茨城県立医療大学大学院博士論文 死 後 MRI に お け る short-tau inversion recovery (STIR)撮像法の最適化 小 林 智 哉 茨城県立医療大学大学院博士後期課程保健医療科学研究科 保健医療科学専攻放射線技術科学領域 2014 年 3 月 目次 1 序 文 ………………………………………………………… .………………….1 1.1 死 亡 時 画 像 診 断 … ………………………………………… ... …………1 1.2 死 後 MRI の 必 要 性 …………………………………………………… ..2 1.3 緩 和 時 間 と short-tau inversion recovery( STIR)撮 像 法 の 原 理 .3 1.4 死 後 MRI の 生 体 と の 相 違 …………………………………………… ..8 1.5 本 研 究 に 期 待 さ れ る 効 果 と 研 究 手 順 …………………………… .. 10 2 研 究 内 容 ………… …………………… … …………………… … ………… . . 11 2.1 T 1 ,T 2 マ ッ ピ ン グ ツ ー ル に お け る 計 測 精 度 の 評 価 ……………..12 2.1.1 研 究 背 景 お よ び 目 的 ………………………………………… . .12 2.1.2 方 法 … ……… …… ……… …… ……… … ……… …… ……… … 1 3 2.1.2.1 Syngo MapIt T M の 概 要 ……………………………… .13 2.1.2.2 フ ァ ン ト ム ……… …………………………………… . .1 5 2.1.2.3 従 来 法 と Syngo MapIt T M と の 比 較 .……………....16 2.1.2.4 撮 像 条 件 の 変 更 に よ る 計 測 誤 差 …………………… 17 2.1.3 結 果 … ……… …… ……… …… ……… … ……… …… ……… … 1 8 2.1.3.1 従 来 法 と Syngo MapIt T M と の 比 較 ……..…………18 2.1.3.2 撮 像 条 件 の 変 更 に よ る 計 測 誤 差 …………………..19 2.1.4 考 察 … ……… …… ……… …… ……… … ……… …… ……… … 2 7 2.2 緩 和 時 間 の 計 測 、 直 腸 温 と の 相 関 ………………………………...30 2.2.1 研 究 背 景 お よ び 目 的 ………………………………………… . .30 2.2.2 方 法 ………………………………………………………………. 31 2.2.2.1 対 象 ……………………………………………………… 3 4 2.2.3 結 果 ………………………………………………………………. 35 2.2.3.1 脂 肪 の T 1 値 と 直 腸 温 ………………….……………..35 2.2.3.2 筋 肉 の T 2 値 と 直 腸 温 ……………….………………..37 2.2.4 考 察 … ……… …… ……… …… ……… … ……… …… ……… … 3 9 2.2.4.1 脂 肪 の T 1 値 と 直 腸 温 ………..……………………….39 2.2.4.2 筋 肉 の T 2 値 と 直 腸 温 ………………………………… 40 2.3 体 表 温 と 直 腸 温 の 相 関 ……………………………………………….41 2.3.1 研 究 背 景 お よ び 目 的 ………………………………………… . .41 2.3.2 方 法 ………………………………………………………………. 42 2.3.3 結 果 ………………………………………………………………. 43 2.3.4 考 察 ………………………………………………………………. 44 2.4 STIR 撮 像 法 の 最 適 化 と 解 剖 所 見 の 対 比 …………………………45 2.4.1 研 究 背 景 お よ び 目 的 ………………………………………… . .45 2.4.2 方 法 ………………………………………………………………. 46 2.4.3 結 果 ………………………………………………………………. 48 2.4.4 考 察 ………………………………………………………………. 51 3 総 合 考 察 ………… ………………………………………………………… . . 53 4 結 語 ………………………………………………………………………… ... 55 謝 辞 …………………………………………………………………………… 56 参 考 文 献 …………………………………………………………………… ...57 1 序文 1.1 死 亡 時 画 像 診 断 死 亡 時 画 像 診 断 と は 、 主 に computed tomography ( CT) や magnetic resonance imaging( MRI)に よ り 、外 見 か ら で は わ か ら な い 遺 体 内 部 の 損傷を発見する死因究明方法の一つであり、低い解剖率を補助するため に使用される。 解剖率の低下は世界中で進んでおり、死因の不正確さが社会問題と な っ て い る 。 解 剖 率 は 、 ヨ ー ロ ッ パ で 20%を 上 回 る 国 が い つ く か あ る な か で 、日 本 は 先 進 国 最 下 位 で 2 ~ 3%に と ど ま っ て い る 。ま た 、警 察 が 取 り 扱 う 異 状 死 に お い て も 、 ヨ ー ロ ッ パ で は 100%近 い 解 剖 率 の 国 が い く つ か あ る 中 で 、日 本 は 10 %程 度 に と ど ま っ て い る 1 ) 。 こ の よ う な 低 い 解 剖率の中では、多くの解剖されない遺体の死因究明が体表所見のみで行 われる。この体表所見のみによる死因究明では、正確な死因を捉えるこ と が 難 し い こ と は 容 易 に 推 測 さ れ 、現 在 の 日 本 は“ 死 因 不 明 社 会 ”と な っ て い る 。 今 後 、 日 本 は 高 齢 化 が 進 み 、 2030 年 に は 年 間 死 亡 数 が 160 万 人を超えると言われており、このままでは解剖率のさらなる低下が懸念 さ れ 、“ 死 因 不 明 社 会 ” の 進 行 が 予 想 さ れ る 。 このような状況を鑑み、日本の死因究明制度は改定されてきている。 2012 年 6 月 15 日 に 死 因 究 明 制 度 を 抜 本 的 に 見 直 す「 死 因・身 元 調 査 法 」 と「 死 因 究 明 等 推 進 法 」が 成 立 し 、そ れ ぞ れ 2013 年 4 月 と 2012 年 9 月 に 施 行 に 至 っ て い る ( 死 因 究 明 二 法 ) 2,3)。 い ず れ の 法 律 の 中 で も 死 亡 時 画像診断を有効に活用するべきとうたわれており、死亡時画像診断は法 律に基づき施行しなければならない状況となった。また、児童虐待の見 逃し防止・児童虐待の抑止のために死亡時画像診断を活用する検討もさ れ、モデル事業が始まろうとしている。その内容は、死亡時画像診断を 小 児 死 亡 の 全 症 例 ( 年 間 約 5000 人 ) に 実 施 す る と い う こ と で あ る 4 ) 。 なぜなら、小児への身体的虐待において、加害者の多くはその保護者で あり、解剖への同意や原因について事実を申告するとは考えにくいため である。 このように日本は、国を挙げて死亡時画像診断を推奨する死亡時画像 診 断 の 先 進 国 で あ り 、 Autopsy imaging ( Ai ) と し て 広 く 認 知 さ れ て い る 。 日 本 で 主 に 行 わ れ る Ai の 目 的 は 死 因 の ス ク リ ー ニ ン グ で あ る が 、 ヨーロッパなどの解剖率が高い国では解剖の質を向上するために死亡時 画 像 診 断 を 実 施 し て お り 、 virtual autopsy の 造 語 で あ る “ Virtopsy ” が 広 く 知 ら れ て い る 5)。 1 1.2 死 後 MRI の 必 要 性 MRI は CT と 比 較 し て コ ン ト ラ ス ト 分 解 能 が 優 れ て お り 、 死 後 画 像 で は体動や血管拍動によるアーチファクトがない高分解能の画像が撮像で き る 。こ れ に よ り 、CT で は 評 価 困 難 な 虚 血 心 筋 ・ 筋 挫 傷 ・ 小 児 奇 形 ・ 頸 髄 損 傷・肺 動 脈 血 栓 塞 栓 な ど が 検 出 可 能 で あ り 、CT よ り も 死 因 確 定 率 を 向 上 す る こ と が 期 待 で き る 6 - 1 3 ) ( 図 1.1)。 こ の よ う に 重 要 な 死 因 究 明 の ツ ー ル で あ る 死 後 MRI は 、イ ギ リ ス で は す で に 解 剖 の 代 替 と し て 導 入 し 始 め て い る 1 4 ) 。 今 後 、 死 体 専 用 機 を 所 有 す る Ai セ ン タ ー が 増 加 す る に 従 い 、 日 本 で も MRI が Ai の 中 心 モ ダ リ テ ィ と な り 得 る 1 5 ) 。 その中でも死因究明二法・小児死因究明モデル事業において、挫傷の 描出は重要であるとされている。外傷を受けたことによる死亡では、事 件 の 原 因 究 明 の た め 、詳 細 な 挫 傷 の 把 握 や 範 囲 の 同 定 を す る 必 要 が あ り 、 そ れ を 画 像 で 把 握 で き る 死 後 MRI の short-tau inversion recovery ( STIR) 撮 像 法 は 重 要 な ツ ー ル で あ る 11 , 1 6 , 1 7 ) 。 死 後 MRI の STIR 撮 像 法 の 所 見 は そ の 重 要 性 か ら ”forensic sentinel sign ”と し て す で に 報 告 さ れ て い る 17)。 a b 図 1.1 心 筋 梗 塞 に お け る 死 後 MRI と CT( MRI( a), CT( b)) CT で は 描 出 で き な い 心 筋 梗 塞 が 、 MRI で は 高 信 号 ( 矢 印 )に 描 出 さ れ る。 2 1.3 緩 和 時 間 と short-tau inversion recovery ( STIR) 撮 像 法 の 原 理 ( 1) T 1 値 、 T 2 値 と 画 像 コ ン ト ラ ス ト 1 8 ) 静 磁 場 B 0 に さ ら さ れ た 水 素 原 子 核 磁 気 モ ー メ ン ト は 、熱 平 衡 状 態 に あ る ( 図 1.2a)。 磁 化 の 総 和 を 巨 視 的 磁 化 ( M) と し 、 熱 平 衡 状 態 の M を M 0 と す る 。 こ こ で 共 鳴 周 波 数 の radio frequency( RF) パ ル ス を 照 射 す る と 水 素 原 子 は 励 起 さ れ 、B 0 の 方 向 を Z 軸 と す る と M 0 は XY 面 に 向 か っ て 倒 れ る ( 図 1.2b)。 RF パ ル ス の 照 射 を 止 め る と 同 時 に 緩 和 が 始 ま り 、 M は Z 軸 に 対 し て 回 転 し な が ら 元 の 位 置 に 戻 る ( 図 1.2c)。 こ の 緩 和 過 程 に お い て 、 M を Z 軸 ( M Z ) と XY 平 面 ( M X Y ) の 成 分 に 分 け る と そ れ ぞ れ 回 復 と 減 衰 を す る こ と に な る 。 こ の と き の 時 定 数 を T1 値 、 T2 値 と いい以下のように定義される。 ・ T1 値 t= T 1 𝑀𝑍 (𝑡) = 𝑀0 (1 − 𝑒 𝑡 𝑇1 − ) (1) = 𝑀0 × 0.632 ・ T2 値 t= T 2 𝑀𝑋𝑌 (𝑡) = 𝑀0 𝑒 𝑡 𝑇2 − (2) = 𝑀0 × 0.368 つ ま り 、T 1 値 は M Z が M 0 の 63 % ま で 回 復 す る 時 間 で あ り 、T 2 値 は M X Y が M 0 の 37 % ま で 減 衰 す る 時 間 で あ る ( 図 1.3)。 こ の 値 は 各 静 磁 場 強 度 と 組 織 に よ り 異 な る 固 有 値 で あ る 1 9 ) 。し か し 、こ の 固 有 値 の 計 測 に は 時 間 を 要 す る た め 、 現 在 、 主 に 臨 床 で 使 用 さ れ て い る MRI 画 像 は 、 T 1 値 や T2 値 を 強 調 し た 画 像 で あ り 、 そ れ ぞ れ T1 強 調 画 像 、 T2 強 調 画 像 と 呼ばれている。 図 1.4 に spin echo ( SE) 法 の パ ル ス シ ー ケ ン ス を 示 す 。 