
18,679
26.3
4,274
6.6
2003
17,856
-4.4
3,838
-10.2
2004
18,674
4.6
3,947
2.8
2005
13,864
-25.8
2,653
-32.8
2006
2007/1-8
19,533
13,255
40.9
7.0
3,584
1,999
35.1
-16.0
日本からの主要輸出品目は、自動車、自動車関連品目と建設・鉱山用機械である。ジャマイカの
自動車保有台数の 9 割以上は日本車であり、その多くが日本から輸出される中古車で占められて
いる。06 年には 8,000 台超の中古乗用車が日本から輸出された。
•
日本のジャマイカからの主要輸入品目は、コーヒー、ラム酒、CD(レゲエ等)
、ココア等が占め
る。日本が輸入するコーヒーはブルーマウンテン・コーヒーであり、ジャマイカの輸出量の 8 割
以上が日本向けとなっている。
図表 13
日本とジャマイカの貿易の主要品目(2006 年)
概況品名
輸出総額
乗用車
(うち中古車)
バス・トラック
自動車の部分品
ゴムタイヤ及びチューブ
建設用・鉱山用機械
原動機
(資料)財務省
価額
概況品名
19,533 輸入総額
12,611 コーヒー
6,475 蒸りゅう酒
4,168 記録媒体(含記録済)
772 ココア
588 ビール
560
428
(百万円)
価額
3,584
2,981
449
46
13
8
(2) 投資:07 年に丸紅が独占電力会社 JPS 社の株式 8 割取得、ジャマイカで電力事業展開へ
•
財務省の対外直接投資状況(04 年度で廃止)によれば、日本からジャマイカへの直接投資の累
計(1989 年度から 2004 年度まで)は 16 件、13 億円であり、その大部分は農林業が占める(13
件、11 億円)
。05 年度から 06 年度までは、国際収支の地域別直接投資に実績はなかった。
•
07 年 8 月、丸紅がジャマイカの独占電力会社である JPS 社(ジャマイカ・パブリック・サ
ービスカンパニー)の 80%の株式を取得。ジャマイカで各世帯に直接電力を供給することに
なった。
13
‑
‑
•
JPS 社の 80%の株式は、米国大手卸発電事業者のミラント社のグループ会社でカリブ地域の電
力事業持株会社である MCH 社(ミラント・カリビアン・ホールディングス)が保有していた。
丸紅は、ミラント社が実施した MCH 社の国際入札を落札、ミラント社から 5 億 8,000 万ドルで
MCH 社の株式を取得(4 月に株式売買契約、8 月に全株式を取得して事業移行が完了)したこと
により、JPS 社の 80%の株式を丸紅が保有することになった。
丸紅が MCH 社の株式取得を通じて保有した資産は下記の通り。
・
グランド・バハマ島での独占電力会社(グランド・バハマ・パワーカンパニー)の 55.4%
・
ジャマイカの独占電力会社(ジャマイカ パブリック サービスカンパニー)の 80%
・
トリニダード・トバゴの電力需要の 80%を供給する IPP(パワージェン)の 39%
・
キュラソー島でベネズエラ国営石油会社の精油所向けに電力・蒸気・水を供給する事業会社(キ
ュラソー・ユーティリティーズ・カンパニー)の 25.5%および島の配電・水道会社(アクアレ
クトラ)の優先株。
丸紅は、今後、電力事業以外にもジャマイカでの事業開拓に乗り出す構えである。これまで
僅かにとどまってきた日本からジャマイカへの直接投資と企業進出が、これから急速に拡大
する可能性が出てきたといえる。
(3) 経済協力
•
05 年度までの日本からジャマイカへの援助実績(累計)は、円借款 534.21 億円、無償資金
協力 14.25 億円、技術協力 69.03 億円。
•
ジャマイカが中所得国の水準にあるため、日本政府の対ジャマイカ ODA の基本方針は、草
の根・人間の安全保障無償資金協力、技術協力および円借款を中心とした援助の実施となっ
ている。
以
14
上