SE 法 で は XY 方 向 へ 90°RF パ ル ス を 照 射 し た 後 に 180°RF パ ル ス を 照 射 し 、 エ コ ー 信 号 を 得 て い る 。 こ の と き MZ の 回 復 ( T1 値 の 違 い ) を 画 像 コ ン ト ラ ス ト に 反 映 さ せ る た め に 90 °RF パ ル ス の 繰 り 返 し 時 間 ( repetition time : TR) を 、 M X Y の 減 衰 ( T 2 値 の 違 い ) を 画 像 コ ン ト ラ ス ト に 反 映 さ せ る た め に 90 ° RF パ ル ス か ら 信 号 収 集 ま で の エ コ ー 時 間 ( echo time : TE) を 可 変 さ せ 、 そ れ ぞ れ の 時 間 調 整 に よ り 、 T 1 強 調 画 像 、 T 2 強調画像が撮像される。 3 RF パ ル ス( 90°) B0 ( M0) 総和 RF off 水素原子 静磁場 a b c 図 1.2 静 磁 場 中 の 水 素 原 子 核 と RF パ ル ス の 照 射 静 磁 場 に さ ら さ れ た 水 素 原 子 核 は( a)、共 鳴 周 波 数 の RF パ ル ス を 照 射 さ れ る こ と に よ り 励 起 し( b)、RF パ ル ス が 止 ま る と 緩 和 が 始 ま る( c)。 図 1.3 Z 軸 成 分 の 回 復 と T 1 値 、 XY 平 面 成 分 の 減 衰 と T 2 値 の 関 係 図 1.4 スピンエコー法のパルスシーケンス 4 ( 2) STIR 撮 像 法 2 0 , 2 1 ) STIR 撮 像 法 は 、 通 常 の T 1 強 調 画 像 や T 2 強 調 画 像 の 撮 像 に 先 行 し て 180°の inversion recovery( IR)パ ル ス を 照 射 す る こ と で 脂 肪 組 織 を 抑 制 す る 撮 像 法 で あ る ( 図 1.5a)。 IR パ ル ス は 、 M 0 を 180°反 転 さ せ て - M 0 に す る ( 図 1.5b② )。 こ の IR パ ル ス 照 射 後 、 M Z は XY 面 と の 交 点 で あ る 0 を 通 り( 図 1.5b④ )、M 0 ま で 時 定 数 T 1 で 回 復 を し て い く( 図 1.5b ⑥ )。こ の IR パ ル ス か ら 90°RF パ ル ス ま で の 時 間 を inversion time ( TI) と い い 、STIR 撮 像 法 で は 脂 肪 組 織 の 信 号 強 度 が が 0 に な る 時 間 に 設 定 す る こ と で 脂 肪 信 号 が 抑 制 さ れ る 。 図 1.6 に STIR 撮 像 法 の パ ル ス シ ー ケ ン ス を 示 す が 、 本 法 で の TR は IR パ ル ス の 繰 り 返 し 時 間 と な る 。 臨 床 の MRI に お け る 脂 肪 抑 制 法 の 主 流 は chemical shift selective saturation( CHESS) 法 で あ る 。 CHESS 法 は 水 と 脂 肪 の 共 鳴 周 波 数 の 違いを利用しており、高い静磁場均一度が要求されるため、使用できる field of view( FOV) の 制 限 や 空 気 と 組 織 の 境 界 な ど に 脂 肪 信 号 の 抑 制 不 良 が 生 じ る 。一 方 、STIR 撮 像 法 で は 、磁 場 不 均 一 に 強 く 、ほ ぼ す べ て の 部 位 の 脂 肪 抑 制 に 有 効 で あ る 。死 後 MRI に お い て は 、全 身 の 詳 細 な 挫 傷の把握や範囲の同定が必要であるため、広範囲に均一な脂肪信号の抑 制 が 要 求 さ れ る 。 よ っ て 、 死 後 MRI で は CHESS 法 よ り も STIR 撮 像 法 が有用である。 5 ① ① ② ②~④ a ③ ④ ⑤ ⑥ ⑥ ⑤ ④ ③ ② b 図 1.5 IR パ ル ス と M Z 回 復 の 関 係 IR パ ル ス は 、 通 常 の パ ル ス シ ー ケ ン ス に 先 行 し て 照 射 す る ( a)。 IR パ ル ス ( 18 0° ) 照 射 後 は M 0 ま で 時 定 数 T 1 で 回 復 を し て い く ( b)。 6 図 1.6 STIR 撮 像 法 の パ ル ス シ ー ケ ン ス 7 1.4 死 後 MRI の 生 体 と の 相 違 死後画像を正しく解釈するためには、死後の正常像を知っておく必要 が あ る 。 わ れ わ れ は 死 後 MRI を 実 施 し て い く な か で 、 死 後 MRI の 組 織 コントラストが生体のそれとは異なる多彩な変化をすることを経験して き た 2 2 , 2 3 ) 。死 後 CT の 正 常 像 は 、死 後 変 化 と 蘇 生 術 後 変 化 と に 分 類 さ れ る が 2 4 ) 、 死 後 MR I の 正 常 像 は 、 そ れ ら に 加 え て さ ら に 複 雑 な 因 子 が 加 わ る 。 そ れ は 、 CT で は 電 子 密 度 に よ り CT 値 が 決 定 さ れ る の に 対 し 、 MRI で は プ ロ ト ン 密 度 に 加 え て 、 T 1 値 、 T 2 値 に よ っ て 信 号 が 変 化 し 、 T 1 値 、 T 2 値 は 、 死 後 変 化 に よ る 体 温 や pH の 変 化 に 影 響 を 受 け る と い う こ と で あ る 2 5 ) 。特 に 死 後 の 体 温 変 化 は 、死 後 1 時 間 あ た り 約 1℃ 低 下 し 、 実際の検査においては腐敗防止のために冷蔵保存が必要となることから、 死 後 MRI の 実 施 に 至 る ま で に は 正 常 像 に お い て 重 要 な 因 子 と な る 2 3 ) 。 例 え ば 、 生 体 の 頭 部 の fluid attenuated inversion recovery ( FLAIR) 撮 像 時 に は TI を 2300 ms 程 度 に 設 定 し て 脳 脊 髄 液 の 信 号 を 抑 制 し て い る が 、低 温 で あ る 死 体 の 頭 部 の FLAIR を 生 体 と 同 一 条 件 で 撮 像 し て も 脳 脊 髄 液 は 抑 制 さ れ な い 2 2 , 2 6 ) ( 図 1.7)。 こ の よ う に 死 後 MRI は 、 正 常 組 織 に お け る 死 後 の 信 号 変 化 を 捉 え る こ と が 困 難 で あ り 、 死 後 CT と 比 較 し て 解 剖 所 見 と の 一 致 率 が 低 い の が 現 状 で あ る 13,27)。 この問題を解決するためには、生体と同一の条件で撮像するのではな く、各遺体に適した条件での撮像が必要である。特に体温低下に伴う組 織 の T1, T2 値 変 化 は 直 接 的 に 画 像 コ ン ト ラ ス ト に 影 響 す る た め 、 そ れ ら に 合 わ せ た TR や TE を 用 い る な ど の 撮 像 法 の 最 適 化 が 必 要 で あ る 。し か し現状では最適化の報告は少なく、所見が死後変化に埋もれている可能 性 も あ り 、死 後 MRI の 普 及 の た め に は 撮 像 条 件 の 最 適 化 が 急 務 で あ る 2 8 ) 。 8 b a 図 1.7 FLAIR 撮 像 法 に お け る 生 体 と 遺 体 の 比 較 ( 生 体 ( a), 遺 体 ( b)) 生 体 と 同 様 の TI( 2300 ms) を 用 い て も 、 遺 体 ( b) で は 脳 脊 髄 液 の 信号(矢印)が抑制されない。 9 1.5 本 研 究 に 期 待 さ れ る 効 果 と 目 的 死 因 究 明 や 解 剖 の 補 助 と し て 大 き く 期 待 さ れ る 死 後 MRI で あ る が 、普 及を足踏みさせる要因も存在する。まず運用面においては、現状で死後 MRI を 施 行 す る に あ た り 、 業 務 時 間 外 に 施 行 す る か 、 遺 体 専 用 機 を 設 置 しなければならない。どちらにしてもマンパワーと費用が必須である。 死因究明二法の施行により、積極的な施設整備と資金投入が行われ、こ の問題は解決の方向に向かっている。現状では、単純 X 線検査より情報 量 が 多 く 、超 音 波 検 査 よ り 客 観 性 に 優 れ 、MRI よ り 短 時 間 で 行 え る た め 、 主 に CT が 死 亡 時 画 像 診 断 に 用 い ら れ て い る 。 も う 一 つ の 問 題 は 、 前 述 の死後変化に伴う画像コントラストの変化である。微細な病変を描出す るためには、撮像条件の最適化が必要であるが、現時点では検査担当者 の技術に委ねられており、標準的な撮像条件の構築が必要である。 本 研 究 の 目 的 は 、死 後 MRI の 中 で も 利 用 価 値 の 高 い STIR 撮 像 法 の 最 適化を行い、挫傷を正確に捉えるための標準的手法を提案することであ る。これを達成することにより、司法解剖時の見逃し防止や負担軽減、 小児虐待の程度把握や見逃し防止を向上させることが可能となる。 10 2 研究内容 本 研 究 で は 、 組 織 に お け る 緩 和 時 間 ( T1 値 , T2 値 ) と 温 度 依 存 性 に 注 目 し 、最 適 化 を 試 み た 。死 後 MRI で は 、死 後 経 過 ・ 保 存 時 間 の 相 違 に よ り、遺体ごとに体温が異なるため、体温に応じた最適撮像条件を導出す る計算式を提案する。今回の対象である挫傷の診断は、体表面が中心と なるが、全身局所の温度計測は実運用の点で現実的ではないため、代表 値 と し て 直 腸 温 を 利 用 す る 。STIR 撮 像 法 の 最 適 化 を 達 成 す る た め に 、以 下のような手順で研究を実施した。 1) 緩 和 時 間 計 測 ツ ー ル の 計 測 精 度 を 評 価 す る 2) 脂 肪 の T 1 値 と 筋 肉 の T 2 値 を 計 測 し 、そ れ ぞ れ 直 腸 温 と の 相 関 を検証する 3) 体 表 温 と 直 腸 温 の 相 関 を 検 証 す る 4) 2, 3) の 計 測 か ら 導 き 出 さ れ た 値 か ら 、 STIR 撮 像 条 件 の 最 適 化を行い、解剖所見との対比をする 11 2.1 T1, T2 マ ッ ピ ン グ ツ ー ル に お け る 計 測 精 度 の 評 価 2.1.1 研 究 背 景 お よ び 目 的 近 年 、T 1 値 、T 2 値 の 計 測 を 簡 便 に 行 え る T 1 , T 2 マ ッ ピ ン グ ツ ー ル と 呼 ば れ る ソ フ ト ウ ェ ア ( シ ー メ ン ス 社 , Syngo MapIt T M ) が 、 MRI 装 置 に 導 入 さ れ て い る 。 こ の ツ ー ル は 、 従 来 の T1 値 , T2 値 計 測 に 利 用 さ れ て き た IR 法 、 SE 法 な ど と 比 較 し て 短 時 間 で 計 測 可 能 で あ り 、 関 節 や 前 立 腺 の 定 量 的 評 価 な ど に 臨 床 応 用 さ れ 、 そ の 有 用 性 が 報 告 さ れ て い る 29-33)。 また、組織緩和時間のマッピング画像表示を可能にしたことから、通常 の MRI 撮 像 条 件 の 最 適 化 な ど へ の 応 用 が 期 待 さ れ て い る 3 4 ) 。 し か し 、 撮像や計測の条件により計測値に変動が生じることが予測されるため、 適切な条件設定および計測誤差の把握が重要になる。 本 セ ク シ ョ ン の 目 的 は マ ッ ピ ン グ ツ ー ル を 用 い た T1 マ ッ プ 、 T2 マ ッ プの計測精度を評価することである。 12 2.1.2 方 法 2.1.2.1 Syngo MapIt T M の 概 要 T 1 マ ッ プ は 、three-dimensional volumetric interpolated breath hold examination( 3D- VIBE) 法 を 2 つ の フ リ ッ プ 角 で 撮 像 し 、 T 1 値 を 算 出 す る 方 法 を 用 い て い る 3 5 ) 。 Syngo MapIt T M で は 予 測 さ れ る 組 織 の T 1 値( T 1 estimate)を 入 力 す る と 、そ の 時 の TR で 信 号 が 最 大 と な る Ernst 角よりも大きいフリップ角と小さいフリップ角の 2 つのデータを収集し、 そ れ ぞ れ の 画 像 の 信 号 強 度 か ら 以 下 の 理 論 で T1 値 を 算 出 し て い る 。 T1 強 調 型 の gradient echo ( GRE) 法 の 信 号 強 度 式 は 以 下 で 示 さ れ る 。 Signal intensity (S) = k ∙ ρ ∙ [1−𝑒 (−𝑇𝑅⁄𝑇1 )]∙sin 𝛼 1−𝑒 (−𝑇𝑅⁄𝑇1) ∙cos 𝛼 ∙ 𝑒 (−𝑇𝐸 ⁄𝑇2 ∗ ) (3) k : scaling factor, : proton density, T 2 * : T 2 * value, : flip angle フ リ ッ プ 角 の 時 の 信 号 強 度 を S1、 フ リ ッ プ 角 の 時 の 信 号 強 度 を S2 と す る と 、 2 つ の 画 像 の 信 号 強 度 式 の 連 立 式 か ら 以 下 の 関 係 が 導 出 さ れ T1 値 を 求 め る こ と が で き る ( 図 2.1a)。 𝑒 𝑇𝑅 𝑇1 − = 𝑆1∙sin 𝛽−𝑆2∙sin 𝛼 𝑆1∙sin 𝛽∙cos 𝛼−𝑆2∙sin 𝛼∙cos 𝛽 (4) T 2 マ ッ プ は 、SE 法 に て TR が 一 定 で 異 な る TE の 画 像 を 2 つ 以 上 撮 像 し 、T 2 値 を 算 出 す る 方 法 を 用 い て い る 。Syngo MapIt T M で は マ ル チ エ コ ー の SE 法 を 使 用 し 、 エ コ ー 数 ( contrasts) と 最 大 TE を 入 力 す る と TE ) 図 2.1b) 間 隔 が 自 動 的 に 設 定 さ れ 複 数 の 画 像 が 取 得 さ れ る 3 6( 。T 2 値 は 、 各 TE の 信 号 強 度 を 対 数 変 換 し た 後 に 、 最 小 二 乗 法 に よ り 直 線 の 傾 き か ら 算 出 さ れ る 。 こ の と き Syngo MapIt T M で は 、 よ り 正 確 な T 2 値 を 計 測 す る た め 、一 般 的 に は 省 か れ る 第 一 エ コ ー も 計 測 点 と し て 用 い て い る 3 7 ) 。 13 a b 図 2.1 Syngo MapIt T M に お け る T 1 マ ッ プ と T 2 マ ッ プ の 算 出 方 法 T 1 マ ッ プ は 3D- VIBE 法 を 2 つ の フ リ ッ プ 角 で 撮 像 し 、 T 1 値 を 算 出 す る 方 法 を 用 い ( a)、 T 2 マ ッ プ は マ ル チ エ コ ー の SE 法 を 用 い て い る ( b)。 14 2.1.2.2 ファントム ( 1) T 1 計 測 用 Gd-DTPA( マ グ ネ ビ ス ト T M ,バ イ エ ル 薬 品 )を 生 理 食 塩 水( 大 塚 製 薬 工 場 )で 希 釈 し 、直 径 5 cm の 円 柱 容 器 に 封 入 し た フ ァ ン ト ム を 用 い た( 図 2.2 )。 Gd-DTPA の 濃 度 は 0.125, 0.063, 0.031, 0.016, 0.008, 0.004 mmol/L と し た 。 こ れ ら の フ ァ ン ト ム を 水 道 水 に 満 た し た 直 径 20 cm の 円 柱 容 器 に 入 れ 、 フ ァ ン ト ム の 温 度 を 均 一 に さ せ る た め 、 MRI 装 置 ガ ン ト リ ー 中 央 に 配 置 し 10 時 間 放 置 し た 。 ( 2) T 2 計 測 用 蒸留水に粉末寒天(和光純薬工業)を溶かして固定したファントムを 用 い た 。 含 水 率 を 調 節 す る た め に 寒 天 の 濃 度 は 0.5, 1.0, 1.5, 2.0, 2.5 % と し 、 直 径 5 cm の 円 柱 容 器 に 封 入 し た ( 図 2.2)。 こ れ ら の フ ァ ン ト ム を 水 道 水 に 満 た し た 直 径 15 cm の 円 柱 容 器 に 入 れ 、T 1 値 計 測 の フ ァ ン ト ム と 同 様 に 、 MRI 装 置 ガ ン ト リ ー 中 央 に 配 置 し 10 時 間 放 置 し た 。 図 2.2 フ ァ ン ト ム 画 像 水 道 水 に 満 た し た 円 柱 容 器 に 、 T1 お よ び T2 計 測 そ れ ぞ れ の フ ァ ン ト ムを入れた。 15 2.1.2.3 従 来 法 と Syngo MapIt T M と の 比 較 表 2.1 に 示 す 撮 像 条 件 に お い て 、Syngo MapIt T M の T 1 マ ッ プ と 従 来 法 ( IR 法 ) の T 1 値 、 Syngo MapIt T M の T 2 マ ッ プ と 従 来 法 ( SE 法 ) の T 2 値 を そ れ ぞ れ 比 較 し た 。 こ の 際 、 Syngo MapIt T M に お け る TR , T 1 estimate, エ コ ー 数 , 最 大 TE, slice gap は シ ス テ ム の デ フ ォ ル ト 値 を 用いた。 フ ァ ン ト ム 全 て の 中 心 部 を 計 測 し 、 得 ら れ た T1 値 , T2 値 に つ い て 計 測法間での相関係数を求めた。 表 2.1 従 来 法 と Syngo MapIt T M と の 比 較 に 用 い た 撮 像 条 件 Conventional method Scan parameter Syngo MapItTM T1 (IR) T2 (SE) T1 map T2 map TR/TE (ms) 10000/11 (TI = 22, 100, 200, 400, 600, 800, 1000) 10000/13, 30, 50, 75, 100, 150, 200 15/1.72 (T1 estimate = 800 : flip angle = 5, 26°) 4000/30, 60, 90, 120, 150 Slice thickness / gap (mm) 5 5 5 5 / 1 Matrix 128×128 192×192 192×192 256×256 FOV (mm) 220 220 220 220 Scan time (min) 150.7 225.4 3.1 9.2 Number of slices 1 1 22 (3D) 11 16 2.1.2.4 撮像条件の変更による計測誤差 ( 1) T 1 マ ッ プ の 計 測 誤 差 方 法 2.1.2.3 で 使 用 し た Syngo MapIt T M の T 1 マ ッ プ の 撮 像 条 件 を 用 い て 、TR を 5.37, 6, 8, 10, 15, 20, 30, 50 ms に 変 更 し た 時 と 、T 1 estimate を 100, 200, 300, 500, 800, 1000, 1500, 2000, 3000, 5000 ms に 変 更 し た 時 の 計 測 用 フ ァ ン ト ム 全 て の 中 心 部 に お け る T1 値 と そ の 標 準 偏 差 を 計測し、変動係数を求めた。 ( 2) T 2 マ ッ プ の 計 測 誤 差 方 法 2.1.2.3 で 使 用 し た Syngo MapIt T M の T 2 マ ッ プ の 撮 像 条 件 を 用 い て 、 TR を 2000, 3000, 4000, 5000, 6000 ms に 変 更 し た 時 、 slice gap を ス ラ イ ス 厚 の 0%か ら 100%ま で 20%ず つ 変 更 し た 時 、最 大 TE を 52, 80, 110, 150, 200, 250 ms に 変 更 し た 時 、 計 測 エ コ ー 数 を 3, 5, 8, 10 に 変 更 し た 時 の 計 測 用 フ ァ ン ト ム 全 て の 中 心 部 に お け る T2 値 と そ の 標 準 偏 差 を 計 測 し 変 動 係 数 を 求 め た 。 こ の 時 、 算 出 の 元 と な る 画 像 の TE は 、 最 大 TE/ エ コ ー 数 ず つ 均 等 に な る よ う に 自 動 調 整 さ れ る( 最 短 TE は 最 大 TE/ エ コ ー 数 と な る )。 17 2.1.3. 結 果 2.1.3.1 従 来 法 と Syngo MapIt T M と の 比 較 各 計 測 用 フ ァ ン ト ム に お け る IR 法 と Syngo MapIt T M T 1 map の 計 測 結 果 は R=0.999 と 非 常 に 良 好 な 相 関 を 示 し た ( 図 2.3a)。 ま た 、 SE 法 と Syngo MapIt T M T 2 map の 計 測 結 果 も R=0.999 と 非 常 に 良 好 な 相 関 を 示 し た ( 図 2.3b)。 図 2.3 従 来 法 と Syngo MapIt T M の 測 定 さ れ た 緩 和 時 間 の 比 較 ( T 1 値 ( a), T 2 値 ( b)) いずれにおいても高い相関関係にある。 18 2.1.3.2 撮像条件の変更による計測誤差 ( 1) T 1 マ ッ プ の 計 測 誤 差 Syngo MapIt T M 法 に お い て 、 TR を 変 化 さ せ て も 計 測 さ れ る T 1 値 に 大 き な 変 化 は 認 め な か っ た 。 TR が 大 き く な る と 、 T 1 値 は 安 定 し 標 準 偏 差 も 小 さ く な っ た ( 図 2.4)。 変 動 係 数 は TR が 15 ms よ り 短 い と き に 大 き く 、Gd 濃 度 が 0.125 mmol/L で は TR が 長 く な っ て も や や 大 き か っ た( 図 2.6a)。 T 1 estimate を 変 化 さ せ て も 、 計 測 さ れ る T 1 値 に 大 き な 変 化 は 認 め な か っ た 。 T 1 estimate が 対 象 物 の T 1 値 に 近 い 値 で 標 準 偏 差 が 小 さ く 、 大 き く 外 れ る と 極 端 に 大 き く な っ た ( 図 2.5 )。 変 動 係 数 は 、 対 象 物 の T 1 値 か ら 外 れ る と 大 き く な る が 、T 1 estimate が 500~ 1000 ms 程 度 で は す べ て の 対 象 に お い て 小 さ く な っ た ( 図 2.6b)。 19 図 2.4 Syngo MapIt T M に お け る TR と 計 測 さ れ る T 1 値 の 関 係 ファントムのガドリニウム濃度 a: 0.125 mmol/L, b: 0.063 mmol/L, c: 0.031 mmol/L, d: 0.016 mmol/L, e: 0.008 mmol/L, f: 0.004 mmol/L 計 測 値 は ほ ぼ 安 定 し て い る が 、 短 い TR で は 標 準 偏 差 が 大 き い 。 縦棒:標準偏差 20 図 2.5 Syngo MapIt T M に お け る T 1 estimate と 計 測 さ れ る T 1 値 の 関 係 ファントムのガドリニウム濃度 a: 0.125 mmol/L , b: 0.063 mmol/L, c: 0.031 mmol/L, d: 0.016 mmol/L, e: 0.008 mmol/L, f: 0.004 mmol/L 計 測 値 は ほ ぼ 安 定 し て い る が 、 T 1 estimate の 設 定 が 、 フ ァ ン ト ム の T 1 値と大きく異なるとき標準偏差が大きい。 21 図 2.6 撮 像 条 件 を 変 更 し た と き の T 1 マ ッ プ の 変 動 係 数 a: TR 可 変 , b: T 1 estimate 可 変 . T 1 estimate は TR と 比 較 し て 、 大 き く 変 動 係 数 に 影 響 し て い る 。 22 ( 2) T 2 マ ッ プ の 計 測 誤 差 TR, slice gap の 変 化 に 対 し 、 変 更 し た 条 件 範 囲 で T 2 値 は ほ ぼ 変 動 が な か っ た た め 、 こ こ で は 最 大 TE と エ コ ー 数 の 影 響 に つ い て の み 示 す 。 最 大 TE の 変 化 で は 、 52 ms で T 2 値 が 上 昇 し 、 標 準 偏 差 と 変 動 係 数 が 大 き か っ た 。 ま た 、 最 大 TE200 ms と 250 ms に お い て 寒 天 濃 度 2.0%と 2.5%で は 、 や や 標 準 偏 差 が 大 き か っ た ( 図 2.7, 図 2.9a)。エ コ ー 数 の 変 化 で は 、 エ コ ー 数 が 少 な い と き 、 T2 値 が 上 昇 し 、 標 準 偏 差 と 変 動 係 数 は や や 大 き く な っ た 。( 図 2.8, 図 2.9b) 23 図 2.7 Syngo MapIt T M に お け る 最 大 TE と 計 測 さ れ る T 2 値 の 関 係 ファントムの寒天濃度 a: 0.5%, b: 1.0%, c: 1.5%, d: 2 .0%, e: 2.5% 最 大 TE が 52 ms で は 計 測 値 と 標 準 偏 差 が 大 き い 。 24 図 2.8 Syngo MapIt T M に お け る number of echoes と 計 測 さ れ る T 2 値 の関係 ファントムの寒天濃度 a: 0.5%, b: 1.0%, c: 1.5%, d: 2 .0%, e: 2.5% number of echoes が 少 な く な る と 、 計 測 値 と 標 準 偏 差 が 大 き い 。 25 図 2.9 撮 像 条 件 を 変 更 し た と き の T 2 マ ッ プ の 変 動 係 数 a: 最 大 TE 可 変 , b: number of echoes 可 変 最 大 TE は そ の 他 の 条 件 と 比 較 し て 、 大 き く 変 動 係 数 に 影 響 し て い る 。 26 2.1.4 考 察 MRI 画 像 の 定 量 評 価 と し て 緩 和 時 間 の 計 測 が あ り 、 短 時 間 の 撮 像 が 可 能になったことで臨床応用されている。短時間での緩和時間の計測には い く つ か の 手 法 2 9 , 3 0 , 3 8 - 4 3 ) が 提 唱 さ れ て い る が 、そ れ ぞ れ の 計 測 法 に は 短 所があり、計測された値が信頼できるか否かは検証が必要である。本研 究 結 果 か ら Syngo MapIt T M の T 1 マ ッ プ , T 2 マ ッ プ は 、 従 来 の 計 測 法 で あ る IR 法 , SE 法 と 非 常 に 高 い 相 関 を 持 ち 、 代 用 可 能 で あ る こ と が 示 唆 された。しかし、これらは撮像条件の変更や計測対象物の緩和時間に依 存して計測値が変動することが予想されたため、さらに検討を行った。 T1 マ ッ プ の 撮 像 条 件 に よ る 計 測 誤 差 の 検 討 で は 、 計 測 さ れ る T1 値 に 大 き な 変 動 は な か っ た 。し か し 、 TR と T 1 estimate の 変 更 に よ り 、標 準 偏差と変動係数が大きく変動し、計測誤差が発生すると考えられた。こ の 要 因 に つ い て 考 察 す る と 、TR が 短 い 場 合 に み ら れ た 平 均 値 の 軽 度 上 昇 や 標 準 偏 差 の 増 大 は 、計 測 対 象 の T 1 値 が 長 い ほ う が よ り 影 響 が 大 き い こ と か ら 、算 出 元 画 像 の signal to noise ratio( SNR)低 下 が 影 響 し て い る た め だ と 考 え ら れ た 。ま た 、TR が 短 い ほ ど 変 動 係 数 が 大 き く な っ て お り 、 撮 像 時 間 の 延 長 は あ る も の の 、 TR の 設 定 は 15 ms 以 上 に 設 定 す る の が 望 ま し い こ と が 示 唆 さ れ た 。 T 1 estimate の 変 更 で は 、 計 測 さ れ た T 1 値 は 大 き く 変 動 せ ず 、標 準 偏 差 と 変 動 係 数 が 変 動 し た 。こ れ は 、T 1 estimate の 値 と フ ァ ン ト ム の T 1 値 が 大 き く 異 な る こ と で 、自 動 で 算 出 さ れ た 2 つ の flip angle が Ernst 角 を 挟 め ず 、 算 出 さ れ る 値 が 不 正 確 に な っ た た め だ と 考 え ら れ た 35)。 2 つ の パ ラ メ ー タ を 比 較 す る と 、 計 測 値 変 動 は T1 estimate に よ る 影 響 の ほ う が 大 き い た め 、T 1 マ ッ プ 取 得 時 に は 撮 像 対 象 の T 1 値 を あ る 程 度 予 測 し 、正 し い T 1 estimate 値 を 入 力 す る こ と が 必 要 で あ る ( 図 2.4, 2.5, 2.6 )。 T 2 マ ッ プ の 撮 像 条 件 に よ る 計 測 誤 差 の 検 討 で は 、TR と slice gap の 変 更による影響は少なく、安定した計測が可能であった。これは、計測対 象 の T 1 値 に 依 存 し て い る と 考 え ら れ る 。 今 回 の フ ァ ン ト ム で は 、 TR が 計 測 対 象 の T 1 値 よ り 長 く 、 slice gap の 変 更 に よ る ク ロ ス ト ー ク の 影 響 も 少 な い た め 、飽 和 効 果 が T 2 値 に 影 響 を 与 え な か っ た と 考 え ら れ る 。一 方 、最 大 TE の 変 更 で は 、特 に 52 ms で 標 準 偏 差 と 変 動 係 数 が 大 き く な っ て い る 。 こ れ は 計 測 し て い る TE が 適 切 で な く 、 T 2 減 衰 の 全 体 を 正 確 に 捉 え ら れ て い な い た め と 考 え ら れ る 。 最 大 TE の 設 定 は 、 短 す ぎ る と T 2 減 衰 の 後 半 の エ コ ー を 取 得 で き ず 、長 す ぎ る と 後 半 エ コ ー は SNR が 低 く ノ イ ズ を 信 号 と 誤 認 し て し ま う 。 最 大 TE200 ms と 250 ms に お い て 寒 天 濃 度 2.0%と 2.5%の 標 準 偏 差 が や や 大 き く な る の は 、 こ の た め で あ る ( 図 2.7, 2.9a)。 し か し 、 今 回 計 測 し た フ ァ ン ト ム で は 最 大 TE 80 ms 以上で変動係数も小さく、ほぼ安定した計測が可能であった。同様にエ コ ー 数 が 少 な い と き も 、計 測 点 が 少 な い た め に 正 確 に T 2 値 減 衰 の 全 体 が 捉 え ら れ な い と 考 え ら れ る 。ま た 、マ ル チ エ コ ー SE 法 で 用 い ら れ て い る 27 Carr-Purcell -Meiboom-Gill ( CPMG) で は 180 度 パ ル ス の 不 正 確 さ か ら 奇 数 エ コ ー の 信 号 強 度 が 理 論 値 よ り 低 下 す る 4 4 , 4 5 ) 。さ ら に 、第 1 エ コ ー で は 、 stimulated echo が 収 集 さ れ な い た め 信 号 強 度 が 低 下 す る 4 6 ) 。 し たがってエコー数が少ない時は、奇数エコーの割合が多くなり、誤差が 大 き く な っ た と 予 想 さ れ る 。 こ の 状 態 で さ ら に 最 大 TE ま で 短 く 設 定 し て し ま う と 、 誤 差 の 多 い エ コ ー 成 分 し か 収 集 し な い う え に 、 T2 減 衰 前 半 部 分 し か 収 集 し な い 事 と な り 、 T2 計 測 の 不 正 確 さ を 増 大 さ せ る の で 注 意 が必要であり、今回の検討から、エコー数は、変動係数が安定する 5 以 上が望ましいと考えられる。 今回は各条件において取得された1画像を対象に計測誤差を検討した。 こ れ は 、各 ピ ク セ ル で 計 算 さ れ た T 1 ,T 2 値 の 単 一 の 計 測 を し て お り 、繰 り 返 し 計 測 に お け る 経 時 変 動 の 評 価 で は な い 。 し か し 、 T1 お よ び T2 計 測には少なくとも 2 つ以上の画像が必要であり、従来法に比べ検査時間 は短縮されたとはいえ、複数の画像を取得する間の安定性があって初め て 高 い 精 度 の 計 測 が 行 え る 。 ま た 、 MRI の 信 号 強 度 の 経 時 的 安 定 性 は 、 適切な撮像条件を用いることで軽減できるため、正確度を優先した条件 の 適 正 化 を 行 う 事 の 意 味 は 大 き い 4 7 ) 。た だ し 、計 測 精 度 は 元 画 像 の 画 質 に 依 存 す る た め 、コ イ ル の 感 度 や B 1 不 均 一 の 影 響 な ど に よ る 計 測 値 の 誤 差が懸念される。今後は計測値の再現性も含めたこれらの検証も必要で あると考える。 今回の検討により、適切な撮像条件を設定することで、計測精度が向 上 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。 い く つ か の 条 件 の う ち T1 マ ッ プ で は T1 estimate が 、 T 2 マ ッ プ で は 最 大 TE の 影 響 が 最 も 大 き く 、 そ れ ぞ れ 500 ~ 1000 ms と 80 ms 以 上 に 設 定 す る こ と で 、 変 動 係 数 0.5 以 下 の 精 度 が 実 現 で き る こ と が わ か っ た ( 図 2.6, 2.9)。 し た が っ て 計 測 の 対 象 と な る 組 織 の T1 値 、 T2 値 に よ っ て 撮 像 条 件 を 考 慮 す る 必 要 が あ る 。 実 際 の 死 後 頭 部 T 2 マ ッ プ の 例 を 図 2.10 に 示 す 。脳 組 織 の T 2 値 に 視 覚 的 な 大 差 は 認 め な い が 、 最 大 TE 60 ms で は マ ッ プ 画 像 に ノ イ ズ が 多 く 、 計 測 精 度 の低下が懸念され、場合によっては撮像条件により計測値が異なる可能 性 も 示 唆 さ れ る 。死 後 MRI で は 生 体 と は T 1 , T 2 値 が 変 化 す る こ と が 知 ら れ て お り 2 2 , 2 3 , 2 5 ) 、適 切 な 条 件 設 定 が な さ れ な け れ ば 計 測 値 の 信 頼 性 は さ らに低下する結果となる。また経時的な変化を観察する時なども、基礎 値 が 正 確 に 把 握 で き て な け れ ば 微 細 な 変 化 は と ら え ら れ な い 4 2 , 4 8 ) 。こ の よ う な 場 合 も 撮 像 条 件 を 統 一 し 、適 切 な 撮 像 条 件 を 設 定 す る 必 要 が あ る 。 28 図 2.10 死 後 の 頭 部 T 2 マ ッ プ 異 な る 最 大 TE の 画 像 ( a: 60 ms, b: 150 ms) を 、 同 様 の ウ ィ ン ド ウ 幅 、ウ ィ ン ド ウ レ ベ ル で 表 示 し た 。 a で は 設 定 が 不 適 切 な た め 、ノ イ ズ が多く、計測精度が低い。 29 2.2 緩和時間の計測、直腸温との相関 2.2.1 研 究 背 景 お よ び 目 的 STIR 撮 像 法 は 、 T 1 値 を も と に 脂 肪 信 号 を 抑 制 す る 撮 像 法 で あ る 2 0 ) 。 わ れ わ れ は 低 温 死 体 の STIR を 生 体 と 同 じ 条 件 で 撮 像 し た 際 に 皮 下 と 腹 腔 内 脂 肪 信 号 の 抑 制 不 良 を 経 験 し て い る( 図 2.11)。こ の 脂 肪 信 号 の 抑 制 不良により、挫傷の信号が脂肪の高信号の中に埋もれてしまい、詳細な 挫 傷 の 範 囲 、程 度 を 捉 え る こ と が 不 可 能 に な る こ と が 懸 念 さ れ る 。STIR 撮像法の撮像条件のなかで、脂肪信号の抑制と挫傷の正確な把握には、 そ れ ぞ れ TI と TE を 最 適 化 す る 必 要 が あ り 、TI と TE を 最 適 化 す る た め に は 、 そ れ ぞ れ 脂 肪 の T1 値 と 筋 肉 の T2 値 を 捉 え る 必 要 が あ る 。 こ れ ま で 生 体 組 織 に お け る 温 度 依 存 性 は 報 告 さ れ て い る 4 9 , 5 0 ) 。遺 体 に お い て も 同 様 の 相 関 が あ る と 考 え ら れ る が 、 死 後 MRI で の 脂 肪 の T 1 値 と 筋 肉 の T2 値 の 報 告 は な い 。 一方、検視や解剖において、死因を診断することに加えて、死亡時刻 を 推 定 す る こ と は 、事 件 性 の 有 無 を 究 明 す る う え で 非 常 に 重 要 で あ る 5 1 ) 。 死亡時刻推定に応用し得る代表的な死体現象として、死後の体温低下が 挙げられる。生体では体温を一定幅に保とうとする恒常性の機能がある が、死によってこの機能が破綻すると、外界の温度に応じて遺体温が降 下する。よって、外界の状況と遺体温を知ることにより、死亡時刻推定 が可能になる。この遺体温の指標として用いられているのが直腸温であ り 、 日 常 的 に 計 測 さ れ て い る 52)。 本 セ ク シ ョ ン の 目 的 は 、 脂 肪 の T1 値 と 筋 肉 の T2 値 を 計 測 し 、 直 腸 温 との相関を検証することである。 a b 図 2.11 同 様 の 撮 像 条 件 に お け る 生 体 ( a) と 遺 体 ( b) の STIR 画 像 遺 体 で は 脂 肪 の 抑 制 が 不 十 分 で あ り 、 高 信 号 を 呈 し て い る ( 矢 印 )。 30 2.2.2 方 法 MRI 装 置 は 一 般 臨 床 機 の Avanto 1.5T( シ ー メ ン ス 社 ) を 用 い た 。 緩 和 時 間 の 計 測 は 、 緩 和 時 間 計 測 ツ ー ル Syngo MapIt T M の T 1 マ ッ プ 、 T 2 マ ッ プ を 用 い て 、 そ れ ぞ れ T1 値 、 T2 値 の 計 測 を 行 っ た 。 撮 像 条 件 は 本 研 究 2.1 の 結 果 を 踏 ま え 十 分 な 精 度 が 得 ら れ 、 か つ 短 時 間 計 測 が 可 能 な 条 件 を 用 い た( 表 2 .2)。計 測 遺 体 は 病 院 に 搬 送 直 後 か ら MRI 撮 像 時 ま で 4 ℃にて冷蔵保存されていた。搬送から撮像までの時間は遺体ごとに異 なり、体温も異なるため、全例で撮像直後の直腸温を計測した。 本 研 究 に お け る 倫 理 承 認 は 本 学 倫 理 委 員 会 ( 承 認 番 号 442) お よ び 筑 波メディカルセンター病院の倫理委員会の承認を得ている。またすべて の遺族に対し,本研究の主旨を十分に説明し同意を得たうえで行った。 表 2.2 緩 和 時 間 の 計 測 に 用 い た Syngo MapIt T M の 撮 像 条 件 Scan parameter TR / TE (ms) T 1 map 15 / 1. 62 (Flip angle=5, 26°) T 2 map 2000 / 30, 60, 90, 120, 150 Slice thick ness / gap (mm) 3/ 0 ( 3D) 5/ 1 Matrix s ize (mm) 1. 2 × 1. 2 1. 2 × 1. 2 Scan time (min) 2. 1 3. 6 Number of slices 22 11 31 ( 1) 脂 肪 の T 1 値 計 測 部分容積効果と血液就下の影響を避けるため、肋骨弓下の腹側皮下脂 肪 の 右 側 と 左 側 の 2 箇 所 を 円 形 region of interest( ROI)に て 計 測 し( 図 2.12)、そ れ ら の 平 均 を 求 め た 。ま た 、ROI は 、皮 下 脂 肪 が 少 な い 遺 体 に お い て も 、 ROI 内 に お け る 変 動 係 数 が 0.1 以 下 に な る よ う に 設 定 し た 。 図 2.12 脂 肪 の T 1 値 計 測 部 位 Syngo MapIt T M で 作 成 さ れ た T 1 マ ッ プ に て 、肋 骨 弓 下 の 腹 側 皮 下 脂 肪 の右側と左側(矢印)を計測。 32 ( 2) 筋 肉 の T 2 値 計 測 部分容積効果を避けるため前後スライスの画像を慎重に確認し、脂肪 の T1 値 計 測 と 同 じ ス ラ イ ス 位 置 に お け る 脊 柱 起 立 筋 の 右 側 と 左 側 の 2 箇 所 を 円 形 ROI に て 計 測 し ( 図 2.13)、 そ れ ら の 平 均 を 求 め た 。 ま た ROI は 、 脂 肪 や 脊 椎 の 混 入 が な い よ う に 注 意 し 、 ROI 内 に お け る 変 動 係 数 が 0.1 以 下 に な る よ う に 設 定 し た 。 図 2.13 筋 肉 の T 2 値 計 測 部 位 Syngo MapI t T M で 作 成 さ れ た T 2 マ ッ プ に て 、 脂 肪 の T 1 値 と 同 じ ス ラ イス位置における脊柱起立筋の右側と左側(矢印)を計測。 ( 3) 解 析 左 右 の 有 意 差 を 検 定 し た 後 に 、計 測 さ れ た 各 部 位 緩 和 時 間 と 直 腸 温 を 、 ピアソンの相関係数の検定を用いて解析した。また、最小二乗法を用い て 回 帰 分 析 を 行 っ た 。 解 析 は Microsoft Excel 2010 の ア ド イ ン ソ フ ト で あ る 、 Statcel 2 ( OMS publishing Inc.) 5 3 ) を 用 い た 。 33 2.2.2.1 対 象 ( 1) 脂 肪 の T 1 値 計 測 37 名 で 、 27~ 82 歳 ( 平 均 :61.9 歳 ,男 :女 =26:11)、 死 後 時 間 は 8~ 60 時 間( 平 均 :23.5 時 間 )で あ る 。撮 像 直 後 の 直 腸 温 は 6~ 31( 平 均 :18.0)℃ で あ っ た 。死 因 は 、心 臓 性 突 然 死 7 名 、虚 血 性 心 疾 患 6 名 、窒 息 死 3 名 、 溺死 3 名、脊髄損傷 3 名、薬物中毒 3 名、脳内出血 3 名、外傷性ショッ ク 2 名、くも膜下出血 2 名、大動脈損傷 1 名、糖尿病性ケトアシドーシ ス 1 名、低体温症 1 名、アルコール性肝障害 1 名、低栄養 1 名である。 ( 2) 筋 肉 の T 2 値 計 測 29 名 で 、 26~ 89 歳 ( 平 均 :59.2 歳 ,男 :女 =23:6)、 死 後 時 間 は 7~ 108 時 間( 平 均 :29.1 時 間 )で あ る 。撮 像 直 後 の 直 腸 温 は 5~ 31( 平 均 :17.0)℃ であった。死因は、心臓性突然死 6 名、虚血性心疾患 5 名、窒息死 4 名 、脳 出 血 3 名 、頸 髄 損 傷 2 名 、溺 死 1 名 、薬 物 中 毒 1 名 、外 傷 性 シ ョ ッ ク 1 名、大動脈損傷 1 名、糖尿病性ケトアシドーシス 1 名、急性硬膜下 血腫 1 名、脱水症 1 名、腸閉塞 1 名、低体温症 1 名である。 34 2.2.3 結 果 2.2.3.1 脂 肪 の T 1 値 と 直 腸 温 表 2.3 に T 1 値 と 直 腸 温 の 計 測 結 果 を 示 す 。 肋 骨 弓 下 の 腹 側 皮 下 脂 肪 の T 1 値 は 、 右 側 と 左 側 で 有 意 な 差 は な か っ た た め ( p > 0.05)、 左 右 の 平 均 を T 1 値 と し た 。 脂 肪 の T 1 値 は 89.4~ 182.2 ms ( 137.4 ± 24.7 ms) で あ っ た 。 図 2.14 に T 1 値 と 直 腸 温 の 関 係 を 示 す 。 T 1 値 と 直 腸 温 は 非 常 に 強 い 相 関 が あ り 、 有 意 で あ っ た ( R = 0.91, p < 0.01)。 ま た 、 回 帰 式 は T 1 ( ms) = 2.6×RT + 90 で あ っ た ( RT( ℃ ) :直 腸 温 )。 表 2.3 計 測 さ れ た T1 値 と 直 腸 温 Case Time elapsed after death (hrs) Cause of death 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 11 11 17 18 12 27 12 42 35 38 12 13 18 12 27 18 17 18 34 60 38 20 42 20 33 23 12 33 57 12 18 8 48 29 14 14 16 Cerebral hemorrhage Ischemic heart disease Cardiac sudden death Drowning Ischemic heart disease Spine injury Suffocation Cardiac sudden death Suffocation Spine injury Suffocation Spine injury Subarachnoid hemorrhage Drug toxicity Drowning Drug toxicity Ischemic heart disease Aortic injury Drug toxicity Diabetic ketoacidosis Alcoholic liver disease Drowning Cardiac sudden death Subarachnoid hemorrhage Ischemic heart disease Traumatic shock Cardiac sudden death Traumatic shock Cerebral hemorrhage Ischemic heart disease Malnutrition Cardiac sudden death Ischemic heart disease Cardiac sudden death Cardiac sudden death Cerebral hemorrhage Hypothermia Subcutaneous subcostal fat Rectal Average T1 value(ms) temperature T1 value(ms) (℃) Right side Left side 31.0 179.6 183.1 181.4 28.0 150.1 178.6 164.4 27.0 156.8 146.9 151.9 16.0 118.8 157.5 138.2 23.0 150.7 162.0 156.4 14.0 159.2 116.6 137.9 30.0 167.4 158.6 163.0 7.0 102.0 119.3 110.7 6.5 91.5 87.3 89.4 14.0 128.7 119.5 124.1 27.0 147.6 167.7 157.7 27.5 145.5 145.3 145.4 27.0 156.8 147.0 151.9 22.0 149.1 145.0 147.1 10.0 126.2 113.2 119.7 27.0 149.3 191.0 170.2 24.5 177.7 179.0 178.4 11.0 103.4 170.4 136.9 7.0 140.1 104.1 122.1 9.0 143.8 121.9 132.9 16.0 119.4 145.7 132.6 17.5 129.0 149.9 139.5 7.0 107.5 98.0 102.8 22.0 141.2 152.6 146.9 12.0 99.9 126.6 113.3 18.0 156.6 123.2 139.9 26.0 152.9 151.0 152.0 8.0 113.2 90.6 101.9 8.5 129.0 100.0 114.5 30.0 167.5 196.9 182.2 10.0 112.0 103.6 107.8 27.0 162.7 140.9 151.8 6.0 100.1 110.7 105.4 13.0 119.0 100.0 109.5 24.0 134.0 157.1 145.6 17.0 126.3 144.0 135.2 15.0 127.1 118.3 122.7 35 200 T1 value (ms) 150 100 50 0 0 5 10 15 20 rectal temperature (˚C) 図 2.14 直 腸 温 と T 1 値 の 関 係 実線は線形近似を示す。 36 25 30 35 2.2.3.2 筋 肉 の T 2 値 と 直 腸 温 表 2.4 に T 1 値 と 直 腸 温 の 計 測 結 果 を 示 す 。 脊 柱 起 立 筋 の 右 側 と 左 側 で 有 意 な 差 は な か っ た た め ( p > 0.05)、 左 右 の 平 均 を T 2 値 と し た 。 筋 肉 の T 2 値 は 44.1~ 65.8 ms ( 57.5 ± 5.2 ms) で あ っ た 。 図 2.15 に T 2 値 と 直 腸 温 の 関 係 を 示 す 。T 2 値 と 直 腸 温 は 相 関 が な く 、有 意 差 は 認 め な か っ た ( R = 0.08, p >0.05 )。 ま た 、 回 帰 式 は T 2 ( ms) = 0.05 × RT + 57 であった。 表 2.4 計 測 さ れ た T2 値 と 直 腸 温 Case Time elapsed after death (hrs) Cause of death Rectal temperature (℃) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 11 26 12 13 12 35 27 11 12 7 53 13 96 29 16 60 34 18 26 33 23 12 57 8 48 14 14 16 108 Ischemic heart disease Acute subdural hemorrhage Suffocation Spine injury Suffocation Suffocation Spine injury Cerebral hemorrhage Ischemic heart disease Cardiac sudden death Cardiac sudden death Cardiac sudden death Dehydration Drowning Intestinal obstruction Diabetic ketoacidosis Drug toxicity Aortic injury Suffocation Ischemic heart disease Traumatic shock Cardiac sudden death Cerebral hemorrhage Cardiac sudden death Ischemic heart disease Cardiac sudden death Cerebral hemorrhage Hypothermia Ischemic heart disease 28.0 23.0 27.0 27.5 30.0 6.5 14.0 31.0 14.5 27.0 5.0 23.0 8.5 10.0 19.0 9.0 7.0 11.0 10.0 12.0 18.0 26.0 8.5 27.0 6.0 24.0 17.0 15.0 7.5 37 Erector muscle of spine T2 value(ms) Right side 55.2 63.0 58.3 63.2 55.3 56.4 67.0 53.3 57.3 52.0 68.3 65.0 52.1 60.3 65.8 48.0 51.0 57.8 48.5 61.0 53.6 61.9 52.3 60.1 64.3 55.6 51.0 55.3 51.2 Left side 51.6 68.6 60.7 61.4 62.1 61.4 62.0 60.7 53.9 46.4 58.1 56.8 62.7 64.1 59.0 40.2 50.6 60.8 54.5 54.4 63.4 57.1 44.9 55.3 65.7 51.6 58.0 65.1 59.8 Average T2 value(ms) 53.4 65.8 59.5 62.3 58.7 58.9 64.5 57.0 55.6 49.2 63.2 60.9 57.4 62.2 62.4 44.1 50.8 59.3 51.5 57.7 58.5 59.5 48.6 57.7 65.0 53.6 54.5 60.2 55.5 T2 value (ms) 80 60 40 20 0 0 5 10 15 20 rectal temperature (°C) 図 2.15 直 腸 温 と T 2 値 の 関 係 実線は線形近似を示す。 38 25 30 35 2.2.4 考 察 2.2.4.1 脂 肪 の T 1 値 と 直 腸 温 本 研 究 に お け る 脂 肪 の T 1 値 は 137.4 ± 24.7 ms で あ り 、生 体( 343 ± 37 ms)と 比 較 す る と 短 い 結 果 と な っ た 5 4 ) 。こ れ は 、遺 体 が 生 体 よ り も 低 温 で あ っ た た め と 考 え ら れ る 。 温 度 に 伴 う T 1 値 の 変 化 は Bloembergen Purcell -Pound( BPP) 理 論 に 基 づ い て 予 測 さ れ る 5 5 ) 。 BPP 理 論 で は 均 一 な 物 質 に お い て 、 以 下 の よ う な 式 で T1 値 が 算 出 さ れ る 。 1 𝑇1 ∝[ 𝜏𝑐 1+𝜔02 𝜏𝑐2 + 4𝜏𝑐 1+4𝜔02 𝜏𝑐2 ] (5) ω0 は 共 鳴 周 波 数 、 τ c は 相 関 時 間 で 、 温 度 に 反 比 例 し て 変 動 す る 局 所 磁 場 で あ る 。本 研 究 に お い て も T 1 値 と 直 腸 温 は 有 意 に 相 関 が あ り 、そ の 回 帰 式 は T 1 ( ms) = 2.6×RT + 90 で 表 さ れ た 。 T 1 値 の 温 度 依 存 は 、 組 織 中の不均一な環境により複雑になるため、組織の違いにより温度依存が 異 な る 。 し か し 、 比 較 的 低 い 磁 場 の 強 さ で 実 施 さ れ た 実 験 で は 、 T1 値 と 温度の間にほぼ線形の温度依存があり、以下のような式が報告されてい る 56,57)。 𝑇1 (𝑇) = 𝑇1 (𝑇𝑟𝑒𝑓 ) + 𝑚 ∙ (𝑇 − 𝑇𝑟𝑒𝑓 ) m は 、各 組 織 に お け る 実 験 値 で あ り 4 9 ) 、T r e f (6) は 基 準 温 度 で あ る 5 0 ) 。こ の 式は 1 次式であり、今回の結果と同様の傾向がある。 一 方 、遺 体 に お け る 組 織 の T 1 値 が 生 体 と 比 較 し て 延 長 す る と い う 報 告 が あ る 58,59)。 し か し 、 こ れ ら は ラ ッ ト の 固 定 標 本 と 幼 児 の 報 告 で あ り 、 いずれも脳を対象としている。固定標本においては、細胞内のタンパク 質の変性が起こり、小児の脳においては、成人と比較して髄鞘化が進ん でいないため、今回とは条件が異なる。また、今回は酵素のない脂肪を 対象としているため、撮像までの安置時間中の自己融解における組織の 変 化 も 起 き る こ と は 考 え に く い 6 0 ) 。 こ れ ら の こ と か ら 死 後 MRI に お け る 脂 肪 の T1 値 の 延 長 は な い と し て 問 題 な く 、 体 温 低 下 に よ る T1 値 短 縮 のみ考えればよいと考える。 39 2.2.4.2 筋 肉 の T 2 値 と 直 腸 温 本 研 究 に お け る 筋 肉 の T 2 値 は 57.5 ± 5.2 ms で あ り 、生 体( 44 ± 6 ms) と 比 較 し て や や 延 長 し た 1 9 ) 。し か し 、こ れ ら の 差 に 統 計 的 有 意 差 は な く 、 ま た 直 腸 温 と の 相 関 も 認 め な か っ た た め 、筋 肉 の T 2 値 の 温 度 依 存 は 極 め て 少 な い と 考 え る 。 こ れ は 、 T2 値 に 与 え る 影 響 が 、 温 度 依 存 よ り も 死 後 の 組 織 変 化 の 方 が 大 き い た め だ と 考 え る 。 死 後 の 組 織 変 化 の な か で 、 T2 値に与える影響が大きなものは三つあると考える。一つめは、自己融解 によるミトコンドリアの崩壊が、マンガンの漏出を引き起こすことであ る 61)。 マ ン ガ ン が 造 影 剤 と 同 様 の 作 用 を し て T2 値 が 短 縮 す る と 考 え ら れ る 。 二 つ め は 、 pH が 酸 性 に 傾 く こ と に よ り 、 T 2 値 が 延 長 す る こ と で あ る 6 2 , 6 3 ) 。pH の 変 化 に よ り 、磁 化 移 動 に 変 化 を も た ら す と 考 え ら れ る 。 三 つ め は 、 組 織 に 浮 腫 が 起 こ り 、 組 織 の 水 分 量 が 増 す た め 、 T2 値 が 延 長 す る 60)。 一 方 、ラ ッ ト の 肝 臓 で は T 2 値 と 温 度 が 相 関 す る と い う 報 告 が あ る 6 2 ) 。 詳細な解析は不明であるが、肝臓や膵臓には消化酵素が存在しており、 自己融解の影響が強いためだと考察される。このように温度依存と組織 変 化 の T 2 値 に 与 え る 影 響 の バ ラ ン ス は 、組 織 に よ り 異 な る と 考 え ら れ る 。 ま た 、今 回 の 検 討 で は T 1 値 の 計 測 部 位 と 同 じ ス ラ イ ス 位 置 で 一 番 大 き な筋肉である脊柱起立筋を対象としたが、血液就下の影響が起き易い部 位である。遺体保管は仰向きが一般的であり、遺体の発見時も仰向きが 多 い た め 、T 2 値 を 延 長 さ せ た の で は な い か と 考 え る 。 し か し 、T 1 値 と 比 較 す る と T 2 値 の 変 動 は わ ず か で あ り 、 in vitro に よ っ て 計 測 さ れ た 肝 臓 な ど の 組 織 に お け る 報 告 と 一 致 す る 6 1 , 6 3 ) 。 よ っ て 死 後 MRI に お け る 筋 肉 の T2 値 変 化 は 考 慮 し な く て も よ い と 考 え る 。 40 2.3 体表温と直腸温の相関 2.3.1 研 究 背 景 お よ び 目 的 前 セ ク シ ョ ン ま で の 研 究 結 果 に よ り 、STIR 撮 像 法 の 最 適 化 に 必 要 な 脂 肪 の T1 値 ・ 筋 肉 の T2 値 と 直 腸 温 と の 相 関 を と ら え る こ と が で き た 。 緩 和時間の計測は、挫傷が体表面であることが多いため、均一な測定が可 能 な 肋 骨 弓 下 の 脂 肪 組 織 を T 1 値 の 計 測 点 と し 、同 一 断 面 で 一 番 大 き な 筋 肉組織の脊柱起立筋を対象とした。また、体温計測は、遺体温の指標と し て 一 般 的 に 利 用 さ れ る 直 腸 温 を 全 身 の 代 表 値 と し て 利 用 し た 。し か し 、 本結果は、緩和時間計測と体温の計測部位が異なるため、そのまま死後 MRI に お け る 撮 像 条 件 最 適 化 の 根 拠 と し て 利 用 す る に は 不 十 分 と 思 わ れ る。 本セクションの目的は、緩和時間の計測部位である肋骨弓下の体表温 と、体温の計測部位である直腸温を計測し、これらの温度相関を証明す ることである。 41 2.3.2 方 法 対 象 は 13 名 で 、 18~ 92 歳 ( 平 均 :61.9 歳 ,男 :女 =9:4)、 死 後 時 間 は 6 ~ 48 時 間 ( 平 均 :24.2 時 間 ) で あ る 。 遺 体 の 到 着 か ら 撮 像 ま で は 腐 敗 防 止のため、4 ℃で冷蔵保存されている。死因は、心臓性突然死 8 名、窒 息 死 1 名 、緊 張 性 気 胸 1 名 、胃 潰 瘍 穿 孔 1 名 、ア ル コ ー ル 性 肝 障 害 1 名 、 低 栄 養 1 名 で あ る 。ま た 、死 後 の 体 温 変 化 が 一 様 と 予 想 さ れ な い 、溺 死 、 焼 死 な ど の 症 例 は 除 い た 。本 研 究 に お け る 倫 理 承 認 は 本 学 倫 理 委 員 会( 承 認 番 号 442) お よ び 筑 波 メ デ ィ カ ル セ ン タ ー 病 院 の 倫 理 委 員 会 の 承 認 を 得た。またすべての遺族に対し,本研究の主旨を十分に説明し同意を得 たうえで行った。 計 測 は 死 後 MRI 直 後 に 行 わ れ た 。計 測 部 位 は 肋 骨 弓 下 の 腹 側 皮 下 の 右 側 と 左 側 、 中 央 部 の 3 箇 所 で あ る ( 図 2.16 )。 体 表 温 は 非 接 触 温 度 計 ( OPTEX PT-5LD) を 用 い て 計 測 し た 。 直 腸 温 は 、 法 医 学 者 が ガ ラ ス 温 度計を用いて直腸に温度計を挿入して計測した。計測された体表温 3 箇 所と直腸温を、ピアソンの相関係数の検定を用いて解析した。 ri gh t cen ter 図 2.16 温 度 測 定 部 位 ●体表温(肋骨弓下)の測定部位 ●深部温(直腸温)の測定部位 42 le ft 2.3.3 結 果 体表における 3 箇所の温度と直腸温の計測結果はそれぞれ、右側 R=0.93( p<0.01)、 中 央 R=0.93( p<0.01)、 左 側 R=0.92( p<0.01)、 と す べ て に お い て 非 常 に 良 好 な 相 関 を 示 し た ( 図 2.17)。 surface temperature (°C) 30 25 20 15 right center 10 left 5 0 0 5 10 15 20 25 rectal temperature (°C) 図 2.17 肋 骨 弓 下 体 表 温 と 直 腸 温 の 関 係 3 箇所共に高い相関を示し、ほぼ同様の傾向であった。 43 30 2.3.4 考 察 死後変化は早期と晩期に分類され、早期のなかに体温変化がある。体 温変化を用いた死後時間推定は直腸温のみならず、外耳温や眼球温での 報 告 も あ り 応 用 さ れ て い る 6 4 , 6 5 ) 。死 後 の 体 表 に お け る 温 度 低 下 は 熱 力 学 的にシミュレーション可能であり、ニュートンモデルでは次式で示され る 66)。 𝑇𝑠 (𝑡) = (𝑇𝑠 (0) − 𝑇𝐸 )𝑒 −𝜆𝑡 + 𝑇𝐸 (7) T S : surface temperatures, T E : environmental temperature , λ : temperature decrease rate 今回の研究を行うにあたり、体表温と深部温の相関が損なわれる要因 が三つあった。一つめは、今回の体温計測が複数の遺体のある死後時間 で実施されたことである。これは、遺体を長時間にわたり安置させ、遺 体温度を経時的に計測することは倫理的、実務的に困難なためである。 死後は外気に近い体表から体温低下が起き、やがて深部まで均一に低下 し て い く 。今 回 は 最 大 で も 死 後 48 時 間 の 遺 体 を 計 測 し た た め 、熱 勾 配 が ある段階での温度計測であったと考えられる。この段階では体表面のほ うが深部より温度が低くなる可能性がある。この熱勾配は遺体の置かれ ている環境によってさまざまであり、その死後の体温変化は一様であっ た か は 不 明 確 で あ る 。ま た 、MRI は 死 後 す ぐ に 撮 像 で き な い こ と が 多 く 、 冷蔵保存されているため、体温分布は複雑になることが予想される。 二 つ め は 、 体 温 計 測 が MRI 撮 像 後 に 実 施 し て い る た め 、 MRI 撮 像 時 の RF 加 熱 に よ り 、 体 表 温 と 深 部 温 の 相 関 が 損 な わ れ る こ と で あ る 6 7 ) 。 specific absorption rate ( SAR) は 被 写 体 の 体 表 面 近 く で 高 い こ と が 知 られており、この点においては体表面のほうが深部より温度が高くなる 可 能 性 が あ る 67)。 三つめは、死後の環境や遺体の体格の違いによっても、直腸温と体表 の温度差に違いがでることが予想される。本セクションでは、体温変化 が均一であると考えられた遺体での計測であったが、遺体の半身のみ、 水に入っていたり、布団に入っていたりした場合は、温度勾配が不均一 になり、同様の結果にはならないと考える。また、熱中症や焼死のよう に体温より高温で亡くなった遺体など温度勾配が異なることが予想され る。 本セクションの結果では、このような要因があるにも関わらず体表と 直腸温の相関が高く、有意であるという結果となった。これは、体温分 布の相関が強固であることを意味し、直腸温を計測することで腹部の体 表温を予測可能であることが示唆された。 44 2.4 STIR 撮 像 法 の 最 適 化 と 解 剖 所 見 の 対 比 2.4.1 研 究 背 景 お よ び 目 的 これまでの研究により以下のことがわかり、最適化に必要な情報が得 られた。 ・ T 1 ,T 2 マ ッ ピ ン グ ツ ー ル に お け る 計 測 精 度 の 評 価 6 8 ) 適 切 な 条 件 で 測 定 を 行 う こ と で 精 度 は 担 保 で き 、死 後 MRI に お い て も T 1 ,T 2 値 を 正 し く 評 価 で き る 。 ・ 脂 肪 の T 1 値 と 直 腸 温 ( RT) の 関 係 T 1 値 と 直 腸 温 は 有 意 に 相 関 し 、 T 1 ( ms) = 2.6×RT + 90 と い う 関係がある。 ・ 筋 肉 の T2 値 と 直 腸 温 の 関 係 生体とほぼ同等で、直腸温との相関なし。 ・ 体表温と直腸温の相関 良好な相関があり、直腸温を体温指標として利用できる。 こ れ ら 情 報 を 基 に 、死 後 MRI に お け る 最 適 な STIR 撮 像 条 件 を 導 出 す る方法を提案する。また、その確認のために、挫傷症例にて画像所見が 挫傷を正しく評価可能かを検証し、解剖所見と一致するか確認する必要 がある。 本 セ ク シ ョ ン の 目 的 は 、STIR 撮 像 法 の 最 適 化 を 行 い 、解 剖 所 見 と の 対 比により、その有用性を証明することである。 45 2.4.2 方 法 ( 1) 撮 像 条 件 の 最 適 化 STIR 撮 像 法 は 、 脂 肪 信 号 を 抑 制 し た T 2 強 調 像 で あ る た め 、 撮 像 条 件 と し て 考 慮 し な け れ ば な ら な い の は 、脂 肪 信 号 を 無 信 号 化 す る TI と 正 し い T 2 コ ン ト ラ ス ト が 得 ら れ る TE で あ る 。TR は 一 般 的 に 組 織 の T 1 値 に 対 し て 十 分 に 長 い 値 が 用 い ら れ る た め 、死 後 MRI に お い て も 生 体 と 同 じ 条 件 の ま ま で 支 障 は な い 。よ っ て 、前 セ ク シ ョ ン ま で の 結 果 か ら TI の 最 適化は以下の手順で行った。 1) 法 医 学 者 に よ り 、 直 腸 温 ( RT) を 計 測 す る 。 2) 直 腸 温 か ら 脂 肪 の T 1 値 を 以 下 の 式 を 用 い て 算 出 す る 。 T 1 ( ms) = 2.6×RT + 90 (8) 3) 2.の T 1 値 か ら 最 適 化 TI を 算 出 す る 。 TI( ms) = T 1 × 0.693 (9) TE の 最 適 化 に つ い て は 、体 温 変 化 に よ る 相 関 が 無 く 、過 去 の 生 体 に お け る 筋 肉 の T 2 値 と 比 較 し て も 10 ms 程 度 の 延 長 で あ っ た た め 、生 体 の 条 件 を 変 更 す る に 至 ら な い と 判 断 し た 。 そ の 他 の 撮 像 条 件 を 表 2.5 に 示 す 。 ( 2) 最 適 撮 像 条 件 の 有 効 性 の 確 認 、 解 剖 所 見 と の 対 比 最 適 化 し た 条 件 を 用 い て 死 後 MRI 体 幹 部 を 冠 状 断 に て 撮 像 し た 。ま た 、 生 体 と 同 様 の TI( =180 ms) で の 撮 像 も 行 い 、 放 射 線 科 医 1 名 、 放 射 線 技 師 1 名 に よ り 画 像 評 価 を 行 っ た 。STIR 画 像 と 解 剖 所 見 と の 対 比 を 実 施 し た 症 例 を 表 2.6 に 示 す 。 46 表 2.5 STIR 撮 像 法 の 撮 像 条 件 TR/TE (ms) Echo train length (ETL) Matrix size (mm) Slice thickness / gap (mm) Scan time (min) 5870 / 67 11 1.8 × 1.3 6 / 0.6 2.1 表 2.6 STIR 画 像 と 解 剖 所 見 と の 対 比 を 実 施 し た 症 例 Case Age (yrs) Sex Cause of death Time elapsed after death (hrs) Rectal temperature (℃) Optimized TI (ms) 1 75 M Cardiac sudden death 48 9 79 2 28 F Cardiac sudden death 36 14 88 3 79 M Traumatic shock 23 18 94 4 71 M Cerebral hemorrhage 20 22 102 47 2.4.3 結 果 対象全てにおいて脂肪信号の抑制が良好であり、挫傷による画像所見 も明瞭になった。解剖所見との比較においても一致を示した。 以下に症例を提示する。 症 例 : 79 歳 男 性 外 傷 性 シ ョ ッ ク ( 図 2.18, 2.19) 交 通 外 傷 に て 入 院 し 、同 日 入 院 中 に 突 然 死 亡 し た 。死 後 23 時 間 後 に 死 因 究 明 の た め 、死 後 CT と MRI を 実 施 し 、翌 日 解 剖 と な っ た 。直 腸 温 18℃ で あ る 。STIR 画 像 に て 、右 肩 か ら 右 胸 部 に か け て 高 信 号 を 認 め る 。右 臀 部 付 近 に も 高 信 号 を 認 め る 。生 体 と 同 様 の TI( 180 ms)で は 脂 肪 の 信 号 抑 制 が 不 良 で あ り 、血 腫 や 挫 傷 痕 を 正 確 に 捉 え る の は 難 し い( 図 2.18a,c)。 TI を 体 温 変 化 に 合 わ せ た 値 ( 95 ms) に 設 定 す る こ と に よ り 脂 肪 信 号 は 抑 制 さ れ ( 図 2.18b,d)、 解 剖 所 見 ( 図 2.19) と も 一 致 を 示 し た 。 血 腫 は 液体のため、詳細な定量評価は不可能であった。 48 a b c d 図 2.18 症 例 : 79 歳 男 性 外 傷 性 シ ョ ッ ク STIR 画 像 胸 部 : 生 体 と 同 様 条 件 ( TI=180 ms( a)) , 体 温 計 測 に よ る 最 適 化 条 件 ( TI=95 ms( b)) 腹 部 : 生 体 と 同 様 条 件 ( TI=180 ms( c)) , 体 温 計 測 に よ る 最 適 化 条 件 ( TI=95 ms( d)) 生 体 と 同 様 条 件 に お い て( a, c)右 側 を 中 心 に 打 撲 痕( 矢 頭 :黄 色 )と 血 腫 ( 矢 頭 :赤 色 ) が 認 め ら れ る 。 最 適 化 条 件 で は 、 さ ら に 詳 細 な 所 見 が 明 瞭 に 描 出 さ れ て い る 箇 所 が あ る ( b, d:矢 印 )。 49 b a c 図 2.19 症 例 : 79 歳 男 性 外 傷 性 シ ョ ッ ク 解 剖 所 見 体 幹 部 背 面 の 皮 下 脂 肪 剥 離 後 画 像 ( a) 右 肩 部 の 皮 下 脂 肪 剥 離 後 画 像 ( b) 右 胸 部 背 面 の 皮 下 脂 肪 剥 離 後 画 像 ( c) STIR 画 像 と 同 様 で 、右 側 を 中 心 に 打 撲 痕 や 血 腫 を 認 め る( a,b: 矢 印 )。 肋 骨 に は 骨 折 を 認 め る ( c: 矢 頭 )。 50 2.4.4 考 察 死 因 不 明 の 遺 体 に 対 す る 原 因 究 明 の gold standard は 、 直 接 病 変 を 目 視して範囲を同定することができる解剖である。しかし、解剖は侵襲的 な検査であるため、遺族の同意も得られにくく、宗教的な理由でも拒否 さ れ る こ と も 多 い 6 9 ) 。こ の よ う な 背 景 の な か で 注 目 さ れ て い る の が 、非 侵襲的に死因を究明できる死亡時画像診断である。 死 亡 時 画 像 診 断 の 主 な 検 査 で あ る 死 後 CT と 死 後 MRI で は 、死 に 至 る よ う な 外 傷 の 所 見 は 、ほ ぼ 描 出 可 能 で あ る 7 0 , 7 1 ) 。MRI は 、特 に 軟 部 組 織 の 所 見 描 出 に 有 用 で あ る が 、 骨 折 で は CT が 有 用 で あ る 。 今 回 提 示 し た 症 例 ( 図 2.18, 2.19) に お い て も 右 の 肋 骨 部 に 血 腫 が あ り 、 損 傷 が あ る こ と は 明 ら か で あ る が 、 骨 折 の 把 握 は CT の 方 が 容 易 で あ っ た 。 現 在 の と こ ろ 死 後 MRI を 実 施 可 能 な 施 設 に お い て も 、 死 後 MRI は 死 後 CT を 補 う 形 で 行 わ れ る こ と が 多 い 。す な わ ち 、死 後 MRI で 描 出 が 困 難 な 骨 折 な ど を 、 死 後 CT で 描 出 し て い る 11 , 2 7 , 7 2 ) 。 解剖は侵襲的な検査のため、切り刻んだ組織を基に戻すことは不可能 である。また、血腫など液体貯留があるときは、切開された瞬間に組織 外 に 漏 れ 出 す た め 定 量 が 難 し い 7 1 , 7 2 , 7 4 ) 。よ っ て 、今 回 の 検 討 も 画 像 と の 正 確 な 一 致 や 範 囲 の 検 証 は 不 可 能 で あ っ た 。 し か し 、 図 2.18c の よ う な 生 体 と 同 様 条 件 で の STIR 撮 像 法 に お い て は 、 図 2.18d 矢 印 の よ う な 所 見 は 検 出 不 可 能 で あ り 、 図 2.19a 下 部 の 矢 印 の よ う な 所 見 部 位 を 過 少 評 価 し て い る こ と は 明 ら か で あ っ た 。こ の よ う に 直 腸 温 を 計 測 す る だ け で 、 STIR 撮 像 法 の 最 適 化 が 可 能 で あ り 、最 適 化 さ れ た 条 件 で 得 ら れ た 画 像 の 有効性が証明された。 ただし、今回の検討では直腸温と体表温の温度分布が不均一な症例は 行っていない。しかし、我々の経験では通常の状態で死亡した遺体の部 位 に よ る 温 度 差 は 5 ℃ 未 満 で あ り 、そ の 差 は 特 に 四 肢 に お い て 大 き く な る 。 5 ℃ の 変 化 で の TI の 設 定 は 以 下 の よ う に 計 算 さ れ る 。 Δ T 1 ( ms) = 2.6 × ( 温 度 差 : 5 ℃ ) =13 ms Δ TI( ms) = 13 ms × 0.693 ≒ 9 ms (10) こ の 9 ms の 違 い に よ り 脂 肪 信 号 が 高 信 号 化 す る こ と は 考 え 難 く 、実 際 の 症例でも、四肢まで脂肪は良好に抑制されている。つまり、直腸温と体 表温の温度分布不均一は、ある程度までは許容できることを意味する。 しかし、極端な温度差がある症例においては脂肪信号が上昇することが 予想され、非接触温度計による局部の温度計測も考慮すべきである。 TE の 設 定 に お い て は 、体 温 変 化 に よ る 相 関 が 無 く 、過 去 の 生 体 に お け る 筋 肉 の T 2 値 と 比 較 し て も 10 ms 程 度 の 延 長 で あ っ た た め 、生 体 の 条 件 51 を変更するに至らないと判断した。しかし、コントラストを最大にする た め に は 、対 象 部 位 の T 2 値 を 計 測 し 、所 見 部 位 と 正 常 部 位 の コ ン ト ラ ス ト が 最 大 と な る TE で 撮 像 す る 必 要 が あ る 。 今 回 検 討 し た 症 例 に お い て は 、 浮 腫 な ど が 起 き て い る 所 見 部 や 筋 肉 以 外 の T2 値 は 計 測 し て い な い 。 し か し 、血 腫 や 打 撲 痕 な ど で そ の 信 号 強 度 は さ ま ざ ま で あ り T 2 値 も 異 な る た め 、 そ の 都 度 最 適 な TE を 設 定 す る こ と は 困 難 で あ る 。 ま た 、 今 回 は打撲痕などを描出することを主な目的とているため、筋肉に注目した が 、臓 器 の 損 傷 を 正 確 に 捉 え る た め に は 各 臓 器 の T 2 値 を 計 測 し 、最 適 化 することも今後の検討課題である。 52 3 総合考察 死亡時画像診断は、解剖のように手技によって結果が左右されず、最 適化された撮像条件で撮像されることで動かぬ証拠を半永久的に保存で き る 有 用 な ツ ー ル で あ る 75)。 そ の な か で も 脂 肪 抑 制 法 を 用 い た T2 値 強 調 画 像 は 、 打 撲 や 挫 傷 を 検 出 す る た め に 有 用 な 撮 像 法 で あ る 7 6 ) 。脂 肪 抑 制 技 術 は 、STIR 撮 像 法 だ け で な く CHESS 法 や 二 項 励 起 パ ル ス 法 が あ る が 、遺 体 の MRI で は 広 範 囲 に 均 一 に 脂 肪 抑 制 を 行 う 必 要 が あ る た め 、本 研 究 で は STIR 撮 像 法 を 使 用 し た 2 1 , 7 6 ) 。 生 体 と 同 様 の 撮 像 条 件 で の 死 後 の STIR 撮 像 法 は 、 脂 肪 抑 制 が 不 良 で あ っ た 。 過 去 の 研 究 に よ り 、 死 後 MRI に お い て は 体 温 変 化 に 依 存 し た 緩 和 時 間 の 変 化 が 知 ら れ て お り 17,22,23)、 本 研 究 に お い て も 体 温 変 化 に 注 目 し た 。 本 研 究 結 果 に よ り 、 体 温の指標となる直腸温を知ることで脂肪信号を抑制することが可能と なった。微細な信号変化を捉えるためにはこのような撮像法の最適化は 必 須 で あ り 、直 接 死 因 だ け に 留 ま ら ず 、2 次 所 見 の 描 出 が 可 能 と な る 。2 次所見の描出は、犯罪などの死因をシミュレーションするうえで非常に 重要である。3 次元処理などを行うことで、裁判では証拠にもなり、事 件 や 虐 待 を 立 証 す る 情 報 に も な り 得 る 77)。 本 研 究 に お い て 最 適 化 が 成 り 立 た な い 状 況 が い く つ か あ る 。 ま ず 、 TI の設定に用いる式が全てにおいて適応できないことである。静磁場強度 が異なると組織の緩和時間は異なるため、同一の式での最適化は不可能 と な る 5 4 ) 。ま た 、 静 磁 場 強 度 が 同 じ で も 装 置 が 異 な る こ と で 計 測 さ れ る 緩和時間は若干異なるため、各装置での検討が必要となる。しかし、装 置 の 違 い に よ る T1 値 の 差 は 温 度 変 化 に よ る 差 と 比 較 す る と ご く わ ず か であり、今回の式は同じ静磁場強度の装置であれば一般的に利用可能と 考える。装置ごとに最適化式を求める場合においても、本研究で示され た1次式で示される傾向は同様と考えられ、最低でも 2 症例の直腸温と T1 値 の 計 測 を 行 え ば 予 測 可 能 で あ る 。 ま た 、 本 研 究 か ら 省 い た 焼 死 や 溺 死などの温度分布が不均一な症例に対しても単一な最適化では脂肪抑制 が 不 良 と な る 部 位 が あ る こ と が 懸 念 さ れ る 。MRI 以 外 で 非 侵 襲 的 に 局 所 の体温を計測するツールとしては、磁気共鳴スペクトロスコピー ( magnetic resonance spectroscopy : MRS) が あ る 。 MRS の 化 学 シ フ ト は 、1℃ 変 化 す る と 0.01 ppm 変 化 す る こ と が 知 ら れ て お り 7 8 , 7 9 ) 、深 部 の 温 度 計 測 へ の 応 用 も 期 待 で き る 。 体 表 温 計 測 や MRS な ど に よ る 深 部 温計測で温度分布を詳細に知る手法も今後考慮するべきである。もう一 つ の 最 適 化 が 成 り 立 た な い 状 況 は 、 高 度 の 腐 敗 や 変 性 の 症 例 で あ る 80)。 このような症例では脂肪組織の変性が強く、解剖でも挫傷などの所見を 捉えることが困難である。 STIR 撮 像 法 は 、脂 肪 信 号 を 均 一 で 広 範 囲 に わ た り 抑 制 す る 撮 像 法 で あ り 、微 細 な 筋 肉 の 挫 傷 を 検 出 で き る 2 1 ) 。し か し 、死 後 MRI の STIR 撮 像 53 法 に お い て は 、 脂 肪 の T 1 値 が 不 明 確 で あ る た め 抑 制 不 良 が 起 こ る 。 TR が T 1 値 と 比 較 し て 十 分 に 長 い と き 、 TI は T 1 値 に 0.693 を 乗 じ た 値 に 設 定 す る こ と で 、 脂 肪 の 信 号 は 抑 制 さ れ る 20,81)。 よ っ て 、 脂 肪 の T1 値 が 正 確 に 計 測 さ れ る と TI の 設 定 は 容 易 に 可 能 で あ る 。 今 回 T 1 値 計 測 に 利 用 し た Syngo MapIt T M は T 1 値 を 簡 便 か つ 正 確 に 計 測 で き る ツ ー ル で あ る が 、 現 在 の と こ ろ 限 ら れ た 装 置 に の み 付 属 さ れ て い る 6 8 ) 。従 来 使 用 さ れ て い る T 1 値 の 計 測 は 数 時 間 と い う 非 常 に 長 い 時 間 を 要 し 、現 実 的 で は な い 8 2 ) 。ま た 、T 1 値 計 測 の た め の 追 加 撮 像 を 実 施 す る の も 実 運 用 上 は 現 実的ではない。したがって、本研究により導いた式によって、直腸温か ら 脂 肪 の T 1 値 を 算 出 で き る 意 義 は 大 き い 。過 去 に も 死 後 の 正 常 値 を 捉 え て 定 量 化 を 試 み て い る 報 告 は 散 見 さ れ る が 2 6 , 2 8 ) 、 死 後 MRI の 最 適 化 は 初 め て の こ と で あ る 。今 後 は STIR 撮 像 法 以 外 の 死 後 MRI に 対 し て も 最 適 化 が 必 要 と な る 。ま た 、動 物 実 験 に お い て 死 後 の 体 温 変 化 を MRI で モ ニ タ リ ン グ し よ う と す る 試 み も あ り 8 3 ) 、 死 後 MRI の さ ら な る 応 用 が 期 待される。 54 4. 結 語 死 後 MRI に お い て 、挫 傷 等 の 診 断 能 向 上 を 目 的 に STIR 撮 像 法 の 最 適 化 を 検 討 し た 。 組 織 固 有 値 で あ る T1, T2 値 を 計 測 し 、 そ れ に 応 じ た 撮 像 条 件 の 設 定 を 検 討 し た 。 装 置 付 属 の T1, T2 マ ッ ピ ン グ ツ ー ル は 、 対 象 に 応 じ た 条 件 を 用 い る こ と で 死 後 MRI に お い て も 精 度 よ く T 1 , T 2 値 計 測 が 可 能 で あ っ た 。皮 下 脂 肪 の T 1 値 は 直 腸 温( RT)と 正 の 相 関 を 認 め た が 、 筋 肉 の T 2 値 に は 温 度 相 関 は 認 め ら れ な か っ た 。直 腸 温 と 皮 下 組 織 温 度 の 相 違 は わ ず か で あ り 、 直 腸 温 か ら 、 STIR 撮 像 法 に お け る TI 値 の 最 適 化 が 可 能 と な っ た 。1.5T MRI 装 置 に お け る 最 適 な TI 値 は“ TI( ms)=0.693 ×( 2.6×RT( ℃ ) + 90)”、 TR, TE は 生 体 と 同 条 件 と 同 じ で よ い こ と が 明らかとなった。最適化により、脂肪抑制不良がなくり、挫傷を正確に 捉 え る こ と が 可 能 と な っ た 。 STIR 法 に よ る MRI 所 見 は 、 解 剖 所 見 と も よ く 一 致 し た 。 よ っ て 、 本 研 究 に よ り 最 適 化 さ れ た STIR 撮 像 法 を 用 い ることで、司法解剖時の見逃し防止や負担軽減、小児虐待の程度把握や 見逃し防止の一助となる。 55 謝 辞 本研究は指導教員 門間正彦准教授、副指導教員 馬場 健教授の指 導のもとに行われました。終始にわたり御教示賜り、深く感謝の意を表 します。また、本研究の遂行ならびに論文の作成にあたり,終始丁寧か つ適切な助言を賜りました石森佳幸准教授に深く感謝の意を表します。 さらに、筑波メディカルセンター病院放射線科 塩谷清司科長には死 亡時画像診断の知識全般、論文作成に多大なるご協力を頂きました。筑 波 剖 検 セ ン タ ー 早 川 秀 幸 セ ン タ ー 長 に は 死 後 MRI の 撮 像 の 協 力 と 体 温計測、解剖所見のご教示頂きました。多大なるご協力を頂き、大変感 謝申し上げます。 最 後 に 、死 後 MRI 画 像 の 取 得 、体 表 温 の 計 測 、画 像 デ ー タ の 解 析 と 多 岐にわたりご協力を頂いた筑波メディカルセンター病院 放射線技術科 の諸兄姉に感謝致します。 56 参考文献 1. 警 察 庁 . 内 閣 府 死 因 究 明 等 推 進 会 議 第 5 回 検 討 会 配 布 資 料 . http://www8.cao.go.jp/kyuumei/investigative/20130218/siryou2.pd f 2013.2.18 2. 警 察 等 が 取 り 扱 う 死 体 の 死 因 又 は 身 元 の 調 査 等 に 関 す る 法 律( 平 成 二 十四年六月二十二日法律第三十四号) http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H24/H24HO034.html 3. 死 因 究 明 等 の 推 進 に 関 す る 法 律( 平 成 二 十 四 年 六 月 二 十 二 日 法 律 第 三 十三号) http://www8.cao.go.jp/kyuumei/law/suishinhou.h tml 4. 今 村 聡 .小 児 死 亡 の 全 症 例 に 対 す る 死 亡 時 画 像 診 断( Ai)の 実 施 に 向 けて -全症例実施に向けた人材育成及び施設等の整備について-. 内閣府死因究明等推進会議第 7 回検討会配布資料. http://www8.cao.go.jp/kyuumei/investigative/20130426/siryou8.pd f 2013.4.26 5. 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